僧侶の憂鬱

1: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:47:40.03 ID:7rCO1ZMwo


僧侶「ザオラル!」




この旅に出て幾度も経験した死。


何故だろうか、蘇生後には決まって喪失感に襲われる。


何かを大事なことを忘れているような。


宝物を見失ったような。


そんな俺の顔を、僧侶が心配そうに覗き込む。


僧侶「御加減は如何ですか?勇者様?」


幼さを残しつつも、整った顔立ち。


かわいいな。

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2: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:48:18.30 ID:7rCO1ZMwo

僧侶「そんなにジッと見つめないでください///」


同時に俺は見逃さない。


僧侶が普段は見せない表情。


自信、誇り、達成感。


何に起因するものなのか、まだ答えは見つからない。


勇者「ありがとう、僧侶」


勇者「肩を貸してもらえるか?」


僧侶「ええ!もちろんです!」


戦士「お!役得!うらやましい!」


戦士「僧侶ちゃん、俺の時にも肩貸してくれよ!」
3: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:48:49.64 ID:7rCO1ZMwo

僧侶「お断りです!」


戦士「えーっ!勇者だけ、ずるいぞ!」


俺は戦士の戯言を無視し、僧侶の助けを得て立ち上がる。


勇者「ん?」


僧侶「どうしました?勇者様」


勇者「僧侶、お前、少し腕が太くなったか?」


魔法使い「こら!勇者!女の子に対して何てこと言うの!」


魔法使い「謝りなさい!」


勇者「ぐ・・・すまん」


僧侶「いえいえ、勇者様」
4: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:49:18.51 ID:7rCO1ZMwo

僧侶「私たちは、魔王討伐を運命づけられた身」


僧侶「多少、腕が太くなったぐらい何ともないですよ」


ああ、やはり優しい。


自身のデリカシーの無さに情けなる一方。


僧侶の優しさに、甘えてしまう。


戦士「やっぱ、長旅だからな!そら多少は筋肉もつくだろ」


勇者「いや、触れた感じだと、そのレベルではないな」


魔法使い「どういうレベルなのよ?」


勇者「そこいらの剣士に劣らないぐらい、引き締まっている」


勇者「僧侶、もしかして俺たちに内緒で体を鍛えているのか?」
5: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:49:46.01 ID:7rCO1ZMwo

僧侶「いえ?そんなことはありませんよ」


勇者「ちょっと信じがたいな・・・」


魔法使い「嘘じゃないわよ!あんたらが剣の練習をしている間は」


魔法使い「僧侶は神に祈りを捧げているし」


魔法使い「夜だって、私と僧侶はずっと一緒にいるんだから」


僧侶「あー、もしかしたらアレかも知れませんね」


勇者「あれ?」


僧侶「勇者様たちが体を鍛えているのと同様に」


僧侶「私と、魔法使いさんは精神を鍛錬しています」


魔法使い「うん、そうね」
6: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:50:11.75 ID:7rCO1ZMwo

僧侶「鍛えられた精神は、いわば心の筋肉」


戦士「心の筋肉」


僧侶「私、心の筋肉には少し自信があるんです///」


勇者「それで・・・?」


僧侶「たぶんですけど。心の筋肉に引っ張られて」


僧侶「精神の器たる肉体も、引き締まったのかもって」


勇者「そ、そんなことってあるのか?魔法使い!?」


魔法使い「し、知らないわよ!現に私は、旅の当初から体つきは変わってないわよ!」


僧侶「うーん、そこは職業の違いだからかな?」


戦士「すげえぜ!俺も心の筋肉鍛えようかな!」


僧侶「ええ!ぜひ!」


勇者「心の筋肉・・・」
7: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:50:38.66 ID:7rCO1ZMwo


------


僧侶「ザオラル!」









------
8: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:51:16.65 ID:7rCO1ZMwo


------


油断は無かった。


それだけ、相手が強かったのだ。


魔王軍幹部に深手を負わせたものの。


ほんの一瞬の隙をつかれ、俺は死んでしまった。




まだ。


戦士は。


魔法使いは。


なにより僧侶が。


魔王軍幹部と、戦い続けているはずだった。
9: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:52:09.23 ID:7rCO1ZMwo

勇者「 !!! 」


真っ白な世界。


俺以外は何もない世界。


ここはどこだ。


早く。


早く早く早く。


戻らなくては。


体が動かない。


なんでだ。


動け。動け。動け。


僧侶「落ち着いてください。勇者様!」
10: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:53:31.53 ID:7rCO1ZMwo

勇者「僧侶!?」


勇者「ここはどこだ!?魔王軍幹部は!?みんなはどうなった!?」


僧侶「落ち着いてください勇者様」


ひときわ優しさを増した声。


僧侶「ここは、生と死の狭間です」


僧侶「現世では、戦士さんと魔法使いさんが持ちこたえてくれています」


勇者「なら!早く戻らないと!」


僧侶「安心してください、ここは時間の進みが現世とは違います」


僧侶「こっちで数日過ごしたとしても、向こうでは一瞬に過ぎません」


勇者「・・・そうなのか」
11: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:54:23.79 ID:7rCO1ZMwo

勇者「・・・体が動かないのは何故だ?」


僧侶「ここで動けるのは、蘇生魔法が使える神職に就くもの」


僧侶「そして・・・」


僧侶「彼だけです」


足音も、気配もなく。


それは唐突に現われた。


黒衣に身を包んだ、細身の男。


手には大鎌が握られている。


あれは、そう絵本で見たことがある。


死神そのものじゃないか。


僧侶「勇者様、見守っていてくださいね」


とびきりの笑顔だった。
12: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:54:50.69 ID:7rCO1ZMwo

勇者「な、なにをするんだ!」


僧侶「彼を倒します!」


彼女はそう言って、僧衣を放った。


体に密着した薄着一枚。


だがそこに、エロスはない。


引き締められた肉体。


もはや芸術の域に達している。美しくある。


羨望すら覚える。


これが、心の筋肉・・・
13: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:55:16.83 ID:7rCO1ZMwo

僧侶「あなた、いつもの方とは違いますね?」


死神「前任者・・・先輩は!先日の貴様との戦いで負った傷のせいで戦線を離脱した!」


僧侶「そうですか・・・」


僧侶「では、今日はあなたが相手をしてくれるわけですね?」


死神「先輩は!先輩はすごいひとだったんだ!」


死神「貴様さえ!貴様さえいなければ!」


僧侶「 黙れ小童!! 」


勇者「」


死神「」ビクッ
14: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:55:43.65 ID:7rCO1ZMwo

僧侶「前任者は、貴方のように能書きを垂れ流しませんでしたよ!」


僧侶「それに、彼は常に素手で私に相対していました!」


僧侶「そんな大鎌を持ち出して!先輩に恥ずかしくないのですか!」


僧侶「先輩に憧れるなら、さっさと掛かってきなさい!」


死神「・・・応っ!」


僧侶「精・・・っ!」


死闘が始まった。
15: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:56:11.02 ID:7rCO1ZMwo



------




勇者「・・・すごかったよ僧侶」


僧侶「えへへ、少し手こずっちゃいました」///


勇者「いや・・・最期のローリングソバット」


勇者「見事だった」


僧侶「そうですか!ありがとうございます!」///


僧侶「さて、邪魔者も居なくなりましたし、そろそろ戻りましょうか」


勇者「彼・・・あそこで伸びてる死神は大丈夫なのか?」


僧侶「ええ・・・腐っても神ですしね」


僧侶「前任者は、強い人でしたから私も手加減が効かなくて」
16: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:56:42.42 ID:7rCO1ZMwo

僧侶「やりすぎちゃったみたいです」


勇者「そ、そうか」


勇者「・・・」


勇者「そういえば、俺は以前、ここに来た記憶がないんだが」


僧侶「ああ、ここでの記憶は勇者様は維持できませんよ」


そうか。


蘇生後の喪失感は、それが原因か。


僧侶「あっちでは、まだ戦闘が続いていますから気を引き締めてください」


僧侶「って、ここでの記憶はなくなるんでした」///



僧侶「では、現世に戻りましょう」
17: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:57:08.78 ID:7rCO1ZMwo

僧侶は、この生と死の狭間で戦ってきた。


彼女の戦場は、ここにあった。


蘇生後に俺が垣間見た彼女の感情。


自らの精神力への自身・誇り。


そして神を称するものに勝利したことへの達成感。


彼女がそうであるように。


俺もまた、彼女を誇りに思った。
18: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:57:34.59 ID:7rCO1ZMwo

------






魔法使い「そういえば、僧侶ってザオリクも使えるのよね?」


僧侶「ええ、使えますよ」


戦士「え!そうだったのか!?」


戦士「普段、ザオラルしか使わないから!使えないものと思ってたぜ!」


僧侶「まあ、ザオラルのほうが魔力の消費が少ないですし」


戦士「でも、ザオラルって成功率が・・・」


勇者「・・・そういえば、僧侶がザオラルで蘇生失敗してるの見たことないな」


魔法使い「ほんとだ・・・私も記憶にないわ」
19: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:58:01.58 ID:7rCO1ZMwo

僧侶「まあ術師の腕がいいんです」///


僧侶「・・・実を言うと、ザオリクってあんまり好きじゃないんです」


戦士「ん?なんでよ?」


僧侶「ザオリクって、習得するのに労力が掛かるんですけど」


僧侶「覚えてしまえば、必ず蘇生に成功するじゃないですか」


僧侶「そこには術師の技術が介在しないんですよね・・・」


魔法使い「ふーん、なるほどね・・・」


僧侶「なんていうか、そこに達成感がなくて・・・」


勇者「ふむ、なるほどな」


勇者「だが、魔王戦ではザオリクを使ってくれ」
20: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:58:27.57 ID:7rCO1ZMwo

勇者「俺たちは遂に、魔王を追い詰めたんだ」


勇者「いくら僧侶が腕に自信をもっていようが、ザオラルの成功率は100%ではない」


勇者「魔王戦では何が起こるかわからない」


勇者「変動要素は、可能な限り少なくしておきたい」


僧侶「わかりました・・・!」


少し、寂しそうな顔。


そんな顔見たくはないが。


遂に、魔王との戦いに挑むんだ。


そんな余裕は言っていられない。


勇者「よし!じゃあ魔王城へ出発だ!」
21: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:58:53.82 ID:7rCO1ZMwo

------




僧侶「ザオリク!」




------
22: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:59:20.68 ID:7rCO1ZMwo

------






見覚えのある光景。


勇者「ここは・・・生死の狭間!?」


僧侶「あれ・・・?記憶があるんですか?勇者様」


勇者「僧侶!ということは、やはりここは」


僧侶「そのとおりです」


僧侶「んー、前回からそんなに日が空いてないから記憶が残っちゃってるのかな?」


僧侶「不思議です!」


勇者「・・・!来たぞ僧侶!」
23: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 18:59:46.64 ID:7rCO1ZMwo

死神「・・・」


僧侶「・・・来ましたか!」


前回も、見た男。


死神だ。


だが、今日の彼は無駄口は叩かない。


大鎌も持っていない。


勇者「今回は手強そうだぞ、僧侶・・・!」


ふと彼女を見上げる。


違和感。


芸術的肉体美にそぐわない異物。
24: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 19:00:15.42 ID:7rCO1ZMwo

僧侶の手に握られている。


長く、太い。


黒く、突起が無数についたそれは。


勇者「鬼の金槌・・・」


僧侶「・・・ザオリクですから」


え?ザオラルとザオリクの違いってそこなのか。


成功率の違いってそこにあったのか。



死神「ちょっと待てやあああ!!!」


死神「ちょっと待てやあああああああああああ!!!」
25: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 19:00:42.33 ID:7rCO1ZMwo

僧侶「もう・・・うるさいですね」


死神「前回と!前回と言ってること違くない!」


死神「持っちゃってるじゃん!やばい武器持ってきちゃってるじゃん!」


死神「ずるい!ずる過ぎるぞ!」


死神「見損なったぞ!僧侶さん!」


当然の物言い。


僧侶「 黙れ!小童っ! 」


死神「」ビクッ


勇者「」


僧侶「勇者様の生き死にが掛かってるんだ!」
26: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 19:01:08.72 ID:7rCO1ZMwo

僧侶「 卑怯も糞もあるかっ!!! 」


死神「」


物言い通らず。


僧侶「おら!こっちは急いでるんだ!さっさと掛かってこいや!!!」


死神「う・・・うわああああああんん!!!!!」
27: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 19:01:35.99 ID:7rCO1ZMwo

------




僧侶「お待たせしました。勇者様・・・」


勇者「ああ・・・」


僧侶の顔に見えるのは、羞恥の心。


素手の相手を、武器であしらってしまったことへの恥。


俺は、彼女の戦いを汚してしまった。


僧侶「じゃあ戻りましょうか・・・」


勇者「僧侶」


俺は決意する。
28: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 19:02:25.42 ID:7rCO1ZMwo

勇者「俺は君が好きだ」


僧侶「」


自身に満ち溢れた、君の笑顔が。


俺は好きなんだ。


だから、だからこそ。


勇者「もうザオリクは使うな!」


僧侶「」


僧侶「 はいっ! 」///


現世に帰ったら、俺の記憶もなくなるのだろう。

だが、この誓いだけは。

必ず、必ず持って帰ってみせる。



彼女に二度とザオリクは使わせない!!!
29: ◆CItYBDS.l2 2017/08/30(水) 19:03:45.34 ID:7rCO1ZMwo

------


僧侶「あ!戦士さんっ!危ないっ!!!」


戦士「ぐああああああああああ!!!」


魔法使い「勇者!戦士が!戦士が死んじゃった!」


僧侶「勇者様!」






勇者「ああ!僧侶!」



勇者「 ザオラルを頼む! 」




僧侶「    はいっ!   」
36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/08/31(木) 01:11:34.42 ID:g/DavQbDO

蘇生術にこういう発想は無かったわ
面白かった

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