【艦これ】曙「このアホ提督!」 陸奥「アホ提督ね♪」【後編】

243: ◆8sA8xtnAbg 2016/04/28(木) 20:03:37.02 ID:JZyX8uPbo

前スレ:

【艦これ】曙「このアホ提督!」 陸奥「アホ提督ね♪」【前編】





――――― 夜 長門と陸奥の部屋


244: ◆8sA8xtnAbg 2016/04/28(木) 20:04:24.77 ID:JZyX8uPbo

陸奥 (ぼーー)

長門 「もぐもぐ……どうした陸奥。食べないのか? 」

陸奥 「え!? いけないいけない、ぼんやりしちゃったわ」


今日は曙ちゃん、霞ちゃんと、立て続けに色々あったから、なんだか考えちゃうのよね……。ていうか、提督は駆逐艦の子たちを可愛がりすぎじゃないかしら……まさか本当に……。


長門 「……すぐに箸が止まるな……何か悩み事か? 」

陸奥 「うーん……そうねぇ。悩みというか……。長門、あなた駆逐艦の子たちがすごく好きよね? 」

長門 「な、なんだ藪から棒に。と、と、と、特に駆逐艦が好きということは無いぞ。みな平等だ、うん」

陸奥 「特II駆逐艦が好き? 」

長門 「誰もそんな話はしていないっ! 」

陸奥 「冗談よ♪ いいじゃない、姉妹なんだから隠し事しなくても。駆逐艦の子たちはちっちゃくて無邪気で可愛いわよね……たまに違う子もいるけど…… 」

長門 「まぁ……そうだな、否定はしない。それで、何の話なんだ? 」



245: ◆8sA8xtnAbg 2016/04/28(木) 20:05:34.55 ID:JZyX8uPbo

陸奥 「それがねぇ……今日はいろいろあって、提督も長門みたいに駆逐艦を愛しちゃってるタイプなのかなぁって」

長門 「ほう……そうか、提督も駆逐艦が好きなのか。それは胸が熱いな……いや、まて…………なん……だと……!? い、いかんいかんいかん! 立派な成人男性が駆逐艦をなど、憲兵が黙っていないぞ! 」

陸奥 「えー。駆逐艦の子たちは、確かに見た目はあれだけど、実際は前世も含めると結構な歳だし……なにより艦娘は『兵器』の扱いなんだから、何も問題にならないわよ~」

長門 「し、しかしだな……あんな子やこんな子が提督となど……い、いかんぞっ! 例え天が許してもこの長門が許さん! 」

陸奥 「提督と長門による駆逐艦の取り合いなんて洒落にならないわ。……まったく、わたしの好きな人は揃って駆逐艦ラブなんて……わたしも小さく生まれたかった~ 」

長門 「何を言う! 陸奥はそのままでいい! わたしは……その……今の陸奥が好きだぞ /// 」

陸奥 「あら、ありがと♪ 」

長門 「う、うむ……もちろん提督も陸奥のことが…………むむ? むむむ? 」

陸奥 「どうしちゃったの、難しい顔して? 」

長門 「い、いや、その…………なぁ陸奥、一つ聞きたいんだが」

陸奥 「? なあに? 」

長門 「その……陸奥はもしかして……提督のことが、その……好き…………なのか? 」

陸奥 「? そうよ? なあに、気づいて無かったの? 」


長門ってば、いつもそばにいるのに、こういうことはほんとに全然ねぇ。



246: ◆8sA8xtnAbg 2016/04/28(木) 20:06:05.31 ID:JZyX8uPbo

長門 「な! なんだと! そ、それはいかんぞ! いかんいかんいかんっ! 」

陸奥 「どうしちゃったの、大きな声だして? わたしは見た目もちゃんと大人だし、何も問題ないじゃない。そもそも、ケッコンカッコカリなんてシステムがあって、どの艦娘とでもケッコンできちゃうわけだし…… 」

長門 「し、し、しかしだな! 仮にも司令官たるものが部下となど…… 」

陸奥 「艦娘は全員、提督の部下なんだけど…… 」

長門 「ぐ……ぐぬぬ……と、とにかくダメだぁぁ」

陸奥 「はぁ、困った長門ねぇ」



コンコンコンコン



長門 「提督め……駆逐艦だけでなく陸奥に手を出すなど、この長門がゆるさんぞぉぉ」

陸奥 「あらお客様かしら? はぁーい」



247: ◆8sA8xtnAbg 2016/04/28(木) 20:06:37.44 ID:JZyX8uPbo

長門 「聞け! 人の話を聞かんかっ! 」


ガチャ


陸奥 「はーい、どなたー? 」

リットリオ「こんばんは、突然ごめんなさい」

ローマ「こんばんは」

陸奥 「あら二人ともこんばんは。どうしたの? 」

リットリオ「この間、お食事をごちそうになったお礼に、ワインをお持ちしたんです。二人で一本ずつですけど……。わたしからはこの赤を」

ローマ 「わたしからはこっちの白を。お口にあうといいのだけれど」

陸奥 「あら~♪ いつも日本酒だから嬉しいわー。良かったら一緒に飲んでいかない? ワインのことも教えてほしいし」

リットリオ「あら、いいですね♪ じゃあおじゃましましょうか」

ローマ 「でも姉さん、なんだか長門さんが叫んでいるように聞こえるんだけど…… 」

陸奥 「あははは♪ その話も一緒にしましょ♪ 」



248: ◆8sA8xtnAbg 2016/04/28(木) 20:07:14.85 ID:JZyX8uPbo

長門 「というわけなんだ。二人からも何か言ってやってくれ! 」

リットリオ「まぁ! 陸奥さんがラブ提督なんですね! 素敵ですね! 」

長門 「なにっ! 」

ローマ 「男の趣味はともかく、恋愛は別に悪いことじゃないですよ? 」

陸奥 「でしょぉ。ふふーん、長門の考えが古いのよ♪ 」

長門 「ばかな……上官と部下で恋愛など……前世ではありえなかったぞ……」

陸奥 「そもそも前世は上官も部下もみんな男だったじゃない……」

ローマ 「それで陸奥さん、具体的な進展は何かあるの? 何かアプローチとかしてるの? 」

陸奥 「なんだかローマが食いついてるわね。それがねぇ……提督はあんな感じだから、もう全然よ」

リットリオ「うふふ……ローマはこう見えて恋バナとか大好きなんですよ」

ローマ 「ちょ、ちょっと姉さん、やめてよ! 」



249: ◆8sA8xtnAbg 2016/04/28(木) 20:08:01.67 ID:JZyX8uPbo

ローマ 「で、でも提督っていつも無口でお話が弾んだ試しがないわ。あの人のどこに惹かれるんだか…… 」

リットリオ 「あら? わたしは提督は素敵だと思うわ。すごく誠実で真面目で、サムライのようです」

長門 「むむむっ」

ローマ 「そんな、姉さんまで…… 」

陸奥 「リットリオは分かってくれるのね♪ 」

リットリオ「はい♪ でも……もう少しこう……地中海的だと嬉しいんですけど♪ 」

長門 「地中海的というと? 」

リットリオ「イタリアには多いんですけど……情熱的な感じです。『海よりも深く君を愛している!』みたいな……」

陸奥 「あら素敵っ」

ローマ 「ふんっ。実際はスケベな男ばかりですよ。まぁでもそういう意味では、提督は確かに、そういう軽薄な男たちとは違う感じですね。セクハラとかもされないし」

リットリオ「わたしは地中海的な挨拶をされたりしてもいいけれど♪ 」

ローマ 「もう! 姉さん、はしたないわよっ」

陸奥 「地中海的な提督ねぇ……はぁ、見てみたいけど絶望的だわ…… 」



250: ◆8sA8xtnAbg 2016/04/28(木) 20:09:06.71 ID:JZyX8uPbo

ローマ 「提督が駆逐艦が好きだっていうのはよく分かりませんけど……。リベのハロウィンに付き合わされた時は、提督は小さい子に優しいなって思ったわね、確かに」

長門 「ああ、ハロウィンの仮装をしていたときか」

リットリオ「ローマもリベにせがまれると断れないんですよ。それでイヤイヤ仮装して……うふふ」

ローマ 「姉さん、余計なこと言わないでっ」

陸奥 「うふふ……二人が仮装して執務室に来た時、提督ってば、リベちゃんにがおがおされて、必死にお菓子を探してたのよね」

ローマ 「ふふっ。慌ててて面白かったわ」

陸奥 「それに……ローマも衣装がかわいいって褒められて、リベに付き合ってやって優しいなって言われて、それで真っ赤になって言い訳を……」

ローマ 「/// わーーーわーーーー」

リットリオ「あらぁ? 執務室から出てきた時に真っ赤だったのはそういう訳なのね。ローマも人のことは言えないわね♪ 」

ローマ 「ち、違うから! わたしは急に褒められてびっくりしただけだから! 」

長門 「提督……わたしと似たタイプだと思っていたのに……ひどい女たらしだったとは……見損なったぞっ」

陸奥 「あははは、何言ってるのよ長門。提督が女たらしだったら、もう愛人の1ダースぐらいはいるはずよ。ほんっと、朴念仁なんだから……。でも確かに、長門が男の人だったら、同じような朴念仁になりそうね♪ 」

リットリオ「うふふ、そうかも知れないですね」

長門 「ぐぬぬ……」



251: ◆8sA8xtnAbg 2016/04/28(木) 20:09:58.91 ID:JZyX8uPbo

ローマ 「ま、まぁ、話を戻すと、陸奥さんは提督がろr……失礼、駆逐艦ぐらいの子が好きで大人の女性には興味が無いんじゃないか?と疑っていると……」

陸奥 「まー、ぶっちゃけるとそうねぇ」

リットリオ「上官の話なのに、ぶっちゃけすぎです……」

長門 「駆逐艦を愛するのはふつうの事……しかし提督がそうだとするとやはり問題が……ブツブツ」

陸奥 「でも、実際手を出してとか云々じゃないのよ。気を使ったり優しくしたりする相手が駆逐艦に偏っているというか……」

リットリオ「でも、そんなことを言ったら、いつもそばに居て一番仲良くしてるのは陸奥さんや長門さんですよね? 」

ローマ 「そうね。それに、もし疑惑が事実なら、秘書艦には駆逐艦を指名するはずだもの」

長門 「初代秘書艦は五月雨だったが、そもそも初期艦は駆逐艦しか選べないはずだな」

陸奥 「うーん……じゃあわたしの考えすぎかしら? 」

リットリオ「優しい人ですからね。きっと小さい子相手には、より気を使ってしまうんでしょう」

ローマ 「そうね。リベも随分なついているようだし」



252: ◆8sA8xtnAbg 2016/04/28(木) 20:11:08.72 ID:JZyX8uPbo

リットリオ「あとはそうですね、一つ思い当たることがあるのですが」

陸奥 「お、なあに~? 」

リットリオ「わたしたち大型艦は、出撃で旗艦にならないかぎり、提督執務室に行く機会ってほとんどないですよね? 」

長門 「ふむ……そうだな、遠征に行く機会もほぼないから報告もないし……言われてみれば重巡以上の艦娘とは出撃で顔を会わせるぐらいだな」

ローマ 「そうね。わたしも提督とお話した機会なんて数えるほどしかないわ」

リットリオ「でも、駆逐艦の子たちは遠慮がないから……最近は執務室に遊びに行ったり、遠征に出た全員で報告に行ったりしてますよね。そういう、コミュニケーションの機会が多いかどうかの差もあるんじゃないでしょうか」

陸奥 「そうねぇ。顔を会わせて話をすれば色々気づくことも多いし、それで気になって世話を焼いたり優しくしたり……なるほどね」

長門 「ああ、でもそれも変わってきているのではないか? 先日も金剛型4姉妹で遊びに来て、提督をお茶会に誘ったりしていたが……」

陸奥 「そういえば、隼鷹と千歳と那智で、提督を呑みに誘いに来てたわねぇ……」

リットリオ「そうなんですかぁ。最近は提督も、地中海的とまでは行きませんが随分フレンドリーになってきたし……わたしたち海外艦も、執務室に遊びに行っても平気でしょうか? 」

陸奥 「提督は、海外艦とか気にしたことも無いわよ~」



253: ◆8sA8xtnAbg 2016/04/28(木) 20:11:50.69 ID:JZyX8uPbo

リットリオ「そうですか……じゃあ美味しいパスタを作って差し入れに行こうかしら……」

ローマ 「姉さん、本気なの……? ほんとに本気……? 」

リットリオ「あら、ローマも一緒に行くのよ。リベも誘ってみんなで行きましょうか」

ローマ 「わ、わたしも行くの!? 」

リットリオ「もちろん、作るところから一緒によ。一緒に作って、それを提督に食べていただくの♪ 」

ローマ 「あ……う……わ、分かったわ」


陸奥 「あらあら、ライバルが多くて大変だわ、わたしも♪ 」

リットリオ「うふふ……提督の競争率は高そうですね」

長門 「ち、鎮守府の風紀が……い、いや、まだ大丈夫だ……わたしがしっかり監督すれば……」


わたしの恋愛的にはちょっと複雑なところだけど……。でも、みんなが提督に好意を持って近づいて来てくれるのは、きっと幸せなことよね。こうしてあの人の悩みや重荷が少しでも軽くなってくれると嬉しいわ。

もちろん……恋愛で負けるつもりはないけれどね♪



268: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/05(木) 00:10:35.00 ID:3YThDdJDo

++++++++++

 Side 曙

++++++++++



269: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/05(木) 00:11:20.71 ID:3YThDdJDo

――――― 港


曙 「じゃあ報告行ってくるわ」

漣 「たまには漣も行こうかなー」

曙 「今日の秘書艦は長門さんよ」

漣 「行ってらっしゃい! 」

曙 「ったく……お調子者め」

朧 「でも、長門さんはすっかり優しい感じになったし、そんなに嫌がらなくてもいいのに」

潮 「漣ちゃんはねー。長門さんから、提督のことをご主人様って呼んじゃ駄目って言われるのが困るんだよね~♪」

漣 「そーそー。今更気にしなくてもいいのに」

朧 「真面目な人だからね」

潮 「曙ちゃんは、長門さんがいる時は、クソ提督!って言わないの? ご主人様よりずっと叱られそうな呼び方だけど…… 」

曙 「叱られるから呼ばないようにしてるわ」

漣 「なになに~、じゃあ司令官さまぁ~とか呼ぶの!? 」

曙 「そんな訳あるかっ! なるべく呼ばないようにしたり……『あんた』とか……そのぐらいよ」

漣 「それも叱られそうじゃん。それならさぁ、天津風みたいに呼べばいいんだよ」

曙 「天津風はクソ提督のことどんなふうに呼んでたっけ? 」

漣 「あ・な・た って呼んでるよ! 新妻風(゚∀゚)キタコレ!! 」

曙 「あほあほあほっ!! 」



270: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/05(木) 00:12:07.20 ID:3YThDdJDo

――――― 提督執務室


コンコンコン

長門 「……誰だ」

曙 「曙です。報告にうかがいました」

長門 「そうか、入ってくれ」


ワーーワーー


島風 「ぴゅーーん」

秋津洲「それでね、大艇ちゃんが……」

青葉 「ネタが無いんです、ネタが! 」

最上 「おやつの時間はまだかなぁ」

酒匂 「はやくおやつ食べたいぴゃん! 」

卯月 「ぴょん! 」



271: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/05(木) 00:12:55.41 ID:3YThDdJDo

曙 「……」

長門 「すまんな。最近、午後休憩前になるとこのような有様でな……(ズキズキ)」

提督 「まぁ、休憩時間には好きに遊びに来て良いと言った以上は責められんだろう」

曙 「まったく……あ、そうそう、遠征は大成功ね」

提督 「ありがとう。お疲れ様」

曙 「お疲れはいいけど……あんた、なんだかすごく疲れてない? 」

長門 「曙、提督に対してそのような呼び方はイカンと何度も……」

提督 「長門、それはもう言うな。言い出したらきりが無いしな……」

長門 「しかし、示しというものがだな……」

提督 「気にすることはない。鎮守府には俺たち以外誰もいないんだからな。それで曙、心配してくれるのはありがたいが、俺は特に疲れていないぞ。君たちと違って出撃するわけじゃないからな」


ぎこちなく笑うクソ提督。……ふんっ。そんなんでこの曙様の目をごまかせると思ったか!


曙 「まぁいいわ。それじゃあね」

長門 「これからおやつ休憩だが、曙は食べていかないのか? 」


……本当はそれを目当てに来たんだけど、この混雑じゃね……


曙 「もう満員みたいだもの、やめておきます。では失礼します」



272: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/05(木) 00:14:08.31 ID:3YThDdJDo

――――― 少し後 第七駆逐隊の部屋


潮 「ふーん、そんなに集まってるんだぁ」

漣 「噂には聞いていたけどすごいね」

朧 「でもさ、それって例の淑女協定違反にはならないのかな? 」

曙 「一応、執務中の休憩時間だし、クソ提督自ら遊びに来て良いって言ったわけだから、許容範囲なんじゃない? 」


淑女協定……クソ提督が一人キャンプをしていることが発覚した時に結ばれた協定。クソ提督がそこまでして一人静かな時間を求めていると知ってショックを受けたあたしたちは……クソ提督の邪魔をしないことを約束した……抜け駆け禁止の意味も含めてだけど。


朧 「でも、また執務室が賑やかになったのは良いことだね」

曙 「まぁ……ね」

漣 「一時期はほんとに寂しかったからね」

潮 「わたしもまたおじゃましようかな……今度は怖がったりしないように……」

曙 「……」


確かにそうなんだけど……でも、あの疲労が色濃く出た顔が気になった。

着任したてのあの頃……クソ提督もまだ自然に笑っていた賑やかな日々……。今の執務室は確かにあの頃みたいなのに……あいつの顔は全然あの頃と違う。そんな気がしてしまう。

まったく……どうしていつも心配させるんだ、ほんっとクソ提督!



273: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/05(木) 00:14:39.81 ID:3YThDdJDo

潮 「……曙ちゃん、また何か心配事? 」

曙 「うぇ!? な、なによ」

漣 「また顔に出てたよー」

朧 「話だけ聞くと良くなったように思えたけど……そうでもないの? 」

曙 「……ちょっと気になるだけよ。まだわかんないわ」

潮 「ふぅーん。良くわからないけど、がんばってね!(ぐっ)」

曙 「はいはい、程々にがんばるわ」


そうだ……あたしにとっての潮みたいな……。そういう存在であろうと思うなら立ち止まってなんかいられない。



274: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/05(木) 00:15:05.41 ID:3YThDdJDo

――――― 夜 長門と陸奥の部屋


コンコンコン

長門 「来客か。最近多いな」

陸奥 「ほんとね~。はーい、どなたー?」

曙 「曙です。少しお時間を頂けませんか? 」

ガチャ

陸奥 「いらっしゃい。どうぞ、はいってはいって」

曙 「あ……はい、失礼します」

長門 「曙か。どうした? 」

曙 「いえその……秘書艦のお二人にお話を聞きたくて」

陸奥 「そんな堅苦しくしないで~。さ、お茶お茶」



275: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/05(木) 00:15:53.76 ID:3YThDdJDo

陸奥 「はい、お茶よ。それで、どうしたの? 」

長門 「わざわざ我々の部屋に来るぐらいだ。重要な話なのだろう? 何かトラブルか?」

曙 「いえ! はっきりと何かあるわけでは無く……その……」

長門 「? 歯切れが悪いな」

陸奥 「うふふ……長門、駄目よ。曙ちゃんが相談に来るなんて、提督絡みのことに決まってるじゃない」

曙 「!! そ、それは……そのぉ……」

長門 「? 提督の話か。なんだ、呼び方をちゃんとすべきかとかそういうことか? 」

陸奥 「もうっ、長門はちょっと黙ってて。ごめんね曙ちゃん。提督のことで何か相談よね? 心配なことでもあるのかしら?」

曙 「その……はい……。いえその、クソ提督が心配とかそういうわけでなくて、司令官の様子が変だと落ち着かないですからっ! 」

陸奥 「うふふ……じゃあまずは、何が心配……気になるのか、話してくれる? 」

曙 「……はい。その……クソ提督の最近の様子なんですけど……。日に日に疲れが酷くなっているというか、そういう風に見えるんです」

陸奥 「うん、それで……? 」

曙 「でも、あいつが朝から晩まで仕事三昧なのは今に始まったことじゃないですよね。だから……最近の変化が原因なんじゃないかって」

長門 「ふむ……確かに少し疲れ気味には見えるが……やつれているわけでもないし、あまり気にしていなかったな」



276: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/05(木) 00:16:39.27 ID:3YThDdJDo

陸奥 「続けて」

曙 「最近の変化といえば、執務室に大勢が押しかけるようになったことです。それが原因なんじゃないかって」

陸奥 「……わたしもほぼ同意見ね」

長門 「なるほどな。確かに大勢を相手にして大変そうだ」

陸奥 「わたしは大勢でワイワイすると元気が出るけどねー。この辺は人それぞれだものね」

曙 「あたしは、身近な人じゃないと緊張して疲れるタイプですね」

陸奥 「なるほど。だから提督もそうなんじゃないかって心配してるわけだ♪ 」

曙 「そういう……わけじゃ……」

長門 「ふむ……そういうことであれば、やはり休憩時間であっても執務室に遊びに来るのは禁止にすべきだろうか」

曙 「……」


……あいつの孤独が心配で……でも今度はまたせっかくの賑やかさを失うような話をして……本当にこれでいいの?



277: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/05(木) 00:17:21.00 ID:3YThDdJDo

陸奥 「わたしは反対。提督が自分でそうしたいって言ったのよ。尊重すべきだわ」

長門 「しかし、それで提督が苦しんでいるのだぞ? 」

陸奥 「うーん……。提督は変わろうとしてる。出来なかったことを頑張ろうとしている。その時に、疲れたり大変だったりするのは当然だと思うの。だけど、それが本人の望みなのであれば、応援するべきじゃないかしら? 」

曙 「あいつは……変わろうとしてるんですか? 」

陸奥 「わからないけどね。そうなんじゃないかって思ってるわ」

長門 「陸奥の言うこともわかる。では……しばらく様子を見るが、提督がどんどん疲れて行くようであれば力ずくでも止めるべきだと思う。それでどうだ? 」

陸奥 「うふふ、そうね。長門の力ずくを見てみたい気もするし♪ でも、しばらくは見守りましょ。曙ちゃんもそれでいいかしら? 」


……やっぱり、いつも一緒にいる秘書艦だもの。よく分かってる。


曙 「わかりました……」



278: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/05(木) 00:18:31.69 ID:3YThDdJDo

――――― 少し後 3階廊下


いつもの場所から森を見下ろす……。焚き火の明かりは見えない。今日は行っていないのかな? ていうより、まだ時間が早いわね。

長門さん陸奥さんとの会話を思い出す。最終的には様子見なわけだけど……身近な秘書艦二人がちゃんと分かっているということで安心しなきゃよね。


曙 「まぁ……ね……。何かをがんばるなら、疲れたり苦労したり……当然よね」


なんとなくつぶやく。そう、そんなの当たり前の事。勝利を得るためにはリスクも背負うし、強くなりたければ厳しい訓練を積む。あいつがやってるのはそういうことなんだろう。だけど……


曙 「もっと上手くやるとか、気楽にがんばるとかあるじゃない……」


生真面目に、真正面から地道に取り組んで、ひたすら耐えてるような……そんな気配ばかりを感じる。ほんっとクソ提督!


曙 「大人なんだから、もっとしっかりしてよね…… 」


まったく……あいつがあんなだから……寝ても覚めてもあいつの心配ばっかり……だからクソ提督なんて呼ばれるのよ! あーもう、クソ提督クソ提督!


曙 「あんな疲れた顔してたのに、きっと今も…………。あーー、もう!」


ダッダッダッダ



279: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/05(木) 00:19:30.78 ID:3YThDdJDo

――――― 提督執務室


ドンドンドン


提督 「ビクッ 誰だ!? 」

曙 「曙よ、開けるわよ! 」


ダァン


提督 「曙か……許可無く扉を開けるのは感心しないぞ」

曙 「なによ……何かやましいことでもしてたわけ? 」


クソ提督がさり気なく隠そうとしてるのは……。ふんっ……大戦の艦艇資料ね。こんな時間まで居残りで、やっぱり艦娘の前世を勉強してるんだ?


提督 「それで……どうしたんだ、こんな時間に? 何かトラブルでもあったのか? 」


心配そうな顔をするんじゃないわよ! こっちがあんたの心配してんのよ!


曙 「違うわよ。駄目なあんたを叱りに来ただけ」

提督 「? 」

曙 「あんたね。ここんとこ凄い疲れた顔してるわよ。昼間は引き下がってやったけど、そんな疲れた顔して、ごまかすなんて無理だからね」

提督 「…… 」

曙 「あんたは人間なのよ? バケツぶっかけて、ハイ元通り!ってわけにいかないんだからね! 」

提督 「…… 」

曙 「……はぁはぁ」


息切れしながら思う。あたし……なにやってんだろ。

それに、夜の執務室に押しかけるって、これは淑女協定違反よね……。勢いで来ちゃったけど……あたし、ほんとになにやってんだろ……。



280: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/05(木) 00:20:15.87 ID:3YThDdJDo

提督 「……すまないな曙。ありがとう」

曙 「は、はぁ? /// な、なにお礼言ってんのよ! 」

提督 「心配をかけた。俺もまだまだだな」

曙 「べっ、別に心配なんかっ! あんたはあたしたちの司令官なんだから、倒れられたりしたらあたしたちが困るのよっ。そういうことを言ってるの! 」

提督 「そうだな……。もっと精進して……曙に認められるような司令官になりたいと思う。本当にまだまだだな、俺も……」

曙 「ふ、ふんっ! そう思うなら、休むべき時にはちゃんと休むのよ、このクソ提督っ! 」

提督 「ああ……そうさせてもらうよ。ありがとう」

曙 「/// だからっ……お礼を言うようなことじゃないって言ったでしょ! じゃあねっ!」


バタン


足早に部屋に向かう。なんかもう興奮しちゃって頭がグルグルしていた。協定を破ってしまったこと。言いたいことをはっきり言ってしまったこと。照れ隠しでまたきつい言い方をしてしまったこと。

……やろうと思えば、あいつと二人きりになれること……二人で話せること……あいつの心を聞けること……。

そんなことを考えていた。



285: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/09(月) 23:13:53.98 ID:XR6PkumYo

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 Side 陸奥

**********



286: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/09(月) 23:14:32.50 ID:XR6PkumYo

――――― 12月 鎮守府湾内 猫島


提督 「ふぅ、ごちそうさま」

陸奥 「おそまつさま。はい、お茶」

提督 「ありがとう」(ズズー)


休日に提督を連れ出すのはもう何回目かしら。今日はひさしぶりに、ちょっと強引に連れ出しちゃった。提督は最近さらに疲れ気味だから、ここはわたしがひと肌脱がないとね!


陸奥 「ここに来るのも久し振りね」

提督 「そうだなぁ。最後が11月頭ぐらいだったか。とはいえまだ1ヶ月ぐらいか」

陸奥 「そうね。ああっ、もう師走かぁ。1年なんてあっという間ね」

提督 「そうだなぁ。いつの間にかって感じだな」

陸奥 「でも……常夏の島だから仕方ないけど……季節感まるで無いわよね! 」

提督 「1年中ほとんど気温が変わらない島だからなぁ……」



287: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/09(月) 23:15:00.99 ID:XR6PkumYo

陸奥 「ま、いつでもハイキングや海水浴ができるのは悪くないけどね。さ、提督、膝枕かもんっ」

提督 「えっとだな陸奥。ここに来ることで十分リラックスさせてもらってるから、そんな毎回膝枕しなくてもいいんじゃないだろうか……」

陸奥 「もうっ。往生際が悪いわねぇ。やっぱり力ずくがいいの? 」

提督 「……はぁ……参った」


ゴロン むにゅ


陸奥 「そうそう、いい子いい子(なでなで)」

提督 「むぅ……」

陸奥 「うふふ、ご不満? 」

提督 「いや……気持ち良いよ」

陸奥 「よろしい♪ 」


提督を癒やすというより、わたしの楽しみでやっているような感じよね♪



288: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/09(月) 23:15:50.51 ID:XR6PkumYo

提督 「はぁ~」

陸奥 「ふふ……ほんと、お疲れよね。心配して話を聞きに来る子もいたのよ」

提督 「そうなのか……。うーん、俺もまだまだだな」

陸奥 「疲れが顔に出ちゃうのはしょうが無いわよ。元々苦手なことを頑張るのは大変だものね」

提督 「はぁ……まったくだよ。……つまらない愚痴だが聞いてもらっていいか? 」

陸奥 「もちろんよ♪ 今日はそういう日でしょっ」

提督 「ありがとう。そうだな……俺は艦娘のみんなが好きだ。それは絶対に間違いないんだが……だがな……やっぱり人付き合いは疲れるんだよ! 」

陸奥 「うふふ……ほんとに大変そうよねぇ」

提督 「艦娘Fと話している。そこに艦娘Sが来て話しかけてくる。Sと話をするとFは寂しそうにする。Fと話してるとSは無視するなと怒る。なんだかな、こういうこと一つ一つがな……みんな一体どうやって上手くやっているんだろうか……本当に不思議だ」

陸奥 「あははははは! 昨日の吹雪ちゃんと島風ちゃんね。ほんと、難しく考えちゃうと大変よねぇ」

提督 「しかもな……怒ったり寂しそうにしてくれるならまだわかりやすいが……『大丈夫です(ニッコリ)』と言われるが不穏なオーラが見える、なんてこともあるからなぁ」

陸奥 「うふふ……色男は大変ね♪ 」

提督 「なんだよそれ……」



289: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/09(月) 23:17:00.48 ID:XR6PkumYo

陸奥 「それを言ったら、この間の阿賀野型が遊びに来た時は笑ったわ」

提督 「笑い事じゃないぞ……」

陸奥 「あれのきっかけはなんだったっけ? 」

提督 「阿賀野がな……提督さんはわたしのことが一番好きだからしょうが無いけどみたいなことを言ったら、酒匂が『ぴゃん! 司令が一番好きなのは酒匂だよね?』って詰め寄ってきて……」

陸奥 「そうだったのね♪ それで、仲裁に入った矢矧が『提督はわたしを一番大切にしてるんだから、二人が争うことは無いよ』みたいなことを言ったんだっけ?」

提督 「ああ……それで3人に詰め寄られて……能代が間に入って叱ってくれなかったらどうなっていたことか……」

陸奥 「うふふ、すっかり懐かれちゃったわね」

提督 「ああ。好意的に接してもらうのは嬉しいんだが、こんなに大勢の艦娘と上手に付き合うというのは、俺には荷が重すぎるよ……はぁ」

陸奥 「そんなに気負うことないんじゃない? 提督だって一人の人間なんだから、いつでも誰とでも仲良く、相手を満足させられるっていう訳にはいかないわ」

提督 「……そうだな、そうかもしれない。だが、陸奥や……そうだな、五月雨とか、プリンツとか、いつでも誰とでも仲良くしている人達を見るとな。俺もそうなりたいと思うんだ……。ま、持って生まれて性格が違うから難しいとは思うんだが……」

陸奥 「あら、褒められちゃったわ♪ でもね、わたしなんて難しく考えてないわよ。きっと五月雨ちゃんやプリンツもそうだと思うけどね。ただ楽しく生きてるだけよぉ」

提督 「自然とそういう風にできるのが才能だよなぁ」



290: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/09(月) 23:17:26.54 ID:XR6PkumYo

陸奥 「そうねぇ。大人の落ち着きと余裕……鳳翔さんみたいな。ああいう感じを目指したほうがいいんじゃないかしら? 」

提督 「そうだな、鳳翔さんは決して口数が多いわけじゃないのに、物静かにニコニコして、それだけですごく暖かい感じだよなぁ」

陸奥 「ああいうのを包容力って言うのかしらね」

提督 「年の功なのかな。俺は全然自信ないぞ……」

陸奥 「年の功ね……。鳳翔さんに言ってやろ♪ 」

提督 「……これ以上問題を増やすのは勘弁してくれ。いや、ほんとに……」

陸奥 「うふふ♪ 」



291: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/09(月) 23:18:06.22 ID:XR6PkumYo

陸奥 「ね、提督? 」

提督 「ん? 」

陸奥 「みんなから好意を受けるのは、嬉しいけど荷が重いって言ってたけど……。それでもがんばるの? 」

提督 「……そうだな。結局、皆の幸せのためにできることを見つけるには、もっともっと皆との距離が近くなければいけない。そういう結論に達したからこそ頑張っているわけだが」

陸奥 「ええ、そうね」

提督 「しかし、距離を近くしようとしただけでアップアップしている……というのが現状だな」

陸奥 「うふふ……ほんとにそんな感じね」

提督 「しかも……そんな苦労をしても、なかなか分からないんだよ」

陸奥 「……」

提督 「休憩時間と就業後の少しの間だけとはいえ、毎日のように多くの艦娘と話すようになった。これまで知らなかった色々な面を見ることが出来た……と思う」

陸奥 「ええ、そうね」

提督 「だがなぁ……それでも分からない。今楽しそうに笑ってくれているが、本当に幸せなのか? 幸せでないとしたら何が原因か……難しいものだな」



292: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/09(月) 23:19:13.98 ID:XR6PkumYo

陸奥 「提督、焦らないで」

提督 「そう言われてもな……」

陸奥 「そうねぇ……提督、わたしたち艦娘はみんなあなたのことが大切よ。それは分かってくれる? 」

提督 「ああ……ありがたいことだ」

陸奥 「大切な相手には幸せでいてほしいって思うわ。提督がわたしたち艦娘の幸せを願ってくれるのと同じようにね。でも、わたしたち百数十人がそう思って頑張っても、現実問題として提督は今も苦しんでるわよね。すごく幸せハッピー!っていう風にはとても見えないわ」

提督 「それは……立場も違うからな」

陸奥 「同じよ。大切な相手に幸せでいてもらいたいという気持ちの話なんだもの」

提督 「……」

陸奥 「そもそも、何の悩みも心配もない完全な幸せなんて無いのかもしれないわね。それでも、できることを頑張る……そういうものだと思うわ」

提督 「陸奥は大人だな。そうだな、もっともだと思う。やはり俺が欲張りすぎるのかもな」

陸奥 「欲張りというより焦りすぎに見えるかも。わたしたちはずっと……きっと死ぬまで一緒なんだもの。慌てることは無いわ。ゆっくりと仲良くなったり、できることをすれば良いもの」



293: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/09(月) 23:19:58.51 ID:XR6PkumYo

陸奥 「それにね」

提督 「? 」

陸奥 「執務室に遊びに行って提督に会えるようになっただけで、みんな幸せ度がUPしてるわよ! それだけでも十分な成果じゃない」

提督 「そうだといいんだが……」

陸奥 「うふふ……そのせいで提督の気苦労が絶えないわけだから……提督の幸せはDOWNしちゃってるかもね♪ 」

提督 「ぐぬぬ……いや、別に嫌なわけじゃないんだぞ? ただ上手く出来てないだけで……」

陸奥 「あは♪ それもだんだん慣れていくわよ。それまでは大変だと思うけれど……愚痴くらいは聞くからね♪(なでなで)」

提督 「……ありがとう、がんばるよ」



わたしたちは艦娘に転生した。そして、大切な姉妹や仲間たちと共に戦って、一緒に暮らして笑い合って……それだけでどうしようもなく幸せなのよ。

そして、わたしたちの幸せの源泉である、大切な大切なあなたを取り合って、競い合ったり喧嘩したり……うふふ、それすらも幸せの一部。

そういうこと、あなたもいつか分かってくれるのかしら……そんな日が来るといいな……



301: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/11(水) 10:24:03.38 ID:gr+mYRKYo

++++++++++

 Side 曙

++++++++++



302: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/11(水) 10:24:35.35 ID:gr+mYRKYo

――――― 12月下旬 第七第駆逐隊の部屋


漣 「というわけで、漣はがんばってクリスマスケーキを作ろうと思うんだよ! 」

朧 「お~! がんばるねっ」

曙 「なにが『というわけで』なのかはわかんないけど、別にいいんじゃないのー」

潮 「ケーキいいなぁ……」

漣 「チミたち、何を人事みたいに言っているんだね。みんなも手伝うんだよ」

曙 「何よそれ……別にいいけど、あたしケーキなんて作ったこと無いわよ」

潮 「わたしも無いよ~」

朧 「当然、あたしも食べたことしか無いよ」

漣 「それは大丈夫! ネットでバッチリ作り方調べたし、比叡さんみたいに隠し味入れたりしないからっ! 」

曙 「ああ……レシピ通りに作らずに、謎の工夫をしちゃうのが敗因だもんね……」

漣 「そーそー! じゃあ、材料集めからみんな手伝ってね」

潮 「はーい! 」


常夏の島だから季節感なんてまるで無いけど、そういえばもうクリスマス。あたし達の時代はクリスマスのお祝いなんてしなかったからピンと来なかったんだけど、金剛さんや海外艦のみんなが中心になって、クリスマスが祝われるようになってきたのよね。



303: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/11(水) 10:25:10.39 ID:gr+mYRKYo

朧 「じゃあ七駆はみんなでクリスマスケーキを作るというのでいいね」

漣 「美味しいケーキ作って、ご主人様をびっくりさせよう、おー! 」

潮 「おー! 」

朧 「朝潮型なんかは、みんなで何かプレゼントを作ってるらしいよ」

潮 「金剛型のみなさんはティーセットを贈るって言ってたよ~」

曙 「そ……そうなんだ……」


みんなもうプレゼント用意してるのね。あたしはどうしよう……いきなりプレゼントなんて変に思われるかもって悩んでたけど……


朧 「曙は何をプレゼントする予定なの? 」

潮 「手作りしてる風じゃないし、これから買いに行くのかな? 」

漣 「あ、自分のプレゼントで忙しかったら、ケーキ手伝いはてきとーでいいからね」

曙 「なんであたしがプレゼント贈る前提になってるのよ! 」


くっ……



304: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/11(水) 10:25:59.36 ID:gr+mYRKYo

――――― 翌日 街の雑貨屋


曙 「むむ、これが気に入ったんだけど……さすがに変かな……」

潮 「どうして? すごくかわいいよ! 」

曙 「あんたが使うんじゃなくてクソ提督が使うものなのよ! かわいいのは変でしょっ」

潮 「そうかなぁ。提督がかわいい枕を使ってもいいと思うけどなぁ」

曙 「……ほんとにそう思う? 」

潮 「うん! 」


悩みに悩んだ末、プレゼントはまくらにしようと決めて買いに来てみた今日。あいつ、ずっと疲れ気味の顔をしながら頑張ってるからね。ゆっくり眠れたらいいなと思うんだけど……


潮 「でも、これはペアなんだね。二つもらっても困っちゃうかな? 」

曙 「そ、そ、そうね。でも単体では売ってないみたいだから仕方ないわね! あたっ、あたっ、あたしが使うしか無いかな! 」



305: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/11(水) 10:26:59.83 ID:gr+mYRKYo

ペアのかわいい抱きまくら……。

あ、あいつ、変なこと考えないわよね……。例えば……あたしからのプレゼントだからって、まくらに『曙』って名前をつけて……抱きしめて寝るとか…………あ゛あ゛あ゛あ゛!! 変態クソ提督!!

はぁはぁ……今のはあたしのほうが変態だったわ……。落ち着け曙……ゆっくり眠るために寝具を贈るだけよ……他意はないんだから自然に自然に……


潮 「曙ちゃん、どうしたの……? 」

曙 「なんでもないわよっ! もう面倒だからこれに決定決定! 」


店員 「ありがとうございました~ 」

曙 「クリスマスっていうのは気軽にプレゼントを贈るイベントなんだから……別に特別じゃない……特別じゃない……ブツブツ」

潮 「へんな曙ちゃん。大きくて大変そうだから一つ持つよー」

曙 「大丈夫よ、軽いからっ」

潮 「そっか……。プレゼント、きっと喜んでもらえるよ!」

曙 「……ほんとにそう思う? 」

潮 「うん。だって提督、きっと支給品のせんべいお布団セットのまんまだと思うし……ふかふかまくらが気持よくてびっくりするよ、きっと! 」

曙 「そう……よね。ほんっと、寝具一つ揃えられないなんて、ほんと仕方のないクソ提督よねっ。それでしょうがなく用意してあげてるんだから! 」

潮 「くすっ……そうだね」

曙 「……なによ」



306: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/11(水) 10:27:42.14 ID:gr+mYRKYo

――――― 夜 第七駆逐隊の部屋


潮 「曙ちゃん、早速使ってみるんだね、抱きまくら」

曙 「そ、そりゃあ、一応寝心地とか確認しておかないとでしょ、贈る側の義務としてね! 」

朧 「くすくす……そうだね、しっかり確認しなきゃね」

漣 「ぎゅうって抱きしめて確認しなきゃねぇ(・∀・)ニヤニヤ 」

曙 「ぐぬぬぬぬ……何よ、含みがあるわね。いいわ、おやすみっ」


パチン


ふにふにした抱き心地の抱きまくら。これ、ほんと気持ちいいわ。

耳の長いくまなのかうさぎなのか分からない不思議な抱きまくら。男の子と女の子のペアの抱きまくら。悩んだ末……あたしが男の子の方を使って、女の子の方を贈ることにした。

ほんとに……他意は無いんだからね!

その柔らかい体をぎゅっと抱きしめる。あいつは筋肉質だからきっと硬いんだろうな……それにこの子よりもっともっと大きくて……暖かくて……

あ゛あ゛あ゛あ゛!! 何考えてるの! 寝よ寝よ寝よ!!



307: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/11(水) 10:28:14.39 ID:gr+mYRKYo

――――― 12月24日 提督執務室


コンコンコン


提督 「どうぞ」


バターン


漣 「ご主人様、メリークリスマース! 」

曙 「はいはい、メリクリメリクリ」

朧 「提督、メリークリスマス」

潮 「提督、めりーくりすますです」

提督 「ああ、メリークリスマス。七駆もクリスマスモードか。すっかりクリスマスが定着したな、うちも」

朧 「気温は全然クリスマスっぽくないですけどね」

漣 「そんなことより、七駆みんなでクリスマスケーキ作ったんですよ! さ、どうぞどうぞ! 」

提督 「ケーキか……ありがとう、みんなで頂こう」

潮 「わーい! 」

曙 「あれ、長門さんは? 」

提督 「ああ、今ちょっとおつかいを頼んでいてな」

曙 「そう。じゃあお茶はあたしが入れる」

朧 「ありがと、曙」



308: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/11(水) 10:28:45.19 ID:gr+mYRKYo

漣 「お味はどうですか!? 」

提督 「うん、上手に出来てるな。美味しいよ」

潮 「よかったですー! 」


……クソ提督、笑ってるけど顔色がすごく悪い。いつもの疲れとは違うみたいだけど、体調でも崩してるのかしら?


朧 「うん、確かに美味しいね。味見はしたけど、ちゃんとケーキになってると、ちょっと感動する」

曙 「そうね。漣が作ったとは思えないくらい良く出来てるわ」

漣 「失敬な! ケーキも作れずしてメイドが名乗れようかっ」

潮 「漣ちゃん、メイドさんじゃないじゃん……」

漣 「さ、提督、もっと食べて食べて! 」

提督 「うぷっ……いや、十分頂いてるからみんなで分けて食べよう」

潮 「はーい! 」



309: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/11(水) 10:29:18.14 ID:gr+mYRKYo

漣 「はい、おそまつさまでした! 」

潮 「は~、おいしかった! 」

曙 「お茶おかわり入れたわよ。ちょっとクソ提督、ほんと顔色悪いけど大丈夫なの? 」

朧 「言われてみれば顔色があまり……お風邪ですか? 」

提督 「い、いや、大丈夫、なんでもないんだ」


バタン


長門 「戻ったぞ。……七駆が来ていたのか」

漣 「はい、おじゃましています! 」

長門 「ま、今日はクリスマスで仕事は入れないようにしているから構わないが……。提督、ほら、薬だ。……なんだ、また食べたのか」

曙 「……また? 」

提督 「あ、長門、そのだな……」

長門 「食べ過ぎで気持ち悪いというから薬を取りに行ったというのに、その間にまた食べているようでは意味が無い。少しは自重することだ」

漣 「食べ過ぎ!? 」

提督 「いやその、決してそういうわけでは」



310: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/11(水) 10:30:04.64 ID:gr+mYRKYo

長門 「今日はクリスマスだからな。朝から大勢が代わる代わる料理だお菓子だを持ち込んでな。いくらなんでも食べ過ぎだ」

潮 「そ、そうだったんですか……」

朧 「無理に食べていただいて……」

提督 「いや、違うんだ! 本当に美味しかった。ただ、朝から沢山食べているのも本当だから、薬でも飲んでおくかなと……」

漣 「もー、ご主人様ってば。言っていただければまた夜にしたのにっ」


怒りが……ふつふつと湧き上がるのを感じる……まったくこいつは……このクソ提督は……!


曙 「ばっっっっかじゃないの!!」

潮 「あ、曙ちゃん……」

曙 「遊びに来る艦娘にいい顔をするために疲れきっていたかと思えば……今度は差し入れを無理やり食べまくり!? あんた、艦娘の下僕か何かなの!? 」

提督 「……」

曙 「みんなは、あんたに機嫌を取ってもらいたくて来てるんじゃないわよ! 無理して喜んだ振りをして欲しくてクリスマスしに来てるんじゃないわよ! 勘違いもいい加減にしなさいよっ! 」

提督 「いや、そんなつもりは……」



311: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/11(水) 10:30:41.46 ID:gr+mYRKYo

曙 「そんなつきあい方しか出来ないのなら、まだ一人で閉じこもってた頃のほうがマシよ! ほんとに……どうして分かってくれないのよ、このクソ提督っっっ!!!! 」


とっさに……後ろに隠してたプレゼントを投げつける


ぼふっ


しーん……


提督 「曙……俺は……間違っているだろうか……? 」


顔面からずり落ちたプレゼントを両手で持ちながら……悲しそうな目でこちらを見てる提督。罪悪感がふつふつと湧き上がる……。でも……でも……!


曙 「間違ってるわよ! いい加減に分かれっ!! 」


溢れ出る涙を見られないように……背を向けて駆け出す……。みんなも……あたしも……ただあんたの幸せな笑顔が……見たくて…………どうして……あんたはいつだって……。

せっかくのクリスマスなのに……どうして……。



319: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/16(月) 20:26:51.25 ID:8j7JJnEEo

――――― 深夜 鎮守府3階廊下


曙 「はぁぁ~~」


今日何度目なのかわからない溜息。

気まずいから七駆のみんなにも会いたくなくて……結局1日、あちこちをウロウロして時間を潰し……こうしてまたここに様子を見に来てしまった。


曙 「やっぱり……いた」


森のなかに小さな灯りが1つ。あいつはやっぱり一人キャンプをしている。落ち込んだり疲れたりすると森に行くっていうのはもう分かってる。今日は……今日もまたあたしのせい。


曙 「でも、あたしは絶対間違ったこと言ってないからね! 」


強気につぶやいてみたたところで……心のなかに広がるのは罪悪感と後悔ばかり。思い出すのは、あたしを見つめた悲しそうな目。

今はきっと……あの目で焚き火を見つめているんだろうな。そう思うと、心が苦しいぐらい締め付けられる。



320: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/16(月) 20:27:28.13 ID:8j7JJnEEo

曙 「まったく……しょぼくれてるんじゃないわよ!」


今すぐあそこに行って、そんな目をするな! あたしは間違っていない! そう言ってやりたい!


それから……ごめんなさいって……言いたい……。


でも、そんなの淑女協定違反だからダメダメ……という言い訳をして立ち止まる。

短気をおこしてあいつを悲しませたあたしに、あいつの大事な時間を奪う権利なんて無いよね……。


曙 「はぁぁ~~」


振り出しにもどる。そして森の小さな灯りを見つめ続けた。



321: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/16(月) 20:28:03.89 ID:8j7JJnEEo

潮 「曙ちゃん」

曙 「潮……どうしたのよ、こんな時間に」

潮 「もうこんな時間だもん。そろそろお部屋に帰って寝ないとだよ。ほら、帰ろ? 」

曙 「……」


潮がわたしの手をとって歩き出す。なんとなく抵抗する気も起きなくて、とぼとぼと歩き始めた。


潮 「提督、怒ってなかったよ。それより、曙ちゃんを悲しませたって、すごく心配してた」

曙 「うん……」

潮 「朧ちゃんも漣ちゃんも、心配してたんだよ」

曙 「うん……」

潮 「わたしも心配したよ」

曙 「うん……(ぽろぽろ)」

潮 「明日、提督に謝りに行こうね。一人が嫌だったらわたしが一緒にいくね」

曙 「うん……(ぽろぽろぽろ)」


部屋に戻って、布団に潜り込んで、抱枕を強く抱きしめた。この子の分身は、今日はきっと一人寂しくしてる。それはあたしのせいだった。



322: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/16(月) 20:28:41.17 ID:8j7JJnEEo

――――― 翌日夕方 提督執務室前


曙 「はぁぁ~~」


潮に促され、泣かれ、頭突きをされ……。観念して執務室に来た。まったく、まだお腹いたい……。あの子は手加減を学ぶべきね。でも……後押しありがとう。

執務は終わり、遊びに来たみんなも秘書艦も帰って、今は一人で執務室にいるはず。謝るチャンスは今しかない!


曙 「す~~~は~~~。よしっ!」


コンコンコン


提督 「はい」

曙 「は、はいるわよっ!」


ガチャ


陸奥 「ほらね、曙ちゃん来てくれたでしょ」

提督 「ああ……陸奥はすごいな、預言者みたいだ」

陸奥 「うふふ……提督が鈍いだけよ♪ 」


あれ、陸奥さんがまだ居る……


陸奥 「さ、入って入って。閉めるから」

曙 「は、はい」



323: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/16(月) 20:29:07.42 ID:8j7JJnEEo

**********

 Side 陸奥

**********



324: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/16(月) 20:29:51.46 ID:8j7JJnEEo

――――― 少し前 提督執務室


陸奥 「さて、今日の業務は終了。お客さんも帰ったし、お茶入れるわね」

提督 「ああ、ありがとう」


提督、今日はほんとに元気無いわね。長門から話は聞いてるけど……やっぱりショックだったのね。


提督 「はぁ~(ずずっ)」

陸奥 「提督、昨日のこと聞かせてくれる? 長門から聞いてるんだけど、なにせあの子を通すと細かな情緒が何も伝わらないから」

提督 「そうだな……陸奥に相談しようと思ってたから、まずは様子を話すよ」


…… 提督説明中 ……


提督 「そんなわけでな。また俺の無神経で艦娘を傷つけてしまったようだ」

陸奥 「長門ぉ。もうっ! 帰ったらうんと叱ってやるから! もー、ほんとにごめんなさいね、長門が空気読めて無くて。自分が何をしたか、全く分かってなかったわよ」

提督 「いや、俺が悪いんだ。長門に責任は無い」



325: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/16(月) 20:30:54.33 ID:8j7JJnEEo

提督 「それでな……また以前のように、業務以外では執務室への立ち入り禁止にしようと思う」

陸奥 「……本気? みんな悲しむわよ」

提督 「……」

陸奥 「……前に、霞ちゃんがここに来てお話した時があったわね」

提督 「ああ」

陸奥 「その時、霞ちゃんや曙ちゃんを行動の指標にしてるみたいな話をしてたわね。そういう理由なの……? 」

提督 「…………そうだ」

陸奥 「ふぅーん。じゃあ曙ちゃんが、これなら執務室に誰もいなかった頃のほうがマシだって言ったから、そうしようってことよねぇ」

提督 「そういうことだ」

陸奥 「提督ってほんと、アホねぇ……」

提督 「あ、アホ……? 」

陸奥 「提督がそういう人なのは知ってるけど……単純な言葉じゃなく、その裏にある意思とか気持ちを汲んであげないと、曙ちゃんみたいな素直じゃない子とは、いつまでも良い関係になれないわよ? 」

提督 「そう……だろうか? 」

陸奥 「そうよー。これまで何度もフォローしてきた陸奥さんを信じられない? 」

提督 「いや……信じてるが……」



326: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/16(月) 20:31:55.60 ID:8j7JJnEEo

陸奥 「曙ちゃんと直接お話しして、そういうことも含めてきっちり話せばいいんじゃないかしら。そもそも提督は、曙ちゃんが何で怒ってるかもよく分かってないんでしょ? 」

提督 「それは……俺が艦娘の顔色を伺うような行動をするのが気に入らないと……」


ほんとアホねぇ……。曙ちゃんかわいそ~。


陸奥 「ま、今日はきっと曙ちゃんの方から訪ねてくれるから、そしたらゆっくり話をしましょ」

提督 「……? 曙が来るのか? 」

陸奥 「当たり前よ。昨日、そういう喧嘩別れしてるんでしょ? ほんでもって、我らのアホな提督は曙ちゃんをフォローに行ったりしないし」

提督 「またアホ言われたか……」

陸奥 「悩んだ挙句、きちんと謝りにいかなきゃ!って思うはずよ。ほんと、アホな提督よりよっぽど大人よねぇ」

提督 「ぐぬぬ……」

陸奥 「あんまりにも遅いようならこちらから訪ねましょ。じゃあ、お茶のおかわりでも入れるわね」



327: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/16(月) 20:32:21.76 ID:8j7JJnEEo

コンコンコン


陸奥 「あら、もう来たみたい。早かったわね」

提督 「はい」

曙 「は、はいるわよっ!」


ガシャッ



陸奥 「ほらね、曙ちゃん来てくれたでしょ」

提督 「ああ……陸奥はすごいな、預言者みたいだ」

陸奥 「うふふ……提督が鈍いだけよ♪ 」


全く、世話のやける提督と曙ちゃんね。でも、不器用な二人が一生懸命距離を縮めてきたんだもの。今日こそきっと仲良くなれるわ♪

提督の言うところの預言者陸奥が保証しちゃう!



334: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/19(木) 23:04:21.99 ID:eN9TxjvNo

陸奥 「はい、お茶」

曙 「あの……ありがとうございます」

陸奥 「本日終了の看板も出してきたから、時間は気にせずゆっくり話して大丈夫よ」

提督 「ああ、すまんな」

陸奥 「それから曙ちゃん。あなたが今日は提督と二人でお話しようと思って来たのは重々承知しているんだけど……」

曙 「べ、別にそういう訳じゃっ! 」

陸奥 「でもねぇ。鈍くて頑固な提督と、意地っ張りで恥ずかしがりな曙ちゃんだと、どうしてもすれ違うっていうのは、もう十分わかってるから」

提督 「……ぐぬぬ」

曙 「うう……」

陸奥 「だから、今日はわたしが仲人役を努めさせてもらうわ」


曙 「…………はい……その……多分そのほうがいいです」

陸奥 「はい、よろしくね♪」



335: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/19(木) 23:05:14.05 ID:eN9TxjvNo

提督 「……」

曙 「……」


……またこのパターン……と思ったら、提督ががんばりそう! しばらく見守ってみましょうか……


提督 「その、曙……昨日はすまなかった」

曙 「……すまなかったって、何よ……」

提督 「いや、俺の行動でまた君を不快にさせた……」

曙 「ふんっ! そうよ、その点ではあたしは謝る気は無いからね! ただ……その……短気を起こして怒鳴ったのは悪かったわ……」


うんうん、いい感じだけど……きっとまた曙ちゃんが爆発するわね


提督 「いや、曙が謝る必要はない。今後はちゃんと対応するから許してくれ」

曙 「対応するって……どうする気? 」

提督 「まだ相談中ではあるが……以前と同じように、業務以外での執務室立ち入りを禁止にしようと思う」


あーあ……ほんと、分かってないわねぇ


曙 「…………」

提督 「みんなとのコミュニケーション不足をなんとかしようと思っていたんだが、俺ではやはり制御出来なかったようだ。嫌な思いをさせて済まなかった」

曙 「あん……たは……(プルプル)」

提督 「?」



336: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/19(木) 23:06:18.73 ID:eN9TxjvNo

バァン!

曙 「ほんっとクソ提督! 馬鹿なの? アホなの? なんでそういう話になるのよ!! 」

提督 「え……? いや、その……」

陸奥 「はい、ここでストップ!! 」

曙 「何ですかっ!? 」

陸奥 「ここで曙ちゃんがカッとなって、提督はなぜ怒られているか分からず、それでイライラした曙ちゃんが飛び出す……こういうパターンよね? 」

曙 「ぐ……」

陸奥 「でもね、わたしとしては、そろそろ事情が知りたいの。だから曙ちゃん、ちょっとだけ抑えてくれる? 」

曙 「はぁはぁ……事情があるなら……確かにあたしも知りたいです。このクソ提督の口からどんな事情が飛び出すのか知りませんけど! 」

提督 「あっと……俺はどうすれば……」

陸奥 「ね、提督。昔みたいにみんなとの距離を縮めるために頑張ってたのに、曙ちゃんが怒ったから、やっぱりやめることにした。そういうこと? 」

提督 「いや、できることをもちろん頑張るつもりだが……執務室でのコミュニケーションはやめるかなと」

曙 「あ゛あ゛あ゛あ゛」



337: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/19(木) 23:07:48.00 ID:eN9TxjvNo

陸奥 「曙ちゃん、もう少しだけ我慢してっ。提督、それは例の『曙ちゃんや霞ちゃんを基準に行動を決める』っていう話から来てるのよね? 」

提督 「? ああ、俺は司令官としてのあり方に迷った時には、曙や霞……とりわけ曙を再優先にして行動指針としているから……」

曙 「……へ…………? あたしが基準……? 」

陸奥 「そうなのよ。提督は曙ちゃんを基準に司令部運営をしてるんですって。わたしとしては、どうして曙ちゃんが基準になったとか、それでどうして、鎮守府の運営が大きく変わったり、秘書艦が次々交代したりしたのかとか……そのへんの経緯をきちんと知りたいの。曙ちゃんも知りたいんじゃない? 」

曙 「(キッ)どういうこと、クソ提督? 」

提督 「いやその……規模が大きくなって、基準をどこに置こうかと考えて、曙に……」

曙 「そんな説明じゃわからないわよ! 」

陸奥 「提督、良かったら最初から話してくれない? 鎮守府開設から今までのこと。わたしは着任が遅かったから初期の頃をよく知らないし、どうも断片的に聞いても提督は上手に説明してくれなさそうだし……」

曙 「……そうね。正直興味があるわ。あんたの変化に散々振り回された身だもの」

提督 「最初から……? どう説明すればいいのか……」

陸奥 「ほんとに最初からよ。提督として着任するところからでいいからっ」


曙ちゃんを基準にした理由はなんとなくわかってる。そして不器用で裏目に出ていたことも。でも、それだけじゃなく、この人がずっと、悩んで足掻いてきた日々をこの人の口からちゃんと聞いてみたい。抱えてきた重荷と苦悩を共有できるのは……今はきっと、わたしと曙ちゃんだけだものね。さて、どんな話が飛び出すのかしら……



338: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/19(木) 23:08:16.02 ID:eN9TxjvNo

++++++++++

 Side 曙

++++++++++



339: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/19(木) 23:09:16.82 ID:eN9TxjvNo

あたしが基準……クソ提督はあたしに合わせて司令部運営をしていた……? そんなのウソ! 全然あたしの意向と違ってたじゃない! 何を言い出してるの、このクソ提督は! つまんない話だったら蹴っ飛ばしてやるから!

そんな思いと同時に、不安で足はガクガクと震えていた。


提督 「その、最初からとなると、着任前の話になってしまうんだが……」

陸奥 「いいから、提督が話しやすいように話してみて」

提督 「わかった。その、長くなってしまうぞ?」

曙 「前置きはいいから早くしなさいよ! 」

提督 「あ、ああ。えっと……そうだな、俺は提督になる前は、護衛艦の下っ端船員だった。まだ若造だからな。でも、海と船が好きで、希望しての軍艦乗りだったからな。それなりに充実していた」

陸奥 「……そうね、海は好きだものね」


こいつが海に出てるところなんて、当然だけど見たことなかった……そうか、こいつも海が好きなんだ……


提督 「でな……ある日、適性があると分かったって、いきなり提督就任が決まったんだ。それですぐに研修に投げ込まれた」



340: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/19(木) 23:10:50.31 ID:eN9TxjvNo

陸奥 「研修なんてあるの? 」

提督 「ああ。以前は何の予備知識も無くいきなり鎮守府に着任していたらしいんだが、それだと多くのムダがあるからと、着任前講習が行われるようになったらしい。これは先達たちが強く働きかけて実現したことだそうだ。講師も現役の提督が行っている」

曙 「それで……講習がどうしたっていうのよ(イライラ)」

提督 「あ、すまん。それでな、講習を受ければ受けるほど、俺は提督に向いていないと思った。なにせ極端な人見知りで口下手だ。まして、家族以外の女性と話したことなど記憶に無いぐらいの俺が艦娘を率いるなど……」

陸奥 「ぷっ……提督、ほんとにオクテだったのね」

提督 「笑うなよ。田舎育ちから士官学校、そのまま軍艦乗りなんだから。それでな、講師の提督に相談した。俺はどう足掻いても良い提督になれそうにないから辞退したいと」

曙 「ふん……それでどうしたのよ」

提督 「辞退はどうあっても無理だった。適性がある人間が足りないぐらいだから拒否権は無いんだそうだ」

陸奥 「ふぅん……じゃあ提督はイヤイヤ着任したわけね」

提督 「イヤイヤというと語弊があるが、気が進まなかったことは確かだな。そんな俺を見て講師がな。自分も最初は同じような感じだった。だが今では大勢の艦娘を率いる提督としてなんとかやれるようになったと」



341: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/19(木) 23:12:05.36 ID:eN9TxjvNo

陸奥 「講師になるくらいですもの。立派な提督なのよね」

提督 「それでコツを聞いたんだよ。そうしたら一つだけアドバイスをくれた。初期艦で五月雨を選んで、彼女と二人三脚で頑張れば大丈夫だと」

陸奥 (ムカッ)

曙 (ムカッ)

提督 「それで、半信半疑ではあったが、初期艦には五月雨に来てもらうことにして鎮守府に着任した」

陸奥 「ふぅ~ん。やっぱり五月雨ちゃんは提督に取って特別なのねぇ。今からでも秘書艦に戻ってもらったほうがいいんじゃない? 」

曙 「やっぱり素直でかわいい子が好みって訳ね。ほんっと、男なんて……」



342: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/19(木) 23:13:45.35 ID:eN9TxjvNo

提督 「何の話だよ……。そんなわけで五月雨と二人で鎮守府をスタートさせた訳だが……。正直に言えば、最初は艦娘との接触に恐怖もあった。だが五月雨と出会って話して、それも吹き飛んだ」

曙 「恐怖って……どういうこと? 」

提督 「……着任にあたって、俺が率いることになる艦娘たち。その生い立ち……というか前世はしっかり勉強したんだ。皆それぞれに必死に戦って……大体悲しい結末で終わっていた」

曙 「……」

提督 「だから、もっと暗い……それこそ憎しみに満ちているような……そんなイメージすら持ってたんだよ。そんな気持ちでいたところに会ったのが、あの五月雨だからな……」


クソ提督の表情が自然と柔らかくなる。……そうよね。残念だけどそれはあたしには無理。あの子だからできること。


提督 「五月雨に……それこそ長年の友人か家族のような接し方をされて……。面食らっていたところで、次々と……そうだな、電や睦月、那珂なんかが仲間に加わって……」

陸奥 「くすくす……それはまた狙ったようなメンツね」

提督 「ああ。正直言えば、俺は間違って鎮守府とは違うところに着任したんじゃないか?って思ったぐらいだよ。なんというか……小学校の先生にでもなった気分だった」

陸奥 「うふふ……それはいくらなんでも……ねぇ♪ 」


クソ提督の柔らかな微笑。……そんな、もう失われた故郷を想うような表情するのやめてよね……



343: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/19(木) 23:14:54.01 ID:eN9TxjvNo

提督 「どうやら艦娘というのは俺が思っていたような人たちでは無いらしいと、やっと緊張が取れてきたころ……そうは言っても、色々なわだかまりをもって転生する子たちが現れた」

陸奥 「そうね……それが……」

曙 「はぁ……。あたしなんかのことね。正直言えば、転生した時は司令部は憎むべき相手って思ってたわ、確かに」

提督 「……当然の事だ。曙だけじゃない、霞や満潮、摩耶なんかもそうだな。上官への不信をもっているような……それ以外にも、いろんなトラウマを抱えている子たちがいた」

陸奥 「下手に前世を知ってるからなおさら見えちゃうわよね、トラウマとか……」

提督 「そうだな。だが、人間の都合で無理やり呼び起こしてしまったわけだから……そんな子たちも、せめて少しでも幸せであって欲しいと思った。だが……それが本当に難しくてな」


さっきまでの柔らかな表情から、今度は苦悩に歪んだ表情に……。こいつは本当にずっと前から苦悩を抱えてた訳だ……



344: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/19(木) 23:15:28.53 ID:eN9TxjvNo

提督 「艦娘はどんどん増えていく。しかし、ひとりひとりが抱えているものは全く違う。艦娘Aが喜ぶ方針を艦娘Bは喜ばない……。そういう中、俺はどうすればいいのか」

陸奥 「なるほどね……。それで、基準を決めたわけだ」

曙 「基準を決めるのは分かるけど、それがなんであたしなのよ」

提督 「……曙は怒るかもしれないが、前世で一番司令部に冷遇されたのは、曙なんじゃないかと思ったんだ」

曙 「それは…………」

提督 「だから、せめて転生した今は、一番大切にされる艦娘になって欲しかった……」


あたしが……一番……大切!?!?


曙 「/// あ、あんた何言ってんのよ!」

陸奥 「あーあ、一番大切にされてうらやましいわぁ~」

曙 「陸奥さんまでっ! 」



345: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/19(木) 23:16:31.89 ID:eN9TxjvNo

って、この頃にあたしを基準にして方針を決めたって……。これからクソ提督がどんどん孤独になっていく時期じゃない……。もしかして……まさか…………。


曙 「あたしや霞なんかを基準にして……それで……どういう風に変わったのよ……(ブルブル)」

提督 「そうだな……。あの頃は、五月雨の手伝いと称して大勢の艦娘が執務室に入り浸っていた。曙や霞からは、その雰囲気が不真面目だという意見をもらったな。それで、ちょうど五月雨の秘書艦業務が限界に達していた事もあって、秘書艦を神通に交代をしたはずだな」

陸奥 「あちゃぁ……。そういうことだったのね」

曙 「…………」


確かに……言った。こんな雰囲気じゃ業務に支障が出るんじゃないかとか、とてもまじめに執務をしてるように見えないとか……。

もちろん、島風が走り回ってたとか、深雪スペシャルが炸裂してたとか、那珂ちゃんが歌ってたとか、そういう具体的に騒がしい時に言ったことだけど……。

でも……それでも…………。あたしが入れない楽しそうな雰囲気や笑顔に嫉妬もしてた。楽しそうな子たちに囲まれて困っているクソ提督に無性に腹が立った……。それでついついきつい言い方を……してた。



346: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/19(木) 23:17:00.00 ID:eN9TxjvNo

そっか……あたしが……あたしの勝手が、あんたを孤独にしてたんだ。



347: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/19(木) 23:17:44.64 ID:eN9TxjvNo

提督 「……! あ、曙、どうした!? 」

曙 「…………」


あふれた涙が頬を伝ってるのが分かる。こいつの前では絶対泣くもんかって決めてたのになあ……

泣き叫ぶような気力も……資格も……無くて。だけどあふれる涙を止めることが出来なかった。


提督 「あ、あの、曙……? 」

陸奥 「もうっ。提督は黙ってて」


ぎゅっ


優しく暖かく抱きしめられる……潮に抱きしめられるのと同じ感覚……陸奥さん……?


陸奥 「大丈夫よ……。そもそも提督がアホなのよ。ただ言葉だけを頼りにして……その裏にある気持ちとか心が全然見えてないんだもの。ほんっとに鈍感よね」

曙 (こくこく)


ほんとにね……あたしだけじゃない。他のみんなも……照れ隠しだったり、意地をはったり……色々あるのに、全然気がついてもらえて無いんだ……



348: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/19(木) 23:18:18.37 ID:eN9TxjvNo

提督 「あ、あの……」

陸奥 「黙っててって言ったでしょ! 」

提督 「はい……」

陸奥 「落ち着くまでこうしてるから……」

曙 (こくこく)


動揺してオロオロしてるクソ提督が視界に入る。どうしようもないアホだけど……それでも真面目で優しい愛すべき人……こいつを孤独に追いやって苦しめてたのかあ……。そう思うとまた涙があふれてきた。


クソ提督を見ないで済むように目を閉じる。


ああ……全部夢だったら……いいのに…………。



353: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/20(金) 00:45:19.65 ID:oyME7PLN0

あぁ~曙可愛いんじゃぁ~
351: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/19(木) 23:51:45.16 ID:fQZjfPUHO
乙です
講師役の人はパンダ提督かな?


【艦これ】 五月雨「パンダ提督とわたし」


354: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/20(金) 06:56:14.37 ID:uYWFgXxxo

パンダ提督だな
パンダ提督達の努力は実りつつあるのか
358: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/22(日) 23:03:29.04 ID:+qhbO7FPo

静かに泣かせてもらって、落ち着いた頃、陸奥さんの優しい声がした。


陸奥 「今日はもう終わりにする? それとももっと聞く? 」


ゆっくりと目を開ける……。まだオロオロして心配そうにしてるあいつがいた。

……うん、逃げてる場合じゃないわね。


曙 「大丈夫です。ごめんなさい、取り乱して ///」


陸奥さんに抱きしめられてることを改めて確認すると、なんだか急に恥ずかしくなってきた!


陸奥 「いいのよぉ。曙ちゃん抱き心地いいし。やっぱり小さい子はかわいいわ~」


あ、やっぱり長門さんの妹だわ



359: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/22(日) 23:04:05.71 ID:+qhbO7FPo

曙 「さ、もう大丈夫。続きを聞かせて」

提督 「いやその……なんと言ったらいいのか……」

陸奥 「いいから続きっ! 他のことはお話の後にしましょ? 」

提督 「あ、ああ……わかった。しまった、どこまで話したんだったか……」

曙 「秘書艦が神通さんに変わったところよ」

提督 「そうだったか、それじゃあその後だが……」

提督 「秘書艦を変えるにあたって……。秘書艦として全体の指揮をしっかり取れる実務能力を持っていて、かつ……どちらかと言うと堅く真面目に仕事をするタイプ……公私混同とかをしないタイプの艦娘がいいだろうと思った。それで神通を選んだ」

陸奥 「そうねぇ……今の条件だと、すごく妥当な人選ね」

提督 「それで……俺のことをとにかく厳しく監督してくれるように頼んだ。だがそんな心配もいらなくてな……あれほど遊びに来て騒いでいた駆逐艦たちがピタッと来なくなって……」

陸奥 (なるほど……)

曙 (そりゃそうよ……)



360: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/22(日) 23:04:58.89 ID:+qhbO7FPo

提督 「その後、秘書艦が那智に交代することになって……」

曙 「待った。神通さんから那智さんに交代した理由は何なの? 前に神通さんに聞いたけど教えてもらえなかったんだけど」

陸奥 「なあに、何か事件があったの? 」

提督 「……神通から、秘書艦はまた五月雨に戻すべきだと。実務はわたしがサポートするから、という申し出があったんだ。それが叶わないなら、少なくとも秘書艦を誰かに変わって欲しいと」

曙 「そんな……理由は? 」

提督 「それが……。神通が言うには、俺がどんどん元気がなくなっていくのは、自分が秘書艦なのが原因だろうと。以前のように賑やかな執務室にして元気を出して欲しいと……。そんなことは無いと言ったんだが、なかなかな……」

曙 「なによ……どんどん元気がなくなっていったのは本当の事じゃない」

提督 「そうだな……。そういう意味ではまぁ自業自得だった。だが、俺の元気のために、また元に戻すというのはどうしてもできなくてな……。それで秘書艦を那智に変わってもらったんだ」

曙 「……元に……秘書艦を五月雨にして楽しい執務室にできなかったのは……やっぱり、あたしなんかが原因だったわけね」

提督 「原因という言い方には語弊があるな。だがそうだな……理由は確かにそうだった」

曙 「そう……」


神通さんは……自分が秘書艦になってからどんどん元気をなくす提督を見てどう感じていたんだろう……きっとすごく苦しかったよね。ごめんなさい神通さん……ごめんなさい……。



361: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/22(日) 23:05:40.39 ID:+qhbO7FPo

陸奥 「でもちょっと待って。提督って元々人付き合いが苦手な方よね? 一人でいるほうがほっとする、みたいな」

提督 「ああ、そうだな」

陸奥 「それなのに、執務室が静かになったら、どんどん元気が無くなったの? ちょっと不思議な感じね」

曙 「言われてみれば……」

提督 「ああそうだな。執務室が静かになって……確かにちょっとさみしく感じたのは本当だが……元気をなくしていたとしたら、主な理由は違うな」

曙 「!! じゃ、じゃあ、理由ってなんだったのよ!? 」


どういうこと……わたしが思っていたこととは少し外れてきた感じ……?


提督 「……これから言うことは他言無用に……いや、君たち艦娘が気づいていないはずはないか……」

陸奥 「もったいぶって……どういうお話なの? 」

提督 「この頃、仲間も増え、遠くの海域にも行けるようになってきた頃……さすがに俺も気づき始めたんだよ」

曙 「何によ! 」

提督 「…………深海棲艦が、君たちと同じもの……君たち自身だということにだ」



362: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/22(日) 23:06:53.46 ID:+qhbO7FPo

艦娘ではなく、実際に戦場に居るわけでない提督は気づいていないと思っていた……。いや、提督だけじゃなく、人間は誰も気づいていないと思ってた……。そっか、気づいちゃったんだ……。


陸奥 「……そっか、提督も気づいてたんだ」

提督 「艦娘と真剣に向き合っている提督なら誰でも気づくだろう。軍規違反ではあるが……その疑問を例の講師だった提督に聞いたんだ。彼は俺よりもはるかに多くの情報を元に検証を行い……同じ結論に達していたよ」

曙 「……そう……確信まで持ってたんだ……」

提督 「ああ……。それで理解できたんだよ。俺たち人間や司令部を恨んでいてもおかしくない……恨んでいて当然な皆が、どうしてそんなに俺を大切にしてくれるのか……。簡単だ、恨みや憎しみの部分は別の個体として……深海棲艦として存在しているんだから」

陸奥 「それで……どうしたの? 」

提督 「どうするも何も……俺は人間を護るために、艦娘を活用して深海棲艦を滅ぼす役割の男だ。やることは変わらない……ただ、君たちに、自分自身と殺し合いをさせていることを知りながら命令するようになっただけだ」


暗い目で噛みしめるように……懺悔でもするように……


提督 「だが、俺を慕ってくれる、心配してくれる……そんな皆に対して俺は……命令を…………」


この生真面目な男は……この罪悪感を背負ってたわけだ……なるほどね…………ほんっっとアホ!

陸奥さんと目が合う。陸奥さんも盛大なため息。



363: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/22(日) 23:07:48.06 ID:+qhbO7FPo

陸奥 「提督。あなたはほんっとにアホね」

提督 「…… 」

陸奥 「深海棲艦がわたしたち艦娘と同じ……船の魂から姿を得たものだっていうのは正しいと思うわ。だけどその先が間違ってるわよ」

提督 「間違い……? 」

陸奥 「そうねぇ……例えばわたし、陸奥の魂がね。『人間を護る部分』と『人間を憎む部分』に分かれて、それぞれが艦娘と深海棲艦になってる、っていうのが提督の考えでしょ? 」

提督 「ああ…………違うのか? 」

陸奥 「違うわよ。そもそも提督は、わたしたちが人間を強く憎んでるはずだ!って思ってるのがそもそも間違ってるのよ。これはもう何度も言ってるのにねぇ」

提督 「じゃあ……深海棲艦の……あの人類を滅ぼすための憎しみは一体……」

陸奥 「それはわたしたちにもわからないけど……。あれは何かに汚染されているというか……取りつかれているというか、そういうものだと思うわ」

提督 「……なぜ? 」

陸奥 「簡単よ。戦って倒すことで浄化できてるじゃない。特別な深海棲艦を倒すことで新しい艦娘の魂を迎えたりできるのは、そういうことでしょ? 」

提督 「そう……なのか? 」

陸奥 「当事者であるわたしたちが感じていることなんだもん。信じてもらわないと困るわ」



364: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/22(日) 23:08:30.66 ID:+qhbO7FPo

提督 「曙も……同意見だろうか? 」


まだ信じられないのね。まぁ、1年以上ずっとそう思い続けてきた計算だもんね……簡単には分かってもらえないか


曙 「全くもって同意見よ。そもそもね、考えても見なさいよ」

提督 「? 」

曙 「あんたが言うところの一番司令部に冷遇されたわたしだけど……。例えばね、マニラに散ったわたしの乗組員たちが転生したとして……冷遇された恨みから、祖国や人間を滅ぼそうとすると思う? 」

提督 「…………いや。俺たち軍人は、例え理不尽な命令であっても、ひどい最後であっても……祖国を護るために散ることが出来たならそれで…………」

曙 「なら分かるでしょ。あたし達軍艦だって、生まれた意味……護るべき人達、護るべき祖国。そのために散ることになんの後悔もない。それにね……艦娘は乗組員たちの意思なんかも含めて転生してるの……知ってるでしょ? それでどうして、祖国を憎んで滅ぼそうとするのよ」

提督 「そう……か…………。じゃあ、俺の誤解だったのか……」

曙 「そうよ!」



365: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/22(日) 23:09:34.91 ID:+qhbO7FPo

提督 「そうか……誤解だったのか……そうか…………」

曙 「!!」

陸奥 「!!」


提督の頬を涙が流れる……。この岩みたいな男が泣くなんて……。

どれほどの苦悩を……一人で抱えて……なのにあたしはもっと苦しめるばかりで全然気がつけなかった……。


提督 「不幸な前世を持つ皆を……せめて今世では幸せにしたいと思った……。だが根本の部分で……俺は皆に自分自身との殺し合いをさせていると……そう思っていた」

陸奥 「提督……」

提督 「だから……皆を幸せにという気持ちも、そのためにできることをしている自分も……それが皆への愛情からなのか、ただの罪滅ぼしなのか、自己満足なのか……もう何も分からず……」

曙 「あんた……そこまで思いつめて……」

提督 「皆が無邪気に俺に向けてくれる信頼が……どうしようもない罪に感じた……。ああ、俺は本当につまらないことを考えていたんだな……」


陸奥 「提督……それほどの苦しみに気がつけなくてごめんなさい……でも……でもこれからは……」


陸奥さんが自然と提督に歩み寄って……静かにその頭を抱きしめた。提督も自然にそれを受け入れて、静かに涙を流し続けていた……。


こいつの抱えていた苦悩がようやく解消しようとしている……本当に嬉しい瞬間なのに……それなのに、それなのに……。

陸奥さんへの嫉妬を必死に押さえつける自分がすごく惨めだった……。



368: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/22(日) 23:46:22.86 ID:8mrRY6J/O
こころがむつむつぼのぼのする
376: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/31(火) 21:17:31.33 ID:4lQziDQvo

**********

 Side 陸奥

**********



377: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/31(火) 21:18:02.77 ID:4lQziDQvo

静かに涙していた提督が、ゆっくりとわたしを離す。
提督のこと思わず抱きしめてたけど、考えてみたら曙ちゃんが見てるじゃない……うわぁ……恥ずかしいわね……。


提督 「二人共、今日はありがとう。大きな……本当に大きな思い違いに気づけて本当に良かったよ」

陸奥 「ええ! 本当に良かったわね♪ 」

曙 「……」

提督 「話してもらったこと、今夜ゆっくり考えるつもりだ」

陸奥 「ええ……でも、また一人で落ち込むのはナシよ? 」

提督 「ああ……、ありがとう」

曙 「ふんっ……もう大丈夫みたいね。じゃああたしは帰るから! 」

陸奥 「わたしも今日はもう帰るわ。提督も今日は一人でゆっくり考えたいだろうし……。じゃあね」

提督 「ああ、ありがとう」


バタン



378: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/31(火) 21:18:29.07 ID:4lQziDQvo

曙 (じーーーー)


曙ちゃんの様子……うーん、これは二人で話したほうが良さそうね。


陸奥 「提督とは色々話せてよかったけど……曙ちゃん、良かったら二人でもう少しおしゃべりしない? 」

曙 「うぇっ!? あ……えっと……はい……」

陸奥 「おっけー! じゃあ行きましょっ」


そうねぇ……ゆっくり話せる場所がいいわね



379: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/31(火) 21:19:05.23 ID:4lQziDQvo

――――― 少し後 応接室


曙 「こんな部屋があるなんて、はじめて知りました」

陸奥 「お客様用なんだけど、そもそもお客様なんて誰も来ないからね。今はわたしの隠れ家の一つよ……秘書の特権ね」

曙 「秘書……そうですよね、秘書艦だから……」


なんだか羨ましそうにわたしを見てる曙ちゃん。あーあ、やっぱり誤解してるのかな?


陸奥 「さてっ! 提督が何を考えているか、どんな誤解をしていたかはよく分かったし、ちゃんと話し合いができてよかったよね? 」

曙 「え……、はい、良かったです」

陸奥 「でもっ! 曙ちゃんはまだ話したいことがあるんじゃない? 提督じゃなくてわたしに。……どう、あってる? 」

曙 「…………はい、あってます」

陸奥 「じゃあ、せっかくの機会だもの、思い切って聞いちゃって! 」

曙 「……」



380: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/31(火) 21:20:15.26 ID:4lQziDQvo

じっと俯いていたけれど……意を決したようにまっすぐにこっちを見る。この子のこういう果断な所、とっても素敵だと思うわ。


曙 「じゃあ、お言葉に甘えて! 」

陸奥 「いいわよー、何でも聞いてっ」

曙 「えっと……陸奥さんは…………あいつと……付き合ってるんですか!? 」

陸奥 「ぶっ! 」


ストレートすぎ! さすがねぇ。


陸奥 「ま、待って待って待って! そんな訳無いじゃないっ」

曙 「でも、でもっ! 優しく抱きしめて……すごく分かり合ってる感じじゃないですか!」

陸奥 「わたしってば、寂しそうな子がいると、つい抱きしめちゃうのが癖なのよ。さっきはうっかりしちゃったわね……たはは」

曙 「……」


あ、ジトっとこっちを見てる。信じてもらえないかな?


陸奥 「はぁ~、それにねぇ曙ちゃん」

曙 「はい」

陸奥 「提督が……あの人がね、特定の誰かとお付き合いとかすると思う? 」

曙 「…………。いえ、想像できない……です……」

陸奥 「でしょぉ……。ほんっと、堅物なんだからっ」



381: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/31(火) 21:21:19.85 ID:4lQziDQvo

曙 「で、でも……陸奥さんもあいつのことが……好きなんですよね?」

陸奥 「……その質問は……イエス。うん、あの人のこと愛してるわ。だけど……まー、一方通行ねぇ」

曙 「そ、そうなんですか……ま、まったくあいつってば、鈍感でどうしようもないわね!(ほっ)」

陸奥 「ほんとよねぇ。曙ちゃんの気持ちにも全然気がつかないし……もう少しでいいから女心も理解してほしいわよねぇ……」

曙 「/// なっ……なにをっ……あたしの気持ちって……あたしはあんな奴のこと全然!!」


うふふ……真っ赤になっちゃって。あーあ、こんなかわいい子が相手じゃ先が大変だわ、わたしも。


陸奥 「曙ちゃん、残念だけど……曙ちゃんの気持ちに気がついてないのは、提督や長門みたいな堅物だけよ」

曙 「///っ~」

陸奥 「それにねぇ、自分の気持ちを隠すつもりなら、陸奥さん『も』あいつのことが好きなんですよね? なんて聞いちゃだめよ~」

曙 「ぁ……」

陸奥 「うふふ、提督のことが大好きな曙ちゃんは、わたしがついつい提督を抱きしめちゃって、ハラハラしちゃったのよね? ほんと、ごめんね、抜け駆けは駄目だったかな? 」

曙 「///っ~(バタバタ)」


くすくす……あんまりいじめちゃ可哀想ね。



382: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/31(火) 21:22:20.76 ID:4lQziDQvo

陸奥 「はい、お茶」

曙 「ありがとう……ございます……」

陸奥 「うふふ、意地悪言ってごめんね。ついついからかいたくなっちゃって」

曙 「いえ……」

陸奥 「でもね、ちょっといじわるしたくなる理由もあるのよ」

曙 「……? あたし、何か失礼なことを……」

陸奥 「ううん、そうじゃなくて……わたしの嫉妬」

曙 「?」

陸奥 「提督がさっきも言ってたでしょ? 曙ちゃんや霞ちゃんを基準にしたり特別に見てるって」

曙 「それは……見当違いだし、全然あたしの気持ちもわかってないし!」

陸奥 「うふふ……本当よねー。でもね、分からないなりにも……あの人はいつだってあなたのことを一生懸命見て、なんとか仲良くなろうと話しかけて……。正直言えば、羨ましかったわ」

曙 「そんな……陸奥さんは秘書艦で、いつもあいつに信頼されて相談されてて……あたしこそ、陸奥さんが羨ましくて……」

陸奥 「ぇー。そりゃ、提督を一番支えられる、頼られる女でありたいと頑張ってはいるけれど……頼られることはいつでも、曙ちゃんをはじめとする駆逐艦の子たちと仲良くするとか、そういうことなのよぉ」

曙 「……」



383: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/31(火) 21:23:06.50 ID:4lQziDQvo

陸奥 「もう、あまりにもそういうことばっかりだから、提督ってろr……じゃなかった、小さい子が好みなんじゃないかって、戦艦仲間に愚痴って慰められたりしてたのよ」

曙 「……なんか……意外です。陸奥さんはいつも大人の余裕であいつを支えてるイメージだったから……」

陸奥 「そうであったらいいんだけどねー。好きな人のことだと、色々考えちゃったり、ついつい意地になっちゃったり……」

曙 「はぁ……すごく分かります。そっか、陸奥さんみたいな大人でもそういうことがあるんだ……」

陸奥 「当たり前よ♪ だって、わたしも艦娘。見た目はこうでも、恋愛経験なんてまるで無いしね」

曙 「そっか……そうですよね。みんな元は軍艦なんだから……」

陸奥 「そーそー。飛龍ちゃんみたいに、軍艦時代から艦長LOVE!なんて子でもない限りね~」



384: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/31(火) 21:24:01.15 ID:4lQziDQvo

陸奥 「提督のことではね、わたしも自分の経験不足を痛感することばっかりよ」

曙 「……」

陸奥 「最初はね、提督が着任時は明るかったとか知らなかったから……長門と同じような、ただの口下手さんだと思っていたのよ。だから艦娘と上手にコミュニケーションできてなくて、それで距離が開いてるんだって」

曙 「そうですね……暗くなっちゃったあいつをみたら、そうとしか見えないです」

陸奥 「ところがね、だんだん提督の過去が分かってきて……そんな単純な問題じゃない、何か深い悩みを抱えて、それで艦娘と距離を取ってるんだって。やっとそれが分かるようになったの」

曙 「……はい」

陸奥 「その悩みは……艦娘の前世に責任を感じてるとか、そういう艦娘の手前、自分が幸せでいるのが許せないとか、そういう感じなんだろうなっていうのは漠然と理解できたんだけど……」

曙 「そうですね……あたしもそういう感じで思ってました」



385: ◆8sA8xtnAbg 2016/05/31(火) 21:24:58.60 ID:4lQziDQvo

陸奥 「でも、今日の話を聞いてね。実は根本の部分に気がつけていないままだったなーって。あの人のそばであの人を一番支えているつもりだったけど……」

曙 「そんなのあいつが悪いんですよ! こんなに心配してるのに……秘密主義で、すぐ黙っちゃって! 」

陸奥 「お、曙ちゃん、いいこと言うわね~。ほんとほんと、ちゃんと話してくれればいいのにねっ」

曙 「そうですよ! あたしのことだって……そんな……あたしの言葉をそんなに気にしてるとか、そんなの全然わかんなくて……実際あたしの前では、なんかオドオドと話しかけてただけなのにっ」

陸奥 「ぷっ……ほんと、ビクビクしながら話してたもんね~」

曙 「そうなんですっ。それで、霞とその不満をぶちまけあったりとかしてたんですよっ」

陸奥 「うふふ、いいわね~、それでそれで? 」

曙 「それでですね…………」

ワイワイ


こうして曙ちゃんの誤解は無事解けて、提督のことが好きなもの同士で仲良く語り合ったのでした。提督の朴念仁ぶりはひどいものだけど……提督を好きな子全員に対して平等なのは確かだから、こうやって仲間として手を取り合えるのは……悪くないのかしら?



390: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/02(木) 23:19:40.06 ID:Z1WGqzOBo

++++++++++

 Side 曙

++++++++++



391: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/02(木) 23:20:08.13 ID:Z1WGqzOBo

――――― 夜 第七駆逐隊の部屋


曙 「ただいまー」

潮 「おかえり! 曙ちゃん、どうだった? 」

朧 「ちゃんと話できた?」

漣 「泣いてないってことは、ちゃんとお話できたのかにゃ~」


いつもながらの賑やかな出迎え。漣はムカつくっ


曙 「ちゃんと話せたわよ。その後、陸奥さんと話し込んじゃってね」

漣 「およ? 陸奥さんも一緒だったの? 」

曙 「うん。陸奥さんが仲介してくれてね。ゆっくり話せたわ」

朧 「そっか、良かったね」

潮 「曙ちゃん、お話できたのは良かったけど……大丈夫だったの? ちゃんと満足できるくらいお話できた? 」


心配そうに聞く潮。ほんっと、この子は鈍いくせに本質をついてくるわね。



392: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/02(木) 23:20:42.09 ID:Z1WGqzOBo

曙 「…………うーん」

漣 「なになに、まだ話し足りない感じ?」

曙 「話し足りないって言うかね……」

朧 「何か引っかかってるの? 」

曙 「ちゃんと聞けたのよ。あいつが何を考えていたのか、何を悩んでいたのか、そういうこと」

潮 「そっか、それは良かったよね! でも、じゃあどうして浮かない顔なの? 」

曙 「なんかね……何かが足りないというか……」

漣 「愛の告白が足りないんじゃないの(・∀・)ニヤニヤ 」

曙 「ばっ/// 馬鹿言ってるんじゃないわよ! そういうのじゃなくて……」


……聞きたいこと、伝えたい事がいっぱいあるはずなのに、イマイチそれがわからない……。モヤモヤして嫌な感じ……上手く言葉にできない……。


潮 「今日はもうゆっくり休んで、また明日考える? 」

朧 「そうだね。色々混乱してるなら、ゆっくり休めばまた何か分かるかも」

曙 「そうね……それもいいかも」

漣 「じゃあ、漣さんが特別に紅茶を入れて差し上げよう。立派なメイドになるために金剛さんに習ってるんだよねー」

潮 「うわぁ、紅茶なんてオシャレだね! 」


ワイワイ



393: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/02(木) 23:21:13.97 ID:Z1WGqzOBo

朧 「はい、じゃあ電気消すよ。おやすみー」

漣 「はーい」


パチン


シーーン


曙 「………………ハァ」

潮 (曙ちゃん、曙ちゃん)


しまった、思わず出た小さなため息を聞かれちゃったか……


曙 (……大丈夫だから……ほんとに、なんというかモヤモヤしてるだけだから……)

潮 (でも……)


思わず苦笑してしまう。ほんとに、この子はどうしてあたしの心配ばかり……。でも、そうね、あたしはこんな潮がとっても眩しい。


曙 (ねえ潮。どうしてそんなにあたしの心配ばっかりしてくれるの?)

潮 (そ、それは……曙ちゃんは、いじっぱりで素直じゃないし……)

曙 (ぐぬぬ……そういう話じゃなくて……あんた、あたしのこと好きだから心配してるの?)

潮 (えっ!? /// そ、そんなぁ……真正面から聞かれたら恥ずかしいよぉ)

曙 (なによ、言えないの?)

潮 (そ、それは……)


漣 (な、なんか百合百合した……)

朧 (あやしい感じに……)



394: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/02(木) 23:22:03.93 ID:Z1WGqzOBo

曙 (どうなの?)

潮 (それはそのぉ……うん、わたしは曙ちゃんが大好きだから、だから心配なんだと……思う……よ?)

曙 (そうよね。好きな相手を心配するのは当たり前だし……。その相手が悩んだり苦しんでたりしたら、何とかしたいと思うわよね?)

潮 (? うん)

曙 (でもさ……相手がおせっかいだと感じて、それで嫌われたりしたらどうしようとか、そういうことは考えないの?)

潮 (ええーー! わたし、おせっかいだった? わたしのこと嫌いになった?)

曙 (違うっての! そういう不安を感じたりしないのかって)

潮 (どうだろう……考えたこと無かったかなぁ)

曙 (はぁ……あんたらしいわ)

潮 (うう……)


ほんと、潮らしい。でも……でもこの子が正しい。嫌われるのが嫌だから放っておく? 好きな人が悩み苦しんでるのに? はっ! あたしってば、何やってるんだかね。

ま……あいつのことを好きだって認めることができてなかったせいもあるけどさ……。


潮 (曙ちゃん……?)


あたしは、あいつにとっての潮みたいになりたいって思った。なら……おそらく今また一人で呆けているあいつを放っておいていいの? あいつを一人にしてくれる人はいくらでもいる……でも今、あいつを一人にしないように頑張れるのはあたししかいないはず!

それに……そもそもあいつが孤独になったのはあたしのせい。まだそれを謝ることすらできてない……。



395: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/02(木) 23:22:58.65 ID:Z1WGqzOBo

曙 (潮、あたしちょっとくs……ううん、提督のところに行ってくるわ)

潮 (お話しにいくの?)

曙 (うん。あいつさ、今また一人でぼんやり考え事とかしてると思う。だから……あんたがあたしにしてくれるみたいに……あいつのこと励ましてこようと思う)

潮 (うんうん、素敵だね!)

曙 (ここだけの話だけど……あんたがあたしの心配をしてくれるみたいに……あいつが心配なんだ。あいつのこと……好き……なんだ……)

潮 (うんうん、知ってるよ! 頑張ってきてね!)

曙 (なっ/// あ、あたしが意を決して伝えたのに、知ってるよの一言でスルーなのっ)

漣 「……そんなの、ずっと前からみんな気づいてるって」

朧 「恋愛にうといあたしにすらもろバレだよ……」

曙 「あんたたちまで……ぐぬぬぬぬ…………と、とにかく行ってくるから!」

潮 「うん、気をつけてね!」

漣 「朝帰りでいいからね~(・∀・)ニヤニヤ」

曙 「うっさい!!」


恥ずかしさも手伝って、思いっきり部屋を飛び出す。

あいつがいる場所は……間違いなくあそこだ。

外に飛び出し、まっすぐに森を目指す。この森に入ったことは無いけど……どこでキャンプしてるかははっきり分かる……何度見たかわからない、森のなかの焚き火の明かり。それを目指して、一直線に森のなかを走る。

行くんだ……あいつのところへ!



396: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/02(木) 23:23:30.99 ID:Z1WGqzOBo

――――― 森の少し開けた場所


提督 「……」


ガサガサ バサバサバサ


提督 「なんだ……?」

提督 (獣かなにかか?)


バサバサッ


曙 「はぁはぁはぁはぁ」

提督 「あ、曙……? ど、どうした、こんなところで」


曙 「はぁはぁ……あんたに……はぁはぁ……会いに……はぁはぁ……来たのよっ」

提督 「そ、そうか。まぁ、とりあえず座ってくれ。隣で申し訳ないが」


座るのにちょうどいい倒木に腰掛けてる提督。そのとなりに誘われて座る。

……考えてみたら、隣に座ることすらはじめてだ。



397: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/02(木) 23:23:59.04 ID:Z1WGqzOBo

提督 「息切れが大変そうだな……まずは水を」

曙 「そうね……ぜぇぜぇ……ありがと」


ゴクゴク ふぁー、一息ついた!


提督 「あとは……酒は呑まないよな? コーヒーでいいか?」

曙 「あ、えっと……うん」


手際よく、コーヒー豆をゴリゴリしたり、不思議なヤカンでお湯を沸かし始める提督。


曙 「……なんか、あたしの知ってるコーヒーと違うんだけど」

提督 「パーコレーターははじめてか? このヤカンみたいなので湯沸かしと抽出までできるんだ」

曙 「へー……」

提督 「ほら、この蓋のガラスの部分から中を覗いて……良い色になったら火からおろして……ほい、出来上がりだ。熱いから気をつけろ」

曙 「あ、ありがと……」


コーヒーの良い香り……



398: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/02(木) 23:24:30.42 ID:Z1WGqzOBo

曙 「にが……美味しいけど……」

提督 「ああ、結構濃いからな。そうだなぁ……じゃあ口直しにマシュマロでも食べるか? 」

曙 「ましゅまろ!?」

提督 「? ああ、焚き火の定番だぞ。知らないのか?」

曙 「そうなの? まぁ、いただくけど……」

提督 「じゃあ、この小枝に刺して……ほら、これを焚き火に近づけて炙るんだ。ちょっと焦げ目がつくぐらいでいいから」

曙 「焼くの!? マシュマロを!? 」

提督 「ああ、溶けておいしくなるんだ。本当ならそれをクラッカーに挟むんだが、そこまでは持ってきてないからな。ま、やってみるといい」

曙 「う、うん……こんな感じ? 」

提督 「そうだ……満遍なく炙って……そのぐらいでいいぞ」

曙 「はふはふ……なにこれ、甘いのが口に溶けて……おいしい! 」

提督 「あはは……だろ? 焚き火の醍醐味なんだぞ(にっこり)」


なんだろう……すごく……楽しい……


曙 「あんたは食べないの?」

提督 「ああ、俺は酒だからな。さすがにマシュマロは合わん」

曙 「それじゃあ、なんでマシュマロ持ってきてるのよ」

提督 「……前にな、ちょっときっかけがあって、すごく食べたくなったんだよ。そしたらこんなキングサイズが届いてしまって……少しずつ食べてるんだよ」

曙 「うわぁ……これは消費するのが大変そうね……」

提督 「だから、たくさん食べてもらえれば、俺も助かるよ」

曙 「そう? じゃあ遠慮無く♪ 」



399: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/02(木) 23:25:19.19 ID:Z1WGqzOBo

パチパチパチ……バチッ……

焚き火の音……思い出したように薪をくべて火を調整する提督。


曙 「ふーふー……にがっ……ふーふー……」

提督 (ごくごく)


なんとなく焚き火を見つめる……千変万化の炎……いくら見続けても飽きない不思議な光。


提督 「曙も……知ってたのか? 俺がここでキャンプしてるって」

曙 「ええ……」

提督 「そうか……」


パチパチ……


提督 「俺は……元々田舎育ちでな。山と森と川に囲まれて育ったんだ」

曙 「……うん」

提督 「士官学校に入学して、はじめて都会にでた。コンクリートばかりの街は息苦しくて……星もあんまり見えない。それに……この性格だ。友人もあまり出来なくてな」

曙 「…………うん」

提督 「それで休暇のたびに、一人で近くの森や山でキャンプをするようになった。そうすることで気持ちをリセットする……暗いって笑われたけど、俺には大切な儀式だったんだ」

曙 「そっか……じゃあ、その時の道具一式を持ってきてたんだ」

提督 「ああ。今は鎮守府内で酒を飲まないって決めてるから、酒を飲みがてらではあるが……こうしてキャンプして、焚き火と星を見つめて酒を飲んで……それで気分転換をしてる」

曙 「あたしもさ、一人でキャンプに行ってるって話を聞いた時は、何を暗いことを!って思ったわよ。でも……今日実際に来てみて、ちょっと考えが変わったわ」

提督 「そうか?」

曙 「ええ……なんだろう、本当に気持ちが落ち着く……なんだか不思議な感じね」


焦りも苛立ちも、恥ずかしさもプライドも……色んな感情が静かに落ち着いてる……そんな感じ。不思議だわ……。



400: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/02(木) 23:26:06.75 ID:Z1WGqzOBo

提督 「それで……曙はどうしてここに? 」


ゆったりとした声で聞かれる。不思議……今のこの空気なら……どんなことでも素直に話せそうな……そんな気持ちになる。


曙 「色々と……話したいことがあってさ」

提督 「うん」

曙 「……その……執務室での話なんだけど……。あたしが前世で司令部に冷遇されてたこと……それで今でも司令部を……あんたを憎んだり恨んだりしてるんじゃないかって話……してたでしょ?」

提督 「ああ……」

曙 「それね……さっきもちらっと話したけど……少しだけ当たってた」

提督 「少しだけなのか?」

曙 「そ……少しだけ。えとね、転生した時……やっぱり司令部なんて信用出来ない!みたいな気持ちがやっぱりあってね……それでその……反射的に、こっちみんなクソ提督って……」

提督 「そうだったな……もう随分前のことだ。なんだか懐かしいな」


優しく微笑みながら焚き火に薪をくべる。嫌なことを言われた記憶なのに、なんでそんなに優しい顔するのよ……


曙 「でもね……正直に言えば、あんたが前世の司令部とは違う……ちゃんとあたしたちのことを考えてくれる、信じられる司令官だっていうのは、すぐに分かった」

提督 「……それは過大評価だと思うが」

曙 「うっさい、自虐すんな! あんたがいつだってあたしたちのことを考えて心配してることぐらい知ってるわよ!」

提督 「……」



401: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/02(木) 23:27:16.38 ID:Z1WGqzOBo

曙 「なんて……あたしも偉そうなこと言う資格は無いんだけどね……。あんたのことを誤解してたって分かって……謝らなきゃって思ったのよ。だけど……恥ずかしくて……勇気がなくて……言えないうちに……あんたはあたしのせいでどんどん孤独になった……」

提督 「それは気にしなくていい。さっきも話したとおり、俺は一人でも全然苦にならないタイプだ。落ち込んでいったのは別の理由なんだから」

曙 「ばかっ! おおばかっ! ずっと悩んで落ち込んで暗くなって……ひっく……孤独じゃなかったら……ぐす…………近くにいたら……ぐすん…………誰もあんたを放っとかないわよ! みんなあんたが大事なんだから……ひっく……」

提督 「曙……」

曙 「あんたが孤独じゃなかったら、きっとそんなに苦しむことは無かったのよ! ぐす……あたしなんて、ほんのちょっと落ち込んだだけで……ひっく……七駆のみんなが飛んできて……ぐす…………助けてくれるんだから! 」

提督 「……そうか……そうだな……」

曙 「そうよ! それなのに……あんたのそばから……あんたを助けてくれる人達を遠ざけた……あたしがちょっと素直になれなかったせいで……ぐす……」

提督 「曙……それは結果論だ。それに選択したのは俺なんだから、責任は俺にあるんだ」

曙 「そうよ、あんただって悪いわよ! だけど……だけど……間違いなくあたしにも責任はあるんだからっ! だから……だから……」

提督 「……」

曙 「だから……ご……ごめんなさい……ごめんなさい…………ごめんなさい……」


訳が分からず涙が止まらなくなって……温かい手で肩を抱かれた。陸奥さんと違ってすごく遠慮がちに……。提督の気持ちがその手から伝わってくるみたいで……もっと泣いた。


提督 「俺も本当に悪かった。だからもう謝らなくていい……ほんとにごめんな……ほんとに、不甲斐なくてごめん……」


泣きじゃくるあたしの肩を、提督がずっと支えてくれていた。すごく大きな手……不器用ながらもあたしたちを支えている……一番大切な人の温かい手だった。



402: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/02(木) 23:27:43.58 ID:Z1WGqzOBo

提督 「さ、コーヒーおかわりだ。俺もコーヒーにするか……」

曙 「あり……がとう……」


落ち着いて泣き止んでみると……子どもみたいに泣いてしまった自分が恥ずかしい。最近なんだか泣いてばかりな気がする……。

さっきまで手が置かれていた肩を意識する……泣き止んだら自然と離れた手……それがすごく寂しく感じた。


曙 「ごめんね……もう落ち着いた」

提督 「そうか……」

曙 「でも……うん、すっきりした。ほんとにもうずっと前から……それこそ、まだ五月雨が秘書艦をしていた頃から……謝ろう、謝りたいって……あはは、今まで何やってたんだろ、あたし」

提督 「それは……随分長い間……曙がそんなに悩んでいるなんて全然気が付かなった……」


しょぼんとする提督。ほんと、こういう人よね。なんだか可笑しくなる


曙 「じゃあ……お互い様ね!」

提督 「……ふふ、そうだな、じゃあお互い様だな」


二人で笑い合う……こうして、自然に笑い合える日が来るなんて……なんか夢みたい。

心が……とても暖かかった



403: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/02(木) 23:28:29.32 ID:Z1WGqzOBo

曙 「そうだ、一つ宣言しておくわ」

提督 「?」

曙 「もうあんたのことを『クソ提督』とは呼ばない」

提督 「別にいいんだぞ、呼びやすい呼び方で」

曙 「良くないわよ! それで自分が嫌われてるとか憎まれてるとか誤解するくせにっ」

提督 「それに関してはそのとおりだが……しかし、クソとかクズとか呼ばれると、やはり嫌われていると思うんだが……」

曙 「照れ隠しよ! まったくもう……察しなさいよ! あたしだけじゃない、霞とか摩耶さんだってそうなのよ」

提督 「……俺には、本気と照れ隠しの差がわからんぞ……やはり艦娘は謎だな……」

曙 「もうっ! これは艦娘としてじゃなくて『女心』よ。とにかく! あんたがすぐ真に受けて誤解するのは十分わかったから……あたしもちゃんと反省して、呼び方や言葉遣いに気をつけるわ……気をつけます……」

提督 「呼び方はともかく、敬語は勘弁してくれ。とても曙とは思えん……」

曙 「なにぃー!」


騒ぎながらまた笑い合う……。ほんと、仲の良い友達とか……こ、恋人みたいじゃない!



404: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/02(木) 23:29:00.10 ID:Z1WGqzOBo

しばらく二人で話し込んで……


提督 「もう随分と遅い時間だな。曙もテントに泊まっていくか? 」


こいつがとんでもないことを言い出した!!


曙 「/// な、な、何言ってんのよあんた! テントで……ふ、ふ、二人っきりなんて……」

提督 「まぁ、狭いテントだけど二人用だし、気温も高いから毛布をかけるだけで十分温かいしな。二人までなら問題ないと思うぞ」

曙 「…………」


こいつが……あたしのこと全く女扱いしていないことが分かった瞬間だった。む、むっかつく~!

どうしてくれようか……この女心のわからない鈍い男の目を覚まさせてやるには……


曙 「帰るっ!」

提督 「? 何怒ってるんだ?」

曙 「いいの、確かに遅いし、もう帰るっ」

提督 「あ、ああ」



405: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/02(木) 23:30:02.87 ID:Z1WGqzOBo

立ち上がって、座ってる提督の背後に回る。大きな背中がそこにあった。

こいつの目を覚まさせてやるんだ!と心のなかで言い訳をしつつ……その背中に抱きついて……顔をうずめた。大きくて暖かくて……


提督 「あ、曙……? どうした……? 」


ふふっ……動揺してる動揺してる。こんなもんじゃすまさないからっ。

大人の色香でからかってやる……


曙 「女を誘って一緒に泊まろうって……ど、ど、ど、どういうつもり……?」

提督 「な……! ///」

曙 「なあに……? 駆逐艦だと思って侮っちゃった? あたしだって……お、お、お、女なんだからっ!」


な、なんか、緊張して、大人の女っぽくない感じだけど……


提督 「いや、あのっ……そ、それは……」

曙 「あたしだって一人の女なんだから……」


提督を一層ギュッと抱きしめる……背中の暖かさ……あ、あれ……なんか心が溢れて……


曙 「あんたのこと……女として……好きなんだから……愛してるんだからね……」


あ、あたし、な、何を言ってるのおおお!


提督 「え、あ、え!? 」

曙 「/// そ、それだけっ、おやすみ!!」


ダダダダダダ


あたしってば……あたしってば……勢いで……なに告白しちゃってるのよおおおお!!

脇目もふらず一直線に森を駆け抜ける……。もう何がなんだか……でも……でも……あいつに近づけたこと、心にふれたこと、そして……心を伝えられたことで、もうそれだけで、喜びが溢れそうな……そんな気持ちだった。



410: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/02(木) 23:58:10.62 ID:R3vIS4YzO
幸せになってほしいぼの
416: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/03(金) 07:05:57.26 ID:4wUwWexfo
曙は触れれば触れるほど可愛い
421: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/06(月) 20:47:42.66 ID:sLQogk7jo

――――― 翌日 鎮守府廊下


422: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/06(月) 20:48:17.33 ID:sLQogk7jo

潮 「曙ちゃん、顔色悪いよ? 報告代わろうか?」

曙 「だ、大丈夫……大丈夫……」


昨夜はほとんど眠れず……ふらふらな状態で遠征に行ったら、こんな時に限って大成功……。まったく……あいつの前でどんな顔すればいいのよ!


朧 「いや、でもふらふらしてるよ? 体調悪いんでしょ?」

漣 「昨夜、なんだかウンウンうなされてたもんね」

曙 「ちょっと寝付きが悪かったからさ……でも、ただの寝不足だから大丈夫だって。それに、報告してくるだけなんだから」

漣 「まー、そうだよね。それに、ぼのたんの大事な大事な時間を奪ったらかわいそうだよネ!」

潮 「それもそうかぁ」

曙 「なによその含みのある言い回し! ふんっ、とにかくちゃっちゃと行ってくるから!」


いっそ代わってもらおうかと思ったけど……理由を聞かれるのが怖くて結局自分で行くことに……



423: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/06(月) 20:48:53.72 ID:sLQogk7jo

――――― 少し後 提督執務室


すーーはーー。何事も無かったように、落ち着いて……落ち着いて……。


コンコンコン


曙 「曙です、入ります」


うぐぐ……顔を上げられない……///


長門 「遠征報告か、ご苦労」

曙 「は、はいっ。東京急行遠征、大成功いたしました」

長門 「大成功助かる、ありがとう。……提督、どうした?」

提督 「あっ、いや、そのっ……お、お、お疲れ様だったな! うん、お疲れ様!」


……相手が自分よりテンパってると、なんか余裕ができるのね……はじめて知ったわ。

ゆっくりと顔を上げて提督を見る。


提督 「/// あ、いやその、うん、その……」


真っ赤になって慌てて目をそらす提督……。

ぷっ……。大の男が何やってるのよ! ふふ、女との接点がまるでない人生だったって……ほんとみたいね。なんか焦ってて可笑しい!



424: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/06(月) 20:49:57.62 ID:sLQogk7jo

長門 「提督……一体どうしたんだ? 何か様子が変だが……」

提督 「え!? い、いや、何もない、何もないぞ! 」

曙 「提督……昨日のお話なんですけど」

提督 「!!」

曙 「もう……あたしが提督のこと、憎んでるとか、嫌いだとか、そういう誤解はなくなりましたよね?/// (にっこり)」

長門 「?」

提督 「あ……ああ、分かった、もうちゃんと分かった。大丈夫だ!(あたふた)」

曙 「そうですか……別に返事がほしいとかそういうわけでは無いので、分かってもらえたならいいです」

提督 「そ、そうか……うん、ちゃんと分かった、うん」


むぅ……あからさまに安心した様子なのがムカつくわね……ならば……


曙 「で、でも……あたっあたっ……あたしの……気持ちは本当だから!! ///」

提督 「あ……ああ……その、わ、わかった、ちゃんと受け取った ///」

曙 「そ、そうっ! それならばいいわっ」

長門 「ふむ……よくわからないが、曙の言葉遣いがちゃんとしているのは感心だ。ようやく上官への尊敬の念が芽生えたか。結構だ」

曙 「え、えっと、別にそういう訳じゃないのですが……きょ、今日はこれで失礼します! 」

提督 「あ、ああ! うん、お疲れ様、ゆっくり休んでくれ!」


バタン


つ、つ、疲れたぁ~~。でも……あいつ、ちゃんとあたしのこと女として意識して……赤くなって……えへへ……うん、良かった!



425: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/06(月) 20:50:32.77 ID:sLQogk7jo

提督 「…………(ぐったり)」

長門 「ふむ……本当にどうしたんだ? 曙の様子も随分変だったが、提督は輪をかけておかしいな」

提督 「大丈夫……だ……」

長門 「いや、全く大丈夫に見えない。机に突っ伏して脱力しているようにしか見えないが……」

提督 「その観察は正しい……長門、悪いが今日の執務はこのぐらいにする」

長門 「ふむ、必要な業務はもう終わっているから構わないが……めずらしいな」

提督 「それで、申し訳ないが、陸奥に執務室に来てほしいと伝えてくれ。私的なことだから時間が空いたらで良いからと……(ぐったり)」

長門 「それは良いが……提督よ、本当に大丈夫か? 医者が必要なんじゃないか? 」

提督 「いや、本当にちょっとした脱力だ。じゃあ陸奥の件、頼むな」

長門 「承知した」



426: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/06(月) 20:51:04.04 ID:sLQogk7jo

――――― 少し後 第七駆逐隊の部屋


潮 (なんだか……曙ちゃん、すごく変だよね?)

朧 (うん……なんか抱枕を出してきてずっと抱いてるよね?)

漣 (うしし……きっとご主人様と上手く行ってる妄想でもしてるんだよ)


曙 (ぎゅー)


あいつとお揃いの抱枕を座らせて……昨日みたいに背中からこう……うん、こんな感じでぎゅって……うわぁ!うわぁ!


曙 (ばたばたばた)



潮 (えっと……幸せそう……なの……かなぁ?)

漣 (た、たぶん?)

朧 (とりあえず、そっとしておこうか……)



427: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/06(月) 20:51:34.08 ID:sLQogk7jo

**********

 Side 陸奥

**********



428: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/06(月) 20:52:19.65 ID:sLQogk7jo

――――― 夕方 長門と陸奥の部屋


陸奥 「ただいまぁ~」

長門 「おかえり。待っていた。提督から伝言があってな」

陸奥 「伝言? どうしたの?」

長門 「執務室に来て欲しいそうだ」

陸奥 「ええぇ!? そんな、呼び出してくれればいいのに」

長門 「それがな、私的なことだから陸奥が都合が良い時でと。どうせ夜遅くまで執務室にいるから時間があるときで良いとのことだ」

陸奥 「ふーん……分かったわ。じゃあすぐ行ってこようかしら……。長門、悪いんだけど今日の晩ごはんは外で食べてくれる? 」

長門 「わかった。提督は随分と深刻そうだったから話も長くなるだろう。ゆっくり行ってくるといい」

陸奥 「そんなに深刻だったの……? 一体何があったのかしら?」

長門 「朝からちょっと様子がおかしかったんだが、曙が報告に来たら急に挙動不審になってな。二人でよくわからないやり取りをしたかと思うと、曙が帰った後、提督がぐったりとしてな……」


何かしら……すごく嫌な予感しかしないわ!


陸奥 「長門、大事な話だから、二人のやり取りを詳しく教えてくれる? 」

長門 「ふむ……まず曙が入ってきて…………(長門説明中)」



429: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/06(月) 20:53:14.61 ID:sLQogk7jo

長門 「という感じだった」

陸奥 「そう……なるほどね~」

長門 「なんだ、こんな暗号のようなやり取りで分かるのか?」

陸奥 「そうね、これはわたしの分野だからね」

長門 「そういうものなのか」


そう……これは間違いないわ。曙ちゃん、ものすごく思い切ったわね。淑女協定を飛び越えて突き進んだんだぁ。でもそうね、昨日の提督の話を聞く限り、淑女協定なんて害でしか無い。あの鈍い人には、わたしたちの気持ちを、もっともっとちゃんと伝えないとね。

となると……わたしもうかうかしていられないわね!


陸奥 「よく分かったわ! じゃあ、わたしもちゃんと準備して行かないと! これと……これぐらいかしら? 」

長門 「陸奥よ……なぜ酒とつまみを物色している……? 」

陸奥 「おそらくしらふでは話せないような相談なのよ。だから今日は特別対応よ!(断言)」

長門 「うっ……そ、そうなのか……まぁ、ほどほどにな……」

陸奥 「ええ、じゃあわたしも覚悟を決めて行ってくるわ! 抜錨っ! いざ出撃!」

長門 「それほどなのか! では、武運を祈る」

陸奥 「ありがとう長門、じゃあ行ってくるわ!」


先を越されちゃったのは残念だけど……。わたしも頑張るわ!

昨日の話を聞いて改めて思った……この人を支えたい、笑顔にしたい……幸せにしたい……。並んで笑い合って……ともに生きてともに死にたい……。不器用で堅物で放おっておけない……大事な大事な人。

わたしも勇気を出してスタートラインに立とう……曙ちゃんと同じように!



443: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/09(木) 23:07:46.11 ID:8RZkcrnLo

――――― 少し後 提督執務室



444: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/09(木) 23:08:25.67 ID:8RZkcrnLo

コンコンコン

陸奥 「はいりまーす」


いつもは執務机でなにかやっている提督が、ソファでぐったり。あらあら、本当に困ってるみたいね。


提督 「陸奥、来てくれたか」

陸奥 「ええ、なんだか大変らしいから、元気が出るものも持ってきたわよ~」


ドンッ


提督 「……ありがとう」

陸奥 「あらあら、今日は『禁酒中だー』って抵抗しないの?(くすくす)」

提督 「いや……今日はもう呑まないとって感じでな……」

陸奥 「そうだと思ったわ~。さ、呑みながら聞きましょうか」



445: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/09(木) 23:09:29.09 ID:8RZkcrnLo

陸奥 「それで~? 何があったのぉ?」

提督 「いや、曙のことなんだが……その……何か接し方を間違えていたんじゃないかというか……」

陸奥 「ふむふむ」

提督 「いやその……なんと言ったらいいか……」

陸奥 「じれったいわねぇ……曙ちゃんに告られちゃったっていう話じゃないの?」

提督 「!! やはり預言者か何かなのかっ」


あーあ、やっぱりかぁー


陸奥 「アホッ。言っておきますけど、曙ちゃんが提督を好きなことに気がついてなかったのなんて、提督と長門ぐらいですからね……(ちょっと大げさだけど)」

提督 「なん……だと……?」

陸奥 「も~、ほんとに鈍いんだから(ごくごく)」

提督 「ぐぬぬ……(ごくごく)」

陸奥 「それで、具体的にどんな感じだったの?」

提督 「えっとだな、昨夜また一人でキャンプしていたら……(提督説明中)……という感じで、最後にこう、逃げるようにだな……」

陸奥 「はぁー、なるほどねぇ。キャンプに飛び込むなんて、さすが曙ちゃんね」


曙ちゃんの行動力、決断力、ほんとに感心するわ。でも……告白しちゃったのは、勢いでやっちゃった感じね。きっと今頃、本人も戸惑ってるのかな。



446: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/09(木) 23:10:14.67 ID:8RZkcrnLo

陸奥 「それで……告白された感想は?」

提督 「感想もなにも……。接し方を間違っただろうかとあれこれ考えているところで……」

陸奥 「さっきも言っていたけど、接し方を間違えるってなーに? 意味がわからないんだけど」

提督 「そのだな……本来の上官と部下という関係ではなく……なんというか……男女を意識してしまうような……。例えばセクハラまがいの行動をしていたとか……そういうのをだな……」


まー……うん……これが提督よねぇ。曙ちゃんかわいそ……。


陸奥 「接し方に正しいも間違いも無いでしょ。それに、提督は仕事以外で艦娘と接することなんてほとんど無いじゃない。間違えようがないわ」

提督 「……それはそうだが」

陸奥 「だからー。曙ちゃんは、ありのままの提督が好きになって、それで頑張って告白したわけよ。間違えたなんて言ったら失礼だわ」

提督 「……ありのままの俺を……ばかな…………」

陸奥 「もー、いつも思うけど、自己評価が低いというか……卑屈ねぇ」

提督 「ぐぬぬ……」



447: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/09(木) 23:11:21.17 ID:8RZkcrnLo

陸奥 「それで、改めて聞くけど、告白された感想は?」

提督 「そう言われてもな……俺のことを憎んだり恨んだりするどころか好意まで持ってもらえたというのは本当に嬉しい……。だが……正直、困惑している。なんというか……子どもを騙しているような……そんな気分だ」

陸奥 「駆逐艦の子たちは、見かけは子どもだけど……歴戦の猛者なのよ?」

提督 「それは分かっているんだが……見た目やしぐさ、会話なんかは……どう見ても子どもだろ?」

陸奥 「それはそうだけど……。でもね提督。仮にそうだとしても……女は何歳であっても女なの。それこそ5歳の女の子ですら、気に入った男を独占しちゃうぐらい。だから、子どものたわごとじゃなく本気なのよ」

提督 「そうかもしれない……。だが、俺の悪い部分や憎まれる部分が見えていなくて、幻想に恋をしているんじゃないだろうか……?」

陸奥 「また始まった……卑屈なのは駄目って言ってるでしょー(ぐびぐび)」

提督 「だが、曙もそうだが……日常的に俺になついている艦娘というと駆逐艦と……軽巡ぐらいか。大人の艦娘たちはやはり一歩引いて俺と接してるだろ? 」

陸奥 「うん、それは認めるわ」

提督 「だから……子どもが身近な大人に懐いてるだけなんじゃないかと考えているんだが……」


この人は、自己評価が低すぎる以外は、物事を冷静に観察する。なるほどね、現状を卑屈に分析するとそうなるのね。これはもう淑女協定を終わりにするしか無いわね。独断でみんなには悪いけど……。



448: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/09(木) 23:12:30.58 ID:8RZkcrnLo

陸奥 「提督。わたしたち艦娘は一つの淑女協定を結んでるの。知ってる?」

提督 「? 何度か言葉に出ているのは聞いたが……内容は知らないな」

陸奥 「そうよね。その内容は、提督の一人の時間を邪魔しないこと。つまり、あなたのところに押しかけたり個人的な話をすることを禁止してるのよ」

提督 「?? 何だそれは」

陸奥 「あなたが艦娘とのコミュニケーションをどんどん減らして執務室に閉じこもるようになって……この辺は聞いた話だけどね。それで、ついには夜には森に行って一人でキャンプでしょ? それが発覚したときね……わたしもそうだけど、艦娘みんな……特に大人の艦娘が受けたショックって凄いものだったのよ」

提督 「ショック? なんでまた?」

陸奥 「そこまでして一人になりたいのか……そこまで艦娘を拒絶するのかってね」

提督 「(ガタッ)そ、そんなつもりは無い!!」

陸奥 「もちろんわかってるわ。わたしはあなたの身近にいたからね。だけどね……そうじゃない子から見たら、自分たちを拒絶しているように感じるっていうのは……分かるでしょ?」

提督 「……」

陸奥 「わたしはその頃はまだ着任したてだったからピンときて無かったけど……今ならみんなの気持ちがよく分かるわ。だから……あなたがまた皆に歩み寄った時、みんなあんなに喜んでいたのよ」

提督 「そうか……俺の方から距離を作っていたんだもんな……そうか……」



449: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/09(木) 23:14:13.02 ID:8RZkcrnLo

陸奥 「だからね、無邪気な子や情熱を抑えきれない子があなたに近づいたりしてるけど……。他の艦娘は、あなたがどういう距離を取ろうとしているのか。それを見つつ、自分を抑えてるの」

提督 「そうか……」


ぐぬぬ……分かってないわね。これはもう……全部言っちゃうしかないわ。お酒の力を借りないと……。


陸奥 「(ぐびぐび)分かってないわねぇ。つまりね……曙ちゃんみたいに、あなたを愛してる艦娘は他にもいっぱいいるのよ。それを抑えてるっていうこと」

提督 「…………え?」

陸奥 「え? じゃないの! だからぁ~、子どもの勘違いとかそういうのじゃなくて、あるがままのあなたを心から愛してる子が、曙ちゃん以外にもたくさんいるって言ってるの! 当然、大人の艦娘たちにもね」

提督 「……………………え?」

陸奥 「もうっ! どうしてフリーズしてるのよっ!」

提督 「……だってな。俺もそんなに長く生きてるわけじゃないが……これまでの人生で、家族からも他人からも……愛された覚えなんてない……そんな俺に……おかしいだろう?」



450: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/09(木) 23:14:59.63 ID:8RZkcrnLo

陸奥 「まったく、そんなに疑うなら、ちゃんと分からせてあげる!」

提督 「……どういうことだ?」


どきどきどき……。う……曙ちゃんが背中に抱きついて告白した気持ちがよく分かる……。目を見てると恥ずかしくてとても言葉が出ない……。わたしも真似しちゃお……


陸奥 (すくっ……スタスタ)

提督 「?」


……広い背中……。わたしは艦娘の中でも特に大柄で、小さい子たちに飛びつかれたりしてるけど……。提督はわたしよりずっと大きいからね。本当に広くて……そうね……この背中には抱きつきたくなるわ……。


陸奥 (ぎゅっ)

提督 「!! む、陸奥……ど、どうした?」


あ、ヘッドギアつけっぱなしだと角が提督に刺さりそう……。はずさなきゃ……


陸奥 「よいしょっと(はずしっ)」

提督 「(ほっ)まったく、急にどうしたんだ」

陸奥 「だって、曙ちゃんはこうしたんでしょ? 曙ちゃんだけずるい! わたしもするのっ(ぎゅ~)」

提督 「うわ……待てって!」

陸奥 「やだ。ヘッドギア外したから、遠慮無くスリスリ出来るわね。すりすり~」

提督 「まったく、酔っぱらってるのか!」



451: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/09(木) 23:15:37.47 ID:8RZkcrnLo

陸奥 「……酔ってないわ」

提督 「……」

陸奥 「真剣に……聞いてね?」

提督 「う……わかった(ごくり)」


困らせないように……ずっと心に秘めてきたこと……ついに……言うのね……


陸奥 「提督、その……わたしはね…………長門のことが大好きなの!」


……わたしは何を言ってるの!!


提督 「あ、ああ、知ってるが……」

陸奥 「あ、それで、そのぉ……長門が笑顔でいられるように、あれこれ世話を焼くのが楽しいの!」

提督 「ああ、それも知ってるが……?」


提督が不審そうに答えてる……そりゃそうよね、この体勢でなんでこんな話を……。もうっ、曙ちゃんみたいに勇気出さなきゃ!



452: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/09(木) 23:16:23.42 ID:8RZkcrnLo

陸奥 「でも……でもね……長門と同じように堅物な困ったさんの提督も……なんとか笑顔にしたくて……あれこれおせっかいをして……」

提督 「おせっかいとは思っていない……本当に感謝している……」

陸奥 「そ、そう! で、それでね……あなたのおせっかいを焼いているうちにね……あなたの……真剣な想いだとか、優しさだとか……苦しくても逃げ出さない強さとか責任感とか……」

提督 「買いかぶりだ……」

陸奥 「ずっと近くで見てきたのよ? ちゃんとわかってるわよ! そういう……あなたのすべてが……」


駄目……気持ちが溢れて涙が……顔が見えない位置で……よかった……


陸奥 「あなたの……不器用だけど、皆の幸せのためにがんばる姿に……諦めない強さに……惹かれて…………自分の弱さを嘆くあなたを……どうしても支えたくて……ぐすっ」

提督 「陸奥……」

陸奥 「あなたを……愛してるわ……どうしようもないくらい……ぐすん……」


ついに……言っちゃった……。あはは……もっと大人の女らしい、スマートな告白がしたかったなぁ……あはは……。



463: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/12(日) 21:29:32.03 ID:OAOS/HwRo

提督の背中に抱きついたまま……静かに時が流れる。

ぎゅ~。ああ、提督の背中、あったかい……ずっとこうしてたいな……。

で・も・! 背中から伝わってくる感情は……「俺はどうしたらいいんだ!」っていうフリーズだけ。はぁ……せっかくの告白なのになぁ。仕方ない、ここはお姉さんらしい余裕で!


陸奥 「提督、そんなに困らないで。『わたしと曙ちゃん、どっちを選ぶの!!』……とか、『今すぐ返事をして!』みたいなつもりは無いんだから」

提督 「い、いやその……そうなのか?」

陸奥 「そーよ。第一、提督を独占できないことなんてみんな知ってるから、誰を選ぶのか!なんて話にすらならないわよ」

提督 「……どういうことだ?」

陸奥 「えー、だって提督も、艦娘全員と魂がつながっているの、ちゃんと感じてるでしょ?」

提督 「あ、ああ……それはまぁ、前も話したと思うが、魂のつながりを感じるな」

陸奥 「でしょー? わたしがどれだけ頑張ったって、提督と他の子の魂のつながりを消すことなんてできないわけなのよ」

提督 「ふむ……」

陸奥 「だからそうねぇ……提督はハーレムの王様みたいな存在なわけ。いっぱい愛して欲しいとは願うけど、独り占めは無理なのは最初からわかってるみたいな……そんな感じ?」



464: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/12(日) 21:30:22.57 ID:OAOS/HwRo

提督 「ま、待った待った! ハーレムってなんだ! 俺は全然そんなつもりはっ」

陸奥 「提督にそんなつもりが無いのはわかってるわよぉ。だけどね、多くの艦娘があなたを求めてる。父性を求めてる子もいれば、母性でもってあなたを包みたい子もいる。男性としてのあなたを愛してる子もいる……わたしみたいにね」

提督 「あ、ああ……その……///」

陸奥 「でもって、魂でつながっているあなたは……みんなを一定以上愛してるだろうし、その願いを無下に拒絶したりできないでしょ?」

提督 「…………」


考えこんじゃった。あーあ、そりゃわたしだって、出来ることなら提督に選ばれて愛されたら素敵だなって思うわよ……。でもそれで、鎮守府の仲間たちが苦しみ続けるのもイヤ……誰もいない二人だけの鎮守府だってイヤ……結局は、そういうことよね。


提督 「確かに……そのとおりだ……すまない……」

陸奥 「いいのよ。分かっていたことだもの」

提督 「でも……でも聞いてくれ、陸奥!」

陸奥 「(どきっ)な、なに、大きな声を出して……」


強い調子の声、まっすぐにわたしの目を射抜くように見つめる瞳……ど、どうしよう……(ドキドキドキ)



465: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/12(日) 21:31:05.13 ID:OAOS/HwRo

提督 「俺は……家族や親族とも上手くやれず、口下手で友人もろくにいなかった……ずっとそうやって生きてきた」

陸奥 「う、うん……」

提督 「だが、そんな俺が……一緒に酒を飲んで馬鹿話をしたり、真剣にアドバイスをもらったり、つまらない愚痴を聞いてもらったり、相手のやりたいことに協力したり……その……そういう……本当の友人同士みたいなやり取りを陸奥とできて……本当に感謝してるんだ」

陸奥 「あ、えっと……」

提督 「だからその……陸奥は俺にとって本当に特別な……大事な親友なんだ。それだけは……その……伝えたくてな……」

陸奥 「……」


提督がこうやってわたしを認めてくれて、強く心を伝えてくれたのは嬉しいのよ。うん。だけど……告白したら親友宣言って……なんなのよぉぉ!


陸奥 「…………(ぎゅ~)」

提督 「あ、あの……陸奥……苦しいし……その……あたっているというか……」

陸奥 「あーてーてーるーのー!」

提督 「あ、あててるって ///」



466: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/12(日) 21:32:07.63 ID:OAOS/HwRo

陸奥 「何よっ! 普段からすぐ胸とかおしりとか見てるし、こうして抱きついたらおっぱいばっかり意識してるくせに、なのに女じゃなくて親友扱いってどういうことよ!」

提督 「/// なっ! い、言いがかりだっ! ど、ど、ど、どんな根拠があってそんなことをっ」

陸奥 「あーのーねー! わたしはいつも提督の目を見て話すのっ。そうすると、何故か提督の目線がちょっと下の方に移動してたり、もっと下の方に移動してるのなんて、すぐ分かっちゃうのよ!」

提督 「……」

陸奥 「『あ、またおっぱい見てる』とか『また太もも見てる。スカートみじかいからなぁ』とか、いつも思ってるわよ!」

提督 「…………」

陸奥 「親友なら、そんな所見ないでしょっ。どういうこと?」

提督 「/// だ、だってなぁ、しょうが無いじゃないか! そんな立派な体で、そんな水着みたいな服で目の前に立たれたら……どうしても目が行っちゃうだろう! これはもう、友情とか愛情とかの前に、男の本能なんだっ! それとこれとは別なんだっ!」

陸奥 「あー、開き直ったわね! つまり、わたしのことを親友とか言いながら、女の魅力を感じてたのは認めるんだぁ」

提督 「くっ……。それは、そのとおりだ! だが俺は上官として、部下と性の対象と考えないように一生懸命だなぁ……」

陸奥 「ふふーん、認めたわねっ。ほら、やっぱり女としての陸奥さんが魅力的なんじゃないっ」

提督 「それはそうなんだよ! だが……その……俺に恋愛とか難しすぎるんだ! まず何より友人になれたことが本当に嬉しくて、友人として本当に大切なんだ! 分かってくれよ……」



467: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/12(日) 21:33:04.84 ID:OAOS/HwRo

うふふ……あんまりいじめちゃ可哀想か。わたしが魅力的だって認めたんだから、いじわるはこのぐらいに……しないでもっといじめてやるっ!


陸奥 「ふー、わかったわ。そうよね、エッチな目で見てるのはわたしだけじゃないもんね……(はぁ)」

提督 「なっ! な、なにを証拠にそんなことをだな……」

陸奥 「摩耶ちゃんがねー、愛宕に相談したそうよ。『改二になったら、提督が妙に俺の胸元を気にしてる気がする』ってねー」

提督 「う、うそだ……」

陸奥 「ほんとよー。それに五月雨ちゃんもね、『この服、動くとすぐおへそが見えちゃうんですけど、そこにすごく提督の視線を感じるんです。お腹壊さないかご心配かけてるみたいで』とか言ってたわよ。わたし以外の誰かにもこの話してるかもねー(にやにや)」

提督 「……」


全部ほんとの事とはいえ、ちょっといじめすぎかな?


提督 「死にたい……いや、死のう。陸奥、腹を切るから介錯を頼む……」

陸奥 「ぶははは、提督、何その深刻な顔! いいじゃない、ちょっとくらいエッチだって!」

提督 「あああ、俺はセクハラ野郎として軽蔑されてたんだ……真面目一筋に頑張ってきたつもりだったのに……本能に……本能にちょっと負けてこんなことに……」

陸奥 「あほたれちゃんっ。ほら、改めて抱きついちゃう。陸奥さんのおっぱいだぞー」


ぎゅ~



468: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/12(日) 21:33:51.17 ID:OAOS/HwRo

提督 「こら、やめなさいっ」

陸奥 「まじめに真剣にひたすら耐えるあなたは素敵よ……でも、ちゃんと人間らしい煩悩があって恥ずかしがって……そういうあなたはもっと素敵。そうやって、少しずつでいいから本音を見せてガードをといてほしいわ」

提督 「陸奥……俺は……」

陸奥 「それにー。提督にはもっと積極的にエッチになってもらいたいぐらいよ。リットリオも言ってたわよー。提督にはもっと地中海的であって欲しいって」

提督 「……なんだそれは」

陸奥 「イタリア男みたいな情熱的なスケベのことらしいわよ」

提督 「俺にはハードル高すぎだろう……」

陸奥 「うふふ……そうね。まーでも、男の本能なんでしょ? ちょっとぐらいエッチでもいいじゃないっ」

提督 「いや……その……な。真面目な駆逐艦の子なんかは潔癖だろ? 酒を呑まないのもそうだが、セクハラみたいなのを嫌う子が多いだろうと思ってな……」

陸奥 「また曙ちゃん基準の話でしょー?(つねりっ)」


ああもうっ、やっぱり嫉妬しちゃう!



469: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/12(日) 21:34:57.10 ID:OAOS/HwRo

提督 「痛い痛いっ。まぁ……そうだ。最初に改装したときだったかな? 『わたしの裸が見たいだけなんでしょ!』ってすごい怒鳴られて……それで特に気を使うようになったんだ」

陸奥 「もー、言葉通り受け止めすぎよ。曙ちゃんはツンデレで誘い受けのドMなんだから、そんなの『改装の時脱げちゃうから見て!』っていう意味じゃない(暴論)」

提督 「…………え?」

陸奥 「おっと、さすがに提督にはハードルが高すぎたわね。照れ屋だったり、素直になれないだけで、決してそういうのがイヤなわけじゃないってこと」

提督 「はぁ……」

陸奥 「だからほら、別にひどいセクハラを推奨してるわけじゃないんだから、ね?」

提督 「ああ……」

陸奥 「友人だと思っていた陸奥さんの魅力に抗えず、ついに女として意識してしまっても全然OKってことよ!」

提督 「はいはい……」

陸奥 「もー! でもね、うん……全然色気がない話でガッカリではあったけれど……さ」

提督 「うん」

陸奥 「わたしが、あなたの人生において本当に特別な存在だって……そういうのは本当に嬉しい……嬉しいわ」

提督 「うん、それは本当に本当だ。なんというか……そばに居てくれてありがとう。その……これからもよろしく」


後ろから抱きついているわたしの手を提督が握る。すごく遠慮がちに……うふふ、でも、うん、提督にしては上出来上出来!



470: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/12(日) 21:36:00.91 ID:OAOS/HwRo

陸奥 「……提督、あのね」

提督 「ん?」

陸奥 「あなたという男性を愛してる艦娘は、多分、あなたが思っているよりずっと多いわよ」

提督 「……」

陸奥 「もちろん、わたしは誰にも負けない気持ちを持っているつもりだけど……。でも、こういうのは理屈じゃないからね。あなたが誰かと愛し合ったって、誰かに甘えたって、仕方ないと思ってるから……だから、わたしに遠慮したりはしないでね」

提督 「陸奥……」

陸奥 「わたしに友情を感じてくれているのは嬉しいけど、愛情はまた別問題だったりするのはちゃんとわかってるから……だから、わたし以外の子とラブラブしたところで、友情は消えたりしないから」

提督 「うん……ありがとう」

陸奥 「あ、でも、なんか想像したら腹が立ってきた(つねりっ)」

提督 「いてっ。な、なんだよ、怒らないんだろ?」

陸奥 「仕方ないとは言ったけど、怒らないとは言ってませーん!(つねりっ)」

提督 「想像だけで怒るなよ……恋愛とか俺にはほんと、ハードルが高すぎる。正直途方に暮れてるんだ。当分そんな心配は無いよ、ほんと」

陸奥 「そーね。提督の理性がスケベ心に負けなければ、ね♪」

提督 「その話を蒸し返すなっ!」

陸奥 「あはははは! さ、じゃあもっと呑んで呑んで」

提督 「ああ、呑まずにやってられるか!」


そうね……わたしたちはどうせ死ぬまで一緒なんだもの。ゆっくりゆっくり前に進んでいけばいいわ。これまでもそうだったし、これからだって、ね。

でも……淑女協定が破棄されたら……そんな呑気なことを言ってられないかもよ♪



478: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 10:44:17.71 ID:iTszSDWFo

――――― 翌日 夕方 長門と陸奥の部屋



479: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 10:44:59.34 ID:iTszSDWFo

長門 「ただいま」

陸奥 「おかえりなさい長門。すぐご飯にするわね」

長門 「ああ、いつも済まないな」


いつも思うけど、わたしたち夫婦みたいね……


……



長門 「いただきます、もぐもぐ」

陸奥 「はい、召し上がれ」

長門 「ああそうだ、今日は珍しいことがあったぞ」

陸奥 「なあに、なにがあったの?」

長門 「執務終了にあわせて酒匂が部屋に来てな。提督を夕食に誘っていた」


ふぅん……酒匂ちゃんも協定違反かぁ。やるわね!


陸奥 「提督も断るのに苦心してたでしょ?」

長門 「いや、根負けして、一緒に鳳翔さんのお店に向かったぞ。それが珍しいなと」

陸奥 「なんですってぇ!」

長門 「(びくっ)ど、どうしたっ」

陸奥 「長門……行儀が悪いのは重々承知だけど、急用ができたからちょっと出かけるわ」

長門 「あ、ああ……その……ほどほどにな……」



480: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 10:46:03.79 ID:iTszSDWFo

――――― 少し後 鳳翔さんのお店


さて……二人はどこにいるのかしら……

いた……。ちょうど二人が席につくところね。

うわっ……取り囲むように聞き耳を立ててる軍団が……金剛なんて黒いオーラ出てるし……二人共気がついてないなんて揃って鈍感ねぇ……。

わたしも……こっそり近くに……


酒匂 「司令っとごはんっ♪ いっただきまーす!」

提督 「ああ、頂きます」

酒匂 「ぴゃんっ。おいしいっ」

提督 「そ、そうか。ところで、何か話があって誘ったんだろ? 聞かせてくれるか?」

酒匂 「ぴゃん? ううん、特にご用事はないよ?」

提督 「へ? じゃあどうして急に二人で食事をしようなんて……」

酒匂 「もー♪ それはぁ……酒匂が司令のこと大好きだからだよぉ」


ピクッ

おっと……殺気が漏れちゃったわね。周りからもチラホラと……



481: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 10:46:57.14 ID:iTszSDWFo

提督 「いや、そのだな……あはは」

酒匂 「阿賀野ちゃんや矢矧ちゃんも司令のこと大好きだし、他にもいっぱいそういう人がいるみたいだし……酒匂も負けないようにがんばろうかなって……ぴゃん!恥ずかしいっ」

提督 「い、いやその……買いかぶりだろう……あははは……はは…………」


そうだ、そういえば酒匂ちゃんは最近の加入だから……きっと淑女協定のこと知らないのね。そっかー、協定が無くなったらこれが日常になるのね。わたしも、もたもたしていられないかもね!


酒匂 「司令って確かエビフライが好きって言ってたよね。酒匂のもあげるよ~、はい、あーん♪」

提督 「(ダラダラダラ)い、いや、そういうわけには……ちゃんと自分の分を食べないと、姉たちみたいに大きくなれないぞ、うん」

酒匂 「ぶー! どうせ酒匂はちいさいよーだ」


二人のイチャイチャしたオーラに対して……聞き耳を立ててるみんなから立ち上るどす黒いオーラが……あ、あら、わたしからも立ち上ってるわね……まったく、提督ってばデレデレしてしょうがないわね~


酒匂 「あ、司令。ほっぺたにごはん粒ついてるよ。もー、うっかりさんだなぁ」

提督 「え、そ、そうか。いや、まいったなぁ……」

酒匂 「そっちじゃないよー。もー、しょうがないなぁ……えいっ……(ちゅっ)」

提督 「………………えっ?」

酒匂 「/// ぴゃんっ! と、とれたよっ」



482: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 10:47:41.53 ID:iTszSDWFo

ガタガタガタ

がしっ

酒匂 「ぴゃ! な、なにっ」

金剛 「ヘーイ酒匂! ちょぉっと向こうでお話するデース!」


がしっ


酒匂 「ぴゃ、ぴゃー……」

飛鷹 「淑女の約束事を、しっかりと教えてあげるわ(にっこり)」


ガタガタガタ


五月雨 「はい、約束は大事ですよね!」

神通 「秩序を守ることはとても大切です……わたしも参ります」

酒匂 「ぴゃ、ぴゃぁぁぁぁ!」

提督 「あ、あの……」

五月雨 「提督は黙っていてください!」

提督 「……はい…………」

陸奥 「あ、みんな、ちょっと待ってくれる?」

金剛 「What? なぜですかー。明らかな淑女協定違反デース!」

曙 「その淑女協定に……あたしも異議ありです!」

神通 「どういう……ことですか?」


これはいい機会よね。この際ちゃんと話しちゃいましょう。



483: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 10:48:54.18 ID:iTszSDWFo

陸奥 「淑女協定って……わたしたち艦娘から距離をおいて一人になりたがってる提督を邪魔しないように……そういう位置づけよね」

青葉 「はい、青葉が集めた情報を元に、そういう協定になったんですよね!」

陸奥 「でもね……。その提督が一人になりたがってる理由っていうのがそもそも誤解だったのよ」

五月雨 「誤解……ですか?」

曙 「そうなのよ。このくs……提督はね、自分が艦娘に酷いことしてる。艦娘は自分のことを恨んだり憎んだりしてる、そんな誤解から距離を置いてたのよ」

提督 「いや……そこまででは……」

金剛 「Why! どうしてそんな誤解をしてるデスかー!」

陸奥 「まぁそれは話すと長くなっちゃうけど……。ま、何はともあれそんな誤解してるからね、こっちが淑女協定で提督と距離をとったら『自分が嫌われたり憎まれたりしてるから』なんて思い込んじゃうのよ」

五月雨 「そんなぁ……誰もそんなこと思ってないのに……ぐすっ……」

曙 「ああ、泣かないでよっ! だから協定なんか無くして、こいつのことを……その……大切に思ってるっていうのを言葉とか行動で示すようにしたほうが良いと思うの!」

神通 「…………そうですね、賛成です。提督は自分から暗く沈んでいこうとしていました……。一人で勝手に誤解して沈んでいくなんて……もう許しません。わたしももう遠慮しません」

飛鷹 「そう……遠慮が逆に提督を苦しめているなら、確かに協定なんて百害あって一利なしよね」

デモソレダト...ナニガイチバン...

ガヤガヤ



484: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 10:49:56.55 ID:iTszSDWFo

提督 「みんな聞いてくれ……その……確かに誤解していた部分があるのは本当だ……。それに、俺はどうも鈍いらしくて……皆の気持ちとか考えを察しているとは言い難い。だからその……協定とかはよくわからないが……皆には心のままに接してもらえると嬉しいんだ。俺はでかい上に無口で、非常に話しづらいとは思うが……どうか遠慮せずに……その……」


うふふ、最後は消え入るように……この人のこういうところがすごくかわいいわ。でも、頑張った甲斐はあったみたいね。みんなちゃんと分かってくれたみたい。


金剛 「OKテイトクー! 淑女協定は破棄して、心のままにアタックシマース!」

青葉 「わっかりましたー! じゃあ、淑女協定は終了ということで、青葉がバッチリ、周知徹底しますね!」

瑞鳳 「そういうことなら負けてられない……早速卵焼きを差し入れなきゃ!」

陸奥 「良しっ、ちゃんとまとまったわね! でも、その前に……抜け駆けにはちゃーんとお仕置きしないとね♪」


がしっ


酒匂 「ぴゃ! え、え、え?」

金剛 「賛成デース!」

神通 「公衆の面前での破廉恥行為は許されませんから」

曙 「そうね、鎮守府の秩序を保つのは大事だわ」

五月雨 「というわけで酒匂さーん。ちょっとあっちに行きましょうか?(にっこり)」

酒匂 「ぴゃ、ぴゃぁぁぁ、助けてぇぇ」

矢矧 (ごめん酒匂……無理……)


ズルズルズルズル



485: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 10:50:25.99 ID:iTszSDWFo

提督 「あ、えっと……」

龍驤 「なんや、提督一人になってしまったんかいな。仕方ない、うちが一緒に食べたるわ」

秋津洲 「しょうがない、わたしと大艇ちゃんも一緒にいてあげるかも!」

提督 「えっと、ああ、ありがとう……?」

夕立 「ずるいっぽいー! 夕立も一緒に食べるっぽい!」

雪風 「しれぇ、雪風もご一緒します!」

提督 (お、俺は……どうしたらいいんだ……)


ワイワイワイワイ



……酒匂ちゃんとしっかりお話して戻ってきてみたら、提督はみんなに囲まれて酷いことに……まったく、油断も隙もないんだから!



486: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 10:50:52.57 ID:iTszSDWFo

++++++++++

 Side 曙

++++++++++



487: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 10:52:41.86 ID:iTszSDWFo

――――― 2週間後 お昼すぎ 提督執務室


時津風「もう終わりかー。しれー、またねー!」

雪風 「またです!」

ワイワイ


陸奥 「ふー、今日も賑やかだったわねぇ」

提督 「ああ、まったくだ……」


ぐったりつかれてるわね……。でも、賑やかにわいわいと騒がしい昼食は楽しそうだから、きっとこれでいいのよね! 無理だけはさせないように気をつけないと!


曙 「でも、無理はしすぎないでくださいね。どうしても辛いようなら、やり方をまた考えますから」

陸奥 「そーそー。無理は駄目よね。お昼休みと1500の休憩は自由に来て良い!ってルールだと、どうしても大勢来ちゃうからね。いっそもっと開放したほうが混乱が少なくなるのかしら?」

曙 「ルールは試行錯誤が必要かもしれないですね。あたしの秘書艦補佐も、交代制にしてー!って希望が沢山きているようですし」

陸奥 「それはもう沢山来てるけどねー。でも、お仕事の効率を考えると固定のほうが良いのよね。提督はどう思う?」

提督 「どう思うというかさ。そもそも、秘書艦は陸奥固定、秘書艦補佐に曙って……俺の知らないところで決まってたしなぁ……」

陸奥 「だってぇ。長門は連合艦隊旗艦としての仕事に専念して、わたしが秘書に専念するほうが、お仕事効率が良さそうなんだもん」

提督 「それはそうかもしれないが……」

陸奥 「というのは言い訳で……提督と一緒にいる時間を増やしたかったからしょうが無いの♪ だって、淑女協定廃止で仁義なき競争がはじまるんですもの……わたしだって負けてられないわ」

提督 「……えっと…………」

曙 「あ、あたしだって……負けてられないから……陸奥さんにお願いして、秘書艦補佐にしてもらったんだからねっ!」


そうなのだ……あたしにできること……こいつの近くで、こいつが元気に過ごせるように……意地を張ったり落ち込んだりした時に力になれるように……そのためにはいつでも近くにいなきゃだよね!



488: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 10:53:27.69 ID:iTszSDWFo

陸奥 「ま、曙ちゃんは提督にとって特別みたいだからぁ……姿が見えたほうが提督が安心するかなぁ~って思ってね」

提督 「うぐ……まぁ……それは……」


そんなわけで、秘書艦補佐になってはや一週間。毎日こいつのそばに居て、お仕事の力になって……陸奥さんが、いかにこいつの力になっているかを見せつけられて落ち込みつつも……あたしも負けじと頑張っているのだ!


提督 「ま、まぁ、それはともかくだ……曙にお願いがある」

曙 「なんですか?」

提督 「それだよ! なぁ……お願いだから前の口調に戻ってくれ。呼び方もまたクソ提督にしてくれ……なんだか無理をさせているみたいで落ち着かないんだよ、ほんとに」

曙 「またその件ですか……いい加減慣れてください」

陸奥 「くすくす……口調が変わった子には、ほんと困ってるわよね、提督」

提督 「そうなんだよ……霞も丁寧な口調になるし、摩耶までたどたどしい敬語をつかってきて……」


実は、あたしと同じ口調がきつい子たちに、個別に話したのだ。こいつが……こんな岩のような無表情のくせに……実はきつい口調や呼び方で落ち込んでいたことを……。



489: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 10:53:54.71 ID:iTszSDWFo

曙 「仕方ないんです。提督が言葉をすぐ真に受けて、落ち込んだりオロオロしたりしてしまうんですから」

陸奥 「ですって提督。自業自得らしいわよ~♪」

提督 「いやもう、ちゃんと分かったから。もう誤解しないから、元の口調に……な?」

曙 「駄目です、信じられません」


ほんとは信じてるけど……こうして懇願してくるのが楽しいからこのままで……


陸奥 「ほら提督、奥の手しか無いわよ」

曙 「奥の手……?」

提督 「ああ。どうしたものかと陸奥に相談したらな……漣にアドバイスをもらうといいと言われて……」


……嫌な予感がするわね



490: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 10:54:29.16 ID:iTszSDWFo

提督 「これでバッチリ、曙が以前のように罵詈雑言を投げかけてくれますよ、ご主人様! っていう作戦をだな……」

陸奥 「くすくすくす……」

曙 「……だ、駄目ですよ。口調は変えませんから」

提督 「……そんなこというなよ、ぼのたん」

陸奥 「ぷっ……くくくっ……」


こ、こいつ! な、なんて呼び方を!


曙 「あ、あんた……い、いえ、提督、ふざけた呼び方はやめてください」

提督 「ふざけてないぞ。今後はぼのたんと呼ばせてもらう。かわいいアダ名だな」

曙 「/// な、な、あんた何言ってんの! ……ハッ」

陸奥 「ぷ……ぷぷぷ……(プルプル)」

提督 「なぁ、頼むよ~、ぼ・の・た・ん・♪」

曙 「な、く、が………い、いい加減にしなさいよ、このくs……ぐぐぐ」


だ、だめ……クソ提督って言わないって約束したんだから!



491: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 10:55:12.17 ID:iTszSDWFo

提督 「さ、どうぞ、ぼのたん!」

曙 「こ、こ、こ、この……く、く、く……」

陸奥 「アホ提督(ぼそっ)」

曙 「こ、このアホ提督ーーーー!!」

陸奥 「うん、アホ提督ね♪」

提督 「アホかぁ……。陸奥にも良く言われるんだよなぁ」

陸奥 「アホっていうのはねー、関西のほうでは、まぁ……愛のこもった言い方なのよ。これなら提督も誤解したりしないでしょ?」

提督 「そうだな。じゃあ、クソ提督がだめならそれで。それでいいか、ぼのたん?」

曙 「だから、その『ぼのたん』はやめなさいってば、このアホ提督!!」

陸奥 「うふふ……提督、このくらいで許してあげなきゃ♪」

提督 「そうだな。でもな、また敬語使い始めたら容赦なく『ぼのたん』だからなっ」

曙 「分かったわよ……はぁはぁ……漣、覚えてなさいよー!!」



492: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 10:56:33.32 ID:iTszSDWFo

提督 「漣を責めないでくれよ。俺としては……俺のために無理をするんじゃなく、自然なままで仲良くやっていきたいんだ……だから……その口調に『アホ提督』か……。あはは、曙がそうやって叫ぶのは久しぶりだが……なんだかほっとするよ。ありがとう」

曙 「な、なによそれ……ふんっ、もう敬語なんて使わないからっ。後悔したって遅いからねっ///」

提督 「ああ、それでいい」

陸奥 「いいなー。わたしも提督のこと罵ってみようかしら……」

提督 「いや、それはまた不自然だからやめてくれ……本気で落ち込みそうだ」

陸奥 「あら♪ じゃあ、甘やかすのがわたしの役目って言うことで良いのかしら♪」


抱きっ


提督 「/// ちょっ……いや、そういう意味ではっ」

曙 「駄目っ、抜け駆けだめー!(ぐいぐい)」

陸奥 「むぅ……先は長いわねぇ」


はぁはぁ……でも……うん。心のままに、自分らしくあることで喜んでもらえる。そうね、それが一番かもね。さすがね……アホのくせに優しい……あたしの……アホ提督……。

でも漣は許さない!泣かすからっ!



493: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 10:56:59.20 ID:iTszSDWFo

――――― エピローグ ―――――



494: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 10:58:18.98 ID:iTszSDWFo

――――― 1ヶ月後 夕方 鎮守府横の森


陸奥 「……結構森の奥のほうなのね」

曙 「ええ、思ったより遠い……」

陸奥 「曙ちゃんは行ったことあるのに?」

曙 「前は夜だったし、夢中で走ってたから……」

陸奥 「うふふ……その思い切った行動が、大きな変化のきっかけになったのよね!」

曙 「あはは……あの時は無我夢中で……」

陸奥 「そうかぁ。でもそうね、理屈抜きの思い切った行動が必要になることもあるのよね。わたしも見習わなきゃね」


ザクザクザク

曙 「わざわざキャンプの森に呼び出して……どういうことだと思います?」

陸奥 「うーん、最悪、秘書艦交代の話でもするのかと思ったんだけど……」

曙 「!! ま、まさかっ!」

陸奥 「うん、なんか、呼び出した時の様子だと違う気がするのよね……。じゃあ何の話かって、ちょっと想像がつかないけれど……」

曙 「そうですね……ほんと、何なんだろ」


ザクザクザク



495: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 10:59:10.63 ID:iTszSDWFo

曙 「あ、ここです」

提督 「お、二人とも来てくれたか」

陸奥 「お招きありがと、提督。でも、どういう風の吹き回しなのか、ちょっと気になるわ」

曙 (うんうん)

提督 「ああ、じゃあ二人共そこに座ってくれ」

曙 「今日はちゃんと椅子があるのね」

提督 「ああ、ちゃんとした招待だからな。テーブルの上にビールがあるからとりあえずどうぞ」

陸奥 「……え?」

曙 「……え?」


ジュー


提督 「肉はすぐ焼けるから」

陸奥 「あ、あの、提督……? その……ビールとか、その炭火で焼いてるお肉とか……どういうこと?」

提督 「いや、見ての通りのバーベキューだが……」

曙 「はぁ!? 大事な話があるんじゃないの!?」

提督 「……? いや、とりあえず二人にバーベキューを振る舞いたかったから呼んだんだが」

曙 「だ、だって……どうしても二人に来てほしいから、例のキャンプでって……」

陸奥 「くれぐれも二人だけでって……」

提督 「いや、見ての通り、一人用のバーベキューセットだからな。大勢で楽しめるようなものじゃないんだ。まして、空母の一人でもきたら食材が足りないし……」

陸奥 「……なるほどね、だから夕食前にっていう注意付きだったわけね……。はぁ……なんか気が抜けちゃった。ビールいただきまーす(ぐびぐび)」



496: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 10:59:47.42 ID:iTszSDWFo

提督 「曙もビールどうだ? プリンツにもらったドイツビールだが、ジュース代わりに飲まれるような、飲みやすいビールらしいぞ」

曙 「はぁ……(脱力) 緊張して損したわよ! いただくわっ(ぐびぐび)あ……あんまり苦くなくて飲めるかも……」

陸奥 「そうね、わたしは日本酒党なんだけどたまには良いわね。提督、お肉まだー?」

提督 「ああ、もう焼けてるぞ。ほら、そのタレにつけて食べてくれ」

曙 「はふっ、はふっ……美味しい!」

提督 「どんどん焼くからなー」

陸奥 「はふはふ、うん、ほんとに美味しいわ。もぐもぐ」

曙 「美味しいけど……ほんと、どういうことなのよこれ! もぐもぐ」

提督 「俺も適当につまみながら焼くからなー。もぐもぐ」

………
……




497: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 11:00:34.07 ID:iTszSDWFo

陸奥 「ふー、ごちそうさま! お腹いっぱい!」

曙 「ビールってなんか美味しいのね……意外だったわ……」

陸奥 「バーベキューとか焼き肉とか、特別にビールが美味しくなるメニューがあるのよぉ」

提督 「そうだな、バーベキューの時だけは俺もビールだ」

曙 「ふうん……お酒にも色々あるのね」

提督 「じゃあ、こっちで焚き火はじめるから、これからの酒はそこにあるのから好きなのを飲んでくれ」

陸奥 「じゃあわたしは日本酒~。お、天狗舞があるじゃないっ」

曙 「あたしはお酒わかんないから……」

提督 「じゃあ、梅酒をお湯で割ろう。香り程度だから酔ったりはしないはずだ」

曙 「……わかんないからそれでいいわ」

………
……




498: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 11:01:57.82 ID:iTszSDWFo

パチパチッ


陸奥 「(ちびちび)焚き火って不思議ね……わたしは火が苦手だけど、焚き火はなぜか落ち着くわ……」

曙 「そうなんですよね。火薬の炎とはぜんぜん違う……不思議な、あったかい感じです」

提督 「そうだな……」

陸奥 「……」

曙 「……」

提督 「……」


パチッ


曙 「……それで……何か話したいことがあるんでしょ……聞かせなさいよ、アホ提督」

提督 「……」

陸奥 「あなたが、何の理由もなく、いきなりバーベキューに誘わないことぐらい分かるわよ。さ、聞くわよっ」

提督 「…………」



499: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 11:02:53.80 ID:iTszSDWFo

提督 「陸奥と曙のおかげで、俺とみんなの関係は随分変わった。いろいろ大変ではあるが……とても大切に思われていること、愛されていること……そういうことを強く実感できるようになった……」

陸奥 「くすくす……ほんと、いろいろ大変だけどね」

提督 「まったくな(苦笑)」

曙 「ふんっ……でも、ちゃんとわかってるみたいで良かったわ」

提督 「ああ、みな素直に愛情をぶつけてきてくれるからな。そうだな……俺を父のように感じて慕ってくれる子たち……対等な戦友、尊敬すべき司令官として大切にしてくれる子たち……。俺を友達だと感じてくれている子もいれば……その……俺を一人の男として愛してくれる人達……。どれも光栄でありがたいと思う、本当に」

曙 「モテモテで結構ですわね、このアホ提督っ」

陸奥 「ぶー! のろけてるの?」

提督 「いや、そういうわけではなくて……」

曙 「……」

提督 「前に話したと思うが……。俺は友達もいなかったし、家庭もな……愛情を感じるものではなかった。……そう思っていた」

陸奥 「……ええ」



500: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 11:04:37.86 ID:iTszSDWFo

提督 「でもな、家族からの愛情がなかったと愚痴ってるくせに……俺も大切な皆に、何も愛情を示せていない。皆は、それぞれが様々な形で俺に愛情を示してくれているのに……な」

曙 「そうよね、あんたは汗かいてひたすら困ってる感じだものね」

提督 「そうなんだ……。だからな、ここの所ずっと、俺はどうやってみんなにこの気持ちを伝えたら良いかを考えていた。そうして考えているうちに……俺は家族に愛されていなかったっていうのは、もしかしたら間違いだったんじゃないかと思うようになった」

陸奥 「…………どういうこと?」

提督 「俺が大切な皆にできること……もちろん司令官として出来ること……皆の安全とかな……そういうことは当然として。一人の男として出来ることを考えると……本当に何も思いつかなくてな……。ただ……自分が感動したものを分かち合いたい……美味しかったものを振る舞ったり、美しい景色を共有したり……そういうぐらいしか思いつかないんだ」

曙 「このアホ提督っ! 十分じゃない……とっても素敵じゃない!」

陸奥 「ええ、そういうものだと思うわ。わたしもね、美味しいものは長門に食べさせたいと思うし、素敵な場所を見つけたら提督を連れて行きたいと思うもの。そういうことでしょ?」

提督 「はぁ……俺が必死に考えたことも、二人に取っては当たり前なんだな。でもそうだ、そういうことだ。それでな……思い返してみると」

曙 「うん」



501: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 11:06:01.39 ID:iTszSDWFo

提督 「俺の家は全員無口で、必要な事以外、誰も何もしゃべらない。両親も二人の兄もそんな感じだったから、俺も当然そのようになった。いつも無言で静かな家だった」

陸奥 「提督が5人って感じね……」

提督 「だけどな……あまり豊かではなかったのに、食事はいつも美味しかった。育ち盛りの男三兄弟が満足できるような凄い量でな。唐揚げが大皿に特盛りみたいな感じで。それで食事はいつも楽しみだった」

曙 「……いいお母さんじゃない」

提督 「それから……年に一度ぐらいか、親父には登山に連れだされた。俺は末っ子だから親父や兄について行くのは大変だったが……キャンプしたり……稜線や頂上からみる景色……朝日や夕日、満天の星……圧倒されるほど美しかった……」

陸奥 「……素敵な思い出ね」

提督 「ああ……言葉も笑顔もなかった……だけど……俺はちゃんと両親から……家族から愛されていた……。家族みんな、愛情表現に不器用だっただけだ……。皆のおかげで今はそう思う」

曙 「…………なーにが『俺は愛されたことがなかったー』よ! そのお話だけでも、ちゃんと愛されてたって分かるじゃない! ほんっと、昔っから鈍かったのね、このアホ提督っ」

提督 「……そうだな(苦笑)」

曙 「だからあたしの気持ちにも全然気づかず……ってそれは置いておいて……でも、気がつけてよかったわね」

陸奥 「ほんとよ……だからかしら、最近すごく穏やかに微笑むようになったのは」

提督 「ああ、そうかもな」



502: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 11:06:49.10 ID:iTszSDWFo

提督 「それで、俺も両親のように……大切な人に、その心を伝えようと思ってな……出来ることからはじめてみようと思ったんだ」

陸奥 「もしかして……それでバーベキューなの……?」

提督 「ああ、俺が振る舞える美味しいものっていうとこのぐらいだから……。あとは、この森のキャンプ……静かな穏やかな時間……この素晴らしいものを共有したいなと……」

曙 「はぁ……すごくあんたらしいわ……斜め上というか」

陸奥 「まぁでも……わたしたち二人に特別にっていうのは、評価しちゃう♪」

曙 「そうね、あたしたち二人がリードって感じなのかしら?」

提督 「そうだな、二人には特に感謝しているから。それでだな……俺はこの歳まで、両親の愛情に気がつけなかった」

曙 「うん」

提督 「だからだな……両親と同じようなことをするだけでなく、俺はちゃんと言葉でも伝えようと思っている。とても勇気がいることだが……陸奥や曙がそうしてくれたように、俺も頑張ろうと思う」

陸奥 「素敵ね! さ、どうぞどうぞっ!」

曙 「ふ、ふんっ……どうしてもって言うなら聞いてあげるわよっ(どきどき)」



503: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 11:07:50.61 ID:iTszSDWFo

提督 「ぐぬぬ……じゃあ、まず陸奥に」

陸奥 「は~い♪ わくわく! わくわく!」

提督 「ぐ……にやにや見るなっ。えっとだな、陸奥。君は……人の気持が分からず、おかしな場所に迷い込んでいた俺を導いてくれた。悩み、迷い、立ち止まる俺を……暖かく見守って励まして、後押ししてくれた……。その……感謝の言葉も無い。君がいなければ、俺は今も暗い場所で迷っているはずだ……。本当に……ありがとう」

陸奥 「…………こちらこそありがとう……ぐすっ……あなたの力になれて本当に幸せよ」


提督 「そして曙……」

曙 「/// ど、ど、どんと来なさいよっ」

提督 「君は……前世からの暗い記憶を抱えながらも……みんなと俺のために一生懸命頑張ってくれた。そして……君は俺と同じように不器用でありながら……逃げださず、俺に歩み寄って、最後は俺の作っていた壁を叩き壊してくれた。君が俺を許し、俺のもとに飛び込んで来てくれなかったら、俺はずっと自分を許せないでいたはずだ……本当にありがとう」

曙 「ぐすっ……あたしには七駆のみんながいてくれたから……いつも励ましてくれたから……今度はあたしがあんたにのそばに居て……ぐすっ……潮があたしにしてくれるみたいに……あんたを支える……そうするんだから……ぐす……」



504: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 11:08:39.48 ID:iTszSDWFo

提督 「ふー……なれないことをすると緊張するな」

陸奥 「くすくす……今日はいっぱいしゃべってるものね」

提督 「それでその、二人には本当に感謝していてだな……その……男として二人に揃ってこういうことを言うのは本当は駄目なことだと思うんだが……///」

陸奥 (ぴくっ)

曙 (ぴくっ)

提督 「大勢いる艦娘のなかで、俺にとってやはり二人は特別だ。それでだな……その……」

陸奥 「その?」

曙 「続きはっ!」

提督 「その……二人には本当に本当に感謝していて……俺は二人のことを……その……あ……あ……」

陸奥 「あ……?」

提督 「あ……あい……あい……」

曙 「あい……?」

提督 「ぐ……その、二人をとても頼りにしているから、今後もよろしくな!」


ガタッ!


陸奥 「ちょ! 言いかけていたことと違うわっ」

曙 「逃げるんじゃないわよ、このアホ提督っ! ほら、『あい』の続きはっ!」

提督 「うぐ……う……その……じゃ、今日はお開きにするか! もう遅いもんな」

陸奥 「何よそれっ! 絶対に言わすわよっ、曙ちゃん、いいわね?」

曙 「ええ、ここまできたら意地でも言葉にさせてやるっ」

提督 「か、勘弁してくれ~!」



505: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 11:09:26.33 ID:iTszSDWFo

陸奥 (まぁそれでも……この人の心が明るくなり、囚われていた多くの闇がはらわれて……。わたしを特別に感じて、信頼してくれて、こうして笑って一緒にいられる……。うふふ……十分幸せよね。でもこれで満足しないわ……もっと明るく楽しく幸せな……そんなふうにしちゃうんだから。そ・れ・に・♪ わたしは女の幸せもつかみたいっ。きっとそのうち悩殺しちゃうんだからっ。覚悟しててよね……わたしのアホ提督♪)


曙 (暗く沈んでいたこいつが……こうして笑って追いかけあえるぐらいに……七駆のみんなといるときみたいな……そんな風になれた。悩んでいた日々を思うとウソみたいよね……。でもこれからも、こいつはきっと悩んだり苦しむことだってある。その時に、あたしにとっての潮みたいに……あんたを励まして、蹴飛ばして、元気づけてやるんだから……覚悟しなさいよね、あたしの……アホ提督♪)

 

おしまい



507: ◆8sA8xtnAbg 2016/06/20(月) 11:21:47.56 ID:iTszSDWFo
続きまして過去作リストです。

次回作は、うーん……。過去作の後日談を書きたい気持ちもあるし、新しく書きたい話もあり……。

新しい話の場合、多分山城さんの話になると思います。それでは!


【艦これ】俺の鎮守府が修羅場…?


【艦これ】俺の鎮守府が修羅場…? 龍驤END


【艦これ】 工作艦 明石。がんばります!


【艦これ】加賀「最近、皆との距離が近い」


【艦これ】 五月雨「パンダ提督とわたし」


大淀「駆逐艦の子たちはわたしが守ります!」


【艦これ】 葛城 「立派な正規空母になるんだからっ!」


【艦これ】 青葉 「あなたを取材しちゃいます! 」


【艦これ】 秋津洲 「かわいいだけじゃないかも!」 -


【艦これ】 蒼龍 「提督、メリークリスマス……」


【艦これ】 陸奥「堅物なこまったさんね~」


【艦これ】曙「このアホ提督!」 陸奥「アホ提督ね♪」


509: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/20(月) 11:56:06.26 ID:jzf7zw8v0
乙でした
次作も楽しみに待ってます
511: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/20(月) 13:15:37.67 ID:cWhaTVOAo
面白かったわ
この続きも楽しみにしつつ、次回山城とか期待しかない
519: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/22(水) 03:44:15.51 ID:UxICWyMv0

今回も面白かった
521: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/22(水) 12:23:08.27 ID:FUt2TolOO

なかなか良かった
次回作も楽しみにしてるぞ

関連スレ:

この書き手のまとめ
(艦これ中心です)


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