オーフェン「クリスマス? ってなんだ?」

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 20:56:50 ID:JN/MWlem0

 冬。キエサルヒマ大陸には四季による大きな温度変化がないため実感はしづらいが。
 それでも夏に比べれば程度には寒い。
 すっかり暗くなった今は、それがさらに分かりやすかった。

 その闇の底から見上げる空には星々の光がある。
 澄んだ空気の中、トトカンタの建造物に遮られながらも、それは確かに輝いている。
 見上げる者がいれば星の囁く声が聞こえそうな気分にもなるだろう静けさ。
 実際、耳をすませばかすかに聞こえる。鈴の音のような優しい響き。

 その音と共に、一人分の人影がビルの屋上に立ち上がった。

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 20:57:37 ID:Z4//6LgU0

オーフェンとか懐かしい

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 21:01:56 ID:JN/MWlem0

 がっしりと固太りした体躯。
 守る必要もないように見えるそれを、それでも過剰に防衛するように着こんだ防寒着。
 暗い中で分かりにくいが、白い口髭が顔から長く垂れ下がっている。

 彼は闇夜の中、何を言うでもなくじっと立っていた。
 一際高いビルで、そこからは街を一望できる。
 かすかに首をめぐらせて一通りその光景を眺めると。
 人影は音も立てずにそこから姿を消した。

6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 21:04:29 ID:JN/MWlem0

……

「うぐぅぅぅ……」
 冬だが、それでも無論南方のマスマテュリアほど冷え込むことはない。
 だが大陸有数の都市であるトトカンタには、数値的なものとは別種の冷たい風が吹くこともある。
 世知辛い都会の風だ。

「死、ぬ……」
 そんな寒々とした街の片隅、安宿のテーブルに突っ伏す人影がある。
 全体的に黒い。黒髪、黒ジャケットで、虚ろにさまよう瞳も黒。
 首からは銀製のペンダントが下がっている。≪牙の塔≫出身の魔術士を示す証。
 ぐったりと弱る彼――オーフェンは、朦朧とする意識の中静かに計算を繰り返していた。

8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 21:09:47 ID:JN/MWlem0

(四日……九十六時間……五千七百六十分……)
 数字が延々と頭蓋の内側を這いずっている。
 それと共に声が漏れていたらしい。訊ねてくる女の声があった。

「それ、何の日数ですかぁ?」
 ひたすらに明るい声色だ。
 同時に無神経さもそこに感じ取れる。
 彼の現状を見下ろしながら気楽そうにそんな言葉を吐けるというのは、鈍感以外の何物でもないだろう。

 苦々しく彼は答えた。
「最後の食事からの、経過時間だ」

9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 21:15:40 ID:JN/MWlem0

 それを聞いた所で、別段声に変化はなかったが。
「へー。そうなんですかぁ。大変なんですねぇ」

 オーフェンはいらいらと後を続けた。
「ああその通りだ。そのせいで俺は弱弱しいながらも機嫌が悪い。だからさっさと帰って――」
「あ。ありがとうございますぅ」
 この宿の息子、マジクの手から声の主――ラシィ・クルティがパスタの器を受け取るのが視界の隅ながらもはっきり見えた。

「お・の・れ・は……ッ!」
 ゆらりと上体が持ち上がる。そそくさと厨房に逃げるマジクを目の端に、声を張り上げる。
「俺に喧嘩売ってんのか!」

10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 21:21:46 ID:JN/MWlem0

「はい?」
 険悪に睨みつける視界の真ん中で、ポニーテールの少女は特に動じた様子もなくそこにいた。
 テーブルの向かいで、フォークに巻き付けたパスタをそのまま口に運ぶ。

「あああああああ!?」
「なんですかぁ?」
「なんですかじゃねえだろ! わざとか? わざとなんだな!?」
「モグリさんって時々言ってることがよくわかりません」
「お前が言うな!」

11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 21:28:24 ID:JN/MWlem0

 一通り叫んだ後、空腹の引力が戻ってきた。
「ぐ……」
 一気に脱力する身体に活を入れ、念じる。
(頑張れ俺……食物が目の前にあるんだ。へこたれるな、後ほんの一歩じゃないか)

 ふらふらとさまよう指の先から、ラシィは器をひょいとどけた。
「モグリさん、もしかして飢えてます?」
「この状態を見て飢えてないと思う奴がいるなら殺してやりたい……」
 ぱったりと指先が力尽きた。

14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 21:34:26 ID:JN/MWlem0

「ならグッドタイミングですぅ!」
 再びテーブルに崩れるこちらと対照的に、ラシィはなぜか上機嫌だった。
「うう。グッドタイミング……?」
「はいぃ」

 彼女はがさごそと脇にあった鞄を探って、一枚の紙を取り出した。
「これなんですけどぉ」
 虚ろな視線をそこに落とすと、まず見えたのは『世界を救え!』という大見出しである。
 それから下に同じくらい大きな文字で、『クリスマスを食い止めろ!』という一文。

15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 21:43:07 ID:JN/MWlem0

「……なんだこれ」
「お仕事情報ですぅ!」

 ラシィは大陸魔術士同盟の司書官である。
 魔術士たちの生活環境を向上させることを仕事としていて、そのためオーフェンの社会復帰を無理矢理支援している。
 今日ここを訪れたのもそれに関してだろう。
 とはいえ、その紙は求人広告の類にはどう頑張っても見えなかったが。

18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 21:50:57 ID:JN/MWlem0

「クリスマス? ってなんだ?」
「まあとりあえず読んでみてください。なんかすっごいですよぉ」
 言われて仕方なくざっと目を通す。身体に力が入らないためテーブルに顎を載せながら。

「『怪人サンタの撃退、もしくは捕縛にご助力いただいた方には謝礼出します』?」
 内容を要約するとそういうことらしい。

「ラシィ。君はこれを見てどう思ったんだ?」
「モグリさんにぴったりの仕事だなって」
「なんでだ!?」
 思わず再び身体を起こして怒鳴る。

22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 21:59:28 ID:JN/MWlem0

 ラシィはきょとんとして言う。
「だって奇人変人怪人はモグリさん専門じゃないですかぁ」
「確かに変な奴らは集まってくるが! 頼みもしないのに!」
「惹かれあうものがあるんじゃないでしょうかねぇ」
「んな訳あるか!」

 どんとテーブルをたたく。
「俺は平和を愛する民間人だ! 勝手に変なとこにカテゴライズするんじゃない!」
「平和を愛する……?」
「愛してはいるぞ。愛しては。文句あっか?」
「ずいぶん歪んだ愛ですねぇ……」

29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 22:07:20 ID:JN/MWlem0

 微妙に笑顔とは違う笑顔を顔に浮かべながらラシィは続ける。
「まあそれはともかく、それでもモグリさんの役に立つかと思いましてぇ」
「はあ?」
「謝礼、五十万ソケットです」
「ご……!?」

 慌てて読み直す。
 確かに、間違いなく成功報酬は五十万と印字されていた。
 それだけではない。

「『依頼期間中の衣食住はこちらが全て受け持ちます』!?」

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 22:12:45 ID:JN/MWlem0

 目を疑う。
「ね、すごいでしょう?」
「た、確かにすごいが……俺が魔術士として働くのはいろいろと不都合が」
「別に魔術士限定じゃないみたいですしぃ」
「うう……け、けど、上手い話には裏があるんだ絶対。こう、わけわからんやつが」
「ハイリスクハイリターンって言いません?」
「……」

 分かってはいた。そう、分かってはいたのだ。
 どちらにせよそれを受けざるを得ないということは。
 たとえ怪しかろうがなんだろうが、今の彼には他に道はなかったのだった。

34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 22:18:29 ID:JN/MWlem0

……

「クリスマスとは」
 薄暗闇に声が響く。
「恐るべき終末の日なのであります」
 真剣なその声色は、言葉の内容も相まってどこか厳粛な雰囲気を醸し出している。

 オーフェンは黙ってそれを聞いていた。
「邪教徒どもが焦がれる黙示録。その引き金がサンタと呼ばれる怪人です」
 淡々と声は続ける。
「毎年襲来するその怪人を、拙者らは必死に食い止めてきました。この世界の平和のために」

36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 22:24:16 ID:JN/MWlem0

 あくまで声は冷静に続けようとしたのだろう。しかし言葉に熱がこもるのは隠しようもない。
「分かりますかな? そう、拙者らこそが世界の守護者。この世界を真に守っているのはこの――」
 そこで声は一旦言葉を切った。
「クリスマス撲滅委員会、≪フォヌカポゥ≫なのです! コポォ!」

 オーフェンは黙ったままだった。
 無論聞いてないわけではない。半分以上聞き流してはいたが。
 だが聞いていようがいまいがあまり変わりはない。
 口いっぱいに食べ物をかきこんだままでは喋ることもままならなかったのだから。

37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 22:28:32 ID:JN/MWlem0

「オーフェン氏!」
 明かりがともり、小太りの男が怒った様子でテーブルのオーフェンに詰め寄ってきた。
「聞いておられましたかな!?」

「ああ」
 ちぎったパンを夢中で口に詰め込みながら、オーフェンはくぐもり声で答えた。
「怪人を撃退、もしくは捕縛すれば謝礼くれるんだろ」
「確かにそうではありますが!」

 男は不満そうに後を続ける。
「拙者らこそが世界の守護者! ここ重要! 分かりますかな! 拙者、そのリーダーですぞ!」
「あーはいはい、分かった分かった」
 オーフェンは飛んでくる唾がかからないようテーブルの食べ物を守りながら答えた。

38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 22:32:48 ID:JN/MWlem0

「オウフ! ぞんざいな対応! その食事は拙者らが用意して差し上げたというのに!」
 頭を抱えるその男は、どことなく丸い身体をチェックのシャツに包み、野暮ったい眼鏡をかけていた。
 街中で見かけても特に目を引くことのない、そんな人相ではある。

「まあいいでしょう!」
 唐突に立ち直り男はにやにやと笑う。
「広い広い寛大な心で許してしまう拙者、好感度急上昇でありますな。デュフフ!」
 奇妙な笑い方に、オーフェンは顔をしかめた。よくわからない人種、というのが正直な感想だった。
 まあ、そういった手合いに出会うのもこれが初めてではないと言うのが悲しいところだが。

41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 22:36:29 ID:JN/MWlem0

「それはいいんだが」
 あらかた食べ終え、水を喉に流し込みながらオーフェンは息をつく。
「怪人サンタって、一体どんな奴なんだ?」

 男はそれに頷くと、口を開いた。
「先ほど言った通り、世界終末であるクリスマス発動の鍵となる怪人です」
 一歩下がってこちらに背を向ける。

「その身体能力はかのポチョムキンと同等かそれ以上とも言われ、神の放った魔獣やケシオン・ヴァンパイアと同じ種の者ではないかとの噂もありますな」
(ずいぶんと大袈裟な)
 オーフェンは内心呆れながら聞いていた。

45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 22:41:00 ID:JN/MWlem0

 と。男は突然振り返って言う。
「今疑わしいと思いましたな!? 馬鹿げた妄言だと!」
「いや、正直信じる方が難しいと思うが」
「なんと! もしや拙者の言葉が信じられないと申されるか!」
「余計ムズいだろ」

 素直に告げると男は声のトーンと肩を落とした。
「なるほど。そうやもしれません」
「認めるのかよ」
 しかし、と彼は続ける。
「拙者らは確かに毎年その怪人と戦い、撃退してきたのです」

46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 22:43:42 ID:JN/MWlem0

「毎年、ねえ」
「ええ。拙者は仲間たちと一緒に、激化する死闘を乗り越えてきました」
 室内にはオーフェンとこのリーダーと名乗る男の二人しかいないが、聞く話によるとクリスマス撲滅委員会とやらはそれなりの人数の集団らしい。

「リア充どもとの戦いと合わせ犠牲となった者は数知れず」
「リア充?」
「サンタを崇める邪教徒の別称です」
「へえ?」
 あまり興味はないものの、一応頷いておく。

47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 22:47:02 ID:JN/MWlem0

「ある者はリア充への嫉妬に憤死し、ある者は童貞をこじらせて死去。ある者は『俺はヲタをやめるぞジョジョーッ!!』などと血迷いリア充側へ……」
「いやよくわからんが」
「とにかく!」
 男は急に声を荒げた。
「拙者らは散っていった同胞のためにも負けられんのです!」

 男は再びこちらに詰め寄ると、両肩をぐわしと掴んできた。
「協力していただけますな、オーフェン氏!」
「まあいいけど」
 オーフェンはしっかり確認するのを忘れなかった。
「謝礼はきっちり全額現金払いだよな?」

48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 22:50:10 ID:JN/MWlem0

……

 サンタが現れるのは、毎年決まってこの時期の夜間らしい。
 決まった周期。決まって夜。
 そこらへんのところ、何かルールがあるのかと思うほど怪人というのは共通している。

 未知のものを約束事で縛って安心しようという人の無意識の仕事なのかどうなのか。
 そこまで分かるはずもないが、それでも考えてしまうのは、まあ単純に暇だからだ。

「よし、帰ろう」
「コポォ!?」

51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 22:58:41 ID:JN/MWlem0

 呟いたオーフェンの隣から奇声が上がる。
 オーフェンはあくびをしながらそちらを見やった。
「前も聞こうと思ってたんだけど、そのこぽぉって何なんだよ」
「拙者らの合言葉というかそんな感じのアレです! それよりなんと申されましたかな? 帰る?」
「ああ」

 再び妙な声が上がる。
「日が暮れてまだいくらもたっておりませんぞ!」

52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 23:03:44 ID:JN/MWlem0

 彼――名前は聞いたが忘れた――の言う通り、日が暮れてからまだ数分ほどである。
 暗闇に沈む大通りを、ぶらぶら歩いていた。
 いや、隣の男に言わせればサンタ警戒網を張っているということになるそうだが。

「いいですかオーフェン氏! 拙者らはこれからサンタを探し出し戦おうというところなのです!」
「だから?」
「気を張り詰め、闘気をみなぎらせ! コミケよりもさらに激しい気性でもって待ち構えねばなりません!」
「はあ」
 言ってることがやはりいまいち分からない。

54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 23:11:43 ID:JN/MWlem0

「なんですかその返事は!」
「いやだって、もう一週間になるけどサンタとやらが現れる気配すらないじゃねえか。俺はせっかく摂取したカロリーを温存しときたいんだよ」
「これだから都会の軟弱者は」
「お前だって同じだろ」

 オーフェンが言うと、男は何やらフヒッと笑う。
「確かに拙者も都会育ちではありますが、オーフェン氏とは鍛え方が違います」
「ほう」
「拙者はこの大都会の中で孤独に生きる術を身につけているのですぞ!」

55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 23:14:36 ID:JN/MWlem0

「孤独に?」
「デュフフ。ひたすら自室にこもりきり、カーテンを閉め、食べる物は日持ちのする旅の携行食ばかり」
「……」
「暗い中ひたすら書物を読みあさって過ごす日々でした」
「ひきこもり?」

 オーフェンが呟くと、男は顔を紅潮させたようだった。
「ちちち違います失礼な! 拙者ひきこもりなどではありませんぞ!」
「ちなみに書物ってのは?」
「ペ、ペーパーバックの類で……」
「ひきこもりだろ」

57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 23:17:41 ID:JN/MWlem0

 指摘するが、彼は認めなかった。
「確かに漫画は低く見られがちですが! それでも名作はあるのです!」
「そこは関係ないと思うが。例えば?」
「『お兄ちゃん大好きっ子の妹は、倫理道徳関係ないの』」
「ええいいかがわしい!」
 いい加減限界だったオーフェンは男を張り倒した。

「なあにがお兄ちゃん以下略だ! クリスマスだかサンタだかリア充だか知らねえが! そーろそろ俺もキレるぞ!」
「お、オーフェン氏と言えどもおにりんを馬鹿にするのは許しませんぞ!」
 男は意外と素早く起き上がる。
 殴られたことはどうでもいいらしい。

58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 23:21:10 ID:JN/MWlem0

「いいですか! おにりんはお兄ちゃんへの愛を止められない妹の、欲望と倫理意識とがぶつかり合う描写がですな!」
「知るか! 聞きたくもない! それ以上喋ると一文字ごとに謝礼を百ずつアップさせんぞ!」
「ぬう、初見から思っていましたがやはりDQN……」
「やかましい! よくもまあ次から次へとわけのわからない宇宙人的単語でべらべらと!」

 もう一言二言は怒鳴ってやろうと息を吸い込んだその時だった。
 視界の隅を何かが横切った。

「……?」
「? どうなさいましたかな?」
「いや、なにかが向こうを横切った……みたいな?」

59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 23:26:23 ID:JN/MWlem0

 男はそれを聞いて血相を変えた。
「もしや! サンタ!」
 言うなり走り出す。
 オーフェンも慌てて後を追った。

 角を曲がると、そのさらに先の角を曲がる人影。
 暗くて分かりづらいのだが、それでも街灯の明かりの下、それはどことなく赤く見えた。

60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 23:32:43 ID:JN/MWlem0

「赤い人影! 間違いない! サンタでござる!」
 男は懐から呼子を取り出すと、甲高くそれを吹き鳴らした。
 そのまま走って人影の消えた方へ走っていく。

「オーフェン氏! 追いますぞ!」
「……」
「オーフェン氏?」
「いや……」
 気になることがあったものの、あまり深く考えず、オーフェンは後に続いた。

61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 23:38:07 ID:JN/MWlem0

 人影を追って、角をいくつも曲がっていく。
 だいたいはメインストリートで街灯も多く、追いまわすのに不便はない。
 だが、そのことが逆に不気味ではある。

(まるで……おびき寄せられてるみたいだな)
 ぎりぎりついて行ける距離を保って人影は先行していた。

 怪しい。だが。
(五十万ソケット五十万ソケット五十万ソケット……!)
 今のオーフェンは実のところそれどころではなかった。

62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 23:45:14 ID:JN/MWlem0

 さらにいくつかの角を曲がり、着いたのは小さなグラウンド程の広場だった。
 どこにも人影はない。
 オーフェンは舌打ちして辺りを見回した。
(どこに……)

「お、オーフェン氏……」
 大量の汗をかきながら男が後ろから追いついてくる。
「さ、サンタは……」

63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 23:51:27 ID:JN/MWlem0

 見失った。そう告げようとした時だった。
 す……っと広場の中心に黒い影が立ち上がる。
 一瞬前まではいなかったと断言できる。
 街灯の光が届かない暗闇に、その輪郭がぼんやりと浮かび上がっていた。

「あ、あれが!」
 後ろの男が声を上げ、呼子をさらに強く鳴らす。
 それに合わせ、いくつかの足音も背後から聞こえた。撲滅委員会の構成員たちだろう。

64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 23:55:40 ID:JN/MWlem0

「さあ観念するでござる、サンタ・クロース!」
 にわかに興奮の色を見せるリーダーの男と対照的に、オーフェンは頭を抱えてうずくまった。

「オーフェン氏?」
 怪訝そうに訊ねる男の声。
 オーフェンはそれを無視すると、息を吸い込んで一気に立ち上がった。

「我は放つ光の白刃!」

65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/11 23:58:50 ID:JN/MWlem0

 肌寒い風に熱波が混じる。
 刹那に膨らんだ光輝が、夜の闇を切り裂いて猛った。
 轟音が地面を揺らす。

 見やると、人影のあった中心地点で火球が燃え盛っていた。
 魔術の炎のため延焼することはないが、その熱はここにいても肌を焦がすほどだった。
 が、そんなことはどうでもいい。

 炎の中に人影があった。
 豪快に燃え盛る中にあって、全く動じず、熱を感じていないかのようだ。

66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 00:04:54 ID:EhzueqPV0

 まばゆい光の中で、浮かび上がるのは赤いタキシード。
 顔には鼻眼鏡などをかけ、銀髪の頭には赤い帽子をかぶっている。
 見覚えは、もちろんあった。

「キィィィィス!」
「黒魔術士殿ぉぉぉぉ!」
 こちらに呼応して赤ずくめの執事が叫び、空に舞い上がる。
 そもまま二回転ほど宙返りを決め、鮮やかに眼前に着地する。

「メリークリスマス!」

67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 00:10:56 ID:EhzueqPV0

 何やらぐねった奇怪なポーズまで決めている彼――キース・ロイヤルに対し、オーフェンは声を荒げた。
「キース、てめ、どういうつもりだ!」

 かなり険悪に睨んだつもりだが、キースは炎の中にいたときと同様、涼しげに無視してこちらに向き直った。
「いやあ、奇遇ですな」
「嘘こけ絶対ここ最近の俺の行動を把握してただろ!」
「滅相もない。黒魔術士殿があの有名な怪人サンタを狙っていることなどつゆほども知りませんな」
「ほらやっぱりこの野郎!」

71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 00:18:28 ID:EhzueqPV0

 手を戦慄かせて詰め寄る。
「楽しいか? 人をおちょくって楽しいか!?」
「黒魔術士殿、何をおっしゃられるのですか」

 珍しく厳しい目で銀髪執事はこちらを見つめた。
 なんとなく気圧されて息をのむ。
 キースは一言一言区切るように、きっぱりと言い放った。
「楽しいに決まっているではないですか」
「我は築く太陽の尖塔」
 燃え盛る炎が再び銀髪執事を呑みこんだ。

73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 00:22:23 ID:EhzueqPV0

 だが炎の中から笑い声が響く。
「ははははは! 無駄ですぞ黒魔術士殿!」
「くそ! なんで……!」
「これは怪人サンタを模したタキシード! 煙突暖炉を乗り越えるために耐熱使用なのです!」
「説明されてるのに余計訳が分からないってどういうことだ!」

 破れかぶれでさらに破壊的な構成を編む。
「ええい、腹も膨れてるしいい機会だ。ここで決着をつけてやる!」
 勢いづくオーフェンに、しかし冷静にキースは告げてきた。
「いいのですかな?」
「何がだ」
「黒魔術士殿も結構鈍感ですな」

76: ミスった 2012/12/12 00:25:11 ID:EhzueqPV0

 はっとして振り返る。
 気づいていないわけではなかった。あまりにも静かなことには。

 振り返った先でオーフェンが見たのは、倒れ伏す撲滅委員会の構成員たち(何故か全員イラスト付きのTシャツだった)。
 それからその向こうに立つ人の群れ。
「なんだ!?」

78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 00:31:14 ID:EhzueqPV0

「オーフェン氏……」
 足下から声がする。見下ろすと委員会のリーダーがそこにいた。
「あれが、邪教徒リア充でござる……」
 告げて、気を失う。

「あれが?」
 オーフェンは訝しく思いながら声を上げた。

81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 00:36:49 ID:EhzueqPV0

 数は十人ほどだろうか。それほど多くはなかった。
 邪教徒と言われて想像していた格好とは程遠い。オーフェンが訝しく思ったのはそのせいだ。
 彼らは全員、何の変哲もない一般人に見えた。

「お前もフォヌカポゥの一員だな?」
 その中の一人が進みでて声を上げる。
「偉大なるクリスマスとサンタ様のため、お前を排除する」

83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 00:41:58 ID:EhzueqPV0

 吐き捨てるように言って構えるのは、およそ一般人には似合わない凶悪な形のクロスボウである。
 周りが構えるのも同じような飛び道具だ。

「……」
 先手を打たれたことを悟る。
 この状況ではこちらが魔術を放つよりあちらが攻撃してくる方が早い。

85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 00:45:54 ID:EhzueqPV0

(……どうする?)
「大変そうですな黒魔術士殿」
「誰のせいだと思ってる」

 半眼で肩越しに振り返る。
 先ほどまで燃え盛っていた炎は消え去り、キースが変わらずそこにいる。
 いや、何故か服装が赤タキシード諸々からいつもの装いに戻っていた。
 いつの間に着替えたのかは謎だが、まあいつものことではある。

87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 00:49:57 ID:EhzueqPV0

「ですが問題ありません。こんな時のために用意している手があります」
「は?」

 声と同時かそれより早く、駆け寄ってくる足音が聞こえた。
「そこまでよ!」
 邪教徒だかなんだかの向こう側、明かりを掲げ、制服を着こんだ集団がいた。
 派遣警察隊だ。
 その先頭に立っているのは――

89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 00:54:28 ID:EhzueqPV0

「くらいなさい!」
 その人物が投げたダーツが、大きく狙いを外してこちらに飛んできた。
 軽く避けて、半眼でそれをはたき落とす。

 頭を押さえて呟く。
「コギー……」
 見覚えのある小柄な女が視界に入った。

91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 00:58:03 ID:EhzueqPV0

「夜中に騒ぎ過ぎよあなたたち! 騒ぎたい年頃か知らないけど皆が迷惑してるでしょ!」
 ダーツを外したことはどうでもいいのか、コギーは肩を怒らせて叫んでいる。
「でも誰が一番迷惑してるって、こんな夜中に引っ張り出されて厄介事を押し付けられてるわたしなんだからね! そこんとこ分かってる!?」

「コギー」
「わたしは意味もなく穴を掘って埋める作業を繰り返させられてたからからもう疲れてるの! 寝たいの!」
「おーい」
「だからさっさと捕まってわたしの評価をあげなさい! ――って」

 彼女はようやくこちらに気づいたようだった。
「オーフェン?」

93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 01:01:57 ID:EhzueqPV0

「うむ」
「もしかしてさっきまでの爆音諸々って」
「ああ。俺だ」

 大きく頷き、それから深く頭を下げる。
「ありがとうコギー」
「へ?」
「我は放つ光の白刃」
 熱衝撃波の渦が、目の前の全員を呑みこんで爆発した。

96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 01:10:11 ID:EhzueqPV0

「あいつらの気をそらしてくれるなんて。無能警官が初めて人の役に立った瞬間か……感慨深いというか何というか」
 目頭を押さえて呟く。流れない涙をぬぐって、オーフェンは息をついた。
「ま、これで一段落ってとこだな」

「さすがは黒魔術士殿」
 つつとキースが隣に寄ってくる。
「わたくしめの助力は必要なかったようですな」

98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 01:15:49 ID:EhzueqPV0

 ぱちくりと瞬きする。
「へ? お前があの無能警官を呼んだんじゃないのか?」
「ははは。黒魔術士殿もおかしなことをおっしゃいますな」

「何が言いたいんだ?」
「わたしも物理法則には逆らえません。コンスタンス様をお呼びするなど不可能です」
「いやどう考えても嘘だろそれは」

100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 01:21:58 ID:EhzueqPV0

 半眼で告げて、それから気づく。
「まあ確かにお前が俺の役に立つことをするなんておかしいとは思ったんだ」
「ですから、わたしがお呼びしたのはこの方です」
「やっぱりお前物理法則に従う気ないだろ」

 言いながら向ける視線の先には。
「――っ!」
 赤い、がっしりとした体格の老人がいた。

101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 01:26:33 ID:EhzueqPV0

 赤い帽子に赤い防寒着。
 大柄な体格をしていておおよそ一般的な『老人』とは程遠い。
 それでも老人と認識したのは、口元から伸びる長い白髭のせいだ。
 悠然と、焦げた地面――つまり先ほどキースがいた広場の中央地点に、白い大きな袋を担いで立っていた。

「あれが……サンタ?」
 呆然と、声が漏れた。

104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 01:31:30 ID:EhzueqPV0

「黒魔術士殿」
 隣から、真剣な表情でキースが声をかけてくる。
「なにやらあっさり最終局面です。誰も予期しなかった急展開ですな」
「いや、お前は予期してろよ連れてきたんだから。どうやってかは知らんが」

 オーフェンは肩を回して前に出た。
「あんたがサンタだな?」

105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 01:35:06 ID:EhzueqPV0

 老人は無言だった。立ちつくしたまま身じろぎすらしない。
 構わずオーフェンはすたすたと距離を詰める。

「あんたに恨みはねえが、仕事なんでね。ちょいと痛めけるが勘弁しろよ」
「さすが黒魔術士殿! なにやらヤンキーですな!」
「やかましい!」
 叫んで、飛び出した。

106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 01:42:06 ID:EhzueqPV0

 踏み込みは意識して浅くした。わざと間合いの半歩外から左手を放つ。
 狙うのは眼球。と見せかけ、それをフェイントにして横に潜り込む。
 さらに足を狙って蹴りを放つが、それもフェイント。
 素早く引き戻して、さらに回り込む。

(これで――!)
 相手の致命的な死角に入りこんだ。
 踏みつけるように狙うのは相手の膝裏。この腱を打ち抜けば、もう行動はできない。
(勝った!)

109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 01:46:12 ID:EhzueqPV0

 ……勝利を確信した瞬間に敗北するのは初めてではなかった。
 が、これほど理解ができないのは恐らく初めてだったように思う。

「ぐ、が……」
 オーフェンは首元を締められ、苦悶の息を漏らした。
 地面に押さえつけられて全く身動きが取れない。

110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 01:49:29 ID:EhzueqPV0

 老人が勝ち誇ったように笑うのが滲んだ視界に映った。
「めぇぇぇりぃぃぃくりすまぁぁす……!」
 しわがれ声がその歪んだ口元から漏れて聞こえる。

 意識を失うのを、オーフェンは絶望的に自覚した。
 だが、それに抵抗できようはずもなかった。

112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 01:58:20 ID:EhzueqPV0

……

 目が覚めたのはその数分後といったところだろうか。
 意識が戻って最初に見えたのは、天から降る無数の白だった。
 それがなんだか理解するのには時間がかかった。

「雪、でござる」
 声がした。
 ずきずきと痛む頭を押さえて上体を起こすと、肩を落として座り込む男が視界に入った。
 撲滅委員会のリーダーだ。

113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 02:03:20 ID:EhzueqPV0

「雪?」
「拙者らの負け、と言う事ですな……」

 意気消沈した様子で男は続ける。
「雪が降れば街のカポーどもは大喜び。拙者らのようなキモヲタは居場所がない……まさしく終末です……」
「よくわからんが……」

 オーフェンは訊ねる。
「五十万ソケットは」
「ああ! もう終わり! 終わりでござる!」
 半狂乱で男は立ち上がる。そのまま叫び走って夜の闇に消えた。

114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 02:03:57 ID:EhzueqPV0

 しばし無言でオーフェンは座りこんでいた。
 頭の中で分かることと分からないことをより分け、しぶしぶ理解した。
(謝礼、もらいそこねた……)

 空を見上げる。雪は優しく降り注ぎ、まだまだやむ様子はない。
 明日には街は雪景色だろう。
 トトカンタに雪が降るなど聞いたこともないが。

 ふと。手に当たる物に気づいて、オーフェンは見下ろした。
 ふかふかと柔らかい手触り。
「……なんだ? 靴下?」

115: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 02:05:16 ID:EhzueqPV0

 ずいぶん大きなもので、これを履くのは身の丈三メートル以上の巨人ではないかと思われる。
 訳が分からず持ち上げると、中に何かが入っているようだった。
 取り出して手の上のそれを眺めた。

「桃缶……?」
 首をかしげると、いつの間にか頭の上につもっていた雪がぱらぱらと落ちた。
 桃缶の上にも雪は降り注ぐ。

 再び空を見上げる。かすかに聞こえる鈴の音。
 オーフェンはとりあえず立ち上がった。
 そして徒労に終わった今回の騒動を思いつつ、来年こそは幸せになろう、とひそかに誓った。


(そのまま隅で凍えてろ!:おわり)

118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 02:23:48 ID:A/FE6Lzv0

面白かったw

119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/12 02:25:03 ID:oszcl/yU0

乙乙
原大陸編もっと流行るといいな
枯れた師匠も次で大活躍予定だ



お勧めSS:

キリランシェロ「アザリー…風呂上りに下着だけはちょっと…」


マジク「クリスマス? ってなんだいラッツベイン」


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元スレ:オーフェン「クリスマス? ってなんだ?」

http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1355227010/
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とあるSSの訪問者

懐かしかった

とあるSSの訪問者

オーフェン好きだったなー


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