ほむら「ラムダ・ドライバ?」【後編】

197 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:24:09.32
前スレ:

ほむら「ラムダ・ドライバ?」【前編】




契約のオン・マイ・オウン


何処かの戦場


異空間が崩れ去る。
彼女は魔女を倒すことに成功した。
だが、異空間から出ても危険は去らない。
出口は、戦場に繋がっているのだから。


世界は、狭いものだ。
時にそれを強く実感することもあるのかもしれない。

二つの危険な世界を行き来する人間がいてもおかしくない。

現に宗介は今でこそは現代の戦場には赴かないが、普段は兵士として過ごし、そして学生になりすまし、魔女の結界で魔法少女と共に戦っている。

ならば、現代の戦場と魔女の結界を日常として行き来しながら生きる少女がいても不思議ではないのだ。
198 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:24:50.31
「やぁ、君に会うのは久しぶりだね」

どうやら、戦闘は継続しているよで銃弾が飛び交っている。
そこには、戦場には似合わない可愛らしい白い影。

「君に、お願いがあって来たんだ」



「君にとっても悪い条件じゃない筈だよ」




「よかった、引き受けてくれるんだね」




話しているのは、全てインキュベーターだ。
所々は銃声で聞き取れない。
だが重要な部分はしっかりと聞き取れていたようだ。
199 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:25:45.88







「鹿目まどかの拉致を」






200 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:26:28.81
学校屋上


なんやかんやで、マミたちは杏子が見滝原で狩りを行う事を許可したようだ。
元より見滝原は魔女が多く、四人では少し手が余る程の数の魔女が人々を脅かしている。

魔女のみを狙う杏子が居るだけでも、助かる程に。

魔法少女からしてみれば、最高の環境だろう。
宗介からしてみれば、はた迷惑なのだが。

そんな中、ほむらだけは異常を感じていた。

(この時間は、イレギュラー過ぎる)

織莉子とキリカがいる。
それは、他の時間でも稀に現れた。

宗介はどうだろう。
この時間で初めて出会う人物だ。
そして、その仲間も。
兵器すら、ASと言うこの世界には馴染み深く、ほむらにとっては未知としか言えないものが存在する。

何よりイレギュラーだと感じるのは、見滝原に圧倒的なまでの量の魔女が巣食っている事だ。

ここ最近は毎日のように狩りを行い、そして毎回魔女に遭遇している。
グリーフシードに困らないのは良いのだが、まどかの護衛に支障が出る。
その点では、ほむらと宗介は同じ悩みを抱えているようだった。
201 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:27:25.29
「それで、なんで貴女がこの学校にいるのかしら?杏子」

どうも出来ない事で悩んでいても仕方ないと、ほむらは目の前の悩みを解決する事にした。

「そんなん決まってんじゃん、マミの飯を貰いに来たんだよ。
毎日ジャンクフードじゃゆまの健康に良くないしな」

今は昼休みだ。
杏子はマミから昼食を貰おうと学校に侵入したらしい。ゆまも一緒だ

「そんな事だと思って、お弁当を余分に作っておいたわよ、佐倉さん。ゆまちゃんの分も勿論あるわ」

流石の元師匠と言うべきなのか、杏子がどう出るかをマミは把握していたようだ。
マミの弁当はサンドイッチだからか、数の調整はしっかりとしている。

そんな中で、ほむらと宗介は相変わらずカロリーメイトを齧っている。

「あんたらはいつもソレだね……」
と、さやかはほむらと宗介を指す。

さやかとまどかは、ごく一般的な弁当だ。

テッサは今日はTDDに戻ったらしく、この場にはいない。

そして、つい最近になって登校するようになったキリカは。
202 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:28:04.50
「あ……織莉子から弁当貰い忘れた……」

弁当を忘れてしまったらしい。
しかも、愛妻とまではいかなくとも、手作りを。

「なら呉さんもどう?
三人分にしては多くし過ぎたみたいで」

そう言うとマミはキリカにサンドイッチを差し出す。
無言のままキリカはそれを口に運んだ。


ほむらと宗介はこうして過ごす平和な昼休みが好きだった。
他のみんなもそうかもしれない。
恐らく、マミとさやかは少なからずそうだろう。

この時間が終われば、また死と隣り合わせの魔女狩りなのだから。

「そういえば、相良くん最近はあのコート着てないね」

ふと、まどかが尋ねてきた。

「あぁ、気候的に不要だと判断した」

気候的に不要だと言うのは本当の事だが、真の理由はベヘモスの出現によりいつでも<レーバテイン>を出せる準備の為に、アルを機体に戻したからだ。
なので、今はアルが搭載されたコートではなく、元々のキザったらしいデザインのアクティブな防弾衣となっている。
それでも宗介は大型の鞄の中に銃器や教科書ノートと共に忍ばせているのだが。

「暑そうだったからねぇ、あれ」
と、さやかの感想。

この中では、杏子とキリカだけは見た事がない。

「へえ、てっきりボン太くんしか変なモンは着てねえと思ってたけど、そんな季節外れのコートまで着てたのか」
杏子はサンドイッチに噛り付きながら笑っている。

「むぅ……キョーコ!ボン太くんは変なのじゃない!」
変なところに敏感なゆまは杏子に反論する。

「そうだぞ佐倉。
ボン太くんはあのサイズでアレだけの戦術性を持っている。
なんなら量産型を一つ譲るが」

「ソースケも!ボン太くんはそんなのじゃないの!!」

純粋にボン太くんが好きらしいゆまの苦悩は絶えなかった。


そんな平和なやり取りを見て、ほむらは「あぁ、こんな時間がいつまでも続けばいいのに」と思ってしまった。
203 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:28:34.18
一時間程戻って、美国宅


マオは最近の拠点をこの家にしていた。
嫌々でやっていた織莉子のメンタルケアだが、なんだか放っておけなくなり、今では広過ぎる家に居座っている。
ちなみに、テッサもこの家に居候している。

ふと、テーブルを見ると弁当が一つ置かれていた。
だが、今は織莉子は学校に通っていない為に弁当は必要ない筈だが。

そこまで考えるとマオは今朝立ち寄ったキリカに渡すものだと結論づける。

「おーい、オリコー。
キリカが弁当忘れてんよー!」

大きめの声で織莉子が聞こえるように言うと外の薔薇園から「えっ!」と声が聞こえた。

ドタドタと音を立てながら織莉子は外から入ってくる。

「ほら、コレ」

「っ!?」

織莉子は驚愕した。
机に渡す筈の弁当が置かれていたからだ。

「いや、そんなに驚く事でもないでしょ……」

大きすぎるリアクション。
思わずマオはツッコミを入れる。

織莉子は時間を確認するが、まだ昼前だ。学校に持って行けばかなり余裕で間に合うだろう。

弁当をひっ掴むと織莉子は玄関へと向かう。

「外に出て平気なの、オリコ?」

マオは心配をした。
当然だ、つい先日まで家の塀に落書きされる程には嫌われ者となってしまっているのだから。

「ええ、何をするにしてもこの家から出られなければ。
そうでなくてはキリカに申し訳ないですから」

そう言う織莉子はにっこりと笑って、つい先日までのような暗い表情は影もなかった。

「わかった。気を付けなよ」

そう言うとマオは手を振って見送った。
織莉子は確実に良くなってきている。
そう思うとマオは少しだけ頬が緩んだ。
204 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:29:15.07
見滝原駅


「んんー!はるばるやって来たぞ、ミタキハラ!!!」

駅に一人、艶やかな黒髪で長髪の少女が降り立つ。
千鳥かなめだ。
人がいないからか、つい一人で叫んでしまう。

「とは言え、こんな時間からどうしようか……」

時刻は平日の昼間。
人も居なければ、宗介が何処にいるかもわからない。
そうだ、通信機に連絡しよう。

かなめは鞄から今時の女子高生とは思えないような大型の電話のような物を取り出す。
実はこれ、電話ではなく宗介から渡された通信機だ。

「あ、ソースケ?いま何してんの?」

『む、千鳥か。今は学校だ』

「え?学校?」

かなめは任務としか聞かされていなかった。
何故学校にいるのかはわからない。

『そうだ。何か用があったか?』

「見滝原に着いたんだけど、どうしようかなーって」

『そうか。ならば今から指定する住所に向かうといい。マオがいる筈だ』


そう言われると、かなめはとりあえず指定された住所へと向かった。
205 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:29:51.77
美国宅前


「うっわー、でっかい家」

目的地に着くと、その外観を見てかなめは感想を思わず漏らした。

だが、所々窓が修復された形跡がある。
表札を見ると<美国>と書かれていた。
何となくでしかニュースを見ないかなめは「あ、なんかやらかした議員の人か」程度にしか思わない。

インターホンを押そうと一歩進んだ所で、いかにもお嬢様といった感じの少女が出てきた。

「?」

目が合うと首を傾げられた。

「あの、どちら様で?」

至極当然の質問だ。

「あ、あのー、ここに居るって人に用があったんですけど……メリッサ・マオって人、居ませんよね……?」

かなめはどう考えてもマオが居るとは思えなかった。

「あぁ、マオさんのお知り合いでしたか。
中に居ますよ。どうぞ、上がって下さいな」

本当にいるのかよ!とかなめは心の中で突っ込む。

「あ、ありがとうございます。
あ、そうだ。あたしは千鳥かなめ。ここで会ったのも何かの縁かもしれないから、よろしくお願いしますね」

礼儀の正しい挨拶をする。
あまり自分には合わないな、とかなめは自嘲しそうになる。

「私は、美国織莉子です。
多分、千鳥さんより歳下ですので敬語は使わなくて平気ですよ」

こちらの内心を見透かしたように言ってきた。

「ありゃ、そうなの?ありがとう。
あたしにも、敬語なんて使わなくて平気だよ」

と言いながら少しだけ腕時計を確認する。
まだ昼前だ。
なのに織莉子は弁当を持って出かけようとしている。

「ささ、どうぞ上がって?」

そう言って疑問を口に出す前に上がるように勧められた。
織莉子は出かけようとしていたが、かなめを家に上げると自分も上がった。

「ごめんね?
どっか出掛けるんだったんでしょ?」

心底申し訳なさそうにかなめが言う。

「いえ、ただ弁当を渡し忘れたから学校に向かおうとしてたんですが…まだ早そうなので、もう少し家に居ますよ」

織莉子は丁寧な言葉遣いで説明した。
かなめは薄々「この子は敬語を使うのに慣れているんだな」と気がつき、追求をするような事はしなかった。
まだ子供なのに、学校に行かない事も聞こうとは全く思わなかった。
206 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:30:29.32
美国宅


「お!カナメ!久しぶりね」

「こっちこそ、久しぶりです」

二人はそう言うと、軽く挨拶代わりのハグをした。

マオはアメリカ育ちで、かなめもアメリカで生活していた時期があるため割と普通の挨拶だと思っている。

だが、純日本人の織莉子には異文化としか言いようがなく、誤解を招いてしまったようだ。

「……えっ?お二人はそう言う関係で……?」

少しだけ顔が引き攣っている。

「ん?まぁカナメとは友達よ?」

マオはケロっとしている。

「あぁー……織莉子?別にあたし達はレズじゃないよ?」

マオは何故引いているのかわかってなかったようなので、かなめが説明する。
あまりにストレートな物言いに思わず織莉子は噴き出した。

「え、えぇ、良かった……」


それからマオは、かなめに宗介の任務と魔法少女と魔女について知っている事を教えた。
色々とこの街は危なっかしい事と、あまり魔法少女の事には首を突っ込まない方がいい事も。


「そうですか……ありがとう、メリッサさん」

「いいって事!
それよりオリコ、時間いいのかい?そろそろ昼飯渡さないとヤバイんじゃない?」

そう言われて織莉子はチラリと時計を見る。
時間は昼休みの15分前を指していた。

「!?大変、早く行かないと!!」

「だから驚き過ぎだって…」

同じ内容を二度目のツッコミを入れる。

「それじゃあ、キリカにお弁当を渡しに行ってきます!」

「あ、待って織莉子!
あたしも一緒に行っていい?」

学校に行けば宗介に会えるかもと考えて、着いて行く事を提案する。

「構いませんよ?
それでは、行きましょう千鳥さん」

「うん。
それじゃあ、行ってくるねメリッサさん。また後で戻ってくるよ」

そう言うと二人は足早に学校へ向かった。
207 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:31:01.09
何処かのビル、屋上


「まさかな……本格的にやる気らしいな」

クルツはM9の狙撃砲のスコープから3機のベヘモスを確認した。
学校へと向かっている。

「やべえぞ……恐らく、コダールもエリゴールも居るだろうな……姐さんに知らせねえと!」
208 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:31:41.17
再び、美国宅


マオにクルツからの連絡が来たのは、織莉子とかなめが出発して丁度15分程経った頃だった。
恐らく二人は学校に到着しているだろう。

『こちらウルズ6!
ベヘモス3機を確認!
繰り返す、ベヘモス3機が学校に向かってる!』

恐らくTDDにも回線を繋いでいるのだろう。
クルツは真面目な口調だ。

「こちらウルズ2、あたしもM9で向かう!」

『こちら、アンスズ。こちらもミタキハラの近海に居るので援護に向かいます』

『こちらウルズ7、了解。
レーバテインを指定ポイントに発射を要請します。
ポイントは発信器を辿って校舎脇の校庭』

やはりこの回線は宗介も聞いていたようだ。

『了解。ポイント確認。
レーバテインは5分後に到着予定です』

「それと、ソースケ。
そっちにカナメとオリコが行ってるらしい。絶対にヘマはするんじゃないよ!」

『千鳥が…?』

見滝原に着いた事は知っていたが、何故学校に来たのかはわからない様子だ。

「オリコが弁当を届けるってから、それに着いて行ったみたいね。
それじゃあ、また後で」

それだけ伝えると、マオは通信を切りM9に乗り込んだ。
209 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:32:24.85
学校、屋上


「暁美、マズイ事になった」

宗介は小声でほむらにだけ伝える。

「廃工場での大型ASが3機、ここに向かっているらしい。
恐らくその他のASも潜伏している可能性がある。
テレパシーで魔法少女にだけ伝えてくれ」

ほむらは表情を変えずに頷く。

(ここにいる魔法少女に伝えるわ。
まどか、キリカには言わないで頂戴。
この間の大型ASその他がここに向かっているわ。
二人をそれとなく避難させて、私たちはそれに備えるわ)


これで、マミさやか杏子には伝えられた筈だ。
ベヘモスを知らない杏子には後からマミにでも説明してもらおう。

放送が鳴り響く。

『3年◯組の呉キリカさん。3年◯組の呉キリカさん。
一般用昇降口に弁当を届けてくれた美国織莉子さんと、千鳥かなめさんがいらっしゃいました。
至急、一般用昇降口に来て下さい』

ピンポンパンポーン。と軽い音と共に放送は途切れた。
平和な学校だ。
だが、ここにいる魔法少女と宗介はここが戦場になるかもしれない、と焦っていた。

「織莉子……来てくれたんだ…」

キリカは今の放送を聞いてニヤニヤしている。

「もう片方は俺の知り合いだ。
すまないが俺も降りるぞ」

あたりを見ると、まだ食事中だ。
まどかに知られずに校舎内に入れるのは難しいかもしれない。
210 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:32:57.91
通信が入る。

『こちらウルズ2。
放送室の回線を少しだけ使えるようにしたから、屋上からエンジェルを校舎に戻すよ』

そう言って通信が切れると、再び放送が流れた。

『えーと、あ、光化学スモッグ警報発令。
屋上の生徒は至急校舎内に戻るように!以上!!』

その口調は明らかに教職員のものではないし、声はマオのものだったがまどかを信用させるには充分だった。

この放送で、魔法少女たちは「本当の事だ」と緊張を高める。

「それじゃあ、校舎に戻りましょう」

とほむらが立ち上がる。

「そうね。美樹さん、鹿目さん、行きましょう」

そう言ってマミは二人を立たせる。

既にキリカと織莉子は校舎に降りていた。
ほむらは、まだ降りていない。

「そうですね。
ほら、まどか。行こっ!」

さやかはまどかに手を差し伸べる。
まどかはその手を受け取った。

そして屋上には、ほむら、ゆま、杏子が残っている。

「二人とも。これは魔法少女には関係のない戦いよ。
死ぬ事はあっても、報酬なんてない。グリーフシードなんてもっての外だわ。
風見野に一旦戻った方がいいと思う」

それだけ言うと、足早に校舎に降りて行った。
211 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:33:34.48
一般用昇降口

宗介とキリカはできる限りの駆け足で降りて来たようだ。

「ソースケ!」

その姿を確認して、かなめが名前を呼ぶ。
織莉子はキリカに弁当を渡した。
その時だった。

放送が入る。
ピンポンパンポーン。

『この学校にいる皆さん、こんにちは』

少しだけカタコトの日本語。
放送用のテレビに一人、少女が映る。手にはソウルジェムを持っているのは、ワザと見せているのだろう。

『この学校は我々が占拠しました。
これから皆さんを殺します。
要求は特にありません。
それではさようなら』

それだけで、放送は途切れた。

(侵攻が思っているよりも早い)

宗介は既に学校の中にアマルガムが入り込んでいるとは考えていたが、これ程とは。

「千鳥、美国、呉!!
事情が変わった!走るぞ!!」

校舎内から悲鳴が聞こえる。
ふと、遠くの校舎を見ると視界が歪んだ。
(まさか…魔女を使っているのか!?)

しかも、校舎の至る所で。
視認しただけでも3ヶ所だ。
南棟、北棟、そして、校舎東側。


外出ればASの脅威に晒される。
212 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:34:31.27
「宗介っ!」
後ろからほむらたち、魔法少女全員とまどかが駆けつけた。

「すまない、暁美!この三人を頼んだ!」

宗介はそれだけ言うと、三人をほむらに押し付けて外へと駆け出した。

「中も危険だが、外はかなり危険だ。
魔女の方はなんとかできるか?」

「やらなきゃならないんでしょう?」

校舎の外へ出ようとする。
その前に、向き直りかなめにアクティブな防弾衣とイヤリングを渡す。

「千鳥、これを」

「このコート……レナードのあれ?」

「そうだ。それと、イヤリングには小型の爆弾を仕込んである」

説明を終えると、外へと向かう。
その時。
巨大な人型が遮った。
アマルガムが量産するラムダ・ドライバ搭載型AS
形式上の名前は確か…

「コダールか…!」

そのモノアイは宗介ではなく、校舎のまどかやほむらたちを捉えていた。

「マズイっ……!」

AS規格のアサルトライフルがそこに向けられる瞬間に。

黒い影が乗りかかり、<コダール>は沈黙した。
黒い影の正体はM9だ。
そして、黒いカラーリングにクルツやマオの物とは違う頭部の形状。

「ファルケ…………!クルーゾー大尉か!」

ファルケのスピーカーがオープンになる。

『久しぶりだな、サガラ。
アルはすぐに到着する』

すぐにファルケは大きく跳躍して姿を消した。

「すまない……巻き込むつもりはなかった」

そう言うと今度こそ宗介は校舎から飛び出した。

そして、その先の校庭に。

爆音と共に「何か」が着陸した。
213 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:35:24.00
<レーバテイン>だ


その周囲には既にもう一機<コダール>が迫る。
今から走って乗り込むのには間に合わない。

攻撃される…!
そう思ったが、<レーバテイン>は無事だった。
<コダール>は攻撃されるよりも先に、何処からかの狙撃を受けたらしい。

(クルツか…!)

その隙に宗介は<レーバテイン>に搭乗する。
武装はいつも通りの設定だった。

「おかえりなさい、軍曹殿」
アルが機械音声で話す。

「あぁ、まずは敵を殲滅するぞ」

「ラージャ。付近の敵機は…」

数を聞く。
想像以上の数だが退くわけにはいかなかった。

「行くぞ、アル!」

「ラージャ」

生き抜く為、そして守り抜く為に。
宗介とアルは疾走を開始する。
214 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:35:59.43
校舎内

既に校舎の殆どは魔女の結界に巻き込まれてしまったようだ。

宗介に押し付けられた三人は魔女の結界に入った事こそ無いが、その存在は知っているらしい。

軽く自己紹介を済ませると、移動を始める。

早く魔女を何とかしなければ、死者が大量に出てしまう。

手始めに、近くの南棟から倒しに行こう。
戦えないまどか、織莉子、キリカ、かなめは簡易の防護結界を作って階段の裏の発見されにくい位置に留まるようにした。
使い魔程度には破れないだろう。

『北側の魔女はあたしたちに任せな』

突然ほむらの頭の中でテレパシーが届く。
杏子の声だ。
さやかとマミも聞こえているらしい。

(わかったわ。そっちはお願い)

(私からもお願いするわ、佐倉さん)

(ありがとう、杏子!)

三人はテレパシーで三様に感謝を伝える。

ほむらは走りながらチラリと上の階、転校初日にまどかに警告をした渡り廊下を見上げる。

見覚えのない魔法少女がいた。
見覚えがないと言うと、嘘になる。先ほどテレビに写り込んでいた、首謀者なのだから。

「巴さん!さやか!
そこにいる魔女をお願い!」

そう言うとすぐにほむらは通路から逸れて階段を駆け上がった。

「ほむらは!?」

「上の階に首謀者を見つけた!私が行くから魔女を!」

叫びながら姿を消した。

(その位置で待つなんて…………随分と馬鹿にしてくれるじゃない)

願いの為、仲間の為に。
それぞれの魔法少女は、疾走を開始する。
215 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:36:32.99
昇降口付近、階段裏

まどか、織莉子、キリカ、かなめは隠れていた。
尤も、結界の中の為他の生徒よりも比較的安全だが。

しかし、実のところかなめは結界が作られる際に四人が入り切らないと分かっていたために、結界の外にいるのだ。

「だいじょーぶだって、マドカ!自分を責めない!」

その事を知ったまどかは負い目を感じていた。

「第一、あんな鈍感お化けなんかに見つからないって!」

本当は少しだけ怖いような気がした。
膝が震えるのは、武者震いなのだと自分に言い聞かせて誤魔化す。

自分には、この子たちよりも安全なように装備を渡されている。
先ほどのアクティブな防弾衣と、爆弾が仕込まれたイヤリング。
既に防弾衣は着ている。
イヤリングも、勿体無い気がするがいざとなれば、使うつもりだ。

「ごめんなさい、千鳥さん……」

人間不信気味の、キリカも申し訳なく思っているようだ。

「平気だって!そこから出なければ問題ないんだから」

三人を元気付けるようにかなめは励ます。

その時だった。
階段のすぐそばから悲鳴が聞こえたのは。
216 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:37:09.70
出ないように言われたが、ここで助けない方がいけない!

千鳥かなめは塔の上で泣いて迎えを待つお姫様ではないのだ。

近くの菱形が連なった棒状のオブジェクトを引っこ抜き、階段から飛び出る。

「うおりゃああああああ!!!」

気合を入れて、女子生徒を襲っていた使い魔を棒で殴り飛ばす。
いつも、宗介にツッコミをいれていたように。


通路が結界から出なくともその気になれば見える位置なのは不幸だったかもしれない。
その光景を結界内の三人も見てしまった。

それだけならば良かったかもしれない。
だが、その他にも大量に襲われる生徒の数々。
あまりに、多過ぎたのだ。

かなめは、襲われていた一人を連れて階段の裏に隠れさせる。

「か、かなり多い……」

どんな時でも反抗してみせたかなめも、流石に少しだけ弱気になる。


織莉子は自分の世界をまた破壊される様な気持ちだった。

この人たちは、自分を美国議員の娘ではなく、一人の人間として見てくれる。
それなのに、わけの分からない理由で。
破壊される。
217 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:37:52.10






壊されてしまう。





218 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:38:24.56
「キュゥべえ!!!居るんでしょう!!!!」

気が付いたら、織莉子は叫んでいた。

「やぁ、大変そうだね。それで、何か用かい?」

可愛らしい外見だが、憎たらしいやつだと織莉子は思った。
こんな奴に利用されるのは癪に触る。
それでも守らなければならない。

父が愛した、平和の為にも。
その平和を守る為にも。


「契約よ…………
私は、私を必要としてくれたこの……父の愛した世界を守りたい」


言ってしまった。
その契約がどれだけ理不尽な物かは知っていた。
それでも、織莉子には必要だったのだ。この願いが。

「生きる意味なんて、どうでもいいの。だから私は……」

「いいだろう、織莉子。契約は成立だ」

辺りが、白い輝きに包まれる。
織莉子の「私の世界を守りたい」という願いが叶ったのだ。

無力な生徒に飛び掛ろうとした使い魔は弾き飛ばされ、使い魔に襲われ怪我を負った生徒はその怪我が一瞬にして治る。

そして、織莉子の姿は元に着ていた服ではなく、白を基調とした魔法少女としての衣装となっていた。
頭の大きな白いハットが特徴的だ。

「……守ります…!!」

織莉子は右手を挙げる。
そうすると周囲に拳程度の大きさの水晶が大量に現れた。

「行きなさいっ!!」
次にその右手を振り下ろす。
大量の水晶は使い魔へと向かって行く。

命中すると、それらは大きく爆発を起こし使い魔を次々と殲滅してゆく。

当然、水晶は織莉子とは別々に動く。
攻撃は水晶に任せて、生徒たちを起こしに近づく。

「もう大丈夫ですよ。
さあ、こちらは安全ですよ」

できる限り落ち着いて、階段の裏へと生徒を迎える。
救世主の如く現れた彼女とて、初陣なのだ。
完全に落ち着ける訳がない。

それでも、魔法の使い方の要領は分かってきた。

辺りを避難させて一ヶ所に。
そして、ほむらたちが掛けた簡易の防護結界よりも強固な物を作り上げる。

そして、まだ助けを求める生徒の為に。
織莉子は疾走を開始する。
219 : ◆Upzc6141AI :2013/01/22(火) 00:39:07.02
織莉子の去った階段の裏


キリカは助かったにも関わらず、絶望的な気分だった。
愛と言っても過言ではない程の好意を寄せていた織莉子は、自分の意思で契約して、この場所を守ったのだ。

それなのに、自分は。

なぜ、彼女は見知らぬ誰かを助ける為に校舎を駆け抜けているのに自分はこんなところで迷っているのだ。

こんなのは嫌だった。
織莉子を必要とし、織莉子に必要とされたいのに。

ここから走って行く織莉子の後姿は遠くなり、自分の手の届かないところへ行ってしまうのではないかと。本当に、そう思えた。

情けない。

織莉子が、居なくなってしまう。
そこの角を曲がったら永遠の別れになってしまう、そんな気がする。

その時になってだった。
頭にあの事が過ったのは。
私にも、魔法少女になる資格があるという事を。

圧倒的に不利で理不尽な契約。
魂を抜き取られ、最期は死ぬか化け物に成り果てるか。

それでも、織莉子の為ならば。


「キュゥべえ……いるんだろう……?」

キリカは俯いたままボソリと口を開く。

「呼んだかい?」

やはり、まだ居たらしくインキュベーターはすぐに現れる。

「私も、契約しよう。
こんな私は、嫌なんだ……」

尚も俯いたまま続ける。

「これが私の…っ……願いなんだ」

なんて情けないのだろうか、とキリカは自分で思う。

覚悟を決めたのに、今更涙が流れる。
願い事までこんな私は嫌だと言ってしまえた事が、何より悲しく思えた。

「いいだろう、それが君の願いなんだね」

そして、辺りが光に包まれる。

魔法少女としての、新たなるキリカの誕生だ。

結界の内側のキリカは呆けた表情をしていた。

「……あれ?何で私は泣いて…?あぁ、そうか、そんなあれか、何だ、些細な事でか」

そう言って表情を引き締めると、一歩前に踏み出す。
先程までは、あんなに踏み込む事のできなかった一歩を。

織莉子の作った結界は、人ならば出入り自由なようだが、無論使い魔は入る事が出来ないらしく、周囲に張り付いて中の人々を脅かしていた。

「邪魔なんだよね、私と、織莉子の」

そう言って鉤爪を展開すると、一瞬の下に結界に張り付く使い魔を斬り捨てた。

「さぁ、待っててね、織莉子。今行くから!」

少しだけ狂気じみた笑みを浮かべると、愛する織莉子の為に。
キリカは疾走を開始する。
225 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:21:30.96
立ち向かうデスパレート・スクール・ライフ


北棟


佐倉杏子は、苦戦していた。
本来の実力を発揮できていないと言った方が正しいのかもしれないが。
別に、その本来の実力は幻惑の魔法を指している訳ではなく、いつもの踏ん切りの良さも、戦闘での技術も発揮できないのだ。

「クソッタレ!よりにもよってこの魔女かよ!?」


結界に踏み込むまでは良かったのだが、それからはどんどん顔色が悪くなっていったのは、幼いゆまでも分かった。

そして、今に至る。

「ビビるな……あいつの攻撃は知っているんだ…!」

異形の存在と相対して、自分に言い聞かせる。
目の前にいるのは。

「蘭・卵・覧・乱♪」

ゆまが、この世界に踏み込んだ原因第二号だ。
一号は、ゆまの両親を食った魔女。
今、杏子と向かい合うこの魔女は以前、杏子に致命傷を与えた。
その傷を治す為に、ゆまは契約して結果的に杏子は助かったがゆまを巻き込んでしまった。

「キョーコには、乱暴させない!」

そしてゆまは、契約するよりも前に杏子に助けられている。
その事には恩義を感じているのだ。

だからこそ、ゆまは杏子に依存して、そして何よりも守りたいと思っている。

「ゆま!危ないから下がってろ!」

ハンマーを振るいながら前に出ようとするゆまを杏子は制した。

「前衛はあたしだ。ゆまは治療を頼むよ。
ゆまがやられたら、あたしだって危ないんだから」

二カッと笑ってみせて、ゆまを安心させる。
この子を危険な目に会わせたくない、そう杏子も思っていた。

しかし、安心させたところで決め手がない。

少しだけトラウマになりそうな四肢切断を思い出し、吐き気が込み上げるが気合で押しのける。
やるしかないのだ。

「そんじゃあ、いっちょ行きますかっ!」

戦闘は開始される。
226 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:21:56.48
南棟


「こんなところで、リベンジになるとはね……」

巴マミは、少なからず動揺していた。
目の前にいるバイクを模した様な魔女は、マミが新米だった頃に目の前で無力な子供を殺した魔女と同一の物だ。

じっとりと脂汗が滲む。
嫌な汗だ。

あの事は今でも忘れない。
自分が弱かった為に、逃げる事しか出来ず、子供を見殺しにした。
無様に結界から逃げて、生き延びた。
公園には子供の母親が、二度と帰らない子供の名前を呼び続けた。
その事をマミはこれからもずっと忘れないだろう。

仕方がない事とは言え、マミはその事がきっかけで強くなろうと、正義の魔法少女であろうと誓った。

今は、違う。
守りたい世界があって、目に映る人だけでも救う力もある。

この魔女は自分で倒さなければ。
ケジメでもある。

「美樹さん。
この魔女は、私に任せてもらえないかしら」

少し語気を強めて決意する。

「え?」

勿論、さやかはそんなマミの過去を知らない。
戦うならば、二人の方が良いのは当然の事だ。

「ごめんなさい、私のわがまま聞いてくれるかしら。
この魔女は私が倒さないと、あの子に顔向けできないから」

早口になるように言い切る。
マミの鼓動は、どんどんと早くなる。

そんなマミの表情を見て、声を聞き。

「わかりました、マミさん。
あたしは、校舎に残ってる人たちを助けてくるよ!」

マミに余計な心配を掛けまいと、すぐに回れ右をして結界から去る。

「さぁ、この個体なのかはわからないけど……
あの子の仇、討たせてもらうわよッ!!!」

巴マミは闘争を開始する。
227 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:23:12.61
東側廊下

織莉子、織莉子、織莉子………

すれ違う使い魔を次々と切り刻みながら、キリカの頭の中はこの事しか考えていなかった。

次だ、次の角を曲がれば追いつく。

「邪魔ッッだっ!」

飛び掛る使い魔には目もくれずに蹴り飛ばす。
そして進路に落ちたところに爪を突き刺し、その死体に魔力を込めて他の使い魔に投げつける。
命中。爆発。
込められた魔力が爆発した。
即席の爆弾だ。

キリカは正直なところ、使い魔など無視して走って織莉子の元へ行きたいのだが、そうすると織莉子はきっと悲しんでしまう。

(織莉子が悲しむ顔なんて、見たくはないからね)

その一心で、出来るだけ速く駆け抜け、そして使い魔は全て斬り伏せている。

もう少しだ、追いつける。

角を曲がる。

キリカは目を疑った。

(そんな……)

元々、織莉子の攻撃ではこの数の使い魔を凌ぐには足りなかったのだ。
キリカの視界の先で。
織莉子が。

血を流し。


うつ伏せに倒れている。

その周囲には、おびただしい数の使い魔。

キリカの中で、何かが切れた。

「貴様ら………貴様らああぁぁぁぁ!!!」

次の瞬間、世界はキリカだけを取り残してしまったかの様にスローモーションになる。
キリカだけが、いつもの速度で動けた。

(なんだ…これは……!?)

そう思いつつも、最大速度で織莉子の元へ。
頭で思うよりも、身体が先に理解した。

(そうか、これが私の力か…織莉子を守る為の!)

指一本でも織莉子に触れさせるものか。
それ位の心意気で、織莉子の近くの使い魔から凪払う。

「私と!織莉子の!!邪魔をするんじゃあないっ!!!」

初めての戦闘とは思えない程、恐怖を感じない。
むしろ、織莉子を助けられるなら命など幾らでも掛けれる。
それ程のまでの愛の前には、使い魔は全くの無力だ。

「全ては、愛だ!!無限の愛の、有限として貴様らは!!消えろ!」

突然、愛について語りたくなった。
この、命を奪うだけの怪物に必要はないのだろうとは理解している。
それでも、叫ばずにはいられなかった。

恐ろしい程の速度で使い魔を殲滅するキリカ。
このまま一方的に終わるのかと思えた。
その矢先に。

世界が、色を戻す。

時間切れだ。
グリーフシードのストックも無しに使い続けるには限度があった。
そこに気を取られ、キリカの反応は一瞬だけ遅れる。

(っ…後っ…!)
228 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:23:45.12
振り向きざまに凪払う。
だが、使い魔の捨て身の一撃はキリカに届いた。

隙ができる。
再び現れる大量の使い魔がキリカに迫る。
形成逆転。
先程の攻勢から打って変わっての絶対絶命。

(せめて、織莉子だけでも…!)

この期に及んで、キリカは最期まで織莉子を優先しようとした。


「さ…せ…る…かああああぁぁぁあ!!!!!!」

まさにその時、聞き覚えのある声と目の前に映る蒼い閃光。

マミたちと行動をしていたはずのさやかが、キリカと織莉子の眼前に現れた。

完全に体に負担がかかるであろう速度で、反応で、使い魔を吹き飛ばす。

「ふぅ…間一髪ってところ?
それでも、これはマズイね…一旦退きます」

そう言うや否や、さやかは倒れる織莉子を抱きかかえ、キリカの元へ。

「すまない、助かったよ」

当面の危機は去り、一先ず礼を。

「困ったらお互い様ですよ!
それよりも……」

そう言うと、織莉子を地面に降ろし手をかざす。
さやかは癒しの願いで契約した魔法少女だ。
その魔法は回復にこそ真価を発揮する。
青白い光に織莉子の身体が包まれる。

「んっ……すみません、助かりました…」

すぐに織莉子は目を覚ました。
幸いな事に、傷は浅かったようだ。
229 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:24:22.87
「気にしないでくださいって!」

「ありがとう!美樹さやか!!君は本当に……恩人だ!!」

傷が治ると、真っ先に感謝を伝えたのはキリカだった。

「き、キリカさん、落ち着いて……
当然の事をしたまでですから」

「それでもだ!私は君に感謝をしなければならない!私の愛を守ってくれたのは他ならない君なんだから!!」

身を乗り出しながらもキリカは熱弁をする。
ここでさやかは疑問を感じた。
呉キリカという人物はこんなに饒舌で、愛を語る様な人物であっただろうか。

「キリカさん、熱でもあります…?」

「さやかは何を言っているんだい?
普通だよ……と言いたいけれど、この性格は契約で頼んだものだね。さっきまでと違うのはこういう理由さ。
織莉子が戦っているのに、私は何も出来ない。『こんな自分は、嫌だ』って願ったのさ」

さやかは成る程な、と思った。
だが、あの大人しく人間不信気味の少女がそれを願うのはかなりの勇気が必要だったのかもしれない。
それならば、この何も恐れはしないような人物が本来の呉キリカなのではないだろうか。

「そうですか…あ、コレ使ってください」

そう言ってさやかは予備のグリーフシードをキリカと織莉子に二つづつ手渡す。
230 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:25:00.50
「でも、これは貴重な物なんじゃ」

「いいんですよ、あたしたち仲間なんですから!」

キリカが遠慮しようとしたのを遮る。

「織莉子さんは、何を願ったんですか?」

ある種、この質問はタブーだと分かってはいたが、聞かない訳にはいかなかった。
性格上気になってしまった事もあるのだが、二人は少なからずとも30分前までは一般人だったのだから。

「私は、『私の世界を守りたい』と。
私の、と付けたのはエゴなのかもしれないですね」

エゴなものか、とさやかは思う。
この願いは、人生の全てを投げ打ってようやく叶うのだ。

むしろ世界を守りたいとは、人の為に動くだけの覚悟では言えないはずだ。

「エゴなんかじゃないですよ。
人の為に戦いに行けるなんて……凄いです」

「あら?そう言う美樹さんも、人の為に願いを叶えているでしょう?」

さやかは動揺した。
確かに、さやかは自分が思いを寄せる少年の腕を治す為に契約した。
それは果たして、本当に彼の為だったのだろうか。

(恭介の腕が治って、バイオリンがまた聴けて……それで、あたしは……
だめだ、今は考えないようにしよう!)

結局、自分の答えを見出せずに考えを中断する。

「……樹さん?美樹さん!?」

そこで、ようやく織莉子が名前を呼んでいる事に気がつく。

「えっ?あ、はい、どうしました?」

「どうしたもこうしたも、君が織莉子の呼び掛けに気が付かなかっただけだよ!」

それ程までに、あの短い考えに没頭してしまっていたらしい。

「よかった、ただ聞こえてなかっただけみたいですね。
本当はまだ少し話したい事もあるんですが……
魔女がもう来るみたいですね」

織莉子は少し残念そうに告げる。
だが、魔女を倒せばまた少し平穏に近づく。

「あれ、織莉子さん何で魔女が来るって分かったんですか?」

先程からさやかは疑問を抱き続けている。

「あ、それは私の魔法が未来視だからですよ」

そう言ってニッコリと笑った直後に魔女の結界に飲み込まれる。
231 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:25:26.06
キリカは先程さやかが何かを考えていた時に、さやかのソウルジェムが濁ったのを見逃していなかった。

(まずいね……
織莉子は気が付いてないみたいだけど、確実にさやかの地雷を踏んでしまったみたいだ。
些細な事だと思っておこう…それより)

「織莉子!!さやか!
全ては無限で有限な愛の為に戦おう!」

それぞれの想いを胸に、戦いが始まる。
232 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:25:56.75
一般用昇降口

「私って、やっぱり卑怯…ですよね……」

おもむろにまどかが口を開くと、出てきた言葉はこんなものだった。

「え?なんで?」

この結界に残っているのは、大多数の生徒とまどか、そしてかなめだ。
かなめはまどかの呟きに思わず反応した。

「私って、キュゥべえから契約すれば誰よりも強いって…そう言われてるんです。
それなのに、私、いざこんな事になると怖くて……織莉子さんも、キリカさんもこんな中で契約したのに……」

そう言ったまどかの声は震えていた。
よく見れば、目に涙を浮かべてもいる。

「だからって、なんでマドカが契約するの?
みんなは、守りたい物があって今ここで見つけられた。
それだけの違いなんだよ」

かなめは呆れ顔だ。

「ホムラちゃんも、サヤカちゃんも、みんなみんな、まどかの事を守りたいんだよ。勿論、ここにいる皆も守りたいだろうけど。
そんなに守りたいのに、まどかがわざわざ戦いに行くのは、違うんじゃないのかな?」

かなめはそう続けた。

「それだからって…ただ見てるだけでいいんですか……?」

まどかはそんな事を言えるかなめが羨ましく感じる。

「違うって。マドカは皆が帰ってこれる場所になってあげなきゃいけないんだよ。
あたしもね、前にソースケにずっと助けられてたの。
それなのにあたしは、自分でも何かしなきゃって必死になって。
それで、結果的にはソースケを助ける事もあった。
それでも、違うの。
その時にできる事があるなら、そうすればいいの。
誰もマドカが契約したり、戦って欲しいとは思ってないんだからさ」

思い直してみれば少し恥かしい位に饒舌になっていた。

「皆が、帰ってこれる場所に……」

まどかはかなめの語った事を反復する。

「い、いや、全然魔法少女の事なんてわからないあたしが言うのも変だよね。ウ、ウハハハハ!」

かなめのこの笑い方は、この話はもうやめよう、と言う意味があるらしい。
出会ってから間もないまどかが知っている訳がなかった。

「ありがとうございます、かなめさん。
私、少しだけど自信がつきまし……え……なに…これ……?」

かなめに礼を言おうとした、その時。
まどかの頭の中のささやき声が急に大きくなり始めた。

「ッ……!」

かなめも様子がおかしくなる。
彼女は、かなり特殊なウィスパードだったのだから、例に漏れずこのささやき声が再び聞こえている。
ささやき声が強く聞こえるのは、かなめも同じ様だが明らかにまどかの苦しみ方は訳が違った。

「痛いっ……!頭が、割れそうで…!!やだ、なに…か……見える……?」

そう言うとまどかは気絶してしまった。
233 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:26:32.61
校庭


宗介たちの戦いは、魔女とは違い目の前の敵となのだ。
既に戦闘は始まっている。

(数が多い…!こいつら、一体何の為に……)

それなりの時間は経過し、かなりの敵を撃墜した筈だ。
それなのに、次から次へと湧き出るようにアマルガムのASは現れた。

ラムダ・ドライバを有効的に敗れるのはラムダ・ドライバのみ。
だが、敵の数と比べればこちらがラムダ・ドライバを扱えるのは<レーバテイン>のみ。
圧倒的に不利だ。
<ベリアル>がいなくなった今は、<レーバテイン>は間違いなく最強のASだ。
それでも、この数には苦戦する。
既に10機は落としている筈だ。

「これで…!」
『11!』

宗介の<レーバテイン>が放った散弾砲ボクサー2が敵の<エリゴール>に直撃する。
見事にラムダ・ドライバを貫通したようだ。

『<コダール>タイプ、背後から接近』

警告。
だが<レーバテイン>は振り向かない。

「やれ!アル!」
『ラージャ』

<レーバテイン>の脇から隠し腕が伸びる。
鋭い風切り音と共にヒートダガーが投擲される。

<レーバテイン>に乗る宗介とアルの強いラムダ・ドライバは防げなかったようだ。
貫通してコックピットに突き刺さり、爆散する。

「これで12!」

[全機警告!<エリゴール>タイプ2機が前方より接近!
α、βの識別データを全機に送信する。
ウルズ7はβを、俺たちはαを叩くぞ!]

接近する2機の<エリゴール>
宗介は識別βを迎撃する態勢に入る。
234 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:27:08.43
『軍曹。ターゲットβ進路が校舎側へ急変』

βの<エリゴール>の進路は突如ウルズチームから離れるように校舎へ。

「誘導されている…?」
『おそらくは。
あの位置なら周囲の被害を考えて散弾砲の使用が危険になります』

そうしている内にも<エリゴール>は校舎側へと近づく。
ここでECSを使われれば不意討ちをされる危険が伴う。

「こちらウルズ7!進路変更をしたβを追撃する!」

「ウルズ1、了解。
あまり深追いし過ぎるなよ」

クルーゾー、マオ、クルツは宗介が追撃に走り去るのを見届ける。

「ウルズ1より、2、6!連携で仕留めるぞ!」

[ウルズ6、了解!]
そう言うとクルツはすぐさまECSを起動して姿を消す。

[ウルズ2も!
行くわよ、野郎ども!準備はいい!?]
235 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:27:38.89
校舎付近


<レーバテイン>のパワーならば<エリゴール>に追い付くのは容易だが、離れた距離を縮めるにはまだ時間が足りなかった。

<エリゴール>は突然停止する。
これならば、追い付ける。

だが、追いついたとしても場所が悪い。

ここで散弾砲を使えば確実に校舎や中の生徒に被害が及ぶ。

その場所は、あの転校初日での渡り廊下だった。

廊下をチラリと見る。
宗介は誰もいないようにと願っていたが、そうもいかないようだ。

(あれは…!暁美!)

それを確認した直後に<エリゴール>は単分子カッターを抜き放ち、渡り廊下を引き裂いた。

ほむらを狙った訳ではないようだ。
ほむらがもと来た道であろう退路が遮断される。

たちまち切断された渡り廊下は重みに耐えられず傾き始める。

(まずい!)
<レーバテイン>は傾いた廊下を支える事を優先した。

ほむらは迷う事なく前進して渡り廊下を抜ける。
そのまま何かに取り憑かれたように廊下を駆け抜け、宗介が視認できない位置へと入ってしまった。

振り向くと、<エリゴール>は既に姿を消していた。

「奴らの目的は……?
アル、追えるか?」

『ネガティヴ。反応をロスト』

仕方なく、宗介は一般用昇降口付近の校庭へ戻る事にした。
236 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:28:06.41
渡り廊下

時間は少し遡る。


首謀者を捕捉したほむらは、渡り廊下へと可能な限り全速力で向かっていた。

勿論使い魔を見逃しはしない。

「邪魔よ!」

大量の弾丸をばら撒きながら駆け抜ける。
階段を登り切り、渡り廊下に出る。

だが、そこには目的の影はなかった。

(やはり罠…!)

ほむらは渡り廊下に立ち気配を探す事に集中する為に立ち止まる。

真横の外で<エリゴール>が単分子カッターで渡り廊下を裂こうとしているのには、無駄に高い防音性と集中力で気がつかなかった。

単分子カッターが廊下に触れる。


異常なまでの揺れと音にほむらも気が付いた。

後ろを振り向くと巨大な刃物が退路を断ち切っている。

完全に単分子カッターが廊下を切り抜けた。
激しい振動。

「……ッ!」

これで進む事しか出来なくなった。

(急がないと……手遅れになるかもしれない)

そう思った瞬間には既に走り出していた。
一度、一般用昇降口へ戻ろう。
237 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:29:17.18
???

君に、少しだけ魔法で叶った戦いのない素晴らしい日々を見せてあげよう。



意識が覚醒し、鹿目まどかは目を覚ます。
いつもの帰り道のようだ。
隣にはさやかがいて、ほむらがいる。
ほむらは三つ編みのお下げ髪にメガネをしている。

「……それでさー、恭介の奴か…」

ここでまどかは「あぁ、そうか」と思う。
いつも通りの放課後。
親友のさやかと、心臓の病気で身体が弱く、つい最近になって復学した転校生のほむらと一緒に帰っているんだった。

「もう、さやかちゃんたらー!」

これがいつも通りだ。
きっと、毎日が素晴らしいに決まっている。
だが、まどかは気が付いてしまった。思い出してしまった。

あの危険な魔女や使い魔は?
危なかったところを助けてくれた、もう一人の転校生の相良宗介は?
いつも優しくしてくれた正義の魔法少女で先輩の巴マミは?
いつも守ってくれたほむらは、本当にこの子なの?
隣町からやって来ていた佐倉杏子は?
そこにいつもついて歩いた千歳ゆまは?
【ついさっき】人々を守るために戦っていた美国織莉子と呉キリカは?


危険など潜んでいないこの優しい世界には、居なかった。

突然寒気が襲いくるような気した。
確かめなければ!

「あれ?そう言えば今日はマミさんは?」

さやかに聞いてみる。

「マミさん?誰それ?」

さやかの答えではっきりしてきまった。
ここは、いつも通りの世界のようで違う場所なのだ。

何か、手掛かりがある筈だ。
(そうだ、マミさんは事故にあったのがきっかけで契約したんだ。
その事故の事を調べれば……!)

少し、不謹慎な気がしたが今は構ってられない。

「さやかちゃん!ほむらちゃん、ごめん!
用事を思い出しちゃったから今日は帰るね!」

そう言ってまどかは図書館へ駆け出した。
保管されている新聞を調べれば…!


図書館へ着くと、まどかは古新聞を大量に掴み取る。

(確か、マミさんが契約した日は…!)

その時期の新聞を広げる。

「これじゃない、これでもない……」

そして、まどかの手が止まる。

記事を見つけた。
そこに書かれていた事は。


【高速道路事故。
被害者は巴さん一家三名。
救急車が駆けつけた時には、既に……】
238 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:30:23.70
「やめて……!」

見る事が耐えられなくなり、涙目で記事を閉じる。
被害を受けて亡くなった人の名前に、巴マミと書かれていたのだから。

他にも記事を探した。

【教会神父、一家心中か】

【大物議員、汚職ばれ自殺。娘も後追いか】

次々と現れる悲劇のような記事。

こんなのは、違う。

ささやき声が聞こえる。

これはまどかが少しだけ望んだ、魔法少女も居なくて、魔法もない世界なのだ、と。

だけど、それはまどかの周りの悲劇を食い止めるためではなく、全てを失うものだった。

「こんなの……やっぱり、おかしいよ!」

そう言い放った途端、世界にヒビが入り本当の姿を見せた。
239 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:31:00.43
一般用昇降口

「マドカ!マドカ!!」

かなめは必死にまどかの肩を揺らして呼びかけた。

「あ……」

まどかは目を覚ます。
そこはあの絶望的な学校であったにも関わらず、まどかは安心した。
ここには、みんながそれぞれいる。
私はみんなの帰る場所になれるのかな?

「ごめんなさい、心配をかけちゃって……
どれくらい倒れてました?」

まだ様子からして決着はしていないようだ。

「5分くらいじゃないのかな?」

思っていたより短い時間だった。
やはり夢だったのだろうか。

そう言えばささやき声は聞こえなくなっている。

契約をそそのかす様なソレは、諦めたのだろうか。

だが、契約をしない事を密かにまどかは決意していた。

「ありがとうございます。
じゃあ、ここでみんなを待ちましょうか。
私は、もう大丈夫ですから」

そして、みんなの帰る場所になろうとも決意した。
240 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:31:26.43
南棟、魔女結界


黒い靄のかかったバイクを模した様な魔女。
その魔女の高速突進を間一髪のところでマミは回避し続けた。

(これじゃ、防戦一方ね…)

射撃主体のマミにとっては相性が悪かった。
だが退く事はできない。

突進に合わせてリボンを展開。
正面から受け止める。

「ぐっ…!!」

やはり、サイズによるパワーが違い過ぎる。

「負ける……ものですかっ!!」

それでも、マミは正面から強引にかち合う。

「ぁぁあああああ!!!!」

やはり、吹き飛ばされる。
だが、それは魔女も同じだった。

魔法少女の力は感情に左右される。
闘争本能と仇討、様々な闘志が漲るマミの力は強力だ。

先に起き上がったのはマミ。
魔女は未だに転倒している。

先程の衝撃でバリアの役を果たしていた靄が消えている。

(今ならッ!!)

確信と共にマミは飛び上がる。
そして、地面で転倒している魔女に向けて大量のマスケットを召喚する。

「喰らいなさいッ!!無限の魔弾をッ!!!」

次々と放たれる強力無比な弾丸が魔女の身体を穿った。

巨大な爆発音と共に結界が崩れる。

マミは魔女を倒したのだ。

だが、学校は未だに危険に晒されている。
マミは東棟へと向かう事にした。
241 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:32:00.97
北棟、魔女結界


杏子の戦いは、割と順調なものであった。
だが、恐れからかやはり決定打が撃てない。

おそらく、次に攻撃を当てれば例のハズレと共に四肢を切断にくるだろう。
食らった事があるとは言え、何をされたかは分からなかった。

むしろ来るとわかる分余計に恐怖を増幅させる。

「ゆま!援護を頼む!」

杏子にとってゆまは守るべき存在であり、共に戦う仲間だ。
幼いながらも、その治療魔法は一級品なのだから。

「わかった!」

ゆまが叫ぶと同時に杏子は槍を構え突進する。

「喰らいやがれえええ!!!」

槍が魔女を貫通する。
以前はここで倒したと思い、不意討ちをくらった。

今回は違う。

(どこだ、どこからくる……!?)

気配を感じ取る。

(まさかっ!)

魔女の狙いは、杏子ではなく。
ゆまだった。

「ゆま!上だ、避けろっ!!」

ゆまの反応が遅れた。
間に合わない。

自分の槍も、どうしても届かない。

(ゆまだけは……やらせるか…!!
守ってやるって、決めたんだ!!)
242 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:32:28.64
今までとは違う魔法の使い道。
昔の様に、自分の為ではなく人の為につかうのだと。

そう強く思う。その途端。

槍が、魔女を貫いた。
だが杏子の手にある槍ではない。

もう一人の杏子が魔女のそばに突如として出現し、貫いたのだ。

(ありゃあ、まさか……
ロッソ・ファンタズマ……なのか…?)

かつて杏子が自分の願いを否定して失った魔法。
人を守りたい。その一心で蘇ったのかもしれない。

今度こそ魔女の身体は貫かれて動かなくなった。

もう一人の杏子はそれと共に消え去る。

結界が崩壊した。


だが魔女はまだ残っている。

杏子も、近くの東棟へと向かう事にした。
243 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:32:55.85
東棟、魔女結界


さやか、織莉子、キリカが飲み込まれた結界の中は、影絵の様な世界だった。

そして、細い一直線の橋の先には魔女が祈るような態勢で背を向けていた。
今までの怪物とは違い、多少なりとも人の姿を残しているようだ。

「先手必勝!」

さやかはそう言いながら無防備な魔女を目掛けて突撃する。

「こっちも行くよ、織莉子!」

キリカもそれに続いた。

大量に蛇の影絵の様な使い魔が四方八方から生えてくる。

「美樹さん!上から3体、その後は左右から2体づつ!!
キリカは正面から5!!」

織莉子は未来予知でそれを支援する。
理想的な連携だ。

さやかは上からの三体は落ちてくるタイミングに合わせてスピードを上げて回避。
左右から2体づつは両手に剣を持ち、腕を広げて大きく回転切りをする事で凪払う。

キリカは正面からの5体に対して遅延の魔法を掛ける。
この魔法は書ける対象を選べる事が発覚したらしい。
スローになった5体の突進をぎりぎりのところで全て突っ込みながら回避する。
そのまま速度を上げて根元から斬り捨てる。

「このまま突っ込む!」

「合わせるぞ、さやか!」

勢いを付けた二人はそのままトドメを誘うと加速する。

「いけない!二人とも下がって!!」

悪い未来を察知したらしい織莉子が二人に知らせるが、間に合わない。
244 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:33:42.70
前方から大量の使い魔。

キリカは、その群れに遅延の魔法を掛けた。
動きが遅くなる。だが、捌き切れない。

その中にさやかは果敢に斬りかかった。
使い魔の攻撃も当たり、さやかは次々と血を流す。
使い魔の数もかなり減らしたが、さやかの消耗は激しい。

キリカも捨て身の覚悟で群れを食い止める。

「お願い!二人とも一旦退いて!!」

だが、二人は退こうとはしなかった。
キリカは不敵な笑みを浮かべる。

「ここで下がったら、織莉子が喰らうんだろう?そんなのは、ダメだ」

だが、目に見えて前衛の二人は押されている。
水晶を飛ばすが、それでは援護の足しにすらならなかった。

(このままじゃ……!)

織莉子は少しだけ諦めそうになる。

「よくも私の後輩を酷い目に遭わせてくれたものね」

焦る織莉子の後ろから、マミの声が聞こえた。

「織莉子さん、もう大丈夫よ。

二人とも、後ろに下がって!!
射撃に巻き込まれるわよ!?」

マミが叫ぶと、助けが来たのだと確信して二人は下がる。

「ティロ・フィナーレ!」

巨大な大砲は細い橋を埋め尽くすほどのレーザーを放つ。

退避したさやかは、自分とキリカに治療を掛けた。

マミの一撃で使い魔は一掃される。

「美樹さん、呉さん、織莉子さん。トドメ、お願いするわね?」

ニッコリと笑って残りを託す。

「勿論ッ!」
キリカは大声で反応すると、鉤爪を巨大化させた。

「援護するわね、キリカ」

織莉子は使い魔の出現ポイントを予測して先に水晶を放つ。

「任せてくださいっ!」

さやかは、クラウチングスタートの態勢から急速の突進を繰り出す。

「はああああああ!!!」

一瞬で魔女との距離を詰めて一刀両断する。
だが、魔女は力尽きていなかった。
さやかの後ろから、キリカが飛び出る。

そのキリカを使い魔が襲うが、それは織莉子の水晶によって阻まれた。

「全ては、愛の為に!死ね!!」

キリカは巨大な鉤爪を振り下ろす。
この一撃で魔女は力尽きたようだ。

結界は消滅した。

戻ってきた学校は、完全に結界のない元の風景を取り戻した。


校庭以外は………………
245 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:34:46.28
そこに走って現れる赤い影と小さな緑。

「おーい!マミ!こっちは倒したぞー!」

杏子とゆまも自分たちの場所にいた魔女を倒したらしい。

「魔女は全て倒したみたいね。
急いで鹿目さんのところに戻りましょう」

マミの提案に、全員が賛成だった。



一般用昇降口


「あ、ほむらちゃん!」

まどかとかなめはほむらを視認する。

「おかえり、ホムラ」

「ええ、ただいま。
待っててくれてありがとう、まどか。キリカさんと織莉子さんは?
それと、この結界……」

ほむらはすぐにこの結界が自分で展開したものよりも遥かに大きくて強固な物だとわかった。

「それは、私が掛け直した物です」

不意に後ろから声が聞こえた。
織莉子だ。

「えっ……!貴女、まさか契約を?」

これには驚いた。
ほむらの中では彼女は一般人のはずだからだ。
よく見ると、後ろにはキリカ、さやか、マミ、杏子、ゆまもいる。

「あら、暁美さんが一番乗りで帰ったみたいね」

魔法少女たちは、全員無事だったのだ。

「おかえり……!おかえり、みんな!!」

まどかはその事実に嬉しくなり涙を浮かべる。

「でも、まだ戦いは終わっていないね。
外を見ればわかるだろう?」

そう言いながらキリカは外を眺める。
丁度、宗介の<レーバテイン>が目の前に着地した。
246 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:35:24.23
「全員無事か!?」
外部スピーカーから宗介の声が響く。

魔法少女は全員無事だ。
だが、未だに外でのAS戦闘は続いていた。

「その通り、ニホンの魔法少女のみなさん。まだ終わりじゃない」

少しだけカタコトの日本語。
勿論、それは彼女たちの声ではない。

首謀者の少女だ。

「全員死んでもらいたいけど、この数はどうしようもない。
そこで、君たちには<エリゴール>、<コダール>、<ベヘモス>の餌になってもらう事にしたよ。
<ミスリル>の連中は結界に閉じ込めてね!!」

そう言い終えると首謀者は気が狂ったように笑出しながら、ソウルジェムを掲げた。

それは真っ黒に濁っていた。

「いけない!みんな、すぐにあいつから離れて!!」

未来を読み取った織莉子は叫ぶ。

全員後ろに飛び下がった。

その直後、ソウルジェムが割れてグリーフシードが姿を現し、結界を展開した。
幸いな事に、その結界には魔法少女「は」巻き込まれなかった。

ほむらは首謀者の言葉を理解し、外を見る。
そこには、<ミスリル>のASは姿を消し、残ったのは悪魔の名前を冠したASのみであった。
姿を消したのは<レーバテイン>も例外ではなかった。
247 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:35:51.34
「くっ……どうやら私たちだけでASと戦わなければならないようね…」

悔しそうにほむらは呟きながらロケットランチャーを取り出した。

「そうだね、あたしたちで何とかしなきゃ。
ソウルジェムがグリーフシードになったとか、聞きたい事は多いけどさ。まずは、まどかを守らなきゃ」
と、剣を召喚しながらさやか。

「そうね。私も色々聞かせてもらいたいわ。
例えその結果がなんであったとしても、今まで守ってきた街ですもの。
私は何があっても戦うわ」
マミはマスケットを召喚する。

「私はこの平和を守りたい。その為になら、戦えます」
目を閉じながら水晶を浮かべる織莉子。

「織莉子の為なら、あんなガラクタすぐに分解してみせるよ」

キリカは既に鉤爪を展開して臨戦態勢だ。

「参ったな……利益にならないってわかってるんだけど…やっぱり、あたしは神父の娘なんだね。
そんな名前してうろつかれちゃあ、黙ってる訳にはいかないじゃん?」
杏子は槍を地面に突き立ててASを睨みつける。
余談ではあるが、<アマルガム>のASは全て悪魔の名前からとっているのだ。

「キョーコが頑張るなら、ゆまも頑張る!」
この幼いゆまでさえもが戦う意思を貫き通している。


真実を知る者以外は少なからず動揺したが、今はそれどころではないと覚悟を決めたようだ。


魔法少女7人と、AS2機+巨大AS1機の決戦の火蓋が切って落とされた。
248 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:36:23.07
魔女結界

「くっ……結界に巻き込まれたか…!」

宗介は気が付くと<レーバテイン>に登場したまま結界に放り込まれていた。
結界の景色は殺伐とした戦場をモチーフにしているようだ。

「全く、何回来ても慣れないな、これ」
クルツもM9に乗りながら巻き込まれたようだ。

この調子なら、マオとクルーゾーもだろう。

「しっかし、変な所ね」

やはりすぐにマオは姿を現した。

「何だこれは…何か分からんが、油断はできなさそうだな」

そして最後にクルーゾーとその乗機の<ファルケ>


「ええ、テロリストの生物兵器のような物だと思ってください。
それにしても……」

と宗介は周囲を見渡す。
やはり、かなりの生徒も結界に巻き込まれたようだ。


「いかんな……すまない、ウルズ7より、本体は俺が叩く!民間人の防衛を優先してくれ」

「ウルズ1了解」
「ウルズ2、了解!」
「ウルズ6了解。任せたぞ、ソースケ!」

仲間たちはすぐに了解をしてくれた。

「ああ、任せろ」

直接結界の展開に巻き込まれたのだ、本体の魔女は近くにいるはず。
そう思いながら辺りを見渡した宗介の読みは的中した。

(あれか!)

そこには、人魚の様に下半身が魚、上半身は人型で騎士の甲冑を着込んだような魔女。
手には剣を持っている。

大きさはASと変わらないほどに大きい。

周囲にいる使い魔は、見覚えのある姿だ。
人の姿をして、大きさも人と同じ程度。
黒いコートに、長い銀髪。

(レナード…を作ろうとしたのか……?)

だが、宗介が気にするべきはそこではなかった。
生徒を守る為に、魔女を倒す事を優先しなければ。

『軍曹。現在の残弾はデモリッション・ガンが1。
それ以外は弾切れです』

アルの警告。

「了解だ。格闘戦でなんとかしよう」

<レーバテイン>は単分子カッターを引き出すと、臨戦態勢に移った。

魔女とのASの戦いが始まった。
249 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:37:51.41
校庭

「流石に火力が違う……わねっ!」

ほむらはぼやきながらも、<エリゴール>に向けてロケットランチャーを放つ。
直撃するその直前。

(まただ、また止められた…!)

ほむらの魔法は特殊な能力に特化している。
その為、武器は近代兵器をちょろまかした物を使う為にラムダ・ドライバとは相性が悪かった。

「だけど……そいつは囮よ」

誰に言う訳でもなく、呟くと魔法を発動。
ロケットランチャーの爆煙が消える前に<エリゴール>の目の前に現れ、そしてグレネードの様な物を<エリゴール>のメインカメラの前で爆発させる。
炸裂した時には、ほむらは既に<エリゴール>の付近から離脱していた。

「EMCよ…火力が通らないなら搦め手を使わせてもらうわ」

ロケットランチャーとEMCを、時間停止を駆使してほぼ同時に仕掛ける。
この連携にはラムダ・ドライバも間に合わなかったようで、EMCの影響か動きが多少鈍くなる。

だが成功したとは言え、所詮は個人携行サイズのEMCだ。
命中しても、本当に足止めになるかならないか程度だろう。

<エリゴール>はほむらに向けてアサルトライフルを構える。

だが、その弾丸は放つ事はできなかった。

「反撃の隙なんて、やらないよ!!」

キリカが既に真正面の懐まで接近していたのだ。
<エリゴール>は攻撃を中断して防御の為に力場を発生させる。

「こんなもの……」

キリカの魔法による鉤爪と<エリゴール>のラムダ・ドライバによる力場は、ほぼ互角だった。

「後ろがガラ空きですよ?」

だが、数では魔法少女の方が有利だ。
織莉子はここまでの展開を読んでいたのか、既に水晶を<エリゴール>の背中に命中させる軌道で放っていた。

前方に集中していた<エリゴール>に水晶による攻撃が命中する。

その一撃で少しだけ力場が弱まった。
キリカが押し始める。

ほむらは、時間停止を使い背後に回り込んでいた。

「今なら……行ける!!」

鉤爪に更に魔力を込めて巨大にする。

「終わりだよっ!!」

<エリゴール>の力場は完全にキリカに押し負けた。
だが、それでもキリカの一撃が軽い損傷で済む程度には弱められていた。

「暁美さん、あとは頼みます!!」
未来を予知した織莉子は勝利を確信する。

「ええ、任せてもらおうかしら」

ほむらはASについて調べておいて良かったと心底思う。

恐らく、あの機体はソ連の<シャドウ>を素に作られているのだろう。ならば……

「弱点は、そこね…!」

ほむらは、ロケットランチャーを再度放つ。
その弾頭は、ASの弱点であるバラジウムリアクターに直撃した。
<エリゴール>はそれにより、完全に沈黙。

「残るのは二体、か」

キリカが満足気に呟くと、織莉子が反応した。

「ええ、はやく援護に行きましょう?」
250 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:38:21.07
校庭、ほむらとは反対の位置


マミとさやかは<コダール>と対峙していた。

さやかは剣を構えて<コダール>の足元に突っ込む。
マミはそれを援護するように牽制射撃を仕掛ける。

<コダール>は近づけさせない為にさやかを狙ってアサルトライフルを撃ち込む。

それでもさやかは退こうとはせず、むしろ速度を強引に上げて接近する。
アサルトライフルを多少掠めるが、ギリギリの所で全て避けていた。

懐まで、辿り着く。

「く、ら、ええええええええ!!!!」

足元を切り裂く。

力場に阻まれるが強引に刃を押し込んだ。

ゆっくりと、足に刃が近づく。

だが、力が足りなかった。
先程のマミのように、魔法の力は感情に左右される。

今のさやかは、自分がどうあるべきなのか分からなかった。
援護が今ひとつなのは、マミも同じだったからだ。

(魔法少女は…魔女になるって言うの……?
そんなの、ゾンビどころか本当に化物を抱える様な物じゃ……)

余計な思考は判断を鈍らせる。
<コダール>はさやかを離す為に蹴り飛ばす。

反応が遅れたさやかは避けきれない。

(しまっ!)

まさに直撃しようという、その瞬間にマミがさやかを体当たりで弾き飛ばして身代わりとなる。

「カハッ……!」

大きく吹き飛ばされて、マミは校舎に叩きつけられる。

「マミさんっ!?」

さやかは一気に<コダール>との距離を離しマミに駆け寄り、癒しの魔法を掛けようとする。

「美樹さん、いいの……
私は、ここで正義の魔法少女としてあのASを道連れにするわ…
それが、私にできる最後の正義としての戦いだから。
魔女になんて、なるつもりはないの」

そう言ったマミは、髪留めの役割を果たしている花柄のソウルジェムを取り外し、力を込めた。
251 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:38:52.30
市街地


杏子とゆまはベヘモスと向かい合う。

「撹乱するぞ、ゆま!」

幻影を大量に生み出す。
先の戦いで魔法を再び扱える様になった杏子は、既に感覚を取り戻していた。

そして、魔女化を知らなかったメンバーの中では、比較的ショックが少なかったのか本人も驚く程に平常心を保っていた。


幻影を囮に、ゆまと杏子本人は距離を少しづつ進める。

ベヘモスもそれに対抗するように弾幕を展開し、次々と幻影を撃ち抜く。

(これじゃ、ジリ貧だな…)

確かに距離は縮むものの、ソウルジェムの消耗が激しい。

先程の光景が目に浮かび出し、慎重にならざるを得なかった。

「よし、ビル陰に隠れながら進もう」

ベヘモスだけは幸いな事に、校庭よりも遠くの場所にいた。

そこは幸か不幸か市街地の一歩手前。
遮断物は多いが、これ以上近づかれたらマズイ事になる。

それを防ぐ為にも、こちらから接近せねばならなかった。


陰に隠れて進むのは、思ったよりも効果を発揮した。

だが、見滝原は急激な都市化が進んだ街だ。
大幅な道路も数多くある。
そして、それを横断せねば辿り着けない状況に二人は陥った。

「ゆま、一回だけ魔力を多く込めた幻影を囮で渡らせる。
喰いついたら合図をするから走って道路を抜けるんだ。わかったか?」

「うん!だいじょーぶ!」


その返事を聞くと、杏子は槍を地面に突き刺し、両手を祈るように合わせた。

(上手くいけよ…!)
心の中でそう思う。

「行けっ!ロッソ・ファンタズマ!」

叫ぶと同時に幻影が現れる。
その幻影は魔法少女と同じレベルのスピードで駆け抜ける。

物陰から様子を除く。

(喰いつけ、撃て、撃てよ……)

道路の中ほどまで進むと、ベヘモスは気が付いたのか喰らい付いた。
252 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:39:35.00
大量の鉛を浴びせられるが、幻影はまだ消滅していない。

鉛の雨が止んだ。

幻影の軌道を変えて、強引に接近させる。
その動きを見て、ベヘモスは砲撃を再開した。

「よし、行け、今だ!ゆま!!」

幻影が囮になる間にゆまと杏子は次の物陰へと移る為に飛び出す。

(いける、これなら!!)

中ほどまで進むと、杏子は違和感を感じた。

(まさか、幻影がやられたか…!
まずい、こうなったら次はあたし達だ…)

先に飛び出したゆまの後ろまで追いつく。
ベヘモスをチラリと見る。
その不気味な顔は、二人を捉えていた。

「ヤバイ!!ゆま、急げ!!」

あと少しなのに。
50mもないはずの距離が、遠く感じる。

砲撃が二人へ向く。
まだ照準は完全に合っていないのか、命中とは遠い。

だが、鉛の嵐は二人へ着実に迫っていた。

(このタイミングなら!)

杏子は後ろからゆまを抱きかかえると、次の物陰へと強引に飛び込む。

「と、ど、けえええええ!!!!」

あと少し、あと、少し。


ぎりぎりの所で、物陰に入れた。
ベヘモスは、目と鼻の先だ。

一息吐いて安心すると、すぐに立ち上がろうとする。

その時、杏子の足に激痛が走った。

「いっ……!!??」

見れば、その足は大量に出血している。

飛び込みの際に脚にだけ弾丸をもらっていたらしい。

「キョーコ!?
いま治すよ!!」

慌ててゆまは駆け寄って治療をする。

「悪いな、ゆま。ヘマをこいちまった…」

治療が終わると、杏子の足は傷一つ残っていなかった。

「だけどゆま。あんまり魔法を使い過ぎちゃダメだぞ。
さっきのアイツみたいな目には合わせたくないよ」
253 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:40:12.61
死が近づくと、否が応でもあの光景を思い出す。

ソウルジェムが割れて、グリーフシードに姿を変える瞬間を。

「だいじょーぶだよ、キョーコは魔女になんかならない。
ゆまがそんな事させないもん!」

珍しく杏子の話に強気に出るゆま。

「そうだな…あたし達も、いつかはなるかもしれない。
だけど、いつかは今じゃない。
あたしは最後までゆまを守るよ」

杏子は表情を引き締める。

「それじゃ、最後の一仕事といくか!
ゆま、行くぞ!」

杏子は槍を、ゆまはハンマーを構え直して駆け出した。

物陰を出れば、すぐにベヘモスの足元に辿り着いた。

杏子は棒高跳びの要領でベヘモスに飛び乗る。

「こおおおのおおおお!!!」

ゆまは全力でベヘモスの足にハンマーを叩きつけた。
足にまとわりつく薄い力場はやすやすと貫通した。

その威力の衝撃はベヘモスにしがみつく杏子さえも感じる。

その一撃で事態を重く見たらしいベヘモスは暴れ始める。

「うお!この、暴れんなーー!!」

ゆまを引き離そうとしたこの行為は、どちらかと言うと杏子を苦しめる。

「キョーコをいじめるなー!!!」

その様子を見ると、ゆまは怒ってもう一度ハンマーを叩きつける。
今度はもう片方の脚にだ。

怒りを乗せた一撃は、先程よりも強かった。

ハンマーを叩きつけた部位から脚がひしゃげ始める。

ベヘモスは少し大人しくなる。

暴れるよりも、ラムダ・ドライバによる防御を優先したようだ。

そうなると、ベヘモスの体に槍を突き刺せなくなる。

「なろっ…!!」

槍を突き立てようとした杏子はそれを中断して落下する。

「だが……てめーの武装ももらう!」
254 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:40:42.03
落下しながらも杏子は槍をバラし、伸ばす。
そして、ソレを思い切り振り抜く。

(イメージだ……奴の…防御を打ち抜いて…砲台を落とす……!
そうしなければ…ゆまを…守れない……)

振り抜く最中に極限まで集中を高める。
ゆまを守りたいという思いが、その一撃を後押しした。

穂先が力場と衝突する。
競り合い、火花が舞い散る。

(抜けろ…抜けろっ!)

強く念じる。

次の瞬間、その穂先は力場を貫通して砲台を切り落とした。

そこまではよかった。

「あ…やべっ!」

攻撃に集中し過ぎて、既に地面が間近に迫っている事を忘れていた。

このままでは、叩きつけられる。
いくら魔法少女とは言えども、この高さは致命的だ。

(ダメだ、間に合わねえ!)

杏子は半ば諦め掛けた。

地面に。

「キョーコ!」

叩きつけられなかった。

寸前で、杏子と地面の間にゆまが割り込んで抱き留めた。

「ゆま!悪いな、助かった」

だが、安心はできななった。

ベヘモスのその巨大な足の裏が、二人に迫っていた。

「くそっ…!」

杏子は態勢を立て直すと、ゆまを蹴り飛ばす。

「ゆま、すまん!逃げろ!」

これで、足の裏の範囲からゆまは脱した。
杏子は、間に合わない。

(まあ、最後の最後で人助けできて……よかったかな)

せめて、このデカブツは倒したかったと思ったが、それは叶わなかったようだ。
255 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:42:11.07
結界


宗介は魔女の飛ばす車輪に苦戦していた。

(軌道は読めるが……数が多い!)

左に跳び、前に進み、上に避け、切り払う。
しかし車輪はキリがなかった。

遠距離からガン・ハウザーモードで仕留めようともしたが、それも車輪に阻まれた。

[こちらウルズ6。狙撃砲で邪魔な車輪を打ち抜いてやる。
その隙に近づけ!]

クルツからの通信。
失敗すれば直撃は免れないだろうが、宗介はこのままジリ貧よりはマシだと判断して前進する。

車輪が飛び出す。前方には3つ。
このまま進めば直撃だろう。
逆に言えば、その3つをどうにかできるならば突破は容易だ。

クルツを信じて、臆せずに進み続ける。

次の瞬間、2つの車輪が木っ端微塵になる。
だが……

[悪い!一つ撃ち漏らした!]

クルツからの悲報。

「アル、やれ!」
『ラージャ』

それを聞いて即座に反応。

<レーバテイン>から隠し腕が伸びる。

ピッ!

風切り音と共に、対戦車ヒートダガーが撃ち出される。
車輪に命中、爆散する。

『軍曹、今です!』

「わかっている!!」

確認すると、全力で駆け抜ける。

「やるぞ、アル!」

宗介の掛け声とともに「ボシュッ」と勢い良く<レーバテイン>の後頭部から放熱索が伸びた。

魔女は<レーバテイン>に車輪を飛ばす。

(これなら…!)

その車輪の全てを宗介は見切る。
切り払い、前転で避け、さらに走り大きく跳躍して魔女に飛び掛る。

「おおおおおおおお!!!!」
256 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:42:37.38
逆手で単分子カッターを持ち直し、落下しながら魔女の体に突き刺す。

「アル!ニーカッターだ!」

<レーバテイン>の膝からカッターが飛び出る。
突き刺したカッターを引き抜く。
膝蹴りと共にニーカッターを押し付ける。

「まだだ!」

膝を離して、もう一度右手のカッターを突き刺す。

魔女も抵抗を始める。
手に持った剣で<レーバテイン>を攻撃しようと振り下ろす。

『こちらは任せてください』

再び隠し腕が現れると、今度は魔女の剣に単分子カッターを合わせる。

魔女の攻撃を捌くと、次にもう一本の単分子カッターを左手に持つ。
その左のカッターを突き上げ気味に魔女のわき腹に突き刺す。

「これで!!」

両手のカッターを切り払うように左右に引き抜く。

デモリッション・ガンを取り出して構え、押し付け、引鉄を引く。

その衝撃で魔女との距離が離れた。

「やはり、ラムダ・ドライバを直接ぶつけなければ有効打にならんか」

そう呟くと、右手に意識を集中させ再び魔女との距離を詰める。

魔女も近づけさせまいと、車輪を飛ばす。

銃声が聞こえた。

[行け!ソースケ!!]

クルツの援護だ。
今度は撃ち漏らす事なく、邪魔な車輪を打ち抜く。

「助かる。
よしアル、いけるな!?」

『ラージャ』

意識を集中させた右手に力場が発生する。

「集中しろ、意識を!!」

その右の拳が魔女にぶつかる。

拳を振り抜く事なく、接触の態勢でピタリと止まった。

右手の力が、開放され巨大な力場が発生した。

魔女の巨躯を包み込むほど巨大な力場が。

「右手の一点に、力を集中するイメージ……!!」

力場が消滅する頃には、魔女の姿もなくなっていた。

『敵殲滅確認。索敵モードに移行を?』

「いや、このまま戦闘モードでいい」

宗介は、この結界が崩れたら置かれるであろう戦場に備えた。
257 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:43:07.77
校庭



「美樹さん、いいの……
私は、ここで正義の魔法少女としてあのASを道連れにするわ…
それが、私にできる最後の正義としての戦いだから。
魔女になんて、なるつもりはないの」

マミはソウルジェムに力を込めた。

次の瞬間。
乾いた音が響いた。

「何をしているのかしら、巴さん」

気が付けば、マミの眼前にほむらが立っている。
自分がビンタをされたのだと気が付いたのはその後だった。

「正義の味方が自爆しようとしてるの?夢見る子供に後味が悪いと思わないの?」

理論的とは言い難い説教。

「だったら!貴女は私に魔女になれとでも言うの!?」

「ふざけないで!!」

もう一度ほむらはマミの頬をはたく。

「ねえ、巴さん。アレで動揺してるのは貴女だけではないの。
それなのに、貴女は。
見える?
あそこで食い止める為に戦ってる杏子たちが。
学校を守ろうとしているさやかが」

ほむらは指をさして示す。

「みんな、魔女になるつもりなんてないの。
そして自ら命を投げ打ったりしない。
命の尊さなら、貴女が誰よりも知ってるでしょう!?」

命の尊さ。
その一言がマミに堪えたようだ。

契約した日を思い出す。
炎上し、ひしゃげた車の中で契約した時を。

そしてマミは思い出す。
自分の周りで失われた命を。

父と母は死んだ。
自分だけで助かった。

魔女に目の前で殺された少年を。
自分は逃げ延びた。


そんなにしてまで繋いだ醜い命だと、マミは何処かで自分を卑下にしていたのかもしれない。

それなのに、自分を守ろうとしてくれる仲間がいる。


(なんであっても、命は平等なのかも…しれないわね……)

少し前の自分が愚かだったと自嘲する。
258 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:43:35.48
「ごめんなさい、暁美さん。心配かけたわね。
でも、もう大丈夫」

そう言ったマミの表情は自信に満ちていた。

「あら、思っよりはやく立ち直ったわね」

少しだけほむらは呆気にとられたようだ。

「ええ、これ以上は美樹さんに負担を掛けれないですもの!」

マミはさやかの場所に向き直る。

「そう、それはよかった。
あ、ちなみに今の会話は全部テレパシーでさやかに筒抜けにしておいてあげたから」

「えっ!?」

なんて恥ずかしいものを…と思う。

「ほら、行ってらっしゃい。
こうしてる間にもさやかはピンチなのよ?」

それだけの事をしておいて、以前としてほむらは飄々としている。

「ぐぬぬ……暁美さん、覚えておく事ね……!」

それだけ言い残すと、ほむらから離れてさやかを助けに向かう。


「美樹さん、待たせたわね!後は……任せて!!」

<コダール>を射程内に捉えるとマミは叫んだ。

「悪いけど……」

巨大な大砲を目の前に二丁召喚する。
マミの代名詞「ティロ・フィナーレ」を二つ作り出したのだろう。

「守るべき人たちの為に、貴方を討つ」

言い終えると、同時に発射。

さやかは、放つ直前に射線から離れた。

二本の光の線が、<コダール>の力場を破り、両脇腹を貫いた。

この損傷ならば、機能は殆ど失われるだろう。

だが、腕は生きていた。
諦めの悪い<コダール>はマミにアサルトライフルを向ける。

「させないっ!!」

今度はさやかが急速で接近して、アサルトライフルを持つ腕を斬り飛ばす。

今度こそ、<コダール>は完全に沈黙した。
259 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:44:12.30
市街地


(まあ、最後の最後で人助けできて……よかったかな)

そう思う杏子に、巨大な足の裏は踏み込まれる。

(あれ…凄く…遅く感じる?)

そう思った瞬間には、杏子の真上に足はなかった。
正確には足がなくなったのではなく、自分が大きく動いていた。

「ふう、ギリギリセーフ、だね!」

そう言ってニコニコ笑っているのはキリカだ。

どうやら杏子を抱き締めながらも飛び込んで踏みつけを回避したらしい。

「あと少し遅延が遅れてたら、どうなってたことか。

おーーい!!織莉子ーー!!!間に合った、上手くいったよー!!」

キリカが叫ぶと、物陰から織莉子も歩いて現れた。

「よかった……本当に、よかったです」

「キョーコ!!キョーコぉ!!」

今度はゆまが突進気味で杏子に抱きつく。

「わわ、ゆま落ち着けよ…」

杏子はゆまを引き離す。

「そうだよ、ちびっ子。
まだ目の前に敵はいるんだ。アレをやっつけてからそれぞれの愛を……」

「キリカ、それ以上はゆまちゃんの教育によくないわ」

キリカが語ろうとした所に、織莉子が止める。

「むぅ…織莉子が言うなら仕方ないなぁ」

少しむくれたようにキリカ。

「あら、嫌われちゃったかしら?」

微笑みながら冗談を繋ぐ。

「まさか!大好きだよ、織莉子!!」

キリカは愛を叫ぶと両手に鉤爪を出現させた。

「ゆま、あたしたちもやるぞ」

杏子も槍を構え直す。

「わかった!!」

ゆまもハンマーを持ち直した。

「とりあえず……てっぺんから潰してみっか?
でも、どうやって登るかだな…
それに動かれたら登り切れない」
260 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:44:44.95
杏子は悩んでいる。

そこで、ゆまとキリカを交互に見て思いつく。

「ゆま、そのハンマーであたしを思いっきりあいつの頭までかち上げてくれ。
それとキリカはすまないが遅延を使ってあいつの動きをノロくしてくれないか」

かなり急仕上げで強引なプラン。

「キョーコがいいなら、ゆま、やるよ!」

ゆまはハンマーを地面に着けて、打撃用の平面を真上に向ける。

「囮か…やってあげようではないか、面白そうだ」

キリカは舌舐めずりをしながら二本の鉤爪をカチカチと鳴らす。

「私は、水晶を使って奴の攻撃を妨害します」

織莉子も一歩前に出ると水晶を浮かべた。


「じゃあ、やってみるか!」

そう言うと杏子はゆまのハンマーの上にのる。

「よし、行けっ!!」

杏子の合図でゆまはハンマーを思い切り振り上げる。

杏子は弾丸の如く上空に打ち出され、ベヘモスの身長よりも高く飛び上がる。

(よし、捉えた。動くなよ……!!)

ベヘモスは杏子を捉えようと動くが、その動きはかなり緩慢だ。

唯一杏子に向いた砲門は、何処からともなく飛来した水晶によって妨害される。

(よし、この位置!!)

ベヘモスの真上に位置を調整すると、手に持つ槍をベヘモスの頭頂部に投げ込む。

力場と衝突する。

(上手くいけよっ!?)

空いた両手を祈るように合わせる。

普段の槍よりも遥かに巨大な槍が、杏子の背後に現れる。

投げた方の槍は、ほとんど威力を失うが力場を貫通した。

「いけっ!こいつでも、喰らいやがれええええ!!!」

力場を失った頭頂部に、その巨大な槍を叩き込んだ。

その槍を構えたまま、頭頂部を貫通く。

そのまま槍は貫通し、地面に突き刺さる。
今度の杏子は見事に着地に成功した。

ベヘモスは崩れ去っていた。

「上手く、いったみたいだな」

そこまで見届けて、ようやく一息つく事ができた。

「それじゃ、みんな待ってるんだ。
帰ろう、織莉子。それに杏子とゆまも」
261 : ◆Upzc6141AI :2013/01/28(月) 01:45:11.43
校庭

「いやぁー、マミさんの意外な一面?見れて、得しちゃった気分ですよ。
あたしも、色々考えてたけど、アレを聞いちゃったらね…頑張っちゃいますよ!」

さやかも、魔女の事については吹っ切れたようだ。

「美樹さん。あんまり触れない方がいいわよ?」

ニッコリと笑いながらさやかの肩を強く掴む。

「ハイスミマセンデシタマミサン」

あまりの威圧感にさやかはカタコトになる。


「まったく、二人とも……緊張が抜けすぎよ…」

ほむらは呟く。
横には<エリゴール>と<コダール>の操縦兵がマミのリボンで縛られていた。

「本当ならこの人たちも殴ってやりたい気分だけど……色々聞きたいこともあるし、今はやめておいてあげるわ」

誰に言う訳でもなくほむらは呟いた。

「暁美も、捕虜を取るとは中々才能があるんじゃないか」

宗介は既に結界から帰還していた。
他のウルズチームは生徒たちに囲まれている。

「宗介に言われると複雑ね……」

溜息混じりに返す。


「悪い、みんな待たせた!!」

そこにベヘモスを撃破した杏子たちも帰ってくる。

「来たみたいね。
それじゃあ行きましょう?私たちの帰るべき居場所へ」
268 : ◆Upzc6141AI :2013/02/04(月) 00:40:17.17
戦士達の休息?


トゥアハー・デ・ダナン 艦長室


「やあ、久しぶりだね、テレサ」

艦長室にはテッサしか居なかった筈だ。
そうなると、声の主は一匹しか思いつかない。

「あら、海に捨てられたのにまた来るとは思いませんでした」

悪びれる様子もなくテッサは返す。

「全く、ここ最近は驚かされる事が多いよ。
君にしてもそうだ。
いきなり海に投げ捨てるなんて、訳がわからないよ」

キュゥべえは相変わらず無表情だ。

「貴方の目的を知ってしまいましたからね。
私はわかってて人を利用するだけして捨てるようなのは嫌いなんですよ」

少しだけ目を細めて睨みつける。
いけない、感情のない相手にムキになっては思う壷だ。

「僕達にはわからない考えだなぁ、それは」

感情がないのだから、余計に煽られているようで腹が立つ。
テッサは怒鳴りたい気持ちを抑えて聞き返した。

「それで、そんな事を聞きに来たんじゃないんでしょう?」

苛立ちを隠しながらも話を早く終わらせようとする。

「人間はこういった無駄な会話が好きだと聞いたけど、違ったみたいだね」

あくまでテッサのペースには乗ろうとしない。

「話すなら早くしてください。
そうしなければまた、海に捨てますよ?」

「それは困るね。
それで、聞きたかった事なんだけど、ここ18年程度で君たちの技術がおかしなくらいに上がってきている。
アーム・スレイブもそうだ。
特に君たちが所有するあの彼が乗っている機体。魔女を圧倒するなんてどうかしてるよ」

あくまで無表情。
そして、一定のペースで告げる。

「貴方に話す義務はないですね」

テッサはもとより、何を聞かれても答えるつもりはなかった。

「僕達は興味があるんだ。
ラムダ・ドライバと言ったかな。
感情をエネルギーにする僕達ですらあんな技術は所有していない。
明らかに人間のテクノロジーとは思えないんだ」

ブラックテクノロジーなのだ。
現在で存在していない筈のテクノロジーだから、人間のテクノロジーに思えないのは当然だろう。

「それは誇らしいですね。でも教えませんよ?
むしろ、こっちも聞きたい事があるんです」

今度はテッサが質問する。

「なんだい?」

「先日の学校襲撃。
情報をリークしたのは、貴方でしょう?インキュベーターさん」

テッサは核心に迫る。
269 : ◆Upzc6141AI :2013/02/04(月) 00:40:46.43
「どうしてそんな事を考えるんだい?」

「質問に質問を返すなら、それは肯定、と言う事でよろしいですね?」

否定したところで、テッサは信じる気があまりなかった。

宗介からの報告だと、敵の目的はまどかの拉致だったらしい。

「まあ、そうなるね。僕達の目的の為にもまどかには是非とも契約して欲しいんだ」

これ以上は無益だと判断したのかキュゥべえはそれだけ言い残すと姿を消した。

「全く……困った生き物ですね」

自分一人になった艦長室でテッサは独りごちた。

「あ、私もミタキハラに行く準備をしないと!」

その後焦って荷物を整理するテッサが転んでいる目撃情報はトゥアハー・デ・ダナンの至る所で流れたのであった。
270 : ◆Upzc6141AI :2013/02/04(月) 00:41:29.64
翌日、見滝原、ほむら宅、居間


魔法少女全員と、まどかとかなめ、それに宗介を含めたウルズチームはほむらの家に集合していた。

「突然なのだけど……2週間後、この街にワルプルギスの夜が訪れる」

本当に突然だった。
知っている者にはある種の死刑宣告にも聞こえたかもしれない。

「ワルプル……え、なんだって?」

こう返したさやかはワルプルギスの夜を知らなかった。

「ワルプルギスの夜よ、美樹さん。超弩級の大物魔女なの」

ベテランのマミは勿論ワルプルギスの夜を知っている。
この中でワルプルギスの夜を知っているのは、ほむら、マミ、杏子の三人である。

「あー、いや、ちょっと待ってくれ。
そのワルプルギスとかってのも重要なんだが、こっちに約一名だけ一から説明を求めてる人が居るんだわ」

そこでクルツは口を挟む。
彼らは戦っていたものは違えども、見滝原中学を守った。
その際に魔女や使い魔が「妖精の目」に映る事があっただろうし、彼らは結界に巻き込まれた。

クルツはお菓子の魔女と交戦、撃破をした事があり、マオは魔女の事は話だけだが知っている。

ただ、クルーゾーだけはアマルガムの迎撃の任務で訪れた為に魔女は全く知らない。
その状態で結界に巻き込まれたのだから知りたくもなるのだろう。

「あぁ、すまないな。こっちの戦闘にまで巻き込んでしまったが、俺も魔女とやらについては知りたい」

至って冷静な声で話すが、クルーゾーはかなり魔女について気になっているようだ。

「そうね。魔女の結界に巻き込んでしまったのは、こちらに落ち度がありますから、説明します」

ほむらが説明を買って出る。

「多分……貴方には見えないでしょうけど、キュゥべえと名乗る生き物がいて……
それと契約したのが、私たち魔法少女です」

そう言ってほむらはソウルジェムを取り出す。
271 : ◆Upzc6141AI :2013/02/04(月) 00:42:04.11
「そして、魂を抜き取られこの宝石に変えられ、魔女との戦いを強いられる。
願いを一つだけ叶える事と引き換えに」

それだけ言うとほむらはソウルジェムを仕舞う。

「そして、最期は魔女に殺されるか、魔女になるか。
クルーゾーさんたちが巻き込まれたのは、その場で魔女となった魔法少女の結界です。
これが私たちの知っている魔法少女の全て」

ほむらは表情を曇らせて黙り込んだ。

「すまない、暁美。俺が説明するべきだった」

やはり、知っていて受け入れたとしても口に出すのは辛いのだろう。
その様子を見かねて宗介はほむらを気遣った。
見渡せば、その場の全員の表情まで落ち込んでいた。

「いいの、私たちはその代償を受け入れてまで、叶えたい願いがあったんだから。それだけの事だから気にしないで」

沈黙を破る様にマミは全員に言った。

「これで魔法少女と魔女については教えたわ。
それで、ここからが本題なのだけれど…」

「ワルプルギス…ねぇ…」

本題自体は先ほどに言ったとおりだ。
杏子がポツリとその名前をこぼす。

「この街に来るってなんでわかるのさ」

「統計よ」

キリカが質問すると、ほむらは即答した。

「それについては、私も保証するわ。私の魔法でそれと思わしき光景は見たので」

「織莉子が言うならそうなんだろうね」

織莉子の補足にキリカは即座に反応する。

「あらあら、キリカったら。
もう少し私以外の事も信じないとダメよ?」

織莉子はキリカを落ち着かせるように言った。
272 : ◆Upzc6141AI :2013/02/04(月) 00:42:36.39
「まあ、私の胡散臭い統計よりも織莉さんの未来予知の方が信頼できるもの。仕方のない事ね」

あまり表情を動かさずにほむらは言うが、明らかに少しだけしょげていた。

「ほ、ほむら、気を落とさないでくれ。悪気があったわけじゃあないんだ。本当だよ、信じてくれ」

その反応を見てキリカは慌てて弁明する。
それを見てほむらは少し笑った。

「冗談よ、キリカさん。そこまで性格は悪くないわ」

「でもほむらは行動に問題があるよね。学校でも拳銃ぶっ放したし」

さやかはこれ見よがしに痛いところを突く。

「あれは…相良くんの提案だった…ような」

まどかがフォローをするように宗介を犠牲にする。

「ソースケ、またそんな事したの!?」

今度はかなめが即刻で食いついた。

「聞いてくれ、千鳥。
あれは最も効果的に…」

宗介がいい終える前にかなめは宗介の頭をハリセンで叩いた。

「すまない」

弁明も意味を成さないとわかりすぐに謝る。

「相変わらず、ソースケはカナメには頭が上がらないわけね」

「えっ?」

今度はそれにまどかが反応する。

「まどかお姉ちゃんも、かなめお姉ちゃんもどっちも名前に【かなめ】ってつくもんねー」

ゆまは無邪気な声で指摘する。
273 : ◆Upzc6141AI :2013/02/04(月) 00:43:06.94
その一言で部屋が沈黙に包まれる。
宗介以外は。

「なんだ。気が付いていなかったのか?」

そんな中でも空気を読まない彼は言ってしまった。

気が付かなかったとしても無理はない。
大半はこの二人と顔を会わせたのは昨日の話で、しかもあんな状況だったのだから。

「い、いやあ、そんな事ないよ?まどかはあたしの嫁なんだから、名前のかぶりを忘れるだなんて、ねぇ?」

だいぶ早口でどもりながらさやかは言うが、嘘なのは見え見えだった。

「さやか、やめとけよ。余計に自滅するぞ」

杏子はその嘘を見抜く。

「うぅ…ぐぬぬ……」

杏子に言われたのが悔しいのか、それとも単純に気が付かなかったが悔しいのかはわからないが歯軋りをしている。

「嫁…だと?」

嫁と言う単語にクルーゾーは引っかかった。

「これはまさか」

「ベンちょっと黙ってて」

メリダ島とアフガンの決戦後は趣味を前面に出すようになったクルーゾーだが、ここではマオに沈黙させられる。

「まああたしはカナメ、マドカはマドカってみんなが呼べばいいんじゃない?」

「そうするか、千鳥」

宗介は癖なのかその提案を一瞬で間違える。

「もう間違えてるし…まあいいけど」

かなめは少し呆れ声だ。
274 : ◆Upzc6141AI :2013/02/04(月) 00:43:39.72
「名前についてはいいかしら?
それで、ワルプルギスなのだけど」

そうほむらが言うと場の和んだ空気から一転、緊張に包まれる。

「無理に一緒に戦って欲しいとは言えない。今から5分だけ私はこの部屋から出ていくわ。
その間に、ワルプルギスとの戦闘に参加しない者はこの家から立ち去って欲しい」

少し言い方が強かっただろうか。
そんな事を考えながら振り向きさえせずに横の部屋へと移る。
残された全員の居る部屋は、ほむらが移動した部屋の他に、玄関へと通じている。

立ち去るのならば、ほむらとも顔を合わせずに去れるように配慮したのだろう。
275 : ◆Upzc6141AI :2013/02/04(月) 00:44:10.95
隣の部屋


扉を閉めるときさえも、ほむらは他の面子の顔を見ないように後ろ手で扉を閉めた。

扉が閉まると、今度は外から開けられないように鍵を閉める。

完全に干渉される事がなくなったところでほむらは扉に背中からもたれかかる。

(やっぱり、卑怯なやり方…)

小さく溜息を吐くと、そんな事を考えた。
あんな言い方に、去り方。
一人であろうと戦うと言わんばかりの去り方だ。
正義感の強いマミとさやかは勿論参加するのだろう。
願いから考えて、織莉子もそうだ。そして、キリカは織莉子がいるのなら間違いない。
杏子は何だかんだであの親切性だ、きっと参加する。
ゆまも杏子次第といったところだろう。

宗介や<ミスリル>はどうだろうか。
宗介、クルツ、マオの三人は任務の内容からして戦うのだろう。

彼らの隊長でもあるクルーゾーはわからない。
彼はアマルガムの迎撃の為に訪れたと言っていたが、それもまた任務次第だろう。

まどかとかなめは戦う力はないが、性格から残ると思われた。

(あれなら、きっと全員残ってしまうん…でしょうね)

ああ、やはり卑怯なやり方だ。

戦力は欲しい。
だが、誰にも死んで欲しくない。

今までなら切って捨てていたかもしれない可能性と感情でほむらは葛藤している。

時計を見る。

5分経過だ。

行かなければ。
276 : ◆Upzc6141AI :2013/02/04(月) 00:44:40.59
ほむら宅、居間

ほむらは隣の部屋から戻る。

(やはり、そうなるわよね)

予想していた通り、全員が残っている。
あの戦いに参加させる事は利用するようで悪い気がしたが、ある程度は全員の意思で残ったのだ。

それどころか、そんな死地に向かうような悲壮な雰囲気は誰一人として出していない。

織莉子とマミが作ったのであろう紅茶を啜りながら和気あいあいと話し合っている。

まどかは以前の様に暗い雰囲気はなく、さやかたちと対等に話し、さやかは全員と仲良さげに話を振る。
彼女の明るさはこういった場で発揮されやすいようだ。
マミはウルズチームを除けば年長者だからか全員をまとめ、杏子もゆまと楽しそうに茶菓子をつついている。
キリカはなんだか織莉子と二人きりの世界に入っていた。
マオやクルツ、クルーゾーや宗介にかなめもその輪の中で落ち着いている。

自分でも意味のない事をしたな、とほむらは思った。

(みんなして……大馬鹿なんだから)

部屋に一歩入ると全員の視線がほむらに集中する。

なんだか恥ずかしく感じた。

自分を落ち着かせるように、一つだけ咳払いをする。

「じゃあ、対ワルプルギスの作戦会議を始めるわ」

プロの作戦部隊も含めた、魔法少女の作戦会議が開かれた。
277 : ◆Upzc6141AI :2013/02/04(月) 00:45:07.62
一時間後


「以上が対ワルプルギス用の戦術になるわ」

ほむらがそう言うと全員が緊張から解放され楽になる。

「ASの方は…ごめんなさい、私は全然わからないから……」

大小様々な平気に精通するほむらも、この時間で始めて出会ったASの扱いや戦術性は把握できなかった。

「気にするな、俺たちはプロだぜ?」

クルーゾーは励ますようにほむらに言う。

「そうそう、だから俺たちの方は問題ないぜ?前の恵方巻き野郎みたいに撃ち抜いてやるさ」

クルツもそれに同乗した。

「そうね、あたしたちSRTならなんとかできるわよ」

「ああ、俺たちはプロフェッショナルだ」

マオと宗介もそれには同意するようだ。

「それじゃあ、AS部隊の方々はいつも通りに指揮を別々でとって臨機応変でお願いするわ」

ほむらはASの指揮はできない。
その為SRTの能力を存分に活用できるように、別の指揮系統で動いてもらう事にした。

「そんで、あたしとマドカは避難所で応援係ね。大丈夫、絶対に契約なんてさせないよ」

かなめとまどかは戦えない。
避難所で事実を知りながらも、震災やらスーパーセルだと思い込みながら待つ。
その事が二人は悔しく感じたが、ここにいる全員を信じている。
だから、絶対に契約なんてさせないと言い切れた。

「そうか。千鳥、俺は絶対に帰ってくる。心配はさせ………すまん、通信だ」
278 : ◆Upzc6141AI :2013/02/04(月) 00:46:07.05
なんとタイミングの悪い事だろうか。
言い終える直前に通信が入る。

「こちらウルズ7…あ、はい、大佐殿。見滝原に到着…はい、了解しました」

手っ取り早く会話を済ませると通信を切る。
大佐と言った事から、テッサを知る人物は誰からの通信か把握したようだ。

「すまない、千鳥。大佐殿を迎えに行ってくる。15分程度で戻るぞ。
暁美も大佐殿をここに連れてきて問題はないか?」

「ええ、貴方の上官なのでしょう?それならば、彼らも居る事だし構わないわ」

「悪いな」

許可を貰うと宗介は玄関から外へと向った。
279 : ◆Upzc6141AI :2013/02/04(月) 00:46:40.48
15分後


「戻ったぞ」

玄関を開く音と宗介の声が居間に聞こえた。

「おかえり、ソースケ、テッサ」

「お久しぶりです、カナメさん」

久しぶりに再開した二人は軽く挨拶を交わす。

「お、テッサ一週間ぶり!」

その姿を見たさやかが二番目に迎えた。

さやかは一週間ぶりと言った。
宗介はまだその程度の時間しか経っていないのかと思う。

思えば、ここ数日はかなり忙しかった。

廃工場での一件や、アマルガムとその魔法少女の襲撃など。

そのせいもあって非常に毎日が長く感じた。

「ええ、お久しぶりですサヤカさん」

テッサはそれから全員とも挨拶を済ませる。
宗介はその間に元いた位置へと戻る。

テッサが宗介たちに向き直ると、彼らは一斉に敬礼をする。

「あら、そんな堅苦しいことしなくて大丈夫ですよ?」

それを見たテッサはすぐに敬礼をやめさせようとした。

「流石テッサ」

誰よりも早くクルツはそう言いながらも敬礼をやめて椅子に深く座り込む。

全員が敬礼をした光景を見て、ほむらとマミ、かなめ以外は唖然とした。
280 : ◆Upzc6141AI :2013/02/04(月) 00:47:39.20
「えーっと、まさか、宗介たちの上司さんて…テッサなの?」

最初に疑問を口にしたのはさやか。

「ああ、そうだが」

何か不自然か?とでも言いたそうに宗介が返す。

「世の中広い物だね。大佐なんて言うから髭を生やしたゴツイ親父かと思ってたよ」

杏子は素直に感想を述べる。

「私も杏子と同じ事を考えていたようだ」

キリカは杏子に賛同する。

「私も…って言いたいけど、殆どの人がそうじゃないかしら?」

織莉子はしみじみと言いながらもテッサにお辞儀をし直す。

「そ、そんなかしこまらなくていいですよ」

テッサはわたわたと慌てながらも身振り手振りでやめさせようとする。

「でもテッサお姉ちゃんは、ヒゲなんて生えてないよ?キョーコ?」

ゆまは杏子の言葉を変に捉えてしまったようだ。
それを聞いたテッサは凍りついたように動作を止める。

「違うわよ、ゆまちゃん。
テッサさんはヒゲなんてなくたって偉い、優しくて頼りになる人なの」

マミは何とかしようとフォローをいれるがかえって気まずくなってしまう。

「ご、ごほん!それより、話す事があってこちらに来たんですが、お時間は大丈夫ですか?」

テッサが聞くと概ね同意してもらえた。

「幾つかあるんですが、まずはオリコさんに関係する事です」

真剣な声音に変えて、取り直す。
281 : ◆Upzc6141AI :2013/02/04(月) 00:48:24.45
「まず、美国議員の事ですが…」

少しだけ区切る。
織莉子も真剣な表情で次の言葉を待った。

「議員の他にアマルガムの幹部構成員である事がわかりました。
アマルガムは、先日学校に襲撃を仕掛けた組織です」

「私の父がテロリストだったとでも言うんですか?」

それを聞いた織莉子は明らかに悲しんでいる。

「いいえ、話すと長くなってしまうんですが、その逆です。
昔はアマルガムはテロ組織ではなかったように、その本来の姿に戻そうと力を尽くしていたようです。
それが他の幹部には邪魔者とされて………」

そこまで話すとテッサは下を向く。
次の言葉は誰もが予想できただろう。

「抹殺されました」

小声になりながらも、はっきりと言った。

それを聞いて織莉子は崩れ落ちて泣き出してしまう。
キリカがそれを無言で支える。

「汚職うんぬんは、濡れ衣です」

「よかった…」
282 : ◆Upzc6141AI :2013/02/04(月) 00:48:56.39
そこで、織莉子の口から出た言葉は意外なものだった。

「やっぱり、父は悪事など働いていないかったんですね……それが知れて満足しました。ありがとう、テレサさん」

「彼は、自分の信念を貫き通して生きました。その事に私は敬意を払います」

テッサはそう続けると織莉子に近づいて肩を抱き寄せた。

二人の同じ様なアッシュブロンドの髪が揺れる。
横で支えていたキリカも織莉子の体をテッサに任せて立ち上がる。

「悔しいけど、私には織莉子を嬉し泣きさせる事はできなかった。
彼女には感謝をしないとならないね」

誰に言うわけでもなく、キリカは呟いた。

「ちなみに大佐」

「テッサでいいですよ、サガラさん」

「ではテッサ。美国議員の幹部のコードネームは?」

単純に気になってしまって聞いてしまう。

「……ミスタKです」

テッサは再び織莉子をキリカに預けると、少し躊躇ったあとに伝えた。

「っ…!」

ミスタKと言われて宗介は明らかに動揺する。

「ミスタKか……少佐、だよな」

クルツも少しだけ動揺したようだ。
他のウルズチームも少なからず気にかかっている。

「ああ、そうだ。
となると、美国議員殿はその後に現れたんだろう」

宗介は拳を握りしめる。
これも何かの縁なのだろうか。
283 : ◆Upzc6141AI :2013/02/04(月) 00:49:47.93
偶然にも織莉子の父親もその名前で呼ばれ、宗介が親父と呼んだ人物もミスタKと呼ばれていた。

そして、どちらも何らかの信念を抱きながらも散ってしまった。

「だが過去に縛られても仕方が無いな」

ここまで無言で話を聞いていたクルーゾーが口を開く。

「ええ、その通りだ」

宗介も動かずに同意。
他のメンバーも頷いていた。

「すみません…やっぱり、言わない方が良かったですよね」

テッサも申し訳なさそうにしている。

「いえ。これを知れてスッキリしました。ありがとう、テッサ」

そう言って、宗介は織莉子に近づく。
目の前まで歩くと、右手を差し出した。

「生まれた環境も、育った環境もまるで違うが…俺たちは案外、似たもの同士なのかもしれないな。
これからも、よろしく頼む」

慣れない言い回しだからか、少し照れ臭そうにする宗介。

「ええ、こちらこそお願いします」

織莉子はまだ涙で頬が濡れている顔で微笑みながら、その右手を取った。

「これで一件落着かな?」

「ええ、そうね」

遠くから見ていたさやかとほむらがポツリと溢す。
284 : ◆Upzc6141AI :2013/02/04(月) 00:50:19.39
これでまた、先程のように和気あいあいとした空気に戻ると思われたが、そうではなかった。

「それと、もう一つです」

テッサは若干次の用件を言うのに気まずそうにしている。

「皆さんがここで何をしていたかは聞いてて……水をさす様な真似はしたくないんですが……ホムラさん」

テッサが指名する。

「えっ、私ですか?」

ほむらは呆気に取られたように返事をする。

「はい、あの……すごく申し訳ないんですが……その、明後日からワルプルギス出現予想日前日までの間に来て欲しい所があるんです」

それを聞いてほむらはますます訳が分からなくなる。

(まさか……盗んだ兵器が<ミスリル>の物だった…なんてないわよね……)

「悪い事ではありませんので、ご安心を。
まあ、ちょっとしたプレゼントの様なものです」

テッサはにっこりと笑いながら告げるとほむらは安堵した。

そのテッサに宗介が耳打ちをする。

「まさか、あれの修理が終わったのですか?」

「はい、そのまさかです。
でもアレを上手く動作させるには、並外れた集中力が必要になってしまいますので、魔法少女である彼女が適任かと」

テッサも宗介にしか聞こえないように耳打ちで返す。

「わかりました、明後日ですね」

ほむらは急だとは思ったが明日と言われるよりかはマシだと感じた。
285 : ◆Upzc6141AI :2013/02/04(月) 00:50:56.13
「じゃあみんな、明後日からは見滝原の魔女退治は任せるけど、大丈夫かしら?」

「ええ、任せてもらおうかしら」

「見滝原の平和はこのさやかちゃんがガンガン守っちゃいますからねー!」

「別にさやかだけじゃねーだろ」

「キョーコと一緒になら頑張れる!」

「私も父の様に、信念を持って守りますよ」

「織莉子の為なら幾らでも戦おうじゃないか!」

それぞれが声をあげる。

「私は…戦う力なんてないけど、それでも、みんなの為になれるなら……それはとっても嬉しいなって」

「あたしもこっちに用事があったし残ってるよ。
ソースケがそんな危険なものと戦うなら近くに居たいから」

二人のカナメも同じ様に見送る事を決意する。

「まあ、行くのは明後日だから、明日にする事をしといてから行くわ。
覚悟する事ね、さやか」

何故かさやかに向ける。

「え、あたし?」

「ええ、そうよ。
テッサ、明日は自由にしてていいのかしら?」

さやかに言いつつもテッサに確認する。

「はい、用意が特にないなら問題はないですよ。
私も明日は用事がないからこちらで過ごす予定ですし」
286 : ◆Upzc6141AI :2013/02/04(月) 00:51:27.08
それからも、幾らかテッサからの解説があった。

まどか達に聞こえるささやき声とその原因だ。

インキュベーターからの情報だと先日のテロリスト魔法少女の願いが原因の可能性があるらしい。

願いの内容は『あの人の望む世界の礎となりたい』
その少女の前後を探ったところ、あの人はレナードを示していると思われた。
そこについては宗介が見た魔女結界の使い魔の姿からも並々ならぬ感情を抱いていた事もハッキリしている。

その願い故に、オムニ・スフィアは消滅せずに擬似的に他の新たなウィスパードが誕生した事らしい。

ただ、未来のまどか達からブラックテクノロジーが送られてくるのではなく、現在に存在しているブラックテクノロジーについて、いわゆる魔法少女に関係した事だ。

そして、まどかが襲撃の最中に見せられた幻覚のようなもう一つの世界。
それは、その願いに乗じてインキュベーターが見せたものらしい。
『魔法なんてない世界が欲しい』とでも願わせたかったのだろうか。
その世界を【完全に】再現したものを見せた結果、まどかの決意は硬いものとなってしまったが。
本来ならば、魔法によって生きている人もいるご都合世界を見せようとでもしたのだろうか。


それと、最後にアマルガムに襲撃を仕掛けさせた首謀者のこと。

今までインキュベーターを信頼していたマミには少し辛い話だったが、魔女化の真実も知っていることからインキュベーターの差し金だった事も受け入れた様だ。
287 : ◆Upzc6141AI :2013/02/04(月) 00:52:55.48
………………
「うへぇー、疲れたぁー」
一通りの話を聞いたさやかは大きく息を吐きながら椅子にもたれかかる。

時間は既に夜の8時を回っていた。

「じゃあ明日もここに10時に集合でいいかしら?」

この日はもう遅い。
ほむらがそう言うと今日は解散となった。


「あ、宗介はちょっと待って」

同じく帰ろうとする宗介を呼び止める。

「なんだ?」

振り向く宗介以外には聞こえない様にほむらは耳打ちで宗介に何かを伝えた。

「了解だ」
299 : ◆Upzc6141AI :2013/02/14(木) 01:36:00.94
魔法少女の割と暇な一日



翌日、午前9時、ほむら宅


「それで、一時間早く呼ばれたから来た訳なのだが……」

宗介はほむらの家の玄関を跨ぐと辺りを見回す。
そこにはさやか以外の面々が揃っていた。

「おはよう、相良くん」

マミと目が合ったからか、挨拶をされた。

「ああ、おはよう」

できるだけ自然な風に挨拶を返す。
更によく見れば魔法少女だけではなく、マオにクルツ、クルーゾーとテッサ、それにかなめまで来ている。

「おはようございます、大佐!」

今度はテッサと目が合ったのでキッチリと敬礼をした。

「サガラさん、別にそんなに硬くならなくていいですって…」

昨日と同じ様にテッサは硬い態度を崩させる。

「はっ、わかりました」

「おはよう、ソースケ」

最後にかなめとも挨拶を交わす。

「……美樹以外の全員いる様だな。
それと、頼まれた物も持ってきたぞ」

そう言う宗介の手にはボン太くんが抱えられている。

「そう、これが借りたかったのよ」

「何故ボン太くんを?」

宗介は疑問を抱く。
宗介自身は普段の戦闘用の装備として扱うが、その見た目からはふざけているようにしか見えないし、第一ほむらは魔法少女だ。
到底ボン太くんが必要だとは思えなかった。
300 : ◆Upzc6141AI :2013/02/14(木) 01:36:49.39
「今日やる事に必要かもしれなかったから。
別に魔女と戦おうって訳じゃないわ」

「ボン太くんは戦闘用の装備だぞ?」

ほむらの答えにすぐに返す。

「ボン太くんはそんなのじゃな~い!」

その宗介の問いはゆまによって否定されてしまった。

「ソースケ、ボン太くんは子供に人気があるんだからそんな事しないの!」

かなめにまで怒られてしまう。

「そうか……」

かなり高価な改造が施されたボン太くんがボロボロに言われてしまった為か宗介は少し落ち込んでいるようだ。

「それで、俺らまで早く呼んだ理由ってのは?」

それらのやりとりが終わるとクルツも気になっていたらしく、早く呼ばれた用件を聞く。

「見ての通り、さやか以外は早く来てもらったのだけど、その用件ね。
実は協力してもらいたい事があって……」

その場に早めに集められ、昨日の事もあって緊張した空気が流れていたが実に拍子抜けする用件であった。


「その、さやかの恋……と言うか…とにかく後押しするようにフォローするのを………手伝って欲しいなぁっ……て……」

ほむらはとても申し訳なさそうに、本日の任務を伝えたのである。
301 : ◆Upzc6141AI :2013/02/14(木) 01:37:21.63
一時間後、ほむら宅


玄関の予備鈴が鳴り響く。
本日のターゲット(?)のさやかの到着だ。

「開けてくるわね」

ほむらはそう言ってすぐに玄関へ向かう。

「お邪魔しまーす」

さやかの声が聞こえたと思うと、すぐに全員が揃う居間に姿を現した。

「お、おはよう、美樹さん」

またしても最初にマミが声を掛けるが何処かぎこちない。
やはり先程のほむらの一言が気になってしまったのか、笑顔が非常に固い。

「おっす、さやか!」
「おっすー!」

次に声を出したのは杏子とゆま。
こちらはかなり自然な風に聞こえる。
杏子は不自然なマミの脇を肘で軽くつついた。

「おお、恩人じゃないか!」
「おはようございます、美樹さん」

更に妙にハイテンションなキリカと落ち着いた様子の織莉子。

「美樹か」

宗介は挨拶なのかもよくわからない一言。

「おはようございます、サヤカさん」

「おっ、おはよう、サヤカ」

「来たね、サヤカちゃん。今日は……」

クルツが余計な事を滑らせる前にマオはその脇腹に肘打ちを叩き込む。

「グッ……何もそんなに強くやらなくても……」

クルツはその一言を最後に腹を抑えてうずくまり、黙ってしまった。

「美樹か」

「ベン、ソースケとまるで被ってるけど」

クルーゾーも宗介と同じ一言を言うとマオに指摘される。
302 : ◆Upzc6141AI :2013/02/14(木) 01:37:55.60
「お、サヤカ!おはよー!」

ここまで不自然はマミ以外はなかった流れだが、かなめは異常なやけに高いテンションでぶち壊しにしてしまう。

「千鳥、それは不自然だ…」

こういった事に鈍感な宗介でさえも不自然に感じたらしい。

そして最後に……

「おはよう、さやかちゃん」

まどかの、いつもの様な挨拶。
それだけで、妙な不自然さなどなくなってしまうようにさえ思えた。

「おはよー、みんな……ってみんな早いね?どしたの?」

「みんな今さっき来たところよ」

さやかの質問に誰かがボロを出す前にほむらが答えた。

「そうなんだ。それで、今日集まったのは何かの作戦会議?」

今度は用件。
先日の対ワルプルギス作戦会議があったからなのか、さやかはまた作戦会議だと勘違いしている。

「今日は息抜きよ。魔女退治もここ最近は人数が多いから短時間で済むし」

ほむらは提案しながらもさやかを座るように促した。
さやかはそれに応じて椅子に座る。
相変わらず生活感はまるでない部屋だが、人数と賑やかさもあってかとても暖かい空間に感じられた。

「あー、そうなんだ。
でもあたし、今日は夕方から別の用事があるんだ。それまではここに居てもいいかな?」

「勿論よ」

そうは言ってみたものの、さやかの「用事」まではこれといってする事を決めていなかったのを、ほむらは後悔した。

「あ、私は紅茶を淹れてくるわね」

特にする事がなくなったマミはボロを出さないように台所へ避難する。

「マミだけじゃ持ち切れないだろ……あたしも行くけど、誰が手伝ってもらえない?」

動きが異様に硬くなっているマミを心配してなのか杏子もついて行く事にした。

「クルツ、ちょっと行ってきなさい」

マオはクルツをそのお手伝いに行かせようとする。

「はいよ、姐さん」

言われるとすぐに立ち上がり杏子に続く。

「3人じゃ足らんだろう、俺も行ってこよう」

そのままクルーゾーも台所へと姿を消していった。

「キリカ、貴女の紅茶は自分で淹れた方がいいのでは?」

「そうだね、そうしよう」

キリカの紅茶は大量にシロップを入れる物だ。
織莉子は、キリカのそれが他と混ざらないように手伝わせに行かせる。

流石に5人もいれば大丈夫だと思ったのか、立ち上がろうと腰を浮かせていた宗介は何気なく椅子に戻る。
303 : ◆Upzc6141AI :2013/02/14(木) 01:38:34.70
「あれ?そういえばなんで、ほむらの家にボン太くんだっけ?それがあるの?」

ギクリ。
ほむらの肩がピクリと動く。

「あぁ、それなら俺が魔女退治でもするものだと思い込んで持ってきた物だ」

不自然ではなかっただろうか。
そんな風に思いながらも咄嗟に嘘を吐く。

「あ、なるほどねえ」

納得したと言わんばかりにさやかは手をポンッと叩いた。
特に疑われてはいないらしい。

「それにしても、これが本当に戦闘用の装備には…見えないですよね」

「オリコさんもそう思います?
実は私もボン太くんの性能はよく知らないんですよね」

織莉子はボン太くんを眺めながらしみじみと言う。
宗介の上官でもあるテッサも同感しているようだ。

「でも本当に強いのよね、これ。
使い魔も一撃だったし」

その可愛らしい外見から繰り出させるえげつない攻撃の数々を見た事のあるほむらは、その性能を思い出していた。

「ああ、本当に。ゆまに見せたくなかったよ、あんなの」

不意に杏子の声がほむらの頭上から聞こえた。
紅茶を淹れ終えた5人が戻ってきたらしい。
少女に紛れて戻るクルーゾーとクルツは酷く不自然だ。
2人の手にも紅茶の乗ったお盆が握られている。
他の3人よりも紅茶が多いのはそういった配慮なのだろう。

全員揃うと、再び談笑の時間を迎えた。
様々な話題に、笑顔。
くだらない話に噂話も多かったが、魔法少女の彼女たちには妙にリアリティがあるようにさえ感じる物も少なくなかったようだ。
特に、水銀を撒き散らす幼い少女の話はほむらの頬が引き攣っていた。



夕方


さやかはチラリと手首を返して裏側の腕時計を見た。

「じゃあ、あたしは用事があるから帰るね。本当はみんなともまだ居たいんだけどさ」

「無理に残らせはしないわ。
私たちはまだ時間があるもの」

さやかが椅子を立つとほむらは見送るように全員に促す。

玄関へ向かうさやかの後ろを大勢で歩く。
304 : ◆Upzc6141AI :2013/02/14(木) 01:39:49.65
「そうだな。俺たちには、まだ時間がある。超えるんだろう?ワルプルギスとやらを」

その宗介の一言でさやかはハッと思い出す。
ウルズチーム全員にテッサ、それにほむらは明日からワルプルギス当日までは見滝原から離れるのだった。

「そうだよね…うん、頑張ろう!」

「まあ、ソースケは居なくなるけど、あたしは居るから完全に元のメンバーって訳じゃないけどね」

後ろの方からかなめがひょっこりと顔を出した。

「このメンバーで集まれるのは、再来週か……よし、楽しみにしていよう。織莉子のそうだよねっ?」

「ええ、勿論よ」

織莉子とキリカはまた会える事を既に楽しみにしているようだ。

「おう、じゃあさやかも気を付けて行ってこいよ!」

「さやかおねーちゃん、またね!」

「いってらっしゃい、美樹さん」

杏子、ゆま、マミもさやかに一声かける。

「サヤカ、あたしたちがいない間も気を付けなよ」

「そうそう、なんか前のカナメを見てるみたいでハラハラするぜ」

「まだ会ってから間もないが…この街は任せたぞ」

マオ、クルツ、クルーゾーも同じく別れの挨拶を告げる。

「さやかちゃん…行ってらっしゃい」
そして、親友であるまどか。

この後の事を聞かされていて気が気でないのか、少し暗いがしっかりと前を見て見送った。

「それじゃ、行ってくるよ!」

全員の別れを聞くと、さやかは元気よく挨拶をして去って行く。

バタリ、と音を立てて玄関の扉が閉まる。

「よし…と言うのも変だけれど……行ったようね。
それじゃあ、任務を開始するわ」

それと同時にほむらが今日のメインイベントの開始を宣言。

「なあなあ、ソースケ。こーゆー時って、なんて言うべきだっけか?」

「ああ、そうだな。
アイアイ・マム、か?」

「実は私、その台詞を言う側になってみたかったんです」

「テッサ、あんたって娘は…まあいいんじゃないの?ベンはどう思う?」

「俺も構わんぞ」

本来、見滝原の住人ではない彼らは身内でしか通じない話を合わせる。

話が終わると、その5人はほむらに向き直りビシッと敬礼。

「アイアイ・マム!」

ほむらは唖然とする。

「え、ええ、あ、ありがとう…?」

少し間の抜けた返事を返す。
そこでようやく周りからも笑いが零れた。

「ありゃりゃ?俺たちは割と真面目なんだけどな…」

クルツはその反応に困らせられた。

「そうですよね…実際に大の大人が子供にこんなビッチリ敬礼なんて、なんかシュールですもの」

テッサ自分はやられる側であったから感覚が麻痺していたのかもしれない。
他にしてみても、これが恒常的な風景なのだからやはりそちらも麻痺していたらしい。
305 : ◆Upzc6141AI :2013/02/14(木) 01:40:18.17
「それじゃあ、暁美さん。準備始めちゃいましょう?」

マミが声を掛けるとほむらは我に帰ったようだ。

「え、ええ、そうね。織莉子さん、予知をお願いできるかしら?」

「ええ、勿論。
少し待っててくださいね」

ほむらに頼まれて、織莉子は目をつむりながら集中をする。
その間に、ほむらはボン太くんになる事にした。
306 : ◆Upzc6141AI :2013/02/14(木) 01:40:50.28
ファーストフード店前


「やっぱり、織莉子の読み通りだったみたいだな」

杏子はポツリと呟いた。
店の外からほむら一行は店内のさやかの姿を確認する。

「あちらの薄い緑髪の方は?」

「友達で私たちのクラスメイトの
仁美ちゃんだよ」

まどかは織莉子の質問にすぐ答えた。

「ふもふも、ふもふふもふもっふ!」

横ではボン太くんほむらが何かを必死で訴えている。

「それにしても、ほむらは何でそれを着てきたんだ?」

思わず杏子は聞いてしまった。

「ふも!ふもふもっふふもふも!」

そして何かを訴える。

「暁美…お前ならテレパシーでも使ったらどうだ?」

宗介は提案する。
会話を成立させるためのヘッドセットはほむらの家に忘れてしまった為に、素で話されると誰もほむらの言葉を理解できない。

「ふもっふ!」

(そうね、こうした方が楽だわ)

ただし、このテレパシーは魔法少女ではない者には聞こえないのが難点となる。
結局のところ、通訳が必要になってしまった。

「それで、何でそれを着てるんだ?」

先ほどは有耶無耶になってしまったからか、杏子はもう一度聞く。

「ふもっふ、ふも、ふもふもっふ!」

「いやだからテレパシー使えって」

(ほら、私って不器用じゃない?あんな繊細な娘の相手を素でできるわけないじゃない)

ほむらは開き直って説明をした。

「暁美はなんと?」

「シラフじゃ繊細な恋する女の子を励ませない…多分こんな感じ」

が聞くとキリカが意訳して伝えた。

「む、目標Bが店から出るぞ。全員一旦隠れろ」
307 : ◆Upzc6141AI :2013/02/14(木) 01:41:27.28
会話の最中も店を監視していたクルーゾーの報告。

「目標Bってクルーゾーさん…仁美ちゃんが悪いみたいになってますよ…」

まどかはどんよりしながらもツッコむ。

「あ、ああすまん。職業柄、こんな呼び方に慣れてしまってな」

クルーゾーは頭を掻きながらもやや反省しているようだ。

「あ、美樹さんはなんか…元気がないですね、ぐったりしていますよ」

織莉子は店内のさやかの様子を伝える。

(おそらく、仁美に宣戦布告をされたのでしょうね)

「えーと、おそらく、仁美に宣戦布告をされたのでしょうね、だとよ」

杏子はほむらのテレパシーを全く同じように伝える。

「宣戦布告…?敵の内通者とでも言うのか…!」

それを聞いた宗介は懐からグロックを取り出す。

「ふもっ!」

バシーン、と軽快な音が響く。
ほむらボン太くんが宗介の頭を思い切りはたいたようだ。

(言い方が悪かったわね…
要するに、上條くんの取り合いよ)

「ほむら、そっちの方が言い方が悪くないかい?
ああ、要するに、上條くんの取り合いよ、だって。
上條くんとやらは私は知らないがね」

キリカが話しながらも翻訳。

「上條くんは、さやかちゃんの幼馴染。天才バイオリニストらしかったんだけど、怪我をしちゃってたの……それで、言っていいのかな、さやかちゃんの願い」

「どーせ、その腕を治すってとこだろ?あのお人好しの事だ、すぐに分かるよ…」

そう言って杏子は少しだけ表情を暗くした。
かつての自分を思い出しているのだろう。
ゆまはそんな杏子を心配するように体を預ける。

「ふふっ、本当にお二人は姉妹みたいですね」

その光景を見た織莉子は微笑む。

「や、織莉子とキリカも似たようなもんじゃねーの?」

杏子は少し照れ臭そうに返す。

「私と織莉子は愛で結ばれ…」

「キリカ、これ以上はゆまちゃんの教育に良くないわ」

キリカは愛について語り出そうとするのを、織莉子に寸前で止められた。

「お、おいっ、さやかが店から出てくるぞ、隠れろって、ほら、ゆまはもっと詰めて……」

「えー、キョーコこれ以上は無理ぃ!」

押し込む、押し込む。
杏子は見つからないようにと、ゆまを隙間に押し込んでいる。

「……あんたたち、なにやってんの……?」

努力はどうやら、虚しく終わってしまったようだ。
308 : ◆Upzc6141AI :2013/02/14(木) 01:42:18.40
ほむら宅


「で、言い訳を聞こうと思うんだけど」

「ふもっふ」

結局あの後は、さやかに見つかってしまい計画は終わりを迎える事となった。
ほむらは未だにボン太くんとなっている。
他のメンバーはさやかに向かって正座をして反省中だ。

「ボン太くん語はあたしはわからないよ?ほむら?」

「ふももっふ」

ほむらはあくまでボン太くんを脱ごうとしない。

「暁美はなんと言っている?」

ボン太くん語の内容がわからない宗介は近くに居る織莉子に耳打ちで聞いてみる。

「テレパシーが少し漏れてるけど……喋るのが面倒なのでしょうか……ほむほむ…と」

「そうか…」

短い沈黙。

「ほむらに聞いてもわからなそうだから……杏子?なんであんな事してたの?」

「面白そうだったから、反省はしている」

さやかの矛先が杏子に向かうと、杏子はそれを棒読みで返す。

「わかった、反省してないのは良くわかりましたよ、はい」

怒っているという訳ではなさそうだが、さやかは不機嫌だ。

「これ、私たちはいつまで座っていればいいのでしょうね?」

「私は織莉子の隣に居れるなら何時間でも何日でも何ヶ月でも何年でも構わないよ」

「キリカおねーちゃんは織莉子おねーちゃんの事大好きなんだね」

「ゆま、あんまり冷やかすんじゃないよ」

と、織莉子、キリカ、ゆま、杏子。
そろそろ30分近くさやかの目の前で正座をさせられているからか、暇になってしまう。
それぞれでひそひそ話を始めてしまう始末だ。
クルーゾーだけは無言を貫いて逆に不気味だ。
ある意味軍人ならではなのだろう。

「心配するな美樹。
そろそろ到着する筈だ」

「到着って…何よ、ソースケ」

さやかがそう言うと丁度インターホンが鳴り響いた。

ここはほむらの家だ。流石に家主が出なければマズイのだろう。
正座をやめてボン太くんほむらが立ち上がる。

ほむらが部屋から玄関へ向かい、立ち去る。
309 : ◆Upzc6141AI :2013/02/14(木) 01:42:52.89
「お邪魔しま……うわ!暁美さん、まだボン太くんを着ていたの?」

「ふもっ」

玄関からの声が部屋にも聞こえる。
今のはマミの声だ。

「お邪魔しますわ」

ここでさやかは異変を感じる。

「あ、あれ?なんで仁美まで?」

「到着する筈だと言っただろう。時期にもう一人も来るぞ」

なぜあの後すぐに解散した仁美がほむらの家を訪れるのだろうか。
そんな疑問を考えさせる間もなく次の異変が先に起こる。

「おーっす、って、ソース……違うんだった。ただいまホムラちゃん」

「ふもふも」

クルツの声も聞こえてきた。
それと同時に。

「お邪魔します」

何故だろうか。
さやかは自分が精神的に参っているのではないかとすら錯覚してしまう。
幻聴でなければ、なぜ上條恭介の声が聞こえるのだろうか。

「え、えぇ!?きょ、恭介!?」

足音が近くなる。
バラバラで行動していた、マミ、かなめ、クルツ、マオに加えて仁美と恭介までが揃った。

「僕らは暁美さんに呼ばれた…って事で来たんだけれども」

恭介は事情を話す。
さやかはやはりほむらが原因なのだと、理解する。

「ほむら?これは本格的に説明して欲しいんだけど」

「ふもっ!ふもっ!」

ボン太くんほむらは必死で頭を取ろうとするが腕が短過ぎて、取る事ができない。

(キリカさん、悪いのだけど頭を取ってくれないかしら?)

「はいはいっ、と」

テレパシーを受けたキリカはすぐにボン太くんの頭を引っこ抜いた。
キリカを指名したのは単に近くにいたからだろう。

「っぷはぁ、あの中結構蒸してるのね。
結局見つかるのならば着るべきじゃなかったわ」
310 : ◆Upzc6141AI :2013/02/14(木) 01:43:45.22
中から現れたほむらはボン太くんの感想を漏らす。

「ああ、通常のASと違って小型だからな。蒸しやすいのは欠点だ」

宗介はボン太くんの補足をした。

「ボン太くんの事は今はいいの。
なんで仁美と恭介を連れてきたの?嫌がらせ?さっきの尾行してたんだからどうせ内容も知ってるんでしょ?」

さやかはすこし早口になりながら捲し立てる。

「ええ、そうね、それじゃあ言うわ」

ほむらはそう宣言するとひと呼吸。

「えっと、美樹さやか、志筑仁美の大告白たいかーーーい」

無理に変に高いテンションでほむらは高らかに宣言した。
空気が凍りつく。

「あら?時間停止なんて使ったかしら?」
311 : ◆Upzc6141AI :2013/02/14(木) 01:44:22.68
「暁美…………いくらなんでも……それは無いぞ…」

「そうね、変身もなしに魔法なんて使えないわ」

流石の宗介も今の発言が問題なのは気が付いて指摘するが、ほむらの観点はあくまでズレている。

「ホムラ…多分、ソースケが言いたいのは流石に違うと思うよ…?」

「ほむらちゃん…今のって…こんなのってないよ……」

二人のかなめにも責められてしまった。

「ほむらおねーちゃん……すごいね……」

「ゆま、あれは見習っちゃだめだぞ」

幼いゆまにすら呆れられる始末だ。

「ホムラちゃん、結構肝が座ってるな…」

「ホムラ、流石にちょっと…」

「ホムラさん、今のは中々……」

「あ、あぁ、驚いた…」

そして<ミスリル>のメンバー達からも。

「暁美さん、やっていい事と悪い事があると思うの」

「そういう事に疎い私もどうかと思いますよ?」

「織莉子がそう思うなら、まずかったんだろうね。
私自身としては、愛を叫ぶのはいい事だと思うけれど」

年長組からも冷静に指摘される。
全員合わせても、賛同してくれたのはキリカだけだった。
312 : ◆Upzc6141AI :2013/02/14(木) 01:46:15.50
「あの、暁美さん?話が全く見えないんだけど……?」

この異常な状況が飲み込めずに恭介は自分を呼んだほむらに問いかける。

「言った通りの事よ」

「知っているぞ。こういう男をトーヘンボクと言うんだろう?クルツが言っていたぞ」

「そうね、確かにそうとも言うわ」

宗介とほむらの軽いやり取り。
恭介は未だに話が見えていない。

「さやかが告白に……僕が唐変木?
そんな…あり得ないよ」

その一言を聞くとかなめとクルツは同時に天を仰ぎ、額に手を当てて「あちゃー」と言った。

「え…そんな事って」

そうつぶやきながら、恭介はさやかに振り返る。
さやかは涙目になっているではないか。

「ちょっ…さやか?」

恭介は声をかける。
さやかは返事をする事はなく。

「恭介の……バカ…」

そのままさやかは恭介を押し退けて外へと飛び出してしまった。

もう一人の被害者たる仁美は流れに着いて行けずに呆然としている。

「あーあ、追った方がいいんじゃねーの、これ」

杏子はさやかか走り去った事を心配してなのか提案する。

さやかは魔法少女なのだ。
メンタルの負担は少ない方が良いだろう。

「えっ、え…僕が…?」

「いいからさっさと行きやがれ!」

狼狽えるばかりの恭介にいい加減、苛立ってしまったのか珍しくクルツが声を荒げる。

「あ、足ね、はいはい、ゆまが治してあげるよー」

さやかを追うにあたって足の怪我は邪魔になる。
ゆまはいち早くそれを察して変身し、魔法で治す。

「おう、ゆまいい子だ」

目の前で変身などされては余計に恭介に疑問を生んでしまったが、空気がそれを口に出す事を許さない。

「ほら、行きなさい、上條くん」

「ホムラも原因なんだから行った方がいいんじゃない?」

かなめに押される形で結局ほむらと仁美もさやかを追う事になった。
その後ろ姿を見てクルーゾーはポツリとこぼす。

「やはりジ○リ作品の様にはいかないのか…」
313 : ◆Upzc6141AI :2013/02/14(木) 01:47:20.60
街 ほむら視点


まったく、なんで私がこんな事をしなければ…
今、私こと暁美ほむら……と言っても誰が見てもボン太くんなのだけど……は街中で全力疾走の真っ最中よ。
誰もどうせ気にしないのだから、全文私の主観でお送りするわ。

そう言えば仁美と上條くんも一緒に来ている筈だったわね。
………流石に魔法少女の力にボン太くんの機動性に着いてくるのは辛そうにしているわ。

まあ、目的地は伝えてあるのだから先に行ってしまいましょう。

…なんで目的地がわかるかって?そんな声が聞こえた気がするから答えてあげるわ。
簡単な事よ、織莉子さんの魔法で終着点が何処か教えてもらったの。
無駄遣いですって?何を言っているのかしら、さやかは時間によっては恋愛絡みで魔女になってしまうのだから正しい選択よ。

ちなみに場所は駅よ。
夜の駅なんてあの子は本当に縁起が悪いの?
いつもあの場所で魔女になるのだから、冗談では済まされない可能性すらあるわ。

あ、駅が見えてきた。

それと、何であんな告白大会なんて強行策を取ったかって?
それは明日から私や<ミスリル>のメンバー達は見滝原を離れるのだから、留守の間にそれが原因で魔女になられても困るじゃない。

だったら居る内に問題は済ませてしまいたいの。
314 : ◆Upzc6141AI :2013/02/14(木) 01:47:58.79
「ま、待ってください……暁美さん、速いですわ……」

「あ、暁美さん…………速過ぎだよ……」

後ろから仁美と上條くんの声が聞こえるわ。
普段ならもう少しだから頑張ってと言ってあげたいのだけれど…
生憎、今の私は元気良く「ふもっふ!」しか言えないわ。

それにしてもバイラテラル角の設定って便利ね。
軽く走る程度の動きで全力疾走並みの速さよ。
お陰で疲れそうにもないわ。

「ふもっふ!」

あら、駅についたら思わず声を出してしまったわ。

すこし遅れて仁美も横に並んで到着したみたいね。

一息吐こうとする仁美には悪いのだけど急いでいるの。
そのまま私は「着いて来い」とジェスチャーをしてホームへ突入。

改札はそのまま突破しておいたわ。
別に電車を利用する訳じゃないもの、きっと許されるわ。

お二人は丁寧にICカードを改札にかざしているわ。

私はその二人を置いて先にホームへと進む事にするわね。

居たわ、さやかよ。

「ふもっ!」

いけない、つい名前を呼んでしまったわ。
いくら呼んでもボン太くんの言葉しか出ないからみっともないミスね。

「あ…ほむら、来たんだね…」

いけないわ、凄くネガティブな空気。
315 : ◆Upzc6141AI :2013/02/14(木) 01:48:43.86
(仁美と上條くんもすぐに来るわよ)

繰り返さないようにテレパシー。

後ろを振り返れば……ほら、言ったそばから登場よ。

「ごめん、さやか……色々謝らなくちゃいけないよね」

「やめてよ、恭介。謝るも何も、あたし一人で何かしたって訳でもないんだからさ」

なんだか入りにくい空気ね。

とりあえずボン太くん語以外の言葉を話したいわ。

頭を引っこ抜こうかと思ったのだけど、ボン太くんって腕が短いのよね。
自力じゃ難しいわ。

(さやか、悪いのだけど頭を引っこ抜いてくれないかしら)

かといって仁美にはテレパシーを送る事ができないから、消去法で気まずいけれどさやかに頼む。

「はいはい」

テンションが低いわね。
その調子でボン太くんヘッドを取られたら頭がもげてしまいそうだわ。
これ以上は何かNGな気がするから言わないけれど。

「っぷはぁ、この中って結構蒸してるのよ」

「ほむら、それは二回目」

あら、そうだったかしら。

私からは特に言う事なんてないわね。
早いところ三人で結論を出してもらいたいのだけれど。

「それで、上條くんは二人の内どちらを取るのかしら?
それともハーレム?」

本当に鈍感な癖していざって時はウジウジする男ね。
最近のライトノベルの主人公の変な部分だけ切り取ってるみたいだわ。

「ばっ!そ、そんな事!」

「私は明日まで待つとさやかさんには言いましたが…上條くんが決めるのならばそれに従うしかありませんね」

対照的に仁美は堂々としているわね。

「ほら、さやかも何か言ってやんなさい」

「言ってやるとも……だけど、その前にほむら!何で本当にこんな事を!二人に恨みでもあるの!?」

いつまでもネチネチと面倒な子ね。
マオさんの言葉でも借りてこう言わせてもらいたいわ。
316 : ◆Upzc6141AI :2013/02/14(木) 01:49:29.75
「アーイ・ドーント・ギヴ・ア・ファック!!!」

思わず声に出してしまったわ。
確かに、このやり方は無責任だと自覚はある。
でもこれが一番効果的なの。
後押しさえすれば、彼はきっと動くのだから。

それだからこそ、私はこうして「私の知った事か!」と言って……

あら、こんな時に魔女だなんて。
今回ばかりは空気を読んで欲しかったわね。

「え、何…今度はなんだよ!?」

狼狽えているけど、無理もないわね。

せいぜい魔女も利用させてもらうわ。

「こんな時に……恭介も仁美も居るのに…!!」

仁美は、さやかが一般人じゃない事は知っているものね。
先日の学校襲撃で、学校中の人に見られてしまったんだもの。
幸い、上條くんは病院に居たからセーフだったみたいだけど。
317 : ◆Upzc6141AI :2013/02/14(木) 01:50:07.08
「さやか、なら好都合と考えない?」

そう言いながら、私は仁美のこめかみに拳銃を突きつける。

「えっ?」

仁美は硬直してしまうわね、当然だわ。


言いたくはないけれど、結界の中ならば人が亡くなっても死体は残らない。


「さやか、貴女がこう言えば、私は引鉄を引いてあげるわ。
【上條恭介を自分の物にしたい】と」

知っているわ。貴女は正義の味方なんだもの。
そんな台詞は死んでも吐かないと。
それでも、貴女には自分の気持ちと向き合ってもらわないといけないから。
そんな事の為なら悪人になんていくらでもなってあげるわよ。

「ふざけないでよ!」

「なら、そこの化物を私と一緒に倒しましょう?正義の味方として。
上條くんが私たちの事も化物と見るか、正義の味方として見るか。そんな事は知らないけれど」

本当にメンタルが強いのか弱いのかわからない子ね。
こんな状況でも、自分に嘘をついて立ち向かおうとするのだから。

「そう、それが貴女の答えね。
手伝うわ、さやか」

結局こうなってしまうのね。
わかっていたけれども。

私はすぐに拳銃を仁美から離し、迫る使い魔に撃ち放つ。

「軽いジョークみたいなものよ。
本当に撃つつもりなんてないわ」
318 : ◆Upzc6141AI :2013/02/14(木) 01:50:51.09
仁美に弁明しながらも次の武器を。
支援火器支援火器……
盾の中に手を突っ込むと、愛用の軽機関銃を取り出す。

それなりの口径と、大量の鉛玉。
そして個人携行サイズ。
使い魔を蹴散らすにはもってこい。

「貴女は魔女を狙いなさい。露払いはしてあげるわ」

そう言って私は使い魔に銃口を向けて放つ。放つ。
手が痺れる程の反動と速射力。

おおよそ、女子中学生が持つ物ではないわ。
それでも、きっと彼はこの位の歳には扱っていたのかしら。
しかも、人に向けて。

いけない、戦闘中に余計な事は考えないようにしないと。

でも、これだけは言っておかないといけないわね。

「上條恭介。これが、私と、美樹さやかの本当の姿よ。
化物と日夜戦っているの。たった一つの願い事の為に。
あまり言いふらすべきではないんだろうけど、言っておくわ。
私もさやかも、人間ではない。魂なんてとっくの昔に石ころにされてるの。
さやかがそうなったのは、貴方に原因がある。
奇跡だとか、魔法だとかきっとさやかは貴方に言ったでしょうね。
それは、間違いなく、彼女が、自分の……全てを投げ打って起こしたの。
絶対に忘れない事ね。
もしそんな事をしたら貴方はきっと、そうね……大好きなコンサートホールに脳漿でもブチ蒔けるハメになるんじゃないのかしら」

また悪い癖だ。
ついつい余計な事まで言ってしまう。
口が悪いのは<ミスリル>のみんなのせいだと思いたいところなのだけれど。

軽機関銃の内部の弾丸が空に。

撃ってると少なく感じるのは難点ね……
でも、周りの使い魔は消せた。十分過ぎるわ。

「さて、さやか。そろそろお開きにしようと思わない?」

「魔女ももう、倒せそうだって!」

さやかは既に近接戦闘で魔女にまとわりついている。
私はトドメ用にロケットランチャーを盾から取り出した。

「そうね、じゃあ、トドメをいくわ。少し離れてて」

さやかはそれを聞いてすぐに離れてくれる。
こんな指示にも素直に聞いてくれる。
本当に魔法少女になんてなって欲しくない子だわ。

「ロックンロール!!」
319 : ◆Upzc6141AI :2013/02/14(木) 01:51:23.26
魔女の顔面?と思わしき部位に小型のロケット弾を放つ。
使い捨て式で旧式なそれは思い切り豪快な爆発音を立てて、役目を見事に果たした。

「さて、魔女は居なくなったわ」

結界が崩れてなくなるのを確認してから、振り返る。

「貴方の、いえ、貴方達の答えを聞かせて欲しいのだけど」

これは彼女達の問題。
私はこれ以上は介入しようとは思わない。
今なら、全てを彼が知っているのなら……
僅かかもしれない。それでも、私はその希望に託す事にした。

長い入院生活の終わりとほぼ同時に長い長い戦いの日々に身を投じた私には、つい先日まではただの女子中学生だった彼女の気持ちも、常識も何も、わからないのだから。
きっと、正しい選択をしてくれる。

私はそう結論付けて、三人を尻目に、そそくさと脱ぎ散らかしたボン太くんに着替える事にした。

「ふもっふふもふもふふもっふふも」

ああ、いけない。
ボン太くん語しか喋れないのだった。

(これで、私は先に帰るわね。
そろそろ駅員さんも来そうだし。
説教なら後で聞いてあげるわ)

さやかにテレパシーで伝えて、先に帰る事にしましょう。きっと、まどかが待っているわ。

(ううん、怒ってなんかないよ…あたしは、今は感謝してる。
荒っぽくて、不器用なやり方だったけど。
ほむらのお陰で、色々吹っ切れそうだから、さ)

「ふもっふふもっふ」
良かった良かった。

目の前から駅員さんが迫っているから、安心して帰れそうではないけれど。
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/02/18(月) 20:11:22.20
全く、まどマギといいフルメタといい
不器用なヤツばかりだよw
324 : ◆Upzc6141AI :2013/02/21(木) 02:23:08.75
永遠にスタンド・バイ・ミー(前)



上條恭介は今までにない程のピンチを迎えていた。
別に腕が再び動かなくなった訳でも、目の前にナイフを持った精神異常者が居る訳でもなく、無論テロリストが居るわけでもない。

むしろ一般的に言ってしまえば、羨ましい部類の状況なのだろう。
目の前に居るのは、所謂美少女と呼ばれても間違いではない同級生が自分の言葉を待っているのだから。

数分前にある人物に嵌められてしまい、ある決断を迫られていた。
そして嵌めた人物はネズミなのだか犬なのだかよくわからない着ぐるみになって駅員に追い回されながら逃走してしまったが。

(参ったな……どうしていいのか、全然浮かばない……)

そう思うと同時に、恭介は自分が情けなく感じた。

結局いつも自分は逃げていた。
傷つけない様に、傷つかない様に。

さやかの気持ちも気がついていた。
今思えばその時に答えを出していればこうはならなかったのかも知れない。
その時も、結局逃げる選択を選んでいた。

例えば腕が動かなくなった時も。
事実を受け入れられずに、逃げていた。

自分でよく考えると言いながらも、マミの言葉から逃げていた。

(情けないな、本当に…逃げてたからバチが当たったみたいだ)

逃げの選択が回りに回って、逃げる事ができないところまで来てしまったのか。

(ここは…そうだ、たまには男らしく……腹を括ろう)

自分の中で決意を固めると、恭介はやや下を向いていた顔を正面に上げようとする。

「やっぱり…私では、駄目ですわね」
325 : ◆Upzc6141AI :2013/02/21(木) 02:23:44.65
それよりも先に、声が聞こえてしまった。
仁美の諦めの混じったような、それでもスッキリとしたような声が。

それを聞いて、恭介は呆然としてしまう。

結局、逃げに走らなかったが決意を固めた身としては釈然としないものがあったのだろう。

「え…し、志筑さん…?」

「ほらまた。
私の事は名前では呼びませんもの。
それだけお互いを知らないんですから、さやかさんの方が…」

「やめてよ、そんなの。
あたしだってさ、恭介に釣り合えるような人間じゃないんだよ?
それなのにさ…」

「そんな事ありません。
さっきの事も、上條くんを思って自分を犠牲にしていたんでしょう?
それなのに、そんな事も知らないで私は……」

「だからやめてって。
どれだけ想ってるかなんて、本人しかわからないんだからさ。
ひょっとしたら、仁美はあたしが想ってる以上に恭介の事を考えてるかもしれないでしょ?」

言葉のかぶせ合い。
目の前で行われる会話劇に恭介は自分を責めたくなった。

「あの…僕はどうすれば……」

「恭介はちょっと黙ってて!」
「上條くんは少し黙っててください!」

ハモった。

「は、はぁ…」

この話には自分の介入する余地はないとわかった恭介は終わるのを待つ事にした。
326 : ◆Upzc6141AI :2013/02/21(木) 02:24:14.66
ほむら宅


先程の追走劇を終えたほむらはようやく自宅へ戻る事ができ、一息ついた。

「はぁ…ただいま」

「おかえりなさい、暁美さん」

それをいち早く迎えたのはマミだった。
もう日はとっくに落ちており、時間もそれなりに遅くなっているのにも関わらず、未だに全員がほむらの自宅で待機している。

「みんな律義なのね、待っているなんて」

ほむらは全員を見渡しながらも、部屋に入り椅子に掛ける。

「さやかの方は…多分上手くいったんじゃないかしら」

そう言うと思い出したかのように、携帯電話を取り出してさやかへメールを送る。
事が済んだらほむらの家に来るように伝える為だ。

ある程度投げっ放しにしたとは言え、ほむらも結末を知らないまま留守にするのは気が気でないようだ。

「まあ、何も言わずに飛び出されちゃったからね。
私たちもどうしていいか、わからないところだったんだ」

全員を代表するようにキリカは語る。
327 : ◆Upzc6141AI :2013/02/21(木) 02:24:52.00
「事は急を要していたみたいだから……そこは謝るわ、ごめんなさい」

「誰も気にしてなんかないよ、ホムラ!」

落ち込んでしまったと思ったのか、かなめがフォローしようと声を掛けた。

「えぇ、そうですよ」

織莉子もそれに続く。

この流れは……
ほむらがそう思った頃には始まっていた。

俺もだ
私もよ
あたしもだ
私もです
ゆまもだよっ!
…………などなど
一人が言い始めると、全員がそれに続いてしまう。
話題がない時にはありがちな事なのだが、いかんせんこの人数だなので長くなりがち。
それに座って待っている事も多々ある為にこうなりやすい。

「わかったわ、ありがとう」

ほむらがそう頷くと、再び部屋に沈黙が訪れる。
話題がない事が、こんなにも辛く感じるのは久しぶりに思えた。



そこで、玄関の呼び鈴が鳴った。

「出てくるわね」

内心でこのやり取りを今日だけで何回やっただろうか、などと余計な事を考えながらも玄関のドアを開ける。

そこに立っていたのは、意外な姿だった。

「あら?上條くん?二人はどうしたの?」

さやかと仁美が見当たらない。
まさか逃げてきたのだろうか。

「と、とにかく中に入れてくれっ!二人ともすぐに……」

言い切る事は出来なかった。

ほむらの目に何やら言い合う二人の姿が映る。
それも、結構激しめに。

「わかったわ、入りなさい」

「ありがとうっ…」

ほむらは上條のみを招き入れると、その勢いで入ろうとするさやかと仁美を玄関の前で止めた。

「落ち着きなさい、二人とも。
何があったのかわからないけれども、上條くんが酷く怯えているわ」
328 : ◆Upzc6141AI :2013/02/21(木) 02:25:27.46
数分後



「「本当に申し訳ございませんでした」」

ほむらの家に上がる事が許されたさやかと仁美は何よりも先に恭介に謝罪をした。

後ろに立つほむらはファサっと後ろ髪を掻き上げる。

「二人とも反省してるみたいだから、許してもらえないかしら?」

「僕は許すも何も、怒ってはいないよ…ただ、ちょっとビックリしちゃっただけで」

恭介は少しオロオロしながらも返す。

「良かったわね、二人とも。
それで、話を聞いた限りだと私が居なくなる前から進展してないみたいなんだけど?」

今度は恭介に答えを早く出させようと急かす。
好い加減に答えが出ない事にイライラしてしまったのか、少し語気が強くなってしまった。

「ほ、ほむら…その事なんだけどさ…」

さやかがほむらに申し訳なさそうに顔をあげる。

「なに?どうしたの、さやか?」


「あの、恭介の答えを聞くの……2週間後にって提案したいんだけど」

またほむらは溜息を吐いた。

「別に、私は後押ししただけよ。
貴女たちの事なんだから、貴女たちで決めなさい」

ほむらは三人に背を向けると一番近くの椅子に座る事にした。

(案外、安心して留守にできそうね)
329 : ◆Upzc6141AI :2013/02/21(木) 02:25:53.87
翌日、ほむら宅


結局その後は、さやかたちの答えが曖昧ではあるものの出たという事、それに加えて夜も遅かった為にすぐに解散となった。

ほむらの目の前にあるのは昨夜は賑やかだった部屋とは思えない、ただひたすらに真っ白な空間。
そこに生活感などまるで無く、そこら中に対ワルプルギス資料が掛けられている。

「今度こそ越えてみせるわ、ワルプルギスの夜……!」

ほむらはその中の一番大きな資料である、ワルプルギスの全景が描かれた絵を睨むと決意を新たに、荷物を詰め込んだ鞄を手に家を出た。

「行ってきます、見滝原」
330 : ◆Upzc6141AI :2013/02/21(木) 02:26:20.53
同刻、セーフハウス


宗介も同じ様に準備済みの鞄をひっ掴んで用意を完了していた。
予定の時間には間に合うだろう。

宗介は待ち合わせ場所へ先に向かう事にした。

三日前に襲撃を受け、現在は立ち入り禁止区域となっている見滝原中学へと。

「それでは、行ってくる」

玄関の前に立つと、ボン太くんに敬礼をした。

そのまま回れ右の動きでドアを開けて、外へと踏み出す。

晴れた空はまるで<ミスリル>とほむらの出発を祝福するように晴れ渡り、街は先日の戦闘などは夢であったかのように活気に溢れていた。

「おっす、ソースケ!」
「あら、案外早いね」

セーフハウスとして利用するマンションを出るとクルツとマオの声。
二人も丁度向かっているのだろう。

「大佐と大尉はどうした?」

「あー、ベンね。彼は別にあたしらと同じ任務で来てた訳じゃないから一緒には来ないで、ここに残るそうよ」

「そんでもってテッサは俺らよりも先に待ち合わせ場所に行ってるって。
俺らだけ、ってのも案外久しぶりなんじゃないか?
ここ最近は中学生たちに囲まれてたし」
331 : ◆Upzc6141AI :2013/02/21(木) 02:26:46.80
クルツの言葉になるほど、と思いながら宗介は沈黙。

「確かに、そうかもしれないな」

「どうした?あの子たちが不安か?」

「いや、大丈夫だ。彼女たちの強さは知っている。
それに千鳥もいるしな」

「カナメが?あの子は戦えないでしょ?」

「ああ、だが魔法少女はメンタルも大事だ。
彼女のガッツなら何とかなる気がしてな」

「『何とかなる気がする』か。
お前もだいぶ昔と比べて変わったよな」

「そうだな…変えたのは、彼女だ」

宗介はしみじみとかなめを思い浮かべた。
メリダ島の決戦。
あの時の宣戦布告を思い出し、何とも言えない気分になる。

「ま、カナメのガッツは凄いところがあるわね。
クリスマスのシージャックの時も。
あんなの普通の女子高生じゃ思いつかないね」

マオも以前の事件の数々を思い出しているようだ。
そんないつものような軽いやり取り。

「ほら、見えてきたよ、学校」

まだ戦闘の爪痕を残す校舎が三人の目に入り込む。

その校門にはすでにほむらとテッサが待機していた。
そしてその後ろには輸送ヘリの
ペイヴ・メア着陸している。

「揃ったみたいですね、それじゃあ行きましょう」

テッサの一声で全員はペイヴ・メアに乗り込んだ。

さらば見滝原。

次に訪れる時は救世主となれる事を祈って、ほむらは軽く学校へと敬礼をする。

さらば見滝原
332 : ◆Upzc6141AI :2013/02/21(木) 02:27:24.61
数時間後、見滝原市内


「まったく、ソースケたちめ……人がせっかく送ってやろうと思ってたのに朝っぱらからいなくなるなんて、信じられないっ!」

「まあまあかなめさん、落ちついて…」

二人のカナメは町を歩いていた。
特に理由はないのだが、なんとなく親睦でも深めようと思ったのだろうか。

「でも確かに、ほむらちゃんもいきなり行っちゃうなんてなぁ…」

「でしょ!マドカもそう思うよね」

二人とも何か通じ合う部分があったのか、大人しいまどかと活発なかなめの対照的な二人は意外にも話が合う。

幸いと言っては不謹慎なのだが、先日の襲撃によって学校は未だに再開されていない為か、そこら中に中学生と思わしき子供が休日を満喫している。

まどかは彼らが怪我人も少なく、奇跡的に死者も0だった事が魔法少女と<ミスリル>の活躍だと知っている。
その事が誇らしく思えた。

「しっかしまぁ、学校があんな事になったってのに、よくあんなに普通に休みを楽しめるわね……
学校襲撃なんて、あたしは嫌な思い出しかないわよ」

「かなめさん、他にもあんな事があったんですか?」

「前にね。今はもう狙われてないけど、あたしがいた学校が襲撃をされたのよ。その時あたしはソースケの気持ちもわからずに攫われちゃったけど」

かなめは思い出す。
<アーバレスト>を一瞬にして撃破したあの悪魔のようなASのシルエットを。
<ベリアル>を。

「あー、せっかく久々に平和な外出だってのに、ヤな事思い出しちゃった」

「ご、ごめんなさい、私がそんな事聞くから……」

「なーに言ってるの、勝手にあたしが語って一人で思い出しただけなんだから、マドカのせいじゃないって」

まどかは妙なところで責任を感じやすいらしい。
本当に優しい子なんだな、とかなめはひとりでに決めつけた。

「あんたは本当にいい子だねぇ。
そうそう、あんまり言わないようにって口止めされてたんだけど……」
333 : ◆Upzc6141AI :2013/02/21(木) 02:27:56.21
かなめがそう言いかけた所で景色が歪む。

「えっ…嘘、こんな事って…」

二人が状況を把握する頃には、周囲に街中の景観などは消え失せていた。

魔女の結界に、どうやら誘い込まれてしまったようだ。

「こんな昼間にピンポイントであたしたちだけって……とうとうキュゥべえも胡散臭くなってきたわね……!マドカ、走るよ!」

「は、はいっ!」

幸いな事に、一番近くの使い魔からもそれなりの距離がある。
逃げ切る事もできるだろう。

「やあ、まどか、かなめ。
君たちはつくづく不幸だね」

「うっさい!どうせあんたが仕組んだんでしょ!ムカつくけど利用してやるから大人しくしてなさい!」

「やれやれ、訳がわからないよ」

かなめはそのままインキュベーターの耳と思わしき部位二本を束ねて掴み引きずるように駆ける。

手にはいつかのクリスマスプレゼントのペン。
その中身はスタンガンなのだが、きっと護身用程度にはなるはずだ。

(大丈夫だ、落ち着けあたし……!
あの使い魔とかって化け物だって、学校で一体やったのよっ!?)

無理に冷静になろうと考えるが思考がまとまらない。
今は走る事を優先した。
334 : ◆Upzc6141AI :2013/02/21(木) 02:28:32.32
織莉子宅


「ーーっ!!」

思わず手に持った紅茶を落としてしまった。
別にカップが熱していた訳ではない。
織莉子は定期的に魔法少女に変身して、未来予知の魔法を使うようにしている為に、最悪な未来を見てしまったのだ。

居るべき筈の友人が、二人も。
死ぬ光景を。

「まだ、間に合う…!」

ただ自分だけの力でどうにかなるのだろうか。
他の仲間を呼ぼうにも、時間が掛かってしまう。
最低な事にかなめとまどかが閉じ込められた結界の近くに魔法少女はいなかった。

(まさか、私が単身で魔女に挑む事になるとは)

そう思いながらも携帯電話を操作して仲間へと連絡を。

「もしもし、キリカ!」

【どうしたんだい、織莉子?】

「緊急事態なの!魔女が鹿目さんと千鳥さんを結界に閉じ込めたみたいっ!急いで他の仲間にも伝えて頂戴、私が一番近くなので結界に急行します!!」

【わかった、伝えたら私もすぐに行こう】

電話を切ると周囲の目など気にも掛けずに魔法少女姿のまま家を飛び出す。
おおよそ人の速度とは思えないスピードで市内を駆け巡る。

急がなければ。
335 : ◆Upzc6141AI :2013/02/21(木) 02:29:04.13
魔女結界

「マドカ、まだ走れる!?」

「な、なんとか…!」

まどかとかなめは未だに結界の中を走り回る。

(私、この道が……わかる…?)

まどかの頭によぎる光景。
デジャヴだ。

(わかる、この結界の構造が手に取るようにわかる…!)

既視感と、ささやき声。

以前のウィスパードが科学分野に異様に特化していたように、願いによってその素質を表したまどかは魔法少女についての情報が頭で理解できた。

「かなめさん…!次の……次の扉が…っはぁっ、左から3番目、です…!」

息も絶え絶えになりながらも、まどかは出口までの最短の道をナビゲートする。

「こんのおぉ!」

指定された扉をかなめは勢い良く蹴り飛ばし下手に速度を落とさない。

まどかとの距離は可能な限り離れないようにペースを合わせながら。

「次は!?」

「このまま直進して…十字路も直進…!その後のT字路を右です!
そこの次の区画で、ラスト…!
あと少しですっ!」

まどかはさらに道を示す。

「敵は…オッケー!」

開いた扉の奥には使い魔は待ち伏せしていなかった。
どうやら本当に正解らしい。

それに、使い魔の動く速度はそこまで速くはない。
後ろを振り返ればそれなりに距離が離れている。

それを確認するとかなめは立ち止まった。

「かなめさん…?」

「このイヤリング、結構気に入ってたんだけど……本来の使い方をするしかないみたいね」

この状況で立ち止まる意味が理解できなかったまどかはかなめの名前を呼ぶが、その疑問には答えない。

「こんちくしょー!!」

叫びながらもまどかの後ろ、使い魔の手前に落ちる程度の場所に外したイヤリングを全力投球。

そのイヤリングは地面に落ちるとほぼ同時に爆炎を吹き上げ、木っ端微塵となり煙がその周囲を覆う。

「こーゆーこと!今のうちに逃げちゃいましょ?」

かなめはやや勝ち誇った顔で笑っていた。

唖然とするまどかに手を差し伸べる。

「さあ、ゴールは近いわよ、戦友!」

いつかのクリスマスを思い出す。
336 : ◆Upzc6141AI :2013/02/21(木) 02:29:46.67
太平洋上空


「そろそろだな」

「周りには一面海しかないのに?」

宗介はそろそろだと言ったが、その眼下に広がるのは一面の海。

「あー、そっか、ホムラは初めてだもんね」

「そりゃそうでしょ、姐さん」

「私はどうしましょうか…サガラさん、お願いしてもいいですか?」

「了解であります」

次々と話が進むが、その内容がほむらには一向に見えない。

「じゃあホムラちゃんは俺と一緒に……ぐおっ!」

クルツが言い切る前にボディブローを叩き込まれる。
勿論殴ったのはマオだ。

「あんた、そういう趣味なの?
ホムラはあたしとね。
ソースケはテッサとで、あんたは一人で降りなさい」

「りょ、了解…」

ボディが効いているのか、それとも組み合わせが決められて自分だけ一人なのが堪えているのかはわからないが、クルツはピクピクと震え声で応じた。

「それじゃ、ホムラはこっちに来て」

ほむらは言われた通りにマオの前に立つ。

「それで、あたしの膝に座って。背中を見せるようにね」

それもまた言われた通りにマオの膝に座った。

「よしよし、ちょっと動かないでね」

今度は待っているとガチャガチャと体をマオの体とベルトで固定される。
目にはゴーグルをかぶせられた。

「えぇーっと、これは?」

嫌な予感が働くので聞いてみる事にした。
337 : ◆Upzc6141AI :2013/02/21(木) 02:30:18.58
「まあすぐにわかるよ。
あ、できるだけ叫ばない方がいいよ、舌を噛むから。
喋る時は落ち着いて、冷静にね」

そう言い終える頃には。
ほむらとマオの体はヘリの外へ飛び出していた。

「えっ、きゃ、きゃああああああっ!!!!」

「お、普段大人っぽいホムラも子供っぽい声だせるんだねえ」

飛んでいる。
これまでにない経験であると同時に、あまりに突然な飛び出しも相余って絶叫してしまった。

現在進行形で落下をしているが、案外海面との距離がある事に気がつき、ほむらはすぐに冷静さを取り戻した。

「でも、慣れれば案外気持ちいいですね」

「あら?もう慣れたの?早いねえ」

「慣れたというか、慣れっこですから」

そう言ってほむらは笑うが、顔は真上のマオにはきっと見えたいない。

「大変なんだね、色々と、さ」

「<ミスリル>の皆さん程じゃないですよ」

「そう言って貰えると嬉しいもんだね。やりがいがあるってもんよ」

「私も、自分のやっている事を知ってくれる人がいてくれて、嬉しいです。
ところで、このまま着水したりするんですか?」

「そうだけど…どうかした?
あっ、ほむらの事考えてなかったわ……」

「構いませんよ、大丈夫ですって」

その直後に着水。

説明を忘れていたようだが、この後すぐにダナンに全員は回収された。
任務の帰りのダナンに乗って早く基地へと到着しようという事だったらしい。

ほむらはずぶ濡れのまま<ミスリル>に歓迎される事となる。
338 : ◆Upzc6141AI :2013/02/21(木) 02:30:55.96
魔女結界



「出口っ!見えたよ、マドカ!あと少し頑張って!!」

「は…はいっ…!」

走る二人の後ろには多数の使い魔が迫る。
爆破したまでは良かったものの、他の使い魔が次から次へと合流して、疲れる二人を容赦なく追い回していた。

時に正面からの使い魔を避ける為に迂回をし、飛びかかる使い魔にはスタンガンを浴びせるなど無茶な行動が祟り、二人の体力は既にピークを迎えている。

出口は見えたが、それすら遠く感じる程に。

「君たちには本当に驚かされるよ。
まさか魔法少女でもないただの少女二人で結界から逃げ出せそうだなんてね。
それに、あんな危険物持ち歩いているなんて、カナメ。君は本当にどうかしているよ」

「っ…っはぁ…ったく!うっさい…っての!」

息が乱れる事になると分かっているのにかなめはついつい黙らせようと相手にしてしまう。

そのせいで集中が途切れた。

真横から使い魔が体当たり気味に突っ込んで来るのに気が付くのが遅れてしまう。

「かなめさん、危ないっ!」

まどかが叫ぶ。

間に合わない。
避けられない。
339 : ◆Upzc6141AI :2013/02/21(木) 02:31:25.07
インキュベーターすらもそう思った刹那。
340 : ◆Upzc6141AI :2013/02/21(木) 02:32:00.59
飛びかかる使い魔に衝突したのはかなめの体ではなく。


水晶が衝突した。
341 : ◆Upzc6141AI :2013/02/21(木) 02:32:36.01
「っ!?オリコ!」

その安心感からかなめは名前を呼んだ。


「ぜぇ…はぁっ……ま、間に合い…ましたね……本当によか……ったです……」

どれだけの距離を全力で駆け抜けて来たのだろうか。

救世主の如く現れた織莉子はまどかとかなめの二人よりも辛そうな息遣いをしている。

「はぁ…よし、もう大丈夫ですよ」

息を整えながらも水晶を次々と放つ。
着実に使い魔は減らされてゆく。

直接戦闘向きではない能力とは言えども、使い魔程度には遅れはとらなかった。

それでも、数の暴力と近くて遠い出口。
そして、二人を守る条件がのしかかり織莉子は押され始める。

「まずいですね…二人は下がってください」

二人を庇う様に更に前へと踏み出す。

「私だって、巴さんの弟子でもあるんですから。
あの技だって…!」

目をつむる。

右腕を高く掲げた。

大量に現れる小さな水晶玉。

目を見開く。

右腕を目の前へ振りかざした。

放たれる水晶玉の弾丸。

通路を一掃する様な大量の水晶の雨。
その雨は天から降らずに、真正面から嵐の如く吹き荒らした。

「さあ、もう大丈夫ですよ」

今度こそしっかりと言い切りながら振り返り、織莉子は優雅ににっこりと微笑んだ。

「まったく、織莉子はせっかちさんだなぁ」

「まどか!かなめさん!大丈夫!?」

遅れてさやかとキリカも到着する。

「ええ、せっかちですよ。そのお陰で二人を守れたんですもの、今回は結果オーライと言って欲しいわ」

「本当にありがとうございました、織莉子さん。
キリカさんにさやかちゃんも、心配かけちゃってごめんね」

心の底から安心できたまどかは腰を抜かしてヘロヘロと座り込んでしまった。

「それもこれも、全部は後でこいつに聞かせてもらおうじゃないか」

「そうですね、キリカさん。
それよりも今は」

その一言と共に三人は前を見据える。

「ええ、私たちの親友に手出しをした魔女をどうにかしましょうか」


結局、三人もの魔法少女が集まったのだ。
魔女は危な気なく撃破される事になる。
342 : ◆Upzc6141AI :2013/02/21(木) 02:33:03.92
日本の遥南の島・基地


「さて、私たち<ミスリル>は暁美ほむらさん。貴女を歓迎します」

ほむらは訳もわからないままに連れられて来た基地でどうやら歓迎されている。

「いいじゃんいいじゃん、魔法まで使えちゃうなんて名前の通りって感じじゃねーの?
<ミスリル>って魔法の金属なんだろ?」

クルツは戸惑うほむらに対しても、今までのように楽観的だ。

「とりあえず慣れるために見て回ってください……と、言いたいところなんですが、時間がないのでついて来てください」

テッサに手招きをされると、それについて行く事にした。

「大佐や俺たち以外に言葉が通じないと何かと不便だろう。
俺も一緒に行こう」

後ろからは宗介もついて来る事にいたようだ。
不慣れな場所なのだから、知っている人がいると心強いものだ。

「ホムラさん、こっちです」

そう言われてたどり着いた場所はASの格納庫。

そこには<レーバテイン>やM9が整列している。
<レーバテイン>は一機のみだが。

そこに一つだけ、見慣れないシルエットのASが直立している。

そのASにほむらは目を奪われた。

「見つけたみたいですね。
そのASこそ、貴女へのプレゼントのようなものです」

そのASは。
宗介にしたら嫌な事を思い出させるのかもしれない。

呼ばれていた名は。

<ベリアル>、と。
343 : ◆Upzc6141AI :2013/02/21(木) 02:37:11.91
今回はここまでになります。

おそらくあと2回程度の投下でおしまい…………のはずです。

説明不足ですが、まどかが結界に巻き込まれた理由は勿論キュゥべえが契約させるように誘導したものです。

今回の織莉子がやってた大技的なのはマミさんが1話でやってたアレの水晶バージョンです。
少なからず正義の味方の影響を受けている事に。


344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/02/22(金) 19:18:33.69
乙!
348 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:42:54.45
永遠のスタンド・バイ・ミー(中)


統計によるワルプルギスの夜到達10日前、基地


「んじゃ、俺たちは先に見滝原に行ってるわ」

クルツの声でほむらは我に返る。
ここ最近はずっとこの調子でボーッとしている事が多い。
ついついワルプルギスの事を思い詰めてしまう。

「ええ、気を付けて」

宗介は機体の特殊性の為に当日まで基地で待機となっている。
ほむらもそうだ。

何だかんだで今までの機械いじりと魔女との戦闘、おまけ程度にボン太くんでの活動が功を奏したのか、ASの操縦は素人とは思えない程に扱えた。
だが、そこからが問題だった。
確かにASによる戦闘をウルズチーム程にこなすのは期間的には不可能だろう。

問題は、ラムダ・ドライバだ。

魔法という未知の領域を扱いこなすほむらには作動はできた。

だが、宗介とアル程の強力な力場の発生は難しかった。
おそらく、ほむら自身の魔法自体が弱い事が、ラムダ・ドライバのイメージに影響をしているものと思われた。

これがマミのように一撃に賭ける魔法を扱うのならば、また違った結果になったのかもしれない。

「イメージ…イメージ、ねぇ…」

何となく一人でつぶやいてしまう。

「やはり、あの装置の使い方がわからないか」

誰も居ないと思い、口から漏れたつぶやきは意外な事に聞かれていた。

「あら、いたのね宗介」

「ああ、お前の訓練は同じラムダ・ドライバ搭載機の操縦兵の俺が見てやるように言われているからな。
訓練後なんだ、近くにいてもおかしくはない」

宗介の言う事はもっともだ。
349 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:43:25.43
「まあ、見てやれと言われてもアドバイスできる程、俺も詳しくはないがな」

「でも使いこなせている」

その言い方に少しだけつっかかる。

「使わざるを得なかっただけだ」

誇張する訳でも見下す訳でもなく、本当に使わなければならなかった。
それはほむらも同じなのだが、経験が違い過ぎる。

「いや……訓練でも発生させられる分、俺よりも扱いこなせるかもしれないな」

これもお世辞などではなく、本心からだ。

「なんにせよ、アレが扱えたのは今のところお前だけだ。
そいつの力が必要なんだろう?」

「ええ、あの訳のわからない装置を何としても使いこなさなきゃいけないのよ、私は」

ほむらは再び<ベリアル>のコックピットへと乗り込もうと立ち上がる。

「その意気だ。
気力のない兵士は戦場では生き残れん」

後を追うように宗介も立ち上がり、<レーバテイン>のコックピットへ。

「俺も付き合おう」

それぞれのASが立ち上がり、訓練場へと向かった。

「何としても……何としても今度こそは…!」

頭の中で忌々しい巨大な魔女の姿を思い浮かべ、強く意識をする。

ワルプルギスまでに、なんとしてもこの装置を扱いこなさなければならない。

その事がほむらを焦らせた。
350 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:43:55.55
訓練場



「とりあえず慣らすぞ。
ターゲットをラムダ・ドライバで破壊するんだ」

<レーバテイン>の外部スピーカーから宗介の声が聞こえた。

前方には訓練用の円形ターゲットが見える。
<ベリアル>はアイザイアン・ボーン・ボウを展開し構えた。

「あの的を…撃ち抜くイメージ!」

その巨大な弓のトリガーのような弦を引く。
指を話すと、そのトリガーはしっかりと弦の役割を果たすように弓本体へと引かれるように戻る。

実際に弓を放つのではなく、力場を超高速射出する兵器なのだ。
だからこそ、弦ではなくトリガーのように頑丈な造りなのだろうか。

肝心の矢となる力場は放たれ、的の中央を貫いた。

「作動しているな」

「でも、これじゃあ威力不足でしょ?」

「ああ」

自分のイメージが武器の威力に直接依存する。
今までほむらは銃に頼っていたのが祟り、そのイメージが確実にできない。

「まだまだ練習あるのみ、ね」
351 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:44:25.69
集中を高める。

再び構えた。

「いや待て。ターゲットを変えよう」

もう一度的を射抜こうというところで、宗介から声が掛かる。

「幸い、ここは岩場が多い。
あの岩なんてどうだ?」

<レーバテイン>から送られてきたカメラデータに映された岩をほむらも視認する。

カメラの映像ではわかりにくかったものの、ASよりも一回り大きいくらいのサイズだ。

「やってみるわ」

強くイメージを固める。

(あの岩を、一撃で壊すくらいに…!)

弓を、力場を放つ。

岩が大きく削れる。

だが、まだ出し切れていない。

(また…また違う)

ほむらはその違和感を拭えずにいた。

「さっきよりも強くはなっているな。アル、どう思う?」

【あの岩の損傷と、以前に食らった損傷を比べると1/5程度の威力も出ていません】

「だ、そうだ」

「それは私にもっ…!」
352 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:44:52.74
イメージ通りに作動しない苛立ち。

「そうだな…説明だと弓はわかりにくいか。
目標を破壊するだけじゃなくて、武器から放つもののイメージだ。
見ていろ」

そう言うと<レーバテイン>は例の岩へ武器も持たずに走り出す。

そのまま右の拳で岩を殴る。

ピタリ。

その接触の姿勢で止まる。

「拳の一点に…力のイメージ!」

力場は目には見えない。
だが、ほむらはその拳から放たれる力場がどれほど強力であるかは岩の様子と、感覚的に理解できた。

(あの岩が…)

一発で、岩は文字通り木っ端微塵となっていた。

「こっちの方がわかりやすかったかもしれんな」

<レーバテイン>の後頭部から飛び出た放熱索がしまわれると、ほむらに向き直る。

「やってみる?」

「ああ、やってみろ」

同じように拳を別の岩に叩き込む。
353 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:45:24.85
「力の…………イメージっ……!!」

拳の先から力場が生まれる。

「ムカつくのよっ!この岩野郎っ!!」

怒りは破壊のイメージの助けにもなる。
ほむらは岩には悪いが怒りの矛先になってもらう事にした。

先程の岩よりも小さく、木っ端微塵とはいかないものの上出来と言える程には岩は砕けていた。

「やはり、こうした方がわかりやすかったか」

何となくだが、コツがわかった気がした。

「この調子で、この弓もいけるかしら」

そう言うとすぐに円形ターゲットへと弓を向ける。

放つ。

岩よりも遥かに小型で耐久性のないターゲットは一撃で木っ端微塵となった。

「アル、今のはどうだった」

【先程とは比較にならない程の威力です。
ですが、出し切れてはいないようです。
計測的には学校で交戦した魔女に対してならば、有効にダメージを与えられるかと】

「まだ出せるわ…ね」

「らしい。だが、そろそろ限界だろう」

宗介の指摘はもっともだ。

既にこの日は数回訓練へ出ている。
慣れないほむらには心身共に負担が大きく掛かるはずだろう。

「今日のところは休むんだな。
続きは明日だ」

そうとだけ言うと<レーバテイン>はすぐに訓練場に背を向け、格納庫へと一直線に戻った。

ほむらも、それに従う事にした。

(この成果は…自信になるわね)

訓練ができる時間はもう長くはない。
だが、ほむらには更に物にできるような気がした。
354 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:45:56.04
時は過ぎて統計によるワルプルギスの夜到達2日前、風見野


ボロボロになった教会、杏子だけがこの建物に訪れていた。

杏子はおそらく元は教壇であったであろう、台に祈る体勢で膝をついている。

(父さん、母さん、モモ………
みんなを不幸にしちまった、この碌でもない力だけど……ごめん、あたしは守りたいものの為にもう一度使うよ)

祈りながら、届くはずもない謝罪。

守りたいものは、無論仲間と、そして誰よりもゆまの事だ。

今も契約させてしまった事に罪を感じていた。
それは今でも変わらないが、最初のような一方的な罪滅ぼしではない。
純粋に守りたい。
それが今の杏子の戦う理由だ。

「なんか…重なるんだよなぁ…らしくないけど…」

思っていた事が口から漏れてしまった。

歳が近いからなのだろうか。
何処かでゆまが妹と重なってしまう。
自分の手で失ってしまった妹と。

(もう二度と失うものかって…!そう決めたんだ)

自分を偽っていないか、もう一度だけ確認した後に立ち上がる。
跪いていたからか、膝が汚れているのを手で叩きながら。

「ところで、さ。あんた、覗き見はいい趣味とは言えないんじゃない?」
355 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:46:47.22
ポケットから自分の魂を取り出して臨戦態勢をとる。
相手が何者か分からない以上は警戒をするのは当然だ。

「覗き見をしていたつもりはないんだけどね。
気に障ったなら謝ろう」

「いや…ところであんたは、何をしにこんなところに来たんだい?
見ての通り、ここはもう教会の役を果たしちゃいないよ」

かつては自分の家でもあった事から、赤の他人が意味もなく使おうというのには抵抗があった。

「そうか、教会なのか…通りで」

「何が言いたい」

「俺は多分もう死んでるからね。
自分でも分かってる。
とりあえず君たちの事は何となくだけど見てきた。
あの子によろしく言っておいてくれないか?」

「やっぱり覗き見は趣味なんじゃねえのか?
で、あの子って?」

「テッサに、ね」

それだけ言うと、謎の男は長いアッシュブロンドの髪を揺らしながら教会から立ち去ってしまった。

「テッサって…お、おい!」
356 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:47:13.48
杏子は呼び止めようと慌てて教会から飛び出る。
入口付近から見渡すが、本当に幽霊であったかのようにその姿は消えていた。

「何だったんだ、あいつ…」

何かを蹴ってしまったようだ。

足元に視線を落とすと、そこには一丁の回転弾倉式の拳銃と真新しい紙切れが落ちていた。
思わず拾い上げる。

そこには、
【統計のズレ。明日に注意。それとこの拳銃はチドリ カナメに渡してくれ】とだけが汚い日本語で書かれていた。

「よろしくだとか、注意に、幽霊ねぇ…本人も死んでるって言ってたし。
本当に奇跡も魔法もあるってか?」

本来の要件は済んだ。

杏子もその拳銃と紙切れを持って教会から去る事にした。

(父さん、母さん、ごめん。あたしは…征くよ)
357 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:47:41.74
美国宅


「ただいまー」

玄関の扉を開けると、ゆまが既に待機していた。

「おかえり、キョーコっ!」

そしてタックルのように思い切り抱きつく。

「わわっ、ゆま、危ないだろ?」

杏子とゆまは見滝原の住人ではない。
その為、共闘するにあたって隣町からわざわざ訪れるのは不便なので、織莉子の家で生活を送る事にしている。
もっとも、拠点となっていたほむらの家が留守な事から魔法少女たちは普段からこの家に訪れているのだが。

「あれ、さやかとマミは?」

時刻はまだ正午よりも前。
ゆまがついてこないようにと、教会へ向かったのは早朝の事だ。
戻る頃にはマミとさやか以外は集合していた。

「野暮用だと」

人が少なく、部屋にはキリカとかなめ、そしてまどかしか居ない為に必然的に近くにいたキリカが答える。

「何処に行っていたんだい?」

今度はお返しと言わんばかりに杏子の用事を聞いた。

「ちょっと野暮用だよ」

キリカが身を乗り出して聞いてくるが、具体的には教えない。

過去の事を知られるのがあまり好きではないのだ。
358 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:48:13.83
「そうそう、かなめ。
今朝に知らない人からこれを渡してくれって」

幽霊云々はあまり信憑性がない事と、言わなくても良いと判断して知らない人、と言った。

「なになにー?」

かなめは杏子へ歩み寄る。
遠くからでは何かはよく分かっていなかったようだ。

「えっ……う、嘘?これって…」

杏子の手からひったくるようにその拳銃を受け取る。

「やっぱり……あの拳銃…」

「どうしたんですか?」

明らかにかなめはこの拳銃を見てから動揺している。
まどかは心配をして声をかけた。

「い、いや、何でも無いよ、大丈夫。
ねえ、キョーコ?この拳銃を渡してくれたのは、どんな人だった?」

「長い銀髪で、コートを着てた。
日本人には見えなかったね」

「そ、そう…他になんか言ってなかった?」

「この紙を置いてった。あと、テッサによろしくって。伝えようにもここに居ないから伝えられないけどね」


それだけの情報で、かなめの頭の中でその人物が誰かは確定してしまった。

「レナード……なんで?死んだんじゃ……」

憔悴したような表情で俯き、拳銃を凝視する。
359 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:48:52.07
「それと、あと…自分はもう死んでるって」

「そうね、幽霊でもなきゃありえないもの」

「知り合い?」

「腐れ縁ね」

杏子の問いに吐き捨てるようにつぶやいた。

渡すように落ちていた拳銃は渡せた。

(明日がどうとかってのは、織莉子に予知をしといてもらおう)

あとは、統計の事についての紙を織莉子に渡そうと杏子は彼女がいるであろう台所へ向かう。

「キョーコ、キリカー!あたしもちょっと出かけてくる!」

「出掛けるって何処に?」

先程の事をテッサ達にも伝えようとかなめは即座に行動を開始した。

「ソースケの家!」

きっとその場にある通信機を使えば宗介やテッサにも連絡が取れるはずだ。

「わかった、気を付けてくれ」

キリカは急ぐかなめの背中を見送ろうとする。

「ん?いや、急ぎの用事なのかい?」

その背中を呼び止めた。

「まあ、それなりにはね」

「ならば送って行こう。
すまない!私も野暮用で出掛けるよ、織莉子に伝えておいてくれ!」

しっかり捕まってくれ、そう言いながら既にキリカはかなめを抱きかかえていた。
女子中学生と、本来ならば高校を卒業している歳のかなめではそれなりの体格差が生じるが、魔法少女の力の前では無いようだ。

そのままキリカは変身すると、高速で織莉子の家から『飛び出した』。

なにかの比喩ではなく、正真正銘その強化された脚力は『跳ぶ』と言うよりも『飛ぶ』と言った方が正しい。

高々度で移動する姿はまず一般人には見られる事が無いが、先日の学校での戦闘で魔法少女は割と明るみに出てしまったので、キリカは見られる事に躊躇いが無いらしい。

「あー、せっかちな奴だ。もう姿が見えねーや。まあいいか」

その二人の姿を見送ると、改めて杏子は織莉子に伝えるべく台所へ歩き始めた。
360 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:49:41.16
セーフハウス


「ほら、着いたよ」

飛び出してから5分も経たない内にキリカとかなめはセーフハウスに到着していた。

「し、死ぬかと思った……」

余裕そうなキリカと、その一方でぜぇぜぇと息を荒げるかなめ。
動いていたのはキリカなのだが負担は一般人のかなめの方が大きかった。

「あ、あんた…タマにソースケみたいな無茶するわね…」

「それは褒め言葉として受け取っておこう」

「まぁ…そう思っといて…」

なんだか宗介のように何を考えているのかわからないと感じたかなめは、早々に切り上げて玄関の扉に手を掛ける。

「あれ?鍵が掛かってない?不用心ね」

鍵が掛かっていない事を確認すると、慎重に扉を開く。
罠が仕掛けられていたら堪ったものではないからだ。

「罠は……解除されてないか」

「だが、どうやら先客のようだね」

キリカは何者かが既にいる事に気が付いた。

警戒しながらも、さらに奥へとかなめは進む。
先程から嫌な汗が止まらない。

もう一歩。

部屋の中に入れば全てハッキリするはずだ。

「ごめん、キリカ。もしかしたら面倒な事に巻き込んじゃうかもしれない。
それでも大丈夫なら着いて来て」

「巻き込むも何も、私たちは仲間で友人だろう?
なんの問題もないさ」

「わかった。じゃあ行くよ…!」

キリカは変身したままかなめの後ろに、かなめは例の拳銃を手に部屋のドアを蹴り破った。

「そんな気はしてたけど……なんで、あんたがここに居るのよ!」

的中した予感。
目の前にその男の姿を捉える。

「レナードっ!」

かなめは拳銃を持つ手を、より一層強く握りしめた。
361 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:50:34.19
美国宅


「なに?未来が予知できない?」

固有の魔法が機能していない事を知らされて、杏子は首を傾げた。

「ええ、今日の分はできるんですけれど……
明日以降は、テレビに砂嵐が写っているように何も見えなくて」

「ある意味、それが予知なのかもしれねぇな」

そう言いながら杏子は紙切れを取り出す。

「これ、見てみ」

「どれどれ、【統計のズレ。明日に注意】?」

「ちなみに拾ったっていうか、渡されたってのは今日だ」

それを知って織莉子は愕然とした。

織莉子の予知が効かない事から、杏子も冷や汗を流す。

(なんだよ、なんなんだよ統計のズレって…!
統計がほむらのってのなら…ワルプルギスは明日にでも来るってのかよ!)

「これは…早く皆さんに知らせた方がいいかもしれませんね」

織莉子は落ち着いた口調で話すが、やはり杏子と同じように焦りが生まれる。

「善は急げ、だな…!
ゆま!全員に知らせに行くぞ!
まどかはここで織莉子と待っててくれ」

「はーい。杏子ちゃん、気を付けてね」

居間でくつろいでいたゆまにも声を掛ける。
まどかに負担はかけられない為待機してもらう事にした。

「わかった!」

ゆまの手を取るとすぐに玄関の扉を開く。

「うおっとぉ!?」
362 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:51:03.67
そのまま先のキリカと同じように飛び出そうとするが、誰かとぶつかった。

「どうした、キョーコ?そんなに焦って」

「あ、マオさんにクルツさんか。
例のワルプルギスだけど、明日に来るかもしれないんだ。
それをマミとさやか、それと、キリカとかなめにも伝えないと…」

「わかった、わかったからとりあえず落ち着いてくれキョーコちゃん」

クルツに言われてようやく気が付く。
自分でも柄に無いほど焦っていた事に。

「焦りは度し難いミスを生むぞ」

その二人の後ろから更にもう一人。
クルーゾーだ。

「それは中佐の受け売りでしょ?」

「そうだ」

焦りに焦っていた杏子とは打って変わって余裕そうに言葉を交わす三人。

「んじゃ、マミちゃんの所は俺が伝えてくるわ」

「サヤカにはあたしとベンで行ってくるよ」

ならば杏子とゆまの選択肢は一つ。
かなめとキリカは同じ場所に居るはずだ。

「じゃあ、あたしらはキリカとかなめだな」

四人とも目的地を決めると足早に解散する。

全員の居る場所は大体目星がついていた。
マミは両親の墓に、さやかはきっと恭介の元にでも居るのだろう。

「じゃ、行ってくる!」

そうと決まればすぐさまに行動するのは杏子の癖のようなものだ。
363 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:51:31.56
セーフハウス


「できればソレを下ろして貰えると嬉しいんだけどな」

かなめには拳銃を突き付けられ、キリカは既に鉤爪を展開しているが、レナードはあくまで余裕そうな態度で話をかける。

「あたしは、なんでここに居るのか聞いてんのよ」

「それは俺に言われても困るね。
自分でもよくわかっていないんだから」

レナードは悪びれる様子もなく手をヒラヒラと振る。

「どういう事よ、それ」

「どうもこうも、こっちが聞きたいくらいさ」

どれだけ押し問答をしようと話は並行線だ。

「二人がどういう関係かは知らないが…すまないがそれなりに急いでいるんだ。
敵対者なのか味方なのか、それだけをハッキリさせてくれないか?」

埒があかないとキリカは判断する。
必要事項だけ先に聞く事にした。

「味方だね」

はぐらかす訳でもなくレナードは断言してみせた。

「俺はいつだって君の味方のつもりだよ、カナメ。
そして今は、あの子を利用しようとしたクソッタレな宇宙人の敵だ」

「なによそれ…」

「その言葉は信じても平気かい?」

「勿論。ちなみに有益な情報かな?これは。
君たちが対策し続けたワルプルギスとやらは、明日到達するよ」

杏子に与えた物と、全く同じ情報。
364 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:51:57.96
「なんであんたが……ってあんたも未来予知みたいな事ができるんだっけ」

何時の間にかかなめは拳銃を下ろして、普段通りのように会話を進める。

「そんな所さ。
おっと、そろそろ時間みたいだ。また会えるのを楽しみにしてるよ」

それだけ言い残すとレナードの姿は元から何もなかったかのように消滅してしまった。

「消えてしまったね。彼は幽霊か何かかい?」

「まぁ…死んでるはずだったんだけど…」

目の前で人が消えたにも関わらずキリカは驚く様子すらない。
かなめも驚くほどの余裕がなかった。

「そうだ、先にソースケ達に伝えないと!」

突然の連続で考えがまとまらない。

とりあえずかなめはレナードの事を考えるよりも先に、宗介達への連絡を優先した。
365 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:52:24.54
基地


「そうか……了解した」

宗介は通信を終了する。

「どうでした?サガラさん」

宗介とほむらはテッサに呼ばれて艦長室まで訪ねていた。
そこで宗介に通信が入る。
相手はかなめだった。

そして今、全ての出来事を聞かされたのだ。

「大佐殿、悪い知らせと、どちらとも言えない知らせがあるのですが…」

「今はテッサでいいですよ。
その二つの知らせ、どちらもお願いします」

テッサはにっこりと微笑む。

「では、悪い知らせからで」

「ワルプルギスの夜の到達が、早まって明日になるそうです」

それを横で聞いていたほむらは驚愕した。

「そんな…」

今まで一度も起こらなかったイレギュラーに怯えざるを得なかった。

「それともう一つが…
レナードが現れた、らしいです」

その言葉を聞くと同時に嬉しくもあり、悪い知らせでもあるな。とテッサは感じる。

実の兄であり、かつて<ミスリル>の最大の敵が生きていたのだから。

「実は続きがありまして、レナードは今は俺たちの敵ではないと言っていたそうです。
インキュベーターの敵である、と」
366 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:52:57.91
「そう言う事さ」

宗介の話を即座に肯定する声。

その瞬間に誰よりも速くほむらは真横に腕を伸ばし、突然現れた影に銃を突き付けた。

「なぜ、貴方がここに…?」

その姿を視認してテッサは震える声で問いかける。

「レナード…」

「俺にもわからないんだって。
カナメと同じ反応じゃないか」

かなめの時と同じように悪びれる様子などない。

「わからないだと?」

「気がついたらここに出てきてたのさ」

銃を突き付けられていることから、出来るだけ動こうとはしない。

「それと、銃を下ろしてくれないかな?」

視線だけをほむらに向けて要望する。

「ホムラさん、下ろしてあげてください」

事情が飲み込めないが、ほむらはそれに了承して銃を下ろした。

「ありがとう。
さっきの続きだけど、サガラは知っているだろ?俺はお前の目の前で撃ち殺されたんだから、俺が死んでるってことは」

「肯定だ」

宗介はあの決戦を思い出す。
そして、最後のレナードの願いと、和解しかけたことを。

「それ以降は、自分の意思に関係なく君らの関係する人物の付近に突然出てしまうようになってね」

死者が現れるようになる。
367 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:53:35.68
こんな奇跡の様なことは、ほむらには一つしか思い浮かばない。

「出てきなさい、居るんでしょ?インキュベーター!」

全て問い正せばハッキリするはずだ。
この間のテロリストの願いが怪しい。

「いきなり呼び出すなんて、どうしたんだい?」

「聞かせて頂戴、先日のテロリスト魔法少女の本当の願いを!」

どこからともなく現れたインキュベーターに全員の視線が集中する。

「前にも言ったじゃないか。
『彼の役に立ちたい』って。あれは紛れもない事実だよ」

声音一つ変えずに淡々と述べるインキュベーター。

「その結果がどうなるかは、僕の知った事ではないよ。
でも興味深いね。
契約した彼女の中の『役に立ちたい』と、対象の彼の『役に立ちたい』には差異があったからこんな結末なんじゃないかな」

長々と持論を展開される。

「レナード、お前は幽霊にでもなりたかったのか?」

「違うね。死ぬ寸前では、せめて妹を守ってやりたいとは思ったけど」

「テッサさんを守りたいって事の役に立ってしまったわけね。
その結果が守護霊なんて…」

レナードの存在について、二人の中では幽霊だと決まってしまったようだ。

「そう言う事、なのか?」

「それなら、なんて言うかその…」

テッサはそれを聞いてもじもじとする。

「嬉しい、ような……」

消えてしまいそうな小さな声で喜んでいた。

「喜んでもらえて何より」
368 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:54:12.42
「半年も前には殺し合うような仲だったのが不思議に思えるな」

あくまで睨むような視線を送る宗介だが、この二人の再開には出来るだけ水を差さないつもりだ。

「別段テロリストがやりたかったんじゃないからな。
まともになりたかったんだ」

「そうだな」

レナードの言い分は、宗介にも理解はよくできた。

「私はお邪魔虫かしら?」

会話について行く事もできないが、雰囲気的に割り込む事もできない事からほむらは退出をするか提案する。

「その必要はないよ。
これから話すのは君にも重要な事なんだ。
<ベリアル>の操縦兵の君に」

レナードはそれを引き止める。

「でも貴方ががいるのなら、あのASも貴方が扱った方がいいんじゃないのかしら?」

「君らで結論付けただろう?俺は幽霊なんだ。無論ASの操縦なんてできやしないよ」

幽霊なんだ。
その一言でレナードの死は揺るぐ事のない事実なのだと突き付けられたような気がして、それがテッサには悲しく思えた。

「そうですか……
サガラさん、ホムラさん。
呼び出しておいて申し訳ないんですが、一度兄と二人きりにさせてもらえないでしょうか?」

「了解しました」

「構わないわ」

レナードには呼び止められたものの、二人きりの話があるようだ。
宗介とほむらはそれを察する。

「すみません、そんなに長くはならないと思うので」

二人が退室したのを確認すると、テッサは扉を閉めた。

防音性の扉の為に、中の会話は外へは聞こえないだろう。

「大事な話なんです。始めましょうか、『兄さん』」

こう呼んだのは何年ぶりなのだろうか。
369 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:54:38.99
翌日。統計によるワルプルギスの夜到達前日、事実上のワルプルギスの夜到達日。


結局、その後レナードはほむらの前に姿を現さなかった。

そして最悪の予想が的中となる。

「日本、見滝原で急速に雷雨が発達中との事です」

テッサに呼び出された宗介とほむらは告げられる。
タイムリミットは訪れたのだ。

「お二人は、<レーバテイン>と<ベリアル>でし出撃準備を進めてください。
急展開ブースターは装備済みですので」

「了解しました!」

宗介は敬礼をビシッと決めると、流石は軍人と思わせる様な回れ右をして退室した。

「ホムラさん。不安は多いと思います。
でも、心配はしないで。きっと、あの人が力を貸してくれるから…」

テッサは悲しそうに、儚げにそう言った。

「…なんとかしてみせるわ、今度こそは…!」

力強く、想いを込めて宣言するとほむらも宗介の後を追って走る。

(ごめんなさい…)

テッサの心の中の謝罪は誰へのものだったのだろうか。
370 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:55:21.67
格納庫


「<レーバテイン>は以前の決戦仕様、<ベリアル>は逆に固定武装以外はアイザイアン・ボーン・ボウのみか」

宗介は二機のASを見上げる。

燃えるような赤と白の<レーバテイン>は言われなければ一見人型には見えない程の重武装。
サブアームにも武器を搭載している。
その重量故に急展開ブースターも専用の物だ。


反面、色素が無いと言っても過言ではない<ベリアル>はカラーリング以外も<レーバテイン>とは対照的に、軽武装だ。

こちらも、元は企画の違うASの為に既存の急展開ブースターに手を加えた専用装備だ。

「専用の急展開ブースターまで作ってもらえて…ここまで支援してもらえるとは思わなかったわ」

「天災としか扱われないとは言え、街一つ消し飛ばされるのを黙って見ている訳にはいかないらしいな」

ほむらは驚きと共に呟くと真横の宗介が答えた。

「そうね。見滝原を守る為にも、貴方の任務の為にも…やってやりましょう」

ほむらはそう言うと先にASのコックピットへと向かった。
宗介も続く。

首の裏側のハッチを開き、その中へ。

『AS二機は出撃準備完了次第、射出準備に移ります』

艦内のスピーカーからテッサの声が聞こえた。

二人はASを起動すると設定を済ませる。
後はカタパルト射出を待つだけだ。

『カタパルト射出準備、完了しました。カウントダウンを開始します』
371 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:56:15.31
カウントが始まる。

決戦までの。

それが喜劇となるのか悲劇となるのかは誰も分からない。

射出が完了すれば、ワルプルギスとの戦闘までも秒読み段階に入るだろう。

「俺が先行する。暁美は続いてくれ」

『5、4、3…』

この間にもカウントは進む。

「わかったわ」

『2、1…射出!』

返事は届いたのだろうか。
言ったとほぼ同時に宗介の機体は高速で空を駆け抜けた。

『続いて<ベリアル>も射出します。
5、4、3、2、1…射出!』


宗介に続くようにほむらの機体も射出される。

「うっ!……っくっ…!」

射出の反動で生まれる凄まじいGがほむらにのしかかる。

だがほむらは意識をハッキリと持ち、飛行に集中する。
安定してしまえば問題はなかった。

速度計の針が揺れる。
数値は今までほむらが体験した事のないような速度を示す。
まだまだ加速は続くようだ。

(速い…わね……もう見えてきたわ)

よく見なくとも、既にワルプルギスは出現していた。
そして、魔法少女と交戦中。
様々な色の閃光。

(もっと急がないと!)

数分前までは速すぎると感じる速度だが、今となっては更に速度を求めてしまう。

ほむらは、機体の変化には気が付いていなかった。
372 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:56:51.11
見滝原


天候は最悪。
雷雨が吹き荒れ、辺り一帯には避難警告。

そんな中、避難所である学校以外はほぼ無人と化した街の中、六人の少女と三機のASは怪物と対峙していた。

「まさか、本当に来るとはねえ」

槍を担いだ杏子は口に菓子を加えながら、視線を変えることなく怪物を見続ける。

ワルプルギスの夜と呼ばれている怪物だ。

「ぼやいても仕方ないよ!よし、全員フォーメーションには着いた!?」

魔法少女六人は耳にヘッドセットを付けている。
ASと連携を取る為に。

「狙撃班、準備完了」

ワルプルギスとは少し遠方のビル。
マミとクルツのM9はしっかりとワルプルギスを見据えていた。

「避難所防衛及び後方バックアップ班、準備はOKよ」

マオのM9、さやか、ゆま、織莉子の四人は最前線よりも少し離れた位置で待機。

「前線攻撃班、問題なし」

それよりも前の最前線には、杏子、キリカ、そしてクルーゾーのファルケ。
373 : ◆Upzc6141AI :2013/03/02(土) 00:57:20.82
「さあ行くわよ、野郎ども!準備はいい!?」


『いつでも!』

防衛班の叫び。

『どこでも!』

狙撃班、前線攻撃班の叫びもそれに続いた。

嵐がより一層吹き荒れる。

気配が変わる。

それは、魔法少女だけでなく<ミスリル>の三人にもわかる程に強烈だ。

「………来ます!」

織莉子の予知。


カウントが始まる。

5

4

3

2

1


魔女達の祭典の夜が、幕を開けた。
381 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 00:50:51.42
永遠のスタンド・バイ・ミー(後)


見滝原付近上空


焦りながらもほむらは、不安に押し潰されんばかりの緊張をしていた。

ASでの戦闘などは勿論初めてだ。
それに、そのASの機動も動かせるとは言ったものの、機動にかかっているほむら自体の地力は一割程度なのだから。

残りは強引に魔法でサポートしている。
いつぞやの時間で対空迎撃ミサイルを動かしたように、ほむらは精密機械を動かす為の魔法を習得しているのだ。

実際にほむらの力だけで動かすとなれば、出来る事は歩く程度。
弓を構える事が出来るかどうかすら怪しい。

そこの所を考慮して武装は最小限に抑えられている。

アイザイアン・ボーン・ボウだけならば、最初から握ってしまえば落とさなければ良いのだ。

ここに変に多数の武装が絡めば目も当てられないレベルで自ら武装解除をしてしまいかねない。

だが、この事実はほむら以外は誰も知らない。宗介でさえもだ。

(目の前……真正面…)

そんなインチキ操縦だからか、ほむらは意識を目の前に集中して飛ぶ事だけを考える。

ここでバランスを崩して海上に落下するなどしては、本末転倒もいい所だ。
382 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 00:51:32.71
「……けみ!暁美!聞こえているか!?」

集中が過ぎて通信に気がついていなかった。

「な、なんとか…!」

「レーダーを見ていないのか!?
正面から熱源反応だ、回避機動をとれ!」

「え、えぇっ!?」

機体の正面を見ると、既にワルプルギスが放った火球のような物体が間近まで飛来している。

レーダーも確認。

数は一つだけだ。

しかし今のぎこちない動きしかできないほむらにとってはそれの回避もかなり辛いらしい。

「回避機動、回避機動……」

頭の中で空中戦の回避機動のマニュアルを思い出そうと必死になる。

強引に機体の重心を横にズラす。

火球は高速で横切る。

何とか回避に成功したようだ。

「あ、危なかった……」

「ボヤッとするんじゃない!態勢を立て直せ!」

その一声でハッと気が付く。
海面はもう目と鼻の先だ。

「ちょっ、そんな……」

今度は逆側に重心をズラす。

「お願いだから…上がって!」

何とか海面と水平に持ち直すと更に高度を上げる。

接近する前から目も当てられない惨状だ。

このまま接近すれば弾幕を展開されて見滝原に到着前にほむらは撃墜されてしまう。
そう判断した宗介は。

「アル、速度を上げろ。
俺たちが先行して囮になるぞ!」

加速した。

ほむらが高度を取り直した頃には宗介とはだいぶ距離が離れていた。

「何としても、陸地に着かないと…」
383 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 00:52:13.62
見滝原


「しかしなんだ、デカイな、こいつは。巨大だ。そして煩い」

出現と共にキリカは誰よりも早く懐へと接近していた。

キリカが言った通り、ワルプルギスはとてつもなく巨大で、何故か笑っている。

「更に言うと、何故逆さまなんだ」

クルーゾーのファルケはアサルトライフルを構えながら回り込む様に動く。
ビルが多い場所な為に遮蔽物は多く、好都合に思えた。

その肩には杏子がちょこんと乗っている。

「速くていいねぇ!クルーゾーさん、雑魚の露払いはあたしに任せてくれ!」

その肩の上で杏子は多節槍をバラバラにしてしならせ、鞭の様に豪快に振るった。

その宣言通りに、クルーゾーの機体に群がる人型の使い魔は吹き飛ばされる。

「キリカ!突出し過ぎです!
今すぐにそこから離れて!攻撃に直撃してしまう!」

ヘッドセットからの通信。
織莉子からのものだ。
384 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 00:52:40.79
大規模な戦闘な事から彼女の魔法は重要となる。

「了解だよっ!織莉子!」

それを聞いたキリカは即座にワルプルギスと距離を離す。

そんなキリカに目掛けてビルが飛来する。

咄嗟にキリカは飛来するビルに遅延の魔法を放つ。

目に見えて落下が遅れる。


だが、その質量はあまりに巨大過ぎた。

「クッ……!」

直撃ではないものの、キリカはそれに掠めるように巻き込まれた。

「美樹さん、彼女のフォローをお願いします!」

「ガッテン承知!」

敵との距離が近い仲間の治癒ならば、戦闘もこなせるさやかが適任だ。
状況を素早く判断すると、さやかに頼む事にした。

思い切り地面を振り切り、超高速で瓦礫だらけの道路をさやかは走り抜ける。

「使い魔は私たちに任せてちょうだい!」

そんな声がさやかに届く。

「はいっ!」

それを信じたさやかは剣は作り出さずに一目散にキリカの元へ。

真正面を塞ぐように使い魔が立ちはだかる。

それでもさやかは武器を出さない。
385 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 00:53:17.54
乾いた銃声だけがさやかの耳に響いた。

刹那、その使い魔の一体が消し飛び、弾丸の痕と言うにはあまりに巨大な弾痕が残った。
クルツの狙撃砲だ。

そこに目を奪われていると、次は音もなく使い魔が霧散する。
これはきっと、マミのものだろう。

「うらうらうらうらっ!!ヒャッホォーーーウ!!!」

次々と銃声が無人の街に響き渡る。
そして、無線にはクルツ。

驚くべき事に、さやかが聞いた数の銃声の倍は使い魔が倒されていた。
半分は恐らくマミだろう。


武器を出す事も戦闘する事もなく、さやかは無事にキリカの元へと辿り着いた。

「すまない、世話を掛けたね」

「問題ないですよっ!」

治癒の魔法を掛ける。

「っ!美樹、後ろっ!」

傷付いたキリカはさやかの後ろの影に気が付く。
新たに出現した使い魔だ。

「くそっ、すまない、その位置は撃てねえ!」

この位置の使い魔を狙撃しようものならば、貫通してさやかとキリカまで撃ち抜いてしまう。

「大丈夫ですよ、クルツさん。
あたしだって戦えるんですから」

振り向きながらさやかは自信ありげに言い切った。

振り向く。

そこには、一体の使い魔がさやかに飛び掛らんとしている。

さやかは剣を作り出そうとはしない。
否、この距離なら間に合わない。

それでもさやかは不敵に笑う。

「これはほんの、挨拶代わりだーってね!」

そして飛び掛りに当たると思われた瞬間、さやかの掌はそれよりも速く人型の使い魔の胴に叩き込まれた。

「あの技って」

「ああ、俺が教えたものだ」

ヘッドセット内蔵のカメラから、さやかの様子は全員に行き渡る。

放った技は、恐らくクルーゾー直伝の寸剄。
386 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 00:54:03.56
「武器だけに頼った闘いは、時に隙を作るからな。
特に近接戦だとそうだ。
だから、素手でも反撃できる技を教えてやったのだ」

クルーゾーはアサルトライフルを連射しながらも説明する。

「やるわね、美樹さん。
SRTの方から技術を学んだのは私だけじゃなかったのね」

マミは狙撃を続けながらも、さやかを褒めていた。

「マミも何時の間にそんな風にできるようになったんだ?」

ファルケの肩の上で槍を振るいながらも、杏子はマミの進歩について聞く。

「私だって、この十日間に何もしてなかった訳じゃないのよ、佐倉さん」

それだけで杏子は理解した。

要するに、彼女たちは長所を伸ばすか、短所を補うか。
その為にSRT隊員たちに技術を学んだのだ。

「ついでに言うと私は美樹と共にクルーゾーさんから格闘戦を学んでいた」

復活したキリカは鉤爪で使い魔を切り裂きながら、歩いは掌打やショルダータックルなどの様々な体術を駆使して応戦し、ワルプルギス本体へと再び距離を詰める。

「あたしと織莉子は座学って感じだったな。
マオさんに現場指揮を少しだけど教えてもらってた」

この場で経験の少ない織莉子が指揮を任されているのは、魔法のその特異性からだ。
その力を最大限に引き出す為に指揮能力を学んだのである。

指揮とは逆に、杏子は戦線維持の隊列についてだ。
こちらもその魔法を活かす為に、どう配列するか、どう立ち回るかを重点的に教わり、幻惑を効果的に扱えるまでになった。

必然的に残ったゆまは基本的には杏子について歩き、魔法の効果的な扱いを教わっていた。

ゆまはその幼さ故に訓練の参加はあまり賛成の声があがらなかったからだ。


「つまり、みんな2週間前とは違うって事ね!撃ちまくるわよっ!」
387 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 00:54:45.77
後方支援兼防衛班を指揮するマオの攻撃合図。

「フライデー、支援接続はOK!?」

【肯定】

AIに指示を出し、戦術支援カメラから遠隔操作可能な大小様々な兵器を選択する。

これは、以前から対ワルプルギスの為にほむらが設置した物だ。

それをマオが引き継いで使用する。
恐らく自衛隊の物だろうが、この際<ミスリル>の所有物であるかどうかなど関係はない。

街一つ消し飛ばされるのを防ぐ為なら仕方の無い出費だと考えてもらおう。

「あいつを避難所から引き離す!
照準は!?」

【異常なし、行けます】

対空迎撃用ミサイルから飛来する。
無数の爆薬の塊が、見事に一つとして外す事なくワルプルギスを捉えた。

幾ら現代の兵器が通りにくいとはいえ、この衝撃を受け無傷と言うわけにはいかなかったようだ。

「総攻撃チャンスです!」

未来を読み取る。
雲がかった未来ではあるが、そこにはすぐにワルプルギスが復帰する事は記されていなかった。

「よし!サクラ、クレ!肩に乗れ、連携で仕掛けるぞ!」

ミサイルの爆風の中をファルケは気にもかけずに疾走する。

杏子はその肩に乗ったまま槍を構え直す。

キリカは横切るファルケに素早く飛び乗った。

「狙撃班、そっちに合わせるぜ!」

「後方支援班は接近させる為に露払いと援護よ!」

『了解!』

全員の声が重なる。

「二人とも、しっかり掴まっていろよ!」

それを聞いてクルーゾーはさらに速度を上げる。

「ロックンロール!!」
388 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 00:55:25.70
後方支援班も少しづつ前線を押し上げ、前進しながらも使い魔を掃討してゆく。

「佐倉さんたちの邪魔はさせないわよっ」

狙撃も邪魔になる使い魔は的確に一撃の元に撃ち落とす。

「攻撃範囲内、行くぞっ!」

一声と共にファルケは高く飛翔する。
跳躍したファルケの肩を踏み台に杏子は更に高く。

その杏子の槍を更に踏み台にしてキリカは弾丸の如く飛び込んだ。

「出し惜しみは無しだ。これならっ!一手で十手だ!」

鉤爪をフルパワーに。
普段とは比べ物にならない巨大さと爪の本数。

距離がかなり離れているマミとクルツにも余裕で視認が出来るほど大きな、黒い閃光を薄暗い街に輝かせた。

「呉さん、そのまま下へ!」

攻撃が止まるとそのままワルプルギスの身体を蹴って自由落下を開始する。

攻撃する手がなくなったワルプルギスだが、そんな隙をマミは与えない。

「狙撃だけと思わない事ね!
ティロ・フィナーレ!!」

狙撃の技術と、一撃に賭ける火力。

それは的確にキリカが切り裂いたワルプルギスの歯車に直撃する。

「アハハハハハ」

それでもその巨体は嘲笑を止めない。

「まだまだっ!次はあたしだよ!」

マミが拡大させた大穴に槍を突き立てる。

「おらおら!まだっ!」
389 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 00:56:10.25
突き刺した槍を踏切台にして高く跳ねる。
空中で祈る様に構えると、遥かに巨大な槍を作り出す。

<ベヘモス>に放った大技だ。

「喰らいなよっ!」

槍を突き刺した箇所にもう一度放つ。

その槍は魔法による物だが消える事なく突き刺したままにする。

「ゆまちゃん、ハンマーであたしをあそこまで吹き飛ばせる?」

さやかはそれを見てゆまと連携をしようとする。
ゆまはゆまで、それを見て<ベヘモス>との戦いを思い出した。

「うん!さやかおねーちゃん!」

そう言うと、準備が既にできていたさやかをすぐさま吹き飛ばした。

「これも、ついでだああああああ!!!」

持てる限りの最速力、瞬発力を持ってして剣を突き刺した槍の柄に叩き込む。

「はあああああっ!!!」

槍は更に深く突き刺さる。
推力を無くすと、さやかもキリカに続くように落下する。

「それじゃあ、これも貰っときな!」

ドォォン……
遠くから大き過ぎる銃声が響くと同時に、気が付けばより深く槍は突き刺さる。
クルツは狙撃砲で槍の柄だけを撃ち抜いたのだ。

「これでおしまいだ」

最初に跳んだファルケは最後に現れる。

「おおおおお!」

単分子カッターを引き抜くと、落下の慣性をつけ鋭く切り裂く。
そして、槍まで到達すると、例に洩れず槍に攻撃を加える。

「これが、本物だ」

押し込むように、だが凄まじく衝撃のある一撃。
並のASならば軽く吹き飛ぶであろう打撃は、槍を完全に貫通させた。

ワルプルギスに綺麗に一つ風穴が開く。
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/03/21(木) 00:56:25.88
つえーなおい
391 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 00:57:02.70
「やったか!?」


織莉子の思考にノイズが走る。


「まだですっ!!みんな、急いで……急いでソイツから離れてええええええ!!」


織莉子の叫びと、全員が吹き飛ばされたのは、ほぼ同時だった。

ワルプルギスは、今も嘲笑していた。
392 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 00:57:37.83
見滝原極付近、上空


ワルプルギスの迎撃行動が止まる。

それは目の前の魔法少女達と三機のASの一斉攻撃に注目が集まったからだ。

その隙に<ベリアル>の速度を上昇させて、ほむらは宗介に追いつく。

「暁美、空中での180度ターンはできるか?」

「え、ええ、多分…」

「よし、ついて来い!」

その直後、ワルプルギスから巨大な光が放たれる。

それは間違いなく宗介やほむらに向けた物ではない。

「っ!」

それでも二人の視界を奪うには十分だった。

目を開くと、一瞬の光によって戦闘が起きていたであろうエリアは。

ほむらの目の前で。

廃墟と化していた。


ほむらの中で焦る心は、確かに怒りへと変貌する。

「暁美!焦るな、まずは奴を市街地から押し出すのが優先だ」

宗介の言い方に不思議な違和感を感じた。

押し出す、とはなんなのだろうか。

考えているうちにすぐに見滝原の真上に到着する。

ワルプルギスは正面だ。
393 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 00:58:32.77
だが、それを宗介は無視するように横切る。
ほむらもそれに続く。

自分でも驚くほどに、ほむらは冷静でいられた。

心の何処かで、全員生きていると信じていたからかもしれない。

勿論、そんな確証は何処にもないが。

それでもとにかく大丈夫だと、そう感じた。

「このままターンをして奴と正面からぶつかるぞ!」

【正気ですか?】

宗介の案にアルは反対のようだ。

【<ベリアル>の軽量さならセーフですが、こちらは重量が違います。下手をすれば空中分解ですが】

「ならば軽くしてやる!ブラックマンバだ!全弾ブチ込め!」

【ラージャ】

急展開ブースターから大量の対空ミサイルが発射される。

ワルプルギスを爆風が包み込んだ。

「このままターンだ!Gなんてどうにかする!」

全てのミサイルを撃ち切り多少軽量化に成功した<レーバテイン>は無茶な態勢でターンを試みる。

その軌道にほむらも続いた。
こちらは問題無いようだ。

「うおおおおおお!」

凄まじい重力が宗介にのしかかる。
それをなんとな跳ね除けるが、ブースターはそうもいかないらしい。

そう思った矢先に、<レーバテイン>の後頭部から放熱索が飛び出す。

どうやらラムダ・ドライバで軽減するようだ。
394 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 00:59:13.65
「空中の方が放熱が楽なんだろう!見ろ、曲がりきってやったぞ」

その宗介の言葉は事実で、二人の眼前にはワルプルギスが佇んでいる。

「アル、全弾くれてやれ。
ゼーロスとGECの照準はお前がやれ!弾は惜しむな、弾薬が尽きた装備からパージしろ!」

【レディ】

「発射ッ!!」

圧倒的に大量の火器がワルプルギスに襲来した。

「私も続くわ!」

飛行しながらも強引な態勢で<ベリアル>もアイザイアン・ボーン・ボウを構える。

「射出!」

鋭い力場が放たれた。

攻撃は一度だけにして武装を収納する。
宗介もメインアームのボクサー2を仕舞うと、両腕を前に突き出す。

「接触するぞ、注意しろ!」

警告をするとすぐさま二機に衝撃が走る。

「このまま押し出す!」

【軍曹殿、それは冗談ですか?】

宗介はアルを無視して更にブースターの出力を引き上げる。

ほむらも同じように加速させた。

「アル、やるぞ!ラムダ・ドライバだ!」

展開されたままの放熱索が更に熱を帯びる。

【ここが空中で助かりました。これならオーバーヒートも心配ありません】

ブースターによる推力と、ラムダ・ドライバによる押し出そうと作用する力場。
395 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:00:00.29
かなり強力なものだ。

ワルプルギスの進行も止まる。

だが、それだけだった。

二機の力を持ってしても押し戻せはしない。

「私だって……私だってえええええ!!!!」

ほむらのワルプルギスへの怒りは、確かな破壊衝動へと切り替わる。

その時だった。

機体の異変に気が付いたのは。

「…警告…?何よ、これ」

モニターに大量に映し出される警告。

ほむらはそれを黙読しようとするが、口から漏れ出してしまう。

「オムニ…スフィア……」

確かにそう綴られていた。

「オムニ・スフィア高速連鎖干渉炉……私たちがラムダ・ドライバと言う、それ……」

頭の調子がおかしい。

ほむらはそれを自覚しながらも、今の自分を不気味な程に客観的に捉えていた。

これは、異常だ。

頭が割れそうな痛みが押し寄せる。

この警告を見た瞬間から大量の情報が頭の中に雪崩れ込んてくる。

これはきっと、ラムダ・ドライバの事なのだろう。

「オムニ・スフィアへの直接アクセス…?そんな事が私に…」

ほむらが呟いた事は現実にレナードはやってみせた。

だが、ほむらはウィスパードではない。

いくら通常よりもラムダ・ドライバが引き出せるとは言え、不可能の領域のはずだ。

しかし今のほむらは違った。

その情報量によって意識が朦朧としてしまっているからなのかもしれない。

それでもほむらは、「あぁ、やれるな」と。
単純にそう感じていた。


そう確信した瞬間に意識が覚醒する。

「……いけるわ」
396 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:01:22.19
頭の中で強く思い描く。

ワルプルギスを押し返すほどの力を。
ほむらには、それが必要なのだ。

全てを守る為にも。
グリップを握る両手に力が籠る。

「ここから…………ここから、出て行けええええええええええ!!」

発生した力場は両腕から押し出す為の物だけではなかった。
その常識を逸した力場は、<ベリアル>の体を押し出す為の推力も発生させていた。
ワルプルギスの巨体が揺れ動く。

「でかしたぞ、暁美!」

一度動き始めれば簡単な物だった。
加速が始まれば。相手が抵抗しなければ、の話だが。

「アハハハハ!アハ!アハハハ!」

歯車には風穴が開き、無残な姿になっているワルプルギスは、やはり嘲笑を止める事はない。

だが押し出される形で動いているのも事実だ。

そして、減速を始めているのも。

(いかんな…いくら暁美が使いこなせる様になったとは言え、長時間の使用は危険だ)

そう判断した宗介は片腕はワルプルギスに付けたままの態勢で。

あろう事か。

デモリッションガンを取り出した。

「これでも貰っておけ!」

そのまま銃口を突き付け、発砲する。

「ぐっ!」

強烈な反動が宗介自身にも伝わった。

だがワルプルギスの身体からは離れない。

きっと今の一撃の反動で急展開ブースターは長くは無いはずだ。

「損害報告!」

【ブースター両翼に火災発生。
<ベリアル>も同様にラムダ・ドライバの影響で破損しています】

このまま装着したままでは機体にまで被害が及ぶ。

「暁美、合図をしたらブースターを切り離せ」

「了解したわ!」

一息置く。
集中。

「今だ、切り離せ!」

急展開ブースターと機体が離れ、二機は落下を開始する。
本体から離れたブースターは推力を保ったままに、ワルプルギスに直撃した。

更に押し出される。
避難所一歩手前だったソレは、再び湾岸沿いまで戻った。

『ソースケか!?全く、待たせ過ぎじゃねーのか?
俺たちは全員無事だ……けど、ちと戦えそうな状態じゃねぇ。
ゆまちゃんが居なかったらマジでやばかった』

ここまで来て、ようやく仲間の無事を確認できた。

「了解した。暁美、いけるか?」

「勿論」

「だ、そうだ。待たせたな、後は俺たちに任せてくれ!」
397 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:02:05.68
同時刻、避難所


「さやかちゃん達、大丈夫なのかな…」

避難所の階段踊り場で、まどかはぼんやりと窓の外を眺める。

大嵐に見舞われる街。
時折起こる地震が不安を助長させた。

「ねぇ、キュゥべえ。さやかちゃん達は、本当に勝てるの…?」

「それを今、僕の口から言ったところで、君はそれを信じるかい?」

呼ぶだけで音もなく、何処からか現れるインキュベーター。

「これだけ強力な魔女なんだ。君ならわかるんじゃないかな」

まどかはインキュベーターの言葉は信じたくなかった。

それは逆に言ってしまえば、真実を話しているように感じるから。

「勿論、まどかが契約すれば確実に全員助かるだろうけどね」

付け足した言葉は、まどかの希望的観測を打ち砕くのには十分過ぎた。

契約すれば全員助かる。
それは、契約しなければ助からないと意味しているのではないだろうか。

言い切ってはいないのに、どんどんとネガティブな方向へと思考が進む。

「マドカ、そう言うのはやめようよ」

思考が打ち切られる。

かなめの声。

「あ……かなめ…さん…」

見られていたと思うと急に罪悪感が押し寄せる。

「少しは自分の事を……いや、自分の事を考えてくれる人の事を考えなさいよ」

目を合わせる事はせずに、歩いてまどかの横まで進む。
そのまま階段の一番上の段に腰掛けた。

「例えば、さ。ホムラとか」

「ほむら…ちゃん……」

かなめの言葉を考える。

いつも何を考えてるのかはよくわからないけれど、いつだって自分を守ってくれた彼女。

「言うなって言われてたけど、やっぱり言うかな」
398 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:03:35.56
腰をかけたまま、あくまでまどかを見ようとしない。

レナードでも意識したのだろうか、芝居がかった動作で天井を仰ぎ、重々しく口を開ける。

「ホムラは、さ。ずっとマドカの為に一人きりで戦ってたんだよ」

唐突過ぎる、まどかはそう思いながらも次の言葉を待った。

「あの子は、何回も何回もこの一ヶ月を繰り返し続けてるんだ。
マドカの為に、ずっと」

「なんで……そんな……」

タイムトラベル。
そんな単語がまどかの頭に浮かんだ。

「マドカが誰よりも大切な友達だからだよ。
それで、続きだけど。
あの子はこの時間に全てを賭けてるんだ。
何でかって言うと、もともとホムラが何度も繰り返した世界にはあたし達は居なかったんだって。
ASなんて兵器も、<ミスリル>なんて組織もなかった」

「それとまどかが契約するのは、別の話だと思うな」

説明の途中で口を挟まれる。

「あんたは黙ってなさいよ、詐欺師。
それだけ多くの世界を移動して…それでもマドカを救えなかった。
どれだけ挫けそうになっても、ひたすらマドカの事だけを考えてた。
突拍子過ぎて信じられないよね?でも、これは多分真実」

まどかは言葉を失う。

「それでも行きたいなら、あたしは無理には止めないよ。
でも、それはあたしやソースケ達の意思もお構いなしって事だから」

そう言ってかなめは懐から、例の拳銃を取り出す。

そして銃口側を握り、グリップをまどかの方へ差し出す。

「あたしを撃ってから行きなさい」

まどかの前に立ち塞がった。

あまりに唐突でまどかの思考は停止する。

かなめの提示した条件は、障害になるとは言えないほどだ。
本当に契約するのならば、引き金を引いてしまうだけなのだから。

だが、当然な事にまどかはそんな事は実行できない。
出来るわけがない。

優しい子なのだから。

かなめはそれを知っていてわざとやった。
かつてレナードが自分にしたように。

「そんな……やめてくださいよ…」

まどかの手は震えている。

「できないんでしょ?契約なんてそんなの、全部を投げ打ってやってるのに何も捨てられないんでしょ?」

まだ手は震え続けている。

「マドカは、優しいからさ」

そう言ってかなめは微笑んで、拳銃を取り上げた。

「だから、あたし達に出来る事をしようよ。
ここで、信じて待つ。
それだけの事くらい、あたし達にだってやれるんだから」
399 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:05:16.45
そう言いながら立ち上がる。

ふと、拳銃を持っていた手が軽くなる。

見ると、拳銃は手から離れていた。

何時の間にか彼は、インキュベーターの如く音もなく現れた。

「レナード!」

「これは返してもらうけど、いいかい?」

取り敢えず今、かなめはレナードを信用する事にしている。

こくり、と頷いた。

そのままレナードは無言でまどかを通り過ぎる。

まどかの横を通り過ぎて、インキュベーターに発砲していた。

コレに腹を立てていたのは、どうやら彼も同様らしい。

「君達は、ここで待っていてくれ」

まどかは腰を抜かしてへたり込んでいる。
当然だろう。

「あなたは…一体…?」

かなめの怒りは意外な事にもまどかに遮られる。

「今のところは君達の……味方ってところかな。
ちょっとテレサを迎えに行ってくるよ。
あの子の為にも君は契約させない。
カナメはその話の続きでも聞かせてあげてくれ」

それだけ言い残すと、コートをはためかせながら避難所から去って行く。

「言われなくとも」

まどかは安心感のような不安のようなよくわからない感情を持て余しながらも、かなめの話を聞きながら全員の無事を祈って待つ事にした。
400 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:05:47.73
時間は遡ってワルプルギス前日、基地


テッサは宗介とほむらを部屋から出すと、レナードと二人きりになった。

「で、大事な話って?」

「その前に一つ聞いてもいいですか?」

兄妹とは思えないような、微妙な距離感での会話。

「構わないよ」

「貴方は、インキュベーターとの契約の内容、その全てを知っていて妨害しているんですか?」

「そうなるね」

「その事を踏まえて、言います。
ごめんなさい、私はその契約をします」

それを聞いたその瞬間にレナードはテッサに掴みかかる。

「君は全部知ってるんだろう?何故そんな事をする」

意外にも、いつだって飄々としていた彼らしくも無い、緊迫した表情。

「大丈夫だという、保証はあります。
どちらかと言えば謝らなければならないのは、契約の内容なのですが……」

「言ってくれ」

「生前の貴方のウィスパードとしての能力を、暁美ほむらさんにそっくりそのまま移す、です」

レナードは、はぁ…と溜息を一つだけつく。

「君はたまに凄い事を言うね。
強引に止めはしないよ、テレサはもう大人な訳だし……
でも二次成長期の少女にしか見えない事を考えると子供かな?」

茶化しながらもその目は真剣そのものだ。

「それで、大丈夫だって確証は?」

「それは…………です…」

消えいるような声で、確かにテッサはレナードにだけ伝えた。

「君にはやっぱり、驚かされるよ」

ふっ、と笑うとレナードは何もなかったかの様に消え去る。

きっとそれは、許可だったのだろう。

「では……インキュベーターさん。出てきてください」

消えたレナードとは対象的に、何も無い空間からインキュベーターが現れる。

「取引をしましょう?」
401 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:06:22.91
時間は戻って、見滝原


疾走。瓦礫の山となり無残な街を二機のASが駆け抜ける。

炎のようなその機体は無駄のない、プロの動きで。

色の無い、だが燃える様な怒りと情熱を宿した機体は現実的にあり得ない機動で。

「雑魚には構うな、一気に突破するぞ!」

<レーバテイン>は、嵐の中飛び交うビルを躱し、コラージュアートのような炎を消し去りながら距離を詰める。

<ベリアル>は文字通り浮遊しながら、弓を構え確実に道を阻む使い魔を撃ち抜く。

二機が進む道路。
それを妨害する使い魔は明らかに今までのものとは違ってきている。
見るからに大きい。
ASといい勝負のサイズまで肥大していた。

「流石にサイズ差を消しにきたか…!」

ワルプルギスの使い魔はどうやらこの二機の危険性を再認識したのか、街に破滅をもたらすよりも先に数を減らしてでも落とす事を優先した。

「邪魔をっ……!」

更に集中する。
ほむらは今一度、弓を引き加速する。

放つ、同時に命中。

だが致命的な一撃にはならない。
使い魔はダメージなど全く気にかける様子も、怯む様子も見せずに火球を飛ばす。

(避けられない…ならば…!)

ほむらのAS操縦技術は魔法と兼ねて運用しても、新兵に毛が生えた程度の物だ。
402 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:06:56.10
だがここに来てようやく自分の戦い方がわかる。
それはまるでASでの戦闘とはかけ離れていて、生き物としての闘争本能の塊のように直進的だ。

目の前まで火球が迫る。

(盾のイメージ!)

自分の変身した姿を思い浮かべる。
固有の武器は盾。

今までに何度も、こんなコラージュアートの様な火球を防いできたのだ。

力場が目の前に生まれる。
火球はソレに接触すると、速度を失い<ベリアル>に纏わり付くように、だが防水性の材質に水が弾かれた様にそのボディには一寸足りとも触れる事は許されなかった。

(よし、上手く防げた…!)

防ぎ終えると再び使い魔に意識を戻す。
二発目を放とうとしている。
流石のほむらも二回連続は無理があるかもしれない。
先程の押し出しは無意識に近かった。
本人にウィスパードとしての力が移った事など知りはしないから。

「回避機動を…!」

ほむらが素人運転なりの覚悟を決めると。
何か破裂した様な乾いた音が聞こえた。
その次の瞬間に使い魔は蜂の巣と化す。

76mm散弾砲ボクサー。

咄嗟に名称が頭に浮かんだのは、前日までに血眼になって読み続けた資料のお陰なのなろうか。

「ありがとう、助かったわ」

「礼なら後だ、まだ続くぞ!」

先導する様に<レーバテイン>は駆ける。

目の前には更に大量の敵。
しかもご丁寧にサイズはAS級。
サイズ差のアドバンテージは失われているも同然だった。
404 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:07:51.98
これがワルプルギスの本気なのだろうか。

そう思うと今までは手加減されていたのではないかと、悔しく感じた。

(今はそれどころじゃない!)

自分の心に活を入れると睨む様にモニターに視線を移す。

【支援要請容認、指定ポイントへ投下する。
着弾までのカウント5、4、3、2、1】

通信。

声はマデューカスのもので、ダナンからだ。

受信直後に迷う事なく宗介は停止。
その後ろを追う形だったほむらも停止する。

雨が降り注いだ。

実際に雨ではないソレは地面に着くと爆音と爆風と爆炎を撒き散らし、壊れた街をさらに破壊する。

強烈な赤の閃光に包まれて、ほむらは目を閉じてしまう。

「今だ、突破する!」

目を開くと<レーバテイン>は更に先へ。
道を阻む使い魔は霧散している。

「り、了解っ!」

慌ててそれに続いた。
使い魔を出され続けたらジリ貧、勝ち目は薄くなる。

それならば短期決戦に持ち込むしか無い。

使い魔が再生するよりも早く。

二人の一直線上にはワルプルギスの姿。
ワルプルギスは使い魔を出そうとはせずに、地面から離れてしまったビルを二人に目掛けて飛ばす。
飛ばされたビルはワルプルギスのコラージュアートのような炎を纏う。

二人の左右は行き止まり、逃げ場はなかった。
退いても当たるのなら回避は不可能なのだろう。

「避けられないっ、ならば!」
405 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:08:23.29
ほむらは宗介の横まで出ると、二人でビルを受け止める体勢を取った。

<レーバテイン>はかつて、<ベヘモス>の踏み付けを持ち上げた実績を持つ。
真横からのビルを止められると確信する。

【今日はつくづく何かを押し出す事が多いですね】

「黙って集中しろ!」

「言われなくともっ」

「お前じゃない、アルだ!」

【接触!】

接触とは言ったものの、実際には力場に阻まれて接触はしていない。
だがその巨大さを阻むのも時間の問題ではある。

「おおおおおおおおおおっ!!!」

押し戻す、と言うよりは力場で粉砕にかかる。

衝撃。

あまりの反動に目を逸らしたくなるが前を見据える。
ビルは跡形もなくなった。

だが、二人の機体の損傷も激しい。
<レーバテイン>は左腕を、<ベリアル>は右脚を失っていた。

ワルプルギスは目と鼻の先。
守る駒も今はない。

最初で最後のチャンス。

失敗は許されない。

それでも二人の表情には少しも絶望はなかった。

「ラストチャンスだ。行くぞ、暁美、アル!」

少しの間。

「ラムダ・ドライバだ!!」

<レーバテイン>は剥き出しのアスファルトを踏みしめ、<ベリアル>は灰色の空を物理法則など無視して飛んだ。

最後の一撃を見舞う為に。
406 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:09:01.10
避難所


まどかは涙を流す。

何も取り柄が無いと思っていた自分を、こんなに大事に思ってくれる人が居た事に。

その嬉しさに。

気が付けなかった不甲斐なさに。

「そんなにズタボロになりながらも、ほむらちゃんは…」

かなめは、ほむらの全てをまどかに話した。

本人からは同情で契約されても困るから、と口止めされていたが結局のところプラス方面に働いたようだ。

かなめもこの話を聞いた時には涙を流した。
何故自分にだけ話してくれたのか、その理由はわからない。

「まぁ、こんな所かな。ここで同情なんかで契約なんてしないよね?」

そう聞くとまどかは、こくこくと小さく、しかしはっきりと頷いた。

「そう…よし、じゃあ中に戻ろっか!みんな心配してるだろうし」

無理に明るい声を作ってかなめはまどかの手を引く。
今居る場所は人通りのない階段手前の廊下だ。

長く居ればまどかの家族たちにも心配をかけてしまいかねない。

避難所のスペースは、意外にもこんな状況でも和んでいた。

肝が座っているな、と感心するがその理由は他にある事にすぐ気がつく。

耳に飛び込む音色。
弱々しく力強いバイオリンのリズム。

上條だ。

かなめは会ったことは一度だけ。
二週間前の騒動で慌てていた記憶しか無いが。

それに割と有名な人物で名前程度は聞いた事がある。

悲劇の天才少年バイオリニスト

そんな見出しをいつだったか新聞て見かけた。

今はその怪我は治っている。

そこの事も聞いている。
407 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:09:34.80
彼はきっと、さやかの無事を願っているに違いない。

そんな音色に癒されているのか、避難所の雰囲気は平穏その物だ。


女の子は外で、男の子は内側で。
それぞれ人の為に戦っている。

ロマンチックだと感じた。

男女がそれぞれ逆ならもっとロマンがあったかもしれないが、それは彼と彼女の問題だ。

「おや、まどかはまだここに居たのかい?
いいのかい、こんな所で見ているだけで」

不意に届く不吉な声。
インキュベーター。

「何よ、あんたまた来たの?」

不機嫌丸出しの声で問う。

「友達のピンチにこんな所でのんびりしている子だとは思わなかったな」

かなめを無視して、挑発的に言い放つ。
淡々としている分、まどかは余計に不安に駆られる。

「まどか、こいつの言う事なんて聞いちゃ…」

まどかの様子がおかしい。
暑くない筈なのに、急に大量の汗を流している。

ここに来て、さっきの話を聞かせたのは間違いだったと悟る。

「行かなきゃ……ほむらちゃんたちの所に行かなきゃ…!」

走り出す、その手をすぐにかなめは捕まえた。

「だめよ!ここでマドカが行ったら、本当に何の為に戦ってるのかわかんなくなっちゃう!」

「それでもっ!」

手が振り払われる。

転びそうになりながらも、まどかは走り去る。

なんて事だ。
これは明らかに自分の失敗だ。

そう思うよりも先に、かなめもその後を走って追う。

見送るのは不気味に赤く光る双眸だけ。

この追走劇に気が付いたのは、誰もいなかった。
408 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:10:16.42
壊れた街を走る。
あまりに原型をとどめていないからか、まどかは住み慣れた街なのに未視感を覚えた。

ほむらたちを探す。

どれだけ走ったのだろうか。
ひょっとしたら自分の人生の中で一番長い間必死に走っているのではないだろうか。

心臓が悲鳴をあげるが、関係ない。

不意に人型の影が躍り出る。

靄に包まれたその四肢はまどかに一つの単語を思い浮かばせる。

使い魔。

あまりに突然過ぎた。

勿論まどかは戦う術などない。

今になって罠だったんだと理解する。

目の前に迫る。

「何をしてっ!」

そしてもう一度あまりに突然な衝撃。
自分の体が誰かに抱きかかえられてそのまま思い切り転がる。

後ろから追って来ていたかなめだ。
凄まじい行動力。
きっと宗介と共にいたせいなのだろう。

「かなめさん……ご、ごめんなさい…」

「謝るなら後!」

使い魔が再び迫る。

二人は背を向けて走るが、軽快な発砲音がその直後に響いた。

使い魔は崩れ落ちる。

「まったく、君たちは何をしてるんだか」

黒いコートが視界の隅で靡く。

「また、助けられたわね」

「行くんだろう、彼女ところに。案内しよう」

手を差し伸べられた。

てっきり帰れと言われる物だと思っていたから、鳩が豆鉄砲を食らったような表情になる。

「帰れと…と言いたいけれど、そうも言ってられないみたいだし」

まどかはその手を受け取った。
409 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:10:54.54
戦闘区域


残弾ゼロ。
全ての武器情報にその警告だけが表示される。
単分子カッターも激しい戦闘で使い物にならなくなった。

だが宗介もほむらもこのチャンスを逃すつもりはなかった。

「行くぞ、アル!」

【ラージャ】

後頭部の放熱索は先程から出たままだ。
これ以上の長時間駆動は危険だろう。
だからこそ、次の一撃に全てを賭ける。

内心では、らしくないな、と考えるがそれでも止まらない。

疾走。

そして、跳躍。

右腕を大きく構える。

不意に声が聞こえた。

驚いているような、それでいて無感動の様な声が。

「あり得ない…!ワルプルギスが人間の兵器に負けるなんて」

ズタズタになったワルプルギスの全身を見たのだろうか。
このリアクションはつまり、まどかに嘘を吐いていたと意味づける。

「君は…君たちは、一体!?」

ざまあみろ、と思う。
人を利用した罰だ。

「知りたいならば教えてやる!
俺は見滝原中学校2年4組出席番号41番、身長は他よりも高めだが転校先でもゴミ係の…相良宗介だ!」

大きく振りかぶった右腕がワルプルギスの逆さまの顔面を捉える。

力場の放出。

だが、倒れない。

<レーバテイン>は落下するが、宗介は確信する。
410 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:11:39.51
いける。

だがほむらはプレッシャーに押し潰されそうだ。
心臓の鼓動が早くなる。
未だかつて無いほどに。

「ほむらちゃん!」

ああ、とうとう幻聴まで聞こえた。
そんなに焦っているのだろうか。

「ほむらちゃん!」

もう一度、さっきよりもはっきりと。

声の聞こえた方向を確認する。


幻聴などではなかった。
そこに居るのは間違いなく鹿目まどか。

声を張り上げて自分の名前を呼ぶ。
本人までここに来てしまった。
何故居るのかはわからない。
失敗は確実にできない。

だが不安だ。
それでも彼女の声は自分を助けてくれる。

その声で思い出した。
最高のシチュエーションだ。

持っている武器を確認する。
弓を模した兵器。
アイザイアン・ボーン・ボウ。
弓。

そして、彼女の武器は、弓。

鮮明に思い浮かべる。
彼女は…守るべきあの子は、何度もやってのけたはずなんだ。

何度も自分を守る為にソレを放っていた。
一度位は自分で守りたい。

「ほむらちゃん、頑張って!!!」

聞こえる、その安心と自信。


弓を引き絞る。
イメージする。
彼女の姿とリンクした。
鹿目まどかが何度もやったあの一撃の様に、今度は自分が彼女を守る姿をしっかりと目にした。

「ならば、私は!
見滝原中学校2年4組出席番号42番、来学期はまどかと一緒に保健係になる予定の、暁美ほむらよ!!」

放つ。

鋭く大きく、破壊をもたらすだけの、守る為の純粋な力。

直撃する。

光に包まれる。

確信する。
ほむらは、彼女を守れたのだと。

「アハ、アハハ、アハハハハ………」

耳障りな嘲笑の声は、段々とフェードアウトする。

幾度となく繰り返された悲劇の夜を乗り越えたのだ。

「やったわ、まどか…」

誰にも聞こえない様な小さな声。

守りきれた安心感からか、ほむらは気絶するように意識を失った。
411 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:12:42.78
一時間後


「ほむらちゃん、ほむらちゃん!」

体を揺さぶられて目を覚ます。
記憶が少し曖昧だ。

「まと…か…?」

一瞬だけ何で街は崩れているのか、自分が倒れているのか理解できなかったが、すぐに思い出す。

そうだ、ワルプルギスだ。

「あいつは…!?あいつは、奴はどこ!?」

「安心しろ、暁美。あいつならお前が倒した」

横に腰掛け、ヘッドギアを外して自分の手に持った宗介が状況を説明する。

「倒…した…?」

起き上がり、空を見上げる。

意識を失う直前とは全く違う快晴の空。

瓦礫の山となった街とは対照的に、ほむらたちを祝福しているようにさえ思えた。

「よかった…!」

思わず涙が頬を伝った。
412 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:13:20.88
「後始末はまだ残ってるけどねー」

相変わらず感動的な空気に水を差すような事をさやかは言ってのける。

「美樹さん、少し空気を読みましょう?」

マミはニコニコしているが、内心はきっと疲れに疲れているだろう。
それは間違いなく全員同じだ。

「マミも、そんなに無理してんじゃねーぞ」

「キョーコもみんなも、お疲れ様!だね~」

気丈に振舞うマミに対して、杏子は疲れを隠そうともせずに瓦礫に座っている。
ゆまもその隣に座って足をぱたぱたとさせている。

「そうだね、私たちも疲れたよ。
早く帰って織莉子と一緒に寝…」

「キリカ、それ以上はダメよ?」

この二人も相変わらずだ。

そんな二人を見て、最初の頃とはだいぶかわったなぁ…としみじみ感じる。

「じゃあ俺も姐さんと…」

「あんたは生々し過ぎるのよ」

続こうとしたクルツの顔面をマオの裏拳が捉える。

全員と集合するように停止しているそれぞれのASは、どれも目に見えて激しい損傷をしてくたびれていた。

「そんな事の前にしっかりと休暇を取る事だな。
お前たちの戦いはまだまだ続くんだ」

厳しく言い放つクルーゾーも、今ばかりは疲れているのが表情から伺える。

「みんな疲れてるって事ね。
あたしとまどかはここまで走ってきただけなんだけど」

かなめもしっかりとついて来ていた。

「本当にみんな…お疲れ様!
ほむらちゃんも、今までありがとう」

まどかは泣き笑いの様子で全員を労う。
413 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:13:52.12
「今まで…って、なんで今になって?」

ほむらはまどかの台詞に違和感を覚える。

「そ、その~、かなめさんから全部聞いた…から…」

少し申し訳なさそうにして笑う。

ほむらがかなめを見ると、気まずそうに目を逸らされた。

途端になんだか恥ずかしくて、釣られて笑った。

「あ、あの~、すみません、いい雰囲気なのにちょっとだけいいですか…?」

聞き覚えのある声。

「あら、テッサさんも来ていたんですか?」

マミが第一に気が付く。

「はい、この一連の話に決着を着けに」

見れば、その肩にはインキュベーターが乗っている。

「それでテッサ、話ってなんだい?」

明るい様なよく分からない声で、インキュベーターはテッサに聞く。

「前に言った『取引』の事です」

一呼吸つけると、テッサはこう続けた。
414 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:14:31.71
地球上の魔女の消滅と、現存する魔法少女の全ての契約を解除。
契約時の願いはそのままで。
こちらから差し出すのは、ラムダ・ドライバについての資料情報。


文面だけ並べれば、明らかにインキュベーターが損をする様な内容だ。

「やれやれ、君は僕たちを馬鹿にしているのかい?」

当然の切り返しだ。

「そうですか?貴方たちには一生作る事のできない技術ですよ?」

テッサはあくまで譲らない。

「確かに、そうとも言えるね」

「それに貴方がたの目的がエネルギーならば、この技術の応用で賄えるんじゃないでしょうか?」

ラムダ・ドライバは何もない空間に力場を発生させる事ができる。
テッサの言うとおり、上手く応用すれば新たなエネルギー源となるかもしれない。

「まあ、もしここでNOと言えば…そうですね、今ここから魔法少女の殲滅を始めます」

軽い口調で冗談のように言うが目は真剣だ。

全員に緊張が走る。

テッサとインキュベーター、二人が睨み合う。

沈黙。

「やれやれ、僕が降りなければならないようだ」

「理解が早くて助かります」

意外にも、折れたのはインキュベーターだ。

「あのワルプルギスを倒してしまったんだ。
君にはそれを実行するだけの力がある。嘘を言ってる様にも見えなかったよ」

その宣言で緊張から解放された。

「ならば交渉成立ですね。約束は守りますよ」

テッサもようやく表情が落ち着く。

「それじゃあみんな、ソウルジェムを掌に載せてくれ」

全員が言われた通りにソウルジェム取り出す。

インキュベーターが目をつむると、彼女たちの魂は光の粒となって消失した。

「よし、できたよ。魔女ももう居なくなった、君たちは晴れて普通の少女だ」

実にあっさりと終わった。

「それじゃあインキュベーターさんはこっちへ。
こちらからの差し出しを渡しますので」

そう言うとテッサはインキュベーターを肩に乗せて全員に背を向けて去る。

「あの力を、あいつに渡してもよかったの?」

ほむらはこの中で一番詳しそうな宗介に聞く事にする。

「ああ、どうせ上手くは使えんさ」
415 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:15:01.66
妙に自信満々に宗介は答える。

「それもそうね」

ほむらは安心すると、元魔法少女たちを見る。

普通の少女となった彼女たちは喜んでいた。
当然だろう。

「私…もう戦わなくても、いいの…?」

マミは号泣している。
この中で最も長く戦っていた反動だろうか。

「さて、魔法が使えなくなってあたしは悪さなんてできなくなっちまったな…」

反対に杏子は自嘲気味に笑う。

「キョーコが危ないことしないなら、ゆまは嬉しいな」

相変わらずゆまは杏子にぴったりとくっついている。

「あたしたちは、マミさんや杏子と比べてキャリアが短いから実感がわかないかも…」

比較的に短期間だった、さやか、キリカ、織莉子は冷静だ。

「何はともあれ、ハッピーエンドって事でいいのかい?」

特に変わる事のない<ミスリル>の四人とかなめは暖かく見守る。

「そう…ね」

ほむらは少し息苦しさを覚える。
魔法がなくなった事によって、持病を抑えられなくなったからだ。

それでも以前よりかはマシだ。

「ほむらちゃん、大丈夫?」

「ええ、問題ないわ」

その場に座ったまま答える。

今はそんな事よりも、この晴れた空を見上げていたかった。
416 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:15:47.15
それから時間が過ぎて


平穏を取り戻した彼女たちは、各々のあるべき姿として再び日常を謳歌していた。

巴さんは、一人暮らしと辛い環境でも学校生活を楽しんでいる。
三年生って都合から、会える時間は限られているみたいだけど、本人は楽しそうにしていて何よりだわ。

次にさやか。
彼女も少し前と同じ…契約する以前と同じ様にしている。
唯一変化があったのは、仁美と上條くんの三角関係。
魔法少女としていた時は死活問題だったけれど、今は青春の一ページ、と言った所かしら。

全員の中でも意外な選択をとったのが、杏子。
自分の居場所がない、そう宣言して向かった所は<ミスリル>の訓練キャンプ。
勿論、宗介やクルツさん、マオさんにクルーゾーさんからも反対をされたわ。
「若いんだから人生を無駄にするな」って。
それでも彼女は聞かなかったから、とりあえずは訓練キャンプで適性調査をする事になったの。
この年代にしては経験も豊富だったし、魔法少女の活動で戦闘もこなせていたのだから、チャンスはもしかしたらあるかもしれないわね。

次にキリカさん。
元々は引きこもり気味だったけれど、今はあのテンションのまま学校に再び通うようになったみたい。
学年が同じ巴さんとは上手くやっているようね。
性格もあってなのか、後輩の女子に良くモテるみたいで、噂だとファンクラブが存在しているとか。

次に織莉子さん。
彼女だけは学校が違うけれど、彼女もまた通い始めたよう。
今は父の無実を晴らす為に色々奮闘しているらしいわ。
それと広大過ぎる家に、元の貯蓄もあった事、それと何だかんだで人望があったからか身内の方にも養ってもらえているみたいだから、ゆまちゃんと一緒に生活をしている。
これは生活環境から杏子に責任を押し付けられたような面があったから。

ゆまちゃんは前述の通り美国家の一員となって日々生活の最中。
幼いながらも苦労をしそうではあるわ。

SRTのメンバーは、あの後は少しだけ見滝原に滞在した後は全員に別れを告げて去って行った。
杏子は必死になってそれについて去ってしまった。
最後にクルーゾーさんの言っていた、
「押し出す場面にあの台詞とは……分かっているな、暁美」
とは何だったのだろうか。
その事は正直無我夢中であまり記憶になかったりする。
417 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:16:37.82
そして最後に、当の私は。

「ごめーん、ほむらちゃん待たせちゃった?」

「いえ、そんな事はないわ」

少しの息苦しさを時々感じる事もあるけど、心臓病は快方に向かっている。
今日はまどかと出掛ける約束の日だった。

「よかった。今日はどうしようか?」

「まどかに任せるわ」

周囲からはよく、お似合いのカップルだと言われるけれど、どうなのだろうか。
確かに私はまどかの事が好きだけれど、彼女からしたら迷惑なのかもしれない。
決してそんな事を言う子ではないけれど。

「でも、少しだけ休ませてもらってもいいかしら?」

「ほむらちゃん、大丈夫?」

それでも心臓は言う事を聞いてくれない。
今までは魔法でなんとかしていた分、余計に鬱陶しくさえ思える。

「ええ、これがありのままの私なんだから、しっかり受け止めないと」

少しだけ嘘を吐いた。
ありのままではない。
でも昔のようになれるとは思わなかった。
紆余曲折があって、まどかを守る為にやっていた筈なのにこちらが地になってしまったのだから。

「まだ、魔法があるならなぁ…あ、ち、違うよ?別に変な意味じゃないの。ほむらちゃんが辛くないようになればな~、なんて思ってたりして」

今のはきっと、まどかなりに気を遣ってくれた発言だと思う。
それでも私はしっかりと今を見据える。

「ふふっ、ありがとう、まどか。
でも大丈夫よ」

そこで私は一息だけ置いて次の台詞を用意する。
きっとそれは告白のようで、少し恥ずかしくて痛々しいかもしれない。
けれど、私の本心だから。



「貴方さえいれば、魔法なんて私には要らないから」



この先の未来がどうなるかは、誰にもわからない。
それでもきっと素晴らしい明日があると信じて前へ進んで行こうと、私はそう決意した。
418 : ◆Upzc6141AI :2013/03/21(木) 01:18:44.68

以上でこのSSは終わりになります。
見てくださった方々に感謝。

色々ご都合が激しかったり、終わらせようと言った期間に終わらなかったりしましたが、無事に完結できてよかったです。

ありがとうございました!
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/03/21(木) 08:00:59.62
お疲れしたー
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/03/21(木) 10:00:56.52


読んでる最中、フルメタル・マドカっていう単語が頭を離れなかった。
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/03/21(木) 10:48:20.55
ここに会えて良かった
このシリーズSS:

ほむら「ラムダ・ドライバ?」【前編】


ほむら「ラムダ・ドライバ?」【後編】



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