八幡「初詣?」小町「うん!」 【後編】
- カテゴリ:やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
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- 285 : :2016/02/01(月) 21:28:20.81
- 前回スレ:
八幡(しばらくは海老名さんのBL談義に耳を傾ける)
八幡(時々ツッコミを入れながら聞いているが、本当に楽しそうだよなあ…………ここまで夢中になれるものがある、というのは正直羨ましい気もした)
姫菜「…………っはー、語った語った。なんか充足感すごい」
八幡「そりゃそうだろうな。もうサイゼ入って四時間くらい経ってるし」
姫菜「えっ!? うわ、ホントだ! ごめんヒキタニくん! 止めてくれてよかったのに!」
八幡「いや、別につまらなかったわけじゃないから。それにそんな楽しそうな海老名さんを止めるのも野暮だし」
姫菜「ううー……ヒキタニくんて意外と聞き上手なんだもん。それに直接顔を合わせて話せることなんて滅多にないから…………」
八幡「だから気にすんなって。女子がお喋り好きなのはわかってるから。由比ヶ浜や小町もそうだしな」
姫菜「むー……ヒキタニくん、デート中に他の女の子の名前出すのは良くないよ」
八幡「今日何回も出してるじゃねえか、今更だろ。しかも小町は妹だし」
姫菜「女心は複雑なんだよ」
八幡「多分俺には一生理解出来ねえんだろうなあ…………」
- 287 : :2016/02/01(月) 21:39:38.97
- 姫菜「でも、うん。ありがとうね。最近色々あったからさ、おかげですごいすっきりしたよ」
八幡「そこまで打ち込めるものがあるってのはいいことだな。俺は疲れることはしたくないけど、そういうの嫌いじゃない」
姫菜「えへへ、ありがとう。でももしBLの話がダメって言ったらもっとヒキタニくんも喋れたかもしれないのに」
八幡「俺に話の種なんかないぞ。黒歴史くらいしか」
姫菜「いやいや、今日の映画のこととかさ。ほら、パンツもろ見えだったとかおっぱい揺れ過ぎだったとか胸に顔うずめた改変とか」
八幡「女子とそんな話が出来るか! 罰ゲームってレベルじゃねえぞ!」
姫菜「えー、私はそういうのもバッチコイだよ。女の子も好きだし」
八幡「百合で腐女子かよ…………ノーマルな恋愛にしとこうぜ」
姫菜「え? だから私はヒキタニくんが好きだよ?」
八幡「え、あ…………」
姫菜「おっと。告白は月曜だった。今のナシでお願い」
八幡「お、おう…………」 - 289 : :2016/02/01(月) 21:53:40.36
- 姫菜「じゃ、そろそろ出よっか。あんまり長居しても店に迷惑だし」
八幡「おう。もうすぐ夕飯の時間だしな」
姫菜「はいストップヒキタニくん。さすがにここの代金まで奢ってもらうのはダメ。伝票を渡しなさい」
八幡「いや、だから、デートなんだったら…………」
姫菜「その気持ちは嬉しいけど私達はまだ学生だよ。稼ぎが違うとかないんだから。それに映画館でも出してもらったし」
八幡「あー…………じゃあ千円だけ出してくれ。あとは俺の顔を立ててほしいんだけど」
姫菜「うー……じゃあ今回はそれで。ご馳走になります」
八幡「いいってこれくらい。会計してるから表で待っててくれ」
姫菜「うん」
八幡(俺はレジで伝票を出し、代金を支払う。外に出ると海老名さんが隣に並んできた)
姫菜「じゃ、今日はこの辺でお開きにしよっか」
八幡「だな。えっと……送っていこうか?」
姫菜「うん、お願いしまーす」
八幡(海老名さんは嬉しそうに返事をして俺の腕に自分のを絡めてきた。うう……予想はしていたけどやっぱり恥ずかしい)
八幡(ちょっと、いや、かなりドギマギしながら海老名さんを家まで送り届け、俺は帰路についた) - 298 : :2016/02/03(水) 21:31:37.23
- 八幡(考え事をしていようがボーっとしていようが腹は減る)
小町「どしたのお兄ちゃん?」
八幡「ああ、いや、何でもない」
八幡(逆もまた然り。メシの最中にボーっとしてしまったようだ)
父親「どうした八幡? 悩み事なら聞くだけ聞いてやるぞ。何とかするかは知らん」
八幡「あー…………某妹が『お父さんウザい』って言ってて本人にそれを伝えるべきか悩んでてな」
父親「なっ! こ、小町、嘘だよな!? 小町はパパのこと大好きだよな!?」
小町「お兄ちゃんのは嘘だけど…………でもあんまり構ってくるのはウザいって思っちゃうかも……」
父親「こ、小町いいいぃぃぃ!」
母親「うるさい。もう少し静かに食べなさい」
父親「あ、はい」
八幡(相変わらず比企谷家の男性の立場は低いのである。あとパパって言うな気持ち悪い)
小町「でもお兄ちゃん、本当に何かあったの? 今日のデートで失敗したとか?」
父親「デ、デート!?」
母親「八幡! 詳しく聞かせなさい!」
八幡(静かに食べろって言った直後に何なんだよ)
八幡「というか親の前でんなこと聞くなよ」 - 299 : :2016/02/03(水) 21:41:24.57
- 小町「えー、でも元気ないお兄ちゃんが気になって…………」
八幡「あとで話してやるから今は大人しくしてろ」
父親「おい八幡。そんなおもし…………可愛い息子の元気がないのを親として放っておけん。相談に乗ってやるから話してみろ」
八幡「今面白そうとか言いかけたよなクソ親父が」
母親「何を言っているの八幡。子供の悩みは親の悩みよ。さ、一緒に解決しましょう」ワクワク
八幡「一見いいセリフだけど好奇心旺盛な表情が台無しにしてるからな。そもそも親に恋愛関係の相談をすることなんかねえから」
父親・母親「ブーブー」
八幡(もうやだこの息ぴったりの夫婦) - 301 : :2016/02/03(水) 21:51:56.53
- 八幡(メシを食い終わって自室に戻る。少しするとドアがノックされて小町が入ってきた)
小町「やっはろーお兄ちゃん」
八幡「小町、その挨拶はやめろ。馬鹿が移るぞ」
小町「えー、でも結衣さんも総武高校に受かったんだよね。ならあやかってもいいんじゃない?」
八幡「ほんと何であいつ合格出来たんだろうな…………てか馬鹿って言って由比ヶ浜を連想するあたり小町もなかなかやるな」
小町「わ、わ、今のナシ!」ワタワタ
八幡「で、何か用か?」
小町「ん、海老名さんとのデートはどうだったのかなーって。上手くいった?」
八幡「……………………」
小町「ありゃ、何か失敗しちゃった?」
八幡「いや…………むしろ満点に近いんじゃねえかなって」
小町「え? 自分でそれを言う? 逆にダメっぽいんだけど」
八幡「まあ、色々あってな」
小町「つまり、最終的にどうなったの?」
八幡「あー、相談したい内容もあるから言っちゃうけどさ」
小町「うん」
八幡「月曜日に海老名さんに告白されるらしい」
小町「…………は?」 - 302 : :2016/02/03(水) 22:03:42.63
- 八幡「罰ゲーム、ってわけでもなさそうだし、どうしたらいいのかわからなくて」
小町「待って待って。どういうこと? それって今日告白されたわけじゃないの?」
八幡「あー……何か勢いで俺を好きって言ってしまったみたいで、ちゃんと月曜に告白し直すから聞いてくれって言われて…………」
小町「お、おおお…………ホントにお兄ちゃんのことが好きだったとは……」
八幡「そこはまあ小町の予想通りだったわけだな。何で最近構うのかはわかったけど、何で奉仕部にいさせようとしたのかはわからんまんまだが」
小町「聞かなかったの?」
八幡「ちょっとショッキングで聞き忘れた。というかその辺の話はやり直し時に持ち越す雰囲気だったからな」
小町「へえ…………で、お兄ちゃんはどうなの? その、海老名さんのことは好きなの?」
八幡「わかんねえ。正直戸惑いの方が今は大きいからな」
小町「お兄ちゃんにとっては初体験だもんね。もしかして今日明日考える時間をくれるためにワザとフライング告白したんじゃない?」
八幡「え」
八幡(あー…………海老名さんならそれくらいのことはするかもな)
小町「もうこればっかりはお兄ちゃんの気持ち次第だけど、どうするにしても真剣に考えてあげてね」
八幡「わかってる」 - 303 : :2016/02/03(水) 22:10:57.76
- この両親は一色と雪ノ下の化身かよwwww
- 304 : :2016/02/03(水) 22:37:12.00
- 八幡(日曜日。ぼっちである俺には予定などなく、テレビを見る以外にはダラダラしているだけの安息日である)
八幡(つまり考える時間はいっぱいあるってことなのだが…………まともな結論は出なかった。そりゃそうだ、今まで経験したことのない出来事なんて対処しようがないのだから)
八幡(だからといって逃げるわけにもいかないし…………いっそ罰ゲームであってくれた方がどんなに楽だったか)
小町「悩んでるようですな、彷徨える仔羊お兄ちゃんさん」
八幡「ああ…………どうしたらいいのかさっぱりわかんねえわ。突き放すのが正解かもしれねえけど方法が思い付かないし」
小町「え、何で突き放すの?」
八幡「…………俺なんかと付き合ったって良いことないだろ。海老名さんはトップカーストのグループなんだし」
小町「…………んっふっふー」
八幡「? 何だよ?」
小町「本当にそう思ってるなら悩まなくていいよね。突き放すかどうかから悩んでる時点でお兄ちゃんはだいぶ揺れ動いてるよ」
八幡「う…………」
小町「はー、あのお兄ちゃんがこんなになるなんて。年明けの頃とは大違い」
八幡「うっせ」 - 305 : :2016/02/03(水) 22:49:58.02
- 小町「あの頃は大変だったんだからね。お父さんもお母さんもオロオロして心配してたんだから」
八幡「は? 親父達が?」
小町「うん。いつもの不精とかじゃなくて無気力状態のお兄ちゃんにどうすればいいのかわからないって。下手に親がでしゃばるのも良くないって言ってたけど心配はしてたよ」
八幡「そう……なのか……」
小町「だから昨晩は嬉しそうだったよ。なんか色々解決したみたいな上に恋愛事で悩むような余裕も出来たんだなって」
八幡「恋愛事で悩むのって余裕の現れなのか……?」
小町「ちょっと前のお兄ちゃんのに比べればでしょ。そりゃ人に寄っては違うけど、お兄ちゃんの表情見てればね」
八幡「そんなもんなのか…………だからといって息子の恋愛沙汰に興味を持って欲しくはないがな」
小町「家族愛ってことでひとつ。で、お兄ちゃんは海老名さんにどう返事するの? 断るにしても真剣にしないとダメだよ」
八幡「あー……まだ決めかねてる。というか決めなくてもいいやと思ってる」
小町「え?」
八幡「今の自分の気持ちは俺にもわからん。だからもうその場で臨機応変に対応しようかと」
小町「コミュ障のお兄ちゃんにできるの? どっちかっていうと行き当たりばったり、でしょ」
八幡「うっせ」
八幡(ま、何とかなるだろ) - 306 : :2016/02/03(水) 23:18:39.84
- 小町「でもたった数日でこんなふうになるなんて、初詣の神頼みが聞いたのかな?」
八幡「え、何をお願いしたの?」
小町「お兄ちゃんの悩みが解決してお兄ちゃんに春が訪れますようにって。見事に両方叶っちゃいそう!」
八幡「春はまだ訪れてねえよ。てか俺のことより自分の頼み事をしろ受験生」
小町「もちろんそれもしたよ。でもお兄ちゃんのことが気になって勉強に手が付かなかったら意味ないし」
八幡「あー……重ね重ね悪かったな」
小町「ううん、平気。そういえばお兄ちゃんは何をお願いしたの?」
八幡「決まってんだろ。小町の受験が上手くいって小町が幸せになれますようにってな」
小町「え、自分のは?」
八幡「いや別に。というか神様もどこまで手が回るかわからんしな、なら一点集中狙いで小町の受験にした」
小町「えー、もったいない。良いことをしたんだから色々叶えてくれたかもしれないのに」
八幡「良いこと?」
小町「ほら、神社で綺麗な着物姿の人を助けたじゃない」
八幡「ああ、そんなこともあったな。あまり顔を見てないから綺麗かどうかは知らんが」
小町「ええー、もったいない。凄い美人だったよ。高校生か大学生くらいかな?」
八幡「どうせその場限りの出会いなんだから関係ねえよ…………そろそろ寝るか。小町も勉強はほどほどにな」
小町「はーい」 - 309 : :2016/02/04(木) 20:31:59.49
- 八幡(七つのうち最も嫌われているであろう月曜日がやってきた。眠い目を擦りながら俺は教室に入る)
八幡(相変わらず葉山グループを中心に賑やかなクラスだったが、その隙間を縫うように自分の席に向かう。その時こちらに気付いた海老名さんが軽く手を振ってきた)
八幡「………………」
八幡(ちょっと気恥ずかしくなったが、振り返すとニコッと海老名さんは嬉しそうな表情をする。思わずドキッとし、慌てて目を逸らしてしまう)
八幡(仕方ないでしょ! ぼっちにはハードル高過ぎだってば!)
彩加「あ、八幡。おはよう」
八幡「おお、戸塚。おはよう」
八幡(トテトテと寄ってきた戸塚に俺は挨拶を返す。ああ、癒やされるな…………)
姫菜「………………」 - 310 : :2016/02/04(木) 20:56:24.92
- 八幡(さて、昼休みだ)
八幡(確認はしてないけど海老名さんは三浦を止めてくれるって言っていた。なら逃げる必要もない。久々に教室でぼっちメシを楽しもう)
姫菜「はろはろ~、今日もよろしくー」
八幡「…………何で?」
八幡(俺の席に海老名さんがやってきた。もちろん弁当持参でだ)
姫菜「え、やっぱり優美子いたほうがいい?」
八幡「違えよ。何で海老名さんがこっちに来てんだって」
姫菜「え? 優美子がヒキタニくんとお昼一緒しようとするのを止める、とは言ったけど私のことは何も言ってないよ」
八幡「そりゃそうだけど…………」
姫菜「それに優美子を止める理由的に私がヒキタニくんのとこ来なきゃいけなかったし」
八幡「はい? てかどんな理由であの三浦を止めたんだ?」
姫菜「私がヒキタニくんと二人でご飯食べたいからってお願いしたの」
八幡「なっ…………」
姫菜「だから私がここを離れると優美子がやってきちゃうかも。どうする?」
八幡「…………わかった。海老名さんと二人でいい」
姫菜「あ、今のもうちょっとロマンチックに言って。『姫菜と二人きりがいい』とか」
八幡「言わねえから。あと名前呼びもしない」
姫菜「ちぇー」 - 311 : :2016/02/04(木) 21:14:14.83
- 八幡(幸いなことに海老名さんはあまり話し掛けてこない。だけど俺の顔をじっと見てきたりするのでどうにも落ち着かなかった)
八幡(悪目立ちや蔑みの視線でなく、はにかみながら見られているというのは気恥ずかしさも相まってメシの味がほとんどわからない)
八幡「ご、ごちそうさま。んじゃ、俺ちょっと用事あっからこれで」
姫菜「え、ヒキタニくんに用事なんかあるの?」
八幡(確かに普段の俺なら用事なんかあるわけがない。しかし今日に限っては正当な用事を作ることができた)
八幡「ああ、奉仕部に先週持ち込まれた依頼でな。ちょっと材木座に会いに」
姫菜「あ、自作ラノベの添削ってやつ?」
八幡「週明けまでに済ますって言ったからな。面倒なことはさっさと終わらせる」
姫菜「うん、わかった。行ってらっしゃーい」
八幡(フリフリと手を振る海老名さんに適当に応えながら俺は材木座から預かった原稿を持って教室を出る)
八幡(その際、葉山グループの方から視線を感じたが、それは一切合切無視した) - 312 : :2016/02/04(木) 21:31:18.39
- 八幡(材木座を呼び出し、珍しく丁寧にダメ出しという名の指摘をしてやる)
八幡(というかただの時間稼ぎだ。さっさと教室に戻ったらまた絡まれる可能性もある。昼休みいっぱいを俺は材木座と過ごしてしまった)
義輝「…………うむむ、今回も手厳しいが為になった。また次回もよろしく頼む」
八幡「とりあえず流行りものをすぐに取り入れるのはやめておけ。どっかで見たな、くらいにしか思わんから」
義輝「わ、わかった。善処しよう」
八幡(予鈴が鳴ったので俺は材木座と別れ、教室に戻る。次の授業は数学だったか…………面倒くせえ……)
八幡(そんなふうに何事もなく午後を過ごし、放課後になった)
八幡(そういや海老名さんはいつあの話を切り出してくるつもりなんだ? また帰り際に駐輪場で待ってる気か? いや、悪戯や気の迷いだったって可能性もあるが。むしろそうであってくれ)
八幡(クラス内を見回すと葉山や三浦はいたが、海老名さんはいなかった。まあ有耶無耶になったってこっちは一向に構わないんだがな)
八幡(あ、そうだ。平塚先生に奉仕部に残るのを報告しとかないと。そう思って職員室に向かっていると、俺を呼び止める声があった)
翔「ヒキタニくん、ちょっと話があんだけどさ」 - 317 : :2016/02/04(木) 21:57:23.32
- いよいよ実力行使か
黙って見てるわけはないと思っていたが… - 319 : :2016/02/05(金) 01:42:26.98
- まあ何かしら動くよな戸部
でも海老名さんへの告白が嘘とは知らないはずなので普通に負けたと思ってそう
「海老名さんを頼む」って言われたら八幡どーすんだろね - 321 : :2016/02/05(金) 23:08:46.09
- 八幡(とりあえず黙って前を歩く戸部のあとをついて行ってるわけだが…………)
八幡(やっぱり話って海老名さんのことだよな……なんだろう、問い詰められたり詰られたりすんのかなあ。せめて痛い目を見るのは勘弁してほしいなあ)
八幡(やがて自販機のとこにたどり着き、戸部は財布を取り出した)
翔「ヒキタニくん、マックスコーヒーが好きなんだっけか?」
八幡「え? あ、ああ」
翔「よっと。ほい」
八幡(戸部はマッ缶を購入し、放ってくる。俺は慌ててそれを受け取った)
八幡「な、なんだ、くれるのか?」
翔「話に付き合わしちゃってるワビってことでさ、もらっといてくれよ」
八幡「まあ、いいけど…………」
翔「とりあえず座らね?」
八幡「…………ああ」
八幡(俺達はベンチに腰掛ける。この前葉山と話したのと同じベンチだ。なに、ここリア充御用達なの?)
翔「で、俺の話ってもう予想してるっしょ?」
八幡「海老名さんのこと、だよな?」
翔「そーそー」
八幡「………………」
翔「………………」
八幡(それに頷いたものの、戸部はそれきり黙ってしまった。いや、何かを言おうとはしているのだが、どう言い出したものか逡巡している感じだ) - 322 : :2016/02/05(金) 23:29:37.96
- 翔「あー、実はさ、俺って意外とモテるんだよね」
八幡(? 突然変なことを喋り出す戸部。何か話のきっかけでも作ろうとしてんのか?)
八幡「そうか。でも意外でもないだろ別に」
翔「お、そう思う?」
八幡「背も高いし顔も悪くないしサッカー部で活躍してんのなら人気あってもおかしくないだろ。ちょっと軽薄そうだけどそれが親しみやすいって長所にもなり得るし」
翔「ちょっとヒキタニくん、誉め過ぎっしょー。お世辞でも悪い気はしないけどさー」
八幡(戸部は照れ臭そうに頭を掻く。しかし俺はお世辞のつもりはない。戸部だってトップカーストの一員なんだし)
翔「まあ隼人くんの陰に隠れちゃってるけどさ、告白だって何度かされたことあんだよね。同級生にも後輩にも」
八幡「羨ましいことで」
八幡(俺だって中学時代されたことあるぞ。罰ゲームで)
翔「でも俺はそれを断ってきた。他に好きな人がいるからって」
八幡「…………」
八幡(戸部の表情からいつもの軽薄さが消え、真剣なものに変わる。本題に入ったようだ)
翔「そんな俺が断ってきた女の子に比べてさ、俺ってホントダメなやつだなーって」
八幡「は? 何でだよ?」 - 323 : :2016/02/05(金) 23:47:50.49
- 翔「みんな自分で考えて、悩んで、勇気を出して告白してきたのにさ。俺は他人に頼っちゃった。海老名さんと上手くいくようにしてほしいなんて」
八幡「おかしくはないだろそんなの。むしろ本当に好きだからどんな手段を使っても成功させたいってのは当然なんじゃないか?」
翔「そんなふうに言ってくれるヒキタニくんってマジ良い奴っしょ…………」
八幡「んなことねえよ。その告白を俺がぶち壊したのわかってんだろ」
翔「あー、あれはマジごめんな」
八幡「え、何でお前が謝るんだよ? 俺がしゃしゃり出て」
翔「海老名さんに聞いた」
八幡「!」
翔「昨日海老名さんに呼び出されてさ、そん時に色々…………修学旅行の時の裏話?ってのも」
八幡「…………」
翔「そんで、そのせいでヒキタニくんが結衣達とギクシャクしちゃったのも」
八幡「それは違う。戸部や海老名さん達のせいじゃない」
翔「ヒキタニくんならそう言うって予想はしてた。でも絶対原因の一つではあるっしょ。最初から俺が海老名さんに気持ちを伝えるだけで済むのにややこしくしちゃって…………しかもヒキタニくんは乗り気じゃなかったのに全部悪いとこ背負わせちゃったし」 - 324 : :2016/02/06(土) 00:01:41.15
- 八幡「別に気にしてねえしそんなふうに思ってもねえから」
翔「嘘でもそう言ってくれるなら助かるけどさ…………で、結局ヒキタニくんが海老名さんにした告白は完全に嘘なん? 海老名さんに好意を持ってたりとか」
八幡「少なくともあの告白はガチ百%嘘だ」
翔「ふーん。でも今海老名さんはヒキタニくんが好きなんっしょ?」
八幡「え…………」
翔「それも昨日聞いた。呼び出されてウキウキしてたらまさかの言葉だったわー」
八幡「…………」
翔「まあフったことのある俺がフられるのを受け入れないわけにはいかないっしょ。だから昨日ちゃんと告白して、ちゃんとフられてきた」
八幡「!!」
翔「ヒキタニくんは俺の気持ち知ってるし、優しいから遠慮とかするんじゃないかって不安になってさー」
八幡(戸部はそこで俺の方に向き直り、まっすぐに見てくる)
翔「受け入れるにしてもフるにしても、海老名さんの気持ちにしっかり答えてやってほしいんだわ。何かを言い訳にしたりせず、ちゃんとヒキタニくん自身の気持ちでさ」 - 325 : :2016/02/06(土) 00:04:02.89
- やだ……
とべっちイケメン…… - 327 : :2016/02/06(土) 00:12:15.85
- 漢だな戸部っち
- 329 : :2016/02/06(土) 00:22:35.28
- 八幡「俺自身の気持ちで、か…………」
翔「まー、言っちゃなんだけどヒキタニくん恋愛経験少なそうだからすぐには無理かもしれないけどさー」
八幡「本当に言っちゃなんだなオイ。フられた回数なら豊富だぞ」
翔「おお、結衣が言ってたヒキタニくん得意の自虐ネタ」
八幡「なんであいつは俺を話題にしてんだ…………」
翔「あっはっは、ヒキタニくんてやっぱり面白いわー。でも結衣は海老名さんの気持ちまだ知らないんだよな。多分俺と優美子だけかな?」
八幡「そうなのか?」
翔「結衣が知ってたらもっと騒ぎ立てるっしょ。優美子は意味ありげな目線だったから…………ん、メール?」
八幡(戸部はポケットから携帯を取り出して操作する)
翔「やべ、いろはすからだ。紅白戦始まるのに俺の姿が見えないって顧問が怒ってるらしい。悪いけどヒキタニくん、俺は部活に行くから」
八幡「おう、頑張ってこい」
翔「また話とかメシとか一緒しよーぜ。じゃー」
八幡(戸部は俺の肩を叩いたあとダッシュで去っていった。さすがサッカー部レギュラー。足の速いことで)
八幡(しかし、うん。戸部ってウザいけどいいやつだよな……)
八幡「…………」
八幡(自分の気持ち、か…………) - 330 : :2016/02/06(土) 01:38:31.03
- もし戸部が葉山グループじゃなかったら、八幡と友達になれた未来もあったのかもな、ええヤツや
- 333 : :2016/02/06(土) 02:14:11.25
- 戸部イケメンすぎ
- 342 : :2016/02/06(土) 22:00:59.02
- 八幡(何だかなあ…………あいつらに比べて俺は…………)
八幡(頭を悩ませながら部室に向かう。ドアの前に立つと中から話し声が聞こえた)
八幡(何やら盛り上がっているようで、邪魔をしないようにそっとドアを開ける)
結衣「全然印象違うんだね、びっくりしたし!」
雪乃「この時はコンタクトをしていたのかしら?」
姫菜「うん。あんまり好きじゃないんだけどこういう時くらいはって…………あ、ヒキタニくん、はろはろ~」
八幡(部室には海老名さんが来ていた。ちょっと戸惑いながらも短く返事をしておく)
結衣「ヒッキー見て見て! 姫菜がすっごいキレイなの!」
八幡「あん?」
雪乃「海老名さんの着物姿よ。あなたの目もこれを見て浄化するといいわ」
八幡「俺の目は呪いか何かかよ…………どれどれ」
八幡(由比ヶ浜が差し出してきたのは一人の女性を被写体にした写真だった)
八幡「…………へえ」
八幡(思わず感嘆の声が漏れた。普段とは全然違う、もっと大人っぽくて艶めかしい女性の姿があった。言われたうえでよく見なければ海老名さんの面影を見付けられないだろう) - 343 : :2016/02/06(土) 22:49:18.06
- 姫菜「ど、どうかな?」
八幡「えっと、月並みな意見で申し訳ないけど、綺麗だと、思うぞ」
姫菜「ホント? えへへ、ヒキタニくんにもそう言ってもらえて嬉しいな」
雪乃「あなたにも人並みの審美眼があったのね。どう? 目の濁りは取れたかしら?」
八幡「俺の目は筋金入りだぞ。一朝一夕で取れるもんじゃない」
八幡(くすくすと笑いながら言う雪ノ下に返しながら俺はいつもの席に座る………………あれ? 今の着物姿、どっかで見たことあるような……)
八幡(気のせいか…………もう一回見せてくれとか言ったら何か言われそうだし……)
姫菜「それでね、せっかくだからこの格好で近所の神社に初詣行こうとしたんだけど、家族が昼から出来上がっちゃっててさー。仕方なく一人で行ったんだ」
結衣「大丈夫だったの? ナンパとかされたんじゃない?」
雪乃「あるいはたちの悪い酔っ払いに絡まれたりとか」
姫菜「雪ノ下さん御名答。うん、実は神社で酔ったおじさんに絡まれちゃってね」
八幡(…………あれ?)
姫菜「その時慣れない草履だったから速く走ると転びそうだったし、出店の裏で人も通りかからないしでさ」
八幡(…………) - 344 : :2016/02/06(土) 23:07:40.84
- なるほど>>4につながるわけね
- 346 : :2016/02/06(土) 23:55:24.22
- 姫菜「ベンチに座ってたんだけど、何か怖くて大声も出せなくて……」
結衣「だ、大丈夫だったの?」
姫菜「んー、正直もうダメかなと思っちゃった。身体とか触られちゃうのかなあって」
雪乃「その言い方だと大丈夫だったみたいね。どなたかが助けてくれたのかしら?」
姫菜「うん、たまたま通りかかった男の人がいてさ、私が困ってる様子を見て近寄ってきたの。それでいきなり両腕を振り上げてね」
結衣「ま、まさか暴力とか……?」
姫菜「ううん。手を叩いて大きな音を出したの。お相撲さんの猫騙しみたいなやつ」
雪乃「いきなりそんなことをしたらさぞかし驚くでしょうね」
姫菜「うん。酔っ払いのおじさんはびっくりしてベンチからずり落ちちゃってね、その隙に私の手を取ってその場から連れ出してくれたの」
結衣「うわ、かっこいい!」
雪乃「ずいぶんスマートなやり方ね。なかなか出来ることではないわ」
八幡「…………」ダラダラ
姫菜「えへへー。ねえ、ヒキタニくん」
八幡「お、おう」
姫菜「あの時はありがとう。お礼を言うのが遅くなってごめんなさい」 - 353 : :2016/02/07(日) 23:55:16.20
- 雪乃「え?」
結衣「えっ?」
八幡「…………あれ、海老名さんだったのか」
姫菜「うん。新学期になってからも反応薄いし、もしかして気付いてなかったのかなーって思ったけど」
八幡「ああ。全然気付かなかった」
八幡(だけど今思い返してみると、その時のことを探るような言動が結構あったな)
姫菜「ふふ、ヒキタニくん格好良かったよ。手を引っ張られた時はドキドキしちゃった」
八幡「あ、いや…………」
姫菜「もともとヒキタニくんは悪くない人だと思ってたんだけどさ、あれがきっかけだったよ」
八幡「…………」
姫菜「そこから段々気になってきてさ。教室でもつい目で追っちゃったり、誰かと会話してるのを耳傾けたり」
八幡「え、海老名さん…………」
姫菜「気が付いたら、ヒキタニくんの存在がすっごく大きくなってた」
八幡(な、なんだこの流れ……まさか、こんなところで…………)
姫菜「約束通り言わせてもらうね。ヒキタニくん…………ううん、比企谷八幡くん」
八幡(止めようとした。だけど海老名さんの真剣な眼差しに身体が動かない。海老名さんはついに決定的な言葉を放つ)
姫菜「私は、あなたが好きです」 - 365 : :2016/02/11(木) 22:18:43.11
- 八幡(部室内に静寂が訪れる。俺は言葉が出てこなかったし、雪ノ下と由比ヶ浜は目を丸くしていた)
八幡(そもそも何でここで言うんだ? てっきり前みたいに駐輪場で待ち伏せしてるか、どっかに呼び出しされるのかと思っていたのに)
姫菜「あー……この場所で告白したのはヒキタニくんにとって迷惑かなと思うけど、ごめんね」
八幡「あ、いや…………」
八幡(俺の心を読んだかのように海老名さんが話す。そういや呼び方が戻ったな。てか俺の名前ちゃんと知ってたんだ)
八幡「えっと…………じゃあ、ちょっと質問していいか?」
姫菜「はいはい、どーぞー。聞きたいことあるの?」
八幡「色々あるけど、とりあえずずっと気になってたやつを聞くわ。何で海老名さんは俺を奉仕部に残らせようとしてたんだ?」 - 366 : :2016/02/11(木) 22:29:57.17
- 姫菜「んー、申し訳ないと思ったから、かな」
八幡「いや、だから海老名さんが原因てわけじゃないんだからそんな……」
姫菜「あ、そうじゃなくて」
八幡「え?」
姫菜「ヒキタニくんさ、奉仕部好きでしょ?」
八幡「う…………」
八幡(答えにくいことをストレートに聞いてくるなぁ。しかしごまかす状況ではないか。なるべく雪ノ下達から顔をそむけながら答える)
八幡「まあ、そうだな」
姫菜「そんな奉仕部内が微妙になってて辞めるだの辞めないだのの時ってさ、結構心弱ってたんじゃない?」
八幡「……かもな」
姫菜「そんな時に告白するのなんて、何か違うかなーって」
八幡「弱ってるとこにつけ込むみたい、ってことか?」
姫菜「そんなとこかな。それじゃあフェアじゃないでしょ」
八幡「フェアって…………別に誰かと勝負してるわけでもないだろ」
姫菜「してるといえばしてるかも」
八幡「え?」
八幡(俺は意味がわからず聞き直したが、海老名さんは俺から雪ノ下達の方に向く) - 367 : :2016/02/11(木) 22:39:49.12
- 姫菜「結衣、雪ノ下さん、私はヒキタニくんが好きだよ」
結衣「…………」
雪乃「…………」
姫菜「ごめんね不意打ちみたいなことしちゃって。でも、本気だから」
結衣「姫菜…………」
雪乃「海老名さん…………」
姫菜「二人は、どうするの?」
結衣「…………」
雪乃「…………」
八幡(どうするのって…………おいおい海老名さん、まるで二人が俺のことを好きみたいじゃないか)
雪乃「…………そうね。いつまでもこのままではいられないと思ってはいたわ」
結衣「ゆ、ゆきのん……」
雪乃「由比ヶ浜さん。私達には避けられない、いつか通らなければいけない道なのよ。それが今来たというだけ」
結衣「う…………」
雪乃「ならば、もう決着を付けにいきましょう。大丈夫よ、私達なら」
結衣「…………うん!」
八幡(なんだなんだ、いったい何の話だ?)
雪乃「比企谷くん」
八幡「お、おう」
八幡(いきなり話し掛けられて戸惑う。なんだよ、由比ヶ浜と海老名さんと話してる最中っぽいのに) - 378 : :2016/02/14(日) 19:48:39.39
- 雪乃「私はあなたが好きよ」
八幡「………………は?」
雪乃「だからあなたが傷付くのは嫌だったし、演技とはいえ海老名さんに告白した件は必要以上に責めてしまったわ。ごめんなさい」
八幡「え? え?」
八幡(雪ノ下が、俺を?)
雪乃「さ、次は由比ヶ浜さんの番よ」
結衣「う、うん」
八幡(ちょ、ちょっと待ってくれ。今混乱してて…………)
結衣「ヒッキー。あたしヒッキーのことが好き」
八幡「…………っ!」
結衣「何だかんだ言っても人に優しいヒッキーは好き。でも、自分に優しくないヒッキーは嫌。胸が苦しくなるの」
八幡(ゆ、由比ヶ浜まで…………)
姫菜「あはは、ヒキタニくんモテモテだねー」
八幡「…………いや、笑い事じゃないだろ」
姫菜「そうだね。でも今まで思いも寄らなかったって表情だったから、つい」
八幡「そりゃそうだろ…………えっと、罰ゲームとかじゃ、ないんだよな?」
結衣「違うし!」
雪乃「私達は本気よ」
八幡「そ、そうか…………」
八幡(マジか…………) - 379 : :2016/02/14(日) 20:08:46.34
- 姫菜「でもさ、こう言っちゃ何だけど、結衣も雪ノ下さんもヒキタニくんにとっては気持ち伝わりづらいと思うよ」
結衣「う…………」
雪乃「そう……かしら?」
姫菜「端から見てるとわかりやすいけどね。特に結衣はバレバレだし」
結衣「うえぇ!?」
姫菜「以前からヒキタニくんの方をチラチラ見てたし、何かあるとすぐ話題に出すし」
結衣「ストップストップ! これ以上だめぇ!」
八幡「////」
姫菜「雪ノ下さんも結構意識してるみたいだったしね。ヒキタニくんと話してる時は嬉々としてたし」
雪乃「なっ……!?」
姫菜「ま、ヒキタニくんはわかってなかったみたいだけど。それともわざとわからない振りしてたのかな?」
八幡「…………わかんねえよ。わかるわけ、ない」
八幡(海老名さんの言葉に軽く返そうと思ったが、思いのほか真剣味を帯びてしまったようだ。三人の表情が少し引き締まる) - 380 : :2016/02/14(日) 20:35:56.81
- 八幡「ああ、いや、すまん。そっちがわじゃなくてこっちがわの問題な。俺が、誰かに好かれることなんて無えと思ってたからさ」
姫菜「だよねー。はっきり言っても疑うんだから態度で察しろってのも無理だよね」
雪乃・結衣「「う…………」」
姫菜「まあだから私から言わせてもらったんだけど。でも映画デートとかしたんだから少しは意識して欲しかったなー、なんて」
八幡「いや、海老名さんは誰ともそういう関係になるつもりはないって言ってたからさ」
姫菜「そのつもりだったんだけどね。惚れちゃったものは仕方ないよ」
結衣「ちょっと待ってヒッキー!」
雪乃「え、映画デートとはどういうことかしら?」
八幡「ああ、海老名さんと共通の見たい映画があったから一緒に見ただけだ」
姫菜「うんうん。それだけだよ。手を繋いだりそのあとファミレスで楽しくお喋りしたりしたけど全然大したことじゃないし」
雪乃「なっ……!」
結衣「ヒ、ヒッキー!! どういうこと!?」
八幡「いや、なんで俺に問い詰めるの?」 - 385 : :2016/02/14(日) 21:44:59.27
- 姫菜「まあまあ二人とも。全部私の方からしたことだからさ」
八幡「自分で煽っておきながら…………」
姫菜「だってさ、私は二人に比べてだいぶ出遅れちゃってるし。言葉にはしなくても二人から何らかのアプローチはされてるんでしょ?」
八幡「…………」
雪乃「…………」
結衣「…………」
姫菜「あ、あれ?」
八幡「あんまり覚えがねえな…………というか雪ノ下に至ってはいまだに電話番号やメルアドを知らんし」
姫菜「ええー…………私だってもう交換したしメールも定期的にしてるよ?」
雪乃「し、仕方ないじゃない。一度タイミングを逃したらなかなか言い出せなくて…………」
姫菜「ほら、ヒキタニくん。せっかくだから今交換しといてあげなよ」
八幡「え、ああ。えっと、雪ノ下、交換しとくか?」
雪乃「え、ええ。お願いするわ」
八幡(この中では最も早く知り合った雪ノ下とようやく俺は連絡先を交換しあった)
姫菜「うーん、しかし結衣がそこまで純情だったとはねー。もうちょっと積極的にいってるかと思ったのに」
八幡「別に責めるわけじゃないけどさ、どっちかっていうと俺は嫌われてるんじゃないかって反応ばっかだった気がするぞ」
結衣「うう…………」 - 387 : :2016/02/14(日) 22:12:19.33
- 雪乃「あの、海老名さん?」
姫菜「ん、なに?」
雪乃「あなたのスタンスがよくわからないのだけれど…………あなたは比企谷くんのことが好きなのよね?」
姫菜「うん、そうだよ。あわよくば恋人同士とかになれたらなって思ってる」
雪乃「それなのに時折私達に助け舟を出すような行為をしているのは何故なの? そもそも私達の前でなく、関係ないところで動いた方が得策ではないかしら?」
姫菜「うーん、さっきも言ったようにフェアじゃないからかな」
雪乃「でも恋愛沙汰は綺麗事だけではやっていけないわよ。いえ、私も経験豊富というわけではないのだけれども」
姫菜「そうなんだけどね…………ね、ヒキタニくん」
八幡「な、何だ?」
姫菜「ヒキタニくんはさ、奉仕部に入って自分が変わったと思う?」
八幡「え…………まあ、変化はあったと思ってるよ」
姫菜「うん、だよね。もっと言えば結衣や雪ノ下さんと関わるようになって、だよね」
八幡「………………」
姫菜「私が好きになったのはそのヒキタニくん。結衣や雪ノ下さんのおかげで変わったヒキタニくんなんだ。なら、二人のいないとこでこそこそするのはさすがに不誠実かなって」 - 390 : :2016/02/14(日) 22:31:08.70
- 結衣「不誠実だなんて、そんな…………」
姫菜「やー、思った以上にヒキタニくんに惚れててさ、それに優美子達を見てて考えさせられたんだよね。ちゃんと真っ直ぐに向き合おうって」
雪乃「三浦さん?」
姫菜「うん。だから、とべっちのこともちゃんとしてきた」
結衣「えっ?」
八幡「…………昨日のことか」
姫菜「あ、とべっちに聞いた?」
八幡「ついさっきな…………こう言うのも何だが、あいつすげえ良い男だぞ」
姫菜「うん、知ってる。でも私が好きになったのはヒキタニくんだしねー。そもそもとべっちじゃ私の趣味を受け入れてくれそうにないし」
八幡「おい待て。まるで俺が海老名さんの趣味を受け入れているように聞こえるぞ」
姫菜「え、ファミレスでメメラギの話の前に言ってたじゃない。『姫菜、俺ならお前の趣味も何もかも受け入れてやれるキリッ』て」
結衣「え、ヒ、ヒッキー!?」
八幡「言ってねえから。否定はしないってだけだろうが。あとキメ顔もしてない」
雪乃「コホン…………つまり海老名さんは戸部くんを…………?」
姫菜「うん。ちゃんとお話して、断ってきた」 - 395 : :2016/02/16(火) 21:55:07.06
- 結衣「そ、そうなんだ…………」
姫菜「うん。だからヒキタニくん、この前みたいにとべっちを理由にしないでね」
八幡「…………しねえよ。戸部にも言われたしな」
結衣「え、な、何を?」
八幡「それは言えねえよ。戸部のためにもな」
姫菜「うーん、いいねぇ男の友情は。また色々捗りそう…………」
八幡「いや、他人事みたいに言ってるけど思いっきり海老名さんは当事者だからね? むしろ俺と戸部の間に入ってるからね?」
姫菜「わかってるよー。でもあんまり空気重くするのも何だかなって」
八幡「はあ…………」
雪乃「それで比企谷くん。どうするの?」
八幡「あん? 何が?」
雪乃「あなたは今、三人の女子に告白されたのよ。それの返事に決まってるじゃない」
八幡「……………………」 - 396 : :2016/02/16(火) 22:08:52.87
- 八幡(………………返事、か)
八幡(今、ここで俺が言うべきことは決まってる)
八幡「悪い、ちょっと…………」
雪乃「『ちょっと1日考えさせてほしい』なんてヘタレたことを言ったら校内の自動販売機のマックスコーヒーを買い占めて常に売り切れにするわよ」
八幡「…………」
雪乃「…………」
結衣「…………」
姫菜「…………」
八幡「…………ちょっと今週いっぱい考えさせてほしい」
雪乃「はぁ?」
結衣「もっとヘタレじゃん! 長すぎるよ!」
姫菜「あはっ! あははははは!」
八幡(雪ノ下は呆れ、由比ヶ浜は突っ込みを入れ、海老名さんは大ウケして机をバンバン叩く)
八幡「し、仕方ないだろ。告白して玉砕することはあってもされたことなんか罰ゲーム以外ではねえし! それも複数同時になんて!」
雪乃「そんなに難しく考える必要ないじゃない。自分の気持ちに素直になって『俺もずっとお前が好きだったよ雪乃』って言えばいいのよ」
結衣「ちょっとゆきのん! なんでゆきのんが選ばれてることになってんだし!?」
姫菜「あはは。というか今まで全然素直じゃなかった雪ノ下さんが言えるセリフじゃないよ」
雪乃「む…………」 - 399 : :2016/02/16(火) 22:21:41.84
- 八幡「いや、まあ何ていうか……お前らの気持ちは嬉しいよ。本気で好きになってもらったことなんかねえからさ」
雪乃「比企谷くん…………」
八幡「…………本気、だよな?」
結衣「だからそう言ってるじゃん! 罰ゲームとかじゃないからそんな恐る恐る聞かないでいい加減信用してよ!」
八幡「だ、だって」
姫菜「ヒキタニくん、信じてくれないならここで三人で『ヒキタニくんの良いところや好きになったところ』の暴露大会を始めちゃうよー」
八幡「それは勘弁してくれ…………わかったよ、信じる」
結衣「むー…………何か姫菜ってヒッキーの操作方法が上手い…………」
姫菜「ふふーん、ごめんね結衣。正妻の貫禄を見せ付けちゃったみたいで」
結衣「何でだし! あたしの方がヒッキーとの付き合い長いもん! ね、ヒッキー?」
八幡(やめて! 私のために争わないでみんな!)
八幡「というか一旦落ち着いてくれよ」
結衣「むー……」
八幡「まあ、なんだ。正直そんなポンと返事を出せるもんじゃないだろこれ。お前らだからこそ、真面目に、真剣に考えて答えを出してみたいんだ」 - 400 : :2016/02/16(火) 22:37:16.76
- 雪乃「仕方ないわね。それならじっくり考えなさい」
八幡「ああ。すまん」
雪乃「それと今回のことでわかったと思うけれど、あなたは自分で思うよりずっと上等な人間なのよ。昔ならいざ知らず、少なくとも今のあなたは」
八幡「え?」
雪乃「あなたを好きな人がいる。あなたが傷付くと嫌な人がいる。あなたに何かあると心配する人がいる」
八幡「………………」
雪乃「これからは、その事を心に留めてくれると嬉しいわ」
八幡「……ああ、わかった」
雪乃「…………では今日の部活は終わりにしましょう。もう帰っていいわよ比企谷くん」
八幡「え? でもまだ時間は…………」
姫菜「こらこらヒキタニくん、雪ノ下さんの赤い顔見ればわかるでしょ。もう一緒にいるだけでもいっぱいいっぱいなんだって」
八幡「な…………」
雪乃「よ、余計なこと言わないでちょうだい海老名さん」
姫菜「でも否定はしないんだねー。ま、そんなわけだからここは女だけにしといてよ、ほらほら」
八幡「お、おう。じゃあ、また明日な」
八幡(俺は海老名さんに背中を押され、部室をあとにした。三人が少し心配でもあったが、俺が何かできるわけもない。とりあえず帰るか…………) - 422 : :2016/03/04(金) 22:11:52.39
- 八幡「ただいまー」
小町「お帰りお兄ちゃん、今日は早いね。あ、もしかして告白関係で?」
八幡「あー……まあそんなとこだ」
小町「で、どうだったの? 海老名さんに告白されて付き合うことにしたの?」ワクワク
八幡「いや、保留中」
小町「えっ?」
八幡「ちょっと色々あってな、今週いっぱい時間もらって考えさせてもらうことにしたんだ」
小町「ええー…………こう言っちゃなんだけどお兄ちゃんが告白されるなんてもう一生涯ないかもよ? それとも他に誰か好きな人がいるとか?」
八幡「確かに今日みたいな告白イベントはもう二度とないだろうな…………」
小町「だったら」
八幡「まあ聞けよ。俺もいっぱいいっぱいなんだから相談に乗っては欲しいんだ」
小町「なんか訳ありっぽいね。そんじゃじっくり聞きましょう。コーヒー淹れるからリビング来てよ」
八幡「おう。着替えたら行くわ」 - 424 : :2016/03/04(金) 22:22:59.34
- 八幡(俺は自室で部屋着に着替え、リビングに向かう。コーヒーのいい匂いが漂ってきた)
小町「お待たせー。砂糖とかはここね」
八幡「おう、サンキュ」
八幡(座って待っていると小町がコーヒーを目の前に置いてくれる。スティックシュガーをたっぷりと入れてよくかき混ぜた)
小町「いつも思うけどお兄ちゃん糖分取り過ぎじゃない? 糖尿病になっちゃうよ」
八幡「脳みそ使ってるから大丈夫だ。特に今回の件は頭痛くなるほど考えにゃならんし」
小町「なんか昨晩と言ってることが違う…………何があったの?」
八幡「聞いて驚くなよ」
小町「勿体ぶらないでいいから早く」
八幡「今日部室に行ったら雪ノ下と由比ヶ浜と海老名さんがいたんだけど」
小町「うん」
八幡「三人それぞれから告白された」
小町「へー。その海老名さんだけじゃなくて雪乃さんも結衣さんも告白したんだ」
八幡「…………なんか反応薄くね?」
小町「え、だって二人とも前々からお兄ちゃんが好きなんだろうなとは思ってたし」
八幡「…………マジで?」
小町「マジで」 - 425 : :2016/03/04(金) 22:45:37.29
- 八幡「俺全然わからなかったんだけど…………」
小町「お兄ちゃんは自惚れや勘違いをしないように無意識に自分に言い聞かせていただけだと思うよ」
八幡「だってよ、二人ともいつも俺のことをキモいとか言ったり蔑ろにしたり空気扱いしたりしてんだぞ」
小町「あー……さすがにそれは二人が悪いかな。たぶん油断もあったんだろうけど」
八幡「油断?」
小町「ほら、お兄ちゃんモテないじゃん。だから他の女が近付くことはないと思って慌てなくてもいいと考えてたんだよ、きっと」
八幡「おいおい、目以外は顔は悪くない。国語は学年トップクラスの成績。なかなかの高スペックだぞ俺は」
小町「フォロー出来ないレベルで目が腐ってる。数学は学年最下位クラス。コミュニケーション能力が致命的に不足している」
八幡「やめてくれ小町、その罵倒は俺に効く」
小町「まあ実際のところはモテモテだったわけですね、我が兄は」
八幡「正直今でも冗談かなんかかという疑いを捨て切れてないけどな…………」 - 426 : :2016/03/04(金) 23:19:39.45
- 小町「最近はお兄ちゃん達の仲が微妙だったからもう駄目かなーとは思ってたんだけど」
八幡「…………あいつらが俺を好きだっての、端から見たらわかりやすかったか?」
小町「うん。知らない人が見たらわからないだろうけど、親しい人なら丸分かりだったんじゃない?」
八幡「そうなのか…………」
小町「でもその海老名さんは何でお兄ちゃんを好きになったの? きっかけとか聞いた?」
八幡「一応な…………ほら、初詣ん時ちょっとした事件あっただろ」
小町「あ、あのお兄ちゃん猫騙し活躍事件?」
八幡「どんな事件名だよ…………その時の着物姿の女性な、あれ海老名さんだったらしい」
小町「えーっ!? 本当に!?」
八幡「ああ。部室で写真見せてもらったわ。とりあえずきっかけはそれだな」
小町「ほえー…………ん? でも何で部室で? 海老名さんは奉仕部関係ないんだよね?」
八幡「まあ簡単に言うと、雪ノ下や由比ヶ浜のいないとこで告白するのはフェアじゃないとか何とか。俺にとっても恥ずかしいからここらへんはあんま突っ込まないでくれ」
小町「ふむむ…………で、お兄ちゃんはどうするつもりなの?」 - 427 : :2016/03/04(金) 23:35:51.66
- 八幡「………………」
小町「?」
八幡「どうしよう…………?」
小町「いや、小町に聞かれても…………相談に乗るとは言ったけどちょっと予想外だったよ。海老名さんが雪乃さん達を煽るなんて。普通なら二人きりになって告白するもんだし」
八幡「ああ。こっちから持ちかけといてなんだけど、相談して何とかなるもんじゃないよなこれ」
小町「結局のところお兄ちゃんがどうしたいかってことだもんね」
八幡「だよなあ…………いや、その『どうしたいか』ってのが自分でもよくわかってないんだがな。だからこそ時間をもらったわけなんだが」
小町「今までの人生で縁がなかったから悩むのも無理ないか…………でもお兄ちゃん、これは覚えといて」
八幡「あん?」
小町「ちゃんと、お兄ちゃん自身の気持ちで答えてあげて。誰かを選んだら誰かが傷付くとか考えないで。でないとみんなに失礼だよ」
八幡「…………ああ、わかってる」
八幡(戸部にも似たようなこと言われてるしな) - 428 : :2016/03/05(土) 00:04:20.58
- 八幡(さて、一晩考えた結果)
八幡「何も思い付かなかった…………」
小町「そもそも考えてわかることでもなくない?」
八幡「かもな…………ふわぁ……眠いけど学校行くかな。小町は休みなんだっけ?」
小町「うん。自由登校だから家で勉強するつもり。行ってらっしゃーい」
八幡(俺は小町に手を振って玄関を出る。自転車を押して通りに出たところで)
姫菜「あ、ヒキタニ君、偶然だね。はろはろ~」
八幡(海老名さんに声を掛けられた…………いやいや)
八幡「家の場所全然違うだろうが…………待ち伏せか?」
姫菜「あちゃー、バレちゃった? うん、ヒキタニ君と一緒に登校したくてさ」 - 434 : :2016/03/05(土) 14:41:15.12
- 八幡「一緒にって、俺自転車なんだけど…………」
姫菜「うん、そうだね」
八幡「…………」
姫菜「…………」ニコニコ
八幡「…………後ろ、乗るか?」
姫菜「いいの? ありがとうヒキタニ君」
八幡(海老名さんは嬉しそうに微笑む。くっ、ドキッとしてしまった)
姫菜「じゃ、お邪魔しまーす」
八幡「ああ」
八幡(海老名さんが荷台に跨がり、サドルに座った俺の腰に腕を回す。心なしか以前より込める力が強いような…………)
姫菜「えへへー、こんな恋愛漫画みたいなことができるなんてね。好きな男子の自転車の後ろに乗って登校する男子のお話は何度も見てきたけど」
八幡「それ恋愛漫画じゃなくてBL漫画だからな」
姫菜「男の子同士だって立派な恋愛だよっ!」
八幡「お、おう」
姫菜「あ、でもヒキタニ君は駄目だからね。ちゃんと女子に恋愛すること」
八幡「男子に恋愛することはないから大丈夫だっての」
姫菜「戸塚君もだよ?」
八幡「え、戸塚は男子じゃなくて戸塚だろ?」
姫菜「ちょっと前の私ならその一言で暴走してたんだろうなあ…………」 - 435 : :2016/03/05(土) 16:11:05.96
- 八幡「もう『はや×はち』は諦めてくれたか?」
姫菜「うん。『はや×はち』も『とつ×はち』も『とべ×はち』も『ざい×はち』もやめたよ」
八幡「多いな! んで総受けにされてんのか…………」
姫菜「ヒキタニ君自分からガンガン攻めるタイプじゃないしねー。だから私から告白してるんだし」
八幡「そ、そうか」
姫菜「でも私に振り向いてもらいたいからやめたんだよ。だからもし私をフったらまた餌食にしちゃうよ~」グフフ
八幡「斬新な脅し方だな……」
姫菜「ま、冗談だけどね」
八幡「冗談に聞こえないところが恐ろしいな」
八幡(そんな会話をしながら学校近くの歩道橋まで来る)
姫菜「じゃ、ここらへんでいいよ。ヒキタニ君朝から目立つの嫌でしょ?」
八幡「だったら昼とかもほっといて欲しいんだが…………」
姫菜「うん、前向きに検討しとくよ」
八幡「ほぼ断りの言葉だよな、それ」
姫菜「あはは、じゃあまたあとでね」
八幡(海老名さんは手を振って歩道橋を上がっていく。自転車の俺はもう少し先の横断歩道まで行かないとならない)
八幡「…………」
八幡(本当ならシリアスな会話になるはずの内容だったのだが、ところどころツッコミ箇所があったためにしどろもどろにならずにすんだ。わざと、なのかなあ…………?) - 437 : :2016/03/05(土) 19:26:54.52
- 八幡(さて、昼休みである)
八幡(完全に空気と化し、誰にも気付かれぬまま教室を出ることに成功した。ステルスヒッキーの名は伊達じゃない!)
八幡(朝一番に海老名さんが絡んできた以外は特に何事も起こらなかったし、久々に気を使わないぼっちメシを満喫できそうだな)
八幡(購買で昼食を購入し、一応他に人がいないか確認してからベストプレイスに腰を下ろす)
八幡「ふう…………」
八幡(落ち着く…………つくづく俺はぼっち気質なんだなあ……)
八幡「こんな俺の何が良いのやら」
姫菜「教えて欲しいならいくらでも言ってあげようか?」
八幡「うおぉっ!? え、海老名さん!?」
姫菜「こんなとこにいたんだ。今日は結衣も私達とご飯一緒だったのにヒキタニ君すぐにいなくなっちゃうんだもん…………よっこいしょ」
八幡(いつの間にか現れた海老名さんは俺の隣に座る…………って、近い近い!)
姫菜「で、ジャン負けして飲み物買いに行ったらヒキタニ君見つけたから来ちゃった」
八幡「別に来なくていいのに…………」
姫菜「大丈夫。みんな待たせてるしすぐに行くから」
八幡(宣言通り、海老名さんは立ち上がる) - 438 : :2016/03/05(土) 19:34:13.81
- 姫菜「んー、でも自分でもびっくりだね」
八幡「何がだ?」
姫菜「好きな人とちょっとお話出来ただけで、すっごい嬉しくなっちゃう乙女心が自分の中にあったなんてさ」
八幡「なっ…………!」
姫菜「あははっ、じゃあまたね」
八幡(戸惑う俺をよそに海老名さんは自販機のある方向へ行ってしまった)
八幡「…………」
八幡(顔が、熱い。間違いなく真っ赤になっているだろう)
八幡(本来なら震えるほど冷たい風が心地いいほどだ。味がよくわからなくなった残りの昼食を俺は頬張った) - 440 : :2016/03/06(日) 23:45:25.13
- 八幡「うーっす」ガラガラ
雪乃「こんにちは比企谷君」
八幡「おう」
八幡(放課後になり、俺は奉仕部部室へとやってくる。カバンを机に置き、いつもの席に座った)
雪乃「比企谷君、紅茶を淹れようと思うのだけれどあなたも飲むかしら?」
八幡「あれ、由比ヶ浜を待たなくていいのか?」
雪乃「由比ヶ浜さんは三浦さん達と出掛けるそうよ」
八幡「そうか。んじゃ頼むわ」
雪乃「ええ」
八幡(雪ノ下は席を立ち、準備を始める。なら今日は二人か)
八幡(二人…………? うぐ、ちょっと意識しちまうな)
雪乃「はい、どうぞ」
八幡「おう、サンキュ」
八幡(俺は目の前に出されたカップを取り、冷ましながら口に含む)
雪乃「でも正直あなたも今日は来ないと思っていたわ」
八幡「あん? 何でだ?」
雪乃「告白してきた相手と同じ部屋で過ごすなんてあなたにとって苦痛ではないかと思ったもの」
八幡「う…………まあな」
雪乃「それでも来たということはもう答えが出たのかしら?」
八幡「俺がそんなすぐに決断できるとはお前も思ってないだろ?」
雪乃「ええ、もちろん」 - 441 : :2016/03/06(日) 23:59:13.13
- 八幡「即答かよ…………まあさすがに目を逸らしていい問題じゃないしな。ちゃんとみんなと向き合わなきゃならんし」
雪乃「あら……ふふ、由比ヶ浜さんも当てが外れたわね」
八幡「由比ヶ浜?」
雪乃「どうせあなたが来ないと踏んで彼女は三浦さん達と出掛けることにしたのよ。最近御無沙汰だったらしいから」
八幡「そういやずっとこっちに顔出してたもんな」
八幡(そして冬休み中は分解しかけていたわけだし、なかなか集まる機会もなかったのだろう)
雪乃「ねえ、比企谷君」
八幡「何だ?」
雪乃「私は彼女達を…………いえ、葉山君や戸部君達も含めたあのグループは、正直上辺だけの関係と思っていたこともあったわ」
八幡「あー……俺もだな」
雪乃「でも、あのグループは色んなことがあっても元通りになった。どの告白も成功していないというのに」
八幡「そう、だな……」
雪乃「奉仕部も」
八幡「え?」
雪乃「奉仕部も、あれに負けないくらいの繋がりはあると私は思っているわ」
八幡「………………」
雪乃「だからあなたがどんな答えを出そうとも、私達はそれを受け入れて、尚且つ今まで以上の関係を保てると信じている」 - 442 : :2016/03/07(月) 00:10:24.35
- 八幡「雪ノ下…………」
雪乃「だからあなたはあなただけのことを考えて答えを出してちょうだい。それがきっと一番いい結果に繋がるはずよ」
八幡「…………ああ」
八幡(俺は雪ノ下の言葉に神妙に頷く。それに満足したか、雪ノ下は紅茶のおかわりの支度を始めた。二人とも飲み干してしまったしな)
雪乃「ちなみにこれは私だけでなく、私達三人の総意よ」
八幡「昨日話し合ったのか?」
雪乃「ええ。誰が選ばれても恨みっこなし。選ばれなくても関係を変えたりしない。あと校内での人前での露骨なアピールや強引な誘いは比企谷君に迷惑だからしない。など、ね」
八幡「ああ、だから昼休みとか無理に誘ってこなかったのか」
雪乃「断られたらそこで諦めると言っていたけれど、その前に逃げ出したらしいわね…………どうぞ」コトッ
八幡「サンキュ…………まあ何があるかわからなかったしな。結局海老名さんには見つかってちょっと話はしたけれど」
雪乃「え、ぬ、抜け駆け? 比企谷君、その状況を詳しく教えなさい!」
八幡「うお、食いつくな…………いや、一人でメシ食ってたらたまたま通りかかった海老名さんとちょっと話しただけだよ。本当に偶然ぽかったぞ」 - 443 : :2016/03/07(月) 00:24:05.69
- 雪乃「そ、そう。ならいいのだけれど」
八幡「でも校内でってことは学外ではなんかするつもりなのか?」
雪乃「そんなことは…………いえ、その手があったわね」
八幡「変なこと企むなよ……てか朝の海老名さんの行動はそれだったのか」
雪乃「朝?」
八幡「ああ。何か一緒に俺と登校したいからっつってうちの前で待ってたわ」
雪乃「! そ、それで、一緒に登校したのかしら?」
八幡「まあ、な。自転車の後ろに乗っけて途中まで。人通り多くなる辺りで別れたけど」
雪乃「くっ……彼女、行動力あるわね…………こうなったら私も明日……」ブツブツ
八幡「おいやめろ」
雪乃「私だって比企谷君とお付き合いしたいのよ。海老名さんに負けていられないわ」
八幡「お、お付き合いしたいって……」
雪乃「あっ……」////
八幡「いや、今更照れることでもないんだろうけど…………」
雪乃「と、とにかく、一番付き合いが長いはずの私が出遅れている気がするのは否定できないわ。もう少し攻めないと…………」
八幡「その、気持ちは嬉しいけど、あんまやりすぎると引くからな俺。釘を差しとくが」
雪乃「…………わかったわ」 - 449 : :2016/03/07(月) 13:24:24.20
- 八幡(それからしばらくは何事もない日々を過ごした。俺からの誘いでない限り、抜け駆けになる行為は禁止だということになったらしい)
八幡(思えばあの朝の海老名さんの行動はこれを見越してのことかもしれない。ギリギリ協定違反にならないところをついてきたというか)
八幡「誰を選ぶか、か…………」
八幡(誰も選ばないという選択肢はない。三人が三人とも俺なんかには不釣り合いなほどの女子だし、俺だって彼女達に好意は持っている)
八幡(雪ノ下雪乃)
八幡(由比ヶ浜結衣)
八幡(海老名姫菜)
八幡(仮にこの中の誰か一人だけに告白されたのなら、数日悩んだ末に受け入れただろう)
八幡(だけど俺は選ばなくちゃいけない。放棄することは許されないんだから)
八幡「………………」
八幡(俺は…………) - 451 : :2016/03/07(月) 20:52:40.43
- 雪乃「比企谷君。今日はもう金曜日なのだけれど、決心はついたのかしら?」
八幡(部室にいると、雪ノ下がそう聞いてきた。由比ヶ浜と、たまに遊びに来るようになった海老名さんもこちらを見る)
八幡「………………ああ」
雪乃「! そう……ここで聞いても構わないのかしら?」
八幡「いや、ダメだろ…………その、ちゃんと一人ずつ話したいし。明日か明後日俺のために時間くれるとありがたいんだが」
雪乃「ならこうしましょう。比企谷君、デートをしなさい」
八幡「え?」
雪乃「私達とそれぞれデートをして、終わり際にフるなり告白なりの言葉をくれればいいわ」
姫菜「あ、フられる二人にも思い出をってこと?」
雪乃「ええ。お二人には悪いからそれくらいのサービスはしてあげてもいいと思ったのよ」
結衣「ちょっ、なんでゆきのんが選ばれるのが決まりみたいな言い方してんの!?」ブーブー
姫菜「そうだそうだー」ブーブー
八幡(なにこいつら。いまいちシリアスになりきれないんだけど) - 452 : :2016/03/07(月) 21:05:25.27
- 雪乃「比企谷君はそれでいいかしら?」
八幡「え、あ、ああ。ならあとで時間と場所決めてメールするから」
結衣「あれ、ヒッキーが決めてくれるの?」
八幡「さすがにな…………いくら俺がヘタレっつってもこれくらいは」
姫菜「じゃ、デートのお誘い心待ちにしてるね」
八幡(くっ…………改めて言われると恥ずかしい)
雪乃「思い出すわね。わんにゃんショーとかの二人で出掛けたときのこと」ニコニコ
結衣「思い出すねー。夏祭りとかに二人で出掛けたときとか」ニコニコ
姫菜「二人ともいいなあ。私なんかせいぜい映画館行ったくらいしかないや。あ、あとは自転車の二人乗りでの送り迎えくらいかな」ニコニコ
八幡(怖い怖い! 笑顔なのに火花が飛び散ってんぞ! かといって俺が何か言える立場でもないか…………)
八幡(が、すぐにその牽制合戦は鳴りを潜め、もうこの話は終わりだというように三人は雑談をしだす。いつも通り空気になった俺はスマホを取り出して調べ物を始めた) - 464 : :2016/03/10(木) 17:11:50.53
- 雪乃(部活が終わり、帰宅途中にメールの着信音が鳴った)
雪乃(差出人は比企谷君から。内容は『明日、昼一時からで大丈夫か? オーケーなら駅前に集合でどうだ?』というものだった)
雪乃(私は了解の返事を送る。どこへ連れて行ってくれるつもりなのかしらね)
雪乃(………………)
雪乃(…………でも) - 465 : :2016/03/10(木) 17:17:16.61
- 結衣(ゆきのん達とわかれてバスに揺られているとポケットの中で携帯が震えた)
結衣(優美子あたりからメールかなと確認すると、ヒッキーからのだった。あたしは慌ててメールの中身を見る)
結衣(『明後日、昼一時からで大丈夫か? オーケーなら駅前に集合でどうだ?』だった。顔文字も絵文字もない用件だけのメールなのに、ヒッキーからというだけで嬉しくなる)
結衣(あたしはオッケーの返事を送った。どこ行くつもりなのかなあ)
結衣(………………)
結衣(…………でも) - 466 : :2016/03/10(木) 17:41:06.20
- 姫菜(そういえばヒキタニ君からの連絡がないまんまだ。忘れてるってことはないだろうけど…………さすがにそんな不誠実な性格じゃないだろうし)
姫菜(家に着いたら確認のメールしよっと…………あ、この交差点、よくヒキタニ君に送ってもらってるとこだ)
八幡「よう」
姫菜(そうそう、こんなふうに自転車に乗ってて…………って)
姫菜「ヒ、ヒキタニ君!?」
姫菜(さっきわかれたはずのヒキタニ君が目の前にいた)
姫菜「ど、どうしたの?」
八幡「ああ、ちょっと海老名さんに伝えることがあって」
姫菜「あ、デートのこと? メールでよかったのに」
八幡「いや、違う…………違わないか、それも含めてだな。海老名さん、俺、悪いけど明日明後日は海老名さんとデートしないでいいか?」
姫菜「え…………」
八幡「余計な気遣いなんだろうけど、明日明後日くらいはあの二人に時間を割こうと思ってな」
姫菜「…………どういうことかな?」
八幡「今後は海老名さんに時間を使うってことだよ」
姫菜「………………え?」
八幡「海老名さん。俺は海老名さんが好きです。俺と、付き合ってください」 - 479 : :2016/03/13(日) 18:23:07.59
- 姫菜「………………」
八幡「………………」
姫菜「…………えっ?」
八幡「だから、俺は海老名さんと付き合いたいんだよ」
姫菜「………………」
八幡「………………」
姫菜「…………ホント?」
八幡「本当だって」
姫菜「………………」
八幡「………………」
姫菜「…………マジで?」
八幡「マジだってば」
姫菜「ゆ、結衣でも雪ノ下さんでもなく、私を選んでくれるの?」
八幡「ああ」
姫菜「………………」
八幡「………………」
姫菜「…………冗談じゃなくて?」
八幡「あのさ、嫌なら断ってくれてもいいんだぜ? フられるのは慣れてるから」
姫菜「あああ違うの! ちょっと信じられなくて…………なんだかんだ言っても私が選ばれることはないんだろうなーって考えてたから」
八幡「そうなのか?」
姫菜「やっぱりあの二人に比べたら付き合いも短いし女性の魅力もイマイチかなーって。スタイルがいいわけでも可愛いわけでもなくて…………」
八幡「海老名さん、あんまり俺が好きになった女子を貶さないでくれるか?」
姫菜「えっ……」
八幡「俺は、海老名さんが一番好きなんだ」 - 480 : :2016/03/13(日) 18:38:02.07
- 姫菜「う…………」
八幡「海老名さん?」
姫菜「やば……嬉しくて泣きそう…………ヒキタニ君、ちょっと胸借りていい?」
八幡「…………通報とかされねえかな?」
姫菜「今ここでわんわん泣く方が目立っちゃうよきっと」
八幡「なら仕方ねえか……俺なんかでいいなら」
八幡(道の端に寄り、自転車を止めて海老名さんの方に振り向く。海老名さんは飛び込んでくるように俺に抱きついて胸に顔を埋めた)
八幡「おっ、と」
姫菜「ありがとう……ありがとうヒキタニ君…………すっごい嬉しい…………」グスグス
八幡「いや、そんな泣くほど喜ばれるとこっちが恐縮しちゃうんだけど」
姫菜「だって、だって……八割くらいは諦めてたから…………結衣や雪ノ下さんも一緒に告白させたこと、何度も後悔しそうになったし……!」グスグス
八幡「でもそういうふうなところも俺が海老名さんを好きになった原因でもあるけどな」
姫菜「うう……恥ずかしいけど嬉しい…………」
八幡「ちなみに俺も今恥ずかしいからな。周囲の視線的な意味で」
姫菜「ごめん……もうちょっとだけ…………」
八幡「ああ、別に嫌なわけじゃないから」 - 481 : :2016/03/13(日) 18:53:21.81
- 八幡(自転車に二人乗りをしたときは背中から抱きつかれたが、正面からはさすがにドキドキがハンパない。バレてないだろうか?)
姫菜「ん……ありがとう。ごめんね、服、汚れちゃった」
八幡「こんくらいどうってことねえよ」
八幡(海老名さんは顔を離し、ハンカチを取り出して涙の跡を拭く)
姫菜「ね、ちょっとだけ時間くれる? 少し、お話したいな」
八幡「少しなんて言わずにいくらでも。あ、だけどその前にちゃんと返事もらっていいか?」
姫菜「え?」
八幡「俺も疑り深い性格だからさ。曖昧にしたくないんだ」
姫菜「うん、わかったよ」
八幡「じゃあ改めて…………海老名姫菜さん、好きです。俺と付き合ってください」
姫菜「はい。私も比企谷八幡君が好きです。これからよろしくお願いします」
八幡「…………くっ」
姫菜「…………ふふっ」
八幡(少しかしこまったやり取りにお互いが同時に吹き出す)
八幡「で、どうする? サイゼでも行くか?」
姫菜「うーん、それはちょっともったいないかな。そこのコンビニ前のベンチでいい? 色気ないけど」
八幡「いいよ、海老名さんとならどこでも」
姫菜「あはは、さらっと言ってるけど顔真っ赤だからね?」
八幡「うっせ」 - 482 : :2016/03/13(日) 20:24:50.76
- 八幡「お待たせ、はいよ」
姫菜「うん、ありがとー」
八幡(コンビニで買った肉まんとホットティーを、ベンチに座っていた海老名さんに差し出す。俺は少し間を空けて隣に座った)
姫菜「むー……ヒキタニ君、寒いー。もっとくっついてよー」
八幡「え、いや、それは……」
姫菜「いいもん。私がいくから」スッ
八幡(ちょっ、近い近い! 触れ合いそう、どころでなくべったりと腕や肩がくっついている)
姫菜「じゃ、冷めないうちに食べよ。いっただっきまーす」
八幡「お、おう、そうだな」
八幡(俺達は肉まんにかぶりついた。うん、温かくて美味い)
姫菜「ふふ、優美子や隼人君達とはこういう買い食いとかしてるけど、ヒキタニ君と二人でするなんて去年の私が聞いたら驚くだろうなあ」
八幡「俺もだな。まさか海老名さんとだなんて」
姫菜「あの初詣が転機だったね」
八幡「あれが海老名さんだったなんて予想だにしなかったわ」
姫菜「知らない人でも助けようとするヒキタニ君はかっこいいなあ」
八幡「やめてくれ。最初は見捨てようとしたんだが、目が合っちまったからやむなく手助けしたんだ。俺はそんな善人じゃない」
姫菜「ふふ、ならそういうことにしとくね」 - 483 : :2016/03/13(日) 20:40:41.93
- 八幡(くっ、何やら暖かい目で見られている。良い人だなんて思われたくないんだが…………)
姫菜「あの時さ、ちょっと神様を恨んだんだよね。お賽銭奮発してお願い事したのに酔っ払いに絡まれるなんてー、って」
八幡「どんな願い事をしたんだ?」
姫菜「またみんなで仲良くできますようにって。ほら、私達のグループ、微妙なときだったからさ」
八幡「ああ、そうだったな」
姫菜「ついでに私にもいいことありますようにってね。いち女子高校生には大金の五千円札出したんだからそのくらい聞いてくれるかなって」
八幡「多いな! 俺なんか五百円だぞ。それでも高いと思ってんのに」
姫菜「いやー、苦しい時の神頼みってやつで。あと今年はあの着物着たら親戚一堂がお年玉奮発してくれてね。えいや、って」
八幡「そしたら初っぱなから酔っ払いに絡まれるという」
姫菜「そーそー、もう厄年決定かなって。でも蓋を開けてみたらみんなとまた元通り仲良くなれるしヒキタニ君は私と付き合ってくれるって言うし。御利益すごいねあそこの神社は」
八幡「じゃあ俺の願い事も叶うといいな」 - 484 : :2016/03/13(日) 20:53:54.90
- 姫菜「ヒキタニ君は何をお願いしたの?」
八幡「小町……妹の受験がうまくいきますようにってな」
姫菜「あ、千葉村に来てた子だよね。ちょっとヒキタニ君に似てた子」
八幡「似てるか? あんな可愛い妹とこんな腐った目の俺が」
姫菜「うん。よく見ればところどころ似てるよ。初対面から思ってたもん」
八幡「そうか、やはりちゃんと血は繋がっているのか…………じゃあ結婚出来ないな」
姫菜「あははー、噂に違わぬシスコンぷり! 今度ちゃんと紹介してね?」
八幡「ああ、小町も海老名さんと話してみたいだろうし…………あ、そういえば」
姫菜「なになに?」
八幡「いや、初詣の時小町も一緒だったんだけどな、小町の願い事が…………」
姫菜「受験のことじゃないの?」
八幡「それもなんだが、加えて『俺に春がきますように』って願ったらしい。見事に叶っちまったな」
姫菜「おおー、ますますあの神社がすごく見える」
八幡「これなら受験も期待できそうだ。受かったら後輩になるんだしよろしくやってくれ」
姫菜「あ、総武受けるんだ。仲良くできるといいな」
八幡「頼むわ。あ、ゴミ捨てるからくれよ」
姫菜「うん、ありがとー」 - 485 : :2016/03/13(日) 21:07:00.34
- 八幡(食べ終えた肉まんの包み紙を受け取り、腰を浮かせて少し離れたゴミ箱に放り込む)
八幡「! え、海老名さん…………?」
八幡(そのまま座り直した途端、海老名さんがきゅっと俺の手を握ってきた。俺は驚いて海老名さんの顔を見るが、先ほどとは違って真剣な表情になっている)
姫菜「ね、ヒキタニ君」
八幡「……なんだ?」
姫菜「仮にさ、私が一切関わりなかったとして、結衣か雪ノ下さんに告白されていたらさ、ヒキタニ君はその告白を受け入れたかな?」
八幡「…………仮定の話ではあるが……受けていたかもな。あの二人を憎からず思ってんのは間違いないし」
姫菜「本当に私でいいの? その、しつこくてごめん。でも不安なんだ。なんであの二人より私を選んでくれたんだろうって…………」
八幡「そりゃ俺が海老名さんを好きになったからだが…………一番の理由としては楽しいからだよ」
姫菜「え?」
八幡「雪ノ下と話しているより、由比ヶ浜と話しているより、海老名さんと話しているのが一番楽しいからだ。雪ノ下と二人でいるより、由比ヶ浜と二人でいるより、海老名さんと二人でいるのが一番落ち着くからだ」
姫菜「う…………////」 - 486 : :2016/03/13(日) 21:22:14.98
- 八幡「いや、落ち着くっていってもドキドキしたりはしてるけどな」
姫菜「知ってる。さっき抱き付いた時にすごく心臓早かったもんね」
八幡「それは言わなくていい……」
姫菜「ふふ。でも私はずっとドキドキしっぱなしだよ。ヒキタニ君と一緒にいるんだもん」
八幡「そ、そうか」
姫菜「うん、聞いてみる? 結衣みたいにおっきくはないけど、耳当てていいよ」
八幡「おう。んじゃありがたく…………って、やんねーから!」
姫菜「あはは。うん、私もヒキタニ君とお話するの、楽しいな」
八幡「そう言ってくれるとありがたい。昔は会話すら拒まれていたからな。むしろ存在に気付かれてないまである」
姫菜「えへへー、ヒキタニ君、大好き」
八幡「!!」
八幡(海老名さんは繋いでいた手を離し、両手で腕を組んできた。とっさに身体が引こうとしたのを我慢する。恥ずかしくても逃げちゃいけないだろこれは)
姫菜「んふふー」
八幡(俺が抵抗しなかったのに気を良くしたか、海老名さんは抱きかかえるように俺の腕をぎゅっとし、顔を肩辺りに埋めてくる)
八幡「え、海老名さん、その、腕に当たってるから…………」
姫菜「んー、いいよ別にそのくらい」
八幡(海老名さんは体勢を変えるつもりはないようだ。持つかな俺の理性…………) - 489 : :2016/03/14(月) 20:31:48.73
- 八幡(しばらく二人とも黙ったままその体勢だったが、いつまでもこうしているわけにもいかない。俺は話を切り出す)
八幡「なあ海老名さん、今こうしているのって一応デートってことでいいのかな?」
姫菜「え? うーん、いいんじゃない? 好きな人同士が買い食いしてお喋りしてるなら」
八幡「…………そっか」
姫菜「それがどうかしたの? …………ああ、なるほど」
八幡「え、何を納得したんだ?」
姫菜「明日明後日、結衣と雪ノ下さんとデートするんだね。私より先にデートすることに躊躇いを感じてたんでしょ?」
八幡「察し良すぎだろ…………まあそんなとこだが。わがままなのはわかってるんだけどさ、俺にとってはあの二人も大事な存在なんだ。恋愛感情抜きでな」
姫菜「うん、わかってるよ。私に気を遣わないでいいから」
八幡「…………いいのか?」
姫菜「たぶんお互い様だよ。私だって隼人君やとべっち達と行動することあるもん」
八幡「そういやそうだな」
姫菜「気になるなら頻度減らすくらいはするけど…………でも私もあのグループは心地いい居場所でもあるの。ヒキタニ君にとっての奉仕部と一緒」 - 490 : :2016/03/14(月) 20:44:36.43
- 八幡「わかってるさ。浮気とかも心配してないし。海老名さんはそういう人じゃない」
姫菜「えー、私結構腹黒いよ? 二股かけてヒキタニ君を振り回しちゃうかも」クスクス
八幡「そん時は俺の見る目がなかったってことなんだろうな。ま、そうなったら何とか俺一人に向くように頑張るけど」
姫菜「そこは怒ったりしようよ…………」
八幡「いやいや、所詮俺如きだぞ。正直いつ捨てられるかハラハラしながら付き合うことになりそうだからな。頑張らないと」
姫菜「大丈夫だって。私はヒキタニ君ひとすじだからさ」
八幡「お、おう」
姫菜「だから結衣達ともデートしてきていいよ。むしろ告白を断るためのデートなんだからしてきてもらわなきゃ」
八幡「ああ」
姫菜「でもどんなデートだったかはあとで聞かせてほしいな。もちろん当たり障りないとこだけでもいいから」
八幡「わかったよ。明後日の夜に電話してもいいか?」
姫菜「オッケー。お待ちしてまーす」
八幡「んじゃそろそろ帰るか。あまり遅くなったら家族も心配すんだろ。送ってく」
姫菜「うん、よろしくー」 - 491 : :2016/03/14(月) 20:56:36.12
- 八幡(俺達は自転車に乗らず、歩くことにした。どちらが言い出したわけでもなく、自然とそうなったのだ)
八幡(適当なアニメや漫画の話をしながら歩いていると、あっという間に海老名さんの家の近くまで到着してしまう)
姫菜「じゃ、ここでいいよ。またね」
八幡「おう。んじゃな」
八幡(海老名さんが手を振り、俺は自転車を反転させる)
姫菜「あ、ちょっと待って」
八幡(サドルに跨がろうとした途端、海老名さんに呼び止められた。なんだ?)
八幡「どうし、んむっ…………」
八幡(!!?)
八幡(振り向いた瞬間、突然海老名さんの顔が寄ってきて俺の唇が塞がれた。海老名さんの唇によってだ)
八幡「え、海老名さん…………」
姫菜「えへへ……ま、またね!」
八幡(顔が離れると海老名さんは逃げるようにその場を去っていく。俺はしばらくの間呆然と突っ立っていた) - 494 : :2016/03/16(水) 23:52:01.28
- 八幡「よう」
雪乃「あら、随分早いのね。まだ二十分前よ」
八幡「お前だってその二十分前に来てんだろ」
八幡(駅前で待っていると、雪ノ下が近付いてきたので声をかける)
八幡「んじゃ行くか」
雪乃「あら、もう行く場所を決めてるのかしら?」
八幡「ああ、少し歩くけど雪ノ下なら気に入ってくれると思う」
雪乃「自分でハードルを上げるなんて随分自信があるのね。楽しみだわ」
八幡(俺と雪ノ下は並んで歩き出す)
雪乃「ところで、『あまりめかし込むな』とメールにあったのだけれど、あれはどういうことかしら?」
八幡「ああ、ちょっと汚れる可能性が無きにしもあらずだからな」
雪乃「いったいどこに連れ込む気なのよ…………」
八幡「まあ任せろ。ネットにも情報があまり出回ってないから雪ノ下も知らないところだと思うが、落胆はさせないつもりだ」
雪乃「逆に怖いわね…………あまり期待しないでおくことにするわ」
八幡「まあ行けばわかるさ」
八幡(しばらくとりとめのない雑談をしているうちに目的地近くまでやってきた。えーっと)
八幡「あった。このビルの三階だ。エレベーター乗ろうぜ」
雪乃「え、ええ」
八幡(何か目的地のヒントになるものがないか探しているのかキョロキョロしている雪ノ下を連れてエレベーターに乗り込む) - 495 : :2016/03/17(木) 00:22:54.74
- 雪乃「ふぁ…………」
八幡(エレベーターを降りて店のドアを開けた途端、雪ノ下は間の抜けた声を出して固まってしまった。俺はその脇を通って店員に話し掛ける)
八幡「すいません、予約してた比企谷ですけど」
店員「いらっしゃいませ。当店の御説明をさせていただきます」
八幡(店員にシステムなどの説明を受け、席に案内される…………って)
八幡「おい雪ノ下、いつまで固まってんだ」
雪乃「はっ…………ひ、比企谷君、ここは!?」
八幡「最近出来た猫カフェだよ。とりあえず席に座るぞ」
雪乃「え、ええ」
八幡(奥の和室タイプに通され、卓袱台の前に座る。メニューを見ようとしたところでさっそくトテトテと猫が雪ノ下に寄ってきた)
雪乃「ひ、比企谷君! 猫が! 猫が!」
八幡「ああ、猫だな」
雪乃「な、撫でてもいいのかしら?」
八幡「乱暴にはするなよ。あとすぐ店員さんくるから頼むものを決めとけ」
八幡(雪ノ下はメニューをチラッと見ただけでクッキーと紅茶のセットだと俺に伝え、寄ってきた猫を撫で始める)
八幡(その夢中っぷりに少し苦笑しながら俺は店員に注目を告げた。雪ノ下が楽しそうで何よりだ) - 496 : :2016/03/17(木) 00:37:52.02
- 雪乃「ああ……可愛いわね…………ねえ、比企谷君もそう思うでしょ? …………あら、もう紅茶とクッキーが届いていたのね」
八幡「いや、もう十分以上前に来てるからな。絶対その紅茶冷めてるから」
八幡(雪ノ下は撫で続けていた猫からようやく目線をこちらに向けた。どんだけ夢中になってんだよ)
雪乃「そういえばこのクッキー、猫ちゃんも食べられるようになってるのよね。いるかしら?」
八幡(欠片を摘まんで猫に差し出すと、ニャーオと軽く礼を言うように鳴き、パクッとそのクッキーを口にする。ていうかナチュラルにちゃん付けしたな)
雪乃「ふふ、ちゃんとお礼が言えてお利口さんなのね…………ねえ、比企谷君」
八幡「なんだ?」
雪乃「その、驚くかもしれないけど、実は私……猫が好きなのよ…………」
八幡「何で重大発表するみたいな雰囲気なんだよ! 知ってるから!」
雪乃「え、バ、バレていたの?」
八幡「むしろ隠せてると思ってたことに驚きだよ…………」
雪乃「そんな私がここを知らなかったなんて、迂闊にもほどがあるわ」
八幡「いや、ここ出来たばっかりでホームページとかもないから無理ねえよ。俺はネットの『街の掲示板』で知ったが」 - 497 : :2016/03/17(木) 00:49:07.65
- 雪乃「ふふ、連れてきてくれてありがとう。嬉しいわ」
八幡「お、おう。なら良かった」
八幡(雪ノ下はにっこりと笑い、次から次へと寄ってくる猫に構った)
八幡(しかしそれでも時々俺の方に話し掛けてき、何気ない会話をする)
八幡(雪ノ下は心底楽しそうだったが、いつまでもこうしているわけにもいかない)
八幡「雪ノ下、そろそろ時間だ」
雪乃「え、も、もう?」
八幡「もうって…………四時間コースだぞ。どんだけ夢中なんだよ」
雪乃「うう…………」
八幡「また来ればいいだろ。一人ででも、誰かとでも」
雪乃「そうね…………わかったわ。お会計をしましょう」
八幡「ああ、もう払ってあるから…………驚いた顔すんなよ。デートなんだったらこれくらいしたっていいだろ」
雪乃「…………ええ」 - 498 : :2016/03/17(木) 01:00:56.17
- 八幡(店の外に出てからなぜか雪ノ下は黙ったままだった。どうしたんだ?)
雪乃「ねえ比企谷君」
八幡「お、おう。なんだ?」
雪乃「このあとはどういうプランなのかしら? まだサプライズはあるの?」
八幡「いや、驚かせるようなことは特にない。ショッピングモール廻ってどっかで夕飯にするかと思ってたが」
雪乃「そう。なら今日はもうここでいいわ。素敵なお店を教えてくれてありがとう」
八幡「…………え?」
雪乃「あなたが私を喜ばせようとしてここに連れてきてくれた。私はもうそれで充分よ」
八幡「ゆ、雪ノ下…………」
雪乃「また、月曜日に会いましょう。さよなら、私の好きだった人…………」
八幡「あ、お、おい…………」
八幡(俺は突然の言葉に戸惑う。しかし背中を向けて俺から離れていくその姿を、俺はどうしても追うことができなかった) - 499 : :2016/03/17(木) 01:30:58.21
- 乙です
ガハマさんもこうなると思うと...... - 502 : :2016/03/17(木) 20:17:00.33
- 八幡(雪ノ下には分かっていたんだろうか。俺が雪ノ下を選ばないことに)
八幡(それでも、俺は…………)
結衣「わ、ヒッキーが先に来てる!」
八幡(日曜日の昼過ぎ、待ち合わせ場所で待っていると由比ヶ浜がやってきた)
八幡「そこまで驚かれることなのかよ…………」
結衣「あ、ち、違うの! ただヒッキーがこんなに早く来てるなんて思わなくて!」
八幡「何も違わねえじゃねえか。まあいいや、行こうぜ」
結衣「うん。って、どこ行くの?」
八幡「とりあえずカラオケでいいか? 約束あるしな」
結衣「あ、ヒッキー覚えてたんだ…………」
八幡「いろいろあってうやむやになってたからな。構わないか?」
結衣「うん! 行こ!」
八幡(俺と由比ヶ浜は並んで歩き出す) - 503 : :2016/03/17(木) 20:26:53.92
- 八幡(カラオケにやってくると、待合室にいくつかのグループが並んでいた)
結衣「うわ、混んでるね。どのくらい待つかな…………?」
八幡「ああ、大丈夫だ」
結衣「え?」
八幡(俺は心配する由比ヶ浜をよそに受付に向かう)
八幡「すいません、予約してた比企谷ですけど」
結衣「!」
店員「はい、お待ちしてました。お二人様ですね? こちらの208号室になります」
八幡(俺は店員とのやりとりを済ませ、由比ヶ浜の方に振り向く)
八幡「よし、行こうぜ。とりあえずドリンクバーだな」
結衣「あ、う、うん。ヒッキー、予約してくれてたんだ…………」
八幡「そりゃ日曜の昼なんて混んでると思ったからな」
結衣「えへへー…………」
八幡「何だよ突然笑い出して。気持ち悪いな…………」
結衣「なっ……! キ、キモくないもん!」
八幡「はいはい、さっさと行くぞ」
結衣「あ、待ってよー」 - 504 : :2016/03/17(木) 20:38:51.74
- 八幡「………………」
結衣「? どしたのヒッキー?」
八幡「いや、デカくねえかこれ?」
結衣「あ、うん。値段一緒みたいだから一番大きいサイズ頼んじゃった」
八幡「頼んじゃった、じゃねえよアホガハマ!」
結衣「ア、アホって何だし!?」
八幡「はあー…………まあ食い切れねえことはねえかな…………とりあえず食うか」
結衣「あ、その前に歌入れようよ」
八幡(スプーンを持って注文したハニートーストに取りかかろうとすると、由比ヶ浜からストップがかかる)
八幡「ああ、適当に入れてていいぞ」
結衣「じゃなくて! ヒッキーも歌うの! 一応これデートなんだからね!」
八幡「あー…………まあカロリー消費しながら食った方がいいか。でもアイスの部分は早めに食べとこうぜ」
結衣「うん、そだね」
八幡(俺達は機械を操作していくつか曲を入れつつハニートーストを食い始めた) - 505 : :2016/03/17(木) 21:28:29.30
- 八幡(どうにかこうにかハニートーストを食べ終わった頃には結構な時間が経っていた)
結衣「うわー、あんなにあったのがなくなっちゃった。ヒッキーすごい!」
八幡「すごい、じゃねえって…………四分の三くらい俺が食っただろ絶対」
結衣「あ、あはは…………ま、まあまだ時間はあるからゆっくり休んでなってば。あ、ドリンク取ってきてあげる! 何飲む?」
八幡「さすがに今は甘いのは欲しくねえな……烏龍茶頼んでいいか?」
結衣「うん、任せて!」
八幡(由比ヶ浜は俺のグラスを持って部屋を出て行く。無駄に元気なやつだな…………)
結衣「お待たせー。はい、烏龍茶」
八幡「おう、サンキュ。さすがにこのコンディションじゃ歌えねえからしばらくお前歌ってろよ」
結衣「なんかごめんね…………」
八幡「いいよ。お前が歌ってんのを見るのも悪くないし」
結衣「え…………うん!」
八幡(由比ヶ浜は嬉しそうに選曲をし始めた) - 506 : :2016/03/17(木) 21:52:21.12
- 結衣「んー、歌ったねー」
八幡(店から出ると由比ヶ浜はストレッチをするように身体を伸ばしながら言った)
八幡「まさかフリータイムの時間いっぱいまでいるとはな…………途中で切り上げて別のとこ行くと思ってたんだが」
結衣「え、あ、ごめん! どこか行く予定だったの!?」
八幡「いや、ちゃんと予定していたのはカラオケくらいだ。あとは流れで動こうと思ってたからな」
結衣「なら良かったし。ヒッキーも結構ノリノリで歌ってたもんね」
八幡「まあ歌うことは嫌いじゃないからな。大勢だったり親しくないやつがいたりすると気分が乗らないが」
結衣「じゃ、あたしはヒッキーと親しい仲ってことでいいのかな?」
八幡「…………まあ、いいんじゃね。それなりに付き合いも長いし、連んだりもしたし」
結衣「うん…………」
八幡(由比ヶ浜はどこへともなしに歩いていた足を止め、俺に振り向く)
結衣「でも、ヒッキーはあたしを選んでくれないんだよね」
八幡「……!」
結衣「なんでヒッキーが姫菜を選んだかは聞かない。好きになるのって理由がないこともあるし」
八幡「…………どうして俺が海老名さんを選ぶと思ったんだ?」 - 507 : :2016/03/17(木) 22:16:13.84
- 結衣「なんでだろ、あたしにもわかんないや。でも間違ってないでしょ?」
八幡「…………ああ」
結衣「あーあ、三人の中ではあたしが最初にヒッキーを好きになったのになあ。もっと早く言えば良かった」
八幡「まあ…………今更だろ。でも由比ヶ浜なら俺なんかよりももっと良い男が」
結衣「ダメだよヒッキー。自分を『なんか』とか言ったら姫菜にも失礼だよ」
八幡「…………そうだな。失言だった」
結衣「じゃ、今日はここまでにしとこ。ヒッキーがあたしとの約束を守ってくれて、あたしのために予約してくれたのがすごい嬉しかった。それで充分だから」
八幡「由比ヶ浜…………」
結衣「ばいばい、あたしの大好きなヒッキー。そんで明日からもよろしくね、大好きだったヒッキー」
八幡(由比ヶ浜はそう言って背中を向け、俺が止める間もなく走って街の中に消えてしまった) - 510 : :2016/03/17(木) 23:16:22.57
- 八幡(しばらく俺は立ち尽くしていたが、ようやく我に返って足を動かし始める)
八幡(スマホを取り出し、番号を入力して発信)プルルル
姫菜『はい、もしもし。ヒキタニ君?』
八幡「あー、うん。俺だ」
姫菜『結衣達とのデート、終わったの?』
八幡「ああ。そんでさ、ちょっと電話じゃなくて直接海老名さんと話したいんだけど、今から少しだけでも時間貰えねえかな?」
姫菜『いいよー。じゃ、この前のコンビニで待ってるから』
八幡「ん、よろしく」
八幡(俺は電話を切り、待ち合わせ場所に向かった) - 511 : :2016/03/17(木) 23:33:18.63
- 八幡(コンビニに着くとすでに海老名さんはベンチに座って待っていた)
姫菜「はろはろ~、一昨日ぶり」
八幡「よう、待たせちゃったか? ちょっと飲み物買ってくるけど何がいい?」
姫菜「ありがと。紅茶でお願い」
八幡「あいよ」
八幡(コンビニで紅茶とコーヒーを購入し、海老名さんに紅茶を渡して俺も隣に座る)
姫菜「それで、どうだったの?」
八幡「ああ」
八幡(俺は海老名さんに昨日と今日のことをかいつまんで話す)
姫菜「ふーん、そっか…………」
八幡「また明日から元の関係にって言っても気まずくなったりしないか心配でな。わがままだろうけど俺はあの二人とも今の関係を壊したくないんだ」
姫菜「大丈夫だよ、ヒキタニ君達なら」
八幡「え?」
姫菜「結衣も雪ノ下さんも、そんなに弱くないよ。ヒキタニ君だって不安はあってもそう信じてるんでしょ?」
八幡「…………まあ、な」
姫菜「それとも何? 二人との関係が崩れるのが怖いからやっぱり私とのお付き合いはなかったことにしたい?」
八幡「それだけはねえよ。俺は海老名さんが一番好きなんだから」
姫菜「うっ…………そんな堂々と言われると、こう、恥ずかしいものが」 - 512 : :2016/03/17(木) 23:41:02.28
- 八幡「いきなりキスとかするよりはマシじゃね?」
姫菜「そ、それを言わないでよー!」
八幡(海老名さんはバシバシと俺の肩を叩く。やっぱり恥ずかしかったんじゃねえか)
八幡「ま、もう行動しちまったんだ。今更考えたってしょうがないけどな」
姫菜「うん…………ヒキタニ君、私を選んでくれてありがとうね」
八幡「選ぶ、なんて大層なものじゃないけどな。俺はただ好きな人に告白しただけだ」
姫菜「ふふ、そうだね…………ヒキタニ君、これからも、よろしく」
八幡「ああ、よろしくな。んじゃあまり遅くなるのも良くないだろ。送ってく」
姫菜「うん、お願いしまーす」
八幡(俺はベンチから立ち上がり、海老名さんはごく自然に俺と腕を組んでくる。特に抵抗はせず、俺達はそのまま歩き始めた) - 513 : :2016/03/17(木) 23:55:55.06
- 八幡(そうして俺と海老名さんが付き合い始めて、しばらくの時が過ぎた)
八幡(ちょっとした揉め事くらいはあったものの、特に大きな事件も起きず、ごく一般的な高校生活を送ったと思う)
八幡(そして、新年)
姫菜「はろはろ~ヒキタニ君。あけましておめでとう」
八幡「よう海老名さん。あけましておめでとう。あれ、その着物って…………」
姫菜「うん、去年着てたやつだよ。せっかくだから今年もね」
八幡「あー、あれから一年か…………思えばあの時この神社に初詣してから俺の周りの環境がガラッと変わったんだよなあ」
姫菜「そうだね。私達がくっついたのもここの神様のおかげだね。だから今年もお願いしよ」
八幡「おう。とりあえず参拝の列に並ぶか」
姫菜「うん」
八幡(俺達は待ち合わせていた鳥居の下から移動する)
八幡「小町も総武に受かったし、御利益を期待しないとな」
姫菜「ヒキタニ君は何をお願いするの?」
八幡「とりあえず受験の成功だな。んで海老名さんと一緒の大学に無事受かりますようにって」
姫菜「私もそれだね。でももうちょっと贅沢にいこうかな」
八幡「贅沢?」
姫菜「うん」 - 514 : :2016/03/17(木) 23:56:58.44
姫菜「八幡君と、ずーっと一緒にいられますように。ってね♪」
- 515 : :2016/03/17(木) 23:58:23.01
- 終わりです
八幡と海老名さんがくっつくお話を書いてみたかっただけなんです
こんな駄文を読むのに時間を取っていただいてありがとうございました - 516 : :2016/03/18(金) 00:01:17.84
- 乙です。おもしろかったです。
八幡と姫菜のヲタトークデートのあたりは凄く他のヒロインと差別化できてて新鮮だった。
ヲタップルのいちゃいちゃもっと書いてもええんやで - 517 : :2016/03/18(金) 00:05:41.43
- とてもよかった(こなみ)
乙! - 518 : :2016/03/18(金) 00:41:46.57
- 乙乙~
タイトル回収してたのはgj - 521 : :2016/03/18(金) 01:10:04.42
- 乙です
いい八姫でした! - 524 : :2016/03/18(金) 04:06:54.57
- 乙
綺麗に個人的には綺麗にまとまってて良かったと思う。完結してくれてありがとう。
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コメント
- とあるSSの訪問者 2017年03月24日
-
とあるSSの訪問者
2019年05月29日
唐突にサキサキ入ってくると思ったのに..
でも面白かったです
お知らせ
サイトのデザインを大幅に変更しました。まだまだ、改良していこうと思います。
結局サキサキでなかった…