八幡「川崎家に居候することになった」沙希「遠慮しないでいいから」1

1 : ◆zO7AQfurSQ :2015/08/14(金) 19:54:26.56
・八幡×沙希メインのSSです。地の文なし
・書き溜めはありません。ゆっくり更新。目指せ一日一沙希
・長さは不明です
・八幡が少し弱めに改変されてます
・安価とかはありません
・性的描写はありません
・平塚先生は結婚しません


よろしくお願いします

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2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/14(金) 19:55:23.15
『誰だお前?』

『おい、近寄んなよ』

『キモッ』

『ギャハハハハ、コイツ本当に来やがった!』

『罰ゲームに決まってんだろ』

『なにマジになっちゃってんの?』

『勘違い野郎』

『身の程をわきまえろっての』
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/14(金) 19:56:04.01
八幡「………………」

八幡(俺はベッドで上半身を起こす)

八幡(最悪の目覚めだった。夢で安心した、なんてことはない)

八幡(過去の記憶を夢の中で反芻しただけなのだから。くそ、昼寝なんてしなけりゃよかった)

八幡(いくら過去の事とはいえ、嫌な記憶を凝縮して見せられたのは精神的にキツい。俺は頭を振って陰鬱な気分を無理やり追い出そうとする)

八幡(今日は春休み初日で、お祝い事をするんだから沈んだ気持ちでいるわけにはいかないからな)

八幡「よっ、と」

八幡(俺は自分の頬をパン、と叩いて無理やり奮い立たせ、ベッドから降りた)
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/14(金) 19:57:38.98
八幡(時刻は夕方に差し掛かろうという頃だ。階下に降りると雪ノ下と出くわした)

八幡「よう。もう来てたのか」

雪乃「ええ、準備も色々あるし」

八幡「悪いな、こっちが誘ったがわなのに」

雪乃「いえ、私も祝うほうだもの。それは構わないのだけれど…………」

小町「あ、お兄ちゃん起きた?」

八幡(台所から顔を覗かせた小町が手を振ってくる)

雪乃「祝う対象に祝う準備をさせてどうするのよ。こんな時くらい役に立とうとは思わないのかしらゴミ谷君は」

小町「いえいえ、いいんですよ雪乃さん。ゴミいちゃんがいるより小町と雪乃さんでやった方がはかどりますし」

雪乃「それもそうね」

八幡「…………」(ズキン)

八幡「まあ男子厨房に入るべからずって言うだろ? ちょっと顔洗ってくるわ」

八幡(俺はやや強引に会話を打ち切り、洗面所に向かう)

八幡(そう、今日は小町の総武高校合格のお祝いをするのだ)

八幡(はっちゃけた親父やテンションの高い由比ヶ浜のせいですでに何度も祝っているのだが、何かと勉強を見てくれた雪ノ下に改めてちゃんと礼を言いたいという要望のため、ウチに招待して何度目かの合格祝いをすることになったのだ)

八幡(家庭の事情やら用事やらで春休み初日である今日実行となった。両親も早めに帰宅することになっているが、料理などの準備は雪ノ下や小町自身が行っている。まあ俺より腕はいいからな)

八幡(あ、俺も一応手伝おうとはしたぞ。断られただけで)
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/14(金) 19:58:32.58
八幡(そうこうしているうちに両親が帰宅した。仕事帰りに買ってきたであろうケーキを冷蔵庫に入れ、いそいそと着替えてテーブルに着く)

八幡(ったく。俺の時はケンタで買ってきたチキンでささっと済ませたのに。まあ俺と小町じゃわけが違うか)

八幡「…………」(ズキン)

八幡(仕方、ないよな)

八幡(やがてテーブルに所狭しと様々な料理が並べられる。さすが雪ノ下だ、ウチの家族じゃ誰もこうはいかん)

比企谷父「これは、すごいな…………」

比企谷母「ええ、とても美味しそう」

小町「見た目だけじゃなくて実際に美味しいよ。ちょっとつまみ食いしたけどほっぺた落ちそうだった!」

雪乃「小町さん、つまみ食いなんかしてたのね…………」

小町「だ、だってすごく美味しそうだったから我慢できなくて…………」

雪乃「まあいいわ。そこまで言ってくれるなら作った甲斐もあるもの」

比企谷母「じゃ、そろそろいただきましょうよ。雪ノ下さん、乾杯の音頭をお願い出来るかしら?」

雪乃「わかりました。では…………小町さんの合格を祝って、乾杯」

「「「「乾杯!」」」」

八幡(五つのグラスが思い思いにぶつかる)
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/14(金) 19:59:52.91
小町「でも残念でしたね、結衣さんが来れなくて」

八幡「先約があるって言ってたな。ま、いいだろ。今日は雪ノ下と一緒にするのがメインなんだから。あいつは小町の勉強を手伝ってないし」

雪乃「それはあなたもじゃない」

八幡「うるせえな。手伝いたくても学年一位様がいる以上役に立たないだろ」

小町「雪乃さん教え方上手だから苦手科目もばっちりだったよ。ホントすごく感謝してます! あーあ、お兄ちゃんじゃなくて雪乃さんがお姉ちゃんだったらよかったのに」

八幡「…………」(ズキン)

八幡「悪かったな、こんな兄で」

小町「そうだ雪乃さん、お兄ちゃんと結婚してくださいよ。そうすれば晴れて小町のお姉ちゃんです!」

雪乃「な、何を言ってるの小町さん!?」

比企谷父「そうだぞ小町、こんな素晴らしい女性が八幡になどと勿体無い。この役に立たん穀潰しには逆の意味で相応しくない」

八幡「…………」(ズキン)

八幡「うるせえ、釣り合いが取れてないのはわかってんだよ」

比企谷母「本当にね…………八幡、勘違いしちゃだめよ。あなたは雪ノ下さんみたいな子にお話ししてもらえるだけでも有り難いと思わなきゃ」

八幡「…………」(ズキン)

八幡「へーへー、雪ノ下さんには感謝してますよっと」
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/14(金) 20:01:29.47
八幡(皆で雪ノ下の料理をつつき、食卓は絶賛の嵐に包まれる。気合い入りすぎだろと突っ込みを入れたくなるくらい美味かった)

八幡(両親の賛辞に雪ノ下は照れたように軽く頭を下げる。ちょっと新鮮だな)

比企谷父「いやー女の子が多いと華やかでいいな。小町だけでは八幡の陰鬱さを打ち消すのに精一杯だから」

八幡「…………」(ズキン)

比企谷母「雪ノ下さん、あれと替わりにウチの子になる気はないかしら?」

八幡「…………」(ズキン)

小町「あ、それいい! 小町もお兄ちゃんの世話をするよりお姉ちゃんに甘えたりしてみたいです!」

八幡「…………」(ズキン)

八幡(別に皆に悪気があるわけじゃない。これくらいの言動はいつものことだ)

八幡(だけど夢見が悪かったせいか、ちょっとだけ心に響く)

雪乃「ひ、比企谷くん…………え?」

八幡(熱心なアプローチに戸惑った雪ノ下が助けを請うように俺を見る。が、その表情が驚愕に変わった。何だ? 俺の腐った目以外に何か付いてんの?)

小町「お、お兄ちゃん、なんで、泣いて…………」

八幡「え…………」

八幡(慌てて自分の目元を触ると、確かに涙が流れていた)

八幡「う…………」

八幡(何で、何で、何で)

八幡(一度自覚するともう止まらない。あとからあとからボロボロと涙が溢れてくる)

八幡「あ、あああああ!」

八幡(俺は思わず立ち上がり、その場を飛び出す)

八幡(呼び止める声が背中にかけられるが、俺はそれらを一切無視して全力で逃げ出した)
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/14(金) 20:03:10.63
  ~ 駅前 ~


沙希「はあ、やっと着いた。信号トラブルで遅れるなんてツイてないね」

沙希(改札を出てあたしは一人呟く。少し遅くなっちゃったな)

沙希(ま、みんなは田舎にいるままだから急いで帰る必要はないんだけど。しばらくは一人か…………)

沙希「何か食べて帰ろうかな…………あれ?」

沙希(駅前のベンチに座って顔を伏せてる同年代くらいの男子。あれって、比企谷じゃない。何やってんだろこんなとこで)

沙希(思いもよらない邂逅にちょっとだけドキッとしながらそちらに足を向ける。だけどその姿にどこか違和感を覚えた)

沙希「!」

沙希(気付いた。靴を履いてないんだ! あたしは慌てて比企谷に駆け寄った)

沙希「比企谷っ!」

沙希(あたしが叫ぶように声をかけると、比企谷は緩慢な動きで顔を上げる。その表情はまるで能面のように何の感情も見えない)

八幡「……ゎさき、か」

沙希(ぽつりと呟いて前半が聞こえにくかったので名前を呼ばれたのかと一瞬勘違いしてしまった。だけど今はそんな場合じゃない。あたしは比企谷を刺激しないようにそっと問いかける)

沙希「何かあったの?」
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/14(金) 20:16:17.58
うおおお
俺達のサキサキが帰ってきた
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/14(金) 20:56:44.46

こないだまで甘々な日常書いてたのに急に八幡への風当たりが強くなってびっくりした


八幡「なんだ、かわ……川越?」沙希「川崎なんだけど、ぶつよ?」


32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/15(土) 02:15:39.96
待ってました!!
なんか以前のと比べるといきなり暗い展開ですな
だが、面白い
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/15(土) 05:18:17.45

出だしが胸糞とか斬新だな
久しぶりにイライラしたぞ(褒め言葉)
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/15(土) 08:44:47.64
沙希(あたしは比企谷をウチに連れて帰ることにした。何を言っても生返事で反応の鈍いこいつを放っておけるわけないじゃないのさ)

沙希(靴下のまま歩かせるのもどうかと思ったけどそこは仕方ない。抵抗の様子は見せず、手を引っ張ると素直に着いてくる)

沙希(こんな時だけど繋いだ手にドキドキしてしまった。比企谷もちゃんと握り返してきたし)

沙希「ちょっとここ座って待ってて」

沙希(家に入り、比企谷を玄関先で座らせる。あたしは荷物を置いて洗面所に向かった。タオルをお湯で濡らして絞り、玄関に戻る)

沙希「ほら、足こっちに出して。脱がすよ」

沙希(あたしは比企谷の靴下を脱がした。外を歩いたせいかところどころ穴が空いている。悪いけどこれは捨てさせてもらおう)

沙希(見た限り足の裏を怪我したりとかはないようだ。濡れタオルで汚れた箇所を中心に拭いていく)

沙希「ん、おっけ。こっちに来な」

沙希(腕を引くと比企谷はのろのろと立ち上がり、あたしと一緒に居間に移動する)

沙希(テーブルの前に座らせたが、多分お茶とか出しても手を付けないだろう。あたしは単刀直入に聞いた)

沙希「家で何かあったの?」

八幡「…………」
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/15(土) 08:46:05.78
沙希(今までは生返事でも反応していたのに、この質問には押し黙ったままだった。確実に何かあったねこれは)

沙希(喧嘩でもしたんだろうか? 比企谷にはあまりそういうイメージはなかったけど)

沙希(その黙ったままの姿が儚くて今にも壊れてしまいそうに見え、あたしは思わず比企谷の頭に手を乗せて撫でてしまった)

八幡「!」

沙希(バシィッと音が鳴り、腕がじんじんと痺れる。比企谷に思い切り振り払われ、手首辺りを叩かれたのだ)

八幡「あ…………」

沙希(比企谷の表情が変わる。自分でしたことが信じられないといった感じだ。そしてそれは怯えに変わった)

沙希(あたしはカウンセラーでも心理学者でもない。だけど今対応を失敗したら比企谷の心が壊れかねないことくらいはわかる。再び比企谷に向かって手を伸ばす)

八幡「っ…………」

沙希(何をされると思ったのだろう、比企谷は目を瞑って身をすくめる)

沙希(あたしは比企谷のすぐ横で膝立ちになり、比企谷の頭に両腕を回してぎゅっと抱きしめた。胸に顔が埋まる形になるが、恥ずかしいとかそんな気持ちは一切ない)
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/15(土) 08:48:08.11
沙希(比企谷の表情は見えないが、しばらくすると肩を震わせ始めた。もしかしたら嗚咽しているのかもしれない)

沙希(少し腕の力を緩めると慌てたように比企谷があたしの背中に腕を回し、すがるように抱きついてくる。離さないでというように。見捨てないでというように)

沙希「大丈夫、大丈夫だから。あたしはここにいるから、ね」

沙希(あたしは比企谷の頭と背中に手をあてて撫でながら、優しく囁く)

沙希(微かに聞こえていた声が少しずつ大きくなり、やがて比企谷は叫ぶように大声で泣き始めた)
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/15(土) 13:53:39.27
八幡「…………」スー、スー

沙希(ふふ、泣き疲れて寝ちゃったか)ナデナデ

沙希(でもこの体勢じゃ寝にくいかな? よいしょ、っと)

沙希(比企谷の身体を動かし、あたしにもたれかかる体勢から横たわらせて膝枕をする)

沙希(比企谷の寝顔なんて初めて見るけど、結構整った顔立ちしてるよねやっぱり。あ、涙がちょっと目元に残ってる)

沙希(指でそっとそれを拭く。そしてあたしは改めて自覚した。というか実感した)

沙希(あたしは、本当に比企谷のことが好きなんだ)

沙希(比企谷のために何かしてやりたいし、出来ることがあるなら喜んでする)

沙希(下心がないではないけど、それ以上に比企谷の悲しい顔を、苦しむ顔を見たくない)

沙希(今回のこと、あたしは比企谷に尽くしてあげよう)

沙希「好きだよ、比企谷」ナデナデ
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/15(土) 13:55:08.96
八幡「ん…………」

八幡(目が覚め、見覚えのない天井が目に入った)

八幡「あれ?」

八幡(どこだここ? 昨晩何したんだっけ? この毛布も枕にしてた座布団にも見覚えがないし)

八幡(上半身を起こして昨日の事を思い出そうとするが、その前に台所であろう奥の部屋からひょこっと一人の女子が顔を覗かせた)

八幡「か、川崎…………?」

沙希「あ、起きた? いま朝ご飯作ってるからね」

八幡(そう言われて奥に引っ込んだ瞬間、全部思い出した。俺は身体を丸めて毛布を被る)

八幡(うああああああああ! お、俺は何てことを!)

八幡(恥ずかしい! 恥ずかしい! 恥ずかしい! 何やってんだ俺は!)

沙希「何してんの? 朝ご飯出来たよ」

八幡(ひとしきり毛布の中で悶えていると、川崎から声がかかる。俺は覚悟を決めて這い出た)

八幡「川崎、その」

沙希「いいよ」

八幡「え?」

沙希「今はいいから。朝ご飯、食べよ。結構寝てたしお腹空いてるでしょ?」

八幡(壁に掛けられた時計を確認すると少し遅めの朝、といった時間だ。確かに夕べはあまり食べてないしな)

八幡「えっと、じゃあ、いただきます」

沙希「ん、召し上がれ」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/15(土) 21:30:13.26
八幡(色んな思考が頭の中をぐるぐる回っている。言いたいこと、聞きたいことが山ほどある。だけど川崎の用意してくれた朝食が美味くて、俺は夢中でそれをかっこむ)

八幡(そんな俺の様子を見て川崎は嬉しそうに笑った。何だろう?)

八幡(しかし本当に美味い。雪ノ下とはまた方向性が違う美味さだ)

八幡(………………雪ノ下、か)

沙希「ね、比企谷」

八幡「お、おう、何だ?」

八幡(ちょっと気分が落ちそうになったタイミングで川崎が話し掛けてきてくれた)

沙希「ご飯もお味噌汁もおかずもおかわりあるからさ、遠慮しないで言ってよね」

八幡「う…………」

八幡(正直図々しいとは思う。だけどまだ腹は物足りなく、もっとこの川崎の作った美味い料理を食べたいという欲求が強かった)

八幡「あー…………じゃあ頼む」

沙希「うん」

八幡(俺が器を差し出すと川崎はそれを受け取り、台所へ向かう)

八幡(嬉しそうにしているのは俺が美味そうに食べているからだろうか?)

八幡「………………」

八幡(ヤバい、またちょっと泣きそう。どうしちまったんだ俺は……)
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/15(土) 21:32:02.27
八幡(朝食を終え、川崎が淹れてくれたお茶を飲みながらボーっと待つ。いやボーっとしてはいないか、色々考えているわけだし)

八幡(やがて食器を洗い終えた川崎がこっちに戻ってきた。俺は頭を下げる)

八幡「川崎、その、すまん。色々迷惑をかけてしまって」

沙希「ううん。大したことはしてないよ」

八幡「そんなことはねえだろ。本当に、悪かった」

沙希「大丈夫だから頭上げてってば。こっちが恐縮しちゃうでしょ」

八幡「だって、泊めてくれてメシまでご馳走になってんのに俺はお前の手を叩いたり、その……胸に顔押し付けたりとかしちまって」

沙希「あたしが気にしてないからいいって。それに今ウチはあたし以外は田舎帰ってるから平気だよ。予備校とかあるからあたしだけ昨夜日帰りでこっち戻ってきたんだ」

八幡「そうなのか、なら…………って、それは尚更良くないだろ! 女子一人の家に俺みたいなのを泊めるなんて、何かあったらどうすんだよ!」

沙希「あたしの心配をしてくれるの? 比企谷は優しいね」

八幡「茶化すなよ。俺が言いたいのは……」

沙希「わかってるって。比企谷だから泊めたんだ。他の男だったらこんなことしないよ」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/15(土) 21:35:32.53
八幡「っ…………!」

八幡(なんだよそのセリフ。勘違いしちゃうだろうが!)

沙希「で、どうするの? 家に帰るの?」

八幡「……そうだな。あまり長居するのも悪いし」

沙希「無理しちゃって。手、震えてるよ」

八幡「! こ、これはただの武者震いでだな」

沙希「何と戦うつもりなのさ…………ほら」

八幡(川崎は俺に向かって両腕を広げた。まるで誘うように)

八幡「何だよ?」

沙希「いいよ、抱きついても」

八幡「な、何言ってんだ!?」

沙希「ああもう、焦れったいね」

八幡(川崎はこちらに寄ってきて昨晩のように俺の頭を胸に埋めるように抱きしめた)

八幡(めちゃくちゃ柔らかい感触と良い匂いに頭がくらくらする。だけどどこか安心するような、ほっとするような、そんな感情になり、腕の震えはいつの間にか止まっていた。俺は川崎に身を委ねる)

八幡「なあ…………何も聞かねえのか?」

沙希「聞いてほしいなら聞くけど」

八幡「…………」

八幡(そうだな。もう川崎には恥ずかしいとこをたくさん見せてしまったんだ。なら今更か)

八幡「じゃあ……ちょっと俺のくだらない話を聞いてくれねえか?」

沙希「うん、いいよ」

八幡(俺は川崎に抱きしめられたまま、昨晩のことを話し始めた)
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/16(日) 12:48:00.84
八幡「…………と、まあそんなことがあったわけなんだが」

沙希「そう…………」

八幡「誰が悪いってわけじゃねえのはわかってんだよ。みんな本気で言ってるわけじゃないからな。雪ノ下だって親の前では俺を貶すようなことはほとんど言ってねえし、親や小町が俺をディスるのもいつものことだし」

沙希「…………」

八幡「ただ今回はタイミングが悪かったな。ちょっとあんな夢を見て少し精神が弱ってたみたいでさ、普段なら全然構わないんだが」

沙希「いや、良くないでしょ。そんなに言われてあんた何も思わないの?」

八幡「いつものことだし慣れてるよ。なんだかんだ構ってくれるし」

沙希「無視されるよりはいいってこと? そんなの悲し過ぎじゃない…………」

八幡「いや、そんな悲観的に捉えることでも」

沙希「馬鹿…………」

八幡(川崎は俺の頭を抱く力を強めた。しかし性的な情欲は一切沸かず、ただされるがままになる)

八幡「…………そういやお前はあんま俺の悪口言わねえな。何でだ?」

沙希「何でって…………普通言わないでしょ」

八幡「そうか? 由比ヶ浜ですら俺にキモいキモい言うんだぞ。むしろ言う方が普通じゃね?」

沙希「まあ由比ヶ浜は……ね」

八幡「?」
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/16(日) 12:50:29.47
沙希「でも家を飛び出してきた、というか泣いたってことはやっぱりあんたも嫌だったってことでしょ?」

八幡「あー…………ほんの少し、な。ま、家に帰ってちょっと怒られてちょっと謝って終わりだろ」

沙希「手を震わせるほどショック受けたくせに」

八幡「はん、そんなの俺の数あるトラウマのひとつになるだけだ。大したことじゃねえ」

沙希「へえ。じゃ、あたしの胸で大泣きしたことを誰かに言っても構わないんだね?」

八幡「ちょっと待ってください川崎さん」

沙希「大したことないんでしょ?」

八幡「すいませんホント勘弁してください」

沙希「まったく…………あんたがそんなんだから周りも気にせずに色々言ってくるんだよ。少しは言ってやらないと」

八幡「いや、いつもは本当に気にしてないんだって。今回はたまたまだな」

沙希「じゃ、時には傷付くって教えないと駄目だよ」

八幡「教えるってもなあ……何て言うんだ?」

沙希「口頭じゃなく行動で示すんだよ」

八幡「例えば何をするんだよ?」

沙希「ちょうど春休みだし家出しちゃいな」

八幡「悪口言われて拗ねて家出って…………子供かよ」

沙希「高校生は子供でしょ」

八幡「そうでした」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/16(日) 12:51:14.63
沙希「それとも自分探しの旅にでも出る?」

八幡「どっちにしても無理だ。財布もなけりゃ泊まるとこもねえんだぞ」

沙希「あっそ。ところで比企谷、奉仕部って春休みもやってんの?」

八幡「あん? さあ、知らんな。何か依頼でもあるのか?」

沙希「うん、せっかくだしあんたに頼もうと思って」

八幡「今の俺に出来ることなんか限られてるが……ま、一宿一飯の恩もあるしな。とりあえず言ってみろよ」

沙希「そう、じゃあさ」

八幡(スッと川崎は腕を解いて身体を離し、少し離れて座る。ちょっと名残惜しい)

沙希「女一人でしばらく留守番なんてちょっと不用心だからさ、家族いない間ウチにいてくれない?」

八幡「はあ!? いやいや、駄目だろそれは」

沙希「女一人にするつもりなの? ちなみに誰か泊まりにくるような女友達なんかあたしにはいないから」

八幡「いや、でも…………」

沙希「あっ、あいたたたた…………昨夜叩かれたとこが痛くて買い物とか不便になりそう。誰か男手がいてくれれば楽なんだけど…………」

八幡「うぐっ…………」
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/16(日) 12:53:14.64
沙希「あー、手首が痛いなー、洗濯とかも大変になりそう。そういえばあたしが昨日着てた服、誰かさんの涙とかで汚れちゃってたなー。比企谷が駄目なら雪ノ下や由比ヶ浜に色々相談してみよっかなー」

八幡「わかった! 留守番させてもらう! 依頼は引き受けるから!」

沙希「そう? ありがとう」

八幡「ったく…………んじゃ準備してくっから一回帰るわ」

沙希「何言ってんの。それじゃ家出にならないでしょ」

八幡「マジで家出させるつもりなのかよ…………財布もスマホも着替えもないんだぞ?」

沙希「お金は生活費とかはこっちが出すし、必要なら渡すよ。抵抗あるなら今後いつか返してくれればいいから。連絡する相手もいないのにスマホなんか使わないでしょ? 下着類は父さんや大志用の予備があるからそれを使いな。着替えも大志のを借りればいい。男同士ならそこまで抵抗ないでしょ?」

八幡「あとウチはともかくお前の親御さんとかにはなんて言われるか」

沙希「それも大丈夫。母さんに電話して許可はもらってるから」

八幡「年頃の娘一人の家に男泊めるのを許可するのかよ…………」

沙希「ま、その辺は色々と、ね」

八幡「はぁ…………改めて確認するけど本当にいいのか? 俺は男でお前は女なんだぞ?」
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/16(日) 12:54:05.93
沙希「そうだね」

八幡「何かされるかもとか思わないのか?」

沙希「するの?」

八幡「そんなつもりはねえけどさ、理性トんだりするかもしんねえだろ」

沙希「そん時はあたしの見る目がなかったってことで諦めるよ。こう見えても諦めはいいんだ」

八幡「じゃあ俺を泊めようとすんのを諦めろよ…………」

沙希「ぐちぐちうるさいね、もうあたしの依頼引き受けたんだから覚悟決めな」

八幡(川崎はそう言うが、明らかに口実だ。一旦俺を家から引き離すのが目的だろう)

八幡(これで本当に親達からのディスりが減るかはわかんねえし、むしろいなくなって喜ぶまである)

八幡(でも…………たまにはこんな非日常もいいか、なんて思うあたりやはり多少は自暴自棄になっていたのだろう)

八幡「わかった、しばらくの間居候させてもらう。悪いけどよろしく頼むな」

沙希「うん、遠慮しないでいいから」
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/16(日) 12:55:39.41
八幡「でもよ、何でお前はここまで俺に構ってくれるんだ? 普通ならあんなみっともないとこ見せた男なんて引くだろ」

沙希「何でだと思う?」

八幡「わかんねえから聞いてんじゃねえか。あれか、お前俺のこと好きなんだな? なんて」

沙希「なんだ知ってたのあたしの気持ち。ま、そういうことだね」

八幡「はああ!?」

沙希「だから我慢できなかったら別に襲ってもいいよ。抵抗しないから」

八幡「いやいやいやいや、冗談だろ? 冗談だよな?」

沙希「信じなくてもいいけどね。今はあんたの家族とのことを考える方が大事でしょ」

八幡(いえ、そっちの方が大事というか衝撃なんですが)

沙希「とりあえず靴下と靴くらいは用意しとくかな。下駄箱に予備のスニーカーがあったから出掛ける時はそれ使って。出しとくから」

八幡(そう言って川崎は玄関の方に向かう)

八幡「…………」

八幡(なんか、とんでもないことになったな…………)

八幡(こうして俺の、川崎家での居候生活は始まったのだった)
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/16(日) 13:57:41.36
おつおつ
八幡は居候決定として、その後の比企谷家(+ゆきのん)の反応が気になるな…
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/17(月) 12:07:40.62
沙希「じゃ、ちょっと着いてきて。軽くウチの中案内しとくから」

八幡(戻ってきた川崎にそう言われて俺は腰を上げる。トイレや風呂場などを確認し、使っていいものを指示された)

沙希「ここが大志の部屋ね。そんなに散らかさなかったら勝手に入って漫画とか読んでもいいから。あたしもそうしてるし」

八幡「わかった」

沙希「こっちが親の部屋。ここは入らないでね」

八幡「わかった」

沙希「んでここがあたしの部屋。比企谷には夜は居間に布団敷いて寝てもらうけど、寂しくなったら来てもいいから」

八幡「わかんねえよ!」

沙希「こんなとこかな? もうすぐお昼ご飯だけど冷蔵庫の中身が心許ないから買い物しないと」

八幡「スルーすんなよ…………買い物なら手伝おうか? 荷物持ちくらいならするが」

沙希「ありがと。じゃ、スーパー行こっか。ちょっと着替えるから玄関か一緒にあたしの部屋に入るかして待ってて」

八幡「後者は有り得ないだろ! 玄関で待ってっから」

沙希「そう? 着替え覗きたくなったらいつでも来ていいからね」

八幡「っ…………!」

八幡(俺は言葉に詰まり、無言でその場を離れる)

八幡(なんなんだあいつは…………)ドキドキ
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/17(月) 12:09:11.80
八幡(先ほど渡された新品の靴下を履き、玄関に向かう)

八幡(新しいスニーカーが用意されていたので、サイズを確認して履いてみる。うん、大丈夫だな)

沙希「お待たせ。靴のサイズ大丈夫?」

八幡「おう、平気だ…………って」

八幡(振り向くと、やたらキマった服装の川崎がいた。え? スーパー行くんだよね? これから誰かとデートってわけじゃないよね?)

沙希「何? あ、ひょっとして似合わない?」

八幡「いや…………えっと」

沙希「ごめん……やっぱり変だよね。着替えてくる」

八幡「ち、違う! そうじゃなくて、その、すげえ綺麗だから言葉に詰まっちまったんだ」

沙希「…………ホント?」

八幡「ああ。思わず見惚れちまった。こんな時の語彙が不足してて上手く言えねえけど、すごく魅力的だ。世の中の男共を虜にできるぜ」

沙希「他の男なんかどうでもいいよ。比企谷は? 虜になってくれてる?」

八幡「う…………あ、ああ、そりゃな。何で今まで川崎がこんなに綺麗なのを知らなかったんだろうって後悔してるくらいだ」

沙希「ふふ、ありがとう。比企谷にそう言ってもらえるとすごく嬉しい」ニコッ

八幡(何なのその笑顔!? 勘違いしちゃうじゃないか!)ドキッ
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/17(月) 12:10:19.69
沙希「そんじゃ行こっか」

八幡「お、おう」

八幡(俺は先に玄関を出て、ドアを開けておいて靴を履く川崎を待つ)

沙希「おっけ。鍵かけるよ」

八幡「おう」

八幡(川崎はドアを閉めて鍵をかける。ノブをひねって確認し、鍵を俺に差し出してきた)

沙希「はい、合い鍵。なくさないでね」

八幡「…………お前、ちょっと人を信用し過ぎじゃないか?」

沙希「だから比企谷だけだってば。持ってないと不便だよ。それともどっか行くときは四六時中一緒にいる? あたしはそれでもいいけど」

八幡「……わかった、一応借りておく」

沙希「ん、信用してるから気を遣わないでいいよ。こう言っちゃなんだけどあんた必要なく他人に疑われるようなことしないでしょ」

八幡「必要なく、って何だよ?」

沙希「心当たりがなきゃ気にしないでいいよ」

八幡「………………」

沙希「ほら、行くよ?」

八幡「…………ああ」

八幡(俺と川崎は並んで歩き始めた)
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/17(月) 15:04:08.09
素直なサキサキの破壊力よ
乙です
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/17(月) 16:59:18.92
さきさき攻め過ぎぃ
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/17(月) 20:49:07.70
八幡「なあ、川崎」

沙希「ん、何?」

八幡「スーパー、こっちにあんのか?」

沙希「ううん。せっかく比企谷とのお出掛けなのにスーパーだけなんて味気ないからね、ちょっと色々見てまわりたくてさ。その、迷惑だったかな?」

八幡「い、いや、今の俺に用事なんてあるわけないしな。どこでもお供するぜ」

沙希「ふふ、ありがと」グイッ、ギュッ

八幡「な、な、何で腕を組んで……」

沙希「………………駄目?」

八幡「う……だ、駄目、じゃない……」

八幡(でも周りの目がすげえ気になる。川崎って美人だしな…………)

八幡(ドギマギしながら歩いていると駅前のショッピングモールに着く)

八幡「そういや何を見に来たんだ?」

沙希「春物の新作の服とかかな。今日は買うつもりはないんだけどちょっと一通り見ときたくてさ」

八幡「そっか。お前スタイルいいもんな…………あ、へ、変な意味じゃないからな!」

沙希「ふふ、慌てなくたっていいよ。どっちの意味だって嬉しいから」

八幡「う……」

八幡(川崎の意図が掴めない。まさか本当に俺のことが好きなのか? いやいや、まさかな…………)
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/17(月) 20:50:10.55
八幡(最初に入ったのは女性物の服が売られている店だった。入りにくいことこの上なかったが、しっかり腕を掴まれて離してもらえなかったので、やむなくそのまま二人で入る)

八幡(こんな所に俺なんかが一人でいたら間違いなく通報される。組んでいた腕を解いて服を見始めた川崎から離れないようにしないと)

沙希「ふうん、今年はこんなのが流行りなんだ…………ね、比企谷、これとこれ、どっちがいい?」

八幡「いや、俺そういうセンスないから参考にならんぞ」

沙希「じゃあ聞き方を変えるよ。これとこれ、どっちが比企谷の好み?」

八幡「…………どっちかといったらそっち、かな」

沙希「へえ。どこを基準に選んだの?」

八幡「ぐ…………わ、笑うなよ?」

沙希「笑わないって」

八幡「その……そっちの方が、お前に似合いそうだなって」

沙希「え…………」

八幡(川崎がポカンとした表情になる。恥ずかしさMAXになった俺は思わず顔を逸らした)

八幡「す、すまん! 気持ち悪いこと言って」

沙希「ううん、嬉しい……」

八幡(川崎が服を戻し、再び腕を組んでくる)

沙希「ね、今度は男物の服を見に行こ?」
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/17(月) 20:51:26.15
八幡(何やら微笑ましいものを見る表情の店員に見送られてその店を出る。川崎はやたらと上機嫌だ)

八幡「あんま見てないけどもういいのか?」

沙希「うん。参考にしてるだけで買うわけじゃないからね。比企谷の好みもちょっと知れたし」

八幡「…………」

沙希「じゃ、次はあの店だよ。行こ」

八幡「ああ」

八幡(俺達は川崎が指差した店に入る。うん、ここはまだ落ち着けるわ。一人でいても通報されないしな)

八幡(川崎は次々と服を俺の身体に当て、何やら真剣に考えている。別に俺は服を買う予定はないんだが)

八幡(一通りチェックして俺の好みを聞き、満足したようにその店を出る)

沙希「ついでだからフードコート辺りでお昼にしちゃおっか? 今から買い物して作ってたら遅くなっちゃうし」

八幡「あー…………」

沙希「あ、お金なら気にしないで。どうしても気になるならいずれ返してくれればいいから」

八幡「じゃあ、すまんがちょっと借りにしとくわ」

沙希「ん」

八幡(俺達はフードコートに向かい、適当に注文して席に着く)

八幡「んじゃ、いただきます」

沙希「いただきます」

八幡(しばらくは食事に集中する)
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/17(月) 20:52:39.12
八幡(そろそろ食べ終わるかという頃、川崎が何やら神妙な顔付きになってこちらを向く)

沙希「……ねえ、比企谷」

八幡「何だ?」

沙希「あたし、他の男子と出掛けたりしたことないからわかんなくてさ…………その、今、楽しんでくれてる?」

八幡「…………」

八幡(ああ、そうか)

八幡(川崎は俺を元気付けてくれようとしてくれてるんだ。俺はその行動よりもその気遣いの方が嬉しかった)

八幡(不安げになっている川崎に対して俺はいかにもな軽口で返す)

八幡「当たり前だろ。川崎みたいな美少女とデート出来て楽しくないなんて男がいたら俺が説教かましてやる」

沙希「ふふっ、何それ?」

八幡(俺の言葉におかしそうに笑う川崎。こいつってこんなに笑うやつだったんだな。いつもムッとしているイメージだったけど…………)

沙希「どしたの、じっと見て? あたしに惚れちゃった?」

八幡「な、何言ってんだよ!? だいたい俺なんかに惚れられても迷惑だろ……?」

沙希「いや、あたしは比企谷が好きだって言ったじゃない。迷惑なわけないでしょ」

八幡「ああ、俺を元気付けようと言ってくれたんだろ? ちゃんとわかってるから」
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/17(月) 20:54:02.05
沙希「はあ……わかってないじゃない」

八幡「え?」

沙希「あたしはね、前から比企谷の事が好きなの。『付き合って』とか『返事をちょうだい』とかは言わないけどあたしの気持ちまで否定しないでよ」

八幡「え、マ、マジで?」

沙希「好きでもない男にここまで世話焼いて家にまで泊めるなんてどんなお人好しなのさ…………そんな人間出来てないよあたしは」

八幡「そ、そうなのか…………」

沙希「ま、気にしなくていいよ。あたしが勝手にあんたに惚れてるだけだから」

八幡「でも」

沙希「いいから。今はあたしの気持ちを利用するくらいでいなって。あたしもあんたと一緒にいれて嬉しいんだからさ」

八幡「…………すまん」

沙希「別に謝るとこなんかないでしょ。じゃ、スーパー寄って帰ろうか。荷物持ちしてくれるんだよね?」

八幡「おう、任せろ。というか今の俺にはそんくらいしか出来ないからな」

沙希「ふふ、充分助かるよ。行こ?」

八幡(そう言って川崎は腕を組んでくる。どうも本気で俺の事なんかを好きらしい)

八幡(生まれて初めて罰ゲームじゃない告白をされた。今でも信じられねえけど…………いつかちゃんと真剣に考えないとな)
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/18(火) 00:46:57.98
なんで俺の学生時代にはサキサキみたいな女の子がいなかったんだろうか…
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/18(火) 00:48:33.06
>>179
平塚先生がいなかったからだな
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/18(火) 07:02:28.99
八幡(そんなわけでスーパーに到着した。俺は買い物カゴを取る)

八幡「で、何から買うんだ?」

沙希「んー……というか夕飯何にするか決めてないね。比企谷は何か食べたいものある?」

八幡「トマト以外好き嫌いはないが…………そうだな、肉じゃがとかどうだ?」

沙希「男子は肉じゃが好きだもんね。さすがは男を落とす料理って言われるだけのことはある」

八幡「実際肉じゃがが嫌いな男なんていないだろ」

八幡(それに正直肉じゃがくらいちょっと料理かじってりゃ誰だって簡単に作れるだろ。誰が作ったって大差ないだろうし)

沙希「これさ、比企谷はあたしに落としてほしいんだなって深読みしてもいい?」

八幡「なっ…………」

沙希「ふふっ」

八幡「からかうなよ…………」

沙希「比企谷がそんなつもりじゃないのはわかってるって。じゃ、お野菜から見ていくよ」

八幡「おう」

八幡(川崎は食材を吟味しながら次々とカゴに入れる。数日分のつもりか、結構カゴいっぱいになっていくな)

沙希「あとは玉子…………あ、セールで一人一パックになってる。比企谷、レジ一緒に並んで。そうすれば二つまとめて買えるから」

八幡「へえ、そんなシステムなんだ。わかった」

八幡(あとはちょっと飲み物、ついでにマッ缶を取って二人でレジに並ぶ)
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/18(火) 07:04:41.93
八幡(川崎が会計を済ませる間に俺はカゴを持って台に移動し、袋詰めをする。何とか二袋で収まったな)

沙希「お待たせ。あ、もう詰めててくれたんだ。ありがと」

八幡「おう。んじゃ帰ろうぜ」

沙希「あ、一つ持つよ」

八幡「いいって。俺は荷物持ちとして来てるんだから」

沙希「違うよ、比企谷には片手空けててほしいの」

八幡「え…………」

沙希「ね?」

八幡「う…………で、でもどっちも重いぞ。バランス取ろうとして均等に入れちまったから」

沙希「いいよ別に。じゃ、行こ」

八幡「お、おう」

八幡(俺達は一袋ずつ持って出口に向かう。店外に出たところで川崎が俺の空いている腕側に回り、俺の手を取った)

八幡「あ…………」

沙希「その、嫌だったら気にせずちゃんと言って。あたしがしたいことはするけど、比企谷が嫌がることはしたくないから」

八幡(そう言って指を絡めて手を繋いでくる。いわゆる恋人繋ぎってやつだ)

八幡「…………」キュッ

沙希「あ…………ふふ」

八幡(俺が無言で握り返すと川崎は嬉しそうに微笑む)

八幡(そこから川崎家に着くまで特に会話はなかったが、気まずい雰囲気とかにはならない。むしろ心地良かった)

八幡(こんな感じになるのは川崎だけなんだろうな。他の知り合いじゃ多分こうはいかない)

八幡(………………)
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/18(火) 18:46:22.57
沙希「ただいま、っと」

八幡「改めてお邪魔します」

沙希「違うでしょ。比企谷は今ここに住んでるの」

八幡「…………ただいま」

沙希「うん、おかえり」ニコ

八幡「っ……い、一緒に帰ってきたのにそれはおかしくねえか?」

沙希「いいの。あたしが言いたかっただけなんだから」

八幡(川崎の笑顔にドキッとしてしまった。勘違いしちゃうとこ…………勘違い、じゃなかったなそういえば)

八幡「と、とりあえず冷蔵庫に入れるもんあるんだろ? 台所持って行こうぜ」

沙希「そうだね」

八幡(俺達は買ってきた物を台所に持って行く。俺が冷やす物を袋から出して川崎に渡し、川崎が適所にしまう)

沙希「そういえばあたし今日1コマだけ予備校あるんだけど、あんたは予備校どうするの?」

八幡(全部整理し終わり、冷蔵庫の扉を閉めて立ち上がった川崎が聞いてくる)

八幡「あ、そういや考えてなかった。あまり休むとスカラシップ駄目になるかもしんねえけど、家から連絡行ってたら面倒だな」

沙希「じゃ、あたしがちょっと予備校に探りを入れてくる。それから考えればいいよ」

八幡「ん、そうするか。悪いな手間掛けさせて」
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/18(火) 18:48:24.55
沙希「いいってそれくらい。ところであんたの家の方はどうする? 誰かから遠回しに聞いてみようか?」

八幡「…………いや、いい」

沙希「そう?」

八幡「どんな結果でも今はちょっと知るのが怖い。もうちょい落ち着いてからにするわ」

沙希「ん、わかった」

八幡(川崎はそう言って俺の手に自分の手を重ねてきた。そこで初めて俺は自分の手が震えているのに気付く)

八幡「…………悪いな」

沙希「気にしないで」

八幡(川崎は震えが止まるまでずっと俺の手を握っていてくれた)

八幡「はあ…………すまん、もう大丈夫だ」

沙希「本当はずっと握ってていたいけどね、もうすぐ予備校の時間なのが残念だよ。一人でいて平気?」

八幡「子供扱いすんな…………とは言えねえな、昨日からのあれじゃ。ま、平気だろ」

沙希「大志の部屋の漫画でも読んでればいいよ。こち亀全巻あるから暇つぶしにはなるし気も紛れるでしょ」

八幡「いや、単純にすげえんだけどそれ…………全巻持ってるやつ初めて見たぞ」

沙希「買ってるのは父さんだけどね。夕飯の支度は帰ってからするよ。七時過ぎくらいになるけどいい?」

八幡「食わせてもらってる身で贅沢は言わねえよ。腹空かして川崎の肉じゃがを楽しみにするから」

沙希「ふふ、期待しててね」

八幡(川崎はそう言って一度自室に戻り、着替えて道具を持って予備校へと出掛けて行った。んじゃ、こち亀読ませてもらうかな)
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/18(火) 19:48:40.91
乙!
積極的なサキサキ…嫌いじゃない
ってか大好物ww
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/18(火) 21:40:45.44

何という肉食系のサキサキww
肉食獣の巣に自ら飛び込んでいく絶食系男子がいるらしい
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/18(火) 22:27:53.00
八幡(こち亀は頭空っぽにして読めるからいいな。しかし中川って金持ちキャラのくせに初登場時はタクシーで来たのかよ。しかもツケで)

八幡(ま、長期連載でキャラが変わるなんてよくあることか…………お、玄関で物音がする。川崎が帰ってきたのか、出迎えてやろう)

八幡「お帰り川崎。お疲れ様」

沙希「ただいま比企谷。すぐにご飯の準備するからね」

八幡「…………」

沙希「どうしたの?」

八幡「いや、なんかすっげえヒモみたいだなって思って」

沙希「ぷっ、まあ間違ってないよね。惚れられてる女の家に転がり込んでご飯作ってもらって自分はダラダラしてるんだから」

八幡「うっせ。今はこんなんだけど絶対借りは返すからな」

沙希「ふふ、待ってるよ」

八幡(川崎はエプロンを着けて台所に向かう。手伝うって言っても断られるのはわかってるから何も言わないが。むしろ足手まといだろう、俺は大人しく待つ)
206 :この辺コピペやで :2015/08/18(火) 22:28:30.84
八幡(しばらくして良い匂いが漂ってきた。腹の虫を鳴かせているうちに川崎がお盆を持ってやってくる)

沙希「お待たせ」

八幡(テーブルに次々と料理を並べていく。ご飯、味噌汁、肉じゃが、漬け物)

八幡(ひとしきり並べたあと、エプロンを外して川崎も腰を下ろす)

沙希「じゃ、食べよっか」

八幡「おう、いただきます」

沙希「召し上がれ。あたしもいただきます、っと」

八幡(さて、まずは味噌汁から)ヒョイ、ズズ

八幡「!」

八幡(え、何これ? めっちゃうめえ)ズズ、ゴクゴク

八幡(出汁から違うのか? ウチと味が全然違うし豆腐がすげえ美味い)パクパク

八幡(…………あれ?)

八幡「えっと、すまん川崎」

沙希「何?」

八幡「味噌汁、おかわりあるか? その、全部飲んじまった」

沙希「はあ? もう?」

八幡「いや、何か美味くて……気が付いたら…………」

沙希「仕方ないねぇ」フフッ

八幡(川崎は苦笑いしながらも器を受け取り、よそってきてくれた)

八幡「しかし美味いな、出汁が違うのか? ウチのよりこっちが正直好みだ」

沙希「あ、そうなの?」

八幡「あと豆腐の味が濃厚なんだが……高級品かなんかか?」
207 :この辺コピペやで :2015/08/18(火) 22:29:15.43
沙希「ううん、手作りだよ。豆腐って別に作るの難しくないからね」

八幡「えっ!? 手作り!? 市販のじゃなくて?」

沙希「うん、時々作るよ。こっちの方が家族みんな喜ぶし」

八幡「そりゃそうだろ。こんな味の濃い豆腐なんて初めてだぜ。めちゃくちゃ美味い」

沙希「そう? ならどんどん食べてね」

八幡「おう。さて、そろそろ肉じゃがを、っと」

八幡(俺はじゃがいもを箸で掴む)

八幡「!」

八幡(か、形が崩れない!? 普通は鍋の水分で煮崩れするんだが…………箸でしっかり掴めるぞこれ)ヒョイ、パク

八幡「! 何だこれ、すげえほくほくじゃねえか! 味もしっかり付いてるし……ええー?」

沙希「ああ、水を使ってないからね。酒、醤油、野菜の水分で蒸らす感じでやるんだ。焦げないようによく見てないと駄目だけど、その分美味しく出来るからさ」

八幡(肉や玉ねぎ、人参なども余計な水分がないせいか、しっかり味が付きながら歯応えも丁度良い)

八幡(ヤバい、胃袋が落とされちゃう! くっ、肉じゃがなんかに絶対負けない!)

沙希「ね、比企谷」

八幡「な、何だ?」

沙希「おかわり、いっぱいあるからね」ニコッ
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/18(火) 22:30:11.09
八幡(肉じゃがには勝てなかったよ…………結局ご飯を三杯も食べてしまった)

八幡「ふう……御馳走様でした」

沙希「お粗末様でした。ふふっ、見ていて気持ちいい食べっぷりだったね」

八幡「いや、だってすげえ美味かったし。肉じゃがってあんなに美味いものだったんだな…………味噌汁も美味かった」

沙希「朝は時間なくてお味噌汁はインスタントだったけど、比企谷に食べてもらえるから夜は頑張っちゃったよ。じゃ、食器を片付けるかな」

八幡「ああ、洗い物くらいなら俺がやるぞ。全部してもらうのも悪いし」

沙希「いいの、後片付けまでが料理なんだから。比企谷はゆっくりしててよ」

八幡「でも」

沙希「ならさ、あとで浴槽洗ってよ。比企谷も使うんだし」

八幡「わかった。任せろ」

八幡(そのあとは食器を洗い終えた川崎が淹れてくれたお茶を飲む)

八幡「そういや予備校どうだった? 俺のこと聞いたか?」

沙希「ああ。家族から電話があってちょっとの間休むかも、みたいな連絡があったらしいよ。詳しいことは聞いてないっぽいけど」

八幡「そうか。別に出ても問題なさそうだな。俺が出席してもわざわざ家に連絡しないだろ、その様子だと」
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/18(火) 22:32:25.25
沙希「そうだね。講義が被ってないときはあたしの参考書貸してあげる。同じ時は隣で見ればいいよね」

八幡「世話かけるな」

沙希「いいって」

八幡「まあ、万が一家族に連絡行ってもその前に予備校側から何か反応があるだろ。そん時はそん時に考えるとするか」

沙希「…………」スッ

八幡(川崎が手を伸ばしてテーブルに乗せられていた俺の手に重ねる。どうやらまた無意識に震えていたようだ)

八幡(どうも家族のことを話題に出すと震えるらしい。これは何とかしないと…………でもその前に)

八幡「悪いな川崎。こんなんになっちまってて」

沙希「ううん、こう言っちゃなんだけど堂々と理由があって比企谷の手に触れられるからね。気にしなくていいよ」

八幡「…………よくそんな恥ずかしいこと言えるな」

沙希「ちょっと前なら恥ずかしくて出来なかったかもね。でも今は比企谷のためになることをしてあげたいって気持ちの方が上だから」

八幡「……………………ありがとな」

沙希「どういたしまして」

八幡(俺の震えが収まっても、そろそろ浴槽を洗うと言うまで、俺は川崎とずっと手を繋いでいた)
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/24(月) 07:40:50.52
八幡「ふう…………」

八幡(身体を洗ったあと、俺は湯船に浸かり、大きく息を吐く)

八幡(気持ちいい……風呂は命の洗濯、とはよく言ったものだな)

沙希「比企谷ー」コンコン

八幡(ノックされて声を掛けられる。ドアの曇りガラスの向こうに川崎のシルエットが見て取れた)

八幡「おう、何だ?」

沙希「替えの下着と寝間着代わりのジャージ置いとくから。バスタオルは使ったらそのまま洗濯機に入れといて」

八幡「わかった。サンキューな」

沙希「ん、それじゃごゆっくり」

八幡「あ、ちょっと待ってくれ川崎」

沙希「なに?」

八幡「その……少し話さねえか?」

沙希「ここで? いいけどさ。なんならあたしも入ろうか?」

八幡「来んな! てかそれのことなんだけどよ」

沙希「それ? 何のこと?」

八幡「今入ってこようとしたことだよ。お前さ、そこまで積極的なやつだったか?」

沙希「…………」

八幡「もちろん俺がお前の全部を知ってるわけじゃねえけどさ、それでも何つうか……」

沙希「キャラが違うってやつ?」

八幡「ああ、そんな感じだ。別に悪いわけじゃないんだが、どうも戸惑ってしまってな」

沙希「うん。ま、そうだろうね。でもあたしも恥ずかしい気持ちはあるからね。思い出したら今朝のあんたみたいに布団の中で悶えたいくらいには」

八幡「忘れろ!」

沙希「ふふ」
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/24(月) 07:42:02.44
八幡(川崎はその場に座り、言葉を続ける)

沙希「あたし、田舎に日帰りで帰ってたんだけどさ」

八幡「そう言ってたな」

沙希「その時お祖母ちゃんとちょっとお話したんだ。お祖母ちゃんの昔の話」

八幡「へえ、どんな?」

沙希「お祖母ちゃん、若い頃に身分違いの恋をしたんだって。その頃まだその辺りはそういうのは許されないような風習があってさ、お互い好き合ってたみたいだけど最後まで言えないまま離れ離れになっちゃった」

八幡「…………そうか」

沙希「お祖母ちゃんがその人に想いを告げなかったのはそういう時代背景があったからだけど…………じゃああたしはどうなんだろって考えたの」

八幡「…………」

沙希「一応確認するけどさ、比企谷って恋人とかいないよね?」

八幡「いるわけないだろ、俺だぞ?」

八幡(『俺だぞ?』。うむ、なんという説得力)

沙希「だったらあたしがあんたに想いを告げるのはいけないことじゃない。今までしなかったのはただあたしが恥ずかしいってだけだったから」

八幡「…………」

沙希「ちょっと考えたの。もし、あんたがあたし以外の誰かと付き合ったらって」

八幡「有り得ないだろそんなの。俺が誰かと付き合えるなんて」
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/24(月) 07:42:56.63
沙希「そんなことないよ。現にあたしはあんたを好きなんだし、他にあんたを好きな女子がいる可能性もゼロじゃない」

八幡「う…………」

沙希「そうなった時、きっとあたしは何でもっと早く想いを告げなかったんだろうって後悔する。そう思ったら想いを伝えたいって気持ちが恥ずかしさを上回ったよ。そんなふうに考えてたらまさかいきなり駅前でばったりなんてね」

八幡「カモがネギしょってるのを見つけたわけか」

沙希「しかも自分から鍋に入ってるくらいだね。あんたには悪いけどこれはチャンスだと思った。あんたと距離を縮めるための」

八幡「普通そういうのは言わないんじゃねえか?」

沙希「比企谷があたしをお人好しとか思ってるみたいだからその辺は言っとかないと。あたしがあんたに嘘を付いたらもう人間不信になるかもしれないし」

八幡「人間不信なのは元からだから安心しろ」

沙希「ふふ、どこを安心しろっていうのさ…………ま、要するに弱ってるあんたの心につけ込んであたしに惚れさせちゃおうっていう狡いことを考えてる悪い女なんだよあたしは。ちょっと積極的なのもあんたが押しに弱いからぐいぐいいってるだけ」

八幡「そうか…………」
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/24(月) 07:43:52.51
沙希「だからあんたは気にせずあたしの世話になってればいいの。もしあんたが他の人を好きになってもあたしの魅力や努力が足りなかっただけだからね。いつでもフってくれて構わないよ」

八幡「…………なあ川崎」

沙希「何?」

八幡「ちょっと、そっちに近寄っていいか?」

沙希「全裸で近付くなんて何か邪な考えが…………」

八幡「ねえから」

八幡(裸で女子と会話をしているなんて考えないようにしてたのに!)

沙希「冗談だって。いいよ」

八幡(俺は湯船から出て、ドアの前に立つ)

八幡「川崎、ありがとう。こんな俺を好きって言ってくれて」

八幡(とん、と手の平を川崎に向けるようにドアにつく)

八幡「でもごめんな。まだ心のどこかで人を、お前を信じきれないんだ、情けない話だが。お前を信じたいって思ってるのに」

沙希「ううん。ありがとう、比企谷」

八幡(川崎が立ち上がり、ガラス越しに手を合わせてきた)

八幡「なんで礼を言うんだよ。お前を信じられないって言ってるんだぞ」

沙希「信じたいって言ってくれたじゃない」

八幡「それだけで…………」

沙希「うん、それだけで充分…………さ、そろそろ湯船戻りな。風邪引いちゃうよ」
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/24(月) 07:44:34.89
八幡「ああ…………なあ、川崎」

沙希「ん?」

八幡(俺と川崎の手の間を隔てるのはドアのガラス一枚。だけどそれがひどく遠く感じられる)

八幡「……………………やっぱり何でもない」

沙希「ふふ、何それ」

八幡「すまん」

沙希「焦らなくていいよ…………ゆっくりで、いいから」

八幡「! …………ありがとうな」

沙希「ん、それじゃ」

八幡(川崎はその場を離れ、俺は再び浴槽に浸かる)

八幡(川崎には悪いと思ってる。だけどまだ小町や親父達、そして雪ノ下に会う勇気がない。みんなそんなやつらじゃないとわかっているのにどうしても悪い方向に考えてしまうのだ)

八幡(俺はその場にいない川崎に向かって申し訳なく言う)

八幡「すまん…………もうちょっとだけ、お前に甘えさせてくれ」
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/24(月) 22:55:52.86
八幡(風呂から出て居間に戻ると、川崎が何やら縫い物をしていた。こちらに気付くと一旦その手を止める)

沙希「お茶淹れるよ。温かいのと冷たいのどっちがいい?」

八幡「えっと、じゃあ温かいので。悪いな」

沙希「いいの。あたしも喉が渇いたとこだし。ちょっと待っててね」

八幡(川崎は台所から湯呑みを二つ持ってきた。茶葉を入れた急須にポットからお湯を注ぎ、湯呑みに淹れて俺に差し出す)

沙希「はい。まだ少し熱いから気を付けてね」

八幡「おう、サンキューな」

八幡(俺はそれを受け取り、息を吹いて冷ましながら飲む)

八幡「そういや何を縫ってたんだ?」

沙希「ああ、これ? あんた用の服だよ」

八幡「えっ? 俺の!?」

沙希「うん。父さんや大志が着なくなっててまだ綺麗なやつを今風にアレンジしてるの…………ってそういえば聞き忘れてたね。あんた他人が着たやつとか古着とか気にする?」

八幡「いや、特に気にしないし着れりゃいいって思ってるから…………というかそんなこと出来るのかお前って」

沙希「まあこれくらいはね。この方がお金かからないし」

八幡「昼に新作チェックしてたのはこのためか…………すげえな。文化祭の時も思ったけど、改めて尊敬しちまうわ」
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/24(月) 22:57:12.48
沙希「ふふ、誉めたって服と食事と寝床くらいしか出ないよ」

八幡「衣食住揃ってんじゃねえか。てか本当に俺用なの? 親父さんや大志の使っちゃっていいのか?」

沙希「うん。元々こういう時用に取ってあるやつだから平気。あまり古いのやほつれてるのは練習用だったり雑巾になったりするけどね。一応フリーサイズのだから問題ないと思うけどあとで着てみて」

八幡「わかった…………なんつうか、本当に何から何まですまん。俺はお前に何もしてやれてないのに」

沙希「頭下げないでよ、さっきも言ったでしょ。あたしがしたいからしてるんだって」

八幡「でも……」

沙希「いいから。どうしてもって言うならあたしに耳掻きでもさせてくれればいいよ?」

八幡「え? まあ、ちょっと恥ずかしいけど俺でいいなら…………」

沙希「あれ? いいの?」

八幡「でも小さい頃小町にしてやった経験くらいしかないから上手くないぞ」

沙希「えっ? 違う違う。あたしがする方だってば」

八幡「はあ? それじゃお返しにならんだろ。むしろ俺の借りが増えてるじゃねえか」
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/24(月) 22:58:58.34
沙希「ううん、あたし人に耳掻きするの好きだもの。弟達にはよくしてあげてるしね。好きな人にしてあげるのも夢だった」

八幡「うぐっ………………」

沙希「普通に言っても多分何だかんだ断られそうだから交換条件みたいな形で言っちゃうけどさ、あたしの夢を叶えてくれないかな?」

八幡「わ、わかった…………で、でも、俺も女の子にしてもらいたいとか思ったことはあるから、貸し借りは無しっつうか、他に俺に出来ることがあればそっちで返させてくれ」

沙希「うん、考えとく」

八幡(川崎は嬉しそうに微笑み、棚から耳掻き用の道具一式を用意する。そして少しテーブルをずらし、スペースを確保して女の子座りをした)

沙希「さ、ここに頭乗せて」

八幡「お、おう」

八幡(川崎は自分の太ももをポンポンと叩き、俺は寝転がってそこに頭を乗せる)

八幡「お、お邪魔します」

沙希「うん、いらっしゃい。そういえば比企谷は女の子に膝枕してもらったことある?」

八幡「あるわけねえだろ。物心ついてから家族にすらされたことあるか曖昧だ」

沙希「! ふふ、じゃああたしが比企谷の初めてだね。嬉しいな」

八幡(ちょっとエロく聞こえる…………)
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/24(月) 23:02:22.13
沙希(無意識にだろうけど、比企谷はさっきから家族のことを口にしてても手は震えてない。少しはマシになったのかな……)ナデナデ

八幡(え、なんで頭撫でてくんの? 耳掻きは? でも、気持ちいい。こんなこと、されたことない…………あ、ヤバい、なんか泣きそう)

八幡(あ、あ、なんで、なんで…………)ポロポロ

沙希「!!」

八幡「す、すまん、何でかわかんねえけど涙が……すぐ、止まるから」ポロポロ

沙希「あたしは何も見てないよ。好きな人に膝枕してあげて頭を撫でる夢が叶って堪能してる最中だから」

八幡(川崎はそう言いつつもティッシュボックスを目の前に置いてくれた。俺はそこから何枚か取り、目に当てる。くそっ、何なんだこの腐った目は。ちっとも持ち主の言うことを聞かねえ)

八幡(俺が落ち着くまでのしばらくの間、川崎はずっと頭を撫でてくれていた。正直名残惜しくもあったが、俺は涙を拭き取って川崎に言う)

八幡「ありがとう、もう大丈夫だ」

沙希「ん? 何かあったの? あ、そういえば今から耳掻きするんだったね」

八幡(あくまでも見なかったことにしてくれようとする川崎。俺はそれに甘えることにした)

八幡「ああ。その、最近してなかったから汚いかもしれねえけど、よろしく頼む」

沙希「うん。綺麗にしてあげるよ」
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/25(火) 09:47:41.85


比企谷家やゆきのんの今の心境がすげえ気になる
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/25(火) 10:06:06.36
??「あ、ふーん…泥棒猫がいるんだ…お姉ちゃん心配だなー」
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/25(火) 22:06:56.04
沙希「ん……よしっ、と。比企谷、終わったよ」

八幡「………………おう」グッタリ

八幡(ヤバい。ヤバいヤバい。人に耳掻きしてもらうのってこんなに気持ち良いのか? 身体に力が入らん…………)

八幡(いや、たぶん川崎が上手なだけなんだろうけど。気持ち良すぎて変な声まで出てしまった…………もうお婿に行けない)

八幡(って、よく考えたらもう恥ずかしいとこ色々さらけ出してんな。今更か)

沙希「どうしたの? 眠いならこのまま寝ちゃう?」

八幡「あー……いや、気持ちよかったから余韻に浸ってたわ。ありがとうな」

八幡(俺は身体を起こして川崎に礼を言う)

沙希「こっちこそさせてくれてありがとね。さ、あたしもお風呂入ろっかな」

八幡「おう。今更だけど悪いな、先にいただいちゃって」

八幡(実際は固辞しようとしたのだが、『そんなにあたしが入ったあとのお湯の方がいいの?』って言われちゃなあ……)

沙希「気にしないでって。お布団そこに用意してあるから眠かったら先に寝ちゃっててもいいからね」

八幡「わかった」

沙希「あと覗くならこっそりね」

八幡「覗かねえから!」

沙希「ふふ。じゃ、行ってくる」
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/25(火) 22:07:46.07
八幡(川崎は身の回りのものを軽く片付けてから風呂場へと向かった。俺はリモコンを取ってテレビを点ける)

八幡(しかし一通りチャンネルを回したものの、特に見たい番組がなかったのですぐに消してしまった)

八幡「ま、この時間はろくなのやってねえか。ドラマ見てもわかんねえし…………あれ?」

八幡(リモコンをテーブルに置いたとこで気付く。俺の前の湯呑みから湯気が立っていた。おそらく川崎が風呂場に行く前に新しく淹れていってくれたのだろう)

八幡「気が利きすぎだろあいつ…………」

八幡(俺は湯呑みを手に取り、じっと中身のお茶を眺めながら今後のことを考えた)

八幡(とりあえず明日は予備校がある。午前中は川崎と同じだが、午後は川崎が午後一から、俺は間を空けて夕方からの講義だ)

八幡(その間は…………うん、ちょっと街中をぶらついてみよう。正直なとこ誰か知り合いに会うかもしれないし、それが怖いけどいつまでも川崎を頼るわけにはいかない。いわゆるリハビリってやつだ。手を握ってもらわなくても、抱きしめてもらわなくても、大丈夫なように)

八幡(………………)

八幡(川崎沙希、か…………)
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/25(火) 22:09:24.78
沙希「あれ、まだ起きてた?」

八幡「ああ、昨日結構寝たしな。まだあんまり眠くないんだ」

八幡(背中から声が掛けられ、俺は返事をしながら振り向く)

八幡「っ…………!」

沙希「? 何?」

八幡「い、いや、髪を下ろしてんのが珍しくてさ」

沙希「ああ、普段は結んでるからね。どう? ギャップにときめいたりしない?」

八幡「な、何言ってんだよ」

沙希「ふふ、否定しないんだね。あ、そういえばアイスあるよ。比企谷も食べる?」

八幡「お、おう。じゃあいただくわ」

沙希「ん。ならすぐ持ってくるよ」

八幡(川崎は台所へと向かう。正直髪型とかよりパジャマ姿の方にドキッとしました)

八幡(その後はアイスを二人で食べ、縫い物を再開した川崎と雑談をしながら過ごした)

八幡(何だろう。川崎といるのがすごい心地いい)

八幡(正直なところ家に一人でいるのと同じくらい居心地が良かった。気を使わず、気を付けず、気を張らず、ただ自然のままにいる)

八幡(もちろんずっとこのままというわけにはいかないのはわかっているけれども)

沙希「じゃ、そろそろ寝よっか」

八幡「そうだな。夜も遅いし」

八幡(俺達は歯を磨き、おやすみの挨拶をして寝床に向かう。川崎は自分の部屋へ、俺は居間へ)

八幡(だけどお互いの姿が見えなくなる直前の位置で俺が振り向くと、川崎もちょうどこちらを振り向いた)

八幡(川崎が軽く笑って手を振ってきたので俺も同じように返す。それに満足したか川崎は部屋に入っていった)

八幡(俺も居間に入り、電気を消して布団に潜り込む)

八幡(お休み、川崎…………)
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/26(水) 13:48:40.58
八幡(何もないだだっ広い空間に俺は一人立っていた。すぐに直感する。これは夢の中なんだと)

八幡(そして辺りを見回した途端、黒いモヤがいくつか立ち上る。ちょうど人型のサイズくらいだ)

八幡(それらから一斉に俺に向かって声が発せられる)

『ゴミ谷君』『ゴミいちゃん』『穀潰し』『勘違い』

八幡(これは夢だから、なんてごまかせるわけはない。むしろ夢だからこそ逃げることもどうすることも出来ず、心の柔らかい部分をえぐられる)

『キモい』『ゴミ』『陰鬱』『根暗』

八幡(違う! 見知らぬやつならいざ知らず、このみんなは本気でそんなことは言わない!)

八幡(だから、その声で言うのは止めてくれ!)

八幡(俺は耳を塞いでしゃがみ込んでしまう。しかしそれでも声は聞こえてくる。いつの間にか周囲は真っ暗になっていた)

八幡(逃げ出したいけど身体が動かない。叫びたいけど声が出ない。発狂しそうだ)

八幡(誰か、助けて…………)

『大丈夫?』

八幡(え?)

八幡(突然今までと違う声音に思わず顔を上げる)

八幡(先程までのモヤは消えており、周りは眩しいほどに明るくなっていた)

八幡(全身が暖かくて柔らかいものに包まれているような感覚に襲われる)

八幡(声の主は目の前にいるのだが、光加減のせいか顔はよくわからない。けど、何だろう、すごく安心する)

『大丈夫。あたしがここにいるよ』

八幡(声の主はそう言って手を差し出す。俺はおそるおそるそれに向かって手を伸ばした)
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/26(水) 13:50:15.80
沙希「んっ…………」

八幡(むにゅ、と柔らかい感触が手の平に伝わり、俺は目を覚ました)

八幡(え…………?)

沙希「あ、比企谷、起きた? おはよ」

八幡(頭の上の方から川崎の声がした。え、え、この体勢と位置関係からすると俺が顔を埋めているこのすげえ柔らかいものは…………川崎の胸?)

八幡(それに気が付いて咄嗟に離れようとしたが、首と後頭部に川崎の両腕が回されてしっかりと抱きしめられていたので逃げられなかった)

八幡(まあ本気で逃げようと思えば逃げられるだろうけど…………あれ? ひょっとしてさっき手で触った柔らかいものって…………か、考えるのを止めよう)

八幡「川崎、ここ、俺の寝てた布団だよな?」

沙希「うん、そうだけど」

八幡「何でお前がいて俺を抱きしめてんの?」

沙希「んー、やっぱり覚えてないか。あんた昨晩うなされてたんだよ」

八幡「え、そうなのか?」

沙希「ちょっと夜中に目が覚めてさ、あんたの様子を見に行ったらすごい苦しそうでね…………起こそうかなとも思ったけど昨日みたいに抱きしめたら嘘みたいに大人しくなったよ」

八幡(また夢のせいか…………)
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/26(水) 13:51:44.27
沙希「だからそのまま抱きしめながら一緒にお布団入って寝ちゃった。その、余計なお世話だった?」

八幡「んなわけねえだろ…………悪いな、本当に迷惑ばかりかけて」

沙希「そんなことないよ。比企谷と一緒に寝れたんだしね。なんならまだ寝ててもいいよ」

八幡「いや、眠くはない…………けど、その」

沙希「何?」

八幡「もう少し、お前とくっつきたい…………背中、腕回していいか?」

沙希「ん、いいよ。ほら」

八幡(川崎は腰を少し浮かす。そのくびれのある位置から片腕を通して川崎の身体に両腕を巻き付け、強く抱きしめて胸に顔を埋める)

八幡「柔らかいな…………それに、暖かい」

沙希「ブラしてないから特にそうだろうね。ふふ、いつも大きくて邪魔だって思ってたけど、少しでも比企谷が気に入ってくれたなら嬉しいよ」ナデナデ

八幡(川崎はそう言って頭を撫でてくる。正直エロい気持ちがないでもないが、それ以上に心が安らぐ。さっきまでチクチクと精神を蝕んでいた痛みはもうすっかり消えていた)

八幡「あと五分くらいだけ、こうさせててくれ」

沙希「別にもっと長くてもいいよ?」

八幡「いや、甘えすぎるともっと駄目人間になっちまうから…………」
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/26(水) 13:52:58.88
八幡(しばらく川崎と抱き合った後、俺達は起き上がって朝食をとることにした。あまり遅くなると予備校に間に合わないしな)

八幡(布団を畳んで部屋の端に移動させてテーブルに着くと、パジャマにエプロンというレアな姿をした川崎が朝食を運んできた。白米に味噌汁、目玉焼きにベーコンにサラダ。実に定番なメニューだ)

八幡(が、ある程度予想していたけど、誰が作ってもそんな変わらないであろうそれは明らかに通常より一段階上の旨さだった)

八幡「あのさ、俺は家出したっつってもいずれ戻るつもりなんだけど」

沙希「? うん」

八幡「あまり俺の舌を肥えさせないでくれよ。ずっとここにいたくなっちまうだろうが」

沙希「ふふ、そんなに美味しかった?」

八幡「ああ、すげえ旨かった。御馳走様」

沙希「ん、お粗末様でした。着替えは昨晩作った服がそこにあるから」

八幡「おう、サンキューな」

八幡(着替えると川崎はジャージを回収して洗濯機を回し、食器を洗い始める)

八幡(俺がぼーっと朝のニュースを見ている間もてきぱきと効率良く動き、家事を済ませていく)

八幡(うーむ、見てる限り専業主婦は専業主婦で大変そうだな)
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/26(水) 13:54:06.59
八幡(一通りの家事を終えて着替えてきた川崎が俺の向かいに座った。新しい茶葉を用意してお茶を淹れ、俺に差し出してくる)

八幡「ああ、ありがとう」

沙希「ん」

八幡(短いやり取りのあと、川崎はじっと俺を見つめてくる。特に用があるというわけでもなさそうで、時折柔らかく微笑む。俺は照れくさくなって顔を逸らしてしまった)

八幡(普段だったら勘違いしたり『俺の事好きなの?』とか言っちゃって馬鹿にされたりするんだが…………勘違いじゃないんだよなあ)

八幡(結局洗濯機が洗濯終了のアラームを鳴らすまで川崎はずっと俺を見ていた)
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/26(水) 14:29:27.45
もうこのまま川崎家に婿入りしてもいいんじゃないかな
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/27(木) 17:44:00.84
沙希「んじゃ、そろそろ予備校行こっか」

八幡「おう」

八幡(川崎の呼び掛けを機に俺は立ち上がった。二人で玄関に向かい、靴を履く)

沙希「あ、そうだ忘れてた。比企谷、ちょっと両腕広げてみて」

八幡「あん? こうか?」

沙希「うん…………よし、変なとこないね。急ピッチで仕上げた割には良い出来かな」

八幡「ああ、服か。サイズも問題なしだ。どうだ、格好いいか?」

沙希「うん、惚れ直したよ」

八幡「あう…………」

沙希「ふふっ、何で自分から言いだして照れてるのさ」

八幡「うっせ……行こうぜ。荷物持ってやるよ」

沙希「ありがと。ね、腕組んでもいい?」

八幡「…………人通り多くなったら離せよ」

沙希「うん、わかった」

八幡(川崎は嬉しそうに俺の腕に自分のを絡めた。何というか、本当に変わったなこいつ…………いや、全然嫌じゃないんだけどね。むしろ可愛いと思ってしまうまである)

八幡「悪いな。俺のせいで歩きになっちまって。自転車じゃないとちょっと遠いだろ」

沙希「ううん、これくらい構わないってば。教材持ってもらってるんだし」

八幡「そっか」
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/27(木) 17:45:20.60
八幡(適当に雑談しながら歩き、予備校に到着する。ここでようやく川崎は腕を解いた。何となく止めさせるのが躊躇われてここまで組んだまま来てしまったのだ)

沙希「歩きだから早めに来たけど思ったより時間かからなかったね」

八幡「そうだな。ま、教室行って準備してようぜ」

沙希「うん」

八幡(俺達は連れ立って屋内に入って教室に向かう。その際に受付の前を通り、何人かの講師とすれ違ったりしたが、まったく俺の事を気に掛ける者はいなかった)

八幡「なあ、俺ってここに通ってたよな…………?」

沙希「いや、ここって結構放任タイプだからでしょ。やる気ないやつはほっとくしやる気あるやつはしっかり教えるってのが売りなんだから。正直生徒が来ようが来まいが関係ないんじゃない?」

八幡「そ、そうだよな。いないものになってないよな俺。存在が認識されなくなったわけじゃないよな?」

沙希「疑うなら声でもかけてみればいいじゃない…………」

八幡「ばっかお前、最低限必要なこと以上の話をしなきゃいけないなんて罰ゲームだろうが。今俺は人間不信なんだぞ」

沙希「それは元からって言ってたじゃない…………ま、あの様子だと比企谷の家に連絡がいくとかもないでしょ。行こ」

八幡「おう」
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/27(木) 17:47:28.36
八幡(俺達は教室に入り、並んで座る。教材を出して講義の準備を済ませ、待機状態に入った)

八幡「悪いな、ノートや筆記用具まで用意してもらって」

沙希「あのさ、いちいちお礼言わなくていいって」

八幡「いや、でもこういうのは」

沙希「あんたが戻るときにまとめて言ってくれればいいからさ。そこまで気にしないでよ」

八幡「……まあ、善処はする」

八幡(やがて他の予備校生達も集まってき、間もなく講師がやってきて講義が始まった。俺は川崎と一緒に参考書を見ながらノートを取っていく)

八幡(そんな感じで午前の分が終わり、昼休みになる)

八幡「そういや昼飯どうするんだ? 俺は食わなくても我慢できるけど」

沙希「しなくてもいい我慢をしないでよ…………ちゃんと作ってきたってば」

八幡「え、俺の分も?」

沙希「当然でしょ。ご飯ここで食べていいって言ってたし、はい」

八幡「お、おう。サンキュ」

八幡(俺は川崎から差し出された弁当箱を受け取る。開けると栄養バランスも考えられてそうな色とりどりのおかずとおにぎりが入っていた)

八幡「相変わらず旨そうだな…………いただきます」

沙希「うん、召し上がれ」
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/27(木) 17:49:47.94
八幡「しかしいつの間に用意してたんだ? 冷凍食品とかじゃないだろこれ」モグモグ

沙希「朝ご飯作るときに下拵えは済ませたからね。洗濯物干した後にぱぱっと」モグモグ

八幡「冷めてもちゃんと旨いってのはすごい。おにぎりもわざわざ箸で掴めるサイズに握ってるしおかずも多いし」モグモグ

沙希「トマトは入ってないから安心して食べてね」モグモグ

八幡「ああ。でも川崎が用意してくれるんならトマトも平気で食えそうな気がする」モグモグ

沙希「今日夕食に出そっか?」モグモグ

八幡「できればやめてくれ…………御馳走様でした」

沙希「お粗末様でした。あたしも御馳走様。弁当箱回収するよ」

八幡「おう、サンキュ」

沙希「ん。ところであんた午後はどうするの? 一回家に帰る?」

八幡「いや、ちょっと街をぶらつこうかなと」

沙希「…………大丈夫?」

八幡「はは、何がだよ?」

沙希「ううん。でも何かあったら家に帰っててもいいからね」

八幡「わかった。でも、ま、そうそう何も起きねえよ。お前の講義が終わるくらいに戻るから」

沙希「うん」

八幡(この時俺は楽観的に考えていた。しかし比企谷八幡という人物は相当運に見放されているらしい)

??「あっれー、比企谷君じゃん!?」
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/28(金) 18:35:12.92
八幡(本屋の店頭で広告を見ていた俺の背中に声が掛かった)

八幡(おそるおそる振り向くと案の定そこには陽乃さんがにこにこ笑いながらこちらにやってくる)

八幡「…………どうも」

陽乃「ひゃっはろー、奇遇だねー。一人?」

八幡「俺はいつだって一人ですよ。家でも学校でも」

陽乃「あっはっは、相変わらず面白いね比企谷君は。どう、暇ならお姉さんとお茶でもしない? 奢るからさ」

八幡「良いですよ」

陽乃「そう言わずにちょっとだけでも…………え?」

八幡「でもちゃんと奢ってくださいね。俺今一文無しなんで」

陽乃「嘘……あの比企谷君が私の誘いを受けるなんて」

八幡「断られる自覚あったんですか…………いや、社交辞令だったら別にいいんですよ無理しなくても」

陽乃「待った待った、ならちょっと先の喫茶店行こう。お昼食べてないから小腹も空いたし。ちゃんと奢るから、ね」

八幡「わかりました。お付き合いします」

八幡(俺と陽乃さんは喫茶店へと歩き出す。と言っても本当にすぐそこだったのだが)
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/28(金) 18:36:25.24
陽乃「私はこのBセットを。比企谷君は?」

八幡「俺は腹減ってないのでホットコーヒーだけで」

陽乃「遠慮しないでいいのに。ま、とりあえずそれで」

八幡(注文を受けたウエイトレスが確認し、カウンターへと戻っていく。陽乃さんは無遠慮にじろじろと俺を見てきた)

八幡「…………なんですか?」

陽乃「比企谷君、今日デート?」

八幡「何でですか。俺にそんな相手いませんよ」

陽乃「えー、雪乃ちゃんがいるじゃない。なんかやたらおめかししてるからさ」

八幡「そうですか? 俺にはよくわかりませんが。あとあいつが俺とデートするわけないでしょう」

陽乃「そんなことないよー、あの子比企谷君のこと大好きだもの。ちょっと電話して誘えばイチコロだって」

八幡「勝算のない戦いはしないことにしてますので」

陽乃「だからいけるってば。そんな消極的な男の子は好きくないなー」

八幡「別に貴女には嫌われたって構いませんけどね」

陽乃「へえ…………つまり嫌われたくない子はいるわけだ」

八幡「っ…………!」

八幡(その言葉尻を捉えた台詞に思わず動揺してしまった)

八幡(嫌われたくない子がいる、と指摘されたことにじゃない。そう言われて無意識に頭に思い浮かべたのが他の誰でもない、川崎沙希だったからだ)
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/28(金) 18:38:52.54
陽乃「あ、やっぱりいるんだ。誰? 雪乃ちゃん? ガハマちゃん?」

八幡「…………小町に決まってるじゃないですか」

陽乃「えー、そんなのつまんないー」

八幡(唇を尖らせてむくれる陽乃さん。この態度から察するに雪ノ下経由で俺が家出したことは伝わっていないようだ)

八幡(取るに足らないことだからなのか、大事にしたくないからなのかはわからないが。まあどうせ前者なのだろう)

八幡(やがて注文の品が届き、陽乃さんはサンドイッチに手を伸ばした。俺は自分の前に置かれたコーヒーに砂糖を入れる)

陽乃「でもさー、もうちょっと雪乃ちゃんに構ってあげてよ。雪乃ちゃんが寂しがるじゃない」

八幡「そんなことないでしょう。あいつには由比ヶ浜もいますし」

陽乃「あの子はあの子で雪乃ちゃんの友達やってくれてるからありがたいんだけどねー」

八幡(そんな雪ノ下を中心とした会話をしばらく陽乃さんと行い、俺は自己分析をする。元々陽乃さんの誘いに乗った理由はこのためだ)

八幡(陽乃さんと会話をするのはそんなに怖くない。やはりある程度親しい関係にある人と話すのが俺は怖いのだろう)

八幡(いや、正確に言えば傷つけられたり裏切られたりするのが、か…………もうちょっとタフだと思ってたんだけどな、俺の精神)
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/28(金) 18:40:50.42
八幡(その点陽乃さんとはそういった関係ではないからな。むしろ裏切られることしかないまである)

陽乃「そういえばそろそろ比企谷君に確認しておきたいんだけどさ」

八幡「なんですか改まって?」

陽乃「比企谷君てさ、結局雪乃ちゃんのことをどう思ってるの?」

八幡「…………それに答える義務も義理もありませんよね」

陽乃「そうだね。だからこれは雪乃ちゃんの姉の好奇心として聞いてるだけ。言いたくなければ言わなくてもいいよー」

八幡(陽乃さんは軽い感じで言ったが、その目はどうにか俺の本心を見破ろうと観察力を働かせているのがわかる)

八幡(しかし実際のところどうなのだろう? 俺は今、雪ノ下雪乃に対してどんな感情を抱いているのだろうか?)

八幡「ちょっと、考えさせてもらっていいですか? 自分でもよくわからないとこあるんで」

陽乃「え? あ、うん」

八幡(俺の返答が意外だったのだろう。気の抜けた返事が返ってきた)

八幡(俺は目を閉じて今までのことを思い出す。奉仕部で出会ってから今に至るまでの、様々なことを)

八幡「…………」

陽乃「…………」

八幡(ゆっくりと目を開けると、珍しく真剣な表情をした陽乃さんがこちらを見ていた)

陽乃「結論は出たのかな?」
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/28(金) 18:41:58.85
八幡「ええ…………やっぱり好き、だったんでしょうね」

陽乃「…………」

八幡「憧れ、というのもありますがそれを含めても好きだったという感情が一番近いと思います」

陽乃「もちろん男女的な意味でだよね?」

八幡「もちろん恋愛的な意味です。元々俺は惚れっぽい方ですが、才色兼備でありながら常に己を高めようとするその姿勢は眩しいものでしたよ。あれだけ一緒にいて惚れるなという方が無理でしょう」

陽乃「でも過去形にしたってことは今では好きじゃないってこと?」

八幡「まあそうですね。原因は端的に言えば諦念と疲労感ですよ」

陽乃「…………」

八幡「同じぼっちでありながら立場も生き様もまるで違う。俺なんかが釣り合う相手じゃない」

陽乃「…………雪乃ちゃんは特別な人間なんかじゃないよ。どこにでもいる普通の女の子だよ」

八幡「知ってます」

陽乃「え?」

八幡「だから今言ったのは体の良い言い訳です。雪ノ下さん以外にはこう言うつもりですから」

陽乃「…………私には何て言うの?」

八幡「疲れたんでしょうね。好きでいることに」

陽乃「…………」
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/28(金) 18:43:07.21
八幡「雪ノ下さん、貴女人間のクズですよね」

陽乃「!! …………突然何を言うのかな、比企谷君?」

八幡(陽乃さんは目を細めてギロリと俺を睨む。こええ!)

八幡(だけど次の瞬間ハッとして、しまった!という表情になる)

八幡「すいません。ですが本気で言ったわけじゃないんです」

陽乃「う…………」

八幡「常日頃からこんなふうに言われながらもその相手を好きでい続けるのってたぶんすごいエネルギーを使うんですよ。そういう扱いには慣れているつもりなんですけどね、やっぱり慣れてるだけで辛くないわけじゃないので。だから俺はいつの間にか雪ノ下を好きになり、いつの間にか雪ノ下を好きじゃなくなったんでしょう」

陽乃「でも、雪乃ちゃんは本気で言っているわけじゃなくて」

八幡「わかってますって。本気だったら俺はとっくに奉仕部を辞めてます」

陽乃「…………」

八幡「まあそんなとこですよ。雪ノ下さんはなぜか俺を買い被って雪ノ下とくっつけようとか思ってるみたいですが、そんなことにはなりませんから」

陽乃「…………雪乃ちゃんが暴言を吐かずに優しくなったらどう?」

八幡「ないでしょうね」
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/28(金) 18:44:48.43
陽乃「どっちの意味で?」

八幡「どっちの意味でもです」

陽乃「そっか…………」

八幡(陽乃さんはふうっと溜め息を吐いた)

八幡「一応言っときますけど雪ノ下には今の話をしないでくださいよ。また何か色々言われるのも疲れますんで」

陽乃「うん、前向きに検討しとくよ」

八幡「NOと同意義語じゃないですかそれ…………」

八幡(俺は店内にある時計を確認する。もういい時間だった。思ったより長く話し込んでいたようだ)

八幡「すいません、俺ちょっと行くとこがあるんでここらで失礼します。コーヒー御馳走様でした」

陽乃「うん。私はもう少しここにいるから。ねえ比企谷君、これからも雪乃ちゃんと仲良くしてあげられないかな? もちろん恋愛要素抜きで」

八幡「俺は構いませんよ。雪ノ下のことを嫌いになったわけじゃありませんからね。恋してなくとも憧れや尊敬はしてますから。それじゃ」

陽乃「うん。またね」

八幡(陽乃さんに別れを告げ、俺は喫茶店を出た。少し早足で行けばちょうどいいくらいか)








??「………………あれは……」
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/28(金) 18:45:53.62
八幡(予備校に向かいながら陽乃さんとの会話を思い出し、俺は自分の手を見る)

八幡(ある程度落ち着いて心の整理が付いたのだろうか、家族や雪ノ下の話題になってもその手が震えることは最後までなかった)

八幡「まあ、まだ会うのはちょっと怖いけどな…………」

八幡(俺は予備校に着き、待合室の椅子に座って川崎を待つ)

沙希「ん、お待たせ。何もなかった?」

八幡「んー、どうだろ?」

沙希「?」

八幡「ま、帰ってから話すよ」

沙希「そう? じゃ、これ参考書とか。あたしは先に帰ってて夕飯の支度してるから。それとも待ってようか?」

八幡「いや、いいよ。遅くなっちまうだろ」

沙希「うん。夕飯のリクエストはある? 特になければ魚系でいこうかと思ってるけど」

八幡「お、いいな。じゃあそれでよろしく頼む」

沙希「わかった。じゃあまた後でね」

八幡「おう」

八幡(俺は川崎と手を振って別れ、教室に入る。受け取った鞄から教材を出し、講義の準備をし始めた)
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/28(金) 19:16:14.10
陽乃さんがいいお姉ちゃんしてて
流石は千葉の姉妹だと感心した
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/28(金) 19:51:46.13

よかった…はるのんの八幡への好感度が下がらなくて
あの人に嫌われたら潰されるからね…
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/29(土) 22:42:28.29
小町「御馳走様でした…………」

結衣「こ、小町ちゃん、もう少し食べないと身体に悪いよ」

小町「すいません、でも食欲がなくて……」

雪乃「…………ごめんなさい、小町さん」

小町「な、なんで雪乃さんが謝るんですか?」

雪乃「やっぱり比企谷君が出ていったのは私のせいだと思うの」

小町「ち、違います! 小町がお兄ちゃんに非道いことを言ったからで…………」

雪乃「でもあなたも御両親もいつも通りの対応だったのでしょう? だったら普段いない私が原因だとするのが自然よ」

小町「いえ、雪乃さんこそいつも通りだったじゃないですか。小町達の方がテンション上がってお兄ちゃんに色々言っちゃったから…………」

結衣「それを言うならあたしだって普段からヒッキーに非道いことを言っちゃってるよ…………だからさ、ヒッキーが帰って来たらみんなで謝ろ?」

小町「……はい」

雪乃「そうね、そうしましょう」

結衣「うん! でもそのためにはちゃんと元気でいないと。さ、ご飯食べよ? せっかくゆきのんが作ってくれたんだから」

小町「はい! …………すいません雪乃さん、わざわざウチに作りに来てもらっちゃって」
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/29(土) 22:44:45.41
雪乃「いいのよ。私も一人だと気が滅入ってしまうし…………その、比企谷にも謝らなければいけないし」

結衣「はあー、ヒッキーどこ行っちゃったのかなあ…………ちゅうにのとこにも彩ちゃんのとこにもいないっていうし」

小町「お兄ちゃんが頼る人なんてそうそういないと思うんですけどね…………」

雪乃(私達三人はテーブルの上に置かれたスマートホンを見る。比企谷君の自室に置きっぱなしにされていたものだ)

雪乃(悪いとは思ったけれど中身を見せてもらい、何か比企谷君の行方のヒントがないかチェックさせてもらった)

雪乃(その結果、収穫はゼロ。数少ない知人の誰も彼の居場所に心当たりはないらしい)

雪乃(誰も口にしないけれど…………どうしても最悪の状況が頭に浮かんでしまう)

雪乃(警察にこそ届けてはいないものの、小町さんは食い入るようにニュース番組や新聞の事故欄を見ているし、御両親も頻繁にネットニュースを仕事の休憩中に確認していると聞く)

雪乃(比企谷君…………)

結衣「やっぱり、誰かに探すの手伝ってもらう? 大袈裟になるのを嫌がるのはわかるけど、優美子や隼人君くらいなら…………」

雪乃「そろそろそれも視野に入れないといけないかもしれないわね……」
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/29(土) 22:45:49.61
雪乃(そんな会話をしていると音楽が鳴り出した。どうやら誰かの携帯の着信音のようだ)

結衣「あ、ごめんあたし。…………姫菜? ちょっと電話してくるね」

雪乃(どうやら海老名さんかららしい。由比ヶ浜さんは電話を持ってリビングを出て行った)

雪乃(正直なところ由比ヶ浜さんを呼んで良かったと思っている。彼女の明るく前向きな姿勢には私も小町さんもだいぶ救われているのだから)

小町「とりあえずあとでまた上行ってお兄ちゃんの部屋を見てみましょう。結衣さんがいたら何か新しい発見があるかもしれないですし」

雪乃「そうね。あまり男性の部屋に無断で入るのは感心しないのだけれども…………今回は仕方ないわね」

小町「んっふっふー、そんなこと言っても内心はお兄ちゃんの部屋に興味津々なんじゃないですか?」

雪乃「な、何を馬鹿なことを…………!」

雪乃(しばらくぶりに見た小町さんの笑顔。少しは元気が出たのかしら?)

雪乃(けれどその表情は廊下から聞こえてきた由比ヶ浜さんの声で一変する)

結衣『えっ!? ヒッキーが!?』
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/29(土) 22:46:56.86
雪乃・小町「「!!」」

雪乃(二人ともばっと廊下の方を見る。しかし由比ヶ浜さんの電話の内容を盗み聞きするのも躊躇われてどうしようか逡巡していると、由比ヶ浜さんがドアを開けてリビングに戻ってきた)

結衣「うん、じゃ、電話切るね。詳しいことはまた今度話すから。ありがと」

小町「ゆ、結衣さん! 今、お兄ちゃんのことを!?」

雪乃(電話を切った由比ヶ浜さんに小町さんが駆け寄って声を掛ける)

結衣「う、うん。なんか姫菜がね、昼にヒッキーっぽいのを見掛けたらしいんだけど…………その……陽乃さんぽい人と一緒だったって」

雪乃「!」

雪乃(私は部屋の端に置いてあった鞄を漁り、携帯を取り出して姉さんの番号を検索する。履歴からすぐに見つかり、コールボタンを押した)

小町「でも何で結衣さんに連絡が来たんですか? お兄ちゃんのこと言ったんですか?」

結衣「う……その、ヒッキーが他の女性に取られちゃうよって発破をかけようとして電話してきたんだって…………」

小町「おやおやー」ニヤニヤ

雪乃(比企谷君が見つかったためか二人が呑気に話している。けれども私は気が気でない。姉さんが関わると大抵禄なことにはならないのだから)
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/29(土) 22:50:56.75
陽乃『はいはい、お姉ちゃんですよー。雪乃ちゃんからかけてくるなんて珍しいねー』

雪乃(数コールのあと、陽気な姉さんの声が聞こえてきた。二人にもわかるようにスピーカーモードにする)

雪乃「姉さん、無駄話も余計な腹の探り合いも無しよ。お願いだから比企谷君に会わせてちょうだい」

陽乃『…………え? どうしたの突然?』

雪乃「無駄話は無しと言ったはずよ。昼にも比企谷君と会っていたのでしょう?」

陽乃『あ、うん。街の中で偶然会ってさー、お茶に誘ったら珍しく断られなくてね。誰か見てたの? でも別れてからはどこ行ったか知らないよ。というか会いたいなら比企谷君の家に行けばいいじゃない。住所を知らないってことはないんでしょ?』

雪乃「…………」

陽乃『雪乃ちゃん?』

雪乃「姉さん、それは本当のことなの?」

陽乃『えっと、雪乃ちゃんが何を言っているのかわからないんだけど…………』

雪乃「…………比企谷君、家出して行方不明だったのよ」

陽乃『はあっ? だって、めちゃくちゃ普通だったよ? いや、私の誘いを受けた時点で普通じゃなかったのかな…………』

雪乃「ちょっと詳しい話を聞きたいのだけれどいいかしら?」

陽乃『直接会って話した方が良さそうだね。雪乃ちゃんは今どこにいるの?』

雪乃「比企谷君の家よ。御両親は仕事で遅くまで帰って来ないけど小町さんと由比ヶ浜さんが一緒にいるわ」

陽乃『おっけ。すぐに行くから待ってて』

雪乃(そう言うなり姉さんは通話を切る。私も携帯電話を待機状態に戻して鞄にしまった)

雪乃「姉さんが会っていたのは比企谷君本人で間違いなさそうね…………遠くへ行ったり何かに巻き込まれたりとかはないみたいよ」

結衣「ああ、良かった…………」

小町「お兄ちゃん……良かったよぉ……」

雪乃(やはりどこか不安だったのだろう。とりあえずの無事が確認されて安堵の溜め息が漏れる。かくいう私も肩の力が抜けるのがわかった)
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/29(土) 22:53:27.94
八幡(講義を終えて川崎家に向かっている最中、俺は幾度も小町や両親、そして雪ノ下との会話を思い出していた)

八幡(フラッシュバック、などではなく意図的にだ。そして自分の手を見る)

八幡「…………うん」

八幡(ほぼ震えていないそれを見て俺は満足げに頷いた。立ち直りが早いと自分を誉めてやるべきだろうか?)

八幡「それでもしまたすぐに傷付いたら世話ないけどな…………おっと」

八幡(いつの間にか川崎家に到着していた。俺は呼び鈴に指をかける)

八幡「………………」

八幡(しかし俺はそれを鳴らさず、そこから離してポケットに手を伸ばす。そこには川崎から預かった鍵が入っていた)

八幡(こっそりと入って川崎を驚かしてやろう、なんて子供じみた悪戯心を起こしてしまったのだ)

八幡(そんな行動をあとで激しく後悔するとも知らずに俺は鍵穴にそっと鍵を差して解除し、ドアノブを回す)
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/29(土) 22:55:37.44
八幡(音を立てずにドアを開け、靴を脱いで気配のする台所へと向かう)

八幡(静かに様子を窺うと、火をかけている鍋の前で鼻歌を歌っているエプロン姿の川崎がせわしなく動いていた)

八幡(さすがに火を使っている時に驚かすのはマズいな、止めとくか…………てか随分機嫌良さそうだな)

八幡(どう声を掛けたものかと考えていると、川崎がお玉で鍋の味噌汁を少し掬って小皿に取り、つっと味見をするのが見えた)

沙希「ん、我ながら良い出来だね。比企谷も美味しいって言ってくれるかな?」

八幡「…………」

沙希「おかわりとか、してくれるかな…………ううん、贅沢言っちゃ駄目だ。好きな人に食べてもらえるだけでありがたいと思わなくちゃ」

八幡「…………」

八幡(俺は細心の注意を払ってその場を離れる。どうにかバレずに一旦外に出て来れた)

八幡「…………」

八幡(何なの!? 何なのなの!? あいつ俺のこと好き過ぎじゃね!?)

八幡(俺は恥ずかしさのあまりその場にうずくまってしまった。くそ! 聞かなきゃよかった! 絶対顔真っ赤だぞ俺、どんな顔で会えばいいんだよ!)
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/29(土) 23:12:49.73
乙、もうニヤニヤしてしまう
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/29(土) 23:44:27.28
乙ー。
ゆきのんや小町サイドも話出てきて満足。
いちゃいちゃも見たいが小町サイドも新鮮でいいなぁ
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/30(日) 03:41:25.58
もうぶっちゃけどっちサイドも面白くて続きとか気になって辛い
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/30(日) 23:43:09.35
小町「どうぞ」コトッ

陽乃「うん、ありがとねー」

雪乃(姉さんが到着し、小町さんがお茶を淹れる。皆が椅子に座ったところで早速私は切り出した)

雪乃「姉さん、もう一度確認するけれど姉さんは昼に比企谷君と会っていたのよね?」

陽乃「うん。それは間違いないよ。どっちかって言うと家出したってのを疑っているくらいなんだけど…………」

雪乃「彼は一昨日の夜から帰ってきてないの。御両親も仕事にこそ行っているけれどいまいち手につかないそうよ。三日経って見つからなければ警察に届けようと仰っていたわ」

陽乃「でもさー、イマドキ男子高校生が二日くらい家を空けるのって珍しくもないんじゃない? そりゃ比企谷君は友達の家を泊まり歩くとかは出来ないけど」

雪乃「いえ、比企谷君は携帯電話も着替えも、財布すら持っていないのよ…………原因は、私達のせい」

陽乃「…………何があったの?」

雪乃「ええ、順番に全部話すわ。その後姉さんの話を聞かせてちょうだい」

陽乃「うん、わかった」

雪乃(珍しく真剣な表情の姉さんに私はあの日のことを話し出す)
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/30(日) 23:43:54.61
八幡(よし、だいぶ落ち着いた。過去の経験が活きたぜ。昔の恥ずかしいトラウマを思い起こし、今の恥ずかしい気持ちを相殺する。毒を持って毒を制すってやつだな)

八幡(改めて深呼吸したあと呼び鈴を鳴らし、今帰宅したことをアピールしつつドアを開ける)

八幡(玄関先に腰を下ろしてスニーカーの紐を緩めていると、奥からパタパタとスリッパを鳴らして川崎がやってきた)

八幡「おう、ただいま」

沙希「お帰りなさい、お疲れ様。もうすぐご飯出来るからね」

八幡(川崎はそう言って、俺が傍らに置いた教材の入った鞄を取った)

八幡(靴を脱いで立ち上がり、居間に向かう俺の後ろを着いてくる。なんだかこれって…………いやいや)

沙希「ふふ、なんだか夫婦みたいだね。仕事帰りの旦那様と、食事を用意して待ってる奥さん、って感じで」

八幡(うおおい! 深く考えないようにしてたのに! また俺の顔が赤くなっちまうだろうが!)

八幡(しかし、それを誤魔化すために言った俺のセリフは最悪なものだった)

八幡「ははは、だったらお帰りのキスでもするか?」

沙希「え、していいの?」

八幡(そうだったよ! こいつ俺のこと好きなんだったよ!)
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/30(日) 23:46:13.08
八幡「い、いやっ、その…………そうだ! 帰ったらまず手を洗わないとな!」

八幡(俺は逃げるように洗面所へと早足で向かう。川崎は楽しそうに笑いながら台所へと戻って行った)

八幡「うう…………やっぱり赤くなってやがる」

八幡(鏡を確認して俺は呟く。正直小町や親や雪ノ下達とのことなんかどうでも良くなってきたぞ…………考えてみりゃ勝手に俺が落ち込んでるだけだもんな。あっちからしてみればいつも通りの事をしてるだけだったんだし、理不尽に感じているかもしれん)

八幡(………………)

八幡(………………)

八幡(ま、いいか)

八幡(ちょっと考えるのが面倒くさくなったので俺は思考を放棄する。いや、どちらかといえば川崎への対応でいっぱいいっぱいになり、そっちまで考える余裕がないというのが本音だが)

八幡(とりあえず居間に行くか…………)

八幡「ん、いい匂いだな」

沙希「うん、お魚が上手く焼けたからね。あとお味噌汁注ぐだけだから座って待ってて」

八幡「おう」

八幡(俺はテーブルの前に胡座をかく。焼き魚に大根おろし、白米に漬け物、それらが食欲をそそる匂いを漂わせている)

沙希「はい、お味噌汁。あとおかず足りなかったらこれ」

八幡(味噌汁の入った器を置いた後、テーブルの中央に煮物の入った皿を出す)

八幡「お前、本当に何でも作れるんだな……」

沙希「まあウチは両親とも共働きでご飯とかはあたしが作ってたからね、習うより慣れよってやつだよ。さ、食べよ?」

八幡「ああ、いただきます」

沙希「うん、いただきます」

八幡(エプロンを外した川崎と共に食事を開始し、俺は箸を伸ばす)
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/30(日) 23:47:20.18
雪乃「…………そしてさっき由比ヶ浜さんの友人から比企谷君と姉さんが一緒にいるのを見掛けたと電話があって、姉さんに連絡したのよ」

陽乃「そっかー、だからか…………」

小町「だからか、って何がですか?」

陽乃「うん。喫茶店でお話したときにね、雪乃ちゃんやガハマちゃん、それと小町ちゃんの名前が出る度に比企谷君の顔が一瞬強張ってたの」

小町「え…………?」

陽乃「たぶん、比企谷君は親しい人に会うのが怖い状態なんじゃないかな? また蔑まれるんじゃないか、傷付けられるんじゃないか、って」

結衣「ヒ、ヒッキーを傷付けるなんてそんな!」

陽乃「ないって言える?」

結衣「う…………いえ、たぶんあたしはずっとヒッキーを傷付けていた。あんなにキモいキモいって言いまくって……本当はそんなこと思ってないのに……」

陽乃「自分で言うのも何だけど私とは信頼関係があるわけじゃないからね、だから普通に会話できたんだろうけど…………ま、ある意味雪乃ちゃん達三人は比企谷君に信頼されていたってことだよね」

雪乃「でも、私達がそれを壊してしまった…………比企谷君の優しさに甘えていたのよ…………由比ヶ浜さんにもとばっちりで迷惑をかけて」
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/30(日) 23:49:21.68
結衣「それは違うよゆきのん! さっき言ったようにあたしだってヒッキーに色々言っちゃってたんだから! 誰が悪いのかって言ったらあたし達みんなでしょ。だから、みんなで謝ろ? 自分だけ悪いみたいな言い方しないでよ」

雪乃「そうね……ごめんなさい」

陽乃「ま、家出の原因はわかったけど…………それじゃあ比企谷君はどこにいるんだろうね? さっきの予想が当たってたら、親しい人にこそ会いたくないって言うなら、比企谷君はどこで寝泊まりや食事をしてるのかな?」

雪乃「それに関して姉さんに聞きたいのだけれど、比企谷君は靴を履いていたかしら? 彼は靴も履かずに飛び出してしまったのよ」

陽乃「うん。普通の運動靴っぽいやつだった。服装は結構キマってたかな。もしかしたらデートでも行くのかって思ったし」

小町「え? こんな服装じゃなかったですか?」

雪乃(小町さんはスマホの画面を姉さんに見せた。あの食事会の時に私の料理を写メに撮ったのだが、その際に比企谷君が写り込んだものだ)

陽乃「ううん、全然違うよ。今年の流行ものっぽかったし、どこかで買ったんじゃない? あ、でもお金持ってないんだっけ」
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/30(日) 23:51:00.53
雪乃「…………さすがに店頭のものを盗むようなことはしないでしょうし、やはり誰かのところに世話になっていると考えるのが妥当かしら?」

陽乃「比企谷君の知り合いには全員当たってみたの?」

雪乃「心当たりはすでに連絡済みよ。ほとんどいないけれども」

結衣「うーん、やっぱり隼人君達にも聞いてみるよ。彩ちゃんとちゅうにの他にヒッキーが頼ろうとする男子なんて思い付かないもん」

陽乃「まさか女の子のところだったりして、なんてねー」

小町「あはは、有り得ますね!」

雪乃「………………」

結衣「………………」

陽乃「あれ、どしたの雪乃ちゃん?」

雪乃「いえ、何でもないわ…………ところで姉さん、喫茶店では比企谷君とどんな話をしたのかしら?」

陽乃「それは、ちょっと…………」

雪乃「私達には言えないような話なの?」

陽乃「できれば雪乃ちゃんだけに話したいかなー、って」

雪乃「ここにいる二人にとっても他人事ではないのよ。比企谷君がどこにいるかのヒントがあるかもしれないし、二人にも聞いてもらいたいわね」

陽乃「…………雪乃ちゃんにはちょっとショックな話なんだけど」

雪乃「比企谷君が家出する以上のショックなんてそうそうないわよ。早く教えてちょうだい」

陽乃「んー…………ま、いいか。雪乃ちゃんには少しお灸を据える意味でも、ね」

雪乃「お灸?」

陽乃「うん、えっとね」
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/31(月) 22:04:53.82
雪乃(いざ姉さんが口を開こうとしたとき、チャイムが鳴って玄関の方から気配がする。一瞬比企谷君が帰ってきたのかと思ったけれど、どうやら御両親らしい)

小町「あ、お父さんお母さんお帰り。今日は早かったんだね」

雪乃(ドアから顔を覗かせた小町さんが対応する。すぐにお二人ともリビングにやってきた)

比企谷父「来ていらしたんですか、雪ノ下さんに由比ヶ浜さん。それと…………」

陽乃「あ、お初にお目にかかります。私は雪乃の姉の雪ノ下陽乃といいます」

比企谷父「どうもご丁寧に。八幡と小町の父です。こちらは家内です」

比企谷母「どうも。えと、お姉さんは八幡のことをご存知なのですか?」

小町「あ、そうだ! お父さんお母さん、陽乃さんがお昼にお兄ちゃんと会ったんだって!」

比企谷父「えっ!? そ、それは本当ですか!?」

陽乃「はい。普段とそんなに変わったところは見受けられなくて雪乃から聞いて驚きました。とりあえずその時の詳しい話をしようとこちらに伺った次第です」

比企谷母「八幡は! 八幡は元気だったですか!? 怪我などしていたりは!?」

小町「お母さん落ち着いて。とりあえず座ろうよ」
452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/31(月) 22:05:50.69
比企谷母「あ、す、すいません」

比企谷父「このような格好で申し訳ないですが、お話を聞かせていただけますか?」

陽乃「はい。と言ってもそんなに話せることはないんですけど」

雪乃(姉さんはそう前置いて私達に話したのと同じようなことを御両親に伝えた)

陽乃「ですから、どこにいるかはともかく事件や事故とかに遭っている様子はないのでそこは安心してください」

比企谷父「そう……ですか」

比企谷母「よかった……よかったわ八幡…………」グス

陽乃「ふふ、八幡君は愛されてますね。こんな家を飛び出してしまうなんて悪い子です」

比企谷父「いえ…………悪いのは我々の方なんです」

陽乃「……といいますと?」

比企谷父「親の口から言うのも何ですが、アレはいい息子に育っていると思ってます。少々性格がひねくれて人付き合いに難はありますが、勉強はそれなりに出来ますし人を思いやる優しさを持ち合わせています」

陽乃「そうですね。誤解されたり本人は否定しがちですが、私は彼のことを買っていますよ」

比企谷父「そう言っていただけると…………要領もよくて何だかんだ大抵のことは自分だけでこなしてしまうし、一人でいるのが好きなようで」
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/31(月) 22:09:28.65
陽乃「はい」

比企谷父「しかしそれ故に私達は間違ってしまったんです。八幡に関しては放任主義気味になってしまい、八幡もそれをよしとしているように見えてしまいました。どんなにしっかりしててもあいつはまだ高校生だというのを失念してしまっていたんです。まだ親の愛情を必要としている歳だと言うのにっ…………」

陽乃「…………」

比企谷父「…………失礼、取り乱してしまいました。息子の知人に話すことではありませんでしたね」

陽乃「いえ。ですがお気持ちはよくわかりますよ。八幡君にその思いをぶつけてみてはどうでしょうか?」

比企谷父「ええ、そのつもりです。それと、つい蔑ろにするようなことを本心でないとはいえ言ってしまったのも謝らなければなりませんし…………それで、八幡はどこに行ったかはわかりませんか?」

陽乃「すいません、それはわかりかねまして…………」

比企谷父「そうですか……あの、喫茶店で八幡とはどのような話を?」

陽乃「それは、ちょっと御両親には…………」

雪乃「姉さん、いったいどんな話をしたのよ。御両親にも話しづらいことなの?」

陽乃「えっと、いわゆる恋バナを…………ね」

比企谷父母「!」

雪乃・結衣・小町「「「えっ!?」」」

陽乃「ちょっと込み入った話もしたので、さすがに親に知られるのは子供からすれば止めてほしいのではないかと…………」

比企谷父「そう、ですね。八幡もいい気はしないでしょう」

比企谷母「でも……」

比企谷父「だから小町、一旦小町が聞いてくれないか? それで私達に話していいと判断したところだけあとで教えてくれればいい」

小町「うん、わかった! それじゃ皆さん、小町の部屋に移動しましょう!」

雪乃(小町さんが立ち上がり、私達もそれに倣って移動する。でも気になるわね、比企谷君の恋バナ…………)
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/31(月) 22:12:32.95
八幡「御馳走様でした…………」

沙希「お粗末様でした……ってどうしたの? 美味しくなかった? まさか無理しておかわりしてくれたんじゃ…………」

八幡「ちげえよ逆だ逆。あのな、俺運動部じゃないんだから食ったらそれだけ太りやすくなるんだぞ。旨すぎて何度もおかわりしちゃうのを制止してくれよ。俺自身の意志じゃ止まんねーんだから」

沙希「なにその理不尽な怒り方…………えっと、そんなに美味しかった?」

八幡「語彙が足りなくて申し訳ないが、すっげえ旨かった。お前の家族が羨ましいわ」

沙希「ふふ、ありがと。でもあんただったらあたしと家族になれる方法があるよ」

八幡「え…………あっ!」

沙希「じゃ、食器片付けちゃうね。少ししたら予備校の講義の復習、一緒にやろ?」

八幡「お、おう」

八幡(川崎は食器を持って台所に行き、洗い物を始める)

八幡(さっきのあれ…………つまりそういうことだよな? いや、俺のことを好きだっていうならそうなんだろうけど)

八幡(やべえな。川崎が俺の中でどんどん大きくなってる…………いやいや、別にヤバくないけどさ)

八幡(…………川崎沙希)
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/09/01(火) 00:31:46.53
もう八幡は、どれだけ小町と親とその他に心配されようが帰らなくていいだろこれ
サキサキと幸せになってるだけで十分
次スレ:

八幡「川崎家に居候することになった」沙希「遠慮しないでいいから」2



このシリーズ:

八幡「川崎家に居候することになった」沙希「遠慮しないでいいから」1


八幡「川崎家に居候することになった」沙希「遠慮しないでいいから」2



関連スレ:

シリーズ一覧及び・この書き手SSまとめ

(川崎沙希好きの書き手です)

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とあるSSの訪問者

このサキサキは前世の記憶持ってるんじゃってくらいグイグイ攻めるなw

とあるSSの訪問者

まぁ正直、あれだけ罵倒されれば普通はこうなるでしょ。八幡が精神的に強すぎるだけで。そしてそれすら抱擁してしまうサキサキのヒロイン力が素晴らしい


お知らせ
サイトを見やすいように改造しました

改造したところ:
ページ転移に数字送りを実装
多少の軽量化

時折修正していきますので、今後ともよろしくお願いします

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