八幡「やはり俺の世にも奇妙な物語は間違っている」【後編】

392 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 01:47:48.50

前スレ:
八幡「やはり俺の世にも奇妙な物語は間違っている」【前編】



八幡「さて……と」

あれから数日が過ぎ、特にやる事もなく奉仕部は、そのまま冬休み前最後の日になった。

八幡「特にやる事はなかったな」

せいぜいこの数日もここで本を読むか、由比ヶ浜と少し喋るかのどちらかだった。まだ向こうからしたら、出会って数日だから話し方はぎこちない。

雪乃「ええ、そうね。……比企谷くん」

八幡「ん、なんだ?」

雪乃「あなた……この場の溶け込み方、異常じゃないかしら?」

八幡「と言いますと?」

雪乃「まるで、ずっと前からここにいたみたいに感じるわ」

八幡「……っ!? そっそうか……っ?」
395 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 01:52:47.89
雪乃「ええ、……まあ、そんなのあり得ないのだけれど」

八幡「…………」

雪ノ下の勘が鋭くてたまに焦る。しかし俺がゲームでここを体験していたとは思わないだろう。トンデモな話って予想されないから助かるわ。

結衣「ヒッキー」

八幡「ん?」

結衣「今日、この後空いてる?」

八幡「ああ、暇だな」

むしろボッチだから24時間暇なまである。24の音楽ってカッコいいよな。
397 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 01:57:15.89
結衣「じゃあカラオケ行こうよ! 新入部員歓迎会って事で!」

八幡「まあ……別にいいが」

結衣「やったぁ! ゆきのんも来るよね?」

雪乃「……由比ヶ浜さんの場合、断ってもあまり意味はない……」

結衣「よし、決定ぃー!」

わお、こんな関係になってたのか、この二人。雪ノ下さん、とことん由比ヶ浜さんに弱くなっていますね。
400 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 02:03:11.47
雪ノ下「じゃあ、部室の鍵を返してくるから、由比ヶ浜さんたちは下駄箱で待っててくれるかしら?」

結衣「うん! じゃあヒッキーと待ってるね!」

由比ヶ浜さん、その言い方はこっちが勘違いしちゃうんですけど?

八幡「……じゃ、俺先に行ってるわ」クルッ

結衣「あっ、待ってよ! ヒッキー!」タッタッタッ



雪乃「…………」

雪乃「……今が……」

雪乃「……ハッ!」フルフル

雪乃「…………」

雪乃「はぁ……」
402 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 02:08:40.72
八幡「…………」トボトボ

結衣「…………」テクテク

八幡「…………」トボトボ

結衣「…………」テクテク

結衣「あっあのね、ヒッキー」

八幡「お、おう」

結衣「……ゆきのんはね、あんな風にキツい事を言うけど、本当は優しい子なんだ。だからそこら辺、わかってて欲しいな~なんて」

エヘヘと由比ヶ浜は笑う。そんなのは俺だってわかり切っているが、そう答えるのは許されない。

八幡「そうか。心に留めとくよ」

結衣「うん……。だから、嫌わないでね」

八幡「……ああ」
405 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 02:16:49.72
AAもどきを作るのに時間くって、書き溜めのストックが切れたので、投下遅くなります。ごめんなさい。



八幡「…………」トボトボ

結衣「…………」テクテク

??「…………」トボトボ

八幡「!?!?」

結衣「? ヒッキー、どうかした……、あー! さがみんだー!」

相模「あ……ゆいちゃんか……」

結衣「どうしたのー、さがみんこんな時間に?」

相模「別に、ゆいちゃんには、関係ないでしょ……?」

結衣「あ……そっか……そうだね……」
408 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 02:22:17.73
八幡「…………」

相模「……! …………」プイッ

あれ、相模さん、俺を見てすぐに目をそらしたんですけど。何なの俺の目はそんなに怖い?

などと、ネタをぶっこむような状況ではない。

相模が現実世界にいる。それは何ら不思議な事ではない。

しかし、ここにいる相模は異様だ。

あまりにも、『俺ガイル』の世界の相模と違いすぎる。

相模の目が――

――俺のと同じように腐っていた。
411 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 02:26:26.85
少し経って

八幡「……由比ヶ浜」

結衣「ん? なに?」

八幡「あの女子に……何かあったのか……?」

結衣「えっ……なんで……そう思うのかな……?」

八幡「いや、何となくだ。あまりにも暗いから何かあったのか……ってな」

結衣「……うーんとね。さがみんは、総武高の文化祭の委員長だったの」

うむ、ここまでは『俺ガイル』と同じだな。
413 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 02:33:55.30
結衣「でも……さがみんは……あんまし仕事しなかったんだよね。それで、副委員長だったゆきのんがそれを代わりにやったの」

あっ読めた。

結衣「ゆきのんはちゃんとやったよ、委員長としての仕事を。もう完璧すぎるくらいにね。ただ、そのせいで委員会内でのさがみんに対する不満が増えてっちゃって……」

八幡「…………」

結衣「しかも当日本番には突然いなくなっちゃったりして、皆からすごい責められたんだ……」

俺がいなかったら、こんな風になってたのか。俺がもしも総武高に入っていたら、こんな事にはならなかったのだろうか……?
415 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 02:49:09.41
相模に、あんな傷を負わせるような事にはならなかったのだろうか。

そんなもしもの事を考えたって意味がないのはわかっている。

それでも、考えずにはいられない。

結衣「それからかな……さがみんがあんな風になっちゃったのは」

八幡「そうか……。いろいろあったんだな、お前らにも」

結衣「……うん」

その頃、俺は何やってたっけ? あっちょうど『俺ガイル』にハマった頃だわ。由比ヶ浜たちが、いろいろ頑張っている時、俺はゲームやってたのか。何それ悲しい。
417 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 02:56:25.95
由比ヶ浜たちが向かったのは、いつも何かパーティー事があると、使われるいつものカラオケだった。『俺ガイル』本当に何なんだよ、あれ。再現度高すぎじゃね?

結衣「えーっと、ヒッキーこと、比企谷八幡くんの入部歓迎会を始めます!」

八幡「もう、何日か経ってるけどな」

雪乃「入ったのが二十五日で、今日が二十八日だから、もう四日ね」

何日か明言しなかった俺に、ふふん、と雪ノ下が俺に自慢気な表情をする。甘いな、そこには穴があるのだよ、穴が! そういやアナ雪ってすごいよな。見てないけど。

八幡「六から二日間は土日だったから、正確には二日間しか部室行ってないんだけどな」

雪乃「屁理屈ね」

八幡「何とでも言え」

結衣「二人とも!! そんなのいいの! 何日か経ってても別にいいでしょ!」

八幡「まあ、それもそうだな」

雪乃「そうね、こんな男がいつ入ったかなんて、正直私には関係ないのだし」

雪ノ下さんはいつも通りですね、本当に。
419 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 03:01:49.05
そんなこんなで新入部員歓迎会は終わりを迎えた。

結衣「うーん、歌った歌ったぁー」

雪乃「由比ヶ浜さん、後半はほとんどずっと歌っていたけれど、喉は大丈夫なの?」

結衣「あーーー、うん! ちょっと枯れるけど大丈夫だよ!」

雪乃「それでも枯れるのね……はい」サッ

結衣「わぁ! のど飴だ! ゆきのんありがとうー!」

雪乃「いえ、別にいいわよ」

雪ノ下と由比ヶ浜がゆるゆりしてるのを見ながら、俺は二人の後ろを歩いている。うん、こういうのを後ろから見てるのも悪くない。

雪乃「比企谷くんも」

八幡「?」
421 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 03:12:25.78
ん? 俺今何で呼ばれたんですかね? あれですか、二人を見る目が気持ち悪かったんですか? それなら否定はできないが。

雪乃「……余ってるから、あげるわ」スッ

八幡「あ……サンキュな」

どうしよう、可愛い。惚れてまうやろー。

雪乃「比企谷くんでも、人にお礼は言えるのね」

八幡「お前は俺を何だと思っている?」

前言撤回。

やっぱりこいつ可愛くねぇ。
423 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 03:15:08.47
雪ノ下たちと別れ、家に着いた。

八幡「ただいま」

八幡母「おかえりー」

八幡「んー、親父は?」

八幡母「まだ帰って来てないわね」

八幡「そうか」

小町がいないこの家を寂しく思わないと言えば、きっとそれは嘘になる。しかし、これで小町も欲しいと言うのは、流石に神様のバチがあたるだろう。奉仕部の二人と平塚先生と出会えただけで、俺は十分に満足している。

でも、たまに小町に会うために『俺ガイル』をやるのは、いいかもしれないな。



その夜、俺はなかなか眠りに就けなかった。

相模のあの目が頭にこべりついていたからだ。

俺は、あの目を知っている。

――人生に、絶望している目だ。
425 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 03:21:53.64


それは何の気なしに行った行動だった。

本当に、何も理由はなかったのだ。学校が終わって、総武高に向かう途中に、何となくあの博士の店の事が気になっただけだった。

一時期、狂ったようにチャリで走っていた道を通り、その場所に辿り着く。

かつて博士の店があった場所には――



――何もなかった。




428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/08/24(日) 05:35:58.19
面白すぎ
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/08/24(日) 10:40:25.27
週刊ストーリーランド思い出したわ
435 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 23:03:06.51
八幡「なん……だと……?」

建物が並ぶこの通りからその部分だけすっぽり何もなくなっていた。残っているのは土のみ。ここだけいきなり取り壊されてしまったようだ。

八幡「……閉まるなんて話は聞いてなかったよな。また来いなんて言ってたから、そもそも閉める気ないだろうし」

八幡「……ただ、あんまし心配にならないんだよな、あの人だから」
437 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 23:06:41.18
以下、回想



八幡「うっす」

博士「おや、あんたか。またアレをやりに来たのかい?」

八幡「…………」コクン

博士「おーけー。じゃあ少し待っててくれ。この実験が終わったらすぐに準備するから」

八幡「……何やってんすか?」

博士「よくぞ聞いてくれた。比企谷くん、これは世界をも変える代物だよ」

そう言って装置を見せるが、文系の俺には何なのかわからない。

博士「これは、物を小さくできるんだ。同じ割合で全くズレのなしにね」

博士「例えばこの15センチ定規を50%の倍率で小さくすれば、7.5センチになるわけさ」
440 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 23:18:31.22
博士「しかしこの定規も完璧ではない。わずかに誤差がある。だがしかし! この装置があればそれも縮小できてしまうのだよ! 0.1ミリの誤差は10%に縮小すれば0.01ミリだ。科学者にとってこんな素晴らしい発明品はない!」

この人テンション上がるとちょっと中二っぽくなるんだよな。材木座ほどじゃないが。

八幡「へー、すごいっすね。でも何でそんなの作るんすか?」

博士「個人的には今言った通りだが、そうだな……君の身近な例えで言えば、同じ要領で大きくする装置が出来れば、物を簡単に運ぶ事ができるようになるだろう? 一度小さくして、着いた時に大きくすればいい。それだけでも十分すごい事じゃないか!」

八幡「そうっすかね。で、今からそれの実験を?」

博士「その通り! さぁ、この定規をセットだ」

博士は装置に繋げているパソコンを弄ると、装置が音を立てながら光り始めた。その光は次第に強くなり、俺たち二人は目を開ける事ができなくなった。

音が収まる頃には光も消えていた。目を開くと、そこには――

八幡「……8?」

8という大きな文字。その周りには黒い線がいくつも引かれている。
442 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 23:22:56.70
八幡「……これって」

博士「やっぱりあそこの回線は逆にするべきだったか」

八幡「ものの見事に失敗してんじゃねぇか」

博士「何を言っている。私たちの予想とは逆に大きくなったんだ。これはある意味成功と言ってもいいだろう?」

八幡「しかも倍率とか酷いし」

50%どころか何十倍にも大きくなった定規は、博士の店を真横に貫いていた。

博士「まだまだ改善の余地があるな。何が悪かったんだろうか……」ゴソゴソ

八幡「おいこら、客をこれ以上待たせんな」



以上、回想、終ワリ
447 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 23:28:29.51
八幡「どうせあの人の事だ、今度はワープ装置でも作って店ごとどっかに飛んでったんだろう」

今頃北極とかにいるんじゃねぇの? まあ心配は無用だろう。

??「…………」

それにしても、さっきからあの曲がり角から誰かが見ている気がする。

八幡「…………」チラッ

??「!」タタタッ

今、確かに誰かがいた。それが誰なのかまではわからなかったが。

八幡「……まぁいいか」

この目のせいで人からジロジロ見られるのには慣れてるし。今のもそれだろ。

八幡「そういや昨日が今年最後の奉仕部だったんだよな。なら総武高行く意味ねーじゃん」

家に帰るか。『俺ガイル』やったせいで金あんまないし。

八幡「~♪」チャリンチャリン
449 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 23:39:59.03
八幡「はぁ……」ドサッ

夕食を食べ終わった俺は、自分の部屋でそのままベッドに倒れた。食べてすぐ寝ると牛になる? んなもん知らん。

八幡「あー疲れたー。ここ最近いろいろありすぎて疲れた」

ちょっと前までゲーム中毒だった俺の現実世界に、そのゲームのキャラが現れるとかそれなんてエロゲだよ。使い古された設定だな。

八幡「……本当に、一週間前の俺だったら信じねぇよな、こんなの……」



八幡「……怖えよ」

こんなの、あり得ない。俺が享受していいような幸せじゃないように感じる。
451 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 23:47:06.17
あまりにも今が幸せすぎると、恐怖を感じるという話があるが、それはきっと「うまく行きすぎている」と懐疑と、その幸せが失われる事への恐怖のせいなのだと思う。

まさに今の俺だ。雪ノ下や由比ヶ浜や平塚先生に現実で出会えて、俺は幸せだと感じている。それは事実だ。否定する気はない。

だからこそ……これが仮初めの幸福なのではないかと疑ってしまう。

八幡「……結局何も変わってねぇのかな、俺は」
453 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/24(日) 23:54:25.51
年が明けて少し経ち、なぜか俺は神社にいた。

八幡「何で俺はここにいるんだ……?」

結衣「なんだかんだ文句言いながらも来てくれるんだね、ヒッキーは」

八幡「まあ……どうせやる事なかったしいいけどよ……」

結衣「ゆきのんは何をお願いするの?」

雪乃「そうね……家内安全……とかかしら?」

結衣「あー、ゆきのんっぽいー! じゃあヒッキーは?」

八幡「願い事ってのは人に聞かせる物じゃねぇんだよ。聞かれた時点で叶わなくなっちまう」

結衣「うわ……ヒッキー空気読まないね……」

読めなくて結構。それに、この二人には聞かれたくない。
455 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 00:05:15.73
結衣「ゆきのん百円出すの?」

雪乃「ええ、もう17になるのだし、これくらいは出そうかと」

結衣「ヒッキーは?」

八幡「…………」サッ ゴヒャクエンダマピカー

結衣「おおっ!? 五百円玉だ!? ヒッキーなのに!!」

八幡「いや、別にそれは関係ないだろ」

結衣「あるよ! ヒッキー神様とか信じてなさそうだもん!」

八幡「それこういうところで言うセリフじゃねぇからな……」
457 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 00:11:02.77
雪乃「…………」サッ

チャリーン

結衣「入れ!」ファッ

チャリーン

八幡「……よっと」スッ

バッキーーーン

八幡「!?!?」

結衣「ヒッキーの五百円玉だけ横に飛んで行った!?」

雪乃「流石比企谷くんね、神様にまで拒否されるなんて」

おいやめろ。俺もその思考にたどり着いたんだからよ。
459 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 00:16:33.86

ペコリペコリ

パンッパンッ

ペコリ



八幡(もし願いが叶うならば――)




八幡(――この時が、何の支障もなく続きますように)



461 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 00:21:06.74
結衣「うーん……初詣ってそんなに楽しくないね」

八幡「そもそも楽しむ物でもないしな」

結衣「……それでも何か忘れてるような……あっ! おみくじ!」

絶対言うと思った。俺、未来予知とかできんじゃねぇの?

結衣「みんなでおみくじ引こうよ!」

雪乃「別にいいけれど……そこの誰かさんは引かない方がいいんじゃないかしら?」

八幡「ああ、俺もそう思うわ」

結衣「えぇー? もしかしたらヒッキーいいの引くかもしれないじゃん!」
466 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 00:26:22.18

八幡「そもそもおみくじを引く意味がわかんねぇんだよな」

結衣「?」

八幡「よく考えてみろ。凶を引いたらそれはそれで気分悪いし、大吉引いたら逆にそこで運を使って、損をした気がしないか?」

結衣「んー、まあそうだけど……」

八幡「だから俺は引かん。百円玉が無駄になるだけだしな。その金でマッ缶買う方がよっぽど有意義だ」

結衣「お賽銭には五百円玉だったのにねー」

八幡「うっせ」

もうここみたいに賽銭拒否する神社にはこねぇよ、二度と賽銭なんかしてやるもんか!
468 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 00:33:20.84
八幡「……とか言っても結局引く事になるんだよな」

結局世界線はそういう風に収束するのだろうか。やっぱり俺、タイムトラベラーなんじゃね。あのゲームだったらタイムリーパーか。

雪乃「……小吉ね。なかなかいいんじゃないかしら」

結衣「ゆきのん小吉かー。私は……吉だ! やった! ゆきのんに勝った!」

雪乃「由比ヶ浜さん」

結衣「ん?」メキラキラ

雪乃「……っ! いえ、何でもないわ……」

言えないよなー。あんな風に嬉しそうにしてたら流石の雪ノ下さんも、「実は吉よりも小吉の方が上」だなんて言えないよなー。それにしても本当に雪ノ下さんは、ガハマさんにデレすぎじゃないですかね?
470 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 00:42:54.47
八幡「さてと、俺のは……」

八幡「…………」スーッ

八幡「……げっ!」

結衣「やっぱヒッキー悪いのだったんだ……」

八幡「いや、そうじゃなくて……」

結衣「えっ!? じゃあ大吉!?」

八幡「それでもなくてよ……」



『平』



結衣「えっ、何これ。初めて見た」

八幡「俺もだ」

雪乃「……このおみくじ、平があるのね」

八幡「雪ノ下知ってんのか、これ」

雪乃「ええ、ちなみに運勢的には凶の一つ上で、特に良くも悪くもないという意味だったと思うわ」

何でそんな反応に困る運勢作っちゃったんだよ……。
472 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 00:48:05.86
結衣「ゆきのん、明日は空いてる?」

雪乃「え、ええ。でもどうして?」

結衣「明日はゆきのん誕生日でしょ? だからパーティーしようよ!」

八幡「またパーティーかよ」

結衣「うっ……! ……っ! いいの、それでも! ヒッキーが何て言っても、明日はゆきのんの誕生パーティーをするの! いいね!」

八幡「はいはい……」

年が変わっても、この関係は続くようだ。



……それがやっばり、すごく嬉しくて、すごく、恐い。
474 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 01:27:28.32





そしていつだって、嫌な予感とは当たってしまうものだ。





477 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 01:33:40.87
ゴーインゴーインアロンウェーイ

雪ノ下の誕生会から数日が経ち、冬休み最後の日を満喫していると、突然、携帯が鳴りはじめた。普段着信を受け取らない俺には、その音が酷く不自然に聞こえる。

着信の相手は由比ヶ浜結衣だった。

こんな時になんだろうか?

八幡「もしもし」

結衣『もしもしヒッキー!? 聞いて!! 大変なの!!』

由比ヶ浜の息が切れているのが受話器ごしに伝わる。

八幡「どうした!? 由比ヶ浜!」

そしてその声だけで今が緊急事態なんだと察した。

結衣『さがみんが……』

八幡「相模がどうした?」

結衣『さがみんが……っここ数日家に帰っていなくて、行方不明みたいなんだって……!』

八幡「……えっ?」


487 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 22:17:01.45
こんばんは。
作者です。

今日も23時くらいに始められるように頑張ります。
>>345
の通り、連投ができないので、支援レス(一文字、空白レスでも)してくれると助かります。

※予告なしに遅れたり、早まったり、中止になったりするかもです。
491 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 23:04:46.64
八幡「どういう事だよ……それ……?」

結衣『わかんない……。さかみんは大晦日の31日の夜に家を出てから今まで、家に帰ってきてないみたい……』

大晦日と31日って同じ意味だからな。まあ状況が状況だから言わないが。

結衣『それで何日も帰って来ないから、さがみんの親が警察に通報して、それを平塚先生が聞いて私たちにも知らせたってわけ』

八幡「でも、俺らにできる事なんてないだろ……」

結衣『それでも……何もしないなんて私にはできないよ……』

八幡「…………」チラッ

今の時間は19時。季節的にも時間的にも、とっくに陽は沈んでいる。こんな時間に由比ヶ浜を外に出すわけにはいかない。

八幡「わかった、俺が探しに出てくる」

結衣『じゃ、じゃあ……! 私も……!』

八幡「いや、お前は家にいてくれ。近頃物騒だし、こんな夜に女子一人で出歩かせたりなんかできない」

結衣『……わかった』

物分りが早くてよろしい。
494 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 23:06:53.25
八幡「さて……と」

こんな事『俺ガイル』でもあったな。確かあれは文化祭の時のだから6か。

八幡「しかし……」

俺に思い当たる場所は二つある。時間的にはどちらかにしか行けなさそうだ。

八幡「……やっぱあそこか?」

いつも通り俺を待っているチャリをこぎ始める。冬の夜風が冷たい。やっぱマフラーとかしてくればよかった。
496 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 23:10:24.32
八幡「……あっ」

その前に由比ヶ浜に聞かなければならないのを忘れていた。この現実世界の文化祭の時に、何が起こったのか。

着信履歴から由比ヶ浜の名前を探す。すごい、俺の携帯の中に家族以外の名前がある。やったね、八幡! 着信履歴が増えるよ! ……何か悲しいな。

トゥルルルルルル

結衣『もしもし、どうしたの、ヒッキー?』

八幡「聞き忘れた事があった。文化祭の時に相模が消えたって言ってたな」

結衣『う……うん』

八幡「その時は誰かが見つけたりしたのか?」

結衣『……ううん、あの時は誰にも見つけられなかったかな……。結局最後までさがみん出て来なくて、ちゃんとエンディングセレモニー終わらせられなかったの』

結衣『だからかな……あんなに責められたのは……』

八幡「そうか、それだけ気になってな。ありがとよ」
498 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 23:15:38.49
由比ヶ浜の返答は俺の予想通りだった。

相模は文化祭の時に見つからなかった。だから『今度こそ』見つかろうと思った。

なぜこのタイミングを選んだのかはわからない。だがしかし、それしか現実的に考えてあり得ない。

……いや、逆に今だからなのか?

三が日が過ぎたとはいえ、冬休み中だから基本校内に人はいない。いたとしても校外で部活をする連中くらいだ。その絶妙なバランスの状況下で、自分を見つけてくれる人を求めている。

それに自分が行方不明になれば、職員会議が行われて校内に入り込むのは簡単になるだろう。だから今日ではなく数日前から家には帰らなかったのだ。恐らく一日二日いなくなった程度で、通報するような親だと相模自身思っていなかった。

しかしもうこの時間だ。誰かが見つけに来る事もない。このままで放って置いても相模は家に帰るだろう。
501 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 23:22:27.14
――だが、それではダメだ。

脳裏に相模の目が思い浮かぶ。あの目は、自分の現状を呪っている人間にしかできない。ソースは俺。

きっとこのまま放って置いては、相模南はずっと救われないままだろう。時が解決する問題かもしれないが、数ヶ月後には相模も受験生になる。

総武高に通うくらいだから、進学志望だろう。そんな人生を左右するような時期を、このままで迎えてはいけない。迎えさせては、いけない。

もしも、全ての出来事に意味があるのなら――

――俺が『俺ガイル』を経験したのは、総武高で起こってしまった事件を解決するためなのかもしれない。

俺がすべきなのは、きっと『比企谷八幡』が行ったような問題の解消ではない。俺、比企谷八幡がすべきなのは、問題の解決だ。
503 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 23:26:51.24
八幡「もしもし、比企谷です」

平塚『なんだ? 相模は見つかったのか?』

八幡「いえ、まだです。ただ、心当たりがありまして」

平塚『……なるほど、私の協力がまた必要だと』

八幡「先生察し早すぎじゃないすか?」

何なのこの人、実はエスパーなの?

平塚『まあとりあえず校門に来い。他の職員には私から言っておく』

八幡「わかりました」
505 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 23:30:38.30
平塚先生と合流した――のはいいが。

八幡「何でお前たちまでいるんだ?」

結衣「やっぱりいても立ってもいられなくて、一人じゃ危ないから、ゆきのんと平塚先生も一緒なら大丈夫かなって」

まあ平塚先生がいるなら心配いらないな。多分痴漢とかに襲われても、相手が病院送りになるレベル。

雪乃「それにあなた一人に任せられるわけないでしょう?」

八幡「どんだけ信用ねぇんだよ俺……」

まあ出会ってまだ一週間も経ってないから当たり前か。

平塚「で、心当たりというのは?」

八幡「あ、ええっとですね……」

ヤバいどうする? 平塚先生しかいないと思ってたから、何も考えてなかった。
507 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 23:34:46.56
平塚「あ、雪ノ下に由比ヶ浜。私職員室に携帯置いてきてしまったから、それを取りに行ってきてくれないか?」

雪乃「どうして、私たちが……? 自分に取りに行けばいいのでは?」

平塚「まあそう言うな、歳上の人間に貸しを作っておくのも悪くないぞ?」

雪乃「先生の場合、その貸しの事を忘れてしまいそうですが」

平塚「いいから、行って来い、二人とも。教師命令だ」

雪乃「理不尽ですね……」テクテク
510 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 23:41:57.91
平塚「……すまなかったな。君のここの知識がゲームに基づいている事をすっかり忘れていた」

八幡「いえ、平塚先生の機転のおかげで助かりました」

平塚「まあ礼はあとでいい。それで、どこなんだ?」

八幡「屋上です」

平塚「えっ?」

八幡「あそこの鍵は壊れていて出入りが自由なんです。確か女子の間では有名な話だったような……」

平塚「……比企谷」

八幡「はい?」

平塚「確かに、屋上の鍵は壊れていた。それは事実だ。だがな――」



平塚「――去年の十一月に修理して、今は入れなくなっている」



512 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 23:46:11.05
八幡「……えっ?」

『俺ガイル』と、ズレている。あの世界では屋上の鍵が修理されたなんて話を聞かなかった。きっとされてもいなかっただろう。

相模たちの運命が変わったのは、俺がいなかったからだろうが、屋上の鍵の話はそれに結びつかない。

俺がいなかった事と、屋上の鍵の事は何の関係もないはずだ。

ここまでほぼ一致していたのに、なぜ?

八幡「……あっ」

八幡「バタフライ……エフェクト……?」
514 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 23:52:23.36
バタフライエフェクト。

バタフライ効果とも言う。

小さな差が大きな差となる事を表す言葉で、有名な例えに蝶の羽ばたきが遠く離れた場所の天候に大きな影響を及ぼす、というのがある。

ちなみに風が吹けば桶屋が儲かるとは違うみたいだから気をつけろよ。

つまり、俺がいなかったという小さな差が、この学校の屋上の鍵が直されるかどうかの違いになったというわけか。俺の存在で変わるのそれだけかよ。

てかそんなのとうでもいいな。正直ちょっと某中二病の何とか院さんに憧れただけだし。エル・プサイ・コングルゥ。
516 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/25(月) 23:56:50.09
八幡「マジかよ……」

平塚「君の見てきた世界では屋上の鍵は直されていなかったのか?」

八幡「……はい。まさかこっちでは直されているなんて。俺が関わってないところでは、変化はないと思ってたんで、正直驚きました」

平塚「まさに風が吹けば桶屋が儲かる、というやつだな」

八幡「……先生」

平塚「ん、なんだ?」

八幡「それ、使い方間違ってます」

平塚「えっ?」

この人、本当に国語教師なのかよ。
518 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 00:06:30.12
雪乃「で、結局心当たりは間違ってたと」

八幡「……そういう事になりますね」

結衣「その心当たりって何だったのー?」

八幡「……っ! えっとそれは……」

平塚「それよりもだ。まだ相模は見つかってない。明日から学校も始まるというのに、こんな問題を抱えたままではあまりよくない」

平塚「三人とも、他に心当たりはないのか?」

先生GJ。こんなに心配りできるのになんで結婚できないんだ?

結衣「うーん……最近はあんまりさがみんと話さないしなー」

雪乃「私も文化祭以来、接点はないわね」
520 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 00:12:24.38
八幡「…………」

もう一度最初から考え直そう。

まず、現状の確認。

相模南は大晦日の夜から今日の今まで行方不明。短いな。

八幡「……誘拐、とかは?」

平塚「一応その線で今、警察は捜索している。ただこの歳で行方不明だと、家出の場合が多いからな。家に電話したところ、行き先は告げずに出て行ったらしいから、私は家出だと思っている」

八幡「そうすか」

誘拐ではないとして考えよう。誘拐だったらそれこそ、俺たちにはお手上げだ。
522 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 00:16:32.91

八幡「……やっぱあれなのか?」ボソッ

雪乃「何か言ったかしら?」

八幡「いや、ただの独り言だ」

それはほとんど確率はゼロと言ってもいいような可能性。

そして何より、俺が認めたくない可能性の話だ。

これを真実と認めたら、他の俺の中での仮説が一気に確実性の高いものになる。

本当はその可能性の確認になど行きたくない。

しかしもしそれが真実であるのならば、俺は今、その確認をしなくてはいけない。

それは相模南のためではなく、俺のために。
524 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 00:23:09.18
八幡「すまん、今日はもう帰るわ」

雪乃「どうしたの? 急に」

八幡「ちょっとな。あんまり人には話したくない。じゃあな」クルッ

俺は逃げるようにその場を離れた。

雪乃「……そうやって」ボソッ

雪ノ下が何かを呟いたが、俺は振り返らずに歩を進めた。
526 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 00:27:14.16
チャリを走らせ数十分。

予想通り、相模南はそこにいた。

ああ、やっぱりここにいたか。

なんでいるんだよ。

ここにだけはいないで欲しかった。

八幡「……よう」

俺は話しかけた。もう、後戻りはできない。



そこは、あの博士のいた店の前だった。



528 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 00:32:30.81
相模「あんた……ゆいちゃんと一緒にいた……」

八幡「もう知らんふりしなくてもいいんだぜ? お前なんだろ? あの時そこで、俺を見ていたのは」

あの時の曲がり角を指差す。店がなくなって呆然としていた時の事だ。

相模「…………」

八幡「そして、お前なんだよな? この店に通っていたもう一人の客は」
530 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 00:36:35.80
相模「……何の事よ」

あくまでも相模は何も知らないふりを続けるつもりだ。

八幡「……仮想現実体験装置」

相模「!?」ビクッ

八幡「もう言い逃れはできないな」

相模「…………」
533 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 00:42:34.42
多分、最初に廊下で相模に会った時に、心のどこかで俺は気づいていた。

こいつは、俺と同じだと。

俺と同じように、あの装置に手を出してしまったのだと。

ただ自分の人生を絶望するとは言っても、そこには限度がある。

――自分の人生しか知らないのであればの話だ。

しかし俺たちは仮想現実体験装置というものによって、他人の人生を体験、いや最早経験してしまった。

そしてその人生はあまりにも輝かしすぎて、だからこそ自分の人生があまりにも退屈で平凡で、腐っているように思ってしまった。

それは俺も同じだ。いや、今は『だった』と言う方が正しいだろう。
536 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 00:51:14.85
八幡「この数日間、ずっとこの店を探してたのか?」

相模「……っ! そ、そうよ! いろんなところ回ったわ……!」

八幡「家にも帰らずにか。ずいぶんとご立派な事で」

相模「バカにしないで! あんたと違ってウチにはあの世界しかないの! あの世界でしか、ウチの存在価値はないのよ! だから邪魔しないでよ!」

この状況は、あの文化祭の時に似ているな、と思った。しかしあの時とは違う。葉山はこの場には現れないし、もし現れたとしても本当に何もできないだろう。今この世界で、彼女を説得できるのは、同じ経験をした俺しかいない。
538 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 00:56:13.22
八幡「俺も、あの装置を使った」

相模「……わかるわよ。あんたの口ぶり聞いてれば」

八幡「……俺もお前と同じだったんだ」

相模「……?」

八幡「俺も、お前と同じようにこの世界に絶望した。お前と違って俺はうまれてからずっとボッチだったからな。あの世界にいる自分に死ぬほど嫉妬した」
542 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 01:07:05.00
相模「…………」

八幡「考えてもみろよ。ずっとボッチだった奴があの装置の中で初めて人と接する事ができたんだ。それは依存するし、その中の自分に嫉妬するだろう?」

相模「それは……そうかもしれないけど……」

八幡「お前はどうなのかわからんが、俺はそんな自分が嫌いになったよ」

相模「…………」

八幡「だから俺は変えようとした。この世界をだ」

それは奇しくも『俺ガイル』の最初で雪ノ下が言った事と一致していた。

八幡「確かにこの現実で何かするなんてすごい勇気いるよな? それでも俺は振り絞った」

あの時、雪ノ下に話しかけなくたってよかったのだ。その方がずっと楽だったし。

八幡「……そして雪ノ下たちと知り合えた」

相手が雪ノ下であるという時点で少しズルをしている気がするが、今は相模を説得するためにスルーしよう。
546 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 01:11:38.78
八幡「……もしも、雪ノ下たちに会えていなかったら、俺もお前と同じようになってたかもしれない」

八幡「だから……お前の事が放っておけないんだ。まるで自分を見ているみたいだからな……」

相模「…………」

さっきから相模は何も言えずにただうつむくばかりだ。

八幡「一つ聞くが、お前は今の自分が好きか?」

相模「っ……」

八幡「今の、機械に頼って依存して、挙げ句の果てに周りの人にまで迷惑をかけてしまう自分を好きになれるのか?」

今の質問は少しズルいな。こんなのにイエスと答えられるなんて、去年の十一月の俺くらいじゃねぇの? やだ、俺、ひねくれすぎ。
549 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 01:20:43.07
相模「そんなの……ズルいよ……っ」

相模の目に涙が溜まり始めた。それを見て心が痛むが、まだ優しくするような時間じゃない。まだあわわわわわわのコラを見て吹いたのは俺だけか?

八幡「質問に答えろよ」

相模「好きに……なれるわけ……っ! ないでしょ……!!」

ようやく相模は涙を流した。それは文化祭の時に流したような軽い涙ではない。真剣に悩みに悩んで、泥の中を這いずり回るような思いをしてようやく流せた、涙だ。

八幡「なら、変われよ。変えようとしろよ」ガッ

感情が高ぶりすぎたせいか、つい相模の両肩を掴んでしまった。相模の目が大きく見開く。
552 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 01:28:26.08
八幡「今の自分の現状が嫌だって思うなら……それを変えようとしろよ……!」

『比企谷八幡』は変わる事を否定した。それは彼が自分自身を肯定できてしまうような超人だったからだ。ベクトルは違えどもきっと、雪ノ下雪乃という人間と同じように。

だが、俺たちは彼らのような超人ではない。

今までの自分を肯定できないし、今の自分自身も肯定できないような、弱い人間ばかりなのだ。この世界にいるのは。

それに、『比企谷八幡』だって、時を経るにつれて変わっていった。それは変化の肯定なのではないだろうか? なら、今俺が相模にこう言うのは、間違っていない……はずだ。
554 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 01:39:30.02
相模「……でも、ウチ、やっぱり怖い……」

八幡「それでも、今のままでいるのはよくない……と俺は思う」

相模「……君、名前、なんて言うの?」

八幡「比企谷八幡」

相模「……変な名前」クスッ

八幡「よく言われる」

まだ二回目だけどな。
556 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 01:42:49.91
相模「じゃあ、比企谷くん……」

八幡「なんだ?」

相模「…………」モジモジ

八幡「…………」

相模「……ウチと」

八幡「…………」

先を続けさせたい衝動に襲われるが、我慢する。ここは相模自身の力で言わせなければならない。じゃなければ、これまでの時間が無駄になってしまう。

相模「ウチ……と……っ……! と……っ……友達になってください!!」

それは相模が変わろうとした事、そして変わり始めた事の現れであった。
558 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 01:47:37.67
八幡「ああ、いいぞ」

相模「本当に!?」

八幡「ああ」

相模「はぁ……よかったぁ……」ドサッ

相模は全身の力が抜けたのか、地面に尻餅をついた。

相模「ありがとね、比企谷くん」

八幡「別に……これくらい大した事じゃねぇし……」
561 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 02:02:43.31
こうして相模の説得に成功し、さらに初めての友達を得て、俺は帰宅した。ふぇぇ、疲れたよぉ。

自分の部屋に入り、とりあえずそのままベッドにぶっ倒れる。

ボスッと気持ちいい音がする。柔らかい。もう今日は寝たいが、やらなきゃならない事がまだ残っている。

ゴーインゴーインアロンウェーイ

おや、電話か。一日に二回も着信とかもう大地震が起こるレベルだろ、これ。

ピッ

八幡「もしもし」

結衣『あっヒッキー? あのね、さがみん無事見つかったって!』

八幡「おーそうか、よかったな」

結衣『うわーヒッキーすごい他人事みたいに』

八幡「実際他人だしな」

結衣『うー……。まあそういう事だから、もう心配しなくても大丈夫だよ!』

八幡「おう、連絡どうも」

結衣『じゃあまたね!』

ピッ
563 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 02:07:41.02
八幡「……あんな事言っちまった以上、俺もこれ以上逃げてるわけにはいかねーよな」ゴロゴロ

八幡「よっと……!」スッ



カタッカタカタ

八幡「…………」カチッカチッ

八幡「……やっぱ……そうか」
565 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 02:13:05.77
学校での始業式が終わり、その後のSHRが終わるとすぐに俺は総武高に向かった。

見慣れた扉を開くと、そこには初めて出会った時と同じように雪ノ下雪乃が、部室の中にいた。

雪乃「あら、来たのね。別にわざわざ校外から来なくてもよかったのだけれど」

八幡「悪かったな。来ちまったよ」

とりあえず雪ノ下の席から一番遠い椅子に座った。
567 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 02:15:27.24
雪乃「……相模さん、家に帰ってきたみたいね」

八幡「そうだな」

雪乃「何をしたの?」

八幡「……別に、何もしてねぇよ」

雪乃「私の目を誤魔化せると思っているの?」

そう言われて彼女の目を見る。……こえぇよ。あと、怖い。
570 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 02:20:27.43
八幡「本当に何もしてねぇって。何でそんなにしつこいんだよ。俺は相模とまだ二度しか会ってねぇし」

雪乃「二度……?」

あ、やべ。また墓穴掘った。

雪乃「やはり昨日会ったんじゃないの。それで、比企谷くんはまた変な事を言ったのね。自首しなさい。今ならまだ間に合うわよ」

八幡「自首してる時点でもう手遅れだと思うんですが」

雪乃「そうかしら?」

八幡「そうだろ」
572 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 02:23:08.91
ああ、また話を引き伸ばしている。本当はもう話し始めなければならないのに。いつまで逃げているつもりなんだろうか。

八幡「……由比ヶ浜は?」

雪乃「少し遅れるそうよ。そうメールが来たから」

はいはい、仲良いアピールですか。もう慣れましたよ、そんなのには。

雪乃「で、相模さんには何て言ったの?」

八幡「……まあ頑張れとかそんな感じだ」

嘘はついてない、嘘は。判定はグレーだが。
575 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 02:35:46.27
雪乃「……そう」

あれ? これだけで納得しちゃうの? この十数時間の間に何があったの?

などと言う冗談は置いといて。

八幡「雪ノ下、大事な話がある」

俺はそう切り込んだ。すると、雪ノ下はそれまで読んでいた本を閉じて、真っ直ぐ俺を見た。

流石、校内一の美少女と言われるだけある。その透き通った瞳は吸いこまれてしまいそうだと錯覚してしまう程に、美しかった。
577 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 02:48:32.96
八幡「すぅーーーはぁーーーー」

一度、深呼吸。

それでも早まる一方の心臓の鼓動。

おかしいな、運動なんかしてないのに。

まあいいか。

八幡「雪ノ下」

雪乃「何かしら?」

八幡「俺はこれから真面目な質問をする。だから真面目に答えてくれ」

雪乃「……わかったわ」

もう一度、深呼吸。

そしてもう一度吸って、俺は声を振り絞るように出した。















八幡「この世界は、俺の夢なのか?」
















579 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 02:58:32.42



世界が止まった。



音が消えた。



色も、何もかも、感覚というものが全てなくなってしまった。



ああ、なにも見えない。なにも聞こえない。



なにもかもが、真っ白だ。




581 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 03:02:03.09
雪乃「…………」

言い終わると、雪ノ下は目を見開き、口を少し開いてただ俺を見つめていた。

八幡「…………」

俺も何も言わない。いや、何も言えないのだ。あまりの緊張で喉が乾きすぎて、声がうまく出せない。

お互い何も言えないまま、ただ時間だけが過ぎていった。

そして、その無言の時間のせいでわかってしまった。

俺の言った事は、本当なのだと。
583 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 03:05:28.20
雪乃「……いつから、気づいていたの?」

雪ノ下が声を出したのが、俺が聞いてからどれくらい経った時なのか、わからなかった。

実は三十秒くらいしか経ってなかったのがしれないし、もしかしたら、二十分以上黙ったままだったのかもしれない。

そんな事、わからないし、どうでもいい。

八幡「……結構最初の方から疑ってはいた。所々おかしいところはあったしな」

雪乃「……例えば?」
586 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 03:08:56.75
八幡「今思えば、最初からおかしかった。最初に話しかけた時、俺はあまりにも怪しかった。もしお前が本当に初対面であったなら、あんな風に会話なんてしなかったろう。すぐに通報されるかボコボコにされるかのどっちかだったと思う」

雪乃「…………」

八幡「由比ヶ浜に関してもだ。初めて会って数度会話してそれでもうあだ名をつけようなんて、早すぎる。これが普通の男であるならまだ納得できただろう」

八幡「しかしお前が由比ヶ浜に俺を紹介した時、何て言ったか覚えているか? ストーカーって言ったんだぞ? 親友のストーカーかもしれない人間にあだ名をつけようなんて、いくら由比ヶ浜でもしないと思っていた」

八幡「なぁ……」

八幡「お前たちも、本当は全部覚えてるんだろ……?」

雪乃「…………」
588 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 03:14:55.61
雪乃「……ええ、覚えているわ。少なくとも、あのクリスマス会のところまでは」

八幡「ならなんで……? そもそも何なんだよ、これは!?」

雪乃「質問は一つずつにしなさい、比企谷くん。……なら後者の方から答えようかしら」

雪ノ下髪を一度整えてから、話し始めた。

雪乃「……あなたは、現実世界で『俺ガイル』にハマった。そして十二月二十四日に、ボリューム9をした。ここまでは合ってるわね?」

八幡「あ、ああ……」

やはり……全部知っていたのか……。

雪乃「でもね、ボリューム9が終わった時に予想外の事が起こったの」

雪乃「……脳にいくら信号を送っても、あなたは、目覚めなかった」
590 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 03:19:37.45
雪乃「あなたは、『俺ガイル』内の世界を望み、そして現実を拒否しすぎて、現実で目覚めなくなってしまった」

雪乃「いえ、目覚めるのを拒絶した、と言うのが正しいのかしらね」

八幡「…………」

雪乃「だから、あなたを目覚めさせるためのプログラムが作動した」

八幡「それが……この世界ってわけか……」

雪乃「そうよ」
592 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 03:25:11.52
八幡「だから……この世界には、俺と同じ状態の、相模がいたのか」

雪乃「ええ、そして彼女を説得するには、まずあなた自身が現実を肯定できるように、そして『嘘』を否定できるようにならなくてはならない」

八幡「…………」

雪乃「この世界はあなたのためだけに存在しているの」

雪乃「あなたの心が……現実を認められるくらい、強くなるために」


594 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 03:34:28.48
雪乃「私からも一つ質問、いいかしら?」

八幡「あ、ああ。なんだ?」

雪乃「どうして、ここが夢だと気づいたの? さっきの理由だけでは不十分なように感じられるのだけれど」

八幡「ああ……それは、日付けだ」

雪乃「日付け?」

八幡「明確な狂いは日付けだった。まず、俺が現実にいた時、つまり『俺ガイル』の9をやる前、12月22日は月曜日だったんだ」

八幡「つまり、12月24日は『水曜日』になるはずだろう? でも、ここでは12月24日は『木曜日』になっていたんだ」



参照

>>274
>>280
>>417
596 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 03:43:55.21
雪乃「……なるほどね。確かに一日の差とは言え、そんなズレは現実では絶対にあり得ないものね」

八幡「あの時の俺は『俺ガイル』の最新話を死ぬほど待ってたからな。日にちも全くズレなしで覚えてた。まあ一番の理由はそれだな」

雪乃「……そう。……由比ヶ浜さん、もう入って来ていいわよ」

ガララ

結衣「や……やっはろー……なんて……」

えへへと気まずそうに笑う。

八幡「由比ヶ浜……お前が嘘をつけるなんてな」

結衣「バ……バカにすんなし!」

八幡「いや、由比ヶ浜にしてはうまかったと思うぞ?」

結衣「それ喜んでいいのか微妙だね……」
599 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 03:48:00.73
八幡「……俺は、目覚めなきゃいけないんだよな?」

雪乃「そうよ、じゃなければこれまでしてきた事の意味がなくなるでしょう?」

八幡「……また、会えるよな?」

雪乃「…………」

結衣「…………」

二人とも申し訳なさそうに目をそらした。由比ヶ浜に至っては既に涙ぐんでいた

八幡「な……何でだよ……? また続きが出たらやればいいじゃないか!」

結衣「……ダメなんだ、ヒッキー」
601 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 03:54:40.70
八幡「なんで……?」

雪乃「一度、目覚めなくなると、次の時も目覚めなくなる可能性が爆発的に上がるの。しかも今回は心に問題があるからまだどうこうできるけど、二回目に原因はない。何も原因がないまま目覚めなくなってしまうらしいの……」

八幡「な……何なんだよ……それ……!」

雪乃「それはわかってないわ。だから一度目覚めなくなった人間は、もう仮想現実体験装置は使えない」

八幡「それって……つまり……」

八幡「もう二度と、雪ノ下や、由比ヶ浜に会えないという事か……?」

雪ノ下は小さく頷く。

八幡「そんなのって……ねぇよ……!」
603 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 04:00:20.00
雪乃「でも、ここでずっと生きていけるわけ、ないでしょう? あなたの身体は現実にあるのだから、栄養を補給しなければいつかは死んでしまう」

八幡「でも……でも……!」

結衣「ヒッキー、さがみんに聞いたんでしょ?」

八幡「!」



八幡『お前は今の自分自身が好きか?』



結衣「今、現実から逃げたって、ヒッキーが自分の事を好きになれるわけ……ないじゃん……」
605 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 04:05:17.35
八幡「くっ……そ……っ!」

何なんだよ、何なんだよこれは! 二度と雪ノ下や由比ヶ浜に会えない? そんなの、認められるか!?

結衣「ほら、ヒッキー。泣かないで。男の子でしょ?」

八幡「泣いて……ねぇよ……」

八幡「何なんだよ! こんなの突然言われて、納得できるわけ、ねぇだろっ!!」

結衣「……私たちが、納得しているように見える?」

八幡「……えっ?」
607 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 04:10:19.16
結衣「納得できるわけないよっ!!!」

結衣「何でなの!? 何でヒッキーと一緒にいられないの!? 私もゆきのんも最初から知ってた!! 私は何度も何度も考えて、泣いて、それでもヒッキーの為だと思って、納得しようとしたよ!!!」

結衣「でも……認められるわけ……ないじゃん……!!」グスッ

由比ヶ浜は、もう感情を止めることはできなかった。

八幡「由比ヶ浜……」

結衣「なんで……好きな人と一緒にいたいって願いも……叶えてくれないの……? 酷いよ……酷すぎるよ……」
611 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 04:19:59.89
雪乃「由比ヶ浜さん。落ち着いて」

雪ノ下が泣き続ける由比ヶ浜の背中をさする。

結衣「うぅ……っ、ごめんね……ヒッキー……。最後まっ……で……笑っていようと……思ったのに……っ」

八幡「……悪かった。お前たちの気持ちも考えてやれなくて」

雪乃「……私もね、あなたといるの、楽しかったわ」

雪乃「いつも私の暴言にあなたがツッコミを入れたり、由比ヶ浜さんがいつものように少しマヌケな事をしでかしたり……」

雪乃「そんな、この空間が、この部屋が……私は、好きだった」

八幡「…………」

雪乃「比企谷くん」クルリ

雪ノ下が俺に向き直った。その目が少し潤んでいるように見えるのは、きっと気のせいではないだろう。

雪乃「由比ヶ浜さんも言ってたけれど、私も言わせてもらうわ」

雪乃「比企谷くん。私は、あなたの事が、好きでした」
613 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 04:23:50.11
八幡「……お、おう」

雪乃「はぁ……あなたは最後まで相変わらずね」

八幡「うっせーな。告られたの初めてだから、どう反応すればいいのかわかんねぇんだよ」

雪乃「うふふ……」

八幡「何だよ?」

雪乃「いえ……最後に、こんな会話をできてよかったと思っただけよ」

八幡「そうか……」
615 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 04:28:48.26
八幡「……俺は」

八幡「こんなの、男らしくないかもしれないが……」

八幡「雪ノ下に、由比ヶ浜、二人とも好きだった」

八幡「どっちの方が好きとかはなくて、本当に、二人とも、好きだったんだ」

結衣「……ヒッキー、らしいね」

雪乃「ええ、最後まで比企谷くんは、比企谷くんだったわ」

八幡「おいコラ、それはどういう意味だ」

雪乃「そのままの意味よ」

結衣「あははははは!!」

こうして、最後の時が、過ぎていく。
617 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 04:36:21.84
八幡「……じゃあ」

結衣「うん……」

雪乃「あなたがその扉を開けば、この夢は覚めるわ」

八幡「そうか……」

その前に一つだけ、気になる事を。

八幡「お前たちは、これからどうなるんだ?」

雪乃「大体は、記憶を消されてまた最初のに戻されるのだろうけれど……」

雪乃「……もしかしたらそうじゃないのかもしれないわね。記憶を残したまま、次の誰かの『俺ガイル』の中に出てくるかもしれないわ」

結衣「うん……、そうだったら、いいな……」

八幡「それは、俺が現実に戻ったあとにでも、博士に言っとくよ」

結衣「本当に!?」

八幡「ああ。俺は約束を破ったことはない」

バイトをばっくれたことはあるがな。
619 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 04:46:51.80
結衣「ヒッキー、元気でね……」

八幡「ああ、お前も元気でな……。甘いもの食い過ぎんなよ、虫歯になるからな」

結衣「むー! ヒッキー最後までそうやって!」プクー

八幡「まあ、元気でやるさ」

雪乃「比企谷くん、今までありがとう」

八幡「……俺も感謝しきれない程、お前には世話になったな。ありがとな。本当にいろいろ助けられた」

雪乃「ええ……」

結衣「ヒッキー! 私もね、ヒッキーにたくさん感謝してる。だからね……今まで、ありがとう……!」

八幡「ああ、由比ヶ浜も、今までありがとな……」

雪乃「……さよなら」

結衣「バイバイ、ヒッキー……」

八幡「ああ……さよなら……」

俺は二人に背を向け、そして、ゆっくりと扉を開けた。
621 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 04:51:45.95
……暗い。

どこだろう、ここは。

機械の甲高い音が俺の鼓膜神経を刺激する。

意識がはっきりしていくにつれて、身体が重力で地面に押し付けられている感覚が強くなった。

すると、突然、目の前から光が差し込んだ。

八幡「まぶし……っ!」

開いたその前に広がっているのは、博士の店の風景だった。

博士「ようやく起きたか?」

博士は俺に手を差し伸べる。その手は細長くて、少し力を入れれば折れてしまいそうだった。
623 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 04:56:19.54
八幡「……今日は」

博士「12月24日。クリスマスイブだ」

八幡「…………」

博士「……すまなかったな。君には辛い思いをさせてしまった」

八幡「…………」

博士「だが夢の中で言ったとおり、もう君に仮想現実体験装置を使わせる事はできない。いくら金を積まれてもね」

八幡「いえ、それはもういいんです。ただ……」

博士「ただ?」

八幡「……雪ノ下たちの記憶を、消さないでやって欲しいんです」
625 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 05:04:07.12
店から外へ出ると、どこからかジングルベルが聞こえてくる。

心にぽっかりと穴が空いてしまったような気分だ。当分何もする気は起きないだろう。

空を見上げながら俺はゆっくりと歩き始める。

もう、二度と会えない二人の友人たち。

彼女たちの事を思うと、今にも涙がこぼれてきそうだ。

いくら泣いたっていい。いくら胸の痛みに耐えかねて叫んだっていい

だが、それでも俺はこの現実で懸命に生きていこう。

彼女たちと、そう約束したのだから。



EDテーマ

Song for friends

https://www.youtube.com/watch?v=4Xtxym_NS58
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/08/26(火) 09:05:24.24
乙、どの話もおもしろかったわ

まだ続きありますよね(懇願)
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2014/08/26(火) 09:07:35.88
乙です
最後まで楽しめました
次も期待してます
639 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 14:51:52.06
タモリ「少年が落ちてしまった三つの穴」

タモリ「その底に何があるのか、ここからではわかりません」

タモリ「そもそも底があるのかどうかも怪しいものです」

タモリ「おや、よく見ると、他にもたくさんありますねぇ」

タモリ「意外と、あなたのすぐそばにもあるのかもしれませんよ」

タモリ「くれぐれも足元をすくわれないよう、お気をつけて」



https://www.youtube.com/watch?v=jsta3tEY43s

640 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 14:55:06.61
ストーリーテラー

タモリ



『恐怖小説』


比企谷八幡


材木座義輝


雪ノ下雪乃


由比ヶ浜結衣


平塚静




比企谷小町


脚本 作者




『マッ缶と俺とリア充』


比企谷八幡


葉山隼人


雪ノ下雪乃


由比ヶ浜結衣


三浦優美子


戸部翔




海老名姫菜


脚本 作者

スペシャルサンクス

MAXコーヒー

641 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/26(火) 14:55:44.54
『そして比企谷八幡は夢から覚める』


比企谷八幡


雪ノ下雪乃


由比ヶ浜結衣


平塚静


相模南




博士


脚本 作者


最終話エンディング

「Song for friends」


スペシャルサンクス


ここまで読んでくださった皆様


連投のできない作者のために支援レスをしてくれた皆様


総監督 作者


終わり
642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/08/26(火) 15:36:54.28
乙でした
続編期待してます
644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/08/26(火) 15:42:39.34
乙!
最後の真っ暗な画面の右下に世にも奇妙な物語が表示されるのまで脳内再生余裕でした
次期待してます
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/08/26(火) 18:44:29.05
思ってた以上に世にも奇妙で驚いた
是非とも次作を見てみたいもんだ
659 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/31(日) 22:07:41.79
テッテッテレレーテレレーテレレー

テッテッテレレーテーンテレーン

タモリ「ドッペルゲンガーという単語をご存知でしょうか?」

タモリ「自分と全く同じ姿の人物が現れる現象の事ですが」

タモリ「その姿を本人が見てしまうと、その本人は死んでしまうと言われています」

タモリ「同じ人物が同じ世界に存在するなどあり得ないと思われがちですが」

タモリ「私たちはこの広大な世界の全てを知っているわけではありません」

タモリ「もしかしたら、実はどこかにいたりするのかもしれませんよ」

テレレッテッテレレーテッテッ

テレテッテッテッテッテレレレレーレー

テッテッテレレーテレレーテレレ

テーンテレレレレレン
661 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/31(日) 22:13:15.11
材木座「八幡!」

八幡「何だよ、休み時間に騒がしい」

材木座「何だよではない! 今日新作を持ってくると言ったであろう!」

八幡「それ俺は承諾してねーし」

材木座「まあ読むがいい! 今回のは傑作であるぞ!」ドサッ

それはちょっとやそっとで読める量ではない。また俺の夜を犠牲にすんのかよ。

八幡「うぇ……」
663 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/31(日) 22:28:12.96
八幡「……材木座」

材木座「む?」

八幡「とりあえず一ページにあらすじみたいのまとめてくんねーか? さすがにこの量はキツい」

しかもめっちゃ読みづらいしな。ルビ多すぎなんだよ、こいつの小説。何で『輝超魂』で『ウルトラソウル』なんだ。『ハイッ!』ってかけ声出せばいいのか?

材木座「ぎょ……御意……」

八幡「あとわざわざ教室に来んな。放課後にでも奉仕部の部室にでも来ればいいだろ」

材木座「何を言っているのだ? 我の教室はここであるぞ?」

八幡「はっ?」

665 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/31(日) 22:49:15.85
何言ってんだ、こいつ。

確かにクラスに話せるやつがいないと、知り合いのいるクラスに来たくなるよな。気持ちはわかるぞ。俺にそんな相手がいた事はないが。

だからと言って、現実から目をそらしちゃいけないんだぜ?

八幡「お前のクラスはCだろ。さっさと巣に帰れ」

材木座「八幡……。お主こそ何を言っておるのだ?」

八幡「だから――」

戸塚「はちまーん」

八幡「おっマイエンジェル」

戸塚「えっ?」

八幡「いや、何でもない。ちょっと本音が出てしまった」
667 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/31(日) 23:07:01.06
八幡「戸塚に会うために生きてる気がする」

戸塚「僕も八幡に会えて嬉しいよ!」

八幡「……っ!?」

何だよこれ、マジ天使。戸塚マジ天使。俺もう死んでもいい。屋上から突き落とされたくはないが。

材木座「はちま……」

無視だ無視。こいつとの会話で戸塚とのお楽しみの時間を減らしたくない。お楽しみの時間とか何考えてんの、俺。

戸塚「材木座くんも、やっはろー」

八幡「おお、いたのか材木座」

材木座「さっきまで会話してたよね?」

素が出てんぞ、素が。

八幡「とりあえずお前は自分の教室に帰れ」

材木座「だから、我の教室はここであると……」

八幡「はいはい、わかったから。とっととC組に帰れ」

戸塚「ダメだよ、八幡。材木座くんにそんな意地悪したら」

八幡「えっ?」

戸塚「材木座くんもここのクラスでしょ?」

八幡「!?」
669 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/08/31(日) 23:14:29.01
八幡「ちょ、ちょっと待ってくれ。今、何て言った?」

戸塚「材木座くんも、ここのクラスだって……」

八幡「何を言って……」

急いで教卓に走る。そこにはここのクラスの名簿があるはず――あった、これだ。

『材木座義輝』

八幡「バカ……な……?」

目の前の現実を飲み込めずに教室を飛び出した。向かう先は、C組だ。

前の扉から教室を覗く。

そこに材木座義輝の姿がある事を信じて。

そして、幸か不幸か、それは叶ってしまった。

そこにも、材木座義輝の姿があった。
676 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/01(月) 23:13:52.29
八幡「材木座!」

材木座「な、なんだ、八幡? 突然我がクラスルームに走り込んできて」

八幡「お前は、C組だよな?」

材木座「そ……そうだが……?」

八幡「だよな、俺の記憶は間違って――」

――待てよ。

じゃああれは誰だ?
678 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/01(月) 23:16:56.81
八幡「すまん」

そう一言だけ言って、教室を後にする。

戻る先は自分の教室。

そこにも、材木座義輝はいた。

八幡「どうなってんだよこれは……!」

それからC組とF組を三往復したが、何度確かめても材木座はどちらにもいた。

八幡「これどう考えても、材木座が二人いる……よな……?」

わけがわからない。だがしかし、他の誰かが変装しているとは考えられない。

材木座「幻紅刃閃(ブラッディナイトメアスラッシャー)ーーーー!!!」グワアアアアアアアアアア

……こんなめんどくさいやつがこの学校に二人もいてたまるか。

680 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/01(月) 23:23:48.45
材木座「何なのだ、八幡。さっきからここをチラチラ見おって。まさか貴様、機関の差し金か!?」シュパッ

八幡「くだらん話は後だ。お前は材木座義輝。二年C組で、自らを剣豪将軍と名乗る痛い中二病。間違いないな?」

材木座「ゴラムゴラム。我は中二病などではなく、真の――」

八幡「ふざけんのも後にしてくれ。こっちは真剣なんだ」

少し語気を強めると、材木座はシュンと肩を落とした。

まあいい、こんな話し方をするやつは材木座しかいない。

八幡「……うちのクラスにもう一人お前がいるんだよ」

材木座「む、それがどうかしたのか?」

八幡「……は?」
682 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/01(月) 23:29:08.91
材木座「確かにもう一人の我は八幡と同じクラスであるが、それはいつもの事であろう?」

八幡「だから、ふざけんのも大概にしろと――」

戸塚「あー、八幡、こんなとこにいたー」

八幡「と……戸塚?」

戸塚「もうそろそろ昼休み終わるから戻って来ないとダメだよー? あ、材木座くん、やっはろー」

材木座「うむ、やっはろー!!」

いや、だからちょっと待て。

八幡「……戸塚、こいつ、F組にいたよな」

戸塚「うん、そうだね」

八幡「何でここにいるんだ?」

戸塚「だって材木座くんは二人いるじゃない」

八幡「はぁっ!?」

戸塚「!!」ビクッ

八幡「どういう事だよ!? こいつに双子の兄弟がいるなんて聞いたことねーぞ!?」

戸塚「べ……別に、双子なんかじゃなくて……」

戸塚「材木座くんは、最初から……二人いるでしょ……?」
684 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/01(月) 23:36:38.77
戸塚は嘘をついたりするような人間じゃない。それに、その目は明らかにドン引きしていた。まるで、1+1が1だと言い張る高校生を見ているかのように。

八幡「何が……どうなって……」

材木座「はちまーん。もう休み時間終わるぞ?」

八幡「なっ!?」

ここはC組である。そして、そのC組に、もう一人材木座が入ってきた。

材木座・材木座「「早く教室に戻らねば、授業に遅れるぞ?」」

二人の材木座が並んで、全く同じポーズで、全く同じセリフを、全く同じタイミングで言い放った。

八幡「う、うわあああああああああああああああっっ!!!」

恐怖、恐怖、恐怖、恐怖。

ただそれだけが脳内を支配して、俺は逃げ出した。
687 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/01(月) 23:42:19.49
そこからどうやって家に帰ったのかは覚えていない。

気づいたら自分の部屋のベットで横になっていた。

八幡「……何だよ、あれ」

確かに、確かに材木座があの場に二人いた。

忘れようと思ってもあの光景は忘れられない。

八幡「……明日になったら、元に戻ってねーかな」

もしくはこれが夢であって欲しい。

しかし何度ほおをつねっても、痛いし目が覚める気配はない。

ただ、明日にはまた平凡な日々が戻ってくることを願うばかりだ。
689 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/01(月) 23:50:02.36
あまりにも不快なものを見せられて、疲れが溜まっていたせいか、目が覚めたのは遅刻するかどうかのギリギリの時間だった。

八幡「……気のせいだよな。あれは」

八幡「うん、きっと見間違いだ」

あんなの、あり得るわけがない。そう、現実的に考えて突飛すぎるのだ。ならば、昨日のあれはここ最近寝不足が続いていた俺が見た幻なのだ。どうせなら戸塚が増えてるのが見たかったよ。天使が二人なら回復力も二倍になったりしねーのかな、しねーか。

ガララ

時間はギリギリ。とりあえず遅刻ではない。

扉を開くと、そこにはいつもと同じ光景が広がっているはず。

そこに材木座がいるなんて――



材木座・材木座「「八幡、遅刻の臨界点を彷徨うとは、まだまだだな」」



――うちの教室に、材木座が二人いた。



692 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/01(月) 23:54:26.74
八幡「……戸塚」

戸塚「どうしたの、八幡? また顔色悪いよ? 昨日のまだ治ってないの?」

八幡「ああ、そうみたいだ。ちょっと保健室行ってくる。その前に一つだけいいか?」

戸塚「なに?」

八幡「何で、うちの教室に材木座が二人いるんだ?」

戸塚「……? 材木座くんは、最初からF組に二人いたよ?」

八幡「……そうか。ちょっと休んでくる」

もう驚かねーわ。頭が現状に追いついてないだけなのかもしれないが。

保健室へ向かう途中に、C組を覗く。そこにもやはり、材木座の姿があった。

八幡「……材木座が、こっちは一人か」

何だ、何なんだ、これは。

クールだ、クールになれ、比企谷八幡。

まず、昨日はC組に一人、F組に一人、材木座がいた。

そして今日は、C組に一人、F組に二人、材木座がいた。

つまり、結論を言ってしまうと――

八幡「一日毎に材木座が増えていくのか……?」

何それウザい。
694 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/01(月) 23:59:14.47
次の日には、予想通り材木座が三人に増えていた。

その次の日には四人。

正直言って最早恐怖とかは感じなかった。それ以上に、ウザい。

材木座・材木座・材木座・材木座「「「「八幡っっ!!! 我の新作のプロットを!!!」」」」

一人だけでも十分うるさいのに、それが四人にもなればウザさ百倍だ。何それ、アンパンマン?

八幡「そういや、人が増えてんのに、教室狭く感じねーな」

八幡「…………」キョロキョロ

よく見ると、机の数も変わっていない。

変わっていない?
696 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/02(火) 00:05:59.73
八幡「……あれ?」

ここ数日、童貞風見鶏の大岡の姿を見ていない気がする。葉山グループの中にその姿がない。

八幡「……気のせいであってくれ」

また、教卓に置いてあるクラスの名簿を見ると、そこに大岡の文字はなかった。

そしてさらに驚くことに、材木座の名前は四つも並んでいた。

八幡「…………」

八幡「戸塚」

戸塚「なに?」

八幡「大岡って、このクラスにいたか?」

戸塚「おお……おか……?」

八幡「知らないか」

戸塚「うん……いないと、思うよ。その名簿にも載ってないみたいだし」

八幡「……そうか」
698 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/02(火) 00:13:33.67
材木座が一人増える度に、クラスの誰かが、消える。

そして、誰もそれに気づかない。

誰も、消えた人のことを覚えていない。

誰も、材木座が増えた事を不思議に思わない。

八幡「……俺以外は」

雪乃「何を腐った目でブツブツ言っているのかしら?」

八幡「…………」ボー

雪乃「なっ何よ?」

八幡「今、うちの教室に材木座が四人いるんだよ」

雪乃「それがどうかしたのかしら?」

やっぱり、こいつもそうか。由比ヶ浜にも二日目に聞いたが、答えは同じだった。


次の日も、その次の日も、材木座は増え続けた。

クラスの半分が材木座で埋まってしまった。

この教室だけを見ると、コートが校則違反なのかわからない。

本当に、気持ち悪い。

材木座・材木座・材木座・・・・「「「「「「八幡!!!!!」」」」」」

八幡「あーーーーーー!!! うるせぇーーーーーー!!!!!」
700 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/02(火) 00:17:50.54
さらに日が過ぎ、三分の二が材木座になった。

大岡だけでなく葉山や三浦、相模まで材木座になってしまった。

そして誰も、それに言及しない。

八幡「……由比ヶ浜」

結衣「なに、ヒッキー?」

八幡「何でこの教室に材木座が何十人もいるんだろうな」

結衣「別に普通じゃん?」

八幡「……三浦って覚えてるか?」

結衣「……? 誰それ?」

由比ヶ浜はもうかつての友人の事を忘れていた。

いつまで続くのだろうか。

このまま二年F組が材木座で埋まるまでなのだろうか。

それは勘弁願いたい。

八幡「戸塚が材木座になったら生きてける気がしねーよ……」

戸塚だけでも守りたい、しかしそれは無理な話だ。

この状況下でどうすればいいのか、皆目見当がつかない。

八幡「誰に何を聞いても、材木座が増えてる事に気づかないし、それにおかしいと思わないんだよな」

俺だけが、おかしいと思っている。俺以外は皆、これが普通だと言う。

ならば、本当に狂っているのは、どっちなのだろうか。
702 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/02(火) 00:22:27.12
ついに恐れていた事が起きた。

八幡「……戸塚?」

いつものように俺を呼ぶ声が、今日は聞こえない。

八幡「戸塚ぁ……どこだよ……」

結衣「ヒッキー、どうしたの?」

八幡「なぁ……戸塚は……戸塚は……どこだよ……?」

結衣「とつ……か……?」

八幡「戸塚だよ、戸塚! テニス部で女の子よりも可愛くて、俺の事を「八幡」と呼んでくれる俺の天使だよ!!」

結衣「ごめん……ヒッキー……。何を言ってるのか……ちょっとよくわかんない……」

由比ヶ浜は目を逸らす。それが申し訳なさからなのか、俺への拒絶反応なのかは、わからない。

八幡「戸塚ぁ……! 戸塚ぁ……っ!!」

いくら泣いても、あの声が、俺の名を呼ぶ事はなかった。

材木座×26「「「「「「「どうしたのだ、八幡」」」」」」」

戸塚がいた時の俺ならきっとこいつに殴りかかっていただろう。しかし今の俺にはもう、何も考えられなかった。
704 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/02(火) 00:26:48.72
それから、戸部や海老名さん、そして今日の朝には由比ヶ浜までもが消えて、残るは俺一人になった。

八幡「最後は……俺か」

材木座×35「「「「「「「「「「八幡、元気がないではないか」」」」」」」」」」

この人数になると、もう一人増えようが減ろうが、関係ない。ただ生理的悪寒だけが、全身に鳥肌を立たせる。

八幡「……誰のせいで、こうなってるんだよ」

八幡「なんでお前は、何十人もいるんだよ……」

材木座×35「「「「「「「「「「はて、何を言っているのかわからんな」」」」」」」」」」

八幡「俺も何を言ってんのかわからなくなってきた」

どうか、夢であってくれ。

こんな狂った世界から、俺を解放してくれ。
706 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/02(火) 00:28:46.16
朝、目が覚めた。

俺は、この世に存在している。鏡を見てもいつものままだ。

自分が消えてしまわなかった事に安堵するが、それ以上に今の教室の中が気になる。みんな元に戻ったのだろうか。

しかし教室に着き、その希望は打ち砕かれる。

状況は昨日と何も変わっていなかった。

相変わらず材木座は35人いて、いつも通りに授業は進む。

ただ一つおかしいのは、材木座が今日は増えなかった事だ。

材木座×35「「「「「「「「「「八幡!! 今日こそは我がプロットをだな……!」」」」」」」」」」

八幡「…………」スタスタ

教室中の材木座が俺を呼び止めるが無視して奉仕部に向かう。材木座は雪ノ下が苦手だから奉仕部の部室内には入って来ない。だから部室にさえ行けば、材木座に会わなくて済む。家以外で唯一安らげる場所だった。

八幡「うーす」ガララ

材木座「うむ、遅いぞ、八幡!」

八幡「」
708 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/02(火) 00:32:16.50
八幡「……なんで、お前がここに?」

材木座「なんでも何も、奉仕部は我と我と八幡の三人であろう!」

八幡「」

ガララ

材木座B「八幡! 話も聞かずに帰るとは酷いではないか!!」

この部室に二人目の材木座が現れた。

ああ、なるほど。雪ノ下も由比ヶ浜も材木座になっちまったのか。だからここに二人いるのか。

八幡「…………」フラフラ

材木座・材木座B「「八幡、足元がアースクエイクしているが、大丈夫なのか?」」

八幡「…………」ガララ

気味悪くハモる声を無視して、俺は部室を後にした。
710 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/02(火) 00:34:09.87
八幡「何だよ、これ……。もう知り合いのほとんどが材木座になっちまったじゃねぇか……」

八幡「もう、俺に残されてんの小町だけじゃねぇの……?」

八幡「……ただいまー」

材木座「おかえりだ!! 八幡!!!」

八幡「」

何か……もう、何なんだ、これは。

八幡「……なぜ、お前がここに」

材木座「血を分けた兄弟を忘れるとはこれ如何に! 八幡はそこまで堕ちたか!?」

小町も、消えた。



八幡「ああ……ああ……あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/02(火) 00:37:00.20
怖すぎワロエナイ
712 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/02(火) 00:38:15.62
材木座A「うむ、新作の小説の設定が出来たな。これは傑作の予感であるぞ」

材木座B「幻紅刃閃(ブラッディナイトメアスラッシャー)ーーーー!!!」グワアアアアアアアアアア

材木座C「くっ……我が右腕が……疼く……!」

材木座「我は剣豪将軍!!! 材木座義輝也!!!!!」

あれから一月が過ぎた。現在、日本は、いや、世界は材木座で埋め尽くされていた。世界中の誰もが、材木座になっている。

材木座×72億「「「「「「「「「「「「「八幡っっっ!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」



――俺以外は。



『世界は、材木座で出来ている』



世にも
奇妙
な物語



714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/02(火) 00:38:37.09
これは…怖いな
715 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/02(火) 00:39:46.64
テッテッテレレーテレレーテレレー

テッテッテレレーテーンテレーン

タモリ「常識とは時代や場所によって大きく異なるものです」

タモリ「例えどれだけ自らが普通だと思っていても、その社会の多数派でなければ異端となってしまいます」

タモリ「世間で言われる常識や正義など」

タモリ「そんな脆く、崩れやすいものなのです」

タモリ「例えば明日、世界が一変していたら」

タモリ「あなたは、どうしますか?」

テレレッテッテレレーテッテッ

テレテッテッテッテッテレレレレーレー

テッテッテレレーテレレーテレレ

テーンテレレレレレン
734 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/04(木) 23:01:11.00
テッテッテレレーテレレーテレレー

テッテッテレレーテーンテレーン

タモリ「人はいつも何かに恐怖します」

タモリ「それは現実的な物に対してかもしれませんし、非現実的な物に対してかもしれませんが」

タモリ「いずれにせよ、人は恐怖を抱かずに生きる事はできません」

タモリ「それは人間が人間として生まれた宿命なのでしょうか」

タモリ「しかし、中にはわざわざ求める人も、いるんですよねぇ」

タモリ「それが奇妙な世界への入り口とも知らずに」ニヤァ

テレレッテッテレレーテッテッ

テレテッテッテッテッテレレレレーレー

テッテッテレレーテレレーテレレ

テーンテレレレレレン

736 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/04(木) 23:06:12.68
人はいつだって何かに怯えている。

お化けや幽霊なんてものを信じていなくても、恐怖の対象は存在している。

例えば、人の視線。

いや本当に何なの、あれ。ぼっち極めすぎて、見えなくてもわかっちゃうから困る。

葉山あたりなら、それが憧れの対象としての視線だったりとプラスの視線が多いのだろうが、俺にそんな視線が送られるわけがない。むしろマイナスになりすぎて、地球にある電子数超えるレベル。それどんだけマイナスなんだよ。

何が言いたいかと言うと、とりあえず生きている限り恐怖からは逃げられないという事だ。
738 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/04(木) 23:19:00.46
そしてさっきも言ったが、幽霊などよりも生きている人間の方がよっぽど怖い。

幽霊は攻撃できるのか知らんが、少なくとも生きている人間は攻撃をしてくる。肉体的にも、精神的にもだ。

例えば何人かのグループに入っていたとしよう。

何か少しでも隙や汚点が見つかれば、すぐに叩かれる。

逆もまた然り。突出して何かに長けていたら、それも叩かれる理由になり得る。出る杭は打たれるとはうまい事を言ったものだ。

人と関われば関わるほどに、攻撃の対象となる可能性は高くなる。つまり多くの人間と関わるリア充どもは、日々それに怯え、避けながら生きているのだ。

結論を言おう。

人との関わりゼロのぼっちこそが最高なのであり、そしてそのぼっちを極めた俺こそが最強なのだ。


740 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/04(木) 23:30:22.53
結衣「それでねー」ワイワイ

教室における俺の位置づけはいつもと変わらない。端っこで本を読むか、寝るかのどちらかだ。しかし本当によくもまあリア充はあんなにどうでもいい事で盛り上がれるものだ。

結衣「そう言えばさー、うちの学校の七不思議知ってるー?」

三浦「二つくらいは聞いた事あるかな」

で、出たー。学生あるある第三位!(当社調べ)自分の学校の七不思議ネタ!

なぜ、怖い話を好き好んでするのか、リア充の考えはわからん。

結衣「そうなんだ、私は六つ知ってるんだけど――」

すげぇな、コンプリート目前じゃん。で、最後の七つ目を知ったと思ったら幻の八つ目が現れるんですね。何それ、初代ポケモンみたい。ミュウって何だよ、ミュウって。バグ技使わないとゲットできないとか、それゲームとしてどうなんだよ。
742 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/04(木) 23:39:47.80
総武高七不思議(by由比ヶ浜)

一、夜中の校内に白い服を着た女性が歩き回っている。

二、夜、教室の前を歩くと、窓や扉から何かが飛び出してくる。

三、誰もいないはずの体育館から何故か物音がする。

四、夜、渡り廊下が長くなる。

五、夜の二階のトイレの鏡に見知らぬ誰かが映る事がある。

……なんかよく聞くようなやつのオンパレードじゃね、これ?

しかも夜限定ばっかだし、確かめられないやつしかねぇ。まあそこがいいのかもしれないが。
744 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/04(木) 23:46:21.73
結衣「それで六つ目がね……」

結衣「七つ目を知ると、よくない事が起きるらしいの!」

そのテンションで台無しだぞ、もう少し怖そうにしゃべれよ。稲川さんレベルは求めないからよ。

三浦「えー怖いー!」

三浦は棒読みでそのまま葉山の腕に抱きついた。絶対怖がってないですよね、それ。

葉山「あはは……」

そして抱きつかれた本人は苦笑いである。

結衣「だから、私ちょっと危ないんだよね……」

聞かされた人も今この瞬間に全く同じ状況になったんですが、気づいていますか?
746 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/04(木) 23:51:25.56
時間は少し飛んで午後十一時半。

八幡「SSでも見て寝るかな」

八幡「おっ、らき☆すたとクロスしてるやつ更新されてるじゃん。ラッキー」

らき☆すただけに? つまらんな。

八幡「やっぱかがみんは可愛いなー」

ゴーインゴーインアロンウェーイ

八幡「むっ」

ピッ

八幡「もしもし」

??「……ちょっと付き合って欲しいんだけど」
749 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/04(木) 23:57:27.11
何がどうなってこうなった。

混乱しているな、言い直そう。

どうしてこうなった。

時刻は午前零時。

そんな真夜中に俺は、総武高の校門にいた。なんで?

??「悪いね、私のために」

校門の中には、制服姿の川崎紗希の姿があった。
754 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/05(金) 00:14:00.87
八幡「ああ、本当にな。こんな真夜中に人を呼ぶなんてまともなやつがする事じゃない」

川崎「それでも取りに行かないといけないから、あのプリント」

八幡「なんの話だ?」

川崎「わかんないの? あの数学のプリントだよ」

八幡「あーそんなのあったな」

何か絶対出さないと進級に関わるとか言ってたな。一枚のプリントにそこまでかけるか、普通?

川崎「今さっき気づいてね、誰か一緒に行く相手を探してたんだ」

八幡「それで、俺が選ばれたと」

川崎「あんたどうせ暇でしょ?」

八幡「……否定はできないな」
756 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/05(金) 00:17:40.86
川崎「それに、あんたなら呼んでも申し訳ないとか思わないし」

八幡「酷いな、借りがなかったら帰ってるところだ」

文化祭の時と、生徒会選挙の時。川崎には二度も世話になっている。だから、こんな非常識な頼みも断れなかった。

八幡「てか、お前の弟に頼めばよかったんじゃないか?」

何だっけ、名前。川崎大臣? 絶対投票しねぇ。

川崎「大志は受験生だから。今の時期に迷惑かけらんないし」

八幡「このブラコンめ」

川崎「うるさい、シスコン」

八幡「……不毛だな、とりあえずさっさと取るもん取って帰ろうぜ」

川崎「う、うん」
759 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/05(金) 00:22:59.52
八幡「何で一人で来なかったんだ?」

川崎「えっ? えーっと、それは……」

八幡「……怖い、とか?」

川崎「何でそうなるの? 違うし。あんたがいればいざという時に囮にできるでしょ?」

八幡「俺を何だと思ってるの?」

川崎「……えさ?」

八幡「お前はジャングルに行くつもりなのか? 多分夜の学校にライオンはいないぞ?」

川崎「そんなのわかってるよ」

あんたバカなの? と言いたげな目で俺を見る。いやいや、お前の発言がアレだからつっこんだのに。
761 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/05(金) 00:30:04.16
八幡「で、どうやって入るの、入れないの? じゃあ帰るよ?」

川崎「帰ろうとしないで。入る方法はあるから」

ほう、お手並み拝見といこうじゃないか。

ガララ

八幡「!?」

何で窓開いたの!? まさか川崎はメンタリスト!? それ関係ないな。心読んでどうすんだよ。
763 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/05(金) 00:32:53.56
川崎「よかった……開いてた……」

ふぅ、と川崎は胸を撫で下ろした。彼女にも確証はなかったらしい。

八幡「何で開いてんだよ、ここ。防犯的に問題ありじゃないか?」

川崎「ここの部活、よく鍵閉め忘れるから……」

何でそんな情報知ってんだ。お前ぼっちじゃなかったのかよ。
765 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/05(金) 00:41:06.36
八幡「……暗いな」

廊下はやはり暗い。月明かりと非常口の緑色の光だけしかなく、それでようやく道が見えるくらいだ。

川崎「…………」プルプル

川崎は足を震わせながらゆっくり歩く。俺が先行するが、いつも通りに歩くと置いて行ってしまうので、歩調は落とす。

八幡「……大丈夫か?」

川崎「べっ別に……怖いわけじゃなくて、寒いだけだから……」

まあ確かに寒いですよね。じゃあ何で俺の上着の裾をつまんでるんですかね?

てか今、俺の怖いかどうかなんて聞いてなかったような……。

八幡「そうか。じゃあさっさと行くぞ」
767 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/05(金) 00:48:05.50
川崎「っ!?」

突然、川崎が俺の上着を引っ張った。何だよ、破けちゃうだろ!

八幡「……どうし――」

川崎を見た瞬間、言葉が詰まった。川崎の表情は嘘をついている人間のものではない。だから、本当に恐ろしい何かに気づいてしまったのだと、俺はわかってしまった。

川崎「……足音が」

八幡「えっ?」
769 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/05(金) 00:55:23.66
コツーンコツーン。

どこからだろうか。確かに、俺たち以外の誰かの足音が聞こえる。

コツーンコツーン。

その音は段々大きくなる。

川崎「比企谷……」

川崎はつまんでいた上着を離して、そのまま俺の腕にしがみつく。……あの、当たってるんですが……。
771 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/05(金) 00:58:44.94
コツーンコツーン。

こんな時間に、校内に誰かがいるわけ、ないのに。

コツーンコツーン。

それなのに、その音は鳴り続ける。



一、夜中の校内に白い服を着た女性が歩き回っている。



八幡「嘘だろ……?」



コツーンコツーン


772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/05(金) 00:59:22.41


サキサキ可愛いよサキサキ
773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/05(金) 01:10:32.87
乙!

>一、夜中の校内に白い服を着た女性が歩き回っている。
まさか・・・ね
777 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/05(金) 23:43:29.44
川崎「ど……どうする……?」

八幡「……隠れよう。もしもこんな時間に俺たちの他に誰かがいたとしたら、不審者の可能性が高い」

冷静に考えれば、そうだ。少し恐怖で頭がどうかしていた。

川崎「でも……七不思議が……」

あ、お前も知ってたのね、あれ。

八幡「あんなもん信じてんの?」

川崎「べ、別に信じてなんかいないけど……!」

八幡「だろ? 俺も信じてないし、幽霊とかよりも本物の人間の方がよっぽど怖い」

もしも変質者の類いだったら川崎が危ない。今は身を隠して、音の正体を突き止めるべきだろう。
779 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/05(金) 23:47:22.26
コツーンコツーン。

八幡「もうそこまで来てる。とりあえずそこに入るぞ」ヒソヒソ

川崎「えっちょ、比企谷ムグゥ」

声を出させないために口を塞ぎ、そのまま近くの教室に入った。

八幡「……ふぅ」

川崎「……ぷはぁっ。いきなり何を……」

八幡「シッ」

口に人差し指を当て静かにしろと合図する。いや、俺の口にだよ? こいつの口にじゃないよ?

コツーンコツーン。
781 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/05(金) 23:51:30.08
コツーンコツーン。

足音はどんどん大きくなる。心臓の鼓動の早さがそれに比例するように上がる。さっきのところにいたら、きっと音の主に見つかっていただろう。

コツーンコツーン。

足音は教室の前まで来た。壁の向こうには、この音の主がいる。怖い。

??「……い」

八幡・川崎「?」

??「なんで……こんな夜中に校内の見回りなどしなければいけないんだ……。本当に若手は辛いな……若手だからな……」

八幡・川崎「…………」

??「まあどうせ家にいても一人だし、変わらないかな……」

??「はぁ……結婚したい……」

コツーンコツーン。

足音は遠のいていった。

783 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/05(金) 23:55:35.83
川崎「比企谷、今のって……」

八幡「よせ、みなまで言うな。いいか、俺たちは何も聞かなかった。行き遅れのアラサーの愚痴なんて聞かなかったんだ。いいな?」

川崎「あんたが全部言っちゃったじゃん……」

八幡「いや、俺は何も言っていない。何も言っていないんだ。……くぅっ!」

何だろう、胸が痛む。

本当にもう、早く誰か貰ってやれよ……! 可哀想すぎるだろ……!

786 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/06(土) 00:00:40.33
八幡「……行ったな」

もう足音は聞こえない。方向的にももう出て問題ないはずだ。

ガララ

八幡「さてと、あの人がいて直接行く道は使えないから、遠回りするぞ」

川崎「そうだね。今あの人に見つかりたくないし……」

俺は直で見たら泣いちゃう自信がある。

テクテク

八幡「…………」

川崎「…………」

ガララ

八幡「!?」
788 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/06(土) 00:08:30.92
俺と川崎のすぐ横の教室の扉が突然開いた。

川崎「……比企谷、あたしを驚かして楽しい?」

八幡「いや、今の俺じゃねーし」

川崎「なら、何で……」

次の瞬間、教室の中から何かが飛び出した。

カランカララン

川崎「ひぃ!」

廊下に響く金属音。しかしその音はどこか鈍い。

そしてまた俺の腕に川崎がしがみつく。だから当たってるんだってばよ。

八幡「……何だこれ?」
790 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/06(土) 00:13:32.07
二、夜、教室の前を歩くと、窓や扉から何かが飛び出してくる。



八幡「これは……!」

この暗闇でもわかる細長い黒と茶色の芸術的フォルム!

八幡「マッ缶じゃねぇか!!」

しかもこの寒い季節にホット! 八幡的にポイント高い!!

八幡「でもなんでマッ缶なんか飛び出してきたんだ?」

川崎「ひ……ひきが……っ!」

八幡「どうした、川崎……」

そこには想像を絶する光景が広がっていた。

ありとあらゆるところから何十本もの手が生えてきて、川崎の身体を教室内に押し込もうとしていた。
792 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/06(土) 00:15:32.95
川崎の表情は恐怖と不快感で歪んでいる。

川崎「……っ! たすけ……」

八幡「川崎!!」

俺は川崎の腕を掴んでいる腕を引き離そうと、その手首を握った。その腕はあまりにも冷たく、人の手の形はしているが、生気が感じられない。

ガシッ!

それに動揺していると、今度はどこから現れたのか、別の手が俺の右足を掴んだ。
795 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/06(土) 00:21:02.55
八幡「くっ……!」

布越しに伝わる冷たい感触が気持ち悪く、背筋がぞわぞわする。このままだと二人とも教室に押し込まれる。

八幡「誰の腕だか知らんが……」

掴まれていない方の足で思いっきり足元の手を踏む。その瞬間、掴んでいる力が弱まり足から手は離れた。

同時に川崎を襲っていた手の力も弱まる。今だ。

八幡「川崎!!!」

俺はそう叫んで川崎の手を握り走り出した。
797 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/06(土) 00:24:43.25
八幡「はぁ……はぁ……」

川崎「ふぅ……」

逃げている最中は他の教室からも手が飛び出してきた。それから避けるために、俺たちは教室のない渡り廊下まで逃げた。

八幡「なんだよ……あれ……!」

川崎「七不思議の二つ目……?」

八幡「嘘だろ……ただの見間違いの類いじゃなかったのか……?」

俺は非科学的な物は信じない。幽霊なんているわけがないし、妖怪が助けてなんてくれない。

しかし俺は確かに見た。確かに触れた。

人間ではあり得ない程冷たくなった腕を。
799 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/06(土) 00:29:57.32
川崎「……ところでさ」

八幡「あ?」

川崎「その……」

川崎はモジモジしながら俺に目を合わせようとしない。どうかしたのだろうか。

川崎「……手」

八幡「えっ?」

逃げた時から俺と川崎の手はつなぎっぱなしだった。
801 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/06(土) 00:33:26.00
八幡「あっ!」

思わずその手を離す。何やっちゃってんだよ、俺。

川崎「あ……」

川崎は少し残念そうな表情を浮かべる。えっ、どういう事ですか? これはそういう事ですか? 違いますか、違いますね。

八幡「すま――」

川崎「……ありがと」

八幡「ふぇ?」

むしろ今は俺が謝らなきゃいけないところだよな。非常事態だったとは言え、勝手に女子の手を握っちゃったんだし。

川崎「助けて……くれて……」

そこまで言い切ると、川崎はすぐにそっぽを向いた。

しかし一瞬月明かりのせいで見えてしまった。

真っ赤に染まった、川崎の顔を。
803 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/06(土) 00:43:15.81
思わずこっちまで気恥ずかしくなってしまい、俺も横を向いた。何だよこれ、川崎可愛すぎんだろ。中学の俺だったら告白して振られてたわ。

八幡「……もう、帰ろうぜ」

川崎「そうだ……ね。こんなんじゃ取りに行けないし」

八幡「ああ」

プリントなんてあとからどうだってできる。朝一で来てやったっていいし、最悪他の誰かのをコピペすればいい。オボカタ? 何の事かさっぱりだ。

昇降口へ降りるために、階段のある方へ向かう。もう早く帰って今日あった事忘れたい。あんな気持ち悪い光景には二度と出くわしたくない。
805 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/06(土) 00:48:36.45
川崎「……ごめん」

八幡「何でお前が謝るんだよ」

川崎「だって、あたしのせいであんな……それに結局プリント取れなかったし……」

八幡「いーんだよ、俺にはいくら迷惑かけたっていいんだ。時間の浪費には慣れているからな」

川崎「それは……どうなの……?」

八幡「それに俺は二度もお前に世話になってるしな。その借りは返さねぇと」

川崎「別に、あんなのは……」
807 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/06(土) 00:52:29.54
……おかしい。

ここで違和感に気づく。

いつまで俺たちはここを、『渡り廊下』を歩いているんだ?

いくら歩いても、周りの風景は変わらない。歩いている感覚は、あるのに。

八幡「……あっ」



四、夜、渡り廊下が長くなる。



……長くなりすぎだろ。


808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 00:53:06.68


サキサキ可愛すぎんだろ
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/06(土) 08:58:05.85
>八幡「ふぇ?」
可愛すぎワロタ
811 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 19:01:08.97

いくら歩いても、渡り廊下の端までの距離は変わらない。まるで動く歩道を逆走している気分だ。しかし横を見ると確かに進んではいるのだ。確かに進んでいるのに、進まない。

八幡「……なんだこりゃ」

川崎「…………」ギュ

気づけばまた川崎は俺の上着を握っていた。確かに脅かしてくるようなお化けなどはいない。しかし異様な状況というのは、下手すればそれ以上に人の精神を蝕む。

俺だってまだ平気なふりをしているが、内心は相当焦っているしな。いや、本当に。このままずっと渡り廊下で一生を終える事になったらどうしよう。
813 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 19:15:10.75
川崎「比企谷ぁ……」

彼女は涙目になりながら俺の名を呼ぶ。他の誰かにすがらないと、やってられないのだ。

八幡「もう少し、歩けばいけんだろ」

そしてそれは俺もだ。常日頃ぼっち至上主義をとっているが、流石にこんな状況に一人で耐えられるほど、俺のメンタルは強くない。

だから今のは川崎を安心させるためではない。今は一人ではないと自分に言い聞かせるために言葉を発したにすぎない。

そういう意味では、川崎がいてくれて、助かったと思う。

まぁ、川崎がいなかったら、こんな時間に学校に来る事もなかったのだが。
815 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 19:27:24.46
結局十分ほど同じ方向に歩き続けたが、向こう側までの目測での距離は変わらなかった。

川崎「このまま……出られなかったら……」

ぼそりと呟く。その声は半分泣き声になっていた。上着を掴む手は相当な力なようで、その部分がクシャクシャになっている。これはアイロンかけねぇと着れねぇな。ねぇねぇうるさいな、パヒュームなの?

八幡「……まぁ、七不思議では夜って条件付きだったから、朝になればどうにかなるんじゃねぇの?」

川崎「……なら、いいんだけど」

確証はない。ただ、俺自身が現実から逃避したいだけだ。だからこれも、川崎のためではない。
817 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 19:54:52.13
八幡「よし、戻るか」

川崎「えっ?」

八幡「押してダメなら引いてみろって言うだろ?」

川崎「でも……それじゃあ今まで歩いたのを……」

否定する事になる。それはわかっている。

ただ、今俺たちに必要なのは継続ではない。自らが間違っているという判断をする勇気だ。

このまま歩いていても向こう側に辿り着けるとは、到底思えない。

ならば、方法を変えるのがベストだ。

八幡「ずっと同じ考えに固執していても、埒が明かないしな」
819 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 20:01:09.35
そうして反対側に歩いていったわけだが……。

八幡「……逆は普通に戻れたな」

こちらの距離は変わっていなかった。この道は通れない、という事なのだろうか。

その時、ふと、何かに似ていると感じた。

八幡「あ、ゲームだ。ゲームとかでよくある」

大体まだレベルが足りなかったりとか、その先のデータがなかったりとかで強制的に進めなくなるやつ。あれに似ている。ドラクエで何回か戻されたのを思い出す。

八幡「……つまり、こっちは通ってはいけないと」

川崎「何一人でブツブツ言ってんの?」

八幡「ああ、いや、何でもない」
821 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 20:58:05.27
この渡り廊下は使えない、つまり反対側へと向かわなければならないという事だ。また教室の前通らなきゃならんのかよ……

ドンッドンッ

その時、遠くの方から音がした。微かに聞こえる音は、少し耳をすまさなければ聞こえない程だ。

川崎「……何の音?」

八幡「あれだな、多分体育館だ」

川崎「体育館? なんでそん……」



三、誰もいないはずの体育館から何故か物音がする。



川崎「……あ」
823 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 21:00:37.46
八幡「まあこれは実害なさそうだし、放っておこうぜ。……不気味ではあるが」

川崎「……そうだね。気になりはするけど、見に行きたくはない」

八幡「おう。じゃあ、またここを走って通り過ぎるか」

川崎「……うん」ブルブル

そう言いながらも川崎の足は震えている。確かに走れば捕まらないとわかっていても、あの光景を見たくないというのは、人間として普通だ。俺だって壁や扉から何十本もの手が飛び出してくる様なんて見たくない。

ただ、俺は、これでも男で、川崎は、女だ。

なら、彼女を助けるのは、男としての義務だろう。
825 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 21:08:42.10
八幡「おい」スッ

川崎「えっ?」

八幡「お前は目をつぶってただ走れ。手、つないどけば、それでも走れるだろ?」

うわああああああああ恥ずかし恥ずかし恥ずかしいいいああああ!!! 何でこうも俺は黒歴史を増やしてしまうんだあああああああああ!!!

川崎「…………」ソー

川崎はゆっくりと手を伸ばす。確かに俺みたいなのと手を繋ぐなんて、あまり気が進まないに違いない。あ、なんかキャンプファイヤー思い出しちまった。どうしよう、泣きたい。

川崎「……ありがと」プイッ

彼女は俺の手を掴むと同時に顔を逸らした。そんなに俺の事が嫌ですか、そうですか。

……顔が真っ赤になってたのは、気のせいだよな。
827 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 21:21:24.88
その頃、体育館にて。

シュッ

パスッ

??「もうオレには、リングしか見えねえ……」

シュッ

パスッ

??「静かにしろい。この音が……オレを甦らせる……」

??「何度でもよ……!」

シュッ

パスッ

??「……まあ一人だから静かなんだけどな」

??「しずかだけに? フフフ……」

??「はぁ……結婚したい……」
829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/07(日) 21:26:49.16
怪談なのかギャグなのかどっちだよww
830 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 21:35:11.04

八幡「行くぞ、川崎」

川崎「う、うん」

八幡「せーの!」ダッ

タタタタタタタタタタタタ

八幡「……あれ?」

川崎「……? どうしたの?」

八幡「目、開けていいぞ。何だか知らんが出てこない」

川崎「本当に……?」

八幡「ああ。何か拍子抜けって感じだな」

川崎「そ、そう……」

八幡「走る必要もないし歩いて行こうぜ」

川崎「う、うん……」

川崎(あんた、気づいてないのかな……)

川崎(手……繋ぎっぱなしって事に……)

川崎(……まぁ、今度は言わないけど)
832 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 21:41:35.49
八幡「あっそうだ」

もしかしたら、今なら教室に入れるかもしれない。もしそうなら、川崎のプリントを取りに行ける。

ガララ

八幡「……何も出てこないな」

中に入っても何も起こらない。真っ暗なのは不気味だが、何かいるような気配はない。

八幡「中に入っても大丈夫そうだぞ」

川崎「本当に……? 何も出てこない……?」

川崎は教室の外から顔だけこちらに出して俺に問う。やめろ、ちょっと可愛いだろ。ときめいちゃうだろ。
834 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 21:45:05.59
八幡「入るの嫌なら、俺が取ってくるけど」

川崎「……でも」

八幡「別に迷惑とかじゃねーしな。お前の席はわかるし」

川崎「えっ」

戸塚の後ろだからな。最早目をつぶっててもわかるレベル。

八幡「えーと、確か」テクテク

川崎「待って!」タタタ

ギュッ

八幡「!?」
836 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 21:51:56.16
突然川崎が俺の腰に抱きついてきた。あまりにも唐突すぎて状況の把握ができない。

八幡「あの……川崎さん……?」

川崎「……えっ? あっ!」パッ

川崎「いや、これは……!」ワタワタ

川崎「は……離れられると……困るから……」カァッ

八幡「」

何これ、深夜テンションってやつ? 今日の川崎さん可愛すぎだろ。戸塚が世界一可愛いと思ってたけど、これはいい勝負行くんじゃね? 川崎ルート直行するんじゃねぇの?

川崎「……ダメ、かな」

八幡「別にダメじゃねぇよ……。ほら、さっさとプリント取って来い」プイッ

ダメだ、まともに顔見れん。
838 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 21:57:37.76
ガララ

八幡「……とりあえず、目的を果たせてよかったな。もう一回二年やる事にはならなそうだ」

川崎「あんたのおかげだよ。今日だけで何回も言ってるけど、ありがとね」

八幡「別に大した事はしてねーよ。ほら、帰るぞ」

川崎「あ……その……」

八幡「ん?」

川崎「その……ね……」モジモジ

八幡「何だよ?」

川崎「…………」スッ

無言で俺の後ろを指差す。そこはトイレだった。ああ、なるほど。トイレに行きたかったのか。確かにそれは言えんわな。
841 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 22:27:52.74
八幡「わかった。ここで待ってる」

川崎「……勝手に帰らないでよね?」

八幡「安心しろ。そんな事しねーから」

まぁやられた事はあるんですけどね。修学旅行の班別行動の時、みんなでトイレ休憩って事で用を足して、外に出たら誰もいなかったっけな。一瞬俺だけ異次元に飛ばされたのかと思ったわ。

川崎「絶対だよ?」

八幡「わかったから」

川崎「…………」タッタッタッ
843 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 22:37:10.08
あれ?

俺何か大事な事忘れてない?

忘れちゃいけない何か……。プリキュアの予約はしたよな……。玄関の鍵もちゃんとかけたし……。

いや、そんなんじゃない。

八幡「……あっそういや、ここ二階じゃん」

川崎「きゃあっ!?」



五、夜の二階のトイレの鏡に見知らぬ誰かが映る事がある。



845 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 22:43:09.40
川崎「……っ!」

女子トイレから一人の女子が無言でダッシュしてくる。誰なのか知らなかったら怖いだろうな。いや、正直誰か知ってても怖いっす。川崎大臣っす。落選しろ。

川崎「……っっ!! ……!」

涙目で何かを訴えかけてくるが、それは最早声になっておらず、ただ手をブンブン振り回している川崎沙希の姿が、そこにはあった。

八幡「とりあえず落ち着け」

川崎「…………」

あっすぐに静かになった。
847 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 22:48:52.54
八幡「すまん、七不思議のやつ忘れてたわ」

川崎「突然、見覚えのない女の人が鏡に出てきた……」ガクガク

八幡「まぁ、男じゃなくてよかったんじゃねぇの?」

川崎「そういう問題なの?」

八幡「幽霊だってトイレにくらい行きたくなるんだろうよ。むしろ変態じゃなくてよかったじゃないか」

川崎「ゆう……れい……」ガクガクガクガク

しまった、逆効果だったか。

八幡「それか見間違いだろ。怖いって思ってると、本来見えない物も見えるらしいし」

川崎「でも……七不思議で……」

八幡「そいつも見間違えたんだろ」

とりあえずそれで納得させるしかない。
849 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 23:00:25.40
ビクッ

八幡「!」パッ

悪寒がして振り返る。そこには誰も見えないが、俺のぼっちセンサー(対視線用)は反応した。

今、後ろに、誰かがいた。

そしてその誰かが、こっちを見ていた。

川崎「どうした?」

……気のせい、だろうか。

八幡「……いや、何でもない」
851 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 23:04:48.59
反対側の渡り廊下は普通に通る事ができた。後は階段を降りて外に出るだけだ。

八幡「……結局、七不思議のうち五個も体験しちまったな」テクテク

川崎「そうだね」テクテク

これはなかなか貴重な経験なのではないだろうか。こんな超常現象なんて滅多にお目にかかれない。

八幡「怖かったけどさ、何だかんだ楽しかったよ」

川崎「……あたしも……かな」

嘘つけ。泣くほど怖がってたじゃないか。

八幡「早く帰って寝たいわ」

そこを曲がれば下駄箱が見える。ようやく帰れると思うと、ほっとする。
853 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 23:11:19.86
八幡「……!?」

それを見て思わず俺は言葉を失った。

最後の最後で、何だ、これは。

下駄箱へ向かう道が、机で出来たバリケードのような物で塞がれていた。しかも軽く五十個はあって、強く固定してある。ちょっとやそっとじゃ、動かない。

八幡「これじゃ……、帰れねぇじゃねぇか……!」

八幡「川崎……どうす――」

川崎「比企谷」

八幡「!?」

その声は、確かに川崎沙希のものだ。

しかし、なぜだろうか。それは違う誰かの声に聞こえた。
855 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 23:15:32.52
川崎「あたしね、あんたの事が好きなんだ」

八幡「……はぁっ!?」

川崎「だからね、あんたと、ずっと一緒にいたいんだ」

八幡「いきなり何を言ってんだ? あれか、罰ゲームか? 三浦あたりにでも命令されたのか?」

川崎「罰ゲームでも何でもないよ。今のは、あたしの本心」

八幡「だからって、いきなりなんだよ!?」

川崎「……うちの学校の、七不思議。七つ目を知ってる?」

八幡「……知らねぇよ」

まさか……。
857 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 23:20:19.65
ぼっちの優れている点は、危機察知能力にある。味方がいないからこそ、自分でそれを判断しなければならないからだ。

俺は、今までこれほどまでに危険だと感じた事はない。

ぼっちセンサー(対危険用)の針は振り切った。

それを感じるやいなや、俺は走り出した。

川崎「ふふふ、逃がさないよ」ニヤッ

しかしそれが通用するのは、あくまでも現実的な状況においてのみである。

超常現象の前で、ぼっちは、無力だ。

次の瞬間、あらゆる壁という壁から、白い手が飛び出した。
859 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 23:25:26.86
白、白、白、白、白、白。

視界が全て『白』で覆われた。全身の圧迫感のせいで、呼吸がしづらい。

八幡「なん……だ……これ……」

視界の『白』が消えてようやく周りを見渡すと、何十本もの手が俺の体を机のバリケードに押し付けていた。

川崎「比企谷、あたしがね、七つ目なんだ」

八幡「なに……言って……」

川崎「七不思議の最後はね」





川崎「いないはずの人間が、校内にいる」





川崎「それもずっと、ね」



861 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 23:30:29.77
八幡「だから……ふざけてんじゃねぇって……」グッ

川崎「あたしね、ここに何十年もいたけど、告白なんて初めてだった」

川崎「だからね、あんたの事が好きになっちゃったんだ」

八幡「……!」



八幡『愛してるぜ川崎!』



だから川崎は今日、こんな時間に俺を――。

八幡「ぐ……っ、あ……っ!」

全身を締め付ける力が次第に強くなり、もう呼吸も、できない。

川崎「だから、あたしと――」







ズットイッショニイヨウ?







六、七つ全てを知ってはいけない。







863 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 23:35:56.95
『……次のニュースです。先日未明から行方がわからなくなっている……』

平塚「…………」ガクガク

平塚「比企谷が……比企谷が……っ」

私は、あの時見てしまった。あの子が、川崎沙希が、比企谷を……。

ブーブー

平塚「!!」

突然携帯が鳴る。メールのようだ。

その送り主は――



『From:比企谷八幡』



865 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 23:40:31.38
ガチャッ

そこは学校の屋上。比企谷はここに来るようにメールをしてきた。どうにも戻れない理由があるらしい。

しかし、そこには誰もいない。

――刹那、全身に悪寒が走る。

「先生も――」





ナナツスベテ





声が聞こえた瞬間、世界は、『白』になった。



『白』



世にも
奇妙
な物語
866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2014/09/07(日) 23:46:41.46
乙です。面白かった!
867 : ◆.6GznXWe75C2 :2014/09/07(日) 23:49:11.95
テッテッテレレーテレレーテレレー

テッテッテレレーテーンテレーン

タモリ「『白』という色には、多くの意味があります」

タモリ「『純粋』、『善』、『純潔』、『無実』」

タモリ「このように、プラスの意味ばかりだと思われがちですが」

タモリ「逆に『無』、『消滅』」

タモリ「『白々しい』など、マイナスの意味も持っています」

タモリ「どんなものにも、表と裏があるものですねぇ」

テレレッテッテレレーテッテッ

テレテッテッテッテッテレレレレーレー

テッテッテレレーテレレーテレレ

テーンテレレレレレン
868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/07(日) 23:49:14.63
先生とばっちりやんけw
871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/08(月) 00:17:18.56


川崎さん可愛い、けど怖い!
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/09(火) 11:47:59.84
先生は本物の七不思議に仲間入りしちゃったのか
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2014/09/10(水) 00:52:04.00
一から読んだけど面白い
どの話もゾクッとして好きだわ
思いつく限り続けてほしい

このシリーズSS:

八幡「やはり俺の世にも奇妙な物語は間違っている」【前編】


八幡「やはり俺の世にも奇妙な物語は間違っている」【後編】





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とあるSSの訪問者

最後のおもろかった
サキサキかわええ

とあるSSの訪問者

いつまでも結婚出来ない美人教師
なるほど、流石だぜ平塚先生


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