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1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 19:46:22.42 ID:OHxAY3GD0
少女「ひ…! やめて…! やめてください…!」

男A「ケヘッ! 大声出したって誰もこねえよこんな所!」

男B「だから好きなだけ喘いでくれてかまわねえからな?」

男C~H「ぎゃーはっはっはっは!!」

少女「いや…! やだあ! 助けて、誰かぁ!!」

男D「ん?」

男E「てめえ! 何見てやがんだゴラァ!」



上条「………」
5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 19:53:23.75 ID:OHxAY3GD0
上条「別に…たまたま通りがかっただけなんで、すぐに消えますよ」

少女「お願い! 助けて! 助けてぇ!!」

男A「うるせえ! 黙ってろ!」

男D「くく…女はこう言ってるぜぇ? どうすんだお前?」

上条「今言ったでしょ。すぐ消えますよ。見知らぬ女を助ける義理なんてないし」

少女「そ…そんな……」

男D「利口なやつだな。こう見えても俺はレベル3の発火能力者だ。邪魔してたら消し炭になってたぜ」

上条「ふーん…」

男B「オラ! 暴れてんじゃねえよ!!」

少女「ふぐ…! うぐぐ…! うぐぅ~~!!」
8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 19:59:09.23 ID:OHxAY3GD0
もし上条さんが度重なる不幸に心折られてしまったらという妄想
ぐれてしまった上条さんでの原作再構成


上条「ま……どうぞごゆっくり」

男C「へへへ…こんな上玉久しぶりだからな。たっぷり楽しませてもらうぜ」

少女「ん~~~~!!!!」

上条「ま……精々自分の不幸を呪いな」プルルルルル!プルルルル!

上条「電話…? 一体誰から…げっ」

 着信画面 『小萌センセイ』

小萌『上条ちゃーん! また今日も学校サボりましたねーー!!』

上条「ぐお…! うるっせぇ…!!」
11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 20:06:36.97 ID:OHxAY3GD0
小萌『駄目ですよー! このままじゃ上条ちゃん進級できないですよー!』

小萌『上条ちゃんは一年生を二回繰り返すほどのお馬鹿ちゃんだったんですかー?』

上条「うるせえな! 進級だろうが卒業だろうがどーでもいいんだよ! 無理やり入れられた学校なんざ未練もあるかぁ!」

上条「あん!? 今どこにいるのかって!? ○○学区の××通りの裏…ってどーでもいいだろんなこたぁ!」

上条「担任だか何だか知らねーけどイチイチ干渉してくんじゃねーよ! 切るからな!!」ブツッ

上条「ったく……ん?」

男A「………」

男B「………」

男D「……てめえ今、どこに電話しやがった?」
13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 20:14:43.57 ID:OHxAY3GD0
男C「て、てめえ! 今アンチスキル呼びやがったな!?」

上条「ちっげーよ。クソ鬱陶しいロリ担任から電話かかってきただけだよ」

上条「……って何でそんなことテメエらに説明しなきゃならんのだ……」

男E「クッソがぁ!! 舐めた真似しやがって!!」

上条「だから違うっての! 人の話聞けよ!!」

男H「るせえ! ぶっ殺してやるクソガキがぁ!!」ブン!

上条「あぶねっ」ヒョイッ

男H「避けてんじゃ…ごっ…!?」ドサッ

 突如、男Hは白目を剥いてその場に昏倒した。

男A「…何だ? て、てめえ今何しやがった!」

上条「先に手を出してきたのはてめえらだぜ?」

 上条はその場に倒れた男の体を踏み越え、右手の手首を揺らす。

上条「あ~あ、まったく……不幸だな、てめえら」
15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 20:23:21.08 ID:OHxAY3GD0
 呟きと同時、上条は一気に駆ける。
 ふいをつかれ、ろくに反応できなかった男Cの顎を拳で跳ね上げた。
 それだけ。
 その一撃で男Cはその場に崩れ落ちる。

上条「おっと」

 まるで背後に目があるかのように上条はあっさりと男Bのバットをかわす。
 大上段からバットを振り下ろし、隙だらけになった男Bの腹を思い切り蹴り上げた。
 バァン! とまるで何かが破裂したような音が響く。

男B「ぶぇ…げぇ…」

 崩れ落ちる男B。手から零れたバットを上条は拾い上げる。

男A「ま、待てよオイぎゃあああああ!!」

 躊躇無くバットを振った。
 ガードした男Aの腕がめきめきといやな音を立てる。
 上条はあっさりとバットを手放し、男Aの顔面に拳を叩き込んだ。
 砕けた腕でガードなど出来ようはずも無い。
 ぴちゃりと顔にとんだ血飛沫を上条は笑いながら舐め取った。
17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 20:30:01.23 ID:OHxAY3GD0
男E「く、くそ…この……!」

 あっという間に仲間の半数をやられ、男Eは躊躇する。

男G「こんボケがあああああああああ!!!!」

 やぶれかぶれで突っ込んだ男Gの顔が上に跳ね上がった。
 まるでボクシングのお手本のようなアッパーカット。
 それ故に、下半身のばねを最大限利用した上条の体が硬直する。

男E「うああああああああ!!!!」

 今しかないと男Eは手に持ったナイフを上条の背中に向けて突き出した。
 がしり、と男Eの腕が止まる。
 上条は一切後ろを振り向かないまま、左手で、後ろ手に男Eの手首を掴み取っていた。
21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 20:36:53.97 ID:OHxAY3GD0
男E「ありえねえ…ありえねえだろぉ……」

 男Eは目に涙を浮かべながら、けれどもその顔は笑ってしまっていた。
 もう笑うしかなかった。
 全体重を乗せた突進を、左手一本で(しかも後ろでで)止められたら、他にどうしようがあるというのだ。

男E「お、俺が悪かった。だから許し…ぎゃぅ!」

 男Eの声は最後まで発せられることは無かった。
 男Dの手から発せられた炎が男Eの顔面を焼き溶かしていた。

上条「おーおー。ひどいことするじゃねえか。仲間だったんじゃねえのかよ?」

男D「腰抜けのクズなんて仲間じゃねえよ。クズで、利用価値も無けりゃ、そりゃホントにただのゴミだ。ゴミは包んで捨てなきゃな」

上条「ま、言うとおりだと思うけどよ」
25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 20:44:09.93 ID:OHxAY3GD0
男D「てめえは一体何の能力者だ?」

上条「いやいや、上条さんは筋金入りの無能力者ですよ」

男D「ほざけ。ただの無能力者が八人相手にこうまで一方的に暴れられるかよ」

男D「『身体強化』系の能力者か? まあいい。どんなに素早く動けても、俺の炎はかわせねえよ!」

 男Dの掌から赤い炎が迸る。
 荒れ狂う炎が対象を焼き尽くそうと迫りくる。

上条「いや、ってゆーかよけねえし」

 キュウゥー――ン、と甲高い音がした。
 上条が右手をかざしただけだ。
 それだけで、たったのそれだけで。
 男Dの誇るレベル3の炎は、夏の線香花火を思わせるように、儚く消えうせた。

男D「…は? え?」

上条「俺は能力者じゃない。ちょっとばかり妙な右手を持ってるだけの無能力者さ」

男D「は、あ、う」

上条「オイオイ。ひょっとして今さら逃げられるとか思っちゃってるのか? いいぜ、なら…」

上条「その幻想をぶっ殺す!」
30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 20:50:47.38 ID:OHxAY3GD0
男F「ひ、ひいい…! 八人いたのに…! こっちは八人もいたのに…!!」

 目の前でズタボロになった男Dの姿に残った最後の一人は慄き震えた。

男F「み、見逃してください! お願いします! なんでもしますから!!」

上条「おいおーい。こういう時に敗者がどうするべきなのかはお前等の方がよく知ってんじゃねえか?」

男F「あ…!」

 男Fは慌ててポケットから財布を取り出すと、中身を上条に差し出した。

上条「よーし。いい子いい子」

男F「も、もう行ってもいいですか?」

上条「おう。もうこの辺歩くなよ。見かけたらその瞬間殺しに行くぞ」

男F「ヒ、ヒィィ!」ドタバタドタ…!

上条「仲間ほったらかしかよ。ほんとクズだな」



少女「あ、あの…」
35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 20:56:51.66 ID:OHxAY3GD0
上条「あん? まだいたの?」

少女「あ、ありがとうございました!」

上条「礼なんていらねえよ」

少女「おかげで私、助かりました。本当になんてお礼を言ったらいいのか……」

上条「だからいらないって。あのさ、お前馬鹿だろ?」

少女「は、あ、え?」

上条「こっちがドンパチやってるときにさっさと消えてりゃ良かったのに。何でそうしなかったわけ?」

少女「そ、それは、だって……あなたを置いていくなんて出来なかったから」

上条「あっはっは。馬鹿な子ってのはホントかわいーなー。殴りたくなっちゃう」

少女「……え?」

上条「お前さ。俺が窮地を助けに来たヒーローに見えちゃったりしてるわけ?」
37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 21:09:48.57 ID:OHxAY3GD0
少女「え…え…?」

上条「あるわけねーだろーがそんな夢物語。少女マンガじゃねーっつの」

上条「もしお前が俺をヒーローと勘違いしちゃったりしてるってんなら……そんな幻想は、殺さなきゃな」

少女「そんな…嘘…ですよね? あはは…」

 上条の言葉に、少女は混乱し、苦笑いを浮かべながら上条の顔を伺っている。
 そんな少女に、上条はにやりと笑いながら、その鳩尾の辺りを殴りつけた。

少女「えう…!」

上条「はい死んだ。今君の幻想死んだよ。俺の『幻想殺し』はあらゆる幻想を打ち砕く。目は覚めたかい?」

少女「ごほ…! ごほ…!」

 殴られた衝撃で激しくえづく少女の前髪を掴み、上条は無理やり自分の方を向かせる。

上条「大体さ。こんな所を一人で歩いたりしちゃ何されても文句は言えねーよ。わかってたろ? ここらが物騒だってことくらい」

少女「ひ…! ひ…!」

上条「なのになんでこんな所を一人で通った? 塾に遅れそうだったか? 門限をオーバーしそうだったか? ちょっとくらいなら大丈夫だろうと思ったか?」

上条「まさか自分に限ってそんな不幸が振りかかるわけがないって思ったか? あまいあまい」

上条「不幸ってのは案外あっさり降りかかるもんなんだぜ? この俺が言うんだから間違いねーよ」
45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 21:34:18.71 ID:OHxAY3GD0
少女「やだ…やだ…! うそ、ごめんなさい、助けて。パパ、ママぁ!」

上条「はっはぁー! 鬼ごっこの始まりだ! 気合入れて逃げろよ! 捕まえたら穴という穴に棒突っ込んじゃうぜ!?」

少女「ひ、ひぃぃ…!」

 少女は涙で顔をグシャグシャにして走り去った。
 路地裏に上条の高笑いが響く。

上条「ばーか。誰がてめーなんか追っかけるかよブース」

 ひとしきり笑ってから、上条は少女が去っていった方向とは反対の方に歩き出した。
 かと思えば、上条は暗い路地の先を睨みつけ、足を止める。
 予感。
 道を歩けば居眠りトラックが突っ込み、建設中のビルのそばを通れば鉄骨が降り注ぎ、ファミレスで食事をすれば食中毒にあう。
 そんな日常が磨いた第六感。
 それが、全力で警告を発している。
 上条はため息をつき、歩みを再開した。

 瞬間。

 バチバチと音を立て、電撃が上条へ飛来した。
49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 21:43:48.18 ID:OHxAY3GD0
 蒼白く迸る電撃は、しかし上条の右手に触れることで霧消する。
 上条は舌を鳴らし、進む先に現れた人影を睨みつけた。

上条「…ったく、こりねーな。ビリビリ」

美琴「………」

 上条の前に立ち塞がった少女は何も答えない。
 灰色のプリーツスカートに半袖のブラウスにサマーセーター、少女の格好は一見ただの中学生のように見える。
 ただ、その顔にぐるぐるに巻かれた包帯だけが異質だった。
 包帯で目と口以外を隠されたその少女は歪に笑った。

美琴「私には…御坂美琴って名前があんのよゴラァァァアアアアア!!!!」

 少女の手には一枚のコイン。
 音速の三倍の速度で放つそれは、少女の必殺『超電磁砲(レールガン)』。
 直撃すれば戦車をも吹き飛ばすその一撃が、何のためらいも無く上条へと発射される。

上条「効かねえっつってんだよ馬鹿が!!」

 その一撃を、学園都市第三位の超能力者(レベル5)の必殺を、上条はあっさりとその右手で掴み取った。
 かざした右手がたまたま無効化したのではない。
 上条は、上条自身の明確な意思でもって美琴の一撃を防ぎきっていた。
52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 21:52:08.33 ID:OHxAY3GD0
美琴「相変わらず出鱈目な奴!!」

上条「一切の躊躇無く即死級の一撃放って来る奴に言われたかねーよ!!」

 上条は降り注ぐ雷撃に臆することなく前へ進む。
 上条には右手に宿る『幻想殺し』という能力があれど、その武器は基本的に体ひとつだ。
 まずは手の届く距離まで近づかなければ話にならない。

美琴「はあああああ!!」

 少女、御坂美琴の前髪がバリバリと紫電を発する。
 直後、のたうつ蛇のように雷撃が発生し、上条の体を焼き尽くそうと迫る。
 上条はまるで見えているかのようにそれらを右手一本で迎撃する。
 上条が美琴の前に踏み込んだ。
 届く。ここからならば、何の問題も無く。

上条「おらあ!!」

 上条の固く握り締めた拳が、美琴の顔面に突き刺さった。
54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 21:59:01.86 ID:OHxAY3GD0
美琴「ぎ…!」

 美琴の体が吹き飛び、背中から地面に叩きつけられる。
 顔に巻かれた包帯に赤く染み出した鼻血を拭おうともせず、美琴は顔を上げて上条を睨みつけた。
 上条は吹き飛んだ美琴の追って一歩を踏み出し、追撃に移ろうとしている。

美琴「あああああああああ!!!!!」

 美琴の周囲から突如黒い塊が吹き上がった。
 磁力によって巻き上げられた砂鉄が押し固められ、鋭利な刃物となって上条を襲う。
 だが、それも無駄。上条の右手はあらゆる異能を打ち消す。
 そんなことはわかっている。だから。

美琴「おあああああああ!!!!」

 出鱈目に磁力を発生させ、次々に砂鉄の刃を生み出す。
 美琴は見ていた。上条はあの意味不明な力を振るうとき、必ずその右手をかざしている。
 ならば。その右手でカバーできない程の物量で攻めれば。

美琴「死ねェぇぇぇえええええええ!!!!!!」
57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 22:06:53.82 ID:OHxAY3GD0
上条「今、死ねって言ったか?」

 上条は迫りくる刃を、あるものはかわし、あるものは打ち消し、一歩一歩美琴との距離をつめる。

上条「お前、本気で俺を殺す気で来てんだな?」

美琴「当たり前よ…! 人の顔をこんなにグシャグシャにしといて……! 絶対に殺してやるから…!!」

上条「ぜーんぶお前から手ェ出してきたんじゃねえか。人を黒焦げにする勢いで雷だしといて、自分がやられて文句言うなっつーの」

上条「嫌ならとっとと俺の前から消えろよ。追わねえから。それで無事円満解決、めでたしめでたしじゃねえか」

美琴「うるさい! とにかく、私はアンタの存在が許せない! 塵一つ残さず消し去ってやる!!」

上条「はぁーあ。全く、お前みたいなのに絡まれるなんて、不幸すぎるぜ。でも、覚悟は出来てるんだろうな?」

 生み出された砂鉄の剣、その最後の一本をかき消し、上条は凄惨に笑う。

上条「誰かを殺すってことは、誰かに殺されても構わないってことなんだぜ?」
63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 22:14:00.73 ID:OHxAY3GD0
美琴「もちろん、そんなことはわかってるっつーの!!」

 美琴も上条に笑い返した。

美琴「があああああああああ!!!!」

 美琴の体から電流が四方八方に放射される。
 上条は足を止め、自分に迫った電流のみを打ち消した。

上条「……終わりか?」

 最後の悪あがきだったのか、大人しくなった美琴に上条は問いかける。

美琴「ええ、終わりよ」

 包帯まみれの顔を歪ませて、美琴は笑った。

美琴「アンタの人生がね!!」

 気配を感じて上条は天を仰いだ。
 上条の真上に、四方八方から集められた鉄材が塊となって浮いている。

上条「さっきの電流はコレを作るために…!?」

 直径3m、重さ数トンにも及ぶ鉄の塊が上条を押し潰した。
66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 22:18:31.85 ID:OHxAY3GD0
美琴「やった…やった……!」

美琴「やった! 殺した! アイツを! アイツを!! 殺してやった!!」

美琴「あはアハははハははハハハはハハはははははハハハ!!!!!!!」

美琴「はあ……」

美琴「人を……殺しちゃった………」


上条「オイオイ、まさか後悔してんのか?」

美琴「!?」

上条「笑わせんなよなあ。そんな脆弱な精神で、いっちょまえに殺すとか吼えてんじゃねえよ」

美琴「アンタ…なんで…どうして…!?」

 ありえない。ありえない。ありえない。
 美琴は混乱していた。
 あのタイミングで、あの速度で、人間があの塊をかわせるわけが無い。
73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 22:24:35.19 ID:OHxAY3GD0
美琴「アンタ…私の攻撃を無効化する以外に、何か隠してる能力があるの……?」

上条「いやいや、上条さんは正真正銘の無能力者だよ」

美琴「嘘! 嘘嘘嘘! だって、だって…!」

上条「オイオイ、お前にならわかると思うんだけどな」

美琴「ど、どういうことよ」

上条「お前も努力の末にレベル5になったってクチなんだろ? なら、わかるはずだ」

上条「人間、努力すれば何でも出来るってことさ」

美琴「……」

上条「努力じゃどうしようもないこともあるけどな。俺の不幸とか」

 上条はいつの間にか美琴の目の前まで迫ってきていた。
 美琴は地面に倒れたまま、まだ体勢を立て直してはいない。

上条「ま、そんなもんはどうでもいいか。おしおきの時間だぜ、ビリビリ中学生」
77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 22:31:16.94 ID:OHxAY3GD0
 上条は美琴の体に手早く馬乗りになった。

美琴「あ…!」

 美琴は慌てて電撃を発するがもう遅い。
 上条はまるで美琴の電撃の発生元がわかっているかのように的確に右手をかざし、電撃を無効化する。

上条「何回ボコってもしつこく来やがるからな。今回はちょっときつくいくぞ」

 言いながら、上条は馬乗りの体勢のまま美琴の顔面を殴りつけた。

美琴「あが…!」

上条「二度と、俺に、関わろう、なんて、気を起こさないくらい、徹底的にだ」

美琴「あぐ、う、ふぎ!」

 顔を庇おうとする美琴の両腕の間を縫うように、上条の拳が美琴を叩く。

 叩き続ける。
84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 22:37:33.06 ID:OHxAY3GD0
美琴「うあ! うああ!」

 聞く者が顔をしかめざるを得ないような、鈍い音が響き続ける。

美琴「ひい、うあ、あああああああああ!!!!」

 鈍い音と悲鳴が、交互に、代わる代わる、暗い街に反響する。
 少女は、学園都市第三位のレベル5は、もう赤子のように泣きじゃくっていた。

上条「わかったか! わかったんかよ!? 二度と俺に近づかないって言えよ!!」

 それでも、上条は少女を殴りつけるその手を止めない。
 御坂美琴は完全に戦意を失っている。
 それでも、上条は拳を包帯だらけのその顔に叩きつける。

 これじゃあ駄目だ。
 これじゃあこいつはまた俺に関わろうとしてくる。

 もっと決定的な敗北感を。
 もっと決定的な絶望感を。

 二度と、俺に関わろうなんて幻想を抱かぬように。

 もっと。もっと。
91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 22:42:53.18 ID:OHxAY3GD0
上条「……!!」

 上条は突然、何の前触れも無く体を思い切り仰け反らせた。
 目の前を、ローファーを履いた足が通り過ぎていく。

黒子「な…!?」

 突然上条の頭上に出現し、蹴りを繰り出してきたツインテールの少女の顔が驚愕に歪む。
 上条はそのまま宙にいる少女の服を掴み、背中からコンクリートの地面に叩き付けた。

黒子「が…!!」

 痛みにのたうちまわる新たに現れたツインテールの少女。
 上条はこの少女を知っている。

上条「よお…今回は遅い登場だったな」

 少女の名は白井黒子。
 御坂美琴を敬愛する、レベル4のテレポーターだ。
107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 22:52:14.26 ID:OHxAY3GD0
黒子「わたくしの攻撃は何の気配も生じさせないはずなのに……どうして……!?」

 げほげほと痛みに苦しみながら、黒子は涙目で上条を睨みつける。

上条「何となく、な。こちとら、そういう不意打ちくらいさらっとかわせないととっくに死んでるような人生送ってるんでね」

 上条はそれだけ言って黒子から目を切った。
 テレポーターはその能力を行使するとき、多大な集中力を必要とする。
 今の黒子の状態ではしばらく能力を使うことはできないだろう。

上条「よお…わかったかよ、ビリビリ」

 上条はぐったりとして動かない美琴の胸倉を掴み、その涙に濡れた目を睨みつける。

上条「コレに懲りたらもう俺に関わるな。次に来たら、その色気のねえ短パン剥いで、中身晒してやっからな」

美琴「うっ…うぅ……」

上条「覚えとけ」

 上条はそれだけ言うと、美琴の胸倉から手を離した。
 まるで糸の切れた人形のように、美琴はどさりと再び地面に仰向けに倒れる。

上条「よぉ、頼むぜ。お前からもよく言っておいてくれよ」

 上条は、よろよろと立ち上がりながらこちらを睨みつける黒子のほうに向き直った。
120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 23:00:39.96 ID:OHxAY3GD0
黒子「…お姉様にこれだけのことをしでかしたあなたを、このまま放っておくと思いまして?」

上条「やめてくれよ。上条さんは降りかかる火の粉を払っただけだぜ?」

黒子「だからって、女の顔をあんなに殴って……!」

上条「だぁから、そう思うならもう向かってこないようにお前がアイツ説得してくれよ。これでもう一回来たらマゾ確定だぜアイツ」

黒子「く……!」

上条「乙女の顔に傷を残したくないなら、さっさと病院行きな」

 上条はポケットに手を突っ込んで、黒子に背を向ける。
 そのまま立ち去るかと思いきや、上条は顔だけを黒子のほうに向けた。

上条「……前から言ってるけどよ。『冥土帰し』を訪ねりゃ傷一つ残さねーで治してくれるよ。あんな大袈裟な包帯で顔隠さなくてもよ」

黒子「あなたからの施しを受けることを、お姉様は良しとしていませんの」

上条「あっそ……ならもういいや、好きにしろよ……」

 上条は呆れたようにため息をつくと、空を仰いでポツリと言った。

上条「救えねえな…俺も、お前も」
133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 23:08:29.38 ID:OHxAY3GD0
 上条が立ち去った後、黒子は美琴を介抱していた。
 自分が能力を再び万全に行使出来るようになるためにはもう少し時間がかかる。
 能力が使えるようになり次第、テレポートを繰り返して病院に連れて行くつもりだった。

美琴「……」

 美琴は何も喋ろうとはせず、ただずっと空を見つめている。

黒子「お姉様…もう、あんな男に関わるのはこれっきりにしましょう?」

 黒子はもう嫌で嫌でたまらなかった。
 黒子はずっと見ていた。敬愛する美琴がボコボコに殴られる様を、ずっと。
 手を出すなと言われていたから。
 それでも、最後には耐えられず助けに入ってしまったけれど。
 黒子にとっては、上条当麻に対する怒りよりも、これ以上御坂美琴が傷つく恐怖のほうが上だった。
 では美琴は? あの暴力に晒され続けた他ならぬ美琴はどう思っているのだろうか?
 黒子は恐る恐る美琴の返事を待つ。




美琴「殺す……」


 美琴はぼそりと呟いた。
143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 23:15:34.21 ID:OHxAY3GD0
黒子「お、お姉様……」

美琴「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

 美琴はうわ言のように殺す、ただそれだけを繰り返しながらゆっくりと身を起こした。
 体を支えようとする黒子の手を振り払い、血で赤く染まった顔の包帯をむしり取る。

黒子「ひ…」

 その顔を見た黒子は絶句する。
 端麗だったその顔は、傷と痣と憎しみに彩られ、見る影もなくなってしまっていた。

美琴「殺す…!」

 努力で勝ち取ったレベル5。そのプライドが彼女の支えだった。
 だがそのプライドは木っ端微塵に砕け散った。
 その自負は幻想だったのだとあの少年に気付かされてしまった。
 だから、殺さなきゃ。


 私を幻想だと否定したアイツを、アイツこそを幻想にしてしまわなければ。

 私は、私でいられない。
151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 23:20:11.04 ID:OHxAY3GD0
 御坂美琴が殺意を胸に立ち上がった時。
 上条当麻はそう遠く離れていない場所で頭を抱えていた。

上条「…ったく、なんなんだ今日は。いつもいつも運は悪いが、今日は特別厄日だなオイ」

 ぼさぼさした髪を掻き毟る。
 月明かりの下。
 上条の視線の先では。

インデックス「う…ん…」

 純白の修道服を着た一人の少女が倒れていた。
160: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 23:28:48.47 ID:OHxAY3GD0
 上条は考える。どうしよう。
 答えは二秒で出た。無視しよう。
 そもそも、過去の経験から、こういった厄介事には関わらぬようにしようと心に決めていた上条である。
 このまま放置したことで少女がどんな目にあおうとも、例えばさっきのようなゲス共の目に止まり、下劣な欲望の標的になったとしても。
 それでも、自分と関わることよりはずっとマシだろうと確信できるから。

上条「それでは、グッドラック」

 上条はあっさり少女の横をスタスタと通りすぎた。

インデックス「ちょ、ちょっと! こんなに可愛い女の子が行き倒れてるのにどこにいくつもりなのかな!?」

上条「あー、何も聞こえない」

インデックス「こんな貴重なボーイ・ミーツ・ガールはそうそう経験できないんだよ!? こんな幸運を棒に振るなんてちょっと考えられないかも!!」

上条「あーあー、不幸だ不幸だ。上条さんの人生は今日も順調に不幸のままですよっと」

インデックス「む、むっきーーー!!!!」
174: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 23:36:40.76 ID:OHxAY3GD0
インデックス「おなかすいた!」

上条「……」

インデックス「おなかすいたって言ってるんだよ!?」

上条「……で?」

インデックス「ごはんくれると、うれしいな」

上条「他を当たれ」

インデックス「お願い…もう…限界なんだよ……」グゥ~キュルルルル~

上条「しらねーよ。おい、足を掴むな。まとわりつくな」

インデックス「あなたに見放されたら私もう死んじゃうかも」

上条「だーかーらー! 知らねーっての!!」

 しつこく食い下がる少女の体を上条は右手で乱暴に払いのける。

インデックス「あああーーーーー!!!!」

上条「どぉーこまでからんでくんだこのヤロウ!!」

 堪忍袋の緒が切れた上条は振り返り、絶句した。
 
 少女は突然完全無欠の全裸になっていた。
183: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 23:43:46.74 ID:OHxAY3GD0
上条「……おう?」

 突然の事態に頭が空白になる上条。

上条「あぁ~…つまりあれか? 私を好きにしていいからご飯をくださいって、そういうこと?」

 目の前で顔を真っ赤にしていく少女を前に独自の理論を構築していく上条。

上条「うん、ごめん。無理。俺ロリコンじゃないからお前の体じゃ欲情しない」

 泣きそうになっている少女を前に勝手に結論付ける上条。

インデックス「う……」

 少女は体を隠すのも忘れ、わなわなとその体を震わせる。

インデックス「うっきいいいいいいいいいいいい!!!!!!」

 少女は素っ裸のまま歯を剥き出しにし、上条へと飛び掛った。

上条「そい!!!!」

 上条はあっさりそれをかわし、避け際に少女の延髄にチョップをおみまいする。

インデックス「むきゅう」

 墜落した少女は素っ裸のまま地面にうつ伏せ、気絶した。
193: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/15(金) 23:54:57.94 ID:OHxAY3GD0
上条「ええ、何コレ? もう超めんどくせぇぇぇええええ」

 上条は気絶したまま起き上がろうとしない全裸少女を見下ろし、頭をガシガシと掻いた。
 くそ。関わってしまった。
 関わらないように関わらないように生きてきたのに、まーた巻き込まれてしまった。
 取り合えずこのまま放っておくわけにもいかない。
 ただ単純にさっきのように行き倒れてる所を襲われるならどうぞご勝手にってなもんだが、今のこの少女のウェルカム状態は半ば以上上条が作り出したものである。
 よく見れば少女の服は脱いだのではなく、どういうわけか突然バラバラになってしまったようだった。
 ひょっとしたら、自分の『幻想殺し』が働くような、特殊な服を着ていたのかもしれない。

上条「クソ……だから俺に関わると碌なことにならないっていうんだ……」

 さすがに自分の不幸に巻き込まれて少女が(本来では負う事も無かった)不幸に見舞われるのは夢見が悪かった。
 かといって、自ら能動的に関わる気にはさらさらなれない。

上条「あ~、もう。どうすっかな……」

 上条は頭を悩ませながら、ふと先ほど自分の携帯電話を鳴らした人物の顔を思い出した。
 あのロリ教師の玄関先に放置しておくことにしよう。
 上条はそう決めて、布と化した衣服を少女の体に適当に巻きつけ、担ぎ、担任教師の家を目指したのだった。
213: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 00:41:53.09 ID:5Zt9k9IU0
 翌朝。上条はいつも通りの日常を送っていた。
 道を歩けばスキルアウトの抗争に巻き込まれ、旧市街を歩けば路肩が突如陥没し、アイスを買えば一口も食うことなく地面に落ちる。
 慣れっこの日常。

スキルアウトA「オラァァァアアアアア!!!!」

スキルアウトB「ざっけんな殺すぞガキャアアアア!!!!」

 憎しみと暴力が入り混じる阿鼻叫喚。
 その中を、上条当麻は鼻歌交じりで歩いていく。

上条「げっ」

 そんな上条が露骨に顔をしかめる。
 ポケットにしまっていた携帯電話が鳴り出した。

 着信画面には思ったとおり『小萌センセイ』の文字が躍っていた。
216: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 00:50:03.76 ID:5Zt9k9IU0
小萌『上条ちゃーーん!! どういうことなんですかコレはーー!!』

上条「はぁ? 上条さんには何のことやらわからないんでせうが?」

小萌『真っ白シスターちゃんを部屋の前に置いていったの上条ちゃんでしょう!? シスターちゃんから聞きました! ボサボサツンツンのウニ頭なんて学園都市が広いと言えども上条ちゃんしかいません!!』

上条「いや先生、そりゃいくらなんでも偏見がすぎるぜ……」

インデックス『シスターちゃんじゃない! 私にはインデックスっていう名前があるんだよ!!』

 電話の向こうで少女が騒いでいるのが聞こえる。
 インデックスってお前、目次かよ。と上条は心の中でつっこんだ。

小萌『もぉー、こんな調子でシスターちゃん、魔術師がどうとか電波なコトしか言わないんですよー! 上条ちゃん、早く引き取りに来てくださーい!!』

インデックス『電波じゃないもん! 魔術師はいるんだもん!! そして私の頭にはじゅうまんさんぜんさつの魔導書がー』

 オウフ。なるほど電波だ。
 上条は小萌にインデックスを名乗る少女を丸投げした自分を褒めてやりたくなった。
 こんなん絶対関わりたくねえ。
219: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 00:55:51.72 ID:5Zt9k9IU0
小萌『とにかく! 早くウチに来て事情を説明してください!』

上条「いや、それは無理」

小萌『シスターちゃんがほぼ半裸でいた事情も詳しく説明してもらいますよ!』

上条「そんなもん俺が聞きてえくらいだよ……」

インデックス『服はあのツンツン頭が荒ぶる右手であっという間に引き裂いたんだよ!!』

小萌『だそうですよー?』

上条「知らん知らん。もう切るからな」

小萌『あ、こら上条ちゃん!!』

 上条は携帯電話を耳から離し、通話終了ボタンに指をかける。
 ―――瞬間。

小萌『キャアアアアアアアアアアア!!!!!!』

 電話の向こうで、小萌の悲鳴が響いた。
221: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 00:59:43.11 ID:5Zt9k9IU0
上条「は? おい! どうした! 何があった!!」

 上条が怒鳴りつけても、電話の向こうからは何かが壊れる音と、『逃げて!』という叫びしか聞こえてこない。

上条「……おいおい」

 やがて、その音もやんだ。
 違う。向こうの携帯電話が壊れたのだ。

 上条は舌を鳴らし、携帯電話を乱暴にポケットに突っ込む。

上条「くそ…!」

 磨きぬかれた第六感が訴える警告が、今はとても煩わしかった。
225: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 01:10:21.79 ID:5Zt9k9IU0
 小萌のアパートは全焼していた。
 消防車が出動し、慌ただしく消火活動を始めている。
 小萌は、自らの住み慣れたアパートが燃えているのを、ただ呆然と眺めていた。
 上条は、そんな小萌の姿を愕然として見つめていた。

上条「マジ…かよ……」

 小萌がこちらに気付いた。
 びくりと上条の肩が揺れる。

小萌「上条ちゃん……」

 その目から逃れるように、上条は背を向けて駆け出した。

 

 しばらく駆けて、上条は気付く。
 そういえば、あの場にあのインデックスを名乗った少女はいなかった。
 頭の中にシナリオが組みあがるのは簡単だった
 何者かがあそこを襲撃して、インデックスを連れ去ったのだ。

上条「舐めた真似しやがって……!!」

 上条は奥歯を強くかみ締めた。
 その顔には、明確な怒りが浮かんでいた。
226: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 01:15:42.95 ID:5Zt9k9IU0
男F「ひっ…!」

上条「よう。運が悪いなお前。ひょっとして俺並に不幸だったりしねえ?」

男F「うわ、うわわ」

上条「逃げんなぁぁぁぁあああああ!!!!」

男F「ひっ!」

上条「ちょっと聞きたいことがあんだよ。お前らクズは仲間だけは多いだろ?」

上条「銀髪に真っ白な修道服着たシスターを見かけなかったか、ちょっと仲間にきいてみてくれよ」

男F「わかりました! わかりましたから、見逃してくださいぃぃいい!!」

上条「心配すんな。俺は何もしねえよ。俺はな」
228: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 01:21:38.22 ID:5Zt9k9IU0
男F「……△×学区で、見かけたって奴がいました」

上条「オッケーさんきゅー。△×か。そう遠くはねーな」

男F「こ、これで見逃してくれるんでしょうか?」

上条「おう。俺は急いでここ離れなきゃいけないから、じゃあな」

 上条は男の肩をぽんぽんと叩くと、すぐにその場を走り去った。
 男は心底安堵し、その場にへなへなと腰を落とす。

 直後だった。

 隣のビルの壁が突如崩壊し、巨大な瓦礫が男の頭上に降り注いだ。

男F「う、うわああああああああああああああ!!!!!!」

 ズズン…! と重い音が響き、上条は背後を振り返る。

上条「能力者同士がドンパチやってたんかね…? まあどうでもいいけど。精々俺に巻き込まれた不幸を呪いな」
231: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 01:29:56.48 ID:5Zt9k9IU0
 目的の学区にたどり着いた上条は、適当にそこらを走り回っていた。

上条「こんな探し方で見つかるとはとても思えねーんだけどなー」

 とにかく運が悪く、くじ引きでも生まれてこの方当たりを引いた事がない上条である。
 あてずっぽで道を選んで『当たり』にたどり着くとはとても思えなかった。
 しかし、手がかりがない以上今はそうする以外に他はない。

上条「こんな時には勘もてんで働きゃしないしな。クソ、大体なんで俺はこんなに走り回ったりなんかしてるんだ」

 そうだ、そもそもあのインデックスとかいう女と自分は何の関係も無い。
 関係を持つ気もない。
 やめてしまえ。
 今までだって、ずっとそうしてきたじゃないか。

上条「……馬鹿らし。帰ろ」

 そうやって――そうやって諦めたときに限って。
 運の悪いことに。
 上条はインデックスを見つけた。


 背中を真一文字に切り裂かれ、地面に横たわっているインデックスを。
236: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 01:36:32.22 ID:5Zt9k9IU0
上条「すげえな…」

 インデックスの姿を見つけたとき、最初に出てきた言葉はそれだった。
 上条は自分が不幸だと知っている。自分は不幸だと信じきっている。
 しかし目の前に転がるこの少女は。

 年端もいかぬ少女の身で腹をすかせて行き倒れ。
 出会った男に衣服をひん剥かれ。
 頼った先は全焼し。
 そして今背中を切り裂かれ倒れている。

 一体どれ程の悪意ある世界に住んでいればこんな不幸に見舞われるのか。
 そして、よりにもよってこの俺にまたこうやって関わられてしまっている。

上条「不幸なのは俺だけじゃないんだなぁ」

 だからといって、全く何にも塵ほども救われた気にはならないが。
 そして上条が「生きているのかな?」とインデックスに歩み寄ろうとしたその時。

「それ以上彼女に近づくな」

 背後から男の声が飛んだ。
237: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 01:43:43.63 ID:5Zt9k9IU0
 声に、上条は振り返る。
 赤い髪の、大きな男だった。
 真っ黒いコートを身に纏い、口元にはタバコを咥えている。
 目の下のバーコードのようなタトゥーが印象的だった。

上条「何モンだ? お前?」

ステイル「うん? 彼女から聞いていないのかな? 魔術師だよ、魔術師」

上条「へえ、驚きだ。電波な妄言だと決め付けてたけど、本当だったのかよ」

 上条は大仰に驚いてみせて、それから揶揄するように言った。

上条「しっかし、魔術師ってな俺も真っ青になるくらいの外道集団なんだな。こんなオンナノコを後ろからバッサリ、とはな」

ステイル「いやいやいや。それは僕らとしても予想外のことだったんだよ」

 赤髪の魔術師は首を振って上条の言葉を否定する。
238: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 01:52:03.96 ID:5Zt9k9IU0
上条「予想外? いやいや、こんだけバッチリ後ろから斬りかかっといて、何が予想外なのよ」

ステイル「彼女の着ている修道服。それは『歩く教会』と呼ばれる法王級の防御結界でね。それがある限り、どんなダメージも彼女には通らないはずだったんだよ」

ステイル「ところが、どういうわけかその結界が今日になって消失していた。昨日彼女を追いかけていたときには確かにまだあったんだけどね」

ステイル「こればかりはさすがに予想つけっこないよ。『歩く教会』の破壊方法なんていくら考えても浮かばないからね」

 真剣に首を捻っている様子の魔術師。
 対する上条は、黙っていた。
 魔術師を名乗る怪しい男に対して、軽口を叩くことも忘れていた。

 触れただけで破れ落ちた少女の服。
 砕けた絶対防御。
 右手に宿る『幻想殺し』。

 簡単に連想できた。
 上条はちらりとインデックスを見て、それから口を笑みの形に歪めた。

上条「何が不幸なのは俺だけじゃない、だ……」


 ――コイツの不幸も、結局は俺のせいじゃねえか。
241: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 02:02:10.92 ID:5Zt9k9IU0
 家を焼かれて呆然としていた小萌の姿が脳裏に蘇る。
 小萌だって、巻き込まれただけだ。
 上条が不用意にインデックスを預けたりしなければ、小萌は家を失うことは無かった。
 行動するだけで不幸を撒き散らす。
 まさしく、『疫病神』。

上条「あっはっは……」

 なんだかおかしくなってきて、上条はつい笑ってしまう。
 何を今さら。
 そんなこと、もうずっと前から知っていたことだろう。
 思い知ってきたことだろう。

上条「ふぅ~~」

 胸に溜まったモヤモヤを吐き出すように、上条は深く息をつく。
 そこに赤髪の魔術師が声をかけてきた。

ステイル「どうやらキミは本当に何も聞いていないみたいだね。いいよ、このまま黙って消えたら見逃してあげようじゃないか」

 ぴくり、と上条の肩が震えた。

上条「見逃してやる…?」

 胸に溜まったモヤモヤが、平たく言えば苛立ちが、ストレスが、その噴出する先を見つけて歓喜に震えている。

上条「おいおい、てめえはどういうアレでそんなに上から目線で物言ってんだ? あぁ?」
246: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 02:11:11.28 ID:5Zt9k9IU0
 上条は右手で拳を作り、それを見せ付けるようにしながらステイルへと歩を進めていく。

ステイル「……やれやれ。キミこそどういうアレで命を粗末にしようとするのかな」

 ステイルは呆れたように言って、続けた。

ステイル「僕の名前はステイル=マグヌス、と自己紹介したいところだけど、ここは『Fortis931』と名乗らせてもらおうか」

上条「どっちだっていいよそんなもん」

ステイル「そういうなよ。これも魔術師の慣習ってやつなのさ。魔術を使うときには魔法名を名乗らなければならないんだよ」

上条「しち面倒くせえ習慣だな」

ステイル「全く同感だ。では死にたまえ」

 ステイルの手から炎が迸る。
 迫り来る炎に、上条はただ不敵に笑っただけだった。
248: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 02:17:18.12 ID:5Zt9k9IU0
上条「おお、すげえすげえ。レベル3の発火能力なんて目じゃねえ威力だ。魔術師ってのも大したモンだな」

上条「だが、それがどうした?」

 上条が右手を振るう。
 ただ真っ直ぐに上条に向かってきていた炎はあっけなく消失する。

ステイル「なん…だと……?」

上条「法王級とやらの『歩く教会』が消せて、お前の花火が消せないなんて道理はないよなぁ?」

ステイル「馬鹿な…? なんなんだその右手は…!」

上条「紹介するぜ。『幻想殺し(イマジンブレイカー)』だ。以後よろしく」

 上条がステイルの懐に潜りこむ。

上条「そんで、あばよ」

ステイル「く! 炎よ、巨人に苦痛の――!」

上条「おせえよ!!!!」

 上条の拳がステイルの顔面を跳ね上げた。
254: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 02:24:05.60 ID:5Zt9k9IU0
ステイル「がっ…!」

上条「二撃目なんぞ許すと思ってんのか!? 得体の知れない相手に舐めてかかった時点でお前はもう負けてんだよ!!」

 ステイルは必死に魔術を紡ごうとするが、上条はそれを許さない。
 腹を殴り、腕を払い、顎に頭を叩きつけ、ステイルを瞬時にボロボロにしていく。

上条「よ、せーのぉ!!」

 最後に、たたらを踏んだステイルに思い切り振りかぶった右拳を叩きこんで、この戦いは集結した。
 仰向けに吹っ飛んだステイルはもう意識を失っていた。
 ポタリ、と最初の一撃で宙を舞っていたタバコがようやく地面に落ちた。

上条「最後の一発は余計だったかな? ま、嫌なこと思い出させてくれたお礼だと思って受け取ってくれよ」

 意識を失ったステイルにそう言い捨てて、上条はインデックスに歩み寄った。
258: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 02:27:54.79 ID:5Zt9k9IU0
上条「おい」

インデックス「う…ん?」

上条「選ばせてやる。死神と疫病神。世話になるならどっちがいい?」

インデックス「わたし…まだ…死にたく…ない……」

上条「オッケイ。乗りかかった船だ。ここまでは面倒見てやるよ」

 上条はインデックスを担ぎ上げる。
 向かう先は、ある知り合いがいる病院だった。
264: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 02:32:09.42 ID:5Zt9k9IU0
 上条当麻の過去その①


 上条当麻は、とにかく運の悪い少年だった。

 ほんのささいなことが、大きな事件に発展することなど、彼にとっては日常茶飯事だった。

 そのきっかけのほとんどは、『運が悪かった』としか表現しようが無いものばかりだった。

 しかしそれ故に、それはどれも人の身では到底回避しようが無いものだった。

 やがて周囲は幼い彼をこう呼び始めた。


 『疫病神』、と。
271: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 02:40:26.26 ID:5Zt9k9IU0
冥土帰し「おやおや、また変わった患者をつれて来たものだね」

上条「背中をばっさりやられちまってる。でもまあ、アンタなら治せるだろ」

 上条は診察用のベッドの上にインデックスをうつ伏せに寝かせた。
 その傷を興味深そうに見つめているのはかえるによく似た顔の医者だった。
 その医者は、学園都市に並ぶものがいないと称されるほどの腕の持ち主であることから、『冥土帰し』と呼ばれている。

上条「ま、こんなんでもオンナノコだ。傷がのこらねえようにしてやるくらい、アンタなら朝飯前だろう?」

冥土帰し「難しいことを簡単に言ってくれるねぇ」

上条「ふざけんなよ。出来ないとは言わせない」

 上条は冥土帰しの目の前に己の右手を掲げて見せた。

上条「『あの時』余計な真似して俺の右手をくっつけてみせたんだ。こうやって傷一つなくな」

冥土帰し「ふむ。まだ余計な真似としか思えないかい?」

上条「ああ、いつだってアンタを恨まない時はないね」

冥土帰し「そんな風に患者から熱烈に思ってもらえるなんて、医者冥利に尽きるってものだね」

上条「言ってろクソッタレ」
275: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 02:48:59.61 ID:5Zt9k9IU0
 ともあれ、これで最低限の義務は果たした。
 自らの気まぐれでインデックスの世界に悪影響を及ぼした罪は、これであらかた清算されたと思っていいだろう。
 おそらくあの魔術師たちは今後もインデックスを襲ってくるだろうが、もう知ったことではない。
 その時は、患者に優しいこのカエル顔が、学園都市の科学の力で持って守ってくれることだろう。
 そこに上条当麻がいないほうがいいことは明白だ。

上条「じゃあ、よろしく頼んだぜ」

冥土帰し「待ちたまえ。患者が何かを言っているよ」

 言われて、上条はインデックスに目を落とす。
 てっきり意識を失っていたんだろうと思っていたが、うっすらとその目を開いてことらを見ている。
 もしかするとステイルとやりあっている時から起きていたんだろうか?

インデックス「…ーま」

上条「あん? なんだよ?」

インデックス「……とーま。ありがとう」

上条「何で、名前……」

 何で名前を知っているのかと思ったが、よく考えれば小萌が教えていたのだろうことは明白だった。
278: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 02:56:33.45 ID:5Zt9k9IU0
 くそ。と上条は独りごちる。
 お互いの名前を知ってしまった。
 関係を、持ってしまった。
 余計なことを、と筋ではないが担任のロリ教師につい毒づいてしまう。

上条「人違いだよ」

インデックス「私、完全記憶能力あるから見間違えたりしないもん……」

上条「俺は上条当麻の双子の弟で上条凍牙って言うんだ。兄ちゃんは死んだよ。だから君も早く兄ちゃんのことは忘れな」

インデックス「とーま…とーまはすっごく強いのに……」


 どーして、そんなにおびえているの?


 その言葉を最後まで聞いていることは出来なかった。
 上条は乱暴にドアを閉め、診察室を後にする。

 これで全て終わりだ。もうあんなわけのわからんインデックスなんぞに関わることは無い。
 ウェルカム、日常。グッバイ、非日常。

 上条は病院の敷地を後にする。
 彼は忘れていた。
 日常を阻害する『不幸』、それこそが彼の真の日常であることを。
279: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 03:03:24.17 ID:5Zt9k9IU0
 病院を後にして一時間後。
 彼が今ねぐらにしている廃墟に向かっている途中で、上条は足を止めた。

上条「……おいおい」

 上条は心の底からため息をついた。
 視線の先では、黒いコートを身に纏った赤い髪の魔術師が佇んでいる。

ステイル「まったく…面倒なことをしてくれた」

上条「まったく…面倒なことになってきやがった」

ステイル「まさか学園都市の施設に彼女を匿うとはね。この街はよそ者には厳しいはずじゃなかったのかな?」

上条「まあそうだな。通常はID持ってねえやつなんてすぐにはじかれちまうよ。でも、どんなものにも例外ってのはあるもんさ」

ステイル「彼女をあの施設から連れ出して来い」

上条「知るか。てめーらで勝手にやれ。俺はもう関係ねえよ」

ステイル「ここまで踏み込んでおいて今さら……虫の良いことを言うものではないよ」
281: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 03:08:53.70 ID:5Zt9k9IU0
上条「俺からしたら虫はてめーらだよ。ぶんぶんと鬱陶しい羽虫だ。叩き潰すぞボケ」

ステイル「やってみろ。今度はさっきのように簡単にいくと思うなよ」

 問答は終わりだとばかりにステイルはその手にトランプのようなカードを取った。

ステイル「協力させてくださいと泣き付くまで焼き続けてやる。手足を焼き焦がして芋虫にしてやるよ」

上条「やってみろよ。てめえがどんなに息巻いても、俺の右手は燃やせねえ」

ステイル「ならばその右手以外を焼き尽くすだけだ!! イノケンティウス!!」

 ステイルの叫びと同時、炎の巨人がステイルと上条の間に立ち塞がった。

ステイル「今度は最初から全力だ。僕の奥義を味わいたまえ」
285: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 03:17:15.98 ID:5Zt9k9IU0
上条「らぁ!」

 上条は躊躇なく炎の巨人に向かって突進し、その右手を叩き込んだ。
 ボン! と音を立てて巨人の体が四方に飛び散る。

上条「おいおい。学ばねえ野郎だな。魔術師ってのは馬鹿ばっかか?」

 どんな規模のものであろうと、それが異能の力であるのなら、上条の右手の前には無力なのだ。
 しかし、ステイルは余裕の笑みを浮かべたままだ。
 ぞくり、と嫌な予感が上条の体を駆け抜けた。

上条「ッ!?」

 即座に後ろに飛ぶ。
 一瞬で再生した炎の巨人が再び上条の前に立ち塞がっていた。

ステイル「学問の徒たる魔術師に向かって学ばぬ馬鹿とはね。君こそ相当にオツムがよくないんじゃないかい?」

上条「……おぉ。自慢じゃねえけどテストは毎回赤点だよ」

 というより、そもそもしばらく学校自体に行っていない。
 軽口を叩く上条に、炎の巨人、イノケンティウスが赤い炎の剣のようなものを振り下ろしてきた。
 右手で受け止めるのではなく、後ろに飛ぶことでかわす。
 上条とステイルの間の距離が大きく開き始めた。
311: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 10:17:08.74 ID:Z0RnR+KN0
 イノケンティウスと呼ばれた炎の巨人がその手に持っていたのは剣ではなく、どうやら巨大な十字架らしかった。
 イノケンティウスは上条目掛けてその十字架を容赦なく振り下ろしてくる。

上条「くおお!!」

 何度目かの一撃。避けきれず、上条は右手で炎の十字架を受け止める。
 しかし十字架は霧散することなくそこにあり、上条を熱で苛み続ける。

上条「消えない? …いや、違うな。消える端から再生してんのか。まいったなこりゃ」

 上条は炎が消しきれないことを逆に利用して、まるで炎を掴み取るようにして軌道を逸らした。
 上条のいる場所のすぐ右の地面を十字架が焼き焦がす。
 そこから振り上げてきた一撃を、上条は後ろに大きく跳び退ってかわす。

 上条とステイルの距離が開く。

ステイル「あっはっは! でかい口を叩いておきながら無様に逃げるだけなのかい?」

上条「ああ。こりゃまいった。右手が効かないんじゃどうしようもねえ」

 上条はステイルの挑発的な言葉を否定せず、続けた。

上条「こりゃもう、無様に逃げるしかねえや」


 上条はそう言うと、あっさりステイルに背を向け、勢いよく駆け出した。
314: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 10:26:07.11 ID:Z0RnR+KN0
ステイル「な!? おい待て!!」

 ステイルと炎の巨人の姿が見る見るうちに小さくなっていく。

上条「ふうん…追ってこない、か……いや、追ってこれない、かな」

 上条はステイルが追撃してこなかったことでひとつの仮説を立てる。
 どうやらあの炎の巨人は赤い髪の魔術師の切り札のようだった。
 最初の邂逅のときに使ってこなかったことと、こうして追撃してこないこと、そして今回はしっかりと『待ち伏せ』されてからの戦闘であった事。
 これらの状況から鑑みるに……

上条「なにかしらの前準備がいるんだろうな、アレを使うには。ならそんなもん律儀に相手してやる必要なんかさらさらねーわけだ」

 そう結論付けて、しかし上条はガシガシと頭を掻いた。

上条「しかし、問題はたかだか一時間かそこらで俺の寝床を特定されたってことなんだよなぁ」

 大した情報収集力だぜ、ちくしょう。上条は吐き捨てた。
 このままでは、また別のところに寝床を移しても、また近いうちに襲撃されるのは目に見えている。
 それも、今回以上の用意周到さで準備万端に奇襲を仕掛けてくるだろう。
 そう考えれば、今のうちに始末してしまったほうが何ぼか楽というものだった。
315: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 10:37:37.31 ID:Z0RnR+KN0
上条「でもあの巨人は正直厄介だからな……どうすっかね」

 上条は顎に手を当て、首を捻りながら暗い街を歩く。
 突然、目の前に金髪の男が走ってきてぶっ倒れた。
 そしてその後を追ってきたかのように、見るからにガラの悪いのが三人。

スキルアウト1「おい!! そいつを渡しな!!」

上条「あん?」

 上条は足元でもぞもぞと這い、男達から逃げ出そうとしている金髪に目を落とす。
 金髪の体は血まみれだった。男の体に丸く穿たれた傷口を発見し、上条は笑う。

上条「ああ、なるほど、そういうこと。こりゃいーや。はは」

 道を歩けば居眠りトラックが追突し、街を歩けば隣のビルが倒壊し、飯を食えばO-157。
 そんな上条にとって、路地裏で頭を悩ませていればスキルアウトの抗争に巻き込まれる、なんてのは日常茶飯事だった。

上条「ついてねーな、全く。いや、ついてるのか? いや、普通こんな状況をついてるとは言わねーよな。やっぱ不幸であってるだろ」

スキルアウト2「何ぶつくさ言ってんだ! 『コレ』が見えてねえのか!? 死にたくなかったらすっこんでな!!」

上条「いや、全くついてない」

 上条を恫喝してくるスキルアウト達に向かって、何ら臆することなく、上条は笑った。

上条「ついてねーよな。俺も、お前らも」
316: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 10:47:18.99 ID:Z0RnR+KN0
ステイル「く…! まさかあっさり逃げの一手とは……」

 残されたステイルは歯噛みしていた。
 どうもおかしい。調子が狂う。理解不能だ。
 何故あの男はこうまで戦い慣れしているのか。
 しっかりと戦闘訓練を積んできた自分のほうがまるで幼子のようにあしらわれているではないか。
 こんな島国でのほほんと生きてきたような奴に後れを取るとは……!
 それはステイルにとって耐え難い屈辱だった。

 ざっ、と足音が響く。

 その場に戻ってきた上条の姿を目に捉え、ステイルはすぐにイノケンティウスを再生させた。

ステイル「よく戻ってきたね。てっきり今日はもう隠れてぶるぶる震えてるつもりなのかと思っていたよ」

上条「いやー、よく考えたら今のねぐらに忘れもんがあってな」

ステイル「命を対価にしてまで取り戻すものなのかい?」

上条「おう。せこせこ貯めたぶたさん貯金箱。置いていくわけにはいかねえよ」

ステイル「ならばその金は君の葬儀代の足しにしてやろう。イノケンティウス!!」

 ステイルの号令と共にイノケンティウスが上条へと襲い掛かる。

上条「さて、俺がいない間に何か罠でも仕込んでおいたか? もし、さっきと一緒のままなら……お前の負けだぜ?」

 上条は不敵に笑ってその一歩目を踏み出した。
318: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 10:56:13.35 ID:Z0RnR+KN0
 炎の巨人、イノケンティウスが上条に迫る。
 振り下ろしてきた十字架の一撃を上条は右手でいなし、回避する。
 そしてイノケンティウスの体に右手が届く位置まで踏み込んだ。

上条「ぐあっちっち! クソ! 近づくだけですげえ熱気だな!!」

 罵声を発しながら上条はイノケンティウスの、人間で言えば腹に当たるであろう部分に右手を突き入れる。
 一瞬、右手の周囲の炎が弾け飛び、その穴からステイルと目が合った。
 だがそれだけ。イノケンティウスの存在を滅することは叶わず、上条の右手が引き抜かれた途端に弾け飛んだ部分も再生した。
 乱暴に振るわれたイノケンティウスの腕を身を屈めることで回避し、上条は再びイノケンティウスとの距離を取る。

上条「ふーん、なるほどね」

 たまらず後退したように見えた上条だったが、しかしその顔には余裕が現れていた。
 まるで勝利を確信したような、そんな顔だった。

上条「確認、終了……と。んじゃ、終わらせますか」

ステイル「同感だ。そろそろ幕と行こう。今度こそ君の右手以外をこんがり焼いてあげるよ」

上条「そん時は小麦色のいい男にしてくれよ」

 上条が駆け出す。イノケンティウスが咆哮する。
 両者が、ぶつかりあう。
319: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 11:07:37.04 ID:Z0RnR+KN0
 上条はポケットに手を突っ込んだまま、イノケンティウスと肉薄する。
 上条の上半身を薙ぐように振るわれたイノケンティウスの十字架を、上体を後ろに倒すことで回避する。
 回避行動を取った上条は、もうほとんどブリッジをしているような体勢になっていた。
 そこから、背筋と腹筋任せに体を思い切り引き上げる。
 その勢いのまま、上条はポケットから出した右手をイノケンティウスに突き入れた。

 一瞬、炎が散る。

 イノケンティウスの向こうで笑うステイルと視線が交差する。

ステイル「ははは! まだわからないのか!! そんな単純な一撃ではイノケンティウスは殺せない!!」

上条「……ばーか。まだわかんねえのか? 前とおんなじやり方じゃ、俺は殺せねえよ」

 上条がイノケンティウスに突き入れた右手。そこには無骨な鉄の塊が握られていた。
 手のひらにすっぽり収まるほどの小型拳銃。
 異能の力の介在する余地の無い、学園都市の『科学』の産物。

上条「人間ってのは、学んで、工夫して、困難を乗り越えていく生き物なんだぜ?」

 パン、と驚くほど小さな破裂音が響き。
 ステイルの体が崩れ落ちた。
325: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 11:15:31.11 ID:Z0RnR+KN0
ステイル「あ…が…!」

 パン、パンと銃声が連続する。
 ステイルはその右肩、左肩、右太もも、左太ももと順次撃ち抜かれていった。

ステイル「が…ぎぃ…!!」

 痛みに悶絶し、のた打ち回る。
 周囲に張り巡らせたルーンに魔力を供給する余裕はもう無い。
 イノケンティウスはその体を散り散りに飛散させ、消滅した。

上条「芋虫になったのはお前だったな」

 上条はステイルに歩み寄り、その体を蹴り上げて無理やり仰向けにさせた。
 そして上条はステイルの口に銃口を突っ込む。

上条「さあ、今度はお前が言え。見逃してください、と。もう二度と俺には関わらないと」

上条「ああ、つってもこんなもん口に突っ込まれてちゃ喋れねえか。なら頷くだけでいいや」
327: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 11:20:47.91 ID:Z0RnR+KN0
 しかし、ステイルは苦悶に顔を歪めながらも、上条を睨みつけていた。
 睨みつけたまま、頷こうとはしなかった。

上条「ヒュウ」

 上条は思わず口を鳴らす。

上条「すげえな。大したモンだ。使命感か? それとも安っぽいプライドか? とても俺には真似できねえや。カッコイー」

 ステイルの口がもごもご動く。
 銃に邪魔されて全然発音できていなかったが、上条にはステイルの言いたいことが伝わった。

 ――貴様なんぞに、わかるものか。

上条「わからねえよ。知りたくもねーし」

 上条は引き金に指をかけた。
 ステイルは最後の力を振り絞り、その手に小さな炎を揺らめかせる。


神裂「待ちなさい」

 突如、凛とした女の声が二人の間に割って入った。
329: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 11:26:24.23 ID:Z0RnR+KN0
 上条は声のした方に顔を向ける。
 長い黒髪をポニーテールのように纏めた、非常にグラマラスな女がそこに立っていた。
 へそを見せ付けるように裾を巻くって縛り上げたTシャツ、左側を大胆にカットしたジーンズがそのスタイルを一層引き立てている。

上条「……誰だおねえさん。もしかしてアンチスキルか? そんなユニフォームの奴なんて見たことねえけど」

ステイル「神…裂……」

上条「お? なんだよお前のお仲間かよ」

神裂「ステイルから離れなさい。それ以上は、私の魔法名にかけて許しません」

上条「一応確認。お姉さん、魔術師ってやつ?」

神裂「はい、神裂火織と申します。以後お見知りおきを」

上条「いや、いーよ別に」

 パン! と銃声が木霊した。
332: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 11:33:19.02 ID:Z0RnR+KN0
 銃口から煙を吐く拳銃を握り締めたまま、上条は苦笑した。

上条「うっそぉ……」

 神裂と名乗った女は、何事も無かったかのようにそこに立っていた。
 絶対に当たるコースだったはずだ。なのに。

上条「銃弾避けたの? 魔術師って頭でっかちの学者さんじゃなかったのかよ」

神裂「聖人たる私にとってはさほど難しいことではありません。重ねて言います。ステイルからどきなさい」

 ギラリ、と女の腰に下がっていた日本刀(のようなもの)が煌いた。
 ぞわり、と寒気を感じて上条はステイルから離れ、地面に転がる。
 ザシュザシュザシュ、と何かを切り裂くような音が七回響いた。
 たらり、と上条の頬を汗が伝う。

上条「そうやって離れた所から斬ることが出来るのがアンタの魔術?」
335: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 11:40:16.71 ID:Z0RnR+KN0
神裂「『七閃』と名づけています。ステイル、無事ですか?」

 神裂はあっという間にステイルの傍まで近づいてきていた。
 驚いた上条は反射的に未知の敵『神裂火織』から距離を取る。

ステイル「無事…とは言いがたいな?」

神裂「腕は動かせますか?」

ステイル「ん…何とか……」

神裂「止血剤は持っていますね。なら処置は任せます」

ステイル「厳しいね、どーも。……インデックスの方はどうなった」

神裂「駄目ですね。一個の病院といえど、さすがは学園都市といった所です。あのセキュリティを突破するにはかなりの荒業を使わなければなりません」

ステイル「事を荒立てたくない僕たちからすればそれは難しい、か……そうか、それで君はここへ来たのか」

神裂「ええ、是が非でも、彼にインデックスを連れてきてもらわなければなりません」

 神裂は、じっとこちらの様子を伺っている上条へ目を向けた。
337: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 11:47:09.02 ID:Z0RnR+KN0
神裂「話は聞こえていたでしょう? インデックスを連れてきてはもらえませんか?」

上条「……冗談。何で俺がそんなこと」

神裂「あなたは見ず知らずのインデックスを庇い、病院まで連れて行った。心根は善良なのでしょう」

上条「はあ?」

神裂「だから、私も真実を話します。私たちは何も彼女を殺そうとしているわけじゃありません。むしろ、彼女を助けるためにこそ私たちは行動している」

上条「おいおいわけわかんねえこと言い出したぞ聖人さん」

神裂「私達が早く彼女を保護しなければ……彼女は近いうちに死んでしまうのです」

上条「な…にぃ……?」

 適当に聞き流そうとしていた上条の動きが止まった。
342: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 11:55:28.73 ID:Z0RnR+KN0
 曰く、彼女には完全記憶能力が備わっている。

 曰く、彼女の頭には103000冊の魔道書が詰め込まれている。

 故に、彼女は脳の容量を著しく圧迫され、普段の生活の中で記憶できる量は限られている。

 ではその容量を超えればどうなるか? 答えは死ぬ。なんとも簡潔な答えだった。

 そして、記憶できる量はおおよそ一年。一年ごとに、記憶を消しながらインデックスは生きてきた。

 生きて、死んでを繰り返してきた。

神裂「そして、今年の期限は刻一刻と迫っています。私達は一刻も早く彼女を保護し、処置を行わなければならないのです」

 神裂は語り続ける。
 何も知りたくないと何度も言った筈なのに。
 まるえお構い無しだ。それ程余裕を失っているのだろう。
 そのことが、さらに話の信憑性を増していた。

上条「……」

 上条は愕然としていた。
 知りたくも無いことを知ってしまった自分の不幸に。
 そしてそれ以上に。
 インデックスという少女に降りかかっていた不幸の凄まじさに。
343: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 12:02:04.03 ID:Z0RnR+KN0
上条「すげえな…オイ」

 自然と口をついて言葉が漏れた。
 一年ごとに、死と再生を繰り返してきた少女。
 思い出の蓄積を許されず、ただただ一年毎の死から逃れるためだけに人生を生きてきた少女。
 大したものだ。目を背けたくなるような不幸だ。

 いや、しかし、不幸の質と数では上条だって負けていない。
 疫病神と呼ばれ生きてきた上条はそれだけは確信を持って言える。
 でも、なのに、どうして。

 それほどの不幸を負いながら。

 ――とーまはどうしてそんなに怯えているの?

 誰かを気遣うことが出来るのか。
 笑って過ごすことが出来るのか。

 どうして、心が折れずに生きていくことが出来るのか――!

上条「……!!」

 上条の心に、どす黒いモヤモヤが溜まっていく。
345: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 12:11:32.67 ID:Z0RnR+KN0
上条「保護だなんて、笑っちまうよな」

神裂「……何?」

上条「アイツの背中を斬りつけたのはお前だろ? あんなにバッサリ斬りつけといて、よくそんなことをぬけぬけと言えるよな」

神裂「あれは…! あれは本意では無かった…! 彼女の歩く教会が顕在なら、軽い足止め程度にしかならないはずだったんだ!」

上条「言い訳すんなよ。さっき言ってたな? 昔は友達だったんだって? 仕事のためなら昔の友達にだって刃を向けれるか? カックイー、プロの鑑だね」

神裂「く……!」

ステイル「神裂、挑発だ、乗るな」

上条「友達をやめたのはなんでだ? どうせ奪わなければならない思い出なら最初から与えないほうがいい? それも言い訳だよな?」

神裂「黙れ…言うな……!」

上条「結局自分が可愛かったんだろ? 最後に思い出を奪うのが辛いから、一緒に思い出を作ることにびびっちまったんだろ?」

上条「インデックスは確かに不幸だ。でも、一番不幸だったのは……周りにお前らみたいな偽物の友達しかいなかったってことさ!」

神裂「だぁまれぇぇぇぇえええええええ!!!!!!」
349: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 12:21:37.98 ID:Z0RnR+KN0
神裂「何にも、何にも知らないくせに!! ほざいてんじゃねえぞド素人がぁ!!」

 激昂した神裂は刀に手をかける。
 上条は両手を広げて笑った。

上条「そうだ! 来いよ! おためごかしなんて捨てて、苛々を俺にぶつけてみろ!! ムカついてんだろ!? お前等の計画を引っ掻き回す俺に!!」

上条「俺だって同じさ!! いい加減てめえら魔術師って奴にはイラついてる!! だったら簡単だ、それをぶつけ合おうじゃねえか!!」

上条「今さら話し合いで解決できるなんて、そんな幻想抱いてんじゃねえよ!!」 

神裂「『七閃』!!」

 神裂の言葉と同時にギラリと刃が煌く。
 さっきと同じように、抜刀したようには見えない。
 にもかかわらず、七つの斬撃が上条のもとへと確かに向かう。

上条「はっ!! たとえどんな魔術だろうが俺の右手で消し去ってやるよ!!」

 いや、待て。
 上条は足を止める。

 今、あの女は『魔法名』とやらを名乗ったか?
351: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 12:29:38.67 ID:Z0RnR+KN0
上条「うおお!!」

 上条は突き出してきた右手を引き、目を凝らす。
 ある。細く煌く糸が。魔術などではない実体がそこにある。

上条「あっぶ…ねえぇぇえええええええ!!!!」

 七本のワイヤーを必死で体を動かして掻い潜る。
 ワイヤーにかすったワイシャツがあっさりと切り裂かれた。

上条「だまし討ちとは汚ねえヤロウだな!!」

神裂「だまし討ち? わざわざ敵に『魔術ではありませんよ』と宣告して攻撃する馬鹿がどこにいますか。あなたが勝手に勘違いしただけでしょう」

上条「ぐぅの音も出ねえな、クソッタレ!!」

 上条は崩れた体勢を立て直す。
 目の前で、変幻自在のワイヤーがひゅんひゅんと踊っている。

上条「俺なんぞには魔術を使うまでもねえってか? 魔術師ってのはどこまでも傲慢だな」

神裂「別に…ただ、私はもう魔法名を名乗りたくないだけです」

上条「なんだよ、なんだか事情がありそうだなオイ」

神裂「……」

上条「まあいいさ。てめえが手加減したままで俺に勝てると思っているのなら…まずはその幻想をぶっ殺す!!」
356: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 12:39:11.91 ID:Z0RnR+KN0
 上条は神裂に向かって駆け出した。
 目の前には七本のワイヤーが煌いている。

神裂「無策で突っ込んでくるとは……愚か!!」

 神裂が手元でワイヤーを手繰る。
 まるで意志を与えられたかのように七本のワイヤーが上条に襲い掛かってくる。

上条「七本同時? 七本程度じゃ隙間だらけだ。抜けてくださいって言ってるもんだぜ!!」

 上条は足を止め、一歩だけ後ろに跳び退る。
 上条の体を捉える筈だったワイヤーのうち何本かが空を切る。
 生じた隙間に、上条は躊躇無く身を飛び込ませた。
 ワイヤーが後ろに通り過ぎる。
 上条は空中で体を捻り、しっかりと地面に着地した。
 無傷。ワイヤーは上条の体をかすりもしていない。

神裂「馬鹿な!!」

上条「ゴム飛びって遊び知ってる? あれ思い出したわ」

 神裂が再びワイヤーを手繰り寄せるよりも早く、上条は神裂の元へ駆け抜ける。

上条「もっとも、俺とそれで遊んでくれる奴なんていなかったけどな!!」

 慌てて刀を抜こうとした神裂だったがしかし、刀の柄は上条によって既に押さえられていた。
361: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 12:47:54.83 ID:Z0RnR+KN0
上条「オラァ!!」

 上条は神裂の顔に向かって拳を振るう。
 小気味良く顎を跳ね上げるはずだったその一撃はしかし、神裂が上体を逸らしたことであっさりと空を切った。

上条「あら?」

 次の瞬間猛烈に悪い予感が上条の全身を、主に股間に集中して駆け抜ける。

上条「おわああああ!!!!」

 上条は慌てて左手で股間に迫っていた神裂の膝を押さえた。
 そのとんでもない威力に、上条の体が一瞬宙に浮く。

上条「おま! こんな威力でこんな所蹴っちゃだめだろ!! キ○タマは狙わないっていうバトルの不文律を知らんのか!!」

神裂「何を甘いことを!!」

上条「やべ!!」

 男性としての危機に思わず刀を押さえていた左手を離してしまっていた。
 神裂の右手が抜刀しようと刀の柄に伸びる。

上条「そっちがその気ならこっちも手段選ばねえぞ!! オラァ!!」

 上条は右手で思いっきり神裂のシャツを上に引っ張った。
 ぽろん、と神裂の形のいい左乳がむき出しになる。

神裂「……はい?」
370: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 12:54:09.91 ID:Z0RnR+KN0
神裂「きゃわあああああああああああ!!!!」

 瞬時に顔を真っ赤にした神裂は慌てて両手でシャツを下に引っ張り、むき出しになっていた己の左おっぱいをシャツの中にしまった。

上条「戦闘中に両手を塞ぐなんて、そりゃもう下策の下策だぜ!!」

 上条は再びポケットから銃を取り出し、引き金を引いた。

神裂「しまっ…!」

 パン、と乾いた音が響き、神裂が刀を腰にくくりつけていた紐が千切れ飛ぶ。

上条「よっしゃあ!!」

 上条は宙を舞った刀を思い切り蹴り飛ばした。
 カランカランと音をたて、刀が地面を転がっていく。

神裂「くっ…!」

上条「刀の行方を追って余所見とは、こりゃもう下策の三乗だな!!」

 上条の拳が神裂の腹に突き刺さった。
377: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 13:01:56.48 ID:Z0RnR+KN0
上条「……いってええええええええ!!!!」

 しかし悲鳴を上げたのは神裂では無く上条だった。

上条「かってえ!! どうなってんのお前の腹筋!!」

神裂「言ったはずです。私は聖人、その身体能力は人間の限界値を生まれながらにして超えています」

上条「ハッタリじゃなかったんかよ……!」

 上条は歯噛みする。
 神裂はげほっ、と一度だけ咳をした。
 聖人たる神裂とてまったくのノーダメージというわけではなかったのだ。

上条「だらァッ!!」

 今度は上条の拳が神裂の顔面を捉えた。
 ステイルを体ごと吹き飛ばした一撃をその身に受けて、しかし神裂は揺らがない。

神裂「聖人を相手に肉弾戦を抱くことの愚かさを知りなさい!!」

 神裂も握り締めた拳を上条の体に叩き込む。
 が、その一撃は上条が左手を添えることであっさりいなされた。

神裂「なっ…!」

上条「左手は添えるだけ……ってなぁ!!」

 今度は上条の膝が神裂の脇腹に打ち込まれ、神裂の体が一瞬浮いた。
380: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 13:11:54.41 ID:Z0RnR+KN0
 しばらく、武器も小細工も何も無い、肉弾戦の応酬が続いた。
 神裂火織は何度目になるかわからない拳をその顔に受けて、ただただ驚愕していた。

神裂(この私が…一撃も…当てられない!?)

 上条当麻は確かに消耗している。
 だがそれは、単純に体力がなくなってきているだけだ。
 神裂が消耗しているように、ダメージが蓄積しているのではない。

上条「いい加減倒れろよなあ……あれかい? 聖人ってのは基本的にマゾなのかい?」

 軽口を叩いてくる上条を神裂は睨みつける。

神裂「あなたは……何者なのです?」

上条「何者って言われてもな……この学園都市の最底辺を生きる、正真正銘の無能力者だよ」

神裂「あなたは強い。しかし、腕力やタフネスといった実質的な身体能力は私のほうが遥かに上です」

 にもかかわらず、神裂は上条の手によってボロボロにされている。

神裂「けれど……あなたの危機察知能力、そしてその回避能力は、異常だ。人の域を逸脱している」

 そう、結局、神裂の劣勢の理由は明白だった。
 攻撃が当たらないのだ。そのことごとくをかわされ、いなされ、無効化されてしまうのだ。
384: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 13:20:45.78 ID:Z0RnR+KN0
 腕力、脚力、その他全ての身体能力。
 上条当麻のそれは確かによく鍛え上げられていた。
 しかしそれはあくまで人間の達しうる領域までの話だ。
 そんな中で、上条の危険察知・回避能力だけは人間の域を遥かに逸脱していた。

 人の身でありながら、神の域に辿りつきし者。
 この学園都市では、それをなんと呼ぶのだったか。

神裂「くっ…!」

 遂に神裂が膝を突いた。
 とどめと言わんばかりに上条は、ちょうどいい位置に下がってきた神裂の頭を蹴り飛ばす。
 叩きつけられるように地面を転がった神裂に、もう立ち上がる力は残されていなかった。

神裂「……ただの学生の身でありながら……何故…それ程の力を……」

上条「うるせえよ。人の過去を詮索してんじゃねえ」

 そもそも思い出したくも無い過去なのだ。

上条「さて、けっこうスッキリしたし俺はもう帰って寝るけど、もう手ぇ出してくんなよ」

 上条はそれだけを言い捨てて、倒れ付す魔術師達には目もくれず、その場を立ち去った。
389: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 13:28:29.59 ID:Z0RnR+KN0
 上条当麻の過去その②

 上条当麻は純真な子供だった。
 上条当麻は『疫病神』と忌み嫌われながらも、それでも皆の幸せを願う善良な子供だった。
 だから、自らの不幸体質で皆を巻き込んでしまうことを容認できなかった上条はこう考えた。

 否応無く誰かを巻き込んでしまうのなら、そのことごとくを救えるほどに強くなればいい。

 そのための努力を、幼い上条は惜しまなかった。
 周りの子供から忌避され、必然的に増えてしまう独りの時間を、己の研鑽に費やした。
 結果は出た。
 上条は、遂に自分の不幸によって事件に巻き込んでしまった誰かを無傷で助けることに成功した。
 これで皆と仲良くやっていくことが出来る。
 幼い上条は純粋にそう思った。
 助かってよかったね、とその時救った友達に笑いかけた。

『何言ってんだよ。元々お前のせいだろーが』

 それが友の返事だった。

 その日から、上条には新たなあだ名がついた。



 『自作自演野郎』。


415: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 14:21:11.71 ID:Z0RnR+KN0
 上条当麻は夢を見ていた。
 それは在りし日の、『疫病神』と忌避されながらも、『自作自演野郎』と蔑まれてながらも笑って日々を過ごせていたあの頃の記憶。
 上条当麻は両親からの溢れるほどの愛に包まれていた。
 息子の右手に宿る『異常』によって、数々の不幸に見舞われながらも、したたかに生きていける強さを上条当麻の両親は持ち合わせていた。
 あれ程過酷な幼少時代を過ごしながら、それでも上条が人間として当たり前の善良さを失わずに生きてこれたのは間違いなくこの両親のおかげだった。

刀夜「ハッピバースデイとーまー」

詩菜「ハッピバースデーとーまー」

 声をそろえて歌う夫婦に、上条は照れながら「よせよ」と笑った。
 テーブルに鎮座するド派手なケーキには当麻の名前と、14という数字が描かれている。

刀夜「当麻、理不尽な困難に負けるな」

 それが父の口癖だった。

詩菜「誰かの不幸を背負ってそれでも笑える当麻さんを、私はとても誇らしく思うわ」

 それが母の口癖だった。

上条「言われるまでもないよ」

 それが上条の、いつもの答えだった。
419: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 14:28:56.97 ID:Z0RnR+KN0
刀夜「きっと、これからもお前にはたくさんの理不尽なことが降りかかる。でもな、お前は決して一人じゃないぞ」

詩菜「そう、あなたには、いつだって私達がついてる」

刀夜「確かに、今はお前のことを真に理解し、傍にいてくれるのは私達家族だけかもしれない」

刀夜「だが、忘れるな」

刀夜「いつかお前にも、お前を理解し、共に在ろうとしてくれる人は現れる。それは絶対にだ」

詩菜「当麻さんは、不幸に負けないくらい、優しい子ですものね」

刀夜「そうだ。その時、きっとお前は怯えるだろう。自らの不幸に巻き込むことを恐怖するだろう」

刀夜「だが、その恐怖を乗り超えろ。どんなに怖くても、その手を振り払うな。辛さを共にわかちあうことは、何にも悪いことなんかじゃない。わかったな、当麻」

上条「わかったよ、父さん」

 父は力強く頷き、母は優しく微笑み、和やかな雰囲気の中、「乾杯」と父は声をあげた。

 でも、そのグラスが合わさることは無かった。
423: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 14:35:43.10 ID:Z0RnR+KN0
 それは今まで起こったどの不幸よりも理不尽だったし、突然すぎた。
 塀を砕き、窓ガラスを突き破り、突然、リビングにトラックが突っ込んできた。
 家で誕生日パーティーを行っていたら、居眠りトラックが突っ込んできた。
 笑えない、笑うしかない、不幸。

 父は母を庇った。母は息子を庇った。
 結果、トラックに押し潰されたのは父と母だけで、息子である当麻は助かった。

刀夜「忘れるな…当麻……」

 それが、父の最後の言葉。

 上条当麻は忘れない。この凄惨な光景を。
 善良だった少年はこの時に一度死んで、生まれ変わった。

 ハッピーバースデイ。
429: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 14:42:46.46 ID:Z0RnR+KN0
上条「ん……」

 プルルルとやかましく鳴る携帯の音で目が覚めた。
 いつもなら寝起きの不機嫌さに任せて携帯を壁に叩きつけるところだが、今日ばかりは少し感謝する。
 あんな夢、さっさと目覚めさせてくれてありがとよ。
 忘れるな、という父の最後の言葉が耳にこびりついて離れない。

上条「言われなくても忘れてねえよ。少なくとも、こうして頻繁に夢に見る程度にはな」

 上条は一人毒づいて携帯電話の着信画面に目を落とした。

上条「…?」

 知らない番号だった。
 不審に思いながらも、上条は通話ボタンを押す。

上条「……もしもし?」

冥土帰し『おお、本当に君に繋がるとは。インデックス君の記憶力は大したものだね』

 聞こえてきた声に、上条は半ば以上本気で携帯を壁に叩きつけようかと思った。
430: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 14:48:36.86 ID:Z0RnR+KN0
上条「何でアンタが俺の携帯知ってんだよ?」

冥土帰し『いやね、インデックス君が、コモエという人が君に電話をかけている所を見ていたというんだよ』

 つまり、番号発信画面を目にしていて、それを覚えていたということか。
 つくづく便利だな。完全記憶能力。上条は苦笑した。
 いや、それでも寿命が縮まるなんてデメリット付きなんてもん、あげると言われたっていらないが。

上条「それで、アンタが一体俺に何の用なんだよ」

 冥土帰しの医者に投げる上条の言葉は刺々しい。
 上条と冥土帰しの出会いを紐解けば、その態度は必然と言えるかもしれなかった。
434: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 14:57:15.40 ID:Z0RnR+KN0
 理不尽極まる事故で両親を亡くした上条は、あちらこちらをたらい回しにされた末に学園都市にたどり着いた。
 どういうわけか学費免除、住居無償提供という高待遇で、である。
 そんなおかしな状況に、通常であれば疑問を抱いてもおかしくはなかったが、しかしその時の上条にはそんな気力は欠片も残っていなかった。
 かつての善良な少年の残りかすは、学校にも行かず、家とされた部屋にも帰らず、当て所なく街をさ迷う日々を送っていた。

上条「死のうかな……」

 ある日、上条はとても自然にそう考えた。
 そうと決めたら行動は早かった。何故か金だけはたっぷりある。
 上条は電動ノコギリを購入した。
 携帯式のバッテリーで動くそれを、己の右手首に押し当てる。

 なんとなく、この右手が悪いんだということは察していた。

 電源をオンに切り替える。
 ぎゅいいいいいんと耳を刺す音が響き、ぶちぶちと、がりがりと上条の右手を切り進んでいく。

上条「……」

 上条はそれを、まるで他人事のように見つめていた。
 悲鳴の一つも上げなかった。
 やがて、ぶちんと音がして、ぼとりと右手が地面に落ちた。
 上条はそこで意識を失った。

冥土帰し「おや?」

 そこを一人の医者が通りかかる。
 それは幸運なことに――不幸なことに――学園都市で最高の腕を誇る名医だった。
438: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 15:02:48.67 ID:Z0RnR+KN0
 目が覚めて、自分が病院のベッドで寝かされていると気付いたとき、上条は最初にまず笑った。

上条「すげえ……死ぬことも出来ねえのかよ」

 こんなクソッタレな世界を生きていけって言うのかよ。
 それは、なんて、不幸の究極。

上条「わかったよ。わかった。生きればいいんだろ。人に迷惑かけて、忌み嫌われて、それでも生きていけって言うんだろ?」

 上条はそこで全てを諦めた。
 全てを諦めて、死ぬことすらも諦めて、ただ流されるままに今を生きている。
442: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 15:07:53.28 ID:Z0RnR+KN0
上条「用がねえなら切るぞ」

冥土帰し『まあ待ちたまえよ。用ならあるよ。無ければ電話をかけたりするわけないじゃないか』

上条「ならさっさと言えよ」

冥土帰し『やれやれ、せっかちだね。まあいい。なら単刀直入に言うよ。君の力が必要だ、上条当麻』

上条「な…に……?」

冥土帰し『インデックス君から全ての事情は聞きだしたよ。僕は医者として彼女を救うことを決定した。その為には君の不可解な右手の力が必要なのだよ』

上条「待て。それはどういう……イチから説明しろ」

冥土帰し『やれやれ、君が急かすから話をはしょったんじゃないか。まあいい』

冥土帰し『完全記憶能力が人を殺すなんて嘘っぱちだ』

上条「はあ…!?」
454: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 15:14:18.75 ID:Z0RnR+KN0
冥土帰し『うん、その反応だと彼女の事情についてはある程度わかっているみたいだね』

上条「ちょ、ちょっと待てよ。だったら、あいつらは何で…?」

冥土帰し『まあ単純に考えて、そうやって騙されていたんだろうね』

上条「あれ、おい、待て。アンタあいつらって言ってわかんのか?」

冥土帰し『赤い髪の男の子と黒髪の女の子だろう? 知っているよ』

上条「なんで!?」

冥土帰し『今となりにいるもの』

上条「はああ!?」

冥土帰し『インデックスを引き渡せ、と地面に頭をこすりつけて頼むものだからね。取り合えず中に案内して、事情を聞かせてもらったところだったのさ』

上条「……ああ、そう」

 結局、魔術師たちは上条の説得を諦め、ほんとのほんとに正攻法のど真ん中、ド直球で挑んだらしかった。
458: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 15:21:41.00 ID:Z0RnR+KN0
上条「それで……完全記憶能力が人を殺すのが嘘だっていうのは?」

冥土帰し『キミ、記憶のし過ぎで脳みそがパンクするなんておかしな話、聞いたことがあるかい? 僕はあいにく寡聞にして知らないね』

上条「だから、それを可能にしちまうのが完全記憶能力なんだろう?」

冥土帰し『完全記憶能力、なんてものは別に彼女だけの特権じゃないよ。世界中探せばそんな体質の人間はごろごろいる。僕の知り合いにもいるよ。今年で56歳になる。いい茶飲み友達だ』

上条「……なら、どうして魔術師の連中は一年ごとに記憶を消すような真似を?」

冥土帰し『さあ? 魔術の世界なんて僕にはさっぱりだからね、わからないよ』

冥土帰し『まあそれでも、仮説を立てようとするなら、そうだな、彼女の頭に眠る103000冊の魔道書ってのは相当危険な代物なんだろう?』

冥土帰し『大方、それを管理するための方便じゃないかな。一年毎のメンテナンスと称して、それにより彼女の行動を監視する大義名分を得るため』

上条「そこにいる魔術師連中が聞いたら発狂しそうな話だな」

冥土帰し『さっきまで号泣していたよ。そしてインデックス君に必死で謝っていた』

上条「インデックスは……」

 許したんだろうな。あの性格なら。
 わかりきった質問だったので、上条は聞くのをやめた。
459: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 15:26:00.47 ID:Z0RnR+KN0
上条「それで、そこでどうして俺の『幻想殺し』が必要になる」

冥土帰し『うん、それなんだけどね。どうやら一年ごとに記憶を消さないと命に関わるってのは本当らしいんだよ』

上条「はあ? なんだそりゃ? さっきと言ってることが……」

冥土帰し『完全記憶能力は関係ないよ』

上条「なるほどね……そういうことか」

冥土帰し『そういうことさ』

 呪い。
 学園都市最高の医術をもってしても解けない、異能の力が、インデックスの命を縛っている。
 そこで、上条の力が必要なのだ。

上条「それを、俺が了解するとでも?」

冥土帰し『しないとでも言うのかい?』

 まるで見透かしたようなことをカエル顔の医者は言う。
462: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 15:32:17.35 ID:Z0RnR+KN0
冥土帰し『ようやくさ。ようやくなんだよ? 他人を不幸にするしかなかった君の力が、ようやく誰かのために必要とされている』

冥土帰し『君はそんな千載一遇のチャンスを棒に振るのかな?』

上条「……」

冥土帰し『……成程、わかったよ。ならば少し搦め手を使わせてもらおう』

冥土帰し『上条くん、君、右手の治療代金を支払ってないよね?』

上条「……はあ!?」

冥土帰し『治療費は、支払い遅延料を足して三億だ。今すぐ耳をそろえて払ってもらおうか』

上条「ちょ、ちょっと待てオイ!!」

冥土帰し『もし君が僕の患者を助けるために力を貸すというんならチャラにしよう。待ってるよ』

 ブツン、と音を立て電話は切れた。
 上条は携帯を寝床にしているソファに投げつける。

上条「勝手に助けて、それで法外な治療費を払えって? クソッタレ……なんて悪徳医者だよ」

 上条は頭を掻き毟る。視線は、入り口のドアを向いている。
 しかし、足が一向に前に進まない。
466: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 15:36:01.96 ID:Z0RnR+KN0
 いいのか?

 こんな俺が、周りにいる人達を不幸にすることしか出来なかった『疫病神』が。

 『自作自演野郎』が。親をも殺す不幸体質が。

 今度こそ、誰かの助けになることが出来ると。

 誰かを幸せにすることが出来ると。


 そんな幻想を、抱いてもいいのか?




 足を踏み出すには、たくさんの時間が要った。
 それでも、上条当麻はしっかりと地面を踏みしめ。

 インデックスが待つ病院へと向かった。
473: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 15:41:25.81 ID:Z0RnR+KN0
 肩で息をしながら、上条は病院の中を進む。
 上条の姿を認めたとき、冥土帰しはにやにやと笑った。
 それはまるで、子の成長を見守る親のような、ひどく生暖かな笑みだった。

 ステイル=マグヌスと神裂火織は頭を下げてきた。
 二人とも目が赤く充血していた。
 どんだけ泣いてたんだよ、いい大人が。
 そう意地悪く言ったら、ステイルは「僕はまだ14歳だ」と言った。
 目を丸くする上条に、神裂も「私も18歳ですよ」と追撃した。
 さらにびっくりした上条に神裂は思わず魔法名を名乗りそうになった。

 慌てて部屋を飛び出し、上条は病院の二階、209号室を目指す。

 そこで、インデックスは上条当麻を待っている。
476: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 15:45:29.11 ID:Z0RnR+KN0
 一応月並みにノックしてから、部屋のドアを開ける。
 ベッドの上で、インデックスは正座してこちらを見ていた。
 上条の姿を認めると、インデックスはぽんぽんとベッドを叩いた。

インデックス「少しだけお話ししよ。まだ時間はあるから」

上条「なんでだよ」

インデックス「私、とーまのこともっと知りたい」

インデックス「だって、とーまは、私からしたら窮地を助けに来てくれたヒーローなんだもの」

上条「変な幻想抱いてんじゃねえよ」

インデックス「えー、だって」

上条「いいよ。わかった。胸糞悪い話をたっぷり聞かせて、その幻想を殺してやる」
478: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 15:53:15.22 ID:Z0RnR+KN0
 そして、上条当麻は、14歳の誕生日を迎えてから初めて、他人に愚痴をぶちまけた。
 感情的に。赤裸々に。何も隠さず。何も取り繕わず。

 道を歩けば居眠りトラックが突っ込んできて、建設中のビルの傍を歩けば鉄骨が落ちてきて、外食すれば食中毒を起こす。
 上条がいつも不幸を語る上での、お決まりの文句だった。
 でも、この時だけは、その言葉には続きがあった。

上条「居眠りして事故を起こした運転手は職をなくしただろうし、ビル工事を担当していた建設会社は信用を失っただろうし、飯を食った店は営業停止になった」

上条「別にさ、いいんだよ。俺にどんだけ不幸なことが降りかかっても、それはもう慣れたんだ」

上条「だけど、俺の不幸は悉く周りを巻き込んじまう。周りの人間の人生を否応なく終わらせちまう。それには、やっぱり慣れらんねえ」

インデックス「でも、それは事故を起こした皆の責任で、とーまが悪いわけじゃ」

上条「いいや。きっと俺があの場にいなければ事故そのものが起きなかった。いるだけで不幸を呼び込む『疫病神』。それが俺なのさ」

 それだけは、確証をもって言える。
 14歳の誕生日のときに、嫌というほど思い知ったことだから。
482: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 16:01:21.49 ID:Z0RnR+KN0
上条「だからさ、今まで出来るだけ人を近づけないように小賢しく立ち回ってきた」

上条「結構うまくいってたんだぜ? まあ、中にはビリビリ電気を出す中学生みたいな例外もいたけど」

上条「そんな俺が、お前を助けるために、自分から進んでここにいる。まったく笑っちまうよ。どこで間違ったんだろうな?」

インデックス「ううん。違う。とーまは、きっと正解したんだよ。正解の道を選んで今、ここにいるの」

インデックス「迷いに迷っていたとーまが、私という修道女に出会えたことでようやく正しい道にたどり着く。あは、よく出来すぎてて、聖書が一編書けそうだね!」

上条「そいつぁ大した夢物語(げんそう)だな……」

インデックス「とーま、とーま。私の頭を撫でて? あ、もちろん右手でね?」

上条「……?」ナデナデ

インデックス「えへへ。やっぱり幻想なんかじゃないや。とーまは私のヒーローだよ。私の思いはとーまの右手に触っても変わらなかった!」

上条「あぁ、そう……ならもう好きにしろよ」

インデックス「うん!」

 インデックスは上条に向かってその手を差し出してきた。
485: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 16:07:51.82 ID:Z0RnR+KN0
上条「……なんだよ?」

インデックス「握手しよ? 信頼の握手。私はとうまにこの命を預けるんだから」

 上条の体が硬直する。
 インデックスは手を差し出したまま、上条の目をじっと見つめている。

 ―――いつかお前にも、お前を理解し、共に在ろうとしてくれる人は現れる。

 父の言葉が蘇る。

 ―――恐怖を乗り超えろ。どんなに怖くても、その手を振り払うな。

 それは、耳元で優しく囁きかけるような声だった。

上条「……俺は不幸だ」

インデックス「知ってるよ」

上条「その不幸で、結局お前の人生をめちゃくちゃにしちまうかもしれない」

インデックス「私は、この命をとうまに預けるよ」

上条「……ったく。おかしな奴だな、お前は」

 上条はその右手で、しっかりとインデックスの手を握り返した。
490: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 16:12:30.71 ID:Z0RnR+KN0
上条「それ、俺は具体的に何をどうすればいいんだ?」

 上条は、病室に行けと言われただけで、冥土帰しから他に何の指示ももらっていない。

インデックス「うん、それなんだけど……」

 インデックスが急に頬を染めてもじもじし始めた。

上条「な、なんだよ…?」

インデックス「あの、あのね? 私の体のどこに呪いがされているのかはわからないの」

上条「うん」

インデックス「だから、その、とうまの右手で、うう、私の、私の体をね?」

上条「お前の体を?」

インデックス「……隙間なく、触ってほしいの」

 最後は消え入るような声だった。
 ぷしゅう、と顔を伏せてしまったインデックスの頭から湯気が立ち上る。

上条「……はぁぁぁぁぁああああああああああ!!!???」
499: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 16:19:34.49 ID:Z0RnR+KN0
 ごくり、と唾を飲む音が響いた。
 インデックスは覚悟を決めたように目を瞑っている。
 胸を張って差し出すようにしたまま、顔を紅潮させて目を瞑っているのは、はたから見ればキスを待っているようにも見える。

上条「じゃ……じゃあ、いくぞ?」

インデックス「う、うん……お手柔らかに、お願いします」

 上条はそっと、まずはインデックスの頭を撫でた。
 インデックスの体がびくりと震える。

上条「あ、頭はさっき触ったんだったな、あはは、じゃ、じゃあ次……」

 上条はそのまま右手でインデックスの頬を撫でた。
 熱い。インデックスの赤く染まった顔はとてもとても熱くなっている。
 それから、首。
 首筋を、指を使って優しく撫でていく。

インデックス「あっ…」

 ぴくん、とインデックスの体が揺れた。

上条「なななななんだよオイへんな声出すなよ!!」

インデックス「だ、だってとうまがえっちな風に触るから……」

上条「してねえよ!! ぜぜぜ、全然そんなこと、してねぇしぃ!!!!」
507: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 16:24:53.99 ID:Z0RnR+KN0
 胸だとか、お尻だとか、股間だとか、そういう刺激的なところを避けて触っていく。

インデックス「あ…ふ…ん…!」

上条「インデックス、ちょっと横になってくれ。足触るから」

インデックス「う、うん……」

上条「いくぞ…?」

インデックス「ふぅう…!」

 口から出る喘ぎを堪えているのだろう。
 鼻から漏れる息が妙に艶かしくて、上条を刺激した。

上条「だいたい…触ったけど…調子はどんなだ? インデックス」

インデックス「……駄目、何も変わった様子はない。か、体は熱くなったけど……」

上条「そ、そか……なら、うん、あと、触ってないところを、な…? 触るからな…?」

インデックス「う、うん…」

 いつの間にかインデックスと上条はお互いに顔を真っ赤にしていた。
511: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 16:28:35.17 ID:Z0RnR+KN0
インデックス「あ…あ…!」

上条「へ、へんな声出すなよ!」

インデックス「だ、だって……ひゃう!」

インデックス「やだ…とうま、おしりばっかり触りすぎ…!」

インデックス「そ、そんなとこ…ああ…!」







ステイル「……!!」ドタンバタンドッシン!

神裂「おおおおちつきななささささいすすすすているるるるる」

冥土帰し「君も落ち着きたまえよ……」

 もちろん不測の事態に対応するため、三人とも部屋の外で待機していた。
514: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 16:34:58.65 ID:Z0RnR+KN0
上条「おい…もう全部触ったぞ……」

インデックス「うん…あとは…私の中、だけだね……」

上条「なか!? なかってお前…!?」

 インデックスという少女の体を指して中というからにはその部位は限られる。
 すなわち、上か、下かだ。

インデックス「う、上から! 上からお願いするんだよ!!」

上条「言われるまでもねえよ!」

 上条は大きく開いたインデックスの口の中に恐る恐る指を進ませていく。


 瞬間、ぞわりと背筋が震えた。
 インデックスの口の中に右手の指があたる。
 バギン! と音がした。
 考えるより早く、上条はインデックスの体から飛び離れる。

インデックス「警告…警告…! 『禁書目録』の首輪、その破壊を確認。103000冊の魔道書の保護のため、侵入者の迎撃を優先します」

 血のように赤く染まったその瞳は、既にさっきまでのインデックスのものとは異なっていた。
520: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 16:42:49.05 ID:Z0RnR+KN0
ステイル「インデックス!!」

神裂「無事ですか!? 上条当麻!!」

冥土帰し「これは……!」

 外で待機していた三人が飛び込んできた。

上条「よう…なんだお前ら、覗いてたんかよ。趣味悪いな」

ステイル「状況は!?」

上条「見ての通りさ。呪いをぶち殺したら、なんかトラップが作動しやがったぜ」

神裂「馬鹿な……彼女の体から迸るコレは、魔力? 彼女に魔力は存在しないはずでは…!?」

冥土帰し「つまりはそれも、嘘だったってわけだね。やれやれ、こんなことが起こるかと思ってこの病棟のほかの患者は退避させておいたけど」

冥土帰し「こんな凄まじいものだとは想像だにしてなかったなぁ。このままじゃ、僕の病院ごと吹き飛ばされたりはしないだろうね?」

 そう危惧するカエル顔の医者の目の前で、インデックスはどんどん異質に変化していく。
 インデックスの両目に宿っていた赤色、真紅の魔方陣が輝きを増した。

インデックス「これより『聖ジョージの聖域』を発動。侵入者を破壊します」
525: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 16:49:34.37 ID:Z0RnR+KN0
ステイル「まさか……」

神裂「こ、これほどとは……」

 目の前に展開された術式を前に、魔術の知識に聡い二人の動きが凍りつく。
 だけど、そんな知識など欠片もない上条にとって、目の前で起きている事象がどれ程凄まじいものだろうが関係ない。

 ただ、それが異能の力であるのなら。
 この右手で殺しつくしてやるだけだ。

上条「いいぜ。魔術だかなんだか知らないが、そんなちっぽけな力で」

 この俺を。
 『不幸』という運命に抗い続けて今まで生きてこれたこの俺を。
 殺せるというのなら。

上条「そんな幻想は、この俺がぶっ殺す!!」

 駆け出した上条の目の前で、空間が裂けた。
 ぞくり、と上条はその人の域を逸脱した第六感でもって直感する。

 やばいのが、くる。
531: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 16:59:03.30 ID:Z0RnR+KN0
 インデックスの目の前で裂けた空間から、光の柱が襲い掛かってきた。

上条「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

 上条はその光の柱に咄嗟に右手をぶつける。
 だが、光の柱はその進撃を一旦止めたものの、まったく消え去る気配を見せない。
 それどころか、むしろ上条の右手を吹き飛ばそうとじりじりと前に進んでくる。

神裂「無茶です! いくらあなたの右手が常識から逸脱していようと、今放たれた一撃は『竜王の殺息(ドラゴン・ブレス)』!!」

ステイル「恐らくは103000冊の魔道書を組み合わせた究極の一撃だ…! 今拮抗しているのだって奇跡みたいなものだ…!!」

上条「だから……どうした」

神裂「え…?」

上条「見ろよ。その魔術だか何だかの究極ったって、こんなもんだ。身近な不幸で右往左往してきた俺を吹き飛ばすことも出来やしねえ」

 上条当麻は確信した。
 何てことはない。救える。この程度なら。
 この程度の危機になら、今まで何度だって直面してきた!

上条「づおらぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!」

 上条の右手が『竜王の殺息』を受け止めたまま、ぎりぎりと指を曲げていく。
539: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 17:09:51.73 ID:Z0RnR+KN0
神裂「ま、まさか……!」

ステイル「『掴んでいる』のか!? あのドラゴン・ブレスを!!」

冥土帰し「なるほど。消せないのなら、逆にそれを利用して……」

 上条の右手が、『竜王の殺息』の軌道を捻じ曲げていく。
 水の流れが巨大な岩にぶつかり、その岩が微動だにしなければ。
 水は岩を避けて流れを変える。なんとも単純な、道理の話だ。

 捻じ曲げられた『竜王の殺息』は上条の目の前で進行方向を変え、上方へうちあげられる。
 上条は前に出した右手で『竜王の殺息』を捻じ曲げながら、一歩一歩、インデックスへと距離を詰めていく。

上条「さあ、終わりにしようぜ」

 もう届く、手を伸ばせば、すぐそこだ。

 胸に抱き続けてきた幻想を、胸の内で殺さず、今こそ形にしよう。

上条「死にたくなかったら伏せなぁ!!!!」

 叫んで、上条は『竜王の殺息』から手を離した。
 一瞬だけ後方に真っ直ぐ照射されたブレスが、ドアも窓も飲み込んで学園都市の夜空に消えていく。
 そして、上条の右手はインデックスの頭を掴み、その場に押し倒していた。
545: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 17:19:08.54 ID:Z0RnR+KN0
 バシュウ、と音を立て、竜王の殺息が消える。
 インデックスの体を包んでいた異様な魔方陣が姿を消す。
 穏やかに眠っているように見えるその顔は、もう上条達の知っているインデックスの顔だった。

 掴み取った。この手に。ようやく。
 俺は、ようやく誰かを救うことが出来たんだ――!
 喜びに両手を握り締める。

「―――、――――!!」

 聞こえてきた声は、誰のものだったのか。
 天井からは降り注ぐ光の羽。
 一枚一枚が、触れただけで必殺の威力。上条は一瞬で羽の本質を感じ取った。

 そして、度重なる不幸の中で磨かれ、神の域にまで達した危険察知・回避能力は彼の体を行動させる。
 そこに意志の力は介在しない。全ては反射ですましてしまった。


 すなわち、彼の体は大きくその場を飛び退り、彼の右手は彼に降りかかる羽全てを打ち払った。


 バグン、バグンと体のはねる音。



 インデックスの体に、いくつもの羽が降り注ぐ音だった。
552: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 17:21:39.18 ID:Z0RnR+KN0


 一体誰が責められるだろう。


 この力があったから、彼は今まで生きてこれたのだ。


 聖人なんて、桁外れの怪物とも互角に殴りあうことができたのだ。


 彼を責めるのは筋違いというものだ。


 彼はただ、どこまでも『不幸』だっただけなのだから。


572: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 17:30:13.35 ID:Z0RnR+KN0
 ―エピローグ―

 上条の目の前では、様々な医療器具が接続されたインデックスがベッドで眠っていた。
 彼女はあれから全く目を覚まさない。
 というより、彼女は間違いなくあの時死んだのだ。
 ただ、冥土帰しの力によって無理やり体だけが生き返らせられたに過ぎない。

 確かに、上条当麻は少女を縛っていた呪縛をぶち壊した。
 しかしそれは、結果として、彼女の全てを壊しつくすという、あまりにも乱暴なやり方になってしまった。

ステイル「君は103000冊の魔道書を纏めておじゃんにしてしまったんだ。これから僕の組織の人間は憎しみを持って君を襲ってくるだろうね」

 赤い髪の魔術師は、去り際にこう言った。

ステイル「無論、僕だって例外じゃないさ。……筋違いとはわかっているよ。でも、他にこの感情をどこにぶつけたらいいかわからないんだ」

ステイル「彼女の姿を見たかい? ああいう風にならないように、僕達は彼女の記憶を消してきたっていうのにね」



 上条はその手でインデックスに触れようとして、やめた。

冥土帰し「来てたのかい?」

 冥土帰しの医者が病室の中を覗きこんできたが、無視して上条は病室を飛び出した。
582: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 17:36:56.50 ID:Z0RnR+KN0
上条「あーあ……まーたやっちまった」

 わかっていたはずだった。
 自分が行動すれば、こんな結果が待っていることくらい。
 なのに、もしかしたら人並みになれるかもなんて、甘い夢を見て。

 結果、上条当麻は一人の少女を殺した。
 純真で、無垢で、きっときっと最後には幸せな未来が待っていたはずの少女を。
 運命を捻じ曲げて、殺した。

上条「はは、ははは……」

 もうわかったろう。
 全ての希望は幻想だ。
 こんな右手を持っている自分に、そんなものは抱けない。

上条「あはははははははははははははは!!!!!!」

 人間は、学んでいく生き物だ。
 確か、俺はそんなことをステイルに言っていたな。

 もう、おかしくて仕方なかった。
589: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 17:43:39.20 ID:Z0RnR+KN0
 バヂン! と紫電が迸る。
 まったくの不意打ちで襲ってきたその一撃も、上条は対応し、右手でかき消していた。
 しばらく、上条はじっと自分の右手をみつめていた。

上条「馬っ鹿でー……今ので死んでりゃ楽だったのによ」

美琴「見つけたわよアンタ」

 声に、右手を見つめていた視線を前に移す。
 いつの間にか、御坂美琴が目の前に現れていた。
 へら、と思わず上条の顔が緩む。

美琴「何笑ってんのよ」

上条「お前さ、馬鹿だろ?」

美琴「なんですってぇ…!」

 美琴は昨夜より包帯の量が増えた顔を怒りで歪ませた。

美琴「殺してやる…今度こそ、今度こそ殺してやるわ!!」

上条「かなわねえって分かってんだろ? 今までだって、ギリギリの所で俺が見逃してやってたことに気付いてたんだろ?」

 美琴の体が、怒りに燃えていたはずの体がぞくりと震えた。
 違う。何かが、昨日までのコイツとは違ってしまっている。
598: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 17:47:58.09 ID:Z0RnR+KN0
上条「なのに、何で来た? 見たところ、秘策を用意してきたってわけでもなさそうだしよ」

上条「ちゃんと言ってたよなあ? 次に来たら短パン剥いで中身晒すぞって」

上条「ひょっとして、俺を舐めてたか?」

上条「ギリギリで、最後の一線だけは踏み越えてこないだろうって期待してたか?」

美琴「な、何を……」

上条「ああ、駄目だ駄目だ。もしお前が、俺に対してそんなイメージを持っちゃってるってんなら」

 パキリ、と上条の右手が音を鳴らす。


上条「そんな希望(げんそう)は、殺さなくっちゃな」

613: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 17:54:34.08 ID:Z0RnR+KN0
 誰も来ない路地裏で、くぐもった悲鳴が連続する。

上条「ほら鳴け鳴け!! ほら、ほらあ!!!!」

美琴「あぐ、ふぐ、あがぁ!!」


 この日、一人の男が闇に落ち。

 一人の少女がその純潔を散らした。




 この日を境に、少年を光当たる世界で見かけたものはいない。

 少年は、闇の底の底まで加速度的に堕ちていき。


 そしてそこで。



 少年は、同じく闇の底であがき続ける、白い悪党と出会うのだ。


     <終>     続くかもしれないけど今日はもう書く気がしない
621: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 17:56:20.05 ID:AsQTpMnsO
綺麗に終わったな乙
638: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 17:58:01.32 ID:QgqMyRUPO

続編に期待してる
682: 1でごんす ◆QKyDtVSKJoDf 2010/10/16(土) 20:13:47.20 ID:Z0RnR+KN0
これ続編っていうか一方通行と出会うとこまでを一本の構想にしてたから、今読み直すと最後がちょっと無理くりすぎるね ハハ、ワロス

だもんで、本当はこのままじゃ物語として完結してないんだけど、俺の脳みそと腰はもう限界です

もうこのスレに書くことはないと思うんで保守の必要はないんだぜ

そしてもう結構前の話なのに一方通行主人公のやつ何人か覚えててくれてちょっと感動したのは内緒なんだぜ
690: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 20:21:21.87 ID:PGiv0NZB0
一方禁書の人かよ
どうりで面白いわけだ

インデックス「ご飯くれるとうれしいな」一方通行「あァ?」



694: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 20:25:59.99 ID:DCI7rA8s0
ああ、やっぱり
原作を丁寧になぞってくとこが似てると思ってた
724: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/16(土) 23:14:08.05 ID:pcg0c2w30
読み終わった、面白い!
続きに期待、乙

続編:

上条(悪)「この右手で、殺してやるだけさ」



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