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前スレ:

恭介「君の父さんの遺志を継ぐ」杏子「ふざけるな」【前編】



191: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:10:27.35 ID:JxoyR7tu0
―――――――――
――夜。マミの家

杏子がソファでうつ伏せにウトウトしている

マミ(キュゥべえ。美樹さんの様子はどう?)

QB(相変わらずだ。でも大丈夫。さやかには僕がついてるからね
 彼女1人でも危険を極力避けられるように、しつこく助言してあげる)

マミ(ありがとう。早く機嫌を直してくれるといいんだけど…)

マミが何気なく杏子の顔を見た

唇の隙間から血が滲んでいる

マミ「佐倉さん…。口、怪我してるの…?」

杏子「ん?」

杏子が唇に触れた

杏子「チッ…やっぱ完全に治療しないと駄目か…」

ソウルジェムを取り出す杏子
192: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:11:02.91 ID:JxoyR7tu0
マミ「口の中を怪我するなんて、一体どうしたの?」

杏子「彼氏にやられたんだよ…。あの変態、急に噛みやがって…何なんだよ」

マミ「……」

ほむら「……」

杏子は舌を治療した

杏子「あいつの相手してたら魔獣と戦う前にボロボロになっちまう
 これじゃ命がいくつあっても足りねーよ、ったく…」

マミ「…佐倉さん。もしかして…彼、エスなの?」

杏子「…『エス』?」

マミ「…『サディスト』っていう言葉、知ってるかしら…」

杏子「何だよ、それ…」

マミ「…えっと…ね…」

ほむら「…相手を痛めつけて快楽を得る人のことよ」
193: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:11:45.73 ID:JxoyR7tu0
杏子「なっ…あいつは、そんなんじゃねーよ…」

ほむら「彼がエスでないとすれば、これは単なる暴力ということ」

(恭介『…もっといじめたいんだけど…』)

杏子(…あいつ、まさか本当に変態だったのか…?)

マミ「そこで気になるんだけど…」

杏子「…?」

マミ「佐倉さんは、エムなのかしら…?」

杏子「……」

ほむら「…『エム』というのは、エスの反対よ。痛めつけられることで快楽を得る人」

杏子「…! …待ちな。そんな奴、この世にいねーだろ」

マミ「……。そう思う?」
194: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:12:24.52 ID:JxoyR7tu0
杏子「当たり前だっつーの」

ほむら「……」

マミ「きっと佐倉さんは今まさに目覚めの時を迎えようとしているんだわ
 気付けば湧き上がる性の快楽に溺れて…」

杏子「また始まったよ…もうこいつ何とかしてくれよ」

ほむらが笑った

マミ「でも私の予想、ここまで結構当たってるじゃない
 私が言った通り、例の彼とこうして恋に落ちちゃったんだし」

マミが唇に指を当ててウィンクした

マミ「『恋の預言者』! どうかしら?」

杏子「……」

ほむら「……」
195: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:13:05.30 ID:JxoyR7tu0
――――――――
――さやかの部屋

さやかがベッドで膝を抱えている

QB(入っていいかい、さやか)

さやか「……」

QB(魔獣退治に行くのが嫌なのかい?)

さやか(…言われなくてもちゃんと行くわよ)

QB(その前にドアを開けてくれないか。閉まったままじゃ荷物が入らないんだ)

さやか「…『荷物』…?」

ベッドから降りてドアを開ける

QB「やあ」

キュゥべえが薔薇の花をくわえている

さやか「…それ、どうしたの?」
196: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:14:55.11 ID:JxoyR7tu0
QB「君にあげようと思ってね。所有権が放棄されていたから拝借して来たんだ」

さやか「……」

さやかがキュゥべえを抱き上げてベッドに腰掛けた

QB「薔薇は嫌いかい? さやか」

さやか「…ううん。ありがと…」

QB「トゲを処理してないから気をつけるんだよ」

さやか「…うん…」

キュゥべえはベッドに薔薇を置いて窓の外を見上げた

QB「…雲が晴れた。部屋を暗くしてごらん」

さやか「どうして…?」

QB「今夜は満月だ。一緒に眺めようじゃないか」

さやか「……」

さやかは照明を落として窓辺に立った
197: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:15:29.94 ID:JxoyR7tu0
QB「驚くほど明るいだろう? 月の光だけで部屋の中が隅々まで見えるくらいだ」

さやか「…本当だ」

QB「おかげでいつもより瘴気が薄い。魔獣を倒しに行ったとしても、
 あちこち駆け回ることになって効率が悪いかもしれない
 それなら、今回は部屋にこもって明日の戦いに備えるという選択肢もありだ」

さやか「……」

QB「仮に僕が魔法少女なら、そうするだろうね」

さやか「…いいのかな、こんなことしてて…」

QB「ああ。それでいい。君自身がそう考えることで、明日は普段以上に積極的に戦えるはずだ
 さやかは誰かに指図されると本領を発揮できないタイプだからね」

さやか「……」

キュゥべえが月を見つめた

QB「地球には人間の気に入りそうなものが山ほどある
 戦う気力がない時は、こうやって彼らの力を借りるといい」
198: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:16:59.24 ID:JxoyR7tu0
さやか「…うん。ありがとう。…あんたのおかげで、一瞬だけ恭介のこと忘れられた…」

QB「ねぇ、さやか。今、キッチンにはココアの粉と牛乳がある。後でこっそり飲みに行こう」

さやか「うん…」

さやかが少しだけ笑った

マミ(――キュゥべえ。聞こえる?)

QB(ああ、聞こえてるよ、マミ)

マミ(美樹さんの様子はどう?)

QB(花をあげたら少し落ち着いた。チームへの復帰は難しいと思うけれど、
 ソウルジェムが穢れるペースはこれまでより落ちてくれるだろう)

マミ(よかった…。お手柄よ、キュゥべえ)

QB(これも僕の役目の1つだからね)
199: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:18:00.20 ID:JxoyR7tu0
――――――――
――2031年 斜太興業の事務所

恭介「――ところで、例の『赤鬼』の手がかりは見つかったのか…?」

初老の組員が両手を上に向けた

組員「んなもんあったらこっちから教えてますわ」

恭介「そうか……」

組員「東京からはるばる戻って来てくれた人にこんなこと言いたかないですけどねぇ、
 あんた騙されてたのと違いますか?」

恭介「……!」

組員「戸籍上、佐倉杏子って女はとっくの昔に死んでる。それもガキん時です
 あんたの女は偽名で付き合ってたんですよ
 でなきゃ戸籍乗っ取りの出来損ないみたいなもんで――」

恭介「馬鹿を言うな。杏子とは12年も連れ添った。しかも初めに会ったのは中学の時だ
 家柄はまあまあだったが、ただの中学生にわざわざ身分を偽って近付く奴がいるものか」
200: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:19:34.63 ID:JxoyR7tu0
組員「まぁ何にしたって、うちが探してる赤鬼とあんたの元カノは別人でしょうや
 口酸っぱくして言ってますけどありゃ怪物ですよ、本当

 佐倉が在籍してたっつー『ワルプルギスの夜』についても調べさせてもらいましたけどね、
 あれただのド貧乏な小劇団ですよ。ふっつーの女の子の集まりなの。わかります?」

恭介「……」

組員「もう諦めたらどうです? こっちもこっちで赤鬼の話は既に伝説と化してる
 これ以上そんな宝探しみてーな仕事に時間割くのマジで馬鹿馬鹿しいんですよ」

恭介は目を逸らした

恭介「…『失くした』とは思えない…。『もう会うことはない』なんて割り切れないんだ…
 今はまだ、『ただはぐれてしまっただけだ』と信じていたい…」

組員同士が呆気に取られたように目を合わせる

組員「…まあ上条さん。取引も落ち着いたことですし、久々におやつでもどうです?
 ずいぶん譲歩していただいてますからなぁ。上物ですが、特別にお安くしておきますよ」
201: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:20:50.41 ID:JxoyR7tu0
恭介「…!」

顔を上げる恭介

組員「いやはや、喜んでいただけたようで。あんたの為に取っといてよかった」

恭介「……いや」

組員「…?」

恭介「…ノーだ」

組員「あらま」

恭介「…私を廃人にする気か?」

組員「滅相もない。私はあんたの力になりたいだけですよ」

恭介「……」

組員「すっきりしたいんでしょう?」

恭介が両手で顔を拭いた

恭介「…いや、駄目だ。薬の話はするな…せめて執行猶予が終わるまでは」

組員「大丈夫ですよ、バレやしませんって。うちが保証しますから」

恭介「……。顔を洗って来る…」
202: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:21:21.17 ID:JxoyR7tu0
――――――――
――2011年 休日の昼。カフェ

杏子と恭介が向かい合わせに手を握り合っている

恭介「――昨日さやかと会ったんだけど、『顔も見たくない』って言われちゃってさ…」

杏子「……」

恭介「…さやかとの関係は、壊したくなかったのに…」

杏子「……。それなら、ちょうどいいって言えばちょうどいいかもね…
 これであたしもあんたも、あいつに気を遣わなくて済むんだしさ…」

恭介がアイスティーを一口飲んだ

恭介「…綺麗な指輪だね。よく似合ってる」

杏子「…! こいつには触るな…。なくされると困るんだ」

恭介「…家族のもの…?」

杏子「……まぁそんな所さ」

恭介は唇を噛んだ

杏子「もう、何暗い顔してんの? たまのデートだ。気楽に楽しもうじゃん」
203: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:21:52.81 ID:JxoyR7tu0
恭介「ううん…そうじゃないよ」

杏子「…?」

恭介「実は、杏子にお願いがあって…。なかなか言い出せなかったんだけど…」

杏子「…何」

恭介が少し顔を赤くした

恭介「…今度の連休、うちに来ない…?」

杏子「……」

恭介「何だか最近…デートが終わった後、妙に寂しくてさ…。杏子、携帯持ってないし…」

杏子はストローをくわえた

恭介「…2人で夜遅くまで話したり、2人で朝を迎えて、一緒に朝食を取ったり…
 そんな1日が、今は僕の夢でさ…」

杏子「…ふーん」

恭介「…親に旅行に誘われてるんだけど、杏子が来てくれるようなら断ろうかなって思ってて…」

杏子「…あたし、夜って忙しいんだよね」

恭介「そうなの…?」
204: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:22:35.93 ID:JxoyR7tu0
杏子「うん…ちょっと知り合いと会わないといけなくてね」

恭介「…どんな人?」

杏子「んー、何つーのかな…。あ、そういえばあいつら、あんたの学校の奴らだよ」

恭介「え…誰?」

杏子「巴マミと暁美ほむらだ。知ってるかい?」

恭介「あぁ、暁美さんは確か…さやかのクラスに新しく入って来た子だ。巴さんは知らないけど…」

杏子「あいつは3年だったかな。うん、今年で15だからそうだ」

(マミ『…彼、エスなの?』)

杏子(そういえばマミが言ってたな…。こいつって冗談抜きで変態なのかな…)

恭介「そっか……」

杏子が恭介の手を握り直した

杏子「…1日ぐらい時間作ってやってもいいよ」

恭介「本当?」

杏子「その前に、あんたに確かめたいことがある…」
206: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:35:36.18 ID:JxoyR7tu0
恭介「何?」

杏子「…あたしを痛めつけるのって、楽しいか…?」

恭介「え…。あ、あの時はごめん…何だか、殴られてるうちにスイッチ入っちゃったみたいで…
 楽しんでた訳じゃないんだけど…体が勝手に動いたっていうか…」

杏子「……」

恭介「…今でも思い出すんだよね。何だったんだろうって…
 どういう訳か、杏子の痛がってる姿が無性に愛しく思えてさ…」

杏子「…!」

恭介「あはは…。杏子の言う通り、『変態』だよね…僕。自分でも少し怖いよ…」

杏子「…そういえば、あの時さりげなくあたしの胸触ったよね」

恭介「…!」

杏子「しかもその後、服脱がそうとしなかったか?」

恭介が目を逸らす
207: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:37:34.90 ID:JxoyR7tu0
杏子「…ぶっちゃけさ…」

恭介「…?」

杏子がストローで氷をくるくる掻き回した

杏子「…抱きたいの?」

恭介「……」

杏子「……」

恭介は鼻を掻いた

恭介「…興味はある」

杏子「…もし子供が出来ちゃったらどうする?」

恭介「…それはまずいね…」

杏子が笑った
208: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:38:06.32 ID:JxoyR7tu0
杏子「わかってんじゃん」

恭介「あはは、これはさすがにね…」

杏子「ま、そこんとこわきまえてるならいいよ。一緒に寝てやる」

恭介「ありがとう」

杏子「血迷って無理矢理犯そうとしても駄目だぞ。腕力はあたしのほうが上だ」

恭介「なっ…! そんなことしないって…」

杏子「変態」

恭介「うう…」

杏子はチュっと唇を鳴らした
209: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:38:57.42 ID:JxoyR7tu0
――――――――
――ある日の放課後
恭介が学校を出ていく

仁美「あら、上条君」

恭介「あ、志筑さん」

仁美「遅かったですわね。これからお帰りですの?」

恭介「うん。ちょっと友達とダラダラしてて。志筑さんは?」

仁美「用を済ましていた所ですわ。よかったら、途中まで一緒に帰りませんか?」

恭介「ああ、いいよ。そういえば、志筑さんとこうして話すのは久しぶりだね」

仁美「ええ。退院なさってしばらくは忙しそうでしたので、声をおかけするのは控えてましたの」

恭介「あはは、そんなに気を遣わなくてもいいのに」

仁美が笑った
210: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:39:38.29 ID:JxoyR7tu0
――帰り道

仁美「――さやかさん、心配ですわね…。暇を見つけてお見舞いに行くべきでしょうか…」

恭介「…さやかか…」

仁美「…どうかしましたの?」

恭介「…ううん。何でもないよ」

仁美「……」

恭介「…あ、ところでさ…志筑さんって帰る方角はこっちなんだっけ?
 今まで帰り道に見かけたことってないような…」

仁美「…ええ。本当は全然逆方向ですわ」

恭介「え…じゃあ、今日はどうして…?」

仁美「上条君に…お話ししたいことがありますの」

恭介「話…?」

仁美「大切なお話ですわ。…実を言うと、学校に残っていたのはこの為ですの
 ほんの少しだけ、お時間をいただきたいんですけど…」

恭介「え…っと、僕なんかが聞いちゃっていいことなのかな…」

仁美「これは上条君にしかお話しできないことですわ。どこか近くで腰を下ろしませんか?」
211: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:40:16.74 ID:JxoyR7tu0
恭介「…うん。わかった」

2人が道を逸れて歩いていく


――遠くを杏子が横切った
ポッキーをくわえながら両手をポケットに入れている

恭介「あ、杏子だ」

仁美「え?」

恭介「ちょっと、待ってて…すぐに戻るから」

仁美「ええ…」

足早に近付いていく恭介

恭介「杏子」

杏子「ん? ああ、あんたか」

仁美「……」

恭介「どこへ行くんだい?」

杏子「マミん家さ。あんたは何してんの? こんな何もない所で寄り道かい?」
212: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:40:42.17 ID:JxoyR7tu0
恭介「ううん、ちょっと…友達がね」

杏子が仁美に気付いた

杏子「…あの子か?」

恭介「うん…何か大事な話があるらしくて…」

仁美は鞄を両手で引っ提げて立ち尽くしている

杏子「ふーん…」

杏子はポッキーをかじった

恭介「僕が役に立てることなんてあるかどうかわからないけど…
 …それじゃあ、あんまり待たせると悪いから、僕はもう行かないと」

仁美の顔を見つめる杏子

杏子「……」

仁美「……」

ポッキーの箱を取り出す

杏子「2人で食いな」
213: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:42:08.35 ID:JxoyR7tu0
恭介「あ…、ありがとう」

杏子は背中越しに手を振りながら去っていった

恭介が仁美の元へ戻った

恭介「…ごめんごめん、待たせちゃったね」

お菓子の箱を差し出す恭介

恭介「これ、さっきの子がくれたんだ。『2人で食べてくれ』ってさ」

仁美「……」

仁美は少し俯いている

恭介「あぁ…お菓子なんか食べてる場合じゃなかったかな…ごめん。真面目に聞くよ」

仁美「…お友達ですか?」

恭介「うーん…杏子は、入院中によくお見舞いに来てくれてた子で…」

恭介は鼻を掻いた

恭介「…今は、大切な人なんだ」
214: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:42:33.70 ID:JxoyR7tu0
仁美「…そうでしたの…」

恭介「あ、杏子のことなら気にしないで。僕が女の子と会ってたからって怒らないと思うから」

仁美「……」

恭介「…どうしたの?」

仁美「…素敵な方ですわね」

恭介「あはは…何だかこっちが照れちゃうな。…うん。いい所を挙げたらキリがない人でさ」

仁美「……」

恭介「学校のみんなには内緒だよ? 冷やかされたら手に負えないから」

仁美が寂しそうに笑った

仁美「…お幸せになってくださいね」

恭介「ありがとう」

恭介は笑いながら頭を掻いた
215: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:43:03.93 ID:JxoyR7tu0
―――――――――
――マミの家
杏子がテーブルをピアノに見立てて指で叩いている

マミ「――そういえば暁美さん、最近少し、来るのが早くなったわね」

ほむら「ええ」

マミ「何か理由でもあるの?」

ほむら「あなた達の漫才が見たいのよ」

杏子が手を止めた

杏子「こっちは付き合い切れねーっつーの」

マミ「あら、その言い草はないんじゃない? 私はあなたと彼の恋を応援したいだけなのに」

杏子「どう見てもふざけてるだけじゃねーかよ」

マミ「そんなことないわよ」

マミは目を閉じて紅茶を飲んだ
216: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:43:29.33 ID:JxoyR7tu0
杏子「あ、そうだ…。ちょいとそのことで相談があるんだが」

マミ「ええ、何でも言って」

杏子「今度の連休、1日だけ休んでいいか?」

マミ「彼氏とデートかしら?」

杏子「うん…」

マミ「暁美さんはどう思う?」

ほむら「私は構わないけれど」

マミ「そう」

マミが笑った

マミ「何だか、いつの間にかみんなで戦うのが当たり前になっちゃったよね
 本来なら、たった1人でやらなければいけないことなのに…」

ほむら「…そうね」
217: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:44:11.32 ID:JxoyR7tu0
杏子「……」

マミ「とにかく、楽しんでいらっしゃい。素敵な土産話、期待してるわよ」

杏子「ったく…」

杏子がミルクティーを飲み干した

(恭介『…興味はある』)

杏子(…あいつ、どうするつもりなんだろう…)

マミ「お代わり、要る?」

杏子「ん…? ああ、もらっとくよ…」

マミ「……」

マミが杏子の目を見つめた

杏子「…? 何だよ…」

マミ「…佐倉さん、ひょっとして…」
218: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:45:59.48 ID:JxoyR7tu0
杏子「ああ…?」

マミ「今度のデート…夜中に時間を作るっていうことは、お泊まりかしら…?」

杏子(…もしかして、同じこと考えてんのか…?)

杏子「…なぁ、マミ…」

マミ「な、何?」

杏子「…言いにくいんだけどね」

マミ「ええ…」

杏子は目を泳がした

杏子「…セックスのやり方、知ってる…?」

ほむらがティーカップを落とした
219: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:57:57.38 ID:JxoyR7tu0
―――――――――
――デート当日。某所、貸しロッカー室

杏子「……」

ポーチを肩にかけた杏子が自分のロッカーを開けた

杏子(あいつが知ったらどんな顔するだろうな…)

シールドの割れたフルフェイスと穴の開いた防弾ジャケットを見つめる

(恭介『これから知ること、全部受け入れるよ。…全部好きになる』)

杏子「…ふん」

大金の詰まったバッグから、いくらかを財布に移した

杏子(…これはあたしが勝ち取った金だ。だからあたしのデートに使う…
 そんなの、別にあいつが悲しむようなことじゃない
 …そうさ、あたしの好きに使えばいい…今までだってずっとそうして来た…)

中に立てかけておいたキーボードが目に付いた

杏子「……」

杏子(…寝る時になったら持って行くか。あいつの家に)
220: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:58:25.04 ID:JxoyR7tu0
―――――――――
――昼。さやかの部屋

QB(どこにも行かないのかい? さやか)

さやか「!」

さやか(キュゥべえ…。今日は早いんだね…あたしに何か用?)

QB(しばらく学校は休みなんだろう? この時間帯なら魔獣の動きも活発ではないし、
 外へ出て自由に羽を伸ばしたほうが君の為になると思ってね。それを言いに来たんだ)

さやか(…別にいいよ。どうせ遊ぶお金もないし、
  優華は家族で旅行行ってるし、仁美は習い事で忙しいだろうし…)

キュゥべえがベッドの下から現れた

QB「それなら、僕が君の遊び相手になろう」

さやか「……」

さやかはキュゥべえの頭を撫でた
221: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:58:53.34 ID:JxoyR7tu0
さやか「…あたし、何の為に魔法少女になったんだろ…」

QB「君はまだ、恭介が欲しいのかい?」

さやか「『欲しい』って何よ…。恭介は物じゃないんだから」

QB「『好き』とか『嫌い』とかいった感情は、僕は今のところ理解できていない
 これらに基づく人間の言動にはある程度法則性を見出せたけどね
 この際だ。よかったら、それについて詳しく教えてよ。君はボキャブラリーが豊富だから」

さやか「…そんなこと言われても…」

QB「上条恭介の何が君から『好き』という感情を引き出すんだい?」

さやか「……。人を好きになるのに、『これ』っていう理由なんてないと思う」

QB「原因がないのに結果が起こる。やっぱり感情というものはややこしいね
 最近の研究によって感情を質量やエネルギーに変換することはようやく可能になったけど、
 感情そのものの構造については僕らにとっても未だに未知数である部分が多い」
222: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 05:59:25.40 ID:JxoyR7tu0
さやか「……」

QB「上条恭介という人物そのものについて、少し聞かせてくれるかい?
 今回の事件は感情の造りを研究する上で興味深いサンプルの1つになりそうだ」

さやかはため息をついた

さやか「…恭介は、誰とでも明るく話すし、人に心配かけるようなこととか言わないけど、
  本当は相手のこと考えてる訳じゃなくて、自分が暗いことに興味ないだけっていうか…
  嫌なものを見ないで育った奴でさ…」

QB「……」

さやか「おかげでまだまだ幼くて、好奇心旺盛で、自分の気持ちに真っ直ぐで…
  …その分、ちょっと馬鹿で、鈍くて、時々少しワガママで――」
223: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:00:05.57 ID:JxoyR7tu0
――貸切状態のバス内
後ろの席で杏子と恭介がもたれ合っている

恭介「……」

杏子「…寝てんの?」

恭介「起きてるよ…。少し眠いけど」

杏子「昨日は何時に寝たんだ?」

恭介「…最後に時計を見た時は、3時半くらいだったかな…
 なかなか寝付けなかったから、実際にはもっと遅いと思うけど…」

杏子「考え事かい?」

恭介「まぁね…」

杏子「…この間の子、何だって?」

恭介「志筑さんのこと…? うん…何でも、近々バイオリンを買うらしいんだけど、
 自分ではどうやって選べばいいのかわからなくて
 身近に詳しい人が僕しかいないから、僕に聞こうと思ったんだって」
224: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:00:29.12 ID:JxoyR7tu0
杏子「…それだけか?」

恭介「あ、あと『お菓子のお礼を言っといてくれ』ってさ」

杏子「……」

恭介「杏子のこと褒めてたよ。『素敵な人だ』って」

杏子「告白されたんじゃないのかよ?」

恭介「告白…? あはは、まぁ期待はゼロだったかって聞かれると、
 胸を張って『うん』とは言えないかもしれないなぁ…
 でも僕には杏子がいるし、何でもない用事でよかったよ」

杏子(のん気なもんだな…)
225: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:01:22.10 ID:JxoyR7tu0
――――――――

さやか「――そのくせ、人が落ち込んでる時はさりげなく慰めに来たりしてさ…
  なんでか知らないけど、恭介にはわかっちゃうみたいなんだよね」

QB「それはただ、君が態度や表情に表れすいからじゃないのかい?」

さやか「なっ、失礼ね……。これはあたしに限ったことじゃなくて…
  大して付き合い長くない友達でも、一度恭介と話すと
  『今、なんで悩んでたんだっけ?』なんてことがよくあってさ――」
226: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:04:38.05 ID:JxoyR7tu0
――――――――

杏子(――さやかの奴は、家から出ないようにキュゥべえが止めてるんだったな…
 確かに邪魔されたらたまったもんじゃないが、
 あたしがこいつと会う為にさやかをはめるような真似をするってのもな…)

杏子「……」

恭介「…杏子」

杏子「ん?」

恭介「時間は沢山あるし、少し早く降りない? 何だかちょっと歩きたいんだ」

杏子「…途中で『疲れた』って言ってもおぶってやんねーぞ」

恭介「あはは、平気だよ。もう体育の授業にもみんなと同じように参加してるしね」

杏子「ふーん…ま、あんたがそんなに歩きたいってんなら、あたしは別にいいよ」

恭介「…手、繋いでもいいかな」

杏子「…! ったく…」
227: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:05:15.77 ID:JxoyR7tu0
恭介「杏子の手って柔らかいよね。こんなに細いのに」

杏子「……。あんたってそういうことよく言うよね。やれ首が長いだの手が細いだの」

恭介「あはは…杏子の体見てるとつい…」

杏子「……」

恭介「…?」

杏子「…変態」

恭介「…! もうそれでいいよ…」

杏子は恭介の手を握った
228: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:06:09.18 ID:JxoyR7tu0
――――――――

さやか「――恭介は、演奏する時いつも目を瞑るんだ
  あたしは何より、バイオリンを弾いてる恭介がたまらなく好きでさ…
  …初めて見たのは、あたしがまだ保育園に通ってた頃だったなぁ」

QB「……」
  
さやか「あいつの発表会に行ったんだ。その時あたし、子供ながらに感動しちゃってさ
  …思えばあたしがクラシックとか聴くようになったのって、
  あいつがきっかけなんだよね…」

さやかは笑ったまま泣いた
230: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:08:32.55 ID:JxoyR7tu0
――――――――
――貸しロッカー室

杏子「ちょっと待ってな」

恭介「荷物でも預けてるの?」

杏子「私物は何から何までこの中にまとめてある。親父の遺産も全部…
 本当は『現金なんか入れるな』ってそこに書いてあるんだけどね」

恭介「……」

杏子はロッカーからキーボードを出した

恭介「あ…」

杏子「こいつを持って行くよ。帰ったらバイオリン弾いてくれる?」

恭介「…ああ、もちろん」
231: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:09:27.32 ID:JxoyR7tu0
――――――――

さやか「…この前恭介が会いに来たんだけどさ…あいつ、あたしの気持ちに気付いてたみたいで…
  …それとも杏子に吹き込まれたのかな…」

QB「……」

さやか「いつもなら無邪気に色々喋るのに、あの時の恭介は謝ってばっかりで
  自分の思ってること、何にも言ってくれなくて…
  …それであたしイライラして、『当分あんたの顔見たくない』って追い返しちゃって…」

QB「……」

さやか「あたしって馬鹿だよね…。恭介が違う子のことを好きでも、
  傷つけるつもりなんかなかったのに…」

さやかが両手で顔を覆った

QB「さあ、もう泣かないで。さやか」

さやか「でもあたし、どうすることもできないよ…! 恭介のこと取り返せない…!
  なのに、好きなのやめられないんだもん!!」

泣き喚くさやか

キュゥべえは肩に乗ってさやかの顔を舐めた
232: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:10:07.69 ID:JxoyR7tu0
――――――――
――深夜。恭介の家の脱衣所
杏子がシャワーから上がった

杏子(…あいつ変な反応しそうだよなぁ…。まぁいっか…どうせすぐ寝るだろうし
 部屋行ってから外すほうが恥ずかしいもんな)

普段パーカーの下に着ている黒のチューブトップを直接肌に着た

布地が乳首の形に小さく突出している

杏子「……」

乾き切っていない髪で隠した

杏子(…本当に寝て起きて終わりかな…。『抱きたい』とか言い出したらどうすればいいんだ…?
 結局マミの奴も大して当てにならなかったし…)

(マミ『大丈夫。あなたはただ密やかに目を閉じて恋人の手に全てを委ね――』)

(ほむら『それはそうと、念の為、コ……コンドームを持って行くべきね』)

杏子「……」

(ほむら『…妊娠しない為の道具よ。どこで手に入るかは知らないけれど…』)

(マミ『それならコンビニで売ってるらしいわよ。暁美さんも2学期に習うと思うわ』)

杏子「…ったく」
233: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:10:47.62 ID:JxoyR7tu0
――杏子が恭介の部屋に入った

恭介「!」

恭介はベッドに腰掛けてキーボードで遊んでいる

杏子「…よっ」

杏子は下着を包んだパーカーを椅子の上に放った

恭介「誰かと思った…」

杏子「あたし以外に誰がいるってのさ?」

恭介「あはは…髪下ろしてるし、その格好は初めて見るから…」

杏子「これはいつも着てるよ。外ではこいつの上にパーカーだけどね」

恭介「それだけでずいぶん雰囲気変わるんだね」
234: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:11:48.51 ID:JxoyR7tu0
杏子が隣に座って恭介の首に腕を絡めた

恭介はキーボードを置いて背中を抱き返した

恭介「…え?」

杏子「ん?」

恭介「……」

杏子「何さ?」

恭介「…あれは…?」

杏子の背中に指で円を描いている

杏子「寝る時は外してる…」

恭介「……」
235: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:14:47.69 ID:JxoyR7tu0
杏子「…やっぱ変な反応した。変態」

恭介「…それはずるくないかな…」

杏子「そうやって気にされると恥ずかしいじゃんかよ」

恭介は杏子の髪を後ろに流した

杏子「……」

目を泳がす杏子

恭介「…杏子はもう眠い?」

俯いたまま首を振る

恭介が照明を薄暗くした

恭介「眠くなるまで話そう?」
236: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:29:01.09 ID:JxoyR7tu0
――1時間後
杏子と恭介が横になってキスし合っている

恭介「――その頃は、杏子もお父さんの教えを広めたりしてたの?」

杏子「…教義のほうは最後まで親父に任せるつもりだったよ
 あたしはあたしで、自分のことで精一杯だったんだ」

恭介「……。杏子はさ…、今でも世界を救いたいと思う?」

杏子「…んー…」

杏子は髪をかき上げた

杏子「…そんなの無理に決まってんじゃん?」

恭介「杏子ならできるよ」

杏子「何言ってんだ?」

恭介「だって、一時的だったとはいえ、大勢の人を教会に呼び集めたんだろう?
 そんなすごいことができたんだから、頑張ればきっと何でもできるはずじゃないか」

杏子「それは…。それは…偶然だったっつーか…」

恭介「僕の手が治ったのも『偶然』?」
237: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:29:51.51 ID:JxoyR7tu0
杏子「…! だから…偶然じゃなかったとしても、あたしは関係ねーよ」

恭介「……」

杏子が恭介に上体を被せてキスした

恭介はそっと肩を抱いた

恭介「…僕も手伝うよ」

杏子「…?」

恭介「杏子の父さんがやろうとしたこと、僕が引き継ぐ…」

杏子「…冗談でも守れない約束をするもんじゃない」

恭介「冗談なんかじゃないよ」

杏子「あたしら一家がどれだけ苦労したかわかってんのか? 気安く抜かしやがって、ったく…」

恭介が杏子を遠ざけた

恭介「…命を懸けてもいい」

杏子「! …ふざけるな」

恭介「ふざけてなんかいない」
238: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:35:22.93 ID:JxoyR7tu0
杏子「はぁ? だったら今すぐ死にな」

恭介「どうしてだよ」

杏子「本気で『命懸ける』って言ってるんだったら尚更だ。どうせあんたには何もできやしない
 あれだけ頑張ってた親父が諦めちまったんだ
 世界を救うってのはそれくらい途方もなく難しいことなんだよ」

恭介「君は現に1人の人間を救ってる。だから今度は僕が他の誰かを助けるよ
 そしてその人にもまた誰かを救ってもらえばいい
 これを繰り返していけば、いつかは全員が救われるじゃないか」

杏子「ふん、何でもそう上手く行く訳ねーだろ
 そんなんで世の中救えたら誰も苦労しねーんだよ。この馬鹿」

恭介「……」

恭介が杏子を睨みつける

杏子は素早く恭介の顎を掴んだ

杏子「…何? 喧嘩売ってんの?」

恭介「…君の父さんの言葉を、僕が世界中に届けてみせる…何年かかるかわからないけど」
239: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:36:05.14 ID:JxoyR7tu0
杏子「それ以上親父を馬鹿にするな。[ピーーー]ぞ」

恭介「『馬鹿にしてる』? …へぇ。そう思うならやってくれ」

杏子「チッ…!」

杏子は恭介の体に跨って顔面を拳で殴った

恭介「ぐっ!!」

両手で首を絞める杏子

杏子「じゃあ望み通りぶっ殺してやるよ。故人を侮辱しやがって
 それとも何さ? あたしに同情でもしてるつもりな訳?」

恭介は少しも抵抗せずに杏子を見つめている

杏子「…?」

恭介「……」

手の震えを抑えるようにシーツを掴む恭介

わずかに目元を歪めている
240: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:36:42.88 ID:JxoyR7tu0
杏子「……」

恭介「……」

恭介が涙目になっていく

それでも抵抗しない

杏子「……」

首は完全に絞まっている

恭介がようやく杏子の手首を掴んだ

が、すぐに放して自分の額を押さえた

杏子「…ふん…」

杏子は手を放した

恭介「――!」

急激に息を吸い込む恭介
241: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:37:13.36 ID:JxoyR7tu0
恭介「はぁ…はぁ…!」

杏子「…おい」

恭介は呼吸するのに精一杯だった

杏子「…死にたかったのかよ…?」

恭介「はぁ、はぁ…!」

杏子「……」

恭介「はぁ…はぁ…」

杏子「…何なんだよ」

恭介「…杏子の為に何か…、やり遂げたいから…」

杏子「はぁ…?」

恭介「それを杏子が許せないなら…、僕は喜んで死ぬよ…。自分の決意を嘘にしたくないから…」

杏子「…なんで親父と無関係のあんたが命なんか懸けるんだよ」

恭介「杏子が一番尊敬した人の遺志だから…」

杏子が頬をすり寄せた
242: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:37:54.88 ID:JxoyR7tu0
杏子「あたしは別にそんなこと望んでねーよ」

恭介「……」

杏子「単純に自分さえ楽しければそれでいい。あたしはあたしを楽しませる為に生きてるんだ
 他に目的なんざありもしないし、それで充分満足だ」

恭介「…杏子…」

杏子「…あたしは自分の家族すら守れなかった。あんたには何が守れるのさ?
 あんたはたった1人、大好きなあたしを救えるのか?」

恭介「何もできないままで済ますもんか…」

杏子「……。ちょっと変わったね、あんた」

恭介「え…?」

杏子「病院にいた頃はあんなにウジウジしてたのに」

恭介「…あの時はただ、滅入ってたんだよ…。でも、今は幸せだから」

杏子「……」
244: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:38:41.95 ID:JxoyR7tu0
―――――――――
――マミの家

QB「――ただいま、マミ」

マミ「あら、キュゥべえ。いらっしゃい」

QB「さやかをほっといてよかったのかい?」

マミ「…本当は迎えに行きたかったんだけど、佐倉さんが不在の時だけ家に招くのは、
 美樹さんにも佐倉さんにも失礼だから…」

QB「君がさやかと話し合うには絶好のチャンスだったじゃないか
 彼女は君に謝りたがっているよ」

マミ「学校で会った時にあんな様子だったから、今は私が何を言っても駄目だと思うの
 心の問題を解決するには、時間が必要な時もあるわ…。魔獣退治のほうはどう?」
245: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:39:22.52 ID:JxoyR7tu0
QB「何とか上手くやってくれてるよ。力も技術もまだまだ低レベルだけど、
 最低限の素質があって契約した訳だし、君達のよく言う『センス』も悪くない」

マミは読んでいた本を閉じた

マミ「…魔法少女なら、一度はこういう経験が必要なのかもね」

QB「君と杏子は独りの時期が長かったからね。実力の差には裏付けがある
 その点、ほむらはイレギュラー的な才能の持ち主だ。素質はそれほどでもなかったし、
 契約したのだってほんの2ヶ月前だっていうのに、ベテランの魔法少女と区別がつかない」

時計を見上げるマミ

マミ「…佐倉さんは今頃何してるかしらね…」

QB「気になるなら、僕が様子を見て来ようか?」

マミ「駄目よ、2人の時間を邪魔しちゃ」
246: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:43:26.62 ID:JxoyR7tu0
―――――――――
――杏子の家の前

佐倉神父が震えながら杏子の顔を引っぱたいた

杏子「……」

神父「人々の心を惑わして来たのか…!」

逆側から裏拳で殴った

涙目になる杏子

神父「何が『魔法』だ!!」

母親と妹が飛び出して来る

神父「魔女め!!」

神父が頭を抱えて泣き崩れた

杏子「……」

神父「お前は魔女だ…! 人の姿をした、恐ろしい魔女だ!!」

妻「あなた、やめて…どうしたの?」

神父は十字架のタイピンを外して投げ捨てた
247: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:43:58.74 ID:JxoyR7tu0
神父「誰も耳を貸してなんていなかった……信仰なんてなかったんだ…!」

杏子の妹が母親に縋って涙をこらえている

神父「なんてことだ……」

佐倉神父は細い目を見開いて杏子を見上げた

神父「自分の娘だと思っていたものが、人々を陥れてしまった…!」

杏子「……」

杏子は泣かなかった

何度殴られても構わなかった

神父「魔女め…!」

しかし神父はそれ以上手を出さなかった

杏子(――なぁ、お父さん…。あたしのこと嫌いかい?)

杏子が十字架を拾った

今では髪を留めるのに使っている
248: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:44:32.45 ID:JxoyR7tu0
杏子(…辛かったよね。…悔しかったよね。わかるよ…
 あんなに優しかったお父さんが、自分の娘に手上げるくらいだもん…
 あの日あたしの顔を殴った手はさ、やっぱりあたしを散々抱き締めてくれた手だったよ…)

神父の泣き声が耳に刺さる

杏子(また笑ってよ。子供みたいに…恥ずかしそうにさ
 あんたの笑顔見ると、どんなに腹が減ってても安心できたんだよね)

杏子「……」

杏子(嬉しそうに頭撫でてくれるから、あたしはあんたについて行ったんだ
 お父さんはあたしのことが大好きなんだって、どんな時も思えたから)

風が吹いた

もう誰もいない

杏子(連れてってよ…。もう悲しませたりしないから…
 あたしは自分で歩くから…。あんたが疲れちまったら、今度はあたしが手を引くから…)

焼け落ちた家が見えた
249: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:44:59.44 ID:JxoyR7tu0
杏子(なぁ、お父さん…。あたしについて来られるの、嫌かい?
 あたしとだけは一緒に死にたくなかったかい…?
 嫌いでもいいよ…あたしが悪いんだもん。でも死ぬ時くらい、そばにいさせてよ…)

杏子「……」

幼い杏子が途方に暮れている

杏子(置いて行かないで…。一人ぼっちになりたくない…!)

杏子「――ごめんなさい…」

――杏子は自分の声で目を覚ました

恭介「ん…?」

杏子「……」

恭介と向かい合わせに横になっている

恭介が手を握って笑いかけた

恭介「…可愛い」

杏子「……」

杏子が恭介の手のひらを頬に当ててつぶやいた
250: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:46:50.79 ID:JxoyR7tu0
恭介「え…?」

杏子「……」

恭介が口に耳を寄せる

恭介「何…?」

杏子「…ぶって…」

息だけの声

恭介「……」

恭介は横になったまま頬を叩いた

長い髪が乱れる

杏子「……」

再び頬に手を当てる杏子

恭介は体を起こして大きく振りかぶった

パン――

今度は本気だった
251: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:52:08.05 ID:JxoyR7tu0
杏子「……」

恭介がそっとキスする

恭介「杏子…」

杏子「……」

杏子は目を細めて、恭介の背中に指で文字を書いた

恭介「何…? もう1回…」

杏子「……」

『m』

恭介「エム…?」

『o』…

『r』…

『e』
252: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:52:50.79 ID:JxoyR7tu0
恭介「…『もっと』…?」

杏子は涙目で恭介を見上げている

恭介は首筋と唇に長くキスしてから、反対側を思い切り叩いた

杏子は恭介の肩を掴んだまま髪を掻き分けた

恭介「……」

恭介は杏子に跨り、体を押さえつけながら更に引っぱたいた

杏子「……」

杏子が恭介の口に指を入れる

恭介「…?」

杏子「……」

体を起こして恭介の肩に噛み付いた

恭介「っ…!」

反射的に杏子の指を噛み締める恭介
253: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:53:36.56 ID:JxoyR7tu0
杏子「んっ…!」

空いている手で抱き合った

杏子の歯が肩に食い込んでいく

恭介「く…あ…!」

恭介が観念して後ろに倒れた

杏子は肩に食いついたまま離れない

恭介「杏子…!」

杏子「……」

2本の犬歯が突き刺さった

恭介「ああっ…!!」

チューブトップの背中を強く掴んでのた打ち回る

杏子「……」

杏子の口の中に血が滲んでいく

恭介は杏子を抱き抱えたまま暴れた
254: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:55:18.56 ID:JxoyR7tu0
恭介「痛い…!」

2人でベッドから転げ落ちた

杏子は下敷きになって頭を打った

恭介「うぅ…」

杏子「……」

恭介「杏子…」

恭介は目の色を変え、杏子を無理矢理引き起こしてベッドにぶつけた

恭介「…杏子…!」

杏子の肩に全力で噛み付いた

杏子「きっ…!」

呼吸が荒くなる

恭介「……」

恭介が杏子の服を限界まで捲り上げた
255: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:56:00.97 ID:JxoyR7tu0
杏子「…!」

食い付いたまま杏子の胸を素手で掴んで揉み上げた

杏子「…やめろ…」

恭介「……」

肩から血が流れた

杏子「ああ!!」

悲鳴に似た声を上げ、息を乱しながら何度か頬擦りした

恭介「……」

恭介が血をすすって、杏子の上半身を見下ろした

杏子(…見られた…)

ベッドにもたれかかる杏子

杏子「…今日だけだぞ…」

恭介「何が…?」

杏子「…裸」
256: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:56:57.67 ID:JxoyR7tu0
恭介「……」

杏子はため息をついた

両胸を出したまま立ち上がり、机に置いたポーチからコンドームの箱を取り出す

杏子「ほい」

恭介に投げ渡した

恭介「え…、ありがとう…」

杏子「……」

薄暗い中で箱を眺める恭介

恭介「何だろう…グミ?」

杏子「アホか」

恭介「……?」

杏子は背中を向けて上を脱いだ

恭介「…あ…、え、こ、これって…」
257: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:57:36.47 ID:JxoyR7tu0
杏子「…一応持って来といた」

恭介「……」

杏子「仮にもそういう関係じゃん? あたし達」

恭介「…嬉しいけど…。で…でも、恥ずかしいな…」

杏子「だからこっちのほうが恥ずかしいっつーの」

杏子がティッシュで体の血を拭き始めた

恭介「…肩、大丈夫?」

杏子「……」

恭介「…先に手当てする?」

(マミ『佐倉さんは、エムなのかしら…?』)

杏子(…かもしれない…)

杏子「…あたしはこのままでいい」

恭介が後ろから杏子を抱き締めた
258: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 06:59:41.43 ID:JxoyR7tu0
恭介「…杏子の体って、どうしてこんなに傷つけたくなるのかな…」

杏子「…あたしの体…、好きか…?」

恭介「ああ、好きだよ…。抑え切れなくなる…」

杏子「…興奮してんの…?」

恭介「かなりね…」

杏子の肩からまた血が流れた

杏子「…どうすんのさ?」

恭介が傷口を指先でなぞった

恭介「…レイプする」

杏子「! ……」

杏子は少し震えながらショートパンツのジッパーを下げた
259: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:01:00.60 ID:JxoyR7tu0
―――――――――
――翌朝

杏子が目を覚ました。恭介の姿がない

杏子(起きてるのか…?)

体を起こす杏子

下着一枚にパーカーを羽織っている

杏子(…昨日寝直す前、お父さんの夢見たな…。ったく、あいつが思い出させるから…)

杏子「……」

夢の直後の出来事を思い出した

(杏子『…ぶって…』)

杏子(…何言ってんだ、あたしは…)

杏子「……」

恭介が部屋に戻って来た

恭介「おはよう」

頬が痣になっている
260: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:07:30.72 ID:JxoyR7tu0
杏子「…! 痣できてるぞ」

恭介「うん…覚悟はしてたよ。結構痛かったしね」

杏子「…体弱いのか?」

恭介「そんなことはないと思う。杏子が丈夫すぎるんだよ」

杏子「……」

恭介が鼻を掻いた

恭介「昨日は、どうだった…?」

杏子「どうって?」

恭介「……」

杏子が人差し指で手招きする

恭介は耳を近づけた

杏子「よかったよ」

恭介「! …そっか。安心した」

杏子「あんたは?」
261: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:08:05.20 ID:JxoyR7tu0
恭介「…最高の思い出になった」

杏子は笑って、頬にキスした

杏子「バイオリンやらない?」

恭介「ああ、いいよ」

杏子「…あたしね、今新しい曲を練習してるんだ。あんたに聴かせようと思って
 …もしまともに弾けるようになったら、またバイオリンで合わせてくれる?」

恭介「もちろんだよ。何ていう曲だい?」

杏子「そいつはまだ秘密だ」

恭介「あはは。知らない曲だったら聴いたその場ではあんなことできないよ」

杏子「まぁ、別にマニアックなもんでもないし、多分あんたなら知ってるだろ」

恭介「そっか。それじゃあ楽しみにしてるよ」
262: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:09:05.68 ID:JxoyR7tu0
――――――――
――翌日。マミの家

杏子がソファで仰向けに寝転んでいる

マミ「――デートの話の続きが聞きたいんだけど」

杏子「ああ? まだ諦めてなかったのかよ」

マミが笑った

マミ「とっても素敵な話だもの。幸せを分けてもらった気分よね。暁美さんもそう思わない?」

ほむら「私は正直な所、私の忠告が役に立ったかどうかだけが、少し気になっているのだけれど」

杏子が勢いをつけて起き上がる

杏子「ったく、どいつもこいつも…見せもんじゃねーんだぞ」

グラスに入ったプリッツを何本か抜き取って食べた

杏子「まぁ、礼は言っとくよ」

マミとほむらが顔を見合わせた

マミ「つまり…?」

杏子がプリッツを噛み砕く
263: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:09:50.75 ID:JxoyR7tu0
杏子「…ほむら。それ、置いたほうがいいよ。また壊すから」

ほむら「…? え、ええ…」

ほむらはティーカップをテーブルに置いた

杏子「…レイプされた」

マミ「…!」

ほむら「……」

杏子「半分冗談だけどね」

マミ「…それは、半分本当っていうことよね…?」

杏子「……」

ほむら「エ…エスだと思ってた…」

杏子「どっち道変態呼ばわりかよ」

マミ「…誰にでも変わった所はあるものよ」
264: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:10:36.60 ID:JxoyR7tu0
杏子「あんたにわかってたまるかっての…」

マミ「…どうなのかしら。痛めつけられる快感って…」

杏子は目を泳がした

杏子「んー…」

マミ「……」

ほむら「……」

杏子「…なんつーのかな…痛みそのものが好きって訳じゃないんだよ
 なんかね…苦痛を我慢してないと物足りないっていうか…
 『やりたいようにやられてる』って思うと、変に安心するんだよね…」

マミ「『私を食べて!』なんてね」

杏子「テメェ。馬鹿にしてんのか?」
265: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:11:20.90 ID:JxoyR7tu0
―――――――――
――数日後。学校

仁美「――さやかさん、お体の具合は大丈夫ですの…?」

さやか「うん、もう平気。…なんか、心配かけちゃったね」

仁美「ううん。私のほうこそ、お見舞いにも行けずに…」

さやか「あぁ、いいのいいの。仁美は忙しいんだし、それに大した病気じゃないから」

仁美「だといいんですけど…」

教室の前を恭介が通りかかった

顔に大きな痣がある

さやか「…!」

仁美「どうかしましたの?」

さやか「い、いや…。別に何でも」

さやか(何よあれ…久々に学校来てみたら、痣なんか作って…
  …まさか杏子の仕業じゃないわよね…)
266: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:12:09.03 ID:JxoyR7tu0
さやか「ところで仁美…、あたしが学校来てない間、何か変わったこととかなかった?」

仁美「変わったこと、ですか…?」

さやか「うん、授業のことでもいいし、みんなのことでもさ。例えば、誰かが怪我した! とか…」

仁美「そうですね…。これと言って、お話しするような出来事はありませんでしたけど」

さやか「そ…そっか」

仁美「…上条君が、さやかさんを心配なさってましたわ」

さやか「…恭介と話したの?」

仁美「ええ…。つい先日、簡単な用があって一緒に帰りましたの」

さやか「用って?」

仁美「……。バイオリンのお話ですわ」
267: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:12:58.98 ID:JxoyR7tu0
――――――――
――休み時間。恭介のクラス

体育の授業を終えて、恭介が教室に戻って来た

さやか「――ねぇ、恭介…」

恭介「さやか…! …おはよう。驚いたな…今日は来てたんだ」

さやか「この前はごめん…追い返すつもりはなかったんだけど…」

恭介「ううん…気にしなくていいよ。僕なら平気だから」

さやか「んっと…その痣、どうしたの…?」

恭介「…! これは…」

さやか「……」

肩にガーゼを当てているのが体操服越しに透けて見えた

さやか「そこも怪我してる…」

恭介「ああ…。えーっと…それがさ、ちょっと、友達と喧嘩しちゃって」

さやか「……」
268: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:13:30.63 ID:JxoyR7tu0
恭介「あはは、あんな大怪我したばっかりだっていうのに、よくないよね…」

さやか「…誰と喧嘩したの?」

恭介「…さやかの知らない人だよ」

さやか(絶対嘘だ…)

さやか「…恭介…」

さやかが下を向いた

恭介「さやか…?」

さやか(もし杏子だったら…。杏子は魔法少女なんだよ?
  魔力も何も持ってない恭介が敵う訳ないじゃん…)

さやか「…今日、放課後空いてる? たまには一緒に帰りたいなー…なんて…」

恭介「……」

さやか「…恭介が嫌だったら、無理しなくていいから…」

恭介「…そうだね。最近、落ち着いて話す機会もなかったし…一緒に帰ろう」
269: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:15:00.73 ID:JxoyR7tu0
――――――――
――放課後。帰り道

さやかがため息をついた

恭介「……」

さやか「…ねぇ、恭介」

恭介「何? さやか…」

さやか「…気付いてるんでしょ…」

恭介「…何のこと?」

さやか「とぼけないでよ…。あたしだけ蚊帳の外で、1人で悩んで、馬鹿みたいだから…」

恭介「…ごめん」

さやか「…ひどいよね。こんな終わり方…」

恭介「…あのさ…」

さやか「……」
270: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:15:26.27 ID:JxoyR7tu0
恭介「僕…さやかとは、今まで通り友達でいたいんだよね…
 多分、傷つけちゃったと思うし、今だって本当はすごく気まずいよ…
 でも、さやかが僕にとって掛け替えのない存在であることには変わりないから…」

さやか「…そんな風に思ってくれてるんだ」

恭介「…ああ」

さやか「あたし嬉しいよ。たったそれだけでもさ…。あたしだって同じように…、
  …ううん、あたしは恭介のこと、もっともっと大切だもん…」

恭介「…さやか…」

さやか「…例の友達、なんで喧嘩しちゃったの?」

恭介「…それは…その…」

さやか「……」

恭介「えっと…、過去に色々あった子でさ…。この前、身の上話で盛り上がってて、
 僕がその子の家族について思ったことを言ったら、それが癪に障っちゃったみたいで…」

さやか「…杏子のことだよね、それ…」
271: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:15:55.61 ID:JxoyR7tu0
恭介「…!」

さやか「…ごめん。あたし本当は最初から疑ってたんだ…あの子のこと」

恭介「……」

さやか「恭介のこと殴ったんだ…あいつ」

恭介「ち、違うよ、さやか…」

さやかが立ち止まった

さやか「……」

恭介「杏子は関係ない…」

さやか(どうして嘘つくの…? こんなひどい目に遭ってるのに、それでも杏子を庇うの…?)

さやか「…嘘言わないで…」

恭介「……」

さやか「…杏子って、本当は恭介の何なの…? まだはっきり聞いてなかったよね…」
272: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:16:29.32 ID:JxoyR7tu0
恭介「…杏子は…」

恭介は目を逸らした

恭介「…僕の恩人だ…。死ぬことしか頭になかった僕に、もう一度生きる希望を与えてくれた…」

さやか「……」

恭介が自分の左手を見つめた

恭介「僕を救ってくれた…」

さやか「…!」

さやか(手を見てる…。『救った』って何よ…恭介の手を治したのはあたしなんだけど…)

(恭介『――佐倉さんが、…何か特別な力を持った人だって』)

さやか(……。もしかして…恭介は杏子に騙されてるの…?)

恭介「…だから…。僕は、杏子の為に生きることにしたよ…」

さやか(…それで、『恩人だから』と思って、あいつの言いなりになっちゃってるの…?
  もし本当にそうだったら……あたしは杏子を絶対に赦さない…)
273: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:23:04.32 ID:JxoyR7tu0
――――――――
――深夜
マミ達3人が戦いを終えて歩いている

マミ「――私の場合は、守りたいものの為に命を懸ける生き方、好きになれたおかげかな」

杏子「ふーん。まぁ、魔力維持する為っつっても、
 こう毎日同じ戦いの繰り返しじゃ面白味もないしね」

ほむら「つまらないくらいがちょうどいいわ
  もし魔獣に個性があって、能力も戦術も1つ1つ違っていたら、
  私達は常に予測できない事故の危険に曝されることになる」

杏子「ハッ、どうせ戦わなきゃならないなら、そっちのほうが楽しみ甲斐があるってもんじゃん」

ほむら「…そんなに簡単なものではないわ」

杏子「何マジになってんだ?」

ほむら「…いいえ」

ほむらが笑った
274: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:23:39.69 ID:JxoyR7tu0
マミ「――あら? あそこにいるの、美樹さんじゃない?」

杏子「…!」

さやかが暗がりで道を塞ぐように立っている

ほむら「ええ」

杏子(あいつ…あたし達が来るのを待ってたのか…?)

マミ「…ここで別れておきましょうか?」

杏子「……。さやかはあたしに用があるって言ってるよ。悪いけど外してくれる?」

マミは杏子とさやかを順番に見た

マミ「…わかったわ。早く仲直りしてちょうだいね。行きましょう、暁美さん」

ほむら「……」

マミとほむらは別の道に入っていった

さやか「…!」

杏子がさやかに歩み寄る

杏子「よう。久しぶりじゃん。今度は何の用さ?」
275: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:24:07.20 ID:JxoyR7tu0
さやか「……」

杏子「あたしに話があるんだろ? でなきゃ夕方にでもマミん家に来るはずだ」

さやか「…しらばっくれないで。いいわね」

杏子「うん」

さやか「…恭介から聞いたよ…あんたとあいつが会ってる時のこと、何もかも…」

杏子「…何の話だ」

さやか「…心当たりぐらいあるでしょ」

杏子(何が言いたいんだ…? こいつまさか、あたし達が出来てないとでも思ってたのか…?)

杏子「あんたは坊やのこと『顔も見たくない』って思ってるんだろ?」

さやか「……!」

杏子「だったら今更あんたのことを気にする必要なんてないよね
 自分の彼氏と何をしようが、そんなのあたしの勝手じゃん」

さやか「くっ…! 何が『彼氏』よ! 本当は恭介のこと、大して好きでもないくせに!」

杏子「……」
276: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:24:49.34 ID:JxoyR7tu0
さやか「…あんたはなんで恭介と付き合ってるの? 何の為に恭介と会うの?」

杏子「…はぁ?」

さやか「恭介と何がしたい訳?」

杏子はため息をついた

杏子「…こういう仕事してるとねぇ、本当ストレス溜まるんだわ…
 新しい後輩も、人が親切にしてやったっていうのに、こうやってチョッカイ出して来るし」

さやかが杏子を睨み付ける

杏子「だからあいつで鬱憤を晴らしてるのさ。向こうもそれで喜んでるんだしね」

さやか「っ…! …赦さない」

杏子「……」

さやか「お前だけは、絶対に赦さない…!」

杏子「…ちょっとさー…やめてくれない? あたしはただあいつの気持ちに応えただけじゃん
 あいつがあたしに惚れちゃったからって、あたしに突っかかるなんてお門違いもいいとこだ」

さやか「くっ!」

さやかが変身した
277: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:25:20.54 ID:JxoyR7tu0
杏子「…何のつもりだ?」

さやか「恭介は、本当はあんたと別れたがってる…
  だけどあんたに弱味を握られて、自分から言い出せなくなってるだけなんだ…!」

杏子「…は?」

さやか「『恭介から全部聞いた』っていうのは嘘…カマかけただけ…
  でもこれではっきりしたわ…。あんたが人を傷つけて喜んでる、最低の女だってこと…!」

杏子「…? あんたもしかして、何か大元から勘違いしてない?」

さやか「今更遅いわよ…あんた今、全部認めたわよね。恭介を憂さ晴らしの道具に使ってるって…
  それってつまり八つ当たりだよね。…それもよりによって、恭介に…!
  あたしが気に入らないならあたしを殴ればいいじゃんか!!」

杏子を睨んだまま涙を流し始めるさやか

杏子(そういうことか…)

杏子「『憂さ晴らし』ってのは確かだが、殴って楽しんでるとは言ってないだろ
 あんたは一体誰に何を聞いたのさ?」

さやか「……。よほど恭介のこと怖がらせてるんだね」

杏子「だからそんなことしてないっての」
278: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:26:23.34 ID:JxoyR7tu0
さやか「じゃあ恭介はなんで怪我してたのよ!
  恭介と喧嘩する子なんて、あんた以外に誰がいるって言うの!?」

杏子(まだ治ってなかったのかよ…)

杏子「確かに何回か殴りはしたが、それはあいつ本人に『やってくれ』って頼まれた時だけだ」

さやか「くっ…! 恭介がそんなこと言う訳ないでしょ!? どこまでコケにする気よ!」

さやかが剣を握り締めた

杏子「何。やろうっての? やめときな。あんたに勝ち目なんかないよ」

さやか「よくも恭介を…!」

杏子も変身した

杏子「世の中にはね、あんたの理解を超えた事情ってもんがあるんだよ」

さやか「なら教えてよ…。どんな事情があれば、関係ない人を殴っていいことになるのよ…!」

杏子「…あんたには教えられない」

さやか「…和解する気なんて、まるでないんだね…」

杏子「……」
279: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:28:04.61 ID:JxoyR7tu0
さやか「…言っとくけど、本気で行くから。あんたが泣くまで…、あたしは絶対に負けない!」

杏子「ふん…」

杏子が槍を出して構えた

さやか「あああああああ!!」

さやかが闇雲に斬りかかる

杏子「……」

杏子が最小限の動きで剣を弾き返した

さやか「うわっ!」

さやかは仰け反って尻もちをついた

杏子「……」

さやか「くっ…!」

立ち上がって突進する

さやか「はああああああ!」

杏子はさやかの突きを捌いて蹴り飛ばした
280: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:28:44.97 ID:JxoyR7tu0
さやか「!!」

セメントの壁に突っ込むさやか

杏子「……」

杏子(魔獣と戦ってた時はここまで弱くなかった…余力がない証拠だ)

さやか「うぅ…!」

体勢を立て直してマントで涙を拭く

さやか「…負けない…!」

さやかは何度も繰り返した

さやか「はぁ…はぁ…!」

杏子「……」

さやか「…負…けるもんかー!!」

何度やってもかすり傷一つ付けられなかった

次第に涙の量が増えた
281: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:29:53.18 ID:JxoyR7tu0
さやか「…うっ…うっ……!」

杏子「……」

それでも泣きながら戦った

さやか「あんたは間違ってるんだ…! 言いなりになってる恭介も…!」

杏子「……」

さやか「うああああああ!!」

さやかが渾身の攻撃に入った

ドスッ――

さやか「!!」

杏子「……」

杏子が目を逸らしたままさやかの胸を一突きにした

さやか「うぅ……!」

剣を落として膝をつく
282: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:30:26.96 ID:JxoyR7tu0
杏子「…もういいだろ。これ以上やっても魔力の無駄だ
 あんたならまだ取り返しは付く。潔く負けを認めな…」

さやか「…こんなのって…」

杏子「…なぁ、さやか…間違ってるのはあんたのほうなんだよ」

さやか「……!」

さやかが隙を見て杏子の心臓目がけて剣を投げつけた

杏子「……」

杏子は刀身を素手で弾き飛ばした

さやか「…!?」

杏子「…テメェは……」

さやかの胸に突き刺さった槍を根元から掴んだ

さやか「ひっ…」

杏子「馬鹿か!!」

傷口を広げるように激しくえぐり回す
283: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:31:28.77 ID:JxoyR7tu0
さやか「うっ、うわああああぁーー!」

さやかが叫びながら血を吐いた

杏子「あたしが死んだらあいつはめちゃくちゃ悲しむぞ…!」

さやか「…うっ…ううぅ、あぁ…!」

肋骨がきしんでいる

杏子「…お前は坊やを悲しませたいのか!」

さやかの体が少し浮いた

さやか「あああああぁーーっ!!」

杏子「よう、さやか…おい。…なぁ、さやか…さやかよ…!
 お前はあいつをどこまで受け入れられるんだ…? あいつは普通じゃねーんだぞ…!」

さやか「うっ…、ううっ……!」

杏子「……あいつを泣かせるような真似はあたしが許さない」
284: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 07:32:06.64 ID:JxoyR7tu0
さやか「……」

杏子が変身を解く

さやかは血溜まりの上に倒れ込んだ

杏子「…余計な心配はしなくていい…あいつの面倒を見るのはあたしだ。…わかったか」

さやか「……」

杏子はポケットに手を突っ込んで歩いていった

さやか「…恭…介……」

さやかはつぶやいて、そのまま動かなくなった
296: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:28:27.21 ID:JxoyR7tu0
―――――――――
――2032年 コーデリア・ガーデン

少年「あ、バイオリンのおじさんだ!」

少女「わあ! 本当だ!」

子供達が恭介の所へ集まって来た

恭介「あぁこら、短い足で走るんじゃない、ガキども」

少年「僕、足短くないよ! バイオリンのおじさんより背高いんだから!」

少年が恭介の肩くらいの高さまで何度もジャンプした

恭介「そんなことはどうでもいい。今日はチョコレートを持って来てやった。食べたいだろう?」

少年「うん! 食べるー!」

少女「食べたーい!」

恭介「お前は駄目だ。お兄さんをおじさん呼ばわりする奴にはもったいない」

少年「えー!?」

少女「チョコちょうだーい! バイオリンのお兄さん!」
297: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:29:53.72 ID:JxoyR7tu0
恭介「よーし、ほら」

恭介が袋からチョコレート菓子を出して女の子に渡した

少女「ありがとう!」

少年「あー! ずるいよー! バイオリンのおじさん!」

恭介「あ、また言いやがったな? この野郎、今日という今日はあの世へ送ってやる」

恭介は荷物を置いて少年を天高く抱き上げた

少年「あっはははー!」

恭介「ほーら、羽が生えてるぞ」

少年「もっと高く! もっと高くー!」

恭介「ほう。さあ、これでどうだ! 参ったか?」

少年「わあー! あはははは!」

マミ「……」

職員室からマミが出て来た
298: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:30:54.16 ID:JxoyR7tu0
恭介「……」

恭介は子供を降ろしてお菓子を渡した

恭介「…特別だぞ」

少年「ありがとう!」

恭介「……」

荷物を持ってマミの所へ向かう

恭介「――見る度に若返るな、院長」

マミ「そう? ありがとう」

恭介「子供達も志筑や私のほうが年上だと思ってるだろうな。大輝に『おじさん』と呼ばれたよ」

マミが笑った

恭介「…無邪気なものだ。ここの連中には避けられても仕方ないはずなのに」

マミ「どうして?」
299: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:31:35.56 ID:JxoyR7tu0
恭介「……。私は犯罪者だ。実刑はどうにか免れたが…」

マミ「…魔が差しただけよ。あなたは少し頑張りすぎていたもの…仕方ないわ」

恭介「薬だけじゃない…。絵理と愛美が消えたのは、私がここを買い取った直後だった…」

マミ「……」

恭介「…2人とも、私によく懐いていた。あの子達がいなくなってから、
 私が何と呼ばれるようになったか知ってるだろう…?」

マミ「…あんなの、ただのデタラメよ。あなたほどのカリスマだもの
 マスコミはスキャンダルを面白がっているだけ。あなたの潔白は私達みんなが信じてるわ」

恭介「……ここの運営は、これからどんどん厳しくなるだろうな
 …私とコーデリアの名誉を取り戻さない限りは」

マミ「……。そのことで、社長に相談したいことがあるの」

恭介「…?」
300: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:32:42.14 ID:JxoyR7tu0
――応接室

恭介「――暁美さんが本格的に起業したそうだな」

マミ「そうよ。軍資金は少ないけど…」

恭介が鼻で笑った

恭介「相談というのはそれか。『女が金の話を持ちかけて来たら一切耳を貸さない』
 …これが私の信条だ。あいにくだが私は力になれない」

マミ「お金の相談じゃないわ」

恭介「じゃあ何だ」

マミ「『ワルプルギス騎士団』はコーデリアの名誉を守る為に設立された企業よ
 と言っても、それは裏の顔だけれど…」

恭介「……?」

マミが恭介の顔色を慎重に窺った

マミ「…あなたの周りでは、私の知る限り、合計で4人の失踪者が出ている…
 でもあなたはその原因を知らないし、次の被害も防ぎようがない…」

嫌気が差した

ため息をつく恭介
301: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:33:36.30 ID:JxoyR7tu0
恭介「…それがあんたにはわかると? 愛美やさやか達がどこに行ったのかも」

マミ「! ……」

恭介「……」

マミ「…もちろん、知らないわ…」

恭介「……」

マミ「…だけど、ワルプルギス騎士団と提携すれば、女の子達の失踪を予め防止できるし、
 万が一何かあった場合も、コーデリアがその責任を問われることはなくなるの」

恭介「後ろ盾ならヤクザがいる。…保険はそれだけで充分だ」

マミ「真面目に聞いて。ちょっと複雑だけど、ちゃんと筋の通った仕組みが考えられてるのよ」

恭介「…『汚い仕事を引き受けろ』とでも言うんじゃないだろうな」

マミ「…正直なところ、確かに綺麗とは言い難いけど…」

恭介が立ち上がった

恭介「時間だ。私は礼拝室に行く」

マミ「何も『あなたの手を汚させよう』なんて思ってないわ」

恭介「いずれにしろもう聞きたくない。そんな嘘だらけの話」
302: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:34:24.18 ID:JxoyR7tu0
マミ「…!」

恭介「肝心な所は最後まで隠すつもりだろう。あんたの目がそう語ってる
 私にとって不利な相談である証拠だ」

マミ「ち、違うのよ」

恭介「どうしてもと言うのなら、明日までに書面にでもまとめてファックスしろ
 あるいは暁美さん本人から直々に聞いてやろうじゃないか」

マミ「社長…」

恭介「もうはめられるのは御免なんだ。私をお人好しだと思ったら大間違いだ。肝に銘じておけ」

マミ「……」

恭介は足早に扉に手をかけた

恭介(礼拝室……そういえば…)

恭介「…よく礼拝室にいる、赤い髪の女の子…」
303: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:35:03.33 ID:JxoyR7tu0
マミ「…?」

恭介「…彼女はあんたの養子だと言っていたな…?」

マミ「……。ええ」

恭介「…産みの親は誰だ?」

マミ「…どうして?」

恭介「……」

マミ「……」

恭介が盛大に笑った

マミ「…?」

恭介「ああ、どうやら頭がおかしくなってしまったようだ」
304: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:35:38.93 ID:JxoyR7tu0
―――――――――
――2011年 マミの家

マミ(…こんな時間に誰かしら…?)

マミが寝ぼけ眼で玄関を開けた

マミ「!」

血まみれのさやかが壁にもたれて座り込んでいる

さやか「……」

マミ(タダでは済まなかったようね…。目を離したのは失敗だったわ…)

さやか「…助けて…マミさん…」

マミはさやかをソファまで運んだ

マミ「…傷のほうは回復してるみたいね。ソウルジェムを貸して」

さやかが目を閉じたままソウルジェムを手渡した

マミ「…大変…すぐに浄化しないと手遅れになるわ」

寝室から浄化素材を貯めた小箱を持ち出し、テーブルの上にひっくり返す

その中にさやかのソウルジェムをうずめた
305: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:37:45.78 ID:JxoyR7tu0
マミ「…これでもう大丈夫。しばらくすれば元通りになるはずよ」

さやか「…ありがとう…」

マミが紅茶を淹れながら濡れたタオルを持って来た

血の付いた制服を脱がして顔と体を拭いていく

さやか「…あたし…誰にも頼らないって決めたのに…」

マミ「…1人ぼっちで生きるって、大変なことだよ
 私も今でこそこうして毎日笑って過ごしてるけど、
 佐倉さんと出会うまでは、いつも1人で泣いてばかりだった」

さやか「……。マミさんは、どうしてそんなに優しいの…?」

マミ「…私、優しいかしら?」

さやか「うん、そりゃあもう…」

マミ「うーん…。感謝してるからかな」

さやか「感謝…って、誰に…?」
306: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:38:20.60 ID:JxoyR7tu0
マミ「ここまで生きて来られたことにも、キュゥべえやあなた達にも。みんな」

さやか「……」

マミはさやかの血を拭き終えて、着替えと紅茶を出した

マミ「制服はクリーニングに出さないといけないわね
 普通に洗うだけじゃ、この血は多分落ちないから」

さやか「…ねぇマミさん…。マミさんは、杏子のこと本当に友達だと思ってる…?」

マミ「ええ、もちろんよ」

さやか「…怒らないでほしいんだけどさ、あたしにはあの子が良識のある人間とは思えないんだ…」

マミ「どうして?」

さやか「…それは……」

さやかは目を逸らして口を閉じた

マミ「…あなた達を放っておくべきじゃなかったわね。ごめんなさい」

さやか「……」
307: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:38:57.40 ID:JxoyR7tu0
マミ「でも、こんなことになってしまった以上、私も傍観してばかりいられないわ
 そろそろあなたの本音を聞かせてくれないかしら?」

さやか「……うん」

マミは膝に手を置いた

さやか「…実は…、あたしの願い事、好きな人の怪我を治すことだったんだけどさ…、
  杏子はあたしが契約する前、『仲間に入って来るのが気に食わないから』って、
  その人のとこ行って、魔力で治療しようとしてたんだ…」

マミ「……」

さやか「でも怪我は全然治る気配なくて…。だからあたし、キュゥべえと契約したんだ…
  それで、杏子には『もう恭介と会わないで』って頼んだんだけど、
  その時杏子は、いつの間にかあいつと恋人になってて…」

マミ「え……」

さやか「…ほんと悔しかった…。『あたしの気持ち知ってて、そういうことするんだ』って…
  でも恭介が杏子を選んだのには違いないし、
  それはあたしがとやかく言うことじゃないからって、必死で我慢してさ…」

マミ(それであんなに険悪だったのね…。だけど…)
308: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:39:42.25 ID:JxoyR7tu0
さやか「…なのにあいつ、自分のストレス解消の為に恭介を殴ってたんだ…」

マミ「…?」

さやかが拳を握った

さやか「赦せない…赦せないよ…! 杏子は恭介の手が治ったことも何もかも自分の手柄にして、
  あたしから恭介を奪って、…その上恭介を傷つけて楽しんでるんだ…!」

マミ「…え…っと…」

さやか「だから仕返ししに行こうって思った…。戦う力のない恭介の代わりに、あたしが…!
  …だけど返り討ちにされて…」

顔をしかめて歯を食いしばった

さやか「あたしどうしたらいいんだろ…。こんなのあんまりじゃんか…!
  好きな人が目の前で痛めつけられてるのに、黙って見てるしかないなんて…!!」

マミ(佐倉さんの彼氏って…)

マミが咳払いをした
309: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:40:28.33 ID:JxoyR7tu0
マミ「美樹さん…? それは間違いないの…?」

さやか「そうだよ…杏子にカマかけたらすんなり認めたんだ…。得意げに、開き直ってさ…!」

マミ(逆…じゃないのかしら…)

マミ「……。『彼』にもちゃんと事情は聞いてるの…?」

さやか「…学校で会った時、顔に痣があってさ…どうしたのか問い詰めたんだ…
  その時ははぐらかされたけど…そんなの杏子に口止めされたからに決まってる…」

マミ「…佐倉さんは自分の口から『彼を殴ってる』って話したの…?」

さやか「…うん」

マミ「本当に…?」

さやか「…そうだよ。『頼まれて殴った』なんて苦しい言い訳してたけど…」

マミ(あ…例の彼、エスとエムを両方兼ね備えてるのね…)

マミが浄化の終わったソウルジェムを渡した

マミ「…美樹さん。まずは深呼吸して、冷静になったほうがいいわ」

さやか「……」
310: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:41:18.13 ID:JxoyR7tu0
マミ「これは私の想像だけど…、多分、佐倉さんは嘘なんてついてないと思うの…」

さやか「…? どういうことよ…」

マミ「彼にはあなたに知られたくない秘密があるの」

さやか「…何よそれ…。恭介は杏子に秘密を知られたから言いなりになってるって言うの…?」

マミ「ううん。これは恋人にしか打ち明けられない秘密なのよ…
 とってもデリケートな問題だし、私の口から教えちゃう訳にもいかないわ」

さやか「マミさんは知ってるんだ…」

マミ「うん…彼のこと、何度か相談されてね…。佐倉さん、その件でよく悩んでたから…
 その時は、彼が美樹さんの好きな人だなんて思いもしなかったけれど…」

さやか「…その『秘密』は、杏子に殴られなきゃいけない理由と何か関係ある訳…?」

マミ「…そうよ」

マミ(あの子達にとって、傷つけ合うことは抱き締め合うのと同じことなの…)

さやか「だったら教えて。恭介の秘密…」

マミ「駄目よ。本当なら私も知っちゃいけないことだったはずだもの」
311: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:42:01.46 ID:JxoyR7tu0
さやか「じゃあマミさんは恭介を見殺しにしろって言うの?

  どういう事情があるのか知らないけど、
  その為に恭介が苦しむことになるならほっとけないじゃんか…

  あたしは杏子とは違う…

  どんな秘密を知ることになったって、絶対に恭介を傷つけたりしない…
  あいつがあたしに黙って背負ってるもの、あたしが解決してみせる…」

マミ(美樹さん…)

マミ「あなたはやっぱり優しい子ね…。だけど、本当に彼を想うなら、
 そっとしておいてあげなさい…彼はきっと、今のままが一番幸せなはずだから」

さやかは涙目のまま頬を膨らました

さやか「…結局、マミさんも杏子の味方なんだね…」
312: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:42:42.25 ID:JxoyR7tu0
マミ「そう怒らないで。美樹さんのことだって同じくらい大事よ
 だけど、こればっかりは誰も邪魔しちゃいけないの

 美樹さんの悔しい気持ちもわかるけど、ここは1つ大人になってあげてくれない?」

さやか「…全然納得いかないんだけど」

マミ「…あなたもいつか知ることになるかもしれないわ
 その時が来たら、きっと彼のこと、今までと同じ目では見られなくなるよ」

さやか「……」

マミ「そんな彼と対等に付き合えるのは、佐倉さんだけなの
 …あの子にも、同じような秘密があるから…」
313: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:44:34.07 ID:JxoyR7tu0
――――――――
――ホテル一室

杏子がシャワーを浴びながら俯いている

杏子(きっとさやかはまた突っかかって来る…
 あたしがあいつと付き合ってる限り、何回でも…)

杏子「……」

杏子(…口で説明して誤解を解いたら、ちっとはおとなしくなるのか…?
 でもそれで『はいそうですか』って引き下がるとも思えない…
 あいつは結局、恭介とくっ付きたいだけだろうから…)

水のしたたる髪をかき上げた

杏子(…さやかには、あいつの相手は務まらない…変態の気持ちなんて理解できないだろ…
 …『あたしのほうが沢山殴られてる』って言ってもどうせ信じやしないし…
 そもそもあいつが変態だってこと、さやかにバラしていいのか…?)

QB「悩んでるのかい?」

杏子「!」

浴槽の淵の上にキュゥべえが座っている

杏子「…何だよ。びっくりするじゃんか」
314: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:45:18.55 ID:JxoyR7tu0
QB「とうとうさやかとぶつかってしまったね」

杏子「…見てたのか?」

QB「いや、僕はマミからテレパシーで聞いただけさ。さやかが家に助けを求めて来たらしい
 消滅寸前のソウルジェムを抱えて、血液まみれでね」

杏子「…あいつが悪いんだ。ああでもしなきゃ、あの場は収まらなかった」

QB「ああ。君を責めるつもりはないよ、杏子」

杏子は体を洗い始めた

杏子「だったら何しに来たのさ?」

QB「さやかを打ちのめしたことを後悔していないかどうか、確かめに来たんだ」

杏子「なんであたしが後悔なんかするのさ?」

QB「マミと打ち解けてからの君は、家族を失う前の君と似ている」

杏子「……」

QB「独りだった頃は本当にすごかったね
 今の君からは想像も及ばないようなことをやっていたよ」

杏子が手を止めた
315: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:46:15.81 ID:JxoyR7tu0
(ヤクザ『何モンだテメェ!』)

(ヤクザ『ぶっ殺すぞオラァ!!』)

杏子「……」

(杏子『――金置いてとっとと失せろ!』)

(ヤクザ『!!』)

杏子「…ああするしかなかったんだよ。他に生き方なんてわからなかった…」

(杏子『…ふーん。これが防弾ジャケットか。面白いじゃん。借りてくよ』)

(ヤクザ『テメェ…手足1本で済むと思うなよ。お前の仲間や家族は全員地獄見るからな』)

杏子「……」

QB「まさか君が暴力団の所へ1人で乗り込んで行くとはね
 全く予想外ではあったけど、ああいう選択も魔法少女ならではだ」

杏子「……」

(杏子『…ふん。チョロいもんじゃん…こんなに簡単なことなら金には一生困らないね
  なんでもっと早く気付かなかったんだか……』)
316: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:47:33.25 ID:JxoyR7tu0
杏子「…あたしは、代償としては大きすぎるものを支払っちまったんだ
 魔力と引き換えに、家族も住む家もなくした…
 それならあとは『この力をどれだけ有効に使えるか』ってだけの問題じゃん?」

QB「その考えは、今も変わってないんだね?」

杏子「…失った分は一生かかっても取り返せない
 …だからあたしは、あくまでも自分の望みを叶える為にこの力を使い続ける…」

キュゥべえが立ち上がる

QB「わかったよ。その言葉を聞けて安心した。これからもよろしく頼むよ、杏子」

言い終わってすぐ、物陰に消えた

杏子「……」

杏子(…他人の為に魔法を使うとロクなことにならない…
 あたしは事前に忠告したんだ。それをさやかが勝手に破っただけだ…)

泡の付いた体を見下ろす

杏子「……」

杏子(でも、坊やを奪っちまったのは、『魔法』じゃなくてあたしだ…
 あたしは恭介にベタ惚れされて、キスされて、抱かれて…)

唇が震えた
317: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:48:31.24 ID:JxoyR7tu0
杏子(…あたしでよかったのか…? もしあたしが関わらなければ、
 あいつはさやかとくっ付いてたんじゃないのか…?)

(さやか『本当は恭介のこと、大して好きでもないくせに!』)

杏子「……」

杏子(…確かにあんたには負ける…。あたしはただ、『好きだ』って思われるのが嬉しくて、
 喜ばれるのが気持ちよくて…だから女として、この体をあいつの好きにさせたんだ…)

恭介にされたことを1つ1つ思い起こし、目を閉じた

杏子「……」

杏子(…あいつに犯された時、『この瞬間がずっと続けばいいのに』って思った…
 …勝手に力が入って、勝手に声が出て…。あの何かが壊れそうになる感覚…)

目を泳がしながらまばたきを繰り返す

杏子(体が覚えちまったんだよ…)

震える指を胸に食い込ませた

杏子「……」
318: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:49:23.49 ID:JxoyR7tu0
杏子(もっと味わいたい…。後になって思い出すほど『物足りなかった』って思っちまう…)

呼吸が少し乱れた

ためらいながら、股の間に手を滑り込ませる

杏子「……」

目を閉じて顔を逸らした

杏子(…いいじゃんかよ…。あいつだってあたしの体が欲しいんだ…
 あたしの裸を見て嬉しそうな顔してた…。あたしのことを『可愛い』って言った…)

膝から崩れ落ち、薄く目を開けた

備え付けのカミソリを分解し、震えながら首の下に当てた

杏子「……」

胸の中間をじわじわと縦に傷つける

深く息をついて、頭を後ろに垂らした

杏子(気持ちいい…)

刃を投げ出し、2本指で血を舐めた

そのまま指を噛み締める
319: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:50:15.72 ID:JxoyR7tu0
杏子「っ……」

息が荒くなっていく

生唾を飲み込み、浴槽に頭をぶつけた

痙攣しながら仰のけに倒れ、膣に中指を入れた

杏子「んっ…」

肩に爪を立てる

膝を引き付けて膣の中を力一杯いじった

杏子「ああっ…!」

激しく息を切りながら声を上げる。涙が滲んだ

体が自然にのた打ち回った

杏子「うぅ…!」

床に頭を叩きつけ、ゆっくりと目を開けた

杏子「はぁ、はぁ…」

杏子(…足りない…)

左手の指輪を見つめる
320: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:51:07.09 ID:JxoyR7tu0
杏子「……」

杏子(何やってんだ、あたし…)

耳を塞ぐように頭を抱え、背中を丸めた

杏子「くそ…」

杏子(…恥ずかしい所も、犯される姿も見られた…
 『やばいことされてる』って思ったけど、気付いたらあたしも笑ってた…
 …あたしはあいつとのセックスが楽しかったんだよ…)

ソウルジェムを出してため息をついた

杏子(…さやかの奴も、こんな思いがしたかったんだろうな…
 ……いや。さやかならもっと喜んだだだろう…
 あいつのこと、よっぽど好きみたいだから…)

血を吐いて悲鳴を上げるさやかの姿が蘇った

杏子「……」

杏子(…かわいそうなことしちまった)
321: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:53:28.31 ID:JxoyR7tu0
――――――――
――2033年 冬 恭介の家

恭介(――とうとう10年か)

ウィスキーの瓶を持ったまま、口をつけずに泣き続けている

恭介「……」

恭介(コーデリア・ガーデンの2号館が建って以来、何一つ進展がない
 私が救ったのは、ほんの一握りの孤児だけだ。…『世界』は、あまりにも遠い)

恭介「……」

恭介(…長いこと資金集めに躍起になっていたが、
 どんなに事業を拡大しても、増えるのは仕事と金と敵ばかり
 …気付けば私自身がすっかり悪の人間だ)

(仁美『あ…悪魔…!』)

(恭介『悪魔で結構!!』)

鼻で笑う恭介

恭介(…『悪魔』か。こんな男に後継者を名乗られては、佐倉神父も浮かばれないだろうな)

瓶を口につけて止める
322: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:54:53.14 ID:JxoyR7tu0
恭介(…思えば、こいつに頼るようになったのも、杏子の夢を叶える為だったな
 いつの間にか酒に溺れる理由もなくなってしまった。今では単に依存しているだけだ)

蓋をして内ポケットに入れた

恭介(恐らくここが私の限界なんだろう。1歩も前に進めないままこの歳になった
 あと何十年生きようが、世の中を変えることなんてできやしない
 …人でなしばかりの、救いようのない世の中を、な……)

皮肉な笑いがこみ上げる

恭介(そもそも貴様らに救う価値なんてものがあったのか?
 大した理由もなく傷つけ合い、自分がいい思いをする為に平気で人を落とし入れ、
 その上いかなる施しを受けても感謝一つしない)

恭介「クソだ」

――部屋の扉を蹴破った

電気スタンドで壁をぶち抜く

恭介(代わりに私が地獄を味わった…! この10年を棒に振ったのは、
 全て貴様らの為だったというのに…!!)

恭介「くそったれが!!」

椅子でテレビを壊し、茶箪笥を引き倒し、息が切れるまで暴れ回った
323: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:56:01.37 ID:JxoyR7tu0
恭介(何もかも時間の無駄だった! 『杏子の為』などという名分も、
 本当はちっぽけな言い訳に他ならなかった…! 彼女本人がいなくなったこんな世界で、
 私の苦しみを、そして失敗と成功を、一体誰が見守ってくれるというのか!!

 誰を救えというのか――!!)

――恭介は2階の手すりの支柱にネクタイを結び付け、輪を作った

恭介(こんな腐り切った何の価値もない世界なら、喜んで出て行ってやる…!
 例え地獄に落ちようとも、貴様らの顔を見るより遥かにマシだ!)

ダガーナイフで床に文字を彫り込んだ

『Demon Fucked』

脚立に上がり、首を輪に通す

恭介「……」

恭介(…終わりだ…!)

体重を支えていた脚立を蹴った

恭介の体は完全に宙に浮き、手足の届く範囲には何もなくなった
324: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:57:03.74 ID:JxoyR7tu0
――――――――
――2011年 マミの家。外は土砂降り

杏子がテーブルに肘をついてうなだれている

杏子「……」

ほむら「……」

マミが手作りケーキを運んで来た

マミ「さあ、2人とも暗い顔しないで。こんな天気だからこそ頑張り時だよ
 気は重くなるけど、景気付けに食べて行きましょう?」

杏子「…ああ」

マミ「ね? ケーキだけに」

ほむら「……」

杏子「……」

マミ「…佐倉さん?」

杏子「ん…?」

マミ「美樹さんのことが心配なの?」
325: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:57:47.43 ID:JxoyR7tu0
杏子「…!」

マミ「…この話は後でね。美味しいものを食べる時は楽しむことが一番大事だもの」

杏子「…さやかから聞いちまったのか?」

マミが目を閉じてうなずいた

杏子「……」

ほむら「…?」

マミ「…やっぱり、先に解決しちゃったほうがよさそうね」

蓋をかぶせてケーキを床に置いた

マミ「まずは謝ってくれるかしら?」

杏子「…ああ。悪かったよ」

ほむらが脚を組み替えて2人を順番に見た

ほむら「外したほうがいい?」

杏子「…いや、いいよ」

マミが紅茶を一口飲んだ
326: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:58:21.86 ID:JxoyR7tu0
杏子「黙ってたけどね…、あたしが付き合ってる奴、さやかが前から惚れてた男なんだ…」

ほむら「!」

杏子「…さやかがあたしにキレてるのはそのせいだ
 昨日あいつが現れたのは、あたしをぶっ飛ばす為だった」

ほむら「……」

杏子「あたしはやり合うつもりなんかなかったよ。でもさやかは勝ち目がないってわかってて
 何度も斬りかかって来た。最後には卑怯な手まで使って、あたしを殺そうとした…」

マミ「……」

杏子「…それでプツンと来ちゃってね。あいつを死ぬ1歩手前まで痛めつけたんだ…」

杏子は少し目を泳がすと、皿のほうを見た

杏子「…食っていいか?」

マミが呆れたように笑った

マミ「ええ。いいわよ」

ケーキを切り分けるマミ
327: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:59:04.67 ID:JxoyR7tu0
杏子「…あたしね。正直どっちが悪いのかわかんなくなって来ちまったんだ…
 全部あいつの自業自得だって考えるようにしてたけど、
 その気になればさやかを助けてやることだってできたはずだ…」

マミ「うん…」

杏子「…あたしとあいつは同類みたいなもんだ。他人の為に願い事を使っちまった大馬鹿野郎さ
 …でも、あいつの祈りを間違いにしちまったのは、このあたしだ…」

ほむら「……」

杏子「昨日のあれで、なんとなくわかったんだよね
 さやかの奴がどれだけ馬鹿で、純粋か…、どんなに『あいつ』のことを想ってるか…
 …その気持ちばっかは、あたしは勝てる気がしない」

杏子は差し出されたケーキにフォークを刺した

杏子「…あたしは結局、ただイチャつくだけの関係だ…」

マミ「…彼と別れるつもり?」

杏子「…まぁ、そのうちな…」
328: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 13:59:52.78 ID:JxoyR7tu0
マミ「……。あなたがきっぱり割り切れるのなら、そのほうがいいのかもね…
 美樹さんと仲直りするきっかけになるかもしれないし…。暁美さんはどう思う?」

ほむら「反対はしないわ。漫才が見られなくなるのは少し寂しいけれど」

ほむらがティーカップを持ち上げ、紅茶を冷ます

ほむら「…それにしても、あの少年がエスだったなんて…。見た目によらないものね」

杏子(『少年』…? 同い年だろ…?)

マミ「あら。暁美さんは美樹さんの好きな人、知ってたの?」

ほむら「…『知っていた』というより、『気付いていた』だけよ」

杏子「わかりやすいからな、あいつ…」

ほむら「…そういえば、今日も学校で見なかったのだけれど」
329: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:03:15.42 ID:JxoyR7tu0
―――――――――
――恭介の家

恭介「――え…昨日から…? 本当ですか…。わかりました…すみません」

恭介は電話を切った

恭介「さやか…」

恭介(あれから家にも帰ってないなんて…)

窓の外を見つめる

恭介(…さやかの行きそうな所…。何件か当たってみよう…)


――家の前
ブラウスの上にカーディガンを着たさやかが手ぶらで立ち尽くしている

さやか(あたし…たった1人の好きな人も守れないで…
  これから恭介にどんな顔して会えばいいんだろ…)

恭介が大きな傘を差して出て来た

さやか「…!」

恭介「!」

恭介(さやか…!)
330: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:03:58.82 ID:JxoyR7tu0
さやか(恭介…)

恭介「……」

さやか「……」

恭介「…心配したんだけど」

さやか(…な、何よ…その言い方)

さやか「…あっそう。そりゃどうも」

恭介(…いきなり嫌味…?)

恭介「……」

恭介はさやかを横目に見張りながらインターホンを押した

母「はい、どちら様?」

恭介「…母さん。さやかが来てる。ずぶ濡れなんだ。入れていいよね?」

母「あら、さやかちゃんが? どうぞ上がっていただきなさい」

恭介「タオルと着替えをお願い…」

さやか「ん…別にいいわよ…」

恭介がさやかを傘に入れた
331: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:04:34.55 ID:JxoyR7tu0
恭介「いいからおいで」

さやか「…どっか行くんじゃなかったの? あの子のとこじゃないの?」

恭介(くっ…僕は君を探そうと思って……!)

恭介「…さやかこそ何をしに来たんだ? 風邪を引く所でも見せに来たのか」

さやか(なっ…。何だって言うのよ…あんたのこと心配で来たのに…!)

さやか「別に。あたしはただここ通りかかっただけ。あんたに用なんかないわ」

恭介(僕がどんなに心配したか…!)

恭介「…元気そうで何よりじゃないか。学校をサボってどこに行ってたんだ?」

さやか「……」

恭介「明日はどんな理由で休むつもりだ」

さやか「…! うるさいな。あんたには関係ないでしょ」

恭介「……とにかく入って。傘、貸すから」

さやか「大きなお世話だって言ってんのよ。早く杏子のとこ行けば?」

恭介「さやか…」
332: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:05:22.73 ID:JxoyR7tu0
さやか「帰るわよ。馬鹿」

さやかが走り出す

恭介「!」

恭介が傘を放り捨ててさやかの手を掴んだ

カーディガンの袖が少し余っている

さやか「触んないで!」

恭介「何だよ!」

さやか「馬鹿!」

恭介「さやか!!」

さやかが力ずくで手を振り解いた

恭介はさやかを思い切り突き飛ばした

さやか「!!」

濡れた地面に尻もちをつく

恭介が苦しそうにさやかを抱き上げた
333: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:06:19.80 ID:JxoyR7tu0
さやか「ちょ…! ちょっと、何よ! やめてってば!」

恭介(大丈夫だ、杏子より軽い…!)

歯を食いしばって家に入っていく

さやか(大して力ないくせに…!)

さやかを落とさないように玄関を開けた

恭介の母が面食らっている

母「! ちょっと何てことしてるの、さやかちゃんに!」

恭介「…具合が悪いみたいなんだ。少しベッドで寝かせる」

母「それなら早くお家に送らないと…! ねぇ、そんな乱暴にしないの。恭介!」

恭介「お願いだからほっといて!!」

母「…!」

――恭介が息を切らしながらさやかを部屋に入れた

さやかは靴を履いたまま床に立った

さやか「馬鹿じゃないの!?」

恭介「そこに座って」
334: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:07:09.82 ID:JxoyR7tu0
さやか「やだよ。濡れてるもん」

恭介「後で掃除するからいいよ」

さやか「やだ!」

恭介「なら服を脱いでくれ」

さやか「は!?」

恭介「もう…!」

恭介がさやかを無理やりベッドに座らせてカーディガンのボタンに手をかけた

さやか「放して!」

恭介「風邪を引きたいのか!」

さやか「だから帰るって言ってんでしょ!?」

さやかが恭介の手を引き離した

恭介「! …服を脱ぐんだ」

さやか「最っ低!」

恭介はため息をついて部屋から出た

さやか「……」
335: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:07:49.76 ID:JxoyR7tu0
さやか(なんで…? なんでこんなことするの…? あたしが一体何したって言うの…?)

恭介がバスタオルとスウェットを抱えて戻って来た

恭介「頼むからおとなしくしてくれ…!」

さやか(くっ…!)

さやか「ふん…。あたしとエッチしたいんだ。そんなにやりたきゃ勝手にやれば?
  あんな怪我してても病院でしちゃうだけあって見境ないんだね。さすが…」

恭介「…!!」

さやか「あたしあんたなんかに興味ないんだけど。警察でも呼んで欲しい訳?」

恭介(本当にもう…!)

恭介「黙っててくれ」

恭介がしゃがみ込んでさやかの足を持ち上げた

さやか(えっ嘘!?)

咄嗟に恭介を蹴る

恭介「痛っ…!」

さやか(ま、待ってよ…本気じゃないよね…?)
336: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:08:30.41 ID:JxoyR7tu0
恭介「……」

恭介は呆れながら、さやかの靴下を脱がして濡れた足をタオルで包んだ

さやか「あ……」

さやか(…あたしの馬鹿…)

さやか「いいよ…自分で拭くから」

恭介「……」

さやか「……」

さやかは頬を脹らました

さやか(気持ちいい…)

恭介(少しはさっぱりしたかな…)

恭介「…着替え終わったら呼んで……そこにいるから」

恭介が部屋を出る

さやか「…ありがと」

――さやかはスウェットに着替えて扉を開けた

さやか「…お待たせ」
337: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:09:10.36 ID:JxoyR7tu0
恭介「……」

さやか「…何」

恭介「…僕が手を出すと思うなら、母さんの前で話すか…?」

さやか「…ううん…」

ベッドに並んで腰掛ける

さやかはヘアピンを外して髪を拭き始めた

恭介「…さっきはごめん。乱暴して…」

さやか「…あたしこそ、ローファーで蹴っちゃって…」

恭介「…それより、なんで傘も差さずに家の前にいたの?」

さやか「ん…恭介こそ、いつまでこうしてるのよ…
  どうせ杏子に会いに行くとこだったんでしょ…」

恭介「……」

恭介(どうしてさやかはそんなことしか考えられないんだ…)

さやか(…やっぱりそうだった…)

さやかの目に涙が溜まる
338: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:09:47.87 ID:JxoyR7tu0
さやか(殴られるってわかってて、どうして会いに行っちゃうの…?)

恭介「…さやか?」

さやか「……」

さやかが鼻をすすった

恭介「さやか…」

さやか「……」

恭介がさやかの顔を覗き込む

恭介「泣いてるの…?」

恭介の肩に目を伏せるさやか

恭介「…?」

さやか「…行かないでよ…」

恭介「……」

さやか「もう行かないで…。もう杏子と会わないで…!」

声が震えた

恭介(これが本音か…)
339: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:10:35.18 ID:JxoyR7tu0
恭介「…ごめん」

さやか「恭介…」

泣き声にしゃっくりが混じる

恭介(さやか……)

恭介が無意識に手を伸ばした

しかし、どこへやっていいかわからなかった

さやか「…うぅ…」

さやかが震える手で恭介の服を引っ掴んだ

さやか「お願いだから行かないで…!」

恭介「……」

さやか「行かないでよ…! あたし、恭介のこと…もう守り切れない…!」

恭介「…何を言ってるんだ…?」

さやか「杏子と大喧嘩しちゃった…」

恭介「…!」
340: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:11:29.70 ID:JxoyR7tu0
さやか「でもあたしなんかじゃ全然敵わなくて…
  『あんたは恭介の力になれない』って言われてさ…」

恭介「だ…大丈夫…? 怪我は…?」

さやか「…ねぇ、あたしの気持ちわかってよ…! これ以上恭介が傷つくとこ見たくないよ…!」

恭介に甘えるようにむせび泣く

恭介(『傷つく』…?)

恭介「…さやか。僕は傷ついてなんかいないよ…」

さやか「何言ってんのよ…! こんな痣作っといてさ…!」

恭介(…あぁ…さやかは、僕がいじめられてると思ってるんだ…)

恭介「…僕のことなら心配ないよ…。杏子とは、上手く行ってるから…」

さやか「上手く行ってないじゃんか…! 杏子があんたのことどう思ってるかわかってるの…!?」

恭介(やめてくれ…)

恭介「ああ、もちろん…」

さやか「だったら…! だったら付き合う必要なんかないじゃん…!!
  別れてよ…杏子と別れて…!」

恭介(違うんだよ…)
341: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:12:08.29 ID:JxoyR7tu0
さやか「…別れて…!」

恭介「……」

恭介がためらいながらさやかの頭を撫でた

恭介「…それはできない…」

さやか「なんでよ…!」

ほとんど声が出なかった

恭介「杏子には大切にされてるよ…」

さやか「嘘だよ…!」

目を逸らして首を振る恭介

恭介「本当なんだ…」

さやか「…恭介のこと殴ったもん…!」

恭介「! …それは…」

恭介は深呼吸して、さやかの背中を何度か叩いた

恭介「ああ…それは事実だよ。昨日はごまかそうとしてごめん…」

恭介(…具体的に話すしかなさそうだ…。さやかに隠し通せることじゃない…)
342: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:12:50.97 ID:JxoyR7tu0
恭介「…僕は、杏子にそれ以上のことをしてる…」

さやか「…?」

恭介「…階段から突き落としたり、顔を何度も殴ったり、
 床に叩きつけたり、肩とか噛み切ったりさ…」

さやか「…そんなことまでされたの…?」

恭介「だから…。『僕が』してるんだよ…」

さやか「…え…?」

恭介がため息をつく

恭介「…彼女は、マゾヒストなんだ…」

さやか「……」

恭介「……」

さやか「…それ言うなら『サディスト』じゃなくて…?」

恭介(頼むから1回でちゃんと聞いてくれ…僕の口からは言いたくなかったのに…)

恭介「…それは僕のほうなんだよ…」

さやか「……」
343: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:13:41.55 ID:JxoyR7tu0
恭介「…さやかには教えたくなかった」

さやか(う…嘘…)

さやか「恭介…」

恭介「…何だい」

さやか「…嘘でしょ…?」

恭介「…嘘じゃない」

さやか「……」

恭介「…痛めつけられると、なんだか何倍にもして返したい衝動がこみ上げるんだ…
 杏子は多分、それをわかってるんだと思う…。だから初めに僕を殴ったりする…
 …杏子の体には、見えない所にもっと深い傷があるよ…」

さやかが恭介を見つめたまま少し遠ざかった

さやか(恭介の『秘密』って……これだったの…?)

恭介「…完全に見損なったろう…?」

さやか「……」

手を放して下を向く
344: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:14:35.78 ID:JxoyR7tu0
さやか「…杏子とエッチしてるんだ」

恭介「……」

さやかは無意識に裸で抱き合う2人を想像した

さやか(うう……!)

中指の指輪から聞き慣れない音がした

さやか「!?」

ソウルジェムに変えて確認する

さやか(! …ソウルジェムが…!)

急激に濁っていくのが見えた

恭介「…それは…?」

さやかは軽いパニックに陥り、宝石を床に投げ出した

さやか(助けて…)

さやか「恭介……」

恭介「うん…?」

震えながら恭介と目を合わせた
345: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:15:23.84 ID:JxoyR7tu0
さやか(止めて……!)

過呼吸が始まる

恭介「さやか…?」

さやか「お願い…」

涙の粒が大きくなった

恭介に抱き付く

恭介「…!」

さやか「『好き』って言って…」

恭介「……え?」

さやか「嘘でもいいから…!」

恭介「…さやか…」

さやか「うっ…うぅ…!」

恭介(…僕は…)

脱力したまま抱き返した
346: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:16:27.99 ID:JxoyR7tu0
恭介(さやかのこと、全部知ってるつもりだった…)

恭介「…好きだよ」

さやかが泣き声を上げた

さやか「…もっと」

恭介「…好きだよ…。大好きだ…」

さやか「…もっと…!」

恭介も涙がこみ上げた

恭介(…残酷すぎる…)

恭介「…好きだよ。さやか」

さやか「…うぅ…! あぁ…!!」

か細い悲鳴。さやかが目の色を変えた

恭介「……」

恭介(…報いなのか…? さやかを沢山悲しませたから…
 誰よりも信頼し合った親友なのに…僕が最低の形で裏切ったから…)
347: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:17:14.78 ID:JxoyR7tu0
恭介「…愛してるよ、さやか…」

さやかが詰め襟に顔をうずめる

さやか「…あたしも…。好きだよ…」

恭介「……」

さやか「…スキ…!」

恭介は涙をこぼした

さやか「恭介……」

恭介(杏子…)

恭介「……」

さやか「あたしのこと、好き…?」

恭介「…ああ」

さやかが泣き顔のまま息を切らして恭介の目を見た

さやか「…なんで泣いてるの…?」

恭介(…? …君は、誰だ…?)
348: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:18:02.60 ID:JxoyR7tu0
恭介「わからない…」

恭介(知り合いにこんな子はいないはずだけど…)

さやか「……」

恭介(さやか…、君なのか…?)

さやか「恭介…」

恭介(聞いたこともない声だ…)

さやか「エスなんでしょ…?」

恭介「……」

さやかが耳打ちする

さやか「殴って…」

恭介「……」

さやか「いっぱい殴って…?」

恭介(誰なんだ……)

指先が震えた
349: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:18:45.84 ID:JxoyR7tu0
恭介「…さやかだよね…?」

さやか「…うん」

恭介「さやか…」

さやか「何…?」

恭介はさやかの顔を指で探りながら瞳を見つめた

恭介(あのさやか…なのか…?)

さやか「恭介…?」

恭介「……」

目を逸らす恭介

さやか「見て…」

さやかが恭介の顔を引き戻した

さやか「もっと見て…」

恭介「…見てるよ」

さやか「ちゃんと見て…!」

恭介(…これがさやかの『本性』みたいなものなのか…?)
350: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:19:39.02 ID:JxoyR7tu0
恭介「ああ、見てるよ…さやか…」

さやか「……」

嫌な予感がした

さやか「…もう1回…」

恭介「…?」

さやか「『愛してる』って言って…?」

恭介(…僕は…地獄にいるのか…?)

恭介「…ああ。…愛してる」

さやかが悲しい目のまま笑った

さやか「…嬉しい…」

恭介(苦しい……まるで殺し合いだ…)

さやかが両腕を袖の中に引っ込めた

恭介「……!」

スウェットを脱ぎ捨てる
351: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:20:11.52 ID:JxoyR7tu0
恭介(どうしてなんだ…)

さやか「見て……」

恭介「…さやか」

さやか「ん…?」

恭介「何してるの…?」

さやか「恭介が『脱げ』って言った…」

恭介(…さやか…。まさか、頭が……)

恭介「…ここはどこ?」

さやか「恭介ん家…」

恭介「君の名前は…?」

さやか「…美樹さやかですけど…?」

恭介「…大丈夫…?」

さやか「……」

さやかが床に落ちた宝石を見た
352: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:20:57.56 ID:JxoyR7tu0
さやか「…大丈夫」

恭介「…脱がなくていいよ」

さやか「……」

さやかはしばらく迷って、下着を外した

恭介(どうすればいいんだろう…)

さやか「…あたしを見て…」

顔だけを見つめる恭介

恭介「……」

さやか「恭介のこと、好きなんだよ…?」

恭介「……」

さやか「恭介は…?」

恭介(さやかのことは、もちろん好きだよ…。でも、こんなのは違う…)

恭介「…やめよう、さやか…」

さやかは下を向いた
353: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:21:45.41 ID:JxoyR7tu0
さやか「……」

ふらつきながら立ち上がり、スウェットのズボンを下着ごと脱いだ

恭介「さや……」

さやかが恭介の前で裸になるのは9年ぶりだった

さやか「…見てよ…」

恭介「…見てるだろ…」

さやか「もっと見て…もっと…」

恭介「……」

恭介(さやかは…冷静に見ればスタイルはすごくいいし、指も長くて、綺麗だと思う…
 でも…やっぱり僕は、どうしても偏ったイメージでしかさやかを見られない…)

さやか「……」

恭介(僕の目には、うちで母さんとお風呂に入ってた頃と同じようにしか見えないんだよ…)

恭介「さやか……」

さやか「うん…?」

恭介(…これ以上さやかを傷つけたくない…。でも何を言えば傷つけずに済むんだ…)
354: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:22:23.73 ID:JxoyR7tu0
恭介「どうしてほしい…?」

さやか「……」

さやかは視線を落として考えた

さやか「…触って」

恭介「……」

恭介(なんで聞いちゃったんだろう…)

恭介「…おいで」

さやか「うん…」

さやかが恭介の隣に腰掛けて、膝の上に横になった

猫を可愛がるようにさやかの頭を撫でる

恭介(僕のせいだ…僕がさやかをここまで追い詰めたんだ…)

恭介「…さやかのこと、好きだよ…」

さやか「…ありがとう…」

恭介「でも…、僕の知ってるさやかは、こういう子じゃない…」
355: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:23:08.08 ID:JxoyR7tu0
さやか「……」

恭介「…明るくて意地っ張りで、わかりやすくて、調子よくて、喧嘩っ早くて……」

さやか「……」

恭介「…優しくて、頑張り屋で、単純で、傷つきやすくて…」

恭介の手が止まった

恭介「…どうしちゃったんだ…。いつものさやかはどこにいるの…?」

さやか「……」

恭介「何だか、さっきからまるで知らない人と話してるみたいなんだ…
 僕が沢山ひどいことして来たから、壊れちゃったのか…?」

さやか「恭介…?」

恭介「『さやか』に会いたい…」

涙声だった

さやか「……」

恭介「…さっき家を出たのは、さやかを探しに行く為だったんだ…」

さやかが鼻をすすった
356: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:23:52.52 ID:JxoyR7tu0
恭介「…ずっと自分を責めてた…。さやかをないがしろにして、
 さやかに隠し事して、黙ってさやかの友達と付き合って、苦しい思いさせたから…」

さやか「……」

恭介「…でもさ…。もし杏子が現れなくても、僕はさやかの気持ちに応えられたかわからない…
 さやかは僕にとって、親よりも近い存在で…」

さやか「……」

恭介「『家族』っていうのかな…。世界中の誰よりも大切な…
 …ううん。それも違う…。やっぱり、さやかはさやかでしかない…

 誰かに『さやかってどんな人?』って聞かれたら、僕は正確に説明できない…
 友達とか幼馴染とか、そういう言葉では、とても言い表せないんだ…
 …ただひたすら『さやかなんだよ』って答えるしかない…」

さやか「……」

恭介「…今までこういう機会ってなかったよね…。さやかには、僕の気持ち伝わってたのかな…」

さやか「……?」

恭介「…恋人にはなれない」

さやかはまぶたを半分閉じた
357: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:24:29.22 ID:JxoyR7tu0
恭介「今ここでキスしたり、それ以上のことをしたら、
 さやかとの距離は取り返しがつかないほど遠くなってしまう気がする……
 もしさやかと付き合っても、お互い気を遣ってギクシャクしちゃうと思うし…」

さやか「……」

恭介「…さやかは一番の仲良しだ…。僕が一番素直になれる相手も、やっぱりさやかだ…
 さやかが好きになってくれたのは、きっと、そういう僕なんだと思う…」

さやかが起き上がった

さやか「……」

恭介「僕にはもう彼女がいるけど……だからって、僕はさやかから離れたりしないよ…
 いつだってさやかの一番近くにいてあげる…
 さやかが困ってる時は、杏子を置いてでも真っ先に駆け付けるよ…。約束する…」

さやか「……」

恭介「だからさやかも、そばにいて…」

さやか「……。恭介は、あたしと杏子、どっちが大事なの…?」

恭介「…さやかと杏子を天秤にかけることはできない…。どっちも大切だ…
 さやかは『父親と母親、どちらか1人を捨てろ』って言われたらどうする…?」

さやか「…そんなの、例え話になってないよ」
358: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:25:19.15 ID:JxoyR7tu0
恭介「……」

さやか「恭介はずるいよ…。『2人とも選ぶ』なんて…」

恭介「…ひどいことしてるのはわかってる…本当にごめん…」

さやか「……」

恭介「…目標が出来ちゃったんだ」

さやか「…何?」

恭介「…杏子の夢を叶えること…」

さやか「……」

恭介「必ず成し遂げるって誓ったんだ…。杏子にも、自分自身にも…」

さやかは俯いたまま頬を膨らました

恭介「…さやかの夢は?」

さやか「え…?」

恭介「さやかは命を懸けて成し遂げたいことって、ある…?」
359: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:25:45.73 ID:JxoyR7tu0
さやか「あたし…」

バイオリンのケースを見つめるさやか

さやか「…あたしの夢…」

強く目を閉じて震えた

さやか「もう…、叶ったよ…」

恭介「えっ……?」

さやか「恭介のバイオリンが聴きたかったんだ…」

涙がぽたぽた垂れた

恭介「さやか…」

さやか「もう一度、恭介にバイオリンを弾いてほしかった…
  恭介の演奏を、もっと大勢の人に聴いてもらいたかった…!」

恭介「うん…」

さやか「だから…!」

息が詰まる

恭介は思わずさやかを抱き締めた
360: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:26:30.16 ID:JxoyR7tu0
恭介「うん…」

さやか「うぅ…!」

恭介「ありがとう、さやか…」

さやか「恭介…!」

恭介「無駄にしない…」

さやか「うっ…! ううぅ…!」

耳元でさやかが泣きじゃくる

恭介「今日のこと、一生忘れないよ…」

さやか「うわぁあ…! ああぁ…!」

恭介も息が詰まった

さやかの肩に涙が落ちていく

恭介「…死ぬまでバイオリンを弾き続ける…さやかの為に…」

さやか「うん…」

恭介「さやかの思いも、きっと世界中に届けてみせるから…」
361: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:27:26.59 ID:JxoyR7tu0
さやか「うん……!」

2人は抱き合ったまま泣いた

――しばらくして、さやかが我に返った

さやか「――なんか…ごめんね」

恭介「…?」

さやか「あたし、何か見失ってたみたい…」

恭介「……」

さやか「…そうだよね…。恭介は、これからもそばにいてくれるんだもんね…」

恭介「…ああ。当たり前だよ」

さやか「それだけで充分だよ…」

さやかは少し寂しそうに笑った

恭介「あ……」

さやか「どうしたの?」

恭介「いや…」

恭介が鼻を掻いた
362: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:28:14.03 ID:JxoyR7tu0
恭介「今一瞬…、ちょっと『可愛いな』って思った…」

さやか「って、一瞬だけかい…」

恭介「あはは」

恭介(さやかだなぁ…)

恭介「…おかえり、さやか」

さやか「うん…ただいま」

恭介「…花、ありがとうね」

さやか「…?」

恭介が窓際を見た

さやかが病室で落とした花が花瓶に入っている

さやか「あ…」

恭介「…大切にしてるよ」

さやか「……。病院って何する所だっけ?」
363: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:29:10.51 ID:JxoyR7tu0
恭介(またその話か…)

恭介「ごめんって…」

さやか「恭介の馬鹿」

ため息をつく恭介

恭介「あはは…本当にね」

さやか「……」

恭介「…服、着ていいよ…」

さやか「!」

さやかは顔を赤くした

さやか「エッチ…」
364: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:30:09.42 ID:JxoyR7tu0
――――――――
――深夜 公園前

恭介とさやかが手を繋いで歩いている

さやか「――こんな時間になっちゃったね…」

恭介「そうだね。こんなに話し込むのは何年ぶりかな…」

さやか「ごめんね…遅くまで付き合わせちゃって」

恭介「…そろそろ帰る?」

さやか「うん…」

恭介「そっか」

さやか「恭介、疲れたでしょ…?」

恭介「ちょっとね。さやかこそ大丈夫?」

さやか「ううん、あたしは全然平気!」

恭介「あはは。体力あって羨ましいよ」
365: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:31:13.44 ID:JxoyR7tu0
さやか「あはは…」

恭介「…それより、父さん達が心配だな。帰ったら叱られちゃうかもしれない」

さやか「ご、ごめん…」

恭介「いいんだよ。おかげで『さやかのこと、もっと大切にしなきゃ』って思えた
 …それが一番大事なことだから」

さやか「恭介…」

さやかが下を向いて笑った

さやか「…あたしも、恭介のこともっと好きになった…」

恭介「…帰ろう?」

さやか「うん。でも、その前に…」

恭介に抱き付いた
366: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:32:12.65 ID:JxoyR7tu0
さやか「もう1回だけ…」

恭介「!」

杏子「……」

恭介(杏子……)

杏子が見ていた

恭介「……」

杏子を見つめてうなずく恭介

さやか「どうしたの…?」

恭介「…何でもないよ」

杏子「……」

杏子は少し苦いチョコレートをかじりながら背中を向けた
367: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:33:16.63 ID:JxoyR7tu0
―――――――――
――2033年 冬 コーデリア・ガーデン 礼拝室

仁美「――『コーデリア・ガーデン』の成り立ちのお話は、こんなところね
 ちょっと人数が多いので、聞きたいことがある方はまず手を挙げてください」

複数人が同時に手を挙げた

日曜学校の青年を指名する

仁美「はい」

青年「えっと…、佐倉神父の教えは、すごく面白いと思います
 入門は簡単だし、色んな人に役立つし、何だかんだ言って、やっぱり正しいと思うし…

 でも、それなのにどうして最初の代で広まらなかったんでしょうか…?」
368: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:34:55.22 ID:JxoyR7tu0
仁美「『佐倉神父の戒め』の始まりは、聖書を再解釈した上、一般の方でも受け入れ易いように
 聖書が本来目指した『天国への道』を無視して、神父独自の考え方を取り入れたものです

 これは、彼の属していた教会の方々からすれば神の否定に他ならないので、
 提唱された当初は異端的な扱いを受けていたそうです

 そのせいで本部から破門されてしまい、家族で地道に布教活動を行ったそうなんですが、
 貧しさの為もあってか、世間からはなかなか信用を得られなかったんですね」

青年は小刻みにうなずいた

仁美「他には?」

続々と手が挙がる

12歳の時にコーデリアで暮らし始めた娘を指名

仁美「はい」

娘「関係ないことでもいいですか?」

仁美「いいわよ。適当にしか答えないけど」

全体に笑いが起こった
369: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:35:52.95 ID:JxoyR7tu0
娘「院長先生って本当は何歳なんですか?」

仁美「院長先生ねぇ。何歳に見えますか?」

巴「38歳ー」

赤い髪の少女が割って入る

娘「嘘だぁ。行って30でしょう」

巴「38歳だよ」

仁美「ええ、正解ですね」

娘「嘘!?」

仁美「私、こう見えて院長より年下なんですよ」

娘「いやいや、それは嘘だよ!」

全体が更に笑った

仁美「はい、この話はおしまいね。とりあえず、真面目な質問がある方だけ手を挙げてください」

手を挙げる人数は変わらなかった
370: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:37:40.10 ID:JxoyR7tu0
――――――――
――2011年 見滝原市街地

杏子「……」

杏子が路地裏に入っていく

杏子(つけてるな…)

最後のポッキーを口にくわえ、パーカーを脱いだ

杏子「……」

地面に捨てて両手を上げる

杏子「負けを認めさせたいんだろ? だったら早く出て来なよ」

さやか「……」

杏子「…刺しなよ。あたしはあんたにそれだけのことをした」

さやかが背後から近付いた

さやか「…いつから気付いてたの?」

杏子「コンビニに入った時だ。停まってる車にあんたの姿が映った」

さやか「……」
371: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:38:21.08 ID:JxoyR7tu0
杏子「今度こそ抵抗はしない。卑怯だなんて言うつもりもない
 殺したいってんならそれでも構わない
 …とにかくあんたの気が済むまで、あたしを痛めつければいい」

さやか「…いいんだね。わかった」

さやかが杏子の1歩後ろで止まった

杏子「……」

さやか「…えい」

杏子の首筋に冷たい缶ジュースを当てる

杏子「!?」

首を押さえて振り返る杏子

さやか「…刺すと思った?」

杏子「…何だよ」

さやか「…そんなことしたらあんた喜んじゃうじゃん」

杏子「…?」
372: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:39:19.67 ID:JxoyR7tu0
さやか「…ドエム」

杏子「なっ…! テメェ…」

さやかが目を逸らしたままジュースを渡した

さやか「恭介から聞いちゃったんだ…。なんか、ごめん…」

杏子「……」

さやか「あんたの言ってた言葉の意味、やっと理解できた…
  あの時の話は全部本当だったんだって、今ならよくわかる…」

杏子「……」

さやか「…恭介に、あたしの気持ち伝えちゃった
  でも、あいつはあたしのこと、そういう目で見られないみたいでさ…」

杏子「……」

さやか「そりゃあ悔しいけど…。でも、モヤモヤしてた部分は、なんかすっきりした…
  それで、あんたにも謝らなきゃって思って…」

杏子「……」
373: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:40:13.27 ID:JxoyR7tu0
さやか「だから…その、何…。邪魔してごめん…」

杏子(…人の彼氏とイチャつきやがって)

杏子「…あいつは何て言ってる?」

さやか「…あんたのこと、好きで好きでたまらないみたい
  ……あたしとは、友達でいたいって」

杏子(振られるのかと思ったじゃんかよ…)

杏子がパーカーを拾った

杏子「…マミの奴にも頭下げな」

さやか「え……」

杏子(…見なかったことにしておこう…。多分、一生…)

杏子「…また面倒見てやるよ。仲直りだ」

さやか「…うん」

互いの顔を横目に見て笑った
374: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:41:46.27 ID:JxoyR7tu0
――――――――
――2033年 恭介の家

恭介が首を吊っている

(さやか『恭介のバイオリンが聴きたかったんだ…』)

恭介(…さやか…)

(さやか『もう一度、恭介にバイオリンを弾いてほしかった…
   恭介の演奏を、もっと大勢の人に聴いてもらいたかった…!』)

恭介(…あの日の涙は…)

(さやか『だから…!』)

恭介(『だから』…?)

恭介「……」

恭介(何て言おうとした……?)

急激に視界が狭くなった

恭介「…!!」

(恭介『…死ぬまでバイオリンを弾き続ける…さやかの為に…』)

恭介(! …私は…何をしているんだ…?)
375: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:42:38.43 ID:JxoyR7tu0
(恭介『さやかの思いも、きっと世界中に届けてみせるから…』)

恭介(バイオリン……。そうだ、私は…まだやることが…!)

首に食い込んだネクタイに爪を立てる

指の入る隙間は少しもなかった

恭介(くっ…!)

外れる気配も全くない

首に爪痕ばかり付いた

恭介(死ぬ…!!)

両手を目一杯上げる

手すりまではとても届かない

恭介「……!」

ポケットから携帯を取り出した

恭介(声は出せない…! 志筑にメールを…!)

操作がおぼつかなかった
376: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 14:44:03.43 ID:JxoyR7tu0
恭介(…間に合わない…!!)

あわただしく体中をまさぐる

背広の内ポケットに飲みかけのウィスキーが入っていた

恭介「!」

瓶を携帯に激しく打ち付ける

4回目で瓶が砕けた

血まみれの手で破片を握り、頭の後ろでネクタイを切った

ドサッ――

アルコール臭い床の上に落ちた

ネクタイを解いてのた打ち回る

恭介「はあっ! はぁ! …はぁー…!」

頭の血管が強く脈打っている

仰向けのまま、壊れた携帯を思い切り投げた

恭介「――あああああああ!!」
377: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:14:40.41 ID:JxoyR7tu0
――――――――
――2023年 都内のホテル

杏子が下着姿で化粧を直している

杏子(…魔法少女やってる以上、あいつより先に逝くのはわかり切ってる)

杏子「……」

恭介が洗面所のドアを開けた

杏子「ん?」

恭介「…いや。何でもないよ」

杏子「はは、顔が見えてないと不安か?」

恭介「……」

杏子「……」

杏子(『いつまでもあんたの前にいる』なんて、約束はできない…)

恭介「…せっかくの休暇だから、少しでも見つめていたくて」

杏子が笑った
378: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:15:14.63 ID:JxoyR7tu0
杏子「おいで。口紅やっちゃう前に」

恭介「…ああ」

杏子(さやかが連れ去られてから、こいつはかなり神経質になった
 …伝承は実話だったんだ。あれが『円環の理』…。まだ酒も買えない歳だった)

鏡の前でキスした

恭介「…歳を取らないね。23歳くらいから少しも変わってない」

杏子「そうか?」

恭介「よく年上と間違われるよ」

杏子「んー。まぁ、あたしも一応『見せる』仕事してるし、若く見えるに越したことはない」

『ワルプルギスの夜』は、魔法少女が魔獣と戦う際のアリバイ作りを目的に結成された劇団だった

リーダーは見滝原の巴マミ。名付け親は暁美ほむらだった

杏子はフラメンコダンサーとして、赤いドレスで情熱的な踊りを定期的に披露している
379: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:17:43.65 ID:JxoyR7tu0
恭介「下のバーでピアノが弾けるらしい。結構人いるけど、1曲どうかな…」

杏子「いいよ」

恭介が少し笑った

杏子「さっき部屋にシャンパンが届いたんだ。冷蔵庫に入れておいた
 下で1杯やった後、一緒に飲まない? 星でも眺めながらさ」

恭介「…ああ。そうしよう。それがいい」

――この日、杏子は恭介の子供を身篭った

妊娠の事実は、杏子本人が消滅する日まで、誰も知らずにいることになる
380: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:18:34.39 ID:JxoyR7tu0
――――――――
――2016年 冬 デパートの屋上

魔獣の群れが燃え尽きた

ほむら「……」

マミ「…消耗戦だったわね…」

さやか「……」

杏子「…さやか?」

際に立っていたさやかが後ろ向きに倒れて落ちた

杏子「さやか!!」

杏子が走り出した

マミ達が慌てて追走する

さやか「……」

杏子(気絶してやがった…!)

着地前、さやかがビルの構造物に頭を打つのが見えた

杏子は飛び降りてさやかを抱き起こした
381: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:19:01.09 ID:JxoyR7tu0
杏子「おい、さやか!」

さやか「うぅ…」

杏子「大丈夫か! 頭ヘコんだか!?」

さやか「…平気…」

マミとほむらがさやかを囲んだ

マミ「…ダイスを」

ほむら「ええ」

杏子「寝かせるぞ。いいな?」

さやか「……」

杏子「しっかりしろ…大丈夫だ、あんたならこれぐらい大したことない…」

ほむらがありったけの浄化素材を出した

3人がかりでさやかの腹に押さえつける

マミ「…耳から血が出てるわ」
382: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:19:52.45 ID:JxoyR7tu0
杏子「さやか…」

さやか「……」

マミ「誰かストックはない?」

杏子がポケットからわずかな浄化素材を出した

杏子「…これで最後だ」

マミ「…オーケー」

さやかが閉じた目から涙を流した

さやか「恭介…」

杏子「…!」

さやか「恭介は…?」

マミ「……」

杏子「……」

さやか「恭介に会いたい…」

ほむら「……」

マミ「…大丈夫だよ。すぐ会えるから…」
383: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:20:42.83 ID:JxoyR7tu0
さやか「うぅ……」

杏子「さやか…」

さやか「恭介…」

杏子(こんな時まで恭介恭介って……)

杏子が鼻をすすった

杏子「…ここだ」

ほむら「……」

さやか「恭介…?」

マミ「…?」

杏子「…ああ。ここにいる」

さやか「…恭介なの…?」

杏子は顔を逸らして口を塞いだ

声が震える
384: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:21:41.85 ID:JxoyR7tu0
杏子「…そうだよ」

マミ「……」

さやか「…そばにいるって約束したもんね」

杏子「……。ああ、約束したよ」

ほむら「頭を――」

マミ「わかってる」

マミがさやかの頭に手を添えた

杏子「さやか…」

さやか「ん?」

杏子(どうだ、マミ…?)

マミは首を振った

杏子(嘘だろ……)

杏子「…息をしろ」

さやか「ん…?」
385: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:22:29.71 ID:JxoyR7tu0
杏子「息をするんだ、さやか」

さやか「…ん…?」

杏子(鼓膜やられてるのか…?)

マミ(いいえ、多分脳の問題だと思う…)

浄化素材が次々と駄目になっていく

ほむら「……」

さやか「恭介……」

杏子「…何だ?」

さやか「…抱き締めて…?」

マミ「……」

マミが悲しそうに顔を歪めた

杏子「…テメェ、また浮気か? おい…」

杏子が泣きながらさやかを抱き締めた
386: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:23:13.92 ID:JxoyR7tu0
杏子「さあ、帰ろう…さやか。暖かい家に…」

さやか「…うん」

さやかは涙ながらに笑った

杏子「…いい子だ…」

さやか「……」

さやかの体が蒸発して消えた

杏子「…おい…!」

マミ「…美樹さん…」

ほむら「……」

杏子「くそ!」

杏子が地面を殴った

杏子「馬鹿野郎…! これからって時に消えちまうなんて……!」
387: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:23:50.06 ID:JxoyR7tu0
マミ「…仕方ないわ。これが魔法少女の運命だもの…
 この力を手に入れる前からわかっていたはずでしょう…?

 希望を求めた因果がこの世に呪いをもたらす前に、
 私達はこうやって、消え去るしかないのよ…」

杏子「さやかの奴…。やっとわかり合えたのに……」

ほむら「…まどか…!」

杏子「…?」

マミ「…?」

ほむらが赤いリボンを握り締めて泣いている

マミ「…暁美さん…? 『まどか』って…」

杏子「…誰だよ」
388: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:25:05.86 ID:JxoyR7tu0
――――――――
――2040年 恭介の会議室

ほむらが呼吸器を顔に当てて腰掛けている

ほむら「――評判は聞いてるわ。上条社長」

恭介「それは光栄だ、暁美社長。こんな歳になってもまだあなたのような美しい女性が
 私と2人っきりでビシネスの話をしたがるのだから世の中捨てたものじゃない」

ほむら「形の上では社名を名乗っているけれど、実際の用件は商談ではないわ」

恭介「ほう。ではこちらからあなたにお尋ねしたい。幾らで手を引くかね?
 この私の貴重な時間を、幾ら手に入れれば今すぐ返すのかね?」

ほむら「お金なんか欲しくないわ。私は――」

恭介「ああそうか! なら何だ! 肩書きか! 名誉か! それとも不動資産か!」

ほむら「…話には聞いていたけれど、ひどい有り様ね」
389: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:25:57.27 ID:JxoyR7tu0
恭介「それはお世辞のつもりか? 暁美ほむら
 私は利口なふりをする女が昔っから大嫌いでね
 こうして貴様の吐く息を吸うだけでも反吐が出そうなんだ。わかるな?」

ほむら「…会話にならないわ。私はあなたの敵じゃないの。お願いだから聞く耳を持って」

恭介「貴様の言葉は信じるに値しない
 コーデリアを貴様に譲ってから私は呪いから解放された
 なぜだ? なぜあれ以来誰1人消えなくなった?」

恭介は壁にかかっていたダガーナイフを抜いた

ほむら「……」

恭介「『人殺し』とまでは言わない。だが貴様が一枚噛んでいることは間違いないだろう
 貴様は昔からコーデリアとの提携に必死だったな
 何を企んでいるのかは知らないが、私を失脚させる為に全てを仕組んだ! 違うか!」

ほむら「……」

恭介がナイフでほむらの呼吸器を弾き落とした

恭介「答えろ」
390: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:27:04.52 ID:JxoyR7tu0
ほむら「…馬鹿馬鹿しい」

恭介「……」

ほむら「完全に落ちぶれたわね。こんな男が世界を救おうとしていただなんて
  コーデリア・ガーデンの子供達が見たらどう思うかしら」

恭介「…私はコーデリアの為に実に10年という歳月をドブに捨てたんだ
 今では失われた時を取り戻すのに死に物狂いだ
 時にコンマ1秒すら惜しく感じられるほどにな」

ほむら「『時間の無駄だ』と言いたいの?」

恭介がほむらの鼻にナイフを向ける

恭介「ご名答」

ほむら「……」

恭介「さあ、血を見ないうちにお引取りください、社長殿」

ほむら「…まだ用件を伝えてないわ」
391: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:27:37.21 ID:JxoyR7tu0
恭介「…『消え失せろ』と言っているんだ。知ってるぞ、心臓に持病があるそうじゃないか
 発作を起こせばそれまでだ。例え首に絞め痕があったとしても、誰も気が付かない
 そう、なぜなら彼らは力に屈し、金に目を眩ますからだ。なんとおぞましいことか…」

ほむら「…あなたには子供がいる」

恭介「…?」

ほむら「佐倉杏子との間に出来た子供が」

ドスッ――

ほむら「……」

恭介がほむらの手にナイフを突き刺した

刃先が貫通して机に固定されている

恭介「……」

ほむら「……」

睨み合う2人

恭介だけがわずかに呼吸を乱している
392: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:29:05.30 ID:JxoyR7tu0
恭介「…なぜ悲鳴を上げない…」

ほむら「…さあ?」

恭介「何も感じないのか…?」

ほむら「あなたはどうなの? 上条恭介」

恭介「……」

ほむら「あなたはサディストであることを公言しているけれど、
  痛めつけることで喜びを感じられるのは、相手が恋人の場合だったはず」

恭介「…!」

ほむら「あなたは若い頃の恋が忘れられずに関係のない女性を次々と傷つけて来た
  …だけど満たされずに行動がエスカレートしていく

  過去に少女殺しの疑いで『変態』呼ばわりされたことがあったわね
  それが今ではすっかり本物の危険人物」

恭介「…貴様に何がわかる。私の長年に渡るこの苦しみが、貴様ごときにわかってたまるか」
393: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:29:46.81 ID:JxoyR7tu0
ほむら「あなたの察しは一部当たっているわ。私は当事者なの。一連の失踪事件のね」

恭介「……?」

ほむら「それもあなたが孤児院を買い取る以前からね
  …つまり、二十数年前に美樹さやかが消えた時から、私は真相を知っている」

恭介「…!」

ほむらは机にナイフで打ち付けられた手を無理やり引き剥がした

手のひらが少し裂けた

ほむら「手当てをお願い」

恭介「…何者だ?」

ほむら「今から説明するわ。終わったら彼女に会わせてあげる
  あなたが投げ出したコーデリア・ガーデン……1号館で」

恭介「……」

ほむら「あなたと同じ、佐倉神父の弟子の1人よ。今日でちょうど17歳になるわね」
395: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:30:44.95 ID:JxoyR7tu0
――コーデリア・ガーデン

QB「――恭介を失ったコーデリア・ガーデンは、ただの孤児院とあまり変わらない
 彼は世界レベルの有名人であり、まさに世界を救う為に
 具体的な行動を起こした数少ない人物だからね

 彼抜きでは、ここに集まる少女達にかかる因果も限定的だ

 こうなってしまった以上、僕達に残された選択は、『最後の賭け』…
 上条恭介に魔法少女の存在を知らせることだけだ」

マミ「…私は騎士団の存続より、あの人に元の優しさを取り戻してもらいたいわ
 自殺未遂を起こしてから、彼…人が変わってしまったから…」

QB「ヒカリを呼んで来よう」

マミ「…ええ」

――キュゥべえは礼拝室から17歳になったマミの娘を連れて来た

マミ「いらっしゃい。髪を結んであげる」

巴「うん…」
396: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:32:00.88 ID:JxoyR7tu0
QB「確かに杏子の面影がある。赤い瞳に切れ長の二重まぶた…
 …彼女には八重歯があったよね。決定的な違いといえば、そのくらいだ」

巴「あのさ、お母さん…」

マミ「何?」

巴「私、上条さんのこと『お父さん』って呼ばないといけないのかな…」

マミ「……。お父さんじゃ嫌かしら?」

巴「ちっちゃい頃は、上条さんのこと慕ってたし、
  今でもここの創設者って意味で尊敬してるけど…」

マミ「……」

巴「…私、『お父さん』って言葉…あんまりいい思い出ないし…
  それに、未だにあの人が自分の父親だっていうのが、なんか信じられなくて…」

QB「無理もないね。恭介もきっと、君が娘だなんて夢にも思ってないよ」

マミ「それはどうかしら」

QB「どういう意味だい? マミ」
397: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:32:43.33 ID:JxoyR7tu0
マミ「彼、ここに来てた頃はよくこの子のことを気にかけてたのよ
 『あの赤い髪の子の親は誰だ』って」

巴「…!」

QB「ヒカリは存在自体がイレギュラーのようなものだからね
 出生体重はたった640g、人類の医学では1歳までの生存率もわずか0.01%と見られていた
 それが今、こうして少女から大人になりつつあるんだから」

巴「……」

QB「マミの魔力で延命されたおかげだね。もしあの時マミがいなかったら、
 君は今頃、もし生きていたとしても、体中に重度の障害を持っていたことだろう」

巴「はあ…ありがたいことで…」

マミが小さな宝石箱を開けた

中には杏子が残した十字架が入っている

マミ「さあ、仕上げに髪を留めるわよ」

巴「それ何?」
398: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:34:17.07 ID:JxoyR7tu0
マミ「これはね。あなたの本当のお母さんが、この世界にいた頃大切にしていたものなの
 …子供の頃に失くした父親の形見としてね」

巴「え、あの、そんな大事なもの…、こんなんに使っていいの…?」

マミ「私が持ってても仕方ないし、これを使う日が来るとしたら、今がその時だと思うから」

巴「えー…」

マミ「ほら、こっち向いて」

少女が振り返る

マミが吹き出すように笑った

マミ「そっくりだわ」

巴「うっわー失礼ねぇ…毎日見てる顔でしょうが」

マミ「ごめんごめん」
399: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:35:11.90 ID:JxoyR7tu0
――その後

恭介とほむらが車から降りた

ほむら「…最後に来たのはいつ?」

恭介「5年前か…もっと前かもしれない」

ほむら「そう。なら、面識はあると思うけれど…今の彼女の姿、よく目に焼き付けておくことね」

恭介「……」

職員室から、マミが娘の背中を押して出て来た

恭介「!!」

17歳の少女は赤い髪を黒のリボンで結わえている

ほむら「……」

恭介「……」

マミ「久しぶりね。上条さん」
400: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:35:42.30 ID:JxoyR7tu0
巴「…お、お久しぶりです」

(杏子『よう。あたしはさやかじゃないよ』)

恭介(この幼い声…)

(恭介『…だ、誰?』)

(杏子『佐倉杏子だ。さやかの知り合いさ』)

恭介は口を塞いで立ち止まった

恭介「……」

巴「…あの…」

少女が目を泳がした

(杏子『…あんたはあたしがいなくなったらどうする?』)

(恭介『考えたくもないよ…』)

(杏子『…いいよ。…面倒見てやるよ』)
401: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:36:25.92 ID:JxoyR7tu0
恭介「……」

涙が流れる

恭介は鋭い眼鏡を外した

巴「……」

ほむら「…思い出した? あなたの恋人の顔」

恭介「…馬鹿な…」

ほむら「…似てるでしょう?」

巴「え…あの…うぅ…」

恭介が泣きながら笑った

恭介「…目を泳がす癖がそっくりだ」

巴「……」

恭介(私の娘……?)
402: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:37:06.74 ID:JxoyR7tu0
(恭介『…狙いは何だ』)

(ほむら『あなたに、コーデリアに関する一切の権限を掌握してほしい』)

マミが少女に耳打ちした

巴「えー…?」

マミ「ね?」

巴「……」

戸惑いながら恭介に近寄る

巴「…お父さん」

恭介「…!」

巴「……」

恭介はしばらく考えてから、小刻みにうなずいた
403: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:38:06.06 ID:JxoyR7tu0
恭介「…ああ。お父さんだ」

巴「…!」

成人した魔法少女達が顔を見合わせて笑った

恭介「…私は子供の時から、幾多の奇跡を体験して、これらによって生きて来た…」

ほむら「……」

恭介「…悲惨な事故から生還を遂げた奇跡、二度と治らないと言われていた左手の回復、
 …憧れの人がそばにいてくれたこと…」

恭介が涙で揺らいだ目で娘を見つめる

恭介「…出世もそう。バイオリニストとしての成功もそうだ…
 そしてコーデリアを無事に創立できたこと…」

巴「……」

恭介「…その反動で、長い間苦しんだが…。恐らくこれが、最大の奇跡だ…」

恭介(私は……杏子に申し訳ないことをした…
 さやかにも…。コーデリアの無垢な子供達にも…)

ほむらの手を見た

包帯が何重にも巻かれている
404: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:38:47.32 ID:JxoyR7tu0
恭介(彼女にも…)

恭介「……すまなかった」

ほむら「…大丈夫よ」

恭介(…『魔法』…か)

恭介が呼吸を整えて眼鏡をかけ直した

恭介「…暁美さんと仕事の話をする。中に入っていなさい」

マミ「はい」

巴「おと……。上条さん…」

恭介「……。何だ?」

巴「…今度はいつ会えるかな…」

恭介「……毎週日曜。志筑が説法をやる時間に、礼拝室に来よう…」
405: ◆o1ehmgejyk 2012/01/01(日) 15:39:45.48 ID:JxoyR7tu0
巴「やった」

マミが娘の頭を撫でながら歩いていった

恭介「――コーデリアの運営を、もう一度引き受ける…」

ほむらは目を閉じて頭を下げた

恭介「…そして子供達の保護を、『ワルプルギス騎士団』に一任しよう…」

ほむら「ええ。…ありがとう」




――00年代に亡くなったとされる佐倉神父が説いた教えは、このようにして回復された

神父の教会はコーデリア・ガーデンに置き換わり、
彼の長女はワルプルギス騎士団に置き換わった

『表と裏から世界を救う』

ある魔法少女の願いは、形を変えて、今も生き続けている




   終

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