ほむら「思い出せない…私は何者だ?」【その6】
- カテゴリ:魔法少女まどか☆マギカ
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- 652: 2012/04/27(金) 20:15:17.21 ID:vrfJwBQb0
- 深い息と共に銃を降ろす。
私は何度だって、この銃であいつを撃ち抜いて見せる。
ほむら「まどか……お願い」
私はまどかさえ無事であれば良いのに。
優しすぎる彼女は、いつだってそれを受け入れてくれない。
まどか「……ほむらちゃん」
まどかは悲しい表情をしている。
いいえ、それよりかは、困ったような表情だった。
駄々をこねる私という子供を相手にして、困っているような、そんな。
ほむら「お願いよ、まどか…私に、守らせてよ…」
まどか「……ほむらちゃん、私の叶えたい願いはね、」
そこまで言って、まどかは私の視界から消えた。
ほむら「―――え」
そのかわりに飛びこんできたのは、巨大な鉄骨をむき出しにした、コンクリートビルの破片。
少し遅れてやってきた喧しい音は、がりがりと壁面を削りながら私の後方へと流れていった。
ほむら「あ、あ……」
まどかの立っていた場所には、大きな破壊の爪跡と。
血だまり。
ほむら「ぁあぁああああぁああぁッ!!」
まどかはどこにいった。
私は手榴弾で脚を破砕して、彼女の姿を探した。
- 656: 2012/04/27(金) 20:22:05.91 ID:vrfJwBQb0
- ほむら「まどか…まどかぁっ…」
脚から血が流れ出る。そんなことはどうだっていい。脚なんてなくても生きていける。
まどかはどこ?
さっきまであっちに立っていたのに。
「まどか!急いで願い事を!まどか!」
ほむら「!」
性懲りもない奴の声が聞こえた。
感情の無い奴の声は、ひどく切迫している。あっちにまどかがいるんだ。まどか。
QB「まどか!何でも良い、願い事を!自分の命でも、何だって君なら叶えられるんだ!」
ほむら「……!」
凄惨な姿だった。
灰色の破片がまどかの下半身をすり潰し、腕を削ぎ、まどかの顔は、半分皮膚が無かった。
QB「まどか……!」
それでもなお、自分たちのために勧誘を続ける奴の姿は、まさに悪魔と言う他ない。
ほむら「ぁああ、まどか!まどかぁ!起きて、起きてよ…!」
まどか「……」
まどかのもとに擦り寄って、彼女の肩を掴み、声をかける。
でも彼女は反応を示さない。
口元がわずかに、開いたり、閉じたりするだけ。
けど。
まどか「……」
ほむら「……っ!」
彼女の涙を湛える目は、“無念”を示していた。
QB「……やれやれ、なんてことだ」
まどかは、それきり動かなくなった。
- 665: 2012/04/27(金) 20:29:34.35 ID:vrfJwBQb0
-
ほむら「まどか……」
強い意志をもっていた先程までの彼女の双眸が光を宿していない。
汚らしい色をした血で汚れ、煤け。まどかは一瞬のうちに、死んでしまった。
QB「君の時間稼ぎも無駄ではなかったみたいだね、暁美ほむら……完敗だよ」
ほむら「っ!?」
赤い目が私を刺す。
QB「まさか、あんな時間稼ぎで僕の契約を阻止するなんてね……まさか、これも計画のうちだったというのかい?」
ほむら「ち、ちが、私は……」
QB「契約する前の鹿目まどかはただの少女……その時に殺してしまえば、彼女は契約なんてできなくなる…さすがの僕も、死者とは契約はできないからね」
ほむら「私は殺してない、違う…!違うの…そんなつもりじゃなかったの!」
QB「結果として鹿目まどかは死んだ、君に殺されたようなものじゃないか」
ほむら「ぐぁ……あ…あぁ…」
QB「やれやれ、せっかくワルプルギスの力を利用できると思ったのにな…まどかのような素質の魔法少女はもう居ないし…」
ほむら「まどかぁあああぁああっ!!」
私は、もう立ち止まれない。
このまま死ぬことなんてできない。
魔女になんかなれない。
まどかを。まどかを助けないと。
早くまどかを助けないと…!
砂時計が反転する。
- 668: 2012/04/27(金) 20:35:52.95 ID:vrfJwBQb0
- ――――――
ほむら「あ……」
自分でも驚くくらいの情けない声で目を醒ました。
いつもの陰鬱な病院のベッドの上。
ほむら「あ、ぐぁ、あ……ああ……まどか……」
手で顔を覆う。このまま自分の手を噛み砕きたい。
私はなんてことをしてしまったのだろう。
私は今まで、まどかのためにとやってきた。
けど、一体だれが私の行為を正当化できるというのだろう。
私は何度も何度も時間を戻して、一人の少女の願いを否定し続け、彼女を殺し続けているだけなのに。
ほむら「ごめんね、ごめんねまどか、ごめんねぇ…!」
インキュベーターの言っていたことはまさにその通りだ。
あの時のまどかは。
あのまどかは、紛れもなく私が殺した。
ほむら「……!」
そこまで自責の念を渦巻かせて、私は自分のソウルジェムが限界に近い事に気付く。
ほむら「ぁああ!い、急がないとっ!」
私は部屋を窓から抜けだし、もっとも近い魔女のもとへと向かった。
グリーフシードを手に入れなくちゃ。 - 672: 2012/04/27(金) 20:39:59.63 ID:vrfJwBQb0
- 地獄の日々だった。
毎晩の夢に、あの日のまどかが出てくる。
まどかの死に際の瞳が私に語りかけてくる。
“どうして私を殺したの?”と。
私はそのたびに、汗だくで起き上る。
目ざましは必要なくなった。
どうせろくに眠れないから。
けれど。
けれどまどかに会えば、きっと大丈夫。
私はまた、まどかを守る。
今度こそ、きっとまどかを守ってみせる。
もうあの時のような失敗はしない。まどかを殺したりなんかしない。
私のささやかな希望が辛うじて形を保っていたのは、学校での自己紹介の時までだった。
- 673: 2012/04/27(金) 20:45:10.43 ID:vrfJwBQb0
- 和子「じゃ、暁美さん、いらっしゃい」
いつものように、強い自分を演じる。
凛と歩き、教壇の前に。
さやか「うお、すげー美人!」
まどか(え…?)
まどか(嘘…まさか)
ああ、まどか。
まどか……。
和子「はい、それじゃあ自己紹介いってみよう」
ほむら「……暁美、ほむらです」
言葉の歯切れが悪い。ちゃんと言わなくてはいけないのに。なのに。
ほむら「よろしく、お願……ッ!」
まどか「!!」
唐突な吐き気が私を襲った。
堪らずに、私はその場にしゃがみ込む。
和子「暁美さん!?」
ほむら「っ…!!」
突然にせり上がってきた吐き気。
眩暈。頭痛。いえ、とにかく全身が痛い。全身が苦しい。
私の心はもう、あの目を見た時から。
厄介な砂時計を抱えていたのだ。
- 712: 2012/04/29(日) 00:37:25.89 ID:YdSXdA9w0
- まどかの顔を見ることができなかった。
少しでも目を向けるだけで、あの時の顔が思い浮かばれるのだ。
ほむら「……」
まどか「あ、暁美さん、大丈夫?」
だから、保健室に向かう途中が一番の苦痛だった。
体重の半分をまどかに預けつつも、私は目を開けることができない。
手が空いていれば、耳さえも塞ぎたいくらいだった。
ほむら「ごめんなさい……」
まどか「いいよ、私、保健委員だから…」
ほむら「本当に、ごめんなさい……」
まどか「気にしなくていいって…」
私はいつもと違う日々を過ごすことになる。
インキュベーターを追いかけ回し、まどかを極端に避けるという、矛盾した日々を。
巴マミはインキュベーターのこともあり、私を嫌悪した。それに付随して美樹さやかも私を嫌悪した。
まどかも私を警戒するようになった。
- 713: 2012/04/29(日) 00:42:48.12 ID:YdSXdA9w0
- ほむら「……」
まどか「……」
さやか「……」
マミ「……」
いつかと似たようなものだった。
巴マミを裏で助けることはできた。
しかし美樹さやかは魔女となり、それを知った巴マミは錯乱してまどかを撃った後、すぐに自決した。
寂れた橋の下では、3人の抜け殻が横たわっている。
私が発見したのは、彼女たちの反応を見失ってから、2時間後のことだった。
また、まどかを守れなかった。
ワルプルギスの夜が来る前だというのに。
ほむら「……」
守れなかったのではない。
私の遠まわしで、おっかなびっくりな行動が、結果としてまどかを殺したのだ。
私がまどかを殺した。
ほむら「……魔女、倒さないと」
ワルプルギスの夜を迎えるまで、私は魔女を狩り、グリーフシードを集め続けた。
火器を集める気には、到底なれなかった。
- 714: 2012/04/29(日) 00:50:35.28 ID:YdSXdA9w0
- 様々な世界を歩き続けた。
かつてと同じように、まどかを守るために、世界を歩き続けた。
けれど、どこか可笑しい。
“打倒ワルプルギスの夜”を抱いていた自分を遠くに感じる。
ワルプルギスの夜が来る前に、まどかが死んでしまうのだ。
ある時は巴マミ、美樹さやからと一緒に魔女に殺されたり。
ある時は魔女となった美樹さやかにより殺されたり。
集団自決に巻き込まれたり。
……勢い余った杏子に殺されたこともあった。
時を歩くたびに、たくさんのまどかが死んだ。私が殺した。
私があまりにも、あまりにも弱すぎたから。
まどかの空虚な目に怯え、心揺さぶられ……まどかの“呪い”を受けた私は、かつてのように動くことができなくなってしまっていたのだ。
そのかわりに魔女と戦う時間が増えた。私のソウルジェムが、あまりにも早く濁ってしまうから。
まどかを守ろうと決心を固める度に、私の魂はそんな驕った私を拒絶するのだ。
私は、そんな私を保つためだけに魔女を倒し、グリーフシードを集め続けた。
まどかを守ることもできずに。
その思いもまた負の連鎖として組みこまれ、私を蝕む。
- 715: 2012/04/29(日) 00:57:50.14 ID:YdSXdA9w0
-
この世界は何度目か。
本当に数えることも忘れた頃になって、私は嵐吹きすさぶ見滝原の灰色の大地。
私は、血みどろになったまどかの遺体のそばに立っていた。
気がつけば、まどかの遺体の脇に立ちつくす自分がいる。
少し気を逸らしていた、で1カ月を跨ぐ自分が存在している。
私はいつからか、自らのソウルジェムを濁らせない行動のみを取るようになっていた。
キュゥべえを殺す。魔女を殺す。
失恋してまどかを突き放した美樹さやかには躊躇なく引導を渡すし、まどかに契約するよう持ちかける佐倉杏子には問答無用の殺意が芽生えたが、彼女はすぐに逃げてしまう。
かつて、巴マミに言われた言葉を思い出す。
「いじめられっ子の発想ね」。
その通りなのかもしれない。
私は決して敵わないワルプルギスの夜ではなく、他の対象を攻撃するようになってしまっているのかもしれない。
ほむら「……」
私の右手には一挺のハンドガンが握られていた。
弾はまだ撃っていない。もう全てが崩壊した後だというのに、ワルプルギスの夜とはまだ戦っていないから。
- 717: 2012/04/29(日) 01:09:04.31 ID:YdSXdA9w0
- ほむら「……愚かよね、私って」
私の魂のような色をした暗雲を見上げて、つぶやくように語りかける。
ほむら「まどかを守る……そのためだけに生きると決めていたはずなのに」
ほむら「今の私には、まどかを守れる力がない」
ほむら「それでも私は、触れも見れもしないまどかとの出会いをやり直すために、また砂時計を置き返すのよ」
ほむら「本当に愚かだわ」
ハンドガンを自分の右こめかみに押し当てる。
冷たい鉄の感触。
ほむら「……まどかを守れないのなら、まどかを守らない私でありたい」
ほむら「もうこれ以上、まどかを守らない私になりたい……まどかを殺さない私になりたい」
ほむら「ねえまどか……私も、かっこ良い自分になれるよね?」
ハンドガンに魔力を注ぎ込む。
それは、遅すぎる私のためだけの祈り。私の身勝手な願い。
もう私がまどかを守れないのであれば、そんな私を捨てて、新たな私になってしまいたい。
ほむら「さよなら、まどか」
私はハンドガンの引き金を引いた。
何度も。何度も。何度も。
全ての弾を撃ち尽くすまで。
銃弾が私の頭部を半分以上、壊し尽くすまで。
ほむら「…ッ…ッ……」
それでもなお、わずかに宿した魔力の脳は、私の身体をゾンビのように動かす。
醜い仕草で盾を掴み、砂時計を反転させる。
怨霊が新たな自分に生まれかわるために。
――――――――――――
――――――
―――
- 750: 2012/04/29(日) 16:38:45.72 ID:YdSXdA9w0
- ほむら『……!』
記憶の奔流が収まると、“暁美ほむら”の今までの全てが、私の脳内に焼き付けられた。
散っていった命。助けられなかった友達。
彼女が抱えてきた、いつまでも終わることのない戦いの記憶。
奔走するも無力に終わる自分の戦い。
無力を承知で掛かっても倒せない敵。
『…これが、私の全てよ』
床に倒れる私を見下ろす“暁美ほむら”の目は、とても冷たく、無感情だった。
私に銃弾を撃ち込んだためか、夢の世界はちりちりと焼け煤けはじめ、端から崩壊を始めていた。
この部屋の崩壊が終わった時、きっと“暁美ほむら”は、再び魂の中へと篭るのだろう。
私は頭を押さえながらも立ちあがる。
ほむら『暁美ほむら……』
『私はもう、この世界を見ていたく無いの……当分の間、ここでじっとしているわ』
全てに疲れた表情。
いつの記憶か、さやかから言われた“全てを諦めた顔”とはこのことだろう。
『この世界を押し付けちゃって、ごめんね…でも私は、限界だから…』
ほむら『……』
『貴女が私の戦いを引き受ける必要はないわ……だから、あなたは暁美ほむらとして、どこか遠くで……静かに暮らして』
『……それが私の願いよ』 - 751: 2012/04/29(日) 16:45:17.79 ID:YdSXdA9w0
- ほむら『……それが、君の望んだ未来かい』
『え?』
ほむら『私は空虚な人間だ』
ほむら『私は魔法少女……しかし願いはなく、執着もなく、信念がない』
ほむら『精神がすりきれるまで戦い続けた暁美ほむら……君は、立派な人間だよ』
ほむら『まどかを守るために魔法少女となり、何カ月も、何年もその戦いを繰り返している』
ほむら『何が起ころうとも、挫けそうになろうとも繰り返す』
ほむら『全ては、たった一人の少女の為にだ』
ほむら『……私にそんなものはなかった』
ほむら『私はいつだって、ただ漠然とした“格好良さ”だけを求めて生きてきた』
ほむら『暁美ほむら、君が怨霊だというのなら、私は亡霊だよ』
ほむら『何もない、存在しているかどうかも怪しいただの亡霊だ』
ほむら『……君は怨霊だろう?ならばその恨みは、世に顕現して果たすべきだろう』
ほむら『このまま私の中に閉じこもっていて、いいはずがないだろう?』
- 752: 2012/04/29(日) 16:52:25.64 ID:YdSXdA9w0
- 『……どうしろっていうのよ』
『貴女もわかっているはずでしょ…?私はあらゆる手を尽くしてきた』
『途方もない時間を費やして研究して、実践してきたのよ…それでも、無理なの』
『必ずワルプルギスの夜はやってきて…私の望む未来を消し飛ばしてしまうのよ』
ほむら『……君も同じことを言うのか?暁美ほむら』
『え?』
ほむら『魔法少女はあらゆる条理を覆す存在だ』
ほむら『君の望む未来は必ずある』
『……だからどうしろっていうのよ…!』
ほむら『ふふん、わかってないなあ、暁美ほむら』
『え?』
ほむら『私の魔法はね、暁美ほむら……奇跡を起こすんだ』
ほむら『私達が奇跡を起こさずして、誰が奇跡を起こすというんだい?』
『……!』
空想の部屋が焼け崩れ、消え去ってゆく。
夢から覚める時間がやってきたようだ。
けれど、ぼやけた夢の中で最後にみた“暁美ほむら”の表情は、
どこか、再び希望を抱いたような表情だった。
- 753: 2012/04/29(日) 16:59:46.66 ID:YdSXdA9w0
- ほむら「……」
むくり。起き上る。
が、しかし私の身体は無力、起き上れずに床に倒れた。
ほむら「痛っ」
身体中を毛布で雁字搦めにされていたのだ。
なんとも器用に巻かれている。
こうでもしなければ、外界のものに嫌でも目が行ってしまうのだろう。
ほむら「…暁美、ほむら」
私は全てを思い出した。
何故契約したのか。
何故魔法少女を殺したのか。
キュゥべえは何者なのか。
私はあらゆる全てを理解した。
同時に、私の肩へ一気に重圧がのしかかる。
あまりに凄惨すぎる未来を回避する、私だけの使命。
でも同時に高揚する。私が初めて手にした、私の生きる意味。
「にゃぁ」
ほむら「ワトソン……いや、エイミーって呼ぶ方がいいのかな」
「にゃ?」
ほむら「ふふ、いや、ワトソンでいいね」
「にゃ」
あらゆる世界での過去と未来を理解した私は、心の中の深で決意する。
暁美ほむら。必ず君を救ってみせる、と。
- 754: 2012/04/29(日) 17:11:50.62 ID:YdSXdA9w0
- ほむら「いただきます」
「にゃー」
それにしても、これほどの量の記憶が一度に頭へ刻みこまれたというのに、私も悠長なものだと思う。
おそらく未だ“暁美ほむら”を他人として見ている自分が居るのだろう。
まどかを巡る日々の記憶が、どうにも当事者のものとして実感できないのだ。
ほむら(それにしても、まどか、ねえ)
半透明の麺を啜りながら考える。
まどか。記憶の中では、暁美ほむらにとって欠かせない存在であった彼女。
もちろん私にとってもまどかは大切な友達ではあるが、願い事として彼女を救い続けるほどかと問われれば、正直口ごもってしまう。
似たような願いはあれども、まどかを名指しすることはないだろう。
私自身だというのに、たいした温度差だ。
ほむら「ごちそうさま」
「にゃ」
ワトソンも缶詰を食べ終えたようだ。
綺麗に食べたので頭をなでてやる。ワトソンは喜んだ。
ほむら「……よし、じゃあワトソン、行ってくる」
「にゃ」
ほむら「……なに、着いてきたい?珍しいな、まったく」
「にゃぁ~」
さて。
ワルプルギスの夜が見滝原にやって来るまで、そのタイムリミットが間近に迫ってきた。
ワルプルギスの夜をなんとかしなければ、暁美ほむらにも、私にも未来はない。
私がやらなくては。
- 757: 2012/04/29(日) 20:18:57.99 ID:YdSXdA9w0
- さやか「おっはよー」
まどか「おはよう、さやかちゃん」
仁美「おはようございます」
まどか『……ねえ、昨日はやっぱり』
さやか『うん……マミさんと夜まで探してみたけど、駄目だった』
まどか『……』
仁美「そういえば昨日から、ほむらさんはどこへ行かれたのでしょう?」
さやか「へっ?あ、あ~…そうだね、急に何も言わずに早退なんてね…エスケープ?」
まどか「…心配だよね」
さやか「……うん」
仁美「何もなければ良いのですけど…」
仁美「ふふ、けど、ほむらさんなら何事もなかったかのように教室で振る舞っていそうですわね」
まどか「! …えへへ、そうだね」
さやか「……ね、きっとね」
まどか「うん」
- 758: 2012/04/29(日) 20:23:37.55 ID:YdSXdA9w0
- まどか「あ!」
さやか「ん、どうしたまどか……あ」
恭介「……」
「~…?」
恭介「……、……」
「……、……?」
さやか「……恭介」
まどか「退院、したんだね」
仁美「あら、上条君、大丈夫なのですか……?」
さやか「あー…手の調子が良くなったから、復学するんだって」
仁美「そうなのですか…」
さやか(…なによ、退院するなら一言でも言ってくれればいいのに)
さやか(まぁ、一足早い退院お祝いはやったから、良いのかな?)
- 759: 2012/04/29(日) 20:32:35.39 ID:YdSXdA9w0
- ガラララ・・・
さやか「みんなおは……」
ほむら「ん?やあ、おはようさやか」
さやか「……え」
まどか「え?」
ほむら「む」
ほむら「ああ、おはよう、まどか」
まどか「……お、おはよ」
仁美「ほむらさん、おはようございます、昨日は何かあったのですか?」
ほむら「おはよう仁美、…うん、まぁ色々あってね」
さやか「色々ってちょっと、」
ほむら「けどもう大丈夫」
まどか「!」
ほむら「もう、そうそう夢遊病になったりすることもないだろう」
仁美「夢遊病?寝ていないのに……?」
さやか「……それって」
ほむら「ふふ」
ほむら『おはようマミ、昨日はすまなかったね』
『……!暁美さん!?』
ほむら『私ならもう大丈夫だよ、マミ』
- 762: 2012/04/29(日) 20:56:25.83 ID:YdSXdA9w0
- 和子「え~ですので、この文章にはMrsとありますが、既婚者かどうかを区別するためだけにこういった言葉回しを変えることは非常に失礼です、なのでどのような相手であってもMs……」
教師の私情入り混じる授業を適当に聞き流し、テレパシーの会話は粛々と進む。
ほむら『暁美ほむらとは私の方で和解してね、時間の大半を譲ってくれるそうだ』
さやか『それ、本当に……?』
マミ『じゃあ、暁美さんはこれからも今まで通りに過ごせるっていうこと…?』
ほむら『そうだね、特に不便はないと思う』
まどか『……良かったぁ…』
まどかの安堵する声。
そうやって安心するにはまだ早いんだな、これが。特にまどか。君が安心するのは、きっとまだまだ先の事だ。
まどか『昨日、杏子ちゃん、すっごく心配してたんだよ…?』
ほむら『杏子が……そうか』
暁美ほむらは出てこないし、出てきたとしても、もはや彼女に危害を加えることはないだろう。
ほむら『杏子に会いたいな』
マミ『すぐに会ってあげなさい、私たちに頭を下げてまで、彼女は暁美さんの事を探していたんだから』
さやか『ひょっとしたら今でも探してるかも……』
まどか『杏子ちゃん、携帯持ってないんだよね』
さやか『ん~、参ったなあ、次は杏子探しってこと?』
ほむら『……そうだな、放課後になったら杏子を探すか』
とにかく、ひとまず全員を集めなくてはならない。
今までの事に決着をつけるために。これからのことを決めるために。
- 763: 2012/04/29(日) 21:07:00.45 ID:YdSXdA9w0
- 放課後と同時に、私は学校を飛び出した。
最近めっきりできなくなったマジックショーに勤しんでから、とも思ったが、そんなところを杏子に見られたら2発ほどは殴られそうだったので、真面目に彼女を探す。
ほむら(杏子なら、きっとゲームセンターにいるんじゃないか)
私の足は、いつものゲームセンターに向いて急いでいた。
よくある話で、誰かを探す時、その人との思い出の場所に行けば見つかるという、お決まりのパターンだ。
その線でいけば、きっと杏子は隣町のゲームセンターにいるはず。
噴水ある公園を横切って、端を渡って、そうすればすぐだ。
杏子「……」
ほむら(……あ)
公園のベンチに杏子が座っていた。
ゲームセンターじゃなかった。そうか、公園か。そうくるか。
ほむら(……よし)
思い通りとは事が進まなかった腹いせとは言わないが、なんとなく遠目に窺える杏子に悪戯をしでかしたくなった。
こっそりと、ベンチの裏側から忍び寄ってやろう。
- 764: 2012/04/29(日) 21:13:46.05 ID:YdSXdA9w0
- 杏子(……ほむら、どこに行ったんだろ)
杏子(もう、見滝原には居ないのかな…)
杏子(…会えないなんて、そんなのウソだろ…?)
杏子(みんな待ってるんだよ?お前の帰りをさ……)
ほむら「……」
杏子(ほむら……)
すぱぱーん。
紐を引くと共に、高い炸裂音が閑静な公園に響き渡る。
杏子「うっわぁああ!?」
カラーのペーパーリボンを髪にひっかけた杏子が、前のめりに倒れる。
クラッカーでここまでびっくりするとは、さすがの私も予想外だ。
杏子「ななな、なん……な?」
ほむら「やあ」
空になったクラッカーを持つ私は、軽く手をあげて挨拶をしてみせる。
涙を浮かべながら飛びつき抱き合うのも悪くは無い再会だが、どうしても私は、そういうのは苦手のようだ。柄ではないというのか。
杏子「……やあ、じゃねえよ!」
ほむら「…すまない」
怒られた。
杏子「すごく、すごく心配してたんだからなあっ!」
ほむら「!」
そして、抱きつかれた。
柄ではないのだけど、私もその背に手をまわしてやることにした。
- 769: 2012/04/29(日) 21:23:03.44 ID:YdSXdA9w0
- 私ではなく、杏子が泣いた。子供のようにおいおいと。
私だってこうして会えたことが、涙を流すほどに嬉しい。
けれどこうも泣かれてしまっては、私はそれを受け止める立場にいなくてはならないだろう。
そんなことを気にする私は、やっぱりまだまだ格好つけということだ。
杏子「ぐすっ……もう、大丈夫なのか?また、ほむらじゃなくなるのか?」
ほむら「もう大丈夫、私とは和解したからね」
杏子「自分と和解?」
ほむら「ああ、私の時間は十分にもらえることになったよ」
杏子「……そうか、良かった」
柔和な表情。
らしくもないと口に出せば、1発分は殴られるかもしれない。
ほむら「さて、マミやさやかも杏子の事を探しているんだ、見つけたことを報告しよう」
杏子「…私の方が、みんなに迷惑かけちゃったな」
ほむら「私のせいさ、手間をかけてすまなかったよ……む?」
異変を感じ、魔法少女の姿に変身する。
杏子「どうした?まさか、魔女か?反応はないけど」
ほむら「……いや、君と会いたがってる子が、もう一人いたよ」
「にゃぁあ!」
盾を開くと、中から勢いよくワトソンが飛び出した。
杏子「うわっ!?猫!?」
ほむら「ははは、食事を与えられた事を覚えていたらしい」
ワトソンは杏子にしがみついて、甘い声でにゃあにゃあ鳴いていた。
杏子もまんざらでもなさそうだった。
- 770: 2012/04/29(日) 21:32:53.34 ID:YdSXdA9w0
- じゃれあう二人をよそに、私はさっさと見滝原方面へ歩きだした。
ほむら「ふふ……さ、行こうか……みんなに話さなきゃいけない事もあるからね」
杏子「やめ、やめろって……え?」
顔を舐めていたワトソンが杏子から離れ、私の左足下の傍へ戻る。
ほむら「私が戻っても、ワルプルギスの夜はやってくるだろう?その話をしなくてはならないだろうと思ってね」
杏子「……一難去って、また一難か」
ほむら「そうでもないかもしれないがね」
杏子「え?」
杏子と向き合う。
ほむら「ワルプルギスの夜をなんとかする手立て、私は持っているよ」
杏子「え…!?それって、本当か?まどかは…」
ほむら「まどかが契約する必要はないさ」
杏子「そんな、どうやってそんなことを…」
ほむら「大丈夫」
微笑む。私の最大限の自信と虚栄心を振り絞って、最高のアルカニックスマイルを作る。
そして、そんなシーンを狙っていたかのように、空から一羽のハトが舞い降りてきた。
杏子「!」
「くるっぽー」
ほむら「ふふ」
白いハトは、レストラードは私の右足下にやってきた。
- 771: 2012/04/29(日) 21:41:05.33 ID:YdSXdA9w0
- ほむら「とにかく、話は皆と集まってからにしよう……作戦会議とまでは言わないけど、楽屋での打ち合わせは必要だからな」
杏子「あ、ああ」
私の語らぬ説得力に圧されて、杏子は安心する根拠なく頷いた。
そして、思い出したようにベンチの上の紙袋をまさぐる。
取りだしたのは、一本の缶コーヒーだった。
杏子「……変な意味は無いけど、これで今までのは全部清算だよ」
ほむら「……ふふ、いやぁ、うん、いいだろう」
コーヒーを飲む前からつい苦い顔をしてしまう。
杏子「食べ物を無駄にはできいし、なっ」
ほむら「ほっ」
投げ渡された缶コーヒーを受け取る。
杏子「……あとこれも、食うかい?」
紙袋をまさぐり、更に何かを投擲する。
大きな弧を描き飛んでくるそれを、私は両手を真上に伸ばしてキャッチした。
ほむら「……おお、瑞々しいな」
杏子「ちゃんとお金でかったもんだから、安心してよ」
ほむら「ふ、何も疑っちゃいないさ」
私の記憶には万引き強盗なんでもござれの不良少女としてあるが、私はそれを含め、特に気にもしない。
杏子「……ゴーギャン」
ほむら「ん?」
杏子「……いーや、なんでもない」
しゃり、と林檎をかじる。
うんまい。
- 809: 2012/04/30(月) 20:59:31.72 ID:5mZsP79C0
- 久々にきたマミの家には、魔法少女4人と人間一人が集まった。
杏子もそうだが彼女を探しに出た私も携帯電話を持っていなかったので、合流するには多少手間を食ったのだが、打ち上げ花火をかます事によって諸問題は解決された。
マミ「病院の近くで花火は上げないように」
ほむら「はい」
正座は嫌だ。クッションに座りたい。
さやか「……えーと?とりあえずこれで、ひとまず……ほむらの方は解決ってことでいいの?」
ほむら「そう思ってもらって構わない」
暁美ほむらの人格は封印されているだけらしいのだが、この人格が具体的にどういったタイミングで再発現するのかは、私にもわからない。
厳重に身を束縛し、そのまま一生出ないということはないのだろうが、暁美ほむらは乗り気ではなさそうだし、当分は私がこの身体を動かすことになるだろう。
マミ「本当に大丈夫?よね?」
まどか「どういう経緯で解決したのかな……」
ほむら「色々あったのさ」
説明はできるが、全てを説明している間にワルプルギスの夜が来てしまう。
ほむら「よく漫画にあるような、自分に打ち克つ、みたいなものだと思ってくれればいいさ」
さやか「おー」
本当は結構違うけど。
- 810: 2012/04/30(月) 21:08:58.20 ID:5mZsP79C0
- ほむら「で、まあ、私が随分と皆に迷惑をかけたみたいだから」
ほむら「とりあえず、この場を借りて謝らせてもらうよ、ごめんなさい」
もう一度深く頭を下げる。
さやか「杏子には謝らないとね、まあそれはほむらがやったわけじゃないんだけどさ」
杏子「わ、私には全然いいって……気にしてないから」
ほむら「しかし、なあ」
私の記憶には、杏子に対して執拗に攻撃し続けるものもある。つい最近、私の中から抜け落ちたものだろう。
ガソリンに着火させて、爆風のみで戦うその様は、杏子からは悪魔のように映ったに違いない。
杏子「…あれは、私が悪いんだよ……まどかに契約するよう持ちかけたのは、事実だしな」
まどか「……」
重苦しくなりつつある空気を、ほのかな紅茶の香りが濁した。
マミ「紅茶を淹れたわ、飲みましょう?」
さやか「おおー、マミさんの紅茶だ!」
ほむら「いただこう」
- 811: 2012/04/30(月) 21:19:14.12 ID:5mZsP79C0
- ほむら「……さて、みんなを集めようと思ったのは、謝罪がしたいだけではないんだ」
マミ「ええ、なんとなくわかっていたわ」
さやか「やっぱりワルプルギスの夜の話?」
ほむら「ああ、それに向けての話をしようと思ってね」
目の前を白ネコが横切り、まどかの膝に乗ってから、そいつはガラスのテーブルの上に腰を降ろした。
QB「ワルプルギスの夜を魔法少女4人で討ち倒す、という作戦会議でもするつもりかい?」
無感情な赤い目が全員を見る。
もはや、彼女らはキュゥべえに好意的な目を向けてはいなかった。
みんな薄々と気付いているのだ。彼が信用ならないネコであるということくらいは。
一番理解しているのは私だろうけど。
さやか「会議してたら、何かいけないっていの?」
QB「いけないというより、おすすめはできないよ」
杏子「……」
QB「前にも話したと思うけど、ワルプルギスの夜は、並大抵の魔法少女が“たかが”4人程度揃ったところで、決して太刀打ちできない相手だ」
QB「徒労に終わる戦いに挑むことはないだろうと、これでもアドバイスに来たんだけど」
- 812: 2012/04/30(月) 21:28:03.57 ID:5mZsP79C0
- マミ「どういう風の吹きまわしなの?キュゥべえ」
温厚なマミでさえ、キュゥべえを見る目つきは鋭い。
嫌われてかわいそうに、と同情するでもなく、私はキュゥべぇの飴玉みたいな目を見ながら美味い紅茶を啜るのであった。
QB「言った通りさ、無駄な事はしない方が良い」
さやか「街を守るってことが、無駄だっていうの」
QB「ことワルプルギスの夜に関して言えばね、一つの街を見限る覚悟は必要だよ」
まどか「……」
QB「けどまどか、」
私は俯くまどかに声をかけたキュゥべえに対し、思い切りスプーンを突き立てることで答えた。
マミ「!」
杏子「うげっ……」
まどか「ひっ……」
QB「……」
ほむら「私が話を進めようとしているのに、割り込むとは無礼なエイリアンだな」
スプーンはキュゥべえの脳天を貫き、奥深くまで突き刺さった。私はそれを、キュゥべえのクズごと部屋の窓際に投げ捨てる。
べしゃ、と気持ち悪い音と共に、白ネコは床に倒れて動かなくなった。
ほむら「作戦会議中だ、次からまどかへの私語は慎むように」
QB「随分と乱暴になったね、ほむら」
さやか「えっ!?」
そう、奴は何度でも甦る。
いくら殺しても、捕獲しても、キュゥべえは消えることはない。
私の記憶の中でも、いつからかキュゥべえを追いかけることをやめたくらいだ。
- 813: 2012/04/30(月) 21:41:15.87 ID:5mZsP79C0
- マミ「きゅ、キュゥべえが…2匹…」
ほむら「彼は宇宙人だよ、身体はいくらでも用意できている」
まどか「へっ!?」
さやか「宇宙人!?って、あの、細くて目のでっかい」
ほむら「グレイ型とは限らないけどさ」
QB「やれやれ、暁美ほむら…君はどこまで僕のことを知っているのか、想像がつかないけど…それを説明するためだけに、僕の個体を潰したのかい?」
ほむら「彼をいくら殺したって、次から次へと新たな個体が出てくる……まどかへは、しつこく契約を迫るだろう」
とりあえず、彼の存在のありかただけは説明しておく必要があるだろう。
まどかが契約してしまえば、仮にワルプルギスの夜を越えられたとしてもゲームオーバーだ。
ほむら「とりあえずキュゥべえ、なんとか彼女らに宇宙の大切さを説明してやってはどうかな」
杏子「宇宙?」
QB「本当に、どこまで知っているんだい?」
ほむら「私よりも君から明した方が、信用は得られるんじゃないかな」
もっともらしく誘導しているが、単にこの白ネコの説明をするのが面倒なだけだったりする。
QB「それもそうだね、じゃあ、僕の事についてみんなに聞いてもらおうかな」
こうして得意げに始まったインキュベーターの宇宙保存計画ストーリーは、魔法少女含む女子中学生からたいへんな反感を買ったのだった。
- 815: 2012/04/30(月) 21:50:20.48 ID:5mZsP79C0
- まどか「こんなのってないよ……」
マミ「いじめっ子の発想ね……」
杏子「お前それでも人間か!?」
さやか「いや人間じゃないでしょ」
口を揃えての大不評に、インキュベーターは「君たちはいつだってそうだ」とかなんとか負け惜しみをこぼしながら、部屋の片隅の方へすごすごと退散していった。
美味しい紅茶をなおも啜りながら、私はその光景を和やかに眺めていた。
ほむら「というわけだ、契約はやめてくれ、まどか」
まどか「うん、私契約しない」
それでも彼女は幾度となく契約しているんだけども……。
まぁ、そのことについて話す必要はない。
何せ……。
ほむら(私が時間遡行者であることは、隠し通すつもりだからね……)
缶コーヒーを開け、くい、と一口飲む。
私の能力は、まだまだ隠し通さなくてはならない。
インキュベーターにはもちろんのこと、彼女たち魔法少女にも、絶対に漏らす事はできないだろう。
ほむら(……あ)
缶コーヒーを飲み始めた私の様子を、マミがポットを構えながら気まずそうに眺めていることに気付いた。
- 818: 2012/04/30(月) 21:59:25.18 ID:5mZsP79C0
- まどか「魔法少女たちは、希望を信じていたのにね……」
さやか「ちょっと、厳しすぎる現実だよね…私もなったばかりで、人ごとみたいだけどさ」
杏子「あいつらの目的がわかったところで、私たちはそのルールに縛られることを良しとしたんだ、受け入れなきゃいけないさ……」
マミ「不本意だけどね……」
さやか「くそぉ、なんか、悔しいなあ……」
ほむら「で、結論から言うとワルプルギスの夜は倒せるわけだ」
まどか「……え?ほむらちゃん、今なんて」
さやか「ちょっと、今すごいことサラッと言わなかった?」
ほむら「ワルプルギスの夜は倒せる」
マミ「……えっと、鹿目さんが…?」
困惑する皆の表情。
何を言っているんだ。そんな顔をしている。
まさかな。期待を裏切られまいと、疑心暗鬼に食ってかかる彼女たちの顔だ。
私はここぞ、今この時、最高に無責任で、まったく根拠のない微笑みで応えるのだ。
ほむら「いや、普通に倒せるよ」
彼女達から上がる、わずかに期待の混じった驚きの声を聞き、私は自分のありようを再確認する。
やっぱり私は空虚な存在だ。
空虚で、嘘つきな奇術師だ。
だが、暗い未来しか用意されていないステージだからこそ、おどける奇術師は必要なのだ。
- 820: 2012/04/30(月) 22:10:39.55 ID:5mZsP79C0
- 杏子「ちょっ、ちょちょ、どういうことだよオイ!」
ガラスのテーブルに身を乗り出す杏子。
勢いよく突いた手の近くにあったティーカップの皿を2枚、咄嗟に退避させるまどか。
ほむら「記憶が戻ると同時に、私の魔法の正しい使い方も思い出してね」
マミ「暁美さんの、魔法……?」
さやか「そういえばほむらの魔法って何なの?」
QB「気になるね」
白ネコが復活した。現金な奴だ。
ほむら「そう簡単に見せてやることはできないよ、魔力は消耗させたくないし……ワルプルギスの夜に向けて、グリーフシードを集めなくてはならないからね」
まどか「あ……そっか、グリーフシードがないと、魔法を沢山使えないもんね」
ほむら「うん、私の魔法はわりと燃費が悪いから、ワルプルギスの夜と戦おうとなれば、さすがに慎重になった方がいいかなって、ね」
QB「魔力に余裕がないというのは可笑しな話だね、普通に倒せるんじゃなかったのかい?」
この白ネコ、根絶できないのかな。
無駄なことばかり言いやがって。
ほむら「倒せるけど、間違いがあっては困るだろう?一応、初めて戦う相手なんだからさ」
QB「なるほど、そういうことか」
危ない危ない。
インキュベーターめ、油断も隙もないな。
嘘をつくにも細心の注意が必要だ。 - 821: 2012/04/30(月) 22:17:46.51 ID:5mZsP79C0
- ほむら「私の魔法は、口では説明が難しいけど……とにかく大げさなものだ」
ほむら「ワルプルギスの夜は超弩級の魔女だと聞く……ならば私の魔法は、ワルプルギスの夜に対して非常に有効なはずだ」
さやか「おおげさな……魔法?」
ほむら「次の魔女狩りの時に見せてあげようか?」
さやか「! お願い」
杏子「……私も見たいな」
マミ「わ、私も!」
ほむら「もちろん良いとも、見てもらわないと信じられないだろうしね」
まどか「……あ、あの」
ほむら「……ふふ、もちろん、まどかも来るかい?結界の中は危ないけれど」
マミ「鹿目さん、あなたには全てを知る権利があるわ」
まどか「! 私も連れて行って!」
ほむら「当然さ、まどかに見てもらわないと困るしね」
まどか「?」
ほむら「私の力を見てみなければ、底から安心はできないだろう?」
まどか「え、ああの、でもほむらちゃんの実力を疑ってるっていうのは、その、悪い意味じゃないよ?」
ほむら「気遣わなくてもいいさ、ふふ」
ここまで余裕をぶっこいてみせている私だが、はてさて。
私の実力をお披露目する魔女退治。
どう仕組んでみせたものか…。
真面目にやらなくてはならない事だというのに、しかしこういうことになると、相反して私の胸は高鳴るものだ。
まったく、マジックのやりすぎだな。ふふ。
- 843: 2012/05/01(火) 17:32:46.96 ID:bzWCPvxAO
- アキト「あれ、こんなの作ったっけ……」
レイ「私は幕の内弁当」 ゲンドウ「やっぱり崎陽軒だな」
(*・∀・*)アリスゲームに参加するワ!
ハルヒ「変な肉まん拾ったわよ!」 キョン「」
ルイズ「な、なによこの生き物!」 (*・∀・*)ノ ヤァ!
かがみ「なんだ、可愛いぬいぐるみもあるんじゃない」 こなた「え?」
唯「にくまん!」
上条「ベランダに小さいクッションが引っかかってる……」
ほむら「魔法少女にくま☆マギカ」
- 848: 2012/05/01(火) 20:22:16.44 ID:iqKfw5/80
- 紅茶をもう一杯ほど満喫した後、マミの家を出た。
記憶を失っていた間に色々とあったので、その処理をしなければ、というなんとも悠長な体で、私の公開魔女退治はお流れとなった。
今日はさやかと杏子でペアを組み、魔女と戦う術を学ぶそうだ。
当然グリーフシードの収集も兼ねている。
そして肝心の私はさて、記憶喪失の後片付け、と皆の前では言ったのだが、そんなものは嘘だ。
おそらく魔女退治に勤しんでいるさやか達以上にせわしく、目的のために動いているだろう。
ほむら「はっ…はっはっ…!」
ダッシュでサイクリングショップに到着。
これから忙しくなるので、グリーフシードを使わない足は重要になってくるだろう。
行動範囲を広げるためにも、自転車は欠かせなかった。
「はいなんでしょ、パンク修理ですかね」
ほむら「いえ、とびっきり早い自転車を一台」
「え?とびっきりはやい……」
ほむら「詳しくないけど、とりあえず速度が出るやつをお願いしたい、金に糸目はつけないから」
「…うーん、速いものだと本当に早いけど、安くても10万はするよ」
ほむら「問題ない」
私は指を鳴らした後、その手を開き、30万ほどの紙幣を開いてみせた。
「おぉお」
ほむら「とりあえずこれで買えるもので、一番早いものを」
「高い買い物だねえ……親御さんは大丈夫って?」
ほむら「心配無用だ」
「……よし、じゃあこれかな?」
どうやら、苦は無く自転車を手に入れられそうである。
ガソリンとは大違いだ。
- 849: 2012/05/01(火) 20:28:32.54 ID:iqKfw5/80
- ほむら「うむ、どうかな」
「うんうん、似合ってるよ!カッコイイねえ」
細くコンパクトなデザインのバイクに跨り、それっぽいポーズを取ってみる。
店員は惜しみない拍手を送ってくれた。
ほむら「華奢そうなボディだけど、これは簡単には壊れたりはしないだろうね」
「強く衝突とかしない限りは大丈夫、保証期間もあるしね、思いっきりサイクリングを楽しむと良いよ」
ほむら「ありがとう、感謝するよ」
よし。ひとまず、これで足を手に入れた。
隣町との往復は、今までよりも容易くできるようになるはずだ。
早く移動する分、魔女の反応を察知できなくなる可能性はあるが…。
記憶にある魔女の推定位置を頼りにしていれば、そう見落とすことはないだろう。
今までの暁美ほむらの記憶を、最大限活用するしかない。
ほむら「じゃ、また用があったら来る」
「はい、ありがとうございまーす!」
私は勢いよくペダルをこぎ、発進した。
ほむら「おおお……!」
風を切り、まるで魔法少女に変身した時のような速度で歩道を駆けてゆく。
ほむら「えええっとこれどうやってカーブすればい」
言葉を言い切る前に、私は街路樹に衝突した。
- 851: 2012/05/01(火) 20:36:01.42 ID:iqKfw5/80
- 見滝原を走る。
健全な中学生は足腰をよく使うべきだ。
走り高跳びで県内記録を叩き出そうとも、全国大会へ向けて精進する気持ちを忘れてはいけない。
ほむら「はぁ、はぁっ……」
「わっ、びっくりした」
受付のおばちゃんを驚かせたようだが、気にしてはいられない。
躊躇なく受付にあった用紙を5、6枚ほど取りあげ、鉛筆でマーキングしてゆく。
「学生さん?こういうのやるんだ」
ほむら「はぁ、はぁ、いや、普通はこういうことは、やらないかなっ」
マークした用紙を手渡すと、おばちゃんはそれを機械に読みこませた。
ほむら「はい、代金」
「一万円、ほー随分お金持ちね」
仁美ならもうちょっと持っている。驚くことでもないだろう。
「はい、じゃあ、頑張ってね」
ほむら「うむ、ありがとう」
ドキドキワクワクな宝くじ数枚を握りしめ、私はその場を徒歩にて去った。
- 854: 2012/05/01(火) 20:43:33.29 ID:iqKfw5/80
- 次に来たのは寂れたネットカフェだ。
時間も時間で、中学生はそろそろ締め出される頃合いだが、構わない。
すぐに終わらせるつもりだったから。
ほむら「買い、買い、買い、買い……っと」
古臭い色合いのタッチキーボードを弾き、取引を繰り返す。
ひとまずはこのくらいで良いか、と息をついた所で、店員が私を注意しにやってきた。
念入りにページ履歴を消去して、私はそのままネットカフェを出る。
西の空には、茜色の空が「燃え上がれ~」という感じに輝いていた。
その景色を細めでそれっぽくしばらく眺め、すぐに歩き始める。
ほむら「時間がない……金もない」
元手は少ないが、とにかく少しずつでもやっていくしかないだろう。
ワルプルギスの夜まで時間がないのだ。最善を尽くすしかない。
ほむら「あ、ガソリンも補給して、グリーフシードも集めておかないと…ああ、もう、こんがらがる」
頭も掻きたくなる。
不眠不休、学校で寝る生活が、しばらくの間は続きそうだ。
- 856: 2012/05/01(火) 20:58:52.12 ID:iqKfw5/80
- ―――――――――――
ほむら『ん、ん……』
殺風景な私の部屋で目が覚めた。
『私が言えたことではないけれど、無茶をするのね』
顔を上げると、そこには私を見下ろす暁美ほむらが。
ほむら『おっと、どうしてこんな体勢で寝ていたんだ、すまない』
『構わないわ』
いつの間にか、私は暁美ほむらに膝枕され眠っていたようだ。
ほむら『君とは、やはり夢の中では会えるのか』
『ええ、無いとは思うけど、交代したければ私に言って』
ほむら『君が交代したいというのであれば、私に拒否権は無いよ?』
『今の暁美ほむらは、貴女が築いた賜物よ、私が表に出たら、きっとたまらなく嫉妬してしまうわ』
薄く微笑みながら暁美ほむらは言うが、いまいち冗談として成り立っていない気がする。
『……あなたの見聞きした出来事は私も共有できるけど、貴女の考えまではわからないわね、一体何をするつもりかしら』
ほむら『んー?』
なんとなく彼女の隣に腰を降ろして、ハットを被る。
ほむら『ん~?君にもヒミツにしようかな?』
『私自身にも?まどか達に隠し事をするのも随分と意味ありげだけど、どういう事なのよ』
ほむら『よし、やっぱりこれは君にもヒミツだ!』
『ちょっと、ふざけないでよ』
ほむら『ふふ、まさか?ふざけてなんかないさ、至って真面目だよ』
『……』
眉だけ吊り上げ、不機嫌そうな顔になってしまった。けれどこういった表情がある方が、生き生きとしていて、良いものだ。
ほむら『その時になれば十分にわかるはずさ、君も楽しむと良いよ』
『……もういいわ、あなたに託した人生よ、好きに生きて』
暁美ほむらは、尖った言葉を投げ放ったまま霞んで消えてしまった。
私の意識も、混濁して覚醒してゆく。
――――――――――― - 903: 2012/05/06(日) 21:47:56.33 ID:1CFiUqb+0
- ほむら「……おはよう、ワトソン」
「にゃぁー」
「くるっぽー」
ほむら「レストラードもおはよう、二人とも早起きだな」
起き上って伸びをする。
睡眠時間は長いとは言えないが、健康に気を遣う暇はない。
これからも、かなりの時間の節約を強いられるだろう。
ほむら「……暁美ほむらのために、ワルプルギスの夜をなんとかしなければね」
まどかを契約させず、魔法少女達を守る。
それを達成するには、今までのやり方では不可能だ。
暁美ほむらは実体験を通じて、それを私に教えてくれた。
私に休む暇はない。がんばろう。
ほむら「まぁ、腹が減っては戦争もできないな……食べようか、ふたりとも」
「にゃ」
「くるっぽ」
普通のヌードルのキングサイズの前で、私は合掌した。
いただきます。
- 904: 2012/05/06(日) 22:00:09.53 ID:1CFiUqb+0
- ある意味でこれからのある程度の未来を見通す事ができるようになった私には、いくつかの心配事が生まれていた。
ほむら「やあ、おはよう」
さやか「お、ほむらおはよーう!」
さやかだ。
まどか「おはよー、ほむらちゃん」
ほむら「やあまどかおはよう、今日も背が低いね」
まどか「えー……」
仁美「おはようございます、ほむらさん」
ほむら「うん、おはよう」
そして仁美である。
この時期に二人の間で問題が発生するのが、とりあえず見える懸念の一つと言えるだろう。
さやか『あー、えっとそうだ、ほむら』
ほむら『うん?』
さやか『ちょっと私、用事があるからさ……』
仁美「……」
さやか『だから、魔女退治には少し遅れるかも』
ほむら「ふむ、そうか、わかったよ」
さて、この二人、どうしたものだろう。
- 907: 2012/05/06(日) 22:15:15.51 ID:1CFiUqb+0
- 何度目かの挑戦の中で、暁美ほむらは放課後に待ち合わせたさやかと仁美について知ったのだ。
彼女ら二人はハンバーガー店で話をする。
こともあろうに、上条恭介への告白についてだ。
ほむら(さやかに後悔しないよう念押ししてはいるが……)
ペンを親指の上で回しながら考える。
さやか。暁美ほむらとしてではない、私として、彼女はとてもいい子だと思っている。
けれど彼女の恋路の先に道が続いているかどうかは、また別問題。
実際のところ、仁美に「時間をあげます」と言われたさやかは、一人で悩んで……挙句に魔女となった場合は、仁美と恭介が付き合う事はなかったのだが。
恋が実らないことを再確認した時、仁美と恭介がどうこうにあまり関わらず、彼女は深く落ち込んでしまうのだ。
「で、この証明は~……上条君、わかるかな?」
ほむら(どうしよう……)
恭介「あー……すみません、わからないです」
「ああ、うん、仕方ないね、じゃあ暁美さん、これを」
ほむら「わからないのはこっちだっての」
「え?」
ほむら「2番の証明方法を使います」
「うむ、正解……しかし暁美さん、さっき何か……?」
ほむら「2番の証明方法を使います」
- 908: 2012/05/06(日) 22:28:20.01 ID:1CFiUqb+0
- 「でも良かったよなぁ」
恭介「うん、本当にね、それにさ、」
教室の隅で楽しそうに話している男子達。
上条恭介。彼も悠長なものだ。そして鈍感だ。
奴がさやかの気持ち……いや、さやかだとは言わない。仁美でもいいのだ。
どちらの気持ちでもいいから感じ取ってやらないから、こうして私がそのツケを払わされるのだ。
ほむら(仁美の気持ちに気付かないのは経緯もしらない私からは何もいえないから良しとしてもだ)
さやか「んでそれがまたセンスなくってさあー!」
まどか「あはは、ひどいねぇ」
少なくとも、かなりの頻度でお見舞いに来ていたさやかの気持ちくらい気付いてやってもいいんじゃないのか。
私がおかしいのか?鈍感を通り越して無だ。無の境地に立っていると言っていい。
ただの幼馴染がそう何度も甲斐甲斐しくCD持ってきてやるはずがないだろう。
ほむら(ああダメだ、なんかイライラしてきた)
仁美「ほ、ほむらさん?何か手元のトランプが、ものすごく荒ぶっているのですが……」
ほむら「え?ああ、いいんだ、どうにもこうしてないと落ちつかなくてね」
トランプを二つの束に分け、それぞれを一枚ずつ噛みあわせてゆくショットガンシャッフル。
それをほぼ連続的にやることで、私は上条恭介への苛立ちを抑えていた。
まどか「ほ、ほむらちゃん……ショットガンシャッフルはカードを傷つけるよ?あんまりよくないと思うな…」
「鹿目!お前やっぱり知ってるな!?」
まどか「ええ!?な、何が?」
ほむら(どうしよう、本当にどうしよう)
シャッフル瞑想は、クラブのキングが二つ折れになって弾き飛ばされるまで続いた。
- 913: 2012/05/06(日) 22:40:15.44 ID:1CFiUqb+0
- 屋上。
マミの弁当の中のレンコンをぱりぱりと噛んでいる最中に結論は出た。
ほむら(放っておこう……)
さやか、仁美、恭介。
私はもう、この三人の恋愛問題について関わらないことに決めた。
確かに、未来を知っている私はこの問題に干渉する事はできるだろう。
言葉によって三人の未来を動かすことはできるかもしれない。
だが色恋沙汰に詳しくない私が適当な茶々を入れても意味がない。
上手く誘導できれば話は早いが、私にそんな技術は無いのだ。
だから私は今回のさやかを信じ、何もしないことに決めた。
投げと言ってしまえばそれまでだが、仕方のないことだ。
これもひとつの青春だと思って、苦悩なりしてもらいたい。
マミ「――それでね、佐倉さん、プリペイドの携帯を持つことにしたらしいの」
ほむら「はあ……そうか……」
マミ「ねえ暁美さん、聞いてないでしょ」
ほむら「ああ……え?いや、何だっけ」
マミ「もう、あまり上の空でいられると、また前のようになってしまうんじゃないかって、心配になるわよ?」
ほむら「すまない、ぼーっとしていたよ」
マミ「いつも変なところで力を抜くんだから、暁美さんって」
厚焼き卵を一口食べながらマミは言った。
ほむら「……そうかな」
私はパセリの茎を噛みながら、首を傾げるのだった。
- 931: 2012/05/07(月) 20:42:51.87 ID:2+ol8XUh0
- (*・∀・*)っ(*・∀・)ガシャコン NP8000 <ウァーォ
- 936: 2012/05/07(月) 21:16:22.50 ID:2+ol8XUh0
- 頭の中で考えを巡らせているうちに、放課後はやってきた。
マミやまどかは期待に満ちた目で私を見やるし、さやかはそそくさと先に帰ってしまうし、なんとも私の胃は重い。
分身マジックを身につければ、本当に分身できるのだろうか。可能であるならば今からでも猛特訓するのだが…。
マミ「それじゃあ暁美さんの魔法を実際に見学する魔女退治、これから始めましょうか?」
まどか「えへへ、ほむらちゃんの戦い方、私憧れるんだよね」
ほむら「まどか、憧れるというのは冗談でも怖いよ」
まどか「あ、ご、ごめんね、そういうつもりはないよ?」
まどまどする彼女の態度は、暁美ほむらが最初に出会った時のまどかからは全く想像もできないものだ。
マミ「まあまあ、それで、どうかしら?美樹さんは用事があって来れないのが残念だけど、佐倉さんを呼んで、早速魔女探しといくのかしら?」
ほむら「あー、そうだね、魔女を探さなければならないか」
私の力ならばワルプルギスの夜を簡単に倒すことができるという事を皆に証明しなくてはならない。
それは、皆が納得する未来を迎えるために必要な、最低限私がやらなくてはならない関門のひとつだ。
……だからこそ、私は上を目指さなくてはならない。
- 937: 2012/05/07(月) 21:24:03.74 ID:2+ol8XUh0
- ほむら「しかし、さやかが居なくては困るね」
まどか「え?さやかちゃんが?」
ほむら「うん、せっかく私の力を見せるのだから、どうせならね?」
疑問を浮かべる二人の表情に、一人明瞭な答えを得ているような、不敵な笑顔で語り聞かせる。
ほむら「同じステージを皆で見てもらって、その上で納得してもらわないとね」
まどか「……」
マミ「うーん、けど、美樹さんの用事がいつ終わるかはわからないし……」
ほむら「なに、さやかが来るまでは私のマジックショーでも見ていてくれよ、せっかくなのだからね」
まどか「え?マジック?」
驚いたような、呆れたような顔。それでいい。
マミ「ちょっと余裕が過ぎるんじゃない?魔力は節約しなきゃいけない時期なのに…」
ほむら「そうかな?マジックショー“くらい”なら全然わけ無いよ」
本当は結構燃費の悪いエンターテイメントなのだが、秘密だ。
ほむら「ギャラリーもそろそろ待ち遠しくしてる頃合いだろうしね、さやかを待ちつつ、楽しんでよ」
まどか「うーん……ほむらちゃんが大丈夫っていうなら……」
マミ「……そうね、ふふ、お客さんとして、久しぶりに見ようかしら」
ほむら「うん、ありがとう二人とも、楽しんでくれ」
私は笑顔を向ける。
まったく、道化だ。内心ハラハラだ。
さやかには早く戻ってきてほしいから、出来る限り病院に近い場所の通りでやろう。
- 938: 2012/05/07(月) 21:34:13.24 ID:2+ol8XUh0
- ほむら「Dr.ホームズのマジックショー、開演!」
空中で癇癪玉が破裂し、始端の無い紙テープがはらりはらりと広がり落ちる。
待っていましたとばかりに拍手が傾れ込み、遠くに歩く通行人を振り向かせる。
もう少し高めに調節を施した台の上に立って見下ろすギャラリー達は、以前の倍ほどにまでなっていた。
マミ『頑張ってね』
まどか『楽しみー!』
ほむら『うむ』
何があったか、段ボールに白い模造紙を張りつけて“ホームズさん素敵”とか掲げてる女の子まで、視界の端に捉えられる。
黄色い声を大声で浴びせているあの子は、私のマジックのおかげで試験に合格したとでもいうのだろうか。
いまいち、やっている身としては、このマジックショーが及ぼす影響というものがわからない。
ほむら「ではまずはじめに、このハットからマジックの小道具を取りださせていただきましょう」
掲げるハットの中から、体積を無視して大量のおもちゃ達が零れ落ちる。
ちょっと懐かしいマジックショーに、声援は割増して大きく聞こえた。
そして、彼らの声を聞いて私は自覚するのだ。
これも立派に、間違いなく、暁美ほむらとしての居場所であるのだと。
- 939: 2012/05/07(月) 21:45:40.27 ID:2+ol8XUh0
- 「すごーい!」
「やっぱりかっこいいなぁホームズちゃん…」
「どうやってんの?全然見えないー」
杏子「んしょ、悪いね、んしょ……おいマミっ」
マミ「あ、佐倉さん来てくれたのね、もう始まっちゃってるわよ」
杏子「始まっちゃってるわよ、じゃないっての、なんだこりゃ」
まどか「えへへ、ほむらちゃんのマジックショーだよ」
杏子「慣れない携帯のメールを開いてみて、“とりあえず来て”で足を運んでみりゃ、随分悠長なことやってるじゃん」
ほむら「はい、盾の中から公園の電灯~」
「うわー電灯っぽい!すごい!」
「あれ?あのタイプの電灯どっかで見たよ私」
杏子「……」
マミ「素敵よね、暁美さん」
杏子「……まあ、なんていうか、うん」
マミ「魔女を倒して平和を守るっていうことももちろんだけど……」
杏子「うん……」
マミ「こうして奇跡の片鱗を振りまいている彼女を見ているとね、魔法少女として希望を振りまくということに、まだ私たちの知らない色々な可能性があるんじゃないかって、そう思うのよね」
杏子「……」
ほむら「さあ、お嬢さん、このトランプの数字は何だったかな?」
「んーっと、ハートのエースだよ!」
ほむら「おっと残念!ハートのエースは私が食べてしまったので、これは白紙のトランプだ!」
「えー!」
ほむら「かわりにほら、ハットの中に丁度偶然、画用紙に描いたハートのエースがあるから、これで我慢してくれ」
マミ「……暁美さんを見ていると、何故かしらね…安心するわ」
杏子「……わかるよ、それ」
- 940: 2012/05/07(月) 22:01:11.15 ID:2+ol8XUh0
- 仁美「ずっと前から…私、上条恭介君の事、お慕いしてましたの」
さやか「……」
仁美「……」
さやか「あはは、まさか仁美がねえ…恭介の奴、隅に置けないなあ?」
仁美「さやかさんは、上条君とは幼馴染でしたわね」
さやか「……まあ、腐れ縁っていうかね、うん……そう、幼馴染み」
仁美「本当にそれだけ?」
さやか「……」
仁美「私、決めたんですの……もう自分に嘘はつかないって」
仁美「さやかさんは?さやかさん……あなた自身の本当の気持ちと向き合えますか?」
さやか「……私自身の本当の気持ち」
仁美「あなたは私の大切なお友達ですわ、だから、抜け駆けも横取りするようなこともしたくないんですの」
さやか(……仁美)
仁美「上条君のことを見つめていた時間は、私よりさやかさんの方が上ですわ」
仁美「だから、あなたには私の先を越す権利があるべきです」
さやか(……私の、本当の気持ち)
仁美「私、明日の放課後に上条君に告白します」
さやか(……私の気持ち…)
仁美「丸一日だけお待ちしますわ……さやかさんは後悔なさらないよう決めてください、上条君に気持ちを伝えるべきか――」
さやか「……ふう、伝えないよ、私は」
仁美「……どういうことですか?」
さやか「一日も待つ必要なんてないよ、私は良いや」
仁美「き…!気付いていますわ!さやかさん!貴女は上条君の事を……!」
さやか「あはは、だからこそなんだよ、仁美……」
仁美(! なんて目を……)
さやか「うん、私は恭介の事、好きだよ……自分の命を賭けてもいいくらい好き」
ヴーッ ヴーッ
さやか「……だからこそ、ちょっと嬉しいな、仁美があいつのこと、そんなに好きでいてくれるなんて」
パカ
“近くの通りで、ほむらちゃんのマジックを見ながら待ってるから! fromまどか”
さやか「あはは……だから、仁美、お願いするよ、恭介の事」
仁美「さやかさん!」
さやか「んーごめん!用事が出来ちゃった、行かなくちゃ!ほんとごめんね!ありがとう!」
タタタッ・・・
仁美「……さやかさん」 - 941: 2012/05/07(月) 22:08:31.11 ID:2+ol8XUh0
- タタタ・・・
さやか「……」グスッ
さやか「仁美、そっか、好きだったんだ……」
さやか(……仕方ない!仁美じゃどうせ敵わないし!)
さやか(私の魔法少女としての体じゃ、いつか恭介と別れることになるだろうし…!)
さやか(……うん、これで良いの!良い区切りと思っちゃえばいいんだ!)
さやか(最近は恭介もそっけないし…うん、良いんだ、これで…)
さやか「……ぐすっ、……うう」
さやか「くそぅ……でも、やっぱ、ちょっぴりだけどっ、堪えるなぁっ!」
さやか「良いもん!仁美と付き合う恭介も、全部私が守ってやるんだから!」
さやか(恭介の手を治して、恭介と付き合うのが私の願いじゃない!)
さやか(この世界に少しでも救いの手を差し伸べること!それが私の祈り!)
さやか(ああもう!でもなんか、すんげーモヤモヤする!後で何かスイーツ食べよっ!)
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