ほむら「思い出せない…私は何者だ?」【その5】
- カテゴリ:魔法少女まどか☆マギカ
- コメント : 0
- 326: 2012/04/16(月) 22:32:32.19 ID:RiAviqKM0
-
美樹さやかのマンション。
ここへは何度か訪れたことがある。
彼女と友好関係を築こうと努力をしたけれど、だいたいのケースでは美樹さやかが私の考え方を受け入れることができず、関係が破綻した。
美樹さやかの事は今はどうでもいい。
このマンションにいる杏子と、訪れているはずの巴マミ。
巴マミは無視するが、佐倉杏子を無視することはできない。
杏子を殺さないと、私の気が済まないから。
でも、まさかあの状態で生きていたなんて。
美樹さやかによって治療されるとは、神様がくれた奇跡なのかしらね。
その奇跡もその時限りで、今日も来ることはないのだけれど。
ほむら「さて、美樹さやかの部屋は304号室だから……ん?」
美樹さやかの部屋のベランダから、制服姿の巴マミが現れた。
私を視認し、小さく手を振っている。
- 329: 2012/04/16(月) 22:39:14.01 ID:RiAviqKM0
- マミ「あら暁美さん、魔女退治は終わったのね?」
ほむら「ええ」
マミ(……“ええ”、ね…)
マミ「佐倉さんの服も干してあるし、中にも痕跡はあるんだけど…どうも、既に居ないみたい」
ほむら「本当に?」
巴マミの目を見る。
落ちついた上級生の目。
長年魔女と戦ってきた目。
眼球の動きは見逃さない。
マミ「…ええ、他人の家にずっと居るわけにもいかなかったんでしょうね」
ほむら「……そう」
目に揺るぎは無い。
嘘はついていないか?
いいや。
巴マミはハッタリが上手い魔法少女だ。
嘘をついている可能性は十分にある。
ほむら「嘘でしょう?」
マミ「…っ」
眼球が揺らいだ。見逃さない。
三階から私を見下ろす目に、明らかな恐怖と動揺が垣間見えた。
その綻びを見て、私は口元をゆがめる。
ほむら「――佐倉杏子、出てきなさい」
- 332: 2012/04/16(月) 22:47:00.50 ID:RiAviqKM0
- マミ「だから、佐倉さんは……」
ほむら「口を閉じなさい巴マミ」
マミ「…!」
巴マミが驚きに閉口する。
そうね、それも仕方ないのかしらね。
“私”は、随分と風変わりみたいだから。
ほむら「ねえ、杏子、私の声はきっと、その部屋にも聞こえているのでしょう?」
マミ「……」
ほむら「聞こえていないのかしら?そんなはずはないわよね」
マミ「……」
ほむら「……」
ほむら『杏子、テレパシーは通じるわよね、聞こえているでしょう?』
『……』
ほむら『テレパシーでも私を無視するというの?それとも、本当にそこに居ないのかしら』
ああ、もう、じれったい。
隣町からここまで結構な時間を使ったのに。
もう、足踏みをしている時間は無いのに。
佐倉杏子、ああ、杏子。
憎い。佐倉杏子が憎い。
殺してやる。
絶対に!
今すぐに!!
ほむら『ッ…ァアァアアァアァアッ!!!』
マミ『ひゃっ!?』
杏子『っぅ…!』
私の憎悪の咆哮に混じり、二人の短い悲鳴も聞こえてきた。
ほむら『いま、確かに聞こえたわよ、杏子』
私は今まさに、口元が三日月のように歪んでいることだろう。
- 365: 2012/04/18(水) 20:44:49.19 ID:udoHXQB10
- グリーフシードは貴重だ。砂は止められない。
杏子如き、地の力で圧倒しなくては。
ほむら「さあ、行くわよ」
変身する。
即座にアスファルトを蹴り、3階のベランダへ飛ぶ。
美樹さやかの部屋へ繋がるガラス戸を開く。
ほむら(居ない)
部屋が荒れた様子は無い。
さっさと玄関から退避でもしたか。
だとしたら厄介だ。逃げ道はいくらでもある。大胆な手を使えば、他人の部屋に上がり込むなりすることで隠遁も可能。
時間を止められようとも、捜索範囲はあまりに無限大。追うことはできなくなる。
マミ「暁美さん!」
ほむら「……」
後ろからうるさいのがついてきた。
ああ、面倒臭い。 - 367: 2012/04/18(水) 21:31:30.40 ID:udoHXQB10
- ほむら「……何?」
今、巴マミに構っている余裕はない。
私の左手のソウルジェムが警鐘を鳴らしている。
マミ「暁美さん、よね?」
巴マミの装いも魔法少女に。
しかし銃は出していない。かなり珍しいケースだ。
普通ならば疑わしきを躊躇なく撃つのに。
マミ「何故佐倉さんを…?」
しかし、彼女の怯えた目は私の気分を悪くさせる。
すぐにでも私を殺しそうな、そんな不安定な目。
この目が何度、私を苦しめたことか。
ほむら「率直に言うわ、佐倉杏子を殺す」
マミ「何故!?」
ほむら「黙りなさい、巴マミ」
マミ「っ」
ほむら「今のは予告よ、貴女の問いに答えたわけではない」
一歩、マミが後ずさる。
そして金縛りにあったかのように、自ずと動かなくなる。
いつからだろう、凄むだけで彼女が退がるようになったのは。
一体私の何が研鑽されたというのかしら。
怒り?殺気?闘志?
まあ、どうでもいいことだわ。
この感情は、最も間近にある邪魔ものにぶつけるだけだもの。
- 368: 2012/04/18(水) 21:48:31.23 ID:udoHXQB10
- ほむら(……くっ)
左手にわずかな痺れが走る。
まずい。感覚が薄れてきたか。
思った以上に余裕はない。
ほむら「杏子、この部屋のどこかにいるのはわかっているわ」
私の存在に恐怖心を抱いているのであれば、彼女は私のテレパシーを受けて多少のパニックに陥ったはずだ。
生まれ持っての逃げの才能はあるかもしれないが、それでも見知らぬマンションの中でおにごっこをする度胸が沸くだろうか。
玄関からさっさと出ていった、と見せかけて、実はまだ部屋に残っているのではないか。
ほむら「杏子、出てきなさい」
ベッドを蹴り、ひっくり返す。いない。
ほむら「杏子、どこにいるの」
椅子を蹴る。机の下にもいない。
だとすれば後は……。
ほむら「さあ、杏子、後は無いわよ」
クローゼットに微笑みかける。
向こうから私は見えているだろうか。別に、向こうの視点などどうでもいいけれど。
さあ、終わりの時は来た。
これでやっと、まどかを守ることができる。
ほむら「さあ、死になさい……」
マミ「駄目!」
- 369: 2012/04/18(水) 21:54:55.16 ID:udoHXQB10
- 黄色のリボンが襲いかかる。
カチッ
そんな単調なわかりやすい攻撃、私に読めないはずがない。
カチッ
マミ「へぐぅっ!」
時間停止解除と共に、マミの身体は勢いよく窓へ突っ込み、外へ投げ出された。
腹部にお見舞いした4発の蹴りの威力がそれだった。
ほむら「無駄な魔力を使わせてくれたわね、巴マミ」
巴マミはそういう人間だから別にいいのだけれど。
けれど、本気で私を邪魔するつもりなら、私も本気で殺しにかかる。
ほむら「さて…」
巴マミの事はどうだっていい。問題は杏子。
この杏子は殺さなくてはならない。
まどかに甘い言葉を囁く悪魔の女め。
クローゼットに向かって、魔力を込めた脚を振りかざす。
ほむら「地獄で家族に逢いなさい」
- 370: 2012/04/18(水) 21:59:53.71 ID:udoHXQB10
- 私の蹴りは、確かにクローゼットを叩き割った。
ほむら「……」
中には散乱する衣服が。
美樹さやかのものだろう。
ほむら「~~!!」
佐倉杏子にしてやられた。
その許し難い事実だけで、私のソウルジェムは限界だった。
ほむら「ぁああぁぁあああッ!」
近くにあったボールペンで左腕を掻き毟る。
このままでは不味い。
杏子を殺したい。けれどもう今は難しい。
自分の魂を優先しなくては。
早く。早くグリーフシードを。
ほむら「クソアマめぇええぇッ…!」
巴マミが突っ込んだ窓ガラスから表へ飛び出す。
植え込みの緑の上に、巴マミの姿があった。それはどうでもいい。
全てを無視して私は街を駆けた。
ああ、今は全てをどうでもよく思わなければ。
早く家に帰って、グリーフシードを使って浄化して、寝よう。
考えては駄目だ。考えては駄目……。
- 403: 2012/04/19(木) 20:01:15.05 ID:TW94epNp0
- マミ「……つぅ…」
マミ(止めようと思ったけど…やられちゃった…)
マミ(少しの間、足止めはできるかと思ったけど……さすが、暁美さん、なのかしら…)
マミ(…お腹痛い…動けない)
杏子「……マミ、無事か?」
マミ「……え?佐倉さん?逃げたんじゃ…」
杏子「マンションの中でな…アタシよりもマミのが重傷だよ、起き上がれるか?肩貸そうか?」
マミ「うん……」
グイッ
杏子「……あいつは行ったみたいだな…くそ、マミにまで手を出すとは思わなかったぜ」
マミ「……」
杏子「……ごめんな、マミ…アタシのせいで、こんな事に」
マミ「あれは、暁美さんじゃないわ」
- 405: 2012/04/19(木) 20:11:53.97 ID:TW94epNp0
- 杏子「え?」
マミ「あれは暁美さんなんかじゃない……」
杏子「……あれは、ほむらだよ」
マミ「違うわ…!絶対に!」
杏子「……」
杏子「違うのかな……」
マミ「ええ、違うわ……」
杏子「そうなのかな……」
マミ「そうよ…だって、暁美さん、いつもの暁美さんじゃないもの」
マミ「そうでしょ?佐倉さん」
杏子「! お前、泣いて……」
マミ「暁美さん、人殺しなんてしないもの…魔法少女を殺したりなんて、絶対にしないもの…!」
杏子「マミ……」
杏子(…ほむら……)
- 406: 2012/04/19(木) 20:20:13.08 ID:TW94epNp0
- まどか「杏子ちゃん、どうしてるかな」
さやか「うーん、ちゃんと部屋で大人しくしてればいいんだけどなあ……」
まどか「でもマミさんがいれば安心だよね?」
さやか「あはは、居ればなんだけどねー…」
タッ タッ
まどか「! 前から何か、屋根の上…来る!」
さやか「えっ!?魔女!?使い魔…!」
タッ
ほむら「……!」
まどか「あ、なんだ、ほむらちゃんか……」
さやか「魔女退治はもう…ってオイ!ほむらどうしたの!?その腕…」
ほむら「…チッ」
カチッ
さやか「は……あれ?」
まどか「消え、た…?」
さやか「…私の家に急ごう」
まどか「うん、なんだか…嫌な予感がする」
- 407: 2012/04/19(木) 20:33:11.01 ID:TW94epNp0
- ―――――――――――
ほむら『……』
殺風景な白い自室。
私は力ない姿勢でソファーに座っていた。
ほむら『また夢か』
ほんの少しだけ、寝起きのようにぼやけた視界。
はっきりしない世界の中で、唯一はっきりと視認できるものがあった。
私の姿だ。
『……』
ほむら『……』
みの虫のように毛布に包まれているが、長い黒髪は外に飛び出している。
癖のある私の髪だ。
ほむら『結局、地べたで寝ているわけか』
『……』
ほむら『まあ、布団もベッドもない部屋では仕方がないんだろうけど』
『……』
ほむら『ふふっ、ロクに毛布も使わない私が言えた事ではないか…』
『……使ってるじゃない』
ほむら『え?』
使った覚えは無い。
確かに何度か羽織ったことはあるが、使ったとしても最近ではない。
『毛布、私は、貴女は、使っているのよ……暁美ほむら』
―――――――――――
- 408: 2012/04/19(木) 20:41:42.39 ID:TW94epNp0
- ほむら「……」
目を醒ますと、そこは暗闇の中だった。
とても窮屈で、とても温かい中だった。
ほむら「んんっ……なんだ、ここは…」
身体に纏わるものを退けるようにして這い出る。
ほむら「……え」
「にゃぁ……」
目の前にワトソンがいた。
ここは私の部屋の中だった。
ほむら「ええ?」
そして、私は身体に毛布を巻き付けていた。
自室の床の上で。寝ていたのだ。
ほむら「……」
昨日も寝た覚えは無い。
最後の記憶は、ええと、確か魔女を狩ろうとして、それで…。
ほむら「……痛っ」
保留のできない思考は、より衝撃ある腕の痛みによって阻害された。
毛布のまとわりつく左腕が、とても痛かった。
ほむら「…何だ、これは…」
私の左腕には無数の裂傷が刻まれていた。
多くの傷は意味ありげに交わり、連なり、言葉を形成している。
私の見間違えでなければ、それはこう読めるのだ。
“杏子をころせ マ女をころせ コドクになれ”
血液が逆流する。
身体中の血の気が引くという意味が理解できた瞬間だった。 - 437: 2012/04/21(土) 23:30:12.84 ID:xC/uPwbh0
-
ほむら「~~!!」
文字を理解すると共に、言い知れぬ恐怖に駆られた私は反射的に腕へ治癒魔法をかけた。
浅い傷は瞬時に治ったが、頭に焼きついた文字は離れることは無い。
ほむら「……」
無傷に戻った左腕を見て、安堵か落胆かのため息をひとつ。
ほむら「ついに、この時が来てしまったのか…」
心の隅で予感していた未来の一つに遭遇したのだ。
それは悪い未来の一つだった。
ほむら「私の前の人格が戻り……私は暁美ほむらに乗っ取られる」
私としての自我が消え失せ、奥底に眠っていた暁美ほむらの記憶が私の体を再ジャックするのだ。
こんな簡単なことに気付かない私ではない。
私の記憶は、二日前から曖昧になっているのだ。
そして、曖昧になる感覚が広がってゆく。
私が私として活動しない時間が消えてゆくのだ。
いずれ私はどうなるのか。
ほむら「…私は、消えてしまうのか……?」
半分ほど濁ったソウルジェムを、震える手で握り締める。
- 444: 2012/04/22(日) 23:54:20.00 ID:Ck0canRo0
- 傍らのワトソンにも目をくれてやれず、私はテーブルの上を漁った。
邪魔な小物を退け、アイデアを描き殴ったばらのルーズリーフを押しやり、そして一か所に固められたグリーフシードを手に取る。
ほむら「……」
数は減っていない。
だがこのうちの2個がほぼ9割近くまで穢れをためており、使えない状態にまでなっていた。
…暁美ほむらが使ったのだ。
半日で、2つも。
どんな魔力の使い方をすれば2個も減るのか。という疑問は、すぐに“何に魔力を使ったのか”という疑問に変わった。
……決まっている。
“杏子をころせ”
ほむら「……何があったんだ」
私託された、“杏子を殺せ”というメッセージ。
魔女を殺せ。それだけはわかる。だが何故杏子を殺さなければならないのだ。
孤独になれとはどういうことだ。
暁美ほむらは私を恨んでいるのか?憎んでいるのか?
それともやはり、暁美ほむら、君はそういう人間だというのか。
かつてのように魔法少女を殺し、街を破壊し尽くす幽鬼だというのか。
ほむら「私にそうなれとでも言うのか……」
私よ。そんな暁美ほむらを受け入れろというのか。
ほむら「……!」
悪寒が走る。
- 445: 2012/04/23(月) 00:04:35.69 ID:NLCqTPpu0
- 残された杏子を殺せというメッセージ。
減りに減った魔力。
これが示すものは何だ。
魔法少女を狩る暁美ほむらの、血みどろの戦い。
メッセージを見るに杏子はまだ死んでいない。
だが、私が狙うのは杏子だけか?
私の殺人は杏子だけにおわるのか?
――この毒牙は、マミやさやかにもかかるのではないか。
ほむら「~~ワトソンッ!留守を頼む!」
「に」
返事を待たずに私は部屋を飛び出した。
制服姿のままで、路地を駆ける。鞄など持たない。だが学校に行かなくてはならなかった。
たとえ私が昨日何をしていようとも、マミとさやかの安否を確認しなくてはならない。
彼女らに邪険にされようとも、撃たれようとも、二人の無事を見届けなくては。
――そして、私は告げなくてはならない。私は、記憶の失った人間であるという事を。
何故私は今まで告白しなかったのか。
変に格好つけて、挙句こうして状況を悪くさせた。なんとも馬鹿けた話だ。
ほむら「格好悪い……クソ、ああもうっ!」
焦燥感と苛立ちに駆られ、私は魔法少女の姿となって学校へ急いだ。
- 446: 2012/04/23(月) 00:18:35.28 ID:NLCqTPpu0
-
さやか「……」
まどか「……」
QB「そんなことがあったのとは…知らなかったよ」
マミ『…上の階から失礼するわね』
まどか『マミさん』
マミ『そう、大体今の話の通り……まとめると、つまりは、暁美さんが豹変して…』
QB『よくわからないけど杏子の命を狙ったんだね?』
マミ『ええ……探すのを諦めてどこかへ行ってしまったけれど、また来るはずよ』
QB『君たちはどうするんだい?マミ、さやか』
マミ『……』
さやか『…私は、ほむらを止める』
まどか『大丈夫なの?さやかちゃん……』
さやか『ちっとも大丈夫じゃないよ……ほむらの戦いは何度か見たけど、正直勝てる気がしないわ』
まどか『そんな……!』
さやか『けど、ほむらを倒すことが私の目的じゃない』
さやか『ほむらと話さないと駄目なんだ…ほむらとちゃんと話して、しっかり事情を聞く』
マミ『ええ、そうね……それからでないと、全くわからないものね』
- 447: 2012/04/23(月) 00:24:05.16 ID:NLCqTPpu0
- まどか『……ほむらちゃんは、危ないよ』
さやか『まどか……』
まどか『マミさんも私と一緒に見ましたよね?仁美ちゃんとさやかちゃんを操ろうとした魔女の時の事…』
マミ『……ええ、あの、魔女が映しだした映像ね』
さやか『……』
まどか『ほむらちゃんは魔法少女を…そういう人なんだよ…絶対に、危ないよ…!』
マミ『……確かに見たわ、あの時のことははっきりと覚えているし……今まで、大きな疑問として残るものでもあったしね』
QB『……』
マミ『けれど、暁美さんにそのような過去があったとしても、絶対に何らかの事情があったように思うのよ』
まどか『……杏子ちゃんに酷い事したのに?』
マミ『…理由があるのよ、きっと』
まどか『私、怖い……ほむらちゃんのこと、全然信用できないよ……』
さやか『……』
ガララッ
ほむら「はぁ…はぁ…」
さやか「!」
まどか「あ……」
- 448: 2012/04/23(月) 00:31:10.55 ID:NLCqTPpu0
- ガラス戸を開けた向こうには、驚く顔で止まったさやかと、私を畏れるような顔で小さく震えるまどかがあった。
私は口を閉じて息を整え、早足で二人の傍へ近づく。
そこに、さやかを庇うようにして、すかさずまどかが立ちふさがった。
まどか「……」
ほむら「……」
涙ぐみそうな決意ある目が、私の昨日の空白に一抹の答えを彩ってゆく。
まどかの後ろのさやかの複雑な顔も、無慈悲で明瞭な答えを持っていた。
ああ、私はやはり、昨日、何かをしたのだ。
ほむら『……話がしたい』
まどか『……ほむらちゃん…先に、言うことない…?』
ほむら『……』
わからない。そう言いたい。
けれど、今の二人に告げる言葉としては、あまりに配慮にかけるものだと思った。
ほむら『屋上で話す…マミも、来てほしい』
マミ『暁美さん………ええ、わかったわ』
誰もが重々しい声を発していた。
身構え、決意し、慎重に選ぶ言葉のなんと重いことか。
ほむら(……)
私は黙って教室を出た。さやかと、まどかも後から距離を置いてついてくる。
重い足取りで、屋上へと向かう。
- 449: 2012/04/23(月) 00:37:24.25 ID:NLCqTPpu0
- ほむら「……」
私は地べたに腰を降ろしていた。
マミ「……」
さやか「……」
まどか「……」
ベンチにはマミが、さやかが、そしてまどかが座っている。
マミとさやかは緊張した凛々とした面持ちで私を見て、まどかは悲しそうな伏し目で私の脚辺りを見ていた。
QB「僕も同席してもいいよね」
白い毛並みの未確認生物も、まどかの隣に居た。
さやか「……ほむら、話って何」
まどか「まずは……」
さやか「まどか、全部ほむらに任せよう」
まどか「……うん」
もう後に引き返すことはできない。
……いいや、逃げ道なんてもう無い。
私はもう、消えるしかない存在なのだ。
ならばせめて消える前に……言わなくてはならない。
ほむら「…なあ、みんな…私の話を聞いてほしいんだ」
半分濁ったソウルジェムを地べたに差し出し、私は口を開いた。
- 450: 2012/04/23(月) 00:46:04.06 ID:NLCqTPpu0
- ほむら「私が、私の名を暁美ほむらであると知ったのはつい数週間前…この見滝原中学に転校する前の、病院でのことだ」
さやか「……?」
マミ「?」
まどか「…?」
ほむら「私が目を醒ましたその日は晴れだった…カーテンが揺れ、窓の外も中も、全て静かだった」
ほむら「まず思い浮かんだ事は、私が魔法少女であるという事だった」
ほむら「魔女を倒すのが魔法少女、いずれ魔女になるのが、魔法少女……」
ほむら「まずはそれだけ」
ほむら「目覚めた私は、自分の名前すら知らなかった」
まどか「え…?」
ほむら「まるで物語の主人公のようだろう、記憶喪失だよ」
さやか「記憶喪失?」
ほむら「私が私を“暁美ほむら”という名前だと知ったのは、病室を出て扉の横のプレートを見た時だ」
マミ「どういうこと…?」
ほむら「……」
ほむら「……私は、自分が魔法少女であるということ以外、全てを忘れていた」
ほむら「自分でも戸惑ったよ……起きたらベッドの上で治療を受ける身、そして記憶喪失だ」
ほむら「最初はただ、唯一覚えている“魔法少女”のシステムに従い…魔女を倒す者して動くしかなかった」
- 451: 2012/04/23(月) 00:55:05.77 ID:NLCqTPpu0
- ほむら「魔女を倒し、グリーフシードに余裕が生まれるにつれて、私は自分の記憶を取り戻す努力をしようと考えるようになった」
ほむら「さて、以前の私は何者であったか……顔つきや髪型から、陰湿で根暗な女であろうとはなんとなく思っていた」
さやか「根暗って」
ほむら「根暗さ、目覚めた時の私は酷い顔だったとも…地味で、それゆえ気の弱い、どうしようもなさそうなタイプの女だ」
マミ「そんな」
ほむら「ま、今はそれは良い」
ほむら「……以前の暁美ほむらが何者であろうと、何の信念も無かった私はとにかく、魔法少女である私の祈りの為に、そのために生きることにした」
ほむら「だが私の祈りとはなんだろう?私の願いは?目的は?幸せとは……」
ほむら「変身した姿から、私は予測を立てることにした」
マミ「……」
まどか「……」
さやか「……それで」
ほむら「それがマジシャンだった」
マミ(……?)
まどか(え?)
さやか(……ん?)
ほむら「変身した自分の姿を見て常々思っていた……そう、私の姿はマジシャンに似ている」
ほむら「ハットとステッキを独自に購入してセットにしてみると、私の感は正しかったのだろう…その姿はまさにマジシャン」
マミ「あ、あのちょっと、暁美さん」
ほむら「…何だい」
マミ「…いつもつけている帽子と、ステッキって、魔法で作ったものではないの?」
ほむら「違うよ、見た目だ」
マミ「……そう」
- 452: 2012/04/23(月) 01:08:40.80 ID:NLCqTPpu0
- ほむら「私はマジシャンだった、そうに違いない…そう思った私は、その日からマジックを始めた」
まどか「……」
ほむら「マジックなど覚えてはいなかったが、それでも新たに覚えて、やってみれば私の記憶を取り戻すためのきっかけになるかもしれない」
さやか「そ、それで……?」
ほむら「私はマジックを始めた」
ほむら「……学校に通いはじめ、皆と出会い、色々な事を経験して……」
ほむら「……ふふ、すごく楽しかった」
まどか「……!」
ほむら「本当に、毎日が楽しくてね……マジックはいまいち、私の記憶に関わるようなものではなかったみたいでさ…ちっとも成果はなかったけどさ」
ほむら「それも、やっていくうちに楽しくなって……ひとつの趣味としてやるようになったよ」
ほむら「学校の友達も、面白い人が多くて……」
ほむら「……でもその頃だっけかなぁ」
ほむら「私は、不可思議な夢を見るようになった」
- 453: 2012/04/23(月) 01:29:56.82 ID:NLCqTPpu0
- さやか「夢……?」
ほむら「……嫌な夢さ、無駄にリアルで、暗いイメージの夢」
ほむら「いつかの時には、魔法少女のソウルジェムを銃で撃ち抜き」
ほむら「暗いどこかで、何者かに引導を渡そうと手を伸ばし」
ほむら「路地裏に追い詰めた何者かを虐殺し続け……」
マミ「……私と鹿目さんが見たのって、もしかして……」
ほむら「……そう、きっとそれは、私の夢で見た記憶だ」
ほむら「陰惨で意味ありげな夢を毎晩のように見る度に、私は暁美ほむらというものに疑念を抱くようになった」
ほむら「……以前の私は一体何をしていたのか?」
ほむら「……私は、次第に暁美ほむらの事を忘れ去ろうと思うようになっていった」
- 480: 2012/04/23(月) 20:42:30.38 ID:NLCqTPpu0
- ほむら「暁美ほむらのためならば、と、私はなるべく正義に寄り添い、純然たる普通の女子中学生として過ごしてきた」
マミ「……」
さやか「……」
まどか「……」
ほむら「だが私が過去の断片らしきそれらの記憶を手繰るにつれて、私は“個”として生きる決心を固め始めたのだ」
ほむら「…杏子とも、夜のゲーセンで会うようになってね……彼女とはよく夜通し、ゲームをしたものだよ」
マミ「佐倉さんと?」
さやか「杏子のことは、結構前から…?」
ほむら「ああ、杏子とは……そうだ、杏子は無事か?」
まどか「…うん」
ほむら「……そっか」
心の底から安堵する。
誰も死んではいない。ならば間に合ったということだ。
良かった。
ほむら「“暁美ほむら”は忘れ去り、私は暁美ほむらとして、私自身で新たな人生を生きる」
ほむら「まどかや仁美たち、学校の友達と過ごして」
ほむら「マミと、さやかと共に、魔法少女を生きて」
ほむら「杏子と、…そりゃあ考え方の違いもあったが、彼女ともいつかは仲直りして、それで、また遊ぶようになってさ……」
ほむら「……そんな日々が、ずっと続くと思っていたのになぁ」
ほむら「でももう、駄目みたいだ」
- 482: 2012/04/23(月) 20:49:25.17 ID:NLCqTPpu0
- マミ「もしかして」
ほむら「……“暁美ほむら”が、私を侵し始めているんだ」
さやか「……そんな」
ほむら「一昨日から、私の記憶は途切れ途切れでね」
ほむら「……一昨日は夕暮れ時」
さやか(…その時に杏子が)
ほむら「昨日は放課後、魔女を探している時に記憶が切れてしまった」
マミ「その後に、美樹さんの家に…」
まどか「……待って、そんな…おかしいよ、時間がずれてきてるよ」
さやか「!」
ほむら「うん」
マミ「夕暮れ…放課後…そんな、まさか!」
ほむら「そうだ」
ほむら「…暁美ほむらが私を侵食するペースは、おそらく段々と早くなっている」
自分のソウルジェムを睨む。
半分黒く濁った私自身の魂が、今この時だけは、とても憎らしい。
ほむら「最初は記憶の断片…段々と夢はリアルになり…次は私自身を動かすまでになっている」
ほむら「もう時間がない、次に“暁美ほむら”が現れるのは、放課後を待たずしてだろう」
私は石の地面に膝を付き、正座した。
- 483: 2012/04/23(月) 20:57:18.62 ID:NLCqTPpu0
- ほむら「お願いがある」
ほむら「……――――」
言おうと思って開けた口。言葉が出ない。
私の意志が躊躇を見せた。
自我を乗っ取られたわけじゃない。他ならぬ私自身がためらったのだ。
マミ「……お願い?」
さやか「何でも言って、私にできることがあるなら!」
……けど立ち止まってはいけない。
口に出さなくてはいけない。
今、すぐにでも告げなくてはならないのだ。
ほむら「……私のソウルジェムを、砕いてくれ」
さやか「!」
マミ「な…っ…そんなことできない!」
ほむら「私では砕けない…皆の手で砕いて、皆に安心してほしいんだ、私が完全に消え去ったことを」
まどか「ほむらちゃん!」
ほむら「もう一人の私ではない、“暁美ほむら”がこの脳を占領し、悪事を働く前に、頼む……」
私は深く頭を下げた。
でも嘘だ。
死にたくない。消えたくない。
みんなと別れたくなんてない。
だが、仲間を殺すくらいならば、魂を粉々に砕かれて死んだ方がマシだ。
- 484: 2012/04/23(月) 21:06:52.55 ID:NLCqTPpu0
- さやか「何か方法があるはずでしょ!?」
まどか「そ、そうだよ、もう一人のほむらちゃんだって、説得すれば…!」
マミ「……」
まどか「ねえ、マミさん!?」
マミ「説得……」
ほむら「過去の私を説得できると思うかい、マミ……」
マミ「……」
苦虫を噛み締めて舌の両端で味わったような顔をして、マミは目を逸らした。
マミ「……説得、できる自信……私にはないわ」
まどか「そんな!」
さやか「やってみなきゃ……!」
マミ「失敗すれば、私達も殺されてしまうかもしれないのよ?私は、皆を危険にさらす事はできない…!」
ああ。
ほむら「……ふふ」
私は幸せ者だ。
ほむら「ありがとう、マミ」
みんな、私のために涙を流してくれているのだな。
彼女たちになら、私の魂を差し出しても怖くない。
私には友達がいる。それだけで、死の恐怖を振り切るには十分だ。
マミ「……やめて、暁美さん、笑わないで……」
ほむら「さあ、ソウルジェムを受け取ってくれ」
まどか「ぅう…ほむらちゃん…」
ほむら「ありがとう、まどか…楽しかった」
さやか「……」
さやかが私のソウルジェムを、静かに受け取った。
静かな彼女の表情には、マミよりも、まどかよりも涙で濡れていた。
- 488: 2012/04/23(月) 21:12:57.86 ID:NLCqTPpu0
- まどか「……さやかちゃん?」
さやか「…わだしがやるっ!」
決意を込めた綺麗な目だ。
涙が昼に近い太陽の光をうけ、綺麗に煌めいている。
QB「僕に止める権利なんて無いけれど、貴重な魔法少女を失ってしまうのは痛いなぁ」
マミ「……黙って見てなさい、キュゥべえ」
QB「やれやれ、まぁ、他の魔法少女に牙を剥くのであれば、それもやむなしか」
私のソウルジェムを、私よりも少し離れた場所に置き、ソウルジェムを挟んだ向こう側にさやかが立った。
さやか「……ほむら」
ほむら「ん」
さやか「……一緒に戦いたかった」
ほむら「……ふふ、だな」
そうだ。せっかくさやかが魔法少女になったのに。
私はまだ、彼女の晴れ姿を見ていなかったな。
彼女は、一体どんな姿になったのだろう。
さやか「……」
彼女が、幻想的な青い光に包まれる。
- 489: 2012/04/23(月) 21:23:30.63 ID:NLCqTPpu0
- ほむら「……おお」
凛々しい立ち姿だった。
露出は高めだが、スタイルの良いさやかには似合う井出達だ。
さやか「うぐっ…あうぅっ…!」
右手に握りしめるのは、サーベルだった。
悪を断ち切る裁きの象徴。
正しい自分を突き通すための力の道具。
ほむら「……サーベルか、格好良いよ、さやか」
さやか「ほむらぁ……!」
ほむら「そんなに泣いていては、サーベルが上手く当たらないぞ」
さやか「ううっ……うん…!」
ほむら「ほら、よく狙って」
さやかがサーベルの柄を握りしめ、大きく真上に掲げた。
剣先は真下の私のソウルジェムへ狙いを定め、カタカタと小さく震え動いている。
さやかとマミならば、きっと上手くペアを組んでやっていけるはずだ。
ワルプルギスの夜は……わからないが、私がいなければ、きっと上手く具合に転がるだろう。
そう信じたい。
ほむら(……ふふ、“時よ動け、お前は美しいのだから”)
私がいなくとも、私が生きていたかった美しい世界を守る彼女たちがいる。
魂を差し出すには十分な素晴らしい未来が、私の脳裏には広がっていた。
さやか「ぁあぁああああああぁあッ!」
サーベルが振り下ろされる。
――ガキンッ
- 490: 2012/04/23(月) 21:30:48.43 ID:NLCqTPpu0
-
――ああ、意識が深い闇の底に……。
――……沈まない。
杏子「うわぁああぁぁあッ!」
さやか「きゃっ…!」
突如として現れた、赤い影。
槍の一撃で弾かれるサーベル。
勢いよく突き飛ばされる、さやかの身体。
赤い髪を垂れる小さな背が、顔を上げた私の目の前に、大きく広がっていた。
杏子「ほむらにっ…手を出すなぁああ!」
ほむら「……!」
マミ「佐倉、さん…!?」
まどか「え!?」
大きく咆えた杏子が、無茶苦茶に槍を振るってマミ達を遠ざける。
私を庇うように。
私を守るように。
ほむら「杏子…!」
杏子「ううううっ…ほむら、ほむらだよなっ!?」
ほむら「……ああ、私だよ、ほむらだよ」
杏子「杏子だよ?わかるよな!?私のこと、殺したいわけじゃないんだよな!?」
ほむら「当たり前だ…!友達を殺すわけないだろ…!」
杏子「ううう…!」
大粒の涙を流して、杏子は私を抱きしめた。
- 534: 2012/04/24(火) 23:02:31.16 ID:ee+aBcZ50
- 杏子「ほむらぁ…!」
ほむら「杏子……」
普段の気丈な姿を忘れ、おいおいと泣く彼女。
珍しい杏子の一面を見ることができた。
けれど。
ほむら「…杏子、駄目だ、離してくれ」
杏子「……!」
私を抱きしめたまま、頭をぶんぶんと横に振って抗議する。
ポニーテールが顔に当たって痛い。
さやか「……杏子…」
まどか「杏子ちゃん…」
マミ「今日はずっと隠れているって言ったのに…」
杏子「だって……あんなの聞かされて、黙って見てられるかよぉ!」
ほむら「離してくれよ、杏子…私は…」
杏子「知ってる!全部知ってるよ!」
ほむら「“暁美ほむら”を野放しにはできない…私のソウルジェムは砕かなくてはならないんだよ」
杏子「馬鹿野郎!諦めるんじゃねえよ!」
濡れた釣り目が私を睨む。
- 535: 2012/04/24(火) 23:32:55.52 ID:ee+aBcZ50
- 杏子「……マミ達からみんな聞いたよ、ほむらのことや、魔法少女のことも、みんな」
ほむら「…」
杏子「まどかを契約させちゃいけないってのは、そういうことなんだろ?」
ほむら「……そうだ」
杏子「なら、もう一人の方のほむらが私に殺意を抱いたのも頷ける気がする」
ほむら「え?」
杏子「ほむらじゃない方のお前は、私だけに殺意を抱いていた」
ほむら「……なに」
杏子「私を殺したい理由が、ほむらにはあったんだ…なら、説得ができるかもしれない…!」
ほむら「無茶だ!暁美ほむらは……」
杏子「最悪の場合でも、まだ正義を持ってる理性のあるやつならさ…殺されるのは私だけ、だろ?」
ほむら「杏子、離せ!本当に危険だぞ!」
杏子「…嫌だ!」
私の背に腕を回し、頑なに離そうとはしない。
これでは時を止めても無駄だ。
ほむら「マミ、さやか、杏子を…!」
マミ「……佐倉さん!」
杏子「みんな助かるかもしれないんだぞ!?」
マミ「!」
杏子「ほむら一人だけを死なすなんて、そんなの絶対にさせない!」
ほむら「!」
――ひとりぼっちは――
ほむら「ぁ…あぁあっ…!」 - 536: 2012/04/24(火) 23:39:56.72 ID:ee+aBcZ50
- 暑い。
佐倉杏子の体温が、早い鼓動が、小さな震えが、全身から私に伝わってくる。
杏子「……ほむら?」
ほむら「……」
あたたかい。
人肌が心地良い。
ほむら「……佐倉杏子」
杏子「!」
マミが身構え、杏子は身体を大きく震わせて反応した。
私の異変を感じたのだ。
私が“暁美ほむら”に成り変わったことを。
ほむら「……ねえ佐倉杏子、私を説得すると、確かにそう言ったわね」
杏子「…!」
腕を杏子の背中から、うなじへと回す。小刻みな震えは大きくなった。
さやか「ほむら…!?」
ほむら「私は佐倉杏子に聞いているのよ、美樹さやか」
まどか「!」
二人も私の豹変ぶりに気付いた。
ふふ。
誰もが私を恐れていた。
当然のことだけれど。 - 539: 2012/04/24(火) 23:48:20.97 ID:ee+aBcZ50
-
ほむら「ねえ杏子、これ、私のソウルジェム……わかるわよね?」
杏子「……」
彼女からは見えないだろうけど、拾い上げた紫のソウルジェムをちらつかせて見せた。
ほむら「変身すれば、貴女を殺すことなんてワケないわ」
杏子「……そうかい」
ほむら「貴女はそれでも良いというのね?」
杏子「……ああ」
ほむら「!」
両肩を掴み、身体を無理やりに引き剥がす。
私は、杏子の目を見なければならなかった。
目を見て、杏子の心の真贋を見抜かなくてはならなかった。
杏子「…アタシはそれだけのことをしてきたし、もしかしたら、これからやっちまいそうにもなった」
ほむら「……!」
嘘をついていない目。純真で濁りの無い目。
打算も何もない、佐倉杏子にあるまじき目をしている。
杏子「アタシを殺して、“ほむら”の気が済むなら……」
ほむら「ぁ……」
やめて。
そんな目で見ないで。
私は、誰からも許されることなんてしていない。許される人間じゃないのは私の方なのに。
杏子「いいよ、アタシを殺して」
ほむら「や、やめてぇええ!」
堪え切れず、杏子の胸を突き飛ばした。 - 540: 2012/04/24(火) 23:55:17.11 ID:ee+aBcZ50
- 押された杏子は静かに床にうちつけられた。
杏子「っ、たぁ……」
ほむら「……あ」
痛そうな表情。
でもなぜだろう。その表情がとても、静かで。
受け入れているような、そんな。
ほむら「ぁ、な、なんでよ、なんでそんなこと言うの」
自分のソウルジェムを血が滲みそうなほど握りしめる。
2歩も、3歩も後ろに退く。
一刻も早く、杏子から離れたかった。
でも杏子の穏やかな目線は、決して私を逃がさない。
杏子「…殺さないのか?ほむら…」
ほむら「む、無理よ…いや…そんな」
この杏子はもう、だめだ。
私はもう、この杏子に手を上げるなんてできない。
ほむら「ぁあ…!」
そして代わる代わるにやってくる後悔の波。
杏子への暴力。殺意への大きな後悔が襲ってくる。
もう駄目だ。とても私は、彼女を見ることなんてできない。
ほむら「うわぁぁああぁあ!」
カチッ
逃げないと。
グリーフシードを集めないと。
- 560: 2012/04/25(水) 21:05:10.47 ID:Ogr+Itwv0
- 杏子「ほむらっ…!」
さやか「……消えた」
QB「瞬間移動が彼女の能力なのかな?」
マミ「今はそんなこと、どうでもいいわ」
まどか「…杏子ちゃん、大丈夫?」
杏子「あ、ああ…いや、私よりもさやか、ごめん」
さやか「ははは…大丈夫、大丈夫…ちょっと頭打ったけどさ」
杏子「……みんな、ごめん、ほむら、どっか行っちまったよ」
さやか「ううん、謝ることなんてないでしょ」
杏子「そうかな…」
さやか「うん、私はむしろ、杏子が止めてくれて…ほっとしちゃった」
杏子「?」
さやか「……ほむらを手にかけるのが、本当はすっごく怖かったんだ」
まどか「さやかちゃん…無茶しちゃ、駄目だよ…」
さやか「ははは、そうだね…私、やっぱりヒーローぶりすぎなのかもしれないわ」
さやか「…それだけじゃない、まだほむらが、何でもかんでもに襲いかかる狂人じゃないって解って良かったよ」
マミ「そうね…あの暁美さんの様子、ただ事ではないけれど、佐倉さんに敵意を向けることに躊躇しているように見えたわ」
杏子「……みんな、ほむらを探したいんだ」
さやか「うん」
マミ「ええ、もちろん」
まどか「……」
杏子「私の友達なんだ…お願いだ、手伝ってくれ」
まどか「……私も、あの、何も力になれないかもしれないけど…」
杏子「そんなことない、力がないだなんて言うなよ」
杏子「アタシは嬉しいよ、ホントにありがとう、まどか」
まどか「……てぃひひ」
- 561: 2012/04/25(水) 21:18:28.41 ID:Ogr+Itwv0
- 本の魔女。
結界に入り、本の階段を駆け上る。
足下を狙って飛来する栞のナイフたちを盾で強引に弾き退け、なおもハードカバーを昇る。
階段の最上部で開きっぱなしの巨大な本が、はらりはらりと3ページめくれた。
そこに挟まれていた2枚の栞が宙に浮いて、燕のように階段のすれすれを飛びながらこちらに向かってきた。
ほむら「邪魔しないで…!」
盾をまさぐり、ツーハンドソードを抜き放つ。
使い魔が射出した栞のナイフを一凪ぎで消し去り、距離を詰める。
ほむら「はっ!」
使い魔「ぴぎっ!」
使い魔「きゅびい!」
横に並び、使い魔を両断する。
紙切れのように静かに揺られて落下する使い魔は、階段の脇から結界の下へと落ちていった。
下にどのような空間が広がっているかなどは、私は知らない。知っても意味は無い。
落ちることなどないのだから。
魔女「パララララ……」
魔女、つまり階段の最上部に居座る巨大な本は再び自身のページをめくり、何かを探し始めた。
カチッ
次に何かが来られても面倒なので、先手必勝の一撃を決めることにする。
カチッ
魔女「パラララ……!?」
ページをめくる動作は、ナイフ5本で容易く止まった。
ほむら「嫌だわ、紙を切ると切れ味が落ちるのに…!」
魔女「!」
ツーハンドソードを中心に振り下ろす。
まずはグリーフシードをひとつ。
- 563: 2012/04/25(水) 21:30:05.35 ID:Ogr+Itwv0
- ルチャの魔女。
魔女「ヒィィィヤッフゥゥウゥゥウウ」
結界に通路がない、その自身の分だけ、魔女自体が強力だ。
特撮でよく見るような巨人ほどではないが、ちょっとした二階建の民家ほどの人型の魔女が、空から大の字で落ちてくる。
カチッ
オレンジと水色の毒々しい模様の全身タイツに、同じ色の笑顔を浮かべる巨人。
この魔女のボディプレスをまともに受ければ、どんな魔法少女でも確実に即死だろう。
カチッ
魔女「ゴォオオオオオオォ!?」
しかし単純な攻撃しかできない魔女に対して、私が何らかの引けを取るはずもない。
時間を停止して、盾の中に無駄に入っていた刃物を床に固定するだけで、魔女は容易く手玉に取れた。
身体の全面に無数に刺さる刃。傷口からは、赤と青の体液がとめどなく流れる。
魔女「ォオオォウ…!」
ほむら「まだまだ…“あいつ”と比べれば、あなたなんて雑魚よ」
勿体ないが、巨体を葬るには大きなエネルギーが必要だったので、ガソリンによる大爆発で、一方的な戦いは終結した。
グリーフシードは落ちなかった。
武器を使ったから、反則負けなのかしら。ふふ。
くそ。
- 565: 2012/04/25(水) 21:37:53.87 ID:Ogr+Itwv0
- 影の魔女。
巨大な石膏像が伸べる手の先に握られた松明。
その前で跪き、祈る黒い女の姿。
象徴的。ある意味献身的。
けど祈りなんてものは無意味。
少なくとも地に膝を付けている時点で、人に頼り切りなのだ。
立たない者に良い報いなどくるものか。
私はそれを信じ続けたい。
だからこの魔女は嫌いだ。
カチッ
ほむら「これが私なりの救いよ」
カチッ
時間停止を解除した時、私の目の前には黒いサボテンが佇んでいた。
結界は間もなくひび割れ、崩壊を始め、サボテンも跡形もなく崩れていった。
グリーフシード、ふたつめ。
- 567: 2012/04/25(水) 21:47:50.83 ID:Ogr+Itwv0
- 海月の魔女。
能面のような単色の夜空に、等間隔で眩しい星が浮かんでいる。
一面は大海原。
結界に地面らしい地面はなく、海には正方形の木箱がいくつも浮かんでいるだけだった。
魔女「ォオオォオオ……」
ほむら「はあ、面倒くさい」
海面に顔を出した半透明の半球。そして隻眼。
高さでいえば先程のルチャの魔女と同じだが、足場が悪い分、戦い難い相手だ。
火器類があれば容易いものだけど、今は持ち合わせが少ない。
どこかの暴力事務所から漁ってきた散弾銃と拳銃程度。これではどうしようもない。
だから私は、余りに余った刀剣類を投げるという、ひどく原始的な戦い方を選んだ。
ほむら「やあっ!」
カットラスは回転させながらでも効果的に投げることができ、思いの外扱い易かった。
けれど私は“あのほむら”のように、こんなものを主軸に戦いたくはない。
こんな大きさだけの弱い魔女、RPGだけでもあれば事足りるのに。
魔女「グォオオオォオオ……」
ほむら「ふん」
結局、足場を変えて攻撃を避けつつ刀剣を投げるだけで、たった4分で魔女は倒れた。
目が弱点であることは知っていたから。
グリーフシード、みっつめ。
これくらいでいいわね。
- 598: 2012/04/26(木) 20:41:27.33 ID:6/xV+LzB0
- ぼふん。
ほむら「……」
毛布の上に倒れ込む。
そして、毛布を身体に巻きつける。
外の世界を遮断する。自分の世界に篭る。
いつからだろう。こうしておかないと、心を保てなくなってしまった。
ほむら「……」
そして暗い毛布の中、自分のソウルジェムの輝きを抱いて瞑想に耽る。
自らの魂すらも監視して、異常があればすぐに処置を施す。
バカみたいな話だ。
近頃の最大の敵は、自分なのだから。
「にゃぁ……」
ほむら「!」
毛布の中に黒猫が入りこんでくる。
ほむら「エイミー……」
「にゃ……」
ほむら「……そっか、今はワトソン、っていうんだっけ」
ソウルジェムが瞬いた。
いけない。自分に嫉妬してしまうなんて。
ほむら「……」
このままではいけない。
もう私は限界を感じたのだ。
全てを、私に託さなくてはいけないのだ。
他ならぬ私のために。
まどかのために。 - 599: 2012/04/26(木) 20:51:57.75 ID:6/xV+LzB0
- ほむら「……」
ソウルジェムを左手で握り込み、耳にあてがう。
それは海辺で拾った貝殻のように、魂の流れをささやかな音に変える。
私の脳には今、二つの記憶がある。
ひとつは限定的な範囲の記憶を持っている、もう一人の私。
もうひとつは、それを内包する全ての私。
限定的な私へと、私のコントロールが移った時。
全ては彼女に託されたはずだった。
私が持つ負の記憶を全て忘れ、全てを捨てて生きるはずだった。
けれど、どういう巡り合わせか、彼女は綺麗な道筋を作り、わざわざ私が立てた“立ち入り禁止”を蹴飛ばして、今のここまできてしまった。
暁美ほむらは、やっぱりまどかと出会う運命なのだろうか。
ほむら「……身勝手なあなたなら、身勝手に運命の輪を外れてくれると思ったのに」
記憶の葉を揺らし、枝をゆらし、最後には木をも揺らしてしまった。全てが台無しになった。
けどそれは私にも責任のあること。
私がケアをしなくてはならないこと。
- 600: 2012/04/26(木) 20:59:03.59 ID:6/xV+LzB0
- ――――――
――――
――
意識が部屋に落ちる。
私の過去の部屋。
私の頭の中だけにある、私の部屋。
『……』
ほむら『…突然ここへ飛ばされて驚いたのが一つ、そして来てみたはいいが、先に君がいなかったことが二つ目だよ、暁美ほむら』
シルクハットとステッキを携えた私がソファーに座っていた。
足を組み、余裕ありげにそこに存在している。
私は黙って、彼女と向かい側のソファーに腰を落とした。
ほむら『何度となく君と出会った事はあるが、私の抽象的な深層心理くらいにしか思っていなかったよ』
『……』
饒舌。
ほむら『でも昨日わかった……ここは君、暁美ほむらの世界なのだと』
『……』
ほむら『そして君は、何故私が君と会話ができるのかは不思議だが、間違いなく“暁美ほむら”だ』
得意げに話す様は、誰にも似ていない。
まるで私ではないみたいだし、誰と例えようもない。
私なのに、初めてのタイプの人。
ほむら『…君と対話ができるなら、聞きたいことは結構ある…いいかな』
『……ええ』
もとより、そのつもりだった。
- 601: 2012/04/26(木) 21:07:48.19 ID:6/xV+LzB0
- ほむら『身近なことから聞こう…どうして、杏子を殺そうなんて酔狂なことをしようと思ったんだ?』
『私の、為よ』
ほむら『杏子を殺して何のメリットがあるというんだ、まどかを勧誘したからか?』
『……間接的にはそう、けど直接的な理由が他にあったから』
ほむら『ほう』
『それを説明する時間は無い……こんな短い夢の中じゃ、いつまで経っても終わらない話が続く』
ほむら『……』
『安心してほしい、もう杏子には手を出さないから』
ほむら『! 本当か?』
『ええ、もうそんな気分じゃなくなったもの』
ほむら『気分……だと』
向かい側の私の目つきが鋭くなる。
ほむら『君は気分で杏子を殺すのか、暁美ほむら』
じゃきん。と盾の中から取りだしたのは、一本のカットラス。
立ち上がって、私の首元に伸べている。
『物騒なものを仕舞ってくれないかしら、無駄よ』
ほむら『ここで君を殺せば、暁美ほむらはどうなるのかな』
『どうにもならないわ、貴女の目覚めが悪夢になってるだけ』
ほむら『……』
納得がいかない。もどかしい。
彼女はそんな顔をしている。
『……杏子は無事だし、誰も怪我はしてないわ』
ほむら『! ……そうか』
『ええ、貴女は私を、魔法少女を殺し続ける殺人鬼か何かと勘違いしているのだろうけど……いえ、でも合っているのかしらね』
紛れもなく私は、人殺しなのだから。
- 602: 2012/04/26(木) 21:18:14.91 ID:6/xV+LzB0
- ほむら『…君は、魔法少女を殺した事はあるんだろう』
『……ええ、あるわ……』
ほむら『今まで』
『“数えるのをやめるくらい”』
ほむら『……』
『……ふふ、でも良いのよそれは…仕方のない事だったから』
ほむら『……君がわからないよ、暁美ほむら』
『?』
もう一人の私が深く息をつく。
ほむら『私は君の為にあらゆる事を頑張ってきたつもりだけど、私は途中から君の為に努力することをやめてしまった』
『……何の努力もする必要はなかったわ』
ほむら『厚意を無駄にするなよ、そして応えてほしかった』
ほむら『…君は、魔法少女だが…普通の女子中学生として生きることもできただろうに』
『………………何も知らないくせに』
ほむら『!』
『知ったような口を聞かないでよ!?私がどれだけ普通の女子中学生として生きたいと、今まで願ってきたか!!』
ほむら『お、おい』
『何度も何度も私は頑張ってきたの!貴女のやってきたことなんて些細!私と比べれば、貴女なんて……!』
がし。
手を掴まれる。
ほむら『……そうだな』
『……!』
ほむら『…すまない、私は何も知らないのに、軽率だったよ』
私の手は暖かかった。
- 603: 2012/04/26(木) 21:28:19.70 ID:6/xV+LzB0
- ほむら『…私はこのまま、どんどん私の時間を失い…消え去ってしまうのかな?』
手を握りながら尋ねる彼女は、憂いある表情だった。
『……ええ、そう、ね』
ほむら『そうか…』
諦めの笑みは、自分でも見ていて辛かった。
ほむら『…君は、私の記憶も持っているのかな?』
『ええ……でも、ちょっと変だけど』
ほむら『なに?どこがだ』
本当にこの私は“なに?”という顔をするから、こっちが不思議に思う。
彼女は本当に私なのだろうか、と。
『……けれど、このまま何もしなければ、という事でもあるわ』
ほむら『え?』
『手段がないわけではないのよ』
ほむら『しゅ、手段とはつまり』
『…あなたが、見聞きして、歩いて、感じて……私を動かせる時間を設けることができる、その方法が、よ』
ほむら『本当か!?』
そう、そのために私は彼女に会いに来たのだ。
- 640: 2012/04/27(金) 19:40:48.45 ID:vrfJwBQb0
- ほむら『君の全ての時間が欲しいとは言わない』
『……』
ほむら『少しでも良い、マミたちと一緒に過ごせる時間を、私にも分けて欲しい!たのむ!』
『…謙虚ね』
ほむら『え?』
『私の時間、全て欲しくは無いの?』
ほむら『…欲しくない、と言ったらウソになる』
ほむら『でも暁美ほむら、君が悪い魔法少女でないと、今なら信じられるんだ』
『……そうかしら』
ほむら『そんな君から時間を取ろうとする事自体が、私の傲慢な願いでもある』
『そんなことないわ…貴女だって、私なんだもの…私の時間を有する権利はあるわ』
ほむら『……』
『…“そうは思えない”って顔をしているわね』
『大丈夫、これから全てを知ることになるのだから』
ほむら『……?』
『……ねえ、貴女はこれを何だと思ってた?』
左腕の盾を指し示す。
ほむら『時を止められる盾だろう』
『そうね、時を止められる盾…同時に、砂時計でもあるの』
ほむら『砂時計?』
『ええ、砂時計……ひっくり返して、落ちた時間をさらさらと戻すことのできる砂時計』
- 641: 2012/04/27(金) 19:49:49.39 ID:vrfJwBQb0
- ほむら『…時間操作』
『この魔法を手にした時から、私の迷走は始まっていたのよ』
ほむら『どういうことだ』
『それを今から知るのよ、“暁美ほむら”』
盾から拳銃を取り出す。
使い慣れた、オートマのハンドガンだ。
ほむら『……何を』
『今から貴女に撃つのは、ただの弾ではないわ』
『私の魔力を込めた、魔法の弾……貴女と、それを包む私との間の壁を取り払う弾よ』
ほむら『意味がわからな……』
言葉を遮り、銃口を暁美ほむらの右こめかみに押し当てる。
ほむら『……』
『境界が消え去れば、貴女は私に戻ることができる……二人の“暁美ほむら”は混じって、全ての記憶を共有するわ』
『その後、私は魔法の弾の効果ですぐに封印されるけど…まあ、とにかく撃てばわかるわ』
ほむら『なあ、少し心の準備を―――』
『大丈夫よ、理解するのは一瞬だもの』
『そして、……自分に押し付けるなんて、最低だとわかっているけど……どうか耐えて』
『私はもう、貴女を信じなければいけないの』
タァン。軽い音と共に、銃弾は暁美ほむらの頭部を打ち抜いた。
- 642: 2012/04/27(金) 19:57:47.68 ID:vrfJwBQb0
- ―――
――――――
――――――――――――
まどか「ほむらちゃん、ごめんね。私、魔法少女になる」
ほむら「まどか…そんな…」
まどか「私、やっとわかったの…叶えたい願いごと見つけたの。だからそのために、この命を使うね」
ほむら「やめて!」
ほむら「それじゃあ……それじゃあ私は、何のために…」
何のために、今までやってきたというの。
私はただ、貴女だけを救いたかったのに。
何故貴女は、私の差し伸べる手を弾いてしまうの。
まどか「ごめん。ホントにごめん……これまでずっと、ずっとずっと、ほむらちゃんに守られて、望まれてきたから、今の私があるんだと思う」
まどか「ホントにごめん」
謝らないで。私に守らせて。
まどか「そんな私が、やっと見つけ出した答えなの。信じて」
まどか「絶対に、今日までのほむらちゃんを無駄にしたりしないから」
ほむら「まどか…」
無駄になる。
まどかはまた、魔女になる。
私はまた、まどかを守れずに終わってしまう。
- 643: 2012/04/27(金) 19:59:25.93 ID:vrfJwBQb0
- QB「数多の世界の運命を束ね、因果の特異点となった君なら、どんな途方もない望みだろうと、叶えられるだろう」
嫌だ。
まどか「本当だね?」
そんなの嫌だ。
QB「さあ、鹿目まどか――その魂を代価にして、君は何を願う?」
そんな未来、絶対に許さない。
そんなの私の望む未来じゃない。
まどかの望んだ結末じゃない。
まどか「私…」
まどか「はぁ…ふぅ…」
まどか「全ての――」
それは、まどかの望んだ未来じゃない!
ほむら「うあああああああっ!」
左手のすぐそばにあった小石を、思い切り投げる。
一番近くにあった、一番殺傷力のありそうな石。
QB「きゅブっ」
まどか「きゃっ!?」
インキュベーターの顔面は、風船のように弾け散った。
- 644: 2012/04/27(金) 20:07:59.53 ID:vrfJwBQb0
- まどか「あ……ほ、ほむらちゃん?」
ほむら「はーっ…はーっ…!」
させない。
この腕一本だけしか動かなくなったとしても。
絶対に、まどかに契約はさせない。
QB「今は大事な時なんだ、邪魔しないでほしいな」
インキュベーターはしつこく現れる。
わかっていた。
それでも私は立ち止まるわけにはいかない。
QB「さあ、まど――」
ほむら「ぁああぁああっ!」
石は再びインキュベーターに命中し、胴体を喰い破った。
まどか「ほむらちゃん……」
ほむら「駄目よ…絶対に駄目…!まどか!どうしてわかってくれないの!?」
QB「わからないのはこっちの方だよ、暁美ほむら。契約するかしないかを決めるのは、その当人次第なんだよ?」
ほむら「うるさい!絶対にさせない!絶対に!」
まどか「……ごめんね」
ほむら「!」
まどか「ごめんね、ほむらちゃん……それでも私は…」
ほむら「やめて…!」
QB「さあ鹿目まどか、君の願いを……」
盾を開き、ショットガンを取り出す。
先台を片手で、勢いだけでスライドさせて、白い悪魔へ合わせ、放つ。
まどか「ひっ!」
大きな音と大きな反動と共に、インキュベーターは跡形もない肉片となって飛び散った。
次スレ:
- 関連記事
コメント
お知らせ
サイトのデザインを大幅に変更しました。まだまだ、改良していこうと思います。