ほむら「思い出せない…私は何者だ?」【その4】
- カテゴリ:魔法少女まどか☆マギカ
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- 13: 2012/04/02(月) 07:58:51.19 ID:UeF890JAO
- QB「ワルプルギスの夜が具体的にどのくらい強いのかは、僕にもよくわからない」
QB「ただ、普通の魔法少女一人で敵う相手ではないことは確かだ」
杏子「………」
QB「当然、杏子一人で勝てる相手ではないね」
杏子「………アタシが、ほむらやマミと協力すれば…!」
QB「いいや、それでも結果は未知数だよ」
杏子「なに?」
QB「ベテランの魔法少女3人が集まったところで、勝てるかはわからない……むしろ、ワルプルギスはそれ以上だと予想するのが妥当だよ」
杏子「なんだって…!」
- 15: 2012/04/02(月) 12:29:55.08 ID:UeF890JAO
- QB「なにせ遥か昔から現代までに続く魔女だからね、多くの魔法少女が立ち向かっていっただろうさ」
QB「3人や4人くらいの魔法少女でなら、当然ね」
杏子「…じゃあ、どうしろっていうのさ」
QB「ワルプルギスの夜を防ぐ方法はいくつかあるよ」
QB「まず街の壊滅は免れないが、人々を遠くへ避難させることだ」
杏子「……」
QB「ただ、それには少々時間が足りないかな」
杏子(いや…マミやほむらだけならいける…)
QB「僕個人として最も有効なのは、ワルプルギスの夜を倒すことだね」
杏子「……はあ?」
QB「実は不可能ではないんだ」
- 27: 2012/04/02(月) 17:46:12.44 ID:UeF890JAO
- QB「見滝原で鹿目まどか、という子に会ったね」
杏子「ああ、ぼんやりした……素質があるっていう奴の一人だろ?」
QB「まどかが魔法少女になれば、ワルプルギスの夜は倒せると思うよ」
杏子「…魔法少女が一人や二人、って相手なんでしょ?」
QB「まどかについては例外だよ、彼女はとんでもない素質をもっている」
杏子「アタシやマミ以上だっての?」
QB「比較にならないね……魔法少女になったまどかは、あらゆる魔女を一撃の下に粉砕できるはずだよ」
杏子「なっ……」
QB「まどかは君より2歳下だけど、彼女が含有する魔力は途方もない量だ」
QB「ワルプルギスの夜だって、彼女なら簡単に倒してしまうだろうね」
- 36: 2012/04/02(月) 20:03:04.65 ID:VA6uBrjt0
- 杏子「……へえ、つまりあの子が契約すれば、ワルプルギスは倒せて、街を守れる……良い事尽くめ、ってわけ?」
QB「ワルプルギスを倒すにせよ、街を守るにせよ、まどかの力は必要になるだろうね」
杏子「……ふうん、そうかい」
杏子「でもアンタはどうして、そのまどかって子に契約をもちかけない?」
QB「持ちかけているよ?ただ気が進まないらしくてね」
杏子「ワルプルギスの事を踏まえてか」
QB「いいや、まどかにはまだ話していないよ、新しい情報だからね」
杏子「……」
杏子「なあ、その契約の持ちかけ…うまくできなくて、困ってる?」
QB「そうだね、困っているといえば困ってるよ、このままでは見滝原市も危ないしね」
杏子「…アタシが協力してやろうか」
QB「杏子が?かい?」
杏子「ああ、ワルプルギスがこっちのテリトリーにまで影響するっていうんなら、もう見滝原だけの問題じゃないからな」
QB「それはそうだけど、近頃の君は随分と献身的に僕を手伝ってくれるね」
杏子「偶然だよ、グーゼン」
- 40: 2012/04/02(月) 20:54:12.94 ID:VA6uBrjt0
- ほむら「ふっ……!」
ハードルを飛び越える。
魔法少女の身体能力は体育の時間で最も花開く。
何も考えずに力半分でやっていればいいのだ。
加減がなければ、むしろやりすぎてしまうからね。
教師「ま、またすごい記録を……」
ほむら「フリーです」
教師「聞いてないけど……何らかの機会で目に触れれば、スカウト、来るかもしれないわね…」
ほむら「なに」
それは困る。
さすがに魔法少女の力で、この国の有能なアスリートの卵たちを挫折させたくはない。
仁美「はぁ、はぁ……ほむらさん、すごいですわ…全く、追いつける気がしない…」
ほむら「ふふ、仁美もなかなか早かったじゃないか」
仁美「ああ……振り返りながら走っていましたものね…それでよく、ハードルに引っかからないものですわ…」
ほむら「歩数で数えていればハードルなんて目を瞑っていても越えられるさ」
仁美「あーあ…ほむらさんには、何ひとつ叶わないわぁー……」
委員長にちょっとした挫折を味あわせてしまったのかもしれない。
でも、この程度は勘弁してほしい。 - 41: 2012/04/02(月) 21:19:08.99 ID:VA6uBrjt0
-
ほむら「……」
昼休み。
やれやれしかし、学校生活というものは疲れる。
よくある人間関係や勉強面での問題がなくても、魔法少女というだけで大きな気を使ってしまう。
力を出し過ぎればすぐに教師一同の期待がかかり、神童呼ばわりされてしまいそうになる。
次からは脱力して臨むようにしよう。
『暁美さん、いる?』
ほむら『ああ、いるよ』
マミからのテレパシーが入った。
『今日もどうかしら、昨日頑張って作ったのよ』
ほむら『ほほう、しかし毎日悪いね』
『ううん、いいのよ…あ、そうだ暁美さん』
ほむら『ん?』
『美樹さんや鹿目さんも屋上に呼ばない?』
ほむら『ああ、そうだね、それがいい』
皆で食べる昼食は楽しそうだ。
是非ともそうしよう。
- 48: 2012/04/02(月) 23:14:01.68 ID:VA6uBrjt0
- さやか「おー、やっぱ屋上はいいねえ」
まどか「風が気持ちいいねー」
月並みなコメントをありがとう。
マミ「うふふ、暁美さんとはよくここで食べてるのよ」
さやか「あ、それで昼休みいつもいないの?」
ほむら「言っていなかったっけ」
まどか「てぃひひ、私、ほむらちゃんはいつもどこで食べてるんだろうって、ずっと不思議に思ってたよ」
今さらだけど変な笑い方だなこの子。
……私もかな?
カチッ
まぁ、とりあえずせまいベンチの上で食べるのもなんだ。
カチッ
マミ(! シートが、突然……)
ほむら「さあ、シートをひいたよ、ここで座って食べようか」
さやか「うお!?また魔法か!」
まどか「今のってマジック?魔法?」
ほむら「さあ、どっちだろうね」 - 49: 2012/04/02(月) 23:22:07.32 ID:VA6uBrjt0
- シートの上に並ぶ4つの弁当。
マミの丁寧につくられたものが2つ。
まどかの弁当は、どこか可愛いらしい盛りつけ。
さやかの弁当は…なんというか、米の量が結構多い。良く食べる子なのだろう。
活発そうだし、これくらいの量が合うのかもしれない。
まどか「あれ?ほむらちゃんはマミさんと同じお弁当なんだね」
マミ「ああ……これね、前までは暁美さん、自分でご飯を持ってきてたんだけど……」
ほむら「マミが作ってくれると言ってね、それじゃあ厚意に甘えようかなと」
マミ「んー、ちょっと違うわよ、暁美さんのお昼ごはんを見てると心配になってくるから……」
さやか「心配?」
ほむら「何がさ」
マミ「だって、暁美さんたらいつも……スニッカーズ?とか、ゼリーのほら、アレ……とかね、そういうのばっかりで」
まどか「え、ええ!?それだけ…?」
さやか「うわー、ひどいですね」
マミ「でしょ?私もう見てられなくて……」
な、なんだこの言われようは。
私がいつ、誰に何をした。
- 50: 2012/04/02(月) 23:29:12.43 ID:VA6uBrjt0
-
ほむら「……ふー、ごちそうさま」
まどか「ごちそうさまー」
さやか「んー、おいしかった」
マミ「お粗末さまでした」
完食。
四人揃っての昼食は、賑やかに終わった。
まだ昼休みの時間はあるが、屋上にいつまでも居続けると変な汗をかいてしまう。
屋外とはそういうものだ。私達は退散することにした。
まどか「……あ、さやかちゃん」
さやか「ん?なーに、まどか」
まどか「昨日の…」
さやか「あー、うーん」
ほむら「?」
さやかがこちらを見た。マミも見た。
なるほど読めた。まだまどかに伝えていないのだな。
魔法少女になる決心を決めた、と。
さやか「んーやっぱ、放課後で!」
まどか「えー、気になるよう」
さやか「いいからいいから!」
二人は長い間柄の親友だ。
二人の間での事は、二人に任せよう。
私もマミも二人には触れず、静かに良い雰囲気のまま、屋上を後にした。
それにしてもレンコンの肉詰めは美味しかった。
- 51: 2012/04/02(月) 23:44:53.93 ID:VA6uBrjt0
-
さやかは、まどかに告げるだろう。魔法少女になる旨を。
そして私とマミ、そこに魔法少女となったさやかが加わる。
見滝原市を守る魔法少女が三人になるというわけだ。
ほむら「……」
国語教科書の右上に載せられた、拳を握りしめる少年の白黒写真を眺め、その向こうに杏子の姿を思い浮かべる。
杏子の縄張りは隣町だ。見滝原ではないようだが……。
しかし、魔法少女三人のグリーフシードを安定供給するためには、時として魔女を求めに遠征する必要性も出てくるだろう。
その時、もしかしたら、隣町にも…私達の手は及ぶのかもしれない。
杏子と出会った時に起こる摩擦……考えたくはない。
彼女とは考え方が違っている。
私はそれを受け入れるくらいの度量を持ち合わせているつもりではあるが、マミやさやかが杏子のやり方を受け入れるとは思えない。軽く乱闘騒ぎくらいは起こるだろう。
私が一時的にそれをおさめたとしても、継続的にはどうなるか……。
あ、そういえば杏子はソウルジェムの真実を全て知っているのだろうか。
そういった知識も自分の信念には大きく関わって来るから……ああもう、面倒くさいなあ。
マジックだけをやっていたい。
教師「ではここを暁美――」
ほむら「道化」
教師「うむ、正解」
子供の写真に落書きするの楽しい。 - 63: 2012/04/03(火) 21:47:32.02 ID:NhLj+nVd0
- 考え事で授業は終わる。
グッバイ、ミスグリーン。
大人しくしていればホームルームは早めに締まるので、その時だけは皆口数が少ない。
一連の流れが終わると、小グループを作り始めたクラスメイト達をよそに、私は鞄を取って、素早く教室から出る。
「暁美さん、帰り一緒に……」
ほむら「うーん、どうしようかなあ」
悩むような仕草をしてみせる。
ほむら「今日はダメ、じゃあね、ばいばい」
「むう、残念、じゃあねー」
女子たちをしり目に教室を出る。
さやかが何かアイコンタクトを送っていたようにも見えなくもないが、適当に無視することにする。
今日は少々、やるべきことがあるから。
ほむら『マミ、今日は魔女狩りの予定は?』
『あら、…うーん、そうね、私は少しだけパトロールしようかと思っているけど』
ほむら『じゃあ私はちょっと、今日は別行動させてもらうよ』
『そう?わかったわ』
ほむら『じゃあね、マミ』
『うん、じゃあね、暁美さん』
さてと、町へ繰り出そう。 - 64: 2012/04/04(水) 12:04:41.85 ID:V+83bdHAO
- 向かう先は病院。
例の上条恭介を訪ねにゆく。
さやかはきっと、まどかに打ち明けた後に、キュゥべえと魔法少女の契約を結ぶだろう。
そうすればたちまちのうちに上条の左手は完治するはずだ。
それを一足早く確認するのがひとつ。
もうひとつは……上条恭介という人間について、また調べてみようと思う。
前回はさんざんに嫌われたが、平時は違うのだという。
そんな彼を見に行く。
さやかの願いの賜物を。 - 65: 2012/04/04(水) 12:32:07.31 ID:V+83bdHAO
- ガラララララ
恭介「っ!」
ほむら「失礼します」
恭介「君は……開けてから言うなよ」
いきなり間違えてしまったようだ。
出だしから彼のひんしゅくを買ってしまった。
ほむら「……」
ガラララララ。病室を出て戸を閉める。
コン、コン。ノックは二回。
ほむら「失礼します」
「…まあ、いいけどね…どうぞ」
よし、辛くも許してもらえたようだ。
中に入ろう。
- 71: 2012/04/04(水) 20:30:33.59 ID:vGSY1lW30
-
窓の外の景色が広い。
本当に良い病室だとは思うが、ホテルではないんだからもうちょっと慎ましい間取りでも良かったのではないだろうか。
まあ、ここもいわゆる見滝原高度成長期の恩恵を受けたということか。
恭介「……で、君はまた僕に何の用?」
前よりも受け答えがぶっきらぼうになっている気がしなくもない。
ほむら「なに、これからクラスメイトとして仲良くやっていくんだ、ケンカ別れは良くないだろう」
恭介「誰のせいだと……というより、クラスメイトと君は言ったけど、僕が復学するのはまだまだ先だよ」
窓の外を見やる。うつろな目。
恭介「片腕は動かない…足はまだまだ…杖もつけなきゃ、外になんて出れない」
全てを諦めたような目をしている。
恭介「……」
ほむら「なあ、上条」
恭介「馴れ馴れしいな」
ほむら「名前呼びでないだけありがたく思って欲しいな」
恭介「……なんだよ」
ほむら「君は、もしも願いがひとつだけ叶うとしたら、何を叶える?」
恭介「……ふん、バカバカしいけど、決まってるさ……当然、」
ほむら「それは、君の魂を差し出すに足るものかい」
恭介「……なんだって?」
- 72: 2012/04/04(水) 20:40:27.94 ID:vGSY1lW30
- ほむら「そのままの意味だよ」
手にした指輪を外し、上条恭介の眼前へ持っていく。
ほむら「何でも願い事がひとつだけ叶う…ただし、その代わりに一生、地獄のバケモノ共と戦い続けなくてはならない」
恭介「馬鹿らしい」
ほむら「やっていく勇気は無いということかな」
恭介「……」
彼の目がこちらに向いた。
小さな挑発に乗せられたようだ。
ほむら「バケモノは強い…いつだってすぐそこにいる…そんな奴と、君は戦い続けられるかい」
ほむら「終わることのない戦いに身を投じ、いつでも殺される危険を枕の脇に置けるかい」
指輪の空洞の向こうに見える恭介の片目は冷めたような澄ましたものだったが、ふと細まり、口元に笑みを浮かべた。
恭介「……決まってるじゃないか、戦うさ」
ほむら「ほう」
自信満々といった表情だ。
恭介「もっとたくさん弾きたい曲がある……聴かせたい人がいる」
恭介「その人のためだけに、僕は自分の腕を治すことを選べるよ」
恭介「それと引き換えに、すぐ死ぬことになったとしてもね」
恭介「…バイオリンの弾けない僕は、僕じゃないから」
ほむら「……そうか、それが君の願いか」
願いは願い。夢は夢。君の願いはかなわないだろう。
それを叶えるのは君じゃない。さやかだ。
- 73: 2012/04/04(水) 20:49:07.07 ID:vGSY1lW30
- ほむら「さて、今日の暇潰しの為の道具を君にあげよう」
恭介「?」
ポケットからハートの4を取り出し、上条恭介のベッドの上に置く。
彼は、“もう慣れっこだ”と何も言わない。
ほむら「この前の無礼のお詫びだよ、はい、これ」
恭介「!」
トランプを裏返すとともに、カードはCDウォークマンに変わった。
以前に彼が壊したものだ。
恭介「こ、これは、一体どうやって?」
ほむら「Dr.ホームズのマジックショーは不定期だけど、放課後のショウロードでやっているよ」
恭介「マジック……はは、すごい、こんな間近で見たのは初めてだ」
ほむら「また見たければ、ショウロードに足を運んでくれ」
恭介「……」
ほむら「なに、マジックがあるくらいだ、奇跡や魔法だってあるとも」
恭介「……ふ、君は、変わっているね」
私というものにも慣れたか、薄く微笑んだ。優しい表情だった。
彼も少しは機嫌を直してくれたようだ。
仲直りはできたかな。
ほむら「それじゃ、私はこの辺で失礼させてもらうよ」
恭介「……わざわざありがとう、それと、この前は僕の方こそごめん」
ほむら「大丈夫、気にしてないから」
扉を開く。
これ以上いると、いつの間にか彼の腕が治ってしまうかもしれない。
そんな場面に居合わせたくはない。だから。
ほむら「ちちんぷいぷい」
それだけ言い残して、私は上条恭介の病室をあとにした。
- 91: 2012/04/05(木) 12:20:09.82 ID:ov83MjkAO
- まどか「…そっか、魔法少女に…なるんだね」
さやか「……うん」
まどか「さやかちゃん…大丈夫なの?」
さやか「まだわかんない、けど決めたんだ」
まどか「……」
さやか「そーんな顔しないでって!すぐ死ぬわけじゃないんだから!」
まどか「…でも、今さやかちゃん言ってたでしょ……ソウルジェムが真っ黒になると」
さやか「うん、魔女になる」
まどか「…そんなのやだよ…!」
さやか「だから、まだわかんないって」
- 95: 2012/04/05(木) 23:16:20.87 ID:0sX+XT640
- さやか「…丁度、ほむらが来てからだよね…色々な事があったよ」
まどか「……」
さやか「世界には、まだまだ私達の知らないことが沢山あるんだって…私ってバカだけど、この数日は私なりによく考えたよ」
さやか「世の中には不条理に死ぬ人がいる、頭ではわかっていたけど…目の前で満たし、当事者にもなりかけた」
さやか「怖いよね、魔女って……ううん、魔女だけじゃない、世の中って本当に突然に、思いもよらない悲劇が起こるんだ」
さやか「……短い命だとしても、私は魔法少女になりたい」
まどか「……」
さやか「あはは、だーから、そんな暗い顔しないでってば」
まどか「さやかちゃん…私、私は怖いよ…」
さやか「……ふふ、まどかはまどかだよ、それが普通なんじゃない?」
さやか「私だってそりゃあ、怖いよ……魔女を間近に見た時は竦んじゃって動けなかったし…殺されそうにもなったしさ」
さやか「でも私ってバカだからね」
さやか「考えて頭の中でモヤモヤさせてるだけでもいいことなのに、つい手は出ちゃうんだよ」
まどか「…私、臆病だよね…ずるいよね、さやかちゃんは覚悟を決めたのに…私…」
さやか「あはは、だから、そーいうんじゃないんだってば」
- 96: 2012/04/06(金) 00:02:09.63 ID:TvFVhfAN0
- まどか「……じゃあ、さやかちゃん、契約するんだね」
さやか「うん、今日にでもね」
まどか「ま、魔女が現れた時でいいんじゃないかな……」
さやか「……いいや、今日するよ、そういう覚悟だからさ」
まどか「……さやかちゃん」
さやか「ん?」
まどか「…私なんかに話してくれて、ありがとう」
さやか「……へっへー、当然でしょ!まどかは私の親友だもん」
まどか「てぃひひ…」
さやか「さて、なんか考えたらまたお腹すいてきた!バーガー買ってくる!まどかは?」
まどか「わ、私はいいかな…お腹いっぱいだし」
さやか「そか、じゃあ行ってくるねー」
まどか「うん」
- 101: 2012/04/06(金) 12:25:29.94 ID:K7UM37yAO
- 杏子「…ったく、いつ来てみても騒がしいところだな」
QB「この時間ならそうでもない方じゃないかな」
杏子「アタシにとっては、ここでも随分だよ」
杏子「まあいいや、まどかはここにいるんだろ?」
QB「そうだね、彼女の強い魔力の跡があるから、まず間違いないよ」
杏子「よし、じゃあ行くか」
マミ「…?…あれ…佐倉さん?」
マミ(間違いない、佐倉さんだわ)
マミ(見滝原に戻っていたのね!やった…!)
マミ(…けど、何故かしら…頑なに関わりを拒んでいた彼女が…)
マミ(……ここはモールね…あとをつけてみましょうか)
マミ(また一緒に戦ってくれるかしら…ふふっ)
- 106: 2012/04/06(金) 21:11:05.42 ID:TvFVhfAN0
- さやか「えー、グリーンソースフィレオないんですか?」
店員「申し訳ございません、可能ではあるのですが、かなりお時間の方取らせてしまう形と……」
まどか(さやかちゃん遅いなぁー…)
杏子「お、見つけた」
まどか「え?」
QB「やあ、まどか」
まどか「この前の…杏子ちゃん、だっけ…?それにキュゥべえも」
杏子「ここ座るよ」
まどか「あ、その……」
杏子「大事な話があって来たんだ、突然で悪いけど聞いてほしい」
まどか「…私、に?」
杏子「ああ」 - 107: 2012/04/06(金) 21:22:10.77 ID:TvFVhfAN0
- 杏子「アンタ、ワルプルギスの夜、って知ってる?」
まどか「わ…ぷ?…ごめんなさい、ちょっと知らないかな…」
杏子「まあ仕方ないよね、まだ魔法少女じゃないんだし」
杏子「平たく言えば最強の魔女だ」
まどか「最強の……」
杏子「現れただけでひとつの都市が消滅するって話だよ」
まどか「!」
杏子「こいつの話じゃあ、そんな魔女があと二週間かそこらのうちに見滝原に現れるって話だ」
まどか「そ、そんな!」
杏子「そいつとは複数の魔法少女で戦っても勝つ見込みは無い、って話だ」
QB「僕の見解はそうだね」
まどか「ま、マミさんや…ほむらちゃんが戦っても?」
QB「暁美ほむらの戦力は把握しきれていないけど、無理だと思うよ」
杏子「未だかつてワルプルギスの夜を倒した魔法少女はいない」
杏子「……けど、倒す見込みのある魔法少女候補がいるっつー話を聞いてね」
まどか「!」
- 114: 2012/04/06(金) 23:08:56.18 ID:TvFVhfAN0
- QB「まどか、君が魔法少女になってくれれば、襲来するワルプルギスの夜を倒すことができる」
まどか「私が……」
杏子「ワルプルギスが来たら街はただじゃ済まないからな、奴を倒すか……街の全員を避難させるしかない」
QB「一体何人の人が信じるかはわからないけどね」
まどか「そ、そんな……いきなり言われたって、私よくわからないよ」
杏子「まぁ確かに何の話だか、いきなりだし混乱はするだろうけど……」
さやか「誰?この子」
杏子「あ?」
まどか「さやかちゃん」
杏子「ああ、友達がいたか、悪いね」
さやか「まどかの知り合い?」
まどか「うん、そんなところかな……」
QB「彼女は美樹さやか、まどかの友人で、魔法少女の素質はあるよ」
さやか「!」
杏子「へえ、じゃあ一緒に話せるじゃん」
QB「彼女は佐倉杏子、隣町の魔法少女だよ」
さやか「へー…よろしく」
杏子「おう…ん?良いもの持ってるな、アップルパイかあ」
さやか「半分あげよっか?」
杏子「サンキュー」 - 115: 2012/04/06(金) 23:15:47.09 ID:TvFVhfAN0
- 杏子「んぐ……んぐ……んー!懐かし!この味やっぱ良いなあ」
さやか「…杏子も魔法少女なんだ」
杏子「ああ……まあ、ね」
QB「杏子はマ…きゅぷ」
杏子「うっせえ、余計な事喋るな」
QB「やれやれ」
さやか「…話、ちょっと聞いてたけど、ワル?ホトトギス?なにそれ」
QB「ワルプルギス。ワルプルギスの夜と呼ばれる、最強の魔女がやってくるという話だ」
さやか「最強の魔女……」
杏子「現れたが最後、半端な魔法少女じゃ返り討ちで街ごとオジャンっていう規模らしい」
QB「かなり低頻度で出現する魔女でね、謎の大災害の原因はワルプルギスの夜が原因である場合が多い」
さやか「……そいつがいつ現れるの?」
QB「およそ二週間後だね、前後はするかもしれないけど」
さやか「…そんな魔女、放っておけないよ、どこに現れるの?」
まどか「……」
杏子「見滝原」
さやか「……ええっ!?なにそれ!」
杏子「まあそうなるのも無理はねえ」 - 116: 2012/04/06(金) 23:26:27.66 ID:TvFVhfAN0
- 杏子「ワルプルギスの夜を倒すには、ただの魔法少女じゃない……遥かに強い力を持ったやつがいる」
まどか「……」
さやか「…待ってよ」
杏子「ん?」
さやか「アンタ、まどかが強い因果を持ってると知ってて言ってるの?」
杏子「はあ?因果って何さ?」
さやか「魔法少女としての素質のこと」
杏子「ああ……もちろん、強い魔力を持ってるんだろ?」
さやか「っ…!まどかを魔法少女にさせるために、ここに来たってわけ?」
QB「見滝原が壊滅するのを黙って見過ごすのは不本意だろう?僕は選択肢を提案するだけのつもりなんだけど」
まどか「……」
杏子「まあ突然の話だし、先はあるからすぐ決めろってことじゃあない」
さやか「…ッ…杏子、だっけ…魔法少女になるっていうことが、どういうことかわかって言ってるの?」
杏子「……わかってるさ」
さやか「まどかが魔法少女になるっていうことがどういうことか…!」
マミ「話は聞かせてもらったわ」
さやか「!」
まどか「! マミさん!」
杏子「……ぁ」
マミ「…久しぶりね、佐倉さん?」
杏子「……」
- 123: 2012/04/07(土) 07:24:30.58 ID:5gEGGqyAO
- 杏子「ぁ……マミ…」
マミ「……」
杏子「その…」
さやか「…知り合い、以上って感じだね」
まどか「うん…」
マミ(佐倉さん……今の話は、つまり…)
杏子(マミ…くう、まだ心の準備が…)
マミ「えっと、佐倉さん」
杏子「な、何さ」
マミ「鹿目さんを魔法少女にさせたいの?」
杏子「あぁ…ああ、ワルプルギスを倒すにはそれしかないからな」
マミ「…あまり賛同できる事ではないんだけど……変わってくれたのね」
杏子「は…」
マミ「人のために…」
杏子「…!私はッ、…そんなんじゃねえ」
杏子「変わるもんか、自分のためだよ…自分のために魔法を使う…」
杏子「ワルプルギスの夜を倒さないと…見滝原だけじゃない、私の風見野だって…」
杏子(…何いってんだ、アタシ……) - 141: 2012/04/08(日) 23:35:19.02 ID:qh1FgEUD0
- マミ「理由なんて良いわ、あなたが街を、人を守るためにって…その気持ちを無くしていなかったと知れて、私は凄くうれしい」
杏子「……やめろよ、そんなんじゃねえ」
杏子「アタシの考えは変わらない、アタシは使い魔を見つけても見逃す」
マミ「……」
さやか「え?」
まどか「!」
杏子「使い魔が人を食べれば、そいつは元々の魔女になる…そうすりゃ、グリーフシードが手に入るかもしれない」
さやか「あんた、グリーフシードの為に使い魔を見逃すっての?」
杏子「やり方はアタシの勝手だ」
マミ「…そう」
杏子「…けど!ワルプルギスの夜だけは別だ!使い魔がどうこうとか、そんな些細な問題じゃない」
杏子「マミや…ほむらのやり方とは反するかもしれねーが、街が壊滅するってなったら、共闘でもなんでもするしかないだろ?」
さやか「勝手な奴!」
杏子「勝手で結構、アタシはそういう信念で動いてる」
マミ「…でもね、佐倉さん」
杏子「あ?」
マミ「……ワルプルギスの夜が来たとしても…鹿目さんを魔法少女にするわけには、いかないわ」
- 142: 2012/04/08(日) 23:39:48.70 ID:qh1FgEUD0
- 杏子「は?」
さやか「……まどか以外の魔法少女で、やるしかない」
まどか「……」
杏子「なんでさ」
マミ「それは……」
マミ「うーん…」
杏子「このまどかってのは、魔法少女の素質があるんだろ?な?」
QB「その通り、まどかなら、一撃でワルプルギスの夜を倒すことも可能だろうね」
杏子「それで、アタシ達が束になったって、ワルプルギスの夜は倒せない、そうだろ?」
QB「成し遂げた事は、この長い歴史の中でも未だかつて無いね」
杏子「ならまどかが魔法少女になるしかッ……!」
「魔法少女だって」
「コスプレでもするんじゃない?」
杏子「……なるしか、ないだろ」
マミ「…混んできたわ、場所を変えましょう」
杏子「…チッ」 - 153: 2012/04/09(月) 20:25:47.66 ID:Bm6Pf+8o0
- 茜空に、ちぎれた雲が流れてゆく。
見滝原の夕焼けは美しい。
ほむら「ふぁぐ」
そしてサーティワンのトリプルアイスは美味しい。
思わず2つも買ってしまった程だ。
ほむら「……ふーむ」
海を見渡せる場所まで来た。
橋の上。
海もオレンジとかそんな感じの、とりあえずノスタルジックな色調で煌めいている。
けれど私にノスタルジックという感覚はないので、ただただ綺麗な海というだけだった。
しかし何故だろう。
海を見ると、無性に心がざわめく。
なんというか、動機が激しくなるのだ。
ほむら「……海が私を呼んでいるのだろうか」
船を接岸するためのロープをくくるアレが無かったので、私の片足は何に乗ることもなく、ただ橋を過ぎた。
- 154: 2012/04/09(月) 20:37:01.72 ID:Bm6Pf+8o0
- 詢子「……」
ほむら「……」
橋の入り口でたそがれているOLが居たので、私もなんとなくその隣でたそがれてみた。
オトナとコドモの、夕時のガールミーツガールだ。イケナイ感じがなんとなく良い。
詢子「…美味しそうなもん食べてるね」
ほむら「でしょう」
彼女は私に話しかけてきた。
アイスを食べたいわけではないようだ。
ほむら「食うかい」
食べかけの方を差し出す。
ベリー・ベリー・ベリー・ベリー・ベリー・ベリー・ストロベリーだ。
詢子「良いのかい?こんなにたくさん」
ほむら「思いの外、頭が痛くてね、溶けてももったいないし」
詢子「はは、二つ目かあ…食い意地あるねえ」
細そうなのに、と言って、彼女はアイスにむしゃぶりついた。
食べている途中で「悪い意味じゃないよ」と気遣ってくれた。
…どうやら、彼女は死ぬ気ではないらしい。良かった。
どうも黄昏時とOLという組み合わせは、あの日の惨劇を思い出してしまうのだ。
- 156: 2012/04/09(月) 21:09:57.79 ID:Bm6Pf+8o0
- 詢子「ちょっと悩み事があってね、ここで立ち止まって、考え事をしてたんだよ」
ほむら「考え事」
アイス美味しい。
詢子「あたしの娘がさー…あ、君と同じで見滝原中学なんだけどね」
ほむら「はあ、そりゃ奇遇な」
詢子「最近になって、様子がおかしいというか……思い詰めてるような感じなんだよねえ」
ほむら「勉強かな」
詢子「てわけじゃあなさそうなんだけど」
さっぱりわからん。
詢子「前は普通に、私になんでも相談してくれる子だったんだけど……はあ、やっぱり難しい年頃だよなあ」
ほむら「……」
もはやアイスを舐めるしかない。
詢子「……はは、まあ君も思い詰めるようなことがあったら、ちゃんと親に相談するようにしなよ?」
ほむら「…そういうものかな」
詢子「そういうもんさー……、それじゃあ、ばいばーい、アイスありがとー」
腕時計を見た彼女はさっさと歩き始めてしまった。
ほむら「ふん」
私も残りのアイスを口の中に放り投げる。
大人目線でしか見えない世界もあるのだろうが、魔法少女にしか見えない世界もあるということだ。
- 158: 2012/04/09(月) 21:25:35.13 ID:Bm6Pf+8o0
- やれやれ。魔法少女は孤独だ。
私はこれから、さやかとマミと共に戦っていくべく、グリーフシードをどう工面するか考えている最中だというのに。
本来、私たちの年齢の子供は、悩み事を親に相談するものだが、魔法少女はそうもいかないのだ。
ガキの小さな頭で全てを受け入れなくてはならない。
というより私の親がどこにいるのかわからない。
電話番号の控え、あったかな…。
ほむら「誰にも頼れない、か……」
黄昏空を見上げる。
焼けた空が美しい。
焼けた空……。
ほむら「……」
焼けた……。
――燃え上がれーって感じ――
もう、誰にも……。
ほむら「……鹿目、まどか…佐倉、杏子…」
……。
ほむら「……消さないと。あの子はもう、危険だわ」
……。 - 160: 2012/04/09(月) 21:33:15.82 ID:Bm6Pf+8o0
- 杏子(結局あの後、ずっとはぐらかされっぱなしだったな……)
――とにかく、鹿目さんとの契約はダメ。
――絶対にダメだから。無理やりさせようったって、そうはさせない。
杏子(…何なんだよ、あいつら)
杏子(そりゃあ無理強いはできないかもしれねーけど)
杏子「……帰るか、はあ…」
杏子(…けどこれで諦めたわけじゃない、説得すりゃ、まどかって奴も気が変わるだろう)
杏子(ただの人間の人生に未練があっても、いつかやってくる絶望を前にしては、そうも言っていられないはずさ)
ほむら「……」
杏子「! アンタ…」
ほむら「……」
杏子「…ほむらじゃん、これは風見野に続く橋だけど?自分の持ち場ってのはこの前――」
ほむら「二回」
杏子「……はあ?」
ほむら「流れとしては同じパターンよ。貴女はまた、鹿目まどかに魔法少女になることを強要する」
杏子「お、おい…なんでまどかの事知って…あ、テレパシーで聞いたか?」
ほむら「最初はソフトに、けど次第にあなたの“お願い”は“命令”、“脅迫”に変わってゆき……まどかを殺す」
ほむら「……私はいつか、そんな貴女を殺したいと思っていたの」
杏子「!!」
- 177: 2012/04/10(火) 19:29:13.34 ID:9lF7rWIo0
-
佐倉杏子の身体が爆風で吹き飛んだ。
紅い装束はボロ雑巾のように煤けて汚れている。
寂れた工場街にはお似合いの姿だ。
ほむら(…火器が少ない、けど燃料はある。これならある程度はヤれる)
ほむら(杏子……許さない、ただ殺すだけでは済まさない)
ほむら(徹底的に苦しませてやる)
唯一入っていたショットガンを担ぎ、彼女が吹き飛ばされた路地裏へと入る。
そこらに転げていると思ったけれど、なかなか逃げ足の速い獲物だ。
私はそれでも構わないのだけれど。
ほむら(……)
自分の左手のソウルジェムを見る。
もうかなり穢れてきた。消耗が早い。
ほむら(そろそろ杏子を殺さないと)
私は闇へ歩く。 - 178: 2012/04/10(火) 19:36:22.42 ID:9lF7rWIo0
- 杏子「はっ…は…!」
杏子(……! 来る…!)
ほむら「……」
カッカッカッ・・・
杏子(頼む、気付くな…こっちだって恥も何もかも忍んでゴミ溜めに隠れてんだ…)
ほむら「……」
カッカッカッ・・・
杏子(…行ったか)
杏子(……何だよ)
杏子(何なんだよ…何なの…あいつ…)
杏子(ほむら……突然変身して、そうしたら何か、目の前が……爆発して)
杏子(戦おうとしたけど、まるでダメだった…近づけば隙があるとか、そんなもんじゃない)
杏子(ほむらがアタシを吹き飛ばして、ほむらが近づいて、またアタシを吹き飛ばす…)
杏子(…何だよ、アタシが一体何をしたってんだよ…!)
杏子(あの目……アタシをマジで殺しにきてる目じゃねえかよ…!)
「少し歩き過ぎてわかったけど、そこだけ腐臭が掘り返された匂いがするのよね」
杏子(! しまっ…) - 179: 2012/04/10(火) 19:46:00.44 ID:9lF7rWIo0
- 赤い爆風がゴミを蹴散らす。
ほむら「よく飛んだわ」
工場の外まで、杏子を吹き飛ばしながらやってきた。
それにしても、ガソリンの爆発と時間停止の組み合わせは便利なものだと実感した。
とても有意義な時間だった。
敵を嬲りながら新たな発見をするなんて、とっても建設的だわ。
杏子「あがッ…は…は……」
ほむら「惨めな姿ね、佐倉杏子」
工場脇の薄汚い水辺の近くまでやって来てしまった。
季節は暖かいが、この時期の水の中はさぞ冷たいだろう。
杏子「なん、で…?ほむら…」
ほむら「気安く呼ばないで頂戴」
カチッ
薄汚い害虫め。
カチッ
ぼん。空間が瞬間のうちに燃焼し、爆発する。
杏子「っぐぁ」
小さな爆発ではあったが、杏子を川に突き落とすには十分な威力だ。
どぼん。ケミカルにやられた魔法少女は、ケミカルに濁った川に沈んで見えなくなった。 - 180: 2012/04/10(火) 19:50:57.94 ID:9lF7rWIo0
- ほむら「……」
ゴミ色の川の下を見る。
静かに波紋を広げる水面の下に、杏子の姿は見えない。
ほむら「……ふっ、しぶとい野良犬も、これで死んだわね」
小さく嘲り笑う。
……なんて。
私はそんな中途半端に終わらせる魔法少女じゃない。
ほむら「川に逃げ込んだ野良犬ほど、いつか這い上がって噛みつくものよね」
口元が歪む。
私がこのくらいで終わらせるはずがない。
やるならとことんやる。溺死なんて甘すぎる。この私自身の手で葬ってあげる。
ほむら「さあ、杏子!終わりにしてあげ……!」
盾の中から取り出す手榴弾。
ほむら「……」
それは手榴弾ではなかった。
ただの安っぽい缶コーヒーだった。
- 181: 2012/04/10(火) 19:57:16.85 ID:9lF7rWIo0
- ほむら「…水の中で爆死…良いと思ったのだけれど」
缶コーヒーでは爆発などしない。
盾の中に無駄なものが多すぎる。
ほむら「ガソリンを撒いて殺そうかしら…」
多めに使うにはもったいないだろうか。
けれどここで派手にやっておかないと、私の気が済まない。
ああ、なんとかして手早く、パーっと気前よくやってしまわなければならないのに。
ほむら「…ふん、ま…時間の無駄ね、どうせ死んでいるわ」
左手のソウルジェムも限界に近い。これ以上は私の身が危険。
ほむら「寝ましょう…杏子はもう居ない、これで安心して休めるわね、ふふ」
せめてもの手向けに、缶コーヒーを投げ込んでやった。
彼女の安っぽい嗜好ならば、これくらいが似合いだろう。
ほむら「……」
私は自分のアパートへ歩き始めた。
早くグリーフシードを使って、ジェムを浄化しないと。
- 210: 2012/04/11(水) 20:04:16.62 ID:Xc6OUb7/0
-
杏子(身体中が痛い)
杏子(これ、全部…火傷なのか)
杏子(顔もとんでもなく……痛い)
杏子(息が苦しいのが、気にならねえ)
杏子(…水が、染みる)
杏子(胸糞悪い感覚が、傷口からも入って来る)
杏子(ああ、町の水って……こんなに汚れてるんだな)
杏子(そりゃあ、みんなの心が荒んでるわけだよな…)
杏子(ほむら……)
杏子(アタシ、そんなつもりはないのに)
杏子(…アタシのやってきたことって、そんなに悪い事だったの……?)
杏子(マミ……ほむ、ら……)
「……ん?」
「え?えっ!?」
「ちょっと、嘘でしょ…!」
「…く、…いや、それでも助けなきゃ!」
- 211: 2012/04/11(水) 20:09:15.35 ID:Xc6OUb7/0
- 恭介「……?」
恭介(……もう夜か)
恭介「いや、違う」
恭介(変な時間に目覚めたからってわけじゃない…何か、おかしい)
恭介(懐かしいんだ、何かが…何か)
ゴソ
恭介「え?」
恭介(なんだ、この感覚…)
ググ・・・
恭介「そんな」
恭介(嘘だろう)
グッ・・・パ
恭介「たちの悪い夢を見させるなよ…!」
グッ・・・
恭介「う、うそ……そんな、ことが…!?」
- 219: 2012/04/11(水) 20:23:29.51 ID:Xc6OUb7/0
- まどか「ひどいよ、キュゥべえ……どうして嘘ついてたの?」
QB「嘘をついていたわけじゃないよ」
まどか「そんなのウソだよ…知ってるのに言わないなんて、騙してるのと同じだよ」
QB「僕は人間じゃないんだから、思考回路が全く同じだとは思ってほしくないな、まどか」
まどか「……」
QB「これでも僕は僕なりに最善を尽くしているつもりなんだよ?」
まどか「…ソウルジェムが濁りきると、グリーフシードになるなんて……」
まどか「それを知らずに契約しちゃってたら、私……!」
QB「けど君たちは暁美ほむらから、ソウルジェムは魂だということは聞かされているじゃないか」
まどか「聞いたけど、これはひどいよ…ひどすぎるよ」
QB「その魂が濁りきるのだから、僕は正直、ある程度の危機感は伝わっていたかと思っていたよ」
まどか「……無茶いわないでよ!」
- 220: 2012/04/11(水) 20:24:15.83 ID:Xc6OUb7/0
- まどか「私が知らずに契約しちゃったら…!魔女になったらどうするの!世界はどうなるの!?」
QB「大変なことになってしまうだろう」
QB「けれどそれは確実な未来じゃないんだ」
QB「要はソウルジェムが濁らなければいいだけの話だろう?」
まどか「……帰って」
QB「……」
まどか「キュゥべえって…もっと話が通じるかと思ってたのに…」
QB「やれやれ、嫌われちゃったか……まったく、困ったもんだよ」
QB「けどまどか、これだけは覚えておいてほしい」
QB「ワルプルギスの夜を倒すには、並大抵の力じゃ無理なんだ」
まどか「……」
QB「願い事を決めたら、いつでも僕を呼んで」
- 221: 2012/04/11(水) 20:33:13.78 ID:Xc6OUb7/0
- ほむら「ん?」
見慣れた天井。
起き上り、時計を確認する。
ほむら「…夜か」
どうやら眠っていたらしい。
私の身体には毛布がかけられ、適当な空きスペースに横たわっていた。
ほむら「?」
おかしい。こんな寝方をした覚えはない。
そもそも私は寝た覚えなどない。
確か最後に、ええと、なんだ。記憶喪失ではないはずだ。
確か、アイスクリームを食べて、OLと話して、それで…。
アパートまで戻ってきたのだろうか。曖昧だ。
ほむら「……っつ」
頭が痛む。こめかみの奥辺りの鈍痛を右手でさする。
ほむら「あ、これなんだか思い出す時のあれだな……」
別段思い出したくもない暁美ほむらの過去だが、それらしい兆候が出てきてしまった。
思い出したら思い出したで構わない。けれど新たな自分として、何のしがらみもなく今の生活を満喫したいものだ。
「……にゃぁ…」
ほむら「眠そうな鳴き声だな、よし、私も一緒に寝てやろうか」
「……にゃ…」
さて、明日も学校。
さやかの報告が楽しみだ。
- 236: 2012/04/12(木) 19:49:25.54 ID:HVPr+Huf0
- 杏子(……お父さん…お母さん)
杏子(…モモ……待ってよ、置いてかないでよ…アタシを)
杏子(いつか絶対にみんなで笑える日が…)
杏子「……ん?」
杏子「天井…」
杏子「ホテルじゃない…?ここは、一体…?」
さやか「スー…スー…」
杏子「…!?」
バッ
杏子「こ、こいつあの、バーガー屋にいたうるさい奴…!なんで隣…え!?ていうかアタシどうして…」
さやか「ん、ん~うるせぇ~…何よ一体…」
さやか「あ」
杏子「…ここは何だ」
さやか「あんた起きたんだ…良かった」
杏子「答えろよ!ここどこだよ、なんでアタシがここにいる」
さやか「はあ…助けてやった上に私の家まで運んでやったのに、そんな言い方はないでしょ」
杏子「助、なに?」
さやか「覚えてない?昨日びっくりしたんだから」
杏子「昨日…あ、昨日……」
- 237: 2012/04/12(木) 19:55:54.84 ID:HVPr+Huf0
- さやか「せっかく魔法少女になったんだから、ってことで、ソウルジェムを持ちながら歩いてたらさ」
――気安く呼ばないで頂戴
さやか「川の中にヘンなものがぷかぷか浮いてるなあって思って見てみたら」
――惨めな姿ね、佐倉杏子
さやか「ボッロボロになったあんたが居たってわけ…死ぬほど驚いたんだよ?死体かと思って、涙も出ちゃったくらい」
――私はいつか、そんな貴女を殺したいと思っていたの
杏子「うっ、ぅあ…ぁ…」
さやか「! ご、ごめん、思い出したくないよねあんな事…」
杏子「な、なんで…なんであんな…」
さやか「ま、まぁ魔女だって強いの弱いの色々あるんだろうね…私も気をつけないといけないっていうかな…」
杏子「ぅう…うぐぐ…」
さやか「…もう、大丈夫だって」
ギュ
杏子「……」
さやか「あんたは生きてるから…生きてさえいれば大丈夫なんだから、ね」
さやか(震えてる…よほど怖い、強い魔女が相手だったのかな)
さやか(……まさか、ワルプルギス?いやいや、まだのはずだよね…)
- 239: 2012/04/12(木) 20:57:04.72 ID:HVPr+Huf0
- 席についているだけでも、クラスの皆が声をかけてくれるようになった。
まどか「おはよー!ほむらちゃん」
ほむら「おはようまどか、そのリボン良いね」
まどか「え、えへへ、いつも付けてるよう…」
仁美「おはようございます、ほむらさん」
ほむら「やあ仁美おはよう、口元に海苔がついてるよ」
仁美「!」
ほむら「冗談だよ、ごめんね」
仁美「も、もう、ひどいですわ」
「暁美ー、この間の問題答え教えてくれよっ」
ほむら「ふふん、もうギブアップということは、君の賭け金は私のものになるということだが」
「ひ、ヒントくれ!」
ほむら「じゃーあー…そうだな、200円くれたらヒントをあげよう」
「くそっ!もってけえ!」
ほむら「よしよし、ヒントは“コップの裏”だよ、ふふ、次の月曜までに答えられなければ私に千円だ」
男も女も分け隔てなく話しかけてくる。
なんとも退屈のしない日常だ。
- 240: 2012/04/12(木) 21:03:16.32 ID:HVPr+Huf0
- さやか「おっはよーう!」
さやかも遅れて登場だ。
やはり彼女がいなければ、この教室は賑やかにならない。
まどか「あ、さやかちゃん!おはよう、今朝居なかったね、どうしたの?」
仁美「ごめんなさい、先に来てしまいましたわ」
さやか「ううん、こっちも何も連絡入れずにごめんね、色々あってさ」
ちらりと、彼女の目がこちらに向く。
彼女の手には指輪がはめられていた。
そして軽い秘密のウインク。
無事に契約は済ませたようだ。
ほむら「おはよう、さやか…調子はどうかな」
さやか「んーんー…絶好調!」
胸を張って、爛々と目を輝かせて。
さやか「って、感じかな?へへ」
ほむら「そっか、良い事だな」
私は、そんな彼女の踏み出した新たな一歩を、心から祝福しようと思う。
- 241: 2012/04/12(木) 21:08:30.57 ID:HVPr+Huf0
- さやか「…あ、ねえホムラ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」
ほむら「ん?」
さやか「えっと……」
告げる前にガラスの扉は開かれた。
和子「はい静かにー、席についてー」
教鞭を取る先生の表情は固い。
また失恋でもしたのだろうか。機嫌がよくないこの先生は、非常に指名が厳しくなる。
私も最初のうちはなかなか当てられたものだ。
さやか「あー…おっけ、じゃあ次の休み時間!」
ほむら「良いよ、その時にね」
私に何か聞きたいことでもあるのだろうか。
昼休みに聞きたいことではないようなので、そこまで大事な事ではないのだろうが…。
ほむら(ふん、ふん)
右手の上に二百円を乗せてコインロールを楽しむ朝。
音はなくとも、鼻歌が交じる。
- 272: 2012/04/13(金) 20:16:27.89 ID:jqj/x2ET0
- 『あ、そういやテレパシー使えたんだっけ』
ほむら『む』
頭の中にさやかの声が届いた。
マミ以外の声を聞くというのも新鮮だ。
ほむら『そうだったな、魔法少女になった君は、自発的にテレパシーを使えるようになったんだっけ』
さやか『へへ、いやー、便利な世の中になったものですなあ』
教師の話はつらつらと続くが、私は意識を教室の後ろに向けることにした。
ほむら『さて、話を聞こうか』
さやか『うん…まぁ、昨日契約する前に色々あってさ』
ほむら『ほう』
さやか『杏子って奴に会ったんだけどさ、知り合い?』
ほむら『…知り合いだよ』
杏子がさやかと会った?どういうことだ。
- 273: 2012/04/13(金) 20:28:56.77 ID:jqj/x2ET0
- ―――――――――――――
ほむら『……そうか、杏子と、そんなことが』
一連の話を聞き終わった私は、ホワイトボードの焼けた文字を見て思索に耽った。
もうすぐ“ワルプルギスの夜”が来る。
まどかならば容易くそれを倒すことができる。
杏子はまどかを魔法少女にしたい。
そして、杏子は昨日の夜、瀕死の状態で川に浮いていた。
ほむら『…杏子の話だけにとどまらず、私が居ない間に大変な事が起きていたんだな』
さやか『大変だったよー、昨日は』
ほむら『…ワルプルギス…頭に引っかからないでもないのだが』
さやか『?』
ほむら『まあそれは後ででもいいよ、気になるのは杏子の方だ』
さやか『ああ、そう、杏子の様子がおかしいんだ』
- 274: 2012/04/13(金) 20:37:27.40 ID:jqj/x2ET0
- さやか『私の魔法は癒しの力があってね、怪我を治す魔法なら他の人よりも遥かに強いんだ』
さやか『…昨日の杏子は、私じゃなかったら治らないような…そんなひどい怪我を負っていた』
さやか『全身火傷だらけで、血みどろで…』
さやか『…傷は治っても、あんなふうにされたら心だって傷付くだろうなって……そのくらい深い傷だった』
明るい彼女の声のトーンは一気に落ちる。
さやか『朝になったら杏子は目を覚ましてたみたいでさ、その時は平気な風だったんだけど』
さやか『昨日の事を聞いた途端、震えが止まらなくなっちゃったみたいで…言葉も、満足にきけないっていうか、錯乱しててさ』
さやか『ずっと、うわごとのように繰り返してるんだ…“なんで”、“どうして”、“ごめん”…』
さやか『……“ほむら”…って』
ほむら『…私?』
心当たりがないわけではないが、彼女にそこまで深い心の傷を与えていたなんて思いもしなかった。
さやか『震えて、泣いて……昼間の勝ち気さっていうのかなぁ、そんなの一切無かった』
ほむら『そうか…杏子が…』
さやか『見てらんなかったよ、許せない魔法少女だけどさ』
声にも悲哀がこもる。
話を全て聞いた私は、昼間に聞けばよかったと後悔した。
この話は、さやかと向かい合って話したかった。
- 300: 2012/04/15(日) 23:14:34.35 ID:Wp9tvZMM0
- 雲ひとつない快晴の空を見上げて思う事はひとつ。
常識的に考えて、嵐などは来ないということだ。
しかし私たちの生きる世界は、少しばかり常識からかけ離れた場所にある。
ただの人が四方を壁に囲まれた迷路の中でしか可能性を見定められないのに対して、我々は迷路の壁の上から、常人よりも離れた場所を俯瞰して見ることができる。
たとえこの空が一般常識的に何日後かも快晴であるとしても、我々の業界の非日常が“嵐だ”と告げれば、嵐はやってくるだろう。
そしてその嵐を消し去ることのできる者が居るのだというのであれば、それは間違いないのだろう。
マミ「テレパシーを聞いていたわ」
タコさんウインナーを摘み上げる。
マミ「佐倉さんとは……知り合いなのだけど、彼女がそんな風になってしまったなんて、信じられないわ」
ほむら「私もだよ」
マヨネーズのついたブロッコリーを口の中に放り込む。
ほむら「…けど、私の名前を呼んでいたというのが気になるな」
さやか「心当たりはある?」
ほむら「…あるといえば、ある」
キャベツ巻きを半分噛み切る。けどキャベツの繊維がしぶとかったので全て頬張る。
ほむら「けど、彼女の考え方が私とは合わないから、ちょっと突き放しただけ」
マミ「……なるほどね」
ほむら「けど彼女を傷つける程だとは」
まどか「……」
さやか「……」
二人の表情は、どこか重かった。
- 301: 2012/04/15(日) 23:26:27.47 ID:Wp9tvZMM0
- アスパラを頭から齧る。
ほむら「…杏子の様子を見に行くべきかな」
まどか「今はさやかちゃんの家にいるんでしょ?」
さやか「うん、落ちつかせて、寝たんだけど……今もいるかな」
マミ「佐倉さんが心配だわ……」
ほむら「さやかの家に行っても良いかな」
さやか「あーいやっ、それはー、なんていうかな…今日は…」
ほむら「今日は?」
今日は何か……あ、そうか。
ほむら「上条の完治を祝わなければならないね」
さやか「…なんかごめん」
ほむら「気にする事は何もない、一生に一度の願いを叶えた大事なお祝いだ、譲っちゃいけない」
さやか「……えへへ」
やっぱり可愛い笑顔も似合う。
マミ「じゃあテレパシーで佐倉さんを呼びだしてみても良いかしら?話は外でも聞けるし……」
さやか「ああ、お願いします」
まどか「私は……」
マミ「鹿目さんも美樹さんと一緒に、上条君をお祝いしてあげたらどうかしら」
さやか「おお!まどかも一緒に居てくれる?」
まどか「私が行っても良いの?」
さやか「もちろん!」
- 302: 2012/04/15(日) 23:34:18.12 ID:Wp9tvZMM0
- ほむら「…杏子、私と会っても大丈夫かな」
さやか「あー」
さやかが駄目っぽい顔をしている。
マミ「……暁美さんに対しての反応があまりに過敏なようだったら、良くないかもしれないわね」
さやか「私もそう…思っちゃうかな、今のあいつ、どこか不安定っていうか……繊細だし」
マミ「もちろん暁美さんが悪いってわけではないわよ?」
ほむら「うむ……わかった、私はグリーフシードを集めているよ」
杏子に会えないのか、それも残念だ。
彼女と私の生き方は違うにせよ、杏子の身を案じていないわけではない。
いつか解りあえる日がくれば。そう願っている。
ほむら「しかし昨日もグリーフシードが一つ減っていたよ、このままだと皆の使うグリーフシードが、見滝原だけでは供給できなくなる」
まどか「…見滝原に魔女がいなくなるの?」
ほむら「居なくなることはないだろうけど、数が減れば探しにくくなる……つまり収集率は下がるということだ」
ほむら「……私は、杏子の縄張りだった隣町に赴くことにするよ、何個か取ってこよう」
マミ「ええ、ありがとう……大丈夫?」
ほむら「皆は杏子を見てやってくれ、私は問題ないさ」
さてさて。これからマジックをやっていく時間は取れるだろうか。
魔女退治にてんてこ舞い、とはなりたくないものだが。
- 309: 2012/04/16(月) 12:28:06.11 ID:rrYde8vAO
- さやかとまどかは病院に。
マミは杏子の様子を見に。
私は隣町へ柴刈りに。
QB「やあ、ほむら」
ほむら「やあ」
ソウルジェムを手の中で転がしながら歩いていると、白猫がちょっかいを出してきた。
白猫は私の隣の柵の上を器用に歩き、ついてくる。
QB「杏子の様子がおかしいんだけど、君がやったんじゃないだろうね」
ほむら「いきなり酷い事を言うな君は」
QB「今日、彼女に会ったら君の名前を呟いていたからね」
ほむら「私は何もしていないつもりなんだが…」
QB「本当に?」
ほむら「随分疑うな…だって昨日は杏子に会わなかったし」
私以外の皆は会ったらしいが。
ほむら「昨日までの事も、杏子を豹変させるほどではないだろうし…」
QB「君にもわからないみたいだね」
ほむら「生憎ね」
- 310: 2012/04/16(月) 20:25:11.81 ID:RiAviqKM0
- ソウルジェムが煌めいた。
わずかな紫の鼓動を見逃さない。
私の質の悪い索敵能力が反応したということは、近くに魔女がいるということなのだ。
ほむら「さて、魔女を狩って来るか」
QB「頑張ってね、ほむら」
ほむら「ふふ、応援してくれるの?」
QB「もちろんさ、魔法少女をサポートするのは僕の役目だしね」
ほむら「はは、どこまでが本当なのやら」
赤い目の奥には何も見えない。
ただ彼の考えていることは、私にはわからない。
彼は、私たちとは……。
ほむら「―――――……」
QB「? どうしたのほむら?立ち止まって」
ほむら「――ふふ。なんでもないよ、キュゥべえ」
カチッ
QB「! 暁美ほむらが消えた」
QB「……どういうことだろう」
- 313: 2012/04/16(月) 21:44:11.13 ID:RiAviqKM0
-
恭介「――ふう」
さやか「おめでとう」
まどか「おめでとう、良かったね上条くん」
恭介「! …ありがとう、みんな」
さやか「なあに、恭介が諦めなかったから、天も味方してくれたんだよ!」
恭介「……はは、そう、なのかな」
まどか「きっとそうだよ、てぃひひ…」
さやか「……じゃ、私はそろそろ行かないと」
まどか「もう良いの?」
さやか「うんっ、こんくらいが丁度良いよ」
さやか「……これ以上ここにいたら、離れたくなくなっちゃうしね」
まどか「……」
さやか「暗い顔すんなって!」バシバシ
まどか「あう、痛いよう」
恭介「さやか、帰るのかい?」
さやか「うん、脚の方はまだみたいだけど、お大事にね」
恭介「……うん、ありがとう、さやか」
さやか「へへ」
さやか(…これで、私には何の悔いもない)
さやか(ううん、悔いとかそういうのじゃない)
さやか(これからの私が、悔いのない生き方をしていかなきゃいけないんだ)
さやか「…杏子の様子、見に行こっか」
まどか「うん」
- 314: 2012/04/16(月) 21:54:14.88 ID:RiAviqKM0
-
マミ「えっと……あった、ここね」
マミ「このマンションが美樹さんの……間違いないわ」
マミ「つまり、ここでテレパシーを使えば……きっと」
マミ『…佐倉さん、聞こえる?』
『!!』
マミ(……言葉ではないけど、思念の反応があったわね)
マミ『居るのね?佐倉さん』
『……ま、マミ?』
マミ『そう、私よ、佐倉さん』
『……マミは、さやかの仲間か?』
マミ『どういうこと?』
『美樹さやかっていう奴の、仲間なのかって聞いてるんだ』
マミ『え、ええそうだけど…どうして』
『……304号室』
マミ『!』
『開け方知らないから……窓から入ってくれ』
マミ『……わかったわ』
マミ(どうしたのかしら?佐倉さんの様子がおかしいわ) - 315: 2012/04/16(月) 22:06:45.24 ID:RiAviqKM0
- マミ(……あの身覚えるのあるパーカーが掛かっている部屋ね)
マミ(じゃあ早速変身して…っと)
マミ(あそこなら一蹴りでいけるはず……っとう!)タッ
シュタ
マミ『佐倉さん、ガラス戸を開けてもらえる?』
『鍵は掛かってない』
マミ『……ええ、わかったわ』
カラララ・・・
マミ「! ちょ、ちょっと佐倉さん、槍なんて構えて、どういうつもり!?」
杏子「…巴、マミだな」
マミ「そ、そうよ?どうしたの…部屋の隅で、そんな…それじゃまるで」
マミ(何かに…怯えているような)
杏子「…ほむらは、居ない?」
マミ「暁美さん…?暁美さんなら今日は、魔女退治に…」
杏子「……?」
マミ「と、とりあえずその槍を降ろしてもらえると嬉しいのだけど…」
杏子「……わかった」スッ
- 316: 2012/04/16(月) 22:17:10.20 ID:RiAviqKM0
- マミ「……変身は解かないの?」
杏子「……このままでいい」
マミ「そう……」
杏子「……」
マミ(久しぶりに佐倉さんに会えたのに……何を話していいのか、わからない…)
杏子「なあ、マミ」
マミ「え?」
杏子「アタシって…酷い奴なのかな」
マミ「……それは、魔法少女として?」
杏子「…全部かな」
マミ「全部、難しいわね」
マミ「…そうね、佐倉さんの事、詳しく知っているわけではないから……魔法少女としては、理想ではないわね」
杏子「……そうか」
マミ「でも勘違いしないでね、佐倉さん……私は、貴女のことを嫌いになった事なんて一度もないわよ」
杏子「……本当?」
マミ「ええ、もちろん」
マミ「あれから長い月日が流れて……私の考え方は変わったのかしらね」
マミ「魔法少女としての信念を、理想を抱いていた時期もあった」
マミ「けど、まだまだ私は何も知らなかった…現実の壁にぶつかって、私の中の正義がいかに脆い土の上に建っていたのかを知った、というのかしら」
マミ「…今なら、昔の佐倉さんの事も…多少は受け入れられるかもしれないわね?私にはやっぱり、堅い正義があるのだけど、ふふ」
杏子「…! マミ、変わったな」
マミ「ふふ、変えてくれた人がいたから、かしらね?」
杏子「変えてくれた、人……」
マミ「ええ……彼女がいなければ、私はずっと浮ついた正義の上で戦ってたわ」
マミ「暁美さんのおかげよ」
- 321: 2012/04/16(月) 22:26:16.13 ID:RiAviqKM0
- 杏子「あ、あいつ……ほむら!」
マミ「ん?」
杏子「マミ…ああ、そうだ、ほむらだ……」
マミ「……一体どうしたの、佐倉さん。美樹さんから聞いた話では、暁美さんの事を気にしているらしいけど…」
杏子「な、なあマミ、どうしてほむらはあんなに怒ってるんだよ?」
マミ「暁美さんが怒ってる?」
杏子「アタシ、生まれて初めてだよ、あんな激しい怒りを買った事なんて…!アタシって、そんなに悪い人間なのか!?」
マミ「ちょ、ちょっと落ちついて、何があったの…」
杏子「あいつは、ほむらは……!」
『――巴マミ、もう着いているのかしら』
杏子「…~!!ぁ、ぅああぁ…!」
マミ「あら、暁美さんのテレパシーね…その話も含めて、彼女を中に入れましょうか」
杏子「だ、駄目!絶対に駄目だ!」
マミ「何よ、ちょっと変わってはいるけど……」
杏子「次に会ったら……今度こそ殺される!」
マミ「……え」
『――……巴マミ、居ないの?じゃあ、佐倉杏子、あなたは居るのかしら』
マミ「……暁美さん?」
杏子「うぁあ…!に、逃げないと、とにかくあいつから逃げないと…!」
マミ「……なんだか、様子がおかしいわ」
『――返事がないなら、強引にでも入らせてもらうわよ』
マミ「……!」
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