ほむら「思い出せない…私は何者だ?」【その3】
- カテゴリ:魔法少女まどか☆マギカ
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- 631: 2012/03/21(水) 20:34:00.61 ID:lv5H29Qg0
- 裏口から入ってきたマミの表情を見て固まる。
まどかと同じ表情だったからだ。
マミも見たのだ。
あの忌々しいブラウン管を。
まどか「ほむらちゃん…?」
マミ「今の魔女は精神攻撃をしてくるタイプの魔女かしら……けど、なんというか…完璧な幻覚というわけでもなかったみたいだけど」
二人の目が私を刺す。
あの魔女はもっと早く片を付けておくべきだった。
そうすれば……。
そうすれば……私は、私のままでいられたのに。
中途半端に甦ってきた暁美ほむらの破片が私の世界を傷つける。
完全に戻ってこないくせに、今の私の邪魔をする。
根暗のくせに。眼鏡のくせに。
マミ「えっと、暁美さん……今の映像、どういうことなの?」
魔法少女を殺した映像を見て、触れるべきか、触れずにおくべきなのか、恐れ戸惑うマミの顔。
人を殺した私に怯えるまどかの顔。
あれは私ではないのに。
- 632: 2012/03/21(水) 20:43:53.77 ID:lv5H29Qg0
- マミ「あの手は暁美さんの手」
私の袖を指差す。
マミ「そしてその手に持った銃が撃ち抜いたのは……ソウルジェム、よね?」
ほむら「……」
知るか。私が知るものか。
暁美ほむらがやったことの全てを私が関知しているわけがない。
彼女がやったことで私が知っている事といえば、……魔法少女殺しと、あと猟奇的な連続殺人かなにかと、…。
マミ「答えてよ!答えてくれなきゃ、私もわからないよ…!」
暁美ほむら!お前は何をしている!
無関係な私を巻き込むな!
ほむら「私は……知らない!私はやっていない!」
マミ「暁美さん!?」
カチッ
時間停止。
マミの声、まどかのおどおどした表情、頭にかかる靄とノイズ、全てが鬱陶しかった。
こんな場所にはもういられたものではない。
ほむら「私は暁美ほむらじゃない!暁美ほむらの事なんか、何一つ知らない!知りたくもない!」
裏拳が壁を砕き、3発目で壁に大穴が開く。
私は工場を離脱した。
工場長がどうなろうと、もう知らない。 - 633: 2012/03/21(水) 20:54:50.95 ID:lv5H29Qg0
- さやか「……ん?」
まどか「さやかちゃん…大丈夫?」
さやか「まどか…?私…あれ?」
仁美「……」
さやか「…え?何このシチュエーション、なんでこんなところであたしと仁美が寝てるのよ…」
マミ「気がついた?」
さやか「マミさん」
マミ「美樹さん、魔女の口づけを受けていたのよ…危ないところだったわ」
さやか「私が…!?」
まどか「ほむらちゃんが助けてくれたんだよ、魔女をやっつけてくれて…」
さやか「ほむらが……うーん、あいつには頭があがんないなあ」
まどか「……」
マミ「……」
さやか「ん?二人ともどうしたの?暗い顔して…まさか、ほむらが魔女に!?」
マミ「ううん、そうじゃないの、暁美さんは難無く魔女を倒したわ、けれどね…」
さやか「けれど……」
まどか「…ほむらちゃん…なんでだろう」
マミ「…色々と、あってね…陰口みたいだけど、何かあるかもしれないから…美樹さんには伝えておくね」
さやか「?」 - 634: 2012/03/21(水) 21:03:12.11 ID:lv5H29Qg0
- 見滝原。
暁美ほむらが転校するはずだった場所。
当初の私は、暁美ほむらのために学校生活を卒なくこなし、友人を作り、魔女を狩り…記憶を取り戻し、引き継いだ後の事を考えて行動していた。
だが夢で見るのだ。
暗い世界で、私は何人もの誰かを殺し、魂を砕き…後ろ暗いなにかを続けていた。
魔法少女を何人殺したのだろう。
何を殺し続けていたのだろう。
何を設置し、何を企んでいたのだろう。
暁美ほむら。
記憶を取り戻していない私でもわかる。
彼女は危険だ。
ほむら(私は記憶を取り戻してはいけない……)
記憶が戻るだけならいい。
暁美ほむらの感情が再び戻って来ることが、私はそれ以上に恐ろしい。
もしも前の暁美ほむらの人格に戻ってしまったら、私は何をするのだろう。
この平和な見滝原で。
マミに手をかけるのか?
この町を、荒野に変えてしまうのか?
ほむら(……ワトソン、私はどうすればいいのかな…)
ほむら(ワトソン……)
ワトソンは隣にいなかった。
工場ではぐれてしまったようだ。
ワトソンもまどかやマミと同じで血なまぐさい私の本質に気付いたのだろうか。
- 636: 2012/03/21(水) 21:13:25.05 ID:lv5H29Qg0
- ほむら「……」
どうしよう。どう弁解しよう。
“あれは私じゃない”。これは事実だ。しかしあれは……確かに私でもある。
マミやまどかの前で取り乱してしまったのだ。今さら何を取り繕うとしても遅いだろう。
“実は私は記憶喪失なんだ。”
……言いたくない。私は暁美ほむらを取り戻したいわけじゃない。
できればもう、暁美ほむらとは無縁でいたい。
何よりそんな私は格好悪い。
「おいおい、さっきからバーにボールくっつけたままじゃねーか、発射しろよ」
ほむら「……隊長か」
「はぁ?なに訳わかんないこと言ってんだよ」
不良族少女が私の隣の椅子に座った。
私がゲームセンターへ来る目的は、もはや無くなった。
かつて好きだったゲームを狂ったようにプレイして、わざわざ記憶を取り戻したくはない。
昼間の見滝原のゲームセンターで十分だ。
けど、彼女と会うのは悪くない。
「何かあったのか?」
ほむら「ああ、まあね……誤解されてしまったというか、いや、事実ではあるんだけど……」
「ふーん」 - 637: 2012/03/21(水) 21:18:48.42 ID:lv5H29Qg0
- ほむら「なあ隊長……」
「杏子だ、キョーコ」
そんな名前だったか。今さら知った。
ほむら「杏子……」
杏子「まあまあ、せっかく名乗ったんだ、あんたの名前も教えてよ」
ほむら「私は……」
暁美ほむら。
……言いたくない。けど私にはこの名前しかない。
ほむら「…暁美、ほむら」
杏子「よろしくな、ほむら」
ポッキーを一本渡された。口で受け取る。
ほむら「よろしく、杏子」
杏子「おう」
こいつの口、キャベツ太郎くさい。 - 639: 2012/03/21(水) 21:27:16.89 ID:lv5H29Qg0
- 杏子「ふーん…なんか話端折られて手よくわかんなかったけど、要するに友達に今まで通り接してほしいってこと?」
ほむら「ああ……」
杏子「……」
ほむら「どうすればいいと思う、君なら……」
私には友達と呼べる者が少ないから、相談できる相手もいない。
記憶の中にそんな経験も無いし。
杏子「……ん、んー…どうすりゃいいんだろうな…」
ほむら「その友達が、持っている間は大切にしていたいものなんだ……私にとってのね」
杏子「…人の心って難しいからな、変に上辺だけ取り繕って解決しようとすると、余計にややこしくなるってのはよくある事だ」
ほむら「……」
杏子「だめだなぁ、私は…そういう事は苦手だよ、私も」
ほむら「そうか…いや、聞いてくれただけでも荷が降りた気持ちだよ、ありがとう、杏子」
杏子「よせよ、なんもしてねーから」
杏子「…あー、さっきの話を聞いてて思った事でもあるんだけどさ」
ほむら「?」
杏子「あんた、人と話す時にベール張り過ぎてないか?」
ほむら「ベール?」
杏子「他人を寄せ付けないような心がどっかにあったり、自分で抱え込んでしまいがちっていうか…口数少ない人って、そういう事で無意識のうちに鬱憤が溜まるもんだよ」
ほむら「……ふむ」
杏子「カミサマに懺悔しろとはいわないけど、もっとオープンに心の内を話せるようになれれば、誤解自体されなくなるのかもしれないな?」
わからん。 - 651: 2012/03/22(木) 18:15:42.09 ID:aMpS1JU/0
- 夢を見た。
マミと、魔法少女になったまどかと一緒に魔女と戦う夢だ。
私は夢のせいか、おぼつかない足取りで戦っている。
二人は慣れた様子で、次々と魔女に攻撃を与えている。私は何もできない。
ほむら「……」
目を覚ます。言いようのない寂しさが、身体の内からこみ上げてきた。
二人と離れたくない。
まどかやマミは、魔法少女を殺した私を軽蔑しているだろう。
けれど私は二人と離れたくない。
私の友達だ。
暁美ほむらではない、私の友達。
さやか、まどか、マミ…。
……私は暁美ほむらなんて知らない。だから、聞かれても何も答えない。
奴とは、そんなレベルで関わらないことに決めた。
ほむら「……学校に行こう」
冷蔵庫に入れた油の浮いたラーメンを啜り、私は家を出た。
- 659: 2012/03/22(木) 20:11:51.34 ID:aMpS1JU/0
- 鳩を探す気力もない。
そりゃあ目の前にいれば飛び付く気も起こる。
しかし探すまではいかない。
無気力に通学路を歩く。
ほむら「はあ」
憂鬱な気分だ。
ほむら(でも、中学生らしく交友関係で悩めるだけで、魔法少女としては上出来なのかもしれないな)
そういうことにしよう。
ほむら「よし、学校頑張ろう」
自分を奮い立たせ、私は起伏ある校門前を走り抜けた。
鳩がいなくても私は走る。
- 660: 2012/03/22(木) 20:22:23.84 ID:aMpS1JU/0
- がららららら。
ほむら「おはよう」
まどか「あ……」
さやか「……」
入り口の傍にいたから不可避だと腹を括って声をかけたというのに、なんだその準備も何もしていなかったような反応は。
ほむら「さやか、昨日は大丈夫だったか?」
さやか「え?あっ……ああ、うん、おかげさまでね」
苦笑い。遠慮されているのか。わからない。
ほむら「間に合って良かったよ、丁度近くに居合わせていたからね」
さやか「ああ……うん!私は事情を知ってるけど、仁美は…その、ね?」
ほむら「おっと」
危ない危ない。魔女の話はあまり公言するものではなかった。
さやか「……本当にありがとう、感謝してもしきれないよ、ほむら」
ほむら「……気にしなくて良い、君が無事でいるだけで私はそれで嬉しいから」
腫れものを触れないように。繊細で、神経質なコミュニケーションだ。
むずがゆい。
仁美「い、いけませんわお二方……」
さやか「え?」
ほむら「ん?」
仁美が色々とうるさかったが、どうでも良さそうな事だったので私は気にせず席についた。
まどかとさやかは弁解だか何かに追われていたが。 - 662: 2012/03/22(木) 20:52:03.95 ID:aMpS1JU/0
-
ほむら「……」
雑念は振り払おう。
気を病むことは魂の毒だ。
ソウルジェムを濁らせないためにも、神経は図太くあるべきだ。
だから私は、楽しめることを最優先に考える。
私という暁美ほむらは、それでいいのだ。
中学生女子とは、そうあるべきなのだ。
そう。黙ってマジックしよう。
“Ms.ホムホムマジック in 見滝原”
訂正線。イマイチだ。
ミス、ホムホム。ダメだ。良くない。
“Mr.ホムの青空マジックショー”
うーむ。ミスターは何かが違う。
語呂は良いと思う。私が男だったら何も問題はなかった。
けど魔法少女ありきのマジックだからな…。
“Dr.ホムのマジックショー”
シンプルイズベスト。
…会場って借りれるのだろうか。どこなら許可を出してくれるだろうか…。
まどか(…ほむらちゃん、思い詰めてる…昨日のことはやっぱり、深く聞いたりしちゃいけないのかな…)
さやか(ほむら…私は信じてるよ)
ほむら(老人ホーム…いや、ホムって名前ちょっとまずいのかな…ギャグみたいになる……) - 674: 2012/03/22(木) 21:47:05.36 ID:aMpS1JU/0
- ほむら「中沢」
「ん?またマジックか、何か?」
ほむら「察し通りの御名答、さあ」
二枚のカードを提示する。
ほむら「このジョーカーか、このスペードの3か、選ぶと良い」
「んー、どっちでもいいけど」
ほむら「どちらか選ばなくてはならない時もある」
「……じゃ、ジョーカーで!」
ほむら「良いだろう、ではジョーカーをここに置く」
「うん」
ほむら「君には私が手に持ったこの裏向きのカード…なんだかわかるかな?」
「そっちはスペードの3でしょ」
ほむら「と思いきや?」ピラ
「あれ?ジョーカー?じゃあこっちが……」
「あれ?ハートのクイーン?うそ、いつの間に……」
ほむら「ふふ、どうかな」
仁美「まあ、暁美さん、上達してますわね」
さやか「そうだね…最初はひどかったよねえ」
仁美「ほむらさんは最近になって始めたのでしょうね、ふふ」
さやか「そうなの、かな?まぁ確かに、前からやっていたってわけじゃないよなー、あの腕前だと」
さやか(ほむら、前は何をしていたんだろう…想像できないや) - 675: 2012/03/22(木) 22:08:55.54 ID:aMpS1JU/0
-
マミ(暁美さん……)
マミ(最近、周りで色々な事が起こりすぎて……頭がパンクしそう)
マミ(鹿目さんたちと出会って…暁美さんと出会って…)
マミ(疑って…暁美さんと一緒に戦って…ソウルジェムの真実を知って…暁美さんと戦って……暁美さんに許されて)
――引いてごらん
マミ(……暁美さん)
キィィ・・・
マミ「!」
ほむら「…ああ、やっぱり昼は屋上だね」
マミ「暁美さん…!」
ほむら「マミ、あの」
マミ「昨日はごめんなさい!」
ほむら「……え?」
マミ「…暁美さんは暁美さんだもの…私を助け、励まして…救ってくれた」
マミ「その暁美さんは、絶対に嘘なんかじゃないものね…昨日の私は、本当に愚かだったわ」
マミ「……ごめんね…聞かれたくない事、暁美さんもあるのにね」
ほむら「……マミ…」
マミ「だから、暁美さん…私のそばにいて?離れないで…」
ほむら「……」
ほむら「……ありがとう、マミ」 - 680: 2012/03/22(木) 22:47:44.68 ID:dRIA/jKAO
- 高い空にやや高い雲が流れる。
向こうから吹く風が清々しい。
マミを抱きしめる。
マミも私を抱きしめた。
深い意味はない。
これが友達なのだと、そう思うからだ。
マミの体温により、私の中の寂しさが一つ、埋まった。
私は一人ではない。
暁美ほむらの汚れすら包んでくれる、素晴らしい友達ができた。
私は彼女を守る。再び心に決めた。 - 700: 2012/03/23(金) 20:21:45.35 ID:ahebLvVa0
- 放課後になった。
今日はあっという間に過ぎていった。
ここ最近はあっという間なのだが。
一際に早かった。
入院していた頃は随分と時間が長く感じられていたのだが。
生きていて退屈しないのは素晴らしい。
人間でも魔法少女でも。
ほむら「さやか、まどか」
さやか「ん?どした、ほむら」
ほむら「工場で黒猫を見なかった?」
さやか「黒猫……?」
まどか「あっ…私、見たよ、ちっちゃいこでしょ?」
ほむら「そう、ワトソン…昨日は置いてけぼりにしちゃったからね、どこにいるかわかる?」
さやか(ワトソン……)
まどか「う、うーん……私、車の下にいるのを偶然見ただけで…今はもういないかも」
ほむら「……そうか」
ワトソン、無事なら良いのだが。
連れ戻そう。まだマグロ缶が残っている。
さやか(……恭介…)
- 701: 2012/03/23(金) 23:26:51.54 ID:ahebLvVa0
- ほむら「ワトソン…」
工場地区に戻ってきた。
件の工場はKEEPOUTのテープで封印されていたが、人はいなかった。
そういえば、集団催眠だか集団幻覚だかで問題になったのだ。
なるほど、事件になるわけだ。
ほむら「……」
「はあ……」
工場の前では、昨日とほぼ同じ面構えのおっさんがコンクリブロックに腰掛けていた。
魔女の口づけがなくとも自殺しそうな雰囲気が漂っている。
ほむら「すみません」
「ん……?なんですか」
ほむら「黒猫を見ませんでしたか、小さな黒猫なんですが」
「ああ……黒猫なら昼間も俺の前を横切って行ったよ…これからも横切るかもしれないな…」
ほむら「どちらへ?」
「あっちだ」
ほむら「……」
全く別の方向に探しにゆかなくてはならないようだ。 - 702: 2012/03/23(金) 23:33:27.26 ID:ahebLvVa0
- ほむら「ありがとう、感謝します」
「飼い猫?」
ほむら「いえ、相棒です」
「ふっふふ、相棒かあ……いいなあ」
本当は様々なものを破壊したり持ちあげたりしたので、謝らなくてはならない立場なのだが。
ほむら「……」
目をやると、魔女の結界があった工場の物置きにも捜査の手があったらしい。
黄色いテープで囲まれている。
大きく破壊された壁が痛ましい。
ほむら「……」
カチッ
せめて、バリケードに使った物品の整頓と、破壊した壁のゴミ集めだけはしておこう。
壁を直す魔法が無いというのが、あまりにも悔やまれることだ。
奇跡だって簡単に起こせることではないということか。
カチッ
ほむら(立ち直るのは難しいかもしれないな……)
まだ、ワトソンを探す。 - 703: 2012/03/23(金) 23:49:06.50 ID:ahebLvVa0
- マミ「…魔法少女に、なりたい」
さやか「……はい」
マミ「良いものじゃないっていうのは、前にも鹿目さんには言ってあるんだけど」
さやか「覚悟はあります」
マミ「かっこいい言葉を出すのは簡単よ?漫画ってかっこいい言葉が多いもの」
さやか「私のまごころです」
マミ「…じゃあ、聞かせてもらえるかしら、さやかさんのまごころ」
QB「僕の力が必要かな?」
さやか「わあ!びっくりしたぁ」
マミ「キュゥべえ、煽りは不要よ」
QB「あくまで本人の意思を尊重するさ」
さやか「……私、魔女の口づけを受けて、死にそうになったんですよね」
マミ「そうだけど、助かった命を“どうせ死んでた”と投げ出すのは違うわ」
さやか「私も、人を助けられるような人間に……魔法少女になりたいんです!」
さやか「みんな知らないけど、それでもこの世界は魔女の危険に溢れている…昨日、それを実感したんです」
マミ「……」
さやか「仁美も、私も…普通なら死んでた、他の大勢の人だって…」
さやか「この世のどこかで、あんな風に理不尽に人が死んでいくなんて…そんな世界、黙って見過ごせないんです!」 - 704: 2012/03/23(金) 23:58:47.95 ID:ahebLvVa0
- マミ「……正義の味方、なんて、そう格好のつくものではないわよ」
マミ「誰に認知されることもない…誰も助けてくれない…」
マミ「それでも、ソウルジェムを清めるために戦い続けなくてはいけない…」
さやか「私、それでも知らんぷりなんてできないです」
マミ「正直、中途半端に揺らぐ気持ちで関わってほしくはないの」
さやか「…見過ごせない…絶対に…!」
さやか「キュゥべえ、あたしには魔法少女になる素質があるんだよね」
QB「もちろんだとも」
さやか「…その素質って、一年後とか三年後とかでも、続くのかな」
QB「難しいね、二次性徴期の女性じゃないと、魔法少女にはなれないよ」
さやか「…ならずにいたら、私、一生後悔し続ける」
マミ「……」
さやか「テレビで行方不明の人や、自殺の話題を聞くたびに……きっと、罪悪感で気がおかしくなると思う」
さやか「“自分で助けられたかもしれないのに”……って」
マミ「美樹さん……」
さやか「石ころにされたって、なんだって構わない…」
さやか「石ころにすらなれずに死んでゆく多くの人達を、この手で助けられるなら…!」
- 730: 2012/03/24(土) 22:37:00.90 ID:rPkVlVzm0
- マミ「…魔法少女になるかどうかは本人が決めること、強制はできないわ」
さやか「マミさん」
マミ「でもね美樹さん、貴女は魔法少女になる前に、知ってもらわなきゃいけないことがあるの」
さやか「え?」
マミ「魔法少女の真実をね……」
QB「……」
マミ「話はそれからでも遅くないわ」
さやか「魔法少女の真実って…?なんですか?それ」
マミ「これを受け入れて、いざという時、それを実行する覚悟があるかどうか…」
さやか「……」
マミ「私は、その覚悟がある…私は受け入れたわ」
マミ「美樹さん……貴方にはあるのかしら」 - 731: 2012/03/24(土) 23:04:58.63 ID:rPkVlVzm0
- 人伝に探すも、黒猫の目撃証言などそう集まるものでもない。
私はワトソンを見失ってしまった。
ほむら「……」
隣町。
いざとなればマグロ缶は私が食う。だが、ワトソンのために容易したミニチュアのハットはどうすれば良いというのか。
ワトソン専用の砂場、板、その他もろもろの道具が無駄になる。
何よりも私が寂しくなる。
ワトソンは私が知る、唯一の家族なのに。
「くるっぽー」
ほむら「!」
鳩の鳴き声。
思わず俯いた頭を上げた。
「にゃにゃにゃ!」
「くるっぽー、くるっぽー」
ほむら「……!」
それはまさに奇跡の光景だった。
黒猫と白鳩が、地面の上のスナック菓子を仲良く食べていたのだ。
杏子「お?奇遇だな、ほむら」
ほむら「杏子……」
ベンチには、菓子を食い漁る杏子の姿があった。
より取り見取りの光景だった。 - 732: 2012/03/24(土) 23:17:01.90 ID:rPkVlVzm0
- ほむら「ワトソン」
「にゃぁ!」
私の呼び声に駆け寄る猫。
私を覚えてくれていたのだ。これほど嬉しいことはない。
杏子「なんだ、そいつあんたの猫だったのか」
ほむら「ああ、私の相棒だ」
抱き上げて杏子に見せてやる。
ワトソンはだらしなく手を挙げて、杏子に挨拶した。
ほむら「そういう杏子の足下、その鳩は杏子の」
杏子「まさか、物欲しそうな目で見てたから、ちょっと分けてやったんだよ」
スナック菓子をつまみ、潰して地面に撒いている。
なるほど、鳩は美味そうに食べている。
ワトソンも物欲しそうな顔をしているが、帰ったらマグロを分け与えてやるのだから我慢させることにした。
- 734: 2012/03/24(土) 23:21:20.17 ID:rPkVlVzm0
- ほむら「ありがとう、杏子…助かったよ」
杏子「へへ、まあいいってことだ」
ほむら「……そうだ、これを渡しそびれていたね」
杏子「?」
鞄の中のコーラを投げ渡す。
杏子「これ……」
ほむら「この前忘れていっただろう、返すよ」
杏子「サンキュー、炭酸抜けていても、これは美味いからな」
食べ物は粗末にしちゃいけない、そう言って、ごくごくと残りを飲み干した。
良い事を言った割には、ペットボトルのゴミはポイ捨てした。
よくわからない子だ。
- 735: 2012/03/24(土) 23:29:59.06 ID:rPkVlVzm0
- 不良少女ならば不良少女らしく、鳩でも犬でも蹴飛ばすくらいの気持ちでいればいいのに。
そんなことを考えた矢先だった。
――キィィィィン
杏子「…!」
ほむら「……」
ソウルジェムが反応した。
使い魔のものだ。しかしかなり近い。
私の呑気な探査能力でも引っかかるくらいだ。相当な近距離にいるはずだ。
杏子(使い魔なら、まあ…)
ほむら「悪いね杏子、ワトソンも見つかったし、私は行くよ」
杏子「! おう、気をつけてな」
ほむら「ああ、また、会った時に」
手を振る。別れを告げる。
しかし。
杏子「……なあ、そっちから帰るのか」
ほむら「ああ」
呼びとめられた。
杏子「…行く前にちょっと、メシ寄ってかない?」
ほむら「遠慮しておくよ、ワトソンもいるからね」
食べたい所ではあるが、この距離なら使い魔を見逃す手はない。
グリーフシードにも余裕があるのだ。狩ってやる。
- 774: 2012/03/25(日) 23:13:50.40 ID:WkYO1s0a0
- 杏子「――ペットもアリなところ、おごるよ!」
ほむら「……」
まるでマミのようなタイプだ。
それともこの歳の少女は皆、一緒に食事を摂るのが好きなのだろうか。
私にはわからないが。
ほむら「…また今度、おごってくれよ」
杏子「……!」
悔しそうな顔をしている。
歯を食いしばるほどの事ではないはずだ。
確かに私は付き合いは悪い部類なのかもしれないが、魔法少女の仕事となれば話は別だろうと思う。
ほむら「じゃ、またいつか」
私は使い魔の気配を強く感じる方向へと歩き始めた。
杏子「――ッ」
ほむら「――」
そして感じる。
背後の空気が乱れた。
- 775: 2012/03/25(日) 23:29:10.29 ID:WkYO1s0a0
- 咄嗟に腕を上げていなければ、こうも腕に鈍痛を味わうこともなかっただろう。
ほむら「随分と強引な勧誘だ」
杏子「…!オマエ…」
それと引き換えに、手刀に首をやられて意識を削がれていただろうが。
突如として私を襲いにかかった杏子から3歩退く。
今の杏子の目は、食事に誘うティーンエイジャーの目ではない。
まぐろ缶を前にしたワトソンの目だ。
杏子「……魔法少女…!」
ほむら「!」
私の左手を見る杏子に釣られて、私も杏子の手を見る。
なるほど全く意識などはしていなかったが、彼女も私とおそろいのリングを付けている。
そしておそろいのリングを持っている私に手刀を仕掛けたということは。
ほむら「…“君は 普通の人間にはない特別な力を持っているそうだね?”」
ほむら「“ひとつ…… それをわたしに見せてくれるとうれしいのだが か?”」
杏子「ち、違う!そういうつもりじゃあ!」
突然にうろたえる杏子。
彼女とはもはや、相容れない。
友達かとも思ったが残念だ。お別れだ。
ほむら「本当に残念だ!」
杏子「くっ…!話を…!」
両者ともに変身する。 - 776: 2012/03/25(日) 23:36:27.66 ID:WkYO1s0a0
- 纏う白と紫の衣装。
シルクハットに三代目のステッキ。
私の真の姿。
カチッ
ほむら「……杏子」
杏子『……』
赤い衣に身を包んだ杏子が、切迫したような表情でこちらを睨んでいる。
手には、何かを貫くための道具である槍が握られていた。
ほむら「……」
杏子。彼女とは何度か会うくらいの仲ではあったが、良い子だった。
不良少女のようでいて実は優しい杏子。
いや。これ以上はやめておこう。
私は踵を返して、使い魔のもとへと向かった。
早くこの町から去らなくてはならない。
そう思う。
- 777: 2012/03/25(日) 23:45:53.39 ID:WkYO1s0a0
-
噴水に築かれた亜空間は、巨大な本の世界。
階段のように段々と平積みされた本を駆け登り、使い魔のもとへ急ぐ。
使い魔「……!」
はたはたと栞の身体をはためかせて空を飛ぶ様は、さながら現世に甦ったスカイフィッシュ。
だが、そんなものは目じゃない異世界に私はいるのだから感慨などあるはずもない。
ただひとつ、栞の使い魔ならば魔女は本であろうということだけをおぼろげに考えながら、時を止める。
カチッ
止まる栞。
カチッ
ほむら「……1.瞬間乱打ステッキ」
動き出す世界。
一瞬のうちに叩きこまれる、停止世界での30発分が使い魔を襲う。
魔力により強化された打撃を、たかだか使い魔が30発も受けて無事でいられるはずはなかった。
本の世界は途切れ、日常の公園が戻って来る。
- 778: 2012/03/25(日) 23:56:55.94 ID:WkYO1s0a0
- 杏子「――聞いてくれよ!そういうつもりじゃなかった!」
ほむら「!」
背後から声。
杏子だ。
杏子「…なあ、聞いてくれよ」
ほむら「……」
ステッキを構える。
相手も槍を控えめに構えた。
杏子「……さっきのは悪かった、一般人かと思って…眠らせようかと」
ほむら「……そうかい」
それならば説明はつくかもしれない。
杏子「本当だよ、だって使い魔の方向に行くもんだから…」
ほむら「使い魔を放っておいてラーメン屋か?」
杏子「…!おまえ!…使い魔を倒してどうするんだよ!」
ほむら「…近くにいれば倒すだろう」
杏子「魔女じゃない…グリーフシードだって落とさない奴だよ、それでも……」
ああ、なるほど。
そうか、この子は。なるほど。
ほむら「…杏子、君は徹頭徹尾、自分の為だけに生きているのかもしれない」
杏子「!」
ほむら「でも私には少なからずとも、守りたいものがある…使い魔とも戦うべき理由はあるんだ」
私は杏子とは違う。
杏子は私とは違う。
ほむら「…そうか、ここは見滝原ではなかったね、すまない」
ハットを深く被って、小さく頭を下げる。
そうか。私はいつの間にか、彼女のテリトリーを脅かしてしまっていたのか。
ほむら「君の庭を荒らしてすまなかったよ、杏子」
杏子「……」
彼女も苦い顔をしてくれた。
けれど彼女と私の信念は違う。その正義も違う。
魔法少女としての生き方が違えば、それは相容れない。
残念でならない。せっかく友達になれたと思ったのに。 - 788: 2012/03/26(月) 14:13:20.14 ID:VpnWjeQAO
- さやか「………魔法少女が、魔女になる…?」
マミ「それがソウルジェムに隠された最後の真実……いえ、罠というべきなのかしら」
さやか「…魔女を倒す魔法少女が、魔女に…」
マミ「必要な覚悟って、つまりはそういう事なの」
マミ「ソウルジェムが魔女を産むなら、私達、魔法少女は……」
さやか「…ソウルジェムが、濁る前に…」
マミ「どうかしら、ショックだった?」
さやか「……はい、かなり」
マミ「ふふ、正直ね……私も聞いた時は取り乱したわ」
マミ「魔法少女になってから知るのでは、遅すぎたから…」
さやか「……マミさん…」
マミ「繰り返しだけど、決めるのは美樹さん自身」
マミ「早死にするかしないかの決断よ…怯えて良い、恐れていいから……正直に、答えを出してね」
- 789: 2012/03/26(月) 18:19:13.12 ID:3WG7oR/50
-
杏子「…! くっ…消えやがった」
杏子(……違うだろ?魔法少女って、そういうもんじゃないだろ)
杏子(魔法は全て自分の為だけに使う、そういう生き物だろうがよ)
杏子(……あいつと同じような事言うなよ)
杏子(あんたとは、仲良くやっていけそうな気がしてたのに!)
杏子(……マミと同じ制服だったな…)
杏子(見滝原に行けば、あいつに会えるのかな)
- 790: 2012/03/26(月) 20:13:25.29 ID:3WG7oR/50
- マミとの絆を取り戻し、杏子との絆を失った。
ワトソンを取り戻し、なんだかんだで白い鳩を手に入れた。
全体で見ればプラス方面に動いた私の世界。
なのにどうして、杏子との決別という一点が、こんなにも胸を刺すのだろう。
「にゃ」
「くるっぽー」
ワトソンを温めるようにして、レストラード(鳩)が翼を差し出している。
鳥と猫ですらここまで仲良くなれるというのに、人と人との関係はいくらでもこじれてしまう。
不思議だ。そして切ない。
ほむら「……」
ワトソンから分けてもらったまぐろ缶の一部をなんとなくかじりながら、私の瞼は無意識のうちに重くなっていった。
明日は休みだ。
さて、何をしようか。
何もしたくない。
嘘。新しいマジックの披露……。ぐう。 - 791: 2012/03/26(月) 20:20:45.82 ID:3WG7oR/50
-
ほむら『……』
夢?
ほむら『……』
右手を開く。閉じる。
私が確かに動いている。目覚めるような感覚。これは現実だ。
しかし、景色は夢のように異様だった。
真っ白な部屋。
寝そべるには不便なソファー。
影がちらついて落ちつかない。分解したはずの振り子ギロチン時計。
壁か空間かもわからない白いそこを平面軸に揺れ動く、額縁の図面たち。
一言で言えば妙。または不便。そんな、夢の中の私の部屋。
『……』
ソファーに私が座っていた。
膝の上で手を結び、頭を垂れている。
髪を降ろした、今の私のような私。
ほむら『……』
『……』
なんとなく、私は私の隣に座ってみた。
しかし私はうつむかない。その体勢で寝ると首を寝違える事を知っているからだ。
だから私は、白い壁にゆらめく無数の図面達を眺めていた。図面はぼやけていて、何も見えないが。 - 792: 2012/03/26(月) 20:28:54.08 ID:3WG7oR/50
- 『……疲れた』
隣で景気悪そうな私が景気悪そうにつぶやいた。
何故私が私の弱音を聞かなくてはならないのか。
ほむら『なら横になって寝ると良い』
私は額縁を眺めたまま答えた。
額縁の中には絵らしきなんぞがあるのだが、目を細めて見てもぼやけていて見えない。
『……休めないわ』
隣の私は力なく、うつむいたままに答えた。
何故この私はこんなにもダウナーなのだろうか。
ほむら『曲がったソファーしか置かなかった君が悪いんだろうさ』
私は後ろに寝そべるようにして答えた。
結果として寝そべると言えるほどくつろぐことはできず、頭が辛うじて中央のソファーに乗るだけにとどまった。
腰や肩が支えられていない。腹筋が鍛えられる姿勢だ。
『……そうね、真っ直ぐなソファーにしておけばよかったわ……』
隣の私がどこまでも落ち込んだ声でそう零した。
いい加減、この私っぽい私の面倒臭さに堪忍袋の緒が輪切りになりそうだ。
ほむら『新しいソファーを買いに行くと良い』
私は椅子から滑り落ちて後頭部を打ちつけながら言った。
『……もう、お金がなかったのよ……』
じゃあ無理だ。
そんな所で、夢は覚めた。
- 793: 2012/03/26(月) 20:32:03.16 ID:3WG7oR/50
- ほむら「……」
目を開ける。
後頭部が痛い。
結局のところ、それは夢だった。
「くるっぽくるっぽ」
レストラードが私の後頭部の上で跳んだり跳ねたりしている。
家主に対してとんでもない仕打ちだ。新入りとしての身分をわきまえてほしい。
ほむら「……朝食を食べよう」
「にゃ」
「くるっぽー」
ワトソンも起きていたらしい。
三人分の朝食を作らなくては。
今日から支度が大変になりそうだ。 - 803: 2012/03/26(月) 22:34:44.33 ID:3WG7oR/50
- ほむら「ぐふ」
暖かな朝過ぎ、明るくなってきた見滝原。
朝食の油そばと水道水が胃の中で取っ組み合いを始めた。
「にゃ?」
ほむら「大丈夫、歩ける、歩けるから」
辻斬りマジックショーを敢行しようとも思ったが、寸での所でやめるべきだろうか。
いいや、やめるわけにはいかない。
もう大通りまでやってきたのだ。ここで引き返してはマジシャンの名が廃る。
ほむら(しかし…腹痛が……腹痛が容赦ない…)
マジシャンの名を一時返上してハンバーガー屋のトイレにでも駆け込もうか。
公衆トイレは嫌だ。汚いから。
「あ、見てあの子……」
「おお、マジシャンの子だ」
「やるの?」
「見よ見よ、ついてこ」
ほむら「……」
しまった。これは罠だ。逃げられない。 - 805: 2012/03/26(月) 22:45:43.55 ID:3WG7oR/50
- 見滝原市のエキストラ達が、最初の頃よりも一段ほど高い私のステージを取り囲む。
マジシャンとしての体裁は持っているべきだという事で、一応は壁を背にして設けた私の舞台。
“Dr.ホームズのマジックショー”
「ホームズちゃん」
「ホームズちゃんっていうんだ」
「押すなよ、見えないだろ」
壁に貼り付けたお手製の布看板。
ホムよりもホームズの方が格好良い。ポスカで描く寸前で変更して良かったと、今では思っている。
ほむら「Dr.ホームズのマジックショー」
カチッ
シルクハットを掲げる。
唾を飲む音が小さく聞こえてくるよう。
カチッ
ほむら「はじめさせていただきます」
「くるっぽー」
ハットの中から飛び立ってゆく白い鳩。
青空に向かって、垂直に飛んでゆく。
見上げる人々。私も鳩を見上げた。
観客からの声援が上がる。
休日の呑気なマジックショーが始まりを告げた。
始まったはいいのだが、レストラード、帰ってくるかな。どうしよう。
- 806: 2012/03/26(月) 22:54:47.22 ID:3WG7oR/50
- シャリッ
杏子「あらよっとお」
魔女「ぎぃいいぃいぃいいい……!」
コトン
杏子「はい~~、一丁上がり、ってな」
杏子「…これで奴も来るだろ……おいキュゥべえ!」
QB「朝から魔女退治とは、珍しいね杏子」
杏子「使い終わったグリーフシードがないとアンタ来なさそうじゃん?」
QB「別にグリーフシードがなくても来るんだけどなぁ…その言い方から察するに、僕に用でもあるのかい?」
杏子「ほむら、って魔法少女、知ってるよな?」
QB「暁美ほむらかい?彼女がどうかしたの?杏子」
杏子「……あいつは見滝原にいるんだよな、てことはマミと一緒か?」
QB「だね、最初は悶着があったけど、今では有効的な関係を築いているよ」
杏子「あんな魔法少女ができてたなんて聞いてないけど」
QB「僕も知らないよ」
杏子「……はあ?」
QB「マミにも言ったけど、僕は彼女と契約をした覚えはない」
杏子「なんだそれ、魔法少女じゃないっての?」
QB「いいや、ほぼ確実に魔法少女だね」
杏子「……なにそれ、わけわかんない」
QB「こちらとしても、本当にそうだよ」
- 807: 2012/03/26(月) 23:01:44.06 ID:3WG7oR/50
- QB「杏子も彼女と接触したのかい?」
杏子「……まあね」
QB「マミにも言ってあるけれど、彼女はイレギュラーだ、警戒しておくべきだよ」
杏子「イレギュラー、ねえ……まー変なところのある奴だけど」
QB「彼女は怪しい…突然現れたけれど、その目的は全くの謎…注意して」
杏子「……随分とあいつを目の敵にしてるじゃん?」
杏子「…そんなに言うなら…私が探りを入れてやるよ、あいつの」
QB「見滝原に行くのかい?マミとは距離を置いているんじゃ」
杏子「んーまあ向こうを荒らそうってわけじゃないから」
杏子「アンタとしても、ほむらの目的とか、そういうのがわかると良いんでしょ?」
QB「まあね、あの魔法少女が何かよからぬことを考えているのかもしれないし」
杏子(バーカ、あいつはそんなこと考えるタマじゃないよ)
杏子「……じゃ、私が見滝原に行くのはアンタのお願いを聞いてやった、ってことでいいよねえ?」
QB「僕のお願いを聞く魔法少女というのも珍しいね」
杏子「ふん、新人が気に食わないだけだよ」
杏子(……ほむら……) - 823: 2012/03/27(火) 12:32:12.83 ID:Rd0kj/BAO
- ほむら「はっ!」
薄手の白いスカーフが一瞬で燃える。
ただ燃やし尽くすだけでは芸がない。
ほむら「…おっと、ティッシュに早変わり」
布を燃やし、紙へと変える。
どよめきが心地良い。
ほむら「さらにこのティッシュを燃やしまして…っと」
紙が燃える。
ほむら「…紙が、花びらに」
手の中から現れるのは、パンジーの花びら達。
色とりどりで鮮やかな欠片だ。
私はそれをそっと握り込んだ。
ほむら「皆様、御静観ありがとうございました」
手を開けば、そこには花びらではない、茎付の一輪のパンジー。
いつもよりは大人しい締めでも、会場は大きく沸いた。
- 824: 2012/03/27(火) 14:06:31.36 ID:Rd0kj/BAO
- 見てくれる人は、かなり増えてきたと思う。
出所不明の口コミも広まり、この通りではすっかり有名になった。
「ホームズさーん!キャー!」
悲鳴まで聞こえる。
「ホームズさん!次はいつやりますか!?」
「こっち向いてくださーい!」
フラッシュが眩しい。
ほむら「申し訳ない、不定期公演なもので…」
「「「え~」」」
えー、じゃない。魔法少女を舐めるな。
「ホームズさん、ホムさんと呼んで良いですか!?」
ほむら「お好きに」
「ホムさん、その衣装とっても素敵です!どこで買ったんですか!?」
ほむら「魂のオーダーメードなもので」
女の子の比率が高い気がする。
いい加減に抜け出したい。 - 830: 2012/03/27(火) 20:02:44.15 ID:WIjP7yxN0
- 「あけ……ホムさーん!」
ポロっと外野から洩れた私の本名に思わず顔を上げる。
女の子の観衆の中に、見知った顔が混じっていた。
マミ「……あはは…」
ほむら「マミ……」
目立たないように遠慮がちに手を振って存在をアピールする、巴マミの姿があった。
まさか彼女も?と思ったがそんなことはあるまい。
さやか「……」
彼女の隣にはさやかもいた。
どうやら、私に用があるみたいである。
何か物足りないと思ったら、まどかは居なかった。
可哀そうに。休日の遊びに誘われなかったか。
- 831: 2012/03/27(火) 20:11:47.16 ID:WIjP7yxN0
- 颯爽と着替えて、女の子たちの砦を抜けだし、マミたちと合流する。
さわやかな昼間の見滝原。
街ゆく人は自殺しそうな、そうでもないような無表情でどこかを目指して歩いていた。
人々の顔というのはまったく心象に関わらず無表情なので、何を考えているのかわからない。
結局、魔女を探すにはソウルジェムの反応を見るのが一番ということか。
別に今、魔女を探しているわけではないけれど。
ほむら(……首元にタトゥー入れてて辛気臭い顔してる奴って、助けようがないよなー…)
マミ「暁美さん、聞いてる?」
ほむら「ん、ん?何かな」
マミ「もう」
さやか「真面目に聞いてよー」
さやかに怒られた。
マミ「モールをめぐるのも楽しい日頃だけどね、今日はちょっと、大事な話につきあって欲しいのよ」
ほむら「あれ?遊ぶんじゃないのか」
マミ「本当に大事な話だからね」
彼女の表情は真摯なそのものだった。
さやか「…急ぎじゃなければ、ほむらに聞いてほしいんだ」
ほむら「……ふむ」
さやか「言ってくれたよね、その時は相談に乗るって」
……まさか。 - 832: 2012/03/27(火) 20:20:37.76 ID:WIjP7yxN0
- いつぞやのハンバーガーショップに来た。
客の入りは悪くないが、広すぎて空いているように見える。
座る側からしてみれば、常に他人との距離を置けるので込み入った話をしやすい店だと思う。
ほむら「……」ゴボボボ
頬杖をつき、コーラに息を吹き込む。
マミ「暁美さん、行儀悪いわよ」
マミに怒られた。
さやか「……マミさんから話は聞いたよ…ソウルジェムが濁りきった時に、どうなるかも」
ほむら「さやかはそれを聞いてどう思った?」
さやか「……ひっどい話だなーって」
ほむら「うん、正直だ」
酷い話。その通りである。
残酷で、陰険な話だ。
魔女になるのを怖くないと言い出したら、この場で顔にコーラを噴霧してやっていたところだ。
さやか「希望を振りまく魔法少女が魔女に…うん、本当にショックだった」
ほむら「だろう」
さやか「でもね、それを聞いてより一層……覚悟は固まってきたよ」
ほむら「?」
さやか「魔女がどういうものか、わかったからね……むしろ、私はそれを聞いて、願い事に真っ直ぐ向かい合えたような気がしたよ」
穏やかなさやかの表情。見慣れないけど似合っていた。 - 833: 2012/03/27(火) 20:33:13.07 ID:WIjP7yxN0
- ほむら「……確認しよう、これだけは確認しなければいけない」
さやか「うん」
目に魔力を込めて、さやかを睨む。
ほむら「自分のソウルジェムを砕く覚悟はあるかい」
さやか「ある」
怖いくらいまっすぐな目をする子だ。
さやか「最後に魔女を一体始末できるのなら、そんなの構わない」
ほむら「……わかった」
彼女は。
自己犠牲を厭わない。他人を放っておけない。そんな、正義の味方としてはぴったりな人間だ。
ほむら「魔法少女、なりたければ、なるといい…さやかの気持ちはわかったよ」
こうなった人は、だいたい他人の意見なんて聞かないタイプだ。
そもそも契約は本人の意思によるものだし、私がどうこう言う問題でもない。
さやか「ありがとう、ほむら…!」
マミ「ふふ、これから頑張ろうね、美樹さん」
彼女は真面目に悩むタイプだ。
全ての真実を知って、なお悩んだ末に出した答えならば、もはや私から言うことはない。
彼女の人生は彼女のものだ。
ほむら「……でも、教えてほしいな。さやかはどんな願い事を叶えるつもりなんだい?」
さやか「えっ」
ほむら「それが本当に奇跡無しには遂げられないのなら、願いにしても良いけど…私達で可能であるならば、いくらでも手伝うよ?」
さやか「……ほんとに?」
マミ「そうね、私達の魔法の力で可能な事なら、それは力になってあげたいわね」
さやか「…う、うーん……」
物凄く、気の進まない顔をしている。 - 834: 2012/03/27(火) 22:14:17.50 ID:WIjP7yxN0
- カリカリ・・・
まどか(……はあ、魔法少女、かあ)
まどか(キュゥべえからは逸材だーとか、素質がーとか言われたりするけど)
まどか(マミさんからはなっちゃ駄目って言われてるし)
まどか(ほむらちゃんも、中途半端な事は許さないみたいだし……うーん)
まどか(私も、マミさんやほむらちゃんと一緒に戦って…でも、それだけじゃいけない)
まどか(願い事かぁー……うーん……)
カリカリ・・・
まどか「…てぃひひ、こんな風に可愛く、カッコよくなれたら、それだけでいいんだけどな…私」
バサバサ・・・
まどか「ん?窓の外に何か白い……キュゥべえ?」ガラッ
「くるっぽー!」バサササ
まどか「きゃ、きゃああ!」
「くるっぽくるっぽー!」バッサバッサ
まどか「は、鳩!?で、出てってよー!!」
「くるっぽー!」バサバサ
まどか「飛ばないでー!」
杏子「……ん?なんだ、あっちから悲鳴が聞こえんなあ」
QB「あの家は…」 - 849: 2012/03/28(水) 19:56:56.78 ID:vYwpCx2u0
- がしっ
「くるっぽ?」
杏子「おいおい、昼間っからうるせーぞ」
まどか「ひいい……え?」
QB「やあ、まどか」
まどか「キュゥべえ…?…あなたは?」
杏子「トラブルみたいだったから、窓からお邪魔させてもらったよ……魔法少女は知ってるんだろ?」
まどか「う、うん……あなたも、魔法少女なんだね」
杏子「まあな、見滝原に住んでるわけじゃないけどさ」
まどか「…ブーツ」
杏子「捕まえてやったんだから多めにみてくれよ?こんくらい」
まどか「う、うん、ありがと……てぃひひ…」
- 850: 2012/03/28(水) 20:07:43.29 ID:vYwpCx2u0
- 杏子「どっかで見た鳥だな……まあいいや、二度と人の住処に入ってくんなよ」
「くるっぽー」
バサササ・・・
まどか「…本当にありがとうね、えっと…」
杏子「杏子だ」
まどか「杏子ちゃんだね、ありがとう……私、まどか」
杏子「まどかだな、よろしく」
杏子「…で、こいつから聞いたけどさ、あんた、ほむらって奴の事知ってるんだろ?」
まどか「ほむらちゃん?」
杏子「ちょっとそいつに用があってね、探しているんだ」
まどか「うん、同じクラスだから知ってるよ」
杏子「今どこにいるかわかるかい?できれば家とか、教えてくれると嬉しいんだけど」
まどか「うーん……今は休日だし…ほむらちゃんの家はわかんないけど、いそうな場所なら」
杏子「お、本当か?」
まどか「うん、でもいるかどうかはわからないよ?けど、よく見かける場所だよ」
杏子「教えてくれる?」
まどか「うん」
- 851: 2012/03/28(水) 21:18:30.59 ID:vYwpCx2u0
- “上条 恭介”
そういやそんな欠席者もいたな。と朝のホームルームでのなんやかんやを思い出す。
なるほど、ずっと休んでいたクラスメイトはこの病室のヌシだったか。
マミ「この部屋にいるのね」
さやか「……はい」
可能かどうかはやってみなくてはわからない。
だが、もしも私やマミの基本的な治癒魔法で彼の腕を直すことができるのであれば、さやかの願いもまた別に叶えることはできるだろう。
ほむら「どうしたさやか、入らないのか」
病室前まで来たはいいが、さやかがずっとモジモジと尻ごみしている。
さやか「…えと、ちょっと、最後にあいつとは変な感じで…そのままだったから」
マミ「喧嘩でもしたの?美樹さん」
さやか「……私が悪いんです、恭介の気持ちも考えないで……無神経が過ぎていたんです」
さやか「……でも、もう大丈夫」
さやか「二人の魔法で治らなくても、恭介の腕はきっと……」
ほむら「失礼しまーす」
さやかの言葉が長くなりそうだったから、強制突入する。がららら。
さやか(ってうぉい!私まだ心の準備が…)
マミ(あらら……しかたない、私達はここで待ってましょっか)
- 853: 2012/03/28(水) 21:33:09.04 ID:vYwpCx2u0
- 広い病室の窓際にその子はいた。
恭介「……誰?」
寝たきりのまま、うつろな目をこちらに向けて歓迎してくれた。
ほむら(私の病室よりも高級だな)
彼は左手が動かないらしく、そのせいで松葉杖もうまくつけないのだとか。
やっていたバイオリンができなくなってしまい、それらのショックもあって休学中とのこと。
なるほど人生とはうまくいかないものだ。
しかしこの子も私と同じで、幸薄そうな顔をしている。
こういった不運はある種、星の下のなんぞであるのかもしれない。
ほむら「やあ」
恭介「……?」
ほむら「クラスメイトだよ、転校してきた」
恭介「ああ……さやかが前に言ってた……」
自己解決したら、彼はそのまま窓側を向いてしまった。
私には興味がない。それどころではない。
そんな気に食わない態度だった。
それだけでも私の機嫌は非常に悪くなるばかりだったが。
ここはひとつ、このいけすかない男のペースというものを完璧に崩してやろうとも思い、逆に燃え上がる感情もあった。
- 854: 2012/03/28(水) 21:42:58.97 ID:vYwpCx2u0
- ぬうっ。
ほむら「私の名前は暁美ほむらだ」
恭介「うわあっ?!」
時間を止めてベッドの窓側の下から這い出ると、彼は跳ねて数センチずれた。
素っ頓狂な声を上げた部屋のヌシに、扉のガラスでは「何事だ」と二人が慌ただしくうごめいている。
恭介「な、な、な」
ほむら「さやかの友達だ、よろしく」
左手を差し出す。
が、恭介は驚いたような奇人変人でも見るような目で私を見たまま動かない。
こんな奴の腕を治すくらいなら私の制服の袖についたシミを落とした方がまだまだ良い気がしてきた。
ほむら「挨拶くらいするべきじゃないか?」
恭介「……君は、僕を馬鹿にしているのかい」
ほむら「?何が」
恭介「僕の左手を見ればわかるだろう、動かないんだよ」
強い口調で包帯ぐるぐる巻きの左手を差し出してきた。
被害妄想の強い子だ。怪我した方の手を求められただけでここまで剣幕になるとは。いじめられっこの発想というやつだ。
私は恭介の左手を、同じく左手で握った。
ほむら「よろしく、恭介」
恭介「……」
怪訝そうな顔だ。
さやかはこの男のどこが良いのだろう。
彼のバイオリンによほどゾッコンなのだろうか。だとしたら非常に純粋に音楽が好きなのだろう。
そう思うと、さやかの願いはかなり純粋な部類になるのではないか、と思った。 - 855: 2012/03/28(水) 21:53:00.07 ID:vYwpCx2u0
- 魔力を左手に込める。
治療術。私は得意ではないが、ある程度はできる。
ほむら『マミ、治療を試している』
マミ『ええ、続けてみて』
包帯越しに伝わる体温は正常。しかし、握手の体裁があるというのに、握力は全く感じない。
恭介「?」
ほむら『無理だな、魔力を込めてみたが、回復した様子はなさそうだ』
マミ『……そう…私が治したらどうかしら』
ほむら『根本的に単なる治療術とは趣が違うようだ、神経、腱……私も詳しくはないが、重要な部分でダメージを負っているようだね』
マミ『そっか……うん、わかったわ、美樹さんにも伝えておくわ』
ほむら『病室に入らないのか』
マミ『うん……美樹さん、やっぱりまだ決心がつかないって』
恭介「いつまで握っている気だい」
ほむら「おっと、失礼」
彼の手を離す。腕は、力なくベッドの毛布の上に落ちた。
恭介「わざわざ来てくれてありがとう……でも、もう帰ってくれないか」
ほむら「ああ、言われなくてもそうするよ」
恭介「……」
腕が治らないとわかったら、もう用はない。
もう病院の匂いは飽きたし。
ほむら「そうだ、最後にひとつだけ」
恭介「?」
彼の横たわるベッドに歩み寄る。
ほむら「ちちんぷいぷい」
恭介「……!!出てけっ!!」
ほむら「うお」
CDウォークマンを投擲してきやがった。この野郎め。
退散だ。くそ。ちょっとおちゃめなまじないをかけてやっただけじゃないか。
- 868: 2012/03/29(木) 12:34:33.88 ID:NOzwpamAO
- 杏子「……いないじゃん」
「ピエロのパリー、2時から始まるよ~」
杏子(賑やかだな、パフォーマンスの通りってやつか……ん?)
“Dr.ホームズのマジックショー”
杏子「ドクター…ほーむず?」
杏子「…ワトソン」
杏子「いや、まさかな…?いや、でも」
杏子「あ~…変身した時にそれっぽい格好してたような…まさか魔法を使ってマジックなんかやってるんじゃ…」
QB「暁美ほむらの魔法については、僕も予想がついていないよ」
杏子『ん?』
QB「何度か暁美ほむらの戦闘を見てはいるけど、何を駆使しているのかさっぱりだよ」
杏子『…ふーん、まあ、どうでもいい事だな』
QB「どうかな、暁美ほむらと戦う事になるかも…」
杏子『ならねえよ』 - 869: 2012/03/29(木) 20:48:44.54 ID:ZPtFU5uZ0
- 上条 恭介という少年は、現在ひどく傷心しているので、いつもより気が立っているらしい。
さやか曰く、普段ならば温厚であるとのこと。
そう言われてみればそうかもしれないと思える。
芸術家や音楽家は、ネタに詰まると非常にカリカリするというのは良く聞く話だ。
まぁ彼の場合は、もう二度と弾けないという、致命的なものなのだけど。
私にとってはどうでもいい話だ。
ほむら「……」
夕焼け空が眩しい。
病院の屋上は見晴らしが良く、オレンジに陰る見滝原がよく観察できた。
さやかは、今日は契約するつもりはないそうだ。
契約をするならば、まずはまどかと話をしてから、だそうである。
その他様々な思いがあるのだろう。
そこまで冷静になっても、人間をやめるというのだ。彼女の決心は固い。
マミは後輩ができるからと張り切る反面、それ以上に魔女の宿命を背負うこととなるさやかを心配している。
特に、彼女の願い事の内容に対して懸念を抱いている風に私は見えた。
他人のために願い事を使うのは、あまり良い事ではない。彼女はそれを知っているようだ。
私のように、最初から願いなど覚えていなければ全てが楽なのだが。
自分を変えるということは、覚悟していても難しいものだ。
- 876: 2012/03/29(木) 22:08:24.65 ID:NOzwpamAO
- 「見つけたぞ、ほむら」
幼げな声。
杏子「……探したよ」
ませた彼女が、魔法少女の姿でフェンスを飛び越える。
かじったチュッパチャプスが吹き飛ばされる。
QB「やあ、暁美ほむら」
ほむら「君もか」
彼女の肩には、まるで魔法少女のように、マスコットキャラが乗っていた。
色合いとしては悪くない。
ほむら「…どうしてこの庭に?杏子」
遠い距離のままに会話する。
私は変身しない。
キュゥべえ「杏子は君に興味があるそうだよ」
ほむら「……」
杏子「なあ、話しようぜ」
ほむら「何を話すというんだ」
杏子「なんでもいいだろ?同じ魔法少女なんだからさ」
ほむら「………」
この子は……。
- 879: 2012/03/29(木) 22:29:44.40 ID:NOzwpamAO
- 近付かない。
相手がフレンドリーに話しかけてこようが、一定の距離は保つ。
肩の白猫は気休めにもならない。
ほむら「話すことがあると言えばね、杏子……」
指輪をソウルジェムに変え、前に突き出す。
ほむら「……君は、自分の意思を貫いているか」
杏子「……」
難しい顔を見せる。
おちゃらけない様子を見るに、問答をする構えはあるようだ。
杏子「…貫いてるさ、徹頭徹尾…」
ほむら「……そうか」
杏子「なんだよ」
ほむら「……」
この子は嘘をついている。
いや、強がっているとでも言うのか。
- 881: 2012/03/29(木) 22:42:20.72 ID:ZPtFU5uZ0
- ほむら「君が何を願い、魔法少女になったのか……そこまで踏み込むつもりはないけど」
ほむら「きっと、今の君の姿とは違うのではないかな」
杏子「……」
もし彼女が初志を貫徹しているのであれば、普段から夜の街をさまよう不良少女にはなっていないはずなのだ。
杏子「…私の願いは叶ったさ……ただ、その先の結果が裏目に出て、取り返しのつかない事になっちまったのさ」
そういう事も大いにある。
杏子「今の私の姿が違う?ったりめーさ……私の願いは、もうどう足掻いても戻ってきやしないんだからな」
QB「きゅぷっ」
片の白ネコが払われた。
杏子「もう他人の為に魔法は使わない……私の初志はそれだよ」
杏子「そこが私の始まりだ」
杏子「……それまでの私は、もう終わってるんだ」
哀愁の漂う表情。
黄昏が表情に影を落とす。
- 882: 2012/03/29(木) 23:00:44.47 ID:ZPtFU5uZ0
- ほむら「なら、君は私と関わらない方が良い」
杏子「!」
エレベーターへ向かって歩く。
杏子「どうして…」
ほむら「この町にはマミという魔法少女がいる」
杏子「マミ…」
QB「杏子は昔……きゅぷ」
杏子「あいつがどうしたんだよ」
ほむら「…彼女の信念と君の信念は相容れないだろう、それと同じ」
杏子「……そうだけど」
ほむら「まあ、私も君寄りといえば君寄りな感覚でいるんだけどな、使い魔に対しては」
杏子「なら…!」
ほむら「しかし君ほど極端にルーズでもない」
ほむら「…私はマミと共に見滝原にいることを選んだ」
杏子「……」
ほむら「そんな私と居るということはね、杏子……君の信念を変えるしかないということなんだよ」
さやかもじきに魔法少女となる身だ。
彼女はマミと同じか、それ以上に正義を重んじる魔法少女となるだろう。
そうなれば、さやかは杏子の事を許さないはずだ。
グリーフシードを多くストックしておきたい気持ちはわかる。
頷ける合理性はあるが見滝原でそのスタンスは許されない。
杏子「…なんでっ、どいつもこいつもっ、わかってくれないんだよぉ!!」
叫んだって許されない。
杏子「私はこうするしかないんだよぉ!!」
槍を構えて突撃したって許されない。
カチッ - 918: 2012/03/30(金) 12:41:34.52 ID:94bB1tAAO
- プランクとプランクの狭間に入り込む。
ブレた写真のように停止する世界。
怯えたような、怒ったような、感情を剥き出しにした杏子が、槍で私の足下を狙っていた。
彼女は私を殺すつもりはない。
だが、譲れないものはあったのだろう。
これ以上に手持ちを失いたくない彼女は、感情を爆発させたのだ。
持たざる者であろうと強く願う自分が、仲間を欲するという矛盾を抱えて。
ほむら「……君の事情はわからないけど、君が変わらなければならないんだ」
槍の先を鉄パイプで叩き返す。
手応えはあったが、鉄パイプは割けた。
ほむら「ここ私の居場所だ、そちらに行く気も、連れていかれるつもりもない」
解体用ハンマーで槍を叩き返す。
ハンマーに深い穴が空き、槍は僅かに動いた。
ほむら「君の昔は知らないけど、昔に戻ってみたらどうだ、杏子」
カチッ
- 922: 2012/03/30(金) 19:26:06.81 ID:tPJhQPqF0
-
杏子「ぐあっ!」
突き出したはずの槍が一気に弾かれる。
鉄パイプやハンマーなどによる積み重なる衝撃が、握りこんだ柄を押し返したのだ。
時間の止まった世界でのエネルギーは重複する。
杏子「ぐっ……ほむらぁ…!」
やさしく転げた身体を起こし、恨めしげにこちらを睨む。
ほむら「私はマミと…一緒にやっていくことに決めたんだ、それはもう変えられない」
杏子「……」
ほむら「人の為に魔女と戦う…もちろん使い魔とだってね、悪いことではないだろう」
グリーフシードは貴重品だ。魔法少女の生命線でもある。
けれど、他人の犠牲の上で、過剰にそれを手にしようとは思わない。
私は暁美ほむらとは違う魔法少女なのだから。
杏子「……なんの見返りだってないんだぞ」
ほむら「いらないね、魔法少女が一般人から何をもらおうっていうんだ」
杏子「そんな綺麗事がいつまでも続けられると思ってるのかい?」
ほむら「……」
そう言われると言葉につまるけれど。
ほむら「今の私にとっては、それが全てだよ」
暁美ほむらではない私でいることこそが、私の意味であると思っている。
- 923: 2012/03/30(金) 19:36:04.14 ID:tPJhQPqF0
- 杏子「…………たと思ったのにっ……」
ほむら「?」
俯いた彼女が呪詛か何かを零したように聞こえたので、反撃を予想した。
だがそれとは反して、杏子は紅を翻して屋上から飛び去っていってしまった。
捨て台詞も吐かぬままに、彼女は私のもとを去っていった。
寂しい後ろ姿が屋上から消える。
飛び降り自殺ではないだろうと信じたい。
QB「やれやれ、彼女は一体何しにきたんだか」
ほむら「……」
彼の言葉を復唱したい気分でもあった。
けれど杏子の気持ちは、多分だけど、私にはわかる気がした。
ああ。そろそろ落ちる斜陽が眩しい。
QB「ところで暁美ほむら、さっき杏子の攻撃を防いだのは、一体どういった仕掛けだい?」
とぼけた双眸をこちらに向けてきた。
ほむら「君にもわからないか、キュゥべえ」
QB「予想はいくらかあるけれど、確信に至るものはないかな」
ほむら「やれやれ、君が授けた力だろうに」
QB「僕にその記憶はないんだけどね」
おお、奇遇だな。私も記憶にない。
- 924: 2012/03/30(金) 19:47:09.55 ID:tPJhQPqF0
- QB「……」
QB「やれやれ、参ったなあ、早くまどかを契約させないといけないんだけど」
QB「暁美ほむらが何を吹き込んだのか、なかなかしてくれないし」
QB「マミを焚きつけようとも思ったけど、彼女も暁美ほむらの影響で、僕と関わろうとしてくれない」
QB「暁美ほむら……君は一体何者なのかな」
QB「興味深いイレギュラーだけれど、最近は君の事を厄介に感じてしまうよ」
QB「……ちょっと予定を早めて、強行策に出るべきかな」
QB「彼女達、魔法少女がどういった反応を返すのか、僕には見当もつかないけどね」
QB「これも宇宙のためだ、仕方ない」
- 934: 2012/03/30(金) 23:13:10.49 ID:tPJhQPqF0
- まどか「うんしょ、うんしょ……うう、こんな高い所までなかなか手が届かないよ…私もさやかちゃんくらいあればな…」
まどか「…あ、届いた…んしょ」
まどか「……っとお……ふー、これで部屋に散らかった羽根は全部かな」
まどか(綺麗な羽根だけど、散らばってるの良くなさそうだしね……やってくれたなぁ、あのハトさん…)
カケチャイケナイタニンハァナニ♪
まどか「…あ、さやかちゃんからメールだ、なんだろ」
まどか(また明日の宿題かなー?)
パカ
: まどか起きてる?明日の放課後、予定開けといてくれないかな?ちょっくらさやかちゃんの話に付き合ってほしくてさー
まどか(放課後の話なら明日学校で会った時にでも良いのに…)
: うん、大丈夫、おっけーだよ
まどか(よっぽど大事な話があるんだろうなぁ……)
カケチャイケナイタニンノハァナニ♪
: あ!!ごめん、まどか!それと明日までの宿題の範囲なんだっけ!!
まどか「…てぃひひ、やっぱりさやかちゃんは変わらないなぁ」 - 936: 2012/03/30(金) 23:26:19.61 ID:tPJhQPqF0
-
瓦礫の山。
小さな頂の鉄骨のベンチに、私は腰かけていた。
夢で見慣れた荒廃の街だ。
ただしいつもと違う所がある。
景色がイマイチぼやけているのはいつものことであるとしても、唯一くっきりと見えるものがある。
私の前に聳える小さな瓦礫の山の頂に座る、俯いた“私”だ。
二十歩の登山の後に、息切れもしてはいないが、疲れたように座る彼女の横に私も腰をかけた。
彼女は私と全く同じナリをしている。
違うといえばテンションか。
ほむら『どっこいせ』
『……』
自分の服をまさぐってみたが、食料らしきものは出てこない。
まったく、自分に話かけなければならないほど口寂しいとは。
ほむら『鉄骨の上は、冷たいな』
『……』
ほむら『なんというか、子宮が冷えるな』
『……』
ほむら『座布団でもクッションでも、敷いてみたらどうだ』
『……』
ほむら『楽になるぞ』
『……』
彼女は何も答えないまま、そして私の意識は瓦礫の世界から離れてゆく。
- 937: 2012/03/30(金) 23:32:47.71 ID:tPJhQPqF0
- ほむら「……ん」
「にゃぁ」
結局、夢だ。
不毛な大地で過ごす不毛なひとときだった。
ほむら「っ……つつ」
また私は座ったままで寝ていたらしい。
尻が痺れている。辛い。
「にゃあー」
ほむら「…ちょっと待ってて、ワトソン、すぐ用意するから…」
はいずるように机から離れ、キッチンへ向かう。
早く朝食を用意しなくては。今日は学校だ。
ほむら「ふぁああ……あと13日かぁ…」
急いで朝食を食べなくてはならない。
とにかく胃に掻き込もう。エネルギーを補充しなくては人も車も動かない…。
ほむら「ん?13日?…13日って何だ」
「にゃ?」
ほむら「……違う違う、八時半だ、急いで食事の用意をしないと」
「にゃー」
ほむら「…いそい…で……?」
ほむら「……!!」
私の背筋が凍りついた。
なんということだ。ああ。
まずい。
ほむら「……ポットに……お湯がない」
- 956: 2012/03/31(土) 20:38:36.90 ID:S+Fy/1600
- 和子「さーて……まぁとりあえず朝はコーヒーよね……」
和子(それからHR、一時間目は1組ねー、あのクラスは真面目なんだけど静かすぎるというか…)
カラララ
ほむら「あ」
和子「え?」
ゴポポポポ・・・
ほむら「……」
和子「…職員室で何をやっているのかしらー?暁美さーん?」
ほむら「これには並々ならぬ事情が…」
和子「聞いてもいいけどそのカップラーメンはどう弁解するつもりかしらね~」
ほむら「いや、弁解というより…このポットがボタン式じゃなくてちょっと面倒臭いというか」
和子「ふふふ、暁美さあん、そういえば日頃の事業態度の件についてもお話があるから、もうしばらくここにいましょうねえ~」
ほむら「…厄日だ」ズルズル
- 958: 2012/03/31(土) 20:49:23.12 ID:S+Fy/1600
- 早く登校したというのにこのありさま。
やわらかなパイプ椅子の上で食事を摂れるというのはありがたいことだが、向かいの担任がなんとも口うるさい。
静かに麺を啜らせてほしいものだ。
和子「一人暮らしが大変なのもわかっていますけど、そういう時は先生達にも頼って欲しいですねっ」
ほむら「ふぁい」
ずるずる。
和子「クラスのみんなと馴染めているのはとても良い傾向なんですけど、逆に先生達に対する日頃の授業態度の悪化が見られてますから…」
ほむら「ふぁ」
ちゅるん。
和子「ちょっと!真面目に話している時に汁を飛ばさない!」
ほむら「あ、すいません」
向かい側に人がいるというのも珍しいので、ついやってしまった。
これはしたり。 - 960: 2012/03/31(土) 20:59:41.25 ID:S+Fy/1600
- ほむら「はあ」
やれやれ、小言慣れしないな。
しかし日頃の退屈な授業も悪いのだ。
あの範囲は何度も反復してやったようにも思えてしまうほど手ごたえがない。
テストだって同じだ。手が答えを覚えているように答案を埋めてしまう。
そういった授業中のつまらなさについては、秀才だった暁美ほむらを逆恨みしてしまおうか、という程度だ。
多少は考えめる問題用紙を配布してほしい。
ほむら(しかし、先生から態度の悪さを指摘されるのはさすがに良くないか…)
身の振りをわきまえ、ノートにマジックの案を書き記すだけに留めておくべきだろうか。
これ以上の素行の悪さはクラスでも目立ってしまうだろう。
クラスメイトから変人扱いされるのはあまり良い事ではない。
「おや、君は」
ほむら「?」
廊下を歩く私に白髪はげのおじいさんが話しかけた。
「確か、…ええと…暁美……ほむら君だったね?」
ほむら「ええ、まあ」
私はこの男を知らない。
「昨日偶然、町で君を見かけたのだが、びっくりしたよ、あのマジックショー」
ほむら「え」
「いやあ見事の一言につきますな、芸は身を助けるといいます、大事にするといいですよ」
老人は笑顔でそれだけほめちぎると、朗々と笑いながら廊下の向こうへ去っていってしまった。 - 962: 2012/03/31(土) 21:05:14.16 ID:S+Fy/1600
- さやか「よー、ほむら!」
ほむら「……おはようさやか、元気だね」
さやか「へへ、まあねえ」
まどか「おはよー、ほむらちゃん」
ほむら「ああ、おはようまどか……ねぼけた顔をしているけど大丈夫かい」
まどか「ね、ねぼけてないよ?」
仁美「おはようございます、ほむらさん」
ほむら「おはよう仁美……今日も綺麗だね」
仁美「あらっ」
さやか「どうしたんだほむら、今日は朝から随分と上の空じゃん」
まどか「さやかちゃんみたいに月曜日が嫌いなのかな」
さやか「わ、私だけじゃない!はずだぞ!」
ほむら「うん……まあ、ちょっと気になったことがあってね……」
仁美「? ほむらさんがですか?何かあったのですか?」
ほむら「ああ、気のせいかもしれないんだけどな……」
まどか「うん」
ほむら「なあ、私って……目立ってるかな」
さやか「目立ってるけど?」
仁美「目立ってますわね」
まどか「目立ってるねー」
ほむら「……そうか」
- 968: 2012/03/31(土) 21:20:22.88 ID:S+Fy/1600
- 杏子「……」
QB「どうしたんだい杏子、昨日から何もしていないじゃないか」
杏子「うっさい」
QB「暁美ほむらと戦って撤退してからというもの、君は随分と行動力が落ちているね」
杏子「ほっとけ」
杏子「…もうあいつには関わらないよ…あいつがそう突き放したんだ」
杏子(マミのようにな……)ムシャ
QB「…ねえ杏子、つい最近僕が手に入れた情報なんだけど、聞いてくれるかな」
杏子「しつこいぞ、もうほむらの所には…」
QB「およそ二週間後、この近くにワルプルギスの夜がやってくる」
杏子「!!」
QB「そのために――」
杏子「オイ、なんでわかる」
QB「僕がそういった予兆を察知できるのは不思議かい?」
杏子「…それは本当なのか」
QB「あくまでも予想だし、必ず来るものとは限らないかもしれない…けれどおおよそ二週間後には、何か強大な魔女が現れるはずだよ」
杏子「……」
杏子(ワルプルギスの夜……超弩級の魔女…)
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