ほむら「思い出せない…私は何者だ?」【その1】
- カテゴリ:魔法少女まどか☆マギカ
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- 1: 2012/02/26(日) 23:12:06.74 ID:nMaOFa3AO
- 私は魔法少女。
魔女を狩る者。
いずれ魔女になる者。
……そして。
ほむら「思い出せない…私は何者だ?」
名前もわからない。
願いもわからない。
わかるのは、天井が白くて、頭がひどく痛いことだけ。
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- 3: 2012/02/26(日) 23:17:53.86 ID:nMaOFa3AO
- ほむら(……体が重い)
ベッドから這い出る。ここは病院だろう。
私は入院をしていたのか。
ほむら(なんて酷い視界だ、くそ)
視力が悪すぎる。このままでは魔女に殺される。回復しなければならない。
指輪をソウルジェムに戻し、鏡の前へ。
魔力を込めて、視力を強化。
ほむら「……これが私か」
長い黒髪。癖なのか、染み付いた陰鬱な表情。
鮮明さの蘇った鏡には、名も知らぬ私がいた。 - 4: 2012/02/26(日) 23:25:12.52 ID:nMaOFa3AO
- ガラララ。
戸を開く。個室とは良い身分だ。
だからこんなに情けない顔つきになるんだ。
ほむら「……暁美ほむら、か」
顔の印象に反して、暖色系の雰囲気が強い名前だ。
私は今までどう育ったというのか。
私は……。
ほむら「…私は、魔法少女だ」
私は魔法が使える。
魔女はいくつも倒してきた…ような記憶はある。
かなり長い間戦った…。
ほむら「……ちっ、魔女との戦いで記憶がトんだか」
油断でもしたのか、重傷を負って入院…といったところだろう。
…病室に戻ろう。 - 5: 2012/02/26(日) 23:34:56.89 ID:nMaOFa3AO
- ほむら「……記憶喪失」
まるのついたカレンダー。
知らない学校の入学案内。
私は近々、見滝原中学に転入するようだ。
通い慣れた学校ではないようで助かった。奇跡的だ。
記憶喪失でも、前の私を気にせずに振る舞うことができる。
ひとまず、転入に際しては気兼ねのない動きができる。
ほむら「…アパートの案内…家族の予定…私はこの歳で一人暮らしか」
親はこの町にいないらしい。
まあ、居ても困るだけなのでありがたい。
時間を気にせずに魔女を狩れる。
ほむら「……そうだ」 - 6: 2012/02/26(日) 23:41:13.74 ID:nMaOFa3AO
- 変身。紫の光に包まれる。
ほむら「そう、この感覚だ」
左手には盾。
これが私の、魔法少女としての最大の武器だ。
ほむら「止める」カチッ
私以外の全ての時間を停止させることができる。
この能力を駆使し、何体もの魔女を葬り続けてきた。
ほむら「……そして」
フルーツの盛り合わせの隣に置かれた果物ナイフを取る。
盾に収納する。
私の盾は、物を保管することが可能だ。
時を止めて、無限の武器で戦う。
左手が盾ならば、右手は刃物だろう。
ほむら「……思い出してきたぞ、私というものを」
- 7: 2012/02/26(日) 23:49:59.97 ID:nMaOFa3AO
- 魔法少女になる際の願いすら忘れてしまったが、まぁいい。
後から思い出すだろう。
記憶にあるのは、無数の魔女との戦いだ。
私はかつて戦っていた。
ならば記憶を失った今であろうと、私は戦おう。
私の願いは、そこに関わるのかもしれない。
ほむら「とにかく、グリーフシードを集めなくてはならないな…私の体は燃費が悪そうだし」
盾の中身は空。
魔女との戦いで、中の全てを使い尽くしたらしい。
新たな武器も必要だ。
大人しく入院し続けている暇はない。行こう。 - 8: 2012/02/26(日) 23:59:32.87 ID:nMaOFa3AO
- 数日が経過した。
魔女の結界の中。
下から浮かび上がり続ける巨大風船を足場に、下へ下へと降りてゆく。
魔女「ぷぅううう…」
風船の魔女とでも名付けようか。捻れたバルーンアートの体から、無尽蔵に風船が沸き出している。
相変わらず、悪趣味な世界観ではあるが…。
ほむら「私も風船は好きだ」
魔女「ぷう?」
カチッ
ほむら「ついつい割りたくなるからね」
魔女「…!!??」
四方八方に配置されたナイフ。
全てが魔女へと降り注ぐ。 - 12: 2012/02/27(月) 00:11:36.86 ID:aBN9M4XAO
- 無数の刺し傷に原型を保つことを諦めた魔女が、グリーフシードとなってアスファルトに落ちる。
ほむら「よし、ストックが増えた…余裕も出てきたな」
連戦連勝。
魔女を探し、会えば勝つ。
時を止め刃物を放つ戦法…下準備は面倒だけど、負ける気がしない。
私は随分と強い魔法少女のようだ。
ほむら「……そんな私を記憶まで消して…一体どんな魔女なのか…」
- 21: 2012/02/27(月) 12:21:37.02 ID:aBN9M4XAO
- 「にゃあ」
ほむら「ん?」
街路樹の陰から仔猫が顔をだした。
黒い毛並みの、小さな猫。
ほむら「可愛いな……よしよし」
「なんなん」
喉を撫でてやると目を細めて喜んだ。
エサをやらずに人に懐く野良猫とは珍しい。
ほむら「…そうだ、ようし猫ちゃん、私の右手を見ててね」
「なん?」
カチッ
「な~ん!」
ほむら「ほぅら、ねこじゃらしー」
「なんなんな~ん!」
時間を止めて、路肩のねこじゃらしを拝借した。
突然の遊び道具の出現に、猫もご機嫌のようだ。
「あー、仔猫可愛いなぁ…」
誰かが私を羨んでいる。
路面をトラックが通り過ぎる。 - 22: 2012/02/27(月) 12:31:23.07 ID:aBN9M4XAO
- 病室を抜け出し、魔女を狩る。
街を歩く。
また一日が終わった。
薄暗い白の天井は何の想像も書き立てない。まるで私だ。
ほむら(魔法少女、暁美ほむら…)
未だ頭の中には靄がかかっている。
思い出せない事が多い。
ほむら(…唯一覚えている魔法少女関連の記憶まで曖昧だし…)
机の上に並べたグリーフシードを見やる。
そのうち2個はかなり黒ずみ、使用できない状態にある。
ほむら「どうやって処理するんだっけ…グリーフシード…」
私は目を閉じた。 - 24: 2012/02/27(月) 12:40:19.60 ID:aBN9M4XAO
- 空白の日々。
穴の空いた記憶。
休日の昼下がり、いつものように街へ繰り出す。
ソウルジェムの反応を頼りに魔女を探してはいるが、病院近辺では見なくなってしまった。
魔女を探すためには、やや遠くまで足を運ばなくてはならない。
とはいえ、私に残された道しるべといえば魔女退治しかない。
多少面倒でも仕方がない。
「ようこそ!ピエロのパリーの手品ショーだよ~!」
ほむら「……」
小さいがカラフルなテント。
張り巡らされた万国旗。
大道芸人の見せ物の前で、私は立ち止まった。
ほむら(…なんだろう、この雰囲気…記憶にある?)
ピエロ……サーカス……手品……。
ほむら「……」 - 25: 2012/02/27(月) 14:08:01.00 ID:aBN9M4XAO
- 「なにあれ、かっこいー」
「へ~…」
人が集まる。
隣の可哀想な語り弾きの青年の、そのまた隣のピエロが可哀想になる。
視界でいえば小規模な満員御礼。
私の前には、路上ではこれが限界の程度だろう、といえる人だかりが形成されていた。
ほむら「…では、始めさせていただきます」
税抜き1280円。紫のシルクハットを取る。
ほむら「短い間ですがお楽しみください…どうぞ、よろしく…」
手品師の口上なんてものはわからないから、ただ深々とお辞儀する。
私の仕草のそれっぽさに乗せられてくれてか、老若男女の観客から疎らな拍手があがった。
カチッ
ほむら「はい」
「「「!!」」」
お礼も兼ねて、まずはシルクハットから満開の花束を。 - 26: 2012/02/27(月) 14:15:42.20 ID:aBN9M4XAO
- 「…見えた?」
「…う~ん」
見えたらすごい。
ほむら「種も仕掛けもこざいません」
シルクハットを宙へ放る。
カチッ
花束だけが消え、シルクハットの中に棒状の影が現れる。
ほむら「奇術といえば、ハットにステッキ」
紫のステッキでアスファルトを突く。
カチッ
アスファルトに花が咲く。
ほむら「おっと、根を張るといけない」
花にハットを被せる。
カチッ
「にゃあ」
ハットを取り上げると、中から黒猫が現れる。
ほむら「よしよし…」
「なぁん」
観客が静かだ。 - 27: 2012/02/27(月) 14:33:46.77 ID:aBN9M4XAO
- ハットを被り、ステッキを空に放る。
かなり高めに投げた。何人がステッキを視認できるだろう。
カチッ
「…あっ」
ステッキが落下する。
キャッチ。
ほむら「ステッキが二本になってしまった」
紫と白のステッキ。色合いは私の魔法少女のコスチュームに合わせている。
しかし二本も必要な小道具ではない。
ほむら「君に、はい、白い方をプレゼント」
「わぁ!ステッキ!」
「あ、ありがとうございます」
子供はステッキを興味津々にいじっているが、本当に種も仕掛けもないのであしからず。 - 28: 2012/02/27(月) 14:43:35.53 ID:aBN9M4XAO
- 突如思い付きで開いたマジックショーなので、大した小道具は用意できなかった。
けれど、短いショーだけど、多少は観客にスリルを提供したい。
中学生のゲリラ奇術とは思えないくらいの迫力をみせてやろう。
カチッ
ラストの大手品。やってることは同じだけど。
ほむら「種も仕掛けもない、ただのナイフです」
観客から期待にも似た緊張が走る。
ナイフを使ったマジック。それだけで気持ちが高ぶるのも無理はない。
ほむら「みなさま、御静観ありがとうございました」
ナイフを回転させながら、真上に投げる。
観客がどよめいた。
カチッ - 30: 2012/02/27(月) 15:07:25.97 ID:aBN9M4XAO
- 群衆から抜け出し、大通りから出る。
今頃、マジックショーは空から色とりどりの花弁が降り注いで大熱狂といった所だろう。
ほむら「…しかし…記憶にはピンとも引っ掛からないな…」
魔法少女のコスチュームから、記憶喪失になる前の私はマジシャンになりたかったのでは、と考えたが…。
さすがにマジシャン程度で魔法少女になるほど馬鹿ではないか。
ほむら(…時間を止め、空間を操る…うーん…) - 33: 2012/02/27(月) 17:37:22.65 ID:aBN9M4XAO
- 魔法少女とは希望を振り撒く存在。
ひとつの願いを叶えるかわりに、死ぬまで魔女と戦い続ける存在だ。
ほむら「私は何を願い、この力を手に入れたのだろう」
家族は近くにいない。
友人はわからない。
過去の私と、今の私を繋ぐものが、何もない。
魔法少女はひとつの願いのために戦い続けなくてはならない。
私の願いは?希望は?
全てを忘れた私は一体何のために、何を依り代に戦い続けなくてはならないのだ。
ほむら「…暁美ほむら、くだらない事に願いを使うくらいなら、せめて自分の病気を治せばよかったものを」
入学の日は近い。 - 34: 2012/02/27(月) 18:02:08.39 ID:aBN9M4XAO
- 机の上に新たなグリーフシードが3つ並んだ時。
私はカレンダーの来る日が明日に迫る事に気付いた。
見滝原中学に転入する、暁美ほむらの晴れ舞台だ。
入院患者と魔女狩りの二重生活からおさらばできる祝うべき日だが、今までの生活も嫌いではなかった。
ただ魔女を狩るだけの生活といえばオシマイだが、私の唯一の楽しみが魔女狩りそれだったからだ。
暁美ほむらという根暗眼鏡が何を願い、華やかな魔法少女になったのか。それはわからない。
だが今の私は、見滝原に住む人々の命を守るために魔女を倒している。
見滝原の人に対する思い入れなんて造花の根っこほどもないが、人を守る正義のヒーローになりきれる。
それだけでやりがいのある時間だった。 - 35: 2012/02/27(月) 18:10:20.28 ID:aBN9M4XAO
- 制服を着る。スカートの丈が短い。
暁美ほむらには似合わない派手さだ。
下ろした髪をブラシで整え、黒いカチューシャで適当に前髪を留める。
赤縁の眼鏡は必要ないが、暁美ほむらの品だ。
何かのきっかけになるかもしれない。鞄に詰める。
ほむら「さて、準備万端かな?」
忘れ物は無さそうだ。
…いや、記憶か?
まぁいい。ここに私の記憶はない。
さっさと立ち去り、見滝原中学で新たな一歩を踏み出そう。
後ろの足跡が見えなければ歩いて作るしかない。
ガララララ
ピシャッ - 36: 2012/02/27(月) 18:12:31.05 ID:aBN9M4XAO
- ガララララ
ほむら「グリーフシードを忘れてどうするつもりだ、私は」
誰に言ってるのだか。
ガララララ
ピシャッ - 37: 2012/02/27(月) 18:30:19.36 ID:aBN9M4XAO
- 黒い色が紛らわしいグリーフシードが4つ。
黒っぽいグリーフシードが1つ。
かなり黒っぽくなったグリーフシードが3つある。
鞄の中にしまってはいるが、グリーフシードの収納はこれで良かったのだろうか。
多分良くない…気がする。
グリーフシードを眺めていると、私の頭の中で警鐘が鳴り続けるのだ。
これはまずい。なんとかしなくては、と。
「──どっちでもよろしい!」
少し体が驚いた。
どうやら、私の担任となる女性が荒れているようだ。
しかも教鞭が折られている。
私はこれからイジメにでもあうのだろうか。 - 39: 2012/02/27(月) 19:03:16.71 ID:aBN9M4XAO
- 「どうぞ、入ってください」
ほぼガラス張りの戸越しに満を持しても仕方がないが、呼ばれたタイミングで入るのは手筈通り。
ほむら「……」
戸を開き、教壇まで歩く。
そわそわうるさいクラスメート達にはまだ目線をやらない。
和子「…えっと、名前、書く?」
ほむら「そうする」
担任からペンを受け取り、ボードに文字を走らせる。
見てる生徒も、教師も、私すら馴染みの無い名前を。
ほむら「暁美ほむら、よろしく」
クラスを見渡すと、険しい顔で驚いてるトロそうな女の子がいた。
担任といい変なクラスだ。 - 40: 2012/02/27(月) 19:12:56.90 ID:aBN9M4XAO
- 和子「えっと、暁美さんは長い間入院生活を送っていたので…」
ほむら「ん?」
和子「えっ?な、何か可笑しかったかしら」
ほむら「…いや、なんでもない」
さやか「無愛想だけど、すっげー美人」
まどか「…うん…」
さやか「どうしたまどか~、まさか転校生のミステリアスな雰囲気に惚れちゃったかぁ~?」
まどか「えっ!?そそ、そんなんじゃないよぉ」
まどか(ただ、夢の中で逢った、ような…?)
ほむら(何であの子だけ表情が険しいんだろう、保健室行けばいいのに) - 45: 2012/02/28(火) 07:24:18.29 ID:naJ56s/AO
- 「暁美さん、前はどんな学校に言ってたの?」
ほむら「普通の学校、あんまり覚えに無いくらい普通だったかな」
「綺麗な髪~、何使ってるの?」
ほむら「ふ、何だと思う?」
「暁美さんってかっこいいねー」
内心では余裕がないんだ、そろそろ取り巻くのをやめてくれないか。
「部活は何してたの?」
くそ、想定外だった。
転校したらその前の事について聞かれるのは当然だというのに…。
ほむら「あ~……」
限界だ。嘘は八百も出ない。
ほむら「…すまない、どうも気分が優れなくて…保健室はどこかな?」
逃げよう。 - 47: 2012/02/28(火) 07:57:35.66 ID:naJ56s/AO
- まどか「あ、保健室はこっちだよ、ついてきて」
ほむら「すまないね、わざわざ」
まどか「ううん、ごめんね?クラスのみんな、転校生なんて珍しいから、はしゃいじゃって」
広い廊下を保健係の彼女に連れられて歩く。
私の体が弱いのは事実なので、保健室の場所を覚えておいて損はないだろう。
まどか「暁美さんってかっこいい名前だよね、なんていうか…燃え上がれ~って感じで」
ほむら「は?」
まどか「あっ、ご、ごめんね変な事言っちゃって」
燃え上がれ……か。
…?
“良く言われる”…?
そんなはずはない。
ほむら「…確かに、カッコいいかも」
まどか「!」
ほむら「名前負けしないように、かっこよくなりたいもんだな…」
彼女の横に並び、微笑みかける。
彼女も笑った。
保健係はトロそうだが良い子らしい。 - 50: 2012/02/28(火) 12:00:34.18 ID:naJ56s/AO
- 午前中の授業は、教師がこぞって私の学力を試しにきた。
私はその度に不安を感じたが、どの問題にも即座に対応できた。
さすがは眼鏡、長い入院でも勉強はできるらしい。
ほむら「……それなりに達筆だな」
教師「?」
字も上手い。
まさか魔法の力で学力を望んだわけではあるまい。
だとすれば独力か。大した努力家だったのだろう。
- 51: 2012/02/28(火) 12:13:29.78 ID:naJ56s/AO
- 走り高跳び。
背中すれすれに飛んでやる義理など、魔法少女にはない。
だが、なけなしの日常を崩すのも、暁美ほむらに忍びない。
そこそこ、いっぱいいっぱいな感じで飛ぶ。
ぼすっ。
着地。
教師「…県内記録じゃない?これ…」
しまった、前提からやりすぎだったか。 - 52: 2012/02/28(火) 12:23:42.26 ID:naJ56s/AO
- ほむら(……)
記憶を失うまでの暁美ほむらの力に身を委ね、この一日を過ごしたつもりだ。
体が覚えている全てを出し尽くしたつもりだった。
それでも、何も思い出せない。
「ねえ、暁美さん、このあと…」
ほむら「悪い、先約がいてね」
「先約……」
ほむら「あの子に用があってさ」
まどか「……? 私指差してる…」
さやか「え?なんで?」
彼女との会話で記憶を取り戻しかけた。
もしかしたら私には、彼女のような友人がいたのかもしれない。 - 53: 2012/02/28(火) 12:35:28.21 ID:naJ56s/AO
- ほむら「えっと、鹿目まどか……だっけ」
まどか「うん…」
ほむら「そちらは?」
さやか「私は美樹さやか、よろしく!」
ほむら「ああ、よろしく、さやか」
ほむら「…私、見滝原にあまり馴染みがなくてね…良ければ放課後にまどか、私と遊んでくれないかな」
まどか「私と?」
ほむら「駄目かな」
さやか「おおっ、丁度いいねぇ、ならほむらも交えて、4人で出かけようか!」
仁美「うふふ、転校祝いですわね」
クラスには溶け込めた。よし。 - 54: 2012/02/28(火) 12:44:42.37 ID:naJ56s/AO
- 他愛もない会話。
私は適当に相槌を打ち、奥ゆかしく笑う。
同い年の子の話すのは楽しい。
これから彼女達と日々を過ごしてゆけるのであれば。
それはとても平穏で、素晴らしい日常なのだろう。
彼女らの暮らしを守る。友達を守る。
私の魔法少女としての責務にも、より一層の熱が入るというものだ。
さやか「悪いね、付き合わせちゃって」
まどか「ううん」
ほむら「?」
仁美は稽古事があるらしく、帰るようだが…二人はまだ、何かやりたい事があるようだ。 - 57: 2012/02/28(火) 15:13:53.79 ID:naJ56s/AO
- ほむら「CD?」
まどか「うん、さやかちゃんの幼馴染みが入院しててね、その人がクラシックが好きで…」
さやか「あははは…」
ほむら「そうか、音楽…」
私の好きな音楽は何だったのだろう。
もしかしたら、芸術面で私の記憶を揺さぶることができるかもしれない。
ほむら「さやか、私もついていっても良いかな」
さやか「いやいやそんな、私に付き合わせるみたいになっちゃうけど」
ほむら「私もお供するよ」
さやか「ありがとう、ほむら」 - 58: 2012/02/28(火) 17:36:39.37 ID:naJ56s/AO
- 私は今、さやか達とCDショップにいる。
ひどい話だ。
しばらくはさやかの隣でクラシックを堪能していたが、落ち着くばかりでどうにもならない。
私は堅苦しい音楽に飽きて、まどかの居る棚へ移動しようと考えた。
だが彼女は演歌のコーナーで、体をゆらりゆらりと、荒波に揉まれる小舟のように揺らしていたのだ。
あれに近づいて、まどかにオススメの曲でも差し出されてみた暁には、ソウルジェムの汚染がかなり早めに進行するだろう。
ほむら(まどかの趣味がわからん…)
さやかもあの性格で大概ではあるが。
テクノを聞きながらそんな事を考えている時だった。
──助けて - 59: 2012/02/28(火) 17:47:27.02 ID:naJ56s/AO
- ほむら「……」
面白いノイズを入れるテクノだ。
──助けて、まどか
ノイズではなかったらしい。
ヘッドホンを掛け直し、まどかの居たコーナーを見る。
まどか「…?……?」
彼女も声を聞き取ったらしい。
ふらふらと、声がした方向に導かれている。
彼女はCDショップを抜け出し、階段の方へ歩いていった。
さやか「……」
ほむら「まどか、行ってしまったな」
さやか「うん、トイレとは逆方向なんだけど」
ほむら「……さやかは声を聞いていないのか」
さやか「えっ?」
ほむら「心配だ、ついていこう」 - 61: 2012/02/28(火) 18:06:44.93 ID:naJ56s/AO
- 何故ヘッドホンをつけていたのに声が聞こえたのか。
あの声は一体誰なのか。
わからない。だが、まどかが一人で歩いているのは放っておけない。
彼女はきっとドジだから。
ほむら「この階は無人か」
さやか「…暗いし、ちょっと気味悪いね」
ほむら「私はもうちょっと気味の悪い所になら良く入るんだけどな」
さやか「なにそれ?どんな所よ」
ほむら「知らない方がいい、目が回るから」 - 63: 2012/02/28(火) 21:06:30.13 ID:H8SiFhdE0
- さやか「ほむらってさ」
ほむら「?」
さやか「なんてゆーか、不思議だよね、良い意味で」
ほむら「私もそう思う」
さやか「…うん、自分で言っちゃう所とかも、ミステリアスっていうか」
ほむら「ふ」
本当に自分の事がわからないのだから、仕方のないことだ。
過去を思い出せれば、きっと普通のつまらない人間になれるさ。
私の武器は時を止めること。
そして左手の盾。決して能動的なものではない。
私の願いはおそらく、自己の保身。自己防衛かそこらだったのかもしれない。
最初に鏡で見た時の卑屈そうな顔が、そう語っている気がした。
ただ魔女を狩り、己のソウルジェムを満たす事しか考えていない根暗な女。
そんな姿に戻っても、さやかは幻滅するだけさ。 - 66: 2012/02/28(火) 21:15:02.75 ID:H8SiFhdE0
- まどか「……え?」
QB「まどか!来てくれたんだね…!」
まどか「えっ…ええ…?あなた、誰…?なに…?」
QB「僕の名前はキュゥべェ!」
まどか「猫…?じゃないよね…あなたが私を呼んだの?」
まどか「! あなた、足挫いてるの!?」
QB「逃げている最中に怪我をしてしまったんだ」
まどか「逃げるって…」
QB「まどか!僕を持って早くここから連れ出して!」
まどか「えっ、ええっ?」
QB「早くしないと、魔女が…」 - 67: 2012/02/28(火) 21:20:40.47 ID:H8SiFhdE0
- ほむら「!」
薄暗いフロアを歩いていると、突如として世界が明滅を始めた。
蝶の翅。読めない立て看板。
相変わらずの毒々しい原色のコントラストに吐き気を覚える。
さやか「な、なにここ!?えっ!?」
うろたえるのも無理はない。予備知識も何もない人間が踏み入れればパニックすることは必至だ。
ほむら「目を回して尻もちをつかないようにしな、変な色がつくかもしれないから」
私はついた記憶もないからわからないが。
Das sind mir unbekannte Blumen!
Ja, sie sind mir auch unbekannt!
Schneiden wir sie ab!
幼げな輪唱がどこからか聞こえてくる。
Ja schneiden doch sie ab!
Die Rosen schenken wir unserer Königin!
多分、まどかが危ない。 - 68: 2012/02/28(火) 21:27:06.12 ID:H8SiFhdE0
- クラスのみんなには内緒にしておこうと思ったのだが、そのクラスメイトに危機が迫っているのであればやむを得ないことだ。
暁美ほむらは平穏な日常を望んでいたのかもしれないが、このくらいは許してくれるだろう。
紫の閃光が制服を覆う。
瞬時の変身。
カチッ
ほむら「……」
さやか『……』
ただ変身するだけ、というのも芸のない話だ。
彼女の固まった顔を多少なれやわらげてやらなくては、状況についていけないかもしれない。
ほむら「せっかく他人に晴れ姿を見せるんだ、ちょっとは演出も凝らなくてはね」
私は奇術師ではないが、同じくらい人を驚かせたり、楽しませたりすることはできる。
心を和ませることだってできるだろう。
私、暁美ほむらがさやかにしてやれるケアはせいぜいその程度。
私の友達の為にベストは尽くすが、それが限界だ。
カチッ - 69: 2012/02/28(火) 21:37:02.14 ID:H8SiFhdE0
- さやか「!?」
奇怪に変わり続ける遠景とは違った、別の意味で変わった光景。
造花の花道。造花のフラワーシャワー。
ほむら「付き合わせるみたいになったのは、どうやら私の方らしい」
さやか「えっ……ほむら?なにそれ…」
ほむら「私の真の姿とでも言えばいいのかな」
紫のハット。紫のステッキ。
立派な奇術師、私は魔法少女のほむらだ。
ほむら「事情通ですと誇らしげに語り通したいところだが、このままだとまどかが危ない、ついてきてくれ」
さやか「!」
ほむら「このままだと、お伽話の世界に食われてしまうからね」
さやか「まどかっ!」
彼女は魔女の結界という未知の危険を畏れることなく、私の横を通って花道を走っていった。
まどかとさやかは親友同士であるとは聞いていたが、それにしても無謀な走りだ。でも直情的な性格を馬鹿だとは思わない。
私もそんなアツい性格になれたら良いなと思う。
ほむら「さやかよりも、早めに到着しておかなくては意味がないな」
カチッ
さやかよりも一足早く、まどかを助けさせてもらおう。 - 70: 2012/02/28(火) 22:01:34.89 ID:naJ56s/AO
- ほむら「……」
まどか『……』
マミ『……』
異空間に一人、増えている。
まどかが抱いているぬいぐるみも気になるが、何より巻き毛の彼女だ。
ほむら「……ソウルジェム」
この子は魔法少女だ。
魔女反応を探っていたら、ここへと辿り着いたのだろうか。
ほむら「同じ見滝原の制服……まさか身近にいるとは思わなかったな」
ともあれまどかが無事で良かった。
時間を動かそう。
カチッ - 71: 2012/02/28(火) 22:30:53.46 ID:naJ56s/AO
- マミ「っ!」チャキッ
素早い反応。銃口がまどかに向く。
まどか「ひっ!」
マミ「あっ!ちっ、違うの!」
ほむら「乱暴は良くないな」
まどか「えっ?ほむらちゃ──」
まどかの手を取り、そっと抱き寄せる。
ほむら「突然の登場で驚いてしまったか」
マミ「…!あなた…魔法少女ね?」
ほむら「そういう君もな」
まどか「あ…あの…その…」
ほむら「ん、ごめん、窮屈だったか」
そっとまどかを解放してやる。 - 74: 2012/02/28(火) 23:04:26.42 ID:naJ56s/AO
- ほむら「私は暁美ほむら、キミは?」
マミ「…巴マミよ」
ほむら「マミか、よろしく」
ステッキを左手に持ち、右手を差し出す。
マミ「見滝原に私以外の魔法少女がいるなんてね」
握手は断られた。印象は悪かったらしい。
さやかの反応も薄かったし、キザな演出は受けないのか。 - 76: 2012/02/28(火) 23:15:57.34 ID:naJ56s/AO
- まどか「あ、あの…この状況って一体…」
さやか「まどか!…ってうわ、なんだこの状況…」
招かれざる客二人が揃った。
現状を説明して落ち着けるには今が絶好の機会だ。
マミ「ごめんなさいね、先に混乱を解いてあげたいんだけど…その前に」
黄色いソウルジェムが光輝く。
私のものとは違い、綺麗な光だ。
マミ「先に一仕事、片付けちゃっていいかしら!」
初めて見るのか、記憶にあるのか。他人の魔法少女の変身。
ベレー帽の飾りにソウルジェムが移る。
ほむら「……綺麗だ」
マミ「──……ふふっ」
高く飛び上がった彼女のパンツが見えた。 - 81: 2012/02/29(水) 07:30:13.03 ID:nCIV9ltAO
- エネルギー弾の流星群が地面を一掃する。
ヒゲ面のプリングルズを一体につき一発で打ち倒す。
私のナイフより強力かもしれない。
何よりマスケット銃の発砲はダイナミックで、スタイリッシュだ。
そうだ、銃。
銃を使ってみても良いかもしれない。ちょっと探してみるか。
まどか「わぁ……」
さやか「おお……」
二人が感嘆の声をあげている。私はそれ以上に、拍手も贈りたい気分だった。
ほむら「良い、すごく良い…惚れ惚れする」
マミ「ふふ…でも、魔女は逃がしちゃったみたい」
ほむら「キミの獲物だ」
マミ「一般人…この子達の方が優勢かしら」
まどか「……」
QB「……」
マミ「彼女達も、他人事ではないみたいだし」 - 84: 2012/02/29(水) 12:12:26.53 ID:nCIV9ltAO
- 三角形のガラステーブル。
正三角形でなくてよかった。私が座るスペースがある。
それどころか美味しいケーキや紅茶まで用意してくれた。
聞けば、マミは見滝原中学の三年生だという。私達のひとつ上だ。
彼女とはケーキや先輩ひっくるめ、仲良く友好的にやっていきたい。
マミ「さて、まずは改めまして、キュゥべェを助けてくれてありがとう」
QB「ありがとう、まどか!」
喋った。ぬいぐるみが喋った。
まどか「い、いえ…私なにもしてないですし…むしろ私は助けられた、っていうか」
さやか「…あの変な空間は、一体なんだったんですか?」
マミ「あれは魔女の……って暁美さん?どうかした?」
ほむら「いや、…それよりもまず……」
QB「?」
白い猫のような生き物を指差す。
ほむら「この変なのは、何?」
マミ「えっ?」 - 85: 2012/02/29(水) 12:21:01.86 ID:nCIV9ltAO
- 一見つぶらに見えるが不気味な赤い目。
耳から伸びる用途不明の手らしきもの。
ほむら「UMAだ」
マミ「あなた、魔法少女なのにキュゥべェを知らないの?」
ほむら「覚えがないな」
首の後ろの皮をつまんで持ち上げてみる。猫そっくりだ。
まどか「ほむらちゃん、可哀想だよ…」
QB「君は暁美ほむらといったね」
ほむら「ああ、燃え上がれ~って感じがするだろう」
QB「…僕は君と契約をした覚えはないんだが…?」
ほむら「契約…」
思考がぼんやり霞む。
契約。なんだっけそれ。
QB「僕は君達の願いをなんでも一つだけ叶えてあげる」
QB「そのかわり、ソウルジェムを手に、世界にはびこる魔女と戦って欲しい」
QB「つまり、僕と契約して魔法少女になってよ、ってことなんだ!」 - 86: 2012/02/29(水) 12:35:26.62 ID:nCIV9ltAO
- 願い。契約。魔法少女。
ほむら「あ~、そうだ、思い出した…お前と契約して魔法少女になるんだったな」
マミ「大事な事なのに普通忘れるかしら…」
さやか「願いを1つだけ叶える…?」
ほむら「そう、キュゥべェは私達少女の願いを叶えてくれるんだ」
さやか「……本当に?」
QB「契約が成立すれば叶えてあげられるよ」
さやか「はぁあ~…」
まどか「すごい……」
QB「願いを叶えると、そのかわりに生まれるのが、マミやほむらも持っているソウルジェムだ」
マミ「これが魔法少女の証、魔女と戦うために変身したり、魔法を使えるようになるわ」
ほむら「魔法は便利だが、ソウルジェムに入っているのは私達の魂。ソウルジェムが破壊されれば死んでしまうから、不用意に扱えない」
マミ「……え」
さやか「ええ、それは…ちょっと…」
ほむら「ただ、よほどの衝撃でなければ壊れはしないから、扱いに気を付けていれば生身がいくら傷付こうが魔法で回復できる」
さやか「な、なるほど…」
ほむら「魔法少女になるには、戦う覚悟が必要ということだな」 - 88: 2012/02/29(水) 12:44:39.96 ID:nCIV9ltAO
- QB「君たちが迷い込んだ空間は魔女の結界……そこに潜む魔女と戦い、倒すのが魔法少女の役目だ」
ほむら「魔女は世に潜み、静かに人を食らう……野放しにはできない存在だ」
マミ「…ちょっと、紅茶をいれてくるわね」
ほむら「ああ、すまない」
まどか「ありがとうございます」
さやか「……危険なの?その、魔女と戦うのって」
ほむら「どんな魔女を相手にしても、靴紐を結び直す暇はないな」
さやか「わ、わかりにくいなぁ」
ほむら「……んー、本気でかからないと難しい相手だな」
さやか「うわぁ…」
まどか「怖くはないの…?ほむらちゃんは…」
ほむら「あんまりね」 - 92: 2012/02/29(水) 15:14:40.60 ID:nCIV9ltAO
- 一通り魔法少女の説明をしてから巴マミのアパートから出た。
巴マミは体調が優れないらしく、私としてはまだ話さなければならない事もあったのだが、途中で返された。
帰り道でまどかとさやかの二人を送っている。
先にまどかの家、次にさやかの家だ。
転校初日。一般中学生には体験できない様々な事が起こったが、〆は普通風なので良しとする。
魔法少女にも出会えたし、キュゥべェをおぼろ気にだが思い出せた。
これは上々の成果だろう。
まどか「……」
さやか「……」
ほむら「考えてばかりだけど、何か話してほしいな」
まどか「……うん」
ほむら「はあ」 - 93: 2012/02/29(水) 17:42:11.83 ID:nCIV9ltAO
- 暗い顔ではない。
ぼんやりと考えるような、はっきりとしない顔だ。
ほむら「二人とも、願い事でも考えているのか」
さやか「まあ……」
まどか「うん……でも、なんだかなあ…」
ほむら「決まらなくて当然だ、人の一生がかかっているんだから」
願い事が叶えば石になる。
キュゥべェとの契約は、人としての生き方を捨てる事だ。
まどか「あ…もう着いちゃった」
さやか「うわ、本当だ」
ほむら「ここがまどかの家か?よし、じゃあここでお別れだな」
まどか「二人ともありがとね」
さやか「良いって良いって、たまにはね」
さやかは転校してきたばかりの私に、と遠慮がちだったが、魔女のこともある。
私はまどかを見送り、次はさやかを送る事にした。
- 94: 2012/02/29(水) 17:51:26.29 ID:nCIV9ltAO
- さやかはおっとりぼんやりなまどかとは違い、活発で積極的な子だ。
よく喋る。
さやか「……は~…願い事か…」
今は口数も減っているが、学校ではよく喋っていた。
さやか「ねえほむら、魔女って…怖い?」
ほむら「よく魔女について聞くね」
さやか「まぁね…まだ見たこともないし……全然、想像がつかないっていうか」
ほむら「武器がなければ怖いと思うよ」
さやか「武器…マミさんの銃のような?」
ほむら「そう、魔法少女になれば、さやかも自分の武器を手にできる」
さやか「私の武器かぁ、なんだろ」
ほむら「さやかの性格から察するに、槍かな?」
さやか「……いちおー聞くけど、なんで槍さ」
ほむら「向こう見ずな感じがする」
さやか「あ~言うと思った!失礼しちゃうなぁ」
やっぱりよく喋る。 - 96: 2012/02/29(水) 18:38:54.11 ID:3Q+QmE8m0
- マミ「……ねえ、キュゥべェ…?」
QB「なんだい?マミ」
マミ「その…さっき暁美さんが言っていた事って、本当…?」
マミ「ソウルジェムの中に、魂があるって…」
QB「そうであるともいえるし、そうでないともいえる…でも大体は合ってるよ」
マミ「ちゃんと答えてよ、これが壊れると、私は死んじゃうの?」
QB「それは間違いないね」
マミ「私、そんな話を聞かされていないわ」
QB「聞かれなかったからね」
マミ「キュゥべェ……」
QB「でも彼女も言っていただろう?マミ」
QB「ソウルジェムが無事だからこそ、怪我を負っても平気でいられるんだ。どんな重傷でも魔法で治すことは可能だ」
QB「マミは今まで、少なからずそういった怪我も負わされたことはあっただろう?」
QB「その時にソウルジェムがなかったら、無事に今まで生きてこれはしなかったんじゃないかな」
マミ「…違うのよ、キュゥべェ…それも確かにそうだけど、私は」
マミ「どうしてその話を暁美さんにはして、私にはしてくれなかったの…?」 - 97: 2012/02/29(水) 20:21:14.25 ID:3Q+QmE8m0
- QB「僕は暁美ほむらにその話をしたことはないよ」
マミ「どういうこと?」
QB「そのままの意味さ、というより、僕も彼女とは今日初めて会ったばかりで、何がなんだかわからないんだ」
マミ「彼女、魔法少女でしょ?」
QB「そのようだね」
マミ「ならあなたが契約したんじゃない…」
QB「そんな覚えはないんだけどね」
マミ「そうなの?」
QB「うん、暁美ほむらも僕に対して曖昧な印象しか持っていないしね、理由は定かじゃないが」
QB「…契約した覚えのない魔法少女、これはイレギュラーになりそうだ」
マミ「イレギュラー?」
QB「何をするか解らない対象ということだよ」
マミ「それはわかるけど……そうね、確かに彼女、何を考えているのかさっぱりわからなかった…」
QB「暁美ほむらには気を付けた方がいいよ、マミ」
マミ(確かに、何を考えているのかさっぱりわからない人…)
マミ(…けどキュゥべェの言う通り、警戒するに越したことはないわね)
マミ(たとえ今日みたいに、一切の毒気がなくても…) - 98: 2012/02/29(水) 20:39:30.31 ID:nCIV9ltAO
-
一人の町。
過ぎ行く人。寒い風。吹き抜ける風。
ほむら「……」
知らない町。
私を知る者はなく、私が知る者もいない。
まだ私の世界は狭い。
中学校の生徒以外は誰とも面識がない。
これからこの町で生きていくのだ。
記憶を失おうが、失うまいが、初めての場所で私は過ごす。
私は暁美ほむら。ならば私は、暁美ほむらのために生きる。
暁美ほむらが記憶を取り戻したその時に後悔しないように。
私は最善の暁美ほむらとして、この町を生きてやるのだ。
ほむら(造花の花道、回収しとけば良かったな……)
魔女の反応は見られない。睡眠を取るためにアパートへ帰ろう。 - 103: 2012/02/29(水) 21:11:31.43 ID:nCIV9ltAO
- 久々に夢を見た。
瓦礫と土砂に崩れた町。
何も映さない信号。
斜めに地面にもたげる標識。
荒廃した世界で、傷だらけの私が起き上がる。
普通なら生きてはいない重傷、黒ずんだソウルジェム。
何の執念か、私はそれでも起き上がる。
霞む視界。
ふらふらと歩みより、拳銃を構える。
視界はぼやけ、何も見えないが、それでもバレルの先で探るように、標的を定める。
バレルが硬い石を捉えた時、嗚咽は聞こえた。
私は数秒の間をあけて、引き金を引いた。 - 104: 2012/02/29(水) 21:29:14.37 ID:nCIV9ltAO
- ほむら「……」
まぶたを開く。
先日の帰りに買った振り子ギロチン風掛け時計(中古税抜き19800円)は、朝も正常に稼働している。
だが、あのギロチンが落ちてきたらと思うと気が気でなくなってきた。
早く起きよう。そして時計を取り外そう。
ほむら「いただきます」
今日の朝食は中学生らしく、肌の健康を気遣って魚介豚骨を食べる。
通は4分なら3分。3分なら2分で食べるものだ。時間の節約にもなる。
さて、昨日は多くのイベントが起きて、多くの情報に触れることができた。
今日はどのような出来事が待っているだろう。
ほむら「いってきます」
分解して壊れた掛け時計に挨拶をし、アパートを出る。 - 105: 2012/02/29(水) 22:00:41.14 ID:3Q+QmE8m0
- 今朝見た夢について考える。
あの夢は一体何だったのだろう。
教師「ではこの年号に起きた戦を…じゃあ暁美、答えなさい」
ほむら「ん」
瓦礫の中。私は銃を握り、魔法少女のソウルジェムを撃ち抜いた。それは間違いない。
あの瓦礫の山が意味するものは一体なんだったのか。
教師「えーではこの式、途中までで良いので暁美さん、前にきてどうぞ」
ほむら「……ああ」
散らばる瓦礫。荒廃の街。
街を巻き込む死闘の末に、私は魔法少女を殺した。
教師「ここの一番の四字熟語を…暁美」
ほむら「暗中模索、七転八起、天涯孤独」
教師「おお、正解です、素晴らしい」
以前の私が実際にやっていた事なのだろうか。
それともただの抽象的な夢でしかないのか。
どちらにせよ、私の深層心理には危険な何かが潜んでいそうだ。 - 106: 2012/02/29(水) 22:23:34.09 ID:nCIV9ltAO
- 『暁美さん、聞こえる?』
ほむら「ん?」
声が聞こえた。
巴マミの声だ。
『……私のテレパシー、通じてない?』
ほむら『ああ、テレパシー、そんなものもあったな』
『テレパシーを忘れるって…まぁいいわ』
すっかり失念していた。記憶喪失とは別だ。
『良ければお昼休みに、屋上で一緒にご飯を食べない?』
ほむら『昼食か、わかった』
『え、良いの?』
ほむら『まだ屋上で食べたことがないから、食べてみたかった』
『…ふふ、待ってるわ』 - 112: 2012/03/01(木) 05:28:28.21 ID:Xgqw4gvAO
- 際限なく広がる蒼天。
この心地よい風に紙幣を靡かせたら、空に食われて二度と取り戻すことはできないだろう。
マミ「こんにちは、暁美さん」
ほむら「やあ、マミ」
小さく手を振ると彼女も応えた。
彼女からは刺々しい印象を受けないので、私のことはもう後輩として見てくれているのだろうか。 - 113: 2012/03/01(木) 07:59:05.77 ID:Xgqw4gvAO
- マミは自作であろう弁当箱を広げ、私はポケットからスニッカーズを取り出した。
マミ「……」
ほむら「開放的な場所で食べるのも悪くないな」
噛みごたえ十分。良いカロリーだ。
より明るい場所で食べるご飯は格別である。
マミ「…えっと、あなたって、魔法少女なのよね」
ほむら「ああ、そうだ」
マミ「キュゥべェと契約したの?」
ほむら「そうだと思うんだが、思い出せないな」
マミ「曖昧ね」
ほむら「曖昧さ、ミルクチョコだって曖昧なのだから」
先ほどから私が話す度にマミの食指が止まる。
気を遣わせてしまっているのだろうか。
ほむら「マミはキュゥべェと契約を?」
マミ「…ええ、何年か前にね」
ほむら「何年も付き合ってるってことか……マミはあの猫と仲良しなんだな」
マミ「お友達だもの」
ほむら「友達は大事だな」 - 117: 2012/03/01(木) 12:11:02.29 ID:Xgqw4gvAO
- ほむら「なあ、マミは魔法少女についてどう思っている?」
マミ「どうって?」
ほむら「魔女を倒し、グリーフシードを手に入れ、ソウルジェムを保存する…一連の流れ」
マミ「私達の責務よ」
ほむら「それを前提としてだよ、腹が減ったら食うのは当然じゃないか」
マミ「…町の人々を魔女から守る、それは素晴らしい事じゃない」
マミ「魔法少女は希望を振り撒く存在でしょ?」
マミ「あなたは違うのかしら」
ほむら「わからない」
マミ「……」
ほむら「でも、グリーフシードは欲しい」
魔女にはなりたくないから。 - 118: 2012/03/01(木) 12:26:14.09 ID:Xgqw4gvAO
- マミ「…暁美さん、喩え話で悪いのだけど」
ほむら「ん?」
マミ「目の前に、もうすぐ魔女になりそうな使い魔がいたとしたら…あなたはどうする?」
ほむら「悩むな」
マミ「……」
ほむら「その時のソウルジェムの状態や、グリーフシードの持ち合わせにもよるな」
マミ「……そう」
ほむら「あまりにソウルジェムの状態が緊迫していたら、見逃すかもしれないが」
ほむら「魔女は可能であれば狩りたい対象だ」
マミ「……使い魔が一般人を食べるのよ?」
ほむら「ソウルジェムが濁りきるよりはマシだと受け入れる覚悟も必要さ」
魔法少女が魔女になったのでは、あまりにも割に合わない。
暁美ほむらのためにも、不用意に死にたくはない。
マミ「…私はやっぱり、あなたのことわからないや」
マミは弁当をまとめてベンチから立ち上がった。 - 119: 2012/03/01(木) 12:36:18.77 ID:Xgqw4gvAO
- ほむら「もう良いのか?おかすがまだ残っていただろう」
マミ「良いのよ、ごめんね、私から誘ったのに」
ほむら「待ってくれよ」
肩を掴む。
マミ「離して」
ほむら「……マミ?」
目が私を拒絶していた。
マミ「私とあなたは魔法少女だけど、考え方が違っているから」
ほむら「何が違うんだ」
マミ「目の前で誰かが困っていたら、私はその人のこと、絶対に助けたいのよ」
ほむら「……」
マミ「私達の違いは……」
世界が歪む。
視界がパステルカラーで塗り潰される。 - 120: 2012/03/01(木) 12:44:19.89 ID:Xgqw4gvAO
- マミ「魔女!?どうしてこんな所に…!」
ほむら「学校の屋上にあるとは…」
魔女の結界が構築されてゆく。
ヘドロ色の地面から無数の電柱が立ち上り、私達を世界の上へ押し上げる。
見覚えのある景色だ。
マミ「くっ、とにかく学校の人に被害が及ぶ前に片付けないと…!」
ほむら「同意だな」
マミが変身すると同時に、私も変身した。
ハットとステッキは忘れない。 - 132: 2012/03/01(木) 14:08:23.48 ID:Xgqw4gvAO
- マミ「魔女反応は……下からだわ!」
聳え立つ電柱から下界を見下ろす。
ちょっとした高層ビルほどはあろうか。
落下すれば常人であれば無事では済まされないだろうが、魔法少女にはあまり関係のない事だ。
素早く魔女のもとに辿り着くならば、自由落下が吉だろう。
しかしこの景色、どこかで……。
ほむら「マミ、私と君は相容れないのかもしれない」
マミ「!」
ほむら「しかし今は目の前の敵を倒すために、協力してくれないか」
マミ「…ええ、分かっているわ!」
ステッキに魔力を込める。
いざという時のための、ちょっとした武器だ。
ほむら「よし、一気に降りるぞ!」
最下を目指し、電柱から飛ぶ。 - 133: 2012/03/01(木) 14:18:15.48 ID:Xgqw4gvAO
- ほむら「!」
下から大量の何かが近付いてくる。
マミ「お出ましかしら…!」
ほむら「待つんだマミ、あれに害はない」
マミ「え?」
下からせりあがる大量の影。
輪郭がはっきりと見えてきた。
あれは……。
マミ「…風船!」
ほむら「人ならば簡単に浮かす事のできる風船だ、乗れるぞ」
マミ「乗れるって…」
二人ともそれぞれの風船に着地する。
巨大な風船はボヨンと震えたが、すぐに浮力が勝ち、上昇を再開した。
ほむら「普通の風船と同じで、刺激すれば割れる」
マミ「じゃあ…」
ほむら「だが下にいる魔女は、これでもかというほど風船を吐いてくる、いちいち割る暇はない」
マミ「なるほど、避けて下に降りていくわけね!」
ほむら「そういう事だ」 - 134: 2012/03/01(木) 14:40:09.11 ID:Xgqw4gvAO
- 群鳥のような風船を避ける。電柱を蹴って下を目指す。
風船の真上にある目玉模様は使い魔の目のようだ。
浮かび上がる途中で、落下位置を修正した私達を補足してくる。
早く下へ降りたい私達にとって、非常に厄介な機能ある。
カチッ
しかし問題はない。
私だけはすぐ降りられるから。
巴マミはまごつくだろうが、それはそれで仕方がない。
良く見たらこの魔女、前にも戦った事があるし。
カチッ
ほむら「自分で蒔いたシード、ってわけだ」
魔女「ぷぅうううう!!」
魔女と対峙する。
巨大なバルーンアートだ。 - 139: 2012/03/01(木) 18:39:45.69 ID:CjmctOg80
- 風船の魔女。
刺せば割れる。割れると空気を放出してしぼむ。完全にしぼむと消滅する。
しかしそう簡単に魔女がやられるわけもなく、こいつはしぼむ前に傷穴を塞ぎ、傷を塞いだあとは再び膨張して元に戻る。
連続して奴にダメージを与え、一気に倒す。それが攻略法だ。
風船の魔女は直接ダメージを与える攻撃をしてこないが、風船を吹きだして押し退けたり、浮かばせたり、強烈な風を吹いて飛ばそうとする。
吹き飛ばされて電柱に激突すれば、それは軽微ながらも痛手となる。
体力が消耗して動けなくなった時、魔女の生み出す風船の使い魔の上に乗せられ、どこへたどり着くかもわからない遥か上へと飛ばされて、おそらく死ぬだろう。
耐久力のある魔女だが、相手が悪かったな。
ほむら「さあ、二度目のショータイムと参りましょう」
ハットを取り、深くお辞儀をする。深く頭を下げるため、魔女の姿は視界から外れる。
そんなばかばかしいほどの隙を、魔女が見逃すはずもない。
魔女「ぷぅうううううっ!」
カチッ
そこで私がなにもしないはずもない。 - 140: 2012/03/01(木) 19:24:49.28 ID:CjmctOg80
- ほむら「1.三列縦隊カットラス」
魔女「!?」
見滝原アーミーズショップの倉庫から拝借した湾曲刀のカットラス(税抜き8980円)を贅沢にも12本使用する。
三列に並んだカットラスが、大きな刃を勢いよく回しながら襲いかかる。
もちろん突然にだ。
魔女「ぷっ…ぅうううう!」ブシュー
カチッ
何か攻めのアクションを起こそうとしていた魔女は空気を吐き出してタコのように後退するが、そんな甘っちょろい真似を私は許さない。
カチッ
ほむら「2.空襲中世騎士」
魔女「ぷぅ!?」
勢いよく退散する魔女の進行方向よりちょっと上に、中世の鎧騎士が出現した。
その手にトゥーハンドソードを握り、逃げる魔女に刃を突き立てんと、強そうに握りしめている。
ちなみにこの躍動感あるポーズに調整するために40秒はかかった。
――ザクッ
魔女「ぷぅー!」ブシュウウ
勢いを殺しきれずに騎士の剣に刺さってしまったようだ。
大きな剣によって開けられた傷から、すごい勢いで空気が漏れ出している。 - 143: 2012/03/01(木) 19:31:52.02 ID:CjmctOg80
- カチッ
空気の漏れたあいつはしばらく身動きがとれない。
もごもごともがいている間に仕留めるのが定石だ。
さっさと決めてしまおう。
カチッ
ほむら「3.ハズレだけ危機一髪」
魔女「…!!」
ひるんだ風船の魔女の周囲を無数のナイフが取り囲んでいる。
当然、それら全てに既に勢いが付けられている。
何十本もあるナイフは全て魔女へ向かって飛んでゆく。
見てみると格好いい技だが、この状況を作り出すために想像を絶する労力が必要であることは、私だけが忘れなければいいし、他の人は知らなくて良い。
――ザクザクザク
全部刺さった。 - 146: 2012/03/01(木) 19:45:23.62 ID:CjmctOg80
- 魔女「ふしゅぅううう…!」
風船の魔女には無数の穴が空き、反撃はおろか修復すらままならない様子だ。
そもそもこの魔女は、魔法少女が落下中の時にのみ強いのだ。
私のように時間を停止させて一気に降下する魔法少女とは相性が悪いのだろう。
前回同様、遊びながらでも余裕を持って倒せる。投げナイフなんてする必要はないし、手持ち一本だけでも倒す自信はある。
ほむら「マミが苦戦しているようだから、悪いがすぐにトドメを刺させてもらうぞ」
手持ちの一本のナイフを構え、魔女に近づく。
「あら、誰が苦戦しているって?」
ほむら「!」
――パン、パン、パン
――パンパンパンパン
ほぼ連続で風船が破裂する音が、こちらへ近づいてくる。
上からだ。
マミ「ティロ・メテオリーテ!!」
尖ったコンクリの先端を下方に向けた電柱。
そのおっかない危険物を黄色いリボンで抱えたマミが、魔女へ急降下爆撃を敢行した。
コンクリの柱が地面に激突する衝撃とその音は、たとえようもなく凄まじい。
飛び散る破片がとても痛い。 - 147: 2012/03/01(木) 19:57:18.84 ID:CjmctOg80
- 巴マミのダイナミックな一撃によって、魔女は瞬時に消滅した。
それまでの私のマジックショーは何だったのだろうか。マミの一撃で全て終わっていたじゃないか。
というよりもなるほど、電柱を折ってそれを使って攻撃か。その手があったか。
次にこの魔女と戦うことがあれば参考にしよう。
結界が解ける。風景が元に戻ってゆく。
マミ「……ふう」
ほむら「お疲れ、マミ」
マミ「ええ、暁美さんもね」
グリーフシードがこつん、と地面に落ちる。
運が良かった。孵化したグリーフシードを再びグリーフシードに戻せるとは。
消費したカロリーを除けばプラスマイナスゼロといったところだ。
元通り蒼天の下の屋上。屋上入り口のそばに立てかけた私の学生鞄の中を探る。
マミ「何をしているの?」
ほむら「マミに聞いておきたいことがあるんだ、これ以上手間をかけさせれないから」
マミ「なにそれ…って、きゃあ!?」
両手いっぱいのグリーフシードを見せてやると、マミは悲鳴をあげた。
ほむら「使い終わったグリーフシードを普段どう廃棄しているのか教えてほし…」
マミ「ばかー!」
頭をはたかれた。 - 148: 2012/03/01(木) 20:18:59.13 ID:CjmctOg80
- ほむら(何も叩くことないじゃないか…)
さやか「どうしたのほむら、今日はずっと考え事ばかりしてるみたいだけど」
昼休みは明け、五限目も終わり、休み時間。
机でじっと考え込む私に、さやかが話しかけてきた。
ほむら「マミと話していたんだけど、彼女はどうも私とは仲良くできないらしい」
さやか「え、そうなの」
ほむら「私の事はいいんだ、さやかはどうだ、魔法少女について何か考えたか」
さやか「…ああ、うん…そりゃあね」
まどか「私なんて昨日考え過ぎて眠れなかったよ…」
後ろからまどか登場。いつの間に。
さやか「やっぱり、命をかけるかっていうところで、どうしても…ね」
まどか「うん…」
悩むのは良い事だ。むしろ、悩んだままでいた方が良い。
今の私には受け入れるしかない現実だが、願いと戦いの運命を一生の間天秤にかけつづけ、それを揺るがしてはいけないというのは、とても難しいと思う。
私は自分の心臓を、どのような羽根で秤にかけたのだろう。 - 149: 2012/03/02(金) 00:04:23.32 ID:1xU8QB7AO
- 帰り道。
さやかとまどかの後ろを私が歩く。
まどか「……」
さやか「……う~ん…」
二人は仲良しだ。親友だ。
心ここにあらず。願いを何にしようかと考えている。
当然だ。人生を賭けた願い。
一朝一夕で出る答えではない。
さやか「ねえ、ほむら」
ほむら「何かな」
さやか「こんなこと、聞いていいのかわからないけど……ほむらはどんな願いで魔法少女になったの?」
ほむら「さあね」
さあね。 - 151: 2012/03/02(金) 12:02:09.25 ID:1xU8QB7AO
- さやか「さあね、って…」
ほむら「ただ私は思う」
さやか「?」
ほむら「いっそ、願いも希望も持たない方が、魔法少女としては長生きできる気がする」
さやか「……」
まどか「願いも希望もないのに、魔法少女…」
ほむら「いつか崩れるかもしれない夢や願いのために魂を捧げるのがどれほど危ないことか、わかるかい」
さやか「う~ん……」
ほむら「“希望の数だけ絶望も深まる”とジャックも言っている」
ほむら「落ちるのが怖ければ、高い所に昇らない方が良い」
さやか「……」
ほむら「袖にほんの少しついた魚介豚骨スープのシミを落とすために魔法少女になる、くらいの覚悟がなければ、私はオススメしない」 - 153: 2012/03/02(金) 12:18:10.98 ID:1xU8QB7AO
- さやか「……ほむらは後悔してる?今…」
ほむら「わからない、ただ…」
さやか「私はほむらの事を聞きたいんだよ」
ほむら「私にはわからない、何もない」
さやか「後悔はないの?」
ほむら「あったのかどうかも、今ではわからないんだ」
まどか「……」
ほむら「魔法少女になった理由は知らないが、なったものは仕方がないんだ」
ほむら「まあ私は慣れてるから、戦うのは苦ではないよ」 - 159: 2012/03/02(金) 12:33:54.68 ID:1xU8QB7AO
- さやか「…ほむら!馬鹿みたいなお願いだと笑わないで、聞いて欲しい頼みがあるんだけど!」
ほむら「私にたのみ?なにかな」
さやか「…一度だけで良いから、ほむらがやってる魔女退治に付き合わせてほしいの」
ほむら「魔女退治に?」
さやか「うん、ほむらが魔女と戦ってる所を見たいの…私も、叶えたい願いがあるから…」
ほむら「良いよ」
さやか「お願……え!?良いの!?」
まどか「大丈夫なの?ほむらちゃん」
ほむら「ああ、別に私は構わないよ」
ほむら「けど私の魔法は万能じゃないから、いざという時に守ってあげられないかも」
さやか「……」
ほむら「ついてないと死なせちゃうかもしれないが、それでも良いなら」 - 161: 2012/03/02(金) 17:51:19.35 ID:1xU8QB7AO
- ソウルジェムを右手に持ち、左手で右袖のシミを擦りながら歩く。
半ば挙動不審、放課後の町を戸惑いがちに私の後を二人がつける。
魔女探しは足の仕事だ。目でも鼻でもない。
あいつらに近付けば石が光るので、そんなアレだ。
何が言いたくて、何が不満なのかというと、魔女探しは退屈なのだ。
ほむら「見つかるときはすぐに見つかるが、居ないときは本当にいない」
まどか「へぇー…」
ほむら「しかしここまで見つからないのも珍しいな、魔女は絶滅したのか」
さやか「絶滅って」
ほむら「そんなことになれば私も死んでしまうから、御免被りたいな」
さやか「……因果だね」
ほむら「町にちょっとタチの悪いライオンがいて、私らはライオンしか食えない、それだけの話とも言える…」
ソウルジェムが薄く発光する。
ほむら「昨日のライオンだ」 - 162: 2012/03/02(金) 19:30:04.46 ID:xQgiIB7a0
- 斜陽が私の後ろをあるくさやか達の影を地面に映す。
ソウルジェムが明滅を繰り返している。魔女の結界がかなり近い証だ。
ほむら「この周辺だ、もうすぐ始まるから気合いをいれておくといい」
さやか「う、うん」
金属バット。
ほむら「……それはなにかな」
さやか「え、いやぁ…あはは、自分の身は自分で守ろうかなーって」
まどか「さやかちゃん…」
金属バットで魔女と戦うとは…現実的な奴だ。
ステッキで戦う私よりははるかにリアリストと言える。さやかはきっと強い魔法少女になれるだろう。
ほむら「まあ、生兵法は死ぬだけだから、意気込みはいいけどそれは持ちこまない方が良い」
さやか「そ、そっか…」
ほむら「かわりにこれを貸してあげよう」
さやか「ん?」
トゥーハンドソード。 - 163: 2012/03/02(金) 19:38:01.90 ID:xQgiIB7a0
- ガリガリガリ・・・
さやか「お、重っ…なにこれ重っ…!」
ほむら「早くこないと魔女が逃げるぞ」
まどか「それはあんまりだよほむらちゃん…」
閑静な廃ビルの森。
なるほど人通りの少ない場所にも魔女は沸く。
廃ビルの中ともなれば、一般人は気付かないだろう。
腰を据えてじっくり人を食らうには丁度いいエリアだ。
ほむら「……」
路地裏を抜けた先、そのすぐ左横に、大きな血だまりを湛えるOLの姿があった。
まどか「なんかへんな匂い…」
ほむら「死体があるから二人とも出ないように」
さやか「えっ!?」
OLの死体。両足両腕ともによくわからない方向に曲がり、一部の骨は飛び出している。
内臓をぶちまけていないだけビジュアルとしてはマシな部類だが、血の様子からしてもかなり新鮮な美女の躯に、私は思わずため息を零す。
さやか「…え、…なにこれ………うぷっ…」
まどか「うっ…!」
見てはダメだと言ったのにこの二人は。 - 164: 2012/03/02(金) 19:48:09.47 ID:xQgiIB7a0
- 死体「……」
ほむら「魔女のくちづけがある、間違いない、この女性は魔女によってこの場所へ導かれ、殺された」
さやか「……」
他は特に不自然な点はない。
この女性一人だけが狙われ、殺されたのだろう。
まどか「この人…そんな…ひどい」
ほむら「動機の曖昧な自殺、謎の失踪のほとんどは魔女が原因だと昨日のマミも言っていただろう」
さやか「本当は自殺なんてする人じゃなかった……」
ほむら「精神的に弱っている人を操る傾向にはあるから、どうだろうね」
どの道死人に口無しだ。
ほむら「魔女の結界へ行こう、怖気づいたのであれば送っていくよ」
まどか「……」
さやか「…ううん、ついていかせて」
さやか「魔女を野放しになんてしちゃダメだ…正直ショックでかいけど…放っておけないよ」
ほむら「まどかは?」
まどか「私も…行くよ」
ほむら「良いだろう」 - 171: 2012/03/02(金) 22:57:05.29 ID:1xU8QB7AO
- ビルの中。
結界は階段を上ると、すぐに見つかった。
さやか「……」
彼女は仇敵を睨むように、結界と対峙していた。
まどか「……」
彼女は不安そうに、いつものようにまどまどしていた。
ほむら「さて、早いとこ魔女を倒してしまおう」
ほむら「帰ってからやりたいことが沢山あって困っているんだ」
結界へ飛び込む - 174: 2012/03/03(土) 07:28:24.33 ID:dR3CtraAO
- 毒々しい異空間は広く、迷路状に続いていた。
ほむら「魔女に辿り着くまで時間のかかる場合と、かからない場合がある」
さやか「この場合は…?」
ほむら「結構探すはめになりそうだ」
さやか「うへー…」
ほむら「道中でわざわざ使い魔を倒さなければならないから、魔力の効率は悪いよ」
噂をすれば敵影だ。
向こう突き当たりの角から、蝶の翅を生やしたヒゲのダンディが飛んでくる。
まどか「き、きゃあ!」
ほむら「心配しなくていい」
紫のステッキを両手で振りかぶる。
名も無きヒゲダンディは愚直なるままに突進するが、飛んで火に入る羽虫だ。
ほむら「1.物理人間大砲」
野球でいうフルスイングによって、使い魔は吹き飛ぶ前に一刀両断された。
さやか「すごい……」
ほむら「バットの方が良かったな」 - 175: 2012/03/03(土) 07:59:55.69 ID:dR3CtraAO
- ほむら「2.五列横隊カットラス」
二人にはある程度の覚悟がある。
ほむら「3.ナイフダーツ」
さやかは願いがそれに釣り合うかを量っている。
ほむら「4.鉄パイプ人力トマホーク」
まどかは願いすら決まっていないのだろう。しかし悩みはそれぞれだ。
ほむら「5.投げっぱなしヒットエンドラン」
さやか「あ、私のバット投げんな!」
この魔女退治が二人に何らかのヒントとなるのだろうか。 - 178: 2012/03/03(土) 12:10:30.77 ID:dR3CtraAO
- 長い廊下。
私の快進撃を見て、二人は精神に多少の余裕を取り戻した。
さやか「さっきの剣なんてすごいもんなぁ、四方八方から……」
まどか「カッコいいよね」
ほむら「君達は勘違いしてるようだから言っておくけど」
まどか「えっ」
向き直る。
ほむら「全ての魔法少女が、先ほどまでのように戦えるとは思わないことだ」
さやか「…ああ……」
ほむら「魔法少女の強さはその者の因果で決まる、いわば才能だ」
ほむら「それに魔法の特性も関わってくる…私はたまたま使い勝手の良い能力だったから戦えるだけで」
ほむら「全ての魔法少女が上手く戦えるわけではない」
まどか「そ…そっか…そうだよね…」
ほむら「私だって、二人の知らない場所で苦労してる」
さやか「…なんか……ごめん、ちょっと浮かれてた」
ほむら「いいさ、すまない」
ナイフを回収する苦労は二人にはわからないだろうし、これからも知らなくて良い。 - 179: 2012/03/03(土) 12:37:37.25 ID:dR3CtraAO
- ほむら「いた」
廊下の先に広がる大きな空間の中央で、一体の魔女が鎮座している。
緑色のぐちゃぐちゃした頭に無数の薔薇。
大きな蝶の翅。
さやか「うわ……グロ…」
ほむら「ここで待っててくれ、私だけ行くから」
まどか「…気を付けて」
ほむら「ああ」
飛び降りて着地。
魔女と対峙する。
だが奴はこちらに興味がないらしい。たまにあることだ。
ほむら「因縁の戦いだというのに、舐められたものだな……まあ良い」
カチッ
興味がないなら、無理矢理にでも戦わせてやる。
カチッ
魔女「……!」
さやか「おおっ!すごい!」
まどか「わぁ…!」
部屋一面に広がる黒い筒の砲台たち。
マミの銃からヒントを得て、大量に仕入れたものだ。
ほむら「今度こそ、決着をつけてやる」
カチッ
容赦はしない。一斉に点火する。 - 181: 2012/03/03(土) 14:20:44.84 ID:dR3CtraAO
- 無数の弾が魔女へ向かい、風を切る。
ひゅるるる、と小気味良い音の群れは一点へ収束し、
ドン。
さやか「…あれ?」
まどか「え?」
弾が火花を散らして命中する。
爆発の輝きは様々で、赤だったり青だったり、様々な色を散らしながら広がる。
魔女「ッ…!!」
さやか「怒ってる…?」
まどか「みたいだね…」
絶え間無く続く火薬の爆発音。
発射台ひとつのつき1発ではない。10発はあがるはずだ。
ほむら「さすがは“華龍”(税抜き2200円)、一番高い打ち上げ式なだけはある」 - 185: 2012/03/03(土) 20:27:50.46 ID:dR3CtraAO
- 魔女のゲル状の頭部が泡立つ。
沸騰ではない。その反応が怒りである事はすぐにわかった。
魔女「!!」
奇怪な叫びと共に、座していた椅子が勢い良く吹き飛ぶ。
巨大な椅子は花火の弾を蹴散らし、弛すぎる弧を描いて私を潰しにかかる。
さやかとまどかがすっとんきょうな悲鳴を上げた瞬間。
カチッ
時が止まる。
止まる豪速球。
これをまともに受ければ、魔法少女といえど無事では済まない。
ほむら「けどその豪快さ、私は嫌いじゃないよ」
そっちがその気ならこっちもその気だ。 - 186: 2012/03/03(土) 20:48:09.03 ID:dR3CtraAO
- ほむら「うらぁああぁあああぁッ!!」
時が止まった世界で跳躍する。
立ちはだかる椅子にヒーローキック。
椅子が揺れる。傾かなければ、まだ停止時間でのエネルギーは椅子の投擲エネルギーに勝っていない。
ほむら「まだまだぁ!」
着地。だがすぐに脚に力を込めて飛び立つ。
体を半捻り。
ほむら「はァ!!」
──ドゥン。
魔力を込めた盾で裏拳。紫の波紋が迸る。
着地。裏拳。
着地。裏拳。
着地。裏拳。
椅子はまだ動かない。
ほむら「これで……どうだぁッ!!」
裏拳。
椅子が大きく傾いた。頃合いだ。
カチッ - 196: 2012/03/05(月) 07:26:59.16 ID:9RbiFfgAO
- 私の一撃のもとに打ち返される椅子。
魔女「!!??」
相手の動きが一瞬で固まる。
翅を広げて愉快な事でもしようと考えていたのだろう。
ほむら「させるか、潰れろ」
──ドォオン
無防備な魔女の全身は、巨大な質量に押し潰された。
緑色の液体が破裂したように飛び散る。
──ドォン
打ち上げ花火の最後の一発が上がると共に、魔女の結界は崩壊を始めた。 - 197: 2012/03/05(月) 07:57:38.65 ID:9RbiFfgAO
- 景色が元の廃ビルに姿を変える。
ほむら「綺麗だ」
夕焼けが眩しく輝いている。
太陽は花火よりも美しい。
さやか「…す、すっげえ…」
ほむら「一撃で倒せる魔女なんてそうそういないさ」
落ちたグリーフシードを拾い上げる。
ソウルジェムに穢れが溜まっていたので、ありがたい。
まどか「ほむらちゃん、それ…」
ほむら「これはグリーフシード、魔力を消費して穢れたソウルジェムを回復するためのものだ」
さやか「さっきの魔女が落としたの?」
ほむら「ああ、落とすときがある……これがなければ良くて死ぬ、悪くてさらに酷い事になる」
さやか「えっ」
ほむら「魔法少女は魔女を狩り続けなければならない、それはつまり、グリーフシードを集めなくてはならないということ」
ほむら「そうだろう、マミ」
- 199: 2012/03/05(月) 12:28:35.37 ID:9RbiFfgAO
- 物陰から現れたのは巴マミだった。
ばつの悪そうな表情は、黙ってつけていたことに多少の罪悪感を抱いている証か。
まどか「マミさん…」
マミ「二人とも、魔法少女になりたいのね」
さやか「……」
ほむら「悩んでいるそうだ」
二人とも複雑な表情で黙っている。
ほむら「だからこうして、二人を連れて魔女退治の見学ツアーと洒落込んでいるわけ」
マミ「…危険よ」
ほむら「私は魔女に負けるつもりはない」
マミ「二人が危ないのよ!」
よく通り怒鳴り声。
マミは私の正面にまで近付いてくる。 - 205: 2012/03/05(月) 14:56:29.42 ID:9RbiFfgAO
- マミ「悪いとは思ってたけど、後ろから様子を見させてもらってたの」
ほむら「ああ」
マミ「…道中の使い魔と戦っている時はまだいいとしても…魔女との戦いで二人に結界すら張っていなかったでしょ」
ほむら「守る戦いは苦手だからね」
マミ「なん……!」
ほむら「でもそれは二人だって了承済みの事だ」
マミが疑わしい風にさやかとまどかを見た。
二人は一瞬怯えたようにも見える。
ほむら「死んでも私は助けない、それで構わないという覚悟をうけて、私は引き受けた」
マミ「…確かにその覚悟は必要になるわ…でも、まだ二人は一般人なのよ?」
ほむら「どのみち私の盾は他人を守れない」
左腕の盾を見せつける。
ほむら「私の魔法が守るのは私だけ、他人を守るようにはできていない」
きっとそれは私の願い。 - 214: 2012/03/05(月) 20:07:33.00 ID:+TCqopWK0
- マミ「…魔法少女には一応、縄張りのようなものがあるのだけれど…私はそういうことについては、とやかく言わないわ」
マミ「けれどこれだけはお願い、今日みたいなやり方では二人が危険すぎるから…」
ほむら「さやか達を魔女退治に付き合わせないでくれ、と?」
マミ「ええ」
ほむら「なるほど、言いたい事はわかった」
つまりだ。マミはこう言っているのだ。
ほむら「マミなら、結界を作りだせるんだな?」
さやか「!」
マミ「……ええ、なんだか貴女から二人を取るような形になってしまうのだけれど、二人が望むのであればね」
彼女のばつの悪そうな顔から見て、本心からの言葉なのだろう。
後ろめたい気持ちを感じる。
マミ「私なら安全に二人を守りながら魔女退治ができる」
さやか「…なるほど、あたしたちが大きな剣を持ったり、バットで武装したりしなくても…」
マミ「ええ、危害が及ぶことはないわ」
……。
ほむら「……」
マミ「ねえ、どうかしら、暁美さ」
カチッ
マミ「ん……!」
マミの目の前、目と鼻の先の地面に、トゥーハンドソードが深々と突き刺さっている。 - 216: 2012/03/05(月) 20:18:49.59 ID:+TCqopWK0
- マミ「…!暁美さん…?」
普段温厚であろう彼女も、鋭い目に変わる。警戒への切り替えが早い。
さやか「ちょっとほむら!?あんたがやったの!?」
マミ「どういうことかしら」
彼女もマスケット銃を一挺具現化させ、銃口をこちらに向けないまでも、それを手に取る。
ほむら「結界を出せようが出せまいが、マミ、君が死ねば結界は解ける」
マミ「…!何が言いたいのか、本当にわからないけれどっ」
ほむら「君自体が魔女に負ければ、もはや結界の有無など意味を成さないと言ったんだ」
まどか「あ…」
ほむら「気付いたかい?マミが魔女に負けたら君らは二人とも死ぬ」
ほむら「マミ、確かに私の盾は私しか守れないし、さやかとまどかが死んでも責任は持てないが――」
ほむら「私と戦って勝てないような実力では、大前提として二人を任せられないな?」
右手にカットラスを握る。左手の盾と相まって、私の姿は昔の戦士にほど近い。
まどか「や、やめてよ!そんなのおかしいよ…!」
マミ「戦おうっていうの?私は穏便に済ませようと…」
ほむら「模擬戦だよ、グリーフシードはあるし問題ないさ、殺し合いをしようってわけでもない」
まどか「でも……」 - 217: 2012/03/05(月) 20:26:59.62 ID:+TCqopWK0
- マミ「……やりましょう」
さやか「マミさん!?」
マミ「大丈夫、大怪我はさせないつもりだから」
ほむら「お互い正しい納得の上でだ、問題はないさ」
まどか「……」
マミ「暁美さんの言っていることも理に適っているわ、私が強い事を証明しなきゃね」
ほむら「そういうこと」
まどか「……うん、わかった…仕方ないんだよね」
さやか「…絶対に、ヒートアップしないでくださいよ、マミさんも、ほむらも」
二人とも優しいな。出会って一日足らずじゃないか。
QB「きゅっぷぃ」
さやかとまどかの間に、いつぞやの白ネコが現れた。
ほむら「やあ、屋上では世話になった」
QB「悠長にそんな挨拶を交わしている場合かい?今から決闘をするんだろう?」
ほむら「決闘というほどでも…いや、そのほうがいいか」
ほむら「夕日といえば決闘だものな」
マミ「……!」
良いセットだ。口元が緩む。
相手がガンマンというのもお誂え向きだ。
ギャラリーもいれば一層やる気も増す。 - 219: 2012/03/05(月) 20:37:49.97 ID:+TCqopWK0
- ほむら「キュゥべェ、ここに使用済みのグリーフシードがある」
QB「そうだね、君の手にはグリーフシードがある」
ほむら「これを君に向かって投げるから、回収してくれ」
マミ「!」
身構えた。察しの良さはなかなかだ。
ほむら「君がこれを回収すると同時に、私達の決闘は開始される、いいね?」
QB「だってさ、マミはそれでいいかい?」
マミ「ええ、洒落てて良いと思うわよ」
彼女も緊張混じりではあるが、口元は笑みを作っている。
こういう演出が嫌いなタイプではなさそうだ。
なんだ、意外と趣味が合うんじゃないか?マミ。
ほむら「……さあ、始めよう、日が落ちたら二人の親も心配する」
グリーフシードを放り投げる。
キュゥべェは落下地点を予測して半歩移動。
背をこちらに向け、開き――。
グリーフシードが落ちる。
QB「きゅっぷぃ」
カチッ - 221: 2012/03/05(月) 20:45:43.83 ID:+TCqopWK0
- ほむら「驚いた、わたしの武器が銃だったら死んでいたかもな」
時の止まった世界。
マミの放ったマスケット銃のエネルギー弾は、二人の間の半分にまで達していた。早撃ちの才能がある。
マミ『……』
強張ばっているが冷静そのものの落ちついた顔。
躊躇なく引き金を引けるその度胸は評価に値するだろう。彼女はベテランの魔法少女だ。私と同じで。
ほむら「けど、まだまだ…それだけではマミ、君の強さはわからないから」
盾から武器を取り出す。
ほむら「私のショーに付き合ってもらうよ」
マミの固有魔法は自在に動き、縛ることのできるリボン。
厄介な魔法ではあるが、全ての魔女に対して有効なものではない。
ほむら「銃とリボンで、君ならどう切り抜けてみせる?」
楽しみだ。
カチッ - 224: 2012/03/05(月) 23:27:19.92 ID:+TCqopWK0
- ほむら「1.降り注ぐジェンガ」
マミ「なっ!?」
マミの頭上におびただしい量の赤レンガが出現する。
もちろんどれも本物だ。本来はこう扱う予定のものでもなかったが、まぁ構わない。
ほむら「ふっ」
がいん。マスケット弾をナイフで受け、両方とも弾けて消滅する。停止している間に防御動作を取っておいた。
弾を避ける動作を瞬間移動で行うと、レンガの出現と同時に行った事から、私の能力内容を警戒されてしまう。
マミにとってはまだ私の能力は瞬間移動程度にしか思っていないのではないだろうか。
それは戦闘面における私のアドバンテージであるし、命綱であるし、奇術師の大事な大事なタネだ。
タネがバレては何をやっても格好がつかない。
マミ「くっ」
ほむら(…ふふ)
黄色のリボンが左右に伸び、廃屋の柱などに結び付く。
そこからどんどん蜘蛛の巣のように張り巡らされる。
マミ「最初の一発をいなしたのは流石ね暁美さん…!」
リボンは伸縮もするらしい。自在に伸びるのだから当然か。
マミの身体はレンガの雨から逃れ、廃屋の端へと引き寄せられる。
そして、空中にマスケット銃が十挺。
距離を取り、複数の銃で攻撃するつもりか。
このままではリボンで縦横無尽に逃げられた上に、向こうはずっと打ち続けてくるだろう。
当然、それはよろしくない。
カチッ - 231: 2012/03/06(火) 07:59:55.65 ID:3XRfQJhAO
- カチッ
マミの周囲に浮かんだマスケットを全てステッキで打ちつけ、銃口を外側へ弾く。
マミ「! な!?」
私はマミの正面にいる。
瞬間移動と素早い防御行動。マミが銃を出すのと私がステッキで殴打するのは。
ほむら「果たしてどちらが早いかな!」
ステッキでマミの腹部に向かって突きを繰り出す。
──ガツン
ほむら「!」
マミ「あら、出すだけならノータイムよ?」
ステッキの先端がマスケットの銃口に刺さっていた。 - 233: 2012/03/06(火) 12:08:06.12 ID:3XRfQJhAO
- 躊躇いなく落とされたハンマー。
砕け散る紫のステッキ。
ほむら「っつぅ!」
衝撃は手にも及んだ。マスケット銃といえど、威力はバカにならない。
一瞬怯んだそれが命取り。
マミ「決まりね?」
ほむら「……!」
見回せば、全てマスケットが再びに私を捉えて浮かんでいた。
マミ「その盾で防がせもしないわよ」
ほむら「…む」
いつの間にか、私の左手にもリボンが巻かれている。
あの小さな隙からよくここまで手を回せたものだ。
QB「マミの勝ちだね」 - 234: 2012/03/06(火) 12:21:15.85 ID:3XRfQJhAO
- さやか「……すげー…」
まどか「すごかったね…二人とも…」
外野が感心している。
魔法少女と魔法少女が衝突することもある。
それを教えられただけでも、この決闘は有意義だったに違いない。
ほむら「やるな、マミ」
マミ「あなたもね、暁美さん。あなたの能力はまだよくわかっていないけど…」
わからなくていい。私が隠すべき神秘だから。
ほむら「さて、ではさやか……まどか」
さやか「うん」
ほむら「次からはマミの指導の下で魔女退治は見学するように」
まどか「……ほむらちゃんは…」
ほむら「私は私でやるべき事があるからね」
私では二人を守れないし。
ほむら「マミ、二人を任せるよ」
マミ「…ええ、もちろんよ」 - 235: 2012/03/06(火) 14:11:49.65 ID:3XRfQJhAO
- 魔女退治は命がけだ。
私ですら油断すれば即死。
生身の人間が一発でももらえば、ただでは済まない。
マミの言う通り、最低限結界だけは作れなければ、一般人の安全は守れない。
私の魔法では結界を張る事ができないのだから、実力に差がなければ、断然マミの方が良いに決まっている。
ほむら(気難しい奴だが、二人を変に扱うことはないと信じよう)
外。夕陽が眩しい。
ほむら「……」
死体「……」
私は一人になった。 - 240: 2012/03/06(火) 18:20:07.23 ID:T2FKrKRn0
- マミ「……」
QB「どうしたんだいマミ、ソウルジェムをただぼーっと眺めてるなんて、懐かしい事をしているじゃないか」
マミ「うん…」
QB「何か気がかりな事でもあるのかい?」
マミ「晩御飯も、なかなか喉を通らなくって…」
QB「そういえばそうだね、マミにしては珍」
むぎゅ
QB「っぷぃ」
マミ「こら、そういうこと言わないの」
QB「やれやれ、君達は難しいね」
マミ「……ねえ、キュゥべェ」
QB「なんだい?」
マミ「私ね、本当は暁美さんが結界を張れるかどうかなんて…あまり、問題ではないと思ってたの」
QB「?」
マミ「ただ私がね、鹿目さんや美樹さんのような魔法少女の素質がある子を…後輩として、面倒を見たかっただけなの」
マミ「私、ずるいことをしたよね」
QB「別に良いんじゃない?」
マミ「…そうなのかな」
QB「君は実力の差を量る決闘で暁美ほむらに勝利したし、二人を守る結界だって張れる」
QB「適任者はマミ、君の言う通り、君だと僕も思っているよ」
マミ「……ありがと、キュゥべェ」
マミ「うん…もう寝るね、おやすみなさい」
QB「おやすみ、マミ」
マミ(…でも…暁美さん……ごめんなさい) - 241: 2012/03/06(火) 18:26:34.96 ID:T2FKrKRn0
- ほむら「目覚めたこー、ころはっ、走りっ、出したっ」
たんたんたたたん。
ほむら「みーらいをっ、描くためっ」
たんたたたん。
ほむら「難しい、道で、立ち止まってもー、空はっ」
たたんたんたんたたたたん。
ほむら「綺麗なあーおさで、いつも待っ、てっ、てっ、くれるっ」
たたたんたんたたたんたたたん。
ほむら「だから怖くなーいっ」
たたんたんたんたん。
ほむら「もう何があってもー、挫ーけぇーないっ」
たんっ。
RANK AAA
「おおー、すげぇ…」
「歌いながらかよ…」
ほむら「あれ、どこで間違えたかな…」
このゲームは記憶に響かない。しかも外れか。
しかしモヤモヤするのでSを取るまでやっていこう。 - 245: 2012/03/06(火) 18:52:07.05 ID:3XRfQJhAO
-
──私は貴女を助けたい訳じゃない
暗い世界。
座り込む彼女に言葉を投げる。
彼女は動かない。
私は無防備な彼女に手を伸ばして…。
彼女を…。
- 246: 2012/03/06(火) 19:12:54.74 ID:3XRfQJhAO
- ほむら「……朝か」
目を覚ます。
結局昨日はDDRをやっていたら補導されてしまった。
もうあの店に行く事はないだろう。見滝原は厳しい町だ。
Sを出せなかったのが心残りで仕方がない。
ほむら「いただきます」
今日の朝食はシーフード。
青魚に含まれるDHAは頭の回転を良くする。
また袋を破く手間がないだけ、素早く作ることができる。
準備は二分、食事は三分だ。
ほむら「ごちそうさま」
手を合わせる。
今日もまた学校に行かなくてはならない。
「にゃあ」
ほむら「大人しくしてなね、ワトソン」
いってきます。 - 257: 2012/03/07(水) 06:41:33.53 ID:4UCnC6YAO
- まどか「はあ……昨日はほむらちゃん、私達のために魔女退治してたのにな…」
さやか「でもマミさんの言ってることは正しいし…」
まどか「……でも私、なんだか申し訳ないっていうか…」
さやか「うん、わかるよ」
まどか「今日ほむらちゃんに、なんて声を掛けたら良いんだろ」
さやか「……ね」
まどか(私達、マミさんとほむらちゃんが喧嘩するくらいなら…魔法少女の素質なんて無かった方が良かったのかな) - 259: 2012/03/07(水) 12:18:07.67 ID:4UCnC6YAO
- ほむら「……」
まどか(机で何か考え事をしてる……)
さやか「ほむら、話しかけて来ないよね」
まどか「うん……」
まどか(…謝るってちょっとヘンだけど、自分から謝らなきゃ…これから仲良くしたいし)
ガタッ
まどか(あっ、席立っちゃった…)
さやか(トイレかな?)
ほむら「……中沢」
中沢「……へっ?」
まどか(えっ?)
さやか(えっ?) - 260: 2012/03/07(水) 12:25:52.76 ID:4UCnC6YAO
- 中沢「な、何かな暁美さん」
ほむら「まぁこれを見てくれ」
中沢「……トランプ?」
ほむら「好きなカードを一枚だけ選んで」
中沢「は、はぁ…じゃあこれかな」
ほむら「あっ、こっちには見せちゃだめ」
中沢「うん、はい」
ほむら「覚えた?」
中沢「覚えたよ」
ほむら「じゃあ今からシャッフルするから、好きな所でストップって言って」シャカシャカ
中沢「オッケー、ていうか暁美さんこれ何?」
ほむら「マジック」シャカシャカ
中沢「いやそれはわかるけど……ストップ」
ほむら「よし…」ガサガサ
ほむら「…中沢、君が選んだのはハートの3、これだろう?」
中沢「……ごめん…違う」
ほむら「えっ」
まどか「……」
さやか「…まあ…本人が気にしてないならわざわざ謝る事もないんじゃない?」
まどか「そ、そうかな…」 - 266: 2012/03/07(水) 18:49:35.10 ID:4UCnC6YAO
- ほむら「さやか、さやか」
さやか「ん?なに、ほむら」
ほむら「引いてくれ」
さやか「…う~ん、よし!じゃあこれかな」
ほむら「よし、じゃあカードをシャッフルして~…」シャカシャカ
仁美「暁美さん、今日は積極的ですわね」
まどか「みんなにマジック見せてるね」
仁美「マジック……ああ、私の所にも来てくださらないかしら…」
まどか「うぇひひ…仁美ちゃん、すごい楽しみにしてるね…」
仁美「それはもう!私、マジックを実際に見たことがほとんどなくて…」
ほむら「仁美ー」
仁美「はっ、はいっ!」
まどか「良かったね」
- 271: 2012/03/07(水) 20:18:38.03 ID:/HC+TtHN0
- ほむら「……」
昨晩毛布に包まれながら練習していたトランプのカットテクニックを中途半端に披露はしてみたが、肝心のマジックの方は反応がいまいちだった。
やはり地味すぎたか。
いや、それまで私のやっていたイリュージョン風マジックが全て過激すぎたのだ。
こうやって地道に、真のマジシャンの腕を磨くためには、少しずつ精進していくしかない。
ほむら「それにしても、おかしいな」
ソイジョイ(バナナ味)をむさぼりながら考える。
路上でマジックをしていた時などは脳裏に掠める感覚があったのだが、トランプマジックをしている間は特に感じることがない。
時間を止める能力に関わっているのか?いや、そういうわけではない。
やはり、大道芸的なマジックに何かが関わっているのだ。
何か、ピエロのような…。
マミ「……あら、屋上に来てたのね」
ほむら「ん」
弁当を持ったマミが現れた。 - 272: 2012/03/07(水) 20:25:23.97 ID:/HC+TtHN0
- マミはいつも美味しそうな弁当を片手にしているのだろうか。
今日は四角いバスケットの中にサンドウィッチを入れている。
野菜も多めで、なかなか健康に配慮した食事であると言える。私ほどではないが。
ほむら「んぐんぐ」
マミ「……」
マミが隣に座る。
私はもうすぐ食べ終わるので、長くは居られないのだが。
マミ「えっと……暁美さん、一昨日の…怪我はなかったかしら」
ほむら「怪我?ああ、特にないよ、ありがとう」
マミ「え?」
ほむら「私はかなり乱暴な形で決着を付けようとしたのに、マミは寸止めをしてくれた」
マミ「……そんな」
ほむら「マミは優しいんだな」
マミ「…そんなことないわ」
マミ「ねえ、暁美さん…今日、鹿目さん達を魔女探しに連れていくつもりなのだけど…よかったら、暁美さんも」
ほむら「私は無理だ」
マミ「…そう、なの」
ほむら「生憎と調べなくてはならないことや、やらなくてはならない事がある」
ほむら「魔女退治ももちろん並行して行うのだが、それ以上にやるべきこともあるんでね」
マミ「…わかったわ…うん、仕方ないわよね」
マミ(私のバカ…自分から取っておいて、何を言ってるのよ…) - 273: 2012/03/07(水) 20:31:13.69 ID:/HC+TtHN0
- 紙の束をマミに突き出す。
マミ「え?」
ほむら「引いてごらん」
マミ「え……その、これは?」
ほむら「トランプに決まってる、あ、一枚だけだから」
マミ「…一枚、引けばいいの?」
ほむら「ああ」
マミは中央のカードを引いた。
ほむら「……マミの引いたカードを当ててみようか」
マミ「…ふふ、なにこれ、マジックかしら」
ほむら「そう、マジックだよ」
シャッフルする。カードをよく混ぜる。マミのカードもそこに混ぜる。シャッフルする。
ほむら「さあ、切ってみて」
マミ「ええ、よーく切るわよ?」
ほむら「どうぞ、気の済むまで」
よく混ぜる。不慣れな手つきで、それでもマミは楽しそうに束を切ってくれた。
マミ「……はい」
ほむら「ああ」
私は切った後の束からカードを1枚、さも無造作であるかのように取りあげ、言う。
ほむら「マミの選んだカードは……ダイヤの11だね?」
マミ「ふふっ……違うわよ?」
ほむら「あれ?」
どうも成功率が上がらない。 - 285: 2012/03/07(水) 23:06:16.45 ID:/HC+TtHN0
- 帰宅の準備。
鞄に教科書などを詰めて、持つ。
程良い重さだが、盾の中にしまっておきたい気持ちが沸き上がって来る。しかしこのようなことで魔力は無駄にはできない。
まったく、魔法のない生活は億劫だ。記憶を失う前の私も、常々考えながら生活していたに違いない。
ほむら(さやかとまどかはマミと一緒に…だったな、よし、なら今日は魔女狩りはやめておくか)
せっかくの教材を取ってしまうのも悪い話だ。
私は私で、今日は好きな事をしよう。
というよりも、また記憶探しのようなものなのだが。
その他、魔女と戦うための武器なども並行して仕入れなくてはならない。
盾だけでも戦えないことはないが、盾での裏拳は魔力を消耗するのでよろしくはない。
何より守りの要である盾と、私の命であるソウルジェムの位置があまりに近すぎるのだ。
時間停止をしていなくては、怖くて裏拳は使いにくい。
ほむら(……さて、とりあえずはまず、あそこに行こう)
話はそこからだ。
「暁美さーん、今日この後空いてるー?」
ほむら「ん?すまないね、ちょっとやらなきゃいけないことがあるんだ」
「そっか、ごめんね」
ほむら「また今度だ」
いつになるかはわからない。 - 294: 2012/03/08(木) 07:53:54.39 ID:5nNLHnRAO
- ほむら「挫ぃ~けぇ~ないっ」
たんっ。
RANK S
ほむら「よし」
まずはやり残した事を済ませた。
何故私が放課後にここ、ゲームセンターにいるのかというと。
ズバリ、いつもと同じで記憶を取り戻す手がかりを探っているのだ。
眼鏡で虚弱だった私、暁美ほむらは当然、内気な性格だったに違いない。
少なくとも明るい気質ではなかったはずだ。
そんな奴がやることといえばひとつ。
ゲームだ。
ほむら「DDRはクリア、次は…」
趣味の一端から取り戻す記憶があるかもしれない。
色々と試してみよう。 - 297: 2012/03/08(木) 12:03:26.39 ID:5nNLHnRAO
- ──パンチングマシーン
ほむら「ッシッ!」
ドゴン。裏拳を叩き込む。
《242kg!ハイスコア!》
ほむら「よし、星が割れて余りあるな」
「おお~…」
「なにこれ、何やったの?」
──フリースロー
がしゃっ。網が揺れる。
ほむら「またハイスコアか……ま、カットラスよりは楽だな」
「すげえ」
「やべえ」
ほむら「………」
ほむら(何故私は肉体的なゲームばかりをチョイスしてしまったのだろう)
- 298: 2012/03/08(木) 12:23:02.26 ID:5nNLHnRAO
- 歩く度にポケットの中で鳴る硬貨たちがゼロになったことに気付いた私はゲームセンターを出た。
外はまだ明るく、人通りも多い。
ほむら「この時間なら大丈夫かな」
きっとゲームには私の記憶に関する手がかりがある。
そのためには多くの百円硬貨が必要だ。
魔法の力をもってすれば数万や数十万ごとき稼ぐことも容易だが、武器以外は極力自力で調達したいものだ。
路上で奇術を見せ、小銭をいただく。
暁美ほむらのために、可能な限りは無用な罪を背負いたくはない。
…しかし暁美ほむら。君は…。 - 309: 2012/03/09(金) 03:46:47.43 ID:p14grY5AO
- マミ「それでね、個人の魔法少女としての素質にもよるけど、魔女反応は魔女毎に違うから…」
さやか「はぁ~、色々あるんですね」
マミ「慣れてくればすぐに魔女と使い魔の反応も見分けられるようになるし、結構大切なのよ」
まどか「マミさんすごいや…」
マミ「うふふ、そんなことないわ…鹿目さんが魔法少女になれば、私以上に強くなれるわよ」
さやか「えっ、まどかが?」
まどか「キュゥべェにも言われました…けど、私ってそんなに因果っていうのが強いのかなぁ…」
マミ「………因果?」
さやか「ああ、何かほむらも言ってたね、因果の量で魔法少女の才能が決まるって」
マミ「何の話?因果って…」
さやか「ん~、ほむらが言ってただけなんでよくわからなかったんですけど…」
まどか「マミさんは知らなかったんですか?」
マミ「ええ、初耳……」
さやか「魔法少女によって、知ってることと知らない事ってあるんだなぁ~」
- 310: 2012/03/09(金) 04:01:57.60 ID:p14grY5AO
- マミ(…暁美さんは、私も知らないような知識を持っている…)
マミ(グリーフシードやキュゥべェの事に関してはあやふやだけど、彼女はソウルジェムが魔法少女の魂だと知っていた)
マミ(…魔法少女は魔女と戦い続ける…その覚悟はあったから、特になんとも思わなかったけど…)
マミ(ソウルジェム……私の魂………)
「おお~!消えた!」
「すごーい!」
マミ「?」
まどか「あっちの通り、賑やかだね」
さやか「よく路上ライブとか大道芸やってる道だね」
マミ「……少し、見に行ってみよっか?」
さやか「賛成!」
- 312: 2012/03/09(金) 04:18:43.33 ID:p14grY5AO
- ほむら「このナイフを一度ハットに入れると…はい、何もない」
ほむら「もっと入れてみましょう、小石も、花も、ハンカチも、…おっと、ステッキも入ってしまった」
ほむら「せっかくなので、先ほどのカットラスも、はい、収納」
ほむら「…ふむ、随分とハットが重くなってしまいましたが…どうしましょうか」
ほむら「せっかく入れた道具ですが、このままではハットが不便なので出してしまいましょう」
ほむら「ハットを逆さに……揺らして……なかなか出ないな」
ドサドサ
ほむら「おっと、スカートの中から全て落ちてしまった…これは失礼」
まどか「……かっこいい…」
さやか「へ~…ほむら、魔法少女でこういうことしてたんだ…」
マミ「………」
さやか「魔法って、こんな事にも使えるんだ…」 - 327: 2012/03/10(土) 13:29:14.45 ID:jZT1V+wAO
- 魔法少女は希望を振り撒き、魔女は呪いを振り撒く。
その希望と呪いの大きさは等しく、また抗うことのかなわない定理だ。
私もいつかは魔女になる。だが私は、どんな魔女に変わるのだろうか。
このまま私の記憶がもどらないのであれば、魔女になった時に初めて、暁美ほむらの呪い、その逆に位置する祈りが見えてくるのかもしれない。
まあ、魔女になるくらいならば、私は自害してやる。
最初からタネがわかっているマジックを同業者に見せるほど、私は落ちぶれていない。
ほむら「御静観、ありがとうございました」
見滝原の低い空に、無数の紙飛行機が舞う。
見上げる人々の目に映る太陽が煌めいている。 - 329: 2012/03/10(土) 15:13:11.09 ID:ctnXPdyT0
-
黄桃の空き缶に入った、小銭と少しの紙幣。特にこの千円紙幣には感謝しなくてはならない。
合計で4461円も集まった。私の年齢が低いこともあるだろうし、単純に見せた芸がそれ相応であったということなのだろう。
百円のゲームであれば44回も遊ぶことができる。これで今日の夜はゲームセンターで遊びつくせるはずだ。
…しかし昨日のように店の者に補導されてしまってはどうしようもない。今日は場所を変えなくてはならないだろう。
それと並行して魔女探し…はマミ達に任せるとして、私は武器の調達。
マジックの練習。小道具の調達…。
やることは多い。
魔女狩りをさぼるわけにもいかないので、明日か明後日にはマミ達には悪いが私も魔女の捜索をしなければならないだろう。
グリーフシードのストックはいくらかなくては安心できない。
ほむら(…小腹が空いたな)
ラーメンでも食べに行こう。 - 330: 2012/03/10(土) 15:42:59.24 ID:jZT1V+wAO
- 虚弱体質で頭脳明晰な暁美ほむら。
数多の魔女を倒し、勝ち抜いてきた魔法少女、暁美ほむら。
武器は盾。自分自身しか守れない小さな盾。
暁美ほむらは何のために生きてきたのか。
なんとなく、私は見当がついていた。
暁美ほむらは自身のためだけに戦ってきた。
彼女がいつから魔法少女として生きてきたのかはわからないが、きっと他人に施すような人間ではなかったはずだ。
暁美ほむらは最低でも、魔法少女を二人、殺したのだ。
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