さやか「全てを守れるほど強くなりたい」【完結】
- カテゴリ:魔法少女まどか☆マギカ
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- 235: 2013/08/08(木) 23:23:42.94 ID:dCtCcV3x0
- さやか「マミさん!」
急いでマミさんの脚に手を添える。
傷を治す回復魔法。燃費はあまり良くないけど、そんなことを気にしている場合じゃない。
ほむら「斬られたの、私をかばって、それで……」
さやか「剣でか……その脚は?」
ほむら「え、脚……あ、うん、あるわ」
さやか「治療するならくっつけよう。魔法ならできるはず」
ほむら「そうね、ええ……そうだ、盾の中に入ってるから」
ほむらが自分の盾を弄っている最中、風が吹き始めた。
吹き抜け、次第に強く、空気の量を増してゆく風だ。
さやか「……!」
魔女「キャハハハハハ! キャハハハハハハ!」
見上げれば、憎々しい巨体は再び、空の中に復活していた。
体は強敵を前に強張った。けど、やるべきことがある。
ほむら「……はい、巴さんの脚」
さやか「ほむらはそっちの脚に魔法を、私はこっち」
ほむら「ええ、わかった」
さやか「グリーフシード、1つか2つあれば足りるはず……!」
グリーフシードで魔力を回復することを前提に、両手に癒しの力を込める。
マミさんの脚に全力で回復魔法を使おうとした。
けど、マミさんは手でそれを拒んだ。
さやか「……マミさん?」
マミ「……大丈夫」
大丈夫じゃない。冷や汗を流して、顔がびしょびしょだ。かなりの失血もしている。
すぐに処置しないと、これでは死ぬしかない。
- 239: 2013/08/11(日) 21:45:39.46 ID:aIXvVXfu0
- マミ「……私の治療に使っていたら、グリーフシードがなくなっちゃうわよ」
さやか「……ワルプルギスの夜は倒します、けどマミさんを見殺しにはできない」
マミ「大丈夫、脚くらい、痛覚を切って……応急処置さえすればね」
マミさんのリボンが、切断された両足を巻き込みながら、過剰な包帯のように絡まってゆく。
ほむら「……」
私もほむらも、その様子を痛ましく見ていた。
確かに痛覚は遮断できる。リボンを強く巻けば止血もできるだろう。だけど傷が塞がるわけではない。
この処置はあくまでも応急処置に過ぎないのだ。
マミ「……うん、魔法のおかげね。立つくらいなら、なんとか」
ほむら「……お願い、巴さん。グリーフシードを使って」
マミ「この戦いが終わったあと、ゆっくり使わせてもらうわよ」
余裕そうな笑顔もぎこちない。それでもマミさんは、この戦いに身を賭しているのだ。
さやか「マミさん、いけるんですか。脚がないってことは、着地も蹴りもできないってことですよ」
マミ「リボンを使って移動するわ。どうせ空中戦だもの、ワイヤーアクションで戦うのに、それほど脚が重要でもないわ」
さやか「……わかりました、信じてますよ」
マミ「ありがとう」
ほむら「そんな……無茶よ」
たしかにきついだろう。空中で、すべてをリボンに任せて動くのは至難の業だ。
けどマミさんは覚悟している。当人が覚悟を決めていて、私達が受け入れないわけにはいかない。
マミ「どうしても勝たなくちゃいけないのよ……もしもこの脚が無くなっても、ワルプルギスの夜が生み出す被害と比べればかわいいものだわ」
ほむら「……ええ、そうね、確かにそう……冷静になりきれていなかったわ、ごめんなさい」
マミ「この時ばかりは、全力を振り絞らないとね」
さやか「!」
――全ての力を――
今なぜか、頭の中に煤子さんの姿が浮かんだ。
- 240: 2013/08/11(日) 22:02:42.92 ID:aIXvVXfu0
- さやか「……全ての力が合わされば」
ほむら「え?」
さやか「ごめん、ふたりとも。しばらく私抜きで、時間稼ぎでもいい、応戦をお願いできるかな」
二人は驚いたような顔をした。
けど私の中ではもう、これしかないと思っている。
負傷したマミさん、限られているグリーフシード、一度復活してしまったワルプルギスの夜。
チャンスが二度も三度も訪れる保証はない。
なら、先に行える手は打つべきだろう。
マミ「何か考えがあるのね?」
さやか「とにかく急ぎます、……数分かかるかも」
ほむら「ミサイルを2、3発ってところかしら……けど、何をする気なの?」
さやか「もちろん、ワルプルギスの夜をコテンパンにしてやるんだよ」
ほむら「……」
ほむら「……こんな大事な時だけど、時間がないなら理由は聞かないわ」
さやか「うん、ありがとう……3分経ったら、フォーリンモールの中央のミサイルを撃って」
ほむら「それで押し返すのね、わかったわ、それまではなんとかしてみる」
マミ「任せておいて。今度こそ、きっちり仕事をしてみせるから」
さやか「頼んだよ、二人共!」
返事を聞く暇も惜しい。私は軽くジャンプすると、左手のセルバンテスが生み出すバリアを蹴って、勢い良く空を跳んだ。
さやか(空の上なら、バリアの連続蹴りができる!)
目指すは風見野だ。
一刻も早く、杏子を探さなくては。
- 241: 2013/08/11(日) 23:26:24.52 ID:aIXvVXfu0
- 手負いのマミさん、ほむらの時間停止が効かない魔女、減りゆくグリーフシード、全快したワルプルギス、状況は悪い。
まだワルプルギスの夜を後方へと押し返すためのミサイルが何個も生きていることが救いだ。時間は十分に残っている。
さやか「ふッ……!」
バリアを蹴る。
小さく縮め、弾丸のように回転する身体が、空中を上向きに飛んでゆく。
さやか「はっ!」
今の時速は、普段、この道路を走るトラックの二倍以上は出ているかもしれない。
ゆるやかに落下する体は風を切りながら、陸橋を下をギリギリに潜り抜ける。
そしてまた、バリアを蹴って浮上する。
さやか(魔女を倒すための、単純な力が必要だ)
杏子の力がいる。
あいつは他人とは組みたくない、足手まといとは一緒に戦いたくないと言っていた。
けどそれならどうして、まだ戦いに姿を見せていない?
杏子の性格ならば、一日前には見滝原で待機していてもいいはずなのに。
理由は色々考えられるけど、それは重要ではない。
杏子が風見野にいること。これだけは確実だ。間違いない。
さやか「杏子……!」
早く見つけないと、マミさんとほむらが危ない。
さやか「杏子ぉおおお!」
私は灰色の空に叫んだ。
- 242: 2013/08/12(月) 00:22:10.43 ID:TOfr1uhz0
-
杏子「――」
QB「杏子? どうしたんだい」
杏子「なるほどな、今わかったよ」
QB「空模様は明らかに悪くなっている、着実にワルプルギスの夜が――」
杏子「っはァー、情けねえ。ったくよぉ、なんでアタシは、あんたの言うことをここまで正直に真に受けちまったんだかね」
QB「どういうことだい?」
杏子「わかったよ、今まさにな。ここからちょっと、こう歩けば……」
杏子「……ほれみろ、あっちの方が断然、悪天候だ」
QB「……」
杏子「あそこは丁度見滝原……か、その少し向こうだな」
QB「僕の予想も完璧ではないからね、多少の誤」
QB「さ――」
杏子「それ以上喋んな。あと、戻ってこなくていいからな、糞野郎め」
杏子(……わずかに、炎が滾る感覚がある)
杏子(ちっぽけだが、だからこそわかる感覚だ)
杏子(あんただろ? さやか)
「杏子ぉおおお!」
杏子「……へっ、ほら、やっぱりね」
- 244: 2013/08/12(月) 15:44:59.81 ID:TOfr1uhz0
- 目視で杏子を見つけるのは難しい。
屋外にいるかも謎だ。声で呼ぶか、テレパシーしかない。
……ここはまだ、嵐の最中というほどではないため、人が出歩いているかも。
大っぴらに空を飛ぶのは危険だ。ただでさえ今は、見上げるには丁度いい頃合いなのだから。
さやか『杏子! どこにいるの!』
テレパシーを強く振りまく。
相手が聞こうとしていなければテレパシーは届かない。でも杏子がわざわざ遮断しているとは思えない。
今はとにかく、信じて叫び続けることだ。
なんとしてでも杏子を見つけないと……。
杏子「よう」
さやか「え」
目の前に突然の杏子。
杏子「久しぶりだなオイ」
さやか「ぐえ」
そして、私の腹に食い込む足。
杏子「何しに来た」
言葉の端がフェードアウトし、私は民家の屋根に叩きつけられた。
- 245: 2013/08/12(月) 20:59:54.23 ID:TOfr1uhz0
- さやか「……」
丈夫な屋根で良かった。あと、ふっとばされた角度も幸いしただろう。
人の迷惑にならずに心底安心した。
杏子「気絶してねえだろうな」
杏子は私の真横に降り立った。
臨戦態勢の魔法少女の出で立ちだ。槍まで握り、いつでも戦いに赴ける姿である。
ワルプルギスの夜と戦うための準備ができているということだ。
さやか「何しに来たって……わかるでしょ」
杏子「まあな」
さやか「いでで、背中痛い、ちょっと起こして」
杏子「……」
渋ったような顔をしながらも、杏子は黙って私の手を引いた。
立ち上がった私は見滝原へと向き直り、その先にある曇天を睨む。
さやか「キュゥべえにでも足止めされてたんでしょ」
杏子「ああ、あんたが呼びかけるまでは気づきもしなかった。我ながら情けないよ」
さやか「戦いはもう何分も前から始まってる」
杏子「チッ」
- 246: 2013/08/12(月) 21:24:18.66 ID:TOfr1uhz0
- 屋根の上を二人で走る。
さすがは肉体派の杏子だ。私をいつでも追い抜けるくらいの速さで、風見野の空をフリーランしている。
さやか『マミさんとほむらも一緒で、今は二人が食い止めてる』
杏子『食い止めてるだぁ? ハッ、まぁあいつらじゃその程度か』
さやか『一度は追い込んで、奴の結界の中にまで入れた。結界の中に魔女がたくさんいて、それがワルプルギスの原動力になってる』
杏子『そいつらがつえーってわけか。やられたのか?』
さやか『……マミさんが怪我してる。あのまま続けていたら、私もダメだったかも』
杏子『ほーぅ……? オッケー、なら良かった』
さやか『良かないでしょ』
杏子『良いのさ、強い奴がいるなら、私は強くなれるんだ』
まーたこの子はそういう……。
杏子『この世で最も強くなれなきゃ、どんな悪も倒せないからな』
さやか『――……』
杏子『チッ、念話だと口がすべるな、忘れてろ』
さやか『ねえ今』
杏子『うっせえ!』
戦線離脱から、そろそろ3分が経つ。
私たちは丁度、見滝原に入った頃だった。
- 248: 2013/08/12(月) 22:16:20.18 ID:TOfr1uhz0
-
杏子『近づいてくとわかるけど、ほんとでかいね、ありゃあ……』
さやか『うん、使い魔も周りに出してくるし、攻撃も容赦無いよ』
杏子『アタシは平気だけど、マミたちは死んでるんじゃないだろーね?』
さやか『……3分までは保ってくれると信じてる』
杏子『3分ねえ、見滝原からここまで来たんでしょ?なら軽くオーバーしてるんじゃないのか?』
さやか『……大丈夫』
高くそびえ立つ建物を見上げる。
魔力で強化した目が、その縁にある突起物を捉えた。
さやか『うん、大丈夫。杏子』
杏子『ああ?』
さやか『ついてきて、ていうか、ついてこれる?』
杏子『こっちのセリフだよ、バカにすんな』
さやか『一秒も待たないからね!』
杏子『はっ』
セルバンテスで、真下へバリアを生み出す。
さやか「お先に」
杏子「!」
私は強く反発する足場を蹴って、高く跳び上がった。
目指すはフォーリンモールの屋上。
ほむらが施設したミサイルが残っているはずだ。
- 250: 2013/08/12(月) 23:14:31.47 ID:TOfr1uhz0
- さやか「ふっ!」
最後の一発はちょっと飛びすぎた。
足がしびれる衝撃に耐え、屋上の荒れたタイルを時々割りながら、全力でミサイルのもとへ駆ける。
さやか(よし……!)
申し訳程度の薄いシートで覆われた発射台。
ミサイルはまだ発射されていないようだ。
私はシートを強引に引きちぎって、ミサイルを露わにした。
杏子「っはぁ……! くっそ、垂直はキツイなぁオイ……!」
杏子は少し遅れてやってきた。どうやって登ってきたのか、その方法には興味があるけど、気にしてはいられない。
さやか「杏子! これに掴まって!」
杏子「はあ、おめ、はっ……何ほざいてるか解ってるか……!」
さやか「私たちの重さでかなり沈むから弾道を上向きに、噴射は魔力で強化……」
杏子「オイッ! 聞け人の話を!」
固定された台を、更に上向きに修正する。
操作には慣れていないけど、ほむらがやっていた操作通りだ。
……よし、なんとかミサイルの向きも変わった。
さやか「弾道計算のメモ帳はチラ見しただけだけど大丈夫、どうせ軌道だって、空中を蹴ったりすれば補えるでしょ」
杏子「……呆れて物も言えねえ」
さやか「説明する暇はないんだ、私のバリアでの移動は、誰かと一緒にってのができるほど器用でもないし……」
杏子「あーもういい、わかったよ、わかった、あんたが何考えてるのかはわかった、やってやるよ」
さやか「やる前提で呼んだんだよ、今更何言ってんのさ」
ミサイルを抱きかかえるように、私はしがみついた。
先端を抱え込み、勢いで吹き飛ばされないように。
杏子も同じようにして、ミサイルに張り付いた。
杏子「くそ、ふざけやがって……上手くいくわけねえだろこんな……」
さやか「けど、マミさんを見殺しにはしたくないんでしょ?だから乗った」
杏子「もうお前ホンット黙れ!」
さやか「あっはは!」
- 252: 2013/08/13(火) 17:00:27.64 ID:6dJ1lCX20
- マミ「ティロ……スピラーレ!」
ほむら「!」
ほむら(巴さんはまだ頑張っている……リボンを張り巡らせて、飛び回りながらワルプルギスの夜を押し返している)
ほむら(でも動きは悪い。脚が使えないのは、やっぱり痛手なんだ)
魔女「アハハハハハ!」
マミ『くっ……! 前進が早すぎる!』
ほむら『時間を止めるわ! ミサイルで押し戻す!』
マミ『数には限りがあるんでしょう!? まだ私の攻撃で食い止め……きゃぁ!?』
ほむら『巴さん!』
ほむら(巴さんが嵐に煽られた! ワルプルギスの夜に近づきすぎたんだわ!)
ほむら(あのままじゃリボンで移動するなんてできない!)
ほむら(ダメ、今すぐにでも発射して、時間を止めないと……!)
ほむら(巴さんが着地もできないまま……!)
- 254: 2013/08/16(金) 16:58:16.95 ID:ZODHnlIx0
-
『その必要はないよ』
弾頭が風を切る。
角度がコントロールされ、魔法の力で強化された噴射は、大質量のミサイルをまっすぐ標的へと運ぶ。
あと五百メートル、二百メートル。
巨大な敵の姿はもう、目を瞑る間もなくそこにある。
杏子の髪飾りは、ワルプルギスの夜に近づくほどに燃え上がった。
滾る炎は、かつて私と戦った時よりはるかに大きい。
流れる髪に炎の尾を引きながら、杏子の機嫌は最高潮のようである。
杏子「よお! てめー強いんだってなぁあ!」
ミサイルと、そしてブンタツを握った杏子の衝突は同時だった。
重心を捉えた2つの流星は、ワルプルギスの夜の巨体を、まるで紙くずのようにふっ飛ばしていった。
それまで侵攻していた距離よりも遥かに後退させ、最も過疎な地帯にまで押しやったのだ。
さやか『ふう、間に合ってよかった』
マミ「! 美樹さん」
ワルプルギスの無重力空間から解放され、宙にあおられていたマミさんが正しい姿勢を取り戻す。
念の為、体を受け止められるようにマミさんの近くまで来てみたが、マミさんは自分自身で復帰することができたようだ。
ほむら『さやか、今のミサイル……』
さやか『手動で撃てるように教えたのはほむらでしょ? まあ、弾道はかなり無理やりだったけど』
マミ『今一瞬見えた人って』
さやか『杏子です、向こうでキュゥべえに足止めされていたみたいで……』
ほむら『……卑劣な奴!』
キュゥべえはどうしても、魔法少女達に勝って欲しくはないのだろう。
しかし杏子を足止めするってことは、私がいても勝てはしないとでも思っていたのだろうか?
むかつくやつだ。もしこの戦いが終わったら、バリアの上に乗せて無限バウンドの刑にしてやる。
『おりゃぁあああ!』
遠くからテレパシーの叫びが聞こえてきた。
……杏子はもう、一人でワルプルギスと戦い始めているのか。
早く行かなくちゃ。
- 255: 2013/08/16(金) 17:48:19.71 ID:ZODHnlIx0
- 杏子「最強の魔女って聞いたからどんなやつかと思えばァ!」
両剣が踊り、ワルプルギスの身体を切り裂いてゆく。
杏子「ただデカいだけが能ってわけじゃねえだろうな!」
漕ぐような剣捌きは、斬ると同時に杏子の身体を思い通りの方向に運ぶこともできた。
ワルプルギスはただ黙って斬られているわけではない。ちゃんと反撃を行っていたのだ。
そこにいたのは紛れも無く本気を出しはじめたワルプルギスの夜。無重力を生み出し、嵐を吹かせる難敵だ。
杏子「図体だけで、強いだけでアタシに勝てると思ってんのか!?」
杏子は攻撃とともに、避けてしまうのだ。攻撃とともに、吸い付くように接近できるのだ。
攻撃と回避、攻撃と接近、無駄のない動きで、ワルプルギスの夜をズタボロに切り刻んでいる。
マミ「……佐倉さん……すごい」
ほむら「……バケモノね」
私達は駆けつけたはいいものの、杏子の奮闘を前にして動けないでいた。
以前に言われた言葉を思い出す。
私達は黒子のようなものなのだと。言葉のままだったということか。
杏子『あの白化け猫に騙されていたのはアタシの大ポカだよ』
さやか「!」
杏子『気付かせてくれたアンタらには感謝してる』
杏子『けど、アンタらはさっさとお家に帰りな』
さやか『は、はぁ!? ふざけんな!』
杏子『一番強いのはアタシなんだよ、アタシがこいつをぶっ殺してやる』
さやか『バカ! この魔女はさすがに、杏子一人じゃ――』
その時、空間が歪んで見えるほどの突風が吹いた。
- 256: 2013/08/16(金) 20:01:28.94 ID:ZODHnlIx0
- 平らな地面でよかった。
ここは10tトラック用の広い駐車場か。
住宅地のようにごたごたした場所だったら、一緒に飛んできたものに巻き込まれていたかも。
さやか「がふっ……!」
それでも小さな倉庫の外壁に叩きつけられると、ちょっと痛かった。
物にぶつかって戦線離脱しなくて良かったと、前向きになるべきだろうか。
マミ『ワルプルギスが、周りのものを吹き飛ばすくらいの風を発生させたみたい……!』
さやか『の、ようですね……いたた』
マミさんはリボンで自らを地面へ固定し、辛うじてその場で堪えたようだ。
けど、一緒に吹き飛ばされたであろうほむらと杏子の姿は見えない。
風は一瞬の事だったので、どこかにいるはずだけど……。
杏子「……へっ、良いじゃんか。あれくらいで終わったら、何の面白みもないもんな」
私が辺りに二人の姿を探していると、倉庫の窓から杏子が這い出てきた。
受け皿になったのだろう、大きくひしゃげた雨戸を放り捨て、私の隣へ降り立つ。
その腕の中には、ほむらが抱きかかえられていた。
さやか「ほむら……! 無事?」
杏子「よえー奴が挑むからこうなるんだ」
さやか「……」
目は閉じているが、呼吸はある。衝撃で気を失っただけのようだ。
魔女「アハハハハ、アハハハハハハ!」
杏子「弱いやつは素直に、コソコソとな」
気絶したほむらは優しく地面へと預けられ、魔女を見据えたままの杏子は、向かい風に歩き出す。
杏子「強い奴の背中に隠れていればいいのさ」
- 257: 2013/08/16(金) 23:45:23.28 ID:ZODHnlIx0
- 槍を傍らに、風に向かって前進してゆく杏子の後ろ姿は、何者よりも頼もしかった。
しばらく感じたことのなかった、大人のように心強い背中。
――……つーわけだから、風見野はアタシのテリトリーだ、近づくなよ
ほむら「……」
――アンタは弱い、アタシには近づくな
マミ「……」
杏子「…………よくも」
杏子「やってくれたじゃねえかよ……クソったれが……」
杏子「お前は……アタシの敵だ……」
杏子「てめえは弱者をいたぶるゴミ野郎だ……!」
杏子「てめえみてえな輩をぶっ潰すために……アタシはこの生命を燃やしてんだ……!」
髪飾りが噴くように燃え上がる。
火花が散り、その熱は風に乗って私にまで届いた。
……熱い。
杏子「贖罪なんか許さねえ! 一度も! 二度目も無ぇ!」
杏子「てめえはとっくに線を超えた! 主文!全部後回し! てめえは……てめえだけは!」
――この世で最も強い魔女かい?
――それは、魔法少女を最も斃してきた魔女ということかな
――それなら間違いない、現在までで間接含め411名の魔法少女を葬った……
――ワルプルギスの夜だ
杏子「死刑だッ!! ワルプルギスッ!!」
- 260: 2013/08/17(土) 23:48:42.28 ID:Le8WHb+60
- 杏子の怒号に応じてか、空に浮かぶワルプルギスも一際に大きな声でせせら笑った。
黒い靄が周囲に渦巻き、そこから暗い影が、雨のように産み落とされる。
魔女「ピュイィィイイ」
魔女「キィイイイィッ!」
魔女「ケロケロケロケロ……」
さやか「あれは……魔女か!」
ワルプルギスの辺に発生した異形の生物。ソウルジェムの反応が、それらは使い魔ではなく魔女であることを警告している。
いずれもコウモリ、鳥などの翼のある魔女たちだ。空を飛び攻撃することのできるやつらであることは、見た目からもわかる。
杏子「いいよ、すぐに執行してやる……まずはお前達からだ、金魚のフン共……!」
私もマミさんも、彼女を止めることはできない。
止めなければ、一人で飛び込むのは危険……だと。そうは、全く思えなかったから。
杏子「まとめて相手してやらァ!“ロッソ・カルーパ”ァ!」
髪留めの炎が噴火し、長く、大きな龍を成す。
『ガァアアアアァアアッ!』
火炎の龍は地獄の底からの慟哭ように不吉な叫び声を上げ、鎌首をもたげた後、一番近くの魔女へ向かって炎を延ばした。
魔女「ギェァァァアッ!」
『ォオオオォオオオォッ!』
巨大な炎の龍はしっかりと魔女の腹へ噛み付き、灼熱の牙をその内部へと食い込ませる。
杏子「アタシに喧嘩を売って、ただで済むと思うんじゃねーぞ!?」
さやか「!」
魔女へ噛み付いた龍を基点にして、槍を携えた杏子が中へと持ち上げられる。
さやか(これが杏子の空中戦のやり方か……!)
髪留めで燃える炎の龍、ロッソ・カルーパ。
あれは私との戦いで見せたような、ただ噛み付き、燃やし、爆発するだけの龍ではないのだ。
操る自分自身をも持ち上げ運ぶ、空中での動きの要となる魔法だったんだ。
杏子「どうしたノロマ共が! 一発くらい決めてみねえかよ!」
空をうねうねと動きまわる杏子の軌道には、どの魔女も追いつけない。
鳥と龍の戦いの結果などは明白だ。龍が相手に有無を言わさず噛み付いて、身動きを取れなくしてしまう。
杏子「だりゃぁッ!」
そして龍の尾として、杏子の槍は周辺の魔女を次々に貫き、龍以上に多くの相手を引き裂いてゆく。 - 261: 2013/08/18(日) 00:02:45.26 ID:J3uI/7au0
- マミ「嘘……ロッソ・カルーパは、戦いの中では一度きりしか使えない魔法のはずなのに……」
マミさんは空でうねる龍を見上げながら、呆然と呟いた。
火炎龍は暗雲の中で暴れ周り、杏子の身体を運んで魔女を殲滅している。
無双、という言葉が頭のなかに浮かんだ。
さやか「……ワルプルギスの夜が、あまりに強力だから」
マミ「え?」
さやか「ワルプルギスの夜の力が強すぎるから……杏子の炎が燃えきっていないんだ」
マミ「! だからあの炎を、何度も使えるのね」
さやか「ええ、多分……」
噛み付いても噛み付いても、炎の龍に消滅の気配は見られない。
いつまでも杏子の体の一部のように動きまわり、術者と同じように大暴れしている。
さやか「最初から思ってたことなんですけど……」
マミ「うん……」
さやか「杏子……怖いな……」
荒れ狂うワルプルギスを目の前に、複数の魔女を相手に圧倒している。
鬼神だ。戦闘狂、この二つ名はこの時今いまさに、最もしっくり来るものだった。
マミ「……でも」
さやか「?」
マミ「佐倉さん……きっと、形は違うかもしれないけど……間違いなく彼女も、正義の味方だと思うの……」
さやか「……」
マミ「今まで私は、彼女を誤解し続けていたのね……」
殺気に満ちた形相で槍を振り回す、一人の少女。
怒り。闘志。敵意を剥き出しに荒れ狂う彼女の姿は、ヒーローと呼ぶにはちょっとキツいものがある。
けど私もマミさんと同じように、彼女の中にある“正義”の表情をしっかり目撃した。
戦闘狂バトルシスター。
戦いに傾倒する彼女は、すべてこの時のためのものだったのだろう。
- 263: 2013/08/18(日) 21:49:46.79 ID:J3uI/7au0
- さやか『杏子! ワルプルギスの夜は、背中の結界に無数の魔女を保管している!』
杏子「!」
さやか『魔女のエネルギー総数がワルプルギスの命だ! それまではいくら傷つけても再生してくよ!』
杏子「へぇ、希望のある話じゃん……良いことを聞いた」
残る鳥の魔女は5体。
距離も高さもバラバラな場所から、杏子にターゲットを絞って迫っている。
マミ『佐倉さん、今助太刀にいくわ!』
杏子『ぁあ!? 引っ込んでな!』
さやか『あんただけじゃ手のかかる相手でしょうが! 私達と一緒に、さっさと終わらせるよ!』
マミさんと共に地上から飛び立つ。
お互いに狙いは、杏子から離れた場所にいる魔女だ。
マミ「鳥を撃つなんて、私にとっては簡単すぎることよ」
輝く弾丸は一番左の魔女を狙い、翼を貫いているようだった。
ということは、私は反対側の魔女を狙うべきだろう。
さやか「杏子! そこらの三体は任せたよ!」
杏子「だからいらねえって言ってるだろ!」
さやか「いいから!」 - 265: 2013/08/19(月) 19:32:28.91 ID:+nDoBUrN0
- さやか(“五芒の斬”!)
セルバンテスによる急接近からの乱切り。
翼、首、胴、脚、なんでもいい。とにかく相手に動く間を与えず、斬り裂き続ける。
刃の嵐に揉まれた魔女は細切れになり、風の中に散っていった。
杏子「チッ、引っ込んでろってのに……!」
さやか『これは杏子だけの戦いじゃないんだよ!』
杏子『ぁあ!?』
燃え盛る龍の顎が、灼熱の牙をコウモリに突き立てる。
もがき暴れる魔女をその場で微動だにさせず、杏子の槍はまた別に迫る魔女の首を跳ねた。
さやか『私達はすでに決心したんだ。危険は承知、顧みずにここにいる』
杏子『アタシより弱いくせに……』
さやか『見くびるな、あんときドローだったでしょ!』
杏子『はぁ!? ドローだぁ? よく言うぜ、本気でやってりゃあの戦いは……』
マミ『ちょっとよそ見しないで! 上から魔女が!』
つい念話での言い合いに没頭してしまった。
気づけば、大鷲の鋭い鉤爪は私と杏子、二人の頭を狙っている。
が、その爪がこちらまで届くことはなかった。
大鷲は突如、爆炎に包まれ消滅してしまったのだ。
杏子「っ……!」
さやか「うぇ、けほっ、けほっ……!」
ほむら『……手間をかけさせちゃったみたいだけど、今のでチャラでいいかしら』
さやか『……無事だったんだ、良かった』
ほむら『こっちの台詞でもあるけど』
杏子『チッ……』
- 267: 2013/08/20(火) 22:43:35.04 ID:3s7nkD8j0
- ほむら『……本気で、全力をもって挑みましょう。ほんの少しでも余力を残しておこうだとか、思わないで』
今まで何度も戦い続けてきた彼女が言うからこその、重みのある言葉だった。
杏子がそれを感じ取ったのかはわからない。渋々でも、承諾の意志を沈黙で示しているようだ。
マミ『佐倉さん。……遅くなっちゃったけど、また一緒に戦えて嬉しいわ』
杏子『止せよマミ、あんたのそういう所も嫌だから距離を置いたんだぞ』
マミ『えっ……?』
さやか『どういうこと?』
マミさんとは、ワルプルギスの事があって別行動を取っていたんじゃなかったのだろうか。
杏子『マミの言葉はいちいち演技がわりーんだよ』
マミ『えっ、えっ!? そ、そうなの?』
さやか『ぶふっ』
私が噴き出した丁度その時、ほぼ同時にワルプルギスの夜の周囲に異変が現れた。
魔女を呼び出す黒い靄だ。
◆王騎の魔女・ブリュンヒルデ◆
◆反旗の魔女・ジークリンデ◆
◆黄銅の魔女・ヴァレンティーネ◆
◆斬鬼の魔女・アーデルハイド◆
◆孤高の魔女・レオポルディーネ◆
◆一騎の魔女・ヴィルヘルミーナ◆
さやか(……こいつら……結界の外に出てきたか!)
杏子『ほれみろ、厄介そうな奴らのお出ましだ。マミ、あんたのせいだからな』
マミ『え、ええっ!?』
ほむら『狼狽えていないで、迎え撃つわよ!』
そうだ。本気にならなくては。
奴らは、冗談交じりに戦って勝てる魔女達ではないんだ。
- 269: 2013/08/21(水) 22:18:41.27 ID:6FMkaHtK0
- 王騎「ジンケイ! サンカイ!」
孤高「ショウチ」
一騎「リョウカイ」
黄銅「ヨーソロー」
斬鬼「マカセロ」
反旗「……」
金鎧の魔女が声を発すると、複数の剣士の魔女は意志を得て整列した。
横に広がりる陣形。私達を多方向から襲うつもりなのだろう。単純だけど、数の上で優っている相手の当然の戦略と言える。
こちらには杏子がいるとはいえ、相手もかなりの手練だ。ほむらの時間停止が効かない黒マントの魔女もいる。
杏子『楽しそうな魔女じゃねえか、オイ』
さやか『……気をつけて、あのうちの一体はマミさんの脚を斬った』
杏子『凄さがわからんね』
マミ『気をつけて、あっちのベレー帽の魔女は、銃と剣が一体化したものを使ってくる』
黄銅「……」
さやか(あいつか……なるほど、確かによく見れば、銃も兼ねているような武器を持ってる)
剣士ばかりだと思っていたけど、離れた位置から攻撃できるやつもいたとは。これは厄介なことになりそうだ。
杏子『じゃあベレー帽同士で仲良く打ち合いをしててくれ、そのほうがマミもやりやすいだろ』
マミ『! うん』
杏子『アタシは西洋剣共を叩き切る。片刃はさやか、おめーがやれ』
さやか『ちょっと、勝手に……』
ていうか片刃刀の魔女なんて、一体しかいないし。
王騎「シュツゲキセヨ!」
杏子『ほら、敵は待っちゃくれねーぞ!』
勢いに飲まれたまま、魔女たちとのリベンジは始まった。
私は私の敵を見据えて、睨む。
斬鬼「――キナ」
さやか「――」
しかし、サーベルと日本刀。なかなか良いカードじゃないか。
今こんな時になんだけど、面白い。いっちょやってやりますか。 - 271: 2013/08/22(木) 22:57:19.49 ID:pI6q/ZpY0
- 魔女「キャハハハハハハッ!」
さやか「!」
ワルプルギスの夜が、強烈な突風をこちらへ放った。
……いやそれは正確じゃない。この風の目的は別にある。
斬鬼「オソイ!」
風に乗せ、魔女を加速させるためのものだ。
追い風と共に一気に距離を詰めた魔女の刀は、私が打ち合おうとする前に首を跳ねるだろう。
さやか「フッ!」
斬鬼「!?」
棒高跳び、背面飛び。
背中を反らし、魔女を刀をギリギリで避ける。
マントが切り裂かれるのは仕方ない。ほとんど飾りのようなものだから。
さやか「ッシ」
斬鬼「ッ」
躱しながら放ったサーベルの突きは、魔女も魔女で複雑な動きによってそれを避けてみせた。
魔法の脚力で僅かに跳んだ私の下を、勢い付いた魔女が滑るように過ぎ去る。
さやか「おっと」
斬鬼「ホウ」
去り際に放たれた2つの斬撃を篭手でいなす。
そして確信する。
さやか(勝てる)
杏子とは全然違う。全然余裕。
こいつには勝てる。
- 274: 2013/08/26(月) 22:44:00.28 ID:p4MIuhIc0
- 黄銅「テェ!」
マミ「!」
マミさんはベレー帽の魔女と、早くも銃撃戦を繰り広げていた。
彼女と魔女は、お互いに銃というものを知り尽くしているのか、放たれる弾丸を当然のように避けている。
マミさんはリボンを使った縦横無尽な動きと、身体に魔力を込めた空中遊泳による回避だ。
対する魔女の方は、ワルプルギスの嵐が運んできた廃材を足場に、身軽に飛び移り、対応している。
……どちらも技術は桁外れだ。マミさんは言わずもがな、特に魔女。
魔女なのに経験を積んだ達人のようなあの動きは、ちょっと卑怯だと思う。
マミ(くっ……隙がない)
黄銅「テェエィッ!」
魔女が放つ弾丸もまた、マミさんの操るマスケット弾と同じく単発式らしい。
それでも素早く移動しアクロバティックな態勢から合間なく正確に射撃してくる魔女に、マミさんはしばらくの防戦を強いられているようだった。
マミ(ティロ・スピラーレを発動させるには集中する必要がある……相手の動きを補足して、しかも相手の射撃を避けながらは不可能!)
広範囲を打ち砕くティロ・スピラーレも、まだ発動できていない。
それほど余裕が無いということか。
さやか「“三畳一間”」
斬鬼「!?」
高速のフェイントが、魔女の刀を打つことなく翻る。
身体は宙で捻られ、浅い跳躍が二歩分、身体を後退させた。
フェイントに身構えた手練れの相手が、フェイントに気付き反撃を繰り出す剣の間合い、およそ二歩。
その二歩分を、フェイントの戻しと同時に逃げるのだ。
斬鬼「――」
もう遅い。
一度“斬れる”と大きく振ってしまっては。
次の私の一撃を躱せない。
今までの誰もがそうだったように、あんたも例外なくね。
さやか「“断”!」
- 277: 2013/08/27(火) 23:08:37.00 ID:72MPybVT0
- 斬鬼「――ミゴト」
さやか「どうも」
首がこぼれ落ちて、魔女の身体は嵐の中へ飲み込まれた。
砂のようにあっけなく散ってゆくサムライの姿に、一抹ほどの虚しさを覚える。
あの魔女はかつて、私と同じ魔法少女だった。
もしかしたら、私のように……武芸を嗜んでいたのかもしれない。
私もああなっちゃうのかな。
さやか(後のことは、後に考えるけどね)
ふっ、それも武士の散りざまってやつよ。
……それよりも、今は勝てるかどうかだ。
黄銅「フッ……!」
マミ「!」
マミさんの戦況に変化ありだ。
魔女が撃ち方をやめ、空中にあるリボンを足場に、接近を試みている。
魔女も上手く避け続けるマミさんに痺れを切らせたんだろう。
銃と剣が一体になった武器、その剣のほうで、直接攻撃するつもりだ。
接近戦なら私が入り込む余地がある!
ちょっと距離があるけど、バリアを踏んでいけば一気に……。
マミ「かかったわね」
黄銅「!?」
さやか「!」
リボンの上を走る魔女は、マミさんの得意げな顔に危機感でも覚えたのだろう。
まさしく人間業ではないバックステップで接近を取りやめ、魔女は銃口を向ける射撃状態へと切り替えた。
身のこなしは素早い、判断力もある。強敵だ。だけど……。
マミ「あなたはもう、蜘蛛の巣の中よ……!」
- 279: 2013/08/28(水) 20:25:21.08 ID:1APRqJsl0
- マミさんの技術はそれを上回っていた。
一帯に張り巡らされていたリボンの中の一本が、勢い良く引き抜かれる。
手に握られているリボンは長く、リボンの結界全てと繋がっているかのようだ。
黄銅「……!」
リボンがすり抜ける見えざる音が魔女を囲んでいた。
次にどう来るか、予想はつかない。魔女は迷わずに銃をマミさんに向けている。
マミさんをどうにかすれば、それが自分の防御にもなるだろうと判断したのだろう。当然の反応だ。同じ立場なら、私だってそうするだろう。
マミ「“トッカ・リウート”」
黄銅「――」
マミさんの手に一条のリボンが全て巻き取られると、リボンの結界は“たが”が外れたように、一斉に形を変えた。
辺りで足場としてしか活用されていなかったリボンは、中心部の魔女に向かって勢い良く弦を張る。
打ち付けられたいくつものリボンは、その強い勢いで魔女の身体をバラバラに切断した。
引き金に指をかけたままの銃剣が、その役目を果たすことなく、二等分にされて消滅してゆく。
マミ「名誉に思いなさい。なけなしの足場を使った、一回きりしか使えない、一撃必殺の技よ」
黄銅「――」
二体目も撃破。
あとは、杏子の戦いか。
- 281: 2013/08/29(木) 23:02:39.23 ID:TZLX6n2f0
-
杏子を、2体の魔女が囲んでいる。
一体の金ピカの魔女は遠目から、それを見ているだけだ。
一方的な魔女による虐殺が行われているか、といえば、それは全く違った。
王騎「イチゲキリダツ! ボウエイ!」
杏子「遠くからブツブツ指示出してんじゃねーぞオラァ!」
違った。違うにも程がある。
一騎「ォオオオォッ!」
孤高「ユカセン!」
杏子「さっさとどきなァ!」
杏子がたった一人で、三体を圧している。
離れた場所に浮かぶ司令塔の魔女を目指し、二体の魔女を弾き飛ばしながら突き進んでいるのだ。
二体の剣士は今日この猛攻を食い止めようと本気で襲いかかってはいるものの、どんな攻撃も、どんな妨害も通用していない。
猛る炎の龍に、荒れ狂うブンタツの前には、魔女の剣でも刃が立たないというのか。
王騎「クイトメ――」
杏子「もう終いだよ、クソ野郎共め」
杏子が二体の魔女の間を通り抜ける。
ブンタツの両端の刃は、二体の首を同時に切断した。
- 284: 2013/08/30(金) 23:27:46.46 ID:2xqKOIRW0
- 炎を引き連れて迫る赤い死神は、もうすぐそこに。
安全圏から指示を出すだけの魔女は、その手に握った黄金の剣を振り上げることもできていない。
王騎「ダレカ、ダレカオラヌカ――」
杏子「他人をこき使い、弱者を虐げ、そのくせ一人じゃ何も出来ない野郎が……」
杏子「一番ムカツクんだよッ!」
ブンタツの刃が魔女を十文字に切り裂く。
なんてことはない、四等分にされた魔女は断末魔をあげることも出来ず、すぐに消滅した。
……まさか、あの強い魔女を3体同時に仕留めてしまうとは、驚きだ。
さやか「……」
いや、驚くな。感心している場合じゃない。違和感がある。
私もマミさんも魔女を倒した。杏子も三体……。
一体はどこに消えた?
さやか(いや! あの魔女はマズい!)
ワルプルギスの次の動きに気を配ることもなく、注意を他の全てに向ける。
その魔女が隙を狙ってくるとしたら、まさに今、ひとつの戦いが終わったこの時だ……!
そしてあの魔女が狙うのは……!
さやか「ほむら!」
ほむら「え……」
反旗「ショウヲキラセ、オウヲタツ」
地上から援護射撃の構えを取ったほむらの背後では、黒衣の魔女が凶刃を振り下ろしていた。
- 286: 2013/08/31(土) 22:16:06.38 ID:gesI4UAE0
- ほむら「うそっ……」
反旗「ワレラニ ジユウヲ」
ダガーがほむらへ。
さやか「シッ!」
セルバンテスの障壁がサーベルの柄を押し込む。
突き出す腕の余分な力は抜く。重さはいらない、速さだけが必要だ。
さやか(届け――)
サーベルは切っ先を向けて、まっすぐ狙いの場所へ疾走する。
だけど……。
反旗「ニンム カンリョウ……!」
ほむら「っぐ……!?」
遅かった。間に合うわけはなかった。
魔女の振り下ろす大きなダガーは、一掻きでほむらの左腕を切断してしまった。
ほむら「ぁああぁあああッ!?」
マミ「暁美さん!?」
魔女め、手練れだ。なんて手際だ。
私達魔法少女の前から姿を晦ませ、銃の照星に気を取られているほむらの背後に回るとは。
そして出遅れたとはいえ、私のサーベルを避け、しかもほむらの左腕を切断した。
反旗「――」
黒衣の魔女は、腕を抱えたままこちらへやってくる。
わざわざマミさんと、杏子と、私がいる、戦力の密集地へだ。
杏子「やりやがったな……テメエ」
マミ「よくも暁美さんを……!」
魔女はこちらに向かってくる。
しかしなぜだ。ほむらの腕だけを切り取って、それをどうするつもりなんだ。なぜ、私達に向かってくる。
さやか「……そうか」
ワルプルギスの夜の結界。人質か。グリーフシードの補給か。
さやか「させるわけないだろ」
どちらにせよそんなこと、許してやるわけがない。
ほむらの腕を返してもらう。
- 287: 2013/08/31(土) 23:13:54.92 ID:gesI4UAE0
-
【殉葬の魔女・サラ】
【身投げの魔女・エミ】
【磔刑の魔女・ジル】
【鎮魂歌の魔女・ララ】
- 292: 2013/09/01(日) 16:08:12.56 ID:OjkGUP5X0
- QB「ワルプルギスの夜は、あまりにも強くなりすぎた」
QB「数々の魔法少女たちが討伐のために結託したものの、いつだって結末は敗北だけだった」
QB「それでも、エントロピーを凌駕した魔法少女の力だけが、ワルプルギスの夜に対抗できる唯一の手段にかわりはない」
QB「本来なら誰も望まない“力の願い”は強力だ」
QB「けど、そんな事は大昔から何度も繰り返されているんだよ、さやか、杏子」
QB「君たちは知らないだろう」
QB「結託した百数十人の魔法少女のうちの何人が、力を願ったのか」
QB「君たちは知らないだろう」
QB「ワルプルギスの夜が来る前日に、打倒ワルプルギスのためだけに、願いを叶えようとした魔法少女達がいたことを」
QB「確かに佐倉杏子……美樹さやか……君たちは非常に稀な、強力な魔法少女だけど」
QB「彼女たちの絶望を、君たちだけに受け止めきれるはずがないんだよ」
- 294: 2013/09/02(月) 23:09:49.17 ID:FbkC9aRp0
- 髪留めの炎に異変を悟った杏子が、一番先に振り向いた。けど、それも僅差だ。
私達みんなが目の前から来る黒衣の魔女を一切無視して、ワルプルギスを見た。
ワルプルギスの夜の前には、4体の魔女が立ちはだかっている。
投身「……」
全身を鎖のようなものでぐるぐるに縛った魔女。
磔刑「……」
両手に自分ほどの長さはあろう巨大な針を握る魔女。
殉葬「……」
長い杖を大事そうに抱きかかえた魔女。
鎮魂歌「……」
胸の前で手を組んだ魔女。
どれも女性の人型。どれも巨体。それぞれ10mはある。
そして、見た目だけでは量りきれない強さをもっていることを直感した。杏子の髪留めの火力を見れば、わかりやすいことだろう。
杏子「ふん、あいつらも全部、ぶっ潰せばいいんだろ……!」
さやか「……ほむらの腕が先決、時間を止めるための盾も、ソウルジェムもそこにある」
マミ「……」
杏子「後ろからこっちきてる魔女が持ってるんだろ、振り向きたいなら振り向けば? 死ぬと思うけど」
杏子の言葉は本当だ。
今、あの4体の魔女に後ろ姿を見せてしまったら……すぐに殺される確信がある。
ほむら「ぐ……ぁああ……ソウルジェムが、私のっ……!」
さやか「……!」
……だからって。
黙ってそのまま、突っ立っているわけにはいかないでしょうが。
さやか「全力で盾を展開します、マミさん、ほむらの腕を取り返してください」
マミ「もちろん、そのつもりよ」
杏子「……呼んでくれた礼だ、近づいた奴は対抗して食い止めといてやるよ」
さやか「ありがとう」 - 297: 2013/09/04(水) 22:03:55.69 ID:HiTUc77w0
- 杏子「てめーら四天王ってとこか……なら、次は阿行と吽形でも出てくんのかよ? 見せてくれよ、なあ」
厄介そうな敵にも怯まず、杏子はブンタツを抱えたまま前進する。
……もともと一人で戦うと決めていた彼女のことだ。何が相手でも躊躇など無いのだろう。
マミ「……絶対に行かせない」
反旗「……」
さやか「マミさん、任せました」
私の背後ではマミさんと黒衣の魔女が至近距離で対峙している。
……私は、4体の魔女の攻撃を防ぐ盾とならなくてはならない。
腕の奪還は全てマミさんに託すこととなるだろう。
マミ「暁美さんの腕を渡しなさい」
反旗「ドケ」
マミ「そう」
マミ「残念だわ」
傍にあった足場のリボンが三本、マミさんに似つかわしくない強引な動きで引きちぎられる。
反旗「ジユウノタメニ」
魔女の大きなダガーもまた、彼女の好戦的な動きに反応して構えられた。 - 299: 2013/09/05(木) 22:34:56.68 ID:mFrQvpA20
- 私が見るべきはマミさんではない。
杏子の戦いだ。
マミさんの一騎打ちによる勝利を確実なものとし、ほむらの腕を奪還するために、あの4体の魔女の攻撃を防がなくてはいけない。
流れ弾がこちらへ飛んでくれば、マミさんの戦いに大きな支障が出る。
さやか(ほむらの盾さえ……時間停止さえあれば、どんな窮地でも冷静な、最善の対処ができる! それを失うわけにはいかない)
何より、今まで何回も戦いを繰り返したほむらの命を、ここで途絶えさせてなるものか。
絶対に、私の盾で守りぬいてやる。
杏子「全てが敵なら、全て斬るまでだ!」
ロッソ・カルーパが、長い杖を抱きかかえた魔女に食らいつこうと首を伸ばす。
殉葬「……」
杏子「!?」
けど、炎の竜が大口を開く前に、頭部が何かに弾かれた。
大きな壁に激突でもしたかのような弾かれ方だ。接近を拒む、見えざる壁のような……。
私と同じバリア、シールド、そういったものが展開されたということか。
鎮魂歌「LALALA――LALA――……」
さやか『杏子、あいつだ、手を結んで歌っている魔女』
四体の中で不穏な動きをしている魔女は、不気味なことに一体もいない。
けど何もしていない魔女ばかりでもない。なら、障壁を生み出しているのは、何かをしている魔女だろう。
とすれば、小さく慎ましく歌っているあの魔女こそが原因だと私は推測する。
杏子『確証はあんの』
さやか『ごめん、7割勘』
杏子『どっちみちどつきに行くけどな!』
なら聞くなよ、という前に杏子は既に竜の首を伸べていた。
杏子「“ロッソ・カルーパ”!」
鎮魂歌「LA――……」
歌う魔女には、やはり刃は届かない。
しかしあの魔女は異変を察知したか。――それとも焦ったか。
一瞬、杏子に顔を向けた。
杏子「よし、この見えない壁はあんたのモンだな……いいぜ、その壁ぶち破って、まずは引き裂いてやる」
- 301: 2013/09/06(金) 21:17:10.67 ID:hHrH8Wmc0
- 杏子「いくぞブンタツ、久々に刃応えのある相手だッ!」
鎮魂歌「LA――……」
敵に牙をむくことを諦めた龍は、辺りに散らばった廃材に噛み付いた。
廃材を軸に加速移動する杏子が魔女へと迫る。
鎮魂歌「……!」
杏子「おお、通るじゃん? 秒読みの命だなオマエ」
強力な魔女によるシールドは堅かろう、と思いきや、案外簡単にブンタツの刃は入った。
一撃で空間を切り裂き、魔女が展開する障壁全体が薄く発光していた。
想定外のダメージを受けて、壁を保てなくなったか。
どの道、魔女の防御能力は、私のバリアーほどもないらしいことは判明した。
杏子の炎が相手に反応して強くなっていることもあるだろうが、それにしても相手の守りは柔い。
あの魔女が防御重視、専門の魔女だとしたら、その陥落も時間の問題……。
磔刑「……」
さやか「……!?」
杏子とは離れた位置に浮いている、二本の巨大な針を持った魔女が、その一本をこちらへ向けていた。
まるで槍でも投げるかのような体勢だ、
さやか(……針は、刺すもの。貫くもの……!)
魔女の防御の薄さに希望を感じている暇はない。こっちの防御力がどこまで通用するかもまた、大きな疑問だった。
- 304: 2013/09/07(土) 20:48:22.51 ID:+SX74zMu0
- 杏子(! チッ、やっぱ全部を一度に相手はできねえか)
磔刑「ヤアッ」
針は投げられる。
まっすぐこちらに向けて放たれるそれの速度は、多分、視認からどうこうするということはできないだろう。
小細工できる速度でない事は承知の上。それでも、ただ単純に防御して貫かれるよりは、抗ってみてもいいと思った。
さやか(あの針が、ほぼ一瞬でこちらへ到着するなら)
さやか(相手の投擲動作と同時に、こっちも動く!)
私は力任せに左腕を振った。
さやか(――あ)
左フックは、完璧にそれを捉えていた。
タイミングばっちり。丁度、先端部分に当たるジャストミートだ。
さやか(でもこれ、ダメだ)
真っ白に輝くそれは、もはや針と呼べるシロモノではなかった。
これは針なんて物理的なものじゃない。レーザービームだ。
バリアで殴って弾くなんてできないタイプの攻撃だった。
さやか「うぐっ!」
それでも私のバリアは、魔女が放った光の槍を殴り飛ばした。
角度をつけた防御は、結果として正解だったらしい。大出力のレーザーの軌道を逸らし、真後ろへ貫通するという最悪の事態だけは回避することができたのだ。
さやか「……つぅうう……! いったいじゃないの……!」
最善の防御の代償は、私の左手。
レーザーの直撃は逸らした。それでも、途中でバリアは砕かれてしまった。
さやか(私の腕も災難ばっかだな……いだだだ)
銀色の篭手も、手首から先は一緒に吹き飛んでしまったらしい。痛々しく焼けた断面がグロテスクで、目を覆いたくなる。
磔刑「……」
さやか「……セルバンテス……!」
けど目を逸らしてもいられない。
私は篭手を再生成し、中身の無い左腕を再び前方へと向けた。
やりたくはないけど、第二波が来る。
……こうなれば根性だ、何度だって防いでみせるしかない。
- 305: 2013/09/07(土) 20:59:27.41 ID:+SX74zMu0
-
殉葬「……――」
磔刑「……ハァッ……」
再び高く掲げられた針。
そして、こちらへ杖を向けている魔女と、その真後ろに展開する巨大な黒い魔法陣。
さやか(……何度だって……)
白銀の光線と、赤黒い何かがこちらへ迫る。
私の頼もしいはずの左腕は軽すぎて、本当に空っぽのように感じられた。
- 306: 2013/09/07(土) 21:24:57.81 ID:+SX74zMu0
- 『無茶は……しなくていい! 私の命のために、死なないで!』
ほむらの心の叫びが聞こえる。
『ッ……! くそっ、一体殺ったってのに!』
杏子の思念が伝わる。
「かかったわね、終わりよ!」
マミさんの宣言が鼓膜を打つ。
杏子とマミさんは、それぞれの相手を倒すところまで来たらしい。
声を聞くに、マミさんの決着はもう数秒くらいかかりそうだ。けど、その数秒以内で、私とマミさんは消し飛ぶかもしれない。
ほむらは自分の腕の奪還よりも、私達を優先して欲しいらしいが、それは聞けない相談だ。ほむらがいなければ何も出来ない。
さやか(……)
そうだ、大事なのはほむらの腕だ。
時間を止める、時間を巻き戻す能力。
ワルプルギスの夜は、この一連の戦闘で随分と前進してきた。
再び街へ突入されれば、見滝原に大きな被害が及ぶ。それを防ぐための、ワルプルギスを吹き飛ばすほどのミサイル攻撃は、ほむらにしか操れない。
さやか(……ほむらを守るんだ)
そうだ、怯えることはない。躊躇する理由なんてない。
相手がどうしようもないほど強い魔女二体だとしても、私がここから動けないとしても、相手の攻撃をマミさんに当てないようにするだけなら、ギリギリでなんとかできるはずだ。
最悪の場合でも、……本当に最悪の場合でも。もし私達が敗北し、この街が全壊したとしても。
ほむらの盾さえあれば、ほむらが無事でさえいれば、また挑戦することができるんだ。
ここで私が死ねば、勝てるかもしれない。
ここで私が死ねば、また戦えるかもしれない。
残念ながら、私が生き残りつつ、なんて甘ったれた選択肢はもう残されていないらしい。
なに、命を賭ければ不可能ではないという道が残されていることに、心から感謝しようじゃないか。
圧縮した思考が終端にたどり着く。
私は心の中で呟いた。
さやか『いけっ! マミさん、やっちゃえ!』
そう、決してマミさんにだけは振り向かないでほしいから。
だからお別れの言葉はナシだ。
さやか(“アンデルセン”! “セルバンテス”!)
- 307: 2013/09/07(土) 22:59:14.08 ID:+SX74zMu0
- 大剣アンデルセンは、強力なエネルギー波、“フェル・マータ”を撃つことができる。
弱点は真上から振り下ろすようにしなければ発動しないという事と、燃費が非常に悪いということ。発動中は、体の移動が不自由だということ。
篭手のセルバンテスは、バリアを出すことが可能だ。
バリアは半端な攻撃なら全て弾き飛ばす。正面からだろうが、バリアの内側からだろうが、あらゆるものの接触を拒む頼もしい盾だ。
蹴って勢い良く移動することもできるし、篭手で殴れば攻撃にも転用できる。
さやか(バリアの防御能力は、内側でも有効)
いつかの魔女結界の中でそれを知った。
さやか(フェル・マータは、魔力を注げば注ぐほど、威力を増す)
ハイリスクだが、欲張るほどリターンも増える諸刃の剣だ。
さやか(……ソウルジェムが無事なら、身体がどうなろうが……魔法は途切れない……!)
左腕の篭手をマミさんの方へ向ける。
右腕に握る大剣アンデルセンは、魔女へと向ける。
杏子「くそがァ! どけ! 邪魔してんじゃねェエ!」
投身「……」
2体の魔女は私へ攻撃を向けようとしている。今にもそれは放たれるだろう。
杏子はもう一体の残った魔女に阻まれ、苦戦しているようだった。
やっぱりそうだ、ここはもう、私がやるしかないという事だ。
この選択が間違っていなくて良かった。ほんと、私の読みはいつでも冴えてるね。
磔刑「ヤアッ!」
殉葬「エイッ……」
銀の槍と黒い雨が輝きだした。さあ、今だ。
さやか「一泡吹かせてやる……」
頭上に掲げたアンデルセンを、勢い良く振り下ろす。
さやか(“フェル・マータ”!)
- 308: 2013/09/07(土) 23:40:42.21 ID:+SX74zMu0
- 片腕で振り下ろすアンデルセンは、針を投げてくる魔女へ向ける。
あの魔女が投擲する巨大な針は、光のようなエネルギーとなってまっすぐこちらを貫こうとしてくる。
スピードは驚異的だし、威力も防ぎようがない厄介な攻撃だ。
けど、逆にその分だけ、どこから撃ってくるかもわかりやすい。
磔刑「……!」
投げ放たれた銀の光線を飲み込み、フェルマータの青白いエネルギー波が魔女を襲った。
フェルマータの波濤は、バリバリと音を立てながら魔女の外郭にダメージを与えてゆく。
さやか「っ……!」
わかってる。私のフェル・マータでは、あの魔女の針を防ぐことは出来ない。
フェルマータが飲み込んだ魔女のレーザーは、勢いを相殺されることなく、かなりの余力を残して私を襲った。
アンデルセンの刀身の一部分を削り、私の右親指を消し飛ばし、右肩を“掠める”とは言えないくらい、深く抉ってみせたのだ。
さやか「……っふ……!」
フェルマータを貫き、剣を貫き、私をも貫いた針だったが、その向こうに展開されたバリアーを破るには至らなかった。
青い障壁に阻まれ消し飛んでゆく銀のエネルギーを横目にした瞬間、私の口元は安堵に緩んだ。
これでいい。これで、マミさんに針の攻撃は届かない。
さやか「……!」
心の底からの安心の中で、魔女が展開する魔法陣から放たれた無数の赤黒い雨粒が、私の全身に降り注ぐ。
ざくり、さくり。小さな、しかし驚異的な数の黒い弓矢が、無防備な私を襲った。
頭を、肩を、胴を刺し、貫いてゆく漆黒の一本一本が、私の意識を朧気に霞ませてゆく。
さやか(けど……)
右目も、頬も、……多分頭蓋骨をも、魔女の矢は何本か貫かれている。
それでも、ソウルジェムで繋ぎ止められた私の精神が、左腕の感覚だけはしっかりと認識できている。
さやか(私の守りだけは、崩させない)
フェルマータを放ち続ける。バリアを展開し続ける。レーザーから、黒い矢からマミさんを守るために。
身体はどんどん崩れてゆく。血は流れ落ちる前に、傷口から抉られ消失していった。
瞬く間に私の体積が消えてゆく。
私というものが消えてゆく。
けどこれでいい。マミさんの戦いを、無事に守ることができれば、私はそれでいいのだ。これが最善の手だ。
- 310: 2013/09/07(土) 23:56:02.60 ID:+SX74zMu0
- 『さやかァ!』
『美樹さん!?』
『さやか!』
聴覚を失った私の魂に、みんなの声が響いてくる。
心配をかけてしまったことは申し訳ないと思う。黙って捨て石になったことも、ちょっと気を咎める。
でも良かった。最期に大手柄を上げられたよ。
私が死ぬのは残念だけど、ほむらとマミさんと杏子がいれば、残りのワルプルギスを倒すことも、やりようによっては不可能ではないはずだ。
うん……多分、そう。大丈夫。きっと大丈夫だ。
さやか『マミさん、ほむらに腕を……時間の停止で、あの魔女たちを止めてください、そうすれば、勝てるから』
『ふざけんなてめぇ! 勝手に捨て駒になってんじゃねえぞ!』
さやか『頼んだよ……じゃあ……』
『さやかぁ!』
脳も、心臓も……というか、上半身の殆どを失ってしまった私には、もうまともな思考能力は残されていなかった。
辛うじて繋がっていた右腕も、上から浴びせられる矢と針の光線によって、ついに崩れ落ちてしまう。
皮一枚程度で繋がった左腕も、敵の攻撃を全て防ぎきる前に事切れてしまうだろう。
だから、その前に、マミさん。多分、もうあの黒衣の魔女を倒したのだと思いますが。
腕を、ほむらのもとに……よろしく、おねがいします。
私の意識はそこで途絶えた。
ほとんど黒ずんでしまったソウルジェムと下半身だけになった自分が落ちているのだという漠然とした感覚だけが残っている。
そして、ワルプルギスの嵐に巻き込まれ、適当な瓦礫のひとつとして宙を舞い、ゴミのように空へ吐き出されて。
私の残存した下半身が勢い良くどこかへ叩きつけられ、最後に無意味な出血を辺りに散らして、動かなくなった。
……三人とも、頑張って。
私はここで、みんなを見守ってるからね。
ごめん。今までありがとう。
- 311: 2013/09/08(日) 00:13:35.92 ID:vNL7yAqj0
- 杏子「……ッ」
轟音の嵐の中で、杏子の含むような舌打ちはよく響いた。
少なくとも巴マミは、その幽かな音がよく聞こえたらしい。
杏子『……マミ、魔女は殺っただろ、腕をさっさと、ほむらに返してやれ』
マミ『う、うん!』
巴マミと反旗の魔女との決着はついていた。
堅実な射撃とリボンの拘束の合わせ技によって、難無くとはいかないまでも、無事に倒すことができたのだ。
反旗の魔女が抱えていた腕をリボンで絡め取ると、巴マミは辺りの瓦礫をリズムよく蹴り飛ばしながら、暁美ほむらのもとへ跳んでいった。
杏子「だから弱い奴は嫌なんだよ」
全身を鎖に包んだ魔女に対峙しながら、杏子はそう漏らした。
いつもの彼女とは違う、いつかのような涙ぐんだ声だった。
杏子「強い奴に立ち向かって、勝手に死にやがる、正しいことをしてるのに潰されちまう」
杏子「なあ、さやか、どうしてアンタが死ななきゃならなかったんだ」
杏子「あんた、とびっきりの良い奴だろうがよ」
杏子「なぜ死んだ」
ブンタツの鋭い双頭が鎖を引きちぎる。
力任せに暴れる両剣の軌道が、無限に紡がれ増殖してゆく鎖の防御を急速に剥がしてゆく。
杏子「何故……殺したァ!」
ついにブンタツの刃は、鎖に覆われた身投げの魔女の本体に届いた。
華奢な幼児体の腹を真横に薙ぎ払って、トドメの縦振りは頭頂部から股間まで両断してみせた。
十字に開いた魔女の切断面から覗く向こう側の二体の魔女は、既に杏子へと標的を移している。
杏子「絶対に許さない……神が許そうが、悪魔が受け入れようが」
杏子「てめえらという存在を、塵一つ残さずこの世から消して……!」
魔女「キャハハハハハ! キャハハハハキャハハハハ!」
ワルプルギスの夜の高笑いがすぐそこで響く。
さやかは。ひとつだけ計算を間違えていた。
本来なら無視してはいけない一番大きな問題を、勘定の中に入れ忘れていたのだ。
あいつが黙って見ているわけもないのに。
- 319: 2013/09/08(日) 22:14:40.58 ID:vNL7yAqj0
- 黒い靄が闇夜のように辺りを包み、しかし一瞬で嵐に吹かれて、晴れる。
杏子「チッ」
取り払われた暗闇の中には、最初からそこにいたかのように、使い魔の大群が林立していた。
嵐の中一帯を埋め尽くすほどの、大量の使い魔達だ。
遠距離攻撃の手段に乏しい杏子にとっては、数体の魔女が現れるよりも厳しい増員だろう。
杏子「ザコに構ってる暇はないんだよ!」
トランプの兵隊や、小さなぬいぐるみのようなうさぎも混じる使い魔の濁流。
その中でも真っ先に、白馬の群れが杏子に押しかけた。
杏子「くっそ……どけ!」
炎の龍が噴き上がり、杏子を囲む使い魔を焼き払う。ブンタツは縦横無尽に暴れ回り、一掻きするだけで数体の使い魔を切り裂いた。
その光景は、角砂糖に群がる大量のアリを思わせる。それでも杏子がやられる気配はなかった。
周りを使い魔が埋め尽くしても、危なげもなくそれらを断ち切って、杏子は濁流を進んでしまう。
陶器製の馬体のうちのひとつが、嵐の中を真っ直ぐに突き進み、杏子の腹を蹴ろうとしても、ブンタツは間合いに入れさせない。
背後から襲おうとするトランプ兵も、か細いレイピアごと炎の竜に飲み込まれて消滅する。
杏子「どこだてめえら! 出てこい! 二体同時でかかってきやがれ!」
怒りも力も最高潮だ。髪留めの炎は消えることはなく猛り、ブンタツの切れ味は冴えたまま。
強化された肉体は、少しの疲労も感じてはいないだろう。今の杏子は、何者と対峙しても負ける要因はない。
磔刑「……」
けどそれは、対峙した時に限った話であり、見えない位置からの一方的な奇襲を受けてしまえば。
その結果はわからない。
- 320: 2013/09/08(日) 22:39:37.26 ID:vNL7yAqj0
- 杏子の勘は冴える。彼女は計算高いタイプではなく、経験や直感を頼りに動く人間だ。
理由を上手く説明できない嫌な予感には特に敏感で、それを回避する術に長けている。
杏子「!」
けどいくら彼女でも、光の早さで迫るものがどこから来るのかもわからなければ、回避のしようがない。
杏子「――」
そう、これが運命だった。
光の針は使い魔の濁流ごと、杏子の頭部を一直線に貫いてしまった。
銀白の光線は杏子の首から上を綺麗にえぐり、消し飛ばした。
身体が強化されているとしても、磔刑の魔女の攻撃を防御することはできなかったのだ。
杏子『目も、耳も、鼻も、口も……ああ、畜生、そうか、頭をやられたか』
首のない杏子の身体が力なく、宙から落ちてゆく。
胸元のソウルジェムは無事だった。が、自分の失われた頭部を修復できる魔法少女はいない。
体の支配はできず、意識のある死体として、杏子の死は確定した。
杏子『畜生……ふざけやがって……』
華奢な身体が嵐の中で、真っ逆さまに下へと落ちてゆく。
奇跡的に光線の直撃を避けた、わずかに燃える髪留めと共に。
杏子『絶対に諦めない……まだアタシは、こんなところで死ぬわけにはいかない』
杏子『やつをぶっ潰すまでは、絶対に諦めない……絶対に……』
首のない杏子と髪留めが、大きな川に静かに墜ちた。
- 321: 2013/09/08(日) 22:52:23.30 ID:vNL7yAqj0
- 山吹色の輝きが骨を固め、神経をつなぎ、筋肉を修復する。
魔力の消費はバカにならない、けど、それでもやる価値はある治療だった。
マミ「……治ったわ、なんとかなるはず」
ほむら「……」
左手を握りしめる。確認は一度だけで十分だった。
さやかが死んだ。
暁美ほむらは、さやかが魔女の集中攻撃を受け、身を挺して巴マミを守った姿を見たのだ。
彼女の壮絶な最後を。
ほむら(……この腕は、さやかの魂そのものよ)
更に強く、左手を握りしめる。
ほむら「いけるわ、ちゃんと動くみたい」
マミ「なら、時間の停止を。佐倉さんがまだ戦っているわ。時を止めて、態勢を整えないと」
ほむら「ええ……、……え?」
マミ「暁美さん?」
暁美ほむらは、地上から見る嵐の中から、小さな人影が降りてくるのを見た。
紅いスカートの裾をばたばたと風にはためかせながら、真っ逆さまに水面へと落ちてゆく。
首のない杏子の姿を。
ほむら「……」
マミ「……そんな」
つられて目線を送った巴マミも、それを見てしまった。
魔女「キャハハハハ! キャハハハハハハ!」
ワルプルギスの夜は、なおも楽しそうに笑っていた。
- 324: 2013/09/08(日) 23:21:29.84 ID:vNL7yAqj0
- QB「やれやれ、僕はおすすめしなかったはずなんだけどな」
ほむら「!」
立ちすくむ二人の脇を、白猫が通る。
無感情な赤い目で、水面へ落ち行く杏子を見送っていた。
QB「まどかなら、ワルプルギスの夜に勝てたかもしれないけどね」
杏子の身体が水面に叩きつけられ、小さな飛沫が上がった。
マミ「……佐倉、さん、まで」
QB「杏子はずっと前から、この日のために力を蓄えて、力も磨いてきた。それでもここが限界のようだね」
ほむら「……」
QB「いいや、これは褒めているんだ。まさか、剣の魔女たちを全て片付けてしまうなんてね、杏子のポテンシャルは凄まじいよ」
ほむら「あなたは……あなたは、なぜ……」
盾の中からハンドガンを取り出し、インキュベーターの頭部に押し付ける。
銃口はガタガタと震えていた。
ほむら「なぜ……!?」
QB「ワルプルギスの夜が強力過ぎた、それが全てなんじゃないかな」
ほむら「彼女たちは、私達は、全力で……!」
QB「全力を出したネズミなら、ライオンに勝てるとでも思っていたのかい?」
ほむら「……!」
事実しか言わないインキュベーターの言葉は、暁美ほむらの胸を強く締め付けた。
茫然自失とする最中でも、ワルプルギスの夜が率いる魔女や、使い魔達の行軍は止まらない。
次の標的は暁美ほむらと巴マミだ。
メリーゴーランドの白馬を先頭に、使い魔の群れが押し寄せてくる。
マミ「……暁美さん、お願いがあるの」
ほむら「え……?」
マミ「最後まで諦めない、今だってそうよ、私は諦めない」
マミ「……勝つために、いつか全てを守るために……暁美さんにも、まだ戦いを諦めないでいてほしいの」
巴マミの手が、ほむらの左手を握った。ほむらは彼女の意図を汲み取った。
ほむら「……また、やり直すのね」
マミ「あなたの重荷になるとは、わかっているわ。これまで積み上げてきたものを、戦いの苦労も全て、ふりだしに戻ってしまうなんてね」
ほむら「……」
マミ「それでもね、本当の白紙にだけは、するべきではないと思うんだ……」
- 326: 2013/09/08(日) 23:29:30.57 ID:vNL7yAqj0
- マミ「今まで編み出してきた戦術や、経験……魔女の情報……その全ては、きっと暁美さんの次に活かされるはずよ」
ほむら「……」
さやか達との、訓練の日々が脳裏に浮かんでくる。
さやかが考えた空中の戦術、相談しながら割り当てた合理的なミサイルの位置、グリーフシードを使うタイミング。
全てが新たな息吹で、暁美ほむらにとっての希望の光だった。
作戦を練るごとに勝利への現実味は増し、ワルプルギスの夜を突破する実感を噛みしめることができた。
時間を巻き戻せば、あのさやかや、あの杏子とはもう逢えないかもしれない。
けど、あの日々さえもなかったことにしていいとは、決して思えない。
さやかや、杏子が残してくれたものを受け継ぐ。
それこそが、自分がこの時間でできる、唯一の反撃になるのではないか。
ほむら「……巴さん、ありがとう」
マミ「うん」
暁美ほむらが、左腕の盾を掴む。袖の上に雫が落ちた。
ほむら「本当にありがとう、ござい……ました……」
マミ「うん」
巴マミは、彼女の頭を撫でてやった。
ねぎらうような、慈しむような優しい手つきであった。
- 327: 2013/09/08(日) 23:48:49.95 ID:vNL7yAqj0
- ―――――――――
暑い日差しに、目を開けた。
さやか「……」
暑い。夏の日差しが、私とベンチに降り注いでいる。
見滝原の町並みの上に、入道雲がよく見える。
懐かしい、あの日の景色だった。
「ほら、干からびちゃうわよ」
さやか「……?」
隣から、ペットボトルを差し出される。
馴染み深い、よく冷えたスポーツドリンクだった。
さやか「ありがとう、ございます」
「いいのよ」
キャップを捻り、口を付ける。
ごくり、ごくりと喉が鳴る。このまま息を止めて、最後の一滴まで飲み干せてしまいそうだ。
けど、一気に飲むのは良くないことだから、少しだけ。後はまだ、残しておくことにした。
さやか「……ふう」
「お疲れ様、さやか」
さやか「……」
ねぎらいの言葉をくれた彼女に、ついに顔を向けた。
そしてやはり、私は、納得するのだ。
煤子「大変だったわね」
さやか「……煤子さん」
ほむらと瓜二つの彼女の姿に、思わず瞳が潤んでしまう。
黒髪を高いところで縛っただけの、でも、やっぱり私の中では特別だった、彼女の姿に。
- 328: 2013/09/09(月) 00:00:36.79 ID:zJKxGJDO0
- さやか「煤子さん……私」
煤子「うん」
さやか「煤子さんが守りたかったもの、守れなかったよ」
煤子「……」
ベンチの上から望める見滝原。
この景色も、あの日々のかげろうにすぎない。
私の本当の見滝原は今頃どうなっているのだろう。
杏子がうまくやっているだろうか。
ほむらが、マミさんがうまくやれているだろうか。
確証はない。そして、自信もなかった。
ワルプルギスの夜が振りまく底なしの絶望を前にしては、多分……杏子にも、限界が来るだろう。
ほむらが時間遡行してくれていることを祈るばかりだ。
さやか「……はあ、力をつけて、臨んだつもりだったんだけどな」
煤子「よく頑張ったわ」
さやか「うん……自分で言っちゃお、頑張った」
煤子「ええ、誇っていいわ、さやか」
さやか「うん……うん……けどね……煤子さん」
ああ、だめだ。涙が止まらない。
さやか「やっぱり悔しいよ」
煤子「……」
さやか「守りたかったよ」
煤子「……」
――――――――――――
- 329: 2013/09/09(月) 00:07:50.86 ID:zJKxGJDO0
- ―――――――――――――
金色の夕焼けが空を覆う。
伸びる影の中で、杏子は長い棒を振るっていた。
杏子「せいっ」
教えてもらった動きとは、少しだけ違っている。
魔女との実戦の中で最適化され、自分なりに工夫し、改善された型だった。
杏子「はあっ!」
「でも、その構えは少しオーバーじゃないかしら」
杏子「……」
後ろから白い手が、棒を握る手を包んだ。
そのまま動きをガイドして、懐かしい型を再現してみせる。
「ほら、こう。基本は大事よ」
杏子「……もう、今では私の方が上手いですよ」
煤子「あら、そうかしら」
杏子「……そうですよ、煤子さん」
煤子が背負った夕焼けは眩しすぎて、思わず涙が出てきてしまった。
- 330: 2013/09/09(月) 00:16:35.85 ID:zJKxGJDO0
- かん、かん、と棒が打ち鳴らされる。
軽めの練習。長棒同士の懐かしい打ち合い稽古だった。
からん。
しかし、何度やっても、すぐに杏子の棒がはたき落とされてしまう。
何度拾って、何度握り直しても、何度か打ち合うだけで、またすぐに落とされる。
杏子「うっ……ぇぅ……」
煤子「ほら、そんな顔じゃ当たらないわよ」
杏子は乱雑に棒を振り回すだけだった。
涙と乱反射する夕陽で何も見えないだけではない、型も何もない振り回すだけの棒術で、力なく暴れているだけなのだ。
杏子「もっと強くならなきゃいけなかったのに……」
煤子「……」
杏子「強くなって、どんな悪い奴にも立ち向かえるように……なりたかったのに……」
杏子の棒の側面が叩かれ、得物が地面に転がってゆく。
杏子「悪い奴が最強だ、なんて、そんな話……あっていいわけないだろ……」
煤子「……」
階段の上に積んだ水滸伝のページが、生ぬるい風に吹かれてぱたぱたと捲れていった。
――――――――――――
- 334: 2013/09/09(月) 20:03:20.05 ID:zJKxGJDO0
- 煤子「身を粉にしても、骨を砕いてみせても、報われないなんてね」
手の中のスチール缶が“ぺこん”と軽く潰される。
さやか「……」
煤子「ひどい話もあったものよね。本当、ひどい話」
煤子「本にもできないくらいひどい話よ、こんなのはね」
積み重なった水滸伝を拾い上げ、優しくページを捲る。
煤子「愛と希望のヒーローが、結局は何もできずに息絶えるなんて、そんなのあんまりよね」
杏子「……」
煤子「精魂尽き果て、全て燃やしきってしまっても、それでも何も守れないだなんて」
本を閉じる。
煤子「ひどい話」
缶をベンチに置く。
煤子「本当にひどい話」
- 335: 2013/09/09(月) 20:16:50.87 ID:zJKxGJDO0
- 夕陽を背に、輪郭のぼけた黒い煤子が杏子の手を取る。
煤子「ねえ、こんなの望んだ結末じゃないわよね?」
杏子「……当然……です!」
杏子は涙を拭って力強く答えた。
煤子「最後には、愛と勇気が勝つストーリーじゃないといけないわよね」
麦わら帽子を取り、ベンチから立ち上がった煤子が、さやかの手を取る。
煤子「ねえ、さやか。このままでいいの?」
さやか「……このまま、どうすることもできないよ、もう私にはどうしようもないから」
煤子「……」
夏の日差しに汗ばんだ手が、煤子の手を強く握った。
さやか「論理的でも現実的でもないし、叫んだって虚しいだけ……けどやっぱり、絶対に、こんなの納得出来ない!」
煤子「うん」
煤子は二人に優しく笑いかけた。
暑い夏の陽の下で。
眩しい斜陽の中で。
煤子「正義は必ず、最後には勝たなきゃいけないわ」
煤子「……必ず……絶対に、どんな強い相手だとしても、必ず」
煤子「巻き戻しても、祈っても手に入れることのできない、正真正銘本当に、一度きりの奇跡を使ってでも」
煤子「さやか、杏子」
煤子「あと一歩が届かないのなら、その奇跡をあなた達に託す。背中を押してあげる」
此岸「この世界の因果と、私の因果とは、決して相容れないから」
此岸「私ではできないこと。だから、あなた達に受け取ってほしい。受け取って、使ってほしい」
此岸「……それがきっと、……道を踏み外してしまった私に残された、最後の使命なんだと思う」
- 337: 2013/09/09(月) 21:25:43.98 ID:zJKxGJDO0
- ゆっくりと目を開けた。
目覚めは日曜の朝のように緩やかだった。
さやか『……』
私は、自分がベンチに腰を降ろしていることを自覚できた。
自分には下半身しかなく、それ以外の部位は青い炎のようなもので構成されているということも。
さやか『……』
揺らめく顔を、ベンチの隣に向ける。
隣の席には、潰れていないスチールのコーヒー缶が置かれていた。
さやか『……』
夢の中で……いや。
魔女の結界の中で、煤子さんと話していた。
煤子さんは私の励まし、力をくれた。
……いや、それは正確じゃないか。
昔にくれた力を、今日ここで目覚めさせてくれたのだ。
さやか『ありがとう、煤子さん。これで……』
炎の身体が、急速に元の姿を取り戻してゆく。
背骨を、肋骨を、内臓を、神経を、筋肉を、脂肪を、皮膚を、体毛を。
さやか「これで戦える」
胴体、腕、頭、全てが復活し、魔法少女の衣装を纏う。
さやか「……正義は、必ず勝つ!」
篭手のセルバンテスが全身を包み込む。
銀の装甲は左腕だけに留まらず、腕から胸へ、胸から身体へと延長し、一式の鎧となって全身を覆い尽くした。
さやか「いくぞ!」
最後に、顔を隠すフルフェイスのヘルムを装着すると、私は坂から飛び立った。
あの暗雲に蔓延る魔女たちを、一刀両断するために。
- 339: 2013/09/09(月) 21:53:34.78 ID:zJKxGJDO0
- 川の端で、死体が立ち上がった。
杏子『……』
首のない杏子が立ち上がり、濡れる身体が滝のような雫を落とした。
杏子『ワルプルギスの夜は随分、街の方へ侵攻しちまったらしいな』
首からロウソクのように灯った赤い炎が、離れた場所に浮かぶワルプルギスの夜を見やる。
ワルプルギスの夜が通り過ぎた後でも、まだ強風が吹き荒れている。
杏子の赤い裾はバタバタと風に吹かれ、濡れた生地は既に乾きつつあるが、首から灯った炎が消える気配はない。
杏子『……アタシはまだ負けちゃいねーぞ、オイ』
首なしの杏子が水面を歩く。
怒りを込めた強い足取りで、一歩、一歩と、ワルプルギスの背を追う。
杏子『アタシは……ここだっつってんだろーがッ! このクソ野郎!』
魔女「キャハ…………」
ワルプルギスの夜が侵攻をやめ、笑いが止まった。
背中にただならぬ悪寒を感じ取ったのだ。
すぐ目の前にいる二人の魔法少女よりも遥かに危険な、その魔法少女の燃える闘志を。
杏子『もういっぺん殺してみやがれ! ワルプルギスッ!』
魔女「――キャハ」
ワルプルギスの夜が進路を逆転させた。
- 340: 2013/09/09(月) 22:22:08.73 ID:zJKxGJDO0
- 魔女「アハ、アハハハハアハハハハハハ!」
嵐の中に使い魔が充填される。
ワルプルギスの夜の中にはまだまだ、多くのエネルギーが貯蔵されているのだ。
使い魔を呼び出すだけならば、その余力は無限であると言ってもいい。
「ヒヒィィイイィィッ」
「アォォオオオォォッ」
白馬や狼が、空から川へと押し寄せる。
数多の動物たちによる行軍は、もう一つの川が空から流れ落ちてくるような壮大さで、たったひとりの杏子の元へ向かっている。
杏子『……今のアタシには、全部見える』
杏子『あんたらの、ちっぽけすぎる灯火がな』
槍の合成を介さずに、杏子の左手にブンタツが握られた。
赤黒い双頭の槍。あらゆるものを断ち切る、彼女の決戦重装だ。
だが今は、別の武器がある。
杏子『クソ野郎にひれ伏したクソッタレ野郎共……意志も心もない、強い奴にへこへこする金魚の糞なら――』
杏子『もっと強い奴の配下に寝返りやがれ!』
杏子『“ロッソ・ファンタズマ”!』
杏子が灯す炎の中から、怪しげな紅が輝いた。
白馬「……!」
異様な光景だった。
杏子の炎が輝いたその瞬間、使い魔の群れの中の白馬は動きを止め、
白馬「ゥルルルゥ……ゥルルルァアッ!」
他の周りの使い魔達を、狂ったように蹴り潰し始めたのだ。
杏子の炎に心を奪われ、意のままに操られてしまったかのように。
杏子『……やれやれ、陰気な能力だな、こいつは』
白馬「……」
空から一頭の白馬が降りてきて、長年の飼育されてきた愛馬のように洗練された動きで、杏子の傍らで立ち止まった。
杏子も迷わず、その白馬の使い魔の背に跨る。
杏子『やっぱアタシは、こいつでガンガンいくのが良い』
頭の上でブンタツを三度回し、杏子の馬は空へと駆け出した。
- 341: 2013/09/09(月) 22:44:18.12 ID:zJKxGJDO0
- 全身を銀の鎧に包んだ騎士は大剣を片手に、マントをひらめかせながら空を走る。
白馬に跨る聖女は両剣を片手に、白馬に跨りながら空を翔ける。
数多の可能性と因果を束ねた、その欠片が、今この時、彼女たちを軸に収束した。
あったかもしれない未来の力と、誰かが背負うはずだった法外な力の一端を吸収し、二人はより強い存在へと変身したのだ。
ありえない力。けどそれこそ、今二人にとって、何に代えても必要なものだった。
- 347: 2013/09/10(火) 23:45:51.41 ID:zYuiY2Es0
-
暁美ほむらは、盾に手をかけたまま動きを止めた。
過去に戻ることを躊躇したわけではない。巴マミにもそれはわかる。
先ほどまでこちらへ侵攻してきたワルプルギスの夜が、急に停止したかと思いきや、その進路を逆転。
もと来た方向へと帰ってゆくのだ。
ほむら「……え? なに、これ」
マミ「使い魔もこっちへ来ない……いえ、むしろ使い魔達は、こっちとは逆の方へ……?」
何かがおかしい。何かが起きている。
見滝原から、標的を過疎地へと変えたわけでもあるまい。
ほむら「……あの使い魔達は、どこへ目指しているというの?」
マミ「一斉に、ひとつの方向に向かってるわね……ワルプルギスの夜を基点に、どこかへ攻め込んでいるみたいだけど」
暴風域は川の水も巻き上げて、薄い霧を発生させているためか、視界はおくまではっきりしない。
その向こうに何があるのか、見ることはでいなかった。
しかし声は聞こえた。
『討ち取ったりッ!』
ほむら「!?」
マミ「この声は」
ほむら「そんなはずは、確かにあの時、杏子が死んだのを……!?」
何が起こっているのかは定かで無い。見知らぬ危険があるのかもしれない。
それでも、この時間を諦めていた二人は、真相を確かめることに躊躇はなかった。
マミ「いきましょう」
ほむら「ええ」
二人はまもなく、圧倒的な光景を目にすることとなる。
- 352: 2013/09/11(水) 18:48:23.03 ID:y0o4I1nT0
- ほむら「!?」
マミ「避けて!」
霧の中から巨大な物体が飛来した。視界の悪い中だ、正面からでなければ、二人共気づけなかったかもしれない。
軽自動車ほどの大きさの物体は、緩い放物線を描いて地面を抉った。
マミ「……何かしら。隕石にしては、綺麗すぎるわね」
ほむら「わからない、向こうから飛んできたということは……魔女の一部?でもこれ、どこかで……」
それは四角い、大きな金色の金属だった。
真鍮のようでもあるし、黄金のようでもある。表面の滑らかな金属塊だ。
QB「これは……」
ほむら「何だったかしら、これ……」
QB「間違いない、ワルプルギスの夜の一部だ」
ほむら「!」
マミ「あ、歯車!? その破片だわ!?」
QB「こんなものがここにあるということは、ワルプルギスの夜は……」
二人と一匹が霧の先を見る。
先程から向こう側が、妙に騒がしいことを思い出す。
あの先には……。
三者が白んだ景色を見つめていると、今度は霧が大きく歪んだ。
霧が大きく膨らみ、穴が空き、突風が押し寄せる。
魔女「アハハハハハハ!」
ほむら「――」
ほむらの真上を、半壊したワルプルギスの夜が暴風と共に通過していった。
- 356: 2013/09/12(木) 22:39:10.55 ID:v0KB4EzR0
- 『ちっ、タイミングが合わねえか』
霧の中から馬蹄音が近づいてくる。その高い影も見えた。
巴マミはグレーのシルエットにマスケット銃を構え、暁美ほむらは盾を掴んだ。
杏子『結界に突っ込んでやろうかと思ったが、復活が早いな。本体を蹴り飛ばしちまった』
霧を割って現れたのは、白馬に乗った――首の上に炎を灯した、杏子だった。
当然、二人は驚きのあまりに絶句する。
一番に口を開いたのはインキュベーターである。
QB「君は……君が内包しているその魔力は、一体何なんだい、杏子」
杏子『……』
インキュベーターは柄にもなく動揺しているらしかった。
それもそうだろう。通常ではありえないことが起こっているのだ。
いつかの、どこかの世界での果てしない未来からめぐりめぐった奇跡の欠片であるなど、彼が推測として立てられるはずもない。
インキュベーターがいかに高度な知能を持っていたとしても、彼女からあふれる力の説明はできない。
ただただ、白馬の上の杏子に向かって、疑問を投げかけるのみ。
QB「その魔力量は尋常じゃない……君の願いでは、瞬間的なものだとしても、そこまでにはならないはず――」
続きの言葉はブンタツの切っ先によって遮られた。
その狭間にあったインキュベーターの頭が、綺麗に吹き飛び、転がってゆく。
杏子『よくノコノコと姿を現せたな。ちったぁ反省しやがれ』
マミ「……佐倉さん、その姿は、一体……?」
杏子『ああ、これか?』
ほむら「その使い魔に乗って……それに、首が」
杏子『首なんざ無くても平気なくらい、強くなっちまったってことかね』
杏子は自分の首の断面から何かを取り出し、掴んで二人に見せた。
二人は一瞬だけ後ろに引いてしまったが、それを見て頭に疑問符を浮かべる。
杏子の手に握られていたのは、赤錆びた金属でつくられたアンクだった。
それが一体何を示すのかは、この場にいる誰にもわからないだろう。
杏子『まあ、信じる心に、限界なんか有り得ないってことだ』
杏子はそう言うと、再び静かに白馬の歩を進めた。
- 357: 2013/09/12(木) 22:55:38.11 ID:v0KB4EzR0
-
ほむら「杏子……!」
背を向ける彼女に声をかけようとして、後ろからの音に気づく。
ダカ、ダカ、ダカ。硬い足音が、いくつも聞こえてくる。
街に似つかわしくない馬蹄の音だ。
霧の向こう全てからやってくる。
白馬「……」
白馬「……」
白馬「……」
陶器製の白馬の大群が、ゆっくりと行軍し、暁美ほむらと巴マミの脇を抜けてゆく。
静かに、だがしっかりと意思のある足取りで、先頭の杏子を追うように続いているのだ。その数は濃霧のせいもあり、とても数え切れそうにない。
二人には目を赤く輝かせた馬たちが、恐ろしかったのだろう。その場で身動きを取ることも、物音を立てることもできなかった。
杏子『さて』
杏子が馬の足を止めると、使い魔達も停止した。
杏子『じゃあもう一丁ワルプルギスをぶっ殺して、結界に突入してみるか!』
杏子『いくぞお前ら!死ぬまで戦え! “ロッソ・ファンタズマ”!』
「「「ォォオオオォオオオ!」」」
白馬の背が燃え上がり、首のない杏子がそれらの上に現れた。
全ての馬が杏子を乗せ、全ての杏子はブンタツを握り、それを高く掲げ雄叫びをあげている。
辺りを埋め尽くす魔法少女の大隊。
希望に溢れるというよりは、それが味方であったとしても恐怖を覚えるほどの壮観だ。
杏子『突撃!』
「「「ォオオォオオオォッ!」」」
合図とともに、白馬の大隊は動き出した。
自分たちの脇を騎馬が疾走してゆくのを見送って、そこで初めて二人は気付く。
“ここからの戦いは、彼女だけのものなのだ”、と。
- 360: 2013/09/13(金) 22:02:49.04 ID:lr5+hFb60
- 魔女「アハハハハハ!」
ワルプルギスの夜は元の姿勢を取り戻し、再び空へ浮上した。
様々な力を扱える魔法少女とはいえ、空中に留まっての戦闘となると、体の自由は多くない。
だが杏子には関係のないことだ。彼女はただ、まっすぐ空を駆け上るのだから。
杏子『あれだけズタズタになったってのに、もう完治か』
魔女「アハハハハハ!アハハハハハハハ!」
ワルプルギスの夜は既に無傷の状態にまで戻っている。結界内のエネルギーが補填されたのだろう。
この魔女を倒したければ、完璧なまでの無力化を行わなくてはならない。
杏子『いいぜ、もう一度バラして、今度こそ結界に突っ込んでやる』
魔女「アハハハハハッ!」
ワルプルギスの前に複数の魔女が立ちはだかった。
数は見るに数十。それらの強弱はともかく、どれも正真正銘、立派な魔女だった。
使い魔では利用されてしまう事に気付いたワルプルギスの対抗策なのだろう。
杏子『……』
杏子の炎が艶めかしく光る。
杏子『フン、やっぱり魔女までは操れねぇか』
杏子『ならアタシが直々に、全てぶっ潰す』
魔女の大群に、杏子が単騎、突入した。
- 361: 2013/09/14(土) 00:40:26.56 ID:C6ZLfzHI0
- 白馬が跳ね、杏子は一体の魔女の上を取る。
馬の速さは、使い魔の時の比ではない。杏子に支配された白馬の使い魔は、既に別のものへと変質しているのだ。
杏子『なんだよ、大将を守ってるにしちゃあ、随分と手薄じゃねーか』
ブンタツを、バトンを扱うかのように滑らかな動きで、片手の中で取り回す。
回して振り払う。身体に力を込めない腕だけの動作だったが、ブンタツの刃が届く圏内にいた二体の魔女は、その間に切り崩された。
馬は、魔女の合間を跳ねて翔ける。
敵将に狙いを定めた立ち回りだが、それまでにいる魔女たちは皆、たやすく斬られ堕ちていった。
杏子はワルプルギスに向かってほぼまっすぐに移動していたが、小物の魔女を無視してはいないのだ。
彼女が通るだけで、魔女が消滅していってしまうだけで。
杏子『ほら追いついたぞ、どうすんだ』
魔女「!」
気がつけば、既にワルプルギスの懐の中。
振り返らぬ道中には屍の山。
魔女の残党には、白い騎馬隊が立ち向かっている。隔てるものも、身を守る物も、何もない。
杏子『とりあえず落ちてみるか!?』
ブンタツの片刃がワルプルギスの腹に突き刺さる。強い魔力の波長が、傷口へと注ぎ込まれた。
ワルプルギスの夜の中に、杏子の魔力が浸透してゆく。その感覚には彼女も気づいていた。しかし、ワルプルギスの身体に変調はない。
毒の類でも爆発物の類でもない。弱化させる効果を帯びた魔力でもなかった。
どちらかといえば注ぎ込まれたそれは、硬く強くする“強化”の魔力――。
杏子『らぁッ!』
突き刺したブンタツを、杏子は真下に振り切った。
魔女「アハ――ッ ッ!?」
刃はワルプルギスを切り裂くことも、引きちぎることもなかった。
ワルプルギスは傷口を中心に強制的に身体を“強化”させられた。
刃はワルプルギス自体に大きなダメージを与えることなく、かわりに杏子のケタ外れの力でもって、大地へと巨体を放り投げたのだ。
硬いコンクリートの大地がワルプルギスを押しつぶす。
それはブンタツで何度か斬られるよりも大きなダメージだった。
杏子『さあ、這いつくばったんじゃあ、存分な力は出せねーよなぁ!』
そして、逃げ場のない追撃が襲ってくる。
- 367: 2013/09/15(日) 00:16:22.04 ID:sC9lkvcM0
- 魔女「アハ……アハハハハハッ!アハハハハハハ!」
ワルプルギスを中心に、一般家屋ならば吹き飛ばし破壊してしまうほどの風が放出された。
風は杏子の真下から襲いかかる。まともに受ければ、風圧のみで骨折することすらあり得る。が。
杏子『それが最後の足掻きか!』
杏子のブンタツは風さえも断ち斬る。
刃先は風圧の壁を鋭く割って、杏子をほぼそのままの速度でワルプルギスへと落下させてゆく。
「ヤアッ」
杏子『!』
あと少しで刃を押し付けようというその時、気配を悟った杏子はブンタツを翻し、風に任せて空へと舞い上がった。
杏子がいた場所には、銀色のレーザーが虚しく過ぎ去ってゆく。
磔刑「……」
杏子『ああ、そういや居たな、お前』
空高くで、杏子は敵の姿を確認した。2本の針を両手に握る、細長い黒服の魔女だ。
杏子『お前がアタシの首を、ふっ飛ばしたんだっけな』
その姿を認めるや、杏子が跨る馬は進路を変更。難き磔の魔女へと転身、ワルプルギスへ迫る時以上の速度で駆け出した。
杏子の首から滾る炎は、怒りに強く燃えている。
- 369: 2013/09/15(日) 17:41:39.74 ID:sC9lkvcM0
-
白馬は磔刑の魔女に迫る。
相手の魔女は、動きが早い魔女ではない。迫り来る騎馬から逃げることも、そこから繰り出される攻撃を避けることもできないだろう。
磔刑「……ハッ」
だから迎撃するしかない。機動力のない磔刑の魔女には、もとよりそれ以外の行動は選択肢に存在しない。
しかしそれ故の自信もある。
握っていたもう一本の針を、杏子へとまっすぐ放り投げた。
杏子『――』
馬の上の杏子はそれを避けるかと思われた。避けたところで、一撃を加えてくるだろうと。
しかし杏子は容易く、光の槍に胸を貫かれてしまった。
杏子『――カ、ハッ』
胸は大きく抉れ、腕も首も、身体と別れてしまう。
針が通過した肉体の断面には、焼け焦げ、赤く燃える跡だけが残っていた。
燃える傷口が、その炎が一際大きく、杏子を包んで燃え上がる。
磔刑「!」
杏子『ハハハハハハッ! どこ狙ってるのさ、眩暈か?』
燃えて消えゆく杏子の真上から、もう一人の杏子が飛びかかる。
- 370: 2013/09/15(日) 19:21:07.53 ID:sC9lkvcM0
- マミ「あれは……! 佐倉さんが、レーザーにやられたように見えたけど」
ほむら「……あれは、佐倉さんが作った幻だわ! 魔女を騙したのね、なら本体は……」
杏子が磔刑の魔女の真上から、ブンタツを振り上げて襲いかかる。
磔刑「……!」
殉葬「エイッ……」
しかし磔刑の魔女の真後ろには、杖を抱くもう一体の魔女が隠れていた。
この時を狙っていたかのように静かに顔を見せたその伏兵は、磔刑の魔女の後ろから、紫水晶があしらわれた杖だけを杏子に向けている。
この時、杏子は敵の狙いに気づいた。杖から放たれる禍々しい気配が、空中に存在感を増してゆく。
このための準備は既に整っていたのか、杖を向けたほぼ一瞬で、磔刑の魔女の正面に巨大な黒い魔法陣が描かれる。
杏子『そうか、てめぇも……』
ゆっくりと回る魔法陣の壁を前に、杏子の白馬は勢いを止められなかった。
白馬は緊急回避しようと側面を向ける体勢で、杏子と一緒に魔法陣へと突っ込んでしまったのだ。
杏子『――』
宙に魔法陣の文字や線が、触れる杏子や馬の身体に鋭く食い込み、突き刺さる。魔法陣を構成する全てのラインは、鋼のワイヤー以上の鋭さと切れ味を持っている。
投げ出された勢いのままに、杏子は魔法陣によってバラバラに引き裂かれてしまった。
磔刑「……」
殉葬「……?」
細かな肉片が、赤い炎に包まれ、燃え尽きる。
杏子『てめぇも眩暈なわけだ!』
魔女「キャハ……」
騎馬の大群が、ワルプルギスの夜へと突撃をかける。
二体の魔女は騙されていたのだ。二人の杏子の幻に。 - 371: 2013/09/15(日) 22:35:49.60 ID:sC9lkvcM0
- 杏子はまっすぐワルプルギスの夜を狙っていた。最初からだ。
杏子は、一度自分を殺めた魔女に仕返しを、などとは微塵も考えていない。
彼女の目的は、どうあってもただひとつ。最も強い相手との戦いなのだから。
杏子『おらぁあぁああッ!』
再び大事に叩き落とされたワルプルギスに、杏子と、杏子の分身の大群が畳み掛ける。
魔女「アハ……!」
「おらぁっ!」
「どうした!立ってみやがれ!」
「せいやぁッ!」
ワルプルギスの夜を囲むように円を描いて走り、騎馬に乗った杏子達がブンタツで切り刻んでゆく。
外側から削られてゆくワルプルギスの夜は、同時に地面へ押し付けられるように斬られていた。
力がブーストされた杏子の大群、そのひとつひとつに質量があるのか、攻撃力があるのかは定かではない。
しかし事実として、ワルプルギスの夜はその場で動くことができなかった。
磔刑「……!」
偽物に踊らされた磔刑の魔女は、すぐさま針を杏子へと向け直す。
が、肩の上にそれを掲げて迷う。
どれが本物の杏子か、全く分からないのだ。
殉葬「……ヤル」
磔刑「……」
杖を持つ魔女が前に出る。魔法らしい攻撃方法を持つ、魔女の中でもかなり特異な個体だ。
殉葬「……ハァア……」
一点集中の槍が通じない数の相手であれば、それら全てに襲いかかる攻撃でかかるしかない。
殉葬の魔女は再び、巨大な魔法陣の生成を開始した。
マミ「いけない! あの魔女、攻撃しようとしてる」
ほむら「何が起こっているのか……けど、考えても仕方ない。今は杏子を守らなきゃ」
巴マミや暁美ほむらも黙ってはいない。二人はマスケット銃を生成し、盾を掴む。
銃口は魔法陣へ向けられ、また巴マミの空いた方の手は、暁美ほむらの頭へ優しく置かれた。
マミ「へんな触り方でごめんね」
ほむら「いいえ、触れ合っていれば停止は有効……確実な手段よ、見た目なんて気にしない」
ほむら「あいつに勝つためならね」
盾を回す。 - 373: 2013/09/15(日) 23:40:54.00 ID:sC9lkvcM0
- ほむら「……」
マミ「……」
ほむら「あっ」
マミ「え?」
ほむら「……砂が、落ちきった」
時は止まらなかった。
そして大きな魔法陣は、その攻撃魔法を完成させる。
マミ「いけないっ! 佐倉さんが!」
ほむら「ごめんなさい! なんとか今の状態から、あの魔女を倒して……!」
マミ「ええ、けど大人しく当たってくれるかしら……!」
マスケットの単発射撃は攻撃力が低い。
決定力に欠ける方法は諦め、リボンを増やし巨大な大砲を生成する。
それでも、あの魔女の攻撃を止められるかは疑問だった。
マミ「だめ、間に合わない……!」
黒い魔法陣が攻撃を完成させた。
破壊の弓矢による精密な掃討攻撃。範囲は広大、ワルプルギスを囲む杏子の位置全てと、その周辺数十メートル。
殉葬「……エイッ」
- 375: 2013/09/16(月) 22:55:27.18 ID:okyMrXDx0
- 弓矢の大群は魔法陣から現れ、空へ飛翔し、ゆっくりと弧を描いて降り始める。
狙いは正確だ。撃ち漏らしはないだろう。
杏子『……』
ワルプルギスに攻撃を続ける杏子達の中の一人が、矢の群れを見上げている。ふと、杏子は口元だけで微笑んだ。
「ごめん、ちょっと遅れちゃったね」
杏子『まったくだ』
飛来する矢に対抗したのは、杏子でも、巴マミの主砲でもない。音の壁を破るギリギリの速度でまっすぐやってきた、銀色の騎士である。
「でも大丈夫」
騎士は矢の寸前でピタリと急停止し、左手に握った大剣を矢へ向けて掲げた。
「今度はちゃんと、全部守るから」
矢の群れが障壁に阻まれ、当たったそばから砕けて散る。
障壁は、澄んだ海のように薄い水色。暗い暗雲に包まれた見滝原の中で、見えないその壁は青空のようにも見えた。
矢が何発当たっても、いつまで当たっても、巨大なスクリーンが破れることはない。銀の鎧の騎士が、大きな剣を掲げている限りには。
ほむら「あれは……! あのバリアは!」
『や、ほむら、マミさん』
さやか『私に任せて』
殉葬「……!?」
矢の猛攻は打ち止めとなり、宙に描かれた魔法陣は消滅した。
しかし魔女としても、ここで黙り続けているわけにはいかない。目の前に出現した謎の敵を排するべく、より効果的な攻撃へと切り替えつつある。
さやか「さあ、次は何する気? 迎撃か、防御か」
さやか「どっちも無理だよ、今の私はさっきより……もっと強いんだ」
銀の兜に顔を覆ったさやかの表情は、誰にも見えない。
けど彼女は微笑んでいる。好戦的に? それは少し違う。もっと、心底楽しそうに。
あの時初めて、枝を自在に振るえるようになった時のような。子供のような笑みだ。
さやか「……“フェル・マータ”!」
振り下ろした大剣が白銀の柱を放射して、目の前のバリアを打ち破る。
殉葬「ヤダ……」
銀の奔流は速やかに魔女を飲み込み、すぐに途絶えて消えた。
杖を抱いた魔女の姿はもう、そこになかった。
- 379: 2013/09/17(火) 20:06:47.27 ID:0eMkxd5f0
- さやか「……よし」
身体は絶好調。鎧も服みたく軽い。剣は自分の腕のようだ。
さやか(こんなに強いフェルマータを撃ったのに、疲労感が全くない)
大技を撃っても疲れないということは、ほとんど魔力を消耗していないということ。
その魔力はどこから来ているのか……それは間違いなく煤子さんだろう。
さやか「……」
下では杏子達が白馬に乗ってワルプルギスの夜をリンチしている。ひどい光景だ。
マミさんとほむらは無事、けど戦闘に参加できる余裕があるかといえば、どうだろうか。
ほむらは以前、今日の時間経過によって自分の魔法が使えなくなることを打ち明けていた。
ほむらの魔法の期限は多分既に切れている。これ移行は時間停止は使えないだろう。
ワルプルギスの夜を速やかに問題なく倒すためには、結界の中に入る必要がある。
けど結界に突入するためには、結界が露出しているわずかなタイミングで時間停止を用いるのがベストだ。
ワルプルギスを一度消滅させ、その隙に結界へ……は、自力ではかなり難しいだろう。
さやか(……)
ワルプルギスの夜を倒すには、もう本体を消耗させたほうが早いかもしれない。
街を舞台に暴れることになる。そこが難しいところだけど、今の私と……杏子ならできる。
- 380: 2013/09/17(火) 22:08:50.14 ID:0eMkxd5f0
- 「ヤアッ」
さやか「!」
ふと目を離していると、銀の針がこちらへ放たれていた。
さやか「ああ」
私は迫る鋭い閃光を、右手で弾いてかき消した。
さやか「ごめん、計算に入れてなかった」
磔刑「……」
両手にエネルギーが凝縮された針を持ち、それらを投擲することで強いレーザーを放つ魔女だ。
私はこの魔女によって致命傷を負った。ある意味仇敵だ。
けど今は、かなりどうでもいい。
何故かって、今私の中で噴き上がっている力の源には際限がなくて、その余った飛沫でさえ、あの魔女の攻撃を防いでしまうには十分すぎるのだと、理解できているからだ。
磔刑「セイッ」
二投目が来る。まっすぐ私の中心を狙って。
さやか「くどいよ」
針の銀色のエネルギーは私の寸前で不可視の障壁に阻まれ、広がり潰れて千切れ消え去ってゆく。
もうあの魔女の攻撃では、私の生み出すバリアは破れない。……いや、多分、誰も破れないんだと思う。
“全てを守れるほど強くなりたい。”
……言葉にできるほど具体的な事を経たわけじゃないけど、その願いがそのまま叶ってしまっている気がするんだ。
私に守れないものはない。誰が傷つくこともない。今の私にはそれが可能なのだと、本能的にわかっている。
- 381: 2013/09/17(火) 22:36:13.29 ID:0eMkxd5f0
- さやか「シッ」
フェルマータの下位の下位。大剣に魔力を乗せて、横振りで払うだけの名もない技。
磔刑「ビ、ギィ……」
見えざる魔力の衝撃波が魔女の頭部を鈍く打ち砕き、残された本体も首の後を追うようにして崩れて消え去った。
……強敵のはずだったのに、あっけない最期だ。
もちろん数分前の自分には扱いようのない技だとはわかっているけど、こう日常の動作のように簡単に出来てしまうと、すこし切ない。
さやか「……」
だけど強大な力はまだまだ溢れてくる。次から次へと間欠泉のように、際限なく。
この世界に存在させておくには、発散させておかなければ危険なことがおこりそうだと錯覚するほどに大きな力だ。
ワルプルギスの夜を地面に磔て嬲っている杏子を見るに、彼女も力を持て余しているのだろう。
今までは魔力を温存する戦い方に苦心していたのに、なんということだろうね。
さやか「……悪くはないけどね」
大剣を空へ振る。剣から迸った青い輝きは、宙に散らばり、空気中へと溶けこんでゆく。
さやか「こういう大味な大盤振る舞いも、時にはいい事だと思う」
- 383: 2013/09/18(水) 21:57:52.08 ID:i0aiFnz90
- マミ「……!」
地上のマミさんは真っ先に異変に気付いたようだ。
巻いたリボンを取り払い、自分の脚を確認している。
杏子「おお」
次は杏子。彼女も気づきやすい方だろう。
無意識に見ていた景色がより鮮明に、元通り鮮やかになるのだから。
ほむら「ちょっと巴さ……あれ、これって……」
そしてしばらくして、ほむらも体の変化に気づいたらしい。
ちょっとした擦り傷も、切断された脚も、消えてなくなった首でさえも。
今この時、私の力が及ぶ範囲にいる人の全ての傷は消え去った。
杏子「へっ、生き返った気分だ」
頭部が蘇った杏子は長い髪を束ね直し、固く固く結んだ。
さやか『やっちゃえ、杏子』
杏子『おう』
- 387: 2013/09/19(木) 23:00:29.58 ID:35CJiueT0
- 一騎が宙に飛び上がり、ワルプルギスの歯車に着地した。
歯先の上でブンタツを華麗に翻し、構える。彼女が本物の杏子だろう。
杏子「お前は人を殺し過ぎた」
魔女「……アハハハ!アハハハハハハ!」
無重力、高重力、乱気流、あらゆる空間効果を発動させ、自分の周囲を振り回している。
力場に巻き込まれた建造物を基礎ごと砕いて、壁を割り、破片を操り敵へと投げる。恐ろしい攻撃だ。
普通の魔法少女なら空へ放り出され、無数の瓦礫に巻き込まれてすぐさま絶命する過酷な空間だろう。
杏子「そうやって何人も殺してきたんだな」
けど、杏子は微動だにしない。真の強さを手に入れた彼女には、どんな力場にも耐えることができるのだ。
時折鋭利な破片によってわずかに傷ついたとしても、傷は瞬時に塞がってしまう。
さやか「……」
そして空を舞う瓦礫達は、見えざる壁に阻まれる。
広域に展開されたバリアによって、どこへ飛散することも、こちらへ襲いかかることもできずに微塵になってゆく。
杏子「さあ、時間だ」
杏子が両手でブンタツを掲げる。
こうなってしまっては、ワルプルギスも無力なものだ。
最強の魔女の伝説もここで幕引きか。
杏子「神に祈れ」
魔女「……!」
杏子「アタシは赦してやらねーけどなァ!」
ブンタツが爆ぜるように燃え上がり、高層ビルほどの高さまで火柱が上がった。
炎の塊は下から暗雲を照らし、どす黒い赤の雲は、地獄の光景を見ているかのような禍々しさだった。
地獄。そんなものがあるとしたら多分、そこがワルプルギスの行く末なのだろう。
- 391: 2013/09/20(金) 22:49:39.93 ID:N5ywLeTe0
- 煉獄。消えない炎がワルプルギスを焼く。
破壊と再生を急速に繰り返し続け、ワルプルギスの夜はそのエネルギーを使い果たしてしまった。
魔女「アハハ……ハ……」
炎に焼かれ朽ち果てる。最悪の魔女には、なんともお似合いな結末だ。
マミ「……倒した?」
ほむら「……」
紅い炎は焼き尽くしてしまうと、役目を終えたことを理解したようにすぐに消え去った。
そこには何も残っていない。時間が停止していないにも関わらず、ワルプルギスの夜が復活する兆しもない。
杏子「……終わった」
コンクリートの地面が赤く焼け、中心部には杏子だけが立っていた。
ワルプルギスの夜を失ったためか、操っていた白馬の使い魔も消え去っている。
杏子「終わりました、煤子さん」
魔法少女たちが、数百年に渡って繰り広げてきた死闘は、ようやく終わったのだ。
さやか「……ありがとうございます」
空に残った旋風が解け、暗雲が晴れてゆく。
魔法少女達の夜は明けた。
- 394: 2013/09/22(日) 16:01:58.60 ID:fHOxo8Lb0
- マミ「……雨?」
晴れた空から、暗い雨粒がやってくるのが見えた。
まだ魔女の攻撃でも来るのかと、みんなは身構えている。
ほむら「いえ……」
けどそれは、警戒など無用なものだった。むしろ逆で、私達への癒やしと言ってもいい。
落ちてきたのは、雨のように降ってくる大量のグリーフシードだ。
杏子「……」
今まで倒してきた分の魔女の元が一気にグリーフシードへ還元され、地上へ落ちてきたのだ。
ワルプルギスの夜を撃破した報酬、ってところだろう。
さやか「これを使い切るのはいつになるやら」
落ちてくるシードのうちの一つをキャッチして、掌の上でまじまじと見つめる。
負の力が完全に浄化されたグリーフシードは濁りひとつない。
さやか「……」
魔法少女にとっては魔力を回復してくれる、命をかけてでも手に入れたい必須のアイテムだ。
けどそれと同時に、この石ころは私達の行く末でもある。
嵐の中に閉じ込められた魔女達の哀れな末路。
絶望を振りまくだけ振りまいて、最後には魔法少女の食事扱い。救われないものだ。
グリーフシードを握りしめる。
私はこの石の中に彼女らの思念が籠っていないことを、ただただ祈った。
- 395: 2013/09/22(日) 16:18:30.90 ID:fHOxo8Lb0
- 「外、晴れてるらしいよ」
「もう? まだ避難指示解除されてないんじゃない?」
「でも外は全然そんな感じじゃないんだって」
「ほんとに……ちょっと見に行ってみましょ」
「うん、行こう」
QB「……」
まどか「……」
QB「……さやか達は、勝ったようだ」
まどか『うん、みたい、だね』
QB「まったく信じられない事が起こったよ。まったく予期していなかったことだ、あんな逆転劇になるとはね」
まどか『……さやかちゃんだもん』
QB「?」
まどか『だって、さやかちゃんだもん』
QB「なんだい、それは」
まどか『うぃひひ……親友だからこそわかることなんだよ、キュゥべえ』
QB「……」
QB「やれやれ……契約者を頻出してくれる、便利な魔女だったんだけどなぁ」
- 397: 2013/09/23(月) 18:41:57.00 ID:F8jKGJWg0
- 有り余る魔力を用いて、私はゆっくりと黒い地上に降り立った。
着地とともに、鎧全身ががしゃりと音を立てる。
ほむら「……さやか?」
怪訝な表情でほむらが聞いてきた。
隣のマミさんも似たような顔だった。私が本当にさやかであるのか、疑うような……。
さやか「どう見たって私……ああ、そっか」
銀のヘルムのフェイス部分を魔力稼働で跳ね上げる。
魔法で透視していた視界よりもより鮮やかな、いつもの色彩のみんなが見えた。
さやか「フルアーマーさやかちゃんです」
ほむら「……何が起こったの?」
さやか「……」
ほむら「私は、嵐の中で……魔女の攻撃に引き裂かれたあなたを見たわ」
マミ「そして佐倉さんもね」
私が魔女にこっぴどくやられたのは覚えている。確かに、痛覚を切っていなかったら到底耐えられない、拷問のような死に際だったと思う。
だから見ていないけど……マミさんの口ぶりでは、その後に杏子もやられたのだろう。首が無かったのはそのせいか。
さやか「うん……確かに、一時は死にかけたよ。上半身消し飛んで、遠いところまで煽られて……だけど、ソウルジェムはギリギリで無事だったみたい」
ほむら「ソウルジェムが無事なら大丈夫なのは知ってるけど、だからってあの死傷から……信じられないわ」
さやか「……正直、私もね」
マミ「……あは、あはは……勝利の余韻に浸っている反面、戸惑いを隠せないわね」
緊張感は一気に抜けきらなかった。疲労感がどっと押し寄せてくることもない。どことなく微妙な、後味の勝利だ。
けど、私達は間違いなく強敵を打ち破った。それだけは確かなこと。
- 398: 2013/09/23(月) 20:34:25.72 ID:F8jKGJWg0
- 杏子「……よし」
さやか「終わった?」
杏子「ああ」
降ってきたグリーフシードを全て回収した杏子は、黒い大地の中央で祈りを捧げていた。
膝を折って手を組む仕草は、普段の乱暴な彼女からは全く想像できないものだった。
祈る先はグリーフシード……かと思いきや、自前のアンクである。
マミ「佐倉さんも無事だったのね……良かった」
杏子「まあな」
膝についた灰を払って、杏子がこちらに向く。
ワルプルギスを撃破した張本人である彼女の表情は、晴れても沈んでもいない。無表情だ。
……私と同じで、まだ整理がついていないのだろう。思考も、感情にも。
ほむら「あなたも生き返ったのね」
杏子「……おかげさまでね」
ほむら「?」
杏子「なんでもない」
- 400: 2013/09/23(月) 22:48:29.59 ID:F8jKGJWg0
- 杏子「一時的にだけど、神様が奇跡をくれたんだよ」
ほむら「え?」
神様ね。私は思わずクスリと笑った。面白かったわけではない。その通りかも、彼女に共感したのだ。
これまでの私の人生、そして夢を叶えてくれた奇跡。神様、その通りと言う他ない。
杏子「しかしこの奇跡も、一度きりみたいだ……さっきこそ大暴れしたけどさ、もう底から漲るようなパワーが出てこないよ」
さやか「あー……確かに、そう言われてみれば、よ、鎧が重く……」
杏子「解除しときなよ、知らないうちに魔力を食ってるかもしんねーぞ」
さやか「そ、そうしておこうかな」
全身を包む鎧を解除し、剣も消滅させる。
体は元通り、普通の魔法少女の姿に戻った。
……再び先程までの姿には、なれそうもない。
ほむら「奇跡、か……二人共、力を願ったからかしらね」
マミ「強さを求める心が、力を呼び覚ました? ふふ、強引だけど、ロマンがあって良いわね」
杏子「へ、かもね」
そうであるとも言えるし、そうでないとも言える。
- 401: 2013/09/23(月) 23:04:49.04 ID:F8jKGJWg0
- さやか「……」
けど手に入れた新たな能力は、私は癒やしの力で、杏子は惑わしの力だ。
私の願いも杏子の願いも、同じ力の願い。
単純な私達の願いを強化した奇跡なのだとすると、癒やしならそれに多少の説明は付くものの、幻影や幻惑の理由を説明するにはちょっと不十分なように感じる。
あの奇跡はもっと別の……例えば、別の何者かの願いなんじゃないかな、と思ってしまうのだ。
私達の意志とは別の何か……。
さやか(“この世界の因果と、私の因果”……因果、か)
暁美ほむら、煤子、時間遡行、平行世界、因果……。
護りの力……癒やしの力……美樹さやか。
美樹さやかと癒やしの力、か。
さやか「……ほむら」
ほむら「? え、なに、ちょ……」
私はほむらを優しく抱きしめた。
さやか「よく頑張ったよ、今まで……今まで本当によく頑張ったよ」
ほむら「……」
全ては、地獄のような時を何度も繰り返し、挑戦してきた一人の少女の願いが始まりだったのだ。
何度も何度も戦い続け、決して挫けることなく戦い続けてきた彼女の、最初の強い願いが、この時を呼び寄せたのだ。
さやか「ほむらがいるから、今この時があるんだろうね」
ほむら「……」
さやか「……お疲れ様、ありがとう、ほむら」
ほむら「……!」
嵐は過ぎ去った。快晴を見上げた人たちは、段々と街へ戻ってくるだろう。
ここもそう長くは居られたものではない。
だけど暫くの間だけ、ほむらは周囲を気にすることなく泣いた。
努力が報われ、願いが叶ったことを理解して、堰を切ったように嗚咽し続けた。
- 402: 2013/09/23(月) 23:13:50.98 ID:F8jKGJWg0
- -=◎=-
此岸「おめでとう……お疲れ様、よく頑張ったわね」
此岸「本当にみんな、よく頑張ったわ」
此岸「これでもう、私は思い残すこともない」
此岸「……だってそうでしょう、私の願いが叶ったのだもの」
此岸「完成されたこの世界に何を望むというのかしら」
此岸「繰り返すことは、これでおしまい」
此岸「これで私は満足だわ」
此岸「……最高のゲームオーバーよ、ありがとう」
------
- 409: 2013/09/23(月) 23:24:31.35 ID:F8jKGJWg0
- 見滝原の被害は、極大のスーパーセル到来にもかかわらず、かなり小規模な被害で済んでいた。
衰えることなく突き進むであろう気象予測とは裏腹に、スーパーセルは早い段階で消滅してしまったのだ。
観測所の誤探知、誤報、統計の誤り……。
……まあ逆に色々と風当たりが強くなった所もあったみたいだけど、局所的に残っているとてつもない風害の傷跡は、観測所の人々の首の皮をなんとか繋げたようだ。
しかしそんなことよりも驚くべきは、今回の災害による死傷者と負傷者の数だ。
局所的な被害であったとはいえ、避難に遅れた人々はゼロではない。少なからず巻き込まれ、何百人と犠牲が出たはずである。
が、それも極端に少なかった。
理由は……不明。
気味の悪いことに、強風によって瓦礫の下敷きになった人や、飛来した物にぶつかって怪我をした人たちの傷が、ほぼ完全に癒えてしまっているというのだ。
ある人は、こうだ。
家屋の下敷きになり、身動きが取れず出血だけが続き、絶望の中で意識を手放した人がいた。
だけどその人が目を覚ましてみれば、破れた服と血溜まりがあっただけで、自分は一切の傷を負っていなかったのだという。
……いやあ、恐ろしい話もあったもんだよね。こわいこわい。
- 411: 2013/09/23(月) 23:33:35.81 ID:F8jKGJWg0
- 見滝原は未曾有……であろうはずの大災害から難を逃れた。
街は風でちょっと荒れていたものの、それもすぐに元に戻るだろう。
数日の休みがあったものの、学校もすぐに始まるらしい。
良かった良かった。
……と、他人事だけど、実は今日がその嵐明けの登校初日。
さやか「……ふんふんふーん」
いつもの登校風景。いつもの青空。
見慣れた道を歩いてゆけば、いつもの場所に彼女たちがいる。
まどか「さやかちゃーん!」
仁美「さやかさん、おはようございます」
ほむら「おはよう」
さやか「おー、おっはよー!」
QB「きゅっぷい」
さやか『おお、キュゥべえもいたか、おはよ』
QB「うん、もちろんだよ」
キュゥべえは特に悪びれもせず、当然のようにまどかの肩に乗っていた。
……まぁ、これからも折にふれてキュゥべえが茶々を入れてくるだろうけど、ワルプルギスの夜を乗り越えたまどかにはそんな手も通用しないだろう。
心配は無用だ。
ほむら「……」
QB「睨まないでよ」
ほむらの目は相変わらず、そうは言ってないけど。
- 412: 2013/09/23(月) 23:42:00.26 ID:F8jKGJWg0
- QB「ところでさやか、杏子について話を聞いているかい?」
さやか『え? 杏子?』
QB「うん、彼女はしばらくこの付近からも姿を消すらしいんだ」
さやか『えっ』
まどか『え?』
それは初耳だ。
っていうか、え?なんで?
QB「理由は聞いてみたけど、僕には意味がわからなかったよ」
さやか『なんて言ってたのよ、せっかく平和が戻ってきたっていうのに、復学もしないであいつは……』
QB「さあね、元々何を考えているのかわからない魔法少女だし……ええとね」
QB「“煤子さんはまだ消えずに、この世を彷徨っているのかもしれない”」
さやか「……」
QB「“煤子さんを探しにいってくる”」
さやか「……」
QB「そう言って、たくさんのグリーフシードと一緒に旅に出た。グリーフシードは有り余るほどあるからね、実力もあるし心配はいらないけど」
まどか『……煤子さんって、さやかちゃんの、あの?』
さやか「うん、だね……そうか」
彼女は魔女になった煤子さんを探しに行ったのか。
……確かに、煤子さんの魔女を倒した記憶はない。ワルプルギスと一緒に消滅した……っていう可能性があるかといえば、なさそうだ。
まだ魔女としてどこかにいるかもしれない。その読みは現実的だ。
- 413: 2013/09/23(月) 23:50:59.98 ID:F8jKGJWg0
- ほむら『……煤子、ね』
さやか「……」
QB「さやかも彼女に心酔しているんだろう? 君はどうする? 杏子と同じで、煤子っていう人を探しにいくのかい?」
まどか『え? さやかちゃんも旅に出ちゃうの?』
煤子さん。私にとってかけがえのない恩人。
とても大切な人。また、一度でもいいから会いたい人……。
さやか『ううん、私は行かないよ』
QB「そう? 意外だな」
さやか『でも、探すのを無駄なこととは思わない。正直杏子と一緒に探しに行きたいよ。意義のあることだと思う……けど』
私の横を歩くほむらを見る。
さやか『多分、煤子さんはなんてことのない、こんな平穏な日々を望んでいるから』
ほむら『……』
さやか『私はその中で、生きていくつもりだよ。ずっと』
そう、私はこんな日々を守っていきたい。
まどかを守り、ほむらを守る。二人の日常を守っていくために、私はここで生きていきたい。
それは煤子さんが望む願いでもあったのだと思う。
ほむら『そう、それでいいのね?』
さやか『うん、もちろん』
私はほむらに微笑みかけた。ほむらも、薄く口元で笑い返してくれた。
仁美「い、いけませんわ……」
ほむら「え?」
こんな日々を送って行こう。
- 414: 2013/09/24(火) 00:05:25.55 ID:hido40Co0
- マミ『おはよ』
まどか『あっ、マミさん! おはようございます!』
ほむら『おはよう』
さやか『おはようございまーす!』
これから再び魔法少女として、見滝原を守っていこう。
ワルプルギスの夜を倒しても、この世から魔女が消え去ったわけではない。
私はまだまだ、戦い続けなくてはならない。
この手の届く限りに、人々全てを守っていこう。
かけがえのない笑顔を守るために、絶望に悲しませないために。
日常を守り抜くために。
とん、とん。
さやか「ん?」
しかしその日常の前に、ちょっとした非日常的な出来事が待っていた。
私の右腕を、一冊の本が小突く。
本の表紙には管楽器の文字がある。
恭介「さやか、おはよう。早速だけどこれ返すよ。新鮮で面白かったよ、ありがとう」
さやか「恭介、おは……あれ?」
恭介は左手に持った本を私に差し出している。
まどか「あ、上条くんおは、よう……?」
仁美「……? あ、あれ?」
さやか「……恭介、その左手……」
杖もつかず、ニ本の脚で私達と並んで歩く彼の姿。
腕にはギプスもなく、元気に手まで振っている。
恭介は左手に持った本を軽く掲げて言った。
恭介「完治、だってさ」
さやか「……うそっ」
恭介「本当」
さやか「……マジで?」
それは、よく晴れた日の出来事だった。
- 439: 2013/09/24(火) 22:59:01.02 ID:hido40Co0
- ほむら(……)
ほむら(……また、この病院からなのね……)
ほむら(もう何度、同じ時間を繰り返しただろう……何度戦っても、まどかを救えない……)
ほむら(段々と戦い方は身についてきている、はずなのに……どうしても勝てない……!)
ほむら(もっと他に協力者が必要なのかしら……?)
ほむら(杏子に頼ったループでは、かなりいいところまでいけたわ)
(花瓶)*・∀・)……
ほむら(なら今回は新たな魔法少女を探しながら、その人にも協力してもらう形で……)
(花瓶)*・∀・)……
ほむら「……」
(花瓶)*・∀・)……
ほむら「え……ええっ!?」
(花瓶) ヾ(・∀・* ) カカレー!
三(ノ*・∀・)ノ(ノ*・∀・)ノ(ノ*・∀・)ノ(ノ*・∀・)ノ ワアアアアア!!
ほむら「ちょ、な、なに、お、重……!」ギュムギュム
- 441: 2013/09/24(火) 23:03:30.97 ID:hido40Co0
-
和子「中沢くん!」
中沢「は、はい!」
和子「目玉焼きには」
中沢「“どちらでもいい”、ですよね? 先生」
和子「問題文を読む前に答えるな、マイナス40点」
中沢「」
さやか「わかる」
和子「……さて、それはさておきまして、今日はこのクラスの新しいお友達を紹介しますね」
まどか「新しいお友達? 転校生ってこと?」
さやか「おお、一大イベントですなぁ!」
まどか「できれば冒頭でやってほしかったよね」
さやか「あはは、まぁね」
和子「じゃあ暁美さん、中へどうぞ」
「ハーイ」
さやか(あれ?なんかやたら高い声)
ガラララララ
(・∀・* ))) フニフニ
まどか「」
さやか「」
- 442: 2013/09/24(火) 23:07:45.24 ID:hido40Co0
- 和子「えー……」ヒョイ
つノシ*・∀・)ノシ キャー
和子「この子が新しくこのクラスに編入することになりました、えっと……」
つ*・∀・)ノ 暁美ほむらヨ!
さやか(え……なにあれ、……なにあれ……)
まどか(夢で見たことない)
和子「心臓の病気で長い間入院していたけど、具合が良くなったので復学されることになりました、仲良くしてあげてくださいね」
つ*・∀・)っ ソユコトヨ
さやか(心臓!?)
まどか(入院!?)
- 443: 2013/09/24(火) 23:12:11.69 ID:hido40Co0
- 「暁美さんどこの学校から来たの?」
( *・∀)っ 長崎の調理系ヨ
「綺麗な髪ー、シャンプーなに使ってるの?」
( *・∀・)っ メタミドホス
「ね、ねえなんか暁美さんって中華ま」
( *・∀・)つ(ボゴッ 「ぐふッ」
さやか「……なんか、個性的な……生き物が転校してきたね……」
まどか「……なんで溶け込めてるんだろう……」
(*・∀・*)チラリ
まどか(うわっ、こっち見た)
(((( *・∀・)フニフニ
まどか(こっち来た)
- 444: 2013/09/24(火) 23:15:43.60 ID:hido40Co0
- ( *・∀・)貴女……保健係ヨネ?
まどか「は……はい」
さやか(敬語かい)
(*・∀・*)具合が悪いから、ちょっと保健室に連れて行ってもらえないカシラ
まどか「えっ……」
(*・∀・*)……
まどか「……どこらへんが……?」
(*・∀・*)……
( *・∀・)……心臓の辺りが
さやか(考えて言った)
和子「鹿目さん、保健係よね? ちょっと連れて行ってもらえる?」
まどか(逃げられない……)
- 445: 2013/09/24(火) 23:18:51.63 ID:hido40Co0
- ( *・∀・)ねえマドカ……
まどか「な……何?」
(*・∀・*)貴女……肉まんとあんまんだったらどっちがスキ?
まどか「……」
まどか「……?」
( *・∀・)あなたは優しスギル……
まどか(……意味がわからないよ……あと頭の上でほかほかあっついよ……)
- 446: 2013/09/24(火) 23:23:34.05 ID:hido40Co0
-
先生「じゃあこの問題を……暁美」
(*・∀・*)っ マカセテ!
先生「うむ、良い返事だ」
( *・∀)φ+ [小麦粉+お湯+挽き肉]
先生「うん、廊下で立っていよう」
まどか「……」
先生「よーーーい……」ピーッ
「はっ、はっ、はっ……」
「はっ、ふぅっ」
フニフニフニ フニフニ
(((( ;・∀)ヒィヒィ
さやか(遅い)
まどか(動けるだけでもすごいんだけどね)
- 447: 2013/09/24(火) 23:29:30.20 ID:hido40Co0
-
( * ∀ )グデーン……
仁美「で、結局このモールまで連れてきてしまったのですね」
まどか「うん……放課後もずっとこんな感じだったし、そのままにしておくと……」
仁美「しておくと?」
まどか「……たかられそうで」
仁美「あらあら」
さやか「なんかよくわからない転校生がきちゃったね」
まどか「うん……」ツンツン
っ)=∀-*)ミュイ
まどか「やらかい」
- 449: 2013/09/24(火) 23:35:49.51 ID:hido40Co0
- (* ∀ )オチビ ネンリョウギレ
- 451: 2013/09/25(水) 00:02:23.30 ID:/8B98xSC0
- (*・∀・*)っ おちびは力尽きたし、なにかこのSSで疑問なところがあれば答えるワ
- 452: 2013/09/25(水) 00:09:47.87 ID:GL/sIoSK0
- ボスラッシュのボスのイメージは炎、水、剣、処刑(死因)で良いのかな?
何か別にモチーフあるの? - 453: 2013/09/25(水) 00:24:32.62 ID:/8B98xSC0
- (*・∀・*)炎、水、剣、死って感じ
( *・∀・)っ ワルプルギスが魔女たちを勝手にクラス分けしてるようなイメージネ - 454: 2013/09/25(水) 00:29:05.26 ID:LppuaMCGo
- マミにだけは影響与えられなかったのは単に戻れる時間の限界?
- 455: 2013/09/25(水) 00:37:32.96 ID:/8B98xSC0
- (*・∀・*)っ 説明不足を後書きで補うのは力不足の露呈だけど答えるワネ
(*・∀・*)マミに影響を与えられなかったのは、当時のマミが少しの欠けもない完璧な幸せの中にあって、手を出す事が憚られたからヨ
(*・∀・*)っ それに、長い間先輩として、街を守る魔法少女としての行動に大きな変化があると、後の未来に大きな誤算が生じるかもという懸念もあったノヨ - 457: 2013/09/25(水) 00:40:21.90 ID:LEt+2sUUo
- 恭介とさやかのお互いの好感度ってどうなってるんだ?
さやかが恭介に恋愛感情抱いてるか結構微妙なラインだとおもったんだが - 459: 2013/09/25(水) 00:49:45.79 ID:/8B98xSC0
- (*・∀・*)さやかと恭介の恋愛感情については語らないワ
(*ノ∀・*)ゞ 野暮ってもんヨ! - 475: 2013/09/26(木) 00:19:41.07 ID:sY4qfOqOo
- 乙です
最初から追い続けてましたが大団円を迎えて良かったです
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