- 1: 2013/02/04(月) 16:04:13.93 ID:PtfAWFTpI
- 父「誕生日おめでとう!」
母「おめでとう!」
妹「おめでとう!」
男「……」
父「今日で男も十六歳だな」
母「めでたいわねえ」
男「ちっともめでたくなんかなーい!!」
父「何だ、そんなに声を荒げて」
男「お父さん、十六歳になったということはですよ?
これから三ヶ月以内に彼女を作らなきゃ僕は逮捕されてしまうんですよ!?」
- 2: 2013/02/04(月) 16:05:41.38 ID:PtfAWFTpI
- 父「ハッハッハ」
男「笑い事じゃないよ!」
父「なーに。父さんもお前くらいのときは不安だったさ。だけどすぐに彼女ができた。
あ、母さんのことじゃないぞ?」
母「あなた……」
父「怒るな怒るな」
男「しかしですね、妹はまだ十四歳だというのに彼氏がおります。
僕の周りでも十六歳の誕生日を迎える前に恋人を作る奴が大半です!
それなのに僕は一回も恋人ができたことがない!
これは僕が恋愛不適合者だということを端的に表しているのではないでしょうか!」
妹「その通りだと思うけど」 - 4: 2013/02/04(月) 16:06:26.03 ID:PtfAWFTpI
- 父「妹! めったなことを言うもんじゃない。男はちょっとだけ恋愛に目覚めるのが遅いだけさ」
妹「お父さんは自分の息子のことだから、男のひどさが分からないんだわ。
この顔にこの性格。男なんてすぐに豚箱行きよ!」
男「そこまで言うかー!?」
母「まあまあ。せっかくの誕生日に喧嘩しないの」
男「(しかし……、妹の言うことも正しい気がする。実際、学校でも僕ほど女っ気のない奴はいないのだ。
とにかく、逮捕はごめんだ。明日から頑張らなくちゃ!)」
- 5: 2013/02/04(月) 16:07:34.65 ID:PtfAWFTpI
- ~~~~
男「ね、ねえ。僕と恋人になってくれない」
「ごめんなさいね。あたし、今彼氏がいるの」
男「そこの君、僕と友だちになって」
「やーよ。あんたみたいなヤボいの」
男「もう誰でもいいから付き合ってくれ!」
「あたいにも選ぶ権利くらいあるんだわさ」 - 6: 2013/02/04(月) 16:08:33.48 ID:PtfAWFTpI
- ~~~~
男「何ということだ! あれからもう二ヶ月半が経った!
それなのに一向に彼女ができる気配がない!」
友「周りは中学から恋人持ち越してるのが大半だからな。俺たちはスタートから遅れてんだ」
男「おお、友よ! もはや同類は君しかいない!」
友「悪いな。実はさっきこんなのを貰ってな」
男「そ、それは……ラ・ブ・レ・タ-!?」
友「もうすぐ期限がやばい女もいるんだろう。ま、よっぽどアレな奴以外はどっかしら需要があるわな。
アハハハハ!!」
男「この裏切り者め!」 - 8: 2013/02/04(月) 16:09:39.06 ID:PtfAWFTpI
- ~~~~
男「(そして三ヶ月が経った夜、僕の家に警官が押しかけてきた)」
妹「ね、あたしの言った通りだわ」
父「男……、父さんは情けないぞ! ムショで根性を鍛え直してこい!!」
男「ひどい! これが親の言うことだろうか!」
警官「キリキリ歩けっ!」
男「くそおお……」 - 9: 2013/02/04(月) 16:10:31.47 ID:PtfAWFTpI
- ~~~~
男「(そして僕は独房に入れられた。罰は懲役二週間。その間に変なセミナーを受けさせられる)」
指導員「で、キミ。どうして恋人作らなかったの」
男「作らなかったんじゃない! 作れなかったんだ!」
指導員「しかしキミねえ。国民の四大義務、教育・勤労・納税・恋愛! こんなのは小学校で習ったろう?
まともな人間なら三ヶ月もあれば恋人くらい作れるはず。これはキミの人格に問題があるとしか思えんなあ」
男「何だと!? 僕が囚人だとはいえそのような侮辱を受けるいわれはないぞ!
あなたを名誉棄損で訴える!」
指導員「権利を主張する前に義務を果たしたまえ。これからキミにはこのビデオを見てもらう」
男「(くそっ! 何だってこんな目に遭わなきゃならないんだ! 恋愛をしなかっただけで!)」 - 10: 2013/02/04(月) 16:11:32.01 ID:PtfAWFTpI
- 子ども『ママー、あのダサいおじさまはどうして捕まってるの?』
ママ『あれはね、恋愛をしなかったのよ』
子ども『ええっ! どうして恋愛をしないの』
ママ『それはね、心が狭くて、考えが幼稚で、人間としてダメダメだからよ。
まっとうな大人なら恋人は必ずできるし、恋愛したいと思うはずよね』
子ども『うん。僕もあんな大人にならないよう気をつけようっと!』
男「(何だこのビデオは……。こんなものを見せられても腹が立つだけじゃないか!)」
男「(恋愛ってそんなに立派なものか?)」 - 11: 2013/02/04(月) 16:12:30.15 ID:PtfAWFTpI
- ~~~~
男「(俺は二週間を刑務所で過ごし、ようやくシャバに戻れることになった)」
指導員「もう二度と来るなよ!」
男「(そうは言うが、出所から三ヶ月以内に彼女を作らなければまたここに戻される。
これは何か策を打たねばならない)」
- 12: 2013/02/04(月) 16:13:24.47 ID:PtfAWFTpI
- ~~~~
――学校――
男「ねえ、君。今付き合ってる人はいるかい?」
女「いないわ」
男「それなら、僕とお付き合いを前提にお友達になってくれ!」
女「ふーん。あんた、ここ二週間学校に来てなかったわよね。まさか、恋愛しないで捕まってたんじゃ……」
男「そ、そんなことは……」
友「その通りさ。こいつはやめといたほうがいいぜ!」
女「まあ、やっぱり!」
友「豚箱経験のある奴なんて気持ち悪くて叶わないよな」
女「まったくね」
- 13: 2013/02/04(月) 16:14:48.61 ID:PtfAWFTpI
- 男「友っ! きさまよくも!」
友「おやおや。俺を人でなしと罵るかい? しかしね、俺は本当のことを言ったまでさ!
これが世間から見た君の印象なんだよ!」
男「納得いかん! これから新たな恋愛に踏み出そうという僕をどうしてそう邪魔するんだ!」
友「いいかい。恋愛しなかったという理由で刑務所に送られる奴なんてごくわずかなんだ。
恋愛できないなんていう奴にはどっか問題があるんだ。だってそうだろう?
人が異性を好きになる基準は何か! 顔? スタイル? それもあるだろう。だが第一に心だ!
モテないやつは心が貧相なのさ!」
男「言わせておけば!」
女「やめなさい! 友くんの言う通りだわ。あなた、さっきから自分の悪いところを認めようとしないで。
そんなんだからモテないのよ」
男「そ、そんなんだからモテない……?」 - 14: 2013/02/04(月) 16:15:43.32 ID:PtfAWFTpI
- 女「あなたみたいな男、あたし絶対に付き合いたくない!」
男「が、が、が……」
チャラ男「よぉー、女ぁー。今彼氏いないんだってぇ~? そんなら俺と付き合ってみる?」
女「あら、いいわね! これからよろしくね」
男「あのチャラ男がよくて僕が駄目だというのかっ!!
あんなチャラチャラした奴よりは人格ができているつもりだぞっ!」
友「やーれやれ、哀れだねえ。そうやってプライドばかり高くて、理屈っぽくて、極めて幼稚で、
人を思いやる気持ちに欠けている。絵に描いたようなモテない奴だ!」
男「僕がモテないことは認めよう! だが、僕の人格に対する侮辱だけはゆるさんっ!!」
友「同じことさ。君はモテない。したがって人格にも問題があるんだ」
男「くそっ、友め! 今に見てろっ」 - 15: 2013/02/04(月) 16:16:42.16 ID:PtfAWFTpI
- ~~~~
男「僕と付き合って……」
「やーよ。恋愛経験のない男なんて気持ち悪い」
男「お友達に……」
「逮捕歴のある人なんてごめんだわ」
男「形だけでもいいから!」
「あなた、恋愛をナメてるの!?」 - 17: 2013/02/04(月) 16:18:25.65 ID:PtfAWFTpI
- ~~~~
男「(かくして僕は再び刑務所に送られることになった!)」
指導員「む、またキミか。あれからきっかり三ヶ月で送られてくるなんてよっぽどのクズだな!」
男「(もうこのような侮辱には慣れた。悲しいことだが)」
指導員「キミには恋愛的倫理観が欠損しているんじゃないかね?」
男「恋愛的倫理と言いますが、なぜ恋愛が道徳的なのでしょう!」
指導員「バカにはそんなことも分からんのか。人類は恋愛することによって繁殖できるのだ。当たり前だろう」
男「つがうだけなら猿でもできる! もっと高度な精神的営みこそ人類には求められるべきでは?」
指導員「キミはその猿以下であるからしてここにいるわけだが」
男「高度な知性を持っているからこそ生殖本能から解放されているのだ!」
指導員「馬鹿げたことを。そもそも恋愛だって十分に繊細な精神活動だろう。
男女間の機微など、それこそ猿や子どもには分からん」
男「恋愛が繊細な精神活動! そうおっしゃるのか!」
指導員「事実だ」 - 18: 2013/02/04(月) 16:19:26.33 ID:PtfAWFTpI
- 男「人は振られたり浮気された相手のことを恨む! これは無償の愛などとは程遠い!
恋愛など言ってしまえば醜い独占欲をロマンチックな言葉で美化しただけだ!」
指導員「キミは恋愛経験がないからそう僻む。それに、人類の長い歴史を見てみろ。
人類が絶え間なく恋愛してきたから今の我々の文明はあるのだ。
恋愛こそ、人類の末長い繁栄の為に我々が果たすべき義務である。
それを理解できないマイノリティは修正されるべきだ」
男「今、僕はひどい思想統制を見た! こんな国、いずれは滅ぶぞ!」
- 19: 2013/02/04(月) 16:20:24.60 ID:PtfAWFTpI
- ~~~~
指導員「喜べ。ここから出られることになった」
男「何、刑期はまだ一週間あるというのに?」
指導員「先日行ったテストによって、キミが重度の精神疾患であることが判明した。
その名もモテナイ症候群。キミには更生施設に移ってもらおう」
医師「これからあなたを搬送します」
男「くっ、何をする! 離せ! これは不当な拘束だぞ!」
指導員「国の特例でモテナイ症候群の患者には健全な社会復帰の為に施設でのリハビリが義務付けられているのだ」
男「離せ~!!」 - 20: 2013/02/04(月) 16:21:29.51 ID:PtfAWFTpI
- ~~~~
カウンセラー「いいかい、ここに来たということは君は欠陥人間なんだ」
男「ハァ……」
カウンセラー「恋愛こそ人類の叡智。スバラシク価値のある営みなのだよ」
男「ハァ……」
カウンセラー「それができないなんてのは脱税と同じくらい罪だ」
男「ハァ……」
カウンセラー「しようとも思わん奴はもう悪魔の子だ。人らしい心が欠けている」
男「ハァ……」
カウンセラー「ふむ。君が本当にそういう奴なのかどうか」
男「ハァ……」 - 23: 2013/02/04(月) 16:22:21.32 ID:PtfAWFTpI
- カウンセラー「君だって本当は恋愛したいはずだ。それが多少顔と性格がひどくモテないものだから、
あまのじゃくになってしまっているんだ。いいかい、恋愛は義務であるが権利でもあるんだ。
君でも恋愛していいんだよ」
男「……ム!」
カウンセラー「いつか君にもスバラシイ女性のパートナーができるはずだ。信じて。私が神に誓って保証しよう。
だから変な意地は張らずに、素直に恋愛の為の努力をしたまえ」
男「先生! 僕、目が覚めました!!」
- 25: 2013/02/04(月) 16:23:28.26 ID:PtfAWFTpI
- ~~~~
男「(一ヶ月のリハビリを経て僕はようやく外に出られた)」
男「(ああ、僕は何とだめな奴だったんだろう! これからは過去の自分を恥じ、彼女を作るために心を入れ替えよう!)」
男「ねえ、そこのお姉さん。お茶でもしましょう」
「鏡見たことあるの?」
男「……%$*#」
男「キーッ!!」
男「危ないところだった! あの施設で変な催眠術をかけられて心を操られていた!」
男「誰が恋愛なんかするものか! 恋愛なんかを強制するこんな国にはもううんざりだ!」 - 28: 2013/02/04(月) 16:24:23.19 ID:PtfAWFTpI
- ~~~~
――男の家――
男「お父さん、逃げましょう!」
父「何だ、いきなり」
男「こんな国にいては僕は殺されてしまう! そうだ、亡命だ! アメリカ、フランス、インド、どこでもいい!」
父「馬鹿なことを言うのはやめなさい。頭がおかしくなってしまったのかね」
母「ここまで常識がない子だとは思ってなかったのに……」
男「くっ、あなたがたに頼んだ僕が馬鹿だった!」
父「おい、どこへ行く!?」 - 31: 2013/02/04(月) 16:25:31.58 ID:PtfAWFTpI
- ~~~~
男「(あれから僕は逃げた! 社会から、この国から!)」
男「(恐らく捜索が始まっているが、この山の中まで人が来るのには時間がかかるだろう)」
男「(僕は人間に頼らず暮らす! 猿のように!)」 - 32: 2013/02/04(月) 16:26:27.98 ID:PtfAWFTpI
- ~~~~
男「(……あれから何日が経った?)」
男「(どうやら僕は、人里から離れて生きていくにはあまりに脆弱だったようだ)」
男「(このままでは奴らに見つかるよりも先に死んでしまう。こんなときの為にある程度金を持ちだしてきていた)」
男「(一旦、水と食糧を調達しに街へ下りよう)」 - 33: 2013/02/04(月) 16:27:31.83 ID:PtfAWFTpI
- ~~~~
――街――
男「(あの個人経営の駄菓子屋なら、そんなに目立つまい。チョコレートや水を買ったら、急いで山に帰ろう)」
カップル女「あら、あの人……」
カップル男「どうしたんだいハニー」
カップル女「この捜索願のポスターに載ってる人そっくり!」
カップル男「おや、本当だ。ありゃ本人だよ! よし、僕が通報しよう」
男「(何だと! まさかこんなに早く見つかるとは思わなかった!)」
男「(目当ての物は手に入らなかったが、ここは撤収だ!)」
- 34: 2013/02/04(月) 16:28:26.09 ID:PtfAWFTpI
- カップル男「おまわりさん、あっちです」
男「(くっ、逃げ切れるか!?)」
警官「君、待ちたまえ!」
男「(警官が二人! 数日間の山暮らしで弱っていた俺が奴らを振りきれるはずがなかった!)」
男「(もはやこれまで……!)」
男「寄るなぁー!!」
警官「!?」
男「それ以上近寄ったら、このナイフで僕は自分の首を掻き切るぞ!」
警官「とち狂ったか!?」
男「黙れ! 僕はこんな国で生きていくことに耐えられないのだ!
これ以上僕の自由を奪おうというのなら、いっそ死という解放を手に入れてやろう!」 - 36: 2013/02/04(月) 16:29:33.32 ID:PtfAWFTpI
- 警官「なぜ君はこの国で生きていくことを拒むんだ!」
男「僕は恋愛不実行の罪で二度投獄された! 人に恋愛を強要するこの国は狂っている!
この国の内にも、外にも、逃げる術がないというのなら、僕はここで死んでやる!」
警官「……」ピッ
警官「あ、もしもし。このようなケースは初めてなのですが、確か我が国において、
『人類の至上の道徳である恋愛を極端に謗ることを除いて、言論・思想の自由は認められなければならない』
でしたよね。それで、公然と恋愛批判をした者に対しては……、はい、分かりました。お願いします」
男「誰と電話をしている! いいか、そのまま動くな! 僕がお前の視界から消えるまでだぞ!」
警官「……」
男「(よし、このままいけば逃げられる!)」 - 38: 2013/02/04(月) 16:30:26.27 ID:PtfAWFTpI
- 警官「待て!」
男「!?」
警官「なぜそんなにも恋愛を否定する!」
男「その質問にはもう飽きた! お前に答える義理はない!」
警官「いいや、君には答える義務がある。なぜなら君が国民だからだ!」
男「その国民であることに嫌気がさしたからこうしているのだ!」
警官「そんなにこの国が嫌か!」
男「ああ、国民は馬鹿だ! 皆狂ったように恋愛、恋愛! 薬で調教されたように!」
警官「待て! それ以上動くな! 今、君と話をしている!」 - 41: 2013/02/04(月) 16:31:25.28 ID:PtfAWFTpI
- 男「何だと? さては時間稼ぎだな?」
警官「……バレたか。だが、もう十分だ」
男「っ!?」
男「(突如、後頭部に鋭い打撃が加えられた!)」
男「(薄れゆく意識の中、俺は足元に多数の人の影が映るのを見た!)」
男「(あの警官が大げさな応援要請をしたのだ……)」
男「(そして……)」 - 42: 2013/02/04(月) 16:32:30.32 ID:PtfAWFTpI
- ~~~~
「やれやれ、君のような人間はめったにいないのだが」
「我が国の法に記されている以上、それに従って君を処分する」
「君には一定の刑罰を加えた後、我々の保護観察下で暮らしてもらう」
「まあ、私も可哀そうだとは思うが、我が国において恋愛批判とはそれだけの罪だ」
「ムショの中や施設内でわめく分には大目に見たが、公衆の面前でわめき散らしたとなると救いようがない」
「え? 一定の刑罰とは具体的に何かって?」
「あー、古く伝統的な罰であり、君なんかは聞いたことがないかも知れんが」
「宮刑」
「可哀そうだとは思うがね」
- 44: 2013/02/04(月) 16:33:24.13 ID:PtfAWFTpI
- 僕という主体の記憶はこの辺りで消滅する。
それは人々から見れば、廃人になったと言うのかもしれない。
それからもその国は末長く繁栄していったそうだ。
終わり
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