京介「別れよう」 あやせ「え……」
- カテゴリ:俺の妹がこんなに可愛いわけがない
- コメント : 0
- 1: 2015/05/22(金) 00:21:43.57 ID:VWWrYmzqo
- あやせが作ってくれた晩御飯を一緒に食べ、まったりとした時間を過ごし、
彼女が帰宅するため玄関に立ったタイミングで切り出した。
京介「あやせ」
あやせ「はい、なんですかお兄さん」
京介「キスがしたい」
あやせ「」
あやせ「な……だ、ダメです! 急に何てこと言うんですか変態!」
京介「俺たち付き合い始めてもう四ヶ月だろ? そろそろキスくらい良いんじゃないか」
あやせ「時期とかそういう問題じゃありません! あと『くらい』って何ですか」
京介「駄目か?」
あやせ「ダメです」
京介「どうしても?」
あやせ「どうしてもです!」
京介「そうか……」
あやせ「大体お兄さんはスケベで変態ですから、キ、キ、キスを許したらその次その次って、どんどんエスカレートして行くに決まってます!」
京介「そこは否定できない」
あやせ「ほらやっぱり。だからダメです。結婚するまで清い交際でいましょう」
京介「……」
京介「なら」
SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1432221693
- 2: 2015/05/22(金) 00:23:29.74 ID:VWWrYmzqo
-
玄関の隅にあやせを追い詰め、ジッと目を見つめ、そっとその頬に手をかける。優しく、優しく。
あやせ「な……な……」
口をパクパクさせるあやせさん可愛い。
そのまま顎に手を移し、軽く持ち上げる。あくまで優しく。
京介「あやせ」
あやせ「え……や……」
ゆっくりと唇を近付ける。大丈夫、食事のあとちゃんと歯を磨いたので口臭対策は万全だ。
あやせ「嫌っ!!」
唇と唇の距離があとちょっと、という所でバチンッと強烈な音が響いた。遅れてジンとした痛みが頬に広がる。
見ると、羞恥か怒りか、恐らく両方だろう。顔を真っ赤にしたあやせが俺を涙目で睨んでいた。
京介「あやせ……」
あやせ「なん、で、こんな。ダメって言ったじゃないですかぁっ!」
京介「すまない」
あやせ「謝るくらいなら最初からしないでくださいっ。わた、わたし、ダメだって言ったじゃないですかぁ」
ポロポロと涙を流すあやせ。泣かせてしまった罪悪感に囚われる。
どうすればいい。抱きしめて泣き止むまで待てばいいのか?
いや、手を繋ぐことさえ慣れていない俺たちだ、拒否されそうな気がする。
京介「すまない。俺が悪かった」
結局謝ることしかできず、玄関にはしばらく静かな泣き声だけが響いた。
あやせ「……帰ります」
送って行くよ、と言える雰囲気であるはずも無く、あやせは泣きながら出て行った。
京介「何やってんだろうな俺は……」
後で謝罪のメールを送っておこう。あやせは優しいから許してくれるだろうけど、でも……。
- 3: 2015/05/22(金) 00:24:43.13 ID:VWWrYmzqo
-
あの晩から2日経った。
当日と昨日それぞれ一回ずつメールを送ったが、あやせからの返信はない。
傷つけてしまった事を後悔するが、それとは別に、キスすら許してくれない今の関係に疑問を抱く。
京介「結婚するまで清い交際で、か……」
あの日のあやせの言葉を思い出す。
俺の身勝手な焦りから無理やりキスを迫ったことは大いに反省すべきである。しかし、だ。
あんな可愛い彼女を持って、何もせずにおられようか、いや無理だ!
あやせは貞操観念が強すぎるから婚前交渉なんてとんでもないと思っているだろうが、
ヤりたい盛りの男子学生にそれは酷というものである。
セックスが無理ならせめてキスだけでも、と思う俺はおかしくないよな?
思えば黒猫と付き合っていた時も、彼女の極度の恥ずかしがりのお蔭で深い仲になる事は出来なかった。
つまり、未だ童貞の俺は焦っていた。
- 4: 2015/05/22(金) 00:25:57.64 ID:VWWrYmzqo
-
『そりゃお前、付き合って四ヶ月でキスもまだとか異常だよ、異常』
赤城に相談したのだが、返事はいい加減なものだった。
『今時しっかりした考えの子だとは思えないか?』
『俺なら無理だね。襲う』
すみません、無理やりキスしようとして拒否されました。
『相手の子は高1だろ? もうちょっと年が近い相手の方がいいんじゃないか?』
『めちゃくちゃ可愛いんだよ』
『はいはいごちそうさま。しかし、うーん』
『なんだよ』
『高坂お前まだ童貞だろ、だから焦るんだよ。今度ソープ行くか?』
なんで童貞ってお前が知ってるんだよ! というかこの言い方、こいつひょっとして既に……!?
『浮気したと思われて刺されそうだから却下だ』
『ばれなきゃいいんだよ。てか刺されるとか怖いな』
『それに俺も最初は彼女がいいな』
『乙女か! めんどくさいカップルだな』
『面倒で悪かったな。でもこのままじゃ続けていくのが辛い』
『できればうまく行って欲しいけど、彼女が拒否してるんじゃなぁ』
『一人で発散するのも限界がある。正直、すごいムラムラする』
『やっぱ風俗しかないんじゃね?』
それしかないのか? あやせを裏切ることになるようで心苦しいが。
『そもそも結婚までさせてくれないってなら、あと何年我慢するつもりだよお前』
『俺が大学卒業して就職して、彼女も進学してたらその卒業を待つとして』
『長すぎるな』
『だな』
『早くて7年か? 俺なら別れて新しい女を探すな』
……。
『ま、決めるのは高坂だ。がんばれよ!』
お礼を告げ、赤城とのLINEを終了させる。そのままスマホをベッド脇に置き、天井を見ながら考える。
別れる、か……。別れたくはない、けど今のままじゃ俺が耐えられなくなり関係が破綻しそうで怖い。
あやせに謝罪メールを送っておこう。そしてしっかり考えよう。
- 5: 2015/05/22(金) 00:27:07.33 ID:VWWrYmzqo
-
それからさらに3日。毎日メールを送っているが、あやせからの連絡は無い。
以前のように着信拒否されてたら心が折れそうなので電話はかけていないが、こうも音沙汰無いと不安が募るばかりだ。
と、電話をするべきか悩んでいたら、不意にチャイムが鳴った。
宅配は何も頼んでないからあやせだろうか、と逸る気持ちを抑えつつ扉を開けると、果たしてそこには彼女の姿があった。
学校帰りだろうか制服姿で、手には通学鞄と買い物袋を下げている。
あやせ「こんばんは、お兄さん」
京介「あ、ああ。こんばんはあやせ、久しぶりだな」
ニコニコと笑顔のあやせ。一週間近く会ってなかったというのに、まるで何も無かったかのようだ。
何も無かった事にしたいんだろうか……?
あやせ「上がってもいいですか?」
京介「あ、悪い。どうぞ遠慮なくしていってくれ」
あやせ「ではお邪魔します。晩御飯まだですよね?」
勝手知ったる何とやら、あやせは荷物を降ろすとうちに常備してある自分用のエプロンを身に着けた。
あやせ「今日はちょっと手の込んだ物を作ろうと思ってるんです」
京介「そうか、楽しみだな」
あやせ「少し時間がかかるので、お兄さんは勉強でもしながら待っていてください」
京介「分かった」
フンフンと鼻歌を歌いながら料理の支度を進めているあやせ。その様子からは特に何のてらいも感じられない。
どうする、あやせがあの事を無かったことにしたいのなら、それに乗っかった方が良いのか?
いや、それは駄目だろう。男としてきちんとケジメは付けておくべきだ。
とはいえ、それは食事の後でもいい。しっかりと味わおう……。
- 6: 2015/05/22(金) 00:28:35.71 ID:VWWrYmzqo
-
京介「ご馳走様でした」
あやせ「はい、お粗末様でした」
あやせが作ってくれたのはビーフストロガノフ? とかいうシチューだった。
京介「美味かったよ」
あやせ「それは良かったです。圧力釜があればもっと楽に作れるんですけど。あ、今度の休日一緒に買いに行きませんか?」
楽しそうに、恐らくデートを提案してくるあやせ。
京介「そうだな、それもいいかもな」
あやせ「何だか引っ掛かる言い方ですね……。とりあえずお皿片付けますね」
京介「あー、あやせ」
あやせ「はい?」
手を止めこちらを見つめてくる。俺はススッと位置をずらし、あやせと相対した。
京介「すんまっせんでしたあああああーーー!!」
そして流れるように土下座。満腹にはちょっと辛い体勢だ。
あやせ「……」
あやせ「えっと、どういうことでしょう? もしかして何かわたしに謝るようなことをしでかしたんですか?」
京介「とぼけなくて良い。俺はあやせに酷い事をした」
あやせ「何を言っているのか分かりませんので顔を上げてください」
京介「そういう訳にはいかない。俺はあやせの心を傷付けたんだ。許して貰えるまで顔は上げられない」
しばしの沈黙、そして
あやせ「もう、仕方の無い人ですね……」
ふう、と溜息が聞こえる。
あやせ「あの時は、もの凄くショックでした」
あやせ「お兄さんだって男の人ですから、いやらしい気持ちになるのは仕方ないことだと思うんです」
あやせ「お兄さんがわたしを求めてくれるのは、その、う、嬉しいですけど。わたしたちにはまだ早すぎると思うんです」
キスをしたかっただけなのが、俺が身体を求めていたみたいに聞こえてしまうのは気のせいだろうか。
あやせ「だから結婚するまで今のままでいましょう。わたしも頑張りますので、お兄さんも頑張ってください」
今の台詞からだと、あやせも何かしらの性衝動に耐えているように受け取れる。
それを強い意志で律しているのだろうか。分からない、普段のあやせからはそんな気配は微塵も感じ取れないからな。
あやせ「毎日メールを貰っていたのに返事をしなくてごめんなさい。あとあの時叩いてしまってごめんなさい」
あやせ「だからもう顔を上げてください。わたしはもう気にしていませんから」
京介「本当に悪かった」
言って体を起こす。あやせはちょっと恥ずかしげに俯いていた。
とても可愛いのだが、何かしたいという気持ちは沸いてこなかった。
- 7: 2015/05/22(金) 00:30:06.31 ID:VWWrYmzqo
-
やや気まずい空気を吹き飛ばすかのように、あやせはちょっと声を上げて言った。
あやせ「それじゃ片付けてしまいます。その後お出かけの事を決めましょう!」
京介「待ってくれ、まだ話には続きがあるんだ」
あやせ「?」
京介「真面目な話なのでちゃんと聞いて欲しい」
神妙に語る俺に何かを感じたのか、あやせは浮きかけた腰を落とし正座する。
京介「俺はあやせとキスがしたい。もっと言うと、抱きしめたりイチャイチャしたり」
あやせ「……」
京介「その、セックスもしたい」
顔が熱くなるのが分かる。
京介「さっきあやせが言ってた通り、俺だって男なんだ。彼女がいればエッチな事したいに決まってる」
京介「だけどあやせがとても貞操観念のしっかりした子だっていう事も分かっている、つもりだ」
京介「そこをあえて頼む、俺とエッチしないか?」
あやせ「……」
あやせ「……」
あやせ「お兄さんはさっき約束した事も守れないんですか?」
あやせ「結婚するまでお互いに頑張りましょうって言ったばかりですよね?」
京介「いや、それは一方的に告げられただけで約束とは……」
ああん? と睨まれた。めっちゃ怖いです。
京介「しかし現実問題として、俺はお前にムラムラしている。結婚までこんな状態でずっと我慢していろって言うのか?」
あやせ「はい」
京介「せめて本番なしでも、手とか口とか……」
あやせ「意味が分かりませんけど、とても変態的な事を言われたとは分かります。通報しますよ?」
やべえよ、あやせさん既に目のハイライト消えてるよ。
どうしよう、次の提案したらマジで殺されるかもしれない。
京介「えーーーっと……その、ふ、風俗とか」
あやせ「」
あ、駄目だこれ。一層雰囲気が変わった。俺終わったわ。
あやせ「話というのは以上ですか? ならもういいですよね?」
京介「ア、ハイ」
あやせ「はぁ、お兄さんが変態だというのは分かっていましたけど、ここまでだったなんて」
京介「そうは言うがなあやせ。年頃の男なんてこんなもんだぞ」
あやせ「スケベ」
京介「ごめんなさい」
- 8: 2015/05/22(金) 00:31:24.27 ID:VWWrYmzqo
-
あやせが食器を洗っている短い時間で俺は考えた。とても考えた。
『俺なら別れて新しい女を探すな』
……。
あやせ「お待たせしました。それじゃ、デー、お出かけの事でも決めましょう」
京介「……」
あやせ「お兄さん? また変な事でも考えてるんですか?」
あやせ「ダメですよ、結婚するまでは」
京介「ああ、それはもう分かった」
京介「だから、」
京介「別れよう」
あやせ「え……」
言ってしまった。言葉を出してしまった以上、もう止めることは出来ない。
- 9: 2015/05/22(金) 00:32:41.11 ID:VWWrYmzqo
-
あやせ「えっと、もしかして怒りました? でもそんな手には引っ掛かりませんよ。結婚するまでは許すつもりはありません」
京介「いや、もう良いんだ。今日までありがとう、楽しかったよ」
あやせ「そういう冗談はいいですから、次のお休みの話をしましょう」
京介「うちに置いてある荷物とかはあんまり無いよな。後でまとめて送るようにする」
あやせ「あ、そうだ。圧力釜の他にもここにあったら便利だと思ってた物があるんです」
京介「もう放課後や仕事終わりにここに来なくていい。今までたくさん料理してくれて助かった」
あやせ「食洗機はさすがに高すぎてお兄さんのお小遣いじゃ買えないでしょうけど、わたしのお給料を足せば」
京介「どうせいつか桐乃には伝わるだろうから、あやせから言いづらいなら俺から言っても良い」
あやせ「そうだ、今度桐乃も連れて一緒にお出かけしましょう。3人でお買い物とかとても楽しいと思うんです」
京介「あやせは可愛いからすぐに次の彼氏が見付かるさ。でも高校生はすごくスケベだから気を付けろよ?」
あやせ「可愛いとか恥ずかしい事を言っても誤魔化さ」
京介「あやせ」
少し強い口調で告げる。
京介「別れよう」
あやせ「嫌です」
京介「俺の勝手で悪いが、聞き入れてくれ」
あやせ「嫌です」
京介「もう無理なんだよ……分かってくれ」
あやせ「嫌です」
- 10: 2015/05/22(金) 00:34:50.73 ID:VWWrYmzqo
-
京介「あやせ!」
あやせ「なぜですか! 意味が分かりません!」
京介「俺たち付き合い始めて何回手を繋いだっけ。あやせは未だにデート、って口にするのも恥ずかしがるよな」
あやせ「手くらいいつでも繋げるじゃないですかっ。デ、デートだって言えます。ほら、デートデート」
あやせ「あれですか、キスしないからですか!? そういう愛の形だってあります!」
京介「確かに現代でもプラトニックな関係ってのはどこかにあるだろうよ」
あやせ「だったら!」
京介「でも、俺にはそうじゃない」
京介「あやせには理解できないだろうが、俺に取っては身体の関係も大事なんだよ。性欲も勿論あるけど、それだけじゃないんだ」
あやせ「だ、だったら……だったら……」
あやせはギュッと身体を縮こめた。
あやせ「キス……してもいいですから……そんな悲しい事を言わないでください……」
京介「無理しなくていい。きっとあやせに合うヤツがどこかにいるから、今度はその出会いを大切にしてくれ」
あやせ「なんでそんなこと言うんですかっ。わたしはお兄さんが良いんです!」
京介「その気持ちは嬉しいけど、俺とあやせじゃ決定的に恋愛観が違いすぎる」
あやせ「たった四ヶ月で何が分かるって言うんですか! 違うならこれから埋めていけばいいじゃないですか!」
京介「その言葉が出た時点で無理だ」
あやせ「意味が分かりません!!」
京介「あまり大きい声を出さないでくれ。近所迷惑だ」
あやせ「……」
冷たく告げると、あやせは静かになった。
可愛い顔が涙でグシャグシャだ……俺が泣かせてしまった。
- 11: 2015/05/22(金) 00:36:27.06 ID:VWWrYmzqo
-
あやせ「分かりました」
京介「そうか」
おもむろにあやせは制服のリボンを外し始めた。
しかしこれを受け入れる訳にはいかない。その手を掴み動きを止める。
あやせ「離してください!」
京介「辞めろ、自棄になるんじゃない」
あやせ「何でですかエッチすれば良いじゃないですか!」
あやせ「お兄さんはしたい事が出来て、わたしは別れなくて済む。誰も損しません!」
京介「そういう事じゃないんだよ、分かってくれあやせ」
あやせ「今のお兄さんはわたしにエッチを拒否されたからちょっと短絡的になってるだけです! だからエッチすれば元に戻ります!」
京介「確かに短絡的だと思わないでもない。だけどな、俺はこれでも必死に考えたんだ。その末の結論だよ」
あやせ「だからって、なんでいきなり別れ話になるんですかっ。わたしに隠れて浮気でもすれば良かったのに!」
京介「そんな事できる訳ないだろっ。大体お前はそれで平気なのかよ!」
あやせ「平気な訳ないです! でも別れるよりはマシです……」
その場にへたり込むあやせ。顔を覆いヒックヒックと泣いている。この間から泣かせてばかりだな俺。
京介「もう遅い。送ることは出来ないけどタクシーでも呼ぶから帰るんだ」
あやせ「泊めてください……わたし我慢できますから、痛くても恥ずかしくても我慢しますから」
京介「駄目だ。これ以上遅くなったら親御さんも心配するだろうから今日はもう帰れ」
あやせ「『今日は』……ならまた来てもいいですよね」
京介「それも駄目だ。言葉の綾ってやつだ」
あやせ「嫌です、それならここから動きません」
どうすれば納得してくれるんだろう。そもそも納得するしないの話じゃ無いか。
だからと言って今のあやせを抱く訳にはいかない。辛い未来しか見えない。
- 12: 2015/05/22(金) 00:38:17.41 ID:VWWrYmzqo
-
京介「それならこうしよう。婚約するんだ」
あやせ「?」
面を上げるあやせ。酷い顔になってるな……このまま帰したらあやせの両親に殺されかねないな俺。
京介「俺が就職して、あやせが大学を出てそれでもまだ双方に結婚の意思があったら結婚しよう」
京介「それまでは別れたままだ。俺は新しい彼女を作ってその子とエッチして性欲を解消する、お前は俺を想って一人で居るといい」
京介「早ければ7年後には一緒になれるだろ」
我ながら酷い提案だと思う。
でもこれで俺に愛想尽かしてくれれば良い。
万が一受け入れるにしても、側にいない相手を7年も想い続けるなんて無理だ、やがて自然消滅するだろう。
あやせ「お兄さんが他の人とエッチするなんて嫌です。でも7年は長すぎます……」
京介「だろう、だからもう諦めて新しい恋を探すんだ」
あやせ「……」
あやせ「分かりました。『今日は』帰ります」
京介「そうか。じゃあタクシーを呼ぶからその間に顔を洗ってくるといい」
あやせは頷くと洗面所に入って行った。何だろう、急に素直になったのが逆に怖い。
あやせ「遅くまでお邪魔してごめんなさい。お休みなさい」
京介「ああ、お休み」
タクシーが遠ざかるのを眺めながら……俺は心がズキズキ痛むのを感じていた。
今ので別れた事になるんだろうか、ならないんだろうなぁ。
今日は帰るって言ってたから、明日来る可能性もありそうだ。
- 13: 2015/05/22(金) 00:40:14.87 ID:VWWrYmzqo
-
明けて翌日。
大学は午前中で終わったので午後から丸々フリーだったが、予感があったので家で大人しくしていた。
そろそろ高校が終わる時間か、放課後になって真っ直ぐうちに向かうとしたらぼちぼちだな。
とかウダウダ考えていると、ピンポーンとチャイムが来客を告げた。
やっぱり来たか、と溜息を吐きながら腰を上げると
ピポピポピポピポピポ ドンドンドンドンドン! ガチャガチャガチャ!!
チャイム連打の後に扉を殴打する音が続き、ドアノブが回される。怖っ。
あやせがこんな乱暴な行動に出るとは思えないので、そうなるとあいつしか居ないな。
京介「居ません」
桐乃「早く開けろっ」
仕方なく鍵を外すと同時に扉がバンッと開かれる。
京介「何の用だよ」
我が妹は返事もせず靴を脱ぐと勝手に部屋に上がって行った。
そのまま中央でこちらを振り返り、手を腰に当てつつ俺を睨みつけてくる。
大変ご立腹な様子だ。
桐乃「あんたどういうつもりよ!!」
京介「あやせの事か?」
桐乃「他にないでしょ!」
京介「別れた」
桐乃「あんたが一方的に決めただけでしょ。あやせは納得していない!」
京介「俺とあやせじゃ合わなかったんだよ、仕方ない」
桐乃「聞いた。その、セ、セ……ッス出来ないからって別れるなんてあんたおかしい」
京介「じゃあどうしろって言うんだ。浮気しろとでも?」
桐乃「一人で処理すればいいじゃない」
処理とか言うな。
京介「お前がよくやってるゲームを思い出してみろ、男の性欲はそんなんじゃ治まらないんだよ」
桐乃「現実とゲームを一緒にすんな」
京介「だから男の現実を語ったんだろうが」
桐乃「う……だからってあやせが可哀想じゃない!」
京介「そうは言うがな、じゃあ付き合って四ヶ月でキスも出来ず、結婚するまでセックスも禁止と言われてずっと我慢できるか?」
桐乃「そりゃあたしだって好きな人とはキスとかセ……したいとか考えないでもないケド」
考えるのか。というかこっちチラチラ見るな。
- 14: 2015/05/22(金) 00:41:57.94 ID:VWWrYmzqo
-
桐乃「でもあんたはあやせの彼氏なんだから、そこは受け入れなきゃダメでしょ」
京介「無茶言うな。7年も我慢してたら爆発するわ」
桐乃「え、爆発するの……?」
チラッと視線を俺の股間に向ける桐乃。賢いけどアホだこいつ。
桐乃「と、とにかく! 別れるのは無し! あやせと仲直りして!」
京介「仮によりを戻しても、あやせが身体を許してくれない限り、俺はいつかあやせを裏切る。ならそうなる前に別れた方がお互いのためなんだよ」
桐乃「……もう、何なのよ。あんたもあやせも。あー、もう、訳分かんない!」
京介「そんなに難しい話でもないだろ。俺はセックスがしたい、あやせはしたくない。それだけだ」
桐乃「あんた、あやせの身体だけが目当てだったの。見損なった」
ギロッと睨みつけてくる。
京介「そんな訳ないだろ! あやせは大好きだ。でもな、愛してるっていうだけじゃ恋愛関係は継続できないんだよ」
桐乃「じゃああやせがヤらせてくれたら仲直りできるってワケ?」
京介「下品な言葉を使うな。でも、そうだな。仮にあやせが今セックスさせてくれたとしても、もう無理だと思う」
桐乃「何で!?」
京介「昨日あやせにも同じ事を言ったけどな、俺とあやせじゃ恋愛観が違いすぎるんだよ。言い換えれば価値観の相違だな」
桐乃「そんなのいくらでも埋められるでしょ!」
京介「……なあ桐乃、付き合って四ヶ月経ってもキスはおろか手も満足に握れないのってどう思う?」
桐乃「随分奥手だなぁ、とか?」
京介「正直に」
桐乃「……そりゃおかしい、と思う、ケド……。でもそんなの人それぞれじゃん!」
京介「あやせに取ってはおかしくないんだろう。俺は駄目だ。だから埋められない」
- 16: 2015/05/22(金) 00:43:50.94 ID:VWWrYmzqo
-
しばらく睨みあう俺と桐乃。目を逸らしたら負けだ。
桐乃「そう、あんたの決意が固いことは分かった」
京介「分かったならはよ帰れ」
すると桐乃は無言でスマホを取り出し、どこかに電話をかけだした。
桐乃「あ、あたしー。うん、ちょっとあのバカの事で相談があって。うんうん、そう。大丈夫? なら待ってるねー」
京介「おい」
桐乃「応援呼んだ。ここで待つから」
京介「沙織か?」
桐乃「黒いのも呼んだ方が良かった?」
嫌な笑顔を向けられる。このヤロウ。妹だから野郎じゃないか。
京介「あー、俺ちょっと図書館で勉強してくるわ」
桐乃「逃げたら部屋荒らしてあんたの趣味をネットで公開する」
京介「やっぱり家で勉強するかなー」
桐乃「ふん」
- 17: 2015/05/22(金) 00:45:47.73 ID:VWWrYmzqo
-
しばらくして。
沙織「やあやあ、お招きに預かり参上したでござるよ」
黒猫「なんだか分からないけど来たわ」
oh...
桐乃「なんで黒いのもいるのよ。呼んでないんだケド?」
沙織「いやあ、京介氏のピンチという事でござったから、少しでも人手があった方が良いかと思いまして」
黒猫「そうね、京介の事は本当はどうでも良いのだけれど、世話になった恩を忘れるほど愚かなつもりも無いわ」
桐乃「あっそ。勝手にすれば」
黒猫「ええ、勝手にさせて貰うわ」
スタスタと黒猫は部屋に上がって来て、茫然としている俺の横をすり抜けるとベッドに腰掛けた。家主俺なんだけど……。
桐乃「ちょっとあんた、客に対してお茶も出せないの?」
沙織「いやいやお構いなく」
京介「あ、ああ。ちょっと待っててくれ」
自分のも含めてコップを4つ出し、ペットボトルを出そうと冷蔵庫を開いた。
嫌でも鍋が目に入る。中身はビーフストロガノフだ。心を込めて作ってくれたんだろうな、ものすごい美味しかった。
お茶を取り出し冷蔵庫を閉じる。鍋はもう見えない。
京介「待たせたな」
沙織「ありがとうでござる」
黒猫「頂くわ」
桐乃「安物じゃん。もっと良い物を用意しとけっつーの」
三者三様の言葉を貰いながら俺もお茶を飲む。
昨日あやせと一緒に飲んだ時と同じ味だった。
- 18: 2015/05/22(金) 00:47:01.35 ID:VWWrYmzqo
-
黒猫「それで、一体何があったのかしら?」
京介「あー、その。あやせと別れた」
沙織「むむ」
黒猫「!」
黒猫がビクッと震えたのが分かったが、あえて無視だ。
桐乃が黒猫に若干冷たい視線を向けている気がするが、やっぱり無視だ。
桐乃「まだ決まってない! あんたのは別れたい、ってだけでしょ」
黒猫「よく分からないわね。詳しく説明して頂戴」
桐乃「要約すると、こいつはあやせとセ……エッチしたい、けどあやせは結婚するまでエッチしたくない。だから我慢できないから別れるって」
間違ってないけどすごい誤解を受けそうだ!
黒猫「最低ね」
沙織「うーむ、京介氏がそんな女性の身体だけを目的とした付き合いをされる人だとは、拙者にはとても思えないでござるが」
京介「ありがとう沙織、お前は良いヤツだよ!」
沙織「いやいやはっはっは。で、一つ確認でござるが、京介氏はあやせ殿とまだ性交渉をしていないのでござるか?」
黒猫「!!」
無視だ無視。
京介「まあ何だ、性交渉とか以前の話だな」
沙織「と言うと」
京介「キスもまだだ」
黒猫「フ……」
なに勝ち誇ってるんですか黒猫さん。あなただってホッペ止まりじゃないですかー。
- 19: 2015/05/22(金) 00:48:04.56 ID:VWWrYmzqo
-
沙織「お二人は付き合い始めて結構経っておられませんでしたか」
京介「四ヶ月だな」
沙織「恋愛ごとの発展については人によって差異があれど、四ヶ月でキスすらまだとは……うむむ」
桐乃「ねえ、黒いのと付き合ってる時はどうだったの?」
黒猫「な、ななななな何を突然言っているの桐乃!?」
京介「言う訳ないだろ。と言うか少しは気を使えよ」
黒猫「そ、そそそそそそうよ! 羞恥心というものを持ってないのあなた!」
桐乃「あたしの事じゃないしー。でもそっか、言えない事をしてたってワケねw」
沙織「拙者もそこは気になるでござるな。今回の件についても参考になるやもしれんでござる」
ニヤニヤしながら言われても説得力ないでござるよ。
黒猫「………………よ」
桐乃「ん?」
黒猫「何も……よ」
桐乃「聞こえない、もっと声大きくして」
黒猫「だから! な、何も、して、ない、わよ……」
桐乃「え、マジで……?」
コクン、と頷く黒猫。
桐乃「え、だって、夏休みずっと一緒にいたよね? え、マジで??? キスも?」
何だろう、桐乃と沙織からの視線がものっすごく冷たい物になってるような。え、俺が悪いの?
- 20: 2015/05/22(金) 00:49:58.58 ID:VWWrYmzqo
-
沙織「つまり、京介氏はヘタレ、と」
京介「ちげーよ! 俺だって本当は色々したかったさ! でも黒猫がちょっとそんな雰囲気出しただけで恥ずかしがって逃げるんだ、どうしろって言うんだよ!」
黒猫「あ、ご、ごめんなさい……」
京介「あああ、いや黒猫は悪くないよね! ガッついた俺が悪いんだ、うん」
どうするんだよ、変な空気になっちまったじゃねーか。
桐乃「まあ、うん。ヘタレは置いとくとして」
沙織「そうですな。京介氏が一般男性並の性欲を持っていると判明した所で、そうなると問題はあやせ殿でござるか」
桐乃「あやせめちゃくちゃ身持ちが固いからね~。さすがにキスもまだとは思わなかったケド」
京介「女性に言う話じゃないだろうけど、ぶっちゃけると俺はあやせを抱きたい。しかし彼女は結婚まで駄目だと言う。打つ手なしだろ」
沙織「だから別れて新しい女性を探したい、という事ですかな」
京介「聞こえは悪いが……まあ、そう言う事だ」
黒猫「その、京介の彼女は、こ、行為自体を嫌がっている訳ではないのでしょう?」
京介「あー、どうなんだろうな。でもあやせの言ってる事を振り返ると嫌がってる感じではない、かな」
別れを切り出した時にあやせから迫られたのは別だよな。平静では無かったし。
京介「きっとあやせに取っては結婚=子どもを作るって事なんだろう。もしかしたら避妊すら拒否されるかもしれん」
黒猫「つまり、結婚まで京介のせ、性欲を何とかすれば良いのではないかしら」
なんでこいつらとこんな生々しい話をしないといけないんだろうな……。
桐乃「でも京介変態だし、結婚まで何年も我慢し続けるなんて無理っしょー」
黒猫「例えば、例えばよ。京介がそういう気分になった時に、他の人が相手をすれば……わ、わ……しとか」
京介「え、何だって?」
顔を真っ赤にしてまで言うことか。聞こえなかったけどね!
そもそも黒猫じゃそういうの無理だろ? 聞こえなかったけどね!!
黒猫「……最悪だわ……なんで私がこんな……」
ブツブツ言いながら黒猫は布団に潜り込んでしまった。
ふと桐乃と沙織に視線を向けると慌てて目を逸らされた。
- 21: 2015/05/22(金) 00:52:17.27 ID:VWWrYmzqo
-
沙織「京介氏に我慢をして貰うというのはあまり現実的ではござらんな!」
桐乃「そ、そうよね! 変態だもんね!」
場の空気を変えるように殊更大きな声を出す二人。大声で変態とか言うな。
沙織「しかし困りましたな。あやせ殿は貞淑な方。それに結婚まで綺麗な身体でいたいという気持ちは現代日本に於いて貴重でござる。その考えを変えさせるというのは困難を極めるかと」
むむむ、と桐乃が腕を組んで唸っている。
と思いきや妙案が浮かんだようで、とても良い笑顔で次のように仰った。
桐乃「あ、こういうのはどうかな。あたしの持ってる純愛系のエロゲーをあやせにプレイして貰うの。エッチがとても素晴らしい物だって思って貰えるかも!」
……は?
京介「いや、何言ってんのお前。あやせがそんなのプレイする訳ないだろ」
桐乃「そこはあんたが口八丁手八丁で丸め込むのよ。彼氏なんだしイケるイケる」
京介「え、もしかして俺が貸すの?」
桐乃「当たり前でしょ?」
京介「お前の持ち物ならお前が渡せよ。あやせだぞ、下手すると俺が通報されかねん」
桐乃「以前よりは受け入れるようになってくれてるから平気だって! それにあたし嫌われたくないしー」
京介「俺なら嫌われても良いってのかよ……」
桐乃「あれあれー? 別れたい相手なら嫌われてもむしろどんと来いじゃない?www」
京介「ぐ……」
沙織「やって損無し。そうと決まれば善は急げでござるな。早速きりりん氏の家に向かうでござるよ」
京介「なあ、せめてエロゲーじゃなくてギャルゲーにしないか?」
桐乃「はあ? エロシーンが無いと意味ないのに何言ってんの?」
すごくアホの子を見る目でそう言われた。納得いかねー。
その後、いつの間にか枕を抱き込んで丸くなって寝ていた黒猫を起こし、三人は出て行った。
- 22: 2015/05/22(金) 00:53:28.83 ID:VWWrYmzqo
-
ややあって。
桐乃「はいこれ! すっごく面白いんだから!」
とても爽やかな笑顔で兄にエロゲーを渡す妹の図。
えーと「リアル妹がいる大泉君のばあい」か。やっぱり妹物なんだな。
桐乃「最後までちゃんとやってよね。めっちゃ感動するから!」
え、俺もやらないといけないの?
桐乃「本当は妹の友達であやせっぽい攻略キャラがいるのが一番良かったんだけどね。まあ、このゲームにも妹の友達がいるから。良い子だから!」
クルッとパッケージの裏を返す。ああ良かった、エロい絵はあまり載ってない。いや一つでもあるとアウトな気がするが。
桐乃「あ、貸すだけだからね。これ初回版なんだから無くしたり壊したりしたら殺すよ?」
京介「はいはい分かった分かった」
桐乃「いい、ちゃんと最後までプレイしなさいよ。後で感想聞くからね!?」
京介「あー、気が向いたらな」
まだ何か喚いていた気がするが、俺の考えは既に別の所にあった。
一度別れを告げた相手に、どうやってエロゲーを渡せって言うんだ。
このミッションは果てしなく難易度が高い、そう思った。
- 23: 2015/05/22(金) 00:55:12.52 ID:VWWrYmzqo
-
京介「この栞ちゃんって、何となく桐乃を思い出すな」
ツンツンしていて生意気で兄妹仲はあまり良くなくて、でも心の奥底には兄への秘めた想いが……そんなに似てないな、うん。
大体この兄は俺と違い妹の事をとても大事にしている。
かつて冷戦状態だった我が家とは大違いじゃないか。
ゲームはオーソドックスなアドベンチャーゲームだった。
画面にキャラの立ち絵と背景と文章が表示され、読み進めていくと自分の行動を決める選択肢が出てくる。
それによりストーリーが変化して行き、たまに全画面使った絵、いわゆるエロ絵が描写される。エロくない絵も勿論あるが。
京介「妹の友達って、この美紀って子の事だよな」
ツインテールを大きなリボンでくくっている、いかにも妹! って感じのビジュアルを持つ栞ちゃんと違い、
イケイケで若干派手。エッチな事にも積極的だ。あやせとは大違いだな。
京介「麻衣ちゃん良い子だな……」
THE妹キタ。こんな妹が欲しかったんだよ俺は。
可愛くて健気で甘えん坊で、俺の周りには居ないタイプだ。今時こんな子いるかっ。
あ、ブリジットがいたな。
何だかんだ言いつつゲームを楽しんでいる俺であった。
- 24: 2015/05/22(金) 00:56:36.97 ID:VWWrYmzqo
-
土曜日。
結局あやせにどう連絡すれば良いのか案が浮かばないまま朝を迎えた。
本当なら今日はあやせとデートだったかも知れない。
そう言えば昨日あやせ来なかったな。てっきり来るとばかり思ってたんだが。
考えていても仕方ない、メールしよう。
京介「『大事な話がある、うちに来てくれ』っと。仰々しいかな」
また別れ話をされると思われたら来ないかも知れない。『大事な』を削っておくか。
ドキドキしながら送信し、ドキドキしながら返信を待ってたらすぐにピロリンとスマホが鳴った。ドキドキしながらメールを開く。
『分かりました。13時頃にお伺いします』
さて、どうなる事やら。
あやせ「こんにちはお兄さん」
京介「ああ、こんにちは。上がってくれ」
現れたあやせに笑顔は無かった。沈痛な面持ちでも無く、とてもフラットな状態に見える。
さすがに今日は買い物袋を持っていなかった。当たり前か。
あやせ「それでお話って何でしょう。この間の続きですか?」
腰を落ち着かせると同時にこれである。表面を取り繕っているだけで、内心焦っているのだろうか。
京介「あー、そうだな。続きと言えば続きなんだが」
キュッとあやせが身体を硬くするのが分かった。
どうしよう、どう切り出せばいい。
京介「えーとだな、あやせにとあるゲームをやって貰いたいんだが……」
あやせ「はい?」
想像もしてなかったんだろうな、こんな事を言われるなんて。
キョトンとした顔をしている。ああ可愛いなぁ。
- 25: 2015/05/22(金) 00:58:08.19 ID:VWWrYmzqo
-
あやせ「今このタイミングでゲーム? 意味が分かりません」
京介「そうだろうな。俺も分からん」
あやせ「……もしかして、昨日桐乃や沙織さんたちが来ていた事と関係があるんですか」
京介「え゜」
いやいや何で知ってるんだよ。え、盗聴でもされてるの?
あー、きっとアレだよね。うちの前まで来てたんだけど三人を見掛けて引き返したんだよね、そっかあ。
あやせ「分かりました。他ならぬお兄さんの頼みですから、彼女として聞かない訳にはいきません」
京介「……おう」
咄嗟に『彼女』の部分を否定してしまいそうになったが堪えた。
立ち上がり、机の引き出しに隠していた「リアル妹がいる大泉くんのばあい」を取り出す。
京介「これなんだが」
あやせ「はあ」
パッケージを手に取り、繁々と眺めるあやせ。変態と罵られるか通報されるか、さあどっちだ。
あやせ「可愛い絵柄ですけど、これってエッチなゲームですよね?」
京介「ああ、まあ、そうかな」
あやせ「そうですか」
京介「その、嫌なら良いんだぞ。そりゃ嫌だよな、すまん」
あやせ「構いません。桐乃が普段どんなゲームをやっているのか気になっていましたし、丁度良い機会です」
あれえ、予想と違う反応が来た。
あやせ「でもわたしの家ではこんなゲームをする事はできません」
ん?
あやせ「なのでお兄さん、ここでやらせてください」
んん?
あやせ「その、お兄さんと一緒ならエッチなゲームでも耐えられると思うんです」
京介「えーっと、あやせさん?」
あやせ「いいですよね?」
ニッコリ、と今日初めての笑顔を浮かべる。
あやせ「いいですよね」
京介「はい……」
- 26: 2015/05/22(金) 00:59:55.05 ID:VWWrYmzqo
-
かくして我が家で、なぜか女の子と一緒にエロゲーをプレイするという事態に相成った。
かつて桐乃に無理やりしすしすをやらされた過去が思い起こされる。
タイトル画面に隠された秘密があるため、あらかじめセーブデータは削除しておいた。
あやせは真面目に文章を読み進めている。そっと横顔を覗くとその表情は真剣その物だ。
桐乃経由で俺から託されたゲームだから、そこに込められた意味を読み取ろうと必死なのかも知れない。
やがて、最初の選択肢に当たる。
栞ちゃんがおしっこしてる最中にトイレに入ってしまい、その場から立ち去るか観察を続けるかという二択だ。
あやせ「……」
あやせの手は完全に止まっている。怖くて顔を見ることが出来ない。
あやせ「お兄さん」
京介「は、はいっ!」
あやせ「これはどうすれば良いんですか?」
京介「はっ、好きな方を選べば良いと思われます、サー!」
あやせ「何ですかそれ……」
あやせ「これって、選んだ方で話の内容が変わるんですよね?」
京介「そうなるかな」
あやせ「どちらを選んだら栞ちゃんの話になるんですか?」
え、栞狙いなの?
あやせ「だってこの子、ちょっと桐乃みたいだから」
何とも反応に困ること言ってくる。
京介「えーとな、栞ちゃんのシナリオにはここからじゃ行けないんだ」
あやせ「そうなんですか?」
京介「ああ、一度ゲームをクリアして、最初からやり直すと栞ちゃんのシナリオに入れるようになる」
あやせ「詳しいんですね……」
昨晩の内にフルコンプしたからな!
あやせ「ではこのまま最後までやってみます」
京介「そうか」
あやせ「はい。それで、ここはどちらを選べば良いんですか?」
京介「どっちでも良いッス!」
あやせ「だから何ですかそれ……」
言いながらマウスを動かすあやせ。その後しばらく沈黙が続いた。
- 27: 2015/05/22(金) 01:01:25.83 ID:VWWrYmzqo
-
あやせ「『兄の童貞は妹のもの』」
京介「ゲームの話だからな!?」
ストーリーは予想通り麻衣シナリオへと分岐した。
そしてエッチシーンへ。
あやせ「……」
麻衣ちゃんの嬌声が響く中、ただ無言でマウスをクリックしているあやせさんが怖いです。
と思いきや、主人公のペニスを麻衣ちゃんが取り出した絵が表示された時に、その手が止まる。
あやせ「モザイクがかかっていてよく分かりません」
京介「そうしないと販売できないからな」
あやせ「そうなんですか」
そのままゲームは進み、挿入シーンへ。だがあやせの手が止まる事は無かった。
ゲーム内では結ばれた二人が幸せそうにしている。
果たしてこんな事であやせが考えを改めるようになるんだろうか?
やがて物語は佳境を迎えていた。麻衣ちゃんが帰るシーンだ。
カチッカチッとクリック音が続く。
俺は泣きそうになっていたが、あやせは最後まで冷静だった。
スタッフロールを終え、タイトル画面に戻る。
あやせ「麻衣ちゃんの話はこれで終わりですか? 続きはないんですか?」
京介「あー」
あやせ「あるんですか?」
答えづらい事を聞いてくる。
京介「栞ちゃんのシナリオをやれば分かるよ」
あやせ「そうですか」
と言う訳で、今度は栞シナリオをスタート。
最初っからクライマックスだ。
ネタバレ全開なので詳細は伏せるが、あやせは食い入るように画面を見つめながらクリックしていく。
- 28: 2015/05/22(金) 01:02:43.70 ID:VWWrYmzqo
-
あやせ「にゅるにゅる……れろんれろん……」
栞ちゃんが言うキスの感想をオウム返しに呟いてる。
チラリとあやせを横目で見ると、バッチリ目が合ってしまった。慌てて逸らされる。
反応が薄いのが気になっていたが、あやせにも何か感じ入る物があったのかも知れないな。
そしてエピローグを経てタイトル画面へ。
鮮烈なソレにガツンと殴られるような衝撃を受ける。ああ、何度見ても感動する。
あやせ「……」
あやせ「あの、続きは無いんですか?」
京介「あとは美紀ちゃんのシナリオだけど、繋がりは全くないな」
あやせ「涼さんは優しいから、麦わら帽子を拾ってくれます。そこから続く話も無いんですか!?」
思った以上に喰いついてきた。実は相当のめり込んでいたんじゃないか?
京介「俺もそう思って調べてみたんだが、これ結構前の作品みたいで、続編とかは絶望的らしい」
あやせ「そうなんですか……」
ガッカリしてるなぁ。そんなに気に入ったのならプレイして貰った甲斐もあるってもんだ。選んだのは桐乃だけどな!
京介「疲れたろ、お茶淹れるから休憩しよう」
あやせ「あ、すみません。お言葉に甘えさせて貰います」
言いながらあやせは机から離れ、定位置となっている自分のクッションに移動した。
- 29: 2015/05/22(金) 01:04:26.46 ID:VWWrYmzqo
-
京介「どうだった?」
お茶を飲み一息ついた所で尋ねてみる。
あやせ「そうですね、とても面白かったと思います。音楽と声と絵が付くだけで、こんなにも臨場感が得られるんだと感動しました。これは小説には無い物だと思います」
京介「そうか」
あやせ「桐乃がハマるのも少しは理解できたつもりです」
桐乃がハマってるのは別の理由からな気がするが、指摘する必要もないか。
あやせ「ただ、エッチなシーンは必要だったかと言われると、ちょっと」
京介「いわゆる恋愛ゲームだからな。セックス抜きには語れないって事だろう」
あやせ「……でもこれって高校生がやっちゃダメなゲームですよね?」
京介「むう」
あやせ「年齢制限が付いてるのって、そういう意味だと思います」
京介「ならあやせは、世の学生カップルがエッチしてる事については」
あやせ「早すぎると思います」
京介「そうか……」
やはりこの程度であやせの考えを揺るがす事は出来ないよな。うん、分かってた。
あやせ「でも」
あやせ「好きな人と結ばれるというのは、とても幸せな事だと気付かされました」
あやせ「麻衣ちゃんも栞ちゃんも、すごく幸せそうでした。作り物だとは分かっていても、そこには真実があると思うんです」
京介「あやせ」
あやせ「なぜお兄さんがわたしにこのゲームを薦めたのか、何となく分かりました」
京介「そうか」
- 30: 2015/05/22(金) 01:05:57.52 ID:VWWrYmzqo
-
あやせ「わたしはお兄さんと別れたくありません。でも、まだ身体を重ねる覚悟が出来ません……」
あやせ「だからもう少し時間をくれませんか? 覚悟を決める時間を」
京介「その、無理しなくてもいいんだぞ?」
あやせ「無理なんかじゃありません! 今、わたしの裡にお兄さんに抱かれたいっていう確かな想いがあります!」
あやせ「でもそれはとても小さくて、わたしの気持ちに追い付いてないんです」
あやせ「だから時間をください。この想いを育むだけの時間を……」
正直、あやせがここまで言ってくれるとは思ってなかった。
感動という言葉では表現仕切れない強烈な感情が溢れてくる。
京介「ありがとう。あやせにそこまで言われちゃ、俺も待つしかないよな。彼氏として!」
あやせ「お兄さん!」
パァ、と顔を輝かせるあやせ。うん、やっぱり笑顔が良いに決まっている。
と思ったら次の瞬間泣き始めた。
あやせ「うっ、うう……。良かった……ありがとうございます」
京介「ごめんな、ここしばらく酷い事ばかりしてたな俺。辛かったろ?」
あやせ「いいえ、わたしが悪かったんです、だから良いんです。わたしこそごめんなさい」
やばい、あやせが愛おしすぎて今すぐ押し倒したい!
突き動かされる衝動に身を任せてしまいそうになるのを必死で抑える。耐えろ俺!!
- 31: 2015/05/22(金) 01:07:34.02 ID:VWWrYmzqo
-
あやせ「ごめんなさい、最近泣いてばかりですね、わたし」
テヘッと可愛らしく舌を出すあやせ。ラブリー。
あやせ「さっきは恥ずかしい事を言っちゃいましたし……」
京介「泣いているあやせも、ポエマーなあやせもどちらも可愛いよ」
あやせ「ま、またお兄さんはすぐそんな事を言うんですから!」
京介「真っ赤になっているのも可愛い」
あやせ「もう! 知りません!」
京介「プイッと横を向いてるのも可愛い」
あやせ「うう……お兄さんだって、その、格好良いですよ、とても」
京介「……そうかい」
あやせ「赤くなっていても素敵です」
京介「もういい、ストップ! 俺が悪かった!」
ふふふ、と楽しげに笑うあやせ。さっきまで俺がこの笑顔を奪っていたんだよな……。
ふう、と息を吐く。
京介「あやせ、改めて言わせてくれ。今回の件は俺が全面的に悪かった、許して欲しい」
あやせ「もう良いですよ。わたしも悪かったのでお互い様って事にしましょう」
京介「そうはいかない。俺は焦ってたんだ、早く童貞卒業したいって。だからあやせの気持ちも考えずに突っ走ってしまった」
京介「口では性欲だけじゃない、とか綺麗事を言いながら、結局エッチしたかっただけなんだよ」
京介「俺は最低なヤツだ。だけどあやせが大好きだから別れたくない」
京介「だから身勝手だとは思うが、許して欲しい。そしてまた以前のように仲良くしたい」
あやせ「お兄さん……」
あやせがスッと近付いてくる。その両腕が優しく俺の背中に回され、
あやせ「ん……」
京介「!」
一瞬だけ触れ合った。
京介「え、今」
あやせ「許します! だってわたしはお兄さんが大好きなんですから!」
京介「あ、ありがとう」
あやせ「だけどこれ以上はまだダメですよ! ふふふ」
ウインクしつつ人差し指を立て口に添えるあやせ。さすがモデルさん、絵になる。そしてムラムラする。
京介「あやせえええーーー!!」
あやせ「きゃあっ」
このあと滅茶苦茶セックスした。
- 32: 2015/05/22(金) 01:09:40.86 ID:VWWrYmzqo
-
京介「……という夢を見たんだ」
桐乃「はああああああああ!?」
桐乃「え、何? 夢オチ? 何それふざけてんの!?」
桐乃「ちょっと、どこからどこまでが夢なの? 何なの、バカなの? 死ぬの?」
京介「まあ落ち着けマイシスター。最後の襲った段だけ冗談だ。夢でもなんでもない」
桐乃「あんたあたしをからかってバカにしてるだけじゃないの!? ぶっ飛ばすわよ!」
京介「いや、これでも桐乃には感謝してるんだ。お前のアイディアがなければあやせとは和解できなかったと思う。だからその拳を抑えてくれ」
桐乃「チッ」
京介「ありがとうな桐乃。お前と大泉家のおかげだよ」
桐乃「ふん、言ったでしょ神ゲーだって」
いや言ってない。
桐乃「そう言えばあんたからはまだ感想を聞いてなかったわね。で、どうだった?w」
京介「今度あやせも交えてゆっくり語らないか? あやせもあのゲーム随分気に入ってたみたいだし」
桐乃「今日学校でたっくさん話をしたから大丈夫よ」
京介「高校でエロゲーの話なんてするなよ……」
桐乃「うっさい。で、で、誰がお気に入り? やっぱり麻衣ちゃん? 可愛いよね~~」
京介「栞ちゃん」
桐乃「ん?」
京介「栞ちゃんかな。やっぱメインヒロインだけあってしっかりしてる」
桐乃「はあ? メインヒロインは麻衣ちゃんでしょ、あんたどこ見てたのよ!」
京介「お前こそ分かってない。調べたんだが、シナリオライターの人は妹物の第一人者みたいじゃないか」
京介「その人が描く実妹ストーリーこそ本物! 麻衣ちゃんも素晴らしかったけど栞ちゃんには勝てないな!」
桐乃「え、なに、あんたそういう趣味だったの? 血の繋がった妹に欲情するとかマジキモいんですケド」
京介「ちげーよ! 何でお前が引いてるんだよ! そもそもお前が薦めてきたゲームじゃねーか!」
桐乃「ちょっと近寄らないで欲しいんですケド……」
京介「ばっ、誰がお前みたいなやつに欲情するかよ!」
桐乃「はあ!? あたしみたいな可憐な乙女捕まえて何言ってんの!?」
京介「ふっ、乙女なんてどこに居るのかね~?」
桐乃「うぐぐぐ、ムカつく……!」
- 34: 2015/05/22(金) 01:11:33.07 ID:VWWrYmzqo
-
京介「分かったならお子ちゃまは帰れ。あやせの爪の垢でも煎じて飲ませて貰うんだな」
桐乃「言うに事欠いて、カリスマモデルでもあり現役JKのあたしにお子ちゃまとか!」
京介「自分でカリスマとか~」
桐乃「死ねっ!」
ブンッと桐乃のキックが飛んでくる。が、予測済みだったので華麗に回避。
桐乃「避けるなっ! 当たれっ死ねっ!」
京介「もう俺だけの身体じゃないんだ、怪我する訳にはいかないな!」
桐乃「こ……のおっ!」
怒りに任せて思い切り拳を振り上げる桐乃。
しかし勢いに体勢が追い付かず、拳を振り下ろしたままにたたらを踏む。
桐乃「きゃあっ」
京介「桐乃!」
こけそうになった桐乃を抱き止める。相変わらず危なっかしいヤツだ。
京介「全く、そんなんだから何時まで経ってもお子様なんだよ」
桐乃「……もう子どもじゃない」
京介「はいはい、子どもはみんなそう言うんだよ」
ポンポンと頭を叩いてやる。
桐乃「子ども扱いすんなっ」
言うと、桐乃はギュウッと身体を押し付けてきた。とても柔らかいです。
桐乃「あたし、もう高校生だよ。身体だって前より成長してるし、えと、胸だって大きくなってるし!」
なぜ潤んだ瞳で見上げてくる。やめろ、俺は現実の妹に萌えるような男じゃない。多分。
桐乃「前より女っぽくなってるでしょ」
京介「あ、ああ……そうかもな」
桐乃「ねえ京介……。あたしとあやせ、同い年なんだよ?」
京介「知ってる」
桐乃「あたしだってエッチできるんだよ?」
京介「……そ、そうか。成長したな……」
桐乃「京介とあやせがエッチするかも、って思ったらすごく切なくなったんだよ?」
え、何この流れ。てかなんでこいつこんなにしおらしいの?
京介「ああ、知人の生々しい話ってキツイよな、うん分かる分かる」
桐乃「こっち見て」
京介「拒否する」
桐乃「京介」
やめろヤバいどうしようあやせを裏切れないああしかし身体は正直だ畜生!
桐乃「腰に硬い物が当たってるんだけど」
京介「」
桐乃「触ってもいい……よね?」
- 35: 2015/05/22(金) 01:13:28.62 ID:VWWrYmzqo
-
ピンポーン
桐乃「」
京介「」
『あれ、お留守かな?』
この声は……
ガチャ
『あ、鍵開いてる。開けちゃってもいいのかな』
あやせ「こんにちは、お兄さん居ますかーー……」
あやせの眼前に広がるのは、隙間0の密着状態で抱き合ってる男女。つまり俺と桐乃。
あやせ「えっと、桐乃?」
京介「ち、違うんだあやせ、誤解だ!!」
桐乃「そう、そうよ、誤解だから!!」
あやせ「はあ」
まだ理解出来ていないのだろう、呆けた返事をするあやせ。
京介「桐乃のヤツが転んでさ、咄嗟に抱きとめただけなんだよ! なっ桐乃!」
桐乃「そそそう、そうなの! それ、それだから!」
あやせ「はあ」
あやせ「えっと、帰った方が良い、ですよね……?」
京介「待ってえええー、帰らないでええええ!!」
桐乃「良いから! 居て良いから!」
- 36: 2015/05/22(金) 01:14:50.84 ID:VWWrYmzqo
-
あやせ「……何時まで抱き合ってるんですか?」
京介桐乃「!!」
シュバッと離れる俺たち。
お互いに顔が真っ赤なのはあやせに見付かった焦りからだろうか。いや考えてはいけない。
あやせ「浮気ですかお兄さん。よりによって桐乃と……」
桐乃「ち、違っ」
あやせ「この間やったゲームに実の妹が出てたのは、この布石だったんですね」
京介「誤解だあーーー!」
あやせ「わたしでさえ、まだあんなにしっかりと抱き締めて貰った事が無いのに……」
京介「話をしよう、な、あやせ。話せば分かる」
あやせ「浮気をした男の人ってみんなそう言うんですよね」
桐乃「落ち着いてあやせ。ただの勘違いだって」
あやせ「そうですよね、桐乃とても可愛いし。わたしより妹の方が良いんですよね、栞ちゃんみたいに」
京介「大丈夫だ、俺はあやせの方が好きだ!!」
あやせ「ありがとうございます。でもだからって許しません」
京介「だから誤解だ! 俺は浮気なんてしてないっ」
あやせ「本当ですか?」
京介「ああ!」
あやせ「桐乃ってとっても柔らかかったでしょう?」
京介「ああ!」
あやせ「良い匂いもしますよね」
京介「ああ!」
桐乃「ちょ」
あやせ「本当はドキドキしてませんでした?」
京介「少し!」
あやせ「お兄さんは正直ですね」
京介「ありがとう!」
あやせ「…………ちょん切りますよ」
京介「ごめんなさいごめんなさい」
俺の数少ない必殺技の一つ、その場ジャンピング土下座を披露する。必ず殺すと書いて必殺、主に俺のプライドが死ぬ。
- 37: 2015/05/22(金) 01:16:19.18 ID:VWWrYmzqo
-
あやせ「はぁ、もういいです。折角気合いを入れて来たのに、なんだか気が抜けました」
桐乃「あやせ、あのね。本当に違うから」
あやせ「桐乃」
桐乃「は、はい……」
あやせ「今度から気を付けてね?」
床に額を擦り付けてる俺でも分かる、今あやせはとてもニッコリ笑っているに違いない。
桐乃「キヲツケマス……」
あやせ「じゃあ、気を付けて帰ってね」
桐乃「え? あ、はい。帰ります……」
あやせ「また明日、学校で」
桐乃「うん、じゃあね」
パタン、と扉が閉じる音がする。
スタスタと足音が近付いて、俺のすぐ傍で止まった。
あやせ「妹に手を出すスケベで変態なお兄さんには罰が必要ですね」
ああ、今あやせはどんな表情で俺を見下ろしているのだろう。とてもガクブルです。
- 38: 2015/05/22(金) 01:17:53.32 ID:VWWrYmzqo
-
あやせ「立ってください」
無言で立ち上がる。恐る恐るあやせの顔を窺うと、そこには上気した肌が……え?
あやせ「ん……」
そのまま身を任せてくる。唇と唇の距離が一つになる。
俺からは動けない、これは罰だから。
あやせ「ふう、これで二回目ですね」
あやせ「さっきはショックでした。お兄さんに無理やりキスを迫られた時よりも、別れを切り出された時よりも」
あやせ「桐乃は素敵ですから。わたしじゃ桐乃相手に勝ち目ないって」
京介「そ」
そんな事は無い、と言おうとしたら再びあやせに口を塞がれた。短いキス。
あやせ「これで三回目です。お兄さんが今まで誰と何回キスをしたかは知りませんけど、これできっとわたしの方が多いですよね」
あやせ「黒猫さんよりも……」
京介「お前だけだよ」
あやせ「え?」
京介「昨日のがファーストキスだ。だからキスはあやせ、お前としかしたことない」
あやせ「ふふ、そうなんですか。じゃあファーストキス同士だったんですね。素敵です、うふふ」
京介「ああ、安心してくれ」
あやせ「でもハグは桐乃が先ですね」
京介「あ、あれは」
あやせ「良いです、浮気は男の甲斐性とも言いますから、許します」
あやせ「でもいくら桐乃が相手でもキス以上は絶対ダメです!」
京介「しねーよ」
あやせ「本当ですか? お兄さんスケベだから信用できません」
京介「面目次第もございません」
あやせ「だから……」
あやせ「お兄さん、わたしに溺れてください」
あやせ「わたしとお兄さん、二人で気持ち良くなりましょう?」
京介「それって」
あやせ「はい、今日は覚悟してここに来ました」
あやせ「わたしを愛してください!」
発作的にあやせをかき抱く。スッポリとその細見の身体が腕に収まる。
京介「あやせ、嬉しいよ」
あやせ「わたしもです」
そのまま、ゆっくりと口づけた。
あやせ「お兄さんからのキスは初めてですね」
京介「これからいくらでもしてやるさ」
- 39: 2015/05/22(金) 01:19:04.80 ID:VWWrYmzqo
-
ふと微睡から覚醒する。
横を見ると、最愛の彼女が微笑をたたえて俺を見詰めていた。
あやせ「おはようございます」
京介「おはよう」
時計を見ると夜というには若干早い時間帯。
京介「悪い、ちょっと寝てたみたいだな」
あやせ「とても可愛い寝顔でした」
うわ、恥ずかしい。
京介「本当はもっとゆっくりしたいんだが、明日も学校あるよな?」
あやせ「……そうですね」
京介「そんな顔しないでくれ。いくらでも会えるんだから」
あやせ「折角繋がりあえたんだから、もっと一緒に居たいです……。でも、今日はこれで帰ります」
京介「あっと、その前にシャワーでも浴びていった方がいいと思うぞ」
あやせ「あっ……はい……」
あやせ「では、ちょっと失礼して」
そっとベッドから抜け出して、服を手に洗面所に歩いて行くあやせ。
情事のあと着替えずにいたから当然裸だ。
後ろ姿の、つまりお尻にどうしても目が惹きつけられる。
自重しろ俺の息子。
この間に俺も着替えておこう。シャワーはあやせを送った後でいい。
- 40: 2015/05/22(金) 01:20:39.63 ID:VWWrYmzqo
-
あやせ「お待たせしました。あれ、京介さんもう着替えたんですか」
京介「ああ、あやせを送った後でも入るよ」
あやせ「ありがとうございます」
京介「いいって。それより、その、大丈夫か?」
あやせ「えと、何がでしょう?」
京介「女の子って最初は痛いって言うだろ? 血も出たし」
あやせ「とても優しくして貰えたから大丈夫です。痛みはもう引きました」
京介「そうか、なら良いんだけど」
あやせ「まだここに違和感はありますけど、それもおに、京介さんに刻まれた証だと思えば」
そっと下腹部に手をあてるあやせ。身体を重ねて尚、愛しさが増してくる。
京介「あやせはポエマーだな」
あやせ「女の子はいつだって詩人なんです」
とか意味不明な事を言ってる。浮かれてるのはお互い様だな。
京介「もう女の子、じゃないだろ?」
あやせ「……そうですね、京介さんに女にして貰いました。わたし、今日の事忘れませんから」
京介「俺もだ」
あやせ「幸せです」
京介「俺の方が幸せだ。あやせ、愛してる」
あやせ「はい、わたしも愛してます、京介さん!」
- 54: 2015/05/22(金) 21:22:12.69 ID:VWWrYmzqo
-
後日談
高校の教室にて。
桐乃「あやせ、昨日はごめんね。あいつとは本当に何でもないから」
あやせ「大丈夫だよ桐乃、もう怒ってないから。メールでもたくさん謝ってもらったし」
桐乃「うん、でも顔を見てちゃんと謝っておきたかったから」
あやせ「桐乃は優しいね」
桐乃「そんな事ないって。んで、あれからどうなったの?」
あやせ「どう、って…………別に、何も無かったよ?」
桐乃「んー?」
あやせ「えっと、何かな?」
桐乃「あやせ昨日と違うんだよねー。うーん、柔らかくなったと言うか」
あやせ「気のせいだと、思うよ」
桐乃「そっか」
桐乃「あ、そうだ。折角だし他のゲームもやらない? あたしのお勧めはね~」
あやせ「桐乃、あまりいかがわしいゲームばかりやるのもどうかと思うよ」
桐乃「あやせも大泉くん気に入ってたでしょ? 他にも色々あるよ」
あやせ「う、うーん」
桐乃「どうせならあいつも入れて三人でやってみる?w」
あやせ「桐乃、京介さんにはわたしが居るんだから、あまり変なゲームを教えないで」
桐乃「ん?」
あやせ「ん?」
桐乃「ううん、きっと聞き間違いだと思う」
あやせ「うん」
- 55: 2015/05/22(金) 21:23:58.25 ID:VWWrYmzqo
-
桐乃「でもそっか、あやせから見れば、あいつがエロゲーやってるのって浮気されてるようなもんか」
あやせ「京介さんの事は信じてるけど、やっぱりちょっと複雑かな」
桐乃「んん?」
あやせ「?」
桐乃「……」
桐乃「ねえ、やっぱり昨日あたしが帰った後に何かあったんじゃないの?」
あやせ「そんな事ないって。京介さんはとっても優しくしてくれたよ?」
桐乃「と言うやり取りがありましてー」
京介「おい」
桐乃「ここに裁判を開廷したいと思います」
京介「おい」
沙織「なるほどなるほど、いきなり呼び方が京介さん、に変わったでござるか」
黒猫「生意気ね、京介を京介と呼んでいいのは私だけよ」
桐乃「異議あり! あたしも京介と呼ぶし!」
沙織「異議を認めるでござる」
桐乃「っしゃ」
黒猫「その勝ち誇った顔を辞めなさい」
京介「おい」
桐乃「うるさいわね、何よ」
京介「それは俺の台詞だ。なんでお前らここに集まってる。あとなんで俺は縛られてるんだ」
桐乃「決まってるでしょ。昨日あやせに何をしたの、さっさと白状しなさい!」
京介「黙秘する」
沙織「黙秘権の行使を認めません。でござる」
京介「裁判の体を為した私刑じゃねーか!」
黒猫「被告人に人権は無いわ。さっさと真実を語りなさい」
京介「……黙秘する」
黒猫「そう、言えないような事を彼女にしたのね。汚らわしい」
桐乃「あたしが帰った時あやせ物凄く怒ってたのに、なんで急に仲良くなってるのよ」
京介「あやせとの事を喋るなら、その前にお前とした事も言わなきゃならないけどな」
桐乃「はあ!? あんたバッカじゃないの!? 言ったらマジ殺すわよ!!」
沙織「詳しく」
黒猫「……どういう事かしら?」
京介「ああ、実はな」
桐乃「滅殺!!」
- 56: 2015/05/22(金) 21:25:27.53 ID:VWWrYmzqo
-
桐乃「さて、このバカは黙ったままだし、どうしよう」
黒猫「貴方、もう少し手加減を覚えた方がいいのではないかしら」
沙織「大体想像は付きますわ。お二人とも本当は気付いていらっしゃるのではないですか?」
桐乃黒猫「……」
沙織「京介さんは気絶したまま。それに復活しても喋ってくれないと思われますので、ここで取るべき手段は一つしかありません」
桐乃「それは?」
沙織「ずばり、家探しでござる!」
黒猫「ふ、我が力を持ってすれば、隠された真実を闇より手繰り寄せるなど赤子の手を捻るようなもの」
桐乃「そういうの良いから。探すわよ!」
沙織「血の跡が残ったシーツ、何かを拭き取った大量のティッシュ、封が切られたコンドームの袋」
黒猫「」
桐乃「」
沙織「思ったよりも生々しかったでござるなー」
黒猫「」
桐乃「」
沙織「いやー、しかし京介氏も隅に置けないでござるな。あれからまだ数日しか経ってないのに、もうここまで進展してるとは」
黒猫「ふ、ふふふ、不潔よ……」
桐乃「京介とあやせが……京介が……あやせに……」
沙織「何にしても目出度いでござるな。恐るべきはエロゲーの持つ力なり」
桐乃「沙織あんた良く冷静でいられるわね」
沙織「拙者これでも花も恥じらう乙女。内心ドキバクでござるが、三人揃って放心してしまうと進行が止まる故」
黒猫「本音を言いなさい」
沙織「今すぐここから逃げ出したいくらいに恥ずかしいですわ……」
桐乃「はぁ、もう起こってしまった事はしょうがない。あたし達が焚き付けた部分もあるし」
黒猫「これもまた運命の理……」
桐乃「親友の門出を祝うしかないっしょ!」
黒猫「そうね、悔しいけれど私は既に環から外れた身。どうしようも無いわ」
沙織「二人とも、ティッシュをクンカクンカしながら言っても格好付かないでござるよ?」
桐乃「それもそうか。使用済みのコンドームを探す方が先よね!」
黒猫「乗ったわ」
沙織「おうふ」
- 57: 2015/05/22(金) 21:27:11.51 ID:VWWrYmzqo
-
京介「……はっ」
気が付くと部屋には薄闇が射していた。あのバカ、どんだけ全力で俺を殴ったんだ。
あーくそ、まだ縛られたまんまじゃねーか。これ鬱血してるんじゃないか?
京介「おい、誰か居ないのか? 桐乃ー、黒猫ー」
桐乃黒猫沙織「」
京介「おわっ」
京介「何だ居たんなら返事しろよ。ていうか、いい加減これほどいてくれ」
桐乃「ドロッとしてペチャっとして……」
黒猫「呪いが呪いが……」
沙織「」
何なんだ。どうも様子がおかしい。俺が気絶してる間に何が起こったんだ……って。
使用済みコンドーム「やあ」
京介「何てこった」
どうしたものか。やはり昨晩の内に全部処理しておくべきだったか。こうなったら後の祭りだけどな。
ピンポーン
四人「ビクッ」
『京介さーん、わたしですよー』
あやせさんまた絶妙なタイミングですね!
いや落ち着け、俺は今回完全に被害者だ。何も悪い事してない、うんオッケー。
京介「開いてるから勝手に入ってくれ。あと助けてくれ!」
あやせ「意味がよく分からないですけど、お邪魔しまーす」
桐乃「こんばんは……」
黒猫「ふん」
沙織「お邪魔してるでござる」
京介「ヘルプミー」
- 58: 2015/05/22(金) 21:28:31.91 ID:VWWrYmzqo
-
あやせ「……一体何ですか。なんで京介さんは椅子に縛られてるんですか? はっ、もしかしてそういう趣味ですか? やっぱり変態ですね」
京介「ちげーよ! いいからほどいてくれ!」
沙織「ああ、申し訳ござらん。紐は拙者がほどくから、あやせ殿はゆっくりくつろがれるとよろしいかと」
あやせ「……」
あやせの目が怖い!
あやせ「なんで京介さんの部屋に皆さんが集まってるんですか? 早速浮気ですか?」
京介「そんな訳ないだろう。俺はあやせ一筋だぜ!」
あやせ「冗談です」
いや冗談に聞こえなかったですよ?
あやせ「ねえ桐乃、ここで何をしてたの? 何で京介さんを縛っ……て……」
使用済みコンドーム「やあ」
あやせ「」
あやせはコンドームに視線を乗せたまま固まっている。そりゃそうか、昨日の今日で恥ずかしくない訳がない。
桐乃「あ、あはは。えっとね、あやせ」
あやせ「うっ……ううう……」
京介「あ、あやせ!?」
いきなりあやせは泣き出した。それはそうだ、睦言をつまびらかにされて、それを親友に見られて恥ずかしくないのがおかしい。
桐乃「ご、ごめんあやせ! あたしそんなつもりじゃ無くて……」
するとあやせはキッと俺を睨みつけた。あれえ?
あやせ「昨日あんなにわたしを愛してくれたのに! なんでもうエッチしてるんですか!!」
京介「???」
あやせ「酷いです……今までは冗談の延長で済んでたのに、これじゃ本当の浮気じゃないですかあ……」
京介「あの、あやせさん?」
ていうか沙織、早くほどいてくれよ! 縛られたままじゃ慰めもできない。
桐乃も黒猫も沙織もポカーンとして動きが止まっている。
- 59: 2015/05/22(金) 21:30:01.06 ID:VWWrYmzqo
-
あやせ「桐乃、昨日のは何でもないって言ってたよね」
桐乃「う、うん、そうだよ!」
あやせ「じゃあこれは何なのよ!!」
ビシッと使用済みコンドームを指さすあやせ。
あやせ「京介さんを動けないようにして無理やり襲ったの? 四人で同時にエッチしたの!?」
桐乃「そ、そんな訳ないじゃん!」
あやせ「じゃあ別々にエッチしたの!?」
桐乃「落ち着いてあやせ、何もしてないから」
あやせ「嘘吐かないで!」
あー、そういう事か。なるほど、確かに紛らわしいかも知れない。
京介「あやせ、よく見ろ。それは俺たちが使ったやつだ」
あやせ「俺たち? 俺たちって誰と誰ですか!?」
京介「俺と、あやせだ」
あやせ「……?」
京介「俺とあやせが昨日使ったやつだよ。それをこいつらがゴミ箱から引っ張り出しただけだ」
あやせ「…………」
あやせ「そうなの? 桐乃」
桐乃「そ、そうだよ! あたしがこんなやつとエッチする訳ないじゃん!」
黒猫「全く勘違いも甚だしいわね」
沙織「ござるござる」
あやせ「う……」
あやせ「うわああああああああん」
叫ぶやいなや、脱兎の如く部屋から飛び出ていくあやせ。
京介「あやせ!」
こてん。そうだった俺動けないじゃん!
京介「あやせーーー、カムバーーーーーッ!!」
桐乃「あたしが行くっ」
黒猫「はあ、面倒臭い女ね」
それには深く同意するが、受け入れるのが男の矜持と思い黙っておく事にした。
あとお前が言うな。
- 60: 2015/05/22(金) 21:31:27.35 ID:VWWrYmzqo
-
あやせ「ご迷惑をおかけしました」
沙織「いやいや、拙者たちもちと調子に乗りすぎていたでござる」
桐乃「ごめんね、あやせ」
黒猫「ふん」
京介「もうこんな事はするなよ?」
桐乃「うっさい死ね!」
酷くね?
あやせ「もう、桐乃、すごい恥ずかしかったんだからね」
桐乃「ごめんごめん、あやせがこいつに鬼畜な事されてないか心配でさ~」
あやせ「そんな事ない、京介さんすごく優しかったもの」
桐乃「そっか……。うん、そっか。おめでとう!」
あやせ「桐乃……ありがとう」
桐乃「あーあ、あやせに先を越されちゃったかぁ」
あやせ「ふふ、桐乃は素敵なんだから、すぐに良い人が見付かるよ」
京介「なんだ桐乃、お前まだ処」
桐乃「死ねっ!!」
言い終わらない内に神速の右ブローがガードを突き抜けボディにスルッと入ってきた!
黒猫「幾らなんでもデリカシーが無さすぎるわ、当然の結果ね」
あやせ「わたしも今のはフォローできません……」
沙織「京介氏は相変わらずでござるなあ、はっはっは」
桐乃「ふん!」
桐乃「それじゃ帰る。あやせ、そのバカの手当よろしくね」
黒猫「下らない……さようなら」
沙織「まあまあ黒猫氏、そんなに落ち込まずに。このまま残念会にでも行くでござるよ」
黒猫「はっ、私が落ち込んでいるですって? 貴方図体だけじゃなくてその目も」
桐乃「良いからいいから。行こう黒猫。後でたくさん泣こう、ね?」
黒猫「は、離しなさい! わ、私は別に泣いてなんか……いないわよ……」
沙織「それではお邪魔しました。あやせさん、京介さんをよろしくお願いいたしますわ」
桐乃「じゃね~~」
あやせ「皆さん……ありがとうございます」
- 61: 2015/05/22(金) 21:32:38.18 ID:VWWrYmzqo
-
目が覚めると自室のベッドの上だった。あー、腹が痛ぇ。
あやせ「あ、目が覚めました?」
京介「おう。もしかして看病してくれてたのか? 悪いな」
あやせ「さっきのは京介さんが悪いんですからね」
京介「返す言葉もございません」
あやせ「後で桐乃に謝っておいてくださいね」
京介「そうだな、メールでも送っておくよ」
すっかり日は暮れ、窓の外は暗闇が支配していた。
あやせ「ごめんなさい、今日は用事があって遅れたのでお買い物が出来なかったんです」
京介「いいっていいって、気にすんな」
京介「それよりも悪いな、こんな時間まで。送るよ」
あやせ「ありがとうございます。本当は今日は大事なお話があったんですけど、また明日にしますね」
京介「大事な?」
あやせ「ええ、わたし達の将来に関する事です。ふふ」
……何だろう、嫌な予感しかしない。
いや、俺も男だ! あやせの純潔を奪った以上、腹を括る!
京介「そっか、じゃあ明日の楽しみにしておくよ」
あやせ「はい! あ、まだちょっと傷が残ってるのでエッチはダメですよ?」
駄目かー。そっかー。
あやせ「……キスなら、何時でも大丈夫でっ」
重なる二人の影。顔を離すと、ポーッとしたあやせ。
おっと、俺は紳士だから初体験を済ませたばかりの彼女に無理はさせないぜ。やせ我慢だけど。
- 62: 2015/05/22(金) 21:33:39.54 ID:VWWrYmzqo
-
『今日は少し遅くなるので、16時頃にうちに来てくれ』
『分かりました。お買い物をしてから伺います』
『桐乃、昨日はデリカシーのないことをして悪かった。お詫びに大学の良いやつを紹介するから許してくれ』
『余計なことすんな! 死ね!』
『そう怒るなって、かなりの優良物件だぞ?』
『それ以上言ったら着拒するからね』
『マジすみませんでした。着拒は勘弁してください <(_ _)>』
『もういいから 昨日は二回も殴ってごめん』
『なんだよお前、可愛い所あるじゃないかw』
あれ、次に送ろうとしたメールが返ってくるぞ。
折角あやせの可愛い写真を送ろうと思ったのに。
……受信拒否しやがったな、畜生!
- 63: 2015/05/22(金) 21:35:46.13 ID:VWWrYmzqo
-
あやせ「京介さん、いい加減にしてください」
京介「はい」
あやせ「もうちょっとデリカシーを学んでください」
京介「はい」
あやせ「桐乃を説得するの大変だったんですよ?」
京介「申し訳ありません」
あやせを通じて何とか桐乃の着信・受信拒否は解除されたものの、変わりにお説教を受けていた。
ちなみに、その後送られてきた桐乃からのメールは簡潔に『バーカ』だった。
ムカついたのでそれに返信はしていない。
あやせ「本当に仕方のない人……あ、ご飯できたので正座崩しても良いですよ」
京介「はい」
あやせ「それはもう良いですから」
苦笑するあやせを見てお許しが貰えたと判断し、足を伸ばす。いててて。
京介「今日も美味そうだな」
あやせ「愛情いっぱい込めました」
京介「空腹と愛情、どちらがより優良なスパイスなんだろうな」
あやせ「わたしとしては愛情に勝って欲しいです」
京介「そうだな、俺たちラブラブだもんな!」
あやせ「ラ……そうですね。ええ。では頂きましょう」
ご飯は勿論美味しかった。食後のデザートにあやせを、と思ったが紳士な俺は自重した。やせ我慢だけど。
- 64: 2015/05/22(金) 21:37:31.68 ID:VWWrYmzqo
-
京介「さて、大事な話ってなんだ?」
あやせ「はい。えっと」
あやせは軽く深呼吸すると、俺をジッと見据えながらこう言った。
あやせ「わたし、高校辞めて働きます」
……。
んー、ぼくなにをいわれたかわかんない。
京介「ごめんよく聞こえなかった、もう一度」
あやせ「わたし、高校辞めて働きます」
京介「ワンスアゲイン」
あやせ「……高校を退学します。しかる後にモデル業に専念して収入増加を目指します」
京介「は? いや何言ってるんですかあやせさん」
あやせ「本気です」
京介「何のために?」
あやせ「言わないと分かりませんか?」
京介「ああ分かんねーな。ちゃんと言葉に出してくれ」
あやせ「あなたと結婚するためです」
あやせ「わたしはあなたと関係を持ったので、もう結婚を前倒しするしかありません」
あやせ「本来、セ……エッチは子どもを作るための行為です」
あやせ「7年も待てないなら、結婚を早くすればいい、それだけです」
京介「いやいやいや、何でそうなる? ちょっと短慮に過ぎないかそれ」
あやせ「わたしはそういう覚悟を持って、あなたと関係を結びました」
あやせ「京介さんはわたしと結婚したくないんですか?」
京介「結婚はバッチ来いだが、早過ぎるだろ」
あやせ「でも京介さん言ってましたよね、婚約して7年待って、そして結婚するって」
あやせ「わたしは京介さんが他の女性を抱くのが嫌でした。そして京介さんはわたしを抱きたかった」
あやせ「ならもう結婚するしかないじゃないですか」
唖然とする。え、この子の愛重すぎない? いや俺がいい加減なだけなのか?
京介「ちょっと論理が飛躍し過ぎてやしませんかね……」
あやせ「いいえ、一部の隙もない完璧な論理です!」
ドヤァ、という擬音がどこからか聞こえてきた。そのくらい見事なドヤ顔だった。
京介「あやせが前から言ってた覚悟って、俺に抱かれる覚悟じゃなくて、結婚する覚悟?」
あやせ「はい!」
京介「学校辞めて、仕事をする覚悟?」
あやせ「はい!」
いやあ、俺って愛されてるなー。愛っていうか執着、執念だなこれー。
京介「ちょっと落ち着こうな」
あやせ「わたしは冷静ですよ?」
- 65: 2015/05/22(金) 21:39:14.07 ID:VWWrYmzqo
-
考えろ、考えるんだ俺。なぜこうなった? あやせとセックスしたからか?
いや、あやせと関係を持った以上いつかは結婚するだろうと、そういう覚悟なら俺もしてた。
つまり時期の問題なのか?
あやせを高校中退させてまでするべきものなのか、結婚って。
しかもあやせは自分が働いて稼ぐつもりだ。俺の大学卒業まで待つつもりは無いらしい。
見方を変えると、あやせの人生を犠牲にして結婚という契約に縛り付けるようなもんだ。
子どもが出来たらモデル業なんて無理だろうし、タイミングによっては俺はまだ学生だ。
そういう意味では金銭面での不安が残る。バイトしなきゃな。
結婚は早めにしておいて、子どもは俺が就職するまで待って貰う……駄目だな、あやせは避妊に否定的だ。
避妊を否認する、なんちゃって。
そもそも親をどうやって説得しよう。うちも大概だが新垣家の両親を説得できる気がしない。
最悪駆け落ちか。全てを捨てて新天地での生活ってのも悪くないかもな~。
あやせの人生を大事にするなら、いっそ別れるのも選択としては有りか?
ヤリ捨てするみたいで嫌だな。俺どんだけ無責任だっての。
それにこれだけ俺を愛してくれる女性、もう生涯出会えないかも知れない。
ふと誰かの姿が脳裏をよぎったが、無理やり頭から追い出した。
ああ、あやせが学校辞めるとなると桐乃は激怒するだろうな。
いやこの際桐乃はどうでもいいか。上手く説得できれば強い味方になりそうだな。いや桐乃はどうでもいいか。
親父を説得するのに効果は抜群だ。桐乃はどうでもいいんだってば。
あやせを中退させるくらいなら、俺が大学を辞めてすぐ働いた方がいいんじゃないか。
それだと新垣家を納得させられないかー。高卒の働き口なんてたかが知れてる。
公務員ならいけるかな。地方公務員なら転勤ないし受けだって悪くないだろう。
結婚せずに関係は続けて行き、あやせには未婚の母になって貰う。最悪だ何を考えてるんだ俺は。
でも父親不明の婚外子なら新垣の親だって邪険には出来まい。
落ち着いた頃に誠意をもって当たれば認めてもらえるかも。いや駄目っぽい。
早ければ来年出産、俺の卒業・就職まで丸4年。子どもは三歳くらいか?
女の子だとあやせに似て可愛いんだろうな~。
桐乃とかデレデレだろうな。桐乃はどうでもいいから。
- 66: 2015/05/22(金) 21:40:49.11 ID:VWWrYmzqo
-
あやせ「落ち着きました?」
京介「大丈夫、俺は極めて冷静だ」
嘘です。生まれて一番頭脳を高速回転させたよ、知恵熱出そうだよ!
京介「今の話、誰かに相談とかしているのか?」
あやせ「いいえ、自分で決めました」
京介「そうか」
あれえ、さっきと一転、今度は何も浮かんでこないよ。
もう脳みそはオーバーヒートか。思考回路はショート寸前か。今すぐ逢いたいのか誰にだ。
あやせ「京介さん、わたしとこうなった事……後悔してますか?」
京介「そんな訳ない!」
あやせ「でもさっきから、すごく悩んでます」
京介「あやせとは納得した上でエッチしたんだ。いつか結婚するだろうともちゃんと考えていた。ただ、いきなり過ぎて考えが追い付いてないんだよ」
あやせ「わたし、京介さんを困らせてますね」
京介「俺としては、あやせに学校を辞めて欲しくない。今すぐ働くなんて自分を犠牲にするような真似をして欲しくない」
あやせ「なんで犠牲って思うんですか! 好きな人と一緒になるために必要な事です」
溝が埋まったと思っていたのは俺の勘違いだったのか? まるで違う世界に住んでいるみたいだ。
京介「とりあえず、学校を辞めるのは絶対に駄目だ。モデルなら今までだってやって来れただろ」
あやせ「出産するまでにしっかりお金を貯めておかないと、京介さんが就職するまで貯蓄が持ちません」
京介「それなら俺が大学を辞める。責任を取るべきは男の俺だ」
あやせ「それこそ絶対ダメです! いま結婚したいのはわたしの我が儘なんですから、京介さんはしっかり勉強して、就きたい仕事に就いてください」
あやせ「京介さんが稼げるようになるまで、わたしが京介さんと子どもを支えます!」
あやせ「それに妊娠したって、妊婦モデルやパートとか、仕事はあります」
駄目だ、どうにも説得できそうにない。
何か突破口は無いのか……。
- 67: 2015/05/22(金) 21:41:49.35 ID:VWWrYmzqo
-
ふと思い付く。
京介「あやせは今何歳だっけ?」
あやせ「……15歳ですけど……もうすぐ16になります!」
京介「なら、どちらにしろ今すぐの結婚は無理だ。ちょっと考える時間が欲しいので、せめていきなり学校を辞めるのだけは勘弁してくれ」
あやせ「分かりました。確かにいきなりだとは思うので。でもわたしはもう決めたので、考えを変えるつもりはありません」
京介「ああ、分かった」
時計を見ると、既に新垣家の門限近かった。
京介「げ、あやせ門限だ。送るから急いで帰ろう」
あやせ「気付いてました。でも近い内に結婚するんですから、泊まっていっても問題ありません」
京介「家に連絡してないだろ、駄目だ。節度を守ったお付き合いで行こう」
あやせ「桐乃に泊めて貰う事になら出来ると思います」
京介「バレた時が悲惨だな。あやせの親御さんに絶対結婚を認めて貰えなくなるぞ」
あやせ「それは……確かにそうかもです」
良かった。それなら駆け落ちしましょう! とか言われたらどうしようかと思った。
あやせは良い所のお嬢さんだから、そんな発想ないのかもな。
- 68: 2015/05/22(金) 21:43:27.65 ID:VWWrYmzqo
-
さて翌日。
考えなんてまとまるはずも無く、俺は一人でうんうん唸っていた。
親父に相談するのが一番か。ぶっ飛ばされそうだけど、それでも最後には何かしらの知恵を授けてくれそうだ。
いや、一人暮らしの家に女子高生を連れ込んでいたしたんだ、下手すりゃ勘当されるかも。
そうなると、もう俺に悩みを打ち明ける相手なんて居なかった。あいつらしか……。
続けて世話になるのは気が引けたが、もはや背に腹は代えられぬ!
『もしもし、どうされましたか京介氏』
『助けて沙織えも~ん』
桐乃「今度は何。今あんたの顔見たくないんですケド」
黒猫「全く、私たちを再び召喚するなんて、貴方の心臓には毛が生えているのかしら」
沙織「まあまあお二人とも、京介氏は本気で困っている様子。これに応えるのが女意気ってものでござろうよ」
桐乃「ふん。どうせあやせ絡みなんでしょ、さっさと話しなさいよ」
黒猫「くだらない惚気話とかなら、本気で呪いをかけるわよ」
京介「ありがとうな、三人とも。これからする話は他言無用でお願いする。あやせ本人にもだ」
沙織「元より承知でござる」
そして俺は昨日の話を三人に聞かせた。
途中で桐乃があやせに連絡を取ろうとしてそれを止めたり、
結局惚気話じゃない地獄に堕ちろ的な励ましを受けたり、
多少脱線はあったものの思っている事は全て伝えられた。
- 69: 2015/05/22(金) 21:45:08.14 ID:VWWrYmzqo
-
沙織「ふむ、何とも困りましたな」
桐乃「何よ簡単じゃない、あんたが大学辞めて働けばいいじゃん」
京介「話聞いてなかったのかよ。それはあやせが強く反対している」
桐乃「そんなの関係ない。あんたは大学を辞めたくないから、あやせの提案に乗っかってるだけ!」
桐乃「責任取る取るって口では言ってるけど、実際には自分の事しか考えてないじゃない!」
京介「何だと」
桐乃「本当にあやせが好きなら、全部投げ捨ててでもあやせを幸せにするって気概を見せなさいよ!」
桐乃の言葉に俺はかつてないほど苛立たされた。気が付いたら口汚い音が出てしまっていた。
京介「チッ。世間を知らないガキが、知った風な口を利くなよ」
桐乃「あたしはあんたよりずっと早く仕事を始めて、努力を怠らず学業と陸上と仕事と趣味を全て並立させて、結果としてあんたよりも遥かに世間の評価を得てる。世間を知らないのはどっちよ!!」
桐乃「知った風な口を利くな? それはこっちの台詞よ!!」
京介「確かにお前はすごい頑張っている。ああ、知っているさそんな事くらい! だけどな、お前のそれは所詮おままごとなんだよ。子どもが親の庇護下の元、ぬくぬくと守られながらやりたい事をやってるだけだ!」
違う、こんな酷い事を言いたくない。桐乃は本物だ。すごいヤツなんだ。
一番近くで見ていたんだから俺が一番知っている。
京介「お前が俺に人生相談を持ちかけてきた時から、いや小さい時から。どれだけ俺がお前の為に頑張ったか知ってるのかよ!! いいよなお前は自分のしたいようにやってれば、後は俺や親父が何とか片付けてくれるんだから。そして俺は優秀な妹の捨て駒さ、便利に使うだけ使われてポイ捨てされる道化だよ!」
- 70: 2015/05/22(金) 21:47:16.08 ID:VWWrYmzqo
-
黒猫「二人とも、やめ、辞めて……」
桐乃「ふ、ふふふ……!」
ヒートアップしていく空間。怒りで震えている桐乃。涙目でオロオロする黒猫。黙って成り行きを見守る沙織。
自分を律する事が出来ず、妹に暴言を吐いてしまった愚かな俺。そして
桐乃「ふざけんなっ! あんたがどれだけあたしを守って来たか、知ってるに決まってるでしょ! あんたはあたしのヒーローなんだから、ずっと憧れてた、ずっとずっと見てきた。ずっとずっとずっと……好きだった!!」
突然の桐乃の告白。想定外のそれに俺の頭は真っ白になる。
桐乃「趣味の事でお父さんやあやせ達から守ってくれた時、嬉しかった! 小説を何とかしてくれて嬉しかった! アメリカまで追っかけて来てくれた時、どうにかなりそうなくらい嬉しかった! 黒猫と付き合いだして悲しかったけど仕方ないと思った! 一緒に結婚写真撮れて嬉しかった! 夜中にベッドに忍び込んでドキドキした! エロゲーを一緒にやるだけでも楽しかった! あやせと付き合うって聞いた時、悲しくて悲しくて泣いたけど、やっぱり仕方ないって思った今度こそ諦めようって!」
京介「桐乃……お前……」
桐乃「なのに肝心のあんたがそんなにフラフラしてたら諦めきれないじゃないっ! 一昨日黒猫と一緒にワンワン泣いて、これでもう終わりって決めたのに、またしがみ付きたくなるじゃないっ! ふざけるなっ、どれだけあたしの想いを弄べば気が済むのよ!!」
ぜえぜえと息を切らしながら一気に捲し立てた後、桐乃は我に返ったように大人しくなった。
ある時期から桐乃の俺を見る目が熱を帯びた物に変わっていたのは分かっていた。
だけど桐乃は妹だ。愛しているが、それはあくまで家族愛であり、大事な守るべき俺の妹なんだ。
俺はそれを言い訳に目を逸らし続け、そして今桐乃に言われるまで気が付かない振りをしていた。
なんて情けない……みっともない兄貴なんだ。
京介「桐乃」
ビクッと桐乃の身体が震える。恐る恐るこちらを窺う瞳はまるで苛められている小動物のようだ。俺が桐乃にこんな顔をさせたんだな……。
だけど、情けない兄貴でも最後に伝えなきゃならない事がある。俺は
- 71: 2015/05/22(金) 21:48:38.05 ID:VWWrYmzqo
-
黒猫「待って」
黒猫を見やると、さっき俺と桐乃に挟まれて泣きそうになっていた者とは別人のように凛とした雰囲気を身に纏っていた。
黒猫「私も貴方が好きよ」
桐乃「!!」
黒猫「あの夏の日、私から告白したのに一方的に振ってしまってとても後悔した。それでも変わらず友達でいてくれた貴方が好きです」
黒猫「桐乃に比べれば貴方との付き合いは短いけど、それでも貴方とは確かに通じ合っている期間があったと確信している」
黒猫「都合の良い事を言っているのは分かっているわ。だけどやっぱり私は貴方を諦めきれない」
黒猫「だから、あやせ--さんと別れて、もう一度私と付き合ってください。お願いします」
京介「…………」
俺が頭の中で返事を組み立てていると、おずおずと沙織が提言して来た。これは槇島さんか。
沙織「差し出がましいようですが言わせてください。京介さん、しっかり答えを出してください。あなたはここで未来を選ばないといけません」
沙織「どなたを選んだとしても、きっと誰もあなたを恨んだりしません。ここに居ないあやせさんも」
沙織「後の事はわたくしがフォローしますから、あなたは自分の心のままに行動してください」
沙織「……エロゲー展開的に三人とも選ぶというのもありですかな、むふふ」
槇島沙織だったり沙織・バジーナだったり忙しいヤツだ。だけど俺はいつもこの人に助けられてるな。
京介「ありがとうな、沙織」
- 72: 2015/05/22(金) 21:50:15.49 ID:VWWrYmzqo
-
俺の心は最初から決まっている。
京介「二人ともありがとう、気持ちはとても嬉しい。だけど、俺はあやせを愛しているんだ」
京介「だから二人の想いには応えられない。すまない」
桐乃も黒猫も何も言わない、言えない。だから俺は続ける。
京介「桐乃、さっきは酷い事を言ってすまなかった。あれはちょこっと本心だけど、俺はそれよりもお前を大事に思っている
京介「お前は俺の大事な『妹』だからな」
桐乃「……!」
京介「この先どんな事があっても、俺たちは家族だ。お前が俺を求める限り、俺はお前の兄貴としてお前を守り続ける。いつかお前に好きな人が出来て、その人が俺と交代するまで、ずっとずっとだ」
桐乃「へ、へへへ。あたしが彼氏作らなかったら結婚しなかったらどうするつもりよ」
京介「それなら死ぬまでお前を守るさ」
桐乃「あっそ……グスッ。そんなら死ぬまであたしを守って、って言いたいけどそれじゃダメ。自分の事は自分で守れるようになるから……兄貴はあやせを守って!」
京介「お前がそう望むのなら、俺はあやせを守る。いつか子どもが産まれたから、その子も守ってみせる」
桐乃「うん、それなら良いよ…………う、うううぁぁぁぁぁ」
沙織「きりりんさん。頑張りましたね」
槇島さんが声をかけると、桐乃はその胸に顔を埋め大声を上げた。
- 73: 2015/05/22(金) 21:51:44.53 ID:VWWrYmzqo
-
桐乃に語りかけている間、黒猫は微動だにせず俺を待っていた。
泣き虫のはずなのに、今はとても晴れやかな笑顔を浮かべている。
京介「黒猫……瑠璃、お前と付き合っていた期間は短かったかも知れないけど、とても充実した、楽しい……幸せな時間だったよ」
黒猫「そう。今とどっちが幸せかしら?」
京介「比べられないな。あの時があるから今の俺が存在する。もしも黒猫と付き合っていなかったら、俺はあやせとも付き合えてなかったかも知れない」
京介「でも、強いて優劣を付けるなら」
黒猫「良いわ。意地悪で聞いただけだから、答えは要らない」
京介「そうか。……お前は妹じゃないから、俺とずっと一緒って訳にはいかないかも知れない。だけどな」
京介「俺たちは確かに通じ合っていたよ。あの絆があるから、きっと『友情』は永遠に続く」
黒猫「そう、そうね。私たちは永遠の存在。だからきっと繋がりが途切れる事はない」
黒猫「だけど勘違いしないで頂戴。私は諦めが悪い女なの。貴方の事を諦めるつもりは無いわ」
黒猫「だから一旦身を引くけど、あやせさんと別れる事があったら私の元に馳せ参じなさい」
京介「瑠璃、お前は強いな。だけど俺の事は諦めてくれ、あやせと別れるつもりは無い」
黒猫「ふふ、二連続で振られてしまったわね。……いつか後悔するわよ、こんな良い女を振ってしまったのだから」
京介「そうだな、お前は良い女だよ。だから、ずっと桐乃と友達でいてくれ」
黒猫「最後まで妹の心配なんてとんだシスコンだわ。貴方に言われるまでもなく、桐乃は私の……大切な、友達よ」
京介「そうか。ありがとう、黒猫」
笑顔で、それでも涙を静かに流して、黒猫は俺に背中を向けた。
- 74: 2015/05/22(金) 21:53:02.71 ID:VWWrYmzqo
-
最後に沙織を見る。桐乃はいつの間にか泣き止んでおり、それでも気まずいのだろう俺から顔を背けていた。
俺が口を開くより先に沙織が語りだした。
沙織「わたくしも京介さんをお慕い申しておりました」
京介「えっ」
桐乃「えっ」
黒猫「何ですって」
沙織「ですけれど、わたくしはきりりんさんや黒猫さん、ましてやあやせさん程の強い想いを持っている訳ではありませんでした」
沙織「京介さんに拒絶されるのが怖かったわたくしは、結局、沙織・バジーナの眼鏡を最後まで外せませんでした」
沙織「今伝える事が出来ただけでわたくしは満足です。ですから京介さんは、お気になさらず先にお進みくださいませ」
沙織「きりりんさんと黒猫さんの事はお任せください。あと、あやせさんの相談に乗れなくて申し訳ありません」
京介「……ありがとう沙織。お前は本当にいいヤツだよ。これからも頼る事があるだろうけど、よろしくな!」
沙織「はい」
京介「俺はこれからあやせの所に行ってくる。スペアキーを置いておくので、適当に郵便受けにでも入れておいてくれ」
沙織「行ってらっしゃいませ」
京介「じゃあな!」
桐乃黒猫沙織「……」
「あーあ、振られちゃった」
「でも後悔は無いわ」
「そうですな。言うべき事はきちんと伝えられたでござる」
「どうする? また残念会やる?」
「それも良いわね」
「それでしたら拙者良い場所を知ってるでござるよ!」
「んじゃ行こ! あ、でもその前にーっと」
「……」
「……」
「……」
- 75: 2015/05/22(金) 21:55:42.09 ID:VWWrYmzqo
-
走りながらあやせに電話をかける。
こんなに胸が高揚してるのは初めてあやせを抱いた時以来か。
あれから数日しか経っていないのに、ものすごく過去のように思える。
『はい、もしもし』
『あやせ、今から出られるかっ。いつもの公園で待ってるな!』
一方的に告げ、電話を切る。
あやせは必ず来てくれる。だから俺はあやせに伝える言葉をしっかりと考えておこう。
桐乃たちはちゃんと俺の相談に乗ってくれた。
これといったアドバイスは無かったけど、俺の背中をしっかりと押してくれた。
その想いを無碍にはしない。
あやせ「もう、さっきの電話は何なんですか? 京介さんじゃなかったら絶対来てませんよ」
京介「すまない、どうしても伝えたい事があったんだ」
あやせ「……はい」
あやせ「ちゃんと聞きます。言ってください」
俺の言葉は決まってる。あやせからの返事だって分かる。
色々説得しなきゃいけない事はあるだろうけど、それがなんだ!
俺たちには未来がある、心強い仲間もいる。きっと何とかなるさ!
「新垣あやせさん、俺と--」
終
- 82: 2015/05/22(金) 23:48:41.25 ID:yoFK79I0o
- 乙 久々にいい俺妹SSをみた
- 関連記事
コメント
お知らせ
サイトのデザインを大幅に変更しました。まだまだ、改良していこうと思います。
最新コメント
最新記事
- フレデリカ「鷺沢古書堂の事件手帖ごっこ」 (07/31)
- フレデリカ「Fマスターごっこ」 (07/30)
- 未来「メメント?」まつり「モメント♪」美也「ルルルルル☆」 (07/28)
- 野々原茜「ねぇねぇ、しほりんってプロちゃんの事好きなの?」 (07/27)
- 北沢志保「好きにすればいいじゃないですか」 (07/26)
- 星梨花「ゴージャス!」麗花「ぷっぷか?」茜「プリン!!」 (07/25)
- 【ミリマスSS】クレシェンドブルーの百分の五物語 (07/24)
- 七尾百合子「プリムラの花に、言の葉を乗せて」 (07/24)
- 野々原茜「クレシェンドブルーで温泉旅行!」 (07/24)
- 北沢志保「恋のLessonしりとり編」 (07/23)