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784: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/06(火) 22:12:28.86 ID:k1RwxYSFo
凛「ダーマ寺? 神殿とか、神社じゃなくて?」

武内P「はい。そのあたりは、大人の事情です」

美嘉「ふーん? でも、転職とかは出来るんだよね?★」

武内P「そのはずです」

楓「今の職が天職だと思ってるので、転職はショックです」

武内P「あの……高垣さんは、本当に何の職なんですか!?」
785: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/06(火) 22:15:40.78 ID:k1RwxYSFo
  ・  ・  ・

仁奈「ここは通さねーでごぜーますよ!」


武内P「野盗、ですね」

凛「だけど、あれならすぐ倒せそう」

美嘉「ちょっと!? 容赦なさすぎない!?」

楓「もしかしたら、野盗じゃないかもしれないですし……」


仁奈「さんぞくの気持ちになるでごぜーます!」


楓「ほら、やっぱり♪」

武内P「あまり、変わりがないと思うのですが」

凛「まずいね……山賊は、ちょっと厄介かな」

美嘉「えっ!? 野盗とそんなに変わらなくない!?」
786: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/06(火) 22:19:56.07 ID:k1RwxYSFo
仁奈「水と食料を置いてってくだせー!」


武内P「申し訳ありません。旅を続けるため、それは出来ません」

凛「どうしてもどかないなら、倒してでも通して貰うから」

美嘉「まぁ、しょうがないか。ホラホラ、さっさと通して―」

楓「野盗なんて、やっとると駄目ですよ」


仁奈「もう、コンビニのオニギリは飽きてきたでごぜーます……」


武内P「ぐっ!? まずい、気をしっかり保ってください!」

武内P「あの野盗は、精神攻撃を仕掛けてきています!」


棺桶×3


武内P「三人揃って即死じゃないですか!」
787: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/06(火) 22:24:13.78 ID:k1RwxYSFo
  ・  ・  ・

武内P「……何とか、1000円で見逃して貰いました」

武内P「しかし、これからどうすれば……」


棺桶×3


武内P「……私が一人で運ぶしか、なさそうですね」

武内P「よっこい……せっ!」

武内P「……くっ、さすがに重い……!」


ドンドンドンドンッ!


武内P「ひいっ!? あ、あの、申し訳ありませんでした!」

武内P「棺桶の内側から叩かないでください! お願いします!」

武内P「か、軽い軽ーい!」
788: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/06(火) 22:31:06.96 ID:k1RwxYSFo
  ・  ・  ・

武内P「途中で、野良クラリスさんに会えて助かりました」

凛「凄いね。タダで復活させてくれたんでしょ?」

武内P「ええ。お代は頂けないと、とても、良い笑顔でした」

楓「仲間になってくれたら、とっても頼もしい僧侶さんですね」

武内P「はい。そう、思いました」

美嘉「ま、まあでも!? このパーティーにはアタシがいるし!?」

一同「……」

美嘉「やっぱりカリスマって大事だし!?★」


楓「――と、このタイミングで、新しい呪文を閃いた私です」


武内P「! 高垣さんは……やはり、魔法使いだったのですね!?」

楓「? あの……どうして、そう思ったんですか?」

武内P「……いえ、何でもありません」
789: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/06(火) 22:35:44.42 ID:k1RwxYSFo
楓「新しい呪文の名前は……」

武内P・凛・美嘉「……!」ゴクリ

楓「こ……ここ……こっ」

武内P・凛・美嘉「……!」ゴクリッ

楓「……ふふっ! 見つめられると、うふふっ、照れちゃいます」

バシバシ!

武内P「痛い、痛い! す、すみません……」

楓「……新しい呪文の名前は――」


楓「――『こいかぜ』」


武内P・凛・美嘉「『こいかぜ』……!?」
790: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/06(火) 22:41:47.81 ID:k1RwxYSFo
美嘉「それってさ、楓さんのソロ曲だよね?★」

楓「ええ、そうよ」

凛「ふーん。でも、戦闘の役には立た無さそう」


楓「そんな凛ちゃんに――『こいかぜ』っ!」

ぽわぽわ~ん!


凛「? 別に何も変わった事は無いけど……っ!? く、苦しい!」


武内P「!? 渋谷さん!? だ、大丈夫ですか!?」

凛「だ、駄目っ! 満ちては欠ける想いが今、苦しくて溢れ出しそう!」

武内P「意味がわかりません!」

凛「舞い踊る風の中でえええっ! プロデューサ――ッ!」

ガバッ!

武内P「!? は、離れて! 離れてください渋谷さん!」
791: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/06(火) 22:50:07.74 ID:k1RwxYSFo
凛「巡り会えた! この奇跡が!」

武内P「や、やめっ、やめてください! いけません!」

凛「幻の大地を越えてえええっ!」

武内P「ドラクエ6ネタを絡めても許されないですから!」

凛「あなたと未来へええっ! 歩きた」


楓「――『こいかぜ』っ!」

ぽわぽわ~ん!


凛「……」

武内P「と、止まった……!」


楓「『こいかぜ』は、恋する気持ちを最大限に高める呪文です」

楓「恋する少女は……ふふっ、無敵ですね♪」


凛「――楓さん! 私に、もう一度『こいかぜ』を!」

武内P「絶対にやめてください!」
792: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/06(火) 22:54:32.23 ID:k1RwxYSFo
  ・  ・  ・

武内P「小ネタで、もう半分も過ぎてしまいました」

武内P「ですが……ダーマ寺には辿り着けましたね」

美嘉「……アタシ、転職しようかなー」

武内P「城ヶ崎さん?」

美嘉「結構レベルも上がってきたしさ、賢者とかどう?★」

武内P「成る程。それは、戦力アップになりそうですね」

美嘉「でしょ!★ そうすればほら……アンタも嬉しいだろうし///」

武内P「はい、とても」

美嘉「そ、そっか……///」


凛・楓「……」
793: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/06(火) 22:59:43.42 ID:k1RwxYSFo
美嘉「ねえ、アンタは転職とかしないの?」

武内P「いえ、私はプロデュ……勇者ですので」

美嘉「勇者と賢者……うん、お似合いだよね★」

武内P「はい?」

美嘉「うっ、ううん!? な、何でもないよ!?」

武内P「……?」

美嘉「……///」


凛「――それじゃあ」

楓「――天職に、転職してきます」


武内P「お二人も、ですか?」


凛「うん。待ってて」ニコリ

楓「はい。待ってます」ニコリ


武内P「?……良い、笑顔ですが……」

武内P「……何か、嫌な予感が……」
794: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/06(火) 23:09:54.25 ID:k1RwxYSFo
  ・  ・  ・

凛(王女)「――お待たせ」


武内P「どうして転職出来たんですか!?」

凛(王女)「これはもう、勇者と結婚するしか無いかな」

武内P「戦闘力がガタ落ちじゃないですか!」

凛(王女)「大丈夫。夜の戦闘力は、上がってるはずだから」

武内P「何を言ってるんですか渋谷さーん!」


楓(幼馴染)「――私、帰りを待ってますから」


武内P「あの、そんなのにも転職出来るんですか!?」

楓(幼馴染)「アナタは、きっと帰ってきてくれる……信じてます」

武内P「せめて、一緒に旅に出られる職にしてください!」

楓(幼馴染)「そうしたら……一生、一緒ですよ♪」

武内P「何てことだ……! 二人も戦力外に……!」


武内P「! 城ヶ崎さんは!? 城ヶ崎さんは無事でしょうか!?」
795: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/06(火) 23:19:15.97 ID:k1RwxYSFo
美嘉(僧侶)「……」


武内P「! 城ヶ崎さん!」

美嘉(僧侶)「ヤッホー★ お待たせっ★」

武内P「転職は……しなかったのですか?」

美嘉(僧侶)「うーん、もうちょっと僧侶で経験を積んだ後の方が良いかな、って」

武内P「成る程。もう少しで呪文を覚える、という事もありますしね」

美嘉(僧侶)「そうそう! やっぱり、呪文って大事だからさ★」


美嘉(僧侶)「――南無阿弥陀仏」


武内P「僧侶違いじゃないですか!」
796: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/06(火) 23:25:42.02 ID:k1RwxYSFo
凛(王女)「さあ、行くよ。『ゆうべはおたのしみでしたね』」

武内P「それは、王女ではなく宿屋の台詞です」

楓(幼馴染)「ぬわーーっっ!!」

武内P「それは、幼馴染ではなく父親の台詞です」

美嘉(僧侶)「南無大慈大悲救苦救難……」

武内P「あの……鬼の手でも、使うつもりですか?」


武内P「……皆さん、今すぐ、元の職に戻してきてください」

武内P「そうでなければ……私が、寺に駆け込んでしまいそうです」
797: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/06(火) 23:35:28.31 ID:k1RwxYSFo
  ・  ・  ・

凛「うん、やっぱり戦士が一番向いてるかな」

武内P「はい。とても頼もしいと、そう、思います」

美嘉「アタシも、なんだかんだで僧侶に愛着わいたかも★」

武内P「ええ。普段とは違った魅力に溢れています」

楓「私も……やっぱり、これが天職だと思います」

武内P「あの……結局、高垣さんの職業は何なのでしょうか?」


楓「――『こいかぜ』っ!」

ぽわぽわ~ん!


武内P「!? ぐっ、数え切れない涙と、言えない思いを抱きしめている気分が!?」


凛「……なんだか、困ってるけどハッキリ言い出せない人みたいだね」

美嘉「……やっぱり? アタシもそう思った」
798: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/06(火) 23:41:50.46 ID:k1RwxYSFo
武内P「くっ……わ、私はプロデュ……勇者!」

凛「! 凄い、『こいかぜ』に抵抗してる!」

武内P「揺れる思い、惑わされている訳には……いかない!」

美嘉「いや、これ抵抗しきれてなくない!?」

楓「うふふっ、素直になるのが一番ですよ♪」


ピシャーン! ゴロゴロゴロ!


凛・美嘉・楓「!?」


???「……ふっふっふ!」


凛・美嘉・楓「この声は……!」


魔王蘭子「煩わしい太陽ね」


凛「蘭子か」

美嘉「アタシ、てっきり仏が来るかと思った」

楓「どうしたの、蘭子ちゃーん?」


魔王蘭子「あの……ちょっと親しげなのは、控えめで……」
800: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/06(火) 23:49:24.95 ID:k1RwxYSFo
魔王蘭子「……ゴホンッ!」

魔王蘭子「勇者よ! 魔王たる我を倒さんとする愚か者よ!」

魔王蘭子「我のこの姿……しかとその目に焼き付けよ!」ビシッ!


凛「凄い……あの衣装、もの凄く豪華」

美嘉「衣装さん、めっちゃ気合入れて作ったらしいよ★」

楓「まあ、そうなの? 素敵よ、蘭子ちゃーん」


魔王蘭子「……あの、親しげなのは……あの、本当」


武内P「魔王神崎さん……! よく、似合っています……!」

武内P「そして……ずっと、君を探している!」


魔王蘭子「ふっ! 放浪の果てに、汝は我の元に辿り着けるかな?」

魔王蘭子「我が魂の輝きは、今にも世界を覆い尽くさんと脈動し」


武内P「ただ君に会いたい! only you!!」


魔王蘭子「ぴっ!?///」
801: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/06(火) 23:58:25.30 ID:k1RwxYSFo
魔王蘭子「あ、会いたいってあ、あの、あっ、あ……///」

魔王蘭子「きゅ、急にそんな事言われても、えっと……///」

魔王蘭子「そんな、勇者……ぷっ、ぷぷぷ……///」


凛「……『こいかぜ』、きいてるね」

美嘉「……アタシ、魔王やればよかったカモ」


魔王蘭子「ぷっぷプロプロ……プロヴァンスの風!」

武内P「巡る……こいかぜ!」

魔王蘭子「恋!?///」


魔王蘭子「あ……う……///」

ピシャーン! ゴロゴロゴロ!


凛・美嘉「『まおうは にげだした!』」
802: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/07(水) 00:11:25.52 ID:7JNSQ+Gao
  ・  ・  ・

武内P「魔王神崎さん……とても、強大な相手のようです」


凛・美嘉「どこが?」


武内P「……しかし」

武内P「『こいかぜ』をフルで歌う羽目になるとは……思ってもみませんでした」

凛「悪くなかったよ。ううん、かなり良かったと思う」

美嘉「アンタ、プロデュ……勇者よりも、そっちの方が向いてるんじゃない?★」

武内P「いえ、そんな事はありません」

武内P「私には、アイドルの皆さんを笑顔にする、プロデュ……勇者が一番です」

楓「天職なので、転職する気は無い、と?」

武内P「はい。転職する――」


楓「『こいかぜ』っ♪」

ぽわぽわ~ん!


武内P「――踏み出す力下さい!」

武内P「……やめてください!」



おわり
805: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/07(水) 19:16:39.01 ID:HBuuUkLxO
絶対に武内Pから引き離そうとする専務(もしくは部長)VS絶対に引き離されない楓さん
見たいな!!!
809: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/07(水) 21:39:28.19 ID:7JNSQ+Gao

「キミ達の距離感について話したい」


 彼女専用の執務室に、押し殺したような声が響いた。
 震える彼女の肩から察するに、そうとうお冠のようだ。
 だが、大声を張り上げないだけ、彼女も成長したのだろう。
 年若い頃から知っている身からすれば、なんとも嬉しいものだ。


「私達の……距離感ですか?」


 自分が、何を言われているかわからないといった様子の男。
 不器用なこの男は、事態の深刻さを理解していないようだ。
 己が誠実だからと言って、他もそうとは限らないのだよ、キミ。


「……」


 私は、男の横に立つ高垣くんに目を向けた。
 真剣な表情の男とは対照的に、その顔には押し殺したような笑みが。
 ……そう、高垣くんは、笑いをこらえながら、


「……」


 彼の後頭部にいつも在る、チョロリと立った寝癖を人差し指で弄んでいる。
 まるで、じゃれつく猫のような高垣くんは、彼女の方を一度も見ていない。
 それが、ことさらに怒りを刺激するのだろう。

「……!」


 鋭い目から放たれる眼光は凄みを増し、哀れな男はその余波に晒されている。


 青ざめる男と、怒る女に、微笑む女。


「……やれやれ」


 そして、巻き込まれた、哀れな私。
810: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/07(水) 21:49:31.62 ID:7JNSQ+Gao

「そうだ。キミ達は、プロデューサーと……」


 彼女が、男に視線を向ける。
 その視線を受け、男は居住まいを正し直立不動。
 背筋を伸ばした彼は、元から長身なのも相まってより、大きく見える。


「……アイドルだろう……!?」


 彼女が、高垣くんに視線を向ける。


「……♪」


 が、高垣くんはそれを無視。
 寝癖を弄ぶ指の動きは激しさを増し、そしてリズミカルに。
 パンチングボールを叩くボクサーのようなその姿は、無邪気な子供そのもの。


「……?」


 先程から何も言葉を発しない高垣くんを不審に思ったのか、
男はチラリと横目で彼女の方を見た。


「――はい、その通りです」


 早い。
 そして、速い。
 今の高垣くんは、両手を前で組み、とても美しい姿勢で専務に目を向けている。
 凛としたその表情には、先程の無邪気さはどこにも見当たらない。


「……」


 男が、少し高垣くんに見惚れたのがわかった。
 が、それはプロデューサーとして正しいことではないと思ったのか、
かぶりをふって、また専務の方に視線を戻す。


「……♪」


 そして、また寝癖弄りが再開された。
811: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/07(水) 21:59:04.68 ID:7JNSQ+Gao

「……!」


 彼女の額に、青筋がクッキリと浮かび上がった。
 眉間に寄せられた皺、引き締められた唇。
 瞳の奥に見える炎は、正に怒りの化身。


「……!?」


 普段の彼女だったならば、詩的な表現で男と会話していただろう。
 だが、今の彼女は明らかに冷静さを欠いている。
 原因は、言うまでもなく、


「……♪」


 高垣くんだ。
 ……しかし、彼の寝癖を弄ぶのはそこまで楽しいのかね?
 なんだか、私もやってみたくなってしまったじゃあないか。


「……」


 厳しい視線に晒され、男は右手を首筋にやり、困った顔をした。
 彼も、随分と表情が豊かになったものだ。
 これもアイドルの――プロジェクトの、彼女達の影響かね?


「~♪」


 はっはっは、高垣くん。
 彼の右腕が作った空間は、キミの手をスポスポと通すための場所じゃあないよ。
 いやはや、あまり大きな空間では無いのに、器用に手を通すじゃないか。
 うんうん、やめようね? 本当に。


「……!」


 電流は通っていないが、それはイライラ棒だよ、高垣くん!
812: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/07(水) 22:11:00.10 ID:7JNSQ+Gao

「……いい加減にしなさい……!」


 人が感情だけで他者を害せる生き物だったならば、
恐らく私達は今頃物言わぬ躯になっていた事だろう。
 その怒りを高垣くんも察したのか、手をスポスポするのをやめた。
 が、


「……」


 左の手を首筋にやり、男と鏡の様に対称な姿勢を取った。


「っぶふっ!?」


 それはずるいよ、高垣くん!
 そんなの、笑うに決まってるじゃあないか、ええ!?


「……部長?」


 男が、不審げに私を見る。


「……」


 高垣くんが、ニッコリとドヤ顔で私を見る。


「笑っている場合ですか……!?」


 ハハハ、そうだろうね。
 こんな時に笑ったら、いくらキミでも爆ギレするというものだろう。


「いや、すまなかった」


 ゴホンと咳払いをし、今のは笑ったのでは無いとアピールする。
 それを信じたのは……悲しいかな、不器用な男だけだった。
814: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/07(水) 22:23:03.05 ID:7JNSQ+Gao

「……私は、専務の仰っている事が、よくわかりません」


 そりゃそうだろう。
 だって、キミは気付いていないんだから。


「はい……私も、ビックリしています」


 私はね、キミがビックリした事にビックリしたよ?


「ですが……誤解を招くような事があったのならば、今後は気をつけます」
「はい。私も、彼と同じ気持ちです」
「ほう……!」


 二人の真剣な表情とぶつかり合う、専務の怒り。


「……!」


 勝ったのは、


「……良いでしょう。今後は気をつけたまえ」


 不器用だが、誠実な男と、美しく、神秘的な女だった。
 専務のその言葉を聞き、


「――はい」


 男は、深々とお辞儀をした。


「――はいっ」


 高垣くんは、そんな男の背中に両手を付き、馬跳びの要領で跳んだ。
815: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/07(水) 22:40:00.82 ID:7JNSQ+Gao

 フワリ、と、そう表現するのが的確だろう。
 高垣くんは、女性にしては身長が高い方だが、とても軽い。
 長い手足も相まって、それは跳ぶと言うよりも、飛んでいるように見えた。


「……」


 カツンッ、と、高垣くんが履いていたサンダルが音を立てた。


「……」


 誰も、言葉を発さない。
 高垣くんは、やり遂げた顔をしている。
 専務は、あまりの怒りで絶句している。
 男は……さすがに気付いたのか、顔を上げられずにいる。


「……」


 全く、彼女は本当に仕方ない子だね。
 こんな状況じゃ、私が尻拭いをせざるを得ないじゃないか。



「――いやぁ、懐かしいね! 私も子供の頃はよくやったものだよ!」



 張り詰める場の空気を切り裂くように、努めて明るく、大声で。
 一斉に私に視線が集中するが、それを受け流して男の元へと向かう。


「ぶ、部長……?」


 何をする気ですか? と、男が視線で問いかけてくる。
 良いから合わせろ! と、私は視線で彼に命令する。


「――どうぞ」


 男は、両手を膝にやり、馬跳びの馬の体勢を取った。
816: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/07(水) 22:56:59.64 ID:7JNSQ+Gao

「……♪」


 ワクワクと、動向を見守る高垣くん。


「……!」


 イライラと、動向を睨んでいる専務。


「……」


 ハラハラと、流されるがままの男。


 正に、三者三様。
 そんな彼らを前にして、私が出来る事などほんのちっぽけなものだ。


「ふむ……これは、少し助走が必要だな」


 手を膝にやって腰を曲げている男を見ながら、つぶやく。
 そして、距離を測るように少しずつ後ろ歩きを。
 あと少し……もう少しで――


 ――ドアに辿り着く!


「……!」


 ドキドキと、逃げるチャンスを伺う私!
817: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/02/07(水) 23:20:54.36 ID:7JNSQ+Gao

 ……すまない、出来る事なら彼女の怒りを和らげてやりたかった。
 だけどほら、見てみたまえ。


「……!」


 専務の顔、とても人間とは思えない程歪んでいるよ。
 無理だよ、私には。
 尻拭いをしようと思ったけれど、出来ないものは出来ない。
 だってね、彼女の視線を浴びただけで思考が停止してしまったんだ。


「……!」


 ――よし、ドアまで辿り着いた。
 あとは、後ろ手でノブを回し、ドアを開けて――


 ガチャリッ。


「……!?」


 ――開かない!?
 何故!? どうしてだ!


「……♪」


 高垣くん?
 なんだい、その笑みは?
 とても、良い笑顔じゃないか。
 ふむ……何をしたかわからないが、キミが何かしたんだね。


「……」


 良いだろう、私も腹をくくった。
 本気を……出そうじゃないか!



 結局、あの後専務の怒りが爆発する事は無かった。
 何故かって?
 馬跳びに失敗した私の足が、彼の側頭部にモロに入ってそれ所じゃなくなったからさ。



おわり

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