婚后光子「アナタは…」一方通行「あァ?」
- カテゴリ:とある魔術の禁書目録
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- 4: 2011/02/27(日) 14:00:03.18 ID:8T1aQw5qo
- プロローグ
―少年はいつも、孤独と共に居た。
―少女は少ないながらも、友人にも恵まれていた。
――少年は強大な力を、持っていた。
――少女は強力な力を、秘めていた。
―――少年はその力故に、誰も傷つかぬよう、無敵の力を求めた。
―――少女はその力を、自分と友人を守るための力とした。
――――少年は無敵の力を手にすることなく、闇に堕ちた。
――――少女はその無垢な心でもって、光にあたり続けた。
― 光と闇が 交差する時 物語は始まる ―
- 24: 2011/02/27(日) 22:16:07.13 ID:8T1aQw5qo
- 路地裏に一人の少女を囲むように数人の不良。
背格好、声など違いは様々だが、皆一様に下卑た笑いを浮かべている。
対する少女は気品に溢れており、育ちのいいお嬢様だと見受けれる。
が、この状況で育ちがいいということは何のメリットも有していない。
「やめなさい、貴方達!この私を常盤台の婚后光子と知っての狼藉ですの!?」
「ヘッ、常盤台のお嬢様つったって所詮は女だ、男の俺らに敵う筈ねーだろ!ぎゃはは!!」
男の言うとおり、か細い少女の腕では腕力では全く敵わないだろう。
すぐに片手首を掴まれ、壁際に追いやられる。
誰がどう見てもどちらに分があるかは目に見えている。が―――
ここは学園都市。そういった意味の常識は、通用しない。 - 25: 2011/02/27(日) 22:20:08.10 ID:8T1aQw5qo
-
「ほぉれ、もう逃げられねぇz――がはッッ!」
「おい、どうした!!」
突如何もないところから何かが飛来し、それが不良の1人の鳩尾を直撃する。
人気のない裏路地で、背後からならまだしも自分達が囲んでいる前方の少女の壁の方面から飛んできたのだ。
普通ならば、何が起こったのか分からず、しどろもどろすることだろう。
しかしこと学園都市ではこのような普通では考えられないことが普通に起こる、それは何故か。
「ぐぅ…!ちっ、能力使うなんざ姑息な真似しやがって!!」
「ふんっ!大勢で襲いかかってきた貴方がたに姑息などと言われたくありませんわ!
これでもまだやり合おうというんですの?」
「俺たちゃスキルアウトだ、能力を盾に偉そうにするやつを見るといらつくんだよ!」
この学園都市では人為的に超能力者を生み出す研究を行っている。
しかし、人為的と言っても少なからず学園都市に在籍する学生は超能力を持ちたいと思っており
それに呼応する形で脳の開発、教育をしているといっても一概にはおかしくない。
ひとつ、教育・開発という点に於いて忘れられないことがある。言い方は悪いが、『落ちこぼれ』『失敗』などという言葉。
学園都市においてもその定義は例外でなく、全学生の6割が無能力者、という全貌だ。
落ちこぼれから必死に上がろうともがく者もいれば、落ちこぼれであることを認め、諦める者。
そして、落ちこぼれであるが故に、能力が使える者を敵視し、破壊活動を行ったり、暴力に頼ったりする者。
後述のそういった、不良やチンピラと呼ばれる部類の無能力者は、総称して『武装無能力集団』(スキルアウト)と呼ばれていた。
- 26: 2011/02/27(日) 22:30:24.07 ID:8T1aQw5qo
- 「ふん、能力がないからといって努力もせずに群れて人様の迷惑にしかならない貴方がたに
何を言っても仕方ないようですわね。言葉で駄目なら、体に教え込むまでですわっ!」
「その上から目線がイラつくっつってんだろぉが!!お前らやっちまえ!!」
・
・
・
結果はいうまでもないだろう。
0に幾ら0を足したところで、0以上にはなれない。
7人いたスキルアウトの集団は婚后の手によって6人が気絶させられていた。
残り一人も地面に臥して呻いている。
勝敗は既に決している。
…はずだった。
「ち…畜生…ぐッ…」
「これで最後ですの?全く、歯応えがありませんわ。
この程度でこのLEVEL4『空力使い』の婚后光子を倒せると思っておいででしたら、100年早いですわよ!」
――何故かこの言葉を聞いた瞬間、男の顔に笑みが浮かぶ。
怪しい、どうも怪しい。何かがおかしい。違和感が頭の中を駆け巡る、が原因が分からない。
どうせ、負け犬の遠吠えだと思い込む。しかし、それこそが間違いだった。
「へぇ…あんた、LEVEL4の空力使いなんだ…」
「ま、まだそんな軽口を叩ける元気がありますの?
力加減を間違いましたかしら…今すぐ夢の国に旅立たせて―――ッ!!」
――何事にもイレギュラーというものがある。
起きなければいいこともあれば、起きた方がいいこともある。
しかし、今回のイレギュラーは彼女にとっては起きない方がよかった部類に入るだろう。
- 27: 2011/02/27(日) 22:35:05.68 ID:8T1aQw5qo
- 「残念♪もうちょっと気をつければこんなことにならなかったのにねぇ?」
「えっ…」
この言葉と共に目の前の男が消える。
次の瞬間には両手が紐のような何かで纏められあげ、首筋にナイフが押し当てられていた。
いつの間に後ろに回り込まれたのかと、考える暇もなく冷たいナイフの先が円を描くように首周りをなぞる。
「ひっ」と婚后が小さな悲鳴を上げたのを聞いた男は、満足そうにナイフを手で弄びながらこう続けた。
「空力使いってのは、手で触れた部分の物を気流で操る能力だろ?
こうして両手を縛って、物体に触れれないようにすれば途端に何にもできなくなる。
怨むなら風力使いじゃなかった自分の能力を怨むんだな」
「くう…」
「それにしても…随分と可愛らしい声あげるじゃないの。よく見たらなかなかの身体してるし…」
男は舐めまわすようにいやらしい目線を向けてくる。
「アナタ…方は……無能力者じゃ…ありませんの……?」
「は?ひゃははは!!こりゃ傑作だ!!
確かに俺は"スキルアウト"とは言った。だが全てのスキルアウトが"レベル0"だと思ったら大間違いだぜ?」
男がしたり顔を浮かべての見て初めて、婚后は自分の失態を悟った。
- 30: 2011/02/27(日) 22:43:20.75 ID:8T1aQw5qo
- (私としたことが…油断しましたわッ…!)
自分の能力に自信があったのだ。
こんなスキルアウトの集団、一人で倒せると。
その過失による自分への戒めと共に、スキルアウト如きに後れを取るという屈辱が婚后を襲う。
「俺の能力はLEVEL3の『幻視立体』。まぁ、いわば蜃気楼みたいなモンを誤認識させちまう能力だ。
今までオマエが見てた俺は、只の何もない空間だったってワケ。
まぁでも、コイツらには俺が能力者ってことを隠してるから、全員ノしてくれた点には感謝しねぇといけねぇな」
「くっ…」
「少しでも不審な動きをすれば、どうなるか分かってるよなぁ…?
それじゃ、お楽しみといこうか?」
言うが早いか、男の手がスカートの中に侵入してくる。勿論、彼女に男性経験などあるはずもない。
――キモチワルイ。それが彼女の感じた初めての刺激だった。
しかし、男の手が止まることはない。
「ぐ…!うっ…」
「思ったよりも感じねぇな…ガキだからか?
まぁ、最初の反応はこんなモンか。これから俺が開発してやっから、期待しとけよ。
無事な身体で戻れるか微妙なトコだけどなぁ!!薬漬けにだけはしないでおいてやるよ、俺ってばやっさしー!!」
薬漬け。
その言葉を聞くだけでも悪寒が走る。
このまま自分は拉致監禁されるのか。そんな事を想像しただけで眼から涙がこぼれる。
平穏な毎日にはもう戻れないのか、そう思う彼女の脳裏には数人の親しい友人の姿、そして二人の可愛い後輩の姿が浮かぶ。
嫌だ、怖い、何故、何故自分が。
そう思い心の中で神を呪う。
(誰か、誰か助けて……)
- 32: 2011/02/27(日) 22:44:50.19 ID:8T1aQw5qo
- 現実はそんなに甘くはない。
願えば直ぐにヒーローがかけつけて、助けにきてくれたりはしない。
細腕の少女では男には抗えず、慰み者になるのがオチだ。
だが…勘違いしないでもらいたい。
"ヒーロー"はこないが時として"怪物"が来ることはあるのだ。 - 38: 2011/02/27(日) 23:06:36.71 ID:8T1aQw5qo
- カツッ、コツッ、カツッ。
「なンなンですかァ?近道しようとしたら三流以下のゲス野郎が溜まってンじゃねェか」
カツッ、コツッ、コツッ、コツッ、カツッ。
怪物は、少年だった。
怪物は、杖をついていた。
怪物は、白い髪で、赤い瞳をしていた。
怪物は、見る者を恐怖のドン底に落とすようなオーラを、纏っていた。
- 44: 2011/02/28(月) 02:18:06.39 ID:LGsIJ4Jto
- 「これを…受け取ってくださいまし!!」
「あ?」
そう言って手渡されたのは丁寧にラッピングされた箱。
目の前の少女は俯いており、その表情は見えない。
贈り物をされる程、自分が何かをしたとは思えない。
珍しく昼間にコーヒーが切れてしまったが為に、昼間から買いに行った忌々しい日。
イライラしていたので帰り道に、路地裏でたむろしていたチンピラを蹴散らした覚えがある。
目の前の少女はその時にしきりに自分にお礼を言っていた常盤台の少女だ。
確か名前は…婚后光子と言ったか。
自分としてはイラつきを目に付いたゴロツキで発散しただけだというのに。
危ないから帰れと言ったのだが少女は門限まで時間があるからお礼をさせてくれと引き下がっていた。
結局はアドレスと番号を交換することで諦めたようだが。
それからというもの、ほぼ毎日メールは届くし、夜になると電話はかかってくるし
休日にはどこから入手したのか、家まで押し掛けてくるしと散々な目に遇っている。
しかし、一方通行は散々な目に遇っていると感じているが、婚后のほうはそうではない。
チンピラに襲われているところを颯爽と登場し、自分を助けてくれた人に好意を抱かない人間は少ないだろう。
また、常盤台のお嬢様ということがこれに拍車をかけている。
元々浮世離れしている節がある婚后にとって、一方通行はまるで白馬の王子様のような存在であった。
一言で言うと一目惚れである。
必死で一方通行の気を引こうと、毎日メールをしたり、電話をかけたり。
果ては尾行までして家を探し当てたという涙ぐましい努力が裏にはある。
そんな努力も超鈍感大魔王かつ朴念仁な一方通行には全く通用していないのは、不運と言うべきか。
- 45: 2011/02/28(月) 02:19:06.50 ID:LGsIJ4Jto
- 話を戻そう。
本日は2月14日、俗に言うバレンタインデー。
本来のバレンタインデーはお世話になった人に贈り物をするというものだが、そんなことはどうでもいい。
そんな欧米の習慣など知ったことではない、重要なのは日本での習慣だ。
日本では女性が男性に渡すチョコには二つの意味がある。
義理・本命、意味は推してはかるべきだろう。
ここまで長々と続けたが、つまりはこうだ。
本命チョコを一方通行に渡し、自分の好意を一方通行に気付いて貰う、というもの。
しかしそんな彼女の一大決心も次の一方通行の一言で粉々に打ち砕かれることとなった。
「つーかよォ…今日なンかあったか?プレゼントなンて今までしたことなかったじゃねェか。
もしかしてアレか?これがオマエの言ってたお礼ってやつですかァ?」
―――絶句。
自分ですらもこのバレンタインデーというイベントを知っていたというのに。
この男の常識のなさには驚かされる。
しかも何故かお礼という言葉を使ったとき、一方通行は嬉しそうであった。
お礼をしてもらって嬉しがるというのは普通のことだが
何故か普通の喜び方ではないように思えてならなかった。
それもそのはず。この時一方通行は
(よし、これで一々鬱陶しいメールやらなんやらから解放されるぜェ…)
などと考えていた。
鈍感ここに極まれり。ここまで来ると悪意すら感じるものがある。
結局今回も婚后のアピールは失敗に終わる羽目になった。
彼女の執事が彼女の為を想って、こっそり中にメッセージカードを入れており
それがあろうことか彼女の一方通行に対しての想いが綴られていたというものであった。
それが一方通行から婚后に知らされ、顔を真っ赤にしてあうあうしていたのは後のお話。 - 54: 2011/02/28(月) 13:21:11.68 ID:LGsIJ4Jto
- 突然の闖入者。
普通なら神の助けかと思うだろう。
しかし、そうは思えない。
男の怯え方が尋常ではないからだ。
「白髪に赤い瞳…っつーことは…!!て…てめぇは…」
「あ?オマエ…俺のコト知ってンのか?なら今すぐ尻尾巻いて逃げるンだな。
そしたら見逃してやるよォ、命は大切に、ってなァ。」
怪物は助かる路を提示する、これを慈悲と言わずなんと云うのだろうか。
しかし男はそんな慈悲をも露知らず、引き攣った笑いを浮かべた。
「へ…へへ…知ってるぜ、オマエ…無能力者に負けたんだってな…?
無能力者に負けるような『最強』なんか『最強』じゃねぇ!!俺にだって倒せるんだよぉ!!」
「はァ…オマエ、ソレ本気で言ってンのか?…だとしたら、相当哀れな奴だなァ…」
『最強』と呼ばれた少年は、赤い瞳を男に向ける。
その眼差しに侮蔑の色はなく、本当に哀れと思っているようだった。
しかしそれが、男の激昂を誘う。
「うるっせぇよ!!オマエを倒して、『最強』の名は俺のモンだ!!」
(ヤツがこの幻の俺に気を取られてる隙に…背後から喉を一掻き、それで終わりだ!)
男は気づいていない。
少年の首元の装置には、既にスイッチが入っているということを。
そして、いくら『最強』が負けたとはいえ、未だ絶望的なまでの力の差が両者の間にあることを。
- 55: 2011/02/28(月) 13:23:04.43 ID:LGsIJ4Jto
- 「が…あ…?」
「だから言ったろォが。最初からケツまくって逃げてりゃこンなコトにはならなかったのによォ…。
まだ素手なら腕の骨が折れただけで済ンだろうが、ナイフを使ってきたオマエの運が悪かったってこった」
首筋から噴き出る液体。
それは少年から発せられたものではなく、男から発せられたものだった。
生温かくて、真っ赤なソレはほぼ放心状態だった婚后光子にも降りかかる。
「ひっ…」
「ガキがこンなとこうろついてンじゃねェよ、さっきみたいなやつに又襲われンぞ」
婚后は怯えながらも眼前の少年に問う。
「貴方は…」
「あァ?」
「貴方は…何者なん、ですの…?人を躊躇なく殺したりできるなんて…正気じゃありませんわ…」
「確かに俺は狂ってるンだろォな。ンなこと言われずとも分かってる。
だが世の中には知らなくていいことがたくさんあるンだよ、特にこの学園都市じゃな。」
「ですが…!」
「ぐだぐだとうるせェンだよ、ちょっと寝てろ」
―少年の右手が頭に触れた瞬間、婚后光子の意識は暗転していった。
- 56: 2011/02/28(月) 13:23:53.28 ID:LGsIJ4Jto
-
そこから先、裏路地から不審な物音が聞こえるとの通報によって
数分後駆けつけたという警備員によって介抱されるまで彼女はずっと気を失っていたという。
目の前でこんなことが起きれば誰でも不幸に思うだろう。
しかし、婚后光子の災難はこんなものでは終わらなかった。
- 57: 2011/02/28(月) 13:27:09.91 ID:LGsIJ4Jto
- 「何故私が拘束されなければなりませんの!?」
「それは君が殺人現場の真っ只中にいたからだ。加害者、と決めつけているわけではないが
重要参考人として取り扱わせていただく。いくら常盤台のお嬢様だからと言っても、能力者であることに変わりない。
何かの弾みで能力が暴発したりするかわからんのだからな。」
保護された警備員の詰め所で婚后光子は、どう見ても警備員の御偉方と思われる男性に取り調べを受けていた。
勿論能力で暴れられないように手錠型の能力阻害装置で能力使用を制限されている。
「この私が加害者ですって!?あの不良に絡まれていたのは他でもない私ですのよ、むしろ私が被害者ですわ!!」
「しかし殺害された者を除く現場に倒れていた少年達は君にやられた、といっているのだよ?」
「そ…それは…。確かに自己防衛の為に能力者の男以外は全員失神していただきましたが…」
「そのうちの一人が失神ではなく死亡している、ということが問題なのだ」
そう言って手元の資料に目を落とす男性。
こういう事例は初めてではないのだろう。またか、といった顔をしている。
「カッとなってやりすぎた、ということはないのかね?」
「ありえませんわ!首元にナイフを押し当てられていたんですのよ!!」
「あの路地は監視カメラが入らんのだ、つまり君の証言と現場の状況がすべて物を言うんだよ」
「それが何だと…!」
「君の名前は婚后光子、常盤台中学2年でLEVEL4の『空力使い』。間違いはないな?」
「…ありませんわ」
「被害者は書庫によるとLEVEL3の『幻視立体』。死因は頸動脈をナイフで掻き切られて死亡」
「…能力に関しては私を襲ってきた男の言っていたことと一致します。
が、先程から申してるようにナイフを押し当てられてからの記憶がございませんの」
「まぁ、君の能力では掻き切るというよりは刺す、といった使い方のほうが適切なようだしな…
それに、被害者がナイフを自分で持っていたというのも気になるが…」
「ほら見たこと、これで私の潔白は証明されたも同然ではありませんの?
さっさと釈放するなりなんなりしてほしいものですわ」
- 58: 2011/02/28(月) 13:28:44.88 ID:LGsIJ4Jto
-
やれやれ、と首を振る男性。
その呆れの対象は勿論彼女の理解能力の低さである。
「しかしそうもいかん。君がやっていないとすると、他の誰かが被害者を殺したということになるのだ。
君はそういう意味での"重要参考人"でもあるということだ。誰か他の人を見た覚えはないかね?」
「ですから先程から申して―――ッ!!そう言えば、一つだけ…心当たりがありますわ…」
言われて初めて思い出した、その記憶。
目の前にぼんやり映る、白い影。そして、何か叫ぶ男の姿。
「どのような些細な事柄でも構わない、言ってみてくれたまえ」
「気を失う前に…白い影を見ましたわ…それと…2つの赤い点…。
私を襲った男からは『最強』と呼ばれていたような―――どうかいたしました?」
『最強』と言った途端に男性は青白い顔をして、何かに怯えるように震え始めた。
何かあったのかと訝しがる婚后に対し男性は冷や汗をかきながらブツブツ呟いていた。
「白い…赤い2つ…?最強…まさか…!」
「あの…どうかいたしましたか?体調が優れないようでしたら…」
「君、今すぐ寮に帰りなさい…。今回の事件はなかったことにする。
これからこの事件のことを口外することを禁ずる。口にした場合…どんな目に遇っても私は知らない。
自分の責任になることを肝に銘じたまえ。忘れた方が君の為だ。それでは…失礼するよ」
ヨロヨロと歩く男性には最初に会った時の威厳の欠片も残されてはいなかった。
憔悴しきった顔になっており、時折「消される」等と物騒な言葉を呟きながら部屋を後にしていった。
男性が出て行って直ぐに別の警備員が手錠の鍵を外し外の護送車で彼女を寮まで送り届けたが
寮に帰るまで終始彼女は『白い影』について考えていた。
(警備員の御偉方を特徴だけで震え上がらせる…一体どういう存在なのでしょう…)
大人びた性格で忘れられがちだが、彼女はまだ中学二年生。
好奇心旺盛な時期であり、またお嬢様ということも相まってか何にでも興味を示してしまう。
忘れろと言われて忘れられるほど都合良く人間の頭が出来ているはずもなく。
(絶対に白い影の正体を突き止めて見せますわ…ふふふ)
この決意が婚后光子の人生を根底から狂わせる原因となることを、彼女が知ることはそうは遠くない。
- 77: 2011/03/03(木) 00:23:44.23 ID:iCo+i9y7o
- * * *
とある家屋。
何の変哲もなく、普通の一軒家として扱われているこの家屋が
実は暗部『グループ』の数多くあるアジトとして使われていることを知っているものは数少ない。
今このアジトでは白髪の少年と、金髪の少年の口論がなされていた。
「だから、そういう後始末はとっととやれってんだよ、土御門ォ!」
「無茶を言うな、お前から連絡を受けて下の組織に掃除の連絡をしたときには既に警備員が出張っていたんだぞ」
「アンチスキルが来る前に掃除を済ませりゃいい話だったろォが。
もうちょっと早く動くっつーことはできねェのかテメェらはよ」
「聞いていれば好きなこと言うな。そもそもお前があんな騒ぎを起こさなければよかった話じゃないのか?」
「ハッ、俺から仕掛けたわけじゃねェ。向こうが勝手に突っ込ンできたンだよ、文句なら向こうに言いやがれってンだ」
「死体に文句を言ったところで聞き届けられるはずがないだろう。
それに襲われていた女生徒にお前の姿は見られているんじゃないのか?」
「それに関しては問題ねェ。失神させるのと同時に海馬体を弄って記憶消しといた。
まァ、応急処置みたいなもンだったからどこまで記憶消えてるか分からねェけどな」
「杜撰な…もし覚えていたらどうする!?」
「そンときゃもっかい記憶消せばいいだろォが」
「もし警備員に事の詳細を話していた時にはどうする!」
「"上"を脅すなりなンなりできンだろ。これ以上介入すンなってな」
「チッ…。今回は"上"にはこちらから手を回しておく。
が、次にこんなことをしてみろ、一方通行。いくらお前とはいえ―――」
「ハイハイ、容赦なく切ってくれて構いませンよォ。こっちとしてもオマエらと仲良しこよしなンざ願い下げだ」
- 78: 2011/03/03(木) 00:24:52.04 ID:iCo+i9y7o
-
一方通行と呼ばれた白髪の少年は心底だるそうにそう言い、横に立てかけてあった杖を取る。
そして、器用に杖を操りアジトから彼の個人的に所有している隠れ家へと向かっていった。
土御門と呼ばれた金髪の少年は一瞬引き止めるような仕草を見せるが、何故か諦めたようだ。
溜息を吐きつつもポケットから携帯電話を出し、どこかへ電話をかける土御門。
「土御門だ。今回の件だが―――」
どこか諦めきっている節が垣間見える彼に、安寧の時は訪れるのか。 - 79: 2011/03/03(木) 00:26:05.79 ID:iCo+i9y7o
- * * *
「全く手掛かりがつかめませんわ!
こんなに人員とお金をかけているというのに小さな情報一つも入ってこないとはどういうことですの!?」
寮の部屋で大声で叫ぶ婚后。
彼女が使える人員、お金を惜しげもなく使った。
しかし、彼女の父の人脈を持ってしても白い影について何の情報も入ってこなかったのだ。
「ふ…ふふ…いいですわ、それくらいでなければ調べる価値がないというものですの…。
しかし…如何しましょう。後調べると言えば『書庫(バンク)』しか…しかし一般の学生が見れるものではありませんし…」
そこで彼女は閃く。
学生でも書庫を見れる組織があったではないか、と。
そして、知り合いにその組織に属している者がいるではないか、と。
(彼女を頼るのは癪ですが…この際文句は言ってられませんわ)
- 80: 2011/03/03(木) 00:27:27.40 ID:iCo+i9y7o
-
――風紀委員第一七七支部。
「いや~今日は固法先輩もいませんし、事件も起きなくて暇ですね~」
「あら初春、事件が起きなくて平和、というのは何よりではありませんの?
それと、その発言。固法先輩がお聞きになったらどう思われますか…こっそり後で伝えておきましょうか」
「ひぃ…し、白井さん、それだけは勘弁を~」
何とも平和な光景。
初春と呼ばれた頭に花飾りをつけた少女は、おどおどしながらもう一人の少女に謝り。
白井と呼ばれた長い茶髪をツインテールにした少女は、平和なことはいいことだと言いつつも初春を弄ることを忘れない。
……と、そこへ嵐が舞い込んだ。
「白井さん、白井さんはいらっしゃいませんこと!」
「げっ、婚后光子…」
「あら白井さん、いたなら返事くらいしてはどうです?淑女としてなってはいませんわよ」
婚后の顔を見た瞬間途轍もなく嫌そうな顔をする白井。
しかし、一方で初春は突然の来訪者に面識がなくて困惑顔をしている。
「え~と、白井さん?この方はどなたで…」
「あら、初対面の方ですわね、私は常盤台中学2年の婚后光子と申しますわ。
LEVE4『空力使い』の婚后光子と言えば私のことですわ、以後お見知りおきを。」
「は…はぁ…。私は初春飾利と言います…。白井さんと一緒に風紀委員をやらせてもらってます。
ど、どうぞよろしくお願いします…」
- 81: 2011/03/03(木) 00:28:49.53 ID:iCo+i9y7o
-
おどおどしつつも自己紹介をし返す初春を尻目に、白井は溜息をつきつつも
目の前の少女に(とはいっても白井より年上だが)尋ねる。
「それで、婚后さんは今日は何の用があって私を訪ねてきましたの?
この風紀委員の詰め所まで来るとするなら相当な用件であってほしいものですけれども」
「実は…今どうしても調べたい事がありまして…。
『書庫』を覗いてはいただけないかと思いまして」
「よっぽどのことがない限り『書庫』の情報は一般の学生には渡すことができませんの。
どうぞ、お引き取りくださいませ」
「そこを何とかなりませんの?こちらも方々から情報を集めたのですが何一つ有力な情報がありませんでしたので…。
もう、貴女方だけが頼りなんです、お願い致しますわ」
自分達だけが頼りと言われると、日本人とは断れないというもの。
勿論白井や初春も例外ではなく、渋々ながらも『書庫』からできるだけの情報提供をすることを約束した。
「…何を調べて欲しいんですの?」
「そうですわね…まずは、白い影についてお願い致しますわ」
「まずは…ということは他にも候補があるということですの?
面倒ですので全部列挙していただけると助かるのですが…」
「そうなると口止めされた事件のことから全て話さなければならなく―――あ」
口を滑らせてしまった婚后は、しまったという表情をするが、もう逃げられない。
逃げようとした瞬間に白井のテレポートで止められるのが目に見えている。
観念して話すしか、道はなかった。 - 82: 2011/03/03(木) 00:30:11.21 ID:iCo+i9y7o
-
「そんなことがあったのに、何故今まで相談の一つもして頂けなかったんですの!?」
「口止めされていましたし…必要以上に貴女方に負担をかけるのも酷な話かと思いまして…」
「そんなこと気になさらずとも…もし婚后さんが重傷でも負ってみなさいな。
私、ひいてはお姉様まで悲しみますわよ」
「面目ないですわ…」
「それにしても…白い影、赤い2つの点に『最強』ですか…初春、何か知りませんの?」
尋ねられた初春は暫く黙って考えていたが、心当たりはないようでこう続けた。
「う~ん…どこかで聞いた覚えはあるんですけれども…。分かりませんねぇ…。
一応、何かないか情報を集めてみますね」
「是非そうしてくださいな。婚后さん、他に思い出せることはありませんの?
情報は多くあるに越したことはありませんので」
「他…と言われましても…。そう言えば、気を失う前に何か頭に当てられたような…
すみません、この辺りの記憶が曖昧でよく思い出せませんの…」
「思念使いか洗脳能力者…?そうすると婚后さんを襲った男が自害したのも説明はつきますが」
「でも『書庫』に登録されている思念使い、洗脳能力全能力者に婚后さんが言った特徴のある人はいませんよ?」
「そうしますと…一体どこの誰が…」
「『最強』というくらいですからLEVEL5クラスじゃないんでしょうか…単純に考えて第一位とか」
「初春、第一位について何か情報はありますの?」
「能力名に関しては記載がありますけど…。『一方通行』だそうです」
「『一方通行』…ですか」
- 83: 2011/03/03(木) 00:31:42.76 ID:iCo+i9y7o
- * * *
―――とあるビル。
第七学区に位置するソレは"窓のないビル"と呼ばれている。
中の構造は極々一部の者しか知らない、謎多き建物。
何百、何千、何万という通信画面の映像群。
その中心に位置するは、大きな生命維持槽。
その中には、男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える『人間』が逆さまに浮いている。
「能力名に関しては記載がありますけど…。『一方通行』だそうです」
『人間』アレイスター・クロウリーは不敵に笑う。
「ほう…一方通行に辿り着くか…。しかし、そこから先が鬼門だな。
アレの本質を知るには、その身を闇に落とさねばなるまい」
「どうします…?圧力をかけて忠告しますか?」
一つの回線から男の声がアレイスターに問いかける。
しかし、アレイスターはむしろこの状況を楽しんでいるといった風だ。
「いや…今のプランにはイレギュラーが必要不可欠だ。このままにしようじゃないか。
それに…泳がせておいた方が楽しいと思わないかね?この娘たちが何をしようと、プランに支障はない。
しかし…簡単に辿り着かれると少々興醒めする…その辺りの情報操作は君たちに任せるとしよう」
「…」
男は黙ったまま通信を切り、アレイスターはくつくつと笑い続ける。
その表情は狂気に満ちていた。 - 84: 2011/03/03(木) 00:32:22.42 ID:iCo+i9y7o
-
「さあ、君達はどんな結末で、私を楽しませてくれるのかな?」
- 94: 2011/03/04(金) 21:14:29.75 ID:cuoA4Yeio
-
「あー!全く情報が入ってこないですの!!」
「こっちも全然ですよ~。かなりの機密レベルに設定されてるみたいですね…」
唸る白井を宥めつつも初春はパソコンを操作する手を止めない。
『一方通行』という手がかりを得てから1週間、彼女達はそれ以上の情報を入手することができないでいた。
書庫から入手できた情報は、学園都市第一位が『一方通行』であるということのみ。
それ以上のことは権限無とのことで、情報を全部見ることが出来ないでいた。
「こうまで秘匿されてると…むしろ調べるなって言ってるようにも思えますね」
「誰が何の為にですの?」
「さぁ…」
溜息をつく二人。
しかし、ここで諦めないのは友人想いの二人である所以だろうか。
「やっぱり、LEVEL5っていうのが安直過ぎたんですかね~」
「どういう意味ですの?」
「婚后さんの言ってた『白い影』ですよ。普通の人なら影は黒くなるはずですよ?
それが白く見えるってことは…光学操作でもしてたんじゃないんでしょうか…?」
「そう…言われますと赤い点にも合点がいきますわね、光学操作を使っていたとしたら訳ありませんし…。
もし『白い影』が第一位の素顔を知っているとすれば、真似することも造作ないですし」
「でも…そうなると婚后さんをそのまま放置っていうのが腑に落ちないんですよね。
殺人をするような人間が目撃者の婚后さんを放置するとは思えませんよ…」
深まる謎、次々とわいてくる疑念。
全ての可能性を考慮するとキリがなくなるというのはこういうことなのだろう。
思案に耽る二人は、直後入る通信によって風紀委員の仕事に戻らされる。
――その通信こそが二人が暗部と関わる直接原因となってしまうことだとも知らずに。 - 95: 2011/03/04(金) 21:18:06.58 ID:cuoA4Yeio
- * * *
白井と初春が溜息をついている頃。
グループのアジトでは土御門は一方通行を詰っていた。
「一方通行」
「なンだ」
「お前のことを調べる為に風紀委員の一部が動いている。しかも守護神までもが動いているという噂だ」
「"上"から今回のコトは誰にも言わねェように警告してるンじゃなかったのかァ?」
「常盤台のお嬢様といえど所詮は中学生だったということだ。
知り合いに風紀委員がいるか、警備員が信用ならんと察して風紀委員にタレこんだかのどちらかだろう」
「ンで、俺にどうしろって言いてェンだ、はっきり言いやがれ」
「自分でしたことの責任は自分で取れ、ということだ。
仮にも暗部に存在を置いている身だ、みなまで言わずとも分かると思うがな」
面倒事はごめんだ、と言外に伝える土御門。
口を開きかける一方通行を、1本の電話が制する。
「仕事だ、今回の仕事は反省の意味も込めて一人でやれ」
「はァ?なンでンな面倒なことを…」
「お前が仕事をしている間にこちらで風紀委員に圧力をかけておいてやる。次はないぞ、わかってるな?」
「チッ…仕方ねェな…」
ブツクサ言いながら、準備にかかる一方通行。
――その仕事で、表の人間と引き会わされるということも知らずに。
- 96: 2011/03/04(金) 21:19:20.75 ID:cuoA4Yeio
- * * *
「本当によろしかったんですか?《グループ》 と風紀委員を引き合わせるなどして…」
「問題はない、君らの情報操作が予想以上に強固なようだな。いやなに、責めているわけではない。
しかしこのまま堂々巡りというのも面白くないのでな」
窓のないビルで、普段聞こえない話声が聞こえる。
「はぁ…」
「それに…引き合わせて一方通行の心境に一定の変化が出れば、プラン短縮の一因になるやもしれんしな…」
「しかし…何か想定外のことが起きた時はどうなさるおつもりで?」
「心配は無用だ、何が起ころうとそれ相応の策は考えている」
アレイスターの声は狂気を孕んだ、楽しそうな声。
誰かの声は心配で仕方のないといった風な声。
「貴方がそういうなら…何も問題ないのでしょう。コール、アウト」
- 97: 2011/03/04(金) 21:19:58.89 ID:cuoA4Yeio
-
残るは笑い声。
何が楽しいのかは彼の者にしかわからない。
その表情は、見る者を凍らせる、狂った笑顔。
「くふふ、ははは、ふふふ、楽しいなぁ…この世は本当に、素晴らしい」
- 107: 2011/03/14(月) 16:40:19.24 ID:U7ci3526o
- あ、あの!一方通行さん!私婚后光子と申しますけど!子供はっ…子供は何人欲しいですか?
私は三人欲しいですわ。女の子がふたり、男の子がひとりですわね。名前は一方通行さんがが決めてくださいな。私はあまりネーミングセンスがないもので。
えへへ、どっちに似てると思います?私と一方通行さんの子供だったら、きっと男の子でも女の子でも可愛いですわよね。
それで私の実家に住んで、 大きな犬を飼うんですの。犬の名前くらいは私に決めさせてくださいな。一方通行さんは犬派?猫派?
私は断然犬派なんですが、あ、でも、一方通行さんが猫の方が好きだっていうのでしたら、勿論猫を飼うことにしますわよ。
私、犬派は犬派だけれども動物ならなんでも好きですの。だけど一番好きなのは、勿論一方通行さんなんですのよ。一方通行さんが私のことを一番好きなように。
そうだ、一方通行さんってどのような食べ物が好きなんですの?どうしてそんなことを聞くのかって思うかもしれませんが
やだ明日から私がずっと一方通行さんのお弁当を作ることになるんですから、と言いますより明日から一生一方通行さんの口に入るものは全部私が作りますので。
やはり好みは把握しておかないと。好き嫌いはよくないですが、でも喜んでほしいって気持ちも本当ですので。最初くらいは一方通行さんの好きなメニューで揃えたいって思いますのよ。
お礼なんていいんですの彼女が彼氏のお弁当を作るなんて当たり前のことなんですから。でもひとつだけお願いしますわ。私「あーん」ってするの、昔から憧れてましたの。
だから一方通行さん、明日のお昼には「あーん」ってさせてくださいな。照れて逃げないで下さいまし。そんなことをされたら私傷ついてしまいますの。きっと立ち直れませんわ。ショックで一方通行さんを殺してしまうかも。なーんて。
それで一方通行さん、怒らないで聞いてほしいんですが私、幼い頃に気になる男の子がいたんです。ううん浮気とかではないですの、一方通行さん以外に好きな殿方なんて一人もいませんわ。
ただ単にその人とは一方通行さんと出会う前に知り合ったというだけでして、それに何もなかったんですから。今から思えばくだらない男でしたわ。喋ったこともありませんし。
喋らなくてもよかったと本当に思いますわ。ですがやはりこういうことは最初にキチンと言っておかないと誤解を招くかもしれないんですの。そういうのってとても悲しいと思いますわ。
愛し合う二人が勘違いで喧嘩になってしまうなんてのはテレビドラマの世界だけで十分です。もっとも私と一方通行さんは絶対にその後仲直り出来るに決まってますが、それでも。
一方通行さんはどうです?今まで好きになった女性はいますの?いるわけないですが、でも気になった女の子くらいはいますわよね。いてもいいんですのよ。
全然責めるつもりなんかないですわ。確かに少しはいやですが我慢しますわそれくらいのこと。それは私と出会う前の話ですものね?
私と出会ってしまった今となっては他の女性なんて一方通行さんからすればその辺の石ころと何も変わらないに決まっていますわ。一方通行さんを私なんかが独り占めしてしまうなんて他の女性に申し訳ない気もするんだけどそれは仕方ありませんわよね。
恋愛ってそういうものですから。一方通行さんが私を選んでくれたんですからそれはもうそういう運命ですのよ決まりごとですのよ。他の女性のためにも私は幸せにならなくちゃいけませんわ。
うんでもあまり堅いことは言わず一方通行さんも少しくらいは他の女性の相手をしてあげてもいいんですのよ。可哀想ですものね私ばっかり幸せになったら。一方通行さんもそう思いますわよね? - 115: 2011/03/16(水) 23:23:00.90 ID:G2pie7uco
- 「連絡のあった場所はここですわね?初春」
≪そこであってます、白井さん≫
「まぁ…スキルアウトが好んで根城にしそうなところですわね」
≪やり過ぎるとまた始末書書かされることになりますんで、そこのところだけ注意してくださいね≫
「わかっておりますわよ!」
白井がいるところは第十九学区にある小さな廃工場。
スキルアウトが不穏な動きを見せているとの通信を受け、いつものように初春のサポートを受け制圧する。
今まで何十、何百回と繰り返した、言わば作業のような展開。
「では、突入しますの」
≪了解、サポートは任せてください≫
しかし、今回だけは、少し違う。
- 116: 2011/03/16(水) 23:23:45.41 ID:G2pie7uco
-
「ジャッジメントですの!!大人しく―――あら?」
突入した先は、人っ子一人いない。
場所を間違えたのかと一瞬考えるが、初春が言っているのだからここで間違いはないのだろう。
「おかしいですわね…もしや警備員が既に鎮圧した後とかは…」
≪ありえませんよ!通信受けてからそんなに時間は経ってませんし、そもそも中に人の反応もないです。
いくら学園都市って言っても警備員が鎮圧してこんなに早く撤収することはないと思いますよ≫
「まぁ…詳しく調べてみませんと何もわかりませんわね。しかしこんなに暗いと何が何だか…照明はないんですの?」
≪ブレーカー落とされてるみたいなんで、今復旧中です≫
誰が何の為に、と思うがまずはここを調べなければと考え直し、調査に取り掛かる。
しかし、物音一つ立たず、暗くて物が余り良く見えない状況もあってか
ガセネタの通報を真面目に受けてこちらに連絡してきたのだろうと勝手に決めつけ、白井は撤収しようとした。
―――ずちゃり。
そう、自分の足元から鳴るこの音を聞くまでは。 - 117: 2011/03/16(水) 23:27:17.57 ID:G2pie7uco
- (――!?水…?それにしては粘着質すぎますわ、しかも先程からしているこの匂い…)
当初は工場の独特なものと気にも留めていなかったが、空気中の鉄分の匂いが嫌に鼻につく。
(不味いですわ…これはもしかしなくても…)
白井は焦る。自分の予想が正しければ、ここで起きていたことは風紀委員の手には負えない。
と、その時であった。
「ったくよォ…あんな雑魚なら俺がわざわざ出向かなくても、下っ端の連中で十分だったろォが」
奥の方から声が響く。
誰だ、わからない。暗い、良く見えない。
だがこれだけは分かる、本能が告げている。ここにいるのは危険だと。
「あァ…面倒くせェ。帰ったらクソ御門に1時間ほど愚痴垂らしてやるとすっかァ。
――ン?誰かいンのか?生き残りか?」
出会ってしまった、一番出会ってはならない人間に。
しかし怯えながらも、白井は風紀委員の仕事をまっとうしようとする。
「ジャ、ジャッジメントですの…!あ、あ、貴方はここで何をなさってたんです…?
それに生き残りとはどういう意味ですの…?」
「ジャッジメントだァ?なンでンなのがココにいるンだよ。
チッ、ったくめんどくせェったらありゃしねェぞ。バッテリーの残量も少ねェしな…」
白井は周囲を見渡しながら喋っているのに対して、一方通行は真直ぐ白井の方を見つめながら話している。
声が一点から集中して聞こえるのがその裏付けだ。
(今のままでは私の方が不利ですわ…相手方の位置はわからないのにあちらはどうやってか私の位置を把握している…。
初春、ブレーカーの復旧はまだですの!?) - 118: 2011/03/16(水) 23:28:02.27 ID:G2pie7uco
-
ここでやっと白井の祈りが通じたのか、明りが灯る。
元からそうであったのか、白井のことを思っての初春の行動かはわからないが、その灯りはとても薄暗いものだった。
しかし、白井が"ソレ"を認識するには十分すぎた。
(こ、これは…)
壁、床、天井。
至るところに血が飛び散っている。
さらには、所々に散らばる腕、足、果ては内臓のようなものまで。
――そして奥には、この薄暗い灯りの中でも一際異彩を放つ、真っ白い少年が立っていた。
- 119: 2011/03/16(水) 23:29:16.77 ID:G2pie7uco
- その日の一方通行は頗る機嫌が悪かった。
手始めに土御門に散々どうでもいいことで詰られ、仕事を押し付けられ。
その仕事というのも本当に自分が出張らないといけないものかというのも疑問を覚えるようなもの。
グループの下部組織の連中に任せたところで問題は一切ないような、そんな糞みたいな仕事。
そして、締めはこれだ。
仕事が終わった途端に風紀委員がどこからか嗅ぎつけ、出てくるという始末。
遊びと称して抵抗を試みた暗部の最後の一人を手始めに右足から順番に千切っていくというものをしていた一方通行も悪いが
それを抜きにしても、早く終わらせて帰りたい一心から最初からバッテリーを使い、結果使える残り時間は5分程。
ここで邪魔な風紀委員を物言わぬ骸と変えるのは造作もないことだが
忌々しくも土御門から面倒事を起こすなと言われている。
それに一番の問題が、自分の悪党の美学に反するということだ。
自分は打ち止めや、黄泉川などといった表の人間をこちら側に引き入れない為
こちら側の面倒事に巻き込まない為に悪党をしているといっても過言ではない。
打ち止めの命が懸った場合は別だが、表の人間を、風紀委員と言う善人を殺すわけにはいかない。
もしそんなことをすれば、今さっき始末した悪党とも呼べない屑と同列になってしまう。
(だが…逃げるとなるとここで起きたこと全てがバレちまう。それだけは避けなくちゃなンねェ。
と…するとだ、掃除役の連中が片づけるまでにコイツをここから引き離すのが一番か)
一方通行の頭は瞬時に最善手を導き出す。
ここでこの風紀委員がどれだけ早く連絡を取ろうと、こちらの下部組織が行う後始末の方が断然早い。
―だからここは。
「情報が欲しけりゃ…俺を捕まえてみるこったなァ!」
とりあえず適度に力を合わせてこいつを引きつけつつここから離れるのが得策というものだろう。
- 120: 2011/03/16(水) 23:31:18.69 ID:G2pie7uco
-
―――同時刻、常盤台中学学生寮、婚后光子の部屋。
「やはり…LEVEL5の方々には強力なプロテクトが掛かっているようですわね…」
白井と初春に相談してからも、独自に調査を続けていた婚后であったが、やはり何一つ情報ははいってこないまま。
「諦めろということでしょうか…」
しかし諦めきれない。
白い影が第一位と判明したわけではないのだが、最強と言われると学園都市第一位が嫌でも思い浮かんでしまう。
「いいえ、ここで諦めれば婚后光子の名が廃るというものですわ!」
頬を叩いて自分に喝を入れ、情報収集を再開しようとした時のことであった。
「ふむ…諦めないと言うのなら、私が手助けをしようか?」
突然背後から声をかけられる。
急いで後ろを振り返ると、そこには緑の手術衣のようなものを着た人間、アレイスター=クロウリーが立っていた。
しかし一学生である婚后がアレイスターのことなど知っているはずもなく、彼女の眼には不審者にしか映らない。
「ふふ…何時までも進展がないと些か飽きが来るのでね…。
及ばずながら、私が力を貸そうじゃないか。悪くない提案だろう?」
「誰ですのアナタは!鍵は閉めてあったはず、どうやってここまできたんですの!?
目的はなんですの!!お答えなさい!!」
- 121: 2011/03/16(水) 23:32:17.49 ID:G2pie7uco
- この得体の知れない人間に対しての恐怖が、婚后の口から堰を切ったように言葉を流させる。
相手に主導権を奪わせないため、自分の気をしっかり持つため。
「少し、五月蠅いな。黙ってくれないか」
しかしこの一言で婚后は全く喋れなくなる。口は開けるが言葉が出てこない。
何の能力を使ったかもわからず、喋ることもできなければ助けを呼ぶこともできない。
自分の身は自分で守らねばと手元に飛ばせそうな物をできるだけ引き寄せる。
「ふむ、少しは静かになったようだな。
ああ、警戒しなくともいい。私は君に危害を加えるつもりでここに来たのではない」
「まず、君の質問に答えようか。
第一に、私の素情や目的など君が知る意味はないし、知ったところで理解できるはずもないな。
第二に、私に鍵などというもので対抗するのは愚かだよ、私はどこにでもいるし、どこにもいない」
「無駄話をしに来たわけではない、これでも私は忙しいのでね。
聞きたいことは一つだけ、君は一方通行を知りたい。そうだろう?
彼の本質に踏み込む覚悟はあるか、それだけだ」
反射的に婚后は頷いてしまった。
それを見てアレイスターは満足そうに嗤う。
「そう、それだ。その判断こそが君を更なる高みに昇華させるだろう。
そうだな…今から指定する場所に急いで行きたまえ、面白いものが見られるし、彼にも会えるだろう
もう用はない、君の口を封じたモノも解いておこう」
そういうとアレイスターは音もなく消えて行った。
一人になった瞬間に鳴る婚后の携帯。
差出人不明のメールに、どこへ行けばいいかというものが書かれていた。
- 122: 2011/03/16(水) 23:33:07.59 ID:G2pie7uco
-
怪しい、が何物も好奇心に勝るものはない。
待ち受けるものを知らないとすれば、尚更。
- 129: 2011/04/02(土) 00:38:29.65 ID:YZ2/QQA9o
- 「悪ィが今日でお別れだ、お前とはもう付き合ってらンねェ。
じゃあな、光子」
「え…」
一方通行から大事な話があると聞いて全ての予定をキャンセルして駆けつけた。
付き合って早6ヶ月。
もしかして、等という淡い希望を持って来た結果が、この言葉。
「そ、そんな…何かご不満な点がございましたの!?
できるだけ直しますから、どうか再度考え直して欲しいですわ!」
「もうお前の我儘には付き合いきれねェンだよ。
今まで我慢してきたが、もう限界だ。
どう直そうが俺の気持ちに変わりはねェよ、諦めろ」
歩き去って行く一方通行。
こんなこと、望んでいなかったはずなのに。
泣きながら崩れ落ちる婚后には絶望しか残されていなかった。
- 130: 2011/04/02(土) 00:39:41.37 ID:YZ2/QQA9o
- 一体どうやって寮に帰ったのかも覚えていない。
泣き腫らし、涙すら枯れてしまっている。
将来も予想していた。
年上のあの人は自分が高校を卒業するまで待ってくれると言ってくれた。
外の世界であの人と結婚して、子供を作って。
どんな形でもあの人といれるなら幸せだった。
幸せな未来が待っているはず、そのはずだったのに。
ふと時計を見ると11時59分。
もうすぐ日を跨ぐ時間。
昼間に彼と別れてからこんな時間までずっと考えていたのだ。
どこまでも諦めの悪い女なのだろうと自分のことながら嫌になってしまう。
彼に嫌われるのも仕方のない事なのだろう、こんな女なのだから。
明日はこんな泣き腫らし、赤く腫れた目では授業はおろか外にも出れない。
仮病を使い休む他ないな、と考えていた。
と、その時。
ガラス戸を叩く音がする。
こんな時間に寮生は来ない、寮監の見回りならドアから来るはず、となれば侵入者か。
しかし今更どうでもいい。
泥棒なら勝手に部屋の物を持っていけばいい。
自分の身体目当てなら勝手に犯すなりなんなりすればいい。
婚后は昼間の出来事から既に自暴自棄になっていた。 - 131: 2011/04/02(土) 00:40:29.85 ID:YZ2/QQA9o
- 「ったくよォ…不用心にも程があンじゃねェの?俺じゃなかったらどうすンだよ」
聞き覚えのある声、聞き覚えと言っては失礼だろう。
愛しい人の、もう今では手の届かない人の声。
嘘だ。
彼がこんなところにいるはずがない。いるはずが―――
「あ、一方通行さん…」
―――いた。
「ンだよ、呆けた顔しやがって」
「どうして…どうしているんですの…?私に愛想を尽かせて別れたんじゃありませんでしたの…?」
「あァ、そのことか。
光子、今日は何月の何日だかわかるか?」
「4月2日ですわ…、でも何の関係が―――!!」
「どォやらわかったよォだな」
時計を見ると12時1分。
そして今日が4月2日と言うことは、昨日は4月1日。
所謂エイプリルフールである。
「カカッ、見事に騙されちゃってましたねェ、光子さァン?」
「酷いですわ!嘘を吐くにしてももうちょっとましな嘘を吐いてくださいまし!
私がどれだけ絶望したか…うっ、ぐすっ…」
枯れたと思っていた涙が流れる。
しかし、良かった。
捨てられた訳ではなかったのだ。
優しく一方通行に抱きしめられる。
「すまなかったな、ひでェ嘘ついて。悪かった」
「お詫びに、キス、してくれませんこと?」
「お安い御用だっつゥの」
「うふふ、ん―――ちゅ、ぷはっ」
一方通行はそのまま婚后をベッドに押し倒し、その衣服に手を掛けて―――
- 132: 2011/04/02(土) 00:40:57.45 ID:YZ2/QQA9o
- 133: 2011/04/02(土) 00:41:33.09 ID:YZ2/QQA9o
- ――― 一か月後。
「一方通行さん、生理が来ませんの…」
「この前の仕返しかァ?ハッ、ンな嘘じゃ俺は騙されねェぞ?」
「嘘じゃありませんわ…これをご覧くださいませ」
妊娠検査薬 陽性
「嘘…だろォ…?」
「責任とってもらいますからね?
これからも末長く、よろしくお願い致しますわ、一方通行さん♪」
終われ。
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