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北上「我々は猫である」【後編】

関連スレ:
北上「我輩は猫である」  【前編】   【中編】   【後編】
北上「我々は猫である」  【前編】   【中編】  

702: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/15(火) 04:05:22.77 ID:UdZIN3p00
73匹目:バター猫のパラドクス

猫は高いところから落ちる時必ず足の方から着地する。

バターを塗ったトーストは必ずバターを塗った方から落ちる。

なんて実際のところ猿も木から落ちるように着地に失敗することはそう珍しくもないのだけれど、

これはあくまで考え方の話。

気の利いたジョークみたいなものだ。

必ずそうなると言われる2つを、例えば猫の背中にバタートーストを乗せて高所から落としたらどうなるか、という話だ。

足から着地すればバタートーストを美味しくいただけるし、バターが床を台無しにしてしまえば猫は恥をかくことになる。

必ず起こりうるというそれはどちらか一方だけになってしまう矛盾。パラドクス。
703: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/15(火) 04:05:53.75 ID:UdZIN3p00
私に言わせればそれは猫でもなくバタートーストでもなく「バタートーストを乗せた猫」という全く別の存在なのだから矛盾はない、と思うのだ。

最強の矛と最強の盾を一緒に装備してできるのは最強の勇者だ。

そこへいくと猫であり船である私は、一体何なのだろうか。
704: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/15(火) 04:06:28.00 ID:UdZIN3p00
提督「お前なんかやらかしたか?」

北上「なんの事?」

急に提督室に呼び出されたかと思えば見た事ないくらい真剣な顔つきをした提督と吹雪が私を待ち受けていた。

前に本で読んだ問題を起こした生徒が校長室に呼び出されるシーンを思い出す。

提督「今朝急に呼び出しがあったんだよ。しかも名指しでお前にな」

北上「誰から」

提督「元帥のおっさんから」

北上「誰それ。偉いの?」

提督「俺の上司的なやつだな。めちゃくちゃ偉い」

北上「校長先生くらい?」

吹雪「知事くらいですね」

北上「わお」

マジか。
705: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/15(火) 04:06:59.27 ID:UdZIN3p00
北上「でも私そもそもその人に会ったことなくない?」

提督「まあそうなんだがな」

吹雪「演習をした事はありますけど基本向こうの鎮守府に出向いてますし、北上さんは参加してませんからね」

提督「前に外出した時になんかあったりしたか?」

北上「あいにく知事のおっさんに会った記憶はないけどなあ」

提督「どうなってんだ…」

吹雪「相変わらず読めない人ですね…」

2人の反応からして知り合い、っぽい感じなのかな?

北上「一体なぜ私が」

吹雪「一応向こうは友人が会いたがってる、とか言ってきましたけど」

北上「だから誰よそれ」

提督「俺に聞くなよ」

分からん尽くしだ。
706: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/15(火) 04:07:25.73 ID:UdZIN3p00
北上「私ゃどうすりゃいいのさ」

提督「あちらの鎮守府に呼び出しだよ。しかも今日」

北上「今日!?」

吹雪「最近お馴染みの例の駅にお迎えが来てるそうですよ」

北上「またバスか」

提督「三回目だ。流石に慣れたろ」

北上「どうだかねえ」

吹雪「待ち合わせは一時。なので軽く昼食を食べたらすぐ向かった方がいいですね」

北上「そっかぁ…ん?一人?私一人なのもしかして」

吹雪「はい」
提督「うん」

北上「マジか…」
707: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/15(火) 04:07:55.36 ID:UdZIN3p00
北上「死ぬほど心細い」

吹雪「でも向こうから一人でって言われてるんですよ。何故か」

北上「何故だ」

提督「それがわからんからどうにもな」

北上「何かあったらどうするのさ」

提督「そん時ゃ迷わず連絡しろ」

北上「どうやって」

提督「いやスマホあるだろスマホ」

北上「あーうっかりしてた」

提督「そこはしっかりしててくれ頼むから」

吹雪「不安なら提督の手とか持ってきます?」

北上「いやそんな趣味はない」

提督「俺はいつからサイボーグになったんだよ」
708: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/15(火) 04:08:28.20 ID:UdZIN3p00
そんなこんなでまたバスに揺られて街に向かう事になった。

北上「何がどうなってるんだか」

ともかく失礼のないようにな、と提督には念を押された。

襲われるような事はないと思うんでそこは安心してください、と吹雪は言っていた。

街が見えてくる。ここ最近でこう幾度も訪れる事になるとは。

北上「ヤバいな」

今になって凄く不安になってきた。

どうしよう。心細い。Help me提督。

あ、スマホで話せばいいのか。

北上「えっと確か」
709: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/15(火) 04:08:54.52 ID:UdZIN3p00
北上:ハロー

これで提督に届いてるはず。多分。届いてるのかな?

提督:どうした!?

うわ凄い速さで返信が来た。暇なのかよ。

北上:なんか不安です

…なんだろう。普通に話すべきなんだろうけどこうして文字で会話するとどうにも他人行儀な話し方になる。

手紙のようで会話のテンポは直に話しているのと変わらない。ネットとは不思議なものだ。

提督:マジで大丈夫なのか!?ヤバいなら戻ってきていいからな!後先考えなくていいから!

北上「うわぉ」

余計に心配させてしまったようだ。
710: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/15(火) 04:09:21.20 ID:UdZIN3p00
提督は今どうしてるんだろう。

私の文面を見て慌てて返信しているのだろうか。提督は案外過保護だ。

前に帰りが遅くなった時だって大井っちと二人でえらい大騒ぎしてたし。

そうだ、大井っちにも連絡を…

北上「いや、よそう」

ここまで飛んできかねない。

木曾や多摩姉、球磨姉も無駄に心配かけかねない。

北上:緊張解す方法ない?

提督:掌に人という字を書いて飲み込むとか

北上:艦娘って人食べるの?

提督:忘れてくれ
711: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/15(火) 04:09:48.54 ID:UdZIN3p00
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吹雪「服装は一応制服の方がいいですね」

北上「でもそれで外歩いちゃまずいっしょ」

提督「なんか上に着てくしかないか。最近寒くなってきたし」

北上「大井っちのコート借りようかな」

吹雪「普通艦娘の移動は海上か車での移動なんですけれどね。なんで待ち合わせなんでしょうか」

提督「俺は知らねえよ」

吹雪「提督には期待してませんから」ニッコリ

提督「なんで満面の笑みなんだよコノヤロウ」

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・・・
712: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/15(火) 04:10:31.65 ID:UdZIN3p00
・・・
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北上「これでホントにいいのかな」

服装も髪型もいつも通り。コートを着ただけで誤魔化せるのだろうか。

それとも一般人の認識なんてそんなものか。

しかしどうするんだ?駅に来たはいいけどここからどうやって合えばいいのだろう。

相手が誰で何処で待っているのかもわからない。

すると、

「おーい」

とても聞きなれた声がした。
713: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/15(火) 04:11:03.19 ID:UdZIN3p00
正確には普段聞いている声と少し違う。

何せ普段は空気を通さず直接聞いているのだからこうして離れて聞くとなんだかむず痒いものがある。

バス停から少し離れたところで手を振る彼女を見つけてそこへ向かう。

あの時と同じく髪は解いていた。

北上「久々、というには早い再開だったね私」

北上「全くだね。でも元気そうで何よりだよ私」

北上「で、もしかしなくても君がお迎え?」

北上「そそ、はいこれ」

北上「何これ」

北上「ヘルメットをご存知でない?」

北上「物は分かるけど意図がわからない」

北上「そりゃあだって」
714: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/15(火) 04:11:40.36 ID:UdZIN3p00
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北上「おーーーーー!」

バイクに二人乗り。

陸でこんなにも風をを感じる事があるとは思わなかった。

最初は怖かったけど慣れてくるとそんな事どうでもいいくらい気持ちがいい。

北上「楽しんでるねぇ」

北上「すっごいやこれ。立ってみてもいい?」

北上「死にたいならいいよ」

北上「よし辞めた」

北上「賢明賢明」

北上「これ君のなの?」

北上「いんや、提督の。私のはもちっとちっちゃいやつなんだ。だから借りた」

北上「へえ」

北上「いつか私もこんなカッチョイイの買うんだ」

北上「これはなんて言うやつなの?」

北上「カタナ」
715: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/15(火) 04:12:13.74 ID:UdZIN3p00
両脇の木々がものすごい速さで通り過ぎてゆく。

紅に染まった美しい山々もこうして走り抜けているとまた違った風情がある。

私がバスで超えてきた山と反対側の山を抜けていくようだ。

北上「最初ヘルメット渡された時はびっくりしたよ」

北上「顔を隠せるから一石二鳥だよ」

北上「キスも防げるしね」

北上「あれ?怒ってた?」

北上「怒ってはいないけどもうゴメンかな」

北上「提督にはしたの?」

北上「しないよ。そういうのは、まだわかんない」

北上「のんびりしてると欲しいものが取られちゃうかもよ」

北上「焦って取り逃すよりいいさ」

北上「それもそうか」
716: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/15(火) 04:12:47.41 ID:UdZIN3p00
北上「木ー木ー木ー。森ってほんと木ばっかだ」

北上「そりゃそうだ。海だって海ばっかりだもの」

北上「あ、今の木折れてた」

北上「あんまりキョロキョロしないでよ。バランス崩れちゃうから」

北上「はーい」

北上「次右にカーブ」

北上「ほいほい」

北上「おー慣れてるねえ」

北上「バランスの取り方は海に出てる時と変わんないね」

北上「それもバイクのいいところさ」
717: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/15(火) 04:13:19.25 ID:UdZIN3p00
北上「ところでなんで駅で待ち合わせなの?」

北上「これで鎮守府にお迎えでーすってきたら流石に引かれるから」

北上「駅で見た時も引いたけどね」

北上「カッコイイのになあ」

北上「そういう問題じゃないよ」

北上「ところでどう?バイクは」

北上「うん。好き。私も乗ってみようかなあ」

北上「いいよぉバイクは。車と違って体で操作するからね。さっきみたいに海に出ている時と似てるんだ」

北上「分かる分かる。この風感じるのがいいね」

北上「おお!同士だ!」クルッ
北上「ちょ!?前!前見てちゃんと!!」
718: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/15(火) 04:13:57.53 ID:UdZIN3p00
北上「私他の鎮守府行くの初めてだ」

北上「へぇ、それじゃ今日が初体験か。光栄だね」

北上「君は結構他のとこに行ったことはありそうだね」

北上「しょっちゅうね。新鮮なのは最初の数回だけだよ。大体は公的なやつで外に遊びにも行けないし」

北上「そりゃ辛そうだ」

北上「悪くは無いんだよ。特別良くもないだけ」

北上「そっちの鎮守府ってでかい?」

北上「デカいよー。君のとこと比べたら更に。何せウチの提督お偉いさんだからね」

北上「偉くなるとでかくなるのか」

北上「お墓と一緒だね」

北上「その例えはどうかと思う」
719: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/15(火) 04:14:26.80 ID:UdZIN3p00
北上「あ、今日はおめかししてないんだね」

北上「うん。お偉いさんとこ行くから制服でって」

北上「ちぇー」

北上「何企んでた」

北上「大井っちに見せたかった」

北上「なんでまた」

北上「可愛かったから」

北上「自画自賛なのでは」

北上「そりゃね、自分の事くらい自分で褒められるよ」

北上「さいですか」
723: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/19(土) 04:05:49.91 ID:nuBYPo7T0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

北上「…でっか」

北上「でしょ?」

徐々に見えてきた鎮守府は想像を遥かに超えるスケールだった。

なんだろう。お城というのが一番近いかもしれない。

北上「凄い、見張りまでいる」

北上「提督の命は高価だからね」

北上「偉いって大変なんだね」

北上「いい事も多いけど、私はなりたくはないね」

門の前でバイクを止める。

見張り「おかえりなさ、え?その後ろの人誰っスか」

北上「私だよ」

見張り「いつから影分身覚えたんですか北上さん」

北上「実は火影を目指しててね」

見張り「そこは水影にしましょうよ」

やけに親しげに話しているな。こっちの私はバイクが好きというし出入りの度に話しているのだろうか。
724: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/19(土) 04:06:49.05 ID:nuBYPo7T0
北上「聞いてない?今日お客が来るって」

見張り「あー他所の鎮守府からって、は?それがこの人?バイクで連れてきたんスか!?」

北上「そだよー。特別に提督からカタナ借りちった。いいでしょ」

見張り「羨ましいっス。じゃなくて!なんの為に俺らがいると思ってるんスか!」

北上「こうして出かける度に私と話す為じゃないの?」

見張り「そんな村人Aみたいなやつに金を払う程今の世界は余裕ないッスよ!大体普段のバイクでの散歩だって厳密にはアウトなんスよ…」

北上「別に事故らなきゃ問題ないっしょ」

見張り「こんなデカブツを見た目中学くらいの女子がまして二人乗りなんて通報されても文句言えないっスよ」

北上「偉いってのは大変だけど偉い知り合いがいるってのは便利だよね」

見張り「あのおっさんも艦娘に甘すぎるんスよ」

北上「既婚者だしね!」

見張り「普段は指輪をどこに置いたかも忘れるくらいなのに都合のいい時だけ」

北上「あーそういうこと言うんだー言っちゃおっかなーてーとくの事おっさん呼ばわりしてるのー」

見張り「あ!ずりぃ!それはずりぃっスよ!!」

北上「まあまあ、今度カタナ乗せたげるからさ」

見張り「マジッスか!?」

北上「大井っちがOKだしたら」

見張り「あ、無理っスね」
725: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/19(土) 04:07:32.46 ID:nuBYPo7T0
北上「いつまで門で止まってるつもりさ」カポッ

ヘルメットを取りつつ終わらない押収に思わず口を挟む。

見張り「あ、すいません。ってホントにそっくりっスね」

北上「そりゃあ私だもん」

見張り「いつもの髪型だったら多分見分けつかないッスよこれ」

北上「お、じゃあ髪型戻しちゃおうかな」

見張り「変な事しそうなんでやめ欲しいッス」

北上「ちぇー」

見張り「では、ようこそ北上さん」
726: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/19(土) 04:08:04.83 ID:nuBYPo7T0
中に入ると改めてその大きさに驚かされた。

何よりも驚いたのが人の多さだ。

というか人がいる事だった。

軍服だったりそうでなかったりとマチマチではあるが人間が多いのだ。

鎮守府の施設にも艦娘ではなく人用の物がいくつもあるようだった。

車やヘリや港には大きな船も見える。

私の思う鎮守府とは全く違う世界だった。

艦娘の方もボチボチ出歩いているのは見えるがそこまで多くはなさそうだ。

出撃とか色々忙しいのだろうか。何せ元帥殿だし。
727: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/19(土) 04:08:45.11 ID:nuBYPo7T0
北上「とうちゃーく。さ降りた降りた」

北上「はーい、よっと」スタ

建物裏の駐車場にバイクを止める。

他にもいくつかバイクがあるな。北上の、もしくはここの提督の私物なのかな?バイクには詳しくないのでみてもわからない。

北上「おりゃ」ガタン

北上「…よくつま先たちで支えられるね」

北上「慣れだよ慣れ。あ、持ってみる?」

北上「それを?」

北上「そうそう。ほら、ハンドルんとここう持って、こんな感じで支えるの」

北上「えっと、こうで、こう?」
北上「それ」

パッ、とバイクを支える北上の手が半分になる。途端

北上「うお゛!?」

重い!!
728: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/19(土) 04:09:20.17 ID:nuBYPo7T0
北上「あはは、ビックリした?」

すぐさま支えに戻るもう1人の私。すると不思議な程にバイクが軽くなる。

北上「魔法?」

北上「そこはほら、艦娘の力よ」

北上「あーそういうことか」

便利だな。

艦娘の人間とはかけ離れた身体能力。

私みたい低練度だと大雑把にしか扱えないがこっちの私のように高練度だと細かく出力を調整出来るらしい。

北上「この小さな体でこんなデカブツを御せる。これがまた気持ちいいんだよねえ」

北上「事故った事はないの?」

北上「ないない。免許はキラッキラのゴールド」

北上「そりゃそうか」

北上「まあこいつの持ち主はシルバーだけどね」

北上「君の提督が?どんな事故やったの」

北上「高齢者って事」

北上「ああ」

中々小洒落た事を言う。
729: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/19(土) 04:09:56.02 ID:nuBYPo7T0
鎮守府を歩く。

北上が二人。

そりゃもう目立つわけで、周りの注目度が凄かった。

北上「でも誰も寄ってこないね」

北上「他所の娘が来る時って大体公用だし、そこら辺は皆ちゃんと弁えてるんだよ」

北上「他所からくるのもしょっちゅうなの?」

北上「割と。こんなふうに同じ顔が並んで二人だけってのは今回が初めてだけどね」

北上「こんなに目立っていいのかな」

北上「後で噂になったら面白そうだなあ」

北上「えぇー」

面倒くさいと思うんだけど。
730: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/19(土) 04:10:30.70 ID:nuBYPo7T0
大井「北上さーん!」

北上「「あ、大井っち」」

大井「北か、え、北上、さん?北上さん?北上さんと北上さん?ダブル北上さん!?やだ両手に花だわ」

おっと、つい癖で私も反応してしまった。

隣を見るともう一人の私が何やら楽しそうにニヤニヤしている。

ろくな事を企んでそうにないので私から大井っちに事情を話した。

大井「なるほどなるほど。事情はわかりましたけど、バイクでお迎えはどうかと思いますよ」

北上「え~いーじゃん。乗りたかったし」

大井「ならしょうがないですね」

おう、予想はしてたけど激甘だ大井っち。
731: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/19(土) 04:11:37.57 ID:nuBYPo7T0
大井「でも一体なんの用事でここに?」

北上「それそれ、私もそれを聞いてないんだよね」

北上「それはまだ秘密」

大井「えー教えてくださいよぉ」

北上「提督に秘密って言われてるしさ」

大井「提督と私どっちが大切なんですか!」

北上「この場合それほど差はない」

大井「凄い真面目に返された…でもそんな所も好きです」

北上「これも仕事だからね。知りたかったら提督に聞いてみてよ」

大井「分かりましたぁ。それでは、北上さん。と、北上さん?」

北上「またね大井っち」
北上「じゃね大井っち」



大井「…すみませんやっぱりひとつお願いがあります」
732: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/19(土) 04:12:58.58 ID:nuBYPo7T0
北上「君のとこと比べてどう?大井っちは」

北上「大体同じ。あそこまで積極的じゃないけど」

あの後大井っちの頼みで私と私で大井っちの両腕に抱きつくというリアル両手に花ポーズをした。

幸せそうに気を失った大井っちをこっちの私はサラッと放置して行ったけどよかったのだろうか。

北上「そりゃ私と大井っちは一線を超えた関係ですからねえ」

北上「一線ねぇ」

こっちの大井っちは私の知ってる大井っちと何ら変わらないように見えて、やはり別人だと確信できる何かがあった。

ガワだけ大井っちで、中身というか根本的なところは違う。

北上「自分や仲間が二人いるってどう思う?」

北上「二人どころじゃないでしょ。私は自分とだけでもう十人くらいは会ってると思う」

北上「十…」

想像もできない数だ。
733: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/19(土) 04:16:04.20 ID:nuBYPo7T0
北上「でもさ、会って話してみるとやっぱりどこか違うんだよね。環境による違いは大きいんじゃないかなあ。私だって提督のせいでバイク乗り始めたし」

北上「それはあるだろうね」

艦娘にとって環境とはそのまま提督と言い替えてもいいだろう。

北上「球磨型の皆は言うならてんでバラバラなようで何処か繋がってる姉妹って感じで、もう1人の自分は全く同じなようでどこか違う双子ってところかな」

北上「姉妹に双子か。言い得て妙だね」

北上「別人のようで、そうは思えない。みたいな。君はそう思わない?」

北上「私は…どうだろ」

自分が周りとは明らかに自分が浮いてるという感覚がある。

それはきっと私の根源的な部分が北上でもあり猫でもあるからだ。私はかなり特殊な例と言える。

北上「わからないや」

鎮守府内で一番立派な建物に入る。

うわここにも見張りがいるのか。

しかし凄い。建物めちゃくちゃ綺麗だ。王室か何かみたい。
734: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/19(土) 04:16:38.17 ID:nuBYPo7T0
北上「そこへいくと君は少し違うんだよね」

北上「私?」

北上「うん」

そう言うと当たり前のように身体をすっと近づけてくる。

前回のキスの件があるので身構えてしまう。

北上「…べつに取って食いやしないよ」

北上「食われたようなもんだけどね」

北上「君は他の私とはまるで違う。もちろん私とも」

北上「どうしてそう思うの?」

北上「んー、カン」

北上「えぇ…」
735: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/19(土) 04:17:07.92 ID:nuBYPo7T0
北上「さて、ここが提督室」

北上「おー、てあれ?扉だけ妙にボロいね」

北上「みんな煩雑に扱うからねー」

北上「そこはウチと一緒だ」

北上「お偉いさんとかも始めてくる人は皆あれ?ってなるから面白いんだ」

北上「そんな所で面白がらなくても」

北上「てーとくー入るよー」ガチャ

返事を待たずに扉を開ける北上。提督の扱いは確かに似ているのかもしれない。
736: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/19(土) 04:17:54.45 ID:nuBYPo7T0
元帥「おう、どうじゃったカタナは」

北上「もう最っ高!提督死んだら私に譲ってよ」

元帥「勝手に殺すな。第一アレはわしが死んだら一緒に埋葬しろと電に伝えとるわ」

北上「えー勿体ない。孫に残していきなよ」

元帥「誰が孫じゃ。どうせわしが途中でくたばったら山程の仕事を残していく事になるんじゃ。バイクまで任せられんわい」

北上「おーおー部下思いですこと」

元帥「さて挨拶が遅れたな。わしがここの提督だ。元帥と呼んでくれ」

北上「えー提督は提督でいいじゃん」

元帥「…このように誰も元帥と呼んではくれんのでな。まあ提督でも構わんよ」
737: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/19(土) 04:18:29.08 ID:nuBYPo7T0
北上「あーえっと、初めまして、私は北上と、申します?」

失礼のないようにってどうすりゃいいんだ。よくわからん。

北上「いーよいーよ普通に喋って。私は気にしないから」

元帥「なんでお前が決めるんだ」

北上「でも提督も堅苦しいの嫌でしょ?」

元帥「そりゃあな」

北上「じゃ決まりね」

北上「まあそれでいいなら私としても有難いけど」

部屋の中央にテーブルとそれを囲む四つの椅子があり、その一つに少し大柄の老人が座っていた。

どう見ても還暦はとっくに迎えてそうではあるが身体はウチの提督よりも強そうに見える。

僅かな白髪を残し頂点がツルって逝ってる頭にはその矍鑠とした見た目とは裏腹に柔和な表情を浮かべている。

あのデッカイのバイクに乗るというのも納得である。
738: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/19(土) 04:18:55.05 ID:nuBYPo7T0
元帥「立ち話もなんじゃ、二人とも好きな所に座りなさい」

北上「はーい」

北上「お邪魔しまーす」

元帥「…」

私の隣に私。向かい側に提督。

元帥「いやお前はわしの隣に来るもんじゃないか?」

北上「えーやだよ提督と自分だったら自分選ぶでしょ」

元帥「一応指輪渡した仲じゃろ」

北上「ただの強化アイテムじゃん」

元帥「わしとて上の連中の戯言を間に受けた訳じゃないがもう少し信頼してくれてもいいじゃろ」

北上「やだなんか年寄りが移りそう」

元帥「あーいかんわ年寄りは涙腺が緩くなっていかんわー」
739: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/19(土) 04:19:25.67 ID:nuBYPo7T0
北上「いつまでそれやるの…」

北上「ほら、君の緊張をほぐそうかなって」

元帥「楽にしてて構わんよ。腹が減ってるならお菓子もあるぞ」

なんだろう、孫が来て喜んでるだけのおじいちゃんに見える。

北上「あ、提督お茶も出てないじゃん」

元帥「それくらいお前が入れろ」

北上「私は北上だから実質お客」

元帥「どんな理屈じゃ」

電「いや少しは働いてください」

北上「うわ!?」

気がつくと後ろに電が立っていた。手にはお茶とお菓子が乗ったお盆を持っている。
740: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/19(土) 04:20:01.67 ID:nuBYPo7T0
元帥「紹介しよう。うちの嫁だ」

電「秘書艦の電なのです」ニッコリ

そういいつつお茶をテーブルにおく。

あ、顔が笑ってない。

北上「ありがと」

北上「サンキュー、てあれ?」

電「働かざる者飲むべからずなのです」

北上「そんなあ!」ガビーン

元帥「はっはっはっやーい怠け者めー」

電「それではごゆっくり」

元帥「あり、ワシのは?」

電「なのです」バタン

北上「行っちゃった」

北上「え、嘘。お茶一個とお菓子だけ置いてきやがったよ」

元帥「お茶なしでお菓子あってもなぁ」

北上「提督が変な事言うから」

元帥「前々から温めてた必殺のギャグだったんじゃがなあ」
745: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/28(月) 04:42:28.23 ID:dpWG6V4B0
北上「なんでそんなもん温めてたのさ」

元帥「普通の客人には流石に言えんからな」

北上「普通誰に対しても言わないでしょあんなん」

北上「…あのー、それで私はどうすれば?」

元帥「おーすまんな、ついつい」

北上「それより私にもそのお茶頂戴」
北上「それはダメ」
北上「はやっ!?」

元帥「さてと、北上」

北上「はい?」
北上「ん?」

元帥「えーっと、ウチじゃないほうの北上な」

北上「ややっこいねこれ」

北上「何を今更」

元帥「おめぇが呼べっつったんだろ」

北上「テヘペロ」

元帥「よし!じゃあウチの北上を北ちゃん!もう一人の北上を上ちゃんと呼ぼう!」

北上「うっわ」
北上「えぇ…」

元帥「おっと反応が悪い」
746: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/28(月) 04:42:59.73 ID:dpWG6V4B0
北上「いやだっていくらなんでもねぇ?」

北上「まあ言わんとすることは分かるけどね」

元帥「おお?じゃあなんか代案あるのか?お?言うてみい!」

北上「うわ年端も行かない娘に逆ギレしたきたよこのお爺ちゃん」

北上「ちなみに代案は」

北上「私が北上1号で君が2号ね」

北上「よし北ちゃん上ちゃんでいこう」

北上「なんと!」
元帥「よっしゃ!」
747: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/28(月) 04:43:44.24 ID:dpWG6V4B0
元帥「でだ、北ちゃん」

北上「私?」

元帥「おめぇじゃねえこっちだ」

北上「だってさっき私の方が北ちゃんだって」

北上「うんうん」

元帥「あれ、そうじゃったか?」

北上「おいジジイ」

元帥「うるせぇ年寄りいたわれ」

北上「話が進まないよこれ」

元帥「上ちゃんな、上ちゃん、よし」
748: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/28(月) 04:44:19.57 ID:dpWG6V4B0
元帥「改めて上ちゃん」

北上「はい」

元帥「ここに呼んだのは他でもねえ。お前さんとこの提督の様子を聞きたいんだ」

北上「様子?」

妙な事を聞く。意図が読めない。

元帥「具体的にどうこうって感じの報告じゃのうて、本人がどんな様子かって話よ」

北上「どうって言われても、元気、だよ?」

元帥「あ~そうじゃなくて、あれじゃよあれ」

北上「あれ?」

元帥「…ん?」

北上「え?」

元帥「おい北ちゃん」

北上「あ、私で合ってる?」

元帥「合っとる。こいつホントに知っとるのか?」

北上「さあ?」

元帥「は?」

北上「いやあこの前知り合ったからなんとなく会いたいなあって思って」

元帥「お前しばらく間宮抜きな」

北上「なぁ!?」
749: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/28(月) 04:44:57.48 ID:dpWG6V4B0
北上「えっと、つまりどういうことなんでせう?」

元帥「あぁーどうするかのお」

北上「話しちゃえばいーじゃんかYo」

元帥「お前が言うなこら」

北上「でもこのまま何も言わず帰してもしょうがないでしょ」

元帥「まあそうなんだがなあ」ハァ

北上「私気になります」

元帥「分かった分かった。そこは北上を信じよう」

北上「今のは私?」

北上「それとも私?」

元帥「どっちも、だ」
750: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/28(月) 04:45:28.95 ID:dpWG6V4B0
元帥「お前、アイツがなんで提督になったか知ってるか?」

アイツとは、やはり随分親しい仲のようにだ。

北上「前に聞いたけど、あん時ははぐらかされたなあ」

元帥「ま、そうじゃろうな」

北上「でもコネで提督になったとは聞いたよ」

元帥「ほお」

北上「それは話したんだ」

北上「なんで提督を提督にしたの?」

元帥「なるほどな。随分アイツに信頼されてるのは確からしいのお」

北上「ほらやっぱり。流石私」

元帥「はいはいおめぇさんの目は正しかったよ」
751: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/28(月) 04:46:40.07 ID:dpWG6V4B0
元帥「別に今どき珍しくもない。ただの復讐じゃよ」

北上「復讐…」

元帥「こんなご時世じゃ。やつらに恨みがないやつなんてそういない」

北上「深海棲艦か」

元帥「アイツの父親は優秀な提督じゃった。少なくともあの激動の時代を生き抜くくらいには」

昔はもっと戦いは激しく、悲惨だっと聞いた。

谷風は鎮守府に50年前からいるとか言ってたっけ。その時か。

元帥「いつの間に見つけてきたのか綺麗な嫁さんとくっついて、まあ幸せだったんじゃろうな。その嫁さんが亡くなるまでは」

北上「それが、深海棲艦のせい」

元帥「殆ど事故みたいなもんだったが、そうじゃな。後悔して、泣いて、そして提督を辞めると言い出した」

北上「なんでそこで辞めるってなるのさ」

元帥「今のままじゃ指揮官としてやっていけないと思ったんじゃろうな。激情に駆られて動く指揮官なんて確かにろくなもんじゃねえだろうが、やつにも色々あったんじゃろう」

愛する者を失うとはどんな気持ちか。そこには本当に色々、色々あるのだろう。

元帥「当然そんな理由で優秀な提督を失うなんて本来認められるわけもない。だがやつには息子がいた。それが特別に提督を生きたまま辞めるという事を許された理由になった」

北上「提督がいなくなった鎮守府を機能させる実験、なんだよね」

元帥「…随分と知っとるようじゃな」
752: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/28(月) 04:47:25.03 ID:dpWG6V4B0
元帥「これまで提督がいなくなるってのは鎮守府か壊滅する事と同義だった。だが今のように戦況が安定してくると鎮守府は機能しているのに提督だけが病や寿命でいなくなる事が考えられる」

提督が消えた鎮守府がどうなるか。

女王蜂が消えた蜂の巣。

蜜蜂はどうなるのか。

鎖が解かれた猛獣はどうなるのか。

元帥「親族ならば提督という核を受け継ぐことが可能かもしれない。そういう理由で運良くやつは円満退職となった」

北上「円満ねぇ」

元帥「そう言うな。だが息子とは決裂したようでな。言ってしまえば復讐から逃げた親父と復讐を誓った息子だ。どちらの気持ちも間違っちゃいない。結果親父の方は海外に、嫁の故郷へ向かったらしい」

北上「海外なんだ」

元帥「ここまではまだよかったんじゃ。ここまでは。問題はその後じゃ」

お爺ちゃんがお茶を一口飲む。

ってそれ私のじゃんか何やってんだ。

と思ったら今度はそれをもう一人の私も飲み始めた。

なんなんだ。私がおかしいのか?くそう二対一は分が悪い。

元帥「一年ほど前その親父も死んでな」


北上「え?」
753: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/28(月) 04:48:16.44 ID:dpWG6V4B0
元帥「海外から日本に船で来る途中だった。海路はかなり安全なものだったし護衛もしっかりついていた。だが沈められた。深海棲艦に」

一度ならず二度も、か。

元帥「大型の船で大量の物資や人が乗っていた。強力な護衛艦隊もいた。普通の深海棲艦じゃあねえ。もっと強力な、例外的な個体だろう」

じゃあきっとそれが、そいつが、レ級だ。

元帥「息子の方はそれから変わったよ。それまでは仕事も真面目にやってたし、俺が強くなって奴らを滅ぼすんだみたいな、こういうのもなんじゃがまあ可愛いもんじゃった」

そんな立派なもんじゃねえよ。そう提督は言ってたっけ。

元帥「今じゃ随分と適当なやつになっちまった。にも関わらず艦隊の練度だけドンドン上がっている」

北上「ん?それはなんで知ってるの?」

元帥「吹雪から聞いたんじゃよ」

北上「吹雪が?」

そういえば吹雪もこのお爺ちゃん提督を知っている風だった。知り合いどころか提督の様子を伝える程の仲だったのか。

考えてみれば吹雪も提督の前任者、親父さんの時から鎮守府にいたのだから繋がりがあって然るべきというわけか。
754: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/28(月) 04:49:02.02 ID:dpWG6V4B0
元帥「あいつは牙を研いでるのさ。ただ深海棲艦を殺るんじゃあねえ。両親を殺った大物を殺るためにな」

北上「でも、それっていい事なんじゃないの?危険な、危うい動機かもしれないけど、現に戦力は強くなってるんだし」

元帥「海軍には深海棲艦に関するデータが大量にある。だがそれには情報事に階級があってランクの高いものは普通の提督には見られないようになっておる」

吹雪が言っていたやつだ。

北上「武勲を焦って身の丈に合わないことをする輩を出さないため、って聞いたよ」

元帥「お前さんワシらが姫と呼ぶあの化け物共の親玉と殺り合った事あるか?」

あるはずもない。黙って首を横に振る。

元帥「一時は真実本当に人類を滅亡寸前まで追いやった元凶そのもの、それがヤツらじゃよ」

先程と変わらない表情。だがその威圧感というか、凄みはこれまでのこの人の経験を察するには十分なものだった。
755: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/28(月) 04:49:53.35 ID:dpWG6V4B0
元帥「並の艦隊が挑んだって肥やしにもならん。それにそんな事すれば当然提督の首が飛ぶ。そうさせる訳にはいかんじゃろ」

あぁそうか。だから吹雪はこの人と繋がっているのか。

鎮守府を任された彼女は、提督を失う訳にはいかない。鎮守府を守らなくてはならない。

元帥「情報を隠しとるおかげで今のところは大丈夫そうじゃがな。それでも気をつけるに越したことはない。じゃからたまに様子を聞いとるのじゃよ」

北上「なるほど。色々腑に落ちた」

元帥「今回もまた吹雪に聞こうと思っとったんじゃが、こやつがそれなら丁度よさそうなのが他にもいるとか適当吹きよってな」

北上「テヘペロ」

元帥「長期遠征にでも出してやろうかこいつ」

北上「ああ!それだけはご勘弁を~」

北上「私完全に巻き込まれたわけだね」

北上「でも結構事情は把握してたよね?どうして?」

北上「いや、まあ、吹雪から聞いたりしてて」

盗み見したり盗み聞きしたりとかはさすがにいえない。

元帥「吹雪がのお」

北上「なんでだろ」
756: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/28(月) 04:50:35.38 ID:dpWG6V4B0
北上「コネでなったって話は提督から聞いた」

元帥「正確にはわしのコネじゃなく海軍の総意なんじゃがな」

北上「ほほぉう。やはり随分と提督とは親しいようですなあ」

元帥「あーそういうあれか」

北上「そういうあれのようですなぁ」

北上「な、何さ二人して」

ニヤニヤと気持ち悪い笑みが並ぶ。

元帥「じゃから吹雪のやつお前さんに話したのかもしれんな」

北上「どゆこと?」

北上「提督を止めてくれって事でしょ」

北上「…あー、なるほど」

期待してる、とはつまりそれか。
757: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/28(月) 04:51:08.38 ID:dpWG6V4B0
元帥「さて、それを踏まえてもう一度聞こう。提督の様子はどうじゃ?」

北上「…迷ってる、と思う」

北上「迷ってる?何と?」

北上「復讐が鎮守府にとって危険な行為だと理解してるなら、多分それをするか否か、提督は迷ってる」

だってそれは、大井っちと一緒に居られなくなるという事になりかねない。

一年前と今とじゃ提督の心境は変わっているのではないだろうか。

元帥「ふむふむ。何にせよいい兆候じゃな」

北上「ねえねえなんで?なんでそうなってんの?」

元帥「あまり首を突っ込むんじゃない愉快犯め」

北上「ちぇーいーじゃんか」

元帥「今後は吹雪だけじゃなく上ちゃんにも様子を聞くとするかの」

北上「なら次からはその呼び方辞めて欲しいかなって」

北上「えー私と見分けつかないじゃん」

北上「ややこしいからもう会いたくないって意味」

北上「酷い!」ガビーン
758: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/28(月) 04:51:37.00 ID:dpWG6V4B0
元帥「あ、当然じゃがこの事はないしょな」

北上「わかってまーす」

北上「今日の事は私がただ会いたくて呼んだって事にしときゃいいよ」

北上「実際半分くらいそれだよね」

北上「まあね」

元帥「もうカタナ貸さんぞ」

北上「すんませんでしたホントマジで」

北上「あ、一つ質問いいかな?」

元帥「なんじゃ?」

北上「提督の親父さんってどんな人だったの?」

元帥「あー、そうじゃな」

昔を思い出しているのか、上を向き少し考えているようだ。
759: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/28(月) 04:52:19.73 ID:dpWG6V4B0
元帥「オンオフの切り替えが激しい男でな。優秀だし真面目なやつじゃよ。真面目に、自分は海を取り返して海外の美女と結婚するんだとか言うやつじゃった」

北上「えぇ…」

北上「すげぇ」

元帥「実際その通りになったわけじゃし実力も運も確かにあったな。だからこそ、実に惜しい」

凄い人だったんだな。鷹が鳶を、て提督も実はやればできる子なんだっけか。

元帥「わしもやつが深海棲艦にやられたと聞いた時は即座に艦隊を動かそうとしたものじゃよ。じゃがまあ、沈めた奴が誰か分からなければどうしようもない。それこそ深海棲艦を滅ぼさなきゃならん」

北上「疑わしきは滅ぼせか」

元帥「気持ちはよぉく分かるんじゃよ。事件当時息子の艦隊は近くにいてな。救援要請を受けて向かいはしたが雑魚共に邪魔され到着した頃には船も犯人も海に消えていたそうじゃ」

北上「それマジ?」

元帥「本人から聞いたよ。もっともその時は船に父親が乗っとるとは知らなかったようじゃがな」

北上「そりゃ悔しいよね。間に合っていればもしかしたらって」

元帥「間に合っていたところでどうにかなるとも思えんがな。結果的にそれで艦隊は命拾いしたと言える」

そうか。一年前大井っちが遭遇したあの事件がそれなのか。

なら
760: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/28(月) 04:52:47.08 ID:dpWG6V4B0
北上「え?」

北上「どったの?」

北上「いや、えっと」

おかしく、ないか?

今なんて言った?

沈めた奴が誰か分からない?

そんなはずはない。提督は間違いなくレ級を追ってる。吹雪もそれを知ってるし加担している。

知らないなんてことはありえない!

艦隊だってその犯人に出会っていたはずだ!

北上「あ、日が沈みそう」

元帥「早いとこ送ってった方が良さそうじゃな」

北上「暗くなるの早いもんねぇ」

元帥「バイクは危ないからのお」

北上「車は嫌だからね」
761: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/28(月) 04:53:23.26 ID:dpWG6V4B0
北上「ほら、行こ」

北上「う、うん」

思考がまとまらない。

何故提督はそれを黙っていた?

いやそれはハッキリしてる。提督はそいつに復讐するつもりだ。だから自分の獲物の事を誰にも言ってないんだ。

でも提督を止めるつもりならなんで吹雪もそれを黙っていた?

矛盾している。

まだ何かあるのか、まだ私はパンドラの箱を開けていないのか?

元帥「またのぉ北上」

聞くべきだ。言うべきだ。

だが私はまだ決めかねていた事があった。

私はまだ、自分自身が提督を止めたいのかどうか分かっていないのだ。
762: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/28(月) 04:53:59.76 ID:dpWG6V4B0
北上「意外とショック受けてるね」

北上「そりゃあ、まあね」

北上「ほいヘルメット」

北上「また駅まで?」

北上「せっかくだしこのまま鎮守府まで送ったげる」

北上「それは助かるね」

なんというか、疲れた。

このまま布団まで運んで欲しいくらいだ。
763: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/28(月) 04:54:40.01 ID:dpWG6V4B0
こっちの大井っちに見送られて、見張りの人とちょっと話して、バイクで来た道を戻る。

北上「別に深く考えなくてもいいんだよ?」

北上「へ、なんて?」

北上「考え過ぎってこと。嫌なら関わらなくたっていいんだ。逃げじゃない。君子危うきに近寄らずってね」

北上「そうはいかないでしょ」

北上「別にいいけどさ。君にとって提督がそうまで悩んで苦しむに値する事ならそれでもいい。でもそうじゃないなら」

北上「値するよ。もちろん」

北上「なら、悩みたまえ。なあにどうしても相談相手がいないなら私を呼ぶといい」

北上「それだけはないかな」

北上「どうも私って信用度低いよね」

北上「信用はしてる。信頼はちょっとあれだけど」
764: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/28(月) 05:00:00.39 ID:dpWG6V4B0
北上「ほらほら。夕日でも見て落ち着いたら?」

北上「夕日って、山の向こうだから見えないんだけど」

北上「空が赤くて綺麗じゃん」

北上「山火事みたいだね」

北上「不吉なこと言うなぁ」

北上「山か。こんなにマジマジと見たのは初めてだ」

北上「艦娘は陸に縁がないからねぇ。船だから当たり前なんだけどさ」

北上「そりゃそうだ」

船ねぇ。ふとすると忘れそうになる。

自分が北上という名前の船なのだと。
765: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/28(月) 05:08:46.40 ID:dpWG6V4B0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

北上「そろそろ鎮守府だ」

北上「ん?あぁもうか」

北上「ずっと黙りこくってたけど、ホントに大丈夫?」

北上「考え事してただけ」

北上「そっか」

北上「…鎮守府までってこんな道通ったっけ?」

北上「バス使ってたんだよね?私はナビに従ってるだけだけど、ルートはバスと違うかもね」

北上「なるほど」

山を抜けるとまた古い家がいくつか立ち並ぶ、まるで村のような場所が見えてきた。

山奥に住むのって大変じゃないのだろうか。バスくらいしか通ってないし。

北上「お?」

北上「どったの」

北上「古本屋って書いてあった」

北上「寄ってく?」

北上「流石に今はいいよ。今度一人で行こっこな」
766: ◆rbbm4ODkU. 2019/01/28(月) 05:11:57.02 ID:dpWG6V4B0
北上「見えた見えた。鎮守府だよ」

私の頭越しに見慣れた建物が見えた。

さあいよいよだ。

北上「パンドラの箱があってさ」

北上「なになにどうしたの。ヘルメットに変なもの憑いてた?」

北上「そうじゃなくて。ただ私はそれを開けるべきなのかなって」

北上「んーよくわかんないけど、パンドラの箱って最後に残ってたのは希望なんでしょ?」

北上「そうなの?」

北上「知らずに聞いたんかい。私も別に詳しくはないんだけどね、聞いたことがあるだけで」

北上「希望かあ。それって誰の希望?」

北上「誰の?誰、だろうね。神様とか?」

北上「神様は当てにならないなあ」

北上「それには同意」

バイクに揺られながら沢山のことを考えた。

でも、考えてわかることなんて結局は何もない。

ぶっつけ本番。箱に手をかけるしかない。

願わくば、その中の希望が私の願いにそうものであって欲しい。
773: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/04(月) 04:19:57.07 ID:syE/uFsm0
74匹目:シュレーディンガーの猫



よく聞く言葉だ。なので意味を調べて見たことがある。

さっぱり分からなかった。これに比べれば艦娘だとか妖精だとかの方がまだわかりやすいんじゃないかとすら思えた。

だからとりあえず思ったのは猫をそんな事に使うなと。

箱。

開けるまでどちらか分からない箱。

もし開けたら犬がいたなんて事になったら、どうなんのかな。
774: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/04(月) 04:20:31.23 ID:syE/uFsm0
北上「ただいま~」カチャリ

吹雪「」
提督「」

提督室の扉を開けてあえて普通に帰還を報告してみたところ、空気が止まった。

二人で同じパソコンの画面を見て何やら話し合っていたようだったが、今はお互い私の事をまるで幽霊でも見たような顔で凝視している。
775: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/04(月) 04:21:31.16 ID:syE/uFsm0
吹雪「い、いつのまに戻ってたんですか!?しかもそんな軽い感じで!」
提督「バス乗る時連絡しろって言ったろ!」

北上「いやバイクで来たから」

吹雪「は?」
提督「は?」

二人並んでそっくりな反応をする。兄妹みたいだな。

北上「向こうの私にバイクで送ってもらった」

提督「北上がバイクに北上乗せてきたのか?」

北上「うん」

吹雪「タチの悪い冗談としか思えないんですけどバイクって事は多分本当ですね」

提督「あのジジイバイク好きだもんなあ…」

吹雪「だからってなんの護衛もなしでここまで送りますか普通…」

北上「その意見には概ね賛成だけどね。あでもバイクはすっごい気持ちよかった。私も乗ろうかなって」

提督「これ以上心配事増やすな頼むから」
776: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/04(月) 04:22:45.30 ID:syE/uFsm0
吹雪「それで、一体なんの用だったんですか」

自然な、ごくごく自然な感じで吹雪が聞いてくる。

白々しい。まさか予想がついていない訳じゃあないだろう。

提督「そうだぜ。そこが一番の謎だったんだ」

提督はどうなんだろうか。自分の復讐を邪魔される可能性については警戒しているのだろうか。

北上「前に話したでしょ?街でもう一人の私と出会ったって」

提督「あー聞いたな。ん、じゃあそいつが今回の北上なのか?」

北上「YES」

吹雪「あの人またそうやって勝手に外出許可を…」

北上「外出自体は提督の判断で別にいいんじゃないの?」

吹雪「元帥ですよ元帥。国内でも選りすぐりの戦力。北上と言えばその中でもさらに特筆すべき実力者と聞きます。当然扱いも私達なんかとは比べ物になりませんよ」

北上「なる、ほど。あれ、なんか改めて考えると凄いやばい事してたな私達」

提督「やべぇってレベルじゃねぇぞ、マジで。でその北上がどうしたって」

北上「会いたかったんだって」

提督「はい?」

北上「私にまた会いたくなったんだってさ」

提督「何考えてんだ北上」

北上「私じゃないよ。私だけど、でも私ならそうは考えない」
777: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/04(月) 04:23:33.80 ID:syE/uFsm0
提督「何話したんだ?わざわざお出迎えまでして」

北上「色々だよ。向こうの提督と一緒に、色々とね」

チラと吹雪を見る。特に普段と変わったところはない。でも吹雪も結構狸だしなあ。

提督「おっさんとも話してたのか?どんな?」

提督が先に食いついてきた。

北上「どんなって、まあ色々と聞かれたよ」

提督「それで…お前は答えたのか?」

やはり警戒しているのかな。少し目が変わった。

また吹雪を見る。こちらはやはり反応はない。

北上「うん。隠すようなこともないし。なんか提督の事凄く心配してたよ」

提督「あぁ…だろうな…」

提督も元帥のじいちゃんが自分を止めようとしているのは気づいているはずだ。私が何をどこまで言ったか、聞きたくて仕方なかろう。提督の中では私は何も知らない新人のはずだが。

吹雪は、微動だにしない。

やれやれ。私はこういう駆け引きみたいなのよく分からないんだけどねえ。
778: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/04(月) 04:24:14.22 ID:syE/uFsm0
北上「提督の目的ってなんなの?」

我慢できずに口を開いたと言うべきか、私は提督だけを見て問いを投げかけた。

提督「…それ改めて聞くことか?」

北上「ああいや、そういうんじゃなくてさ。究極的には深海棲艦を倒す事、ひいては海の平和を取り戻す事ってのはわかるよ。

でもそれって提督というより海軍という組織の目的であって、その目的にそう提督になる理由ってのはまた違うじゃん?

例えば治安維持が目的の警察官に正義感を持って入ることは別に不思議でもないけど、それ以外にも憧れとか親が警察官とか逮捕したいやつがいるとか刑事ドラマに憧れてたとかとかとか。

ともかく何か理由があるのかなって思ったんだ」

提督「なんで、なんで今それを聞くんだ」

提督はわけがわからないという感じで私を見ている。私の意図を測り兼ねているのだろう。

北上「なんとなく、かな」

提督「北上はたまに核心的なとこ突いてくるよなあ」
779: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/04(月) 04:25:28.89 ID:syE/uFsm0
提督「復讐だよ。特に深いものは無い」

北上「両親の?」

提督「やっぱ聞いてたか。おっさんも、なんでまた北上に話したんだか」

北上「それについては本当にただの偶然って感じなんだけどね」

提督「おっさんはなんて?」

北上「提督はどんな様子かって聞いてきた」

提督「それで返答は」

北上「…迷ってるんじゃないかって。そう言ってきた」

提督「迷ってる?」

北上「うん」

提督「俺が?」

北上「うん」

提督「…なんで」

北上「うーん、なんとなく?」

大井っちのせい、とは流石に言えない。

提督「適当過ぎないかそれ」

北上「なんとなくだよ。でも、適当じゃない」
780: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/04(月) 04:26:45.96 ID:syE/uFsm0
提督「そっか」

北上「うん」

やけにあっさりと納得された。図星だっ?

吹雪「迷ってるじゃないですか、実際」

提督「まあ、そうだな」

吹雪が唐突に口を開いた。

吹雪「それで、北上さんは何処まで話したんですか?」

北上「今言った通りだよ。私が話せるのなんてそれくらいでしょ」

吹雪「そうですか。そうですよね」

残念そうにも、安堵したようにも見えない。

私が何も話してないなら提督は復讐できるかもしれない。

私が洗いざらい話していたら提督は復讐することはできなくなるかもしれない。

吹雪はどっちを望んでいるのだろうか。

彼女にとって前任の提督は大切な人だったはずだ。なら復讐したいというのは自然に思える。

でもその大切な人にこの鎮守府を、皆を任されているなら、破滅を呼びかねない提督の行動を止めようとするのもまた不自然ではない。
781: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/04(月) 04:29:16.29 ID:syE/uFsm0
提督「俺は追ってるんだ。親父を殺した奴を。そいつが誰かを」

誰かを提督は知っている。

私はそれを知っている。

私が知っているのを提督は知らない。

ここに来てもまだそれを私に秘密にしたがるのは元帥のじいちゃんと同じ理由からだろうか。私を関わらせたくないという。

提督「なりふり構わず、何をしてでも。そう思ってたんだがな」

提督が少し下を向く。提督がいつも使っている机。残念ながら仕事だけに使っているわけではなさそうだが、そこにはきっとこれまでの思い出があるのだろう。

提督「親父がなんで躊躇してたのかわかる気がするよ。お前らといるうちに、俺も変わってた」

いつもの優しげな目を私に向ける。以前は、私が知らない提督は、違う目をしていたのだろうか。

提督「一人、置いて行きたくないやつがいてな」

吹雪「!」

ここで初めて吹雪が動揺を見せた。慌てて提督の方を見ている。

いや私も驚いたさ。なんなら大井っちに対する思いを自覚してないんじゃないかとすら思ってたし。
782: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/04(月) 04:30:28.28 ID:syE/uFsm0
提督「でも、やめる訳にはいかないんだよ。復讐に変わりはない。ただもうあんな事が起こらないようにとは思ってるけどな」

やめる気はないか。そっか。

提督「なあ北上。お前はどう思った?おっさんの話を聞いて。今の話を聞いて」

なら、私は提督を止めよう。私はみんなでここにいたい。大井っちとも、提督とも。

北上「…ねぇ、親父さんってどんな人だったの?」

私は決めた。

復讐なんて私には分からない。でもきっとそれは全てを不意にして良いものじゃ無いはずだ。

提督「ん?そうだなあ」

身を屈めて机の引き出しを弄り出す。鍵がかけてあるのかカチャカチャと音がした。

提督「頑固もんだったよ。しかも母さんに夢中でな。俺の事も見ろって昔はよくきれたよ」

今度はガサゴソと紙を漁るような音がした。写真でも探しているのかな。

それにしても元帥のじいちゃんと言い方は真逆だな。現してる人柄は同じだけど捉え方でこうも違うとは。
783: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/04(月) 04:31:02.40 ID:syE/uFsm0
一歩一歩、提督の机に向かってゆく。

吹雪「北上さん?」

目と目が合った。流石秘書艦、直ぐに私が決意したことを察したようだった。

それでも何も言わなかった。結局何が目的なのかさっぱり分からなかったや。

期待に添えてるのかは分からない。でも私はパンドラの箱の開け方を決めた。

世界平和なんてどうでもいい。私にとって世界とはこの鎮守府でしかないんだ。

提督「あったあった。これが親父だ。俺が産まれる前のだけどな」

一枚の古びた写真が机の上に置かれた。
784: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/04(月) 04:31:33.71 ID:syE/uFsm0
この時確かにパンドラの箱は開けられた。

私の手ではなく、誰の手でもない。

強いて言うなら神とか悪魔とか。そういった何かに。

中身はもう猫でも犬でもない。はっきりと観測されてしまった。

もしかしたらと、そう思う事がなかったわけじゃない。むしろだからこそ私はそれに蓋をしていたんだ。

でももう遅い。

災厄は撒き散らされた。
785: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/04(月) 04:32:21.20 ID:syE/uFsm0
北上「提督は、復讐するとして、どうやるつもりだったの」

提督「今はもう皆を巻き込むつもりはねえよ。ここには親父の時から居て俺に着いてきてくれた奴がいてな。何人か仇討ちに協力するってのもいたんだ」

北上「誰と」

提督「ん、飛龍と日向、だけなんだけどな。随分と無謀な話だろ」

北上「そうだね」

吹雪「北上、さん?」

北上「提督」

提督「おう」

北上「なら私が三人目だ」

提督「は?」
吹雪「へ?」



北上「私も協力する」
786: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/04(月) 04:33:11.09 ID:syE/uFsm0
写真に写っていたのはかつて神社で見た、金髪でこそなかったが、確かに私の探していた人物だった。

私が愛した人。恩を受けた人。会いたかった人。

提督の瞳に映る自分を見て理解した。

きっと昔の提督もこんな眼をしたのだろう。

思考が徐々に薄れる。

身体の中を何か黒くて熱い、少し心地よいもので満たされていくのを感じた。

箱の中に、もはや希望はなかった。
791: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/19(火) 04:57:28.40 ID:ZdCPTCn50
76匹目:like a cat on a hot tin roof

熱いブリキ屋根の上の猫。

熱い砂浜なんかを裸足で歩いてみたらどうなるか。そんなの猫でなくても慌てて足を動かしながらパタパタと駆けて行くことになるだろう。

故にイライラしている、落ち着かない様子を表す。

でもこの時私は非常に落ち着いていた。

苛立って、内心グチャグチャだったけど、いつも通り、いやいつも以上に落ち着いていた。
792: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/19(火) 04:58:03.85 ID:ZdCPTCn50
北上「はあ」

あれから三日経った。

考えさせてくれ。それが提督の出した答えだった。

そりゃ驚いてたもんね。あの吹雪ですらフリーズしてたし。

そういや提督が置いてきたくないやつがいるーって言った時も驚いてたな。アレはなんだったんだろ。私と同じで提督は無自覚だと思ってたのかな。

大井「きーたかーみさん」

まあ何にせよ三日経った。何があっても時間というのはあっさり進んでいくものだ。アインシュタインの嘘つき。

あれから提督とも吹雪ともまともに話していない。殆ど日課になっていた提督室にも行っていない。

でも大して変わらなかった。任務はやってるし出撃もしてる。僅かな事務的な会話だけで淡々と日々が過ぎていく。

大井「北上さーん」

提督だけじゃない。結局のところ私も保留にしてしまっている。

現実を、心を。

でもひょっとしたら、このまま何も変わらず、何も進まず始まらず終わらずにずっといた方が
大井「北上さんっ!!」
北上「うわっ!?」ガッ
793: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/19(火) 04:58:51.36 ID:ZdCPTCn50
北上「ったぁ…」

仰向けになって読んでいた本が驚いた拍子に顔に落ちてきた。

まあ実際のところ読んではいなかったというか、頭に全然入ってこなかったんだけど。

大井「もぉ、どうしたんですか最近。死んだ秋刀魚みたいな目になってますよ」

北上「そりゃまた美味しそうだね」

大井「そうとらえますか…」

大井っちを見る。制服姿だ。髪も少し乱れてる。そういえば今日は出撃だったんだっけ。

北上「お疲れさん」

大井「ありがとうございます」

私の横に座る大井っち。

ふむ。胸はデカい。腰にはクビレがあるが決して痩せてるという程ではない丁度いい肉付き。顔は美女揃いの艦隊の中でも中々に綺麗な方だし、髪もツヤツヤだ。あ、髪は皆そうか。

そりゃ提督も惚れるわけだ。でも何がきっかけなんだろう。最初はケンカばっかりだと聞いたけど。
794: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/19(火) 04:59:39.32 ID:ZdCPTCn50
大井「北上さん」

北上「何?」

大井「提督と何かありましたね」ジトー

北上「疑問形ですらない」

しかも深海棲艦を見る時より冷たい目をしておる。

北上「まあそうなんだけどね」

流石に大井っちには隠せないな。

大井「三日。三日間ですよ。まさかなんの進展もないとは思いませんでした」

三日というのも分かってるのか。流石大井っち。略して流っち。

大井「どうせ提督が悪いんでしょうけど」

北上「いや、それが違うんだ。今回ばかりは私も悪い」

大井「そうなんですか?」

北上「うん…その、なんていうかな」

大井っちに全部言う訳にはいかないしなあ。

北上「お互い保留にしちゃってるんだ。決めなきゃいけない事を決めずに、言えずに」

大井「お互い、に?」ジトー

北上「えっと、主に提督が…」
795: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/19(火) 05:00:28.48 ID:ZdCPTCn50
大井「やっぱりあの人ですか」スッ

流れるように立ち上がる。ってまさかこのまま提督のとこに行くつもりじゃ!?

大井「ちょっと提督に一発入れてきます」

北上「待て待て待て落ち着いて!提督はただ、考えさせてくれって、なんでかそのままで…」

大井「…そうですか」スッ

あっさり座る大井っち。あ、さては私を焦らせるために立ったな。

大井「北上さん。あの人は馬鹿です」

北上「え」

大井「間抜けです。意気地無しです。空気も読めないし私達の心も読めません。そのくせ自分では分かった気になってる無能です」

聞いてるだけでこっちまでダメージを受けそうなくらい容赦も躊躇もなく罵詈雑言を並べていく。提督がこれ聞いたらどう思うか…

大井「でも考えなしじゃありません。的外れで空回りしてばかりですけれどそれでもあの人なりに考えがあるんです。あの人なりに私達の事を考えてはいるんです」

北上「…うん」

凄い、凄い説得力だ。

大井「でもどんな考えであれ北上さんをこんなに待たせるなんて許せないので一発殴ってきます」

北上「結局そこ!?」
796: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/19(火) 05:01:32.67 ID:ZdCPTCn50
またしても大井っちが立ち上がる。誘いとわかっていても乗らない訳には行かない。

北上「ストップ!」ガシッ

寝転んでいた状態からなんとか起き上がり大井っちの腰にしがみつく。

大井「まだ何かありますか?」

無反応。真面目モードの大井っちだ。これは手強い。

北上「大井っちに、大井っちに解決されたら嫌だ」

口をついてでたのは子供みたいな言い訳だった。

大井「北上さん。物事の解決に時間が必要な時は多いです。でも時間が全てを解決することはありません」

北上「ご最もです…」
797: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/19(火) 05:02:19.94 ID:ZdCPTCn50
大井「本当にわかっていますか?」クルリ

大井っちが体を回して私の方をむく。

北上「分かってるよ。分かってるから、無理なんだ」

大井「ほら、しゃんとしてください!」
北上「うわっ」

無理やり正面に立たされる。大井っちの鋭い眼差しが私の目に泳ぐことを許さない。

大井「こんな風にちょっとあの人のけつを引っぱたいてくるだけです。後はお二人で好きにしてください」

北上「…分かったよ。こーさん。大井っちに任せる」

大井「ええ、任せてください!あの人の事はよぉく分かってますから」

意気揚々と、自信満々に部屋を出ていく。

北上「はあ」

適わないなあ。

でもまあ確かに、大井っちの方が適任だろう。なんせ

北上「いてっ」

痛みが走る。さっき本を顔に落とした時傷でも出来たかな?

気が緩んでまたゴロンと寝転ぶ
798: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/19(火) 05:02:51.44 ID:ZdCPTCn50
提督はどうするだろうか。

私はまだまだ練度の足りない新兵だ。危険な相手に、まして三人で挑むなんて自殺行為だ。当然止めたいだろう。

でも迷った。保留にした。

それだけ提督にも復讐心があったからだろう。提督も引く訳にはいかないのだろう。

それは私も同じだ。

心にぽっかりと穴が、なんてありふれた表現がしかしピッタリと当てはまってしまう。

これまで私を支えていた希望はあっさり折られた。私はきっとそれを許せない。

そうする事が、きっと今私にできる唯一の恩返しだ。
799: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/19(火) 05:03:29.03 ID:ZdCPTCn50
大井っちが知ったらなんて言うだろう。

多分大井っちは提督から聞き出すだろう。首を突っ込んだからには大井っちは絶対に諦めない。

復讐。もしかしたら私も提督も戻ってこれないかもしれないんだ。大井っちなら止めるだろう。

何よりも提督を。

提督と大井っち。

二人は今きっと話している。

私が知らないような話を。
800: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/19(火) 05:04:04.18 ID:ZdCPTCn50
提督室を思い出す。

所々凹んで草臥れたソファ。

年季の入った床。

シミのある机。

ラクガキのあるテーブル。

人の顔に見えるという天井の模様。

部屋に似合わず新品のライト。

よく使われる綺麗な棚。

誰も使っていないのかホコリだらけの棚。

しょっちゅう新しくなる窓ガラス。

古臭い匂いがする椅子。

皆で刺繍をしたというカーペット。
801: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/19(火) 05:04:31.91 ID:ZdCPTCn50
よく仰向けになって本を読んだソファ。

提督に本の内容を話したりもした。

新しいライトが明るすぎると文句を言ったりもしたっけ。

机のシミは、誰だっけな。駆逐艦なのは覚えてるけど。

天井の模様は女性に見えたな。提督はぬらりひょんとか言ってた。

提督に似合わない厳かな椅子は、肘掛が妙に座り心地よかったな。

アルバムでもめくるかのように様々なことを思い出す。

でも私がした決断は、それらを燃やすのと同じ事だ。

それにあの場所は、私のものじゃないんだ。
802: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/19(火) 05:05:09.96 ID:ZdCPTCn50
もしかしたらここには戻ってこれないかもしれない。

でもいいや。提督には大井っちがいる。大井っちを置いてくのは少し気が引けるけど、私は私のために向かわなきゃ行けない所がある。

北上「…」

痛い。
803: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/19(火) 05:05:40.89 ID:ZdCPTCn50
あそこは提督や大井っちがいる所だ。

私は、北上のまがい物の私はあそこにいるべきではない。

あるべき者をあるべき所に。

私は帰るべきだ。

北上「痛い」
804: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/19(火) 05:07:18.38 ID:ZdCPTCn50
どうにも痛い。まさか本が当たったところ擦りむけていやしないか。

重苦しい身体を引きずり起こして部屋に置かれた鏡を見る。

北上「お前、なんで泣いてるんだ?」

そう言ったのは私だ。

鏡の中の北上じゃない。

そこには泣いている北上がいた。

でもそれなら、私が泣いてる事になるじゃないか。

何だかすごく気味が悪い。

とても悲しそうで、悲痛に歪んだくしゃくしゃの表情を見ているとこちらまで悲しくなってくる。

でもそれは私なんだ。今私が見ているのは。
805: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/19(火) 05:07:45.42 ID:ZdCPTCn50
訳が分からず、でもこれ以上見ていられなくてそのまま後ろにバタりと仰向けに倒れる。

畳は私を怪我をしない程度に受け止めてくれた。

背中が痛い。

でもこんなんで泣いたりはしない。

自分の事なのに自分のじゃないみたいだ。

私は少し考えるのをやめて目を閉じた
806: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/19(火) 05:08:30.50 ID:ZdCPTCn50
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

北上「ん?」

目が覚めた。

というかいつの間にか寝ていた。

そして何やら後頭部に違和感がある。柔らかくて暖かい何かの上に頭が乗っている。

大井「起きましたか北上さん」

北上「大井っち」

膝枕だったか。

大井「ビックリしましたよ。戻ってきたら大の字で寝てるんですから」

北上「私もビックリした」

大井「あれからずっと寝てたんですか?」

北上「あれからって、どれくらい経った?」

大井「2時間くらいでしょうか」

北上「多分寝てた。って2時間も話してたの?」

大井「1時間半くらいです。後は北上さんを膝枕してました」

北上「十分長い…多摩姉達は?」

大井「部屋には来てたみたいですよ。北上さんを見て察したのかすぐ出ていったようですけど」

北上「何を察したって言うのさ」

大井「泣いていたから」

北上「!」
807: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/19(火) 05:08:57.34 ID:ZdCPTCn50
大井「先程拭いちゃいましたけど、泣き腫らした跡がありましたよ」

北上「そっか」

大井「何か、ありましたか?」

北上「わかんない。でもなんでか泣いてた」

大井「そうですか、そう」

北上「提督は?」

大井「待ってますよ。北上さんを」

北上「私を」

大井「もう待たせないって言わせました。後の事を決めるのは二人です」

北上「大井っち」

大井「はい」

北上「ありがとね」ムクリ

大井「私は。私は此処で待ってます。ずっと」

北上「うん。ありがとうね」
808: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/19(火) 05:09:25.18 ID:ZdCPTCn50
大井「安心してください、あの人はちゃんと受け止めてくれますよ」

あぁまただ。

北上「どうかなあ。船って結構重いよ?」

また痛い。

大井「そうですねえ。猫一匹くらいなら?」

北上「はは、提督に猫は似合わないよ」

大井「そうですか?ギャップ萌えってやつですよ」

さっきの鏡と同じだ。大井っちを見ていると、締め付けられるように痛い。

北上「大井っち」

大井「はい」

北上「行ってくるね」

大井「はい」
809: ◆rbbm4ODkU. 2019/02/19(火) 05:09:59.91 ID:ZdCPTCn50
逃げるように部屋を出た。

心臓が荒波のように脈打っている。

平静を装って歩いてみた。深呼吸をしてみた。

でも落ち着かない。

私は少し駆け足でパタパタと提督の元へ向かった。
817: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/01(金) 04:25:11.64 ID:l/nRBvBm0
78匹目:bell the cat



猫の首輪に鈴をつける。

言うのは簡単だけれど、はたしてその危険な役割を誰がやるか。

幸いにも猫は私だ。

なら進んで鈴をつけようじゃないか。
818: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/01(金) 04:25:54.36 ID:l/nRBvBm0
提督「よお」

北上「…痛む?」

提督「肉体的にはさほど」

北上「そっか」

提督「でも痛え」

北上「みたいだね」

提督の右頬が少し赤くなっていた。誰にひっぱたかれたかは考えるまでもない。

大井っち、ケツじゃなくて頬を叩いたのね。
819: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/01(金) 04:26:32.38 ID:l/nRBvBm0
提督はいつもみたいに奥の机にはおらず手前のテーブルにいた。

なんとなくその場の雰囲気で私も提督の向かい側に向き合うように座る。

提督「こっぴどくやられたよ。大井のやつ容赦なさすぎてな」

北上「そっか」

提督「頬は別にいいんだけどな。手より口がその何倍も怖い」

北上「だろうね」

提督「昔っから言う時は言うやつでな。もしかしたら言葉で人を殺せるんじゃないかと毎回思うよ」

北上「…」

提督「さっきだってまた大「いいよもう」ん?」

北上「大井っちの話は、もういい」
820: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/01(金) 04:27:13.83 ID:l/nRBvBm0
提督「わりい。はは、ダメだな。また逃げだ」

北上「?」

提督「北上」

提督が真っ直ぐ私を見る、

久々に提督と目が合った。

目を見られた。目を見れた。

提督「力を貸してくれ」

真っ直ぐ、そう言った。

北上「いいの?」

提督「巻き込みたくないというのが本音だが、戦力が足りないのも本音だ。でもだからって捨て石にさせるつもりはない。やるからには必ず討つ。討って、全員で帰投させるさ」

目は口ほどに物を言う。上手いことを言うものだ。

確かに提督の眼差しからは言葉よりも確かな決意が伝わってきた。
821: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/01(金) 04:27:44.48 ID:l/nRBvBm0
提督は決めたんだ。はっきりと、どうするかを。

その目に私は少し後ろめたさを感じてしまった。

だって私はまだ、迷っている。

復讐。その気持ちは本物だ。提督に協力すると言ったのは間違いなく本心だ。

でも今まで通りここで幸せに暮らしていたいというのも紛れもなく本心なのだ。
822: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/01(金) 04:28:50.86 ID:l/nRBvBm0
北上「うん。協力する」

提督「おう。頼むよ。それじゃま手始めに、文字通りな」スッ

提督が手を差し出してきた。大きくて広い手。

北上「提督にしては洒落たこと言うね」

提督「たまにはな」

北上「じゃあ」スッ

私も覚悟を決めなくちゃいけない。

提督「ただし」
北上「え」

握手、の前に提督が遮った。

提督「別にいつでも止めていい。逃げたっていい。こんな事、やらないにこしたことはないよ」

北上「それ、今言う?」

提督「わり。でもそうだろ?」

北上「そりゃあ、まあね」

提督「俺だってそうさ。今だって何かのっぴきならない事情で断念せざるを得なくなりやしないかって、そんな事を何時も考えてる」
823: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/01(金) 04:29:21.50 ID:l/nRBvBm0
北上「土壇場になって中止なんて言うつもり?」

提督「そうなるかもな。ギリギリになって勇気が出ないかもしれん。それを踏まえての握手だ」

勇気か。

復讐する勇気か。

それを諦める勇気か。

北上「分かったよ」

協力者同士。いや共犯と言うべきかな。でもとても暖かい握手を交わした。

私は決意した。提督の思いに応えよう。

未だ迷ってる。だからハッキリさせよう。

私がどうしたいのか。
824: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/01(金) 04:30:12.56 ID:l/nRBvBm0
北上「へへへ」

提督「なんだよ変な笑いしやがって」

北上「初めて提督と会った時の事思い出しちゃってさ」

提督「あー。あれももう随分前に感じるな」

提督が上を向く。昔を思い出しているのだろうか。

北上「てーとく」

提督「ん?」




北上「名前は軽巡、北上。まーよろしく」

提督「おう、よろしくな」
825: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/01(金) 04:30:49.37 ID:l/nRBvBm0
提督「でだ」

北上「はい」

提督「俺達は目標達成のためには余りにも色々なものが足りない」

北上「確かにね」

提督「その中で最も補いやすいのがお前の練度だ」

北上「ぅ、ですよね…」

提督「残念ながら一朝一夕で練度をどうこうするのは無理だ。だがだからと言ってやらない理由はない」

北上「つ、つまり」

提督「と「特訓です!!(バァン」はっ!?」
北上「えっ!?」


大井「特訓です!!!!」


北上「いやなんでいるの」

提督「聞いてたなてめえ!」
826: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/01(金) 04:31:53.28 ID:l/nRBvBm0
大井「そりゃあもちろん提督が変なこと言わないか見張りを」

当然のように部屋に入ってきた。

提督「言わねえよ何考えてたんだよ」

北上「あのー特訓って?」

大井「提督の言う通り練度は直ぐには上がりません。私も北上さんよりは高いですけれどそれでも一線で通用するかは微妙なレベルです」

提督「だ「だから基礎的な訓練以外に何か飛躍的に力をつける方法が必要です」

北上「ふむふむ」
提督「…」

大井「ここで大事なのが私達にとって今倒すべきなのは深海棲艦ではなくあのレ級一体という事です。つまり一点集中で対策が練れるんです」

あ、提督が完全に話すのを諦めた。

大井「なんであれアイツを沈めれば勝ちなんです。その点で見ると私達雷巡はチャンスがあります」

北上「あー、魚雷か」
827: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/01(金) 04:32:41.74 ID:l/nRBvBm0
大井「元々私達は対空や砲撃は苦手です。ですが魚雷による致命的な一撃であれば他の船と比べても練度の低さを補ってあまりあるものがあります」

北上「確かに」

大井「そして!何よりも大きいのは私と北上さんのコンビネーション!!」ンバッ

北上「うんうん。え?」

大井「コンビネーション!!」シュバッ

北上「2回も言わんでも」

しかもポーズ変えて。

提督「実際ポイントだと思うんだ。普段艦隊は色んな艦種をバランスよく編成するから忘れがちだが同じ艦種同士だからこそ出来る動きってのは確かに強い」

北上「なるほどね。確かに練度が低くても二人合わせてなら補い合えるかも。でも大井っちと二人で出撃した事ってほとんどないんじゃ」

大井「普段の以心伝心っぷりを戦場でも発揮すればいいんですよ。戦闘経験はこれから積んでいくんですから」

北上「そう何上手くいくのかね」

相変わらず大井っちは…

北上「ん?」

あれ?
828: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/01(金) 04:33:23.00 ID:l/nRBvBm0
提督「どした」

北上「え、何?大井っちも?大井っちも一緒なの!?」

大井「当たり前じゃないですか」フンス

北上「いやいや全然当たり前じゃないでしょ!」

提督から事情は聞いてると思ったけどまさか参加してくるとは…待てよ、よく考えたら実に大井っちらしい行動だな。

大井「大丈夫ですよ。北上さんを一人で行かせたりなんかしませんから!」

北上「って言ってるけど、いいの?」

提督を見る。

大井っちをこんな危険な事に巻き込む。それは提督が一番嫌がりそうなものだが。

提督「止められると思うかこいつを?」

北上「思わない」

提督「そういう事だ」

提督弱いなー。

大井っちは、あードヤ顔してる。
829: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/01(金) 04:34:15.30 ID:l/nRBvBm0
大井「愛にも色々ありますけれど、少なくとも私は愛する者を宝箱にしまうようなことはしません」

提督「お前みたいにスパッと割り切れりゃ楽なんだがな」

大井「提督は肝心なところでいっつもウジウジしてますからねえ」

提督「はっはっはっ今度は耳が痛え」

北上「大井っちは凄いよねぇ。私もそんな風になれたらいいのに」

大井「いいんですよ北上さんは。今の北上さんこそ北上さんなんですから」

提督「北上に甘すぎるだろお前」

大井「提督は甘えすぎなんですよ。誰にとは言いませんけどお?」

提督「てめぇ…」

大井「それに私だって悩んだりはしますよ。でも決めるべき時はそうするだけです」

北上「決めるべき時か」
830: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/01(金) 04:34:50.09 ID:l/nRBvBm0
大井「何にせよ、私と北上さんのコンビならどんな壁だって超えていけます!」

北上「いや別に二人だけというわけじゃ」

提督「サラッと俺を無視すんな」

大井「不純物が混ざるとコンビパワーが落ちるんです」シッシッ

提督「あそーいうこと言う、そーいう言っちまうんだ。飛龍と日向が悲しむだろうなぁ」

大井「あの二人は別です」

提督「適当過ぎんだろ!」

北上「それでも五人かあ」

提督「これでもマシになった方だよ」

大井「最初三人でどうするつもりだったんですか…」

提督「自暴自棄な所があったのは否めない」

北上「だろうねぇ」
831: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/01(金) 04:35:34.25 ID:l/nRBvBm0
提督「が、今や五人だ。一世一代の大仕事だぜ。ほかの奴らが血眼になって探してる鬼の首、俺らでもぎ取ってやろうぜ!」

大井「今のところ鬼の素顔を知ってるのはウチだけですからね。提督が報告してないせいですけど」

提督「これから首持って謝りに行くから大丈夫だよ。歴史はいつも勝者が作るもんだろ?」

大井「実際勝ち目が無いわけじゃないですからね。敵は自分が狙われているとは思っていない」

提督「対するこっちは徹底的にメタを張れる」

大井「戦争じゃなくて仇討ちですからね。ルールも何も無し」

提督「例えどんな手を使ってでも」

大提「「討つ」」ニヤリ

実に楽しそうに二人が笑う。
832: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/01(金) 04:36:07.90 ID:l/nRBvBm0
提督「ま、そういうわけで明日から二人は特訓だ」

北上「具体的にはどういう?」

提督「飛龍に頼むつもりだ。内容はあいつに任せる。二人のコンビと雷撃が一番の伸び代だがだからと言って基礎訓練をしない理由にはならない。やれることは全部やるぞ」

北上「うへ~気が滅入る話だ」

大井「ならやめますか?」

北上「そうもいかんでしょ」

提督「訓練は明日からだ。今日はとりあえず休んで明日に備えとくといい」

北上「提督は?」

提督「具体的な作戦はこっちでやっとく。お前らはそっちに集中しとけ」

北上「ほ~い。それじゃ」

提督「おう」
833: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/01(金) 04:36:40.64 ID:l/nRBvBm0
いよいよだ。

死にたくないから、怖いから。

ずっと戦いから逃げていた私だけど、初めて自分から戦いに向かう理由ができた。

大井「あぁ提督」

提督「ん?」

部屋を出る直前に大井っちが提督を呼ぶ。

大井「約束、忘れないでくださいね」

提督「おう。信じろ」
834: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/01(金) 04:37:24.39 ID:l/nRBvBm0
二人はどんな話をしたんだろうか。

二人は何を知っているんだろうか。

二人はどんな約束を
北上「大井っちは、なんで提督に協力してるのさ」

大井「そうですね。私にとっても、大事なリベンジですから」

リベンジ。

一年前に大井っち達がレ級に遭遇した件か。

海の化け物。

首輪に鈴をつけるどころじゃない。私達でそれを倒すんだ。
839: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/07(木) 04:30:45.21 ID:BrqyKwfY0
80匹目:Cat has nine lives



猫は9つの魂があるという。イギリスのことわざだったかな。

高いところから難なく着地したり、狡猾で、急にいなくなったかと思えばフラっと現れる。

そこから猫は幾つも命を持っているのだろう。だからしぶとい。そういう意味になったそうだ。

確かにそうらしい。1度は死んだ身でありながら、あろう事か船として蘇ったのだから。

でもならばこの身体には、猫以外に一体幾つの魂が宿っているのだろうか。
840: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/07(木) 04:31:21.42 ID:BrqyKwfY0
『次!三時方向!』


北上「!」

大井っちと共に無線で指示された方向に砲塔を向ける。

向かってくるのは流星。飛龍さんの操るそれは確かにその名に恥じぬ起動を描いていた。

流れる星に対空射撃を行う。最も私達の対空能力はたかがしれている。だが少しでも回避運動を取らせることが出来ればそれでも十分だ。

北上「来た!魚雷五本!」
大井「二と三!」

私に二本大井っちに三本か。

回避行動を取りながら魚雷に狙いを定める。
841: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/07(木) 04:32:07.26 ID:BrqyKwfY0
『七時と十一時!』


北上「早っ!?」

慌てて狙うのをやめて次の方角を見る。魚雷を撃つ練習は後回しだ。

大井「北上さん!」
北上「うん!」

ぐるりと魚雷を避けながら大井っちと出来るだけ近づく。

二方向からそれぞれ魚雷が放たれる。

対空射撃をやめ、同時に私達もバラバラな方向に一斉に動く。これで狙いはつけ辛い、はずだ。


『で次は上ね』


北上「は?」
大井「え?」

上、上から?そんなんどうしろってんですk
842: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/07(木) 04:34:23.91 ID:BrqyKwfY0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

北上「あぁぁぁぁぁ…」

机に顔を擦りつけ体に蓄積された疲れを声とともに絞り出す。残念ながら疲れの方は一切取れやしないのだが。

大井「カレー冷めちゃいますよ」

北上「食べる気力も湧かないよぉ」

ハード。ハードだった。飛龍さんの訓練は。

朝っぱらからいきなり訓練やるよ~と連れ出されたかと思えばお昼までみっちり対空訓練である。

北上「死にそう」

大井「初日からそんなんじゃ持ちませんよ?」

北上「既に持ってない…」
843: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/07(木) 04:35:14.76 ID:BrqyKwfY0
私がバテたのでお昼とはいえ少し早めの時間の昼食。食堂にはあまり人気がない。

「午前はこの辺にしとこっか」と飛龍さんは言っていたが、午後はもっと長いのかな…

北上「大井っちはよく平気だね」

大井「平気とは言い難いですけど、北上さんよりは丈夫ですから」

北上「むむ」

負けてはいられんな。少し冷めて食べやすくなったカレーに手をつける。

大井「北上さん、今日は少し力み過ぎてませんでしたか?」

北上「そりゃ今までみたいに逃げ回る訳にはいかないしさ」

大井「それはそうですけれど」

日向「随分と頑張っているようじゃないか」

大井「日向さん」

日向「一緒にいいかい?」

北上「もちろん」

向かい側に座る日向さん。

和風定食か。この人洋物とか食べるのだろうか?少なくとも見た事はないし想像ができない。
844: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/07(木) 04:36:02.25 ID:BrqyKwfY0
日向「提督から聞いたよ。まさか君が、君達がね」

大井「私もですか?」

日向「そうだ。少なくとも私から見たらな」

大井「必然ですよ」

日向「何がきっかけかは知らないが以前の君ならそうしなかった。違うか?」

大井「…」

日向「まあ一番わからないのは北上なんだけれどね」

北上「それについては内緒ですよ」

日向「では私のデザートをやろう」

デザート。おしるこか…

北上「カレーにおしるこはちょっと…」

日向「それは残念」

ちっとも残念そうには見えないが。
845: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/07(木) 04:36:41.25 ID:BrqyKwfY0
日向「君達二人だけの秘密というわけか。素敵な話じゃないか」

それは違う。私は大井っちには

大井「私も知りませんよ。北上さんだけの秘密です」

先に口を開いたのは大井っちだった。

日向「ほお…」

表情を変えずにサラッと言ってのけた大井っちと、それに驚いた私の表現を見て日向さんがどこか納得したように頷いた。

日向「どうやら中々に込み入った事情があるようだね。まあそこに口は出さないさ」

北上「日向さんこそ、どうして?」

日向「分かりきっているだろう?飛龍のやつと同じ、何処にでもあるような極々単純な復讐心さ」

そう言って味噌汁を啜る。
846: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/07(木) 04:37:31.43 ID:BrqyKwfY0
日向「というのは違うか」

北上「え」

大井「違うんですか?」

日向「そういう気持ちが無いわけじゃあないんだ。だが私が協力している理由は、提督に頼まれたからさ」

大井「頼まれたって一体どんな風にです?」

日向「何も土下座されたり脅されてるわけじゃない。普通に、実に紳士的に、とても真摯に頼まれただけだ。私は船だからね。船長が舵を切ったらそちらを向くだけさ」

北上「船、まあそうりゃそうだけど」

大井「それじゃあ自分の意思ではないみたいじゃないですか」

日向「北上には前に話しただろう。艦娘とはそういうものだよ。多かれ少なかれ。だからこそ君達の反応は、私から見ればかなり意外でとても興味深いね」

相変わらずだなこの人は。アナタ以上に変わっている人もそうはいないと思うけれど。
847: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/07(木) 04:38:17.76 ID:BrqyKwfY0
日向「だからまあそんな変わった後輩に私からのアドバイスだ。ひとつの事に夢中にならずに周りを見ることだ」

北上「なんだか抽象的過ぎてちょっと」

日向「憎しみは人の無意識のセーブを外すのには有効かもしれないが私達艦娘にとっては逆効果だ。私達の力とは艦の部分であり個々の意思ではない」

大井「復讐そのものを否定するような言い方ですね」

日向「もちろんそうさ。私はそれを肯定した事は一度もないし、これからもしないつもりだ」

キッパリと言い切って箸を置く。

いつもそうだ。日向さんは自分の考えをきっちりと持っている。

それが相手を真っ向から否定する事だとしても。

日向「安心するといい。基本的に君達の見方だよ、私は」

北上「日向さんはその基本的って所が怖いんだよねぇ」

日向「おや、それは心外だな」
848: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/07(木) 04:38:52.97 ID:BrqyKwfY0
日向「そうだな、なら具体的なアドバイスをしようか。北上」

北上「私?」

日向「図書室に行くといい。神風のやつが最近寂しそうだぞ」

北上「!」

そういえば最近行ってなかったな。そんな余裕がなくて、

北上「余裕か」

日向「必死になる事はいい事だが余裕がなくなるのはいけない。余力を残せという意味じゃないのは分かるだろ?」

北上「まあ、なんとなく?」

日向「ふむ、そうだな」

何やら考え込む日向さん。何が飛び出すのやら…
849: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/07(木) 04:39:33.85 ID:BrqyKwfY0
日向「八八歩」

北上「へ?えー、えっと七五歩?」

将棋だろうと当たりをつけて適当にそれっぽい事を返してみる。

確か最初の数字が将棋盤の座標なんだっけか。そもそもアレって縦横幾つなんだっけ?

日向「将棋、まあチェスでもいいが、これが戦争と言うやつだ」

大井「王を取れば勝ち、という事ですか?」

日向「ルールがあるということさ。守るかどうかは別としてだが。そして」

ギシリと木製の椅子が、いや床そのものが軋む音がする。

無理もない。戦艦の背負う巨大な砲塔はその重さだけで十分な破壊力を持っているのだから。

日向「これが私達がやろうとしている事だよ」

そう言いながら今しがた何食わぬ顔で身につけた艤装を、砲塔をこちらに向ける。
850: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/07(木) 04:41:00.68 ID:BrqyKwfY0
とてつもない威圧感だ。本来戦艦の砲塔をこれ程間近で向けられる事などまずない。

日向「ルールなど気にする必要は無い。戦略などない。如何なる手段を使ってでも敵を討つ」

北上「なら将棋なんていらなかったんじゃ」

日向「そうでもない。こうして無防備なまま私の前に座ってくれるだろう?」

大井「ルールを守るのではなく使えと」

日向「そういう事も視野に入れろ、という話さ。さて、王手だ」

北上「こーさん」

無茶苦茶だな。でもその通りだ。

大井「ところでそろそろ椅子が限界のようですけれど」

日向「ふむ、そうだな。提督には内緒にしておいてくれ」

なんでもお見通しなのか、案外考えなしなのか、読めない人だ。
851: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/07(木) 04:42:07.68 ID:BrqyKwfY0
北上「余裕、視野か」

大井「ふふ、午後はもう少し上手く出来そうですね」

北上「かもね。うんにゃ、そうだね」

どこか穏やかな空気が流れ出した食堂。だったのだが、そこに突風が吹いた。

飛龍「さぁ午後の!!ってあり?二人ともまだ食べてた?」

大井「飛龍さん?」

食堂に飛龍さんが駆け込んできたのだ。

北上「え、まさかもう食べたの?」

飛龍「別に私ら消化とか気を使う必要も無いし詰めこみゃ大丈夫よ。それよりほら、時間は有限なんだから!」

思わず大井っちと顔を見合わせる。

スパルタだ。もちろんやる気はあるけれど流石にこれは。

日向「飛龍」

飛龍「ん?あ、日向も一緒にやる?」

やる気スイッチMAXの飛龍を横目に日向さんが懐から本を出す。

いや、本ではない。その本に挟んであった栞を出した。あれは確か鏡の着いている栞だったはずだ。

それを無言で飛龍さんの前に突きだした。
852: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/07(木) 04:42:46.85 ID:BrqyKwfY0
飛龍「ッ!!」

鏡を見て飛龍さんが妙な反応をする。強ばるというか、怯えたような、そんな感じの。

日向「甘い物は乙女の動力源なのだろう?デザートを食べる余裕はあるか?」

飛龍「…勿論」

日向「奢ってやろう」

飛龍「…ごちになります」

そう言うやいなや来た時と同じように駆けて行った。

大井「えっと、今のは一体?」

日向「余裕が無い、ということさ」

北上「?」

やはりさっぱり分からない。古株同士なにか通じていたようだが。

大井「私達もデザートいっちゃいますか」

北上「私お汁粉で」

日向「私は餡蜜で頼む」

大井「何サラッと押し付けてるんですか」
853: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/07(木) 04:47:52.77 ID:BrqyKwfY0
なんやかんやでデザートを取りに行ってくれる大井っち。

飛龍さんと並んでメニューを見ているようだ。

北上「日向s、あれ?」

いない。いや体を屈めているのか?どうやら椅子と床の損傷を確かめているらしい。

やらなきゃ良かったのに…

日向さんに飛龍さん、大井っちと私。この四人で、挑むのか。

まあとりあえずは白玉でも頬張っておきますか。
859: ◆9GJgiqK3MpKd 2019/03/18(月) 04:34:45.37 ID:NvEJ31sT0
82匹目:香箱






猫の香箱座り。

後ろ足を曲げ腹を地面につけ前足の先を折りたたむように胸元にしまいまるで箱のようにコンパクトに座るその様を指して香箱と呼ぶ。

これを海外だとcat loafと呼ぶ。

loafはパン1斤の意味で、まるで焼きたての四角いパンのように見えるかららしい。

顔を地面につけた姿などはまさに箱だ。今思うと我ながら凄い格好である。

人間で言うならどんな格好だろうか。

二足歩行なので流石に地面に腹をつけてとはいかないが、例えば椅子に座り机に両腕をまるで枕にするかのように組みそこに頭をのせ突っ伏す。

そう、まるで
860: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:35:19.26 ID:NvEJ31sT0
北上「うわっ!」

咄嗟に防御体制をとる。

直撃かと思ったがどうやら至近弾だったらしい。直ぐに体制を立て直しつつ自分へのダメージを確認する。

北上「ちぇ、防御力はないんだよぉ」

右足の魚雷発射管がダメになっている。爆発がないのは有難いが使えないものは使えない。

飛龍「動ける!?」

北上「はいっ!」

消えた選択肢を惜しんでも意味は無い。まだ敵は残っている。

鎮守府から少し離れた海域。敵はそう強くはないが、それでもいつもと違う戦闘に私は苦戦していた。

私と大井っちと飛龍さん。

三人編成による戦闘に。
861: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:36:00.90 ID:NvEJ31sT0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

北上「ふへぇ~」

大井「中々、思っていたより、キツイですね」

飛龍「本番はこんなもんじゃ済まないわよ。制空にも余裕がなくなるからね」

普段の戦艦などに守られながらの安全な戦いと違い自分の身を自分で守る戦い。

先制雷撃の緊張感も半端じゃない。何せ少しでも数を減らさないと手が足りなくなるのだ。

飛龍「どう?キツそうなら引き返す?訓練なんだから無理する意味は無いからね」

北上「私はまだ大丈夫」

これまでの逃げの技術が役に立っているのかそれでも私は小破で済んでいる。

大井「私も大丈夫です」

大井っちは逆に殺られる前に殺れ精神だ。チャンスを見つけて飛かかる様はネズミを追う猫の様だった。
862: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:36:32.76 ID:NvEJ31sT0
飛龍「おーけーおーけー。次でラストね」

飛龍さんは、汗一つかいてない…分かってはいるけれどレベルが違う。

軽い足取りで進んでいく。

大井「行きましょう北上さん」

北上「うん」

真剣な顔の大井っち。

私はそれが気になっていた。
863: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:37:20.97 ID:NvEJ31sT0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

リベンジ、と大井っちは言った。

かつて大井っち達は件のレ級に遭遇し逃げられている。

その時の詳しい状況は知らないが、少なくとも大井っちにとってそれはトラウマのようなものらしい。

リベンジ。私の事を差し引いてもそれは大井っちにとってとても重大な意味を持つもののようだ。

一体何が?

大井「北上さん!!」
北上「んなっ!?」

ギリギリのところで砲弾を躱す。

ちぇっ、余裕を持てと言われたがこれじゃあただの余所見でしかない。

しかしどうにも気になってしまう。大井っちの事が、無性に。

なんなんだろうか。初めての感覚だ。

また少し痛みが走る。
864: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:38:04.07 ID:NvEJ31sT0
艦載機に気を取られた敵駆逐艦に砲弾をぶち込み改めて周囲の状況を確認する。

北上「!!」

魚雷だ。敵軽巡が魚雷を放った。

あの方向は、大井っちだ!

大井っちは重巡の方に集中している。今当たると確実に大損害になる。

大井っちに知らせなきゃ!

北上「ッ!」

でも、そこで詰まった。

あのまま、あのまま魚雷が当たったらどうなるだろうか。

側面から魚雷がぶち当たる。艤装は壊れ魚雷発射管や砲塔の大半がダメになるだろう。

そうなれば攻撃は疎か回避もままならない。そうなればいい的だ。最悪轟沈しかねない。

そんなことになれば

そうなれば

もしそうなったら

北上「…」

なってくれたら?
865: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:38:43.00 ID:NvEJ31sT0
飛龍「大井!!」

飛龍さんが叫ぶのと艦載機が軽巡を沈めるのは同時だった。

一瞬そちらに気を逸らした大井っちが魚雷に気づく。

間一髪の回避。その隙に私が最後の重巡に魚雷を放つ。

北上「大井っち!大丈夫!?」

大井「はい!なんとか…」

飛龍「ひゃー焦ったぁ。冷や汗かいちゃったよ」

北上「私も…」

私はホッと胸をなでおろした。

飛龍「よしっ。今日は帰りますか」

北上「今日は、ねぇ」

大井「明日もあるんですね…」

飛龍「さぁさぁ帰ってご飯だよ、ご は ん」

北大「「はぁ…」」

空は少し赤みがかってきていた。
866: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:39:24.34 ID:NvEJ31sT0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

北上「…」

夜、食堂。

午前午後のスパルタ訓練による疲れで逆に寝れなくなったので自販機で甘い物でも買おうかとやってきたのだが、

飛龍さんがいた。

窓際の、月明かりが差し込む暗くて明るい机に突っ伏していた。

まさに香箱。周りにあるのはお酒かな?酔って寝てしまったようだ。

でもなんでこんな所で?しかも一人で。
867: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:40:11.68 ID:NvEJ31sT0
北上「…」

触らぬ神に祟りなし。君子危うきに近寄らず。

ここはスルー決め込んでさっさとジュース買って

飛龍「ぁ、きらかみだ」ムクリ

北上「わっ、起きてた…の?」

飛龍「今起きた…の…ん~…ッ」ノビー

大きく伸びをする飛龍さん。意外と細身の彼女だが横から見るとやはり出るとこは出ている。

飛龍「あり、もう月があんなに登ってる」

北上「もう日付変わりますよ。一体いつからここに?」

飛龍「んー10時くらいからかなあ。覚えてないや」

そう言ってゆっくりと酒を片付け、いや違う!まだ入ってるのを探してんだこれ!飲む気だ!!

飛龍「さあ一緒に飲もう!」ドン

北上「あー、私お酒はあんまし」

飛龍「いーよいーよジュースでも。飲みで大事なのはお酒を飲む事じゃなくてアルコールがあるって事だからね」

北上「なんかそれっぽい事言ってるけど飲みたいだけですよね」

飛龍「まあね」
868: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:40:40.52 ID:NvEJ31sT0
まあいいか。この人にも聞きたいことがある。

急ぎ足でジュースを買って飛龍さんの向かい側に座る。

飛龍「さーって、乾杯ってのもなんか変だけど、今日も一日お疲れ様っ」

北上「お疲れ様~」

缶とおチョコという妙な組み合わせ。月光の下で乾杯をした。
869: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:41:22.95 ID:NvEJ31sT0
北上「それ何杯目なんですか?」

飛龍「ん~…何杯目だろうね」

北上「さいですか」

空母の皆さんはしょっちゅう飲んでるイメージがあるがどうやらそれは間違いではないようだ。しかし、

飛龍「ンッ…っあー生き返る~」

一口ずつ味わって飲む姿はなんというか上品というか、普段の豪快な飛龍さんとは打って変わって滑らかさみたいなものを感じる。

まあこんだけ飲み散らかしてりゃそれも薄れるのだが。

北上「どうしてこんな所で?」

飛龍「あーダメダメ。次は私が質問する番だからね」

北上「そーゆー感じですか」

しかし話が進めやすいのも事実だ。ここは乗っていこう。
870: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:42:14.57 ID:NvEJ31sT0
飛龍「なんでこの件に関わったの?」

北上「それは…」

いきなり答えにくいものが来たな。というかみんな聞いてくるよねこれ。当たり前かもしれないけど。

北上「きっかけに関しては半ば強制的に知らされたというか、まあ吹雪に色々言われたもので」

少し本筋から逸らしつつ別の話題で興味を惹いてみる。

飛龍「吹雪が?」

北上「うん。何故か私に色々と」

飛龍「へぇ~。吹雪が、ねえ。吹雪が。なんだろうね」

北上「なんでだろう」

飛龍「吹雪の事は私もよくわかんないのよ。協力的なようで非協力的というか。この件について賛成なのか反対なのかイマイチ掴みにくいのよね」

飛龍さんもよく分かっていないらしい。
871: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:42:42.35 ID:NvEJ31sT0
北上「じゃあ次はこっちの番で」

飛龍「ばっちこい」

北上「何故一人で飲んでるんですか」

飛龍「ノーコメント」

北上「あズルい!それはズルい!」

飛龍「だぁーってぇ~」

またしても机に突っ伏した。

ちゃんと容器は避けているのが少し可笑しい。

飛龍「…怖がられちゃったんだもん」ボソッ

北上「怖がられた?誰に?」

飛龍「…蒼龍に」ムクリ

起き上がった飛龍さんの表情はまるで捨てられた子猫のように弱々しいものになっていた。
872: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:43:59.32 ID:NvEJ31sT0
酒の入ったおチョコを、まるで穏やかな海をゆく船のように揺らしながら静かに話し始めた。

飛龍「私、自分じゃそんなつもりないんだけどさ。この件に関することだとついムキになるっていうか、変なスイッチ入っちゃうのよ」

北上「あー」

昼間のあれを思い出す。鏡を見て、自分を見ての反応はそれか。

飛龍「別に気が触れるみたいな事じゃないんだけどね。ただ分かる人には分かるって感じで」

北上「それが日向さんとか蒼龍さん?」

飛龍「そ。日向は事情知ってるからいいんだけど、蒼龍は何も知らないから」

そうか。

話していないんだ。

飛龍「蒼龍も何かは分かってないの。分かってないけど、私を見て怯えるような目をするの」

私にはいつもとそう違いはないように思えたけれど、やはりこの二人だからこそ分かるものがあるのだろう。

飛龍「それでね、向こうもそれを誤魔化そうとして距離をとるのよ。それがまたなんてゆーか、すごくクるのよ」

北上「だから一人で」

飛龍「ヤケ酒よヤケ酒」

そう言って寂しそうに笑う。
873: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:44:32.67 ID:NvEJ31sT0
こうしている今の自分を周りはどう思うか。考えたこともなかった。

飛龍「はい終わり。次は私の番ね」

おぉ切り替えが早い。

北上「どーぞ」

さてお次はなんだろうか。

飛龍「午後になってから急に注意散漫になってた。というか大井ちゃんばっか気にして、何かあった?」

それは、

北上「それは、自分でもよくわからなくて…」

飛龍「わからない?」

北上「えっと、でもその答えは同時に次の質問でもあって」

飛龍「つまりどういうことよ」

北上「大井っちはなんであんなに強くこの件に関わろうとしてるのか」

私は誤魔化した。大井っちが気になる理由はきっとほかにある。

でもこの疑問自体は本物だ。

飛龍「…」

また一口。お酒を流し込む。
874: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:45:04.81 ID:NvEJ31sT0
飛龍「それが気になる、って?」

北上「まあ、そんな感じです」

飛龍「そっかぁ」

また一口。まるで口の滑りを良くするための潤滑油のように。

そうでもなければ話せないというように。

飛龍「ねえ、これから話す事は誰にも言わないでよね」

北上「は、はい」

お酒が入っているとは思えないほどとても真剣な顔で確認とる飛龍さんについ緊張をしてしまう。

飛龍「一年前の、つまり私達が初めてアイツに会った時の話よ。

輸送大型船とその乗客乗員。そしてその護衛艦隊。それら全員が謎の深海棲艦に沈められ、私達がたどり着いた時には跡形もなかった。

記録上はそうなっている、あの時の。
875: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:45:42.93 ID:NvEJ31sT0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

知ってると思うけど私達は間に合ってたの。

いや、間に合ったとは言い難いかな。

着いた時には船は火災でドス黒い煙を吐いていて、護衛の艦娘達はその船より先に全員沈んでた。

深海棲艦は一体もいない。そう思って私達は船に近づいた。

そこで出会ったのよ。アイツに。

艦載機は出してた。でも黒い煙に隠れていたし、何よりあの状況で一体だけで残り船を破壊するでもなく溺れる人々を見て楽しんでるようなのがいるなんて想像もしてなかった。

予想外の邂逅。でもそれは向こうも同じだったみたい。

これほどまでに早く援軍が来るとは全く思ってなかったのよ。
876: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:46:25.51 ID:NvEJ31sT0
至近距離。私達にとってはね。

特に空母の私からすればスナイパー持ってるのに殴った方が早いみたいな距離よ。それほどの距離で私達とアイツは出会った。

お互い同様で一瞬動けなかったのを覚えるわ。

私達にとって幸運だったのはアイツが大きな損傷を抱えていた事ね。護衛艦隊は本当に優秀だったのよ。

レ級のダメージは控えめに見ても中破。だから私は勝てると踏んだ。提督も。

思っちゃったの。

空母1、重巡2、雷巡1、駆逐2。

手負い相手に至近距離。実際勝てる戦いだったわ。ただ状況と、相手が異質すぎた。

こっちが突っ込むなりアイツは下がったのよ。

船と人々の方へ。気持ちの悪い笑みを浮かべながら。

撃てるわけがない。私達は船や人々を救出するために来たんだもの。
877: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:47:04.05 ID:NvEJ31sT0
敵の異質な行動による動揺もあって皆どうしていいか分からなくなってた。後は一方的嬲られるだけよ。

こっちは撃てない。向こうは撃ち放題。良い的よ。

ただ私達にはまだ幸運があった。

船が爆発したの。どこかは分からないけど、突然それまでとは比べ物にならない量の煙を吐き出した。

それらは風に乗って私達全員を包み込んだ。

だから私達は突っ込んだ。砲撃じゃない。肉薄して直接ぶち込むために。

今思えば馬鹿よね。何も見えない中策もなしにただ突進する。感情だけで動いてたわ。

それに空母の私は外から見てるだけ。あれで誰か沈んでたらと思うと今でもゾッとする。
878: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:47:45.41 ID:NvEJ31sT0
飛龍「だから結局そこで何があったかはよく知らないのよ。

確かなのはレ級には逃げられた事と、

あそこで提督が、前の提督が死んだ事よ」

北上「…」

飛龍「って、あー前の提督の事とかって北上知ってるっけ?」

北上「うん、まあ」

飛龍「私もね、後から知ったの。あの船に乗ってたって。というか皆そう。日向も吹雪も、提督も」

北上「なんで船に?」

飛龍「海外に隠居してたんだって。んで、なんでかこっちに向かってる最中に運悪く、ね」

なら、だとしたら、間に合わなかったというのは、飛龍さんにとってそれは…
879: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:48:22.81 ID:NvEJ31sT0
飛龍「でさ、その時大井ちゃんの様子が変だったのよ」

北上「変?」

飛龍「多分、人間の死を見ちゃったからでしょうね。たまにいるのよ、そういうのに敏感な娘」

たまに、か。前にも聞いたっけ、艦娘は人とは違う。違うから人に感情移入しにくい。人の死を、人のように悼むことが出来ない。

飛龍「大井ちゃんにとってトラウマなのよ。きっとね。リベンジってのはそういう事、なんじゃないかな。まあ憶測なんだけどね?」

北上「うん、でもすごく参考になった。流石に本人に聞くのはちょっと気が引けるから…」

飛龍「デリケートなところだもんねえ」

北上「そうなるとやっぱり吹雪がなんであやふやな立場にいるのか分からないなぁ」

飛龍「私的には北上がなんで参加してるのかもかなり謎なんだけど」

北上「それは!そのぉ…。ん?」

飛龍「何何?話してくれちゃう?」

北上「あれ?飛龍さん、前任の提督の事私に話しちゃっていいんですか?」
880: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:48:56.48 ID:NvEJ31sT0
飛龍「え、まあ事実知ってる相手なら別にいっかなって。他の娘になら話さないわよ」

北上「いえ…そうじゃなくて」

飛龍「?何が?」

あれ?おかしくないか?

北上「だって、前任者について話さないって…」

谷風が言ってた。以前からこの鎮守府にいた皆は吹雪が言わない限りはそれについて口を閉ざしていると。

結果的に私は知ってしまっているからいいということなのか。

飛龍「あ~、あ?まあ迂闊に話すことじゃないけどさ。でも別に、聞かれれば答えるわよ」

北上「え」

飛龍「そもそも普通前の提督がいることなんて気にもとめないもんね。一応隠してはいるけど、知らないと嘘をつく事じゃないと思うし」

なんのことも無いという感じで話す。
881: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:49:31.01 ID:NvEJ31sT0
飛龍「それにさ、私としては少し、その事はむしろ知っていて欲しいなぁって。そう思ったりもするから…」

そう言って最後の一口を飲み干した。

北上「そう、ですか」

じゃあ何故だ。あのウミネコ。

何故隠すだけじゃなく嘘をついた。

協力すると言ったのに、どうして。

北上「はぁぁぁぁ。皆何考えてるのかサッパリだぁ」

飛龍「皆?皆ねぇ。そうね、きっと各々色んなこと考えてるんでしょうねえ」

北上「そりゃそうでしょうけどぉ」

飛龍「北上。明日は訓練お休みね」

北上「なんで!?」

飛龍「一回頭を冷やそ。お互いに、ね?」
882: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:50:01.63 ID:NvEJ31sT0
北上「頭を、冷やす」

視野を広く。

余裕を持って。

北上「お休みかあ」

何をしようか。

久々に球磨型皆で遊ぼうか。図書室も行こう。阿武隈でもいじりに行って、駆逐艦に絡まれるのも悪くない。

後は、後は…
883: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:50:49.76 ID:NvEJ31sT0
飛龍「あとこれ」ドンッ

北上「お酒?」

瓶1本。一升瓶って言うんだっけ。

飛龍「分からないことはね、お酒飲んで話し合えば解決するのよ!」

北上「酔ってますよね」

飛龍「よっれない!」

うわダメだこれ。だいぶまわってきてる。

北上「でも確かに話し合うのは大切だよね…」

飛龍「そうよ!私達がこの体で得た一番のポイントは言葉なんだから!」

北上「!」

言葉。なるほどその通りだ。

猫のままなら私は自分の気持ちを誰かに伝える事は出来なかっただろう。

言葉を理解していなかったらこれ程色々な感情を抱く事もなかった。

みんな私が北上になったからの物だ。
884: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:51:40.72 ID:NvEJ31sT0
飛龍「北上。私はね、日向も言ってたけどさ、復讐は何も得ることの出来ないものだと思ってる」

北上「ならどうして?」

飛龍「復讐したって私から失われた物は何一つ戻らない。でもね、やっぱりすごくスカッとすると思うの」

北上「スカッとって、そんな適当な」

飛龍「うん。すごく幼稚で安易な考え。でもそれが私の気持ち」

真っ直ぐで素直な気持ち。それが飛龍さんの動機か。

日向さんも飛龍さんも自分の信念がある。

私もはっきりさせなくちゃね。

北上「もっと話し合わなきゃ」

飛龍「おっいいねいいねぇ。ほら、一杯いっとく?」

北上「…一杯だけ」
885: ◆rbbm4ODkU. 2019/03/18(月) 04:52:20.48 ID:NvEJ31sT0


この後、疲れた体に覿面だったらしいアルコールによって気を失ったかのように机に突っ伏して寝てしまった私を飛龍さんが部屋まで運んでくれた事を朝起きて大井っちに聞いた。

893: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/04(木) 03:39:01.33 ID:n0Gr5d1d0
83匹目:猫の日常





それらは全てまるで夢のような体験で、

ふとすれば消えてしまいそうなほどフワフワとしたものだったけれど、

気がつけばハッキリと私の中に入り込んでいて、

でもそれはきっと周りではなく私がそこに入り込んでいたからで、

だから私にとって二度目の生である今は、確かに日常と呼べる程当たり前のものになっていた。
894: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/04(木) 03:39:40.97 ID:n0Gr5d1d0
神風「…」

北上「…」ジー

神風「…」ペラッ

北上「…」ジー

神風「…」

北上「…」ジー

神風「…」ペラッ

北上「…」チラッ

神風「…」ピタッ

北上「!」

神風「ヘクチッ」

北上「…」

神風「…」ペラッ
895: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/04(木) 03:40:54.75 ID:n0Gr5d1d0
図書室。図書館。なんであれ文字を読む、書く空間というのは独特の雰囲気がある。

本を読んでいるといつの間にか時間が過ぎ去っていて、

こうして読んでる人を後ろからこっそり覗き込んでいると時計の針の音がやけに時間の進みを遅くさせているような錯覚に陥る。

常に誰か他人がいてその他人と交わる事を前提とした設計となっている鎮守府だが、ここ図書室だけは例え他に誰がいようと個人の空間として機能する。

神風「…」ペラッ

北上「そいつが犯人だよ」
神風「ひゃあっ!?」ビクンッ

文字通り飛び上がる神風。うん、やはり楽しい娘だ。

神風「ききき北上さん!?いつの間に!?」

北上「さっきのまにまに」

神風「そんな神のまにまにみたいに言われても」

北上「神風だけに?」

神風「そんな事言ってません!」
896: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/04(木) 03:44:40.40 ID:n0Gr5d1d0
神風「…」

北上「…」

何処かポカンとした表情で私を見つめる神風。そして

神風「なんだか久しぶりですね」ニヘラ

北上「うん、そだね」

まるで喉をかかれている時の猫のような緩んだ表情に変わる。私も釣られて口元が緩んでしまった。

神風「一応この部屋の責任者なんですからね北上さん」

北上「え、そうなってたっけ?」

神風「なってますよ、もぉ」

北上「あはは、別に何も無いからいーじゃんか」

神風「そうじゃなくて…ねえ」ギュッ

北上「?」

手を握られた。恐る恐る。でも、しっかりと。

北上「なにさ?」

神風「なんだか最近忙しないですね」

北上「あーまあ色々あってさ」
897: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/04(木) 03:45:24.24 ID:n0Gr5d1d0
神風「そのまま」

北上「?」

神風「そのままどこかへ行ってしまいそうで」

北上「…私は猫タイプらしいもんね。きっと行きたいところに行くよ」

神風「茶化さないでください!」

北上「本心なんだけどなあ」

神風「だったら尚更ダメです」

北上「手厳しい」

神風「別に、別に何処へ行くのも北上さんの勝手ですけど、でもきっとここには帰ってきてくださいね」

北上「ホントにどっかへ行ったりはしないよ。ここが私の家だしね」

神風「きっと、きっとよ!」

北上「分かってるって」

神風「でも心配なのよ。世の中何が起こるか分からないもの」

北上「そうだね。本当に。事実は小説よりも奇なりとはよく言ったもんだよ」
898: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/04(木) 03:46:08.35 ID:n0Gr5d1d0
神風「私達の境遇もまるでお伽噺みたいなものですもんね」

北上「本にしたら売れるかな」

神風「軍事機密とかで捕まりそうですけどね」

北上「でもそうすれば記録には残るじゃん?」

神風「司令官が覚えてくれているなら問題ないわ」

北上「…」

その司令官がずっといてくれる保証はないと教えたら、どう反応するだろうか。

北上「ねえねえ、なにかオススメの本ない?アクション物がいいな」

神風「アクションですか。珍しいですね」

北上「ちょっと参考にね」

神風「何の参考になるんですか…」

北上「わかんないよ?世の中何が役に立つか」

神風「そうですねぇ、最近読んだのだと…あ、その前に」

北上「ん?」

神風「この人が犯人って、本当ですか?」

目が笑ってない。
899: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/04(木) 03:46:37.85 ID:n0Gr5d1d0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

夕張「カーンカーン、ハロー鎮守府」

明石「助手のヒートパイラーです」

夕張「え、そういう方向でいくの?」

明石「受けループ愛好家の方がよかった?」

夕張「じゃあそれで。えー運命力論者です」

明夕「「イエーイ(ヤッホー)」




北上「揃わないのかい」

明石「…」

夕張「…」

北上「グダグダすぎる…」
900: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/04(木) 03:47:17.28 ID:n0Gr5d1d0
久々の読書を堪能した後、工廠に来てみた。

ちなみに神風へのネタバレは勿論適当についた嘘である。とはいえその適当が当たってる可能性も無きにしも非ずなので後が怖い。

夕張「はい今日ご紹介するのはこれ!」バッ

北上「無理やり行くね」

明石「わお!小型の拳銃ですか?」

夕張「そう!かの有名なベレッタポケットをモデルにしたものよ!」

明石「有名だっけ?」

夕張「あれ、有名じゃなかったっけ?」

明石「正直ぱっと出てこない」

夕張「なんかスパイ物とかでよく出てこなかった?」

明石「普通のベレッタとかワルサーが目立ちすぎてる疑惑が」

夕張「なんてこった」

明石「そもそもこれ実在したんだっけ?」

夕張「…多分」

北上「打ち合わせとかないのこれ」

明石「ライブ感大事かなって」
901: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/04(木) 03:47:51.51 ID:n0Gr5d1d0
夕張「まあいいわ。私が今からでもこいつを有名にしてあげる!」

明石「頑張れー」

夕張「なんとこれ、驚きの」

明石「驚きのー」

夕張「ジャララララララ」

明石「…」

北上「…」

夕張「…」

明石「夕張巻舌ってできないんだっけ」

夕張「うるさいバカあ!」パン

明石「ちょお!!撃つのなし撃つのなあし!!」

北上「提督にバレるよー」

巻舌は私もできない。
902: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/04(木) 03:48:30.52 ID:n0Gr5d1d0
明石「ジャラrrrrrrrダン!」

夕張「実弾なのです!」

明石「おおー」

夕張「え?それって違法なんじゃ?と思ったそこのあなた!」

北上「今更でしょ」

明石「まあそうなんだけどねえ」

夕張「でもでも、これはなんと実弾であって実弾ではないのです!」

明石「つまりどういうことなんです!?」

夕張「なんと艦娘の弾薬とかいう謎成分から弾を精製するのです!」

明石「つまり!?」

夕張「法律上セーフ!」

明石「わお!」

北上「どの道銃の方はアウトでしょうが」
903: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/04(木) 03:49:12.06 ID:n0Gr5d1d0
北上「つまり装備だよね?」

明石「一応?」

夕張「分類は、機銃とかかな…」

北上「ちなみに威力は」

明石「普通の拳銃と同じくらい」

北上「つまり」

夕張「深海棲艦に対しては豆鉄砲」

北上「ダメだこれ」

明石「至近距離で装甲薄い所ならワンチャン…」

北上「まだ魚雷で殴った方がマシでしょそれ」
904: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/04(木) 03:49:47.38 ID:n0Gr5d1d0
明石「やっぱりヤマト砲作ろうよ」

夕張「宇宙戦艦の時代か~」

北上「でもそれで前に爆発事故起こしたんでしょ?」

明石「それは水に流しましょう」

夕張「船も水は流すしね」

北上「冷却水とかだっけ?」

明石「ほとぼりが冷めるまで待つ的な意味で」

夕張「うまい!」

明夕「「ワハハ」」

北上「なんかイラッとする」
905: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/04(木) 03:50:21.81 ID:n0Gr5d1d0
夕張「で、今日はなんか用?」

北上「あ、もう終わりなんだ」

明石「飽きた」

北上「身も蓋もない」

夕張「YouTuber目指そうかなって」

明石「まあ鎮守府内の映像とか勝手に流したらそくコレよコレ」クビチョンパ

夕張「私達の場合首より足とかなのかしら」

明石「雷撃処分じゃない?」

夕張「ヒエッ」

北上「相変わらず暇そうで安心したよ」

明石「チッチッチッ、実は最近真面目に忙しいのよこれが」

夕張「提督から装備の開発改修の注文が沢山来てるのよ」

北上「なのにそんなに遊んでていいの?」

明石「急に忙しくなったからどうしていいか分からなくなっちゃって」

夕張「とりあえず遊んでた」

北上「これはひどい」
906: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/04(木) 03:51:10.26 ID:n0Gr5d1d0
明石「今回は吹雪からも念を押されちゃってるのよ」

北上「吹雪が?」

夕張「無駄遣いとかなしで真面目にお願いしますね?って。可愛らしい頼み方だったけど顔は笑ってなかった」

北上「一番怖いやつだ」

明石「なんか最近提督と何か企ててるっぽいしね」

夕張「前みたいに自由にはできなさそうかなあ」

北上「それが普通なんだけどね」

明石「それじゃ仕事しますかあ」

夕張「とびきりイかしたの作るわよ!」
907: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/04(木) 03:52:00.71 ID:n0Gr5d1d0
久々に二人の職人顔を見た気がする。前に見たのは、改装した時かな。

北上「あ」

明石「どうしたの?」

北上「あのさ、前に私と大井っちが改装した時の事覚えてる?」

明石「そりゃもちろん。ついこの前だしね」

北上「あの時大井っちが何か聞きに来なかった?」

明石「えーっと、あーきたきた。なんか体調が優れないみたいな事言ってた」

北上「それで!それでなんて?」

明石「まあ改装すると身長とか身体の造りが少し変化したりするし、力加減も変わるから慣れれば平気よーって言ったくらいかな。後ほら、北上にも話したけど別の記憶が混じったりするよって話とか」

北上「あーそんな事言ってたような」

夕張「改装後のテンプレみたいなもんよ。よくある質問みたいなやつ」

明石「後、服装については諦めて、と」

北上「やっぱそこか」

夕張「ヘソ出しは慣れよ慣れ。別に艦娘だからお腹壊す事はないし」

明石「実際に臍出してるから説得力凄い」

夕張「えっへん」

明石「準備出来た?」

夕張「バッチグー」
908: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/04(木) 03:52:54.04 ID:n0Gr5d1d0
北上「それじゃ私はこれで」

夕張「また遊びに来てもいいのよ~」

明石「というか来て」

北上「口実にするつもりか」

せっかく二人が真面目に仕事をするというなら邪魔をするわけにもいくまい。

しばらくはそっとしておいてやろう。

日向「やあ」

北上「あれ、夕張達に用事?」

日向「まあな。サボっていたか?」

北上「サボってた。今はちゃんとやってる、と思う」

日向「そうか。なあに、やる時はやるやたらだ。きっと大丈夫だろう、多分」

全然大丈夫じゃなさそうな言いぶりだ。
909: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/04(木) 03:53:20.74 ID:n0Gr5d1d0
北上「ねえ日向さん。前の提督ってどんな人だったの?」

日向「ん?提督から聞いてなかったのか。そうだな、随分と思い切りのよい人だった。読書家でもあったが彼の場合勉強という側面が強かったらしい」

北上「ふーん」

日向「何故急に?」

北上「興味本位かな。でも随分あっさりと話してくれるのが意外だった」

日向「別に隠す事もないからな。吹聴する事でもないが」

やはり隠す気はなし、か。

日向「君は何処へ?」

北上「私は、ちょっと倉庫へ」

ポケットに入れた鍵を触る。

扉は壊れてもう無用の長物となったものだが、なんとなく必要な気がした。

前の提督の書庫。そこへ再び足を運んでみようと思った。
915: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/20(土) 04:48:18.93 ID:AncEZzLZ0
85匹目:猫と海猫








北上「相変わらず埃っぽい」

私以外訪れる者はいないであろう書庫はその静けさをしっかりと保っていた。

北上「本、好きだったんだなあ」

私がそうなのも飼い主に似たということなのだろうか。

それにまだハッキリとしていないことがある。

私の知ってる飼い主は麦畑の中にいた金髪のオッサンだ。

私の知らない飼い主は元提督で、提督の父親だ。

それにあの神社で見た黒髪のオッサンと金髪の女性。

未だにしっくりこない。

北上「日本人、なんだよね。英語の本ばっかりだけど」

提督に直接聞くのが早いんだろうけど、なんとなく憚られる。
916: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/20(土) 04:49:17.96 ID:AncEZzLZ0
床に座り目の前に並ぶ本を眺める。

そういえば前に提督と閉じ込められたっけ。

一緒に本を見て、膝枕をしてもらったり。

北上「…」ムズ

なんだか無性にこそばゆい。

楽しい思い出なのに妙に体が熱くなる。

北上「…」

姿勢を変えたりしてみたがどうにも変な感じが治まらない。

ノミでもいるのか?

北上「猫じゃあるまいし」

谷風「いやいや立派な猫じゃあないか」ヒョコ
北上「うわっ!」

谷風「やあやあ喜んでくれたようで何よりだ。谷風さん冥利に尽きるね」

北上「そのまま尽き果ててしまえ…」

ちくしょう腰が抜けた。

脅かされるって結構ビックリするもんだな。人の振り見て我が振り直せか。やめないけど。
917: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/20(土) 04:50:25.54 ID:AncEZzLZ0
北上「なんでまたここに」

谷風「丁度ここに入ってく君が見えてね」

北上「やっぱりストーカーなの」

谷風「それは買い被り過ぎだよ」

北上「褒めてはないから」

谷風「まあ私の好きなのはつけまわす事じゃなくてお喋りの方だからね」

北上「…ひよっとしてstalkingと掛けてる?」

谷風「おいおいジョークは説明したらおしまいじゃあないか」

北上「それじゃあオヤジギャグと変わんないよ」
918: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/20(土) 04:51:02.85 ID:AncEZzLZ0
谷風「よっこらせ」

私の向かい側に私と同じように本棚を背に座る谷風。

北上「今日は何を話してくれるの?」

谷風「そうだねえ。でももう私が話すような事もないんじゃないかな」

北上「いや、話してもらうよ」

谷風「?」

北上「なんで嘘なんてついたの」

谷風「…」

北上「私に協力すると言ってくれた。それは決して嘘じゃあなかったけど正しくもなかった」

前の提督の事を知っていた。知っていて黙っていた。いや知らないと、言えないと嘘をついた。

北上「どうして?」

別に怒ってるわけじゃない。

ただ不思議だった。
919: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/20(土) 04:51:48.00 ID:AncEZzLZ0
谷風「もうそんなに色々と知ってるのかい。吹雪かな?彼女も、なんだかよく分からないよね。いや逆か。私と同じで」

北上「同じ?吹雪と」

谷風「正直に答えよう。だから君にも応えて欲しい」

真っ直ぐ見つめてくるその目は、私と同じ人間の目だった。

谷風「本当に君は帰ってくる気があるのかい?」


北上「…」


谷風「谷風さんはね、寂しいんだ。君が何処かへ行ってしまいそうで。私には姉妹がいる、仲間がいる。でも君とのそれは唯一無二なんだ。

失いたくない。行って欲しくない。

だから隠した。ごめんね。それについては謝るよ。でもだからハッキリと言おう。

行かないでおくれよ」


北上「…」



谷風「いやもっとハッキリと言おう。帰ってこないよ、君は。そういう目をしてる」
920: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/20(土) 04:53:25.12 ID:AncEZzLZ0
北上「私にもわからないよ」

谷風「ならハッキリとさせるべきだ。それとも頭の中では分かっていつつも言葉にはしないようにしていたのかい?

なら私がしよう。

君は提督、君の言うところの飼い主の元へ行くつもりだ」

北上「…」

谷風「勿論それだけじゃあないだろうさ。ここに残りたい気持ちがまさかないとは思わないよ?

でもそれでも今のままなら君はきっと行ってしまう。そう断言しよう。この谷風さんが」

北上「…」

谷風「なんとなくそんな気はしてたんだ。話し相手が欲しい、そう言ったろ?私の願いはそれだけさ。

君を応援したい、協力したい。その気持ちは真実だよ。でもそれはそれだ。単純で複雑な話さ。君もそうだろ?それはそれとして、願いがある」

あぁ、そうか。そうだね。その通りだ。

ここは好きだ。でもそれ以上に私はあの人に会いたい。

でも、やっぱりなにか引っ掛る。

喉に魚の骨でも引っかかったような違和感が。

北上「まだ、まだ分からないよ。でも谷風の言ったことはその通りだ」

谷風「だろうね」ハハ

なんて事ない風に笑う。
921: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/20(土) 04:54:58.90 ID:AncEZzLZ0
谷風「私は寂しいんだ」

北上「気づかなかった」

谷風「君は一途だからね。いい事さ」

北上「ゴメンね。でも私はやっぱりまだわからないや」

谷風「いいよ。ハッキリとさせる気はあるんだろ?」

北上「うん」

谷風「ならいいよ。言ったろ?君に行って欲しくないのは確かだ。でもそれはそれとして君の願いが叶う事を、やっぱり望んでもいるんだ」

北上「ややこしいね」

谷風「ややこしいんだ。それが人だよ」

北上「艦娘でしょ?」

谷風「人さ。船も人も、海猫も猫も、人が想うから船であり人なんだ。人を想うなら、海猫も猫も人と変わらないんだ。

例えば君は私から見れば猫だ。

でも君の姉妹から見れば君は妹だったり姉だったりする。他にも友人や同士やら。提督から見れば、なんだろうね。

君にはそれだけの君がいるんだ。人は人でできている。君を見る人の数だけ君がいる。

皆提督一人しか知らないから勘違いしているんだよ。私達艦娘は、十二分に人だよ」
922: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/20(土) 04:56:24.36 ID:AncEZzLZ0
人。そんな話をまさか海猫からされるとはおもわなかった。

谷風「艦娘の中には様々な思いが宿っていると言うけど、それは人もそうだよ。矛盾した色々な自分を抱えて生きているのさ。

別にいいんだ。矛盾してたって、どれかを選ばなくたって。

でも選ばなくっちゃあいけない時がある。今がそれだよ。君は決めなくっちゃあならないんだよ」

北上「分かってるよ。それは分かってる」

谷風「それは重畳」

よく喋る口がようやく落ち着いた。

北上「色んな自分かあ。多分そうなんだろうね。私の中に私がよくわからない自分がいる。それが問題なんだ」

谷風「きっと大変だろうけど、大いに悩むといい。私達がこうして人だから出来ることだよ、それは」

人だから。そうなんだろう。あまり考えた事はなかったけれど、今の私の想いもこうしてこの体になれたからあるものだ。

猫の時にはこんなにもしっかりとした想いはなかっただろう。

でも

北上「ねえ谷風」

谷風「なんだい」

北上「自分はここに居るべきじゃない、と感じた事はある?」

谷風「そりゃまた、随分後ろ向きな考えだね」

北上「明石から聞いたんだ。艦娘は色々な人の魂で出来てる。そして時折その記憶やらが混ざる時があるって。だから私の猫の記憶は不純物なんじゃないかって。

だって猫の私がいるから北上は北上でなくなってる。たまたま混ざった私のせいでこんな事に巻き込まれて、私は随分我儘をしてるなって」
923: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/20(土) 04:57:08.97 ID:AncEZzLZ0
谷風「ふむ、そうだねえ。さっき私は艦娘も人も変わらないと言ったよね」

北上「まあ、そんな感じのことだったね」

谷風「実際のところ違いが一つある」

北上「それは?」

谷風「艦娘は人より人らしい」

北上「それはよく分からない」

谷風「例えるなら、そう、ニセモノなのに本物よりホンモノらしく見えるって話に近い」

北上「んーまだ分かんないや」

谷風「なら本で例えよう。とても有名な作家がいる。その人は独特な書き方の本を数冊出していて世界中で人気になった」

北上「実際に思い当たるものがあるね」
924: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/20(土) 04:58:05.70 ID:AncEZzLZ0
谷風「ところが次に出した本が売れなかった。次もその次も。何故かな」

北上「何故って、そんなヒントもなしに」

谷風「今出た情報の中にしか答えがないとしたら」

北上「独特な書き方が変わったとか?」

谷風「そう、変わった。最初の数冊はたまたまその書き方になっただけだった、という事にしよう。

さてその売れなくなった作家はショックで隠居した。ところがどういうわけか世間にその作家の復活作品として一冊の本が出回った。それも昔のような人気で」

北上「隠居したのに?」

谷風「隠居したのに。まして文章なんて庭先に貼ったペットの糞は持って帰れの張り紙を書いたのが最後なのにだ」

北上「その情報いらないでしょ絶対」

谷風「ジョークだよ。さてではその謎の本は何故売れたのかな」

北上「誰が書いたのか、とかじゃないんだね」

谷風「そこは誰でもいいんだ。谷風さんという事にしておくかい?」

北上「じゃあそうしよう贋作者め」
925: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/20(土) 04:59:01.59 ID:AncEZzLZ0
谷風「で、答えは?」

北上「独特な書き方を真似たから」

谷風「そう。それもこれ以上なくこってりと、昔よりもマシマシ濃いめにした。

結果世間はそれをホンモノにした」

北上「あー。本物よりホンモノらしく、か」

谷風「そういうことさ」

北上「でもそれが、艦娘は人より人らしいに繋がるの?」

谷風「人は人になろうとして人にはならないのさ。まっさらな赤ん坊として産まれて、色々な人を取り込んで自分ができるんだ。

艦娘もほぼそうだ。環境によって大きく変わる。でも一つ違いがあるよね」

北上「…まっさらじゃない」

谷風「そう。私達には元がある。大元が。谷風なら谷風が、北上なら北上が。そうあれかしと人々が望んだ、人となるための人となりがね」
926: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/20(土) 05:02:43.52 ID:AncEZzLZ0
確かにそうだ。私もあの鎮守府の北上も大小差異はあれど根本的には北上に違いない。

谷風「私達は最初から表面上だけ見栄えがいいようになってるのさ。でもやっぱり中身はからっぽ。そこから何を経験してどうなるかは艦娘それぞれだよ。

経験とは記憶だ。君や私の場合、前世の記憶がある、その経験によって皆とは少し違う価値観を持ってる。とまあ私はそう考えてるよ。あくまで谷風さんはね」

北上「経験かあ。言い得て妙だね」

でも全部納得は出来なかった。筋は通ってるようだし説得力もある。でも納得出来ない。

それは猫の時の私の気持ちや想いを捨ててしまうような気がしたから。

谷風「腑に落ちないって顔だね」

北上「そんなに顔に出てた?」

谷風「そりゃもうとびきり湿気た顔してたね。自分で焼いた秋刀魚を自分で食べてみた時の磯風みたいな顔だったよ」

北上「どんな顔だ」

想像に難くないけど。しかし姉妹の事を話す谷風を見て思った。

私も球磨型の皆の事を話す時こんな顔をしてるのだろうか。

きっとそうなのだろう。私はその時、確かに球磨型軽巡洋艦の三番艦、北上でいるのだろう。
927: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/20(土) 05:03:20.47 ID:AncEZzLZ0
北上「猫の私も今の私も、確かに私なんだけどね」

谷風「船だったという昔の私達も、この身にある沢山の魂とやらも、全部私達なんだよ」

北上「でも最近の私は、猫じゃなくて少し北上に近いかもしれない」

谷風「どうしてだい?」

北上「わかんない。わかんない私がいるから、そうなのかなって」

谷風「なるほど」

北上「谷風は今、どの谷風なの?」

谷風「私かい?そりゃあ勿論君の友人だよ。秘密の友達さ」

北上「読書仲間?」
928: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/20(土) 05:03:48.29 ID:AncEZzLZ0
谷風「読書かぁ。生憎と私ゃぁ本はあんまし読まないからねえ」

そう言いながら背もたれにしている本棚から無作為に本を一冊取り出す。

谷風「ん、これ読みかけかい?」

北上「読みかけ?」

谷風「栞が挟まってるから」

北上「どれどれ」

読みかけの本をここにしまった覚えはない。その本自体も私の知らないものだ。

谷風「ほらこれ」

北上「んー見たことない栞、栞?あー、ん?あっ!?」

谷風「ぉお?なんだい素っ頓狂な声上げて」
929: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/20(土) 05:04:41.85 ID:AncEZzLZ0
栞に書いてあった妙な模様、マークに見覚えがあった。

以前に提督とここに閉じ込められた時にも同じ栞を見たのだ。

いやそれよりも、

北上「ここって」

以前見た栞より随分状態が良いおかげが、下の方に文字が書いてあるのが分かる。

谷風「住所だね。えぇっと、ん、地名はここと同じか。艦だからね、地理はサッパリだけどそう遠くは無さそうだ」

北上「これには心当たりがある」

谷風「ほおほお」

北上「この前近くに古本屋を見つけたんだ」

谷風「近くにかあ。なるほど外には出てみるものだね」

北上「もしそこで買っていたなら、提督の事が聞けるかもしれない」

谷風「行くのかい?」

北上「当然」
930: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/20(土) 05:09:50.74 ID:AncEZzLZ0
谷風「なら私はここで祈っておこう。君にとって何かいい未来が待ってるようにさ」

北上「止めないの?」クスッ

祈る、という単語がおかしくて意地悪な質問をしてみる。

谷風「止めないよ。雛は一度巣立てば後は自分で飛びものだからね」

北上「そういうものなの?」

谷風「そういうものなのさ。寂しくても、見送らなくっちゃあね」

北上「そっか。なら、行ってくるよ」

谷風「その背中を追うことは出来ないけど、帰りはしっかり待っててあげるから安心して行ってくるといいよ」

北上「粋だねえ海猫さん」

谷風「行くのは君だよ猫さん」ニカッ

楽しそうに笑う海猫。前にもこんな会話をしたなあ。

谷風にとって大切な、唯一無二だというこの関係を、私は断つ事になるのかもしれない。

後ろ髪を引かれる思いだが、見送ってくれた友人のためにも淀みない足取りで壊れた扉から書庫を出た。
938: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/30(火) 23:34:29.34 ID:aDGpkj0q0
86匹目:猫目






提督「本屋?またか?」

北上「すぐそこだよ。歩いて20分くらい」

提督「いやな、例え一歩でも外出は外出になるわけでな」

吹雪「あーあそこですか」

提督「あれ、知ってんの?」

吹雪「ええまあ。いいんじゃないですか?近いし」

提督「いやだから近くても許可とか色々とな」

吹雪「いーじゃないですか近いし」

提督「そうは言ってもよ」

吹雪「別にそんなとこでいい子ちゃんぶる必要もないじゃないですか」

提督「…それもそうか」

吹雪「だしょ?」

提督「だな」

北上「…」

いいのか?ありがたいけどさ。
939: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/30(火) 23:34:58.82 ID:aDGpkj0q0
だいぶ寒くなってくる季節なので以前皆で買った洋服を着て鎮守府を出る。

北上「このオシャレさはド田舎には不釣り合いだよね」

そんな独り言をバス停近くの草むらに投げかけてみる。

ふと、もしかしたら彼も私のように艦娘になるなんて事があるのかもなんて思った。

そうしたら一体何を考えるのだろうか。

そんな益体もない事を想像しながらバイクで通った道を辿る。
940: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/30(火) 23:35:47.66 ID:aDGpkj0q0
北上「ここか」

古本屋というものがどういうものかは知っていた。と言っても本で読んだだけだが。

木造の古ぼけた店の中には人が歩けるギリギリまで本棚が並べられていて、そこには長い歴史を纏い変色した本達が所狭しと並んでいる。

うん、イメージ通りの店だここ。

開け放されている入口からそおっと店内に入る。

鎮守府の書庫と同じ匂いが一瞬にして私を包み込んだ。

いやあ、落ち着くなあこの感じ。
941: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/30(火) 23:37:36.16 ID:aDGpkj0q0
「いらっしゃい」
北上「!」ビクッ

奥から声がした。

思わずビクッとなったがよく考えればお店なのだから人がいるに決まってる。

少し入り組んだ棚を超えて店の奥を覗く。

奥の部屋は私の立っている所から床が一段高くなっていた。縁側みたいな作りなのかな?

その縁側に置かれたレジの奥にいかにもな老人が奥に座っていた。私の身長だとレジ台から老人の顔がギリギリ見える程度だ。

あ、いやレジじゃない。ただの机だ。レジがないぞここ。

老人「ほう。客人とは珍しい」

おっとここで艦娘と名乗るわけにゃいかない。聞かれたらお爺ちゃんのウチに遊びに来た孫という事にしよう。

北上「ちょっと聞きたい事があってさ」

老人「何かね」

北上「この栞ってここのモノであってる?」

例の栞を差し出す。

老人「んー?ちょっと待ってなさい」

奥に引っ込んでく老人。どうしたんだろ?
942: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/30(火) 23:39:04.09 ID:aDGpkj0q0
老人「待たせたな」メガネ

あーそういえば人間は歳をとると目が悪くなるんだっけ。

老人「どれどれ、ほほおまた懐かしい物を…」

北上「じゃあやっぱりこの栞って」

老人「ウチのだね。間違いないよ」

やはり、ならかつて提督はここに来ている。この人ならきっとその事を

老人「…お前さん、艦娘だね」

北上「…へ?え、え?いや、いやいやまさかそんな、私は、えーっとおじいちゃんの家にですね」

老人「隠さんでもいい。同じ匂いがするんだ。遠い海の匂いだ」

北上「遠い、海」

ゆっくりとメガネを取る。見えないはずのその目は、どこか遠く、遥か昔の事を思い出しているようだった。

老人「もう随分昔だよ。それを渡したのもね」

北上「その話、詳しく聞かせてもらっていい?」

老人「かまわんよ。お前さんの目には、見覚えがあるからな」

私の目?
943: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/30(火) 23:39:46.84 ID:aDGpkj0q0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

随分と、本当に随分と昔だ。30年、いや40年か?詳しくは覚えてないがね。

最初はただの客だった。

「これを」

たった一言ぶっきらぼうに男はそう言って英語の本を買っていった。

ボサボサの黒髪、雑に剃られた髭、やたらとデカくてガタイのいいやつだった。

それから男は何度か訪れた。その度英語の本を買っていってな。

そしてある日、とうとうまともな会話を男がふってきた。

「なあじいさん」

「もっとこう、読みやすい英語の本ってのはないか?」

読みやすいとはどういう意味か、イマイチ意図が読めんかったからそのまま聞き返した。すると

「だからこう、あれだ、英語があまり得意じゃなくても読めるような、そんなな」
944: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/30(火) 23:40:30.78 ID:aDGpkj0q0
男はどうやらあまり英語が堪能と言うわけじゃないらしかった。

以前買っていったのはそんなに難しかったのか、ワシも一々覚えてはいない。

確かに古めかしい英語だったりすれば読みにくかったりはするかと思い、最近のモノを探してやろうと思った。だが

「いや待ってくれ、やっぱりダメだ。あれだ、その、英語が読めなくても読めるような本ってないか?」

はあ?と思わず言ったのは覚えている。

聞けばその男英語を勉強しようと思い何を思ったかいきなり本物の英語に触れようと考えたらしい。

「いいのか?貰っても」

随分な阿呆だったが熱意は本物だと思いワシは辞書をくれてやった。

「…ならじいさん、俺の教師になるつもりはないか?」

そこまで面倒を見る気はなかった。
945: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/30(火) 23:42:54.68 ID:aDGpkj0q0
男はいつも突然ふらりと来た。次の日にも来たり一ヶ月来なかったりと規則性はなかった。

決まって午後、お昼をいくらかすぎた頃に来た。

良く喋るやつで、ワシもそれは嫌いじゃなかった。

辞書を渡してから一月経った頃だ。あの娘が現れたのは。

「だからな、俺は英語をマスターしてやりたい事はただ一つ。異国の美少女とお近づきになる!それだけだ」

「くだらなくはないだろう。モテるためになにかするのは男のサガってやつだ」

「海?ああそうだ、今は海を自由に行き来できない。英語以前の問題だ。だからこそ俺は提k「あーー!!!」うわっ!?」

心臓が止まるかと思った。

しっとりとした空気の漂うこの古びた家を吹っ飛ばさんばかりの高い声が突き抜けて行った。

「吹雪!?お前なんでここに!」

「こっちのセリフですよもお!司令官こそ勝手に出かけたと思ったらなんでこんなところに」

大男とは対象的な華奢な少女だった。見たことない学生服を着ていたな。

「よく分かったな」

「外に行ったようだという目撃情報があったので周りを探索してたら声が聞こえたんですよ。たまぁに突然いなくなるから心配してたんですよ?」

甲高いとは違う響きの良い活発な声と太く低くしかし通りの良い声とが部屋を行き交う。

「いやぁちょいと野暮用でな」
946: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/30(火) 23:43:54.71 ID:aDGpkj0q0
「外出時は外出許可とか必要なんですよ?」

「この位の距離なら別にいいだろ」

「良くないです。ルールなんですから」

「ほほぉルールねぇ」ニヤリ

「な、なんですかその嫌な笑は」

「そうだなその通りだとも。一般人に知られたりしないよう外出時は気を使わなきゃだしな」

「そうですよ。特に司令官は私達艦娘より大切な存在なんですから」

「ありがたい心遣いだなあ。なあじいさん?」

意地の悪い笑みを浮かべてワシに話しかけてきた。

「?」

どういう意味がわからなかったのか一瞬の沈黙の後、背伸びをした少女の顔が台の上から覗いた。

今ちょうどお前さんが立っとる位置だな。
947: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/30(火) 23:44:40.18 ID:aDGpkj0q0
ワシからも見えなかったように少女からもワシの姿は見えなかったらしい。

「あわわわわわ」

海より青ざめた顔で口をパクパクさせておった。

「いやぁお前司令官とか艦娘とか色々口走ってたよなあ」

今思えばあやつ吹雪が来る前に提督と言いかけておったな。

「どどどどうしましょう司令官!!」

「えー俺が知るかよ」

「け、消しますか…それしか…」

「…お前ホントに優等生なのか?なあ?」

それがあの鎮守府の提督と吹雪との初めての出会いだった。

「そんなわけでな、俺はあそこで提督をやってる者だ。ほれお前も挨拶しろ」

「え、えぇ!?挨拶なんてそんな呑気な!!」

「いーじゃねえか。変に隠すより仲良くしておいた方がいいだろこういうのは」

「うぅ…はじめまして、吹雪です…」

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
948: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/30(火) 23:45:34.18 ID:aDGpkj0q0
老人「あれから二人とは長い付き合いだ。もっとも吹雪は提督を連れ戻す以外で来る事はなかったがね」

北上「へぇ。吹雪がねえ」

今の吹雪は提督の姉のような振る舞いだが、提督の父親に対しては妹のような感じだ。

振り回されている吹雪というのはなんとも新鮮味がある。

老人「それから何年後だったかな、本当に異国の美少女を妻として連れてきたのは」

北上「え、ホントに連れてきたの?英語役にたったんだね」

老人「いや、英語はとうとうまともに喋れなかったよ」

北上「勉強してたのに?」

老人「本ばかり読むだけで喋れるわけないだろう。ワシだって真面目に教えちゃいなかったしな。殆ど駄弁っていただけだ」

北上「えぇ…」
949: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/30(火) 23:46:24.66 ID:aDGpkj0q0
老人「なんでも海外での大規模作戦中助けた女に戦場のど真ん中で告白したらしい」

北上「英語話せなかったのに?」

老人「本で読んだキザな告白セリフをそのまま使ったらしい」

北上「うわぁ」

老人「しかも女の方は日本語が話せてな。そんな男が面白くて恩返しにと付き合ってそのまま、だそうだ」

北上「ドラマチック、なのかなあ」

老人「幸せそうだったからな。当人達は満足だっんだろう」

北上「…ねえ、その女の人って金髪だったりする?」

老人「おう。スラリと背の高い金髪の女だ」

じゃきっとあの神社で見た二人組がそうなんだ。きっと、かつての夫婦なんだ。
950: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/30(火) 23:47:20.97 ID:aDGpkj0q0
老人「結婚してから何度か二人でここに来た。提督のやつはここで英語を習ったから出会えたんだと誇らしげにしていたよ」

北上「実際そう言っても間違いではないでしょ」

老人「どうだかな。どうあれ二人は出会っていたようにも思えるがね。英語の方は女と出会ってから随分と上達したよ。やはり生きた言葉に触れるのは大切な事だ。昔はイニシャルすら書けなかったというのに」

北上「イニシャルが書けないってどういうことさ」

老人「逆にしちまうんだよ。日本式で苗字、名前の順にな」

北上「ブフッ」

老人「ん?」

北上「い、いや、なんでもない…」

そ、そんなオチか…以前に書庫で見たイニシャルが提督とは違ったからと思っていたが…確かに逆にすると提督と同じ苗字だ。

老人「吹雪も二人の護衛だと毎回着いてきてな。その度に親子みたいだとからかったもんだ」

からかわれる吹雪…うーん気になる。
951: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/30(火) 23:47:53.75 ID:aDGpkj0q0
老人「とはいえそういつまでもここに来るわけはない。女の方は鎮守府とは違うところに住むと言っていた。ここいらは不便だし当然だな。二人とは、それっきりだ」

北上「寂しくはなかったの?」

老人「寂しくはないさ。ただ少しその時は騒がしかっただけだ」

それっきり、という事はこの人知らないのか。

二人がもう死んでいる事を。

老人「その栞は二人に餞別代わりに渡したモノだ。実はその場で適当に作ったモノなんだがな」

北上「あのさ、ちょっと言い難いんだけど」

老人「なんだ」

北上「その二人、なんだけどさ」

老人「あぁ、死んだらしいな」

北上「え?なんで知ってるの!?」

老人「言ったろ、二人とはそれっきりだと。吹雪はその後一度だけ、ここに来た」
952: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/30(火) 23:48:24.26 ID:aDGpkj0q0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

数年前だ。

ある日突然店にやって来た。

いつの間にか背伸びをしなくてもギリギリ顔が見えるようになっていたよ。

ポツリと、二人が死んだとだけ伝えて来た。

提督はついこの間、女の方は数年前に、と。

驚いたさ。だがそれより目の前のあの娘の方が気になった。

吹けば飛んでいってしまうような、触れれば消えてしまいそうな、なんというか凄く危うく見えた。

だから聞いたんだ。泣いてないのか、と。

驚いた顔をされた。そしてこの台の影にしゃがみ込んで嗚咽を上げ始めた。

しばらくずっとそうしていた。
953: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/30(火) 23:49:02.14 ID:aDGpkj0q0
「もう行きます。多分、もうここには来ないと思います」

「何故だ」

「ここにいると、いや。あなたに会うとまた泣いてしまいそうなので」

「泣いちゃダメなのか」

「泣いてる余裕なんてないですから」

「そうか」

「はい」

「なら泣きたくなったらまた来い。どうせ客なんて滅多に来ない」

「…はい」

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
954: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/30(火) 23:51:54.86 ID:aDGpkj0q0
老人「よくわからんやつだったよ、それも、それっきりだがな」

北上「そっか」

なんとなくわかる気がする。

鎮守府もあの書庫も、吹雪にとっての提督との思い出の場所は色々あるはずだ。

でもそれらで感傷に浸るようには思えない。

吹雪にとってこの人は数少ない一人だったんだ。

提督以外の自分を知る人間。

そして今は唯一の。

日向さんの話はやはり正しいのかもしれない。

私達にとって親しい人間とは自身を作る核のようなものなのかもしれない。

提督を失った。核を失った。それでも任された鎮守府を守るために必死になっていた吹雪。

以前とは全然違う自分で新しい提督と新しい鎮守府を支えて。

そんな吹雪の昔が唯一残るっている核が、この人なんだろう。
955: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/30(火) 23:52:36.41 ID:aDGpkj0q0
北上「ありがと、話してくれて」

老人「気をつけろよ」

北上「?」

老人「吹雪と同じ目をしている。またぞろ碌でもない事を考えてる目だ」

碌でもない事、は確かにそうだ。復讐、だもんね。

でも吹雪と一緒とはどういうことだ。

老人「わからんのならいいさ。お前さんが提督とどういう関係なのかは知らないが、気をつけろよ」

北上「うん、ありがとね」
956: ◆rbbm4ODkU. 2019/04/30(火) 23:56:12.23 ID:aDGpkj0q0
北上「吹雪の今の立ち振る舞いって前の提督そのまんまなんだなあ」

本人は意図してやっているのだろうか?

まあそれはいい。

もう頃合だろう。

ここに行くと言ったのにまた吹雪は止めなかった。

何を考えているんだアイツ。

ここらで一度、しっかりと向き合わなきゃ。

私ももう先延ばしてばかりはいられないんだ。
957: ◆rbbm4ODkU. 2019/05/01(水) 00:00:00.51 ID:wd7BZiP40
艦娘って目上の人や関係者以外に敬語使うって意識がなさそうだなって。

祝艦これ六周年。平成中に言えたからセーフセーフです。
しかしこれ一年半も書いているんですね…四周年になる私の艦これ人生のうち半分をSSに注ぎ込むとは…
もう少しで終わる予定ですので、続きは次スレで、書くよ書くよ
961: ◆rbbm4ODkU. 2019/05/16(木) 04:34:24.81 ID:co/3lF0I0

北上「私は黒猫だ」


書くんだよ艦これSSを!!

二年もやってるんだからこの先十年だってやって行ける。
962: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 12:48:03.23 ID:psR+sBLS0
よく言った
ただ埋めるにはちょっと多いぞ
小ネタか春イベブログでも書いてくれw
965: ◆rbbm4ODkU. 2019/05/28(火) 04:23:22.82 ID:82eRS9qA0
小話:猫と手袋





猫に限らず主に四足歩行の生き物で足のところだけ体と色が違ったりするとまるで靴下のようだともてはやされる。

私には残念ながらなかった。

これ以外にもハートマークやら国や地域の形やらと人は模様を様々な何かに似ていると騒ぐ。

つまりは親バカ、飼い主バカということなのだろう。
966: ◆rbbm4ODkU. 2019/05/28(火) 04:23:52.93 ID:82eRS9qA0
北上「谷風、というか駆逐艦って手袋してる子が多いよね」

谷風「そーだねぇ。でも他の艦種でもつけている人は多いじゃないか。単純に駆逐艦は数が多いだけさ」

北上「それもそうか」

谷風「どうして急に手袋を?」

北上「谷風の見てたら気になってさ」

谷風「何を今更。会う度に見ているじゃないさ」

北上「だからこそだよ。だって手袋って出撃とかでもないのに付けるもんじゃないでしょ」

谷風「言われてみればその通りだけど、そうさねえ。意識した事はなかったけどもうすっかり付けてない方が違和感になってるのは否めないねえ」

北上「邪魔じゃない?」

谷風「こうして屋上に登ったり屋根を伝ったりする時には便利なのさっ」ドヤァ

盗み見盗み聞きはこの手袋に支えられていたのか。

ドヤ顔する事じゃない。
967: ◆rbbm4ODkU. 2019/05/28(火) 04:26:09.41 ID:82eRS9qA0
谷風「そもそも船には手がない。私だってそうさ。羽だったからね。だからか君とは手に対する考え方に差異があるのかもしれないね」

北上「確かに、私は元々素っ裸が普通だったからね。何かを身に付ける事が違和感なのかも」

谷風「元々手がない私達は自分の手が覆われていたり、極端な話手がなくても違和感を覚えないかもしれないわけだ。

うむこうして考えると何やら薄ら寒い話じゃあないか」

北上「手かあ。最も私だって正確には前足なわけだけど」

谷風「艦娘は沢山の人間とその思いの集合体だとか言うけれど、もしそうならこうして一つの意思で何かを掴み取れるというのは極々自然なようで極まりきった奇跡なのかもしれないね」

そう言って掌を太陽に翳す。

白い手袋から伸びる腕はまるで猫のように細い。

谷風「まーっかぁにぃ流~れる~僕のちぃしぃお~ってなっ」

北上「…みんなみんな生きている、か」

谷風「一度や二度死んでいても、今こうして生きている事に変わりはないってこった」

北上「生きてる。そうだね。生きてるから、寒いね」

季節は冬である。

谷風「かぁーなっさけないねえ!よし早く中入ろう!」

北上「寒いんじゃん」
970: ◆rbbm4ODkU. 2019/06/04(火) 04:33:49.22 ID:1U7uDXwJ0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

多摩「手?」

球磨「なんだクマ?急に」

北上「なんとなぁくね」

多摩「まあ便利なもんにゃ。こうしてみかんを剥いて食べれるからにゃ」

球磨「多摩は一々白いの外すのが好きだクマ」

多摩「だってこれサバサバするにゃ。いらないにゃ」

北上「コタツでミカンはこの体のおかげだねえ」

球磨「掴むってのは確かに便利クマ」

木曾「セミも捕まえられしな」

球磨「ぅ…あれは忘れろクマ」

5人も集まるとコタツはすぐ暖まる。
971: ◆rbbm4ODkU. 2019/06/04(火) 04:34:22.81 ID:1U7uDXwJ0
北上「木曾はやっぱ剣振れるから?」

木曾「そうだな。艦ってのは言っちまえば足だ。究極的には移動手段でしかない。だからこの手は俺達が艦でなく人である確かな理由だ。大事な事だよ」

北上「カッコイイもんね」

木曾「う、うん…」

そこで恥ずかしがるなよ。

北上「大井っちはどう?」

大井「私ですか?そうですねえ」

ギュッと、コタツの中で大井っちが私の手を握る。

指と指が絡み合う感覚は肉球のある体では感じ取れない暖かさがあった。

大井「こうしてまた離れないように出来るのはこの身体だからこそですね」

北上「ふふ、そだね」

多摩「おうおうお熱いにゃあ」

木曾「実際暑くないかこれ?」

球磨「温度下げるクマ?」

北上「え~丁度良くない?」
972: ◆rbbm4ODkU. 2019/06/04(火) 04:35:10.82 ID:1U7uDXwJ0
球磨「球磨はどっちでもいいクマ」

多摩「下げるにゃ」

木曾「下げよう」

球磨「下げる派二」

北上「反た~い」

大井「なら私も」

多摩「ならとか言うなら無投票にしろにゃあ」

球磨「二対二だクマ」

木曾「仕方ない。せっかく手があるんだ」

多摩「手っ取り早くいくにゃ」

北上「勝者がルールね」

大井「いいでしょう」

「「「「じゃ~んけ~ん」」」」
975: ◆rbbm4ODkU. 2019/06/19(水) 03:27:50.71 ID:EliH773c0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

提督「で、勝ったはいいけど結局暑くて抜けてきたと」

北上「コタツは温度調整が難しい」

提督「おいおい」

いつも通り部屋のソファに寝転がる。

机に向かいなにかしている提督と仰向けで寝転がる私。

声だけが行き交う会話だけれど、不思議と落ち着く。

北上「この部屋暖房完璧過ぎない?一応節電なんでしょ?」

提督「そこは、ほら。お前ら温度変化には強いじゃん?」

北上「うわ職権乱用かまさか」

提督「待て待て、俺が風邪とか引いたら大変じゃん?ヤバいじゃん?予防大事じゃん?」

北上「吹雪でいいじゃん?」

提督「刺さるわー冬の海風より刺さるわー」
976: ◆rbbm4ODkU. 2019/06/19(水) 03:28:19.01 ID:EliH773c0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

北上「手ってどう思う?」

提督「て、手?ハンド?」

北上「そそ」

提督「急に言われてもなぁ。あ、インクうつっちった」

北上「船って手がないじゃん。でも私達はあるから、なんかこう面白いなあって」

提督「ほぉ…」

沈黙。

考えているのだろうか。

不意に提督が席を立つ音がする。

椅子をしまいこちらに向かってくる。

私が猫なら耳がぴくぴくと動いていたことだろう。
977: ◆rbbm4ODkU. 2019/06/19(水) 03:28:47.91 ID:EliH773c0
仰向けで天井をボケっと見上げていた私の視界に突然提督の手が入る。

顔の方に伸ばされたその手に反射的に目を瞑る。

するとその手はゆっくりと私の前髪をサラサラと撫で、そのまま頭の上にゆきやさしく、それこそ猫を撫でるかのようにゆっくりと動かされた。

北上「…なに?」

提督「知ってるか?世の中にゃ色んな生き物がいて様々なスキンシップを取ってるけど、こうしてただ撫でるって行為をするのは人間だけらしいぜ」

北上「へぇ。それは知らなかった」

ゆっくりとではあるがしかし提督のガサツな撫で方は大井っちに編み込まれた髪型を崩してしまいそうなものだったけれど、

なんだか昔からずっとこの手に触れられていたような気持ちになって、とても、とても心地よかった。

北上「夕飯までそれお願い」

提督「バカ言うな」

なんて言いつつ私が寝るまでずっとそうしていてくれたようだった。
981: ◆rbbm4ODkU. 2019/07/08(月) 04:55:47.81 ID:YX4H6MyE0
またギリギリだった!
三点セットはしっかり第一だったのですがいやはや…
E4は基地航空隊に全部持ってかれました。
最終海域はまた以前のように御札なしの殴り合いとか来て欲しいですね。丙の好きな艦隊で蹂躙も好きですが

次スレ:

北上「私は黒猫だ」【前編】


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