- 361: 2017/08/22(火) 02:50:41.93 ID:NYcp8k3K0
- 28匹目:ナマズ
鯰。漢字で書けないし読めない。
英語でキャットフィッシュと言うらしい。
理由はヒゲが猫っぽいから。
学者のネーミングセンスは何故こうも適当なのか。
便宜上だしわかりやすけりゃいいというならまあ分からなくもないが、いやそもそもわかりやすいかね?
- 362: 2017/08/22(火) 02:51:15.25 ID:NYcp8k3K0
- そこへいくと「艦娘」という名前も随分適当じゃあないか。
船で、女の子で、じゃあ艦娘って。
実際わかりやすいのは確かだ。
それしか形容しようがないのも確かだ。
それしか分かってないのも、確かだ。
そう、結局何もわかってない。
ならば、例えば私や谷風のような存在は、案外それほど特殊ではないのかもしれない。 - 363: 2017/08/22(火) 02:51:47.47 ID:NYcp8k3K0
- 英霊とか船の擬人化だとか言われてるけれど、私達の中に何があるのかなんて私達自身わからないのだ。
私達は、何であっても不思議ではない。
つまり、
北上「私はナメクジかもしれない」
阿武隈「…なんですか急に」
北上「いやさ、汗がこうツーっと流れる度にそこから溶けだしそうな感覚なんだよ」
阿武隈「ナメクジが塩で溶けるって迷信らしいですよ」
北上「えぇ!嘘ぉ!」
阿武隈「ウソです」
北上「うわぁ、悪い子だ」 - 364: 2017/08/22(火) 02:52:22.97 ID:NYcp8k3K0
- 阿武隈「少しは疑ってくださいよ」
北上「ここは戦場じゃないし、疑う意味もないも~ん」
阿武隈「そんな大げさな…」
阿武隈。ちょっと不思議な縁がある娘。
何やら艦の記憶からか妙に私に警戒心を示していたのだが、いかんせん私がそっちの意識が薄いために完全に無視していたのだ。
そしたらなんか寄ってきた。向こうから。
「こっちはこれだけ意識してるのにズルイです!」というのが向こうの言い分だったが、いやなんとも理不尽な。 - 365: 2017/08/22(火) 02:52:54.68 ID:NYcp8k3K0
- そんなわけでこうして私が部屋に1人の時に遊びに来たりしているのだ。
1人の時を狙うのは恥ずかしいからだとか。よくわからぬ。
そう、よく分からないのだ。だからまあ奇縁というべきだと思う。
北上「阿武隈は暑くないの?」
阿武隈「暑いと言えば暑いですけど、汗ばむほどでは」
北上「そりゃ羨ましいや」
阿武隈「あれ?あそこの本って」
北上「夕張に借りたラノベ。知ってるの?」
阿武隈「はい!駆逐艦達の間でも流行ってるんですよ、私もすっかりハマっちゃって!」
北上「あーボリューム下げて下げて」
阿武隈「あぁすいません…」 - 366: 2017/08/22(火) 02:53:36.87 ID:NYcp8k3K0
- 耳の近くで大声を出されれば猫でなくとも驚く。
そう。奇妙と言えば今現在こうしている関係こそ奇妙だ。
自分の部屋で、阿武隈に膝枕されているこの状況が。
阿武隈「読んでもいいですか?」
北上「ラノベってのも便宜上のテキトーな分類だし、合う合わないはあると思うよ」
阿武隈「だから読んでみるんです」
北上「うむ、いい心がけだ」
阿武隈「あ、でも届かないです」
北上「…私は少しでも動いたら溶けるよぉ」
阿武隈「溶けろぉ」
北上「ぐえー」ゴロン - 367: 2017/08/22(火) 02:54:15.67 ID:NYcp8k3K0
- 膝枕転げ落ちる。
体制が変わった事で服が汗により身体にひっつく。
うえー気持ち悪い。
北上「チーズ蒸しパンになりたい」
仰向けで呟く。
阿武隈「どこのゴリラですか」
北上「あれ、知ってるんだ」
阿武隈「私的には北上さんが知ってる方が驚きです」
北上「夕張の英才教育の賜物かな」
阿武隈「まあ、教育ではあるかもしれないですね」 - 368: 2017/08/22(火) 02:54:56.30 ID:NYcp8k3K0
- 北上「漫画って凄いよね。文章なら原稿用紙一枚分くらいの情報でも一ページ、一コマで表したりできるし」
阿武隈「確かにそう考えるとなんだか凄いですね」
北上「表現方法が違うとはいえ、あれだけの情報をばっと読むってのはなんかクセになる面白さがあったよ」
阿武隈「漫画は気軽に早く読めますからね。遠征組に流行ったのも休憩時間に読みやすいって事がおおきいでしょう」
北上「そうそう、速いんだもん。夕張にとりあえず有名所は読んどけーって貸してもらったけど、サクッと読み終わっちゃった」
阿武隈「あの人の部屋漫画も本もすごい数ですよね」
北上「貴重な人材だから給料いいんだって」 - 369: 2017/08/22(火) 02:55:29.29 ID:NYcp8k3K0
- 阿武隈「あ、私これ好きかもです」
北上「マジ?推理ものだよ?」
阿武隈「推理小説は苦手ですけど、これは好きです」
北上「あー江戸川乱歩よりなところがいいのかな」
阿武隈「エドガー?」
北上「…おぅ…」
怪人二十面相って言った方がわかりやすいのかな?
いやそこまで説明する気もないしいいや。 - 370: 2017/08/22(火) 02:56:31.31 ID:NYcp8k3K0
- 阿武隈「お邪魔しま~す」
北上「ぐえ」
北上「え、なにしてんの」
阿武隈「さっきは私が膝枕したので今度は北上さんがお願いします」
北上「えー対価を要求するんかい。しかもそこは膝じゃなくてお腹だよ」
仰向けに寝た状況でお腹に頭を載せられると結構苦しい。
というか私はそもそも膝枕を頼んだ覚えはない。
「私は暑くてだるいのでこれから寝る。なので貴様にかまう暇はない」「なら私が膝枕をします」みたいな流れだったはずだ。
- 371: 2017/08/22(火) 02:57:03.26 ID:NYcp8k3K0
- 阿武隈「じゃあ膝に移ります」
北上「若干負担はあるけど、まあいいや」
阿武隈「ところでここって膝じゃなくて太ももですよね。太もも枕ですよね」
北上「よく考えたら膝枕って痛そうだね。硬いところじゃん、凶器じゃん」
阿武隈「テキトーな名前ですね」
北上「便宜上、というかこの場合は語感のよさかな」
阿武隈「…膝ってどこまでが膝なんでしょう」
北上「んー、膝に手を置いて、包める範囲くらいが膝なんじゃない?」 - 372: 2017/08/22(火) 02:58:48.82 ID:NYcp8k3K0
- 顔を起こし自分の膝を見る。
あ、阿武隈の頭が邪魔で見えないや。
ランニングにスパッツというこの季節の鎮守府においてそれほど珍しくないラフな格好。
その割に髪はしっかりセットしているようだ。
阿武隈「あの、なんですか?」
北上「いやさ、髪のセットとか大変そうだなーって」
鮮やかな色をしたそれを手で梳くように触る。
阿武隈「そうですけど、こうしないと暑いんですよ」
北上「テキトーにまとめてもいいんじゃないの?」
阿武隈「そこは、ほら、おしゃれと言いますか…」
その服装で何をいまさら、とは言わない。 - 373: 2017/08/22(火) 03:01:06.63 ID:NYcp8k3K0
- 阿武隈「北上さんこそ、いつもしっかり三つ編みじゃないですか」
北上「大井っちがやってくれるからね~。それにさ、ポニテって楽だけどこうして仰向けに寝れなかったりでめんどうなんだよ」
阿武隈「あーわかります」
北上「本音を言うと単発にしたいところだけどね」
阿武隈「そのぉ…前髪!私の前髪とか、どう思います?」
北上「前髪?さあ、普通じゃない?」
阿武隈「デスヨネー」
北上「?」
ポニテって横向きになら寝れるけど向きを変えようとする度に頭を持ち上げなきゃいけないし、
壁や大きい背もたれなんかに結び目が当たったりと地味に不便だ。
まあ動く人専用だね。
ちなみに三つ編みはやって見ると結構簡単だ。編み込みとかどーとかになるとまた別だが。 - 374: 2017/08/22(火) 03:02:18.39 ID:NYcp8k3K0
- 目を閉じる。
眠い訳じゃないが、なんとなく光を見てるより涼しいかもと思っただけだ。
張り付く服と時折流れる汗。扇風機の風で揺れる阿武隈の髪が太ももを撫でる。
暑い時は寝て過ごしたいのに暑いから寝れないというジレンマ。辛い。
北上「アブぅ」
阿武隈「なんですかその呼び方」
北上「隈までいう気力ない」
阿武隈「んー、名前はちゃんと呼んでください!」
北上「漢字で阿武隈って書けるから許して~」
阿武隈「ほんとですかぁ?」
北上「お、挑発的だねえ。薔薇も憂鬱も書けるよ~私」
多摩姉と木曾を間違えたことはあるが。 - 375: 2017/08/22(火) 03:02:44.99 ID:NYcp8k3K0
- 北上「いやそれはどうでも良くてさ」
阿武隈「よくないですよぉ…」
北上「なんで敬語なのさ」
阿武隈「エッ、それはその、なんか、ハズカシイノデ…」
よくわからん。何か船の記憶に関わる事だろうか。
ま、いっか。
- 376: 2017/08/22(火) 03:03:31.39 ID:NYcp8k3K0
- たまにはこうしてのんびりするだけも悪くない。
こうして1日が平和に、
北上「終わらないや」
阿武隈「?」
部屋の戸が開いた。
大井「き~たか~みさあぁぁあぁぁぁ!!」
阿武隈「きゃぁぁぁぁぁ!!」
うるさい。予め耳を塞いでおいたが特に阿武隈のガラスとか割れそうは声が響く。
大井「なんでそんなうらや、羨ましい事を!!」
阿武隈「いやっ、そのっ、これはっ、き、北上さんは渡しません!!」
北上「えっ、そっち?」 - 377: 2017/08/22(火) 03:04:02.59 ID:NYcp8k3K0
-
あー騒がしい。それはいいんだけど部屋を暑くされるのは困る。
北上「はいはいちゅ~も~く。私から折衷案がありま~す」
- 378: 2017/08/22(火) 03:07:12.36 ID:NYcp8k3K0
- 球磨「何してる?」
大阿「「膝枕です」」
正しくは、大井っちが私に膝枕してる、で阿武隈が私に膝枕されてる、だ。
もっと正確に言うと大井っちが座ってそこに私が膝枕で仰向けに寝て、私の膝、もとい太ももに阿武隈が寝ている。
何の解決にもなってないはずだが2人は満足そうなのでいいだろう。
球磨「何も聞かない方がいい?」
北上「うん」
球磨「さいで」
この後帰ってきた多摩姉は何も聞かずに、言葉で表せないような表情をしつつも無視してくれた。
いい姉妹だねえ。 - 379: 2017/08/22(火) 03:07:58.20 ID:NYcp8k3K0
- 姉妹。姉妹艦。
それも、便宜上の、設定のようなものじゃないのかね。
私達の関係は、なんと言えばいいのだろう。
閑話休題
この日を境に、阿武隈が私1人じゃなくても遊びに来るようになった。 - 383: 2017/08/24(木) 02:29:51.30 ID:pnLQo3rC0
- 30匹目:ネコゼミ
そんな蝉はいない。
でもさ、球磨ゼミがいるなら例えば多摩ゼミとか木曾ゼミなんかもいていいんじゃないか、なんて。
現実的な話猫っぽい鳴き声の蝉がいたら絶対ネコゼミだったよね。
ちなみにクマゼミは見た目が熊っぽいかららしい。
どこがよ… - 384: 2017/08/24(木) 02:30:29.97 ID:pnLQo3rC0
- 北上「夏の始まりを知らせ、終わりを告げる使者が蝉なわけだけどさ」
木曾「そんな仰々しい存在だったか?あいつら」
北上「その役目を終えてるにも関わらずクソ暑い中暑苦しい鳴き声を昼夜問わず振りまくのはどうかと思うんだよ」
木曾「言わんとする事は分からんでもないけど、とんでもなく理不尽な理不尽な理屈だな」
北上「自覚はしてる」
木曾「なおタチが悪い」
- 385: 2017/08/24(木) 02:31:08.76 ID:pnLQo3rC0
- 北上「まるで恋愛みたいじゃないか。出会いと別れは刺激的なのに、その中間はどうにも中だるみしちゃう」
木曾「した事も無いのにそう賢しら顔で語られるとなんか嫌な感じだな」
北上「燃えるような恋がしたい」
木曾「暑いのは嫌なんだろ?それはともかく、蝉だって種を残すために必死なんだぜ。それこそ燃えるような恋だ。見守ってやれよ」
北上「そう言えばアイツらリア充目指してるんだよね。くそう全滅しちゃえ」
木曾「これは酷い嫉妬」 - 386: 2017/08/24(木) 02:31:41.94 ID:pnLQo3rC0
- 北上「だってさ、自分の恋愛のために他人にこれだけ迷惑かけてるんだよ?大問題でしょ」
木曾「物は言いようだな。そりゃあまあうるさいかもしれんが、短い命なんだぜ。少しばかり輝かせてやれよ」
北上「じゃあさ、子供のために必死に食料を運ぶ蚊に対して同じ事言える?」
木曾「…」
北上「…」
木曾「無理」
北上「うん」 - 387: 2017/08/24(木) 02:32:22.11 ID:pnLQo3rC0
- 北上「あーまた蝉の声が近づいてきたぁ…」
木曾「…なんかやけに近いというか、響いてる?」
北上「あれ?なんか窓と逆から聞こえてない?」
木曾「段々こっちに「多摩ぁ!」うわっ!」
蝉「ツクツクホーシwwツクツクホーシww」
球磨「あれぇ!?いない?なら北上!木曾!見るクマ!」
蝉「ツクツクホーシwwツクツクホーシww」
木曾「見るまでもねえ!なんだそりゃあ!」
蝉「ツクツクホーシwwツクツクホーシww」
球磨「蝉クマ!」
蝉「ツクツクホーシwwツクツクホーシww」
木曾「んなこた知ってるよ!なんで蝉を手に持って部屋に来たんだよ!」
蝉「ツクツクホーシwwツクツクホーシwwアアアアアア…↓」 - 388: 2017/08/24(木) 02:32:55.54 ID:pnLQo3rC0
- 球磨「クマゼミなるものがいると聞いたクマ!きっとこいつがそうクマぁ!」
蝉「ツクツクホーシwwツクツクホーシww」
木曾「んなわきゃねえだろ!そいつは!はぁ…あー!ド忘れした!」
蝉「ツクツクウィーヨンwwウィーヨンww」
球磨「蝉クマぁ!」
木曾「それは知ってるわ!」
蝉「ウィーヨンwwウィーヨンwwww」
球磨「クマゼミぃ!」
木曾「上手くねえ!」
蝉「ウィーーーwwwアアアアアアアアア…↓」 - 389: 2017/08/24(木) 02:34:56.56 ID:pnLQo3rC0
- 木曾「だあぁもう!上姉!」
北上「?」
蝉「…」
木曾「1人だけ耳を塞ぐなよ…事態の収集に努めてくれ頼むから…」
北上「ツクツクボウシ」
木曾「あ、そういやそのまんまな名前だったな」
球磨「えー球磨にはチクチクボーンに聞こえるクマ」
木曾「いやそこはこだわるところじゃ…というかどこを見てクマゼミだと思ったんだよ」
球磨「色気」
木曾「色じゃないのか」
北上「ねえ」
木曾「ん?」
北上「くるよ」ミミセン
木曾「く「ツクツクホーシwwwツクツクホーシww」」 - 390: 2017/08/24(木) 02:35:41.64 ID:pnLQo3rC0
- 球磨「よし!こいつがツクツクボウシかどうか提督に聞きに行くクマぁ!」
蝉「ツクツクホーシwwツクツクホーシww」
木曾「はあ!?それ持って提督室に行く気か!」
球磨「さらばぁ!」
蝉「ウィーーーーwww」
木曾「あ、嵐だった…」
北上「ご愁傷さま」
木曾「上姉ぇ…」
北上「あはは、悪かったって。でもありゃほっとくしかないよ。それこそ嵐が過ぎるまで」
木曾「まあなぁ…」 - 391: 2017/08/24(木) 02:36:17.59 ID:pnLQo3rC0
- バリィン!ウィゥィーー…
北上「ん?ガラスの割る音、と蝉が逃げる声」
木曾「うえー、か。提督室かな」
北上「爆撃とかじゃ無さそうだね」
木曾「球磨姉がうるさすぎて窓から投げられたとか」
北上「あー吹雪いるしありえるねぇ」
テイトクガー ウワナンヤ!? テイトクガーオチター
北上「…」
木曾「…」
北上「え提督の方?」
木曾「マジか」 - 392: 2017/08/24(木) 02:36:46.31 ID:pnLQo3rC0
- 医務室、なんてものはないので提督室に色々と道具が持ち込まれた。
このベットもそうらしい。
提督「俺さ、虫ダメなんだわ」
ベットに体を横たえる提督。
北上「いやだからって窓破って飛び出すかね」
吹雪「ちなみに今のツッコミは北上さんで53人目です」
ちゃっかり提督の椅子に座ってリンゴを剥く秘書艦。
北上「ずっと数えてたの?」
吹雪「秘書艦的にここを離れられませんからね。必然的にみなのお見舞いを見守る事になるんです」
提督「同じやりとりを今日で何回したか」 - 393: 2017/08/24(木) 02:37:37.58 ID:pnLQo3rC0
- 北上「で怪我は?」
提督「左足くじいただけ」
北上「それだけ?」
確かに。ベットに寝ている提督には包帯ぐるぐる巻の左足以外目立ったものはない。
吹雪「下に丁度龍驤さんがいまして、大怪我を防ぐくらいにはクッションになったみたいなんです」
提督「弾力性はなかったけどな。残念ながぐへっ」ブスッ
北上「お~」
割れた窓から飛んできた矢が見事に頭に突き刺さった。
吹雪「おーこれは初めてのパターン」
提督「…あいつ矢なんて使わなくね?」
吹雪「一芸に秀でるものは万芸に秀でるんですよ。陰陽師スタイルが一番得意なだけで弓が不得意なわけじゃないんですよ」
北上「へーすごいねそりゃ」
吹雪「空母の中じゃ最古参ですからね」 - 394: 2017/08/24(木) 02:38:10.91 ID:pnLQo3rC0
- 提督「まあそれはいいや。なんか食べていくか北上?みんなやたらとお見舞いの品を持ってきて困ってんだ」
北上「いやぁ私がそれ貰っちゃ悪いでしょ」
提督「なんか流れでこうしてベットにいるけど別に絶対安静じゃねえんだよ俺。歩きにくいだけなんだよ。見舞いを貰っても困る」
北上「あーね…」
矢もそうだがこの人頑丈過ぎる。普段から魚雷やら爆撃やらで鍛えられてると違うね。
吹雪「いいんですか~、他の子にはそんな誘いしなかったのに」
提督「いいんだよ。球磨がアレ持ってきた経緯も知りたいし」
吹雪「さいで。ではこちらをどうぞ」
北上「おー、カワイイ」
吹雪「自信作です」フンス
差し出されてお皿には綺麗なうさぎリンゴが並んでいた。 - 395: 2017/08/24(木) 02:39:56.43 ID:pnLQo3rC0
- 北上「これもお見舞いの品?」
吹雪「はい。小腹が空いたので頂いちゃおうと」
ナイフ1本で器用なものだ。
爪楊枝を掴んで口に入れる。
北上「うむ、おいしい」
吹雪「美味しいうちに食べちゃってください」
提督「え、俺には?」
吹雪「あ、そうでした。よし。ほれ」
果物ナイフの先端に無残にも突き刺さったウサギが提督の前に差し出される。
提督「…おい」
吹雪「三回回ってワンは残念ながら無理そうなので三回腹筋してキャイン!で許してあげます」
提督「さらに難題を!?」
北上「…あむ」
美味い。
ちなみに提督は三回腹筋まではやった。
リンゴは吹雪が頂いた。 - 401: 2017/08/26(土) 02:18:52.20 ID:NbWdTm+I0
- 提督「なるほどね、そんな経緯で」
北上「いや~止める暇もなくってさ」
提督「別にいいよ。誰が悪いってわけでもないし。でも球磨にはよく言っといてくれ」
北上「今頃摩姉ちゃんが言ってるよ」
吹雪「虫嫌いの情けない男がイタズラに騒ぎを大きくしただけですしね」シャリシャリ
提督「ぐっ…まあそうなんだけど…」
北上「…虫ダメなんだ」
提督「ダメ、マジ無理」
北上「どのくらいダメなの?」
提督「…それなりに」
吹雪「あっ、提督!枕元にクモが!」
提督「オビョワウ!!」ビクン
吹雪「このくらいです」
提督「シニタイ」
北上「うん、仕方ないよ。今のは私もビックリするよ」ヨシヨシ
吹雪「オビょワウって言います?」
北上「…」ヨシヨシ
提督「優しさが辛い」
- 402: 2017/08/26(土) 02:19:47.36 ID:NbWdTm+I0
- 提督「俺もさ、カブトムシとかカマキリとかはかっこいいと思うさ。いや触れないけどね」
北上「そりゃゴキブリとかなら分かるけどさ、セミって割と虫としてはセーフって方じゃない?カブトムシに近いし」
提督「いやカブトムシはそれこそ甲に覆われてるからいいけど、セミってなんか虫虫さがもろじゃん割と」
北上「んー、まあ言わんとする事は分からなくもない、かな?」
吹雪「あ、司令官。トンボなんかはどうですか?」
提督「あー指に止まるくらいがギリだな」
北上「線引き細かいね」 - 403: 2017/08/26(土) 02:20:30.60 ID:NbWdTm+I0
- 提督「さてと、そろそろベットもやめるか。どうもこれ以上は見舞いも来なさそうだし」
吹雪「えーもちょっと寝ててくださいよ~」
提督「いやだって仕事溜まっちゃお前の負担も増えるだろ?」
吹雪「いやなんで私が提督の仕事手伝う前提なんですか」
提督「いやいや前提だろお前秘書艦だろ」
吹雪「いやいや私はこの鎮守府のこの艦隊のリーダーとしての仕事はしますけど司令官の仕事なんて知りませんよ」
提督「え?」
吹雪「え?」
北上「おー」
雲行きが怪しいぞ。 - 404: 2017/08/26(土) 02:21:12.96 ID:NbWdTm+I0
- 吹雪「そりゃあ司令官が仕事が終わらず残業なんてなったら皆に示しがつかないので手伝いますよ」
提督「うわグサッとくる。凄い切れ味」
吹雪「でも手をつけてない仕事がいくら増えようと知りません。むしろ楽なのでそこで寝ててください」
北上「でも溜まったら結局吹雪も手伝うハメになるんでしょ?」
吹雪「司令官療養中につきっていっていくつか海にでも捨てりゃいいんですよ!」
北上「うわー」
提督「前に貯めた時は艦隊運用は全部吹雪で俺は朝から晩まで机に磔にされたよ」
北上「うわぁ…でもそれは提督が悪い」 - 405: 2017/08/26(土) 02:21:52.83 ID:NbWdTm+I0
- 吹雪「さてと。司令官、私工房に松生杖貰ってきますね。もう出来てると思うんで」
提督「妙な機能付いてたら排除しといてくれよ」
吹雪「命に関わるようなら」
提督「ギリギリのラインを攻めんじゃねえよ!」
パタム、行っちゃった。
北上「相変わらずだねえあの子。凄く有能なのに」
提督「さっきも言ってたけど、あいつがやってんのは鎮守府の運営だ。俺の手伝いなんて事のついでだよ」
北上「提督いらない説」
提督「そんなっ!事は無い」
なぜ詰まった。 - 406: 2017/08/26(土) 02:22:39.53 ID:NbWdTm+I0
- 提督「実際あいつの方が艦隊運営は上手いんだよ。遠征に任務に警備、資材資金のやりくりまで」
北上「殆どじゃん」
提督「そこは、ほら、年機の違いだよ。経験経験。あいつもう50年は艦娘やってんだから」
北上「ごーじゅう?50…提督そんな歳とってたっけ?」
提督「なんでまず俺の年齢なんだよ。俺は2代目だ。この鎮守府のな」
北上「へー、2代目。じゃ吹雪はそっちの初期艦だったのかな」
提督「当たり。だからアレだ、前のご主人様を忘れられずなかなか懐いてくれないペットって感じdグエッ」
飛んできたのは松葉杖(ジェット付き)。
しかし一向に学習しないね…やはり無能なのでは? - 407: 2017/08/26(土) 02:23:29.26 ID:NbWdTm+I0
- 吹雪「スミマセンコロビマシター」
提督「五月雨かお前は!つかジェット!ジェットって!危ねぇのはやめろつったろ!」
吹雪「さみちゃんを悪く言うなー!いやーバイブ付きのと二択だったので」
提督「バイブ付きでいいじゃん!」
吹雪「えぇ…」ドンビキ
提督「いや欲しいって意味じゃねえよ!」
やれやれ。このまま二人の兄弟喧嘩に付き合っててもしょうがない。
北上「んじゃ提督お大事に~」
提督「おうありがとな、だあっ!ジェットを突きつけるな!」
いいねぇ、気の置けない仲っ言うのかな。
ちょっとだけ、羨ましい。 - 408: 2017/08/26(土) 02:24:18.20 ID:NbWdTm+I0
- 北上「あり?」
提督室を出てしばらくすると、急に声が聞こえなくなった。
提督ってば意識でも飛ばされたかね。
面白い絵面を期待して猫足でそろりと扉前に戻ってみる。
おや?少し声が聞こえるな。
今やピクリとも動かない耳を扉に押し当てる。 - 409: 2017/08/26(土) 02:26:09.68 ID:NbWdTm+I0
- 「以上がこの前の資料を合わせた調査報告です」
「で、どう思う」
「無計画なようで周期的。無意味なようで戦略的。まあ充分考えられる話です。愚かなら今の海軍相手にここまで生き残ることは無理でしょう」
「同感だ」
「で、どうします?」
「俺はやる」
「私はやりません。と言っても、他の娘はやるんでしょうね。だから止めませんよ、前に言ったじゃないですか」
バッと扉から身を離し部屋に向かう。
なんかあれ以上聞くとやばそうな気がした。具体的に言うとお前は知りすぎたとかで殺されそうな気が。
しかしあの2人一体どういう関係なんだろうか。
考えるとなんかモヤモヤするのでセミの声で思考をかき消していく。 - 415: 2017/09/03(日) 03:02:48.04 ID:gRCyU1r30
- 31匹目:猫の歯に蚤
猫が歯で蚤を取ろうとしてもなかなか上手くいかない、という事から、不確実な事、めったに上手くいかないこと、まぐれ当たりの事を指す。
しかしいくら猫でも繰り返していけば上手くなるものだ。
いつまでも無様な醜態を晒しているわけにもいくまい。 - 416: 2017/09/03(日) 03:03:21.03 ID:gRCyU1r30
- 北上「いやー緊張するねこりゃ」
大井「すぐに終わりますよ。初めは体の感覚に違和感を覚えますけれど、じきに慣れます」
北上「おぉ流石に経験者の余裕だね」
工房前。
お互い練度は十分。
改造の日だった。 - 417: 2017/09/03(日) 03:04:04.11 ID:gRCyU1r30
- 提督室にて、
提督「色々と予定にズレはあったが、まご苦労さん。北上は改で晴れて雷巡、大井は改二でパワーアップだ」
北上「うんうん。いいねぇ痺れるねぇ」
大井「ハァァァァァ…ついにこの日が…」
提督「まだ納得してなかったのかよ」
大井「当たり前でしょ!って、まあいいです…北上さんの晴れ舞台を邪魔する気はありませんから」
ダシに使われた。
提督「いいじゃねえか強くなるんだし」
大井「私はあんな露出の多い服を着るキャラじゃありません」
提督「えーカワイイじゃん」
大井「提督の好みなんて知りません!」
素直に喜べばいいのにねぇ。 - 418: 2017/09/03(日) 03:04:45.78 ID:gRCyU1r30
- まあそんなこんなで工房へやって来たわけだ。
夕張「ハローハローお待ちしておりました~」
大井「なんですかのそカッコ…」
北上「闇医者の世話になる気は無いよ」
夕張「お、分かってるぅ!ブラックジャックと迷ったんだけどアッチはベタすぎるし用意が面倒なのよね~」
北上「普通に迎えりゃいいじゃん」
夕張「つまらないじゃん」
そう言いながら頭に嵌めた茶色の紙袋を取る。流石にあの高身長を再現はできなかったようだ。 - 419: 2017/09/03(日) 03:05:28.15 ID:gRCyU1r30
- 夕張「あ、先に言っとくけど結構、いやかなーりあっさり終わるからそんなに構えなくてもいいわよ」
北上「え、ほんと?」
大井「はい。5分くらいで」
ウソだろ!
夕張「殆ど妖精さん任せですからねえ。ひみつ道具でいう小人ばこね。寝てたら終わるわよ」
北上「小人?」
大井「ばこ?」
内容から察するに「小人の靴屋」の小人か?
夕張「次はドラえもんね…」 - 420: 2017/09/03(日) 03:05:59.94 ID:gRCyU1r30
- 夕張「そうそう、そこに座って。あと詳しくは言えないけど目は開けない方がいいと思う」
北上「なにそれこわい」
大井「体に不可はかからないので昼寝でもする感じにリラックスで大丈夫ですよ」
北上「そぉ?」
散髪とかの感覚だろうか。もっとも本や漫画で得た知識なので実際に理髪店に行ったことなどないのだが。
夕張「はいはーい、目ぇつぶってー。では妖精さんよろしくぅ」
何かが、始まった。 - 421: 2017/09/03(日) 03:06:42.39 ID:gRCyU1r30
- 不思議な感覚だった。
自分で自分を見つめているような、自分で自分を触っているような、自分で自分を包み込んでいるような。
あらゆる「自分」を認識する刺激を脳が感じているにも関わらず、同じくらい自分が触れているという感覚がある。
触れているのが自分なのか、触れられているのが自分なのか。
それはさておき何だか妙に気持ちいい。
昼寝、とはいかないまでも脳以外の体の機能を切り離し、リラックスしてみる。
- 422: 2017/09/03(日) 03:07:14.00 ID:gRCyU1r30
- さてお立会い。衝撃の真実。
私には生前兄弟、兄妹?姉妹、まあ家族のような者がいたらしい。
者というか猫。
はてさてそれは一体誰なのか!
北上(まあ多摩姉ちゃんだよね)
ウミネコさんの言う事を全面的に正しいと仮定すれば。
思えばこれでもかと伏線は貼られていたように思う。
これで多摩姉ちゃんじゃないのならばそれはいささかミスリードが過ぎるというものだ。 - 423: 2017/09/03(日) 03:07:40.80 ID:gRCyU1r30
- 推理小説をいくつか読んだ事がある人には分かると思う。
意外な犯人。奇をてらったトリック。思わぬ真相。そういうのを見たくて本を読む。
でも本当にそうだろうか。
例えば、吹雪の山荘に6人。
被害者1人、探偵1人、容疑者4人。
でもある程度推理小説に触れた事があるなら、当然読み手からしたら容疑者は六人全員だ。
実は殺害されたと思ってた彼女が犯人でした。なんと探偵こそが犯人だった。
それは意外で奇っ怪なオチだし読み手としても満足だが、思わぬ真相ではない。
なんだかんだで読み手は最初の段階で無意識にそれらも犯人たり得ると考えるものだ。
故に本当の意味で予想外な犯人なんてそうそういない。
ある程度決められたルールの範囲内でトリックを組みミスリードを誘う。
ここで実は山の幽霊の仕業でしたって言われても萎えるだけだ。
それで面白いのもあるけどね? - 424: 2017/09/03(日) 03:08:12.71 ID:gRCyU1r30
- えーっと、だからつまり何が言いたいんだっけ。
夕張「わっ!」
北上「うわっ!?」
夕張「ありゃ、ホントに寝てた?改造終わりでーす」
北上「え、もう?」
あっという間だ。
大井「北上さん北上さん!どうどうどうですかこの衣装!」
北上「おーー、お?」
大井っちの改二衣装。白い、白くて、
北上「エロいね」
夕張「エロいですね」
大井「はぁぁぁぁぁ……」
隅っこでいじけだした。
北上「ゴメンゴメン冗談だって~」 - 425: 2017/09/03(日) 03:08:50.01 ID:gRCyU1r30
- 北上「先制雷撃ねえ」
夕張「習うより慣れろ、ね」
北上「大体は分かるよ。よく大井っちの見てたし」
大井「いやん北上さんいつもそんなに私のこと見ていてくれたんですか~」
北上「うんうん見てた見てた」
夕張「慣れてるわね~。というわけでこちらが甲標的よ。使ってみる?」
北上「いいの?」
大井「提督から、というか吹雪から許可が降りてるわ。なので!一緒に練習しま「あ~大井さんはこの後近代化改修なので工房で待機です」あ゛?」
夕張「いやいや、あ゛、じゃないですよ…」
大井「チッ…まあ仕方ないわ」 - 426: 2017/09/03(日) 03:09:29.00 ID:gRCyU1r30
- 夕張「それじゃ北上さんは向こうでアブちゃんと「はあ!?」何ですか!今度は何なんですか!?」
大井「今阿武隈って言いましたよね!なんで私じゃなくてあの娘なんですか!」
北上「そういや阿武隈も雷撃出来るんだっけ」
夕張「そりゃあできるできないで言えばお二人共同じですけど、練度が違うじゃないですか…」
大井「ぐっ…」
大井っちは練度50。
阿武隈はたしか80以上だとか。
大井「すぐに、すぐに、抜いてやるわ…」
怪しげなオーラを出しながら工房に戻っていく大井っち。
夕張「ちなみにこれが提督の狙いです」
北上「マジで?」
夕張「多分」
北上「多分かぁ」 - 427: 2017/09/03(日) 03:10:00.63 ID:gRCyU1r30
- 提督「改造、改二おめでとぉおう!!」パァン
北上「お、おう」
大井「はぁ…」
夜。風呂に入ってご飯も食べた後。提督室に呼ばれた。
前に言ってたお祝いだろうとは分かってたけど、まさかこんなテンションでクラッカーまで鳴らされるとは思わなんだ。
大井「はいはい、今度はどんなお酒ですか」
北上「大井っち冷静だねぇ」
大井「前にも一度あったので」
前にも、つまり大井っちが改造で雷巡になった時か。 - 428: 2017/09/03(日) 03:10:30.08 ID:gRCyU1r30
- 提督「今回のは取っておきだぞ。ほれ」
机の上にどんと置かれた一升瓶は、前に私が見たものとは異なっていた。
北上「それって?」
大井「魔王?」
提督「芋焼酎ってやつだ」
北上「変えたの?」
提督「サプライズになったろ?」
なったけど、それじゃ飲めるか確認した意味ないんじゃ…
大井「それで、どうして今回は芋焼酎を?」
提督「二人にぴったりだと思ってな」
大井「え?」
何故に芋。 - 429: 2017/09/03(日) 03:10:58.58 ID:gRCyU1r30
- 提督「よしみんな、グラスは持ったか?」
大井「あらおいしい。いい意味で芋焼酎って感じがしないわね」
提督「はえーよ!飲むのはえーよ!」
北上「生か~、流石大井っち。私ゃお湯割りかねぇ」
大井「北上さんなら4:6位で丁度いいと思います」
北上「そお?」
提督「えーい勝手に飲め飲め、おら乾杯」
大井「乾杯」
北上「かんぱ~い」 - 430: 2017/09/03(日) 03:11:26.29 ID:gRCyU1r30
- 北上「あっ、意外と美味しい」
提督「意外とってなんだ意外とって」
大井「聞かない名前ですけど、何処でこれを?」
提督「ここに来る前にいた鎮守府の近くにな、いや近くってほどじゃないけど。そこの地元の人から送ってもらったんだよ」
北上「へ~、意外な人脈が。というか提督ってほかの鎮守府に居たんだ」
提督「おうよ。2代目にして二つ目の鎮守府さ」
大井「私はこの鎮守府で生まれたので、提督の以前を知らないんですよね」
北上「ほほう。こりゃいい肴になりそうだね」
提督「そんなに気になるか?」 - 431: 2017/09/03(日) 03:11:55.13 ID:gRCyU1r30
- 北上「そりゃその若さで鎮守府移転って珍しい事じゃん?」
大井「一体どんな問題起こしたんですか…?」
提督「何もしてねえよ。ここの前任者が引退した、それだけだよ」
大井「引退、ですか。珍しいですね」
提督「全くだ」
北上「…提督飲まないの?」
提督「俺これ苦手だわ」
北大「「えぇ…」」
子供か。 - 432: 2017/09/03(日) 03:12:27.92 ID:gRCyU1r30
- お酒って、なぜ飲むのだろう。
酔う酔わないで言えば私は強いほうだ。
でもあんな苦い、というかなんというか。妙な刺激だけのわけわからん飲み物をわざわざ飲もうとは思わない。
大井「ほ~ら、まだありますよぉ~」
提督「バッカおめぇ入れ過ぎだよそりゃよ。割れ割れお湯だお湯」
大井「こんなものお茶ですよお茶あ!」グビ
提督「バッカおめぇバッカお酒はそんな楽しみ方するもんじゃねえんだよ」クイッ
顔真っ赤で底なしの笑顔を浮かべる大井っちと、少し体制がふらつき呂律も回らない提督。
完全に出来上がってる。
北上「元気だね」ボソッ
お湯割りに少し口をつける。 - 433: 2017/09/03(日) 03:13:05.30 ID:gRCyU1r30
- 北上「ついて行かなくてよかったの?」
大井「アレくらいの酔いなら1人で用くらいたせますよぉ。というか、なんで私がついて行かにゃならないんですかあの人に」
北上「それもそうだね~」
提督室で2人っきり。
しかしあの人ねぇ。いつもと違って随分柔らかい言い方をするじゃあないさ。
大井「ふぅ…」
北上「…」
またか。
改造してから何故か唐突に溜息をつき悲しげな表情をする時がちらほら。
まさかそこまで服の事を気にしてるのか? - 434: 2017/09/03(日) 03:14:49.82 ID:gRCyU1r30
- 北上「そういや大井っち、夕飯前にどこ行ってたの?」
大井「ああ、えと。明石さんのところへ」
北上「…服は変えられないと思うよ」
大井「へ?…ああ、そうですよね…北上さんこそ。雷撃訓練はどうでしたあ?」
北上「良かったって。目がいいからね私。あとは慣れって言われたよ」
提督「ただいま諸君!」ガチャ
北上「お~おかえうわっ提督!下下!」
提督「どうしたぁ北上!」
幸いにもフルチンじゃなかったが、パンツ一丁とは…
大井「提督」
提督「なんだぁ!」
大井「お酒に、強くなりましょう」
提督「よしこいぃ!」 - 435: 2017/09/03(日) 03:17:56.14 ID:gRCyU1r30
- 大井っちの特訓によりぶっ潰れた提督をベットに放って私達は部屋に戻った。
大井「いいんですか?提督を介抱しなくて」
なぜ私に聞くのか。
あ、そうか。私をダシに自分も介抱するつもりか。
別に残ってもいいのにさ。
でも、まあ。
北上「いいよいいよ。戻ろ」
なんとなく、阻止してみる。邪魔してみる。なんとなく。 - 436: 2017/09/03(日) 03:18:29.81 ID:gRCyU1r30
- 部屋までの道のりはなんだかいつもより遠く感じられる。
大井っちは全然平気そうだけど、私はちょっとふらつく。
大井「大丈夫ですか?」
そう言って肩を持つ大井っちはすごく嬉しそうだ。なんというか勝ち誇った感じの笑顔。
北上「ただま~」
流石にみんな寝てるか。
寝支度は終わってるし私達もさっさと寝よう。 - 437: 2017/09/03(日) 03:19:07.68 ID:gRCyU1r30
- 多摩「おかえりにゃ」
大井「多摩姉さん。起きてたんですか」
いつも思うけどこういう時のひそひそ声って寝てても普通に聞こえる音量よね。
多摩「今起きたにゃ。多摩は耳がいいにゃ」
北上「そっか」
耳がいい、ね。
多摩「どうせ酒臭いんだろうにゃ。端で寝るにゃ」
北上「分かってるよ」
大井「ヨシッ」
端、ではなく私の隣という事実に食いつく大井っち。 - 438: 2017/09/03(日) 03:19:33.99 ID:gRCyU1r30
- 大井「おやすみなさい」
北上「おやすみ~」
多摩「おやすみにゃ」
聞けばいい、聞けばいいんだ。
ひょっとして生前猫だったりしない?なんて。
でも、なんだろうね。
ちょっと怖い。
とはいえいつまでも放置しておくわけにもいくまい。
少し、歩き出さないと。 - 444: 2017/09/04(月) 03:28:29.66 ID:ZEMrep6Q0
- 天気、曇り。
この時期には珍しく気温は30度を下回っているらしい。
誰も通らない道路を1人で歩く。
左手には海。右手には草木が。
心地よい風が頬を撫でる。
過ごしやすいのは私だけじゃないのか、蝉たちの声もいつもより元気なように思える。
北上「あ」
と、思わず声が漏れた。
私の視線は、道路の脇に横たわっているそれに釘付けになる。
見てはいけないものを見てしまったような。何か見慣れたものを見たような。不思議な感覚を覚える。
蝉の声が一瞬、止まった気がした。 - 445: 2017/09/04(月) 03:29:06.96 ID:ZEMrep6Q0
- 腕時計を見る。
予定の時間まであと10分。提督が貸してくれたものだ、ズレているということはあるまい。
早めの行動を心掛けて得た貴重な時間だ。
具体的に何をするかはまったく決まって無かったけれど、何もしないという事だけはしないだろう。
私は少しづつそれに近づいていった。
足取りは軽くも重くもなく、先程と変わらぬ速度で。 - 446: 2017/09/04(月) 03:29:55.40 ID:ZEMrep6Q0
- それに私の影が重なった。
不思議な事にそれと私の影は形が違った。
北上「よりにもよって、こんな日にね」
今日はお盆。なんて、そんな事気にするのはこちらの勝手で、この子にはなんの関係もないことなのだけれど。
改めてマジマジとそれを見つめる。
思っていたよりも綺麗だった。
この場合の思っていたはつまり轢かれてグチャグチャになってはいないかという話だ。
そうではないという事は撥ねられたのだろうか。
少しほっとする。
おかしな話だよね。
もうそこにはいない本人ではなく全く関係の無い私がそんな事を思うなんて。 - 447: 2017/09/04(月) 03:30:58.95 ID:ZEMrep6Q0
- 北上「さてと」
肩にかけていた大井っちから借りたカバンを漁る。
念のためにと大井っちと提督から持たされたあれやこれやが七つ道具もかくやと言った感じに入っている。
実際役に立ちそうだ。
ビニール袋を二つ取り出して手にはめる。
別に艦娘は細菌とかなんやらには強いから問題ないけど普通の人間はそうはいかない。
これから人里に降りるのだしそこら辺は配慮しなきゃ。
北上「人里に降りるって、我ながらどうなんだろうね」
なんとはなく話しかけてしまう。
なんだろうか、この感じは。親近感?だとしたら何処に? - 448: 2017/09/04(月) 03:34:48.47 ID:ZEMrep6Q0
- そっと、包み込むようにそれを持ち上げる。
暖かくは、なかった。
ビニール越しに伝わってくる感覚はおよそ生命の尊さを宿しているものとは言い難いものだった。
どがつかない程度の田舎だ。まして鎮守府のすぐ近く。舗装された道路以外は自然そのものだ。
道路脇の草むらにそっと死体を置く。
夏色の草木が私の手なんかよりも優しく、広く包み込む。
彼、彼女かな?確率でいえばまあ彼だろう。
その彼は最早人の目の届かない空間に置かれた。
時計を見ると残り時間は五分を切っていた。
貴重な10分は、決して長い時間ではないようだ。
もっとも時間がもういくらかあったとしても、私はこれ以上の事はしなかったろうし、出来なかっただろう。 - 449: 2017/09/04(月) 03:35:23.35 ID:ZEMrep6Q0
- 北上「…」
両手にはめたビニール袋を慎重に裏返しながら考える。
こういう時はどう締めればいいのかな。
日本人ならやはり両手を合わせて南無阿弥陀仏?
それで言うと私はキリスト教かもしれないのだが、元。
まあ誰が見ているわけでもないし、そんな事をしても一銭の得にもなるまい。
せっかく会えた、なんて言い方もどうかと思うが、同胞にねぎらいの言葉でもかけてやろう。
北上「お疲れ様」
裏返して外したビニール袋を更にビニール袋で包んでカバンにしまう。
さてそろそろ時間だ。バス停に向かおう。 - 450: 2017/09/04(月) 03:35:50.90 ID:ZEMrep6Q0
- 北上「それじゃね」
三毛猫の死体は、当然ながら、残念ながら、返事をしなかった。
33匹目:猫に小判
価値のわからない者にそれを与えても何の意味もない、という意味。
豚に真珠もそう。
ところでなんで人は動物に無理難題ふっかけてそれをことわざにするのか。
価値を知らないってそんなの当たり前じゃん。というか分かっても使えないじゃん。
勝手に並べ立てられて比べられる動物の方はいい迷惑だ。
だからこれは、そういった動物達の代表として、私から人類へのささやかな仕返しである。 - 455: 2017/09/05(火) 02:10:19.38 ID:xL8gPs6W0
- 北上「お、きたきた」
毎日海に出ている私達よりもよほど日焼けしている古びたバスが坂を登ってくるのが見える。
予定表の時刻との差は10分。
これ程の正確さで毎日巡回しているとは、交通機関というのは実に素晴らしい。
初めてのバス乗車。大井っちの言いつけ通り確認をとる。
北上「〇〇行きであってますか?」
「ん?合ってる合ってる。ここじゃ他に行くバスは通ってないよ」
運転手のおじちゃんが優しく笑う。 - 456: 2017/09/05(火) 02:11:07.86 ID:xL8gPs6W0
- 入ってすぐの少しだけ位置の高い席に座る。
うむ、なかなか良い眺めだ。
「お嬢ちゃん、鎮守府の人かい?もしかして艦娘ってやつなのか」
運転中に、しかもバスの運転手が話しかけてきた。そういうものなのか?
いやこの際それはどうでもいい。
問題は鎮守府、つまり軍の関係者にあっさりと話しかけている事だ。
艦娘もいわば国家機密というか、軍の兵器。一般人がおいそれと触れていいものじゃない。
だから私もお忍びという事で変装してきているのだ。
だというのにいきなり艦娘とは。
北上「違いますよ。学生です。〇〇中学の」
「んー聞いたことねえな」
北上「隣の県から来たんですよ」 - 457: 2017/09/05(火) 02:11:57.10 ID:xL8gPs6W0
- どうやら艦娘とバレてるわけじゃないようだ。乗ったバス停から適当に言ってみただけなのかな。
確かにあそこは鎮守府を除けば民家は数える程しかない。
北上「兄に会いに来たんです。鎮守府で働いてて」
「おー軍人さんかあ。すごいねぇ」
北上「ええ、まあ」
会話はそこで打ち止めとなった。流石に運転に集中してくれたのだろう。
これ以上聞かれたらどうしようかと思ったがどうにか誤魔化せたようだ。
ちょっとした緊張が切れ、背もたれに体重を預ける。
北上「ありゃ」
ポニーテールを結わえたところが後ろにあたる。
やはり不便だなこれは。慣れないことをするものじゃない。
変装目的なので解くわけにはいかないのだが。
窓を見る。
鎮守府は随分と遠くなっていた。 - 458: 2017/09/05(火) 02:14:13.75 ID:xL8gPs6W0
- 提督「外に行きたい?」
北上「そ。改造祝と、前の貸しとで。いいでしょ?」
提督「まあそりゃ止める理由は無いけどよ」
大井「でもどうして急に?」
北上「これだよこれ」
大井「えーと…サイン会?」
提督「あーこの本最近話題になってるやつだ。テレビで見たことあるぜ」
北上「私のお気に入りなんだけどね、その作者がここの近くの街でサイン会やるんだって」
大井「それで外に」
提督「なるほどね。理由は把握した」 - 459: 2017/09/05(火) 02:15:08.29 ID:xL8gPs6W0
- 大井「では提督、今度の日曜にでも私と北上さんで行ってきますね」
北上「え、私1人がいいんだけど」
大井「な゛っ!いやなんですか!私と2人はいやなんですか!?」
提督「落ち着け落ち着け…でも誰かとはともかく北上は外に行くの初めてだろ?1人は流石に危ないだろ」
北上「大井っちは行ったことあるの?」
大井「え、あぁはい。何回かは。服とかは実際に見て買いたいですからね」
提督「行ったことあるなしに関わらず基本は複数人でいくんだよ。何があるかわからないからな」
北上「そっかぁ…」
大井「何かひとりで行きたい理由があるんですか?」
北上「うん、ある」 - 460: 2017/09/05(火) 02:15:39.98 ID:xL8gPs6W0
- 北上「おっと」
バスが揺れる。
何か石か段差でも乗り越えたらしい。
車内を見るといつの間にか人がチラホラと乗っていた。
「次は〇〇。〇〇です」
メモ帳を確認する。
大分町に近づいてきたようだ。
渡りの景色も人工的なものに変わってきている。
カバンの中のカードを確認する。
私のこれまでの働きに対する報酬が入っているカードだ。 - 461: 2017/09/05(火) 02:16:27.61 ID:xL8gPs6W0
- バスがトンネルに入った。
黒い窓に自分の顔が写る。
口元が少し歪んで、ニヤッという音が聞こえそうな顔をしている。
実物の硬貨でないのは少し残念だがまあいいだろう。
そう、これは私の復讐なのだ。仕返しなのだ。
私にはこの小判の価値がわかっている。
誰も知ることはないだろう。
今日を世界で初、猫が小判を使った記念日にしてやるんだ。
他の誰でもない。私が、私だけの力で成し遂げるんだ。
バスがトンネルを抜ける。
北上「おお」
そこには大きな、いや決して大きくはないのかもしれないが、しかし私が衝撃と感動を覚えるには十分な程に活気に溢れる人里があった。 - 467: 2017/09/09(土) 03:15:43.63 ID:3MbIRneq0
- 北上「変、じゃないよね?」
終点。なんでも新幹線も通っているという一番大きな駅で降りる。
周りには鎮守府の何倍も大きな建物が立ち並んでいる。
駅の建物にある服やカバンが飾られているケースの前に行き、自分の姿を映す。
ポニーテールにセーラー服、学校指定といった感じのカバン。
「それでさー思わず買っちゃったんだあ」
「えーマジで?」
ガラスに、私の後ろを通る2人の女子学生が映る。恐らく中学生だろう。
北上「うん、違和感なし」
私も傍から見れば中学生に相違ないだろう。
話し相手がいないのは少々寂しいが、目的のためには仕方ない。
サイン会まではまだ時間がある。
今日はこのカバンに教科書の変わりに本を詰めて帰るんだ。
さて、本屋はどことどこにあるのだっけな。 - 468: 2017/09/09(土) 03:16:20.55 ID:3MbIRneq0
- 北上「変装?」
提督「そそ。ほら、お前ら顔割れてるだろ?」
北上「まあクローンみたいなものだしねぇ」
基本的に一般人と接触する機会はないが、大都市なんかじゃパフォーマンスとして人々の前に出ることもあるらしい。
何せ北上というだけで皆顔が同じなのだ。どこかの北上がそうやって人々の前に出た時点で私の顔も割ることになる。
大井「だから変装するんですよ」
北上「いやでもそんなルパンみたいな事簡単にできるものなの?」
それとも何か変装用の装備とかあるのかな。 - 469: 2017/09/09(土) 03:17:09.15 ID:3MbIRneq0
- 提督「そう難しい事はしねえよ。確かに顔は割れている。でも皆、艦娘ってのはあの服を着てあの装備をしてあの髪型をしてって固定されたイメージしかもってない」
大井「私達も基本的には人間と何ら変わらないんですから、少し工夫すれば変装としては十分なんですよ」
北上「工夫?」
北上「工夫ねえ」
読んでいた本を棚に戻す。
これは自論だが読むかどうかは粗筋や評判、作者などで決まるがその場でこれを買おう!となる本は大抵最初の3ページで決まる。
とまあそれはどうでもいいんだけど。
隣の棚に移動するとそこは漫画コーナーだった。
学校帰りの男子学生が3人立ち読みをしていた。
面白いものだ。普段は戦場で血に濡れている私達が、こうも簡単に日常に溶け込めるとは。 - 470: 2017/09/09(土) 03:17:53.06 ID:3MbIRneq0
- 髪型も服装も大井っちから借りた。
球磨型で外に出る時は皆で同じ制服を着ていくらしい。
重巡や戦艦などとなるともっと大人な服装をするとか。
興味はなかったのでスルーしたけど。
というか話を聞く限りお洒落をして街に出る人はそこそこいるようだがホントに大丈夫なのかな、それ。
今こうして本を立ち読みしている時でさえいきなり「お前艦娘だな」とか黒服のやばそうな巨漢に話しかけられやしないかとビクビクなのだが。
変装の意味もその効果もよくわかっているけれど、そんな芸能人みたいな話と国の極秘情報を一緒にしないでもらいたい。 - 471: 2017/09/09(土) 03:18:48.90 ID:3MbIRneq0
- 北上「よし」
買えた。
カバンに文庫本11冊+サイン付き単行本1冊。
本来教科書やらがギッシリ詰められ毎日通学時にウンザリさせられるであろうその重さは、今の私にとってイコール幸せと言っても過言ではない。
迷いに迷ったがその場で買うか否か決めるというのは中々機会が無さそうなので今回は文庫本で質より量作戦をとった。
猫の初めての買い物が文庫本11冊というのは如何なものかと思わなくもないけれど。
加えて言うとそれをカードで払いほぼ空っぽのカバンに詰めて帰る中学生を見る定員の顔が今日一番の思い出かもしれなかった。
しかしこのカードどうなってるんだろう?
個人情報とかあるんだろうし私のことバレるんじゃ…偽造カード?それはマズイか。
世の中案外ガバガバという事なのだろうか。
さて、では帰ろう。 - 475: 2017/09/09(土) 14:12:55.36 ID:630WyN9t0
- 北上「あ、そろそろかな」
帰らなきゃ、と思ったのは本屋を出てさあ帰ろうと言ってからかなり経ってからだ。
辺りに鳴り響くこの良い子は帰ろう的な放送がなければさらに遅くなっていたことだろう。
そういやこの曲なんて題名なんだろう。
多分知らない人はいないレベルで有名なんだと思うけど、カラス何故鳴くのってとこ以外正直知らない。
カラスの子とかでいいか。
読みかけの本に栞を挟んでしまい、席を立つ。
久々の過ごしやすい気候に思わず公園のベンチでの読書というなんだか洒落た行動をとってみたけど、これは大当たりだった。
陽の光と潮を感じないそよ風は私を日常から切り離してこうした非日常を感じさせるのに十二分な効果があった。 - 476: 2017/09/09(土) 14:13:56.99 ID:630WyN9t0
- 公園前のバス停に丁度バスが停車する。
急ぎ足で乗車口に向かうと前に若い男性の会社員と女子、高校生かな?がいた。
彼ら、彼女らは帰るべき場所に帰るのだろう。
日常から日常へ。
居るべき場所に。
ICカードを読み込むピッという音が2回。
私も同じようにステップに足をかける。
でも、私は違う。
非日常から日常へ帰る。
忌むべき場所に。
小銭の落下音が妙に耳に残った。 - 477: 2017/09/09(土) 14:14:33.94 ID:630WyN9t0
- 窓から外を見るとちょうど日が沈むところだった。
茜色。
茜って響きなんかいいよね、私は好き。
ふと最近読んだ本を思い出した。
確かに映画の小説版。
そこに書いてあった。
夕暮れ時。昼と夜が入れ替わる。暗いのでもなく明るいのでもない。
明るくなくなる、暗くなる。ぼやけて移ろいであやふやになる。
境界が揺らぐ。
すぐ近くにいる相手の顔が見えなくなる。
アナタは誰?
彼は誰?
誰ぞ彼
黄昏時。
日本語って適当なもんだ。 - 478: 2017/09/09(土) 14:15:20.96 ID:630WyN9t0
- 北上「君は誰?」
バスの窓に映る黒い影に問う。
この人の形をした影は、果たしてなんなのだろうか。
元々艦娘も人と船があやふやに有耶無耶にくっついている存在だ。
私なんかは輪をかけてあやふやだ。
そういやみんなはこの戦争についてどう思っているのだろう。
私は忌むべき場所と言ったが、あそここそ艦娘にとって居るべき場所のはずでは?
「〇〇〇~」
バスが停車し、人が降りる。もう残りは私だけのようだ。
な~におセンチになってるんだか。一人旅は思いの外堪えたらしい。
次はみんなで来よう。変にいじはらず寂しいと擦り寄ればいいのだ。
北上「ふ、あぁ~」
ねむ… - 479: 2017/09/09(土) 14:16:30.62 ID:630WyN9t0
- 私は古い民家に囲まれた路地に一人立っていた。
北上「あれ?」
いやおかしくない?それ。
帰路についたんだし鎮守府に着いていて然るべきなのでは?
だというのに私は日が沈み真っ暗になった田舎の路地に一つだけポツンと立っている街灯の下に、同じくポツンと立っている。
不思議な事に周りの家々はこんな時間だというのに灯りの一つも灯っていない。
ふむ、なんだろう。夢か?
こういう時猫ならば暗闇だろうと自由に動けるのだが今はそうはいかない。
光源ゼロでウロウロしたらどうなるか。
猫と人間の体を自由に変えられたらなあとくだらない現実逃避を始めたあたりで、遠くからドォンと音がした。 - 481: 2017/09/10(日) 04:31:20.63 ID:CxjiehoL0
- 最初は砲撃音かと思い身構えたがそれが同じところからリズムを取りつつ激しさを増して聞こえてきたあたりでようやく太鼓の音だと気づいた。
太鼓ねえ。
何にせよ太鼓の音がするということはそれを叩く者が少なくとも1名はいるはずだ。ならばそこに向かうとしよう。
ようやく闇に慣れてきた目を必死に使い、少々急ぎ足で音の方向へ向かう。
路地を抜け音の方を見て、理解した。
北上「おお」
それほど大きくもない山に光の列が見える。恐らく階段に提灯か何かが飾られているのだろう。
太鼓の音とともに次第に人の気配も大きくなっていく。
つまりこれは
北上「お祭りか」 - 482: 2017/09/10(日) 04:32:26.99 ID:CxjiehoL0
- ボンヤリと暖かい光に包まれた石段を登っていくと華やかに飾られた鳥居が見えてきた。
鳥居ってあんなにごちゃごちゃと着飾ってもいいものなのかな。クリスマスツリーじゃあるまいし。
しかし鳥居があるということはここは神社か。名前は山の入口の石に掘ってあったがとても読める状態じゃなかった。
鳥居を潜るとそこはもうこの世のものではないような光景が広がっていた。
それほど広くもないであろう境内に所狭しと屋台が並んでいる。
人も芋洗い状態だ。
その慣れない雰囲気に一瞬面食らったが、すぐに好奇心に背中を押され人の波に流されていった。 - 483: 2017/09/10(日) 04:33:17.22 ID:CxjiehoL0
- 北上「はあ…」
やられた。いやまあ客観的に言って完全に私が悪いのだが、それでも私はしてやられたと言おう。
当然ながら、残念ながら、祭りでカードは使えない。
さて何を買おうと小銭を用意しようとした時に気がついた。
何たることか。折角の貴重な機会だというのに猫が小判を忘れるとは。
祭りの流れから出た私にはこうして神社の建物に腰掛けて項垂れることしか出来なかった。
そういや夕張が「神社の裏ってもうそれだけでなんか変な想像しちゃうよね」とか言ってたけど、あれどういう意味だったんだろ。
確かに少し不気味な感じはするけれど、丁度暇だし覗いてみようか。 - 484: 2017/09/10(日) 04:33:49.44 ID:CxjiehoL0
- 重たい体を持ち上げ建物、本殿って言うんだっけな、を時計回りで裏に回ろうとした時だった。
「また会ったねお嬢さん」
北上「ん?」
声がした。
しかし後ろを振り向いても誰もいない。
「下だよ下」
下?足元には何も無い。いやまさか。
本殿の下、縁の下を見る。
三毛猫「お困りの様だし力を貸そう」
そこには不思議な縁があった。
33+1匹目:三毛猫ラビリンス - 492: 2017/09/12(火) 03:24:43.21 ID:dtojEZ7a0
- 先程と同じく本殿に座る。
先程と違うのは隣に話し相手がいることだ。
三毛猫「僕も祭りに参加したいのだが、この体ではどうしようもなくてな」
北上「そりゃあ猫だもんね」
三毛猫「そこでだ。お前に僕を運んでほしいんだ。その代わりに僕がここを案内しよう」
北上「知ってるの?」
三毛猫「お前よりは」
北上「私は北上っていうんだ」
三毛猫「そうか。僕は、野良だからな。名前はない」
北上「じゃあホームズはどう?ミーコでもいいけど」
三毛猫「…ならばホームズだ」 - 493: 2017/09/12(火) 03:25:31.37 ID:dtojEZ7a0
- 北上「でもさ、私お金持ってないんだ。案内されてもさ」
ホームズ「知ってるさ。なあに、ここは任せろ、心配するな」
北上「はあ…」
この妙な自信はどこから来るのか。
とりあえず私は三毛猫ホームズを抱えて祭りの流れに戻った。
ホームズ「そうだな、アレだ。アレが飲みたい。行くぞ!」
北上「はいはい、って行くの私なんだけどな~」
アレとは。え、お酒?
北上「酒って…」
ホームズ「人間の食べ物は猫にはきついからな。これなら大丈夫だ」
北上「酒も人間の飲み物だよ」
もしくは神の。 - 494: 2017/09/12(火) 03:26:05.35 ID:dtojEZ7a0
- 北上「で、どうやってお金を用意するの?盗むとか言わないよね」
ホームズ「そんな事はしない。簡単な事さ、1杯下さいと言えばいい」
北上「ええ?」
くださいって…なんかもうめんどくなってきた。
北上「1杯くださいな~」
「はいよ~」
貰えた。コップに1杯並々と。
屋台のおばちゃんを見る。
柔らかい笑顔でこちらを見ている。
抱えたホームズを見る。
ホームズ「ふっ」
うわ凄いドヤ顔。 - 495: 2017/09/12(火) 03:29:38.19 ID:dtojEZ7a0
- 北上「結構貰ってきちゃったね」
ホームズ「残さず食べるなら問題ないさ。さて、一緒に食べよう」
最初の本殿に戻って戦利品を広げる。
饅頭に煎餅にようかんに型菓子エトセトラエトセトラ。
素晴らしく祭りらしくないラインナップだな。
ホームズ「ふむ、悪くないな。うん」
三毛猫の方はピチャピチャとお酒を飲んでいる。いける口らしい。何故だ。
北上「タダってなんか気が引けるな~」
ホームズ「構うな。どうせ彼らも貰い物なんだ」
貰い物?どういう事だ。まあいいか。
北上「それじゃ私も」
これは…東京バナナ?東京ってバナナを栽培していたのか。知らなかった。
しかしなんてネーミングセンスだ。いやそれを言ったら夕張メロンもそうか。
北上「はむ」
ん~…
バナナ、の味? - 496: 2017/09/12(火) 03:30:23.41 ID:dtojEZ7a0
- 北上「なんだか変わったお祭りだね」
ホームズ「そうだな。変わったと言うならお前から見てこれほど奇妙な祭りはないだろう」
北上「あとなんかさ、年寄り臭いよね」
食べ物も飲み物もジジ臭いというかババ臭いというかさ。
唯一あったオモチャがこのキュウリに棒を刺した謎の物体だ。
ホームズ「若い者もいないわけではない。居るべきではないのだがな」
よく見れば1人2人くらいは確かに若者もいるようだ。
なんという高齢祭りだ。
ホームズ「…」 - 502: 2017/09/13(水) 03:22:33.95 ID:hOWSotFH0
- 太鼓が激しくなってきた。
北上「おお。いよいよ大詰めだね」
ホームズ「そうだね」
北上「あの太鼓の乗ってる台。お神輿なんだね。初めて見たよ」
ホームズ「そうだね」
北上「キレイだねえ」
ホームズ「…お前はまだ夢を見ているつもりなのか?」
北上「夢?なんで急に」
ホームズ「…僕の事を覚えていないのか?」
北上「えと、ホームズでしょ?」
ホームズ「ああそうだ」
北上「だよね」
ホームズ「そうだ。今朝会った、三毛猫だ」
ん、今朝? - 503: 2017/09/13(水) 03:23:09.82 ID:hOWSotFH0
- 急にきゅうりがモ~と鳴いたかと思うと祭りの流れに向けて歩き出した。
ホームズ「いよいよ大詰めだよ」
神輿が持ち上げられ、屋台の間を不規則に揺れていた人の波が一斉に同じ方向を向く。
1歩1歩ゆっくりと、鳥居へ向かってゆく。
北上「みんな、どこへ行くの?」
ホームズ「帰るのさ」
北上「家に?」
ホームズ「家にはもう帰った後だよ」
北上「…」
ホームズ「帰るっていうのは、あの世にさ」
急に辺が暗くなった。 - 504: 2017/09/13(水) 03:23:37.44 ID:hOWSotFH0
- ホームズ「お前は、艦娘というヤツみたいだな」
うん。
ホームズ「だがそれだけではないだろ?僕がお前を見つけられたのはそれが原因のはずだ」
猫、だったんだ。昔ね。
ホームズ「昔、か。なるほど。そういう事もあるのか。面白いな」
艦娘を知ってるの?
ホームズ「知ってはいないがお前と出会ってどんなものかは理解したよ。お前達は魂ではなく思い出を宿してるんだ。だから本来僕らには関わらないはずなんだ」
僕ら。
ホームズ「そう。だけどお前には魂があった。それも少々特殊なね」
そうかも。 - 505: 2017/09/13(水) 03:24:16.09 ID:hOWSotFH0
- ホームズ「お前は、僕達に近い存在なのかもな」
近い、ねぇ。
ホームズ君はどうしてここに?
ホームズ「不運にもこんな日に事故に遭ってしまったのさ。もっともホントに不運だとは思っていないが」
あの流れには混ざらないの?
ホームズ「言ったろ?アレは帰る人達だと。僕は帰るんじゃないし、人でもないから」
迷い猫か。
ホームズ「それはお前にこそふさわしい」
はは、そりゃそうか。 - 506: 2017/09/13(水) 03:24:48.57 ID:hOWSotFH0
- お盆も終わりか。
ホームズ「覆水盆に返らずと言うけれど、こうしてお盆には帰ってくるのだから面白い」
お、その言い回しいいね。
ホームズ「そうかい?」
でも結局、残された人から見れば帰ってきたかなんてわからないんだよね。
ホームズ「だからこそ覆水盆に返らず、さ」
零れた水は戻らない。
取り返しなんてつかない。 - 507: 2017/09/13(水) 03:29:13.23 ID:hOWSotFH0
- 祭りの波はもう半分以上が鳥居をくぐり上へ登っていっていた。
石段ではない階段を、上へ。
私の目に映るそれに先程の華やかさはなく、まるでぼんやりとしか覚えていない昔の記憶のような虚ろとなっていた。
ホームズ「さてと。僕もやるべき事をやろう」
北上「何かあるの?」
ホームズ「猫の恩返しというやつさ」
恩返しか。
そういえば私は恩を返せていないんだよね。
私を抱いてくれた毛むくじゃらの腕を思い出す。
麦畑よりも輝いていたあの金髪を思い浮かべる。
そう、丁度あんな感じの。
北上「あれ?」
ホームズ「どうした」
北上「いや、あそこに今」
懐かしい匂いを感じた。 - 508: 2017/09/13(水) 03:30:48.89 ID:hOWSotFH0
- 祭りの最後尾。
そこに確かにいた。
私は四本の足で駆け出していた。
「行くな!!」
あの金髪を目指して。
あの腕を目標にして。
あの記憶を頼りにして。
私も、そこに行きたい!
ボヤけていた視界がハッキリしてきた。
だが私の目に映ったのは、長い金髪の女性と毛むくじゃらの腕の大男の、2人だった。 - 512: 2017/09/14(木) 02:15:16.56 ID:4oCXpnXN0
- え?
今にも鳥居を潜らんとするその2人に、後少しで追いつくところで私は一瞬怯んだ。
なんで2人?
「うらあぁぁぁ!!」
その一瞬に首根っこを銜えられた私は彼と2匹で鳥居を潜り、石段を転げ落ちていった。
1人、ではない。2人が離れていく。
分からない。
でも確かに私は2人を知っているように思えた。 - 513: 2017/09/14(木) 02:15:55.27 ID:4oCXpnXN0
- 北上「…ありがと」
石段の一番下で私は仰向けに倒れている。
ホームズ「お礼を言われるとは、正直思わなかったよ」
猫様の方はちゃっかり私の上に着地している。このやろう。
北上「ありがと…」
ホームズ「言っただろ。猫の恩返しって」
北上「ふふ。迷い猫オーバーランだね」
ホームズ「なんだいそれは?」
北上「君が知らないものだよ」
ホームズ「どうやらそのようだ」
ホームズ越しに鳥居の方を見上げる。
そこには先程の喧騒が嘘のように静まり返った暗い山があるだけだった。 - 514: 2017/09/14(木) 02:16:23.05 ID:4oCXpnXN0
- 北上「これからどうするの?」
ホームズ「お前はこの道を真っ直ぐ進むといい。そこまでは僕が送ろう。でもその先はお前次第だ」
北上「ホームズは、どうするのさ」
ホームズ「僕が何処へゆくかは、君自身で確かめてくれ。なあに焦る必要は無いさ。いずれその時は訪れる」
北上「そっか」
ホームズ「では行こう。あまり長居する場所ではない」
北上「うん」
ホームズ「立てるかい?」
北上「大丈夫だよっと」
私は、二本の足で立ち上がった。 - 515: 2017/09/14(木) 02:17:45.78 ID:4oCXpnXN0
- 北上「もう会えない?」
ホームズ「実際のところ、僕らは会ってすらいないからね」
北上「それもそうだ」
ホームズ「色々とイレギュラーだっただけさ」
北上「お墓でも作ろっか?」
ホームズ「よしてくれ。死んだ後まで場所を取りたくはない」
北上「世の中歴史的建造物になるような墓を立てる人もいるんだよ」
ホームズ「そいつらはきっと生きているという感覚が麻痺しているんだろう」
北上「君にとって生きているという事とは?」
ホームズ「そうだな。それで言うなら、僕今生きているのかもしれない」
北上「生きているんだ」
ホームズ「死に意味は無い。だから君がまだ生きている。また生きているのにはきっと意味があるよ」
北上「哲学的だなあ」
ホームズが足を止めた。
私は止まらなかった。
別れの言葉はない。
だからつまり、私達は実際のところ別れてはないのかもしれない。 - 516: 2017/09/14(木) 02:18:16.05 ID:4oCXpnXN0
- 谷風「また随分と奇妙な体験をしたものだねえ。そういう期待はあったとはいえ、これはあまりにも予想外だよ。ほいで今回の件に関する感想を一言欲しいんだけど」
北上「痛い」
谷風「どこが?」
北上「耳が」
帰るなり提督と大井っちに大声で色々と言われた。心配しただの何があっただの。
私は特に何も答えなかった。
2人の方も答えを期待していたわけではなく、単にそれまでの心配が爆発してそれを私で発散したというだけのようだ。
これに関しては私に原因があるので甘んじて受け止めた。 - 517: 2017/09/14(木) 02:18:46.08 ID:4oCXpnXN0
- 吹雪曰くもう少しで提督としての権限を限界以上に行使してあらゆる手段で私の捜索に出るところだったとか。
物凄い呆れ顔で語る秘書官殿からは苦労が滲み出ていた。
吹雪の事を問題児と提督は言っていたが、どうやらお互い様という事らしい。
ちなみに、ここまで聞くと私が数時間ほど帰るのが遅くなったかのように思えるかもしれないけど、実際のところ遅れたのはバス1本分。
はっきり言って過保護なバカ親が2人も騒いでいただけというのが正しい。
そう。気づいたら私は1本後のバスに乗っていた。
普通に降りて、普通に鎮守府に戻り、普通にお小言を大声で聞かされ、普通にご飯を食べて、こうして普通に夜の屋根上で真っ黒な空を見上げているだけだ。 - 518: 2017/09/14(木) 02:20:01.75 ID:4oCXpnXN0
- 谷風「私達はとても人に近いけど、裏を返せば決定的に人と違うという事になる。ホームズ君も言っていたんだろ?そりゃあその通りだろうね。
私達は所謂八百万の神。付喪神というやつだ。船に込められた想いや思い出を模倣し人の形にしたものだ。
それはどこまでも模倣でしかなくコピーにしかなれなく贋作としか生きられない。
でもそれって本物とどう違う?三つ子の魂百までとはよく言ったものだよね。
人の心とはそれまで出来事や出会い、周りの事象や人間から少しずつ寄せ集めて出来るものだ。子供なら家族。少年なら友達や先生。まあ大体そこらで人格は出来上がるかね。
一方私達はどうだい?思い出の寄せ集め。様々な思いの集合体。それは人とどう違う?
それにクローン的な存在とはいえ私達はその環境において様々な個性を会得するじゃあないか。
確かに世の中にはたくさんの谷風(わたし)がいるだろう。私と寸分違わぬ谷風が。でも住む鎮守府は違う。提督を主軸に鎮守府事に様々な個性がある。
私達にも個性がある」 - 519: 2017/09/14(木) 02:20:48.03 ID:4oCXpnXN0
- 谷風「人の模倣でコピーで贋作だが人とそう相違はなく、でもやはり決定的に違う。
それは繋がりだ、と私は考えるね。
魂とは繋がりだ。
親兄弟、親の親、親の親の親。血ではなく連なる思いの問題だ。
艦娘にそれはない。思い出は残るが続かない。思いはその時点で繋がらないんだ。
だからこそ君が出会ったそれは君の魂、猫の魂が間違いなく繋げた何がだろう。
私はそう考えるね」
北上「…これ以上私に長いセリフを聞かせないで。ホントに耳が死にそう」
谷風「かぁーなっさけない。耳耳ってどんだけ敏感なのさ。猫かってんだ」
北上「だから猫なんだってば。元ね」
谷風「そういやそうか」
北上「そうだよ」 - 520: 2017/09/14(木) 02:21:18.60 ID:4oCXpnXN0
- 谷風「今夜は、三日月のはずなんだけどね。生憎の曇り空だ。こうも暗いと慣れ親しんだ鎮守府もなんだか不気味に見えちまうねぇ」
北上「いつだってここは変わらないよ。人が変わるんだ」
谷風「およ?なんだか含みのある言い方だねえ」
北上「別に大した意味は無いよ」
谷風「そうかい。でもそのセリフに則って言うなら、君は変わったよ。今日を境に」
北上「かもね」
谷風「その2人組が気になるのかい」
北上「うん…」
谷風「安易に考えれば既に君の飼い主は覆水となっている、となるね」
北上「だとしても妙だよ。ここは日本だし。見た目も少し違った。あの女の人を私は知らないよ」
谷風「でも知っていた。そうだろう?」
北上「まあ、ね」 - 521: 2017/09/14(木) 02:21:52.87 ID:4oCXpnXN0
- 北上「でも一つわかった事があるんだ」
谷風「ほうほう。そいつは?」
北上「今までなんとなく探してたけど、これからは違う。前に言ってたじゃん。こうして生まれ変わったのには意味があるって。だから私は私の恩人たる飼い主を探す。探して恩返しする」
谷風「猫の恩返しかあ。ベタだけど、それってつまり素敵って事だよね」
北上「どうだろうね。でもこうして日本にいる意味は、やっぱりちゃんとあるんだと思う」
谷風「そうかい。まっ、頑張る事だね。ちなみにだけどさ、参考までにその2人ってどんな見た目だったんだい?」
北上「内緒。これは私の問題だもん」
谷風「そりゃ残念。でも相談にはいつでも乗るからね」
北上「ありがと」
谷風「どうも~」 - 522: 2017/09/14(木) 02:22:39.17 ID:4oCXpnXN0
- 北上「あ、それなら早速相談が」
谷風「早速過ぎるね。いいよ、なんだい?」
北上「お墓に添える花って何がいいかな」
谷風「お墓?いったい誰のだい」
北上「会ったこともない友達に」
谷風「…なら、花じゃないけどエノコログサなんていいんじゃないかな」
北上「あ~。ははっ、そりゃいいね」 - 529: 2017/09/19(火) 01:09:55.64 ID:i3ZTT8gu0
- 36匹目:猫なで声
北上「ね?お願い球磨ね~ちゃん」
球磨「…ダメクマ」
北上「ちっ」
多摩「諦め早いにゃ」
北上「球磨姉一度ダメって言ったら絶対変えないじゃん」
球磨「球磨をそんな意見をコロコロ変える様な軟弱者と一緒にするなクマ」
北上「柔軟な対応ができないとも言う」
球磨「うるせークマ。無理なものは無理クマ」
多摩「こればっかりは北上が悪いにゃ」
北上「えー多摩姉ちゃんまで…」 - 530: 2017/09/19(火) 01:10:42.15 ID:i3ZTT8gu0
- 北上「お願い多摩えも~ん。あのジャイアントパンダにガツンと言ってやってよ~」
多摩「何うまい事言ってんだにゃ。そんな猫なで声出してもダメにゃ」
球磨「借りてくりゃいいのに何でそんなに買うんだクマ」
北上「手元に欲しいものってあるじゃん」
球磨「自分のキャパシティを超えて買う方が悪いクマ」
多摩「とりあえず
その本をどけるにゃ」
北上「いや他に置く場所ないから本棚置かせてって言ってるんだよ」
球磨「これ以上この部屋狭く出来るわけないクマ!」
北上「そこはほら~共有すべき知的財産として」
多摩「半分近く外国語にゃ…」
北上「だってそういうの貴重なんだもん」
球磨「読ませる気ないクマ…」 - 531: 2017/09/19(火) 01:11:13.67 ID:i3ZTT8gu0
- 北上「お~ね~が~~い球磨姉さまぁ」
球磨「まったく。都合のいい時だけそうやって、そんなとこまで猫っぽくなくていいクマ」
ううむ、人間の体では猫なで声の効果は半減か。そりゃそうか。
しかし部屋が狭いのは事実だ。
何せ元々四人部屋のところに五人いるのだから。 - 532: 2017/09/19(火) 01:11:59.20 ID:i3ZTT8gu0
- 鎮守府の部屋の大きさは全部屋同じ。違うのは部屋に寝泊まりしている人数。
駆逐艦は6。毎日が修学旅行状態。半端な数なので姉妹艦で綺麗に別れないため、寝る時は日毎に部屋のメンバーを変えているらしい。マジ修学旅行。
軽巡3~4。5なウチはちょっと特殊。逆に3は広い。
重巡は4。軽空母も。
正規空母、戦艦となると二人部屋だったり二部屋ぶち抜いて四人部屋だったり。
大まかにいえばこんな感じ。 - 533: 2017/09/19(火) 01:13:04.41 ID:i3ZTT8gu0
- 多摩「とりあえずいくつか手放すしかないにゃ」
北上「そんな!」
球磨「取捨選択クマ。何かを得るには何かを失う必要があるクマ」
北上「むむ…」
しかしこの部屋をこれ以上圧縮出来ないのも事実。
はてさて
北上「どうしたものか」
日向「どうしたとはどうした?」
北上「いやちょっと深刻な悩みが」
提督と球磨型を除けば実はこの鎮守府でもっとも古い付き合いである日向さん。
要するに読書仲間である。 - 534: 2017/09/19(火) 01:13:57.91 ID:i3ZTT8gu0
- 日向「なるほどな。コレクターにおける最大の悩みはその収納場所である、と言うやつだな」
お昼前に倉庫にいた日向さんに話を聞いてみた。
北上「誰の言葉ですかそれ」
日向「さあ。でもどこかの偉人が何か言ってそうな感じはしないか?」
北上「確かに」
日向「まあそれはともかくとしてだ。本の収納に関しては私も他人事ではいられないな」
北上「日向さんも?」
この人は2人で一つの部屋を使ってるからスペースはそれなりに確保出来てるはずだが。
日向「収集に際限などないからな。極端な話自分の図書館が欲しい」
北上「あー」
すごく納得。 - 535: 2017/09/19(火) 01:14:27.90 ID:i3ZTT8gu0
- 神風「それで私に?」
北上「そそ、どーしてるのかなって」
神風「どうと言われても、普通に本棚ですよ」
日向「足りてるのか?」
神風「いやもう全然全く微塵に皆無にこれっぽっちも足りてません」
ここに鎮守府読書家三人衆の意見が揃ったのであった。
ランチタイムと洒落こもう。 - 536: 2017/09/19(火) 01:15:00.53 ID:i3ZTT8gu0
- 神風「電子書籍とやらを試したりもしましたね」
北上「あースマホで見れるやつだ」
鎮守府では基本的に連絡目的でスマホを1人1台持っている。
軍事機密的なあれやこれやで制限は多いけど基本的には一般的なスマホと同じである。
日向「タブレット端末なら私も使っているが、資料などを読む際に拡大で小さい文字が見やすいのは確かに便利だった」
北上「電子書籍かぁ。確かに収納スペースの問題は一気に片付くね」 - 537: 2017/09/19(火) 01:15:38.29 ID:i3ZTT8gu0
- 神風「いえでもやっぱり紙媒体がいいなぁって…」
日向「まあそうなるな」
北上「そっかあ…だよねぇ…」
神風「1枚1枚手でめくるのがいいんです…」
日向「ざっとめくってこの辺りにあのシーンが見たいな事が出来ないからな…」
北上「読みながら自分が今物語のどの辺にいるかわからないもんね…」
神風「挿絵のページが本を開かなくても黒い線で分かったり」
日向「栞を挟む楽しみがな」
北上「あれ?これってさっきの!とかでページ戻す時の感覚とかさ」
以下、紙媒体の良さ。は流石に割愛。 - 538: 2017/09/19(火) 01:16:19.38 ID:i3ZTT8gu0
- 北上「提督に頼んでみよっかな~」
神風「頼むって、何をどうするんですか」
北上「んー…床下収納できるようにとか?」
神風「私達はみんな1階より上ですし…」
北上「工事にお金も時間もかかるからねえ」
日向「…ふむ、提督に頼むか」
北上「え、なにか妙案が?」
日向「2人とも。付いてきてくれ」 - 539: 2017/09/19(火) 01:17:04.05 ID:i3ZTT8gu0
- 鎮守府の建物の中でも端っこの端っこ。恐らく訪れた事が無いどころか多くの者が存在すら知らないであろう空き部屋。
日向「ここを図書室とする」
神風「え?」
北上「そんな急に」
日向「まあ聞いてくれ。私も以前に1度、本の置き場に悩んだことがある。その時に提督に提案したんだ。図書室を作ろうと」
北上「本置き場じゃなく図書室?」
日向「私的な理由で部屋を一つ使うわけにもいくまい。あくまで皆が利用できるようにという建前だ」
神風「なるほど。でも以前提案した事があるってことは、無理だったってことじゃ」
日向「その通り。だが私は諦めなかった。副秘書艦という立場を利用しこの部屋を何にも使われないように守ってきたのさ」
この鎮守府、ろくな権力者がいない。 - 540: 2017/09/19(火) 01:17:43.11 ID:i3ZTT8gu0
- 日向「さて。今回は私が勝算があると思う理由は三つある。一つは最近の鎮守府でのスマホ事情だ」
北上「最近?」
神風「ここ2.3年で一気に鎮守府での利用が広まったんですよ」
日向「連絡手段として便利なのは確かだからな。セキリュティと法律関連が整備され鎮守府でも利用されるようになった」
北上「へえ」
生まれたての私には当たり前のものだと思っていたが。これが世代の差というわけか。
日向「ところがだ。今では多くのものがスマホに夢中になり日がな一日画面とにらめっこという状況も珍しくない」
それは艦種によっては本当にただただ暇でやる事が無いからというのもあるので、一概に言えるものではない。一応。 - 541: 2017/09/19(火) 01:18:28.12 ID:i3ZTT8gu0
- スマホのアプリ。つまりゲーム。セキリュティのなんちゃらかんちゃらで監視はされてるけど利用は可能となっている。
妙な事をしたり情報を漏らさなければ普通の人と同じようにスマホを使えるのだ。
一応そこら辺は鎮守府事に提督が使用の是非を決めていい事になっているが、ほとんどOKを出しているとか。
何故か。暇つぶしのためというのもあるが一番はお金の使い所らしい。
外にはなかなか出れず、物を買っても置く場所は限られる。なのに命懸けの仕事でお金だけがふえていく。
そんな私達が経済にしっかり貢献できる手段が所謂ソシャゲ。有り体に言ってガチャである。
言ってて悲しくなるよねこれ。 - 542: 2017/09/19(火) 01:19:04.73 ID:i3ZTT8gu0
- 日向「提督もダメとは言わないが決してよくも思っていないからな」
神風「それで図書室を作って読書を勧めようと?」
北上「理由としては、うん、問題はなさそうだね」
日向「提督は割と古い型の人間だからな。スマホは悪だと適当に言い含めておけば大丈夫さ」
何故こうも提督の周りには一癖も二癖もある者が多いのか。
日向「二つ目はラノベだ。最近夕張の熱心な布教活動で随分流行っている」
北上「スマホゲームのおかげでキャラは知ってるみたいだからね。原作を勧めやすいって聞いたよ」 - 543: 2017/09/19(火) 01:19:33.85 ID:i3ZTT8gu0
- 日向「うむ。なのでラノベなんか読まずにちゃんとした本を広めようとか説いてやればいい」
神風「うわぁ…」
北上「えぇ…」
普段なら聞いた瞬間「あ゛?」とか言いたくなるセリフをこうもサラリと使うとは。
しかも分かって言ってるだけにタチが悪い。
神風「でも図書室にもラノベ置くつもりなんですよね?」
日向「部屋の使用許可さえ降りればこっちのものさ」
神風「デスヨネー」 - 545: 2017/09/19(火) 01:22:23.19 ID:i3ZTT8gu0
- 北上「なりふり構わずって感じですね」
日向「ない袖だって振ってやるさ」
神風「それで最後は?」
日向「君だよ。北上」
北上「え?」
神風「北上さんが?」
私がなんだというのか。 - 546: 2017/09/20(水) 02:46:36.25 ID:ffvQcam00
- 北上「ってさ。私にお国よりも大事な本を捨てろって言うんだよ?」
所変わって提督室。
提督「おおよそ在りし日の船の魂が言うとは思えない発言だな。それにその件に関しては全面的にお前が悪い」
北上「え~提督からもなんか言ってよ~」
提督「言ってもいいが俺は球磨達に付くぞ。第1部屋の問題は部屋の者で解決しろ。そういうルールだろ」
北上「まあそうだけどさあ。じゃあじゃあ、床下に倉庫とか作ってよ!」
提督「お前の部屋2階じゃねえか!」
北上「ん~提督はなんかアイディアない?」 - 547: 2017/09/20(水) 02:47:11.75 ID:ffvQcam00
- 提督「そうだな。他の部屋に置いてもらうとかはどうだ?」
北上「他の部屋、夕張とかか」
提督「後日向も結構本を置いてるぞ」
北上「へ~そりゃ知らなかった」
大嘘である。
猫を被る、ではなく皮を被るである。
しかし驚く程スムーズな流れ。逆に怖い。
北上「でもさ、私英語の本とか多いからあんまり他の娘に預けるのはね」
提督「なんで?」
北上「読めない物渡されても困るじゃん」
提督「それもそうか」 - 548: 2017/09/20(水) 02:47:46.26 ID:ffvQcam00
- 北上「他にしまえるところないの~」
提督「…本ねぇ」
北上「おや?何か心当たりがある様子」
提督「いやあ違う違う。あっそうだ!部屋ってんならいくつか空きがあるぜ」
北上「ああ三階の奥のヤツとか?」
提督「そうそう。なんだかんだで使わずじまいでな」
北上「じゃあさ、あそこ図書室にするのはどう?」
提督「図書室?」 - 549: 2017/09/20(水) 02:48:26.29 ID:ffvQcam00
- そう、図書室。全てはそのための布石。
あくまで自然な流れで、さも今しがた思いついたかのように図書室計画を進めるのだ。
私が。
理由の三つ目。私、というか大井っち。
提督は私に甘いのだ。
その甘さを素直に大井っちに向けてればいいのに、というのはこの際どうでもいい。
意中の人の大親友という立場を今日は存分に使おう。
日向さんから言われた通り。ここからは一つ目、二つ目の理由をさりげなく会話に盛り込み図書室計画を楽しげに語っていく。
もちろん要所要所で大井っちの名前を出すのは忘れないようにしなくては。
我ながら悪い事してるなあと思いつつもちょっと楽しんでたり? - 550: 2017/09/20(水) 02:48:59.36 ID:ffvQcam00
- 北上「そそ。学校みたいに、って私学校なんて知らないんだけど。まあそんな感じでさ」
提督「いいんじゃね」
北上「ほら、最近みんなスマホとか…え?いいの?」
提督「あそこどうせ使ってないしな。ただしやるなら自分でやれよ。部屋は貸す。だがそれ以外は一切関与しない」
北上「…」
提督「なんだよその顔は…」
いやこの人私に甘すぎでしょ。日向さんに何されても知らないよ。 - 551: 2017/09/20(水) 02:49:39.23 ID:ffvQcam00
- 提督「お前駆逐艦や軽巡にやたら好かれてるしな。人は集めやすいだろ」
北上「別に好きで好かれてるわけじゃないしー」
提督「いーじゃねえか。どちらにせよ嫌じゃないんだろ?」
北上「まあね…」
駆逐艦は神風を中心に、軽巡は阿武隈繋がりだが最近は妙に寄ってこられる。何故だ。
提督「さて話は決まりだな」
日向「よしでは」ガチャ
吹雪「細かいところを詰めてきましょう」ガチャ
提督「は?」
今回の仕掛け人たちが入室してきた。
扉の前で待ってただけなんだけどね。 - 552: 2017/09/20(水) 02:50:18.04 ID:ffvQcam00
- 日向「部屋の採寸は終わっている。必要な棚、机、椅子等はこれから調達する。詳細はこの資料を見てくれ」
吹雪「本の管理システムですが夕張さんがスマホのアプリを使った物を開発してくれるそうなのでそれを使います」
日向「予算は私と北上、神風、夕張で出す。腐らせていた金だ、たっぷり使うさ」
吹雪「業者の人を入れるのは許可とか申請が面倒なんで人手がある日に鎮守府に届けてもらって私達で設置します。スケジュールの方はこっちの資料に候補をあげといたんで目を通しておいてください」
提督「え、いや、あの、ごめん、もっかい言って」
日向「それじゃ」
吹雪「それでは」
バタン。
台風一過のような静けさが訪れた。 - 553: 2017/09/20(水) 02:50:54.37 ID:ffvQcam00
- 提督「北上…」
うわぁ、すごく恨みがまし~い目で見られた。
北上「提督」
提督「なんだ」
北上「ありがとね」
提督「はぁ…」
北上「えーため息つかないでよぉ。いや悪い事したとは思ってるけどさあ」
提督「素直に言ってくれよだったら…というか怖いからあいつら巻き込むな」
そっちが本音か。 - 554: 2017/09/20(水) 02:51:22.17 ID:ffvQcam00
- 北上「感謝してる。ホントだよ?」
提督「知ってるよ。で、さ。図書室出来たらそこに入り浸りか?」
北上「あーどうだろ。入り浸りって事はないんじゃないかなぁ」
提督「そうか。そっか」
北上「?」
提督「ま、アイツらがいるから大丈夫だろうか、頑張れよ」
北上「うん」 - 555: 2017/09/20(水) 02:52:01.77 ID:ffvQcam00
- 北上「いいねぇ、痺れるねえ」
神風「出来てしまった」
日向「まあ、そうなるな」
計画開始から僅かに1週間。
私達の牙城が出来上がった。
四方を取り囲む本棚はまだ半分ほどしか埋まっていないがそれはこれから増えていくから問題ない。
部屋の中央には背の低いテーブルが二つ。座布団や椅子が周りに置かれている。基本は床に引いたマットに座る想定だ。
もちろん寝転んで読むことも出来る。 - 556: 2017/09/20(水) 02:52:29.09 ID:ffvQcam00
- 北上「受付とかってやる?」
日向「それは私がやろう」
神風「え?でもお仕事があるんじゃ」
日向「ここに持ち込めばいいさ。持ち込めないものはさっさと終わらせるか他に回せばいい」
優秀だもんね、この人。
北上「では」
日向「お楽しみと」
神風「いきましょう!」 - 557: 2017/09/20(水) 02:53:03.68 ID:ffvQcam00
- ゴロンと寝転ぶ。場所は窓から入る陽の光で暖められている場所の隣。
隣というのがポイントでつまり直射日光ではなく陽の光を吸った干したての布団の温もりの上ということである。
よく寝ながら読書は読みにくいという話を聞くが私はこの方が落ち着く。何故だろう。猫だったから?
神風「んっと」
神風は人をダメにするというクッションチェアに深々と腰掛け、お臍の上辺りに本を広げている。いつもの姿勢だ。
この時いつも足を伸ばすのではなく膝を折り曲げるため行燈袴から太ももが、というかもうパンツまで見える時は見える。 - 558: 2017/09/20(水) 02:53:44.04 ID:ffvQcam00
- ブーツを脱ぐとだらしなくなるのが彼女の特徴である。意外とふとましいというかむちむちとした太ももには是非とも膝枕をして欲しいのだが一向に首を縦に降ってくれない。
ちなみに一番は大井っち。阿武隈は細いのでダメ。
まあこのだらけ具合は完全にプライベート空間だし周りも女だけ、本人も気にしていないようなので特に何も言わないけど。
日向さんは入口に設置されたカウンターで椅子に座って読んでいる。
なんでもゲーミングチェアと言って角度や姿勢が色々調節できるらしい。
5万円もしたというがホントか嘘か。 - 562: 2017/10/01(日) 16:37:25.80 ID:hlST7fwS0
- 壁にかけられた時計の針の音だけが響き渡る空間。なんとも素晴らしい。
本の収納に留まらずこんな癒し空間まで手に入るとは、いやほんとに素晴らしい。
大井「お邪魔しまーす」
多摩「うわ、マジにダラダラしてるだけにゃ」
北上「やほ~」
神風と日向さんは本にのめり込んでいるのか2人の来訪者に眉毛一つ動かさない。
いや受付は受付しなよ… - 563: 2017/10/01(日) 16:37:56.88 ID:hlST7fwS0
- 大井「ここが北上さんの牙城ですか」
あっ、発想が同じだ。
多摩「本関係なく過ごしやすそうな場所にゃ」
北上「2人は何しに?」
大井「夕張さんにこれを渡すようにと」
日向「お、端末か。これで正式に本の貸し借りができるな」
多摩「ビックリしたにゃ。急に会話に入るんじゃないにゃ」
日向「酷いことを言う。私が受け取らねばそちらも困るだろ」
多摩「なら最初から反応するにゃ」
日向「善処しよう」
多摩「した試しがないけどにゃ」
あれ?この2人なんか知り合いというか、気の置けない仲って感じが。
あんまりそういうイメージないけど、私みたいになにか趣味とかで繋がりがあるのかな。 - 564: 2017/10/01(日) 16:39:50.77 ID:hlST7fwS0
- 日向「さてそろそろ行くか」
北上「いずこへ?」
日向「仕事さ。ついでに神風も起こしてくれ」
起こしてとは決して神風が寝ているという意味ではない。ようは目を覚まさせろという事だ。
というわけで、
北上「おりゃあ~」
神風「ひゃあっ!?」
袴を思いっきり捲ってやる。慌てて抑えてるけどさっきから丸見えなんだよねえ…
大井「桃色」
多摩「桃色にゃ」
神風「北上さん゛!」
くりんとした目を僅かに潤わせながら睨みつけてくる様はなんというかこう加虐心を擽られる。
北上「あーほらほら呼んでるから」
神風「呼んでる?」 - 565: 2017/10/01(日) 16:40:27.67 ID:hlST7fwS0
- 日向「これから遠征だろ?そろそろ向かうべきだ」
神風「はっ!忘れてた!」
慌てて本を棚に戻す。神風はリアクションが大きくて面白い。
神風「では皆さん、ごゆっくり!」
日向「ごゆっくり?ごゆっくり…うん。ごゆっくり」
走り去る緋色とぬらりと消える白。
大井「と言われても、届けに来ただけなのよね」
多摩「せっかくだしゆっくりしてくにゃ」ゴロン
北上「いらっしゃ~い」
大井「も、もう。しょうがないですね」
とか言いつつ顔がにやけてる大井っち。
- 566: 2017/10/01(日) 16:41:02.54 ID:hlST7fwS0
- 多摩「結構ふかふかにゃ」
大井「流石です北上さん!」
選んだのは神風とは言わない。
しかしこれは、チャンスだ。
読みかけの本を閉じ棚に戻す。変わりにある本を手に取る。
多摩「これ部屋にもひくにゃ」
大井「テーブルありますよ?」
多摩「畳めるようにしとくんだにゃ」
大井「それなら、いやめんどくさそうです」
多摩「えーそんな事ないにゃきっと」
大井「いえ、多摩姉さんが面倒くさがります絶対確実に間違いなく」
多摩「むぅ」 - 567: 2017/10/01(日) 16:41:39.26 ID:hlST7fwS0
- あくまで自然な形で本を開き、しばらく読み進め、ふと思いついたかのように口を開く。
北上「ねえねえ、ライ麦畑って見た事ある?」
大井「麦、 畑?」
多摩「どうしたんだにゃ急に」
大井「あぁCatcher in the Ryeですか」
北上「うん。実際麦畑ってどんな感じなのかーって」
多摩「見た事はないにゃ~。第1日本じゃ、無いこともないのかにゃ?でもほとんど無いはずにゃ」
大井「それこそアメリカみたいな広い国でないと」 - 568: 2017/10/01(日) 16:42:07.40 ID:hlST7fwS0
- 多摩「知識というかイメージなら分からなくもないにゃ」
大井「そうですね。ともかく広くて大きくて」
多摩「ん、麦畑、にゃあ」
大井「日本語訳は確かライ麦畑でつかまえて、でしたよね」
北上「そうそう」
実はそっちはまだ読んでなかったり。
大井「でも実際麦畑で追いかけっこなんかしたら絶対捕まえられませんよね。お互いに全身スッポリ覆われてしまいますから」
北上「それもそうだねぇ」
ん?
多摩「…」
北上「多摩姉?」 - 569: 2017/10/01(日) 16:42:48.98 ID:hlST7fwS0
- 多摩「見た事あるにゃ」
北上「え!?」
多摩「いや、ハッキリとは覚えてないにゃ。ただこう、まるで一枚の写真みたいな感じにぼんやりと絵が浮かぶにゃ」
大井「ど、どういう事ですか!?」
北上「何か他に思い出せないの!」
多摩「お、おうにゃ。ただ小麦色の背景に、人にゃ。えーと、なんだろにゃ、金色の…どこで見たんだったかにゃ」
北上「…まあうろ覚えじゃしょうがないか」
多摩「そんなに麦畑見たいのかにゃ?」
北上「いや、そんなんじゃないよ。まさかホントに見た事あるとは思わなかったから驚いただけ」
多摩「なんか悪いにゃ。変な期待させて」
北上「気にしないでよ。そう大した事じゃないからさ」
- 570: 2017/10/01(日) 16:43:29.17 ID:hlST7fwS0
- 多摩「あ、そろそろ風呂の時間にゃ」
北上「じゃあ先行っててよ。私ちょっと夕張んとこ寄ってくから」
多摩「おっけーにゃ。大井ーいくにゃー」
大井「へ?あぁはい。行きましょうか」
図書室を出て別れる。
少し1人で考える必要がある。 - 571: 2017/10/01(日) 16:43:58.48 ID:hlST7fwS0
- 一つ可能性を忘れていた。
多摩姉に記憶が全部あるとは限らないのだ。
それは生まれ変わる過程で失われたのか、それとも今はまだ思い出せていないだけなのか。そこら辺ら判然としないけど、ともかくあまり根掘り葉掘り聞いても仕方ない。
とは思うのだけど、焦る気持ちはやはりある。
自分の記憶だけだと現状私の飼い主を見つけるのはほぼ不可能だ。あまりに情報が少ない。
多摩姉の記憶にヒントになるものがあるという保証はないけど、それでも現状は唯一の突破口だ。
北上「一回頭冷やすか」
冷たい水でもかぶりたい気分だった。 - 572: 2017/10/01(日) 16:45:09.49 ID:hlST7fwS0
- 多摩「そういや図書室って鍵かけたりしなくてもいいのかにゃ?」
隣でシャンプーのついた頭を洗い流す多摩姉が聞いてくる。
多摩姉も含めて多くの艦娘がそうなのだが頭を流す際、目をつぶって頭の上からドバっとシャワーをかける。
私はこれが苦手である。目に水が入るのがいや、というわけではなく目に水が入るような感覚がダメなのだ。
あと髪が長いからそれが顔にひっついたりそこを水が伝ったりというのも嫌だ。
例えゴーグルをしていても顔の上から水が垂れてくるのがどうにも気持ち悪い。ので頭を後ろに少し倒しオデコから後ろにお湯を流すように洗っている。
北上「鎮守府内ならどうせ取るやつもいないしいいんだって日向さんが」
多摩「まあそれもそうだにゃ」
蛇口を捻り、シャワーでお湯をかぶる。
- 573: 2017/10/01(日) 16:45:50.60 ID:hlST7fwS0
- 北上「ねー大井っち~」
大井「なんですか~」
いつものように髪を乾かしてくれる大井っち。
いつものように腰に手を当てて風呂上がりの牛乳を飲む木曾。
いつものように謎のストレッチを開始する多摩姉ちゃん。
北上「球磨姉どこいったの?」
大井「あー、それがですねえ…」
気まずそうに目を伏せる。
何かあったのか? - 574: 2017/10/01(日) 16:46:29.43 ID:hlST7fwS0
- 北上「うわっ!」
球磨「 」
部屋に戻ると球磨姉ちゃんが死んでいた。
いや生きてはいるけど、なんいというか死んでいた。うつ伏せに。
北上「いつから?」
多摩「今日の午後からにゃ」
木曾「具体的に言うと図書室完成の連絡が回ってきた時からだな」
北上「図書室?」
なぜ図書室。 - 575: 2017/10/01(日) 16:47:20.14 ID:hlST7fwS0
- 大井「北上さん北上さん」
北上「な、なにさ」
大井「アレです、アレ」
北上「アレ」
大井っちが部屋のある場所を指さす。
そこは私の買った本が積んであった場所だ。
なのだが。
北上「本棚?」
部屋の邪魔にならない細くて長い本棚が床から天井まで伸びていた。
棚は1/4ほどしか埋まっていないが、きっとこれなら私が図書室に運んだ分も合わせて全部収納出来ただろう。 - 576: 2017/10/01(日) 16:47:50.34 ID:hlST7fwS0
- 北上「でも何でこんなのが」
球磨「クマガカッタクマ」
北上「え゛」
うつ伏せのまま妖怪球磨雑巾が喋る。
球磨「オトトイノアサトドイタクマ」
一昨日の朝、というと図書室の家具が届いた時と一緒か。その時一緒に届いたのだろう。
球磨「ケサクミオワッタクマ」
北上「う、うん…」
流石に読めてきた。非常にわかりたくない真実が。
球磨「図書室なんて聞いてないグマ゛アァァ!!」ガバッ
北上「えぇ~…」 - 577: 2017/10/01(日) 16:48:21.89 ID:hlST7fwS0
- つまるところ私達が図書室なんて用意してるとは知らずに私の為に本棚を、しかも完成まで見つからないように1人で作っていたという事だ。
確かにサプライズ的な意味も込めて私達も図書室の件はあまり触れ回らなかったけどさあ。
球磨「 」チーン
多摩「うむ、球磨はよくやったにゃ」ヨシヨシ
木曾「なんだろうな。この誰も悪くない感じは」
大井「不運としか」
北上「嫌な事件だったね…」 - 578: 2017/10/01(日) 16:48:53.30 ID:hlST7fwS0
- 球磨「」
球磨姉は後ろから見ると良くわかるが、本当に髪が長い。それでいてフワフワとしていて触り心地がよい。それこそ毛皮のように。
なので
北上「とうっ!」
球磨「ぐえ゛っ!」
その毛皮に思いっきり飛び込んでみた。
球磨「何すんだクマ!死ぬところだったクマ!」
北上「う~ん、やっぱ球磨姉の毛皮気持ち~」
球磨「球磨は熊じゃないクマ!毛皮にしないで欲しいクマ!」 - 579: 2017/10/01(日) 16:49:26.01 ID:hlST7fwS0
- 北上「まあまあ良いではないか~」
球磨「良くねえクマぁ!」
チラとほかの3人にアイコンタクトを取る。
木曾と大井っちは一瞬2人で顔を見合わせたが直ぐに察したのかニヤっと笑うと、
木曾「おらっ!」
大井「よっと!」
球磨「ギャーー!!」
さらに覆いかぶさってきた。
球磨「や、ヤメロクマー!ちょそこは違うクマ!くすあはははは、くすぐったいクマァ!」 - 580: 2017/10/01(日) 16:50:00.98 ID:hlST7fwS0
- 実際のところ球磨姉の上に3人なんて乗れるはずもなく、私が頭らへん、大井っちが背中、木曾は下半身となった。
でも、なんだか包み込まれているような気分だった。
北上「ありがとね」
球磨「へ?って木曾!何靴下取ってあはははは足!足裏はダメクマァ!」
大井「…」パチッ
北上「え、何外したの」
大井「ホックです」
球磨「何とんでもねえ技披露してんだクマ!」
北上「よし、球磨姉のを揉んで大きくしてあげよう」
大井「承知。木曾、足をお願い」
木曾「え、マジで?」
球磨「クマアァ!!多摩あ!助けろぉ!」
多摩「いい揉み方を知ってるにゃ」
球磨「多摩ああああ!!??」 - 581: 2017/10/01(日) 16:50:48.56 ID:hlST7fwS0
- 突如、バタン!と扉が叩き開かれる音が部屋の時を止める。
各々揉むのや抑える、脱がす暴れるなどを辞め一斉に扉に向く。
彼女は扉からぬらりと部屋に入ってきてこう言った。
神通「皆さん…もう少し静かに。下の子達から苦情が来てます」
「「「「「アッハイ」」」」にゃ」
棚の余った段には現在、球磨型の写真が飾られていて、日に日にその数を増やしている。 - 585: 2017/10/05(木) 02:32:52.75 ID:fUizg0w/0
- 37匹目:本の猫
本の虫とは、本が好きな人のことを指す。
しかしこれよく考えなくても害虫呼ばわりである。
物好きなって意味合いもあるんだろうけどもう少し言い呼び方はなかったもんかね。
まあいいけど。
趣味に熱中しすぎる人間は往々にして奇怪な目で見られがちである。
実際異質な行動をとりがちだし。
例えば鎮守府にも、 - 586: 2017/10/05(木) 02:33:48.87 ID:fUizg0w/0
- 明石「記憶が蘇る方法?」
北上「そうそう。何かきっかけとかタイミングってあるのかなーって」
明石「もしかして記憶結構思い出したり?」
北上「あーうんまあ」
明石「ほほ~う、それはそれは中々興味深いわねえ」
明石の目が怪しく光る。
大丈夫と分かっていてもこの手の人種の知的好奇心溢れる目はなんというか身構えてしまう気迫がある。
明石「あはは、何もしないってば。本人の許可なく」
北上「だよねー」
許可したら何するつもりだおい。 - 587: 2017/10/05(木) 02:34:43.53 ID:fUizg0w/0
- 場所は工房。明石とはお仕事中にも関わらずこうして相談に乗ってくれるくらいの仲だ。
消して私という存在への好奇心じゃなく。多分。
明石「そーね。きっかけと言えば、変わる時、ね」
くるりとイスごと回転して作業に戻る。
私と話しながら行える程度の作業という事らしい。
何となく私もイスで回ってみる。
北上「変わる?」
明石「そうそう」
ちなみに彼女の服装はツナギにタンクトップ。
危ないだろと思ったが防護服とかで防げるようなものなら艦娘には何の影響もないという話である。
彼女曰く「この長ったらしい髪の方がよほど危険」だとか。自分で言っちゃあおしまいでしょ。 - 588: 2017/10/05(木) 02:36:16.16 ID:fUizg0w/0
- 明石「一つは生まれ変わる時。これはまあ私達が生まれる時ね」
北上「船から艦娘へってことか」
明石「前にも言ったけど、艦娘って色々なものが混ざって交わって合わさって出来てるのよ。だから生まれる過程で異物、って言い方はアレだけどそういったものが入る事はまれによくあるのよ」
どっちだよ。
明石「もう一つは改造で変わる時」
北上「改造も?」
明石「ええ。私達の力の源は基本的に船の記憶。船としての機能の模倣。ありし日の戦いの投影なの。ほら!艤装もこうフワッて出せるでしょ!トレースオンって感じ!」
北上「お、おう」
急に振り向いたかと思うと凄く楽しそうに喋る。
わざわざ書く事でもないけど彼女は既に夕張によって染められている。何とは言わないが、色々と。 - 589: 2017/10/05(木) 02:36:50.93 ID:fUizg0w/0
- 明石「改造による強化や艦種の変更はその船の記憶をより定着させたり、違う記憶を入れたりするものなんだけど。それもきっかけになったりはするわね」
何事も無かったかのように作業に戻る明石。切り替えが早い。
北上「そっか~、改造かぁ…」
多摩姉は球磨型でも最高練度だ。当然改造済。う~んまいった。頭でもどつきゃいいのかな。
明石「何か不備があるならとりあえず叩いてみる?」
そう言ってスパナ(?)を右手でヒラヒラとさせる。技術者がまず第1にそれを言ってどうする。
北上「遠慮しとくよ。でもありがと」
明石「お役に立てたかしら?」
北上「いやもう全然まったく」
明石「ひどい!」
北上「んじゃね」
軽口を叩きつつ席を立つ。 - 590: 2017/10/05(木) 02:37:27.90 ID:fUizg0w/0
- 明石「あー待って待って」
北上「どったの?」
明石「さっき夕張が呼んでたの忘れてた」
北上「夕張が?なんだろ」
明石「アレでしょアレ」
明石が、多分スパナじゃなさそうな何かの工具を拳銃のように持ちパァンと効果音をつける。
北上「あーアレね」
明石「アレよ」
思わずニヤついてしまった。 - 591: 2017/10/05(木) 02:38:37.15 ID:fUizg0w/0
- パァン、と言うのが一般的に銃が弾丸を放つ時の効果音として用いられる。
がこれは猫がにゃあと鳴くと言われるのと同じで実際にそう聞こえなくてもそう言う意味、状況を表す一つの記号として存在するものだ。
つまり何が言いたいかというと私は発砲音はタァン派という事だ。
とか何とか考えながら4発を的に撃ち込む。悪くない命中率だ。
右人差し指でセミオートからフルオートに切り替える。
子気味いい音とともに数十発の弾丸が発射される。
うん、これはたまらん。
北上「パーフェクトだ夕張」b
夕張「感謝の極み」b - 592: 2017/10/05(木) 02:39:29.07 ID:fUizg0w/0
- P-90もどきを棚に戻す。名前はまだ決めてないらしい。
北上「やっぱこのくらいの大きさのが好きだなあ私は」
夕張「えーアサルトライフルとか機関銃とかもいいじゃ~ん。ヒャッハーって弾丸ばら撒くの!」
北上「トリガーハッピーめ」
夕張「化物狩るのが日常の艦娘が何を今更」
北上「そりゃそうだ」
以前に言ったが工房でちょくちょく消える改修資材ことネジ。え、逆?
まあともかくそのネジの行方がこれである。
ズラリと並んだ銃火器。
アメリカンな映画のような風景だ。
- 593: 2017/10/05(木) 02:40:00.25 ID:fUizg0w/0
- 自身が軍所属の兵士であり軍所有の兵器であり化物を倒す生きた軍艦でありながら、意外にもこうした銃火器に触れた事がないのが艦娘である。
理由は反乱とかを恐れてだとか。
いやいや見た目が小学生低学年の駆逐艦ですら戦車とやり合えるというのに何を今更という話だが、実はちゃんと効果がある。
それは私達の燃費の悪さだ。
この大きさで軍艦同様の力を発揮するというのは末恐ろしい話だが、残念ながら自身で持てる燃料弾薬は人の大きさ基準なのだ。
便宜上「燃料」「弾薬」と呼ばれるそれは実に特殊なもので艦娘が身体に保有する以外での持ち運びが非常に難しい。
大規模な海域戦でこちらがジリ貧になったりするのはそれが原因だ。
補給艦なる者もいるが相応のリスクを伴う。 - 594: 2017/10/05(木) 02:40:32.96 ID:fUizg0w/0
- 鎮守府に立て篭もるならともかく、私達は長期的な外部戦闘が難しいのだ。
簡単に言えば私達が人類を滅ぼしてやるーと意気込んでも守りに徹していれば勝手に息切れするのである。
弾丸がきれれば砲塔は飾りだし燃料がきれれば艤装は動かない。
残るのは身体能力のやたらと高いだけの少女である。
銃火器以外にも反乱等の対策は色々されているらしいがそこまでは夕張は教えてくれなかった。
なんて知ってるのとは聞かない。怖いし。 - 595: 2017/10/05(木) 02:41:10.56 ID:fUizg0w/0
- 夕張「それじゃ今度はこいつね」
北上「うわごっつ。何それ」
夕張「名付けて、バレットY35!」
Yは夕張のYかな。35はなんの数字だろう。
北上「私の身長とあんま変わんないし…」
夕張「スナイパーだしね~対物だしね~」
北上「もどきならそこは私用にコンパクトにしてもいいじゃん」
夕張「そこにロマンはない」キリッ
北上「アッハイ」
銃を手に持つ。重い長いデカい。
こんな所までHELLSINGリスペクトしなくていい。
まあ実際は艤装の方が対化物用であり、こんなものは今の時代無用の長物なのだが。 - 596: 2017/10/05(木) 02:41:46.06 ID:fUizg0w/0
- 北上「撃っていい?」
夕張「ちゃーんと海の方に的を浮かべといたから。音は作業音って言っときゃ大丈夫大丈夫」
北上「ならいいけど」
いいのかな。フラグにも聞こえるが。
艤装と銃をリンクさせ弾薬を装填する。
これがもどきの理由。
艦娘専用の銃。
作者、明張コンビ。
弾も艤装からなので深海棲艦にも効く、と言うと偉大な発明のようだがだったら戦艦が砲撃した方が手っ取り早いのでやはり趣味の範囲。
ちなみに先に述べたようにれっきとした銃なのでバレたら、どうなるのかね。
夕張「一応踏ん張っといてね。一般の女子中学生が撃ったら肩イくから」
北上「そこは流石に艦娘だし」
何せ普段は軍艦の砲撃を体で受け止めているのだから。 - 600: 2017/10/10(火) 17:26:47.85 ID:SYfXOo7I0
- 以上が工房で消えるネジと資源の理由である。
無駄遣いどころの騒ぎじゃない。
元々は夕張と明石でコソコソやってらしい。
私が夕張に借りた本に影響され銃に興味を持ったのを切っ掛けに色々とはっちゃけだした。
そこへいくともしバレた時私も責任がなくはないのだが。
止めた方がいいかな。
とかなんとか考えながら自室へ戻る途中、提督に出くわした。
提督「おーいたいた。探したぜ」
北上「んー?どったの提督」
提督「いや、そのな。工房の、というか夕張と明石の話でな」
北上「うんうん」
あれ、何か嫌な流れが。
提督「ここ最近資材の減りが妙に増えてんだよ。お前アイツらと仲いいだろ?なんか知らないか」
OH… - 601: 2017/10/10(火) 17:27:30.26 ID:SYfXOo7I0
- 夕張「燃やそうか」
明石「事故装って爆破しよう」
北上「落ち着いて落ち着いて」
提督からの頼みをとりあえずは引き受け工房へとんぼ返りしてきた。
私にも責任の一端はあるからと対策を一緒に練ろうと思っていたのだが、二人がまず出したのは後処理だった。
北上「きっぱり切り捨てるんだねそこは」
明石「そりゃあ、まあねえ」
夕張「内容が内容だし」
自覚があるからなおタチが悪い。
明石「これが未来ガジェットとかなら誤魔化すとこなんだけどねぇ」
夕張「流石にこれはバレたら死ぬ」
北上「今更でしょそれは…」 - 602: 2017/10/10(火) 17:27:57.63 ID:SYfXOo7I0
- とは言え冷静な判断ではある。爆破焼却はともかく無かった事にはすべきだろう、とりあえずは。
明石「いやでも拳銃とかなら隠せるか」
夕張「あズルい!私だって1丁くらいなら」
北上「はいはいストーップ」
まあそうなるな。
ちなみに明石はリボルバー拳銃大好きっ子。
ファニングショットも出来る。
手先器用だからとの事。いやそういう話じゃないでしょ。 - 603: 2017/10/10(火) 17:28:23.50 ID:SYfXOo7I0
- 北上「とにかく、早いとこ決めないとホントにバレるよこれ」
夕張「と言っても、ねえ」
明石「感情を殺したとしても後処理、フェイクの理由、色々と用意しなきゃだし…」
吹雪「あまり時間はないですよね~」
んーと黙り込む4人。
4人?
北上「吹雪?」
夕張「アイエエエ!」
明石「ブッキー!?ブッキーナンデ!?」
吹雪「その呼び方やめて下さい…」 - 604: 2017/10/10(火) 17:29:11.16 ID:SYfXOo7I0
- 吹雪「皆でしかめっ面して、もしかしてチャカの事バレました?」
北上「チャカって…」
夕張「まあそんな感じかなあ…相変わらず鋭いね」
吹雪「司令官が資料と睨めっこしてましたから。内容から予想しただけです」
明石「さすふぶ」
吹雪「なんですかそれ」
北上「アレ、ブッキーってこの事知ってたの?」
吹雪「その呼び方やめて下さい」
夕張「ブッキーにバレると怖いので早めに打ち明けて交渉しました」
明石「やり過ぎない限りは不干渉という事に」
吹雪「…まあそんなところです」
北上「ほう」
これはやり過ぎに入らないというのか。 - 605: 2017/10/10(火) 17:29:51.85 ID:SYfXOo7I0
- 吹雪「私がしたいのはこの鎮守府の維持ですから。多少の無駄遣いや違法な武器製造に興味はありません。でも司令官の方は戦力の増強や施設の拡張など色々とやりたいらしくて。だからこそこの件も無視出来なくなったんでしょうね」
真面目な話をする時の彼女はおおよそその稚い容姿からはは想像もつかないような独特の雰囲気を発する。
駆逐艦といえど、何十年とここで秘書艦をやってきているのだ。年季が違う。
吹雪「とはいえこれがバレるのは私としても避けたいですね」
夕張「沈めよう」
明石「魚雷に詰めて深海に届けよう」
北上「堂々巡りだこれ」 - 606: 2017/10/10(火) 17:30:18.83 ID:SYfXOo7I0
- 夕張「えー秘書艦さまなんとかしてよ~得意の書類偽装とかなんとかでさ~」
吹雪「そんな特技ないですよやった事も無いですよ。欲しいとは思いますけど」
明石「提督が北上に頼んだ以上あまり時間もないのよねぇ」
夕張「もうだめぽ」
吹雪「仕方ないですね。ここは助っ人を呼びましょう」
夕張「助っ人?」
明石「ダンス?」
北上「あ」
察しがついた。 - 607: 2017/10/10(火) 17:31:01.86 ID:SYfXOo7I0
- 吹雪「……あ、むらむら、くもくも? うわっ!」
もしもし感覚で妙な事を言ったかと思うとさっと携帯を耳から遠ざける。
電話の相手、なんて言うまでもなく叢雲なんだろうけど、彼女が大声で何を言ったのかは想像に難くない。
吹雪「ゴメンゴメンそんなにムラム、イライラしないでよっ」
言い終わると同時に今度は予め携帯を離しておく。
なんで息をするように妹を煽るのだろうか…
吹雪「いやいやちょっと真面目な話でね。そう!さっすが分かってるじゃん。うんお願い。工房のとこ。うん、うん。じゃね」
携帯を切る。
吹雪「オッケー」b
夕張「ナイスゥ」b
明石「おk」b
誰かいたわって上げて… - 608: 2017/10/10(火) 17:31:53.15 ID:SYfXOo7I0
- 叢雲「で、私に頼ってきたわけ?」
夕張「このと~り」
明石「何卒何卒」
ジャパニーズ土下座。この2人に物作り以外のプライドはない。
吹雪「やっぱこの手の事は叢雲が1番頼りになるから。貸一つって事で、ね?」
叢雲「はぁ…まあいいわ。やったげる」
不承不承、という感じを醸し出しているが口元が僅かに緩んでいる事を誤魔化しきれていない。
あー吹雪が凄く、こう、生暖かい目というか、可愛いなコイツみたいな目で見てる。もう少し普通に可愛がって上げればいいのに。
叢雲「それで、その「趣味で作ったオモチャ」は隠し通せる前提でいいのよね」
夕張「イェスマム!」
明石「ノープロブレム!」
嫌味な言い方をするあたりこの件に賛成はしていないようだ。 - 609: 2017/10/10(火) 17:32:38.94 ID:SYfXOo7I0
- 叢雲「となると必要なのはカバーストーリーね。「 無 駄 遣 い 」が増えたのはいつから?」
夕張「に、2ヶ月ほど前ですサー!」
明石「北上が来た辺りですサー!」
サー、は男性に対するものである。と言う場面ではないか。
叢雲「二ヶ月前ねぇ。えっと…」
スマホを弄り始める。カレンダーとか予定表などを参照しているのだろう。
叢雲「あっ」
夕張「い」
明石「う」
吹雪「え」
叢雲「お゛!」ダンッ
夕明吹「」ビクッ
怒りのこもった足で工房の床を踏み鳴らす。
北上「ビビるならやらなきゃいいのに…」 - 610: 2017/10/10(火) 17:33:11.08 ID:SYfXOo7I0
- 吹雪「何か思いついた?」
叢雲「これよこれ、これでいいじゃない」
夕張「これって?」
明石「端末何も写ってないけど」
叢雲「中身もそうだけれど、これ自体よ」
吹雪「あーなるほど」
夕張「ワケワカメ」
明石「二ヶ月前?スマホ…?」
叢雲「だからー - 612: 2017/10/13(金) 02:17:59.65 ID:5HydsKiY0
- 提督「端末の開発に?」
北上「うん。図書室のもそうらしいんだけど、勝手に色々と開発してたんだって」
提督室で作業中だった提督に今回の件の報告(偽)をする。
提督「でも資源はともかくネジは使うか?」
北上「いくらあの二人でも携帯は専門外でしょ?分からないところはネジと妖精パワーで無理やり作ってたんだって」
提督「妖精さんも共犯か…まったく、科学の結晶かと思ってたのにオカルトが混じってたとは」
やれやれとスマホを眺める提督。大丈夫、ちゃんと化学の力100%だから。
北上「本の貸出のアプリとかも前から作ってたらしくてさ。私が図書室欲しいって言ってたのに聞いてたみたい」
提督「それでここ最近消費が増えたのか」
北上「その通り」
ではない。こうして嘘を並べるのは2度目だけど、上官に対してそれってどうよ。 - 613: 2017/10/13(金) 02:18:36.15 ID:5HydsKiY0
- 北上「今回の事話したら暫くは自重するってさ」
これは本当。
提督「暫くかよおい。まあいいかぁ、結果役に立ってるんだし」
北上「あははーソダネー」
提督「何はともあれこれでようやく計画通りに進める」
北上「何か目標とかあるの?」
提督「そりゃあるさ。その為にやってんだから」
北上「何目指してんのさ」
提督「内緒だ」
北上「ちぇー」 - 614: 2017/10/13(金) 02:19:08.51 ID:5HydsKiY0
- ふと机の上の書類を見る。
北上「ん?これが無駄遣いってやつ?」
提督「そ。大した量じゃないんだけどな。うちはまだまだ小さいから貴重なんだよ」
北上「へー」
おかしい。こんなに少ないわけがない。どういう事だ?
北上「それじゃ、北上撤退しま~す」
提督「おう、ありがとな」
藪蛇な気がしたので無視して部屋を出る。
夕張に聞いてみようかな一応。
吹雪「その様子だとバッチリ見たみたいですね」
北上「うおっ、びっくりさせないでよ…」
吹雪「北上さん、取引です。夕張さんや明石さんと同じく」
北上「え」
同じく?
吹雪「他言無用、ですよ」
北上「…イエスサー」 - 615: 2017/10/13(金) 02:20:00.23 ID:5HydsKiY0
- 吹雪「鎮守府にある資材。それは司令官も把握してます。なのに計算が合わない。司令官の知らない所から消費されている。さてどうしてか」
北上「…」
10あるものから2使われた。と思ってたら実際は4だった。なのに残りの8という計算は合ってる。2はどこから来たのか。
いやそもそも10はどこから来ているのか。
北上「抜いたな…」
つまり任務の報酬から、という事か。
10ではなく12あったのだ。
吹雪「ええ、提督に届く前に」
北上「書類の偽装はやったことないんじゃなかったの」
吹雪「得意じゃないだけです」
いけしゃあしゃあと。たいした秘書艦だこりゃ。 - 616: 2017/10/13(金) 02:20:39.20 ID:5HydsKiY0
- 北上「そこまで夕張達に協力するのはなんでさ」
吹雪「協力はついでです。私の目的は取ったものの活用ではなく取ることで提督に届かなくさせる事」
北上「…」
吹雪「…」
野生の勘、と言うやつかもしれない。
北上「他言無用ね」
吹雪「はい」
私は引いた。 - 617: 2017/10/13(金) 02:21:06.38 ID:5HydsKiY0
- 現状が維持できれば鎮守府の拡大は不要。
そう言っていたが実際は
現状を維持するには鎮守府の拡大の阻止が必要、という事らしい。
一体吹雪と提督はどんな関係なのか。
鬼嫁?どっちかというと怖い小姑みたいな。
前任者、提督の前の提督ってどんな人だったんだろう。
自分にはあまり関係のない話だが、段々と頭の中でその事が少しずつ、確実に忘れられなくなってきていた。 - 618: 2017/10/13(金) 02:21:41.82 ID:5HydsKiY0
- 北上「ん」
ポケットからバイブの振動が伝わってきた。
スマホを取り出すと夕張からのメッセージが表示されていた。
『パイルバンカーって、いいと思わない?』
北上「懲りてない…」
どころか味を占めてる。
やれやれ、流石にこれは一言言ってやらねばなるまい。
『ヒートパイル好き』
とりあえず返信。
さて工房へ向かおう - 623: 2017/10/16(月) 02:51:41.88 ID:AMpF4EnN0
- 39匹目:猫と提督
提督室というのは本来上司の、というか職場におけるトップの部屋という意味なのだが、
30いくつの人間と生きた年数や生まれた年を考えれば三桁すらいる艦娘、人と兵器、人と船に一般的な上下関係やらが当てはまるはずもなく、
だからこの扉も一応ノックしろというあってないようなルールのみが辛うじて残る程度の薄いものなのだ。
北上「おじゃましま~す」ガチャ
提督「お~う」
適当な挨拶に適当な返事。
こんなもんだし、そんなもん。 - 624: 2017/10/16(月) 02:52:53.36 ID:AMpF4EnN0
- 北上「うわ、すごい書類」
提督「紙一枚分の情報を3枚分に増やすのが上の仕事なんだよ」
北上「それを紙半分にまとめるのが提督仕事ってわけか」
提督「そゆこと。あー座るならこっちのソファーにしとけ」
北上「ん?なんでよ」
提督「れでぃーがお茶をこぼした」
北上「あ~」
言われた通り机を挟んで反対側のソファーに移り仰向けに体を倒す。
おっと靴をソファーに付けないようにしなきゃ。
持ってきた本を開く。
ページと資料をめくる音だけが部屋を支配する。 - 625: 2017/10/16(月) 02:53:31.70 ID:AMpF4EnN0
- 鎮守府はともかく人が多い。
そりゃ田舎のそれほど大きくもない建物に百人以上もの人間がいればそうなるわって話。
別に皆でわいわいやるのが嫌いなわけじゃないけどやはり一人になりたい時ってのがある。
そういう機会はあるにはあるけれど、出撃や遠征の関係で偶然訪れるものでなりたい時になれるわけじゃない。
だからこそ、そういう場所を探す必要がある。
そして見つけたのがここ。
図書室とは少し違う。
少し特別。
お昼ご飯の後、おやつの時間の前の提督室。
予定がある者は出撃し、そうでなければお昼寝など。
ティータイムや間宮に提督を誘う人達はまだこない。
この時間こそが、至福の時となるのだ。 - 626: 2017/10/16(月) 02:54:04.55 ID:AMpF4EnN0
- 北上「ふう」
パタンと本を閉じる。
本というのは基本的に章などで区切られているのだが、私には章を読み終える毎に本を閉じそれまでの内容を頭で反復するという癖がある。
いつ何故ついた癖なのかサッパリだが、癖とはそういうものだろう。
提督「今日はなんの本だ?」
北上「えと、ふしぎの国のアリスって知ってる?」
提督「大体は。読んだことはないけどな」
北上「それを元にした殺人事件」
提督「えらく物騒だな。しかし元にしたってどういう事だ」
北上「アリスの夢ってやつだよ」
- 627: 2017/10/16(月) 02:54:43.74 ID:AMpF4EnN0
- 提督「夢?」
提督が作業をやめて椅子に深々と座りリラックスモードに入る。
つまり休憩という事だ。
北上「まず主人公がね」
今しがた読みえた所までの粗筋を話す。
いつも通り。
提督は本が苦手というわけじゃ無いらしいけど、仕事人間なのか読む事はないらしい。
最初は単にどんな本を読んでるんだって質問だった。
そのうち内容や感想等を色々聞いてくるようになって、私の方も提督に分かりやすいように伝えたり感想をまとめるのが好きになっていた。
人に教えるにはその三倍理解してなくてはならない、という言葉があるけど、こうして人に話すことによって新たに気付く事や自分の思っていた事がハッキリしたりと思わぬ収穫もあった。 - 628: 2017/10/16(月) 02:55:23.37 ID:AMpF4EnN0
- 北上「この夢の中の会話が好きなんだ~。アリス風の独特の言い回し」
提督「独特っていうとアレか、和訳する際に出る違和感みたい話か?アリスって海外の作品だし」
北上「それもあるけど…相手に伝える事を前提にしてない会話っていうのかな~。そんな感じ」
提督「あとは読んでみろってか」
北上「そゆこと」
提督「そうだなあ、戦争終わったらのんびり田舎で読書三昧とかいいな」
北上「あ、それいいね~。ベランダとかにあの、なんだっけ、揺れる椅子」
提督「ロッキングチェア?」
北上「それそれ。あれに座って本読むとかよくない?」
提督「俺はあれだ、ハンモックとかやってみたいな」 - 629: 2017/10/16(月) 02:55:53.24 ID:AMpF4EnN0
- 北上「どっちも元は海外のだよね」
提督「畳にチェアは合わないし、ハンモックするような木もないからな」
北上「いいよね~。外国の本とか読んでるとさ、一度行ってみたいなっておもうんだ」
提督「ん?お前外国語読めんの?」
北上「え、あー、うん。英語なら」
しまった口が滑った。別に問題は無いのだけど。
提督「そうか、なんか意外だな」
北上「あはは、だよね~」 - 630: 2017/10/16(月) 02:56:33.26 ID:AMpF4EnN0
- とりあえず話題を変えなくては。
慌てて本を開きページをめくる。
北上「あ、これこれこれだよ」
提督「どれどれどれだよ」
北上「んしょっと」
ソファーから体を起こし提督の隣に移動する。
北上「おりゃ」
提督「おいおい、書類の上に本置くなよ」
北上「こいつのせいで机に張り付いてるんでしょ?なんなら北上様が焼き払ってあげようか」
提督「机傷つけたら弁償な」
北上「そーゆーとこ細かいよね~提督。モテないぞー」
提督「え、マジでか」
北上「マジマジ。彼女の体重が五キロくらい増えても気にしないくらいの器量がなきゃ」
提督「いや五キロはやべぇだろ」
北上「そうかな…?そうかも…」
- 631: 2017/10/16(月) 02:57:22.02 ID:AMpF4EnN0
- 北上「じゃなくてー、ここここ。ここ見て」
提督「どれだよ」
北上「ほらここの会話のところ」
少々強引なやり方だが提督を本に集中させる。
立っているのも疲れるので提督の座る椅子の肘掛に体を半分乗せる。
提督「あーうん。なんとなくさっき言ってた意味が分かった」
北上「読むの早っ」
提督「書類仕事で鍛えられたのさ」
北上「無駄なもん持ってるね~」
提督「うっせ。というかそこに座るなよ。狭いし壊れるかもわからん」
北上「大丈夫っしょ、この椅子デカいし」
提督「何一つ大丈夫な要素がないんだが」
- 632: 2017/10/16(月) 02:59:12.63 ID:AMpF4EnN0
- 北上「あっそうだ。提督速読できる?」
提督「資料ならできるし、本もできると思う」
北上「ねえやってやって。ここで見てるからさ」
提督「なんでそうなんだよ。見てどうする」
北上「えーどんな感じでページが進むか見てみたいの」
提督「速読っつっても早めに読めるってだけで、ページパラパラめくって内容把握するとかは無理だぞ」
北上「なんだぁつまんないの。北上さんはもう少し面白いオチを求めていたのですよ~」
提督「お前なぁ」
ガチャ
ガチャ? - 633: 2017/10/16(月) 02:59:47.12 ID:AMpF4EnN0
- 大井「失礼しまー……あ」
提督「げ」
北上「あ」
扉を開けて大井っちの目に飛び込んで来た光景。
同じ椅子に腰掛け(?)体を密着させて話している想い人と親友。
うーん修羅場。
提督「北上、ちょっと大井と話がある」
大井「北上さん、少し提督と話があります」
北上「アッハイ」
本をさっと回収し流れるように部屋を出る。 - 641: 2017/10/19(木) 03:02:29.18 ID:J3X0E7kt0
- 部屋を出てしばらくすると提督室から賑やかで騒がしい声が溢れてきた。
提督のところへ大井っちが来るのは少し久しぶりだったが相変わらずの仲なようで一安心だ。
前は私があそこで本読んでると遅かれ早かれ必ず来てたのに、最近はめっきりだった。
やっぱあれか、改造後の服装が原因か。
恥ずかしがることもなかろうに。
何はともあれ久々に2人でゆっくりしていただこう。
提督に釈明の余地があればいいけど。 - 642: 2017/10/19(木) 03:03:08.82 ID:J3X0E7kt0
- 北上「ん」
右腕を触る。
提督と触れ合っていたせいか少し温い。
流石に馴れ馴れしくしすぎたかね私も。
どうにも球磨型内での距離感で接してしまいがちな所がある。
まあ悪い気はしないんだけど。
北上「ん?」
悪い気はしないってなんだ。
北上「~♪」
でも、いい気分だ。 - 643: 2017/10/19(木) 03:03:40.02 ID:J3X0E7kt0
- 41匹目:猫と多摩
北上「よし」
深夜。
消灯時間をすぎ皆が寝静まった頃。
私は部屋で、バケツを抱えていた。 - 644: 2017/10/19(木) 03:05:57.41 ID:J3X0E7kt0
- 今日の皆の寝る位置。いや、多摩姉の寝る位置は丁度本棚のすぐ近くに頭がくる所だ。
棚の空いてる位置にバケツをセットする。
うん、これで落ちたら多摩姉の頭にクリーンヒットするはずだ。
仕掛けは目覚ましと連動してバケツが落ちるだけのシンプルなもの。
さあ目覚めるのだ。
内に秘めた猫の記憶よ! - 645: 2017/10/19(木) 03:07:39.69 ID:J3X0E7kt0
- イタ…イタヨ…ホッポウニイタヨ…アリガトウ、アリガトウ…
なんでこんなに出ないかって間違いなく母港にいる9人の園児達のせいだと思うんですよ - 648: 2017/11/03(金) 02:50:52.26 ID:8TRS/tjI0
- 木曾「いってぇ…」
多摩「そんなに痛むにゃ?」
木曾「いや痛さとしては全然気にならないレベルなんだけどさ。地味ーにジワジワくる感じが凄くイラッとくる」
球磨「鼻真っ赤クマ」
大井「北上さん、納豆いります?」
北上「あ、貰う貰う~」
朝食は納豆派である。 - 649: 2017/11/03(金) 02:51:31.51 ID:8TRS/tjI0
- さて作戦はどうなったかというと、語るに落ちると言った感じで。
明け方トイレに起きた木曾が寝ぼけ眼でバケツに顔面から直撃したという運びだ。
上手くいかないもんだね~。
北上「ゴメンね、変なとこに置いちゃって」
木曾「いやいいよ。こっちも寝ぼけてたしな」
球磨「せいっ!」グシャ
多摩「…なんで卵が出るたびに片手で割ろうとするにゃ」
球磨「で、できたらカッコイイと思ったクマ」
大井「拭くものもらってきますね」
球磨「スマンクマ…」 - 650: 2017/11/03(金) 02:52:15.70 ID:8TRS/tjI0
- 北上「球磨姉球磨姉」
球磨「クマ?」
北上「ほっ」タマゴカパッ
球磨「なぁっ!?」
多摩「北上煽るんじゃないにゃ」
球磨「木曾!それ寄越すクマ!」
木曾「やだよ!絶対失敗するだろ!」
球磨「貰いぃ!」
木曾「あぁ!」
球磨「てやぁ!」ゴシャ
木曾「あぁ…」
北上「うわぁ…」
多摩「にゃぁ…」
大井「球磨姉さん…?」スッ
球磨「ヒッ」 - 651: 2017/11/03(金) 02:52:53.01 ID:8TRS/tjI0
- 北上「よいしょっと」
昼前。
自慢の魚雷を担いで出撃の準備をする。
と、勿論担ぐ必要はないのだが。
今度はこれで、 - 652: 2017/11/03(金) 02:53:45.02 ID:8TRS/tjI0
- 北上「出撃めんどくさいな~」
多摩「それを言ったら終わりにゃ」
北上「ただのパトロールじゃん?いらないじゃん?」
谷風「こういった所を怠らない事が大切なのさ。提督はそこんとこよぉ~く分かってるからねえ」
伊勢「ほらほら、みんな準備して~」
北上「魚雷重いなぁ…軽巡の頃は軽くてよかったよ」
多摩「まあ確かに量は増えたにゃ」
谷風「かぁーなっさけない。それでも軍艦かい?」
北上「ちぇー、皮かぶっちゃって」
谷風「そっちは猫被りだろ?お、リベが来たね」
多摩「北上お昼はどうするにゃ?」
北上「ん~そだねー。うどんとか?」 - 653: 2017/11/03(金) 02:54:20.17 ID:8TRS/tjI0
- 取り留めのない会話をしつつ多摩姉に近づく。
よし、ここなら当たるはず。
多摩「うどんはやっぱりオクラだと思うんだにゃ」
北上「私はとろろかな~。あっ、蝶々だー」ブン
上半身を右に思い切り振る。
担いだ魚雷が勢いよく、多摩姉の後頭部めがけて振られる。
唸れ!黄金の魚雷!
リベッチオ「ヘブンッ!!」ゴチン
北上「えっ」
多摩「にゃ!?」
谷風「うわー…」 - 654: 2017/11/03(金) 02:54:52.87 ID:8TRS/tjI0
- どうなったかといえば、
何を思ったか思いっきり助走を付けて多摩姉に飛びついていったリベの顔面に魚雷が思いっきり当たった次第である。
飛びつかれる側の負担を一切考慮しない飛びつきと遠心力を加えた魚雷のスイングが見事にジャストミートした結果、場外ホームランが生まれたのだった。
飛んでったのはボールではなく意識なのだけど。
幸いにも出撃前の艤装装備時のことなので鼻血すら出ず、まるでギャグ漫画の如く仰向けで倒れるだけですんではいるが。
伊勢「え、何今の音?」
リベ「」チーン
北上「あはは…いやちょっとね」
多摩「ふ、不幸な事後がにゃ…」
谷風「おぉー白だねえ」ピラッ
多摩「こらっ」ペシッ
谷風「あいたっ」
- 655: 2017/11/03(金) 02:55:29.30 ID:8TRS/tjI0
- 多摩「リベちゃんの部屋ってどこだったかにゃ」
北上「海外組だし4階だよ」
お昼の後。
私達は階段登っていた。
最早手段を選ぶ余裕はない。今までも大概だったけど。
やるしかない。 - 656: 2017/11/03(金) 02:56:06.57 ID:8TRS/tjI0
- 3階と4階の間。
周りに人気はない。
私が前、後ろに多摩姉。
ええいままよ!
北上「うわっ」ズリッ
多摩「にゃ!?」
足を滑らしたていで多摩姉の体に体当りする。
転げ落ちるというより踊り場にすっ飛ぶ形になるはずだ。
大丈夫!艦娘だし!大丈夫、大丈夫?
飛んだ反動をそのまま回転に利用し、にゃんぱらりんと着地する。
北上「ほっ」スタッ
多摩「にゃ」スタッ
あれ? - 657: 2017/11/03(金) 02:56:38.33 ID:8TRS/tjI0
- 多摩「大丈夫かにゃ?」
北上「う、うん。多摩姉こそ、大丈夫、みたいだね」
多摩「気をつけるにゃ。艦娘とはいえ何があるかわからんにゃ」
北上「ごめんごめん。怪我人のお見舞いに行くのに怪我してちゃ世話ないよねー」
多摩「まったくにゃ。まあ周りに誰もいなくてよかったにゃ」
北上「だねー」
忘れてた。
いや忘れてるのは多摩姉で今まさに思い出させようとしているのだけれど、
私達は猫だったのだ。
この程度で怪我をするドンくささは持ち合わせていない。 - 658: 2017/11/03(金) 02:57:04.78 ID:8TRS/tjI0
- 北上「もうだめぽ」
神風「何かよっぽどの事とお察ししますがだからと言って私の袴に顔を突っ込まないでください」
北上「え~」
黙々と、淡々と言われた。
神風「話しなら聞きますから後数ページ待っててください」
北上「うい」
助けを求めに図書室に来ると神風が本棚に背を預ける形で座り本を読んでいた。
ので袴に芋虫の要領で顔を突っ込んでみた。
ところで猫は狭いところが落ち着くものだが私はそうでもない。
それでも袴の中はなんというか心地よかった。 - 665: 2017/11/13(月) 02:44:34.14 ID:ZyLHAVHx0
- 北上「寝そう」
神風「って何してるんですか!?」ゲシッ
北上「ぐぇ」
文字の世界から現実に戻った神風がようやく現状を理解したらしく容赦のない蹴りをかましてきた。
北上「ぐおー…なんの本読んでたの~」
神風「もりのくまさん。処刑人の方の」
北上「あーあれね」
羞恥心からか若干涙ぐむその幼い容姿からは想像もつかないくらいエグいもの読んでやがる。 - 666: 2017/11/13(月) 02:45:15.70 ID:ZyLHAVHx0
- 神風「記憶を戻す方法?」
北上「はい」
現在の姿勢。正座。
神風「北上さん記憶喪失なんですか!?」
北上「あーいや、私じゃなくて。でも同じようなものなのかな~」
神風「んー、イマイチ要領を得ませんね」
北上「まああんまり深く考えずにさ、物語上でよくある記憶喪失って感じに考えて」
神風「方法ねぇ。定番なのは頭に衝撃を与えるやつですよね」
北上「だよね~」
もうやり尽くした、とは言えないな。 - 667: 2017/11/13(月) 02:46:19.03 ID:ZyLHAVHx0
- 神風「科学の発達した今だからなにか馬鹿馬鹿しい方法に聞こえますけど、記憶や意志が魂に宿ると言った考えの名残って感じで私は好きですね」
北上「確かに今じゃあまりに危険な方法だよね。壊れた家電製品を叩いて治すようなもんだし」
神風「昔みたいな簡単な作りならともかく、今の家電は精密機械ですからね。そこへいくと人間の脳も精密機械、もしくはそれ以上ですから」
叩くなんて以ての外、と言ったふうに語る。
めっちゃ叩こうとしちゃってたよ私。
神風「後は入れ替わりなんかも同じですね」
北上「入れ替わり?」
神風「ほら、角で男女がごっんつんこして入れ替わっちゃった!ってアレですよ」
ザ・少女漫画。どうでもいいけどごっつんこって言う神風カワイイ。 - 668: 2017/11/13(月) 02:47:05.25 ID:ZyLHAVHx0
- 北上「改めて言われると凄い発想だよね。メモリーとメモリーを叩き合わせたら中身が入れ替わるなんて」
神風「だからやっぱり魂こそが人の根幹であり、体は入れ物という考えから来たものなんでしょうね」
北上「なるほどねぇ」
確かに、私にとってこの体は入れ物だ。
神風「荒っぽいのはなしだとして、後はキーワードですよね」
北上「定番だね」
事実、多摩姉が思い出しかけたきっかけも麦畑というキーワードだ。
残念ながらきっかけ以上の効果はあれ以降見られていないけれど。 - 669: 2017/11/13(月) 02:47:56.41 ID:ZyLHAVHx0
- 北上「ところでさ」
神風「はい?」
北上「足が痺れてきた」
神風「ダメです」
北上「はい」
神風「後はー、五感に訴えるですかね」
北上「五感?」
視覚聴覚味覚…嗅覚!後は~ああ触覚か。
神風「物語上でいうなら、例えば思い出の場所に連れて行ったり、写真を見せたり音楽を聞かせたりとか。臭いや触覚はあまり出てこないですけど」
北上「五感かぁ」
視覚と嗅覚。とくに嗅覚は結構効果あるかもしれないな。猫だったし。でも何を使えばよいのやら。 - 670: 2017/11/13(月) 02:48:34.78 ID:ZyLHAVHx0
- 神風「思いつくのはこれくらいですね」
北上「ありがとね。やっぱこういうのは自分以外に聞いてみると意外な発見があるもんだよ」
神風「お役に立てたようで何よりです」
北上「さてでは」
神風「私が読み終えるまではそこに正座です」
北上「そんなにっ!?」
神風「日頃の分も含めてですよ」ジトー
北上「うっ」
それを言われると弱い。
北上「仕方ない。代わりに私のパンツを見せてやろう」ピラッ
神風「キャーー!何してるんですか!」
キャーが似合う系女子。顔を背けつつしっかりとチラ見してる当たりが高得点。 - 671: 2017/11/13(月) 02:49:20.96 ID:ZyLHAVHx0
- 北上「普段から見慣れてるし見られ慣れてるからねえ」
神風「ま、まあ確かに…」
艦娘の常である。
北上「大井っちなんかも露出度上がってがっかり来てたみたいだし」
神風「そうなんですか?」
北上「直接聞いたわけじゃないけど、最近少し元気ないからさ」
神風「意外です。なんていうか、そのー、北上さんさえいればって感じに思えたので」
北上「ふふ、結構大井っちは乙女なところあるよ」
それじゃ、と図書室を出る。
よし!脱出成功!! - 675: 2017/11/17(金) 02:49:40.69 ID:RbKvlfqg0
- 北上「うーむ」
しかし困った。
五感に訴えるとして、使えそうなのは嗅覚とか視覚かな。
嗅覚ってどうすんだ?
麦の匂いと言われてもねえ。
日向「おっと」
北上「むぐっ」
おお、ちょうど目の前に柔らかいクッションが。
日向「いや離れてくれないか」
北上「ごめんごめん」モミモミ
曲がり角でごっつんこ、とはならなかった。 - 676: 2017/11/17(金) 02:50:48.25 ID:RbKvlfqg0
- 日向「五感、匂い、ね。一体何がどうしてそういう話になったんだ?」
北上「まあまあそこら辺は気にせず」
相談がある、と言ったら日向さん(と伊勢さん)の部屋に招かれた。
以前は部屋の半分が本棚、もう半分が船や飛行機の模型となっていたが図書室の完成により99%模型になっていた。
日向「何か案はあったのかい?」
北上「ん~、とりあえず小麦粉でも嗅がせようかと」
部屋の中央のテーブルを挟み向かい合うように椅子に座る。
肘掛に手を置きいつもと同じ朴訥とした表情で話す日向さんはなんという貫禄を感じる。
日向「それは小麦粉の匂いだよ。麦畑というのならきっと、その土地の匂いであって麦自体の匂いではないだろう。私も詳しくは知らないけれど、麦はそうわかり易い匂いを放つ植物ではないはずだ」
北上「言われてみれば」
流石に安直すぎたようだ。 - 677: 2017/11/17(金) 02:51:26.14 ID:RbKvlfqg0
- 日向「そもそも私達は五感、というか人間的な感覚が鈍いからね」
北上「鈍い?」
日向「砲撃音や被弾、至近弾による爆音に晒されても鼓膜はおろか精神に影響すらない。血や硝煙の臭いを嫌がる事もなく、彼方まで続く海からの照り返しに目を痛めたりもしない」
北上「そりゃあまあ船だしね、私達」
そんなんに一々反応してたら三日と持たずに海の藻屑だろう。
日向「私達は人に近い形をとっているが、それはつまり人とは決定的に違うということさ」
北上「人とは、違うね確かに」
船だったり猫だったり鳥だったりだ。
思えば猫の時に感じた匂いを今再現するのって中々無茶だよね。
何を迷走してるんだか。 - 678: 2017/11/17(金) 02:52:07.32 ID:RbKvlfqg0
- 日向「『艦娘を殺すなら砲弾や魚雷ではなくナイフで動脈を切れ』なんて言葉がある。これは、なんだったかな。元ネタがあるらしいが。海外だったかな」
北上「なにそりゃ。初耳だよ」
日向「1種のブラックジョークってやつなんだろう。我々は怪我に鈍いからね。艤装が壊れても服が破けても体から煙が出ていてもバケツを被れば治る」
ここだけ聞くと爆発で髪の毛アフロになる世界の住人みたいだよね。
日向「逆に切り傷のような、艤装を付けていない生身の時の怪我に弱い。バケツじゃ治らないからね。そしてその事にひどく無自覚だ」
北上「でも実際そんな事あるかね。そりゃ本能的にヤバイと思えなくとも血が出るのがヤバイって知識はあるじゃん?」 - 679: 2017/11/17(金) 02:52:50.41 ID:RbKvlfqg0
- 日向「以前に、誰とは言わないけれど駆逐艦の1人が包丁で指を切った事がある。本人はうわ血が出たという程度の反応だった様だが、他の者が一乙止血やら消毒やらの知識があってな。だから水で指を洗って清潔なタオルで傷口を抑えた」
北上「正しい、かどうかイマイチ私にゃ分からないけど。でも問題なさそうに思えるね」
日向「その場にいた1人が提督室に来たんだ。何せ艦娘相手に包帯やらなんやらを使う事はあまり無いからな。その手の道具は提督室にある」
北上「へー。そりゃ知らなかったよ」
以前に提督窓から落ちたのを思い出す。
なぜ提督室で看病してたのかと思ったがそれが理由か。 - 680: 2017/11/17(金) 02:53:36.83 ID:RbKvlfqg0
- 日向「その時は私と提督が部屋にいた。そして部屋に来た駆逐艦は苦笑いしながらこう言った。妹が料理中に指を切ったから絆創膏が欲しい、と」
そういえば私は包丁を握った事がないな。
料理に興味はないからいいけれど。
日向「その顔を見て提督は何をやってんだ気をつけろと言いながら絆創膏を渡したんだ。そして少し気になるから一応私に付いていくように言った」
北上「なんだかオチが見えてきた気がする」
日向「まあそうなるな。ともかく私も台所についた。そこで見たのが、ケロッとした顔でこれどうしたらいいの?と問いかけてくる駆逐艦と、文字通り真っ赤に染まったタオルだった」
あれ、予想よりヤバそうなんだけど。 - 681: 2017/11/17(金) 02:54:35.65 ID:RbKvlfqg0
- 日向「それほど大きくないとはいえタオルが一色に染まり、それでも吸いきれなかった血が滴り落ちるというのが本来どれほど危険な状況か。キミには説明する必要はないだろう?」
北上「別に詳しいわけじゃないけどね。でも普通なら救急車案件だよね」
人によっては痛みや、その惨状を見て気絶、なんて事も考えられる。
勿論医学的にとかじゃなく推理小説とかの展開的に、なのだが。まあ見当はずれな予想でもあるまい。
日向「文字通り痛感というやつだね。いかに人に近いと言っても、根本的に人間らしさが足りないのさ。私達はね」
北上「うーん。そりゃ確かに艦娘として人とはズレているところは多いとは思うけどさ。そこまでじゃないと思う」
日向「ほう」
相変わらずぶっ飛んだというか、極端な意見を言う日向さんに反論してみる。 - 682: 2017/11/17(金) 02:55:09.72 ID:RbKvlfqg0
- 北上「痛みとかは人間らしさともいうより生物らしさでしょ?五感が鈍いのはその通りみたいだけど、文学的な人間らしさなら私達は十二分にそれがあると思うけど」
日向「例えば?」
北上「姉妹とか」
私の家族とも言える球磨型の皆を思い出す。
北上「恋しちゃったりとか」
恋する乙女な大井っちを思い浮かべる。
北上「そういうの」
提督の事を、思い返す。
日向「なるほどな」
といいつつ急に前のめりになって碇司令のあのポーズみたいな格好をする。
なんだかこちらも身構えてしまう。 - 683: 2017/11/17(金) 02:55:47.60 ID:RbKvlfqg0
- 日向「確かにそうだ。それは人間らしさであり、私達はそれを持ち合わせている」
あ、これは否定されるパターンだ。
日向「だがそれは私達が持って生まれたものでは無い」
北上「ん?でもそういうものじゃないの?人間は幼い時に親や近しいものから受けた、色々で、人間らしさを会得するわけじゃん」
愛情、とは言えなかった。世の中がそれほどドラマチック出ない事は知っている。
日向「そうだな。例えば狼に育てられた人間という話を聞いたことがあるが、おおよそ人間らしさと言えるものはなかったらしい」
北上「へー」
ヤバイ。もののけ姫しか浮かばない。
あれはかなり人間らしかったよね。
あ、育ての親が人語を喋れるから別か。 - 684: 2017/11/17(金) 02:56:20.19 ID:RbKvlfqg0
- 日向「でも私達に親はいないだろう」
北上「強いて言うなら、妖精さん?」
親、親かあ。アレは生みの親ではあるかもだが、親ではないなぁ。
北上「でもほら、姉妹艦とか。そうでなくとも色んな艦娘がいるじゃん。親代わりみたいな」
日向「ではこう考えよう。誰もいない鎮守府に1人の提督と、生まれたばかりの駆逐艦が1人やってくる」
北上「提督が親か」
日向「親どころではないさ。唯一の人間だ」
人間、という言葉を強調する。 - 685: 2017/11/17(金) 02:56:48.07 ID:RbKvlfqg0
- 日向「今現在でも提督はこの鎮守府における唯一の人間だよ。それこそが提督であり、だからこそ私達に必要なんだ」
北上「ちょっとタンマタンマ。話がぶっ飛び過ぎだって」
流石についていけなくなる。この人いつもこんな事考えてるのかな。
この人、か。
北上「確かに提督が大元なのはまあ分かるけどさ。それってこう、なんだろ」
上手い例えが出てこないな。
北上「うーん、言い方は悪いけどウイルスの発生源みたいな話でしょ?大元なのはそうだけど、1度感染してそこからまた広がっていったらもう発生源はあまり関係ないじゃん」
日向「提督はウイルスか」
北上「なんでそこだけ真に受けるのさ」 - 686: 2017/11/17(金) 02:57:29.83 ID:RbKvlfqg0
- 日向「元、というなら女王蜂と言った方が正しいだろうね。男女比は正反対だがね」
北上「女王蜂って…」
あれ、思い返してみると確かに私達のやっている事って働き蜂のそれと同じじゃあないか。
なんか釈然としないな。
日向「人と違って私達には生まれた時から人格がある。だがそれは型に過ぎない。言わばまだ白紙の塗り絵だ」
なんだがロマンチックな言い回し。
日向「考えた事はないかい?世の中には私と同じ日向が沢山いる。それは確かに同じだったろうけれど、実際会ってみるとその性格には差異がある」
北上「他の鎮守府の自分かあ。私は会ったことないや」
私はなにせ中身がアレなもんだから他所の北上を自分だというふうにあまり見れない。 - 687: 2017/11/17(金) 02:58:09.76 ID:RbKvlfqg0
- 日向「常に帯刀してる危ない私や妙にイケメンな私や一言も喋らない私や、瑞雲狂の私なんかもいたな」
北上「瑞雲?」
何故に。
日向「同じ日向なのにこうも違いが出る。何故か。それは提督の影響だ」
提督と言い切る。すごい自信だ。
日向「鎮守府の最高責任者は提督だ。運営方針もその提督次第で異なる。極端な話、ルールに厳格で根っからの軍人基質な提督の鎮守府であれば、私や皆もそれに沿った性格になっていただろう。ウチの提督は、まあそれの真反対だな」
北上「確かに。うん、そうだね」
うんうんと頷いてしまう。
トップの意向にそうというのは一般社会でも同じかもしれないが、私達にとって鎮守府こそが生活であり全てだ。その影響はもろに出る。
なんたる社畜。 - 688: 2017/11/17(金) 02:58:42.21 ID:RbKvlfqg0
- 北上「そういや何処ぞの鎮守府じゃ毎日艦娘と淫靡で淫らな生活を送ってるなんて話を聞いたことがあるよ」
日向「つまりそういう提督であり、そういう艦娘になったという事だ」
北上「…なんか洗脳じみてて怖いね」
日向「何をもって洗脳というか、だな。穿った言い方をすれば親が子供を躾るのを洗脳ととることも出来る」
北上「それは穿ちすぎでは…」
日向「私達の場合は刷り込みと言うべきだろう。元々染まりやすく出来ているのさ。提督色にね」
北上「刷り込みって…ああ鳥が最初に見たものを親と思うってやつか」
日向「それだ」 - 689: 2017/11/17(金) 02:59:09.03 ID:RbKvlfqg0
- 日向「私達は無意識に色々と刷り込まれてるのさ。例えば姉妹。当たり前のように姉妹とされているが、それは誰が言い出した?
元来船の姉妹というのは同型艦の呼び方の1種であり、それだけでしかない。実際作戦などで姉妹艦と行動する機会は殆どないことが多いし、生まれの時期に差があれば一度も合わずに終わる事すらある。
それを人の姉妹のように受け取り、そうあれと願っているのは提督だ。部屋割りや作戦時の編成にもその意識は現れる。そしてそれが私達の意志になる。
勿論姉妹として扱わない提督もいる。その場合その艦娘もそれ相応の者になっていたが。
他には、そうだな。鎮守府の上下関係かな。
軍艦としての年齢、艦娘としての年齢。戦績、実力。ふっ、提督のお気に入りかどうか、なんて。鎮守府によって異なるがそれはそこでは当たり前の常識となる。
また… 」
上下関係か。ウチは、上から戦艦や空母、重巡、軽巡、駆逐艦、みたいな感じかな。あらためて考えると潜水艦だけ特別枠な感じだ。
しかしいつまで話すつもりだこの人。段々話が頭をすり抜けてきた。谷風を彷彿とさせるがこっちは内容が濃いのでついていけない。 - 690: 2017/11/17(金) 02:59:43.54 ID:RbKvlfqg0
- 日向「
そして提督が居なくなると崩壊する
」
北上「え?」
不意に飛び込んできた言葉に意識を戻された。
日向「戦闘の結果鎮守府が壊滅するという例はいくらかあるが提督が居なくなるという例は少ないからな。あまり意識することもないだろう」
提督が、提督だけが居なくなる。
日向「この戦争が始まってまだ四半世紀もたっていない。寿命や病気でこの先そういった問題は増えていくとは思うが」
そういえば、提督は2代目だと言っていた。
だとしたらその数少ない例がここなのでは。 - 691: 2017/11/17(金) 03:00:59.02 ID:RbKvlfqg0
- 北上「問題、なんだ」
日向「そう問題だ。染まりやすい。だが一度染まればその色は中々変わらないのさ。適応ができない」
北上「…つまり次の提督に、適応できないと」
日向「多くの場合はな。人は大勢の他人から自己を形成するが艦娘は提督1人からなる。女王蜂がいなくなった巣は、どうなるだろうな」
例えば提督の事を嫌いな艦娘はいない。likeではなくloveのほうで提督の事が好きな艦娘も多い。
その提督が消えたら、どうなるか。
日向「五感や人らしさも全て、提督からもらった仮初のものなのさ。結局のところ」
北上「なんというか、ぞっとしないね」
日向「好き好んで考える話題ではないかもな」
なら話すなよと目で訴える。 - 692: 2017/11/17(金) 03:01:49.47 ID:RbKvlfqg0
- 日向「だから私は本を読むんだ」
北上「だから?」
日向「提督以外の好きな物であり、私が自身で見つけた趣味であり、私の個性であり、私の証明だからだ」
北上「なんでわざわざ」
日向「…提督を失った鎮守府を、知ってるからさ」
それってつまり… - 693: 2017/11/17(金) 03:03:55.86 ID:RbKvlfqg0
- 北上「はぁ…」
提督室に向かう途中、思わずため息が出た。
日向さん。吹雪に負けず劣らずの変人だ。
個性が光りすぎてる。
年長者は変人しかいないのだろうか。
いや色々と年を重ねるうちに変人になるのか?
あまり考えたくないなそれは。
少なくともあんなアドバイスの仕方をするようにはなりたくない。 - 694: 2017/11/17(金) 03:04:26.07 ID:RbKvlfqg0
- 日向「つまり提督に相談してはどうかという事だ」
北上「え、今の壮大な話からそんなありふれた結論に帰結するの?」
日向「意外な回答は見ていて面白いが解決を望むならあまりオススメはしないぞ」
北上「いやそういう話ではなく」
日向「なに簡単な話さ。その手の人間らしさならば人間である提督に聞くべきというだけの事。まああまり期待できる相手でもないか」
さりげなくディスって行くスタイル。 - 695: 2017/11/17(金) 03:05:57.11 ID:RbKvlfqg0
- 目的地周辺、回想を終了いたします。
北上「結局ここか」
2代目の、提督の部屋。
その事を頭の片隅に押しやる。
朝から色々あって身体も脳もへとへとだ。
ここらで休憩が必要だろう。
さて安らぎの空間へ、
北上「お邪魔しま~す」
- 699: 2017/11/20(月) 03:13:53.86 ID:hFvFWQV80
- 提督「珍しいな。お前が本も持たずにここに来るなんて」
北上「別に本が目的じゃないもん。静けさを求めてここに来るのであって、読書はあくまでその静けさの中で最もやりたい事なだけ」
提督「んーよくわからん」
北上「まーつまりここが好きなのさ」
提督「ここがねえ。でも今は図書室もあるんだろ?」
北上「そりゃあ…まあ、そうねぇ。なんだろ、ここに慣れたというか、落ち着いちゃった?」
提督「いや俺に聞かれてもな。落ち着くなら、別にいいんだけどな」
そういって椅子ごとくるりと回りそっぽを向く。
なんか邪魔しちゃったかな? - 700: 2017/11/20(月) 03:14:46.36 ID:hFvFWQV80
- 北上「ん~~…ッ!」
とか思いつつくつろいじゃうんだけどね~。
ソファーに寝転び猫のように思い切り伸びを1回。
提督「猫かお前は」
北上「え」
提督「あぁいや、その気持ちよさそうな伸びがさ」
北上「あはは」
ちょっとドキッとした。 - 701: 2017/11/20(月) 03:16:24.63 ID:hFvFWQV80
- 北上「提督はさ、何か思い出したいのに思い出せない時とかってどうしてる?」パタパタ
提督「ソファーの上で足を揺らすな。思い出したいのに思い出せない?忘れてるってことか」
北上「そうそう。絶対記憶のどっかにはあるのにそれが見つからない~みたいな時」
提督「んーなんか難しいな」
北上「テキトーでいいよテキトーで」
提督「そーだなぁ。まだ覚えてる時の自分が残したものを探すかな」
北上「残し、え?何それ」
提督「メモとかなんか残してるかもしれないだろ?それすら忘れてるだけで」
北上「おー…おー!」
提督「おー?どしたどした」
思わず声が出た。それくらいには意外な回答だった。 - 702: 2017/11/20(月) 03:17:08.17 ID:hFvFWQV80
- 北上「目からウロコとはこの事だね。まさか提督なんかからこんな答えが出るとは」
提督「さり気にディスってないかおい」
北上「自分の胸に手を当てて考えてみるとよい」
提督「あ言ったな、後悔するぜ」
そう言うと机の横に立て掛けられていた板を持ち出した。
あ、ホワイトボードか。
提督「じゃん」
北上「わお、こりゃ凄いや」
ボードの上にはメモ用紙や文字がびっしり並んでいた。 - 703: 2017/11/20(月) 03:18:04.84 ID:hFvFWQV80
- 提督「これでも提督の業務ってのは色々と忙しくてな。こうして書いてわかりやすくしてるのさ」
北上「へーなるほどねー。いやはや見損なったよ提督」
提督「それを言うなら見直しただろ~」
北上「いやいや合ってる合ってる」
提督「え」
北上「これ殆ど吹雪の字じゃん」
提督「あ」スッ
さり気なく戻そうとするホワイトボードの端を掴んでぐっと引き寄せる。 - 704: 2017/11/20(月) 03:18:44.52 ID:hFvFWQV80
- 北上「一人称に私とかあるし」
提督「いや」
北上「提督って二人称あるし」
提督「その」
北上「これってさ」
提督「あのね」
北上「提督がすぐ仕事忘れるからわざわざメモ残してくれてるだけだよね」
提督「ハイ」
蚊の鳴くような声で返事を返す。
鳴くというか泣きそうな声で。 - 705: 2017/11/20(月) 03:19:40.44 ID:hFvFWQV80
- 提督「いやあのね、提督も男なんですよ」
北上「ほう」
提督「見栄を、張るんです」
北上「ほう」
提督「良く、見られたいんです…」
北上「何故私に張ったし」
提督「いやぁ…」
北上「…」
男ってめんどくさいなー。 - 706: 2017/11/20(月) 03:20:49.96 ID:hFvFWQV80
- 提督「実際さ、これだけの人数を動かして資材資源の管理や食費やら電気代やらなんやらとはっきり言って一人でやる事じゃないと思う」
北上「うん、実際一人でやる人はいないと思う」
何のために秘書艦がいると。
提督「だから仕方ない」
北上「いや提督はもうちょっと、かなり働こう」
私が特になにかしているわけじゃないけど、流石に吹雪の負担が大きいのでは。
提督「人間大切なこと以外は中々覚えられないものじゃん?」
北上「提督業務は大切じゃないというのか…」
いったい何が大切なんだろう。まさか大井っち?
もしくっついたらサクッと引退しちゃいそうだなこの人。
人間かあ。それともやはり私達と提督とじゃ何か根本的に違うのかね。 - 707: 2017/11/20(月) 03:21:38.58 ID:hFvFWQV80
- 提督「そういや北上って英語読めるんだよな」
北上「へ?うん、まあね」
それは覚えてるのか。
提督「丁度いいや。見せたいものがあってさ」
北上「見せたいもの?何何、サプライズ?」
提督「んな大層なもんじゃないけどさ、丁度お互いに暇だし」
北上「暇なの?」
吹雪「暇じゃねー!!」ドガッ
豪快な蹴りによるドアの開閉。いい加減なれてきた。
というかあのドアよく持つね。 - 708: 2017/11/20(月) 03:22:24.01 ID:hFvFWQV80
- 吹雪「何のためにメモ残してると思ってんですか!」
提督「何を言う。次の出撃までは何も無いはずだぞ」
吹雪「あーりーまーすぅーちゃんと書きましたー」
提督「ああ?何処にもねーだろんなもん、ほら見ろよ」
吹雪「何言ってんですかほらここ、に、ない!なんで!?」
提督「書いたかどうかも忘れてちゃ世話ないぜ。指示がないなら俺は動かん!」
吹雪「いやトップが指示待ち人間誇ってどうすんですか!少しは自分で考えて動いてくださいよ小学生ですかあなた!」
提督「ちーがーいーまーすー力を蓄えてるんですぅー三年寝太郎なんですぅー」
吹雪「能無しの鳩が爪のあるふりしてどーすんですかいっそ永遠寝てろ」 - 709: 2017/11/20(月) 03:23:07.90 ID:hFvFWQV80
- 提督「なにぃ?」
吹雪「なんですかあ?」
北上「おっとゴミ箱に何やらメモガー」
提督「おっと仕事を思い出したそれでワッ」ガクン
吹雪「おっと年貢の納め時ですよ寝太郎さ~ん。もちろん3年分」グワシッ
提督「いやあ年貢より怒りを収めて欲しいかなあなんて」
吹雪「あはは」
提督「ははは」
吹雪「ふんっ!」ドス
提督「ごぉっ!?」
うわ入った、鳩尾入ったよぉ… - 710: 2017/11/20(月) 03:23:49.72 ID:hFvFWQV80
- 吹雪「あとは私が始末しとくんで」
満面の笑みで。笑顔とは本来攻撃的な意味があるというがなるほど、その通りだろう。
北上「ほ、ほどほどにね~」
始末とは仕事の事だろうか、提督の事だろうか。私には知る由もない。
気にはなるけどタイミングもいいし部屋に戻ろう。
今の時間なら丁度、部屋には誰もいないはずだ。
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