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前スレ:

黒子「じゃっじめんと、ですの」



288: ◆NOC.S1z/i2 2012/03/26(月) 01:06:41.83 ID:a2dmZ29Wo

 ちょっと今回、趣向を変えてみました。

 タイトルは「豆ですの」
289: 「豆ですの」 2012/03/26(月) 01:07:12.86 ID:a2dmZ29Wo

 お豆さん、ですの

 自室の掃除をしていると、机の下からころころと転がってくるモノがある。
 どう見てもお豆さん。またの名を炒り豆。

「どうしたの、黒子?」

 自分の机の下に潜り込んでいた美琴が、制止している黒子に気付いて声をかける。
 その手には雑巾が一枚。

 お豆さん、ですの

「お豆さん? 最近食べたっけ?」

 黒子は豆を拾うと手のひらに載せ、美琴の前に突き出す。

「ああ、これか」

 豆を摘み、美琴は陽に翳すように頭上に掲げる。

「これ、節分の豆よね」

 黒子は首を傾げる。

 豆まきは、お外でしたの

「服の何処かに引っかかってたんじゃない?」 

 なるほど、ですの
 お掃除、続けますの
290: 「豆ですの」 2012/03/26(月) 01:07:39.74 ID:a2dmZ29Wo

「そういえば」

 美琴がなにやら思い出したように再び手を止める。

「節分の豆まきは確かにしたけれど、黒子は参加してないわよね?」

 今度は黒子の手が止まる。

 はい、不参加でしたの

「ジャッジメントの用事だったっけ?」

 確か……

 黒子は首を傾げる。
 いや、違う。
 自分は節分行事が好きではない。
 どちらかと言えば嫌いなのだ。

「?」

 今度は美琴が首を傾げた。

「なんか、あるの?」

 ……よく、わかりませんの
 でも、なんとなく、節分が嫌ですの

「ふーん。なんなのかしらね」

 不思議ですの

 掃除を終えた二人は、それぞれお風呂に入って寝る準備を始める。

「おやすみなさい」

 おやすみなさいですの 
291: 「豆ですの」 2012/03/26(月) 01:08:12.01 ID:a2dmZ29Wo



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 それは、黒子が学園都市へ来た頃の話。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
292: 「豆ですの」 2012/03/26(月) 01:08:34.57 ID:a2dmZ29Wo


 黒子には夢がありました。
 それは、風紀委員(ジャッジメント)になること。
 学園都市に来てばかりの頃、何かと世話を焼いてくれたお姉さんの腕にあった腕章を、黒子はよく覚えています。
 黒子は思いました。

 あのお姉さんのようになりますの

 今はまだ無理です。まだまだ、黒子は小さな子供です。
 だから、黒子は決めています。
 もう少し大きくなったら、せめて、高学年になったら、風紀委員の適性試験を受けよう、と。 
 そのために、自主訓練は欠かせません。
 黒子は今日も、ランニングです。

「鬼は外」
「福は内」

 そういえば今日は、節分でしたの

 寮に帰ってから豆まきがあるのかな、と考えながら黒子は走ります。

「鬼は外」
「福は内」

 学園都市でも節分は盛んですの
 鬼はいませんの

 学園都市は科学の粋を集めた都市。伝承にあるような鬼の類が生まれる余地はありません。
 伝承や言い伝えは、全て科学で解明してしまうのです。

「鬼は外」
「福は内」

 ……?

 黒子は何かに気付いて足を止めました。

293: 「豆ですの」 2012/03/26(月) 01:09:02.83 ID:a2dmZ29Wo

 路地に誰かいます。
 それも、かなりの巨体、大きな人が。
 
 どなたか、いらっしゃいますの?

 蹲っているようにも見えたその姿に、黒子は話しかけます。
 怪我でもしているのでしょうか。もしそうなら、救急車を呼ばなければなりません。
 風紀委員を目指している黒子です、見て見ぬふりなんて出来ません。

 大丈夫ですの?

 おかしな格好をした人がいる。最初黒子はそう思いました。

 どうかなさいましたの?

 蹲る巨体が見えます。
 よく見ると、服というよりも何かの布切れを纏っているだけの姿のようです。
 スキルアウト?
 黒子は思わず身構えます。
 及び腰で、それでももう一歩近づくと……

「……お前、人間か?」

 はい?

「お前も、豆を投げるのか?」

 なんですの? 豆?

 さらに近づいた黒子は息を呑みました。
 そこにいるのは紛れもない……

 鬼ですの

294: 「豆ですの」 2012/03/26(月) 01:09:36.18 ID:a2dmZ29Wo


 そこには、疲れ果てた様子で座り込む鬼がいました。

 鬼……さん、ですの?

「……他に、何に見える?」

 鬼の格好ですの?

 鬼は少し考えると、ニヤリと笑って言います。

「ああ、鬼の格好をしていると言うわけじゃない。鬼そのものなんだよ、儂は」

 鬼なんて、いませんの

「お前の目の前にいる儂はなんなんだ?」

 鬼の格好ですの

「なるほど、格好だけでは本物ではない、と」

 黒子が話をしているだけの様子に、鬼は安心したのか楽な姿勢に座り直します。

「だが、儂は正真正銘の鬼だ。とりあえず、そういうことで話を進めようじゃないか」

 わかりましたの
 お怪我をしていますの?
 救急車をお呼び致しましょうか?

「いや、必要ない。人間の医者では儂の身体はどうしようもないだろうよ」

 そもそも怪我ではない。と鬼は言います。
295: 「豆ですの」 2012/03/26(月) 01:09:57.65 ID:a2dmZ29Wo

 どうなさいましたの?

「追い出されたのさ。厄や禍と一緒に」

 鬼は外、ですの

「そう、それだ。儂らは、まかり間違っても『福』ではないからなぁ」

 鬼は笑います。

 鬼なんておりませんの

「ふむ」

 頑固な黒子の言葉に、鬼も苦笑します。

「確かに、外にはおらんかもな」

 そうですの
 ここは学園都市ですの
 御伽話は余計にありませんの

「だが、力はある。儂のような者を望み、実体化させる力が」

 AIM拡散力場のことですの

「ここでどう呼ばれているかは知らん。儂にわかるのは、ここに力がある、それだけのことよ」
「鬼を望み、厄と禍を押し付けて追い出すことを望む力が」

 それが、鬼さんの物語ですの

「うむ。だから儂は、自分の役割を知っている。役割通りに存在する」

 とはいえ、いつまでもいられない。と鬼は言います。
296: 「豆ですの」 2012/03/26(月) 01:10:25.54 ID:a2dmZ29Wo


「この街に作られた儂は、この街のことを知っている。だからわかる」
「儂を消すことの出来る力を持っている者が、この街にいると」
「儂のような〝幻想〟を〝殺す〟ことのできる者がいると」

 鬼はそこで、照れたように笑います。

「自然消滅を待つのは、さすがにちょっと辛いんでな」

 鬼は立ち上がります。

「では、そろそろ行くか」

 黒子は、鬼の前へと駆け寄りました。

 ごめんなさいですの

「ん?」

 ごめんなさいですの

「どうして、謝る?」

 勝手ですの
 勝手に生んで、勝手に押し付けて、ごめんなさいですの

「……それが、我らと人間の関係だ、気にするな」

 ごめんなさいの

「お前のような人間がいるなら、儂も喜んで厄と禍を連れて消えられるというものだ」
「だから、それ以上謝るな」
297: 「豆ですの」 2012/03/26(月) 01:10:57.40 ID:a2dmZ29Wo


 また、来年もですの?

「また来年、私は生まれるのだろうな。そして厄と禍を連れて消え去るだろう」

 いつまでも、ですの?

 鬼は黒子を見下ろします。
 そして、安心しろと言うように黒子の頭を撫でました。

「こういう話を知っているか?」

 鬼は語ります。
 かつて都を荒らした鬼が調伏され、心を入れ替えた鬼が当時の皇に仕えたという伝説があると。

「その鬼は、いつしか風斬尊(かざきりのみこと)と呼ばれた」

 だから

「儂を産み出すこの街ならば、いずれは風斬尊が産まれるかもしれんな」

 探しますの
 その御方を、探しますの
 風紀委員になったら、必ずその御方を探しますの

 鬼は頷きました。
 だけど、鬼は知っていました。
 鬼が消えるとき、〝幻想〟が〝殺される〟とき、それに関わった記憶もまた消えてしまうのだと。
 それでも、鬼は黒子の言葉を嬉しく思いました。

「ありがとう」

 そして鬼は、まるで打ち上げられるかのように飛びました。

 黒子の前には、もう鬼はいません。

298: 「豆ですの」 2012/03/26(月) 01:11:24.33 ID:a2dmZ29Wo


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 それは、黒子の夢かも知れない話。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
299: 「豆ですの」 2012/03/26(月) 01:11:55.02 ID:a2dmZ29Wo


 黒子は何故か節分が嫌い。
 理由は自分でもわからないけれど。
300: ◆NOC.S1z/i2 2012/03/26(月) 01:12:22.39 ID:a2dmZ29Wo


 以上、お粗末様でした。
 

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。
309: ◆NOC.S1z/i2 2012/04/01(日) 21:25:25.89 ID:1PZf5wDlo
 
 今回、とある原作キャラと似たような境遇、能力名の者が現れますが、
 彼が原作キャラ本人かどうかは、読んだ人の想像にお任せします。

 というわけで投下します
 タイトルは「復讐ですの」

310: 「復讐ですの」 2012/04/01(日) 21:26:09.39 ID:1PZf5wDlo


 俺は帰ってきた。
 この場所に。この学区に。
 全ては、奴に再び出逢うために。

 あの日の屈辱を……俺は、忘れない。
311: 「復讐ですの」 2012/04/01(日) 21:26:42.74 ID:1PZf5wDlo

 
 充分な下見を済ませて実行した強盗現場に奴はいた。

 ――チッ、何ガキにノされてんだ。クソがっ。

 ――オマエ、風紀委員か?

 ――あのバカみたいに俺もヤレると思ったのかよ?

 ――何のつもりだ?

 ――風紀委員が人質に助けを求めるってか?

 ――初春……無事……ですわね?

 ――事件をまだ解決してませんから

 やつは同僚を逃がし、たった一人で俺に捕らえられていた。
 俺は、やつを甘く見ていた。
 だから、脅せば思うとおりになると考えていた。

 ――残念だったな、思惑が外れて

 ――俺を手伝えば解放してやる

 ――絶~~~~っ対に、お断りですのーッ

 ――なら、ここで死ね

 そして、逆転された。

 ――あなたの鉄球とわたくしのテレポート、どっちが速いか勝負しますか?

312: 「復讐ですの」 2012/04/01(日) 21:27:15.40 ID:1PZf5wDlo

 やつの名は、白井黒子。
 俺は絶対に奴の名前を忘れない。
 もう一度、やつの目の前に現れるまでは。

 調べはついている。
 この銀行がやつの巡回経路に面していると。
 閉店間際のタイミングを見計らって事件を起こせば、最初に姿を見せるのは奴に違いない。
 その時こそ、俺は……
313: 「復讐ですの」 2012/04/01(日) 21:27:38.76 ID:1PZf5wDlo

「おい、手を挙げろ」

 スキルアウトに大枚を払って手に入れた拳銃を突きつける。

「動くなよ。いかなる意味での外への連絡も無しだ」

 窓口の行員も、僅かに残った客達も動かない。

「表のシャッターを下ろせ、ちょうど閉店時間だろう。それから、さっさと金を出して貰おうか」

 穴だらけの計画だが、俺の望みは金じゃない。
 要は、白井黒子をここに誘き出すことだ。
 そのために俺は、拳銃とは別のものも準備しているのだ。
 特殊な衣服。そして、AIM感知器、AIMの有無を感知する装置だ。ただし、研究者が使う代物にはほど遠い、極々鈍感な廉価品。
 普通ならこれはほとんど何の役にも立たない。開発を受けた人間がいるかいないか、それだけしかわからない。
 だが、相手がテレポーターなら話は別だ。
 何もなかった空間に突然現れるAIM拡散力場、それはテレポーター……即ち白井黒子が現れた証拠。

 さあ、来い。
 来るんだ、白井黒子!

 と、俺のポケットの中、感知器に連動させた携帯が振動する。

 来たか、白井黒子。

 俺は振り向く、そして目の前には、忘れもしない小柄な姿。
 あの時とは違い、常盤台の制服に身を包み、風紀委員の腕章をきちんと身につけた姿が。

「白井っ! 黒子ぉおおっ!!」

 来い。掛かってこい。
 知っているぞ。俺は知っているぞ。
 お前が鉄針を使い、犯罪者を拘束することを。
 だから、俺は予測する。
 お前が鉄針を投げる方向を。
 そして避ける。
 肉弾戦に持ち込むために。
 格闘戦に持ち込むために。
 近接戦闘でなければ、俺にチャンスはないのだから。

 白井黒子! 俺は! お前の!!
314: 「復讐ですの」 2012/04/01(日) 21:28:09.18 ID:1PZf5wDlo

 
 銀行強盗の始まる少し前、黒子は麦野と絹旗に挨拶していた。

 こんにちは、ですの

「ん? ああ、白井か。巡回中かい?」

「こんにちは、白井さん」

 巡回中ですの

「超ご苦労様です」

 黒子に応じて頭を下げると、絹旗は麦野に尋ねた。

「白井さんと一緒に行っていいですか?」

「いいけど、白井は仕事中じゃないの? 遊びじゃないよ? 風紀委員は」

「う。それは……そうですけど」

「白井の邪魔になるだけだ、駄目」

「でも、レベル4の私と第四位の麦野です。超お得じゃないですか」

 駄目ですの

 そこで黒子がきっぱりと言う。

 お姉さまにもお断りしてますの

「ほら、第三位が駄目なのに、第四位の私やレベル4のあんたじゃ……」

 違いますの

 黒子は麦野の言葉を遮った。 

 第一位さまでも、垣根さまでも丁重にお断りしますの

 その言葉に、麦野は少し視線を宙に彷徨わせ、次いで軽く頭を下げた。
315: 「復讐ですの」 2012/04/01(日) 21:28:36.62 ID:1PZf5wDlo

「そうだね。こいつは私が悪かった」

「どういうことですか? 麦野」
 
 事情がどうあれ、麦野が頭を下げたことで絹旗は少し怒っているのだ。
 それは、どうして麦野が謝るのか、ということ。

 絹旗さん

 黒子は絹旗をじっと見ている。

「なんですか?」

 黒子は、じゃっじめんとですの

「超知ってます」

 じゃっじめんとの本領は、力ではありませんの
 信念と想いを貫き通す意志ですの

「麦野や私、御坂美琴に超意志がないと言うんですか?」

 黒子は首を振る。

 じゃっじめんとでない人に迷惑はかけられませんの

「でも」

「絹旗」

 麦野が優しく、絹旗の肩に手を置いた。

316: 「復讐ですの」 2012/04/01(日) 21:29:04.02 ID:1PZf5wDlo


「あんたは、自分より強い奴が出てきたら……それがフレンダでも滝壺でも浜面でもない奴だったら、はいそうですかって、私のパートナーを降りるの?」

「嫌です」

 間髪入れず答える絹旗。
 それがフレンダなら、滝壺さんなら、浜面ならわかる。
 でも、それ以外の誰が出てきたって、麦野の隣席は絶対に渡せない。

「そう。それがあんたの矜持でしょう? 白井にも、風紀委員としての矜持があるの。それはわかりなさい」

「……わかりました」

 そして絹旗は黒子へと向き直る。

「超失礼しました、白井さん」

 構いませんの

「立派ね、白井は」

 てれてれ
 
 では、失礼しますの

「超頑張ってくださいね」

「ああは言ったけれど、もしとんでもないことがあったらすぐに連絡しなさい。一民間人として協力は惜しまないから」

 ありがとうございますの

317: 「復讐ですの」 2012/04/01(日) 21:29:35.70 ID:1PZf5wDlo


 そして歩き出す黒子、だけれども、その後ろを麦野と絹旗が歩いている。

 ???

「どうやら、同じ方向に用事があるみたいね」

 それは仕方ありませんの

「超偶然ですね」

 同じ方向に歩いていて互いに無視をするのも不自然なので、結局なにか話しながら歩くことになってしまった。
 とはいえ、そこから数分としない内に事件が起こってしまうのだけれど。

 銃声と悲鳴。
 そして下ろされるシャッター。

 事件ですの

 手短に麦野と絹旗に手出し無用と告げると黒子は飛んだ。シャッターが閉まる寸前、ガラス窓の向こうに見えていた空間へと。
318: 「復讐ですの」 2012/04/01(日) 21:29:59.85 ID:1PZf5wDlo

 じゃっじめんと、ですの

 厳密に言えば、これは風紀委員の管轄ではなくアンチスキルの管轄なのだけれど、それでも、悪事を見逃すなんて黒子には出来ない。
 だから黒子は、立ち向かう。
 今はこの男に。銀行強盗の現行犯に。
 
「白井っ! 黒子ぉおおっ!!」

 名前を呼ばれて黒子は一瞬固まる。
 この男は何故自分の名前を?
 いや、言われてみれば見覚えが。
 そうだ、この男は。
 かつて、まだ新米だった自分が捕らえた郵便局強盗。

 お久しぶりですの

 挨拶はきちんとするけれど、再犯であれば許さない。
 それは黒子のケジメ。

「来いよ。鉄針なんか撃たずに、来いよ!」

 男はエキサイトしている。
 黒子は男の能力を思いだそうとしていた。
 確か…なんとかコール……なんだったか?

 ……コールスピ……

「そうだ、思い出せ、俺の呼び名を!」

319: 「復讐ですの」 2012/04/01(日) 21:30:27.78 ID:1PZf5wDlo

 蒸留酒精(アルコールスピリッツ)ですの

「何処のロシア人だぁっ!!」

 ジンはロシアと言うより、イギリスですの

「その〝ジン〟じゃねえっ!!」

 失礼しましたの

 ぺこり、と頭を下げた黒子がそのままくるりと前へ回る。

「!?」

 虚を衝かれた男との距離を縮めるテレポート。
 そして、足の上がった体勢で男の頭上へと出現、回転と遠心力による運動量を保ったまま、黒子の踵が男の頭上に落とされる。

 必殺、テレポ踵落とし、ですの

「ごっ……!」

 男は蹴撃に怯むが、瞬時に体勢を戻し、黒子からやや距離を開くために後退する。
 しかし、そこはまだ近接攻撃の届く距離。
 間髪入れずに黒子の手が伸びる。

 大人しく、降参するんですの

 男の襟首を掴み引くと、片足で男の膝裏を折るように蹴る。
 崩れた体勢の男をさらに引きながら、下半身を押し、上半身を引く。
 自然と男の身体は跪くように折れ、その背中には黒子の膝が当てられる。
 さらに黒子の身体が、男の背中に乗った。
320: 「復讐ですの」 2012/04/01(日) 21:30:54.82 ID:1PZf5wDlo

 因みに、今の黒子は常盤台の制服姿である。
 つまり、スカートである。
 つまり、生足である。
 そして男の背中に乗っているのである。
 御坂美琴と違って短パンなどは穿いていない。
 つまり、下着である。

(今だ!)

 男の神経が背中に集中した。
 背中に当たる黒子の肌に、男の全感覚が集中する。

(温かい!)

 黒子は気付いていない。
 このために、男は奇妙な服を着ていることに。
 背中だけが、極々薄い布地で構成された服なのだ。
 今、男は、黒子の体温を背中で感じていた!!

(これだっ!!! これなんだっ!!!)

 数年前、黒子に……女子小学生に完膚無きまで体術で打ち負かされたとき、男の中にはある性癖が芽生えた。
 芽生えてしまったのだから仕方ない。
 そう、これは実のところ、復讐劇ではない。
 これは男によって仕組まれた物語。
 すなわち!
321: 「復讐ですの」 2012/04/01(日) 21:31:31.55 ID:1PZf5wDlo
 
 
 
 
 
       〝 我 々 の 業 界 で は ご 褒 美 で す 〟
 
 
 
 
 
322: 「復讐ですの」 2012/04/01(日) 21:31:58.83 ID:1PZf5wDlo


「おおおおおっ!!!」

 だから、男は立ち上がる。
 足りない。足りないのだ。
 ご褒美がこれでは足りないのだ。
 もっと! もっと! ご褒美を!!!
 全てと引き替えにご褒美を!!

 生足キックを!
 生手パンチを!
 望めるのなら、お尻パンチを! おしりパンチを!!
 あと関節技とか! ビンタとか!

 男は立ち上がる。
 殴られても、蹴られても、関節を極められても。
 だってそれはご褒美なのだから。

 男は立ち上がる。
 鉄針で服を縫いつけられても破りちぎるほどの迫力で。

 いい加減にしますの

 黒子の攻撃は苛烈を増すけれど、男にとっては褒美の倍増。
 ダメージはあってもそれを補って余りあるほどの心の法悦がある。

323: 「復讐ですの」 2012/04/01(日) 21:32:29.09 ID:1PZf5wDlo


 これ以上は、命に関わりますの

 黒子は焦り始めていた。
 いくらなんでも、風紀委員による犯罪者制圧で死者は出せない。それは困る。
 固法先輩にとっても怒られてしまう。

「それで終わりかぁっ! 白井黒子おおおっ!!」

 男は吼える。吼えて吼えて、吼え抜いて。

 しつこいですの

「白井っっっっ!! 黒子おおおおっっっ!!!」

 進退窮まる黒子は、下がろうとして壁にぶつかる。
 
 下がれませんの

「おおおおおおっ!!!」

 男が雄叫びとともに突進する。
 瞬間、

 どぐしゃあっ

 と、耳を聾する音が響いた。
 貫かれ大穴の開いたシャッターから顔を出す二人組。

「いい加減にしてもらいましょうか、このど変態。浜面以上の超変態です」

「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」

324: 「復讐ですの」 2012/04/01(日) 21:33:05.66 ID:1PZf5wDlo



 しばらくして、強盗が未遂に終わったため短い刑期で出所した男は、女性恐怖症になっていたという。

 尚、出所の頃にたまたま学園都市を訪れていた、某天草式の某少年がいた。
 彼が、女性恐怖症から少年愛に走った男の新しい標的となった騒動は、また別の物語である。
 
325: ◆NOC.S1z/i2 2012/04/01(日) 21:33:36.47 ID:1PZf5wDlo


 以上、お粗末様でした。
 

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。

 
347: ◆NOC.S1z/i2 2012/04/19(木) 23:10:29.45 ID:COB5BYBko

 今回も、黒子話と言うよりも、「平和な学園都市」の話になってしまった。


 というわけで投下します
 タイトルは「人間違いですの」

348: 「人間違いですの」 2012/04/19(木) 23:11:09.56 ID:COB5BYBko

 ある日の柵川中学校の放課後。

「ああ、ちょっとすまない」

 帰り支度をして教室を出ようとしている初春を呼び止める男がいた。
 身長2メートル越えの中学二年生、さらには顔面に入れ墨という赤髪男である。

「君に頼みたいことがあるんだが、次の日曜日にでも付き合ってもらえないだろうか」

 はい? と立ち止まる初春。
 見上げると、そこにいるのはステイル。つい最近転入してきた、イギリスからの留学生である。
 最初は新しい教師だと思っていた。まさか生徒だったとは。
 本人の談によると、常盤台に転入したインデックスという子の護衛のために来日したらしい。
 もっとも、女子校である常盤台に入学するわけにはいかないので、書類上では普通の中学に転入したことになっていると。
 日中は、そのインデックスやもう一人の護衛の薦めもあって学校に顔を出すのだ、と本人は言っている。
 そして今日、何を思ったか突然の初春への誘い。

「おおおおーーーっ!?」

 ステイルの味も素っ気もない事務的な口調を真っ向無視して、何故か盛り上がる第三者が一人。
 その第三者の名は佐天涙子。
 ところが、呼び止められた当人はただ慌てているだけ。
349: 「人間違いですの」 2012/04/19(木) 23:11:36.75 ID:COB5BYBko

「え、えっと……ステイルさん、でしたっけ?」

「そうだ。君は、初春飾利で間違いないな」

「は、はい。そうですけれど……」

「凄いよ、初春。デートの誘いだよ?」

 ステイルの冷たい視線にも気付かず、佐天は一人で盛り上がっている。

「佐天さん、そういうことはあまり大声で……」

「すまないが……あー……」

「佐天涙子です」

「そうかい。では、佐天涙子、僕は初春飾利にデートを申し込んでいるわけではない。つまらない勘違いは止めて貰おう」

「えー」
350: 「人間違いですの」 2012/04/19(木) 23:12:24.24 ID:COB5BYBko

 佐天はめげない。

「でも、休みの日に付き合うなんて、まるでデートの申し込みじゃないですか」

「何故そうなる」

「イギリスではどうか知りませんけれど、日本ではそうなんです」

「日本人の知り合いもいるけれど、初耳だね」

「きっとその人はあまりデートとかに縁がなかったんですよ」

 いきなり失礼な発言。
 でも、ステイルは頷いた。

「うん。確かに、彼女はそういうことには縁がないように見えるけどね」

「知り合いって女の人なんですか?」

「そうだけど?」

「ステイルさん、酷いです。女の人にそんなこと言うなんて」

「君に合わせただけだろうが」

「酷いです」

「だから、君の言い分に合わせただけだと言っている」

「酷いよね、初春。女の人に向かって、デートに縁がないだなんて」
351: 「人間違いですの」 2012/04/19(木) 23:12:58.08 ID:COB5BYBko

 ステイルは悟った。
 こいつ話通じねえ。
 そこで取る手は一つ。
 無視、あるのみ。

「勿論デートなどではない。君の風紀委員としての能力に敬意を表して、頼みたいことがあるんだ」

「風紀委員ですか?」

 一転、初春の表情が生真面目なものになり、ステイルは内心で「ほおっ」と感心する。
 なるほど、風紀委員であるということに責任と自負を感じているのだろう。
 その性根が、ステイルも嫌いではない。
 逆に、目に見えてテンションの下がる佐天。

「なーんだ。風紀委員の話かぁ」

「君はなんだと思って……そうか、デートと勘違いしていたんだな」

「ステイルさん、私に遠慮せずに正直に言っていいですよ?」

「君は僕を焚きつけてどうしたいんだ」

「一度見てみたかったんですよね、人がフラれる現場」

「失敗前提か」

 あっはっはと笑う佐天を尻目に、ステイルは会話を元に戻す。
352: 「人間違いですの」 2012/04/19(木) 23:13:22.53 ID:COB5BYBko

「白井黒子に話を聞いた。彼女のテレポートのナビを行うのが君だと」

 事件の起こった現場へ向かう黒子を学園都市マップの様々なデータを参照しながらナビゲートしているのは、確かに初春だ。

「そのナビとしての能力を貸して欲しい」

「何をするつもりなのか聞いてもいいですか? お話によっては協力どころの騒ぎじゃありませんから」

「なに、ちょっとした準備をしたいのさ。対象を護るためのね」

 機器の設置だ、とステイルは告げる。
 設置自体には学園都市の許可は得ている。ただ、その位置策定に都市の隅々まで見通せる初春の力を借りたいのだと。

「時間はそれなりにかかるので貴重な休日を潰してしまうことになるが、その代わりに謝礼は払おう」

 広い範囲を歩き回ることになる、とステイルが言えば、佐天のほうが興味を持ってしまった。

「いいじゃん、お弁当持ってピクニックだと思えば。きっと、私たちじゃ入れないような所にも入れるよ」

「佐天さんは気軽すぎますよ」

 初春はそう簡単には答えない。さすがは現役風紀委員。
 第一、機器と言われても一体どんなものなのか。
353: 「人間違いですの」 2012/04/19(木) 23:13:50.62 ID:COB5BYBko

「語弊があったな、君たちにわかりやすいように機器とは言ったが……」

 ステイルが取りだしたのは一枚のカード。

「詳しい説明は省かせて貰うよ。魔術側にも機密事項はある」

 他ならぬ、イノケンティウス顕現のためのルーンの刻まれたカードだが、勿論初春たちがそれを知るわけもない。

「許可は取っているんですね?」

「そんな下らない嘘はつかないよ。今更学園都市との間に無駄な争いの種をまくつもりはない」

「わかりました。そのかわり……」

「ああ、何処でも君の好きな店のデザートを進呈しよう。お持ち帰りできるものだと、助かるけどね」



 そして、翌日。

 約束の場所に一番最初に現れたのは、お弁当を抱えた佐天だったりする。

「初春もステイルさんも遅いですよ」

 愛用のノートパソコンを抱えた初春とアタッシェケースを抱えたステイルは、佐天に遅れてほぼ同時に集合場所に到着する。

「……いや、どうして君がいるんだ」

354: 「人間違いですの」 2012/04/19(木) 23:14:17.83 ID:COB5BYBko


「初春のパンツあるところ佐天有り、です」

「さ、佐天さん、ステイルさんの前でめくらないでくださいよ」

 初春の抗議に佐天は「当然でしょう」と言うように頷く。

「ステイルさん、少し後ろ向いててくれますか? その間にめくっちゃいますから」

「そういう問題じゃありませんよ!」

「そう? じゃあ二人とも、早速行きましょうよ」

「なんで君が仕切っているんだ……」

「まあまあ、堅いこと言わずに。お弁当持ってきましたし」

 イギリスに敬意を表して、「フィッシュ&チップス」も準備しましたよ、と佐天。

「初春飾利、君がそれでいいのなら、僕は諦めるが」

「別にいいですよ?」

 諦めるように一息ついて、ステイルは地面に置いていたアタッシェケースを持ち上げる。

「わかった。それじゃあ早速始めよう。まずは……」
355: 「人間違いですの」 2012/04/19(木) 23:14:48.22 ID:COB5BYBko

 ステイルはカードの設置場所に最適な条件を伝え、初春はそれに従って適度な場所をピックアップする。
 そして、三人で実際にそこへ赴き、可能ならばステイルはカードを設置する。
 具体的には、通りすがりの人間からは死角になる位置にカードを貼り付けていくのだ。

「これ、剥がれたり破れたりしません?」

 佐天はカードを一枚翳す。

「なんだか不思議な手触りと光沢ですけれど」

「こちらで出来た知り合いに頼んだのだが、未元物質を混ぜ込んだと言っていたな」

 水に濡れてもインクが落ちない、一度つけるとなかなか剥がれない優れものである。
 
「それで、これを貼るとどうなるんですか?」

 何カ所かの作業を終え、佐天の持ってきたお弁当で一息ついていると、初春がこう尋ねた。

「そうだな、手伝ってくれた礼に説明くらいはしてもいいだろう。その前に、佐天涙子、それをもう一つもらえないかな?」
356: 「人間違いですの」 2012/04/19(木) 23:15:16.44 ID:COB5BYBko

「なんですか?」

 尋ね返す佐天の手には「フィッシュ&チップス」が。

「それだ」

 集まった当初、佐天の勧めに従ってそれを口にしたステイルは言ったのだ。

「これは違う。本場のフィッシュ&チップスはもっと脂ぎっていて酸っぱいんだ」

「美味しくないですか?」

「……美味しい。だが、これはフィッシュ&チップスじゃない」

「美味しかったらいいじゃないですか」

「ああ、確かに美味しいとも。しかし、これはフィッシュ&チップスじゃない」

「面倒くさい人だなぁ……」

 そんなやりとりがあったから、ステイルの言いたいことは佐天にはわかっている。

「〝それ〟じゃわかりませんよ」

「君が手に持っているものだ」

「フィッシュ&チップスですよね?」

「違う。断じて違うが、美味しいものだ」

「はぁ……もういいですよ、はい、これ」
357: 「人間違いですの」 2012/04/19(木) 23:15:48.09 ID:COB5BYBko


「すまないね」

 受け取ったそれをもしゃもしゃと食べ終えると、ステイルは意識をルーンカードに向ける。

「……」(詠唱略)

「顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ-------------ッ!」

 何かがステイルの胸元から飛び出した。
 ステイルの四半分ほどの大きさのドロドロとした塊のような炎は、見る間にずんぐりむっくりとした人の形を取り始める。
 炎を纏った泥人形のようにみえるそれは、やがて誇らしげにすっくと立った。

「魔女狩りの王(イノケンティウス)、小型軽量化に成功したものだ。プティ・イノケンティウスとでも名付けようか」

 ただ小さくなっただけではない。燃費も向上していて、あらかじめカードに篭められた魔力だけでも長時間活動できる。
 そして、魔力が尽きた場合も、その補充は難しくない。なにしろ、カードは到るところに貼られているのだから。
 さらに、他の魔術(ゴーレム使役など)からの応用で、学園都市風に言うならば超小型のAIが搭載されているような存在なのだ。

 その戦闘力を犠牲に、ある程度の自律性と独立性を付与され、機動力については高められたプティ・イノケンティウスである。

 略して、プチケンティウス。
 もっと略して、プチケン。

 インデックスを蔭から見守り、必要とあれば力を行使するために生み出された、ステイル渾身の作なのだ。

358: 「人間違いですの」 2012/04/19(木) 23:16:19.69 ID:COB5BYBko
「なんだか可愛いロボットですね」

「ステイルさんが作ったんですか?」

 佐天と初春にはそう認識されていた。

「彼女の護衛のためだよ」

 しかし、目立つのは不本意だ、とステイルは言う。
 
「普段は清掃ロボットにカモフラージュさせておこう」

 そのために、街でよく見かける清掃ロボの外装だけを手に入れたのだと。

「……あの」

 佐天が手を挙げた。

「なにかな?」

「その外装はどこにあるんですか?」

「いい質問だ、佐天涙子」

「忘れてきたんですね」

「マンションに置いてあるだけだ」

「忘れたんですね」

「……」

「忘れたんですね」

「……忘れた」

「正直でよろしい」

359: 「人間違いですの」 2012/04/19(木) 23:16:43.82 ID:COB5BYBko

 取るべき道は三つの内一つ
 1・一旦プチケンを消す
 2・このままプチケンをマンションまで連れ帰る
 3・その辺の清掃ロボを破壊して外装を剥ぎ取る

 3は論外である。
 1にしても、プチケンは維持魔力自体は少ないが、顕現にはそれなりの魔力消費が必要だ。
 ステイルとしては、出来ることなら2を選びたい。
 そのうえ、プチケンを自力でマンションまで帰すことが出来るのなら、それはそれで立派な訓練である。

「このまま帰るか」

「プチケンちゃん、帰りますよぉ」

 初春が手招きすると、プチケンは頷くような仕草を見せて駆け寄ってくる。
 感心する佐天。

「おお。プチケンちゃん、良い子だ。どっかの素直じゃないノッポさんとは違うね」

「黙れ、ゴン太くん」

 プチケンを従えた3人は、ステイルの借りたマンションへと向かうのだった。

360: 「人間違いですの」 2012/04/19(木) 23:17:14.48 ID:COB5BYBko
 
 

 
 
 ~その頃の黒子~


 いつもの見回り中。

 今日は誰も見かけませんの

 黒子の顔は広い。
 レベル5の皆さん。
 絹旗や結標などのニアリーレベル5たち。
 浜面や駒場などの、必要悪的スキルアウトたち。
 そして、ジャッジメント仲間や、アンチスキルの皆さん。
 佐天や上条、フレメアなどのレベル0たち。
 学園都市の食を担う木原一族。
 匂いを嗅ぐ人、殴られたがる人。
 最近では、何故かサブミッションをかけてもらいたがる見知らぬ人たち。

 それが今日に限って、誰も見かけないのだ。
 巡回中なのだから、それはそれでいいのだけれど。

 ……寂しいですの

 独りぼっちはやっぱり寂しい。
 誰かと顔を合わせて挨拶がしたい。通りすがりにハイタッチとかしたい。

 ……!?

361: 「人間違いですの」 2012/04/19(木) 23:17:45.05 ID:COB5BYBko

 そんな黒子の視界に入る長い黒髪。

 佐天さんですの?

 そして、その黒髪の横にいるのは小柄なお子様体型。

 長い黒髪&お子様体型

 このコンビはどう考えても佐天&初春に違いない。
 しゅん、とテレポして二人の前へと飛ぶ。

 佐天さん、初春、こんなところで……

 黒子が硬直した。

「あらあら、違うのですよ」

「多分。人間違い。私たちは。〝さてんさん〟でも〝ういはる〟でもない」

 そこにいたのは、初春どころじゃないくらいに幼い子と、佐天さんよりも長い黒髪の純日本風少女。

 ごめんなさいの。間違えましたの。

362: 「人間違いですの」 2012/04/19(木) 23:18:11.54 ID:COB5BYBko

「わかってくれればいいのですよ」

「大丈夫。私は。気にしない」

 とは言ってくれるものの、やっぱり恥ずかしい。
 そして二人は黒子を慰め続けるつもりか、去っていこうともしない。
 なんとなく、恥ずかしさが増幅しているような気もする。
 すると……

「あ。先生」

 黒髪少女が黒子から視線を外すと、幼い子もその視線を追う。
 そこには緑の髪をオールバックに整えた長身の、理知的な顔の男が。

「偶然、こんな所で会うとはな。何をしている?」

「お買い物。学校の先生と」

「まあまあ、初めましてなのですよ。この方が塾の先生なのですか?」

「塾の。名物先生」

363: 「人間違いですの」 2012/04/19(木) 23:18:39.02 ID:COB5BYBko


 黒子は首を傾げる。
 聞こえてくる話からするとこの三人は、生徒と学校の先生、塾の先生らしい。
 しかし、塾の先生はまあいいとして、この幼子が学校の先生とは何事か。
 それとも、何らかの能力の弊害なのか。
 
 少し考えて結局、黒子はその場から離脱することにした。

 しゅんっ、とテレポート。

 ビックリしましたの

 充分に距離を離したところで再び歩き出す。

 黒子は内心諦めていた。もう、今日は独りぼっちのままパトロールを終えよう。
 仕方ない。たまにはこういう日もある。



 黒子がプチケンを見つけて大騒ぎになるまで、あと十二分。

 
364: ◆NOC.S1z/i2 2012/04/19(木) 23:20:05.44 ID:COB5BYBko

 以上、お粗末様でした。
 

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。

372: ◆NOC.S1z/i2 2012/04/29(日) 20:20:29.31 ID:BJm4MyhMo

 というわけで投下します
 タイトルは「心に、ですの」
373: 「心に、ですの」 2012/04/29(日) 20:21:01.08 ID:BJm4MyhMo

 なにかいますの

 黒子の前方。
 なにやら奇妙なものが動いている。

 火事ですの

 と最初は思ったけれど、火事の炎は勝手に移動しない。
 さらに、炎は人間の形なんてしていない。
 ならばアレは一体……

 勿論、その正体とはプチケンティウス、通称プチケンである。
 そして、プチケンの自律行動、遠隔操作の実験のため、ステイル一行は黒子からは見えない位置にいる。
 ステイル達だって、黒子には気付いていない。

 不思議な御方ですの

 距離をおいて尾行する黒子。

 因みに街の人々からはプチケンは隠れていない。隠れてはいないが、外見の妙なモノが街をうろうろしているのは、学園都市では日常茶飯事である。
 しかも、ヒューマノイドタイプとはいえ、人間とは思えないミニサイズである。つまりは、機械仕掛けのものだと判断しやすいサイズと形なのだ。
 だからこそ、見かけた人々も何かの実験だと思いこんでいる。

 街の人々からはどう見えていたかというと……
374: 「心に、ですの」 2012/04/29(日) 20:21:29.05 ID:BJm4MyhMo

(証言者・通りすがりの匿名希望、明日手価さん)

「はい。自分には、学園都市の何らかの実験に見えてました。そうですね、小型人型機械の耐火試験でしょうか?
その後ろを、係員と思しきジャッジメントの方がついていましたね」

 というわけだ。

 黒子にとってはタダの不審者。
 そしてプチケン、いや、ステイル達から見れば……

「どうやら、白井黒子に捕捉されたようだね」

「さすがですね、白井さん」

「情け無用のジャッジメントと呼ばれるだけはありますね」

「そんな渾名があるのか」

「スキルアウトも震え出しますよ?」

「初春、それ私初めて聞いたよ?」

 初春と佐天の会話は置き、ステイルは考える。
 
 プチケンの任務はインデックス守護。
 つまり、白井黒子にあっさり負けているようでは、とてもではないが守護は務まらないのだ。
 もしも本気でインデックスを狙う者がいたならば、少なくとも黒子並みの力を持っていなければならないのだから。

 だから、これはいい機会だとステイルは考える。

375: 「心に、ですの」 2012/04/29(日) 20:21:55.56 ID:BJm4MyhMo

「白井黒子には悪いが、実戦テストを兼ねさせて貰おうか」

 ステイルは手短に、初春に事情を説明する。
 黒子にはシャレにならないような危害を加えないことを条件に、初春はモニターに協力する。具体的には、学園都市内の警備カメラ網のハッキングである。
 初春の手持ちのノートパソコンに、各所の防犯カメラからの映像が送られてくる。
 当然、それらによってプチケンと黒子が監視されているのだ。

「まさか、本気で戦わせないですよね?」

「基本的には守備だな。先制攻撃はさせない」

「へんなことしたら即座に御坂さん呼びますから」

「危害を加えるつもりはない。もっとも、こちらも黙って被害を被る気もないが」

 万が一プチケンティウスが消滅すれば、作った手間は別としても、顕現時に与えた多くのデータが無駄になってしまう。それは実に惜しいのだ。
 だからステイルは、互いに大きな被害が出ない内に矛を収めるつもりである。

 勿論、黒子にはこれらのやりとりなど、知るよしはない。

376: 「心に、ですの」 2012/04/29(日) 20:22:27.34 ID:BJm4MyhMo

 不思議な御方ですの

 黒子は尾行の距離を徐々に縮めていく。
 目の前を行く怪人物からは、殺意や敵意のような者は一切感じない。
 だからといって、身体中が燃えさかっている状態が安全とは言い難い。
 発火能力者か、それに類した能力者か。
 どちらにしろ、暴走状態でないのなら意思疎通は出来るはずだ。

 黒子は一気に距離を縮め、最後にテレポートでプチケンの前に出る。

 じゃっじめんと、ですの

 プチケンはてくてくと歩いている。

 じゃっじめんと、ですのっ

 てくてくと、プチケンは黒子の横を通り過ぎる。
 黒子は追いかける。

 じゃっじめんと、ですのっ!!

 てくてく

 じゃっじめんとぉぉぉおおおお!!!! ですのぉおおおおおおおっ!!

 てくてく

 しくしく

 てくてく

 しくしく

 てく……

 プチケンが止まった。
 振り向いて、泣いている黒子に目を留める。
377: 「心に、ですの」 2012/04/29(日) 20:22:49.55 ID:BJm4MyhMo

 プチケン三原則
 一つ インデックスを護るべし
 二つ ステイルの指示に従うべし
 三つ 前述二つに反しない限り、良き学園都市住民であるべし

 インデックスとはまだ会ってない。
 ステイルからの指令もまだ無い。
 つまり今は、プチケンは善良な学園都市一般人。
 だから、泣いている人は助けよう。
 プチケンは、黒子に向かって一歩踏みだし、手を差し伸べた。

 真っ赤に燃える紅蓮の腕を。

 !!!

 近づいてくる高熱に気付いた黒子が顔を上げる。

 ぐすっ……
 
 急いでハンカチで涙を拭く。

 ようやく、反応してくれましたの
 貴方は、何者ですの?

 プチケンは立ち止まる。そして、困る。
 なぜなら、プチケンは話せない。話す能力がない。
 ルーンの魔力かステイルの力か、自意識は持っているようだけど。
 ぶっちゃけ、生まれたてのシスターズよりも今のプチケンのほうが個性を持っている。
 それだけの手間暇を、ステイルがプチケンにつぎ込んでいるのだ。

 だけど、話す能力だけはない。そもそも喉がない。
378: 「心に、ですの」 2012/04/29(日) 20:23:16.08 ID:BJm4MyhMo

 発火能力者ですの?
 もしかして、能力の暴走ですの?
 火が消えないように見えますの

 プチケンは最初の二つの疑問に首を振り、最後の一つに頷いた。
 発火能力者でも暴走でもない。だけど、火が消えないのはその通り。
 火が消えるということは、プチケンの存在自体が消えることだから。

 黒子も首を傾げる。
 この怪人物は暴走しているわけではなくましてや発火能力者でもない。
 そして、火は消えないのだと。

 もしかして、それが産まれたままの姿ですの?

 頷くプチケン。

 変わった方ですのね

 と、その時、プチケンが地面に手をつける。
 焦げる地面。
 プチケンは器用に地面に細い焦げを作っていく。やがて焦げた線が繋がり、言葉となる。

「模擬戦申し込む」

 模擬戦ですの? 私と?

 プチケンはまたもや頷いた。そして一歩下がり、構える。
 その構えに黒子は一瞬驚き、そして同じく一歩下がった。

 承りますの
379: 「心に、ですの」 2012/04/29(日) 20:23:43.96 ID:BJm4MyhMo

 炎が空気を焦がす。瞬時にして膨張し、陽炎を生み出す空間の先に黒子の姿はない。
 プチケンの背後、斜め上空に現れた黒子の指先に光る鉄針。
 しかし放たれた鉄針は、プチケンの体表に振れた瞬間に溶解し、地面に垂れ、地を焦がし、冷えて鉄塊となる。
 
 攻防を眺めるステイルは冷静だった。
 プチケンの任務は攻撃ではない。防御だ。インデックスに向けられる物理攻撃を全て無効化すること。それがプチケンの役目である。
 魔術による攻撃に対するならば、魔道図書館であるインデックス自身を超えるものなどいない。
 故に、ステイルが恐れるのは純粋な物理による攻撃なのだ。
 そして今、あらゆる方角から飛来する黒子の鉄針をプチケンはいなしている。

「凄いですね、プチケンちゃん」

「うわぁ、白井さん押されてるよ、初春」

 モニターを眺めている二人にもそれは歴然のようだ。
 黒子の攻撃は無効化され、プチケンの攻撃は全て避けられている。
 無効化と回避、長引けばどちらが不利かは言うまでもないだろう。

 案の定、黒子の動きは徐々に精彩を欠きつつある。
 能力者とはいえ普通の人間と炎のゴーレムである。スタミナの差など考えるのも馬鹿馬鹿しい。

「初見でプチケンティウスの特性を知らずに戦っていると考えれば、学園都市の風紀委員侮りがたし、と言ったところか」

 ステイルはプチケンに退去指示を出そうとする。

380: 「心に、ですの」 2012/04/29(日) 20:24:15.22 ID:BJm4MyhMo

「あ」

 佐天の声にモニターを確認すると、黒子が何かに足を取られて転んでいる瞬間だった。
 黒子の足下には一枚のカード。
 ルーンのカードだ。
 しっかりと貼られていなかった一枚が剥がれ、たまたま黒子の足下に落ちていたのだ。

 つるん、すてん

 転んだ黒子はそのまま道端へ。
 道端には排水溝があり、

 だぶん、どんぶらこ

 流される黒子。

 とは言っても、黒子には空間移動能力者。
 それなのに、流れている。
 泳いでいるわけでもない。

「もしかして、転んだ拍子に頭打って気絶してませんか?」

「え、それは危ないですよ」

 慌てて警備カメラを操作する初春。
 その内の一つが黒子の顔をアップで映す。

「気絶してるね、これ」

「えええええーーーっ!!!」

381: 「心に、ですの」 2012/04/29(日) 20:25:00.73 ID:BJm4MyhMo

 初春はモニターを同じく見つめているステイルに向き直る。

「ステイルさん! 早く白井さんを助けてください!」

「くっ」

 ここから模擬戦現場までは決して近くない。
 走っていったとしても、着くまでには黒子はどんぶらこどんぶらこと流れて行ってしまうだろう。
 それでは溺れてしまう。
 無論、プチケンならすぐ近くにいるが、排水溝に飛び込ませると、間違いなく炎が消える。
 普通のイノケンティウスならいくらでも瞬時の再生が可能だが、自律意識を特化させたプチケンでは再生は不可能だ。
 仮に肉体を再生させても、頭脳は再生しない。

 もし、ここでプチケンが消えれば……
 バックアップなどは準備していない。ここまで準備してプチケンに覚えさせた膨大なデータベース(主にインデックス守護方法)も全て消え失せてしまうのだ。
 ゴーレムの思考野、疑似自我の作成など、どれほど気の遠くなるような作業か……

 正直に言おう。
 ステイルにとっての一番はインデックスであり、インデックスの安寧であり、インデックスの守護だ。
 ここでプチケンを失えば、安寧も守護も遠ざかる。

 だが……

382: 「心に、ですの」 2012/04/29(日) 20:25:28.83 ID:BJm4MyhMo

「……誰かの犠牲と引き替えに与えられる安穏など、あの子が望むわけないだろう! ステイル=マグヌス!」

 己への叱咤。一瞬でも犠牲やむなしと考えた自分への怒り。
 その通りなんだよ、と誰かが天使のように微笑んだような気がした。

「プチケンティウス! 白井黒子を救え!」

 プチケンは走る。そして躊躇わずに飛び込む。
 黒子に直接触れないように手を伸ばし、衣服を摘むと、摘んだ部分の布が燃え尽きるよりも早く地面へと投げ飛ばす。

 あう

 背中を地面にぶつけた衝撃で息を吹き返す黒子。

「あ……」

 モニターで一部始終を眺めていた初春は、その時初めて理解した。
 黒子を救う、即ち水に触れることはプチケンの消滅を意味しているのだと。

「気にする必要はない」

 ステイルがその肩に優しく手を置いた。

「人の命には替えられないからね。それに、ここで白井黒子を見捨てたりしていれば、僕が彼女に大目玉を食らってしまう」

 もう一度、ゴーレムの思考野を構築し直すさ、とステイルは事も無げに言うのだった。

383: 「心に、ですの」 2012/04/29(日) 20:26:04.41 ID:BJm4MyhMo
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 


「……顕現せよ!」

 黒子、佐天、初春の前で復活するプチケン。
 あれからきちんとした説明を受けた黒子が、是非プチケン再製に協力したいと申し出たのだ。

「では、思考野の構築を……」

 いいかけて、ステイルは絶句する。
 プチケンが、黒子の姿を認めて頭を下げたのだ。

「……記憶が残っているのか……」

「え、でも、さっき消えちゃったんですよね」

 説明を受けていた佐天と初春も戸惑っている。

「ああ、こんなことがあるなんて……」

 ステイルは我知らず呟いていた。

「何処に……記憶が残っていたんだ……」

 黒子はプチケンに向かって微笑み、優雅に礼をする。
 そして、ステイルに言った。

 ――心に、ですの

 ほんの少しだけ、ドヤ顔で。
384: ◆NOC.S1z/i2 2012/04/29(日) 20:26:50.89 ID:BJm4MyhMo


 以上、お粗末様でした。
 

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。
391: ◆NOC.S1z/i2 2012/05/11(金) 23:23:28.10 ID:/4M5q88to


 間が空きすぎたので、今回の話が完結してませんけれど、前後編ということで投下します。


 タイトル「お姉さまがいっぱいですの(前)」
392: 「お姉さまがいっぱいですの(前)」 2012/05/11(金) 23:24:07.87 ID:/4M5q88to

 月が眩しい夜だった。
 ミサカ07号は、夜の学園都市を歩いている。
 長く伸びる影。
 誰もいない裏路地。
 ただ、ミサカの足音だけが聞こえる静かな場所。

「……今夜は雲一つありません、とミサカは報告します」

 報告相手などいないけれど。

「それでは、散歩を続けます、とミサカは再び報告します」

 誰にも聞こえない報告を呟きながら、ミサカは歩き続ける。
 目的地など、無いけれど。

 ふと、ミサカの足が止まる。
 背後の気配がミサカの歩みを止めていた。

 ミサカは知らない。
 ミサカの夜中の散策には、既に目撃者がいたことを。

 それは噂となり、一人の風紀委員の耳にも入っていた。
 だから彼女は、その噂を確かめにやってくる。

 じゃっじめんと、ですの

 知っている声に、ミサカは振り向くことが出来なかった。

393: 「お姉さまがいっぱいですの(前)」 2012/05/11(金) 23:24:35.32 ID:/4M5q88to

(ちィ……)

 一方通行は夜の学園都市を疾る。
 ベクトルを束ね、全てをスピードに替え、空気抵抗を無視し、通常の物理法則すら無視した速度で。

「なンかあったらァ、すぐに連絡してきやがれ」

 御坂美琴を筆頭に、天井の研究室とクローン設備を急襲したメンバーの連絡先を妹達に渡している。
 レベル5が六人もいるのだ。
 どんな時間でも誰か一人には……最悪の場合でも事情を知る関係者には連絡が付く。
 今回は、それが一方通行だった。

 あらかじめ取り決められていた連絡コード「107」
 それは、「事情を知らない関係者に発見された」の意味。
 時間が時間だ。こんな時間にうろうろしているのならば……

 スキルアウトでもある浜面仕上か、運の悪さには定評のある上条当麻か、あるいは、オールナイト映画をハシゴ中の絹旗最愛か。

 いや、それよりも。

 どうしてこんな時間に妹達の一人……コードによれば07号……が町中にいるのか。
 事情はわからない。わからないが……

(急ぐしかねェか……)

 そういうことだ。

394: 「お姉さまがいっぱいですの(前)」 2012/05/11(金) 23:25:01.98 ID:/4M5q88to

 眠れない。
 
 それが十二人の妹達の悩み。正確には、十一人の妹の。
 01号だけが、不眠の悩みからは遠ざかっている。

 スペックに差はない。経験だって、特筆できる程の差はない。
 それなのに、一人だけがぐっすり眠っている。

「これはどういうことかと、ミサカ02号は01号を問いつめます」
「これはどういうことかと、ミサカ03号は01号を問いつめます」
「これはどういうことかと……」(以下04号から12号まで略)

「そう言われても、ミサカには思い当たる節が全くありません。と、ミサカ01号は当惑します」

「そんなわけがありません、と、ミサカ……」(以下、02号から12号まで略)

「しかし……」

「Well 02号たちの言うことにも一理あるわ」

 妹達の言い争いに口を挟んだのは、天井からの妹達奪取後、正式に美琴達からバックアップを依頼された才女、布束砥信である。

「Of course 経験も記憶も貴方達は同じはず。違う部分があるとすれば、産まれてからの経験の差異」

 それなら、その差異を徹底的に検証するしかないだろう、と布束は締めくくる。
 原因がそこにあるか無いかは不明だが、どちらにしろ一朝一夕で出来る作業でもない。
395: 「お姉さまがいっぱいですの(前)」 2012/05/11(金) 23:25:29.04 ID:/4M5q88to

 結局、妹達の不眠は解消されていない。
 解決に近づいたということで安心したのか、それとも不眠という悩みを共有できて安心したのか、多少はマシになっているのだが。
 だからといって、夜に出歩いていいというわけではない。いや、むしろ昼間でも出歩くことは推奨されないだろう。
 それでも、

「夜ならば目撃される危険性は減少、とミサカは推測します」

 言い訳はあるのだ。
 単に、眠れない夜を持て余して彷徨っているだけだとしても。
 
 勝手のことをしているという自覚はあるから、せめてもの自制で、一夜に彷徨うミサカは一人だけ。
 順番を決めて11人は夜の学園都市を彷徨う。
 事情を知らない者からすれば、毎夜毎夜御坂美琴がふらふらと出歩いているように見えるだろうに。

 事実、そんな噂も流れた。

 事実を知るものはすぐに、妹達を諫めようとした。
 そして不眠を訴えられる。
 問題は不眠そのものではない、その原因となるべき何かだ。

 布束の調査を待たず、一方通行は食蜂操祈に依頼すればいいと考える。
 確かに、手っ取り早い解決方法だ。

396: 「お姉さまがいっぱいですの(前)」 2012/05/11(金) 23:25:56.61 ID:/4M5q88to

「眠らせるだけならぁ~、簡単なんだけどぉー」

 軽い言葉の中に幾ばくかの非難を混ぜて、操祈は一方通行に告げた。

「でもそれってぇ、私の力に限った話じゃなかったりするのよねぇ」

「おィおィ、精神操作に限りゃァ、ナンバー1だろォが、お前は」

「血流のベクトルを操ったりぃ☆ 未元物質に誘眠性を付与しちゃったりぃ♪ 神経パルスを弄っちゃったり♪」

「あン? 何が言いてェ?」

「眠らせちゃうだけなら、第一位から第三位まででも充分力持ってるでしょぉ?」

 原因の特定はいいのか? と操祈は尋ねていた。

「精神部門の第一位として言っちゃうけどぉ☆ 原因特定力を高めないと、ぶり返すんだからネ」

 操祈の目は言葉と裏腹に、笑っていない。
 面倒を見るなら最後まで見ろ、第一位。
 そう、焚きつけている。

「ちィ……」

「ヘルプは期待しちゃってもいいんだゾ?」

 そして、今に至る。

397: 「お姉さまがいっぱいですの(前)」 2012/05/11(金) 23:26:23.96 ID:/4M5q88to
 
 じゃっじめんと、ですの

 ミサカは振り向けない。
 御坂美琴の親族を除けば、最も見つかっては行けない相手。それが白井黒子。 

 沈黙が二人を繋ぐ。
 ミサカは、背後に神経を集中していた。
 黒子が近づいてくる様子はない。かといって遠ざかる様子もない。ただ、視線だけは感じている。
 後ろ姿だけでも、御坂美琴との類似は確実に気付かれてしまうだろう。
 気付かれれば……
 
 噂はご存じですの?

 ミサカの葛藤をわかっているかのようなタイミングでの言葉。

 黒子のお姉さま……御坂美琴のそっくりさんが夜な夜な出現するという噂がありますの
 なにか、ご存じありません?

 あらかじめ答えの用意されている問いかけ。

「さあ……」

 意識的に声を替え、いつもの口癖を出さないように苦労して。

「わかりません」

 背後の気配は動かない。
 このとき、ミサカは忘れていた。
398: 「お姉さまがいっぱいですの(前)」 2012/05/11(金) 23:26:51.76 ID:/4M5q88to

 次の瞬間、黒子はミサカの前にいた。

 空間移動。黒子の能力だ。

 やっぱりですの

 ミサカの前で、黒子が微笑んでいる。
 
 お姉さまのそっくりさん、ですの

「あ……」

 そっくりさんは、黒子とお話ししますの

「あ、あの……」

 初めまして、白井黒子ですの

「ミサカ07号です」

 思わず答えてしまった。

「あ!?」

 第三の声主に、二人の視線が向けられる。

399: 「お姉さまがいっぱいですの(前)」 2012/05/11(金) 23:27:36.10 ID:/4M5q88to

(間に合わなかったァ!?)
(何のために急いできたンですかァ!?)

 問いつめたくなる自分を抑える一方通行。
 噂の存在は自分たちの耳にも入っていた。
 考えてみれば、その噂を聞いた白井黒子が調査に乗り出すのは当然すぎる展開だ。
 そして、不眠に悩む妹達を結果的に今まで放っておいたこと。
 後知恵と言えばそれまでだが、いくらでも対処は出来たのではないか。

 結果として今、ミサカ07号と白井黒子が対面している。
 しかも、07号はその名前を告げてしまった。

「腹ァ、括るか」

「え?」

「おィ、07号、お前の好きなよォにしろ、オリジナルや他の連中には俺が話つけてやる」

「一方通行……いいのですか? とミサカは喜びつつも心配します」

「面倒見るって決めたンだからな。こォなりゃ、最後まできっちり見てやるよ」

「……はい。とミサカはドキドキしながらも決意します」
400: 「お姉さまがいっぱいですの(前)」 2012/05/11(金) 23:28:03.39 ID:/4M5q88to

 黒子は首を傾げていた。
 どうして、ここに第一位が現れたのか。
 しかも、お姉さまのそっくりさんとは既知の様子。
 さらに、「オリジナル」という謎の言葉。「ロディマス」並みに謎の言葉。

「白井黒子さん……」

 ミサカ07号の問いかけに黒子は頷いた。

 なんですの?

「ミサカは、クローンです」

 当然ですの

「!!」

「なン……だと……」

 驚くミサカ、そして一方通行。
 黒子はさらに言う。

 お姉さまのそっくりさんともあろう御方が、そうでなくては困りますの

「あァ……もしかして、『クリーン』と聞き違えてねェか?」

 !!
 ……
 てれてれ


                       後編に続く

401: ◆NOC.S1z/i2 2012/05/11(金) 23:28:36.13 ID:/4M5q88to

 以上、お粗末様でした。

  
 後編で終わると思う
 


 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。
 
407: ◆NOC.S1z/i2 2012/05/19(土) 22:21:07.21 ID:e7Vs9snco

今回のタイトル

 「お姉さまがいっぱいですの(後)」
408:  「お姉さまがいっぱいですの(後)」 2012/05/19(土) 22:21:52.16 ID:e7Vs9snco
 
 ふおおおおおおおおおっ!!!!

 黒子のテンションはクライマックスだった。
 まさに天元突破。最初からクライマックス。ブッチぎるぜぇ。である。

 ぴょこぴょこと跳ねるツインテール。
 ぱたぱたと羽ばたくように振られる両手。
 辛抱堪らないと言うように踏み鳴らされる足。
 真っ赤な顔。
 暗闇の子猫のように開いた目。
 ポカンと空いた口元。

 ここはゲコ太病院の地下室。妹達の秘密の隠れ家である。
 一方通行とミサカ07号、そして黒子を出迎えたのは十一人のミサカ達だった。

 お姉さまがいっぱいですの

 ここはまさに黒子の天国。
 クロコパラダイス、略してコパである。風水とは関係ない。

 ここは黒子の天国ですの
409: 「お姉さまがいっぱいですの(後)」 2012/05/19(土) 22:22:20.64 ID:e7Vs9snco

「そォか、良かったな」

 一方通行はほんのちょっとだけひいている。
 確かに超電磁砲が可愛いのは認めよう。
 これは一方通行だけではない。レベル5全体(第六位含む)の総意だ。
 麦野と食蜂も決して見劣りするものではないが、それでも御坂美琴は可愛い。
 しかし、いくら可愛くても同じ顔が十二人揃っているというのはちょっとアレだ。

 せめて、もう少し大人びているか。
 あるいはいっそ、幼いか。
 そのどちらかだといいのにな、と一方通行が密かに考えているのは内緒だ。

 尚、その密かな想いがとんでもないフラグとなっていることに後日、一方通行は驚くのだけれど……

410: 「お姉さまがいっぱいですの(後)」 2012/05/19(土) 22:22:45.78 ID:e7Vs9snco

「そんなに喜んでもらえると、連れてきた甲斐がありました。とミサカは喜びます」
 
 ここは黒子天国部屋ですの
 クロコパラダイスルームですの
 略してクロコダイルですの

「いいんですか、その略称で。とミサカは黒子の大らかさに驚きます」

 ワニですの

 がお、と両手を上げる黒子。

「ワニは『しゃあー』だと、ミサカは主張します」

 てれてれ

 おおう、とミサカは呻く。
 なんだ、この可愛い生物は。
 
「07号、グッジョブです、とミサカ04号は賞賛を惜しみません」

「白井黒子を招いたという多大な功績を鑑み、07号の抜け駆けを大目に見ることに、ミサカ08号は賛成します」
411: 「お姉さまがいっぱいですの(後)」 2012/05/19(土) 22:23:12.19 ID:e7Vs9snco

「ミサカ・ノーヴェもミサカ・クアットロと同じく、ミサカ・セッテの功績を認めます」

「ノーヴェ? 貴方はミサカ09号では?」

「09のナンバリングはノーヴェを、07のナンバリングはセッテを、04のナンバリングはクアットロを名乗るべきだと、ミサカ・ノーヴェは垣根帝督に教わりました」

「ミサカ・ディエチもミサカ・ノーヴェに賛成します」

 一方通行は呆れて思わず言う。

「お前ら……ちょっと頭冷やしませンかァ?」

「さすがはレベル5の白い悪魔だと、ミサカ・ノーヴェは怯えます」

 図らずもドンピシャリだったらしい。
412: 「お姉さまがいっぱいですの(後)」 2012/05/19(土) 22:23:38.14 ID:e7Vs9snco


 わいわいと、黒子を愛でる妹達。
 その中でふと、黒子は気付く。

 どうされましたの?

 何処か寂しそうに笑っている、一方通行。

「こいつら、こんなに笑えるンだなァ」

 黒子は首を傾げる。

 楽しいときは笑いますの

「俺たちじゃァ、出来なかったことだ」

 御坂美琴本人ですら、妹達をこれだけ温かく微笑ませることが出来たろうか。

「……済まなかったな」

 なんですの?

「こいつらンこと、もっと早く、教えてれば良かったかもな」

 失礼ですの

413: 「お姉さまがいっぱいですの(後)」 2012/05/19(土) 22:24:06.38 ID:e7Vs9snco

「あァ、その通りだ。お前を見くびって……」

 違いますの

「あン?」

 お姉さまに、第二位様に、第四位様に、食蜂さまに、削板さまに失礼ですの

「あいつら……に?」

 第一位さまが間違っていれば、皆様が止めてくださいますの
 ですから、間違ってませんの

「……」

 天井を仰ぎ、一方通行は今度こそ本当に笑った。

「違ェねェ。あァ、全くその通りで違ェねェよ。こりゃァ、第一位失格だな」

 お気をしっかりと
 間違いは誰にでもありますの

 カカカッ、と第一位の哄笑が部屋に響く。

414: 「お姉さまがいっぱいですの(後)」 2012/05/19(土) 22:24:44.09 ID:e7Vs9snco

 一方通行の突然の大笑に、何事かと視線を向ける妹達。

「む。第一位も抜け駆けをしているようですね。白井黒子を独り占めとは許せません。ミサカは義によって立ちます」

「それは義ではなく自欲だと思いますが、第一位を妨害することには賛成します」

「白井黒子を連れてきたのは私です。とミサカは自己主張します」

「07号はいい加減にするべきです」

「何を言いますか、そもそも最大の抜け駆けは01号ではありませんか」

 妹達の視線が一人に向けられる。
 そこにいるのは01号。
 夢うつつの黒子と最初に出会った個体である。
 それによって01号が人間の温もりを知り、自意識を芽生えさせたことで、レベル5達が一致団結して天井の野望を打ち砕いたのだ。
 因みに黒子は、その出会いをほとんど覚えていない。

「はっ、とミサカ11号は思い至ります」

「どうしました?」

「もしかして、ミサカ達の中で唯一不眠に悩まされていない01号の安眠要因とは……」

 今度は全員の視線が黒子へと注がれる。

 てれてれ
415: 「お姉さまがいっぱいですの(後)」 2012/05/19(土) 22:25:17.53 ID:e7Vs9snco

「白井黒子の温もりこそ、ミサカ安眠の秘密!?」

「確かに……ミサカ達の違いは産まれた後の経験のみ。01号と他個体の最大の違いは白井黒子との遭遇経験。と、ミサカ05号は分析します」

 会ったという記憶自体はMNWで共有されている。
 しかし、実体験とMNW共有体験はやはりどこか違うのだ。

「オッケーカモン、とミサカ11号はベッドインします」

 早くもベッドに横になり、黒子においでおいでと手招きしているミサカ11号がいる。

「そんなはしたない子は置いて、こちらへどうぞ。とミサカ02号が誘惑します」

「誘惑言うな」

 引く手あまたの状態に、きょろきょろと落ち着かない黒子。

 まあ、不眠自体は嘘じゃないからなぁ、と傍観を決め込む一方通行。

416: 「お姉さまがいっぱいですの(後)」 2012/05/19(土) 22:25:54.01 ID:e7Vs9snco


 結局、番号順に添い寝するということで落ち着いた。
 まずは、ミサカ02号から。

 すとん。そんな擬音が聞こえるように途端に眠りに落ちるミサカ。
 周りで見ているミサカ達が呆れる程に素直な睡眠だった。

「これは一体……」

「今までのミサカ達の苦労は?」

「恐るべし白井黒子、とミサカ06号は戦慄します」

「02号が眠ってしまいましたので、つぎは03番ですね」

 眠っているミサカと黒子を見下ろしつつ、どうしたものかと思案している03号。
 寝入りばなの黒子を起こすような残虐非道の振る舞いは、当然のようにNGなのだ。

「ちょっと退いてろォ」

 猫の子を掴むように、黒子の首元を掴む一方通行。
 ベクトルをどう加減したものか、黒子は何事もないかのようにすうすうと寝息を立てている。

「そのベッドでいィな」

 02号の隣にいたときと同じ体勢で眠っている黒子。

「ほら、寝ろォ」

417: 「お姉さまがいっぱいですの(後)」 2012/05/19(土) 22:26:29.00 ID:e7Vs9snco

 理屈は今ひとつよくわからないが、ミサカが安眠を得ているのは事実である。
 なんとなく面白くない、といった顔つきで、一方通行は次々と眠るミサカ達を見ている。

「いったい、なンなンですかァ?」

 見ていると、黒子に添い寝したミサカの表情が安らいでいるのがわかる。

 能力か? とも一瞬思ったが、黒子の能力は空間移動。精神には一切影響を与えることなど出来ない。

「わかンねェな……」

 それでも、一つだけは確かなのだ。
 ミサカ達が安らかな眠りに誘われていること。

 ならば、それでいいのではないか?

「……まァな……」

 誰にともなく呟くと、一方通行は手近の椅子に座り込み、缶コーヒーを手に取った。
 プルトップを引き、中身に口を付ける。
 
 妙に苦い、と思った。
418: 「お姉さまがいっぱいですの(後)」 2012/05/19(土) 22:26:55.53 ID:e7Vs9snco



 ……トク……ン
 ……トクン

 ミサカには聞こえています。
 これは……白井黒子の心臓の音。
 ミサカは心臓の音を知りません。
 他人の心臓の鼓動音なんて、聞いたことありません。
 リズミカルに、小さい音なのにダイナミックで。
 規則正しく、力強く、そして、温かく。
 これが他人の鼓動なんですね。

 なんでしょうか。
 どうして、ミサカは落ち着いているのですか?
 鼓動を聞きながら横になっていることがこれほど落ち着くなんて。

 ああ、これは。
 そうなのですか。
 これはミサカが知らなかった音。
 お姉さまの知っている音。
 一方通行も、白井黒子も……みんな知っている……だけど忘れている音。
 ミサカはようやく、この音を聞くことが出来たのですね。
419: 「お姉さまがいっぱいですの(後)」 2012/05/19(土) 22:27:25.66 ID:e7Vs9snco

 それは――
 胎内の音。
 母親の音。
 心臓の音。

 ミサカ達が聞くことの出来なかった音。
 万人が安らぎを得ることの出来る音。
 記憶の奥に誰もが持っている音。

 ミサカが、つい昨日までは知らなかった音。
420: 「お姉さまがいっぱいですの(後)」 2012/05/19(土) 22:28:00.77 ID:e7Vs9snco


 ………………
 …………
 ……?

「あ、黒子、起きた?」

 お姉さま?

 気がつくと黒子は、お姉さまの腕の中。
 お姉さまが、優しく黒子を抱きしめてくれている。
 この格好のままで眠っていたのだろう。

 他のお姉さま達は……

 もしかして、夢?

「あのね、黒子」

 いつもと同じように、いや、いつもよりも何処か優しく、お姉さまは言う。

「ありがとうね」

 黒子は知らない。
 妹達が皆眠った後、一方通行が黒子を常盤台の寮まで運んだことなど。
 でも。

 おやすい御用ですの、お姉さま

 お姉さまの微笑みと言葉が、全てを物語っていた。



421: ◆NOC.S1z/i2 2012/05/19(土) 22:28:27.26 ID:e7Vs9snco


以上、お粗末様でした。
ふと気が抜けると一週間なんてすぐ経つ恐ろしさ……

 
ちなみに……
今回の名前ネタがやりたかったためだけに、妹達を12人にしたのかもしれない……

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。
426: ◆NOC.S1z/i2 2012/05/28(月) 00:25:25.00 ID:SeKjmC4oo

 今回は黒子の出番は殆どありません
 外伝のようなモノかと。


 今回のタイトルは「プチケンティウスのとある一日」
427: 「プチケンティウスのとある一日」 2012/05/28(月) 00:25:52.68 ID:SeKjmC4oo

 コッケドゥルドゥ と鶏の声。

 プチケンティウスの朝は早い。
 常盤台学生寮に作られた養鶏場でのタマゴ集めが、プチケンの朝の日課となっている。
 
 プチケンはまず、あらかじめ準備してあった学園都市掃除ロボットの外殻を被る。ここでは異質な外見を隠すための処置だ。
 因みにこの外殻には、断熱性を付与した未元物質が内張されている。プチケンの通常駆動では、熱は殆ど外部には漏れない。
 そうでなければ通常の作業すら不可能なのだ。
 ただし、本物の掃除ロボとプチケン外殻ロボとはちょっと外見が違う。
 外殻ロボには、内部からプチケンが操るマニピュレーターがついている。
 マニピュレータがなければ、作業が一切出来ないのだから。

 タマゴを籠に集めたプチケンは、寮食堂の裏手にある調理場へそれを運ぶ。

「ご苦労様」

 調理場勝手口から顔を出すのは寮内調理長のベルシ(仮名)である。
 彼の本名を知るものは、常盤台には誰もいない。

「ふむ。いつものようにいいタマゴだ。さすがに、イギリスの肝いりだけはあるな」

 ベルシ(仮名)は、受け取った籠からタマゴを出すと、別のものを入れてプチケンに差し出した。

「これが先週分の礼だ、また明日からも頼む」

 頷くプチケン。
 そそくさと籠を受け取ると、ベルシに背を向けて帰っていく。

「あれが……魔術と科学の融合の形態なのか? それとも……」

 ベルシの呟きは、誰にも聞こえない。

428: 「プチケンティウスのとある一日」 2012/05/28(月) 00:26:19.13 ID:SeKjmC4oo

 プチケンティウスの朝は忙しい。
 火曜日の朝は特に忙しい。

 火曜日はインデックスがチキンを食べる日なのだ。

 まず、一匹のニワトリを選ぶ。丸々と太って、健康的で美味しそうなニワトリを一匹。
 選んだニワトリを養鶏場前の広場に首だけ出して埋める。
 かぱっと口を開けて、ベルシに分けてもらった出汁と醤油を無理矢理飲ませる。加えて幾ばくかの酒。
 そして、プチケンは外殻を外して、ニワトリを抱きしめるように座り込む。

 コケコケ(熱っ! 熱っ!)と五月蠅いけれど、しばらく無視。

 すると、ニワトリは静かになる。だけどプチケンはその場を動かない。
 火力は調節する。
 
 しばらくすると、焼けた醤油の香ばしい匂いが辺りに漂い始める。
 その匂いを嗅ぎつけたのか、インデックスがふらふらと現れる。

「ん~。いい匂いかも。いっつもいっつもご苦労様なんだよ、プチケンティウス」

 毎週火曜日は、インデックスが丸焼きチキンを一日がかりで食べ尽くす日。
 プチケンが、インデックスのために丸焼きチキンを作る日。

 しゅたっと手を挙げて、プチケンは最後の仕上げに取りかかる。
 ベルシに調合して貰ったマジックソルト&ペッパー&そのほか諸々香辛料の入った容器を置き、土中からニワトリを引っ張り出す。

 すちゃっと開く、外殻の一部。 
 そこから火炎放射。
 ぶすぶすと焦げながら落ちていく土塊、焦げた羽毛。
 食べられない部分だけを器用に焼き尽くし、できあがった丸焼きを鉄板に載せる。
 そして仕上げの香辛料。

429: 「プチケンティウスのとある一日」 2012/05/28(月) 00:26:45.97 ID:SeKjmC4oo



 完成、プチケン風ワイルドチキン。


430: 「プチケンティウスのとある一日」 2012/05/28(月) 00:27:18.09 ID:SeKjmC4oo

「美味しそうなんだよ」

 インデックスさん、おはようございますの

「おはようなんだよ、くろこ」

 しゅたっ

 プチケンティウスさんもおはようございますの

 インデックスを追うようなタイミングで姿を見せるのは白井黒子である。

 この香りは……チキンですの?

「くろこも食べる?」

 今から朝ご飯ですの

「あ、そうか。私も朝ご飯に行くんだよ」

 それではプチケンさん、後ほどですの

「後でチキンを受け取りに来るからね」

 しゅたっ

 食べ過ぎだろう、インデックス。
 などとプチケンは思わない。
 インデックスの食事量は、本人の食欲のせいばかりではないのだ。
 完全記憶能力によって包まれている十万三千冊の魔道書の維持に、それだけの魔力が必要となる。
 その魔力を発生させるのは並みの魔道師では不可能だ。だからインデックスは、摂取した食事をそのまま魔力に変換している。
 昔知り合った緑髪の錬金術師に、その術式を伝授されたのだ。
 その術式がなければ、インデックスは歩くこともままならないほどに体力を消耗しているだろう。

431: 「プチケンティウスのとある一日」 2012/05/28(月) 00:27:53.04 ID:SeKjmC4oo

 作り終わったチキンを保存ボックスに入れると、プチケンは養鶏場の掃除を始める。
 常盤台にインデックスがいる限り、護衛に出向く必要はない。
 なにしろ、超電磁砲に心理掌握のレベル5だけでなく、トンデモ発射場に空間移動、レベル4トップクラス達も集結しているのだ。
 一体何の不安があるというのか。
 だからプチケンは、インデックスのために環境を整える作業に入る。
 具体的には、ニワトリの世話。
 ケージを掃除して、餌やり、水替え。
 小屋の破損はないか。野良猫が入り込んだりしていないか、病気のニワトリはいないか、怪我したニワトリはいないか、泣く子はいねが。

 因みに常盤台の生徒達は、プチケンのことを「オーダーメイドで作られ、高度に改変された掃除ロボの実験機」と思っている。
 真実を知っているの学生は黒子、美琴、食蜂の三人だけだ。

 他の用事もないので、養鶏場の掃除を終えると、プチケンはインデックスの帰りをひたすら待つ。

 じっとしていると、たまにお客さんがやってくる。

「……」

 メイド服を着た娘。
 寮に出入りして実習経験を積んでいるという繚乱家政女学校の生徒である。
 名は、土御門舞夏。
 以前、ここでプチケンを見かけて以来、何故かつきまとってくる、プチケンにとっては謎の娘である。

「やっぱり、何かおかしいんだなー」

 怪しまれている。

「学園都市内の掃除ロボタイプなら、私は皆把握しているつもりなんだけどなー」

 じりじりと近寄ってくる舞夏。
 と、その瞬間、舞夏のポケットから電子音。

「……? 呼び出しかー。今行くぞー」

 そのまま、待機させていた別の掃除ロボに飛び乗って去っていく。

432: 「プチケンティウスのとある一日」 2012/05/28(月) 00:28:19.09 ID:SeKjmC4oo


 またしばらくすると、プチケンのセンサーに反応があった。
 インデックスが校舎を出て、街へ向かっているというのだ。
 午前中で授業が終わったらしい。

 プチケンは即座に走り出す。
 常盤台を一歩出れば、そこからはプチケンによる護衛任務が始まるのだ。

 プチケンは、インデックスを追う。

433: 「プチケンティウスのとある一日」 2012/05/28(月) 00:28:45.94 ID:SeKjmC4oo

 プチケンは、離れたところからインデックスを観察していた。

 するとインデックスは、スーパーから出てきた削板と遭遇する。

「よぉ、インデックスじゃねえか」

「ぐんは、こんにちはなんだよ」

「何やってんだ?」

「今日はお昼で学校が終わったから、ご飯を食べようと思って」

「ちょうどいい、今から牛丼でも食いに行くんだが、一緒に行くか?」

「喜んでお呼ばれするんだよ」

 そして……

「根性盛り一丁!」

「こっちはメガ盛りの豚汁セットを頼むんだよ。豚汁も大盛りで」

 互いの食欲と食べっぷりを褒め称えながら完食する二人。

「じゃ、またな」

「またご飯奢って欲しいんだよ」

「いつでも来い!」

434: 「プチケンティウスのとある一日」 2012/05/28(月) 00:29:14.76 ID:SeKjmC4oo

 削板と別れてしばらく行くと、今度は麦野と絹旗が。

「こんにちはなんだよ、しずり、さいあい」

「あらインデックス、どうしたの、こんなところで」

「今からお昼を食べに行くところなんだよ」

「一緒に行く?」

「喜んでご一緒するんだよ!」

「それじゃあ、少し張り込んで、シーフードバイキングに行きましょうか」

「超賛成です!」

「さすがなんだよ、しずり」

435: 「プチケンティウスのとある一日」 2012/05/28(月) 00:29:40.40 ID:SeKjmC4oo

 麦野達と別れて……

「こんにちは、なんだよ。白い人」

「……一方通行だ。完全記憶能力はどォしたンですかァ?」

「えっと、ごめんなさい。あくせられーた」

「ちっ……まァ、いい。何してンだ、こンなところで」

「お昼ごはんだよ」

「あー、もうそンな時間かァ?」

「そうかも。あくせられーたはご飯食べないの?」

「俺は、食がほそいンでな」

「食べなきゃ身体に悪いよ」

「ちっ、ババァみてェなこと、言いやがる」

「一緒に行ってあげるんだよ」

「はァ?」

「ほら、一緒に行ってあげるから、ちゃんとお昼ごはんを食べるんだよ」

「おい」

「あと、奢ってくれると幸せかも」

「……てめ……はっ、わかった、奢ってやるから、そォ引っ張るンじゃねえ」

「パスタがいいかも」

「いや、俺はどうせなら肉が……あァ、ファミレスでいいか」
436: 「プチケンティウスのとある一日」 2012/05/28(月) 00:30:06.33 ID:SeKjmC4oo

 そして……

「おやつが食べたいんだよ、ていとく」

「何で俺がお前に……」

「あくせられーたがお昼ごはんを奢ってくれたんだよ」

「なん……だと……」

「これが第一位と第二位の違いかも」

「ちょっと待て、よしわかった。おやつか、デザートだな? デザートが食いたいんだな」

「うん」

「ついてこい、この垣根帝督さまが常識の通じねえ美味さのデザートを食わせてやる。肉食偏食コーヒー狂いの第一位にはわからねぇ美味さだ」

「楽しみかも」

437: 「プチケンティウスのとある一日」 2012/05/28(月) 00:30:36.56 ID:SeKjmC4oo

 プチケンの護衛は続く。

「あ、ステイル。アフタヌーンティーを一緒にしたいんだよ!」


「かおりー、久しぶりにかおりのご飯が食べたいかも」


「しあげは何してるのかな?」


「久しぶりなんだよ、フレメア。隣の大きい人は誰かな?」


「それじゃあね、かざり。そろそろ晩御飯の時間だから寮に戻るんだよ」

 プチケンを従えるようにして、ようやくインデックスは寮に戻った。

「ありがとうね、プチケンティウス」

 インデックスはちゃんと知っているのだ。護衛の存在を。

 しゅたっ、とプチケンは手を挙げる。

「それじゃあ私は晩御飯を食べてくるから……」

 少し考えるインデックス。

「チキンの丸焼きは、夜食のためにとって置いたんだよ」

 しゅたっ

 食べ過ぎだろ。なんてプチケンは考えない。

 そして今日もまた、プチケンの一日が終わるのだ。




438: 「プチケンティウスのとある一日」 2012/05/28(月) 00:31:03.76 ID:SeKjmC4oo

 以上、お粗末様でした。

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。

445: ◆NOC.S1z/i2 2012/06/10(日) 21:23:00.62 ID:zLpHt0AKo

 今回も黒子の出番、超少ない
 ごめん
 次回は黒子メインの予定だから


タイトル「パン食い競争ですの」
446: 「パン食い競争ですの」 2012/06/10(日) 21:23:39.48 ID:zLpHt0AKo

「何やってんだお前」

 学園都市7人しかいない超能力者(レベル5)の第二位、垣根帝督は尋ねる。
 それもそのはず。
 いつものように垣根が率いる「スクール」のアジトへ顔を出したところ、そこにいたのは心理定規とわっか君。

 因みにわっか君は本名不詳である。なんと本人にすらわからない。
 一方通行のように、自分ですら本名を知らない人間は学園都市では珍しいことではないので、垣根達もその辺りは追求しない。
 では、何故わっか君なのかというと、彼の能力に必要なアイテムのためである。

 彼は能力を発揮するときに、ゴーグルとバンダナのアイノコのようなものを額に巻いている。
 そこから伸びた無数のケーブルを、腰に付けた機械に繋いであるのだ。
 もっとも、普段から常に繋いでいるわけではなく、日常生活には全く必要ないものなのだけど。

 そのわっか君が、なぜか心理定規に土下座しているのだ。

「なんだそりゃ。なんか、新しい遊びか?」

「違うわよ」

 心理定規が答えた。

「よしんばそうだとしても、わっか君と二人だけで遊んでいるわけないでしょう?」

「まあ、てめえはまだしも、俺を除け者にするような根性がわっか君にあるとは思えねえけどな」

「あら」

「どうした?」

「貴方が『根性』なんて。第七位が伝染ったのかしら?」

「おいおい、そりゃあノーサンキューだ」

 そこまで話したところで、わっか君が顔を上げ、垣根の方に向いて姿勢を変える。
 そして再び土下座。
447: 「パン食い競争ですの」 2012/06/10(日) 21:24:14.94 ID:zLpHt0AKo

「ああ? なんだそりゃ」

「垣根さん! お願いがあるッス!」

「あん?」

 垣根がわっか君を見下ろした。

「因みに、わっか君が私に土下座していたのは、貴方に取りなして欲しいから。つまり、私をあらかじめ味方につけておきたかったという事

よ」

 そこまでして、そして土下座までして頼みたいことがあるのか。
 グループのリーダーとして、垣根はメンバーの面倒をそれなりに見てきたつもりだ。
 それでもわっか君は土下座を選択した。それだけのことを頼もうとしているのだ。

「言ってみろよ。聞くだけは聞いてやる」

「未元物質を分けてください」

「なに?」

「垣根さんの未元物質を分けてください」

「待て待て」

「お願いしますっ!」

 確かに、一旦作り出した未元物質は垣根から離れても存続できる。
 他人に渡すということは可能だ。
 現に、とある理由から相当量の未元物質が木原病理に譲られている。

448: 「パン食い競争ですの」 2012/06/10(日) 21:24:41.52 ID:zLpHt0AKo

「何に使うつもりだ」

「光学迷彩機能を持った未元物質で、俺の身体を包みたいんです」

「光学迷彩か……確かに、作れないことはない」

「垣根さん!」

「目的は何だ。何のためにそんなものを欲しがってる」

「それは……」

「それが言えないのなら、この話は無しだ」

「待ってください」

「だったら、素直に言うんだな」

 そして、垣根は心理定規に言う。

「おい。外してくれ。女の前じゃ言いにくい話もあるだろ」

 わかったわ、と心理定規は素直に部屋を出る。
 さあ、とわっか君に促す垣根。

「さて、これで少しは話しやすくなったか?」

「ありがとうございます」

「で、どうなんだ?」

「パン食い競争です」

「は?」

「常盤台で、パン食い競争の練習があるんです」

「はあ?」
449: 「パン食い競争ですの」 2012/06/10(日) 21:25:07.70 ID:zLpHt0AKo

 わっか君は、片手に持っていたディバックを開けると、沢山のパンを取りだした。

「アンパン、ジャムパン、クリームパン、チョコパンです。お一ついかがですか?」

「いや、いらねえ」

 わっか君は、頭から垂れ下がるコードに次々とパンを装備していく。
 ぶら下がるパン。立ち上がるわっか君。
 わっか君の顔周りには、パンが垂れ下がっている状態だ。
 
「この状態で、台の上に乗ります」

 適当な椅子の上に登るわっか君。

「想像してみてください。未元物質の光学迷彩によって、俺がパン食い競争のパンを吊すための土台に見えている姿を」

 そう言われても。
 いや、想像は出来る。出来るが。

「えーと。それで、何がどうなるってんだ?」

「垣根さん。常盤台ですよ? 常盤台!」

「あ、うん」

「超電磁砲御坂美琴、心理掌握食蜂操祈を擁する常盤台ですよ!?」

「あ、はい」

「それだけじゃありません!」

 ぐっと拳を握り、天井に向かって突き上げる謎の情熱。

「婚后光子! 湾内絹保! 泡浮万彬! そして白井黒子! さらにはニューフェイス、白人美少女インデックス!」

450: 「パン食い競争ですの」 2012/06/10(日) 21:25:33.95 ID:zLpHt0AKo

 わっか君の目は血走っていた。
 垣根は、心理定規を部屋から出したことを後悔していた。

「聞いてるんですか、垣根さん!」

「は、はい。聞いてます」

「それら、ツンデレ、ロリッ子、垂れ目、黒長髪、女王様と数々の属性を兼ね備えた美少女達が!!」

 帰りたいなぁ、と垣根は心から思った。
 常盤台が美少女だらけというのは認めるけれど。
 この情熱はどう見ても、何処かおかしな方向に流れているような気がする。

「パンに向かって走ってくるんですよ?」

「はい?」

「数々の美少女が、全力疾走でこのパンに向かって、ひいては俺に向かって走ってくるんです!」

「はあ」

「全力疾走で上気した顔で、パクパクと口を開いて俺の周囲に群がるんですよ!」

 なんで俺はこいつをスクールに入れたんだろうなぁ、と垣根は思う。

「想像してみてください! 自分の周囲に群がる、上気した顔で口をパクパクしている女子中学生を!」

「おい、バカ言うのもそろそろ……」

451: 「パン食い競争ですの」 2012/06/10(日) 21:26:01.66 ID:zLpHt0AKo

 レベル5の演算能力は伊達ではない。
 それが、間違いだった。
 ほんの一瞬。ほんの一瞬の気の迷いで、垣根は想像してしまった。
 レベル5の演算能力をフルに駆使した想像力で。

「……おい、その距離まで近づいたら……その……当たるんじゃねえか? ぽにゅっ、と」

「垣根さん」

「ああ、当たるな。間違いなく。超電磁砲と白井黒子以外は!」

「垣根さん!」

「未元物質、好きなだけくれてやる!」

「垣根さん!!!」

「ただし、条件がある」

「なんですか」

「その頭につけてるコード。スペアがあるなら俺にもくれ」

「ま、まさか……」

「パン食いの土台、二つあっても構わねえだろう?」

「垣根さん……俺、俺、スクールに参加できて良かったッス」

「おいおい、涙は成功するまで取っておけ」

「はいっ!」
452: 「パン食い競争ですの」 2012/06/10(日) 21:26:30.60 ID:zLpHt0AKo
 
 
 
 
 
 
 
「あ、もしもし、心理定規です。あ、白井黒子? 電話は久しぶりね。」
  (中略)
「うん。だから、パン食いの練習が始まったら、とりあえず土台を超電磁砲で吹き飛ばしちゃってね」
  (中略)
「第一位や第七位には私から連絡しておくから、あー、そうね、幻想殺しにも連絡しておくわ」
  (中略)
「ええ、もう、フルボッコで」
 
 
 
 
 

453: ◆NOC.S1z/i2 2012/06/10(日) 21:27:48.80 ID:zLpHt0AKo

 以上、お粗末様でした

 次回はもうネタは決めているので大丈夫
 次は本当に黒子メインだから


 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。
459: ◆NOC.S1z/i2 2012/06/13(水) 00:34:41.80 ID:Sh/nToCLo

 予定変更して、思いついたネタを一つ。

「炎の転校生」北海道編を読み返していた思いついたネタです。

 タイトルは「囁きですの」
460: 「囁きですの」 2012/06/13(水) 00:35:15.99 ID:Sh/nToCLo

 プチケンも眠る丑三つ時……

 美琴と黒子の部屋で物音がしている。
 黒子のベッドの中からゆっくりと起きあがる小柄な影。
 
 ……起きましたの

 勿論、黒子である。
 黒子は、暗闇に目を慣らすようにゆっくりと辺りを見回すと、やがてベットから静かに滑り降りる。
 そして、そっと美琴の枕元へ。

 !?

 途中、お姉さまの携帯電話を手で叩きそうになって動きを止める。
 これは先週、お姉さまが上条当麻とお揃いでカップル携帯として買い換えたもの。
 カップルで携帯を新規登録するとゲコ太ストラップがもらえるというキャンペーンをやっていたのだ。
 ちなみに、今週は今週で、友達ペアで新規登録すると先週とは別のゲコ太ストラップがもらえるというキャンペーンをやっている。
 恐るべし、携帯ショップ。
 だからお姉さまは、複数の携帯を持とうとしているのだ。ちなみに、ペアで一緒に登録しようと誘われているのは他ならぬ黒子である。
 しかし黒子は、今の携帯で非常に満足しているので新規に登録するつもりは全くない。

 まあ、それは余談だ。

 枕元にこっそり近づいた黒子は、お姉さまの耳元に囁く。

 ……木原印のハイエクセレントシュークリームですの
 ……一セット三個入りで1200円ですの
 ……ショコラセット、カスタードセット、モンブランセット、ストロベリーセットがありますの

461: 「囁きですの」 2012/06/13(水) 00:35:41.76 ID:Sh/nToCLo
 
 ぴくり、と美琴が動き、黒子は慌てて自分のベッドに戻ると布団を被る。

 そろり
 そろーり

 布団からちょこんと頭を出すと、お姉さまが起きた気配はない。
 黒子はもう一度、そろそろとベッドから降り、お姉さまの枕元へと。

 そして囁き再開。

 ……モンブランとストロベリーは季節限定ですの
 ……人気がありすぎて、限定発売ですの
 ……毎週土曜日の朝八時から、各50セット限定発売ですの
 ……お一人様、各種一セット限定ですの

 ぴくり
 黒子はベッドへダッシュ。

 そろり
 そろーり

 囁き三度再開。

 ……木原印のハイエク(後略)
 ……一セット三個入りで(後略)
 ……ショコラセット、カスタード(後略)
 ……モンブランとストロベ(後略)
 ……人気がありすぎて、(後略)
 ……毎週土曜日の朝(後略)
 ……お一人様、各種一セ(後略)

462: 「囁きですの」 2012/06/13(水) 00:37:16.48 ID:Sh/nToCLo

 翌日、いつもの四人組が集まっている。
 やっぱりいつものようにしばらくファミレスでお喋りしていると、

「こういうときは、何か甘いものがいいですよね」

「佐天さん、いつもそればっかり。甘いものばかりだと太りますよ?」

「ぶー、初春に言われたくないよ?」

「えー、ひどいですよ、佐天さん。そんなに甘いものばっかり食べてませんよぉ」

「甘いものねぇ……」

「御坂さん?」

「いいわね、甘いもの」

 我が意を得たり、と頷く佐天を尻目に美琴の言葉は続く。

「木原印のハイエクセレントシュークリームってのがあってね、一セット三個入りで1200円なのよ
 ショコラセット、カスタードセット、モンブランセット、ストロベリーセットがあって、モンブランとストロベリーは季節限定なの
 だけど、人気がありすぎて、限定発売でね、毎週土曜日の朝八時から、各50セット限定発売なのよ
 しかも、お一人様、各種一セット限定なの」

 立て板に水、と言うように突然流暢に説明を始めた美琴に、呆気にとられる佐天と初春。黒子の目はキラーンと光っている。

「あ、あれ?」

「御坂……さん?」
463: 「囁きですの」 2012/06/13(水) 00:37:53.77 ID:Sh/nToCLo

「あれ、どうして私、こんなに木原のシュークリームに詳しいんだろ?」

「何処かで見たとか」

「うーん。覚えてないんだけど……ま、いいか」

 美琴はニッコリ笑って三人に言う。

「美味しいらしいから、食べてみましょうよ」

「え、でも、今の話だと、並ばないと……」

「木原さんに頼めばなんとかなるんじゃないかな」

「え、お知り合いなんですか?」

「うん、スイーツ木原のパティシエの木原数多って、一方通行の育ての親よ?」

「」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
464: 「囁きですの」 2012/06/13(水) 00:38:20.44 ID:Sh/nToCLo

「あん? あー、もー、しょーがねえなぁ、みこっちゃんの頼みなら断れねえや。
おう、ところで、あの不幸野郎と別れてうちのモヤシと付き合う気は……あ、そう。ま、いいや」

 よっしゃ、持ってけ。と木原が差し出したのは、各種二セットずつのシュークリームセットである。
 勿論、お金はちゃんと払った。

 そして四人は、ハイエクセレントシュークリームを心ゆくまで堪能したのだった。

「ごちそうさまでした、御坂さん」

「ごちそうさまでした」

「いいのいいの、たまにはね。私だって先輩なんだし」

 ごちそうさまですの、お姉さま

「うん」

 黒子にも頷き、美琴は立ち上がって大きく伸びをする。

「でもちょっと、食べ過ぎちゃったかな」

 仕方ない。と美琴は思う。
 大事な可愛い後輩が、夜中に囁きに来るくらい食べたかったものだもの。
 耳元の囁きがくすぐったくて、それがなんとなく心地良くって、寝ているふりでやり過ごしたけれど。

 これくらいは……ね、黒子。
465: ◆NOC.S1z/i2 2012/06/13(水) 00:40:17.59 ID:Sh/nToCLo
 
食蜂「アナタたち爆発しなさいよぉ!」みたいな感じで




 以上、お粗末様でした

 次回も黒子メインの予定


 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。

477: ◆NOC.S1z/i2 2012/06/26(火) 00:11:50.81 ID:lWpUR66Bo

今回、予告していたものとは別のものなんだけど、色々とちょっとアレなので。
短くなった。


タイトル「モスキート倶楽部ですの」

短いよ?
478: 「モスキート倶楽部ですの」 2012/06/26(火) 00:12:28.17 ID:lWpUR66Bo

 ここは絹旗が用意した会議室。

 一番奥に座っているのは黒子。
 そしてその正面には絹旗とフレメア。
 さらに少し離れたところには、包みを抱えた木原円周が座っている。

 黒子が、一同を見回しておもむろに頷いた。

 皆さん、集まりましたの

「そろそろですね」

 数は足りますの? 円周?

「うん。大丈夫。ちゃんと多めに持ってきているから。『木原』だから、そういうふうにしているよ」

 さすがは円周ですの
 
「それじゃあ、始めますか?」

 絹旗は、メンバーを指折り数え始める。

「白井さん、私、フレメア、円周で四人ですね」

 小さな円卓に座った四人。

 それでは円周、お願いしますの

479: 「モスキート倶楽部ですの」 2012/06/26(火) 00:13:04.66 ID:lWpUR66Bo

「『木原』特製。レシピは数多おじさんと一緒だよ」

 包みを開く円周。ケースから取り出されるのは人数分+αのシュークリームである。
 ただしこのシュークリーム、何か様子がおかしい。
 形が歪だったり、焦げた色をしていたり。
 しかし、それは紛れもなく木原のシュークリーム。木原は木原でも、木原円周製だけれども。

「こんなとき、『木原数多』ならこう作るんだよね」

 そんなことを言いながら頑張って作った見習いシュークリーム。
 ハッキリ言って失敗作。
 だけど、コンビニスイーツに比べれば十二分に美味しい。見た目はちょっと、アレだけど。いや実際、ちょっとどころじゃないアレだけど。

 モスキート倶楽部、開催ですの

 黒子の力強い宣言。
 テーブルに着いた全員の前には、それぞれ小さなストローが。
 
 ぽすん、とストローがシュークリームの皮に刺さる。

 じゅるり
480: 「モスキート倶楽部ですの」 2012/06/26(火) 00:13:31.69 ID:lWpUR66Bo

 はうっ

「ううう、超甘くてとろけそうです」

「美味しいにゃあ」

「『木原』だから当然だよね」

 皮は失敗したけれど。
 中身はレシピ通りだから大丈夫。

 お店には出せないけれど。
 美味しいから勿体なくて。

 だからみんなで、ストローでじゅるり。

 じゅるりじゅるり

 はうう

「超美味しいですゥ……」

「にゃあぁぁあぁあああ」

「『木原』だから……『木原』だから……」

 美味しさに全員トリップ中。

 幸せそうに弛緩しきったとろけた顔で、それでもくわえたストローは離さずに。

 シュークリームの皮にストローを差して、中身だけを吸い出すから、ここはモスキート倶楽部。
 命名、絹旗最愛。

 今日も四人は幸せだ。
481: ◆NOC.S1z/i2 2012/06/26(火) 00:14:46.23 ID:lWpUR66Bo
 以上、お粗末様でした



 次回もこのメンバーの予定です

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。
491: ◆NOC.S1z/i2 2012/08/02(木) 00:41:13.50 ID:wsQsTrAao

前回の予告とメンバー入れ替わった。
フレメア、那由他が佐天、初春に変更。
というか、この二人のほうが自然な展開だったわ……


タイトルは「講師ですの」
492: 「講師ですの」 2012/08/02(木) 00:41:53.12 ID:wsQsTrAao

 常盤台のレベルの高さは並みではない。
 何しろ現役中学生が、高校生相手に家庭教師が出来る程なのだから。

「じゃあ次、因数分解の公式はどれくらい覚えているの?」

「あ、それはさすがに覚えているんですよ、さすがの上条さんも」

 とある高校の寮部屋では、美琴が上条に勉強を教えていた。

「言ってみて」

「x^2 + 2xy + y^2 = (x+y)^2」

「他には?」

「x^2 - y^2 = (x+y)(x-y)」ドヤッ

「うん。二次の公式はわかった。三次は?」

「三……次……だと?」

「x^3 + 3x^2y + 3xy^2 + y^3を因数分解すると?」

「……」

「因みに二次の因数分解は一般的に中学校レベル、三次の因数分解は高校一年生レベルね」

「ぐ……」

「さあ次よ、次」

「うー」

「あんたねぇ。やりようによってはレベル5をあっさり撃破できる『幻想殺し』の持ち主ともあろうものが、情けないと思わないの?」
493: 「講師ですの」 2012/08/02(木) 00:42:26.19 ID:wsQsTrAao

「それとこれとは話が違うだろ。そもそも上条さんの能力には演算は必要ないのですよ?」

「その辺、削板さんと一緒よね」

「そうそう」

「でも削板さんは、バカだけど頭は悪くないわよ?」

「マジ?」

「単純計算の演算速度なら、一方通行、私、削板さんの順よ?」

「……垣根って、第二位じゃないのか?」

「あの人の演算能力って、未元物質生成制御のほうに特化され気味だから、純粋な四則演算にはソース割かれてないのよ」

 ふーん、と上条。

「ま、どっちにしろ、上条さんには縁のない話ですよ」

「ほらほら、諦めないで次の問題頑張る」

「そろそろ……休憩を……」

「まだ三時間しか経ってないじゃない。お昼ごはんだってまだよ?」

「昼飯まで休憩無し?」

「自分で言うのも何だけど、レベル5第三位が朝から家庭教師に来てるのよ? このチャンスを逃す手はないんじゃない?」

「うう……」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
494: 「講師ですの」 2012/08/02(木) 00:42:52.80 ID:wsQsTrAao

 その頃……

 ……

 黒子は寮の自室に届けられた手紙を凝視していた。

 ついに……黒子にも来ましたの
 緊急事態ですの
 招集ですの


「絹旗、どうしたの?」

「あ、滝壺さん、超出かけてきます」

「何処行くの?」

「なんか、白井さんからメールが」

「ふーん。帰りにお醤油買ってきて」

「超了解です」

 常盤台の寮の手前で、絹旗は二人を発見した。
 黒子のメールの内容からすると、この二人も呼ばれているはずだ。

「佐天さん、初春さん」

「あ、絹旗さんだ」

「やっほー」

 三人は連れだって、白井の部屋へと向かう。
495: 「講師ですの」 2012/08/02(木) 00:43:19.08 ID:wsQsTrAao

「超来ましたよ」

「白井さん、来ましたよ」

「こんにちわー」

 いらっしゃいませですの

 黒子は部屋を出ると、三人を別室へと案内する。

「教室?」

 そこは常盤台の特別教室だった。
 何故こんな所に? と不思議がる三人に、

 これを見てくださいの

 黒子は一枚の手紙を見せる。 
 
「なんですか、これ」

 初春が受け取り、読む。

「……つまり、白井さんが臨時の講師になると言うことですね」

 常盤台の生徒は、外部から講師として呼ばれる場合がある。今回は、黒子に白羽の矢が立ったと言うことなのだ。

「凄いことなんですか?」

 絹旗はイマイチぴんと来ていない。
 いつもそばにいるのがレベル5の麦野である。一見そうは見えない者もいるが……根性とか学ランとかハチマキとか……、
レベル5であれば外部の大学生の講義など片手で出来るような連中である。
 だから、麦野の片腕とも言える絹旗には今ひとつその凄さがわからない。

 でも、佐天と初春にはよくわかる。
496: 「講師ですの」 2012/08/02(木) 00:43:45.50 ID:wsQsTrAao

「凄い事じゃないですか」

「うんうん。私もそう思う」

「……それで、白井はどうして私たちを呼んだんですか?」

 練習ですの

 教える内容自体に不安はない。黒子だって常盤台である。
 ただ、一クラスの人数を前に上手く話すことが出来るかどうか。不安はそこだ。

「つまり、私たちを生徒役に見立てて練習したいと」

「ということは、白井さんが行くのは中学校?」

 そうですの

「わかりましたけど、三人じゃあ超足りませんよ?」

 そこは人形を使いますの

「人形ですか」

 もうすぐ運ばれてきますの

 そこへやってくる、台車に乗せた大荷物を引っ張るプチケンティウス。

 ご苦労様ですの

 台車に手を伸ばし、人形を次々とテレポさせる黒子。

「うわ」

「ひゃあ、なに、これ」

497: 「講師ですの」 2012/08/02(木) 00:44:11.55 ID:wsQsTrAao

「……人体模型ですね。学園都市製の細密人体模型。外部から来た人が本物の死体と間違えてアンチスキルに通報したっていう優れものですよ、佐天さん」

「何処のトムクルーズよ……」

「超リアルです」

 紹介致しますの
 人体模型1号さまですの

 次々と運び込まれる人体模型。

 人体模型2号さま、人体模型V3さま、人体模型マンさま……最後に、人体模型RXさま

「超不気味です!」

「これはちょっと……」

「うーん……」

 次に……

「まだあるんですか」

 白骨模型クウガさま、白骨模型アギトさま……最後に、白骨模型フォーゼさま

「あう……あう……あう……」

「初春、大丈夫?」

「初春さんがトラウマ超絶賛製造中です」

 困りましたの

「いや、そのシリーズやめましょう、と言うか、そんなものを常備している常盤台に超ドン引きです」

 数が揃えられるシリーズがこれだけですの
498: 「講師ですの」 2012/08/02(木) 00:44:38.12 ID:wsQsTrAao

「ちょっと待ってください」

 携帯電話を取りだして何処かへ電話する絹旗

「……そうです……大至急……馬面はちゃんと従ってればいいんです!」

 数分後、一台のバンがやってくる。

「おい、絹旗、なんだかわかんねえけど、頼まれた荷物持って……」

「あ、もう帰って良いですよ」

「は?」

「荷物だけ置いたらとっとと帰ってださい。こんな所にいると捕まりますよ?」

「いや、待て」

「白井さん白井さん、あんなところに見るからに犯罪者なスキルアウトがいますよ」

 じゃっじめんとですの

「ちょ、おま……」

「えーと、私もジャッジメントです」

「初春ちゃんまで!?」

 這々の体で逃げ出した浜面を見送った一同は、絹旗の持ってきた荷物を広げる。

 ぬいぐるみですの

「くまさんがいっぱいいます」

「うさぎさんもたぬきさんもいますよ」
499: 「講師ですの」 2012/08/02(木) 00:45:08.87 ID:wsQsTrAao

「あと、ばるたん」

 それは、お子様に大人気のぬいぐるみ一族、バルタニアファミリーである。
 ちなみに、シルバニ○ファミリーのバッタモンである。

「絹旗さん、これ……」

「バッタモンから溢れるC級感覚が超最高なんです」

 絹旗のC級好みは映画だけではないらしい。

「いいですけど。このぬいぐるみをどうするんですか?」

「このぬいぐるみを机の上に配置することによって、生徒が超沢山いるように思えるんです」

 早速ぬいぐるみを並べ始める一同。
 並べ終わると今度は三人それぞれの席に座る。

「白井先生、準備できました」

 はじめますの

 こてん

 うさぎがこけていた。

 こけましたの

 席へと駆け寄り、うさぎをきちんと座らせる黒子。
 そして教卓へ戻る。
500: 「講師ですの」 2012/08/02(木) 00:45:34.60 ID:wsQsTrAao

 今度こそ始めますの

 こてん

 くまがこけた。

 席へと駆け寄り、くまをきちんと座らせる黒子。
 そして教卓へ戻る。

 今度こそ……

 こてん

 きつねがこけた。

 席へと……(中略)

 あらいぐまがこけた。りすがこけた。ばるたんがこけた。

「あああああ」

「安定悪いですね、バルタニアファミリー」

「所詮、バッタモノだからね」

「おい」

 ばたばたと倒れていく生徒達。
 教卓に立ったまま、自らの無力を噛みしめる教師白井黒子。

 無力……ですの……

 生徒達を机に大人しくさせていることすら出来ない。いくら講義が出来てもこれでは意味がない。
501: 「講師ですの」 2012/08/02(木) 00:46:01.33 ID:wsQsTrAao

「白井さん! まだです!」

「諦めちゃ駄目です!」

「超頑張ってください!」

 初春が、佐天が、絹旗が走る。
 倒れるぬいぐるみ達を支え、補助し、座り直させる。

 こてん こてん こてん

「キリがありません」

「あーーー。こうなったら机に縫いつけます!」

「その必要はねェ!」
 
 ドン、と足下を踏みならす音。それと同時に直立し、きちんと座り直すぬいぐるみたち。

「こ、これは!?」

「足下を伝わるこの衝撃は、まごうことなくベクトル操作!?」

「あ、こんにちは。一方通行さん」

「よォ、面白そォなこと、やってンじゃねェか」
502: 「講師ですの」 2012/08/02(木) 00:46:28.72 ID:wsQsTrAao

 一方通行を先頭に、入ってきたのは垣根、麦野、削板、浜面、滝壺、フレンダ、結標、そして最後に食蜂。

「こいつに話聞いて、ピンと来たんでな。ちょっと顔出させてもらった」

 浜面を示す垣根。

「ついでに、暇そうな連中集めて即席の講義でもしてやろうかってな」

「いや、俺は講義なんて無理だから、人数合わせで座ってるだけだから」

「それでも結局ぬいぐるみよりはマシって訳よ」

「ま、テレポーター仲間だしね」

「あのね、黒子ちゃ……」

 一番後ろにいた食蜂が前へ出ようとしたところで

「あ、ここですわ」

「白井さん、水臭いですわ。私たちにも声をかけてくださればいいのに」

 婚后、湾内、泡浮の三人である。

「あ、あら、こんなにお客様が……食蜂さんまで」

「へえ、黒子って結構人望あるのね」

 てれてれ

「私はそんなしらいを応援してる」

「いや、あの」
503: 「講師ですの」 2012/08/02(木) 00:46:55.47 ID:wsQsTrAao

 再び背後に隠されてしまうけれど、頑張って前に出る食蜂。

「ところで黒子ちゃん、その講義依頼の手紙なんだけどぉ?」

 ひょいっと手を伸ばし、黒子の懐から手紙を抜き取る。

 なんですの?

「うん、ちょっと……」

 すぐに読み終え、首を傾げる食蜂。

「これ、御坂さん宛じゃなぁい?」

「へ」

「はい?」

 !?

「ほら、ここ」

 確かに、宛名は「御坂美琴」となっている。

「あらら」

「本当ですね」

「超ビックリしました」

 ……

「白井さん?」

 黒子は震えている。

「……恥ずかしがってる?」

「……まあね、これだけの人数の前で間違いでした、なんてね……」
504: 「講師ですの」 2012/08/02(木) 00:47:21.89 ID:wsQsTrAao

「ま、勘違いは誰にでもある。そう、気にすることはない」

「そうそう、落ち着け落ち着け」

 しゅん

 黒子が手紙を掴むと、その姿が消える。

「あ、テレポしちゃった」

「何処行ったの?」

「恥ずかしがって逃げたのか?」

「……結標、追うぞ」

「え? ちょっ、ちょっと、そんなこと言われてもそもそも何処行ったかわからないのに」

「北北西から電波が……」

「でかした滝壺!」

「よし、全員飛ばせ、結標」

「いや、私、自分を飛ばすのはちょっと……」

「トラウマ力なんて、ちょちょいっと消しちゃうゾ」

「え? あ、心理掌握!?」

「よし、飛べ、結標」

「あのねぇ……はぁ、わかったわよ。滝壺さん、ナビお願い」

「北北西……」
505: 「講師ですの」 2012/08/02(木) 00:47:47.81 ID:wsQsTrAao

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 その頃、上条は苦しんでいた。
 日頃使い慣れない脳みそがオーバーヒートを起こしているのである。
 幻想殺しに演算は要らないのだ。

「美琴センセー、きゅ、休憩を……」

「情けないわね……」

 それじゃあ、昼食込みの休憩でも、と美琴が言いかけた瞬間、

 しゅんっ

 ドアも壁も一切無視して室内にいきなり現れる人物一人。

「黒子?」

 お姉さまっ

 黒子の手に握られているのは一枚の手紙。
 突きつけられたそれを受け取った美琴はざっと目を通して、それが講師依頼だと知る。

「講師依頼来てたんだ」

 間違いがあって、黒子が受け取ってしまいましたの

「ああ、そうなんだ。え、もしかしてそれに気付いて急いで届けに来たの?」

 お姉さまのお手紙ですの

「うん。まあ、それはそうなんだ……」

 言いかけた美琴は絶句する。
506: 「講師ですの」 2012/08/02(木) 00:48:14.34 ID:wsQsTrAao

 ドアの向こうから聞こえる大音量。

「ここ? ここなの?」

「ここから、しらいのデンパが来てる」

「んー? なんか見覚えのある建物だね、初春」

「ドアの向こうに白井がいるはずだ!」

「ちょ、第七位さん! なんで構えてるのぉ!?」

「すごーいパーンチ!」

 ばこん、と吹っ飛ぶ上条家のドア。
 先頭で飛び込んでくるのは垣根と一方通行である。

「白井! いるのか?!」

 いますの

「突然消えるンじゃねェよ、驚くだろォが」

 失礼しましたの
 お姉さまに一刻も早くお手紙を……

「え、なに? なんなの?」

 事態についていけない美琴。

「あー、そういうことね」

 垣根たちの後ろから顔を出した麦野達はその姿に、面白いものを見つけた、というようにニヤリと笑いかける。
507: 「講師ですの」 2012/08/02(木) 00:48:44.89 ID:wsQsTrAao

「みこっちゃん、こんな所でなにしてるのかにゃ~ん?」

「こ、これは、もしかして超逢い引き、というやつですか?」

「ふふふ、超電磁砲も隅に置けないって訳よ」

「きぬはた、ふれんだ、馬に蹴られるよ?」

「ありゃりゃ、御坂さん、もしかしてお邪魔でしたか?」

「佐天さん、駄目ですよ、邪魔しちゃ」

「麦野さん? 絹旗さん? フレンダさん? 滝壺さん? 佐天さん、初春さん?」

 あわわわと、ニヤニヤ笑いの一同を見渡す美琴。

「私たちもいますのよ? 御坂さん?」

「婚后さんたちまで?! なんで?」

「白井さんを捜していたらここに辿り着いた。それだけのことですわ」

「べ、別に私は、ただ、その、勉強をこいつに……あ」

 指さした先には、削板の吹っ飛ばしたドアの直撃を受けて悶絶している家主が一人。

「ふ、不幸だ……」



 その後、立派に講師をやり遂げた美琴は、上条の看病に付きっきりとなり、それはそれで満更でもなかったらしい。

 
 
508: ◆NOC.S1z/i2 2012/08/02(木) 00:49:13.57 ID:wsQsTrAao

 以上、お粗末様でした



 

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。
514: ◆NOC.S1z/i2 2012/08/09(木) 00:48:22.80 ID:z0I/vLixo

 今回はちょっとシリアス風味

 タイトルは「ネコですの」
515: 「ネコですの」 2012/08/09(木) 00:49:02.25 ID:z0I/vLixo

「そこまでだ」

 ステイルは静かに声をかけた。

「逃げ道はない。いや、正確には二つあるか」

 告げられた男はステイルを睨みつけ、背後を振り向き、そして止まった。
 男の視界に映るのは、長刀を掲げた聖人の姿。

「僕を倒すか、彼女を倒すか。好きな方を選べばいい」

 ステイルの歩みは止まらない。

「ま、彼女よりは僕のほうが楽かも知れないぞ?」

 男は……魔術師は両手を上げる。

「……降参しよう、ステイル・マグヌス」


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516: 「ネコですの」 2012/08/09(木) 00:49:28.37 ID:z0I/vLixo

 にゃあ

「ネコ……ですよね?」

 初春は首を傾げた。

「どうしてこんな所に?」

 ここは風紀委員詰所。野良猫が好んで立ち入ってくるような場所ではない。

「誰かの飼い猫かな?」

「かもしれませんね……って、佐天さん、いつの間に」

「ふっふっふっ。初春あるところ佐天さんありなのだよ」

「訳わかりませんよ」

 にゃあ

「ほら、ネコも呆れてます」

「えー、ネコにまで呆れられてるの? 私」

「そうですよ」

 にゃあ

「傷つくなぁ……」

 にゃあ

「あ、どっか行くんですかね」

「ネコちゃんバイバーイ」

 にゃあ

「……なんか、見覚えあるネコですね」

「あ、初春もそう思った? 私も」
517: 「ネコですの」 2012/08/09(木) 00:50:17.93 ID:z0I/vLixo

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 君たちのことだ。私の正体などとうに割れているのだろう?

 ああ、その通りだ。さすが女狐の狗どもだな。鼻が利くと見える。

 ふむ。
 確かに、君の言うとおりだ。私たちの狙いは禁書目録でもある。

 なに、ばれたところでかまわん。逆に、それ以外の目的で学園都市にやってくる敵対魔術師がいるなら教えて欲しいものだ。

 だが、私のみに関して言えば、狙いは禁書目録ではないよ。
 私程度の術者では禁書目録を狙うなどとてもとても。

 そう。能力者どもだよ。神の摂理に逆らうふざけた力の持ち主どもだ。

 私はこう見えても、全ての陣営の魔術師に敬意を持っているつもりだよ?
 魔術師と能力者は違う。あまりにも違いすぎるだろう。

 そうだな。レベル5を狙っても良かったのだが、私としては、レベル4以上なら誰でいいと思っていたよ。
 そう、誰でもよかったのさ。誰でも。
 まあ、彼女は不運なんだろうね。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
518: 「ネコですの」 2012/08/09(木) 00:50:44.29 ID:z0I/vLixo

 にゃあ

「ネコです。とミサカ・ライブラは近づきたいのを堪えながら冷静に指摘します」

「待ってください。ライブラとはどういう事ですか? とミサカ03号は尋ねます」

「シスターズそれぞれに12星座を当てはめたのですよ、とミサカ・ジェミニは答えます」

「では、ミサカは今後、ミサカ・ペガサスと呼称します」

「それは12星座ではない、とミサカ・アクィラは指摘します」

「プリキュアは黙ってろ、とミサカ・カプリコーンは罵ります」

 にゃあ

「それにしても、このネコはミサカ達の静電気を恐れないのですね、とミサカ・サジタリウスはネコを撫でながらほっこりします」

 にゃ……にゃ……あ

「どう見ても我慢してますよ、とミサカ・キャンサーは健気なネコに涙します」

 慌てて抱き上げていたネコを降ろす、ミサカ・サジタリウス。

 にゃあ

「ああ、ネコが逃げていきます。とミサカ・アテナは……」

「……アテナ? ……ちょお待てや」

 語尾を忘れる程の震撼……ミサカに走る……!

519: 「ネコですの」 2012/08/09(木) 00:51:16.48 ID:z0I/vLixo

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 目的かね?
 そんなもの、君たちにだってとうにわかっているだろう。
 科学と魔術の融和に反対する者は、君たちが思っている以上に多いのだよ。

 だから私はくさびを打ち込むことにした。
 ある種の実験、あるいはデモンストレーションと思ってくれてもいい。

 なに、ごくごく簡単な魔術だよ。君たちだってよく知っているかもしれないな。
 つまらん、しかし一応は由緒のある術式だ。
 人々の共同幻想、物語の上に成り立つ魔術の強固さ、知らぬ君たちでもあるまい?

 君たちも知っているだろう?
 こびとのルンペルシュティルツヘンを

 誰に?
 さあね。
 私は誰に術式をかけたのか……しらんよ。

 落ち着きたまえ。君たちが私の記憶を探ったとしても無駄だ。
 なにしろ、本当に知らないのだからね。
 私が知っているのは、彼女がレベル4らしいということだけ。
 さて、どう探すかね?


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
520: 「ネコですの」 2012/08/09(木) 00:51:43.77 ID:z0I/vLixo

 とあるコンビニエンスストアでバイト中の原谷は、自動ドアから入ってくる二人連れにいつものように声をかけた。

「いらっしゃいま……」

「なんだ、こんな所でバイトしてるのか」

「げっ」

 削板と……珍しいことに食蜂のペアである。

「よし、これも何かの縁だ!」

「相変わらず声が無駄にでかい!?」

「ファミチキください!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「だから、いきなりでけぇ声あげんな! うるせぇよ!」

 原谷と同じくしかめ面になった食蜂が、何を思ったか前に出る。 

(ファミチキください)

(こいつ直接脳内に・・・!)

(ナンバーセブンのバカ声力で耳がキーンとしてるんだけどぉ)

「あぁ。それはこいつが悪い。圧倒的にこいつが悪い」 

(早くふぁみちきを出すんだゾ)

「少々お待ち下さ……あれ、あんたら、後ろ」

 にゃあ

「あれ? ちょっと待ってくださいね。なんか、ネコが入ってきたみたいで」

(ネコ? いつの間に? あれ? あれ?)

「お前客か? 違うよな? ネコは金持ってないもんな。うん、悪いけど追い出すぞ」

(この感覚……黒子ちゃん!?)

 にゃあ

(待って! ちょっと待って!)

「はい?」
521: 「ネコですの」 2012/08/09(木) 00:52:11.25 ID:z0I/vLixo

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 王様からの無理難題に困っている男にルンペルシュティルツヘンは言いました。

 ああ、助けてやるとも。おいらがお前さんを助けてやるとも。

 だけど、その代わり娘はおいらの嫁になるんだ。

 いいか、おいらの名前を知ってるか?
 おいらの名前を言い当てられなかったら、娘はおいらのお嫁さんになるんだ。

 三日後に、また来るからな。

 ああ、助けてやるとも。お前さんを助けてやるとも。だけど娘はおいらの嫁さんだ。
 それが嫌なら、おいらの名前を答えてみろ。

 男は困ってしまいました。
 こびとの名前なんてわかりません。
 このままでは、娘はこびとのお嫁さんになってしまいます。
 どうしよう。
 どうしよう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
522: 「ネコですの」 2012/08/09(木) 00:52:38.65 ID:z0I/vLixo

「魔術……だと?」

 がぶり、とファミチキを食べながら削板は言う。
 インデックスやステイルと知り合いになっている以上、魔術の存在自体には今更疑問はない。

「……黒子ちゃんの記憶ではそうなってるんだけど」

「元に戻す方法は?」

「黒子ちゃんの名前を呼ぶこと」

「はぁ?」

「条件付きなのよぉ」

 名前を呼ぶ者の条件は二つ。
 一つは、心からの確信を持って呼ぶこと。
 一つは、黒子が魔術をかけられたことを知らないこと。

「おい」

 削板の口調にやや焦燥が混じる。
 そう、無理だ。
 二つの条件は矛盾している。
 魔術の存在を知らずに、どうしてネコの正体が黒子だと確信できるのか。
 ネコが黒子だと確信できる者が、どうして魔術を知らないのか。

 食蜂は黒子が魔術にかけられたことを知ってしまった。
 削板も同じく。

 だが、削板はクロコネコを抱き上げる。

 にゃあ
523: 「ネコですの」 2012/08/09(木) 00:53:17.91 ID:z0I/vLixo

「行くぞ」

「どこに?」

「決まってッだろ? これを解決するのは、いくら俺の根性でも無理だ」

「想像はつくけどぉ……うまくいくかしらぁ? 幸運力に自信はないわよ? あの人の彼氏、不運力の塊だし」

「運も根性も関係ねぇ……。……ってやつだ」

「聞こえなかったゾ?」

「……」

 いきなり無言の削板を不審に思った食蜂は、前に回り込んでその顔を見上げる。

「……その……二人の絆……ってやつだ」

 真っ赤になって明後日の方向を見ながら言う削板。

「もしかして、照れてる? ふぅん、変なところで照れるのねぇ」

「……」

「可愛いゾ☆」

「と、とにかく行くぞ!」
524: 「ネコですの」 2012/08/09(木) 00:53:47.84 ID:z0I/vLixo

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 さて、それでは、きみたちは私をどうする気かね?
 私を殺せば、レベル4を一人確実に見捨てることになるだろうが、それもまた結構。
 学園都市の能力者達も喜ぶだろうな。科学と魔術の融合はより強固に進められるだろう。
 なにしろ、そうそうたる魔術師が能力者一人を見殺しだ。

 ああ、失礼。殺したわけではないか。
 ネコのままにしておく……はて、これを何と表現すればいいのかな?

 ネコのママ……
 ネコまんま、なんてどうかね?

 おやおや、ステイル君、英国紳士ともあろうモノがこの程度のジョークで怒ってはいけないなぁ。

 ん? カンザキ……だったかな? 聖人もあろう者が何を焦っているのかな?
 
 別にいいんじゃないかな? 能力者の一人や二人。
 所詮魔術と科学は相容れぬもの。今なら君たちの過ちも、謝罪と共に受け入れようじゃないか。

 そもそも我々は……

 ん?
 なに?
 これは?

 鉄製の針?

 なんでこんなものが……
 いや、これは……
 突然ここに現れた?



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

525: 「ネコですの」 2012/08/09(木) 00:54:16.32 ID:z0I/vLixo






 じゃっじめんと、ですの





526: 「ネコですの」 2012/08/09(木) 00:55:00.22 ID:z0I/vLixo

 御坂美琴は、白井黒子の隣で凶暴な笑みを浮かべている。
 その背後に陣取っているのは、削板軍覇と食蜂操祈。

「な、何故……」

「削板さんと食蜂さんが黒子を連れてきてくれたのよ」

「しかし、私の術式は……!」

 削板と食蜂が同時に笑った。

「理解力のない人ねぇ」

「根性もなさそうだな」


 美琴は削板の抱いたネコを見た瞬間、首を傾げた。
 本人も、その理由はわからない。
 それでも、その時、その瞬間、その刹那。
 美琴の中で何かが腑に落ちた。

 にゃあ

 そこに白井黒子がいる。

 理由も理屈も根拠もない。
 勘ですらない。

 ただ、わかってしまった。

 だから、口にした。

「何してるの? 黒子」

 にゃあ

 それが、ネコの最後の鳴き声だった。

527: 「ネコですの」 2012/08/09(木) 00:55:30.52 ID:z0I/vLixo

 そして今、白井黒子は立っている。御坂美琴の横に。
 そこが自分の定位置だとでも言うように。


「ねえ、ステイルさん、そこにいるのが、ウチの黒子に手を出してくれた魔術師でいいのかな?」

「そのようだね」

「因みに、貴方達に引き渡した場合この男はどうなるの?」

「そいつの陣営が認めるかどうかにもよるが。取引材料だろうね。だから、怪我をさせてもらっては困る」

 ああ、とステイルは思いついたように付け加える。

「もっとも、僕が捕まえる前に傷ついていたというのなら、僕の知ったことではないね」

「ふーん。ところで、いつ捕まえるの?」

「二時間後ぐらいでどうだろう?」

「うん。いい感じ」

 きっかり一時間後、魔術師は学園都市に手を出したことを心から後悔した。
 それでもまだ、残りは一時間あったのだ。
528: ◆NOC.S1z/i2 2012/08/09(木) 00:55:57.31 ID:z0I/vLixo


 以上、お粗末様でした



 

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。


536: ◆NOC.S1z/i2 2012/08/16(木) 01:44:00.30 ID:vqGKcHQ5o

一レスだけ、オマケ的なものと疑問解消を

上条さんはこの世界では魔術師と戦っていないので、「幻想殺し」が魔術に通じるかどうかが不明です。
因みに皆は「幻想殺し」を「対能力者用能力」と認識しているので、「対魔術」という発想はありません。


ついでに、超能力者の皆さんと、レベル4お一人に聞いてみましょう。

貴方にとって上条当麻とは?

「ただの三下だ。……ま、第二位よりは使えるンじゃねェか?」

「レベル差関係無しに誰とでも付き合えるなかなかの好漢だな」

「」(何を聞き違えたか、真っ赤になって電撃を漏らし始めたためインタビュー断念)

「あー、浜面より毛が三本多いわね」

「お馬鹿さぁんよねぇ。まあ、正義力?はたっぷりありそうだけど」

「あー、勘弁。アイツに下手に触られたらこっちのボクは消えてまうからね。友達づきあいも苦労してるんよ?」

「ああ見えて根性のある奴だぞ」

 おにいさま、ですの


542: ◆NOC.S1z/i2 2012/08/29(水) 23:55:34.68 ID:AbDM0rRho

今回のタイトルは「パートナーですの」
543: 「パートナーですの」 2012/08/29(水) 23:56:09.55 ID:AbDM0rRho

 学園都市中枢部の一室で。

「あー、なにこれ、どうやったらこんな無茶な演算結果が出るのよ」

「麦野さんぼやかないで、そこのバグは仕方ないのよ」

 目を血走らせた麦野と美琴の前には、大型のディスプレイ。
 そこには無数の数値が表示されていた。

 常人ならば羅列を見ただけでギブアップだが、そこはさすがのレベル5。
 二人とも、その数列のなす意味をきちんと解釈して咀嚼している。
 が、しかし。

「かかかかっ、この程度でギブアップたァ、所詮三位四位ですかァ?」

「違いねえな、ツートップとその格下には決して越えられねぇ壁があるって事だ」

「ああ?」

 一方通行と垣根の挑発だらけの笑い声に即座に反発するのは、当然のように麦野である。
544: 「パートナーですの」 2012/08/29(水) 23:56:38.02 ID:AbDM0rRho

「ちょっとばかしそろばんが速いくらいで、粋がってんじゃねえぞ? 磨り潰すぞ、コラ」

「麦野さん、こっちに集中して!」

 麦野を窘める美琴の目は数列から離れず、その両手はキーボードをリズミカルに叩き続けている。
 
 四人が行っているのは試験、テストの類ではない。
 季節外れの集中豪雨と雷が学園都市を襲ったのは昨日のこと。
 予想を遙かに超えた被害を受け、学園都市内の中枢機能を司るメインシステムが一部停止してしまったのだ。
 そのうえ、復旧に必要な技術者達の詰め所までが被害を受け、死者こそないものの怪我人が出ているのだ。
 そこで、システム復旧に四人は駆り出されたわけである。
 因みに、削板はシステム周りの「物理的」被害の修復を、食蜂はシステム復旧に必要な怪我人のケアを、それぞれ

別処で手伝っている。

 本来学生のやるべき事ではないのかもしれないが、ここは学園都市、そして六人はレベル5である。それなりの、義

務というモノがあるのだ。
 
「あー、疲れた」

 そして、しばらくの作業が終わると、四人はそれぞれ順番に休憩に入る。
545: 「パートナーですの」 2012/08/29(水) 23:57:07.26 ID:AbDM0rRho


「……絹旗、なんか飲み物買ってきて……」

「あー、黒子。私もお願い」

「超了解です」

 わかりましたの

 部屋の隅で待機していた二人が、急に生き生きと立ち上がって走っていく。

「ちっ、使いっぱか、俺も誰か連れてくりゃよかった」

 垣根がぼやくと麦野が笑う。

「ははっ。わっか男は豚箱だし、心理定規とは冷戦中だって?」

「うるせー、ブタ箱じゃなくて入院だ。ありゃお前らのせいだろうが」

「いや垣根さん、どう考えてもわっか君が悪いと思うんだけど」
546: 「パートナーですの」 2012/08/29(水) 23:57:41.27 ID:AbDM0rRho


「恐ろしいところだぜ、常盤台……」

 (>>445-453「パン食い競争ですの」参照)

 因みに、常盤台突入直前で垣根は殺気を感じて引き返したため無事である。
 殺気を感じても突入したわっか君に栄光あれ。

「俺が死んでも、俺の魂は常盤台を永久に漂うんすよ、主に更衣室とか」

 それが垣根と交わした最後の言葉である。
 そしてその事件以来、垣根に対する心理定規の態度は冷たい。
 だから、今日も垣根は一人である。

「情けねェな、所詮第二位って事か?」

「うるせえ、お前だって一人だろうが。つか、お前は決まったパートナーそのものがいねえだろうが」

「……妹達、連れてきていいかなァ?」

「当面は無理だろな」

「くっ……」
547: 「パートナーですの」 2012/08/29(水) 23:58:08.38 ID:AbDM0rRho

 そこへ、飲み物を買って戻ってくる黒子と絹旗。

「はい、ご苦労さん」

「ありがと、黒子」

 二人は持ってきたジュースを殆ど一息で飲み干してしまう。

「う……あー、生き返る」

「あー、美味しい、気持ちいいっ」

 飲み終えると、美琴はやや強引に黒子を引き寄せると膝に乗せる。

「黒子分補給……んー、癒される」

 膝に抱えた黒子を抱きしめながら、美琴は頬を黒子の頭にスリスリと擦りつける。

「疲れが取れる……あー、疲れが消えていく……もふもふ」

 黒子は真っ赤になっているけれど、抵抗しない。

 てれてれ

548: 「パートナーですの」 2012/08/29(水) 23:58:45.36 ID:AbDM0rRho
「おいおい、一方通行、アレ見てみ、なんか第三位が凄いスキンシップを」

「……羨ましいなら、心理定規呼べば?」

「俺が心理定規にあんなことやったら間違いなくアンチスキル呼ばれる」

「あと、三下とか、削板とか、俺とか」

「俺フルボッコじゃねえか」
  
「お?」

「どうした」

「第四位が動いた」

「なんだと?」

 黒子と美琴をじっと見ていた麦野は、やおら絹旗を捕まえると、そのまま引きずり込むようにして膝の上に固定する。

「麦野?」

「嫌なら止めるけど?」
549: 「パートナーですの」 2012/08/29(水) 23:59:15.84 ID:AbDM0rRho

「え」

「最愛分補給~~」

「ひゃ」

「髪の毛すべすべして気持ちいい……」

「あう……む、麦野……?」 

「んー?」

 上から絹旗の頭を両手で挟み込んだ麦野は、絹旗の頭を上向かせると、その額に自分の鼻がくっつくように接近する。

「嫌なら、止めるけど?」

 うりうり、とこめかみを刺激しながら麦野は笑って尋ねている。

「うー、超意地悪です」

「うっふふ、だって可愛いもの」

 ニコニコと笑いながら、これ見よがしに美琴に横目を向ける麦野。

「レベル4で一番可愛いものねぇ、絹旗は」
550: 「パートナーですの」 2012/08/29(水) 23:59:43.63 ID:AbDM0rRho

 真っ赤になって、あうあうと呟く絹旗。
 麦野はそんな絹旗を全身で抱きしめている。

「ほぉ……」

 ぽそり、と美琴が呟いた。

「麦野さん、それはどういう意味かしら?」

「ん? 言葉通りだけど?」

 きゅっ、とさらに絹旗を抱きしめる。

「レベル4能力者で一番可愛いのは、ウチの絹旗最愛でしょ?」

「まあ、確かに、絹旗さんは可愛いわよね。麦野さんに横でちんまりとしている姿は可愛らしいわよ?」
「でもね、それはちょろ~っと、違うんじゃないかな」
「レベル4で一番可愛いのは」

 美琴は黒子に背中から抱きついた。

「誰が見ても、黒子じゃないかな?」

 おねえさま
 てれてれ
551: 「パートナーですの」 2012/08/30(木) 00:00:17.65 ID:CWMnK6uho

「ねえ、黒子。一番可愛いのは黒子だよね」

 一番きれいなのはお姉さまですの

「ふふっ、ありがとね」

 そんな二組を呆然と眺めるレベル5のワンツートップ。

「何やってンだ、あいつら」

「まあ、目の保養にはなるな」

「レベル4で一番可愛い……ねェ?」

「……結標淡希と婚后光子にチクろうか」

「そこに滝壺入れねェと、浜面がうるせェぞ?」

「つか、あいつは問答無用で滝壺が一番可愛いって言うだろ」

「あァ、そりゃそォだな。よし、リア充爆発しろ」

「……こ、この第一位、無能力者……しかもスキルアウトのチンピラに嫉妬してやがる……」

 などと語り合っている間に、二組は少しずつエスカレートしていた。

552: 「パートナーですの」 2012/08/30(木) 00:00:48.42 ID:CWMnK6uho

 完全に膝の上に載せた抱っこ状態。
 乗せられて抱っこされた二人は頬を染めて、それでも嬉しそう。
 抱っこしている二人は目がちょっと怖い。色んな意味で。

「まあ、確かに麦野さんから見た絹旗ちゃんは可愛いですよね。歳の差が大きいから」

「まあ、美琴ちゃん、黒子ちゃんにべったりだものねぇ。他に友達がいないから」

 破滅の音が二つ。
 睨み合う瞳と瞳。お互いを牽制し合う、第三位と第四位。
 それでもしっかとパートナーを抱きしめた両腕は揺るがない。
 
 まさに一触即発の危機を、黒子と絹旗は肌で感じ取っていた。
 なんとかクールダウンさせねばならない。
 二人は考える。
 一体、どうすれば。
 二人は辺りを見回した。そこには、第一位と第二位が。

「ん?」

 二人の視線に気付く垣根。
553: 「パートナーですの」 2012/08/30(木) 00:01:20.65 ID:CWMnK6uho

「ほぉ……この俺に助けを求めるとはわかってるじゃねえか」
「この場を納めるには、この俺の常識の通用しねえ頭脳が必要だって事か」

 親指を立てる垣根、頼りがいのあるサムズアップである。
 そしてその拳をそのまま横倒しにすると、口づける。

!?

「!?」

「……ふっ、わかってくれたか……古今東西、女をクールダウンさせるのはいい男のキスと相場が決まっている」

「あァ、わかった。垣根くンは馬鹿ですか」

 新しい始まった二人のやりとりには目もくれず、黒子は美琴の手の中で身を捩る。具体的には向かい合わせになる

ように。

「どうしたの? 黒子」
554: 「パートナーですの」 2012/08/30(木) 00:01:47.12 ID:CWMnK6uho

 黒子は手を伸ばし、美琴の頭を掴む。

「黒子?」

 そして額に、近づいて、

 ちう

 同じく絹旗も、こちらは麦野の頬に、

 ちう

「え? 黒子?」

「え? 絹旗?」

 まだ足りない。と二人は思いました。

 ちう
 
 ちう
555: 「パートナーですの」 2012/08/30(木) 00:02:13.22 ID:CWMnK6uho

「!?」

「!?」

 ここでようやく状況に気付く美琴と麦野。

 ちう

 ちう

「あー、こっちはようやく見通しがついたぞ」

「ふぅ、さすがに治療力が尽きちゃうゾ」

 そして一段落つけて休憩がてらにやってきた削板と食蜂が見たものは。

 ちう

 ちう
556: 「パートナーですの」 2012/08/30(木) 00:02:43.87 ID:CWMnK6uho

 お膝に乗せたパートナーから、ひたすらちうちうされて忘我の境地に浸っている第三位と第四位。
 それを見て声もなく笑っている第二位と、呆れている第一位。

「な、なによ、これ」

「おー、仲良いな」

「なんでこんな見せつけるようなことを……」

 むきゃあ、と爆発する食蜂。

「いいわ。こうなったら私だって絶対に可愛い♪パートナー見つけてやるんだから☆!!」
「手伝ってよね☆ 第七位♪」

「ん。いいけど、洗脳は許さんぞ?」

「わかってるんだゾ、それくらい」
 
 再び慌ただしく去っていく二人を見送る一方通行。
 そして笑いすぎて悶絶している垣根と、茫然自失で天国中の麦野と美琴に順に目をやる。

「……ま、いィか」

 垣根の頭を一発叩いて正気に戻すと、再び作業に戻るのだった。
557: ◆NOC.S1z/i2 2012/08/30(木) 00:04:06.85 ID:CWMnK6uho
以上、お粗末様でした

次回は多分、食蜂パートナー決定編か、打ち止め登場編……だと思う


書いてて、なんとなく「削板食蜂」も良いかなあと言う気がしてきた……
566: ◆NOC.S1z/i2 2012/09/17(月) 22:28:50.62 ID:jlVtY66ho
月日の経つのは早い。他の連載やってる方々偉すぎる

>>560
 うわ。ミスってた。申し訳ない。



 さて、今回、メインは黒子じゃないです。

 タイトルは「責任ですの」
 
567: 「責任ですの」 2012/09/17(月) 22:29:24.50 ID:jlVtY66ho

「なんで俺がレベル5なんだ?」

 ある日、削板がそう尋ねた。

「俺は他のレベル5とは違うんだろ?」

 削板軍覇、彼は『原石』であり、通常の能力者とは一線を画している。

「『原石』が全員レベル5って訳じゃないんだろ?」

 削板の『原石』の中でも特別だと答えが返る。
 そして研究者は尋ね返した。

 レベル5が嫌になったか? と。

「いや」

 削板は答える。

「俺がもしレベル5じゃなかったなら、アイツの役に立つことができのかなと思ってな」

568: 「責任ですの」 2012/09/17(月) 22:29:50.27 ID:jlVtY66ho

 お役に立ちたいんですの?

「ん、なんというか、アイツはアイツなりの根性で頑張って……っておい、いつの間に」

 削板の前には、何かワクワクした表情の黒子が。

 がんばりますの
 食蜂先輩のお力になりますの
 削板さん、がんばりますの

「根性出すか?」

 こんじょーですの

 しゅたっ、と片手を突き上げたポーズの黒子。

「よし。まずは、候補者を捜すぞ!」

 おー
569: 「責任ですの」 2012/09/17(月) 22:30:43.87 ID:jlVtY66ho

「いいか、まず、パートナーってのは……」

 垣根帝督には心理定規
 御坂美琴には白井黒子
 麦野沈利には絹旗最愛
 
「この三組はほぼ確定だ」

 当然ですの

「そして、俺と一方通行は特に決まった奴はいないが、必要になったときの臨時パートナー候補は何人かいる」

 第六位はそれ自身が不在。
 食蜂操祈はパートナーが不在。

「パートナーってのは、それなりの格や能力がやっぱり必要だ」

 ……
570: 「責任ですの」 2012/09/17(月) 22:31:11.21 ID:jlVtY66ho

「何が言いたい?」

 削板さまのパートナーは……

「モツ鍋はああ見えて、スキルアウト最強の一角だぞ?」

 ……

「原谷はまあ……気にするな」

 え

「雲川の姉ちゃんは、超能力じゃねえけど有能ってやつだしな」

 ですの……

「……いや、俺のパートナーはどうでもいい。今は食蜂のパートナーの話だ」

 二人は知る限りの能力者から候補を絞る。

 例えば婚后光子。

「レベルは申し分ない。常盤台というのも高ポイントだ」

 婚后さまは既にお友達ですの

「だが、こいつはどっちかというと、パートナーと言うより、常盤台第三の女、って感じだな」

 あるいは結標淡希。

 テレポ仲間ですの

「今一番レベル5に近いレベル4だからな。臨時ならまだしも、誰かのパートナーにずっと収まるつもりはないだろ」
571: 「責任ですの」 2012/09/17(月) 22:31:40.99 ID:jlVtY66ho

 レベルは0だが、上条当麻。

「男は多分ダメだろう。それに、超電磁砲に怒られるだけじゃすまんだろうな」

 ダメですの

 ならば滝壺理后。

「アイテムの一員だからな」

 浜面さんや絹旗さんに怒られますの

「それなりの能力者で、他の連中と被って無くて……」

 頭を抱える削板。

「そんな奴いるのか?」

 あ
 いましたの

「マジか」

 マジですの
572: 「責任ですの」 2012/09/17(月) 22:32:11.38 ID:jlVtY66ho


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 食蜂操祈は、削板からの急な呼び出しに戸惑っていた。
 
(なんなのよ、もう……)

 メールの内容は一言、「パートナー候補を見つけたぞ」

(パートナー……ねぇ……)

 精神操作系能力者には共通の悩みがある。それは精神系能力第一位の食蜂操祈であっても例外ではない。
 周囲の目、というやつだ。それが食蜂のパートナー選びにも影響している。
 極端な話、能力で洗脳すればパートナーはいくらでも作れる。
 それを周囲も知っている。

 さて、第三者は食蜂のパートナーを見てどう思うのか。

「ぴったりなパートナーを選んだな」
「洗脳してパートナーにしたのか?」

 事実が前者であっても、後者と思われてしまえば意味がない。
 食蜂には、「思い」がわかってしまうのだから。

 だから、食蜂は選ばなければならないのだ。
 自分の精神操作が及ばない相手を。
 決して、操っていると「思われない」相手を。
573: 「責任ですの」 2012/09/17(月) 22:32:36.11 ID:jlVtY66ho
 
 食蜂に対抗しうるのは高レベル能力者、あるいは同系統の能力者。
 レベル5の食蜂にとって、高レベル能力者など六人しかいない。
 同系統……精神系能力者ナンバー2は心理定規である。彼女は既に垣根のパートナーだ。

(いないのよね……)

 一体削板はどんな人材を連れてきたというのか……
 半ば諦めながら、食蜂は伝えられた場所へと向かう。

(ん……?)
(ここは、常盤台だゾ?)

「おう、こっちだ」

 ごきげんようですの、食蜂さま

「……呼ばれたから来てあげたんだゾ☆ 感謝力を……あれ? 黒子ちゃんも?」

「白井がパートナーを見つけてくれてな。見事な根性だったぜ」

「え?」

 黒子の知り合いならば自分も知っているはず。
 その中にパートナーとして……

「え?」

 一人いた。
574: 「責任ですの」 2012/09/17(月) 22:33:06.56 ID:jlVtY66ho

 言われてみれば一人いる。
 例外として脳裏からは抜けていたけれど、確かに相応しい人材が。

「もしかして……」

「こんにちわなんだよ。みさき」

 インデックスが手を振っていた。

「インデックスちゃん」

 レベル5第六位との交換留学生である。魔術側としてそれなりの能力を持っているはずの人材。
 そして、なによりも、食蜂にとって重要なこと……

 インデックスは可愛い。
 それはもう、とっても可愛いのだ。
 黒子、絹旗と並べても引けを取らない可愛らしさだ。

「だけどぉ、問題はインデックスちゃんの能力なのよぉ」

「私には、完全記憶能力があるんだよ」

 確かに凄いけれど、それは超能力でも魔術でもない。

「できれば、私の能力に対抗できるものがいいのだけれど?」

575: 「責任ですの」 2012/09/17(月) 22:33:35.06 ID:jlVtY66ho

「それなら大丈夫だろう」

 そうですの

 二人の太鼓判に、食蜂は首を傾げる。

「私の歩く教会はあくせられーたや、ていとくの攻撃も防ぐんだよ」

「え。なにそれ怖い」

「みことの電撃も、しずりのビームも効かないんだよ」

「魔術力凄いわぁ」

「ああ、因みに、俺のすごいパンチも」

「……もしかして、幻想殺し?」 

 テレポで飛ばすことは出来ますの

「上条さんとは違うのね」

 攻撃は全部防ぐみたいなんですの

「防御力の特化力……面白そぉ☆」
576: 「責任ですの」 2012/09/17(月) 22:34:09.84 ID:jlVtY66ho

 ん? と再び食蜂は首を傾げる。

「防ぐのは物理攻撃力だけって事かしらぁ?」

「試したことはないけれど、多分、精神系能力にも対抗できるかも」

 ふむ。と食蜂は考える。
 物理的攻撃防御は、ハッキリ言って望んでいない。戦闘に赴くなら別だけど、今求めているのは日常のパートナー。
 戦闘の必要があるのなら、一方通行や垣根に話を通した方が楽だ。
 どちらかというと欲しいのは精神攻撃に対する防御力。

「インデックスちゃん?」

「なぁに?」

「試してみていい?」

「何をかな?」

「簡単な精神攻撃なんだけど」

「無茶するなよ?」

 削板が一応釘を刺す。

「わかってるわよぉ。ちょっと記憶を覗いてみるくらいならいいでしょお?」

577: 「責任ですの」 2012/09/17(月) 22:34:59.75 ID:jlVtY66ho

「……」

「そんなに信用力ないの? 操祈、悲しくなっちゃうゾ?」

 削板の胸元にぐいっと身体を寄せる食蜂。
 珍しく削板が慌てていた。

 そんな二人を余所にインデックスと黒子は、

「ちょっと心配かも」

 なにがですの?

「私の中には十万三千冊の魔道書と三千冊のコミックがあるんだよ」

 増えてますの!?

「日本のマンガはクールでエクセレントでエキサイティングなんだよ! 特にみことのお薦めのコミックは素晴らしいんだよ」
「完全記憶能力があっても二度読み三度読みしてしまうレベルかも!」

 お姉さま!?

「ほほぉ……」

 ピキッと、食蜂のこめかみから異音。

578: 「責任ですの」 2012/09/17(月) 22:35:44.91 ID:jlVtY66ho

「御坂さぁん……インデックスちゃんまで手懐けてるのねぇ……ふっふっふっ……ぼっち力満開の癖にぃ……」

 プンプン
 いくら食蜂さまでもお姉さまの悪口は許しませんの

「あ、ゴメンねぇ~、黒子ちゃん。操祈ったら悪い子ね☆ えーい」

 食蜂はこつんと自分の頭を叩く。

 わかっていただければよろしいですの

「えーと、もういいのかな?」

 二人のやりとりを眺めていたインデックスが言う。

「だから、私の中の魔道書を覗くと、みさきが大変なことになるかも知れないんだよ」

「ふふふっ、私を誰だと思ってるのかなぁ? カナァ?」

 ふふん、と胸を張る食蜂。
 横に並んで胸を張ってみる黒子。
 そして胸元を覗き込んでそっと涙する黒子。

 お姉さまに勝ち目はありませんの……
579: 「責任ですの」 2012/09/17(月) 22:36:08.59 ID:jlVtY66ho

「学園都市レベル5第五位心理掌握こと食蜂操祈。私の能力を舐めてもらっちゃ困るんだけどぉ?」

「よくわからないんだよ」

「インデックスちゃんの記憶を無作為に覗く訳じゃないの。ちゃんと選択力があるんだからね」

「それじゃあ、魔道書は覗かないの?」

「今回は……そうね、コミックだけを覗くことにしちゃうゾ」

「凄いんだよ、みさき」

「ふふーん」

「じゃあ、私も頑張って抵抗するかも」

「頑張ってね」

「うん! 任せるんだよ!」

 ダンボール箱ガンダムのポーズで食蜂に向き直るインデックス。
 その背後で何故か荒ぶる鷹のポーズを取っている削板。

「インデックス! 根性だ!」

 応援のつもりらしい。

「それじゃあ、覗いちゃうゾ☆」

 この段階で、大きなミスが二つ。

 一つは、食蜂の記憶覗きは「歩く教会」には攻撃と認識されていなかったこと。
 
 そしてもう一つは……
580: 「責任ですの」 2012/09/17(月) 22:36:44.82 ID:jlVtY66ho

 十万三千冊の魔道師の中には、「コミカライズ化」されていたものも混ざっていたこと。

 恐るべし、魔術サイド。

 そう。食蜂は魔道書だと気付かずに、コミックだと誤解してそれを覗いてしまったのだ。

 コミック版「屍食教典儀」
 コミック版「エイボンの書」
 「マンガでよくわかるネクロノミコン」
 「漫画:ナコト写本入門」
 「もし高校野球の女子マネージャーがルドウィク・プリンの『幼蛆の秘密』を読んだら」
 などなど

 繰り返す。恐るべし、魔術サイド。

「はうっ!」

 当然、無事で済むわけがない。
 凄まじいばかりの情報爆発がシナプスを焼き尽くさんと迸る。
 常人ならば瞬時に廃人、いや、生きるための最低限の活動すら休止するほどの精神衝撃。
 
 だが、しかし。

 食蜂操祈とて、幸か不幸か常人ではない。
 魔術サイドと双璧を為すべき科学サイドの申し子である。
 致命的な衝撃をシャットダウンするための操作を、ほぼ無意識で行っていた。

 冒涜の知識を和らげ、致命の情報を薄め、絶命即死を塗りつぶす。

 言い換えれば、コミックのヤバい部分を処理していた。
 墨塗り、トーン貼り、ホワイト消し、伏せ字、言い換え、発禁焚書である。

 一部は間に合わずに脳へと到達したけれど。

「ぎゃおんっ!」
581: 「責任ですの」 2012/09/17(月) 22:37:06.59 ID:jlVtY66ho

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 気が付くと、病院のベットに寝ていた。

 横を向くと、黒子、インデックス、削板が心配そうにこちらを見ている。

 気付きましたの

「みさき、ごめんなさいなんだよ」

「すまん!」

 半泣きの黒子とインデックス。削板は土下座。

「……ここは……」

 冥土返し先生の病院ですの

「本当に済まなかった。俺に根性が無かったばかりに……もっとよく考えれば良かったんだ」

 食蜂は自分の姿を見下ろした。

「黒子ちゃんが着替えさせてくれたの?」

 インデックスさんと一緒でしたの

「そう、ありがとう……」

 涙目の二人。そして未だに後頭部を向けたままの削板。

「あの……削板さん……?」

「すまなかった!」

582: 「責任ですの」 2012/09/17(月) 22:37:36.92 ID:jlVtY66ho

 なんでこの人はこんなに謝っているんだろう。
 問おうと黒子の顔を見ると、何故か視線を逸らす。
 インデックスを見ると、これまた逸らす。

 おい。何があった。

「黒子ちゃん、インデックスちゃん」

 黙る黒子、キョドるインデックス、ゲザる削板。

「黒子ちゃん……沈黙力はいらないのだけど」

 錯乱寸前で気絶してましたの

「うん、それは何となく想像が付くんだけどぉ?」

 色々と、出してはいけないものが……
 見せてはいけないものが……

「」

「垂れ流しだったんだよ……」

 インデックスの爆弾発言であった。

「」

583: 「責任ですの」 2012/09/17(月) 22:38:08.51 ID:jlVtY66ho

 食蜂がゆっくりと視線を下げる。
 そこには削板の後頭部。

「……見ら……れ……ちゃった?」

「食蜂! すまなかったぁぁぁああっ!!!」

「え……え……あの……」

 食蜂の救いを求める眼差しは、黒子の気の毒そうな眼差しに反射された。

「垂れ……流……し?」

 (涙とか、呪詛とか、常盤台に相応しくない悪口雑言とかを)垂れ流してましたの……

「(出してはいけない、一部紳士に垂涎の的の液体とかを)垂れ流してたの……?」

 黒子はしっかりこっくり頷いた。

 黒子とインデックスさんでお着替えは済ませましたの
 でも、削板先輩には見られてしまいましたの

「」

584: 「責任ですの」 2012/09/17(月) 22:38:37.39 ID:jlVtY66ho

 考えて欲しい。
 もし、これが削板と食蜂ではなく、上条と美琴だったらどうなっていただろうか。
 そう、美琴は能力フル暴走、辺りに電撃を撒き散らしていただろう。

 ここにいるのは食蜂操祈である。

 でもやっぱり暴走。

(削板さんにあんなのそんなのこんなの全部見られちゃった!!??)

 テレパシー暴走。

 そこにとどめを刺すインデックス。

「あ、ぐんはもみさきのお世話を手伝ってくれたんだよ」

「はいーーーっ!?」

「(涙で濡れた顔を)一緒に拭いてくれたんだよ」

「(出してはいけない、一部紳士に垂涎の的の液体とかで濡れた身体、具体的には射出口付近を)拭かれたのっ!?」

 食蜂操祈フル暴走。
 テレパシー大暴走。

585: 「責任ですの」 2012/09/17(月) 22:39:22.64 ID:jlVtY66ho

「すまなかったぁぁぁああっ!!!」

 削板は、インデックスに対する食蜂の読心について、安全面を甘く見ていたことを謝り続けている。
 三人の話はいつもの事ながら全く聞いていない。

(削板さんのお世話力……拭かれた……大事なところを……拭かれた)

 小爆発でも起こしたような勢いで真っ赤になる食蜂。
 
 尚、現在のところ、食蜂の心の叫びはテレパシー大暴走によってだだ漏れである。

(そんな恥ずかしいこと……)

 因みに食蜂本人による詳細な想像図付きである。

(そんな恥ずかしいことされたなんて……)
(責任取ってもらうしかないっ!)
(責任……お嫁さん?)

 大爆発のように真っ赤になる食蜂。

(もう、削板さんのお嫁さんになるしか……削板操祈になるしかない!)

「削板さん……責任、取ってね」

 え? と削板が顔を上げた瞬間。

「何やってんのよぉぉおおっ!!!」

 病室へ飛び込む人影。
 即座に室内に展開される電磁バリヤー。
586: 「責任ですの」 2012/09/17(月) 22:39:43.22 ID:jlVtY66ho

 お姉さま?

「みことなんだよ」

 何故かこちらも真っ赤な顔の美琴だった。

「え?」

 キョトン、と食蜂。

「あ、あ、あ、あんた、全部だだ漏れよ」

「え? え?」

「とりあえず電磁バリヤーでこれ以上の漏洩は防いだから、とっとと落ち着きなさいよね」

「だだ漏れって」

「アンタのテレパシー。再現映像付きで病院内絶賛放映中だったのよ」

「」

「黒子に話を聞いて、見舞いに駆けつけたのが私で良かったわ」

「」

「聞いてるの?」

 黒子が首を振った。

 食蜂さま、気絶してますの

587: 「責任ですの」 2012/09/17(月) 22:40:19.89 ID:jlVtY66ho

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 治療中の錯乱である。
 錯乱だと言ったら錯乱なのだ。
 忘れろ。
 忘れない人は心理掌握が直々に忘れさせる。
 いいから忘れろ。
 忘れたくない奴はすごいパンチ×5な。

 要約するとそのような内容の文章が関係者一同に配られたのは翌日のことだった。

「もう、パートナーいらなぁい」

 念のため入院した病室内、乾いた笑いで呟く食蜂。

「操祈はもぉ、一人でいいのぉ」
 
 全てを知った彼女の視線は、宙にさまよってウフフと笑っている。

 そんなところに姿を見せた黒子とインデックス。そして削板。
 削板が見舞いの果物をベッドサイドに置くと、黒子とインデックスは飲み物を買ってくると言い出す。
 そして出て行く二人。残された二人。

「あのな、食蜂」

「……なによ」

「いや……」

「珍しいのね、ハッキリ言えば?」

「……いいぞ」

「何が?」

588: 「責任ですの」 2012/09/17(月) 22:40:44.09 ID:jlVtY66ho

「責任取ってもいいぞ」 

「ちょっと……」

「俺、レベル5会議の時にモツ鍋や原谷連れて行くのやめる。勿論、雲川の姉ちゃんも」

「同情なんて……」

「間違えた」

「は?」

「間違えた。言い直す」

「何をよ」

「責任取ってもいいぞ、じゃねえんだ」

「?」

「責任取らせろ」 

「……」

「俺に、取らせてくれ」

「……お馬鹿さん」

 病室の外からそっと眺めていた黒子とインデックスは、二つの影が重なることを確認してから自販機へ向かうのだった。
589: ◆NOC.S1z/i2 2012/09/17(月) 22:42:12.43 ID:jlVtY66ho
以上、お粗末様でした


 某禁書通行SSでの、世界崩壊の一瞬で削板に惚れた雲川ってのが凄く印象に残ってるんですよね。
 某座標殺しSSでの、削板雲川組による学園都市治安維持ってのも好きだった。
 某電磁通行SSでの、未来の削板と神裂とか。
 小ネタだけど、根性定規ってのもあったなぁ。

 色々あるけれど、ここではこうなりました


 次回は、打ち止め登場の予定です
598: ◆NOC.S1z/i2 2012/09/30(日) 17:52:56.88 ID:Km7hN2zko

タイトル「打ち止めですの」
599: 「打ち止めですの」 2012/09/30(日) 17:53:30.01 ID:Km7hN2zko

 かつてとある研究所があった廃墟に一方通行は立っていた。
 時折周囲を見回し、人を待つ様子。

「こンなところまで呼び出しといてェ、なンの用なンですかねェ?」

 ようやく現れた人影に向かい、一方通行は敵意を隠そうともしない。

「まさか、復讐? なンて無駄なこと考えてンじゃねェだろォな?」

「それこそ、まさかだ」

 人影……天井亜雄はゆっくりと手を挙げた。

「今のこの私には、君を倒すどころか対抗する手段の持ち合わせもない」

「今の? はっ、過去万古から未来永劫まで、そンな手段は皆無だろ」

「そうだな、その通りだ」

「おい」

 一方通行の表情が変わる。
 敵意から当惑へと。

「何があった?」
600: 「打ち止めですの」 2012/09/30(日) 17:53:57.23 ID:Km7hN2zko

 目の前にいる男は天井。その認識に間違いはない。一方通行は己の認識に絶対の自信を持っている。
 だが、発する雰囲気が明らかに以前とは異なっているのだ。

「なにかあったと言われれば、答えはYESだ」

「悪ィが、クイズは好きじゃない」

「そうか。なら単刀直入だ」

 突然、天井は地面に座り込む。

「おい?」

「一方通行、頼みがある」

「おい、何の真似だ?」

「二人をしばらく面倒見てやって欲しい」

「はァ?」

「頼む!」

「いや、わけわかンねェ。そもそも二人って」

「こいつらだ」

 天井が手を振ると、二つの人影が現れた。

「な……」

 珍しくも一方通行が絶句する。 


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

601: 「打ち止めですの」 2012/09/30(日) 17:54:24.17 ID:Km7hN2zko

 数日前、第五位食蜂操祈と第七位削板軍覇との交際が学園都市自治新聞によってすっぱ抜かれた。
 レベル5同士のカップルの前例はなく、学園都市内は非常に盛り上がったのだが……

「高レベル者同士のカップルは超お似合いですね」

 お似合いですの
 さすがは超能力者ですの
 食蜂さまですの
 削板さまですの

 絹旗と黒子もその話題で盛り上がっていた。
 なにしろ黒子は見届け人である。それを知った絹旗のテンションもメーターを振り切っている。

「超さすがですね、白井さんは」

 素敵なカップルですの

 手を繋いで喜び合う二人。

 あらあらうふふ、とそんな二人をほのぼのと眺めている周囲の人々。
 ここはオープンカフェテラス。
 甘くて冷たい氷菓系デザートとフレッシュな生ジュースが人気のお店。
 だけど絹旗の前には鉄板ナポリタン。
 黒子の前には小倉トースト。
 そう、ここは名古屋系喫茶店でもある。
602: 「打ち止めですの」 2012/09/30(日) 17:54:53.47 ID:Km7hN2zko

「玉子焼き美味しいです」

 あんこ甘いですの

 ひとしきり堪能すると、食後のデザートを頼んで再びカップル談義。 

「超グッジョブです、白井さん」

 ふふん
 
「超偉い偉い」

 なでりなでりと絹旗の手が黒子の頭を這い回る。
 満更でもない黒子は絹旗の手の下でごろごろとご満悦。

 絹旗さんにお返しですの

「超ふふんです」

 偉いですの

 なでりなでりと、今度は黒子が絹旗を撫でる。
 ふにふにとご満悦の絹旗。

「何やってんだろねぇ」

「ねぇ」

603: 「打ち止めですの」 2012/09/30(日) 17:55:27.36 ID:Km7hN2zko

 そんな二人を微笑ましく思いつつ、可愛さに悶えつつ、互いのパートナーに軽く嫉妬しつつ、麦野と美琴が別席から眺めている。
 二人の前にはそれぞれジュース。麦野のほうはあまり減っていないけれど、美琴のほうは殆ど飲み尽くされている。

「……あー、絹旗さん、ちょっと黒子撫ですぎじゃないかなぁ」

「白井も満更でもなさそうだけどねぇ」

「……黒子、撫でられるの好きだから」

「そうみたいだね」

「撫で足りないのかな? 普段からもっと撫でてあげた方がいいのかな?」

「ん? 美琴?」

「それとも、もしかして絹旗さんの撫で方がとっても上手いのかな?」

「おーい、美琴?」
604: 「打ち止めですの」 2012/09/30(日) 17:55:55.07 ID:Km7hN2zko

「どうしよう……黒子が私に撫でられるの嫌がるようになったらどうしよう……」

「もしもし?」

「『お姉さまは下手ですの』なんて言われたら、私、立ち直れないかも」

「おーい、もしもーし」

「ごめんね、黒子……私が下手で……御免ね……」

「おーい、第三位さーん。超電磁砲さーん?」

 一人上手に落ち込んでいく美琴と、慌てる麦野。

「ゴメンね、黒子……駄目なお姉さまでゴメンね。駄目なレベル5、英訳するとFUCKIN' LEVEL FIVE。FLFでゴメンね……」

「ちょっとアンタ、まるで酔っ……ん?」

 美琴の前のグラスを手に取り鼻へと近づける麦野。中身に気付き、ウェイターを呼ぶ。

「なにこれ、何でアルコールなんて出すのよ!」

605: 「打ち止めですの」 2012/09/30(日) 17:56:23.52 ID:Km7hN2zko

「え、あの、こちらのお客様が……」

 伝票を見ると確かにカクテルの名前。
 特に気にしていなかったけれど、どうやら美琴は知らずにカクテルを頼んでしまった様子。

「それにしたって、見た目で未成年かどうかくらいわかるでしょうに」

「申し訳ありません、こちらのお客様が飲まれるものだとは気付かずに……」

 ?

 何かに引っかかる麦野。

「んー。それはもしかして、あたしが飲むものだと思ったってことかにゃーん?」

「は、はい」

「あたしも未成年なんだけどねぇ?」

「なんですとっ?!」

606: 「打ち止めですの」 2012/09/30(日) 17:56:51.23 ID:Km7hN2zko

 麦野さんは思いました。

 あー、このウェイター、命いらないのね。
 うふふふふふ、それならビームビームビーム、さらにビーム。

 その時、ボフッと謎の音。

 音の出た方向に視線を合わせ、笑いを堪える絹旗を見つける麦野。

「き~ぬ~は~た~? オ・シ・オ・キ・か・く・て・い・ね」

「!? 白井さん! テレポお願いします! 白井さん!!!」

 自業自得ですの

「ひぃいいい」

 そこへ、

「何やってンだ、おまえら」

607: 「打ち止めですの」 2012/09/30(日) 17:57:19.33 ID:Km7hN2zko

「ああ? あー、第一位……か……」

 麦野絶句。
 隣で泣いていた美琴もギョッとした顔で一方通行を見ている。

「あー、お姉さまだ。はじめまして、ってミサカはミサカは頭を下げてみる」

「誰?」

「超誰ですか?」

 小さいお姉さまですの

「あァ、こいつは……」

「……どういうこと?」

 ゆらり、と目の据わった美琴が立ち上がる。

「この子……」

 美琴の問いに頷く一方通行。

608: 「打ち止めですの」 2012/09/30(日) 17:57:49.25 ID:Km7hN2zko

「そォいうこった」

「……コン」

「はァ?」

「ロリコン」

「はい?」

「変態! あんた、小学校時代の私なんか連れてどうする気よ! この変態!!」

「待て、待て待て待て!! なンか誤解してるぞっ」

 頷く麦野。

「なるほど、浮いた話を聞かないと思ったらロリコンだったのかい。そりゃ納得だ」

「こら待て、おい、なに勝手に決めてやがるンですかァ?」

 美琴が黒子と絹旗に駆け寄った。

609: 「打ち止めですの」 2012/09/30(日) 17:58:15.94 ID:Km7hN2zko

「黒子、絹旗さん、逃げて! 早く逃げなさい!!」

「おォい!? どういう意味!?」

「なんだ、第一位はロリコンだったんだ。そりゃあ、ミサカの魅力に靡かないはずだよねぇ」

 最初の一人、他の妹達に比べるといやに大人びた一人が姿を見せる。

「また増えた?」

「ハロー、お姉たまーん。ミサカは番外個体だよ、よろしくね。こっちのちみっこいのは打ち止め」

「ちみっこいって言わないでって、ミサカはミサカは抗議してみる」

「だから俺はロリコンなンかじゃねェっての」

「で、結局なんなのよ」

 黒子と絹旗を背後に庇って一方通行を睨みつけている酔っぱらールガンを宥めつつ、麦野は一瞬真面目な顔になる。

「天井、またなんかやった?」

「ま、天井絡みにゃ間違いねェが」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

610: 「打ち止めですの」 2012/09/30(日) 17:58:43.99 ID:Km7hN2zko

「この子は打ち止め。この子は番外個体だ」

「はじめまして一方通行、とミサカはミサカはご挨拶」

「やっほー、第一位。初めましてだね。ギャハハハ、話には聞いてたけれど、ホンットに白いんだねぇ」

 御坂美琴のクローンが二人。それも、一人はあからさまに若く、もう一人は大人びている。

「これはどういう事なんですかねェ? 天井くゥン?」

 クローンは作らないという約束。いや、作れなくなるように研究所は全て叩きつぶしたはず。
 仮に研究所の一つを隠蔽していたとしても、こうやってクローンを見せつければどうなるか。それがわからない相手ではないだろう。

 だから、一方通行は迷う。
 天井の真意を。

 地面に座り込んだままの天井は頭を下げた。いわゆる、土下座である。

「そのままでいい。頼む、せめて話を聞いてくれ」

「話だと?」

 次の瞬間、一方通行は愕然と目を見開く。

611: 「打ち止めですの」 2012/09/30(日) 17:59:11.50 ID:Km7hN2zko

「パパ?」

「お父たま?」

 二人のクローンが口々にそう言いながら、天井に駆け寄るのだ。

「なン……だと……?」

「話を聞いてくれるか、一方通行?」

「……あァ。内容によっちゃあ、心理掌握呼び出すぜ?」

「そう思われても、仕方ないだろうな……」

 ……君たちにクローン設備を破壊されたとき、私は諦めたわけではなかった。
 ……あの時、私の手元には二人のクローンを作り出す術が残されていたんだ。
 ……そして当時の私は、ひょんな事からこう思っていた。

 ……小学生は最高だぜ!

「よし、血液逆流と全身粉砕骨折とどっちがいい?」

612: 「打ち止めですの」 2012/09/30(日) 17:59:39.60 ID:Km7hN2zko

「待て落ち着け、話は最後まで聞いてくれ」

 ……私は「打ち止め」を生み出した。
 ……だが……だが、この子は私を「パパ」と呼んでくれたのだ。
 ……私はその瞬間悟った。己の罪深さを。
 ……これほど無垢な存在に私は何をしようとしていたのか……
 ……ああ……

 ……やっぱり小学生は最高だ。

「よし、全身皮剥に決定な」

「待て落ち着け、だから話は最後まで聞いてくれと」

 ……全てを失った私はクローン作成費用をひねり出すために働いていた。
 ……独りぼっちの打ち止めは、とても寂しがっていた。
 ……そして、クローン作成用の資材は一人分、いや、打ち止めに使わなかった分を入れるとやや多めに残っていた。
 ……そこで私は、予定外のクローンを産んだ。
 ……「番外個体」だ。
 ……しかし彼女も私を「お父さま」と……

「訂正するね。お父たまだよ」

613: 「打ち止めですの」 2012/09/30(日) 18:00:12.41 ID:Km7hN2zko

 ……私は二人の娘を得た。
 ……だが私にその資格はあるのか。
 ……娘二人に父と呼ばれる資格はあるのか。

「パパはパパだよ?」

「お父たまはお父たまでしょ?」

「……一方通行、私は今度こそ心を入れ替えた。この二人のために、真っ当に生きたいと思ったんだ」

「……」

「だから私は今から当局に自首する。きれいな身体となって、もう一度やり直したいんだ」

「それで、どうして俺が面倒をみることになるンですかねェ?」

「妹達を護るためだ」

「だから、どうして俺なンだ? レベル5は俺だけじゃねェ。そもそも妹達を助けたのも俺一人じゃねェだろォが」

「垣根帝督に任せる気か? 女子中学生目当てに常盤台に侵入しようとした男だぞ?」

614: 「打ち止めですの」 2012/09/30(日) 18:00:40.54 ID:Km7hN2zko

「なンで知ってンだよ」

「そして、御坂美琴は寮住まいだ。二人を引き取ることは出来ない」

「一緒に住むのが前提なのか?」

「これ以上冥土帰しの所に厄介になるわけにも行かないだろう」

「まァ、そりゃそうか……」

「麦野沈利の所には絹旗最愛やフレンダ・セイヴェルン、滝壺理后がいる」

「根性野郎はどうなンだ?」

「……食蜂操祈との新婚空間に二人を引きずり込む気か?」

「すまン」

「というわけで、残るは君だ」

「待て」

「番外個体はレベル4だ。君のパートナーとしても充分にやっていけると思うぞ」

 天井の再びの土下座。

「他に頼める者がいないんだ! 頼む! 私のためではない、二人のためだと思って!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

615: 「打ち止めですの」 2012/09/30(日) 18:01:08.43 ID:Km7hN2zko

「……っつゥ訳だ」

「それで、本気で引き取る気?」

「そうなりかねねェな」

「まさか、手ぇ出すつもりじゃないわよね?」

「誰が出すかボケ」

「まあ、打ち止めに手出す程鬼畜じゃないし、あの番外個体とやらは別の意味で安全か。あんた貧乳派だしね」

「!?」

「ん? まさか、気付かれてないと思ってた?」

「いや、待て、待て。いや、なンで……」

「そりゃね。私や結標、滝壺とかまるまる無視して、美琴や黒子ばっかり相手にしてるしねぇ……」

「……」

「冷や汗は反射できないの?」

「うるせェ」

「年下好きかと思ってたけど、食蜂や絹旗も眼中にないものねぇ」

「すいませン、お願いですからもォ黙っていただけませンか?」

「将来性のあるインデックスより、あのライン保ちそうな心理定規のほうが好みよね?」

「いやほンと、まじで勘弁してください」
616: 「打ち止めですの」 2012/09/30(日) 18:01:37.15 ID:Km7hN2zko



 そして、レベル5会議当日。

「おはよーう」

 おはようございますの

「ふぁあ」

「超眠いです」

 美琴、黒子、麦野、絹旗がまず会する。

「よぉ」

「皆さんごきげんよう」

 そして垣根と心理定規。

「やーん、ちょっと遅れちゃったぁ♪」

「第一位がまだだからビリじゃねえ、気にするな、みさきん」

「うん、ぐんにぃ☆」

 誰よ、あれは。
 うわ、超キモ!
 あんた挨拶しなさいよ。
 やだ、アレに近寄りたくない。
 みさきん、てなんだよ。ぐんにぃ、てなんだよ、もしかして、軍覇お兄ちゃんなのか?
 なにこれ、心理距離ゼロじゃないかしら、キモ。
617: 「打ち止めですの」 2012/09/30(日) 18:02:10.19 ID:Km7hN2zko

 おはようございますの

 普通に挨拶してやがる……くっ、これが常盤台のマナーってやつか……
 白井さん超凄いです。
 さすが黒子……
 ああいうのに慣れてるのね、ジャッジメント。

 そこへ、

「こんにちわーっ! ってミサカはミサカは初めましての人の前でも元気いっぱい!」

 全員の視線が集まった。

「よ、よォ……」

 打ち止めの後ろから、全てを諦めて開き直った男の顔で現れる一方通行。

「ちょっとアンタ、なんで打ち止めなのよ……」

「番外個体のやろー……『めんどい、寝る』って……」

「うわ」

「尻に敷かれてるじゃねえか……第一位」

「はっ、羨ましいンですかァ? ていとくゥン?!」

「馬鹿言ってんじゃねえ! 尻に敷かれ……あ、いや、……羨ましい……のか?」

「ごめん帝督、私帰る」

「あ、待て! 心理定規! 今のはジョークだ! ジョークだから!!」

「ねえねえあなた、みんないつもこんな楽しそうなの? ってミサカはミサカは羨ましさを隠さず言ってみる」

「まァな」



 今日も学園都市は平和です。

618: ◆NOC.S1z/i2 2012/09/30(日) 18:04:06.12 ID:Km7hN2zko
 以上お粗末様でした

 投下中に気付いたけれど、ラストのやりとりがなんか最終回っぽいな……

 いや、最後の話は決めてるからこれじゃないけどさ


 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。
625: ◆NOC.S1z/i2 2012/10/13(土) 16:17:30.27 ID:D+bRjJ2Ho
ハロウィンスペシャル


タイトル「ハロウィンですの」
626: 「ハロウィンですの」 2012/10/13(土) 16:20:03.89 ID:D+bRjJ2Ho

 学園都市にもハロウィンはある。
 未成年の多い学園都市では、中学生以下がお菓子を貰い、高校生以上がお菓子を渡すという習慣ができあがっていた。

 そんなハロウィンの日。
 とある隠れ家では……

 牙をつけて、マントを羽織った黒子。

 ヴァンパイアですの
 血を吸いますの
 ちうちう、と

 ネコミミと尻尾、肉球グローブを装備したフレメア。

「化け猫にゃあ。にゃあにゃあにゃあ」

 何故か秋田県名物なまはげの絹旗。

「ヒャッハー! 悪いごはいねがぁ?」

 それぞれの仮装に身を包んだ三人。

 トリックorトリートですの

「だいたいトリートがいい。お菓子にゃあ」

「ヒャッハー! お菓子を出さない超悪いごはいねがぁ!」

 絹旗は少し勘違いしていた。
627: 「ハロウィンですの」 2012/10/13(土) 16:20:55.42 ID:D+bRjJ2Ho
 
 では、出発ですの
 
「三人だけですか?」

 途中で増えるかも、ですの

「だいたいわかった、にゃあ」

「貧乏人に用はないですよ。超金持ちを襲撃します。向こう一年分のお菓子を超ゲットしますよ」

「わかった。じゃあ浜面も半蔵もお兄ちゃんも駄目」

「フレメア? スキルアウトは貧乏ですか」

「みんなお家がない、にゃあ」

 ちなみに浜面も半蔵も駒場もちゃんとそれぞれの家はある。
 フレメアは、三人ともスキルアウトの溜まり場に住んでいると思いこんでいた。
 浜面に到っては、家がないのでアイテムアジトに出入りしているのだとフレメアは信じている。
 ぶっちゃけ、貧乏くさい格好なので仕方ない。(麦野談)
 フレンダはその勘違いに気付いているけれど、面白いので訂正していない。

 レベル5はお金持ちですの

「さすがは白井さんです。目の付け所が超GOODです」

 だけど、お姉さまと食蜂さまはまだ中学生ですの
 お菓子はもらえませんの

「麦野お姉ちゃんの所、行く?」

「順番に行きましょう。まずは第一位からです」

 参りますの
 ちうちう

「にゃあにゃあ」

「悪いごはいねがぁ」
628: 「ハロウィンですの」 2012/10/13(土) 16:21:24.10 ID:D+bRjJ2Ho

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「で、みょうちくりンな格好したのが三人揃って、何の用なンですかねェ?」

 トリックorトリートですの

「むしろトリート。にゃあ」

「ヒャッハー! お菓子は消費ですよ! 超出しやがれ」

「そこの窒素女は正座しやがれ!」

「どうしてですか! 悪いごは超成敗!!」

「包丁振り回してンじゃねェ! うおっ、反射できねェ! マジでアブねェだろがっ!!」

「未元物質製の優れものですよ!」

「よし、あとで第二位殺す」

 ベクトルげんこつを受けて涙目で正座する絹旗。
 袋一杯のお菓子を受け取る黒子とフレメア。

「この待遇の違いには超納得いきません」

「……第四位はパートナーの教育間違えてンなァ……」

「あー! お菓子!」

 玄関口で騒いでいると、二人の少女が顔を見せる。
629: 「ハロウィンですの」 2012/10/13(土) 16:21:53.00 ID:D+bRjJ2Ho

「何やってんの第一位。あー、絹旗ちゃん虐めて遊んでんだ、うわぁ、ロリでサディスト。サイテー」

「なに人聞きの悪いこと妄想してンだ、ハロウィンだろーが」

 別にハロウィンは女の子にげんこつして涙目にさせる行事ではない。

「なにそれ、ミサカそんなの知んない」

「……」

「なにやってんのさ、おチビ」

「MNWで聞いてみるよ、とミサカはミサカは交信中」

 お菓子を貰う日ですの

「黒子の言うことで大体あってる、にゃあ」

「お菓子をくれない悪い人を成敗……ぎゃわああ、ベクトルげんこつは止めてください……」
 
 ところで

 黒子吸血鬼の目がギラリと光る。

 お姉さまにそっくりなお子様とお姉さまですの

「はじめまして、ミサカはミサカはご挨拶してみる」

「あー、ミサカ達は、その……超電磁砲の親戚みたいなモンだから」

 親戚ですの
 お姉さまのお姉さまと言えばお姉さまも同然ですの
 白井黒子ですの
 コンゴトモヨロシクですの

 衣装のせいか、悪魔合体しそうな挨拶と共にぺこりと頭を下げる。
630: 「ハロウィンですの」 2012/10/13(土) 16:22:19.83 ID:D+bRjJ2Ho


「うん。よろしく。貴女が白井黒子か。噂は聞いているよ、風紀委員の」

 じゃっじめんと、ですの

「ミサカは……番外個体って呼んでくれると良いよ」

「打ち止めだって、ミサカはミサカは自己紹介」

「フレメア・セイヴェルン、にゃあ」

「私は、悪いごはいね……ぎゃあっ!」

 三度目のベクトルげんこつで、頭から煙を噴いて俯せる絹旗。

 これ以上の滞在は絹旗の命に関わると判断した黒子とフレメアは、ミサカ一族の二人に別れを告げて一方通行のマンショ

ンを後にした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

631: 「ハロウィンですの」 2012/10/13(土) 16:22:47.58 ID:D+bRjJ2Ho

 イラッシャマセー
 マイドドーモー
 ゴセンエンニナリマース

「わかってるよ、木原のハロウィンならこうするんだね」

「わかってるなら働け」

 お客さんで大賑わいのスイーツ木原では、円周がお家のお手伝いをしていた。

「フレメアちゃん達と遊びたかったよぉ……」

「あとで特製菓子もたせて行かせてやるから」

「本当?」

「まあまあ」

 カウンターに立ったままで満面の笑顔の円周から厨房の数多へと視線を移し、レジを打っていた病理も笑う。

「甘いですね、兄さんも」

「まだ子供なんだからいいじゃねえか」

「さて、私は円周ちゃんを諦めさせましょうか」

「それは本気で勘弁してやれ」
632: 「ハロウィンですの」 2012/10/13(土) 16:23:17.73 ID:D+bRjJ2Ho

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「……ベクトルげんこつ怖いです……ベクトルげんこつ怖いです……」

「トラウマにゃあ」

 絹旗さんがおかしいですの

「……」

 立ち止まる絹旗。その視線は、黒子と絹旗の持つ紙袋へと。

「お菓子……」

「これはフレメアの戦利品」

 黒子のお菓子ですの

 しかし涙目の絹旗に、二人の同情の虫が疼く。

「しかたないからあげる」

 一つだけですの

 フレメアの手には麩菓子。黒子の手にはポン菓子。

「超ありがとうございます」

 絹旗は麩菓子を、フレメアは砂糖をまぶした棒カステラを、黒子はイカの足を囓りながら練り歩く。
因みに絹旗の片腕には未元包丁がそのままに。
633: 「ハロウィンですの」 2012/10/13(土) 16:23:45.93 ID:D+bRjJ2Ho

 ちうちう

「にゃあにゃあ」

「悪いごはいねがぁ」

 麩菓子を食べ終えてポン菓子に替わる頃、三人は麦野のマンションの前に到着した。

「ここには麦野と滝壺さんがいるはずです。フレンダと浜面もいるかも知れません」

「お姉ちゃん、朝から見てないよ」

 行きますの

 インターホンをポチリ。

「言っとくけど、お菓子ならないから」

 第一声がそれ。
 こんにちは、でも、どなたですか、でもなく。

 三人は顔を見合わせる。

 もう一度絹旗がインターホンをポチリ。

「むぎ……」

「お菓子ないの」

 ……

「……にゃあ」

「悪いご、いだぁ!」

 フレメアと絹旗が黒子の手に捕まる。

634: 「ハロウィンですの」 2012/10/13(土) 16:24:13.50 ID:D+bRjJ2Ho

「白井さん!」

 わかりましたの

 しゅん、とテレポート、マンションの中へ。
 絹旗は合い鍵を持っているのだけれど、そこはテンションというもので。

 走る三人は麦野の部屋の前へ。

 トリックorお菓子ですの

「お菓子にゃあ!」

「悪いごはいねがぁ!!」

「むぎの、やっぱり来たよ」

 ドアを開けたのは滝壺さん。

「しらいとふれめあは可愛いね」

 てれてれ

「にゃあにゃあ」

「滝壺さん、なまはげですよ」

「うん。きぬはたも可愛いよ」

 麦野が奥から顔を見せると、二つの袋を差し出した。

「まあ、あの程度で阻止できるとは思ってなかったけどね」

 トリックorトリートですの

「トリックorトリートにゃあ」

「お菓子くれない悪いごはいねがぁ!?」

「はい、これ」

 袋が二つ。

「絹旗はそこに正座」

「どうしてですか?」

「ハロウィン舐めんな」
635: 「ハロウィンですの」 2012/10/13(土) 16:24:41.89 ID:D+bRjJ2Ho

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ううう……なんでなまはげは駄目なんですか」

 泣きながらトボトボと歩く絹旗に、黒子とフレメアはお菓子を分ける。
 先ほどの麩菓子とポン菓子のせいで喉が渇いたという訴えを考慮して、袋の中に何故か入っていた飲料を渡す。
 黒子からはドクペ。フレメアからは冒険活劇飲料サスケ。
 おでんサイダーやお汁粉オレンジに比べればどうと言うことはない。

「絹旗かわいそうにゃあ」

 そうですの……
 ……!!
 良いアイデアが

 3つの心がひとつになれば、1つのなまはげは百万パワーですの
636: 「ハロウィンですの」 2012/10/13(土) 16:25:14.24 ID:D+bRjJ2Ho





 悪いごはいるんですのぉ!!

「悪いごはいにゃああ!」

「悪いごはいねがぁ!」

「まだやってンですかァ!?」

 学園都市を駆け抜けた三匹のなまはげは、通りすがりの第一位に即座に鎮圧されたという。


637: ◆NOC.S1z/i2 2012/10/13(土) 16:26:16.11 ID:D+bRjJ2Ho
以上、お粗末様でした


 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。
646: ◆NOC.S1z/i2 2012/10/24(水) 19:01:34.88 ID:4nT2h9hOo

 今回短いです

 一応前回の続き。

 タイトル「枕ですの」
647: 「枕ですの」 2012/10/24(水) 19:02:18.59 ID:4nT2h9hOo
 
 麦野が目覚めると、身体中に違和感。
 だけど不快なものじゃない。
 どちらかというと心地良い、だけど違和感。

 身体が動かない。
 機能に問題がある訳じゃない。誰かに抑えつけられているのがわかる。

(……おいおい、夜這いじゃないだろうね)

 時々ベッドに潜り込んでくるフレンダなら、とにかくこの場でぶっ飛ばす。それから罰として朝ご飯。
 しかし、この重さはフレンダではない。フレンダならばもっと軽い。

(!?)

 まさか、と思う。
 いや、まさかそんなはずは。
 アイツには滝壺という歴とした彼女がいる。色々あっても、肝心の所で滝壺を裏切るような男じゃない。
 そうでなければ、アイテムに近づいた無能力者などとっくに排除している。

 でも、しかし。
 しかしだ。
 アイツの視線を時々感じるのは事実。
 ちょっと短めのスカートの裾がはだけたときや、ボディラインをハッキリさせすぎたとき。
 
 違うと思う。アイツは……浜面はそんな奴じゃない。
 でも。
 でも。

648: 「枕ですの」 2012/10/24(水) 19:02:51.20 ID:4nT2h9hOo

 もし万が一だったら?
 第一、身体に掛かるこの重みは女のものではない。確実に男一人分の重さだ。それも、ヒョロいもやし……例えば第一位……なんかじゃない。
 がっしりとした頼りがいのある……いや、暴力沙汰に適正のある身体つきの男のモノだ。

 だったらどうする?
 アイツは滝壺を裏切らない。それは信じている。
 でも、自分は?
 自分は滝壺を裏切らない?

 いや、待て。
 何を考えているんだ。

 麦野は寝起きとはいえ取り留めなく暴走する自分の思考に赤面していた。
 なんで浜面が夜這いに来たと決めつけているのだ。
 これではまるで……これではまるで……

 来て欲しいみたいではないか。

 違う、と危うく叫びかけ、麦野は完全に目を覚ます。

「ん?」

 思わず声に出してしまう違和感。
 確かに、身体に掛かっている重みは女一人分とは思えない。しかし……
 重みが四等分されているような気がする。

649: 「枕ですの」 2012/10/24(水) 19:03:22.36 ID:4nT2h9hOo

 胸元。
 腹。
 下腹部。
 太股。

 視線を下に向けると、どこか見覚えのあるツインテール。

 ゆっくりと首を上げ、重みの正体に目を向ける。

(ああ……)

 そこでようやく麦野は思い出した。
 昨夜、ハロウィンに出遅れた円周が涙目で絹旗を訪れたのだ。
 木原が持たせたと思しき円周のお土産が大量にあったため、絹旗の友達を呼び出して、ついでにお泊まり会になったというわけだ。

 胸元で寝ているのは黒子。
 腹の上にいるのはフレメア。
 下腹部が絹旗で太股が円周。

 四人に枕にされている、というわけか。

 動けない。
 四人は実にいい笑顔で絶賛爆睡中。さすがに起こすのは躊躇う

 どうしようかと視線を彷徨わせていると……
650: 「枕ですの」 2012/10/24(水) 19:03:49.84 ID:4nT2h9hOo

「」

 扉を少しだけ開けて覗き込む視線と目があった。

(滝壺?)

「……」

 まさしく滝壺だった。
 滝壺は手元のスケッチブックになにやら書き込むと、麦野に見える位置にそれを翳す。

【大丈夫。そんなむぎのを私は応援している】

(……何を応援するのよ、何を)

【ロリコン】

(……は?)

【幼女四人を侍らせて就寝。これはまぎれもなくロリコン】

(幼女って、二人は中学生だろうが)

【応援してる】

(おい)

 と、ここで麦野はスケッチブックの隅に書かれている小さな文字に気付いた。

【はまづらじゃないなら、どうでもいいよ】

(本音!?)
651: 「枕ですの」 2012/10/24(水) 19:04:18.16 ID:4nT2h9hOo

 もぞり、と黒子が動く。

 ん……お姉さま……

(寝ぼけてるのね……)

 このまましばらくいてもいいかな、と麦野が考えていると、

 !?

 黒子がぱちりと目を覚ました。

 ……

 何か信じられないものを見た、という顔で自分が枕にしていたもの……麦野の胸を見ている。

 ……
 どなたですの?

 そこで麦野と目が合う。
 麦野の顔と胸、そして絹旗たちに視線を向けると、ようやく理解したのか頷く。

 おはようございますの

「ん、おはよう……あ、どうでもいいんだけどさ」

 はい、ですの

「あんた今、『この胸のサイズは御坂美琴じゃない?』って慌てて目覚ましたんじゃない?」

 ……

「別にいいけどさ」

 お、お姉さまの名誉は命に替えても守りますの

「うん。それ、答え言ってるからね」
652: ◆NOC.S1z/i2 2012/10/24(水) 19:04:47.01 ID:4nT2h9hOo

 
 以上、お粗末様でした


 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。
657: ◆NOC.S1z/i2 2012/11/02(金) 00:03:37.01 ID:132gufMxo

 またも短い話
 
タイトル「頭ぷぅですの」
658: 「頭ぷぅですの」 2012/11/02(金) 00:04:57.95 ID:132gufMxo

 …………

 ……

 いつの間にか黒子が寝ていることに美琴は気付いた。

 ここは常盤台の寮、美琴と黒子の二人部屋。
 時間は昼下がり。冬が近いとはいえ、この時間の日射しはまだまだ温かく、うたた寝にはまさに最適の時間。

 黒子はさっきから勉強机に座ったまま、微動だにしていない。
 美琴はゆっくりと近づくと、黒子が寝ていることを確認する。

(チャンス!)

 最近、黒子と美琴の間で流行っていること。
 それは、ちょっと前まで佐天が初春にしていたこと。

 スカートめくりではない。

 初春がマジギレしそうになったことに気付いた佐天が、しばらくの間スカートめくりを控えていた時期がある。
 その代わりに導入したのが……

 【頭ぷぅ】である。
659: 「頭ぷぅですの」 2012/11/02(金) 00:05:25.86 ID:132gufMxo

 背後から、佐天が初春の後頭部を掴む。
 身長差で初春があたふたしている間に、佐天が口を開けて息を吸い込み、初春の頭に口を当てる。
 そして、頭髪と頭皮の間に温かい息を思いっきり吹き込むのだ。

「うひゃいっ!?」

 くすぐったいような、驚いたような、珍妙な顔でじたばたと暴れる初春。

「ふっふっー。面白いねぇ、初春は」
「じゃあもう一回」

 ぷぅ

「ひゃあああ」 

 けたけた笑う佐天とあうあう惚ける初春。

「何やってるのよ、初春さんも佐天さんも。ねえ、黒子」

 面白そうですの

「ん?」

 黒子は【頭ぷぅ】に興味を示し、その反応を見た美琴も

「うーん……」

 考え込んでいる。
660: 「頭ぷぅですの」 2012/11/02(金) 00:05:52.52 ID:132gufMxo

 暫しの間を空け、美琴はおもむろに黒子の頭を掴んだ。

 お姉さま?

「ぷぅ」

 美琴の息を頭に吹き込まれた黒子は、えひゃい、と妙な声を上げる。

「あ、これ、面白いかも」

 美琴と黒子の間のコミュニケーションが、また一つ増えた瞬間だった。

 今もまた……
 寝ている黒子の頭にそっと美琴は近づいた。
 そして勢いよく、噛みつくように口を開けて黒子の後頭部に口を付ける。

「ぷぅ」

 うひょん

 妙な声と共に跳ね起きた黒子は、咄嗟に振り向く。
 そこには声を殺して笑っている美琴が。

 お姉さまの【頭ぷぅ】ですの……

「あはは、ごめん。黒子」
661: 「頭ぷぅですの」 2012/11/02(金) 00:06:19.74 ID:132gufMxo

 むう
 仕返しですの
 目には目を、埴輪はお

「黒子、今アクセントおかしかったわよ」

 埴輪はお?

「それだと、埴輪が挨拶してる図しか浮かばない」

 埴輪、はお
 …………
 ……礼儀正しい土器ですの

「目には目を、歯には歯を」

 目には目を、歯には歯を 

「そうそう」

 目には目を、歯には歯を、【頭ぷぅ】には【頭ぷぅ】ですの

「ふふっ、いいわよ。かかってきなさい、黒子」
662: 「頭ぷぅですの」 2012/11/02(金) 00:06:52.31 ID:132gufMxo

 黒子は容赦ない復讐者となりますの

 しゅん、と消える黒子。次の瞬間には美琴の背後へ。
 瞬間移動能力者による奇襲である。これを防げる者などいない

 ……はずだった。

 美琴はレベル5。身体の周囲には無意識の内に張り巡らされた微弱な電磁波が存在している。
 一度それを意識すれば、周囲の状況はほぼリアルタイムで把握できる。
 黒子の瞬間移動も例外ではない。
 出現した瞬間、黒子の位置は把握され、電気の速度で美琴に伝えられる。
 そして美琴の思考速度と反射神経はレベル5に相応しいものだ。

 体を逸らして黒子の突撃を避けた美琴は、目前を通り過ぎようとする黒子の頭を再び掴む。

 間髪入れず、【頭ぷぅ】

 えひょい

 黒子の珍妙な呻き。
 バランスを崩した黒子はそのままベッドへダイブ。

「黒子、ベットに飛び込むなんてお行儀が悪いわよ?」
663: 「頭ぷぅですの」 2012/11/02(金) 00:07:19.05 ID:132gufMxo

 うう……負けませんの

 しゅん、しゅん、しゅん、複数回の連続テレポで攪乱に出る黒子。

「甘いわよ、黒子。何度テレポートしたって、無意味なんだから」

 頭上からの気配を避ける美琴。地面に落ちるのはゲコ太ぬいぐるみ。

「フェイント!?」

 足下に微かな振動。

「くっ」

 黒子はテレポートをしていない。
 空中を跳んでいるように見えたのはゲコ太ぬいぐるみ。
 黒子は美琴の注意をゲコ太ぬいぐるみに引きつけ、自らはチャンスを窺っていたのだ。
 地を蹴る黒子。

 飛び上がった黒子を、それでもギリギリで避ける美琴。

「もらった!」

 まだですの

 あらかじめ腰を捻っていた黒子が、空中で体勢を戻す。
 【頭ぷぅ】を狙った美琴の前には後頭部ではなく、黒子の顔が!
664: 「頭ぷぅですの」 2012/11/02(金) 00:07:59.17 ID:132gufMxo

 これでお姉さまの【頭ぷぅ】は封じましたの

 しかし、動き始めた美琴は急には止まれない。
 空中で身体を捻った黒子も、これ以上は動けない。

 二人の顔が近づき、

 ……ちう

「……」

 ……

 突然開くドア。

「くろこ、みこと、!!……お邪魔したんだよ」

 インデックスは、そっとドアを閉める。 

「どうぞごゆっくり、なんだよ」

 慌てて二人はインデックスを追いかけるのだった。
665: ◆NOC.S1z/i2 2012/11/02(金) 00:08:31.50 ID:132gufMxo

 以上、お粗末様でした


 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。
672: ◆NOC.S1z/i2 2012/12/06(木) 23:37:22.07 ID:b9m+j/x0o

 ごめんなさい。
 冬の祭典の準備をしてました

 では、

 タイトル「ゲコ太ですの」
673: 「ゲコ太ですの」 2012/12/06(木) 23:38:13.12 ID:b9m+j/x0o

 街を歩く美琴。
 その後ろをついていく黒子。
 二人はお買い物の途中。お昼ごはんを食べ終わって、アクセサリーショップへ向かうところである。
 ふと、美琴が顔を向けた方向には大きな看板。そこには猫が描かれている。

「猫って可愛いわよね」

 可愛いですの

「ゲコ太には負けるけどね」

 ノーコメントですの

「あれ? ゲコ太、可愛いよね?」

 ノーコメントですの

「……黒子?」

 はい、ですの

「猫は可愛いわよね?」

 勿論ですの

「でも、ゲコ太には一歩及ばないわよね」

 ノーコメントですの
674: 「ゲコ太ですの」 2012/12/06(木) 23:38:40.98 ID:b9m+j/x0o

「……あれ?」

 はい?

「うん、黒子、もう一度聞くね?」

 はい、ですの

「猫は可愛いわよね?」

 子猫最高ですの

「うんうん、子猫はとっても可愛いの。でもね、ゲコ太には紙一重で及ばないと思うのよ」

 ノーコメントですの

「あっれぇ~?」

 納得いかないという顔で立ち止まる美琴。

「えーと……」

 と、そこへ向こうから見知った顔が。

「あ、御坂さん、白井さん、こんにちわ」

 佐天さんと初春ですの
675: 「ゲコ太ですの」 2012/12/06(木) 23:39:06.85 ID:b9m+j/x0o
 
「こんにちわ。二人とも今日はお買い物?」

「はい、初春のおニューパンツを買いに」

「違います。いつの間にそんなことが決まったんですか」

「初春のパンツは全部制覇したしなぁ……」

 じゃっじめんと、ですの

「そうですよ、白井さん、佐天さんを捕まえてください」

「ごめんなさい、白井さん、反省します」

 罪を憎んで人を憎まず、ですの

「さすがですね、白井さん」

「ところで二人に聞きたいことがあるんだけど」

「なんでも聞いてくださいよ! 御坂さんのお役に立てるなら」

 どん、と自分の胸を叩く初春。
 ぽよん、と自分の胸を叩く佐天。
 この擬音の差は永遠の謎である。
 ちなみに美琴が胸を叩くと、

 ぺたん

 となる。
676: 「ゲコ太ですの」 2012/12/06(木) 23:39:34.79 ID:b9m+j/x0o

「二人とも、猫は好き?」

「普通に好きですよ?」

「可愛いですよね」

「そうよね、猫は可愛いわよね」

「ええ」

「可愛いですよ」

「でも、ゲコ太はもっと可愛いわよね」

「……ゲコ……太……?」

「……ゲ……コ太……?」

 顔を見合わせる二人。やがて、

「ああ!」

 佐天がポンと手を叩く。

「さすが御坂さん、レベル5! 物知りですよね」

「え?」

「マンチカンとか三毛猫みたく、ゲコタって種類の猫がいるんですね」

「ああ、うん……ごめん」

 お騒がせしましたの

 結局それからすぐに美琴と黒子は二人と別れた。
677: 「ゲコ太ですの」 2012/12/06(木) 23:40:02.32 ID:b9m+j/x0o

「ゲコ太って私が思っている程メジャーじゃないのかな……」

 落ち込む美琴を、黒子は心配そうに見ている。
 そして、黒子は決意する。

 お姉さま、黒子は今からジャッジメントのお仕事がありますの

「あ、そうだったの?」

 失礼いたしますの

「うん、あんまり遅くならないようにね」

 はい、ですの

 黒子は美琴と別れると、とある店へと向かった。
678: 「ゲコ太ですの」 2012/12/06(木) 23:40:28.87 ID:b9m+j/x0o

 そこは知る人ぞ知るマニアックな名店。着ぐるみ専門店「NINA‐CHARM」である。
 店主は元マイナーアイドルだったという噂もあるが、そんなことはどうでもいい。

「お客さんでごぜーますか?」

 捜し物ですの

「捜し物の気持ちになるですよ?」

 ……これ、ですの

 吊された大量の着ぐるみの中からゲコ太着ぐるみを見つけ出す黒子。

「ゲコ太……それは随分マニアックでやがりますね」

 これにしますの
 
「毎度ありでごぜーますよ」

 その夜の寮にて……

 御坂美琴の妙に嬉しそうな悲鳴を聞いて駆けつけた、通りすがりの婚后光子が発見したのは……

 鼻血を噴いて倒れている美琴。
 ゲコ太着ぐるみを着て困っている黒子。

 見なかったふりをしよう。そう、光子は心に誓ったのだった。

679: 「ゲコ太ですの」 2012/12/06(木) 23:41:00.61 ID:b9m+j/x0o
 
 
 
 
 
 が、しかし。

 後日……

「あ、あの、泡浮さん、湾内さん、この蛇の着ぐるみに興味はございませんか?」

 思いっきり影響されていたりする。
680: ◆NOC.S1z/i2 2012/12/06(木) 23:41:39.42 ID:b9m+j/x0o
 
 以上、お粗末様でした。

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。


 以下、ちょっとオマケで一レス
 (見てないと思うけど)元ネタ作者様、失礼いたします

 うん。ちょっとやってみたかったんだ。
681: 中二ですの 2012/12/06(木) 23:42:41.33 ID:b9m+j/x0o

 気が付くと、黒子は知らない道を歩いていた。
 いや、知っている道なのだけれど、何故か現実感が妙に薄い。
 


 お姉……さま?

「あ、黒子だ」

 お姉さまですの

「うん」

 ……なんだか、違いますの

「黒子は凄いね。わかるんだね」

 不思議ですの
 どうしてですの?

「わかんない。まだ中二だし」

 お姉さまは中二ですの

「うん。黒子は中一」

 中一ですの

「あ、もう行かなきゃ」

 さよならですの?

「うん。それじゃあ、バイバイ」

 バイバイ、ですの
 
685: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/07(金) 01:30:25.22 ID:W3LG9nZwo
乙、懐かしいネタとコラボしたなww

御坂美琴 中二シリーズまとめ



次スレ:

黒子「じゃっじめんと、ですの」【後編】


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