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黒子「じゃっじめんと、ですの」

1: ◆NOC.S1z/i2 2012/01/28(土) 18:16:42.85 ID:taakegjCo

 とあるのSSです

 黒子は正義のじゃっじめんと
 
 合言葉は、「黒子可愛いよ黒子」

 短い話をちょこちょこと投下します

 最初は、総合に投下した三短編と、短い掌編一つ。

 

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1327742202(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
2: 「もっこもこですの」 2012/01/28(土) 18:17:37.96 ID:taakegjCo
 
 ある冬の寒い日。
 特にこれといった用のない美琴は、部屋に籠もって図書館から借り出した本を読んでいた。
 せっかくの休日だけれども、とりあえず外出する用事はない。
 寒いし。
 部屋は暖かいし。

 んしょ、んしょ

 ふと気が付くと、黒子が外出の準備をしている。

「黒子、何処か行くの?」

 じゃっじめんと、ですの

「あー。巡回か。寒いのに大変ね。えらいえらい」

 ふんす、と黒子は胸を張る。
 誇らしそうなその姿に、美琴はクスクスと笑いながら頭を撫でる。

「そっか。それじゃあ風邪ひかないように、ちゃんと服着ないとね」

 はっ、と何かに気付いた黒子が素早く身を翻そうとしたところを、さらに素早く捕まえる美琴。

「こぉら、駄目駄目。面倒くさいとか動きづらいとかじゃなくて、ちゃんと厚着しなさい」

 美琴はてきぱきと黒子に上着を着せる。
 黒子は嫌々と抵抗するけれど、美琴は無視して服を着せていく。

「はい、コートは貸してあげる。それ、温かいのよ」

 着ぶくれた黒子は、真ん丸な姿になってすっくと立っている。

 もっこもこ、ですの

「んー。ちょろっと動きにくいかな? 歩いてみて?」
3: 「もっこもこですの」 2012/01/28(土) 18:18:07.56 ID:taakegjCo
 
 黒子は言われたとおりに歩き出す。
 足を前に、というよりも、重心移動でえっちらおっちら、と。
 左右に揺れながら、えっちらおっちら。

「うん。歩けるわね。走るのは難しいけれど、テレポートできるからその辺りは大丈夫よね」

 黒子は頷いた。

 行ってまいります

「はい、いってらっしゃい。気をつけてね。なんかあったらすぐ連絡するのよ」

 黒子は立ち止まると首を振る。

 お姉さまは、ジャッジメントではありませんの
 ですから危ないことに近づいてはなりません

「何言ってんのよ。私はジャッジメントの手伝いなんてしないわよ」

 首を傾げる黒子に、美琴は続ける。

「私は、大事な可愛い後輩を助けに行くの。後輩を助けるのが先輩の努めでしょう?」

 てれてれ

「ほらほら、そんなところで照れてないで、早く行かないと、固法さんに怒られるわよ」

 今度こそ、行ってまいりますの

「はい、いってらっしゃい」

 もっこもこになった黒子は、寮を出ようと歩き出す。
 部屋を出て、玄関まで辿り着いたところで、

「どうした、白井、外出か?」

 寮監が玄関口に立っていた。
 どうやら、生徒の出入りを見守っている様子。

 じゃっじめんと、ですの

「そうか、この寒いのにご苦労だな。よし、行ってこい」
4: 「もっこもこですの」 2012/01/28(土) 18:18:36.56 ID:taakegjCo
 
 行ってまいります

 とっとこ歩き出した黒子に、寮監は再び声をかける。

「あ、いや、待て。白井。いいか、そこで少し待っていろ」

 黒子が素直に待っていると、すぐに寮監が帰ってくる。
 その手には、シックな茶色のマフラー。

「今日は寒くなると天気予報で言っていたからな。これを貸してやろう。ほら、こっちに来い」

 黒子を引き寄せると、その首にマフラーをしゅるしゅると巻く。

「どうだ? 白井」

 もっこもこでぬっくぬく、ですの

「それは良かった。温かくして行ったほうがいいからな」

 行ってまいります

「あまり遅くならないようにな」

 はい、ですの

 寮を出たところで時計を見た黒子は、集合時間にやや遅れていることに気付く。
 仕方がないのでテレポート。
 何度目かのテレポートの結果、着いたところは黒子の所属するジャッジメント支部。
 かちゃりと戸を開けると、既にそこには固法先輩と初春の姿が。何故か佐天も。

 ごめんなさい
 遅れましたの

「ああ、白井さん、大丈夫。時間通りよ」

 固法が言い、初春が目を輝かせる。

「白井さん、随分温そうな格好ですね」
5: 「もっこもこですの」 2012/01/28(土) 18:19:02.86 ID:taakegjCo
 
 もっこもこでぬっくぬく、ですの

「いいなぁ。それ、御坂さんのコートですよね。そのマフラーもですか?」

 満面の笑みで嬉しそうに頷く黒子。
 お借りしましたの
 マフラーは寮監さまからですの

「今日は寒いですからね。私も毛糸装備ですよ」

 手を挙げて、くるりと回って、

「ほら、毛糸の手袋に毛糸のマフラー」

 そこに佐天の手が伸びる。

「あと、毛糸のパンツ。そーれぇ!」

 ふわり、と初春のスカートがめくれた。
 慌ててスカートを押さえる初春。だけど黒子には、毛糸のパンツがハッキリ見えてしまった。

 おー、毛糸ですの

「佐天さん、なにするんですか!」

「いや初春、今のは明らかにネタ振ってたよね。捲ってくれって合図したよね?」

「ち、違いますよ」

「またまたぁ。見せたかった癖にぃ」

「違いますってば!」

「いい加減にしなさい。騒ぐようならここから叩き出すわよ」

 固法に言われて慌てて口を閉じる佐天と初春。
 
 それでは、私は巡回に行ってきますの

6: 「もっこもこですの」 2012/01/28(土) 18:19:29.13 ID:taakegjCo
 
 黒子が一礼して出ようとすると、

「あ、待ってください、白井さん」

 ? と立ち止まる黒子。

「温かそうですけれど、頭だけがなんだか寒そうですよ、これ被ってください」

 差し出したのは毛糸の帽子。
 毛糸の色は手袋、マフラー、そしてパンツと三つお揃いだ。

 よろしいの? と首を傾げる黒子に初春は頷く。

「これ全部セットで佐天さんに貰ったんですけれど、私、帽子は駄目なんです」

 佐天も頷き、

「うん。初春のそれのこと、うっかり忘れてたんだよね。ショックだけど、勿体ないから良かったら白井さんが使ってください」

 初春が示しているのは頭の花飾り。
 確かに、花飾りを付けたままでは毛糸の帽子はかぶれない。
 黒子は、謹んで毛糸帽を受け取ることにした。
 初春が手を伸ばし、黒子に帽子を被せる。

「あはっ、ピッタリですね」

 ぬっくぬく、ですの

「白井さんも完全防寒装備ですよ」

 ぬっくぬくのもっこもこ、ですの
 では、巡回に行ってきますの

「はい、私はここでモニターしてますから。何かあったらすぐに連絡してくださいね」

 えっちらおっちらと、詰め所を出て行く黒子。

7: 「もっこもこですの」 2012/01/28(土) 18:20:03.23 ID:taakegjCo
 
 詰め所を出てから十数分後、黒子は事件に遭遇することになる。

 それは、非常に些細な出来事から始まった。

 一人の青年が一万円札を一枚落としたのだ。
 財布に入っていたわけではない。何かの買い物をしたときに、一枚だけをポケットに入れていたのだろう。
 その札を、別の青年が拾う。
 拾った青年は、ネコババをするつもりなどなく、落とした青年に声をかける。
 落とした青年が礼を言って受け取れば、それで全てが終わるはずだった。
 しかし……
 落とした青年が、ホストとチンピラを足して二で割ったようなイケメン、
 拾った青年が、白髪の細い青年でなければ……
 
「おィ、落としもン……あァ?」

「あ、悪ぃ……ああ?」

 拾ったのは学園都市第一位一方通行。落としたのは同じく第二位垣根提督だった。

「あァ? 落としもンとは、垣根くンもいよいよ惚けてきたンですかねェ」

「はあ? 落とすわけねえだろ。モヤシみてえな貧相で惨めな男を見かけたから、あまりに哀れで恵んでやってんだよ」

「あァン? 誰が惨めだって?」

「こらてめぇ、誰が惚けたって?」

「おィおィ、今日から第二位が消えて第三位以下が全員繰り上げだァ、美琴も大喜びするンじゃなィですかねェ」

「はっ、第一位が死んで下位全員繰り上げか。御坂のやつも大喜びじゃねえか」

 麦野や食蜂を喜ばせるつもりは二人ともにないらしい。
 勿論、削板は論外だ。

「垣根くゥン、ちょっと息止めてくれるかなァ? 百年ほど」

「てめえが死ねっ!」

 じゃっじめんと、ですの
8: 「もっこもこですの」 2012/01/28(土) 18:20:29.67 ID:taakegjCo
  
 二人の動きが止まった。
 二人の間に突然現れたのは、茶色のもっこもことした丸っこい物体。
 いや、おそらくは着膨れた人間。

「……なンなンですかァ、このもっこもこはァ!?」

「……温かそうだな」

 喧嘩の制止、ですの
 暴力は駄目、ですの
 じゃっじめんと、ですの

「……いや、だから誰だって」

 じゃっじめんと、ですの

「お、おい、一方通行、こいつは……」

「あァ?」

「着膨れのもっこもこでわかりにくいが、白井黒子じゃないのか?」

「ジャッジメントの?」

「ああ」

「美琴の後輩の?」

「御坂の後輩の」

「あ」

「どうした、一方通行」

「よく見たら、こいつの着てるの、常盤台……いや、美琴のコートじゃねェか」

「な……んだと……? つかお前、なんでわかるんだよ」 

「第一位なめンな」

 二人の鋭い視線を向けられても、黒子は動じない。

9: 「もっこもこですの」 2012/01/28(土) 18:20:50.89 ID:taakegjCo
 
 じゃっじめんと、ですの
 喧嘩は駄目、ですの

「おい、そのコート、温いのか?」

 垣根の問いに頷き、

 ぬっくぬく、ですの

「着心地良ィのか?」

 一方通行の問いに胸を張る。

 フローラルな香り、ですの

「フローラル……だと?」

「くっ……さすがは第三位、超電磁砲御坂美琴ってわけか」

 つい先ほどまで殺気に満ちあふれていた二人の様子に黒子は当惑するけれど、それでもジャッジメントは負けない。

 じゃっじめんと、ですの
 喧嘩はおしまい?

 黒子の言葉で顔を見合わせる二人。
 そういえば、さっまで一触即発だったような気がする。

「おゥ、これ、落としただろ」

 一万円札を再び差し出す一方通行。
 垣根は汚いものでも見るように札を見下ろす。

10: 「もっこもこですの」 2012/01/28(土) 18:21:24.21 ID:taakegjCo
 
「知るか。お前の触った札なんぞいるか。モヤシが伝染る」

「あ? 垣根菌のついた札なンか、まともに触ると思ってンですかァ? 反射して宙に浮かしてンですけどォ?」

「器用なことしてんじゃねえよ」

「いィからさっさと受け取ってくれませンかねェ、反射とはいえ手が腐りそォなンで」

「恵んでやるっつってんだろ、金拾うなんてだせえことしやがって。あれか、毎日下向いて金探しまわってんのか、世知辛いなぁ、第一位」

 黒子は二人のやりとりをきょろきょろと目で追っている。
 そして、理解した。
 これはお金のやりとりをしているのだと。
 一方通行が拾ったお金を、垣根提督が受け取り拒否しているのだと。
 お金は大切なものである。
 自らもレベル4であり、実家もそれなりの資産家である黒子はお金に困ったことはない。
 それでも、お金の大切さは幼少時よりしっかりと叩き込まれている。
 だから、垣根が受け取り拒否する理由がわからない。
 これが一方通行によるネコババであり、取り返そうとする垣根との争いならば理解できる。

 じゃっじめんと、ですの

 しかし、黒子は動いた。
 争いは止めなければならない。
 なぜなら、黒子は誇り高きジャッジメントなのだから。
 
 二人の動きは、黒子の行動によって再び止まる。
 二人の視線は黒子、いや、黒子の取りだしたものへと。
 
「なンだ、そりゃ」

「おい、わけわかんねえぞ、嬢ちゃん」

 そこには二枚の五千円札。
 黒子は一方通行の手から一万円札を奪うと、五千円札を一枚ずつ一方通行と垣根に渡す。

 はんぶんこ、ですの

11: 「もっこもこですの」 2012/01/28(土) 18:21:50.44 ID:taakegjCo
 
「いや、そォいゥ問題じゃ……」

 はんぶんこ、ですの

「あのな、嬢ちゃん……」

 はんぶんこ、ですの

 黒子の意思は硬い。
 ジャッジメントは退かない媚びない顧みない。

「話は聞かせて貰った!」

 第三の男の乱入に、思わず身構える二人。

「……ちっ、三下ですかァ」

「なんだ、上条か」

「二人とも、くだらないことで争ってんじゃねえよ。周りの人がびびってるっての」

 二人の間に入る上条。

「それが第一位と第二位のやることか?」

 いつの間にやら上条の手には五千円札が二枚。

「というわけで、争いの元は上条さんが没収のことですよ」

「あ、てめェ」

 垣根が咄嗟に黒子に向き直る。

「おい、ジャッジメントの嬢ちゃん。あいつ、泥棒の現行犯だ」

 じゃっじめんと! ですのっ!

「え、ちょっと待て、白井! お……ぐっがふっ」
12: 「もっこもこですの」 2012/01/28(土) 18:22:18.07 ID:taakegjCo
 
 必殺テレポドロップキック改め、もっこもこテレポドロップキックがツンツン頭に炸裂する。
 ノーバウンドと言うほどではないけれど、結構な仰け反り方でもんどり打って倒される上条。
 すかさず駆け寄った垣根は五千円札を回収。

「オッケー、取り返した、ありがとよ。ジャッジメント」

 垣根の賞賛に、ふんすっと胸を張る黒子。

 勝利、ですの

 一方通行は上条を助け起こしている。

「おォい、生きてるかァ?」

「な、なんとか……」

 上条を助け起こしたまま顔だけ振り向いて、

「で、その金は結局どうすンですかァ、垣根くン」

「あー、なんか、白けたというかケチがついたというか……」

 垣根が上条を見た。上条は垣根の視線に疑問符を飛ばす。

「よし、上条、この金で頼むわ」

「は?」

「鍋やろうぜ、鍋。寒いし。腹減った」

「いや待て、なンでそォなる」

「別に上条さんは構いませんが……というか、食費が浮くのは嬉しいけど……魚で良いか?」

「待て馬鹿、肉に決まってンだろ」

「てめ、やる気満々じゃねえか」

 仲が良いのか悪いのか、言い争いながらもまとまっていく三人を背景に、黒子はその場から去っていく。
 ジャッジメントは忙しいのだから。
13: 「もっこもこですの」 2012/01/28(土) 18:22:44.44 ID:taakegjCo
 
 支部に戻って、報告を住ませると結構な時間になっていた。
 黒子は常盤台の寮へと帰っていく。
 もう、夕飯の時間が近い。

 お腹ぺっこぺこ、ですの

 働いた後のご飯は美味しい。
 だから、今日のご飯もきっと美味しい。
 お姉さまと一緒に食べるともっと美味しい。
 だから、黒子はご飯が楽しみだ。

「お帰り、黒子」

 お姉さま、ただいま戻りましたの

「あれ? その帽子とマフラーどうしたの?」

 黒子はそれぞれについて説明する。
 帽子は初春から。マフラーは寮監から借りたのだと。

「そっか。だったら、初春さんには明日お礼言わないとね」

 寮監さまにはこれから言いますの

「そうね。今からちょうど夕飯だし。一緒に行こうか、黒子」

 はい、お姉さま

「ところで黒子」

 はい

「今日の巡回はどうだった?」

 学園都市は、今日も平和でしたの 

14: 「もっこもこですの」 2012/01/28(土) 18:24:53.01 ID:taakegjCo



 以上、「もっこもこですの」でした

 引き続き、二話目「おむかえですの」を投下します


 
15: 「おむかえですの」 2012/01/28(土) 18:26:15.00 ID:taakegjCo
  
「もしもし、黒子? うん、少し遅くなりそうだから。傘? え、雨降ってる? んー、なんとかするわよ。じゃあね」

 お姉さまに傘を届けますの

 黒子は耐寒完全装備。マフラーも毛糸の帽子も装備している。
 だから、もっこもこ。
 このマフラーは先日寮監に借りていたものだけど、ジャッジメントの活動のご褒美だ、と言って寮監がプレゼントしてくれた。
 毛糸の帽子は初春からのプレゼント。佐天から初春へのプレゼントだったけれども、頭に被れない初春が黒子に譲ってくれたのだ。
 今では二つとも、黒子のお気に入り。

 では、行ってまいりますの

「あれ? 黒子ちゃん、どこ行くの?」

 寮監に声をかけて寮を出ようとした黒子に声が掛かる。

 ……?
 
 きょろきょろと辺りを見回す黒子。
 周囲には誰もいない。

「こっちこっち」

 テレパシーですの!

「違う違う。そんなことしないから」

 玄関口の死角から姿を見せるのは、見知った姿。

16: 「おむかえですの」 2012/01/28(土) 18:26:41.14 ID:taakegjCo
 
 食蜂さま?
 かくれんぼですの?

「違うってば。今からお出かけ?」

 学園都市第五位心理掌握こと食蜂操祈だ。
 普段は学校以外、寮どころか部屋から出る事さえほとんど無いのに、こんな所にいるのは珍しい。

 はい、ですの

「ふーん。それじゃあ御坂さんは独りぼっちでお部屋かな? 操祈、遊びに行っちゃおうかな☆」

 お姉さまもお出かけ中、ですの

「むーっ、残念。たまには御坂さんと、って思ったんだけどぉ~……ねえ、代わりに付き合わない?」

 黒子も今からお出かけですの

 ふるふると首を振る黒子。

「あーん。操祈、また黒子ちゃんに振られちゃったぁ、悲し~なぁ、ぐすん☆」

 ごめんなさい、ですの

 深々と頭を下げる黒子に、慌てて手を振る食蜂。

「あれ、違うの、違うのよ? 私がわかってて無理言ってるだけだからね、いっつもいっつも黒子ちゃんの忙しそうなときばかりに声かけて、こっちこそごめんね?」

 黒子に頭を上げさせると、それじゃあ、今度こそ、御坂さんも入れて三人でケーキでも食べましょうね、と約束して食蜂は去っていく。
 その後ろ姿を見送った黒子は、マフラーを巻き直して玄関を出た。

17: 「おむかえですの」 2012/01/28(土) 18:27:07.43 ID:taakegjCo
 
 雨が降っている。
 黒子は傘を差す。
 ちゃぷちゃぷと水たまりを踏みながら歩いていくと、普段は通り過ぎるコンビニから小さな影が走り出してきた。
 驚く黒子は咄嗟に避けるが、小さな影はそれとは関係なく転んでしまう。

「あうっ」

 そっと近づくと、小さな女の子。
 金髪の、西洋人だろうか? とても可愛らしい子だ。

 大丈夫?

「あうう、大体平気。にゃあ」

 雨の中に走り出して、さらに転んだために泥だらけだ。

 平気じゃないですの

 黒子は女の子を屋根のある場所まで引っ張ると、横にしゃがみ込む。

 じっとしててくださいまし

 ひゅんひゅんと、テレポートで飛ばされる泥土や汚水。

「お姉ちゃんすごい。にゃあ」

 でも、テレポートで全ての汚れが消える訳じゃない。
 黒子がレベル5だったら、「人体以外を飛ばす」というやり方で考えれば出来るかも知れないけれど。
 レベル4の黒子では、それぞれ汚れを指定しなければならない。それでは、完璧に汚れを除去するのは無理だ。

 少し待っててくださいまし

 少女を置いてコンビニに入ると、黒子は包みを一つ。
 そこからタオルを出して、少女の足や手を拭き始める。これで、服の汚れ以外はおおかた取れてしまった。
 さらに、包みの中からもう一つ。

18: 「おむかえですの」 2012/01/28(土) 18:27:33.81 ID:taakegjCo
 
 召し上がれ

 ほかほかのアンマンが一つ。

「えっと、食べていいの?」

 召し上がれ

「いただきます」

 食べ始める少女に、黒子は名前を尋ね、自己紹介。
 少女の名前はフレメア・セイヴェルン。

「黒子お姉ちゃん、大体覚えた」

 急に走り出してきたこと、雨の日なのに傘も差していないことを合わせて注意しようとすると、

「温かくて甘いもの、ごちそうさま。にゃあ」

 再びフレメアが走り出そうとする。

 お待ちなさい

 テレポートでその正面に立つと、ビックリしてフレメアは立ち止まる。

「お姉ちゃん、能力者?」

 そうですの

「お兄ちゃんの敵?」

 敵?
 ……フレメアの敵ではありませんの

「……だったら、お兄ちゃんの味方?」

19: 「おむかえですの」 2012/01/28(土) 18:28:00.07 ID:taakegjCo
 
 はて、お兄ちゃんとは誰のことなのか。
 黒子にはわからない。
 そもそも敵味方といきなり言われても。
 黒子の敵は治安を乱す不逞の輩である。
 ではフレメアのお兄ちゃんは不逞の輩? そうは見えない。フレメアは良い子に見える。お兄ちゃんも悪人ではないだろう、多分。
 でも……

 少なくとも、フレメアの敵ではありませんわ

「にゃあ」

 フレメアが一枚のメモを差し出した。それは手書きの地図。
 簡略されすぎていて一見なんだかわからないけれど、ジャッジメントとして街の隅々まで目を凝らしている黒子にはわかる。

 ここにフレメアのお兄さまがいますの?

「大体、いる。にゃあ」

 では、参りましょう

 黒子はフレメアの手を引いて歩き出す。
 すると、くちゅん、とフレメアがクシャミ。
 黒子はマフラーを外すと、フレメアにしっかりと巻き付ける。

 マフラーぬっくぬく、ですの

「ぬっくぬく、にゃあ」

 そして二人は再び歩き始める。

20: 「おむかえですの」 2012/01/28(土) 18:28:30.03 ID:taakegjCo
 
 
 
「……駒場、遅いな」

「だったら、俺らも行くか?」

「行くかって……俺らはここ任されてるしなぁ」

「なに、心配ないだろう。あいつだったら、そこらの能力者程度じゃびくともしないからな」

「ああ、そっちの心配はしてねえよ」

「フレメアのほうか?」

「まさか迷子になるとはなぁ……うまいこと見つかりゃいいけど」

「お前が目を離すからだ、浜面」

「すまん、半蔵」

 ここですの?

「大体、あってる。にゃあ」

 未知の声と特徴ありすぎる既知の声が一つずつ。
 浜面と半蔵は咄嗟に銃を構えると声の主へ向ける。
 さっきまで確かに気配はなかった。
 二人とも、それについては断言できる。

「能力者か」

 じゃっじめんと、ですの

「浜面にゃあ」

「フレメア?」

「黒子のお姉ちゃんが連れてきてくれた。にゃあ」

「ジャッジメントは、迷子の案内もしてくれるってか?」

 走り寄るフレメアを半蔵に任せ、浜面は銃の照準を外さない。

21: 「おむかえですの」 2012/01/28(土) 18:28:56.30 ID:taakegjCo
 
「で、ここがどこだかわかってるんだよな?」

 黒子はきょろきょろと辺りを見回す。
 いつの間に合図したものか、周囲はチンピラ……いや、スキルアウトだらけだ。
 
「黒子のお姉ちゃんは……」

「フレメア、すまん。ちょっと黙ってろ」

 半蔵がフレメアをその場から離れるように連れて行く。浜面は動かない。

「あの子のことは感謝するが、それとこれとは話は別だ。この場所を知られたのはこっちのミスだが、むざむざ教えたままってのも、困るんでな」

 連れて行かれるフレメアの視線を向ける黒子。
 そして、そのまま浜面をじっと見る。

 迷子は届けましたの

「それで済むと……」

「……世話をかけた」

 ぬう、と浜面の反対側、出口のほうから巨体が姿を見せる。

「話は聞いた。知り合いが世話になった。礼を言う」

「いいのか、駒場」

「……その気なら、最初から大人数で乗り込んでくる」

 よほどの実力者でない限りな、と駒場は続けた。
 黒子は駒場を見上げる。そして浜面。いつの間にか戻ってきた半蔵を。
 そして、尋ねた。

 ロリコン、ですの?
 
「違えっ!」

 思わず叫ぶ浜面。
 何か色々なものが台無しになった瞬間だった。
22: 「おむかえですの」 2012/01/28(土) 18:29:23.32 ID:taakegjCo
 
「浜面、お前、女っ気がないと思ったら……」

「……フレメアに手を出すなよ」

「なんでアンタ達もそこでノって来るんだよっ! つか、俺に全部なすりつけるなぁっ!!」

 じゃっじめんと、ですの!

「あんたも、そこでジャッジメント言うなっ!!!」

 幼女の敵、ですの

「違えっ!」 

 ざわっ ざわっ とスキルアウトたちに動揺が広がる。

「お前らも本気で動揺するなーーーっ!」

 ざわっ ざわっ

「いい加減にしろ! 俺には、滝壺理后という歴とした……」

「なん……だと……」

「……浜面に女が?」

 ざわっ ざわっ ざわっ ざわっ
23: 「おむかえですの」 2012/01/28(土) 18:30:19.74 ID:taakegjCo
 
「なんで動揺が増えてんだよ!! ロリコンよりそっちのほうに納得できねえのかよっ!」

 虐められっ子、ですの

「誰のせいだーーーっ!」

「よし、今から浜面裁判だ、野郎ども、集まれ」

「え。なに、それ」

「……仕方あるまい」

「いや、待て。なんでそうなる、おい」

 ざわっ……もげろ ざわっ……もげろ もげろ もげろ 爆発しろ

「お前らどんだけ、女に縁がないのっ!?」

「そういうわけでジャッジメントの嬢ちゃん、これから立て込むんで、今日の所はこれで帰ってくれ」

「……フレメアのこと、重ねて礼を言う」

 失礼しますの

 黒子は身を翻すと、やや駆け足でその場を去る。
 やや経って、その背後から壮絶半分愉快半分の悲鳴が聞こえたかどうかは定かではない。

24: 「おむかえですの」 2012/01/28(土) 18:30:53.89 ID:taakegjCo
 
 
 
 黒子は急ぐ。
 お姉さまを迎えに行く予定が、迷子の相手をして随分遅れてしまっている。

「あれ? 黒子? 迎えに来てくれたの?」

 雨宿りをしているお姉さまがいた。

 傘、ですの

「ありがとう。……あれ?」

 美琴の視線が黒子の首筋で止まる。

 ???

「黒子、マフラーは?」

 そこでようやく黒子は気付く。
 マフラーをフレメアに渡したままであることに。

 お貸ししましたの

「マフラーを?」

 迷子がいましたの

 そして黒子はフレメアのことを美琴に話す。
 スキルアウトのことはオマケのようにちょっとだけ。

「そっか。ご苦労様。それじゃあ……」

 美琴は自分のマフラーを半分外して、黒子に回す。
 二人で一本のマフラー。

「これで、帰ろうか」

 ぬっくぬく、ですの

「うん。ぬっくぬく、ね」

 そして二人は、相合い傘で帰っていった。
25: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) 2012/01/28(土) 18:32:11.66 ID:taakegjCo


  以上、「おむかえですの」でした

  引き続き、三話目「なかよしですの」を投下します
26: 「なかよしですの」 2012/01/28(土) 18:33:04.36 ID:taakegjCo
 
 今日は日曜日。
 常盤台はお休み。そしてジャッジメントも非番の日。

「黒子、一緒にお出かけしようか」

 はい、ですの

 そそくさと支度を済ませる黒子。
 お姉さまのお誘いを断るなんて、そんなの白井黒子じゃない。
 だから、二人で一緒にお出かけ。
 まずはお昼ごはん。
 お姉さまは、メニューを見て悩んでいる。

 黒子は、パスタセットにしますの

「じゃあ私は……うーん……」

 店員が注文を取りに来ても悩み続けている美琴。

 お姉さま?

 黒子は席を立って、美琴の持っているメニューを覗き込む。
 するとそこには、

 (お子様ランチ・ご注文のお客様にはもれなくゲコ太人形付)

 黒子納得。美琴まっしぐら。

「えーと、あの、これを……」

 さすがに「お子様ランチ」と口にするのは恥ずかしいのか、美琴はメニューを指さす。

 店員はニコっと笑い、

「お客様。申し訳ありませんが、お子様ランチは13歳までのお客様にのみ提供することになっておりまして」

 御坂美琴14歳。
27: 「なかよしですの」 2012/01/28(土) 18:33:30.12 ID:taakegjCo
  
「え、あの。私、実は……」

「失礼ですけれど、御坂美琴さんですよね?」

 常盤台のエース。
 学園都市第三位。ファミレス店員だって知っている。
 有名人は辛いのだ。

 そこで黒子が手を挙げる。

 お子様ランチは私ですの

「かしこまりました」

 お姉さまは、パスタセットですの

「……ゴメンね、黒子」

 違いますの

 美琴は少し考えて、そして微笑む。

「そうね。ゴメンじゃなくて、ありがとう」

 やがて運ばれてくるパスタセットとお子様ランチ。
 黒子の前にはお子様ランチ。美琴の前にはパスタセット。

「こちら、お子様ランチにオマケのサービスのゲコ太人形です」

 ぽつねん、とテーブルに置かれるゲコ太人形。
 人形の目は黒子に向いている。
 黒子も人形を見た。
 二人の視線が合う。

 ゲコ太人形はお姉さまのお気に入り。
 これはきっと今夜、お姉さまと一緒に眠るのだ。
28: 「なかよしですの」 2012/01/28(土) 18:33:58.84 ID:taakegjCo
 
 しゃああああっ

 黒子は思わず威嚇する。
 お姉さまと同衾予定のカエルなので容赦しない。

 ノートレランスですの
 カエルの分際で、僭越はなはだしいですの

「それじゃあ、ありがたくゲコ太人形は貰うわね」

 そのまま、お子様ランチも自分の側に持っていく美琴。パスタセットは黒子の前へ。

「いただきます」

 いただきますの

 お昼ごはんを食べ終わったらお茶を飲んで。
 ケーキを食べて。洋服を選んで。

 くるんくるん

 黒子のツインテールも楽しげに揺れている。
 その様子に美琴も微笑む。

「うん。私も。久しぶりよね、黒子と二人は」

 お姉さまとデートですの

「そうね。デートよね」

 黒子の手を引く美琴と、その顔を見上げて笑う黒子。
 どこからどう見ても、常盤台のベストパートナー。

「あら、美琴じゃない」

「あ、麦野さん」
29: 「なかよしですの」 2012/01/28(土) 18:34:26.28 ID:taakegjCo
  
 そんな二人がばったり出逢ったのは、学園都市第四位、原子崩しこと麦野沈利。
 そして、

「こんにちは。えーと……」

 麦野に寄り添う小柄な女の子。

「こんにちは。絹旗です」

 窒素装甲こと絹旗最愛だった。

「この子も、麦野さんのチームに?」

「そう。なかなかの能力持ちよ」

「えーと、麦野さんのチーム、アイレムだっけ」

「スペランカーは作ってねえよ」

「アイテル?」

「十時からなら、って、店やってんじゃねえから」

「なんだっけ?」

「アイテム。いい加減覚えなさいよ」

「ごめん」

 でも、チームって羨ましいな、と美琴。

「美琴だって、チームみたいなものじゃない。ほら、そのこと、あと二人。花飾りのジャッジメントと黒い長髪の子」

「あー、初春さんと佐天さんね」

「それなりのチームなんでしょう? いくつかの事件に立ち向かったって聞いてるわよ」

「まあ、たまたまね、たまたま」
30: 「なかよしですの」 2012/01/28(土) 18:34:53.82 ID:taakegjCo
 
 謙遜しつつも、満更でもなさそうな美琴。

「チーム名、ないんでしょ? 巷じゃ、『超電磁砲組(レールガンズ)』なんて言われているみたいだけど」

「それね……」

 美琴はその名前が気に入っていない、なぜなら、その名前ではあたかも美琴のワンマンチームのようだから。
 佐天、初春、黒子。この中の誰が欠けたって駄目なのだ。だから、自分一人のワンマンチームのような名前は好かない。

「案はあるんだけどね。佐天さん達に却下されちゃうから」

「どんなのよ」

 聞きつつも、麦野はなんとなく予想がついている。

「ゲコ太団、とか」

 正解、麦野さん正解です。

「うん、それは私でも断る」

「ゲコ太、可愛いのにね」

「どう考えても、ワンマンチームより酷い名前よ?」

 こくこく
 
 黒子が必死に頷いている。

「……アンタも結構苦労してるのね」

 麦野の手が黒子に伸びた。
 他意はない。頭を撫でようとしただけ。
 だが。
31: 「なかよしですの」 2012/01/28(土) 18:35:22.09 ID:taakegjCo
 
「駄目ですよ、麦野」

 絹旗が麦野の手を取った。

「ホクロの癖に超生意気です」

 そのまま黒子に向かって自分の手を伸ばす絹旗。
 黒子は頭を押されて、後ろによろけてしまう。

 きゃう

 ぽすん、と黒子の身体を受け止める美琴。

「大丈夫?」

 もあいが押しましたの

「モアイじゃありません! 最愛です」

 黒子だって、ホクロじゃありませんの

「絹旗。あんたが悪い」

 麦野が絹旗の頭を押さえた。

「だって!」

「だってじゃないでしょ。最初に手を出したのはあんた。わかってる?」

 ううう、と絹旗は唸る。
 だって、と続けて。

「でも」

「は?」

「でもでもでも」

「あのねー、あんたいい加減にしないと……」
32: 「なかよしですの」 2012/01/28(土) 18:35:49.46 ID:taakegjCo
 
 ああ、と美琴は頷いた。

「麦野さん、ちょっと」

「なに?」

「耳貸して」

 そして耳打ち。
 麦野は神妙な顔で聞いていたが、やがて難しい顔になり、そして頷いた。

「んー。そっか……」

 複雑な顔で、それでも半分笑いながら、麦野は絹旗の頭に手を伸ばす。

「あんた、ヤキモチしてたんだ」

「なっ」

「そう言えばそうよね。滝壺は浜面に取られたし」

「ち、超違います!」

「フレンダはフレメアばっかりだもんね」

 絹旗の頭を撫でる麦野の顔は、半笑いからニヤニヤに変わっている。

「それで、私まで黒子ちゃんを可愛がったらもう堪忍袋の緒が切れたって?」

「だから、超違いますって!」

 麦野の手から頭を引き離す絹旗。

「いいのいいの。そっか。絹旗、可愛いね」

 ううううう、と唸る絹旗の顔は真っ赤だ。
 その絹旗の肩を誰かが叩く。
 振り向くと、そこには黒子。

「……なんですか」

33: 「なかよしですの」 2012/01/28(土) 18:36:17.68 ID:taakegjCo
 
 黒子は手を伸ばしていた。
 その手が、絹旗の頭に触れる。
 ニッコリ笑って、

 おともだち、ですの

「!!」

 今日から、おともだち、ですの

 絹旗は何も言わず、黒子にされるがまま立っている。
 黒子は、絹旗の頭を撫でている。

「麦野さん、ちょっとお願い。コンビニに行って来るから」

 突然の美琴の言葉。二人をニヤニヤと眺めていた麦野は思わず聞き返す。

「コンビニ?」

「うん。コンビニ。麦野さんは肉まんとあんまん、どっちがいい?」

「……中華まん」

「わかった」

 ほんの数分で戻ってくる美琴。手には温かそうな包みを抱えている。

「はい、麦野さん、中華まん。絹旗さんと黒子はあんまんね」

 三人にそれぞれ渡すと、自分はピザまんを手に取った。

「何これ、美琴?」

「ん? 寒いから温かいものがいいかなって」

「いや、そうじゃなくて」

「黒子と絹旗さんの仲直り記念」

「……ま、いいけど」

34: 「なかよしですの」 2012/01/28(土) 18:36:45.99 ID:taakegjCo
 
 いただきますの

「あ、ありがとうございます」 

「熱いから、気をつけてね」

 ぽとり、と落下音。
 四人の目は黒子の足下へ。

「あ」

「あー」

「あら」

 落としましたの

 呆然と、黒子は自分の足下を見つめている。

 そこには落下したあんまん。
 地面に倒れ臥すあんまん。
 お姉さまから貰ったあんまん。
 ほっかほかのあんまん。
 温かいあんまん。
 美味しいあんまん。
 甘いあんまん。
 今はもう、食べられないこのあんまん。
 きっと明日はありさんのご飯。
 ありさんに黒子からのプレゼント。
 その名はあんまん。

ありさん「黒子さんありがとう。これでキリギリスさんと一緒に冬が越せます」

 どういたしまして、ですの
 大事に召し上がってくださいな

35: 「なかよしですの」 2012/01/28(土) 18:37:14.28 ID:taakegjCo
 
「しょうがないですね」

 予期せぬ言葉に、俯いていた黒子は顔を上げる。
 そこにはあんまん。
 きれいに半分に割られたあんまん。
 絹旗が黒子に向けて差し出している。

「仕方ないから、超半分個です」

 黒子はハーフあんまんを見、そして美琴を見る。
 美琴はニッコリ笑って頷いた。

 戴きますの 

 ハーフあんまんを受け取って、黒子は頭を下げる。

 もぎゅ

 おいしい、ですの

「超美味しいです」

 もちろん、ですの

 美琴と麦野は顔を見合わせ、満足そうに頷いた。




 数日後……

「あれ、黒子、おでかけ?」

 絹旗さんの所に行ってきますの

「行ってらっしゃい。門限は守りなさいよ」

 はい、ですの
 
 黒子と絹旗はお友達。
36: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) 2012/01/28(土) 18:39:07.33 ID:taakegjCo


   以上、「なかよしですの」でした
 
   それでは、次が今回最後の投下、「かいしめですの」です
37: 「かいしめですの」 2012/01/28(土) 18:39:35.02 ID:taakegjCo
 
 今日も黒子は恒例パトロール。
 最近の学園都市は結構平穏だったりするのだけれど、それでも学生達は騒ぎを起こす。
 能力者達は無茶をする。
 スキルアウト達は暴れる。
 アンチスキルはやっぱりそれなりに忙しくて、ジャッジメントだって働いているのだ。

「あァ? 何言ってンですかァ!?」

 遠くから聞こえてくる怒鳴り声。
 遠いのにハッキリ聞こえる怒鳴り声。
 聞き覚えのある怒鳴り声。

 黒子は立ち止まり、声の聞こえてきた方向に目を向ける。
 そこにあるのは学園都市の何処でも見かけるコンビニエンスストア。
 店の入口で数人とやりとりしている声の主には見覚えがあった。

「自分の金で自分のもの買って、何が悪いンですかァ?」

「だって、買い占めじゃないですか」

「酷いですよ、俺らだってコーヒー欲しいのに」

「あァ?」

 ギロリ、と睨まれ、ヒィッと悲鳴を上げる青年。
 と、青年が黒子の存在に気付く。

「あ、そこのジャッジメントさん!」

 他の青年も同じく黒子に気付く。

「ジャッジメントさん、ここです!」
「ジャッジメント来た! これで勝つる!」

 じゃっじめんと、ですの
 何がありましたの?

38: 「かいしめですの」 2012/01/28(土) 18:40:13.63 ID:taakegjCo
 
「この人が、コンビニのコーヒーを買い占めたんです」

「他にもあるだろォが」

「ブラックコーヒーを買い占めたんです」

「在庫を切らした店が悪ィな、うン」

「金に物言わせて全部買ったんだぜ、こいつ」

「実験協力して得た自分の金ですゥ、言われる筋合いありません」

 独り占めはいけませんの

「俺の金で買ったンですけどねェ?」

 飲み過ぎですの

 一方通行の両手には、コンビニ袋にぱんぱんに詰め込まれた缶コーヒー。

「俺ァ、コーヒー飲まねェと死ぬンだよ」

 死にますの?

「あァ、死ぬな」

 病気ですの?

「そォかもなァ」

 黒子はポケットから携帯電話を取りだした。
 そして何処かに電話をする。

 自分の病気について何処かに聞くんだろうか、
 それにしても本気にするとは……と、一方通行は思う。

 もしもし
 冥土帰しさまの病院ですの?
 はい
 精神科お願いしますの

「そっちの病気じゃねェ!!」
39: 「かいしめですの」 2012/01/28(土) 18:40:36.97 ID:taakegjCo
 
 精神の病ではないらしい、と黒子は知った。

 ビョーキかと思いましたの

「……実はてめェ、無礼者だろ」

 じゃっじめんと、ですの

「それは知ってますゥ。白井黒子さンですゥ」

 てれてれ

「おい、そこで照れンな、勘違いする奴が出てくるだろォが」
 
 ふんす

「威張ってどうするンですかァ? 普通にしてくれませンかねェ」

 コーヒー、返すんですの

「……俺が普通に買ったンですけどォ?」

 コーヒー、好きですの?

「大好きですゥ」

 黒子は背後の青年達を示す。

 この人達も大好きですの
 独り占め、されますの?
 一人で全部、飲まれますの?

「……ちっ」

 一方通行は、一つの袋を地面に降ろした。

「わかったよ、これは譲ってやる」

40: 「かいしめですの」 2012/01/28(土) 18:41:53.73 ID:taakegjCo
 
 おいくらですの?

「あ? ケチくせェこと言わせないでくれませンかァ? タダでくれてやるって……お?」

 一方通行は自分の携帯電話の着信に気付く。

「あァ? はいィ? 新しい実験っ? レベル6? はァ? ああ、わかった、わかりましたァ、とにかく話だけは聞いてやる」

 携帯をポケットに戻し、黒子と青年達に顔を向ける一方通行。

「このコーヒーはくれてやる、好きにしろォ」

 ありがたくいただきますの

「じゃあな」

 一方通行が背を向け去っていくと、青年達はコーヒーに手を伸ばす。

「ジャッジメントさん、ありがとう」
「ありがとう」
「白井さんもコーヒー、飲んでくださいよ」

 いただきますの

 カコン、とプルトップを開けて、一口。

 ……

 ブフォッ

 苦くて吐き出した。

 この日黒子は、ブラックコーヒーの苦さを学んだ。
41: ◆NOC.S1z/i2 2012/01/28(土) 18:43:00.10 ID:taakegjCo


 以上、お粗末様でした。

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。
58: ◆NOC.S1z/i2 2012/02/02(木) 20:58:16.29 ID:PsrNr+K4o
投下します。

今回のタイトルは「うわさですの」

59: 「うわさですの」 2012/02/02(木) 20:59:04.57 ID:PsrNr+K4o




 これは、とある二つの噂が流れ始めた頃のお話。
60: 「うわさですの」 2012/02/02(木) 20:59:51.47 ID:PsrNr+K4o

  
「全員集合!」

 固法の指示で二列に並ぶ一同。
 列の先頭にいるのは黒子と初春。
 二人はいつもの制服姿ではなく、トレーニングウェア姿。
 今日は各地区風紀委員の合同訓練の日。

「初春頑張れ! 白井さんも頑張ってくださいね!」

 何故か、グラウンドの片隅ではお弁当箱を抱えた佐天さん。
 別に極秘訓練というわけではないので、見学自体は許可されている。

 行きますの

 まずは能力を封じた組み手から。
 黒子の格闘能力は高い。互いに能力を封じればレベル5のトップ3に勝てるのではないかとも言われている。
 ただし、元々の肉体能力が高い第四位と第七位は別格。
 第五位は、格闘能力で劣る相手を捜すのが難しいレベル。

 とりゃ、ですの
 うりゃ、ですの
 おりゃ、ですの
 ちぇすと、ですの

 もっとも、実際にどれほど強くても見た目からすると全く強そうに見えないのが困ったところ。
 なにしろ、抑止にならないのだから。
 見た目だけで相手を脅かすことの出来るタイプとは違うのだ。
 どちらかと言えば、見た目で騙して寸鉄刺すタイプである。
 それは治安維持側と言うより暗殺者の得意技だ。
 それでも、黒子の能力と精神は固法も認めている。

 じゃっじめんと、ですの

 白井黒子は何処に出しても恥ずかしくない、一人の立派な風紀委員なのだ。
61: 「うわさですの」 2012/02/02(木) 21:00:24.19 ID:PsrNr+K4o
  
「あうううう」

 休憩時間、萎れた花のように弱々しく転がる初春を佐天が甲斐甲斐しく介抱している。

「初春ー、死ぬなー」

「もう駄目です、佐天さん」

「死んだらスパッツ脱がすぞー」

「なんでそうなるんですか」

「だってスカートじゃないから捲れないし。サービス悪いよ、初春」

 なかよしですの

「ほら初春、白井さんが妬いてるよ」

 違いますの

「どうしよう、初春。白井さんが『この泥棒猫』っていう目で私を睨んでいるよ」

 にゃあ

「どうしよう、初春。白井さんが猫になっちゃった」

「何やってるんですか。そもそも白井さんには御坂さんというパートナーがいるんですから」

 てれてれ

「あ、照れてる」

「白井さん、初春さん、そろそろ休憩は終わりよ。佐天さんは見学者席のほうに行っててね」

「はーい」
62: 「うわさですの」 2012/02/02(木) 21:01:00.30 ID:PsrNr+K4o
  
 そして数時間後。
  
「……」

「初春?」

「……」

「うーいーはーるー」

 うごきませんの

「よし、スパッツを脱がそう」

「あうあう……どうしてそうなるんですか」

 生きてますの

「不死身の初春だね」

「死んじゃいますよ、こんな訓練」

「白井さんは平気みたいだよ」
 
 ふるふる、と黒子は首を振る。

 疲れてますの
 疲労困憊ですの
 滋養供給が必要ですの

「じゃあ、お弁当出しましょうか」

「佐天さんのお弁当!」

「あ、初春がまた生き返った」

「だから死んでません」
63: 「うわさですの」 2012/02/02(木) 21:01:32.25 ID:PsrNr+K4o
 
 分葱と刻み生姜の入った和風肉団子。シラス入り玉子焼き。スパイスを利かせた鶏の唐揚げ。タコさんウィンナー。ささみのインゲン巻き。
 プチトマト。中華風キュウリの和え物。タラコの混ざったポテトサラダ。ほうれん草のナムル。煮豆とひじき。
 梅おにぎり。おかかおにぎり。鳥ゴボウおにぎり。
 みかん。うさぎリンゴ。バナナ。

 おいしそうですの

「凄いですね、佐天さん」

「今日は初春と白井さんが頑張るって聞いてたからね、私も頑張ったのだよ」

 いただきますの

「いただきまーす」

「はい、召し上がれ」

 もぎゅっ はくはく

 両手で大きなおにぎりを掴んで一口。

「お茶もありますから」

 いただきますの

 こくこく

「白井さん、デザートの果物もありますよ」

 いただきますの

 もにゅもにゅ

 育ち盛りの女の子三人の前に、お弁当は次々と胃に収められていく。
 やがて最後のうさぎリンゴを初春が囓り、お弁当はキレイさっぱり無くなった。

「じゃあ、午後のプログラム始めましょうか」

 固法の非情な言葉に、初春の表情が固まる。
 一方、黒子は、張り切っていた。

 やりますの

「白井さん、元気良すぎですよぉ~」

 これくらい、当然の嗜みですの
64: 「うわさですの」 2012/02/02(木) 21:01:59.81 ID:PsrNr+K4o
 
 そしてさらに数時間後。
 一日の予定が全て終了すると、佐天の所へ黒子がやってくる。
 ずるずると、初春を引きずって。

「あうううう」

 ぼろぼろですの

 実戦訓練ではないし、初春の場合は黒子と違って組み手をやったわけでもない。単なる基礎体力向上のメニューだ。
 それでも、デスクワークメインどころかデスクワークオンリーと言っても良い初春にはきつすぎたようで。

 情けないですの

「初春? 生きてる?」

「生きてるからスパッツに手をかけないでください」

「むう、しぶとい」

 それでも、動けない初春の様子に、佐天は腕を組んで首を捻る。

「しょうがないな。寮まで送ってあげるよ」

「お願いします」

 では、初春は佐天さんに任せますの

「はい、任されました」

 ごきげんよう、ですの

「はーい、白井さん、またね」

 黒子はテレポートを使わずに歩いて駅へと向かう。
 学園都市内環状線には使えば、常盤台前という駅がある。そこからなら寮はすぐ近くだ。

 駅に着いた黒子は、ちょうどやってきた電車に乗り込む。
65: 「うわさですの」 2012/02/02(木) 21:02:27.18 ID:PsrNr+K4o
 
 席は広々と空いていた。他の乗客は全くいない。人の少ない時間とは言っても、さすがにこれは珍しい。
 首を傾げつつも、黒子は座席に座る。
 
 疲れましたの

 ぽかぽかと暖かい、暖房のよく効いた車内。
 初春ほどではないけれど、疲れている黒子はついうとうとしてしまう。

 いけませんの

 こんな所で寝てしまっては、最悪寝過ごしてしまうかも知れない。

 寝ては……

 ぽかぽかと暖まる黒子。

 ……いけま……

 かくん、と頭が落ちた。

 ……せんの

 眠……

 ……

 …………
66: 「うわさですの」 2012/02/02(木) 21:02:54.36 ID:PsrNr+K4o
 
 ……

 温かい。
 そして良い匂いがする。
 これは、黒子の知っている暖かさと匂い。

 これは……

 お姉さま?

 そう、これはお姉さまの温もりと匂い。
 大好きなお姉さまの温もりが、身体半分から伝わってくる。

 ……お姉さま

 最近、忙しそうなお姉さま。
 今の黒子には、お姉さま分が不足している。
 だから、黒子はその温もりを精一杯に受け止める。
 お姉さまの匂いに甘えるように、身体を押し付ける。

 眠っているのか起きているのか。自分でもよくわからない。
 だけど、お姉さまがいることはわかる。
 自分の隣にお姉さまが座っていることはわかる。

 ……お姉さま

 どこか、微妙な違和感がほんの少し。ほんの少しだけあるけれど。
 今の黒子にはそんな些細なことはどうでも良くて。

 ……お姉さま

 ここにいるわよ、黒子。

 なんだろう。
 このお姉さまが何処かへ行ってしまうような気がして。

 黒子は伸ばした手をしっかりと握りしめる。

「で、どォなンですかァ?」

 誰かの声が、聞こえたような気がした。
67: 「うわさですの」 2012/02/02(木) 21:04:43.25 ID:PsrNr+K4o
 
「実験をしたいのかァ?」

「……ミサカは……」

「あァ?」

「ミサカは一台十八万円の実験用の道具です、とミサカは自己を認識します」

「それで?」

「ミサカは……。……」

「質問に答えてくれませンかねェ」

「ミサカの存在理由は簡単です。一方通行に殺されるための存在ですと、ミサカは訴えます」

「それが本音ですかァ? そいつは、もォいいンだな?」

「……」

「てめェのシャツの裾を掴んでいるそいつは、もォいいンだな?」

「!! ミサカは……ミサカは……」 

「どォなンだ」

「この子ともう一度会いたいです、とミサカは素直に述べます」

「だから?」

「ミサカは、死にたくありません!」

 御坂美琴のクローンは、眠る黒子の頭に優しく手を置いていた。

「あァ……それでいいンだよ、お前は」

「一方通行? とミサカは問いかけます」

「いィ、本音じゃねェか」

 いつの間にか、ミサカ00001号の前には六つの人影が。
68: 「うわさですの」 2012/02/02(木) 21:05:10.88 ID:PsrNr+K4o
 
「今の言葉ァ、忘れるなよ。てめェは生きることだけ考えてりゃいィンだ。ここから先は振り向くな、一方通行ってなァ」

 でも。と00001号は言う。
 この実験を統括しているのは、学園都市そのものかも知れないのに。
 逆らえばどうなるか。

「それがどうした。上に逆らわない? 上に従う? そんな常識、俺には通用しねえ」

 でも。
 でも。

「前から、妹が欲しかったのよね。ね、お姉さまの言うことは聞きなさいよ」

 レベル5と言っても、相手はそれを知り尽くした研究者たち。
 対応する武装だって所持しているかも知れないのに。

「はんっ、関係ねえよ。関係ねェんだよォ。クソッタレな研究者や武装集団なんざ、指一本動かさなくても100回ぶちのめせんだよ」

 それでも。
 ミサカのために皆が……

「アナタは生きたいのよね? 胸張りなさいよ~。人間の心からの強い意思なんて~♪、アタシにだって操れないんだからね☆」

 ミサカは……

「泥船、じゃなかった、大船に乗った気でいろ! 俺たちが、あいつらの根性叩き直してやる」
69: 「うわさですの」 2012/02/02(木) 21:05:49.20 ID:PsrNr+K4o
 
 …………

 !?

 黒子が目を覚ましたのは、電車が常盤台前駅に止まる直前。
 周りを見回しても誰もいない。

 夢ですの?

 なにか、とんでもない夢を見ていたような気がする。

 黒子は首を傾げつつ、電車を降りた。

 それから三日ほど、お姉さまは「レベル5の実験合宿」との事で帰ってこなかった。
 帰ってきたときはほんの少し足を引きずっていたのだけれど、お姉さまは笑って、

「うん。ちょっと頑張り過ぎちゃった」

 と言うだけ。




 超能力者達が性悪科学者とその取り巻きをぶちのめした。
 
 常盤台の超電磁砲には、そっくりな双子の妹がいる。

 これは、そんな二つの噂が流れ始めた頃のお話。
 

 

 
70: ◆NOC.S1z/i2 2012/02/02(木) 21:07:36.62 ID:PsrNr+K4o

 以上、お粗末様でした。

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。
81: ◆NOC.S1z/i2 2012/02/06(月) 00:42:19.00 ID:BLrGgTsQo

投下します


今回のタイトルは 「おこたですの」

82: ◆NOC.S1z/i2 2012/02/06(月) 00:42:40.88 ID:BLrGgTsQo
  
 
 ……ざわ ざわ……
 

 常盤台の寮。黒子と美琴の部屋に、三人の姿が。
 
「黒子、急で悪いんだけどお客さんが……あれ? いない。出かけたのかしら?」

「なに? あの子いないの?」

「おっかしいなぁ。今日は一日部屋にいるって言ってたのに」

「ざーんねん、黒子ちゃんいないんだぁ。操祈しょんぼりしちゃう☆」

「はいはい。私たちしかいないところでまでカマトトぶるのはいい加減にしろっての」

「ぶー。麦のん恐~い。助けて第三位~、第四位が第五位を虐めるの。ひっどぉーい☆」

「うん、ホントにいい加減にしてくれないかな」

「あらやだ、二人とも本気で冷たいゾ♪」

「付き合いきれないって言ってんの。あんまりしつこいとビーム撃つよ?」

「いいわよね、物理的に強い人って~、とぉってもぉ、わかりやすくて」

「おや珍しい。第五位ともあろう御方が自分の能力に不満?」

「いいじゃない、レベル5で精神系って食蜂さん一人なんだし。レアよ、レア。とんがり帽子ゲコ太並みにレアよ」

「操祈って、御坂さんの中ではカエルと一緒なんだ……ぐすん。とりあえず、褒め言葉として受け取っておくけどお」

「ま、とにかく入ってよ」

 麦野、食蜂を部屋に招き入れる美琴。
 常盤台の寮が珍しい麦野は周囲を見回すけれど、同じく常盤台の食蜂は特に感激もない。

「あれ?」

 それでも、食蜂の視線はある一カ所で止まった。
83: 「おこたですの」 2012/02/06(月) 00:43:07.43 ID:BLrGgTsQo
「こたつ?」

 二つのベッドに挟まれるようにしておかれているコタツがある。
 部屋の様子とはミスマッチなのだけれど、冬のコタツというものはそれ単体で得も言われぬ魅力がある。
 
 コタツは何処にあってもコタツ。薔薇がどんな名前で呼ばれようとも薔薇であるように。
 温かいものは温かい。ぬっくぬくはぬっくぬく。

「へえ、コタツいれたんだ」

 寮なので基本最低単位の家具は揃っているが、自前のテーブルや椅子を持ち込む生徒も当然いる。
 コタツだって、その気になれば持ち込み許可は出るだろう。

「しかも、掘り炬燵よ」

「へえ」

 麦野が早速座るけれど、食蜂は首を傾げている。

「掘り炬燵って……御坂さん、床に穴開けちゃったのお? 信じられなーい☆」

「さすがにそこまではしないわよ」

 美琴はコタツを指さす。

「この部屋の間取りだと、そこが床下収納の真上なのよ」

 普段使わないモノを片付けておくための床下収納。
 基本的に物持ちでない美琴と黒子の場合、床下収納は使っていなかったのだ。
 そこで、掘り炬燵の足を入れる場所に置き換えたわけだ。

「天板を高くしてハイタイプにしようかと思ったけれど、あれってあんまり温かくないし大きすぎるのよね」

「あー、アレだと寝ころべないしね。うーん、温かいねえ」
 
 既にコタツに入ってくつろぎながら、麦野がしみじみという。

「麦のん、おばさん臭ーい☆」

「よしわかった。死ね、リモコン女」

「麦野さん、部屋の中でビーム撃たないで!」
84: 「おこたですの」 2012/02/06(月) 00:43:35.49 ID:BLrGgTsQo

 
 それでも三人はそれぞれコタツに落ち着く。

「ねえねえ、ミカンないの? ちっちゃくてあまーいミカン♪ 操祈、おミカン食べた~い☆」

「天井?」

「げっ、そんな変態科学者はいらない」

「やめて、思い出したくない……」

 御坂美琴のDNAサンプルを使い、クローンを作り出していた男。
 一方通行を陣営に引き込もうとしたところ断られ、あまつさえ反抗されて全てを失った男。

「あの馬鹿、第一位にレベル6になれるってフカしたんだって」

「クローンを殺せば、なんて言ってたんでしょお? うー、気持ち悪っ」

「ま、それは断られること織り込んでたみたいだけど」

 三人は思い出す……
85: 「おこたですの」 2012/02/06(月) 00:44:02.67 ID:BLrGgTsQo

 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
「……やはり、君はそう言うと思った」

「なンだと?」

「一方通行、君の言うとおり、実験は中止しよう。安心したまえ。御坂美琴のクローンはこれ以上一人も失われないと約束しよう!」

「はっ、用意が良すぎるンじゃないですかァ。本当の狙いを言えよ、天井くゥゥうン!」

「だが、既に作られたクローンは12体! そのまま世に放つわけにはいかないだろう。だからこそ私は提案するのだ!」

 一方通行が……六人のレベル5が見守る中、天井は宣言した。

「美琴ちゃんハーレムの爆誕をっ!」

「よし行け、削板」

 すごいパーーーーーンチ

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
86: 「おこたですの」 2012/02/06(月) 00:44:29.21 ID:BLrGgTsQo

 
「……まさかあんな変態野郎だったとはね」

「思い出すだけで鳥肌立ってくるわよ!」

 訴えかける美琴を、食蜂は羨ましそうに眺めていた。

「でもねぇ。御坂さんよりも私の方が~、可愛いしスタイルもいいと思うんだけど。どうして操祈ちゃんハーレムじゃなかったのお?」

「え、そこに文句?」

「天井自体はどうでもいいけどぉ、なんというかぁ、女としてのプライドが……」

「ま、その辺りは天井の趣味だろうからね。愚痴ってもしょうがない。別にあんたに魅力がないって訳じゃないから」

「でもぉ」

87: 「おこたですの」 2012/02/06(月) 00:44:56.48 ID:BLrGgTsQo

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 通りすがりの皆さんに聞きました。
 おつき合いしたいレベル5女性は?

 匿名希望「あァ、まァ、強ィて言えば美琴かなァ」

 匿名希望「麦野、超麦野です」

 匿名希望「一人に絞るんは難しいなぁ、ボクの守備範囲は……(以下略)」

 匿名希望「えーと、御坂さんかなぁ」

 匿名希望「え? と言われてもビリビリくらいしか知らないから……あ、ああ、御坂美琴」

 匿名希望「私はむぎのを応援してる」

 匿名希望「御坂だろ、俺くらいのイケメンに釣り合うッてんなら、あいつくらいだ」

 匿名希望「そんなの、麦野に決まってるってわけよ」

 匿名希望 おね……御坂美琴、ですの

 匿名希望「どつきあい? うーん、一番腕力が強そうなのは第四位だろうな。よし、麦野だ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
88: 「おこたですの」 2012/02/06(月) 00:45:23.00 ID:BLrGgTsQo

 
「っていう結果が出てるんだゾ☆」

「待て、最後おかしいだろ、あの根性馬鹿、今度ゼロ距離で撃つ」

「正直、高位能力者になればなるほど、操祈の人気が落ちていっちゃう」

「高位能力者ほど、他人の能力にも敏感だからね。食蜂さんの能力って、警戒されやすいタイプだから」

「誤解されやすいのね、私って可哀想なの、慰めて、麦のん」

「はいはい、よしよし」

 食蜂の頭を撫でる麦野。

「…………」

「食蜂?」

 食蜂は動かない。

「……」

「食蜂操祈?」

 食蜂はぴくりとも動かない。
 心なしか頬が赤い。

「……」

「おい、リモコン女」

「はっ!?」

「何やってんの」

「……気持ちよくて……これが、第四位の力? 恐るべし第四位」

89: 「おこたですの」 2012/02/06(月) 00:45:52.33 ID:BLrGgTsQo

 
 ミカンの皮をめくってゴミ箱へ。
 ミカンの皮をめくってゴミ箱へ。

 ミカンの白い筋を取ってゴミ箱へ。
 ミカンの白い筋を取ってゴミ箱へ。

 そして一房もぐと、てへっと微笑みつつ、

「麦のん、食べる?」

「自分で食え」

「……御坂さん、食べる?」

「ううん。自分で剥くからいいよ」

「二人とも冷たい……ぐすん」

「泣き真似ウザいって」

 言いながらコタツの中の食蜂の足を蹴ろうとした麦野の動きが止まる。

「ん? ……美琴? あんた、コタツの中にぬいぐるみでも入れてる?」

「え?」

 美琴は自分のベットに目を向ける。
 七つのゲコ太抱きぐるみ(美琴命名ゲコタセブン。なにかありそうなあの七匹)はしっかり揃っている。

「私のは全部あるけれど」

「なんか、足に当たってるのよね、柔らかいものが」

「え」

 まさか。
 美琴はいきなりコタツ布団をめくり上げる。
 
「きゃん☆ 御坂さんのエッチ~♪」

 食蜂がスカートの前を押さえているのを無視して、美琴は上半身をコタツの中に入れる。

「あ」
90: 「おこたですの」 2012/02/06(月) 00:46:19.21 ID:BLrGgTsQo

 
 お留守番ですの
 お姉さまはお出かけですの

 黒子は一人でお留守番。
 おこたに入ってお留守番。

 ……ぬっくぬくですの
 ……ねむねむですの
 おこたは危険ですの……
 黒子は、大ピンチですの

 ……
 ……
 ……

「おーい、白井」

 ……

「黒子ちゃ~ん☆」

 ……

「黒子、起きなさい」

 ……お姉さま?

「うわ、さすが美琴オ・ネ・エ・サ・マ」

「すっごい、御坂さん。操祈、妬いちゃうゾ♪」

「うっさい。……黒子、コタツの中で寝ちゃ駄目よ? 掘り炬燵の中まで転げ落ちてぐっすり寝てたんだから」

 てれてれ

「じゃ、そろそろ私らは帰るから」

「御坂さん、来週の頂上会議、忘れないでね」

「うん、わかってる」

「じゃあねぇ♪ 黒子ちゃ~ん☆」

 さよなら、ですの
 絹旗さんによろしく、ですの

91: 「おこたですの」 2012/02/06(月) 00:46:46.09 ID:BLrGgTsQo

 
 その日から美琴は、やたらとコタツの中に転げ落ちていく黒子に手を焼くのだけれど。

 それはまた、別のお話。
92: ◆NOC.S1z/i2 2012/02/06(月) 00:47:20.40 ID:BLrGgTsQo
 以上、お粗末様でした


100: ◆NOC.S1z/i2 2012/02/08(水) 00:38:15.89 ID:6EcgP82do

投下します

今回のタイトルは、「ゆきやこんこですの」
101: 「ゆきやこんこですの」 2012/02/08(水) 00:38:56.31 ID:6EcgP82do
 
 …………

 ぱちり、と目を開ける黒子。
 壁に掛かっている時計を見ると夜明け直後の時間。

 静か、ですの

 今日は休日だけれども、なんだか静かすぎる。
 まるで誰もが寝静まっている深夜のように。

 それに、カーテンの向こうがいつもより明るいような気がする。
 何かに朝日が反射しているような……

 !!

 黒子は飛び上がるように身を起こす。
 
 しゅん、とテレポートして窓際へ。

 ……
 
 窓の外がよく見えないので机に登る。

 んしょ、んしょ

 窓の外に広がるのは雪景色。
 一晩にして積もった大雪である。

 おおー

 黒子は窓ガラスに顔を押し付けるようにして外を眺めている。
 窓を開けると寒いので開けない。

 雪、ですの
102: 「ゆきやこんこですの」 2012/02/08(水) 00:39:24.29 ID:6EcgP82do
 
 一面の銀世界。
 黒子は魅入られたように輝く雪面を見つめている。

 雪やこんこ、ですの

 何処までも真っ白な世界。

 ♪~

 まだ寝ている美琴を起こさないように、小さくハミングする黒子。

 ♪犬は喜び 庭駆け回り

「うおおっ! この程度の雪で俺の根性は止められんっ!」

 突然響いた大声の主へと、黒子は目を向ける。
 そこには、巨大なクワを引きずることで大量の雪を集めながら走っている少年が。
 どうも雪かきらしい。

 ……第七位さまが走ってますの

 削板軍覇だった。
 
 それにしても、世界が白い。
 黒子はムズムズしている。
 そこに雪があって。
 誰も踏んでいない雪があって。
 真っ白の真っ平らな地面があって。

 行きますの

 しゅん、とテレポート。
103: 「ゆきやこんこですの」 2012/02/08(水) 00:40:00.42 ID:6EcgP82do
 
 だぶん。と黒子は雪の中に飛び込んだ。
 正確には、雪の真上にテレポートして落下した。

 おぶおぶ

 はしゃぎすぎて目測を誤った黒子が雪の中で溺れている。

 おぶっおぶっ

 じたばたと暴れる黒子。冷静になればどうってことはないのだけれど。

 おぶっおぶっ、ぷはっ

「おいっ、大丈夫か」

 誰かが黒子を掴んで雪の中から引き上げる。
 持ち上げられた黒子の前にいるのは、ハチマキと学ランがトレードマークの第七位。

「なんだ、誰かと思ったら、第三位の所のジャッジメント嬢ちゃんか」

 助かりましたの

「困っている人を助けないのは根性なしだからなっ!」

 お礼しますの

「いやいや、気にしなくていいぞ」

 温かいお茶でもいかが?

「そうか? それじゃあ、一杯貰おうか」

 紅茶とコーヒーのどちらが……

「梅昆布茶」

 ……確か、婚后さんが飲んでましたの
104: 「ゆきやこんこですの」 2012/02/08(水) 00:40:16.84 ID:6EcgP82do
 
 一旦寮内に戻りお茶を煎れて戻ると、手持ち無沙汰だったらしい削板が雪だるまを作っていた。

 雪だるま……

 タダの雪だるまではない。雪球が五つ重ねられている。

 凄いですの
 長いですの

「削板軍覇特製、根性だるまだ」

 しゅん、と黒子はだるまの天辺にテレポートする。

 五つ……ですの?

「なに?」

 五つだけですの?

 黒子の目は期待に輝いている。

「ふ。ふふふふふ。そうか。そういうことか」

 削板が拳を握りしめる。

「よし。それならこの削板軍覇の根性に懸けて! 積み上げてやろうじゃないかっ!」

105: 「ゆきやこんこですの」 2012/02/08(水) 00:40:44.26 ID:6EcgP82do
 
 削板が球を作る。
 黒子がテレポート。
 削板が球を作る。
 黒子がテレポート。
 終いにはここまで引きずってきた雪まで使い始める。

 おおー

 かなりの高さになった雪だるま……というより雪ムカデの天辺から、黒子は景色を眺めている。

「どうだ。白井」

 凄いですの
 高いですの

「それで終わりと思うなよ?」

 ?

 すごいパーーーンチ

 一番下の球が瞬時に破壊され、上の段の球がすとんと落ちる。
 そう、だるま落としの要領だ。

 がくん、と落ちる黒子。

 おおおおーーー

 とても喜んでいる。

 すごいパーンチ
 
 がくん

 おおおおーーー

 すごいパーンチ

 がくん

 おおおおーーー
106: 「ゆきやこんこですの」 2012/02/08(水) 00:41:12.23 ID:6EcgP82do
 
 やがて全ての雪球が壊れる頃、満足げに二人は別れた。

 また、ですの

「おう、またな、白井」

 そして再び根性雪かきに戻る削板。
 黒子は自室にテレポートする。

 ただいま、ですの

 お姉さまはまだ寝ている。

 ふぁ、と黒子は欠伸した。
 朝食の時間は始まりそうだけど。
 今日は休日。時間厳守は平日だけだから。
 
 黒子は美琴のベットに入り込む。

「ん~」

 その手を取って、自分の身体に巻いた。
 まるでお姉さまに抱っこされているように。

 お姉さま、ぬっくぬくですの

 そして黒子は二度寝する。
 
107: ◆NOC.S1z/i2 2012/02/08(水) 00:42:16.85 ID:6EcgP82do
 以上、お粗末様でした

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。
121: ◆NOC.S1z/i2 2012/02/12(日) 20:00:49.03 ID:EzEBDubHo

とりあえずここまでのまとめ

>>2 第一話「もっこもこですの」

>>15 第二話「おむかえですの」

>>26 第三話「なかよしですの」

>>37 第四話「かいしめですの」

>>59 第五話「うわさですの」

>>82 第六話「おこたですの」

>>101 第七話「ゆきやこんこですの」

感想いつもありがとうございます
全レスはしていませんが、自分の励みになっています



それでは投下します

今回のタイトルは「えいがですの」
 
122: 「えいがですの」 2012/02/12(日) 20:01:21.29 ID:EzEBDubHo
   
 お待たせですの

「超時間ピッタリです」

 学生達がよく待ち合わせに使う広場。
 そこに黒子はいた。
 待っているのは絹旗最愛。
 最近よく遊ぶようになったお友達。

「それじゃあ、早速行きましょうか」

 映画は久しぶりですの

「ええ。お待ちかねの超C級映画ですよ」

 C級は待ってませんの

 絹旗は超B級C級映画のマニアなのだ。
 それは黒子も知っている。それでも、映画は映画。
 何かしら面白い部分もあるに違いない、と黒子は思う。

「ない。あれはない」

 との麦野の忠告もあったのだけれど。
 だけど、黒子は頑張る。
 親友絹旗さんとの大事な時間なのだ。
 少々つまらない映画くらい……

「今日はホラー&スプラッタ特集ですよ」

 !!

123: 「えいがですの」 2012/02/12(日) 20:01:48.31 ID:EzEBDubHo

 
「どうかしましたか? 白井さん」

 ……ほ、ほらー、ですの?

「はい。その上スプラッターです」

 ……すぷ……

「らったーです」
「脚本の粗と三流役者を、血糊の量だけで誤魔化そうとして誤魔化しきれないんですよ、超ワクワクしますね」

 おおぅ。と黒子は心の中で呻く。気分は「おおゥ」
 悪党相手ならば平気だけれど。
 なにしろ、泣く子も黙る勧善懲悪ジャッジメント白井黒子なのだ。
 だけど、ホラー映画……しかもスプラッター……

「私はポップコーンと飲み物を買ってきます。白井さんは何を飲みますか?」

 なんでもよろしいですの

 真っ赤な画面を見ながら何を飲めと。もう、なんでもいい。と黒子は思っていた。

「では、トマトジュースを」

 !?
 トマトジュース……赤いですの

 訂正しようとした黒子が見たのは、意気揚々と売店へと進む絹旗だった。
124: 「えいがですの」 2012/02/12(日) 20:02:15.70 ID:EzEBDubHo

 
 黒子は困る。
 だけど、もう絹旗は売店で飲み物を買っている。

「しいたけレモンと遺伝子変換トマトジュース、お願いします」

 しいたけレモンって何だろう。
 学園都市独自飲食物のチャレンジャーっぷりには定評があるのだけれど。
 遺伝子に関しては気にならない。それを気にし始めると学園都市では何も食べられないから。

「あと、ポップコーン二つ、フレーバーはカラメルバターとハチミツサーモンで」
「ハチミツサーモンは麦野が超推薦してました」

 麦野さんは鮭があれば満足する人だ。LIFE IS SALMON

「超お待たせしました。はい、白井さんはトマトジュースとカラメルバターポップコーンです」

 はいですの

 黒子はハチミツサーモンを渡されなかったことにホッとしながら、ポップコーンの紙バケツと、トマトジュースのLサイズを受け取る。

「じゃあ早速席に行きましょうか」
 
 絹旗はハチミツサーモンポップコーンをひとつかみ自分の口の中に放り入れる。

 げほっげほっけぼっ

「ま、不味っ! 超不味ィンじゃなィですかァ! 麦野の嘘つきィ」

 喋り方がおかしくなったような気がしたけれど、きっと気のせいだと黒子は思った。

125: 「えいがですの」 2012/02/12(日) 20:02:43.27 ID:EzEBDubHo

 
 人気の少ない、と言うより誰もいない館内。

「さすがです。超斜陽産業とは言え、ここまで人がいないとは。娯楽の名が超泣きますね」

 だが、それがいい。と続ける絹旗。

「貸し切り状態ですから、超心おきなく愉しむことが出来ます」

 座る二人。

「そろそろ始まりますよ」

 ドキドキ……
 ホラーですの
 
 黒子はごくり、と息を呑む。
 恐い。
 でも、これも特訓だ、と黒子は思うことにした。
 そうだ。これは特訓だ。映画一本くらい……

「なんと言っても、三本一気上映ですから」

 !!??

126: 「えいがですの」 2012/02/12(日) 20:03:13.23 ID:EzEBDubHo

 
「『恐怖のテンジクネズミ1』『2』『3』の一挙上映です。これはテンションが超上がるってもんですね」
「ああ、そろそろ始まりますよ」

 ……
 ……
 びくっびくっ
 ……
 びくっ
 びくんびくん
 !!!!
 !!!!
 ぽすんっ(魂が抜けた音)
 
 ……

「ふぅ。なかなか見応えがありました。さすが、超C級といえど続編を無理繰りに作っただけはありますね」

 返事はない。

「白井さん?」

 絹旗が横を見ると、座っていたはずの黒子の姿はない。

「あれ? 白井さん?」

 よく見ると、足下にしゃがみ込んでいる人が一人。

「白井さん?」

 黒子が頭を抱えて震えていた。

 ぶるぶる

 恐くないですの
 あれは作り物ですの
 恐くないですの

「あ……なんというか……超ごめんなさい」

127: 「えいがですの」 2012/02/12(日) 20:03:44.64 ID:EzEBDubHo

 
 怯えてませんの

「ごめんなさい」

 違いますの

「いや、あの……ごめんなさい」

 映画館から出ると、すたすたと歩く黒子の後を追うように絹旗が後をついていく。
 因みに黒子は、足下に落とした財布を拾っていたのだと言い張っている。
 勿論絹旗は信じていない。 

 ふらふら

 黒子の足取りは些か頼りない。

 もう、こんな時間ですの

「映画、長かったですからね」
「ご飯でも食べて帰りましょうか? 白井さん、寮のほうは大丈夫ですか?」

 夕食は寮で食べるようにしているのか、と絹旗は尋ねる。

 !!

「白井さん?」

 そこで黒子は思い出した。
 そうだ。今夜はお姉さまは帰ってこない。
 第一位からの実験協力依頼で泊まりがけになると、朝に言っていたではないか。
 つまり、今日の寮部屋は黒子一人。

 黒子一人で寝なければならないのだ。

 ぶるぶる

「白井さん? 震えてます?」

 違いますの

128: 「えいがですの」 2012/02/12(日) 20:04:21.71 ID:EzEBDubHo

 
 ・・・・・・・・・・・・

「たまにはこういうところで食べるご飯もいいかもね」

 ゲコ太病院の大病室で、美琴は皆とお弁当を食べている。
 お弁当とは言っても高級懐石弁当で、そこらのコンビニのものとは違う。
 せめてもの、美琴の心づくしだ。

「すいません。とミサカは謝りつつも喜びを隠せません」

「いいわよ。一晩くらい付き合ってあげる。まあ、病院内だからあまり騒げないけれどね」

「しかし、本当に寮のほうはいいのですか? とミサカは噂に聞いた寮監の実力に怯えます」

「一方通行に頼んだわよ、第一位からの実験協力依頼って事にしてあるわ」

「ルームメイトの方にもご迷惑でなければいいのですが。とミサカは心配します」

「泊まりがけの実験が初めてって訳じゃないし、大丈夫よ」

「お姉さまにも我が侭を言って申し訳ないと、ミサカは……」

「妹がお姉ちゃんに我が侭言うのは当たり前でしょ。いつもって訳じゃないんだから、今日くらいはいいわよ」

 言いながら美琴は部屋内を見回した。
 大部屋一つ、元々は八人収容の部屋だが、ベッドを追加して今は十二人部屋。
 シスターズ十二人の、当面の住処だ。
 
「さて、早速」

 十三個の同じ顔がぐるりと円を描くように集まっている。

「まずは、名前からね」

「はい、お姉さま。とミサカはワクワクする気持ちを抑えられません」

「それじゃあ……」

 ・・・・・・・・・・・・・

129: 「えいがですの」 2012/02/12(日) 20:04:45.75 ID:EzEBDubHo

  
 麦野が夕食の後かたづけを澄ませた頃に、絹旗が帰ってくる。
 
「超ただいまです」

「お帰り、絹旗」

「今日はフレンダは来てないんですか?」

「ああ、滝壺も今日は浜面の所だろうさ」

「じゃあ、ゲストルームは余ってますね」

 麦野と絹旗はルームシェアをしているから、それぞれの個室を持っている。
 しかし、ゲストルームは事実上、アイテムメンバー専用の泊まり部屋と言ってもいい状態だ。
 とはいっても、家主は麦野。麦野の意思であれば誰でも泊まることは出来る。 

「なに? 誰か客?」

 お邪魔しますの

「……白井?」
 
 お久しぶりですの

「まあ、あんたなら歓迎だけど、御坂はいいのかい?」

 美琴が第一位と一緒にいることを黒子は告げる。

 そういえば、今日は例のクローンの調整日で、美琴との生体差異を調べる日だった、と麦野は思い出す。
 妹達に関しては、今は関係者だけの極秘事項。美琴は黒子にすら内緒にしているはずだ。

「それにしても、よく急に外泊許可が取れたわね。常盤台って、その辺り厳しくなかった?」

 あ……

 黒子が何かに気付いたように目を開く。

「どうした?」

 あの……

「まさか、あんた……」

 ……忘れてましたの

130: 「えいがですの」 2012/02/12(日) 20:05:13.86 ID:EzEBDubHo

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「〝はい、わたくし、霧ヶ丘女学院の麦野沈利と申します。御坂美琴さんと食蜂操祈さんにはお世話になっていますわ〟」

 電話をかけている麦野の横で、絹旗はお腹を抱えて転がっている。
 痛いのではない。笑いを堪えているのだ。
 その絹旗をギロリ、と睨む麦野。目からビームが出るならとうに撃っているだろう。
 因みに原子崩しをここで撃つと、マンションごと吹き飛んでしまいそうなので撃てない。

「〝はい、よろしくお願い致します。それでは失礼します〟」

 電話先は常盤台。
 第四位の威光で、黒子の外泊を認めさせてしまったのだ。
 因みに名目は、美琴と同じようなもの。「第四位の実験補助である」
 レベル4でもトップクラス、くわえてレア能力の黒子だからこそ通る名目だ。伊達に第三位の片腕ではない。
 最悪の場合、垣根の名前を出そうとしていた麦野だけれど、そこまでは必要なかった。

「ふぎゃっ、むぎっ、そこば、超ひぐうっ……」

「で、外泊許可は貰ったし、私としては構わないんだけど」

 絹旗を捕まえてくすぐり拷問しながら、麦野は言う。

「どうして急に泊まりたいなんて言い出したのさ」

 美琴が寮にいないとは聞いたが、実験による外泊は初めてのことではないだろう。
 黒子が独り寝できないと言うことはないはずだ。

 悶え苦しみながら、絹旗が映画の半券を取り出す。

「ん?」

 そこに記されているのは今日見た映画のタイトル三つ。

「あ、そういうこと。ふふっ、白井って案外恐がりなんだ」

 てれてれ
131: 「えいがですの」 2012/02/12(日) 20:05:41.07 ID:EzEBDubHo

 
「恐いから一人じゃ寝られないってことかにゃーん?」

「超お子様ですね」

 違いますの
 絹旗さんが怖がると思って仕方なくですの

「ふーん。そうなの? 絹旗」

「まあ、今日は映画に付き合わせてしまったので、そういうことにしといてあげましょう」フンス

「ご飯は食べたの?」

 いただきましたの
 絹旗さんのお薦めで

「ふーん。因みに何?」

 牛丼ですの

「……絹旗……あんたねえ」

「白井さんは超勘違いしてます。あれは牛丼じゃなくて牛めしです。あと、ちゃんとお味噌汁とサラダもつけました」

「いや、変わんないし。どっちにしろ女の子二人で食いに行く代物じゃないだろ」

「映画の後はジャンクフードと決まっているんです。それは超譲れないんです」

「……も、いいわよ。風呂の順番、どうする?」

 ここにフレンダがいれば、麦野と一緒に入ろうとして怒拳五連弾を受けるところだけれども。
 ここにいるのは黒子と絹旗。
 
 麦野、絹旗、黒子の順番にあっさり決まる。

132: 「えいがですの」 2012/02/12(日) 20:06:08.36 ID:EzEBDubHo

 
 そして入浴も終わり夜も更けて…… 

 麦野の前にちょこんと立っている黒子。
 黒子は絹旗に借りたパジャマ姿である。小脇に抱えているのは枕。

「あー。えーと。白井?」

 はいですの

「ここは私の部屋」

 はいですの

「そしてこれは私のベッド」

 わかってますの

「今から私は寝る」

 おやすみなさいですの

「ゲストルームは二つ隣」

 ……

 黒子は期待溢れる目で麦野を見つめている。

「……一緒に寝たいの?」
  
 てれてれ

「映画、そんなに恐かったの?」

 違いますの
 違いますの、あれは絹旗さんが……

「わかった。わかった。で、なんで絹旗の部屋に行かないの?」

 麦野は、黒子は絹旗と一緒に寝ると思っていたのだ。
 因みに絹旗は今、台所で牛乳を飲んでいる。
 フルーツ牛乳を。

133: 「えいがですの」 2012/02/12(日) 20:06:39.84 ID:EzEBDubHo

 
 麦野は黒子の返答を待つ。
 黒子は少し考えるように首を捻った。
 そして……

 強いですの

「……まあ、絹旗よりは強いけど」
 
 強いですの

「うん。そうか。わかった。ほら」

 ぽんぽん、とベッドのシーツの空いた部分を叩く麦野。

「ほら、ここ」

 失礼しますの

 枕を置いて、黒子はベッドに乗る。

 おやすみなさい、ですの

「ああ、おやすみ」

 軽く溜息をついて、麦野はベットサイドのランプを消そうとする。
 と、その時。

「超ずるいです」

 低い声がした。

「白井さん、超ずるいです」

 そういえば黒子が入ってきた部屋のドアが完全にしまってなかったな、と麦野は思った。

「超ずるいです。第三位に言いつけます。滝壺さんにもフレンダにも浜面にも言いつけます」

 絹旗が、涙目でじっと麦野を見ている。

「待て、なんで浜面」

「超チクリます」

134: 「えいがですの」 2012/02/12(日) 20:07:07.24 ID:EzEBDubHo

 
 結局、麦野を挟んで三人で寝ることになった。

「ま、たまにはいいけどね」

 二人に一晩中しがみつかれることになった麦野は翌朝、話を聞いて迎えに来た御坂に、寝不足気味に苦笑してそう言ったのだった。




 後日、どこからかこの話を聞いた食蜂が、

「だったらぁー、黒子ちゃん、どうして私の部屋に来なかったのよぉ?」
 
 と血の涙を流したりしたのは余談である。 
 

 
135: ◆NOC.S1z/i2 2012/02/12(日) 20:07:39.59 ID:EzEBDubHo


 以上、お粗末様でした

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。
145: ◆NOC.S1z/i2 2012/02/19(日) 00:31:11.08 ID:NLZoOo1Fo


 今回は黒子と言うより、レベル5のお話ですねえ
 それでは投下します。

 今回のタイトルは「かいぎですの」
146: 「かいぎですの」 2012/02/19(日) 00:31:43.58 ID:NLZoOo1Fo

  
 商店街の外れにその洋菓子店はある。
 知らなければそこで営業しているなんて誰も気付かないような、シンプルこの上ないお店。
 店先に看板すら出ていない。
 それどころか、どう見てもタダの事務所か何かだ。洋菓子店には決して見えない。
 それでも黒子は、迷わず店に入っていく。
 
 お邪魔しますの

 黒子が告げるとすぐに店主が奥から顔を出す。

「へい、いらっしゃい。……おぅ、ジャッジメントの嬢ちゃんじゃねえか。今日は幾つだ?」

 十四個、ですの

「よぉし、わかった、十四個だな」

 黒子はこの店の常連なのだ。
 以前、ひょんな偶然でこの店を見かけ、興味本位で覗いてみたところ見事なプリンを発見。
 
 甘さ控えめのほろ苦旨プリンは、美琴、佐天、初春にも大好評だった。
 それ以来黒子は時折姿を見せる。
 今日はとっておきのスイーツが必要だと言われたので、この店まで足を運んだのだ。
 黒子にとっての秘蔵の逸品のお店である。
 だというのにそれなのに、店主はさらに美味くなったと豪語するではないか。
 これは黒子としても、驚くしかない。

147: 「かいぎですの」 2012/02/19(日) 00:32:10.81 ID:NLZoOo1Fo

  
 信じられませんの

「おいおい、俺の言うことが信じられねえってか? 傷つくぜぇ」

 既に旨旨ですの

「お? つまりなにかい? あれ以上美味くすることは、この俺にも不可能だって?」

 黒子はこくこくと首を振る。

「ふっ、ふふふふ、言ってくれるじゃねえか、お嬢ちゃん。この俺に不可能があるとでも言うのかよ」

 ありませんの?

「ねえとはいわねえけどな。現に、このプリンだってウチのガキが美味いと認めるかどうかはちぃっと疑問だ」

 だが、と店主は不遜な口調で続ける。

「嬢ちゃんがこの前買っていたのと比べるなら、これは確実に美味い。それは確かだ」

 おおー

「嘘だと思うなら、今ここで食ってみろ」

 結構ですの

「心配するな、一個おまけに付けてやる」

 信じますの

 ところで、と黒子は尋ねる。
 一体これほどのプリンを美味いと認めない子供とは何者なのか、と。
 もしかして、ただの親への反抗ではないのか、と。
148: 「かいぎですの」 2012/02/19(日) 00:32:37.98 ID:NLZoOo1Fo

  
「あいつはとんでもねえ、ヒネて反抗的で素直じゃねえうえ可愛気もねえガキだが、少なくとも嘘つきじゃあねえ」

 自慢のお子さんですの

「よせやい、馬鹿言ってんじゃねえよ」

 でも店主は嬉しそう。

「あいつは、俺のガキみてえなもんだが、実のガキじゃねえしな」

 わかりませんの

「でもよぉ、俺の作ったこいつで、あいつの口から素直に『美味い』って聞きてえんだよ……」

 応援しますの

「ありがとよ、嬢ちゃん」

 ふと、店主が壁の時計に目をやる。
 釣られて時計を見た黒子は、予定より遅れていることに気付いて慌てる。

 失礼しますの

「おう、良かったらまた来てくれ」

149: 「かいぎですの」 2012/02/19(日) 00:33:10.85 ID:NLZoOo1Fo

 
 店を出た黒子は、とっとこと歩く。
 目的地は寮ではない。ホテルの会議室である。
 今日は、学生自治会頂上会議の日。またの名を、レベル5会議の日。
 学園都市の超能力者が集まる会議なのだ。

 集まるレベル5は六人。
 第一位一方通行
 第二位垣根帝督
 第三位御坂美琴
 第四位麦野沈利
 第五位食蜂操祈
 第六位は現在留学中。
 第七位削板軍覇
 それぞれが、信頼できるパートナーを、可能な限り一人同行させることになっている。
 つまり合計で、十二人。

 そして、今回の会議のおやつ担当が美琴なのだ。
 そこで、黒子がプリンを買いに行ったというわけだ。

 因みに前回のおやつ担当は垣根帝督であり、全員が食用未元物質を食べさせられた。
 味は悪くなかったのだけれど、大不評だったことを黒子はよく覚えている。
 
「黒子、こっちよ」

 ホテルのロビーには美琴が先着していた。
 一緒にいるのは麦野と垣根、そしてそれぞれのパートナーである絹旗と心理定規である。

 お久しぶりですの

150: 「かいぎですの」 2012/02/19(日) 00:33:44.40 ID:NLZoOo1Fo

 
 パートナーは誰を連れてきてもいい。ただし、自分が信頼できる相手であること。
 レベル5ともあろう者が、そのようなパートナーの一人も持てないとは恥ずかしい。というのが多数決による見解である。
 尚、多数決の票は賛成が四、反対が二だった。
 賛成側のうち、
 垣根はいつも心理定規を連れてくる。
 美琴は黒子。
 麦野は絹旗、滝壺、フレンダから選んでいる。
 削板は、なにやら本人にしかわからない基準で色々と連れてくる。
 妙にガタイのいい傭兵上がりのようなスキルアウトだったり、上条当麻の先輩と名乗るカチューシャを付けた女性だったり。
 本人が「俺は信頼してるぞ」と言うので、誰も異論を挟めないのだけれど。

 問題は残る二人だった。
 一方通行は基本的に一人で来る。

「あァ? この俺にパートナーが必要と思ってンですかァ?」

「お前、友達いないだけだろ」

 そんな垣根を無視する一方通行。

「……おィ……心理定規だったなァ」

「なにかしら?」

「クソメルヘンに脅されて嫌々つきあってンなら、なンとかしてやるぜェ?」

「こら、てめぇ、どういう意味だ」

「第二位から第一位への乗り換え? そうね、考えておこうかしら」

「はぃいっ!? ちょ、おま……」

「冗談よ、帝督」

 上下関係が見えましたの

「いや、俺がリーダーだからね? その辺把握しろよ?」

151: 「かいぎですの」 2012/02/19(日) 00:34:21.24 ID:NLZoOo1Fo

 
 そして、心理掌握こと食蜂操祈もまた、決まったパートナーがいない。

「信用できる人なんて、そう簡単には見つからないものよぉ~?」

「うん、そうよね。私も麦野さんも運が良かっただけだし」

「そうそう、操祈は無理しなくていいから」

 実は美琴と麦野はとても気を遣っていたりする。
 その力、人の心を操ることなど造作もないその力故に、食蜂には信用できる相手が作れないという皮肉。
 彼女が本当に信用出来るのは彼女の力が簡単に通用しないレベル5と、そのレベル5によって護られているパートナー達だけ。
 勿論、他人の心を無闇に操ったりはしていないのだけれども、それとこれとは話が別なのだ。

「……気を遣うんだったら、黒子ちゃんか最愛ちゃんを貸してよぉ~」

「ゴメン、それはお断り」

「断固断る」

「ううっ。友達力のない人たちねぇ……」

 プリンが余りますの

「ボックスに入れておいて、佐天さんと初春さんにもわけてあげましょうよ」

 二人の分はもう買ってありますの

「……あー。じゃあ、麦野さん持っていく? フレンダさんと滝壺さんに」

「ありがたく持って帰るわ」

 八人揃ったところで、会議室へ向かう一同。
 削板とそのパートナーは、先に会議室に入ったとメールが来ている。
152: 「かいぎですの」 2012/02/19(日) 00:34:48.73 ID:NLZoOo1Fo

 
 会議室では……

「……」

 どっかと座り込んで腕を組む削板と、その背後をうろうろと落ち着きなく歩いている男がいた。

「落ち着け。根性が足りんぞ」

「いや、それ無理。無理ですから」

「モツは落ち着いてたぞ」

「あんたいい加減知り合いの名前覚えなさいよ!?」

「……原谷……だっけ?」

「俺じゃなくて……って、あんた俺の名前もうろ覚えかっ!?」

「細かいことだ」

「……レベル5って頭いいんだよな?」

「根性のある奴が揃ってるぞ」

「いや、だから、何でそんなところに俺が」

「俺のパートナーだ」

 有無を言わせずに、

「俺はお前を信用してるからな」

「だったら名前覚えてくださいって」
153: 「かいぎですの」 2012/02/19(日) 00:35:16.70 ID:NLZoOo1Fo

 
「何か騒がしいわね?」

 どやどやと入ってくる一同に、原谷の緊張はピークに達する。

「うわ。来た」

「なに、あんたまた、別のパートナー?」

「おう。モツも雲川のねーちゃんも今日は忙しいって言うからな」

「私も人のことは言えないけど、あんたの交友関係も大抵謎ね。どんな繋がりよ」

「根性繋がりだ」

「うん。聞いた私が間違ってた」
  
「ま、とにかく全員座ってくれませンかねェ、話が進まねェ」

 苛立たしげに一方通行が言い、それぞれが席に着く。
 大きな円卓に六つの席。そして衝立を置いて離れたところに一回り小さなテーブルと六つの席。
 大きな方がメイン席。小さな方がパートナー席。

 今回の議長は美琴である。
 とは言っても、特に追加議題はなく、定例の報告のみである。

 メインの会議が始まると、パートナー席では単なる近況報告会が始まる。
 こちらには特に議題はない。
 
「絹旗最愛です。麦野の超パートナーです」

 白井黒子ですの
 じゃっじめんと、ですの

「心理定規、でいいわ。一応、帝督のパートナーよ」

「原谷矢文です。削板さんの友人です」

 ほう。と心理定規が目を開く。

154: 「かいぎですの」 2012/02/19(日) 00:35:44.75 ID:NLZoOo1Fo

 
「友人って、パートナーよりレベル高くない?」

「え、そうなんですか?」

「単なるチームメンバー、損得関係の間柄よりいいものに聞こえるわ」

「そんなもんですかね」

「私はアイテムがなかったら、麦野に会えていたかどうか超疑問です」

「私もスクールがなければ帝督とは会っていなかったでしょうね。もしかすると今頃第一位の傍にいたかも知れないわ」

 お姉さまはお姉さまですの

「……そっか。そうですね。麦野だって超麦野です。アイテムがあろうが無かろうが超関係ありません」

 黒子と絹旗がガッツポーズで呼応する。

「ふーん、そうなんだ」

 うらやましいですの?

「え?」

 羨ましそうですの

「ちょっと、誤解は止めて。私と帝督はそんなのじゃないわ。ビジネスライクな関係よ」

「そんなのって何ですか?」

「お子様は黙ってなさい」

「超失礼です!」

 そして会話からハブられる原谷。女の中に男が一人は辛い。
 さらにこの場合、高レベルの中に低レベルが一人だったりもする。

155: 「かいぎですの」 2012/02/19(日) 00:36:15.67 ID:NLZoOo1Fo

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
「黒子、そろそろお願い」

 はいですの

 おやつの時間になった。
 クーラーボックスからプリンを取り出す黒子。
 まずはメイン席の六人に。
 麦野にはお土産の二つを別のボックスに入れて余分に渡す。

 おやつですの

「悪ィな、甘ェのは苦手なンだわ」

 黒子の差し出したプリンを制止する一方通行。

「俺の分は、誰か二つ食えばいいンじゃねェか」

 一瞬だった。
 最初からそれと気付いて観察していなければ気付かないほどの一瞬、一方通行は逡巡した。

「いや、やっぱり折角用意してくれたンだ、自分で食う」

 どうぞですの

「ン……」

156: 「かいぎですの」 2012/02/19(日) 00:36:48.09 ID:NLZoOo1Fo

 
「珍しいな、お前がこの手のもん食うって」

 言いながら垣根は、プリンの容器に視線を落とす。

「……なるほど、そういや、そうだったな」

「ふン」

 一方通行はプリンを口に運ぶ。

「……ちっ……相変わらず美味ェじゃねェかよ」

「だからそれ、本人に言ってやれって」

「うるせェ」

 二人のやりとりを見ていた黒子は、首を傾げてプリンの容器を確かめる。

 そこにはただ「KIHARA」と書かれているだけだった。
 

157: ◆NOC.S1z/i2 2012/02/19(日) 00:37:17.63 ID:NLZoOo1Fo

 以上、お粗末様でした

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。

172: ◆NOC.S1z/i2 2012/02/25(土) 01:17:01.64 ID:N+g3BGGao

 それでは投下します。

 今回、とある原作キャラと同能力者が現れますが、
 彼が原作キャラ本人かどうかは、読んだ人の想像にお任せします。

 タイトルは「てれぽですの」



 
173: 「てれぽですの」 2012/02/25(土) 01:17:31.82 ID:N+g3BGGao
 
 変質者に注意!
 それが固法とのミーティングでの注意事項だった。

 へんたいさん、ですの

「変質者が出るそうです。皆さん、注意してください」

 いつもの超電磁組のお茶タイムに、真剣な顔で切り出す黒子と初春。

「初春、それだけじゃわからないよ。もっと具体的な情報がないと」

「そうですね……」

 初春は肌身離さず持ち歩いているノートパソコンを立ち上げた。
 そしてデータを確認する。

「人気のない道で、突然背後に現れて匂いを嗅いでいくそうです」

「は?」

 へんたいさんですの

「ちょっと待って」

 美琴はノーパソを片付けようとしている初春を制止する。

「それって、空間移動能力者じゃないの?」

 おおー
 さすがお姉さまですの

174: 「てれぽですの」 2012/02/25(土) 01:18:03.74 ID:N+g3BGGao

 確かにその可能性は高い、と初春は言う。
 しかし、

「確証がないんですよ」

 なにしろ目撃者がいないのだ。
 被害者は誰も皆、突然背後に気配を感じたという。
 気がついたときには既に背後で「くんかくんか」状態だったのだ。

 気持ち悪いですの

 しかし、空間移動能力者であるという確証はない。
 可能性は確かに高いが、それは確証とは違う。
 なにか、広く知られていないレアスキルかも知れないのだ。
 あるいは、能力者ですらないかも知れない。

「一応、空間移動能力者はチェックしていますが、そもそも自分を移動できる能力者なんて少ないですから」

 ふんす、と胸を張る黒子。

「ああ、そうか」

 美琴にしてみれば黒子が身近な存在なので、自分自身を自在に運ぶ能力者の存在がレアケースであることをつい忘れてしまう。

「そうよね」

 現在レベル5に限りなく近いと言われている一人ですら、自分自身を運ぶのは苦手だと噂されているのに。

「私の所に現れれぱいいのに」

 黒こげ間違い無しである

 ダメですの

175: 「てれぽですの」 2012/02/25(土) 01:18:36.78 ID:N+g3BGGao
 
 首を振って諫める黒子。

 危険ですの

「そうです」

 佐天が黒子の肩に手を置くと力強く拳を握った。

「御坂さんは、白井さんに心配をかけすぎです」

 頷く初春。

「佐天さんの言うとおりですよ。御坂さんはもっと自重した方がいいです」

「そ、そうかな……」

「御坂さんはいつも……」

 佐天は少し考えて、言葉を続ける。

「ニッコリ微笑んで危険の中に駆けていく。って感じですよ」

 激しく頷く黒子。

 お姉さま、自重、ですの

「んー。黒子に心配かけてるのは悪いと思うけど」

「だったら……」

「でもね? 私だって黒子が心配なのよ?」

176: 「てれぽですの」 2012/02/25(土) 01:19:02.68 ID:N+g3BGGao
 
 美琴の言葉に三人は口を閉じる。

「黒子が心配だから、一刻も早く解決したいの。大切な後輩に危ないことなんてさせたくないもの」

 てれてれ

 そう言われると三人……特に黒子には返す言葉がない。
 いや、それどころか、とても嬉しい。

 てれてれ

 凄く嬉しい。
 だけど。
 
 黒子もお姉さまが心配ですの

 レベル5といえども、不意を突かれればタダの中学生。
 能力がなければ、風紀委員として訓練を受けている黒子や初春より弱いかも知れない。

「ありがとうね、黒子」

 てれてれ

「……初春、どうしよう。私たち、空気だよ」

「仕方ありませんね、白井さんと御坂さんですから」

「そっか、仕方ないよね。白井さんと御坂さんだもんね」

「はい」

177: 「てれぽですの」 2012/02/25(土) 01:19:33.91 ID:N+g3BGGao
 
 そんなやりとりから一時間後、結局黒子はいつものように巡回を続けていた。

 迷子を見つけたり、ちょっとしたカツアゲを見つけたり。
 迷子は近くの詰所に送り届けて、カツアゲ犯はふん縛って。

 通りすがりのフレメアに再会して、付き添いの浜面達から飴を貰ったり。
 通りすがりの第七位にエクストリームな高い高い(地上五階立てのビルの屋上くらいまで飛ばされる)をされて喜んだり。
 通りすがりの白いシスターに道を聞かれたり。


 そして、そんな黒子を見つめる影が一つ……


 不穏な気配に首を傾げる黒子。
 ふと立ち止まり、振り向く。

 誰もいませんの

 勘違い?

 背後に気配。
 咄嗟に振り向いても誰もいない。

 ???

 背後の気配は消えない。
 正確には振り向くたびに消えて、消えてはすぐに現れる気配。

 ???

 ……「人気のない道で、突然背後に現れて匂いを嗅いでいくそうです」

 これは、まさか……

 黒子は短距離を跳んだ。
 しかし、そのテレポート先でもやはり背後に気配が。
 二度、三度。
 それでも背後の気配は消えない。どこまでも、気配はついてくる。

178: 「てれぽですの」 2012/02/25(土) 01:20:02.26 ID:N+g3BGGao
 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 背後へテレポート。
 というより、対象背後にしかテレポートできないのだけどそれはそれ。
 目をつけた少女の背後へテレポート。
 そして深呼吸。
 さらに深呼吸。
 ついでに深呼吸。
 駄目押しの深呼吸。

 つまり、【くんかくんか】×4。

 素晴らしい! と男は自らの能力を讃えた。
 これは不完全なテレポートなどではない。神が自らに与えたもうた贈り物。まさにギフト。
 男は神に感謝し、その能力を遺憾なく発揮する。
 少女の背後へ忍び、その匂いを思うさま【くんかくんか】することに。
 男は自由だった。自分の欲望に。その行為に。

 漢字二文字で表現すると『変態』である。

 今日の獲物はツインテールの小柄な少女。
 腕章を見る限り、風紀委員のようだ。
 おそらくは自分のような者を警戒しているのだろう。
 いや、既に自分自身が警戒対象とされていても何の不思議もない。
 なにしろ、これまでに【くんかくんか】した数は三十を下らないのだ。
 ならば、敢えて追跡者を【くんかくんか】するのも一興である。

 男は飛んだ。

 目前に見えるのはツインテール後頭部。
 小さな頭。癖のあるような髪質。
 そして何よりも、いい匂い。

 (素晴らしい!)

 男は望む。【くんか】を! 一心不乱の【くんか】を!!

179: 「てれぽですの」 2012/02/25(土) 01:21:22.47 ID:N+g3BGGao

 少女が振り向くと同時に、男は能力を発動する。

 振り向く少女。消える男。
 その行為を何度も繰り返し、少女の振り向きには焦りが加算される。
 さらにそこには恐怖が、諦観が、絶望が積み重なっていく。

 【くんかくんか】
 振り向く少女。
 テレポート。
 【くんかくんか】
 振り向く少女。
 テレポート。

 男の恭悦が極まろうとしたとき、

「!?」

 少女の姿が消えた。
 男は、目の前にいるはずの少女の姿が消えたことに驚く。
 
 ここですの

 声は背後から。

(俺の後ろに!?)

 男は跳ぶ。少女のAIM拡散力場を感知し、その背後へと。
 間違えるわけがない、いや、他人のAIM拡散力場を感知してその背後へ跳ぶのが自分の能力。
 間違えようがないのだ。それ以外のテレポートなどできないのだから。
 しかし、少女はいない。

 ここですの

 やはり、その声は背後から。
180: 「てれぽですの」 2012/02/25(土) 01:22:16.96 ID:N+g3BGGao
 
 男は跳ぶ。
 しかし少女はいない。
 声は背後から常に聞こえる。
 振り向けば、少女の姿は消える。
 そして背後から聞こえる声。

 ここですの

 あり得ない。逃げられてしまうならまだしも、常に背後へ回られるなど。
 仮に少女が男以上の能力を持った空間移動能力者だとしても、常に背後へ回るなど。
 それは自分だけの能力のはず。
 自分だけの現実のはず。

 跳んでも、
 跳び続けても、
 飛び逃げても、

 ここですの

 少女は背後にいる。

 どれほど跳べば、逃げられる?
 何処まで跳べば、逃げられる?
 いつまで跳べば、逃げられる?

 いや…………

 逃げられるのか?

 ここですの

 逃げられない。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

181: 「てれぽですの」 2012/02/25(土) 01:22:43.20 ID:N+g3BGGao
 
 ?

 黒子は、立ちつくす男を不思議そうに眺めていた。

 数度のやりとりの後、焦りはじめた黒子の前で男は突然動きを止めたのだ。

 あの……どうしましたの?

 ようやくそう尋ねた黒子に、男は無言のまま答えない。

「…………」

 首を傾げる黒子。

「大丈夫? 黒子ちゃん。心配したんだゾ☆」

 食蜂さまですの

「まさかぁ、変質者騒ぎの犯人が、こんな外見力のない人だったなんてぇ、まぁ、予想通りだけどぉ~」

 ニコニコと微笑みながら、食蜂は手にしていたリモコンをポシェットに戻す。

「ほらぁ、もう大丈夫だから、黒子ちゃん」

 黒子には優しく、そして男に向かっては厳しい表情で。

「貴方みたいな女の敵、人間のクズは、ずっと妄想の中で生きてなさいね♪」
 
 男は白目を剥いて、宙を凝視していた。

 助けてくださいましたの?

 食蜂はゆっくりと頷く。

「さあ、黒子ちゃん、こっちに……」

182: 「てれぽですの」 2012/02/25(土) 01:23:23.92 ID:N+g3BGGao
 
「黒子ーーーーーーーっ!!」

 男が吹っ飛んだ。
 それはもう、見事なまでに吹っ飛んだ。
 超電磁砲の余波で吹っ飛んだ。

 さすがにまともに命中させないほどの理性はあったけれど。
 とにかく美琴の超電磁砲で、変態男は吹っ飛んだ。

 ついでに衝撃で食蜂も転がった。
 黒子も転がった。

 ころころ、と。

「大丈夫!? 黒子!」

 お姉さま……

「様子がおかしいって、初春さんから連絡があったのよ」

 携帯のGPSで、黒子のおかしな行動(短距離テレポートの連続)に気付いたのだろう。

「あれが変態男ね」

 第五位の精神攻撃からの間髪入れぬ第三位の物理攻撃で、男はほぼ再起不能である。

「大丈夫? 何もされてない?」

 は、はいですの
 あの、しょ……

「念のため、病院に行きましょう。変態男の変態菌がついてたら消毒しないと!」

 あの、犯人を……

「すぐに固法さん達が来るから、それは大丈夫。さあ、行くわよ」

183: 「てれぽですの」 2012/02/25(土) 01:23:53.01 ID:N+g3BGGao
 
「……」

 無言で立ち上がる食蜂。
 ちょっと涙目。

「あれ? 食蜂さん?」

 ようやく気付く美琴。

「あ、もしかして、巻き込んじゃった?」

 食蜂さまが助けてくださいましたの

「ありがとう!」

 真正面からの感謝の言葉に、食蜂は一瞬たじろいだ。

「お礼は後からきちんと言うから。今は黒子を病院に連れ行くから、ゴメンね?」

「え、ええ……」

 有無を言わせず走り出す美琴。

「……」

 一人残されて、辺りを見回す食蜂。

「……ま、いっかぁ、って感じぃ?」

 黒子ちゃん助けたし。
 そう呟くと、食蜂は歩き出した。



 腹いせに、男にさらなる幻覚見せてから。

185: ◆NOC.S1z/i2 2012/02/25(土) 01:25:12.51 ID:N+g3BGGao

 頑張れみさきち。
 もっと頑張れ。

 そして次回こそ、ちゃんとインデックスを……

 
 以上、お粗末様でした

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。



 
195: ◆NOC.S1z/i2 2012/03/03(土) 00:24:07.24 ID:sFzreTLQo

 投下します
 タイトルは「たまゴですの」


196: 「たまゴですの」 2012/03/03(土) 00:25:01.17 ID:sFzreTLQo
 
 おはようございますの、お姉さま

 健やかな目覚め。
 ベッドの上で上半身だけを起こした黒子は、隣のベッドの美琴に朝の挨拶。

「おはよう、黒子」

 朝のシャワー、先に浴びるね、と言い残して美琴はバスルームへと。
 黒子は着替えを準備すると、ベッドを整える。
 ついでにお姉さまのベッドも。

 せっせ、せっせ

 ベッドメイクですの

「黒子、シャワー空いたわよ」

 はい、ですの

「ベッド、いつもありがとうね」

 どういたしまして、ですの

 着替える二人。

 んしょ、んしょ

「黒子、襟が曲がってるわよ」

 美琴が手を伸ばし、黒子はすっくと立って襟元を突き出す。

「はい、これでよし。うん、今日も可愛いわよ」

 てれてれ

「それじゃあ、行ってくるわね」

 朝から美琴は研究所へ。
 今日は精密検査もあるので、朝食は抜いていかなければならない。
 朝一番の検査が終わってからゆっくり食べるのだ。

 お気をつけて、ですの
197: 「たまゴですの」 2012/03/03(土) 00:25:33.24 ID:sFzreTLQo
 
 美琴を見送ると、黒子は食堂へ。
 名門常盤台の学生寮。朝食といえども手は抜かれない。
 本日はバイキング形式の朝食日。食堂の一角では料理人が生徒達の注文に応じて次々とオムレツを焼いている。
 その隣に運ばれてくるのは焼きたての各種パン。

「どうされます?」

 黒子にオムレツ列の順番が回ってくる。
 壁に掛けられたメニューによると、今日のオムレツの具は「ツナ、ミートソース、ミックスベジタブル、チーズ」である。

 プレーン、戴きますの

「ソースは?」

 トマトソースをお願いしますの
 
「承りました」

 バイキング形式の日のオムレツは、黒子のお気に入りだ。
 一つで済まずに、二つ三つと食べてしまう。

「今日も、お代わりの準備はしておこうかな?」

 だから、料理人ももう覚えている。

 てれてれ
 食べ過ぎ、ですの

「作る側としては沢山美味しく食べて貰って嬉しいよ」

 だけど、と料理人は言う。

「もしかすると、もっと美味しくなるかも知れないよ」

 !!

 それは、黒子にとっての重大ニュースだった。
198: 「たまゴですの」 2012/03/03(土) 00:25:58.18 ID:sFzreTLQo

 朝食後、寮の裏庭に黒子はいた。
 
 ……ありますの

 料理人が言っていたとおり、そこには小屋が建てられている。
 養鶏小屋だ。
 此処でニワトリを飼うのである。それもタダのニワトリではない。学園都市の誇るスーパーニワトリである。
 一日に複数個の卵を産むスーパーニワトリなのである。
 常盤台の寮とて、毎日卵を食べたりはしない。
 この養鶏小屋で、寮で使う卵を賄おうという計画らしい。
 新鮮な卵を食べらて嬉しい。と言う意味では黒子は賛成だ。

 が、しかし。

 小屋の大きさからニワトリの数を考えると、どうも多すぎるような気がする。
 もしかして卵を産ませるだけではなくて、ブロイラーも扱うのだろうか。

 覗いてみると、小屋は空っぽ。まだ一羽たりともニワトリはいない。

 ニワトリさん、留守ですの

 留守というわけではない。まだニワトリが運ばれてきていないだけなのだ。
 だったら、空っぽの小屋だけを眺めていても仕方ない。
 背を向けて、黒子は室内に戻ろうとする。

 コーッコッコッ
 
 !?

 今のは、紛れもないニワトリの声。
 振り向いた黒子は見た。小屋の中にいる一羽のニワトリを。

 いつの間に? ですの

 さっきまでは確かにいなかったのに。
 見間違いだろうか、と考えて黒子は再び小屋に背を向ける。
199: 「たまゴですの」 2012/03/03(土) 00:26:25.46 ID:sFzreTLQo

 コーッコッコッ
 コーコッコッ

 !!??

 増えましたの

 小屋の中にはニワトリが二羽。

 コーッコッコッコッ
 ココッココッココッ
 コケッコココッ

 !!!???

 見る間に三匹に増えた。
 ニワトリが増殖していく。

 ニワトリさんが増えていきますの

 増殖ニワトリである。
 黒子は想像する。
 ニワトリがこのまま増殖し続けると、常盤台はニワトリに占拠されてしまうかも知れない。
 ニワトリまみれの学園生活の始まりである。

 ……それは嫌ですの

 黒子は小屋をじっと見る。そこから視線を外すと、壁の向こうへ。
 そして、しゅんとテレポート。
 壁の上に乗った黒子の前、寮裏手の道路に止められているのは大型トラック。
 そのトラックと小屋を繋ぐ感覚を、黒子は感じていた。

「あら」

 トラックの荷台に積まれた大量の養鶏ケージ。そしてそこに立つ姿。

「綺麗に跳ぶじゃない。察するところ、貴女が白井黒子かしら?」

 ですの
200: 「たまゴですの」 2012/03/03(土) 00:26:56.11 ID:sFzreTLQo
 
 ニワトリをテレポートさせていた係員は、結標淡希と名乗った。

「噂はかねがね聞いているわよ、常盤台のテレポーター、超電磁砲のパートナー、ジャッジメント白井黒子さん」

 てれてれ

「……いや、別に褒めてる訳じゃないんだけど……」

 呆れたように言いながらも、結標はさらに数羽のニワトリを小屋内へと転送する。

「私の能力は……」

 鶏肉移動(ムーブチキン)、ですの

「いや、違うから。そんなピンポイントな能力じゃないからね?」

 黒子は頷いた。

 失礼しましたの

「うん、わかってくれれば……」

 畜肉移動(ムーブミート)、ですの

「肉から離れなさい」

 家畜移動(ムーブキャトル)……

「座標移動(ムーブポイント)だからっ!!」

 失礼しましたの
201: 「たまゴですの」 2012/03/03(土) 00:27:25.47 ID:sFzreTLQo

「まあ、もっとも……」

 普段は動物しかテレポートさせられないレベル3がやっていることだから、間違えられても仕方ない。と結標は言う。
 畜産の方ですの? と黒子は尋ねる。
 結標はどう見ても高校生くらいの歳だ。この年で、学園都市にいて学生でないというのは非常に珍しいのだ。

「霧ヶ丘女学院、畜産部」

 ?? 黒子は首を傾げた。
 名門霧ヶ丘に何があった。 

「それ系統の能力者がたまたま集まったみたいでね、遺伝子弄りとか含めて色々やってるのよ。これもその一環」

 そして自分は、時々この能力で家畜移送を手伝っているのだと。
 結標なりの好意である。
 決して、家畜移送先に小学校があるとかそういう話ではない。多分。
 子供達が喜んで動物に群がりに来ると、その余録で自分も子供達に群がられる、という話ではない。多分。

 だけど黒子は知っている。
 この前の【くんかくんか】男といい、空間移動能力者には何故か変態が多いと言うことを。

「とりあえず、同系統の誼でよろしくね」

 よろしくお願いしますの、結標さん
202: 「たまゴですの」 2012/03/03(土) 00:27:54.02 ID:sFzreTLQo

 それにしても、と黒子は尋ねる。
 
 ニワトリさんが沢山ですの

「私は移送以外には直接タッチしてないけれど、クローンニワトリらしいわよ」
「ニワトリだけじゃなく、牛や豚もクローンがどんどん増えてるって」
「眉唾な噂だけど、どっかの馬鹿科学者がクローン人間作ろうとして失敗、不完全な装置だけが払い下げられたって話があるのよ」

 不完全だけど、家畜程度なら充分問題ないのだと。
 
「食べる分には、クローンだろうとなんだろうと構わないわよね」

 頷く黒子。

「ところで、超電磁砲はいるの?」

 お姉さまは能力測定精密検査でお出かけですの
 よろしければ、伝言はお預かりしますの

「大した話じゃないわよ。ちょっと噂を確かめたくてね」

 噂?

「常盤台のエースの男の噂」

 お姉さまは正真正銘の女性ですの

「エースが男、じゃなくて、エースの男、ね?」

 !!
 お姉さまにおつき合いなされている殿方がいらっしゃいますの?

「そういう噂ね」 
203: 「たまゴですの」 2012/03/03(土) 00:28:21.66 ID:sFzreTLQo
 
 黒子は少し考えて、言った。

 お兄さまですの

「は?」

 お姉さまがお付き合いなされている殿方でしたら、お兄さまですの

「お兄……さま?」

 ですの
 
 自分の言葉に自信があるのか、ふんすっ、と胸を張る黒子。

「まあ……そういう考え方もある……のかしら?」

 ですの

「うん。ま、いいか」

 ?

「愛しのお姉さまに男が出来て、慌てふためく姿が見たかったんだけどね」

 ??

「貴女、私の予想以上に可愛い子だったわ」

 てれてれ

「可愛い子は好きよ。男の子でも、女の子でも」

 それじゃあ、と言うと、合図でも決めてあったのかトラックが動き出す。
 手を振る黒子。それに応える結標。さらに応じる黒子。

 お仕事ご苦労様ですの

 結標を見送った黒子は時計に目をやると、慌てて学舎へと向かうのだった。

204: ◆NOC.S1z/i2 2012/03/03(土) 00:31:43.93 ID:sFzreTLQo

 以上、お粗末様でした。

 あわきんはもう少しあっさり退場のつもりだったのだけれど……
 何故か書いていたらこんなことに

 そのため、インデックス登場編のはずが、思ったより導入が長くなってしまいました。
 次回はこの日の続きで、インデックス登場、のはず!

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。


220: ◆NOC.S1z/i2 2012/03/09(金) 22:39:55.10 ID:ptcZkE72o

 それでは投下します
 タイトルは「たばこですの」

(「たまゴですの」の直接の続き)
221: 「たばこですの」 2012/03/09(金) 22:40:27.96 ID:ptcZkE72o

 黒子が学舎へ向かおうとすると、寮の正面になにやら人だかりが。
 よく見ると、人だかりの中には見知った顔も。

 なにかありましたの?

 近づいて尋ねる。
 
「白井さん。あそこですわ」

 クラスメートの湾内さんと泡浮さん。二人が示した先には……

「……」

 明らかに苛ついた様子で立ちつくしている一人の男。
 真っ赤な長髪と二メートル越えの長身、そして毒々しいほどのピアスと顔面入れ墨は、此処が常盤台の寮であることを差し引いても目立っている。
 しかも、男はなにやらくわえている。
 あれは、煙草だ。

 禁煙ですの

「あ、あの、白井さん?」

 黒子は臆せず進む。
 相手が何者かは知らない。関係者かも知れない。
 だけど、そんなことは関係ない。
 寮を含めて常盤台の敷地内は完全禁煙である。それは間違いないのだ。
 ならば、黒子の進む道は一つ。

222: 「たばこですの」 2012/03/09(金) 22:40:56.51 ID:ptcZkE72o

 じゃっじめんと、ですの

「ん?」

 男は自らへの呼び掛けに気付いたのか周囲を見回す。

「……誰もいないな」

 じゃっじめんと! ですの

「はて。声はすれども姿は見えず……ふん、これが科学とやらの成果か?」

 じゃっじめんとぉぉぉぉっ! ですの

「……まったく、よくわからない街だな」

 じゃっじめんとぉおおおおおおおおっ!!! ですの

「さっきから五月蠅いな、君は」

 ようやく視線を降ろす男。

「僕に何か用かい?」

 禁煙ですの

「知っているけれど?」

 男はくわえていた煙草を指に挟むと、唇から抜いて黒子の前に示す。

「火をつけている訳じゃあない。つまり、煙は出ていない。だったら禁煙は関係ないだろう」

223: 「たばこですの」 2012/03/09(金) 22:41:23.48 ID:ptcZkE72o
 ぐぬぬ……

「どうかしたのかい? あー……ジャッジメントくん?」

 そういう問題ではありませんの

「ほほう、日本で『禁煙』と言うのは、煙草の所持も禁じるという意味だったのか」

 ぐぬぬ……

「そういう問題ではあるまい、未成年」

 男は背後からの声に振り向いた。

「……ステイル=マグヌス。ここに来る条件として、規則の遵守があったはずだな」

「それは……」

「寮則として、未成年の煙草所持は喫煙と同罪だ」

「いや、これは……」

 寮監の手がステイルの頭へと伸び、それを掴む。

「ま、待ってくれ、これは」

 すーっ、と寮監の身体が持ち上がった。

 おおーー

 黒子をはじめとしたギャラリーから上がるどよめき。
 寮監は、ステイルの頭を支点とするようにそのままくるりと回ったのだ。
 そしてステイルの首から嫌な音が、ぐきり、と。

224: 「たばこですの」 2012/03/09(金) 22:41:56.36 ID:ptcZkE72o

 寮監に何処かへ引きずられていくステイルを見送る一同。

 ご愁傷様ですの

「いえ、白井さん。あの方にとっては幸運だったかも知れませんわ」

 近づいてきた湾内の言葉に首を傾げる黒子。

「もし寮監様がいらっしゃらなかったら……」

 そっと、湾内が示す先には……とある二人を宥める泡浮の姿。

「落ち着いてください、お二人とも」

「ええ、勿論ですわ。落ち着いていますとも。そうですわよね、食蜂さん」

「そうそう、婚后さんの言うとおりよぉ。あの常識力のない長身さんを精神破壊しちゃうゾ☆ なんて思ってないから~」

「私だって、あの頭と身体を逆方向に噴射させて引き千切ろうなんて思っていませんから」

「あらぁ、婚后さん。あんまり加減力がないと、黒子ちゃんが困っちゃうんだけどぉ?」

「あらあら、申し訳ありません。御坂さんご不在の時には白井さんに気を配るようにと〝直接〟頼まれていますので、つい過保護になっ

てしまって」

「……直接?」

「なんでも、レベルの高さをいいことに、白井さんに不埒な接近を企む方がいらっしゃると聞いているもので……どなたかは存じません

が、困った方もいらっしゃるものですわ」

「ぐぬぬ……」

「あの……婚后さまも食蜂さまも落ち着いてください……」

 困っている泡浮の横を走り抜けた黒子が、二人の間に入る。

 喧嘩はいけませんの

「白井さんの言うとおりですわ」

「黒子ちゃんの言うとおりね♪」

225: 「たばこですの」 2012/03/09(金) 22:42:18.68 ID:ptcZkE72o

 急速にクールダウンした二人は、運ばれていったステイルに話題を変える。

「結局、あの殿方はどなたですの?」

「知らないわぁ。だけど、さっきの言葉からすると、学校のゲストじゃないかしらぁ」

 未成年、と言ってましたの

「そうは見えませんが……何処かの高校か大学の方でしょうか?」

「おおかた、卒業生の進路関係じゃあなぁい?」

「ステイル!」

 また、別の声。

「ステイルは何処に行ったのですか」

 きちっとした正装の、スーツ姿の女性が寮監の去った別の方向から姿を見せる。
 女性は辺りに集まった人々に気付くと手近の……湾内に声をかけた。

「すいません。今此処に、赤い髪の長身の男性がいませんでしたか?」

「ああ、その方なら寮監さまに拿捕されました」

「……だ……ほ?」

「はい、此処は禁煙ですので。それを破られたようでしたから」

「それは失礼しました。ステ……彼に替わって非礼を詫びます。それで、何処へ連れて行かれたのですか?」

 湾内が「あちらへ」と示した方向へ、女性は早足で歩いていく。

 きれいな人ですの

「先ほどの方のお知り合いのようですわね」

「大人力ありそうねぇ」

 ……!!
 急がないと遅刻ですの

 黒子の指摘にざわめく野次馬一同。
 ある者は学舎へ、ある者はカバンを取りに自室へ。蜘蛛の子を散らすように別れていく。

226: 「たばこですの」 2012/03/09(金) 22:42:51.44 ID:ptcZkE72o


 その頃……
 
「美味しいんだよ、これ! お代わり欲しいかも! ねぇ、そこの人、これと同じものをもう一つ欲しいんだよ」

 あるファミレスに食欲魔神がいた。
 そして、その魔神を溜息と共に見つめる二人。

「……なあ、一方通行」

「なンだ?」

「上条さんは、迷子のシスターを案内中のはずなんですが」

「奇遇だなァ、俺もそォ思ってたところだ」

 迷子のシスターを見つけたのはいい。
 常盤台へ行きたいというので案内しようと思ったのもいい。
 お腹が空いたというのでファミレスへ連れて行った。まあ、これもいいだろう。
 
 そこで、何故か始まるメニュー全制覇への道。

「まさか……暴飲暴食(ブラックホール・ストマック)レベル5とはなァ……」

「お前がいて良かったよ」

「なに、俺に払わす気ですかぁ!?」

「レベル0、ついでに昨日財布落とした上条さんにそんなお金があるとでも?」

「はァ、また落としたのかよっ」

 呆れながらも一方通行は、テーブルの向かい側で仲良く食事を続けている二人を睨む。

「いい食いッぷりだ! 俺も負けてられんっ! 姉ちゃん! 二人前追加だ!」

「なァンで第七位まで一緒なって飯食ってンですかァ!?」

「いつの間に現れたんだよ、お前」

「はっはっはっ、細かいことは気にするな上条。あと、一方通行は安心しろ、俺は自分の食った勘定は自分で払う!」

「金の心配なンざしてねェよ。って、俺がシスター分払うこたァ決定事項ですかァ!?」


227: 「たばこですの」 2012/03/09(金) 22:43:18.46 ID:ptcZkE72o


 舞台は常盤台に戻り……

「今日来るはずの留学生が迷子になった」

 という噂が校内を駆けめぐっていた。
 朝方の寮での騒ぎで見かけた二人は、その留学生の保護者であったと。
 男の名はステイル=マグヌス。
 女の名は神裂火織。

「数日前から学園都市を歩き回っていたので、もう道に迷うことはないと判断したのが早計でした」
「申し訳ないが、捜索を手伝ってもらえないでしょうか。私たちは、未だ学園都市の地理に疎いのです」

 神裂より、ジャッジメントたる白井黒子に捜索補助の依頼が来たのである。
 この子です、と見せられた写真に黒子は見覚えがあった。
 数日前……正確には変態テレポーターと交戦した日、に道案内した迷子だ。
 学園都市では珍しいシスター服姿だったのでよく覚えている。
 なるほど、数日前から歩き回っていたのなら、それが彼女だったのだろう。

 わかりましたの

 ジャッジメントとして、そして本日ただいまからの同じ常盤台生として、彼女の捜索を断る理由はない。

 早速行きますの

 黒子と神裂が一歩を踏み出す。因みに、ステイルの意識はまだ戻っていない。
 二人による捜索が始まった。






 その二分後、削板から黒子に電話が掛かってきて解決するのだけれど。


228: ◆NOC.S1z/i2 2012/03/09(金) 22:43:47.94 ID:ptcZkE72o



 以上、お粗末様でした。


 インデックス登場はしたけれど……
 話にケリがつかなかった
 それ以前に名前が出てない

 次回こそ、インデックスIN常盤台編終了を目指す。


 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。

243: ◆NOC.S1z/i2 2012/03/16(金) 00:25:42.30 ID:GoJlvUElo

 インデックス登場編、何とか終了

 それでは投下します。
 タイトルは「気のせいですの」
244: 「気のせいですの」 2012/03/16(金) 00:26:35.58 ID:GoJlvUElo

 電話の後すぐに、上条、一方通行、削板がシスターを連れて常盤台に姿を見せた。
 三人とシスターを待ち受けていたのは、黒子と神裂だ。ステイルはまだ意識を取り戻していない。
 緊急事態ということで、黒子の本日の登校は免除となっている。

「来たようですね」

 神裂が四人を視認すると、黒子も頷く。

 お兄さまですの

「貴女の兄上だったのですか?」

 お姉さまの想い人ですの

「なるほど。故にお兄さま、ですか」

 微笑ましいものを見た。というように神裂は笑う。

「ならば、あの子は私の妹分でしょうか」

 ?

「年下の相棒の、大切な想い人ですから」

 ???

「……ああ、失礼」

 ???

「ステイルはああ見えて、こちらでいう中学生です」

 !!!!!!!!!
 イギリス凄いですの

「イギリスはあまり関係ないと思います」

 魔術師凄いですの

「それもあまり関係ないと思います」
245: 「気のせいですの」 2012/03/16(金) 00:26:56.46 ID:GoJlvUElo

 魔術師。
 そう、ステイルは魔術師である。
 そして神裂も同じ側の陣営である。

 学園都市統括理事長は科学と魔術の平和的融合を求めた。それに真っ先に応えたのがイギリスの魔術師たちだった。
 だからこそ、学園都市第六位はイギリスへ渡り、交換留学生として一人のシスターが常盤台へとやってきたのだ。
 シスターの名はインデックス。
 完全記憶能力と10万3000冊の魔道書を持つ少女。

 因みに、一年ごとに記憶が消えるとかそういったことはない。
 そういうのは、一方通行がクローンを虐殺したり、麦野がフレ/ンダを作ったり、上条が記憶失ったりする世界に任せた。
 この世界に、そんな理はない。
 ないったらない。

 そしてインデックスの学園都市への滞在が決定し、次に留学先が検討された。
 中学生。シスター。寮。
 この三つから考えれば、妥当なのは常盤台中学である。全ての条件をしっかりと満たしているのだ。
 魔術師に対する能力開発は危険だが、留学生であるインデックスは能力開発を受けずとも良いことになっている。

 しかし、イギリス清教と学園都市との友好を全ての人間が歓迎しているわけではない。
 だからこそ、インデックスのバックアップには万全の準備が取られていた。
 ルーン魔術の天才、ステイル=マグヌス。
 世界に二十人といない聖人の一人、神裂火織。
 インデックス自体に施された防御システム、自動書記と歩く教会。
 くわえ、二人のレベル5とレベル4のトップクラス数人を擁する常盤台
 この囲みをかいくぐりインデックスを手中に収めるのは困難この上ないだろう。

 因みにステイルと神裂は、一応それぞれ別の学校に籍を置くことになる。

 以上の話を、黒子は削板たちを待っている間に聞かされたのだ。

246: 「気のせいですの」 2012/03/16(金) 00:27:23.45 ID:GoJlvUElo

 そして今、満面の笑みをたたえて何かをくわえているインデックスを先頭に、男三人が雁首を揃えてやってきた。

「かおり、食べる?」モチャモチャ

 インデックスが差し出したのはだんごのようなもの。だんごのように見えるけれど、だんごとは少し違う。

「なんですか? それは」

「みたらしドーナツかも」

「初耳ですね」

「それはみたらしだんごとドーナツを組み合わせた全く新しいスウィーツなんだよ」

 ニコニコと説明するインデックスの横で、一方通行が吐き捨てるように愚痴っている。

「プリンだけに飽きたらず、こンなもンまで作るなンてェ、ったく、木原くンもヤキが回ったもンですねェ」

 言葉の内容とは裏腹に、妙に嬉しそうな様子。

「白い人が買ってくれたんだよっ!」

「はっ、さンざン飯食ったあげくにデザートは別腹って、その胃袋はなンなンですかァ?」

「ファミレス出た後、嬉しそうに木原さんの所に案内してたよなぁ、第一位」

「根性馬鹿は黙っててくれませんかねェ」

「馬鹿みたいに根性があるってか。それは褒め言葉だなっ!」

「マジ馬鹿ですかァ?」

「まあまあ、一方通行も抑えろって」

 二人の間に入る上条。
 その上条の横にインデックスが並ぶ。

「かおり、この人が最初に案内してくれたんだよ」

「うむ。相変わらず女受けはいいな、上条!」

「おいチビ、三下には気をつけろよォ、女泣かせの常習犯だからなァ」

「上条さんは人畜無害ですよ!?」
247: 「気のせいですの」 2012/03/16(金) 00:27:51.20 ID:GoJlvUElo


「インデックスがお世話になりました」

 頭を下げる神裂と、それに応える上条。

「いえいえ。上条さんは当たり前のことをしただけですから」

 さすが、お兄さまですの

 黒子が言う。
 お姉さまと付き合っているのならお兄さま。
 今朝方、結標に言われて決めたことだ。

 が、勿論、結標と黒子のやりとりなど他の誰も知るはすがない。

「なン……だと……? ……お兄さま?」

 結果、一方通行がその凶眼で上条を睨みつける。

「上条くゥゥうン? こりゃァ、一体どォいゥことなンでしょうねェ?」

「は? いや、白井? なんで、お兄さま? いや、上条さんは何も知りませんのことよ?」

「はっはっはっ、上条、いつの間にジャッジメントの嬢ちゃんにまで粉かけたんだ」

 笑いながら、黒子に向かってよぉ、と気軽に手を挙げる削板。

 第七位さまですの

 ニコニコと駆け寄る黒子。
248: 「気のせいですの」 2012/03/16(金) 00:28:18.44 ID:GoJlvUElo


「よしっ、いつものやつ、行くぜっ!」

 はい、ですの

 削板は黒子を抱き上げるようにしてその身体を持ち上げると、すぐさま上空へと放り投げる。

「ェえええええっ!?」

「何やってんのぉ!? 削板!!??」

「ん?」

 驚く一方通行と上条をよそに、削板は涼しい顔。

「よくぞ聞いてくれた」

 ババッ、とポーズを決める削板。

「これぞっ!」

 握り拳を天に突き上げる。

「根性&空間移動のコラボレーション&コンビネーション!」

 くわっと、決め顔。

「エクストリーム高い高い!」

 ドンッ、と何故か爆発する削板の背後。
249: 「気のせいですの」 2012/03/16(金) 00:28:44.92 ID:GoJlvUElo


 その直後、落ちてきた黒子は削板に受け止められる。

 新記録ですの

「そうか。今日は調子がいいみたいだな」

 ですの

「いや、だから何やってンだって」

 詰め寄る一方通行と上条に、削板は気軽に答える。

「見ての通りだ」

「いや、上条さんにはお前が白井を高く放り投げたとしか見えないんですけれど」

「その通りだが?」

「おい」

「安心しろ、加減はしている」

 スリルですの
 爽快ですの

 キャッキャッと笑って喜んでいる黒子を降ろす削板。

「この前、試しに本気でモツ鍋を投げたら、音速を突破してしまったからな。それ以来、俺なりに気をつけている」

「……で、モ……横須賀は?」

「そういえばあれから、姿を見てないな」

「おおおおおおいっ!?」
250: 「気のせいですの」 2012/03/16(金) 00:29:19.55 ID:GoJlvUElo

 騒ぎにこれ関せずと、削板は黒子のリクエストに応えて再投。
 キャッキャッと喜びながら、黒子の身体が宙を舞う。
 何やってんだこいつら、と、頬笑ましいなぁこの人達。その二つの混ざった表情で神裂が宙舞う黒子を眺めていると、

「……凄いんだよ」

 インデックスがずずいと削板に近づいていく。
 しゅん、と黒子が宙に消え、インデックスの目前に姿を見せる。

「わっ」

 テレポですの

「凄いんだよ、ぐんはと……」

 初めまして。白井黒子、ですの

「私はインデックス。それより、ぐんはとくろこは凄いんだよ」

 凄いのは第七位さまですの

「どうした、インデックス?」

「こんなことが出来るなんて教えてくれなかった、ぐんははずるいかも!」

「ん? お前もしたいのか?」

 とはいえ、削板も考え無しの馬鹿ではない。多分、おそらく。多少は。
 相手がいかなる状況からもテレポートという能力で生還できる黒子だからこその、エクストリーム高い高いなのだ。
 常人は下手すると死ぬ。ちなみに、削板の区分では横須賀は常人ではないのでセーフ。
 だから、無闇にインデックスにエクストリームは出来ない。

251: 「気のせいですの」 2012/03/16(金) 00:29:41.75 ID:GoJlvUElo



 削板は考える。

 エクストリームは出来ない。
 
 つまり、エクストリームでなければオッケー。

 三メートルくらいなら飛ばしてもいいだろう。

 待てよ? ここには白井がいるじゃないか。

 多少高く飛ばしてもテレポで回収できるのでは?

 いやいや、一方通行もいるじゃないか。

 かなり高く飛ばして落下しても、ベクトル操作で無傷で生還できるじゃないか。

 もしかして、問題なしじゃないだろうか?

 なんだ、それなら大丈夫だ。

 削板は考えた。



252: 「気のせいですの」 2012/03/16(金) 00:30:08.14 ID:GoJlvUElo


「インデックス、彼が困っていますよ」

 考え終えた削板が口を開く前に、神裂がインデックスを窘める。

「白井黒子は空間移動の能力がありますが、貴女は無能力者です。なにかあったらどうするのですか」

「そのための〝歩く教会〟なんだよ。これがあれば私は平気かも」

「それはそうですが、無闇に不要な危険を招くことはありません」

「かおりの意地悪」

「う……」

 上目づかいで、ちょっぴり涙目のインデックスが神裂にじりじりと接近する。

「私はちょっとだけ飛んでみたいだけなんだよ?」

「なァ、ちょっと口挟むが」

 たじたじの神裂の前に、一方通行が手を伸ばして注意を引く。

「こいつ、妙な防御してねェか?」

 こいつ、と言って示すのはインデックス。

「こいつ周辺の風が妙な具合なンだが」

「貴方は……学園都市第一位……ですか」

「はっ、俺も有名になったもンだなァ。ま、それなら話は早いだろォ」

 一方通行はインデックスの肩に手を置く。

「俺がちょいと力を入れたら弾きやがる。因みに、並みの男でも肩が砕けるぐれェの力だがな」

「な……」

 神裂が一歩前へ出ると一方通行は手を放した。
253: 「気のせいですの」 2012/03/16(金) 00:30:35.29 ID:GoJlvUElo

「これが魔術とやらの成果かどォかはしらねェが、俺の見たところ、多少ぶン投げられて落ちてきても、これなら平気だろォ」

 そもそも、テレポーターと自分のいる前で落下事故なんてあり得ない、と啖呵を切る一方通行。

「この根性馬鹿とテレポ屋が羨ましがらせたンだ、それくれェはサービスしてやってもいいンじゃねェか?」

「俺に異議はないぞ」

 削板が頷くと、

 フォローしますの

 黒子も頷く。

「上条さんもお手伝いを……」

「馬鹿ですかァ!? 俺らの能力打ち消してどォするつもりだァ、三下ァ!!」

 輪から放り出される上条。
 確かに能力必須のこの状況では、幻想殺しは役立たずどころか足を引っ張る以外の何者でもない。

 神裂は考える。
 確かに、〝歩く教会〟ならば落下どころか、至近距離からのミサイル攻撃すら無効だろう。
 落とされたところで十二分に洒落で済む。
 それに……

「ねぇ、かおり、私も飛びたいかもぉ……」

 上目づかい涙目おねだりの三コンボである。ステイル=マグヌスなら二秒で投了の場面だ。神裂火織はもう少し耐えて十三秒ほど。
 つまり、陥落。

254: 「気のせいですの」 2012/03/16(金) 00:31:05.84 ID:GoJlvUElo


 そして――

「きゃあああああああああああああああっ!!!」

 これは嬉しい悲鳴である。
 削板に飛ばされているインデックスの嬉しい、そして楽しそうな悲鳴である。

「凄いんだよ!」

「よぉしっ! この高さでもビビらねえとはいい根性だ!」

 くるくると回りながら、満面の笑みを浮かべながら飛んでいるインデックス。
 それを見送ってこちらもくるくる回りながら手を振っている黒子。
 喜んでいるのが嬉しくて投げ続ける削板。

「もっと、もっと飛ばすんだよ! ぐんは!」

「おおっ!!」

 第七位さま、凄いですの
 インデックスさん、凄いですの

 削板軍覇はちょっと調子に乗ってしまった。
 黒子は油断していた。
 一方通行も油断していた。
 頬笑ましく見守る神裂火織も油断していた。

「もっとだよ!」

 そしてインデックスは思いっきり調子に乗っていた。

「全然平気なんだよ! ナンバーセブンも大したこと無いかも」

 削板に火がついた。
255: 「気のせいですの」 2012/03/16(金) 00:31:32.94 ID:GoJlvUElo


「うぉおおおおおおおおっ!!!!」

 どん



 インデックスは音速を超えた。



「まだまだなんだよ!!」

 インデックスはハイになった。
 削板は意地になった。

「うぉおおおおおおおおっ!!!!」
256: 「気のせいですの」 2012/03/16(金) 00:32:04.30 ID:GoJlvUElo





 インデックスは大気圏脱出速度を確保した。
 





「このォ、ど馬鹿がァーーーーー!!!!!」

 一方通行が削板を怒鳴りつけた。
 
257: 「気のせいですの」 2012/03/16(金) 00:32:38.16 ID:GoJlvUElo


 そしてインデックスは……

「――警告、第三十五章第八節。本体の第一宇宙速度突破を感知しました。『自動書記』を強制起動します。
地球圏脱出防止のため、魔力放出による逆噴射制動を試みます。
特定魔術『聖ジョージの聖域』を発動、術式『竜王の殺息』を反動消失術式を除外して追加発動します」

 インデックスの顔が上を向き、二つの魔法陣が産まれ、その中央付近に亀裂が発生する。
 さらにそこから放たれる光。ニュアンスとしては直径一メートルほどのレーザー兵器。
 その射出の反動か、インデックスの上昇速度は急激に落とされ、その身体が宙に止まった。
 やがて、落下する。

 落下地点で待ち受ける一方通行。
 ベクトル操作でゆっくりとインデックスを地に戻す。

「……ビックリしたんだよ」

「アレがその一言で済むのかァ……すげェな、お前……」

「あの……」

 近づく神裂に頭を下げる一方通行。
 隣の削板を、地面に頭がめり込むほど土下座させる。
 その隣で一緒に頭を下げる黒子。
 さらにその隣で異常に土下座が絵になる上条。

「すまねェ、この俺がいながら……」

 ごめんなさいの

「インデックスは無事でしたから不問としましょう。しかし……」

「あ?」

「『竜王の殺息』が何かを撃墜したような気がしますが……」

「あァ?」
258: 「気のせいですの」 2012/03/16(金) 00:33:08.61 ID:GoJlvUElo


 空を見上げる一方通行と黒子。

「なンかあったか?」

 おりひめ、ですの

 言われてみれば、確かあの方向には、『樹形図の設計者』を納めたおりひめ1号があったような気がする。

「……」

 ……

「あの……」

「気のせいだァ」

「は?」

「うン。気のせい」

 そうですの
 気のせいですの

「そうですか、気のせいですか」

 そうですの



 こうしてインデックスは、常盤台の一員として寮生活を送ることになった。
 寮内でも色々な事件が起こるのだけれど、それはまた別のお話。
259: 「気のせいですの」 2012/03/16(金) 00:33:36.00 ID:GoJlvUElo

 以上、お粗末様でした。

 

 インデックスの常盤台での物語はこの後おいおい
 ……誰と同室になるか、とかはもう決めているんですけどね
 そこまで話が回らなかった。
 根性さんの暴走が悪い。そして黒子の影が薄い
 

 次回は、
「打ち止め誕生編」
「三沢塾繁盛編」
「ニワトリの丸焼き編」

 のどれかになる予定
 あくまで予定

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです

 では、また
267: ◆NOC.S1z/i2 2012/03/22(木) 00:27:05.35 ID:skmiUDsNo

 それでは投下します。
 タイトルは「あーんですの」
268: 「あーんですの」 2012/03/22(木) 00:27:44.98 ID:skmiUDsNo

 昼間の日射しが、ようやく温かみを運び始めた頃。
 小さなディバッグを背負った黒子がとことこと、公園に向かって歩いている。
 公園の入口でピタリと止まり、顔を覗かせる。

「ここですよ」
 
 お待たせですの

 ベンチに座って手を振っているのは絹旗さん。

「超大丈夫です。私も今来たところですから」

 ポンポンとベンチの空いた側を叩きながら、ここに座れと促していた。
 黒子は素直に座ると、ディバックを背中から降ろして膝に乗せる。

 常盤台の玉子焼き、ですの

 ディバックから出てくるタッパに詰められたおかずの数々。

「これが超噂の、常盤台で飼っている鶏の卵から作った玉子焼きですか」
 
 他にも色々ありますの
 鶏の唐揚げとか

「もしかして、この鶏は……」

 特別に分けていただきましたの
 産地直送ですの
269: 「あーんですの」 2012/03/22(木) 00:28:11.42 ID:skmiUDsNo

「それは超楽しみです」

 抱えていた包みを開く絹旗。

「では、私は、約束通りおにぎりです」

 プラスティック製の籠に入った、それぞれがラップにくるまれたおにぎり。

「麦野にお願いして超特別に分けて貰った鮭を入れてきました」

 鮭愛(サモフィリア)を能力パラメータに加えることが出来るならば、確実に学園都市第一位となるだけの実力を持った麦野の選んだ鮭だ。
 それを具にしたおにぎりの美味しさはいかほどのものか。
 おにぎりと一緒に水筒を取り出す絹旗。

「麦茶ですけれど、白井はいいですか?」

 大丈夫ですの

 学園都市の自販機で奇怪ジュースに毎日出逢っていれば、多少の飲み物には耐性がつくのだ。嫌だけど。

 お昼の準備は万全ですの

「では、早速いただき……」

「にゃあ」
270: 「あーんですの」 2012/03/22(木) 00:28:38.79 ID:skmiUDsNo

 二人の視線が向いた先には闖入者。

「ジャッジメントのお姉ちゃん、大体久しぶり。にゃあ」

「フレメア?」

「絹旗にもご挨拶。にゃあ」

 にゃあが挨拶というわけではない。フレメアはきちんと頭を下げていた。

 お久しぶりですの

「白井はフレメアと知り合いだったんですか?」

 以前、迷子になったフレメアを浜面や駒場の所まで案内としたことがある、と黒子は説明する。

「ああ。それで浜面は白井を知っていたんですね。私は浜面がジャッジメントに捕まったことがあるんだと思ってました」

 違いますの

「私もお弁当持ってきた」

 フレメアが、引っ張ってきたキャリーバックを差し出す。

「フレンダお姉ちゃんが大体用意してくれたから」

「フレンダもちゃんとお姉ちゃんしているんですね」

 受け取って、中身を確かめる絹旗。
 黒子も同じようにバックの中を覗き込む。

 ……缶詰ですの

「超鯖缶ですね」

271: 「あーんですの」 2012/03/22(木) 00:29:06.46 ID:skmiUDsNo

 ごろごろと転がる鯖缶を黒子は身体を張ってかき集めては、バックに向かってテレポする。
 
 缶詰ばかりですの

「おやつもある。にゃあ」

 よく見るとミカン、パイナップル、桃の缶詰も混ざっている。

 デザートですの

「わかりました。今日はフレメアも、一緒にお弁当食べましょう」

 賛成ですの

「別にデザートに超屈した訳じゃないですよ?」 

 桃缶美味しいですの

「あ、私は超パイナップルを予約します」

「缶詰はいっぱいある。にゃあ」

 たくさんありますの

「おにぎりもおかずもあるから、ちょっと多すぎですね」

「大体二人分あるから」 

 食いしんぼですの

「違う。友達の分」

「フレンダはお姉ちゃんですし……滝壺さんですか?」

「那由他の分」
272: 「あーんですの」 2012/03/22(木) 00:29:33.65 ID:skmiUDsNo

 どなたですの?

「超初耳です」

 もっとも、絹旗はフレメアの友達関係に詳しい訳ではない。

「一緒にご飯食べられたら、嬉しい。にゃあ」

 黒子と絹旗は、ベンチから立ち上がる。
 瞬間、フレメアの表情が曇った。

 行きますの

「フレメア、行きますよ」

「え?」

 ここは狭いですの

「四人で座れるところに移動するんですよ」

 フレメアさんのお友達と四人でお食事ですの

「今日は特別です」

 だけど、本当は招かれないのに押しかけるのは失礼ですよ、と絹旗は言う。
 するとフレメアは、

「絹旗なら、一回だけは許してくれる。ってお姉ちゃんが言ってた」

 フレンダは見抜いていたらしい。

「むう」

 見抜かれてますの
273: 「あーんですの」 2012/03/22(木) 00:30:01.04 ID:skmiUDsNo

「フレメアの友達はどんな子なんですか?」

「大体金髪でツインテール」

「白井とフレメアを合体させればいいんですね」

「大体合ってる」

 合ってますの?

「名前は那由他」

 さっき聞きましたの

「木原那由他」

 木原?

 その名前で黒子が思い出すのは、とても美味しいスイーツの数々。
 エクレアにうるさい食蜂操祈すら唸らせた絶品カスタードエクレア。
 甘い物が苦手だと豪語する一方通行すら受け入れたほろ苦旨プリン。
 舌の肥えた婚后光子を黙らせた究極のガトーショコラ。

 顔面入れ墨の凶悪な顔をしたパティシエ、木原数多。
 それが黒子の知る「木原」なのだ。
 そしてその店名は――

 スイーツ木原ですの?

「それ、那由他のお家。にゃあ」

 あらまあ、ですの
274: 「あーんですの」 2012/03/22(木) 00:30:29.98 ID:skmiUDsNo

「おいおい、誰かと思ったらジャッジメントの嬢ちゃんじゃねえか」

 公園入口から掛かる男の声に、絹旗が咄嗟にフレメアを背後に庇った。

 絹旗さん?

「超怪しい入れ墨男です。白井も気をつけて」

 木原さんですの

「はい?」

 パティシエですの
 
「はい?」

 スイーツ木原のパティシエですの

「……あの人が? ですか?」

 そうですの

「浜面のスーツ姿並みに超似合わないです」

「浜面は大体格好いいよ?」

「フレメアには男性を見る目を教える必要が超あります。ついでに滝壺さんにも」

 木原が半笑いで絹旗を見ている。

「なに構えちゃってんだ? そこのちびっ子は」

「誰がチビてすか! 超失礼です!」

「はっ、ホントにこの場所で合ってんのか?」

 木原の影から呼び掛けに応えて、金髪の少女が姿を見せる。
275: 「あーんですの」 2012/03/22(木) 00:31:01.92 ID:skmiUDsNo

 少女は数多を見上げて言った。
 
「はい。ここで合ってます。フレメアもいますし」

「そうか。まあ、ジャッジメントの嬢ちゃんはウチの常連さんだから信用できるな」

 絹旗さんはお友達ですの

「あー、嬢ちゃんがそう言うならいいだろ」

 言いながら、木原は抱えていた袋を置いた。

「ウチのプリンとモンブランだ。おやつにでもしてくれ」

 ありがとうございますの

「スイーツ木原の限定モンブランですか!? 麦野に超自慢できます!」

「そりゃあ、良かった。じゃあな、あんまり遅くなるなよ、なゆたん」

「なゆ……たん……?」

 あまりのギャップに絹旗が呟く横で、木原那由他は木原数多に手を振る。

「わかりました、おじさん」

「遅いと他の連中も心配するからな、テレスとか円周とか病理とか」

 照れながら手を振る数多を見送って四人は、公園隅のテーブルに陣取る。
 ようやく広げられるお弁当。

 絹旗のおにぎりとお茶。
 黒子の卵焼きと唐揚げとウィンナー。
 フレメアの鯖缶、フルーツ缶詰。
 那由他のプリンとモンブラン。
276: 「あーんですの」 2012/03/22(木) 00:31:25.41 ID:skmiUDsNo

 特に豪華というわけではないけれど、一緒に食べることが目的だから。

「初めまして。木原那由他です」

「絹旗最愛です」

 白井黒子ですの

「……絹旗最愛……白井黒子……第四位と第三位の片腕と言われる人?」

「私たちも超有名ですね」

 フンスと胸を張る絹旗。
 てれてれ、と黒子。

 お姉さまと第四位さまのお陰ですの

「那由他那由他、フレメアも麦野の仲間。にゃあ」

「うん、そうだったね」

 フレメアのお友達は、黒子の友達ですの

 四つの紙皿と割り箸、紙コップを配り、真ん中にそれぞれのお弁当を置く。

「大体準備できた」

「超準備完了です」

 それでは、いただきますの

「いただきます」
277: 「あーんですの」 2012/03/22(木) 00:31:57.00 ID:skmiUDsNo

「白井さん白井さん、おにぎりが美味しいですよ。ほら、超あーんしてください」

 一口サイズに作ってある俵おにぎりを割り箸で取って、白井の口元へ持っていく絹旗。

「あーんです」

 てれてれ
 あーん

 ぱくり、と食べて満面の笑顔

 むぐんぐぐ(鮭ですの)

「勿論、超鮭です」

 ご返杯、ですの

 今度は黒子が唐揚げを絹旗の口元へと運ぶ。

 あーん、ですの

「あーん」

 がぶり、と一口。もしゃもしゃと。

「ひゃふ、ひょお……超美味です。さすがは常盤台鶏です」

 そんな二人の様子を見ていたフレメアが、むーっと膨れた顔で間に入る。

「二人ともずるい。にゃあ」

 次はフレメアですの
278: 「あーんですの」 2012/03/22(木) 00:32:24.82 ID:skmiUDsNo

「フレメア、玉子焼きですよ。あーん」

 鯖の水煮ですの
 汁に注意しますの

 左右から同時に箸を出され、フレメアは両方に目がいってしまう。

「あ、絹旗……白井……どっち?」

「それはフレメアの超自由です」

 そこでふと、黒子は那由他の様子に気付く。
 何も言わないけれど、その視線はちろちろと、フレメアの前に突き出された箸へと伸びている。

 あーん

「え?」

 あーん、ですの

「あ、あーん」

 那由他の口に、黒子は鯖の水煮を持っていく。

 フレメアのお姉さま特選ですの

「あ、白井、するい。にゃあ」

 フレメアがおにぎりを那由他の口元へと運ぶ。

「これは超負けてられません」

 さらに絹旗はウィンナーを。

「あ、あの、あれ?」

 いきなり注目を浴びて慌てる那由他だった。
279: 「あーんですの」 2012/03/22(木) 00:32:52.01 ID:skmiUDsNo

 それぞれにあーんしながらお弁当を食べていると、

「誰かいる」

 フレメアが突然そう言って茂みを指さした。

「大体あの辺。にゃあ」

 ネコですの?

「にゃあ」

 黒子の言葉をまともに受け取ったのか、フレメアが走り出す。

「危ないよ、フレメア」

 後を追う那由他と絹旗。
 立ち止まったフレメアの視線の先に、汚れた白衣の男がいる。

「学園都市にホームレスは超珍しいです」

 スキルアウトならば珍しくもないけれど、年の頃を見れば違うことはすぐにわかる。
 黒子が男と三人の間にテレポした。

 じゃっじめんと、ですの

 黒子の言葉で、男がゆっくりと顔を上げた。

「なんでもない。気にするな……」

 這いずるようにしてその場を立ち去ろうとする男。
 その時――

 ぐぎゅるるるる

 とんでもない勢いで腹の音が。

「食べる?」

 那由他がおにぎりを差し出した。
280: 「あーんですの」 2012/03/22(木) 00:33:26.29 ID:skmiUDsNo



  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 仲睦まじく食べさせあう四人から少し離れた茂みの中で、一人の男が呻いていた。

「……くっ……このままでは済まさんぞ……」
 
 汚れきった白衣に身を包んだこの男こそ、一方通行達にさんざん叩きのめされ追放されたはずの科学者、天井亜雄であった。
 いきなりクローン装置を全て破壊され、中にいた妹達を全員保護され、さらに研究所から着の身着のままで追い出されたのだ。
 立場的にも物理的にも。
 
「まだだ。まだ隠し施設はある。いくらなんでも一つや二つは……」

 復讐。それが今の天井の脳裏のほとんどを占めている思考だった。

「まだまだ、クローンは作れるんだ……待っていろ……一方通行……」

 復讐の手だてはある。
 現在稼働中の妹達全てに強制命令を出すことの出来る上位個体。完成には至らなかったが設計図は自分の頭の中にある。
 隠しているクローン培養基を見つけることが出来れば、作り上げた上位個体により下位個体を掌握できるのだ。
 しかし……

「腹が……減った……」

 無一文で放り出されて以来、まともな食事を摂った記憶がない。
 茂みの向こうには仲良くお弁当を食べている少女達の姿。正直、羨ましい。
 だがまさか、その中の一人が突然こちらに駆けてくるとは。
 そして……
 
 差し出されたおにぎりをがつがつと食べる。
 次いでお茶を飲み干す。

「ゆっくり食べていいよ」

 金髪のツインテール少女がそう言いながら、微笑んでいる。

 ああ……

 天井には少女が神々しくすら見えていた。
 だから、此処は大人しく立ち去ろう。施しを食らい終われば大人しく姿を消そう。
 この少女達には迷惑をかけてはならない。
 それほどまでに、天井は救われたのだ。
 素晴らしい。少女は素晴らしい。

 そうだ。上位個体が御坂美琴と同じ年齢である必要はあるのか?
 少女が素晴らしいことが今日わかったのなら、これから作る上位個体の年齢をこの少女に合わせようではないか。
 少女は素晴らしい! ビバ少女! 少女に栄光あれ!!! ロリ万歳!!
 俺は、俺は少女を作るぞぉおおおっ!!


 後の「打ち止め」である。
281: 「あーんですの」 2012/03/22(木) 00:33:49.23 ID:skmiUDsNo


 以上、お粗末様でした。

 

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。

次スレ:

黒子「じゃっじめんと、ですの」【中編】


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