とある五条の蹴球闘技
- カテゴリ:とある魔術の禁書目録
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- 26: 2010/11/25(木) 22:06:39.92 ID:XastBV6vO
- 本来ならば数多の雑踏に蹂躙されるはずの夜半の街路は、静寂に支配されていた。
静寂の中に、ぽつぽつと点在する人影が3つ。
一つの影は幻想殺しの右腕を持つ高校生、上条当麻。
もう一つの影は、露出の多い奇異な格好に身を包んだ女。
残された最後の影が後方に跳躍すると、着地と同時に身がまえ、声を発する。
五条「……クク……随分なご挨拶ですね……」
────────────
引きちぎれたビニール袋に目を落とし、眼前に立つ女を見据える。
五条「どこかで会いましたか……?言われもなく攻撃を受ける覚えは無いのですが……」
- 32: 2010/11/25(木) 22:15:17.48 ID:XastBV6vO
- 『手短に尋ねます。貴方は何者ですか?』
……何者?
眼前の女が自分に身分の証明を求めた理由が、よく理解出来ない。
自分がどういった人間で、周囲にどう認識されているかを考え、言葉を返した。
五条「…オレですか…?ヒヒ……オレは五条勝……」
言いながら指を鳴らす。
前方の土中から五羽の企鵝が姿を現し、隊伍を組んだ。
五条「サッカーが好きな、只の中学生ですよ」
『…ッ!貴方が五条勝ですか。ステイルから話は聞いています』
長刀の柄を上に向け、右手を逆手に添えながら女が言葉を続ける。
『続けて問います。あなたの目的はなんですか?』
五条「……目的?」
『とぼけますか……?七閃ッ!』
女が刀を構えると、幾条もの断裂がアスファルトに模様を描きながら自身へと向かってきた。
アスファルトの断裂と甲高い風切り音がいざ眼前に陣取る企鵝の身を喰らわんとした刹那、ピタリと攻撃が止まる。
来るものかと思っていた攻撃が停止した事を確認して女に目線を送ると、女は訝しそうな表情で構えを解かないまま再度言葉を投げてきた。
『次は当てます。そして今一度問います。貴方の目的は何ですか?あの娘の持つ魔道書?私とステイルの身柄の確保ですか?』 - 39: 2010/11/25(木) 22:23:21.95 ID:XastBV6vO
- 女の質問に少しの間思案し、言葉を返した。
五条「クク……今日は少々疲れているので、早く家に帰りたい…それと…」
『!?』
五条「そこの高校生が顔見知りでしてね……もしもオマエが彼を害そうとしているのならば、どうにかしなければなりません……」
『……ッ!』
辛そうな表情で、傍らの高校生に視線を投げる女に続ける。
五条「最後に……」
五条「オマエの名前を知りたいですね……自分だけ名乗るというのは、どうも気分が良くない…」
『……本当ですね…?』
コクリと頷き、黙って女の目を見据える。
女が構えていた刀を降ろした。
『……嘘はついていない様子ですね……唐突にすまない事をしました、私はかんざ『ッッなんでオマエがここに居るんだッ!!』』
女の言葉を遮る様に、ごう、と自身の後方から熱風が吹きつけた。
振り返ると、眼前に迫っている火球。
咄嗟に火球を蹴り返し、その発生源を睨みつける。
『…ッ!お待ち下さいッ!』
燃える様な赤い長髪、目の下に刻まれたバーコードの刺青、咥え煙草のまま憎悪の表情でこちらを睨みつける神父服の男、ステイル=マグヌスの姿が、そこにあった。 - 44: 2010/11/25(木) 22:30:33.75 ID:XastBV6vO
- 瞬間、修道女を踏みつける男の表情を思い出し、全身の血が一気に沸騰する───────────
五条「……これはこれは931さん。随分と荒っぽいご挨拶ですねええぇぇぇッ!!」
相手を視認すると同時に駆け出し、身を沈めてスライディングキックを放った。
『ステイル!やめなさい!』
ステイル「会いたかったぞ中学生っ!魔女狩の王(イノケンティウス)ッッ!!」
反応したステイルによって召喚された炎の巨人が、そのコースを阻む。
五条「ククク……アーッハッハッハ!!イイ!そうこなくてはッ!」
スライディングの勢いを殺し、体制を建て直しステップを踏む。
一箇所、二箇所、三箇所。
緩急を付けながら高速移動を繰り返し、二体の幻影と共に巨人に向かい跳躍した。
ステイル「二度同じ手を食うと思ったかッ!吸血殺しの『やめろっつってんだろこのガキどもがァッッ!!!』」
女の怒声と共に、自分とステイルの周囲の地面が一斉に吹き飛ぶ。
ステイルが口に咥えたタバコを落とし、愕然とした表情で自分の後方を眺めていた。
とてつもなく嫌な予感を感じながら背後を振り返る。 - 48: 2010/11/25(木) 22:38:06.90 ID:XastBV6vO
- 身を寄せ合ってプルプルと震えている企鵝達の向こう側に、この世の終わりに降り立つ魔王の様な表情をした女が立っていた。
────────────
魔王の様な表情をそのままに、コツコツと女がステイルへと歩み寄る。
『ステイル。魔術と関わりの無い中学生を相手にいきなり魔女狩りの王とはどういう事ですか?』
ステイル「なっ…?関わりが無いだってッ!?その中学生は現にボクの人払いのルーンを抜けてここにいるんだぞッ!?」
女がぴたりと立ち止まり、顔だけをこちらに向けて口を開いた。
『……貴方は、魔術師なのですか?』
体勢こそ構えては居ないが、女から刺す様な殺気を感じる。
五条「……?」
どうやら先刻より周囲に人の気配が無いのは、ステイルが刻んだ人払いの魔術の効果の様だ。
ステイル「魔術師に決まっているだろう!もしもそうだとしても、ボクの刻んだルーンがボクに気付かれずに突破されるなんて相当な使い手じゃないと考えられない!危険なんだよ!そいつは!」
- 53: 2010/11/25(木) 22:46:01.49 ID:XastBV6vO
- そのルーンとやらを刻んだにも関わらず、こんな場所に自分が居る。
決して魔術の心得など無いのだが、今日一日の出来事を反芻して考えた後に、嫌嫌ながらも合点が行った。
五条(あぁ……考えたくはありませんが……)
五条「……魔術というのは存じませんね……ただ……」
五条「……少々特異体質で、とでも言いましょうか」
女が目を細め、じーっとこちらを見据えてくる。
五条「ククク……」
眼鏡ごしに、負けずに見つめ返す。
『……はぁ…』
女がため息をつき、幾分か表情が和らいだ。
『ステイル。戻りますよ』
ステイル「正気かい神裂ッ!?そいつは」
『あなたの修行不足でしょう。自分の魔術が破られたからといって、ムキにならない事です』
ステイル「クっ…!ゴジョー、命拾いしたね…」
ステイルがふう、と紫煙を吐く。
五条「ッククク…あぁ助かったー931はとぉーっても怖いですからねーよかったよかったー…ククク…アーッハッハッハ!!オレからッ!逃げるのですかッ!?ブザマですねッッッ!ヒヒヒヒっ…!」
ステイル「ッ…!!」 - 59: 2010/11/25(木) 22:54:18.82 ID:XastBV6vO
- その掌に再び炎を灯らせたステイルの眼前を、女の手が遮る。
『存ぜぬとはいえ失礼なことをしました。そこの上条当麻が目を覚ましたらお伝え下さい。【何としても、我々は目的を達成する】と』
五条「お引き受けしましょう……」
『あぁ、それから私の名ですが、神裂。神裂火織と申します』
五条「……ククク…素敵な名前ですね…」
神裂「……貴方にも忠告しておきますが、これ以上我々に深入りしないで下さい。もしも貴方が敵意を以って我々に対峙するのであれば……」
五条「約束は出来かねますがね……」
神裂「結構です。では…」
ステイル「次は覚悟しておくんだね…ゴジョー」
ステイルがプっと咥えていた煙草を吐くと、中空の煙草が赤く燃え上がり、周囲に人の気配が戻ってくる。
目前に立っていた二人は、何事もなかったかの様に人並みへとその姿を溶かしていった。
五条(…怪しまれる前に済ませた方が良さそうですね…)
人の気配に紛れて、上条当麻を肩に担ぐ。
五条(……とはいえ、これからどうすれば良いのでしょうか…?)
- 64: 2010/11/25(木) 23:03:02.72 ID:XastBV6vO
- 『あーっ!見つけたんだよっ!』
一旦自宅にでも運び込もうかと思っていた矢先に、どこかで聞いた様な女の声が響いた。人ごみの間を縫って、真っ白な修道服に身を包んだ少女がこちらへと向かってくる。
やがて眼前に到着した少女は、ぜえぜえと肩で息を切ると、人差し指を突きつけ叫んだ。
『トウマは渡さないんだよっ!このひとさらいめ!』
五条「ひッ…ひとさらいですとッ…!?俺がッ…!?」
『トウマを離すんだよッ!』
五条「…ひぎぃッ!?」
ガリっと言う音と共に、右腕に激痛が走る。
少女がいつの間にか口を開け、上条を抱えている腕に噛み付いていた
。
次第に周囲の人の目線が自分達に集中していくのがわかる。
『おい……ひとさらいっだってよ……』
『おいおい、高校生とシスターをかよ……』
『確かに悪魔みたいな奴だな……』
通行人達が呟く、いわれのない会話が耳に痛い。
五条「ちッ……違うんです!これはッ…!」
『道をお開け下さい!風紀委員ですわッ!誘拐犯はどちらですのッ!?』
人ごみを掻き分ける様に響いた聞きなれた声は、この状況を打破してくれる女神の天声にも、より面倒な状況を招いてくれる悪魔の嘲笑にも聞こえた。
──────────── - 90: 2010/11/25(木) 23:23:30.03 ID:XastBV6vO
- 黒子「……それで、今回はどういうわけですの?」
黒子の手際は見事なものだった。
人ごみをかき分け自分の姿を見つけるや否や、
『被疑者を確保されたのですの!流石ですわ五条さん!』
と大声で叫び周囲の認識を改めた後、雑踏を抜けた裏路地の公園へと手を引かれて連行される。
計四人が連結状態でわさわさと移動する様は随分と周囲の目を引いたが、真剣な表情の自分達を恐れてか、好奇心から後を追ってくる輩は居なかった。
眠っている上条をベンチに横たえたところで彼女が呆れる様な表情で呟いたのが先の言葉だ。
お陰で誘拐犯として世間から後ろ指をさされずに天寿を全う出来そうだ。
五条「…ククク…助かった、礼を言わせて貰いましょう…それと…」
五条「……そろそろ離して頂いて良いですか…オレはひとさらいではありません……」
右腕に噛み付いたまま転移され驚いたのか、きょとんとして噛む力が弱くなっていた右腕のシスターに話しかける。
『あ……うん、ごめんなさい……』
少ししゅんとして離れた少女と、その少女に訝しげな視線を送る転移能力者の少女に、これまでの経緯を語って聞かせる。
- 93: 2010/11/25(木) 23:28:56.83 ID:XastBV6vO
- 夕刻に、知人の病院に向かうと言って彼女達がタクシーに乗り込んだ後、自分は電車を使い帰路についていた。
帰路の途中で、見慣れない屈強な男八人に以前たまたま街で知り合った上条当麻が絡まれ、殴られ、気絶していた。
見かねた自分が悪漢達にアガペーと思いやりの定義について諭したところ、改心した悪漢達は自分に礼を言って街へと消えていった。
道の真ん中で気絶している彼をどうしようかととりあえず担ぎ挙げたら、たまたま街に遊びに来ていた上条当麻の彼女であるこのシスターのフランソワーズさんが自分を誘拐犯だと思って噛み付いてきた。そしてハンバーグ弁当を食べ損なったと……
黒子「嘘ですわね。大部分」
ジト目の彼女に睨まれる。
五条「ククク……」
『…?ひとさらいじゃなくてトウマのお友達…』
黒子「……話せないご事情がおありですの?」
ジト目から一転、凛とした表情で投げられた黒子の問いかけに少し間をおき黙って首を縦に振る。
- 100: 2010/11/25(木) 23:35:41.77 ID:XastBV6vO
- 彼女ははあ、と小さく息を吐くと、携帯電話を取り出して何処かへと電話をかけ始めた。
黒子「……あぁ、夜分に申し訳ありませんわ。先生、急患をお願いしたいのですけれども……えぇ……聞かないで頂けると助かりますの……えぇ、すみません、よろしくお願い致しますわ……」
ぼーっとその様子を眺める自分とシスター。
電話を終えた彼女が、再度ため息をつきこちらへ向き直る。
黒子「…腕の良いお医者様がおりますの。見たところあちらの殿方は怪我をされておいでですわね?お話は通しておきましたので、これから三人でお向かい下さいませ」
五条「……すまない、ありがとう…」
黒子「本日のお姉さまの件もございますし、お互い様ですの。
本部には聞いたまま報告しておきますわ。…カップルならば心配もいらなそうですので」
軽く微笑んで、彼女が傍らのシスターを見た。
『……?どうかしたの?』
黒子「…何でもございませんわ。では五条さん、わたくしはこれで…あっ!」
- 103: 2010/11/25(木) 23:43:11.19 ID:XastBV6vO
- 五条「……?」
黒子「さっき仰られておりましたけれど…ハンバーグ、お好きなんですの?」
五条「……ええ、嫌いじゃあありません…ククク…」
答えると、彼女はにっこりと笑いその姿を消した。
消えた彼女を見送り、傍らに視点をやる。
死んだ様に眠り続ける上条当麻と、心配そうにその手を握る名も知らないシスター。
ハタから見る分には、只の睦まじいカップルの介護風景にしか見えないのだが……
この調子では、今夜は帰れないかも知れない。
そんな邪推を抱きながら携帯電話を取り出し、タクシー会社の電話番号をプッシュした。
──────fin────── - 205: 2010/11/26(金) 22:05:16.79 ID:336bnOz2O
- 時刻は宵も盛りの午後九時を少し回っている頃だ。
窓の外の景色に目を向けると、ある者は慌しく帰路を急ぎ、またある者は憂さを払う為の酒に憑かれ、ある者達は、互いに手を取り合いながら幸せそうに街路を闊歩している。
前方の信号が赤から青へと変わり、そんな景色がイルミネーションの流れを伴って、加速しながら次第と後方へと流れていく。
窓から目を背け車内に目線を送るとそんな当たり前の光景を、初めて出会う動物を眺める子どもの様に興味深そうな表情で眺める銀髪碧眼を持つシスターの姿が視界に入った。
そのシスターを挟んで対面に着座するウニの様な頭の高校生は、相も変わらずスヤスヤと寝息を立てている。
退屈な時は死にそうな程に刺激が欲しくなるものだが、実際に忙しさの中に身を置くと退屈な一日が少し恋しくなる辺り自分も身勝手なものだなと考え、こみ上げてきた自嘲を漏らす。
五条「……ククク……」
──────────── - 206: 2010/11/26(金) 22:12:53.06 ID:336bnOz2O
- 『……そう言えば、まだ自己紹介してなかったよね!』
自嘲の笑みに反応したシスターが、その目線を窓の外から自分へ移し、口を開いた。
『私の名前はインデックスって言うんだよ!』
五条「……!コレは失礼をしました…俺は五条…五条勝です…インデックス……さんで?」
唐突に珍妙な自己紹介をされた事に戸惑い、確かめる様に聞き返す
インデックス「うん、"禁書目録"って事なんだよ。魔法名ならDedicatus545、これは"献身的な子羊は強者の知恵を守る"っていう意味だね!」
次々とよく意味を理解できない言葉を並べるシスターに少し気圧され、はあ、と短く返答をする。
五条「インデックスさん……ですか……俺はここ最近、そこの上条さんと共に幾度か赤毛の神父に襲われたのですが……差し支えなければお話下さいますか?……あなた方は今どんな状況で、どんな連中に狙われているのか……」
インデックス「うん……構わないよ。きっと狙われてるのは、私じゃなくて、私の持ってる十万三千冊の魔道書なんだよ」
五条「……魔道書?」 - 207: 2010/11/26(金) 22:20:31.44 ID:336bnOz2O
- インデックス「うん、魔道書。それを狙って私を追って来ているのが、魔術結社に所属している君の言っていた人なんだと思うよ」
五条「……」
次々と並べ立てられる難解な言葉を整理する。
──────魔術。
世間一般から考えるに常識はずれも甚だしい概念に違いないが、生憎と自分は学園都市に入る以前より随分と"超常現象"と呼ばれるものを目にしているので、それに関しては些かの疑念も無い。
そんな超常的な力を持った者達が集まってコミュニティを形成するという事に関しても、至極当たり前の事だろう。
目前の少女は十万三千冊の魔道書を持つというが、現在進行形で自分の目に見えていないだけで、別に持っていたところで何ら不可思議ではない。
もしかするとこの少女を怒らせた途端、タクシーの車内がとんでもない数の書物で埋め尽くされるのではないかとの懸念すら浮かんでくる。
五条「……ククク…何となく理解できました…」
インデックス「話が早くて助かるよっ!」
少女はニコリと満面の笑みを表情に散らすと、続いてこれまでの経緯を語り始めた。
- 212: 2010/11/26(金) 22:29:20.06 ID:336bnOz2O
- 自身が魔術結社の刺客に追われビルを飛び移ろうとした際に誤って落下し、上条当麻の部屋のベランダに引っかかった事。
上条当麻の右手に宿る異能の力の事。
彼とのひと時の邂逅の後、彼の部屋に忘れたフードを取りに戻ろうとした際刺客に切りつけられ瀕死の重傷を負った事。
彼の担任である月詠 小萌の部屋で目を覚ました事。
そして銭湯へと向かった帰路にて彼とはぐれ、ようやく彼を見つけたら自分が担ぎ上げていた事。
彼女の話を聞きおおまかな事件の道筋を掴んだものの、未だに幾つかの疑念が残る。
結社の目的を阻害するであろう上条当麻が未だに生かされ続けている理由、あれ程の火力を持ちながらほぼ無防備な二人を強襲しない理由等、先に神裂が取っていた行動を基点に考えると彼女の話だけでは随分と納得の行かない点が多い。
全ての鍵を握っている上条当麻は未だ気を失っているし、一体どうしたものだろうか。
五条「…大体のお話は理解しました……」
インデックス「そう。よかったよ。それじゃあ、もう私とトウマに関わらない方が良いんだよ」
- 214: 2010/11/26(金) 22:37:00.99 ID:336bnOz2O
- 五条「…!?……何を…」
目の前の少女が言ったことの理解が出来なかった。
インデックス「私に関わったから、君は結社の人間に襲われたんだよ?きっとこれ以上私と関わらなければ、君はもう襲われる事は無いと思うし…」
五条「…何を言っているのです。そんな状況に居るオマエ達を放っておけるわけがないでしょう」
率直な意見を述べる。
いくら上条の異能の力があるとは言え、あの魔術結社の連中の追撃を凌ぎ続けるのは至難の業だ。
一瞬驚いた様に目を開いた彼女が、その微笑に少し困惑の影を落としながら言葉を紡いだ。
インデックス「じゃあ……」
インデックス「私と一緒に地獄の底までついて来てくれr『お断りします』
言いかけた彼女の言葉に被せる様に言葉を重ねた。
五条「ククク……アーッハッハッハ!地獄の底!?ついて来てくれるか?笑わせてくれますねッ…ヒヒヒっ……」
吐きながら表情を伺うと、彼女の表情に明らかに悲哀の色が満ち始めるのが手に取れた。
構わず言葉を続ける。
- 217: 2010/11/26(金) 22:44:00.75 ID:336bnOz2O
- 五条「知った顔が地獄の底に向かうのを黙って指を咥えて見ていられる程、オレは出来た人間ではありません……自ら地獄に向かおうとする馬鹿な輩が居たら、地獄の底から天国の天井に頭を打つまで蹴り飛ばして差し上げますよ……クククっ……!」
可笑しさに肩を震わせながら、彼女を見る。
つう、と一筋の雫がその頬を濡らした。
インデックス「……ありがとうっ!」
濡れた頬のまま満面の笑みを浮かべる彼女の声が、タクシーの車内に響き渡った。
────────────
七月二十五日 夏休み六日目
────────────
- 229: 2010/11/26(金) 22:52:34.88 ID:336bnOz2O
- 『んんー…まぁ大した怪我はしていないから命には別状無いねぇ。一時的なショックで昏倒しているだけだろうから明日…遅くても明後日には目を覚ますだろうよ』
CTの写真を眺めながら、カエル顔の医師が呟いた。
傍らのインデックスがほっと胸をなで下ろす。
『今夜はもう遅いから、何なら空いているベッドを貸すけれども……?』
壁の時計に目を向ける。
上条を病院に運びこんで検査結果を医師に伝えられる頃には、時計の針は1時を少し右へ傾いたところにあった。
インデックスに目線を送ると、当惑した表情をこちらへと向けている。
少々思案した後に、言葉を返した。
五条「ククク……こんな夜分までありがとうございました……重々申し訳ありませんが、お言葉に甘えさせて頂きます……」
『なぁに、構わんよ。彼と同室ののベッドが空いているから、好きに使いなさい』
医師に再度礼を告げ、インデックスを伴い上条の病室へと歩を進める。
本来ならばシャワーを浴びてから眠りたいのだが、今は贅沢を言える様な状況ではないだろう。
- 236: 2010/11/26(金) 23:00:56.89 ID:336bnOz2O
- 病室へ向かう途中、売店前に設置されていたパンの自販機の前で足を止めて動かなくなったインデックスに数個の菓子パンと2入りの飲み物を買い与え、自身は一つの菓子パンとペットボトルの水を購入し、病室の扉をくぐる。
三列のベッドが並ぶ部屋、廊下側のベッドに上条当麻が横たわってすやすやと寝息を立てていた。
無言のまま静かに窓側のベッドに向かい、ベッドに備え付けられたカーテンを引く。
ベッドに身を投げ、眼鏡を外して天井を眺めていると、くぐもった嗚咽と共に謝罪を告げるシスターの声が耳に入って来た。
『トウマ……ごめんね……ごめんねっ……!』
数分ほど経った後に隣のベッドのカーテンを引く音が響き、次いでモグモグ、ゴキュゴキュと明らかに食事をしている様な音が病室を占めた。
五条(……複雑な人ですね……)
寝入るにはあまりに耳障りな音が止み、ようやく睡魔が瞼をノックし始めた頃、不意に隣のベッドから声が投げかけられた。
『あの…起きてるかな?』
覚醒するには至らない程度の控えめな声に言葉を返す。
五条「……眠っていますね」 - 244: 2010/11/26(金) 23:08:13.02 ID:336bnOz2O
- 『そっか……ご馳走様なんだよ、今日は本当にありがとう』
五条「…ヒヒヒ……構いませんよ…良い暇つぶしです……」
『……あのね……』
五条「……?何でしょうか?」
『……君の瞳の事なんだけどね』
五条「ッッ!?」
靄が降りていた頭が一気に覚醒し、意識が完全に戻ってくる。
五条「気付いていたのですか……!?」
『……うん、何となくなんだけど…』
『ごめんね、君の瞳に関する事は私の魔道書の中にも載ってないんだよ…』
ドクドクと心臓が早鐘を打つのがわかる。
五条「……そうですか……」
- 248: 2010/11/26(金) 23:16:22.63 ID:336bnOz2O
- 『魔術と似ているんだけど、違うんだ…もっと別の力…なのかな……』
五条「……」
『ごめんね、どうする事も出来なくて……』
五条「……いえ、構いません…そんなに謝らないで下さい…」
『きっともうわかってると思うんだけど……』
『開放はし過ぎない方が良いとおもうんだよ……』
深く息を吐いて動悸を落ち着かせ、言葉を返す。
五条「……肝に銘じておきましょう」
『うん……』
『それじゃあ、おやすみなさい』
五条「……えぇ、おやすみなさい」
言葉を返し、再び瞳を閉じる。
肉体的にも精神的にも疲れていた為か、眠りに落ちるまでにさして時間は掛からなかった。
──────────── - 251: 2010/11/26(金) 23:23:49.75 ID:336bnOz2O
- 開け放した窓から差し込む朝日で目が覚めた。
時計に目をやると、眠りについてから4時間ほどしか経っていないが、睡眠が不足していると感じない程度には眠れただろう。
上体を起こして眼鏡をかけ、隣のベッドに向かい声を投げる。
五条「……インデックスさん」
……返事が無い。
多少声を強め、再度声を投げる。
五条「……起きていますか?インデックスさん?」
……やはり返事が無い。
もしやと思いベッドから立ち上がり、僅かに彼女のベッドのカーテンを引いて中を確認する。
……居た。
ベッドの上には幸せそうに掛け布団を抱きしめ、すやすやと寝息をたてている銀髪碧眼の少女の姿があった。
五条(……こうして見ている分には、ただの少女なのですがね……)
きっと疲れていたのだろうとカーテンを閉じ、今度は上条のベッドのカーテンを引く。
……こちらも少女と同じく、瞳を閉じたまますうすうと寝息を立てている。
五条「はぁ……」
- 252: 2010/11/26(金) 23:28:52.09 ID:336bnOz2O
- 小さくため息をつくと自分のベッドへと戻り、再度身体を横たえた。
五条(まぁ、たまにはゆっくり休みますか……)
横たわったままあれこれと考え事をしている内に、二度目の睡魔の襲撃を受ける。
抵抗をせずに瞳を閉じて再度その目を覚ました時には、時計は一日を二分する時間に差し掛かっていた。
身体を起こし、カーテンを開く。
と、隣のカーテンは既に開いており、そこにいた筈の人影が完全に消失していた。
──────しまった。
慌てて身なりを整え病室を飛び出し、ロビーへと駆け下りる。
ロビーの待合所を抜けようとした際、銀髪のシスターが待合中の老人達と談笑をしているのが視界に入り、加速した勢いのまま盛大にずっこけた。
────────────
- 257: 2010/11/26(金) 23:35:34.91 ID:336bnOz2O
- 『マサルー、お腹減ったー』
五条「…ククク…では夕飯でも食べに行きますか…」
結局丸一日を病院で潰す事となった。
老人達と談笑するシスターを脇目に雑誌を購入し、読みふけって時間を潰す。
黒子から着信が入ったので屋外に出て電話を取るとプール掃除を手伝えと一方的に告げられたが、昨晩の後の経過を話した辺りで途端に機嫌が悪くなり始めた彼女に今日明日は動けそうにない旨を告げると
『この貸しは三倍返しですわよッ!』
と叫ばれ、通話が途切れた。
そんなこんなで日が落ちる午後七時頃になったので、空腹に身をよじり始めたシスターを伴い病院の傍のファミリーレストランで夕食を済ませる。
次々とテーブルの上に運ばれてくる皿に財布と周囲の視線を気にしながら食事を終え、病室に戻る。
と、廊下側のベッドの上で頭を掻いている高校生と目が合った。
『…!おまえ、あの時の……』
インデックス「トウマっ!」
後ろをついて歩いていたシスターが自分を追い越し、ベッドの上の高校生、上条当麻へと飛び掛った。
上条「のわっ!おまえちょっと待ッ…」
- 263: 2010/11/26(金) 23:42:26.61 ID:336bnOz2O
- バタバタとわめき立てる二人を放置し、無言のまま窓側のベッドへ移動してカーテンを閉じてベッドに横になり雑誌を開いて読みふける。
『マサルが倒れてたトウマをここに連れてきてくれたんだよッ!』
幾分か落ち着いてインデックスが上条へ状況を説明し終えたタイミングで、カーテンを開き、上条と向かい合った。
上条「~~ッ!こないだに続いて、色々世話かけちゃったみたいだな……ありがとう」
上条がぺこりと頭を下げてくる。
五条「……ククク……構いませんよ……こちらは暇な身の上なので……ところで…シャワーを浴びたいのですが、銭湯へ行きませんか…?」
────────────
医師へ再三の礼を述べ、退院の手続きを終え、タクシーを使って最寄の銭湯へと移動する。
五条「では、50分後に再度ここで……」
入り口でインデックスと分かれたあと男湯の暖簾を潜り、牛乳を二本購入して片方を上条へと放り投げ、脱衣所の脇にあるベンチへと腰をかけ言葉を投げた。
五条「ククク…さて……いくつか説明して頂きたいことがあります……」
上条「…どっから話したもんだろうなぁ…」
受け取った牛乳の蓋を開き、上条が言葉を返してきた。 - 274: 2010/11/26(金) 23:50:01.91 ID:336bnOz2O
- 上条「あいつからはどこまで聞いてる?」
五条「……ククク…」
昨日インデックスより聞いた内容と、自身が倒れている上条を見つけた際の事を掻い摘んで語る。
五条「……以上がオレの知っている限りですが……腑に落ちない所が多すぎます…」
立ち上がり、空になった牛乳瓶を自販機脇のケースに収め、彼に言葉を続けた。
五条「……関わった以上…力になりましょう…話して、くれますね……?」
一通り語り終わった後、彼は少し思案し、よしっと小さく呟いてからぽつぽつと語り始めた。
上条「おおまかな内容は合ってるんだけど、少し食い違っているところがあるな…まずおまえが遭遇した二人の魔術師だけど、あいつらは魔道書を狙う魔術結社の人間なんかじゃない」
五条「……?」
上条「あいつの……インデックスの所属する教会の同僚だ」
五条「……??」
それから彼は、順を追って欠落している情報を語り始めた。 - 278: 2010/11/26(金) 23:57:11.19 ID:336bnOz2O
- それから彼は、順を追って欠落している情報を語り始めた。
インデックスが完全記憶能力の持ち主で、年に一度彼女の記憶をリセットしないと、彼女の生命そのものが危機に晒される事
彼女を追っていたステイルと神裂は彼女の同僚であり親友で、彼女を保護して記憶をリセットする為自ら悪役を演じている事
自身がそんな結末を望ます、神裂と矛を交えた事
五条「……」
上条「……これがオレの知っている全部だ」
パズルのピースが次々とはめられていく度、次第にその悲しい全形図が浮かび上がる。
全てを話し終えた後、彼は苦々しい表情でため息をついた。
五条「……忘れられるかもしれないのに……」
上条「……?」
五条「もしも何も手立てが無ければ、彼女に忘れられるというのに……」
五条「それでもオマエは、彼女を救いたいと願うのですか……?」
真剣な表情で上条の目を見つめ、問いかけを投げる。
上条「……あいつらの考え方もちったぁわかるんだけどさ……」
目を逸らし、ボリボリと頭を掻きながら、彼が言葉を続けた。
上条「はっきり言って気に入らないんだ。結局あいつら、逃げてるだけだと思わないか?」
五条「……」
- 281: 2010/11/27(土) 00:03:34.61 ID:RAD2wx2sO
- 上条「忘れられるのが嫌だから、悪人を装ってアイツを捕まえて記憶を消す?そんなふざけた話無いだろう。そもそもそんなのアイツの気持ちなんか、微塵も考えちゃいない」
上条「忘れられるのが怖いから、悪人の振りしてアイツを攫って、アイツを怖がらせて…」
上条「忘れるのが怖いんなら、忘れたその次の一年はきっともっと幸せな一年が待っているって、そう約束して、アイツを受け入れてやる事だって出来るはずだろッ!?」
上条「それをあいつらはッッ!自分が忘れられるのが怖くてッッ!!自分の弱さを棚に上げてッッッ!!全部をインデックス一人に押し付けてやがるッッッ!!!」
上条「そんなのって無いだろッッッ!?あいつらが力を持ってるのは何の為だよッッ!
力があるからいやいや守るのかッ!?違ぇだろッッ!!
守りたいものがあるから、アイツらは力を付けたんだろうがッッ!!そんなあいつらがなんで……!!!」
五条「もういいッ!!」
気がつくと、熱弁をふるっていた上条の頬を涙が濡らしていた。
五条「もう結構ですッ……!」
五条「誰かが誰かを忘れるのもッ……忘れられるのもッッ……そんな物語はもう沢山ですッッッ!」
- 288: 2010/11/27(土) 00:11:16.09 ID:RAD2wx2sO
-
声を張りベンチを立つと、自身の頬もまた濡れている事に気がついた。
眼前の上条へ左手を差し出し言葉を吐く。
五条「今一度応えますッッ!オレは五条……五条勝ッッ…!帝国の守護を担っていた、蹴球の徒ですッッッ!!オマエがその悲しい物語に抗うのならばッ!!!オレの力の一縷も残さず、オマエに貸し与えましょうッッ!…」
上条が差し出した左手を強く握り、その言葉に答える。
上条「オォっ!!オレは上条ッ!上条当麻だッ!!アイツを泣かせるふざけた幻想は絶対に許さねぇッ……!!頼むッッッオレに力を貸してくれッッ!!」
────────────
七月二十六日 夏休み七日目
────────────
人気のない、整備された学園都市のとある川沿いの道。
川沿いに立つ少年が、不意に隣に立っていたシスターの首元にナイフを当てがう。
『えっ……!?』
愕然とした表情で少年を見据えるシスター。
五条「ククク……すみませんねぇ……オレにも事情というものがありまして……ククク…アーッハッハッハ!!」
少年の高笑いが、夏の河原に響き渡っていた。
──────fin──────
- 303: 2010/11/27(土) 00:23:21.97 ID:RAD2wx2sO
- ~if 1~
五条「……インデックスさん」
……返事が無い。
多少声を強め、再度声を投げる。
五条「……起きていますか?インデックスさん?」
『起きてるでゲソ』
……ゲソ?
もしやと思いベッドから立ち上がり、僅かに彼女のベッドのカーテンを引いて中を確認する。
……居た。
ベッドの上には堂々と両腕を組み、ふんぞり帰っている青髪碧眼の少女の姿があった。
五条(……こうして見ている分には、ただの少女なのですがね……)
きっと自分は疲れているのだろうとカーテンを閉じ、再びベッドに潜り込んだ。
- 308: 2010/11/27(土) 00:30:59.20 ID:RAD2wx2sO
- ~if 2~
『マサルー、お腹減ったー』
花中島「…ククク…では夕飯でも食べに行きますかなぁ…」
『違う人居る──────!?』
花中島「ムッ!一体なんなんだその反応は!!君は本当に失礼な奴だなコンチキショウ!」 - 381: 2010/11/27(土) 22:10:07.43 ID:FRLYehAuO
- 吹き抜けた夏風が、静かに前髪を揺らした。
夏も盛りを迎えているとはいえ、コンクリートに囲まれた市街地と異なり優しい緑色が映える川沿いの道は、下流へと吹く風も相まって幾分か涼しさを感じさせる。
周囲を見渡してみると、遠くに架かっている幹線道路である橋を除いては特に人通りが無い。
五条(……ここらなら構いませんね……)
後ろを振り返り、とことこと後をついて来ていたシスターに微笑みを投げた。
「んー?」とでも言いたげな表情で、彼女もまた自分に微笑を返してくる。
素早く身体を彼女の方へ向け、その首元へぴたりととナイフをあてがった。
『えっ……!?』
シスターの表情が穏やかな微笑から、驚愕のそれへと一瞬にして塗り替えられる。
五条「ククク……すみませんねぇ……オレにも事情というものがありまして……ククク…アーッハッハッハ!!」
────────────
- 389: 2010/11/27(土) 22:19:49.93 ID:FRLYehAuO
- 『インデックスを!?』
牛乳を飲み干したウニ頭の男、上条当麻が愕然とした表情で声を荒げた。
五条「……ククク…」
腰にバスタオルを巻き、鏡に映る前髪をドライヤーとコームでカールさせながら彼の言葉を聞き流す。
昨晩にシャワーを浴び損ねた影響だろうか、いつもより若干カールの具合が悪い。
上条「ちょっと待てよッ!!他にもあいつらを誘い出す手段なんて沢山『そんな悠長な
事が言っていられる状況ですか?』
若干頭に血が上っている上条の言葉を遮り、ドライヤーの電源を切り言葉を続ける。
五条「……相手の動機を鑑みるに、彼らのインデックスを確保するという決意はきっと相応なものでしょう……そして本来秘匿されるべき存在の彼らが、オマエに直接的なコンタクトを取ってきた事も、事態が切迫している状況を示しています……」
上条「……」
五条「……ククク…おわかりになりますね…現状は余りに手が詰まりすぎている……」 - 397: 2010/11/27(土) 22:30:46.28 ID:FRLYehAuO
- 表情をこわばらせる上条に、更に言葉を投げる。
五条「…対策を練ろうにも、もっと情報を集めなければなりません……ですが生憎と私は魔術とやらに疎い……」
質問を投げる代わりに上条と目を合わせる。
深くため息が吐かれ、彼は首を横に振った。
まぁ、無理も無い。
五条「……まぁ、そうでしょう……となると、残念ながら情報を握っているのは彼らだけだという事になります……」
五条「彼らとのコンタクト方法ですが……」
再び彼に視線を向けると、先ほど以上に大きなため息をついて首を横に振るのが見えた。
五条「……ご理解いただけますね……ヒヒヒ……」
上条「……わかったよ、仕方ない…か」
これ以上ないほど大きく息を吐いて、彼は肩を落とした。
五条「……ご心配なく……彼女は必ず守ります……」
────────────
- 401: 2010/11/27(土) 22:40:08.76 ID:FRLYehAuO
- 驚愕の表情を浮かべた彼女は、自分の首に刃物を突きつけられている事を確認すると、その表情を優しい微笑みへと変えた。
インデックス「……ごめんね、マサル」
五条「……ククク…何を言っているのです…」
その細首にナイフを突きつけたまま、彼女と言葉を交わす。
インデックス「きっと辛かったね。私みたいな魔術師のせいで、知りもしない魔術師に命を狙われるなんて…」
五条「……」
インデックス「……良いよ、マサル。私はどうなっても構わない。これ以上トウマやマサルが辛い目に会うのを、私は見たくないんだよ」
両手を胸の前で組み、祈りの姿勢をとる彼女を見て、つう、と頬を冷や汗が流れるのを感じた。
───まずい。彼女は思った以上に真剣に事態を受け止めている。
高確率で監視されているだろうと踏んで執った手段だったが、冷静に考えてみればこの場に彼らが現れなかった場合、一体どうやってこの事態を処理すれば良いのだろうか。
- 405: 2010/11/27(土) 22:50:29.93 ID:FRLYehAuO
- 聖女としか思えない程の覚悟を以って、自分と上条の為に、静かに笑みながらに生命を差し出したこの少女を、一体どうすれば傷をつけずに誤魔化せたものだろうか。
五条(さぁ……早くッ……早く来なさいッ……!!)
インデックス「ありがとう、マサル。トウマにもありがとうって伝えて欲しいんだよ。インデックスは二人に会えて、本当に幸せだったんだよ……」
小さく震えながらも笑みを絶やさず続ける彼女の言葉に、涙腺が緩んだのを感じた。
そろそろ限界だ。
これ以上は、自分もこの少女に刃を向け続ける事は出来ない。
次に彼女が何か呟いてしまったら、きっと自分の心の方が先に折れてしまうだろう。
インデックス「……?どうしたの、マサ
五条(…!!来たッ…!!)
一瞬吹いた熱風に咄嗟に身を引くと、自分が立っていた場所を細い火線が焼き払った。
視線を火線の源へと投げると、凄まじい熱気を纏った赤髪の神父、ステイル=マグヌスがこちらへと駆け寄ってきている様が見て取れる。
手早く携帯電話のボタンを押し、電話機に向かって声を発した。
五条「……今ですッッ!!」
- 414: 2010/11/27(土) 23:00:35.10 ID:FRLYehAuO
- 刹那、インデックスの脇にツインテールの少女が現れ、彼女の手をとり叫んだ。
『全部終りましたら、絶対にお話願いますわよッッッ!』
叫ぶと同時に、彼女の姿とインデックスの姿がかき消える。
五条(……ククク…約束しますよ……)
一瞬の事態を把握できず、驚愕の表情を浮かべた神父に向け、強くサッカーボールを蹴りだす。
ステイル「…つぅッッ!」
放たれたボールは、彼の発声と共に現れた火線により阻まれ、見る間に消し炭へと姿を変えた。
五条「……ククク……待っていましたよ……ステイル=マグヌス…オマエが来てくれて本当に良かった……」
煙草を咥えたまま距離を置いて立っていた神父が、眉間にシワを寄せるのがわかった。
ステイル「ハメられた、ってわけかい?」
神父の両手に炎が灯る。
五条「……ヒヒヒ……そういきり立たないで下さい」
大袈裟なジェスチャーで両手を大きく水平に掲げてみせる。
五条「今日はサッカーバトルをする気はありません……」
五条「……話を、しに来たのですよ…」
────────────
- 420: 2010/11/27(土) 23:10:11.33 ID:FRLYehAuO
- ステイル「…生憎だね、ぼくは君に話すことなんて何も無いよ」
五条「……ならば私からお話しましょうか…」
五条「……上条当麻より、全てお伺いしたのですがね…ヒヒヒ…」
言って、両腕を肩から下方へと垂直に伸ばし、ステイルに向かい頭を下げる。
五条「……オマエを……オマエの覚悟を、見くびっていました…謝罪します……」
呆気にとられた表情のステイルが咥えたタバコの灰が、ポロ、と地に落ちた。
五条「あの日、インデックスの顔を踏みつけているオマエを見て、その場面のみで状況を判断しておりました……それが起因となった無礼と共に……併せてお詫びします…」
相も変わらず呆けている表情の神父に言葉を続け、頭を下げる。
五条「…ククク……すみませんでした……」
神父の表情が、次第に呆けたものから怪訝そうなものへと変化していく。
両手に宿る炎は未だに消えてはいないが、まぁ仕方のないことだろう。
ステイル「……それは、日本式のジョークか何かかい?」
五条「……正直なところですよ…他意はありません…」
- 428: 2010/11/27(土) 23:20:10.43 ID:FRLYehAuO
- 深く息と紫煙を吐き出した神父の両手の炎が消える。
ステイル「……わかった…聞き届けよう。確かに彼女に関しては、ボクも少しやり過ぎた節があった」
五条「……」
ステイル「…それで、念のため聞いておくけど君はどうするつもり?このまま何も見なかった事にして余生を送る?それともあの上条当麻みたいに、綺麗な綺麗な理想を掲げて立ちはだかってくれるのかい?」
五条「……判断の為に、いくつか伺いたいことがあります」
ステイル「…聞こうか。答えられる範囲ならば答えるよ」
吸い終えた煙草を地面に捨てふみにじったステイルが、再度煙草を咥える。
五条「…ククク…まず彼女に残された時間についてです……あと、どの程度残されているですか…?」
ステイル「……実を言うと、全くと言って良いほど残されていない。彼女はもう限界だ。可能なら、すぐにでも取り押さえて記憶の消去を始めたいところなんだけどね…」
五条「……そうですか…」
ステイル「最終的なリミットは28日の午前0時。これを超えたら、彼女はまず助からない。」
五条「……次に…」
ステイル「……?」 - 435: 2010/11/27(土) 23:30:42.01 ID:FRLYehAuO
- 五条「オマエは…彼女に自身が忘れられた時に…どう思いましたか…?」
ステイル「……」
五条「あんなに屈託の無い笑顔の彼女に惹かれ……その笑顔の傍にあり……記憶を消される彼女を間近に見て…記憶を消された彼女がまるで自身を知らないモノを見る様な目で見てくる……」
五条「そんな体験をした時……オマエは……オマエの心は……一体どう動いたのですか……?」
言い終えて、ステイルの表情を見る。
苦虫を噛み潰した様な表情で、眉間にシワを寄せながら煙草をふかしていた。
ステイル「……答えなければダメかな?」
五条「……強制はしませんよ…ヒヒヒ…」
ステイル「……拒否しよう」
五条「……そうですか……」
少し間をおいて、プカプカと煙草をふかすステイルに告げる。
五条「決めましたよ……」
五条「……俺、五条勝はたった今より─────」
五条「───事実を知った上で、オマエ達の敵となります」
- 445: 2010/11/27(土) 23:42:32.31 ID:FRLYehAuO
- 言葉を聴いて一瞬驚愕の表情を浮かべたステイルが直ぐに冷酷な表情に戻り、片手に火を灯しながら言葉を返してきた。
ステイル「…それは、彼女の記憶消去を阻止する、って事で良いのかな?」
五条「ククク……構いません……」
ステイル「……例えそれが、彼女の命を奪う結末になっても…?」
五条「……そうもさせません…」
ステイル「……そうか……フフフ…」
五条「……えぇ……ククク…」
『アーッハッハッハ!!』
「……残念だよ、君が悪い奴じゃないんだって判りかけていたからに余計ねッ!」
ごう、と音を立て、酷薄に高笑いをするステイルの両手が燃え上がった。
五条「……えぇ本当に、残念ですステイル!!互いに目指している場所は彼女の笑顔のハズなのに、どうして我々はこうも食い違うのでしょうねぇッッ!!」
自身も叫び、ステイルに向けて駆け出す。
炎とスパイクシューズが、轟音を立てて交わった。
────────────
- 482: 2010/11/28(日) 00:48:24.90 ID:eQLs4ySJO
- ステイル「吸血殺しの……」
ステイルの両手で炎が燃え上がる。
五条「来なさいッ!!」
土中から現れた五羽の企鵝が舞い飛ぶ。
『紅十字ッ!』
『へぇあッ!』
サッカーボールと十字火線が交差した刹那、空間が異様な熱を帯びて大きく爆ぜる。
爆風が土煙を上げ互いの姿が視認出来なくなった最中、五条勝は自身の眼鏡へと手をかけ静かにソレを外した。
もうもうと立ち込める土煙が晴れはじめ、その向こうに見えた神父、ステイルの姿を見据える。
ステイル「…流石になかなかやるじゃ…!?」
目を合わせたステイルが驚愕した表情を浮かべた。
五条「……ククク…狂え……純粋にッ……!」
暫しそのままステイルと目線を交わし、眼鏡をかけ直す。
ステイル「…?どういうつもりだい?」
五条「……ククク…もう充分、という事ですよ……」 - 488: 2010/11/28(日) 00:53:15.74 ID:eQLs4ySJO
- 訝しげな表情を浮かべたステイルが再度距離をとり、高らかに叫んだ。
ステイル「吸血殺しの紅十字ッ!!」
しかし、彼の手に炎は灯らない。
ステイル「なッ…!?魔女狩りの王(イノケンティウス)っっ!」
炎の巨人を呼ぶ声も、また虚しく中空へと響き渡るだけだった。
ステイル「馬鹿なッ……オマエ、何をしたッ!」
狼狽を隠そうともせず騒ぎ立てるステイルに駆け出し、その腹を殴りつける。
腹部を押さえてうずくまるステイルを見下ろし、言葉を投げた。
五条「…ククク…一時的なものなので、心配は無用です……それより、あなたも男ならば……」
うずくまるステイルと距離を置き、右拳を天へと突き出しながら続ける。
五条「………主張はコレで通されては?……」
うずくまっていたステイルの肩がふつふつと震え始める。
ステイル「……アッハッハッハッ!!こんなに体力を感じられるのはいつぶりだろうねぇ!」
- 492: 2010/11/28(日) 00:59:25.32 ID:eQLs4ySJO
- 高笑いの後に声を上げると彼は立ち上がり、神父服のマントを脱ぎ捨て構えた。
体格こそ良いものの、その構えはどこか妙なもので、彼の近接戦闘の経験の浅さを露呈させている。
五条「…ククク…来なさいッ!……煙草ばかり吸っている貧弱魔法使いに、世間の広さを教えてあげましょうッッッ!!」
ステイル「……ぼくはッ……魔術師だッ!!」
叫びながら放たれたステイルの拳が、五条の鳩尾を捉えた。
打ち方こそ堂に入っていないが、その体格から放たれた拳は、中々の重みを持って肺腑に衝撃を伝える。
五条「……やるじゃぁ…ないですかッ!」
腹部の鈍痛を堪えながら、ステイルの左のこめかみを殴りつける。
相手の顔が横に流れ、空いた腹部へと更に二の拳を走らせながら叫んだ。
五条「それだけの力があるのならばッ……」
拳に鳩尾を打った鈍い感触が伝わる。
腹部の苦しさに身体を曲げたステイルの顔面へ向けて、右ストレートを放った。
五条「随分前に彼女が救えたかもしれませんのにねぇッッッ…!」
強く打ち据えた拳の痛みと共に、ステイルの身体が後方へと揺らぐ。 - 502: 2010/11/28(日) 01:05:13.33 ID:eQLs4ySJO
- 近接経験の浅いステイルならばこれでダウンだろうとタカを括っていた矢先、唐突に顔面へと拳が飛んできた。
ステイル「おまえにッ…!」
仰け反った顔面へと、左から拳が振るわれる。
ステイル「おまえに何がわかるんだッ…!」
反動を殺す様にして、次いで右から。
ステイル「ボクだって…ボクだって頑張ったッ!」
続けて、左。
ステイル「彼女の記憶を消さない為ッ!」
更に右。
ステイル「彼女の笑顔を壊させない為ッッ!!」
左。
ステイル「だけど……だけど無理だったッ!!」
右。
ステイル「無理だったんだよッッッ!!!」
ひときわ強く左頬を打たれ、身体が宙に舞いかける。
- 507: 2010/11/28(日) 01:11:54.97 ID:eQLs4ySJO
- 五条(……ッッ!)
とびかかる意識を無理やりに繋ぎ止め、膝をこらえ、体勢を戻す。
五条「言い訳はおしまいですかッ!?」
体勢を戻しがてら、右の拳をステイルのわき腹へとネジ込む。
ステイル「だからぼくは誓ったんだッッ!!」
右拳をわき腹に受けたまま苦痛に顔を歪め、再度ステイルの拳が左頬へと走る。
──────ステイルの頬が濡れている様に見えた。
ステイル「たとえ彼女は全て忘れてしまうとしてもッ!」
殴りぬけた右拳の戻りざまの裏拳で、再度左の頬を殴打される。
ステイル「僕は何一つ忘れずにッッ!!」
──────涙、なのだろうか。
ステイル「彼女の為に生きてッッ死ぬとッッッ!!」
ごつんッ
叫んだステイルの左ストレートが額に命中し、止まる。
五条「……ククク……」 - 510: 2010/11/28(日) 01:18:26.60 ID:eQLs4ySJO
- 崩れそうになる身体を踏ん張り、顔を腫らしながら愕然としているステイルに言葉を吐く。
五条「……ステイル…オマエは、強いのですね……」
ステイル「……!?」
五条「…"きき"ましたよッ!オマエの言葉ッ……ッ!!」
心からの礼を叫び、ステイルの顎を体重を載せたアッパーカットて突き上げる。
一際の巨躯が宙を舞い、仰向けに地面へと倒れた。
────────────
ステイルの意識が無くなったのを確認して、深く息をついてその場に座り込んだ。
しこたま殴打された両頬がズキズキと痛み、唾液を吐き出すと真っ赤な血塊が飛び出してきて、思わず顔をしかめた。
『……ありがとうございました』
唐突に響いた女の声に目を向けると、神裂火織がこちらへと歩を進める姿が視界に入ってきた。
五条「……ククク……見られていましたか……」
スッと神裂からハンカチを手渡され、受け取って顔を拭う。
神裂「……初めてですよ。彼があそこまで自分の感情をむき出しにして同年代の方と向かい合うのを見たのは」
五条「……」
- 516: 2010/11/28(日) 01:24:48.29 ID:eQLs4ySJO
- 神裂「格好を付けすぎて、感情の吐露が下手な人ですので」
五条「……ククク…違いありませんね…」
ずきり、と眼球が痛んだ。
神裂「……あなたと上条当麻に猶予を与えます」
五条「……?」
倒れているステイルをひょいと担ぎ上げながら、神裂が続けた。
神裂「我々も彼女が…インデックスが大切なのです。しかしあなた方の彼女を思う気持ちも確かに拝見させて頂きました」
神裂「彼女を救う為に我々が指定した刻限は死守させて頂きますが、彼女を救う手立てを探すのならば、刻限までの間はあなた方にお力添えをしましょう。妥協点としては最良かと思いますが?」
言って、彼女が一枚の紙切れを差し出して来る。
神裂「私とステイルの電話番号です。何かございましたら連絡を下さい」
紙片を受け取り、描かれている文字に目を走らせる。
異様なまでに達筆だ。
神裂「では、我々はこれで……」
背を向け歩き出した彼女に向かい、言葉を紡いだ。
五条「……ククク……ありがとうございます……」
小さく掲げられた左手が、彼女の返答を代わっていた。
────────────
- 521: 2010/11/28(日) 01:35:42.67 ID:eQLs4ySJO
- 『お待たせ致しました、イタリアンハンバーグとデミグラスソー「クク…読み上げないで結構です……」
ウエイターが引っ切り無しに来席しては、料理をテーブルに並べ、空いた皿を厨房へと運び込んでいく。
目前に並ぶ、料理、料理、料理、スイーツ──────
怪我の痛みを堪えながらも、眼前に並べ立てられる料理の山頭痛を覚えていた。
上条「なぁ……おまえ、何したの……?」
『ふぃどいんふぁよ、まはるふぁいふぃなりあんなふぉとを「あーあー、オマエは食い終わってから喋れ」
隣に目線を送る。
『もし、こちらのメニューに載っているデザートを、全部持ってきて下さいませ』
満面の笑みでありえない注文をしているツインテールの少女がそこに居た。
五条「……ククク…」
謝罪と謝礼を兼ねたささやかな夕食会は、何時の間にやらフードバトル兼世界スイーツ展へと様変わりをしている。
五条「……ちょっとATMに行って来ます…」
『あ、お待ち下さいませ、私も同伴しますの』
スイーツを貪っていた白井黒子が手を止め、後をついて来る。
二人でファミリーレストランのドアを潜り、最寄のコンビニへと向かい足を進めた。 - 529: 2010/11/28(日) 01:42:08.01 ID:eQLs4ySJO
- 自分が前を歩き、数歩送れて後ろを歩いていた黒子が口開いた。
黒子「あなたの怪我にあの二人……どう見てもわけありですわね」
五条「……」
黒子「……まだお話して頂けませんの?」
五条「……ククク……すみません……」
黒子「はぁ……ならわたくしは何も問いませんわ」
五条「……」
黒子「…………またそうやって誰かの為に傷を増やすのですわね、あなたは」
五条「……」
黒子「……もう少し、お大事にして下さいまし……」
五条「……気をつけます…」
黒子「……よろしいですの」
二人でコンビニの扉を開き、自分はATMに、黒子は雑誌を立ち読みに向かう。
ATMで金を引き出し黒子と共にファミレスに戻ると、夢中で食事を続けているシスターの隣に座る上条当麻が自分にしか聞こえない程度の小声で呟いて来た。
上条「今日一日調べて回ったんだけど……あの話、やっぱ何か変だわ」
啜ったコーヒーに頬の痛みを覚えつつ上条の方へ目線を向ける。
話の続きをしたいが、この狂宴は一体何時まで続くのだろうか。
- 534: 2010/11/28(日) 01:51:38.49 ID:eQLs4ySJO
- 目線を上条から窓の外へと移し、深くため息を吐いた。
午後の六時を少し回った、未だ沈みかけの西日が放つ明るさを残す夏の町並みは、いつもの風景と何も変わってはいない。
ふとポケットに違和感を感じて手を突っ込むと、神裂から受け取ったハンカチを返し忘れていることに気がついた。
まぁどうであれ、きっと明日の夜中には顔を合わせる事になるだろう。
そのときに、笑って返せると良いのだけれど。
『ふう……お腹一杯なんだよ』
斜向かいに掛けた少女が満足げに息を吐く。
『ねぇ、そ ろ そ ろ デ ザ ー ト を 頼 ん で も 良 い か な ?』
町並みは変わらない様に見えたが、昼に聖女と見紛うた少女が、今は大食の悪魔そのものに見えた。
──────fin──────
- 537: 2010/11/28(日) 01:53:06.31 ID:90kxMZX00
- >>534
最後一行がry - 630: 2010/11/28(日) 22:07:50.88 ID:eQLs4ySJO
- 刑務官という職業は因果なものだ。
部屋の隅で仏頂面のまま、こちらにチラチラと視線を投げている刑務官を眺めていると、心からそう思う。
誰か疑う事が職業であるという、世の楽しみの半分を否定された様な日常を送る彼らには同情を禁じえないが、特異点こそあるもののいち中学生である自分にまであんな眼差しを向けてくるとは、一体どういう心づもりなのだろうか。
次第に募る不快感を自覚し始めた時、強化ガラスに仕切られた向かいのドアがぎい、と重そうな音を立てて開き、拘束衣に身を包んだ一人の女性が姿を現した。
不思議そうな顔でこちらを見た女性と視線がぶつかり、その整った容姿に一瞬どきりとする。
──────礼を失している場合ではない。
椅子から立ち上がると丁重に頭を下げ、言葉を吐き出した。
『……ククク…お目にかかるのは二度目でしょうか……木山……春生さんですね 』 - 633: 2010/11/28(日) 22:15:12.92 ID:eQLs4ySJO
- ────────────
七月二十六日 夏休み七日目
────────────
五条「それで……妙だと言うのは?」
肩まで湯に浸り、絞ったタオルを折りたたんで頭に載せる。
生傷が多少痛むが、歯を食いしばりながら湯の熱さに身体を慣らしていく。
ようやく終わりを迎えた狂宴の後、門限を気にし始めた白井に別れを告げ、インデックスを伴いやって来た銭湯でお互いの本日の成果を話し合あっている最中、上条がファミレスで呟いた一言に対し、問いを投げた。
上条「ああ、やっぱりおかしい。完全記憶能力って言ったよな、アイツの能力」
同様に、首から上のみをお湯から出した上条が始めた。
五条「……えぇ、そういった名称だったと記憶していますが……」
右腕を湯から出し、パチンと鳴らす。
途端に浴場の入り口から五つの影が飛び出して来て、次々と湯に飛び込んだ。
上条「おい!ちょっと待て!」
五条「……?」
上条「湯船に入れる前に身体を洗わせるだろ普通!」
五条「……ククク……オレとした事が、自宅の風呂の感覚でした……失礼を……」
────────────
- 644: 2010/11/28(日) 22:23:58.10 ID:eQLs4ySJO
- 一列に並んで洗面場に腰掛け、ワシワシとタオルで互いの背を洗いあっている企鵝達を眺めながら話を続ける。
五条「……それで、その完全記憶能力が……どうかされましたか?」
上条「……っと、そうだった。その完全記憶能力なんだけどな」
上条「調べてみたら、一般的にも稀に見られる能力みたいでさ」
洗面台の企鵝達が反転し、互いの背中を洗い続ける。
五条「……ほう……それで?」
上条「その能力が起因になって死んだ人間って、居ないっぽいんだよな」
五条「……ククク……」
上条「って言っても、十万三千冊だったよな。あいつが記憶している冊数」
五条「……ええ、そう伺いました……」
五羽の企鵝がタオルを絞り、順に浴槽へと飛び込んだ。
ざぶんと勢いよく飛沫があがる。
五条「……これ……公衆浴場です……もっと静かに入りなさい……」
先頭で飛び込んだペンギンがこちらを見た。
『すまねッス』
上条「!?」
五条「……?続けて下さい……」
上条「あ、ああ。その冊数が確かに一般的な完全記憶能力者と比較しても桁違いなのはわかるんだけどさ」
- 658: 2010/11/28(日) 22:31:38.50 ID:eQLs4ySJO
- 上条「……それが……直接的な死因になる様な事って、あるのかなって思って」
五条「……ククク……お話はわかりました……」
上条「って言っても、ここで手詰まりだ。過去の症例を漁ってみたけど、それ以上の収穫は得られなかった」
五条「……」
上条「……なぁ、明日の夜中…なんだよな?あいつらが来るのは」
五条「……えぇ、28日午前0時、それがタイムリミットと言っていました……」
はぁ、とため息を吐き上条が頭を垂れた。
上条「……どうしたもんかなぁ……」
五条「……明日は……」
五条「……オマエは一日、彼女と居てやって下さい……」
上条「!なんでだy『最後になるかも知れないのです!』
少し語調を荒げて上条の言葉を遮り続ける。
五条「……万が一の事があれば、明日は彼女の記憶が最後の一日となる可能性があります……」
五条「……なればこそ……オマエは、彼女の隣にいてあげて下さい……」
- 665: 2010/11/28(日) 22:39:49.66 ID:eQLs4ySJO
- 上条の肩がわなわなと震えている。
上条「……最後に……最後になるかもなんて言うなよッ……!」
五条「……すみません……少々配慮が足りませんでした……ですが、明日は一日オレが情報を収集してみます……」
上条「……頼んだっ……」
荒ぶりかける声を押し殺し、上条が言葉を吐き出した。
五条「……尽力しますよ……むしろ、オマエの方が責任重大ですよ……」
ざばあ、と湯を上がり、企鵝達と上条を残したまま洗面台に向かう。
五条「……彼女を、彼女の笑顔を……絶やさないでやって下さい……」
────────────
七月二十七日 夏休み八日目
────────────
『嬉しいです!五条さんから連絡して来てく下さるなんて!』
風紀委員第一七七支部内でPCの前に座る少女が言葉を発した。
『それで、私に何かお力になれる事が?』
頭部に色鮮やかな花の髪飾りをつけた少女、初春飾利に向かって来訪の用事を告げる。
- 673: 2010/11/28(日) 22:48:16.72 ID:eQLs4ySJO
- 五条「……ククク……オマエの情報収集能力の高さは黒子から伺っています……」
初春「白井さんが?嬉しいですけど、お力になれるかどうかは……」
少し頬を赤く染め、照れながらえへへと頭を掻く少女に話を続ける。
五条「……脳医学者……超能力に詳しい、優秀な脳医学者を探して下さい……」
初春「……脳医学者ですか?」
五条「……ええ……」
彼女は腕を組み、少しの間うーんと唸りながら思案した後に言葉を発した。
初春「3日前、私が五条さんに助けて頂いた時の事を覚えていますか?」
五条「……ああ……あの胎児の化物の……」
初春「はい。その時に、白衣を着た綺麗な女性の方を見かけませんでしたか?」
五条(……)
(気を抜くな!まだ終っていない!)
五条「……!いましたね……結局、言葉は交わせませんでしたが……」
初春「はい。あの方は、優秀な大脳生理学の先生です。能力関連のお話ならば、あの方が最適だと思われますよ」
五条「……!!」
初春「今はまだアンチスキルに拘束されているハズですけど……少し待って下さい」 - 675: 2010/11/28(日) 22:59:31.30 ID:eQLs4ySJO
- 彼女は言うなり携帯電話を取り出し、どこかへと電話を掛け始めた。
電話している彼女から目線を外し、きょろきょろと周囲を見回す。
初めて足を運んだが、ココが風紀委員第一七七支部か。
何という程の事もない通常のオフィスの様に見えるが、黒子も普段はここで事務仕事に勤しんだりしているのだろうか。
……まるで想像が付かない。
『話が通りました!』
嬉しそうに声を挙げ、邪推が中断された。
初春に目線を送ると、PCをカタカタといじりながら言葉を続けていた。
初春「風紀委員と言う名目で、接見が可能だそうです。今、地図を……」
けたたましい音と共にプリンタから一枚の地図が吐き出され、それを手に取った。
初春「風紀委員という事で、話は通してあります。そちらで木山さんと接見ができますので!」
五条「……ククク……助かりました……ありがとうございます……」
言うなり、初春に背を向け出口へと歩き出す。
- 679: 2010/11/28(日) 23:07:07.89 ID:eQLs4ySJO
- 初春「!もう行かれるんですか?!」
五条「……すみません……あまり時間がありませんので……」
初春「……今度は、もっとゆっくり"遊びに"来てくださいね!」
肩越しに彼女を振り返ると、満面の笑みで手を振っている。
五条「……約束しましょう……ククク…」
────────────
木山「どこかで会ったか?」
五条「……ククク……三日ほど前に、原子原子力実験炉の前で……」
木山「……ああ、あの時の……」
五条「……状況が状況でしたので……ろくにご挨拶も出来ずに申し訳ございません……」
木山「……別に構わない……それで、今日は何の用事なんだ?」
五条「……お知恵を拝借させて頂きたい……能力が原因で、命を落としかけている少女がるのです……」
無表情だった彼女の表情に、一瞬驚きの色がさす。
木山「……話してくれ」
────────────
- 688: 2010/11/28(日) 23:16:19.17 ID:eQLs4ySJO
- ────────────
木山「なるほど……完全記憶能力か……」
五条「……ええ」
木山「……何例か関わった事はあるが、十万三千冊の本を暗記している?そこまでの例は初めてだよ」
五条「……」
木山「これは推論に過ぎないんだが……恐らくその記憶能力自体が原因になって、命を落とすなんていう事はないだろう」
五条「……本当ですか……!」
ふう、と息をつき、彼女が続ける。
木山「ああ……現に今その彼女はどうしている?元気にしているんじゃないか?」
五条「……ええ。ご明察の通りです……」
木山「……だが、覚えているものの内容次第では、命を落とす可能性が無いとも言い切れない」
五条「!!」
木山「例えばの話なんだが……人間の脳の記憶容量は、完全記憶能力者が60歳以上まで生活を送っていても、何ら容量には問題が無いほどのものだ。しかし…」 - 696: 2010/11/28(日) 23:24:22.72 ID:eQLs4ySJO
- 木山「完全記憶能力者にだって、ストレスはあるだろう?」
五条「……」
木山「完全記憶能力を持った彼らが、その記憶力を以って何らかの巨大なストレスを抱えかねない原因になある様なモノを記憶し続けた場合……」
木山「精神の方が先に滅入ってしまう」
……最もな考え方だった。
しかし、魔道書等という眉唾な話をこの場で展開するのには時間が足りない上、普段のインデックスが魔道書自体にストレスを感じている様は見られない。
それどころか、むしろ自身の魔術知識を誇りに感じている様にも見て取れる。
この線は、恐らく薄いものだろう。
五条「……ならば……」
木山「?」
五条「……ストレス環境下に無い彼女が、突如生命の危機に晒される様な事があれば……」
木山「……恐らく、脳云々は未関係だろうな。先も言った通り、完全記憶能力は直接的な死因にはなり得ない」
『時間です』
結論が出ると同時に、刑務官が面会の終わりを告げた。
五条「……ありがとうございました」 - 701: 2010/11/28(日) 23:34:16.82 ID:eQLs4ySJO
- 木山「……なに、構わんよ」
席を立ち一礼してドアに向かう。
『少年!』
不意に木山が声を挙げたので振り返る。
拘束具に身を包んだ彼女はにやりと笑い、言葉を続けた。
木山「頑張りたまえ……ここは退屈だ。良い結末になったら、また聞かせに来てくれ」
──────勝てる。
彼女との面会で得た情報は、充分過ぎる程のものだ。
五条「……ククク……必ず……また来ると約束しましょう……」
彼女に言葉を返し、部屋を後にした。
おおよその推論は、もう頭の中で組みあがっている。
ふと時計に目をやると、その針は午後二時を少し回った所に差し掛かっていた。
市外をうろつきながら見つけた一軒の喫茶店に入り、アイスコーヒーを注文し、奥のソファにどしりと腰掛け携帯電話のボタンを押す。
五条(さて……これで詰めれば良いのですが……)
────────────
- 720: 2010/11/29(月) 00:42:24.10 ID:PV9Snj1EO
- 五条「……お忙しい所をすみませんね……」
ひと気の無い喫茶店で、テーブルを挟んで向かい側に座る女性に目を向ける。
昼の街中で向かい合うにはあまりに刺激が強く、また同席するのにも周囲の奇異の視線を気に掛けなければならない女性、神裂火織に向かい言葉を続ける。
五条「……ククク……」
神裂「いえ、尽力を申し出た以上は構いません。それで、私が呼ばれた用件をお伺いしてよろしいでしょうか?」
緑茶をすすり、一息を吐き出した彼女が口を開く。
五条「……ククク……一つは、科学側から推測出来ない、インデックスの異常の原因を、共に推測して頂きたく思いまして……そしてもう一つは……」
ポケットから、昨夜洗濯してアイロンをかけたハンカチを取り出し、両手を添えて彼女へ差し出す。
五条「……ありがとうございました……」
鋭さを帯びた彼女が、目を丸くし、はあとため息を付くと、柔らかさを帯びた表情でハンカチを受け取る。
- 724: 2010/11/29(月) 00:48:28.66 ID:PV9Snj1EO
- 神裂「別に返却頂かなくても構わなかったのですが……律儀な人ですね、貴方は」
受け取ったハンカチをジーンズのポケットへしまい、彼女が続けた。
神裂「それで、もう一つの用件に関してですが……」
五条「ええ……科学側の大脳生理学の権威に話を伺ったのですが……」
五条「……どうであろうと、完全記憶能力自体が誰かを殺す事はありえないそうです……」
彼女の表情が、柔らかさをおびたソレから一気に険を帯び、鋭さを感じさせるものへと変化する。
神裂「……では?」
五条「……我々は以前の詳細を知らないので何とも申し上げられないのですが……インデックスの命が脅かされているのであれば、完全記憶能力以外の要素の線が濃いかと思われます……」
神裂「……」
五条「……考えられる可能性としては、第一にストレスが挙げられます……しかしこれは、彼女の普段の生活を見ているとあまり考えられるものではありません……加えてストレスが起因となり体調を崩されるのであれば、事前に何らかの前兆があってもおかしくはありません……」
- 728: 2010/11/29(月) 00:55:04.26 ID:PV9Snj1EO
- 五条「……次にオレが考えたのが、彼女が記憶している魔術書です……魔術に関してはあまり明るくないのですが、きっと彼女が記憶している魔術書は禁書と呼ばれる程に危険なものも含まれているのでしょう……?」
五条「それらの記憶が彼女に害を成している可能性を考えたのですが……」
意見を求める様に、神裂に目線を送る。
彼女は思案する様に口元に手を当て暫し静止し、言葉を吐き出した。
神裂「……私も全てを知るわけでは無いのですが、確かに禁書の中にはその知識を得ること自体、そしてその知識を行使すること自体が危険性を孕むものが存在します。」
神裂「しかし彼女に関しては、その知識を行使しようとする事も考えられませんし、歩く教会を纏っている上、元来の魔力を護身の自動書記に当てている為、知識程度で呪いの影響に苛まれるとは……考えられません」
五条「……ククク……となると、考えられるのはそれ以外の外的要因となります……」
神裂「……」
ミルクとガムシロップが底に沈殿しているアイスコーヒーをストローで軽く攪拌し、一口啜る。
- 729: 2010/11/29(月) 01:01:48.82 ID:PV9Snj1EO
- 五条「……視点を変えましょうか……オマエたちが所属している魔術結社……確か必要悪の教会(ネセサリウス)と言いましたね……そこよりオマエたちは……どう伺っているのですか……彼女について……」
神裂「……彼女の、インデックスの脳の85%は、常に魔道書で占められており、残りの15%を利用して、生命を保っていると……」
五条「……ええ」
神裂「そして増え続ける記憶が、その15%を圧迫してしまうと、彼女の生命が……危機に晒されると……」
五条「……ククク……オレが上条から伺った情報と完全に一致していますね……」
神裂「……」
五条「……それ以上の情報はありますか……?」
彼女は目を伏せるとふるふると首を横に振った。
その表情からは、若干の悔しさの念が見て取れる。
五条「……これは、推論の域を出ないのですが……いえ、時間が無い……断定してしまいましょう」
彼女の目を見据え、大きく息を吸い結論を吐き出す。
五条「……今の話でうすうすは感づいているでしょうが……」
五条「……オマエたちは、嘘を吐かれています」
神裂「ッ……!!」
- 732: 2010/11/29(月) 01:08:22.14 ID:PV9Snj1EO
- 五条「……ククク……必要悪の教会(ネセサリウス)とはよく言ったものです……考えてもみて下さい……十万三千冊という膨大な魔術知識を持った彼女の存在そのものを……」
五条「……こんな事を言葉にしたくはありませんが……動く核兵器……いえ、魔術はあまり明るくありませんが、オマエやステイルを見る限りでは、その脅威はそれを凌ぐものと考えても過言では無いでしょう……」
確認する様にチラリと彼女の目を見る。
伏し目がちになっている彼女がこちらの目をみても何の言葉も発しない。
肯定か。
五条「……そんな彼女が人間としての感情を持ち、外界を闊歩している。当然彼女は人間として誰かを好きにもなるでしょうし……情が移った相手のため、自身の知識を利用しようと考える事もあるでしょう……」
五条「……オレがオマエ達の頭なら、自身を裏切りかねない他者との情なんて、そんな厄介なモノは封殺してしまいますかね……例えば"記憶を消したりして"……」
神裂「~~~!!」
肩を震わせた彼女が、頭を垂れる。
前髪で目元が隠れ、表情が伺えなくなった。 - 736: 2010/11/29(月) 01:14:56.35 ID:PV9Snj1EO
- 五条「……当然表向きはそんな非人道的な事は猛反発を受けるでしょう……ならば、次は事実の隠匿です……さぁ、どうしましょうか?……ククク……」
少しの間を置いて、頭を垂れたまま彼女が言葉を吐く。
神裂「……記憶を消さねば……彼女が死ぬと……!」
五条「…………」
神裂「……」
ぽつり。
沈黙が支配するテーブルの上に、不意に滴が落ちた。
神裂「……ならばッ……」
神裂「何だったというのですかッ……私とステイルの行動はッ……!」
ぽつり、ぽつりと、テーブルの上を水滴が濡らす。
神裂「……あれだけ彼女の為を思いッ……あれだけ彼女の為に悪を演じてッ……!!」
神裂「あんなにもッ……あんなにも怖がる彼女をッッ………!!!」
頭を垂れたまま肩を震わせ、声を殺した嗚咽を上げる彼女。
五条「……今度は……」
五条「……今度は……オレが貸す番ですね……」
自身のポケットからハンカチを取り出し、彼女へと差し出した。
──────────── - 741: 2010/11/29(月) 01:20:50.16 ID:PV9Snj1EO
- 五条「……ククク……落ち着かれましたか……?」
しばらくの間、嗚咽を押し殺して泣いていた彼女の様子が変わったのを見て声を投げた。
神裂「はい……みっともない所をお見せしました」
彼女が顔を上げる。多少赤い目をしているが、幾分か楽になったのだろう。すっきりとした表情で、こちらを見据えてくる。
五条「……構いませんよ……それで、今後の話なんですが……」
五条「……記憶の消去はきっかり一年周期で行い、それが今夜なのですよね……?」
神裂「はい。今夜零時に記憶の消去を行なう予定でした」
五条「……ククク……それでは、余裕をもって今夜二十二時に再度……そうですね……昨日ステイルと戯れた川沿いの場所に来て頂けますか……」
神裂「……?」
訝しげな表情を浮かべる彼女に言葉を続ける。 - 743: 2010/11/29(月) 01:26:15.16 ID:PV9Snj1EO
- 五条「……彼女を、インデックスを脅かす異能を殺せる可能性のある男を一人知っています……」
神裂がはっとした表情を浮かべた。
五条「上条……上条当麻です……刻限が迫る前に、彼の力を使って異能の除去を試みようかと思います……」
五条「ああ……オマエ達の本部には、この連絡は入れないで下さいね……余計な妨害を企てられる可能性もありますので……」
神裂「わかりました……では私達は?」
五条「……鬼が出るか、蛇が出るか判りません……そして魔術的なものの除去となるのでしたら、知識がある人間が傍に控えていてくれた方が心強い……」
言って、コーヒーを飲み干す。
五条「ああ……これはついでですが……インデックスの誤解も、解いておきましょうか……」
神裂「!!……しかし……」
五条「……しかしもへちまもありはしません……ここで道を重ねた以上……オマエ達がこれ以上逃げる事は許しませんよ……ヒヒヒ……」
神裂「……わかりました……覚悟しておきましょう……」
神裂の返事を聞き、同時にテーブルを立つ。
会計を済ませて共に外に出ると、日は若干西に傾き、街にさす陽光が僅かながらに暖色を帯びていた。
- 746: 2010/11/29(月) 01:32:27.94 ID:PV9Snj1EO
- 隣でまぶしそうに目を細めている神裂に話しかける。
五条「……そういえば……ステイルは何をされているのですか……」
神裂「ああ……彼は夜に向けて静養しています。もっとも、昨日の傷の影響も多少はある様ですが……」
言ってこちらを向いた神裂と目線がぶつかった。
彼女が柔らかく微笑んで口を開く。
神裂「ふふ……本当に不思議な人ですね、貴方は」
五条「……?自覚の無い事を仰いますね……ヒヒヒ……」
神裂「こういった場所で男性に泣かされたのは初めてでした。では」
優しい笑顔を一層と強めた彼女が踵を返して歩き始めた。
五条「……また後ほど……」
彼女の背に言葉を投げると、自身もまた踵を返して歩き始めた。
────────────
- 749: 2010/11/29(月) 01:38:10.78 ID:PV9Snj1EO
- ────────────
手近なラーメン屋で遅めの昼と早めの夕食を済ませ、一旦自宅へと帰り、ベッドへ身体を横たえ時計を眺めた。
午後の五時も半ばに差し掛かっている。
上条とインデックスはギリギリまで二人でいさせてやった方が良いだろう。
二人の説得を含め、神裂達との待ち合わせの場所に向かうまでの時間を考慮して、八時半には上条たちと合流しておきたいところだ。
普段使わない頭を使い過ぎたせいで、少し疲れた。二時間ほど休もう。
そう思い立ち一旦上体を起こし、枕もとのクレードルへ携帯電話を差し込む前に手が止まった。
五条(……時間もありますし、誰かに電話でもしてみますか……)
>>755
1.黒子に電話をする
2.初春に電話をする
3.美琴に電話をする
4.上条(月詠宅)に電話をする
5.神裂に電話をする
6.ステイルに電話をする
7.やっぱりやめて寝る - 755: 2010/11/29(月) 01:40:11.09 ID:N437XFu+0
- 1
- 770: 2010/11/29(月) 01:55:18.29 ID:PV9Snj1EO
- 携帯電話を手に取り、呼びなれた番号をコールする。
『trrrr....trrrr....』
『はい、どうされたましたの?』
数回の呼び出し音を経て、聴きなれた声が耳に届いた。
五条「……ククク……いえ、特に用事は無いのですがね……」
『はぁ……何か悪いものでも食べましたの?』
五条「……ククク……バレましたか……」
『!?……何を食べられたのですか!?』
五条「……ご冗談ですよ……別に悪い物を食べてはおりません……」
『~~!……あなたという方はッ……』
五条「……ククク……アーッハッハッハ!」
『……笑うところではございませんのっ!』
五条「……黒子」
『はい!?なっ……なんですの!?』
五条「……いつもありがとうございますね……ククク……」
『……おっ……お互い様ですわっ!どうされたのです急に!?』
五条「……いえ、特に理由は無いのですが……」
『……会話がループしそうで怖いですわ』
- 774: 2010/11/29(月) 01:59:47.91 ID:PV9Snj1EO
- 五条「間違いありませんね……ヒヒヒ……」
『……ところで、今はお暇ですの?』
五条「……少しならば時間はありますが……この後にまだ一件約束が残ってましてね……」
『はぁ……なら改めますわ。今度お時間のよろしい時に、一度お付き合い下さいまし』
他愛の無い会話をしていると、次第に睡魔が近寄って来ているのを感じた。
五条「……わかりました……また連絡して下さい……」
『……よろしいですわ、ならわたくしからまたご連絡しますの』
『では私はこれで……』
五条「……えぇ……また……」
電話を切り、瞳を閉じる。
起きたらすぐに忙しくなるだろう。
眠りに落ちる直前に聞いた黒子の声が、優しく耳に響いていた。
──────fin──────
- 777: 2010/11/29(月) 02:01:54.83 ID:/aUrpfO40
- 乙
やはりメインヒロインは格が違った! - 783: 2010/11/29(月) 02:05:54.66 ID:N437XFu+0
- 乙
黒子かわいいよ黒子 - 838: 2010/11/29(月) 22:05:15.67 ID:QaVGWjtTO
- 未だ少し残る眠気を、熱いシャワーで無理やりにこじ開け、髪型を整えて着慣れたサッカーウェアに身を通す。
時計を眺めると、時刻は七時の半ばをさしていた。
ブラインドから覗く街には夏とはいえ既に夜の帳が下りていて、マンションから見下ろす街灯の一つがせわしなくチカチカと点滅している。
ここに住み始めてから半年以上の時を経たが、街灯を交換するロボットというのは見たことがない。
存在しないのだろうか。
軽く頭を振ってどうでも良い思考を振り払い、携帯電話を取りだすと、市内局番から始まる番号をコールした。
────────────
七月二十七日 夏休み八日目
────────────
- 844: 2010/11/29(月) 22:14:30.18 ID:QaVGWjtTO
- タクシーの運転手に礼を述べ、眼前の古びたアパートの階段を、極力音を殺しながら駆け上がる。
同様に古びたドアを静かに開くと、修道服を身に付けたままベッドに横になり、苦しそうに小さな胸を上下させているシスター インデックスと、それを見守る様に膝を抱えて座っている上条当麻の姿があった。
五条「……これは……!?」
上条へと目線を送りながら問いを投げる。
上条「……夕方を過ぎた辺りで急に倒れたんだ……それから意識が戻んないでッ……!」
五条「……わかりました……」
部屋へと上がりこみ、インデックスの額に手を当てる。
苦しそうな様子こそ見て取れるが、熱を帯びてはいない様だ。
想像以上に時間が切迫している。
可能ならば、一刻も早く彼女をこの苦しみから解放してやりたい。
五条「……ククク……頑張って下さいね……」
言って、意識の無い彼女の頭を優しく一度撫でた。
上条「なぁ、今日一日情報収集に当たって、何か収穫は……?」
上条が、焦る様に言葉を投げてくる。
五条「……間違いありません。方々を当たって調査しましたが、彼女を今苦しめているのは完全記憶能力ではない、という結論に達しました……」 - 846: 2010/11/29(月) 22:24:40.29 ID:QaVGWjtTO
- 上条「!それじゃあインデックスは!?」
五条「……ええ、何らかの外的要因にて、命の危険に晒されていると考えるべきです。そこで……」
五条「……オマエの右手の出番ですよ……」
上条が目線だけで人を殺せそうな程真剣な表情となり、右手を幾度か開閉し、言葉を発する。
上条「……わかった。で、どうすれば?」
五条「……ククク……急く気持ちは理解しますが、少しお時間を下さい……」
言い終え、懐から携帯電話を取り出し、先刻別れた女魔術師の番号をコールする。
『trrrr.....trrrr.....』
五条「……あ、それから……」
呼び出し音を耳にしながら上条を振り返る。
五条「……これから見える客は味方です……狼狽しないで下さいね……」
────────────
アパートの一室に、所狭しと五人の人間が顔を見合わせていた。
居心地の悪そうな表情を浮かべる幻想殺しの右手を持つ上条当麻。
意識を失ったまま苦しそうな様子を浮かべるインデックス。
背筋を凛と伸ばし正座している、七天七刀を携えた神裂火織。
立ち上がったまま、しかめっ面で煙草をふかすステイル=マグヌス。
- 850: 2010/11/29(月) 22:33:31.57 ID:QaVGWjtTO
- そして、サッカーウェアに身を包み、いつも通りの笑みを浮かべている五条勝。
上条がおもむろに口を開く。
上条「……なぁ、これってどういう」
五条「……恐らくインデックスを苦しめているのは、魔術的な要素です……時間一杯まで彼らの力を拝借して、脅威の除去に当たろうかと思います……」
上条へ説明をした後、神裂へと視線を投げた。
五条「……予定より早まってしまい……また、場所がこちらになってしまいすみませんね……」
真剣な表情のまま神裂が返す。
神裂「いえ、構いません。私達も、これ以上彼女が苦しむ様を見たくはありませんので」
ステイル「……去年と同じ状態だ。わかっているねゴジョー?もしこの試みに失敗したら……」
五条「……ええ、その時はお願いします……」
上条「ちょっと待てよ!失敗なn『失敗はさせません!』」
語調が強くなった上条の声を更に強めの語調で遮る。
五条「……オマエの右手次第ですが……」
言葉を遮られた上条はバツが悪そうにボリボリと頭を掻いている。
五条「……ククク……それでは神裂さん……」
- 859: 2010/11/29(月) 22:44:01.52 ID:QaVGWjtTO
- 神裂「はい」
五条「……彼女の身体に、魔術的な形跡がないか、調査をお願いします……我々は外に控えておりますので……」
言い終え、上条とステイルと共に部屋の外へと退出した。
三人の男が仏頂面でアパートの廊下に並ぶ光景は、間違いなく近隣住民の皆様の不評を買いかねないものだが、今はそうも言っていられないだろう。
ステイル「……おかげ様で、未だ煙草のフィルターが赤く染まるんだ」
気まずい空気を払う様、煙草を咥えたステイルが毒づいた。
五条「……ククク……私も先刻ラーメンを食したのですが、頬が痛くてたまりませんでした……」
クっ、と小さくステイルが鼻で笑うのが聞こえた。
幾分か空気が弛緩したのを見て、次いで上条が口を開く。
上条「……なぁ、そういえば聞いてなかったんだけど……」
上条「お前らって何歳なんだ?」
上条「……五条は中学生だから十台後半だろ……?多分……」
『14です』
『14だ』
ステイルと共に言葉を発した途端、上条の表情が凍りついた。
互いの年齢を初めて知った二人の視線がぶつかり合う。
- 867: 2010/11/29(月) 22:54:39.38 ID:QaVGWjtTO
- ステイル「……同い年なのかい?ははは、まさかこんなに老けた14歳がこの世に存在するとはね」
皮肉っぽく笑いながらステイルが呟いた。
五条「……ククク……未成年が煙草を吸うのは関心出来ませんね……大きくなれませんよ……もやしお坊ちゃん……ヒヒヒ……」
呟きを聞いて言葉を返す。
『……ククク……』
『……フフフ……』
『アーッハッハッハ!』
二人でおかしそうに高笑いを上げた時、がちゃりと音を立てて部屋のドアが開いた。
神裂「見つけました。こちらへ」
真剣な面持ちの神裂が、入室を促す。
抱えたサッカーバッグからボールを取り出し、小脇に抱えてドアを潜った。
────────────
神裂「彼女の口の中、上顎部に、自動書記のそれとは異なる何らかの魔術式の存在を確認しました」
入室した三人の表情が凍りつく。
上条「それじゃあ……」
神裂「えぇ。そちらが彼女を脅かしている原因と断定して、まず間違いないでしょう」
ごくり、と上条が息を呑む音が聞こえた。
ステイル「Fortis939ッ(我が名が最強である理由をここに証明する)!」
- 874: 2010/11/29(月) 23:01:45.81 ID:QaVGWjtTO
- ステイルが叫ぶと同時に夥しい数のカードが宙を舞い、見えない竜巻に巻かれる様にステイルの周囲を回転した後、べたべたと部屋中の壁を覆った。
パチン。
指を鳴らすと同時に、部屋のドアを開け殺到した五匹の企鵝が、眼前に隊伍を組んだ。
神裂「最終確認です。もしもこの魔術式が、教会の悪意によって組成されたものである場合、これを除去しようとした際、何らかの防衛反応が考えられます」
神裂「もうよろしいでしょうが……各自、お覚悟を」
神裂「Salvere000ッ(救われぬ者に救いの手を)!」
刀の柄に逆手を当てた神裂が叫ぶ。
上条「……」
インデックスの隣に座った上条が、優しくインデックスの髪を撫でた。
上条「……辛かったな、今まで。」
上条「きっとオマエだって普通に生きて、普通に笑って……」
上条「……そんな生き方を望んだ事だってあったんだろ?」
上条の表情に、ふっと優しい色が降りる。
上条「……ごめんな、あの時、胸を張って地獄から助けてやるって言ってやれないで……」
- 879: 2010/11/29(月) 23:08:25.27 ID:QaVGWjtTO
- 上条「今度は……今度は必ず、地獄から救ってやるって約束するから……」
上条「終ったら、お腹一杯ご飯食べに行こうな……」
上条「だから……オマエを、今オマエを苦しめている……」
上条「その幻想をぶち殺すッッッ!」
決意を固めた表情で、上条の指が少女の口中へと伸びる。
────────────
刹那、上条は大きく何かに弾かれて尻餅をつき、真っ黒な靄を纏ったまま、少女の身体が宙に浮き上がった。
上条の右手は血にまみれ、見えない糸に操られているかの様に宙に浮かぶ少女の碧眼には赤い色の光が宿り、何らかの魔術式を浮かび上がらせている。
次第に身に纏う靄を青みがかった光へと変えた少女が、ふわりと宙を踊る。
彼女が舞った後より遅れて発生した一陣の衝撃が、部屋のドアを吹き飛ばし、また部屋中の家具を一瞬にして舞い上げ、その光景を惨憺たるものへと変えていった。
身構えていた三人が押し下げられ、宙を舞っていた彼女が口を開く。
『警告。第三章第二節。第一から第三までの全結界の貫通を確認。再生準備──失敗。』
先の衝撃により吹き飛ばされた上条が、家具の下から這い出てくるのがわかった。
- 886: 2010/11/29(月) 23:14:15.96 ID:QaVGWjtTO
- 『自動再生は不可能。現状十万三千冊の書庫の保護の為、侵入者の迎撃を優先します。』
ステイル「……自動書記!?十万三千冊が相手か……最悪の状況だね……」
『書庫内の十万三千冊により、結界を貫通した魔術の術式を逆算──失敗。該当する魔術は発見できず。』
上条が立ち上がり、三人と少女の間を塞ぐ様に立ちはだかる。
『術式の構成を暴き、対侵入者用のローカルウェポンを組み上げます。』
『侵入者個人に対して、最も有効な魔術の組み合わせに成功しました。』
甲高い音と共に、少女の眼前の空間に、赤い光で魔方陣が浮かびあがる。
『これより特定魔術、聖ジョージの聖域を発動。侵入者を破壊します。』
ばりん、と一際甲高い音が響き、魔方陣の目前の空間が赤黒くひび割れた。
次いで、少女の纏う光が僅かにその輝きを増すと、眼前の魔方陣より一筋の閃光が上条へ向けて放たれる。
放たれた閃光に対し上条が右手を掲げると、閃光はその右手に当たり、周囲の空間へと飛散していく。
上条「ぐッッッ!!」
打ち捨てられた廃墟の様に散らかった部屋に、たまらず吐き出された上条の苦悶の声が響き渡る。
- 888: 2010/11/29(月) 23:20:43.27 ID:QaVGWjtTO
- 五条(……凄まじい……あれは俺でも蹴れるかどうか……しかし防げていますかッ……!)
神裂「……あの娘が魔術を……」
ステイル「……これで間違いないねッッ!」
『聖ジョージの聖域は、侵入者に対して効果が見られません。他の術式に切り替え、侵入者の破壊を継続します。』
少女が放つ閃光が、その太さを増し上条へ殺到する。
上条「ぐああああああああッッッ!!」
より一層強くなる苦悶の声を聞くと同時に、五条が動いた。
五条「──────God Knows(神のみぞ知る).」
呟いた五条の背に、六枚の純白の翼が現れる。
ステイル「……なッ…!?」
翼を生やしたまま、僅かに中空にその身を浮かす五条。
天使と見紛うその姿に、ステイルが驚嘆の声をあげたのも無理は無い。
足元に置かれていたボールが何時の間にか、五条の眼前へと浮き上がり、六枚の力翼のエネルギーがボールへと収束される。
収束されたエネルギーは雷光を帯び、ボールへとまとわりつきバチバチと甲高い音を発した。
五条「長くは保ちませんッッ!ステイル!神裂!お続きなさいッッ!」 - 903: 2010/11/29(月) 23:26:37.71 ID:QaVGWjtTO
- 叫んで五条が蹴り出したボールは、上条と少女の間に割って入るとその閃光を幾分か押し戻した。
ステイル「魔女狩の王(イノケンティウス)ッッッ!!」
押し戻された閃光と上条の間へと、彼をかばう様にして必殺の名を持つ炎の巨人が立ち上がる。
神裂「七閃ッッッ!!」
神裂の叫びと同時に数多の鋼糸が部屋の中を蹂躙し、少女の足場の周辺をなぎ払った。
足場の崩壊によりバランスを崩した少女が、閃光を発したまま仰向けに倒れていく。
次第に仰角を上げた閃光は、まるでバターにナイフを入れる様に天井をなぎ払うと、夏の夜空へと高く高く舞い上がっていった。
倒れて尚、閃光を発し続ける少女。
その少女が夜空へと打ち立てる光柱を中心に、ひらひらと光を帯びた鳥の羽が舞う。
上条「……?何だ、これ……?」
光の羽に見とれて呟いた上条に向かい、鋭い表情を保ったまま神裂が叫んだ。
神裂「これは竜王の殺息(ドラゴンブレス)!!伝説にある聖ジョージのドラゴンの一撃と同義です!!それにたった一枚でも触れてしまえば大変な事に!!」
- 905: 2010/11/29(月) 23:32:16.98 ID:QaVGWjtTO
- 無数に燐光を放つ光の羽が舞う中、唐突に少女が身体を起こす。
再度上条へ殺到する閃光を、上条をかばって立った魔女狩りの王が受け止めた。
ステイル「行けェっっ!能力者ッッッ!!」
ステイルの叫びを聞いた上条が、魔女狩りの王の背に向かい、少女へと駆ける。
『警告。第六章第十三節。新たな敵兵を確認。戦闘思考を変更。戦場の検索を開始──完了。現状最も難易度の高い敵兵、上条当麻の破壊を最優先します。』
少女の閃光が、更にその輝きを増す。
受け止めている魔女狩りの王の苦悶の叫びが部屋を揺らした。
『警告。第二十二章第一節。炎の術式の逆算に成功。曲解した十字教のモチーフを、ルーンにより記述したものと判明』
『対十字教用の術式を組み込み中──聖ジョージの聖域を第二段階へと移行。Eli Eli Lama Sabachthani?(わが神、わが神。どうして私をお見捨てになったのですか?)』
更に増大した閃光が、次第に魔女狩りの王を蝕み始める。
ステイル「イノケンティウスっ!?」
腹部に風穴を空け、その姿を崩す魔女狩りの王。
巨人が受け止める閃光と交差する様にして少女へと掛けた上条が、その右手を少女
へと伸ばし──────
──────その頭部に、触れた。 - 908: 2010/11/29(月) 23:37:53.83 ID:QaVGWjtTO
- ────────────
少女の放っていた閃光が霧散し、同時に姿を消す炎の巨人。
閃光の発生源であった宙に舞う少女の身体は、ゆっくりと地面へと落下を始めている。
『……警……告……最……終章……第……零……』
ふわふわと光の羽が舞い散る中、少女が無機質な抑揚で言葉を続ける。
『"首輪"……致命的な……破壊……再生……不可……』
どう、と音を立て、少女の身体が床に崩れ落ちた。
その少女へ足を進め、優しく抱き起こす上条。
永きに渡る呪縛の開放を祝福する様に、光の羽が舞い踊る。
神裂「危な「今よりオレの目を見ないで下さいッッッ!!」」
神裂が発した声を遮り、五条が眼鏡を外し、中空を見据えた。
────────────
五条(……っっ出来るはずです……きっとッッッ……!!)
自身の眼鏡を外し、中空に舞う羽を見据え、全ての力を眼球へと集中する。
普段のそれを圧倒的に上回る様な鈍痛が到来し、眼窩の裏を毒虫が這い回る様な痛みが走る。
- 914: 2010/11/29(月) 23:43:13.32 ID:QaVGWjtTO
- 五条「ぐあああああああああああああああああああッッッ!!」
歯を食いしばり、痛みを押し殺す。
つう。と自身の眼から涙が落ちるのを感じた。
五条(……神よッッッ……居るか居ないかも判らぬ……非情で無責任な神よッッ……)
舞い散る羽の一片が、インデックスをかばう様に覆いかぶさった上条へ──────
五条(……今訪れんとする悲しい結末が……オマエの望むものならばッッ……オレは……)
──────ゆっくりと
五条(その"認識"を"阻害"しますッッッ!!!!)
上条に降らんとしていた見つめた先の羽が、まるで夢であったかの様に消え失せる。
次いで、一つ、二つと舞い散る羽たちが跡形も無くその姿を虚空へと消していく。
五条(……ッ!成功……しましたか……)
あらかたの羽が消えると同時に、自身の視界が狭くなるのを感じた。
五条(……疲れ──────ました──────)
暗くなっていく視界に抗わず、その瞳を閉じた。
────────────
- 925: 2010/11/29(月) 23:47:56.43 ID:QaVGWjtTO
- ……見慣れない天井が目に入った。
思わずいつもの習慣で枕もとのペットボトルへと手を伸ばす。
……無い。
『目が覚められましたの?』
どこかで聞いた優しい声が耳に入り、慌てて上体を起こした。
窓際に、二房の栗色の髪が目に入った。
陽光を帯びて一層輝きを増しているその髪の主、白井黒子が、むすっとした表情でしゃりしゃりと林檎を剥いている。
唐突に視界に飛び込んできた光景に、慌ててきょろきょろと周囲を見渡した。
『病院ですわ』
黒子の声に目線を向けると、彼女が気だるそうに呟いた。
心なしか表情に疲れの色がさしていて、目の下にクマの様なものが見受けられる。
五条「……倒れてしまいましたか……今日は何月何日ですか……?」
黒子「八月二日。運ばれてから、丸五間眠り通しでしたのよ?」
はあ、と息を吐いた彼女が、皮を剥き終えた林檎を切り分ける。
黒子「お医者様のお話ですと、疲労困憊だそうですの」
五条「……」
- 936: 2010/11/29(月) 23:53:43.54 ID:QaVGWjtTO
- 黒子「……お疲れ様ですわ。勝さん」
優しい微笑みで差し向けられたフォークに向かい口を開け、先端の林檎を齧る。
シャリ、と小気味の良い音がして、口の中に少しの酸っぱさと、程の良い甘さが広がった。
────────────
それからは忙しいものだった。
人に林檎を食べさせるや否や、満面の笑みを浮かべた後、仕事が残っているのでお暇しますわ、と言って帰っていった黒子より一拍置いて、上条当麻がインデックスを伴い病室に見舞いにやって来た。
上条「目ぇ覚めたんだな!良かった!」
インデックス「良かったよおおお、マサルうううう!」
と、まるで自身の事の様に快気を祝ってくれたのは良かったのだが、インデックスの目に見舞いのフルーツがとまるなり、何かを訴える様な眼差しでこちらを見てくるので、根こそぎくれてやる。
上条「……何か悪いな、明日には退院なんだろ?時間あったらどっか飯でも食いに行こうぜ!」
インデックス「マサルは少し、ゆっくりした方が良いかも……またね!!」
ばたばたと去っていった二人を見送ると、入れ違いにカエル顔の医師が入ってきた。
『今度は君の番かい?忙しいねぇ?』 - 944: 2010/11/29(月) 23:57:23.34 ID:QaVGWjtTO
- 五条「……ククク……度々お世話をおかけします……」
『君の年で疲労困憊なんて一体何をしたんだい?ま、明日には退院出来るだろうけど、念のためもう一度検査をしてからになるけど良いね?』
五条「……はい、よろしくお願いします……」
今日一日はゆっくり休みなさいよーと退出していったカエル顔の医師を見送るり、少し眠るかと睡魔に身を預けうとうとしていると、不意に煙草の臭いがして我に返った。
慌てて起き上がり入り口に目線を送ると、病室の入り口で煙草を吹かす赤髪の不良神父と、フルーツバスケットを抱える銃刀法違反上等の露出姉ちゃんの姿が目に入った。
五条「……ここは禁煙ですよ……ヒヒヒ……」
神裂「ステイル、煙草を消しなさい」
ステイル「ま、構わないでしょ別に」
ところ構わず紫煙を吐くステイルを横目に、丁重に礼を述べられ、神裂からフルーツのバスケットを受け取る。
神裂「今回の件を教会に問い合わせたところ、何としてでもインデックスを呼び戻そうとしていた教会側の態度が一転しました。今後インデックスは上条当麻を管理者とし、暫し放免状態となりそうです」
- 946: 2010/11/30(火) 00:01:21.63 ID:26Cl+kELO
- 残念ながら、意識が無かったので彼女の誤解を解くには至りませんでしたが、と神裂が続ける。
ステイル「ま、いずれ機があればボクが取り戻しにくるけどね」
五条「……ククク……やってごらんなさい……」
くつくつと笑うステイルと自分にため息をついた神裂が腰を上げる。
神裂「では、我々はこれで」
五条「……?随分お早いですね……?」
神裂「えぇ、まだやることは山積みです」
併せてステイルが腰を上げる。
神裂「あなたとはきっと、またすぐに会えそうな気がしますね。此度の恩義もありますので、何かありましたら、遠慮せずにご連絡下さい」
行って病室を後にする二人。
ようやくの来客ラッシュが終わり、毛布に包まった。
非常に疲れた一件だったが、病室を訪れてくれた面々は皆一様に笑顔だった。
とりあえずは良しとしておこうか。
訪れる睡魔を迎え入れ、暫しの眠りへと落ちていった。
────────────
深夜の寝静まった病院を動く影があった。
一つの病室の前で止まった影は、静かに病室のドアを開ける。 - 951: 2010/11/30(火) 00:04:45.94 ID:26Cl+kELO
- 足音がベッドの上の対象の姿を確認しようとするが、すぐに異変に気がつく。
(……居ない?)
唐突に暗闇に包まれた病室の照明が点灯し、侵入者の姿が露になった。
金色に染め上げられた髪はツンツンと天をさし、夜だと言うのに目元にサングラスを掛けている。
派手目のアロハシャツにハーフパンツ姿の侵入者の男が、照明のスイッチへと視線を投げる。
五条「……ククク……初めましてですか……寝込みを襲うのは関心しませんね……」
部屋の主の姿を確認し、侵入者が口を開いた。
『……自己紹介は不要だな?五条勝……』
五条「……?」
侵入者に敵意が無さそうな様子を見て取った五条が首を傾げる。
『統括理事長がお呼びだ。明日の退院次第、すぐに出頭しろ』
──────fin──────
- 966: 2010/11/30(火) 00:09:32.98 ID:2aHln20p0
- 乙
五条さんマジイケメン
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