サローニャ「ロシアの殺し屋恐ろしあ」【後編】
- カテゴリ:とある魔術の禁書目録
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- 381: 2017/01/21(土) 22:12:59.43 ID:hCf59Pp80
- 「いやぁーでもいいよねぇアイドル。キラキラしてるし」
「そうだねー」
ドロドロもしてるけどね。売れなきゃただの可愛い子ってだけで終わっちゃうわけだし。
何でもそうだけどさ、人から認められなきゃお金や仕事は発生しないんだよ。
そんで悲しい事に世の中の大半は一定基準以上のそういう価値があるものにしか意味がない。
上条ちゃんの趣味もそうだよね。
結局は少人数を喜ばせることができるぐらい。
それはそれで価値がある事かもしれないけど
すぐ忘れられるぐらいの自己満足にしかならない。
自己肯定するための承認欲求と、くだらない自己顕示欲を満たすためだけに行われる自慰行為。
ちっぽけな人間にお似合いな、ちっぽけな救い。
どこかでそれをわかっていながらも『それでもいいから救いが欲しい』ってかなり重症な気がする。
それともどんな世界でもそんなものなのかな。
…上条ちゃん今何してんだろ。
…そろそろスマホちゃんの電源入れた方がいいかな。
- 382: 2017/01/21(土) 22:13:50.68 ID:hCf59Pp80
-
上
条
- 383: 2017/01/21(土) 22:15:10.46 ID:hCf59Pp80
-
「ぐぇっ…」
「がはっ、」
「弱っ。まぁ不意打ちされちゃあな。もし俺がお前らでもたぶんそうなったよ」
「て、テンメェ、上条事務所の?」
「ご名答。でも心配しなくていいぞ。これは仕事じゃないから」
「あっ、ちょっとお前に座るわ」
「がっ?!いだっ、テメ、」
座り心地悪いソファだ。
「ふー…あ、もう一人のお前。下手に動くなよ?俺のケツの下にいるコイツの下顎が吹き飛んじゃうからさ」
取り出した銃をケツの下に向け、そいつの腿に二発ほど撃ち込む。
「ぎっ、?!がぁああああ!!!!」
- 384: 2017/01/21(土) 22:16:27.19 ID:hCf59Pp80
- 「ああ、あとそこのお嬢さん」
「ひ」
「えらいもん見ちまったよな。でも大丈夫大丈夫。あんたは帰っていいよ」
「…ぅ、」
「大丈夫大丈夫。ホントに何も心配しなくていいから」
「何も起きなかった事にすればいい。あー…あと、」
下の奴のケツポケットから財布を抜く。
「ほら、この金やるよ。3万ある」
「い、いりません!」
「いーっていーって。気にすんな。後で俺の財布からコイツに返すからさ。俺からのだよ」
「その代わりこの事全部黙っててね。いい話だろ?黙ってるだけで3万貰えるんだぜ?」
「いいいいいです!いいですいいです要らないです!!誰にも何も言いませんから!!」
「あっそう?じゃあ1つだけ。アンチスキルだのなんだのに喋るとかSNSだのネットだのに書き込むのはやめとけよ」
「…?」
- 385: 2017/01/21(土) 22:17:15.06 ID:hCf59Pp80
- 「コレ、あんたの学生証。さっきあんたを助ける時にスッた」
「!?かえっ、」
「悪いがこれは返せない。俺は『絶対誰にも喋りません』は信じない事にしてんだ」
「まっ、用心棒代とでも思ってくれ。大丈夫大丈夫」
「この事を誰にも喋らなければあんたのところに”物騒な奴”は永遠に来ないからさ」
「…!」
はぁ。やっと居なくなってくれたか。
「なんで、…まさかあのガキはあんたの顧客か!?」
「いや?」
「なら、なん、で、」
「え?あー、ただの…あー…、」
「…?」
「ただの、んー…”ヒーローごっこ”、かな…」
「なんだそりゃ」
- 386: 2017/01/21(土) 22:20:17.05 ID:hCf59Pp80
- 「ほら、たまに無性に良いことしたくなるだろ」
「アレってさ、『普段良い事してないからその言い訳』だとか」
「『良い事しなかった時の罪悪感から逃れるため』とか」
「あ、今思い出したけど『良い事したら褒めて貰えて承認欲求が満たされるから』とからしいぜ」
「善意だよ善意。善意もバラして細かく見てけばそんなもんだ」
「頼まれたんだよ。『あの子を助けてあげて』って」
「アレだよ。あんまりにも美少女な子の頼みだったから深く考えずについ助けただけなんだ。許してくれよ」
「ふざけてんのか?こっちは撃たれてんだぞ」
「大真面目だよ。それにな、昔インデックスってシスターは俺にこう言ったんだぜ」
「『許してあげるのは最初だけ』ってな」
「逆に言えば最初の過ちは許してもらえるべきって事だろ」
「お前やっぱふざけてるだろ」
- 387: 2017/01/21(土) 22:21:05.07 ID:hCf59Pp80
- さてどうしたもんかな。
サクッと殺せれば楽なんだけどな。
「要求はなんだよ。どうしたら見逃してくれるんだ」
おっ、もう一人の方が助け舟出してくれたな。
「俺に復讐を考えないなら何でもいいんだけど…『やめてね』『うんわかりました』なんてあり得ないだろ」
(やっぱ殺し屋か処分屋でも雇うべきかな)
『もう!とうまがやり過ぎたからでしょ!』
- 388: 2017/01/21(土) 22:22:06.33 ID:hCf59Pp80
- 「…またお前かよ」
『まぁね!謝ってささっと逃げようよ!』
「いやだからさ、そんな事しても後で報復食らうだろって。上条さんはここでケリつけときたいんだよ」
「…?お前誰と会話してんだよ」
「そこにいる奴とだよ」
「は?」
『とうまとうま。私は他人には見えないっての忘れてない?』
「…そうだった」
『そうだよ』
「じゃあーー
- 389: 2017/01/21(土) 22:22:51.07 ID:hCf59Pp80
-
ボグッ。
- 390: 2017/01/21(土) 22:24:28.13 ID:hCf59Pp80
-
「ま、このように。人は『危険というのは段階を踏んで訪れる』と思い込んでるわけ。」
あ?なんだ?何が起きた?
何で俺は地べたに這いつくばってるんだ?
「ほら、どこぞで見た事ない?『安全は当たり前じゃない』、『世界は危険だらけが当たり前で、それが限りなく薄まってる”異常な状況”が”安全”なんだ』ーってさ」
誰だ?この女
なんの話を
「ほら、さっさとコイツ連れてって」
フロイライン
「”令嬢”の拷問用ビルに」
- 391: 2017/01/21(土) 22:27:56.61 ID:hCf59Pp80
-
「他の奴はどうします?」
「何もしなくていいわ」
フロイライン
”令嬢”?…ああ、確か少し前にその会社と利権でモメたデカイ業者が何社か潰されて行方不明者を山ほど出したな。
名前忘れたけどドラ息子を猫可愛がりしてるワンマン社長がやってるとか
かなり頭イかれた違法会社だってな。
”よく効く”ビタミン剤とか”学園都市製”兵器販売、”ちょっと命の保証がない”派遣労働斡旋とかやってるのは知ってる。
噂じゃ人間版の牧場みたいなの作ってて人畜産業やってるとか…
軟禁した女に次々子供産ませて臓器移植用に輸出販売してるんだっけ?
オイオイ…なんでそんな奴等が俺を?そんな大物怒らすような仕事はしてねぇぞ?
くそっ、このままじゃヤバイ!!連行されれば間違いなく死ぬ!
- 392: 2017/01/21(土) 22:29:23.43 ID:hCf59Pp80
- 死ぬ気で足掻かなきゃまずい!!
「ちょっと!暴れさせないで!」
ああ、俺だって散々他の命を食って生きてきた。
次が俺の番になっただけなのかもしれない。
でも、死ぬとわかってて足掻かないのは自殺と同じだよな?
「いだっ!?コイツ拘束具を?!」
「!?まだ銃を隠し持って、がぁ!?」
- 393: 2017/01/21(土) 22:30:26.15 ID:hCf59Pp80
- 俺は自殺する奴ってのが大嫌いなんだ。
人間だけだぜ、逃げるように死ぬのは。偉そうじゃねぇか。
どんなに酷い環境に置かれたって、動物は自分からは死のうとしねぇよ。
自分たちが生き残るために、他の動物がどれだけ犠牲になったか知ってるからだ。
今まで食い殺して、踏み潰して、利用してきた命の犠牲の上で“自分“の命が成立してる以上、必死に生きなきゃ今まで死んでったそいつらに『申し訳ない』ってなるだろ。
「何逃してんのよ!バカなの!?」
走る。走る走る走る走る走る。
- 394: 2017/01/21(土) 22:32:57.99 ID:hCf59Pp80
-
考えろ。考えろ考えろ考えろ。
さっきの嬢ちゃんみたいに頭を使わないのも自殺と同じだ。
生き残りたきゃ頭を使え。
さっきの嬢ちゃん襲ってたあの二人が”令嬢”の傘下だって事はないはずだ。
”令嬢”みたいな大手企業は金を稼ぐ時にあんな雑な仕事はまずさせない。
仮にそうだとしても末端も末端。そんでそんな末端ごときの悶着に”令嬢”は一々動きはしない。
別件だな。…まさか、あの嬢ちゃんが何か関係があったか?
いやだったらそれこそ俺だけじゃなくあの襲ってた二人も連れてかれるはずだろ
でもそれはしなかった…完全放置だったもんな
拷問して聞き出したかった事…
…蜜蟻からの依頼の被り案件関連か?
そうだよな、それ以外に心当たりはない。
『手を引け』…か?それとも。
- 395: 2017/01/21(土) 22:35:06.25 ID:hCf59Pp80
- …いや、それはダメだ。
せっかくのインデックス殺しの犯人発見のチャンスだし、『上条事務所』としても一度引き受けた依頼を完遂出来なかったら今後の営業にも大きく響く!
だとすれば、今やるべき事は俺があいつらに捕まる前にサローニャに被り案件の標的をとにかく殺させる事!
もう少し準備だの業者手配だのをしておきたかったけど…
あーもう!!あいついつまで同じ仕事やってんだよ!!それでもプロか!?
何年この仕事やってんだよ!億クラスが聞いて呆れるわ!
お前なら俺がわざとあんな風に電話した意味ぐらい汲み取れるはずだろ!
ああクソッ!せめてサローニャに電話つながれば!
- 396: 2017/01/21(土) 22:37:34.21 ID:hCf59Pp80
- ああ全く人助けなんてするんじゃなかった!!これだから!
『ねぇとうま』
ああ!?こんな時に出てくんなよ!上条さんは今忙しいんだよインデックスさんや!
『ケータイ鳴ってるよ?』
え?
取り出した画面には。
- 397: 2017/01/21(土) 22:38:17.51 ID:hCf59Pp80
-
着信:サローニャ
- 398: 2017/01/21(土) 23:04:12.17 ID:hCf59Pp80
- 「もしもし!!!」
ちょっと乱暴に出てやる。
走ってるしイラついてるのもちょっとある。
本当はやらかした部下がコンタクト取ってきた時にこういう感じで対応するのは良くないんだが。
『…』
「…今は別に大丈夫だ。捕まって電話させてもらってるとかじゃない」
『…その、』
まだるっこいな
『お、怒ってる?』
おずおずとした消え入りそうな声が電話口から聞こえる。
- 399: 2017/01/21(土) 23:05:03.51 ID:hCf59Pp80
- …こういう時、まずは『申し訳ありません』が先だって教えとくべきだな。
『その、私ね、スマホちゃんの電源切っててね、何件も何件も着信あったって知らなく、てね?』
『上条ちゃん、なんかあった?ねぇ、ぶじ?電話出なくてごめんね?だいじょうぶ?』
…半泣きの声を聞いてたら怒る気も失せた。
「…なんで出なかった?」
『…その、ターゲットに勘付かれたから』
「トイレでもなんでもちょっと離れて電話するくらい出来たよな?それか最悪メールでもLINEでも良かっただろ」
『…怒らない?』
「理由による」
- 400: 2017/01/21(土) 23:37:02.69 ID:hCf59Pp80
- 『かまってほしくて』
「…」
予想していた以上に幼稚な答えがきた。
『だって上条ちゃん情報屋ちゃんとデートしに行っちゃうし』
『業者雇わずに私に調査させるし』
『たまには私の事で頭いっぱいになって欲しかったの』
「…」
どうしよう殺意しかわかないぞ?
…この発言をしたのがサローニャで良かったな。
もしこれがどこぞの知らない奴なら「いっぺん死んでこいクソボケ」とでも言って殴ってたかも。
- 401: 2017/01/21(土) 23:40:26.29 ID:hCf59Pp80
- 「…何で俺がお前と今まで組んで来たかわかるか?」
『…?』
「何で俺がお前の要望は出来る限り聞いてきたかわかるか?」
『私の事ちょっとは好きでいてくれてるから?』
「何で俺がお前に高い金を払って雇ってると思う?」
『…私が上条ちゃんにとって都合がいい人形ちゃんだから?』
「違う。」
「お前が”プロ”だからだ」
- 402: 2017/01/22(日) 00:02:12.28 ID:kZobRjg80
- 『…』
「高い意識とモチベーションを持って仕事に臨めて」
「必ず成果を挙げて、結果を出し続ける」
「当たり前の仕事を当たり前にこなす能力がちゃんとあるからだ」
「だから俺はお前を大事にしてきたし、大事にするんだ」
『…』
『私の事ちょっとぐらい好きだって思ってくれてるって思ってたのに』
『上条ちゃんは私の事ただの傭兵だって思ってたんだね』
「は?いやそういう話をしてるんじゃなくてだな、」
『もういいもん!だったら私以外の人と組めばいいじゃん!』
『”プロ”だから一緒に居たんでしょ!だったら他にもいっぱいフリーの人居ますからその人とやれば!』
「あっ、オイ!?」
ガチャ。
- 403: 2017/01/22(日) 00:08:09.09 ID:kZobRjg80
-
「…」
『何してんのとうま』
「うるさい」
『どうするの?とうま』
「…謝るよ。謝って頭下げて協力してもらうよ」
『無理じゃないかな。だってとうま色々とわかってないし』
「他に手がないんだよ」
トゥルルル。トゥルルル。
「…繋がらん」
『だと思ったんだよ』
「…」
『それにね、』
「なんだよ」
『無理そうな理由がもう1つあるかも』
「なんだよ」
- 404: 2017/01/22(日) 00:12:45.56 ID:kZobRjg80
-
「見ィつーっけったっ♪」
「…」
「さっきはよくも噛んでくれたな」
「殴ってくれたな」
「”令嬢”の社員に狙われて無事でいれるわけねぇだろ」
「今度は逃す気ないから。銃とか危ない何かとか持って来たからさ、そろそろ観念してくれる?」
『さっきの人達が追いついて来てたから、もうとうま捕まっちゃうかなって』
「…気づいてたなら早く言ってくれよ」
- 409: 2017/03/08(水) 20:55:06.71 ID:Uv6KgSWl0
-
サロ
ーニ
ャ
- 410: 2017/03/08(水) 20:56:39.94 ID:Uv6KgSWl0
-
「なに!?なんなの!!?なんなわけ!!?」
思わず叫ぶ。
「ねぇ!!!!だって、もう、ちょっ、ほんとっ…!もう!!!」
想いに唇と言葉が付いてこれないほどの激情。
「なんだってぇえのさぁああ!!!」
感情に任せてトイレの壁を蹴りつける。
おっと、彼女の家のトイレだった。ダメダメヤバイヤバイ。
…怒りを鎮め…あ、ダメ。無理!!!
(あーもう!!信じらんない!!!私の気持ちなんてよく知ってるはずでしょ!!)
どーしてそーいう事言うかな!!?
意味わかんない!!!上条ちゃんのバーカ!!!
何年一緒に居たと思ってんの?どれだけ私が好き好きーってしてきたと思うの!?
ちょっとくらい情があったっていいんじゃないの!?
「もぉおおおお!!!」
- 411: 2017/03/08(水) 20:57:56.53 ID:Uv6KgSWl0
- あーもう!あったまきた!!もう辞める!殺し屋なんて辞めてやる!!
サローニャちゃんはフツーの女の子に戻ります!!
元々上条ちゃんと一緒に居たいから、上条ちゃんに好きになって欲しいから、上条ちゃんと結婚したいから殺し屋やってただけだし!
上条ちゃんが私のこと好きになってくれないならやる意味無いし!!
この依頼も途中でぶん投げてやる!!責任だとか迷惑とかプロ意識なんてもう知らない!!
だって私はもう殺し屋じゃなーーーーーー
『それで?辞めたあなたは”誰”になるの?』
…へ?
- 412: 2017/03/08(水) 20:59:51.48 ID:Uv6KgSWl0
- 『あなたは上条ちゃんに拾われて”億クラスの殺し屋”になった』
『けど、そうなる前は?』
…は?別に、私は私でしょ。サローニャ・A・イリヴィカだっての。
『その名を、その経歴を、”あなた”を知ってる人間はもういなくなるんだよ?』
『もうきっと誰もあなたの名前を呼ばない。あなたという存在を知る人はあなたを取り巻く世界から消える。』
…この扉の向こうに私の元ターゲットの友達がいるじゃん。彼女が私の名前を呼んでくれるよ
なんなら知らない誰かにでも自分のことを話せば、
『話せるの?そして、受け入れもらえると思ってるの?殺人鬼を。』
…ねぇ。あんた、誰?
さっきから目の前にいる”顔のない”あんたは。
『私よ、私。あなたが殺し屋として初めて依頼を受けて殺した標的の” ”よ。』
- 413: 2017/03/08(水) 21:01:39.22 ID:Uv6KgSWl0
- ふーん…何?化けてでてきたって?
悪いけどおぼえてない。今までどれだけ殺ってきたと思ってんの?
『そう。だからあなたには私の顔が見えない。』
『ああ…そうね、殺し屋モノの小説とか読んだ事ない?』
『たくさん殺してきた殺し屋の前に今まで殺してきた人間が順番に現れるってやつ』
はん。じゃあなんで今まで現れなかったワケ?
つまりはそういう抽象的なオカルトなんかじゃなくって、誰かから依頼されたそういう魔術師やそういう能力者の精神攻撃なんじゃないの。
『なんで今まで現れなかったか?』
『殺し屋小説でもそうだけど…”視える”ようになるキッカケは』
『罪悪感を思い出す事なんだって。』
- 414: 2017/03/08(水) 21:05:44.55 ID:Uv6KgSWl0
-
…罪悪感?
『あなた、殺す事をなんとも思わなかったんでしょ?』
『「ちょっと悪いな」ぐらいにしか。』
『でも。今回のターゲットと関わってしまった』
『久しぶりの新しい人間関係。そして友情を感じたから』
『だから麻痺してた心も感じたんでしょ』
『「イヤだ、殺したくない」って』
「ち、ちがうもん!!私がそんなことを思うわけないじゃん!!」
「だって、そうなったら殺し屋は終わりじゃん!殺し屋の私がそんな、」
『だからそうやって必死にその気持ちを隠そうとしたんでしょ』
『殺し屋を辞めようと思ったのも。本当は殺し屋を辞めれば彼女を殺さなくて済むからじゃない?』
そ、そんな事ない!
『上条当麻から捨てられるような行動をしたのも。嫉妬は建前的な理由で。本当は辞める理由付けのためだったんじゃない?』
ちがう!ちがうちがう!ちがうもん!
『本当に?』
- 415: 2017/03/08(水) 21:08:23.65 ID:Uv6KgSWl0
- 「…そうかも。」
「…うう。その通り…かも。私は、私は、あの子を殺したくない……できれば。」
『よね。まぁ仮にあなたが殺さなくても彼女は必ず死ぬんだけど』
「な、なんで?!」
『ハァ?あなた本当に億クラスの殺し屋?忘れたの?彼女は”殺しの依頼が出てる人間”なのよ?』
『あなたが殺さなかったら別の殺し屋にお鉢が回るだけでしょ』
『そしてあなたは独りになる。』
だったら、私が守るもん!命を賭けて!
『それでも永遠に守れるわけじゃないし、精々死ぬのがちょっと延びて二人とも死ぬのがオチでしょ』
それでも…私は、
『例え彼女に拒絶されても?』
「…」
『彼女は一般人でしょ?裏稼業に免疫も理解も無さそうな彼女にバレたらどうなるかな』
…受け入れてくれるかもしれないじゃん
『受け入れてくれなかったら?』
…適当に、生きるよ
『そう?だけどあなたは色んな理由から表の世界では生きられないでしょう?』
『そして裏の世界もね。一度仕事を放り出した殺し屋なんか誰も信用しない』
『それに。裏切ったあなたを上条ちゃんは許すかな?』
『あなたを殺すようにどこかに依頼だすんじゃないかな』
…そんな、こと、
- 416: 2017/03/08(水) 21:09:47.59 ID:Uv6KgSWl0
-
『ねぇ…ところでさ、あなたは上条当麻と会う前の自分を思い出せる?』
…そりゃあ、
『あなたが、今のあなたになる前のあなたを』
今の私になる前の私?
『そ。殺し屋になる前の。』
『昔、初めて上条ちゃんと会った時にも言われたでしょ』
『お前はただの人殺しだって』
『誰からも名前を呼ばれない。誰からも必要とされない。』
『復讐とは名ばかりの八つ当たりだけで生きてる』
『クソみたいな人間。』
『”プロ”と”道楽”は全く違う。』
『それに…思い出したら?依頼をしくじった殺し屋の末路って』
・・・・・・・・
『どうなるんだっけ?』?
- 417: 2017/03/08(水) 21:11:55.78 ID:Uv6KgSWl0
-
?上条『いいか?例えばもし仮にお前がミスったとして…お前の場合はどうなるか』??
上条『普通は死刑か無期懲役。で、『運がめちゃくちゃ良くて』。何とか死刑を免れて最大限の量刑くらって、数十年後にムショから出てきた時』
??上条『もう裏にも表にも自分の居場所はどこにもない。」』??
上条『裏社会ではミソがついた奴にまともなプロがやる仕事は回ってこないし、仮にあっても鉄砲玉みたいなモンばっかりだ』??
上条『表では当然就職なんざまともに出来るわけねーし、バイトすら制限がつく』
??上条『そんでまともに仕事ができないって事は、ある程度の金を得る手段もないって事だ』
??上条『つまり、状況的にはさっきまでのお前に逆戻りなんだが…それにすら戻れないだろうな』??
上条『何せ、数十年もムショに居ればもうそんな気力も体力も若さもない』??
上条『しかもお前は外国国籍だから日本国籍の人間と結婚しない限りは生活保護も受けられない』??
上条『つまりな…最終的に。失敗したお前の末路ってのはな、』????
上条『汚い格好で、年老いて、家も家族も金も無く。病気になっても治せずに…』
上条『たった一人で路上で残飯漁りながら生きてくって事だ。』
???上条「ーーーーー死ぬまで、ずーーーーっと…、な?」 ?
- 418: 2017/03/08(水) 21:19:42.50 ID:Uv6KgSWl0
- 「あ、ああ…」
ぷすっ。
ざざ、ざざざざざざ。
小さな。
針で刺されたような穴が私の胸に開く。
そこから砂が流れ出し始める。
例えるなら、ダムの決壊の前兆のような。
そんな、感覚。
”私”の崩壊。”自分というアイデンティティ”の崩壊。
あれ?
あれ?
思い出せ、ない。
上条ちゃんに会う前の自分が思い出せない。
- 419: 2017/03/08(水) 21:20:39.99 ID:Uv6KgSWl0
- …あ、いや、思い出した。
そう。そうだ。私は、
何も無い、何者でもない、誰からも名前を呼ばれない…ただの殺人鬼。
・・
それに、戻る?
『そう。もし殺し屋でなくなったら。レゾンデートルがなくなったら、』
『上条当麻に捨てられたら。あなたは』
『あなたは、誰からも必要とされない』
『誰からも愛されない、誰からも名前を呼ばれない』
『誰の、なんの役にも立たない”何か”になる』
自然と涙がこぼれた。
- 420: 2017/03/08(水) 21:21:40.46 ID:Uv6KgSWl0
-
…イヤ。
イヤイヤ。
………嫌。
やだ。やだやだやだやだ!!!
捨てられたくない!!
捨てられたら好きな人のそばにも居られない!自分の存在意義もなくなっちゃう!!
『だったらどうするの?』
…やらなきゃ。
『そうよね。やらなきゃ。』
『キチンと覚悟を持って。「私が気持ち良く生きるためだけに、あなたの命をいただきます」って殺さなきゃね?』
や、やだ…それも、やだ…
『あら?なら、もっといい方法があるわよ?』
……へ…?
- 421: 2017/03/08(水) 21:22:40.65 ID:Uv6KgSWl0
- 『あなたが、死ねばいい。』
は…?意味わかんない。なんで私が死ななきゃいけないの
『億クラスの殺し屋が返り討ちになった、としたらどう?』
『ほら、そうしたら下手に手出しはできなくなる』
『だってそうでしょ?あんな平凡なプロフィールの彼女が億クラスを倒すなんてあり得ないでしょ?』
『「何かあるからか取り合えず保留」ってなるんじゃない?』
「…そう、かも…?」
『それじゃ、ほら。』
『ポケットの中にある毒。使おう?』
「…」
『楽になれるよ?』
「…」
指が、ポケットへ伸びる。
- 422: 2017/03/08(水) 21:30:59.99 ID:Uv6KgSWl0
-
『愛してくれてなかった上条当麻だって、あなたが死んだら悼むくらいはしてくれるでしょうし』
「そう…だよ…ね?」
『そうよ。』
『ーーーーー人は、誰でも死にたがっているーー』
『死ねば全て認識できなくなる。つまり後悔もしない。無責任に問題から永久に逃げられる』
『人は誰でも死にたがっているーーーーー』
『清算しましょう?』
『ーーー死んだらもう、煩わしい事なんて何も考えなくて済むーーーーー』
『清算。清算清算清算清算清算清算』
『人は
『誰でも
『死にたが
っているーーーーー』
「…」
- 423: 2017/03/08(水) 21:40:11.52 ID:Uv6KgSWl0
-
トゥルルルル。トゥルルルル。
- 424: 2017/03/08(水) 21:41:05.94 ID:Uv6KgSWl0
-
電話…?
『ほっとこう。ほら、さあ』
- 425: 2017/03/08(水) 21:42:49.87 ID:Uv6KgSWl0
- ーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
さろーにゃ『わぁ!けーたいだ!けーたい!しかもお揃い!』
上条『いいか、サローニャ。』
さろーにゃ『?』
上条『電話は、必ず出ろよ。』
ーーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーー
- 426: 2017/03/08(水) 21:45:14.04 ID:Uv6KgSWl0
-
突然部屋が明るくなったような錯覚を覚える。
握りしめている携帯からコール音が鳴り続けていた。
…電話に出ようと思えない。
目の前にいた名前も顔も忘れた人間はいなくなっていた。
ゴシゴシ。
いつの間にかびっしょりとかいた額の冷や汗を拭う。
出よう。もしかしたら上条ちゃんかもしれないし。
「…もしもし。」
『こんにちは。私よ』
「なんだ…情報屋ちゃんか」
- 427: 2017/03/08(水) 22:00:59.64 ID:Uv6KgSWl0
- 『ごめんなさいね。彼と思った?』
「…何のごよーですか」
『いい情報をあげようと思って。』
「…おいくら?」
『無料よ。彼に関する事だから』
「…内容は?」
『まず一つ目。彼が捕まったわ』
「誰に」
『”令嬢”って御存知?』
「フロイライン?業界の人間が知らないワケないでしょあんなおっきい犯罪会社ちゃんをさ」
『その会社の所有する拷問用ビルに拉致されたわ』
「は!?なんで?!」
- 428: 2017/03/08(水) 22:04:54.90 ID:Uv6KgSWl0
- 『それはまだ調査中。けど早くしないとマズイわあ』
「そのビルどこ!?」
『今から所在地のメール送るわあ。今彼を救えるのはあなただけだから急いでね』
「うん!ありがと!」
『ああそれと…ごめんなさいねえ。コレは私のミスなんだけど』
「…?」
嫌な予感。
『あなたに依頼した情報の中でとんでもない間違いがあったわ。巧妙に隠されてた情報があったの』
(はっ、『巧妙に隠されてた』?違うよね?)
便座ちゃんをコツコツ指で叩いてイラつきをごまかす。
(だってそれ、あなたの能力からしてもだけどあなた程の腕利きの情報屋なら売る前に気づいてるはずでしょ。)
(絶対故意だよね。その間違いに気づいていたか、あるいはあなたが偽造したか…だよね?)
- 429: 2017/03/08(水) 22:07:34.01 ID:Uv6KgSWl0
-
『ターゲットはただの一般人の筈なのに、何故か億クラスの上条事務所に依頼された案件』
『たぶんあなたも訝しんだはずよね』
「ええ、まぁ」
『ごめんなさいね?彼女、本当は”令嬢”の専属殺し屋だったみたい』
…は?
- 430: 2017/03/08(水) 22:08:43.41 ID:Uv6KgSWl0
- 『あなたと同じ、億クラスのね。』
え?
ちょっと待ってちょっと待って?
え?それってつまり、私と同じくらいか、あるいはそれ以上の実力の殺し屋で。
私に気づかせないぐらいの演技と殺しの技量を持っていて、
彼女の契約主は今まさに上条ちゃんを捕まえて拷問しようとしてる”令嬢”で。
- 431: 2017/03/08(水) 22:11:06.44 ID:Uv6KgSWl0
- とするなら。
…もしかしたら、最初にあのカフェで出会った時から彼女は私の正体に気づいていてたんじゃ?
なら、当然私の命か身柄の拘束を狙ってる…よね?
黙って殺されるはずがないし、上条ちゃんを捕らえたならその手駒を野放しにする理由もないし。
じゃあこの家に引き込んだのは…
殺し易いから?
イコール。
ひょっとして…私、今、殺し屋の”殺しの作業現場”にいるって事?
- 432: 2017/03/08(水) 22:12:03.45 ID:Uv6KgSWl0
-
キィ...... - 433: 2017/03/08(水) 22:13:10.23 ID:Uv6KgSWl0
-
背後のトイレのドアが微かに軋む音がした。
次いでトイレ内の温度よりも寒い風が吹き込むのを感じる。
あ、やっば。ドア開けっぱだった?
……ん?
いやいや待て待て。待ちましょーや。
…あれ?私、ちゃんと閉めたよね?鍵かけて。
『彼女のコードネームは』
電話から聞こえる情報屋の声が唯一の救いに感じる。
- 434: 2017/03/08(水) 22:13:47.05 ID:Uv6KgSWl0
-
その声から勇気をもらって、
おそるおそる、ギギギ…と頑張って錆びついた首を動かす。
回しきれない首の分、横目で背後へと視線を回す。
- 435: 2017/03/08(水) 22:17:22.99 ID:5z7wLELH0
-
・・・
…見てた。
ギョロっとまん丸に見開かれた彼女の目と視線が合った。
ギシリ。綺麗に揃った歯を全部見せるドギツイ笑顔が
ドアの隙間から覗いていた。
- 436: 2017/03/08(水) 22:18:12.52 ID:5z7wLELH0
- 「あはっ…♪」
「ーーーーーーーーッッッッッ!!!!?」
- 437: 2017/03/08(水) 22:18:59.63 ID:5z7wLELH0
-
『”スズメバチ”。』
- 438: 2017/03/08(水) 22:20:20.12 ID:5z7wLELH0
-
上
条
- 439: 2017/03/08(水) 22:27:13.82 ID:wcRmhAnK0
-
「くそ…いて…」
あの路地で昏倒させられて目を覚ましたらここだった。
たぶんオフィスビルの一室を改装して作られてる部屋なんだろう。
全面タイル張り。
で、簡易ベッド、鉄製の薬棚が置かれている。
俺の横にはメスや風変わりなペンチみたいな物、医療器具のような物が目一杯入った銀のトレイ台。
…そうだな、トイレと手術室と保健室を足して2で割って、そのうちの0.2は工作室って感じ。
んでもって俺は部屋の真ん中でデカいボルトで固定されたごっつい万力台に拘束されていた。
学生の頃に図工室とかで見たネジ式のやつ。
ただ、俺の記憶にある万力台とは違ってこの万力台は結構シャレにならないシロモノだ。
何せ、台の下のフレームに俺の右手が何重もの鉄輪で拘束されている。
オマケにガッチリと完全に固定された左手の指先には鉄パイプでも切れそうなドデカイ包丁が設置されている。
あー…これアレだ。ガチ拷問だわ。本気のヤツだコレ。
身動きはほとんどできない。
…どうにも出来なさすぎて泣きたくなってくるな。
- 440: 2017/03/08(水) 22:31:24.51 ID:wcRmhAnK0
- ガチャ。
「社長。こちらです」
「ありがとう」
ドアが開いて二人の人間が入ってきた。
一人は知らない女。俺を捕まえた時に指揮をとってたヤツだ。
そして社長と呼ばれたそいつは……
…オイオイ。知ってる奴だよ。
多少歳を重ねたとはいえ俺が見間違うはずもない。
「久しぶりやねカミやん」
「…まだ青髪にピアスなんだな、お前」
- 441: 2017/03/08(水) 22:33:37.11 ID:wcRmhAnK0
-
「いやこれさっき染めたんやで?カミやんと会うならやっぱこの格好かなって思って」
「ああそうかよ。御配慮痛み入るよ。懐かしすぎて涙と歯軋りが出てくるぐらいだ」
「あらら。カミやん変わったなぁ?そりゃ十年近く会っとらんかったら変わるに決まってるけども」
「俺に言わせればお前だってめちゃくちゃ変わったぞ。」
「そう?」
「その高価そうなスーツも葉巻もメガネも死ぬほど似合ってないし」
「えーお気にのスタイルやのに」
- 442: 2017/03/08(水) 22:37:51.07 ID:wcRmhAnK0
-
「で?俺みたいなしがない零細殺し屋仲介業者に何の御用でせうかね、かの大企業の”令嬢”さんが」
「しがない?零細?有名人を何人も何人も殺ってきた今をトキメく仲介業者さんやん?御謙遜やなぁ」
青ピは葉巻を深くふかして万力台の近くの丸椅子に座る。
「いやーでも懐かしいなぁ。ほら、カミやんガッコこーへんくなったやん?あの時皆寂しがっててん」
ヘラヘラと笑ってのらりくらり。
だんだんイラついてくる。
…いや、単に俺は怖がってるのか。
イラつくのは恐い事がさっさと終わって欲しいのに遅々として話が進まないからか。
- 443: 2017/03/08(水) 22:39:33.45 ID:wcRmhAnK0
- 「いいから要求を言えよ。昔話に花咲かすために拉致してこんな辛気臭い部屋に押し込んで台に固定したワケじゃねぇんだろ」
「なんや、そんな急かさんでもええやん?」
「俺だって忙しいんだよ。スピード命の仕事がまだ終わってないんだ」
「へーそーなん?カミやんも大変やね」
超他人事。
その間の抜けた声のトーンに思わず舌打ちをしそうになる。
「まぁカミやんがそう言うならそうしよか」
青髪にピアスの男の糸目が少しだけ見開かれた。
- 444: 2017/03/08(水) 23:06:15.34 ID:wcRmhAnK0
-
「単刀直入に言うとね、ボクら的に一番処理が楽やからカミやんにここで死んで欲しいんや」
「お断りだ」
「あ、やっぱ?」
「『テメェが生きてると邪魔だから死んで下さい』『ハイ喜んで』をやる人間がいるなら連れてこいよ」
「ですよねー」
ブッ殺してやろうか。
- 445: 2017/03/08(水) 23:08:07.50 ID:wcRmhAnK0
-
「いやね、ボクもカミやんがどーいうつもりか知らんのやけど」
「カミやんさぁ、ボクのデカいビジネスを潰そうとしてるやん?」
「…はい?」
マジメに何の話だ。初耳だし寝耳に水だしそんなつもりは全くないぞ?
「…それ、トボけとるんか本気かわからんけど…しかもや」
「ウチが雇っとった殺し屋を一人殺ったやろ?」
「え?」
オイ…まさか
「”火事屋”。アレな、ボクの今度のビジネスのために働いてもらうはずの業者さんだったんや」
ステイル…っ!お前、お前の最後の仕事の契約主”令嬢”だったのかよ!
- 446: 2017/03/08(水) 23:26:23.13 ID:wcRmhAnK0
-
「順を追って説明するとな?」
「今度学園都市の統括理事長がボクらにとって非常に都合の悪い法律作るんや」
「せやけどそんなん邪魔やん?前々から目の上のたんこぶみたいな人やったし『そろそろ消しとくか~』ってなったんや」
「で、『お前らにとっても邪魔なアイツをボクらが消したるから金出して?』って色んな裏稼業の奴等と商談まとめて」
「実働部隊として”押し屋”と”スズメバチ”、”自殺屋”、”火事屋”を雇ったんや」
「そしたらな?カミやんとこがそのターゲット殺す依頼受けたって情報が入ったんや」
「”令嬢”が殺すから意味と金が生まれるのにカミやんとこに殺されたら全部水の泡になってまう」
「やから”火事屋”に追加依頼してカミやんがあの依頼受けた直後に警告のつもりでカミやんち燃やさせたんやけど」
「そしたらカミやん、それ無視して”火事屋”殺したやろ?」
「いや…無視したワケじゃ」
「同じやろ?」
- 447: 2017/03/08(水) 23:34:38.63 ID:wcRmhAnK0
- 「つまりボクらは大勝負を仕掛ける時に大事で貴重な戦力減らされたんや」
「予定も作戦も経理も商談もぜーんぶ練り直し。おかげで社員もめっちゃキレとったわ」
「でもな?ボクはそれでも許したろうと思っとったんや」
「なんたって社員一人で裏社会で頑張っとる昔の友達やからなぁ」
「やから、カミやんの全財産の八割辺りで手打ちにしたろかなと思っとったんやで?」
「本当なら全財産と臓器全部やけど」
「そしたらな?」
- 448: 2017/03/08(水) 23:42:06.48 ID:wcRmhAnK0
-
「また新しく情報が入ってきたんや」
オイ、まさか。
「カミやんとこの”綿”を差し向けたんやってな。しかもよりにもよって一番大事な”令嬢”の専属殺し屋の”スズメバチ”に」
…あのクソアマ…っ!!
「いやぁ…もうアカンやろ?だって完全にボクらにケンカ売っとるもん」
「ボクもね、そろそろ部下達を抑えられへんのよ」
「これでまた今までの仕事をパーにさせんのも鬼過ぎるやろ?」
- 449: 2017/03/09(木) 00:12:29.53 ID:4Il6m0jP0
-
最悪じゃねぇか!!!蜜蟻の野郎ぉおお!!!
どういうつもりだ!!!
あのクソアマ、俺を嵌めやがった!!!
最初の依頼で暈しと嘘を混ぜて、”令嬢”にはわざと情報を時間差で送ってこの状況を作りあげやがった!!
仮にここで俺が「あいつに嵌められた」と言った所で、
青髪「じゃあ確認してみるか」
蜜蟻「なにそれ知らない。彼が嘘ついてるわ助かりたい一心で嘘ついてるのよ」
とでもなったら一貫の終わりだ!!
こんな、こんなの言い逃れ出来ない!!
クソ!クソクソ!!
こうなったらなんとか青髪の情に訴えかけて落とし所を決めて許してもらうしかない!!
情けない…でも、
こんな所で死ねるか!!
- 450: 2017/03/09(木) 00:24:44.59 ID:4Il6m0jP0
-
「悪かった青髪ピアス!事情があったんだ!けどこの埋め合わせと落とし前は必ずつける!」
「今度の大仕事の欠けた殺し屋の仕事分はウチがタダでやる!経費も全部ウチが持つ!」
「だから…俺と…”綿”の命は助けてくれ」
「フーッ…」
「頼む…!」
「…堕ちたもんやね、カミやんも」
「昔のカミやんはそんな命乞いする小物やなかったのに」
「…」
「なんや、つまらん男になったね」
- 451: 2017/03/09(木) 00:27:16.21 ID:4Il6m0jP0
- 「なあカミやん」
「『人生で最も贅沢な娯楽は、誰かを許す事だ』って知っとる?」
「…ノーバディ・グッドマンか」
「あ、知ってた?」
「アメリカで何人も何人も殺害した凶悪な殺人鬼が死刑判決くらう時に言った言葉だろ」
「せやで」
「そんで、思わへん?」
「何を」
「『「だから俺を許してくれ」って?そいつだけは許しちゃダメだよ』って」
「…まぁ、な」
「ボクがね、カミやんに対して思うのも同じなんや」
「とりあえずの”落とし前”。まずはつけよか」
- 452: 2017/03/09(木) 00:28:47.54 ID:4Il6m0jP0
-
机に手を置くくらいの気安さで。
俺の左手の上に設置されていた包丁が、下まで落ちきった。
「ぐぅ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ォ゛ア゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッッ!!!!!」
- 453: 2017/03/09(木) 00:36:41.70 ID:4Il6m0jP0
-
「青髪ピアス…!お前、こそ、そんな悪党じゃかったはずだろ…!」
「…カミやん。カミやんは知らんかったかも知れへんけど」
「ボクな、昔カミやんとつるんどった時からこーいう仕事しとったんやで」
「は…?」
「『ボクは善人です』なんて言うた覚えないよ?」
「まーほら、ボクも学園都市の人間やったって事やね」
「…ーーーー
「あー意識失った」
「…まだショック死しとらんよね?」
「ええ。していません。ただ気絶しーーーーー
ーーーーーー
ーーー
ーーーーーーーーーーー
- 454: 2017/03/09(木) 00:44:50.67 ID:4Il6m0jP0
-
扉。
この世には開けてはいけない扉ってのがある。
例えば、自分んちの玄関の扉とか。
まぁそんな事言ったら毎日家に帰れないんだけどさ。
でもさ、”中でとんでもない事が起きてる自分んちの玄関の扉”だったら別だろ?
その日はさ、もう冬だし寒かったからインデックスとも「今日は鍋にでもしようか」って話してて
「おにくおにくーっ!」とか、「お前なぁ、上条さんちのエンゲル係数はやばいんだよ!」だの
「スフィンクスにだってたまには御馳走を食べさせてあげたいんだよ!」とか「お前それ自分が食べたいだけだろーっ!?」って
…ほんとになんでもない日だったんだ。
何か突然悪い事が起きるとか、自分の人生の転換期がいきなり来るとか
そんな宝クジで一等を俺が当てるなんてあり得ない事が起きるような前兆なんて何もなかったんだ。
- 455: 2017/03/09(木) 00:46:00.44 ID:4Il6m0jP0
-
だから、開けちゃったんだ。
油断してたんだ。
いつまでも平和でいられるとか勘違いしてたんだ。
ああ、ひょっとしたら「そうだよな、たまには奮発して肉とか食わせてやろう」ってほんの少しだけ豪華にしたのがいけなかったのかも。
いつもと違う事したからバタフライ効果が起きたとか、似合わない事したから明日は雨が降るとか
何かそういう大きな力が働いたのかも。
- 456: 2017/03/09(木) 00:46:50.94 ID:4Il6m0jP0
- ひょっとしたら、二週間前にインデックスに告白して
「これから一生お前の胃袋と心をいっぱいにするから、俺と」
「ちょっと胃袋ってなんなの!?」
みたいなやり取りして、
「俺達はお互いに出会ったあの日から半年以上の思い出話なんてできないけど」
「これからはたくさん作ろうな。誰かに話せる思い出話を」
「うん!十年後も二十年後…ううん、ずっとずーっと先の」
「おじいちゃんとおばあちゃんになった時に誰かに『もういいよ』って言われるくらいにね!」
未来のことを話して、
…同居から晴れて同棲って名前に関係が変わったのがいけなかったのかも。
- 457: 2017/03/09(木) 00:47:59.14 ID:4Il6m0jP0
- ほら、いい事の後には悪い事が起きてバランスが取れるようになってるって言うだろ。
その数日後にお揃いの…安いけどさ、指輪買ったんだ。
「まだ学生だし、将来どうかるかわかんないけど…お揃いのペアリングみたいなのを」
「いいの?嬉しいんだよ!とうま!」
「でもね…私、ペアリングじゃなくて、婚約指輪が欲しいかも…///」
「し、しょーがないな…///」
「あーあ。もっと早く言えばよかった」
「俺が一番守りたかったのは、俺が一番この世で大事に思ってるのは最初から最後までお前だったし」
「俺がずっと一緒に居たかったのは」
「とうま。ありがとう…私も。私も同じなんだよ」
”俺”が一番最初に出会った人で、一番好きで、一緒にいると一番落ち着いて、一番良く知っていて、居なくなったら一番困る。
想いが繋がった後は今までで一番幸せで。
手を繋いでるだけでも、抱きしめあうのも…
…だからか?
それか上条さんは右手が神様の加護を打ち消し続けて不幸だから、一生分の幸運を使い切ったとか。
- 458: 2017/03/09(木) 00:49:05.10 ID:4Il6m0jP0
- …………………。
…知らなかったんだ。その日だけはスーパーからの帰り道で路地裏に連れ込まれた女の子助けたりとかしちゃいけなかったなんて。
知らなかったんだ。その日、自分ちのドアを開けちゃいけなかったって。
知らなかったんだ。本当はその日はどこにも行っちゃいけなかったんだって。
知らなかったんだ。
その日からもうインデックスと一生会えなくなるなんて。
- 459: 2017/03/09(木) 00:49:43.62 ID:4Il6m0jP0
-
ガチャ。バタン。
「ただいまー」
「インデックス!喜べ!今日はお肉様がある鍋だぞ!」
「そんなには無いけどな!スフィンクスの分も食ったりすんなよー…」
「…?」
「…インデックス?」
(…なんだよ、寝てんのか?)
(まぁそれなら静かに)
ガチャ。
「 」
- 460: 2017/03/09(木) 00:50:38.87 ID:4Il6m0jP0
- 一生モツ鍋とか、何かそういう料理は二度と食えないだろうなって思ったよ。
おかしな感想だろ?
精神崩壊を防ぐために脳が現実逃避して、ズレたバカな考えで思考停止したのかも。
あっ人間一人分の血液って大体はその人の体重の8%なんだってさ。
8%って聞くとそんなにたくさんは無いように聞こえるけど、
それが全部部屋中に爆散して飛び散ったらそりゃあ壁とか床はすごい事になるもんだ。
なんだろうな。人間の身体の中に小規模の爆弾が入っていてさ、それが爆発したとしたらこんな赤い肉の花になるのかもな。
不思議な事に下半身のパーツは
割と大きめに残って
いて
頭 の破片 が
あれ?おいこんなとこにスフィンクスの足
が
- 461: 2017/03/09(木) 00:51:48.63 ID:4Il6m0jP0
-
その後暫くは記憶がない。
貧血起こして倒れて、それから、
…いつもの病院で。
「起きたかい」
「せんせい」
「こわいゆめをみました」
「ゆめ?」
「ハイ。ゆめです」
「帰ったら、俺んちが俺んちじゃないんです」
「俺んちだったら、同居人がすぐにでてきて」
「あと、ネコも。ねこを抱えて」
- 462: 2017/03/09(木) 00:52:18.03 ID:4Il6m0jP0
-
「ねぇせんせい」「なんだい」
「おれかえらないと。」「……」
「おれ、インデックスとけっこんするんです。「だから
「はやくかえってやらないと。今日は鍋なんですよ」
「あ、せんせいも来ますか。具材持って来てくださいよ」
「…」
チューシャを打たれて。
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーー - 463: 2017/03/09(木) 00:53:22.39 ID:4Il6m0jP0
- しばらくして土御門が来た。
「…落ち着いたか」
「…おちつかねぇよ」
「オレもカミやんをしばらくソッとしといてやりたかったんだが」
「なんだよ。笑いに来たのか」
「は?なんでそうなる」
「おかしいんだろ。面白いんだろ。ほら、嫉妬してんだろ?!俺とインデックスはお似合いだからな!!!」
「俺がインデックスとちょっと会えなくなったのが可笑しいんだろ!!!笑いに来たんだろ!!!」
「そんなワケないだろ。落ち着け。オレは味方だ」
「ったらよぉ…!」
「だったら!!!嘘だって!!!言ってくれよ!!!!」
「エイプリルフールでーすとか!!!幻覚でしたーー!!!とか!!!!どっかの性悪な魔術師の魔術だとか!!」
「意味わかんねぇんだよ!!!サッパリだ!!!!」
- 464: 2017/03/09(木) 00:54:51.98 ID:4Il6m0jP0
- 「なぁ土御門!!!教えろよ!!」
「アレか?スーパーからの帰り道で俺がさっさと帰らずに路地裏に連れ込まれた女の子助けてたからか!?」
「…カミや」「助けなきゃ良かった!!!!!」
「そうだよ!!!あんなクソみたいな女の子なんか助けなきゃ良かったんだ!!!」
「つーかおかしいだろ!!!どういう事だよ!!!」
「俺、今まで散々世界救ってきたよな!!!?」
「俺!!散々地獄へ落ちるヤツへ救いの手を差し伸べてきたよな!!!?」
「俺!!!悪い事なんて一回もやってない!!!!!」
「なのに!!!なんで!!!俺の一番大事なモンはアッサリ奪われてんだよ!!!!!!!!!」
「…」
「落ち着け。カミやん、今お前は心が疲弊し」
「カミサマってのはマジメな善人を救うんじゃねぇのかよ!!!!!」
「情けはひとのためじゃないんじゃねぇのかよ!!!!!」
「ふざけんなよ!!!!!」
「どこの誰だよ!!!!!」
「…」
- 465: 2017/03/09(木) 00:56:09.32 ID:4Il6m0jP0
-
「……」
「…土御門」
「…なんだ」
「手ェ貸せよ」
「何する気だ」
「決まってるだろ。探し出すんだよ」
「犯人をか」
「それ以外にあるのか」
「…正直、難しいと思う」
「はぁ!!!?」
「おまっ、ふざけ…!!!ころ、ブチころッッツ!!!」
「興奮するな。冷静に聞け。…いいな?ゆっくり深呼吸して数を数えろ。落ち着け。」
「…ッフー!…ッフー、ッフー…!」
- 466: 2017/03/09(木) 00:59:06.44 ID:4Il6m0jP0
- 「恐らくアレはプロのやり口か…カミやんの知り合いだ」
「あんな事する奴の心当たりなんてねぇよ…プロならなんのだよ」
「専門まではわからない。ただ、あまりにも手口が鮮やかすぎる」
「争った痕跡、ドアや窓を抉じ開けた形跡がない」
「幸せの絶頂にいたインデックスが自ら何がしかの爆弾を精製して自爆したとも考え辛い」
「あの現場からAIM拡散力場は検出されなかった。つまり能力者による犯行じゃない」
「だから二択なんだ。」
「インデックスが心を許していた人間が犯人か、痕跡一切を科学技術や魔術を使って消す心得がある”殺し屋”か」
「だが、もし殺し屋なら恐らくは学園都市の暗部の系統じゃない。」
「オレ達はもっと雑だったり異常に綺麗すぎたり、能力や科学兵器の残り香がある現場になるからな」
「じゃあ、誰が」
「…憶測だが」
「動機面から考えると直近のイベントからするに上条当麻がインデックスと身を固めようとした事による横恋慕からの犯行」
「もしくは”禁書目録”の価値と所在を知った魔術サイドの人間」
「じゃあ二つを合わせて…魔術師でインデックスに好意を持っていて、かつインデックスが心を許し、…ああいう形で人間を破壊する事が出来る人間とか?」
「…となると、オレの心当たりからすれば天草式の神裂か、五和か…イギリス清教のシスターか、となるが」
「急ぎ確認したが彼女らは事件当時学園都市にすら居なかった」
「そういった狙撃、ピンポイント攻撃が可能な術式が発動出来る状態でもなかった」
「…じゃあ、空間移動能力者とか」
「調べた。空間移動能力者はこういう事があると真っ先に疑う対象になる。数も少ないしな」
「だが結果はシロだ」
- 467: 2017/03/09(木) 01:00:21.37 ID:4Il6m0jP0
- 「…じゃあ、誰が」
「わからない」
「……」
「…そいつと同じ殺し屋業界の人間なら何か知ってるかもしれないが」
- 468: 2017/03/09(木) 01:01:30.80 ID:4Il6m0jP0
-
どうしてもわからなかった。
なぜ。
なぜあいつは死ななきゃいけなかったのか。
なぜあいつが殺されなきゃいけなかったのか。
許せなかった。
忘れる事も出来なかった。
俺からインデックスを奪った犯人が憎くて憎くてたまらなかった。
苦しくて、悔しくて、哀しくて
手首を何度も切って生きる事から逃げ出そうともした。
きっと、大人だったら、大人だったら”大事な人の理不尽な死”にも負けないのだろう。
許しはしなくともその手で物理的な報復まではしないとか。
社会的制裁を下すことに必死になるとか
忘れるとか、思い出にするとか…別の誰かを愛するとか。
…でも、俺はそんなに大人じゃなかった。
大人のフリをするのは簡単だけど、俺はどうしても大人にはなれなかった。
- 469: 2017/03/09(木) 01:03:33.91 ID:4Il6m0jP0
-
「…悪魔を殺すには人間のままじゃどうしても無理がある」
「悪魔を殺せるのは神か、」
「同じ悪魔だけだ」
「…なろう。なってやろうじゃねぇか」
コロシヤ
「ーーーーーー同じ、”悪魔”に」
- 470: 2017/03/09(木) 01:05:26.70 ID:4Il6m0jP0
-
俺は学校を辞めて土御門に裏社会で生きるノウハウを教えてもらうようになった。
二人で事務所を立ち上げ、土御門のコネと自分の知り合いの多さを利用して殺し屋仲介業者を始めた。
数年後に土御門が俺のミスの尻拭いのために死ぬまで
- 471: 2017/03/09(木) 01:20:52.13 ID:4Il6m0jP0
-
以後、ツテとコネ、知り合いの能力を生かして書庫、滞空回線、監視カメラ、etc....
それらから推察し、少なくとも犯人は当時学園都市在住の人間である事が判明する。
同時期に情報屋である蜜蟻と知り合う。
彼女の情報屋としての腕は最高だった。
また、彼女の”心理穿孔”を使って客観的な情報ではない主観的な観点から…
『自分が殺した』と思っている人間を探し始めた。
- 472: 2017/03/09(木) 01:27:50.64 ID:4Il6m0jP0
-
途中、知り合いや友達が何人も死んだ。
俺はあの日から誰も救えなくなった。
それでも。続けた。犯人と同じ業界にいれば誰かに聞くよりも情報が入ってくる。
直接手を下す事を求めて。
きっと。もっといい方法があったのだろうけど。
俺はこの方法でないとダメだった。
- 473: 2017/03/09(木) 01:31:44.91 ID:4Il6m0jP0
- 本編投下はここまで。>>1自身も胃もたれする内容ばっかだったから清涼剤的なオマケを。
- 474: 2017/03/09(木) 01:34:55.32 ID:4Il6m0jP0
-
サローニャ「…」ダラダラ
上条「…」タップタップ
サローニャ「…」
サローニャ「…」タップタップ
ティロン♪
上条「…ん?」
上条(LINE?誰からだ?)
サロにゃん
かまちょ!∩^ω^∩
上条「…」
上条「…」チラ
サローニャ「じーっ///」ワクワクワクワク
上条「…」
上条「…」無視。タップタップ
サローニャ「!?」ガ-ン!?
サローニャ「…!」タップタップ
ティロン♪
上条「…」
サロにゃん
私にかまって。王子様ー??キスミーキスミー♪
上条「…ハァ」
上条「…」チラ?
サローニャ「…!…!」チラッ!チラッ!
上条「はあー…あのさぁ、目の前にいんだから直接声かけろよ」
- 475: 2017/03/09(木) 01:36:20.67 ID:4Il6m0jP0
- サローニャ「だってさ、煩わしい事言われるってわかってるとしてもさ、『声をかけられる』よりも『スマホに出た表示』の方が気にしてもらえるもんでしょー?」
上条「んな事ねーよ。上条さん今お仕事中だからちょっと後にしてくんない?」
サローニャ「えー…」シュン...
上条「お前な…ほら、最近老人から小さい子供まで。現代人に流行ってるスマホゲームでもやったらどうだ?」
上条「地下鉄乗ってみろよ。乗ってきた他人にはもう誰も興味示さない。みーんな顔上げないのが普通になるくらい大人気コンテンツだぞ」
サローニャ「飽きたからいい。いずれ必ず飽きるコンテンツちゃんに毎月ドカドカお金ちゃん落とすのもどうかと思うし」
上条「それはそうして楽しむモノであってだな、…あー、じゃあSNSとか」
上条「今時アナログに『私にかまって』なんて言わねーだろ?今は皆SNSやゲームで会話すんだろ」
サローニャ「やらない。上条ちゃんもやってないし」
サローニャ「それともなぁに?『今お仕事中☆今日はちょっと重労働☆~(ゝ。∂)家族3人皆殺ししてまーす』とか書けと?」
上条「お前、それホントにやったらマジで殺すからな?」
サローニャ「殺し屋ちゃんがそれ言うとリアルで恐いねぇ」
上条「いいじゃねぇか。ほら、『皆やってるんだからさ』」
サローニャ「うわ、出た。日本人ちゃんは誰かに言うこと聞かせたい時とかいつも言うよね」
サローニャ「『皆やってる事なんだから』『皆我慢してるんだから』『君だけじゃないんだから』」
サローニャ「人なんてカンケーないじゃん」
上条「俺が言うのもなんだけど、お前も協調性とかないよなぁ…」
サローニャ「フーンだ」プイッ
上条「…もういいか?なんか趣味でもやれよ。本でも読むとかな。人生を豊かにするぞー」
サローニャ「じゃあ上条ちゃんに抱きついてていい?」
上条「なんでだ」
サローニャ「上条ちゃんにかまってもらいたいのっ」プクゥ-!
- 476: 2017/03/09(木) 01:36:53.97 ID:4Il6m0jP0
- 上条「彼氏か友達とかでも作ってそれ言ってこい」
サローニャ「じゃあ上条ちゃんなってよ」
上条「やだよ十代は上条さんの守備範囲じゃねぇ」
サローニャ「ええー?世の中は小学生とか、中学生に手を出していいって言ったら沢山お金払ったり何でもやってくれたりする人もいるくらいなのに?」
上条「俺はそういう紳士な方じゃない」
サローニャ「…もう」
サローニャ「おりゃぁー!かまえーっ!」
上条「んぁっんっ!?おま、俺の腹にダイブしてくんじゃねぇ…!」
- 477: 2017/03/09(木) 01:38:24.70 ID:4Il6m0jP0
- サローニャ「オラ、サローニャちゃんを撫でくり回せよ。お腹でも頭でも」
上条「猫かよ」
サローニャ「とゆーかさ、サローニャちゃんは社長とかプロデューサーとかを殺してくるっていうそれなりに重労働をこなしてきてるんですど」
上条「で?」
サローニャ「もうちょい労いの言葉とか、おきゅーりょーに色つけてくれるとか、」
サローニャ「…いつもみたいに頭ナデナデして『偉いぞーサローニャー』っつって褒めてくれるとかしてくれてもいいんじゃないのー」
上条「…ハァー…ッ」
上条「はいはい…これでいーですかーサロにゃんさんー」ナデナデナデナデ
サローニャ「ん…」
上条「…まぁ、でも…」
ああ、ひょっとしたら。
上条「確かに今回のヤマは結構むずかったからな…良くやってくれたよな」
結局のところ、私はこうして上条ちゃんに褒められたいから。
上条「そこに関しては褒めてやる。偉いぞーサローニャ。よく頑張ってくれたな」
こうやって頭を撫でて欲しい一心から、私は嬉々として必死に人を殺してるのかもしれない。
だって、何も映ってないテレビに映り込んでる私はこんなにも頬が緩んでひどく締まりのない顔をしてる。
心地がいい。何をしている時よりも。
満たされる自己肯定感。充填されていくやる気。
キチンと言うことを聞いて。人を何人でも誰でも何回でも、上手く殺す。
それが…サローニャ・A・イリヴィカが上条ちゃんに関心を持ってもらえる、唯一の価値だから
- 478: 2017/03/09(木) 01:39:04.29 ID:4Il6m0jP0
- サローニャ「上条ちゃんなんて嫌い嫌い嫌い。嫌いすぎ。だいっきらい」
上条「ああ?なんだよ。なんかしたか?」
サローニャ「……の!反対の反対の反対っ!///」ニヘ-
上条「…小学生かよ」
- 479: 2017/03/09(木) 01:40:36.61 ID:4Il6m0jP0
- 上条「しじみの味噌汁作るからサローニャちょっと買ってきてくれ」
サローニャ「かしこまりっ!」ビシッ!
上条「あー、ちゃんと魚屋に行けよ。スーパーとかじゃなくて」
サローニャ「え?なんで?」
上条「生きてるしじみが欲しいからだ」
サローニャ「どーして?」
上条「生きてる奴を砂抜きして、ちゃんと作るからウチの味噌汁は美味いんだよ」
上条「なんでも採れたて殺したてが美味いだろ?」」
サローニャ「おおー…我が家の味噌汁の美味しさにそんな秘密が隠されていたとは」
上条「だから魚屋なんだ。餅は餅屋。ゲームでもマルチに出来る奴より専門職のプロフェッショナルな奴のが一番強いだろ」
サローニャ「にゃるほどー」
上条「ほら、行ってこい」
サローニャ「はーい」
てくてく。てくてくてくてく。
- 480: 2017/03/09(木) 01:41:42.31 ID:4Il6m0jP0
- ・・・・・。
サローニャ「買ってきました!」ビシッ!
上条「さんきゅな」
・・・・・。
上条「ほら、水ん中でプクプク泡が出てるだろ?これが生きてる証拠だ。…俺たちはこいつら食っちまうけど」
サローニャ「生きてるのを殺して作る、か。さすが殺し屋。本格的だねぇ」
上条「本格“的“ってなんだよ。俺は、本格派だ。ちゃんと本物なんだよ」
サローニャ(どう違うんだろ)
上条「そら、出来たぞ」
サローニャ「わー!美味しそー!」
サローニャ「ん?」
しじみ(三匹)「ぷくぷく…」
サローニャ「ありゃ?何で三匹残したの?」
上条「入り切らなかった。明日朝飯にする」
サローニャ「ふーん…」
上条「なんだよ、飼いたいのか?」
サローニャ「いやそれは、」
サローニャ「…」
上条「どうした?」
サローニャ「しーちゃんとじーくんとみーちゃんでどうだろうか」
上条「何が」
サローニャ「名前だよ名前。しじみを飼った時の」
- 481: 2017/03/09(木) 01:42:54.98 ID:4Il6m0jP0
- サローニャ「せっかく運良く生き延びたし、私達に食べられるまでは可愛がるのもいいかなーって」
上条「[ピーーー]時に手が鈍るぞ。生物の授業とかでやれよそういうのは」
サローニャ「学校ちゃんは行ってませんので」
上条「…明日ちゃんとした水槽買ってくるか…」
サローニャ「おおー…まさかの」
そんなわけで上条宅にはしじみが三匹飼われております。
上条「またしじみ見てるのか」
サローニャ「うん」
上条「…」
サローニャ「…」
サローニャ「泡をぷくぷくさせてるのを見るとさ、『ああ、コイツら生きてるんだなぁ』って感じるでしょ?」
上条「そうだなぁ」
サローニャ「なんかいいよねぇ」
上条「そうだな」
- 482: 2017/03/09(木) 01:44:15.90 ID:4Il6m0jP0
- >>481ピーは殺す
- 483: 2017/03/09(木) 01:47:08.12 ID:4Il6m0jP0
-
その後。何故かなんやかんやと理由をつけて食べられる事がなかった三匹のシジミは彼らが寿命で死ぬまでその水槽でプカプカ泡を吐いていたそうな。
- 484: 2017/03/09(木) 01:48:21.14 ID:4Il6m0jP0
- ちこちこチマチマ書いてた書き溜めが結構消費できてよかった。今回はここまで。
- 487: 2017/03/22(水) 00:36:35.57 ID:0Cacxrpl0
- ターゲットは悪人しか狙わなかった。
どういう条件をもってして"悪人"と定義するかは毎度ブレていたかもしれないけど。
客観的に見るならば、リーガルマインドな考え方をすれば、『理不尽に殺されるほどの悪い事』をしたわけじゃない奴も何人かは居た。
けどまぁ俺も仕事しなきゃいけなかったし。
つうかさ、
『殺し屋に高い金払ってでも殺したい』って思われてるほどの人間なんて、基本的に死んだ方がいいだろ?
それにさ、
『民事で訴えれば勝てるかもしれないけど、そこまで時間と労力をかけたくない』
『みんなに迷惑をかける酷い嫌がらせだけど法的措置がギリギリとれない悪事』
とかしてる奴はどうやって排除したらいい?
答えは簡単だろ?
こっそりブチ殺せばいいんだよ。社会的に要らねぇだろそんな奴。
消した方が手っ取り早く世の中はよくなるじゃないか。
- 488: 2017/03/22(水) 00:38:13.17 ID:0Cacxrpl0
- 無論、復讐の正当化に過ぎない。
そんな事を公の場やら『それを正義とすべきか』みたいな論争の場で言えば100%負ける理屈だ。
ああ、それと。
それに、そういう奴を狙っていけばインデックスを殺した奴がターゲットになる事もあるかもしれない。
あるいは、そのターゲットの横のつながりから見つかるかもしれなかったしな。
ほら、類は友を呼ぶとか、『その人間の価値が知りたければそいつの友人を見ればいい』とか言うだろ?
そういう人間を専門にしていけば情報も集まりやすくなる。
あと…人を殺すのはどんな理由があろうとも悪い事にきまってる。
それでもそれをやらなきゃいけないなら。
せめて少しでもインデックスに非難されないようにしたかった。
インデックスが『悪人なら殺しても少しは許される』みたいな考え方をしてたかは知らないけれど。
死んだ奴の頭の中身なんてわかりっこないわけだし。
勝手な憶測と妄想、推測で捏造してみた。
- 489: 2017/03/22(水) 00:38:56.11 ID:0Cacxrpl0
- きっと俺はもう頭がおかしいんだろうな。
自分じゃ認識ができないだけで。
世の中とズレている。
…そういえば、サローニャは
どう
し、
「ーーーーーーーーっ、」
「あ、起きた?」
- 490: 2017/03/22(水) 00:39:44.01 ID:0Cacxrpl0
-
薄目を開けて頭を軽く振る。
目の前には細目のニヤケ面。
…ああ、そういえばそうだった。
意識が再びクソッタレな現実へと引き戻される。
俺は今貧血でも起こしてるのか?力が入らない。
額には脂汗。
立ちくらみした時みたいな、体中の血流が逆流しているような、暴走しているような感覚。
「ええ夢でも見とった?残念やけど現実はコレやでー」
残念ながらええ夢ですらなかったな。
せめてええ夢見せて欲しかったよ。ああ。
左手に視線をやってみる。
止血は、されてる。包帯も巻かれてたが…
オイオイ…やっぱ俺の左手の指が根元から無ぇよ。
俺の指…インデックスとの指輪はどこいったんだ?
- 491: 2017/03/22(水) 00:41:56.45 ID:0Cacxrpl0
- 「ああ、カミやんの指?冷凍保存してあるで?」
「今から病院にダッシュしたらまだくっつけられるんとちゃうかな。」
「じゃあダッシュさせろよ。」
「したらええやん。どうぞ?ボクは止めへんよ?」
「ガッチガチに固定されてて動けるわけねぇだろ」
「うん知っとる」
ああ、目の前の旧友のムカつくニヨニヨ面を張り飛ばしたい。
「ほんまはカミやんの目の前でな?カミやんのとれた指から一枚一枚爪を剥がしてくとこ見てもらおうかなとも思ったんやけど」
「趣味悪いよな。お前」
「性格は悪くないやろ?それに、とれた指やったらカミやんも痛くないしとーっても人道的やとおもうで?」
「安心しろ。お前は性格も気持ちも人格も顔も口も見た目も臭いもやってる事も悪い」
「全否定は酷ない?」
「妥当だろ」
「で?今のご気分は?」
「おかげさまですこぶる最悪だっての」
目が覚めたら嫌なことも辛いことも怖い事もコイツも全部片付いてたらいいのにな。
- 492: 2017/03/22(水) 00:43:25.98 ID:0Cacxrpl0
- 「…大発見だ。今まで右手は千切れても元に戻ってきたってのに左手の指は元に戻らないらしい」
「やろ?ボクもそう思って右手じゃなくて左手にしたんや」
つくづく腹の立つヤツだ。死ねばいいのに。出来れば今すぐに。
「俺がお前でもそうしただろうけど腹立つな」
「いやーなんや嬉しくなってきたわ」
「どこに嬉しくなれる要素があるんだ」
「例えば、自分と相手が同じことを考えたり、同じことを口走ったりするのって、なんかこう、幸せやないか?」
「自分の指が切られてなけりゃ同調したかもな」
- 493: 2017/03/22(水) 00:45:47.71 ID:0Cacxrpl0
- 「さてと。はーいカミやんカミやん。こっち向ーいてっ」
「…どっから用意したんだよそのハンドビデオ。肖像権の侵害だ。勝手にビデオ回してんじゃねーよ」
「ええやん。今のカミやんの生殺与奪の権利はボクが握っとるんやで?」
「カミやんの心臓を握りしめとるような状態やったら何しても『死ぬよりはマシ』ってなるやろ?」
「趣味悪いな。…つーかお前はあの"令嬢"の社長なんだろ」
「”令嬢”と言えば学園都市内だけに限って言えば裏社会版トヨタみてぇなもんだろ」
「社長ってのはこんな事して遊んでられるほど暇なのかよ」
「それともこれが社長業務か?バイトでも出来そうだし『社長業務をするバイト』でも雇ったらいいんじゃねぇのか」
「やー別に遊んどるわけでもないよ?社長業務ちゃうけどね。これもお仕事や」
「…スナッフ映画でも撮って儲けるとかか?」
「おっ、近いね。あんな?『創作物や演技のリアル感を追求するために本当に人が拷問されて死ぬシーンが観たい』」
「世の中にはそんな人もおるんや」
「そいつらに見せるって?小銭稼ぎにも余念がねーな社長さんは」
「そらぁ、ボクはちょっとでもお金欲しいもん。」
- 494: 2017/03/22(水) 00:47:32.73 ID:0Cacxrpl0
- 「あんな、カミやん。ボクな、お金が大好きなんよ。めっちゃ欲しいんや」
「いっぱい。いっぱいいっぱい欲しいんや」
「お金あるってええやろ?カミやんも大分稼いでたみたいやし」
「美味しいもんは毎日食べれる。欲しい物は何でも買える。スマホゲームのガチャなんて何10連でも引ける」
「綺麗で近くにコンビニや駅、美味い料理屋があるカッコイイとこに住める。」
「病気にならんようにできるし、治すこともできる」
「面倒なことは誰かが全部自分の代わりにやってくれる」
「普段からお金バラまいとったら友達にも困らへん」
「そんな繋がりは友達じゃねぇだろ」
「最初は本当の友情じゃなかったとしてもや?誠意を見せながら長く付き合っとれば人間は情がわいてくるもんや」
「そのうち仲良うなれるで?」
「女の子にも困らへんやん?ギャルゲもええけど」
「優しくして、その子の一番して欲しい事をしてあげてな?」
「肩書きチラッと見せてバッグでもマンションでもその子の一番欲しいモンなーんでも買ったれば簡単や。」
「あとは…どんな技術の習得だって勉強できるから出来る楽しさも知れる」
「それから…夢の限界を見れたりとかな」
「なんだそりゃ」 - 495: 2017/03/22(水) 00:50:38.09 ID:0Cacxrpl0
- 「他人の夢に出資したるんよ。『映画監督したい!』『店を開きたい』『こういう企画がやりたい』『起業したい』」
「最近のやと…そうやね、何年か前に『漫画家になりたい』って奴おったんや」
「ボクな、そいつに全部出したったんや。画材も機械も勉強会の機会やら自費出版の金やら研究費とか生活費とか広告費とか何から何までな」
「『その代わり、キミが25歳になるまでに出資した額以上に黒字を出す作品を作れんかったら』」
「『今までの金、全額返してな?』って契約したんや」
「…そいつは、どうなったんだ?」
「別に?頑張っとった時もあったけど『試行錯誤すればするほど何が"面白い"なのかわからない』とか」
「ダレて現実逃避したりとかしてな?」
「自分の家がいっぱいになるほどに自分で買うた、返本されまくってちぃーっとも売れへんかった、自分の本の山の中で首吊って自殺したで?」
「…才能なかったんだな、そいつ」
「そらぁ…”自分の好きな事”と”自分に出来る事”ってのは一致せーへんもんやし、」
「高い所目指すんは自由やけど、落下すんのもよくある事や」
「『自分は違う!きっと成功する!』って自信と希望持っとるヤツほど高い所から落ちんのもな」
「そらぁ、初めのうちは失敗しても情熱を失わへんし、色々乗り切れる」
「やけど、年を重ねて、『やり続ければ夢は叶う』って騙し騙しやって、結果が出せへんとね?やっぱ色々擦り切れてくんやね」
「叶わなかった夢の為に費やした人生の時間が長ければ長いほどダメージはでかい。」
「同い年の奴は皆、人並みの幸せ掴んどるのに自分は…とかなってく」
- 496: 2017/03/22(水) 00:54:42.70 ID:0Cacxrpl0
- 「話、元に戻すけどな?ボク、そーいう他人の潰れてくリアルな人生を見るのもめっちゃ好きやねん」
「クズだな」
「けどな、やっぱそーいうんをやろうと思ったらな、お金要るやん?」
「けどな?」
「当たり前やけど、単純にマジメーに就職してチマチマ稼いだって効率悪いやろ?」
「それに訳分からん判断しよる上司やら仕事押し付ける同僚、使えん部下、」
「ワガママな顧客…危ないお仕事やらされたり、休みがほとんど無かったり…そんな面倒はできる限りしたないやろ?」
「まぁお金稼ご思ったら、例えどんな仕事であっても死ぬほど大変なのもリスク背負うんも当たり前や」
「なら、どうせリスク背負うんなら。大変なら。自分がやりたいようにやれて、大金が入ってスリルも楽しめるハイリスクハイリターンのがええやろ?」
「その目的を達成する、一番の近道がこーいう非合法な手段やったってだけや」
「罪悪感とか、倫理とかないのかよ」
「はぁ?善悪や倫理なんてくだらんモンについていちいち考えられるのは学生とかロクに世の中知らんヤツか、暇なヤツだけや。」
「カミやんホンマに社会人?いっぺんフツーの会社員として社会に出てみぃ?」
「健全な、表の”ほんまに普通の”会社ん中ですら。裏切りと嘘つきと気に入らん奴の排除、媚び売りと理不尽ばっかやで?」
「中には業務内容自体チェーン元とのコンプラ違反で、倫理も法律もクソもないような会社だってあんのやで?」
「そん中で善悪や『何が正義か?』なんて、価値観とか立場変わればいくらでも変わってまう。」
「『何が正義か?』ちゃうわ。」
「社会で生きていく上で一番考えなあかんことは『自分は、このカオスな泥沼の中でどう生きていくのが”適切”か?』やわ」
「大人やったらな、『どこまでだったら恨まれない程度に人を利用して、ズルが許されるか?』って考えなあかんのやで?」
「真面目に仕事をやればやるほど、そういう奴から利用されて食いモンにされてく。それが上司か部下か同僚かって違いがあるだけや」
- 497: 2017/03/22(水) 00:56:24.73 ID:0Cacxrpl0
- 「『あいつとはそれなりに上手く付き合って、上手に働かせておけば俺たちに得になる』って影でやられてな」
「カミやんは今まで自営業で同僚や上司おらんかったから知らんやろうけど」
「そーいうのがわからん奴は将来騙されてまうと思うわ」
「つーかな。今のカミやんだってそうやろ?」
「何がだ」
「なんでや?なんで真面目に仕事やってきただけのカミやんが今こうなっとるんやろうか?」
「たかだか付き合いがちょこっと長いだけのビジネスパートナーを信じ過ぎたからやろ?」
コイツ、やっぱ蜜蟻を知ってやがるのか。
「あかんで~?大人になったら友達や恋人だって信用しすぎたらあかんのや」
「大人になって再会したり急にコンタクトとってきた友達になんか商品とかイイ話を売られそうになった事とかあらへん?」
「あーいうのだって小さい事やけど『助けたろ』とか信じたりして金を出したら損しかせぇへん」
「カミやんは今回の一件の発端だって情報屋のあの子に一杯食らわせられたんちゃうか?」
「…あいつがどういう腹づもりなのかがわからないってだけだ」
「アホやね。まだ信じとるん?カミやんは売られたんやろ?」
- 498: 2017/03/22(水) 00:58:38.74 ID:0Cacxrpl0
- 「お前が俺とあいつの何を知ってる」
「そらーあの子がカミやんの事好きやとか付き合い長い、カラダの関係あるとか知っとるよ?」
「ただな?別にあの子が情報と依頼仲介を売るんはカミやんだけちゃうんやってだけや」
…まさか。
「カミやん。いくらその人が好きや言ってもな?本気で自分の命と引き換えにしてまでそいつ助けようってヤツは基本おらんのよ」
「ちょこっと脅して金出したらフツーにカミやんの情報くれたで?」
…蜜蟻の野郎。
もし次にあいつと会う機会があったらとりあえずブン殴ってやる。
「まー裏切りは女のアクセサリーみたいなモンやろ。女には何べん裏切られても許したり?」
「知った風な口だな」
「知らん?ルパン三世の名台詞なんやけど」
「しらねぇよ」
- 499: 2017/03/22(水) 01:00:40.66 ID:0Cacxrpl0
-
トゥルルル。トゥルルル。
「ハイハイ。あ、鞠亜ちゃん?お仕事終わったん?」
マリア?
「おー!あの”綿”を殺ったんやね!さすがやな!キミはやっぱ最高の殺し屋や!お給料に色つけといたるな!」
…そうか、サローニャ死んだのか。
マジかよクソッ。
あの電話の後くらいか?
ケンカ別れだったな。せめて最後くらい、もう少し優しくしてやれば良かったか?
そんで、この世で唯一の助けに来てくれそうな奴は消えたってわけだ。
いよいよをもって俺も年貢の納め時ってやつか。
まだ死ねないってのに。
- 500: 2017/03/22(水) 01:02:47.01 ID:0Cacxrpl0
- 「にしても。専属で殺し屋雇ってるわ人畜業やってるわ暴徒を雇ってるわと犯罪の見本市だな」
「いや、もう犯罪シンジケートの見本市、っつった方がいいのか。」
「知らなかったよ。とんでもない悪党だったんだな、お前は」
「悪党?確かに見方の一つならほうかもな」
「けどな、ほんまにボクは悪党やろうか?」
「どっからどう見ても悪党だろ」
「せやろか?ホンマの悪党ってのは世の中全体、”人間そのもの”ちゃうんか?ってボクおもうで」
「なんでだよ」
「ウチみたいな裏社会事業が『何でそんなに儲かるのか』ってのをちょーっと考えたらわかるやろ?」
「"めっちゃ需要があるから"や。」
- 501: 2017/03/22(水) 01:04:45.64 ID:0Cacxrpl0
- 「カミやんもわかるやろ?」
「『麻薬で最高に気持ち良くなりたい』、『自分の言う事を何でも聞いてくれる都合がいい人間が欲しい』『自分の悪い臓器と病気を何としても治したい』」
「『家族が欲しい』『絶対裏切らない友達が欲しい』『誰にも殺されない安全が欲しい』『強い武器が欲しい』『あの国に言う事を聞かせたい』『気に入らないヤツを消したい』」
「『性的欲求を満たすためだけの人間が欲しい』」
「『社会に適合出来ない自分でも生きていける場所が欲しい』」
「『自分や家族、友達の犯してしまった犯罪や経歴を消したい』『刑務所から友達を出してやりたい』」
「『人をしこたま殴りたい』『拷問してみたい』『倫理ガン無視実験をいっぱいしたい』」
「『悪食を堪能したい』あとは…中には『演技の向上のために人が死ぬトコを目の前で見せて欲しい』とかな」
「とまぁ、このように。世の中はどうしても暗い欲望を叶えたい人間が山ほどおんのやな」
「やからボクが供給したるんや」
「ボクがやるんは『効率良く稼ぐ方法がたまたま建前上は悪とされてる事』ってだけや。」
「けど、なんでそんなビジネスが成立してまうんやろね?ちょこっと考えたらわかるやろ?」
- 502: 2017/03/22(水) 01:07:40.63 ID:0Cacxrpl0
- 「まっ、ちゅーてもや」
「『悪い事したらあかん』のは、個人の範囲だけで言えば、悪い事しとったら捕まったり復讐されたり良くない事がふりかかるからや」
「国家的な枠組みで言えば『国の運営に邪魔だから』」
「けどカミやんも知っての通り、やり過ぎないようにしてお金を上手く使ったら『悪い事しても逮捕も罰も無し』って出来るやん?」
「むしろ警察機構から『お願いいたします。この犯罪を見逃させてください。関わると大変だから』ってウチに依頼くるぐらいやし?」
「やり過ぎなければ。大体のヤツは自分の人生に関わらない大きな事件や事故なんて、『それって私に関係するかしら?』やろ?」
「その場限りの正義漢くんもな?ちょっと脅して自分に不利益が生じるってわかったらだーれも文句言わんくなるんや。知らんヤツが何人死のうと苦しもうとな」
「誰も文句言わへん、国の運営の邪魔にならへんのやったら、それはもう『悪い事』でもなくなるんちゃう?」
「やったら、むしろボクめっちゃ良いことしとるやん?だって皆の『本当はやりたい』事を叶えとったるんやから。」
(…詭弁だし一部は論理破綻してるな。面倒クセェし批判するつもりは俺にはないけど。)
(結局は俺も同じような考えだからこんな仕事してたんだし)
- 503: 2017/03/22(水) 01:08:44.18 ID:0Cacxrpl0
- 「つーわけで、や。むしろボクは"慈善事業"と自分の幸せになるための素敵なお仕事をしとるっちゅーわけやね」
「…随分ペラペラと長く喋ったな。」
「言ったやろ?楽しくなってきてん」
「そーかよ」
「カミやん」
「なんだよ」
「カミやんが今まさに喉から手が出るほど欲しがっとるもんをボクもっとるんやけど欲しい?」
タダでくれって言ったらくれるのか?何かは知らないが
- 504: 2017/03/22(水) 01:12:25.15 ID:PEI7BwUW0
- 「自由とかか?」
「いやいや。自由なんてのはいつだって自分の手元にあるやろ?したい事が可能か不可能かは別ってだけで」
「そんな抽象的なもんやなしに」
「…仕事仲間に入れてくれるってか?」
「ちゃうって。カミやんみたいなタイプは絶対組織で動くのに向いてへんし、ぶっちゃけ使えんから要らんわ」
「チッ。じゃあなんだよ。勿体ぶるなよ」
「勿体ぶるのは秘密を知っとる人間の特権やで?」
「鬱陶しい。まだるっこい。早く言ってくれ」
- 505: 2017/03/22(水) 01:14:22.46 ID:PEI7BwUW0
- 「あんな、」
「今から十年前。インデックスって名前のシスターちゃんがいたやろ?」
自分の体に一時停止がかかる。
「泣ける話やんな。まだ幼いあの子は惨い殺し方されよった。」
「オマケに傷心のカミやんは復讐のために殺し屋仲介業者になってまって、心も人生も歪んでもうた」
「…わざわざ説明してくれなくてもよく知ってるよ」
「ヒーローの気質だとか、『事件に関われば必ず救う特性』とか。全部失ってもうた」
「カミやんの友達も知り合いも何人も死んだやんな?」
「ふっきーとか。先生とか。レベル5の子もほとんど。…ああ当時の第1位とかは名前を売るため、仕事のためにってカミやんとこが殺したんやったっけか」
「ああ。だから、お前に言われなくてもよく知ってるよ」
- 506: 2017/03/22(水) 01:18:37.00 ID:PEI7BwUW0
- 「その全ての元凶を起こしたんって、誰なんやろね?」
「もし俺が知ってたらそいつはもうこの世にいねぇよ」
と、まで言って。
「…まさか、まさか、とは、思うけど」
青髪ピアスのニヤニヤ笑いが加速する。
「お前、インデックスを殺したヤツを知ってるのか?」
「うん。知っとるよ?」
あっさりと。
長年渇望した情報。
…いや、ガセか?
信じるべきか?
胡散臭い。
けれどコイツの目や口元は『自信あります』って主張したくて仕方ない感が溢れんばかりだ。
- 507: 2017/03/22(水) 01:19:57.91 ID:PEI7BwUW0
- 「なんなら証拠も見せたるけど?」
「…誰だ」
「えー?どうしよっかなー」
「誰なんだよ!!!!!!」
ガシャン!!と音を立てて、腕を引きちぎらんばかりの勢いであいつに迫る。
「ははっ、おーこわ。」
その飄々とした姿勢に怒りが、殺意が、ドロっとした感情が沸き上がる。
- 508: 2017/03/22(水) 01:20:48.46 ID:PEI7BwUW0
- 「言え!!!言わねぇと[ピーーー]ぞ!!!?」
「ははははっ?おもろいなー今のカミやんに何ができんの?」
「ちーーっとも怖ないよ?」
「うるせぇ!!!いいから言えよ!!」
「ボクや」
「…は?」
「え?聞こえへんかった?」
- 509: 2017/03/22(水) 01:21:23.49 ID:PEI7BwUW0
- 「言え!!!言わねぇと殺すぞ!!!?」
「ははははっ?おもろいなー今のカミやんに何ができんの?」
「ちーーっとも怖ないよ?」
「うるせぇ!!!いいから言えよ!!」
「ボクや」
「…は?」
「え?聞こえへんかった?」
- 510: 2017/03/22(水) 01:23:34.85 ID:PEI7BwUW0
- 「じゃあ、もういっぺん。ゆーっくり、大きな、声で、ハッキリと、言ったるな?」
青髪ピアスはわざとらしく深く息を吸い込んで。
「十年前。インデックスちゃんに、小型の、カプセル型爆弾を、呑ませて、爆殺したんは」
「このボク。通称"青髪ピアス"と呼ばれるボクでーす」
「………は?」
何故か、思考が停止する。
再び体に一時停止がかかる。
「やから、ボクやって。インデックスちゃんと…ああ、あと猫を殺したんはボクや」
「…マジで言ってんのか?」
「せやで?」
いや、口だけの確認だ。
なんとなく。コイツが目の前に現れた時から薄々察していた気がする。
- 511: 2017/03/22(水) 01:34:23.33 ID:PEI7BwUW0
- 「あー、カミやんって十年間ずーっとガセばっか掴まされて来たんやったっけ?」
「逆に凄いわ。感心するほど無能やわぁ。」
「そんだけ時間あってアレだけのコネがあったんにボクまで辿り着けんかったなんてな」
「安心しぃ。正真正銘。ボクが犯人や」
「…証拠は」
「せやなぁ…」
「…まずは…爆弾の部品は全部手作りやったから、誰がどこで買ったかもわからんかったやろ?」
「…」
「どうやって仕込んだか?事件当時の一週間前にボクとつっちーでカミやんちにお邪魔したやろ?」
「あん時にな、インデックスちゃんにこっそりカプセル型の爆弾入りカップケーキ渡したんや」
「2人へのサプライズのお祝いを用意しとるんや、カミやんには内緒やで隠しといてなって言ってな?一週間後に一人の時に食べてねって言うてな」
「律儀に守ってくれたんやねぇ。首尾良くやってくれたわ」
「で、ドーン。や」
- 512: 2017/03/22(水) 01:36:48.41 ID:PEI7BwUW0
- 「…なんでだ?」
「何がや?」
「なんで、殺した」
「インデックスとお前に繋がりなんてほとんどなかったじゃないか」
「なんでだ?」
「…」
予想に反して、あんなに饒舌だった青髪ピアスが初めて黙った。
いや理由がないって事はないだろう。
やっぱり言いにくい理由なのか?
そりゃそうか。
わざわざ十年も隠し続けたぐらいなんだから。
「…なあ」
「…」
- 513: 2017/03/22(水) 01:41:50.01 ID:PEI7BwUW0
- 「なあ。おいって。なんでだ?」
少しづつ感情のボルテージが上がっていくのを感じる。
「メリットなんてなかったはずだろ。」
「…仕事や。インデックスちゃん殺したら金くれるゆわれたからや」
「いーや、嘘だな。」
「当時そういう依頼があったかどうかはとっくの昔に虱潰しに探した」
「結果はゼロだった。どこにもそんな依頼はなかった」
「個人的恨みってのはなんとなくわかってた」
「…わからんでー?カミやん探すの下手くそやし騙されやすいからなぁ?気づかんかっただけちゃう?」
「何せほら、十年もかかっとる間抜けなんやし」
「だったらなんで今まで余裕綽々だったお前がここに来て動揺する?」
「…案外、何かのコンプレックスから殺したとかか?」
「…『雉子も泣かずば撃たれまい』って知っとるか?」
ガツン!!と音と衝撃が俺の左目を貫通していった。
「殴るのはあんま好きちゃうんやけど」
…けっこう適当に言ったんだけどな。意外と当たったみたいだ。
- 514: 2017/03/22(水) 01:43:53.13 ID:PEI7BwUW0
- 「…激昂すんのは図星の証拠だろ」
ガツン!!!もう1発くらう。
「カミやんは動物と一緒やね。口で言ってもわからへん。」
「『こういう事をしたら痛いことされる』って体に教えこまれんとわからへんのやろ?」
「そりゃ人間も動物だしな。そして俺は人間だからな」
「つーか、本当にコンプレックスからだったんだな。」
「でもお前がインデックスにコンプレックス感じるなんてなかったはずだ」
「ということは…アレか、インデックスじゃなくて俺にコンプレックスでも感じてたのか?」
「…」
「ああ…そうかそうか」
「お前、俺への嫌がらせとか、腹いせにインデックスを殺したんだな?」
「…」
「沈黙は肯定だ。そうだろ?」
- 515: 2017/03/22(水) 01:45:44.07 ID:PEI7BwUW0
-
なんでだろうな、挑発したところで悪いことにしかならないのにな。
反抗する術なんて持たないのに。
サローニャはもう居ない。助けは来ない。
むしろ、平身低頭で媚びへつらわなきゃいけないのに。いつ殺されてもおかしくないんだから。
死にたくないならプライド捨てて大人にならなきゃいけないのにな。
だんだん楽しくなってきやがった。
昔、まだ俺がヒーロー属性持ってた頃はこんな気持ちだった気がする。
- 516: 2017/03/22(水) 01:46:43.38 ID:PEI7BwUW0
- 「意外だな。俺に人から羨まれるところなんてあったか?」
「せいぜい可愛い女の子が周りにいたとか味方になってくれる知り合いが多かった、ぐらいだろ」
「へっ、まさかとは思うけど『ロリに囲まれとるカミやんが羨ましすぎて殺ったんや~』とか言わないよな?」
「ハァ…ほな、今度は手首から先を切り落としたろかな」
「なんだよ、図星さされて口で負けて悔しいから暴力に訴えるって?」
「つまり、お前は暗に俺に負けたって認めたわけだ。」
「こんなふうに万力台に固定されて指を切り落とされて、身動き出来ない俺に!」
「『ロリに囲まれとるカミやんムカつくからあいつの大事なもの奪ったろ』ってか?ロリコンもここまで拗らせると大変だなぁ!」
「…」
あ、やばい。有頂天になりすぎた。
- 517: 2017/03/22(水) 01:49:38.77 ID:PEI7BwUW0
-
「『ロリに』やないよ」
青髪ピアスは力なく笑って、
「『ロリにも』や。」
昔の…俺が知ってる友人青髪ピアスの顔になった。
教室でよく俺を遠くから見てた時の。
羨ましそうな、でもそれを見るのが楽しい、というような。
「ああ…あとな、」
けれどそれは一瞬で。
次の瞬間には凶々しい笑顔の仮面を再び自分に貼り付けていた。
「それに…そやね、」
万力台の振り下ろされきった包丁を下から上に戻して俺の手首の上にセットし直す。
…オイオイまさか、わかった!俺が悪かった!
挑発した上条さんが悪かったよ。だからやめてくれ割とマジで。
勘弁してくれ。
- 518: 2017/03/22(水) 01:52:11.54 ID:PEI7BwUW0
-
「自分と同じフィールドにおって、自分は死力を尽くした努力しても、成したかった事は出来んかったのに」
「隣でホイホイそれを簡単に叶えられてヘラヘラ楽しそうにされよったらめっちゃムカつくやろ?」
ズ、ダン!
「いぎっ、いぎゃぁああああああ!!!」
おおおお…!?
痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!
めちゃくちゃ痛ェ!!!
…はは、知らなかった。また大発見だな。
左手首を切られるとこんな声が自分から出るのか。
昔は右腕なら何回もはねられたり千切られたり消し飛ばされたりはしたが、その時にもこんな声はあげなかったのに。
『たぶん、元通りになる』ってわかってて自分の体がバラされるのと『たぶん、コレ一生壊れたこのまま』ってバラされていくのとは痛みの感じ方が違うんだろうか。
無論、学園都市は義手や再生医療、代替技術に長けてはいる。
けど、俺のオリジナルである左手はもう二度返ってこない。
…”冥土帰し”のじいちゃんが生きていればな。
- 519: 2017/03/22(水) 01:55:40.39 ID:PEI7BwUW0
-
「…まぁええよ。教えたるわ。コレ誰にも言ったことないんやけどな」
是非とも聞いてやりたい。
けどな、どうしてもこんな痛みに耐えながらの状態にされないと拝聴できないほどの秘密なのかよ?
「ボクなぁ、」
「カミやんが羨ましくて羨ましくて羨ましくて」
「羨ましくて羨ましくて羨ましくて、ホンマに羨ましくて仕方なかったんや」
…そんな素振り見せた事あったか?
教室でよく言ってた『カミやんばっかり!』とか、そういう冗談の事か?
おいおいおい…アレが冗談じゃなかったと?
「ある意味では、やね」
…マジかよ。
- 520: 2017/03/22(水) 01:57:23.13 ID:PEI7BwUW0
-
「ボクな、ほんまは正義の味方になりたかったんやで?」
とってもどっかで聞いたようなセリフだな。
なりゃいいじゃねぇか。好きにしろよ。
俺は一切関係ないし、今のお前は真逆の存在で『ザ☆悪の組織』のボスだけど。
「うん。で、ほんまに、本気でなろうとしたんよ」
「テレビアニメとかゲームとか。それらの中で主人公達がやってる事をまんまやったんや」
「困ってる人いたらその問題を解決して」
「悪いことしとるヤツは気絶させて風紀委員か警備員に引渡し」
「非道な実験しとる所は壊滅させたった」
「暗部組織なんて何個潰したかわからへん」
- 521: 2017/03/22(水) 02:00:30.75 ID:PEI7BwUW0
-
「…けどな?」
「どれだけ親切をしても、どれだけ非道な実験を潰しても、どれだけ暗部組織を潰してもな?」
「ボクが思い描く、なりたかった理想のヒーローにはなれんかった」
「感謝される事はそらあるよ?けどなぁ、愛も過ぎれば権利となるっちゅーかな、いつしか親切は当たり前になるし」
「窮地を救ってもボクを好きになってくれる女の子なんて1人もおらへんかったし」
「クラスメイトに尊敬されるとか、親や教師に褒められるとか、お金もらえるわけでもない。」
「時々救出失敗したりもするし、問題解決が難し過ぎることばかりで、100点満点なハッピーエンドは一回も見られへんかった」
「むしろ罵られる事のが多かった。『なんでもっと上手く助けられないんだ?』ってな」
- 522: 2017/03/22(水) 02:01:42.33 ID:PEI7BwUW0
- 「まあある意味当たり前やわ。仕事と同じや」
「『すみません。ちょっと事情があってできませんでした』なんて通用せぇへん」
「注文した商品の納期守れへんとか、アイデア出ませんとか、注文の数揃っとらんかったとか」
「アホかっちゅう話やわ。出来んのやったら当然感謝も金も貰えへんし、信用は消滅や」
「正義の味方が『ごっめーん☆頑張ったけど皆を助けられなかった☆悪役強くて負けちゃった☆』なんて笑えへんわ」
「さらには色んな奴に付け狙われて家に帰れへん。襲撃されるから毎日三時間も寝られへん」
「学校にパン屋で住み込みで働いてます言うて存在しないパン屋に襲撃させたところをひたすら狩る毎日」
「心休まるんは学校とクラスメイトとおる時だけやった」
- 523: 2017/03/22(水) 02:05:26.24 ID:PEI7BwUW0
- 「けどな?別にそれでも良かったんや。結局は趣味みたいなモンやったし、ええ事するのは気持ち良かったし」
「『正義の味方はこういうもんやろう』って思っとったしな」
「ーーーーーーーーーーーーーーーーやのに。」
ギロリ。
青髪ピアスの開ききった瞳孔と目が合う。
「なぁ、なぁーーーーーーーーんでやろな?」
「なぁんでカミやんはボクが必死でなりたかった『理想の正義の味方』になっとるんや?」
- 524: 2017/03/22(水) 02:07:40.52 ID:PEI7BwUW0
-
「家や寝込みを襲われへん、ちゃんと日常は守られとって」
「助けた相手から惚れられるとか、クラスでも人気者とか」
「ハッピーエンドをしっかり迎えて事件を終わらせられとるんや?」
「大きな事件を幾つも幾つも解決して、…暗部の連中ですら1目置いとった」
「なんでや?」
「なぁーんで、必死に自発的にやってきたボクよりカミやんばっかり評価されとるんや?」
- 525: 2017/03/22(水) 02:08:58.06 ID:PEI7BwUW0
-
「ズルイやないか」
「どいつもこいつも…『上条当麻』『上条当麻』『上条当麻』」
「アレイスター=クロウリーも魔神達も、ローラ=スチュアートも」
「超能力者達も、他の名だたる権力者、実力者達も」
「『大したヤツだ』『普通あんな事出来ない』『見ていて面白いのだけど』」
「『大事な友人だ』『私の唯一の理解者だ』『すごいよねー』『ヒーローだ』」
「みーーーんな、『上条当麻』しか目に入っとらん」
「…なぁ、ボクは?」
「なんでや?脇っちょで努力しとるボクにはなんでスポットライトが当たらへんのや?」
- 526: 2017/03/22(水) 02:09:47.09 ID:PEI7BwUW0
-
「ほんでな、ボクな、ある時に自問自答したんや」
「『ボクはほんまに『正義の味方』になりたかったんやろうか?』」
- 527: 2017/03/22(水) 02:13:27.16 ID:PEI7BwUW0
-
「『ちゃうんやないか?ボクがなりたかったのは、『正義の味方』に付随する名誉が欲しかっただけちゃうか?』」
「『というか…そもそも。』」
「『ボクは”正義の味方”になって、ボクを取り巻くこの世界からどうして欲しかった?』」
「…その答えは、随分と俗っぽかった。」
「けっこう、自分でも自分に失望するくらいに。」
「……答えはこうやった。」
- 528: 2017/03/22(水) 02:14:15.46 ID:PEI7BwUW0
-
「『ボクだってチヤホヤされたい!!!!』」
「『めちゃくちゃ褒められたい!!!凄い奴やって言われて!!特別扱いされたい!!!』」
「『ボクをみくびってる奴等にボクの才能を見せつけて黙らせてやりたい!!!』」
「『ボクの実力で途方も無い金を稼ぎたい!!!』」
「『圧倒的にモテたい!!!!!!』」
「『「お前にしかできない事だ」って頼られるオンリーワンになりたい!!!』」
「『誰かの人生を大きく変えるほどの影響力のある存在になりたい!!!』」
「『カミやんに、勝ちたい…!』」
- 529: 2017/03/22(水) 02:17:17.64 ID:PEI7BwUW0
-
「…ほんでな?カミやんも知っての通り、才能あれへんクセに高みを目指す奴に待っとるのは錆びた人生だけや」
「ボクな、ボクには、」
「ボクには、”正義の味方”の才能はあれへんかった」
「ほんならどうしよか。」
「そんでまぁ、思ったワケや」
「『それでも尚、その欲望を叶えられる手段はなんやろか。』」
「『そや、それなら今までと真逆になろう』」
「『別に”悪”になるワケやない。正義の反対は”別の正義”になるんやから』」
「『もしくは、”生存競争”に勝った奴”こそが正義なんやから』」
「妥協したんや。ボクは」
- 530: 2017/03/22(水) 02:21:01.26 ID:PEI7BwUW0
-
「そんでな、まず何からやろかなって思ったんや」
「そしたらな?ええところにカミやんとインデックスちゃんが来たんや」
「しかもな?これまた都合がええ事にな?カミやんがインデックスちゃんとエエ仲になったゆーやないか」
「いやもうな?インスピレーションがピーンと来たで?」
「もうな?神様か、あるいは”サードマン”が言うとるんやないかと思ったわ」
「『今が、その時』ってな」
「そしてボクは、その時から”正義の組織”、”令嬢”を立ち上げて社長になったんや」
- 531: 2017/03/22(水) 02:24:37.58 ID:PEI7BwUW0
-
最悪の悪党の誕生ってワケ、か。
感想?
『随分キチガイ染みたイカレポンチな考え方だな。』だな。
もっと他にも手段は山ほどあっただろ。きっと。
…なんてこった。インデックスは、とばっちりで死んだようなもんじゃないか。
- 532: 2017/03/22(水) 02:27:36.24 ID:PEI7BwUW0
-
「それから十年。今この瞬間。ボクはカミやんに勝った。完全に。圧倒的に!」
「…どや?ものっっっすごい、くだらん理由やろ?」
「ただの嫉妬や。ただの八つ当たりや。ただのロクでもないアホな理由や」
「他人からしたら『そんな事で?』な、本人しかわからへん理由や」
「たかがそんな事。たかがそんな事で、インデックスちゃんはボクに殺されたんやで?」
「そんで、たかがそんな事で、かつてのヒーローはスケールのちっさ~い小悪党になってまった。」
「そして今。こんな所で指と手首切られて。」
「部下は死んで」
「目の前の仇になーんもできず。」
「惨めに死んでくんや」
青髪ピアスの気持ち悪いニヤニヤ笑いが最高潮を迎えてやがる。
- 533: 2017/03/22(水) 02:29:21.91 ID:PEI7BwUW0
- 「ごめんなぁカミやん。創作の世界の中にしか勧善懲悪なんてないんやで?」
「自分の欲望に素直な奴しか世の中にはおらへん。」
「実は本当の悪党がちゃんと痛い目みたり罰せられる事のが珍しいんやで?」
「勧善懲悪に見える出来事だってな?」
「正義の味方(笑)が『こいつの欲望と自由と正義を止めたりました!これでボクらの利益が守られます!』って広報しとるだけにすぎんのやで?」
「ねぇどんな気持ち?ねぇ今どんな気持ち?」
「…」
- 534: 2017/03/22(水) 02:32:48.20 ID:PEI7BwUW0
-
「『つまんねぇ奴だな。お前も』」
「…ああ?」
「お前のしょーもねぇ善悪理論は聞き飽きたって言ってるんだよ」
「お前、ようはイジケてるってだけじゃねぇか」
「…なんやて?」
「『挫折するのは普通の事、自分だけじゃない』」
「『ボクは悪くない』」
「『くだらん理由やろ?』…本当にくだらねぇよ」
「お前、自分の失敗と挫折を俺のせいにして逃げただけじゃねぇか」
「それともそうやって煽って、俺の取り乱す様が見たかったか?」
「残念だな。悪いけど俺もそこまでガキじゃない」
「…!…!!」
おーおー、口元がヒクついてるヒクついてる。
- 535: 2017/03/22(水) 02:35:03.65 ID:PEI7BwUW0
-
「あまりにもお前がカワイソーで、くだらなすぎて、復讐する気も失せたよ。」
「ある意味お前スゲーよ。十年間ずっと殺意抱いてた人間に幻滅されて復讐する気すらなくされるなんてな」
「お前、ホント大した事ない人間だよ。」
「いい年こいて、精神は幼稚なクソガキのままだ」
「はぁ?復讐する気すらなくされる?今の自分を鏡で見て言いや!?」
「だとしても、だよ。」
「もし仮に俺とお前の立場が逆だったとしても俺はお前を見逃してやっただろうって事だ」
「まだ己の立場わかっとらんらしいな!!?」
三度め。包丁が下から上にまた上がる。
ヤケクソ気味なんだろうか。俺は。
バカだな。
黙っておけば痛い思いなんてしないのに。
だけど俺は、とにかく一つでも言い返して、やり込めてやりたかった。
- 536: 2017/03/22(水) 02:37:04.63 ID:PEI7BwUW0
- 「カミやんがそんなに切り刻まれたいドMやったとは知らんかったわ!挑発すんのは構って欲しいからやろ?!」
「お望み通りや!!ほらほらほらホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラァァぁあああ!!!!!」
ズダン!!!ズダンズダンズダンズダンズダンズダンズダンズダンズダンズダンズダン!!!!!
いだい!!!いだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだだだ!!!!
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!
- 537: 2017/03/22(水) 02:38:00.79 ID:PEI7BwUW0
- 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛、
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
- 538: 2017/03/22(水) 02:39:13.71 ID:PEI7BwUW0
-
- 539: 2017/03/22(水) 02:41:36.63 ID:PEI7BwUW0
-
…あれ?痛みが少し収まった?
『とうま。』
…よう。なんか久しぶりな気がするよ。
『もう少しの辛抱だよ』
何が?
この痛みが終わるって?それか死ぬまでもう少しだってか?
『ううん。そうじゃないけど。』
えっ、痛み終わらないの?
…まぁいいや。じゃあなんの事だよ。
『それは後でのお楽しみなんだよ』
そうかよ。
- 540: 2017/03/22(水) 02:42:39.18 ID:PEI7BwUW0
-
…ごめんな。インデックス。
『え?何が?』
俺、仇をとってやれなかった。
『仇をとってってお願いした事はないかも』
そうだったな。
俺が勝手にやってたんだった。
『とうま。』
ん?
『お疲れ様。』
おう。
- 541: 2017/03/22(水) 02:43:54.13 ID:PEI7BwUW0
-
コレで死ぬのか。俺は。
死にたくねぇなぁ…
もうこれで、復讐も、笑うことも哀しむ事も怒ることも楽しい事も、
…感動することも、もう無いんだな。
もし、これで奇跡的に助けが来たとしたら、その時はもう一度感動できるんだろうけど。
「…もし、今から俺をとてつもなく感動させる奴がいたら、俺はそいつと結婚したいぐらいだな」
呟いてみる。
- 542: 2017/03/22(水) 02:45:13.65 ID:PEI7BwUW0
-
「えっホント?」
…ああ?
随分聞き慣れた高い声で、ここには居ないハズの声。
ひゃあ!と歓喜が頭の上から聞こえる。
「やったー!」
「…ああ?」
重い瞼をなんとかこじ開ける。
- 543: 2017/03/22(水) 02:47:00.78 ID:PEI7BwUW0
-
「おはよっ!上条ちゃんっ!」
満面の笑顔で覗き込んでるのは、サローニャだった。
俺はもう万力台に固定されていなかった。
部屋は変わってない。
「…死んだんじゃ、なかったのかよ」
「上条ちゃんと結婚するまでサローニャちゃんは死なないもんっ!」
更ににっこり笑って。
「そんな事よりさ!」
何かへの期待をたくさん詰め込んだ声色で。
- 544: 2017/03/22(水) 02:48:24.85 ID:PEI7BwUW0
-
「助けに来たぜ」
「感動した?」
…ああ、腕があれば抱きしめてキスしてたな。
結婚はしないけど。
- 547: 2017/03/29(水) 00:40:26.88 ID:igyVS6rEO
-
「とりあえずここから出よっか」
「ああ。そうだな」
そうとも。一刻も早く。
出来ればもう2度とこの部屋に入るのはごめんだ。
よいしょ、と。つい、いつものように体を動かそうとして、ゴタンッと倒れて気づいた。
「…悪い。起こしてくれるか?さすがの上条さんも両腕ない状態ってのは初めてなんだよ」
「うん。わかった」
うんしょうんしょ!と可愛らしい掛け声でサローニャが俺の体を動かしてくれる。
…つーか、また止血されてるな。雑だけど。
優しいのか冷酷なのかどっちなんだ俺の旧友は。
- 548: 2017/03/29(水) 00:42:11.61 ID:igyVS6rEO
- 「あっよーいっしょーっとぉー!!」
あがッッッッッ?!
イでててテテ!!サローニャてめぇ傷口には触んなよな!
「おわぁっ!?ごめんごめん!」
えっちらおっちらと部屋を出る。
…廊下、誰も居ないな。
「…つーか、お前、俺の両腕が無いことに何か思うところは無いのかよ」
普通は最初につっこむとか心配とかするよな?
「別に?腕が無くても足がもげても、上条ちゃんは上条ちゃんだし」
そーですか。
「”令嬢”の拷問用ビルに連れ込まれて五体満足無事で居られるとも思えませんでしたし?」
それもそうだな。
- 549: 2017/03/29(水) 00:42:49.44 ID:igyVS6rEO
- 「こんなお仕事ちゃんしてるからね。生憎サローニャちゃんはそーゆーのは麻痺しちゃってんの。」
「命があっただけマシマシちゃんさ」
「私ね、上条ちゃんが生きててくれればそれでいいよ。」
- 550: 2017/03/29(水) 00:45:34.11 ID:igyVS6rEO
- 「腕が無けりゃお前を撫でる事も仕事も出来ないのにか?」
「して欲しい事をしてくれない、最低限の仕事が出来ない無能に側ににいる資格なんてねぇだろ」
「して欲しいことをしてくれない、出来ないヤツは、邪魔になるだけだろ。」
「仕事だけの関係の人ならね。」
「けどさ、」
「自分にとって好意的に思える人なら。無能でも生きててもいい権利ぐらいはあるでしょ?」
「それに私が上条ちゃんを慕うのは『撫でてくれるから』とか『仕事できるから』とか』
「そーゆー直接的な理由じゃーござーやせんのでね。」
「上条ちゃんだから、上条ちゃんがしてくれるからその行為に価値が出るんでしょー」
「上条ちゃんだってさ、もしインデックスちゃんが生きてて、腕が取れちゃったとしても見捨てないでしょ?」
「…大丈夫だよ。心配しないで。」
「上条ちゃんがおじいちゃんになっても。これからずっと腕が取れちゃった上条ちゃんはサローニャちゃんが介護してあげるから」
「…それされるぐらいなら義手でもなんでも着けるっての」
- 551: 2017/03/29(水) 00:46:37.46 ID:igyVS6rEO
- ああ、そう言えば。
「ところで、青髪ピアスのヤツはどうした?」
「青髪ピアス?」
「…”令嬢”の社長の事だよ。青髪でピアスしてるヤツ。」
「あーあの人が?あの人なら部屋出てくとこは見たよ」
「なんかね、『かー…なんやねんアイツ…ほんまつっかえへんなーボクの仕事増やすなや』って言ってたから会社ちゃんに戻ったんじゃにゃい?」
ザマァ。どうぞそのまま苦しんでくれ。出来れば荒事に巻き込まれて両腕取れちゃってくれ。
「そういえばお前…どうやってここまで来たんだ?」
「見張りとか居なかったのかよ」
「蹴り倒した。」
「…強いな、お前。」
「これでも殺し屋ちゃんですから」
前から思ってたけど…そのドヤァ顔、クセなのか?
- 552: 2017/03/29(水) 00:49:29.08 ID:igyVS6rEO
- 「あとさ、電話口で聞いただけだけどお前”スズメバチ”にやられたんじゃなかったのか?」
「あーアレ?」
「確かに襲われたけど、速攻で蹴り倒した」
「…強いな、お前」
「んでね、”スズメバチ”蹴り倒した後にね?雇い主とか関係とか計画とか吐かせてね、電話させて演技するように脅したの」
「そしたら敵側を油断させられるし、上条ちゃん捕まってるの知ってたから助けにいくチャンスも生まれるかなって」
「…有能だな。お前。」
「期待以上の仕事をしてくれる部下を持って幸せだよ上条さんは。」
- 553: 2017/03/29(水) 00:50:17.12 ID:igyVS6rEO
- 「やーん。嬉しいからもっと誉めてー」
腕があったら撫でてやったんだけどな。
「唇は無事でしょ?ちゅーしてくれてもいーんだぜ?」
面倒くさいので遮るように話を変える。
「それにしても”スズメバチ”に狙われてよく無事だったな」
「確か毒で殺すヤツだろ、確か」
「うん。けっこー死ぬかと思った」
「しかもね、スズメバチの他にもう1人殺し屋が隠れて居てさ」
「マジかよ。誰だ?呼び名は?」
「”自殺屋”。コードネームは”鯨”。」
「クジラ?そいつも億クラスのヤツじゃねーか」
「むふー!すごいでしょ?すごいでしょ?褒めて褒めて?」
「”自殺屋”に直接戦闘力はなかったんじゃないのか?」
「精神系能力者で、能力使ってお偉いさんの政治を邪魔する記者とか秘書とか警察とかライバルの子供を自殺させるって奴だろ」
「そうそ。なんかね、戦闘前にその能力使われて。んでね、間一髪で情報屋ちゃんからの電話で正気に戻れて」
「そしたらスズメバチに襲われる寸前でさ、蹴り倒した」
「隠れてた”鯨”も蹴り倒した。」
「お前ホント強いな」
「ホント危なかったよ」
- 554: 2017/03/29(水) 00:51:08.37 ID:igyVS6rEO
-
少し笑って、視界がグラついた。
…なんだ?
徐々に、徐々にではあるけど
どんどん体から力が抜けてってるのはなんでだ?
おかしいな、止血だって、してあ…
……ああ、そうか。
- 555: 2017/03/29(水) 00:52:30.75 ID:igyVS6rEO
- 「そういや、お前怒ってたんじゃなかったのか?」
「別に。怒ってたんじゃなくて拗ねてただけだし」
「そりゃ良かった。お姫様の機嫌は治ったのか」
「そーゆー言い方はやめて。」
「本気で居なくなってやろうかなって思ったけど、上条ちゃん居なくなっちゃったら私生きていけないって気づいただけ」
「そうかよ」
…けど悪いな。
俺、たぶんもうすぐ死ぬんだよ。
どうする?俺本気で居なくなっちゃうらしいぜ。
- 556: 2017/03/29(水) 00:54:10.56 ID:igyVS6rEO
-
人間の失血による致死量ってのは…確か2分の1で、3分の1で自力で立てなくなる危険域量だ。
それで、俺は今両腕とも無くなってる。
おまけに血が徐々に、徐々に滲みでてる。
サローニャは元々治癒術式を使えないし、この近くに病院は無いし、今すぐ延命措置できるとも思えん。
…ビルに戻ったら医療器具ぐらいあるか?
頭が、少しづつ動かなくなってきてる。
マズイ。いつ意識が消えるかもわからない。
ああ、俺、死ぬのか。
今まで散々、何度も何度もそんな思いしてきてなんとか生き延びてきたけど、たぶんもうこればっかりは。
- 557: 2017/03/29(水) 00:55:29.90 ID:igyVS6rEO
- 死ぬな。ああ。
それくらいのことは分かる。
今までの本気で死ぬと思ってきたのは死ぬ死ぬ詐欺みたいなモンだったな。
ついに俺の番が来たってわけか。
でも、怖ぇな。今度、寝たら起きねぇんだぜ。
寝たらおしまいだ。
あれだよ、俺はもう『ああ、眠いな。二度寝したいな』なんて気持ちは味わえねぇんだぜ。切なくねぇか。
なのにな、なんでだろうな?
いざさぁ死ぬぜってなると不思議と悪い気はしない。
全てが透明な世界にいるような気分だ。
- 558: 2017/03/29(水) 00:56:14.43 ID:igyVS6rEO
- 現実を見れば酷いモンなのにな。
十年越しにようやく仇がわかったってのにそいつは旧友で。
その旧友は俺の両腕を輪切りにしやがった。
そのせいで俺は死ぬ。
信頼してた仕事仲間には嵌められて。
仇のアイツはこれからものうのうと生き続けて。
たぶん仕事終わりには酒と女で自分を癒すんだろう。
いや、案外もう仕事ほっぽらかして女とベッドでテレビでも見てんのかも。
俺はこのまま死ぬってのにな。ちくしょう。
- 559: 2017/03/29(水) 00:57:17.51 ID:igyVS6rEO
-
現実なんてこんなもんだ。
仇を殺せもせず、何一つ上手くはいかず。
もしここ数日の出来事をSSにしたっていつも以上にクソつまんねーモンしか出来ないんだろう。
カタルシスもなく、全体的に中途半端で、モヤモヤした物語。
しかも最後は死ネタかよ。
ああでも。かろうじて救いがあるとするなら…
最後に長年探し続けた犯人がわかって、そいつの、旧友の本心を聞けたのは良かったかもしれない。
少しスッキリした。
ああ、あともう一つ。
「上条ちゃん大丈夫?今すぐなるべく近い闇医師ちゃんとこに連れてってあげるからね?もうちょっと辛抱してね」
今際の際に、気の置けない信頼できる人間が隣に居てくれる事か。
- 560: 2017/03/29(水) 00:59:26.54 ID:igyVS6rEO
- 「それで、これからどうする?」
これから?
「ほら、まずはお医者ちゃんだけど」
「犯人。わかったんでしょ。」
ああ。
「積年の恨みってヤツ。晴らしにいかないの?」
「あっ、でもその腕じゃ厳しいよね。サローニャちゃんが殺ってあげよっか?」
いいよ、もう。
なんか…どうでも良くなった。
あんな奴のために貴重な人生の残り時間を消費させるのもバカらしい。
サローニャに『俺が死んだ後は何があってもあいつをボコッて殺してくれ。復讐してくれ』なんて頼む気もしない。
将来有望な奴の時間が勿体無いわ。
- 561: 2017/03/29(水) 01:03:44.52 ID:igyVS6rEO
-
「復讐してあげよっか?」
「要らねぇよ。インデックス殺しの復讐は、俺の人生の持ち物であって、お前のモンじゃねぇし」
「お前、俺がこのまま死んだ後に復讐なんてするなよ。しなくていいとかじゃねぇぞ。『するな』だ。」
「ええー…ホントにいいの?」
「インデックス曰く、『懺悔したら主は赦してくれるんだよ』だ」
「俺は神様じゃないから赦さないし憎むけどな」
「ぷっ。なにそれ」
「とにかく、復讐はしないってことだ」
- 562: 2017/03/29(水) 01:04:34.51 ID:igyVS6rEO
-
コイツには俺みたいにならないで欲しい。
…これは何情なんだろうな。
25年生きてきても知らなかった感情だ。
ふと、思う。
俺とサローニャは親子でも義兄弟でも恋人でも、友人でもない。
俺達の関係を示す言葉は同僚、相棒、上司と部下だ。
最初出会った時だって、何をしたらいいかわからないアイツに生き方を提案して、産まれたばかりの雛鳥のような感情を利用しただけ。
4年と半年を一緒に居たと言っても、長い人生から見れば酷く刹那的なモノだ。
- 563: 2017/03/29(水) 01:05:14.06 ID:igyVS6rEO
- けれど。
それでも、曲がりなりにも共に4年と半年を共にいた。
共に生きて、共に仕事をし、共に寝た。
サローニャは俺によく尽くしてくれた。
よく、愛してくれた。
見て見ぬふりを貫いてきたけれど。
…けど、俺はサローニャに何かしてやれただろうか?
せいぜい生きる目的と仕事を斡旋してやったくらいだ。
復讐のために利用してきただけだ。
…こんなサイテーな俺でも、最後くらい、彼女に何かしてやれる事はないだろうか。
- 564: 2017/03/29(水) 01:05:58.92 ID:igyVS6rEO
- サローニャ・A・イリヴィカという少女と4年半関わり、愛情を寄せられた大人として、
最後くらい、恥ずかしくないことを、して、やりたい。
俺にとっては足掻いてみたものの何も変えられなかった4年半だけど、
サローニャにとっては、『これから人生を始めるための4年半』だった。
未来、そう思ってもらえるような。
…最後ぐらい、格好つけなきゃな。
大人が格好良かったらな、子供はグレねぇんだ。
そうだろ?
- 565: 2017/03/29(水) 01:06:27.10 ID:igyVS6rEO
-
何がいいだろうか。コイツの好みってわかんねぇんだよな。
生憎何かあげられる物もないし。
じゃあ…物品じゃなくて、せめて心に残るような、贈り物のようなものをーーーーーーーー
- 566: 2017/03/29(水) 01:07:28.96 ID:igyVS6rEO
- 「…なぁ…」
「なぁに?」
「お前さ…何かやりたい事あるか」
「へ?」
「近い将来でも、遠い将来、どっちでもいい。」
「お前のやりたい事って…なんだ?」
「急にどうしたの?」
「何か変だよ。それよりもまずは治療!それからおうち!あとはお仕事の完遂!でしょ?」
「いいから。妄想の域の話でも構わないから」
「えー…?うーん…」
サローニャが唇に人差し指を添えて考えだす。
「そりゃあ、やっぱり上条ちゃんと結婚したい。いっぱいちゅーしたい」
うん、これしかないよねと断言するように頷く。
- 567: 2017/03/29(水) 01:07:55.27 ID:igyVS6rEO
- 「んでね、学校とかも行ってみたいかな。友達作るの」
「今回の件でね、私もお友達ちゃん欲しいなーって思ってさ」
「そうか…」
「あとね、あとね…」
思わず笑みが零れる。
なんだ、お前意外とけっこうあるんだな。やってみたい事。
ーーーーーーーーーーーーーーーーよし。贈り物が決まった。
- 568: 2017/03/29(水) 01:08:23.39 ID:igyVS6rEO
-
悪いな。インデックス。
俺、お前との婚約、破棄するよ。
けど、『誰かの幸せのため』だったら、許してくれるよな?
きっと、『とうまはやっぱりとうまなんだね』ってため息ついてさ。
「わかった。」
「え?」
「結婚。しよう。サローニャ。こんな俺で良かったら結婚してくれよ」
- 569: 2017/03/29(水) 01:08:54.77 ID:igyVS6rEO
- 「ホント!?」
「ああ」
「うわーぁあい!!やったー!!!」
ああ、バカおまっ耳元で叫ぶな叫ぶな。
ただでさえ満身創痍なんだ、余計に鼓膜までケガしたくねぇよ。
「あ、でもでもサローニャちゃんはまだ15才ちゃんなんで…」
「ああ。だからな、」
「1年後。お前が結婚出来るようになるまで俺の死を隠せ」
「死、ーーーーーーーーえ?」
- 570: 2017/03/29(水) 01:09:56.16 ID:igyVS6rEO
- 「”劇団”。知ってるだろ?」
「大金積んで頼めばどんなイリーガルな事でも秘密は守るし、どんな人間でもどんな役でも演じてくれるグループ業者だ」
「俺の貯金を全部くれてやるから、お前さ、その金でそいつらに依頼しろよ。」
「『1年間、上条当麻が生存しているように見せかけてくれ』ってな」
「それで…1年後に、俺の書く所も偽造して婚姻届出してこい。」
「何、言ってるの?上条ちゃん」
「そうすりゃ、外国国籍のお前も日本国籍を取得出来る」
「そしたら、身分が証明できるから健康保険も加入できる。お前の印鑑が持てる。学校にも通える。」
「この街を出て、過去を隠せば真っ当に生きていける。」
「このドブ沼みたいな俺の人生から抜け出して、お前の人生を生きられる。」
「な、にを?」
「良かったじゃねぇか。やりたい事全部できるぞ。殺し屋辞めて友達いっぱい作れよ。」
「何言ってんの?イヤだよ。そこに上条ちゃんが居なかったら、ーーーーーーーーーーーーーーーー」
「ーーーーーーーーーーーーーーーーー、ーーーーーーーー。ーーーーーーーーー」
ああ…ヤバイ。もうサローニャの声すらまともに聞こえなくなってきた。
- 571: 2017/03/29(水) 01:10:26.98 ID:igyVS6rEO
-
振り絞れ。
上条当麻の最後の言葉を。
- 572: 2017/03/29(水) 01:11:42.17 ID:igyVS6rEO
- 「サローニャ」
『ーーーー』
「お前、生きろよ。」
『ーーーーーー!ーーーーーーーー!!』
「誰かに、殺されるな。自分から、死のうとはするな。もう、殺すな。」
『ーーーーーーーー!!』
「インデックスよりも、お前を愛している。」
『 』
「だから、生きろよお前。生きてるみたいに、生きろ。」
「これから先、めちゃくちゃ辛い事多いけど」
「前へ進め。何があっても、負けずに、」
「ーーーーーーーーーーーーーーーー生き残れ。」
『ーーーーーーーーーーーーーーーー!』
- 573: 2017/03/29(水) 01:12:09.39 ID:igyVS6rEO
-
…だから、もう、何言ってるかわかんねぇんだって。
- 574: 2017/03/29(水) 01:13:14.35 ID:igyVS6rEO
-
視界が回転する。
俺は倒れたらしい。
一瞬、最後に透明感のある空が見えた。
- 575: 2017/03/29(水) 01:13:57.25 ID:igyVS6rEO
-
だめでせう
とまりませんな
がぶがぶ湧いてゐるですからな
ゆふべからねむらず
血も出つづけなもんですから
血がでてゐるにかゝはらず
こんなにのんきで
苦しくないのは
魂魄なかばからだを
はなれたのですかな
たゞどうも血のために
それを云へないがひどいです
あなたの方からみたら
ずゐぶんさんたんたるけしきでせうが
わたくしから見えるのは
やっぱりきれいな青ぞらと
すきとほった風ばかりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー宮沢賢治:詩『眼にて云ふ』
- 582: 2017/04/08(土) 05:56:19.07 ID:LtT3AdS5O
-
蜜
蟻
- 583: 2017/04/08(土) 05:57:02.81 ID:LtT3AdS5O
-
ーーーーーーーー上条当麻の死から2年後。
- 584: 2017/04/08(土) 05:58:42.79 ID:LtT3AdS5O
-
ビル地下のアダルトショップの奥の部屋。
そう聞くと何かいやらしいエッチなモノがそこにあるのではと想像をする人は多いのだけど
「どうぞ。」
残念ながらそこにあるのは事務室兼応接室なのよねえ。
「ありがとさん」
「ごめんなさいね。あまり良いコーヒーじゃないのだけれど」
「ええてええて。ボク、コーヒーは飲めればなんでもええ派やから」
目の前にいるのは”令嬢”の社長。
今や学園都市統括理事会のメンバーの一人。
もっとも、統括理事長も彼の息がかかった人間にすげ替えられたのだから実質彼こそがこの街の支配者だ。
学園都市裏の王。
- 585: 2017/04/08(土) 06:00:02.17 ID:LtT3AdS5O
-
この街で彼に逆らえる人間は、彼が『どういう立場の人間か』というのを知らない人間だけでしょうね。
そして、彼に逆らった人間がどうなるかを知らない人間。
「お金はええねぇ。世の中の大半はコイツで買える。」
「”清き一票”も、宣伝する権利も、自分に都合がええルールを作る事も」
「気に入らんヤツはリアル、ネット問わずに排除できるしなんでも好きな事を好きなだけできる」
「今までボクはルールを作る人に依怙贔屓してもらう人間やったけど」
「今のボクにその必要はもうあらへん」
「藤原道長はきっとこういう気持ちやったんやねぇ?」
…世の中は全て”ルール”で動いている。
そのルールを作るのは偉い人で、
彼はそのルールを作る偉い人になった。
- 586: 2017/04/08(土) 06:01:12.98 ID:LtT3AdS5O
-
トゥルル。トゥルル。
「あ、ゴメンな?ちょっと出させて。…ハイハイどしたー?」
「…」
「はぁ?今日休む?理由は?…風邪?…ハイハイわかったわかった。よーあったくして寝とくんやでー」
「ほなね」
「…部下の方?」
「せやで。今年の新卒や」
普通、新卒が社長にかけるかしら?
- 587: 2017/04/08(土) 06:02:45.19 ID:LtT3AdS5O
- 「そいつな、ちょっと便利な能力持ちやからボクがそいつの直属の上司になっとるんよ」
「けど今の奴、別に鼻声やなかったし声質も辛そうやなかった」
「アレやね。社会人一年目とかでよくある『あ~寝坊した~遅刻してもうた~もう今から行ってもアレやし今日休んだろ!』パターンやと思うわ」
「よく御存知ね」
「そらぁ何度も何度も経験しとったらね。つーかね、そういう事しよる奴に言ったりたいけど」
「『どんだけ遅れても構わんから絶対ちゃんと会社来い』やわ」
…始まった。この手の会話の始まりはほぼ必ず愚痴になる。
「そいつが来ぉへん場合、そいつがやるはずやった仕事は誰かが代わりにやらなあかんくなるのは当然やし」
「繰り返せば社内でのお前自身の評価もガンガンに下がって将来出世にも響くし、その休みのために有給使うんやったら後で困るんはお前やぞ?って話やわ」
「…具体的にどう困るかは身をもって体験したらええと思うけどな」
「けど推測くらいはできるはずやろうに…わからへんのやろなぁ。今の子が考えるのは”今の自分”のことばっかや」
「未来の自分や会社そのもの、上司や同僚の事考えるとか…会社に属することの意味とか何一つわかっとらへん。」
「社会人になったっちゅーその実感がまだないんやろうからしゃーないんやろうけど」
「大変ね」
「大変やで?」
ぷひーとため息をついて彼は話を続ける。
- 588: 2017/04/08(土) 06:04:43.99 ID:LtT3AdS5O
-
「あとはコレも最近多いんやけど、『私、辞めます』って時な?若い子って変に法知識ばっか知っとるから権利ばっか主張してくるんや」
「『あんな?お前のその主張するちょっとした権利を守ったるために色んな奴が犠牲になっとるんやからな?その犠牲の上で作られとる事忘れんなや?』やわ」
「ええよ?そら認められとる、守らなあかん権利やもん。使えばええよ?」
「ただ、いずれ残る方の立場になればわかるで?」
「いやね?そらぁまぁもちろん『どう考えても理に叶わない頭がおかしい内部運用するバカ上司』とか、過酷過ぎる労働環境とか、『法律ガン無視社内規則』とか非合理的なイカレたアホ慣習やっとる会社は多いで?」
非合法会社の長が何か言ってるわあ。
「ほんまにそんな会社やったらささっと逃げなあかんよ?最悪失業手当出んくってもな」
「けどウチは義務内容は違法でガチ犯罪でギンギンのブラックでも社員に対しては超ホワイトやで?全部守っとるもん」
- 589: 2017/04/08(土) 06:06:45.42 ID:LtT3AdS5O
-
「まあ、一個しかない体や心を壊したらもうアカンのやからそうなる前に手を打って大事にするんは当たり前やけど」
「当たり前やけども、や。」
「単に『どんなにつまらなくてもその仕事をやり続ける』忍耐力がないだけとか、ガチで協調性ないだけとか、求められてる仕事をキッチリやらんくせに権利ばっか主張すんのは違うからな?」
「こっちは金払っとるんやで?最悪もらう金の分くらいの利益産む働きをしてから言ってくれや」
「もらえる金が少ない?『君がこの会社選んだんやで?』『そういう所にしかいけへん程度の人間が君なんやで?』『嫌なら君にもっと金払ってくれるとこに行けば?君の自由やで?』やわ」
「ついでに、『君らの親はそういう色んな耐え難い事を君らのために耐え抜いて、その金で君を育てたんやで?』とも言ったりたいわぁ」
「これは持論やけど、『どんな仕事でも”最初の一年間”は絶対めちゃくちゃ辛い』。」
「仕事をまだ覚えてへんし、やり始めたばっかの奴が世の中から求められとるハイクオリティな仕事を出来るわけあれへんし、怒られ続けて理不尽な事に塗れながら慣れてへん事を強いられ続けるんやから」
「それでも逃げたらあかんのよ。一度入ったんならな」
- 590: 2017/04/08(土) 06:08:31.79 ID:LtT3AdS5O
-
「2~3年以内ですぐ辞める奴に次の会社なんてあらへん。」
「あ、『まともで好条件の会社』な?労働条件クソなトコやちょっとキツイとこやまぁまぁ普通の会社とか変なトコやったらいっぱいあるから」
「ハロワのヤツでもネットの奴も『他の会社どんなんあるんかな』って色々見た事あるけど、条件とかよーく見ると『嘘じゃないけどほとんどウソ』みたいなのとか平気であるから」
「だから『仮に辞めるとしても次に活かすためにこの会社で身につけられるスキルを得るために3年は働かなあかん』って皆歯をくいしばるんやで?」
「けど、そーゆーんがわからへんのやろなぁ。ワガママと甘い考えと文句ばっかりや」
「こっちはお前が辞めた後の穴をなるべく周りに軋轢産まんように必死に埋めなあかんくなるのにな」
「こっちの事も考えてくれや」
まだ終わらないのかしら?
- 591: 2017/04/08(土) 06:09:39.27 ID:LtT3AdS5O
-
「蜜蟻さんはええなぁ。自営業やし精神系能力もあるからなんとでもできるし、部下の責任もとらんでええし、人心掌握のための付き合いとかいらへんやろ?」
「ええまぁ」
自営業は自営業で色々あるのだけどね。
主に『全てに於いて自己責任』という面で。
あらゆる面での会社が保証、負担、肩代わりしてくれるもの全部自分でやるんだもの。
「ボクなんてどんなに普通以上に尽くして許して、奢って優しくしてワガママ聞いたって気にかけたっても部下からは『そんなの当たり前』やし」
「挙げ句の果てには大体恩を仇で返しよるから部下ってキライやわ」
(それって単にあなたが付き合い方が下手くそなんじゃなくて?)
「あ、ちなみに仇で返されるってアレな?ボクにとって代わろうとするんよ。優秀な奴ほど比例してな」
「あとは…フランチャイズタイプでの独立とかな。なんであいつらはアホのくせにボクのケツの下で一生這いつくばってるぐらいの事ができへんのやろな?」
まず間違いなくあなたのそういうところが大きな要因だと思うけど
「いや別にボクに問題あるわけやないと思うで?」
(読まれた)
「恩は仇で返されるけど、辞めてく人間はほとんどおれへんからな」
「へぇ?それはすごいわね」
- 592: 2017/04/08(土) 06:11:11.56 ID:LtT3AdS5O
- それだけは素直にそう思う。
今はどこも採用難だし、せっかく入社しても長く続かない人も多いもの。
『辞めていく人間が少ない』ってことは、
上司の人格に問題はあっても会社運営とか人心掌握、部下の労働環境を良好に保つ腕はいいって事だもの。
「まぁ、『勤めて数年で死ぬ奴も多いから”辞めて消えていける人間”が少ない』ってのもあるんやけどね」
「あと『このヤバイ会社から身を守って学園都市で生きていく一番の方法は社員で居続ける事と気づかせる』とかな」
でろっと舌を出してケタケタ笑う。
彼のこの笑い方は見てて気持ちのいいものではないわねえ。
キモい。キモすぎるわあ。トカゲとか、爬虫類を連想するもの。
「やから社員には困っとらん。」
「すごいわね」
「勝手に来るヤツも多いけど、スカウトで入る奴もおるしな」
ハイハイ。別に聞いてないわあ?
- 593: 2017/04/08(土) 06:12:44.60 ID:LtT3AdS5O
-
「どこの国でもどこの社会でもそうやけど」
「”落ちこぼれ”とかな、”はみ出し者”とか、”社会不適合者”」
「…って、『思いこんどる奴』はどこでもいっぱいおるんや」
「心が弱っとるとなぁ?だんだん自分の悪いとこや不安な未来とか、行動しない為の理由とか、”自分が持っとらん何か”をばっか見るようになるんや」
「アホやろー?『別に世の中”お前程度の人間”ばっかやって。お前は劣等感持ってええほどダメ人間ちゃうからな?悪いけどお前全然普通やから!寧ろいい方だから!』」
「とか思うわ。けど、そういうのは言ってくれる大人やそういうレベルの友達おらんと気づけんくなる」
「そこをな?ちょーっとつけこむんや。『大丈夫やで?君みたいな子がいっぱいおるとこ連れてったるな?』って言ってな?」
「『お前はダメなヤツや。でも、そういう奴でも生きなあかん。』」
「『で、キミみたいにな、生きたいのに生きられへん”生きたがり”はおっても”死にたがり”はあんまおらへんのや』」
「『ボクな?そういう可哀想な奴を拾って、生きていける場所を提供しとったるんや。どや?ボク、めっちゃええ奴やろ?ボクんとここーへん?』ってな?」
「非常に都合がええ事にこの街は親元離れが前提の、精神的に未熟な思春期真っ盛りな子供ばっかしかおれへん街や」
「真っ当な道歩いとる優秀な子は堕とすの超楽やでぇ?ドラッグでもセックス遊びでも酒タバコギャンブル…なんでもええ。直接的な”快楽”を教えたればすぐ転びよる」
「心理誘導するだけでもええし、ちょこっと周りをイジッたるだけでおもろいように悪い道に転がりよる」
「精神未熟なお子様ほど『もう後戻りできへん』って思わせるのはすごーく簡単や」
一拍おいて。
- 594: 2017/04/08(土) 06:14:08.73 ID:LtT3AdS5O
- 「…極端な話、とんでもない過ち犯してもな?」
「この国において生きていこうとする限りは、死なへん限りはなんぼでも人生やり直せるもんや」
「無論、失敗した分の埋め合わせとかはうまくやる必要はあるけども」
「高望みしすぎん限りはリカバリーなんて幾らでもできる。」
「けど、そーゆーんもわからへんのやなぁ。『1回失敗したらもう生きられない』って勘違いする。それを教えてくれる大人がおらへん」
「かつてアレイスターが『この実験場で非道な実験が効率よく、行い易いように』って主旨でこうしたんやけども」
「いやぁ助かるわぁ~ボクみたいなヤツにはパラダイスや。うまーく飯のタネになるモンとその運用サイクルがつくれる街にしてくれたんやから」
「そうね」
早く本題に入ってくれないかしら?
けど怒らせたら不味いわよねえ?
- 595: 2017/04/08(土) 06:16:49.50 ID:LtT3AdS5O
- 「ヒヒ。憎まれっ子世にはばかる。ボクを憎い、嫌い、『小悪党』だの『鬼畜』だの『ドクズ』だの…まぁ他にも色々言う奴は多いで?けどな?」
「『ほんなら、それ言う君はボクより成功しとるん?』って聞いたりたいわ」
「ええよ?別に。ボクより成功しとるんやったら。ボクより出来るんやったらな。」
「是非勉強させてもらいたいしどうぞ非難してください?や」
「せやけどおかしいよなぁ?そうやって非難する奴に限って何もできへんやらへん奴か、大抵大した事あらへん奴ばっかや」
「『何も出来へん君と、社長のボク。どっちが正しいんやろね?』ってな。」
「物事万事、勝った方とか最終的に生き残る奴の方が正しいんやで?」
「つまり、グチャグチャうるさい奴は自己肯定に必死で、嫉妬と『すっぱい葡萄』、負け犬の遠吠えってことや。周りからもそう思われるのに恥ずかしい思わへんのかねぇ?」
ひひひひ、と笑ってコーヒーに手をつけ始める。
「え?別にボク普通の事言っとるよね?」
「そうね」
早く終わらないかしら。
正直、話は半分も聞いてなかったしどうでもいいわあ。
高田順次さん曰く、歳とったら『自慢話』と『昔話』と『説教』はやっちゃいけないのよう?
- 596: 2017/04/08(土) 06:19:19.55 ID:LtT3AdS5O
-
「でな?この前ボクにケンカ売った身の程知らずのアホがおったから逆さ吊りにしてリンチして焼却炉で温めたったんや」
「酷いんやでそいつ。ボクんとこで『会社立て直すのに必要だから2億借して。』って言いよるから」
「『ええよ?てーか2億でも足りへんのやろ?他も貸してくれへんやろ?そしたらウチも回収できへんから5億貸したる。利子もつけへん。それで立て直しぃ?」
「その代わり、もし期日までに返せんかったらあんたを含めたお宅の家族全員の命はないでー』」
「で契約。んで、案の定『すみません、返せません』」
「『まさか本当に有言実行はしないだろう』って高を括っとったんやろうねぇ?」
「やるに決まっとるやん。契約はきちっと履行せなね?」
「ほら、最近まだ寒いやろ?あったくして寝てもらわんとな?」
「で、殺し屋と人体解体屋雇ってそいつんちの全財産の差し押さえ&臓器摘出御家族皆殺しパーリィや」
「いやぁー娘さん傑作やったわー」
「『なんで私たちが死ななきゃいけないんですか!?』ぁ!?」
「そんで言うたった。『報復だよ。彼は影で何百人も殺し、騙し、犯し、盗んだんだ。君の父親は最低のドクズだからだよ』」
「その子大泣きしとったわ。痛い痛い言いながら裏切られた気持ちいっぱいで死んでったわ」
「まっ、その子に言うたの全部ウッソやっけどー!!くかっ!くははははははハハハハハ!!!」
クズね。ここまでくるといっそ清々しいほどに。
「君のおとーさんはちょろっと金返さずに逃げようとしとっただけやって。あははははは!!!」
「いやーボクってほんまに優しいわぁー!この経営プランじゃ九分九厘返せへんやろうなーってわかってた上で、貸した金も全額回収は不可能ってわかってた上で、5億貸してんやから!」
「アホやなぁ~そもそも金は借りたらあかんねん。ただでさえ大人の借金は返せん事のが多いんやから」
「『金を借りなきゃそれはできへん』って時点でそれはもう諦めなあかんのに。自分の身分を弁えへんからそーなんねん」
- 597: 2017/04/08(土) 06:20:21.81 ID:LtT3AdS5O
- 彼の物言いは年頃の男の子とかによくある『悪い事する、言うのがかっこいい!』とか、自分を強く見せるための偽悪的な発言のようにも聞こえる。
…そうであったならどれだけ良かったのかしらね。
いきがってる少年の冗談にしか聞こえないわよねえ?
言葉だけなら小悪党で、三文小説とかに出てきそうなすぐ死ぬ中ボス級な悪役のセリフよねえ?
けど彼は”それを本当にやってる”し、心底そう思っている。
そして、残念な事にそんな頭がおかしい彼を止められる人間はどこにも居ない。
「きひっ…ひはひはひはひは。」
気味の悪い笑い声。
人前でこんな笑い声ができるとしたら、キャラを作ってるか…本気でイカレてるかのどちらかよねえ?
- 598: 2017/04/08(土) 06:20:59.07 ID:LtT3AdS5O
-
悪意の塊。邪悪そのもの。悪魔。…あるいは”木原”?
いえ、もっと相応しい言葉があるわね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー”魔王”。
- 599: 2017/04/08(土) 06:22:15.03 ID:LtT3AdS5O
-
もし、彼という人間が作られる際にコンセプトがあったとしたら神様はそんな言葉のモノにしたんじゃないかしらあ?
その魔王を殺す勇者やヒーロー、その類は居ないのだけど。
逆らう事への恐怖だけじゃなくてそもそも倒そうとしない。
彼がいる事で経済が大きく回るから。
学園都市の悪党達にとっては非常に助かるもの。特に下請け業者とかね。
私?申し訳ないけど私もまだ死にたくないのよ。
「あ、ほんでな?ちょっと聞きたいんやけど」
「ええ。何かしら?」
「君、2年前にボクと手を組んだ時。カミやん死んだ言うたよね?」
「…ええ」
…やっと本題かしらあ?
- 600: 2017/04/08(土) 06:25:13.64 ID:LtT3AdS5O
-
ええ。亡くなったわあ。
あの日、わんわん大泣きして涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしたサローニャが私の所に彼の遺体を持ってきたんだもの。
よく覚えてるわよ。
私自ら確認したわ。
能力も使ってね。
…間違いなく脳死していた。
「そーやんな?絶対死んどるよな?」
「ええ。私が確認したんだもの」
「そーやんな」
彼はほぉー~っとため息をつく。
- 601: 2017/04/08(土) 06:26:47.71 ID:LtT3AdS5O
-
「ならなんでカミやんからこんなもん届いたんやと思う?」
パンッと音をさせてテーブルに叩きつけられたカードを見る。
『結婚しました。上条当麻・サローニャ』
御丁寧に前文のテンプレと最近の写真付きで。
差出人は
上条当麻で。
「…誰かが彼の名を騙ってるだけだと思うけれど」
「…まあな、現実的に言ったらそうやろうと思うよ?」
「けどなぁ、気になる事もあってん」
「2年前、カミやんの右手輪切りにした時は”竜”が出んかった」
「まさかとは思うけど”復活”とか何かそういうズルイ『その時不思議なことが起こった!』補正でもかかって生き返ったとか」
あり得ないわ。魔神でさえ死者の蘇生は色々と手順や儀式がいるんだもの。
右手は…”竜”が出現する何らかの条件が満たされてなかったからとか。
- 602: 2017/04/08(土) 06:28:04.03 ID:LtT3AdS5O
-
「じゃあもう一つや」
「ほんならその誰かさんは、なんでボクにだけ言ってきたんやろうな」
青髪にピアスの男は胸元から拳銃を取り出して私に突きつけ続ける。
「わかっとるやろ?今この街でボクにケンカ売るバカなんておらへん」
「もしそんな奴がいるとしたらボクを知らん人間か、何を失ってでもボクに復讐したい恨みがあるとか怒らせたいとか思っとって、」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「かつ、ボクが昔からカミやんに心底ビビッとる事を知っとる奴だけや」
…そうね。
そういえばあなたはどれだけお金を払ってでも、どれだけ犠牲を出してでも死ぬ気でインデックス殺しの情報を潰してきてたわね。
10年も。
そして、2年前も。
当時、大物を次々暗殺して力と名前を見せつけてきていた上条クンを見て『次はボクの番になるんとちゃうんか』って恐れて。
私に『どうか上条当麻の情報をください』って土下座までするほどだったわね。
- 603: 2017/04/08(土) 06:29:57.23 ID:LtT3AdS5O
-
「それからボクにカミやんの名前を出す事がどういう事かをよく知っとる奴だけや」
「…ボクは結果的にとはいえ、2年前に君との契約を履行できずにカミやん死なせてしもうた」
「君、ボクを恨んどるやろ?」
ゼロではない事は確かね。
「『死ぬ寸前まで拷問はするが、最終的に蜜蟻の交渉によって”綿”と救出。上条当麻の命だけは助からせる』」
「『ボクが罪を告白して上条当麻の復讐対象をボクに。ダルマ状態の上条当麻を蜜蟻が引き取る』」
「『”綿”は後で何人もの業者で袋叩きにして始末』」
「『その後上条当麻へのボクに関する情報一切をシャットアウトした上で『ボクは死んだ』と聞かせる』」
「『その後、蜜蟻は晴れて復讐対象を失った上条当麻と結ばれる』」
「『ボクは上条当麻への憂さ晴らしとボクに突き立てるための牙を抜く事ができ、』」
「『蜜蟻はカミやんと結ばれる』」
「…これが2年前にボクと君で交わした契約内容。win-winや。ボクと君で作ったシナリオはこうなるはずやった」
「誤算だったのは”綿”が想定していた以上に強く、自殺屋と”スズメバチ”がこのシナリオの半分の情報を吐いてまった事」
「”綿”がボクの部下を蹴散らせるほどに強く、カミやんを救い出してしまった事や」
「おかげで延命措置ができずにカミやんは死んだ」
- 604: 2017/04/08(土) 06:30:27.05 ID:LtT3AdS5O
- 「これらの事全部を知っとって、かつボクに刃向かえる財力と理由がある人間は1人しか思い当たらへん」
「なあ、」
ガチャリ、と拳銃の撃鉄が唸る。
「テメェしかいねぇだろクソアマって言ってるんだけど」
「…」
本当は標準語で喋るのね。あなた。
- 605: 2017/04/08(土) 06:31:32.83 ID:LtT3AdS5O
- 「どういうつもりだ?」
「…信じてもらえないかもしれないけど、それ出したのは私じゃないわあ」
「ほぉ?」
「もし私が出すならせめてそのカードに書く新婦の名前欄はどれだけ危険でも私の名前にするもの」
「それにもしも私があなたに復讐をするならこんなバカみたいにケンカ売るような真似はしないわあ」
「最も気が緩むタイミングで奇襲をかけて殺すもの」
「…なるほど?」
ええ。だから銃を下ろしてくれないかしらあ?
「…一応保留にしといたるわ。」
銃口が下ろされる。
ほっ。
「ほな新しく取引しよか。この、新婦の名前欄のサローニャって奴の情報買うわ」
毎度あり。
恨まないでね?サローニャちゃん。
ごめんなさいねえ?仕事なのよ。
- 606: 2017/04/08(土) 06:37:03.07 ID:LtT3AdS5O
-
「で?誰やねんコイツ」
「…そうね、20万で構わないわ」
「ほーん。えらく安いんやね。ボクの財布ん中のだけで足りるわ」
ほい、これでええか?とテーブルに現金が出される。
「で?」
「本名、サローニャ・A・イリヴィカ。17才。」
「6年前~2年前、”綿”というコードネームで上条事務所専属の殺し屋をやっていたわ」
「写真はコレね」
スマホに入っている”過去から現在の全ての殺し屋の顔ファイル”から彼女の写真を見せる。
「へ?あの億クラスの殺し屋”綿”がこの子なん?」
「ええそうよ。もっともコレは15才当時の写真だけど」
「はぁー…カミやんとこの。まだ生きとったんやねぇ?」
「ええ。今彼女は殺し屋を廃業して学園都市から出たわあ」
「え?学園都市におらへんの?」
「ええ。今はこのカードに書いてある住所に住んでるわね」
「それから…」
サイコメトリーでカードの送り主を確認する。
「…コレ、送り主もまちがいなく彼女ね」
「…どういうつもりなん?この子」
「さあ?私にもサッパリ。」
…さて。どうしたものかしらねえ?
もちろんコレを出したのは本当に私じゃないわあ?
十中八九彼女だと思うわ?
けど…彼女はどういうつもりなのかしら?
宣戦布告でもしたつもり?
もう殺されたいと思ってるとしか。
だって、だって彼女は全部わかってるはずだもの。
当時彼女は”スズメバチ”から社長に関する情報をかなり吐かせたらしいから、社長が彼を恐れていた事も彼の名前で激昂するであろう事だって知ってるはず。
社長が彼の仇だという事も、社長が彼の復讐対象という事も。
- 607: 2017/04/08(土) 06:39:54.26 ID:LtT3AdS5O
-
現住所から。
上条当麻の名前で。
煽って自分の生存を伝えるような真似をするなんて。
…迎え撃つ自信があると?
そう言う事…よね?
どうやって?
権力も金も技術も人材も潤沢な彼に?
裏社会のボスを敵に回して勝てるとでも?
いかに彼女が元億クラスの要人暗殺請負をやっていた殺し屋だとしても分が悪すぎる。
「…まあええわ。腑に落ちへん事いっぱいあるけどとりま殺しとかんとね」
「この子の情報もっと買うわ。調べて欲しいんはこの子のリアルタイムの行動、言動」
「それからここ一週間の行動。…ええか?」
「ええ。承りました」
「ほな頼むわ」
「ああそれと」
「口止め料も払う。今日ここで話した事全ては他に売らんといてくれ」
「ええ。わかってるわあ」
- 608: 2017/04/08(土) 06:41:31.33 ID:LtT3AdS5O
-
「君のええところはそうやってプロの仕事をしてくれるトコやね」
「どうも」
「信頼しとるで。ボクはキチンと仕事してくれる奴は好きやし、そういう奴に敬意と金を払う」
「裏切らんといてな」
「…ええ」
- 609: 2017/04/08(土) 06:47:17.05 ID:LtT3AdS5O
-
・・・・・・・。
社長の携帯に調べ上げたサローニャの情報を送る。
「…結局、私はまた踏み台になってたってことねえ」
メンタルスティンガ-
”心理穿孔”でカードから読み取った映像。
『びっくりするかな』
『だろうな』
彼女だけじゃ、なかった。
どういうわけか、彼の姿があった。
…上条クンの姿が。
…じゃあ、
じゃあ、2年前に見た彼は、
『ぐずっ…!えぐっ、蜜蟻ちゃん…っ!上条ちゃ、がっ!』
『 』
あの時死んだのは
…偽物?
どうやって、いえ…
もしそうなら恐らくあのカードは私に向けてでもあったのね。
社長がアレを受け取れば私に直接確認しにくるだろうと見越して。
見せつけて、遠回しに『お前のやった事も全部知ってるからな』と言うために。
…直接私にカードを出さなかったのは『お前とは話したくもない』という事。
…そう。結婚も私への当てつけかしら?上条クン。
あんなにインデックスインデックスってうるさく言ってたくせに。
なんだかんだで私達はいいビジネスパートナーだったじゃない。
付き合いだって10年よ?
熱い夜だってそれなりにあったでしょう?
あなたが私のこと好きじゃないって分かってたけど。
酷いわあ。
「…何もそこまでする事ないじゃない」
彼をダルマにしてくれと頼んだ私が言える事ではないのだけど。
- 610: 2017/04/08(土) 06:49:17.56 ID:LtT3AdS5O
- 「…」
なんか…どうでも良くなっちゃったわあ
胸元から護身用の銃を取り出す。
拳銃を口に咥える。
…彼のモノにも幾度となくこういう事したわね。
あの時の彼の熱さを思い出して、舌で銃口を優しく舐ってみる。
死の先にあるものは何なのかしらね?
神父は『天国と地獄がある』と言っていた。
医者は『脳が働かないのだから何も知覚できないので、あるのはひたすら”無”だ』と言っていた。
霊能力者は『幽霊となって現世に留まる』と言っていた。
あの人は、『さあな。死んだらわかるだろ』と言っていた。
では、超能力者の私は何と言うのだろうか。
色々と憶測推測が伴うけれど、そうね…
煉獄かしら。
- 611: 2017/04/08(土) 06:50:59.06 ID:LtT3AdS5O
- 欲しても欲しても、何も手に入らない。
外道な私にお似合いの。
「…せめて、最後に一言くらい話したかったわ」
罵詈雑言でも構わないから。
- 612: 2017/04/08(土) 06:51:27.79 ID:LtT3AdS5O
-
パァン!!!
- 613: 2017/04/08(土) 06:52:17.84 ID:LtT3AdS5O
-
破裂と熱が私の喉奥を貫いた。
- 614: 2017/04/08(土) 06:53:48.77 ID:LtT3AdS5O
-
青
髪
- 615: 2017/04/08(土) 06:55:11.27 ID:LtT3AdS5O
-
アダルトショップから街へ出る。
今日はこの後の仕事、全部部下に投げられるから直帰できそうやな。
車使うまでもないし…そこの茶店行ってのんびりしてから帰ろ。
にしても…
あーほんまに胸糞悪いわ。
- 616: 2017/04/08(土) 06:56:36.17 ID:LtT3AdS5O
-
なんだって今更カミやんが出てくんのや。
今の気分?
コンビニのバイトでせっかく綺麗にキチンと商品を並べたのにクソ客がグチャグチャにしていきよったみたいな気分やわ。
もう、その話は終わったやんか。
もうボクは怯えんでええと思っとったのに。
隠居すんのやったらすればええわ。
けどボクにわざわざ言わんでええやろ。
- 617: 2017/04/08(土) 07:01:16.88 ID:LtT3AdS5O
- 怖い。ボクはカミやんが怖い。認める。
10年前…いや、ボクがカミやんを知った時から。
到底勝ち目のない戦いに挑んで平気で生き残る。
死んだのに生き返る。
腕が千切れても致命傷に近い傷を何度負ってもまだ死なへん。
それどころか更に果敢に向かっていくキチガイさ。
そんな奴が裏社会に入った。
けど、正直なトコすぐ死ぬやろうと思っとった。
いくら土御門くんの力添えがあってもカミやんみたいなお人好しで根回しとか苦手でスキルもあらへん奴がそんな裏切りが常の世界で生き残れるはずがない。
やのに。
その恐ろしさは健在で、次々と難しい仕事をこなしていく。
統括理事長を潰した。
当時の超能力者は殆ど消された。
厳重に守られた要人達、統括理事会のメンバー、社長、重鎮、暗部…
魔神未満もその一味も、侵攻してきた魔術師や傭兵も。
全部カミやんトコがやり遂げた。
- 618: 2017/04/08(土) 07:04:04.52 ID:LtT3AdS5O
-
そらぁ”綿”が多少は強かったってのもあるんやろう。
けど限度がある。いくらなんでも一介の魔術師があーいう一線級の戦力や猛者達を潰せるわけあれへん。
…カミやんの実力や。認めたないけど。
指示、コネ、下準備。部下の管理とマネージメント。
個人経営で、たった2人で。
組織を作ってたくさんの業者や権力者、能力者、研究と関わって大事を成す事の大変さを知ってきたボクやからわかる。
カミやんは、バケモノや。
そんな奴が、ボクを殺そうと虎視眈々と探しとる。
10年、気が気やあらへんかった。
インデックスちゃん殺した事を何千回後悔したかもわからへん。
2年前にようやっと解決した思ったのに。
またか。
まだボクを追いかけよるんか。
最後に会った時に『もう復讐する気が失せた』とか言ってくれたやんか。
…ええ加減にせぇよ。
- 619: 2017/04/08(土) 07:04:42.26 ID:LtT3AdS5O
- これ以上まだ関わる気ならボクも本気出すわ。
ボクが使える権力と金、できる事全部で押し潰したる。
まずはカミやんの親からやな。
仕事奪って殺したろ。
学園都市以下の技術しかない外でボクらの凶行は止められへん。
っと、
交差点や。
- 620: 2017/04/08(土) 07:10:17.23 ID:LtT3AdS5O
-
ハイ。ちゃんと点字ブロックの後ろまで下がって。
事故恐いもんなぁ。
…交通事故の原因No. 1は漫然運転なんやって。
要はボーッとしとるとか、同乗者とのおしゃべりとかナビの声聞いとって~とかで運転に集中してへんって事。
スマホ見ながらとか他ごとで~ってのは脇見運転に分類されて一位とはわけられとるんやけど。
恐ろしいトコはさ、
『それってフツーやないの?』なトコやね
考えてみぃ。同乗者と喋んのもハンズフリーもナビの音声聞くんも普通や。
『他ごとしとって』とかやないんやで?
『不注意だ』で済まされてしまうような理由で。
本当にその超絶『なんでもないような事』だけで死ぬんやで?
けど、そうは言うても集中力なんて人間そんなに持たへん。
精々長くて一時間程度やろ?
そんなんが運転しとるんやで?
そんな”油断”が一番交通事故で人を殺しとる。
どんなに権力持っとっても。どんなに賢くとも。どんなに人望があろうとも。
そんな油断一つで簡単に人は死ぬ。
…何それめっちゃ恐っ。
- 621: 2017/04/08(土) 07:11:41.38 ID:LtT3AdS5O
-
あー…もうすぐ赤なるな…
そや、茶店でホットケーキでも久しぶりに食べ
- 622: 2017/04/08(土) 07:12:18.40 ID:LtT3AdS5O
-
トン。
- 623: 2017/04/08(土) 07:13:26.43 ID:LtT3AdS5O
-
あ?
視界いっぱいに大型トラック?
は?
いやなんで横断歩道に?ボクちゃんと点字ブロックよりも後ろに、
グシャ。 - 624: 2017/04/08(土) 07:15:30.87 ID:LtT3AdS5O
-
サロ
ーニ
ャ
- 625: 2017/04/08(土) 07:16:29.06 ID:LtT3AdS5O
-
学園都市はキライ。
私の故郷も家族も大事な人も死なせた元凶の街だから。
大事な人と出会えた場所でもあるけれど。
…カミサマは意地悪だ。
奪うのならば何故与えたのか。
大事な人がいる事の尊さを教えるためだとでも言うんですかね?
- 626: 2017/04/08(土) 07:17:13.67 ID:LtT3AdS5O
-
上条ちゃん。上条ちゃん上条ちゃん。
ねぇ、上条ちゃん。
また私一人になっちゃったんだけど。
どうして?
置いてかないでよ。
知ってるでしょ。私は上条ちゃん居ないと寝れないんだよ?
知ってるでしょ?私があなたをどれだけ愛していたのかも。
知ってるでしょー私はまだまだ何にもできないお子ちゃま。
…居なくなるなんて、酷いよ。
- 627: 2017/04/08(土) 07:17:59.57 ID:LtT3AdS5O
- なんかね、ぶっちゃけわりとけっこう上条ちゃんの『インデックスガー』は聞き流してたし、
『すっごい好きだったのはわかるけど、彼女を失った心の傷もいつか癒えるだろうし、情がわいて私を好きになってくれるだろう』
とかね、高を括ってたのね?
だってそうでしょ?
じゃなきゃこの世に『元カレ』とか『後妻さん』とか、『再婚』なんて言葉は存在しないもの。
けどさ、私も上条ちゃんを失ってみて初めてわかったよ。
本当に、真実、狂信的に、執着心を持つぐらいに、
死ぬほど愛してたって人が居なくなったら
心の傷は一生癒えないんだ。
次の恋?また新しい出会いがある?
クソ喰らえだよ。
上条ちゃん以上の人なんて居ないもん。
もし仮にそういう出会いがあったとしても痛みは消えないし、寂しさは拭われない。
風化もしなければ心の穴も埋まらない。
いつどんな時でも何をしていても『ひょっとしたらどこかその辺に隠れているんじゃないか』とその姿を探してしまう。
本当に、本当に心底愛していたならば。
- 628: 2017/04/08(土) 07:20:25.30 ID:LtT3AdS5O
- 「…ぅ」
涙が溢れる。
『あーあー。せっかく俺がやり直すチャンスやったってのに。』
『人の最後の贈り物を足蹴にするような真似すんなよな』
「…死んだ人と結婚なんて虚しいだけじゃん」
『しっかり言いつけ守って”劇団”使って婚姻届出して、ついでに結婚報告カードは出したのにな。』
『上条サローニャちゃんよ』
「…『上条ちゃん』、元気?」
『死んだ奴が元気なワケないだろ』
「それもそうだね」
- 629: 2017/04/08(土) 07:21:05.98 ID:LtT3AdS5O
- 『俺復讐するなって言っただろ。聞いてなかったのかよ』
「うるさいなぁ『上条ちゃん』は」
『何言ってんだ。こっちだって黙っていたいっての。けどお前が望む以上は永遠に喋らなきゃいけないんだからな』
『何せほら、俺はお前の妄想だからさ』
「…そーね」
- 630: 2017/04/08(土) 07:24:08.80 ID:LtT3AdS5O
-
『サローニャ、愛してる。インデックスよりも愛してる』
…是非とも生前に本心で聞きたかったお言葉ちゃんですな。
モウソウ
あなたからじゃなくて。
『オイオイ、だからな?これは俺の意思で言ってるわけじゃねぇんだってば』
『お前が心のどっかで望むから出るんだ』
ねぇ『上条ちゃん』
『なんだよ』
上条ちゃんは最後に私に『インデックスよりも愛してる』って言ってくれたけどさ
『ああ言ったな』
アレ絶対ウソでしょ。
『バレたか』
あの上条ちゃんがさ、天地がひっくり返っても、口が裂けても、
それこそ両腕をブッた切られても言うわけないんだよそんなこと。
『だよなぁ。』
『最後のお前へのプレゼントだったんだよ』
余計な気を回しちゃってさ。
…そりゃあ、
嬉しいけど。
- 631: 2017/04/08(土) 07:46:31.67 ID:LtT3AdS5O
-
『で?殺るのか?』
もち。
『まだ今なら止められるんじゃないのか?』
…上条ちゃんはさ、私に『復讐するな』って言ってたけど
無理。無理だよね。
『俺の遺志ってのは無視されて捨てられるってワケだ』
違うよ。ありがとうって受け止めて、そっと静かにしまっただけ。
『けどなぁ』
あのね?
自分に出来ないこととか自分がやらない事とか、自分がやってきた事を棚に上げてさ?
後輩とか子供とかに『だけどお前はこうしろ!』ってすっごい説得力ないと思うんだよね。
それがどんなに正論でもさ、少なくともその人に言う権利とか『じゃあコイツの言う事聞いとくか』ってのは無くなるんだよ。
他人に何か言いたきゃ『まず自分がそれを実践できてるかどうか』を思い出すべきじゃない?
『そうかもな。でも二の舞になるとか同じ轍を踏むってのもバカバカしいんじゃないか?』
「かもね。でもさ、」
「人間ちゃんは正論だけで動くわけじゃないから。機械ちゃんでも人形ちゃんでもないもの」
「サローニャちゃんはね、サローニャちゃんの意思で、サローニャちゃんの人生の持ち物として、」
「あのクソ野郎に復讐するの。」
「私がそうしたいからそうするの」
「正義とかじゃなくて。ただのエゴで。」
『はぁ…結局上条さんの遺志は無視かよ』
- 632: 2017/04/08(土) 07:48:42.78 ID:LtT3AdS5O
-
『泣くぞー?お前アレだからな?大人になって『もう年かなぁ?』な上条さんは涙腺緩くなってるからすぐ泣くぞ』
「いいの。上条ちゃんと同じ人生で。」
「ううん…むしろ同じ人生がいい。」
「上条ちゃんがいつでも一緒に居てくれる気がするもの」
「『上条ちゃんも昔こんな感じで、今の私と同じ気持ちだったのかなー』とかさ」
『そーかよ。つまりお前も最終的には両腕を大根みたいに切られて失血死がお望みってわけだな』
「…それでもいいかな。」
『イカレてるな。お前』
「クレイジー上等。これが私の幸せなの」
大人が格好よかったらね、子供はグレないの。
その格好よかった大人の背中をそのまま追うからさ。
- 633: 2017/04/08(土) 07:50:26.51 ID:LtT3AdS5O
-
『…』
「なぁに?まだ何かあるの?早く消えてよ」
『お前もエグい事するよな』
どの事かな?
彼女にカードが渡る事も見越して”劇団”の人が変装した上条ちゃんと一緒にカードを送った事?
『それも、だな。だが俺が言ったのは殺し屋を雇って”令嬢”の社長を殺した事だよ』
いやいや。それは別にけっこう妥当じゃない?
あんな奴、殺した方が世の中良くなるでしょ?
『さあ?学園都市の悪党事情は変わるんじゃないか?何せ統制と秩序を保って裏社会仕切ってたボスが居なくなるんだから』
「潰し合うでしょ。悪党同士で。だから結果的にも悪人は減るんだからいいじゃない』
『戦国時代に突入するだろって事だよ。いい奴も悪い奴も何人も消えるだろうって事だ』
『…』
…まだ何か?
『綿弓や 琵琶に慰む 竹の奥(わたゆみや びわになぐさむ たけのおく)。』
「何それ」
『松尾芭蕉の俳句。二上山のな、”当麻寺”って所で詠まれた句だ』
「へー」
『お前のコードネームもここからとった』
「…で?」
『”当麻寺”、”綿”。俺たちはなんだかんだでセットなんだなって事』
「こじつけ感ハンパない」
『そうか?』
「でも…ちょっと素敵だよね。」
『素敵、か』
「うん。素敵」
- 634: 2017/04/08(土) 07:56:00.26 ID:LtT3AdS5O
- トゥルルル。トゥルルル。
「はい、サローニャちゃんです」
『私。終わった。仕事の証拠写真はメールで送る。』
「あっ、御苦労ちゃんです。”押し屋”さん」
”押し屋”。押して、殺す殺し屋。
電車とか車とか。人混みとかに紛れて標的の背中を押して、殺す。
何故か誰にもその犯行を見られない。誰も追えない。
…最近電車ちゃんの人身事故が不自然に多かったっけ。
押し屋の仕業かもね。
『…できれば。コードネームで呼んでほしい。』
「なんだっけ?」
『…”槿”。むくげと書いて。あさがおと読む。』
「そ。じゃー槿ちゃん。お疲れ様。報酬は指定口座に振り込んどくから」
『わかった。』
「バイバイちゃーん」
ぴっ。と。
ティロン♪
わあグロい。グログロちゃーん。ざまぁー
- 635: 2017/04/08(土) 07:59:54.80 ID:LtT3AdS5O
-
『で?これからどうするんだ』
「さぁねぇ」
うーん…
「とりあえず高校は卒業するよ。」
『その先は?』
「卒業したら?…学園都市で殺し屋仲介業者でも始めよっかな」
『お前、本気で俺の人生をなぞる気かよ』
それ以外に食べてく術も知らないんでね。
『生き方を作ったり選択肢を知るために学校があるんだぜ?活用しろよ』
「そう?私が学校ちゃん行って思うのは『生きていくのって大変だな』ってことだけど。」
「勉強やキョウチョーセイを教えてくれるでしょ?超メンドイ」
『しっかり勉強しろよ。大人になって高校レベルの問題解けないと将来自分の子供に笑われるぜ』
「そだね。私に子供なんてできるかわからないけど。」
空を見上げて風を仰ぐ。
風が気持ちいい。
そういえば宮沢賢治の詩にもこんなのあったなぁ。
- 636: 2017/04/08(土) 08:02:02.73 ID:LtT3AdS5O
-
『諸君はこの颯爽たる、諸君の未来圏から吹いて来る、』
「『透明な清潔な風を感じないのか」』
新たな詩人よ
雲から光から嵐から
透明なエネルギーを得て
人と地球によるべき形を暗示せよ
新しい時代のコペルニクスよ
余りに重苦しい重力の法則から
この銀河系を解き放て
新たな時代のマルクスよ
これらの盲目な衝動から動く世界を
素晴らしく美しい構成に変へよ
ああ諸君はいま
この颯爽たる諸君の未来圏から吹いて来る
透明な風を感じないのか
「…だいぶ途切れ途切れで抜粋だけど。こんな風だったよねアレ、フルで読むとけっこう長いし」
『宮沢賢治/詩【生徒諸君に寄せる】か。』
「賢治、良い事言うよね。」
『ああ、賢治は良い事言うぜ。何せ賢治だからな』
- 637: 2017/04/08(土) 08:06:38.53 ID:LtT3AdS5O
- 「未来圏って言葉とか、何か不思議な力を感じるよ」
『偉くてスゲー奴に「これからはお前の時代だ頑張れよ」って言われてるからだろ。』
『頑張れよ、若人』
「『上条ちゃん』だってわりと若人でしょうに」
- 638: 2017/04/08(土) 08:08:34.97 ID:LtT3AdS5O
- 「…さってと。行きますか」
『ああ、そろそろ屋上も閉まる。下の校門でフロリスとレイヴィニアちゃんが待ってるだろうしな』
「今日ねーカラオケちゃん行くの。」
『良かったな。楽しそうだ』
「何歌おっかな。」
「上条ちゃんは何がいいと思う?」
『…』
- 639: 2017/04/08(土) 08:10:12.20 ID:LtT3AdS5O
- 「どうしたの上条ちゃん」
『…いや。あー、ロシアの歌はほどほどにな。目新しいがアレ基本的にダウナー基調だから盛り上がらねーだろ』
だね。
『あのさ、』
何?
『知ってると思うけどさ』
「何?」
- 640: 2017/04/08(土) 08:11:54.60 ID:LtT3AdS5O
-
『お前、頭おかしいぜ。客観的に見たらさっきから誰も居ない所に向かって喋ってるって自分で気づいてるか?』
『上条ちゃんじゃなくて、『上条ちゃん』しか居ないんだからな?」
「何言ってるの?上条ちゃんがそこにいるじゃない」
- 641: 2017/04/08(土) 08:13:37.80 ID:LtT3AdS5O
- おしまい。以下おまけ。
というかここまで書いといて言うのもなんだけど
伊坂作品ってこんな感じじゃねーから!!
グラスホッパーも魔王もワルツもその他作品も全然違うから!これの7億倍は爽やかで楽しくて謎と言い回しとキャラがユニークで面白いから是非読んで!
あ、ねーちんとかステイルの電話のくだりのあれこれとかは観測できそうな人間が皆死んだからやりません。
単にあのやり取りが書きたかっただけなので忘れましょう。
- 642: 2017/04/08(土) 08:26:29.76 ID:LtT3AdS5O
- ~上条事務所~
上条「…」モヘー
ガチャ、
さろーにゃ「おはよーちゃんー」ファ
上条「おはよう」バサッ
さろーにゃ「んー…」トコトコ
さろーにゃ「ぬー」モゾモゾ
さろーにゃ「んー…」チョコン
上条「…なんで新聞読んでる俺の膝の上に潜り込んでくるんだ」
さろーにゃ「新聞ちゃん、そんなに面白い?」
上条「面白くなくてもスマホに入ってくるニュースぐらいはお前も読むだろ。」
上条「ただ、それだけじゃ読み取れない情報も新聞にはあるって事だ」
上条「必要だから読むんだ。それだけだよ」
さろーにゃ「ふーん?例えば?」
上条「興味ない情報とか地域密着な情報とかな」バサッ
さろーにゃ「えー?興味ない情報ちゃんなんて要らなくない?」
上条「物事を多角的、多面的に見るためには様々な知識がいるだろ」
上条「興味ある知識だけで自分を固めちまった奴じゃ判断も人間性も言葉も偏る」
さろーにゃ「ふーん?例えば?」
上条「そうだなぁ」フム
上条「極端な話、漫画やアニメばっか見てるヤツとかモノを書く奴とかが友達と会話する時の口調や言葉がセリフチックになってたりとか」
さろーにゃ「?」
上条「素で『ガクッ!』とか、『~なのであしからず』『~なのだ』『~なのである』『~なのです』とか普通言わないだろ」
上条「でもそういう『おかしい』ってのがわからないんだ。本人には」
上条「そいつはそういう所で生きていて、そういう知識で固めちまったからだ」
上条「『それが異常だ』ってわかんねーんだよ」
さろーにゃ「ふーん?」
- 643: 2017/04/08(土) 08:27:17.35 ID:LtT3AdS5O
- 上条「あとは…『死んだ後に行くのはどんな所か?』という質問に対して『天国、極楽、黄泉の国のどれか好きな所に』と言える」
さろーにゃ「最後のだけよくわかんないんだけど」
上条「生前にどんな宗教を信仰していても善人は似たような所に行ける。『何々宗教を信仰するのは間違ってる!』って言われてものを知ってるって事だよ」
さろーにゃ「さろーにゃちゃん達みたいな悪人は?」
上条「…さあな。死んでからのお楽しみだ」
さろーにゃ「ふーん…?」
さろーにゃ「あのね上条ちゃん」
上条「んー?」バサッ
さろーにゃ「わたしたちが死んだ後にどこに行くかはわからないけどさ、」
さろーにゃ「わたし、そこでも上条ちゃんと一緒がいいな」
上条「…そうだな」バサッ
- 644: 2017/04/08(土) 08:29:30.95 ID:LtT3AdS5O
- さろーにゃ「ほんとに服、買ってくれるの?」チョコチョコチョコ
上条「お前基本的に着たきり雀だからな。見てられんだけだ」スタスタ
さろーにゃ「でも大丈夫?ウチの事務所びんぼーちゃんだし」
上条「バカ。上条さんだって子供服ぐらいは買えらぁ」
~子供服専門店~
店員「いらっしゃいませー」
上条「…」チラッ
「あらかわいい小熊の靴ね」
「いいんじゃないか」
「ねぇこれとかどう思う」
「帽子とかどう?ラッキーとお揃いのにするの。子供がペットとお揃いって可愛いでしょう?」
上条「…」
上条(子供服売り場ってのは他の服屋と空気が違うよな。そんで、完全に場違いだな?俺は)
上条(商品がそもそも小さい上にカラフルな物が多いからか…クソっこういうのは何から見ればいいんだ?)
上条(学園都市で結婚して、学園都市で生きると決めて、学園都市で子供を産む家族ってのは最近多くなった)
上条(故にこういう0~12までくらいの子向けの『家族で来るお店』はかなり増えた)
上条(それに中学上がる前ぐらいの女児用の服はここで買った方がおしゃれで安い)
上条(ーーーーーーーーのはわかる。合理的に考えればここで買うべきだ。わかりますよ?)
上条(けどこの『幸せ家族臭』ってのは未婚男には辛いモンがあるな)
上条(…もしインデックスが生きてたなら俺とどんな会話したんだろうか) - 645: 2017/04/08(土) 08:36:13.23 ID:LtT3AdS5O
- さろーにゃ「ねー上条ちゃん」クイクイ
上条「ん?なんだよ」
さろーにゃ「上条ちゃんはどーいうのが好き?私にどういうの着せたい?」ニコッ
上条「俺はロリコンじゃない。お前が着たいもんを着ろよ」
上条「あ、あとな?お前下着類もロクにないだろ。拠点移動が多いから沢山は持てないけど最低替えパン4つは持っとけ」
上条「返り血とか大怪我隠さなきゃ不味い時とか、どこぞに暫く缶詰潜伏しなきゃいけない状況ってのもありえるからな」
さろーにゃ「…」プクー
上条「…何がご不満でせうか?お嬢さん」
さろーにゃ「およーふくちゃんはお仕事ちゃんの面でも確かに大事だけどさ、」
さろーにゃ「上条ちゃんが可愛いと思う服を着て、上条ちゃんに可愛いと思われたいってのはダメなの?」
上条(面倒くさいな)
さろーにゃ「さろーにゃちゃんは上条ちゃんに服選んでほしいナー?」チラッチラッ
上条「俺には女児の服とかオシャレなんてよくわからん」
上条「変なの選んだりとかお前の趣味に合わなかったらお前も嫌だろ?」
さろーにゃ「いい。それでも選んでほしい」
さろーにゃ「あっ!ねぇねぇ上条ちゃんはフリルのとか好き?」テテテ
上条「…、…ったく」ガシガシ
上条(シングルなパパってのはこういう気持ちなのか?)
さろーにゃ「…私の履くおぱんちゅちゃんも上条ちゃんの好きなのでいいよ?///」
上条「あざといぶりっ子して指咥えてカワイイポーズするな…尻も振るな」
結局、無難なのばっか選んだ。
- 646: 2017/04/08(土) 08:40:55.86 ID:LtT3AdS5O
- 上条「…」ボスッ
サローニャ「?」
上条「…」ブス-ッ
サローニャ「どしたの?ソファに座るなり仏頂面してさ」
上条「ちょっとな」
サローニャ「ふーん?」
上条「…」
ぎゅ。
サローニャ(?手を握ってきた?)
サローニャ「どしたの?上条ちゃん」
上条「…別に。ちょっとこうしてたいってだけ」
サローニャ「…そっか。」
上条「…」
サローニャ「いいよ。好きなだけサローニャちゃんと手を握ってよ?」ニコッ
上条「悪いな」
サローニャ「私は上条ちゃんに触れてるだけで嬉しいから」
上条「そうかよ」
サローニャ「ふみゅ!?///」トサ。
上条(あ、滑ってソファに押し倒しちまった)
サローニャ「か、上条ちゃん…?///」ドキドキドキドキドキドキ
サローニャ「…///」キュ...!
上条「…何決心した顔してんだ」
サローニャ「いーよ…?若い男女が一緒に暮らしててセックスちゃんの一つもしないなんておかしいもんね?///」
上条「しないって。大人と子供ならおかしくないだろ」
サローニャ「子供扱いしないで」プクゥ
上条「知ってるか?そのセリフが出るのは子供だけだって」
サローニャ「サローニャちゃんはもう子供じゃないんですけど?」
上条「知ってるか?自分の事を『もう子供じゃない』って言うのは子供の証拠だって事」
サローニャ「むー。なんか論拠でもあるの?」
上条「大人になるとな、どれだけ歳食ってもいつまで経っても自分が子供で青二才だって思い知らされ続けるからだ」
・・・・・・。
- 647: 2017/04/08(土) 08:43:21.82 ID:LtT3AdS5O
-
蜜蟻「それで?上条クンはなんてサローニャちゃんをフッたの?」クスクス
上条「…『上条さんに未成年に手を出す趣味はありません!』」
蜜蟻「そしたら?」
上条「『未成年じゃなかったらいいの?』」
上条「『じゃあ、待つよ。私が大人になるまでの7年間、ずっと上条ちゃんを本気で好きでい続けるから』」
上条「『人の気持ちは不変じゃないし、後々上条ちゃんが死んじゃうか、誰か違う人を好きになっちゃって私の好意と4年間が無意味になったとしても。』」
上条「『私は上条ちゃんの事が好き。愛してる。』」
蜜蟻「随分愛されてるのねえ」
蜜蟻「それで?もし5年経ったら本当に結婚でもするのかしらあ?」
上条「しねぇよ。」
蜜蟻「あら?それなら私とどうかしらあ?」
上条「しねぇよ。」
上条「後にも先にも、俺が愛してるのはインデックスだけだ」
蜜蟻「…そういうのって、愛じゃなくて神聖視とか盲信とか執心っていうんじゃないかしらあ」
上条「かもな」
上条「でも他の奴を好きにはなれなかったし、そういう目では見れなかった」
上条「もう、俺は『そういう生き物なんです』としか説明出来ないんだ」
蜜蟻「難儀な生き物ねえ?あなたって。」
- 649: 2017/04/08(土) 10:04:31.39 ID:+oszGVBoO
- 「幻想御手《レベルアッパー》って、知ってる?」
「ああ、数年前にあった能力強度が上がるって奴」
「あたしね、それ使ったんだ」
「へぇ。どうだったの」
「…大した事は出来なかった」
「せいぜい手の中で小さな風が巻き起こるくらいの」
「?でもあなたはレベル0なんでしょ?だったらすごい進歩だと思うけど」
「違うの」
「あたしと同じレベル0や1とか2以上の人が使った場合、目視で観測できるだけでも能力強度が相当上がってた」
「コップを浮かすのが限界ぐらいの風力使い《エアロハンド》が人を一人分浮かせるだけの風を起こせるようになったり」
「量子変速《シンクロトロン》はレベル2から4まで上がった」
「それは…個人差があるってだけじゃ?もしくは、」
彼女が、遮るように振り向いた。
「もしくは、『幻想御手で上がる能力強度数は、元来その人が持っていた潜在的な能力強度の限界値までだったから』…とか?」
「…うん」
「…そう。それはほぼ正解だったんだ」
「幻想御手は脳波ネットワークを使って、音楽を聴いた人達の脳を繋ぎ、並列演算装置にして能力出力を上げる」
「つまり、レベル4~レベル5未満程度の演算能力が得られるという事」
「ただ…それは逆に言えば…それだけの後押しがあっても大した出力を出せない人間は」
「『人並みの才能すらもないクズ』…ってコト」
「そんな卑下しなくても。別に能力なんかで人の価値が決まるわけじゃないし」
「あなたにはわからないよ。能力強度の高さが人間の評価価値に直結するこの街でレベル0がどれだけ馬鹿にされるかなんて」
「それは…確かにわかんないよ。でも、この街の6割はレベル0なんでしょ?」
「だったらそれは普通ってコトじゃないの?」
「違うの…サローニャ。」
彼女の顔から狂気が滲み始めた。
- 650: 2017/04/08(土) 10:05:53.63 ID:+oszGVBoO
- 「違ったんだよ。…”普通”って言うのはね、『別にお前じゃなくていい。お前が居てもいなくても変わらない』ってことなんだよ」
「無能の烙印。消耗されていく量産品。もっと出来る人間は沢山いる」
「あたしにはそれが耐えられない。」
「あたしね、友達がいるんだ」
「元レベル5の第三位、レベル4のテレポーター、レベル1のサーマルハンドが」
「ねぇ、そんな交友関係の中にいて劣等感を感じないわけないじゃん!!」
「『皆が出来てる事がどうして出来ないんだろうね』って空気の中に居続けたらわかるよ!!」
「なんであたしだけレベル0なんだよ!!なんであたしだけ!!」
「せめてレベル1になれていたら!せめて友達と同じレベルまでいけていたら!!!」
「でもダメだった!!」
「社会に出てる人間なら多分わかると思うけど!『無能でも生きてるだけでいい』なんて慰めは嘘っぱちだって!」
「無能は罪だよ!自分より仕事出来ない人間の後始末をしたらわかるよ!」
「自分が明らかに人より劣った仕事しか出来なくて、誰かに迷惑をかけ続けたらわかるよ!」
「無能が雇い主側や同僚から自分がどんな風に見られてるか知ったら死にたくなるよ!!!」
「…ああ、あたしも多分ラスコーリニコフと同じだったんだよ」
「あたしはきっと、たくさんの誰かを殺す事で”特別”になりたかったんだ」
「そんで、『ただの人殺し』」
- 651: 2017/04/08(土) 10:07:16.47 ID:+oszGVBoO
- 「一つ聞いていい?」
「何?」
「それをやって、あなたは結局何がしたかったの?」
「さあ?ただ、」
「あたしもせめて『みんなとおなじ』になりたかったんだよ」
「…ふーん。」
「それは、不特定多数の人間を不幸にして、害する事になっても?」
「うん。だってさ、自分が幸せにならなきゃ自分の人生に意味なんてないじゃん?」
「他人を踏み台にしなきゃ幸せになれないなら迷わず踏むよ」
「皆そうでしょ?」
「ふーん…」
「まぁわりとけっこーその意見には同意しますけど」
「もし、さ」
「…もしも、あなたの全てが書いてある『あなた』って名前の本があったとして」
「私がそれを読む事ができたとしたらさ、」
「きっと『なんて中身がない本なんだろう』って感想を持つと思うな」
「あんたに何がわかるのよ」
「わかるわけないじゃん」
ナイフを突きつけるサローニャ。
「理解するべき内容が無い物をどうやって理解しろって言うの?」
「ごめんね。それでも私もあなたのこと嫌いじゃないな、好きだなって思うし、むしろ友誼だって感じてるんだけど」
「これも私のお仕事ちゃんなんだ。だから…ごめんね?」
- 652: 2017/04/08(土) 10:10:48.93 ID:+oszGVBoO
- 携帯販売員
「私が何したって言うんですか」
「んー…わかんにゃい。でも殺してくれってさ」
「誰が」
「それ言ったらプロじゃないでしょ」
「…携帯売った人の誰かかな」
「命を狙われるような携帯の売り方って逆に気になるんだけど」
「…アレかな、まだこの仕事始めたばっかの時の」
「へー?心当たりあんの?」
「この会社、おかしいんですよ」
「何が?」
「ロクに教育をしないんですよ。携帯販売についての」
「はぁ?じゃあ今までどうやって売ってきたのさ?」
「自分で調べて、ですよ。同僚や先輩、キャリアの方に確認の電話したりネットで検索かけて」
「だから、販売知識とか契約についてとか、言わなきゃいけない事とか…至らないで売ったお客様からとか」
「…ふーん」
- 653: 2017/04/08(土) 10:11:40.01 ID:+oszGVBoO
- 「それか…自分が営業マンだからかもしれません」
「営業マンだと何で殺される理由になるの?よっぽどの不良品を売りつけたとか?」
「似たようなものです」
「うわサイアク」
「仕方ないんですよ。売らなきゃいけないんです。」
「例えば、この携帯が死ぬ程ポンコツ携帯って知っていても、この人の使い方には合わない携帯であったとしても。」
「売ると一番会社に利益が出る商品なら売るんです」
「言いくるめて、おだてて、煽って、限定感だして、客と仲良くなって『コイツは信用できる人間だ』と誤認させて。」
「…で、この会社は『とにかく売れれば何しても何でもいい』って会社だから」
「クソみたいな保険とかコンテンツとかつけたり」
「…キャッシュバックも出来るけど、『あ、コイツにはキャッシュバックの話しなくても契約とれるな』って判断したら出さないし」
「そうやって、人に対して誠実でないから。そういうのを知った人が怒ったのかもしれません」
「ふーん」
「でもさ、そんな簡単に買って欲しいものを買わせられるの?」
「場合にはよりますがね。」
「もしも都合よく誰かを動かしたいなら、そいつに余計なことを考える材料を与えちゃダメなんですよ」
「『私はあなたの味方です。あなたのためを想って言いますよ』と感じさせる話し方をして」
「動いて欲しい行動に必要な考えと行動、それから『もうこの件で生じるリスクについては全部考えたな』って思わせるんですよ」
「あとは『これを手に入れれば現状打破できる』『希望』と『明るい未来』が待ってるって説明するだけです」
「そしたら客は、多少高くて要らなくても買っちゃうんですよ」
「ふーん…」
- 654: 2017/04/08(土) 10:13:25.83 ID:+oszGVBoO
- 荒らしニート
がちゃ。
サローニャ「こんにちわー♪あなたの性奴隷になりに来ました♪」
ニート「えっ?!///」
ニート(なんだこのエロゲ的展開wwうはwwマジきたコレwww)
サローニャ「ンなわけないじゃん。バッカじゃないの?現実見なよ」
ニート「」
サローニャ「えーと?ゲームかネットかオナニーか。あなたがここ数年してるのはそれぐらいかな」
ニート「それの何が悪いんだよ。殺される程の理由なんてないだろ!」
ニート「…まさか、母ちゃん?」
サローニャ「んなワケないじゃん。私が親なら殺すけどね」
ニート「じゃあ、誰が」
サローニャ「そりゃあ…引きこもりのあなたが他人と関わったり摩擦を起こすなら」
サローニャ「”それ”じゃない?」
ニート「…パソコン?」
サローニャ「ネット。あなた多分掲示板とかで荒らしかなんかでもしたんじゃない?それでお金を持ってる誰かがキレた」
ニート「はぁ!?そんな面倒な事するくらいなら管理人に連絡して焼いてもらうか何かすればいいじゃないか!」
サローニャ「知らないよ。管理人にそういう能力が無いとか、システム的にできないとかあるんじゃないの?」
サローニャ「ま、世の中色んな価値観の人が居るから。で、ネットはそういうヤバい考えの誰かさんにも簡単に繋がっちゃうからさ」
サローニャ「運が悪かったって思うしかないんじゃない?それか己の行為を悔いるとか」
ニート「そんな!見逃してくれよ!あっ、えと…あの、君カワイイよね!」
サローニャ「…キモっ。」
ニート「う…」
- 655: 2017/04/08(土) 10:15:32.07 ID:+oszGVBoO
- サローニャ「あのさぁ、確かに女の子は皆『カワイイ』って言われたら嬉しいよ?」
サローニャ「でも言われる人とか言われるタイミングとかによるし、言われ慣れてる人にはさ、『で?』なんだって」
サローニャ「その『女の子にはとりあえずカワイイって言っとけば顔をあからめて都合良く動かせる』みたいなのやめてもらえます?吐き気がするから」
サローニャ「で?荒らしたの?」
ニート「…荒らしてる…」
サローニャ「ふーん。まぁ暇そうだもんね。もっと有意義な時間と若さを使ったらいいと思うけど」
サローニャ「ちなみになんでそんなバカな事してんの?」
ニート「…なんていうか、生きてるって感じられるから」
ニート「ほら、引きこもってるから…人と会わないし。誰かと話したくなっても、その、話す相手なんて母ちゃんぐらいだし」
ニート「だから、喧嘩相手っていうか。好敵手?みたいな?」
ニート「漫画とかアニメとかでもあるだろ?主人公のライバルとか喧嘩友達みたいな仲間とか…」
ニート「僕の好きな◯◯とか…。えへへ、コレね、 サローニャ「あ、うん興味ないし聞きたくないから黙ってくれる?」
ニート「…そういう奴等と、話せるから…」
サローニャ「…ふーん」
サローニャ「けどさ、」
サローニャ「こうして私が派遣されてきたって事は」
ニート「…?」
サローニャ「画面の向こうの人達はそう思ってなかったって事だよね」
ニート「…」
- 656: 2017/04/08(土) 10:16:38.66 ID:+oszGVBoO
- サローニャ「だってそうでしょ?ただただウザいって思ってたから管理人への連絡って行程をすっ飛ばして私を派遣させたわけだから」
ニート「そ、そうじゃないよ!だっ、だってさ!このサイトは管理人がロクに仕事しない状態だから、」
サローニャ「…自分で言っててわかんない?同じだよ」
サローニャ「まぁ認めてあげるよ。あなたは可哀想な人だって」
サローニャ「別に同情とかはしてあげないけど」
ニート「…」
サローニャ「まぁでもいいんじゃない?あなたが一人この世から消えたとして、悲しむのはせいぜいあなたのお母さん一人だもの」
サローニャ「そのお母さんだってある意味では厄介払いできて楽になったってなるんじゃない?」
サローニャ「老後の貯蓄や負担とか…世間体を考えたらあなたなんて要らないもの」
サローニャ「世の中からしたら社会の標準や一定の基準に満たないような総合的人間力が無いヤツなんてさ、さっさと死んで欲しいワケだし」
サローニャ「私さ、人に迷惑とか負担しかかけなくて、誰かに何とかしてもらえるって思ってて、誰にも何にもしてあげられない人間は」
サローニャ「生きてる意味なんてないんじゃない?って思うよ」
ニート「…」
サローニャ「…ははーん?君さ、今の私の話聞かなかったでしょ」
ニート「き、聞いて、やる価値ないし…」
サローニャ「…そうやって、嫌な事があるとすぐ逃げるから」
サローニャ「そうやって、見て見ぬふりして見るべき今を客観的に見なかったから」
サローニャ「そうやって、今も今までも大事な決断する時も保留、保留でずっと逃げてきたから」
サローニャ「…だから、こうやってまた貴重なチャンスを逃すんだ」
サローニャ「せめて死ぬ前の最後くらい抵抗するか遺書を書くとかさせてくれって頼むとかすれば良かったのに」
サローニャ「結局あなたは自分の最期の形すら決めなかったんだね」
サローニャ「…ほんと。可哀想だね。」
ニート「…なら、見逃し」
サローニャ「ごめんね。私のコレはあなたのような暇つぶしじゃなくてお仕事ちゃんだから」
サローニャ「容赦なく殺すし、同情はしない」
- 657: 2017/04/08(土) 10:18:23.34 ID:+oszGVBoO
-
母「…」
母「…」
母「…ふう」
母「ごめんね。もうあなたを養えなくなったの。自分で生きられないあなたを遺して死ぬのは可哀想だから」
母「老いた私ではもう誰かに何でも頼まなきゃ出来ないから」
母「最後の愛情と思ってちょうだい」
- 658: 2017/04/08(土) 10:20:48.62 ID:+oszGVBoO
- 医者
俺は漫画よく買うんだ。
今ってさ、ネットで検索かけたら何でも出るだろ。
無料で読めるし無料で観れるし無料で知れる。
でさ、漫画とか読んでるとたまーに思うんだよな。
『あー、スゲー書き込んである絵だな』とか、努力が窺い知れるってコマ。
実際の作業をしたことはないし、リアルは知らない素人の想像なんだけどさ
アレ見てるとさ、部屋ん中引きこもってずーっと磨いた技術とか脳から搾ったアイデアとかを一生懸命アウトプットしたんだろうなーって。
そしたら思うんだよ。『このプロの仕事になら金払っても良いな』って。
プロの仕事以外に俺は金を払いたくねーんだよ。
たまにいるだろ。やる気なくダラーッて突っ立ってるだけのコンビニ店員とか、明らかにマナーとか口調に問題ありすぎな態度悪過ぎる店員とかさ。
でも漫画描いてる作家さんとかアシスタントさんは魂かけて描いてるだろ。
売れる物を描かなきゃ作家は死ぬし、その作家に給料払ってもらってるアシスタントさんは仕事や技術盗むチャンスを失うわけだから。
その擦り減らした魂の分くらいは、金を払ってもらえる価値がある仕事をしたって認められるべきだろ。
だから俺は検索かけないんだよ。だから俺はわざわざ書店で品定めして、本を買うんだよ。
さろーにゃ「そんで、自分は臓器売買するプロだとでも?」
「医者だよ。プロのな」
- 659: 2017/04/08(土) 10:21:20.96 ID:+oszGVBoO
- さろーにゃ「んー?私の認識だとー、お医者ちゃんってのは本来死ぬはずだった運命から患者の命を救って、痛みを軽減してくれる人だったんだけど」
さろーにゃ「あなたはどっちかっていうと、解体屋ちゃんじゃないかな」
さろーにゃ「だってさ、あなたが私に殺される理由ってたぶん悪質な臓器売買屋も兼業してるからでしょ?」
さろーにゃ「死んでも騒ぐ遺族が居ない人はバラバラにして売り飛ばすって」
医者「立派な医療行為だろ」
さろーにゃ「初めて知ったよ。命奪うのって医療行為なんだね」
医者「ケースバイケースだ。だってよ、遺族が居ないって事は、そいつが死んだって悲しむ人間はほとんど居ないってことだろ。」
医者「だったら、『その人が死んだら悲しむ人がいっぱいいる』って人、つまりは価値がある人間達をその臓器で救った方が」
医者「より多くの人を救えるじゃないか」
医者「それで救える命があるならそれは医者だよ。正しい事だ」
さろーにゃ「誰にとって正しいか、ってのは置いといた方がいいのかな」
さろーにゃ「…ん?という事は」
さろーにゃ「あなたのその理屈で言えば、そうやって独り身を殺すあなたを殺してこれから失われるはずだった命を守る私は」
さろーにゃ「”殺し屋”じゃなくて”医者”になるのかな?」
- 660: 2017/04/08(土) 10:27:48.89 ID:+oszGVBoO
- 上条「ちっ、何が『前書きが長い』だ」ブツブツ
上条「そんなクソどうでもいいとこつっこんでんじゃねーよハゲ」ブツブツ
上条「せめて『内容がクソ』とか言えよ。中身に言及しろっつーの」
上条「テメェは漫画開いたらカバーの作者の一言しか読まねーのかよバカ…って」ブツブツ
上条「あ?なんだよサローニャ」
上条「『なんでSSを書くようになったか?』」
上条「…この業界はさ、いつ死ぬかわかんねーだろ」
上条「誰かに何かを残しても、誰かを遺しても…全部消されちまう」
上条「無かったことにされちまう。俺の人生が、俺の生まれた意味が全部がなくなっちまう」
上条「いや、もしかしたら普通のサラリーマンであっても、学生であっても、フリーターであったとしても無かったことにされてしまうかもしれない」
上条「俺の言葉は、俺の人生は、俺の魂は、俺の無念は、」
上条「俺の、”言いたかった事”は」
上条「だから、遺すんだ。」
- 661: 2017/04/08(土) 10:28:47.97 ID:+oszGVBoO
- 上条「人は死ぬ。もしもこの世に”絶対”っていうものがあるとするなら、それはどんな奴でもいつか必ず死ぬという事だろ」
上条「俺も、お前も。お前の親も祖父母も兄弟も恋人も友達も親戚も。」
上条「人は、死ぬ。必ず死ぬ。例外はなしだ」
上条「だから、俺が生きていた証を、俺が普段恥ずかしくて誰にも話せなかった、世界に向けて、『世界に対して言い足りない事』を遺すんだ」
上条「俺のSSはな、全部遺言なんだよ。不特定多数に向けた、俺の遺書なんだ」
上条「そしたらさ、そうやって残せば、きっと少しは俺の生きた証がこの世に残るだろ。」
上条「俺がその内死んでも、ネットに一度書き込んだ事は半永久的に消えない」
上条「俺の遺言を読んだ奴がまた新しく何かを、人を感動させられるような素晴らしい何かを創ってくれるかもしれない」
上条「絵でも小説でもSNSの書き込みでもブログでも」
上条「誰かの記憶に、誰かの人生に、誰かの心に、俺の言葉が残るだろ」
上条「虎は死して皮を残し、人は死して名を残す」
上条「だから、俺は残すんだよ」
上条「虎は死んだら皮を残して、人は死んだら名を残して、」
上条「俺は死してSSを残すんだよ」
- 662: 2017/04/08(土) 10:37:46.26 ID:+oszGVBoO
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犬養「巨乳ぅぅうううーー!!!大好きーーー!!!!」レロレロレロレロ!!
犬養「女子高生最高ォォオオォォオオ!!!!!」
オパーイオパーイオパーイオパーイ!!!
観衆「「「「 」」」」
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上条「お?朝刊に載ってんな」
サローニャ「?」
上条「ほら、今スゲー人気の統括理事会員候補の、」ガサッ
サローニャ「犬養?」
上条「そう。選挙カーで演説中に突然脈絡なく『巨乳大好きー!』って叫んだんだってよ」
サローニャ「業者かな?それともイカレたか能力者ちゃんか魔術師ちゃんか」
上条「機械かもな。ま、何にせよあまりあいつのイメージダウンにはなってねーみたいだけど」
サローニャ「ええ?意外だねぇ」
上条「『逆に親しみ持てた』『犬養のキャラじゃないから誰か精神系能力者の仕業だな』だってよ」
サローニャ「日頃の行い、だねぇ」
上条「案外コイツ将来総理大臣とかになったりしてな」
- 663: 2017/04/08(土) 10:40:29.70 ID:+oszGVBoO
- おしまい。本編にどうしても組み込めなかった話でした。
依頼出してキマース
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