武内P「トライアドの皆さんと、ですか」
- カテゴリ:アイドルマスター シンデレラガールズ
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- 224: 2018/01/10(水) 21:51:25.07 ID:oWHtUYR3o
- 凛「うん、収録について来て欲しい」
加蓮「って、奈緒がどうしてもって」
奈緒「あたし!?」
武内P「そう、なのですか?」
奈緒「違うから! ああいや、違うけどそうじゃなくて……!?」
凛・加蓮「……」ニヤニヤ
奈緒「お前らなー!」
- 225: 2018/01/10(水) 21:54:27.72 ID:oWHtUYR3o
- 凛「まあ、奈緒をからかうのはこのくらいにして」
加蓮「居てくれると助かるなー、って思って」
奈緒「あたし達、こういう収録って初めてでさ……」
凛「私はニュージェネでやった事ある仕事だけど、ね」
加蓮「お願い、出来ますか?」
奈緒「お願いしますっ! どうしても、成功させたいんだ!」
武内P「……わかりました。スケジュールを調整してみます」
- 226: 2018/01/10(水) 21:56:40.49 ID:oWHtUYR3o
- 武内P「収録は、歌番組でしたね」
凛「うん。だから、プロデューサーが鼻をかんでくれないと困る」
加蓮・奈緒「……ん?」
武内P「確かに、その通りです」
凛「でないと、歌声がネバネバになっちゃうから」
加蓮「あの……凛?」
奈緒「なんか……おかしくないか?」
凛「? 何が?」
加蓮・奈緒「……!?」 - 227: 2018/01/10(水) 21:58:59.64 ID:oWHtUYR3o
- 加蓮「あのさ……いつも鼻をかんでもらってるの?」
凛「そんなわけないでしょ」
奈緒「だ、だよな! あたし達の聞き間違いだよな!」
凛「歌う前だけ。そこまで迷惑かけられないし」
加蓮・奈緒「!?」
武内P「私は、迷惑だと思ったことはありませんが……」
凛「……そう?」
武内P「はい」
加蓮・奈緒「……」 - 228: 2018/01/10(水) 22:02:08.24 ID:oWHtUYR3o
- 加蓮「鼻をかむって……えっと、何かの例え?」
凛「例え?」
奈緒「ほ、ほら! 鼻の通りを良くするための、何かとか!」
凛「? 普通に、こう、チーンってかんでもらってるけど?」
加蓮「……冗談じゃ」
凛「無いってば。もう、しつこいよ二人共」
奈緒「なんでそんなに当たり前の事みたいに振る舞えるんだよ!?」
凛「えっ? だって、普通の事でしょ」
加蓮・奈緒「……!?」 - 229: 2018/01/10(水) 22:04:38.93 ID:oWHtUYR3o
- 加蓮「あの……本当にやってるんですか?」
武内P「はい。渋谷さんが歌う前は、いつも」
奈緒「いつもあたしをからかう割に、そんな事してたのかー!」
凛「当たり前でしょ。アイドルなんだから」
加蓮・奈緒「……は?」
武内P「ファンの前でアイドルが輝けるようにするのが、プロデューサーですから」
加蓮・奈緒「……」
加蓮・奈緒「……はい?」 - 230: 2018/01/10(水) 22:07:19.72 ID:oWHtUYR3o
- 加蓮「もしかして、シンデレラプロジェクトでは……」
奈緒「そんなのが、当たり前に行われてる……?」
武内P「はい、勿論です」
加蓮・奈緒「勿論です!?」
凛「二人も、何かしてもらったら?」
加蓮「えっと……何かって、何?」
奈緒「あたしも鼻をかんでもらえって!? ヤだよ!」
武内P「そうですね……お二人の場合でしたら……」
加蓮・奈緒「!?」 - 231: 2018/01/10(水) 22:13:58.35 ID:oWHtUYR3o
- 武内P「まず、北条さんの場合ですが――」
加蓮「えっ……ええっ?」
武内P「あまり、体が強くない方だと聞いています」
加蓮「そ、そう……だけど」
武内P「なので、当日までの体調管理は勿論ですが」
加蓮「……」
武内P「当日も、すぐに支えられるように控えていようと思います」
加蓮「それは……うん、ちょっと良いかも」
凛「でしょ?」
奈緒「……」 - 232: 2018/01/10(水) 22:17:45.59 ID:oWHtUYR3o
- 奈緒「そ、それじゃあ、あたしの場合は?」
武内P「そうですね、神谷さんの場合ですが――」
奈緒「……」
武内P「髪の毛のセットが乱れやすそうなので、その点のケアを」
奈緒「おお……それはちょっと嬉しいな」
武内P「当日は、より一層キリリと力強い眉毛になるようサポートしたいと思います」
奈緒「なんだそのサポート!?」
凛「ふーん。悪くないかな」
加蓮「やったじゃん、奈緒」
奈緒「やってないからな!?」 - 233: 2018/01/10(水) 22:20:34.95 ID:oWHtUYR3o
- 奈緒「眉毛のサポートって、何!?」
武内P「それは……言葉で説明するのは、難しいですね」
凛「今、実際にやってあげたら良いんじゃない?」
奈緒「は!?」
加蓮「あー、それは先に見ておいた方がいいかもね」
奈緒「おい! 他人事だと思ってテキトーな事言うなよな!?」
武内P「……わかりました。お二人が、そう仰るのでしたら」
奈緒「あたしの意見を聞いてなくない!?」 - 234: 2018/01/10(水) 22:24:45.25 ID:oWHtUYR3o
- 武内P「それでは神谷さん、目をつぶっていただけますか?」
奈緒「目をつぶるって……な、何する気だよ!?」
武内P「眉を触るので、目を開けていては危険ですから」
奈緒「ま、眉を触るって……」
凛「奈緒、言う通りにした方が良いよ」
奈緒「で、でも……!?」
加蓮「ほら、早く」
奈緒「……くっそー! 覚えてろよな!?」 - 235: 2018/01/10(水) 22:27:06.16 ID:oWHtUYR3o
- 奈緒「……は、はい。目、つぶったけど」
武内P「では、失礼します」
さわさわっ…
奈緒「う……うぅ……///」
凛「奈緒、顔が真っ赤だよ」
加蓮「大丈夫、キスされる訳じゃないんだし」
奈緒「余計な事言うなって!///」
武内P「――では、行きます」
奈緒「……へっ?」
武内P「プロデュゥゥゥス!」
シャランラ~
- 236: 2018/01/10(水) 22:31:32.23 ID:oWHtUYR3o
- 加蓮「えっと……今の掛け声、何?」
凛「大丈夫、いつもの事だから」
加蓮「……」
武内P「……どうですか、神谷さん」
武内P「……いえ、」
神谷13「……どう、って言われても」キリリッ
武内P「神谷13(サーティーン)さん」
凛「凄いね奈緒……いや、神谷13。これなら、仕事は失敗しなさそう」
加蓮「……」
加蓮「!?」 - 237: 2018/01/10(水) 22:35:22.90 ID:oWHtUYR3o
- 神谷13「そ、そうか? 自分では、よくわからないんだけど……」キリリッ
加蓮「髪型をセットって言うか、角刈りにセットされてるよ!?」
神谷13「? 何言ってるんだよ、前からだろ?」キリリッ
加蓮「!?」
神谷13「お礼は……スイス銀行に振り込めばいいのかな?」
武内P「いえ、お気持ちだけ頂いておきます」
神谷13「そっか……じゃあ、一回だけ後ろに立っても見逃す事にするよ!」
武内P「はい、ありがとうございます」
加蓮「……!?」 - 238: 2018/01/10(水) 22:39:22.61 ID:oWHtUYR3o
- 凛「……ついでだから、私も鼻をかんでもらおうかな」
武内P「渋谷さん?」
神谷13「おいおい凛~? まさか、独占欲か~?」
凛「違うから。そんなんじゃないって」
加蓮「待って凛! 鼻をかむのは、普通なんだよね……!?」
凛「普通じゃない鼻の噛み方って、何それ」ケラケラ
加蓮「そう、だよね……」
武内P「――では、失礼します」
凛「……んっ」
武内P「プロデュゥゥゥス!」
シャランラ~ - 239: 2018/01/10(水) 22:43:28.05 ID:oWHtUYR3o
- 加蓮「また……あの掛け声……!?」
凛「……」
加蓮「凛、大丈夫なの……!?」
凛「……あ」
凛「あ~~~……!」ガクガクッ!
ズルリッ!…ボトッ!
加蓮「い、いい、いやあああ!? 何それ!? 何それ!?」
武内P「鼻水です」
加蓮「量がおかしい! なんか体が痙攣してるし!?」
武内P「しかし、これで彼女の歌声はより美しくなります」
加蓮「……!?」 - 240: 2018/01/10(水) 22:47:59.00 ID:oWHtUYR3o
- 凛「……うん、スッキリした」
加蓮「ほっ、本当にちょっと声が綺麗になってる……!?」
凛「でしょ?」
奈緒「……あれ? あたし、何でここに居るんだっけ?」
加蓮「! 奈緒、正気に戻ったの!?」
武内P「今回は試し、という事で時間は短めにしておきましたから」
加蓮「……!?」
凛「奈緒、どうだった?」
奈緒「なんだかよくわからないけど……調子が良い気がする!」
加蓮「……!?」 - 241: 2018/01/10(水) 22:53:00.77 ID:oWHtUYR3o
- 奈緒「おい、どうしたんだよ加蓮!? 顔が真っ青だぞ!?」
加蓮「いや、これは……」
武内P「!? いけません! すぐ、ソファーに横に!」
凛「プロデューサー! 膝枕して!」
加蓮「それはいらない! って……ああ、大声出したら……」
武内P「どうぞ、北条さん!」
加蓮「……はい、失礼します」
奈緒「大丈夫か、加蓮……」
加蓮「……悔しいけど、案外悪くない」 - 242: 2018/01/10(水) 22:58:45.72 ID:oWHtUYR3o
- 凛「……プロデューサー、お願いがあるんだけど」
武内P「はい、何でしょうか」
奈緒「加蓮にも、さっきあたし達みたいにした風に!」
加蓮「……やめて……! 本当にやめて……!」
武内P「ですが……」
凛「逃げないでよ! アンタ、プロデューサーでしょ!?」
武内P「!」
奈緒「お願いします!」
武内P「……わかりました。お二人が、そう仰るのでしたら」
加蓮「……いや……! やめ――」
武内P「プロデュゥゥゥス!」
シャランラ~ - 243: 2018/01/10(水) 23:06:17.43 ID:oWHtUYR3o
- ・ ・ ・
専務「先日の収録の付き添い、ご苦労だった」
武内P「いえ、当然のことをしたまでです」
専務「結果的には、成功だったと言えるでしょう」
武内P「何か、ご不満が?」
専務「神谷奈緒くんが、報酬はスイス銀行に振り込むよう言ってきました」
武内P「良い、狙撃です」
専務「北条加蓮くんが、報酬は全てプロテインでと言ってきました」
武内P「良い、筋肉です」
専務「彼女達の個性を伸ばし、欠点を補った、と言う事ですね」
武内P「はい。皆さん、とても良い笑顔でした」
専務「……」
専務「優秀過ぎるのも考えものだな」
おわり - 247: 2018/01/10(水) 23:23:05.26 ID:oWHtUYR3o
- 346プロのTさんか、やってみます
- 248: 2018/01/10(水) 23:42:08.09 ID:oWHtUYR3o
-
私には、悩みがあります。
結婚をしていた事も無いのに、未亡人の様に扱われるのです。
プロデューサーさんには、「儚げな色気がある」と言われます。
けれど、初めて出会った大切だと思える人にそう思われるのは、とても、複雑です。
「あっ、あそこに居るの、アイドルの三船美優さんじゃない?」
「ホントだ。まるで、ここまで未亡人の儚げな色気が漂ってくるみたいだ」
街を歩くと、いつもこう言われてしまいます。
褒められているのはわかっているし、悪気は無いともわかるんです。
……それでも、未亡人扱いされるのは、悲しいです。
だって、私の大切な人は、今も生きて、私に笑いかけてくれているのに……!
「笑顔です!!」
唇を噛み締め俯いていた私は、突然かけられた低い男性の声にハッと顔をあげました。
この方は、確かシンデレラプロジェクトの、プロデューサーの……。
それに、今の言葉は、一体?
「貴女の大切な方に……そして、ファンの方達に向けるのは、その表情で良いのでしょうか?」
私は、ハッとなりました。
確かに、私は未亡人の色気があるとも言われますが、あの人にいつも褒められるのは、笑顔。
あの人と一緒に居ると自然に出る、笑顔を褒められていたと、思い出しました。
そんな大切な事を思い出させてくれた男性は、警察の方から職務質問を受けています。
私はまず、その男性に向けて、思い出させてくれた笑顔を向けました。
「良い、未亡人の様な笑顔です」
やっぱりプロデューサーって凄い、私は改めてそう思いました。 - 249: 2018/01/11(木) 00:01:46.19 ID:TYMGDyEUo
-
「はぁ……」
いつになったら、スプーン曲げ以外の超能力が身につくんだろう。
サイキックアイドルとして売り出しているのに、このままじゃ駄目だ。
今の状態が続けば、エスパーユッコじゃなく、スプーンユッコと呼ばれてしまう。
「ムムム……!」
離れた所にあるスプーンに向けてサイキックを飛ばしてみる。
だけど、何度練習してもスプーンが浮き上がる事はない。
今度こそは、今度こそはと思っているのに。
「これが成功しなかったら……」
もう、サイキックアイドルは卒業しよう。
これからは、スプーン曲げアイドルとしてやっていこう。
そう思い、サイキックを飛ばした瞬間、ドアが物凄い勢いで開き、大柄な男性が!
あの人は、シンデレラプロジェクトの、プロデューサーさん!
「笑顔です!!」
プロデューサーさんはそう叫ぶと、スプーンを手に取り、真っ二つに引きちぎりました。
「堀さん。私は、貴女のサイキックアイドルとしての輝きは素晴らしいと、そう考えます」
私の目の前に、コトリ、コトリと二つに分かれたスプーンが置かれました。
これは……私の超能力が、この超筋力を呼び寄せたという事ですね!?
「良い、さいきっく笑顔です」
やっぱりプロデューサーは凄い、サイキックそう思いました。 - 253: 2018/01/11(木) 01:33:10.71 ID:cLqej5pSo
- そのうち変身でもしそうだ
- 254: 2018/01/11(木) 13:38:54.31 ID:TYMGDyEUo
- 変身、書きます
- 255: 2018/01/11(木) 13:49:11.33 ID:TYMGDyEUo
-
「渋谷さん、お疲れ様でした」
LIVEが終わってステージ裏に戻ると、真っ先にプロデューサーが声をかけてきた。
まだ会場は興奮冷めやらぬようで、ざわめきがこちらまで届いてくる。
「どうだった?」
こうやってプロデューサーに感想を聞くのは、いつものこと。
だけど、この人はいつも決まってこう言う。
「はい。とても素晴らしい、良いLIVEでした」
「……ん」
今回のLIVEは、私だけのソロLIVE。
少し緊張したけど、プロデューサーが見ていてくれたから、不安は無かった。
だって、私が見ていてって言ったのに、かっこ悪い所は見せられないし、ね。
「きゃあああああっ!?」
「うわあああああっ!? なんだ、このバケモノは!?」
そんな私達の耳に、明らかに、普通とは思えない叫び声が飛び込んできた。
何か、あったのかな?
それに、バケモノって……一体、何のこと?
「――渋谷さん。すぐに、避難を」
プロデューサーは、真っすぐにステージに向かいながら、背中越しに言った。
その歩みには一切の淀みが無く、まるで、何かを察しているかのよう。
「避難って……アンタ、どこへ行く気!?」
避難するなら、そっちじゃないでしょ!?
「私は……プロデューサーですから」
何それ……全然答えになってない! - 256: 2018/01/11(木) 14:03:35.16 ID:TYMGDyEUo
-
「意味がわからない! プロデューサーだから、何なの!?」
必死でプロデューサーに追いすがり、スーツの上着を掴んだ。
すると、プロデューサーはこちらを見ることなく、首筋に手をやり、言った。
「今回のLIVEは、とても素晴らしいものでした」
そんなの、関係無い。
だって、わからないけど……会場では、絶対に変なことが起きてる。
それなのに、アンタがそこに向かう理由は何なの?
「ちゃんと説明して!」
「その、素晴らしいLIVEを最後まで見届けるのが、私の役目です」
プロデューサーは、ゆるんだ私の手を振りほどき、また歩みを進めた。
「助けて! 誰か、誰かあああああ!」
「うわあああああ! 来るなっ、来るなあああああっ!」
待って。
待って、待って、待って、待って!
「……渋谷さんは、避難を早く」
低い、いつもの声がより一層低くなった。
「……逃げないでよ!」
逃げようよ、一緒に!
アンタ、私のプロデューサーでしょ!?
「逃げるのでは、ありません」
プロデューサーは、上着のボタンをプチリプチリと外し、上着を翻した。
「戦うのが、プロデューサーの務めです」
その腰元では、大きな銀色のベルトが、輝きを放っていた。 - 257: 2018/01/11(木) 14:18:21.87 ID:TYMGDyEUo
- ・ ・ ・
「助けて……! 誰か……誰か……」
「うああ……力が……力が入らない……」
LIVE会場は、ひどい有様だった。
会場の一角を中心に張り巡らされた、白い巨大な糸。
それに捕らえられた人達は身動きすら出来ず、助けを求め続けている。
「――アナタが、これを?」
プロデューサーが、白い巨大な糸の中心に立つ影に問いかけた。
その影は人の形をしているが、シルエットが似ているというだけで、明らかに違う。
「SYAAAAAAAAAA!!」
影――クモの異形の怪人は、此処は自分の巣だと言うように、咆哮した。
耳をつんざくようなその咆哮は、ビリビリと会場を震わせる。
それを聞いた、捕まった人達の上げた悲鳴が、絶望をより加速させていく。
「申し訳、ありません。今すぐに、お引き取り願います」
しかし、プロデューサーはそれを何一つ意に介さず、平坦な口調で言い放った。
クモの怪人は、ひるまなかったその様子が気に食わなかったのか、
シュルシュル、獲物を前に舌なめずりするかの様な音を上げた。
「聞き入れては、貰えませんか?」
プロデューサーの、再度の問いかけ。
「SYAAAAAAAAAA!!」
クモの怪人は、それに咆哮で応えた。
「……」
プロデューサーは、右手を首筋にやると、少し困ったような顔をした。
「――それでは、少し強引な手段をとらせていただきます」 - 258: 2018/01/11(木) 14:36:36.47 ID:TYMGDyEUo
-
強引な手段?
こんな、異形のバケモノを相手に、一体何が出来るというのか。
悪夢の宴を終わらせられるような何かが、彼に出来るというのか。
「……」
プロデューサーは、右のポケットからスマートフォンを取り出した。
そして、ホームボタンを素早く三回押し、画面を起動。
流れるように、暗証番号を画面を見ずに打ち込んでいく。
――3――4――6!
『LIVE――』
スマートフォンから、どこかで聞いたことのある女性の声が聞こえた。
プロデューサーは、スマートフォンを銀色のベルトにかざし、
「変身ッ!」
言った。
『――START!』
彼の体を光が包み込んでいく。
光の粒子はやがて形を成していき、プロデューサーに鎧を纏わせた。
鎧は黒を基調としたもので、所々白い箇所もあり、まるでスーツのよう。
すっぽりと全身を覆うその鎧の胸元では、
ピンクと、ブルーと、イエローの宝石のような物が輝きを放っている。
プロデューサーが今、どんな顔をしているのかは、
目付きの悪いぴにゃこら太のようなフルフェイスに覆われ、見ることは出来ない。
「……」
だけど、きっと、いつもの無表情に違いない。 - 260: 2018/01/11(木) 14:54:30.90 ID:TYMGDyEUo
-
「SYAAAAAAAAAA!!」
明らかに、クモの怪人の空気が変わった。
圧倒的捕食者の立場だと思っていたが、目の前の男は違う。
この男は、ただ逃げ惑い、食われるだけのウサミン星人では、無い。
「SYAAAA!!」
クモの怪人は、人間では……いや、生物ではあり得ない跳躍を見せた。
数メートル程高く跳び上がったクモの怪人は、
放物線の軌道を描き、プロデューサーへ向けて異形の右腕を振り下ろそうとした。
が、
「善処します!」
プロデューサーは腰を落とし、真正面からそれを拳で迎撃。
ぶつかり合う右腕と右腕。
しかし、両者にもたらされたのは、あまりにも違いすぎる結果。
「GYAAAAAAA!?」
クモの怪人の右腕は有り得ない方向に折れ曲がり、
「……」
一方、プロデューサーの纏う鎧には傷一つなく、拳を放った体勢から微動だにしていない。
「GURYUUUUU……!」
クモの怪人は、折れた自分の右腕に糸を巻きつけ、固定。
しかし、先程までの勢いは完全に削がれていて、ジリジリとその足を後退させている。 - 261: 2018/01/11(木) 15:12:37.71 ID:TYMGDyEUo
-
「……勝てる」
プロデューサーなら、あのクモの怪人に勝てる。
そう思った瞬間、私の口から思わず言葉が漏れた。
「!?」
「!」
私の声に、反応が二つ。
一方は、鎧を纏ったプロデューサー。
そしてもう一方は、
「SYAAAAAAAAAAA!!」
クモの怪人だった。
「っ!?」
クモの怪人の8つの目全てが、私を捉える。
本能的な恐怖から足がすくみ、逃げようと思っても足に力が入らない。
それでも逃げなければと思い足を動かそうとしてみたものの、その場で尻もちをついてしまう。
「SYAAAAAAAAAAA!!」
クモの怪人は、咆哮と共に口から液体を私に飛ばしてきた。
あれは、消化液だ。
吐き出した時に散った飛沫が落ちた床が、ジュウジュウと音を立てて溶け出している。
それをスローモーションの様に確認出来るのは、私に消化液が――死が迫っているからか。
「――っ!」
理由が何にせよ、私は、あれを体に浴びて、終わる。
万に一つ命が助かったとしても、アイドルを続けるのは絶望的だろう。
……ごめんね、皆。
私、アイドル続けられなくなっちゃうよ。
「――ぐおおおおおっ!?」
だけど、そんな私を守る、一つの影があった。 - 262: 2018/01/11(木) 15:26:35.78 ID:TYMGDyEUo
-
「――渋谷さん、お怪我はありませんか?」
なんで。
「アンタ……私をかばって……?」
なんで。
「見たところ、異常は無いようです。ですが、この後、医務室に――」
「私じゃなくて! 今、大変なのはアンタでしょ!?」
「……」
プロデューサーの背中から、ジュウジュウと何かが溶ける音が聞こえてくる。
この人は、私をあの消化液からかばって、こうなった。
それなのに、いつもみたいに右手を首筋にやって、私を見て困っている。
「……渋谷さん」
そして、
「笑顔です」
いつもの台詞を口にする。
「笑顔って……そんなの、出来っこない!」
自分を庇って傷ついた人に向けて笑顔なんて、出来ない!
この状況で笑ってられるのが、アイドルだって言うの!?
「……私は、貴女の笑顔を見続けて行こうと思っています」
プロデューサーは、立ち上がり、私に背を向けた。
「今までも――」
振り返らず、
「――そして、これからも」
前を向いて。 - 263: 2018/01/11(木) 15:45:18.66 ID:TYMGDyEUo
-
「ふっ――!」
プロデューサーが、クモの怪人に向かって駆け出す。
背中からあがる煙を置き去りにするかの様な速度に、クモの怪人は反応出来ない。
「――企画!」
「GYAAAAAA!?」
『Cute!!』
ピンク色の光を纏ったプロデューサーの拳が、クモの怪人の腹部に突き刺さった。
よろめくクモの怪人の頭部に、
「――検討中です!」
「GYUUUUUU!?」
『Passion!!』
今度は、イエローの光を纏った拳が突き刺さる。
「GUUU……OOOOOOOOOO!!!」
クモの怪人はひるみながらも、両手を振り上げ、プロデューサーに襲いかかった。
その攻撃は、正に命を賭したもの。
「……」
『CoooooooooooL!!!』
ブルーの光を纏った、プロデューサーの右足。
その右足が高く振り上げられ、クモの怪人に叩き込まれた。
「せめて!」
断末魔の叫びを上げながら、クモの怪人は光の粒子となって消えていく。
「……名刺だけでも」
『LIVE SUCCESS!!』 - 265: 2018/01/11(木) 16:12:07.54 ID:TYMGDyEUo
- ・ ・ ・
「……なんかさ、最近しぶりん」
「?」
プロジェクトルームでゆっくりしていたら、未央にしては珍しく歯切れ悪く切り出してきた。
視線を向けてみるものの、続く言葉が来ない。
もう、一体何? 途中でやめられると、気になるんだけど。
「凛ちゃん……その、ですね」
「卯月までどうしたの」
二人共、なんでそんなに言いにくそうにしてるの。
もしかして、気付かない内に何か二人にしてた?
「ぷっ、プロデューサーと……!」
「……みょ、妙に仲が良くないですか!?」
二人の予想外の言葉に、驚く。
冗談やお巫山戯でない、二人の真剣な様子がおかしくて、クスリと笑いが溢れる。
「そう?」
「そうだよ! 何か、この前のソロLIVEの後から何か違うもん!」
「はい! 明らかに、こう、距離が近くなったように見えます!」
「そうかな。自分では、よくわからないけど」
距離が近くなった、とは少し違うかもしれない。
私は、二人の知らない、プロデューサーの秘密を知っているだけだ。
もしかしたら、この二人もいつかはそれを知る事になるのかもしれない。
だけど、口止めされてるし、変に怖がらせる必要は無いよね。
「白状しなさい、しぶりんや! ソロLIVEの時、何があったのか!」
「教えてください、凛ちゃん! まっま、ま、まさか……!?」
ごめんね、未央、卯月。
今は、まだ――
「内緒」
おわり - 268: 2018/01/11(木) 20:04:41.19 ID:TYMGDyEUo
- これ書いてて楽しいので続けます
- 269: 2018/01/11(木) 20:15:43.44 ID:TYMGDyEUo
-
「「「私達、ピンクチェックスクールを――」」」
大勢の記者さんに向けて、三人でせーのと掛け声を合わせ、
「「「よろしくお願いしますっ♪」」」
精一杯の笑顔で、挨拶しました。
練習通り、いえ、練習以上にうまくいったので、とっても嬉しいです。
降り注ぐフラッシュとシャッター音の中、私は美穂ちゃん、響子ちゃんに笑いかけました。
「「「……エヘヘ」」」
二人共同じ様に感じていたのか、自然と三人で笑い合う形に。
私は今、階段を駆け上がっている最中です。
皆と……そして、この二人とも一緒に。
「……」
そして、私をアイドルにしてくれた、プロデューサーさんと一緒に。
そう思うと、会場の隅で控えているプロデューサーさんに自然と目が行きます。
いつも通りの黒いスーツに、無表情。
背が高いから、探さなくてもすぐにわかりました。
プロデューサーさん、私、今、とっても楽しいで――
「うわあああああっ!?」
「なんだ!? コウモリが急に……あっ、あああああっ!?」
――会場に響く、大きな悲鳴。
明らかに普通ではないその様子に、私達は顔を強張らせました。 - 270: 2018/01/11(木) 20:30:43.05 ID:TYMGDyEUo
-
記者さん達の居る所から、キーキーという鳴き声が聞こえてきます。
その鳴き声はどんどん増え、一瞬の静寂の後……ブワリと、コウモリが飛び立ちました。
会場中を埋め尽くす程の大量のコウモリの群れに、沢山の悲鳴。
全員、パニックに陥っていました。
「なっ、ななな、何あれ……!?」
当然、私達も平気ではいられませんでした。
何か、とんでもない事が起こっているのはわかります。
だけど、どうしたら良いか、わかりません。
美穂ちゃんも響子ちゃんも、ガタガタと体を震わせています。
「――皆さん、すぐに避難を」
だけど、私は怖くありませんでした。
「プロデューサーさんっ!」
だって、こちらに向かってくる、プロデューサーさんが見えていたから。
私はプロデューサーさんの元に駆け寄り、聞きました。
「あ、あのっ! 何か、出来ることはありませんか!?」
私の口を突いて出たのは、そんな言葉でした。
こんな状況で、私達に出来る事なんて無いのはわかってます。
だけど、記者さん達は、私達のために集まってくれたんです。
だから、せめて、何か……!
「……」
プロデューサーさんは、困ったように笑いながら、右手を首筋にやりました。
呆れてます、よね。
でも、だけど、私は……プロデューサーさんが選んでくれた、アイドルだから――!
「笑顔です」
プロデューサーさんは、上着のボタンをプチリプチリと外し、上着を翻し言いました。
その腰元では、大きな銀色のベルトが、輝きを放っています。 - 271: 2018/01/11(木) 20:44:11.85 ID:TYMGDyEUo
- ・ ・ ・
「あ……うあ……!」
「……誰か……助け……」
コウモリに襲われた記者さん達が倒れています。
よく見ると、その体にはコウモリに噛まれた痕があり、とても痛そうです。
その中心に、一つだけ立つ、大きな影。
「――申し訳ありません。今は、会見の最中です」
プロデューサーさんの靴音が、カツリカツリと聞こえます。
他にも音がするのに、何故か、プロデューサーさんの声がハッキリと聞こえるんです。
「KYUUUUUUUAAAA!!」
大きな影――コウモリのような姿をした怪人が、その両手を大きく広げました。
そうしただけなのに、腕と体を繋ぐような形の翼が、その怪人の姿をとても大きく見せます。
プロデューサーさんも大柄だけど、それよりももっと大きく。
実際、コウモリの怪人はプロデューサーさんよりも大きいから、余計に大きく感じます。
「今すぐに、お引き取りを」
表情を変えず、プロデューサーさんが言い放ちました。
私は、その背中をただ遠くから見ているだけ。
ただそれだけなのに、その背中が、とても頼もしく見えました。
「KYUUUUUOOOO!!」
コウモリの怪人が、そんなプロデューサーさんを威嚇するように吠えました。
「……」
話の通じる相手ではないと、プロデューサーさんもわかっていたようです。
それでも声をかけたのは、何か理由があったのかもしれません。
プロデューサーさんは、右手を首筋にやり、少し困った顔をしていました。
「――それでは、少し強引な手段をとらせていただきます」 - 272: 2018/01/11(木) 20:50:51.32 ID:TYMGDyEUo
-
「……」
プロデューサーさんは、右のポケットからスマートフォンを取り出しました。
そして、ホームボタンを素早く三回押し、画面を起動。
流れるように、暗証番号を画面を見ずに打ち込んでいきます。
――3――4――6!
『LIVE――』
スマートフォンから、どこかで聞いたことのある女性の声が聞こえました。
こういうの、ええと、複合音声って言うんでしたっけ。
プロデューサーさんは、スマートフォンを銀色のベルトにかざし、
「変身ッ!」
言いました。
『――START!』
その体を光が包み込んでいきます。
光の粒子はやがて形を成していき、プロデューサーさんに鎧を纏わせました。
鎧は黒を基調としたもので、所々白い箇所もあって、まるでいつものスーツ姿のようです。
すっぽりと全身を覆うその鎧の胸元では、
ピンクと、ブルーと、イエローの宝石のような物が輝きを放っています。
プロデューサーさんが今、どんな顔をしているのかは、
目付きの悪いぴにゃこら太のようなフルフェイスに覆われ、見ることは出来ません。
「……」
だけど、きっと、いつもの無表情に違いありません。 - 273: 2018/01/11(木) 21:01:15.29 ID:TYMGDyEUo
-
「KYUUUUUUOOOOOO!!」
コウモリの怪人が、変身したプロデューサーさんを威嚇しています。
だけど、プロデューサーさんはそれを気にせず、カツカツと歩みを進めます。
「KYUUUU!!」
コウモリの怪人の叫び声に命令されたかのように、
大量のコウモリが一斉にプロデューサーさんに襲いかかりました。
危ない! と、そう思った次の瞬間、
「善処します!」
プロデューサーさんは体を翻し、
襲い来るコウモリ達をチョップで全て叩き落としました。
叩き落とされたコウモリ達は、
地面に落ちると同時に、光の粒子となって消えてしまいました。
「KYUUUOOOO……!」
コウモリの怪人がそれに驚いたのが、私にもわかりました。
「……」
プロデューサーさんは、また、カツカツとコウモリ怪人へ向かって歩みを進めます。
「KYUAAAAAAA……!」
まるで、来るなと言うようなコウモリ怪人の鳴き声。
けれど、それを聞いてもプロデューサーさんの歩みは止まりません。
- 274: 2018/01/11(木) 21:13:39.82 ID:TYMGDyEUo
-
「……凄い……あれ、あれ、あのまま倒せちゃいそう!」
「シンデレラプロジェクトの、プロデューサーさん……凄いです!」
美穂ちゃんも響子ちゃんも、目を輝かせています。
勿論、私もプロデューサーさんから目が離せません。
「KYUUUUUUOOOOOO!!」
だけど、そんな私達にコウモリ怪人が目を付けたようです。
今までよりもひときわ大きな声で鳴くと、
コウモリの大群が、一斉にこちらに向かってきます。
「「ひっ!?」」
それを見て、二人共悲鳴を上げました。
だけど、私は表情を変えません。
だって、プロデューサーさんは私に言ったんです。
――私に出来るのは笑顔だ、って。
「――皆さん、お怪我はありませんか?」
いつの間にか私達の前に立ちふさがった、大きな背中。
その背中越しに聞こえるのは、いつもより優しい口調の声。
「はいっ♪」
島村卯月、笑顔で頑張りました!
この笑顔……背中越しでも、届いてますか? - 275: 2018/01/11(木) 21:25:14.06 ID:TYMGDyEUo
-
「プロデューサーさんが、守ってくれるって信じてました」
プロデューサーさんの足元から、キラキラと光の粒子が舞い上がっています。
こんな状況でちょっと不謹慎かも知れません。
だけど、それがとっても綺麗で、私はドキドキしちゃいました。
「……」
右手を首筋にやると、プロデューサーさんはコウモリ怪人に向かって駆け出しました。
それがなんだか照れて逃げ出す子供みたいに見えたのは、気のせいでしょうか。
「KYUUUOOOOOO!!」
コウモリの怪人が叫びながら、その手をプロデューサーさんに叩きつけます。
だけど、鎧には傷一つつく事なく、二つの影の距離はゼロになり、重なりました。
「アイドルには手を触れないでください!」
プロデューサーさんが叫びました。
その声は、今まで聞いたことのない、怒った声です。
「――企画!」
「KYUUUUOOO!?」
『Cute!!』
ピンク色の光を纏ったプロデューサーさんのパンチが、コウモリ怪人のお腹に突き刺さります。
「――検討中です!」
「KYUUUAAAA!?」
『Cute!!』
そして、続けざまに、またピンク色の光が軌跡を描き、同じ箇所に叩き込まれます。 - 277: 2018/01/11(木) 21:44:46.23 ID:TYMGDyEUo
-
「KYUUUOOOOO……!」
コウモリの怪人は、その体を大きくよろけさせました。
そして、プロデューサーさんからは見えないように、でしょうか。
背中から、小さなコウモリが飛び立ちました。
「……」
『Cuuuuuuuuuute!!!』
今までよりも、一際大きなピンクの光を纏った、プロデューサーさんの右手。
『Groove!!!』
その右手が真っ直ぐに突き出され、コウモリ怪人のお腹にパンチ。
「せめて!」
コウモリ怪人は何一つ言葉を発する事無く、光の粒子になって消えていきます。
「……名刺だけでも」
『LIVE SUCCESS!!』 - 278: 2018/01/11(木) 21:57:15.33 ID:TYMGDyEUo
- ・ ・ ・
「おかしい!」
未央ちゃんが、テーブルをダンッと叩き叫びました。
それにビックリして変な声が出ちゃいました……うぅ、恥ずかしいです。
「どうしたの未央、急に大声出して」
「ごっ、ごめん」
「気をつけてよね」
「うん、気をつける……じゃなくって!」
凛ちゃんが注意してくれましたけど、未央ちゃんの興奮は収まりません。
一体、何が原因なんでしょう?
「しぶりんがプロデューサーに最近お熱だったじゃん?」
「何言ってるの。そんなんじゃないから」
「それに続いて、しまむーまで!」
「わ、わわっ、そんなんじゃないですよー!?」
私がプロデューサーさんにお熱だなんて……はうぅ、顔が熱くなっちゃいました。
確かに、あの事があってからプロデューサーさんとはよく話しますけど、
お、お熱とかそういうんじゃなくて……その、あ、あははは。
「そこまではまだ良いよ!? でも、なんで、みほちーやきょーちゃんまで!?」
あの一件以来、美穂ちゃんと響子ちゃんもプロジェクトルームに顔を出すようになりました。
私は二人とお話する機会が増えて嬉しいし、良い事だと思うんです。
……なんだか、ちょっとモヤモヤしますけど。
「ねえ、二人共、私に何か隠してない!?」
「あー……あははは」
ごめん、未央ちゃん!
あの時の事は誰にも言っちゃいけないって、口止めされてるんです!
だから――
「この前も言ったでしょ、未央」
「――内緒です♪」
おわり - 281: 2018/01/11(木) 23:49:22.12 ID:TYMGDyEUo
-
「ねえ、私に隠し事してるでしょ!?」
喫茶店の奥、私はプロデューサーに詰め寄った。
思いの外大声が出てしまい、慌てて回りのお客さん達に頭を下げる。
「……」
目の前に座るプロデューサーは、右手を首筋にやって困り果てている。
だけど、この困り方は説明に困っている訳ではない。
どうやって誤魔化せば良いのかと思案する困り方だ。
「……しまむーも、しぶりんも何か知ってるみたいだし」
私だけ、仲間はずれにされている。
あの二人の事だし、このプロデューサーだ。
話せない事情があるのはなんとなくわかるし、それが悪意の無いものだともわかる。
……でも、やっぱり寂しいじゃん。
「本田さん……申し訳、ありません」
プロデューサーの答えは、私の望むものではなかった。
思わず俯いてしまったが、顔を上げた時、どんな表情をすればいいのだろう。
わかんない……全然、わかんないよ。
「きゃああああああっ!?」
「なんだこのバケモノは!? やめ、くっ、くるなあああ!!」
外から聞こえる、大きな悲鳴。
それにハッとなって顔を上げた時、プロデューサーはいつになく険しい表情をしていた。 - 282: 2018/01/12(金) 00:01:46.82 ID:kXQoLy7No
-
悲鳴は、どんどんこの喫茶店に近づいてくる。
何かが、ここへ向かってきている?
私達以外の人もそれに気づいたのか、一目散に喫茶店から逃げ出していった。
そして、中に居るのは私と、プロデューサーだけ。
「ねえ……何が、起こってるの……!?」
プロデューサーに聞いても、わからないかもしれない。
だけど、私には妙な確信があった。
プロデューサーだったら、私の疑問に答えてくれるんじゃないか、って。
自分でも変だと思うけどさ、そう、思ったんだよね。
「――本田さん。少し、隠れていてください」
険しい表情から一転、穏やかな表情。
「プロデューサー……?」
隠れてろって、プロデューサーはどうするの?
ねえ、ちょっ、ちょっと待って、どこに行く気!?
「隠し事……というつもりは、ありませんでした」
プロデューサーは、上着のボタンをプチリプチリと外し、上着を翻した。
「申し訳ありません。貴女に、寂しい思いをさせてしまっていたと、気付かず」
その腰元では、大きな銀色のベルトが、輝きを放っていた。 - 283: 2018/01/12(金) 00:08:49.09 ID:kXQoLy7No
- 「……しかし、可能な限り、知られたくはありませんでした」
プロデューサーは、右のポケットからスマートフォンを取り出した。
そして、ホームボタンを素早く三回押し、画面を起動。
流れるように、暗証番号を画面を見ずに打ち込んでいく。
――3――4――6!
『LIVE――』
スマートフォンから、どこかで聞いたことのある女性の声が聞こえた。
あの二人分の声、なんだか、どこかで聞いたことある気が……。
プロデューサーは、スマートフォンを銀色のベルトにかざし、
「変身ッ!」
言った。
『――START!』
プロデューサーの体を光が包み込んでいく。
光の粒子はやがて形を成していき、プロデューサーに鎧を纏わせた。
鎧は黒を基調としたもので、所々白い箇所もあり、まるでスーツのよう。
すっぽりと全身を覆うその鎧の胸元では、
ピンクと、ブルーと、イエローの宝石のような物が輝きを放っている。
プロデューサーが今、どんな顔をしているのかは、
目付きの悪いぴにゃこら太のようなフルフェイスに覆われ、見ることは出来ない。
「……」
だけど、私には、フルフェイスの向こうでプロデューサーが悲しげに微笑んでいる気がした。 - 284: 2018/01/12(金) 00:25:07.59 ID:kXQoLy7No
- ・ ・ ・
「助けて……痛い……痛いよぉ……!」
「母さん……母さん……!」
喫茶店の外は、惨憺たる光景が広がっていた。
背中や腕から血を流す人たちが地面に倒れ伏し、苦痛に喘いでいる。
倒れ伏す母親に泣き縋る、小さな子供も居る。
「――これは、アナタがやった事ですね」
プロデューサーが、その光景を作り出した張本人と思わしき人影に言い放った。
確信を持って言えるのは、その人影の頭部と手から、赤い血が滴っていたから。
「GRRRRRRRRR!!」
その人影の頭部は肉食獣――ヒョウのような怪人で、獰猛な唸り声を上げている。
それに対するプロデューサーに一切の動揺は無く、あるのはただ、
「……」
黒い鎧越しにもビリビリと伝わってくる、怒りのみ。
直接顔を見ている訳ではないのに、
初めて触れるプロデューサーの怒りに、私は、ほんの少し恐怖した。
「私は、誰かを憎いと思った事はありません」
プロデューサーの声が、低く、低くなった。
「――ですが、アナタと共に歩む事は、不可能なようです」
それは、問答無用の、敵対宣言。
プロデューサーが、ヒョウの怪人に向けて、駆け出した。 - 285: 2018/01/12(金) 00:38:26.00 ID:kXQoLy7No
-
「ふっ――!」
鎧を纏っているとは思えない程の、高速の踏み込み。
けれど、ヒョウの怪人はそれに反応し、大きく後ろに跳躍した。
「GURRRRRRRR……!」
ヒョウの怪人は警戒してか、プロデューサーの周囲を回るように足を動かしている。
それはまるで、本物の猛獣が獲物に飛びかかる前の動作。
いまのやりとりを見た限りでは、ヒョウの怪人の方が動きが速い。
――プロデューサー、逃げて!
そう、心の中で思う。
だけど、肝心の言葉が口から出てこない。
私は怖い。
ヒョウの怪人だけじゃなく、それに立ち向かっている、プロデューサーも。
「GURRRRRRR……!」
ヒョウの怪人の唸り声が、どんどん大きくなる。
その声でもって、相手を威嚇し、萎縮させようとしているのだろう。
現に、その声を向けられたわけではないのに、私の足は震えが止まらない。
だけど、プロデューサーは違った。
「歌は、得意のようですが――」
ポツリと、ヒョウ怪人に向けて、
「――ダンスの方は、苦手なのでしょうか?」
かかって来ないのかと、そう言わんばかりの挑発をした。
「GRUUUUUUUOOOOOOOO!!」
それを聞いたヒョウ怪人は、大きく咆哮した。 - 286: 2018/01/12(金) 00:53:25.19 ID:kXQoLy7No
-
「GRRRRRROOOO!!」
ヒョウの怪人が、高速でプロデューサーの周囲を円を描くように高速で移動する。
そして、プロデューサーの視線が外れた一瞬を狙い、
「GRRRRRRR!!」
飛び出し、その両手の大きな爪でプロデューサーに斬りかかる。
「ぐおっ!?」
爪で切りつけられた場所からは火花が飛び散り、苦痛の声があがる。
幾度となく繰り返されるその攻撃に、段々とプロデューサーの鎧にヒビが入っていく。
このままじゃ、プロデューサーが殺されちゃう!
なんで逃げないの!?
そんなの投げ出して、早くそこから逃げてよ、プロデューサー!
「GUUUURRRRRROOOOOOO!!」
ヒョウの怪人が、トドメと言わんばかりに、
大きく腕を振り上げプロデューサーに斬りかかった。
あんなのを受けたら、ひとたまりもない。
「プロデューサー!!」
私は、思わず声を上げた。
「――本田さん」
……しかし、ヒョウ怪人のツメはプロデューサーの体を捉える事は無く、
ガシリと、イエローに輝くプロデューサーの左腕によって拘束されていた。
「笑顔です」
いつもの、プロデューサーの台詞。
それを聞いて、私は頬を伝う涙に初めて気づいた。 - 287: 2018/01/12(金) 01:04:13.11 ID:kXQoLy7No
-
「――おおおっ!」
プロデューサーが、ヒョウ怪人を左腕で捕らえたまま叫び声を上げた。
いかに素早く動けるとは言え、こうなってしまっては、為す術がない。
「――企画!」
「GYAAAAAA!?」
『Cute!!』
ピンクの光を纏ったプロデューサーの右拳が、ヒョウ怪人の腹部に突き刺さった。
くの字に折れ曲がるヒョウ怪人の体が、
「――検討中です!」
「GYAAAAAAAAA――!?」
『CooL!!』
ブルーの光を纏った右足によって、天高く蹴り上げられた。
「AAAAAAAAOOOOOOOO!!?」
暴れるものの、ヒョウ怪人の手足は空を切るだけ。
その上昇が頂点に達しようとした時、
「……」
『Passioooooooon!!』
イエローの光を纏った、プロデューサーの左手。
その手は親指と人差し指を立て、銃を模したような形をしていた。
「せめて!」
プロデューサーの左手から、流星の様にイエローの光が放たれた。
それに撃ち抜かれたヒョウ怪人の体は光の粒子となり、地上に降り注いだ。
「……名刺だけでも」
『LIVE SUCCESS!!』 - 288: 2018/01/12(金) 01:20:19.82 ID:kXQoLy7No
- ・ ・ ・
「ちょっと未央」
「未央ちゃん、説明してください」
しぶりんとしまむーが、二人して詰め寄ってくる。
いやー、この前は逆の立場だったのに、不思議なもんだねー!
「説明って、何の?」
「とぼけないで」
「プロデューサーさんに、お弁当作ってきたんですよね!?」
「うんうん。我ながら、だし巻き卵が絶品だったと思うんだよね!」
あの後、プロデューサーからこれまでの事を全部聞いた。
そしたらさ、何ていうか、頑張ってるプロデューサーに何かしてあげたいな、って。
最初は断られたんだけど、そこは未央ちゃんって事ですよ!
「「……!」」
私の答えを聞いて、二人は言葉を失ったようだ。
はっはっは、キミ達! 行動に移したもん勝ちだよー?
「明日は、私が作ってくるから」
「凛ちゃん、ずるいです! じゃ、じゃあ私は明後日!」
「それじゃあ、私はまた卯月の次の日ね」
「ちょいちょーい!? そこは私じゃないの!?」
私は、今でもプロデューサーがちょっと怖い。
あんな怪物に立ち向かうのなんて、誰にでも出来る事じゃない。
理由を聞いてみたんだけど、プロデューサーだから、とした答えてくれなかったんだよね。
「もー! 二人共、順番決めるよ!」
だから、これからプロデューサーの事をもっと知っていこうと思う。
それが、私の出した結論だ。
そして、もし怖くなくなった時、その時は……あれ?
そしたら、そうなったら……
「未央ちゃん、なんだか顔が赤いですよ?」
何でもない! と、思わず大きな声が出た。
おわり - 289: 2018/01/12(金) 01:23:38.67 ID:kXQoLy7No
- 趣味全開、最高ですね!
おやすみなさい - 290: 2018/01/12(金) 09:06:14.16 ID:HUI6281fo
- かっこいい
ファイズ思い出した懐かしい - 292: 2018/01/12(金) 22:31:51.88 ID:kXQoLy7No
- 555良いすな、書きます
- 293: 2018/01/12(金) 22:42:44.35 ID:kXQoLy7No
-
「私を置いて……早く逃げてください……!」
私達は、森の中を逃げている。
道は無く、ガサリガサリと生い茂る葉が肌に刺さる。
だけど、止まる訳にはいかない。
「いいえ……! それは出来ません……!」
こんな風になるとは思って無かったけど、スニーカーを履いてて良かったわ。
それに、スカートじゃなくてパンツスタイルなのも。
ふふっ、不幸中の幸いっていうのは、こう言う事よね。
「高垣さんだけでも、早く……!」
苦痛に喘ぐ声が、すぐ側から聞こえる。
それは当たり前よね、だって、私がこの人を支えながら歩いてるんですもの。
だけど、まだ歩ける程の怪我で良かった。
そうでなかったら、私の細い手足じゃこの人を引きずるなんて出来ないし。
「しつこいですよ……! 見つからないよう、しーっ、ついてこい……!」
本当、弱音を吐くだなんてらしくないじゃないですか。
おかげで、私の駄洒落もちょっとイマイチな出来になっちゃいますよ。
……って、そんな状況じゃないのは、わかってるんです。
「SYAAAAAAAAAAA!!」
「GRRRRROOOOOOO!!」
「KYUUUUOOOOOOO!!」
遠くから、とっても大きな鳴き声が、3つ。
さっきよりも、どんどん近づいてきてるのが、わかる。
だから、急いで逃げなくちゃ。
そうしないと、私だけでなく、この人まで殺されてしまう。 - 294: 2018/01/12(金) 22:55:31.69 ID:kXQoLy7No
-
「……あっ!?」
急ぐ気持ちが足元を疎かにしていたのか、木の根に足を取られてしまった。
疲労で棒のようになってしまった足では、こらえきれない。
「っ……!」
傾く私の体を支えたのは、支えられていたはずの彼。
しかし、急に無理な動きをしたためか、その顔は盛大にしかめられた。
だけど、倒れそうになった私の体の前に差し出された腕は、
私の体重がかかっているにも関わらず、微動だにする事は無い。
「……お怪我は、ありませんか?」
そういう自分の方は、どうなんですか?
私を逃がすために、怪人たち三体と戦って、ボロボロじゃないですか。
スーツの袖は片方取れかかってるし、あちこち、傷だらけ。
私を心配そうに見る顔の頬からは、未だに血が滴り落ちている。
「はい、おかげ様で」
だけど、この人はそれを指摘しても無駄なのだ。
この人は、プロデューサーとして、アイドルを一番に考える。
アイドルのためならば、自分はどうなっても良いと……そう、本気で考えているのだ。
「……――私が、奴らを食い止めます」
彼は、そっと体を離すと、来た道を戻るべく、私に背を向けた。
「私だけ逃げろと……本気で仰ってるんですか?」
そんな彼の背中に、問いかける。
「貴方を犠牲にして、私だけ生き残れと……そう、言うつもりですか?」
再度、彼の背中に、問いかける。
「……高垣さん?」
彼が振り向いた時、私は、今まで誰にも見せたことのない表情をしていたと思う。 - 296: 2018/01/12(金) 23:10:24.65 ID:kXQoLy7No
-
「残念ですが……そのお話、お受け出来ません」
私は、彼の提案を完全に突っぱねた。
驚いたわ、この人は私がその提案を受けると思ってるのかしら。
「ですが……!?」
だとしたら、
「貴方は――」
それは、アイドル、高垣楓の事をわかっていなさすぎる。
「――プロデューサー、でしょう?」
「……」
この人は、私が誰かを犠牲にして生き残っても、笑っていられると思うのかしら。
そうだとしたら、飲み屋でお酒を飲みながらお説教をしないといけないわ。
お猪口でちょこっとだなんて、とんでもない。
ビールを浴びーる程飲みながら、叱ってやらなくっちゃ。
「アイドルから笑顔を奪うのは、プロデューサーの仕事ですか?」
「しかし……!」
ペチリ。
……人のほっぺたを叩いたのなんて初めてだから、手加減しすぎちゃった。
「……」
だけど、彼は叩かれた頬に手を当てて、呆然とこちらを見ている。
うふふっ! どうやら、思った以上に効果があったみたい!
「しゃんとしてください」
貴方がプロデューサーとしての使命を全うしようと言うのなら、
「貴方の前に居るのは、アイドル、高垣楓ですよ」
私も、笑顔のために命を賭けようじゃありませんか。
案外、ビギナーズラックでなんとかなると思うんです。 - 297: 2018/01/12(金) 23:24:58.57 ID:kXQoLy7No
-
「……申し訳、ありませんでした」
彼の顔に、生気が漲った。
傷だらけで、疲れ果てているはずなのに、とても綺麗なお辞儀。
もう、今はそんな事してる場合じゃないでしょう?
「いいえ。こちらこそ、叩いてしまってすみませんでした」
だけど、私も彼のほっぺたを叩いてしまった。
だから、その事はちゃんと謝っておかないと、ね。
後で飲んでいる時に、グチグチ言われたら嫌だもの。
「……」
彼は、上着を翻し、大きな銀色のベルトを露出させた。
「……私は、笑顔が得意ではありません」
右のポケットからスマートフォンを。
そして、ホームボタンを素早く三回押し、画面を起動。
流れるように、暗証番号を画面を見ずに打ち込んでいく。
――3――4――6!
『LIVE――』
「――しかし、笑顔を守る事は出来る。そう、考えます」
そう宣言すると、スマートフォンを銀色のベルトにかざし、
「変身ッ!」
言った。
『――START!』 - 298: 2018/01/12(金) 23:39:46.63 ID:kXQoLy7No
- ・ ・ ・
「SYAAAAAAAAAAA!!」
「GRRRRROOOOOOO!!」
「KYUUUUOOOOOOO!!」
クモの怪人と、ヒョウの怪人が、コウモリの怪人を守るような位置取り。
見れば、先の二人の怪人の体はボロボロで、まるでゾンビのよう。
けれど、その動きはまるで生きている時そのまま。
「……先程は、お世話になりました」
ズシャリと、彼が一歩前に踏み出す。
此処は、工事が途中で中止になった採石場だろうか。
彼は――いえ、私達は、追い詰められてここまで逃げてきたのではない。
「うふふっ♪ コテンパンに、やられちゃってましたものね」
戦うために、此処に来たのだ。
「……」
……あっ、すみません。
せっかく挨拶をしていたのに、余計な事を言ってしまいましたか?
もう、首筋に手をやって困らないでください!
顔が見えて無くても、その仕草をしたら困ってるって丸わかりなんですからね。
「高垣さん、避難を――」
「最前列で見るのが、最善です」
「……」
さっき、あれだけ話したじゃないですか。
「うふふっ、頑張ってくださいね」
ペチリ、と彼の背中を叩く。
鎧に覆われた背中なのに、何故かあたたかく……そして、頼もしい背中を。
「はい……頑張ります」 - 299: 2018/01/12(金) 23:50:08.78 ID:kXQoLy7No
-
「SYAAAAAAAAAAA!!」
「GRRRRROOOOOOO!!」
「KYUUUUOOOOOOO!!」
大きく咆哮する、三人の怪人。
一度、手ひどくやられた相手だと言うのに、彼のどこにも不安は感じられない。
ズシャリ、ズシャリと地を踏みしめるその足には、一切の淀みがない。
「このスーツには……私が、今まで起動出来なかった機能があります」
ズシャリ、ズシャリ。
「何が欠けていたのか……それは、今でもわかりません」
ズシャリ、ズシャリ。
「しかし、今の私ならば起動出来ると……そう、思います」
ズシャリッ!
「笑顔を守るため――」
『……――Please!』
「――そのためならばッ!」
『Cinderella!!!』 - 301: 2018/01/13(土) 00:09:41.24 ID:NJCIoJsqo
-
「……!」
彼の体を包んでいた黒い鎧が、その形を変えていく。
スライドした装甲の下は、金色に輝いている。
その輝きは、まるで血液のように鎧を縁取り、白い箇所も金色に染めていく。
胸に輝くのは、ピンクと、ブルーと、イエローの宝石。
そして、その中心には、一際多きな輝きを放つ虹色の宝石が現れていた。
「……綺麗」
思わず、こんな状況なのにその姿を美しいと思った。
可愛らしいぴにゃこら太のようなフルフェイスの下で、彼はどんな顔をしてるのだろう。
もしかしたら……うふふっ、苦手な笑顔をしてるかもしれないわね。
「SYAAAAAAAAAAA!!」
そんな彼に、クモの怪人が大きく跳躍し、飛びかかった。
けれど、
「――企画!!」
『CoooooooooooL!!!』
ブルーの眩しい程の光を纏った右足が、叩き込まれた。
ただそれだけで、さっきは彼をあんなに苦しめたクモの怪人が、
光の粒子となって消えていく。
『Full Combo!』
「GRUUUUUUUOOOOOOOO!!」
その隙をつこうと、ヒョウの怪人が恐ろしいスピードで駆けてくる。
それでも、
「――進行中です!!」
『Cuuuuuuuuuute!!!』
ピンクの眩しい程の光を纏った右拳が、そのお腹に突き刺さる。
ヒョウの怪人も、クモの怪人と同じように光の粒子となって消える。
『Full Combo!』 - 302: 2018/01/13(土) 00:29:44.38 ID:NJCIoJsqo
-
「KYUUUUOOOOOOO!?」
彼の、圧倒的な強さにコウモリ怪人は本能的に恐怖したのだろう。
分が悪いと見るや、その大きな翼を広げ、羽ばたいた。
「――待ってください!」
彼はそれを逃さず、銃の形にした左手から、イエローの眩い程の光を放った。
『Passioooooooon!!』
「KYUUU!? KYUUUOOOO!?」
『Perfect Combo!』
イエローの光の直撃を受けたコウモリ怪人。
ピンク、ブルー、イエローの光がコウモリ怪人を捕らえ、身動きをとれなくしている。
何かをしようとしているように見えるけど、それも上手くいかないみたい。
「アンコールが残っています。まだ、席を離れぬよう、お願いします」
彼はそう言うと、
「――ふっ!」
大きく跳躍し、左足を前に突き出した。
その左足は、今までよりも一際大きく――虹色に輝いている。
彼の背中から、虹色の光が溢れ出し、一直線にコウモリ怪人に向かっていく。
そして、まるで虹色の穂先の大きな槍の様に、
「せめて!」
彼のキック、はコウモリ怪人の体に大きな穴を開けた。
コウモリ怪人の体は、爆発したかのように、光の粒子となって消えていく。
「……名刺だけでも」
『LIVE SUCCESS!!』 - 303: 2018/01/13(土) 00:43:39.70 ID:NJCIoJsqo
- ・ ・ ・
「ええと……こういう挨拶って、あまり得意じゃないのだけど」
今日は、待ちに待った快気祝いの飲み会だ。
誰のって、それは勿論決まっている。
「……」
神妙な顔つきで、ビールのジョッキを手に持っているこの人の、だ。
大体、どうして私が乾杯の挨拶をしなきゃいけないんです?
誰の快気祝いだと思ってるんですか、全くもう!
「楓さん! いっちょ、カッコイイ所見せてください!」
「ちょっと未央、静かにしなって」
「そ、そうですよ!」
未成年の後輩達は、ジュースで乾杯。
お祝い事だもの、こういう時はパーッとやらないと駄目よね。
「……今日は、とっても沢山の人が来てくれました」
チラリと視線を向けると、彼は部屋を見渡した。
此処に居るのは、事情を知った人間だけ。
皆、彼にとても感謝している……勿論、私も。
「と、言うわけで、何か一言お願いしま~す♪」
そう言って、私はペタンと腰を座布団に下ろし、挨拶の役目をバトンタッチ。
「は……!? あ、いえ、その……!?」
自分にふられると思っていなかったのか、彼はとっても慌ててる。
うふふっ、こういう所は、本当に可愛げがありますよね。
ニコニコと笑う私に向かって、彼は言った。
「……その笑顔には、完敗ですね」
乾杯と、皆が一斉にグラスを合わせた。
私は、一人悔しい思いをしたのだけど、どうしてくれましょう。
おわり
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