- 1: 2015/01/05(月) 12:04:20.17 ID:jwK+wAjeo
- 一人の、女の子
桃色のワンピースを纏い、
栗色のロングヘアをなびかせる
胸元には大事そうに抱えたウサギのぬいぐるみ
少しくたびれて、継ぎはぎが目立つ
ボロボロという訳ではないが、大切にされていることがわかる
歩き方一つにもにじみ出る気品は気高く
何処かの国のお姫様、高貴な家柄のお嬢様
そんな印象を周囲に与える
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420427059
- 2: 2015/01/05(月) 12:10:09.88 ID:jwK+wAjeo
- ↓過去作です
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3303355
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3784565
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=40114834
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4496465
同じ世界観です
過去作は見てなくても大丈夫です
時間軸は異なります - 3: 2015/01/05(月) 12:10:46.61 ID:jwK+wAjeo
- しかし、そんな印象を粉々に粉砕するのが
ちょっと!何時になったら着くのよ!
隣を歩く男に対する、高飛車で高慢な暴言の数々だった
これ以上私を疲れさせないでよね!
- 4: 2015/01/05(月) 12:11:20.80 ID:jwK+wAjeo
- 彼女の名前は水瀬伊織
765プロダクションに所属するアイドルの一人である
隣を歩くのはそのプロデューサー
今は765プロの身内で開いた、花見の会場へ向かっているところ
仕事終わりなので、機嫌はかなり良い方と言える
- 5: 2015/01/05(月) 12:11:59.37 ID:jwK+wAjeo
- この伊織ちゃんを呼ぶ位なんだから、ちゃんとしたホテルのシェフを雇ってるんでしょうね
改めて言うが、今向かっているのは花見の会場である
そして彼女も、冗談で言っている訳ではない
ただ、庶民の文化に疎いだけなのだ
……着いたぞ、あそこだ
プロデューサーは遠くに見える集団を指す
- 6: 2015/01/05(月) 12:13:08.28 ID:jwK+wAjeo
- 地面に敷かれたブルーシートと、お弁当に重箱
豪華絢爛な立食パーティーを想像していた伊織は
プロデューサーの足を、低めのヒールで思い切り踏みつけた
――――――――――――――― - 12: 2015/01/05(月) 22:04:27.05 ID:jwK+wAjeo
- ―――――――――――――――
青いシートの上にぺたりと座る
頭上には満開の桜
淡い桃の向こう側には、足元より更に澄んだ青
斑模様の白い雲、穏やかに照る太陽
吹き抜ける風はまだ少し寒さを運ぶ
おー伊織!たいみそーちー
- 13: 2015/01/05(月) 22:05:18.40 ID:jwK+wAjeo
- あら、響じゃない。早かったのね
私に気が付いた響、くるんと体をこちらに向け、にかっと眩しく笑う
太陽みたいだ、そう思った
こちらの太陽は、真夏の様に燦々と照る
耳元と指には貴金属が光るが、全く威圧感を感じさせない
紙コップを片手におにぎりを口いっぱい頬張り、もごもごと話す
- 14: 2015/01/05(月) 22:07:04.36 ID:jwK+wAjeo
- それと、日本語で話してもらえる?何語か知らないけど
沖縄は外国じゃないぞ!「お疲れ様」って言ったんだ!
そうね、疲れたわ、じゃあオレンジジュースもらえるかしら
納得のいかない顔でペットボトルに手を伸ばす響
頬を膨らませているようにも見えるが、頬袋の中身はきっとおにぎりだろう
ありがとう、響、貴方ちょっと落ち着いて食べたら?
- 15: 2015/01/05(月) 22:07:57.31 ID:jwK+wAjeo
- 注いでもらったオレンジジュースで喉を潤し、一息つく
プロデューサーはもう既に、小鳥とあずさに絡まれている
呆れた、まだ夕方にもなっていないというのに
今日はこないだのオーディションの仕事?
お茶を飲みほした響が聞く
ええ、そうよ、そう言って返す
- 16: 2015/01/05(月) 22:08:48.33 ID:jwK+wAjeo
- あの時の伊織には、驚いたぞ
オーディションでのことを言っているのだろう
竜宮での伊織もすごかったけど、ソロだとあんなに変わるんだなー
それにあの曲、伊織にぴったりだったぞ
ふふん、鼻を鳴らす
当たり前じゃない
- 17: 2015/01/05(月) 22:09:31.22 ID:jwK+wAjeo
-
だって私は、宝石なんだから
にひひっ
響の頭の上には、疑問符が浮かんでいた
― ― ― ― ― ― ― ― - 18: 2015/01/05(月) 22:10:10.05 ID:jwK+wAjeo
- ― ― ― ― ― ― ― ―
それなら、伊織ちゃんは宝石だよ
やよいは言った
事務所に居るのは美希とやよい、そして、私
給湯室で三人、おしゃべりタイム
もっとも、美希は既に熟睡しているが
- 19: 2015/01/05(月) 22:11:05.90 ID:jwK+wAjeo
- 美希が始めたのは例え話
美希さんが星
雪歩さんが雪
春香さんが花
それなら伊織ちゃんは宝石かなーって
それぞれのイメージ
アイドルとしての、女の子としてのイメージ
もちろん全ては美希の、勝手な - 20: 2015/01/05(月) 22:11:43.93 ID:jwK+wAjeo
- やよいは理由を話す
私、前に伊織ちゃんのステージ、目の前で見たんだ
めずらしい、真面目な口調のやよい
横に座るやよいに目をやる
ぞくりとした
- 21: 2015/01/05(月) 22:12:47.18 ID:jwK+wAjeo
-
やよいは真っ直ぐな目で
見たことないくらい真剣な目で、自分の両手を見つめていた
- 22: 2015/01/05(月) 22:13:56.04 ID:jwK+wAjeo
- その両手を、蛍光灯にかざして言う
すごかった…
キラキラーってキレイに輝いて
みんなをとりこにするんです
私も、そんな風になりたいなーって
そう思ったんだ
最後に照れ臭そうに、笑った
- 23: 2015/01/05(月) 22:15:06.05 ID:jwK+wAjeo
- そうね、ありがとやよい
そうだ、彼女もアイドル
紛れも無く野心を持った、アイドルなのだ
私が…宝石ねぇ…
その言葉には少し、聞き覚えがあった
- 24: 2015/01/05(月) 22:16:38.38 ID:jwK+wAjeo
- でも内容は、意味することは少し、違っていた
さらに言えばあの時は、身も心も荒んでいる時
空は灰色、空気は重く、排気ガスの匂いが肺一杯に広がっていた
――――――――――――――― - 25: 2015/01/05(月) 22:19:35.17 ID:jwK+wAjeo
- ―――――――――――――――
伊織は宝石よ
ワイパーの音だけが空しく響く車の中
律子が言った
後ろに座った私たちのことは見ない
ただ真っ直ぐと前を見据える
- 26: 2015/01/05(月) 22:20:16.87 ID:jwK+wAjeo
- だから…大丈夫
何が大丈夫なのか
フェスでたった一人に大敗して
竜宮小町のIA大賞も、夢と消えたのに
- 27: 2015/01/05(月) 22:20:44.34 ID:jwK+wAjeo
- どういう、事よ
だめだ、しゃべると
声が震える
悔しさと、悲しみと、自分への苛立ち
負けた、あんなに自信があったのに
その自信ごと、押さえつけられた
あんなに…こてんぱん、に…やられて
大丈夫な訳…ないじゃない!
あずさも亜美も、何も言わない
ただ黙って、俯く - 28: 2015/01/05(月) 22:22:51.23 ID:jwK+wAjeo
- ぽろりと堪え切れなくなった涙が落ちた
続けざまに、嗚咽が重なる
そうね、今回は負けだったわ
でも、だからこそ学べるものがあると私は思ってる
特に伊織、あなたはね
私…?
- 29: 2015/01/05(月) 22:23:57.06 ID:jwK+wAjeo
- どういうことよ
そう言いたいが、嗚咽を抑えるので精一杯だった
律子は続ける
伊織、あなたの武器は何?
- 30: 2015/01/05(月) 22:24:58.86 ID:jwK+wAjeo
- 容姿、歌唱力、ダンス
私から見ても、あなたのそれは全て、十分武器として成り立つ
でもあなたの一番の武器は、それじゃない
あなたの一番の強みは
プライドよ
- 31: 2015/01/05(月) 22:25:35.23 ID:jwK+wAjeo
- プライドなんて持っていたところで
駄目だったじゃない…
そのプライドごと、へし折られて、負けたんじゃない!
感情が抑えられず、怒声になる
律子に焦りの色は見えない
その様子にも苛立つ
ええ、そうね
今回はね
今回…?
- 32: 2015/01/05(月) 22:26:09.49 ID:jwK+wAjeo
-
伊織、あなた今までに何回オーディションに落ちてる?
そんなの…
数えてないわよね?それほど沢山、落ちてる
でもその度にあなたは言っていたわ
「あの審査員は見る目がない」って
- 33: 2015/01/05(月) 22:26:45.13 ID:jwK+wAjeo
- あなたの武器はそれよ、自分への圧倒的な自信
失敗を苦にしない、何回でも挑戦できる
自信があるから演技も、歌もダンスも堂々とできる
アイドルにとって最強の武器
でもね、それだけじゃ駄目なの
- 34: 2015/01/05(月) 22:27:38.53 ID:jwK+wAjeo
- どういう…事よ
最強の武器なら、それでいいじゃないか
成長、出来ないのよ - 35: 2015/01/05(月) 22:28:57.48 ID:jwK+wAjeo
- あなたは失敗を忘れるという訳ではないんでしょうけど
多くの人はね、失敗の記憶をずっと引きずるの
それで、成長する
こうすればよかった、これはしなければよかった
そうやって人は、強くなっていくの
- 36: 2015/01/05(月) 22:29:48.48 ID:jwK+wAjeo
- 確かに、失敗を恐れないことも
失敗を忘れていくことも重要
でもそれだけじゃいつか、行き詰まる
失敗してきた人に、理由もわからぬまま追い越される
だから、駄目だったのよ、自信だけでは
- 37: 2015/01/05(月) 22:30:39.66 ID:jwK+wAjeo
- 気が付くと、皆の顔が律子に向かっていた
私も思ってたのよ、一度どこかで、伊織のプライドをへし折ってやらないと…って
骨折と同じ
一度折れたプライドは、叩き直せばより強くなる
…こんな大きな舞台でへし折られるのは、計算外だったけど
律子の声のトーンが、優しさを含んだものに変わる
- 38: 2015/01/05(月) 22:31:18.39 ID:jwK+wAjeo
- 大丈夫よ、伊織
あなたは宝石、煌びやかで、綺麗な
私たちにとって、大事な大事な、宝石
心の内には絶対に折れない硬い意志を持ってる
表面をいくら削られようが、汚されようが
それを折ることなんか、誰にもできない
正に、石のような意志をね
- 39: 2015/01/05(月) 22:31:54.33 ID:jwK+wAjeo
- くくっ
隣で亜美が震える
りっちゃん…それは流石に寒いっしょー…
その言葉に律子が勢いよく振り返る
顔が真っ赤だ
あ…あなたたちがそうやって暗いままだったからでしょ!
見る見るうちに目に涙が溜まり、こぼれる
わたしだってねぇ!すっごい…すっごい、悔しいんだからね!
ぼろんぼろんと転がる大粒の涙
隣のあずさがハンカチを渡す
- 40: 2015/01/05(月) 22:33:18.97 ID:jwK+wAjeo
- そっか
皆同じ気持ちだったんだ
泣いたことでストレスが発散出来たのか、穏やかな気持ち
後続車のクラクション
涙を拭いた律子がギアを入れた
いい?帰ってすぐに今日の反省会するわよ!
返事をする三人の声は明るい
前方には晴れ間が見えていた
――――――――――――――― - 41: 2015/01/05(月) 22:37:58.64 ID:jwK+wAjeo
- ―――――――――――――――
でこちゃんはやっぱり宝石なの
目を覚ました美希と二人
給湯室で座って話す
やよいは仕事に出かけた
熱いカップを両手に包み、美希は言う
- 42: 2015/01/05(月) 22:38:38.88 ID:jwK+wAjeo
- あんたも、律子と同じ?
首を横に振る
確かに固くて壊れそうにないの
でこちゃんの外見も、中身も
でもね、本当は違う
- 43: 2015/01/05(月) 23:45:22.92 ID:jwK+wAjeo
- 美希は続ける
大きな力を掛けると、ね
最初はずーっと耐えてるの
なんでもないような顔して、全然平気な振りして
- 44: 2015/01/05(月) 23:46:47.88 ID:jwK+wAjeo
- でも、だんだんボロが出てくる
ひびが入って、欠けて、軋んで
最後は、ばーん
手の平を広げて見せる
ばらばらに、砕けちゃう
堅そうに見えて、実は脆い
そんな宝石なの
- 45: 2015/01/05(月) 23:47:18.92 ID:jwK+wAjeo
- なるほどね
紅茶を啜る
だから私は宝石、ね
美希は頷き、カップを含んだ
長い睫毛に白い湯気
でも
- 46: 2015/01/05(月) 23:47:45.53 ID:jwK+wAjeo
- 一つだけ、聞きたい
あんたは言わないのね
「綺麗な」宝石、って
あは、軽く馬鹿にしたように、美希は笑う
そんなの当たり前なの
立ち上がり、ポーズを決めて、言う
キラキラーってするのは、ミキの役目だもん
この言葉には私も
苦笑するしかなかった
- 47: 2015/01/05(月) 23:48:14.99 ID:jwK+wAjeo
- どやどやとみんなの帰ってくる音
もうそんな時間か
そんな事を思いながら、近づく騒々しさに耳を傾ける
うるさい、でも嬉しい
騒がしい、でも優しい
- 48: 2015/01/05(月) 23:48:56.67 ID:jwK+wAjeo
- みんな、おかえり
柄にもない言葉に、思わず顔が顔が熱くなった
皆も少し、驚いた顔
でもすぐに、戻る
ただいま、伊織!
いつもの765プロの、優しい笑顔に
- 49: 2015/01/05(月) 23:50:12.09 ID:jwK+wAjeo
-
あ、あとミキミキも
むー!おまけみたいに言わないでほしいの!
うん、いつもと同じ
私はきっとこの空間が
好きだ
― ― ― ― ― ― ― ― - 50: 2015/01/05(月) 23:50:38.65 ID:jwK+wAjeo
- ― ― ― ― ― ― ― ―
ああーっ!!
誰かの叫び声
亜美か真美だろうか
声のする方を見る
ん?…あー!ジュピターの!
そこではあまとう…もとい天ヶ瀬冬馬が、双海姉妹に絡まれていた - 51: 2015/01/05(月) 23:56:10.34 ID:jwK+wAjeo
- 冬馬と目が合う
何でここにいるんだ?…ってこっちに来たぞ!
ずかずかと歩き、私の前に仁王立つ
邪魔ね、景色が見えないじゃない
何?今日の演技の嫌味でも言いに来たの?
- 52: 2015/01/05(月) 23:56:57.59 ID:jwK+wAjeo
- 今日の撮影現場には、こいつもいた
とは言っても私は主役、彼は数分しか出ない役だけど
今日のあんたの演技、見たぜ
あら、そう
すげえな、素直にそう思った
へぇ、そう……え?は?
- 53: 2015/01/05(月) 23:59:35.28 ID:jwK+wAjeo
- だ、だからぁ!お前の演技がすごかったって言ってんだよ!
そ、そう…へ、へぇ…
お前…水瀬伊織って言ったな、
…ええ
…少し、見直した…名前くらい覚えといてやる
- 54: 2015/01/06(火) 00:00:07.49 ID:0cckhXgCo
- 何で上からなのよ
う、うるせぇ!いいか?今度会ったときは覚えてろよ!
またずかずかと歩いていく冬馬
その先では残りの二人が手を振っている
彼も変わった、という事だろうか
そう、彼も、私も
- 55: 2015/01/06(火) 00:01:00.39 ID:0cckhXgCo
- 私も変わった
自分の強さを疑わないだけじゃない
自分の弱さも認め、それすらも力に変える
成長し続ける
今日も磨こう、自分自身を
今日も信じよう
自分の輝きを
- 56: 2015/01/06(火) 00:02:18.77 ID:0cckhXgCo
- ―――――――――――――――
――――――――――――――― - 57: 2015/01/06(火) 00:03:00.83 ID:0cckhXgCo
- ―――――――――――――――
―――――――――――――――
私は宝石
綺麗で、固くて、高い
強い力を受けたら砕ける
だけど、私はただ砕けるだけの石じゃない
砕ける瞬間、自信を持って最高に綺麗に弾けてやる
砕けた後も、欠片になっても輝いてやる
相手の体に、心に自らを突き刺してやる
忘れられないよう、いつかまた会ったとき
覚悟してなさいってね
―――――――――――――――
―――――――――――――――
- 58: 2015/01/06(火) 00:03:33.35 ID:0cckhXgCo
- 伊織「私は宝石」
おわり
- 59: 2015/01/06(火) 00:04:28.30 ID:0cckhXgCo
- 見てくれた人、ありがとうございました
- 60: 2015/01/06(火) 00:08:49.43 ID:0cckhXgCo
- 今回の話の時間軸的にはこんな感じ
律子→やよい→美希→→→響、あまとう
分かり辛いかな…?
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お知らせ
サイトのデザインを大幅に変更しました。まだまだ、改良していこうと思います。