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1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/11(日) 23:06:11.50 ID:m4tbOBnl0
ここでは初投稿です しのほのー!

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1444572371
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/11(日) 23:10:03.14 ID:m4tbOBnl0
 大きな雨音で目を覚まして、まだ鳴る前の目覚まし時計を止める。
いつもより少しだけ早く起きてしまって、アタシはカーテンを開いて雨音の原因を睨んでやる。
相手は東京の高いマンションのさらに上から、ざぁざぁと返事をするだけだった。昨日までの晴れ模様はどちらへ?
昨日までは「これぞ秋晴れ!」というくらい晴れた日が続いていたんだけど。

雷こそ鳴っていない。それでも、固いアスファルトに叩きつけるように響く雨音が随分近くに聞こえる。
この歳で雨だとか雷が怖いだなんて言ってられないと思うけれど、薄暗い部屋の中では不安になったって、きっと仕方がないことだと思う。
だから、鳴り出した携帯の着信音に小さく悲鳴を上げたのだって、仕方がないことだ。

3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/11(日) 23:13:12.12 ID:m4tbOBnl0
「ごめんなさい、穂乃香です。忍ちゃん、今大丈夫?」

「あっ、うあ、穂乃香ちゃんか、なんでもないよ。ちょっとだけビックリしちゃって。穂乃香ちゃんこそなにかあった?」

「いえあの、驚かせてごめんなさい。今日のお出かけだけれど、この天気だと難しいかなって。それだけだったんですけど」

 申し訳なさそうな声が電話の向こうから聞こえて、あぁそうだった、確かにこの天気だとなぁ、とアタシの楽しみも奪った原因を再び睨みつけた。

 朝から酷い気分になっちゃうから、雨の日は好きじゃない。

「埋め合わせっていうわけじゃないんですけど、」

「次のオフには絶対遊ぼう、ってお話だよね。わかったよ、絶対に予定空けておくから!」

「はい、よろしくお願いします。次こそは晴れていて欲しいですね」

 と、通話もそこそこでお仕舞いになってしまって、部屋はまた雨音でいっぱいになってしまう。
 だからやっぱり、アタシは雨の日が好きじゃない。

4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/11(日) 23:20:56.65 ID:m4tbOBnl0


***


 アタシが穂乃香ちゃんに出会ったのは、地元じゃとっくに雪に変わってると思うくらいの寒い雨の日だった。
プロデューサーに事務所の案内をされているときにたまたまレッスン室を使っていたのが、穂乃香ちゃんだった。
恐ろしいくらいに背筋が伸びた、綺麗な子。それが最初の印象だった。
「あなたが今日から来るという話の方ですか?私、綾瀬穂乃香と言います。少しだけですけど、私は先輩、ということになりますね」

 たったそれだけだったけれど、育ちの良さも、今までの努力も穂乃香ちゃんのオーラ? から感じて、東京でアイドルになる子の凄さを目の当たりにして、アタシは少しだけ、怖かったんだと思う。

 本格的に事務所に通うようになって、レッスンをしだすようになって、最初のイメージと違って怖がることなんてないってわかって。
でもレッスンともなれば、穂乃香ちゃんはアタシの第二のトレーナーさんだった。しかも超スパルタの。
 だからアタシのレッスンを通じて、お互い一番お話する友達同士になるまでは、それほど時間を必要としなかった。

 アタシがゲームセンターに穂乃香ちゃんを連れ出すようになって、「穂乃香ちゃん」「忍ちゃん」と呼び合うようになって。
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/11(日) 23:22:04.70 ID:m4tbOBnl0
 アタシのベッドの枕元には、穂乃香ちゃんがくれたぬいぐるみが飾ってある。
アタシとゲームセンターに行くようになって穂乃香ちゃんはビックリするくらいクレーンゲームが上手になった。

 部屋で一人のときは、「穂乃香ちゃんゾーン」と呼んでいるそこを見つめながら、いつもこんなとりとめないことを考えている。

 少し雨が遠ざかったかなぁ? それでもまだ、ざぁざぁという音は止まることはないけれど。
今日はもうどこにも行けないんだなぁって思うと、もうなにをする気にもなれないから。
だからまた穂乃香ちゃんゾーンを見つめて、いくつかのぬいぐるみに触れて、こんな日はそうやって時間を過ごすって決めた。
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/11(日) 23:23:35.85 ID:m4tbOBnl0

***


 穂乃香ちゃんは白鳥なんだ、って初めて思ったのは、確かフリルドスクエアの初ライブの頃だ。

 バレエをやっていたのもあって、背筋がいつでもピンと伸びていて、だから長い手足やメリハリのあるスタイルが凄く映える。
アタシたち以上のハードワークを続けても変わらないその優雅な姿は、全部全部穂乃香ちゃんの弛まぬ努力で作られたものだから。
それはやっぱり水の中で脚を動かし続ける白鳥のようだった。

 アタシはなんだか不安になったけれど、どんどんと前に進む穂乃香ちゃんに追いつくのがやっとだから不安になるんだって、そのときはただそう思っただけだった。

 今、部屋の中は雨の音だけだから、こんなことを考えちゃうのかもしれないけど、それでもアタシは気づいてしまった。
 だって穂乃香ちゃんは、白鳥で、白鳥は渡り鳥なんだって。
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/11(日) 23:24:56.25 ID:m4tbOBnl0
 きっと、いつかはアタシの側から穂乃香ちゃんは飛び立って、どこか遠くに行ってしまうんだ。
そう思うと、少し泣きそうになる。

 こんな妄想は馬鹿げてるかもしれないけど、穂乃香ちゃんが東京という湖に少しでも長く居てくれるように。
アタシが少しでも隣にいれるようにって願ってしまったって、仕方のないことだ。
 こんなことを考えてしまうのだって、全部雨のせいなんだ。

 曇ったアタシの頭の中から雨が降りだして、カーペットにぽたぽた染みを作る。

 なんだっていいから、穂乃香ちゃんの声が聞きたくなって携帯を手にするけれど、今朝にあった穂乃香ちゃんからの電話が履歴に残ってるのを見るだけで、グスグス鼻が鳴ってしまう。

 もう外の天気なんて関係なくなって、きっと雨雲が全部臆病風に吹かれて、アタシの頭に移ってきちゃったに違いなかった。

 雨雲はアタシの中で轟々と渦巻いて、ぽたぽたと降っていた雨脚はどんどん強くなって、止めることなんてできなかった。
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/11(日) 23:29:31.80 ID:m4tbOBnl0
 突然、リリリ、と着信があって、思わず持っていた携帯を手放してしまった。
慌てて電話に出ると、電話口から「もしもし、穂乃香ですけど」という声が聞こえた。

「暇になっちゃったから、お話しようかなって思って」

 そう穂乃香ちゃんは言うけれど、今のアタシはそれを聞いてもグスグスやることしか出来ない。

「もしかして、忍ちゃん泣いてます? なにかあったんですか!?」

「いや、なんでもないの。ただ、雨のせいでなんだか落ちこんじゃって」

「そうですか……ふふ、それじゃあ少しでも明るくなれるよう、楽しいことでもお話しましょう! ぴにゃこら太のお話とか!」

「あはは、穂乃香ちゃん、本当にあのぬいぐるみ、大好きなんだね」

 それから穂乃香ちゃんはいくつも楽しいお話をしてくれて(半分はぴにゃこら太のことだったけれど)、でも今のアタシにはこんなとりとめない電話でも穂乃香ちゃんと繋がっていられることが嬉しかった。

 穂乃香ちゃんからの電話。たったこれだけのことがきっかけになって、あぁ、白鳥はわたりどりだったなって。
白鳥は渡り鳥だから、どこか遠くに行ってしまうけれど、でもきっとまた、遠くから帰って来るんだって。
 都合のいい考え方だけれど、たしかに今はそう思えた。
 
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/11(日) 23:30:39.98 ID:m4tbOBnl0
 だからこれから、アタシは日々穂乃香ちゃんの隣にいられるように、そんなことを思い描くって決めたよ。
確かにいつかはここから、穂乃香ちゃんが飛び立ってしまうかもしれないけれど。

そのときはアタシと穂乃香ちゃんが出会った東京で、あなたの帰りを待ってることにしたよ。

「忍ちゃん、気づきましたか? 外のお天気のこと。忍ちゃんが元気になるにつれて雲もどこかに行ってしまったみたい」

 いつの間にか雨音はどこか遠くに消えて、カーテンの隙間から光が差している。

 細かな埃が光を反射している風景がすごくきれいに見えた。

「本当だ! ね、穂乃香ちゃん、晴れたみたいだよ!」

「そうですね。ふふっ、じゃあ、お出かけしましょうか」
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/11(日) 23:34:18.92 ID:m4tbOBnl0
元ネタになってる曲はきのこ帝国の「東京」という曲です。名曲なのでみんな、聴こう。
→ https://youtu.be/yBRqRAh9vJM


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