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上条「時間封鎖、ね」

1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 22:47:11.22 ID:+w26NYHFo

・エロメイン。ただし純愛ではないので注意。

・元ネタ有り。ご都合主義有り。超展開有り。地の文有り。厨二描写一部有り。オリキャラ、オリ設定一部有り。

・十八禁。現実で行うと犯罪となる描写有り。暴力的、過激な表現有り。変態描写有り。

・ゲス条さん。けれど半端なゲス条さんなので、突き抜けた感じは期待しない方が良さそう。

・時系列、整合性などは一切考慮せず。何月の出来事かさえ決めていない。

・原作読んでない。

2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 22:47:50.31 ID:+w26NYHFo
 ――炎、だった。

 怒号とともに虚空から現れたそれは、脈打つように定めた目標へと空中を泳いでいく。

 彼の右手から現れた炎は、明確な悪意とともに対象を駆逐せんと燃え盛る。

 どす黒いそれは、悪意を孕む、を通り越し、既に悪意そのものだった。
 
 また、怒号。あるいは呪詛。きっと言葉に大した意味はない。

 口にしている本人も、何を呪い、何に憤り、何に怒りを感じているか、そのルーツに気付いていない。

 そして、言う者の心すらも赤く塗りつぶし焼き尽くす呪詛は、けれど、不意に途切れた。

 形容しがたい音がして、彼の中の現実が何者かによってゆがめられた。あるいは、修正された。
3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 22:48:46.08 ID:+w26NYHFo
 
 目の前の男を、焼き尽くせと、呪ったのだった、彼は、確かに。けれど。

 男を呪い、焼き尽くすはずだった彼の悪意そのものであるはずの炎は、

 その男がひらりとかざした右手に、吸い込まれるように消えていった。

 ――彼の悪意ごと。

 あ、と、彼の口から息が漏れる。

 彼の炎は確かに男を焼き尽くすはずだったのに。それを阻止できるものなんていないのに。――いない……?

 けれど目の前の男は、彼の炎を簡単に消し去り、ぶらぶらと手を揺らしながら、

 まるで邪魔な羽虫を払いのけるときに、その手が少し相手に触れてしまい、それを厭うかのように。

 男は、溜息をついて、言う。

「なんつーか、不幸っつーか、ツイてねえっつうか……不幸だよな」

 それは炎に包まれそうになって、やっとのことで難を逃れた、という声ではなかった。
4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 22:49:17.51 ID:+w26NYHFo
 自らの身が危険にさらされてもいないような、平然とした声だった。

 転がってきた空き缶に気付かず、それを踏みつけ、滑って転んだ。

 そして起きあがったとき、自らの身をかえりみて溜息をつくような、そんな声だった。

 バカな。そんなはずはない。彼の炎は虚仮威しなどではない。れっきとした人を傷つける武器なのだ。それは既に証明している。

 彼が、炎で人を殺せるということは既に確認済みだ。けれど目の前の男は死なない。なぜ? 

 人を殺せる炎で死なないなら、それは、人ではない。それが何かは分からないが――人ではない、何かだ。

「――ホント、ツイてねーよ。おまえ」


5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 22:49:50.98 ID:+w26NYHFo
 ここに、俺の居場所がない。そう思い始めたのは、いつからだったろうか……。


 
 上条当麻が路地裏からこそこそと這い出て、ようやく安堵の溜息を漏らすと、うしろから「風紀委員ですの」という声が聞こえた。
 
 間一髪、見つからずに済んだようだ。

 ふたたび早鐘をならしかけた心臓を落ち着かせながら、
 上条は騒動の途中で犠牲になった玉子一パックおひとりさまおひとつに限り88円に思いを馳せた。
 
 短い付き合いだった、悪い奴じゃなかった、戦場では良い奴ほど早く死んでいく――台所という戦場でもだ。

 きっと戦いの場に辿り着いたところで、長い間生き残ることはなかっただろう。けれど早すぎる。
 
 まさか戦場にたどり着く前に逝ってしまうなんて……。
 
6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 22:51:03.33 ID:+w26NYHFo
 上条が夭逝した戦友を思い気落ちしまいと自分を励ましていると、背後から声がかけられた。

「あの、あ、ありがとう、ございました……」

 混乱しながらも上条に連れられ逃げ延びた少女は、消え入るような声で礼を言った。

 上条は人助けが好きなわけじゃなかった。感謝されればうれしいし、誰かが理不尽な目に遭うのは腹が立つ。

 けれど誰彼かまわず助けたいわけじゃない。

 それでも彼女を逃がしてやりたいと思ったのは、正義感よりも下心よりも、憂さ晴らしの比重が大きかった。

 居合わせたのも偶然で、彼女の名前だって知らない。もしかしたら余計なことをしたのかも、とは思っていた。

 彼女が妙なごろつきに絡まれていて、偶然それを見かけた上条は、もやもやと、自分の中で燻る感情に気付いてしまった。
 
7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 22:51:46.91 ID:+w26NYHFo
 
 簡単に言うと嫉妬だった。ごろつきが女を口説いている間、自分はひとり学校で補習だ。
 
 担任の月詠小萌の、厳しくもわかりやすいと評判の授業で、
 クラスメイトたちも小萌の担当する教科ではそこそこの成績をとっていた。
 
 けれど上条は別だ。上条はそれどころか、小萌が上条ひとりに合わせて組んだ補習でさえ、上手に理解することができなかった。

 補習仲間である青髪ピアスや土御門も、このくらいのことも分からないとは、と呆れていた。

 頭が悪い、と自分でも思う。今日の補習の途中で、小萌はとうとう自分の無力さに打ち拉がれて泣き出してしまった。
 
 ――泣き出したいのはこっちだった。
 
 自分のせいで小萌を泣かせてしまったと責任を感じた上条は、それまで以上に補習にやる気をだしたが、結果はやはりさんざんだ。
 
 小萌が泣き出したとたん、上条は気付いてしまった。
 
 ――俺、こんなにバカだったのか……。
 
 小萌は最後には上条を励ます側にまわっていた。惨めだった。上条はバカだったのだ。
 
8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 22:52:45.72 ID:+w26NYHFo
 そういえば深くものを考えるのは苦手だった。
 
 小萌が泣き出しても、「やればできる子」と励ましてもらっても、自分にはどうすることもできない。
 
 やってもできなかったのだ。ああ、世界のすべてがうらめしい。
 
 そんなタイミングで、気楽に盛ったゴロツキが女の子に絡んでいるのを見つけたのだ。しかもちょっとかわいい。
 
 あんな美人と自分は話したことがあっただろうか、そもそも女の子と話したのっていつだっけ。
 
 禁書目録やクラスメイトたちを除けば、ほとんどない。ああくそ、なんだか腹が立つ。
 
 そして上条は嫌がらせとして、女の子を簒奪してしまおうと考えた。
 
 その直前まで、いっそスキルアウトにでもなってしまおうかと考えていたのだ。
 
 小萌だって、上条が教え子だから泣くのだ。
 
 いっそそこらの街で誰彼かまわず迷惑をかけるような人間にでもなってしまえば、小萌だって愛想をつかすんじゃないかと、
 バカな上条は真剣に考えた。
 
9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 22:53:44.97 ID:+w26NYHFo
 結果、そのゴロツキの内の一人が高位の発火能力者だったため、今の時間までその男と路地裏バトル――犠牲は大きかった。
 
 卵だとか、汚れた制服だとか、手に入ったのは胸の中にぽっかり穴が空いたような気分だけだ。

 喪失感を得る、というのも不思議な塩梅だと思う。

 汚れていたのは、少女の方も同じだった。

 とてもじゃないが、上条は彼女の薄汚れた姿を見て、守り切れただとか助けただとか、そんな誇らしい気持ちにはなれなかった。

 自分が何もしなければ、ひょっとすれば無傷で、汚れることもなく、転んで膝をすりむいたりすることもなかったんじゃないかと、
 そんなことを考えてしまう。

 憂さ晴らしの結果、何の罪もない少女に怪我まで負わせてしまったのだ。

 感謝されていることは上条にはどうにも不自然に感じられたし、うしろめたくもあった。

「いいよそんなん」と上条がぶっきらぼうに言うと、少女はしどろもどろにとまどって何かを言いかけたが、
 結局それを飲み込んで、押し黙った。本当に、自分はろくなことをしない。

10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 22:54:27.90 ID:+w26NYHFo
「今度から気をつけろよ。危ない奴も多いんだから」

 最後にそう言って、上条は立ち去った。偉そうなことを言うものだ、半分は自分のせいなのに。

 重ねて言えば、危ない奴とは自分のことだ。

 上条はなんだか、無闇に広がる無力感と閉塞感に押しつぶされそうになりはじめていた。

 補習だわ、それを受けても改善はしないわ、人に迷惑をかけるわ、殴りかかるわ、偉そうなことを言うわ、
 これから一週間は戦えるはずだった卵一パックも失ってしまい、家に帰れば同居人が待っている。

 晩飯をつくってやらなければいけないのに、この世はどうも理不尽に溢れていた。
 

 ――不幸だ。

 知らず漏らした溜息の後、禁書目録の顔を思い出す。

11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 22:55:15.18 ID:+w26NYHFo
 禁書目録の少女は、上条が帰宅するたびに小動物のように喜び、上条にぴょんぴょんと跳ね上がりながら歩み寄り、
「おかえりとうま、今日の晩ご飯はなにかな?」と至上の幸福に出会ったかのような顔をするのだ。

 問題はそこである。

 上条が「すまん、禁書目録」と深刻そうに言うと、不安そうに瞳を揺らし、彼女の頭の中で

「また何かあったのか、何かに巻き込まれたのか、それとも私が迷惑をかけたのか、
 いやあるいは私に関して何か話さなければならないことができたのだろうか」

 とさまざまな考えがぐるぐると回り始めるのが目に見えて分かる。
 
 そしてその彼女に、「晩飯が」と絞り出すように言うと、今度は裏切られたのかとでも言うようにショックを受け、眉を下げる。
 
 それなのだ、問題は。
 
 禁書目録が怒って噛みついてくるくらいなら、上条にとってはたいした問題ではない。

 けれど彼女は悲しんでしまう。子供のように素直だから、うれしいことも悲しいことも人一倍綺麗にのみこんでしまうのだ。

12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 22:56:07.93 ID:+w26NYHFo
 どうしたものだろう、と上条はまた溜息をつく。

「どうしたの?」

 家路を急ぐ上条当麻の前に現れたのは、御坂美琴だった。

 上条は漏れかけた驚きの声を飲み込んで、御坂か、とやっとの思いで吐き出した。

「ひどい顔してるわよ。まるで潰れて干からびた蛙の死骸みたい」

「人様の顔を不吉なものに喩えるんじゃねえよ」と上条は返すものの、顔がひどいことになっているのは本当だろう。

 路地裏を逃げ回ったせいだ。土とか、血とか、ゴミとか、いろいろなもので汚れている。

 さっきの少女は汚れていてもどこかいたいけな愛らしさがあったが、それは彼女が女で、若いからだ。

 高校生にもなって砂と泥にまみれているんだから、みっともないったらない。

 いやそれより、少女は無事帰れたのだろうか。失敗したかも知れない。送っていくべきだっただろうか。

 さきほどの男はのしたとはいえ、仲間があれだけとも限らない。ゲスな連中だ。

 また彼女に手出ししないとも限らない、そこまで行って上条は考えるのをやめた。
 
13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 22:57:07.23 ID:+w26NYHFo
 助けたからには最後まで守るのが責任だ。けれど近頃の上条は考えてしまう。「それはいつまで?」と。

 責任はいつまでつきまとうのだろうか。問題の解決まで? 

 だとすると今日出会った少女に関しては、既に解決している。

 けれど彼女の生活には、今回のような危険は必ずつきまとう。

 禁書目録の少女に関しても、目の前の御坂美琴に関しても同様のことが言えた。

 彼女たちの問題は現在、一応の区切りがついている。けれどそれはいつまでだろう。

 彼女たちの特性上、今の擬似的な平和状態が壊れる可能性は、ありうるどころか、むしろない方が不自然だ。

 彼女たちが嫌いなわけじゃない。彼女たちを守るのが嫌なわけじゃない。彼女たちだって、独自の努力で問題解決へと奮闘している。

 そこに自分の、上条の力はまるで必要にならないかも知れない。

 けれど彼女たちが助けを求めてくれば自分は応えるだろう。応えざるを得ないだろう。他に道がないのだ、上条当麻にとっては。

14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 22:58:25.61 ID:+w26NYHFo
 では、それはいつまでだろう。一ヶ月? 半年? 一年? それとももっと? 

 上条が大人になって、生活を持つようになり、それでもだろうか。

 それは一高校生に過ぎない上条当麻には、あまりに大きく茫漠とした未来が、限りなく制限されてしまうように感じられた。

 そしてそれは事実、一高校生に過ぎない彼には大きすぎる問題だ。

 特に、禁書目録の少女。禁書目録と上条当麻が、どのように出会ったかを、上条当麻は知らない。

 けれど上条当麻は禁書目録を、絶対に庇護しなければならない存在だと考えている。

 少なくともそれは、「上条当麻」がそう決めたはずだからだ。自分自身の意思でもあり、自分ではない上条当麻の意思でもある。

15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 22:59:15.60 ID:+w26NYHFo
 彼の前身であり彼自身である上条当麻が、
 いったいどのような覚悟で禁書目録を助けたのか――自らの記憶すべてを失ってまで、彼女を助けようと思ったのか、
 それを上条当麻はまるで知らない。

 地獄の底までついてくるかと問われて、地獄の底から引きずり出すと誓った男の覚悟を、この上条当麻は知らない。
 
 だからここにいる上条は、禁書目録を守りきり助けきった男の覚悟を、「上条当麻」を疑っていた。

 もしかして、その場しのぎの大言壮語で禁書目録を助け、あっさりいなくなってしまったのではないかと――。

「ねえ、おい、ちょっとー?」

 御坂に呼ばれて、上条は意識を取り戻した。ぼーっとしてしまっていたようだ。

「どうしたのよ、いったい」

 ああ、いや、と上条がごまかすと、御坂はいかにも不服そうに、まあいいけど、と話を終わらせた。

 上条はあわてて御坂に言い募る。

「おまえ、こんなところで何してるんだ?」

16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 22:59:45.88 ID:+w26NYHFo
「アンタこそ、こんなトコでなにしてんの?」

 問い返されて、上条は思わず言葉に詰まる。上条の通う高校からも、寮までの道からも離れていた。

 答えに窮して黙り込むと、御坂は何かを察したような顔で溜息をついた。

「また厄介ごとに首突っ込んでるわけ?」

 上条はあっさりと図星を突かれ、動揺を顔に出しきってから
「別にいつも厄介ごとに巻き込まれているわけじゃない」と信用にかける言い訳をした。

 御坂は、また「まあいいけど」と言った。

「でも、気をつけた方がいいわよ」

 御坂もたいして上条がここにいる事情に興味を示さず
 ――あるいは、大方の見当がついているか、話しても無駄と感じたかのどちらかだろう――
 話を変えた。
 
 上条は追及を逃れてほっとしながら聞き返した。

「気をつけた方がいいって?」

17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:00:44.94 ID:+w26NYHFo
「最近、ここらへんで火事が多発してるのよ。連続しているから、多分人為的な放火なんでしょうけど」

「放火?」

「そ」

 風紀委員の知り合いからたまたま聞いたんだけどね、と御坂は言う。

 上条の脳裏に、ツインテールの空間移動能力者の顔が過ぎった。

「目撃証言もあるみたいだし、すぐに解決するとは思うけど。能力者の仕業らしいんだってさ。
 人に迷惑かける奴っていうのはいるもんね。書庫のデータもあるしすぐに特定できると――アンタ、何変な顔してんの?」

 彼が「変な顔」をしたのは、「人に迷惑をかける奴」を自分のことだと考えてネガティブに入り込んだからではない。

 上条はさきほど発火能力者の少年と拳でおしゃべりしたばかりなのだ。

 今は風紀委員に事情聴取でもされている頃だろうか。

 彼が放火魔とは限らないが、仮にそうだったら事件は解決――となるのか?

18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:01:34.71 ID:+w26NYHFo
 そこで上条は、今立ちふさがるもっと重大な問題を思い出して思わず叫び声をあげた。

「どうしたのよ、いったい」

 身をすくませて不機嫌そうに問い返す御坂に、上条は顔をしかめて言う。

「晩飯」

 はあ? と御坂は顔を引きつらせる。

「そう、晩飯だよ。月末で金もなくてつい昨日までもやしとご飯だけで生活してたんだ。
 英雄玉子王もいなくなっちまって、これから同居人の腹をどうにかしてなだめなきゃならないんだ。
 ああくそ、なんだってこんな日に……」

 と恨み言を並べるが、上条は何を恨めばいいのか分からない。

 悪いのは補習を入れた小萌先生ではなく頭の悪い自分だし、
 発火能力者の少年と殴り合いになったのだって自分から巻き込まれに行ったに過ぎない。
 
 少女は何も悪くないし、今この瞬間話しかけてきた御坂だって悪いことは何もしていない。

 じゃあ、自分だろうか、と上条は考える。以前の上条なら、「俺は何も悪いことをしていないのに」と拗ねたかも知れない。
 
 けれど最近の上条は、なんだか考えてしまう。もしかしたら自分が悪いのかも知れない、と。
 
 御坂は顔を青くして、「もやし?」と呟いた。

19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:02:16.72 ID:+w26NYHFo
「そうだよもやしだよもやしですよ。ウチじゃコロッケだって高級品なんだ。ご飯だってあるだけマシなんだぞ」

「……大変な生活してるのね」

 上条の口から皮肉が出かけた。

 どうせお嬢様には想像できないでしょうね、一日もやしと水で過ごしたこともないでしょう――
 
 自分がよけい惨めになる気がして、やめた。
 
 第一、上条がもやししか食べられない日があるのは御坂のせいではない。禁書目録のせいでもない。
 
 むしろ禁書目録には謝罪しなければならない立場だ。

 自分が世話をすると決めたのに、食わせるものはもやし……禁書目録は文句は言うが、ワガママを言うことはなかった。

20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:02:50.32 ID:+w26NYHFo
「ねえ、なんか奢ろうか?」

「――ぐ……」

 上条の中で、甘い誘惑に陥落しかける弱い部分と、妙なプライドという弱い部分がせめぎあった。

 確かにその申し出はありがたい。御坂は超能力者で、学園都市側から金をたんまりもらっているという。

 いやだがしかし女子、しかも年下に奢ってもらうなんて、年上としての、男としてのプライドが、上条は一瞬で一日分の苦悩をした。

「い、いや。ここで中学生に奢ってもらっては面目とかプライドとか矜持とかの問題が……」

 けれど上条の腹は鳴る。

 腹が減っては戦ができぬし、背に腹は代えられぬし、こういうときは持ちつ持たれつなのだ。

 御坂の言に、上条は都合のいい正当化の言い訳をなんとか構築し、彼女を頼ることに決めた。


21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:03:56.31 ID:+w26NYHFo

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◆ 上条当麻
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 ファミレスについたとたん、怒濤と言える量の注文をした禁書目録は、御坂への呼び方を「たんぱつ」から「みこと」に改めた。

 尊敬度や好感度が変動したのだろう。焼きたてのステーキを見て、彼女は至福の表情をした。

 それを見て上条は安堵の溜息をつき、けれど御坂に後ろめたさを感じてしまう。

「悪いな」と謝るものの、御坂は「別に良いわよこんなの」と平気な風である。
 
 上条が何ヶ月待たせてもなかなか禁書目録に食べさせられない一皿九百五十円のステーキが、こんなの、である。神も仏もない。

「アンタにはいくら感謝しても足りないくらいなんだから」と、御坂は当然のように言う。

 大義名分というか、御坂を頼る言い訳を作ってくれたのである。本当に、自分はどうしようもない。

 また、上条の口から溜息が漏れた。不幸だ、という呟きは、二人の手前、なんとかこらえた。


22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:04:35.69 ID:+w26NYHFo
「アンタさ」

 御坂が注文したジュースをストローですすってから口を開いた。

「なんか悩んでる?」

「……え?」

「違うな……」

 御坂は中指で額を何度かつついてから言い直した。

「何を諦めてるの?」

 上条が御坂の言葉を受けて動揺した瞬間、禁書目録が「みこと!」と立ち上がった。

「どうしたの?」

「ど、どりんくばー、ってのをやってみたいんだけど……」

 ドリンクバーって和製英語だっけ、と上条が考えていると、「良いわよ、行きましょうか」と御坂が立ち上がった。

23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:05:15.42 ID:+w26NYHFo
 禁書目録はドリンクバーをしたこともないんだったっけ? 一度くらいはあるような気がする。

 上条は考えるが、やはり思い出せない。このところ、記憶もひどく曖昧だった。

 具体的に言うと、昨日の晩飯も思い出せない、とまで考えて、もやしだったことを思い出す。考えなければよかった。
 
 御坂は禁書目録にドリンクバーのやり方を教えながら、自分の分のジュースをどうするかを考えているようだった。

 いちごおでんなんていう悪魔的な組み合わせの飲み物を愛好している彼女のことだ。ミックスジュースでもやるのかもしれない。

 けれどその姿は、黙っていれば(ついでに電撃も出さなければ)、まぎれもない美少女だった。

 常盤台中学で「お姉さま」と慕われることだけのことはある。その挙動は、上条よりもよほど大人びて見えた。

 連れだって歩く二人の後ろ姿を眺めて、上条は考える。

 禁書目録も、自分ではなく御坂美琴と一緒に居た方が幸せになれるのではないか。

24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:05:49.77 ID:+w26NYHFo
 アイツなら、禁書目録になんだって好きなものを食わせてやれる。

 俺みたいに食べさせてやれないわけじゃなく、ちゃんとアイツの食う量をセーブして、
 普通の食事量に戻すことだって可能かも知れない。

 けれど上条にはそんなことはできない。普段食べさせてやれない分、ちょっとしたときに多めに食わせるのが関の山だ。

 上条は、どす暗い、沼のような陰気に、心を漂わせていた。
 
 不幸だ。
 
 けれど本当に不幸なのは俺ではなく、俺と関わった人間かも知れない。
 
 俺がいるから小萌先生は厄介な生徒を抱え込むことになったし、禁書目録はもやしだけで一日を過ごすことになるし、
 御坂はファミレスで飯を奢る嵌めになっている。
 
 思い返すのは今日出会った少女。膝を擦りむいていた。

 上条はなんだか切なくなってきて、鼻の奥がつんとして、涙が出そうになった。
 
 何かが、満たされない。何かが足りない。そんな違和感が、上条の心の底でとぐろを巻いている気がした。

25: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:06:26.62 ID:+w26NYHFo
「何を諦めてるの?」

 御坂の言葉が頭の中で繰り返された。普段通りに振る舞っているつもりだったが、それもどうやら限界に近付いているのか。
 
 けれど決して、気取られるわけにはいかない。




 御坂に礼を言って、ファミレスの前で別れた。
 
 ふと放火魔のことを思い出し、送っていこうかと提案するが、よくよく考えてみれば彼女はかの超電磁砲だ。
 
 大能力者程度の発火能力者には遅れを取らないだろう。

 ……何か、卑屈になっているのだろうか。上条は自分の様子がおかしいことに徐々に気付いてきた。

 今まで禁書目録と一緒に、様々な場所で危機や困難に出会った。

 そのたび、なんとかやってきたのだ。けれど――近頃は、どうにもだめだ。何かがおかしい。
 
 上条の中で、何かが狂いだしているのだ。そしてそれはいずれ、上条自身を飲み込み、失わせてしまう。そんな気が、する。

 頭が、ぼんやりする。
26: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:07:24.67 ID:+w26NYHFo
 翌朝、上条当麻はバスルームで目を覚ました。

 いつものことだ。禁書目録と一緒の場所で寝たら、自分が何をしてしまうか分からない。

 かといって女の子に固い床や寒い場所で寝てもらうわけにはいかない。結果的に上条は、浴室で睡眠を取っている。

 疲れはほとんどとれない。昨日の夜から続く、頭がぼんやりする感覚は続いている。

 身体を起こす。体温が上がって、脈が妙に強く、速い。まずい、と本能的に上条は考える。今、自分は危険な状態だ。

 それもただの危険じゃない。もしかしたら、幻想殺しでも消すことのできない何かが、上条の身に起こりつつあるのかも知れない。
 
 どくん、どくん。どす黒い何かが、上条のなかでとぐろを巻いている。

「とうま……?」
 
 リビングに這い出てすぐ、既に起きていたらしい禁書目録に声をかけられる。不安そうな、怪訝そうな顔だ。
 
27: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:08:49.40 ID:+w26NYHFo
 上条は禁書目録に返事をせず、リビングの床に寝転がる。ひんやりとした感触が、妙に心地よい。

「どうしたの、とうま?」
 
 慌てて駆け寄ってくる禁書目録に、心配はないと言おうとしたが、声が出なかった。

「とうま!」

 額に柔らかい感触がして、上条はとまどう。目を開けると、禁書目録の顔が近くに見えた。

 その瞬間、自分が今、目を閉じていたことに気付いた。

「ひどい熱だよ……?」

 心配そうな声が聞こえる。けれど返事はできない。頭がぼんやりとする。何かが、身体の中でうねっている。

 いや、少し違う。上条は気付く。疼いているのだ。上条の身体が、まるで何かを求めるように。

(――何かを?)

 響くような声が聞こえた。

28: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:09:17.14 ID:+w26NYHFo
(――おまえが何を求めているかなんて、おまえが一番知っているじゃないか)

 地の底から響くような声が、頭の中でこだまする。禁書目録が自分の名前を呼んでいる。上条は答えられない。

(――おまえが本当はどうしたかったのか、どうして日々、満たされない思いを抱えているのか?
 単純に不幸なせいでもない、手に入れたいものがあるのとも少し違う。
 欲しいものが手に入らないと分かっているから、おまえはその鬱屈とした感情を心の底に覆い隠しているんだ)
 
 上条は、意識を失おうとしている自分に気付いた。
 
 ぐるぐる、ぐるぐると、ぼんやりとした視界の中にいる禁書目録が、徐々に遠ざかっていっている気がした。

(――おまえが望む世界を与えてやろう)

 最後、声は笑うように、上条の世界を赤く染め上げた。

(――さあ、目覚めろ)

 その声を最後に、上条の意識は失われた。


29: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:10:27.06 ID:+w26NYHFo

 目を覚ました瞬間、上条当麻はベッドの上にいた。

 自分のベッドなのに違和感があるのは、ここ最近はずっとこのベッドを使っていなかったからだ。
 
 どうしてだったっけ? 上条当麻は自分に問いかける。どうして自分のベッドを使っていなかったんだっけ?
 
 そうだ、上条は思い当たる。禁書目録だ。

 禁書目録と同じ部屋で寝ていたら、自分が彼女に何をしてしまうかわからなかったからだ。

 禁書目録と同じ部屋で眠っていたら、いつか禁書目録に欲情し、襲ってしまうかも知れなかったからだ。

 上条当麻は自制できる自信がなかった。

 禁書目録と毎日を過ごす間に、自分がいつか禁書目録に取り返しのつかないことをしてしまうかも知れないと考えたのだ。
 
30: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:11:27.29 ID:+w26NYHFo
 上条の頭には、不思議な高翌揚感と開放感があった。
 
 上半身を起こすと、受話器に向かって声をかける禁書目録の姿が見えた。

「とうまが倒れちゃったんだよ。どうすればいいのかな……?」

 声にはどこか、怯えるような響きがあった。

 彼女は電話が苦手だったはずだ。かける相手も少ない。今日はそういえば、日曜だ。昨日は補習で、一日潰れたから――。
 
 だとすれば、電話の相手は小萌先生だろうか。小萌のことを考えたとき、上条の頭にズキリとした痛みが走った。

「うん。とりあえず、ベッドに寝かせてるけど、意識がないみたいで……。
 でもなんだか、ただ寝てるっていうより、苦しそうなんだよ。息が荒いし、顔は真っ赤で、つらそう」
 
 禁書目録の声が、いつもより遠くに聞こえた。薄い膜越しに接しているように感じた。

 そう思った瞬間には、上条の手は禁書目録の肩へと伸びていた。

31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:12:08.05 ID:+w26NYHFo
「え……とうま?」

 振り返った禁書目録は、最初はうれしそうだった。それだけ心配したのだろうか。
 
 彼女が言うような苦痛は、上条にはない。呼吸は落ち着いているし、熱もない。

 ただ、心だけが――どうしようもなく高ぶっていた。
 
 禁書目録は上条の様子がおかしいことに気付いて、「どうしたの?」と訊ねた。

 電話口からは、「シスターちゃん?」と小うるさく喚く小萌の声が聞こえた。

 上条は手を伸ばしてボタンを押し、通話を終わらせた。

「とうま、どうしたの……?」

 禁書目録は、ひどく動転して心配していた自分を忘れて、上条に怯えていた。

 怯えている。自分は今、禁書目録に怯えられている。

 上条当麻はそれを自覚した瞬間、自分の内側から溢れ出そうなほどの劣情を感じた。
 
 上条当麻は、禁書目録に欲情していた。
32: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:12:44.01 ID:+w26NYHFo
「とう、ま……」

 彼女は硬直して動かない。
 
 距離が遠い――もっと、近く、近くへ……。上条と禁書目録の距離が徐々に縮んでいく。

 銀髪のシスターは瞳を揺らして身体を動かせない。

 上条はその間も、近付いていく。禁書目録の唇へと、上条の唇が近付いていく。

 禁書目録と上条の距離が、触れ合いそうになった刹那――禁書目録は、上条を顔ごと押し返した。

 上条が反応できずに動揺している間に、禁書目録はリビングを飛び出して風呂場へと駆け込んでいった。

「禁書目録……?」

 そこで上条は、自分がしでかしたことをようやく自覚した。

「……あ」

 あああ、と上条はうめく。何をしてしまったんだ、自分は。

33: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:13:13.33 ID:+w26NYHFo
 禁書目録を追って脱衣所までいくと、鍵がかけられていた。

「禁書目録」

 名前を呼ぶが、返事がない。ただすすり泣くような声だけが、ドアの向こうから漏れ聞こえていた。

 何をやっているのだろう、自分は――。

「ごめん」

 謝る声もどこか現実感が希薄で、軽薄だった。

 いたたまれなくなって、上条は部屋から飛び出した。

 玄関を出ると、アロハシャツにサングラス、いつもの恰好をした土御門元春がいた。

「カミやん」

 笑顔で、いつもの口調で話しかけようとした土御門は、上条の様子に何かを察知し、

「どうした?」と真剣な口調で訊ねてきた。

 上条は答えに窮し、「悪い」と一言言い残して、寮の階段を駆け下りる。

34: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:13:41.80 ID:+w26NYHFo
 エレベーターを使わなかったのは、単純に立ち止まるのが嫌だったからだ。とにかく逃げ出したい気分だった。
 
 街に出て人混みに出会うと、すぐにその中に入り込んだ。

 そして人波に流されながら、この中に自分を知るものはいるだろうか、と考える。

 いないで欲しい。自分のことを知らないで欲しい。知っていても忘れて欲しい。

 このまま消えてしまいたい。溶けるようにいなくなってしまいたい。どうしてあんなことをしてしまったんだろう――。
 
 上条の脳裏に、明らかに怯えた禁書目録の表情が蘇る。その表情に、自分は欲情していたのだ。
 
 吐き気がして、路地裏に駆け込む。上条は、自分があのとき禁書目録に見せたであろう表情を想像する。――醜悪、だった。
 
35: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:14:15.47 ID:+w26NYHFo
 上条は思う。何かが、狂おうとしている。そしてそれは自分にはあまりに巨大に過ぎ、解決は困難だ。

(――おまえが望む世界を与えてやろう)  

 そんな声が、上条の周囲にこだました。

 人混みの中で唐突に聞こえた声に、あわてて周囲の様子をうかがうが、誰も気付いた様子はない。

(何が俺の望む世界だよ……?) 

 上条は聞こえた声に問い返した。最悪だ。禁書目録は泣いていた。上条が泣かせてしまったのだ。

 その表情を想像した瞬間、また妙な感覚が上条を貫いた。

 ――まさか、と思った瞬間、ぞくりとした感覚が、それも、どこか心地よい感覚が全身に広がった。
36: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:15:23.90 ID:+w26NYHFo
   
(今俺は……禁書目録の泣き顔を想像して、興奮したのか?)

 上条の頭に、嫌な想像が浮かぶ。汗が滲み出てくる。

「……おい。冗談だよな……?」

 上条は誰にともなく尋ねる。虚空をさまよった声は誰にも届かずに、路地裏にかすかな響きを残して消えた。

 まさか、と思う。

 上条当麻は、禁書目録の泣き顔に、
 それもただの泣き顔ではない、心底いやがっている、怯えている泣き顔を想像して、それに欲情しているのだ。

「……おい。なんだこれは」

 思わず口をついて出る疑問に、答えるものはない。

「……"俺が望むこと"だと……?」

 上条当麻はそうして、結論に辿り着きかけていた。より正確に言えば、既に辿り着いていた。

 あとは上条当麻自身が、それを認めるか認めないか以外には何も変わらない。

 事実として上条当麻は、禁書目録の少女を無理矢理襲いかけたのだ。言い逃れはできない。

 禁書目録に対してもできないし、上条当麻自身に対しては尚更だ。

 そうして上条当麻が、自分の身に起こりつつあることをなかば理解しかけたところに――

「アンタ、こんなトコで何してんの?」

 ――飛んで火に入る夏の虫のように、御坂美琴が現れた。


 

37: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:16:24.25 ID:+w26NYHFo
 御坂美琴は、後輩の白井黒子と休日の街を散策していた。

 常盤台は外出時に制服の着用が義務づけられていて、御坂はそれに従っている。

 けれど、たまに服を見るくらいはする。着るタイミングは少ないのだけれど、御坂も年頃の女の子だ。

 おしゃれには気をつかうし、かわいいものは好きだ。少し、美的感覚が他とずれていることもあるが。
 
 ウィンドウショッピングを終えて帰る途中、白井の携帯が鳴った。

 風紀委員の事務連絡が、彼女の同僚であり自分の友人でもある初春飾利から送られてきたのだ。

 また、放火らしい。白井黒子は御坂に短く別れを告げて謝罪をすると、すぐさま風紀委員の支部へと得意の空間移動で飛んでいった。

 さて、これからどうするか、まだ帰るには物足りない、と考えたそのタイミングで、
 御坂美琴は上条当麻が路地裏に入っていくのを見かけて、追いかけた。
38: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:17:13.32 ID:+w26NYHFo
 そしてそこにいたのは、確かに上条当麻だった。けれどどうも、様子がおかしい。

「ちょっと。ひどい顔してるわよ。また何かあったの?」

 声をいくらかけても返事はない。御坂はなるべく普段通りに話しかけることを意識しながら、上条の様子をうかがった。

 そうしている自分を自覚してはじめて、彼女は「上条当麻に対して普段通りに接することができていない自分」に気付いた。

「具合悪そうだけど――ねえ、アンタどうしたの? 何とか言いなさいよ」

「…………」

 だんまりを決め込む上条に、御坂は思わず怪訝そうな表情を作る。明らかにおかしい。

「ねえ、ちょっと?」

「……ああ」

 返事をした上条に、御坂は一瞬だけ、安堵するように肩の力を抜いた。けれどすぐに、まだ上条の様子がおかしいことに気付く。

「……ねえ、アンタ、どうしたの?」

39: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:17:59.98 ID:+w26NYHFo
「いや……気付いたんだ」

「……ちょっと。ホントにどうしたのよ。おかしいわよ、アンタ」

「ああ……なんだかひさしぶりに、すごく、満たされた気分だ」

 御坂はこの言葉を聞く直前まで、上条の明らかに不穏な様子に見て見ぬ振りをしていた。

 それが誤りだった。彼女はすぐさま逃げ出すべきだったのだ。

「なあ、御坂」

「……なに?」

「俺にもさ、ようやくツキが回ってきたみたいだ。ようやく、手に入れたいものが手に入れられる、そういう環境が手に入ったんだよ。不幸だ不幸だって今まで思ってたけど――やっと気付いた。今までの俺は、本当に不幸だったんだな。そして今は、とても幸福なんだ」

「何、言ってるのよ、アンタ」

 御坂はもはや、上条当麻とまともに話をしようという気を失っていた。

 けれど、この威圧するような、相手を飲み込むような上条を前に、逃げだそうという感情も失われていた。

 そうすることでどこか、この異常を認めてしまうようで、御坂はそれをできる限りしたくなかった。

 それが、判断を鈍らせた。

40: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:18:30.20 ID:+w26NYHFo
「御坂。ようやく手に入れたんだよ、俺は。分かるか? 分からないだろうな、俺も分からなかったさ。
 でも、手に入れた。なあ、御坂、おまえは俺のこと、嫌いか――?」

 その瞬間、御坂美琴の身を打ったのは動揺でもなく喜悦でもなく、ただの、嫌悪感だった。

 それも本能的な、原初的な恐怖に似た、まるで洞穴の暗闇に灯りもなく入らねばならぬような、そんな気分だ。

 御坂美琴は間違いなく、昨日まで正常であった上条当麻を怖れていた。

 昨日までは好意すら抱いていた男を、今日は近付いてくることすら厭わしいと思うほど嫌悪していた。

 その姿を目にするだけで、全身の毛穴が開いてしまいそうなほど――。
 
 けれどそんなことはおかまいなしに、上条は機嫌をよくして笑う。
 
 ――この上なく醜悪な笑みで。
 
 その笑顔を見て、御坂は背筋が総毛立つのを感じた。
 
 そしてその瞬間、周囲の世界が一瞬で赤く染まった。

「――さあ、目覚めろ」

41: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:19:45.17 ID:+w26NYHFo
 上条当麻が醜悪な笑みを見せた次の瞬間、御坂美琴の目の前から、彼はいなくなっていた。

「え……?」

 御坂はすぐに周囲を見回すが、誰もいない。路地裏には誰もいなかった。

 何かタネがあるのではないかと御坂は疑う。けれどすぐ近くどころか、少し遠くまで見回しても上条の姿はない。

 まさか空間移動能力者になったというわけではないだろう。

 彼は無能力者どころか、なぜか能力をうち消す幻想殺しという代物まで持っている。

 御坂が見るにアレは、彼が望むと望まざるとをえずに「異能の力」をすべて消してしまう力らしかった。

 オン・オフの切り替えはできないらしい。

 以前、白井黒子が上条当麻を空間移動させようとしても上手くいかなかったのを思い出す。

 誰かがテレポートを協力したというわけではない。

42: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:20:22.47 ID:+w26NYHFo
 ではどうやって? 今の一瞬で、上条当麻はいなくなった? 物理的に? 何の能力も使わず? そんなバカな。
 
 ならばどうしていなくなったのだろう。

 御坂美琴は自然な考えとして、もしかしたら自分が今まで見ていたのは幻だったのかも知れないと考えた。

 それは御坂が見た光景を考えても納得させるにたる理屈だ。

 上条当麻はあんな顔をする人間ではない、と御坂は信じているし、そう信じたかった。

 だから御坂は、根拠は薄く、先ほどまでの光景がいかに現実味を帯びていても、
 間違っていたのは自分の目、認識の方だと思いたかった。

「……妙な白昼夢でも見たのね」

 御坂美琴はそう言って、路地裏から出ようとかぶりをふって歩き出す。

 そこでふと、自分の下半身に妙な感覚がするのに気付いた。

「……短パン、履き忘れたっけ?」

 妙なことばかり起こる日だ、と、御坂は自分を納得させた。

43: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:27:29.19 ID:+w26NYHFo
 上条当麻の頭は冷えていた。

 後悔と達成感が、交互に上条の頭を踊っていた。
 
 まずいことをした、これはいけない、何をしている、今すぐやめろ――
 ネガティブな、あるいはポジティブな感情が数々、上条の脳内で響いた。

 けれど上条はそれに従わない。まるで自分ではない自分がいるようだった。

 どちらが自分かと問われれば分からないが、少なくとも、今すぐやめろ、という上条は、「俺」である上条当麻とは別人だ。

 つまり「俺」という魂が、上条当麻が元いた場所に立ち替わったと言える。

「俺」が、上条当麻を上条当麻として支配している。そしてそれは確かに「上条当麻」が望んだものだ。

 俺が上条当麻であり、上条当麻の望みを達成しようとしている。

 手に入れた力、上条当麻が望んだ力によって。

44: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:28:00.50 ID:+w26NYHFo
 上条当麻の手には御坂美琴の短パンが握られていた。指先でつまみ眺めてみる。やはり、罪悪感と、達成感だ。

 まだほのかに暖かい。当然だ。上条当麻が御坂美琴からこれを脱がせ奪ってから、時間が経っていない。

 彼女の体温が、今も、上条当麻の手の中にあった。まだ一分と経っていないだろう。

 けれど上条当麻は、御坂美琴と出会った場所から離れたところにいた。

 学区の中心地である繁華街近くから、上条が逃げ場所に選んだのは研究所が建ち並ぶ地区だった。

 このあたりは人気が少ない。立ち入る人は少ないし、目撃者はいないとは言えないが少ないはずだ。

 人気が少ないからこそわずかな目撃証言が問題になるとも言えるが、今はそんなことより、御坂から離れられればどこでもよかった。

45: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:28:31.74 ID:+w26NYHFo
 御坂の目の前から消えてしまえば、御坂は状況を疑わざるをえない。

 その結果、上条当麻が目の前からいなくなったという事実を信じることはなくなる。

 そうすればこれを盗まれたという発想は出てこない。けれど上条当麻は、別に御坂美琴の短パンを盗みたいわけではなかった。

 なんならその中の下着でもよかったし、あいつを全裸にして町中に放り出しても良かった――とまで考えて、
 最後の考えは惜しいことをしたと思う。それは少し、もったいない。――否、いい。それは今度やればいい。

 問題は、手に入れた力の方だ。

 さきほどの選択は間違っていない。まだこの力とどうやって付き合っていくかを決めていないのだ。

 なるべく疑われないに越したことはない。この短パンはどうするか。彼女の私物だ。しかも、身につけていたものだ。

46: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:29:07.42 ID:+w26NYHFo
 その瞬間、上条の脳裏に下種な考えが浮かぶ。
 
 ――使うか?
 
 それも悪くない。
 
 ――いや。
 
 力を使えば、この先こんなことはいくらでもできる。

 だからこそ、徐々に自分の欲望を満たしていくというのも悪くないが、けれど焦らすのはもういいだろう。

 上条当麻という人間は、生まれてからずっと求めて、そしてそれが叶わないことを知っていたのだ。
 
 でもだ、上条当麻は手に入れてしまった。
 
 その幻想を消さずに済むほど巨大な力を。
 
 御坂美琴の衣服を労せず手に入れた。彼女は上条に盗まれたという可能性を全く視野に入れないだろう。
 
 家に忘れてきた、とか、せいぜいその程度のはずだ。
 
 たとえば直前にトイレにいっていて、確かに短パンを履いていたのに、と気付いたとしても、彼女はその事実の方を疑うはずだ。

 そういうふうに、人間の頭は出来ている。上条にとっては都合のいいことに。

47: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:29:53.81 ID:+w26NYHFo
「禁書目録に謝らないとな」

 上条がそう言ったのは、何も高翌揚した気分から冷静さを失っていたからではない。

 むしろその逆で、上条は彼女に対する罪悪感でどうにかなってしまいそうだったのだ。

 上条のなかにふたつの分かれた心が生まれはじめていた。

 彼女たちを好きにしたいという欲望と、彼女たちを大事にしたいという愛情が、
 いびつに、絡み合い、ひとつになり、やがれ溶け合い、上条は綯い交ぜになった心をそのままに受け止め、
 彼女たちをどうしようもなく愛しく思いながら、彼女たちを好きにすることを決めた。
 
 そのために、禁書目録に今嫌われるわけにはいかない。
 
 上条当麻は自らの下半身に血液が集まりつつあることを、ようやく自覚した。

48: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:30:38.21 ID:+w26NYHFo
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◆ 禁書目録
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 上条が自宅につくと、ちょうど玄関から月詠小萌が出てくるところだった。

「上条ちゃん?」

 小萌は上条の姿を見て目を見張る。上条は、自分が唐突に禁書目録の電話を切ってしまったことを思い出す。

 相手は小萌だったはずだ。心配して様子を見に来てくれたのかも知れない。

 上条は慌てて、右手に持った御坂美琴の短パンを尻ポケットに無理矢理ねじ込んだ。

「先生」

 と声をかけると、小萌は上条の部屋に再び入っていった。

 「入ってください」小萌の言葉の端々には、心配や疑惑もあったが、なによりもその声に多く含まれていたのは、安堵の感情だった。

 その瞬間、小萌にまた心配をかけてしまった、と上条は思い出す。

 出来損ないの自分の為に、休日まで潰してやってきてくれたのだ。

49: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:31:41.82 ID:+w26NYHFo
 小萌は教師だ。休日だって、本当のところろくに休まる時間はないだろう。迷惑をかけてしまった――。

「何してるんです? はやく入ってください」
 シスターちゃんも心配していたんですよ、と小萌が言う。その言葉に上条は動揺した。

 禁書目録が自分を心配していた? 
 
 警戒していたとか、襲われそうになったと泣いていたとかではなく? 

 何かの冗談だろうか、それとも小萌が自分を嵌めようとしている? まさか。何のために?

 考えを打ち切り、上条は自分の部屋へと進入していった。
 
 リビングには禁書目録の姿があった。目の下が少し腫れぼったく、赤くなっている。

「禁書目録」

 上条が名を呼ぶと、禁書目録はほんとうに聞こえるか聞こえないかという小さな声で、「おかえりなさい」と言った。

 いつものような笑顔ではなく、とまどったような、どうしていいか分からないような顔で。

 それを見た瞬間上条の中で、罪悪感が胸の右側で、じくりと疼いた気がした。ただいまと返してから、上条は床に座り頭を下げる。

50: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:32:39.11 ID:+w26NYHFo
「ごめん」

 謝ると、禁書目録はまた、どうしていいか分からないというように、悲しそうな、とまどったような顔をする。

 いや、したのだろう。禁書目録の表情は、頭を下げたままの上条には見えない。うしろから小萌のとまどうような声が聞こえた。
 
 禁書目録はしばらく何かを言おうとして、言葉にもならない声を何度も漏らした。

 しばらくして、彼女は「とうま」と静かに口を開いた。

「その……寝ぼけてた、んだよね?」

 まるでそうであってほしいかのように、彼女は言った。だからこそ上条は、それを否定も肯定もせず、

「どうかしてたんだ」

 と返した。

「……そっか」

 禁書目録はそれ以上何も言わず、上条は顔をあげた。
 
 彼女の表情がとても悲しそうで、上条は自分のした行為のすべてを後悔した。

51: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:33:38.80 ID:+w26NYHFo
 しばらくして禁書目録は、「こもえにお茶をいれてあげないと」と普段は言わないような殊勝なことをいった。

 彼女は普段通りに振る舞おうとしている。そうしなければならないほど、動転している。

 そうさせてしまったのだ、上条が。それを思うと上条はたまらなく悲しい。禁書目録のいれたお茶は美味しかった。

 その日の夕飯は、小萌も上条の部屋で一緒にとった。買い物に行く暇はなかったので、買い置きしておいた食料を振る舞った。

 小萌は普段通りに見えたが、上条は説明してほしいと言われているように感じた。

 小萌は無理に他人の事情に踏み込むような人間ではないが、それでも彼女は、生徒の力になりたい人間だ。

 けれど彼女が教師であるからこそ、上条は小萌になにひとつ説明するわけにはいかなかった。

 小萌は帰りがけ、玄関で上条に声をかけた。

「上条ちゃんが熱を出して寝込んで苦しそうだって、シスターちゃんから電話があって、
 その電話が途中で切れたからおかしいと思って来たんですよ。それなのに来てみれば上条ちゃんはいないし、
 シスターちゃんの泣き声は聞こえるし、本当に困ってたんです」
 
 小萌の声は少し、咎めるようだった。

52: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:34:14.75 ID:+w26NYHFo
「私が声をかけるとシスターちゃんは平気そうな顔をするし、
 上条ちゃんが帰ってきても様子が変だし。何かあったなら説明して欲しいです」
 
 多分、彼女は今本気で怒っていた。そして彼女は、何があったのかも、その大体を推測できているのだろう。

 おおまかのことを想像できていて、きっとそれは実際に起こったこととそう離れていない。

「今日は、帰ります。でも、シスターちゃんが泣いていたことだけ、忘れないでくださいね」

 泣かせた張本人のいる場所に禁書目録を置くのだから、彼女は自分のことも信頼しているのだろうな、と上条は思った。

 しかし上条は、禁書目録にしたことを過ちだとは考えていない。

 彼は禁書目録に謝罪していたときも、ふたりと一緒に食事をしていたときも、
 ポケットに突っ込んだ御坂美琴の短パンの存在を忘れていたわけではない。
53: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:35:10.30 ID:+w26NYHFo
 彼は自分のした行為に対して、後悔の情が湧いてきたとしても、それをやめる気にはなれなかった。

 禁書目録を大事にしよう、守って行かなきゃならない。

 けれど――上条の欲望は、既にとどまらせることが不可能な場所まで突き抜けてしまった。

 今更やめることは不可能だ。上条当麻は、力を使うことを決めた。

(――おまえの望む世界を与えてやろう)

 なぜならここは、上条当麻が望んだ世界なのだから。
 

54: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:37:31.64 ID:+w26NYHFo
 禁書目録はシャワーを浴びている。水音を聞きながら上条は、奇妙な満足感に溺れていた。

 手には御坂美琴の短パンが握られている。もう暖かさはない。けれどそれは、上条当麻を興奮させることの障害にはならなかった。

 上条は、あの御坂美琴が履いていたものだ、というだけで呼吸が荒くなり、欲情していく自分に気付き、
 またおかしな満足感に包まれはじめた。

 時間はたっぷりある。前座として、これを犯しておくのも悪くない。けれど禁書目録が途中で現れるのは困る。

 さて、どうしたものか。スリルというのも興奮のスパイスにはなりうるが、まだ禁書目録に見つかるわけにはいかない。

 安全策を取るべきだろう。
 
 上条当麻は、ささやいた。

(――さあ、目覚めろ)
 
 その一瞬で、世界は変遷を遂げた。何が起こったのか、それを考える暇もなく、すべてが塗り替えられた。

55: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:38:07.92 ID:+w26NYHFo
 周囲の世界は異常を表すかのように赤い光を纏っている。周囲を見回す。つけっぱなしだった扇風機が止まっていた。

 年の為にボタンを確認する。電源ボタンは押し込められていた。運転が停止したわけではない。

 扇風機の羽は不自然なタイミングで止まっていた。動かない。それは他の部分でも同じだ。浴室の方から聞こえる水音もない。

 また、電源を入れっぱなしにしていたテレビも、ビデオの停止ボタンを押したみたいに黙っている。

 音はない。すべてが――停止している。
 
 上条当麻は力を手に入れた瞬間、それが何を可能にするものかを理解した。

 けれどまだ、もっと具体的な、枝葉の部分に関しては検証をしなければならないだろう。

 上条を取り残して、全体が、サングラス越しに見るような赤い光を孕んでいた。

 普段なら恐怖すら感じるだろうこの光景が、今はとても、心地よい。

56: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:38:43.35 ID:+w26NYHFo
 上条当麻が手に入れた力は、時間を操る力だ。

 それも、上条当麻という人間以外の森羅万象から時間の流れを奪い去り、堰き止めることのできるものだ。

 たとえば今この瞬間、禁書目録の少女は鍵を閉めてシャワーを浴びているはずだ。

 禁書目録は裸で水滴を受けている。落ちかけたシャワーの音が止まり、すべてが静寂に包まれる。

 禁書目録はオブジェのように硬直している。それは上条の想像でしかないが、そう遠くないことが扉の向こうで起こっているはずだ。

 惜しむらくは鍵を閉められ、その姿を覗くことができないことか。
 
 上条はものを深く考えるのが苦手だ。あらゆる法則すらも止まっている現状で、なぜ自分が呼吸を続けられるかも分からない。

 けれどこの力を使って、自分の欲望を満たすことができるかも知れないということには気付いていた。

57: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:40:22.65 ID:+w26NYHFo
 時間の停滞は、世界の変化そのものの拒絶だと言える。

 上条当麻は時間の中を自由に歩き回ることができるが、たとえばこのままでは、扉を開けたりするどころか、
 ものを動かすことすらも不可能のはずだ。
 
 だから上条は考える。これは上条が手に入れた、上条の望んだ世界だ。
 
 であるなら、上条の望みを叶える要素が用意されているはずだ。そう思い、上条は試しに、玄関のドアノブに触れる。

 力を入れてもびくりともしない。動かそうとしても、手は痛まない。

 上条の手は、扉を動かすことが不可能になっているのだ、と確信する。
 
 そして上条は、力を試す。

「――――」

 さあ、眠れ。

 上条が念じると、ぎい、と扉が動き始めた。扉は赤い光を纏わない。扉は時間の封鎖から抜け出した。

 けれど周囲は、相変わらず赤く染まっている。上条は自分が望むものだけを、時間の檻から解き放てることを確信した。

58: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:41:15.02 ID:+w26NYHFo
 時間停止能力、そしてその部分的解除――。もっともこれは、御坂美琴に相対したときに、既に確認しておいたことでもあった。

 部分的に時間の停止を解除し、封鎖された時間で自由に行動させられること。

 たとえるなら、土御門元春と土御門舞夏が同時に目の前に存在するときに時間を停滞させ、
 更に土御門舞夏だけ時間の停止を解除すれば、兄の目の前で舞夏を犯すことも可能――。
 
 これはいつか試すとして――次に確認しなければならないことがある。

 部分的解除は、人間などの生き物に適応されるか、ということだ。

 禁書目録は、今はいいだろう。一日に何度もあんなことが起きては、禁書目録に疑われかねない。

 更に彼女にはずば抜けた魔術的知識がある。

 時間の流れを止めるという、世界そのものを変化させる能力とはいえ、彼女の知識によってこの力を奪われる可能性もある。

 彼女に手を出すのはできるだけ後にしたかった。もちろん、彼女を部分解除しなければ、何をしても自由だと言い換えれるが。

59: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:41:46.58 ID:+w26NYHFo
 まずは抵抗されても困らない相手でなければならない。

 もっとも、時間が止まっている間に上条が死んでも、停止が解除されるとは限らない。

 そこを上手く利用すれば危険を避けながら好き勝手することもできるだろう。

 上条は扉をしめて、一旦時間の停止を解除した。そして再び、停止。

 部分解除したものを再び停止させるには、一旦解除するしかないのか――それについても検証は必要だろう。

 次に上条は、冷蔵庫を部分解除して、中に入ったペットボトルの緑茶を取り出した。

 試しにペットボトルを横にしてみるが、中に入ったお茶は重力には従わない。

 止まったままだ。ペットボトルのキャップを動かそうとしてみるが、解除していないので当然動かせない。
 
 今度はペットボトルの時間の停止を解く。蓋を開けて逆さにしてもお茶はこぼれない。

 次にペットボトルの中身に触れずに念じる。すると今度はたぷたぷとペットボトルのなかでお茶が揺れ始めた。

 それに口をつけて、上条は考える。
 
60: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:42:47.51 ID:+w26NYHFo
 まずこの時間停止能力――つまり時間停止現象を引き起こすことの出来る力を、便宜的に時間封鎖と呼称する。
 
 時間封鎖は上条の意思ひとつによって、作り出すことも消し去ることも一瞬で出来る。

 この能力によって時間封鎖の環境を作り出すと、生物だけではなく、
 水、風、音、光すらもが、時間封鎖を発動した瞬間のまま停滞し、世界のすべてがほのかな赤い光を纏うようになる。

 この赤い光が、対象が時間封鎖されている証明となる。
 
 そしてこの時間封鎖を解除し、元通りに戻すことを、全解除と呼ぶことにするが、
 これを行うと停止していたすべての物体はその活動を再開する。

 ためしに全解除を行うと、赤い光は消え失せ、普段通りに戻る。

 扇風機もテレビも、シャワーの水音も、すべてが動きはじめる。

 次に、また時間封鎖を行う。これらは連続使用が可能だ。

 限度はあるだろうか、封鎖→解除→封鎖→解除、と、何度かまでは短時間の間に連続して行うことが可能だった。

 具体的な回数に関してはまちまちだ。
 
 そしてこの「時間封鎖」には、応用的な別の能力がある。
 
61: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:44:35.97 ID:+w26NYHFo
 それは「部分解除」と呼称する。これはさっき、全解除ではなく、扉だけを部分的に封鎖状態から解除したものだ。

 また、この部分解除したものを逆に部分封鎖することも不可能ではなかった。

 部分封鎖に関する注意点としては、これらは時間封鎖中にしか使用できないという点だろう。

 つまり、普通に時間が流れている状態で部分的に封鎖することはできない。理にかなったことではある。
 
 さて、あとは生まれた疑問点を解消していくだけだ。

 すなわち、この明らかに異様で異質な力は、人間にも適応可能かどうか、その検証。

 更にもう一つ懸念はある。上条の右手――幻想殺しは、どうやら時間封鎖には適応されないらしい。

 つまりこの幻想殺しが異能の力をうち消す、「異能を越えた異能」であるのと同様に、
 この「時間封鎖」は更に上位から与えられたものだと考えることができる。

 幻想殺しに関しては、実際に使っていくうちに適応されるかされないかが分かってくるだろう。 

 今は部分解除が人間に適応されるかどうかの方が重要だ。

 
62: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:45:11.51 ID:+w26NYHFo
 仮に適応されなかった場合、幻想殺しで部分解除をすることが可能かどうかも試せる。

 検証するにあたって考慮しなければならないのが、部分解除に遇った人間は、時間封鎖中の記憶を保持するかどうか、である。

 考えるまでもなく時間封鎖はすさまじい力を持っている。

 けれどその力が、上条当麻自身の能力だと考えられるのは危険だ。

 なぜなら上条当麻は、この力を悪用するつもりなのだから。

 出来る限り発覚は避けたい――そうなると検証も万全を期して行わなければならない。
 
 具体的に言うなら、部分解除をしたとしても、相手がそれを「白昼夢でも見ていた」と感じるだけで、
 何らかの異能だとは認識できないほど自然に。考えられるもっとも安全な案は、赤ん坊や小さな子供を利用することだ。

 赤ん坊なら時間封鎖を目撃されたとしても言葉にすることができない。
 
 子供に関しても、彼らの言葉を信じるものはいないだろう。
 
 かといって今は夜。わざわざ子供を探しに行くとしても徒労となるだけのはずだ。

63: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:45:51.55 ID:+w26NYHFo
 ――あるいは。

 上条は考える。今は夜とは言っても早い時間だ。外に行けばまだ学生たちがうろうろとしているだろう。

 その中の、自分のことを知らない誰かを部分解除すれば、確認することができる。

 そう思い上条は、玄関で靴を履く。自らが触れたものはどんどんと部分解除をしていき、必要ならば部分封鎖をする。

 玄関から出て扉を封鎖し、寮の階段を下りて人混みのある場所を目指した。

 繁華街ではスキルアウトや柄の悪い学生たちがたむろっていた。あのなかなら誰でもいいだろう。

 複数人解除しなければ危険もまずない。
 
 上条はそのなかの、女子学生を強引にナンパしようとしていた人間にあたりをつけた。

 問題は、どちらで試すか、だ。そのまえに、ついでだ。誰に見られることもないし、女子学生の下着でも拝んでおこうか。

 誰にも目撃されることがないという自由が、上条をいつにもまして強気にさせた。

64: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:46:34.46 ID:+w26NYHFo
 ――花柄。眼福眼福、と上条は喜びに顔を歪ませる。既に彼は、普段の善性を失っていた。

 どうせばれやしないのだし、と下着を指先でなぞる。けれど石のように固い。

 これでは面白くもないが、この状況で部分解除を試せば危ない。やはり欲望を満たすのは検証を終えてからにするべきだろう。

 上条は立ち上がり、女性を囲っていた三人のごろつきに目を向ける。そ

 のなかでも一番体格の小さなものを選び、背後へと回って肩を触った。

 時間封鎖から解除されたことに気付いても、周囲の様子を見るので手一杯になるだろう。

 唐突に振り返ることはない。仮にそうなったとしても、すぐに部分封鎖し、逃げ出してしまえばいい。

 まず試さなければいけないのは、この男の衣服だけを部分解除することは可能かどうか。

 ――部分解除。上条の視界に、赤く染まっていない男の服があらわれた。けれど男自身は、赤い光をたたえたまま動かない。

 ……可能だ。
 
 さて、と時間封鎖の中で上条は男の首筋に左手で触れる。他に触りやすいところがなかったからだ。
 
 ――部分解除。
 
65: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:47:04.95 ID:+w26NYHFo
 その一瞬、男は明らかに動揺し動き始めた。――部分封鎖。
 
 間一髪、男が振り返る前に閉鎖することが出来た。ギリギリだ。
 
 人間の活動は素早い。今の速度が限界だろう。……顔を隠せるマスクか何かが必要だったかも知れない。

 けれど上条はそれどころではない。高翌揚感が身体を包んでいた。
 
 可能だった。人間を部分解除することが可能だった。
 
 それに気付いた瞬間、上条の頭はこれまでにないほど興奮し、混乱した。次に上条は、今実験に使った男のことを考えた。
 
 ――愚劣にも発情した、下種どもを考えた。
 
 上条は舌打ちしてから、こいつらにどう制裁をくわえるかを考えた。

 標的にされたのは、まだ幼気さの残るかわいらしい少女だ。
66: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:47:39.79 ID:+w26NYHFo
 彼女が下種どもの手にかかろうとしていたというだけで――上条の頭は暴走しそうなほど熱くなる。

 それをかすかな理性で押しとどめる。落ち着け、落ち着け――まだだ。まだそのときじゃない。

 けれど上条はなんとかして、この醜悪な男たちに、制裁を加えたかった。

 ――そうだ。

 上条はあくまで冷静に、考えを実行しようと思い立つ。

 まず上条は、時間封鎖された世界のなかで変わらず硬直する三人のごろつきたちの衣服を剥いだ。

 丸裸だ。このような繁華街で、見るも汚らわしいような姿を男たちにさらさせた。

「うわ、こいつ……ちっちぇえな……」

 思わず漏れ出た呟きを抑えようとして、しかしその必要がないことに気付いて上条はにやりと口角をつり上げた。

 三人分の衣服を路地裏のゴミバケツの中に突っ込んだ。下着なんかは触りたくもないが、仕方ない。

67: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:48:11.92 ID:+w26NYHFo
 さてと。

 上条は次に、停止した花柄の少女の前でみずからのズボンのジッパーを下げ、下半身を露出させた。

 ――勃起している。いつにもなく、だ。理由は言うまでもない。

 このかわいらしい少女の前に、自らの局部をさらしているのだ。

 そしてこれから彼女を汚そうとしている。これで興奮しないわけがない。
 
 上条はまた、にやりと微笑んだ。心臓が強く脈打って、ひどく興奮した。息苦しい。けれど不愉快ではない。
 
 上条は右手で自らをしごきあげる。油断するとすぐにでも射精してしまいそうだ。

 それほど強く興奮していた。堪えきれなくなって、上条は少女の身体に触れる。

 当然、時間封鎖をしているから反応はないし、柔らかい肉の感触もしなければ、かぐわしい匂いも存在しない。

68: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:48:38.26 ID:+w26NYHFo
 にも関わらず、上条は更に興奮した。少女のスカートを部分解除し、邪魔にならないようにした。

 次は下着を部分解除した。停滞した時間の流れで、少女の下着だけがぬくもりを取り戻した。

 たまらず上条はそれに触れる。暖かい感触がした。
 
 中学の制服を着ているにもかかわらず、見た目はそれ以上に幼い。上条は自らの局部を少女の秘部に下着越しに擦りつけた。

「――ッ!」

 あまりの快感と達成感、充足感に、それだけで射精したような快感が頭の中で溢れる。

 何より、このいたいけな少女を、本人に知られずに直接的に汚しているという事実が、上条を興奮させた。

 暖かい下着に触れ、上条の男性自身は今にも暴発してしまいそうだ。

 
69: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:49:07.27 ID:+w26NYHFo
 上条は一旦動きをとめ、荒れた息を整え、気を落ち着かせようとする。

 はあ、はあ、と上条の口から息が漏れる。

 ――ダメだ、我慢できない。上条はまた局部を擦りつけるのを再開した。

 今度は上条は、少女の動かない唇を奪う。

 半開きのまま止まっていたから、舌を口内に侵入させるのは用意だった。

 感触は石のように固い。けれど上条は、これ以上ないほどに強く興奮した。

 上条は自らのもっとも敏感な部分を少女の下着に押しつける。

 上条の体液で、少女の下着が濡れ始めた。かまわない、汚してしまえ――。

 布地の感触が上条の亀頭を擦る。敏感な部分を擦られて、上条は自分のものが強く脈打つのを感じた。

「――出る……ッ」

 上条は少女の下着にかかるようにして、精液を放出した。少女の下着は上条の出した白い粘液でどろどろと汚れた。
 
 荒い息をついて、上条は一旦膝をついて休む。けれど、まだ上条の勃起した剛直は静まっていない。
 
70: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:49:53.19 ID:+w26NYHFo
 むくむくと、上条の中で快感を求める声が強くなる。もっと、もっと……。
 
 上条は自らのものをしごきあげ、射精する前と同じように少女に向けて局部を近付ける。

 今度は部分解除したスカートを自分に巻き付け、勢いよく擦った。

 布の裏地の感触が、上条が、普段なら絶対に触れることのできない場所、
 いや、これから先触れることがなかったであろう場所に触れているということを自覚させ、
 上条の頭は白くスパークしそうな快楽に包まれていた。
 
 腰を動かし、上条は覚えたての猿のように手を必死に動かす。

 出そうになると今度は上条は距離をとり、暴れるような剛直から噴き出すそれを、少女の制服全体にかかるようにした。

 二度目なのに激しく興奮していたからか、一度目よりも多く精液が飛び出た。

 汚れた少女の姿を見て満足した上条には、心地よい倦怠感と罪悪感が残った。

 上条が二度目の射精を終えて少女の姿をじっと眺めていると、ふ、と口の端から笑いが漏れた。

71: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:50:32.71 ID:+w26NYHFo
 やってしまった、という後悔。それがどこか達成感に繋がっていた。

 「やってしまった」。上条の口から徐々に高笑いが漏れ出す。

 停滞した赤い世界に、上条の笑い声だけが延々とこだましていた。
 
 少女のふとももには、下着にかかった上条の精液が、ゆっくりと垂れ落ちはじめていた。

 それを気付き上条は、高笑いをやめ、にやりと口角をつり上げる。

 露出したままの上条の局部に、みたび血液が集まり始めていた――。


72: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:51:13.66 ID:+w26NYHFo

「ロクでもないことをする人間というのは、やはりどこにでもいるものですわね」

 現場から風紀委員の支部に戻ってきた白井のためにコーヒーを入れながら、初春飾利は彼女の話を黙って聞いていた。

「放火の通報を受けて繁華街付近に急行したら、確かに建物が燃えていたのですけれど、それ以前に全裸の学生が中学一年生の、
 こんな小さい女の子を、慰み者にしていたんですの」
 
 こんな小さな、のところで白井はいかにその少女の身体が小さいかを表そうとしたが、
 白井が示した大きさは白井よりも二十センチ以上低かった。

 けれど実際に見ていた初春には分かるのだけれど、白井よりも背が高く、初春よりは少しだけ低かった。

 ちょうどふたりの間くらいだったのだ。

 実際に被害者の泣きじゃくる姿をみて、義憤よりも何よりも、初春の頭を過ぎったのは恐怖であった。

 無理もない。同性が嬲られたという事実と同時に、初春には、
 自らもそのようなことに合うかも知れない、という想像の方が恐ろしかった。

73: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:52:18.56 ID:+w26NYHFo
「全裸の男たちはすぐに逃げてしまいましたし、被害者も何があったか分からないなんて。
 記憶が混乱しているというのは分かりますし、仕方ないことなんでしょうけれど……」
 
 白井がぼやく。固法はそれを聞いて、不愉快そうに歯噛みしていた。

「ホント、ロクでもないことをする人間っているものね」

 固法の言葉に、初春は深く頷いた。彼女が何をされたか、想像するだけでも鳥肌が立つ。

 白井が渡した小さなタオルケットで拭き取り、だいぶ隠れてはいたものの、けれど全身に白濁液を浴びた痕跡は、
 その悪臭は、顔をしかめたくなるほど残っていた。

「許せないです……」

74: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:52:56.16 ID:+w26NYHFo
 初春が、学園都市の風紀委員となってから、性犯罪事件が起こることははじめてだった。どこか遠い場所での出来事だったのだ。

 学園都市では超能力を扱うという特性の為、色恋や異性間の交友などが問題になることが少ないのだ。

 誰もが能力を得るために努力していて、そんなことをする暇がないから。

 けれど何事にも例外というものは存在する。

 能力を悪用する人間も、能力を得るために努力をせず、あるいはしたとしても花開かずに拗ね、人に迷惑をかける人間もいる。

 初春は風紀委員だ。風紀を乱すものを許容するわけにはいかない、というだけではない。

 ひとりの人間として、女として、犯人を捕まえなければならない。初春は強くそう感じた。

 けれどすぐに、弱気の虫が初春の心を蝕む。

 初春の能力は、戦闘にはまったく役に立たない。運動能力だって人並以下だ。

 三人の男に囲まれて、それから自分にどうにかできるなんて、想像だって無理にしか思えなかった。
 
 ――でも、どうにかしなきゃ。
 
 私は風紀委員なんだから。
 
 初春はそう自分を鼓舞する。すくなくとも、問題が起きたときに尻込みしないように。


 
75: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:53:32.47 ID:+w26NYHFo
 上条当麻は時間封鎖をしたまま、自室に戻った。まだ気分が高翌揚している。
 
 部屋に戻るが、さきほどと様子はまるで変わらない。全解除は使っていないから当然だ。

 ここにきて上条は、時間封鎖の全解除を行った。落ち度はなかったはずだ。

 いや、欲望に駆られて行動をしたものの、誰にも自分の姿は目撃されていない。

 さすがにDNA検査でもされたらまずいが、風紀委員にそんな権限があるとは思えない。

 第一、スキルアウトの集団が目撃されているはずだ。加害者は目撃されていない俺ではなく、あの三人だと思われるはずだ。

 いや、それは希望的な観測だろうか。

 とりあえず、今考えても仕方ない。今は達成感に浸るだけでいい。
 
 いや……良いわけがない。そうだ。実験は成功だった。ならば目指すべきは、目的の達成だ。

 タイミングよろしく、禁書目録のシャワーの水音が止まった。鍵が開く。

 彼女は上条当麻を信頼していて、ここで生活しているとき、着替えが終わるより先に脱衣所の鍵を開ける。

 今日という日にまで同様に過ごしたのは、この日あったことを忘れていたか、
 あるいは習慣によって動かされてしまったのだろう。――時間封鎖。
 
 
76: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:54:56.34 ID:+w26NYHFo
 脱衣所まで近付いていき、ドアを部分解除する。そこには――全裸の禁書目録が、赤い光をまとって硬直していた。
 
 上条は期待で半ば勃起しかけていた下半身がまた脈打ち始めたことを自覚する。

 中学生か、と自分で自分を諫めたくなるが、そんな冷静な部分よりも、本能的に禁書目録に触れようとする意思が勝った。

 水滴がしたたる髪をタオルで拭こうとしていたところで、禁書目録の動きはとまっていた。

 彼女の胸も、脇も、秘されるべき場所も、すべて上条の前にさらけ出されている。

「今日はもう、何発か抜いたんだけどな……」
 
 上条は言葉とは裏腹に、まるで満足しようとしない自分自身に気付いていた。

 あくまで貪欲に、彼は禁書目録の身体を舐めるように見回す。

 普段は「歩く教会」で覆われている禁書目録の身体が、今、上条の目の前にあった。

 ほっそりとした太股、小さなお尻、ふくらみかけの乳房――今上条は、それらを好きにすることができる。

 湯上がりの火照り濡れた表情は、どこか色っぽい。

 上条は自分を年上好きだと思っていたが、認識を改めなければいけないかも知れない。
    
 十分、アリだ。
77: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:55:41.97 ID:+w26NYHFo
 上条は禁書目録の身体を十分堪能するよりも先に、脱衣籠の中身の確認を優先した。

 予想通り、下着が入っている。

 上条当麻は禁書目録の生活を一定部分保証しているが、このあたりは小萌に頼んだ。

 禁書目録も、さすがに下着なんかは照れるのか、自分で始末するようになっていた。それがはじまったのは最近のことだけれど。

 だからこそ上条にとって、禁書目録の下着は大いなる価値を持つものだ。もちろん、禁書目録の裸体には劣るが。

 ――下着を部分解除。
 
 禁書目録の体温は、既に逃げていた。それはそうだ。彼女がシャワーを浴びている間、ずっと放置されていたはずなのだから。

 けれどそのふんわりとした感触は、上条を興奮させるには充分すぎるものだった。


78: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:56:50.62 ID:+w26NYHFo
 さきほどの花柄の少女のように履いている状態というのも重要だが、上条にとって「履いていない状態」もまた多大な意味を持つ。

 また、未洗濯、というファクターもある。

 さて、と上条は考える。能力で好き勝手をすると決めた上条ではあるが、しかし、これをどう扱うべきかは少し迷いがある。

 すなわち、常識的な性犯罪者となるか、非常識な変態になるか、上条はまだ決めていなかったのだ。

 ……下着を手に取っていて、いまさら迷うことなどないだろう。上条は当然のように後者を選んだ。

 荒い息を整えるよう努力しながら、上条は両手で掴んだ下着を伸ばしてみた。

 ゴムが伸びて、上条の手の中で質素な白い下着の皺がひとつひとつ形を変える。

 変態ならばどうするべきか。上条当麻は考える。

 まずはクロッチ部分の観察ははずせない。まずは下着に触れる。ちょうど、禁書目録の秘部を覆っていたであろう部分だ。
 
 布地を裏返し、クロッチ部分に顔を近付ける。――少し、黄ばんでいる。

 鼻先を更に近付けた。何かうるさい音がする、と思えば、自分の心臓の音と、呼吸の音だった。

79: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:57:28.69 ID:+w26NYHFo
 ふと気付くと、洗面所の鏡に、禁書目録の下着を鼻先に寄せる変態が映っていた。

 普段ならば「何やってるんだろう、俺」と目が覚めるところだが――上条は一線を越えてしまった。

 今自分が何をしているか? その問いは既に持っている。禁書目録の魅力を最大限利用し、自慰をしようとしているのである。

 いずれは、もっと直接的な行為に走ることもあるかも知れない。

 けれど今は、このショーツだけを考えていたかった。

 なぜ綿なのだろう、と上条は考える。

 いや、ここでシルクだのなんだのというものが出てきても興ざめなのだが。

 禁書目録の年齢なのだから、綿がいいに決まっている、と上条がロリコンのような理屈を脳内で振り回すが、
 それがさすがに現実的だとは思えなかった。

 女性用下着に関する知識は持ち合わせていない。

 けれど、ナイロンだとか言われるよりは、小さな子供ならば綿、というのが童貞の考えだ。

 そう、小さい子なら綿と相場が決まっている。

80: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:58:30.06 ID:+w26NYHFo
 上条は硬直している自分に気付き、行為を再開した。禁書目録の下着に見とれてしまっていたようだ。

 ええいままよと上条がショーツを鼻先に押しつける。少し、酸っぱいような匂いがした。

 もし正常な状態だったならば、嫌悪するような臭いだ。決していいものではない。

 けれど上条は勃起していた。勃起している男は、正常な生き物ではない。
 
 黄色い染みやつんとした刺激臭までもが、今の上条にとってはすべてが快感に思えた。

 目をつぶり、臭いだけを堪能する。禁書目録の秘部を隠していたであろう場所に鼻をつける。

 ひどく興奮した。

 上条は全裸の禁書目録を振り返る。

 ――掛けるか? 

 それも悪くない。

 いや、まだ早い。それはまだだ。まずはこの下着を、十分に堪能してからにしよう。

81: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:59:01.29 ID:+w26NYHFo
 さて、掛けるか、巻くか、かぶるか。被る方が変態っぽいが、それは直接的な快楽には繋がらない。

 上条は童貞だ。紳士としての誇りよりも、自らの快楽を優先した。

「うぅ……ッ」
 
 ショーツを自らの局部に巻き付けると、上条の身体に電流のような快楽が走った。

 自らの剛直を包むそれは、あまりに小さく頼りない。

 この小さな布きれが、普段から禁書目録の女性の部分を守っているのだ。そう考えるだけで上条は射精しそうになる。

 下着のゴムの伸びを利用して、上条は自らの鈴口にクロッチを押しつけた。

 体温はとうに消えているはずなのに、なま暖かく感じられる。

 上条は自らのものをしごきはじめた。最初はゆっくりと、目の前にいる禁書目録に見せつけるかのように。

「見えるか、禁書目録」

 強気になった上条に怖いものはなかった。返事がないのを承知の上で、上条は禁書目録に話しかける。
 
「おまえの下着、俺に好きにされてるんだぜ? どんな気分だ?」

82: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/05(土) 23:59:53.88 ID:+w26NYHFo
 上条は、禁書目録のいやがる表情を想像すると、強く目を瞑らなければ堪えきれないほどの快楽に包まれた。

 またそれとは別に、禁書目録の細く柔らかな指先で、自分自身を弄ばれている場面を想像して、興奮した。

 上条の脳内には、既にダブルスタンダードな形で妄想が膨らんでいった。

 禁書目録を辱める妄想と、禁書目録に辱められる妄想。

 その両方に、上条を包む綿の下着は登場する。

 いよいよ射精が近付いて、上条はしごきあげるスピードを速める。

 どこに出すか、迷うことはなかった。上条は禁書目録の下着の中に射精することを決めた。

 禁書目録の秘部がさっきまで当たっていた場所、
 そして禁書目録がこれを履けば、秘部に当たるである場所に、上条はねらいを定める。

83: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 00:00:30.50 ID:Ta2TJfqVo
「出すぞ……禁書目録っ!」

 上条の視界が白く染まり、これまで以上の、これまでのものを遥かに突き抜けた快感が、上条の下半身から噴出した。

 禁書目録の履いていた下着は、淫靡にも白濁に汚れ、上条の手の中でしっとりと濡れた。

 そこで一旦冷静になった上条は、けれど罪悪感にとらわれることはなかった。頭は冴えたけれど、満足はしていない。

 次はどうする? 普段ならば禁書目録の衣服を汚すことも出来たが、今彼女は丸裸の状態だ。

 鑑賞するにはちょうどいいが、触れるには物足りない――ひとまず上条は、禁書目録の乳房に触れながら考えることにした。

 もみしだこうとしても、やはり時間封鎖したままでは上手くいかない。

 上条は使用した下着を、水道を部分解除して水洗いした。その間も上条のものは、ずっと屹立したままだ。

「……どうするかね」

 タオルなんて使ったところでどうしようもない。かといって服を汚すと面倒だ。

 しかし今やめるのはいけない。

84: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 00:00:59.67 ID:Ta2TJfqVo
 ――そうだ、と上条は思いつく。一旦、時間封鎖を全解除し、寝間着姿になった禁書目録を好きにすればいい。

 買い与えたパジャマを使用して射精することもできる。

 出した精液をそのままにして、明日の朝目覚めるときに、禁書目録にそれを気付かせるのもいい。

 そしてゆくゆくは、禁書目録自身を部分解除し、彼女を辱めればいい。

 ――簡単なことだ。上条当麻は確信した。

 彼女の意識が眠っている間に、上条は彼女を好きにできる。

 まさに理想の力だ。上条の望む世界だ……。

 上条は漏れ出そうになった高笑いを堪えたが、堪える理由などなかったことに気付いて苦笑する。

 水洗いを終えた禁書目録の下着を洗濯籠に入れ直し、上条はふたたび手を洗う。

 上条は脱衣所から出る直前に、石のように固まったままの禁書目録の秘部に触れた。

 感触はない。けれどいずれ、必ず禁書目録の意識のある状態で触れてみせる。
 
 上条当麻はそう決意した――。


92: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 13:56:31.41 ID:Ta2TJfqVo
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◆ 御坂美琴
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 翌日には、禁書目録は昨日あったことを忘れていたようだった。確信は持てない。

 平日の為、上条は学校へいかなければならなかったのだ。

 朝少し話をした限りでは、彼女の様子におかしいところはなかった。

 あるいは彼女が平然と接しようとしていただけかも知れないし、その判断は今はできないが、
 彼女が普段通りに接しようとしている、という事実だけでも儲けものだと言える。

 考え事をしているうちに、上条が外出しなければならない時間はやってきた。

93: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 13:57:03.54 ID:Ta2TJfqVo
 考えてみれば、遅刻しそうなら時間封鎖を使えばいいのかもしれない、と上条は考えたが、これが難しい。

 たとえば昨日は、禁書目録が浴室に居て、上条の近くには他に誰もいなかったから時間封鎖中に移動することができたのだ。

 必ず元通りの位置に戻れるという保障でもない限り、人前で時間封鎖、全解除、とはいかない。

 禁書目録の目の前で時間封鎖を使い、そこから移動して全解除を行えば、
 禁書目録は、目の前から上条が突然いなくなったように感じるはずだからだ。

 そう、昨日、御坂美琴は上条当麻が目の前から突然消えたと感じたはずだ。

 そうでなくては困るが、そうだろうという確信はある。

 そのことの確認もしなければならない。

 考えながらも、遅刻ギリギリの上条は学校までの道のりを走っている。するといつのまにか併走してくる気配に気付いた。

 ――都合のいいことに、御坂美琴だった。

94: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 13:57:37.15 ID:Ta2TJfqVo
「御坂?」

 声をかけてから、はっと気付く。昨日のことがどう作用しているのか分からないのに、変なことは言うべきではないだろう。

「おっすー」

 御坂は平然と、にこりともせずに挨拶をする。上条は彼女がどうして自分の隣を走っているのかが分からなかった。

「どうしたんだよ、遅刻しそうなのか?」

 上条はできるだけ普段通りの口調を心がけて、気軽そうに声をかけた。

 御坂は一瞬とまどったような表情になったが、毒気を抜かれたように溜息をついたあと、

「別にそんなんじゃないわよ」と言った。その割には速度をゆるめる様子はない。

「やっぱり普通よね……」

 と、御坂の声がかすかに耳に届いたとき、上条は自らの判断が間違っていなかったことに気付いた。

 やはり、御坂は自分を覚えている。そして、自分に関して何かを考え、その結果が杞憂に過ぎないと考えたのだ。

 勝利だ。御坂美琴は上条当麻を疑うのをやめたはずだ。

95: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 13:58:03.57 ID:Ta2TJfqVo
「……なんだか分からないけど、そんなに足広げたらスカートの下見えるぞ」

 上条が言うと、御坂は平然と「別に良いわよ」と言い返した。

「中、短パン履いてるし」

 一瞬唇がつり上がりかけ、慌てて平静を装って、時間封鎖した。

 ――世界が、赤く染まる。

「御坂さ、もうちょっと警戒を持続してもいいと思うなあ、俺」

 さてと、上条さんのお仕事、始めますか。

 上条は鼻歌を歌いながら御坂の様子を観察する。

 ちょうどよく、両足が浮いた状態で止まっていた。幸運だ。昨日は両足をついていたから、脱がせるのに苦労した。

 まずは上条はその場にしゃがみこみ、御坂美琴の臀部を観察する。健康そうなふとももが、スカートの隙間から覗いていた。

 そして徐々に視線をあげていくと、彼女の言った通り、無粋な短パンが上条の邪魔をする。

96: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 13:58:32.62 ID:Ta2TJfqVo
 けれど上条は不愉快になることも慌てることもなかった。

 むしろ上条は、短パンの隙間からかすかに覗く下着の色を楽しんですらいた。

「……今日ももらおうかな」

 昨日の短パンは、禁書目録が眠った後、つまり禁書目録に欲望をぶつける前に、前座として使用した。
       
 感想としては、大変いい。素晴らしい、と言えた。下着とは違う布地のざらざらとした感触が、一段階上の快感をもたらした。

 また、使用者が御坂美琴であったことも大きい。

 銀髪碧眼のシスターである同居人、禁書目録と、超能力者の顔見知り、御坂美琴とでは、上条が感じる距離感や感情も違う。

 どちらも大事で愛しいということには変わりないが、
 禁書目録には家族のような、御坂美琴には年下の後輩のような欲望をぶつけられる。

 仲の良い後輩の私物を使った自慰というものは、上条に特別な快楽をもたらした。

 もっとも、その後の生身の禁書目録をつかった遊びがすさまじく、顔を見るまで忘れていたのだけれど、さて……。

97: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 13:59:24.58 ID:Ta2TJfqVo
 上条は御坂美琴の短パンを部分解除し、ゆっくりとずり下ろしていく。

 女子中学生の服を脱がせるというシチュエーションに、いやがおうにも興奮が高まっていく。

 徐々にあらわになる下着を正面から眺め、上条は局部を勃起させた。

 ……まずいな。今は見て楽しむしかないっていうのに。

 いや、正確に言えば、時間封鎖したまま御坂を堪能することはできる。

 柔らかな髪や、細い太股を、部分解除できなくとも、使用することは確かにできた。

 けれど今それをしてしまったら、上条はきっと我慢できなくなる。際限なく、自慰を繰り返してしまう。

 それは良くない。せめて放課後でないと、授業に集中できなくなりそうだ。

 短パンを太股のあたりまで下ろすと、青い布地に白いひらひらのついた下着が上条の目前にあらわれた。

 一瞬我を忘れそうになるが、堪える。

98: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 13:59:51.48 ID:Ta2TJfqVo
 上条が触れるまでもなく、御坂の下着には皺と、よくよく見なくとも、割れ目があることが確認できた。

 ひどく興奮し、みっともなくズボンにテントを作った自分自身を、上条は左手で撫でる。もう片方の手で御坂の下着に触れた。

 固い。けれど普段はみれない姿だ。十分、価値がある。

 ――脱がせてしまおうか?

 いや、やめた方がいいだろう。

 ……今は、よそう。耐えきれないのならば、そうだ。今日の放課後、御坂と出会うように仕向ければいい。

 そうと決まれば、善は急げ、だった。

 上条は早々に御坂の健康的な脚から短パンを引き抜くと、それを鞄にしまった。

 仮に誰かに鞄の中身を確認されそうになっても、時間封鎖すれば隠し場所を変えることが出来る。便利な力だ。

99: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:00:32.21 ID:Ta2TJfqVo
 上条は御坂の斜め後ろに立ち、時間封鎖を解除した。

 下手に同じ位置に立って姿勢を似せるよりは、こっちの方が自然に見えると考えたからだ。
 
 全解除すると御坂美琴は、何歩か走って立ち止まり、振り返った。

「どうしたの?」
 
 やはり、違和感を持った様子はない。

「いや。それより――」
 
 上条は少し、彼女をからかってやることに決めた。

「やっぱりその、上条さんは、女の子がそんなふうに脚を広げて走るのは感心しないのですが……」

「……何、意識してるの? 別に平気だって、下に短パン――」

 途中まであたかも上位にいるかのように勘違いして、上条をからかうようにニヤニヤしていた御坂美琴は、表情を硬直させてから、
 ばっとスカートを両手で押さえた。

100: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:00:58.38 ID:Ta2TJfqVo
 彼女の顔には、どうして? と書いてあるようだった。

「……あの」

 御坂は真っ赤になって上条に言う。

「その……何か、見えた?」

「……何も?」

 できるだけ自然に、問題を起こさないように言ったつもりだったが、女の勘か何かか、
 上条が青と白いひらひらを思い出していることに気付いた様子で、御坂の前髪が帯電した。

 普段ならば仁王立ちで電撃を放つ彼女が、今日ばかりは両手でスカートを押さえ、脚も少し内股だったのかかわいらしかった。

 御坂との別れ際まで、上条は放課後に彼女と会う口実を考えていたが、いいものは思いつかなかった。

 仕方ないのでそれは後で考えることにして、夕方に、いつも会う公園にこれないか、と上条が誘うと、御坂は妙な顔をした。

101: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:01:24.71 ID:Ta2TJfqVo
「どうして?」

「話があるんだ」

 まだ思いついていないけれど。上条は内心ほくそ笑む。

「……まぁ、かまわないけど」

 御坂はしばらくどう返すべきか逡巡しているように見えたが、最後にはそう言った。

 しめた。あとは口実を放課後までに考えておけばいい。どちらにしても授業には集中できそうにないな。

 成績が下がれば、小萌先生はがっかりするだろうか。まだ下があったのか、と。

 まあ、かまわないだろう。

 どれだけ上条がバカだとはいえ、時間をかけてじっくり勉強すれば平均点に近付くことは少しずつでもできるだろう。

 時間は無限にある――何も不安はない。


102: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:01:54.26 ID:Ta2TJfqVo
 上条当麻が息を切らしながら教室に駆け込むと、意外にもまだ予鈴も鳴っていなかった。

 肩すかしを食らって、残ったのは全身の心地よい疲労感だけだ。

 上条が自分の席に着くと、土御門元春がいつもの軽薄そうな口調で声を掛けてきた。

「おはようカミやん」

 背後から抱きつくように寄りかかってきた土御門を払いのけるようにしながら、上条は挨拶を返す。

「昨日は何かあったのかにゃー?」

 昨日? と考えて、例の騒動の直後、つまり、上条が時間封鎖の力を手に入れる直前に、土御門と会っていたことを思い出す。

「ああ、いや」

 と曖昧にごまかそうとするが、土御門はちゃんとした説明があるまで納得しないだろう。

「その、さ」

 言い訳がなかなか思いつかずに上条が黙りこくっていると、土御門はそれを待って押し黙った。

 ――面倒だな。

 けれどここで何かを察されるわけにはいかない。

103: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:02:40.94 ID:Ta2TJfqVo
「禁書目録と喧嘩でもしたのかにゃー?」

 土御門の言葉に、内心安堵する。いざとなれば言い逃れはどうにでもなるが、その推測はとても扱いやすいものに思えた。

 上条は今ほど土御門元春に感謝したことはない。

「ああ、まあ……実は、そうなんだよ」

 なるべく具体的な情報は避け、あたかもお手上げだ、というふうに溜息をつく。

「禁書目録との喧嘩」――いいかも知れない。

 事実、喧嘩のようなことはしたわけだし、ついでに放課後、御坂美琴と会うことにも、喧嘩したことの相談という名目ができる。

「どうして喧嘩なんてしたんだにゃー?」

 上条が話したがらないのを理解した上で、土御門は一歩踏み込んでくる。――どういうつもりだろう。

 単純に状況の再確認をしたいのか、禁書目録の様子を聞きたいのか、あるいは、何かに感づいているのか。

 上条が平静を装ってかぶりを振ると、土御門は軽薄そうな口調で続けた。

「まあ、言いたくなったら言ってくれていいんだぜい。相談に乗るくらいしかできないだろうけどにゃー」

 そう言って土御門はその話を打ち切った。

104: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:03:07.25 ID:Ta2TJfqVo
 ――説明を求められたとき、迷わずに言い返せるように、想定と模範回答が必要かも知れない。

 いや、と上条は考える。

 念には念を、というのも悪くないが、そもそも土御門に疑念を抱かれているとしたら、上条の落ち度だ。

 確かに昨日の行動は軽薄だった。けれど何も、警戒してビクビクすることもないだろう。

 何より、自重できるきはまったくしない。上条当麻はまだ何も達成していないのだから。

 そう、禁書目録にも御坂美琴にも、直接的なことは何一つしていない。

 せっかく手に入れた力を使わないのはバカだ。

 上条当麻は時間封鎖を発動する。意味はない。赤い光を世界がまとい、すべてが停滞する。

 ぼやけるような光の中で、背を向けた土御門元春の姿が不自然に硬直しているのが見えた。

106: 訂正 2011/02/06(日) 14:04:37.17 ID:Ta2TJfqVo
 ――いざとなれば、気付かれずに殺すことさえ容易。

 そう考えた上条当麻の頭に、またズキリとした痛みが走る。

 ……殺すべきではない。

 上条の目的は、何もこの世の影の支配者になるだとか、倒錯した殺人願望の達成なんかじゃない。

 あくまで時間封鎖は手段に過ぎない。

 上条当麻の目的は、周囲の女性たちを自らの手で堕とし、彼女たちを好きにすることに他ならない。
 
 そのために殺人という手段を経由するのはむしろ遠回りになる。
 
 土御門元春が死んだら、土御門舞夏に手を出すのが困難になるだろう。

 非日常のなかで彼女たちを犯すのではなく、普段と何も変わらない生活のなかで彼女たちを犯すことに意義がある。

 そのためにできるかぎり、彼女たちに対する行為以外は、普段と何も変わらない行動を取るべきだ。

107: 訂正 2011/02/06(日) 14:05:18.00 ID:Ta2TJfqVo
 ――できるだろうか。

 できるだろう、と上条は楽観していた。時間封鎖を過信していたわけではない。

 確認しなければならないことはまだあるし、標的にする相手も選ばなければならない。

 ひとつずつ、目的に近付いていくしかない。時間封鎖、幻想殺し、上条当麻という人格と、その友人。

 それらのすべてを利用して、上条当麻は自らの欲望を達成しようと目論む。

 赤い光をまとった世界の中で、上条は誰にも知れず笑みを浮かべた。


108: 訂正 2011/02/06(日) 14:05:58.41 ID:Ta2TJfqVo
 放課後、御坂との約束を守るために公園に向かう前に、青髪ピアスに「ある思いつき」のために必要な情報を確認した。

 彼ならそういうものについて詳しいだろうと思ったし、もしかしたら持っているかも知れない。

 上条当麻は女性に興味がないと見せるように振る舞っていたわけではない。

 むしろ健全な少年に見えるように、あるていど大げさに、思春期的な振る舞いをしていた。

 普段からそんな様子だったので、青髪ピアスはニヤニヤとからかってくるだけで何の疑問も持たなかったらしい。

 彼も、上条当麻が「そういうこと」をしようとしているとは想像すらできないはずだ。

 約束の時間になる前に青髪に教えられた店に行くが、少々期待はずれだった。

 確かにさまざまなものが置かれているものの、商品のほとんどは目的を同じくした、同種異形のものでしかなく、
 さまざまな用途の道具が置いてあるとは言いがたかったのだ。

 上条は何も買わずに店を出たところで思いつく。

 何なら、家にあるもので代用してしまうといい。

109: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:06:37.65 ID:Ta2TJfqVo
 今日上条が探した道具は、上条にとってはおまけみたいなものだった。

 ――拘束具、だ。いわゆる大人向けホビー商品。

 青髪ピアスならいい店を知っているだろうと思ったが、冷静に考えると彼は高校一年生。十六歳だ。

 彼が得意とするのはあくまで「十八歳未満でもそういったものを購入しやすい、購入できる、閲覧できる店」であって、
 目的に応じた道具を入手する店は彼の管轄外だった。

 確認したところ、目的物の理想に近いものはあったが、簡単には抜け出せそうになく、
 また無理に動けば怪我をしてしまうような形状のものが多かった。

 上条は別段、拘束の必要性を感じていない。なぜか?

 そもそも上条当麻には時間封鎖の能力があった。

 たとえば窓も扉も閉め切った場所で時間を封鎖し、標的を部分解除してしまえば、
 上条当麻は苦せず標的を逃がすことなく襲うことができる。

 どれだけ叫び声をあげても応えるものはなく、どれだけ逃げても、逃げた先に自分が待っている。

 ――上条当麻からすれば、垂涎ものの想像だ。それを現実にするのが容易だというだけで、上条の顔には笑みが浮かぶ。

110: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:07:18.85 ID:Ta2TJfqVo
 だから彼が拘束具を必要とするのは、単純に「部分解除をしたまま抵抗を防ぐため」だった。

 昨日だけで、例の花柄の少女と、禁書目録、さらに御坂美琴に、気付かれずに自らの欲望をぶつけることができた。

 けれどまだ足りない。昨日の夜も禁書目録は、喘ぎ声や嫌がる声以前に、寝息すら立てていなかった。

 それでも上条にはとんでもないご馳走ではあったのだが、やはり、まだだ。

 上条当麻は今夜、禁書目録を部分解除しようと決めていた。

 そしてそのまえに確認しておかなければならないことがある。

 ――時間封鎖中の、幻想殺しの効力だ。

 禁書目録は魔術が使えない。厳密には使用できるはずだがそれは、魔力を使用しない強制詠唱や魔滅の声と言ったもののはずだ。

 その両方が、上条当麻個人に対しては何の効力も持たない。

 けれど禁書目録の十万三千冊の魔道書のなかに、上条当麻の力をうち消してしまうものがないとは限らない。

111: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:08:02.25 ID:Ta2TJfqVo
 かといって、上条当麻は禁書目録を標的からはずすわけにはいかなかった。

 もっとも近しく、もっとも容易に犯せるはずの女なのだから。

 禁書目録の使う魔術がどのようなものか、そもそもどういった状況を必要とするものか、上条は考慮しておかなければならない。

 上条当麻の幻想殺しが時間封鎖環境でも使用可能かどうか以前に、幻想殺しが効力を発揮できない魔術も存在するかもしれないのだから。

 けれど上条当麻は、同時に慢心もしていた。
 
 どのようなことが起こったとしても、時間封鎖環境でなら上条当麻がイニシアチブを握っている。

 たとえば時間封鎖を解き放つような魔術があるとしても、上条当麻はまたすぐに時間封鎖を張り直すことができる。

 魔術的に言えば上条の時間封鎖は結界のようなものだろう。それを解除する方法はあってもおかしくない。

 しかし、魔力を使用していない「結界を張る能力」を、根本から奪うような術があるとは思えない。
 
 そもそもその中では上条が望むもの以外の時間は停滞してしまう。

 どの程度のものまでが適応できるかは分からないが――たとえば、超能力や魔術による異能も停止することができるなら。

 楽観はできないし、検証はまだ必要になるだろう。

 けれど上条当麻は、目的の為に立ち止まるわけにはいかない。

112: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:08:29.55 ID:Ta2TJfqVo
 まずは御坂美琴の電撃が、時間封鎖によって止められるかを検証しなければならない。

 そしてその次に、停止した状態で、電撃を「幻想殺し」によってうち消せるかどうかを、

 さらに、能力者たちが時間封鎖という環境のなかで能力を行使できるかどうか――

 もし時間封鎖の中で彼女たちが能力を使うことができないとしたら――上条当麻に敵はいない。

 徐々に実験を進めていくしかない。

 手始めに御坂美琴。そして今夜は、禁書目録で遊ぶのだから。

 オモチャの安全確認をするのは、使う側の重要な義務だ。


113: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:09:45.32 ID:Ta2TJfqVo

 公園につくと、御坂美琴は待ち疲れた様子でベンチに座って缶ジュースを啜っていた。

 上条が声を掛けると、御坂は不機嫌そうに睨め付けてくる。

「遅いじゃない」

「悪い。待ったか?」

「待ったか、じゃないわよ」

 御坂はベンチに座って足を組んでいた。ちょっと、確認させてもらおう。

 御坂がこちらから視線を外したタイミングを見計らって、上条はささやく。

(――さあ、目覚めろ)

 必ずしも言う必要があるわけではない。気分の問題だ。

 世界が赤く染まりきってから、上条は考える。

114: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:10:14.03 ID:Ta2TJfqVo
「この場合、「眠れ」って言った方が相応しいような気がするんだけど」

 声を出しても、周囲から返答はない。

 あらゆる物質・物体が活動をやめているにも関わらず、声が確かに響くのはなぜだろう。

 ――どうでもいいな。重要なのは、「これがそういうものだ」という事実だ。

 さて、と。上条は足を組んだ御坂の正面に屈み込むと、かすかに広がった足の間を覗き込んだ。

「……こりゃ、予備の分かな」

 御坂は短パンを履いていた。

 一日、下半身をすーすーさせて、誰かに見られるかも知れない、と不安になっている御坂を想像するのは楽しかったが、
 やはりそう都合よく世界は回らないらしい。

 第一、御坂の下着を自分以外の誰かが見るかもしれない状況なんて、上条からしても不愉快だ。

(俺の……俺だけのものだ)

 歪んだ独占欲が心で渦巻くのを感じ、にやり、と上条は笑う。

115: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:10:40.12 ID:Ta2TJfqVo
 今日の分の短パンはもらった。あんまりなくなっても怪しまれるだろう。

 ……怪しませるのもアリか?

 やめておこう。御坂美琴が上条当麻をどう思っているかも分からないのに。

 禁書目録に関しては、一定以上の好意を受けている、と確信していたし、自負もあった。

 けれど御坂美琴がどうだか分からない。勘づかれるようなことは後回しにするべきだ。

 上条は封鎖時にいた地点に戻り、全解除を行った。

「――アンタね、人を呼びつけておいて、こんな時間に来るってどういうこと?」
 
 御坂は付近に立つポールの時計塔を指さし、

「もう四時半なんですけど!」

 と喚いた。

 ああ、すまないことをしたな、と上条は考えるが、
 それよりも時間封鎖と、その解除に御坂がまったく気付かなかったことから生まれた達成感の方が大きかった。

116: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:11:07.16 ID:Ta2TJfqVo
 ――それに、怒っているなら好都合だ。

 御坂美琴に電撃を放ってもらわないと、今日の実験は行えないのだから。

「すまん。ちょっと忘れてて」

 本当はしっかり覚えていたのだが、こう言えば怒るだろう。

「なッ……!」

 上条の予想通り、御坂美琴は顔を真っ赤にして激昂した。

「アンタねえ……ッ!」

 彼女が照れ隠しなどとは別に、こんなふうに上条に怒りを向けるのはいつぶりだろう、と考える。

「バカにしてんじゃないわよ――ッ!」

 御坂美琴の前髪が帯電して浮かび上がる。ガリガリ、ビリビリ、と、叫び声のような音が周囲を覆う。

 御坂は駄々をこねるように右腕を振り回して、上条に雷を放った。

117: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:11:37.67 ID:Ta2TJfqVo
 超能力者、超電磁砲、常盤台の電撃姫の攻撃としては、大雑把で強引な力の行使だ。

 ――面倒な演算が嫌になったのか、あるいは気を晴らしたいだけで攻撃をするつもりではないのか。
 
 どっちにしろ溜まったストレスを電撃にして放ったに違いない。どうせ効かないのだから、余計イライラするだけだろうに。

(……問題はここからだ)

 上条はひそかに緊張する。

 ――時間封鎖。

 念のため掲げた右手には、何の反応もない。

 幻想殺しは異能の力に触れることではじめて発動する力だ。電撃が幻想殺しに近付いてこなければ発動しない。

 音も、止まっていた。

「ご都合主義的だよなぁ」

 上条は肩すかしを食らってぼやく。

118: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:12:04.69 ID:Ta2TJfqVo
 どんな条件で起こったか知らないが、御坂が強い電撃を発動するときはスカートが浮かび上がり、中の短パンが見える。

 ――やっぱり脱がしておくべきだったかな。

 時間封鎖を利用しても、浮かび上がったスカートの中身を覗く、というのは困難なことかも知れない。

 さて、と上条は御坂との距離を詰め、その途中に立ちふさがる御坂の電撃を眺めた。

 上条の頭にはふたつの懸念があった。

 まずは、幻想殺しが反応しない可能性。

 こちらは単純に時間封鎖を解除すれば消せるのだからあまり問題にはならない。

 異能を消すタイミングを考慮しなければならないだけだ。時間封鎖は適応されるのだから、避けることも難しくない。

 問題なのは、幻想殺しが時間封鎖という普段と異なる環境のなかで、不具合を起こす可能性、だ。

 上条は「幻想殺し」という能力がどのようなプロセスで異能をうち消しているか知らない。

 もし時間封鎖という特異な環境のなかで、たとえば「御坂の電撃」を異能と認識し、それをうち消そうとするが、
「停滞した時間」を異能の一部分として認識し、「電撃」という部分を異能としてうち消せない可能性すらある。

119: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:12:32.30 ID:Ta2TJfqVo
 もちろんこれは可能性の話だ。実際に起こることはまずないだろう。

 けれど上条の頭には、あり得るかもしれないIFが重くのしかかっていた。

 自分が持つ得体の知れないふたつの力が競合し――上条自身を危機にさらすのではないか。

 ……馬鹿馬鹿しい。上条はかぶりを振って考えを否定する。

 時間封鎖は幻想殺しでも解除できない。時間封鎖を解除できるのは、その能力の一部である「全解除」と「部分解除」のみだ。

 幻想殺しで時間封鎖を解けないことは既に分かっている。異能の力だって例外ではないはずだ。

 であるなら可能性はふたつだけ。

 幻想殺しが効力を失っている、か、幻想殺しが異能を殺すか、だ。

 そして上条は、すぐに心配が杞憂だったことを証明した。
 
 感触はないそれに、右手が重なった瞬間、御坂美琴が放った雷は消え去った。

 あとに残ったのは奇妙に静まりかえった赤い世界だけ。

120: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:12:59.30 ID:Ta2TJfqVo
 上条は数歩下がって、時間封鎖を解除した。姿勢が多少変わっていても、雷撃に隠れていて分からないだろう。

 右手をかざして、上条は御坂の電撃を「たったいま」うち消したふりをした。

 ――幻想殺しは異能の力をうち消した。

 上条の頭に疑問が生まれる。

 どうしてこんなことが起こるのだろう。時間封鎖環境内で、幻想殺しがその効力を失っていないのであれば、
 時間封鎖は自然な考えとして、「幻想殺しよりも強力な異能」ということとなる。

 上条当麻が今まで経験してきた数々の戦闘の中で、幻想殺しが消せなかった異能というのは存在しない。

 たとえばステイル=マグヌスの魔女狩りの王のように、
 打ち消してもすぐに復活したり、元を絶たなければならない場合などを除いて、だ。
 
 上条当麻はものを深く考えるのが苦手だ。苦手だが――「時間が停滞する」というのは「世界の変化を封じる」ということだ。

 あらゆる攻撃、干渉は一種の変化だ。それを堰き止めるということは、

 たとえば時間封鎖中に、外部からの干渉によって時間封鎖が破壊されることはないということ――?

 世界そのものを止めているのだから、それを打ち消すには、止まっていない存在か、あるいは、「外側の世界」が必要になる。

121: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:13:40.68 ID:Ta2TJfqVo
 混乱しかけた上条は考えるのをやめる。難しいことは考えるべきではない。

 そう、異能の力は打ち消せた。恐らく幻想殺しは時間封鎖環境内でも問題なく機能する。

 現実で打ち消せる異能は、時間封鎖している状態でも打ち消せる。

 それだけ分かればいい。

 御坂美琴は打ち消された電撃が向かうはずだった上条を不服そうに睨んだ後、「まぁ、いいわ」と言った。

「はっきりとした時間、決めてなかったし。仕方ないっちゃ仕方ないもんね」

 そんな言い方をするということは、彼女自身が「いつだか分からないから早めにやってきた」と言っているようなものだった。

 少し罪悪感はあったが、やむをえないことだ。

 彼女を怒らせるためには遅れてこなければならなかったし、今夜、禁書目録と遊ぶ為に必要なものの確認もしなければならなかった。

 申し訳なさがあったが、仕方がない。

「悪かったな」

 上っ面だけ深刻そうに謝って、上条は御坂の隣に座った。

122: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:14:09.16 ID:Ta2TJfqVo
「別にいいってば。何かあったのかって心配してたくらいだったし、かえって安心したわよ」

 それを聞いて上条は、彼女の怒りが、そういう複雑な感情が混ぜ合わさって発露したものだと気付いた。

 上条は思う。――なんて、いとしいのだろう。なんて、あいらしいのだろう。

 なんて、そそられる女なのだろう――。

 けれど、今日のところは良いだろう。半日学校にいると、御坂美琴に対する劣情はおさまってきた。

 それは御坂美琴を犯したくなくなったという意味ではなく、「楽しみはあとに取っておこう」というより下劣な考えからだった。

 そう、まずはできることからゆっくりとやればいい。

 上条当麻は禁書目録の最初の「部分解除」をどう行うかを考えているうち、そちらで頭がいっぱいになってしまったのだった。

 決行は今夜だ。

 上条は平然としているが、衝動を抑えるのは想像を絶するほど苦労した。

「んで、何なのよ」

「何が?」

 上条が問い返すと、御坂は「なんでって……」と唸るように言った。

123: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:14:37.43 ID:Ta2TJfqVo
 必死に堪えるような表情を見せてから、「アンタ、バカにしてるわけじゃないわよね?」と彼女は問い返してきた。

 その様子を見て、上条は慌てて思い出す。そうだ。口実が捏造だったから、すっかり忘れていた。

「あ、ああ。そうだよな」

 上条がようやく話をはじめようとすると、御坂は「ん」と不機嫌そうに唸って促した。

 もしかして照れ隠しか?

 そういえば御坂に相談事をするなんて初めてかも知れない。

 公園に来てから、御坂の沸点が妙に高いと思っていたら、
 ひょっとして相談事をされるというシチュエーションに義務感のような何かを感じているのかも知れなかった。

「実はさ、昨日、禁書目録と喧嘩したんだ」

 今朝、土御門との会話の中で思いついた事情を説明する。

「喧嘩? なんでまた」

 当然、御坂は理由を気に掛けるが、ここで嘘をつくわけにはいかない。御坂は禁書目録と面識がある。

 嘘の説明をして御坂が禁書目録に事情を聞きに行ったとき、上条と禁書目録の話が食い違っていたらおかしい。

124: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:15:04.27 ID:Ta2TJfqVo
「理由は言えないんだけど」

「理由が言えない?」

 御坂は明らかに軽蔑した様子で、「アンタいったいあの子に何したの?」と言った。

「何したっていうかさ……言えないんだけど」

 御坂は呆れて溜息をついたようだった。

「ま、いいわ。続けて」

 軽蔑したようにみえたのはポーズだけだったらしい。上条にとってはありがたかった。

「それで、泣かせちゃったんだよ、俺。禁書目録のこと」

「……それで?」

 上条の独り言のような呟きに、御坂が問い返してきた。

「それで、って?」

「え、話終わり?」

「終わりだけど――」

 上条から言えるのはここまでだった。頷くと、御坂はどう反応したらいいか分からないというように眉間を寄せて困惑していた。

125: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:15:30.99 ID:Ta2TJfqVo
「いやいや。アンタはどうしたいのよ」

「どうしたい――?」

 たとえば、仲直りしたいだとか、あるじゃない。御坂はそんなふうに言う。

「いや、仲直りとかじゃないんだ」

「どういう意味?」

 上条は、なるべく普段の自分ならどう考えるか、普段の自分ならどう言うかを意識しながら言葉を選んだ。

「昨日喧嘩して、俺、謝ったんだよ。禁書目録は平気そうな顔してて、今朝だって普段通りに接してくれてたんだ。
 だけどアイツ、無理してるんじゃないかって――本当はいやなのに、俺に気を遣ってるんじゃないかって」

 上条は言い切る。我ながら無難な言い訳だった。問題は御坂がどう反応するかだが――。

「バカじゃないの、アンタ」

 御坂は一蹴した。

126: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:15:57.51 ID:Ta2TJfqVo
「あのね、アンタたちがどんな原因でどんな喧嘩をしたか知らないけど、あの娘がアンタを嫌がるわけないじゃない。
 気を遣うようなタイプでもないわよ。嫌になったら態度や行動で示すわよ、あの娘は」

 御坂の言う通りだな、と上条は内心笑った。

 禁書目録が普段通りに接しようとしているということは、自分との生活を続けたい、と考えているからに他ならないだろう。

「アンタはそんな余計なこと考えてないで――喧嘩したならもう二度としないように改めて、
 さっさと帰って遊び相手でもしてあげなさいよ。
 お詫びのしるしっていって、いつもより美味しいご飯つくってあげるだけでもいいじゃない」

 御坂の言に、上条は「そっか、そうだよな」と、口の動きを無意識に任せて殊勝そうな態度を取った。

 考えていたのは、御坂が言った「あの娘がアンタを嫌がるわけがない」という言葉だ。

 ――それは困る。

 彼女には嫌がってもらわないといけない。そうでなければ、上条の歪んだ欲望は満たされないだろう。

「ありがとな、御坂」

 礼を言ってから、時間をとらせて悪かったな、と再び謝罪をする。彼女は照れくさそうにそっぽを向いた。

「別にいいわよ。このくらい」

 普段より赤く染まった顔が愛らしく――汚したいほど愛しかった。

127: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:17:00.21 ID:Ta2TJfqVo
 帰宅してすぐ、玄関で靴を脱いでいると、禁書目録の足音が聞こえた。

 ――昨日のことがあったばかりだ。

 上条からすれば、彼女とは昨夜をともに過ごしたようなものだが、彼女からすれば例のことがあった直後みたいなものだ。

 気まずさを誤魔化すために、普段以上に元気に振る舞おうとしているのだろう。

 その健気さに――劣情を催した。

「おかえりとうま!」

 と禁書目録の姿が玄関に現れたとき、上条当麻は世界を赤く染め上げた。

 室内にあがり、彼女の身体に触れ、部分解除をして、禁書目録の服を脱がせる。

 硬直しているとはいえ、少女の身体を自らの手で露出させていくというのは、強い興奮と充実感を伴った。

 上条は禁書目録からはぎ取った服を廊下の奥に投げ捨てた。彼女は今生まれたままの姿で空元気をしている。

 ――笑える光景だ。

128: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:17:33.73 ID:Ta2TJfqVo
 上条当麻は靴をはき直し、かかとを合わせたあと視線を床に落として時間封鎖を解除した。

「ただいま」

 と言ってから、つとめて自然な動きで禁書目録を視認する。

「おい、禁書目録! 何やってんだ?」
 
 今気付いたかのように驚いて見せて、

「えっ?」

 動揺する禁書目録に、現状を理解させる。

「その格好……」

 禁書目録は自らの姿を見て、顔を真っ赤にして悲鳴をあげた。

 なんで、なんで? 禁書目録が混乱しながら涙目になって膝から崩れ落ちる。

 上条当麻は唐突に現れた禁書目録の裸体にみとれる――振りをして、冷静に鑑賞した。

 昨日とは違う。今日の禁書目録は、あの忌々しい赤い光に包まれていない。

 白い肌が、銀色の髪が、生々しく上条の前でうねっている。

129: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:18:00.70 ID:Ta2TJfqVo
「とうま!」

 禁書目録の八つ当たりのような怒鳴り声に、潮時だな、と背を向ける。

「な、なんで裸なんだよ」

「そんなのわかんないよ! いいからちょっと外に出て!」

 はやく、と禁書目録が叫んだのを最後に、上条は扉を開けて自分の部屋から脱出した。
 
 上条は自分の部屋の扉にもたれかかり、たったいままで目撃していたものを思い出す。

 ――禁書目録の裸。
 
 これまでに何度か見たことはある。

 けれどあんなにも近くで、はっきり、くっきりと、無防備に、時間封鎖外で見せられたのは初めてだ。

 上条当麻は興奮している。あんな姿を見せられて、そうならない方がおかしい。

 けれど、まだダメだ。まだ早い。

 しかしいざとなれば――そう、思春期の少年の目の前で、禁書目録が裸になったという言い訳が聞く。

 昨日の未遂のこともある。禁書目録に上条当麻が欲情してもおかしくない環境ができはじめていた。

 そして禁書目録は、言い訳できる状況を徐々に失っていく。

 禁書目録が、自分が無防備なのがいけなかったのかもしれない、と考えるような状況ができあがりつつある。

 ――そうだな、さっきと同じようなことを、風呂上がりにさせるのも悪くない。
 
 上条当麻はほくそ笑んだ。夜はまだ始まっていない。今日は自分にとって特別な日となるだろう。

130: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:18:41.50 ID:Ta2TJfqVo
 風呂上がりの禁書目録から寝間着を奪い、それを浴室に置き去りにする計画は成功した。

 ――成功しすぎたくらいだった。

 禁書目録は無防備にもタオルで髪を拭きながら、火照った裸体を上条の前にさらした。

 上条は演技ではなく、もはや欲情という言葉では生ぬるい衝動に襲われ、冷静さを失って禁書目録を押し倒した。

 ――自分で仕組んでおいて、よくもまぁ興奮できるもんだな、ここまで。

 上条の中の冷静な部分がそんなことを言う。

 仕組んでおいて、だと? バカな。上条当麻は努力をした。

 こうなってもおかしくなくなる環境を作るまでに努力をしたのだ。

 禁書目録は夕方と同じように、自らの素肌をどうにか隠そうと両手でもがくが――当然、たりない。

131: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:19:08.42 ID:Ta2TJfqVo
 右手で禁書目録の華奢な肩を押し、左手で禁書目録の足を持って抱き上げた。冗談みたいに軽い。

 禁書目録が上条の腕のなかで、とまどったような声をあげる。

 返事はしなかった。その方が自然と感じたから――ではない。そんな余裕がなかったのだ。

 上条は禁書目録の裸体をベッドに放り、その上に覆い被さった。

「と、とうま……?」

 何が起こっているのか分かっていない様子で、禁書目録が名前を呼ぶ。

 湯上がりの火照った顔、濡れた髪から薫るシャンプー、玉のように白く綺麗な素肌――。

 これは策略ではない。

 策略だとするならば、それをしたのは禁書目録の方だ。

 さきほどまで頭で考えていた、「いつもの上条当麻が禁書目録を襲ってもおかしくない状態」。

 はからずも、今がまさにそれだった。

132: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:19:39.09 ID:Ta2TJfqVo
 息を荒げて上条は禁書目録の肌にゆっくりと手を近付けていく。

「――やっ、だ、だめ!」

 上条はまず、禁書目録の乳房に触れた。仰向けに寝転んでいるせいで、決して大きくはない彼女の胸が、更に小さく見えた。

 ――あ、そうか。これがまな板だ。

 上条当麻のなかで、パズルのピースがはまるようにはっきりと意味が繋がる。なるほど、上手いことを言ったものだ。

「――ッ!」

 禁書目録は起こっていることを理解できていない様子で、声もなく混乱している。

 上条の動きは止まらない。右手で乳房をなで回す。柔らかな感触はほとんどない。

 それなのに頭が回らない。のぼせてしまいそうだ。顔が熱い。いや、体中が熱い。

 上条の右手は腋にそれるように動いていき、ゆっくりと脇腹へと伸びていく。

 彼の手が彼女の脇腹を撫でたとたん、禁書目録はくすぐったそうにビクンと身体を揺すった。

133: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:20:05.65 ID:Ta2TJfqVo
「とうま……?」

 不安そうな声。

 止まれない、と思った。

 上条は左手で、禁書目録の銀色の髪を撫でた。濡れた感触が心地よい。

 慈しむように髪を優しく撫でてから、鼻先を近付けて息を大きく吸った。

 シャンプーの匂い――否、女の子の匂い、だった。

 上条の荒い息が、禁書目録の耳に吹きかかる。彼女はどうすればいいかも分からず、抵抗もなく身を竦めた。

 上条の右手は脇腹から更に下へ、下へと向かい、臀部、太股までたどりつく。

 彼の右手が身体をなぞるたび、禁書目録はくすぐったさに身をよじった。

 そこにただの「くすぐったさ」ではない感覚が混じりはじめるのに、禁書目録は気付かないふりをしていた。

134: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:20:35.41 ID:Ta2TJfqVo
 やがて彼の右手は内股へと伸びて――禁書目録の秘所に触れようとしたとき、ふと動きを止めた。

 上条は右手が下がっていくにつれて、身体全体を下に向けていった。

 上条の顔が自らの胸部の正面に来たとき、禁書目録は羞恥に顔をゆがめた。

「やっ……いやっ――!」

 けれど彼に覆い被され、禁書目録は身動きがとれない。混乱した頭の中に、危機感と、ぼんやりとしたのぼせたような感覚が溢れた。

 どうにかしなくてはならないのに――からだが言うことをきかない。

 いや――言うことをきかないのではないかも知れない。

 禁書目録は上条当麻の行為を受け入れつつあるのではないかと自問した。

 そしてその問いに答える前に、上条の右手が再び、禁書目録の内股をなで回す。

 自分ですら普段触れない場所を上条に触れられていると考えただけで、頭が爆発しそうに熱くなった。

135: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:21:01.83 ID:Ta2TJfqVo
「だめ……」
 
 禁書目録の声は消え入るようだった。

「とうま――」

 そして上条の右手が禁書目録の秘所に触れようとしたところで――

「ダメだってば!」

 ――禁書目録はいつのまにか自由になっていた上半身と両腕を使って、上条当麻の後頭部を枕で叩いた。

 枕で叩いたとたん、体勢が崩れて上条の顔が禁書目録の乳房に触れる。

 禁書目録の悲鳴が響いたのは、今日だけで三度目だった。

136: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:21:27.85 ID:Ta2TJfqVo
 禁書目録がベッドで寝息を立てていた。

 あの後、禁書目録は相当混乱していたらしく、自分がどうして裸になったのかという疑問よりも、
 上条にされたことを考える方に頭を使ってしまったらしい。

 いや自分が裸になったのだけれど、と禁書目録は思っただろう。
 
 けれど信頼していた男に、「女性」として見られたことで、禁書目録のなかで何か変化が起こりつつあるのは確かだ。

 証拠に、禁書目録は羞恥に涙目になることはあっても、嫌がって泣き出すことはなかった。

 ――今日の暴走は想定外だった。

 赤い光に包まれた、固い石のような感触と、暖かで柔らかな、ぬくぬくとした感触を交互に思い出す。

 仕方のないことかも知れなかった。上条当麻に女性経験はないし、時間封鎖を手に入れてもそれは変わらないのだ。

 みっともないことだが、上条当麻は自分を見失っていた。

137: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:21:55.54 ID:Ta2TJfqVo
 しかし、後悔はしていなかった。風呂に入って頭が冷えたあと、禁書目録に正座させられて説教を受けた。

 神に仕える身のシスターにどうのこうのだとか、何を言っているか半分くらいは理解できなかった。

 けれど禁書目録は――さして、嫌がっていない。それに気付いたのだ。

 ――それも悪くない。上条のもともとの欲望とは違う形だが、それでも一種の満足を得られるだろう。

 だから上条は、その両方を選ぶことに決めた。

 今日、禁書目録に襲いかかった。昨日よりも先に進んだ未遂だった。

 より生々しく、より淫靡に、禁書目録の記憶には残るかも知れない。

 見た目からはわかりにくいが、彼女は御坂美琴と同じような年頃だ。興味を持ってもおかしくない――。

 だからたとえば、禁書目録に対してこれからする行為を、彼女はただの夢だと勘違いしてくれることが期待できる。

138: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:22:21.55 ID:Ta2TJfqVo
 赤い、赤い世界で、禁書目録が眠っていた。

 夢は混迷とした記憶が乱雑に配置されることで生まれるのだという。忘れることができない彼女は夢を見るのだろうか。

 ――どちらでもかまわない。見ないなら見ないで、見るなら見るで。

 まずは、上条は、自身の衣服やタオルなどを使って、禁書目録を拘束した。
 
 なるべく、「抜け出せるかもしれない」と思えるように、ゆるく。

 理由は単純に、時間封鎖があるためだ。

「身動きできない」ことは重要ではない。もっと重要なのは、彼女が逃げ出せない、「絶対に逃げ出せない」と感じることだ。

 拘束をしようとするが、上手く括り付けられるものがない。

139: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:23:04.88 ID:Ta2TJfqVo
 禁書目録の身体は石のように硬直しているが――。

 上条は禁書目録を部分解除した。目を覚まさないように、静かに彼女の目に布を巻き付ける。目隠し、だ。

 その後、すぐに部分封鎖。彼女が気付いては元も子もない。

 さて、と。

 上条は禁書目録をふたたび部分解除する。両腕を上に伸ばし、拘束しやすいようにしてからまた部分封鎖した。

 手近に布を結ぶものがなかったことが、上条をもっとも焦らせた。

 けれど冷静に考えれば、時間封鎖という特異な環境では、物は動かない。

 上条は禁書目録の右手をタオルで封じ、それを何枚か結び繋いで、近くに持ってきた扇風機につないだ。

 こうすることで、扇風機の方を部分解除しなければ、腕は自由にならないはずだ。

140: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:23:32.05 ID:Ta2TJfqVo
 問題はもう片方だが、これはベッドの枕元の窓に挟むことで解決した。こちらもまた、窓を部分解除しなければ動かない。

 実行の際、手首を拘束するタオルを部分解除するかどうかは迷った。

 逃げ出されては意味がないが、「逃げ出せるかも知れない」と希望を抱かせたあとの絶望的な表情は素晴らしいものに思えた。

 まず最初は拘束を解かないことに決め、最中に期待を持たせるようにしよう、と考えた。

 赤い光をまとったパジャマ姿の禁書目録を拘束することに、上条は成功した。

 ――そういえば、と考える。

 時間のとまった扇風機は突き刺さったように動かなくなり、上条が部分解除しなければ動かすことはできない。

 けれど、と思い出す。最初に御坂美琴の短パンを盗んだ時、彼女の両足はついていて、
 上条はそれを一旦横に倒すことで短パンを抜き出したのだ。

141: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:23:58.43 ID:Ta2TJfqVo
 ――まだ検証しなければならない疑問は残っているようだ。

 あるいは上条当麻が望むことで、接地面を動作可能か不可能かを切り替えることができるとか?

 まさか、と思うが、こんな世界だ。

(――おまえの望む世界を与えてやろう)

 ……ありえないことじゃない。

 更に言えば、ペットボトルの中身を部分解除せずに逆さにしても落ちなかったことを思い出す。

 もしかしたら上条は、水の上を歩くこともできるのだろうか。

 変化を拒むということは、「何者かの侵入をも拒む」という意味である。

 ということは、たとえば池だとか川だとかプールだとかで、
 膝から下を水に浸かった人物を時間封鎖空間内で部分解除をすれば――容易に移動を封じられるということか。

 上条の頭に、次々と新しいアイディアが降り注ぐ。

 それらはすべて、陵辱の為に変換された。

142: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:24:25.89 ID:Ta2TJfqVo
 禁書目録が意識を取り戻すと、下半身に何か、なまぬるい、気持ち悪い感触が広がっていた。

 目をあけてそれを確認しようとしても、目が開かない。

「え――なに……?」

 禁書目録は自分の口と耳が正常に機能していることを理解した。同時に、目が開かず、手足が動かせないことに気付いた。

「なにこれ……ッ!」

 思わず怯えた声をあげる。ぎい、と耳に物音が届いた。

「誰かいるの……?」

 また、ぎい、と軋むような音が聞こえる。自分の身体の下から――。

 感触から想像するに、自分は普段通りベッドで眠っていたのだろう。

 では今の軋むような音は――誰かがベッドの上で体重を動かしているということ……?

143: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:24:56.71 ID:Ta2TJfqVo
「だ、だれ!?」

 禁書目録は自分の声が震えていることに気付いた。

 舌がもつれて、上手く言葉をしゃべれない。

「とうま! とうま!」

 何も見えない恐怖のなか、どんなときでも自分を守ってくれていた上条当麻の名前を呼ぶ。

「とうま、どこ? 助けて!」

 けれど、禁書目録の声に応えるものはいない。

 そして禁書目録は、視界のない中で混乱した意識をなんとか冷静に保とうとしたが、すぐにそれを邪魔された。

 気持ち悪い、ごつごつとした感触が、禁書目録のお尻を持ち上げて、衣服を脱がそうとしている。

 思わず、ひっ、と声をあげてから、耳を澄ませると、獣じみた呼吸音が聞こえるのが分かった。

 はあ、はあ、はあ、はあ。野犬じみた声が、禁書目録の耳に届いた。

144: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:26:09.23 ID:Ta2TJfqVo
 まるで身体をなめ回されているような感覚に、禁書目録は嫌悪感と怯懦を受け、身動きがとれなくなる。

 頭を焼きそうな恐怖のなか、禁書目録は叫び声をあげる。

「いッ……いやあ、いやああああ! とうま! とうま――!」

 けれどどれだけ叫んでも、上条当麻は禁書目録を助けにこない。

 やがて絶えず叫び続ける禁書目録にわずらわしさを感じたのか、
 人間か、他の何かなのかすら分からないそれは、禁書目録の口を強引に塞いだ。

 禁書目録は唇と歯に力を込め塞ごうとするが――何かの手によって強引に開かれ口内を蹂躙された。

「んッ――ちゅぷ、む、んんんん!!」

 禁書目録は必死に抵抗しようとしたが、力は絶大で、抵抗ができない。

 手足を動かそうともがくが、やはりどうしても動かせなかった。

 長い蹂躙の末に開放された口を必死に動かし、禁書目録は叫ぶ。 

「いやっ! やだ……ッ――! とうま……!」

 彼女は何度も何度も上条の名前を呼ぶ。


 胸の内にくらい絶望感が訪れはじめた。

 何が起こっているか分からないけれど、自分が何かを失い、
 その上まだ何かを喪失するのだ、という確信がじわじわと禁書目録を襲った。

145: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:26:36.40 ID:Ta2TJfqVo
「なに――これ……」

 禁書目録が呟いた瞬間、何者かの手が禁書目録の身体を乱暴に弄び始める。

「痛い――ッ!」

 彼女が苦悶の声をあげても、その動きは止まらない。それどころか、耳元で騒ぐ荒い息が、更に強く浅くなっていくように聞こえた。

「やめて、おねがい……!」

 禁書目録は瞼を開くこともできずに泣いた。けれど手は動き続けている。

 今日、上条当麻にされたように。

 ――え?

 と暗い感情が、暗い推測が、禁書目録の中で動き始める。

146: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:27:08.73 ID:Ta2TJfqVo
 けれどそれを、彼女はすぐに否定した。

 ――違う。とうまじゃない。

 それは希望のようなものだった。第一上条に触れられたとき禁書目録は喜んですらいたはずだ。

 どうしようもなく恥ずかしく、我慢ならないけれど、それでもどこか、うれしかったのだ。

 これは違う。とうまとは違う。禁書目録は内心で繰り返す。

 さわりかたも乱暴だし、うれしくないし、あのこそばゆくてどこか幸福な感触とは似ても似つかない。

 そんなことを考えながら、禁書目録が今迫り来る現実に必死の抵抗をしていると、
 その手は、禁書目録の秘所をとうとうねぶりはじめた。

「ひッ――」

 じたばたともがこうとしても、両手両足は動かない。いったい何が起ころうとしているんだろう。

「いやだ! 助けて、とうま――!」

 けれど禁書目録の声に、応えるものはなかった。

147: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:27:36.62 ID:Ta2TJfqVo
 上条当麻は朝、バスルームで目覚めた。ひさしぶりにすっきりとした気分だ。

 心地よい倦怠感、疲労感、そして達成感――。上条当麻は昨夜、禁書目録を犯すことに成功した。

 といっても、まだコトを済ませたわけではない。けれどこれから、いくらでもできるだろう。

 それを想像するだけで上条は充実した気分だった。

 昨日の、禁書目録の悲鳴、苦悶、拒絶、絶望――。

 罪悪感はあった。けれどやはり後悔はない。

 上条は確信した。自分はこういう生き物なのだ。他人を食い物にして生きていく化け物だ。人間ではない……。

 リビングに行くと、禁書目録が既に目を覚ましていた。

 ひどく、疲れている様子だ。それを見てまだ少し心が痛む。けれどその表情すらも、どこか上条の欲情をそそった。

148: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 14:28:03.55 ID:Ta2TJfqVo
「あ、その……お、はよう」

 禁書目録は、昨日の出来事をどう処理しただろうか。

 ただの悪夢と思ったか、現実に起こったことだと思っているけれど、確信が持てていないのか。
 
 どちらにしても上条当麻の手によることだと考えることはないだろう。可能性は考慮しても、せいぜい疑っている、くらいのはずだ。

「おはよう。どうした、眠れなかったのか?」

 上条がそう言うと、禁書目録はあわてた様子で否定する。

「べ、別に――その、何もないけど」

 ただちょっと、と禁書目録は続ける。

 上条の顔を数秒みつめて、ふっと安堵したように、禁書目録は微笑む。

「悪い夢でも見てたみたい……」

 上条は、唇の端がつり上がりそうになるのを必死に堪えた。


154: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 23:54:07.63 ID:Ta2TJfqVo
 登校中、上条当麻はうだるような熱気に敗北して、財布の中から小銭を取り出して缶ジュースを買うことにした。

 時間封鎖を利用すれば、店先で万引きすることもできるが、手間が惜しかった。

 金がなくても食事に困らないという事実が上条の金銭感覚を麻痺させはじめている。

 絶対に目撃されない、判明しない――それは既に、完全犯罪だ。軽犯罪だけれど。
 
 昨夜の禁書目録との行為は、上条にいくつかの収穫を生んだ。

 禁書目録との行為そのものではなく、それに至る経緯で、だ。

 昨日上条が禁書目録に施した拘束を思い出す。

 手足をタオルで縛り、目隠しをした。

 禁書目録の抵抗がなくなったのを機に、手足を解放した。

 彼女は目隠しを取ろうとがんばっていたが、どれだけ力を入れても目隠しがはずれることはなかった。

 目隠しを必死にはずそうとする禁書目録の姿はほほえましく、かわいかったのだが、問題なのはそこではない。

155: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 23:54:36.73 ID:Ta2TJfqVo
 ――目隠し。

 上条当麻は気付いた。目隠しさえしてしまえば、それを部分解除することさえしなければ、上条による行為が発覚することはない。

 禁書目録との行為は思い出すだけでも涎が出てきそうなほど素晴らしいものだった。

 上条は対象に目隠しをすることで、自分の正体を隠したまま好き勝手できるのではないか、と考えた。

 けれど、御坂美琴を思いだしたとき、その発想には早くも暗雲が立ちこめた。

 上条の姿を目撃せずとも、上条を上条だと認識する手段がある。

 それは禁書目録や小萌にはないけれど、御坂美琴や白井黒子には存在する力――つまり超能力。

 彼女たちの攻撃を受ければ、上条当麻は自然と防御せざるを得ない。

 白井黒子の空間移動が目を閉じた状態でもできるのかは上条には分からなかったが、可能性がある以上触れるだけで危険だろう。

 そこでまたひとつ、時間封鎖環境内での疑問が生まれる。

 すなわち、昨日の御坂の電撃のように、発動したのち時間封鎖によって停止された異能ではなく、
 部分解除により封鎖から解放された能力者が、時間封鎖環境内で異能を発動できるかどうか――。

156: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 23:55:09.60 ID:Ta2TJfqVo
 部分解除された能力者が能力を発動できるか。それを試す方法は単純だ。

 それが、目隠し。つまり相手の視界を奪った上で、自らに危険が及ばない形でなんらかの能力で抵抗してくる人間が望ましい。

 考慮すべき問題は、たとえば視覚を奪われていても、敵の居場所が特定できてしまうタイプの能力。

 どのような能力がそれを可能にするか分からないが、あの超能力者御坂美琴くらいならば、暗視くらいはできる気もする。
 
 具体的にどのような方法でそれを可能にするかは分からないが、その危険がある以上、御坂を選ぶべきではない。

 ならば白井黒子は? 

 けれど彼女を利用するにしても、問題がすぐに浮かぶ。

 白井黒子の能力、空間移動、物体の座標移動。上条にはどのような条件でその異能が使用できるか分からないが、
 目隠しをしながら、という条件の上では、白井黒子に直接問いたださなければ区別がつかなくなってしまう。

 時間封鎖内だから使用できないのか、他の要因で使用できないのかが分からなくなってしまう、ということだ。

 第一移動させるにしても、何を、どこへ、だ。白井黒子が上条当麻を移動させることができないのは既に分かっている。

 だとすると、適任はいなくなる。多少危険を侵すことになっても、御坂美琴を選ぶべきか。

157: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 23:56:28.35 ID:Ta2TJfqVo
 ――そもそも、御坂美琴が暗視できても関係ないかも知れない。

 それが仮に出来たとしても、せいぜい「あそこに誰かいる」程度のものだろう。

 上条が特定されて困るのは、「あそこにいるのは上条当麻だ」という部分だ。

 御坂美琴が上条当麻に向かってそれと知らず電撃を放ったとしても、上条当麻には幻想殺しがある。

 ついでに、昨日の禁書目録との行為中のもうひとつの思いつきも利用できるかもしれない。

 簡単に言えば――夢落ち、だ。禁書目録は昨夜のできごとを「悪い夢」と呼んだ。

 それと同じように、あまりに現実離れした光景や状況は、それが現実であることを疑わせる。

 たとえば、御坂美琴が授業を受けている最中の教室に、上条当麻が現れ、御坂美琴に強引に襲いかかる。

 そして一通り上条当麻が行為を済ませ、心身共に疲れ切った御坂美琴がふと気付くと、今は何事もない授業中だ――。

 時間封鎖中の移動は、自分以外の人間を解除するわけにはいかないので、公共の乗り物を利用できない。

 移動の手間を考えると現実にはしたくないが、そういう経緯なら御坂美琴は「変な夢でも見たのだ」と納得するだろう。

158: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 23:57:02.20 ID:Ta2TJfqVo
 それと同じような手段をとればいい。

 方法は既に考えていた。あとは実行に移すだけだ。

 けれど上条は、自らの心の底で何か、暗い感情が渦巻いているのを感じていた。

 上条はそれを、罪悪感のようなものだと解釈していた。自分がした行為に対する、自分からの嫌悪感だと考えていた。

 ――違う。

 これはそんなものではなくて、たとえるなら何か、大事なことを忘れているような――。
 
 まさか今更、良心が身を咎めているというわけでもないだろう、と上条は苦笑するが、やはり胸の内の感情は消えない。
 
 言うなればこれは、不安だ。

 上条は何を不安に思っているのだろう。自分の望む世界で、自分の望むことを何でもできているのに。

 それとも、上条は何かを見落としているのだろうか。

 チルチルとミチルが世界中を旅したその最後で、
 その旅が徒労に過ぎなかったと気付くように、上条当麻は何かを見失っているのかも知れない。

159: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 23:57:35.33 ID:Ta2TJfqVo
 ……感傷に浸るのはよそう。今はまだ、しなければならないことがある。

 上条は今日の実験に必要な要素を考える。今朝は御坂美琴に遭遇しない。昨日も一昨日も会ったのに、だ。

 そしてそれは、上条にとっては好都合だ。

 行動するなら放課後だろう。上条は今日の予定を思い浮かべた。

 学校に行き授業を受けた後――そうだ、買い物にいかなければならない。

 自分の食事はともかく、禁書目録に対して何も作らないのは異常だ。昨日見ると、金は振り込まれていた。

 ――大丈夫。何も不安がることはない。今日はいつもより少し多めに食料を買っていき、禁書目録に食べさせてあげよう。

 禁書目録は、今夜も体力を使うだろうから。


160: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 23:58:34.51 ID:Ta2TJfqVo
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◆ 初春飾利
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 放課後、御坂美琴は退屈をもてあまして街をうろついていた。

 後輩の白井黒子は、今日も風紀委員の支部へ向かった。連続放火の犯人は未だ特定できていないらしい。

 それにくわえて、彼女の頭を悩ませる事件が発生したらしい。

 具体的にどのような事件かは、聞いても教えてくれなかったのだが。

 仕方ない。自分は風紀委員ではない。超能力者ではあっても、権限はないのだ。

 権限、という言葉で思い出す。

 そもそも風紀委員の活動って、校外の事件にまで介入していいんだっけ。

 以前白井黒子が校外で発生した事件に首を突っ込んで始末書を書かされていた気がする。

 ――もしかして始末書覚悟?

 熱心なのかそうじゃないのか分からない、と御坂は溜息をつく。

161: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 23:59:22.59 ID:Ta2TJfqVo
 缶ジュースを飲み干して投げ捨てる。すぐにうねうねと掃除ロボが缶を吸い込んだ。

 行きすぎた科学力は人を怠惰にさせる気がする。

 さて、これからどうするか、と御坂は考える。

 ぼーっとしているうちに時間は流れて、西に浮かぶ夕陽に照らされて、世界は赤く染まり始めた。

 太陽に見とれて御坂が身動きをやめた瞬間、ポケットの中で携帯電話が鳴った。

 ――上条当麻。

 珍しいこともあるものだ。そう思って通話ボタンを押そうとした直後、御坂美琴の視界は奪われた。

「――――ッ!?」

 慌てて目元に触れる。石のような感覚が、御坂の目を覆っている。手だけを頼りにはずそうとするが、上手くいかない。

「なに、これ」

 御坂は呆然として自分の身体に触れる。

 今さっきまで学園都市の歩道橋の上から夕陽を眺めていたはずだ。

 上条当麻から珍しく電話がかかってきて、それを受け取ろうとした矢先だった。

162: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/06(日) 23:59:53.64 ID:Ta2TJfqVo
「あれ――」

 上条当麻からの電話を受け取る為に、御坂は右手で携帯を取り出したはずだ。それが――ない。

 御坂美琴は慌ててポケットの中を確認する。自分が制服を着ていることは分かったが、携帯電話の感触はない。

「あれ……あれ――?」

 それよりももっと考えなければならないことがあるはずなのに、御坂美琴は普段の冷静さを欠いていた。

 あるはずのものがない。異常事態に遭遇した彼女は、それだけでひどく混乱した。

 ――後ろから、溜息が聞こえた。

「誰……?」

 御坂は自分が怯えていることに気付いた。そうだ――この状況は危険だ。何者かの手によるものだ。

「誰ッ!?」

 御坂が声をあらげても、返事をしない。彼女の思考は恐怖と怯え、怒りが綯い交ぜになった感情に支配された。

163: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:00:43.05 ID:35hYHoZFo
「誰だって……」

 御坂美琴は身体ごと振り向き、大雑把に敵の位置を特定する。

「……訊いてんだろうが――ッ!」

 御坂が右手を振り下ろすと、雷撃の槍が敵に向かって放たれた。そのはずだ。

 轟音が周囲の音を散らし、あたりを包み込んだ。

 けれどそれは一瞬のこと、敵を打ち抜く雷の槍がどうなったか、御坂には想像すらできなかった。

 それなのに御坂美琴は、自らの聴力が消えたという可能性を考慮するよりも先に、電撃が「打ち消された」と感じた。

「な――ッ!」

 事実口から漏れ出た驚きの声は御坂の耳に届いた。その瞬間、御坂の頭を過ぎったのは、ツンツン頭の少年の笑顔だった。

 まさか。錯覚だ。何かの間違いだ。御坂はすぐに自分の考えを否定する。

 頭に血がのぼる。上手にものを考えられない。そんな、でも、まさか、あり得ない。

 御坂美琴の脳裏に様々な考えが現れては消える。そしてその思考が完全にパンクしかけたとき――

 彼女の周りには、夕陽に染められた学園都市があった。

「……は?」

 と、虚空に問い返した。着信音に驚き手元を見る。右手には携帯電話が握られていて、ディスプレイには上条当麻の名前があった。

164: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:01:37.32 ID:35hYHoZFo
「御坂か?」

 上条は部屋に戻って、テレビに夢中になっている状態で硬直していた禁書目録の後ろに座ってから時間封鎖を解除した。

 携帯電話を耳に当てて、コール音を聞く。数回コールする。すぐには出ないだろう、とは思っていた。

「――何?」

「あ、いや、ちょっと話があったんだけど……今、何かまずかったか?」

 御坂の声は、まるで信じがたいものをみた直後のように呆然としているように聞こえた。

 想定内だ。もっとも、「見た」というよりは「遭遇した」の方が正確だろうが。

「別に大丈夫よ」

 御坂は取り繕うように笑いながら言った。

165: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:02:29.98 ID:35hYHoZFo
 上条当麻が時間封鎖を全解除した直後に御坂に電話を掛けたのは、彼女から思考の自由を奪う為だった。

 彼女は勘がいい。下手をすると上条がしたことに気付いていたかも知れない。

 だからこそ、彼女が時間封鎖空間内で起こったことを深く考えるより前に、
「現実の具体的な出来事」に触れさせてやることで、封鎖環境内の「現実感の希薄さ」をより克明にする。

「あのさ、この間、御坂に飯奢ってもらったろ?」

 電話の向こうから、ああ、と御坂の声が聞こえる。訊ね返されるより先に、話を続けた。

「それでさ、おかげで生活費に余裕が出たんだ。お礼もかねて、一緒に飯でもいかないか? 奢るよ」

 もちろんファミレスとかになるだろうけど、と上条は苦笑がちに言う。

 御坂は呆れたように溜息をついた。

「アンタ、そんなことばっかしてるからお金が足りなくなるんじゃないの?」

「何言ってんだよ。俺が飯を奢るなんて初めてだよ」

 嘘ではない。正確に言えば青髪ピアスや土御門と一緒にいるとき、ジュースやファストフードを奢らされることはあったが、
 たいていは罰ゲームなどが理由だった。

 あとはなし崩しなどで代金の立て替えや、その場の状況によってそうせざるをえない状況だったということもあった。

 けれど、自分から何かを奢ると言い出すのは、上条当麻の記憶がある限りでは初めてのはずだ。

166: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:03:30.27 ID:35hYHoZFo
「――そ、そうなんだ」

 御坂はとまどったようにささやいた。照れているのだろうか? なんてかわいい生き物なんだろう。

「うん。つっても、禁書目録も一緒になるだろうから、騒がしいかも知れないけど。なんなら、友達連れてきてくれてもいいし」

「え――」
 
 あ、そっか、と御坂は納得したように言う。

「そう、そうよね」

「……どうかしたか?」

 電話の向こうで、ううん、と小さな声で御坂が言う。きっと困ったような顔で微笑んでいるのだろう、という気がした。

「それじゃあ、善は急げだ。今日――と行きたいところだけど、予定あるよな?」

 それなら明日に、と上条が続けようとすると、御坂は意外にも否定した。

「ううん。今日なにも予定ないの。黒子は忙しそうだし、何もすることなかったから、ちょうどいいわ」

「そうなのか?」

 それならば、と上条は一気に詰めにかかる。

167: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:04:17.48 ID:35hYHoZFo
「じゃあ、今から会えるか? 寮の門限とかあるだろうし、早めの時間かもしれないけど……」

 分かった、大丈夫。御坂の了解の言を聞いてから、上条は御坂に簡単な待ち合わせの場所と時間を告げて、最終確認を行った。
 
 ――と、忘れるところだった。

「御坂」

「なに?」

「今度は短パン履き忘れるんじゃないぞ」

「――なによそれ! アンタの前で忘れたのだって一回だけじゃ……」

 御坂は喋るのを途中でやめて、自らの変化に気付いたようだった。

「……あ、あれ?」

「どうした、御坂」

 上条は気付かない振りをした。御坂にすれば残念なことかもしれないが、彼女の短パンはまたしても上条の手元にあった。

 なんでもない、なんでもない、と強く否定する御坂に別れを言ってから通話終了ボタンを押す。これで御坂の方は大丈夫だ。

168: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:04:52.02 ID:35hYHoZFo
 さて、次は、と。

「禁書目録」

 と声をかけるより先に、禁書目録はこちらを振り向いていた。

「今の電話、誰と?」

「御坂だよ」

「食事って――」

「この間奢ってもらっただろ。そのお礼だよ」

 聞いていたなら分かるはずなのに、と上条は内心ぼやく。禁書目録にも、必要なプロセスがあるのかも知れない。

「あの、それって、私は――」

 と不安そうに禁書目録が慌てるものだから、上条はおかしくなって、彼女をからかった。

169: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:05:20.33 ID:35hYHoZFo
「何か予定でもあったか?」

 その問いを訊いて、禁書目録は表情をぱっと明るくする。

「ないよ! 全然ない、とうまだいすき――!」

 禁書目録は上条に飛びかかるように抱きついた。上条はその行動に違和感を抱く。

 こんなふうに些細なことで、こんなにも喜ぶ娘だっただろうか。

 変わったことがあるとすれば――昨夜のこと。

 上条にとっては奇跡のような幸福な時間だったが、禁書目録にとっては地獄のようにつらい時間だったに違いない。

 いや、そうでなければ困る。嫌がる禁書目録をみたいと考えたからこそ、上条はあそこまで興奮したのだから。

170: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:05:46.18 ID:35hYHoZFo
 けれど、普段の心のありようにまで影響するとなると考え物かもしれない。

 禁書目録にとっては、「悪夢」でしかない昨日の出来事が、それだけつらかったのだろう。不安もあったのかも知れない。

 上条は人間の心がどの程度で壊れるものなのか知らないが、精神崩壊した禁書目録を愛でる気はしない。

 禁書目録には普段から、元気で活発で、少し生意気なところもあり、
 けれどときたま慈母のような懐の広さを見せる、そんな少女でいてもらわなければならない。

 そう、「夢なら醒めた」と確信している禁書目録は、今日も上条の手によって汚されると決まっているのだから。


171: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:06:25.35 ID:35hYHoZFo

 初春飾利が風紀委員の支部から出て街の歩いていると、悩ましげな表情をした御坂美琴に遭遇した。

「御坂さん」

 初春が声をかけると、御坂はその苦悩の表情を解いて、うれしそうに初春の名前を呼んだ。

「どうしたんですか、いったい」

 御坂美琴は、心底安心したような顔で初春の手を取る。

「じ、実はね――」

 御坂美琴の説明は簡単だった。なんでも彼女は、今日、知人の男子学生と食事に行くことになったらしい。

 食事ですか? と初春が驚いて聞き返すと、御坂は「ファミレスよ、ファミレス」とよく分からない否定をした。

 よくよく訊いてみると、既に一度、一緒に食事をしたことはあるらしい。
(これに関しても御坂は、「ファミレスよファミレス」と繰り返した)

「何が問題なんですか?」

 他人事のように、というか紛れもない他人事なので、初春が呆れて聞き返すと、御坂は見捨てられた子猫のような顔になった。

172: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:07:07.02 ID:35hYHoZFo
 さっきから御坂さんの親しみやすさが五割増しくらいになってる、と初春は内心ほほえましい気持ちになる。

 普段はもうすこし大人びていてしっかりしている雰囲気なのに、
 目の前でああでもないこうでもないとじたばたしている姿は少女のようだった。いや、少女なのだけれど。

「つまり、緊張していると?」

 もう一度一緒に食事をしたのに?

 初春の疑問に、
「あのときは勢いみたいなところがあったし、それにそういう雰囲気だったというか、
 そういうっていってもそういうんじゃないんだけど」と御坂の答えは止まることなく溢れ続ける。

 そしてさまざまな言い訳だかなんだか分からない言葉のあとに、御坂は「この後暇!?」と勢いよく初春に訊ねた。

「暇って言えば……」

 暇ですけど、と初春は答える。風紀委員の仕事はつつがなく終わった。

 同僚の白井黒子と固法美偉はまだ少し残るといっていたけれど、初春はさきに帰ってきてしまった。

 ひとりだけ先に仕事が終わってしまい、彼女たちを待っていようかと思ったのだが、ふたりは時間がかかるから先に帰れという。

 しぶしぶ初春は自分ひとりで帰路についていた。

 あとはこのまま寮に帰るだけ、というタイミングで、御坂美琴と遭遇したという具合。

 だから初春飾利は、確かに時間をもてあましていた。まだ日没前だし、たしかに融通は利く。

173: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:07:39.65 ID:35hYHoZFo
 初春の答えに、御坂はすぐさま食いついて、お願い、ついてきて、という。

「でも、邪魔じゃないですか?」

「邪魔って?」

「だって、ふたりきりで食事なんですよね?」

 それもこんなに緊張しているということは、たぶん御坂さんにとっての、本命、なんだろう。本人が自覚しているかどうかはさておき。

「ふたりきり?」

 けれどあくまで冷静に、御坂は否定する。どういう意味だろう。

「相手の方も友達つれてくるっていってたから。大丈夫、誰か誘ってもいいっていわれたし」

 初春は逃げ道がどんどん塞がれていることに気付いた。と考えて、自分は逃げたいのだろうか、と疑問に思う。

 ――寮に帰って食事をとっても、ちょっと寂しいだけだ。

 誰かと一緒に夕食を取るのも悪くないかもしれない。

 初春はそう考えて、御坂の提案に従うを決めた。

174: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:08:09.24 ID:35hYHoZFo

「それで、ええと」

 上条は内心ほくそ笑んでいた。そろそろ違う標的を探す必要が出てくるだろうと考えていたのだ。

 具体的な案まで考慮していた。最初に思い浮かんだのは月詠小萌である。

 上条の担任である彼女は能力を使えない。ついでに魔術側の人間ではない。

 体格も小さく力も弱い、身体も軽く、抵抗は恐らくほとんどできないようなものだろう。

 ではどのタイミングで犯すか? 目隠しを使えば安全だが、状況によってはこちらを認識させるのもいいかも知れない。

 さてその方法だが――と上条がぼーっとしながら考えていたタイミングで、待ち合わせ場所に鴨が葱を背負ってやってきた。

「初春さん、だっけ?」

 はい、と彼女は穏やかに微笑む。笑顔が貼り付いているように動かない。――何を考えているか、分からない。

「そう、初春飾利さん」

 御坂が間に入って説明してくる。御坂と初春の間には、微妙な距離感がある、と上条は感じた。

175: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:08:56.79 ID:35hYHoZFo
 たとえば、互いの友人を介した知人、程度の距離感。上条にとっては都合がいいが、初春飾利はこの状況をどう思っているのだろう。

 ――まぁ、いいだろう。

 上条はふたりにメニューを手渡す。ふたつあるうちのひとつは禁書目録が占領していた。

「とうま、何頼んでもいいのかな?」
 
 と恐ろしいことを言い始めるけれど、上条が「ダメ。ひとつまでな」というと、悲しそうにしながらメニュー表を見て唸り始める。

 御坂がその姿を見て何かを言いかけるが、その直前に上条は言う。

「嘘だよ。みっつまでな」

 ぱあ、と禁書目録の表情が明るくなる。

 ――彼女は子供のように素直だから、うれしいことも悲しいことも人一倍綺麗にのみこんでしまうのだ。

176: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:09:49.61 ID:35hYHoZFo
「サイドメニューはふたつまで可」

 と上条が言うと、禁書目録はさらに喜ぶ。悪く言えば扱いやすく、よく言えば素直。

 ふと御坂に視線をうつすと、ほほえましそうに禁書目録の表情を見つめていた。

 そんななま暖かい空気の中で、初春飾利だけが妙に浮いていた。

 対角線上に座る初春に視線を向けると、目が合った。彼女は優しく微笑む。

 ――警戒されている?

 少し違う、と感じた。初春飾利は上条当麻になんら特別な感情を抱いていない。

 せいぜい「御坂さんの知り合い」程度だ。明日には上条の名前も忘れているかも知れない。

 ――かまわない。初春飾利が警戒しようがしまいが、自分をどう思おうが、やることは同じだ。

 上条は笑って、「ふたりも何を頼むか決めてくれよ」と促した。

 急がなくてもいいぞ、と上条は本心から言う。

177: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:11:03.95 ID:35hYHoZFo
 話題はもっぱら御坂のことだった。

 他の話題では初春が置いてけぼりになってしまうし、第一御坂美琴との共通の話題というものも多くはなかった。

 彼女と話していると、いつのまにかやたらと殺伐とした話題になってしまうのだ。それはよろしくない。

 そして当然のことながら、御坂の話題になると、御坂美琴が会話に参加しにく状況が続く。

 そうすると自然、上条当麻と初春飾利が会話の中心となる。

 上条は初春飾利に狙いをさだめていた。御坂との距離は既にだいぶ縮まっていた。

 たいした用もなく電話やメールをしても、文句を言われないくらいには。

 では優先すべきなのは、初春飾利との距離を縮めることだろう。

 メールアドレスや電話番号を交換するとまではいかなくとも、町中で偶然を装い声をかけることができる程度には親密になりたかった。

178: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:11:35.26 ID:35hYHoZFo
 上条は御坂をダシにした質問を初春にいくつかした。

 御坂をからかうような口調を心がけたので、彼女は最初はとまどっていたが、
 御坂が照れたり恥ずかしがったりする姿を見て、徐々に打ち解けてきた。

 最後の方になると御坂は、「もう、いい加減にしてよ!」と顔を真っ赤にして立ち上がり、ドリンクバーのおかわりに行ってしまった。

 ひとりでドリンクバーに近付くのが少し怖いのだろう、禁書目録は「待って、みこと」と御坂を追いかけた。

 ――好機だ。

 ふたりきりになると、初春は少し身体を固くした。意識的にであれ無意識的にであれ、警戒されているのは確かなようだ。

「初春さんは、御坂とはどういう知り合いなの?」

「どういう、というと?」

「どんな経緯で知り合ったのか、ってこと。結構付き合い長いのかなぁって」

 初春飾利に関する情報を、あたかも「御坂美琴に興味を持っているように」聞き出す。

179: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:12:06.18 ID:35hYHoZFo
 初春も自分ではなく御坂のことだと思えば、警戒心は弱めるだろう。

 彼女は上条を「御坂美琴に好意を抱いている人物だ」として見るに違いない。

「友達に紹介してもらったんです。御坂さんって、ほら、超電磁砲じゃないですか」

 初春は俗的な言い回しを恥じるかのように小声になった。

「我ながらミーハーかなあ、って思うんですけど、
 友だちが知り合いだっていってたのを聞いて、会ってみたいなぁって言ったら、紹介してくれたんです」

「じゃあ、その友だち経由で?」

 はい、と頷いた初春の腕に、腕章がついていることに上条はようやく気付いた。

 ――突然獲物があらわれて動揺していたのかな。

 知らず知らずのうちに焦っていたのかも知れない。

 上条は腕章を指して、「もしかして、風紀委員の知り合い?」と訊ねた。心当たりがすぐに浮かんだ。

180: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:13:09.08 ID:35hYHoZFo
「はい。――どうして分かったんですか?」

「いや、その友だちって、もしかしなくても白井だろ? 白井黒子」

 上条が名前を出すと、初春は驚いて声をあげた。

「知ってるんですか?」

「知ってるっていうか――俺は逆に、御坂と話してるうちに白井と知り合ったんだ」

 上条と初春は白井という共通の話題を見つけて、急速に話が膨らんだ。

 上条はまた、白井黒子の普段の言動や行動を訊ねるという名目で初春から話を引き出す。

 ――警戒していた割に、あっさりとしている、と感じる。

 本人のいない場所で、こんなふうに情報を語るものだろうか?

 けれどよくよく聞いてみると、初春が話しているのはもっぱら、
 そのときどうなったとか、どうしたとか、こんなことをいった、という部分だけで、個人情報などには触れていなかった。

 また、風紀委員の活動上重要なことなど、たとえば事件の具体的な説明や、犯人の情報などは避けていた。

 そして、悪口も言わなかった。上条は最初、彼女に警戒されていると感じたが、それが誤りだと気付いた。

 上条の方が、初春飾利を警戒していたのだ。きっと、焦っていたからこそ、ボロをだすまいと必死になっていたのだろう。

182: 訂正 2011/02/07(月) 00:14:07.25 ID:35hYHoZFo
 初春飾利と話をしていると、妙に落ち着いた気分になれた。

 ドリンクを入れて戻ってきた御坂美琴と禁書目録を交えて、四人でさまざまな話をした。

 今度は御坂が禁書目録を味方にして反撃をしてくる番で、彼女たちは上条についてのアンナコトやソンナコトを初春に教えはじめた。

 なかば、脚色をつけて。特に禁書目録の方は容赦がなく遠慮もなく、御坂の方が「え、ホントに?」と聞き返すほどだった。

 もちろんそれは脚色どころか嘘と言っていいレベルで、上条はそれを大声出して必死に否定したのだが。

 上条は思う――こんなにもバカみたいに騒ぐのは、久しぶりという気がする。

 しかし、上条の頭にまた、暗い感情が過ぎる。

 今がどれだけ楽しくて幸福でも、今夜、自分は禁書目録を犯すだろう。

 嫌なわけじゃない。後悔もなかった。けれど、それは罪深いことのように思えた。

 どこかの古典文学で、悪人を殺すことは善かどうかを主人公が苦悩し続ける話があった気がする。

 悪人を殺すことは善であると疑わなかった主人公が、「悪」を殺し、「善」を実行する。

 けれど善を行ったはずの彼の心には、暗い沼に沈むような罪悪感が、重くのしかかるのだ――。

183: 訂正 2011/02/07(月) 00:16:11.79 ID:35hYHoZFo
 ファミレスから出て、上条当麻は初春と御坂に礼を言う。
 
 初春もすっかりうち解けた様子で、それどころか、帰り際には来たときより御坂との距離が近付いていたようにすら感じた。

「じゃあ、また今度な」と上条が言うと、ご機嫌な禁書目録が追うように「また今度なんだよ!」と笑う。

 初春と連絡先の交換はしなかった。彼女は上条とは今日しか会わない関係だと思っているはずだ。

 けれど、忘れられないうちならば、町中で話しかけることも可能だ。

 いやそれ以前に――白井黒子や御坂美琴と接していれば、自然と初春と会う機会も増えるのではないか。

 会うことができなくても、御坂美琴と交流していれば、上条当麻の話がそちらに流れていくかも知れない。

 こちらは少し、ないだろう、と思ったが、可能性はゼロではない。

 さてと――上条当麻はふたりに別れを告げて禁書目録と帰路につく道すがら、時間封鎖を行った。

 機嫌よさそうに鼻歌を歌う禁書目録の姿が、赤い光を孕んで止まる。

 上条はそれを一瞥してから踵を返し、ふたりと別れたファミレスの付近まで戻った。

184: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:17:02.56 ID:35hYHoZFo
 御坂と初春の後ろ姿はすぐに見つけられた。

 御坂は短パンを履いてるかな。確認だけでもしておこう。

 ――履いていない。予備を準備する時間もなかったのかもしれない。少女らしいピンクの下地に、白い小さな水玉が低間隔でプリントされている。

 待ち合わせを早めにしておいてよかった。

 そうか、御坂は履いていなかったのか、と奇妙な満足感が上条の中で溢れる。

「さて、とりあえずこっちはいいとして」

 上条は言いながら御坂を放置して初春の方を向く。

 背が低いのに、それが初春の学校の制服の特徴なのだろう。あるいは、学校の特性と言うべきか、スカートを異様に長く履いている。

 御坂と比べると歴然としていた。あか抜けた感じのする御坂に対して、初春の姿はどこか幼くて野暮ったい。

185: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:17:53.02 ID:35hYHoZFo
 ――イチゴとメロンはどちらが美味しいでしょう、って、どっちも美味しいに決まってるよな。

 上条はにやりと笑った。
 
 初春飾利のスカートを部分解除。堪能することはないだろう。彼女は風紀委員だと言うし、勘づかれても面倒だ。まだ早い。

 さて、下着は、と。

 ――イチゴ柄だった。

 あまりにもタイムリーだった為、上条は初春飾利が時間封鎖に巻き込まれていない可能性すら考慮して、初春の姿を見直した。

 ――しっかりと止まっている。問題なく、時間封鎖は適応されているはずだ。ただの偶然なのだろう。

 しかし、上条からすればうれしい偶然だ。テレビのクイズ番組を誰かと見ていて、答えが出る前に自分の解答を言っておく。
 
 そして画面で答えが紹介したとき、やはり合っていた、と満足するように。

 下着を部分解除する。初春飾利の体温が感じられた。
 
 なぜだろう、見ず知らずの、今日会ったばかりの少女の下着というものは、
 よく知っているよりも、完全に知らないよりも、ずっと興奮する。

 それは初春が、上条の下劣な部分に一切気付いていないからだろう。

186: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:18:46.96 ID:35hYHoZFo
 上条は下着を脱がせる。時間はかかるが、それが尚更興奮を高める材料となった。

 御坂の短パンや禁書目録のショーツを使用したことのある上条は良心に咎められることもなく、躊躇わず鼻先にそれを持っていった。

 匂い、暖かさ、見た目――さきほどまで楽しくおしゃべりしていた少女の下着だ。興奮しなければ嘘だろう。

 さてと、と上条は鼻先から下着を離して、それを観察する。

 禁書目録のものもそうだったように、初春のものにも、使用感というべきか、痕跡、というべきか。

 簡単に言えば、「履いているうちについた汚れ」があった。

 普通ならば絶対に誰にも目撃されることのないもの。

 たとえば彼女が将来誰かと結婚するとして、その男もこんな部分を覗くことはないだろう。それを今、上条は目撃している。

 すう、と息を大きく吸い込んで、はあ、と大きく吐き出した。

187: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:19:34.39 ID:35hYHoZFo
 下着を尻ポケットに入れて、上条は次にスカートを部分解除してたくし上げた。

 形の綺麗な小さなお尻が、上条の前に現れる。赤い光が無粋だが、どこか妖艶にも感じられた。

 ああ、ダメかも知れない、と上条は思う。

 これ以上続けるのは危険だ。絶対にやめなければならない。出なければ上条当麻はとまれなくなってしまう。

 上条は禁書目録の顔を思い出した。そうさ、ここで我慢しても、家に帰れば禁書目録を弄ぶことが出来る――。

 強引にそう考え、スカートを直して部分封鎖をし直した。
 
 すぐに立ち去ろうとしたが、その前に、初春飾利の前に立ち、その硬直した唇に指先で触れた。

 ――美人ではない、綺麗とも言えない。けれど、少女らしいかわいらしさがあった。

 上条当麻の標的が、ひとり増えた。今日もまた、記念すべき日だ。

188: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:20:02.67 ID:35hYHoZFo
 帰宅してから上条は、禁書目録にすぐに風呂に入って早めに休むようにいった。

「どうして?」と禁書目録が不思議そうな顔をする。おまえを犯す為だ、とは言えない。

「おまえ、昨日ロクに寝れてないだろ」

 上条は自分が原因であることを理解しながら、あたかも禁書目録の最大の理解者であるように振る舞った。

 禁書目録は気を良くして上条の言葉に従い、すぐに休んだ。

 けれど、まだ時間が早い。

 まずは順番に――いや、少し順番を変えよう。

 尻ポケットから初春の下着を取り出す。まだ体温がかすかに残っていた。

 温度、は重要だ。

189: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:21:25.39 ID:35hYHoZFo
 さて、と悩む。時間封鎖は必要かどうか。
 
 ――面倒だな。禁書目録は既にベッドの上で寝転がっている。脱衣所に鍵があるのだから、それを使えばいい。

 時間封鎖しなければできないようなことをしたくなったら、そのときに力を行使することにした。




 上条は先日の禁書目録のショーツのときと同様に、初春の下着を勃起した剛直に巻き付けた。

 血液が集中して固くなった上条のものは、びくり、びくりと何もしないうちから快感に震えている。

 それこそ、一度出して、そのあとじっくり楽しもうか、と考えたほどだ。けれど上条はこの考えを却下した。

 一度射精してしまえば、どうなるか分からない。禁書目録の身体を見れば欲情するのは確かだろうが、
 けれどここまで貯め込んだ快感の素材は失われてしまう。

 我慢はすればするほど気持ちいい。上条の経験則でもあった。

190: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:21:51.76 ID:35hYHoZFo
 下着を巻き付けた段階で、上条は暴発しそうな快感を堪えるために必死になった。

 脱衣所の床に仰向けに寝転がり、床を必死に手で押すことでなんとか堪えようとする。

 寝転がった状態で、自分のものが初春の下着で覆われている姿をみると、倒錯した快感が上条を襲った。

 上条は初春飾利の笑顔を思い出した。清楚で、穢れなく、愛らしい。

 きっとベッドの中でも照れたり恥ずかしがったりと、かわいらしい姿を見せるだろう。

 それに、嫌がる泣き顔も、彼女にはきっと似合うだろう。

 けれど上条を一番興奮させたのは、初春飾利に見下されている瞬間を想像したときだった。

「――ッ!」

 上条はのたうちまわるようにしてなんとか暴発を抑えようとしていた。

191: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:22:24.99 ID:35hYHoZFo
 初春飾利が自分を見下している姿を、瞼を閉じて想像する。

『もう出そうなんですか――?』

 上条は自分の妄想が正しかったことを確信した。その見下すような黒い笑みは、初春飾利にとてもよく似合っていた。

 我慢はすればするほど気持ちいい。触れるのを我慢すればするほど、触れたときの快感は何倍にもなる。

 ――でももう限界だ。上条は勃起した自分の男性自身に、あるいは初春の下着に触れ、それをしごき始める。

『私の下着を使ってするなんて、恥ずかしくないんですか?』

 心底軽蔑するような目で、初春飾利が上条を見下している。

『素っ裸になって、私に自分で擦ってるところ見られて、それで興奮してるなんて――』

 上条の妄想は、より深く強い快楽を、自身にもたらした。

『――変態じゃないですか』

 年下の下着を盗み、それをつかって裸になって自慰に耽る。

 妄想のなかの初春が言う通り、まさに――変態だった。

192: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:22:55.59 ID:35hYHoZFo
「――――ッ!」

 上条の中で堪えきれない何かが膨らみはじめる。もやもやとふくれあがり、どくどくと迫り上がる。

『イクんですか?』

 初春は、にやり、と笑っていた。

『いいですよ、出しても』

 瞬間、上条は初春の下着にだらしなく射精していた。頭が真っ白になったかと思うと、倦怠感で全身が動かせない。

 射精したにもかかわらず、妄想の中の初春は言葉を続けていた。

『たっぷり、出しましたね……』

 彼女はかすかに紅潮した顔で、淫靡に微笑んだ。
 
『私に許可をもらってイっちゃうなんて、年下の女の子に見られて興奮したなんて――本当に、変態ですね』

193: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:23:23.94 ID:35hYHoZFo
 上条当麻が目を開くと、初春飾利の幻想はまたたくまに消えた。

 冗談みたいな快感だった。

 けれど上条は不服だった。たしかに最高の妄想だったけれど――今の妄想の中では自分がイニシアチブを握れない。

 残ったのはまだ満足しきらずにそそりたつ上条自身と、
 それを覆い、いつもよりも量の多い精液を受け止めた、初春の下着だけだった。

 上条は今度は、自分が初春飾利を手で、口で、舌で、自らのもので、言葉で弄んでいる状態を想像した。

 そう、そうだ。十分、イケる。次があるとすれば、今度はそっちでやってみよう。

194: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 00:24:02.84 ID:35hYHoZFo

 より深い夜が訪れ、街が静まりはじめる時間、上条はその時間で世界をとめた。

「今日もはじめようか、禁書目録」

 上条は昨日と同じように禁書目録の手足を拘束する。服を剥ぐように脱がせる。

 ――丸裸にはしない。服を半端に脱いでいる状態の方が、上条は興奮した。恐らく、その方が無理矢理している、と思えるからだ。

 かわいらしいパジャマを半分だけ脱がせる。下は膝まで、上は乳房が見えるように。

 これらは時間封鎖を解除しなければ、そのまま拘束具としての役割を果たす。

 上は邪魔になるからその使い方をしないが、下はそのままでもいいだろう。

 上条は禁書目録の寝顔を堪能した。とても安らかな寝顔だ。上条当麻を信頼し、安心しきった表情だった。

 ――悪いな、禁書目録。

 心の中であやまりながら、しかし上条は自分の口元が歪むのに気付いていた。

 さて。

 今日もお楽しみの時間ですね――。

202: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 22:59:26.80 ID:35hYHoZFo
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◆ 白井黒子
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 翌朝、禁書目録は疲労困憊といった様子だった。それも仕方ないだろう。

 上条の耳元では、まだ彼女の悲鳴がこだましているように感じられた。

 自分の席について授業を受けながら、彼は自分のやった行為を思い出し、射精した回数を指折り数えたが、思い出せなかった。

 今朝の禁書目録の様子を見て、上条は、今日はやめたほうがいいだろうな、と考えた。

 二日連続であんな「夢」をみたのだ。禁書目録にだって限界はあるだろう。

 さすがにそこまで無慈悲にはなれない。上条は禁書目録が壊れるほど遊び続ける気は毛頭ない。

203: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:00:11.84 ID:35hYHoZFo
 さて、と上条は現状について考え直す。

 禁書目録に何もできないとなると、上条は他の何かを用意しなければならない。

 初春飾利とは距離を詰める為に今日も探し出して会えないかと考えていたが、あれはまだ早い。

 だとすると、そろそろ御坂だろうか。

 ――検証結果も出揃いつつある。もう十分だろう。

 上条は今日の標的を決めて、自らの頭を掻いて待ち遠しい放課後を想った。

 ぼーっとしているうちに授業はどんどんと終わる。放課後が待ち遠しいのに、時間の流れが早い気がする。

 早送りでもしているみたいだ。知らないうちに時間封鎖の能力が強まっているわけではないだろうが。

 それに「時間封鎖」は、厳密には時間ではなく空間を支配する能力だ。

 未来や過去といったものを操作できるわけではなく、鎖された時間のなかで空間を書き換える力。

 だから時間の流れの速度なんかは、時間封鎖の管轄外だ。

204: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:01:05.99 ID:35hYHoZFo
 ぼーっとする上条の口から、息が出るように言葉が漏れた。

「――禁書目録って処女なのかな」

 その言葉を聞いて驚いたのか、上条の席にいつのまにか近付いてきていた月詠小萌が「なっ!」と声を出した。

 見ればその背後で、土御門が戸惑ったように、青髪ピアスがからかうように笑っていた。

「どうしたんだにゃー、カミやん」

「カミやんはどうやら欲求不満みたいやね」

「か、上条ちゃん……」

 小萌の表情が、まるで「信じてたのに……」とでもいうかのように歪んでいく。

 ――周囲の女子からの視線が冷たい。それはそうか。

 上条は小萌に「誤解です」と言い訳する気にはなれなかった。

 自分がそういうことを言ったのは事実だし、彼女の信頼を裏切っているのも本当なのだ。

 土御門がサングラスの向こうから、こちらをじっと見ているのを感じた。

205: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:01:47.81 ID:35hYHoZFo
 小萌からの事務連絡が終わり、上条が溜息をつくと、土御門が歩み寄ってきた。

 彼の言葉は、上条からすれば予想外だった。

「――禁書目録は処女なんだぜい」

 一瞬、なんのつもりだ、と問い返したくなったが、すぐに気付く。「なんのつもりだ」と訊ねたいのは彼の方に違いない。

「シスターっていうのはいわゆる修道女のことでな、
 彼女たちはまどろっこしい儀式やらなんやらを経て神の妻、伴侶となり、生涯独身を貫く。
 そして彼女たちが他の男と異性的な交合を起こすことはそれはすなわち不貞となるってわけだ。
 それが原因で修道女が処刑されたって話も聞いたことがあるな」

 土御門の声に、上条は戦慄した。自分は今疑われている。

206: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:02:24.59 ID:35hYHoZFo
「エリザベート伯爵夫人の伝説を知ってるか? 処女の血を浴びれば美しい容姿を保てると信じた女が、
 恐ろしい拷問器具を作り出して村中の若い乙女――つまり処女のことだな――の血を絞り取り、
 それを啜ることで美貌を保とうとした。
 この際に作られた処刑道具が世に名高い鋼鉄の処女……アイアン・メイデンってわけだ。
 処女というものは神聖で不可侵なものだという信仰が存在した。
 魔術は信仰と折り重なった存在だ――魔術的にも処女であることは意味を持つ。
 何もユニコーンをなつかせるためってわけじゃないけどな。だが――上条当麻、なんのつもりだ?」

 上条は土御門の言葉に、動揺しながらも必死に考える。どうすれば土御門の疑念を払えるか。

 彼を殺すわけにはいかないのだ。

「いや、ただ言ってみただけだよ。すまなかったな」

「言ってみただけ?」
 
 土御門は大仰に驚いた。

「EDなんじゃないかと疑いたくなるほど朴念仁なカミやんが、何でそんなことを?」

 土御門は言外に、上条を問いつめようとしている。

207: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:03:34.39 ID:35hYHoZFo
「――悪いな。最近ぼんやりしてて、頭がうまく回らないんだ」

「風邪かにゃー?」

「かも知れない。大した意味はないんだ。悪いな、勘違いさせるようなこといって」

 ふむ、と土御門は一旦話題を取り下げた。――今の反応はまずかったかも知れない。

「それに俺だって、朴念仁ってわけじゃない。女の子にだって興味はあるさ」

 なければこんなこと言わない。そう、なければこんなことにはなっていない。

 上条の頭にズキリとした痛みが走る。

 ――まだだ。まだ、足りない。

208: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:03:43.22 ID:35hYHoZFo
「――悪いな。最近ぼんやりしてて、頭がうまく回らないんだ」

「風邪かにゃー?」

「かも知れない。大した意味はないんだ。悪いな、勘違いさせるようなこといって」

 ふむ、と土御門は一旦話題を取り下げた。――今の反応はまずかったかも知れない。

「それに俺だって、朴念仁ってわけじゃない。女の子にだって興味はあるさ」

 なければこんなこと言わない。そう、なければこんなことにはなっていない。

 上条の頭にズキリとした痛みが走る。

 ――まだだ。まだ、足りない。

209: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:04:22.91 ID:35hYHoZFo


 白井黒子は風紀委員の支部でテーブルに顎をのせてふてくされていた。

 それは親友である初春飾利が、自分を差し置いて尊敬する御坂美琴と食事をとったから、という理由だけではない。

 仕方がない部分もあるのだ。食事に誘ったのは美琴の方からだと言うし、
 初春を「仕事が終わったなら帰ってもいい」と言って支部から半ば追い出すようにしたのは自分だ。

 本音を言うとうらやましい。

 仕事が長引いたのは本当だし、待たせるのも悪いと気を遣ったつもりだったのだけれど、まさかそんなラッキーイベントがあるなんて。

 昨日だけでいいから、もう少し早めに仕事を終わらせることができていたなら――。

 いや、問題はそちらではない。いや、問題ではあるのだけれど、もっと重大なのはそちらではない。

 美琴が初春を食事に誘ったのは、そもそも美琴自身がほかの人間と(しかも男性と!)約束をしていたからだという。

 その点は初春が活躍したと言える。ふたりきりになることを阻止したという面では、初春よくやったと褒め称えてやりたいくらいだ。

 けれどたわいもないおしゃべりをファミレスで延々続ける……普段、黒子と美琴ですることもあるが、やはりうらやましい。

 いや、だから、そちらは問題ではない。今問題なのは、男の方だ。

210: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:04:55.18 ID:35hYHoZFo
 類人猿――もとい、上条当麻。何度か遭遇したことがあるが、黒子としては冴えない男子学生、程度の認識しかない。

 信じがたいことに彼は、美琴だけではなく初春とまで食事をともにし、更に彼の方でもひとり女性を連れてきたという。
 
 男女比は一対三。破廉恥な、と黒子は頭を抱えたくなる。

「面白い人でしたよ」と笑う初春の顔を思い出す。

「御坂さんの話とかも結構教えてもらって」それはぜひ教えて頂きたい、と黒子は思った。

「白井さんの話にもなりましたし」何を言った何を、と黒子は上条と初春を別々に問いつめたい気分になった。

「御坂さんも楽しそうでしたよ」実をいえばこの言葉が、白井の胸に強く突き刺さった。

 美琴も年頃の女性だ。異性に興味を持つことだってなくはないだろう。

 それは本来自分にも言えることなのだけれど、黒子はあえてそのことを考えなかった。

 相手は高校生。美琴や自分たちくらいの年齢ならば、年上の異性という生き物に無意味に憧れてしまうものなのだ。
211: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:05:32.28 ID:35hYHoZFo
 ――もっとも、それは黒子にとっても言い訳にすぎない。

 黒子が心酔する「お姉さま」が、そんな理由で誰かに好意を抱くとは、黒子自身考えていない。

「なんだか、憂鬱ですわね……」

 黒子のささやきに、固法が苦笑しながらコーヒーを差し出した。

 昨日ついでに済ませた今日の分の仕事だけ、今日やらなければならない仕事は減っている。

 それでも少なくない量の仕事があるのだけれど。

 望んでやっていることとはいえ、デスクワークは黒子を憂鬱にさせる。こんなことを学生にさせるなんて、と。

 そもそも黒子が望む仕事――つまり「荒事」の方が、「学生にやらせるなんて」、という仕事なのだが、
 黒子からすればそんなことは知ったことではない。

「連続放火事件も、書庫を当たればすぐにデータがあると思いましたのに――」

 あてがはずれましたの、と黒子は呟く。

「そもそもあの事件は風紀委員の管轄じゃないんだけどね」

 固法の言葉に、ぎょっとなりかけて姿勢を正した。

「はあ……」

 また、黒子の口から溜息が漏れる。

212: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:06:01.55 ID:35hYHoZFo
「――あなた、ちょっと疲れてるんじゃない?」

 固法に言われて、え、と驚く。

「顔色悪いわよ」

「――そんなはずは。ちゃんと睡眠もとっていますし、身体も休まっているはずですし、気がかりだってありませんのに」

 何も心配事はないはずだし、いや御坂美琴のことは心配だけれど、それはいつものことだ。

 体調が悪くなるような心当たりなんて――「ない」、と黒子が結論を出しかけたところに、
 キーボードを叩き続けたまま初春が話に割り込んでくる。

「風邪じゃないですか?」

「風邪?」
 
 反芻して、ああ、と思う。風邪というもの、あったな、そういえば。

「風邪、ですの?」

「ですの? って言われても――」

 黒子はそういえば、と思い当たる。昨日の夜はくしゃみが出たし、ちょっと寒気もした。

 健康管理もろくにできないなんて……黒子は自分に呆れて声も出なかった。

213: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:06:46.05 ID:35hYHoZFo
「はい、体温計」

「お借りしますの」

 固法から受け取った体温計を、襟元から突っ込んで腋に挟む。

 そんなに待たず、ピピピ、と音が鳴った。

「――微熱、ですわね」

「あらら」

 黒子の声を聞いて体温計を覗き込んできた固法に見えやすいように手の中で方向を変える。

「三十七度二分なんて、熱とは言えませんわ。無いようなものですの」

「っていっても、悪化すると困るじゃない」

 固法の正論に、黒子はぐうの音も出ない。

「今日のところは帰りなさい。心配しないでも仕事はやっておくから。初春さんが」

 私がですか、と初春が大声をあげる。可笑しくて、黒子はつい笑ってしまう。

「それならいいんですの」

「ちょっと白井さん!?」

 初春をからかったあと、黒子は自分の額に手の甲をあてて体温を測る。確かに少し、熱くなっている――かもしれない。

214: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:07:14.24 ID:35hYHoZFo
 間違いなく熱があるかと問われれば、疑問が残る。

 かといって体調が悪化しても迷惑がかかる。ここは素直に寮にもどってゆっくり休まないと。

 下手をするとお姉さまに風邪がうつってしまうかもしれませんものね、と黒子は自分を納得させて、支部を出た。

 黒子は初春の表情を思い出す。――少し、変ではなかっただろうか。

 なにか、恥ずかしがるような、照れているような、少し顔は赤かったし、いつもよりぼーっとしていた。

 初春こそ風邪を引いていたのではないだろうか。

 ――こんなことに今更気付くなんて、自分は本当に疲れているみたいだ。

215: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:07:48.51 ID:35hYHoZFo




「白井?」

 呼ばれて振り返ると、そこには上条当麻の姿があった。

「ああ、貴方ですの」

 素っ気なく返して、けほ、と咳をする。

「風邪か?」

「ええ。本当は風紀委員のお仕事があったんですけれど……少し熱もあるみたいですし」

「そっか。じゃあ帰るところか?」

 そんなの貴方には関係ないじゃありませんか――とは言えない。

「ええ、そうです。それより――貴方、昨日お姉さまと一緒にお食事をしたとか……」

 白井がじとっと睨め付けると、上条はぐっとうめいて戸惑う。

「ああ、いや、まあ……」

「はっきりと仰ってください」

「行きました! どうして知ってるんだ?」

 初春から聞きましたの、と黒子が言うと、上条は、ああ、と頷く。この男の考えていることだけは、黒子はどうにも分からない。

 けれど初春の名前を出した瞬間、上条の顔がかすかに、歪んだ気がした。

216: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:08:30.12 ID:35hYHoZFo
 ――気のせい、ですわよね。

 たぶん風邪のせいだろう、と黒子は気にしないことにした。

「まったく、お姉さまったら、どうしてこんなのと……」

 黒子がついぼやくと、上条は溜息をついた。

「こんなの、っていうなよ」

 もっと怒るかと思えば、なにやら落ち込んでいる。まさか自分にコンプレックスでもあるのだろうか。

 何も考えていないような顔をして、意外と繊細なのかもしれない。悪いことをした。

 けほ、と黒子はまた咳をする。

「風邪なら、早く帰った方がいいぞ」

「貴方が引き留めたんじゃありませんの」

「ああ」

 悪いな、と上条は短く謝罪する。

217: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:08:52.53 ID:35hYHoZFo
 この男はなんというか、相手の攻撃性というか、毒気というか、そういうのを失わせてしまうのだろうか。

 素直に謝られては、黒子は皮肉のひとつも言うことができない。

「それじゃ、私はこれで」

「ああ。初春さんによろしくな」

『初春さんに』、か。御坂美琴に何も伝えてくれと言わないのは、彼がそれほど彼女と親密だからなのか。

 黒子はなんだか面白くなかった。


218: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:09:22.35 ID:35hYHoZFo
 ――耳鳴りが酷い。

 頭痛がひどくなってきている。上条は白井と別れてすぐにスーパーへと向かった。

 昨日は結局外食したから、食事を作る手間がなかったが、何日も連続で外食できるほど裕福ではない。

 自分だけならどうにでもなるが、禁書目録も一緒にいる以上、
 彼女のために正当な手続きをふまえて食材を手に入れなければならない。

 ――風邪をひいた、というわけではないだろうけど。

 額に触れる。熱はない。けれど頭はぼんやりする。放課後になってから、徐々にそれが深くなってきた。

 薄い膜を隔てて、世界と触れ合っているような、そんな感覚。

 どくん、どくん、心臓が脈打っている。今日はなんだかその音が、妙に騒がしい。

 ――いったい、どうしたんだろう。

 気付けばまた、上条の下半身に血液が集まり始めていた。

 猿かっつーの。上条は自嘲するが、呼吸が苦しくなってきて、笑う余裕がなくなっていることに気付いた。

219: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:10:06.82 ID:35hYHoZFo
 このままでは、いついかなる状況で、自分を見失ってしまうかわからない。

 早々に処理しなければ。けれど、上条はぼんやりとした頭で、それではだめだ、と考える。

 上条は気付いていた。自分は、もう自慰だけでは収まりがつかないだろう。

 かといって時間封鎖を利用したところで、彼女たちに「何かをさせること」ができるかは疑問だった。

 口、手、足、股、尻――上条は知識を総動員してひとまず「させたいこと」を考えた。

 ――ダメだろうな。なんらかの同意がなければ相手に「させる」ことは難しい。

 上条はここで気付く。そもそもこれらは、時間封鎖中でなくてもできることではないか?

 彼が正常な状態であったなら、その発想が危険なものであることに気付けた。

『さすがにそれはまずいだろう』という感覚を、彼はとうの昔に失ってしまったのだ。

 だから彼は、時間封鎖を使わずにそれらの行為をすることの意味が分からなくなっていた。

220: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:10:38.43 ID:35hYHoZFo
(――時間封鎖を使わずにするのは、まずい?)

 わずかに残った常識が、上条のなかで抵抗を試みたが、

(――時間封鎖を使ったって、まずいもんはまずいっつーの)
 
 結果は分かりきっていた。上条が今更立ち止まることはない。「まずいこと」をしている自覚は確かにあった。

 じゃあ、どうする? 同意を得られないなら、脅迫するしかない。

 禁書目録はそれに従うだろうか、と考えかけて、上条は今日はダメだと思い直す。
 
 さすがに三日連続では、彼女が哀れだった。

 では、誰だ? 上条の中で答えは既に浮かんでいる。――御坂美琴だ。

 けれど彼女は脅迫には屈しないだろう。無理矢理舐めさせようものなら、噛み切りかねない。

 ――それはそれで堕としがいがあるが、抵抗が激しすぎるのは困りものだ。

 実を言えば上条は、もっともわかりやすくもっとも自らの欲望を満たす、「可能なこと」を考えるのを避けていた。

 すなわち、彼女たちを犯すこと。

221: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:11:11.00 ID:35hYHoZFo
 ……いいのか、本当に。

 上条のなかで、冷静さと諦念がアンビバレンスに広がっていった。

『ダメに決まっている』と、『何をいまさら』だ。

 上条は躊躇っていた。

 今までしたことは――禁書目録にしたことを除けば――ただの変態行為でしかないわけだが、
 けれど「それ」をしてしまえば、上条はもう戻れなくなってしまうだろう。

 今、自分が欲望を満たそうとすることをやめ、今までしてきたことを忘れてしまえば、日常に戻ることはできる。

 禁書目録は二日ばかり悪夢に悩まされただけで、御坂美琴は短パンを履き忘れただけ、初春飾利にしても同様だ。

 ――最初の日に標的にした少女に関しては、どうすることもできないが。

 つまり上条にはふたつの選択肢があった。

 犯した罪のすべてを隠蔽したまま日常へと回帰するか、あるいは開き直り、罪を重ねていくか。

222: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:11:51.15 ID:35hYHoZFo
 上条は、「罪を償う」ということを一切考慮しなかった。

 たとえば上条が自らのしたことを懺悔し、彼女たちに謝罪をしたとする。

 そうすれば、どうなるのだろう。
 
 彼女たちは自分たちの知らない内に、信頼していた、
 あるいはよく知らない男に好きにされていたという事実をどう受け止めるだろう。

「償う」という言葉に、上条は疑問を抱いた。「それは誰に対して示すものだろう」と。

 彼女たちのことを真に思うならば、明かすべきではないはずだ。

 その結果彼女たちが傷つくというのなら、それを告げることは懺悔や告解なんていうものではなく、
 むしろ――より深い陵辱にすぎないのではないだろうか。

 それともこの考えは、上条が自身に都合のいいように彼女たちの心情を妄想しているだけで、
 彼女たちは真相を告げられることを望むのだろうか。

 どちらにせよ、救われない人物がいる。

 名も知らぬ少女――彼女だけは既に、時間封鎖外に至るまで、上条の手によって生活をゆがめられたはずだ。

 具体的な記憶がなくとも、まだ幼い少女にとって、男の欲望を自身にぶつけられたというのはショックだったはずだ。

 上条はそれに謝罪することができない。

223: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:12:49.78 ID:35hYHoZFo
 ――謝罪?

 そもそも、謝罪とはなんだろう。「罪を謝る」と書くが、謝ってどうなるのだろう。

 罪には罰が必要だ。そして罰を与えられれば――罪は赦されるのだろうか?

 ぼんやりとした頭で考え続けた上条は、自分が何に違和感を持っているかにようやく気付いた。

(――赦される?)

 罪を犯しても、罰を受ければ、償いをすればそれは赦されるのか?

 人を殺しても罰せられれば罪悪感にとらわれることがない?

 そんなバカな話が、都合のいい話があるのだろうか?

 たとえば私怨や私利に依って他者を殺めた人間が、
 神様とやらに赦されれば、殺人を犯す以前のように「アイツ死なないかなぁ」なんて不謹慎なことを考えるのが許される?


 ――そんなわけがない。

224: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:13:18.40 ID:35hYHoZFo
 償いに意義はない。罪は罪だ。懺悔をしても救われない。

 そもそも、償ったところで「赦される」のだろうか。世間は、人は?

 禁書目録なら、御坂美琴なら、白井黒子なら、初春飾利なら。

 ――赦すわけがない。赦されるわけがない。

 ならば開き直って彼女たちを陵辱し尽くす……? そうではない。それはスマートじゃない。

 そうだ。開き直ることも償うこともない――怖れることもない、上条は彼女たちを犯せばいい。

 欲望のままに、恣にすればいい。

 冷静さを欠いていた上条の思考が、徐々に冴えていった。

 ぼんやりとした煙のような膜が消えて、冷え切った空気のように澄んだ感覚が上条の五感を支配した。

 怖れることはない――上条は心の中でもう一度繰り返した。




225: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:14:44.26 ID:35hYHoZFo
 自販機を蹴ると、ガラッと音を立てて缶が出てきた。――ハズレだ。しかも一番マズい奴。

 御坂美琴はいつもの公園で休憩をしていた。

 このところ白井黒子は忙しそうで遊び相手がいない。漫画の新刊も立ち読みしきっていた。

 もう読むものは残っていない。

 黒子には「ちゃんと買った方がいい」と怒られそうだが、購入して部屋で読むのと、
 コンビニなんかで立ち読みするのではだいぶ勝手が違うと思う。買うとかさばるし。

 ――暇をもてあましていた。飛び出してきたジュースのプルタブを引いて、口をつける。

 やっぱりマズい。かといって捨てるのは悔しい。

 ん? と御坂は考える。

 立ち読み、自販機からのジュースの強奪――金に困っているわけでもないのに、自分は何でこんな不道徳な行為に走っているのか。

226: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:15:18.73 ID:35hYHoZFo
 まあいいか、と御坂はジュースを呷る。立ち読みはともかく自販機に関しては、今度からやめよう。そう、今度から。
 
 そんなことを考えていた御坂の視界を、赤い光が覆い尽くした。

「――――ッ!?」

 何が起こったのか理解するよりも早く、すぐそばに誰かの気配を感じた。

 御坂は振り返る。近頃はこんなことばかりだ。おかしなことが、何日も連続で起こっていた。

 その中でも今日のこれは、あまりにも度が過ぎている。悪い冗談ならやめてほしかったし、悪い夢なら醒めて欲しかった。

 けれど、御坂美琴にとっては最悪なことに――すぐ後ろに、醜悪な笑みを浮かべた上条当麻がいた。


227: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:16:10.56 ID:35hYHoZFo

「よぉ、御坂。奇遇だな」

 呆然と立ち尽くす御坂美琴と目が合ってから、平然と笑みを浮かべた上条当麻は言い返した。

「アンタ――」

 御坂は、この状況を理解できないはずだ。

 赤い光に包まれている異様な世界の姿を初めて目の当たりにした御坂。

 そして、その中にあっても平然としている上条当麻という存在。

 そのどちらもが御坂美琴にとって理解しがたいことだろう。

「何なのコレ――ッ! 何かの冗談!?」

 御坂は上条に向けて怒号を飛ばす。上条はあくまで普段通りに言い返した。

「何なの、って、どうしたんだ、御坂?」

「どうしたんだって――ッ!」

 頭の回転が速い御坂美琴は、この状況を理解するために数パターンの可能性を考えるだろう。

 具体的にはあまり想像がつかないが、たとえば、「上条当麻が異常に気付いていない可能性」、
 もしくは「上条当麻自身がこの異常を引き起こした可能性」くらいは既に思いついているだろう。

228: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:17:24.20 ID:35hYHoZFo
 別にどちらでもかまわなかった。御坂美琴が自分を疑わなくてもかまわないし、彼女が自分を疑ってもかまわない。

 どちらにせよ――することは変わらないのだから。

 御坂美琴は何秒間かすべての動きを止めていたが、やがて何かを察したように、上条当麻を睨んで歯噛みした。

「――オイオイ。どうしたんだよ御坂」

 上条は笑う。――醜く顔を歪めて。それが、御坂にとっては答えになるだろう。

「アンタ、いったいこの状況はなんなのよ!」

 彼女の表情にさまざまな感情が浮かんでは消える。怒り、不安、怯え、悲しみ。

「――見て分からないか?」

「はあッ!?」

「俺が望む世界だよ」

 と、上条はもっとも的確な答えを御坂に与えた。

229: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:18:13.03 ID:35hYHoZFo
 御坂はまた感情を顔に浮かべる。疑念、理解、確信。

「アンタの仕業ってワケ? いったい、何のつもりよ、これは――!」

 御坂は理解しがたい状況に堪えきれない怒りを感じているかもしれない。

 上条当麻の行動は、御坂美琴にとって手酷い裏切りでしかないのだから。

 御坂の頬がピクピクと震える。見ている側としては面白い。

 やがて彼女は堪えきれないとでも言うように口を開いて何かを言おうとしたが、その瞬間、上条に頭を撫でられ硬直した。

 ――ゾワリ、と彼女の中で嫌悪感がジワジワと広がっていくのが、当人ではない上条ですら理解できた。

 ――部分封鎖で御坂の行動を制限し、背後に回る。彼女からすれば、唐突に背後に移動したように感じるはずだ。

 上条当麻は御坂美琴に、この異常の原因が自分であることを明かした。

 理由はいくつかある。無粋な目隠しをはずして犯すため、原因が自分であることが分かっても証明は困難なため。

 たとえば上条当麻が彼女を犯し、彼女もそれを理解したとして、時間封鎖を全解除して普段の生活に戻って、
 そうして上条当麻が「そんなことは知らない」と言ったなら、彼女はどう考えるか――?

 すべてが未知数だった。

230: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:18:43.05 ID:35hYHoZFo
 ならばいっそ実験してしまえばいい。推理できない部分があるなら、試してみるしかない。

 上条当麻は御坂の身体に触れ、彼女を時間封鎖の楔から解き放った。

「――――!?」

 驚愕に目を見開きながら、彼女は振り返る。

 もっとも、大した距離の移動ではないのだけれど。

 部分封鎖と部分解除を利用する為には、なんらかの形で解除の対象に触れておく必要がある。

 とはいっても、判定は結構微妙なのだが。服越しに触れていても解除しようと思えばできるし、
 ペットボトルの中身だけを解除することも可能だった。都合がいいを通り越して不気味なほどだ。

「なッ――!」

 と御坂美琴が声をあげた瞬間、上条当麻はふたたび部分封鎖を行った。

 触れなければ部分解除できないというのはつまり、部分解除をする際には、対象との距離はゼロ距離だということになる。

 赤い光をまとう御坂美琴の背後に回り上条は距離をとる。

 ――全解除。

「え……?」

 御坂美琴は驚いてあたりを見回すが、上条の姿を発見するには至らない。

(――さあ、目覚めろ)

231: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:20:08.46 ID:35hYHoZFo
 時間封鎖を行う。世界中のすべての時間が停滞する。

 上条は御坂の正面に立ち、硬直したままの彼女に口づけをする。口内に舌をねじ込み、自らの獣欲を高ぶらせる。

 唇を離してから、今度は距離を取らずに、彼女を部分解除する。

「――――ッ!」

 既に混乱して頭の回っていない御坂の――硬直していない御坂の唇を奪う。

「んッ! んむッ……?!」

 抵抗らしい抵抗はない。まだ彼女は上手に反応できないままだ。さきほどと同じように、口内に舌を侵入させた。

 ぬめりとした感覚が、上条の背筋に快感を与えた。

 ざらついた御坂の舌の感触が、上条から逃げるようにもがく。けれど彼女の小さな口の中に、逃げ場なんてない。

 御坂は歯を閉じて上条の舌から逃れようとしたが、上条はそれを受けて彼女の歯列を舌先でなぞりはじめた。

 御坂はくすぐったそうにぞわぞわと身体を震わせて、その感覚に耐えていた。

 ――満たされはじめている。上条はそう感じた。

232: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:21:14.77 ID:35hYHoZFo

 御坂美琴は動揺していた。

 赤い、赤い世界で、上条当麻が現れては消え、現れては消えを繰り返した――という理解しがたい現状があったから、ではない。
 
 自分が今、上条当麻にキスされているという事実に、だ。

 ――考えたことがないわけではない。

 美琴は上条に好意を抱いていたし、それは日々大きくなって、自覚せざるをえない状況にまでなっていたのだ。

 彼女にとってそれを認めることはすごく恥ずかしいことで、すごく認めがたいことで、すごく勇気が必要だった。

 けれど不思議と、それを認めると楽になれた。心地のいいどきどきが、全身を支配した。
 
 ああ、アイツのことが好きなのだ、と、美琴は認めつつあった。少なくとも、ついさっきまでは迷うこともなく。

 だから美琴は、上条当麻と恋人になるという想像を、したことがなかったわけではない。

 美琴は上条のことが好きで、もしその想いが叶ったならば、つまりはそういうカンケイになるのだろう、ということを考えたのだ。

 そしてその結果として、たとえば手を繋いで街を歩いたり、彼の部屋に行って一緒に過ごしたり――キスをしたり。

 そういうコトをすることになるだろう、ということは、一応分かっていた。

233: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:22:19.91 ID:35hYHoZFo
 御坂の想像は一面的に成就した。

 けれど彼女が想像した上条当麻との口づけは――こんなにも強引で、淫靡に感じられるものだっただろうか。

 こんなにも穢れていて――異様、な。

 違う、と思った。こんなはずではなかった。美琴が想像した上条当麻とのキスは、こんな形ではなかった。

 けれど彼女は、それに気付いてなお、上手に抵抗することができなかった。

 両手で彼の胸を押し、必死に離してもらおうとしても、彼の身体はビクともしない。

 美琴は思う。上条の身体はこんなにも大きく、抗いがたいものだっただろうか。

 ぬめぬめとした上条の舌が、美琴の口内をねぶり、暴れ回る。

「ん、むう――ちゅ、んむッ……!」
  
 抵抗が上手にできない? ――ちがう。美琴は上条によって、呼吸すら上手に出来ない状態へと追い込まれていた。

 美琴の背中を両腕で抱き寄せ、上条との距離が強引に縮められた。

234: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:23:20.50 ID:35hYHoZFo
 上条が彼女を抱き寄せるほど、美琴の足は浮かびあがり、つま先立ちになってしまう。力が入らない――いくつかの意味で。

 美琴は唇の端から、涎が垂れ出るのを感じて、耐えがたい羞恥心に涙が出そうになった。

 垂れ落ちたのは、美琴のものか、上条のものか、あるいはそのどちらもが合わさったものなのだろうか。

 上条の唇に、舌に弄ばれ、美琴は徐々に息苦しくなっていく。徐々に頭がぼんやりとして、回らなくなっていく。

 そうしてそれらが爆発しそうになったとき、上条は美琴の唇を解放した。両腕で抱き寄せ、彼女の足に力が入らないようにしたまま。

 美琴はようやく解放された口で呼吸を再開する。そこで美琴は、どうしてこんなにも息苦しいのかを疑問に思った。

 塞がれたのは口だけなのに――心臓がうるさいほど脈打っていた。どきどき、していた。

 ぼんやりとした目で、潤んだ視界で、美琴は上条の表情を見る。――けれど彼の目は、既に美琴の顔を見ていなかった。

235: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:24:34.75 ID:35hYHoZFo
「――ひあッ!?」

 と思わず漏れ出た声に、美琴はまたも羞恥を感じる。上条の手が、彼女のお尻をスカート越しになで回しはじめたのだ。

 美琴は抵抗できずにぷるぷると震え、目を閉じて恥ずかしさとこそばゆさを耐える。

「な、何を――!」

 美琴は目を強く瞑って感覚に抗いながら、口を動かして上条の行いに抗議した。

 けれどその口はすぐに塞がれてしまう。上条当麻が、ふたたび唇を重ねてきた。

「んむッ――?!」

 上条の舌に反応して、美琴の舌が勝手に反応する。逃げようとすればするほど、上条の舌に絡みついてしまう――。

 それは御坂美琴の想像を絶する、深い深い、キスだった。

 そうこうしている間にも上条の手は美琴の身体を這う。スカートをまさぐり、美琴の臀部をなで回している。

 上条は短いキスを終えて、再び唇を離す。二人の間に、銀色の糸が引いたのを、美琴は見てしまった。

 それでも上条の手はとまらなかった。スカートの内側に入り込み、短パン越しに美琴のお尻を揉む。

 その感覚に、美琴は全身を震わせて羞恥に耐える。

236: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:28:02.75 ID:35hYHoZFo
「やぁ……っ!」

 彼女にできる抵抗は、せいぜいそんな声をあげるくらいだったが、
 それすらも上条の興奮を高める材料に過ぎないことに、彼女は気付かない。

 上条がキスをやめて、いったい何をしているのだと美琴は疑問に思った。

 目を開けて上条の顔を見ると、彼は美琴の顔をじっと見つめていた。

 ――見られている、と思うと、羞恥心が何倍にも増して彼女に襲いかかり、彼女は更に顔を赤らめた。

 これ以上はどうにかなってしまいそうだ。

「や、やめてってば! お願い――!」

 けれど美琴の声に、上条は答えない。代わりとでも言うように、彼はまた美琴の唇を塞いだ。

「んん――! んむ、ちゅ、む、ちゅ、ぷ……んんん、んむ――!」

 さっきよりも激しく、深く、美琴と上条の唇は繋がっていた。淫靡な水音が、ふたりの口元から響いてくる。

 その音が美琴の頭の中を直接 灼くようで、美琴の頭は真っ白になった。

237: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:29:46.11 ID:35hYHoZFo
 上条は指先だけで見もせずに美琴の短パンを下ろす。普段隠されているものが、白日の下にさらされた、ように美琴は感じた。

 彼にはまだ見えていないはずだ。けれどまるで、じっくりと観察されているような錯覚があった。

 位置関係からして彼には見えるはずがないのに、彼に触れられてしまう、と考えるだけで、
 自分のすべてを見られているような錯覚に美琴は陥った。

「や、やだ――ッ!」

 けれど、上条の指先はうごめき、美琴のお尻を、今度は下着越しに撫で回し始めた。

「ん、んん――!」

 くすぐったさに身を震わせて、彼女はなんとかその手から逃れようと身体を動かそうとする。

 上条に身体を抱かれているうえに、つま先立ちだからうまくいかない。

 腰だけで逃れようとしても、美琴の身体はむしろ上条の胸の中へと近寄っていく結果になった。

 手から逃れるために腰を突きだした美琴はバランスを崩して上条にもたれかかる。

 その美琴の腰のあたりに、固い何かがあたった。

「――――ッ!」

 美琴には、それが何か、見なくても想像ができた。

238: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:32:42.48 ID:35hYHoZFo
 美琴が混乱に混乱を重ね動揺に動揺を重ねているうちに、上条の手は――下着の内側へと侵入しはじめた。

 びくり、と美琴の身体が揺れる。

 指先を下着の端にねじ込み、肌に触れながらそれをつまむ。感触を楽しむように撫でながら、徐々に引きずり下ろしていく。

 もうやだ、と喚きたかったけれど――今起こりつつあることを前に、声が出なかった。

 下着を膝の辺りまで下ろされても、美琴は恥ずかしさと怖れに身体を震わせているしか術がなかった。
 
 美琴の下着を下ろし終えると上条は、何かを思いだしたかのように美琴の肌から指先を離し、更に下に手を伸ばした。

 何をしているのだろう、と美琴が疑問に思うのもつかの間、上条の手が自らの内股の間に伸びていることに気付いて戦慄した。

「な――にを……!」

 上条は美琴の下着に触れて、何かを確認しているようだった。何かを――? 何かって、そんなのはいくつもない――!

「……ちょっと、微妙なところ、か――?」

 上条がようやく漏らした声に、美琴は脳が空転して情報を処理できなくなるほど混乱していた。

239: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:34:10.15 ID:35hYHoZFo
「ま、これからだよな――」

 上条がそう言った瞬間――美琴は自分が衣服をはだけていることに気付いた。

「――――ッ!?」

 常盤台中学の制服である袖無しのサマーセーターが上条の背後に投げ捨てられていた。

 それを見て自分の胸元を見下ろすと、ブラウスのボタンが全て開けられている。

 いやそれどころか――肌まで露出している。

 かろうじてブラに守られている胸元も、そのホックがはずされていることは感触で分かった。

 美琴の驚愕は、既に声にならない。

 その隙をついて、上条は美琴の臀部を撫で回すのを再開し始めた。

 美琴の小さなお尻の上を、上条のごつごつと固い感触が、這い回っている。

240: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:37:06.53 ID:35hYHoZFo
 その指先は太股や内股までを撫で、美琴が自分自身で触れたこともないような場所までもを、余すことなく撫でていった。

 美琴が必死に羞恥に耐えていると、上条は反対の手を使って、ホックをはずされたブラをはぎ取って投げ捨てた。

 彼女は次にされることを想像して怯えたが、上条の手はゆっくりと、首筋、鎖骨、肩口へと動いていく。

 美琴はどうすればいいかわからない。

 自分がはじめて経験する感覚に、どう対処すればいいかまったく分からず、頭が空回りしていた。

 そうして新たに増えた感触に、美琴は今どこを触られているのかすら分からなくなっていく。

 けれど美琴の太股を撫でていた手が、お尻の割れ目の奥へと伸びかけたとき、美琴は目を見開いた。

「だ、だめ! そこは――っ!」

 一瞬触れかけた指先は、一旦動きを止める。美琴が安堵の溜息をついて上条を見上げた瞬間、上条の笑みが目に入った。

「――――ッ!」

 上条の手は、美琴の肛門を囲い円を描くように動き始めた。

「だめ、だって――ば……!」

 美琴はその未知の感覚を、身を震わせて堪える。けれど羞恥心の方は、既に限界を上回って処理しきれない。

 もう美琴は、抵抗の気力さえ奪われていた。

241: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:40:05.11 ID:35hYHoZFo
 円を動く手がとまらない内に、上条の反対の手は脱ぎかけのブラウスに隠された美琴の乳房を撫で始めた。

 最初はブラウスの上から――布地に乳首が擦れて、美琴の身体が異常に火照ってくる。

 上条にすべてを見通されている――その錯覚が、徐々に強まってきた。

 美琴が身動きをとれずに全身に力をいれて我慢を続けていると、上条は自分の腰を美琴に押しつけてきた。

 上条のものが、スカート越しに美琴の太股に当たった。

「…………っ!」

 もう耐えられない。もういやだ。美琴は何かを言おうとするけれど、声が出ない。

 上条の手がブラウスの内側へと入り込んだ。けれど彼の手は乳房へと向かわず、お尻の方へと伸びていく。

 両方の手で違うふうにお尻を責められて、美琴はどうすればいいか分からなかった。

 片方の手が美琴の肌を撫でながら這い上がってくる。脇腹をくすぐるように優しく触れて、腋を通って、乳房へと戻ってきた。

 そうして、二次性徴の真っ最中である美琴の胸元を、彼の指先が優しく愛撫した。

242: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:42:36.29 ID:35hYHoZFo
 決して大きくはないが、それでもまったくないわけではない、
 女としての成長をはじめたばかりの美琴の胸を、上条は手のひら全体で愛撫していく。

「や、やめてよぉ……っ!」
 
 ようやく喉から出すことができたのは、普段の美琴のものとはまるで違う、かすれ声だった。

 上条の動きは、そんなものでは当然、とまらない。むしろさっきよりも乱暴に、美琴の身体を揉みしだきはじめた――。

「や、やあ、やだ、やだ――――!」

 美琴の抵抗の声に、上条の動きは強くなっていく。手だけではなく、身体全体を美琴に押しつけ、全身で堪能するかのように。

 上条の呼吸が荒い。彼は美琴の髪に鼻を埋めて、大きく鼻で息を吸った。

 その行為が――美琴には下着を脱がされることや、強引に口内をねぶられることと同じくらい恥ずかしいものに感じられた。

 じわり、じわり、と美琴の中で、徐々に拒否感とは別の感覚が広がっていく。

 そんなわけがない、と美琴が心のなかで否定するが、それは自分が、その感覚をなかば認めつつあるのと同義だった。

243: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:45:06.82 ID:35hYHoZFo
 上条はひとしきり胸を撫で終わると、今度は乳首を弄び始めた。

 それは美琴を悦ばせようとするのとは違う――もっと単純な、「そうしたいからそうする」というような動きだった。

 くすぐったさと、身の内からあふれはじめた奇妙に暖かい感触に、美琴は顔を火照らせながら上条から顔を背ける。

 こんなことをされるのは、はじめてなのに、こんなところを見られるのは、はじめてなのに、
 こんなふうにされるのも、こんなふうに触れられるのも、ぜんぶぜんぶ、はじめてなのに――。

 上条が美琴の胸をまた撫で回しはじめたのを美琴は見ないでも分かった。

 その感触に、自分の身体が撫でられる感覚に、身を震わせる。

 やがて上条は、身体をなぶる行為をひとしきり終えて満足したのか、行為を止めて、美琴にもう一度荒っぽいキスをした。

 粘膜と粘膜が擦れあう感覚に、美琴のなかに電流が走るような快感が生まれる。

 そして美琴は、生まれたその感覚をすぐさま否定しようとしたけれど――思考はすぐに、快感に呑まれてしまった。

 美琴を今支配しているのは、どうしようもなく恥ずかしくて、少しいやで、怖いけれど、あらがえない、という感覚だけ。

 
244: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:46:28.97 ID:35hYHoZFo
 美琴は上条にされるがままだった。上条の指先が動くだけで、美琴は自分でもおかしいと思うほど身体を反応させた。

 徐々にくすぐったさが快感になっていき、彼女はさらに羞恥心を高めて、それが尚更美琴の心を混乱させ、興奮させていった。

 上条はキスの勢いを少しだけ弱めた。彼は何かをしようとしている、と美琴は気付くが、頭が回らない。

 彼は片方の腕で美琴を抱き寄せ、彼女のふとももに自分の股間を更に強く押しつけた。

 布越しに熱さを感じて、美琴はたまらなく恥ずかしくなった。

「あ、あたって……んむ――っ!」

 そして上条は、反対の手で美琴の内股の間に手を伸ばした。――今度は、下着ではない。

「……んッ!」

 くちゅり、と、かすかに、けれど確かに、美琴の耳に音が届いた。

「だ、だめ!」

「ダメ? どうして?」

 この状況になってから、美琴は初めて上条と会話を成立させることができた。

245: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:49:38.38 ID:35hYHoZFo
「とにかくだめなの! 絶対にだめ……!」

「でも、濡れてるよ」

 言われて、美琴の顔は自分の顔が熱くなるのを感じた。息が、いつまで経っても整わない。

「だめなものはだめ! だめ、だから――っ!」

 美琴の言葉を聞きながら、上条は彼女の秘所を指先で弄びはじめた。

「でも、俺、もう我慢できないよ」

 その言葉に、美琴はいやがおうにも上条の固くなったものを意識しなくてはならなくなった。

「そんなの知らない……ッ!」

 美琴は必死に考えて、なんとか言葉を発する。上条の指先はとまらないし、心臓の音はかしましい。呼吸が苦しい。

 恥ずかしい、恥ずかしい、苦しい、もうやだ。もうやだ――!

「だめなの……こんなのやだ! これ以上は、ダメだよ……!」

 美琴が精一杯上条に訴えようとするが――彼は容易に、美琴の言葉尻を捕らえた。

「これ以上は?」

246: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:50:40.71 ID:35hYHoZFo
 あ、と美琴は思う。頭が回っていない。顔が火照っている。ふとももから液状のなにかがつたっていく。

「じゃあ、ここまでなら何をしてもいいのか?」

「そんなこと……んぷ――ッ!?」

 また、上条の唇が重なる。もう何度目か、美琴は思い出せない。けれどとても長い時間、これを繰り返していた気がする。

 上条の指先が、美琴の秘所をさぐるようにうずまっていく。

「んむ、んんんん!」
 
 未知の、今度は快楽とも言えない異物感に、美琴は背筋をピンと反り返らせた。

「や、やだ! やめて、やめてえ――ッ!」

 けれどどれだけ美琴が嫌がっても、上条がそれをやめることはない。

247: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:53:22.82 ID:35hYHoZFo
「ん、あっ、いや、や――だあ……ッ!」
 
 涙声のようになった自分の呼吸に、けれど嬌声のようなものが混じりはじめたことに美琴はすぐに気付いた。

 上条は、懇願を受けて美琴を憐れんだわけではないだろうが、指先を彼女の秘所から離した。

「え、あ――」

 彼の指が、美琴の前にかかげられた。その指先は、淫靡に濡れて艶めいていた――。

「や、やめて――ッ!」

 上条は、これが証拠だ、というようににやりと笑みを浮かべた。

 そして美琴がいやがったのも、その濡れた指先に嫌悪感を感じたからでもない。いやだったのではなく、恥ずかしかっただけだ。

 彼女は確信せざるを得なかった。自分は感じている。上条当麻に犯されて、悦んでいるのだ、と。

 けれど身体が感じていても、心まで受け入れているとはいいがたかった。

 ――とはいえ、その心の防波堤も、ほとんど陥落しかかっていた。

 というか、最初から受け入れる準備はできていたのだ。美琴は最初から、上条当麻のことが好きだったのだから。

 とてもとても、好きだったのだから。

248: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:54:15.07 ID:35hYHoZFo
 けれどだからこそ美琴には、上条当麻の豹変が理解できない。それだけが美琴の考えに暗い影を落としていた。

 目を閉じて羞恥に耐えていると、音が聞こえた。

 ――ズボンのチャックを下ろす音。

「やだ、いや、いやああ――ッ!」

 美琴は自分でも驚くほどの力で、上条当麻に抵抗した。そして彼の拘束から逃れることにどうにか成功した。

 ――と、思った。次の瞬間には、抜け出す前とまったく同じ体勢で、上条当麻に行為を続けられていた。

「なに、これ――」

 信じられない。これが現実なのだろうか。これではまるで――悪夢だ。

 美琴はもう、声を出すこともできなかった。

 上条は自らのモノを露出し、濡れた先っぽを美琴の秘所に擦りつけはじめた。


249: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:55:21.18 ID:35hYHoZFo
「あ……っ、んん――!」

 わけがわからない。

 何が起こっているのかちっとも理解できない。

 上条の行為は続けられる。何度も何度も、上条は美琴と自分の腰を擦りあわせた。

 両腕で美琴のお尻を掴み、無理矢理美琴に腰を突き出させる。

 美琴の頭にあったのは、今は、羞恥でも快感でも、怒りでも悲しみでもない。――絶望だ。

 言われないでも、彼女は理解できた。御坂美琴は上条当麻に犯されつつあった。

 美琴は、夜、ベッドのなかで上条当麻に抱かれることを想像した日を思い出す。

 もし彼と晴れて交際するようになり、彼がソウイウコトを求めてきたら自分はどうするだろうか、と。

 嫌がるに決まっていた。

 そして想像のなかの上条当麻は、自分が少しでも嫌がるそぶりを見せると、それを察してすぐにやめてくれた。

 少しだけ悲しそうに。

250: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:55:57.75 ID:35hYHoZFo
 けれど――この上条当麻は違う。

 そうだ。女である御坂美琴が、男である上条当麻に強引に迫られたら、
 本当に強引に迫られたなら、拒絶などできるわけがなかった――!

 御坂美琴が耐えがたい状況に目を閉じて現実逃避をしようとしたとき、彼女の天地が揺らいだ。

「――ッ!?」

 気付くと御坂美琴は、地べたに横になっていた。上条は彼女に覆い被さって、身体を擦り合わせる運動を続けていた。

 自分の口から漏れる嬌声を、美琴はとうとう堪えることができなくなった。

「さて」

 と、上条当麻が言う。そのときの心の動きを、美琴は言葉にできない。

251: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:56:50.90 ID:35hYHoZFo
「まさか」か、「とうとう」か、強い拒否なのか、あるいは歓喜なのかさえ、既に美琴にはわからなかった。

「いくぞ、美琴――」

 上条当麻は、最悪のタイミングで、御坂美琴を下の名前で呼んだ。

 こんな状況にもかかわらず、彼女はそれだけれうれしくなってしまう。

 照れくさくて少し恥ずかしくて、とても心が満たされてしまう。

 その感覚を――これから上条当麻と繋がることを喜んでいるのだと、心は、身体は錯覚してしまう。

 美琴の身体は既に、上条を受け入れる準備ができていた。

 ――本当に、困ったことに。

「あ、あ――あ、あああ!!」

 その瞬間の衝撃を、美琴は生涯忘れることはないだろう。

252: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:57:36.88 ID:35hYHoZFo
 自らの身体が強引に押し広げられていく感覚。何かが侵入してくる感触。

「やああ、あああああ! ぐう…………ッ!!」

 美琴の口から獣じみた声が出る。痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。

「いや、ぁ……! 抜い、て、え……!」

 上条当麻は一瞬だけ動きを止めて――まるで躊躇を置き去りにしたように、一気に美琴の身体を貫いた。

 打ち抜いた、と言ってもいいかも知れない。その瞬間彼女に、自らの秘所から頭の先まで、一気に貫かれたような痛みが走った。

「う、ぐう――! う、あ、あああ!!」

 苦悶の声を漏らす美琴の目に、上条の顔が自分に覆い被さっているのが見えた。

 やられた。やられてしまった――。

 暗い、絶望的な感情が、美琴を覆い尽くした。

253: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:59:07.83 ID:35hYHoZFo
 美琴は背筋を反り返らせて痛みに耐える。地面に身体を押しつけて、どうにか自分を保っていた。

「な、んで――!」

 なんで、こんなことをするのか。いまさらすぎる美琴の問いに、上条は奇妙に透明な声で言った。

「おまえのことが、好きだからだよ」

 その答えに、美琴の絶望的な感情はいよいよ大きくなっていく。

 好きだったら、どうしてこんなことをするの? 

 好きだったら、どうしてそんな顔をするの? 

 そんな――悲しそうな、苦しそうな顔を。

「おまえがどうしようもなく好きだから、おまえのことを、どうしようもなく愛しているから――」

 やめて、と美琴は言おうとした。そんな言葉が聞きたいんじゃない。そんなことを言って欲しいんじゃない。

「――だからね、俺はおまえを穢すんだと思う」

254: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/07(月) 23:59:38.28 ID:35hYHoZFo
 上条はそう言ってから、美琴にキスをした。今までで一番優しいキスだった。

 それを続けたまま、上条は少しずつ、腰を動かし始めた。全身を揺らして、美琴の視界で上条が上下に揺れ始めた。

 ――間抜けな、光景だなぁ。

 美琴の心に自嘲が浮かぶ。嫌いになったわけでもない。失望したわけでもない。苦しいのでも、嫌なわけでも、きっとない。

 これはつまり――悲しいのだ。

「美琴――」

 上条が、優しく彼女の名前を呼ぶ。美琴は何も答えなかった。何も答えず、自らの顔を両腕で隠した。

「――泣いてるのか?」

 ……バカか。

 泣くに決まってるだろ、と美琴は上条を罵ってやりたかった。

255: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 00:00:28.83 ID:AwLfkLh4o
 
 意識を失った御坂美琴の衣服の乱れをなおし、上条は公園のベンチに眠らせておいた。

 覚悟を持った計画の実行だった。充分すぎる結果だ。満足しない方がおかしい。

 ――だとすれば上条は、おかしいのかも知れない。心にぽっかり穴が空いたようだった。

 興奮は醒めていた。時間封鎖を手に入れてから、上条がこの感覚になるのは初めてのことだった。

 けれどそれは、断じて満足したからではない。むしろ上条の胸にあったのは、喪失感だった。

 もっとも予想外だったのは、御坂美琴が決して「拒みはしなかった」ことだ。

 終始、まるで「ちゃんとした手順を踏んでから」とでも言うような反応だった。

 それでも彼女は嫌がっていたし、絶望的な表情も、涙すら見せた。そして嬌声もあげれば、自らの女性の部分を濡らしさえした。

 処女でなかったのだろうか、と疑問を持つ。破瓜の血と思えるものは確かに出ていた。

 ――まさかひとりで練習していたというわけではないだろう。

256: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 00:00:58.08 ID:AwLfkLh4o
 そもそも上条は、女性が感じる条件なんて分からない。感情とは無関係に濡れるのは、感情にこそ影響されるのか。

 そこは想像するしかない。美琴の反応はとてもよかった。

 途方もない、巨大な波めいた快楽が、上条を覆い、攫い、溶かし、そして彼から抜け去っていった。
 
 計画は成功すぎるほど成功だ。――自分は何を怖がっているんだろう。

 ――足りないのか?

 ……そうかもしれない。

 かといってもう一度御坂を犯したところで、さっきと同様の反応がもらえるとは思えない。

 誰か、探さなくては。上条が犯したい女を、犯したいと思える女を。


262: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:45:01.11 ID:AwLfkLh4o


 初春飾利は走っていた。いや、逃げていたのだ。

 迫り来る追っ手から、自らの足を必死に動かして、それから逃れようと。

 世界は赤い光に包まれている。これがなんなのか、初春飾利はまったく理解できない。

「なに、これ――ッ!」

 誰にともなく、息切れしそうな呼吸の隙間に、言葉を吐く。そうしなければどうにかなってしまいそうだった。

 日常の延長線でしかなかったはずの下校途中、世界は夕陽とは違う赤に覆われてしまった。

 唐突な異変に、初春の頭がめまぐるしい思考にとらわれる。

 やがてそれは空転し、何一つ結論を導き出せずにただひとつの感情に支配されることとなった。

 焦燥、だ。

「どうして、追いかけるんですか……ッ! 上条さんッ!」

263: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:45:34.27 ID:AwLfkLh4o
 初春が逃げながら振り向くと、彼との距離は少しずつ縮まっていた。

 上条の姿は初春には、前に会ったときより何倍も、巨大で、醜悪に見えた。

 彼女はついに足をもつれさせ転んでしまう。

「初春さんこそ、どうして逃げるんだ?」

「どうして、って――!」

 どうして、どうしてだろう。上条当麻は昨日会ったとおり、人のよさそうな笑顔を初春に向けて声を掛けてきた。

 逃げ出したときは本能的なものとしか思えなかったが、今ははっきりと理由が言える。

 この何もかもが動かない妙な世界で、平然としている彼を怖れているのだ――!

 彼の足音は徐々に大きくなっていく。

 このままではマズい――初春はどうにかして立ち上がろうとするが、焦れば焦るほど上手くいかない。

 初春の心臓が強く脈打ちはじめる。まずい、まずい。

 このままじゃ――追いつかれる!

264: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:46:27.34 ID:AwLfkLh4o
 やっとのことで初春が立ち上がり走るのを再開した瞬間――初春の進行方向のすぐそこに、上条当麻が立っていた。

「どう、して――」

 呆然と、吐息を漏らすように、初春は言葉を吐く。

 上条はにっこりと笑った。軽薄そうな、まるで偽りの笑顔であることを隠そうともしないような綺麗な顔で。

 彼と目が合った瞬間、初春の背筋にぞくりと悪寒が走った。

「いったい、この状況はなんなんですか!」
 
 初春は自分自身を鼓舞するまでもなく、八つ当たり気味に上条に問いかけた。

「どうして何も動かないんですか、どうしてみんな止まってるんですか? 返事をしないんですか!? 
 いったいこれは何なんですか、なんであなたは――私は、こんなところにいるんですかッ!?」

 上条はあくまで冷静に、あるいは少し褪めたように言った。

「知らないよ、そんなの」

「知らない? そんなわけ――ッ!」

 ない、と言いかけた初春の顎を、上条が持ち上げた。

265: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:47:04.42 ID:AwLfkLh4o
「何を……ッ!」

「こんな状況になったらさ」

 上条はぼんやりとした瞳で、初春を見つめる。

 ――正気じゃない……!

「男なら、することはひとつだろ。って、わかんないよな、女の子だし」

「何を言ってるんですか……ッ!」

 言い返した初春の唇に、上条の唇が重なった。

「ん、んむっ!?」

 唇を塞がれて動揺した初春が、何が起こっているかを理解できずに混乱する。

 上条はすぐに唇を離した。

「ぷはっ……な、なにを――!」

 突然の上条の行動に動揺し、初春は顔を赤くして怒鳴った。上条当麻はその声を聞いても、なにひとつ変わらなかった。

 無視するのとは違う。まるで、初春飾利の声が聞こえていないような、見えていないような、
 初春がどんな表情をしているかすら、気付いていないような――。

266: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:47:33.38 ID:AwLfkLh4o
 その上条の在りように、初春の背筋に悪寒が走った。

「あなた、いったい……!」

 言葉を掛けるのは途中でやめた。この異様な空間の中で、初春は恐怖に身をすくませるより先に、本能的に危機回避を選んだ。

 なんだか分からないけど、このままではまずい――!

 判断してすぐに、初春は上条に背を向けて走り出した。手の甲で擦る。痛むほど、何度も、何度も。

 何が起こっているのかまるで分からない。ここにいるのは自分だけなのだろうか。

 自分と――あの男だけなのだろうか。

 そんなわけがない。ありえない。けれど初春がどこまで走っても走っても、動くことがない。

 何者かの超能力――? いや、こんな状況を作り出せる能力なんて聞いたことがない。

 精神干渉によるマインドコントロールというわけでもないだろう。

 いや、それらをあたかも現実のように錯覚させることができる力もあるかもしれない。

 こんなにも現実感に溢れているのに?

 いつもとなにひとつ変わらない手足の感覚があるのに?

 この呼吸の苦しさや、痛む脇腹は、本当にただの錯覚?

 まさか、と思う。それが本当ならば初春は、この異様な空間になるまえの世界、
 初春の日常すら、すべて幻想ではないかと考えなければならなくなる。

267: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:48:01.52 ID:AwLfkLh4o
 感覚がある以上現実だという前提で動かなければならない。――第一、こんなに強力な能力を持つ人間が、初春に手を出す理由は?

 その目的を考えたとき、初春の唇に、さきほどの感触が蘇った気がした。怖気がして、彼女はまた唇を擦る。赤くなるまで。

「いったい何が……っ!」

 とにかく、誰かを捜さないと。誰を? 白井さん? 御坂さん?

 初春はポケットから携帯を取り出した。ディスプレイは正常だ。

 彼女はこの異様な状況ではじめて、他者とのつながりを持てるものを見て少し安堵した。

 初春は着信履歴から白井黒子の電話番号を呼び出した。

 けれど、携帯電話からは、待てども待てども音が聞こえてこなかった。
 
 ただ繋がらないだけではない――?

 初春は今度は御坂美琴に電話を掛ける。白井にかけたときと同様に、いつまで待っても繋がらない。

 ならば固法美偉ならば、佐天涙子なら。いやこの際、学校でも風紀委員の支部でも警察だってかまわない。

 どこかに繋がってくれ、と息切れしながら走る初春は願う。

 けれど、どこにも繋がることはなかった。

268: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:48:29.97 ID:AwLfkLh4o
「そんなバカな……!」

 初春は携帯電話の通話ボタンを何度も強く押す。操作が荒くなって、指先が震えた。

 けれど初春がどれだけ努力しても、初春の声が誰かに届くことはないし、初春の耳に誰かの声が届くこともなかった。

 初春が立ち止まって呆然とする。赤い世界の中心で、彼女は立ち尽くした。

 その一瞬、彼女の耳に、周囲の世界がざわめいたような気配が感じられて――世界が色彩を取り戻した。

「え――」

 けれどその刹那、彼女は再び赤い世界にいた。そして硬直した初春は混乱して、すぐ背後の気配に気付くのが遅れた。

「な……ッ!」

 振り返った瞬間、上条当麻は初春飾利を抱き寄せた。

「どうして――!」

 いつのまにこんなに距離を詰められたのだろう。追いかけられている気配はまったくしなかったのに――!

 初春の目には上条の姿が、人外の何かにすら見えていた。

 人間よりももっと欲深く、もっと罪深く、もっと醜悪な、何かに。

269: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:49:05.59 ID:AwLfkLh4o
「小さい、ね」

 上条は初春の耳元で囁く。

 何が、と疑問に思った瞬間、初春は自分の身体が上条の腕のなかにすっぽりと収まっていることに気付いた。

 悠長な感想など、どうして彼はこのタイミングで言えるのか――!

「ふ、ざけないで! 離して! 説明してください! 何なんですか、いったい!?」

 初春が叫ぶけれど、上条が答えることはない。

「顔……真っ赤だよ」

 初春は上条の言い草に、感情が高ぶるのを感じた。それが怒りなのか羞恥なのか憤りなのかは判別がつかない。

 それらのすべてが綯い交ぜになり、初春の心を飲み込みつつある、と彼女は感じた。

「な、んなんですか、この状況は!」

 初春は上条の答えを求めたわけではない。ただいったい誰の意思で、何のためにこんな状況になったのか、その答えが知りたかった。

 けれど――

「教えてあげようか?」

 ――この状況について懇切丁寧に説明され、一分も漏らすことなく理解できたとしても、
 この状況は変わらないのだと、初春はその言葉で気付いた。

270: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:49:45.32 ID:AwLfkLh4o
 今、自分は囚われている。危機にある。そしてそれがどういうものかを理解したところで、逃げられるわけではない――!

 上条の顔が、徐々に初春の視界で大きくなっていく。接近――。

「や――」

 拒絶の言葉を出そうとした初春の小さな唇を、上条は蹂躙しはじめた。

 ぞわり、とした悪寒が、初春の背筋を撫でる。

 顔を背けて逃げ出そうとしても、上条は強引に初春の顎を掴み向きを戻してしまう。

 そして唇の隙間に舌をねじ込まれ、彼女の頭をかつてない混乱が襲った。

 いったい、何が起こっているのだろう。これまで何度そう思ったかも分からない。

 上条の舌が初春の舌をねぶる。荒々しく、優しく、あるいはそのどちらともつかず。

 他者に口内をなぶられる感覚に初春は、全身を強ばらせて身を震わせた。

 息が続かない。けれど上条がそれをやめる気配はなかった。

 初春は気付いた。自分は、キスされている。――キス? 彼女はその言葉に疑問を抱いた。

 キスとは何だろう。これはキスなのだろうか。違う、と思った。彼女にとってキスとは、もっと神聖な意味を持つものだった。

 けれどこれはそうではない。

 キスなどという甘酸っぱいものではなく、言うなればもっと苦々しく、もっと嫌悪すべき、一方的な陵辱――。

271: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:50:12.96 ID:AwLfkLh4o
 初春はどうにか顔を背けて逃げ出そうとする。舌を動かして上条の舌先から逃れる。

 そうすると上条はまるで、舌に興味を失ったかのように逃げ場のない歯列やそのまわりをなぞりはじめた。

 その感覚に、初春はぞわぞわと嫌悪感に身体を震わせる。

 ――二日前、風紀委員の支部にひとりの少女が保護されてきた。

 白井黒子が発見し連れてきたという彼女は、複数の男性に囲まれて好きにされたという。

 いや、それは白井黒子の推測に過ぎない。彼女は何が起こったのかまるで分からなかったと言っていたのではないか。

 初春も同じだった。何が起こっているのかまったく分からない――!

 初春はその日の出来事を思い出す。彼女のつらそうな姿を見て、むごい有様を見て、初春は犯人を赦せないと感じた。

 決して赦さない、と。――それは傲慢ではなかっただろうか。

 初春は犯人たちを捕まえることを考えた。犯人を捕らえ、したことを償わせると覚悟を決めた。

 けれど、初春は気付いた。彼女は一度だって、「自分がそうなるかもしれない」とは考えなかった。

 どこか遠い出来事だと感じていたのだ。――とても残酷なことに。

272: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:50:41.18 ID:AwLfkLh4o
 息がついに続かなくなって、ちかちかと白い光が初春の視界を覆った。

 それに気付いたかのかどうかは分からないが、上条はそのタイミングで唇を離した。

 糸が引く。
 
 自分はこの男と繋がっていたのだと、いやがおうにも気付かされる。

 初春の全身が、嫌悪感に震える。けれど手足の力は抜けて、自然な帰結として、彼女の身体は上条にもたれかかる結果となった。

 上条は初春の身体を支え、抱き留める。――ドラマかなんかにありそうな場面だな、と初春は他人事のように考えた。

 けれどその行為は、ドラマとは正反対の意味だった。

 自分の姿勢を意識して初春は顔を赤らめた。これでは自分が、上条当麻に甘えているように見えるはずだ。

 もちろん止まった世界では、初春と上条の姿を見ているものなどいないのだけれど、
 初春飾利はその事実に羞恥を抱かずにはいられなかった。

 初春の顔が真っ赤に染め上がった瞬間、また顎を持ち上げられ唇を奪われる。
 
「奪われる」という表現がこれほど正しいと感じられる行為もない。キスではない。これは蹂躙、陵辱だった。

 上条にとっても初春にとっても、それ以外の何でもなかった。

273: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:51:08.84 ID:AwLfkLh4o
 ――夢だ。これは悪い夢でしかない。

 そうでなければこんな、こんな悪夢めいた現実があるだろうか――?

 初春の抵抗が弱まると、上条はすぐに彼女の身体を弄びはじめた。

 はじめは遠慮がちにだった指の動きが、徐々に大胆に、強引になっていく。

 初春は漏れ出る声を堪えることもしなかった。痛みも、拒絶も――少しの嬌声も、隠そうとすらしなかった。

 けれど彼女の表情には暗い、暗い影がたたえられていたし、上条もそれには気付いたはずだった。

 気付けば初春は地面に寝そべっていた。

 上条は立ち上がり、ふう、と溜息をついている。

 彼女に逃げだそうという気力はなかった。

 全身は既にはだけていた。いつのまに、と思う。

 まるで一瞬で脱がされたようにも感じたが、よくよく考えれば、彼女がまったく気付かなかっただけかも知れない。

 初春は正常な判断だけではなく、正常な思考や認識すらも失っていた。

274: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:51:42.92 ID:AwLfkLh4o
 彼女の身体は動いていたけれど、心は逃げ出していた。

 彼女は表層を差し出し犠牲にすることによって、深層の部分を守ることに成功した。

 それは、何の救いももたらさないけれど――。

「なあ、初春さん」

 獣のような息を漏らし続けていた上条が、落ち着いた声で初春に話しかけた。

 なんですか、と初春は訊ね返した。彼女からすれば、もう何もかもがどうでもいい――。

 上条は身体を揺する。変に奇妙に感ぜられた。それを見て初春は、自分と上条が、本当の意味で繋がりつつあることに気付いた。

 ――どうしよう。嫌だなぁ。

 ぼんやりと、視界が歪んでいる。自分は今何を見ているのだろうか。何を聞いているのだろうか。

「――解放してやろうか?」

 え、と初春の思考がパンクする。

「解放?」

275: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:52:14.91 ID:AwLfkLh4o
 そう、と上条は頷く。それはどういう意味で? この馬鹿げた行為をやめるということ? この赤い世界から抜け出せるということ?

「初春さんさえ良ければだけど、このおかしな空間から逃がしてやることができると思うよ」

「……ほんとうに?」
 
「ああ。どうだ?」

「……すぐにでもそうしてください」

 皮肉も込めたつもりだった。初春が答えると――上条は醜悪な笑みをたたえた。

 その瞬間、初春は唐突に、上条の「解放」という言葉の意味を理解した。

「やめ――!」

 冷静な思考を取り戻した初春が言うけれど――時は既に遅く、世界は色と変化を取り戻した。

 ここはどこだったっけ? 初春の脳裏を焦燥に支配された思考が通過する。

 ここは街のど真ん中で、初春飾利は上条当麻に犯されつつある状態で、そんな状態でこの男は初春飾利を解放した――!

「やめてッ!」

 初春が怒鳴ると、周囲の視線のいくつかがこちらを向いた気がした。

 誰かに見られている、見られている、見られている、見られている。

 誰に――? 知るかそんなこと。見られている。見られるのはまずい。まずい。まずい。

「やめてってば!」

 一瞬にも永遠にも感じられる正常さが失われ、ふたたび世界は赤い異常に包まれた。

276: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:52:55.12 ID:AwLfkLh4o
 混濁した意識から抜け出し正常な感覚を取り戻した初春は、自分に覆い被さる上条当麻を睨み付ける。

 そして笑みを浮かべた彼の表情を見て気付いた。

 この男は今、自分が意識を取り戻すことを織り込み済みだった。

 ――彼は自分の心までを蹂躙し尽くすために、初春の正常な意識と判断を取り戻させたのだ……!

「っぐ……」

 上条のごつごつとした手のひらの感触が、初春の太股を撫でた。

 苦悶の声が、初春の口から出た。

「さすがに無反応っつーのはさ、つまんないんだよね――」

 上条はそう言った。

 初春飾利にとっての絶望は、まだ始まったばかりだ。

 無抵抗だった初春飾利の身体は心とは反対に反応しつつあり、全身からは力が抜けた。

 抵抗という抵抗ができないのに――初春は意識を取り戻してしまった。

277: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:53:36.00 ID:AwLfkLh4o
 あるいは、抵抗などとうの昔にしたのかも知れない。必死に、一生懸命に自分を守ろうと、初春はもがいたのかもしれない。

 そうとしか思えないほど、手足が疲労としていた。

 そしてそれは、現状が既に絶望的であることを初春に確信させる程度の意味しか持たない。

 抵抗が無駄だったことを、手足の疲れは証明していた。

 上条は荒い息をついて初春の唇を奪った。何度目だろう。既にわからない。

 いつからこんなことをしているのかが分からなかった。

 ついさっき始まったばかりにも思えるし、あるいはもう、何日もこうしていた気すらする――。

 上条に口内を蹂躙されると、不思議にも初春は、身動きひとつとれなくなった。思考すらもが、凍っていた。

 嫌悪感が、薄れていたことに気付いた。慣れたのだろうか。それだけではない、とどこか冷静な自分が否定した。

 ……嫌なことを嫌じゃなくなるためにはどうすればいいか。

 ひょっとしたら初春の心は、初春が思っているよりもずっと狡賢いのかも知れない。

 嫌なことを嫌じゃなくなるためには――好きになってしまえばいい。

278: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:54:13.04 ID:AwLfkLh4o
 初春は口内を蹂躙する上条の舌先に、自分の舌を絡めさせた。――最初の一歩が踏み出せれば、あとは簡単だった。

 びくり、と驚いたように上条の肩が揺れる。けれど彼はすぐに、反撃するように舌を更に伸ばした。

 初春は彼の舌先を辿って彼の口内に辿り着く。自らの唾を乗せたそれが、上条の口内に分け入っていった。

 上条当麻と、目が合った。彼は驚いている。

 ――少し、可愛い、と初春は思った。この瞬間、二人の上下関係が反転した。

 自分ばっかり楽しもうなんて、卑怯なんじゃありませんか? 上条さん――。

 狂っていると言えば、狂っていた。

 それはいつから?

 ――最初からだ。

279: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:54:50.96 ID:AwLfkLh4o
 初春飾利は手を伸ばして覆い被さっている上条の下半身に触れた。

 既にチャックから露出したそれが、初春の手の中でびくりと跳ねた。 

 初春はつたない動きで彼の秘所に触れる。擦るでもなく、ただその感触と形を確かめるように。

「熱い、ですね――」

 びくびくしてる、と初春は感じた。その姿がなんだか、子供のようでかわいらしい。

「かわいい――」

 笑みを浮かべてそういうと、上条は初春をじっとみて驚いている様子だった。

「何を――」と言ったのは、今度は、上条当麻だった。

 初春は身体に残されたわずかな力を使って体勢を変えた。

 見てみたい、と思った。上条は不思議にも、初春の抵抗を押さえつけることはしなかった。

 体勢が、さっきとは上下逆になっていた。

280: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:55:17.72 ID:AwLfkLh4o
 初春は上条の股間に顔を近付ける。近付いてみると、それは想像よりも少し大きかった。

 指先で感触を確かめてみたり、皮を引っ張ってみたりするたびに、
 寝転がった上条の身体がびくりと震え、彼は堪えるように目をぎゅっと瞑っていた。

 初春は次に鼻を近付けてくんくんと匂いを嗅いだ。少し、くさい。けれど、不思議と嫌悪感はなく、不快ではなかった。

 味は、どんなだろうか――初春は上条の局部に舌先で触れた。

 その瞬間、初春の視界が白く爆ぜた。

 びくりびくり、と、目の前で震える上条の男性自身から、白い粘液が噴き出していた。

「……ちょっと触っただけなのに」

 と初春が言うが、上条は唸るような声をあげて快感に浸っていた。

「――こんなに早いものなんですか?」

 初春が問いかけても、上条は荒い息を整えるだけで返事をしない。

281: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:55:44.42 ID:AwLfkLh4o
 ――でも、まだ満足してないみたい。

 上条の剛直を見て、初春は徐々に変な感覚に包まれていく。

 口元に触れると、彼の出した精液のねばついた感触が初春の手のなかで蠢いた。

 味は――舐めてみる。苦いし、なんだか口の中に残る。うえ、と吐き出すと、上条の股間近くに初春の唾と彼の精液が垂れた。

 彼ははあはあと息を荒げたまま、初春の顔を見た。それを見て初春は、にやり、と笑った。

「たっぷり、かわいがってあげますね――」

 初春飾利は、間違いなく目覚めていた。

282: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:56:12.92 ID:AwLfkLh4o
 初春飾利が舌先で上条のものを弄び始めると、彼は何かを堪えるように唸り始めた。

「――声」

 初春は舌先で上条の亀頭をねぶる。ぺろ、と舐める。さっき出した精液が、少しだけ残っていた。

 どろどろとした感触を利用して、初春は竿の部分を手で撫ではじめる。皮を動かすようにして、彼の固いものを弄んだ。

「出してもいいんですよ――?」

 もちろん、射精してもいいですよ、と言おうかは迷った。それはもうちょっと頑張ってもらいたい。

 さっきまで上条に犯されていた口内で、今度は上条を犯していた。

 いや、この場合、より深く上条に犯されていることになるのだろうか?

 ――どっちでも、やってることは同じかな。

 初春は微笑んで、上条のものをくわえ込んだ。彼女のちいさな口で彼を飲み込むのは至難だった。

283: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:56:38.29 ID:AwLfkLh4o
 苦しくないようにあまり奥までくわえないようにすると、亀頭と竿を少しのみこむのが精一杯だった。

「おっきい……」

 歯があたらないように気をつけながら、初春は上条のものをくわえこんだまま言った。

 その瞬間、上条のものがびくり、びくりと震えはじめ、彼はもだえるように手足を動かしのたうちまわった。

「かわいい――」

 初春は、この行為を愉しみ始めた。

 彼女は一度上条のものから口を離した。ちゅぽ、と音が鳴って、粘液と粘液が絡み合って糸を引いた。

 初春は優しくキスをするように上条のさきっぽに唇を触れさせる。

 上条のものの脈打つ速度が速くなった。

「もうすこし、我慢してくださいね……」

 苦しそうだ、と初春は見ていて思った。真っ赤になって、さっきよりどんどん大きくなっている。

284: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:57:24.43 ID:AwLfkLh4o
 唇から舌先を伸ばして、上条のものをねばりとした舌先でくわえる。初春は目を閉じて味わうようにそれをふたたびくわえ込んだ。

 呼吸はしにくいけれど、不愉快ではない。むわりとした熱気が、初春の口内で蒸れていた。

 同時に竿の部分を握って、指を上下に動かす。――これでいいんだろうか。

 上条のものが、びくびくと震え、初春の口内で暴れ回る。

 初春が舌を伸ばして上条の亀頭をねぶった。――少し、苦いものが出てきている……?

 それに気付いて彼女がそれを啜ろうとすると――上条のモノが一際したたかに震えた。

「むぐ……!」

 初春の口内で、上条のモノがびくびくと震えて、ねばついた感触が彼女の口の中で広がった。

 ――ごくり。

 ……あ、飲んじゃった。

「うえ……」

 喉に絡まるような感覚がして、呼吸がやりにくい。ねばつくような感触と生臭い臭気が口の中で広がった気がした。

 今すぐにでも口の中を洗いたい気分だった。

285: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:58:02.27 ID:AwLfkLh4o
 上条は呆然と、初春を見下ろしている。――いや、体勢的には見上げているのか? どっちでもかまわない。 

「これじゃ、キスはもうできませんね」

 彼女は少し、残念だった。まだ自分の舌で彼の口内を味わいきっていない。

「……こっちは、元気なままですね」

 初春はそれを見て、にやり、と笑った。

 上条はまだ何が起こっているか理解できていない様子だ。

 何が起こっているのか理解できていない?

 ――それは初春だって同じだ。

「さて――そろそろ、ですね」

 初春は上条に馬乗りになって、彼のモノを手で導いて自分の秘所に擦りつけた。

 一度は萎えかけた上条のものが、再び固く、大きくなりはじめる。

286: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:58:29.53 ID:AwLfkLh4o
「いきますよ……」

 初春のなかに、奇妙な快感が広がっていた。不思議な感じだった。それはまるで熱に浮かされているようで、ぼんやりとする。

 初春が腰を少しずつ下ろしていく。じゅくり、と自分の入口が徐々に開かれていく感覚に、彼女は痛みを覚えた。

 けれど初春はそれを堪えて、徐々に、ゆっくりと、腰を下ろしていく。自分の意志で。

 それでも途中でどうしても痛くて堪えきれなくなった。

 じたばたともがくように初春が足を開いて腰を下ろそうとしても、なかなかそれは進まない。

 すると上条が半身を起こして、初春の腰をつかみ、一気に引き下ろした。
 
 彼女の脳髄に、灼けそうな痛みが走った。

「――――ッ!!」

 その痛みに、初春はまた、冷静な判断力を取り戻し掛けたが――けれど、その結果にはならなかった。

「……強引、ですね――っ」

「――お互い、さま、だろ」

 上条に痛みはないだろうに――彼はどうして苦しそうな声を出しているのだろう。

 初春が彼の顔を見下ろすと、彼は必死に、快感を堪えていた。――もだえていた。

 かわいい、と思う。なぜだろう。その感覚が不思議だった。

287: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:58:57.98 ID:AwLfkLh4o
 彼と自分が繋がっていることを意識した。自分の中に焼けるように熱い剛直が突き抜けていて、
 その感覚は実際よりもずっと大きく思えるのだけれど、けれど初春は、不思議と感覚以上の感情を抱かなかった。

 お互いに少し動きをとめて、お互いに違うものを堪えあっていた。不思議な感覚だった。

 やがて上条は初春の肩を抱き寄せた。キスされる、と思った。けれど、そうはならなかった。

 ――そりゃそうか。舐めた後なんだから。

 私だって微妙にいやな感じが残ってるんだから、彼は尚更いやだろう。

 けれど初春はそこまで考えて、キスされなかった事実を不満に思っている自分に気付いた。
 
 上条は初春の肩に甘えるように顔を埋めた。そうして彼は、ゆっくりと、腰を浮かせて動き始めた。

 初春もまた、彼の腕の下から自分の腕を通して、上条に抱きついた。彼女は彼の首先に唇を寄せた。

 ――せめて、このくらいは赦されるだろう。

 ……けれど、何だろう。この、感覚。

 まるで世界中から、感情というもののすべてが奪い去られてしまったようだった。

 自分だけではなく、まるでこの世界のすべてから、あらゆる思考や思想を表す言葉が消え去ってしまったように思えた。

 すべてが失われた世界のなかで、上条と初春は互いを壊し合うように溶け合った。

288: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/08(火) 23:59:35.68 ID:AwLfkLh4o

 白井黒子は気怠い身体を動かして街中を歩いていた。頭痛が強くなっている。風邪がひどくなっているのだろう。

 昨日は暖かくして眠ったのに――黒子の頭には拗ねたような感情があった。早めに眠ったのに治らないなんてあんまりだ。

 早めに寝たら治る、眠らなかったら治らない。そういうふうに決まっていればいいのに。

 風邪を治すために早めに眠って治っていないなんて、昨夜の失った時間がもったいなかった。

 だめだ、と黒子は付近の建物の壁に寄りかかる。

 頭が痛い。意識がぼんやりとする。朝はそうでもなかったのに、夕方になって熱が上がりだしていた。

 歩くのもつらい。どうしてこんな風邪を今引いてしまったのか、黒子は分からない。

 けれど、身体のだるさだけは本当だった。

 息が苦しい。

 柄にもなく、黒子は不安になった。今にも意識を失ってしまいそうだ――そうなったら、誰も助けてくれない。

289: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 00:00:06.86 ID:g/oaG0bCo
 風邪を引いているというだけで、ここまで不安になるものだろうか。

 誰もそばにいないことが、黒子はたまらなく怖くなってきた。

 心身共に弱っていて心細い状態っていうのはこういうことなのだろうか。

 ――心細い。……昔の人も上手いことを言いますの。

 黒子は壁に身体をもたれたまま目を瞑った。なんだか、寒くなってきた。

 ――誰でもいいから、来てくれないだろうか。自分のところに、誰か現れはしないだろうか。

 そんな黒子の願いの通り、奇跡のように、彼は現れた。ひどく、虚ろな表情で。

「――貴方、ですの」

「どうしたんだ、つらそうだぞ」

 どうした、ではない、と思う。

290: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 00:00:35.40 ID:g/oaG0bCo
「昨日の風邪が……ひどくなったみたいなんですの。ちょっと、困っていまして」

「動けないほどつらいのか?」

 黒子はかすかに頷いて、口で呼吸を始めた。吐く息が熱い。苦しい。

「ちょっと休めば落ち着くと、思ったんですけれど……」

「治りそうもないのか?」

「――はい」

 どうしよう、と黒子は思った。こんな状況では彼女は、宿敵とも言えるこの男を頼ってしまうかも知れない。

 ごほ、ごほ。喉が痛い。苦しい。咳が止まらない。涙が出そうになる。すごく――つらい。

「なあ、大丈夫なのか?」

「大丈夫なわけ――」

 言葉の途中で、また咳が出る。げほげほ、ごほごほ。
291: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 00:01:10.74 ID:g/oaG0bCo
「……ダメみたいだな。何か、手伝えることはあるか?」

 黒子は思わず、目を細めて上条の姿を見ようとしたが、ぼやけていて、うまくいかなかった。

「余計なお世話――と、言いたいところですけれど」

 今は地獄に仏だった。

「ごめんなさい……ちょっと、肩を……――」

 黒子はそこで、ぱたり、と全身から力が抜けて上条の胸へと倒れ込んでいった。

 ものを上手く考えることができない。つらい。苦しい。――寂しい。

 風邪を引くなんて久々だ。ちょっと疲れていたのかもしれない。

 黒子は、美琴にうつってなければいいや、と考えた。

 でもちょっとだけだ。そんなことを心の底から思えるほど、誰かを気遣えるほど、黒子の心に余裕はなかった。

 だから上条の、自分と同様に苦しそうな表情に、黒子は気付かなかった。

292: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 00:01:46.24 ID:g/oaG0bCo
 とりあえずどうするべきだろうか、と上条は頭を働かせる。

 常盤台中学の寮に直接行くことはできるだろうが、黒子が意識を失っているのが面倒だ。

 頭が、ひどく、ぼんやりする。

 ものを上手く考えられない。美琴を犯し、続けて初春と交合した。――彼女たちの反応は、上条の反応を大きくはずれていたけれど、
 上条の心が満たされない理由は、彼女たちの反応に不満を抱いたからではないはずだ。

 だとすればもっと、上条の心には、燃えさかるような獣欲が、あふれていたはずなのだから。

 けれど上条の胸のうちにあるのは喪失感と、それと、少しの諦念。

『自分はもう逃れられないところまで来てしまった』という諦め。

 後悔はなかった。それが自分でも不思議だった。

 罪悪感は少しだけあった。御坂美琴に関しても、初春飾利に関しても、禁書目録に関しても、同様に。

293: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 00:02:26.23 ID:g/oaG0bCo
 御坂美琴は強い拒絶をしなかった。

 だって、こんなありさまなのだ、上条は思う。自分が誰かに好かれるような人間だとは、どうしても思えない。

 それはひどく、苦しいことではあるのだけれど。

 醜悪で、無様で、欲望のままに獣のように地べたを這い蹲るこの男を、御坂美琴はなぜ嫌悪しなかったのか?

 失望は? 落胆は? けれど彼女が見せた表情は、ただの、悲しみで。あの涙はきっと、憐れみだった。

294: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 00:03:20.91 ID:g/oaG0bCo
 次に、初春飾利。

 彼女はなぜ、あんなことになってしまったのか。

 思考と意識があまりに深く混乱し、強く揺さぶられたため、あんな結果になってしまったとしか思えなかった。

 半分は同意みたいなものだった、と上条は思う。それを思うと、暗い気持ちが上条を支配した。

 それは望み通りの結果にならなかったからではない。

 ――同意、ではない、と感じるのだ。

 初春飾利は嫌がっていた。心底嫌がっていた。
 
 けれどどこかでリミッターがはずれて、なんらかの精神的な自衛がはたらき、あんなことになったのではないか。

295: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 00:03:46.24 ID:g/oaG0bCo
 つまり初春飾利は二重に陵辱されたのだ。

 身体を直接いたぶられ、更に、自らの心を上条によって強く混乱させられ――結果として、自ら、自らの首を絞めた。

 彼女が正常な判断力を取り戻したらどうなるか分からない、と上条は思う。

 それこそ――自らを殺めてしまうのではないか、と思うほど、あの初春飾利は危うかった。

 そして上条は、彼女を怖れてもいた。
 
 あんな形は――精神に影響をきたすような形は、望んでいなかった。

 同意ではない、と上条は頭の中で繰り返す。

 あんなことになるのを、互いに望んでいたわけではなかったのだ。

296: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 00:04:12.76 ID:g/oaG0bCo
 そして、禁書目録のこと。

 彼女にした行為が上条にとってもっとも理想に近しく――そしてなぜか、一番罪深いものに思えた。

 それはなぜだろう。

 自分という「犯人」を隠しているから? それとも彼女が一番嫌がっていたから?

 ――それとも、もっと別のところだろうか、と上条は思う。

 もしかすれば――この世界は、あるいは……。

 ――ずきり、と上条の頭に痛みが走る。これ以上は考えるな、と言われた気がした。

297: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 00:05:04.75 ID:g/oaG0bCo
 白井黒子を背負って、上条当麻はひとまず休める場所を探した。

 自分の部屋には禁書目録が、いつもの公園には御坂美琴が、
 そして初春飾利は、柵川中学の階段の踊り場で横になっているはずだった。

 どこへいっても、彼女たちが追いかけてくる気がした。

 そう考えて、ひょっとすれば時間封鎖を利用して黒子を運ぶことができるかも知れないと考えるが、すぐに否定する。
 セキュリティが尋常ではなかったはずだ、あそこは。初春と同様にはいかない。

 ――頭が働かない。

 ぼんやりとした思考が、どんどんと何か、暗く深いものに侵食されている。

 このままではいけない、と上条は首を振った。

 ――くそ。黒子の意識が合って、彼女が健康な状態ならば、彼女の部屋に行くのは容易なのに。
 
 いやあるいは、彼女の空間移動能力で移動することができる。……待てよ、それだと上条の身体が運べない。
 
 とまで考えて、上条はその必要がないことと、そうできないからこそ頭を悩ませているという事実に気付いた。

298: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 00:05:40.36 ID:g/oaG0bCo
 底知れない何かが、上条の中で蠢きはじめていた。

 そしてそれは、時間封鎖を手に入れたときの衝動よりもよほど大きく、よほど理解しがたく、よほど、正常な、感覚なのだ。

 ――喪失感、恐怖、諦念、苦痛、衝動、抑圧。

 どうにかなってしまいそうだ。こんなにも苦しいなら、いっそ狂ってしまった方が楽でいいかも知れない。

 ああ、誰かを犯したい気分だ。誰か手頃な相手はいないだろうか。

 それにしても、背中に乗った黒子の体重が重い。初春や美琴のときはあんなにも軽く感じたのに。
  
 彼女が重いというわけでもないだろう。そういえば人間という生き物自体が、そこそこの重量となるものだ。

 ああ、肌寒い。どうしてこんなに寒いんだろう――。

299: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 00:06:31.61 ID:g/oaG0bCo
 白井をどこに連れて行けばいいんだろう。

 とりあえず、常盤台中学の寮の前にでも置いておけば、誰か気付くだろうか。

 けれど、それでは風邪が悪化しないだろうか。

 彼女は自分を頼って意識を失うほどに苦しんでいるのに、それを放置していいんだろうか。

 じゃあ他に――どうすればいいんだ?

 ざわざわ、ざわざわと辺りが騒がしい。どうしたんだろう。

 ふっと騒ぎの中央に目を向けると、ああ、なんだ、建物が燃えているだけだった。何がおもしろいんだろう。

 悲鳴や怒号が聞こえる。人混みの中を歩くのが少し難しい。白井の体重が、どんどんと増えていっている気がした。

 誰でもいいから、犯したい。

 けれどどうしてだろう――さっきから、上条の歩く先には、人がまったく見あたらなかった。

 白井、起きてるか?

 上条は自分が声を出しているのか出していないのか分からなかった。

「おまえ、空間移動してくれないか、そうするのが楽なんだよ」

 黒子はすやすやと眠っている。投げ捨ててやろうか、と思うが、それはあまりに薄情だ。

 ざわざわと、騒がしい。どうしてこんなにも――街に人がいないんだろう。

306: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:42:44.67 ID:g/oaG0bCo

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◆ ロビンソン
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 御坂美琴と街で会ってから、まだ三十分ほどの時間しか経過していないことに気付いて、上条当麻は呆然とした。

 もう長い間、街を彷徨っていた気がする。彼は白井黒子を常盤台中学の寮の入口に放置してきた。
 
 どうすることもできなかった。上条が彼女に対してしてやれることはなかったし、かけてやれる優しさもなかった。

 それがたとえ本心からの優しさだとしても、上条当麻は、自分自身のそれを、もはや優しさだと感じることはできないだろう。

 彼は自分が、既に普段のような感覚を、正常な優しさを失いかけていることに気付き始めていた。

 ――どこへ行けばいいんだろう。

 時間封鎖を解いているのに、街の人々の動きが止まって見えた。

 普段通りの光景のはずなのに、まばたきのたびに赤い光がちかちかと上条の視界を灼く。

 もう、何が起こっているのかまるで理解できなかった。
307: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:43:17.80 ID:g/oaG0bCo
 上条当麻は何をすればいいんだろう。明日からも普段通りの日々を過ごす?

 いつも通り家に帰って、禁書目録と食事を摂って、風呂に入っておやすみなさいと眠るのだろうか。

 それが、許されるのだろうか。いや、許される許されないの問題ではない。上条当麻はそれに、納得できるのだろうか。
 
 全部自分の望み通りだ。驚くほど思い通りだった。上手く行きすぎているくらいだ。

 自分が望んだ通りの世界で自分が望んだ通りのことをしている。

 けれどそこから、上条自身の意思がすっぽりと抜け落ちてしまっているように感じられた。
 
 また、ずきり、と頭が痛む。けれど視界は徐々に冴えてきた。

 そのはずなのになぜか、見えるものがすべてぶれているように見える。上条の頭に卑屈な考えが宿る。――これは罰か?
 
 ……そんなわけがない。上条は自分に言い返す。罰だって? 違うさ、これはただちょっと身体が不調なだけだ。

 時間封鎖を下手に使いすぎたせいで、時間の流れが遅く感じられる。

 慣れていないだけで、そのうちマシになってくるさ。

308: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:43:43.58 ID:g/oaG0bCo
 上条は自分が御坂や初春にした行為を必死に思い出そうとしたけれど、
 記憶には薄ぼんやりとした膜がかかっているようで、どうしても思い出せなかった。

 こうなってしまうと、あれは本当にあったことなのだろうか、と考えてしまう。
 
 いっそ夢だったらいいのに、と上条は考えていた。それに気付いて彼は呆然とする。

 ――おまえの望みだろうが。

 自分が望んだことを今更後悔する? 後悔? ありえない。上条は後悔などしていない。

 だとしたら自分はなぜこんなにも苦悩しているのだろう。それは、自分がしてしまったことを後悔しているからではないのか?

 違うのか?

 ――違うんだよ。

 ここは上条が望んだ世界なのだから、上条の望みが果たされた世界なのだから。

 こんなにも幸福なことはない。

 そのはずだ。
 
309: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:44:13.49 ID:g/oaG0bCo
 ――本当に……そう、なのか?

 上条は遂に疑問を抱く。頭痛がひどくなっていく。耳鳴りが――上条の世界に響き渡る。

 どうしてこんなに、悲しいんだろう。

 望みはすべて叶っているのに、そしてそれが間違いではないと、上条の心には確信があるのに、
 それなのにこんなにも苦しいのは、どうしてなんだろう。

 あるいは、上条は何かを間違っているのか。

 望み通りだから、すべてが叶った世界だから、だからこそ、上条はこんなにも苦しく、こんなにも不安なのだろうか……。

310: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:44:37.66 ID:g/oaG0bCo
 寮の部屋に戻るとき、隣室の土御門元春と、その妹の土御門舞夏が隣り合って上条とすれ違った。

 最初、上条はそのことに気付かなかった。周囲に気を配れるほどの余裕がなかったのだ。

「カミやん? ひどい顔してるぜい?」

 余計なお世話だ、と言い返そうとしたが、彼は別に皮肉で言っているわけではないらしい。

「具合でも悪いのかー?」

 いつも呑気そうな土御門舞夏の眉が、心配そうに下げられていた。

 上条は「大丈夫だ」と応じてふたりの横をすり抜けようとしたが、土御門に肩を掴まれた。

「おいカミやん。おかしいぞ。風邪が悪化したのか?」

 ――ああ、そういう風に説明しておいたんだっけ。ごまかしのつもりだったけど、身体の不調が本当に来るとは思わなかった。

 風邪、か。頭痛がひどくて、頭がぼんやりするのに、自分はなぜその可能性を疑わなかったのだろう。

311: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:45:03.87 ID:g/oaG0bCo
「大丈夫だ」

 けれど、吐き出す息は熱い。鼻から吐き出す呼吸が熱くて苦しい。

「大丈夫、って顔じゃないにゃー」

 兄の方が、呆れたように溜息をついて言う。上条が答えられずにいると、彼らは何かを互いに確認しあっているようだ。

 その声は、既に上条には届いていない。

「……ごめん、俺、ちょっと休んでるわ」

 上条はかろうじてそう言い残して、自分の部屋へと入る。

 後ろから声が投げかけられた気がしたけれど、それが誰の声だかは分からなかった。

 何を言ったかも聞こえなかった。ただ、声をかけられたという事実が、なぜか心底、鬱陶しかった。

312: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:45:34.11 ID:g/oaG0bCo
 リビングにつくと、禁書目録がベッドで横になってお菓子を食べながらテレビを見ていた。

 上条が帰ってきたことに気付いて、彼女は慌てて言い訳を始める。

 お菓子はあんまり食べ過ぎるなよ、って、前から口を酸っぱくして言ってたのに。――ああ、でも、上条には怒る気力すらなかった。

 このまま死んだように眠ってしまいたい。今ならそれもできるような気がする。

 そしてそのまま目覚めなくてもかまなわい。

 ――自分はもう満たされているはずだ。だったら今、この瞬間に死んでしまったって、後悔はないはずだった。

313: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:46:00.28 ID:g/oaG0bCo
 上条当麻は暗がりにいた。

 底知れない暗い闇の中、自らの身体すらも見えない場所で、上条は自らの感覚を失っていた。

 自分がどこにいるのか。立っているのか、座っているのか、あるいは浮かんでいるのかすら、曖昧だった。

 ふと、何かが蠢いているのが見えた。けれどそれはきっと錯覚。光の差さない暗がりで、それが見えるわけがなかった。

 音すらも、なかった。まるでこの暗い闇の中に、すべてのものが吸い込まれてしまったようだった。

 けれど錯覚はやがて確信になり、上条は目前の暗闇のうごめきを睨んだ。

 しかし自分がどこを睨んでいるのか、それが上なのか下なのか、右なのか左なのか、
 それとも自分はひょっとしたら目を瞑っているのか――上条には一切わからなかった。

「――――」

 上条の出した声が、暗がりのなかで反響して、また、それに吸い込まれていった。

 そのあまりにも自然な消失に、上条は自分が何を言ったのかを忘れてしまう。 

314: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:46:34.13 ID:g/oaG0bCo
「声を出そうとするなら――」

 うごめきから声がする。とこしえに続くような暗がりに反響して、けれどその声は、上条の耳に囁かれたように残った。

「――何を言いたいかはっきり決めろよ」

 その声に、上条は何かを考えた。――何かを、だ。それが分からなくなってしまった。

「じゃないとすぐに、見失うぞ」

 言葉を聞いて、けれど上条は、それをすぐに忘れた。

 何もかもが曖昧にぼやけた世界を漂っていた。記憶も感覚も、すべてが持続しない。自らの存在がどこまでも希薄になっている。

「……話にならないな」

 いったい、何が起こっているのか、何が起ころうとしているのか、何が、目の前にいるのか、上条は考えることができない。

 本当に、自分はそれを知りたいんだろうか?

315: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:46:59.57 ID:g/oaG0bCo
「まあ、いい。こっちの質問に答えてくれるよな?」

 質問――? それは、どのような、とこちらが聞き返したい。

 けれど上条がそれを口に出すより先に、彼はその問いを口にした。

「満足か?」

 ……満足?

 上条はその問いに、言いようのない怒りを覚えた。満足なんてするはずがない。こんなありさまで、こんな状態で。

「そんなワケがないだろ――!」

 彼は大声を出して蠢く何かを怒鳴りつけた。こんな声を出したのは久しぶりだった。

 上条の頭に、三日間の記憶がすべて蘇る。自分がしたこと、起こったこと、過ごした時間、すべて。

 そしてその記憶に、上条は心にナイフを突きつけられたような動揺と混乱を受けた。

316: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:47:26.72 ID:g/oaG0bCo
「こんな――こんな有様で、満足だって!? バカにするのも大概にしろ……こんなの、まるで悪夢じゃないか!」

 上条の叫びに、影は蠢きを強める。音はしない。色もない。声と気配だけが、ざわついていた。

 そして彼は、ナイフで痛めつけるように、言葉を刺した。

「でも、望んだのはおまえだ」

 上条はその言葉に混乱する。――そうだったか? 自分はそれを本当に望んだのか? こんな有様を?

 ……違う。こんなことを望んだんじゃない。上条には確信があった。
 
 当たり前だ。こんな苦しみを、悲しみを、狂いそうな苦痛を、望むわけがない。

317: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:48:02.50 ID:g/oaG0bCo
「不満そうだな」
 
 それも、当たり前だ。こんな状況で、正常でいられるわけがない。満足だと笑えるわけがない。

「――あんなに愉しんでいたのに?」

 影の言葉を受けて、上条は激情と憤怒と羞愧に表情を歪めた。ふざけるな、と言いたかった。

 けれど、彼が言ったことは事実だった。

 上条当麻は既に、「本当はいやだった」なんて言える立場じゃない。

 それは罪や罰や、贖罪や寛恕の領分ではない。理屈として、そうなっている。

 事実上条当麻は、それを望み、実行した。言い訳は聞かない。誰も聞いてくれないし、言えない。

「開き直るなよ」

 そういうつもりじゃない。ただ事実として、自分のしたことは、所詮既にしてしまったことであって、変えられない。

 失われたものは戻らないし、犯した罪は揺るがない。それを認めているだけだ。これを、開き直りと呼ぶのだろうか。
 
318: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:48:28.31 ID:g/oaG0bCo
「なあ、おまえはどうなりたかったんだ?」

 影が、残酷な問いかけをした。

 上条は自問する。どうなりたかったのだろう。

 すくなくとも、この状況を望んでいたわけじゃないのは確かだった。

 我が身の不幸を嘆きたいわけでも、それを誰かに認めて欲しかったわけでもない。

 がんばったねと褒めてほしいわけでも、励ましてほしいわけでもない。

 認められたかったわけでもない。

 ただ上条の中にあったのは、満たされないであろう渇望と、それが満たされるかも知れないという予感。

 その予感すら、今は感じられない。あの予感はいったい何だったのだろう。

 確かに感じられたそれが、今は随分遠くにあるような気がして、上条は呆然とした。

319: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:48:59.14 ID:g/oaG0bCo
 じゃあ自分は、どうしたかったのだろう。どうなりたかったのだろう。

 ――自分はやはり、間違ったのかも知れない。こんな状況では、それを認めざるを得なかった。
 
 あらがえない、と上条は感じていた。それは本当だっただろうか?

 あの焼け付くような衝動が、疼くような求めが、どうしても今は思い出せなくなっていた。

「もう、飽きたな」

「――なんだと?」

 上条はぼやけた感覚をなんとか堪えた。暗闇に溶けるように、自らの意識が霧散しそうに感じた。

 それはきっと、錯覚に過ぎない、そのはずなのになぜか、上条の感覚は徐々に失われていく。

 いや、最初からなかったんだっけ? 
 
 どうだったろう、思い出せない。

320: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:49:54.32 ID:g/oaG0bCo
「つまらない男だな、おまえは。結局自分のことばかり――ここに来ておまえは、
 自分以外の誰かにどんな感情を抱いた? 憐れみか? 悲しみか? 
 違うな。おまえは自分が、苦しくて、悲しくて、つらくて、満たされなくて、可哀想で、憐れんでいただけじゃないか」

『ここにきて』という言葉の意味が、上条には理解できなかった。それよりも先に、頭上から白い光が差すのを見た。

 わずかに空いた穴が、徐々に広がって、光が増えていく。

 そんなことはない、と言いたかった。けれどそれは、本当にそうだろうか。

 上条は、誰かを気遣うことができていただろうか。誰かに優しくすることができていただろうか。

 できていない。けれどそれは、いつからだろう。上条は、いつから人を気遣えなくなったんだろう。

 あるいはそれは、最初から?

 上条抱いた疑問も、徐々に光に飲まれて消えていく。

 この暗い場所も徐々に照らされて、土色の壁と床のごつごつとした表面が上条に見えた。

 蠢く影の姿が、少しずつ消えていく。

321: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:50:33.87 ID:g/oaG0bCo
「さようならだ。もうおまえには飽き飽きだよ。これからはおまえの好きにしろよ。
 ……いや、これまでもおまえの好きにしていたんだったか」

 結局、彼は何者だったのだろう。まるで彼は、上条自身であるかのように上条の痛みを刺すことができていた。

 自分の理屈や心の矛盾や虚栄や都合を刺し貫けるのは、自分だけだろう。

 けれど彼は、そういった存在とは一線を画しているような気もした。

 彼はきっと、どこにでもあらわれる。そんな確信が上条の中にあった。

 けれど二度と彼と会うことはないだろう。

 ――上条は、どうすればいいんだろう。
322: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:51:02.77 ID:g/oaG0bCo
 ……このままではいけない。

 上条当麻の胸には、そんな思いが宿った。このままではいけない。それは今までの自分の行為を否定する考えだ。

 それがどうした。くだらない考えを否定してなんの問題がある。どうせこんなところにいても苦しいだけだ。

 あるいはここから這い出せたところで苦しいのは変わらないかもしれない。けれど、こんな場所にいるよりは遥かにマシだ。

 こんな暗い――くらい場所は、いやだ。

 上条は自らの手を握って感覚を取り戻す。じわじわと、失われていたものがかえってきた。

 それと同時に、胸が軋むように痛んだ。今まで消え失せていた感覚が、痛みさえも蘇らせた。

323: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:51:30.38 ID:g/oaG0bCo
 かまうものか、と上条は立ち上がる。

 世界は光に包まれている。

 けれど上条は這いうねる暗闇に身を沈めていた。

 ごつごつとした壁面に手を伸ばす。手足は動く。感触もある。

 無様で、滑稽で、醜悪な姿だろう。

 かまわない。どうせ今以上に醜悪な姿などありはしない。

 上条当麻は壁面の窪みや出っ張りを利用して、登りはじめる。

 距離は、遠くも近くも感じられた。

324: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:51:57.28 ID:g/oaG0bCo
 ――辿り着けるだろうか。

 分からない。

 けれどこのままではいけない。認めるわけにはいかない。

 どうにかして、この暗闇から這い出なければ――何も出来ないままだ。

 それだけは絶対にしてはならない、と上条は思う。光に近付いていく。

 それは距離が縮まるにつれてどんどんと強まり、上条の目を灼いた。耳鳴りが、強く響いている。

 この先に何があるだろうか。今度こそ上条の望む世界はあるのだろうか?

 ――そんなのはお断りだ。もうそんなものはなくていい。

325: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:52:30.64 ID:g/oaG0bCo
 とにかくここから――抜け出さなくては。

 壁に足をかける。手を伸ばす。それを繰り返す。岩肌にこすれて、上条の手の皮が剥がれる。かまうものか。

 胸は刺されたように痛んだけれど、痛みは既に関係がない。死ぬわけじゃない。

 いや、死ぬとしたら、ここで永遠に立ち止まってしまったときだけだ。

 だから上条は這い出す。光を求めて、この暗闇以外の場所を望む。

 バカだな、と声が聞こえた。きっと気のせいだ。
 
 言いたいことがあるなら、言いたいことをはっきり決めろよ。

 行きたい場所があるのに、それがはっきり分からなければ、それは何も決まってないのと一緒じゃないか――?

326: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:53:11.85 ID:g/oaG0bCo

 目を覚ますと、上条当麻はベッドで眠っていた。額には濡れたタオルが置かれている。
 
 ――毛布と掛け布団が重い。けれどとても肌寒かった。額に触れると汗が出ていた。

 どうやら本格的に寝込んでしまったらしい。

 リビングに辿り着いて、禁書目録の姿を見てからの記憶がなかった。

 今は、何時頃だろう。カーテンはしまっていて、電気がついていた。

 まさか丸一日寝ていたというわけではないと思うが――時間の感覚は既に狂っていた。正常な感覚が分からない。

 全身はひどく気怠かったけれど、強引に身体を起こした。頭が痛む。

327: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:53:41.81 ID:g/oaG0bCo
 ――禁書目録はいないのだろうか。

 そう思い、ぼんやりとした頭を徐々に働かせていく。

 視界が徐々に鮮明になっていった。瞼を手のひらでこすってから部屋を見回す。誰もいなかった。

 けれど音だけは聞こえていた。視界のなかで動くものはなにひとつなかったのに、気配だけがあった。

 話し声だった。

 それが誰と誰の声なのか、気付くには時間が必要だった。

 けれど、誰も見えない。誰もいない。

「とうま?」

 声が聞こえた。禁書目録だ。自分のことを見ているのだろうけれど、どこにも姿はなかった。

328: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:54:29.27 ID:g/oaG0bCo
「目がさめたの?」

 彼女は気遣うような、心配そうな声で上条に話しかける。

 上条は答えられない。視界はやけにはっきりとしているのに、動くものは何一つなかった。

 まるで時間封鎖のなかにいるようなのに、なぜだろう、世界は正常な色を保っていて、
 だからこそ彼はすぐに、おかしいのは自分なのだと気付くことが出来た。

「まいか、とうまが目を醒ましたみたい!」

 禁書目録は、どこか焦ったように言う。

「様子がおかしいんだよ」

 彼女はそういって、上条に歩み寄ってその手を取った、のだと思う。そんな気がした。気配がした。

 けれど、目には見えないし触れられた感触はない。

329: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:54:58.68 ID:g/oaG0bCo
「とうま?」

 禁書目録が自分の名を呼ぶ。上条は答えられない。どこか薄ら寒い気持ちに包まれる。

 まるで目に見える世界に、誰一人存在しないようだ――。

「――――」

 上条は喉を震わせて、禁書目録の名を呼ぼうとした。

 けれど、声は出なかった。

 それなのに彼女は、不思議なことに……うれしそうに、返事をした。

「よかった、とうま……大丈夫? 具合は悪くない? 食欲はある?」

 ちょっと待ってくれ、と上条は思う。

330: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:56:03.64 ID:g/oaG0bCo
 おまえは今、どこにいるんだ? 禁書目録。

「まいかがね、お粥を作ってくれたよ。食べられるかな? ――ううん。運んでくれたのはもとはるだよ」

 おい、禁書目録。

 ――おまえは誰と会話してるんだ?


 バカだな、と上条の耳元で声がした。

 おまえはもう誰も犯したくなくなったんだろう。

 とにかくもう、あんなのはいやになってしまったんだろう。

 バカだな。

 そんな気持ちだけで何かを変えようと思ったら――具体的な指標もなしに闇雲に歩いたら、そうなるさ。

331: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:56:55.00 ID:g/oaG0bCo
 なあ、上条当麻。

 おまえはもう逃れられない場所まで来てしまっていたんだ。

 おまえが「そんなのはいやだ」と言ったって、おまえはその灼ける衝動から逃れることができない。

 するとどうなる? おまえは「いやなこと」をしなきゃならなくなるな。

 おまえは「そんなのもいや」だから――当然、それを拒絶するよな。

 じゃあ、あとはどうなる?

 上条当麻の衝動を引き受けて、おまえは心の奥底に沈んだのさ。

 だからおまえはもう上条当麻じゃない。上条当麻の一部だった何かだ。それ以上でも以下でもない。

332: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:58:46.21 ID:g/oaG0bCo
 苦しいだろうな、これから。おまえはもう身体を動かせない。

 禁書目録は、疑問を抱くこともなく上条当麻と接するだろうさ。おまえが犯した少女たちは、おまえを避けるかも知れない。

 嫌悪するかも知れない。それが周囲にも飛び火するかもな。

 でも上条当麻はそんな事実知らない。醜悪な表情の上条当麻――上条当麻の悪しき部分は全部おまえが引き受けた。

 ついでに時間封鎖もな。まあ、こんなところでそれが出来たって仕方ないだろうが。

 何の罪もない潔白な自分。おまえが望んだ上条当麻が、すべてを引き継いでくれるさ、安心しろ。

 禁書目録も守るだろうし、美琴たちとも上手くやる。初春とも初対面のときのように接してくれる。

 時間封鎖の記憶も、それを使っていた頃の記憶も、全部おまえのものだ。

 嬉しいか? また、望み通りだな。

333: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:59:19.29 ID:g/oaG0bCo
 だからおまえは、ここから上条当麻の人生を覗いていろよ。
 
 おまえのはじまりは上条当麻のはじまりだ。

 これから上条当麻が過ごすだろう時間を、おまえはずっと指をくわえて眺めていればいい。

 なあ、おまえは誰だ? 上条当麻は、もうおまえじゃない。

 じゃあおまえは誰なんだ?

 上条当麻の衝動? 悪しき部分? 違うね。おまえは上条当麻の一部だったが、既に上条当麻ではない。

 じゃあ誰だ? 名前もない。姿もない。身体もない。誰にも見つからず、声も届かず、いや出せず、触れられず――

 哀れな存在だな。上条当麻のこれからの人生を眺めたくなくなったら、時間封鎖でも使えばいいさ。
334: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 22:59:48.29 ID:g/oaG0bCo
 もっとも、あれが使用者の魂までを止めることはない。

 時間封鎖に逃げ込めば逃げ込むほど、おまえの苦痛は長引くよ。

 さあ、これからおまえの世界が滅びるまでの間、ずっとそこでじっとしているといい。

 禁書目録の顔を見ろよ。ああ、見えないんだったな。

 今どんな顔してるか教えてやろうか?

 ――彼女は今、上条当麻に頭を撫でられて、とても幸せそうだよ。
 
 おまえがいなくなって良かったな、なあ。誰かさん?

 俺は罪悪と裁きなんてものは信じてないけど、もしあるとしたら、これがたぶん、おまえに与えられた罰なんだと思うよ。

 



  end
335: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 23:00:15.43 ID:g/oaG0bCo
 つづく


 ひとだんらく

 どうしてこうなった
336: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 23:06:22.88 ID:YWW4IEEqo
何と言うバッドエンド・・・
とりあえず>>1乙
338: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/09(水) 23:15:36.82 ID:BEX1OVvyo
バッドエンドは予想通りというかなんというか…。

とりあえず乙
339: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 00:10:15.42 ID:+sJNF3M7P
つづくんだよね?

とりあえず乙。
344: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:41:01.13 ID:3kU0uYJ4o
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◆ ヒースクリフ
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 白い、一面、白い世界を、彼は漂っていた。

 ここには何もない。人も、ものも、音も、気配も、自分の身体すらも。あるのはただ、白い、白い光だけだった。

 死後の世界なんてものがもしあったら、最初に連れてこられるのはこんな場所なんだろうなあ、と彼は思う。

 けれど自分がなぜこんな場所にいるのか、いつからここにいたのか、
 そしていったい、いつ自分が存在をはじめたかが、まるで分からなかった。思い出せもしなかった。

 そしてそれを理解できるようなヒントは、この世界からはまるごと失われているように感じられた。
 
 誰もいない場所だ。何もない場所だ。

345: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:41:28.17 ID:3kU0uYJ4o
 ひとつ、相容れないものを挙げるならば、他者の存在と自分の自由だろう。

 他人が存在すると、そこにルールが生じる。ルールがあるならば、人はそれに従わなければならない。

 逆に言えば孤独でいるならば、ルールは存在しない。何をしようと自由だ。

 つまり彼は、ここですべてを許されていた。

 誰もいないこの場所で、永遠に漂い続けることもできるし、嫌気がさしたら何もしなくてもかまわない。

 それが許されている。彼はもう、何もしなくてもいいのだ。

 けれど人間は、孤独でいる限りできることがかなり限られてしまう。

 今度は「可能だけれどするべきではない」とは違う、「してもいいけれど不可能」というものが出来てしまうだけだ。

 だから人間はどこまでいっても完璧な自由というものに辿り着けない。

 あるいは、完璧などという言葉が既にまやかしなのだとも言えるかも知れないが。
 
346: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:41:54.93 ID:3kU0uYJ4o
 それならば結局、彼は自由ではなく、何もできないままだ。

 けれど、どちらにしても同じこと。自己を失った現在、彼である何かが抱くのは疑問だけ。

 こんな場所で、いくつかの疑問を抱いたまま漂い続けるのも悪くない。そう、何の感情もここにはない。

 ――いや、ある。ひとつだけ、身を灼くような感情がある。それは感覚のないはずの彼の魂を、強く揺れ動かす。

 疑問が浮かぶ。思考ができるが、どこで考えているのかは分からない。

 もしかしたら、目がないだけで姿はあるのかも知れない。耳がないだけで、音もあるのかも知れない。

 ここに浮かぶ自分は、水槽の脳のような存在なのかも知れない。

 どうでもいい。そんなことは、どうでもいい。すごくどうでもいい。

 世界で一番どうでもいいことは何かと聞かれても一番には思いつかないくらいどうでもいい。

347: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:42:22.41 ID:3kU0uYJ4o
 ここにはあの這い寄る混沌の声はなかった。気配も姿もなかった。それだけで、彼の心はひどく安心していた。

 焦ることなく、考えられるはずだ。

 自分は誰だ? ここはどこだ? 今まで何をしていた? 何をするべきだ? あるいは何もしないべきか?

 その答えを探すために、まず最初の問いに答えなければならない。

 考えるまでもない。
  
 自分は、上条当麻だ。

 そう、自分は上条当麻。学園都市の学校に通っている高校生で、無能力者だ。

 その代わり、幻想殺しとかいう不可思議な右手を持っている。

 学生寮に住んでいて、同居人に禁書目録と飼い猫のスフィンクスがいる。

 厄介ごとに巻き込まれることが多く、その系統の知り合いも少なくない。

348: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:42:49.16 ID:3kU0uYJ4o
 友人の土御門元春や青髪ピアスと合わせて、クラスメイトからはクラスの三バカと呼ばれて笑われている。不本意なことに。

 そこから分かる通り、成績は優秀ではない。テストの成績も超能力開発の成績も芳しくない。

 補習をしてもどうしようもないくらいだ。

 それ以上のことを思い出そうとしたけれど、思い出せない。

 どうしてだろう、と考えたところで、カエル顔の医者の怪訝そうな表情と、禁書目録の泣き顔が思い出された。

 上条当麻は記憶を失っている。

 禁書目録の少女とは、気付けば一緒にいたけれど、それは禁書目録が上条当麻と強い関わりを持っているからだという。

 それは血縁だの組織的なつながりだのではなく、もっと心的なもの。

 けれど上条には、それに至るまでの経緯の記憶がぷっつりと消えていた。

 だから、禁書目録がどうして自分のそばにいたのかを訊ねられても思い出せない。

349: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:43:15.92 ID:3kU0uYJ4o
 上条当麻は記憶を失っているから、禁書目録がどうして自分と一緒にいるのかが分からない。

 彼女は、けれど上条当麻に好意を抱いてくれているのだと思う。

 ――それが悔しかった。自分ではない誰かに好意を寄せる禁書目録を見るのが、とても悲しかった。嫉妬、していたのだと思う。

 だからだろうか。現存する上条当麻が生まれたと言えるあの日以来、上条の心にどこか暗い影が落ちるようになったのは。

 いや――自分には「それ以前」がないのだから、既にそれは、生まれたときから定まっていたことだとも言える。

 だから彼は、いつも満たされていなかった。彼女が自分を見ながら、自分ではない誰かを思っていることが悔しかった。

 それは確かに自分なのだけれど、それは既に自分ではない。

 それなのに彼女は勘違いをしたまま幸せそうで、
 上条はまるで、誰かの功績を横取りして勲章をもらっているような、そんな感覚に襲われてしまう。

350: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:43:42.07 ID:3kU0uYJ4o
 だから上条は、苦しかった。事実として、悔しかった。

 だから、彼女を襲うことに決めた。

 心を自分のものにできないなら、せめて、強引にでも犯すことに決めた。

 御坂美琴に関しても、上条は記憶を辿った。けれどやはり、初めて会ったときの記憶はない。

 彼女に関しても、自分ではない上条当麻が親しかったから、偶然彼女と行動をともにすることになっただけだ。

 最初に会ったのは、いつだったっけ。

 そうだ。自販機に二千円札を飲まれて――やってきた御坂美琴に電撃を浴びせられて、笑われて、
 それから……白井黒子と、御坂妹に会ったんだっけ。それは――いつのことだっけ?

 記憶が曖昧にぼやけて、それ以上考えようとすると、無いはずの頭が痛んだ。

 だから痛んでいたのはきっと、頭ではなかったのだ。

 何も分からない。今がいつなのかも分からない。上条は自問する。自分は彼女をどう思っていたのか……?

351: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:44:10.42 ID:3kU0uYJ4o
 ――いいや、上条当麻。おまえの痛みなど知ったものか。いい加減答えろよ、もう限界だって気付いているんだろう?

 これ以上自分に何ができるか? いや、ここまでしてきた自分がこれから自分のためにできることはなにか?

 そうさ、罪も罰も考えなくていい。

 上条当麻が考えなければならないのは――はっきりさせなければいけないのは、
 自分が何を望み、何を願うか? 彼女たちに何を望むか、だ。
 
 おまえは気付いていたんじゃないか? あの世界が自分の願望を表したものだと。

 どこかのお節介な大馬鹿野郎が、ちょっと叶ってくれないかなあ、なんて願いを聞き入れて、
 そんじゃあまあ、ってな具合で何かの間違いで気紛れを起こしてしまったものなんだって。

 あの能力――時間封鎖は自分が望んだ力なんだって。

352: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:44:39.98 ID:3kU0uYJ4o
 ほら答えろよ上条当麻。おまえがそれを望んだことは明白なんだ。だからおまえは喜んだんじゃないか?

 それが何だ? 今更、後悔している? 馬鹿にするなよ、なあ俺。俺はどう思っていたんだ?
 
 おまえが望んだ力を、おまえが望む風に使ったんじゃないか――?

 何を今更、気付いたらこうなってた風を装ってるんだよ。

何が「抗えない」? 「自分の心が暗い感情に飲み込まれて、それはいつか自分を失わせてしまうかも知れない」? 

 気取った言い回しをしてるんじゃねえよ。おまえは結局、自分に負けただけじゃねえか。

 なあ、言ってみろよ上条。おまえは彼女たちを犯したかったんだろう?

 犯したくて犯したくて犯したくてたまらなかったんだろう?

353: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:45:17.06 ID:3kU0uYJ4o
 おまえは、自分は上条当麻じゃない、自分だって叫びたかったんじゃないか?

 自分じゃない誰かに視線を向ける彼女たちが許せなかったんじゃないか?

 おまえは上条当麻に嫉妬していたんだろう?

 だっておまえはポッと出て現れた異分子でしかないもんな。寂しいよなぁそりゃあ。苦しいだろうよ。可哀想にな。

 おまえは結局誰なんだ? 上条当麻か? そうじゃないのか? 他の奴らはそんなことも考えなくて済んで楽でいいな。

 おまえは大変だな。誰かにそう言ってもらいたかったのか? 自分を憐れんで?

 おい、上条。おまえは何で寂しかったんだ?

 どうして自分じゃない自分に嫉妬してたんだ?

 ――なあ、これでヒントは最後だぞ。おまえはうらやましかったんだろ?

354: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:45:54.41 ID:3kU0uYJ4o
 おまえは彼女たちが好きだった。彼女たちと一緒にいたかった。

 何の隠し事もせず、何の衒いもなく、自然に彼女たちと接したかった。

 後ろめたさが邪魔をしても、彼女たちを愛しく感じていた。守りたかった。力になりたかった。

 ――そうだろ?

 ここにあの影はいない。這い寄る混沌はこの場所には現れない。奴はどこにでも現れるけど、どこにいても消え失せてしまう。

 だから俺が断言してやるよ。それを否定出来る奴はここにはいない。

 おまえは彼女たちが好きだった。彼女たちとずっと一緒にいたかった。

 ――だから、おまえは、それを望んだんだ。

355: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:46:21.55 ID:3kU0uYJ4o
 扱いかたは間違ってしまったけど――あれは確かにおまえが願った世界なんだよ。

 いや、扱い方なんて間違わなくたって、アレは大したものじゃない。

 ――時間封鎖なんてロクなもんじゃない。使った奴がバカだったんだよ。

 ずっと無能力者だったから、人よりすげえ力をもらって調子に乗っちまっただけだ。

 違うか? ああ、違うかも知れないな。

 でも、そう考えろよ。

 なあ、おまえ。いや、俺か? もうめんどくせえな。まどろっこしいことは抜きにするぞ。

 上条当麻は間違ってしまったけど、罪を犯したけど、でもおまえの望みはそこにはない。

 都合のいい話だよな、人を傷つけておいて、やっぱりやりたくてやったんじゃありませんでしたって。

 意思とは別です、ってな。でもな、そういうことにしておけよ。

356: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:46:48.10 ID:3kU0uYJ4o
 なあ、上条。

 そろそろ起きよう。これまでが異常だったんだ。

 おまえは償わなくていい。忘れなくていい。もう間違わなければそれでいい。

 そうじゃないのか?

 俺はまだ、彼女たちと一緒にいたい。それは都合のいい言い草かも知れない。

 あんなことをしておいて、どの面さげて会いにいくっていうんだ。
 
 でもだ。

 それでも、おまえは彼女たちと一緒にいたい。

 まだ満足していない。

 彼女たちと笑い合って日々を過ごしたい。

 勝手かも知れない。でもさ、これはもう、仕方ないんだよ。

 ――そういうふうに出来てしまったんだ。

357: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:47:14.70 ID:3kU0uYJ4o
 なあ、俺はアイツらと一緒にいたいよ。

 そばにいたいよ。

 その先にどんなことが待っているかは今は分からない。もしかしたら、喜劇的なほどの悲劇が待ち受けているかも知れない。

 でもだ。

 だからどうした?

 なあ、未来は知れないよ。これから先ずっと分からないままだよ。

 だから俺よ、どうなるかは分からないけど――いい加減、やめないか?

 こんな狂った世界はさ、もうさんざんだよ。

 そうだろ?

 ――ほら、立てよ。身体がない? 甘ったれてんじゃねえよ。思考と意思があれば充分だ。

 それだけで俺たちは、もう向かうことができるんだよ。

 ここじゃないどこかってとこに。
358: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:47:52.06 ID:3kU0uYJ4o
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 瞼を開くと、視界がぼやけていた。熱に浮かされたみたいに、熱い。頭には鈍い痛みが走っていた。

 間接がじくじくと痛む。ああ、こりゃあ風邪だな。ベッドで身体を横たえている自分を見る。こんな感覚は久しぶりだ。

「とうま?」

 声が聞こえた。禁書目録の声だ。半身を起こして部屋を見渡す。額から濡れたタオルが落ちた。

 視界には、彼女と土御門舞夏の姿があった。

「目が覚めたの?」

 見りゃあわかんだろ、とは言えなかった。彼女の姿を見るのが久しぶりすぎて、一瞬、彼女がとても遠い存在に思えた。

 とても崇高で、神聖な存在に見えた。それは勝手な思いこみだ。あるいは、最初からそうだった。

 彼女は神聖で冒しがたい、そういう存在だ。

359: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:48:18.19 ID:3kU0uYJ4o
 禁書目録は舞夏を振り向いて、「目を醒ましたみたい!」と大声を出した。

 舞夏は既に気付いていた様子で、こちらに歩み寄ってくる。

「様子がおかしいんだよ」

 彼女はそういって、上条の手を取った。冷たい、ひんやりとした手だ。ああ、こっちの手が熱くなってるだけか。

 その感触がとても、心地よい。

「とうま?」

 その声に上条は、やっとの思いで喉を震わせた。

「……禁書目録」

 彼女はとても、とても嬉しそうに、安心したように――まるで至上の幸福に出会ったかのような表情で、笑った。

360: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:48:44.45 ID:3kU0uYJ4o
「よかった、とうま……大丈夫? 具合は悪くない? 食欲はある?」

「ああ、大丈夫。頭痛がちょっとひどいけど、腹は減ってる。……大丈夫だよ、うん。大丈夫だ」

 そう言って、上条は自分の気持ちを落ち着けた。

「まいかがね、お粥を作ってくれたよ。食べられるかな?」

「ああ。……ここには、禁書目録が運んでくれたのか?」

「ううん。ベッドに運んでくれたのはもとはるだよ」

「土御門が?」

 問い返すが、その途中で舞夏がお粥を椀に入れてもってきた。

「感謝しろよ、上条当麻ー。メイドの作ったお粥! 看病! ふふふ、お加減はいかがですか? ご主人様ー?」
 
 ほざけ、と言うより先にお粥を差し出されて、受け取る。

361: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:49:11.37 ID:3kU0uYJ4o
「あちち」

「そりゃそうだ。作ったばっかりだもの。気をつけて食えよー。ふーふーするかー?」

「おまえはさっきからどんな答えを期待してるんだよ」

「いいから食え食えー。鉄は熱い内にって言うぞー」

「鉄なの?」

 はい、と舞夏が上条にスプーンを差し出す。ステンレスだよこれは。いや、金属ではあるけど。

「どうだー?」

 美味い、と言う代わりに、上条はスプーンを動かした。

362: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:49:38.77 ID:3kU0uYJ4o
 おおお、と禁書目録と舞夏が声をあげた。そんなにおかしいか?

「とうまとうま、私もちょっと手伝ったんだよ!」

 褒めて褒めて、と頭を差し出す禁書目録に、舞夏が「邪魔してたの間違いじゃないかー?」と間延びした声で水を差す。

 むっとした禁書目録の頭に、上条は手を乗せる。

 手を動かして撫でてやると、表情は徐々にほどけていき、やがて幸福そうな笑顔になった。

 えへへ、と禁書目録は笑う。

 それから今度は心配そうな表情になって、上条を見る。

「とうま。――あんまり、無理しちゃいやだよ?」

 心配、かけたのだろうか。それはそうだろう。同居人が倒れたら、心配はする。それ以上のものも、あると、少しだけ信じたい。

 上条は黙ったまま、禁書目録の頭を撫でる。優しく、優しく――汚れた右手で。

「ごめんな」

 いくつかの意味を込めて、上条は言った。


363: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:50:33.87 ID:3kU0uYJ4o
「落ち着いてきたみたいだし、私は帰るぞー」と言った舞夏を玄関先で見送って、上条と禁書目録はリビングに戻った。

 もう、歩ける。寒気もないし、咳も出ない。ただちょっと身体が怠いけど、一晩眠れば治るだろう。

 舞夏が帰ってから、上条がベッドに戻ろうとすると、背中に禁書目録が抱きついてきた。

「とうま、とうま――っ」

 えへへ、と笑いながら、猫のように額を擦りつけてくる禁書目録に、上条は動揺した。

「どうしたんだよ?」
 
 平静を装ってそう返答するが、禁書目録からの答えはなく、彼女は上条をベッドに押し倒して正面から抱きついてきた。

「よかった……とうまが元気になって」

364: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:51:00.45 ID:3kU0uYJ4o
 禁書目録が、笑顔で言う。小さな声で彼女は何かを言って、目を擦って鼻を啜った。

「まだ完治してねえよ」

 首もとに腕を回して抱きついてくる禁書目録を、上条は抱き返すべきなのか悩んだ。

 それが――赦されるのだろうか。

「でも、目が覚めたよ」

「風邪くらいで意識を失う方がおかしいんだよ。珍しいこともあるもんだ」

「そうかも知れないけど、でも、心配したんだよ」

 そうだろうな。彼女は照れることもなくそういって、今度はかすかに怒りを込めて上条を睨んだ。

「具合が悪いのに隠してるなんて、とうまは私をなんだと思ってるのかな?
 私はべつに、とうまに無理をさせるためにここにいるんじゃないんだよ」

 じゃあ何のためにいるんだよ、とは言えない。申し訳なくも思っていたし、感謝もしていた。

365: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:51:27.43 ID:3kU0uYJ4o
 上条は迷いを切り捨てて、禁書目録の背中に両手を回した。

「悪かったよ」

 彼女は驚いたように頬を赤らめて、また、笑った。

 上条はひとまず、快方に向かうように早めに床に就いた。さすがに浴室じゃあ寝られない。仕方ないから占領している。禁書目録は風呂からあがると、パジャマ姿で上条のベッドに忍び込んできた。

「あの、禁書目録さん?」

「なあに、とうま?」

「さすがに、この狭いベッドで二人で、っていうのは、ねえ?」

「私は一向にかまわないんだよ」

 こっちが困るんですが。

「それに、とうまが風邪を引いたのだって、あんなところで寝てたせいなんだよ、ぜったい」

 嫌な予感がした。何を言い出すつもりでしょう、このシスターさんは。

366: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:51:53.97 ID:3kU0uYJ4o
「今までは仕方なしに認めてきたけど、これからはとうまも一緒にここで寝るんだよ! 第一私が居候なのに、家主がベッドで眠らないっていうのがおかしい。これからは甘やかさないから、とうま、そのつもりで!」

 自制できる自信が、またなくなってきた。でもそれは、昨日までの暗い感情とは、どこか違う色をしていた気がした。

「ねえ、とうま」

「……なんだ?」

「これからも、ずっと一緒にいてくれるよね?」

 禁書目録はそういって、柔らかに微笑んだ。上条が返答に困っていると、彼女はしばらく立って、寝息を立てはじめた。

 上条の方はそれどころではない。

 心臓はバクバクと脈打っているし、顔は熱いし、というか風邪が移ってしまいそうだ、なんて心配まで出てきた。

 でもそれより上条の心掛かりとなったのは、禁書目録の質問だ。

367: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:52:33.59 ID:3kU0uYJ4o
 ずっと一緒に、いれるだろうか?

 上条当麻は自分の右手を見る。

 この汚れた手で、誰かを守るなんてことを言えるのか?

 御坂美琴に会いにいかなきゃ。

 でもそれより先に、彼女とこれからどう接するかを決めないと。

 すべてをなかったことにして、何事もなかったように接するか、
 すべてをうち明けた上で、彼女に自分の望みを話すか。

 どちらにせよ、以前のようには戻れないだろう。

 その覚悟はあった。けれど、自分の幸福だけを考えるのなら、前者を選んだ方がいいような気もする。

 後ろめたさはあるだろうけれど、それでも、御坂美琴と話せなくなるよりはいいんじゃないか?

 ……それともこれは、まだ甘えていることになるのだろうか。

368: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:53:20.33 ID:3kU0uYJ4o
 こちらの勝手だっていうのはもう分かってるんだ。

 開き直って、彼女たちの優しさに甘えることはできないだろうか。

 悪い夢でも見ていたのだと、彼女たちが思ってくれて、普段通りに接してくれることはないだろうか。

 それが許されないなら、上条はきっと、禁書目録と一緒にいることができない。

「……悪い夢でも、見ていたんだ」

 そういうことに、しておかないか?

369: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:54:17.12 ID:3kU0uYJ4o

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「カミやん? どうしたんだ?」

 登校中、土御門が声をかけてきた。俺は彼の腹に包丁を突き刺しながら答えた。

「あはは。いきなり何だって言うんだにゃー。風邪は治ったのか?」

 土御門はポケットに手を入れたまま応じる。

「ああ。おかげさまでな。舞夏にも、礼を言っておいてくれよ」

 上条は包丁を引き抜いて、鞄から拳銃を取り出した。彼の頭を撃ち抜いた。土御門は笑いながら答える。

「まったくだぜよ、人の義妹の飯をタダで食うなんて、カミやんには参るぜ、ホント」

「まあ、そういうなよ。俺とおまえは親友だろ?」

「おう。親友だぜい」

 土御門の問いを聞いて機嫌をよくした上条は、拳銃を投げ捨てて土御門と肩を組んで登校した。

370: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:54:45.19 ID:3kU0uYJ4o
 学校につくと、月詠小萌が黒板に頭を埋めて遊んでいた。

「先生、何をやってるんですか?」

「掃除ですよ、上条ちゃん。最近、黒板の調子がおかしくって」

「黒板にも調子とかってあるんですか?」

 上条が彼女の服を脱がしながら訊ねると、小萌は困ったように溜息をついた。

「でも、チョークで上手く字が書けないんです。不思議ですよね、いやになっちゃいます」

 小萌の下着の中に手を突っ込んで、上条は彼女の身体を撫で回した。

「そうですね。黒板がだめだと、授業になりませんもんね」

「本当ですよ」

 彼女は喘ぎ声を漏らしながらうんうんと頷いた。

371: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:55:12.51 ID:3kU0uYJ4o
「先生、この前はすみませんでした」

「このまえ?」

「あの、電話したじゃないですか、禁書目録が」

 上条はズボンのチャックを下ろして小萌のアナルに自分のモノを突っ込んだ。小萌はとたんに嬌声をあげて腰を振る。

「ああ、シスターちゃんの。昨日は休んだみたいだし、やっぱり具合が悪かったんですね、上条ちゃん」

 上条は土御門の血がついた包丁を小萌の背中に突き刺した。彼女はそれだけで絶頂に達してしまったようだった。

「ええ。困ったことに、今度は禁書目録が風邪ひいちゃいまして」

「それはそれは……先生、お見舞いにいくのですよー?」

 上条がモノを引き抜くと、彼女はほしがるようにお尻を振って上条を淫らに誘う。

 体型と淫靡さとのギャップが、余計上条を欲情させた。

372: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:55:38.95 ID:3kU0uYJ4o
「いえ、移っちゃうと悪いんで、治ったら遊びに来てやってください」

「そうですね、困っちゃいますね。うつってシスターちゃんが気にしたら悪いですし」

 上条が小萌の中で達して、彼女のなかで上条の剛直がびくびくと震えて精液を吐き出す。

 彼女は嬉しそうに息を吐いて、びくびくと身体を震わせた。淫らだったが、血だらけでは台無しだ。

 まったく、誰が小萌先生をこんなふうにしたんだろう。許せない。犯人が分かったらデコピンだな。

「さ、席についてください、上条ちゃん。そろそろ授業がはじまりますよ」

 上条は小萌に言われて自分の席に向かう。その間、周囲の席から嬌声が漏れ聞こえていた。誰も彼もが裸になって繋がりあっている。

 青髪ピアス、前は女に、後ろは男にやられてるよ。でも、笑ってるからいいのかなあ。

373: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:56:11.93 ID:3kU0uYJ4o
「それじゃあ、授業を始めますよ」

 さて、いつも通りの授業がはじまりましたか。

 チャイムの代わりに、吹寄制理が作詞作曲歌をつとめたなんとかって曲が流れはじめる。歌、上手かったんだなあ、吹寄。

 授業中ずっとかかっているけど、休み時間はとまっているのが残念なくらいだ。

 その吹寄は、赤い机に顔を横たえて死んでいた。あれ、アイツ今日は死んでるのか。

 まあ、いいか。退屈な授業がはじまったけど、周りから嬌声は続いていた。

 ポップなバックミュージックと相まって、授業風景は大変ほほえましい。

374: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:56:38.55 ID:3kU0uYJ4o
 放課後、下校しようと校門を出たところで白井黒子に出会った。

 彼女はけほけほと咳をしてから、上条のズボンのファスナーを開けて上条の萎えたものを取り出して残念そうな顔をした。

「昨日ご迷惑をかけたので、お礼をと思いまして」

「ああ、そんなの良いのに」

「そうは行きません。わたくし、受けた恩義に対してはちゃんとお返しをする主義ですの」

「俺はさ、貸した金を返すって言われても受け取らないで、節々に恩着せがましく相手を揺するタイプなんだ」

「最悪ですのね」

 黒子はいいながら上条のモノを舌先で弄びはじめた。

375: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:57:05.62 ID:3kU0uYJ4o
「そういえば、お姉さま、昨日は元気がなかったようなんですけれど、何かご存じじゃありません?」

「御坂が? さあ。分からないな……」

「すっとぼける気ですの? 貴方が関与しているのは明白ですの。何なら身体に直接――」

「おいおい、やめてくれよ」

 上条が拒否したにもかかわらず、黒子は上条のものを頬張って味わいはじめた。

「ふふふ、どんなふうにかわいがってあげましょうか……」

「実はおまえがやりたいだけなんじゃないか?」

 呆れながら問い返すと、黒子は頬を赤らめて淫らな表情をした。彼女は舌先で上条のものを弄びながら、照れたように上条を上目遣いに見上げる。

「そ、そんなことはありませんのっ!」

 黒子への返答の代わりに、上条は射精した。彼女の口内に、精液が飛び散る。彼女はそれだけで絶頂に達してしまったようだった。

「この変態性癖の持ち主め」

「ひ、人聞きの悪いことを仰らないでください!」

376: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:57:32.24 ID:3kU0uYJ4o
 白井黒子と別れて、上条はいつもの公園に向かう。御坂美琴がいた。

「……アンタ」

 美琴はベンチに座って自慰をしながら上条を睨んだ。彼女の指に撫でられている下着は、とうにしっとりと濡れていた。

 それをふくらはぎのあたりまで下ろして、彼女が履いているのはプリーツスカートだけになった。

「よお、御坂。元気か?」

「……ねえ、アンタさ、昨日――」

「昨日?」

「……なんでもない」

 御坂は良いながら、自分の秘所をちゅくちゅくと弄り続けている。

377: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:57:58.54 ID:3kU0uYJ4o
「昨日は、風邪で寝込んでたなぁ」

 彼女は秘部を濡らしながら、びくびくと身体を揺すって感じている。

「風邪?」

「ああ。禁書目録に看病してもらって」

「そうなんだ……」

 美琴は溜息を漏らして感覚に酔いしれているようだった。

「あ、それとさ、初春さんはどうしてる?」

「初春さん? どうしてアンタが? ていうか、今日は私も会ってないけど」

「ああ、そうなのか」

「そうなのよ」

 そう言ったのを最後に、美琴はくう、とかわいらしい声を漏らして身体をびくびくとさせた。

 全身が帯電をはじめて、それがさらなる快感を呼んでいるらしい。ぜひ自分にも経験させて欲しいものだ、と上条は思う。

378: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:58:32.72 ID:3kU0uYJ4o
「それじゃあ、俺行くわ」

「あ、待って」

 美琴は一度目の絶頂を迎えた後、上条を引き留めた。

 彼女は鞄からローターを取り出して、今度はその振動を愉しみはじめた。

「アンタ、昨日さ……」

「なんだよ?」

「……なんでもない」

 微振動の音をききながら、美琴とはその場で別れた。

379: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:58:59.25 ID:3kU0uYJ4o

 町中を歩くと、初春はすぐに見つかった。

「えっ……」

 彼女のスカートを、挨拶代わりに上条はめくった。

 中には何も履いていなくて、彼女のかわいらしいお尻が上条の前にさらけ出された。

「あ、あの……っ!」
 
「初春さん、だったよな?」

「え――」

「あれ、覚えてない? 御坂とファミレスに行ったとき、あったよな?」

「え、あの……はい」

 初春には露出癖でもあるんだろうか。彼女のスカートに頭を突っ込んで眺めると、そこは既にじくじくと濡れていた。

380: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:59:25.80 ID:3kU0uYJ4o
「そう、ですよね……ファミレスで、会ったときが、最後です」

 そういえばあのとき、彼女は下着を履いてなかったんだっけ。

 気持ちよくなっちゃって、癖になったんだろうか。良いことをしたなあ。

「どうかした? 何か元気ない?」

「いえ、なんでも……」

 恥ずかしがってるんだろうか。かわいいなあ。彼女の秘所を上条は舌先で舐めた。びくん、と彼女の全身が震える。

 もうこんなに感じるなんて、すごい才能の持ち主だなあ。

「ん。風邪? 身体は酷使するなよ。風邪なると、つらいぞ。昨日、俺も寝込んでたんだけどさ」

「そう、なんですか? ……昨日――」

 彼女は言いながら、快感に身を震わせていた。

381: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 20:59:52.43 ID:3kU0uYJ4o
「うん。結局、同居人にうつしちゃってさ。困ったもんだよな」

「そうですか……」

 彼女は言葉をどんどんと減らしていった。感じすぎていて、話す余裕がないのだろうか。まさかな、と思うと、初春の全身がひときわしたたかに震えて、彼女はおしっこを漏らした。本当に、すごい才能だなあ。



 帰路につく途中で制服姿の姫神を見つけたので、彼女のファストフードのハンバーガーを食べてからセックスして帰路についた。

 家に帰れば禁書目録が帰っている。

 寮につくと土御門舞夏が掃除ロボに乗ってくるくると回っていた。

 それを蹴りつけると、舞夏は床にはじき飛ばされた。

382: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 21:00:18.53 ID:3kU0uYJ4o
「おかえり、上条当麻ー。調子はどうだー?」

「悪くないよ。もうすっかり良いみたいだ」

 いいながら上条は、四つんばいになった舞夏のスカートをまくりあげ、下着の上から彼女のお尻を撫でた。

「そうかー。よかったなー。兄貴しらないか?」

「土御門? さぁな」

 記憶が正しければまだ教室で女子生徒と荒淫に耽っているはずだが。

「そうかー。兄貴、今日は早く帰ってくるっていってたのになー」

「何か予定でも入ったのかも知れないな」

 上条は彼女の下着を下ろした。舞夏は恥ずかしそうに頬を赤らめながら、四つんばいの姿勢のまま上条を振り返る。

 彼女の下着を下ろすと、まだ未成熟のそこが、上条の目にはっきりと見えた。

 それだけではない。後ろの方も、くっきりと、近くから見えた。匂いまで分かる。最高じゃないか。

383: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 21:00:45.55 ID:3kU0uYJ4o
「上条当麻ー? 具合、やっぱり悪いのか?」

「どうしてだ?」
 
 舞夏の尻の割れ目に自らのモノを擦りつけて性感帯を刺激しながら上条は聞き返す。

 直接いれたわけでもないのに、彼女の口から嬌声が漏れていた。処女だとは思えない感度の良さだ。

 演技だろうか。一流のメイドにはそういった条件もあるのかも知れない。

 上条は腰を動かして狙いをさだめ、舞夏の秘所に自らを突き刺した。

 舞夏はびくびくと震えながら痛みに耐えている。破瓜の血がしたたりはじめた。

「顔色、悪いぞー?」

 彼女の眉が下げられる。上条はかまわずに腰を動かして、早々に高ぶったモノから彼女の中に射精した。

「いや、大丈夫だ。でも、念のために今日はゆっくり休むよ」

「そうかー」

 彼女は荒い息を整えながら、快感などないであろう行為の余韻に浸っていた。

384: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 21:01:12.31 ID:3kU0uYJ4o
 上条が玄関につくと、禁書目録は針のむしろの歩く教会を来て、スフィンクスを抱きながら、おかえりとうま、と言った。

 今日はどうだった?

「ああ、普通だよ」

 とうまとうま、今日の晩ご飯なに?

「そうだなあ。外食でもいくか?」

 え、ホントに?

「本当だよ。またファミレスに行こう。今月は余裕があるんだ。ちょっとだけだけどな」

 わーい!

「あ、でもおまえ、風邪ひいてるしなあ」

 む、とうま。期待させておいてその発言はないかも。

「でも、悪化すると困るだろう?」

 そうだけど……もしかして、心配してくれてる?

385: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 21:01:38.60 ID:3kU0uYJ4o
「当たり前だろ?」

 ……そっか。

「何にやけてんだ?」

 そ、そんなんじゃないもん!

「かわいいやつ」

 む、むう…………!

「じゃあ、ファミレス行くか。風邪っていっても軽いみたいだしな。準備するから、ちょっと待ってろ」

 うん!

「じゃあ、行こう。……行ってきます」

 行ってきます!


「――……なんてな」


386: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 21:02:29.17 ID:3kU0uYJ4o
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◆ ガラスのくつ
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 御坂美琴は、自販機を蹴ってヤシの実サイダーを入手した。アタリだ。

 プルタブを引いて、缶を開ける。炭酸が弾ける音がした。口をつける。さわやかな味わいが、喉を刺激しながら下っていく。

 ――あの悪夢の翌日、あの夜に、上条当麻が姿を消してから、もう三日が立とうとしていた。

 電話は通じない。学校にも行っていないという。しかし退学しただとか、家に何かの事情で帰ったというわけでもないらしい。

 実家の方にも連絡はしたが、行ってないと言われたのだ、と月詠小萌から聞いた。

 面識はなかったが、自分の名前で彼女を呼びだして、個人的な話をするくらいは可能だった。

 あの日、彼は普段通りに過ごしていたという。

387: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 21:03:31.22 ID:3kU0uYJ4o
 友人、土御門元春とともに登校し、

 普段通りに授業を受け、

 その放課後、校門で白井黒子と会話をし、

 その後いつもの公園で自分と出会った。

 その更に後に、初春飾利と町中で出会い、

 彼女と別れた後偶然会ったクラスメイトと一緒にファストフードへ行ってハンバーガーを食べた。

 そのクラスメイトとも話を終えてからすぐに別れ、彼は寮に帰った。

 土御門舞夏は彼といくらか会話をしたというから、時間的にも合う。
 
 その後、状況から推測されるに、彼は自分の部屋に帰り、

 そのときには既に死んでから半日経とうとしていた禁書目録の死体を犯したという。

388: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 21:03:57.77 ID:3kU0uYJ4o
 禁書目録の死体は、ひどい有様だったらしい。

 彼女が死んでからというもの、御坂美琴は何回か、幻想殺しの居場所を教えてくれ、という質問を受けた。

 その問いには毎回、知らない、と答えておいた。

 実際、美琴は何も知らなかった。

 彼が禁書目録を殺したであろう日、その夕方に美琴が上条と会ったときには、彼は普段通りに見えていた。

 いつも通り笑っていた。だから美琴は、あの悪夢が、やはりただの悪夢でしかなかったのだと安心していた。

 それなのに。

 上条当麻は禁書目録を殺した。

389: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 21:04:24.71 ID:3kU0uYJ4o
 悲しい、と美琴は思う。何が悲しいのかは分からないが、とにかく、悲しい。

 あんなことが起こっていることに気付けなかったことに?

 彼が普段通りであったことをまるで疑わなかった自分に?

 それとも彼がそんなにも追いつめられた状態であったのにもかかわらずそれに気付けなかったことか?

 それとも、彼が自分に、何の相談も持ちかけてくれなかったことだろうか――。

 結局、彼にとっての特別は禁書目録だったのだと思う。

 だからこそ彼は彼女を殺し、犯した。彼女だけを、最後の日に選んだ。それ以外の人にはきっと、普段通りに接した。

 だから彼にとっての特別は、彼女だった。

390: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 21:04:53.22 ID:3kU0uYJ4o
 悔しいな、と思った。

 いっそ、自分を殺して、犯して欲しかった。自分も連れて行って欲しかった。

 上条当麻を想いながら、御坂美琴はヤシの実サイダーを飲み干した。

 さわやかな香りが通りすぎると、学園都市が、夕陽に赤く、赤く染まっていることに気付いた。

 真っ赤だなあ。

 美琴は自分が見た悪夢を思い出して、上条のあの熱い息を思った。

 あんなにも強く、彼女は感情をぶつけてもらったのだろうか。

 うらやましい、と美琴は思った。

 何かが狂っていた。でもそれはもう、変えられないことだ。

 御坂美琴は缶を投げ捨てて、公園を後にした。



                 end

392: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/10(木) 21:09:31.94 ID:kXmGzrZao
なんてこった…続き楽しみにしてる
399: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:17:36.03 ID:sZnaF0/Ho

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◆ ギャッツビー
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 赤い、赤い光が、何かの姿を照らす。それはまるで、澄み切った黒い水で形作った、質量をともなった人間の影のように見えた。

 目前に立つそれに、彼は身動きを封じられていく。影が舌を伸ばすように彼の手足に伸び、彼の動きを縛っていく。

 這い寄る混沌が、彼に甘く囁いた。

(ぜんぶぜんぶ、やめちまえよ)

 答えはない。彼は呆然としたまま、焦点の合わない目で暗闇を見つめ続ける。

(生きるのなんてやめちまえよ。死ぬのも、そうだな、めんどくせえ)

 影の触手が上条の腕を掴んだ。抵抗するのも、めんどくさい。

(後悔するのも、面倒だよな。良心が咎めるから、仕方なしに苦しんでる振りをしてるけど、実はちっとも苦しくなんてないんだろ?) 

 影の言う通りだった。彼女たちを犯したことを、彼は後悔なんてちっともしていなかった。

 ただ、ちょっとめんどうだっただけだ。

400: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:18:03.33 ID:sZnaF0/Ho
 反省も後悔もしていないけれど、それをしているふりをしたのは、そうじゃないとおかしいからだ。

 正直になれよ。別につらくないんだろ。苦しくもないんだろ。だってそうだろう? 

 おまえは今まで自分がやりたいことだけやってきたんだ。

 いやなことから逃げられる道を選んできたんだ。そしてまだ逃げることができる。

 嫌なことから逃げればいいさ。

 なあ、そのための時間封鎖じゃないか。

 ここに永遠に世界を閉じこめてしまおう。全部全部なかったことにしてしまおう。

 な? そうしよう。

 ――さあ、目覚めろよ。


401: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:18:54.34 ID:sZnaF0/Ho

 上条はベッドから起きあがって冷蔵庫を開けた。

 何日か前につくっておいた麦茶があった。それを捨てて、冷蔵庫に他に何か入っていないかを確かめた。何も入っていない。

 乾いた喉を潤すために、仕方なしに上条は玄関に立つ。

「行ってきます」
 
 答えはなかった。上条は近くのコンビニまで行って缶ジュースを盗んだ。

 その場で飲み干し、缶を投げ捨てる。いくらか身体の調子が楽になった。

 コンビニを出ようとしたところで、腹が減っていたことを思い出した。

 パンとおにぎりと、ついでにペットボトルの飲み物を盗んでおいた。

402: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:19:25.26 ID:sZnaF0/Ho
 どこへいこうか迷ったが、ひとまず暇をつぶせるところを探そうと思った。

 何せ世界にはこの段階でも、一生かかっても消費しきれないほどの娯楽がある。

 本、映画、ドラマ、なんでもいい。それらを金を出すことなく楽しめるし、それらを楽しむための環境も作り上げることができる。

 漫画喫茶の個室から人を追い出して映画をかけようとしたが、電気が入らないことに気付いた。

 舌打ちをして上条はすぐに部屋から出た。延々と漫画を読むのもいいが、それなら別にここじゃなくてもいいだろう。

 本屋に入って適当に暇をつぶせそうな本をかっぱらった。雑誌や実用書なんかは不要だ。何かをするための知識はもういらない。

 小説と漫画を何冊かずつ、ついでにレジからビニール袋を奪った。

 喉が渇いたとき、近場の自販機で飲み物を買えるように金も盗んでいこうと思ったが、
 自販機に好みのジュースがなかったことを思い出した。

403: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:20:08.01 ID:sZnaF0/Ho
 食料や飲み物に困ることはないだろう。持っている力を使えば食べ物を現状のまま凍結させておくことも可能だ。

 眠くなれば寝ればいいし、腹が減ったら食べればいい。女だって犯せば――いや、それはやめておこう。

 ずきり、と上条の頭が痛んだ。けれど彼の自我は、徐々に希薄になっていっている気がした。

 これから自分は、何もせず、何も感じず、何も選ばずに生きていくことができる。

 いや、生きることではない。それは単に、呼吸を続けている程度の意味合いしかもたない。

 食べ物にも寝る場所にも困らない。外敵もない。ここは人間嫌いの天国だ。

 もう、持っているものもすべて失ってしまえばいい。

 ここにはもう誰もいない。ただ気配だけが、ざわついている。

 それ以上に必要なものはなかった。

 手で触れられる距離に誰もがいるのに、ここと宇宙の彼方よりも遠く深い断絶がある気がした。

 上条はそれをこのまま停滞させておくこともできるし、あるいは気紛れに起こしては、また眠らせることもできる。

 ――死ぬまで、ずっと。

404: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:20:45.19 ID:sZnaF0/Ho

 考えるのはやめよう。バカになってしまおう。

 上条は学校の廊下で硬直していた月詠小萌を部分解除した。

 小萌は悲鳴をあげながら、この停滞した時間のなかで状況を把握しようと思考を回転させていた。

 けれどどれだけ走っても、上条から逃げ切れることはない。

「上条ちゃん、何をするんですかっ!?」

 彼は小萌の頬に口づけをした。小さく柔らかな彼女の肢体を押さえつけて、自分の欲望をぶつける為に扱う。

 意思とは関係ない。つまりこれは本能の問題だった。そうでなければ、ひとつの運命だとしか思えない。

 こういうふうにできてしまったわけだ。

405: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:21:13.99 ID:sZnaF0/Ho
「上条ちゃん、離してください! それ以上すると本当に怒りますよ!」

 返事をせずに小萌の身体を無理矢理撫で回す。

 上条よりひとまわりもふたまわりも小さな身体を好きにすることは、彼にとって容易だった。

 そしてそれに抵抗することは、彼女にとって困難だっただろう。

「上――条、ちゃん……?」

 小萌は形容しがたい表情をした。

 信じられない、という驚愕。裏切られた、という絶望。

 そういった、暗い、暗い気持ちが、その表情にこもっていたように、上条には思えた。

 けれどそれは、ひょっとしたら気のせいかも知れない。どちらでもよかった。

 ただ目の前の女を犯す――。上条にとって重要なのはそこだけだ。

406: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:21:43.01 ID:sZnaF0/Ho
 彼は彼女を壁際に追いつめ手足の自由を奪う。反撃を警戒しなければならない相手より、よほど簡単だと言えた。

 今目の前にある彼女の肢体にだけ、集中できる。

 彼女の低い身体に鼻を寄せて匂いを嗅いだ。煙草の匂いがした。服に染み付いているのだろうか。これはちょっといただけない。

 いや、これはこれでアリだろうか? 判断に迷うところだ。

 上条はどうするかを保留にして彼女の身体を撫で回し始めた。

「上条ちゃん! この状況は何なのですか!?」

 それを教えてあげる義理はないけれど、上条は答えの代わりに問い返した。

「先生、今何時だか分かります?」

「え――?」

「いいから」

「午後五時三十分、です……」

「まだ二十五分ですよ」

 言いながら、上条は彼女の唇を封じた。

407: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:22:17.16 ID:sZnaF0/Ho
 小萌は唇を噛むことで上条の舌が入り込んで来ようとするのを拒否しようとした。それもそれでかまわない。どうでもいい。

 ――犯せるならば、何でもかまわない。

 唇を離すと、小萌は「どうして」と叫んだ。

 どうしてだろう。その疑問も、考えるのは面倒だった。

「先生」

「な、なんですか!」

「好きです」

「はあッ!?」

 この状況で何を言っているのか、と自分でも思ったし、彼女も思ったに違いない。

「好きだから、犯すんです。きっと」
 
408: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:22:59.73 ID:sZnaF0/Ho
 上条は彼女のスカートの中に手を差し込み、彼女の細い太股を撫でた。

 子供のような姿の女性に触れていることで、上条は背徳感と禁忌感から快感を受けていた。

 自分がそのような女性に興奮してしまう異常な資質を持っているのかも知れない、と考えると、
 まさか、と思いながらも背筋が快感に粟立った。

 そういえば、今まで接してきた少女は年下の子ばかりだ。

 どうしたものかな、自分はロリコンらしい。

 でもまあ、いいか。誰に叱られるわけでもなし。

 考えながら彼女の服を脱がしていく。部分閉鎖するのは怖かった。

 彼女の反応が消え失せてしまうと、自分の中のすべてを失ってしまいそうで怖かった。

 今こんなにも強い衝動が胸を灼くように存在しているのに、それがすぐにでも消え失せてしまうように感じられた。

 だから封鎖はしなかった。けれどどちらにせよ、彼女に抵抗は不可能だった。彼女が上条の身体を蹴飛ばそうとしても上手くいかなかったし、引きはがそうとしても力の差は歴然だった。
409: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:23:32.49 ID:sZnaF0/Ho
 そして抵抗されればされるほど、上条は彼女に対しての嗜虐心をそそられた。

「教え子に犯されるって、どんな気分ですか?」

 直接的な表現で訊ねると、小萌の表情が恐怖に歪んだ。

「俺は、生徒の立場で先生を犯す、って、すごい興奮しますよ」

 彼女の顔が赤らんでいるのか青ざめているのか、上条には区別がつかなかった。

 上条は小萌の上半身を脱がせた。必要とは思えないのに、下着はしっかりとつけていた。彼女は顔を真っ赤にして羞恥に耐えている。

 ブラをはぎ取って、彼女の身体をじっくりと眺めた。

 抵抗はほとんどなかった。疲れたのか、それをする余裕がないのかは分からない。

410: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:24:01.06 ID:sZnaF0/Ho
 胸の膨らみと言えるものはほとんどなかった。ぽっこりとした柔らかそうなお腹のほうが、むしろ出ているのではないかと思うほど。

 幼児体型、ってこういうものだろうか。幼児というのは語弊がある気がする。まさに――少女、なのだ。

「先生、処女ですか?」

 上条の口をついて出た疑問に、小萌は顔を真っ赤にして首をぶんぶん振る。

「処女じゃないんですか?」

 別にどちらでもいいのだけれど、こちらとしての反応は少し変わってしまう。

「そんなの……ッ!」
 
 小萌は結局、答えらしい答えを言わなかった。まぁ、でも、どちらでもすることは同じだ。

411: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:24:33.44 ID:sZnaF0/Ho
 上条はあらわになった小萌の胸元に触れようとしたところで気付いた。

 ピンク色の乳首が、ぷっくりと膨らんで自己主張をしていた。

「……これは」

 小萌の顔を見る。彼女は俯いてこちらを見ようとしない。

 上条は気にせず彼女の膨らみとも言えない膨らみをなで始めた。

 小萌は他者に身体を触られているという状況に、混乱しながらも声を漏らした。

 それは快感によるものではないだろう。当然だ。彼女が感じるようなことはしていなかった。

 ただこそばゆさに身を揺らし、彼女は上条の指先から逃れようとする。

412: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:25:00.73 ID:sZnaF0/Ho
 上条はもう片方の手で彼女の顎をつかみ、持ち上げた。小萌と目が合う。

 彼女は目が合うと、一瞬、恐怖か、驚愕かに顔を歪めたが、それからどういう表情をしていたかは知らない。

 上条は目を瞑って、再び小萌の唇を奪った。舌を彼女の唇の隙間に侵入させ、歯列をねぶった。

「ん、んむっ、んんん!!」

 上条はキスをしたまま彼女の両腕を手でおさえつけ、身体を押しつけた。身動きはほとんどとれないだろう。

 なんとか顔を逸らしたりして逃れようとしても、上条の舌はどこまでも追いかけていく。

 口内からやっとの思いで追い出して、唇を強くかみしめても、結局上条にとっては味わう場所が変わるだけだ。

 唇を舌で舐めつけると、彼女は目を瞑って首を振るように抵抗した。

413: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:25:34.57 ID:sZnaF0/Ho
 仕方なしに上条は、一旦唇を弄ぶのをやめて首筋へと舌を這わせていく。

 彼女の低い身長に合わせると、すぐに姿勢に無理が出た。

 上条はそれを受けて小萌の身体を強引に床にねじ伏せ、それに覆い被さった。

「いや!」

 押し倒される寸前、小萌はそんな声をあげた。そのかわいらしい声が、苦悶に覆われていることに、上条は強い興奮を覚えた。

「だめ、ですから……上条ちゃん――!」

 必死に、自らの教え子を、引き留めようとしているように見えた。

 でも、そんなのはとっくの昔に手遅れになっていた。

414: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:26:03.50 ID:sZnaF0/Ho
 上条は彼女のスカートをまくりあげて下着の上から彼女の秘所をなぞった。小さく、信じたがたいほど柔らかい。

 御坂美琴や、初春飾利よりも未成熟なのではないかと勘違いしてしまう。

「先生って本当に大人なんですか?」

 上条が言うと、小萌は泣き出しそうに顔を真っ赤にして涙目になった。

「やめてください……お願いですから……!」

 その懇願が、泣き顔が、逆に上条に火をつけた。

「――先生ッ!」

 彼女はこれまでより強く抵抗をしはじめたが、上条を止めるには至らない。むしろその行動は上条をより高ぶらせるだけだった。

 獣のような息を漏らしながら、上条は彼女の身体を、触れ、ねぶり、揉み、撫で、擦り、汚した。

 それを続けていると、やがて彼女は息も絶え絶えになり、声も出せない様子だった。ただ息が荒く、目がうつろだった。

 ――けれど上条が、それだけで満足するはずがなかった。

415: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:26:34.14 ID:sZnaF0/Ho
「先生」

 上条がそういうと、小萌はかすかに表情を動かして、彼を驚いたように睨んだ。そして悲しそうに表情を歪めて、俯いた。

 その悲痛な表情が、仕草が――たまらなく愛しい。

 壊したいほどに。

 上条は下着を無理矢理脱がせて足を開かせた。彼女は既に抵抗する気力がなかったようだった。

 姿勢を変えて自分自身を小萌の秘所に擦りつけた瞬間、彼女の身体がびくりと震えた。

 その瞬間、彼女の頬を伝う涙に、上条はようやく気付いた。

 ――けれどそれを見ても、後悔の念が湧くどころか、むしろ上条の興奮は強まった。

416: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:27:01.97 ID:sZnaF0/Ho
 上条が小萌の身体を貫くと、彼女は濁るような声をあげて苦悶に喘いだ。

 血が流れていたが、それが破瓜のものか、それとも単純に身体が小さいせいなのかは分からなかった。

 彼女の中は想像よりもずっと狭く、小さかった。

 けれどその中に入れた途端、上条の全身に弾けるような快感が広がった。

 上条が、あるいは小萌が、少しでも身じろぎをすれば、上条は耐えがたいほどの快感に身を震わせることになった。

 そしてその快感に身を震わせれば、更に快感が訪れる。終わることなく降り積もる。

 徐々に徐々に、それが広がっていく。

 そして、小萌は逆に、上条が、彼女が、少しでも身じろぎをすれば、
 そのたびに耐えがたい痛みに襲われているのだということが、すぐに分かった。

417: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:27:30.23 ID:sZnaF0/Ho
 その苦痛が、苦悶が、小萌の表情を歪ませる。

 彼女の目からぽろぽろと涙が流れる。

 苦しそうに眉間に皺が寄っている。目を強く瞑って、歯をかみしめて、痛みに耐えている。

 彼女はそれだけに一生懸命だった。それに耐えることだけに、力を使い果たしていた。

 そしてその姿が、上条を強く興奮させた。

 上条は腰を動かすまでもなく、射精してしまいそうだった。けれどそれはまだ早い、と耐える。

 このままじっくりと、じわじわと、快感で何も考えられなくなるまで待とう。

 なにせ時間はたっぷりあった。満足するまでそれをしても、誰に咎められることもない。

 小萌にとっては地獄のような時間は、まだ始まったばかりなのだ。

 彼がそれに飽きるまで、行為は延々と続けられた。

418: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:28:57.49 ID:sZnaF0/Ho

 小萌を犯したままの姿で部分封鎖しなおしてから、上条は白井黒子の姿を探した。

 なぜ今まで彼女を犯すという発想が浮かばなかったのだろう。

 街を歩くと、彼女の姿はすぐに見つかった。

 初春飾利と一緒に歩いている姿のままで停止している。それを見て上条は一瞬迷ったけれど、優先度は黒子の方が高かった。

 風紀委員の腕章はつけていない。

 さて――彼女を犯す為には、絶対にテレポートされないように右手で触れ続けていなければならない。

 あとは演算に集中できないように、強引に痛みや刺激によって思考に割り入ってしまうくらいが出来ることか。

 まあ、逃げられたら逃げられたで全封鎖し直してしまえばいい。そうすればまた黒子を捜し出すだけだ。

 伝説のポケモンみたいだなあ、と上条は状況とはまったく無関係の喩えをした。

「さて」

 上条が黒子の肩に触れると、彼女の姿から赤い光が除かれた。

419: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:30:07.94 ID:sZnaF0/Ho
「――おはよう、黒子」

 目の前に突然現れた上条に驚いて、黒子は後ずさろうとしたが、上条が肩を掴んで強引に止めた。

「……なんですの?」

 彼女の表情には明らかな警戒心があった。黒子は上条を睨んだあと、周囲の状況を確かめようとして、硬直している親友の姿を見つけた。

「初春……?」

 けれど、返事はない。

 上条は両手を使って黒子を持ち上げ地面に放り投げた。

 彼女の身体は横ばいになる。滞空時間から着地まで、彼女の思考は混乱していて、そこにテレポートをする余裕は生まれない。

 歴戦の猛者だろうが荒事に関わってきた風紀委員だろうが、反応できない瞬間というのは存在する。

 上条は黒子に覆い被さり、彼女の頬を右手で触った。

420: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:30:34.40 ID:sZnaF0/Ho
 ああ、そうだ。結局、脅迫という手段はとっていなかったな、と思い出した。

「黒子」

「呼び捨てにしないでくださいまし……!」

 彼女は空間移動を行おうとしたようだ。当然、それは不可能だだが。

「抵抗するなよ。この状況が分からないのか?」

「貴方がどうしようもないクズだということだけは推測できますけれど……」

 こんな状況で皮肉が出るなんて大した奴だ。

421: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:31:05.28 ID:sZnaF0/Ho
「反撃の機会をうかがっても無駄だよ。周りが見えるか? 全部止まってるだろう」

「……これは貴方の仕業ですの?」

「――時間封鎖、と呼んでいる」

「大層なお名前ですのね」

「大層な力だからな」

「まあ、貴方が右手で私に触れているのを見ると、空間移動ができないというわけではないらしいですが」

 さすがに頭の回転が速かった。それならば、すぐに意味が分かるだろう。

「時間封鎖の中で、おまえだけがそれを免じられている。この意味が分かるか?」

「貴方の意思ですわね?」

「そうだ。ついでに言っておくが、俺が死んだり意識を失ったりしたところで、時間封鎖が解除されることはない。
 ……といったところで、おまえはなんとか俺を無理矢理拘束しようとするんだろうが」

「当然ですの」

 何とも強気な女だった。御坂美琴でも、こうは行かなかったというのに。

422: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:31:44.54 ID:sZnaF0/Ho
 でも、動揺や恐怖は隠し切れていない。身体が小刻みに震えていた。

 高飛車な女が恐怖心を必死に隠そうとする表情なんて、上条からすれば大好物だった。

「どっちがいい?」

 なにが、と黒子は聞き返す。

「初春さんが無理矢理犯されるのを見ているだけなのと、自分が犯されるのを初春さんに見られるの」

「……ッ!」

 黒子の顔が歪んだ。それだけで幾百の言葉で罵倒されたように感じて、上条は興奮を強めた。

「下種が……――ッ!」

 黒子がそう吐き捨てるだけで、上条の股間は異様に高ぶった。

「ありがとう。おまえは最高だな――」

 黒子の顔が嫌悪感に歪んだ。けれど彼女は既に、抵抗できない。

423: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:32:28.46 ID:sZnaF0/Ho
「かわいそうだから、初春さんには見せないでやるよ」

「ふざけないでくださいまし。貴方が何をしようとしているか知りませんが、
 わたくし、貴方みたいな殿方には興味がまったくありませんの」

「レズビアンだから?」

「そんなんじゃありませんわ」

 黒子は呆れたように溜息をついた。

「私は既にお姉さまに操を立てておりますの。
 貴方が男性だろうと女性だろうと、お姉さま以外の人にそういった感情を持つなんてありえませんわ」

 黒子はそういうが、むしろ上条はその言葉を聞いて、彼女に対してどのように伝えるのが最適かを考えた。

 そして上条は、思考を放り投げ、思いつくままに喋った。

「美琴なら、もう昨日の内に犯したけどな」

 それを聞いて黒子の表情に、驚愕と絶望が走った。

426: 訂正 2011/02/11(金) 19:34:35.34 ID:sZnaF0/Ho
「貴方……今、なんて?」

「美琴ならもう抱いたって言ってるんだよ。黒子。……ん? こういうのは棒姉妹っつーのか?」

「貴様――ッ!」

 黒子が怒りに表情を歪める。その表情は、怒りが強すぎて、真っ赤になるのを通り過ぎて、逆に白くなっていった。

「殺す……ッ!」

「物騒だな、風紀委員」

 上条はそう言って、黒子の肌に触れた。

 黒子は身体を動かしてなんとか抵抗しようとする。

 両手を押さえつけても蹴りつけて来ようとするので、馬乗りになって体重を乗せた。

「お楽しみだよ、黒子――」

427: 訂正 2011/02/11(金) 19:35:01.88 ID:sZnaF0/Ho
 上条が自室に戻ると、スフィンクスのお腹を撫でながら寝転がる禁書目録の姿が停滞したままで存在した。

 彼はそれを無視して通りすぎようとしたけれど、結局、立ち止まってしまった。

 禁書目録は笑顔だった。

 その笑顔が――妙に上条の頭を灼いた。

 上条はその瞬間、あらゆることを諦めてしまった。

 結局、彼女の笑顔以上に上条が求めるものなんてないのかも知れない。

 彼女からは、自分は永遠に逃れることができないのだ。

 どれだけ汚れても、どれだけ間違っても、後悔しても、死にそうな目にあっても、
 上条は、彼女が笑っていればそれでよかったのかも知れない。

428: 訂正 2011/02/11(金) 19:35:28.69 ID:sZnaF0/Ho
 それならどうして、上条はそれだけで満足できなかったのだろう。

 なんだかんだで、幸せな日々、だったはずだ。

 不幸だ不幸だと言ってたけど――彼は本当は、幸福だった。

 彼女と過ごす、騒がしくて、苦しかったり、悲しかったりもあるけれど、
 それでも嬉しかったり、楽しかったりもあった、そんな日々が、上条にとっての至上の幸福だったのかも知れない。

 ならば上条は――どうしてあやまちをおかしたのか?

 彼が人に言えない願望を持つようになったのはいつからだったろう。

 それを隠さなければならないと考えたのはなぜだろう。
 
 なぜ自分の変遷に気付かなかったのか?

 数々の疑問が浮かんでは消えていったが、最後にはそれらもどうでもよくなってしまった。

429: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:36:13.40 ID:sZnaF0/Ho
 しなければならないことはなんだ?

 決まっている。償いだ。

 それはただの自己満足かも知れない。彼女たちを傷つける行為かも知れない。

 自己欺瞞かも知れない。自己陶酔かも知れない。自己憐憫かも知れない。

 けれど、それをしなければ上条は、二度と彼女の前で笑うことができない気がした。

「――さあ、眠れ」


 上条は全解除を行った。世界が、正常な色彩を取り戻した。
430: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:36:40.09 ID:sZnaF0/Ho

 禁書目録は上条を振り向いて驚いた。

「とうま! いつの間に帰ってきてたの?」

 彼女に会うのは――久しぶりだった。

「今、ついさっきだよ」

「そうなの?」

 禁書目録は不思議そうに首を傾げながらスフィンクスのお腹を撫でる。

「なあ、禁書目録」

「なあに? とうま」

「謝らなきゃいけないことがあるんだ――」


431: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:37:24.62 ID:sZnaF0/Ho
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 最初にやってくるのは誰だろう、と思った。

 ステイル=マグヌスか、エツァリか、神裂火織か、土御門元春か、青髪ピアスか、白井黒子か、御坂美琴か、初春飾利か。

 上条は全員にすべてを話した。自分がした行為を、その行為によって傷つくであろう人物全員に。

 禁書目録は泣いていた。当たり前だった。

 それでも、彼女は許すと言った。怒らなかった。――でも、泣いていた。それでは上条当麻は納得しない。

 彼は十分に罰を受けねばならなかった。自分自身の為に。

 償いであるはずなのに、自分自身の為というのはどういうことだろう。

 やはり上条は、赦されたいだけなのかも知れない。納得したいだけなのかも知れない。

432: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:37:52.01 ID:sZnaF0/Ho
 これから自分を裁きに、多くの人間が自分の元を訪れるだろう。

 さて、その最初の一人の裁きが終わったとき、果たして自分は生きているのか――。

 上条は別に楽観的になったわけでも、開き直っていたわけでもなかった。

 単純に、それは、どうしようもないことだからだ。

 上条にとって、この数日間、望まなかったことはなにひとつ起こらなかった。

 結局のところ、誰かに裁かれることも、望んだのは自分自身でしかない。

 やがて上条の元に、赤髪の神父が現れた。

433: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:38:23.38 ID:sZnaF0/Ho
「 我が名が最強である理由をここに証明する ――Fortis931――」

 彼は表情ひとつ変えず、魔法名を名乗った。

 ルーンの刻まれたカードを周囲に散らし、彼は上条の目の前に立った。

「――『炎よ 巨人に苦痛の贈り物を』――」

 そう呟いて、彼は煙草を振り下ろすように放り投げた。その軌跡を追うように、赤い光が彼の手に宿った。

 ――炎、だった。

 怒号とともに虚空から現れたそれは、脈打つように定めた目標へと空中を泳いでいく。

 彼の右手から現れた炎は、明確な悪意とともに対象を駆逐せんと燃え盛る。

 どす黒いそれは、悪意を孕む、を通り越し、既に悪意そのものだった。
 
434: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:38:52.24 ID:sZnaF0/Ho
「『灰は灰に――――――塵は塵に――――――吸血殺しの紅十字』!」

 また、怒号。あるいは呪詛。きっと言葉に大した意味はない。

 口にしている本人も、何を呪い、何に憤り、何に怒りを感じているか、そのルーツに気付いていない。

 そして、言う者の心すらも赤く塗りつぶし焼き尽くす呪詛は、けれど、不意に途切れた。

 摂氏三千度の炎で触れたものを灰燼と化す強力な魔術は、上条当麻の右手に打ち消された。

「俺に魔術が効かないってことくらい、分かってるはずだろ」

 上条が言うと、ステイルは感情を押し殺したような声で答えた。

「せめて僕の魔術で殺してやりたいと思ったんだけどね――」

435: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:39:32.11 ID:sZnaF0/Ho
 舌打ちをして、彼は煙草を取り出して火をつけた。

「君みたいな人間をわずかにでも信用した僕がバカだったのかも知れない……」

 そうかも知れない。結局上条は、彼女を守ることができなかったのだから。

「……コレ、使う?」

 上条は自分の部屋から持ってきて置いた包丁の柄をステイルに向ける。

「――貴様は気でも狂っているのか?」

 そうかも知れない。

 上条は否定も肯定もせず、ステイル=マグヌスの判断を待つ。

「借りるよ。こんなものを使わなければならない日が来るとは思わなかったけどね」

 ステイルはその包丁の刃を確かめる。変な細工はしていないのに。

436: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:39:59.09 ID:sZnaF0/Ho
「――言っておくけど、これは僕の独断だよ。上は幻想殺しに手を出すなってうるさくてね」

「そりゃあ――」

 不思議な話だ。上条は頭を掻く。

「でも、お別れだ上条当麻。僕は貴様を赦せそうにないんだよ」

 ああ、分かっている。十分すぎるほどに分かっている。いや――あるいは、ちっとも分かっていないのかも知れない。

 それはそうだろう。自分は自分であって、彼は彼だ。分からないのは当たり前だ。

「さようなら、上条当麻。君のことが大嫌いだったよ」

 光栄だ。上条は目を閉じてそのときを待った。

437: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:40:26.26 ID:sZnaF0/Ho
 痛いのだろうか。それはそうだろう。苦しいのだろうか。それも、そうだろう。

 けれどそれがなくては、上条当麻は納得できない。自分を赦せそうもない。

 いや、たとえ償ったとしても、それができたとしても、自分は自分を赦せないだろう。

 ずっと赦せないままだろう。

 さあ、ステイル=マグヌス。

 おまえがどんな気持ちを抱えて禁書目録に尽くそうとするのか。それは自分には分からないけれど。

 おまえには殺されたって仕方ないと思っている。

 ――けれど、上条当麻を突き刺すはずの痛みは、いつになっても訪れなかった。

438: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:40:54.03 ID:sZnaF0/Ho
 代わりに聞こえたのは、ステイルの掠れ声だった。

「あ――ああ、あああ……――!」

 上条が咄嗟に目を開けると、そこには禁書目録の背中があった。

「――え?」

 上条当麻は禁書目録を挟んでステイルと対峙していた。

 目の錯覚ではないかと疑おうとした。

 けれど、その子は確かにここにいた。

 幻覚でも幻想でもない――――!

「禁書目録!」

439: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:41:22.20 ID:sZnaF0/Ho
 名前を呼ぶと、彼女は青ざめた顔でこちらを振り向いた。

 ――苦しそうに、笑っていた。

「おまえ――!」

 ステイルは包丁の柄を掴んだまま禁書目録から離れた。

 彼はそのまま、呆然と立ち尽くす。その瞬間、彼女の身体が上条の胸元に倒れ込んできた。

 咄嗟に抱き留めると、回した手に、どろりとした感触があった。

「……禁書目録?」

 けれど既に、答える声はない。

440: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:41:53.47 ID:sZnaF0/Ho
「――あ、あああ……」

 彼女の腹から、どんどんと赤い血が流れ出している。

 彼女の修道服が赤く汚れていく――汚れていく。

「禁書目録!」

 上条の叫び声に、彼女は答えない。

 彼女は虚ろな瞳で、上条当麻を見つめた。

 そして苦しそうに表情を歪めながら、彼の頬を伝う涙を拭って、最期に、笑った――。





end
441: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:43:20.08 ID:sZnaF0/Ho
投下終わり

ようやくbad end全部書き終わった……正直一日で全部終わるだろうと思ってたのに。
次の投下で多分終わりだと思います……けどbad endが異様に伸びたのを考えるとまだ続くかも。

443: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:59:48.20 ID:sZnaF0/Ho
書き忘れたおまけ

どうでもいいことだけど、エンディングの分岐は選択肢にすると

 ・――どうにかしなければ
 ・もう一度元通りの生活を送りたい
 ・……何も考えたくない

 になってます。それぞれ微妙に結末が変わっていて、別視点からの書き直し、とかではないので深く考えずに読んでもらえると嬉しいです。
444: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 11:23:43.48 ID:CUEujUfAO
乙、どんな終わりを迎えるやら
446: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:46:13.73 ID:JmSjLlxCo
 目が醒める瞬間――。

 彼が自分の身体の感覚を取り戻すまで、ひどく時間がかかった。やっとのことで取り戻した手足を動かして、しばらく感覚に浸る。
 
 浮翌遊感。

 暗い、暗い場所だった。

 今度は、彼の記憶ははっきりとしていた。自分が上条当麻であることも、自分にはここ数ヶ月の記憶しかないことも、幻想殺しも、

 禁書目録のことも御坂美琴のことも、すべてをはっきりと思い出せた。

 そして、時間封鎖のことまで克明に。

447: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:47:10.38 ID:JmSjLlxCo
 彼は自らのしたことをすべて思い出すことができた。

 けれど、なぜか、自分がついさっきまで何をしていたかという記憶だけが、すっぽりと抜け落ちていた。

 自分はここで何をしているのだろう。

(何もしていないんじゃないか?)

 声がした。いい加減聞き飽きた声だ。

(望む場所がなければ歩く必要がないのは当然だ。おまえは何も望まなくなってしまったから、どこにも行かないのは当然だ)

 上条は天を見上げる。けれど、天地の感覚が曖昧なここでは、どこが上でどこが下かは大した意味を持っていなかった。

 だからこそ上条は、自分を中心として、上を天とし、下を地とした。

 その瞬間、上条の身体は、暗闇に足を着けることができた。

448: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:47:37.16 ID:JmSjLlxCo
(いい加減つかれただろう。もう休んでもかまわない。おまえは十分よくやったさ)

 良くやった? 彼の頭がその言葉を反芻する。

 ――どこが?

 禁書目録を犯した。御坂美琴を犯した。初春飾利を犯した。白井黒子を犯した。月詠小萌を犯した。

 姫神秋沙も犯した。土御門舞夏も犯した。土御門元春を殺した。禁書目録を殺した。

 記憶のすべてが、上条に、鮮明な色を伴って襲いかかる。

(おまえが実際に犯したのは、最初の五人だけだよ)

 けれどそんな事実なんて、上条にとってどうでもいいことだ。

 上条当麻は、彼女たちを犯してしまった。そこに事実であるかないかなんていう違いは関係がない。

 彼女たちに自らの欲望をぶつけてしまった。言い逃れのしようもなくはっきりと。それは自分でもよく分かった。
449: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:48:04.61 ID:JmSjLlxCo
(何も罪悪感に縛られることなんてない。夢は夢だし、現実は現実だ。かといって現実が真実とは限らない。
 おまえがここを現実と呼べば、他のことはすべて――夢でしかなくなるんだ)

 だからなんだよ。

(だから、永遠にここに居ればいいだろ)

 それも悪くないな――。

「――なんて言うと思ってるのかよバカ野郎……!」

 上条当麻の声が、暗い闇に反響した。黒い天蓋がガラスのように砕け散り、光が差し込んだ。

 けれどこの空間から逃れることはできない。

 影が徐々に溶けていくと、黒い水で形作ったような蠢きが姿を現した。

 それはやがてひとつの人間の形に近付き、上条当麻の影のような姿になった。

450: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:48:38.14 ID:JmSjLlxCo
 耳元で囁くような声ではなく、空間に響くような声で、這い寄る混沌が言葉を吐いた。

「なんでかなあ……。せっかく望み通りにしてやったのに」

 平気そうに、蠢く影が、そんなことを言う。

 心底分からないという声で、彼は言う。その声が――無性に腹立たしい。

「うるせえよ。いいから全部戻せって言ってんだよバカ野郎」

「あのな」

 上条の暴言に、彼は呆れたように言い返した。

「おまえが望んだんだろう? やっぱりやめますじゃねえんだよ。
 おまえ、あれかよ。床屋さんとか言って髪型こんなふうにしてくださいって言って、
 仕上がりが満足いかなかったら理容師さんに「やっぱいいや元に戻せよ」っつーのかよ。ふざけんなタコ」

451: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:49:05.23 ID:JmSjLlxCo
「分かってんだよ」

「何がだよ。何も分かってねえじゃねえかこのクソガキ。てめえふざけてんじゃねえよ。俺の苦労無視しやがって」

「だから、分かってんだよ」

 何が、と影は問い返す。上条は、その気持ちを言葉にするのに、途方もない苦労を必要とした。

「勝手なのも無理言ってんのも分かってんだよ。そんなの承知の上で、お願いします、っつってんだよこっちは。頭下げてんだよ」

 上条が言い切ると、彼は苦笑した。

「下げてねえだろ、頭」

「下げてんだよ。めちゃくちゃ下げてんだよ。あれだ、もうめり込むくらいに。精神的には」

「おまえバカだろ」

 ようやく気付いたのか、と上条は溜息をつく。

452: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:49:33.45 ID:JmSjLlxCo
「今までありがとう。もうホントに良いから。帰って良いから。
 あとおまえが持ってきた、あのなんかよく分かんない力みたいなのも持ってってくれる?
 アレがあるとすごい混乱するから。ホントに」

 あのなあ、と影が呆れる。上条は辺りを見渡した。ここには何もない。

 影はしばらく黙ったまま上条の様子をうかがっていた様子だったけれど、上条が何も言わないのを見て、諦めたように息をついた。

「分かったよ。出来る限りは戻してやるよ」

「……ホントに? ありがとう。助かる。あとあのあれ、できればでいいんだけど、普段通りの生活に戻れるようにしてもらえるか?」

「図々しいなおまえ」

「おまえこそマッチポンプのくせに偉そうなんだよ」

 影はおかしそうに笑った。やけに和やかだった。

453: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:50:05.69 ID:JmSjLlxCo
「でも、その後のことは責任を持てないよ。俺がしたことは時間封鎖を与えたことだけだから、あの衝動は最初からおまえのものだ」

 上条はそのことを、充分すぎるくらいに理解していた。

 彼女たちを守ると同時に、汚したいと望んでしまう自分の気持ちに、既に気付いていた。

「俺はおまえの望みを叶えたけど――おまえの本当の望みに関しては、協力してやれないよ」

 あたりまえだバカ、と上条は言い返す。

「俺が叶えるんだよ。おまえになんて譲ってやるつもりはないね」

454: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:50:33.18 ID:JmSjLlxCo
 上条の望みはすなわち――「それはいつまで?」ということだ。

 結局のところ、今がどれだけ幸福でも、いずれそれらは失われてしまう。

 今が楽しければ楽しいほど、それが過ぎ去ってしまうのが恐ろしくなっていく。

 今日はいいかも知れない。明日も、明後日も、来週も来月も、来年も。

 でもその次は? 再来年、その次、十年後、二十年後まで、彼女たちは一緒にいてくれるだろうか。

 彼女たちは自分と一緒にいてくれるだろうか。自分を頼ってくれるだろうか。

 上条だけでなく彼女たちが、大人になり、家庭を持ち、それでも彼女たちは――みんなと一緒にいられるのだろうか。

 そんな心配をするのはいやだった。いつかいなくなるかも知れない、なんて考えるのは怖かった。

455: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:51:02.11 ID:JmSjLlxCo
 だから上条は、今日だけを望んだ。

 世界から時間を奪った。単純に、時間封鎖という力だけではなく――――彼は、世界から日付を奪っていた。

 今日が何月何日か、上条当麻は思い出せない。

 けれどその時間は、何日も前から止まっている気がした。

 明日が来れば何が起こるか分からないから、彼はその可能性のすべてを世界から奪った。

 時間封鎖なんてそのついでに過ぎない。

 日付を思い出そうとすれば頭がズキリと痛み、そこで思考は停止してしまう。

 それでも尚考え続ければ、頭が灼けるように痛み、狂いそうになってしまう。

 そのことでもたらされた現実が、上条に記憶として残っている。

456: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:51:31.28 ID:JmSjLlxCo
 永遠に繰り返される日々。何の違和感もない日常。

 その無限に続く日々が、彼の魂を蝕んで行った。その記憶は、確かにあった。

 でももういい。

「じゃあな、ヒキコモリ野郎」

 言い返そうとしたところで、影の気配が既に消えていることに上条は気付いた。

 言い逃げだ。今度会うときの為に、何か悪口を考えておかなければならない。

 でも、できれば二度と会わない方がいいことを、とうの昔に彼は知っていた。

 差し込む光が、徐々に強くなっていく。

 上条はそうしてようやく、停滞した時間から抜け出した――。

457: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:52:20.33 ID:JmSjLlxCo
 ――また、炎だった。

 轟々とうねりをあげる赤は、意識を取り戻したばかりの上条には少し眩しかった。

 やがて目が慣れていき、徐々に正常な感覚を身体が取り戻していく。

 そうしてようやく、彼は自らを取り巻く状況に気付いた。

 消え入りそうな闇や、目を灼く眩さの光、薄ら寒い赤い世界に接してきた彼は、
 意識を取り戻した途端、今度は真っ赤な炎に逃げ場を失っていた。 

「……アフターサービス、手、抜きすぎだろ」

 よくよく考えれば、「元通り」と言ったはずなのに、時間封鎖に巻き込まれてからの記憶は確かにあった。本当にろくでもない奴だ。

「あの野郎……」

 ぼやきながらも、上条の口元は自然と笑みをつくってしまう。

458: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:52:47.41 ID:JmSjLlxCo
 今まで、長い長い夢を見ていた気がした。それは実際にあったことなのだけれど、既にその現実感は失われてしまった。

 彼はようやく現実に戻ってくることができた。

 彼はようやく、停滞した時間から抜け出すことができた。

 それだけで、上条は叫び出したいほど嬉しかった。

 ――はずなのに。

 溜息をつく。この状況はなんだろう。

 とりあえず、炎の中だった。

459: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:53:14.74 ID:JmSjLlxCo
 どうしてここにいるのかは思い出せない。今まで時間封鎖の中にいたからだろうか?

 それとも、あの影は世界そのものの方を変えてしまったのだろうか?

「戻す」というのはそういうことだ、という理解の仕方もできるが――。

 難しいことは分からない。元に戻っても、上条はものを深く考えるのが苦手だ。

 上条はポケットに入った携帯電話を取り出す。

 ――九月十二日。

 はあ、と溜息をつく。気分はまだ夏なのに、季節は既に秋だった。

 別に炎で暑いから、ってわけじゃない。

460: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:53:41.70 ID:JmSjLlxCo
「参ったなあ、これ」

 そういえば、御坂美琴が能力者による放火が多発しているって話をしていなかったっけ。

 それはあの中の記憶だろうか。外の記憶だろうか。

 ――いや、どっちでもだ。

 彼女はあの以前から、上条に注意を促していた。そして上条はそれを聞き流していた。

 能力による発火なら、上条はこの炎を消すことができるのか……? 試す気にはなれなかった。

 とりあえず脱出しないといけないわけだけれど、と上条は考える。

461: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:54:21.15 ID:JmSjLlxCo
 そもそもここはどこだろう。

 自分の行動圏内にこんなに広い建物はあっただろうか。

 どこかの百貨店、だろうか。作りとしては、そんな感じがする。

 どういう事情か知らないが、上条当麻はこのデパートに訪れ、そこで火事に遭って逃げ遅れている、らしい。

 さっさと逃げておけよ、自分、というのが本音だが、かといって自分のことは責められない。

 どちらかと言えば、これはあいつからの最後の嫌がらせなのだろう。

 仕方ない。

 これくらいは、まぁ、許容範囲内だ。

 むしろ何事もなく、目をさましたら隣に禁書目録が居て、なんていうのは虫が良すぎる。

 このくらいがちょうどいい。

 さて、どうやって逃げだそう、と思考を始めた上条の耳に――誰かの咳が聞こえた。

462: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:54:46.75 ID:JmSjLlxCo
 その少女は、ちょうど上条が立っていた場所から隠れた壁際でうずくまっていた。

 逃げ遅れたのだろうか。

 御坂の話では、今まで放火による死者は出ていなかったという。

 比較的小さな建物が多かったからだ。

 だとすれば彼女が最初の死者となるのかも知れない。

 げほ、げほ、と咳が続く。上条は白井黒子のことを思いだして、胸を痛めた。

「大丈夫か?」

 大丈夫なわけがないな、と自分て否定しながら、彼女に尋ねる。

「え?」

 少女は呆然と、上条を見返した。そのときはじめて、彼女は彼に気付いたらしかった。

463: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:55:15.97 ID:JmSjLlxCo
「大丈夫じゃないよな」

 上条は言ったが、彼女は何が起こっているのか分からない様子だった。

 その様子が、状況をまったく把握できていない表情が、彼女たちのものと重なって、頭がズキリと痛んだ。

 あの影は悪趣味だ。こんなおまけを残していった。

 もしかしたら、きっと、たぶん、彼女たちと接するたびに、上条は彼女たちのあの表情を思い出すのだろう。

 充分すぎる痛みだった。都合が良かった。何の痛みもなかったら、きっと自分は狂っていた。
 
 これくらいでちょうどいい――本当に、自分が望んだ世界だ。都合のいいことばかりが起こる。

 感謝の言葉を口にするつもりにはなれなかったが、上条は影の声を思い出してわずかに微笑した。

464: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:55:47.33 ID:JmSjLlxCo
「まったく……不幸だな」

 少女は荒い息を吐いて、涙をこぼしていた。煙が目に沁みたのか、それ以外の要素からかは分からなかった。

 上条はずっと、こちら側に戻ってきてから、違和感を抱いていた。

 なくしていないのではないか、という違和感。

 だから上条は、少しだけ恐怖していた。

 また自分が、アレを使ってしまったら、今度こそ現実に、すべてを失ってしまうのではないかと考えた。

 そのときはきっと、やり直しの機会など与えられないだろう。
465: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:56:14.62 ID:JmSjLlxCo
 でも、そう、ちょうどいい。

 ――時間封鎖を人助けの為に使うのも、まあ、悪くない。

 上条は時間封鎖を行った。ただでさえ赤く染まった世界が、更に、赤い光を纏った。

 不思議と、以前のような万能感はなかった。代わりに、誰もいない孤独の中で、言いようのない寂しさだけが募った。

 すぐに彼女を部分解除しようとして、少し迷った。

 彼女に触れなければ部分解除をすることはできない。

 自分は、それができるだろうか。停滞した時間のなかで、彼女を傷つけずにいられるだろうか。

 迷って自らの手が宙にさまようままに任せておくと、不思議な既視感に気付いた。

466: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:56:41.17 ID:JmSjLlxCo
 彼女の顔に見覚えがあった。思わず膝を見る。無傷だった。

 彼女は、あの中で上条が最初に出会った少女だった。

「…………」

 それに気付いた瞬間、諦念や行き当たりばったりだった上条の心が、ひとつの感情に支配された。

 彼女を助けたい。

 自然と手が動いて、彼女の頬に触れていた。

 伝いかけていた涙に触れた瞬間、彼女の時間は動きはじめた。

467: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:57:14.52 ID:JmSjLlxCo
 彼女は最初、ひどく動揺していた。
 
 やがて上条の姿に気付いた瞬間、驚いて身体を震わせた。
 
 ――大丈夫だ、と思う。

 きっと、大丈夫。それがいつまで続くか分からないが、彼女を見ても劣情は抱かない。

 それは明日には消えてしまう自制かも知れない。いつまで耐えきれるかは分からない。
468: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:57:50.83 ID:JmSjLlxCo
 けれどもうどうしようもない。

 望みを叶えるには、それに耐えるしかない。

 望むものと欲するものが、必ずしも一致するとは限らない。

 望むものを手に入れるためには、やっぱり、自分が頑張るしかないのだ。奇妙な満足感に上条は包まれていた。

 上条は彼女を見て、なるべく警戒されないように、両手を挙げて距離をとった。

「大丈夫か?」

469: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:58:29.72 ID:JmSjLlxCo
「……え?」

「怪我とか、ないよな?」

「……あの」

「なに?」

「いつからそこにいました?」

 それよりもっと、気にすることがあるのではないかと思う。

 上条は応えず、時間封鎖された炎に触れてみる。消えない。既に異能ではないという扱いなのだろうか。

 どこからどこまでが殺せる幻想なのだろう。どこからどこまでが殺せない現実なのだろう。
470: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:59:32.00 ID:JmSjLlxCo
「――なに、それ」

 彼女は炎に触れた上条の右手を呆然と見る。時間が止まっていることに、ようやく気付いたようだった。

「まあ、いいから逃げるぞ。ここが燃えてるってことくらいは分かるだろ?」

「え……」

「いいから。説明は後だよ。別に時間制限とかないけど、落ち着かないだろ、この中」

 上条はそういって、彼女の手を引っ張って強引に立ち上がらせる。

 煙を吸って頭が朦朧としていたのか分からないが、彼女はふらふらと上条の胸に寄りかかり、意識を失った。

「――こういうとき」

 上条はその姿を見て、ふっと過ぎった感覚を独白した。

「役得かなぁって思うくらいは、別にいいよな……」
471: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 22:59:58.64 ID:JmSjLlxCo
 上条当麻は彼女の身体を背負い、その状態で時間封鎖を行った。

 やはり、時間封鎖が行われている間も呼吸はできる。けれど煙を吸うことがない。不思議だった。

「さて」

 行かなきゃ。

 出口はどっちだったかな。

 上条は少女の体重を背負いながら、炎に巻かれた道の出口を探した。

 帰ってから、どうしようか。
472: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 23:00:25.12 ID:JmSjLlxCo
 とりあえず、全部を正直に話すという選択肢は、上条の中にはなかった。

 そうするべきという考えは頭に浮かんだけれど、でも、あの中でさえ、それをした結果は最悪のものだった。

 自分の記憶の中にとどめておくのが一番だろう。――単に、自分が怖がっているだけかもしれない。

 怖くて何がおかしい。開き直るとだいぶ楽になった。

 誰かに嫌われるかも知れないなんて、誰かがいなくなるかも知れないなんて、怖いのは当たり前だ。

 肝心なのはその結果を避ける為に自分がどうするかだった。

「言いたいことがあるなら、言いたいことをはっきり決めろよ」

 じゃないと飲み込まれるぞ、と耳元で声が聞こえた気がした。

 大丈夫、今度は分かっている。

473: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 23:01:12.97 ID:JmSjLlxCo
 ああ、そういえば。

 携帯をもう一度開いて、時刻を確認する。四時半過ぎだった。

 さて。

 ここから抜けたら、禁書目録の飯を用意してやらないと。

 アイツは夕方にはきっと、腹を空かせて唸っているだろうから。

 街を歩けば御坂美琴に会えるかも知れない。

 そういえばこの世界では、初春飾利とは初対面になるのだろうか? すごく奇妙な感覚だった。

 白井黒子にあんな目を向けられる心配もない。

474: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 23:01:43.33 ID:JmSjLlxCo
 上条は少し迷った。

 伝えるべきか、伝えないべきか。

 ――どちらでも同じことだ。

 言う必要があったら言ってしまおう。

 悪い夢をみたんだ、という風に、伝えてしまおう。

 そうしないと耐えれないというのなら、伝えてしまえばいい。

 殺されない程度に。

 でも、彼女たちには嫌われたくないな。

 いや、彼女たちだけではない。身勝手だけれど、上条は誰にも嫌われたくない。

 あんなことをしておいて今更だけれど、上条は誰にも嫌われたくない。誰にも憎まれたくない。

 当分は秘密のままだな、と上条は自身の感情に折り合いをつける。

475: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 23:02:11.62 ID:JmSjLlxCo
 まあ、いいさ。どうにかなるだろう。

 上条当麻は楽観していた。久々の現実の感覚に酩酊していたのかもしれない。

 構わなかった。

 この先どんなことが起きても、別にもう構わない。

 悲しいことが起きたら悲しむし、嬉しいことが起きたら喜ぶだろう。

 それは当然の権利で、義務だ。

 だからもう、逃げ出す必要はない。

 上条はようやく、出口に辿り着いた――。
476: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 23:02:37.51 ID:JmSjLlxCo
おしまい
477: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 23:05:58.13 ID:PSybnERBP
これは正統派Happy Endかな
479: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 23:12:16.21 ID:mPsVxAOyo

なんだかんだで美琴○姦シーンが一番興奮した
切なさと背徳感と訳の分からない感じがヤバい
480: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 13:44:54.82 ID:E7yQZSdBo
アフターシナリオを今日か明日投下して、その後html化依頼出して来ようと思います
483: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 18:00:56.73 ID:E7yQZSdBo

 休日の朝、柔らかな日差しを磨りガラス越しに受けて、上条当麻は目を醒ました。

 間接が微妙に痛む。狭い浴槽では仕方がない。

 ――いい加減、同じベッドは無理としても、どこからか布団を入手してくるべきかも知れない。

 さて、と起きあがる。日曜だけれど、ゆっくり寝てはいられない。

 そもそもこの場所では疲れがとれないし、二度寝する気にもなれないのだが。

 上条は風呂場から出てキッチンへと向かう。冷蔵庫の中身を確認する。何もない。

 ベッドに目を向けると、禁書目録はすやすやと枕を抱いて眠っていた。

 彼女が蹴飛ばした布団をかけ直して、上条は溜息をつく。

 ――大丈夫。何の心配もいらない。

484: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 18:01:34.68 ID:E7yQZSdBo
 時刻は五時半だった。昨日は疲れて帰ってきて、すぐに眠ってしまったから、普段より早く目が覚めてしまった。

 そういえば昨日は風呂に入っていない。シャワーを浴びるくらいはしておこう。曲がりなりにも火事現場にいたのだから。

 風呂から上がったら、そうだな。休日だし、禁書目録を連れて出掛けるのもいいかも知れない。

 カーテンを開けると、空は既に明るいけれど、太陽はまだ赤かった。鳥の影が建物を縫うように動いていく。

 普通の世界でしかないその光景に、上条は叫び出したいほどの喜びを覚えた。

 ――夢じゃない。現実だ。

 上条はしばらくリビングに座ってぼーっとしていた。七時半を過ぎても目を醒まさない禁書目録を、布団を剥いで強引に起こした。

「な、なに……?」

「起きろ禁書目録、出掛けるぞ」

「と、とつぜんなに、とうま? 昨日は疲れたからゆっくり寝させてくれって言ってたのに」

 禁書目録は瞼をこすりながら言う。小さく口を塞ぎながらあくびをした。

485: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 18:02:01.21 ID:E7yQZSdBo
「冷蔵庫の中空っぽなんだ。食べにいかないとならないだろ。準備して出掛けよう。そしたら、おまえの服も買いに行こう」

「え?」

「いつまでも針のむしろじゃ、さすがにな」

「で、でもとうま。お金ないんじゃ……」

「何とかなる。あと、布団も買ってきたいんだ。風呂場で寝るのもキツくなってきたからさ」

「私は別に一緒のベッドでも……」

「それはマズいんだって」

 禁書目録が最後まで言う前に、上条は笑って言った。

「とうま?」

「それはちょっとだけマズいんだ」

 こんなふうに自然に言い返せたことがあったかな、と上条は考えた。よく思い出せない。

486: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 18:02:28.23 ID:E7yQZSdBo
 店が開き始める時間帯に合わせて、上条と禁書目録は街へと繰り出した。

「さて。朝食はどこで摂ろうか……」

「とうま、私はコンビニのお弁当でも別にいいんだよ?」

 上条の羽振りがいいせいか、禁書目録は反対に遠慮しはじめた。何かを勘づいたのかも知れない。

「高いところは行けないけど、まぁファミレスでいいか? 朝からファストフードっていうのもな……同じようなもんだけど」

「とうま? 私の話聞いてるのかな?」

 話は聞いていたが、従うつもりはなかった。

「さ、行くぞ禁書目録」

「……ふ、不幸なんだよ……」

 思わず、上条の口から笑みがこぼれた。

487: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 18:02:56.23 ID:E7yQZSdBo
 ファミレスに入って注文を済ませると、禁書目録はそわそわと落ち着かないそぶりを見せていた。

「どうした?」

 上条が問いかけると、禁書目録は困ったように眉間を寄せる。

「どうしたもこうしたもないんだよ。とうま、今日はちょっとへんかも。何かあったの?」

「いや、まあ」

 どう答えようか、悩む。何もないと言えば何もなかった。

 けれど、上条の心境を変化させることは確かにあって、でもそれは説明するのが難しい。

 上条が言い淀んでいると、禁書目録はテーブルの上にのせられた彼の手を掴んだ。

「悩みがあるなら相談して欲しいんだよ、とうま。私はいつもお世話になってるわけだし、とうまのためにできることがあればしたい」

 彼女は真剣そのものの表情で、上条に問いかけた。けれど、彼は上手に答えることができない。

「いや、そのな……」

 上条は、また迷った。彼女たちにはしばらく、秘密にしておくと決めたのだ。

 いつか、そのときが来たら、そうしなければならないと上条が感じるときがきたら話そうと決めていたのだ。

 禁書目録の目は、真っ直ぐと上条を見据えていた。

488: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 18:03:23.43 ID:E7yQZSdBo
 その視線が少し眩しくて、上条は目をそらす。

「実はな……」
 
 上条の頭が混乱してくる。心臓が強く脈打って、呼吸が徐々に難しくなっていくように感じた。

 そのとき、気付いた。自分は緊張しているのだ。

「実は、その、俺さ……」

 なんていえばいいのだろう。彼女はどんな顔をするだろうか。

「あの、不治の病で」

「え?」

「……ごめん、違う。そうじゃなくて――」

 思わず出たごまかしに、彼女は怒るだろうと思った。言い訳をしようとしたところで、禁書目録が上条の手を握り直した。

489: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 18:03:53.89 ID:E7yQZSdBo
「とうま、ごめんなさい」

「――え?」

 彼女は心配そうな表情で、上条の顔を覗き込んでいた。

「無理に言おうとしなくていいの。私は、とうまに苦しんで欲しいとか、そんなこと思ってないんだもん」

 禁書目録の言葉を聞いて、上条の緊張がほどけていった。そうだ。彼女は、そういう人間だった。

「言いたいことがあるなら、言えるようになってからでいいよ。無理はしなくていいから」
 
 彼女はそこで一度言葉を句切って、頭の中で言うべきことをまとめているように間をおいて、言った。

「今じゃなくていいんだよ。ずっと言わなくてもいい。だからね、とうま。
 とうまが言いたくなったら、そのときは、我慢しないで、言ってください。私はちゃんと、話を聞くんだよ」

 そういって、彼女は慈母のような表情で微笑んだ。

490: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 18:04:21.13 ID:E7yQZSdBo
 禁書目録の服を買って店を出ると、時刻は既に正午を回っていた。

「……あの。本当に良かったの?」

 良くない。金銭的には。でも、しょうがない。自分が、彼女のもっとオシャレした姿を見たいと思ってしまったのだから。

 彼女は店内で既に服を着替えていた。

 ついでに買った髪留めで後ろに髪を二つ結びにしていて、
 普段より幼く見えるのか、それとも大人びて見えるのかは、微妙なところだ。

 女の子の服の善し悪しなんて分からないから、とりあえず禁書目録に似合いそうなものを買った。

 彼女は英語のプリントされたシャツを見つけるたびにうんうん唸ってその解読に尽力していたようだったが、
 当然、あんなものに意味なんてないようなものなので、不可能に終わった。

「さて……この後どうするか」

「とうま! 質問に答えてほしいんだけど。お金、大丈夫なの?」
 
 正直に言えば大丈夫じゃない。

「……この服、上下で三万円近くだったよね?」

「――――」

 月の食費分、である。

491: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 18:04:48.91 ID:E7yQZSdBo
 一応、今すぐ食べるに困らないというほどではない。上条だって必要になれば服くらいは買っていたし、
 さりとて余裕があるわけでもないので、いざというときの為にいくらか残していた金から引き下ろしたのだった。

「と、とうま。服を買ってくれるのは嬉しいんだよ? 
 その、とても。でもその、無理してまではいいというか、それで生活が苦しくなったらどうしようもないというか……」

「……大丈夫」

「大丈夫なの?」

「……多分」

「……本当に大丈夫なの?」

 たぶん、としか、上条は答えられなかった。

492: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 18:05:24.21 ID:E7yQZSdBo
「私、思うんだけど……」

 家路につく途中、押し黙っていた禁書目録が口を開いた。

「家事、しようと思うんだよ」

「……気をつかわなくなっていいんだぞ?」

 上条が言うと、彼女は「とうまこそ」と言い返す。

「もうちょっと私に気を遣ってもいいはずだよ。
 私だって何もしないまま居候してるなんて、ちょっと罪悪感があるというか……何かしてた方が、気が楽なんだよ」

 そういう気持ちは、今の上条には痛いほど分かった。

「だから、できることから覚えていこうと思うの。結局なんでもかんでもとうまに任せっぱなしだし……」

 私だって、とうまの力になりたいもの。そんなふうに彼女は言った。

 上条はその変化を、喜ぶべきか戸惑うべきか迷った。

 彼女に何かをさせてしまっていいのだろうか?

493: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 18:05:52.14 ID:E7yQZSdBo
 嬉しいことではあるはずだった。何もしてもらえないよりは、
 ふたりで協力して一緒に生活していく方が気が楽だし、彼女に何かを相談できるようになれば、上条としても心強い。

 かといって、彼女にそれができるか、という不安もあった。

 要領はいいはずだし、やってやれないことはないだろう。

 きっと、上条の何倍も上手にこなすかも知れない。

 だからこそ尚更、上条としては悩みどころだった。

 禁書目録がそれをするということは、自分がすることがなくなってしまうことにも近かった。

 完璧にこなされては立つ瀬がない。妙なプライドもあった。

 だから、上条は妥協案を挙げた。

「じゃあ、一緒にやってみるか? 家事」

 彼が問いかけると、禁書目録は嬉しそうに頷いた。

「うん!」

494: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 18:06:27.23 ID:E7yQZSdBo

正真正銘おしまい

明日あたり依頼出してきます

495: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 18:08:34.51 ID:Hl8R+gKuP
美琴と初春のフォローはなしなのか。
まぁとりあえず乙。


かなり楽しませてもらったぜ。

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