- 1: 2016/03/16(水) 00:09:57.99 ID:tffZCrC+O
- 『がっこうぐらし!』と『亜人』のクロスオーバーです。
ストーリーは基本的に原作準拠。物語の時間軸は、『がっこうぐらし!』が1巻、『亜人』が5巻の途中からとなります。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1458054597
- 2: 2016/03/16(水) 00:15:14.21 ID:tffZCrC+O
- ーー学園生活部
由紀「おっはよ〜!」
胡桃「おはようって、もう昼だぞ」
由紀「あまいね、くるみちゃん! 業界では時間に関係なく『おはようございます』が基本なんだよ!」
胡桃「業界って、どの業界だよ。てか、『ございます』までちゃんと言えよ」
由紀「くるみちゃん、細かい〜」
悠里「二人とも、おしゃべりはそこまで。お昼ごはんできたわよ」
由紀「は〜い。って、あれ?」
悠里「どうしたの、ゆきちゃん?」 - 3: 2016/03/16(水) 00:17:38.55 ID:tffZCrC+O
- 由紀「う〜ん。出前の人かなあ?とっても急いで走ってる人がいる」
悠里「走ってるって……まさかっ……!」
胡桃「っ……どこだ、ゆき!」
由紀「ほら、あそこ。校庭からまっすぐこっち向かってきてる」
胡桃「校舎に入った! りーさん、行ってくる!」
悠里「くるみ! でも、もう……」
胡桃「無茶はしないよ、りーさん。大丈夫だから」 - 4: 2016/03/16(水) 00:19:05.81 ID:tffZCrC+O
- 由紀「くるみちゃん、ごはん食べないの……?」
胡桃「食前の運動だよ。だから勝手にわたしの分まで食うなよ、由紀。それからりーさん、念のためにもう一人前用意しておいてくれ」
由紀「ひどいよ、くるみちゃん!わたし、そこまで食い意地はってないよ!」
悠里「無茶しないでね……くるみ……」
由紀「はやく帰ってきてね、くるみちゃん。待ってるから」
胡桃「おう!じゃ、行ってきます」
- 5: 2016/03/16(水) 00:21:35.93 ID:tffZCrC+O
- ーー校舎一階
胡桃(たしかこの辺りから入ってたな)
胡桃(“あいつら”の数がいつもより多い……さっきの人を追ってきたのか……)
胡桃(これじゃ望みは……)
……ゴホッ……
胡桃(!……咳き込む声……こっちか!)ダッ - 6: 2016/03/16(水) 00:22:50.75 ID:tffZCrC+O
- 胡桃(この部屋だ。中で“あいつら”が動いている気配はない……)
胡桃(慎重に戸を開けて……)
ガラ……ガラ……
胡桃(“あいつら”はいないな……)ホッ
「……だれ、だ……」
胡桃「!」
「……せ、い、存者か?……」
胡桃「ああ。あんた、大じょう……」ハッ - 7: 2016/03/16(水) 00:24:33.47 ID:tffZCrC+O
- 胡桃(酷い……これは、無理だ……)
「……悪、いな……外の、やつ、ら……中、につれ、て……」
胡桃「そんなこと気にすんな!ほら、水だ。飲めるか?」
胡桃「!」
胡桃(このひと、指を切り落とされてる……)
「それ、よ、り……たの、み、があ、る……」
胡桃「何だ?できることなら何でもするぞ」 - 8: 2016/03/16(水) 00:27:33.53 ID:tffZCrC+O
- 「“あいつら”……みたい、に……なる、前に……」ハァハァ
スゥ-ハ-
「殺してくれ」
胡桃「そ、んな……!」
「首、は……落と、す、な……頭を、潰、せば……だ、い、じょぶ、だ……」
胡桃「そういう問題じゃ……!」
「は、やく……して、くれ……自分、じゃ、むり……なん、だ」
胡桃「あたしはっ……! あんたを助けようと……!」 - 9: 2016/03/16(水) 00:29:56.58 ID:tffZCrC+O
- 「だ、から……たの、んで、る……ん、だろ……」
ガタガタガタガタッ!
胡桃「!」
「はや、く……しろ……!」
胡桃「わかったよ! クソッ!」
「た、す……かる……」
胡桃「一撃で送ってやるからな……!」
「あ、り、……が、とう……」 - 10: 2016/03/16(水) 00:31:55.50 ID:tffZCrC+O
- 胡桃「ッ〜〜〜!」ギュッ
グチャッ!
胡桃「………………」
胡桃「……ごめん……」
ガシャン!
胡桃「!」
胡桃(“やつら”が教室に入ってきた)
胡桃「逃げないと……!」ダッ - 11: 2016/03/16(水) 00:34:44.04 ID:tffZCrC+O
- ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
……じゅわ……
……じゅわ……じゅわ……
パチリ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー - 12: 2016/03/16(水) 00:37:57.34 ID:tffZCrC+O
- ーー学園生活部
由紀「あっ、くるみちゃん遅いよ〜。もうお昼ごはん、冷めちゃったよ」
由紀「くるみちゃん、走って出て行ったから今日のメニュー知らないでしょ! 今日はねえ、ミートソーススパゲティなんだ!」
胡桃「……わりい、由紀。あたし、昼いらないや」
由紀「ええ?! せっかく、りーさんが作ってくれたのに」
胡桃「ああ、そっか。わりい、りーさん」
悠里「いいのよ、そんなこと」チラ
- 13: 2016/03/16(水) 00:40:04.85 ID:tffZCrC+O
- 悠里「……スコップ、洗ってきたのね……」
胡桃「ああ」
悠里「えっと、お茶でも飲む?」
胡桃「ん? ああ、うん。飲もうかな」
悠里「はい」
胡桃「ん、ありがと」ズズ
由紀「くるみちゃん、大丈夫?」
胡桃「……いや……」
胡桃「なんか、疲れたな」 - 14: 2016/03/16(水) 00:42:33.29 ID:tffZCrC+O
- ーー夜
悠里「くるみ、起きて」
胡桃「どうした、りーさん?」
悠里「隣に誰かいるみたいなの」
胡桃「ほんとか。まさか、“あいつら”じゃないよな」
悠里「わからない。わたしもさっき気がついたばかりだから」
胡桃「数は?」
悠里「たぶん一人」 - 15: 2016/03/16(水) 00:44:03.07 ID:tffZCrC+O
- 由紀「どうしたの、ふたりとも?」
二人「!」ハッ
胡桃「起きたのか、ゆき」
悠里「ごめんね、うるさかった?」
由紀「ううん。なんかあったの?」
胡桃「ちょっと物音がしただけだ。りーさん、あたしちょっと見てくるよ」
悠里「お願いだから無理しないでね」
胡桃「ああ。わかってる」 - 16: 2016/03/16(水) 00:46:27.32 ID:tffZCrC+O
- ーー廊下
胡桃(部室の戸が開いてる。やっぱり誰かいるんだ)
胡桃(“あいつら”のうちの一匹がバリケードを越えてきたのか? クソッ、暗くてよく見えない)
胡桃(こっちにおびきよせてみるか)ポイッ
コロコロコロ
「?」
胡桃(よし。ピンポン玉に反応した)
胡桃(出てきたところで、やつの足を引っ掛けて……) - 17: 2016/03/16(水) 00:48:21.42 ID:tffZCrC+O
- 胡桃(いまだ!)グイッ!
「!」
バタッ ゴンッ
胡桃「転んだ!」バッ!
由紀「待って、くるみちゃん!」
胡桃「?!」
悠里「ゆきちゃん?!」 - 18: 2016/03/16(水) 00:51:21.99 ID:tffZCrC+O
- 由紀「くるみちゃん、そんなことしちゃダメだよ! その人、痛がってる!」
胡桃「バカッ! いいから隠れてろ!」
「……痛っえ……」
胡桃「!……生きてる……?」
悠里「うそ……人間なの……?」
胡桃「わりい。あんた、大じょう……」
カラン
- 19: 2016/03/16(水) 00:52:54.50 ID:tffZCrC+O
- 悠里「くるみ?」
胡桃「嘘だろ……なんで……」
「ええ? ああ、アンタか」
胡桃「だって……わたしは、アンタを……!」
「ニュース見てなかったのか。こうなる前はさんざん報道されてたのに。まあいい」スクッ
「僕は永井圭」 - 20: 2016/03/16(水) 00:55:24.57 ID:tffZCrC+O
-
永井「亜人だ」
- 22: 2016/03/16(水) 01:20:06.94 ID:7T/uDPn4O
- 面白そうなクロスだ
- 26: 2016/04/03(日) 18:11:06.26 ID:ZcFmlIvKO
- ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
由紀「ようこそ! ここが巡ヶ丘高校の学園生活部の部室なんだよ!」
永井「学園生活部?」
由紀「うん。学園生活部っていうのはね、学園での合宿生活によって、授業だけでは触れられない……えっーと……」
胡桃「授業だけでは触れられない学園の様々な部署に親しみ、自主独立の精神を育み、皆の規範となるべし」
由紀「そう! つまり学校で生活して立派な生徒になろうねって部活なの!」
永井「それって、君たち三人だけなの?」
由紀「めぐねえもいるよ」 - 27: 2016/04/03(日) 18:12:16.04 ID:ZcFmlIvKO
- 永井「他にも誰かここに?」
悠里「そ、それはね……」
由紀「めぐねえは学園生活部の顧問なんだ。それでりーさんが部長で、わたし丈槍由紀とくるみちゃんが部員なの。……ああっ。大丈夫! めぐねえは影うすくなんかないよ!」
永井「えっと……」
悠里「あっ、わたしがりーさん。若狭悠里です」
胡桃「あたしが恵飛須沢胡桃」
永井「……よろしく」 - 28: 2016/04/03(日) 18:13:54.26 ID:ZcFmlIvKO
- 由紀「それでね学園生活部はいま……えっ、なに? めぐねえ……はーい、佐倉先生。……うーん、でもいまは夜だしさ……またあとで着替えるんじゃない?」
永井「……」
悠里「な、永井君。よかったらこれ食べない?」
永井「ミートソーススパゲティか。僕がいただいてもいいの?」
悠里「ええ、お口に合えばいいんだけど」
永井「ありがとう。いただきます」
由紀「それ、くるみちゃんのじゃないの?」
悠里「ちょっと、ゆきちゃん!」
- 29: 2016/04/03(日) 18:15:43.97 ID:ZcFmlIvKO
- 胡桃「いいっていいって。それよりゆき、お客さんが食べてるときは静かにしとけよ」
由紀「はーい」
悠里「ごめんなさい。騒がしくって」
永井「いや、お邪魔してるのは僕のほうだからね。この料理を作ったのは君なの?」
悠里「あんまり期待しないでね。料理っていうほどのものじゃないのよ。ただ麺を茹でてソースをかけただけだから」
永井「へえ、水が利用できるんだ」
由紀「屋上に水を綺麗にする機械があるからね! あと太陽の光で電気を作ってるから、天気のいい日にはシャワーも浴びられるんだよ!」
胡桃「ゆき、 静かにしろって言っただろ!」
由紀「ううっ、くるみちゃんこわいよぉ」
永井「……」
- 31: 2016/04/03(日) 18:17:23.05 ID:ZcFmlIvKO
- 永井(学校は災害時の避難場所に指定されるものだけど、これほど設備が整っているところはめずらしいな)
永井(太陽電池に浄水設備、食料も他人に分け与える程度の余裕がある。セーフゾーンとしては申し分ない)
永井(問題は僕がここに長期にわたって滞在できるかどうか)
永井(丈槍さんはともかく、他の二人は僕に対して警戒心を抱いている。だが、亜人に対する特別強い差別感情があるわけでもなさそうだ)
永井(この状況下における、当然ありうるべき見知らぬ他人に対する警戒。だが僕が想定していたものより、かなりガードは甘い)
永井(これなら、交渉次第ではうまく潜り込めるかもしれない)
永井(そうなると、留意すべきは丈槍さんについてだな) - 32: 2016/04/03(日) 18:19:04.30 ID:ZcFmlIvKO
- 永井(彼女の、まるで何事も起きてないかのような言動と振る舞い。それに誰もいない空間にむかって会話している。幽霊でも見えているかのように)
永井(まあ、こんな状況下だし、こういうのが出てきてもおかしくはない。気になるのは、他の二人がそういった人物を許容している点だ)
永井(若狭さんにしても恵飛須沢さんにしても、丈槍さんの空想にのっかっている節がある)
永井(彼女たちにとっても情緒を正常に保つにはそうしたほうがいいということか? だとしたら亜人を所属させることの実利を説くよりも、別の方向から交渉を進めたほうがいいかもしれないな)
由紀「ねえねえ、けーくんは転校生なんだよね?」
- 33: 2016/04/03(日) 18:20:32.79 ID:ZcFmlIvKO
- 永井「は?」
由紀「だから学校に来たんでしょ?」
永井「いや。ていうか、前の学校ならたぶん退学になってるんじゃないかな」
由紀「そうなの!? どうしよう……あ、そうだ! ちょっと待ってて!」
胡桃「ゆき、どこ行くんだ?」
由紀「すぐそこまで! すぐもどってくるから」ガララッ
胡桃「校長室か。すぐ正面の部屋だな」
悠里「なら大丈夫ね」
胡桃「だな」
- 34: 2016/04/03(日) 18:22:07.34 ID:ZcFmlIvKO
- 胡桃「……」チラッ
永井「丈槍さんってさ」
胡桃・悠里「「!」」ビクッ
永井「こんな状況でも明るいんだね」
悠里「え、ええ。わたしたちはあの子の明るさに助けられているの」
永井「この学園生活部っていうのも彼女の発案なのか?」
胡桃「いや、考えたのはめぐねえとりーさんだ」
悠里「毎日ただ暮らすのも疲れるから、いっそ部活の合宿っことにしましょうって」
永井「めぐねえ……さっき丈槍さんが言ってた人のことか」
- 35: 2016/04/03(日) 18:31:24.30 ID:ZcFmlIvKO
- 悠里「ええ。佐倉慈先生」
永井「その人、いまは?」
悠里「……もう、いないの」
胡桃「……」
永井「そっか。……丈槍さんにとっては親しみやすい、いい先生だったんだろうね」
悠里「わたしたちにとってもね」
胡桃「めぐねえがいなきゃ、この部活もたぶんなかったろうしな」
永井「……学校に来たのはずいぶん久しぶりだけど、前の学校にはそんなにいい先生はいなかったよ。僕も会ってみたかったな」
胡桃「……」
悠里「……」
- 36: 2016/04/03(日) 18:38:19.30 ID:ZcFmlIvKO
- 永井(言葉にこそ出さないが、彼女たちは亜人発覚後の僕の置かれた状況と、現在の自分たちを重ね合わせている。やはり交渉の内容は情緒面に訴えるものにするべきか)
悠里「ねえ、永井君」
永井「なに?」
悠里「もし……」
ガララッ!
永井「!」
由紀「たっだいま〜」
永井(間の悪い……)チッ
- 37: 2016/04/03(日) 18:39:20.24 ID:ZcFmlIvKO
- 悠里「ゆ、ゆきちゃん、もうもどってきたの?」
由紀「うん! 探してたものがみつかったから」
胡桃「校長室でなに探してたんだよ?」
由紀「これだよ! はい、けーくん」
永井「これって、制服?」
胡桃「こんなの校長室にあったっけ?」
悠里「たぶん、来客への展示用じゃないかしら」
胡桃「でも、どうして制服なんか持って来たんだ?」
由紀「だって、せっかく新しい学校に入ったのにちゃんとした服装じゃなかったら、けーくんまた退学になっちゃうよ」
- 38: 2016/04/03(日) 18:40:51.74 ID:ZcFmlIvKO
- 胡桃「え、入学決まってるのかよ」
由紀「めぐねえはいいって言ってるよ。それに学園生活部に入って学校で過ごせば卒業するための出席日数も足りるって」
胡桃「そうはいってもさあ……りーさん、どうする?」
悠里「え、えっーと……そうねえ……」
永井(……マズイな。丈槍さんの提案が突飛すぎて、他の二人が戸惑ってる。なんとかして二人の意識を別なところへ向けないと)
由紀「けーくんはどう? 学園生活部!」
永井(こいつ……余計なことしか言わないのか)
- 39: 2016/04/03(日) 18:42:17.91 ID:ZcFmlIvKO
- 永井「……いい部活だとは思うよ」
由紀「絶対いいよ! それに新学期だからね。新しい学期には新しい部活だよ!」
永井「新学期?」
由紀「もうはじまってちょっと経つけど問題ないよ。ねっ、めぐねえ」
永井「……」
永井「……若狭さん、今日が何月何日かわかる?」
悠里「え? たぶん、9月の終わりくらいだと思うわ」
永井「そっか」
永井「……夏休み、とっくに終わってたんだ」
- 40: 2016/04/03(日) 18:43:43.04 ID:ZcFmlIvKO
- 胡桃「……」
悠里「……」
永井(さっきまでの戸惑いが多少薄れてきたな。この反応ならいけるか?)
永井「若狭さん。恵飛寿沢さん。お願いだ。丈槍さんと佐倉先生の提案を受け入れてくれないか」
永井「こんな状況で、いきなり現れた人間を不審に思うのはよくわかる。それに僕は亜人だ。普通なら警戒してしかるべき人種なんだってこともよくわかってる」
悠里「そんな……わたしたちは……」
永井「でも、僕は佐藤とは違うんだ! 亜人だってわかるまで、ほんとにただの高校生で……それが突然、なにもかもメチャクチャになって……」
永井「命があるだけで幸運だって思わなきゃいけないんだろうけど……でも、僕はもといた場所に、学校に戻りたいんだ」
永井「だから、お願いします。少しのあいだでいい。僕をここにいさせてください……お願いします……」ツ-
由紀「け、けーくん、泣いてるの!? だ、大丈夫だよ! りーさんもくるみちゃんもきっとわかってくれるよ!」
- 41: 2016/04/03(日) 18:45:45.47 ID:ZcFmlIvKO
- 胡桃「……」
悠里「……わかったわ」
永井「!」
悠里「学園生活部のルールをちゃんと守ってくれるのなら、わたしたちはあなたを歓迎するわ」
胡桃「いいのか、りーさん?」
悠里「ええ。もちろん、寝る場所は別々だけど」
永井「……ありがとう」ゴシッ
由紀「やったね、けーくん!」
永井「丈槍さんもありがとう。佐倉先生にもお礼を言わなきゃね」
由紀「聞いた?! めぐねえ、けーくんがありがとうだって!」
- 42: 2016/04/03(日) 18:47:09.74 ID:ZcFmlIvKO
- 悠里「ふふっ。よかったわね、めぐねえ」
由紀「そうだ! 歓迎会しようよ!」
悠里「それは明日にしましょ。もう夜も遅いし」
胡桃「ほんと、ゆきはさわがしい……」
グウウゥ-
胡桃「……」
由紀「くるみちゃん、おなかの音おっきいね」
胡桃「ううっ……///」カアア
悠里「お、お昼からなにも食べてないからよ。なにか用意するわ」
永井「……これ、食べる?」
胡桃「いらない……」
- 48: 2016/04/06(水) 17:52:21.11 ID:QtTLVjR3O
- ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
胡桃「ただいま」
悠里「朝の見回り、ご苦労さま」
胡桃「ゆきは?」
悠里「ゆきちゃんなら、もう教室で授業を受けてるわ」
胡桃「永井はどうしてる?」
悠里「彼なら屋上にいるわ。いろいろと見て回りたいって言ってたけど」
- 49: 2016/04/06(水) 17:53:29.80 ID:QtTLVjR3O
- 胡桃「そっか……」
悠里「なにか気になることでもあるの?」
胡桃「うーん……あんま、うまく言えないんだけどさ……」
悠里「なに?」
胡桃「いや、永井のやつ、ずいぶんあっさりとゆきのことを受け入れたなって思ってさ」
悠里「どういうこと?」
- 50: 2016/04/06(水) 17:54:46.18 ID:QtTLVjR3O
- 胡桃「こんなこと言うのもアレだけどさ……こんな状況でいまのゆきを見たら、普通は驚くとか戸惑うとかするんじゃないかって思って……あたしらだって、はじめはそんなだったじゃん」
悠里「それは……確かにそうだったけど……」
胡桃「それなのにあいつはさ、めぐねえにもちゃんと対応して受け答えしてたんだぜ。その様子を見てたら、なんかさ……」
悠里「……考えすぎじゃない?」
- 51: 2016/04/06(水) 17:56:07.78 ID:QtTLVjR3O
- 胡桃「そうかな?」
悠里「だって、めぐねえのことは事前に説明していたんだし、それに彼だって大変な目に遭ってきたんだから……」
胡桃「それは……まあ……」
悠里「くるみのほうこそ、大丈夫なの?」
胡桃「えっ、あたし? なにが心配なんだよ?」
- 52: 2016/04/06(水) 17:57:27.50 ID:QtTLVjR3O
- 悠里「永井君がここに来たとき、とてもひどい怪我をしてたんでしょ? だから、その……」
胡桃「ああ……いやそれは、むしろラッキーだろ? だって生き返ってきたんだぜ。ふつうありえないだろ、そんなこと? それに、永井自身もたしかそんなこと言ってただろ?」
悠里「ほんとにそう思ってる?」
胡桃「ああ。思ってる思ってる。大丈夫だって」
悠里「……なら、いいけどね」
- 53: 2016/04/06(水) 17:59:46.22 ID:QtTLVjR3O
- 胡桃「うん。問題ないって」
悠里「……あっ、そうだ。永井君の歓迎会の準備しなきゃ」
胡桃「でも、もうあんまり物資も残ってないんじゃなかったか?」
悠里「そうね。だから、永井君には歓迎会のあとでいきなり大変な仕事に付き合わすことになっちゃうわね」
胡桃「まあ、それはあいつもわかってるだろ」
悠里「たぶんね……ふふっ」
胡桃「どした?」
悠里「歓迎会の食べ物はたっぷり用意してあげるから。もうおなかを鳴らさないで済むわね」フフッ
胡桃「ちょっ、りーさん。勘弁してくれよ、も〜」
- 57: 2016/04/06(水) 22:22:34.51 ID:QtTLVjR3O
- ーー屋上
永井「屋上なのに菜園まであるのか、ここは」
永井(本当に設備が充実してるんだな。学園案内には、自主自立だとか自給自足だとか書いてあったけど、それにしてもこれは……)
永井「まあ、なにを目的にしていようが、いまはこの設備が利用できるだけありがたいか」
永井(しかし、とりあえずはここで生活するとして、その後はどうするか)
永井(現在は9月末。戸崎さんと交渉した日が9月3日。あれから20日程が経過している)
- 58: 2016/04/06(水) 22:24:07.63 ID:QtTLVjR3O
- 永井(あの日、僕との交渉中に戸崎さんの携帯に入った連絡。いま思えば、あれはこの事態を告げるものだったんだろう)
永井(相手の話はスピーカー機能で僕も聞いたが、混乱していて要領を得ない内容だった)
永井(だがたしかに伝わったことは、それが亜人捕獲の命令だったということだ。大方、亜人の肉体を利用した原因究明と治療用ワクチンの生成が目的なんだろうけど)
永井(それにしても、あの日の僕はいくらなんでも不運過ぎるだろ)
永井(戸崎さんに携帯に出るのを進めたのがマズかったか……いや、どうせ後から同様の命令が伝わり、僕らは拘束されていた)
永井(そう思ったから戸崎さんに許可を出したんだし、彼の恋人のいるあの場なら、強硬確保に出られても恋人を利用すれば逃げ延びられることも可能だったはず……)
- 59: 2016/04/06(水) 22:25:45.67 ID:QtTLVjR3O
- 永井(……やっぱりどう考えても中野が悪い。いくらなんでも、僕が行動しようとする直前に天井から落ちてくるかよ)
永井(そのせいで、こっちは幽霊を放つタイミングは遅れるし、麻酔銃に撃たれるし、戸崎さんの隣の女性の幽霊で押さえつけられてリセットできないし……あいつ、僕の役に立つどころか足を引っ張ることしかできのか)
永井(おかげで研究所に逆戻りだ。なんとか逃げ出せたのは研究所にもやつらが発生したからだが、それは同時に事態の深刻化を意味する……)
永井(政府がこのままこの事態が収束できないでいると、いよいよ佐藤さんのグループが勢力を拡大していくことになっていくだろう)
永井(高度な戦闘能力を持つ亜人の集団。やつらなんて大した脅威にはならない。武器食糧、活動の拠点となるアジトも複数存在しているはず)
- 60: 2016/04/06(水) 22:27:31.29 ID:QtTLVjR3O
- 永井(もともと亜人だった者に、今回の事態で亜人だと発覚したやつ。すべてとはいわないが、行動を共にしようとする者も必ず出てくる……)
永井(いや、亜人だけじゃない。人間のなかからも生き残るために、佐藤さんに協力するやつも出てくるはずだ)
永井(このまま放置しておけば、事態は確実に悪化の一途を辿ることになる……仮にこの状況がこの近辺の局地的なものだとしても、佐藤なら意図して被害を全国的に拡散させることも可能……)
永井(“私がこの国を統治する”……ただのアジテーションだったはずのこの言葉が、嫌なリアリティを持ち始めてきている。亜人を利用してきた人間にとっては、僕以上に生々しく響いているだろう)
永井(だからといって、僕が佐藤さんのグループに参加することはできない。グラント製薬での一件を抜きにしてもだ)
- 61: 2016/04/06(水) 22:30:21.32 ID:QtTLVjR3O
- 永井(佐藤さんの言う“第3ウェーブ”、国家統治が実現したとして、それでどうなる?亜人テロリストがパンデミックの混乱時に政権を奪った国家だぞ? )
永井(ハッ、そんなものを国際社会が認めるはずがない。せいぜい、ならずもの国家扱いされるのがオチだ。あの人についていったところで、僕の望む平穏な暮らしは到底得られない)
永井(佐藤さんに合流するのは論外。そもそも、すでに敵対してるし。だからといって、政府側の人間との協力も不可能……)
永井「クソッ。どうしようもないだろ、こんなの」
永井(佐藤さんがなにか行動を起こす前に、政府がこの事態を収束させてくれればすべては杞憂におわるんだが……)
- 62: 2016/04/06(水) 22:32:11.17 ID:QtTLVjR3O
- 永井「希望的観測だな。すでに一ヶ月が経とうとしてるのにいまだこんな状況だし……」
ガチャ
由紀「あ、けーくん、ここにいたんだね」
永井「丈槍さんか。なにか用?」
由紀「もうすぐお昼ごはんだから、りーさんが呼んできてって」
永井「わかった。すぐ行くよ」
- 63: 2016/04/06(水) 22:34:39.00 ID:QtTLVjR3O
- 由紀「けーくん! 今日のお昼のメニューはなんだと思う!?」
永井「さあ? なんだろ?」
由紀「それはね〜、そのときになってからのお楽しみ!」
永井「あそう」
永井(気楽でいいよな、こいつは)
由紀「あ、あれ? もしかして、あんまり楽しみじゃない感じ?」
- 64: 2016/04/06(水) 22:36:18.94 ID:QtTLVjR3O
- 永井「そんなことないよ。ちょっと考え事をしてたから」
由紀「けーくん、頭良さそうだよね。きっととってもむずかしいこと考えてたんでしょ?」
永井「どうだろうね」
由紀「でもね、たまには楽しいことをしたほうがいいよ! そのほうが、頭もスッキリするってめぐねえも言ってたよ!」
永井「……」
永井(まあ現状、対処のしようがない問題に頭を悩ませても仕方がないか)
- 65: 2016/04/06(水) 22:38:49.65 ID:QtTLVjR3O
- 永井(いま考えるべきは、食糧物資の調達方法と設備の維持。このあたりの地理を把握することと移動手段の確保も重要だな)
永井(いずれ、外に物資を調達しなければならないようになる。そのときにはここ以外にも拠点となる場所を調べる必要が……)
由紀「あっ、ついたよ」ガラッ!
パァン!!
永井「!」ピクッ!
- 66: 2016/04/06(水) 22:40:39.25 ID:QtTLVjR3O
- 悠里・胡桃「「学園生活部へようこそ!」」
永井「……」
由紀「けーくん、ポケットに手を入れてどうしたの?」
胡桃「あれ?もしかして、スベった?」
悠里「や、やっぱり子どもっぽかったかしら?」
永井「いや、大きな音にびっくりしただけだよ。わざわざありがとう。歓迎会までしてもらっちゃって」
- 67: 2016/04/06(水) 22:42:46.61 ID:QtTLVjR3O
- 悠里「よかった。安心したわ」
由紀「ほら、けーくん! お菓子がいっぱいだよ!」
永井「ほんとだ。でも、こんなに用意しちゃって大丈夫なのか?」
胡桃「どっちにしろそろそろ補給に行かなきゃいけないからな。タイミング的にここでパーっとするのもアリだろ?」
永井「なるほど。納得したよ。それにこんなに食べ物があるんなら、恵飛寿沢さんも安心だしね」
- 68: 2016/04/06(水) 22:46:03.93 ID:QtTLVjR3O
- 胡桃「それ、どういう意味だよ!」
悠里「はい。おしゃべりは一旦おしまい。乾杯しましょう」
由紀「かんぱ〜い」
永井「乾杯」
永井(……咄嗟にカッターナイフに手が伸びてしまったな。せっかくのセーブゾーンだ。長く滞在するために、不審感を与える行動は避けないと)
- 73: 2016/04/09(土) 11:55:12.12 ID:Nr/4Jb4JO
- ーー夜
由紀「きっもだっめし、きっもだっめし」
胡桃「ちょっとは緊張しろよ」
悠里「ゆきちゃんは怖くないの?」
由紀「うーん、本物の幽霊に会ったら怖いかな。けーくんはどう?」
永井「そのときになってみないと分からないかな」
由紀「だいじょうぶだよ。ここ学校だから、何にもでないって」
悠里「ええ」ピタ…
悠里「たしかにこの時間、学校は誰もいないわ」ボソッ
悠里「だからね、誰もいないはずだけど、もしいたら……」ウフフフ…
- 74: 2016/04/09(土) 11:56:30.50 ID:Nr/4Jb4JO
- 由紀「い、いるわけないじゃん」ゾゾゾ…
悠里「そうね」パッ
悠里「知ってる? 幽霊ってね、すごく寂しがり屋で人の声によってくるんですって」ガチャ ポチ
由紀「じゃ、つけちゃだめじゃん!」
胡桃「幽霊なんていないんじゃかったっけ?」
由紀「も、もちろん! でもさ、万が一ってことが……あるよね?」アセアセ
悠里「だから、これはここにおいてあっちの階段から行きましょ」
由紀「なるほど! りーさん、頭いい!」
悠里「それじゃ、出発しましょ」
由紀「はーい」
永井「……」
- 75: 2016/04/09(土) 11:58:19.43 ID:Nr/4Jb4JO
- 胡桃「どうした? むずかしい顔して」
永井「丈槍さんもこっちに来てよかったのか?」
胡桃「うーん……まあ、りーさんが大丈夫って言ってたし。それにあいつ、けっこう素早いから」
永井「でも、あいつらのことをちゃんと認識してるわけじゃないんだろ?」
悠里「ゆきちゃんにはめぐねえがいるから大丈夫よ」
胡桃「りーさん」
永井「例の先生か」
悠里「ええ。ゆきちゃんが危ない目に遭わないように、めぐねえがちゃんと注意してくれるの」
永井「……ふぅん」
由紀「なになに、なんの話?」
- 76: 2016/04/09(土) 11:59:45.16 ID:Nr/4Jb4JO
- 悠里「永井君がさっきのゆきちゃんを見て、ほんとは怖がりじゃないかって心配してたの」
由紀「こ、怖がってなんかないよ。さっきのは、ほら、万が一のときにそなえて、念には念をいれてってやつだよ!」
悠里「それに、めぐねえもいるからね」
由紀「うんうん。ほら、あそこの階段のところで待ってるよ」トテトテ
悠里「転ばないでね、ゆきちゃん」
永井「………」
永井 (解離性同一性障害の交代人格のなかには主人格を無謀な行動や危険から守る保護者人格や救済者人格があるが、丈槍さんのいう“めぐねえ”もそういった類の存在か?)
……めぐねえ、もっと静…… ボソボソ
永井 (丈槍さんの言動や症状、またそうなった原因を聞く限り、解離性障害に患うには十分な理由はある)
……せ、せっかくだからみんなで……
永井 (だが、やはり違和感が残るな。妄想症や幻覚症状があるわりには、丈槍さんが日常生活を送ることに困難さを感じているようには見えない)
……そうね。そうしましょ……
永井 (周囲の人間が彼女の空想を受け入れているのも、これが大きな要因だろう。ルールを設定したり、注意を促しさえすれば彼女はそれに従う)
- 77: 2016/04/09(土) 12:01:09.64 ID:Nr/4Jb4JO
- ……わーい……!
永井 (それにわりと周囲の雰囲気に敏感だしな。そうした点が他の二人の不安やストレスを緩和しているとしたら、彼女はこのセーブゾーンの維持にけっこう貢献しているのかもな。彼女の病状が本物か詐病かは、それに比べれば些細なことだ)
……最初は購買部。次は図書館。みんなで……もしはぐれたら……まで戻ること……
永井 (しかし、だとしたら彼女が崩れた場合が怖いな。亜人でない限りいつ死ぬかわからない状況だし、丈槍さんが再びショックを受ければ病状が悪化する可能性もある)
永井 (今後生存者がここにやってこないとも限らない。その人物が丈槍さんや他の二人の態度に批判的だったとしたら、ここの安定性は簡単に揺らぐだろう……)
永井 (理を説いて納得する人物なら問題ないが、感情的な理由でここの安定性を攻撃してくるような人物だったとしたら、最悪の場合僕がそいつを始末しなければならなくなる)
永井 (そうした手段はあまり取りたくない。殺人罪に問われることのリスクはそれほど考えなくてもいいが、死人が出ること自体、彼女達にとっては心理的なマイナス要因になる……)
胡桃「永井、おまえ、りーさんの話ちゃんと聞いてたか?」
- 78: 2016/04/09(土) 12:02:52.08 ID:Nr/4Jb4JO
- 永井「最初は購買部。次は図書館。何か証拠の品を取ってくる。はぐれた場合は声を出さずにこの階段まで戻ってくる」
胡桃「なんだ。ちゃんと聞いてたのか。またなんか考え込んでたのかと思った」
永井「こんな状況なんだ。考えなきゃいけないことだらけだろ」
胡桃「まだゆきのこと心配してんのか? あたしからしたら、おまえがカッターナイフしか持ってきてないことのほうが心配だよ」
永井「これはあいつらを倒すためじゃないよ。リセットのために持ってきたんだ」
胡桃「リセットって……」
永井「噛まれてから死ぬまでいちいち待ってられないだろ?」
胡桃「そりゃ、そうだけどさ……」
永井「それから、基本的にリセットは僕が自分でするけれど、万が一それが不可能な場合は恵飛須沢さんにお願いしようと思う」
胡桃「あ、あたしが?! なんで?!」
- 79: 2016/04/09(土) 12:04:17.01 ID:Nr/4Jb4JO
- 由紀「くるみちゃん?」
悠里「どうかした?」
胡桃「い、いや。なんでもない」
悠里「そう?」
由紀「おっきな声だしちゃってたさ。くるみちゃんこそ怖がりなんじゃないの?」
胡桃「うっせ。はやく行けよ」
由紀「はーい」
永井「……あの二人には頼めないだろ? それに君ならいちど僕を殺してるしな」
胡桃「……」
永井「別に責めてるわけじゃない。あんな状況なら、たとえ僕が亜人じゃなくても同じことを頼んでたよ」
胡桃「……わかった。でも、万が一のときだけだからな」
- 80: 2016/04/09(土) 12:05:51.38 ID:Nr/4Jb4JO
- 永井「あと、もうひとつ言いたいことがある」
胡桃「なんだよ。まだなんかあるのかよ?」
永井「恵飛須沢さんがリセットすることになったとき、断頭だけは絶対に避けてほしい」
胡桃「亜人なんだろ? たしかにいやな死に方だけど、生き返るならそんなに気にしなくても……」
永井「……亜人は最も大きな肉片を核に散らばった肉片を集めて再生する。だが、離れすぎた部位は回収されず新たに作られることになる」
永井「それが頭だった場合どうなるか? 新たに頭部が作られるということは切り離された頭部は回収されず、そこにある脳は死ぬ。記憶や心は受け継がれても、いまここにある僕の意識はそこで終わる」
永井「死んだ脳にあった意識が新たに作られた脳に乗り移るなんてことはありえない。前の僕と同じように見えても、それは同じ設計図をもとに作られた別の脳が意識というプログラムを実行しているにすぎない。そこにアイデンティティの連続性はない」
- 81: 2016/04/09(土) 12:07:28.27 ID:Nr/4Jb4JO
- 永井「わかるか? 定義上の問題とはいえ、これは亜人にとっての死だ。断頭はこういった事態を引き起こしかねない」
胡桃「……正直、よくわかんねえ」
永井「……スワンプマンって知ってるか?」
胡桃「スワンプシング?」
永井「それは元ネタのほうだろ」ハア
胡桃「……よくわかんねえけど、それをやったら死んじまうんだろ? 新しい頭が生えてきても、おまえにとっては死んだのと同じってことなんだろ?」
永井「……ああ」
胡桃「わかった。断頭は絶対にしない」
永井「……助かるよ」
悠里「ふたりとも、もう購買部よ」
- 82: 2016/04/09(土) 12:08:53.00 ID:Nr/4Jb4JO
- 由紀「幽霊……いないよね」
悠里「油断は禁物よ」
ガラッ
胡桃「……だれもいないな」
由紀「ふぅー。あっ、証拠の品だっけ? 何取ってもいいの?」
悠里「いいのいいの。ちゃんとお金は払うし」
由紀「わーい」タタタ
永井 (ずいぶん律儀だな)
悠里「永井君も必要なものがあれば
取っていってね」
永井「そうだな……耳栓ってここに置いてある?」
- 83: 2016/04/09(土) 12:10:19.10 ID:Nr/4Jb4JO
- 悠里「ええ、たしかあっちの棚にあったと思うわ」
永井「そうか。人数分あればいいけど」
悠里「わたしたちの分も?」
永井「うん。またあとでちゃんと説明するけど、あいつらにも亜人の“声”が通用するんだ」
悠里「ほんとに?!」
永井「ただ、あんな状態だからか普通の人間より効果は短めだけどね。周りに人間がいる状況じゃむしろ危険だ」
悠里「そっか。だから耳栓なのね」
永井「ああ。丈槍さんにはとくによく言い聞かせておいて」
悠里「わかったわ」
永井「さてと、さすがにカッターナイフだけじゃ心許ないよな。なにか他にリセットに適した道具は……」テクテク
- 84: 2016/04/09(土) 12:12:28.74 ID:Nr/4Jb4JO
- 由紀「あっ。くるみちゃん、けーくん〜。見て見て。これ20倍に膨らむんだって!」
胡桃「おいおい。何に使うんだよ」
永井「風船か。ヘリウムガスでもあれば外にSOSを発信できるけど」
胡桃「あったぞ。たぶん理科室だ」
悠里「どうかした?」
胡桃「りーさん、理科室にヘリウムガスのボンベが置いてあったよな?」
悠里「ええ。でもそれがどうしたの?」
胡桃「風船で手紙を出すんだよ。ほれ、ゆき」
由紀「はい、これ」
悠里「そうか、これなら……!」
由紀「けーくんが思いついたんだよ」
- 85: 2016/04/09(土) 12:13:34.07 ID:Nr/4Jb4JO
- 悠里「ほんとに? 永井君、すごいわ」
永井「そんなにたいしたことはないよ。まさかヘリウムガスが学校にあるなんて思わなかったし」
永井 (さっきのは失言だったな。外部の人間を招くきっかけになる行為は僕にとってデメリットが大きい。それが行政機関による救助ならならおさら)
永井 (とはいえ止めるのも不自然か。まあ、これくらいならいずれ彼女達も思いついただろう)
永井「それにしても風船って。駄菓子屋かよ」
胡桃「んなこと言われてもなあ」
永井「……それは?」
胡桃「高枝切りバサミ」
永井「……高校の購買部だよな?」
胡桃「たぶん、用務員が使うんだろ」
永井「ああ。工具はひと通り揃ってるな。工具ベルトもある」スッ
- 86: 2016/04/09(土) 12:14:31.31 ID:Nr/4Jb4JO
- 胡桃「それ、持ってくのか?」
永井「使える道具は多いほうがいいからな」ガチャガチャ
悠里「みんな、もう証拠の品は手に入れた?」
胡桃「おう」
悠里「じゃ、次は図書館ね」
由紀「けーくん、その腰に巻いてるの、なに?」
永井「工具ベルトだよ」
由紀「あ、それサスペンダーがついてるんだ。おそろいだね!」
永井「……」
永井 (あとで外しておくか。佐藤さんみたいな格好になるのは嫌だからな)
- 91: 2016/04/13(水) 12:07:10.84 ID:6cw4R5o0O
- ーー図書室
ガラッ
由紀「く、暗いね。電気つかないかな?」
悠里「そしたら肝試しじゃないでしょ。あ、足元気を付けてね」
パリッ
永井「かなり荒れてるな」
胡桃「放課後だったからな。まだ生徒がいたんだろ」
永井「なら、まだここに残ってるかもしれないな」
悠里「どうするの?」
永井「僕が入口から部屋の奥に向かって順に確認していく」
胡桃「だったら、あたしは入口を見張るよ」
永井「頼む」
由紀「え、えっーと……」
悠里「ゆきちゃんはわたしといっしょに本を探しましょ」
由紀「はーい」
- 92: 2016/04/13(水) 12:08:05.02 ID:6cw4R5o0O
- 胡桃「あたしから見えるとこでな」
悠里「わかってるわ」
永井「もしやつらを見つけたら、ライトを天井に向けて3回点滅させる。他に緊急の場合はライトを回転させる。それでいいか?」
胡桃「了解」
悠里「わかったわ」
永井「よろしく」スタスタ
永井 (図書室か。この地域の地理が知りたいな)
テクテク..チカッ...
永井 (脱出ルートの特定のほかに防災倉庫の位置なんかも把握しておきたい)
テクテク...チカッ...
永井「地図資料はこのあたりか」
永井 (本のまま持っていくのは面倒だな。必要なページだけ取っていくか)ペラッ...ビリビリッ
- 93: 2016/04/13(水) 12:09:28.04 ID:6cw4R5o0O
- 永井「とりあえずはこれでいい」
タタタッ.......アッ......ユキチャン......
永井「……若狭さん、あんた大丈夫だって言っただろ……」
永井 (これぐらいでライトを回すなよ……)
永井「はあ。たしかあっちに走っていった……!」
ユラ......ユラ......
永井 (いたか)カチ...カチ...カチ...
永井 (丈槍さんのほうに向かっている……ここで対処するしかない)
永井 (声で動きを止めてもいいが、すこし距離がある)
永井 (光でおびき寄せ、書架のあいだに誘導するか。せまい直線上だ。声で動きが止まったところをうしろから恵飛須沢さんに対処してもらえばいい)ピカッ...ピカッ...
- 94: 2016/04/13(水) 12:11:24.98 ID:6cw4R5o0O
- ア...アア...
永井「来るか」
タタタッ...
胡桃「!」
永井「こっちも来たか」
永井 (待て待て……まだ襲うなよ……)ジェスチャ-
胡桃「……」コクッ
永井 (声を使う……耳栓をしろ……)パッパッ...トントン...
胡桃「……」スッ
永井 (準備は整った……あとはタイミング……恵飛須沢さんの武器だとこんなせまい場所じゃ扱いづらい……一撃で仕留められなかった場合に備えすぐに追撃可能な距離に来るまで待つ……)
ヒタ...ヒタ...
永井 (近すぎたら僕のリスクが増す……まだ遠い……のろいな……とっと動けよ……まだだ……あと一歩……)
ヒタ...ヒタ...
オオ...!
永井 (よし!)
- 95: 2016/04/13(水) 12:13:06.97 ID:6cw4R5o0O
- 永井 『“止まれ!”』ビリビリ!
ダッ!
胡桃「ふっ!」ズシャッ!
...グラッ...
胡桃「クソッ!」
永井 (角度が浅い! 骨に防がれた!)パシッ!
永井 (この位置じゃ脊椎は狙えない。こめかみのあたりは骨が薄い。そこをドライバーで突き刺す)ドスッ!
ゴッ...ガァッ!
永井「チッ! ケガ防止のために先が丸いのか!」
永井 (もう一度! 今度は下から突き上げるかたちで……!)ドシャッ!
...グジュ...ジュ...ジュグ...
...バタン...
永井「……よし。死んだな」
胡桃「わりい。仕損じた」
- 96: 2016/04/13(水) 12:14:52.66 ID:6cw4R5o0O
- 永井「お互いケガなく済んだんだ。上出来だよ」ビリッ
胡桃「おい、それ学校の本だぞ」
永井「血を付けたままにしとくわけにもいかないだろ」スッ-...バサッ...
胡桃「おっ、いまの武士みたいでカッコいいな」
永井 (ガキか)
永井「……丈槍さんは?」
胡桃「りーさんといるよ。隅っこのほうに隠れてた。めぐねえの忠告のおかげだな」
永井「どうせなら問題を起こすまえに忠告してほしかったよ。おかげで余計なリスクを想定しなきゃならなかった」
胡桃「そんな言い方はないだろ」ムッ
永井「恵飛須沢さんも彼女のことを懸念してなかったか?」
胡桃「あたしはゆきのことを“心配”してたんだ」
永井「あそう」
胡桃「……はやく2人に合流するぞ」
永井「わかってる」
- 97: 2016/04/13(水) 12:16:21.88 ID:6cw4R5o0O
- ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ガラッ
永井「おはよう」
悠里「おはよう、永井君」
由紀「けーくん、はやく座って! もうすぐいただきますだよ〜」
悠里「今日はおうどんよ。いま、用意するわね」
永井「運ぶの手伝うよ」
悠里「あら、ありがとう」
由紀「わ、わたしも!」
悠里「ふふっ。ゆきちゃんもありがと」
胡桃「こぼすなよ、ゆき」
由紀「くるみちゃんも手伝いなよ〜」
胡桃「はいはい。飲み物用意するな」
- 98: 2016/04/13(水) 12:17:55.20 ID:6cw4R5o0O
- 悠里「よし、準備できたわね。いだたきますしましょうか」
由紀「いただきま〜す」
胡桃「今日はなにするんだっけ?」ズルル
由紀「忘れたの? 学校から手紙を出すんだよ!」
胡桃「ああ。あの風船でか。でも、手紙といえば伝書鳩のほうがらしいよな!」
悠里「そんなのいないでしょ?」
胡桃「だから、捕まえるんだって」
永井「ヘリウムガスを取りに行かなくていいのか?」
胡桃「ああ〜……じゃ、そっちを先に済ませるか」
悠里「お願いね」
由紀「おかわりー!」
胡桃「早いな! よく噛んで食べろよ」
- 99: 2016/04/13(水) 12:20:01.83 ID:6cw4R5o0O
- 由紀「ちゃんと噛んだよ〜」
悠里「ごめんね。おかわりはもうないのよ。取りに行かないと」
胡桃「じゃ、また肝試しか」ズル-
永井「購買部にはもう残ってなかったよ」
悠里「そう。だから外まで行かないと」
胡桃「外……」チラッ
由紀「じゃあ、めぐねえに聞かないとね」
悠里「そうね。聞いてきてくれる?」
由紀「うん!」スッ
ガラッ
- 100: 2016/04/13(水) 12:21:46.81 ID:6cw4R5o0O
- 胡桃「……めぐねえがいいって言ったらどうすんだ?」
悠里「いつかは出ないとね。足りなくなるのはうどんだけじゃないわ」
永井「調達しに行く場所の目処はついてる?」
悠里「このあたりだとリバーシティ・トロン・ショッピングモールがいちばん近いかな」
永井「丈槍さんも同行するのか?」
胡桃「置いていけるわけないだろ」
永井「なら、昨日の図書館でのようなことはなしにしてほしい。丈槍さんがはぐれたせいで、あいつに対処する際のリスクが高まった」
悠里「ご、ごめんなさい。でも、あれはわたしがちゃんと止めなかったから……」
胡桃「リスクって、おまえ亜人だろ」
永井「だから?」
悠里「ちょっと、くるみ……!」
- 101: 2016/04/13(水) 12:23:40.56 ID:6cw4R5o0O
- ガラッ
由紀「ただいま〜」
悠里「あっ、ゆきちゃん……」
胡桃「……どうだった?」
由紀「ちゃんと文書にして提出しなさいだって。大げさだよね」
胡桃「めぐねえにだって職員会議とかあるんだろ」
永井「ごちそうさま」ガタ
胡桃「どこいくんだよ」
永井「食器を洗ってくる」カチャ...
悠里「そんなのいいのに」
永井「自分の使った食器は自分で洗えっておばあちゃんが…………」
悠里「?」
永井「いや。とにかく自分でやるよ」
由紀「わ、わたしも洗ってくる!」
ガラッ
- 102: 2016/04/13(水) 12:25:02.94 ID:6cw4R5o0O
- 悠里「……くるみ、さっきのはなに? 」
胡桃「べつに。ほんとのことだろ」
悠里「いくらなんでもあの言い方はないわ」
胡桃「あいつも似たような態度だっただろ」
悠里「……ゆきちゃんのことでムッとしてるのね」
胡桃「りーさんはなんとも思わないのかよ」
悠里「永井君はここに来たばかりなのよ。わたしたちと同じようにというわけにはいかないわ」
胡桃「どうかな」
悠里「大丈夫よ。ゆきちゃんのこと、わるく思ってるならいっしょに食器を洗いに行ったりしないもの。それに、昨日のことはわたしの責任。永井君もきっとそう言いたかったのだと思う」
胡桃「なんでそうなるのさ」
悠里「わたしがゆきちゃんは大丈夫って彼に言ったから。永井君はわたしの言ったことをひとまず信用してくれたけど、図書室でのことで余計に心配させることになっちゃったのよ」
胡桃「部長が責任感じる必要はないだろ。あいつはもとからあんなやつだ」
悠里「たとえそうだとしても、永井君はもう学園生活部のメンバーだもの。部長のわたしがしっかりしないとね」
胡桃「りーさん……」 - 103: 2016/04/13(水) 12:26:30.65 ID:6cw4R5o0O
- ガラッ!
由紀「洗い物おわったよ!」バ-ン!
悠里「おつかれさま」
永井「洗った食器はここに置いておけばいいの?」
悠里「ええ」
由紀「めぐねえがけーくんのことをほめてたよ。男の子なのに家のお手伝いしててえらいねって。おばあちゃんに教えてもらったんだよね?」
永井「まあね」
悠里「あら。永井君っておばあちゃんっ子だったの?」
永井「そのひとは僕の親類じゃないよ。つい最近、お世話になっただけ」
悠里「最近……」
永井「その話はともかく、ヘリウムガスを取りに行こう。恵飛須沢さん」
胡桃「まだ食ってる」
永井「なら30分後に」
由紀「食べたら自分で洗うんだよ?」
胡桃「はいはい」
- 107: 2016/04/14(木) 00:37:42.31 ID:Gz6BsManO
- ーー理科室
永井「これがガスのボンベだな」
胡桃「ああ」
永井「台車に載せよう。道中、やつらの姿はなかったし多少の音がしても平気だろ」
胡桃「あと、これも持ってくぞ」
永井「鳥かごとザル……ほんとに鳩を捕まえるのか」
胡桃「なんだよ?」
永井「まあいいや。恵飛須沢さん、ひとりでも大丈夫だよな? 僕はほかに用がある」
胡桃「どこいくんだよ」
永井「工作室だ。ドライバーの先を鋭利にしておきたい。このままだと、武器としてもリセットの道具にしても信用性に欠ける」
胡桃「ゆきのことで文句言っといて、おまえは単独行動なのか」
永井「状況がちがう。丈槍さんの行動はあの場にいた全員にリスクしかもたらさないものだった。それくらいわかるだろ?」
胡桃「……」
- 108: 2016/04/14(木) 00:39:18.10 ID:Gz6BsManO
- 永井「あと、手紙に僕のことは書くなって言っておいて。僕の居場所はだれにも知られたくないし、そっちも面倒ごとには遭いたくないだろ」
胡桃「なあ」
永井「まだなにかあるのか?」
胡桃「おまえも、家族いるよな」
永井「それも報道されてただろ」ハア...
胡桃「心配してないのか?」
永井「どういう意図の質問だよ」
胡桃「ほんとに手紙になんも書かなくていいのか? もし家族のひとに届いたらさ、励みになるんじゃ……」
永井「僕が死んでないってことは伝えなくてもわかってる」
胡桃「そうじゃねえよ……手紙にすること自体に意味があんだろ」
永井「現状、家族の安否は確認しようがない。死んでるかもしれない相手に手紙を出してなんになる? そんなリスクの大きい真似はできないね」
- 109: 2016/04/14(木) 00:40:40.13 ID:Gz6BsManO
- 胡桃「そうか。よくわかった」
永井「ほかになにか?」
胡桃「いや。なんもない」
永井「なら、もういくよ……ああ、そうだ。恵飛須沢さん」
胡桃「なに?」
永井「あれは鳥類には感染しないみたいだけど、保菌してる可能性もある。つつかれたり、ひっかかれたりしないようにしてくれ」
胡桃「おまえの言いたいことはよくわかったよ」
永井「捕まえたあとは手洗いもしておいて」
胡桃「いちいちうるせえなあ」
永井「石鹸でな」
胡桃「わかったって!」
- 110: 2016/04/14(木) 00:42:02.36 ID:Gz6BsManO
- ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ガラッ
悠里「おかえりなさい。永井君」
由紀「おかえり〜」
永井「手紙はもう書き終わった?」
悠里「ええ。永井君に言われたとおりにしてあるわ」
永井「一応、確認させてもらうよ」
ペラッ
由紀「うう……まじまじと見られるとはずかしいね。わたし字がきたないし……」
永井「気持ちのこもってる手紙だと思うよ」
由紀「ほんと?! なんか照れるな〜」
胡桃「……」
永井 (僕のことは一切書かれてない)
永井「これなら問題ないな」
悠里「なら、風船の準備をしましょうか」
- 111: 2016/04/14(木) 00:42:56.74 ID:Gz6BsManO
- 胡桃「……ッよし! なら、こいつにも手紙をつけないとな!」
悠里「待ってくるみ、いま籠を開けたら……」
バサバサバサッ!
胡桃「あ、やべっ!」
由紀「この子、なんか怒ってるよ!」
胡桃「窓開いてる! はやく閉めて!」
悠里「だから待ってって言ったのに!」
永井「……」ハア...
- 112: 2016/04/14(木) 00:44:08.69 ID:Gz6BsManO
- ーー屋上
胡桃「よっしゃあ! ようやく準備完了!」
由紀「いよいよだね!」
悠里「ほんとにね……」
由紀「鳩子ちゃんもがんばってね」
胡桃「ちょっと待て。だれが鳩子ちゃんだ」
由紀「その子だよ。鳩錦鳩子ちゃん」
胡桃「鳩子ちゃんじゃない! こいつはアルノーだ」
由紀「ええー。わたしも名前つけたいー」
悠里「なら、間をとってアルノー・鳩錦でどうかしら?」
由紀「オッケー!」
悠里「永井君もどう? この子の名前つける?」
永井「やめとくよ」
- 113: 2016/04/14(木) 00:45:24.63 ID:Gz6BsManO
- 胡桃「それにしても、アルノー・鳩錦ってハーフみたいだな」
由紀「アメリカとかまで行くかもしれないよ」
永井 (アルノーはフランス語圏の姓名だろ)
胡桃「よっし。それじゃ、アルノー・鳩錦、飛んで……」
由紀「あっ、ちょっと待って!」
胡桃「なんだよ、ゆき?」
由紀「けーくんに見てもらいたいものがあるの」
永井「僕に?」
由紀「うん。はい、これ」スッ
永井 (手紙?)
ペラ...ジッ...
永井「……ここに描いてある男子生徒の絵、まさか僕か?」
- 114: 2016/04/14(木) 00:47:56.58 ID:Gz6BsManO
- 由紀「うん」
永井「僕のことは手紙に書かないでくれって頼んだよね?」
由紀「ごめんね。でも、けーくんも学園生活部のメンバーだから、どうしても4人そろって手紙に書きたかったの」
永井「僕がここにいることがわかったら、僕だけじゃなくみんなが不利益を被る」
由紀「うっ……で、でもさ、けーくんの名前は書いてないし、それにわたしの絵ヘタだから! だから大丈夫! 絶対バレないよ!」
永井「丈槍さん、なんでそこまでこだわるんだ?」
由紀「えっとね……昨日の肝だめしでけーくん、わたしのこと、ほんとは怖がりじゃないかって思ってたでしょ? あのときはそんなことないって言ったけど、そのあと図書室で迷惑かけちゃったから……」
永井「そのことならもういいよ」
由紀「まだあるの! あのとき、けーくんはくるみちゃんといっしょに不良のひとを追い払ってくれたでしょ? でね、そのあとくるみちゃんと話してること、聞こえたんだ」
胡桃「!」
永井 (こいつ……かなり耳がいい)
- 115: 2016/04/14(木) 00:49:55.60 ID:Gz6BsManO
- 由紀「それで、もしかしたらちょっとケンカしたのかなって思って……2人ともすごいのに、仲が良くないのは……なんかさ……」
胡桃「……」
由紀「わたしね、学園生活部ってほんとにすごいと思うの。くるみちゃんは力持ちだし、りーさんやさしいし、けーくんは頭いいでしょ? だからね、そんなみんながいる学園生活部をちゃんと紹介したいんだ」
永井「それでこの絵を描いたのか」
由紀「うん! あっ、でもけーくんにも事情があるみたいだし、ダメだって言うんならこれは出さないから!」
永井「そうだな……」チラッ
悠里「……」
胡桃「……」
永井 (断るのは得策じゃないか……まあ、この絵だけなら僕だと特定することはできないしな……)
永井「わかった。この手紙だけなら出してもいいよ」
由紀「ほんとに?! やったあ!」
- 116: 2016/04/14(木) 00:51:37.58 ID:Gz6BsManO
- 悠里「よかったわね、ゆきちゃん」
由紀「うん! りーさんもありがとう」
胡桃「なんだよ、りーさんも手伝ったのか?」
悠里「ゆきちゃんがどうしてもって言うからね。相談にのってあげたの」
胡桃「あたしには相談なしか」
悠里「あれだけムスッとしてたひとに相談なんてできないわよ」
胡桃「永井が断ったらどうしてたのさ?」
悠里「そうならないように、ここで手紙を渡すようにゆきちゃんに言っておいたの」
胡桃「……こわっ」
悠里「ひどいわね。ちゃんと永井君のお願いもかなえてあるのよ? ゆきちゃんのお願いもかなうように、ちょっと譲歩してもらったけど」
胡桃「いや……だから、それが怖いんだって」
- 117: 2016/04/14(木) 00:52:59.56 ID:Gz6BsManO
- 悠里「まあそれはともかく、どう、くるみ? 永井君とゆきちゃんのこと、まだ不安?」
胡桃「今回はあいつがちょっと妥協しただけだろ」
悠里「最初にしては十分じゃない?」
胡桃「まだやるのかよ」
悠里「お互いに知り合ったばかりだもの。どちらも楽しくすごせるように工夫していかないと」
胡桃「はあ〜……わかったよ。あたしもちょっとは妥協しろってことだろ? でも、あいつの物言いけっこう腹立つんだよなあ……」
悠里「グチなら聞いてあげるわ。部長ですもの」フフッ
由紀「りーさん! けーくんの偽名、どうしよう?」タタタッ
悠里「偽名?」
由紀「けーくんがここにいることがバレたらマズイんだよね? だから、この絵のひとはけーくんじゃありませんよって書いとかなきゃ」
- 118: 2016/04/14(木) 00:54:29.47 ID:Gz6BsManO
- 永井「丈槍さん、余計なことはしなくていいんだって」ハア...
悠里「そうねえ……くるみはどんな偽名がいいと思う?」
胡桃「あー……偽名ってもとの名前に近いほうが都合がいいんだっけ」
由紀「それじゃバレちゃうよ」
悠里「なら外国の名前ならどうかしら? アルノーみたいに」
由紀「りーさん、賢い! なにがいいかな?」
悠里「そうねえ、永井だから……文字数の長い名前なんてどうかな?」
由紀「ダジャレじゃん!」
悠里「ゆきちゃん、そんなこと言うのね……」ゴゴゴ...
由紀「ま、待って、顔が怖いよ、りーさん!」
ナニヲ-...ワ-...ゴミ-ン...
胡桃「あーあー、……とめないのか?」
永井「……なんか面倒くさくなってきた」
胡桃「まあ……だな」
永井「……鳩に触ったなら、部室にもどるまえに手は洗えよ」
胡桃「おまえもたいがい面倒くさいぞ!」
- 119: 2016/04/14(木) 01:01:01.18 ID:Gz6BsManO
- ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
生きているってすばらしい
「おはよー。ねぼすけ。朝だぞー」
私は
「ーー朝だぞー。おはよー」
負けない
「朝……」バチン!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー - 122: 2016/04/16(土) 23:38:23.93 ID:1TzRJcmAO
- ーーーーーー
ーーーー
ーー
胡桃「よし。いつでもいいぜ」
由紀「けーくん、そっちはどう?」
永井「いいよ」
由紀「じゃあ、いくよ。よーい……どん!」
タタタタタタタ……ひゅん!
胡桃「タイムは?」ハアハア...
永井「ん」
由紀「わたしも見せてー」
永井「はい」
胡桃「あちゃぁ」
永井「なんだよ?」
胡桃「タイムだだ落ちだ。練習さぼってたからなー。鍛え直さないとダメだな、こりゃ」
- 123: 2016/04/16(土) 23:39:57.75 ID:1TzRJcmAO
- 永井「……」
由紀「あのさ、くるみちゃん……もしかして……」
胡桃「え、なに?」
永井「シャベル、背負ったままだぞ」
胡桃「あ! そうだった」
由紀「わすれてたの?ほんとに?」
胡桃「うっ……」
由紀「くるみちゃんの愛には妬けちゃうよ。もう、シャベルと結婚しちゃいなよ」
胡桃「なっ……いやほら、道具は体の一部になるまで使いこなすって言うだろ。奥義開眼ってやつ?」
永井「土掘れよ」
胡桃「うるせえ」
永井「もう一回計るか?」
胡桃「いや、いい。これならいける。遠足でもなんでも来い!」
- 124: 2016/04/16(土) 23:40:56.07 ID:1TzRJcmAO
- ーー2日前
由紀「おはよー」
悠里「おはよ」
由紀「あ、ごはんだ!」パアア
悠里「ゆきちゃん、缶詰どれにする?」
由紀「あ、大和煮! 朝から牛なんて! ぜ、贅沢!」
胡桃「昭和かよ。あ、鮭もらうぜ」
悠里「永井君は?」
永井「鯖にするよ」
悠里「はいどうぞ。さて、それじゃ……」
由紀・胡桃・悠里「いただきまーす」
永井「いただきます」
- 125: 2016/04/16(土) 23:42:28.80 ID:1TzRJcmAO
- 由紀「ふっふふ〜ん♪」ムシャムシャ
悠里「ご機嫌ね。ゆきちゃん」
胡桃「うん。すごいこと思いついたからね」
胡桃「昨日の夜言ってたな」
悠里「なにかしら?」
モグモグ...ゴクン!
由紀「遠足いこう! 遠足!」バ-ン!
胡桃「遠足?」
由紀「そろそろ遠足の季節じゃない?」
胡桃「まあ、そうだな」
由紀「わたし気づいたんだ」
悠里「あら。なにに?」
由紀「学校を出ないで暮らすのが学園生活部。でも、学校行事ならでたことにならない!」
悠里・胡桃「……」キョトン...
由紀「……よね……?」
永井「行き先は?」
- 126: 2016/04/16(土) 23:44:12.75 ID:1TzRJcmAO
- 由紀「あっ、それはもう決めてあるんだ。この近くのションピング・モール。いろんなお店があるから、職業見学にもバッチリかなって」
永井「なるほど」
胡桃「いやいや、おかしいだろ。遠足って部でやるもんじゃないし」
由紀「くるみちゃんは頭が固いね! わたしたちの後に道はできるんだよ!」
悠里「それなら提出用の文書を作って、めぐねえに見てもらわないと」
由紀「んふふふ…じゃーん!」
胡桃「むぅ、もうできてんのか」
永井 (ずいぶん準備がいい。それに目的地。よくもまあ、都合のいい……)ズ-...
悠里「そうね、これを見てもらったらいいんじゃないかしら?」
由紀「うん。ごちそうさま! あっ、食器洗わなきゃ……」
永井「確認を取ってきてからにしたら?」
由紀「そうだね! じゃ、聞いてくる〜」
- 127: 2016/04/16(土) 23:45:34.43 ID:1TzRJcmAO
- 悠里「さて、どうしましょうか」
胡桃「めぐねえ待ちだな。ゆきに任せようぜ」
永井「僕も異論はない」
胡桃「意外だな。おまえがそんなこと言うなんて」
永井「物資の補給と外の状況の確認ができるんだ。丈槍さんの提案に反対する理由はない」
胡桃「当然、ゆきも同行するぞ」
永井「ああ」
悠里「ゆきちゃんはわたしが見守っておくわ。それと、あとは足ね。めぐねえの車を使いましょう。運転できる人はいる?」
永井「僕は大丈夫」
胡桃「あたしも何とか」
悠里「あとは車を取りに行く方法ね。駐車場はグラウンドの向こうだから……」
タタタ...ガチャッ
由紀「オッケーだって!」
悠里「あら、よかったわね」
胡桃「じゃあ、いっちょやるか」
- 128: 2016/04/16(土) 23:48:03.28 ID:1TzRJcmAO
- ーーーーーー
ーーーー
ーー
悠里「それで、駐車場まで行く方法だけど……」
胡桃「玄関からじゃ無理だな」
永井「避難梯子でグラウンドに降りるとして、そこから駐車場までの距離は?」
悠里「150メートルってところね」
胡桃「問題なし」
悠里「でも、シャベルを背負っての全力疾走よ?」
胡桃「いけるいける。さっきタイム計った」
永井「グラウンドを突っ切るあいだは耳栓をしたほうがいい。ノータイムで“声”が使えるし、そのほうが安全だ」
胡桃「駐車場についてからは外したほうがいいな。めぐねえの車がわからない以上、そのほうが探しやすい」
永井「そうだな……キーのエンブレムでメーカーはわかってる。他にも何か手がかりがあればいいんだけど」
悠里「めぐねえはたしか1人暮らしだったから、ちいさめの車を使ってたんじゃないかしら?」
胡桃「どっちにしろ、向こうで探してみなきゃわかんねえな」
永井「その前にこの近くのガソリンスタンドの位置を確認しておこう。もし、ガソリンの残量が少なかったらそれも補給しないと」
悠里「それはわたしがやっておくわ」
永井「頼んだよ」
胡桃「じゃあ、いくか」
永井「ああ」
悠里「二人とも、気をつけてね」 - 129: 2016/04/16(土) 23:49:30.45 ID:1TzRJcmAO
- ーー
ーーーー
ーーーーーー
胡桃「よし」キュ
永井「僕が先に降りるが、先頭は恵飛須沢さんが走ってくれ。耳を塞いでない僕が後方にいたほうが危険を察知しやすい」
胡桃「わかった」
永井「下についたら合図する。それまでは待機だ」
胡桃「上見んなよ」
永井「上にやつらはいないだろ」
胡桃「真面目か」
永井「もっとましな冗談を言え。先行くぞ」
カン...カン...カン...
永井「……よし。いいぞ」
カン...カン...カン...
胡桃「……よーい……どん!」ダッ!
- 130: 2016/04/16(土) 23:51:33.40 ID:1TzRJcmAO
-
タタタタタタタタタ!
永井 (グラウンドは問題なく通過できそうだ)
胡桃「ふっ!」ザシュ!
永井「ついたぞ!」
胡桃「この車、同じエンブレムだ」
永井「こっちにもある。先にそっちを試せ」
ガチャガチャ...
胡桃「くそっ! 合わない!」
永井「こっちだ。この赤い車!」
アアア...アア...
永井「!」
永井 (やつらが集まってきた)
永井「耳栓しろ!」
胡桃「ああ!」バッ
永井『“止まれ!”』ビリビリ...!
- 131: 2016/04/16(土) 23:54:34.21 ID:1TzRJcmAO
-
...ア...
永井「クソッ! やっぱり効果が短い」
永井 (図書室と違って開けた空間だ。短い時間動きを止めても、対処しきれない)
胡桃「数が多くなってる!」
永井「恵飛須沢さん、シャベルで車を叩け! 警報を鳴らすんだ!」
胡桃「よっしゃあ!」ガン!
フィフィフィフィフィフィ!!
永井「よし。早く来い!」
胡桃「やつらの数が多いんだよ……そうだ!」
ピョン...ガン!...ピョン...ゴン!...
永井 (車の上を……! むちゃくちゃだ、あいつ)
ズシャア...!
胡桃「いってえ! ボンネットで太もも擦った!」
永井「バカやってんじゃねえ! 早く開けろ!」
胡桃「今やってるよ!」ガチャガチャ...
- 132: 2016/04/16(土) 23:56:13.17 ID:1TzRJcmAO
-
ガチャッ!
胡桃「開いた!」
永井「エンジン!」
ブロン...!
胡桃「よし! 行くぞ!」
永井「待て、シートベルトがまだ……」
胡桃「後にしろ、んなもん!」
ーー正面玄関
悠里「ゆきちゃん、ガラス気をつけて」
由紀「玄関、工事中なの?」
悠里「他のクラスは授業中だから静かにね」
由紀「うん」
悠里「……ふぅー」
由紀「……」ギュッ...
悠里「……!」
由紀「大丈夫だよ」ニパ-
悠里「そうね」フフッ
- 133: 2016/04/16(土) 23:58:43.79 ID:1TzRJcmAO
-
....ブロロロロロロ……キキー!
永井「痛ってえ!」ゴンッ!
悠里「きゃっ!」ビクッ!
胡桃「早く乗れ!」
由紀「け、けーくん、頭大丈夫?」
永井「っ……シートベルトまだだって
言ったろ!」
胡桃「走ってるあいだにつけろよ!」
悠里「早く出して!」
由紀「待って、し、シートベルト……」アセアセ
永井「僕もまだだ!」
胡桃「だから後にしろ!」
...ブウゥン...!
- 134: 2016/04/17(日) 00:00:15.99 ID:FJujpCv3O
- 永井「っ……おい、運転荒いぞ。ほんとに大丈夫か?」
胡桃「任せろ。いつもと感覚は違うけどな」
由紀「いつも?」
胡桃「ああ。いつもはハンドルコントローラーじゃなくて、パッド使ってるから」
由紀「ゲームじゃん!」
永井「殺す気か! 運転変われ!」
胡桃「おまえは殺しても死なねーだろ!」
悠里「と、とにかく! これで遠足に出発ね!」
由紀「りーさん、いまそれどころじゃないかも……」
- 138: 2016/04/22(金) 01:00:45.37 ID:44P560hnO
- ーーリバーシティ・トロン・ショッピングモール 5F・避難所
美樹「……」
美紀(街の様子……やっぱり、変わってない……)
美樹「圭……どこに行っちゃったんだろう…… 」
美紀(CDプレーヤーの電池、もうなくなっちゃうよ……)
クゥ-...
美樹「お昼にしないと……」
美紀(もう、食べ物も少ないや……)
美樹「……太郎丸、ご飯だよ? ごめんね。わたし、もう怒鳴ったりしないから……」
美樹「でてきて、太郎丸……」
美樹「……太郎丸……?」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
- 139: 2016/04/22(金) 01:03:00.63 ID:44P560hnO
- ーーリバーシティ・トロン・ショッピングモール 正面
由紀「見えた! 見えたよ!」
胡桃「元気だな、おまえ」
悠里「元気すぎよ。昨日ちゃんと寝た?」
由紀「えへっ。あんまり」
胡桃「おまえ、遠足で熱出すタイプだろ」
永井「体調が良くないなら、丈槍さんは車で休んでたほうがいいんじゃないか?」
由紀「そそそそ、そんなことないよ! 大丈夫、ばっちりだよ!」
悠里「喧嘩しないの。さ、行きましょ」
胡桃「どうだろ、誰かいるかな?」
永井「いるだろ。あれが起きたのは日中だったんだ」
胡桃「そうじゃねえよ」
永井「ああ。そっちか」
悠里「避難するなら、ここよね……でも……」
永井「いたとしても、そう多くはない。第一この車は四人乗りだ」
胡桃「……とにかく、中に入ろうぜ」
悠里「車のカギ、どうしよっか?」
永井「開けっ放しでいいと思うけど、キーは持っていったほうがいい」
- 140: 2016/04/22(金) 01:04:21.30 ID:44P560hnO
- 由紀「わ、暗い。休みかな?」
胡桃「ドアは開いてるな」
由紀「閉め忘れかな?」
悠里「『リバーシティ・トロン館内案内』……」ピラ...
永井「若狭さん、ホームセンターはあるか?」
悠里「ううん……ないみたいね」
永井「そうか……モール内を動き回るよりはマシだと思ったんだけどな」
胡桃「ああ。客の数もそっちのが少なそうだもんな。使える道具とかもありそうだし」
永井「ないなら仕方ない。リストアップした必需品とそれがある階数を確認しよう」
悠里「食料品は地下一階ね。一階がフードコート、広場、ステージ。二階はアクセサリーや宝飾品のフロアだから関係なし。三階が女性服で、四階が紳士服。本や電化製品は五階ね」
永井「食料品から回収していこう」
胡桃「全員でいくのは危険だよな」
永井「地下に行くのは恵飛須沢さんと僕だ。可能なら、買い物カゴかカートを利用してより多くの食料品を先に車まで運んでおきたい」
胡桃「一階の状態次第か」
悠里「今日はイベントがあるみたいね」
由紀「イベント? お祭りみたいなの?」
胡桃「だったら邪魔しないようにしないとな」
永井「……“声”は緊急時以外には使用しない。モールの構造上、声が反響する恐れがある」
由紀「じゃ、怪しまれないようにそっーとね」
悠里「ええ。そっーと、そっーと……」
- 141: 2016/04/22(金) 01:06:05.43 ID:44P560hnO
- ーー1F
胡桃「ぱっと見、だれもいないな」
永井「素早く移動しよう。先頭は恵飛須沢さん、最後尾は僕が担当する」
悠里「わかったわ」
胡桃「よし、いくぞ」
タタタタ....
胡桃「あれだ、あのCDショップ。シャッターが下りかかってる」
悠里「なら、ひとまずあそこに隠れましょう」
胡桃「頭、気をつけろよ」
由紀「うんしょ……」
永井「シャッター下ろすぞ」ガシャン
胡桃「……ふぅ。店内を見回ってくる」
永井「恵飛須沢さんの見回りがおわったら、僕らは地下一階におりていく。そのあいだ二人はここで待っていてくれ」
悠里「それなんだけど永井君、これ使えるんじゃないかしら?」
永井「サイリウムか。たしかに」
悠里「学校でも使えそうね」
- 142: 2016/04/22(金) 01:07:37.99 ID:44P560hnO
- 胡桃「見回りおわったぜ。問題なし」
由紀「もう買い物していい?」
悠里「無駄遣いはダメよ?」
胡桃「よーし、いくか」
悠里「くるみ、これ持っていって」
胡桃「ん? なんだこれ?」
悠里「サイリウム。かれらの意識をそらすのに便利かなって」
胡桃「へえ。なんか『ジュラシック・パーク』みたいだな」
永井「そうか?」
胡桃「ほら、ジェフ・ゴールドブラムがTレックス相手にさ、やってたろ? あんな感じ」
永井「あそう」
胡桃「似てないか? 死んでたのに生き返ったって点じゃ、恐竜も同じだろ?」
永井「どっちでもいいよ。それより、準備はいいか?」
胡桃「ああ。いこう」
- 143: 2016/04/22(金) 01:09:10.41 ID:44P560hnO
- ーーB1F
胡桃「……ひどい臭い……」
永井「生鮮食品は腐ってる。缶詰やインスタント中心に集めていこう」
胡桃「……やつらの数も多いな」
永井「サイリウム、使ってみるか?」
胡桃「そうだな。あそこの固まってるやつら、あれが邪魔だな」
永井「できるだけ遠くに投げろ」
胡桃「あたしが投げるのか?」
永井「楽勝だろ? そんな重たいシャベルを振り回してるくらいだし」
胡桃「なんか釈然としねえ……」シャカシャカ...ポ-ン...
ヒュ-...オ...オオ...
永井「……離れた。行くぞ」タッ...
胡桃「やっぱ釈然としねえ……」
- 144: 2016/04/22(金) 01:11:42.95 ID:44P560hnO
- ーーーーーー
ーーーー
ーー
永井「日用品の数は十分。食料もひととおり手に入ったな」
胡桃「缶詰のコーナーはここだ」
永井「バッグに詰めるとき、乱暴にして音をたてるなよ」
胡桃「わかってるよ」カチャ...
永井 (……おでんの缶詰なんてあるのか)ジ-
胡桃「……気になるんなら持ってけば?」
永井「……そうするか」
胡桃「大和煮も探すか。ゆきの好物だしな……おっ、あった……」パシッ
パシッ
胡桃「ん?」
太郎丸「ハッハッ....」
- 145: 2016/04/22(金) 01:13:27.06 ID:44P560hnO
- 胡桃「は? 犬?」
太郎丸「ワウッ!」タタッ!
胡桃「えっ、ちょ、おい! それ、あたしんだぞ!」
永井「おい、声でかいぞ」
胡桃「いや、だって、犬があたしの缶詰を……」
永井「棚にいっぱいあるだろ」
ウオ...オオオ...
永井「来るぞ」
胡桃「……悪かったよ」
永井「戦闘は避けよう。このカートに荷物を載せてエスカレーターのところまで走り抜ける」
胡桃「音が出ないか?」
永井「缶詰をバッグに詰め込でるんだ。走ればどのみち音が出る。サイリウムは?」
胡桃「あと6本」
永井「僕のも持ってけ。カートは僕が押す」
胡桃「了解」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
- 146: 2016/04/22(金) 01:14:50.62 ID:44P560hnO
- ーー1F
由紀「おかえり〜」
胡桃「いや〜、大漁大漁」
悠里「おかえりなさい。時間かかったわね」
胡桃「いったん車まで戻って荷物を置いてきたからな」
永井「食料のほかにも、リストにある必需品もいくつか手に入った」
悠里「どんなの?」
胡桃「食料は缶詰やインスタント、レトルト、シリアルなんかが中心だな。乾パンやチョコレート、調味料もいくつか」
永井「医薬品は絆創膏や包帯、脱脂綿、消毒液、かぜ薬、傷薬、胃腸薬、軟膏。あとトイレットペーパーや乾電池、生理用品、マッチといった日用品も持てるだけ持ってきた」
悠里「そんなに運んでて危なくなかった?」
永井「サイリウムが役に立ったよ」
悠里「あら、よかったわ」
胡桃「あと行くとこは服屋と家電屋か」
由紀「人少ないよね。上にいけばだれかに会えるかな?」
胡桃「……きっとな」
永井「そろそろ行こう。外の様子も、もう落ち着いてきてるころ……」
由紀「けーくん、その子どうしたの?」
永井「ん?」
- 147: 2016/04/22(金) 01:17:11.80 ID:44P560hnO
- 太郎丸「ハッハッハッ」
胡桃「あっ、そいつ! 缶詰とってったやつ!」
悠里「首輪してる。飼い犬だったのね」
太郎丸「ワン!」
由紀「返事した! ウ-...ワウワウ」
太郎丸「ワオンッ」
由紀「ワウ?...ワンワン...ワオ-ン!」ピョン
胡桃「ちょ、ゆきっ」
永井「待てっ」
太郎丸「ワン!」ピタッ!
由紀「あれ? 止まっちゃった」
胡桃「おまえ、“声”使ったのか?」
永井「使うわけないだろ、犬相手に」
胡桃「でも、こいつ、ピタッと動き止めたぜ?」
悠里「……もしかして、“待て”って命令されたと思ったんじゃないかしら?」
- 148: 2016/04/22(金) 01:20:26.19 ID:44P560hnO
- 胡桃「んん?」
由紀「それって、けーくんの言うことなら聞くってこと?」
永井「なんで?」
悠里「それはわからないけれど……」
胡桃「なんか命令してみれば?」
永井「なにを?」
胡桃「動物飼ったことねーのか?」
永井「おすわり?」
太郎丸「ワン」ペタッ
胡桃「おお……」
由紀「すごーい。けーくん、この子と知り合い?」
永井「初対面」
悠里「でも……どうしましょうか、この子」
- 149: 2016/04/22(金) 01:21:44.01 ID:44P560hnO
- 永井「決まってる。ここに繋いでおく」
悠里「えっ」
由紀「置いてっちゃうの?」
永井「この状況で普通の飼い犬なんてつれていけるわけないだろ。見たところ噛まれてはないようだけど、何を口にしたのかもわからない」
胡桃「うーん……そりゃそうなんだろうけど」
永井「ちょうどいい紐がある。これをここに結びつけておく」
悠里「でも、それじゃ……」
永井「帰るときに外していくよ」
永井 (余裕があればだが)
胡桃「まあ、仕方ないか。ゆき、首輪がしてるってことは飼い主がいるってことだし」
- 150: 2016/04/22(金) 01:22:40.59 ID:44P560hnO
- 由紀「う〜……わんちゃん、ここで待っててね」
太郎丸「ワン!」
永井「おい、吠えるな」
太郎丸「ワウ...」
永井「できた。次は三階?」
悠里「ええ……」
由紀「あっ、待って。この缶詰さ、あの子のために置いておこうよ」
胡桃「そうだな。こいつが持ってきたもんだし」パカッ
太郎丸「……クゥ-ン」
由紀「けーくん、食べていいって言ってあげて」
永井「……食べていいぞ」
太郎丸「ワン!」パクパク
永井「なんなんだ、この犬」
胡桃「まあまあ」
- 151: 2016/04/22(金) 01:23:58.62 ID:44P560hnO
- ーー3F
永井「地下に比べればさすがに少ないな」
胡桃「夕方くらいに起きたからな」
悠里「ええ。だから、いちばん危険なところはもう過ぎたわね」
由紀「あっ、これかわいー! 何だろ? ストラップ?」
胡桃「ちげーよ。防犯ブザーだろ」
由紀「これ、アルノー・鳩錦みたい。つけてこー。これとこれとあとこれも」
胡桃「つけすぎだろ!」
由紀「みんなのぶんだよ。これ、くるみちゃんの」
胡桃「いらねーよ! なんだそのたてがみのないライオンみたいなの!」
由紀「も〜、しょうがないなあ。わたしが持ってこ」
悠里「それ、ここじゃ絶対鳴らしちゃダメよ。警備員さん飛んでくるから」
由紀「はい!」ビシッ
- 152: 2016/04/22(金) 01:25:45.86 ID:44P560hnO
- ーー女性服店
由紀「お、おしゃれな空間だ……」
悠里「さ、入りましょ」
胡桃「中はけっこうきれいだな」
由紀「ハイヒールだ。ね、これ履いてみてもいい?」
悠里「ええ、いいわよ」
由紀「はじめてなんだよね、ハイヒールって……ととっ、とっとっとっとおっ!」コテン
悠里「あら、大丈夫?」
由紀「うう〜……ハイヒールはまだ早かったよ……」
悠里「なら、こっちの靴はどうかしら? ゆきちゃんに似合うんじゃない?」
由紀「あっ、これもかわいーね」
悠里「靴を見終わったら、洋服を見に行きましょ」
胡桃「こんなことしてていいのかな……」
悠里「こんなときだからこそよ。だってわたしたち、女の子でしょ?」
胡桃「そうかもな……あれっ、永井は?」
悠里「時間がかかりそうだから、先に上の階に行って待ってるって」
胡桃「逃げたな、あいつ」
- 153: 2016/04/22(金) 01:27:12.23 ID:44P560hnO
- ーー4F
由紀「けーくん、お待たせ〜」
悠里「ごめんなさい。けっこう時間かかっちゃって」
永井「いや。必要なものはだいたい揃えきたよ」
由紀「けーくん、お金持ってたの?」
永井「おばあちゃんのキャッシュカードがあるから」
胡桃「おまえ、そのキャッシュカードって……」
永井「五階の様子もさきに見てきたよ。階段のところにバリケードがあった」
胡桃「バリケードの向こう、見てきたか?」
永井「まだだ。だが、人のいる気配や物音はしなかった」
胡桃「……どうする?」
悠里「……行きましょう。可能性があるなら確認しないわけにはいかないわ……」
永井「……わかった」
- 154: 2016/04/22(金) 01:29:38.28 ID:44P560hnO
- ーー5F
胡桃「ここか」
永井「荷物たのむ」
悠里「ひとりで大丈夫なの?」
永井「それが一番危険が少ないだろ? 耳栓はすぐつけれるよう準備しておいて」
胡桃「わかった」
永井「よろしく」
タッ...
悠里「……誰かいると思う?」
胡桃「いてほしいけど……車、どうする?……」
悠里「一人くらいならなんとか……」
永井『耳栓!!』
胡桃・悠里「「!」」
悠里「ゆきちゃん!」
由紀「うわっ! っあ!」ポロッ
胡桃「何やってんだ! 永井! ちょっと待て……」 - 155: 2016/04/22(金) 01:31:21.51 ID:44P560hnO
-
永井『“止まれ”!!』
ビリビリビリ...!!
胡桃 (身体が……)
悠里 (全然うごかない……)
由紀 (うぅ………)
ダン!
永井「ダメだ、全滅してる。さっさと……ハァ!?」
永井「なんで固まって……ああ! “動け”! 逃げるぞ!」
胡桃・悠里「「!」」バッ
由紀「あっ、動く……」
ミシッ...ミシッ...
永井「耳栓間に合わなかったんなら言えよ!」
グラッ...
胡桃「言おうとしたんだよ!」
悠里「ケンカしないでよ! それよりバリケードが……!」
ガラガラガラッ!!
永井・胡桃「「!」」
グオオオオオオオ....!
永井「チッ……」
- 156: 2016/04/22(金) 01:33:16.70 ID:44P560hnO
-
ーー避難所
美紀(誰もいない……誰も……)
美紀(圭も……太郎丸も……生きてるひとはみんな……)
ガラッ...
美樹「!」
ドタドタ...!
美紀(足音……)スッ...
ガタ...ガタン
美紀(これで……大丈夫……)
美樹「……隠れなきゃ……」
『耳栓!!』
美樹「!」バッ
『止まれ!!』
美紀(声……男の人……!)
美樹「誰か、いるの……?」
美樹「誰かが、来たんだ……!」
- 159: 2016/04/27(水) 18:51:17.43 ID:ipw3HlrYO
- ダッ!!
胡桃「急げ急げ急げ! やつらすごい数だ!」
由紀「はぁはぁ……」ゼエゼエ...
悠里「えいっ!」ポイッ!
胡桃「ダメだ……まだ半分以上追ってくる」
永井「チッ……」
永井 (黒い幽霊は放てない。あんな無闇に暴れまわるやつ、人がいる状況じゃ危険すぎる)
永井「恵飛須沢さん、先頭に行け! 殿は僕がつとめる!」
胡桃「いいのか? そこがいちばん危ねーだろ 」
永井「この際仕方ない。さしあたり、これが最も全員の生存率が高いからな」
胡桃「わかった」
永井「はぐれた場合は置いていってもいい。モール自体から離れなきゃいけないときは昨日のガソリンスタンドで……」
悠里「待って! 下にもいる!」
胡桃「りーさん、ゆき、動くなよ! あたしが……」
- 160: 2016/04/27(水) 18:53:12.77 ID:ipw3HlrYO
-
ガタタタタ!
胡桃「一匹! 滑り落ちてきやがった!」
永井「早く片付けろ!」
胡桃「下のは!?」
永井「僕がやる!」ダン!
ドカッ!!...ゴロゴロゴロ!!
永井 (足に当たって一匹転んだが、着地した場所が遠い! 近づいてくる二匹目から先にやる!)
グオオ...!
永井 (バッグを盾にして……!)ガブゥッ!
ドスッ! ドスッ!...バタン...
永井 (転がしたやつはまだ完全に起き上がってない。頭の位置が低いから髪の毛をつかみ、首の後ろを露出させる)グイッ!
グシャッ!...
永井「……ふう。こっちはもう大丈夫……」
オオオ...!!
永井「!」
- 161: 2016/04/27(水) 18:54:59.53 ID:ipw3HlrYO
- 永井 (もう一匹! 見えない位置にいたのか!)
永井「待て! まだ一匹いた!」
永井 (クソッ! はやく倒すこと優先したから武器は回収してない! こいつを盾にするしか……!)グイッ!
オオ!...グラッ...バタン!!
かれら「グオ!...ガァ!」
ガチン!ガチン!
永井 (これじゃドライバーが掴めない…….!)
永井「重いんだよ……!」グググ...
かれら「グアアア!」
ダッ!
ズバッ...!!
永井「!」
ゴロン...ゴロン...ブシャア...
- 162: 2016/04/27(水) 18:57:18.74 ID:ipw3HlrYO
- 胡桃「わりい、遅れた」スッ
永井「……首がなくなるかと思った」グイッ
胡桃「ん? ああ。心配すんなって。言われたことは守る」
永井「上のやつらは?」
胡桃「倒したやつの死体を投げつけたら倒れた。ついでに二、三匹やって、それが壁になってる」
永井「あまり長くはもちそうにないな。はやく移動しよう。さっきの戦闘を聞きつけて他のやつらもよってくるぞ」
悠里「ちょっと待って。ゆきちゃんが……」
由紀「大丈夫だよ……りーさん……」ゼエゼエ...
永井 (だいぶ消耗してる。熱もありそうだ)
胡桃「どこかで休憩とれないか? あたしもけっこうキツい」
永井「トイレの前の通路に行こう。ベンチもあるだろうし、フロアの反対側にも通じてる」
胡桃「よし。もうひと踏ん張りだ、ゆき」
由紀「うん……ごめんね……けーくん」
永井「いいよ。それより若狭さん、サイリウムの残りは?」
悠里「さっき何本か使ったけど、まだたくさんあるわ」
永井「あとで正確な数を確認しよう」
胡桃「もう行こうぜ。やつら、近づいてきてる」
永井「ああ」
- 163: 2016/04/27(水) 19:00:07.77 ID:ipw3HlrYO
- ーーーーーー
ーーーー
ーー
永井「思った通り、反対側はやつらの数が少ない」
胡桃「そうか。とりあえず一息つけるな」
永井「あと、自販機が開いていたから飲み物を持ってきた。ミネラルウォーターだけど」
胡桃「さんきゅ」
悠里「ありがとう」
永井「丈槍さんは?」
悠里「やっぱり熱があるみたい。いまは眠ってるわ」
胡桃「寝かしとこう。下を突っ切るのに体力いるしな」
永井「だがあまり長いことここにはいられないぞ。日が落ちる前に昨日のコンビニまでたどり着かないと」
胡桃「わかってるよ。そう焦らすなって」
永井「サイリウムの残りは?」
悠里「あと16本ね」
- 164: 2016/04/27(水) 19:03:25.68 ID:ipw3HlrYO
- 永井「すこし心許ないが、まあいいか。囲まれたときを想定して三人で分けておこう」
悠里「足りないなら、あのCDショップに取りに行ったらどうかしら? ほら、あの子もつないだままだし……」
永井「ダメだ。そんな余裕はない」
悠里「だけど……」
永井「優先すべきは僕たち自身の安全だろ?」
悠里「……そうね」
胡桃「なあ、永井」
永井「ん?」
胡桃「バリケードのむこう、どんな様子だった?」
永井「生存者たちが集まって生活してたみたいだ。おそらく十数名。それなりにうまくやってたようだが、物資の調達係が噛まれでもしたんだろう。それで全滅」
胡桃「やっぱり生き残りはいなかったか?」
- 165: 2016/04/27(水) 19:04:57.58 ID:ipw3HlrYO
- 永井「いないだろ。あの状態じゃ」
胡桃「いても助ける余裕はない、か……」
悠里「くるみ……?」
胡桃「あ、いや。そういう心構えも必要かなって」
永井「それもいいけど、大事なのは傷を負わないことだ。ここの生存者の例でもわかるように内部で感染者が発生するとヤバい。僕らも気をつけないと」
胡桃「おまえなあ……もうちょっと空気読んでくれよ。さっき発言するのも、けっこう勇気いったんだぞ」
永井「? 当然のことだろ?」
胡桃「はあ……まあいいや」
由紀「う〜ん……あっ、りーさん……」ゴシゴシ...
悠里「ゆきちゃん、もうよくなった?」
由紀「うん。もう平気」
永井「もういちど反対側の様子を確認してくるよ。問題ないようならすぐに行動しよう」
胡桃「わかった」
- 166: 2016/04/27(水) 19:07:02.42 ID:ipw3HlrYO
-
ーー5F・避難所
キィ...
美紀(いまなら……)
タッ
美紀(かれらの姿がない)
美紀(! バリケードが……それにこれ……)
美樹「サイリウム……やっぱりだれか……」
美樹「……待って……お願い……」
美樹「待って!!」ダッ!!
- 167: 2016/04/27(水) 19:12:01.18 ID:ipw3HlrYO
- ーーモール前
由紀「!」ピクッ
悠里「よかった……ここまでくれば安全ね」
永井「恵飛須沢さん、荷物を載せるの手伝ってくれ」
胡桃「はいよ」
由紀「……」
悠里「ゆきちゃん、どうかしたの?」
由紀「ねえ、なにか聞こえない?」
悠里「え?」
由紀「だれかが叫んでるような……ほら!」
ギギ..ギギギギ
悠里「別に……」
胡桃「ありゃ警備員が騒いでるんだろ。永井はどうだ?」
永井「ん? ああ、あの『はだしのゲン』の擬音みたいな音のことか」
胡桃「おまえ、その例えは……いや、わかるけどさあ」
永井「小学校の図書室とかになかった? あと、小児科の待合室とか」
由紀「ちがうよ! 声がしたもん!絶対だれかいる!」ダッ!
悠里「ゆきちゃん!」
胡桃「っ! 永井、追うぞ!」
永井「ん? ハァ!?」
永井 (そうだ、車のキーは!?)ハッ
ガゴッ
永井「ない……若狭さんが持ったままか……」
胡桃「なにやってんだ! 早く来いよ!」
永井「なんだよ、もう!」
- 169: 2016/04/27(水) 22:38:42.25 ID:ipw3HlrYO
- ーー
ーーーー
ーーーーーー
美紀(もうすぐ出口だ。あとはこのエスカレーターを降りれば……)
グオオオ...!
美樹「急がなきゃ……!」
ガタガタガタガタ!
美樹「!」
かれら「アア...」
美樹「下にも……」
美紀(挟まれた……どこか他に逃げ場は……)
ポロン...
美樹「!」
美紀(ピアノ……あそこに跳べば……!)
美樹「……えいっ!」ダッ!
ドタン!
美樹「……っ!」
美紀(はやく起き上がって逃げないと……!)バッ!
かれら「グオオオ...!」ワラワラ
美樹「あ……」
ガンガン!...ポロン...パン!
美樹「ひっ!……やだ……来ないで……」
美樹「だれか……」
美樹「だれか来て!!」
由紀「いた! あそこ!」
- 170: 2016/04/27(水) 22:41:17.24 ID:ipw3HlrYO
-
美樹「!」ハッ!
美紀(あ……)
美樹「ほんとに……いたんだ……!」
胡桃「おい、やばいぞ。囲まれてる!」
悠里「待って! いま行くから!」
美樹「」フラフラ...
胡桃「おい、待てって!」
永井「ダメだ。こっちの声が耳に入ってない」
ズルッ
胡桃「落ちたぞ!」
由紀「早くしないと!」タッ!
胡桃「やめろ!もう無理だ」ガシッ!
由紀「でも……」
永井「逃げよう。他のやつらもわいてきた」
由紀「っ!……けーくん、お願い! 助けてあげて!」
永井「は?」
由紀「できるでしょ!?」
永井「そっちの心配してる場合じゃ……」
グオオオオ!
美樹「……ぁ……ぁぁ」
永井「……」
永井「……今度はちゃんと耳塞げ」
由紀「! うんっ!」
ダッ!
永井『“動くな”!』
- 171: 2016/04/27(水) 22:43:00.78 ID:ipw3HlrYO
-
ビリビリビリ!
美紀(……身体が……)
永井「おい! もう動けるだろ! はやく逃げるぞ!」
美樹「えっ? あっ、はい!」
永井「急げ! ここを抜けたら僕の前を……」
かれら「グ...オオオ!」
永井 「もう効果が切れたか!」
ザン!
永井「!」
胡桃「こっちだ! はやく!」
永井「行け! 彼女のあとについてけ!」
美樹「あの、でも……」
永井「いいから!」
- 172: 2016/04/27(水) 22:47:37.95 ID:ipw3HlrYO
-
アア...アアアア...アアアアアアア!
永井「やっぱり“声”が響いたか……」
悠里「もうサイリウムはないわ!」
永井「とにかく走れ!ばらばらになるな!」
美樹「あ、あの! わたし幾つか拾ってます!」
胡桃「ほんとか!?」
永井「すぐ投げれるように準備しろ!」
美樹「はいっ!」ゴソゴソ
アア...!
永井「!」
永井 (柱の陰に……彼女は気づいてない)
永井「チッ」ドンッ!
美樹「キャッ!」バタン!
かれら「グアアァ!」
永井 (避けられないか……!)スッ
ガブゥッ!!
ドシュ!
- 173: 2016/04/27(水) 22:52:19.70 ID:ipw3HlrYO
- 由紀「けーくん!」
美紀 (圭……?)
美紀「はっ……!」バッ
かれら「カア...!」グチャ
永井「」ブラン...
悠里「っ!……」
胡桃「あいつ……自分の首に……」
ブチチッ...バタン......ドクドクドク......
美紀「あ……」フッ...
胡桃「ヤバい、あの子……!」
ジュワジュワ...パチリ
グイッ...ドシュ!
かれら「ギ...」バタン...
胡桃「!」
永井「治った。逃げるぞ」
- 174: 2016/04/27(水) 22:53:32.47 ID:ipw3HlrYO
- 胡桃「待て、永井! その子、気絶してる!」
永井「ハァ!? ったく、面倒だな、もう!」ガッ
悠里「サイリウム貸して!」
胡桃「ほら、走れ走れ!」
ダダダダ!
悠里「もうすぐ出口よ! でも……」
胡桃「群れがいる! 永井、もういちど“声”だ!」
永井「無茶……いうな……人ひとり……担いで走ってんだぞ……」ゼエゼエ...
胡桃「体力ねえな、おまえ!?」
悠里「近づいてくるわ!」
胡桃「くそっ、やるしかないか……!」
悠里「待って、くるみ! ひとりじゃ……そうだ! ゆきちゃん、バック貸して!」
由紀「えっ、うん!」
悠里「みんな、急いで耳を塞いで!」
永井「は?」
胡桃「なんで?」
由紀「りーさんが?」
悠里「いいからはやく!」
- 175: 2016/04/27(水) 22:54:53.57 ID:ipw3HlrYO
- 胡桃「っ! そういうことか!」
永井「あっ! 待て、僕はこの子抱えて……」
悠里「いくわよ!」グイッ!
ビイイイイイイイ!!!!
永井 「ぐっ……」キ---ン
かれら「グオ......」
胡桃「よっしゃ! いまだ!」
ゴスッ! ザシュ! ゴスッ!
胡桃「道が開けた! 行くぞ!」
悠里「ゆきちゃん!」
由紀「うん!」
胡桃「ほら、永井も!」
永井「なんだ!? 聞こえないぞ!」
胡桃「ああっ!? あーもう、しゃーねえなあ!」ガシッ
永井「おい、なにしてる!」
胡桃「この子をいっしょに運ぶんだよ! ほら、そっちの手を持て!」
- 176: 2016/04/27(水) 23:12:54.87 ID:ipw3HlrYO
- 悠里「はやく! もうエンジンかけたわよ!」
胡桃「ふんばれ、永井!」
永井「なんて言ってんだよ……!」ゼエ...ハア...
悠里「気をつけて! 後ろからなにかくるわ!」
トテテテテテ!
胡桃「あっ、こいつ」
太郎丸「ワン!」
悠里「永井君がつないだ……!」
永井「なんか言ったか!?」
ギギ...ギギギギ...!
悠里「まだこんなに……」
胡桃「仕方ない、おまえも来い!」
太郎丸「ワン!」
悠里「全員乗った!? もう出すわよ!」
ドン!
悠里「!」
ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!
- 177: 2016/04/27(水) 23:36:46.60 ID:ipw3HlrYO
- 胡桃「囲まれるぞ!」
悠里「っ!……つかまっててよ!」
ブォン!!
由紀「うわっ!」
ブオオン!!
ギギギ…ギギギ…ギギギ...ギ...………
ブオ--ン...
- 178: 2016/04/27(水) 23:39:32.46 ID:ipw3HlrYO
- 胡桃「……はあ。見えなくなった……」
悠里「……よかった……その子の様子は?」
胡桃「ぱっと見、ケガはないな」
悠里「……そう」
永井「念のため、目がさめるまでは拘束しておこう」
胡桃「おまえ、もう耳聴こえるようになったのか?」
永井「少しはな。まだキーンって音がするよ」
悠里「ごめんなさいね、永井君」
永井「なに? それくらいじゃ聴こえない」
胡桃「りーさんがごめんなさいって!!」
永井「そこまでデカくしなくてもいい!!」
由紀「うわっ」キ-ン
美紀「……ン……」
悠里「ふたりとも、その子起きちゃうわよ」
- 183: 2016/04/29(金) 14:02:13.68 ID:Acj58bCuO
-
……たす……けて……だれか……きて……
……動くな!!……動け……逃げるぞ……
………けーくん!………圭?………………ブスッ……………
ブシャアアア!………ドクドクドクドクドクドク……………
美紀「……ヒッ!」
美紀 (……夢……?)ハアハア...
- 184: 2016/04/29(金) 14:03:13.21 ID:Acj58bCuO
- 由紀「あ。おはよ」
美紀「えっ?」
由紀「お水、飲む?」
美紀「あ……ありがとう」
由紀「はい、どーぞ」
美紀「……」ゴクゴク
プハッ
美紀「……だれ?」
- 185: 2016/04/29(金) 14:04:31.90 ID:Acj58bCuO
- 由紀「巡ヶ丘高校三年C組、丈槍由紀だよ」
美紀「……2Bの直樹美紀、です」
由紀「じゃ、わたしが先輩だね」エッヘン
美紀「ここは、どこですか?」
由紀「学園生活部の部室だよー。あ、めぐねえ、おはよー。こっちこっち」
美紀「……?」
美紀「……がくえん、せいかつ部、ですか?」
由紀「うん。楽しいんだー。新入部員絶賛募集中だよー。最近も一人入部したからねー。ね、めぐねえ?……はーい、佐倉先生」
美紀「?」
由紀「あっ、こんな時間。授業始まっちゃう。みーくん、またねー」
- 186: 2016/04/29(金) 14:05:30.39 ID:Acj58bCuO
-
パタン...
美紀「みーくん……?」
キョロキョロ...
美紀 (あれ? 制服、きれいになってる)クンクン
美紀「……石鹸の匂いだ」
美紀 (廊下……だれもいないな……)
美紀 (……教室……)
美紀「夢……だったのかな……?」
ガラッ
美紀「……」
美紀「そんなわけ……ないよね……」
- 187: 2016/04/29(金) 14:06:55.06 ID:Acj58bCuO
-
ハッ!
美紀 (じゃあ……わたしを助けてくれた、あの人が死んだのも……)
ガラッ!
美紀「!!」ビクゥッ!
胡桃「いた!」
美紀「あ……」
悠里「……あなた、わたしたちの言うことはわかる?」
美紀「あ、あの……わたし……」
胡桃「……大丈夫そうだな」
悠里「そうね。あなた、名前は?」
美紀「ご……ごめんな、さい、わたしの、せいで……」ブル...ブル...
悠里「え?」
美紀「あなたたちと、いた、男のひと……わたしを、助けて……それで……」
胡桃「あ、あー……」
悠里「お、落ち着いてね。大丈夫だから」
- 188: 2016/04/29(金) 14:08:20.95 ID:Acj58bCuO
- 美紀「で……でも……」ボロ...
永井「あ、若狭さん。やっぱりダメだった」
美紀「え……?」
悠里「な、永井君!」アタフタ
胡桃「なんつータイミングで……」ハア...
永井「普通の洗剤じゃ、襟についた血は全然落ちなかったよ。漂白剤にすればよかったな」
美紀「え……? どうして……?」
永井「あ、目が覚めたんだね」
美紀「だ、だって……わたし……!」
悠里「大丈夫だから! ね、落ち着いて!」
胡桃「ちゃんと説明するから! な!」
- 191: 2016/05/04(水) 23:59:07.86 ID:1n93rb3TO
- ーー
ーーーー
ーーーーーー
美紀「亜人……なんですね、ほんとうに……」
美紀 (それに……圭って名前……)
永井「見てたのならわかるだろ?」
美紀「はい……あっ、いえ、わたしは……永井さんが、その……倒れたところまでしか見てなくて……」
永井「ああ、そうだっけ?」
美紀「はい。すみません……」
永井「べつに謝らなくてもいいよ」
悠里「納得したら落ち着いた?」
美紀「あ、はい。さっきは失礼しました。うろたえてしまって……」
胡桃「無理もないって。あたしらもビビったもん」
永井「そういえば君らも亜人の復活ははじめて見たんだったか」
悠里「そうね。ふつうは見る機会なんてないわよね」
永井「佐藤さんがアップロードした亜人の実験映像、見てないの?」
胡桃「見ねえよ。つーか、躊躇なさすぎなんだよ。噛まれたのとほぼ同時だったぞ、おまえが自分の首刺したの」
永井「噛まれたんならさっさとリセットしたほうがいいだろ」
胡桃「慣れねえなあ。その感覚」
- 192: 2016/05/05(木) 00:00:17.44 ID:nGdPG+9cO
- 美紀「あ、あの」
胡桃「あ、わりい」
悠里「ごめんなさいね。つい、こっちの話に夢中になっちゃって」
美紀「いえ……あの、さっきゆき先輩が言ってた新入部員って……」
悠里「永井君のことね」
胡桃「ゆきにはもう会ったのか」
美紀「はい、起きてすぐに。それで、ゆき先輩はもうひとり、めぐねえという方のこともおっしゃってたんですが……」
胡桃「……」
悠里「……めぐねえは、もういないの」
美紀「でも、さっきゆき先輩が……」
胡桃「……ゆきにはめぐねえが見えてるんだ」
美紀「それは、オカルト的な話ですか?」
胡桃「そうじゃなくて……」
- 193: 2016/05/05(木) 00:02:35.04 ID:nGdPG+9cO
- 悠里「部活を始めてしばらくした頃かしら」
胡桃「それまですげー落ち込んでたゆきが元気になってさ、安心してたんだ。そしたら……元気になりすぎたっていうか……」
悠里「あの子の中では事件は起きてないの。学校は平和で、先生も生徒もいっぱいいて」
美紀「そうなんですか……」
悠里「最初はたまにそうなふうになる感じだったんだけど、めぐねえが亡くなってなから……ずっとなの」
永井 (この話聞くの二回目だな)
美紀「早く治るといいですね……」
胡桃「……」ムッ
永井「……」
悠里「ね、お願い。ここにいる間、あの子に合わせてくれる?」
美紀「その、永井さんもそうしてるんですか?」
- 194: 2016/05/05(木) 00:03:50.99 ID:nGdPG+9cO
- 永井「そうだよ」
美紀「……わかりました。やってみます」
ガラッ
由紀「たっだいまー」
胡桃「おかえり」
悠里「あら、その子もいっしょなのね」
由紀「うん。けーくんの部屋の前にいたんだよ。ねー?」
太郎丸「ワン!」
美紀「太郎丸!!」
太郎丸「!」ピョン
美紀「あっ……」
太郎丸「グルルル...」
永井「やめろ」
太郎丸「...ワウ」
トテトテ...ペタン
太郎丸「ハッハッ...」フリフリ
美紀「えっ……?」
- 195: 2016/05/05(木) 00:06:11.81 ID:nGdPG+9cO
- 悠里「美紀さん、この子のこと知ってるの?」
美紀「はい……太郎丸とはあの日、モールで出会ったんです。みなさんと出会った日の朝にいなくなってしまったんですが、それまでは五階の避難所でいっしょに生活してて」
永井「そのわりに嫌われてない?」
胡桃「おい! 言い方」
美紀「いいんです。太郎丸には八つ当して怒鳴ったことがあって……だから嫌われても仕方ありません……」
由紀「ケンカしちゃったんだね。でも大丈夫だよ。またすぐに仲直りできるよ」
美紀「そう、でしょうか?」
由紀「もちろん! けーくんも手伝ってくれるのね?」
永井「はあ?」
由紀「だって、太郎丸がいちばん好きなの、けーくんだもん」
胡桃「たしかに」
悠里「それも、ただなついてるというよりは忠犬って感じよね」
胡桃「おまえ、ほんとになんもしてねーの?」
永井「犬相手になにするってんだよ」
- 196: 2016/05/05(木) 00:07:36.98 ID:nGdPG+9cO
- 美紀「あの、太郎丸も永井さんが助けてくれたんですか?」
永井「こいつが勝手についてきただけだよ」
美紀「そう、ですか……」
由紀「一目惚れって感じだよね〜。きっと、けーくんには犬の飼い主にふさわしいオーラがあるんだよ」
悠里「なら、太郎丸のお世話は永井君にやってもらいましょうか」
美紀「えっ」
永井「なんで僕が?」
悠里「だって、それがいちばんだもの。永井君の言うことをきいてれば、太郎丸が危ないところに行くこともなさそうだし」
胡桃 (なんか、りーさんがいじわるだ)
永井「ほんとに命令に従うんならね。でも普通ないだろ、そんなこと」
- 197: 2016/05/05(木) 00:09:02.78 ID:nGdPG+9cO
- 胡桃「もっかい命令して確かめてみれば?」
永井「……お手」
太郎丸「ワウ」ポフ
悠里「問題なさそうね」
永井「直樹さんはどうなの?」
美紀「わ、わたしですか?」
永井「いままでいっしょに生活してきたんだろ? 他人に預けることに不満はないのか?」
美紀「わたしは、太郎丸が望むようにさせてあげたいのですが……」
永井「ああそう」
美紀「でも、もし永井さんが気乗りしないのでしたら……」
- 198: 2016/05/05(木) 00:10:00.17 ID:nGdPG+9cO
- 永井「いまさらそんな気遣いはいらないよ」
美紀「……すみません」
悠里「じゃあ、これで決定ってことでいいかしら」
永井「直樹さんも世話を手伝ってくれるんだよね?」
美紀「わ、わたしもですか?」
永井「丈槍さんがはじめにそう言ってただろ?」
美紀「でも、わたしは嫌われてますし……」
永井「いやならべつにいいよ」
美紀「い、いえ。やります! よろしくお願いします、永井先輩」
由紀「よかったね、みーくん」
- 199: 2016/05/05(木) 00:11:24.54 ID:nGdPG+9cO
- 美紀「あの、みーくんってなんですか」
由紀「美紀だから、みーくん。ダメ?」
美紀「美紀でいいです」
由紀「えー、みーくんのほうがかわいくない?」
美紀「かわいくなくていいです」
由紀「うー。あっ、そうだ。学園生活部の話はもうした?」
悠里「大体はね」
由紀「そっか。じゃ、みーくん行こ!」
美紀「! どこへですか?」
由紀「学園生活部はね、学校全体が舞台なんだよ!」
永井「丈槍さん、案内してあげたら?」
由紀「うん! ほら、みーくんも!」
美紀「わ! ちょっと待ってください!」
ガラッ!
- 200: 2016/05/05(木) 00:17:28.51 ID:nGdPG+9cO
- 胡桃「……よかったのかよ、ふたりで行かせて」
永井「直樹さんは同意しただろ。現在の状況を実際に目で確かめれば、うまく対応する必要があるって納得するだろうし」
胡桃「そう単純にいくかねえ……」
悠里「先輩役としては永井君が向いてるわよね。太郎丸の世話で話することも多そうだし」
永井「また僕かよ」
永井 (まあ、監視役についたと捉えておくか)
悠里「まあ、それはおいおい考えていきましょ。いまは美紀さんの歓迎会の準備をしないと」
胡桃「永井のときにいちどやったから、楽っちゃ楽だな」
永井「ついでに手に入れた物資の数と種類もちゃんと把握しておこう。まだ数えてなかったよな?」
悠里「そうね。じゃ、永井君、おねがい」
永井「わかった」
胡桃「クラッカーも取ってきてくれ。今度はちゃんとしたリアクションがほしいからな」
永井「はいはい」
- 204: 2016/05/12(木) 15:12:27.85 ID:SOEGTqCwO
- ーー深夜・放送室
由紀「スウ...スウ...」
グズッ...
由紀「ん……」パチッ
ムクリ...
由紀「……?」ゴシゴシ
美紀「……グスン」
由紀「……」
由紀「…………」
スッ...
…………
カバッ……
……………
……………………
- 205: 2016/05/12(木) 15:15:07.08 ID:SOEGTqCwO
- ーー屋上
永井「……曇ってきたな」
美紀「さっきまで晴れてたんですが……ここで太郎丸とトレーニングするんですか?」
永井「校舎のなかだと不向きだからね……この椅子、園芸部の備品かな」ガタ
美紀「それで、どんなトレーニングなんですか?」
永井「そんなに緊張しなくてもいいよ。むしろ内容はとてもシンプルだ。屋上を太郎丸といっしょに歩くだけでいい」
美紀「それだけですか?」
永井「ああ。ただし、周回にあたっては直樹さんが主導権を握ること。リードは短く持ち、犬が行こうとする方向とあえて逆へ行く。あと、話しかけたり目を合わせたりするのも禁止だ」
美紀「でも、どうしてですか?」
永井「いちいち伺いを立てるのは犬の社会では下位の犬がすることだ。太郎丸が直樹さんのいうことを聞かないのもこれが原因だろう。だからこの訓練で主従関係をはっきりさせる。毅然とした態度で直樹さんが先導すれば、本来あるべき主従関係を確立できる」
美紀「はあ……」
永井「思っていたのと違った?」
美紀「あっ、いえ。そういうわけでは……」
- 206: 2016/05/12(木) 15:16:43.15 ID:SOEGTqCwO
- 永井「主従関係の確立は犬と同居するときの前提条件だよ。これを構築できなきゃ、そもそも性質も習性も異なる動物同士がいっしょに暮らせるわけがない」
美紀「……」
永井「どんな動物でもその習性や社会性を無視した共存はありえない。こんな状況で犬といっしょに生活したいのなら、なおさら危険な行動を取らせないようにならないと」
美紀「そのためのトレーニングなんですね?」
永井「ああ」
美紀「わかりました。永井先輩、わたし、かならず成功させます」
永井「なにか質問は?」
美紀「えっと……このトレーニングとは関係ないことなんですが……」
永井「いいよ。なに?」
美紀「その、ふつうの人間が亜人とそれ以外の人間を見分けることって可能なんですか?」
永井「見分ける方法?」
美紀「はい」ドキドキ
- 207: 2016/05/12(木) 15:17:45.51 ID:SOEGTqCwO
- 永井「……僕の知る限り、死んでみる以外にはないな」
美紀「そう、ですか……」
永井「……僕も亜人になってからまだ日が浅い。気が付いてないこともあるかもしれない。なにか分かったら教えるよ」
美紀「! は、はい!」
永井「ほかに質問がなければトレーニングを始めよう。いい?」
美紀「はい。太郎丸、行こう」
永井「声をかけない」
美紀「す、すいません」
永井「いいから始めて」
美紀「は、はい!」
太郎丸「……」ズルズル
美紀「あ、あの……太郎丸が歩いてくれないんですが……」
永井「引きずっていけばいい。そのうち歩き出す」
美紀「わ、わかりました」
太郎丸「……」ズルズルズル
- 208: 2016/05/12(木) 15:19:13.66 ID:SOEGTqCwO
- 永井「……」
永井 (亜人について興味があるみたいだな)
永井 (偏見や差別感情といったものはとくに見受けられない。だが理解が深いわけでもない。典型的な態度だな。ただ単に自分が亜人かどうか知りたかっただけか?)
永井 (生き残った人間にとってはある意味いちばんの関心ごとかもしれないな。こと生存限れば、亜人だった場合、ほとんどの問題が解決する)
永井 (とはいえ、この社会で亜人がどう扱われるかはこうなる前の連日の報道で知っているいるはず。現在の状況なら、亜人であることを口外することは、よほどうまく立ち回らないかぎりデメリットのほうが大きい)
永井 (仮に判別法があったとして、自身が亜人だと判明した場合、彼女はどう行動するつもりだった? 僕と協力してこの施設と物資を独占するつもりだったか、あるいは……)
永井 (……無意味な仮定だな。自身を亜人だと認識してない人間が亜人かどうかを見分ける方法なんて、死んでみるしかないんだ。興味本位で試すやつなんかいやしない)
永井 (生き残った人間が亜人だと判明する事態。やつらに襲われるのを除いて最もありうるのは……自殺か)
永井 (集団で生活しているグループから自殺者が出るとして、まず間違いなくそいつは見つからないように行動するだろう。そして、そいつが自身が亜人だと気づいたときの精神状態……これが気になるな)
永井 (自殺を試みて生還した者の心理状態……これが最も近いパターンか? 資料が欲しいところだが、高校の図書室じゃたかがしれてるし……現在のメンバーからそういう者が出てきた場合、僕がそれを判定する方法。そして、とるべき行動をいくつか想定しておくべきか? 亜人だからといって、そいつが僕にメリットをもたらすとは限らないし……)
ガチャ
胡桃「お、やってるやってる」
由紀「みーくん、大変そうだねえ」
- 209: 2016/05/12(木) 15:20:28.48 ID:SOEGTqCwO
- 胡桃「太郎丸引きずってんぞ、あいつ」
永井「ふたりとも、何か用?」
胡桃「もうすぐ昼メシだから、呼んでこいって」
永井「わかった。これが終わったら行くよ」
由紀「ねえ、みーくんと太郎丸のとこ、行ってもいい?」
永井「邪魔しないんならね」
由紀「そんなことしないよ〜。じゃ、行ってきます〜」
胡桃「ったく、りーさんが待ってるっていうのに」
永井「恵飛須沢さんだけさきに戻れば?」
胡桃「いや、待ってる。椅子、まだあった?」
永井「あっちのほうにあるよ」
胡桃「ああ、あったあった……それで? どんな調子?」ガタン
- 210: 2016/05/12(木) 15:21:47.39 ID:SOEGTqCwO
- 永井「始めたばかりだ。まあ、そのうち効果があらわれてくるだろ」
胡桃「思いっきり引きずってるけどな……」
永井「ちゃんとトレーニングしてけば、いずれ従うようになる」
胡桃「おまえ、犬のしつけにくわしかったっけ?」
永井「本を読んだ。どうやら、直樹さんと太郎丸が同じスペースを共有して生活してたのもまずかったみたいだ。飼い主の生活スペースに飼い犬が侵入するのを許したままにしておくと、犬は飼い主を上位の存在と見なさなくなるらしい」
胡桃「あの避難所なら仕方ないと思うけどなあ」
永井「ここで生活する以上、まえと同じじゃダメだ」
胡桃「てことは、専用のケージとかが必要になるか…… 理科室になんか利用できるものあったかな?」
永井「あとで確認すればいいさ」
胡桃「だな……永井、美紀はどんな様子だ?」
永井「僕に聞くのか」
胡桃「そりゃいまのところ、おまえといちばん会話してるからな」
- 211: 2016/05/12(木) 15:23:23.53 ID:SOEGTqCwO
- 永井「そっちはどうなんだ? たしかに彼女と面識はないのか?」
胡桃「ない。あたしもゆきもりーさんもな。あったら質問するまえに言うよ」
永井「……ふつうの人間が亜人を見分ける方法について聞かれた」
胡桃「亜人を見分ける方法?」
永井「ああ。まあ、こんな状況なら誰だって自分が亜人かどうかは知りたいだろうからな」
胡桃「それでそんな質問を?」
永井「そんなとこだろ」
胡桃「……たぶん、ちがうと思う」
永井「なら、ほかにどんな理由があるんだ?」
胡桃「 ……あの日、あのモールには美紀のほかにもうひとりいたんだよ。美紀の友達。あれが起きたときいっしょに逃げて、五階の避難所にいっしょにかくまわれて、避難所がダメになったときもいっしょだったんだ」
永井「……」
- 212: 2016/05/12(木) 15:24:51.25 ID:SOEGTqCwO
- 胡桃「しばらくはいっしょにいたけど、その友達は助けを求めて外に出ていった。美紀はその子を止められなかったって後悔してる」
永井「彼女の生徒手帳に書いてあったのか」
胡桃「ああ」
永井「ふうん……無謀なことをしたもんだ」
胡桃「……その子の気持ち、あたしにはわからなくもない。先が見えない状況じゃ、自棄になっちまうからな。そうならずにすんだのは、ゆきがいてくれてからなんだってあらためて実感したよ」
永井「だから、丈槍さんのことを僕から彼女に伝えろってか?」
胡桃「んー、それは必要ないかもな。それより、おまえもちゃんと先輩らしくしてやれよ」
永井「やるべきことはやるよ」
胡桃「どうにも不安がのこる返事だな……変に同情しろとは言わないけどさ、気づかいくらいはしてくれよ。おまえにだって友達いるだろ?」
永井「わざわざ自分の友人関係を振り返らなくても、不用意な発言は避けられる」
胡桃「あそう。はあ……今日もグラウンドに大勢いる……やっぱ、どれが知り合いかはわかんねえや」チラ......
永井「……」
胡桃 (……こいつ、気にならないのかな? 逃走に協力してくれた友達がいまどうしてるかとか……)
- 213: 2016/05/12(木) 15:26:28.80 ID:SOEGTqCwO
-
タタタタッ
太郎丸「ワン!」
由紀「まって〜、太郎丸〜!」
美紀「もう! ゆき先輩がちょっかい出すから!」
由紀「ご、ごみんね、みーくん」
美紀「みーくんじゃないです!」
胡桃「あーあー、邪魔するなって言われたのに」
美紀「すみません、永井先輩」
永井「お昼の時間だし、戻ろうか」
美紀「で、でもまだ終わってませんよ」
永井「成否にはそれほどこだわらなくてもいい。トレーニングはこれから何度でも続けられるんだから」
美紀「はい……」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
- 214: 2016/05/12(木) 15:27:53.68 ID:SOEGTqCwO
- ーー学園生活部
由紀「ふぅ〜、お腹いっぱい。 今日はおかずがいっぱいあったね」
美紀「永井先輩、午後からもトレーニングですか?」
永井「いや、やめとこう。天気も悪いし」
美紀「えっと……じゃあ、わたしは何をしたら?」
由紀「みーくんはまだ仮入部なんだからゆっくりしてていいんだよー。あ、マンガ読む?」
美紀「いえ結構です」プイッ
胡桃「無理しなくてもいいんだぞ。太郎丸のトレーニングで疲れてるだろ」
美紀「いえ。何かしてたほうが落ち着きますから」
悠里「じゃあ、こっち手伝ってくれる?」
美紀「はい。家計簿ですか?」ガタッ
悠里「そうなの。最近、人数が増えたからいろいろ見直しをね」
美紀「手伝わせてください」
悠里「ええ、お願いするわ。これで見えるかしら?」
美紀「はい」
悠里「こっちが食料の欄で、こっちが……」
永井 (若狭さんとはとくに問題なさそうだな
- 215: 2016/05/12(木) 15:29:02.74 ID:SOEGTqCwO
- 永井 (やはり懸念があるとすれば、丈槍さんとの関係か。さっきのトレーニングも彼女のせいで中断したようなものだし)
永井 (あの程度なら時間が経てば反感も薄まっていくだろうから問題ないが、丈槍さんのことだ。なにか突飛な提案をしないとも……)
由紀「体育祭!」
永井「……チッ」
悠里「あら」
美紀「?」
胡桃「なんで体育祭?」
由紀「みんなで体動かすと楽しくなるよ! つらい悩みもすっきり!」
胡桃「……おまえ、悩みないじゃん」
由紀「それが……遠足から帰ってからごはんがおいしくって……」ハフゥ~
胡桃「ダイエットじゃねえか!」
由紀「くるみちゃんも運動しようよ〜。ほらっ」プニッ
- 216: 2016/05/12(木) 15:30:35.79 ID:SOEGTqCwO
- 胡桃「!! や、やめろこいつっ」ガタタッ
由紀「へへへ〜♪」ツンツン
胡桃「わかった、わかったから!」
悠里「ちょっと! 永井君もいるんだから……」
胡桃「あっ……」
永井「……」
美紀「あの、先輩?」
永井「ん? 聞いてなかった」
由紀「体育祭だよ! けーくん!」
美紀「ゆき先輩、遊ぶのは仕事が終わってからにしましょう」
由紀「遊びじゃなくて、部活動だよ!」
美紀「部活動?」
由紀「あ、そっか。みーくんはまだ仮入部だもんね」
美紀「それとどういう関係が……」
- 217: 2016/05/12(木) 15:32:05.34 ID:SOEGTqCwO
- 由紀「学園生活部心得第五条!」バッ
由紀・胡桃・悠里「「「部員は折々の学園の行事を大切にすべし」」」
由紀「だ・か・ら・体育祭!」
美紀「さっぱりわかりません……」
永井「僕は見学にしておくよ」
由紀「えー、けーくんもやろうよ〜」
永井「僕が参加しないほうが人数があうだろ」
胡桃「べつにいいじゃん。おまえ体力ねーんだし、これで鍛えれば?」
永井「僕はホワイトカラーなの」
由紀「けーくん、シャツ、赤いよ?」
太郎丸「ワウ?」
由紀「太郎丸もけーくんががんばるとこ、見たいよね〜?」
太郎丸「ワン!」
- 218: 2016/05/12(木) 15:33:36.38 ID:SOEGTqCwO
- 永井「準備くらいなら手伝うよ」
美紀「いいんですか? 仕事もまだ終わってないのに……」
永井「急ぎの仕事じゃないし、いますぐ取りかかる必要はないよ」
美紀「……永井先輩がそう言うのでしたら」
永井 (本意ではないのは僕も同じだけど、強く反対して僕に反感を持たれたら本末転倒だしな……直樹さんの運動能力を見るいい機会と捉えておこう)
由紀「みーくん、いっしょに準備しよ!」
美紀「……何をするんですか?」
由紀「玉入れの玉作り!」
胡桃「じゃ、あたしらは籠の代わりになるものを準備するか。いくぞ、永井」
永井「どうするんだよ?」
胡桃「紐をつかって鍋を蛍光灯な吊るすんだよ。あたしが結ぶから、おまえは机を支えててくれ」
永井「それはいいけど、着替えないのか?」
胡桃「うん?」
永井「制服のままでさっきの準備をするつもりだったのか?」
胡桃「……着替えてくる」
永井「うん」
悠里「くるみったら……」ハア...
ーーーーーー
ーーーー
ーー
- 219: 2016/05/12(木) 15:35:23.28 ID:SOEGTqCwO
- ーー三階・廊下
由紀「さ、体育祭はじめるよー」
由紀「体育祭といえば徒競走! けーくん、みーくんのタイムよろしくねー!」
永井「ハイハイ」
美紀「さっぱりわかりません」
胡桃「まあまあ。どうだ、ひと勝負?」
美紀「そのシャベルは?」
胡桃「ハンデ」ニッ
美紀「なるほど」
由紀「くるみちゃんのタイムはわたしが測るからね。それじゃ、いちについて……よーい、ドン!」
ダッ!!
胡桃「ハッハッハッ」
美紀「ハァハァ...」
ダダダッ!
由紀「……一位、くるみちゃん!」ピッ
永井「……」ピッ
胡桃「ふぅー……結構やるじゃん」ハァハァ...
美紀「ハンデつきで負けるとは」ゼエゼエ...
永井 (直樹さんのタイムは……これなら囮くらいには使えそうだな)
美紀「先輩、タイムはどうでした?」
永井「はい。結構いいタイムだったね」
美紀「ほ、ほんとですか? ありがとうございます」
由紀「次は玉入れだね!」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
- 220: 2016/05/12(木) 15:37:02.25 ID:SOEGTqCwO
-
ーー2-B教室
胡桃「いくぞー」ガタン
ゴロゴロ...
美紀「これで玉入れって無理がありませんか……」
由紀「無理は承知の学園生活部っ、だよっ!」シュパッ!
ガコン
由紀「はうっ」ペシッ
悠里「強すぎ。もっとそっーと投げないと」
美紀「……」ソ-...ポンッ
ポスッ
美紀「やった」パア
由紀「おおっ!? みーくんすごい」
美紀「みーくんじゃないです!」
由紀「よーし、負けないぞー」
ズルッ
由紀「あたっ!」ドテンッ
美紀「隙を見せましたね!」
胡桃「ははっ、やるじゃん」
悠里「こっちも負けないわよ」
- 221: 2016/05/12(木) 15:38:42.25 ID:SOEGTqCwO
-
永井「……」ボ-...
太郎丸「ワウ」ポン
永井「ん?」
太郎丸「ハッハッ...」フリフリ
永井「ボールか……」
ポ-ン
太郎丸「ワン!」タタタッ
胡桃「うわっ」
悠里「きゃっ」
太郎丸「ワウ!」バクッ
胡桃「おい、永井! あぶないだろ!」
永井「仕方ないだろ? 教室が狭いんだから」
太郎丸「ハッハッ...」ポテッ
永井「ほら」ポ-ン
太郎丸「ワン!」タタタッ
由紀「わわ、太郎丸〜」フラフラ
胡桃「あいつ、とんだステージギミックになってやがる……」
悠里「まさか途中から難易度が変わるとは……」
美紀 (いいなあ……)
ーーーーーー
ーーーー
ーー
- 222: 2016/05/12(木) 15:40:30.21 ID:SOEGTqCwO
- 胡桃「ろーく、なーな、はーち……あ、もうない」
美紀「やった!」グッ!
悠里「よかったわね」
由紀「負けちゃったー……せ、先輩の威厳が……」
胡桃「いや、元からあんまりないだろ」
由紀「ひどい! よーし、勝負だ! わたしに負けて泣くんじゃないよ!」
胡桃「よっしゃ、受けて立つ!」
美紀「クスッ」
由紀「けーくん、審判よろしく!」
永井「玉入れに審判いらないだろ」サワサワ
太郎丸「ワウワウ~」
由紀「太郎丸お腹なでられてるんだ。気持ちよさそう〜」
悠里「ほんと。かわいいわね」
美紀 (いいなあ……)
ーーーーーー
ーーーー
ーー
- 223: 2016/05/12(木) 15:41:52.42 ID:SOEGTqCwO
-
ーー
ーーーー
ーーーーーー
由紀「じゃ、ゴミ捨て行ってきまーす」
永井「僕はこいつを寝かしつけてくる」
太郎丸「スゥスゥ...」zzz
胡桃「すぐに戻ってこいよ? 片付けいっぱいあるんだから」
永井「わかってる」
ガラッ
悠里「さて、はじめましょうか」
胡桃「あたしらはボールを片付けようか」
美紀「はい」
悠里「どう? 美紀さん、少しは慣れた?」
美紀「そうですね。慣れたかもしれません」
胡桃「面白いやつだったろ?」ポンッ
美紀「何がですか?」ポスッ
胡桃「ゆき。変なことばっか言うけど、こういうのも楽しいっていうかさ」
美紀「……そうですね」
美紀「……」
- 224: 2016/05/12(木) 15:43:59.46 ID:SOEGTqCwO
- 美紀「ゆきちゃん、これからどうするんですか?」
胡桃「ん? ゆきならゴミ捨て行ってるけど」
美紀「そうじゃなくて……このままじゃダメですよね」
胡桃「べつにダメじゃないだろ」
悠里「ゆきちゃんは学園生活部に欠かせない子よ。楽しいことをいっぱい思いついてくれるから、わたしもくるみも助かってる。永井君もそれをちゃんと理解してくれてるわ。それじゃダメ?」
美紀「そうやって甘やかしてるから、治るものも治らないんじゃないですか?」
悠里「甘やかすとか治るとか、そういうものじゃないのよ」
美紀「どう違うんですか?」
胡桃「……」チラッ...
悠里「……」
美紀「永井先輩にしたって、あのひとは最近ここにきたばかりだから、意見を控えてるだけじゃないんですか?」
悠里「……わたしたちが永井君にゆきのことを強制していると言いたいの?」
美紀「どうなんです?」
悠里「……あなたはまだ、ゆきのことをよく知らないから……ゆきのおかげで、どれだけわたしたちが助かってるか……」
美紀「そんなの……」
美紀「ただの共依存じゃないですか」
悠里「あなたねっ……!」
胡桃「ふたりとも落ち着けよ!」グイッ
美紀「わたし、間違ったこと言ってますか?」
悠里「……」ジイイッ
美紀「……」
- 225: 2016/05/12(木) 15:45:31.42 ID:SOEGTqCwO
-
ガラッ
永井「戻ったよ」
悠里「!」ハッ!
胡桃「永井……」
永井「……何かあったか?」
美紀「永井先輩は、ゆきちゃんの状態についてどう思います?」
悠里「……!」
胡桃「おい!」
永井 (やはり、その話題か)
永井「直樹さんはどう考えてる?」
美紀「このままではいけないと思います。徐々にでも、現状に慣らしていかないと」
永井「ふうん……」チラッ...
悠里「……」グッ...
胡桃「……」
永井「それで? 具体的な治療法は?」
- 226: 2016/05/12(木) 15:47:09.74 ID:SOEGTqCwO
- 美紀「それは……」
永井「直樹さんの意見もわからなくはないけどね。でも、僕たちは治療の実践はおろか病状の診断すらできない。なんの専門知識もないガキが精神科医の真似をしたって、余計に状態を悪化させるだけだ」
美紀「それは、そうですが……」
永井「それでも、危険を認識できずに集団を危機にさらすことがあるなら、何らかの対策は必要だろう。隔離とかね」
胡桃「……本気で言ってんのかよ、おまえ」
永井「もしもの話だ。さいわい、丈槍さんは現実認識こそ正常ではないが危機認識はできてるみたいだし、さっき言ったようなことは必要ない」
美紀「……」
永井「だから、消極的ではあるけれど現状維持が現在とりうる最良の選択肢というのが僕の考えだ。何が言いたいことは?」
美紀「いえ……ありません……」
永井「若狭さんたちは? 僕の言ったことに訂正や反論はあるか?」
胡桃「……」
悠里「いいえ……」
永井「なら、この話は終わりだ。丈槍さんが戻ってくるまえに作業を再開しよう」
次スレ:
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