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勇者「共に歩み、共に生きる」

1: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:06:16.64 ID:aFMhqpbg0
勇者「聖王の命により、貴様を裁く。魔を放ち、聖王国を苦しめた罪は重い」

勇者「死を以て、償え」


魔王「今の世に、自由は無い」

魔王「聖王国は正義などでは無い。奴等も、支配している点では変わりないのだからな」

魔王「世を治る者、地に立つ者が、人から魔に変わるだけの事」

魔王「我等より先に、人が立った。立つ者が入れ替わるだけに過ぎない、違うか」


勇者「聖王様は絶対であり、正義。乱す者は、悪」



魔王「ならば、その正義とやらを見せてみよ」



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2: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:09:46.67 ID:aFMhqpbg0
ーーー
ーーー


勇者「帰還致しました」


聖王「無事で何より。これで、悪は滅んだ」

聖王「だが勇者よ、それはこの世界の話しなのだ……」


勇者「この世界、とは」


聖王「今から話す全てを信じよ。良いな」


勇者「はい」

3: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:11:35.52 ID:aFMhqpbg0
ーーー
ーーー


勇者「此処とは違う世界、其処にも魔物が」

聖王「うむ、帰還早々に悪いが、行ってくれるか」


勇者「勿論です」


聖王「ならば、賢者の下へ行け。彼ならば、道を作れる筈だ」



勇者「はい。では、行って参ります」

4: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:13:00.29 ID:aFMhqpbg0
ーーー
ーーー


賢者「聖王より話しは聞いている。準備は良いか」

勇者「はい、いつでも」


賢者「武運を祈る。では、始め、始め始めめめめめめめめめめめめ」


勇者「賢者様、どうしたのです」


賢者『ガガッ…ザザザッ…い、えるか? 聞こえるか?』


勇者「誰だ。賢者様に、何をした」


賢者『驚きもしない、か。正に人形だな……』

賢者『勇者、君には悪いが、少し細工させて貰う』

5: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:14:11.76 ID:aFMhqpbg0

勇者「何をする気だ」


賢者『君を人間にする。血の通った人間に』

賢者『泣き、笑い、悩み、迷う。そんな、本当の人間に……』

賢者『あまり時間が無い。今から流す』


勇者「流す、何をだ」


ヂヂッ……


勇者「ぐっ、何だ。何が……」


ガヂヂヂヂッ!!


勇者「ガッ!? グッ、ガアアアアアッ!!」

6: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:15:27.12 ID:aFMhqpbg0

『しかし、寿命に問題点が』

『構わん。戦える体であれば良い』

『成人の状態にしろ』


『彼が、我々の救世主か』


『戦闘経験は?』

『経過は順調です』


『では、次の段階に移れ』

7: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:16:39.89 ID:aFMhqpbg0

『一切の疑問を与えるな』

『我々こそが、正義なのだ』


『徹底的に刷り込め』


『そろそろか……うむ、やはり美しい』


『救世主と呼ぶに相応しい姿だな』


『従順で、死を怖れぬ。正に理想的だ』


『彼をベースに次の……』

8: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:17:15.97 ID:aFMhqpbg0


ザザザザザザ……



9: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:19:26.53 ID:aFMhqpbg0

『ふざけるな!! 外で生きて往けるわけが無いだろう!!』

『助けて、死にたくない!!』


『子供が居るの、その子だけは』

『嫌だ、離してくれ!! くそっ、何が聖王だ!!』


『殺してやる!!』


『お兄ちゃん、ねえ、お兄ちゃん……』


『やめろぉぉ!!』

10: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:21:03.05 ID:aFMhqpbg0

『死ね!! 聖王なんざ死んじまえ!!』

『逃げろ』


『あなたを、愛してるわ』


『ありがとう』


『誰もが、幸せになれるんだ』


『諦めちゃ、駄目だ』


『あんな化け物に殺されるくらいなら』

『早まるな、待て!!』


『お父さんっ、こんなの嫌だ。助けて……』

11: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:24:09.54 ID:aFMhqpbg0

ーー情報伝達完了


ーー脳波・心拍数・確認中……

ーー心拍数に異常あり

ーー応急処置開始


ーーーーー終了


ーー心拍数・正常

ーー投与開始

ーー確認中……

ーー確認中……

ーー適合率79・3%

ーー適合率・上昇中……


ーー最終適合率91・14%

12: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:29:10.13 ID:aFMhqpbg0

勇者「げほっげほっ!! ハァッ、ハァッ、ハァッ…」


賢者『一時はどうなる事かと思ったが、成功したようだ』

賢者『まだ感情の発露は見られないか。今は、仕方無い』

賢者『しかしこれで、君は造られた救世主でも、人形でもなくなった』


賢者『……君には、詫びねばならない。本当に、済まない』


賢者『我々は、過ちを繰り返した。私は、失って初めて、それに気付いた。私は、愚かだ……』

賢者『頼む、間違いを正してくれ」


賢者『君だけが世界の、私の希望なんだ』

13: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:31:52.01 ID:aFMhqpbg0

賢者『そして、奴等にとっての悪魔に……ぐはっ!!』

賢者『ふっ、はははっ、もう、遅い』

賢者『父さんを、許し……』

賢者『………………』

賢者『………………………』


勇者「ハァッ…ぐっ、うぅ」


賢者「では、転移の法を施す。全ての世界を救え、悪を滅ぼすのだ」




賢者「行け、勇者よ」


14: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:40:01.51 ID:aFMhqpbg0
ーーーー
ーーー


勇者「ん、此処は何処だ。っ、頭が」ズキッ


「無理に起き上がらないで下さい。まだ、動ける状態じゃないですから」


勇者「誰だ、此処は何処だ」


「私は女医師と言います。此処は、病院ですよ?」


勇者「(見慣れない器具ばかりだ。本当に病院なのか)」

勇者「(此処が別世界、なのか。だとしたら、まずは聖王様に会わなければならないな)」

15: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:41:20.83 ID:aFMhqpbg0

勇者「女医師、【聖王】と言う名に憶えはあるか」


女医師「勿論。この国を統べるお方ですから」ニコッ

勇者「聖王様は、何処に居る」

女医師「…………了解」ボソッ

勇者「どうした」

女医師「今から案内します」


勇者「そうか、頼む」

16: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:42:31.24 ID:aFMhqpbg0
ーーー
ーーー


勇者「(外に出たが、見慣れない物ばかりだ。空は硝子のような物に覆われている)」

女医師「どうしました?」

勇者「外だというのに天井のような物があるから、疑問に思っただけだ」


女医師「あれは、魔物の侵入を防ぐ為に、聖王様が造られた物です」

女医師「この国の外は、魔物で溢れていますから」


勇者「流石は聖王様。こんな大規模な防御壁をお造りになるとは」


女医師「そう、ですね…」

17: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:44:22.41 ID:aFMhqpbg0
ーーー
ーーー


女医師「此処が、聖王様の城です」


勇者「(随分、造りが違う。何しろ高い)」

勇者「今更だが、謁見の許可を取らずに入っても良いのか」


女医師「貴方が来る事は、分かっていましたから。大丈夫です」

女医師「中に入れば、係りの者が案内してくれますよ」


勇者「そうか、分かった」ザッ


女医師「(表情も、声も変わらない。まるで人形、彫刻のようだわ)」



女医師「嫉妬する程に美しいのに、気味が悪い……」

18: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:45:24.08 ID:aFMhqpbg0
ーーー
ーーー


聖王「早速だが、お前に命を下す」

聖王「この聖王国の外、外界は、魔物で溢れている。お前には、全ての魔物を排除して貰いたい」

聖王「武器防具は支給する。命を果たすまで、帰還する事は許さん」


勇者「承知しました」


聖王「それと、もう一つ」

聖王「外には穢れた輩がいる。奴等が語る言葉に惑わされるな」

聖王「この聖王だけを信じよ。下された命だけを実行せよ」

聖王「良いな」



勇者「承知しました」


19: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:48:45.65 ID:aFMhqpbg0
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ーーー
外界・森


勇者「(支給された武器防具は変わった装飾だが、性能は凄まじい)」

勇者「(三十近くの魔物を斬ったが、刃こぼれ一つない)」

勇者「(一番奇っ怪なのは、目に見えぬ弾丸が射出される武器)」

勇者「(銃、とか言っていたな。これは、かなり役に立つ)」


勇者「別世界、か。ん、まだ残りがいるな」

ザンッ!!

魔物「ギャッ…」

20: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:49:51.76 ID:aFMhqpbg0


ザシュッザシュッ!! パンッ…ザシュッ!!


21: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:51:25.98 ID:aFMhqpbg0

勇者「もうじき、日も暮れる。今日はこの辺にしよう」


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ーーー


パチパチッ……


勇者「暖かい」


『時間が無い。今から、流す』


勇者「あの時、確かに『何かが』流れ込んできた」ズキッ

勇者「見た事の無い景色、人々の声。あれはとても、とても……」



勇者「悲しそうな、声だった」ギュッ

22: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:54:55.65 ID:aFMhqpbg0
ーーー
ーー


「良いのですか?」

「外の連中に懐柔されれば、我々に牙を剥く可能性も」



「何も問題は無い。【聖王】の命は絶対なのだからな」

「奴が何を施したか知らんが、所詮は造り物。人になどなれん」

「アレが魔物を排除する。我々は、其処に新たなドームを建設する。それだけだ」

「アレは、死ぬまで戦い続ける。しかし、魔物を全滅させるなど不可能だ」

「よって、帰還することなど有り得ない」

「アレが死ねば、次なる【勇者】を造り出せば良いのだ」


「実験は、順調に進んでいる。何も怖れる必要は無い」

23: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:57:18.85 ID:aFMhqpbg0
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三日後


勇者「この森は、片付いたな。次の場所に向かおう」


???「アナタ、人間よね?」


勇者「誰だ」


???「後ろにいるよ。あっ、私は魔物じゃないから、絶対に斬らないでね!!」


勇者「お前、妖精か」

???「うん。私はピクシー。よろしくね」ニコッ

勇者「何の用だ」


ピクシー「案内人になってあげる。迷子になると大変だから」

24: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 21:59:05.17 ID:aFMhqpbg0
勇者「そうか、宜しく頼む」


ピクシー「何も疑わないの? 貴方を迷子にさせるつもりかも知れないよ?」


勇者「行き先に魔物が居るなら、迷子だろうと関係無い」

ピクシー「怖くないの?」

勇者「何を怖れる必要がある。聖王様の命に従って死ぬのなら本望だ」


ピクシー「私は悲しいな、アナタが死んだら……」



勇者「何故だ。お前に、何の、関係」ズキッ

25: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:00:20.54 ID:aFMhqpbg0

『愛してるわ』

『死なないで!!』


ピクシー「どうしたの? 大丈夫?」

勇者「何でもない。気にするな」

ピクシー「そう……なら、いいけど」


勇者「何処に向かうんだ」


ピクシー「とりあえず、私に着いて来て」

26: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:01:55.00 ID:aFMhqpbg0

勇者「洞窟か、入り口が塞がれているな」

ピクシー「ちょっと待っててね」


勇者「行ってしまった」


勇者「(魔物の住処、では無さそうだな)」

勇者「(こんな場所、ピクシーが居なければ、見つける事は出来なかっただろう)」


ピクシー「お待たせっ、入っていいよ」

勇者「中に居るのは、人間か」


ピクシー「そうだよ? ダメだった?」

27: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:03:37.93 ID:aFMhqpbg0

勇者「聖王様に、外界に居るのは穢れた者達だと聞いている」


ピクシー「ふーん。じゃあ、どうするの? 接触するのもダメ?」

勇者「いや、接触は禁じられてはいない」

ピクシー「じゃあ、大丈夫だね」


『何が聖王だ!!』

『出ていけだって!? 死ねっていうのか!!』


勇者「(何か、分かるかも知れない。あの光景、あの声が、偽りだとは思えない)」

勇者「行こう」


ピクシー「うんっ」


28: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:06:23.56 ID:aFMhqpbg0
洞窟内


勇者「思いの外、広い。人も多い」


ピクシー「この洞窟の他にも、こういう場所は沢山あるんだよ?」

勇者「そうなのか。それで、何故此処に連れて来た」

ピクシー「えーっと、この先に長老さんが居るから、話しを聞いてあげて」

勇者「聞くだけならな」

ーーーー
ーーー


長老「良く、来てくれたね」


勇者「お前が長老か。話しを聞く前に、聞きたい事がある」

29: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:07:58.10 ID:aFMhqpbg0
長老「構わんよ? 何でも聞いてくれ」


勇者「追い出される人々を見た。聖王様を呪う人々を見た。泣き叫ぶ人々を見た」

勇者「愛してると言い、それを失い、嘆く者も見た」ズキッ


長老「…………」

ピクシー「……」


勇者「……レが、オレが見たのは何だ!?」

勇者「お前達は何だ!? 何故泣く!? 何故悲しむ!?」


勇者「聖王様こそが正義!! その筈だろう!!」ダンッ

30: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:14:07.07 ID:aFMhqpbg0
長老「……………」

ピクシー「お、落ち着いて。ねっ?」


勇者「ハァッ、ハァッ……」ギリッ


長老「何処で何を見たのか知らないが、随分混乱しているね……」

長老「恐らく君が見たのは、我々の過去だろう。聖王に国を追われた、我々のな」


勇者「何故、追い出す?」


長老「今の若者は教えられないのかな? 簡単な話し、増えすぎたのだよ。それ故の人口削減、間引きだ」


勇者「……正しい判断だ」

長老「本当に、そう思うかね?」


勇者「ああ、聖王様の判断に間違いは無い」

31: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:16:06.36 ID:aFMhqpbg0
長老「なら何故そんな顔を? 君は疑問に感じているのではないのかな?」


勇者「……まれ」


長老「だから、知りたいのだろう?」


勇者「黙れ!!」ガンッ


ピクシー「きゃっ」ビクッ


長老「おやおや、まるで子供だな。聞いてきたのは、君の方だというのに」

長老「まあ良い。次は、私の話しを聞いてくれるかな?」

32: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:17:03.58 ID:aFMhqpbg0

勇者「…………」


長老「では、勝手に話させて貰うよ?」

長老「実は最近、洞窟近辺に魔物が増え始めてね。満足に食料を調達出来ない」

長老「君が良ければ、我々の手助けをして欲しい」


勇者「……聖王様の命には、含まれていない。オレは行く」ザッ



長老「そうか、残念だが仕方無い」


33: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:19:06.34 ID:aFMhqpbg0
ピクシー「ねえ、いいの? アナタは、後悔しない?」クイッ

勇者「道案内は、もう必要無い」パシッ

ピクシー「あっ…」


ーーーー
ーーー

洞窟近辺

勇者「魔物の根絶。それが、オレに与えられた命だ」

勇者「悩む事も、後悔する事も無い。聖王様は絶対の存在」

勇者「穢れた者の言葉に、惑わされるな」


自身に言い聞かせるような呟き。

突如発現したそれに、戸惑い、怖れている。

その姿は

内から湧き出る何かを、必死で抑え込んでいるようにも見えた。

34: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:21:15.38 ID:aFMhqpbg0

一週間後 洞窟近辺


勇者「(森の時から疑問だったが、妙に魔物が寄って来るな)」

勇者「(手間が省けるし効率も上がるのだから、本来なら良しとする)」

勇者「(だが、姿を隠しても見付かるのは、おかしい)」

勇者「(まるで何かに引き寄せられているような……)」



勇者「ちっ、駄目だな。あれから、色々と考え過ぎている。水でも被るか」

35: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:22:54.96 ID:aFMhqpbg0

洞窟近辺・川


勇者「随分と汚れていたんだな。全く気にならなかった」

勇者「返り血か、髪も真っ黒だ」


バシャ……ガシガシッ


勇者「たまには、水浴びも良いかもな。すっきりする」

勇者「ん、あれは」


川から出ようとした時、一体の魔物が現れた。何かに、引き寄せられているかのようだ。


彼の存在には、全く気付いていない。

36: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:24:26.49 ID:aFMhqpbg0

勇者「(何故、オレに向かって来ない? 奴は何を見ている?)」


剣を手に取り岩場に身を潜め、魔物の行動を観察。

どうやら、川縁に置かれた防具に向かっているようだ。


勇者「(食料は携帯していない。一体何に……まさか、防具か?)」


魔物は、彼に引き寄せられていたわけでは無かった。

彼が身に付けていた防具、それに引き寄せられていたのだ。

魔物は防具に噛み付き、爪を立て、引き裂く。


勇者「(なる程、そういう仕掛けだったわけか)」



一体何と勘違いしているのか、魔物は防具を喰らってしまった。

37: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:26:09.70 ID:aFMhqpbg0

勇者「防具のみを喰らい、衣服には損傷が無い」


勇者「何かが塗り込まれていたのか、そういう素材で造られたのか……」

勇者「ともかく、それによって、多数の魔物が引き寄せられていた」

勇者「くく、はははっ」


勇者「これではまるで、魔物ではなく、オレを排除したいかのようだな」


口元を歪め、不敵に笑う。

彼は、気付いているのだろうか?


勇者「オレは馬鹿だ。よくよく考えれば、怪しい所ばかりじゃないか」



確実に、変化、している事に。

38: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:28:48.67 ID:aFMhqpbg0

洞窟前


勇者「戻って来てしまった。いや、魔物は排除したわけだし、報告ぐらいしても問題は無い」

勇者「命に逆らったわけでも……そう!! 魔物の根絶が目的なのだか」


???「一人でブツブツ言ってる所悪いけど、何してるの?」


勇者「!! あ? はぁ、何だ、お前か」

ピクシー「ひっどいなーって言うか、どうしたの?」


勇者「いや、此処一帯の魔物は排除したんでな、長老にでも、その…」ポリポリ

39: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 22:32:13.53 ID:aFMhqpbg0

ピクシー「言わなくても、みんな知ってるよ?」

勇者「は? 何故」


ピクシー「私が隠れてアナタを尾行して、報告してたからっ」

ピクシー「本当は優しいんだね、アナタって」クスッ


勇者「やかましい。それより、皆はどうだ? 悲しくなってないか?」


ピクシー「……大丈夫、みんな喜んでる。お礼が言いたいなーって、言ってた」

ピクシー「せっかくだし、顔見せてあげなよ? ねっ?」クイッ



勇者「そう、だな」

43: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 23:12:39.26 ID:aFMhqpbg0
洞窟内


長老「彼女から話しは聞いていたよ。本当に、ありがとう」

長老「皆が、君に感謝しているよ」


勇者「どの道、魔物は排除しなければならなかった。気にするな」

ピクシー「あっ、素直じゃなーい。さっきまで、うじうじしてたクセに」

勇者「やかましい、目の前で飛ぶな」


長老「ふむ、変わるものだな」


勇者「変わる? 何がだ?」

44: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 23:15:20.05 ID:aFMhqpbg0

長老「君だよ。一週間前に初めて君を見た時、感情の欠片も見えなかった」

長老「混乱していたのか、君は激昂したが、それでも人間味は薄く感じられたよ」

長老「しかし今は、表情も声にも、温もりがある。生きている」


勇者「生きているのは、当たり前だろう」


長老「そういう意味じゃない。何と言えば良いのか……」

長老「血が通ったと言うか。優しい心を、持っているよ」


ピクシー「うんうん、アナタは優しいんだよ?」

45: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 23:17:39.06 ID:aFMhqpbg0

勇者「……長老」


長老「何かね?」


勇者「オレは今、揺らいでいる。聖王様に疑念を抱いている」

勇者「追い出す以外に道は無かったのか、貴方達が悲しまずに済む方法は無かったのか」

勇者「聖王様は、絶対だ。こんな事は考えてはならないのに、そればかりが、頭を過ぎる」


ピクシー「…………」


長老「確かに我々、下級市民は追い出された。しかし、救われた者が居るのも事実」


長老「未だに恨む者も居るだろうが、現状は変えようが無いのだよ」

46: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 23:18:55.01 ID:aFMhqpbg0

長老「私個人としては……」


勇者「構わない。はっきり言ってくれ」


長老「魔物が消えても、人が変わらなければ、世界は変わらない」

長老「平和や安息。それを求めるあまり、人は醜くなってしまった」


勇者「…………」


長老「皆が優しく生きられれば、他者を労り、真に愛すれば、こうはならなかった……かもしれない」

長老「爺の理想に過ぎないがね」



勇者「聖王様には、それが無いと?」

47: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 23:20:42.85 ID:aFMhqpbg0

長老「追い出された身としては、そうなるのかも知れないな」

長老「向こうでは、どうか知らんがね」


勇者「……ありがとう。話せて良かった」


ピクシー「へー、アナタって、お礼言えたんだねっ」ツンツン


長老「ふむ。何か、決めたのかな?」


勇者「ああ、一つ決めたよ。確か、コイツが言うには……」ガシッ

ピクシー「ち、ちょっと、離してよ!!」


勇者「他にも此処と同じような場所があるらしい。其処へ行こうと思う」

48: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 23:22:58.37 ID:aFMhqpbg0

ピクシー「バカッ、ヘンタイ!! うー!!」ジタバタ


長老「それは何故かな?」


勇者「何かが、そう命じるからだ。悲しみは、見ていて気分の良い物じゃないからな」


ピクシー「………かっこつけちゃって」


勇者「何とでも言え」


長老「なら、今日は此処に泊まって行きなさい。きっと子供達も喜ぶ」

長老「それに見た所、防具を失ったようだね。替えの物を造らせよう」

49: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 23:24:08.37 ID:aFMhqpbg0

勇者「それは有り難いが、一日で造れるのか? 材料はどうする?」


長老「君が倒した魔物の骨や皮があれば、すぐに造れる」

長老「物作りが好きな人物が居るからね」


勇者「そうか、なら早速取って来よう」パッ

ピクシー「わっ!?」トスン

勇者「おい」

ピクシー「いたたっ、なによー?」



勇者「お前も来てくれ」


50: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 23:26:03.69 ID:aFMhqpbg0

ピクシー「道案内はいらない……とかって言ったクセに」

勇者「それは、済まなかった」


ピクシー「それだけー?」ニヤニヤ


勇者「お前が居ないと……」

勇者「いや、違うな。お前が傍に居ると安心するんだ。頼む」


ピクシー「なぇ? あ、あっそ。別にいいけど?」プイッ

勇者「そうか、助かる」



ピクシー「ほ、ほらっ、早く行こっ」

51: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 23:32:21.64 ID:aFMhqpbg0
洞窟周辺


ピクシー「うわっ、気持ち悪いぃ」

勇者「嫌なら見るな」


ピクシー「そうする。うぇっ」


勇者「(魔物、か……)」

勇者「(以前の世界では魔王が原因だったが、此処にも魔王が居るのだろうか?)」


勇者「一つ聞きたい」


ピクシー「なーに?」


勇者「何故、魔物が蔓延る? 原因は何だ」

52: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 23:38:18.69 ID:aFMhqpbg0

ピクシー「はぁ? そんなの、人間が造ったに決まってるでしょ」


勇者「待て、造っただと。そんな馬鹿な話し」


ピクシー「本当だよ!! 嘘じゃないよ!?」

ピクシー「ずーっと昔に、戦争で人間が死ぬの禁止!! って言った人がいたの」

ピクシー「えーっと、それで変なバイ菌を造って、動物とかに移して……それが魔物になって、えーっと」


勇者「バイ菌? 風邪みたいなものか」


ピクシー「うーん、詳しくは分からないけど、それが魔物の始まりだよ」

ピクシー「でもね? そのバイ菌が人間とかにも移っちゃって、それで世界がこんな風になっちゃったの」



勇者「彼等は大丈夫なのか? バイ菌が移ったりしないのか」

53: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 23:40:16.59 ID:aFMhqpbg0

ピクシー「わくちん? を摂取したから大丈夫だって聞いた」

勇者「よく分からないが、大丈夫なんだな」

ピクシー「大丈夫じゃなかったら、とっくに魔物になってるよ」


勇者「……それも、そうだな」


勇者「いやちょっと待て。だったら、お前のような妖精は何だ?」

勇者「まさかお前も、そのバイ菌とやらで」



ピクシー「ううん。私はちょっと違う。私は……えっ?」

54: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 23:42:19.61 ID:aFMhqpbg0
勇者「どうした?」


ピクシー「ま、魔物が、魔物を食べてる」


勇者「奴は川で…そうか、今は奴が魔物を引き寄せて……っ、マズい」


ピクシー「ど、どうしたの?」


勇者「説明している時間は無い。オレは、奴等を殺さなければならない」


勇者「いいか、お前は此処に居ろ。絶対に来るな」ダッ

55: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 23:44:22.28 ID:aFMhqpbg0

勇者「(始末すべきだった。ちょっと考えれば、予想出来た筈だ!!)」


見れば、その魔物に他の魔物が群がっている。

防具を喰らった魔物だ。

あれが多数の魔物に喰われれば、【魔物を引き寄せる魔物】が増え続けるだろう。


勇者「(ぐずぐずしていると、魔物が増える。銃で数体片付ければ、どうにか出来る)」

56: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 23:46:33.93 ID:aFMhqpbg0

遠距離だが、当たらぬ距離では無い。

頭部に狙いを定め、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ……

しかし、四体目の頭部に照準を合わせ引き金を引いた時、切れた。


勇者「流石に、そこまで都合良く行かないか。仕方無い」


魔物は共食いに夢中、見向きもしない。防具に含まれる物質は、魔物を虜にしているのだろうか。

行くしかない、飛び込むしかない。

まだ離れているとは言え、もし洞窟内に侵入されでもすれば、彼等に為す術は無い。


一体が入れば、それに惹かれて複数体がやってくるだろう。

57: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 23:49:22.54 ID:aFMhqpbg0

勇者「そうなる前に、何とかする。元はと言えば、オレの不始末なのだから」


十体程だろうか、それも殆どが大型。

この世界の誰よりも戦闘経験のある彼といえど、流石に厳しい数だろう。


勇者「うおぉぉぉ!!」


不意打ちが目的ならば、決してしてはならない行為だが、目的は別にある。


共食いを中断させ、注意を引く。

それは、成功した。


魔物は振り向き、彼を認識する。

58: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 23:50:30.22 ID:aFMhqpbg0

勇者「それでいい」


そこからが、早かった。

手前一体を斬り伏せると中心へ飛び込み、一気に数体を斬り伏せる。

敢えて間に入り攻撃範囲を狭める、が……


勇者「ちっ、お構い無しか」


極度の興奮状態にあるのか、滅茶苦茶に剛腕を振るう。

間一髪で避けたが、危うい。



何よりも厄介なのは、逃げ出そうとする魔物。

59: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 23:52:37.09 ID:aFMhqpbg0

勇者「逃がすか……」


剣を投擲、円を描いた剣は見事命中し、首を切断。

しかしそれ故に体勢が崩れ、動作が遅れてしまう。

待っていたのは、迫り来る剛腕。


勇者「がっは!!」


咄嗟に両腕で防ぐが、魔物の剛腕の前では枯れ枝同然。

あらぬ方向へ曲がった腕、最早、剣を握る事は出来ないだろう。


吹き飛ばされた先は、もう一体の魔物の足下。

60: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 23:55:02.68 ID:aFMhqpbg0
魔物は躊躇い無く、彼を踏み潰す。


ピクシー「やめてっ!!」

勇者「なっ!? 馬鹿、早く逃げろ!!」


彼と魔物の間に割って入り、彼女は叫ぶ。


通じずとも、叫ぶ。

彼女の行為は、無駄。

命を晒すだけの、無謀な行動。


そして


ピクシー「あぅ…うぅ……」


赤子の首を捻るが如く、容易く掴まれ、万力のような力で締め上げられてしまう。

61: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/18(土) 23:58:02.68 ID:aFMhqpbg0


勇者「止めろっ、そいつを離せっ!! 殺すぞ!!」


両腕を失った者の恫喝など通用する筈も無く、徐々に、死に近付いて往く。


ピクシー「あぐっ!!」


『愛してる』

『死なないで!! あなた!!』

『奴等にとっての、悪魔に…』


勇者「ぐッ、がッあぁぁぁぁっ!?」


瞬間、変貌。

体中に光のヒビが入り、同時、骨格が叫び、筋肉がうねる。

皮膚は硬質なものに変化、爪は鋭い刃へ。

彫刻のようだと評された美しい顔は、怒りに染まり、最早面影は無い。


切れ長の瞳、裂けた口、牙。

逆立った頭髪は、角にすら見えた。


黒に塗り潰されたい裸体には、幾つもの紅い線が走っている。


煌めくそれは、己に血が通っている事を、証明、主張しているかのようだった。

62: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 00:01:07.42 ID:/z34fs4B0
瞬時に彼を上位の存在と認識した魔物は、その姿に恐怖した。

その一瞬で、全てが決定する。


勇者「シッ!!」


跳躍、顔面に手刀を突き刺し、肘から突出した骨格の刃が、彼女を掴む腕を切り裂く。

指を切り落とし、すぐさま彼女を解放。

間を置かず後ろへ跳び、蹴りを放つ。


其処には、彼の腕を砕いた魔物。

蹴り脚は腹部を貫通しているが、終わらない。


勇者「ガッアァァッ!!」


怒りとは別種。

嘆き、苦しんでいるかの様である。

その悲痛な叫びは、大地を揺らし、何処までも轟く。


勇者「カッ」


貫通した脚をそのままに後方一回転、それは腹を裂き、頭上へと抜けた。


63: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 00:06:54.60 ID:/z34fs4B0

勇者「ハァッ、ハァッ…魔物に、バイ菌でも移されたか?」


勇者「ははっ、別にどうでも良いか。取り敢えず、今は防具の欠片を処分しないとな」


勇者「捨てたら喰うだろうし、川に流しても同じ。解決にはならないな」

ピクシー「…………」

勇者「脈は、ある。良かった」


彼女は、生きている。

だが、未だ意識を失っている。もたもたしては居られない。

少しだけ悩んだ結果……


勇者「オレが、喰うか」



彼は、取り敢えず喰った。

64: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 00:08:58.19 ID:/z34fs4B0
ーーーー
ーーー


ピクシー「ん、あれっ?」

勇者「ようやく気が付いたか、良かった。もうすぐ洞窟に着くぞ」


ピクシー「……アナタ、何で上半身裸なの?」

ピクシー「まさか、私が気を失ってる間に!!」


勇者「やかましい」

勇者「袋を忘れたから、服と毛皮で魔物の骨を包んでいるんだよ」


ピクシー「ふーん。寒くないの?」

65: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 00:11:30.47 ID:/z34fs4B0
勇者「背中は温かい。落ち着く」


ピクシー「ヘンタイだねっ」


勇者「降りろ」

ピクシー「やーだね。アナタ、寒そうだし、くっ付いててあげる」

勇者「おい」

ピクシー「なーに?」


勇者「その、助かった。ありがとう」



ピクシー「……うんっ」ギュッ


66: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 00:13:33.08 ID:/z34fs4B0
洞窟前


勇者「はぁ、もう真っ暗だな。重いだろうが、頼む」


ピクシー「ここに来るまでは魔物出なかったし、入っても大丈夫じゃない?」

ピクシー「だって、防具の破片は処分したんでしょ?」


勇者「まあな。だが、破片を喰らった奴を一匹仕留め損ねた」

勇者「此処に現れない、という保証は無い」


ピクシー「そっか。じゃあ、コレ渡し終わったら服持ってくる」

勇者「ああ、頼む」


ピクシー「じゃっ、ちょっと待っててね。うっ、重っ」フラフラ

67: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 00:15:26.62 ID:/z34fs4B0
勇者「逃げた一匹は、オレだ。とは言えなかったな」

勇者「あれだけ返り血を浴びれば、バイ菌も移るか。わくちん、があれば治るのだろうか?」

勇者「まあ、下半身を露出せずに済んで良かった」


ピクシー「おーい、服持って来たよー」


勇者「(何となくだが、あいつには嘘を吐きたくない)」


勇者「(でも、話したくもない。何だ、この感覚……オレは変わった、のか?)」

68: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 00:17:03.49 ID:/z34fs4B0
洞窟前


パチパチッ…パチッ


勇者「お前まで、外に出る必要は無いだろうが」

ピクシー「私がそうしたいから、いいの」フフン


勇者「(話すべきだ。コイツにだけは、話した方がいい)」

勇者「ちょっと、いいか」


ピクシー「どーしたの?」

勇者「今から話すのは、本当の事で、嘘じゃない」



ピクシー「話して? 私、ちゃんと聞くから」

69: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 00:19:12.08 ID:/z34fs4B0
勇者「お前が魔物に掴まれて、気を失った時、オレは悪魔? になったみたいだ」

勇者「全身は真っ黒、幾つもの紅い筋。それが紋様みたいに……折れた両腕も治っていた」


勇者「後、破片を喰った」


ピクシー「は、はぁっ!? バッカじゃないの?」


勇者「お前は死にそうに見えたし、迷ってる暇もなくて、つい」

ピクシー「つい、ってバカ。大体、悪魔なんて言ってるけど、アナタは人間でしょ?」


勇者「勿論人間だ。良く分からんが、本当に体が変わったんだ。バイ菌の所為かもな」



ピクシー「えっ? アナタ、わくちん、してないの?」

70: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 00:20:58.37 ID:/z34fs4B0
勇者「そんな物を貰った憶えは無い。この世界に来て、まだ日が浅いんだ」

ピクシー「ん? ちょっと待って、この世界って、どういう意味?」


勇者「オレは、此処とは違う世界に居たんだ。言ってなかったか?」


ピクシー「聞いてないし。しかも違う世界って……アナタ、頭大丈夫?」

勇者「実際、気付いたらこの世界にいたんだ。色々と違って見えた」


ピクシー「うーん。じゃあ、信じた上で聞くけど、何が違ったの?」


勇者「建造物、人間、武器。銃なんて、以前の世界では考えられない代物だった」

71: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 00:23:17.52 ID:/z34fs4B0
ピクシー「建造物と人間は、どう違ってた?」


勇者「人間は、お前みたいにころころ表情を変えない」

勇者「誰かが魔物に殺されても、あまり悲しそうでは無かったな」

勇者「建造物は、上手く言えないが、もっとゴツゴツしていた。四角くて、やたら高い建造物なんて存在しない」


勇者「だが、聖王だけは変わらないな。考えると、おかしい事だらけだ」


ピクシー「……アナタの、名前は?」



勇者「勇者、と呼ばれていた」


72: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 00:25:39.85 ID:/z34fs4B0
ピクシー「そっか、アナタが勇者なんだ」

勇者「オレを知っているのか?」

ピクシー「ちょっと違う。私は【勇者】を知ってるだけ」


勇者「話してくれないか?」


ピクシー「今から話すのは、本当。だから、信じて」



勇者「信じる」



彼女は、ゆっくりと語り始めた。

自分と、勇者と、ある研究者の話しを……何かを辿るように。


73: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 00:28:54.19 ID:/z34fs4B0
語られた事実。

それは荒唐無稽で、理解が及ばず、俄に信じ難い内容であった。


造られた人間、造られた妖精、非人道的実験。

それを結ぶのは、主任である一人の男。


その人物とは、彼女の父であった。


聖王に、ある計画を任され、研究に研究を重ねる日々。


当初、彼に迷いは無かった。

74: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 00:30:49.07 ID:/z34fs4B0
人工的に新たな生命を生み出すという、神に背く実験。

彼は、それに高翌揚し、酔いしれた。

あたかも、自身が神になった感覚でいたのかも知れない。


我が子が、実験体に選ばれるまでは……


彼は神などでは無かった。

聖王の命に従う隷に過ぎなかったのだ。


逆らう事など出来ず、結果として、彼は娘を失った。

眠り続ける我が子を見て、彼は決意する。


何としても、甦らせる……と。

75: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 00:32:13.80 ID:/z34fs4B0
だが、何をしようと、娘は目覚めない。

そこで、彼は諦めた。


娘を甦らせる事を諦め、娘を【生み出す】事にしたのだ。


別種。そう、人間でなくとも良い。

正しく、狂っていたのだろう。通常の発想では無い。


あらゆる技術と知識を駆使。

幾度の失敗を経て、別の生物として生まれ変わらせる事に成功した。


いや、この時点では、まだ成功では無い。

76: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 00:34:25.42 ID:/z34fs4B0
問題は、記憶の引き継ぎ。


その点で、彼は何度も躓いた。

娘本体から記憶を読み取り、生み出した生物に刷り込む。

だが、上手く行かない。その為、多くの脳を、消費した。


だが、遂に結実する。


全てとは行かず、知識に偏りもあるが、記憶を移植する事には成功し、娘を新たに生み出した。



それが彼女、妖精・ピクシーである


77: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 00:37:09.76 ID:/z34fs4B0
特に、記憶伝達、情報伝達の技術は高く評価され、皆は彼を天才だと持て囃した。

しかし、彼は怖れていた。


やっと甦らせた娘が、再び実験の道具にされてしまうのではないか?


彼は、綿密な計画を立て、下級市民が新たに追放された際、彼女を逃がしたのだ。

疑われる事も当然考慮していたが、皮肉にも実験への【貢献】が、それをさせなかった。



娘を甦らせようとしていたその間。

平行していたもう一つの実験があった。


それが、勇者。


魔物を廃し、人類に平和を齎す者。


78: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 00:41:01.47 ID:/z34fs4B0
彼が改良を加えた情報伝達システムをフルに活用し、洗脳。


より従順で、完璧な兵を生み出す。


だが、肉体の強化・成長促進により、寿命が短いという問題点が発覚。

加えて、人型の生物を造るのが至難。


魔物の根絶が目的ならば、人間でなくとも良いのでは?

と、研究者は聖王に掛け合ったが、それを拒否。


民に希望を与える存在は、美しくなくてはならない。


それが、拒否した理由。

研究内容と同じく、聖王も狂っているのだろう。



彼女が知るのは、此処までである……

82: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 13:48:03.06 ID:2LPZ8m9b0

それから、二カ月が経った。


二人は変わったかと言うと、そうでもない。

勇者は、彼女から語られた事実に混乱したが、受け入れた。

いや、受け入れたのか理解したのかも分からないが、否定はしなかった。


その時、勇者が口にしたのは


「そうだと言うのなら、そうなのだろうな。突拍子も無い話しだが、信じる」

「ただ、聞いておいて何だが、あまり関心が無いんだ」


「お前が傍に居てくれれば、それで良い。そんな気がする」

83: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 13:50:04.50 ID:2LPZ8m9b0
それだけだった。


彼女は頬を朱に染め、それを受け入れ、二人は旅を始めた。

世界を知り、人々を救う為の旅である。


悪魔化については、不明。

知る術は、ドームにある。


ドーム内の研究施設に行けば、すぐに判明するだろう。


84: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 13:51:44.32 ID:2LPZ8m9b0
だが勇者は、危険を冒してまで行く気にならず、其処までして知りたいとも思わなかった。

屈託無く笑う彼女が傍に居れば、それだけで、心が満たされたからだ。


現在、二人は瓦礫の街に居る。


地下の人々と出逢い、少しでも安心して暮らせるよう、地上の魔物を排除。

地下の人々は大いに喜び、感謝し、歓迎した。


聖王国に追放、見放された彼等の心に、希望が灯りつつあった。



『勇者なら、間違いを正してくれるのではないか?』


85: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 13:53:14.01 ID:2LPZ8m9b0


聖王を打ち倒すとかでは無い。

外界でも生きて行けるのだと、そう思い始めていたのだ。


しかしその夜、予想外の人物が、二人の前に現れた。



86: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 13:54:22.48 ID:2LPZ8m9b0
ーーーー
ーー


「目標を確認」


倒壊したビルの上、其処には、ライフルを構える女性の姿。

気高さと美しさが、月明かりに照らされ、より一層際立っている。

彼女の装備は、当初の勇者が着用していた物と同じ。

一つ違いがあるとすれば、彼女に魔物が寄ってこない事。


スコープ越しに目標を観察する瞳には、感情らしきものは見受けられない。

87: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 13:55:32.58 ID:2LPZ8m9b0
「勇者を抹殺、する」


が、彼女に異変が起きた。

引き金に掛けた人差し指が、動かない。何やら、苦しそうである。


「頭が、っ…」


それは、勇者が体験した痛みと同一の物。だが、彼女に『それ』は有り得ない。


過程は違えど、記憶は消去、洗脳された、完全なる人形なのだから。

88: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 13:57:30.82 ID:2LPZ8m9b0
事実、勇者を追う最中。

外界に住む人々に聞き込みを行った際、こんな風にはならなかった。

誰が、どんな表情を見せようと、彼女は変わらなかった。

彼とは違い、彼女は一切の疑問も湧かない。


「予定変更。剣による近接戦闘」


今までに無かった出来事。

頭痛は止まず、照準に狂いが出ると判断した彼女は、狙撃を断念。


彼が一人であったなら

此処に居るのが彼女でなければ

狙撃は、確実に成功していた事だろう。

89: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 13:59:37.01 ID:2LPZ8m9b0
「この感覚は、何」


彼女は、聖女という。


勇者の次に造られた存在である。

聖王の命により、欠陥品である彼を抹殺し、遺体を持ち帰る。

より良い【勇者】を造るには、彼が必要だと考えたのだろう。


結果、それが災いを齎す事になるなど、聖王には予想出来ていない。


人間に、管理出来る筈も無い。


何故ならそれは

偶然か、或いは、運命と呼ばれるものなのだから。


90: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 14:01:46.80 ID:2LPZ8m9b0
瓦礫の街 地上


ピクシー「まだ心配なの?」

勇者「オレが? 何を心配する」


ピクシー「だって、違う街とかに来ても、いつも外で寝てるから」

ピクシー「魔物が寄ってくるの、心配なのかなーって」


勇者「あぁ、言われてみれば確かに、あの時以来、習慣になっていたのかもしれないな」

勇者「まあ、怖いんだろう」


ピクシー「誰かが悲しむのが?」

91: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 14:04:11.53 ID:2LPZ8m9b0

勇者「ああ、そうだ。折角、沢山の人々と出会えたのに、そんなのは御免だ」


ピクシー「魔物の毛皮着てるクセに、変なのっ」クスッ

ピクシー「今は慣れたけど、あの時は笑ったなー」


勇者「頑張って作ってくれた服なんだ。笑うな」

勇者「……確かに、やり過ぎな気もするけどな、コレは」ファサッ


ピクシー「あはははっ、ダメっ、止めてっ、お腹が苦しい」バタバタ

ピクシー「腰巻きにマント、弓と槍まで作ってくれたもんねっ」

92: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 14:05:47.87 ID:2LPZ8m9b0
勇者「笑いすぎだぞ、全く。腰巻きやマントはともかく……」


勇者「この鎧は優れているし、弓と槍にも満足してる」

勇者「凄い技術だ。またいつか、一瞬に会いに行こう」


ピクシー「うんっ」ギュッ

勇者「おい、止めろ」


ピクシー「って、言うだけで嫌がらないよね、アナタってさ」モゾモゾ


ピクシー「はぁー、暖かい」

93: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 14:07:21.09 ID:2LPZ8m9b0

勇者「マントを馬鹿にしていた割に、気に入ってるな」

ピクシー「嫌いだなんて言ってないし、ふかふかしてて、好きだよ?」


勇者「(いつまでも、このままでいられたら。それが、幸せってやつなのか?)」

勇者「(それとも、愛してるってやつか? 愛してる……か、悪くないかもな)」


ピクシー「いたっ」ズキンッ

勇者「おい、どうした?」


ピクシー「分かんない。なんか、急に頭が……」ピクッ



ピクシー「何か、来る。アナタ、気を付けて」


94: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 14:08:08.76 ID:2LPZ8m9b0
勇者「魔物か」


ピクシー「違う、魔物じゃ…ない」ズキンッ

勇者「おい、無理するな。お前は地下に」


ピクシー「出来ないよ、そんなの。絶対、離れたくない」

ピクシー「私は、アナタの傍にいる」


勇者「だが、かなり顔色が悪い」


ピクシー「傍に居てって、そう言ったのは、アナタだよ?」

勇者「……そうだったな、分かった。オレの後ろに居ろ」



勇者「オレから、絶対に、離れるな」


95: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 14:11:38.95 ID:2LPZ8m9b0
ーーー
ーー


勇者「お前は、誰だ?」

聖女「私は聖女。勇者は、貴様……貴方で間違い無いな」ズキッ


勇者「(あの装備は……と言うことは、コイツも同じなのか?)」

勇者「ああ、勇者はオレで間違い無い。何の用だ」


聖女「聖王様より、貴方の抹殺を命じられた。任務を遂行する」

勇者「随分、素直に話すな。勝てる自身があるからか?」


聖女「勿論」


ピクシー「……私、なの?」

96: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 14:13:09.92 ID:2LPZ8m9b0

勇者「何だって?」


ピクシー「やっぱり、私の体。なんで……」

ピクシー「二度と目覚めないって、言われてたのに」


聖女「何を言っている。私は、聖王様の力により生まれた」

聖女「お前などでは、無い」


勇者「(何がどうなってる。聖女が、コイツの本物?)」

勇者「(いや待て、体は残っていると言っていた)」



勇者「(それにカガクとかを使って? 駄目だ、分からない。)」


97: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 14:14:18.28 ID:2LPZ8m9b0
ピクシー「聖女は、忘れてるだけだよ」

ピクシー「お父さんや、色んな研究の事も……」


ピクシー「私は、お母さんから生まれた。聖王なんかじゃ…ない」ズキンッ


聖女「っ、何だ。この、痛み」ズキンッ


何かが繋がっている。

恐らくそれは、記憶伝達時の、名残。


共鳴、のようなものだろう。

98: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 14:15:12.76 ID:2LPZ8m9b0

勇者「おい、しっかりしろ!!」


二人共に、その場に崩れ落ち、止まない頭痛に悶えている。

特に苦しんでいるのは、ピクシー。

汗も酷く、呼吸も荒い。


聖女「(知らない、こんなの知らない。見たく無い、嫌だ……)」


鍵は、開いた。

凄まじい量の記憶が、彼女に流れ込んで往く。

99: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 14:15:52.65 ID:2LPZ8m9b0
父や母、飼っていた犬、花……


そして、実験。


聖女「いやっ、助けて……お父さん、助けて」


混濁、彼女は記憶の中でもがいている。いや、体験しているのだろう。

だがそれも一瞬。

次に見た景色は、彼女の物では無かった。


それは、もう一人の自分の記憶。


100: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 14:16:24.07 ID:2LPZ8m9b0

ザザザザザザ……

101: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 14:17:07.76 ID:2LPZ8m9b0

『それだけー?』


『お前が居ないと……』

『いや、違うな。お前が傍に居ると安心するんだ。頼む』


『やめてっ!!』

『なっ!?  馬鹿、早く逃げろ!!』


『ようやく気が付いたか、良かった。もうすぐ洞窟に着くぞ』


『……アナタ、何で上半身裸なの?』

『まさか、私が気を失ってる間に!!』

102: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 14:17:55.25 ID:2LPZ8m9b0
『ヘンタイだねっ』

『降りろ』

『やーだね。アナタ、寒そうだし、くっ付いててあげる』


『おい』

『なーに?』

『その、助かった。ありがとう』

『……うんっ』


『何かが、そう命じるからだ。悲しみは、見ていて気分の良い物じゃ ないからな』

『………かっこつけちゃって』



『何とでも言え』


103: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 14:19:05.64 ID:2LPZ8m9b0


『そうだと言うのなら、そうなのだろうな。突拍子も無い話しだが、信じる』


『それに何というか、あまり関心が無いんだ』







『お前が傍に居てくれれば、それで良い。そんな気がする』




104: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 14:19:55.56 ID:2LPZ8m9b0

伝わってきた情報、記憶。

それは何よりも温かく、心地の良い物だった。

しかし、その情報を得てしまった為に、彼女は暴走する。



聖女「其処は、私の……」ギリッ



ピクシー「はぁっ、はぁっ……うっ」ズキンッ

勇者「しっかりしろ。っ、地下に連れて行けば、何とか」ギュッ

105: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 14:21:21.84 ID:2LPZ8m9b0

生まれ出たのは、嫉妬。


頭痛に耐え、彼女は立ち上がった。

彼女の想いを知った彼女は、感情に目覚めたのだ。

そして、彼の想いは、自分では無く、彼女に向けられている。


怒り、憎しみ。


本来、一つである彼女は、分かたれた為に、悲劇を生む。



聖女「アナタと共に居たのは、私」ズキンッ

聖女「ソレは、私の偽物。其処は、私の場所っ!!」グッ

106: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 14:22:15.01 ID:2LPZ8m9b0
彼に抱かれる彼女に向けて、発砲。

奪われたと、そう感じたのだろう。


いや、そもそもから違う。彼女は、ずっと傍に居たのだ。

彼女(ピクシー)は、彼女(聖女)に違いないのだから。


ピクシー「あっ…」

勇者「えっ……お、い。なに…何で」


聖女「私は、私は此処に居る!!」



聖女「アナタは、私に傍に居て欲しいって、そう言った!!」


107: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 14:23:12.44 ID:2LPZ8m9b0

ピクシー「はっ、はぁっはぁっ……」


勇者「……頼む。目を、開けてくれ。いつもみたいに、笑ってくれ」ギュッ


ピクシー「私、は、アナタ、を、愛してる」

ピクシー「だ、から、私を、嫌いに、なら、ないで? ねっ」ニコッ


ガクンッ………


聖女「私が、アナタの傍、に…」ズキンッ

聖女「あ、れ?」ブツッ


ドサッ……


108: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 14:26:12.66 ID:2LPZ8m9b0
ーーー
ーー


勇者「何が、何だか……でも、オレは」


ピクシー「……………」

聖女「………………」


勇者「オレは、【彼女】を失ったんだな」

勇者「涙、まさか自分が流すとは思わなかった……」



勇者「は、はははっ…くっ、うぅっ」


109: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 14:27:13.44 ID:2LPZ8m9b0



勇者「間違ってる!! 全て!! 世界も、人間も、狂ってる!!」


勇者「オレは、誰も悲しまないようにしたかった!!」


勇者「ずっと、ずっと共に居たかっただけだ!!」


勇者「何故奪う!! 彼女が何をした!! ふざけるな!!」



勇者「ガアァァァァッ!!」



吼える。

天を仰ぎ、月を睨み、只々、吼える。

110: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 14:27:58.03 ID:2LPZ8m9b0

勇者「………そうだ。人でありながら、人を苦しめ、支配するなど」


勇者「神の如く振る舞うなど、許されない」

勇者「聖王。お前の、言う通りだ」









勇者「悪は、滅ぼさなければならない」





111: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 14:29:23.45 ID:2LPZ8m9b0



「お前が、今も尚、そうであるように」


「オレは、オレ自身が、お前を悪だと断定し、裁く」



116: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 18:46:55.29 ID:2LPZ8m9b0

その日以降、世界は闇に包まれた。


ドームに住む者は、一時の出来事だと、深くは考えなかった。

誰かが、誰かが何とかしてくれるだろう、と。


麻痺している。


いつまでも、世界に存在していられると錯覚しているのだ。

終わりなど、滅びなど、彼等には考えられない。



現実に生きながら、現実を生きていない、彼等には。

117: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 18:47:51.87 ID:2LPZ8m9b0
そんな彼等には、知る由も無い。


魔物やウイルス、新たな生命の創造。


それは命を、神を冒涜する行為に他ならない。


人間が生み出し、行ってきた多くの罪、それを裁く存在。

ウイルス等という紛い物より、もっと怖ろしく、抗いようの無い、大いなる存在。




正に、神と呼ぶべき、絶対の存在の目覚め。


118: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 18:49:42.01 ID:2LPZ8m9b0
聖王の言う通りである。


彼は、人間では無い。

彼は、暗黒に染まり、滅びの化身と化したのだ。


たった一人の女性、彼と共に過ごした唯一の【人間】。

彼女を失ったが為に、彼女を奪ったが為に、世界は滅ぶのだ。


あまりに傲慢で身勝手。


愛する者を失った為に怒り狂い、世界を滅ぼすなど、許されない。

119: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 18:50:47.02 ID:2LPZ8m9b0
だが、彼を許す事など、まして罰する事など誰が出来ようか。


彼は、神。


今や、全てを破壊し尽くさんとする暗黒。

彼は、それだけの力を持っている。


弓を射れば山は忽ち崩れ、歩めば大地が震え、槍は魔を焼き尽くした。

三日三晩、愛する者を背負い、泣き叫びながら、世界を歩き続けた。



彼女と歩んだ道を辿り、怒りを撒き散らし、破壊しながら。


120: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 18:52:43.84 ID:2LPZ8m9b0
そして、辿り着く。


彼の始まりの地であり、王を語り、神を気取る人間が住む場所へ。

目視出来る距離でしかないが、彼女を背から降ろし、彼は弓を手に取る。


「……………」


弓を射ると、ドームを包む防御壁は、容易く砕け散った。

彼には、一つだけ目的がある。


何を破壊しようと、何を奪おうと、彼女を救う。

121: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 18:54:28.15 ID:2LPZ8m9b0
ーーー
ーー



「彼女を救え。さもなくば、殺す」


警備兵など太刀打ち出来る筈も無く、彼は目的の場所へ向かった。

其処は、研究所。

彼と、彼女が生み出された場所である。


「わ、分かった。分かったから殺さッギャアアアッ!!」

「早くしろ。殺しはしない」


研究所に入り、全ての実験、全ての事実を知った彼は、凄まじい勢いで知識を吸収した。


その後、研究員を集め、指示を与え、従わせる為に、数名を殺害。

122: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 18:55:47.22 ID:2LPZ8m9b0
「い、言われた通りにしました。だから、助けて下さい!!」

「血、血がッ!! は、早く助けて」


懇願する研究員達を無視、指示通りかを確かめる。

問題点が無いか、再度点検しているようだ。


「問題は無いでしょう!? お願いします、早く手当てさせて下さい!!」


「黙れ。この部屋から出ろ、脚が無い者は、這ってでも出ろ」


「死にたくなければ、早くしろ」

123: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 18:56:44.99 ID:2LPZ8m9b0
ーーーー
ーーー


全ての研究員は部屋から出たが、全員が深い傷を負っていた。

中には、部屋を出てすぐに息絶えた者もいる。


彼等は神に懇願したが、返ってきた言葉は、無慈悲なものだった。


「その傷では、どの道助からない」


神は、罪人にそう告げると、その場を後にした。

中には口穢く罵る者もいたが、その者は一瞬にして焼失。


他の者達は口を噤み、運命を、受け入れた。

124: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 18:58:23.09 ID:2LPZ8m9b0
ーーーー
ーーー



「びる、だったな。人を見下ろし、神を気取るか」


見上げたのも束の間。

跳躍し、硝子を叩き割り、神は、王の前に立つ。


「な、何だ……貴様はだ…れ?」

「お前を裁く者だ」



気付けば、眼前に立っていた。

驚愕に見開かれた瞳は、絶望に染まっている。

125: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 18:59:09.70 ID:2LPZ8m9b0
王は地を這いずり、神によって踏みつけられる。

叫び、泣き喚き、懇願し、罵り、罪を擦り付け、また叫ぶ。

その一切が、人の暗部を象徴しているかのようだった。


「殺されたくなければ、救われたければ………」

「其処から、飛び降りろ」


割れた硝子窓を指差し、命を下す。

その声には、途轍もない威厳、逆らえぬ力があった。

126: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 19:01:40.84 ID:2LPZ8m9b0
自らを踏みつけ、見下す、大いなる存在。


それがよもや、自身が発案した研究の産物などとは、思いもしないだろう。


王は這いずり、硝子窓を目指す。



「ひひっ、神が言うのだ。飛べば、絶対に助かる筈だ」

「はぁ、はぁ、ふっ、ふぅっ……わぁあああああ!!」

127: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 19:03:57.25 ID:2LPZ8m9b0



「神など存在しない」

「もし存在するなら……」





「彼女を見殺しにする神など、この手で、殺してやる」



128: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 19:19:49.96 ID:2LPZ8m9b0

その後、暗黒は去り、再び、太陽が世界を照らす。


魔は消え去り、人々は真の自由を得た。


彼等は、救われたのだ。


皆は言った。



勇者が闇を打ち払い、光を取り戻したのだと………


129: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 19:22:45.75 ID:2LPZ8m9b0


人々は、知らない。



130: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 19:24:10.53 ID:2LPZ8m9b0




世界に光を取り戻したのは

たった一人、たった一つの、笑顔だということを……




131: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 19:25:52.16 ID:2LPZ8m9b0
ーーーEND
132: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 19:29:40.10 ID:2LPZ8m9b0
最後まで読んで下さった方、ありがとうございました。
134: 以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/19(日) 19:53:22.69 ID:huQPXfouo
終わりか……乙でしたー
ハッピーエンド√ならどうなってたんだろうか

 

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