【Fate/stay night】桜「ライダーの馬、変わった名前ね」【前編】

1: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:15:02.36 ID:hkw2fN9Z0
時は二月。冬でも比較的温暖なこの冬木の街。

その中にある一件の武家屋敷から、今日も団らんの声が聞こえてくる。

居間のテーブルには沢山の夕食が並べられ、

それを囲んで三人の男女が思い思いに箸を運ぶ。

少年「桜。今日の煮物の味付け、どうかな?」

自分の作った料理の感想を尋ねている少年は、この屋敷の主である『衛宮士郎』。

五年前に他界した父、『衛宮切嗣』からこの屋敷を相続し

今ではこの広い屋敷に一人で住んでいる。

父と言っても血の繋がりがある訳ではなく、士郎は切嗣の養子である。

十年前の大火災で切嗣に救われた後、この屋敷に引き取られたのであった。


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2: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:16:41.06 ID:hkw2fN9Zo
少女「はい、とっても美味しいです。味噌も案外合いますね、先輩」

そして士郎の問いに答えた少女は『間桐桜』。

士郎の後輩であり、一年程前から毎日家事の手伝いに来ている。

女性「う~ん、このカニのお味噌汁も絶品ね。いいモノ仕入れたんじゃない?」

吸い物に舌鼓を打つこの女性は『藤村大河』。

父親が居ない士郎にとっては保護者のような存在であり、

また二人の通う学校の英語教師でもある。

しかし保護者と言っても、二人の料理目当てにこの屋敷に入り浸る毎日。

これだけ見ればどちらが保護者か分からない。

しかし二人からはきちんと慕われており、

これも彼女の人柄によるものなのかもしれない。

最早この三人で食卓を囲むのは日常となっており、

今では家族同然の付き合いとなっていた。
3: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:17:33.60 ID:hkw2fN9Zo
と、そこへ障子を開けて金髪の少女が入ってきた。

金髪の少女「シロウ、夕飯の準備が出来ていたのですね」

桜「あ……」

大河「セイバーちゃん、お先に頂いてるよ~」

士郎「すまんセイバー。ぐっすり寝ていたから起こすのも悪くって……」

セイバーと呼ばれた少女は、士郎の答えにニッコリと笑みを返した。

セイバー「お気使い感謝します。ですが食事は私のささやかな楽しみでもあります」

セイバー「今度からは起こしていただいて構いません」

士郎「分かった、今度から気を付けるよ」

そうしてセイバーは開いた席に腰を下ろす。

桜と大河が彼女に出会ったのは数日前。

いつもの三人での食事中、突然士郎が居間へ連れてきたのだ。

士郎の説明では彼女は切嗣の知り合いであり、彼を頼って日本に来たらしい。

そして暫く日本に滞在するためこの屋敷に泊める事になったのだとか。
4: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:18:31.23 ID:hkw2fN9Zo
もちろん大河は、そして桜までもがセイバーの宿泊には抗議した。

理由の一つは彼女の容姿である。

金色の髪はイギリス巻きに整えられ、絹のような滑らかさ。

翠色の瞳はエメラルドのように美しく、

見つめられれば吸い込まれそうな位に透き通っている。

凛とした佇まいにどこか感じる神秘的な雰囲気は、

月並みではあるが『美少女』という以外に適切な言葉が思い付かない。

そんな彼女と士郎が一つ屋根の下で暮らすなど許せるはずが無いのである。

抗議は次第にヒートアップしてゆき、

最終的には大河とセイバーが竹刀を交えるまでに至った。
5: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:19:06.70 ID:hkw2fN9Zo
結果は大河の惨敗。渋々と宿泊を許可する事に。

屋敷の主である士郎、そして保護者とも言える大河の承諾を得たとあっては、

もはや桜に反対できる理由が無い。

しかし桜はある一点において彼女を敬遠していた。

士郎「桜、セイバーにご飯を入れてやってくれないか?」

そう、『セイバー』と言う彼女の名前。

桜はその名前に『ある役割』を持った人物を連想してしまうのであった。
6: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:19:36.81 ID:hkw2fN9Zo
『聖杯戦争』

聖杯によって選ばれた七人の『マスター』が

それぞれ『サーヴァント』と呼ばれる英霊を召喚して戦う一種の儀式。

最後まで残ったマスターとサーヴァントは

聖杯によってあらゆる願いが叶うと言われている。

そしてその召喚されるサーヴァントの中に

『セイバー』と呼ばれるクラスが存在しているのである。

桜は祖父からその事を聞き及んでおり、

彼女が現れた事による不安は日増しに強くなるばかりであった。
7: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:20:21.41 ID:hkw2fN9Zo
士郎「桜、どうしたんだボーっとして?」

その言葉に桜は我に返る。

桜「えっ!? すいません、どうしました先輩?」

士郎「セイバーにご飯を入れてやって欲しいんだ」

桜「あ、はい。どうぞセイバーさん」

セイバー「ありがとう、サクラ」

セイバーは桜から茶碗を受け取り、中央のおかずに手を伸ばした。

三人も中断していた食事を再開したが

桜は聖杯戦争の事を思い出して、ほんの少しだけ箸が進まないのであった。
8: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:20:56.44 ID:hkw2fN9Zo
大河「じゃじゃーん! 今日はお土産があるよーっ!」

夕食が終わった後、大河が取り出したのは

ショートケーキが入っていそうな小さな白い箱であった。

中を開けるとシュークリームが十個入っている。

桜「わぁ、藤村先生これどうしたんですか?」

大河「えっへん。気前の良い酒屋のおねーさんが譲ってくれたのでしたー」

士郎「……なあ藤ねえ。それって強奪したんじゃないよな?」

台所で食器を洗いながら、士郎は首だけ向けて非難の目線を送る。

彼の脳裏にはバイト先の娘であり、かつ大河の親友でもある

一人の女性が思い浮かんだのであった。
9: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:21:33.77 ID:hkw2fN9Zo
大河「細かい事はいいの! さあ、甘いものは別腹別腹!」

桜「あれ? 待って下さい。これじゃ余っちゃいますよね?」

ハタと気が付き、桜は大河を制止した。

そう。十個のシュークリームを四人で分けると二つ余る。

セイバー「困りましたね」

大河「う~ん。何かいい方法無いかなぁ」

暫く考える事数十秒。

突然大河がある提案を持ちかけた。

大河「そうだ、ゲームで決めよっか!」
10: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:22:13.29 ID:hkw2fN9Zo
大河「勝った人が三つ食べられるって事で。それなら文句無いでしょ?」

桜「はい」

セイバー「賛成です」

大河「じゃあ……勝負はこれ!」

そう言って大河はテレビの上のトランプを持ってきた。

桜「えっと、四人で出来るものと言えば……」

大河「ババ抜きね!」

しかし桜は大河の思惑を見逃さなかった。

桜「藤村先生、それは先輩に不利です」

桜「先輩ったら、ババ引いた時にすぐ顔に出るんだから……」

大河「ちぇっ、桜ちゃんにはお見通しかぁ~」

自身のセコイ目論見がバレた所で大河は反省の色無しである。

桜「先輩でも不利にならないルールにしないと……」

桜「そうだ! 『ジジ抜き』にしませんか?」
11: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:22:41.81 ID:hkw2fN9Zo
士郎「ジジ抜き?」

洗い物を済ませた士郎が台所から居間に戻ってきた。

大河「士郎、ジジ抜き知らないの?」

桜「先輩、ジジ抜きって言うのはですね、ジョーカーを使わないババ抜きなんです」

そう言って桜はトランプの山の中から一枚を取り出し、自分のポケットに仕舞い込んだ。

桜「こうやって一枚抜くと、その数字は山の中に三枚しかありません」

桜「だからペアにならず、一枚残ってしまいますよね? それがババの代わりです」

桜「でもその数字は誰にも判らないから、先輩にもやりやすいと思うんです」

士郎「分かった、それでいこう」
12: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:23:34.23 ID:hkw2fN9Zo
こうしてシュークリームを賭けたジジ抜きが始まった。

士郎「あれ? ジョーカーが二枚揃ってるぞ?」

桜「あ、それはペアとして捨てちゃって下さい」

大河「むむ……。桜ちゃん最初からかなり捨ててるわね」

セイバー「私の手札が一番多いみたいですね……」

ゲームが進むにつれ、一組、また一組とペアが捨てられてゆく。

その中で怒涛の快進撃を見せたのはセイバーだった。

まるで相手の手札が判っているかのように、

次から次へと自分の手札を捨ててゆく。

セイバー「これで終わりです」

宣言と共に最後の手札を場に捨てる。

士郎「早い……」

桜「嘘……」

大河「ちょっとセイバーちゃん? ズルしてない?」

しかしセイバーは大河の抗議を凛と跳ね除けた。

セイバー「私の直感を甘く見ないで頂きたい」

セイバー「食べ物を掛けたのが運の尽きでしたね」キラーン
13: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:24:15.84 ID:hkw2fN9Zo
そしてゲームも終盤。

士郎(あれ? この数字前にも回ってきたような?)

桜(もしかして……あれがジジかしら?)

大河(えっと……気のせい気のせい)

桜「やった! 上がりです」

大河「えー。もうゲーム続ける意味無いじゃなーい!」キー

士郎「まあ藤ねえ、最後までやろうよ。後は一騎討ちだな」
14: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:24:58.98 ID:hkw2fN9Zo
大河「えーと……こっち! キャー、また揃わないぃぃ!」

士郎「じゃあこっちか! よし、上がりだ!」

結果は一位セイバー、二位桜、三位士郎、四位大河で幕を閉じた。

大河「まさか『キング』がジジだったなんて……」

大河は最後まで残った『ダイヤのキング』を放り投げた。

士郎「えっと『スペード』と『クラブ』はペアとして捨てられてるから……」

桜「はい。つまり抜かれたカードは『ハートのキング』という事ですね」
15: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:25:38.70 ID:hkw2fN9Zo
セイバー「では、勝負も付いた事ですし頂きましょう」

セイバーは早速シュークリームを一つ取り出した。

その時、テレビから午後八時を告げるアナウンスが聞こえてきた。

桜「あっ、もうこんな時間!」

それを聞いた桜は慌てて立ち上がり、鞄を掴んで居間を出ようとする。

まだそれ程遅い時間ではないはずだが、桜の慌て様に士郎が尋ねた。

士郎「どうしたんだ桜? そんなに急いで」

桜「あの……今日は大事な用事があるんです。早めに帰らないと」

士郎「そっか。じゃあ送って行くよ」

桜「いえ、大丈夫ですっ! その、まだ人通りも多い時間帯ですし」

士郎「そうか? まあ、桜が大丈夫って言うなら問題無いけど……」

桜「ええ。それでは先輩、藤村先生、それにセイバーさんも、失礼します」

士郎「じゃあ残りは冷蔵庫に入れておくから、また今度来た時に食べてくれ」

士郎「藤ねえ、ゲームに負けたんだから桜の分まで食うんじゃないぞ?」

大河「失礼ねぇ。私がそんな事すると思う?」

士郎「思う」

大河「がーん」
16: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:26:11.39 ID:hkw2fN9Zo
桜「では、また明日」

玄関先で別れを告げ、桜は衛宮の屋敷を後にした。

今日は早く帰らなければならない。それは分かっている。

しかしその思いとは裏腹に、桜の足は自分の家が近づく度に重くなってゆく。

いつもなら数十分で到着するはずなのだが、

桜が間桐の屋敷に帰った時には、時刻は午後九時に差し掛かろうとしていた。
17: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:26:53.33 ID:hkw2fN9Zo
深夜零時。

間桐の屋敷の地下室に、小さな二つの人影があった。

一人は桜。

そしてもう一人は桜の祖父『間桐臓硯』。

二人の間には魔法陣が描かれ、その役割を果たす瞬間を刻一刻と待ち受けている。

桜「……お爺様。マスターは全員殺さなければいけないのですか?」

桜は自分が臓硯に逆らえない事を知りつつ、

今から行う事に対するほんの些細な抵抗として質問を投げかける。

臓硯「そうさな。おぬしがどうしてもと言うなら、一人や二人は見逃してやっても良い」

桜「え……!?」

その答えは桜の予想と異なっていた。

いつもなら、桜の抵抗など蟻でも踏み潰すかのように一蹴される。

しかし、この祖父は稀に好々爺めいた優しさを見せる時があった。

臓硯「分からぬか?」

臓硯「マスターを全て殺す必要は無い。サーヴァントさえ奪えれば良いのだ」

臓硯「生かしておいて危険な輩は処分する」

臓硯「が、残したところで支障の無い輩なら見逃してやっても良い」

臓硯「可愛い孫の頼みじゃからな、多少の融通はきかせよう」

祖父が譲歩する事など滅多に無い。

その奇跡的なチャンスに桜の心が僅かに揺らぐ。

しかしそれで頷いてしまえば、

生死に関わらず他のマスターとの戦闘が避けられなくなる。

桜にはそれを望まない一番の理由があるのだ。
18: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:27:35.93 ID:hkw2fN9Zo
沈黙を続ける桜に対し、訝しげな顔で臓硯は続ける。

臓硯「なんじゃ、それでも不満か? なら最初の予定通り慎二にマスターを譲れば良い」

慎二とは桜の兄である。

桜と違って魔術師の資質は無いが、マスターを代行させる手段は存在するのだ。

しかし桜はそれでも首を縦に振る事は無く、不安に満ちた表情で臓硯を見つめ続けた。

臓硯「……ふむ。では仕方があるまい」

臓硯「無理強いをし、大事な後継者を失う訳にはいかんからな」

どうやら桜の言い分を受け入れるようだ。

その言葉に桜はホッと胸を撫で下ろす。

が、その無防備となった心に臓硯は止めとも言える言葉を投げつけた。

臓硯「しかし、そうなると少し癪だのう」

臓硯「今回の依り代の中では、遠坂の娘はなかなかに上級じゃ」

臓硯「機が味方すれば、もしやという事もありえるか」
19: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:28:31.75 ID:hkw2fN9Zo
━━ 姉さんが?


その時、桜の心に魔が入った。

それは遠坂の娘に対する小さな嫉妬の炎であったが、

桜の心を燃やすには十分な熱を持っていた。

桜「分かりました」

その答えに臓硯はさも嬉しそうな笑い声を上げる。

臓硯「桜、よく決心してくれたな。これで我らが悲願も達成されよう」

そして桜は臓硯から教わった呪文を唱え始めた。

桜「━━ 告げる」

桜「汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に」

桜「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

魔法陣が光に包まれる。

ここは密室の地下だというのに、辺りには何処からか風が吹き始めた。

臓硯「ふむ、上出来よ」

手応えを感じたか、臓硯は嬉々として光の中心を見つめている。
20: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:29:18.47 ID:hkw2fN9Zo
魔法陣の中心に人影が現れた。

髪は後ろで三つ編みに束ねられ、鼻の下には髭を蓄えている。

服装は紫色の民族衣装。恐らくは中国の武道着であろう。

見た目は五十歳程と高齢ではあるが、2m弱はある身長と屈強そうな体。

そして威風堂々とした雰囲気は、それだけで彼が只者ではない事を感じさせる。

男「問おう。お主がワシのマスターか」

呼び出された男は小柄な臓硯を睨みつける。

臓硯「いやいや、マスターはそこの女。間桐桜よ」

臓硯「儂は間桐臓硯。桜の祖父と言ったところじゃ」

臓硯は男に少しも臆する事無く自己紹介を始めた。

男「ふむ、中々肝が据わっておるな」

男「しかしそこの女はマスターとして少々頼りなさそうに見受けられるが?」

男から桜へ鋭い視線が投げかけられる。

それに耐えきれず、桜は地面に目を落として俯いてしまう。

臓硯「カカ、心配は御無用。マスターの代行としてこやつの兄を付ける予定じゃ」

臓硯「それで良いな、桜?」

その問いかけに桜はハッと顔を上げ

桜「……は、はい。お爺様」

それだけ、やっとの思いで言葉を返した。
21: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:29:55.67 ID:hkw2fN9Zo
男「うむ。それではこちらからも自己紹介をしよう」

男「ワシはライダーのサーヴァント」

男「……と言ってもワシの『乗り物』は少々デカイのでな」

男「この部屋でおいそれと出す訳にはいかんのだ」

男「暫くはこの拳で戦うが故、その時が来たら見せる事にしよう」

臓硯「ふむ、それなら早速実力を見せて貰うとするかの」

そう言って臓硯はライダーを連れて地下室を出ようとする。

だがその後ろから桜は二人を呼び止めた。

桜「お爺様、マスターは……」

臓硯「なに、儂の用はサーヴァントのみ。マスターに手出しはせんから安心せい」

臓硯「明け方までには戻るでな。その後、慎二にマスターを継がせる事にしよう」

それを聞いて桜は安堵のため息を漏らした。

桜「分かりましたお爺様。お気を付けて」
22: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:30:40.39 ID:hkw2fN9Zo
さて、二人が到着したのは円蔵山に建つ『柳洞寺』。

臓硯の話では、ここに二人のサーヴァントが居るとの事。

臓硯「この寺は『キャスター』と『アサシン』が根城にしておる」

臓硯「特にアサシンは少々厄介なスキルを持っておってな……」

ライダー「知っておる。気配を絶つのであろう?」

サーヴァントになった時に聖杯から得た知識か、

ライダーは臓硯の言葉を遮り即答する。

臓硯「話が早くて結構じゃ」

臓硯「ただしあのアサシンは召喚の依り代として山門を利用しておるらしい」

臓硯「つまりはそこから動けぬという事」

臓硯「いくら気配を絶とうとも、何処に居るのか分かっておるアサシンなど敵ではない」

ライダー「成程、一番討ちやすい敵を叩くという訳か」

臓硯「ただしライダーよ」

臓硯「アサシンを倒す時はなるべく、ヤツの身体を残しておいてくれぬか?」

臓硯にはライダーの実力を調べる以外に目的があるらしい。

ライダー「うむ。任せよ」

ライダーもそれに答える。どうやら手段にアテがあるようだ。
23: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:31:34.60 ID:hkw2fN9Zo
臓硯「それ、そろそろじゃ」

石階段を登り詰めた二人の目の前に、大きな山門が姿を現す。

ここにアサシンが居るとされるが、辺りは静寂に包まれていた。

ライダーは暫く様子を伺っていたが、いきなり何も無い空間に向かい怒鳴り付けた。

ライダー「ワシはライダー! アサシンよ、姿を現さぬか! この臆病者めぇ!」

その気迫で空気は震え、山門はビリビリと音を立てる。

しかし辺りに反応は無い。

この程度の挑発に乗る程、甘い相手ではなかったのだろうか。

ライダーが次の手を考えようとしたその時、上の方から澄んだ声が聞こえてきた。

アサシン「……やれやれ、臆病者呼ばわりされては姿を現さない訳にはいかんな」

山門の上に姿を現したアサシンは、侍のような出で立ちをしていた。

手には身の丈ほどの長刀を持ち、静かにライダーを見下ろしている。
24: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:32:13.22 ID:hkw2fN9Zo
ライダー「……現れたか。いざ、尋常に勝負よ!」

拳を構え半歩前へ出るライダーに対し、

あろう事かアサシンはその申し出をサラリと受け流す。

アサシン「ふん、出会い頭にいきなり怒鳴り散らして何が勝負か」

アサシン「そんな不躾な輩に合わせる剣など持たぬ」

アサシン「それにこの身は剣士としての戦いを欲している」

アサシン「得物を持たぬお前に私と戦う資格は無い」

このサーヴァントは、あくまで戦いの形にこだわるのだろう。

しかしライダーが『得物を持たぬ』とは早計であった。
25: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:32:52.17 ID:hkw2fN9Zo
ライダー「ワシの得物はこれよ!」

ライダーは腰に付けていた布を外し、その一端をアサシンに向けて投げつける。

アサシン「な!?」

布はまるで生き物のように絡みつき、

アサシンの腕を刀諸共、ガッチリと拘束してしまう。

ライダー「それ、降りてこんかぁ!!」

力任せに引き寄せられ、アサシンの身体が宙を舞う。

そのままライダーは右手でアサシンの額を掴むと、指先に気を送って力を込める。

気を送られた指は光りを発し、山門はまるで昼間のような輝きに包まれた。

ライダー「シャイニング・フィンガー!!」

グチャリと生々しい音を立て、

アサシンの額がまるでトマトのように握り潰される。

崩れ落ちたアサシンの体は、糸が切れた人形のように階段をゴロゴロと転げ落ちた。

ライダー「……聖杯戦争 国際条約 第一条」

ライダー『頭部を破壊されたものは失格となる!』
26: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:33:30.81 ID:hkw2fN9Zo
眼帯の男『説明しましょう!』

眼帯の男『いや、もはや皆さんお察しの通りです』

眼帯の男『ライダーとして召喚された男は、かの有名なガンダムファイター!』

眼帯の男『「キング・オブ・ハート」の称号を持つ男!』

眼帯の男『「東方不敗・マスターアジア」なのです!』


眼帯の男『しかし、恐らく皆さんの疑問は別の所にあるのではないでしょうか?』

眼帯の男『そう、「シャイニング・フィンガー」は生身で使える技なのか?』

眼帯の男『という事です』

眼帯の男『「アニメ」ではそのような描写はありませんでしたが』

眼帯の男『「小説版」では弟子であるドモンが』

眼帯の男『東方不敗から教わった技として生身で放っています』


眼帯の男『親指、人差し指、中指の三本に気を集め、相手の額から脳髄へと放つ』

眼帯の男『それによって相手の脳は麻痺し気絶する。というのが本来の技の性質です』

眼帯の男『しかし力任せに相手の頭部を破壊する事もでき』

眼帯の男『その威力は先程の通りとなります』


眼帯の男『ああ、紹介が遅れてしまいました』

眼帯の男『私、通称「ストーカー」と申します。以後お見知りおきを』




臓硯「……何じゃアイツは?」

マスター「臓硯、目を合わせるでない。我々は何も見ておらん。良いな?」

臓硯「うむ……」ナンジャアイツハ
27: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:34:06.78 ID:hkw2fN9Zo
マスター「さて、要望通りに身体は丸々残してやったわ」

マスター「臓硯、一体何をするつもりだ?」

東方不敗は臓硯に向き直る。

アサシンの体は階段の踊り場まで転げ落ち、

今にも消え入りそうな程、存在が虚ろになってゆく。

臓硯「おお、御苦労。後はそこで見ているとよい」

臓硯は急いでアサシンの遺体に近寄ると、何やら呪文を唱え始めた。

その言葉は聞き覚えがある。

東方不敗が呼び出される時に頭に響いた、英霊召喚の呪文に間違い無い。
28: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:34:38.78 ID:hkw2fN9Zo
バリバリと音を立て、遺体となったアサシンの腹から腕が飛び出す。

アサシンの肉体は瞬く間にこの『何者か』に取って変わられ、

ここに新たな英霊が召喚された。

サーヴァント「キ━━キキ、キキキキ━━━━━━」

マスター「こやつは!?」

その姿は全身を黒い衣装に身を包み、白い髑髏の面を被った異様な姿。

身長は2mを超えるが線は細く、面と相まって嫌でも不気味なものを連想させる。

臓硯「カカッ。こいつが『真のアサシン』よ」

臓硯「どれ、早速お前に正しいアサシンの使い方を見せてやろう」

臓硯が指示を送ると、

生まれたばかりのソレは山門を抜けて境内の中へと消えて行った。
29: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:35:20.47 ID:hkw2fN9Zo
マスター「ふむ、しかし八人目というのはルール違反ではないか?」

問いただす東方不敗に対し、臓硯は悪びれる様子も無くこう答えた。

臓硯「いやいや、ルール違反を犯したのはあちらの方よ」

臓硯「呼び出されるアサシンのサーヴァントには法則があっての」

臓硯「本来はあのような侍が呼び出される事はありえんのだ」

臓硯「恐らくはキャスターの仕業。ワシはあちらのルール違反を正してやったに過ぎぬ」

マスター「ぬ……」

そう言われては返す言葉が無いのだが

この行為もまた「正規の召喚」ではない事は明らかである。

その証拠に、臓硯の手には令呪が存在していない。

そして疑問はもう一つある。

マスター「臓硯、アサシンに何を命令した? もしやキャスターを倒すつもりか?」

臓硯「ここはキャスターの根城。境内へ向かう理由はそれしか無かろう」

臓硯「しかしアサシンは真っ当にサーヴァントと戦うタイプではないのでな」

臓硯「狙うはキャスターのマスターよ」

マスター(……こやつ!)

そう。臓硯は事もあろうか、つい先ほど交わした桜との約束をいとも簡単に破ったのだ。
30: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:36:01.95 ID:hkw2fN9Zo
訝しげな顔をする東方不敗に気が付いたか、臓硯は言い訳がましくこう続けた。

臓硯「いやいや、儂とて孫をこの戦争で勝たせる為に行っておるのじゃ」

臓硯「しかしアヤツも儂が暗躍しておったと知れば」

臓硯「自分の力で勝ったのではないとガッカリするじゃろう」

臓硯「ここは可愛い孫の為、どうかこの事は秘密にしておいてくれぬか?」

臓硯の白々しさに東方不敗は眉を潜めた。一体何を企んでいるのか。

仮に断ったとしても、桜に令呪を使わせるなりして口止めするのは見えている。

臓硯が何かを企んでいる事は事実だが、それが孫の為という言葉は信用ならない。

それなら腹の内を探るまでの間、一旦話を合わせておくのが上策かもしれない。

マスター「うむ、安心せい。お前の孫には喋らんでおこう」
31: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:36:32.81 ID:hkw2fN9Zo
そうして、アサシンが境内へ侵入してから十分程経っただろうか。

石階段の下から別の気配が二つ、こちらへ向かって近づいて来る。

マスター「臓硯、どうやら別のマスターとヴァントが来ておるな」

臓硯「何!? ……ふむ、それでは今夜は撤退じゃ」

臓硯「アサシンは心配せずとも、いざとなれば気配を消して戻ってこよう」

新たな敵と鉢合わせないよう、二人は階段を大きく迂回して柳洞寺を後にした。
32: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:37:35.48 ID:hkw2fN9Zo
-- interlude --


長い長い石段を、マスターとサーヴァントが駆け上がる。

マスターの名は『衛宮士郎』。

そしてサーヴァントのクラスは『セイバー』。

二人は山門を前で足を止め、辺りの様子を伺っている。

士郎「……てっきり待ち伏せがあると思ったんだが」

士郎「サーヴァントの気配、しないよなセイバー」

士郎は自らのサーヴァントに確認を取った。

セイバー「はい……。この石段には私以外のサーヴァントは居ません」

セイバーは辺りを見渡し、一呼吸置いた後にハッキリと断言した。

セイバー「山門に守り手が居ない以上、境内に向かいましょう」

士郎「ああ」
33: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:38:14.57 ID:hkw2fN9Zo
境内に足を踏み入れる二人。

そこで彼らを出迎えたのは、不気味なほどに静まり返った柳洞寺であった。

さらには異常なほど暗い。

頭上を見上げると確かに月は出ているのだが、

その光はまるで寺の影に吸い込まれるように弱々しくなっている。

士郎「セイバー」

セイバー「ええ、様子がおかしい。ここまで踏み込んで反応が無いなどありえません」

セイバー「それに……これは静かすぎる」

士郎「……中を調べよう。柳洞寺は五十人近い大所帯なんだ」

士郎「こんなに静かなんて事があるもんか」

さらに寺の中へ。

二人が見たものは、衰弱しきって死んだように眠る僧たちであった。

セイバー「……皆、生命力を吸い取られています」

セイバー「こんな事をするのはキャスターでしょう」

士郎「……分かった。早くキャスターを倒そう」

士郎は焦る気持ちを抑え、セイバーを奥へと促した。
34: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:38:51.02 ID:hkw2fN9Zo
士郎達が境内へ踏み込む少し前の事。

本堂へと侵入したアサシンは、既にキャスターのマスターを見つけていた。

アサシンは『気配遮断』のスキルを持ち、

それに徹すれば同じサーヴァントでも感知はできない。

よもや人間であるマスターにはその存在を知る由も無かった。

後ろから忍び寄り、短刀で喉を切り付ける。

声も上げられず、そのマスターは血しぶきを上げて倒れ伏す。

即死。

あまりにも呆気無く、ここにアサシンの暗殺は完了した。
35: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:39:32.24 ID:hkw2fN9Zo
キャスター「宗一郎様、表に曲者が来ております」

キャスター「ここは危険ですのでもう少し奥へ……」

山門の外で起こった戦闘。

そして自身が召喚したアサシンが倒された事。

キャスターはそれを感知し、マスターに危険を知らせる為に本堂を訪れた。

キャスター「え……」

しかしそこにあったのは、既に屍と化した自らのマスターであった。

傍らには髑髏の面を付けた奇妙な人影が立っている。

その姿はキャスターの知識で知る限り、真のアサシンの風貌と一致する。

そしてその人影から発せされる気配もまた、真のアサシンのものと言って間違いない。

『自身が召喚したアサシンが倒され、別のアサシンが登場した』

その不穏な現象を前にキャスターは宝具の歪な短剣を取り出すと、

左手に魔力を込めながらアサシンにジリジリと詰め寄った。
36: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:40:15.75 ID:hkw2fN9Zo
キャスター「……貴方、何者!?」

アサシン「……」

睨み合う二人。

そこへ新たな気配を感じ、アサシンとキャスターは身構える。

キャスター「誰!?」

キャスターが本堂の入口へ目を向けた瞬間、

アサシンはその隙をついて床から壁へ、壁から天井へと瞬く間に姿を消した。

キャスター「っ……!」

アサシンを取り逃がした事に歯噛みするも、

ここで追えば新たな敵に対して背を向ける事になる。

キャスターが本堂の入口に向き直ると

そこには白銀の鎧に身を包んだサーヴァントと、そのマスターの姿があった。
37: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:41:03.84 ID:hkw2fN9Zo
セイバー「キャスター! 貴様、主に手を掛けたな!」

キャスターの足元に倒れる男を見据え、セイバーは怒号を放った。

相手の回答は待たず突進し、手に持つ剣で一閃を放つ。

キャスターは後方に飛んでその攻撃を躱し、

セイバーの剣はキャスターのローブを斬り裂くに留まった。

さらに追撃しようとするセイバーであったが、そこへ士郎の大声が割って入る。

士郎「セイバー、駄目だ!」

セイバーの足が止まる。

セイバー「何故止めるのですシロウ! 今をおいてキャスターを討つ機会は!」

士郎「違うんだ、セイバー。その短刀に触れるな!」

士郎「アレは魔術破りだ!」

士郎「もしかすると、マスターとサーヴァントの契約だって断つかもしれない」

士郎が何故そう思ったのかは自身でも分からなかった。

しかし魔術の腕は見習いレベルの士郎にも、

あの短刀が何か良くないモノである事だけはハッキリと感じ取れたのだった。
38: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:41:57.05 ID:hkw2fN9Zo
セイバー「……成程、これで決定的ですね。忠告感謝します、シロウ」

セイバーは再び剣を構えなおす。

キャスター「私がマスターを殺した? 宗一郎様を私が?」

キャスター「ふ……ははは、あはははははは!」

セイバー「何が可笑しい! キャスター!」

キャスター「目障りよセイバー。主もろとも消え去りなさい」

キャスターは短剣を懐に仕舞い、手の平をセイバーに向けて魔術を放つ。

しかし最高の耐魔力を持つセイバーには全く通用せず、

キャスターは一刀の元に切り捨てられて消滅した。

セイバー「……キャスターは倒しました。マスター、指示を」

士郎「え……ああ、そうだな。これ以上ここに居ても何もできない」

士郎「言峰に連絡して後を任そう。昏睡している人達はそれで助けられるはずだ」

既に事切れたキャスターのマスターだけは助けられないが、

士郎はそう言って本堂を後にした。セイバーも後に続く。

静まり返った本堂には、マスターだった男の亡骸だけが残っていた。
39: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:42:41.03 ID:hkw2fN9Zo
━━

━━━━

━━━━━━


二人が去った後、残された死体を『何か』が呑み込んだ。

男の身体はゆっくりと板張りの床に沈んでゆく。

そしてその『何か』は男だけではなく、

キャスターを象っていた魂とも言えるものまで呑み込み始めた。


━━

━━━━

━━━━━━ タリナイ


-- interlude out --
40: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:44:16.48 ID:hkw2fN9Zo
次の日、桜から慎二へマスターの権限が譲渡された。

譲渡と言っても、令呪の力を一つ『偽臣の書』に封じ込めて渡すというものである。

桜「……兄さん、後は宜しくお願いします」

慎二「ああ、お前が『戦いたくない』って言うから、仕方なく請け負ってやるんだ」

慎二「妹想いの兄に感謝してよね」

桜に『兄さん』と呼ばれるこの男だが、東方不敗の目にはとても兄妹には見えなかった。

その男は桜に対してあくまで優しい言葉をかけているものの、

その瞳にはマスターである桜に対し、怒りや嫉妬とも思える感情が滲み出ていた。

これでは到底『妹想いの兄』であるはずがない。
41: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:45:00.50 ID:hkw2fN9Zo
桜「……あ、兄さん」

桜は何か思い出したかのように慎二に訴えかける。

桜「もしかすると、ですけど。先輩がマスターかもしれないんです」

慎二「先輩? もしかして衛宮の事か?」

桜「はい、それで……」

桜の態度から察したのか、慎二は笑顔で桜に答える。

慎二「分った。衛宮とは戦うなって言うんだろ?」

慎二「お前、アイツの家では世話になっているからな」

慎二「……まあ、マスター同士が出会ったらどうなるかは判らないけど」

慎二「殺すような真似はしなから安心しなよ」

慎二「要はサーヴァントだけ倒せばいいんだろ?」

桜「はい。ありがとうございます、兄さん」

その答えに安心したか、桜は軽い足取りで部屋から出て行った。

慎二「衛宮がマスター……ね」
42: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:45:44.61 ID:hkw2fN9Zo
慎二「さて、今日からは僕がマスターだ」

慎二「サーヴァントであるお前は僕に忠誠を誓うんだ」

慎二「僕がやれと言った事は文句を言わずにやり」

慎二「命令があれば喜んでその命を投げ出すんだ。分かったな?」

桜との話が済んだ後、慎二は東方不敗に命令する。

勿論良い訳が無い。

サーヴァントを『道具』とみなし、

冷徹に聖杯戦争を勝ち抜くという事を宣言しているのならまだ話は分かる。

しかしこの男は、単にマスターより立場の弱いサーヴァントを見下したいだけ、

威張り散らしたいだけのように見受けられた。

あくまでその立場関係は令呪があってのものであり、

その手に持つ、たった一つの偽臣の書が消えれば

途端に立場が逆転する事をまるで分かっていない。
43: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:46:34.13 ID:hkw2fN9Zo
マスター「慎二、お前が何を勘違いしているかは知らぬが」

マスター「そのような心構えでマスターになるなら、早々にその本を返すといい」

慎二「な!?」

『令呪がある限り、サーヴァントはマスターに逆らわない』

そう臓硯に聞かされていた慎二にとって、

東方不敗の発言はいきなり出鼻を挫かれる形となった。

慎二は一瞬困惑の表情を見せたものの、

すぐに落ち着きを取り戻して偽臣の書をチラつかせる。

慎二「……いいか? この本があればお前に何だって命令ができるんだ」

慎二「勘違いしているのはお前の方じゃないのか? それとも強がってるだけか?」

マスター「なら早速使ってみよ」

マスター「そして使った後にどうなるか、身をもって知るがいい」
44: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:47:16.00 ID:hkw2fN9Zo
慎二「いいぜ、何事も最初の躾が肝心だからな……」

そう言って、慎二はどのような命令をしようか思案を巡らせる。

が、暫くしてようやく東方不敗の言わんとしている事に気が付いたようだ。

本来のマスターであれば令呪を複数持つ。

よって令呪を消費しても、最後の一つでない限りマスターの権限が失われる事は無い。

しかし偽臣の書には令呪一つ分の効果しか無いため、

使った瞬間にマスターの権限を失うのである。

いくら命令を実行させようと、その後サーヴァントに裏切られては意味が無い。

従って慎二には『令呪を使わない事』でしか身の安全を保障できないという事になる。

慎二「ふ、ふん……。いいさ、今日の所は勘弁してやるよ」

マスター「分かったなら良し」

慎二「今夜にでも他のマスターを探しに行くからな。それまで待機していろ。いいな!」

捨て台詞を残し、慎二は部屋から出て行った。
45: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:48:00.30 ID:hkw2fN9Zo
東方不敗も部屋を出る。

話が済んだのならこれ以上此処にいる理由は無い。

そして外へ出ようと玄関の扉に手を掛けたその時、

東方不敗は後ろから桜に呼び止められた。

桜「あの、ライダー。兄さんを宜しくお願いします」

そう言って桜は深々と頭を下げた。

あのような兄でも頼むと言うのか。

東方不敗は元から慎二をどうしようとは思っていないのだが、

桜の健気な態度には心を討たれた。

マスター「心配するな桜」

マスター「令呪が無くなったとしても、お前の兄をどうしようとは思わん」

それを聞いて安心したか、桜はホッとした表情で胸を撫で下ろす。

その顔を見て、東方不敗は今度こそ屋敷の外へと出て行った。
46: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:48:35.50 ID:hkw2fN9Zo
東方不敗は一人で街を探索する。

慎二には待機していろと言われたものの、既に戦いは始まっているのである。

そして戦いに一番重要なのは情報。

まずはこの冬木の街の地形を把握する事にする。

冬木の街は『未遠川』と呼ばれる川で二分されており、

それぞれ『深山町』『新都』と呼ばれている。

古い町並みの風情を残す方が深山町、

近代的な開発の進む方が新都である。

先日、東方不敗と臓硯が訪れた柳洞寺は深山町にあるため、

今回はまだ見ぬ新都の探索を中心とする。
47: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:49:17.22 ID:hkw2fN9Zo
東方不敗は、新都のある一角に何も無い広い空き地を見つけた。

草は生え放題で整備されておらず、また人も殆ど立ち入らない。

開発の進む新都で何故この空き地が放置されているかは分からないが、

何も無い場所なら周囲を巻き込む憂いは無い。

マスター「ふむ……。ここなら多少激しく戦ったところで問題無いのぅ」

東方不敗はそう呟き、今夜の予定を立て始めた。
48: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:51:28.24 ID:hkw2fN9Zo
夜。

東方不敗と慎二は、敵のマスターを探すため新都へと繰り出す。

慎二「……所でアテはあるんだろうな?」

慎二「闇雲に歩き回るのは疲れるから嫌なんだよね」

マスター「心配するな、この先に空き地があるだろう。そこへ行く」

そうして昼間見つけた広い空き地へ到着した。

到着したところで、東方不敗は昼間抱いた疑問を口にする。

マスター「ところで慎二、この空き地は何故放置されておるのだ?」

マスター「これだけ開発が進んでおるのに勿体無いではないか」

慎二「ああ、ここは十年前に大火災が起きた場所なんだ」

慎二「いわく付きってヤツさ。だから誰も近寄らない」

その答えに東方不敗は納得したように頷く。

ここで慎二は、東方不敗が空き地に来た理由に思い当たった。

慎二「ああそうか。誰も近寄らないなら絶好の隠れ場所だな」

慎二「ここにマスターがいるんだろ? ならさっさとやっちゃおうよ」

サーヴァント同士の戦いが見られる事を楽しみにしているのか、

慎二は上機嫌になっている。

しかし東方不敗から返ってきた言葉に、その態度は一変する事になる。
49: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:52:13.25 ID:hkw2fN9Zo
マスター「いや、ここには居らん」

慎二「な……。お前、僕を馬鹿にしてるのか!?」

慎二「こんな所に連れて来て、マスターが居ないだって!?」

慎二は額に青筋を立て、怒りをあらわに東方不敗に喰ってかかる。

慎二「もう我慢できない。こうなったら嫌でも僕に屈服させてやる!」

慎二「昼間のうちに、どうすればそれが出来るか考えてたんだよね」

そして慎二は偽臣の書を取り出した。令呪を使う気だ。
51: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:52:50.54 ID:hkw2fN9Zo
慎二「令呪に命じる。お前は僕に絶対服従だ!」

偽臣の書が光る。

その光は令呪が効果を発揮した事を示し、そして静かに消えていった。

恐らく慎二の思惑はこうだろう。

令呪が無くなった事でサーヴァントが命令を聞かなくなるのなら、

そうなっても命令を聞くようにしてしまえば良い。

これで自身の安全は保障される、と。

しかし東方不敗は顔色一つ変えず、慎二に向かって宣言する。

マスター「令呪を無駄に使いおったな。所詮は浅知恵よ」

慎二「な、まだ減らず口を……。令呪の効果は絶対だ!」

慎二「マスターの命令だ、跪け!」

しかし東方不敗は腕を後ろに組み、

慎二を睨みつけたまま一向に動く気配を見せない。

慎二「馬鹿な……。何故だ、跪けよ! 僕が命令してるんだぞ!」

マスター「……慎二、その辺にしておいてはどうだ?」

慎二「クソッ、何故だ、何故だ、何故だー!」
52: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:53:59.90 ID:hkw2fN9Zo
ストーカー『説明しましょう!』

ストーカー『が、その為には「DG(デビルガンダム)細胞」について』

ストーカー『触れておかなければなりません』


ストーカー『DG細胞は「自己増殖」「自己再生」「自己進化」の能力を持った』

ストーカー『特殊な「金属」なのですが』

ストーカー『感染した生物を乗っ取ってしまうという驚異的な力を持っているのです』

ストーカー『しかし強靭な精神力をもつ相手には』

ストーカー『逆に支配されてしまうという特性も持っており』

ストーカー『東方不敗は自身の力でDG細胞を完全にコントロールしていました』

ストーカー『よって、令呪による強制を跳ねのけたのにも納得がゆくでしょう』
53: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:54:55.31 ID:hkw2fN9Zo
ストーカー『また、慎二も「令呪の使い方を誤った」と言えます』

ストーカー『令呪の力は「瞬間的で具体的な命令ほど強く」』

ストーカー『「恒久的に続く曖昧な命令ほど弱い」という特性があります』

ストーカー『前者は「次の攻撃を死ぬ気で放て」「マスターの元に来い」といったもの』

ストーカー『後者は慎二の命令のように「マスターに絶対服従せよ」といったものです』


ストーカー『お分かりいただけたでしょうか?』

ストーカー『自分の保身の為に令呪を使うのなら、他のサーヴァントに狙われた時など』

ストーカー『いざという時に「マスターを守れ」「ここへ来い」といった』

ストーカー『具体的な命令に使うべきだったのです』



慎二「……何だアイツは?」

マスター「慎二、目を合わせるでない。我々は何も見ておらん。良いな?」

慎二「ぼ、僕に命令するな!」ナンダアイツハ
54: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:55:32.22 ID:hkw2fN9Zo
マスター「……さて、気を取り直して始めるとするか」

慎二に背を向け、東方不敗は目を閉じる。

両足を肩幅に開き、両脇を締めて静かに気を高め始めた。

マスター「慎二、離れておれ。ここは直に戦場となる」

マスター「今から他のサーヴァントをおびき出してくれるわ」

慎二「え?」

マスター「はああああああああああああ!!!」

東方不敗の気が膨れ上がる。

その気は慎二の目にも感じ取れるほどに、強大で膨大な量であった。

慎二「ひ、ひぃぃぃぃぃ」

慎二は半ば転がるような姿勢で必死にその場から離れていく。

気は新都全体にまで広がり、ネズミやカラスといった小動物も

まるで天災を前にしたかのように一目散に新都から姿を消したのであった。

そしてそんな中、広場の中央に向かう一つの影。
55: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:56:10.33 ID:hkw2fN9Zo
「よお。期待に応えて来てやったぜ」


そこに現れたのは青い服装に身を包み、赤い魔槍を持った英霊だった。

マスター「早速釣れたか……。ランサーだな?」

ランサー「ご名答。そういうアンタは何者だ?」

東方不敗は目の前の男に気を配りつつ、

近くに居るかもしれない敵のマスターの気配を辿る。

しかしマスターの気配は感じられず、このサーヴァントは単身戦いに赴いたらしい。

ならば慎二が狙われる心配は無いという事だ。

マスター「ワシはライダー。いざ尋常に勝負!」

ランサー「そう来なくっちゃな。話が早いヤツは嫌いじゃあない」
56: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:56:46.87 ID:hkw2fN9Zo
二つの影が激突した。

ランサー「はああああっ!」

神速の突きが東方不敗に襲いかかる。

一本しか無いはずの槍はまるで五本、いや十本以上の残像となっている。

対して東方不敗は腰布を巧みに操り、ランサーと互角の勝負を繰り広げていた。


━━ ある時は鞭となってしなやかに襲いかかり

━━ ある時は風車となって攻撃を弾き返し

━━ ある時はつむじ風となって宙を舞い

━━ ある時は槍となって鋭い突きを放ち

━━ ある時は柳となって攻撃を受け流し

━━ ある時は刀となって斬りつける


千変万化の動きは優雅さと力強さを兼ね備え、

さながら柔と剛の織り成す芸術とも言えるだろう。
58: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:57:31.10 ID:hkw2fN9Zo
ランサー「すげぇな、どうなってやがるんだ?」

ランサーは思わず感嘆の声を漏らす。

東方不敗も、ランサーの正確無比な突きにはただ感心するばかりであった。

ガンダムゼブラのパイロットなど脚元にも及ばない。

いや、そもそもあんな脇役と比較する事すら失礼にあたる。

恐らく多くの読者は『そんなガンダムいたっけ?』『パイロット誰?』状態であろう。

ストーカー『説m
マスター「そんな説明はいらぁぁぁぁん!!」ドゴーン

ランサー「……誰だ今のは?」
59: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:58:30.89 ID:hkw2fN9Zo
既に打ち合う事百以上。

東方不敗の手にする腰布からは、槍とは別の僅かな振動が伝わり始めた。

ここに来て、腰布が小さな悲鳴を上げ始めたのだ。

言ってしまうと、気で強化しているとは言え

東方不敗の腰布は『ただの布』である。

対してランサーの槍はそれ自身が宝具であり、最初から武器として造られたもの。

『武器としての性能差』で言えば、圧倒的にランサーの方が有利なのは言うまでも無い。

このままでは腰布がズタズタになるのも時間の問題。

ランサーの槍の間合いに対抗できる武器を失えば、

もはや東方不敗は宝具を出すしか打つ手が無くなってしまう。
60: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 12:59:24.97 ID:hkw2fN9Zo
マスター(覚悟を決めるか……)

東方不敗は右手の指に気を集中させ、自身の目の前に突き出した。

ただし、この攻撃はランサーの頭を潰す為のものではない。

マスター「シャイニング・フィンガー!!」

眩い光がランサーの視界を奪う。

ランサー「目くらましか!?」

ランサーは自分の眼を守るため、咄嗟に片腕で顔を覆う。

その瞬間、槍の切っ先が僅かに東方不敗から外れたのだった。

マスター「貰ったぁぁぁ!!」

東方不敗は腰布を伸ばし、ランサーの槍を絡め取る。

ランサー「……っ!」

槍を奪い取ろうとする東方不敗とそれに対抗するランサー。

両者が渾身の力で引っ張り合おうとしたその瞬間、

腰布が音を立て真っ二つに引き裂かれた。
61: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:00:03.97 ID:hkw2fN9Zo
ランサー「うおっ!?」

ランサーの槍は、勢い余ってその手からすっぽ抜けてしまった。

これは東方不敗が任意に引き起こしたものであり

腰布に通した気を解いた結果、ただの布に戻ったのである。

東方不敗にとってはランサーが大きく体制を崩してくれるだけでも御の字であったが、

槍が手から離れたのは願っても無い。

今こそ勝負の時。

半分になった腰布には目もくれず、一気にランサーの元へと間合いを詰める。

マスター「うおおおおおおおおおおりゃぁぁぁ!!!」

今や立場は逆転し、神速の突きを繰り出すは東方不敗の拳なり。

対してランサーは脚を頼りにその拳を躱し続ける。

が、いつまでも躱し続けられるものではない。

徒手空拳の戦いにおいては、東方不敗はランサーより何倍も上手である。
62: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:00:46.76 ID:hkw2fN9Zo
ランサー「ぐっ!」

腹に一撃を受け、ランサーの身体が『く』の字に折れ曲がる。

そしてガラ空きになった顔面に対し、瞬時に五発の拳が叩きつけられた。

膝から崩れ落ちそうになるランサーの横腹は、回し蹴りで天高く押し上げられる。

その身体はまるでボールのように宙を舞い、土煙を上げて地面へと叩きつけられた。
63: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:01:32.50 ID:hkw2fN9Zo
東方不敗の拳をまともに食らえば、

通常の人間なら骨は砕け、内臓は破裂してもおかしくは無い。

しかし相手は槍の英霊。この程度で死ぬはずはないだろう。

東方不敗は確実に止めを刺そうと、指を光らせ土煙の中へと足を踏み入れる。

だが、ここで東方不敗は不穏な空気を感じて足を止めた。

次第に土煙は収まり、倒れたランサーが視界に映る。

その手には、何処かへ行ったはずの槍がしっかりと握られているではないか。

マスター「……ぬかったわ」

東方不敗は歯噛みした。

全くの偶然ではあるのだが、

ランサーを槍の落ちている方向へ蹴り飛ばしてしまったのだ。
64: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:02:17.70 ID:hkw2fN9Zo
槍を杖が代わりにランサーが立ち上がる。

ランサー「……『幸運E』も捨てたもんじゃねぇな」

口から流れ出す血を袖で拭いながら、ランサーは槍に魔力を込める。

ランサー「流石にこのままじゃな。そろそろ決めさせて貰うぜ!」

魔術や魔力に疎い東方不敗であったが、槍から放たれる凄まじい力は

全身の肌に針を押しつけるかの如く、強力な圧力を与えてくる。

宝具には宝具を。

東方不敗は手を掲げ、天に向かってその名を轟かせた。

マスター「出でよ、我が宝具『マスターガンダム』!」
65: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:03:00.91 ID:hkw2fN9Zo
東方不敗の背後から漆黒の巨人が現れた。

頭には二本の大きな角が伸び、背からは赤い二対の羽根が伸びている。

指先は鋭く爪のようであり、脚の甲にも鋭いスパイクが一本ずつ付いている。

高さは約17m。

ランサーの身長を約180cmとすると、その差はおよそ10倍である。

もし読者の手元に1/100のガンプラがあるなら手に取ってみて欲しい。

立場は逆になるが、それがマスターガンダムとランサーの身長差である。
66: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:03:40.68 ID:hkw2fN9Zo
ランサー「デケェな……。対軍、いや対城宝具か!?」

マスター「何を言う! 聖杯戦争 国際条約 第五条」

マスター『1対1の闘いが原則である!』

マスター「よってこれは対人宝具よ!」

ランサー「へっ……ムチャクチャ言いやがる」

ランサー「だがな、デカけりゃいいってモンじゃねぇぜ! その心臓、貰い受ける!」

槍に込められた魔力が最高潮に達した。

ランサー「刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!!!」

ランサーの手から魔槍が解き放たれる。

槍はマスターガンダムの胸目掛け、神速の勢いで飛翔する。
67: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:04:20.13 ID:hkw2fN9Zo
マスター「そんな攻撃、一撃で砕いてくれるわ!」

一直線に向かって来る槍に対し、マスターガンダムは手刀を突き付けた。


が、


マスター「何と!」

槍はマスターガンダムの手刀を躱し、その胸目掛けて襲いかかる。

いや、『躱した』というのは適切ではないかもしれない。

その槍の動きはまるで、『最初からそのような動きだった』かのように自然であり、

かつ奇怪で理不尽な動きでもあったのだ。
68: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:04:50.32 ID:hkw2fN9Zo
激しい音を立て、槍はマスターガンダムの胸へと突き刺さった。

マスター「……成程、確かに『心臓』を貫いておるわ」

マスター「このマスターガンダムの『コックピット』をなぁ!!」

マスターガンダムのコックピットは胸にある。

槍はその装甲を貫き、東方不敗の二メートル前で停止した。

だがそれまで。

中に乗り込んでいる東方不敗の心臓には到達せず、

槍はその役目を終えたようだった。
69: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:05:30.86 ID:hkw2fN9Zo
ランサー「ちぃ! どういう事だ!?」

MF(モビルファイター)と呼ばれるこの巨人の原理を知らないランサーは、

胸を貫かれて未だに動ける東方不敗に驚きを隠せない。

マスター「次はこちらの番よ。奥義には奥義で応えよう」

マスター「流派・東方不敗の名の元にぃぃ!!」

マスターガンダムの気が膨れ上がる。

そして構えに入ろうとした瞬間、東方不敗の眼に映ったのは意外な人物であった。

マスター「あいつは!?」

そこに居たのは、ランサーの背後から忍び寄る髑髏の面。

既に槍は戻らないのを好機と見たか、ランサーの背中に長い右手を伸ばしていた。
70: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:06:01.74 ID:hkw2fN9Zo
マスター「邪魔をするなぁぁ!!」

指先から『ダークネスショット』と呼ばれる気弾を放出する。

ランサー「何!?」

アサシン「ギギ!?」

ランサーの頭上を飛び越え、背後のアサシン目掛けて着弾する。

自分を狙ったものではないと気が付き、ランサーも背後のアサシンを感知した。

アサシン「ギギギー!」

土煙からアサシンが飛び出す。

東方不敗から狙われた事が余程意外だったのだろう、

アサシンは速やかにランサーを諦め、脱兎のごとく深夜の街へと消えて行った。
71: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:06:41.63 ID:hkw2fN9Zo
マスター「……すまなかったな」

東方不敗は宝具を解き、コックピットに到達した槍をランサーに投げ返す。

既に得物を持たぬランサーに止めを刺すのは容易いが、

こうなっては戦いを続けられる状態ではなかった。

ランサー「ん、何でアンタが謝るんだ? さてはさっきのヤツは知り合いか?」

マスター「……」

安易に謝罪したのは早計であった。

しかしここまで知れた以上、東方不敗にそれを隠す理由は無い。

マスター「うむ。しかしお互いに顔を知っているという程度でな」

ランサー「そうか、なら助けてもらった礼だ」

ランサー「オレがあいつに何をされそうになったか教えてやるよ」

そう言ってランサーは、頼んでもいない事をペラペラと喋り出した。
72: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:07:30.41 ID:hkw2fN9Zo
ランサー「アイツが伸ばした手。あれは呪いの一種だったな」

ランサー「未遂だったから確証はねぇが」

ランサー「もしかするとオレの心臓を潰す気だったのかもしれねぇ」

ランサー「アンタも気を付けな」

ランサー「いつの間にか後ろから……ってのはオレだけじゃないぜ?」

アサシンの手の内を知らない東方不敗にとって、これは願っても無い情報である。

これで貸し借りは無しと言いたいのだろう。

マスター「成程、これで次に相まみえる時は手を抜かんという事か」

ランサー「ああ、さっきはあのデカブツの胸を貫いた所で気ぃ抜いちまったが」

ランサー「よく考えればテメェは『ライダー』だったな」

ランサー「次は背中まできっちり打ち抜いてやるよ」

そう言ってランサーは口元を緩ませる。

マスター「ぬかしおって」

マスター「貴様の槍の性質が分かった以上、打たせる前に潰してくれるわ」

東方不敗もそれに答える。

そして同時に踵を返す。

再戦の誓いを胸に、お互いの根城へと帰路についた。








慎二「」
73: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:08:57.20 ID:hkw2fN9Zo
次の日の夜。

東方不敗は街に繰り出す事はせず、

先日の戦いを思い起こして静かに瞑想にふけっていた。

あの戦いは東方不敗にとって運が良かったとしか言いようが無い。

下手をすれば、あの必中の槍に倒れても何ら不思議はなかったのだ。


『聖杯戦争はただ力と技をぶつけ合うに非ず』


東方不敗は英霊の持つ『神秘』の強大さをしっかりと心に刻み込む。

かと言って、東方不敗にはその神秘に対抗する手段は存在しない。

東方不敗の最大の武器は鍛え上げた力と技、そして宝具の強大さである。

魔術や魔力といったものとは無縁の武闘家にとって、

神秘に対抗するにはそれを出させない事しか取る手が無いのだ。
74: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:09:31.25 ID:hkw2fN9Zo
東方不敗には、他のサーヴァントとは大きく違う点が存在する。

それは『令呪以外の聖杯の影響を受けていない』という事だ。

東方不敗の居た世界に魔術は存在しない。

よって『ライダー』のクラスとして備わっているはずの『対魔力』はおろか、

『騎乗』スキルさえも東方不敗にとっては意味の無いモノと化している。

よって東方不敗にとっては魔術を主体とするキャスターは元より、

一撃必殺の宝具を持ち、多様はしないがルーンも使えるランサーは苦手な相手となる。

ただし東方不敗にも、純粋な白兵戦なら勝機がある。

例え相手が何度死んでも蘇る怪物であれ、

それだけなら自身の宝具で粉砕すれば良いのだから。
75: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:10:12.92 ID:hkw2fN9Zo
東方不敗が今後の方針を練り直している所へ、

扉を開けて慎二が部屋に入ってきた。

慎二「ライダー、出かけるぞ。ついて来いよ」

東方不敗が目を開けると、慎二は偽臣の書を持っている。

どうやら二つ目を桜から譲り受けたらしい。

マスター「今夜は動かん。機を待つ事もまた兵法よ」

そう言って慎二の提案を受け流す。

昨夜あれだけ派手に事を起こしたとあっては、

既にあの辺りは他のマスターに警戒されていると言っても良い。

今夜またあの場所にのこのこと足を踏み入れれば、

待ち構えていた敵に奇襲を受けるだろう。

さらには罠を張っている可能性もある。

東方不敗と同じように真っ向勝負を望む相手ばかりとは限らない以上、

ここで迂闊に動くのは得策ではないと判断しての事だ。
76: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:11:01.15 ID:hkw2fN9Zo
慎二「な、これが見えないのか!? 僕はお前のマスターなんだぞ?」

慎二は偽臣の書を振りかざすも、

既に瞑想に戻った東方不敗には見えていない。

慎二「聞いてるのか!? またあの広場で戦うんだよ!」

慎二「今度は仕損じるんじゃないぞ!?」

慎二「……おい、無視するな! 全く、何でこんなサーヴァントが召喚されたんだ!」

慎二「これも桜が……」

その言葉が聞こえた瞬間、東方不敗は閉じていた目を見開き

隣でわめく慎二を刮目する。

マスター「慎二、お前にはやはり言っておかなければなるまい」

その声は静かさの中に厳しさを兼ね備え、

生徒を叱る先生のように論するような言葉であった。

マスター「お前はそうやって自分の事を棚に上げ、何でも人のせいにしておるのか?」

マスター「それでは何時まで経っても変わらんではないか」

マスター「お前が魔力を持ち合わせていないのは、魔術に疎いワシでも分かる」

マスター「しかしそれなら何故、自分を高めようとせん」

マスター「魔術で劣るなら、白兵戦や戦略で他の魔術師を出し抜くしかあるまい」

マスター「お前は聖杯戦争に勝ち抜く事よりも」

マスター「マスターである自分に酔いたいだけではないのか?」

慎二「それは……」

慎二は言葉に詰まり、何も言い返せないまま黙って下を見つめ続けている。
77: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:12:27.79 ID:hkw2fN9Zo
マスター「ワシで良ければ武術の指南をしてやるぞ?」

東方不敗が提案するも、慎二はそれを頑として否定する。

慎二「お断りだね。戦うのはサーヴァントの役目だろ?」

慎二「お前はマスターを守って、敵を倒せばそれでいいんだ!」

慎二「僕の手を煩わせるな」

その答えに流石の東方不敗も腹に据えかねた。

マスター「……丁度良い。お前のその曲がった根性を叩きなおしてくれるわ!」

慎二「え!?」

マスター「ついでに姿勢も曲がっておる!」ピシャリ

マスター「髪の毛も曲がっておる!」グシャリ

慎二「く……クセ毛は関係ないだろ!」

マスター「うるさい! ワカメみたいな頭をしおって!」

マスター「いいからこっちへ来んかぁぁ!!」

むんずと慎二の襟首を掴み、ずるずると庭まで引きずってゆく。

地面に正座させられ、慎二は東方不敗の小言を朝まで聞かされ続けたという。





サーヴァント「……遅い!」

広場の中心に金色のサーヴァントが一人。

昨夜現れた相手を待ち続けている。

ストーカー『今の心境を一言』

サーヴァント「……」ナンダコイツハ

待ち人が来ないまま夜明けまで呆けた後、

すごすごと帰って行った哀れな男が居た事は(一部を除いて)誰も知らない。
79: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:34:35.50 ID:hkw2fN9Zo
-- interlude --


━━ 柳洞寺。


キャスター無き後、既にこの寺に人は居ない。。

倒れていた僧たちは山を降り、本堂はもぬけの空となっている。


「あーあ、嫌んなるぜ」


その中を、槍を手にしたサーヴァントがブラブラと歩き回っている。

ランサー「……ったく、キャスターがくたばったってのに結界は健在か」

ランサー「いや、醜悪さは前よりひでぇ。これに比べりゃキャスターは上品だったな」

ランサーの悪態は止まらない。

まるでこの場にいない誰かに話しかけているようだ。

ランサー「キイキイうるせぇ事。クモだのヒルだの、陰湿な輩だ」

ランサー「……にしても、一匹でかいのがいるな。何だこりゃ、砂の臭いか?」

ランサー「おうおう、小汚い砂虫とはな! ああヤダヤダ」

ランサー「何だってこんなシケたヤロウの偵察なんかしなきゃ━━」

言葉を終えない内に、ランサーの眉間めがけて細い物が放たれた。

ランサーは槍でそれらを弾き返すと、飛んできた方向を睨んでその相手と対峙する。

目の前には闇の中からうっすらと髑髏の面が笑っていた。
80: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:35:15.95 ID:hkw2fN9Zo
さらに細い物が放たれた。数にして十はある。

どうやら投擲用の短剣のようだ。

全ての投擲剣を、ランサーは事も無げに薙ぎ払った。

アサシンはさらに至近距離から、闇に飛び交い三十発。

しかしそれらの短剣は、一発たりともランサーには届かない。

アサシン「キ━━?」

アサシンが驚くのも無理は無い。

ランサーには『矢除けの加護』が備わっており、

見えている相手が放つ武器など、全く通じないのである。
81: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:36:04.21 ID:hkw2fN9Zo
ランサー「おい、まさかお前の芸はそれだけか?」

ランサー「……成程な。そんなんじゃぁ、後ろからじゃねぇと殺れねぇわ」

鼻で笑ったのも束の間。すぐにランサーの気配が変わる。

様子見はこれで終わりと、剥き出しの殺気がアサシンへと向けられた。

ランサー「これで終いだ」

踏み込もうとするランサーの気配を察知し、

アサシンはカウンターをかけるように飛びかかる。

さらに無数の短刀を投げつけるも、その結果は先程の焼き直しであった。

ランサーは投擲を防いだ勢いで槍を回転させ、襲いかかるアサシンの面を打ち付ける。

アサシン「ギギ━━━!!」

アサシンの上体は大きく仰け反り、髑髏の面が地面に落ちた。

後ろに吹っ飛んだ勢いのまま、アサシンは顔を隠して寺の裏側へ逃げて行く。
82: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:36:40.87 ID:hkw2fN9Zo
寺の裏手には池があった。

水蜘蛛のように水面を逃げるアサシンと、激しい水飛沫を上げながら追うランサー。

その逃げ足は、高い俊敏性を誇るランサーと互角な程であった。

だが、少しずつではあるが二人の間合いは詰まってゆく。

ついにランサーの槍がアサシンの足を捉えたのだが。

ランサー「!」

咄嗟にランサーは跳び退いた。

辺りを見回すと、跳ね上がる水面から黒く薄い何かが無数に飛び出している。

ランサー「……これは!?」

既にその何かはランサーを取り囲んでいた。逃げ場は無い。

その状態を安全な水辺から見降ろし、アサシンは高らかに嘲笑う。

アサシン「ドウシタ、らんさー。うごかねばノマレルぞ?」
83: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:37:20.56 ID:hkw2fN9Zo
アサシン「ダガ、おまえをシトメルのはワタシだ」

アサシン「おまえをタオシ、たりないチノウをオギナワネバ」

そう言って右手に巻いていた包帯を解き放つ。

広場でランサーを背後から襲おうとした、あの長い右手である。

アサシンの右手は二つに折り畳まれており、

通常の人間なら手に見える部分が右肘であった。

それを解き放てば、身長の二倍はあろうかという規格外の長さとなる。
84: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:37:59.60 ID:hkw2fN9Zo
ランサー「くっ!」

槍を高跳びの棒のように見立て、一気に跳躍しようとするランサーであったが、

その身体が水面から浮き上がる事はなかった。

足に力が入らない。

下を見ると、黒い物がランサーの膝まで浸食していた。

ランサー「ちぃ!」

力が入らないどころか感覚が無い。

アサシンに気を取られたのも確かだが、

水に浸かっていた事で脚の感覚が鈍っていたのが

浸食に気が付くのが遅れた一番の原因であった。
85: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:38:35.07 ID:hkw2fN9Zo
槍の射程外からアサシンの腕が放たれる。

向かい来る腕を槍で斬り払おうにも、段々と体に力が入らなくなってゆく。

アサシンの腕がランサーの胸に到達すると、

その胸の中から、偽りの心臓が掴み出された。

ランサー「な……に?」

アサシンの宝具、『妄想心音(サバーニーヤ)』。

相手の本物の心臓と共鳴する偽りの心臓を作り、

それを握り潰すことで相手を殺す呪いの右腕。

ランサーは為す術も無く崩れ落ち、

水面に浮かんだ体はそのまま黒い影に呑み込まれる。

アサシンもまた、手にした赤いソレを満足げに呑み込んだ。


-- interlude out --
86: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:39:30.39 ID:hkw2fN9Zo
朝、慎二の説教が終わった後

屋敷に戻ると桜の姿が見当たらない。

マスター「……はて、何処に行ったのやら」

今は聖杯戦争中である。

勝手に出歩かれてはマスターを守りきれない。

東方不敗は桜との微弱な繋がりを頼りに深山町を歩き回った。

そこで辿り着いたのは和風な屋敷。表札には『衛宮』と書かれている。

マスター「ここか」

東方不敗は玄関の引き戸に手を掛けると、中から話声が聞こえてくる。

どうやら先客が居るようだ。


「…………輩。どうしてここへ!?」

「ああ桜、衛宮君いるでしょ?」

「私はどうしてって聞いてるんです!」

「はぁ……。この前バ、ちょっとあって様子を見に来たのよ」


先客に対応しているのは桜らしい。ならば話は早い。

とっとと用事を済ませようと、引き戸に掛けたままの手に力を入れた。
87: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:40:12.19 ID:hkw2fN9Zo
マスター「邪魔をするぞ」


「「えっ!?」」


すぐ目の前には赤い服を着た黒髪の少女が。

そして少女の少し奥、玄関を上がった所に桜の姿があった。

マスター「ああ、さく……」

赤服の少女「不審者!? 桜、逃げて!」

少女は振り出した足を力強く震脚させ、

逆足を踏み込んで東方不敗の腹に冲捶(ちゅうすい)を打ち付ける。

しかしその体は大樹の如く、少女の拳を跳ね返す。

赤服の少女「っ!」

続いて繰り出されるは肘と肩の連続技。

頂肘(ちょうちゅう)、貼山靠(てんざんこう)と打ち付けるも、

その肘と肩は逆に自分が技を食らったように鈍い痛みを訴える。

貼山靠(てんざんこう)は別名『鉄山靠(てつざんこう)』として有名な体当たり技だが、

その攻撃を受けてなお、東方不敗の足は

まるで大地に根を張ったかのように微動だにしなかった。

赤服の少女「……何てデタラメな体してんのよ!」
88: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:40:59.97 ID:hkw2fN9Zo
拳、肘、肩と流れるように打ち付ける、少女が繰り出したこの動きは八極拳。

なかなかの腕前であるが、今回は相手が悪かったと言えよう。

マスター「そこまで」

少女の肩を掴んで制止を促す。

少女は東方不敗を自分より格上の相手と瞬時に判断し、

その腕を振り払い桜の元へと後ずさる。

マスター「ふむ、お主は桜の姉であったか。これは失礼した」

その言葉に少女はポカンと呆気にとられている。

赤服の少女「はぁ!? アンタ誰? 何でその事を……」

マスター「なに、武人とは自ら気持ちを拳を交える事でしか語れぬ不器用な生き物」

マスター「お主の拳から、妹の安否を憂う気持ちがひしひしと伝わって来よったわ」

赤服の少女「な……」

少女は顔を赤らめ狼狽している。

ちらちらと桜の方を見るその姿は、

どうやら本人には知られたくなかったと見える。
89: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:41:41.08 ID:hkw2fN9Zo
桜「あの……。ラ……えっと……」

恐らく『ライダー』と声を掛けたいのであろうが、

目の前の少女に正体を知られたくない為か、桜は言葉に詰まっている様子。

それを察した東方不敗は、赤服の少女に自己紹介を始めた。

マスター「ワシの名前は『クロス・シュウジ』」

マスター「桜の遠い親戚にあたるのだが、海外に行っておってな」

マスター「この度、桜の祖父に用事があって、ネ……香港からやってきた所なのだ」

因みに『シュウジ・クロス』は東方不敗の本名である。

つまりは真名にあたるのだが

『東方不敗・マスターアジア』よりも『黒須修二(漢字不明)』としておいた方が

桜の親戚であるという話に筋が通りやすい。

そもそも『東方不敗・マスターアジア』と名乗れば怪しまれるだろうし、

『東西南北中央不敗・スーパーアジア』と名乗れば警察を呼ばれる事は間違いない。
90: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:42:20.48 ID:hkw2fN9Zo
赤服の少女「ふ~ん、黒須さんねぇ……」

赤服の少女「ところで貴方、武道か何かをやってるのかしら?」

まだ少女の警戒は解けないのか、不審な目つきで東方不敗を眺め回す。

体格といい、少女の攻撃が全く効かなかった事といい、

この男が只者では無い事は誰の目にも明らかであった。

マスター「うむ、道場の師範をしておる」

マスター「先程の八極拳はなかなかであった。筋が良い。これからも精進するように」

これで先程の東方不敗の挙動にも納得がゆく理由が付いたと言えよう。

凛「ふん……アンタに褒められても嬉しくないわよ!」

悪態をつき顔を背けてはいるが、その表情はまんざらでも無さそうだ。

自分の技が一切通用しなかったとは言え、

その相手に褒められるというのは、決して気分が悪いものではない。

相手を喜ばせて隙を付く。これぞ『喜車の術』なり。
91: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:43:01.05 ID:hkw2fN9Zo
さて、赤服の少女が大人しくなったところで、こちらかも話を切り出す。

マスター「桜、実は慎二からの伝言があってな」

マスター「ここでは何だろうから、門の外まで来てくれんか」

赤服の少女「慎二……!?」

何故だろうか。突然少女の目付きが鋭くなった。

これなら『臓硯』と言った方が良かったのだろうか?

しかし覆水盆に返らず。

さっさと桜を連れ出して用件を済ます事にする。
92: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:43:32.37 ID:hkw2fN9Zo
桜「あの、ライダー? それで兄さんからの伝言って……」

マスター「ああ、アレは凛の目を欺く為の方便よ。本当の用件はワシからあるのだ」

その言葉に桜は目を丸くした。

桜「あれ? 遠坂先輩の名前……。まだ紹介もしてないのに、どうして?」

そう。用件は東方不敗からという事に驚いたのではなく、

東方不敗が凛の名前を知っていた事に対して驚いたのだ。

マスター「なに、流派東方不敗では挨拶もまた拳で交わすものよ」

マスター「あの女が『遠坂凛』であり、『桜の姉』であり」

マスター「『朝に弱く』『普段は猫を被っており』『ここ一番では失敗する体質』で」

マスター「『あかいあくま』と呼ばれて恐れられている事までは分かっておる」

マスター「尤もワシからは手を出しておらぬ故、一方的な自己紹介ではあったが……」

桜(武闘家の拳って……便利)
93: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:44:11.90 ID:hkw2fN9Zo
マスター「さて、ワシからの用事というのは他でもない」

マスター「桜、聖杯戦争中だというのに勝手に出歩いて。一体何をしておったのだ?」

桜「それは……」

桜は伏し目がちに俯き、押し黙ってしまった。

そして暫く思案を巡らせた後、思い出したかのように東方不敗に聞き返す。

桜「そ、そう! ライダーはお爺様からは何も聞いていないの?」

マスター「はて?」

そう言われても心当たりは全く無い。

桜「私はこの家に『偵察』を兼ねてお手伝いに来ているの」

桜「大きな声じゃ言えないんだけど……」

桜「……どうやらこの家に住んでる男の子は『セイバー』のマスターみたいで……」

マスター「何!?」

これには流石の東方不敗も驚きを隠せない。

それは表札にある『衛宮』という人間がマスターであるという事よりも、

そんな所に自ら進んでやって来ている桜の心境が判りかねたのだ。
94: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:44:50.75 ID:hkw2fN9Zo
マスター「桜、そんな危険な所にマスター自らが出向かなくとも」

マスター「ワシに言ってくれれば、いくらでも偵察に向かったものを」

しかし桜は、そんな東方不敗の申し出をキッパリと断った。

桜「だ、大丈夫ですっ! 先輩は悪い人じゃないですから!」

桜「それにお手伝いに来てるのだって、ずっと前からやってるんです」

桜「何も危ない事なんてありません!」

それは普段の桜からは考えられない位の剣幕であり、

これには東方不敗も承諾するより他は無かった。

桜が信頼しているマスターなら、こちらも信頼して良いのであろう。

そう言えば最初、桜と出会った時の事。

桜は他のマスターに手を掛ける事に否定的だった。

それがこの衛宮の屋敷にいるマスターなのかもしれない。
95: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:45:33.56 ID:hkw2fN9Zo
しかし、万が一という事もある。


『聖杯戦争 国際条約 第四条』

『サーヴァントは己のマスターを守り抜かなくてはならない!』


そこで東方不敗は、桜に監視役を付ける事で譲歩する。

マスター「それなら桜、我が愛馬『風雲再起』を傍に付けよう」

桜「『ふううんさいき』? ライダーの馬、変わった名前ね」

マスター「出でよ! 風雲再起ぃ!」

一筋の風を纏い、純白の駿馬が颯爽と姿を現した。

桜「これが……」

マスター「良いか風雲再起。お前に桜の守りを任せる」

マスター「危険が迫ったら桜を連れて逃げよ」

マスター「いざとなったら大気圏を突破しても構わん」

東方不敗の言葉を聞き終えると、風雲再起は再び霊体となって消えてしまった。

マスター「では桜、ワシからの用件はこれで終わりよ」

マスター「くれぐれも無理をするでないぞ?」

桜「はい」

そうして東方不敗は衛宮の屋敷を後にした。
96: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:46:10.31 ID:hkw2fN9Zo
間桐の屋敷に戻る途中、東方不敗は先程の凛とのやり取りを思い出す。

マスター「しかし……出会っていきなり殴りかかられるとは思わなんだわ」

マスター「ワシはそんなに悪人面かのぅ?」

ストーカー『はい』

マスター「……」
97: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:46:50.34 ID:hkw2fN9Zo
再び玄関に戻った所で、桜はハタと足を止める。

桜「あれ? そう言えば姉さん、ライダーの正体に全然気が付いてなかったような……」

桜「サーヴァントだと分かれば魔術で攻撃していたはずだし」

桜「ライダーをただの暴漢だと思ったのかしら……?」
98: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:47:40.85 ID:hkw2fN9Zo
ストーカー『説明しましょう!』

ストーカー『凛が東方不敗をサーヴァントだと思わなかった理由』

ストーカー『それは彼から「魔力や神秘を全く感じなかったから」なのです!』

ストーカー『当たり前ですね。東方不敗は魔術など使えませんから』


ストーカー『しかし、ここで一つの疑問が生まれます』

ストーカー『魔力も神秘性も無い東方不敗が』

ストーカー『どうやってサーヴァントにダメージを与えたか、という事です』

ストーカー『これは、流派東方不敗の拳法の特性によるものなのです』


ストーカー『流派東方不敗では天然自然の力を取りこみ、それを気に転換します』

ストーカー『気は「丹田」と呼ばれる腹のあたりで練られるのですが』

ストーカー『その過程は魔術を使用する時と非常に似通っているのです』


ストーカー『魔術の世界では、自然界に満ちている魔力を「大源(マナ)」』

ストーカー『生物の体内に存在する魔力を「小源(オド)」と呼びます』

ストーカー『そして大源を魔術師の体内に取り込む時』

ストーカー『魔術回路を通して小源に転換します』


ストーカー『お分かりでしょうか? つまり』

●大源 ≒ 天然自然の力

●魔術回路 ≒ 丹田

●小源 ≒ 気

ストーカー『という関係が成り立つのです』
99: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:48:15.57 ID:hkw2fN9Zo
ストーカー『ただし、魔術回路と丹田には大きく異なる点が一つあります』

ストーカー『魔術回路は生まれ付き数が決まっており』

ストーカー『さらに一度失えば再生する事は出来ません』

ストーカー『しかし丹田は人間なら誰でも持っているものであり』

ストーカー『さらに鍛える事でより多くの気を、より短時間で練る事が可能になります』

ストーカー『東方不敗は長年の修行の果てに、通常の魔術師では考えられないような』

ストーカー『膨大な力を瞬時に練る事が可能となりました』

ストーカー『気の存在を知らない西洋の英霊にとって、この驚くべき力は』

ストーカー『さながら「東洋の神秘」と言えるかもしれません』




桜「……何、あの人?」

マスター「桜、お前にだから言っておくが……」

マスター「あの男は『アサシン』の如く気配遮断能力を持ち神出鬼没」

マスター「そして『バーサーカー』の如く好き勝手に喋り倒し」

マスター「終われば『ランサー』の如くスピードで逃走する」

マスター「ただし戦闘能力は低いため害は無い。気にしないのが一番よ」

桜「はあ……」ナニアノヒト
100: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:49:00.46 ID:hkw2fN9Zo
凛「桜、黒須さんの話って何だったの?」

桜が居間に戻るなり、凛は先程の用件を尋ねてみる。

慎二からの用事とあってはまた桜が何かされるのではと、

居間で待ち続ける凛にとっては、気が気で無かったのだった。

桜「いえ、大した事じゃないんです」

凛「……そう。まあ、何かあったら遠慮なく言って頂戴」

桜「そ、それより朝ご飯食べちゃいましょう。冷めると勿体無いですよ」

そう言って話を切り、皆で食卓を囲んで朝食を開始する。

凛「申し訳ありません藤村先生。食事時にお邪魔しちゃいまして」

大河「いいのいいの。食事は賑やかな方がいいんだから」

普段は朝食を摂らない主義の凛も、

食卓に並べられた料理の前に御馳走になる気は満々のようだ。
101: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:49:31.02 ID:hkw2fN9Zo
大河「わぁ、今朝は洋風ね」

大河「『パン』に『コンソメスープ』に『スクランブルエッグ』に」

大河「『ジャーマンポテト』に『ニンジンのソテー』かぁ」

と、目の前のニンジンに対し、風雲再起が鼻を鳴らす。

桜(だ、ダメっ風雲再起! 後で余り物あげるからっ!)

士郎「あれ? 今、動物の声がしなかったか?」

凛「動物?」

大河「私は何も聞こえなかったわよ?」モグモグ

セイバー「気のせいではないでしょうか?」パクパク

桜「そうですよ先輩! 家の中にお馬さんなんて居るワケ無いじゃないですか!」

士郎「そうだよなぁ。きっと寝ぼけてたんだな」

桜(ふう……)
102: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:51:22.09 ID:hkw2fN9Zo
マスター「さて……」

間桐の屋敷に戻った東方不敗は、

庭に巨大な鋼鉄の白馬を呼び出しコックピットへと乗り込んだ。

この巨大な白馬は『MH(モビルホース)風雲再起』。

東方不敗の愛馬と同じ名前のその機体は、

マスターガンダムに東方不敗が乗り込むのと同じように

風雲再起に風雲再起が乗り込んで操るのである。

正直、機体と搭乗者の名前が同じなのは非常に紛らわしいのだが、

そう命名されてしまった以上、今となってはどうしようも無い。

さて、東方不敗がこの鋼鉄の白馬を呼び出したのは勿論、操縦する為ではない。

薄暗いコックピットの中、東方不敗が中にあるボタンをいくつか操作すると、

周囲は明るい光に包まれ、中央のモニタに桜の姿が表示された。

桜の傍にいる風雲再起が見ている光景を映し出しているのである。
103: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:52:01.27 ID:hkw2fN9Zo
桜『先輩、洗い物は私がやりますね』

どうやら朝食が終わった所らしい。

士郎『悪い。じゃあ俺はテーブルを拭くから、後は任せた』

桜『はい、任されちゃいますっ』

桜は重ねた食器を両手で抱えながら、楽しそうに台所へと向かって行く。

大河『桜ちゃん、私は先に学校行くけど』

大河『体調悪いなら無理して来なくてもいいわよ?』

大河『最近休む人が多くって、半ば休校状態みたいなモノだから……』

桜『はい。藤村先生もお気を付けて』
104: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:52:51.55 ID:hkw2fN9Zo
桜『先輩は学校、どうするんですか?』

士郎『ああ、今日は休む。セイバーとやる事があるんだ』

桜『……そう、ですか』

凛『私は行くわ。様子が気になるもの』

凛『誰か一人くらい、学校の状況を知っておいた方が良いでしょ?』

士郎『ああ。頼んだ、遠坂』

セイバー『シロウ、一時間後に始めましょう』

士郎『分かった』


マスター「なるほど、この女が『セイバー』か」
105: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:53:28.21 ID:hkw2fN9Zo
場所を居間から道場に移し、士郎とセイバーが対峙する。

両者は竹刀を構え、切っ先の触れる一足一刀の間合いから

ジリジリと間合いを詰めてゆく。

士郎『はああっ!』

堪え切れなくなった士郎がセイバーの面に竹刀を振り降ろすも、

その攻撃は無残にも空を斬る。

士郎『……っ!』

その隙にセイバーの竹刀が士郎の腕を捉え、

打ち付ける甲高い音が道場一杯にこだました。

桜『セイバーさん! そんなに強く打ち込まなくてもいいじゃないですか!』

セイバー『いえ、これでも温い方です。シロウには一日でも早く戦いに慣れて貰います』

士郎『……いいんだ、桜。俺が言い始めた事なんだから』

桜『そ、そうだ! 私、救急箱を用意しておきますねっ!』
106: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:53:59.65 ID:hkw2fN9Zo
再び稽古が開始される。

相変わらず士郎の攻撃はセイバーに軽くいなされ、

その隙に士郎は何本も打ち込まれてしまう。

とは言え、一体どうしてあの華奢な体でこのような動きができるのか。

彼女がサーヴァントであるなら、いづれは東方不敗と戦う事になる。

今は本気を出していないとは言え、

東方不敗はセイバーの足裁き、体裁き、間合いの取り方、クセ等を

注意深く目に焼き付けておく。
107: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:54:31.78 ID:hkw2fN9Zo
と、ここで映像が道場から離れて行った。

どうやら士郎がやられる様子を見ていられなくなったのか、

桜が道場から移動したらしい。風雲再起もそれに付いて行ったようだ。

東方不敗は映像の表示を『通常』から『録画』に切り替え、

先程のセイバーの動きを繰り返しチェックし続けた。

暫くセイバーの動きを観察した後、再び『通常』に切り替える。

そこには居間で士郎の手当てをする桜の姿があった。

どうやら稽古は終わってしまったらしい。
108: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:55:12.76 ID:hkw2fN9Zo
士郎『痛ててっ!』

桜『もう! セイバーさんったら、先輩の体をこんなにアザだらけにして!』

士郎『だ、大丈夫だって! だからそんなにきつく包帯巻かなくても!』

桜『ダメですっ! 跡が残ったらどうするんですか!』

士郎『だから大丈夫だって。最近何だか体の調子が良いんだ』

士郎『このぐらいの傷ならすぐに治るさ』

桜『そんな訳ないじゃないですか! いいから次は右腕を出して下さい!』

流石に士郎も観念し、その後暫く無言で手当てが続く。
109: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:55:47.41 ID:hkw2fN9Zo
東方不敗は懸命に手当てするその様子をじっと見つめ続けていた。

桜の表情は真剣そのもの。

包帯を巻く、一つ一つの挙動に力が入る。

桜はこの士郎という男に特別な感情を抱いているらしい。

今までの桜の言動からそれは推測できたものの、

この光景を見てそれは確信へと変わっていった。

東方不敗は口元を緩め、モニタの電源に手を伸ばす。

コックピットの中は再び暗くなり、鋼鉄の白馬は霧のように消えてゆく。

桜はあの男を全面的に信用している。

ならば東方不敗もあの男を信用しようと思ったのだ。

ただし、もしあのセイバーと相まみえる事があるならば、

その時は全力で相手をしなくてはなるまい。
110: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:56:41.04 ID:hkw2fN9Zo
慎二「ライダー、今夜はやる事があるんだ。付き合えよ」

夜になると、慎二から話を持ちかけられた。

どうやら何か策があるらしい。

それならばと、東方不敗は慎二と一緒に公園まで足を運ぶ。

慎二「ここは深山町から新都へ渡る橋への近道なんだ」

慎二「でもあまり知られていないから、この時間帯は人通りがかなり少ない」

慎二「暫く待って誰か通りかかったらその人を襲え! いいな?」

マスター「……何を言っておるのだ? 慎二」

東方不敗には慎二のやろうとしている事が理解できない。

訝しげな顔をする東方不敗に対し、慎二は苛立ちを隠せない。

慎二「ああ、もう何で分からないかなぁ?」

慎二「お爺様から聞いたけど、お前からは全然魔力を感じないって言うじゃないか」

慎二「それなら人を襲って、少しでも魔力を蓄えるんだよ!」

成程。通常のサーヴァントなら、そうやって魔力を蓄えるものなのか。

そう言えば連日、謎の昏睡事件が起こっているらしいが、

何処かのサーヴァントが引き起こしている事なのかもしれない。
111: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:57:16.32 ID:hkw2fN9Zo
『聖杯戦争 国際条約 第七条』

『冬木がリングだ!』


聖杯戦争の名に元に、建物を壊しても、人を襲っても、

恐らく何をしても許されるのであろう。

しかし東方不敗は、無関係の人間を犠牲にする事は気が進まなかった。


『聖杯戦争 国際条約 第六条』

『英霊の代表であるサーヴァントは、その威信と名誉を汚してはならない!』


そして最期に、自らの過ちを弟子に教えられた時の事を思い出す。


『人類もまた自然の一部』

『それを犠牲にしての理想郷は間違いである』
112: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:57:47.76 ID:hkw2fN9Zo
マスター「慎二。ワシに魔力は必要ない」

慎二「え……?」

マスター「お前がマスターであろうと、桜がマスターであろうと」

マスター「既にこの体は十分な力を発揮できる状態なのだ」

東方不敗が最初から魔力に頼らないのは元より、

流派東方不敗は、天然自然が宿す膨大な力を借りて戦う拳法。

よって自身の体に力を蓄えておく事は、さして重要ではないのである。

マスターによって力が左右されないのは、

逆に言うとマスターのバックアップを一切受けられないという事である。

これをメリットと取るかデメリットと取るかは人それぞれだが、

良くも悪くも『素の状態』と言えるだろう。

少なくとも今の東方不敗にとっては、

慎二がマスターでも十分に力を発揮できるのは大きなメリットと言えた。
113: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:58:23.57 ID:hkw2fN9Zo
しかし慎二は東方不敗の言葉を信じようとはしなかった。

慎二「はぁ? それでも無いよりは有った方がいいんだろ?」

慎二「聞けばサーヴァントってのは『魂喰らい』らしいじゃないか」

慎二「……ははぁん。さては怖気づいてるな?」

慎二「そんな事だから……」

マスター「待て、誰か来る!」

二人は物陰に隠れて様子を伺う。

そこに現れたのは一人の女性であった。

人気のない公園を早く通り過ぎようと、小走りにこちらへ向かって来る。

慎二「ホラ、何やってるんだよ! さっさと襲えよ!」

マスター「だから魔力はいらんと言っておろう……」

慎二「ああもう! それなら令呪を使ってでも!」


女性「誰か居るの!?」


どうやら気が付かれてしまったようだ。
114: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:59:00.58 ID:hkw2fN9Zo
慎二の大声が原因なのは言うまでも無いのだが、

それを棚上げして本人は命令を下す。

慎二「お前のせいだぞ! 早くあの女の口を封じるんだよ!」

慎二「聖杯戦争は目撃者を出しちゃいけないらしいからな!」

そういう事ならやむを得ない。

東方不敗は瞬時に女性の近くまで間合いを詰め、

額に三本の指を当てて気を送り込む。

マスター「シャイニング・フィンガー!」

相手の脳髄に気を送り気絶させる。

シャイニングフィンガー本来の使い方である。

気を失った女性は、東方不敗にもたれかかる様にグッタリとうな垂れる。

東方不敗は地面にそっと女性を寝かせると、慎二の方へと向き直った。
115: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 13:59:36.27 ID:hkw2fN9Zo
慎二「やった!」

女性が動かなくなった事を確認し、慎二が物陰から姿を現す。

マスター「……ところで慎二」

マスター「仮にこの女から魔力を奪うとして、それは一体どうやるのだ?」

慎二「それは……」

マスター「……」

慎二「えっと……」

マスター「……」

慎二「ははは……」

マスター「……」




『そこで何をしている!』
116: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:00:17.51 ID:hkw2fN9Zo
声がした方へ振り向くと、

そこへ居たのは白銀の鎧に身を包んだサーヴァントであった。

そして遅れて到着したのは、慎二と同じ位の歳の少年。

彼らは衛宮の屋敷で見た二人に間違い無い。

東方不敗とセイバーが睨み合う。

士郎は地面に横たわる女性と東方不敗を交互に見つめ続けている。

しばしの沈黙。

それを破ったのは慎二の声だった。

慎二「……へぇ。誰かと思えば衛宮じゃないか」

慎二「凄いな、おまえの間の悪さもここまで来ると長所だね」

士郎「慎二、お前……」

その存在に気が付き、士郎は最悪の可能性を慎二に向かって投げかける。

士郎「殺したのか? その人を……」
117: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:01:02.74 ID:hkw2fN9Zo
慎二「さてね? そんな事はどうでもいいだろ?」

慎二「それよりもさ。二人のマスターとサーヴァントが出会ったんだ」

慎二「後はこれからどうなるか。分かるよな? 衛宮」

士郎「う……」

慎二は偽臣の書をチラつかせながら東方不敗に命令する。

慎二「やれ、ライダー」

その声に反応し、セイバーは一歩前に進み出て『何か』を構えた。

セイバー「出ます! シロウは後ろに!」

見えない『何か』は、セイバーの名の通りなら『剣』なのであろう。

しかしその正体が判らない以上、迂闊に攻める事はできない。

東方不敗は腰布を構え、不可視の武器を迎撃する用意を整える。

セイバーの武器を隠しているものの正体は、

彼女の持つ宝具の一つ、『風王結界(インビジブル・エア)』である。

剣の周りに大量の空気を纏い、光の屈折率を変えて不可視にする。

派手さは無いものの、こと近接戦闘において絶大な効果を発揮する。
118: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:01:35.78 ID:hkw2fN9Zo
セイバー「はああっ!」

マスター「とおりゃあ!」

二つの武器がが交錯する。

不可視の剣を弾こうとした腰布はその威力を殺しきれず、

空気が破裂したような衝撃音と共に、たった一撃でその先端が吹き飛ばされた。

マスター「ぬぅ!」

あまりの破壊力に東方不敗は舌を巻く。

ランサーの突きがライフルの精密射撃なら、

セイバーの斬撃は力に物を言わせた散弾銃である。

その正体はセイバー持つスキル『魔力放出』によるものであり、

武器や肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事で能力を向上させる技能である。

言ってしまえば魔力によるジェット噴射。

このスキルのお陰で、セイバーはその細い体からは想像もできない程

高速な移動、強力な斬撃を可能としているのである。
119: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:02:14.03 ID:hkw2fN9Zo
セイバー「はあああああ!」

東方不敗「ぐっ!」

東方不敗は腰布での迎撃を諦め、専ら足を使っての回避に専念する。

いくらモニタ越しにセイバーの動きを見たとは言え、稽古と戦いでは全くの別物である。

それに相手の得物は不可視の剣。

如何なる達人と言えど、このハンデを覆すのは容易いものではない。

東方不敗はセイバーの持つ武器を竹刀に置き換え、

挙動の差異から長さの目算を試みる。

一般的な高校生が持つ竹刀は、

三八(さんぱち)と呼ばれる三尺八寸(約115cm)の長さである。

その内、柄頭から鍔までの長さは約八寸(24cm)。

鍔から切っ先までの長さは約三尺(91cm)である。

セイバーの踏み込み、そして切り付ける間合いはどうやら竹刀とほとんど同じようだ。

ただし、これ以上の目算は出来そうに無い。

東方不敗は二十数太刀躱したところでそこまでの結論に辿り着き、

それまで大きめに躱していた動作を、少しずつ最小限のものに修正してゆく。

それは驚異的とも言えるスピードであり、流石のセイバーもこれには驚きを隠せない。
120: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:02:50.26 ID:hkw2fN9Zo
セイバー(……ヤツは高レベルの心眼スキルでも持っているのか?)

しかし、いくら何でも適応が早すぎる。

セイバーの剣は、例え見えていたとしても

振り抜くスピードは肉眼では捉えられないレベルなのである。

いくら達人でも、あと倍は打ち込まなければ取っ掛かりすら掴めないはずなのだ。

さらに相手は得物を持って『弾く』という、物理的な方法での目算は行っていない。

最初セイバーの剣と相手の布が交錯したが、布はその役目を果たせず弾け飛んだ。

後は足を使っての回避だけで不可視の剣を測っているのである。

セイバー(まさか、これまでの戦闘を観察されていたという事は……)

もし心眼で無いのならこちらしか有り得ない。

予め見たセイバーの動作と今の戦闘での動作を『比べて』

自身の動きを少しずつ修正しているのだとしたら?
121: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:03:30.79 ID:hkw2fN9Zo
━━ そんな事は関係ない。


それなら『判っていても躱せない攻撃』を繰り出すまで。

セイバーは自身の魔力放出の出力をさらに上げ、

これまでの倍の速さで東方不敗の懐に潜り込んだ。

セイバー「もらった!」

近距離から横薙ぎの一閃が放たれる。

これ以上動きを修正する暇は与えない。

セイバーはこの一撃で勝負を決めるつもりである。

この距離なら後ろに飛んで躱す事も出来ず、かと言って横に躱しても

その回避動作ごと薙ぎ払うまでである。
122: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:04:15.87 ID:hkw2fN9Zo
しかしセイバーの予想と反し、東方不敗は前に動いた。

マスター「甘いわぁ!」

鋭い金属音がしたと思ったその瞬間には、

セイバーの剣は上体ごと宙へ吹き飛ばされていた。

東方不敗の拳が剣の腹を下から叩き上げたのだ。

セイバーの予想は半分当たっていた。

しかしもう半分は外れていた。

第六感とも呼べる『直感』のスキルで『相手が自分の動きを予め知っていた』という

結論を導き出した所は良かった。

しかしその結論を導き出す為に、相手の『心眼』を否定してしまった事は間違いだった。

そう。東方不敗は『セイバーの動きを予め知っており』かつ『心眼』を持っていたのだ。

長年の修行、鍛錬、数々の強敵との戦いによって培われた洞察力は、

その窮地においても自身のの状況と敵の能力を冷静に把握し、

その場で残された活路を見出す、ある種の境地とも言える域にまで昇華されていた。
123: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:04:47.90 ID:hkw2fN9Zo
どんな武器同士の戦いでも言える事だが、

『間合いの長さ』というのは最も強いアドバンテージとなる。

それは剣と拳との戦いにおいても同様なのだが、

セイバーは勝負を急ぐあまり不必要に相手との距離を詰めてしまった。

それを見逃す東方不敗ではない。

瞬時に拳の優位な間合いに詰め、

半ば見切りかけている心眼でセイバーの剣を捉えたのである。
124: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:05:29.72 ID:hkw2fN9Zo
マスター「はぁ!」

セイバー「っ!」

東方不敗が追撃をかける。

空中に放り出されたセイバーには、最早攻撃を躱す術は無い。

が、

耳をつんざく風切り音と共に、セイバーの背後から突風が吹き荒れた。

浮いた体を『魔力放出』で強引に立て直し、

そのまま下にいる東方不敗に向かって剣を打ち付ける。

東方不敗は攻撃に転じようとした体をすんでの所で踏み止め、

一気にその攻撃範囲から身を翻す。

間一髪。

爆発にも近い轟音と共に、コンクリートが空高くへと舞い上がる。

地面に着地したセイバーはさらに魔力を放出し、

距離を取った東方不敗に追撃を迫る。
125: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:06:00.91 ID:hkw2fN9Zo
流石は『最優』と呼ばれるセイバーのサーヴァント。

一筋縄ではいかない。

防戦寄りの東方不敗は、この状況を打開する策を練る時間が欲しかった。

公園の砂場まで後退し、地面に向かって震脚を放つ。

砂はまるで水柱のように跳ね上がり、辺りは一瞬にして土色の霧に覆われた。

セイバー(目くらましに乗じて不意打ちするつもりか?)

セイバーは脚を止め、辺りの様子を慎重に伺う。

しかし東方不敗にはそのつもりは毛頭ない。

砂場から離れた位置まで移動し、セイバーの打開策に思案を巡らせる。
126: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:06:33.14 ID:hkw2fN9Zo
マスター(さて……。ヤツの剣に関しては大体分かった)

マスター(しかし正確な長さを確かめなければ、いざと言う時に踏み込みが鈍る)

マスター(次に剣の長さが分かったとして、どうやってヤツに打ち勝つかだが……)

と、ここで東方不敗は逆転の発想を閃いた。

そう。

『この戦いは勝たなくても良いのではないか?』

ランサーとの戦いと同じく、臓硯かアサシンがこの戦いを見ているかもしれない。

ここで東方不敗が負ければ、

臓硯らは聖杯戦争勝利の為に積極的に動かざるを得なくなる。

そこに彼らの企みを暴くチャンスが生まれるのではなかろうか。
127: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:07:17.77 ID:hkw2fN9Zo
セイバー「姿を見せろ、ライダー!」

土色の霧の向こうから、セイバーの声が響いてくる。

程なくして霧は落ち着き、東方不敗はセイバーの前に姿を現した。

その右手には、最初一度しか使われなかった腰布がくるくると巻きつけられていた。

セイバー「……意外ですね。てっきり目くらましに乗じて攻めてくると思いましたが」

セイバー「それとも観念したのですか?」

マスター「そんな訳が無かろう」

マスター「なに、少々良い方法を思いついたのでな」

そう言って、東方不敗は腰布が巻き付けられた右手を見せた。

セイバー「まさかとは思いますが、私の剣に素手で挑むつもりですか?」

マスター「話が早いな、そのまさかよ。しかし、決してヤケになった訳では無いぞ?」

マスター「十分な勝算があっての事よ」

セイバー「……面白い」

東方不敗の言葉に、セイバーは不可視の剣を構えなおした。

その全身の魔力が高まってゆく。

恐らくは東方不敗の拳もろとも、一刀の元に伏すつもりでいるのだろう。
128: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:07:55.59 ID:hkw2fN9Zo
東方不敗の目論見は見事に当たった。

こうやって焚きつければ、あのサーヴァントは素直に誘いに乗ると思ったのだ。

恐らく、自身の剣に絶対の自信を持っているに違いない。

マスター「でりゃああああああ!」

東方不敗は一直線にセイバー目掛けて突き進む。

セイバー「はああああああああ!」

セイバーも全身から魔力を放出して爆速する。

先に攻撃に転じたのはセイバーだった。

東方不敗が拳を放つには、剣の間合いより後一歩距離が足らない。

マスター「かぁぁぁっ!」

しかし、この間合いで東方不敗も手刀を放つ。

セイバー「無駄だ!」

勢いの付いた不可視の剣は、

そのまま東方不敗の右腕を両断しようと振り下ろされる。
129: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:08:50.13 ID:hkw2fN9Zo
ピタリ。そんな擬音が聞こえたような気がした。

セイバー「なっ!?」

セイバーの剣が東方不敗の手に触れた瞬間、

その動きは宙に縫い付けられたかのように止まってしまったではないか。

東方不敗の動きは剣の力に真っ向から対抗しようとしたものではなく、

まるでそっと寄り添うかのように、ただその場に『置いた』ようにも見受けられた。

セイバー(━━ 白刃取り!?)

その場に起こっている事に、まだ信じられないと言う顔をするセイバーであったが、

東方不敗の白刃取りもまた、ただの白刃取りではない。

その拳には二重の保険が掛けられていたのであった。

一つ目は手に巻かれた腰布。

最初の一撃で先端を吹き飛ばされたとは言え、

何重にも巻けば素手を守るグローブになる。

そして二つ目はシャイニングフィンガー。

気で強化された指は、相手の頭蓋をも握り潰す力を持つ。

ただし光る指を悟られぬよう、腰布で手を覆ったのは目隠しの意味もあったのだ。

その二重の保険があったとは言え、

最後にモノを言ったのは東方不敗の武闘家としての技量だという事は言うまでも無い。
130: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:09:26.46 ID:hkw2fN9Zo
マスター「取ったぁ!!」

手に巻いた腰布がセイバーへ伸びる。

腰布は受け止めた刀身から柄へ、柄からセイバーの腕へ。

まるで生き物のように絡みつく。

そして腰布に覆われた不可視の剣は、ここにその姿をくっきりと現したのだった。

刀身はやはり三尺。幅は四寸。典型的な両刃の西洋剣である。

マスター「シャイニング・フィンガー!」

空いた左手に気を込めると、セイバーの額目掛けて光る指を突き付ける。

セイバーの腕は腰布でガッチリと絡め取られ、もはや押す事も引く事も出来はしない。

勝てなくとも問題は無いと思っていたが、

ここまで好条件が揃えば決めてしまうのも悪くは無い。
131: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:10:05.93 ID:hkw2fN9Zo
セイバー「まだだ!」

セイバーの剣から、とてつもない衝撃波が放たれた。

剣を覆っていた腰布は四散し、

それを至近距離で受けた東方不敗は、十メートルは吹き飛ばされ膝を付く。

顔を上げると、そこには黄金に輝く剣がセイバーの手に握られていた。

先程のはただの衝撃波ではなく、不可視の剣を解放した事によるものだと

東方不敗は理解した。

マスター「ふん。折角見切ったと思えば、もう出してしまうのか」

セイバー「……初めてです。よもや私の剣を『直接触って』確かめるなど」

マスター「しかし、最も単純で確実な方法であろう?」
132: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:10:41.96 ID:hkw2fN9Zo
素知らぬ顔で受け答えする東方不敗だったが、その状況は絶望的であった。

腰布は失い、さらに至近距離で衝撃を受けた右半身は相当なダメージを負っている。

対してセイバーはまだ一切のダメージを負っておらず、

単に剣が見えるようになったというだけである。

マスター(そろそろ潮時か……)

東方不敗は左手に気を込め、一直線にセイバーへ躍り掛かった。

もはや万事休す。その姿は玉砕覚悟の突貫にも見受けられた。

セイバー「はあっ!」

その攻撃を、セイバーは真正面から袈裟斬りに伏す。

マスター「ぬおぉぉっ!!」

その剣を胸に受け、東方不敗の姿は霧となって消えてしまった。
133: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:11:25.61 ID:hkw2fN9Zo
士郎「やった!」

慎二「嘘……だろ?」

セイバー「!?」

マスターの二人には、東方不敗の体は存在を保てなくなる程のダメージを受け

霊体に戻ったように見えただろう。

しかし東方不敗を斬り付けたセイバーだけは、

その手応えの不確かさに首をかしげたのであった。

実際、東方不敗の体は肉は斬らせど骨までは断たれていない。

セイバーの剣の長さを完全に見切った為、このような芸当をやってのけたのである。

マスター(さて、これは一種の賭けよ)

マスター(臓硯かアサシンが来ていなければ慎二は死ぬかも知れん)

マスター(しかし来ている! さあ、姿を現せぃ!)
134: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:12:02.21 ID:hkw2fN9Zo
慎二「な、何だよ。誰がやられていいなんて言ったんだ!」

慎二「こんな……衛宮のサーヴァントなんかにやられやがって!」

慎二「出てこいよ! 出てきて戦えよ!」

慎二は東方不敗が消えた空間に向かってわめき立てる。

幸いにもセイバーは、既にマスター一人となった慎二は無力と判断したか

剣を納めてその様子を眺めている。

慎二「ああもう、何やってるんだよこのクズ!」

慎二「恥かかせやがって、これじゃ僕の方が弱いみたいじゃないか!」

東方不敗を罵倒する慎二を見かね、ついにセイバーが口を開いた。

セイバー「サーヴァントを責める前に自身を責めるがいい」

セイバー「いかに優れた英霊であろうと」

セイバー「主に恵まれなければ真価を発揮できないのだからな」

慎二「っ……!」

セイバー「ここまでだ、降伏の意志を訪ねる。令呪を破棄し、敗北を認めるか」

セイバーの手が慎二に伸びる。

マスター(━━ これまでか?)

いざとなれば再び姿を現し、宝具を使って慎二とこの場を離脱するより他は無い。

東方不敗の緊張が高まる中、ついにその男が姿を現した。
135: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:12:33.79 ID:hkw2fN9Zo
「そこまで。どうやらお前では宝の持ち腐れだったようじゃな、慎二」


公園の隅に小柄な老人が現れた。臓硯である。

臓硯「……やれやれ。見込みは無いと思っていたが、よもやこれ程とはな」

臓硯「孫可愛さで目をかけてやったが、これでは見切らざるを得ぬわ」

慎二「お、お爺様?」

臓硯「慎二、儂はお前に最初から勝利など求めてはおらぬ」

臓硯「その身に求めたものはな、無力でありながらも挑む我らの誇りじゃ」

臓硯「にも拘わらずこの体たらく。間桐の名に泥を塗りおって」

怒りのこもる言葉を吐きながら、臓硯はセイバーに向かって歩き出す。

臓硯に不吉さを感じたか、セイバーは微かに後ずさった。
136: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:13:10.61 ID:hkw2fN9Zo
臓硯「……ふむ。なるほど、これではライダーが敗れるのも道理」

臓硯「さぞ名のある英霊とお見受けした」

臓硯「これ程のサーヴァント、過去の戦いにおいても一人現れたかどうか」

セイバー「……」

臓硯「さて、となるとワシは死ななくてはなるまい」

臓硯「あのような者でも血縁でな。カカ、まっこと肉親の情とは命取りよ」

どこまで本気なのかは東方不敗の目には読み取れない。

引き続き行われるやり取りを注意深く観察する。

臓硯「そら、早々に立ち去れい」

慎二「っ……」

臓硯に言われるがまま、慎二は無我夢中で公園の入り口へと駆け出した。
137: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:13:48.22 ID:hkw2fN9Zo
セイバーは慎二を追わなかった。

どうやら慎二よりも臓硯の方を注意すべきだと考えたのだろう。

臓硯「ほ、みすみす見逃したか。……成程」

臓硯「あのような小者、手に掛けたところで剣が汚れるだけの話であったな」

セイバー「……」

セイバーは臓硯と対峙したまま動かない。

そんな中、士郎がセイバーに話しかける。

士郎「セイバー、下がってくれ。その爺さんとは顔見知りだ。少し話がしたい」

セイバー「いけません。この男は人間ではない。話す事も聞く事も無い筈です」

士郎「……判ってる。それでも頼む、すぐに済ませる」

士郎「戦うかどうかはその後でセイバーが決めていい」

セイバー「……判りました」

そう言って僅かに体を引く。
138: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:15:00.13 ID:hkw2fN9Zo
士郎「それで……なんだって慎二がマスターになったんだ?」

士郎「さっきの様子じゃアンタが担ぎ上げたように見えたが、どういう事だ?」

臓硯「ほ、そんな事か。儂は見ての通り現役から退いて久しいのでな」

臓硯「戦えぬ儂は孫に桧舞台を譲ったという訳だ」

士郎「マスターを譲った……」

どうやら士郎は、間桐が魔道の家系である事を知らなかったらしい。

しかしこの様子では、士郎が桜に辿り着くのも時間の問題ではなかろうか。

士郎「じゃあ桜は……。桜も慎二と同じマスターなのか?」

案の定、士郎から次の問いが投げかけられる。

臓硯「どうやらお主はまともな教育を受けておらぬようじゃな」

臓硯「魔術師の家系は一子相伝。後継者でない者は己の家が魔道である事も知らぬ」

臓硯「……まあ、兄が使い物にならなければ妹を、とも思っておったが」

臓硯「既に勝敗は決した。今更何も知らぬ孫を聖杯戦争に駆り出す事もなかろうよ」

その言葉に士郎は胸を撫で下ろす。

東方不敗も士郎に桜がマスターだとバレ無かった事には安堵したのだが、

それを伏せた臓硯の心中はまだ測りきれない。
139: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:15:40.08 ID:hkw2fN9Zo
そして念を押すように、士郎は最後の問いを投げかける。

士郎「勝敗は決したと言ったな? それじゃあもう慎二は戦わないんだな?」

士郎「桜も聖杯戦争とは関係ないんだな?」

臓硯「うむ。だが慎二がこれからどう出るかは儂にも保証はできんぞ?」

臓硯「サーヴァントが深手を負った今、『戦わない』のではなく『戦えぬ』」

臓硯「サーヴァントが復帰するまでの間にあの本を取り上げれば」

臓硯「慎二はマスターの資格を失おう」

臓硯「今のお主達なら造作も無い事であろうな」

つまりあの二人の目を慎二釘付けにしておいて、

自身とアサシンは暗躍するという腹なのだろうか。
140: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:16:32.85 ID:hkw2fN9Zo
二人の話が済んだ途端、

臓硯の体は音も無く士郎とセイバーから離れて行った。

小さな影は公園の木々の闇に溶け、たちまちの内に見えなくなった。

士郎「あっ……」

セイバー「……」

セイバーは臓硯も追わなかった。

士郎「セイバー、結局あの爺さんとも戦わないんだな」

士郎は少し安心したような表情でセイバーに話しかけた。

セイバー「いえ、ここで私が追うと士郎を一人にする事になります」

セイバー「何故かは判りませんが、その事にひどく不安を覚えるのです」

臓硯が居たという事はアサシンも居る可能性がある。

セイバーはアサシンを知らないとは言え、

何か良くない事が起こると心の何処かで直感しているのかもしれない。

それに、倒れている女性も気になるといったところか。

マスター(……さて、これ以上の長居は無用)

マスター(下手をすればこちらもセイバーに感づかれるかも知れん)

東方不敗も霊体のまま、静かに公園を後にした。
141: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:17:10.84 ID:hkw2fN9Zo
慎二「どういう事だ!? 説明しろ、ライダー!」

東方不敗は一足先に間桐の屋敷に帰っていた。

それを見るなり慎二は食ってかかる。

マスター「何を怒っておる。セイバーに斬られたのだ」

マスター「あの場でそれ以上の戦闘が出来なんだのは分かるであろう?」

慎二「マスターを一人にしておいて良くそんな事が言えるな!」

慎二「僕は危うく殺されそうになったんだぞ!?」
142: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:17:55.81 ID:hkw2fN9Zo
桜「あの……。兄、さん?」

慎二のヒステリックな声は屋敷中に響いていたのか、

桜が不安そうに二人の前に顔を出した。

慎二「桜、お前が呼び出したサーヴァントは使い物にならないじゃないか!」

ここで怒りの矛先が桜に向けられる。

慎二「よりによってあんなヤツのサーヴァントに負けたんだ!」

慎二「僕に恥を晒させる気なのか!?」

慎二は怒りのあまり、桜の頬に平手を振り抜く。

桜は赤く腫れあがる頬に手を添える事もせず、

ただ黙って下を向いたまま、懸命にその痛みを堪えている。

マスター「慎二!!」

慎二「っ……」

もう一度振り上げられた慎二の腕は、東方不敗の怒号に動きを止めた。
143: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:18:40.76 ID:hkw2fN9Zo
慎二「いいか、お前は一刻も早く傷を治すんだ!」

慎二「治ったら知らせろ、いいな!?」

そう言って慎二は部屋を出て行った。

後に残った桜は不安そうに東方不敗に話しかける。

桜「兄さん、あんなに荒れて……」

桜「ねぇライダー、一体何があったの?」

マスター「実はな、他のサーヴァントと交戦したのだ」

マスター「ワシは傷を負ってこの通りよ」

そう言って胸の傷を桜に見せる。

桜「た、大変! すぐに手当てしないと!」

桜は急いで部屋を出ると、救急箱を片手に戻ってきた。
144: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:19:41.13 ID:hkw2fN9Zo
桜「でも、ただ負けただけならあんなに荒れる事は無いと思うんだけど……」

東方不敗の胸に包帯を当てながら、桜はぼそりと呟いた。

どうやら心当たりがあるらしい。それなら隠しても無駄であろう。

マスター「うむ。どうやらマスターは慎二の知り合いのようでな」

マスター「……そうそう、確か慎二は『衛宮』と呼んでおったぞ?」

桜「!」

その名前を聞いた途端、桜は包帯を巻く手を止めて俯いてしまった。

東方不敗からはその表情は見えないが、

包帯を持った手は固く握り締められ、肩が少し震えているのだけは見て取れた。
145: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:20:36.14 ID:hkw2fN9Zo
桜「……先輩は無事なの? ライダー」

やっとの思いでそれだけを口にする。

やはりあの男の安否を心配していたのか。

マスター「慎二と衛宮というマスターは戦闘には参加してはおらん。よって無事よ」

その答えに桜は顔を上げる。

桜「良かった……」

何か良くない想像をしていたのか目は少しだけ潤んでいるが、

桜はホッとした表情を見せ落ち着きを取り戻す。

そんな桜の頭に手を当て、東方不敗は笑顔で答える。

マスター「なに、心配するな桜。お前が慕う男に手を掛ける筈が無かろう」

桜「えっ!?」

マスター「何だ、気が付いておらんと思ったか? 桜の顔に書いてあるではないか」

桜「えええっ!!?」

桜は顔を真っ赤にして俯き、人差し指で東方不敗の傷をグリグリしだす。

マスター「や、止めんか桜。傷口が開くわ!」

桜「ご、ごめんなさい! じゃあライダー、くれぐれも無理はしないでね」

そう言って桜はいそいそと部屋を出て行った。
146: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:21:20.50 ID:hkw2fN9Zo
その日の夜、桜は間桐の屋敷に帰ってこなかった。

恐らくは士郎の所であろう。

意図しなかった事とは言え、正直なところ東方不敗もその方が良いと考える。

今の慎二は手負いの獣のようなもの。何をしでかすか判らない。

また桜に八つ当たりされたとあっては黙っていられない。


マスター「桜、うまくやるのだぞ」b グッ


そんな訳で、東方不敗は安心して間桐の屋敷で治療に専念した。
147: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:26:07.15 ID:hkw2fN9Zo
-- interlude --


士郎は今夜も街へと繰り出す。

目的は今だ続いている昏睡事件の元凶、キャスターの調査だ。

キャスターは確かにセイバーが倒したはず。

しかし学校で、凛からキャスターが生きているかもしれないと聞かされたのだ。

さらには放課後、凛に指定された謎の中華料理屋に出向くと

そこには激辛麻婆を食べる言峰の姿が。

言峰によれば、柳洞寺にはキャスターの他にアサシンがいたようだ。

それと今回の昏睡事件が関係しているかどうかは分からないが、

関係があるのならそれも一緒に調査したい。

最後に、言峰はランサーのマスターであった事を士郎に明かした。

アサシンに敗れたため既に聖杯戦争からは降りたと言っていたが、

今回の聖杯戦争は何かがおかしいと、監督役として独自に調査するつもりのようだ。
148: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:26:50.63 ID:hkw2fN9Zo
セイバー「シロウ、サーヴァントの気配です」

巡回を始めて間もなく、セイバーが何かを感知したようだ。

士郎「近いのか!? セイバー」

セイバー「距離的には問題ありません」

セイバー「シロウの足を考慮しても五分ほどの距離でしょう」

士郎「分かった、行くぞセイバー。先導してくれ」

その声にセイバーは東へ走り出す。

どうやら深山町と新都を繋ぐ大橋へ向かっているらしい。
149: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:27:30.31 ID:hkw2fN9Zo
士郎「な……」

公園に踏み入った瞬間、異様な気配に吐き気がした。

セイバー「シロウ、アレを!」

セイバーが見据える方向には凛とアーチャーの姿が。

そして二人が対峙しているのは臓硯であった。

臓硯「ほう、誰かと思えばセイバーのマスターか」

臓硯「いやはや、これはしたり。助っ人を用意しておくとは遠坂の娘にしては頭が回る」

凛「そんな訳無いでしょう。アレはただの観客」

凛「アンタを押さえつけて白状させるなんて、私とアーチャーで十分よ」
150: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:28:10.35 ID:hkw2fN9Zo
臓硯「ふむ。隠しておきたかったが仕方があるまい」

臓硯「儂とて、サーヴァント二人を敵に回しては生き残れんからのう」

そう言って臓硯は手にした杖を地面に打ち付ける。

その瞬間、見た事のある影がその足元から姿を現した。

士郎「あれは……!?」

セイバー「キャスター!」

そう、あのローブはキャスターのもの。見間違えるはずが無い。

士郎「くそ、本当にまだ残っていやがったのか……!」

セイバー「シロウ、下がって。あれはキャスターですが意志である魂を感じない」

セイバー「アレは……キャスターの死骸を別の物で補っただけの模造品です」

そう言って剣を握り締めて前に出る。
151: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:29:44.09 ID:hkw2fN9Zo
臓硯「ほう? 流石はセイバー。一目で儂のカラクリを見抜きおったか」

臓硯「いやはや、これではライダーが敵わぬも道理」

セイバー「貴様……我らを謀っただけではなく、英霊の亡骸を弄ぶとは」

セイバー「相応の覚悟があるのだろうな!」

セイバーは奥歯を噛みしめる。

アーチャーもまた、臓硯の行いに対し憤怒の表情を浮かべている。

臓硯「カカカ、何を憤る! 所詮サーヴァントなど道具に過ぎん」

臓硯「それに儂は使われなくなったものを拾っただけよ」

臓硯の言葉がまだ終わらないうちに、セイバーとアーチャーが突進した。

キャスターの影は魔術を放つも、高い対魔力を持つセイバーには通じない。

その戦いは完全に柳洞寺の焼き直しであった。

一刀の元に斬り捨てられ、キャスターの外装が崩れていく。

セイバーは今度こそ完全に消えるようにと、その姿を最後まで見届けた。
152: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:30:30.86 ID:hkw2fN9Zo
凛「アーチャー!」

臓硯「ぬ!?」

アーチャーは最初からキャスターには目もくれず、

操り手である臓硯を狙っていた。

手に持つ双剣で臓硯の胴を薙ぎ払う。

臓硯「ぬ、う……」

上半身がずるりと落ちる。

アーチャー「終わりだ魔術師」

アーチャーは這いずる臓硯に剣を振り上げた。

だがその時、闇に染まった公園は辺りの空気が一瞬にして凍り付いた。
153: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:31:00.81 ID:hkw2fN9Zo
士郎「……え?」

異様な状況に、その場にいた全員が動きを止める。


『何か良くないモノが居る』


それを感じる方向に首を向けると、公園の入口にその『黒い影』が立っていた。

誰も動けない。

士郎と凛は戦慄から。

セイバーとアーチャーは魅入られたかのようにじっとその影を見つめている。

そんな中、臓硯だけが死にゆく体に鞭を打ち、いち早く公園から離脱していた。
154: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:31:38.89 ID:hkw2fN9Zo
音も無く、黒い影から平たい影が無数に飛び出す。

その全ての切っ先は、凛に対して向けられていた。

しかし凛は動けない。

マネキンのように固まったまま、ただその影を凝視するばかりであった。

士郎「危ない!」

夢中で凛を弾き飛ばした士郎は、無数の影を一身に受ける。


━━ 熱い。


それは煮えたぎったコールタールのように肌にまとわりつく。

吐き気がする。

士郎は何かおぞましいものの中に投げ込まれた感覚を覚えると共に、

何故かひどく懐かしい、紅い何かを見たような気がした。
155: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:32:21.29 ID:hkw2fN9Zo
「……aくん……!」

「……e宮くん……!」

「……衛宮くん!」

聞き覚えのある声で士郎は目を覚ます。

どうやら凛に抱きかかえられているようだった。

士郎「……遠坂。あの変なのはどうした?」

凛「消えたわ。衛宮くんが影の上に立って、倒れたと思ったらもういなかった」

アーチャー「助かったか。まあ本体に触れた訳でもなし」

アーチャー「実体のあるモノなら瘧(おこり)を移された程度だろう」

そう言ってアーチャーがやってくる。

セイバー「シロウ、無事でしたか!」

凛の腕から士郎を奪い返すと、セイバーも心配そうに声を掛ける。
156: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:33:49.92 ID:hkw2fN9Zo
それからどうやって家に帰ったか、士郎は全く記憶が無かった。

本能で帰る犬のように、無意識の内に足を動かしていたのかもしれない。

ぼうっとして、夢と現実の区別が付いていない。

士郎は見覚えのある部屋に入ると、そこに電気が付けられた。

士郎(居間……かな?)

桜「せ、先輩……!?」

電気を付けたのは桜であった。

セイバー「サクラ……? 睡眠中ではなかったのですか?」

桜「……退いて下さい。そんな支え方じゃ先輩が辛くなる」

セイバーは士郎に肩を貸している。

しかしその姿は、力任せに士郎を立たせているのと同じ事。

桜はそんな士郎の姿が見るに耐えられなかった。
157: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:34:47.91 ID:hkw2fN9Zo
セイバー「いえ、これは私が任された事です」

セイバー「それに何かの病だったらサクラにまで移ってしまう」

桜「……そんな事を言ってるんじゃありません」

桜「セイバーさん、貴方と先輩が何をしているのかは知りません」

桜「でも、貴方が来てから先輩は毎日辛そうでした」

桜「それだけなら良かったのに、今夜は怪我をして帰って来たんです」

セイバー「サクラ、それは……」

桜「セイバーさんの事情は知りません」

桜「けど、もう少しうまいやり方があるんじゃないですか?」

桜「それが出来ないなら、せめて先輩を巻き込むのは止めて下さい」

士郎の前で二人の女性が言い争っている。

『こらこら、喧嘩は止めなさい』と止めようにも、体が思うように動かない。

士郎(……そうか、これは夢なんだ)

士郎(夢の中だと、思うように体が進まない事ってあったよな)
158: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:35:30.95 ID:hkw2fN9Zo
それから士郎は、体が勝手に動いているかのような錯覚にとらわれた。

今度は自分の部屋に戻ってきたのか。

横になると、そこには誰かが傍にいて寝かしつけてくれているような

温かで懐かしい安心感があった。

士郎(夢の中でまた寝るのも変な感じだな……)


士郎の記憶はそこで途切れた━━━━。


-- interlude out --
159: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:40:03.05 ID:hkw2fN9Zo
東方不敗が傷を癒すのには二日を要した。

日が沈みそろそろ戦線に復帰しようと思った矢先、

屋敷の庭から外へ向かう臓硯の姿が目に映る。

マスター「臓硯、何処へ行こうと言うのだ?」

屋敷の窓から飛び出すと、その後ろ姿に声を掛ける。

臓硯「ふむ、ライダーか。傷は良いのか?」

マスター「見てのとおりよ。それより……」

話を続けようとしたところ、その間に髑髏の面が割って入る。

アサシン「魔術師殿、お下がりください。この男は危険です」

どうやらアサシンには警戒されている様子。

無理も無い。ランサーとの戦いでは味方だと思っていた相手に狙われたのだから。

マスター「ふん。アレはお前がワシの戦いの邪魔をしたからであろう」

マスター「それよりも……。暫く見ぬうちに饒舌になったではないか」

以前のアサシンからはそこまでの知性を感じなかった。

それに、アサシンの声には何処か聞き覚えがある。
160: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:40:55.91 ID:hkw2fN9Zo
アサシン「そんな事はお前には関係無い。それより魔術師殿に何の用だ」

アサシン「返答次第ではここで葬ってやっても良いのだぞ?」

ここで東方不敗はその声がランサーと似ている事に気が付いた。

マスター「貴様、ランサーをどうした?」

アサシン「……ほう、気が付いたか。ランサーは私が倒した」

髑髏の面がカラカラと笑う。

アサシン「その心臓は貰い受け、私の知識とさせてもらった」

マスター「何と!?」

その返答に東方不敗は驚きを隠せない。

何しろ再戦を約束した相手が目の前のサーヴァントに倒されたと言うのだ。

落胆する東方不敗の表情を見るや、髑髏の面はさらにカラカラと音を立てる。

アサシン「ふっ……。なんならお前も同じ所へ送ってやろう」

そう言ってアサシンは投擲剣を構えた。
161: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:41:50.96 ID:hkw2fN9Zo
臓硯「まあ待て、アサシン。間桐のサーヴァント同士が殺し合う事も無かろう」

臓硯が止めに入る。

少なくとも臓硯にとっては、無駄に手駒を減らすのは避けたいのであろう。

アサシン「しかし魔術師殿……」

臓硯「どうやらお主とライダーは何処かで仲違いしたようじゃな」

臓硯「そこで、よ。これからは儂らはお主の邪魔はせぬ故」

臓硯「お主も儂らの邪魔をせんではくれぬか?」

臓硯「慎二がああでは、お主らに最早期待はできん」

臓硯「せめて聖杯戦争が終わるまで」

臓硯「慎二が馬鹿な真似をせぬよう見張っておいてはくれぬか?」

臓硯は東方不敗がアサシンを狙ったあの場に居なかった様子。

それなら東方不敗の宝具も見てはいない。

だからこそ、東方不敗の実力を侮った態度が取れるのだ。

アサシンでさえ何時でも始末できる相手だ、と。

もしかすると東方不敗から魔力を感じないのは

慎二のせいだと思っているのかもしれない。
162: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:42:30.92 ID:hkw2fN9Zo
マスター「……うむ。慎二の事は任せておくがいい」

臓硯がもはや東方不敗を目に掛けていないのは好都合。

勿論、東方不敗はこのまますごすごと引き下がるつもりは無い。

臓硯「結構結構。では行くぞ、アサシン」

そう言って臓硯は間桐の屋敷を後にする。

アサシンも手にした投擲剣を仕舞い、姿を消して臓硯の後へと続いて行った。


マスター(ランサー、死してなお使われるのは屈辱であろう。無念であろう)

マスター(アサシンに取りこまれたお主の魂、ワシが必ず解放してくれよう)

マスター(だたしばし待て。その時が来るまでは━━━━)
163: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:50:31.51 ID:hkw2fN9Zo
臓硯が見えなくなった後、東方不敗は庭で暫く月を眺めていた。

今夜からまたマスターとサーヴァント探しに戻るわけだが、

果たして今の不安定な慎二を連れて行っても良いものか。

『怪我が治ったら知らせろ』と言っていた以上、心は折れていないのであろう。

しかしそれが裏目に、今にとんでもない事をしでかしそうでならないのだ。
164: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:51:19.22 ID:hkw2fN9Zo
東方不敗が思案にふけている所へ、聞き覚えのある声がした。

その方向に目を向けると、月明かりに照らされた純白の愛馬の姿を現す。

マスター「どうした風雲再起。桜に何かあったのか?」

その問いかけに風雲再起は背を向ける。

どうやら『乗れ』と言っているらしい。

風雲再起にまたがると、その体は疾風の如く勢いでグンと加速する。

手綱をしっかりと握りしめないと振り落とされそうな程だ。

風雲再起は全力で深山町を駆け抜けているが、向かう先は衛宮の屋敷ではない。

マスター(この方向は……柳洞寺?)

案の定、風雲再起が向かった先は東方不敗が臓硯と訪れたあの場所であった。

道路から山道へ勢いを緩める事無く侵入し、

まるで平地を行くかの如く急な石階段を駆け上がる。

疲れなど微塵も感じさせない。
165: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:52:37.72 ID:hkw2fN9Zo
山門まで辿り着くと、東方不敗は鞍から降りた。

マスター「もう良いぞ風雲再起。後はワシ一人で行くとしよう」

マスター「お前は桜の元へ戻っておれ」

そして山門を開けると、寺の境内へと進んで行った。

━━ 暗い。

月は出ていののに、まるでその光が届いていないかの様。

寺の境内は深い闇に包まれている。

奥に進むと、本堂の方角から鼻を付く腐臭が流れてきた。

それにキィキィと無く蟲の声。

マスター「あれは!?」

東方不敗の目に映ったのは、本堂を覆っている黒い塊だった。

近づくにつれ、あれはおぞましい程の蟲の群れである事が分かってきた。

━━ あの中に臓硯が居る。

風雲再起は桜の頼みでここへ来たのかもしれない。

ならばあの中には士郎も居る可能性がある。

マスター「ええい、ままよ!」

東方不敗は腰布を振り回し、意を決して黒い塊の中へ飛び込んで行った。
166: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:53:30.99 ID:hkw2fN9Zo
腰布で人一人分通れるだけの空間を弾き飛ばす。

中に士郎が居るかもしれない以上、無闇な攻撃はするものではない。

蟲の群れを通り抜けた東方不敗が見たものは、

壁にめり込むようにして張り付く士郎の姿と、

それに止めを刺そうと投擲剣を構えるアサシンの姿だった。

東方不敗は反射的に士郎とアサシンの間に腰布を滑り込ませる。

同時にアサシンの投擲剣が放たれた。

投擲剣は腰布に阻まれ板張りの床に突き刺さる。

アサシン「貴様! 何故此処に!?」

士郎「ライ、ダー……?」

士郎は信じられないものでも見たような顔付きである。

アサシンもまた、面の下から焦りの声を漏らす。

アサシン「ライダー、貴様は先程魔術師殿と交わした約束を忘れたか!」

その問いに東方不敗は悪びれる様子も無く、

いつか聞いたやり取りをそのまま返した。

マスター「いやいや、先に約束を破ったのはあちらの方よ」

マスター「ワシはそれを正してやったに過ぎぬ」

その答えに本堂の隅から恨めしそうな声が響いて来る。

臓硯「おのれ、儂に逆らうか!」

臓硯「ええい構わぬわアサシン! 邪魔をするならそやつも始末せい!」
167: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:54:31.85 ID:hkw2fN9Zo
上等である。

ならば見せよう。

マスター「流派・東方不敗が最終奥義ぃ━━━━」

東方不敗は腰を落として半身になると、

脇腹のあたりで両手の間に気を凝縮させる。

気は瞬く間に膨れ上がり、あれ程暗かった本堂は

東方不敗の体から発する光に包まれてゆく。

アサシン「ッキ━━━━!」

アサシンは目の前の光を恐れた

技を出させまいと投擲剣を雨のように投げつける。

━━ だが遅い!


マスター「 石 破ぁ !  天 驚 けぇぇぇぇぇぇぇぇぇん !!! 」


東方不敗の拳から巨大な平手の闘気が放たれた。

その闘気は無数の投擲剣ごとをアサシンを呑み込み、

本堂をぶち抜いて遥か天へと突き抜けていった。

周りを覆っていた蟲の群れは、

それこそ蜘蛛の子を散らすようにその場から消え失せてしまった。
168: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:55:20.81 ID:hkw2fN9Zo
マスター「臓硯は……逃がしたか」

後に残ったのは、東方不敗と床にへたり込んだ士郎の二人だけ。

マスター「大丈夫か?」

そう言って東方不敗は士郎に近づく。

士郎「……ああ、でもどうして。お前は慎二のサーヴァントだろう?」

マスター「なに、ワシはマスターに頼まれたに過ぎぬ」

マスター「それよりもセイバーはどうした?」

マスター「マスター一人を放っておいて何をやっておるのか」

その言葉に士郎はハッとなって自分の左手に目を向けた。

そこには既に令呪は無い。

即ち、セイバーは既にこの世に居ない事を意味していた。
169: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:56:01.66 ID:hkw2fN9Zo
士郎「セイバー……」

士郎の表情から東方不敗もその事を理解した。

しかしその理由は納得できない。

ランサーがアサシンに敗れたと聞いた時はてっきり

『先にマスターを倒し、後で魔力供給の切れたサーヴァントに止めを刺した』

と思っていた。

アサシンの戦闘能力、戦闘スタイルから言ってこれが最も適切である。

しかし今回、セイバーのマスターである士郎はここに健在。

それならアサシンは真正面からセイバーと戦い、勝利したと言う事になる。

だがセイバーとアサシンの実力を知る東方不敗には、この点が納得出来ないのだ。
170: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:56:48.92 ID:hkw2fN9Zo
士郎「……行かないと」

考え込む東方不敗の横をフラフラと通り過ぎ、士郎は本堂の外へと出て行った。

後に続くと、そこで目にしたのは半壊した廊下であった。

そこに残った小さな赤い染みを見た途端、士郎の膝は力なく崩れ落ちる。

どうやら此処で戦闘があったらしい。

しかし、手掛かりになるような物は一切見つける事が出来なかった。

士郎「セイバー……」

士郎は赤い染みを指でなぞりながら小さく彼女の名前を呟く。

士郎は暫く膝を付いていたが、やがて意を決したように立ち上がると

半壊した廊下を後にした。
171: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:57:30.99 ID:hkw2fN9Zo
二人は山門まで戻ってきた。

そこで東方不敗は声を掛ける。

マスター「送ろう。夜道の一人歩きは危険だからな」

士郎「え?」

その言葉に士郎は足を止め、驚きの表情で東方不敗を見つめている。

士郎「……分からないな。それもお前のマスターの命令か?」

マスター「いや、単にワシがそう思っただけよ。他意は無い」

士郎「……そっか。だけど見送りはいい」

士郎「俺達は敵同士だろ。ならそこまで世話にはなれない」

しかし東方不敗は食い下がる。

マスター「別に減るものでも無かろう?」

士郎「減る。家に帰るまでの間に俺の精神が擦り減りそうだ」

マスター「まあまあ、良いではないか」

士郎「良くない!」

マスター「このオロカモノめぇ! 人の行為を無下にするとは何事ぞぉ!!」カーッ

士郎「は、はいっ! すいません!!」ビクッ
172: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:58:11.29 ID:hkw2fN9Zo
こうして東方不敗は半ば強引に士郎の後について行った。

柳洞寺から衛宮の屋敷までは歩いて一時間ほど。

最初の三十分はただ無言で歩き続けるだけであったが、

折角なので桜の事を聞いておく。

マスター「士郎、桜は元気にやっておるか?」

突然の質問に士郎は目を丸くする。

士郎「な、何だよ急に」

マスター「マスターの妹を心配するのはおかしな事ではなかろう?」

士郎「……まさか、俺が桜に何かすると思ってるのか?」

マスター「いや、全く思っておらん」

即答。直球。

その回答に士郎はすっかり毒気を抜かれてしまったようだ。

士郎「な、何だよそれ!?」

士郎「……まあ信用して貰っているのは素直に嬉しいけど」

まあ一つ屋根の下で生活している以上

少しくらい何かあった方が良いような気はするのだが。

マスター(ええい! この甲斐性無しめ!)
173: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:58:59.25 ID:hkw2fN9Zo
そのやり取り以降、いくらか士郎の口は軽くなったようだ。

衛宮の屋敷での桜の様子を色々と話してくれる。

士郎「そう言えば桜、ここ最近体調が悪いみたいだな」

士郎「たまにボーっとしてるし、熱もあった」

マスター「ほう」

士郎「だけど心配しなくてもいいぞ?」

士郎「一晩寝たら持ち直したみたいだし」

その程度ならまあ問題は無いだろう。

士郎「でも、風呂場で倒れた時は流石に焦ったな」

マスター「ほう。風呂場とな」ニヤリ

士郎「バ、バカな想像するなよ!? 本当に何も無かったからな!」

士郎「シャツは着てたし、急いで部屋まで運んで寝かしつけただけだぞ!?」

士郎は顔を真っ赤にして弁明する。

成程分かりやすい。

これなら誰かが背中を押してやれば、後はうまく行くのではなかろうか。

しかし、そんな状況でも何も無かったのか。

マスター(ええい! この甲斐性無しめ!)
174: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 14:59:55.54 ID:hkw2fN9Zo
マスター「そう言えば士郎、お前は臓硯とも対峙したのであろう?」

マスター「ヤツの言動に何か不審な点は無かったか?」

士郎をからかうのも止めにして、別の話題を持ちかける。

士郎「不審って言っても……」

士郎「あの爺さんに不審じゃない所なんて、探す方が難しいぞ?」

そう言って暫く考え込む。

士郎「……あ、そう言えば『お前はもう用済み』とか言ってたっけ」

マスター「用済み?」

士郎「ああ。でも『遠坂の娘にはまだ利用価値がある』とか何とか……」

マスター「ふむ……」

桜の姉もマスターだった事には驚きだが、その事は一旦置いておく事にする。
175: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:00:50.92 ID:hkw2fN9Zo
ここで東方不敗は、柳洞寺で感じた疑問

『マスターとサーヴァントを倒す順序』について再び思い起こす。

もし仮に臓硯の目的がセイバーだったとしたら、

その目的を達した後で『士郎は用済み』という事で筋が通る。

そうで無ければ、わざわざマスターを残しておく理由が無い。

だとすればアサシンが必ずセイバーに勝てるという勝算があった事になるのだが、

何か強力な後ろ盾があったのだろうか。


『もしあの場に別のサーヴァントが居たとしたら━━━━』


マスター「士郎、あの寺にキャスターは居なかったか?」

最初に柳洞寺に向かった時、臓硯からあの寺には

キャスターとアサシンが居ると聞いたのを思い出した。

士郎「いや、キャスターは俺達が倒したんだ。居るはずは無い……と思う」

士郎「そもそもアンタは臓硯の仲間だろう?」

士郎「臓硯がキャスターの亡骸を使っていたのを知らないって言うのか?」

マスター「知らん。そもそもワシは臓硯の仲間になったつもりはない」

そう言って士郎の言葉を斬って捨てた。
176: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:01:38.56 ID:hkw2fN9Zo
マスター「では、アーチャーかバーサーカーについて知っている事は無いか?」

士郎「……」

その問いに士郎は無言で眼を逸らす。

その反応は実に分かりやすい。恐らく二人とも知り合いなのであろう。

勿論片方は凛である。

先程『遠坂の娘にはまだ利用価値がある』と言ったのを忘れた訳ではあるまい。

単純に嘘を付くのが下手なのだ。

しかしそれなら臓硯のように『新たなサーヴァントを召喚した者が居る』か

『全く別の何かが柳洞寺に居た』かという事になるのだが。
177: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:02:20.42 ID:hkw2fN9Zo
そうこうしている間に、二人は衛宮の屋敷に着いてしまった。

マスター「ではな、士郎」

東方不敗は別れを告げる。

もう少し聞きたい事はあったのだが止むを得ない。

こんな時間とは言え、ここで長居しては桜と鉢合わせる可能性がある。

そうなれば士郎にマスターの事を感づかれるかもしれない。

士郎に背を向け、間桐の屋敷へ向かって歩き出す。

その後ろから


「さんきゅ」


そんな声が聞こえた気がした。
178: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:06:43.87 ID:hkw2fN9Zo
-- interlude --


屋敷の玄関を開けるなり、桜がそこに立っていた。

桜「先輩」

士郎「……あれ、どうしたんだ。もしかして起しちゃったか?」

桜「いえ、寝付けなくて夜更かししてたんです」

桜「そしたら先輩の靴が無かったからどうしたのかなって……」

士郎「ああ、ちょっと出歩いてた」

よく思い起こせば、帰る前から玄関の明りが付いていた。

そうなると、桜はずっとここで待っていたのだろうか。

士郎「桜、ずっと玄関で待っていたのか?」

桜「い、いえっ!」

桜「ちょっとおトイレに寄っただけで、たまたま玄関に居ただけですよっ!?」

この様子だと、士郎が家を開けた数時間の間

ずっとここで待っていたのであろう。

桜「そ、それより先輩、お茶にしませんか?」

桜「あったかいお茶を飲んでゆっくりすれば元気が出ますから」

士郎「ああ、頼む。それとただいま。桜に声を掛けずに出歩いてすまなかった」

桜「はい。おかえりなさい、先輩」
179: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:07:25.19 ID:hkw2fN9Zo
士郎「いっ!」

背中に塗られた消毒液に、士郎の体が跳ね上がる。

最初は怪我を隠すつもりでいたのだが、

お茶を飲んだ途端に腹と背中に染みてきて、勢い良く吐き出してしまったのだ。

問い詰められて傷を見せると、桜の剣幕が嵐の様に士郎を襲った。

半ば強引に手当てをしてもらう事になったのだが、

弓道部仕込みなのか顧問の仕込みなのか、

怪我人に容赦ない治療がテキパキと続けられてゆく。

桜「……はい、終わりました」

桜「新しいシャツを用意しましたから、こっちを着て下さい」

地獄のような二十分を耐え抜き、士郎はようやく胸を撫で下ろした。
180: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:08:01.09 ID:hkw2fN9Zo
士郎「さて、それじゃあ寝るか。こんな夜更けに起こして済まなかったな」

桜「いえ、そんな事は無いんですけど……」

桜は一呼吸置いた後、先程から気になっていた事を口にした。

桜「……先輩。セイバーさんは帰られたんですか?」

その言葉に士郎は一瞬目眩がした。

柳洞寺からこの屋敷まで、振り切ろうしていた彼女の名前。

傷の痛みにかき消されるように、やっと忘れようとしていた彼女の名前。

士郎「……ああ、急な話だけどアイツは帰った」

平静を装い桜の問いに答える。

士郎「セイバー、最後に桜の事言ってたよ」

士郎「桜は思い詰めるタイプだから、もっと気楽にいけってさ」

桜「そうですか……。お別れを言えなかったのは残念です」
181: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:08:41.35 ID:hkw2fN9Zo
桜「でも良かった。あの人が来てから、先輩怪我してばかりだったから」

桜「これで今まで通りですね、先輩」

士郎「え?」

桜「そうですよね? 何をしていたかは聞きませんけど」

桜「先輩が出歩いていたのはセイバーさんの為なんですよね?」

桜「けどセイバーさんも帰ってしまったんですから」

桜「もう先輩が危ない目に合う事も無いじゃないですか」

しかし士郎は聖杯戦争を降りるつもりは無かった。

『あの影を追う事』。

それが士郎を戦いから降りさせない理由だった。

臓硯が操るキャスターを倒した後も、謎の昏睡事件は続いていた。

となれば犯人はあの場に現れた黒い影に違いない。

あの影がいる限り、また犠牲になる人が出るかもしれない。

士郎にはそれを黙って見ている事など出来るはずが無いのであった。
182: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:09:30.74 ID:hkw2fN9Zo
士郎「いや、夜に出歩くのは続ける」

士郎「俺がセイバーに付き合ってたんじゃなくて」

士郎「俺がセイバーを付き合わせてたんだから」

そう言って腰を上げる。

桜「……え?」

士郎「おやすみ桜」

士郎「明日からもっと家を留守にするだろうけど、気にしないでくれ」

士郎「桜は病み上がりなんだからきちんと寝る事」

士郎「さっきみたいにずっと玄関で待ってるってのは無しだぞ」

士郎は桜を居間に残し、自分の部屋へと戻って行った。
183: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:10:11.10 ID:hkw2fN9Zo
桜も自分の部屋に戻る。

桜「先輩、あんな怪我をしたのにまだ……」

桜の日頃の不安は的中した。

夜に出歩く士郎が心配になり、桜はその間だけ風雲再起に同行をお願いしたのだ。

そして今夜、ついにあのような大怪我をして帰ってきた。

セイバーが居なくなった事からも、今夜ただならぬ事があったのは十分に推測ができた。

桜「一体、誰があんな……」

桜「分かる? 風雲再起」

何も無い空間に話しかけるも返事は無い。

東方不敗に先に帰るよう命じられ、風雲再起は何も見ていないのである。

桜「……そう」

桜「どうすればいいんだろう。先輩、このままだともっと大きな怪我をしちゃう……」


桜「あ……なんだ。外に出さなければいいんだ」

桜「うん。歩けなくなるぐらいの怪我をしちゃえば」

桜「もう危ない目に遭う事は無いですよね、先輩……」


-- interlude out --
184: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:11:17.56 ID:hkw2fN9Zo
慎二「ライダー、衛宮と決着を付けたいんだ。アイツの家に行こう」

次の日。昼過ぎに慎二から提案があった。

手にはキーホルダーのような小さな瓶が握られている。

マスター「うむ。構わんがその瓶は何なのだ?」

慎二「……何でも無い。それより行くんだろ?」

そう言って慎二は小瓶をポケットに隠す。

士郎は既にセイバーを失っている。

と言う事は、マスター同士の決着という事で良いのだろうか。

慎二はセイバーの事を知らないはず。

東方不敗は念のため、慎二に確認を取る事にした。

マスター「慎二、確認しておくがそれは『男同士の戦い』という事で良いのだな?」

慎二「ああ、勿論そのつもりだ」

マスター「ならば行くか」

そう言って二人は衛宮の屋敷へ向かう。
185: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:12:00.37 ID:hkw2fN9Zo
玄関に手を掛けると鍵は掛かっていなかった。

靴は桜の物だけが揃えて置いてある。

どうやら士郎は留守にしているようだ。

慎二「……何だ、衛宮は居ないのか。そりゃ都合がいい」

慎二は土足のまま屋敷の中に上がり込む。

マスター(……『都合がいい』?)

慎二の行動は何処かおかしい。

不審に思いながらも、東方不敗は慎二に続いて屋敷に入る。

居間に入ると、そこには畳に伏してグッタリとする桜の姿があった。
186: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:12:51.37 ID:hkw2fN9Zo
マスター「桜!」

東方不敗はその元へと駆け寄ると、

力無くうな垂れる体をゆっくりと抱き起こす。

━━ 熱い。

倒れるほどの熱がある。

士郎から聞いていたより遥かに重い症状ではないか。

桜「あ、れ……。ライダー? ……それに兄、さんも……」

抱きかかえられた事に気が付いて、桜は静かに目を開ける。

しかしその瞳は力無く、虚ろである。

慎二「おいおい、どうした桜」

慎二「こりゃ爺さんの言ってた通り、ライダーを使いすぎた反動かな」

そんは筈は無い。

東方不敗は魔力を必要としない。

よってマスターにかかる負荷は最小限のはずなのである。

ならば桜の魔力を消費する『別の何か』があるのか、

それとも魔力とは違う別の要因があるのかもしれない。
187: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:13:35.03 ID:hkw2fN9Zo
慎二「迎えに来たよ桜。おままごとの時間は終わりだ」

動けない桜に対し、慎二はこのまま連れ帰ると言っている。

マスター「無理を言うでない。桜はこの熱では動けん」

マスター「今すぐ布団で寝かせてやるできであろう」

しかし、東方不敗の言葉を慎二は全く聞いていない。

慎二「ほら行こうか、衛宮とカタを付けるんだ。特等席で見せてやるよ」

そう言って桜の腕を引いて立ち上がらせる。

桜「……いや。嫌です、私……」

桜「先輩には手出ししないって言ったのに……!」

桜は涙目になって訴える。
188: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:14:20.48 ID:hkw2fN9Zo
マスター「慎二、確かに桜と約束したはずだが?」

またもや慎二は無視をする。

腕を引き、桜を居間から連れ出そうとしている。

慎二「安心しろよ桜。これも男同士の付き合いってやつさ」

慎二「約束は守るし、用さえ済めば此処に戻っても構わない」

慎二「ただ、こんな状態の妹を放っておく悪いヤツにはお灸を据えないと、ね」

最後の言葉には概ね同感だが、そうは言っても

それが体調の悪い桜をここから連れ出して良い理由にはならない。
189: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:14:54.37 ID:hkw2fN9Zo
マスター「慎二、いい加減にせんか!」

東方不敗は苛立ちを押さえられずにいた。

その怒鳴り声に慎二は目を細め、鬱陶しそうに東方不敗を侮蔑する。

慎二「うるさいなぁ。こうでもしないと衛宮は来ないかもしれないだろ?」

慎二「それにさっきも言ったけど、用が済めば桜はまだ此処に帰ってきてもいいんだ」

マスター「……むぅ」

確かに、既にマスターで無くなった士郎には慎二と戦う理由が無い。

あちらからしてみれば拒否する事も出来るのだ。

桜も観念したのか、力無くも抵抗していた腕をだらんと垂らす。

慎二「そうそう、桜は良い子だな。それじゃあ一足先に行っていようか」

慎二「ライダー、桜を連れて来るんだ」

そう言って慎二は衛宮の屋敷から出て行った。
190: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:15:31.07 ID:hkw2fN9Zo
マスター「……すまんな、桜」

桜「ううん。ライダーが、謝る事なんてない……」

桜「兄さんは昔から、一度決めたら人の話を、聞かなくなるんだから……」

桜の声は苦しそうだ。

このまま連れて行くにしても、少しでも楽になるようにすべきである。

マスター「そうよ、熱がある時は水分補給。ポカリは無いのか?」

そう言って東方不敗は台所の冷蔵庫を開け、中の飲み物を確認する。

しかしそこには牛乳パックと水の入ったペットボトルしか存在しない。

マスター「ええい! 男児たる者、ポカリを常備していないとは何事ぞ!」

桜の体調の悪さに、東方不敗も少々冷静さを欠いているようだ。

仕方なく水の入ったペットボトルを拝借し、桜を背負って屋敷を後にした。
191: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:16:21.63 ID:hkw2fN9Zo
慎二が向かった先は学校であった。

学校へ着くと、慎二は道路脇にある公衆電話にお金を入れる。

長いコールの後、受話器が取られる音がした。

慎二「……もしもし? 帰ってきたのか、衛宮?」

士郎『桜をどうした』

士郎の声が聞こえてくる。

どうやら桜が居なくなった事は、向こうも既に気が付いているようだ。

慎二「は? どうしたって、迎えに行ったんだよ」

慎二「あいつは僕の妹なんだから、いつまでも他人の家に置いておけないよ」

士郎『慎二!』

受話器の向こうから聞こえる怒声に、慎二の口元がつり上がる。

慎二「はは、いいねぇ! カッカきてるじゃんか衛宮」

慎二「桜を連れ戻されて悔しいってワケだ!」
192: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:17:17.29 ID:hkw2fN9Zo
士郎『回りくどいのはいい。手っ取り早く用件を言え』

慎二「……分かってるだろ? いい加減カタを付けようぜ」

慎二「一人で学校へ来るんだ。いいな?」

士郎『つまり、セイバー抜きで戦えって事か?』

慎二「いいね。物分かりが良くて助かるよ」

マスター(……)

士郎『すぐに行くから待ってろ』

その言葉を最後に電話が切れる。

慎二も受話器を置くと、東方不敗に背負われた桜に嬉しそうに話しかける。

慎二「良かったな桜。衛宮のヤツ、お前を迎えに来てくれるってさ」

桜「……」

だがその言葉に桜の返事は無い。

これから起こる事への不安からかか、

顔を前髪で隠すようにじっと俯いたままである。

慎二「じゃあ行こうか、場所は僕の教室の前だ」
193: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:18:01.07 ID:hkw2fN9Zo
三人は校舎の三階まで上がってきた。

校舎には人気が無い。どやら昏睡事件の多発で、下校時間を早めたようである。

東方不敗は桜を廊下に座らせると、拝借したペットボトルを差し出した。

マスター「苦しくはないか? 桜」

桜「……ありがとう、ライダー」

桜はペットボトルを受け取ると、中に入った水を少しだけ口に含む。

慎二「……そうそう、これを付けておかないとね」

慎二はポケットから小瓶を取り出し、床にへたりこむ桜の耳に取り付けた。

マスター「慎二、気になっていたのだがそれは何なのだ?」

慎二「ああ、ちょっとした『保険』だよ」

マスター「?」

詳しく聞きたいものの、少し前にもはぐらかされたばかり。

恐らくこれ以上追及しても納得のゆく答えは得られないだろう。
194: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:18:52.62 ID:hkw2fN9Zo
慎二「なあ桜。僕たちはこれから衛宮と決着を付けるけど」

慎二「その『決着』が何の事かは分かるよな?」

慎二は桜の耳に小瓶を付けた体制のまま、その耳元で静かに囁いた。

桜「……知りま、せん」

慎二「はぁ? 嘘はいけないなぁ、桜」

慎二は俯く桜の顎に手を掛け、無理矢理顔を上げさせた。

慎二「お前もマスターなら気が付いて当然だろ?」

慎二「それにずっと衛宮の家にいたんだ」

慎二「アイツに妙な行動があったら不審に思うだろ?」

その問いかけに桜は目線をそらし

桜「知りません……本当です」

桜「先輩が夜出歩いてる事は知っていました」

桜「でも、それで何をしていたかなんて、本当に知らないんです……」

消え入る声で呟いた。
195: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:19:50.36 ID:hkw2fN9Zo
慎二「へぇ、全く駄目なヤツだな衛宮も」

慎二「一緒に住んでいる桜に何の説明もしないなんて」

慎二「じゃあ僕が教えてあげるよ」

慎二「アイツはな、夜な夜な出歩いては無関係の人間を襲ってたんだぜ?」

桜「嘘です!」

今度は真っ直ぐに慎二を見据え、桜ははっきりと否定した。

慎二「でなければ説明が付かないんだよ。だってアイツ大した魔術師じゃないだろ?」

慎二「そんな衛宮がセイバーを維持するなんて、人を襲う以外に考えられない」

桜「先輩はそんな事する人じゃありません!」

慎二「……分からないかなぁ桜。それじゃあライダーは」

慎二「そんな魔力供給もできないサーヴァントにやられたってのか?」

桜「それは……」

桜も東方不敗が負った胸の傷は見ている。

しかし慎二がマスターになった事で魔力供給が無いのはライダーも同じ事。

条件が同じな以上、単純にセイバーの方がライダーを上回っていたのだと信じたい。
196: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:20:31.45 ID:hkw2fN9Zo
桜「……それでも。それでも先輩は人を襲えなんて命令しません!」

桜「それはセイバーさんだって……」

自分の言う事を信じない桜に、慎二はだんだんと苛立ちを募らせ始める。

慎二「ああそうかい。分かったよ桜」

慎二「それなら直接衛宮に聞いてみるといい。そろそろ来るんじゃないか?」



士郎「慎二!」



慎二「ほら、ね」
197: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:21:05.41 ID:hkw2fN9Zo
廊下の向こうに士郎の姿が現れた。

それを見ると慎二は桜を脇に抱えて立ち上がらせ、

ポケットからナイフを取り出すと、その切っ先を桜の喉に突き付ける。

マスター(これは演技……なのか?)

士郎が来た以上、後はマスター同士で決着を付ければ良い。

今更こんな真似をする必要は無いはずである。

ただ、慎二が本当に桜を手に掛けるとは考え難い。

演技にしろ何にしろ、

人質は『無事である』からこそ意味の有るものなのだから。

東方不敗は取り合えず事の成り行きを見守る事にした。
198: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:22:00.40 ID:hkw2fN9Zo
士郎「桜!」

士郎が廊下を全力で駆けてくる。

マスター「待てぃ!」

東方不敗は慎二と桜の前に立ち、突進してくる士郎を牽制する。

あのままの勢いで慎二にぶつかられては、

はずみで桜にナイフが刺さりかねない。

士郎「お前……!」

士郎は勢いの付いた体を押し止め、東方不敗の後ろにいる二人に目を向ける。

慎二「よう、思った通り飛んできたな衛宮」

士郎「……何だよ、それ」

士郎「お前、本気でそんな事やってんのか!」

士郎も慎二の持つナイフに気が付いたのか、

信じられないといった表情で二人を見据えている。

慎二「当然だろ。本気だからここで待っていたんじゃないか」

士郎「っ!」
199: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:22:40.62 ID:hkw2fN9Zo
士郎と慎二は暫く睨み合っていた。

先に口を開いたのは士郎であった。

士郎「……慎二、桜に俺たちの事を話したのか?」

慎二「はぁ?」

慎二「……ああ、お前は隠しておきたかったのか?」

慎二「安心しろよ衛宮。ちゃんと話してやったさ」

慎二「僕たちがマスターで、今まで殺し合いをしてきたってなぁ!」

慎二「ホラ桜。聞きたい事があったんだろ? 今の衛宮なら何でも答えてくれるぜ」

桜「……」

だが桜は答えない。

慎二の脇で抱えられたまま、目線をそらして俯いている。
200: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:23:15.72 ID:hkw2fN9Zo
段々と雲行きが怪しくなってきた。

そろそろ本題に移った方が良いのではなかろうか。

それに桜は本来、立っている事も辛い程の体調なのである。

マスター「慎二、そろそろ良いのではないか?」

士郎「そうだ。約束通り来たんだ、桜を放せ」

慎二「はあ? 約束なんてしてないよ。したのは命令さ」

士郎「!」

慎二「そう睨むなよ衛宮。用件が済めば桜は帰してやるよ」

士郎「分かった。で、その用件は何だ? カタを付けるって言ってたよな?」

慎二「ああ、けどただやり会うのもつまらないだろ?」

慎二「僕は魔術師じゃないから不公平だし」

慎二「ただの喧嘩じゃ僕が勝つのは分かり切っている」

慎二「だからここは公平を期して、ライダー相手をしてもらう事にしたんだ」
201: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:24:06.27 ID:hkw2fN9Zo
マスター「何ぃ!?」

東方不敗は我が耳を疑った。

マスター「慎二! 『男同士の戦い』では無かったのか!?」

慎二「何だよその顔は。僕は嘘は付いてない。ほら、ライダーだって男だろ?」

慎二「これも立派な『男同士の戦い』じゃないか」

マスター「貴様ぁ……!」

これで何度目だろうか。東方不敗が慎二に腹を据えかねたのは。

ふつふつと湧き上がる怒りを抑えながら、東方不敗は静かに機を待ち続けた。

慎二「なに、命までは取らなくていい。でも骨の二、三本は折っておいてよ」

慎二「これからうろちょろされると目障りだからさ」

慎二は東方不敗に命令すると、士郎に向き直ってさらに続ける。
202: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:24:47.64 ID:hkw2fN9Zo
慎二「簡単だろ衛宮? ただ馬鹿みたいに殴られてればいいんだ」

慎二「けど簡単に倒れるなよ?」

慎二「僕が満足する前に気絶なんかしたら、桜は僕が連れて帰る事になるからね」

士郎「……ふん。抵抗はするな、けど簡単には倒れるな、か」

士郎「矛盾してるぞ慎二。お前、何がしたいんだ」

慎二「は、そんなの……」

桜の喉に向けられたナイフが、すっと士郎に向けられる。

慎二「僕はお前をぶちのめしたいだけなんだよっ!」


マスター「風雲再起ぃ!!」


その呼び掛けと共に、慎二の腕に風雲再起が噛みついた。

桜の喉から離れたナイフは、その腕ごと風雲再起に引きずられてゆく。

突如現れた白馬に驚き戸惑い、慎二は桜を支える腕から力が抜けてしまう。
203: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:25:30.86 ID:hkw2fN9Zo
マスター「でかした!」

慎二「くそっ! 離せ!」

慎二は必死に風雲再起のから逃れようとするものの、

ただの人間と馬では力の差は歴然である。

東方不敗は慎二からナイフを取り上げると、

二本の指でポキリとへし折ってしまった。

士郎「桜っ!」

士郎は崩れ落ちる桜に駆け寄った。

桜は顔を上げず、力無く床に座り込んでいる。
204: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:26:07.65 ID:hkw2fN9Zo
「そこまでよ、慎二!」


マスター「何奴!」

東方不敗が声のした方へ目を向けると、

廊下の角から飛び出す二つの影があった。

一人は凛。そしてもう一人は赤い外装に身を包んだサーヴァントである。

凛「え……!? 黒須、さん?」

凛は依然会った桜の親戚だと言う男に少しだけ躊躇した。

マスター「いかにも。ワシがライダーのサーヴァントよ」

しかし東方不敗がサーヴァントだと名乗ると、すぐに平静を取り戻す。

凛「……そう。全く気が付かなかったのは私の落ち度だわ」
205: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:26:45.80 ID:hkw2fN9Zo
慎二「と、遠坂……!?」

しかし慎二の方は、凛の登場に何時までも驚き戸惑っている。

慎二「卑怯者! 約束を破りやがったな衛宮。一人で来いって言ったのに!」

凛「あら、アレは約束じゃなくて命令だったんでしょ?」

凛「なら士郎を卑怯者呼ばわりするのは筋違いだわ」

凛「それに私はアンタが電話した時にたまたま傍に居たの」

凛「慎二、声大きいんだもの。士郎が隠してても聴こえちゃった」

慎二「ぐっ……」
206: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:28:05.15 ID:hkw2fN9Zo
アーチャー「……」

アーチャーは東方不敗を睨みつけたまま、双剣を手にして前へ出る。

無言の圧力は、後ろにいる慎二にもひしひしと向けられていた。

慎二「うっ……。あ、アイツを倒せ、ライダー!」

しかしその命令に東方不敗は動かない。

マスター「慎二、ワシはお前が士郎と決着をつけると言うから力を貸したのだ」

マスター「それをお前は卑怯な行為の数々。もう許してはおけん」

マスター「契約を破棄させてもらおう!」

ついに東方不敗は三行半を突き付けた。

慎二「ば、馬鹿な事を言うな。令呪はまだここにあるんだぞ!?」

慌てふためく慎二が偽臣の書を取り出したその時である。
207: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:28:56.03 ID:hkw2fN9Zo
慎二の手から本が消えた。

慎二「なぁ!?」

風雲再起が口で取り上げ、そのまま腹の中へと呑み込んでしまったのだ。

マスター「風雲再起、そんな物を食べると腹を壊すぞ?」

慎二「や、ヤギかお前はぁ!?」

慎二の力無いツッコミが、空しく廊下に響き渡る。
208: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:29:35.68 ID:hkw2fN9Zo
凛「ここまでね」

慎二「まだだ! 桜、もう一度僕に支配権を譲るんだ!」

慎二はまだ諦めていないらしい。

しかし次に偽臣の書を作れば、元のマスターから純粋な令呪が無くなってしまう。

頭に血が上っているのか、その重大さに気が付いてないと見える。

しかし桜はそれとは別の感情をもって慎二を否定した。

桜「兄さん……。もう止めましょう」

桜「兄さんは約束を破りました」

桜「先輩は殺さないって言ったのに、先輩とライダーを戦わせようとして!」

桜「だから、もう……」
209: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:30:31.09 ID:hkw2fN9Zo
慎二「どうしても、僕の言う事を聞けないんだな? 桜」

桜「はい……」

慎二「……なら、お前の好きなようにしてやるよ」

その瞬間、桜の耳に着いていた小瓶が破裂した。

中には液体が入っており、それが桜の顔に降りかかる。

桜「ぁ、っ……!」

小さな悲鳴。

それと同時に桜の体が大きく仰け反る。

マスター「どうした!? 桜」

桜の苦しみ方は尋常ではない。

桜「ぁ……はぁっ。あああっ……」

半ば痙攣にも似た震える体を、桜は必死に押さえ付ける。

苦しむ桜をその場に残し、慎二は逃げるように走り去った。

慎二「じゃあな桜。恨むなら僕じゃ無く、爺を恨んでくれ」

慎二「なに、どうせいつかはそうなるんなら、今楽になった方が幸せかもよ!」
210: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:31:42.89 ID:hkw2fN9Zo
士郎「桜!」

士郎は桜を抱き寄せた。

しかしその後ろから、アーチャーに肩を掴まれ引き離されてしまう。

アーチャー「たわけ! アレが見えんのか!」

アーチャーが指差したのは桜の足元。

何か赤黒いモノが波紋のように広がりつつあった。

その中から、槍のように尖ったものがいくつも顔を出している。

凛「……まずいわね。桜、見境が無くなってるわ」

士郎「どういう事だ? 遠坂」

凛「アレは他人の魔力を吸収する為の触角よ。間桐の魔術かしら?」

凛「今は小規模だけど、この状態が続けば多くの人を巻き込みかねない……」

士郎「何だって!?」
211: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:32:31.96 ID:hkw2fN9Zo
アーチャー「止むを得ん」

アーチャーは倒れる桜に近づこうと歩み寄る。

しかしその前に東方不敗が立ち塞がった。

アーチャー「……そこを退け、ライダー」

マスター「アーチャー、その手に持つ剣で一体何をするつもりだ?」

アーチャーから桜へ向けられた殺気を東方不敗は見逃さなかった。

アーチャー「知れた事。一度他人の味を覚えると癖になるからな」

アーチャー「桜が外道に堕ちる前に引導を渡してやるのがせめてもの情けだろう」

マスター「そんな事、ワシの目の前でさせると思っているのか?」

アーチャー「させてもらう!」
212: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:33:12.40 ID:hkw2fN9Zo
アーチャーの双剣から十字斬りが放たれる。

だがその剣を、東方不敗は両手の二本指で意図も簡単に受け止めた。

そして指圧のみでアーチャーの双剣を砕き折る。

セイバーの剣を正面から受け止めた東方不敗にとって、

アーチャーの剣など御し易い相手であろう。

マスター「ぬおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

『点』の動きである拳の突きが、

今や『面』となる程の物量でアーチャーへと襲いかかった。

聖杯戦争が始まって以来、初めて訪れるマスターの危機。

東方不敗の拳は今まで以上に怒気を含んでいた。

アーチャー「━━━━━━━━」

無数の拳がアーチャーに突き刺さる。

その体は廊下の窓ガラスを突き破り、

グラウンドの向こう側へと落下して行った。
213: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:34:00.60 ID:hkw2fN9Zo
凛「そんな! アーチャー!」

マスター「さて……」

サーヴァントの居ないマスターだけなら問題無いと踏んだか、

東方不敗は士郎と凛に背を向ける。

桜の元へと歩み寄ると、まずはその様子をしっかりと観察する。

不思議な事に、赤黒い波紋は東方不敗が近づいても何の反応も示さなかった。

マスター「……一先ず応急処置をせねばな」

桜が苦しんでいるのは小瓶から溢れた薬品が原因なのは間違い無い。

持ってきていた水で桜の顔に付いた薬品を洗い流し、

濡れた体を腰布で丁寧に拭き取ってゆく。
214: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:34:51.08 ID:hkw2fN9Zo
マスター「ところで今、桜の体には何が起こっておる?」

マスター「先程『魔力を吸収』とか言っておったが?」

そんな東方不敗の問いかけに、凛は呆れと怒りを入り混じらせる。

凛「サーヴァントなのに何も分からないの? いいわ、教えてあげる」

凛「桜はね、魔力不足に陥って暴走してるの」

凛「このままじゃ、近付く人を無差別に襲いかねないわ」

成程、アーチャーが桜を手に掛けようとしたのはその為か。

マスター「事情は分かった」

マスター「それならここは一先ず、どちらかの魔力を桜に分けてくれんか?」

士郎「それなら俺が!」

士郎はその呼び掛けにすぐさま名乗りを上げた。

しかし桜に近づこうとする士郎の体を、凛はその間に入って制止する。

凛「馬鹿な事言わないで!」

凛「あんな暴走状態じゃ『ちょっと分けて』なんて生易しい吸収じゃ済まないわよ!?」

とその時、この場で一番魔力を持つ人間が近づいた事により

桜の周りの赤黒い波に反応があった。
215: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:35:35.75 ID:hkw2fN9Zo
凛に向かって、桜の足元から槍のような触角が襲いかかる。

凛は士郎の方を向いており、その事に全く気が付いていない。

士郎「危ない、遠坂!」

士郎は半ば体当たりする形で凛の体を付き飛ばした。

凛の代わりに触角を受けた士郎は

左腕から血を流して魔力を根こそぎ奪われてしまった。

その場に倒れた士郎に気が付き、桜は悲痛な叫び声を上げる。

桜「先、輩……?」


桜「いや……」

桜「いやぁ━━━━━━━━━━━━━━━━っ!!」


それと同時に桜の触角は自身の腕を貫いた。

マスター「どうした!?」

凛「自滅!?」

桜はそのまま気を失い、足元に広がる波は跡形も無く消えてしまった。
216: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:36:32.39 ID:hkw2fN9Zo
辺りが静まり返ったのを確認し、東方不敗は凛に尋ねる。

マスター「この二人を治療できる方法を知らんか?」

その問いに凛は少し迷っていたようだったが、

やがて意を決して重い口を開く。

凛「……言峰教会ね。そこに聖杯戦争の監督役がいるわ」

マスター「よし、ならば付いて来い」

東方不敗は桜と士郎を両脇に抱え、

さらに凛の手を引いたまま壊れた窓から身を乗り出した。

凛「ちょっと! 一体何を……」

マスター「さあ行くぞ! 風雲再起ぃぃぃ!!」

東方不敗はときの声を上げながら、全員を連れて窓から飛び降りた。

四人の体が光に包まれたと思うと、

そこは既に鋼鉄の白馬のコックピットの中であった。

風雲再起は黒いゴムのようなスーツに身を纏い、東方不敗の命令を待っている。

マスター「目指すは教会! 天を駆けよ、風雲再起ぃ!」
217: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:37:20.28 ID:hkw2fN9Zo
鋼鉄の白馬から翼が生える。

今や白馬は天馬と化し、音速の勢いで空を駆ける。

凛「すごい……。これがライダーの宝具」

凛「でも、桜がこんなだってのに宝具なんて使っていいの!?」

愚問である。

マスター「問題無い。ワシと風雲再起は魔力を使わんのでな」

マスター「よって桜に負担は掛からんのだ」
218: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:38:10.96 ID:hkw2fN9Zo
乗り降りを合わせても、学校から教会までは一分とかからなかった。

教会前の広場に桜と士郎を降ろし、東方不敗は凛に告げる。

マスター「凛、申し訳無いが後は一人で行ってくれんか?」

凛「ちょっと! 私一人でこの二人を運べって言うの!?」

マスター「うむ。ここは何やら嫌な空気が漂っておる」

マスター「身勝手なのは重々承知よ」

そう言って踵を返して教会から離れてゆく。

少し離れた所で足を止め、思い出したかのように凛に告げた。

マスター「そうそう、士郎に『ポカリが無くて助かった』と伝えておいてくれ」

危なかった。

士郎の家から持ってきたのがポカリだったら、

今頃桜の顔はベタベタになっていたに違いない。

そしてもし牛乳を持ってきていたなら、

今頃桜の顔は【※禁則事項です】であろう。

凛「ハァ?」

凛は何が何だか分からないという顔をしていたが、

すぐに考えるのを止め、桜と士郎を教会の中へと運んで行った。
219: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:44:07.20 ID:hkw2fN9Zo
中に入りたく無いとは言ったものの、やはり様子は気になるもの。

東方不敗は教会の扉に背を付けると、静かに耳をそばだてる。

日が沈みかけた頃、ようやく士郎が目を覚ましたようだ。

桜はまだ治療中である。

教会の中から士郎と凛の話が聞こえてきた。

士郎『……遠坂、聞きたい事がある』

凛『……でしょうね。桜の事?』

士郎『ああ』

凛『いいわ。もう、隠していても仕方が無いし』
220: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:44:56.60 ID:hkw2fN9Zo
凛は桜について淡々と語ってゆく。

士郎はその話に黙って耳を傾けていた。


●間桐の血が薄れだし、代々魔術回路が少なくなっていった事

●慎二の代で完全に魔術回路が無くなってしまった事

●弟子を取ろうとしたものの、落ちぶれた家系に弟子に来る者は居なかった事

●十一年前、間桐は古くから盟約を結んでいた遠坂から養子を貰った事

●それが凛の妹である桜であった事


東方不敗は複雑な心境であった。

桜と凛の名字が違う事は気が付いていた。

勿論、そこに複雑な家庭の事情があったのは容易に想像ができる。

しかし聖杯戦争限りの付き合いであるサーヴァントが出しゃばるなど、

要らぬ節介というもの。

部外者が出る幕ではないと、それに触れずにいたのであった。

しかし、まさかそのような理由があったとは。
221: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:45:35.39 ID:hkw2fN9Zo
士郎『……良かった。遠坂、桜の味方なんだ』

話が終わった後、士郎はポツリと言葉を漏らした。

学校で凛は、士郎にいつも桜の事を聞いてきた。

それに先程の戦いでアーチャーは宝具を使わなかった。

結果的に白兵戦では東方不敗の圧勝であったが、

凛が桜を気にしての命令だと分かったのだ。

しかし、士郎の言葉に対する凛の反応は冷たいものであった。

凛『いいえ。私、あの子の味方でも何でもないわ』

凛『このまま桜が治らないのなら、敵として処理するだけよ』

凛『無差別に人を襲う魔術師なんて、放っておける訳が無いでしょう』

士郎『な、何いってんだお前! 桜はお前の妹だろ?』

士郎『それを「殺す」なんて……』
222: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:46:15.84 ID:hkw2fN9Zo
『何をしている。騒ぐなら外でするがいい』


士郎『言峰、桜は……!?』
凛『綺礼、桜は……!?』

二人同時に口を開く。

どうやら神父が現れたようだ。

言峰は桜の容態を説明し始めた。


●桜の体に『刻印虫』というモノが植えつけられている事

●刻印虫を植えつけたのは臓硯であるという事

●瓶に入っていた薬品で刻印虫が活性化し、桜の魔力を貪り始めた事

●このまま魔力が底を尽きれば、刻印虫が桜の体を乗っ取り始めるという事

●これから刻印虫を取り除く手術をする事


凛『……任せたわ。手術が済んだ頃に来るから』

話が終わった後、凛は教会から出て行った。

東方不敗は素早く身を隠し、士郎の様子を観察する。
223: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:46:58.21 ID:hkw2fN9Zo
士郎は教会に残ろうとしたが、言峰に促され渋々その場を後にする。

教会の扉を押し開け、外に出ようとする士郎であったが

その背後から言峰が声を掛ける。

言峰『衛宮士郎。お前がマスターになった理由を覚えているか?』

言峰『お前は正義の味方になると言った。ならば決断を下しておけ』

言峰『自身の理想、その信念を守る為、衛宮切嗣のように自分を殺すかどうかをな』
224: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:47:51.31 ID:hkw2fN9Zo
話は終わったようだ。

これ以上居ても仕方が無い。東方不敗は士郎の後を追って行く。

士郎は夜の公園へ足を運ぶと、力無くベンチに腰を下ろした。

苦しげにうな垂れる士郎の姿は、単純に桜が心配だという話では無さそうだ。

何か重大な決断を迫られている。

そんな覚悟の表情が、苦渋の表情からチラチラと見え隠れしていた。
225: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:48:34.31 ID:hkw2fN9Zo
マスター「士郎、何を呆けておる」

士郎「ライダー……か?」

士郎は顔を上げずに呟いた。

マスター「悩み事があるなら相談にのるぞ?」

と言っても、桜の事に決まっているのだが。

士郎「放っておいてくれ。これは俺の問題だ」

マスター「まあそう言うな。頭の中だけで考えていても混乱するだけよ」

マスター「口に出してみると案外まとまるかもしれんぞ?」

東方不敗の言葉に士郎は少し考え込んでいたが、

その内ポツリポツリと胸の中を語り始めた。
226: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:49:33.67 ID:hkw2fN9Zo
士郎「俺は……正義の味方になりたかったんだ」

士郎「十年前の大火災で俺は一人、親父に助けられた」

士郎「俺にとって親父は正義の味方だったんだ」

士郎「でも、親父は正義の味方にはなれなかったって言ってた」

士郎「だから……俺が代わりになるって誓ったんだ」

士郎「大火災で助からなかった人の代わりに、俺が皆を幸せにするって誓ったんだ」

士郎「だけどどうだ?」

士郎「遠坂の判断は正しい」

士郎「今夜決断しなければ、明日にはもっと多くの人の命が失われるかもしれない」

士郎「でも……俺は。俺はっ!」

そんな士郎の頭に手を置き、東方不敗は優しく静かに語りかける。

マスター「なあ士郎。誰かの味方をするのに、そんな大層な理由が要ると思うのか?」

士郎「え・・?」

マスター「誰かの味方をする理由など」

マスター「『その人を守りたい』『その人が好きだから』という理由ではいかんのか?」
227: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:50:15.93 ID:hkw2fN9Zo
東方不敗はさらに続ける。

マスター「ワシはな、生前は『自然を守る為』に闘っておった」

マスター「だがこの度の戦い、ワシは寺を破壊し学校をも破壊した」

マスター「何故だか分かるか?」

士郎「それは……マスターを守る為じゃないのか?」

マスター「学校だけならその結論も出よう。だが寺でお前を守った理由にはなるまい」

マスター「ワシはな、お前が死ぬと桜が悲しむと思い助けたのだ」

マスター「厳密にはあの夜」

マスター「桜から直接、お前を助けるように言われた訳では無かったからな」

マスター「自然を守る事も大切だが」

マスター「だからと言ってお前達を失っては何もならん」

何かの味方をするという事の純粋な理由。

『その人を守りたい』。

その言葉に、士郎の頭は綺麗さっぱりと洗い流された。
228: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:51:11.97 ID:hkw2fN9Zo
士郎「……俺は桜を守りたい。桜の味方になりたんだ!」

その言葉に東方不敗間満足そうに頷き、士郎の頭から手を放す。

マスター「よし。ならば後は自分のやる事は分かっていよう?」

士郎「ああ、そろそろ行くよ」

そう言って士郎は立ち上がり、教会へ向かって走って行った。

東方不敗はその後ろ姿が見えなくなるまで眺めていたが、

やがてポツリと言葉を漏らした。

マスター「士郎はあれで良い。士郎は、な……」

桜には士郎が必要である。

そして士郎にもまた、桜が必要である事は言うまでも無い。

しかし、もし桜が無関係の人間を襲うような事になれば、

そうなる前にどうにか手を打たなくてはならない。

空を仰いで考えるものの、その方法は一向に見えてはこない。

空に光るはずの星も今ではすっかり暗雲に隠されてしまい、

その様子は東方不敗の心の中を現しているかのようであった。

マスター「今夜は……降るな」
229: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:52:00.67 ID:hkw2fN9Zo
そろそろ自身も戻ろうと、東方不敗はその場を後にする。

公園の入口まで差し掛かった所で、隅に隠れる人の気配に声を掛けた。

その気配は士郎より先に公園にあったのだが、

東方不敗とのやり取りの間もずっとそこに立っていたのだ。

見逃そうとは思っていたが、その行動はやはり気になる。

マスター「盗み聞きとは感心せんな。そろそろ出てきたらどうだ?」

その問い掛けに銀髪の少女が顔を出した。

マスター「……バーサーカーのマスターか?」

残る選択肢からの判断である。

銀髪の少女「そうよライダー。私はイリヤ」

銀髪の少女「『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』って言えば分かるでしょ」

マスター「分からん」

イリヤ「」
230: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:52:55.86 ID:hkw2fN9Zo
イリヤ「何よーっ! 私の知らないサーヴァントなんて居ないんだからーっ!」

マスター「しかし、ワシの知らないマスターなら沢山おるぞ?」

イリヤ「馬鹿にしてー! 大体、本当ならアレは私の台詞だったんだからねっ!」

東方不敗にあしらわれ、イリヤはプンスカと癇癪を起こす。

マスター「まあそう怒るな」

マスター「誰の言葉であれ、士郎がああやって決断したのはお互い良かったであろう?」

イリヤ「うん……。悩んでたシロウが元気になったのは素直に嬉しいな」

マスター「では良いではないか」

マスター「どれ、今夜はもう遅い。それに雨も降るから送って行こう」

どうやらイリヤの周りにバーサーカーは居ない様子。

どのような狂戦士かは知らないが、

そんなサーヴァントが近くにいるなら嫌でも分かると言うものだ。

よって、イリヤは純粋に士郎に会いに来ただけという事になる。

バーサーカーのマスターとは言え、小さな子が夜一人で歩くのは感心しない。

士郎の知り合いなら放っておく訳にもいかないだろう。
231: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:53:31.05 ID:hkw2fN9Zo
イリヤ「嫌。まだ私帰らないわ」

東方不敗の申し出に、イリヤは頭を振って否定する。

イリヤ「……そうね、私の台詞を取ったバツよ」

イリヤ「私を連れてシロウの後をつけなさい。そうすれば素直に帰ってあげる」

マスター「むう……」

どうやら素直に言う事を聞いてくれそうもない。

それならばと東方不敗はイリヤを抱き上げ、自らの肩に乗せて歩き出す。

イリヤ「わぁ! …………ふふっ」

自分の目線が高くなった事に気分を良くしたのか、

イリヤは東方不敗の額にしがみ付き嬉しそうな声を上げる。

マスター「これ! あまり暴れるでない!」

東方不敗は上体をあまり揺らさないように注意しつつ、

ゆっくりと教会へ歩いて行った。
232: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:54:30.90 ID:hkw2fN9Zo
後そこを曲がれば教会という所で、ポツポツと雨足が強まってきた。

急ぎ足になる東方不敗の耳に、ガラスの割れる音が飛び込んできた。

教会の方からである。

続いて走り去る人影。その姿は紛れも無く桜であった。

マスター「どうしたのだ!?」

続いて別の人影が現れる。どうやら凛のようだ。

凛は桜が走って行った方とは別の方向へと走ってゆく。

少し遅れてまた別の人影が。今度は士郎である。

士郎は桜とも凛とも別の方向へと走っていってしまった。

マスター「仕方が無い、桜を追うぞ」

イリヤ「ちょっと、シロウを追うんじゃないの?」

マスター「心配するな、士郎の目的は桜であろう」

マスター「ならば桜の元で待っていれば、その内士郎もやって来よう」

そう言ってイリヤを肩に乗せたまま、桜との繋がりを頼りに後を追った。
233: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:55:01.04 ID:hkw2fN9Zo
桜は公園の真ん中で足を止めた。

追いついた東方不敗は只ならぬ雰囲気を感じ、物陰に隠れて息を潜める。

あの教会で何かあった事だけは間違い無い。

声をかけようにも憚られた。

イリヤもその空気を感じたのか、じっと口を閉ざしてその姿を見守っている。

どれ程そうしていただろうか。

雨足は一掃強くなり、一人佇む桜の体は

それに消え入りそうなほど小さくなってゆくようだ。

そこへ、ついに士郎が現れた。
234: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:55:37.89 ID:hkw2fN9Zo
-- interlude --


士郎「━━ 桜」

その呼びかけを桜は震える声で拒絶する。

桜「だめ、来ないで下さい……!」

近付こうと前へ出した足を止め、士郎はもう一度桜に声を掛ける。

士郎「桜」

しかし桜の反応は変わらない。

桜「……帰って、下さい。今近付かれると私、何をするか……分からない」
235: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:56:16.78 ID:hkw2fN9Zo
雨の音だけが辺りに響く。

士郎は桜を見つめているが、桜は地面を見つめて前髪で顔を隠している。

泣いているのか、それとも術後で弱った体を蝕む雨に震えているのか。

小刻みに動く桜の肩と、それに追従する乱れた呼吸。

士郎は言葉をかけられず、ただひたすらに時を待ち続けた。

その内、小刻みだった肩の揺れが

ゆっくり、大きく、上下の運動を繰り返す。

少し落ち着いてきたのだろう。

意を決し、士郎は桜に語りかけた。

士郎「桜、聞いてくれ」

士郎「返事はしなくていい。ただ聞いてくれればいいんだ」
236: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:57:56.20 ID:hkw2fN9Zo
士郎「桜の事は遠坂や言峰から聞いたよ」

士郎「ライダーのマスターだった事。遠坂と本当の姉妹だった事。刻印虫の事」

士郎「でも、そんな事はもういいんだ……。いいんだよ」

士郎「それとも、そんな事で俺が桜を責めるって思ってるのか?」


士郎「桜が手伝いに来るようになって、大体一年くらい経つんだよな」

士郎「あの頃の桜はちょっと内気で、俺と話せるようになるのも結構かかったけ」

士郎「今ではすごく明るくなって、料理の腕も俺を超えるくらいに上手くなってる」

士郎「桜は変わったよ。俺は全然変わって無いかもしれないけど」

士郎「でも、たった一年じゃないか」

士郎「俺達の関係は、まだ何も答えなんか出てないじゃないか!」


士郎「……桜には、俺に知られたくない事が沢山あったんだよな」

士郎「でもそれを知ったからって」

士郎「それで俺達の関係が終わってしまって良い訳が無いだろ!」
237: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:58:50.92 ID:hkw2fN9Zo
士郎「覚えてるか? 俺が桜に『今日から泊れ』って言った日の事を」

士郎「俺は何も分からないまま聖杯戦争に巻き込まれた」

士郎「けど、無我夢中で戦ったよ」

士郎「それは、最初は『戦いを止める為に戦う』って理由だった」

士郎「多くの人が聖杯戦争の犠牲になるのが耐えられなかったんだ」

士郎「でも、途中からそれは違うって気が付いた」

士郎「俺は誰より、桜を守りたかったんだ」


士郎「セイバーが居なくなった後も、夜の巡回を続けたよな」

士郎「桜は止めてたけど、あれは内心」

士郎「いつか桜が犠牲になるかもって、居ても立っても居られなかったんだと思う」

士郎「俺が聖杯戦争を戦う理由は、常に桜の為だったんだ」


士郎「俺はこれからも聖杯戦争を戦う」

士郎「桜を守る為に。桜を勝たせる為に聖杯戦争を戦う」

士郎「だから、これからも一緒でなくちゃ、意味が無くなるんだ」
238: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 15:59:31.00 ID:hkw2fN9Zo
士郎「桜は言ってたっけ」

士郎「『自分は臆病だから、強引に手を引っ張ってくれる人がいい』って」

士郎「俺はそんな事を、今になって思い出すくらいに不器用な男だ」

士郎「だから……こんな風にしか言えない」

士郎「俺は……。お前が……。お前が……」



士郎「お前が好きだ!」

士郎「お前が欲しい━━━━!」

士郎「桜━━━━━━━━━━━━━━!!」



桜の体をしっかりと抱き締める。

桜「━━ あ」

その体は雨で冷え切り、今にも消え入りそうな程か弱くもあった。

しかし合わせた胸からはトクトクと確かな鼓動が伝わってくる。

桜はここに居る。ここに生きている。絶対死なせるもんか。
239: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 16:00:08.74 ID:hkw2fN9Zo
士郎の胸の中で桜が囁く。

桜「先輩……。私なんかでいいんですか?」

桜「ズルくって、卑怯で、臆病者で。ずっと先輩を騙してた」

桜「お爺様の操り人形で、いつさっきみたいに取り乱すか分からなくて」

桜「こんな私で……」

士郎「ああ、勿論だ」

士郎「離しはしない。ずっと、ずーっと一緒だ」

腕に力を込める。

士郎「約束する。俺は、桜だけの正義の味方になる」

士郎「━━━━ だから泣くな」

その答えに、桜は士郎の胸に顔を埋めて肩を震わせた。


━━ 帰ろう、桜。俺達の家へ。


ここに、かつて衛宮士郎の目指した正義の味方は終わりを告げた。


-- interlude out --
240: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 16:00:58.72 ID:hkw2fN9Zo
マスター「良く言った士郎。しかしその決断、これからが正念場ぞ」

東方不敗はそう告げると、静かに公園を後にする。

あの様子なら、後は放っておいても衛宮の屋敷に帰って来るだろう。

それよりも今は。

マスター「イリヤ、そろそろお前も帰らんと風邪を引くぞ?」

イリヤ「……」ブー

先程の桜と士郎のやり取りを見ている間、イリヤは終始むくれっ面であった。

雨に濡れる事よりも、あの二人の関係が余程気に入らないらしい。

イリヤ「……まあいいわ。レディーが嫉妬なんてはしたないんだから」

そう言って桜と士郎に背を向けると、イリヤも東方不敗の後に続く。

イリヤの見送りは森の入口でまでで良いそうだ。

何でも森の中はアインツベルンの結界のようなものらしい。

よって不用意に入って欲しく無いのだとか。

東方不敗が衛宮の屋敷に戻ると、

玄関には二人の靴が綺麗に揃って置かれていた。

しかし屋敷の電気は全て消えている。既に就寝したようだ。
241: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 16:01:37.59 ID:hkw2fN9Zo
桜の部屋を探して縁側を通りかかると、近くの部屋から物音が聞こえてきた。

マスター(起きているのか?)

物音のする部屋の襖を少しだけ開け、中の様子を覗き見る。

そこには指から血を流す士郎と、

その血を愛おしそうに舐める桜の姿があった。

マスター(あれは……?)

東方不敗に思い当たる事と言えば、桜が魔力不足に陥っている事。

そして慎二が以前、人を襲って魔力を蓄えろと言っていた事。

その二つから察するに、あれは桜が士郎から魔力を吸収しているのではなかろうか。

この様子では手術で完全に刻印虫は取り切れていないらしい。

しかしあんなチマチマと吸っていては非効率。

これならいっそ、士郎を殴って吐血させた方が色々と手間が省けるのではなかろうか。

マスター(……いやいや、それでは桜に怒られてしまうではないか)

それなら一体どうするか。
242: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 16:02:10.57 ID:hkw2fN9Zo
マスター「……と、言う訳だ」

マスター「凛、効率良く魔力を得る方法を教えてくれんか?」

マスター「ただし士郎が出来る範囲で、だ」

凛「……いきなり家に上がり込んで来て何なのよアンタ」

ここは遠坂の屋敷。

深夜の来客に凛はご機嫌ナナメの様子。

さらに、それが昼間戦った相手とあれば尚更である。

凛は教会から出た後、

衛宮の屋敷で桜と士郎を待ち伏せしていたらしい。

結局桜を士郎に任せたものの、

何かあれば敵となる方針は変えていないようだ。
243: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 16:02:59.89 ID:hkw2fN9Zo
アーチャー「我々は敵同士。それに助言を求めるとは理解し難い」

アーチャーの言う事は尤もである。

しかし魔術の知識に乏しい東方不敗にとって、

敵に頭を下げてでも、その情報は得ておかねばならなかった。

ただ、アーチャーの態度は気に入らない。

マスター「貴様、あの時は手加減してやったというのに何だその言い草は!」

マスター「その気になれば頭を潰してやっても良かったのだぞ?」

アーチャー「面白い。ここなら思う存分宝具を使えるからな」

アーチャー「表へ出ろ、ライダー!」

凛「待って! 二人とも落ち着いて!」

険悪な空気に流石の凛も制止を促す。

何より、ここで暴れられたら家が持たない。
244: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 16:03:47.06 ID:hkw2fN9Zo
凛「……まあ、話くらいは聞いてあげるわ」

凛「でも知ってる? 魔術師は基本、等価交換なの」

凛「情報の提供にはそれなりの見返りを貰わないとね?」

マスター「分かっておる」

マスター「ここに『機動武闘伝 Gガンダム DVD-BOX (初回限定版)』がある」スッ

マスター「今回はこれで手を打ってくれんか?」

凛「……何コレ? こんなの魔術の足しにもならないじゃない」DVD?

凛「そうね、貴方が魔力を使わずに行動できる原理を教えなさい」

しかし東方不敗は食い下がる。

マスター「別に減るものでも無かろう?」

凛「減るわよ。私の知識を貴方にあげるんだから、減るに決まってるでしょ?」

マスター「まあまあ、良いではないか」

凛「良くない!」

マスター「このオロカモノめぇ! 人の行為を無下にするとは何事ぞぉ!!」カーッ

凛「は、はいっ! すいません!!」ビクッ
245: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 16:04:30.70 ID:hkw2fN9Zo
マスター「さて……百聞は一見に如かずよ」

マスター「どうせなら士郎相手にやって見せてもらえると助かる」

凛「な……」

凛「ば、ばばばババば馬ばばバカーーーーっ!!」

凛「そんな事出来るワケないでしょ!?」///

アーチャー「当然だ。そんな事、私が許す筈が無いだろう」

凛「アンタは黙ってて!」

凛「そ、それに遠坂の魔術は『流動』と『転移』なの」

凛「間桐の魔術のように『吸収』できる訳じゃないわ!」

マスター「ふむ。そう言うものなのか?」

マスター「桜は士郎の血を吸っていたようだが……それで問題は無いのだな?」

凛「血、ねぇ……」

凛「魔力は人間の体液に良く溶けるから、それで問題無いと思うわよ?」

マスター「そうか、邪魔をしたな」

そう言って東方不敗は席を立ち、遠坂の屋敷を後にした。
246: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 16:05:26.77 ID:hkw2fN9Zo
-- interlude --


遠坂の敷地を出て行く東方不敗を、凛は窓から見つめていた。

そんな凛の姿にアーチャーは後ろから声を掛ける。

アーチャー「何だ凛。あの男が気になるのか?」

凛「……まあね。アイツって結構いいサーヴァントだな、って」

アーチャー「あの男が『いいサーヴァント』!? 冗談は止してくれ」

凛「あら、『魔力を使わない』なんて刻印虫に悩まされる桜にとって願ったりでしょ?」

凛「それに何だかんだでああやって世話を焼いてくれる」

凛「ちょっと過保護な気もするけど、桜との相性は抜群じゃない?」

凛「あ~あ。私もあんなサーヴァントが良かったな~」チラッ

アーチャー「……意外だな。さては凛、お前はあんな男が好みなのか?」

凛「あれぇ~? 私は『サーヴァントの特性』の話をしてるんだけどな~?」

凛「アーチャーは何を気にしてるのかな~?」ニヤニヤ

アーチャー「……ばっ、馬鹿を言うな!」

アーチャー「凛には十分な魔力があるのだから、『魔力を使わない』事は」

アーチャー「大したアドバンテージにはならないと言っているんだっ!」

凛「はいはい。そう言う事にしといてあげる」

アーチャー「だがな、凛」

凛「判ってる……」

凛「もし桜がこれ以上暴走する時は、冬木の管理者として責務を果たすわ」

凛「……そう、冬木の管理者として」
247: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 16:06:20.46 ID:hkw2fN9Zo
凛「アーチャー、食器はいつもの所に片付けておいてね」

ドアに手を掛け、凛は居間から出ようとする。

アーチャー「全く、私は執事では無いのだがな……」

そう言いつつ、アーチャーはテキパキとティーカップを片づけ始める。

テーブルを拭こうとしたその時、東方不敗の残したDVD-BOXが目に止まった。

アーチャー「凛、これはどうするんだ?」

凛「どうするって言われても……」

アーチャー「……」

凛「……」

アーチャー「……観るのか?」

凛「……観ない」
248: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 16:07:12.67 ID:hkw2fN9Zo
次の日、遠坂の屋敷には重苦しい空気が充満していた。

凛「まさかあんな事になるなんて……」ハァ

アーチャー「ああ……。あの男を甘く見ていたな……」ハァ

遠坂の屋敷にはDVDを再生できる道具が無い。

よって観る気は無かったのだが、何処からかアーチャーが調達してくれたのだ。

折角なのでと観る事になったのだが……。
249: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 16:07:55.63 ID:hkw2fN9Zo
凛「何よ、流派東方不敗って……」

凛「あんなの秘密が判った所で真似できるものじゃないわよ?」

アーチャー「私が白兵戦で手も足も出なかったのが頷けるな」

アーチャー「どうやら手加減していたと言うのは本当らしい」

凛「仮にアンタの宝具を使っても、無傷で生きてそうじゃない? アイツ」

マスター『流石ワシよ、何とも無いわっ!』

凛「って感じで」

アーチャー「冗談ではない!」

アーチャー「……いや、それも有り得ると思えてしまうのが恐ろしい所だ」

アーチャー「もしあの時奥義を出されていたら、私も無事では済まなかっただろうな」
250: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 16:08:32.23 ID:hkw2fN9Zo
凛「アイツの無茶苦茶な所と言えば……」

凛「あ、そう言えばギアナ高地から香港まで一瞬で移動してたわよね?」

アーチャー「それに素手でビルを持ち上げてたぞ」

凛「上半身を微動だにしない走り方で車に追いついてたし……」

アーチャー「銃弾の上をピョンピョンと渡っていたのはどう言う理屈だ?」

凛「その銃弾、素手で受け止めてたわよね?」

アーチャー「超級覇王電影弾とやらの中身はどうなっているんだ?」

凛「竜巻から顔が沢山出てたのは何だったのかしら?」
251: ◆VUVWczQ0wI 2013/09/08(日) 16:09:27.74 ID:hkw2fN9Zo
考えれば考えるほどドツボにハマる二人。

仕方が無いので話題を変える事にする。

アーチャー「しかし、最後の数話は余計だったな」

アーチャー「あのままの勢いで終われば良かったものを……」

凛「あら、私は必要だったと思うわ」

凛「最後はドモンとレインが結ばれて、めでたくハッピーエンドじゃない」

アーチャー「あの作品に『熱さ』以外を求めてどうするのだ!」

凛「確かに兄と師匠が倒れる所が一番盛り上がるのは認めるわ」

凛「でもね、あのまま終わっちゃったらレインがあまりに救われないじゃない!」

アーチャー「……君は案外ファンシーなのが好きなのか?」

アーチャー「もう少し現実主義者だと思っていたがな」

凛「アンタみたいな熱血バカには判らないわよっ!」

ストーカー『まあまあ、二人とも落ち着いて下さい』

ストーカー『作品には人それぞれの楽しみ方があって良いではないですか』

ストーカー『ひたすら熱さを追い求める者』

ストーカー『レインのひた向きさに涙する者』

ストーカー『石破天驚拳を真似しようとして諦めた者』

ストーカー『私としては純粋に作品を楽しんで頂けたなら何よりなのです』

凛「……そうね。悪かったわアーチャー」

アーチャー「ああ、私も少しあの熱さが移ってしまったようだ」


凛「……ところでアーチャー。さっきの人、何処かで見た気がするんだけど?」

アーチャー「私もだ。一体何処で……」

凛「……」

アーチャー「……」


凛・アーチャー「「あーっ! 毎回出てくる眼帯男ーっ!!」」


-- interlude out --
256: 以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/08(日) 16:58:21.92 ID:9/4O5Wz3o
面白え


次スレ:

【Fate/stay night】桜「ライダーの馬、変わった名前ね」【後編】


 

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