御坂「あんたなんて」食蜂「大嫌いよぉ」

1: >>1 2013/01/11(金) 23:05:40.56 ID:bpYk7R6AO

結標「貴女なんて」白井「大嫌いですの」


の後日談です。
・食蜂操祈×御坂美琴です。
・白井黒子×結標淡希です。

※CAUTION!
・90分、90レスでお読み頂けます。
・百合要素が多分に含まれております。
・上琴要素が多少なりとも含まれます。


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注目記事




2: >>1 2013/01/11(金) 23:06:53.28 ID:bpYk7R6AO
~登場人物~

御坂美琴……今作主人公。クリスマスイブを境に自分の前から姿を消した恋人、上条を追い求めて英国へ。

食蜂操祈……今作ヒロイン。御坂に対して愛憎入り混じった情念を向けるが、その最終目的は未だに不明。

上条当麻……御坂と恋仲になったものの、インデックスを忘れる事が出来ずに渡英し、その後消息を絶つ。

インデックス……二人から身を引き英国へ戻る一方で、上条の愛を勝ち取った御坂を呪わしく思っている。

白井黒子……前作主人公。結標と恋仲になった後も、御坂の無事を祈りつつ学園都市で帰りを待っている。

結標淡希……前作ヒロイン。白井を深く愛する一方で、彼女を巡って骨肉相食んだ御坂を激しく忌み嫌う。
3: >>1 2013/01/11(金) 23:08:04.84 ID:bpYk7R6AO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
結標『――インデックスさんなら、イギリスへ帰ったわよ――』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
4: >>1 2013/01/11(金) 23:08:34.54 ID:bpYk7R6AO
~0~

上条『……なんだって』

結標『彼女がそう言っていたのよ。クリスマスに学園都市を出て、二度と貴方達の前に姿を現さないって』

三冬月の夜より学園都市に降り積もる灰雪を、聖夜の朝より第七学区に降り注ぐ氷雨が洗い流して行く。
薙ぎ倒された自販機、引っくり返ったベンチ、引き千切られたブランコ、荒れ果てた公園で対峙する――
血を流す結標に抱き上げられ涙を流す白井と、それをただ見守る事しか出来なかった上条の三人である。
その結標の口から語られる、御坂と聖夜を過ごし朝帰りした上条の部屋から去ったインデックスの行方。
それを耳にした時、二桁を下回る気温より薄ら寒い戦慄が走り上条は体温すら下がったような気がした。

上条『……なんでだ!?俺が御坂と付き合うって言った時に、一番喜んでくれたのはインデックスじゃあ』

白井『わたくしも』

結標『白井さん……』

白井『――わたくしも、インデックスさんと同じでしたわ。お姉様の前では殊更祝福するよう努めて……』

上条『……白井』

白井『挙げ句の果てにはご覧の有り様ですの。わたくしにはわかりますの。彼女がどんな思いでいたかも』

茫然自失の体で立ち尽くす上条を結標の腕の中から白井が見やる。疲れきった相貌と弱りきった双眸で。
女の情念とは、男と違いコップの縁から溢れるのではなくコップの底から抜けるんですのと付け加えて。

結標『……行きなさい上条君』

上条『………………』

結標『女が行き先を告げて出て行った意味もわからないくらい鈍いなら、私から言う事は何もないけど』

そこで結標が上条に座標移動でマネーカードを投げた。言外に今から追い掛ければ間に合うかもよ、と。

上条『……俺は』

結標『私達はもう行くわ。貴方の彼女は私が引き受けてあげる』

そう言い残して結標は帝都タワーへ向けて踵を返し、立ち尽くす上条とすれ違う。ごめんなさいね、と。

上条『っ』

その言葉が果たして届いたかどうかはわからない。それより早く上条は霙の中を駆け出して行ったのだ。

白井『……間に合いますの?』

結標『さあね?それこそ――』

その背中を、結標に抱かれながら見送る白井は後に想起する……

結標『“神のみぞ知る”じゃない?』

もう二度と、上条と会う事はないかも知れないという予感を……

―――そして時は流れる事一ヶ月後―――
5: >>1 2013/01/11(金) 23:10:42.43 ID:bpYk7R6AO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アニェーゼ「ターゲット、ヒースロー空港ターミナル3に降ります。フライトアテンダントと一緒ですが」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
6: >>1 2013/01/11(金) 23:11:10.79 ID:bpYk7R6AO
~1~

ステイル「………………」

ルチア「聞いてますか?」

ステイル「聞こえてるよ」

アンジェレネ「(ううん、いつにも増してピリピリしてます)」

アニェーゼ「予定通りに、入国審査場でお引き取り願うんで?」

ステイル「その通りだ。彼女にこの大英帝国の土を踏ませるな」

聖ジョージ大聖堂。ロンドン中心部からやや外れた位置にある必要悪の教会(ネセサリウス)の本拠地。
数多ものステンドグラスに投影された幾多ある映像を見やりながら、ステイルは苦虫を噛み潰すように――
今日12本目の煙草のフィルターを食いちぎり、荒々しく灰皿にねじ込むのを見てアンジェレネが身を竦ませる。

ステイル「(何だって僕がこんな柄でもない役をしなければいけないんだ。冗談じゃあないよまったく)」

剣呑な眼差しでステイルが見やる先、ステンドグラスに映し出された様々な人種が列を並べる入国審査場。
そこには、一人の入国審査官を相手に押し問答するシャンパンゴールドに輝くショートヘアーの少女の姿。
そこへまあまあと間に入るゴールデンブロンドにロングヘアーのフライトアテンダントの後ろ姿が見える。
だが既に入国審査官には因果を含めてある。彼女はこのまま入国拒否されトランジットさせられるのだ。が

アニェーゼ「……素通りしちまいましたよ!?そんな馬鹿な!」

ステイル「――警備隊に通達しろ。すぐさま確保、出入り口は封鎖、対象をヒースロー空港から出すな」

その矢先に事態は一変した。何とフライトアテンダントが行く道の先々で入国審査官が、警備隊が――
エスコートするように先導し、ターミナル3に立ち並ぶ支柱に二人の姿が重なった所で見切れたのだ。
そこでステイルは13本目の煙草を火を点ける前にへし折り、直ぐ様アニェーゼに指示を飛ばす。だが

ルチア「……見失ってしまいました。警備隊とも通信途絶です」

ステイル「………………」

振り返ったルチアの報告を受けステイルは歯噛みした。招かれざる客を玄関先まで通してしまったのだ。

ステイル「(……土御門からの報告以上に厄介だね。これが“学園都市レベル5第三位”の力なのか?)」

かくして、物語は学園都市よりイギリス・ロンドンへと移り――

7: >>1 2013/01/11(金) 23:11:37.75 ID:bpYk7R6AO
~2~

食蜂「何とか撒けたみたいねぇ☆みぃーさぁーかぁーさぁーん」

御坂「あんたのそのコスプレが最初からこうなる事を見越してたみたいでゾッとしないわ。って言うか」

英国人「………………」

御坂「通りすがりの人洗脳して足に使うだなんて、あんた良心とか痛まないの?両親が見たら泣くわよ」

食蜂「なら車から降りればぁ?この話から下りてもらっても私は良心も痛まなければ腹も痛まないしぃ」

御坂「………………」

食蜂「飛行機でも言ったけどぉ、貴女、これから上条さんのいるイギリス清教に殴り込みに行くのよぉ」

御坂「ええ」

食蜂「さっきも私が入国審査官の心を読んだり警備隊の心を操ったりしなかったら入国拒否だったわぁ」

御坂「わかってるわよ、感謝してる。わかったわよ、注意する」

学園都市よりイギリスに渡った上条を遅れる事一ヶ月、婚后航空所有の超音速旅客機で追い掛けた先。
あわや入国拒否を食らいかけた所を食蜂の機転によって乗り切り、ヒースローエクスプレスを避け……
今は洗脳した『首筋に鍼灸痕』のある白人男性が運転する車の後部座席に二人は並んで揺られている。

食蜂「殊勝ねぇ☆それにしても手回し早くて吃驚しちゃったぁ」

御坂「……本当に驚いた。もう公共交通機関は使えないかもね」

食蜂「アハハハぁ、まるで犯罪者ねぇ☆それだけ上条さんがイギリス清教では希少価値力ある存在でぇ」

御坂「………………」

食蜂「同時に向こうにもそれだけの公権力があるって事ねぇ♪」

ウィンドウに流れ落ちる雨露を指先で追い掛ける御坂の左隣で地図を手繰る食蜂が入国審査官の心を読んだ所――
御坂の顔写真は既に空港関係者のみならずタクシーやリムジンバスといった交通機関にまで配られているらしい。

食蜂「とりあえず、予め取っておいたホテルはもう諦めなさい。とっくに手が回ってるだろうからねぇ」

御坂「……うん」

前途多難だと御坂はシートに背を凭れ頬杖をつきながらフライトアテンダント姿の食蜂から目を切った。
敵に回せば手に負えず、味方につければ始末に負えないその能力の有用性そのものから目を切るように。

時は数時間前に遡る――

8: >>1 2013/01/11(金) 23:14:05.79 ID:bpYk7R6AO
~3~

御坂『……私と“手を組まないか”ですって?』

食蜂『そう☆旅は道連れ世は情けって言うかぁ』

御坂『巫山戯ないで!』

数時間前、イギリスへ向かう超音速旅客機にて、学園都市を飛び出した御坂と逃げ出した食蜂が鉢合わせ――
否、先回りしていた食蜂の、サロンに濡れ瑞々しくも艶めかしく濡れた唇から語られた言葉に御坂は激怒する。
その剣幕たるや、平らげた機内食の器が震え、シャンパングラスが落ちるほどの勢いでテーブルを叩くまでに。
しかし対する食蜂は動じる事もなく、大覇星祭及び一ヶ月前の帝都タワー倒壊事件で切り結んだ御坂を見返す。
その目には初春を一酸化炭素中毒、佐天を左鼓膜破裂、白井・婚后・固法まで洗脳し殺し合わせた事実など――
毛ほども気に留めていない事を優雅にキャビアを摘んで舌鼓を打ちグラスを傾ける所作から御坂は感じ取った。

御坂『人の命をチェスの駒みたいに弄んどいてあんた何言ってんの?自分の立場わかってんの?』

食蜂『よーくわかってるわよぉ。ほとぼり冷ますまで学園都市に戻れないしぃ。そ・れ・で・も』

御坂『………………』

食蜂『これからイギリス清教の本拠地に徒手空拳で殴り込みに行く貴女より周りは見えているつもりぃ』

チュッと指先を舐りながら食蜂は言う。学園都市広告塔の貴女が、同盟国にも等しいイギリス清教を相手に――

食蜂『“自分をヤリ捨てした元彼と寝取った泥棒猫をぶん殴らせて下さい”、とでも言うつもりかしらぁ』

御坂『っ』

食蜂『統括理事長って言う重石力のなくなった今、いつ何時どちらに傾くかわからない天秤の片側にぃ?』

学園都市広告塔たる御坂が、統括理事長の『プラン』を打ち砕き、イギリス清教とも縁の深い上条が……
インデックスを追ってイギリス清教へ、魔術サイドに走った彼と接触を持つ事の危うさを食蜂は説いた。
惚れた腫れた振った振られたと言う次元の話ではないのだと。更に表向き上条は行方不明扱いではある。

食蜂『イギリスくんだりまで行って顔写真片手に訪ね歩くつもりぃ?何の伝手もない貴女一人の力でぇ?』

御坂『……るさい』

食蜂『世界どころか世間も読めてない貴女に何が出来るのぉ?』

御坂『五月蝿い!』

イギリス清教が上条を匿う、ないし駆け込んだと言う事実を認める事などまず有り得ないだろうとも。

9: >>1 2013/01/11(金) 23:14:42.95 ID:bpYk7R6AO
~4~

御坂『……だったら』

食蜂『………………』

御坂『あんたを連れ歩く事で、私に何のメリットがあるのよ』

食蜂『――私の心理掌握(ちから)よぉ』

御坂『……あんたの、助力(ちから)?』

フィンガーボールに手指をつけ、ナプキンで拭き取りながら食蜂は語る。自分の『心理掌握』ならばと。

食蜂『そうよぉ。私の改竄力と最適化の恐ろしさは、私を除けば貴女自身が誰より一番知ってるでしょ』

日本人観光客を装って教会巡りをし、僧侶から修道女から関係者から何から何までその心を盗み見出来る。
人捜しなど微塵も感じさせず、上条のかの字さえ過ぎらせず、かつ相手に嘘を吐かせずに真実のみを暴く。
顔写真を手に異国の地を訪ね歩く愚を敵陣営の人間に悟られず、水面下で動くにはまたとない能力だろう。
さらには、敵陣にあって数十から数百はあるであろう教会を一軒一軒虱潰しする『人海戦術』さえ可能だ。
だが御坂は首を縦に振る事を良しとしない。そんな人を人とも思わぬ間違ったやり方で上条に会っても――

食蜂『自分の手も汚さず、泥を掴もうともせず、手に入れられるほど彼は安い?道は易い?よく考えてぇ』

胸を張って上条の前に立てはしないと、上条と肌を合わせる前の、体を重ねる前の御坂なら思っただろう。
挙げ句上条をインデックスに奪われた御坂をして食蜂は言う。貴女は自意識過剰と言うより美意識過剰と。

御坂『……じゃあ』

食蜂『?』

御坂『あんたが私と組むメリットは何?』

食蜂『貴女達にした事に対する罪滅ぼし、ってところかしらぁ』

御坂『嘘ね』

食蜂『………………』

御坂『あんたはただ、私が悩んだり苦しんだり傷ついたり悲しんだりするのを出し物でも見るみたいに』

食蜂『………………』

御坂『――自分だけ安全な特等席からオペラでも眺めるように高みの見物をしたいだけ。どう?違う?』

食蜂『――ヤリ捨てとは言え、処女力捨てた分だけイイ女になったわねぇ☆じゃあ交渉成立って事でぇ』

御坂の頬に手を添え、かかる毛先を指で触れながら食蜂が微笑みかける。メフィストフェレスのように。

御坂『私の気分的には悪魔との契約を結ぶみたいだけどね……』

禁断の果実に接吻するようにしてそっと唇を寄せて来る食蜂に。

食蜂『ならぁ、悪魔に捧げる魂の代わりになる対価力はぁ――』

そして時は巻き戻る――

10: >>1 2013/01/11(金) 23:15:08.11 ID:bpYk7R6AO
~5~

食蜂「今走ってる道路がM4、ロンドン市内には入るまではぁ」

右手にスマートフォン、左手に地図帳と交互に睨めっこしている食蜂から目を切って私は頬杖をついた。
あいつと出会ってから半年、あいつと愛し合った半月を、自分でもどう扱って良いのか全然わからない。
会っても縒りを戻したいってみっともなく縋りつきたいの?それとも平手打ちの一つでもお見舞いして?

食蜂「あと一五分ねぇ☆頼むわよ見ず知らずのドライバーさん」

白人男性「we have received」

私の身の上話なんてそれこそ一言で済む。『泥棒猫に彼氏を寝取られてヤリ捨てされちゃいました』って。
あいつを憎めば良いのか、シスターを呪えば良いのか、自分を恨めば良いのか、それさえわかっていない。
ただ耐えきれなかったんだと思う。悲しみに目を向ける事も、哀しみに背を向ける事も。それはまるで――

御坂「(……逃げる方向が後ろか前かぐらいの違いしかない)」

この高速道路を覆う霧みたいにモヤモヤして、湿っぽくて、寒々しい心持ち。こんなはずじゃなかった。
窓の外に広がる鈍色の風景と窓の外に並ぶの鬱蒼とした木々を見てると益々気が滅入りそうになって――
私は何となく頬杖をついた右手薬指を見る。あいつからの最初で最後の贈り物。ブルーローズの指輪だ。
左手薬指は伴侶、右手薬指は恋人がいる事を表すって言うけど、それなら捨てられた私はなんでまだ……
私を捨てたあいつとの思い出ごと捨ててしまえなかったんだろう?ううん、答えなんて最初から出てる。

食蜂「キャドバリーの飛行船発見☆あれって美味しいのよねぇ」

御坂「物見遊山に来てるんじゃないんだからもう少し緊張感持って。もうすぐロンドンに入るんだから」

ただあいつに会いたい。どんな結末でも結果でも結論でも良い。私はあいつとケリをつけたいんだと思う。
でなきゃ一歩も進めない気がする。私達が今走ってる高速道路の四車線みたいに、道なんていくつもない。
こいつみたく、チョコレート会社の飛行船写メってはしゃげるくらい気楽に生き方が出来たら良いのに……

食蜂「……そう。でもそれまでにぃ」

御坂「?」

食蜂「――無事に、ロンドン市内まで辿り着けるのかしらぁ?」

御坂「!」

そう思った矢先、ルームミラーに何台ものバイクが狼の群れみたいに追って来るのが私の目にも見え――

12: >>1 2013/01/11(金) 23:18:33.55 ID:bpYk7R6AO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
序之舞: 「閃烈なる蒼光~Battle of Britain~」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
13: >>1 2013/01/11(金) 23:19:00.27 ID:bpYk7R6AO
~6~

神裂「M4で捕捉!車種はメルセデス・ゲレンデヴァーゲン黒、ナンバープレートBD51LRSです!」

轟ッッッッッ!とインカム越しに状況説明しながら神裂率いる天草式十字凄教の一団が御坂達を追跡する。
神裂、五和、浦上、対馬がノートン・コマンドー961SEバイクに跨り霧雨の中を突っ切って来たのである。
そのスピードたるや雨粒が飛礫のように痛々しく感じるほど速く、次々四車線上を走る車の間を縫う程に。
中でも七天七刀を佩いた神裂がアクセルを全開にし、二人が乗り込んだゲレンデヴァーゲンへと併走して。

神裂「止まりなさい!学園都市側の貴女がここに来る事は――」

御坂「誰よあんた!」

神裂「天草式十字凄教、神裂火織と申します!貴女は重大な協定違反を犯そうとしています!直ちに――」

御坂「天草だか七草だか知らないけど、部外者が口出ししないでよ!私はただあいつに会いに来ただけ!」

呼び掛けて来る。直ちに停車しなければ実力行使も辞さないと。だが、それが御坂の頭に血を昇らせる。
何故自分と上条との間にだけある話に他人が首を突っ込んで来るのかと。だがいきり立つ御坂を余所に。

五和「止まって下さい!止まらなければ力づくでも止めます!」

食蜂「あらぁ、完全に包囲力の真っ只中ねぇ?でもぉ、私はぁ」

対馬「五和!!」

浦上「よけて!」

右車線から停車を呼び掛ける神裂、左車線から先槍を取り出した五和に対し、食蜂がリモコンを押す。
するとドライバーが新たな命令を受けて、ハンドルを大きく左に切り、水飛沫を上げて体当たりした!
咄嗟の出来事に目を見開く五和。併走状態からサイドミラーが折れるほどの勢いに押されて弾かれる。
五和もまた横倒しになる直前、構えた先槍で濡れた地面に火花が散るほど強く突き立てて体勢を戻し!

御坂「食蜂!!?」

食蜂「止めてみればぁ?力づくで☆こっちも力づくで通るから」

眦を決する五和へ目で笑いかけ、リモコンを構えた食蜂の命に従い運転手がオーバートップギアに入れ。

食蜂「“ よ  れ。 前  し ”」

五和「えっ」

霧雨を受けて黒光りするゲレンデヴァーゲンが五和をバイクごと吹き飛ばした。呆気ないほど躊躇なく。

14: >>1 2013/01/11(金) 23:19:27.98 ID:bpYk7R6AO
~7~

神裂「五和ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

その瞬間神裂はバイクから飛び降り、後続車の屋根を踏み台にし、宙に投げ出され五和を抱き留め――
標識板を吊り下げたテーパーポールへ鋼糸を投げて取り付くのと同時に車線から投げ出されたバイクが

御坂「あんた!!!」

平原に聳える木々に衝突し爆発炎上するのが、雨粒さえ吹き飛ばして加速する車内から御坂にも見えた。
思わず反射的に食蜂を殴り倒そうと身構えるが、それ以上に火に油を注がれてしまったのは他でもない。

浦上「――よくも」

対馬「五和を!!」

御坂「!!!!!」

ガシャン!と取り残された神裂に代わって横並びになった対馬のレイピアがサイドウィンドウを突き破る!
御坂が振りかぶった腕で食蜂を庇って伏せさせてがら空きになった空間に白刃が閃き、後ろ髪が切り飛ぶ。
同時に浦上のドレスソードがバックウィンドウを叩き割り、ガラスが降り注いで御坂の背中に舞い落ちた。

食蜂「――これで一番戦闘力高そうな女の人は引き離したわぁ。後は頼むわねぇ“常盤台のエース”さん」

御坂「っ」

食蜂「ほらぁ、一人くらい生け捕りにしないと彼への手掛かりも掴めないし、私達の命だって危ないわぁ」

だが御坂の身体の下に身を隠す食蜂はにんまりと微笑む。あくせく探す手間が省けたと言わんばかりにだ。

御坂「この!」

もはや是非もなく敵対関係に陥ってしまった事を悟るなり、御坂は筋電微流と生体電流とを操作して……
加速力を付けた横蹴りでドアを蹴破り、泣き別れとなったドアが対馬目掛けて飛来し、それを浦上が――
コマンドー・961SEの車体を割り込ませ、ドレスソードで一刀両断しカバーに入り、対馬が追い上げる!
その間に食蜂は運転手を操作し、アクセルをベタ踏みさせて更に加速をつけ、一人でも多く振り切らんと

食蜂「――前よぉ」

御坂「嘘っ!!?」

した所で食蜂が見据えた先にはM4高速道路にあるトンネル前にて五和からの報告を受け待ち受けていた

建宮「女子供に寄って集って剣を振りかざすなんてやり口は性に合わんのよ。だが仲間をやられて――」

香焼「教皇代理、来るっす!」

牛深「よくも五和を」

野母崎「構え!」

建宮「――“はいそうですか”で通す訳にはいかんのよなあ!」

何台もコンテナを連結させた全長20メートルにも達するビッグ・リグがトンネルを横一列に塞いで――

15: >>1 2013/01/11(金) 23:21:28.26 ID:bpYk7R6AO
~8~

御坂「(ヤバい!)」

ロンドンへ通じるジャンクション、最後の関門とも言うべきトンネル前に立ち塞がるビッグ・リグには――
運転席にメイスを持つ諫早。短剣を握る香焼・斧を携えた牛深・西洋剣を突き出す野母崎がコンテナ上に。
更にはフランベルジュを構える建宮が待ち受ける。そう、御坂達は神裂らに追い立てられ罠に嵌ったのだ。
天草式十字凄教は逃走と隠密のプロである。御坂達が取り得る進路を先読みしての、前虎後狼の二段構え。
そこで御坂はドアを失ったゲレンデヴァーゲンの手摺りを掴み、逆上がりの要領からルーフへと降り立つ!

御坂「食蜂!このまま全速力で走って!!道は私が開く!!!」

食蜂「――了解♪」

建宮「(馬鹿な!たかがメルセデス如きでこのビッグ・リグを押しのけて通れるはずがないのよな!)」

20メートルにも及ぶバリケードを前に減速するどころか加速するゲレンデヴァーゲンに建宮が唸った。
だが数秒後に激突するであろう車の屋根部分にて、御坂がコインを宙に弾いて狙いを定める。それは――

御坂「どけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

ドン!という轟音と閃烈と蒼光を漲らせた『レールガン』。撃ち出されたそれは建宮達にではなく――
道を塞ぐコンテナの連結部分を吹き飛ばし、隊列を突き崩し、生まれた一台分の隙間を塗って加速し!

建宮「そうはさせんのよな!」

御坂「(取り付かれた!?)」

すれ違いざま、コンテナに爆発が生じるほどの踏み込みから建宮が宙を舞ってゲレンデヴァーゲンの……
屋根に立つ御坂へフランベルジュを唐竹割りに振り下ろし、御坂が前髪数本を切られながら上体を躱す。
同時に鈍色の風景から暗色のトンネル内、暖色の照明を受けて建宮のフランベルジュが白色に煌めいた。

建宮「おいたが過ぎるのよなお嬢ちゃん。止まれ。さもなきゃお互いに取って“不幸な事故”が起きるぞ」

御坂「あんた達こそ何なのよ!私はただあいつに、上条当麻に会いに来ただけなのよ!?それを何で――」

建宮「……泣かせる話よな。しかしそれは出来ない相談だ。状況が変わったのよな。上条当麻はもう――」

トンネル内に吹き荒ぶ強風に髪を嬲られつつも、御坂は走行中の車上よりアスファルトに含まれる――
砂鉄を磁力でかき集めながら一振りの剣を作って建宮を睨み付け、その眼差しを見返して建宮も構え。

16: >>1 2013/01/11(金) 23:22:23.25 ID:bpYk7R6AO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
神裂「――――“上条当麻”はもう“死んだ”のです――――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
17: >>1 2013/01/11(金) 23:22:52.11 ID:bpYk7R6AO
~9~

御坂「!?」

次の瞬間、トンネルに突入して来たバイク、神裂の駆るコマンドー・961SEの車体が信じられない事に――
トンネル左壁面から天井部に至るまでを螺旋の軌跡を描き、コークスクリューで追い付いて来たのである。
バイクという鋼鉄の馬との人馬一体のエクストリームに、御坂が決した眦に驚愕の色を浮かべるより早く!

建宮「はっ!」

御坂「!!!」

建宮が切りかかり、御坂が砂鉄の剣で受け止め、文字通り火花を散らせ辛うじて鍔迫り合いで受け止める。
その間に神裂が疾走するゲレンデヴァーゲンの、運転席側に七天七刀の鉄鞘で突きを繰り出さんと腕を――

食蜂「させると思う!?」

神裂「!」

引くより早く!食蜂が運転手を操作し、シートレバーとサイドエアバッグを同時に引かせて、その突きは

BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!

作動したエアバッグを破裂させ、レバーを倒しシートを引かせて横倒しにし、食蜂が運転手を死守する。
けたたましく鳴り響くクラクション、後部座席の食蜂が笑い、運転手が仰向け寝のままアクセルを踏む。
そしてトンネル出口に差し掛かり、ロンドン市内へ通じるジャンクションがクルーン状に道を連ねて――

御坂「食蜂!!」

建宮「なっ!?」

金魚鉢の中を泳ぎ回るような動きで何台もの車が合流するランダバウトが見えた所で御坂が食蜂へ叫ぶ。
同時に食蜂が後部座席からなくなったドアより身を投げ出し、御坂が建宮からバックステップで跳び――
地面スレスレの所で御坂が食蜂の手を掴み、電磁力を最大にして反発、飛び石伝いに隣車線のトラックの

神裂「しまっ……」

屋根へ飛び移り、食蜂が運転手をリモコン操作。フルブレーキで高速道路中をドリフトさせ、神裂ごと

浦上「女教皇様!」

カーブを描くガードレールまで押し流すゲレンデヴァーゲンのボンネットへ七天七刀を突っ返棒にし!

神裂「くっ!」

ドオオオオオン!という轟音を立て、白煙を上げ、ガードレールとバイクを半壊させながら停車した。

神裂「見失いましたか……」

ゲレンデヴァーゲンの運転手が正気を取り戻し、追い付いて来た対馬がトラックを探すも遅きに失した。

対馬「……逃げられたか!」

残されたのはコマンドー・961SEのへし折れたハンドルのみ――

18: >>1 2013/01/11(金) 23:25:21.95 ID:bpYk7R6AO
~10~

ステイル「取り逃がしただと!?」

神裂『申し訳ありませんステイル』

ステイル「状況を説明しろ神裂!」

神裂『……M4終点から恐らく中心部に入ったかと思われます』

ステイル「ピカデリー・サーカスにでも逃げ込まれたら、ウォータールーまで橋一つ越えただけで……」

神裂『聖ジョージ大聖堂まで、迷う事なく辿り着くでしょうね』

ステイル「何を暢気な他人事のように言ってるんだ神裂!君は」

神裂『……警察がやって来ました。責めは後で受けます。では』

ステイル「っ」

公権力を用いての水際作戦、組織力を使っての二段構えまでもが罠ごと食い破るように強行突破され……
ステイルは指に挟んだ煙草をへし折って携帯電話を閉じて目を瞑り、頭から怒りを追い出さんと努める。
してやられたというより現にしてやられている。まさか『聖人』神裂が振り切られるとは思わなかった。

アニェーゼ「それに何だかおかしな事に、こちらで確保した運転手は何も覚えちゃいねーみたいで……」

ルチア「“記憶がない”そうです。洗脳ないしそれに準ずる何か小細工を施された可能性があり、更に」

アンジェレネ「そ、その神裂さんからの報告だと御坂美琴以外にも同乗者がいたみたいなんですが……」

ステイル「……同乗者?婚后航空の搭乗記録から該当人物は?」

アニェーゼ「それが、ファーストクラスは全席埋まってたんですが、降りて来たのは御坂美琴ただ一人で」

ステイル「――運転手に関しては出来るだけ軽い刑で済むよう根回ししておいてやってはくれないか……」

ルチア「はい」

大聖堂にて三人から報告を受けステイルは思案する。土御門からの報告では渡英したのは御坂一人のはず。
だのに全くのノーマークの協力者がいる。入国審査官、警備隊を拐かし、運転手を傀儡にしたもう一人が。

ステイル「(ともあれこれ以上聖ジョージ大聖堂に近寄らせる訳にはいかない。次の手を考えなければ)」

御坂一人ならば入国審査を潜り抜けられなかったろうし、縦しんばそれが出来ても移動手段の足がない。
交通機関、宿泊施設、全てに顔写真は配ってある。だがそんなハード面の包囲網などものともしない――
そんな力を持った、土御門からの報告にはないソフト(人間)がいたならばとステイルが思案する一方で


19: >>1 2013/01/11(金) 23:26:51.09 ID:bpYk7R6AO
~11~

警察官A『There was a multiple pileup on the M4 involving three cars one after the other』

警察官B『This is the Commando 961 SE that was left at the scene of the accident』

警察官C『One suspect were recaptured, but two others are still at large!』

警察官D「………………」

ホームレス「(……Japanese?)」

食蜂「ロンドン警察の動きが予想力より早いわぁ。無線を聞く限り、誰か一人捕まっちゃったみたいねぇ」

御坂「………………」

食蜂「大丈夫よぉ。記憶改竄してあるから私達の事は漏れ!?」

御坂「巫山戯んじゃないわよ!無関係の人間まで巻き込んで!」

天草式十字凄教とのカーチェイスを振り切って、隣り合わせた競走馬輸送トラックの屋根へと飛び移り……
M4終点からピカデリー・サーカスへと入り、二人は現在は小劇場の裏手にいる。警察無線機を奪ってだ。
霧雨に濡れた石畳は二人が通う学舎の園を思わせるが、無線機を持つ食蜂の胸倉を掴む御坂の顔は険しい。

食蜂「……落ち着きなさい?痛いじゃないのぉ。離してったら」

御坂「何であそこまでする必要があったの!?最悪人が死――」

食蜂「だからぁ?」

御坂「!!?」

食蜂「一応運転手さんには怪我させないように“操縦”したしぃ、実際一人も死人は出してないでしょ?」

洗脳した警察官から奪った無線機で捜査状況を確認し終えた後、食蜂はそれを懐に仕舞い込んで微笑んだ。
対する御坂はその物言いに、車中で振り下ろし損ねた平手打ちを今度こそ叩きつけんと腕を上げる。だが。

食蜂「――あのまま停止命令を受け入れてたら間違いなく強制送還だったわぁ。それに、私達じゃあ……」

御坂「………………」

食蜂「……あのポニーテールの女の人には勝てなかったでしょう?それくらいの実力差はわかるわよねぇ」

そこで食蜂が言う。天草式十字凄教からの勧告を受け入れればそのままヒースロー空港に逆戻りだった。
まともにやりあえば集団という人の利、土地勘という地の利もない自分達では一溜まりもなかったろう。

食蜂「あまり私の失望力UPさせないで欲しいわねぇ御坂さん」

20: >>1 2013/01/11(金) 23:28:54.74 ID:bpYk7R6AO
~12~

食蜂「ここは貴女の下らない正義感や友情力が通用する学園都市じゃないのよぉ?それに手元を見なさい」

エロスの名を冠する噴水の側を、白・黒・黄色と、異なる肌の色と同じ数だけ違う言語で話しながら歩く。
やれあそこの通りに行こう、店に入ろう、ホテルに入ろう、ご飯を食べようと誰も二人など気に留めない。
更に食蜂が指差す、自分の胸倉を掴む御坂の手。そこにはあるべきであったトランクケースさえなかった。

御坂「(……さっきのベンツに積みっ放しだったんだ!!!)」

食蜂「パスポート、お金、トラベラーズチェックも無しでぇ?」

代わって食蜂は肩掛けにしている星形の入ったバッグをポンポンと叩きながら覗き込む。返す言葉がない。
付け加えるならば帰りのチケットすらない。たった今も、行き来する観光客達が入るような店はおろか――
広場に出ている屋台で食べ物も買えない。ホテルにも泊まれない。あるのは指輪とスマートフォンだけだ。

食蜂「何か言いたい事はぁ?」

御坂「………………」

食蜂「じゃあホテルでも入りましょうかぁ♪さっきので情報収集もそこそこ出来たから整理したいしねぇ」

話は終わったとばかりに手を叩き、日本人観光客の一団へと目を向け、食蜂が見返りながら微笑みかける。
御坂もまたそれを意味する所を知りながらも、片意地を張るには真冬のイギリスはあまりに寒過ぎたのだ。
異国の地で、無一文で、寄る辺もなく、追っ手に狙われるリスクと食蜂へのプライドを天秤にかけた上で。

御坂「情報収集って、まさかあんたあのカーチェイスの真っ只中であいつらの記憶や心を読んだの!!?」

食蜂「私達を捕まえようとした集団は“天草式十字凄教”とか言う隠れキリシタンの末裔みたいねぇ……」

御坂「えっ」

食蜂「セミロングの子が五和、クワガタ頭の男が建宮斎字、五和って子の携帯番号は07712―3……」

御坂「……もういい」

食蜂「戦闘員は52名、普段は日本人街を治めてって、何よぉ」

御坂「あんたがどれだけ“切れる”ヤツかはよーくわかったわ」

ここで喧嘩別れしても御坂は強制送還か野垂れ死にしかない。不承不承、食蜂の世話になる事を決めた。

食蜂「――私の切れ味がわかってもらえて何よりだけどぉ、使い方を誤れば血を流すのは貴女の方よぉ」

余りに切れ過ぎるが故に災いをを呼ぶこの妖刀のような少女に。

21: >>1 2013/01/11(金) 23:31:23.49 ID:bpYk7R6AO
~13~

五和「スー……スー……」

神裂「五和……」

御坂達がピカデリー・サーカスより移動を始めたのと同時刻、早くも夜の帳が下り始めた日本人街にて……
ロンドン警察を振り切りアジトに戻って来た神裂は、ベッドに横たわる五和の寝顔を見つめながら呟いた。
腰掛けた椅子に凭れ掛からせた背中に重くのし掛かる重圧。御坂を取り逃がしてしまった事もそうだが――

神裂「(……御坂美琴と言いましたか。上条当麻の元恋人は)」

イギリス清教と学園都市の情勢が以前とはまるで異なる事にも起因する。それは上条達が打ち砕いた……
『プラン』の崩壊によりアレイスターは遠行、それと刺し違える形でローラ・スチュアートも引退した。
科学サイドと魔術サイドの衝突により、両陣営の指導者が代替わりすれば自ずと関係性も変わって来る。
これが一ヶ月前の情勢ならば自分が上条と御坂の間に入っても良かった。だが今はそれどころではない。

神裂「(その気になれば、彼女達を捕らえる事も出来たはず)」

その御坂を捨ててインデックスを追って聖ジョージ大聖堂の扉を叩いた上条を殴り飛ばしたのは神裂だ。
男として最低の、女にする最悪の仕打ちに対して。神裂とてインデックスは大切で、上条も大事だった。
故に許せなかった。同時に悲しんだ。何故この最悪のタイミングであのヒーローは来てしまったのかと。

神裂「(そうしなかったのは私自身がまだ迷っているから?)」

そして『二人目の上条当麻』は『死んだ』。インデックスと共に地獄に堕ちる事を選んで『死んだ』のだ。
神裂にはそれを止められなかった。ステイルはそれを止めなかった。それが今でも悔やまれてならない。と

五和「うっ……」

神裂「気が付きましたか?五和。まだ起き上がらないで下さい。頭部を強打したのですから。ええと――」

そこで五和が呻き、神裂が我に返り、額からズレたタオルを新しいものに取り替えようと立ち上がった。

五和「――ハイ」

神裂「喉も乾いたでしょう?今、水差しを持って来ますからね」

台所に向かう神裂の背中へと、ややひび割れた声で応える五和の

五和「(食蜂様)」

再び閉ざされた目蓋の裏に禍々しく輝く魔星に気付く者も無く。

22: >>1 2013/01/11(金) 23:31:49.81 ID:bpYk7R6AO
~14~

食蜂「はい♪あの五和って子の番号の逆探知よろしくぅ。あとホテル内の監視カメラのハッキングもねぇ」

御坂「(今回だけはこいつが敵に回らなくて本当に良かった)」

夜半、御坂達はピカデリーから移動してラ・メリディアン・ピカデリーという五つ星ホテルに逗留した。
泊まるにあたり、食蜂は先程広場で出会した日本人観光客の団体客をすれ違いざまに全員洗脳したのだ。
そこで18才以上20歳未満パスポートを二人分奪い、チェックインの際受付を洗脳し身分を偽って宿泊。
更にフロントに配られていた御坂の顔写真を残らず操った係員達に焼却させ、更にはパソコンを一台奪取。
電子戦に強い御坂にホテル内の監視カメラ全てを掌握させ、更には記憶を読んで入手した五和の携帯番号。

食蜂「D4」

御坂「(クイーン・ポーン・オープニング)後はどうすれば?」

食蜂「クリームティーでも飲んでればぁ?美味しいわよこれ☆」

食蜂が借りて来たガラス製のチェスでクイーンを活かすD4を指し、御坂がパソコンをから顔を上げる。
二人が向かい合っている白亜を基調としたオークルームラウンジより見渡せるメイン・ロビーからは――
32台もの監視カメラが備え付けられており、それら全てが不審者を見張る。そこで食蜂が一息吐いた。
たった今まで広げていた、ピカデリー・サーカス周辺の地図、時刻表、路線図にティーカップを置いて。
このホテルならば最寄り駅まで徒歩で約二分、走れば一分足らず、かつほぼ全ての路線が集まっている。

御坂「(どういう意味?)……ちょっと疲れたから部屋戻るわ」

チン!とティーカップの取っ手を人差し指で打ち鳴らし、焼き菓子を頬張るとスッと御坂が立ち上がり。

食蜂「嗚呼♪もう我慢力出来ないのぉ?“あなた”ったらぁ☆」

御坂「誰があなたよ!新婚旅行じゃないってベタベタすんな!」

御坂と腕組みして専用エレベーターと独立フロアを持つエグゼクティブ・ジュニア・スイートへと向かう。
エレベーターの鍵を持つ係員は洗脳済み、追っ手が一般客に紛れても、独立フロアに入ってさえ来れない。

――女王蜂の巣のように、女郎蜘蛛の巣のように――

23: >>1 2013/01/11(金) 23:32:15.20 ID:bpYk7R6AO
~15~

御坂「(この街のどこかに、この灯りの中に、あいつがいる)」

食蜂「………………」

御坂「(……こんな形で来たくなかったな、海外旅行なんて)」

クラシックな調度品とスタイリッシュな内装に彩られた部屋へ戻り、御坂はスカーレットの窓掛けを開く。
眼下にはリージェント通りから来る赤い二階建てバス、ピカデリー通りから来るブラックキャブが見える。
このホテルよりオックスフォード、ソーホー、ボンド通りが。レスター、トラファルガー広場が徒歩圏だ。
だが窓ガラスに映る御坂の表情は、夜の帳が落ちて尚降り止まぬ雨が目元に流れ涙しているように見える。
少なくとも、キングサイズのベッドへダイビングし、一頻り枕に顔を埋めながら横目で見やる食蜂には……

食蜂「みぃーさぁーかぁーさぁーん、お腹空いたお腹空いたぁ」

御坂「(こいつ、追われてる自覚とか本当にあるのかしら?)」

ひどく退屈なのである。いつ何時、何処から、何人やって来るかわからない状況下では遊びにも行けない。
幸い、トランクを失った御坂も通りに並ぶバーバリー、ユニクロ、H&M、ZARA、NEXT等の日本にもある――

食蜂『私の隣をそんな安物で歩かれたらテンション力下がる!』

御坂「(……そりゃあ、スポンサーはあんただけどさあ……)」

ブランドを選ぼうとして食蜂に却下され、仕方無くFRENCH CONNECTIONで衣服を調達しのが約数時間前。
確かに機内食を最後に、紅茶やお茶請けくらいしか口にしていない。そこで御坂もクルリと振り返って。

御坂「それは構わないんだけど、私ドレスコードどころじゃあ」

食蜂「そんなの私の改竄力でどうとでもなっちゃうのよねぇ☆」

御坂「……イギリス料理って不味いって聞いたけど大丈夫かな」

ようやく食事にありつけると目を輝かせる食蜂を見やりながら御坂は思う。私も大分毒されて来たなと。
衣食住全てを食蜂に賄って貰っている以上強気に出れない事もそうだが、御坂自身にゆとりやらしさ……
そう言ったものが鈍麻しているのには訳がある。それは神裂なる女性が放った忘れようにも忘れられない

神裂『――――“上条当麻”はもう“死んだ”のです――――』

御坂「(……生きてるよね?死んだなんて嘘に決まってるわ)」

あの言葉が胸に、耳に、頭にこびりついて離れず、空腹を覚えど食欲が湧かぬ程の重圧を御坂に齎し――
24: >>1 2013/01/11(金) 23:35:36.98 ID:bpYk7R6AO
~16~

食蜂「そう言えばぁ」

御坂「何よ」

食蜂「貴女と上条さんもぉ、こんなところでお食事したりしたぁ?あらぁ、意外とイケるじゃないこれ」

御坂「あいつと?ないない!だって、二人で入ったお店なんて、ファミレスのジョセフくらいしか……」

ナイトブルーに輝く街の灯りに学園都市を思い出しながら御坂と食蜂はテラスレストランで向かい合う。
丁度御坂がトマトスープとマスカルポーネの、皮まで甘い酸味と濃厚なチーズの味わいに舌鼓を打ち――
食蜂が兎のテリーヌとフォワグラムース&ピスタチオブレッドのトーストを齧りながら聞いて来たのだ。
出会ってから半年、付き合ってから半月に満たない御坂と上条の蜜月を。どこか真摯な眼差しを向けて。
それが上条の名前を出されて痛むより早く御坂の胸を打った。こういう顔もするんだ、と少し見直して。

御坂「あいつ、いつもお金無くてさ。公園で水飲んで空きっ腹満たしてる所なんて見てたら可哀想でね」

食蜂「うん」

御坂「一回だけ、料理作ってあげた事あんの。このトマトスープみたいなのと一緒にパスタも作ってさ」

食蜂「………………」

御坂「冷蔵庫に残ってた材料かき集めて作っただけなのに、泣いて喜んでたな。安い男だった、本当に」

そこで御坂も話して行く内に、次第に心の整理のようなものの、取っ掛かりが見えたような気がして……
向かい合う食蜂がファーマーシェイプのマトンとラムのグリルを綺麗に切り分けて口に運びながら頷く。
ジュワッ!と舌に広がる肉汁が熱いのか口を開く事はないが、目が続きを促している。それはまるで――

御坂「――あー、この茄子のソースちょっと辛い。涙出て来た」

食蜂「………………」

御坂「後はゲーセンでカーレースしたり遊園地行ったり。本当にそんなもんよ。特別な事は何もないわ」

レストラン内に並ぶ石柱にかかる、十字架を思わせる窓枠の影と相俟って、それは死した者を語るよう。
御坂もまた、ラムの蒸し焼きに茄子のソースを口に運びつつ、目尻を拭いながら思う。自分は上条を――
自分を捨て、インデックスへ走った上条を、心の底から憎む事が出来ない自分を再確認して安堵した。が

食蜂「……相変わらずねぇ」

……相対する食蜂の笑みに影が落ちたのは、光の加減か否か――

25: >>1 2013/01/11(金) 23:36:09.76 ID:bpYk7R6AO
~17~

御坂「……ってあんた本当に追われてる自覚あんの!?うわっ」

食蜂「十対九☆だからこそぉ、ソーホーにも遊びに出掛けないでこんな所でスカッシュしてるんじゃない」

夕食を終えた後、二人はホテル内にあるヘルスクラブにてウェアを借りてスカッシュコートへと向かった。
今も御坂が汗でグリップを滑らせ、打ち損ねたボールがフロントラインまで届かず食蜂に九点目が入った。
スカッシュとはロンドン発祥の球技で、屋内にてラインの引かれた壁に向かって交互に打つ庭球の一種だ。
そのルーツは刑務所内の囚人が持て余した時間と限られたスペースで始めた暇潰しとも言われている。だが

食蜂「次私のサーブ☆」

御坂「……ありがとう」

食蜂「せー、の?あれ」

御坂「本当に有り難う」

食蜂にサーブ権が移り、いざ打ち込まんと腕を振り上げた所で御坂が頭を下げ、ボールが空振り、弾む。

御坂「前にあんたが私達にした事は許さない。赦せない。だけど今日あんたが居てくれなかったら……」

食蜂「………………」

御坂「私、あのまま強制送還されてたか、この寒空の下で、追っ手に怯えながら一人ぼっちで震えてた」

食蜂「………………」

御坂「それだけは感謝してる」

それを御坂が拾い上げて手渡そうとして、食蜂の手指に触れる。
だが食蜂の冷たさが、御坂の温かさに伝わる前に指先が離れた。

食蜂「……それぇ!」

御坂「ちょっと!?」

食蜂「十対十☆油断力は大敵で禁物よぉ。これでイーブンねぇ」

御坂「この卑怯者!」

その舌の根も乾かぬ内に食蜂がサーブを叩き込み、油断した御坂がボールを返し損ねてラケットを振る。
だが食蜂もまたヒョイとかわして逃げ、ラケットを後ろ手に持ち、肩越しに振り返りながら微笑みかけて

食蜂「頭なんて下げないの。貴女らしくないわよぉ御坂さん☆」

御坂「あんたにらしさを語られるほど、親しい仲だったっけ?」

食蜂「貴女の取り巻きとは違う、貴女の“敵”としてならねぇ」

御坂「………………」

食蜂「私ほど貴女を良く知ってる“敵”はいないって自負力ならあるわぁ。そういう意味で私は貴女を」

御坂「食蜂……」

食蜂「イーブン(互角)の敵と認めてるからこそ塩を送るの☆」

飛ばされたウインクに高鳴った御坂の鼓動は、果たして激しい有酸素運動によるものか、はたまた――

26: >>1 2013/01/11(金) 23:36:37.88 ID:bpYk7R6AO
~18~

御坂「(……ママよりデカい。しかも細い。私より色白い。後ろから見るとヴァイオリンみたいで……)」

食蜂「たまにはこういうのも悪くないわねぇ。ハーブスチーム」

御坂「(同じ女としてムカつく!何よヴァイオリンだって中国語で訳せば“美琴”よ!って不毛過ぎる)」

食蜂「……御坂さん?女同士減るもんじゃないけどぉ、目垢が付くからあんまりジロジロ見ないでねぇ?」

御坂「!」

スカッシュを終えた後、御坂と食蜂はハーブの焚かれたスチームルームに入って共に汗を流していた。
温室を思わせる硝子張りのスチームルーム内の長椅子に並んで腰掛けながら御坂は食蜂を見て思った。
細金細工のような髪、ストラディバリウスを思わせる肢体に同じ性別に生まれ同じ世代に育って尚――

御坂「べっ、別に!そんなの見て喜ぶのは男の子だけでしょう」

食蜂「素直じゃないなぁ。特別に触らせて上げても良いわよぉ」

御坂「いっ、いいわ!私は黒子と違ってノーマルなの!ストレートなの!って無視すんなやゴラァァァ!」

余りある格差が齎す懸絶、隔絶、断絶を一足跳びに身を乗り出して来た食蜂の谷間が御坂の腕に触れた。
それを肘で突き返して感じる、水をも弾く弾力と涙を溜める肌。『涙の谷』とは聖書も言った物である。

食蜂「裸の付き合いもたまには悪くないでしょう?それともぉ」

御坂「うっ……」

食蜂「人と触れ合うのが、深く繋がるのが、そんなに怖いの?」

その一節にあるように、食蜂の手が傷ついた雀を包むように隣り合った御坂の手に触れると指先が震えた。
御坂はそれに反駁出来ない。反論出来ない。反抗出来ない。反撃出来ない。何故ならばそれが事実だから。

御坂「……わかんない。ただ一ヶ月前から駄目になっちゃった」

食蜂「………………」

御坂「あいつと、あの女の事があってから、苦手になったかも」

上条をインデックスの下へ行かせまいと、純潔を引き換えに繋ぎ止めようとして結局捨てられた経験が。
御坂を憎む故に、白井を愛する故に、結標が白井をレイプする映像を見せ付けられた忌まわしい記憶が。

御坂「私もう男の子を好きになれないかも知れない。黒子みたく女の子を愛する自分すら想像も出来ない」

元を糾せば自分の撒いた種なんだけどねと御坂は自嘲しつつ――

御坂「先にシャワー浴びる。ごめん、あんたが悪いんじゃない」

27: >>1 2013/01/11(金) 23:39:37.42 ID:bpYk7R6AO
~19~

……こうして冷たいシャワーを浴びてると思い出すわ。あいつと最後に別れた日の朝の凍えるような雨を。
黒子が歯形やら爪痕やら痣やらキスマークを付けられて、ボロ雑巾みたいにされてお風呂で泣いてたのも。
あいつの事ちっとも振り切れてない。。自分の事少しも吹っ切れてない。何て情けない顔してんのよ、私。
あいつに抱かれる前の私もこうして鏡に映った自分を見てた。水滴が目元に流れ落ちて泣いてるみたいで。
何て女々しいんだろう。女の子だけど、女の腐ったみたいな今の自分が情けなくてどうしょうもなくて……

御坂「……うっ」

込み上げて来る。お腹一杯になって、身体もあたたまって緩んだ箍が外れて涙が溢れそうになる。駄目……

食蜂「……御坂さん?」

――駄目、こんな時背中を抱き締められたら振り解けなくなる。

食蜂「泣いてるのぉ?」

一人でだったら思いっきり泣けるのに一人ぼっちじゃ立ち上がれる気がしない。私は何て弱いんだろう。
陳腐な不幸に打ちのめされて、チープな悲劇に酔って、挙げ句大嫌いな女の腕に背中を黙って預けてる。
大事な黒子や、大切な友達の前で見せられない涙が、その正反対の位置にいる女の前で流してるなんて。

食蜂「………………」

温まらない身体の芯、折れたままの心の芯。自分を支えられない、自身を保てない、自信を無くした私。
嗚呼、何で黒子がボロボロになっても結標淡希の側から離れられなかったのかちょっとだけわかったわ。

食蜂「……へえ、大嫌いな私になら触られても平気なんだぁ?」

氷中花みたいに凍てつかせた心には、伝わる体温は劇薬で、伝わる人肌は麻薬で、伝わる鼓動は毒薬だ。
情け無い顔を見られたくなくて伏せる。それを食蜂が両手で包み込んで来る。涙で暈けて目が見えない。
食蜂の顔が見えない、前が見えない、明日が見えない。ただ何となく、薄ぼんやりわかる。唇が見える。

食蜂「御坂さん……」

私の頬を撫でる掌、涙を拭う指、まるで私の他の誰かを、私の中に何かを探しているように感じられ――

食蜂「――“美琴”」

えっ――……

28: >>1 2013/01/11(金) 23:40:31.23 ID:bpYk7R6AO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アナウンス『We have an anouncement to call our guest……』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
29: >>1 2013/01/11(金) 23:41:05.56 ID:bpYk7R6AO
~20~

御坂「!?」

アナウンス『Ms. Joanna Drayton from San Francisco, your friend is waiting for you at the……』

食蜂「どこからからか嗅ぎ付けられたようねぇ。犬みたいにぃ」

突如として入ったアナウンスにハッと御坂が我に返り、食蜂が動きを止め、二人して聞き入るその内容。
サンフランシスコから来たジョアンナ・ドレイトンとは映画『招かれざる客』のヒロインの名前である。
予め食蜂が洗脳していたホテルマンに仕込んだ符丁の意味する所は『追っ手が来た』という意味である。

御坂「どうして……」

食蜂「わからないけど、どうやら相手の方が一枚上みたいねぇ」

シャワーも出しっ放しのまま、呆然とする御坂を捨て置いて食蜂は脱衣場に戻って携帯電話を手に取る。
まずはホテル内で洗脳した警備員、警官から奪い取った無線、両方に指示を飛ばしながら身体を拭いて。
そこでようやく御坂もおっとり刀で駆け付け、手早くタオルで身体を拭いてウールニットに袖を通した。

御坂「(どうしようもしここでつかまったらにどとあいつに)」

だが髪を拭く食蜂の冷静さの半分も御坂は取り戻せていなかった。火照る身体から抜け切らぬ熱のように。
さっきは何とか切り抜けられたが、次も上手く行く保証などどこにもないし誰にも出来ない。だがしかし。

食蜂「集中なさい!」

御坂「――――――」

食蜂「……そう、落ち着いて?打ち合わせ通りにやれば大丈夫」

蒼白に彩られた御坂の頬にピシャリと手を添え、食蜂が微笑む。まるで玉座から立ち上がる女王のように。
それがさながら初夜を迎える前の姫君のように緊張した御坂から強張った肩の力を抜かせるに一役買って。

御坂「――もう大丈夫。私がヘマしたらあんたも危ないもんね」

食蜂「そうよぉ。呉越同舟とは言え今の私達運命共同体だしぃ」

無線から入る二百人という絶望的な数の包囲網を破る手立てを模索しながら食蜂が御坂に背を向けて来る。
御坂は思う。何故、さっき食蜂は自分を下の名前で呼んだのか?そもそも食蜂が御坂と組む真の目的とは?

御坂「あんたと仲良く心中なんて真っ平御免よ。だって私――」

天使の羽の名残さえ感じさせない美しい肩甲骨を晒しながら食蜂が嗤う。メフィストフェレスのように。

30: >>1 2013/01/11(金) 23:41:38.93 ID:bpYk7R6AO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―――――御坂「あんたなんて」食蜂「大嫌いよぉ」―――――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
31: >>1 2013/01/11(金) 23:42:10.37 ID:bpYk7R6AO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
破之舞: 「メフィストフェレスの黙示~Elevator Action~」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
32: >>1 2013/01/11(金) 23:42:41.94 ID:bpYk7R6AO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
――超電磁砲(レールガン)と心理掌握(メンタルアウト)が交差する時、物語は始まる――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
33: >>1 2013/01/11(金) 23:45:28.52 ID:bpYk7R6AO
~21~

上条『ぐっ!』

神裂『はあっ、はあっ』

アニェーゼ『………………』

一ヶ月前、聖ジョージ大聖堂。中央に設えられた説教壇を巻き込みながら上条はもんどり打って倒れた。
その顔に勢い良く叩き込まれた神裂の本気の拳を受け、アニェーゼはそれらを取り巻く皆の中にあって。

アニェーゼ『これ以上やらかしちまったら死んじまいますよ?』

ステイル『本望だろうさ。そのつもりで来たんだ。この馬鹿は』

上条『……イン、デックスに、会わせて、くれ、ステイル……』

ステイル『………………』

上条『……神裂』

感情的な神裂、直情的なステイルに比べて心情的には上条に味方してやりたかった。それは取りも直さず

アニェーゼ『(この男はそういう男でしたね。“法の書”の時も“アドリア海の女王”の時も今みたく)』

一方ならぬ恩義がある故でありそれは神裂と気持ちを同じくしていた。この男は守る物や、取り返す者……
それがあれば世界すら敵に回す事さえ躊躇わない。今もインデックスが戻った必要悪の教会にただ一人で。
そう、たった一人で彼女を連れ戻すために徒手空拳で殴り込みに来たその気持ちを汲んでやりたかったが。

アニェーゼ『……貴方は今の学園都市とイギリス清教がどうなってるか本当にわかってて来たんですか?』

上条『……関係ねぇ』

アニェーゼ『………………』

上条『これは俺とインデックスの問題だ学園都市は関係ねぇ!』

統括理事長が斃れ、最大主教が倒れ、共倒れとなった科学サイドと魔術サイドの未だ燻ぶり続ける火種。
その渦中にあってこの男は、その火中に飛び込んで来た。だがその言葉を待っていたかのようにして――

ステイル『……ならば今君が僕に焼き殺されようとも学園都市は一切関知しないと言う事かい?上条当麻』

上条『………………』

神裂『ステイル!?』

紅き炎剣と蒼き焔剣とで十字を切って構え、赫怒を宿した冷厳たる眼差しで倒れ込んだ上条の前に立つ。

上条『……そうだ』

ステイル『――彼女の為に生きて死ぬというのか上条当麻!!』

上条『そうだ!!』

見下ろし、瞼を閉じ、眦を決し、炎剣を上条目掛けて振り上げて

アニェーゼ『――!!』

――そして一人目の『上条当麻』が戦ったステイルの目の前で、二人目の『上条当麻』は『死んだ』。

――そして時は流れる事一ヶ月後――

34: >>1 2013/01/11(金) 23:45:55.24 ID:bpYk7R6AO
~22~

アニェーゼ「(どうしてこんな時に思い出しちまいますかね)」

ホームレス「へい確かに見ました。間違いなくあのホテルです」

ルチア「……ご協力有り難うございます。貴方に神の御加護があらん事を。シスター・アンジェレネ!」

ラ・メリディアン・ピカデリー前にて252人からなる『アニェーゼ部隊』を展開させた隊長こと――
アニェーゼは敷地内外に人員を配置し、突入準備を終え、アンジェレネがホームレスに謝礼を手渡す。
そのホームレスは御坂と食蜂を広場で鳩達にパン屑を撒きながら見ていた初老の男である。それは――

ルチア「記憶を司る能力者、対象がピカデリー・サーカスにいるという彼の読みは当たりでしたね……」

アニェーゼ「手回しした顔写真がなかった事にされてたのは驚きでしたが、まあ当たってみて正解です」

ルチア「………………」

アニェーゼ「私も昔はああやって地べたを這いつくばって人と世を見て来ました。その時の経験からで」

アンジェレネ「なっ、何だかホームズの“ベイカー・ストリート・イレギュラーズ”みたいですね!!」

ルチア「シスター・アンジェレネ!遊びではないんですよ!!」

アニェーゼ自身、路上生活者として生きて来たからこそわかる。ホームレスとはただ単にゴミ拾いや――
炊き出しを貰いに列を成すだけで糧を生きている訳ではない。例えば街中を行き来する人々を見やり……
例えば商店の壁に書かれた落書き。それを行った者の後をつけ、家や名前を特定し、商店の人間に報告。
すると後日商店の人間が犯人に損害賠償を請求し、報告したホームレスはその何%かを謝礼に受け取る。
それ以外にも具に街を見、人を見、得た情報を金銭に変える。言わば屋根を持たない情報屋なのである。

アニェーゼ「……ですがあのホームレスに当たらなければわかりませんでしたね。よほど隠蔽と偽装に」

ルチア「長け、秀でている証拠でしょう。ホテル内の人間は籠絡されていると考えて行動しましょうか」

アニェーゼ「そうしちまいましょう。天草式でさえ出し抜いた上条当麻の元恋人が相手ですからね――」

その事に一抹の苦渋を覚えながらアニェーゼはルチアとアンジェレネを脇に従え、ホテル内へ突入する。

アニェーゼ「骨ないし手足の一、二本は考えてといて下さいよ」

――神よ、と十字を切って。

35: >>1 2013/01/11(金) 23:46:21.62 ID:bpYk7R6AO
~23~

ルチア「ですが所詮は子供ですね。追われている身でありながらこんなお高いホテルに泊まるだなんて」

アニェーゼ「いえ、理から外れてますが地の利には適ってます」

アンジェレネ「?」

アニェーゼ「一本道を強いるって言う意味合いでは。これだと突入出来る人数も自ずと絞られちまいます」

アニェーゼは二人を従えながらずんずんとメインロビーを横切り、非常用エレベーターを目指して進む。
繁華街の真っ只中、駅から徒歩二分という立地から部隊の殆どは出入り口の封鎖や人払いの術に割いた。
更にこのホテルを境に西と東に警察署があり、大人数で雪崩れ込めば宿泊客から通報される恐れもある。
ましてや締め上げたフロント曰く対象は最上階のエグゼクティブフロアにいる。即ちアニェーゼ達も――
部下達に確保させた専用エレベーターを除けば、この非常用エレベーター以外にルートがないのである。

警備員「………………」

アンジェレネ「お話、通ってるんですよね?手振ってますけど」

ルチア「軽薄ですね。無視しなさい、シスター・アンジェレネ」

イギリス清教とある程度話の通じているホテル側の警備員の笑顔を余所に三人はエレベーター前へ立つ。
アニェーゼは蓮の杖、ルチアは車輪、アンジェレネは硬貨袋、各々の武器を取り出し、ボタンを押した。
階数は九階、部屋数は266。乗り込む場所が広々としたフロアで、尚かつ切り離されているのが良い。
万が一にも宿泊客を巻き込む事は避けられるし、自分達の得物を存分に振り回すだけのスペースがある。
後は御坂達を説得ないし無力化し、学園都市へ強制送還する。子供の駄々に付き合っている暇などない。

アンジェレネ「あの、対象は軍隊を相手にしても戦えるくらい強いんですよね?確か御坂美琴とかって」

ルチア「そうですね。協力者がまだいるようですがそちらの方はデータ不足で何とも言えませんが……」

アニェーゼ「誰であろうとやる事は決まってます。協力者も同程度の戦力を有してると考えて――っと」

アレイスターも余計な負の遺産を残してくれたものだと内心吐き捨てた所でエレベーターの扉が開いた。
そこでアニェーゼが頭を切り替え、ドアから離れて左右に別れ、中に誰もいない事を確認して乗り込む。
そして専用キーを使って階数ボタンの蓋を開け、エグゼクティブの『E』を押して、扉を閉じた所で――

36: >>1 2013/01/11(金) 23:48:55.69 ID:bpYk7R6AO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
御坂「――悪く思わないで。私もあんた達を恨まないから――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
37: >>1 2013/01/11(金) 23:49:23.88 ID:bpYk7R6AO
~24~

アニェーゼ「上!?」

―――――“0”―――――

グランドフロアを意味する0階に点灯表示されると同時に、エレベーターの天蓋を開けて御坂が着地し。

ルチア「しまっ……」

―――――“1”―――――

そこで気付く。非常用であるが故に狭く小さいエレベーター内ではルチアが車輪を爆発させられないと。
もし炸裂させたならばアニェーゼやアンジェレネまで巻き込んでしまうと言うまさに一瞬の迷いごと――

御坂「ふっ!」

ルチア「!?」

―――――“2”―――――

アニェーゼ「アンジェレネ!」

―――――“3”―――――

御坂の紫電を纏わせた掌底がルチアの鳩尾を打ち抜き、失神させる。だがそれはルチアのみならず――
硬貨袋を猛禽類の狩りのように飛ばして戦うアンジェレネに取っても、エレベーター内は鳥籠同然で。

御坂「ごめん!」

アンジェレネ「(バリツ!?)」

―――――“4”―――――

ルチアが倒れた刹那、身を竦ませたアンジェレネの手首を取って足を払い、ガン!と投げ、叩きつける。
後頭部を壁に打ちつけて、ガクンと気絶するアンジェレネ。ここに至るまで僅か三秒足らずの電撃戦……
事前にエレベーターの速度を最高にまで調節した筐体はグングン上昇し、そこでアニェーゼが蓮の杖を!

アニェーゼ「――よくも二人をやってくれやがりましたね!!」

―――――“5”―――――

振りかぶり、薙ぎ払おうとしてガツンと手すりに当たり、勢いを殺された杖を御坂が頭を下げてかわす!
密室における長物の取り回しの困難さは棒術を修めた者でさえ避けるという。しかし御坂はそこから――

御坂「(やるしかない!)」

アニェーゼ「ぐはっ!!?」

―――――“6”―――――

折り畳んだ右肘でアニェーゼの顎をかちあげ、勢いもそのままに左バックハンドブローでこめかみを

アニェーゼ「があっ!!?」

―――――“7”―――――

打ち抜き、アニェーゼは目蓋の裏に火花が散り、蹈鞴を踏んで眦を決したところでハッと我に返った

アニェーゼ「(いない!?)」

―――――“E”―――――

次の瞬間、密室にあって御坂の姿が忽然と消え、扉が開いて――

38: >>1 2013/01/11(金) 23:50:51.83 ID:bpYk7R6AO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
食蜂「Don't Bother to Knock♪(ノックはいらないわよぉ)」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
39: >>1 2013/01/11(金) 23:51:35.11 ID:bpYk7R6AO
~25~

開かれた扉、出迎える食蜂、銃を構える警備員達、磁力で天井に張り付く御坂、そしてアニェーゼへ――
ドガガガガガガガガガガ!と降り注ぐ弾雨が、エレベーター内の姿見が砕け散るまでに吹き荒れて行く!

アニェーゼ「があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああぁぁぁぁぁ!」

それは、英国にて発生した2011年8月暴動に対し用いられた暴動鎮圧用プラスチック弾頭ゴム弾。
日本並に銃規制が強く、かつ国内に大きな火種を抱えた英国警察ならびに軍隊が生み出したそれは――
一発一発がヘビー級ボクサーのパンチ力に匹敵し至近距離かつ当たり所によっては後遺障害すら齎す。
そのゴム弾を全身に受け、アニェーゼは酔漢のように踊り狂わされ、全身の毛細血管が破裂するような

食蜂「すごい威力ねぇ☆」

警備員「はっ」

食蜂「私にも一つ頂戴♪」

アニェーゼ「がはっ……」

未曽有の衝撃を受けてアニェーゼは力尽きた。旱天に焼かれた蚯蚓のように、のた打つ事さえ出来ない。

御坂「(……こうなる前にこの子を無力化出来ていれば……)」

そこで天井に張り付いて射線上から退避していた御坂がストンと降り立ち、苦渋に満ちた目で見下ろした。
ここまでせねばならないのかと。しかし食蜂はそんな御坂を、左目に呆れ、右目に諦めを宿して見やった。

食蜂「さてとぉ。パッパッと上条さんの情報力を引き出すとしますかぁ。それで良いんでしょ?御坂さん」

御坂「……約束して。もうこれ以上この子達を傷つけないって」

アニェーゼ「ぐぅ、おぉ、ぜー……、はー……う゛、う、ぅ!」

そんな食蜂の眼差しを、御坂は真っ向から見返せなかった。必要以上に相手を傷つけず、血を流さず……
生け捕りにして情報を引き出すためにふるう暴力に、踏み出せない一歩と踏み越えられない一線に御坂は

食蜂「貴女のした事と私のする事の線引きは誰が決めるのぉ?」

御坂「………………」

食蜂「早く引っ張り出してエレベーターの電源力落としてぇ。三分以内に脱出しないと間に合わないわぁ」

足踏みしていた。『貴女の正義が誰かを殺す』と結標に喝破された時のような重い鉛が胸に沈んで行く。

御坂「……わかった」

そして――
40: >>1 2013/01/11(金) 23:53:53.63 ID:bpYk7R6AO
~26~

アニェーゼ「くっ、私を拷問にかけようとか、二人を人質にしようとか思ってんなら大間違いですよ……」

食蜂「………………」

アニェーゼ「私達は」

食蜂「――無駄よぉ」

アニェーゼ「!!?」

食蜂「私の力から逃れられるのは、この世に“二人”だけよぉ」

エレベーターから三人を引っ張り出し、エグゼクティブフロアの備品を使って両手両足を縛り付けて――
今アニェーゼは毛足の長い絨毯に転がされており、それを食蜂がリモコン片手に冷め切った目で見やる。
御坂はこの場にいない。エレベーターホールへと向かい、非常用電源を切って、後続部隊を足止めする。
他にもハッキングして乗っ取った監視カメラ、警報機、脱出の準備などに追われている。残り一分半……

食蜂「質問その1☆どうしてここまでして私達を追い返す必要力があるのかしらぁ?答えてちょうだい♪」

アニェーゼ「ぐっ、あ゛あぁあ゛あぁあ゛あぁあ゛あぁ!!?」

リモコンの巻き戻しボタンを押し、狂信的とも言える信仰心を、心的外傷を抉り出して楔を打ち込んだ。
アニェーゼの脳内にプルースト効果など比にならないほどの再生力をもって鮮明に、克明に蘇る原風景。
殺された両親、ミラノの裏通り、レストランの裏手、ゴミ箱の中、捨てられた肉の残り、這いずる蛞蝓。
ネズミの死骸の抜け毛、ゴキブリのもげた羽、ぐちゃぐちゃ、グチャグチャ、噛み潰すだけの日々が――
アニェーゼというワインボトルを揺さぶり、舞い上がる泥のような澱から食蜂は真実を掴み取って行く。

食蜂「髑髏の山、十字架の丘、腐った果物、割れた砂時計、壊れた楽器、カタコンベ、“地獄の門”?」

蝉の抜け殻を拾い集める少女のように無邪気に、蝉の羽を毟り取る少年のように残酷に、食蜂は触れる。
何百人もの心の闇を見つめ、何千人もの心の傷に触れて来た食蜂の真の恐ろしさとは能力などではない。
それらをワインのように飲み干しつつ、酔いもしなければ満ちもしない、異形の在り方と異常な有り様。

食蜂「質問その2☆上条さんは生きてるのぉ?死んでるのぉ?答えくれないと貴女の大切な信仰心……」

アニェーゼ「ぐっ、がっ、お゛おぉお゛おぉお゛おぉー!!!」

食蜂「――貴女の大事な幻想(かみさま)ぶち殺しちゃうゾ☆」

アニェーゼ「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ー!」

――残り一分。

41: >>1 2013/01/11(金) 23:54:20.14 ID:bpYk7R6AO
~27~

御坂「………………」

エレベーターホールにまで響き渡るアニェーゼの断末魔に、御坂は歯を食いしばり、固く目を閉じた。
パソコン画面上では突入後三分以上応答のないアニェーゼを探して、シスター達が雪崩れ込んで来る。
だが自分達のいるエグゼクティブエリアへ通じる専用と非常用エレベーターは御坂がシャットアウト。
アニェーゼが救い出されるのは自分達が脱出し、エレベーターが復旧してからだ。だがそれまでに……

食蜂「終わったわぁ」

御坂「……あの子は」

食蜂「“終わった”」

そこで食蜂がリビングルームから戻って来た。まるでお手洗いから戻って来た女子のような足取りでだ。
その手にはルチアとアニェーゼの修道服。内一着が御坂に手渡され、残り香のような体温に顔を顰める。

御坂「……何したのよ」

食蜂「――ああいう信仰心とか忠誠心とか信念力の強いタイプから“引き出す”には力業しかないのぉ」

御坂「何したかって聞いてんのよ!情報だけ取り出せれば――」

食蜂「それが上条さん絡みの情報であっても私を責めるのぉ?」

そんな食蜂の在り方と、アニェーゼの有り様を思うと、御坂の胸裏に沈む鉛が否応無しに重さを増した。
今も、アニェーゼから引き出した上条の情報に御坂は一瞬怒りを忘れた。そんな自分がひどく呪わしい。
食蜂無しに上条の手掛かりは得られなかったろう。自分では脅迫はかけられても拷問にかけてまでは……

食蜂「何回も言わせないでぇ?ここは貴女の正義力や友情力なんかが通じて報われる学園都市じゃないの」

御坂「……わかってる!」

食蜂「わかってないわぁ」

そのくせ上条だけは諦められない。だのに手を汚せない。だから脱出の下準備に御坂は『逃げ込んだ』。

食蜂「わかってるくせに」

そんな御坂の脇をすり抜けて食蜂がすれ違う。しかし御坂の足はアニェーゼの元へ向けられる事はない。

食蜂「毒を食らわば皿までぇ☆それが出来ないならサッサとテーブルから下りて帰り支度を始めなさい」

――御坂には、食蜂の能力は防げても能力は解けないのだから。

食蜂「メインディッシュは、聖ジョージ大聖堂。行くわよぉ☆」

42: >>1 2013/01/11(金) 23:54:47.47 ID:bpYk7R6AO
~28~

ステイル「――突入開始から三分、応答無し、やられたか……」

シェリー「追跡に天草式、包囲にアニェーゼ部隊、適材適所って言えばそうでしょうけど、裏目に出たな」

ステイル「……アニェーゼ部隊に連絡!60秒後に再突入を開始!指向性をカットして総動員であたれ!」

シェリー「(あらあらムキになっちゃって。本当にガキだね)」

一方、ステンドグラスに映ったホテル全体像を見やりながらステイルは歯噛みし、シェリーが鼻で笑う。
ウエストミンスター・ブリッジを挟んで必要悪の教会まで最早目と鼻の先まで迫りつつある敵に対し――
シェリーはかつて学園都市に攻め込んだ時に見せた攻撃性を、残り香程度にまで薄めていた。それは偏に

シェリー「(“死んだ”人間の墓を暴きに来るんじゃねえよ)」

鼻白むシェリーが腕組みしながら眺めていたステンドグラス内では、遂にアニェーゼ部隊が動き出した。
どうやら非常用エレベーター、専用エレベーターが止められたらしく非常階段から壁面から徒歩で行く。
その間も各フロアの出入り口から何から人を残し、文字通り人海戦術で蟻の這い出る隙間さえ与えない。
数の暴力が武装した修道女達に擬人化したかのような眺めの中、シェリーははたと気づく。そこには……

シェリー「これかしら?学園都市から来やがったガキってのは」

ステイル「今話し掛けないでくれないか。気が散って仕方ない」

シェリー「御坂美琴、それからアンノウン?おい、この女、後ろ姿しか映ってないぞ顔写真や能力は?」

一ヶ月に叩き壊され、新しく取り替えられたばかりの、ステイルが指揮を執る説教壇に散乱する書類……
ヒースロー空港で隠し撮りした御坂と後ろ姿のみの少女の写真。シェリーの眉が顰める。それはまるで。

ステイル「名前もわからない協力者だ。顔を見たのは神裂と五和だけ、能力は恐らく記憶を司る何かだ」

シェリー「違うわ」

曲がりなりにも神に仕える者の端くれとして、シェリーの霊感が囁いている。後ろ姿のみだがわかると。

シェリー「――こいつは“悪魔”だ」

ジリリリリリリリリリリ!

ステイル「!?」

その時、警報機が作動した

43: >>1 2013/01/11(金) 23:57:06.39 ID:bpYk7R6AO
~29~

ステイル「何だと!?」

最初に作動したのは火災報知器、次いでスプリンクラー、加えてホテルスタッフによる退避アナウンス。
次々と血相を変えた宿泊客達が部屋を飛び出し、武装した修道女達を見て恐れ戦き、更には防火扉が……
コンピューター制御によるシャッターが逃げ惑う人々を遮るように下り、二重の意味で恐慌状態となる。
そこへ計ったようなタイミングで駆けつけて来る警察、消防、救急車。事前に呼んでおいたような手際。
それを外を固めていたメンバーが押し留めようとするが、内から飛び出してくる宿泊客は止められない。

ステイル「――奴等は混乱に乗じて脱出するつもりだ!一人も中に入れるな!外にも出すんじゃない!」

修道女A『無理デス、止メラレマセン!!キャアアアアア!?』

修道女B『警備員が攻撃して来ます!何で、どうしてなの!?』

修道女C『こちら非常階段突入部隊、隔壁閉鎖で進めません!』

修道女D『七階通路、消火用ハロンガスが発生、視界困難!!』

修道女E『対象ヲバンケットルームデ確認!直チニ拘束シ――』

修道女F『対象をテラスレストランで捕捉☆追跡なさい早く!』

修道女G『違う!誰かが回線に割り込んでる!惑わされるな!』

修道女H『最上階にてルチア、アンジェレネを確保しました!』

修道女I『アニェーゼ様?アニェーゼ様!アニェーゼ様が!!』

シェリー「(――失楽園に出て来る蛇みてえな手際良さだ。吠え哮る混沌を見事にコントロールしてる)」

そこでシェリーが後ろ姿のみのピンぼけ写真を放り投げて席を立つ。もはや彼女等には手に負えないと。

ステイル「――どこへ行くつもりだ?シェリー・クロムウェル」

シェリー「ポーン、ナイトと取られりゃビショップの出番だよ」

更には駅前という立地から、仕事帰りの英国人、通りすがりの外国人までもがホテル前に群がって来る。
緻密に、綿密に、精密に計算された混乱、混戦、混沌。パトカー、消防車、救急車が交通網を堰き止め。

シェリー「お前はルークよ。キングとクイーンを守る最後の盾」

踵を返すシェリーは見た。ホテル付近からヨタヨタと動き出して、いきなりアクセルを開ける一台の――

ステイル「……残存兵力をホワイトホースからビッグベン、ウエストミンスターブリッジへ集結させろ!」

盗んだロータスエリーゼを運転する二人組の“修道女”の姿を。

44: >>1 2013/01/11(金) 23:57:33.22 ID:bpYk7R6AO
~30~

御坂「ぎ、ギアめちゃくちゃ重い!えーと、次にトップギア?」

食蜂「下手くそぉ。ゲームでやった事あるって言ったくせにぃ」

御坂「だったらあんたが運転代わりなさいよ!うわーっうわっ」

食蜂がアニェーゼ達から奪った修道服が、御坂が盗んだロータスエリーゼからポイッと投げ捨てられる。
二人は今、ホテルから脱出してホワイトホースをひたすら走っている。彼方にはビッグベン、そして橋。
無論、無免許運転。ハンドルを握る御坂も上条とゲーセンでやったカーレースゲームを除けば初乗りだ。

食蜂「ちょっとぉ!?真っ直ぐ走らせなさいよぉ!ああもうこんな事なら運転手ごと奪っちゃえば……」

御坂「それは駄目!」

食蜂「………………」

御坂「……これから本丸に乗り込もうって言うのに無関係の人間をこれ以上巻き込めない。綺麗事だけど」

一月のロンドンの夜は寒く、気温は一桁。二人が走るテムズ川から吹き付ける風はそれより更に冷たい。
その車上で御坂は事前に頭に叩き込んだ道筋をトレースしハンドルを切る。まるでボニー&クライドだ。

御坂「……あんだけ大騒ぎ起こしといて今更って感じだけどさ」

食蜂「本当よねぇ。もっと効率力良くやれる方法あったのにぃ」

御坂「(……あんたが最初に出したプランだと人死が出るわ)」

かのホテルにおける脱出プランは、食蜂が打ち出した計画に御坂が最小限の被害で済むよう手を加えた。
ホテルのハード面は御坂、ソフト面は食蜂が担当した。その内容は先の混乱状態を見ればわかるだろう。
二人は追っ手と一般人と官憲の飽和状態を作り出し、車まで奪ってここまで逃れて来たのだ。全ては――

御坂「(ううん、私も自覚症状が足りないだけで他の人から見たらもう十分イカレてるんでしょうね)」

食蜂「♪」

御坂「(こいつも頭はいいけどイカレてる。こんな時鼻歌混じりで夜景見るなんてまともじゃないわ)」

上条に会う為に。その為にこの悪魔と契約を結んだのだ。この橋を越えた先にある聖ジョージ大聖堂……
そこに全ての答えはあると食蜂は言い、御坂はそれを信じた。否、信じたかったのもかも知れないと――

御坂「!!!」

ビッグベンを左折し、ウエストミンスターブリッジの中程に差し掛かった時、道路上に立ちはだかるは。

シェリー「――よう」

学園都市に攻め込んで来た、忘れようもない『ゴーレム』の影。
45: >>1 2013/01/11(金) 23:58:23.51 ID:bpYk7R6AO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
黄鐘早舞: 「橋上の戦い~Metamorphose~」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
46: >>1 2013/01/12(土) 00:00:50.22 ID:DfwHrfDAO
~31~

シェリー「止まれ。動けなくさせられたけりゃ話は別だけどね」

御坂「――食蜂車お願い。いつでも出せるようにしといて……」

食蜂「そうさせてもらうわ。私は謀略担当、貴女は暴力担当☆」

ビッグベンを背に御坂がロータスエリーゼから降り、ブリッジの中程に立ち塞がるシェリーへと歩み寄る。
ぐずぐずしていれば追っ手が駆け付けて来る。シェリーの背後、ブリッジの出口にも続々と集結している。

御坂「……あいつに会わせて。そうすれば私は投降するなり帰国するなり何なりする。あの女も無関係よ」

シェリー「馬鹿かテメエ。そりゃまるでこんな風に聞こえるわ」

御坂「………………」

シェリー「“そうしてくれたら見逃してやる”って。与太吹いてんじゃねえぞガキ。ガキならガキらしく」

御坂「そう。ならガキらしく我が儘を押し通させてもらうわ!」

バリバリと、夜霧に濡れた地面から水蒸気が発生するほどの紫電を迸らせながら御坂が臨戦態勢に入る。
対するシェリーもまたビッグベンに比するほど巨大なゴーレムの肩に乗りながら歯を剥き出して笑った。
食蜂は食蜂で運転席側に移り、ボボボボボと空ぶかしし、エンジンを暖めながら回転数を維持し見やる。

シェリー「――最後に一つだけ、聞いても構わないかしらね?」

御坂「……何よ」

シェリー「あの女はテメエの友達?それとも単なる協力者か?」

御坂「……友達じゃないし、協力者でもない。強いて言うなら」

シェリー「………………」

御坂「事情はあるけど今のあんたと同じ、敵みたいなもんよ!」

シェリー「そうか」

手を貸してくれる仲間も手を差し伸べてくれるヒーローもいない。いるのは敵の女とまだ敵ではない女。
話し合いの余地も歩み寄りも余地も分かり合う余地も何もなく、ただ殺し合う他ないとシェリーは嗤う。
牙を剥き出し唸りを上げる獅子にも似た獰猛な笑みに呼応するかのように、エリスが地響きを立てて――

シェリー「――Intimus115(我が身の全ては亡き友のために)」

轟ッッッッッ!と迷い無く振り上げられたエリスの拳が、天上より見下ろす月に重なり振り下ろされて。

御坂「!」

大気を震わせるほどの衝撃と、響き渡る轟音がウエストミンスターブリッジを揺るがせ、戦闘が始まる。

47: >>1 2013/01/12(土) 00:01:16.89 ID:DfwHrfDAO
~32~

ドオオオオオン!と榴弾砲で炸裂したかのような鉄拳が一秒前に御坂の立っていた地面に爆心地を残す。
振り下ろされた拳から腕部へと駆け上りながら、右拳を回避した御坂が砂鉄の剣を生み出し走り抜ける。
オイルパステルでゴーレムを操るシェリー目掛けて、飛び石伝いから左足で踏み切り右手で切りかかる!

御坂「はああああああああああああああああああああー!!!」

シェリー「甘いんだよ!」

しかしその切っ先がシェリーを捉えるか捉えないかの距離に生まれる、シェルターにも似た土壁が――
バキィィィィィ!と砂鉄の剣を阻み、弾き、跳ね返し、散らす火花が落ちて消えるよりも早くエリスの

シェリー「太刀筋も!考えも!覚悟も!何もかもが甘いのよ!」

左手が御坂を捉えようとして薙ぎ払われ、御坂が更に跳躍してそれを回避し、月面宙返りより欄干に立つ。
だがエリスは止まる事なく、見上げた御坂の視界を覆うほどの巨大な足で踏み潰しにかかり更に横っ飛ぶ!
そして御坂が左手を軸に地面に付き、側転しながら右手で電撃を走らせシェリーを狙うが、またしても――

シェリー「はっ!」

シェリーを中心に展開する土瀝青の防壁が電撃を遮断し飛散させ、代わってエリスの掌より放たれる――
速力を加えた砲弾並みの岩石、散弾銃並みの砂利が打ち返され、御坂が飛び退いた空間が蜂の巣となる。
エリスを自動制御に切り替え、パステルオイルで専門とする地の魔術をふるうシェリーが御坂を見やる。
元より対衝撃・耐熱・電気絶縁に優れた性質を持つアスファルトをこの橋から吸い上げて形成している。
これを破るには最低でも人一人を死に至らしめるだけの威力が必要だ。だが御坂がそうしない理由を――

シェリー「何だ」

御坂「………………」

シェリー「おかしいと思ったのよ。天草式の損害は0、さっきの突入でも一般人にすら被害を出してない」

御坂「(この女!)」

シェリー「――良いさ。甘ったるい美学ごと墓穴に埋めてやる」

看破したシェリーがエリスに命じる。自らの作品が気に入らなかった時に叩き壊す芸術家としての表情で。


更にそこへ――


ルチア「――異教徒お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」

御坂「!?」

車輪を担いで口角から泡を飛ばし、目尻が切れるほど血走った眼球を見開いたルチアが飛び込んで来た。

48: >>1 2013/01/12(土) 00:01:44.46 ID:DfwHrfDAO
~33~

食蜂「本当に甘々ねぇ御坂さん。追いつかれちゃったじゃない」

シェリーと御坂の死闘が始まる一方では、アニェーゼ部隊の残党が続々とブリッジ入口へと集結して来た。
その先頭には新たな修道服に身を包み、怒りに我を忘れたルチア。これで退路まで断たれたかに見えたが。

修道女A「バック!?」

修道女B「して来る!」

修道女C「きゃあっ!」

ルチア「Dia priorita di cima ad attacco Il! nemico di Dio e ucciso comunque!!(攻撃を重視、防御を軽視!玉砕覚悟で我等が主の敵を殲滅せよ!!)」

迫り来る集団へ、食蜂はギアをバックに入れ、フルアクセルで踏み込んで突っ込み修道女達を蹴散らす。
そこでルチアが檄を飛ばし、ロータスエリーゼのボンネットに飛び移り車輪を振り上げ叩き潰さんと――
した所で食蜂がギアを一段飛ばしでセコに入れ、取り付かんとしたルチアを勢い良く躊躇い無く撥ねる。
それによりルチアがボンネットに乗り上げ、顔面をフロントガラスに突っ込み罅割れが広げながらも――
しがみついたルーフから車輪を振り下ろし、今にも突き破らんとするルチアを振り落とさんと加速する!

食蜂「――私もゴーカートくらいしか乗った経験力ないけどぉ」

ジクザクに車道と歩道を隔てる壁に車体をぶつけて壊し、サイドミラーをへし折りながらトップギアへ!
その間にもルチアは揺さぶられながらも右手で車輪を遮二無二に爆破させ、左手でしがみついて抗った。
更に食蜂がハンドルを限界まで切り、半ば片輪走行で欄干に火花を散らしながら更にオーバートップへ。
だがついにルチアの車輪攻撃がロータスエリーゼの薄いルーフを突き破り、生まれた裂け目から侵入し!

食蜂「乗車拒否するわぁ!貴女、私の好みじゃないもんねぇ!」

ルチア「ごっ、がああああああああああああああああああ!?」

ガウンッガウンッガウンッガウンッ!と食蜂が左手にハンドル、右手には先程警備員から受け取った……
対暴動鎮圧用プラスチック弾頭ゴム銃を裂け目へ向け乱射し、ルチアが右目を押さえて振り落とされた。

シェリー「通行止めだ!落ちろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

食蜂「!」

そこへ、シェリーの操るエリスの剛腕が車体を吹き飛ばして――

49: >>1 2013/01/12(土) 00:03:56.40 ID:DfwHrfDAO
~34~

御坂「食蜂ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

シェリーと鍔迫り合う中で振るわれたエリスの拳が、ロータスエリーゼごと食蜂を薙ぎ払って宙を舞う。
その光景がかつての記憶に重なる。旧電波塔帝都タワー。そこから御坂の手を拒み火の海に落ちた結標。
次の瞬間、御坂はシェリーから背を向けエリスから踵を返し、テムズ川より上がる水柱へと飛び込んで!

シェリー「そうかい。ならば橋桁ごと沈むが良いわ。エリス!」

修道女D「囲め!逃がすな!顔を上げた所で狙い撃て!構え!」

修道女E「陣形を組め!詠唱を重ねよ!我等が主の敵を討て!」

修道女F「シスター・ルチア!救護班!負傷者の回収を急げ!」

テムズ川に没した二つの水柱目掛けてエリスがブリッジへ鉄拳を振るい、瓦礫の砲弾が次々と着水する。
一方でビッグベン側から対岸にかけてアニェーゼ部隊が次々と魔術を叩き込み、御坂達を討たんとして。

御坂「(マズい!)」

今にも氷が張りそうなほど冷たく、闇夜も相俟って視界の利かぬテムズ川の中を御坂は必死に泳いで行く。
水没するロータスエリーゼの反射光を頼りに進むも、水上から放たれる瓦礫や魔術が機雷のように爆ぜる。
ズシッ!ズシン!と水底の泥土を舞い上げ、三半規管が震え、今にも切れそうな息を止め、そしてついに。

食蜂「………………」

御坂「(食蜂!?)」

視界0に等しい中触れた車体に取り付く御坂が見たもの。それは閉ざされた車内で泡と共に揺蕩う食蜂。
ブクブクブクブクと車内で沸き立つ水泡が向かう、ルーフの裂け目から意識を失った食蜂へ手を伸ばす。
届かない。回り込んでドアに手をかけるも水圧が邪魔しビクともしない。このままでは溺死してしまう。

結標『ここは貴女の思い描く身勝手な世界の終わり』

脳裏に過ぎる、自分の手を払いのけ火の海に落ちた結標の言葉。それが水底に落ちて行く食蜂に重なる。

結標『正義の名の下に人を傷つける貴女だって、所詮は私と同じ側の人間よ』

胸裏に過ぎる、白井の命を救って闇に沈んだ結標の笑顔。罅割れたフロントガラスが自分の心に重なる。

結標『―――貴女なんかに私の世界は“救わせない”――――』

バキバキバキバキと罅割れて行く心。広がる亀裂から溢れ出るそれは、光よりも激しく瞬く『雷光』――

50: >>1 2013/01/12(土) 00:04:45.60 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
御坂「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
51: >>1 2013/01/12(土) 00:05:14.68 ID:DfwHrfDAO
~35~

その瞬間、夜より暗く闇より深いテムズ川に渦巻く波濤と逆巻く奔流が、水底より昇る太陽のような……
三対六枚の水浅葱の翼が、ロータスエリーゼを掴んで水柱と共に夜空に舞い上がるのをシェリーは見た。

シェリー「(まるでユスリカの羽化だ。なんて美しいの……)」

電磁力を最大にし、クレーンのように吊り下げたロータスエリーゼのガラスを叩き割って御坂は吠える。
それによって車内を満たしていた水を吐き出し、食蜂を引きずり出し、ロータスエリーゼをエリスに――

御坂「落ちろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

引き寄せた電磁力の位相を反転させ、エリス目掛けて投擲し、拉げたタンクが引火し、爆発炎上させる。
辛うじてエリスの掌でロータスエリーゼを防ぐも、思わずシェリーが蹈鞴を踏むほどのそれは正しく――
学芸都市で顕現化した水翼の再現。『稲妻』の名を冠する幻の蝶アグリアスが如く輝き、瞬き、煌めいて

シェリー「撃墜術式用意!」

修道女D「駄目です!術式が発動しません!!どうして!!?」

羽化を迎えて羽撃き、闇夜に紫電の軌跡を描いてシェリーへと襲い掛かる!それは蝶と言うよりも――

シェリー「(しまったわ!飛ぶんじゃなくて落ちて来て――)」

猛禽類を思わせる急降下、爆撃機を想わせる錐揉み飛行で御坂が肉薄しシェリーの土瀝青の防壁を――

御坂「あああああああああああああああああああああああ!!」

シェリー「しまっ……」

焼き切るほどの雷撃の槍を放ってこじ開け、吹き飛ばし、すれ違い様に構えたコインで狙い撃つは――

シェリー「ぐはっ!?」

次の瞬間、一分間に八発しか撃てないレールガンを、僅か一秒の間にエリスとブリッジに叩き込み――
御坂はゴーレムを崩壊させ、ブリッジを瓦解させ、包囲網を粉砕し一撃離脱で闇夜の彼方に消え去る。

シェリー「……悪魔め」

ポツポツと本格的に降り出した雨に濡れるビッグベンの彼方へ。

ようやく掴んだ手掛かりも、得た足掛かりも全てを捨て去って。

意識を失った食蜂を抱き、御坂は雨の中を逃げ出したのである。
52: >>1 2013/01/12(土) 00:07:41.99 ID:DfwHrfDAO
~36~

御坂「目を開けてよ!返事してよ!起きてよ!お願いだから!」

食蜂「――――――」

御坂「食蜂!」

シェリー達を振り切り、御坂はロンドン市内であるという事以外右も左もわからぬ路地裏の廃屋にいた。
日本ではあまり見られない半地下フラットであり、当然の事ながら家具はおろか毛布一枚見当たらない。
壁紙すらないコンクリートの打ちっ放しの床面が、ずぶ濡れになった二人の曲線に合わせて染みを描く。
御坂はまず食蜂の身体を横向け、背中を叩いて、水を吐かせて、何度となく頬を張り、呼び掛け続ける。
反応が返って来ない。口元に耳を翳す、呼吸が感じられない。胸元に耳を当てる、鼓動を微かに感じる。

御坂「(やるしかない!)ファーストキスだったらごめんね!」

右手を額に当て、左手を顎に添え、気道を確保する。既に三分以上経過している。このままでは危うい。
右手で鼻を摘み、唇を重ねる。ゾッとするほど冷たく、柔らかい。息を吹き込み、豊かな胸元を見やる。
一秒かけて二度息を吹き込むと動いた。気道は塞がっていない。水を吐かせたのが幸を奏したのだろう。

御坂「(動け!動け!動け動け動け動け動け動け動け動け!)」

息を吹き込む、泥水の味がする。息を吹き込む、冷たい舌を感じる。息を吹き込む、真っ青な唇が動く。

食蜂「げほっげほっげほっげほっげほっげほっげほっげほっ!」

御坂「(やったわ!呼吸が戻った!良かった!間に合った!)」

食蜂の真っ白な肌が震え真っ青な唇が動き、御坂が口を離し手を退かす。しかし喜ぶにはまだ早過ぎる。
息こそ吹き返したものの、頭を強打している可能性と、下がりきった体温が齎す危険性は無視出来ない。

食蜂「寒い……寒い……」

御坂「服、脱がせるわよ」

食蜂「はぁ、はぁ、はぁ」

御坂「(電気もガスも水も通ってないんじゃ、こうするしか)」

御坂が食蜂の衣服を脱がせ、自らも下着を外して抱き寄せる。身体を揺すり、肌を擦り、体温を上げる。
毛布などと贅沢は言わない、せめてカーテンでもあれば良かったのだが、半地下フラットに窓など無い。

食蜂「うっ、うっ」

御坂「大丈夫……」

食蜂「んっ、んっ」

天上から降り注ぐ雨、地上へと流れ落ちる水の音に追っ手の足音を聞き逃さぬよう、小声で囁きかける。

御坂「大丈夫……」

自分に言い聞かせるように。

53: >>1 2013/01/12(土) 00:08:08.77 ID:DfwHrfDAO
~37~

ここで見つかったら無条件降伏しようと心に決めた。『他人を巻き込みたくない』なんて言っといて……
もう十分巻き込んでるじゃない。とばっちり食らわせてるじゃない。本当にもう何やってんだろう私……
危うく死ぬ所だった。私じゃなくて食蜂が死ぬ所だった。そう思うともう私の事情なんてどうでもいい。

御坂「私のせいだね」

食蜂「………………」

御坂「本当にごめん」

もう色んな感情が、全ての絵の具を混ぜ合わせたみたいにグチャグチャで、そのくせ中身は白紙みたいだ。
あいつがいるかも知れない所まであと一歩だった。だけど食蜂が死ぬかも知れない所まであと一歩だった。
そう思うとあいつへの愛おしさや食蜂への憎らしさまで無色透明になって、点も線も面も結ばなくなった。

御坂「朝になったら、学園都市に戻ろう。それまでは私が……」

食蜂「………………」

御坂「私があんたを守るよ。最悪、あんた一人でも帰すからね」

愛しいあいつも、憎いこいつも、伝わる温もりと感じる暖かさは同じだった。こうしてると思い出すわ。
あの日もこんな風にあいつと裸で抱き合ってた。今はこいつを抱き締めてるって違いはあるけれども……
耳に感じる不規則的な雨音と、肌に感じる規則的な鼓動が連弾みたいに白黒の記憶を呼び覚まして行く。

御坂「情け無いけど帰りの飛行機代貸してね。私無一文だから」

食蜂「………………」

御坂「あっ、私パスポート無くしちゃったんだ。どうしょうか」

思い出したくない、だけど忘れたくない。こうして寝てるこいつに独り言でも呟いてないとおかしくなる。
もう突っ張る元気もない。もう突っ走る気力もない。お腹空いた、喉乾いた、身体が冷たい。心が寒いよ。
一人になったら死にたくなる。二人でいても死にそうになる。それを思うと涙が滲んで、溢れて、零れて。

御坂「う゛っうっぅ」

涙が止まらない。嗚咽が止められない。心細くて。心寂しくて。

自分の弱さ、自分の甘さ、自分の醜さに自分で自分が情けない。

これが映画(たにんごと)なら、ラストまで見ていられるのに。

これが小説(たにんごと)なら、泣いたり笑ったり出来るのに。

これが――

54: >>1 2013/01/12(土) 00:08:39.89 ID:DfwHrfDAO
~38~

御坂『これが最後か。まだ帰りたくない終わって欲しくない!』

上条『そう言うなって。また今度連れて来てやるからさ。な?』

あれは、あいつと恋人同士になって初めてのクリスマスの出来事だった。第六学区にあるオズマランド。
もういい加減日も暮れて、門限も迫って、閉園時間も近づく中、最後に飛び乗ったのは大観覧車だった。
本当は観覧車じゃなくたって良かった。メリーゴーラウンドでも良かった。お化け屋敷だって良かった。
もっと一緒に居たい。ずっと一緒に居たい。だから私は黙ってた。インデックスがイギリスに帰るのを。

御坂『えーっ、あんた補習ばっかりで全然休みの日も会えないじゃないの。だいたい先週の約束だって』

上条『悪い悪い。そう思ったからこそ今日は全部俺持ちって言ったろ?とほほ、年越せるかな上条さん』

そう言いながらスッカラカンの財布をひっくり返すあいつ、いい気味だって笑う私。景色なんて殆ど……
殆ど目に入って来ない。頭に入ってない。私はずーっと何も知らずに笑うあいつの横顔ばっかり見てた。
恋心とは違う痛み、愛情とは異なる高鳴りが、明かせない胸の内に突き刺さって、締め付けられて行く。

御坂『しっかりしてよね!帰省して一緒に年越しするって言ったじゃん。せっかくご近所さんなんだし』

上条『へいへい。嗚呼、そうそう。これ、クリスマスプレゼント。今の内に渡しておこうかなって……』

御坂『えっ!?』

上条『おいおい、そんなにびっくりすんなって。悪いなムードもへったくれもなくて。安物だけど――』

御坂『………………』

上条『メリークリスマス、美琴!あの、これからもよろしくな』

馬鹿ね。嬉しくて言葉にならなかったのよ。それに何?このタイミングとか本当に女心がわかってない。
……わかってたらとっくに気づかれてる。インデックスと私の間にある消えない蟠りも埋まらない溝も。
だけど受け取った指輪は安物なんかじゃなかった。けれどそれを、左手から心臓に繋がる血管の走る――

御坂『ありがとう当麻。あのね、私からもプレゼントがあるの』

上条『?』

御坂『……耳、貸して。一度しか言えない。一回しか言わない』

薬指に嵌めるのが怖くて、これからする事が恐くて、私は右手薬指にそれを嵌めた。そして私は言った。

御坂『                         』

悪魔に魂を売った。

神に喧嘩を売った。

これが
55: >>1 2013/01/12(土) 00:12:07.15 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
食蜂「そんな汚れた貴女も、私は嫌いじゃないわよぉ御坂さん」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
56: >>1 2013/01/12(土) 00:12:37.71 ID:DfwHrfDAO
~39~

御坂「!?」

食蜂「おはよう御坂さん☆おかげさまで助かっちゃったわぁ♪」

そこで御坂がハッと我に返るといつしか雨音は止んでおり、外から朝の訪れを告げる鳥の囀りが聞こえる。
気が付けば腕に抱き締めていたはずの食蜂の胸に掻き抱かれていた。何時の間に眠り込んでしまったのか。

御坂「あんた身体は大丈夫なの?(身体に力が入らない!?)」

食蜂「貴女よりはねぇ。動かない方が良いわよぉ。電池切れで身体が言う事聞かないの、わかるでしょ?」

目覚めた時、御坂は橋上の戦いで力を使い果たした代償を支払わされていた。身体に力が入らないのだ。
手足が粘土細工のように感じられ、口を開く事さえ億劫な倦怠感。文字通り燃え尽きて灰になったよう。
そんな御坂の頭を撫でながら笑む食蜂から察する。自分が酷く魘されあらぬ寝言で全てを吐露した事を。

御坂「……寝たふりしてたの?あんたってつくづく下衆な女ね」

食蜂「お互い様でしょ?さぁ、早くここを出て体勢力を立て直しましょ。今回は私がへましちゃったしぃ」

御坂「もういいの!」

食蜂「………………」

御坂「もう止めよう」

自己嫌悪に陥る自分を尻目に身支度を整える食蜂に御坂が短く、小さく、だがしっかりと叫んだのだ。
学園都市に戻ろう、捜索を打ち切ろうと。だがそんな御坂へ向き直るなり、食蜂が膝を突き合わせる。

食蜂「何よそれぇ?」

御坂「………………」

食蜂「私が死にかけたからって責任力感じてるのぉ?馬鹿ねぇ」

初めて合わさる目線の高さから御坂が視線を外す。この半地下室へ連なる階段に朝日が差し込んで来る。
それを受け食蜂の細金細工の髪に降り注ぎ、天使の輪と相俟ってさながら後光が広げた翼のように輝く。
御坂が唇を結び、食蜂が唇を綻ばせ、御坂が歯を食い縛り、食蜂が歯を零す。まるでヒトラーのように。

食蜂「こんな酷い目に合わされても、あんな夢見るくらい……」

御坂「ぅ」

食蜂「諦められない理由を、他人なんかに預けちゃ駄目よぉ☆」

御坂「う」

食蜂「私を助けてくれた借りも返させてくれないのかしらぁ?」

御坂「う゛」

消耗した肉体、磨耗した精神、愛する恋人に去られ、信ずる友人と離れ、右も左も明日もわからぬ御坂。
不安感を煽る地下室、神々しさを増す光、温かな手、柔らかな声、穏やかな笑みがその全てを掌握して。

57: >>1 2013/01/12(土) 00:13:27.43 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
食蜂「私が一緒に堕ちてあげる。美琴と一緒に、地獄の底まで」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
58: >>1 2013/01/12(土) 00:14:00.95 ID:DfwHrfDAO
~40~

ステイル「――“奴”の様子はどうだ?オルソラ=アクィナス」

オルソラ「食事にも、殆ど手をつけていらっしゃらないようで」

聖ジョージ大聖堂地下墓地。星一つ無い夜空を思わせる空間をステイルとオルソラ並んで歩みを進める。
何百と言う十字架の聳える丘に、何千と言う髑髏の山に足を取られぬように食事を載せたトレーを運ぶ。
罅割れた砂時計が引っ繰り返り、砕け散ったヴァイオリンが打ち捨てられ、腐り落ちた果実が転がって。

ステイル「無理矢理でも口に詰め込んで流し込んで腹に入れろ」

噛み千切り、吐き捨てた煙草がジュッと血の河に沈み、同時に憂いを帯びたオルソラの顔色がより沈む。
ステイルもやや言い過ぎたかと口を噤む代わりに新たな煙草に火を点け、代わってオルソラが口を紡ぐ。

オルソラ「もう一ヶ月なのでございますよ。そろそろ日の光に当たらないとそれこそ身体を壊して……」

ステイル「知った事か。僕に言わずに奴に言え。死に場所を見つけた男に同じ男として僕が言える事は」

オルソラ「………………」

ステイル「同じく“彼女”を愛した男として言える事は、“彼女の為に生きて死ね”。ただそれだけだ」

文字通り『地獄』に落ちた彼を思うオルソラと『地獄』に堕ちた彼女を想うステイルの間にある隔たり。
それを埋めようともステイルは思わない。それを越えようにもオルソラは力がない。ただ、立ち尽くす。

ステイル「――君の知り合いがとんでもない事をやらかしてくれたよ。まあもっとも“今”の君には……」

????「………………」

ステイル「“御坂美琴”と言う名前すらわからないだろうから、それについては脇に置いておくとしよう」

何万もの燭台に照らされ浮かび上がる『地獄の門』の前に跪き、祈りを捧げる『少年』の背中が見える。
その日を摘み、死を想い、空の空を司るヴァニタスそのものを具現化したような絶望の丘に、ただ一人。

????「――悪い、“御坂美琴”ってのは前の“上条さん”の友達でせうか?それとも恋人とか……」

痩けた頬まで髭を生やし、肩まで伸びた白髪を付け根から失われた右腕に代わって左手で払う、その姿は

オルソラ「はい」

インデックスが恋した『一人目の上条当麻』でも

御坂美琴が愛した『二人目の上条当麻』でもない

死して『救世主』となった『三人目の上条当麻』
59: >>1 2013/01/12(土) 00:14:45.84 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
神浄討魔「悪いけどさ、お前達もその子達も帰ってくれねえか」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
60: >>1 2013/01/12(土) 00:15:16.50 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
男舞: 「神の存在証明~oblivious~」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
61: >>1 2013/01/12(土) 00:17:48.91 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
私の神よ、私が貴方を忘れても、貴方は私を忘れないで下さい。

――トマス・アクィナス(神学者:1225年~1274年3月7日)――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
62: >>1 2013/01/12(土) 00:18:22.39 ID:DfwHrfDAO
~40~

イギリスに着いた日、食蜂がはしゃいで写メってたチョコレート会社の飛行船を見上げながら私は頷いた。

食蜂『可哀想な上条さん。インデックスって言う子を連れ戻しに言って、そのまま幽閉されちゃったの☆』

食蜂が言うには、インデックスがぶち壊したらしい聖ジョージ大聖堂のそのまた地下にある墓地に――
『地獄の門』が開かれたらしく、あいつはそこに閉じ込められたと聞いた。正直、俄かに信じがたい。

食蜂『信じるか信じないかは貴女次第。彼を助けに行くか行かないかも貴女次第。どうするぅ?御坂さん』

自業自得とねと鼻で笑ってやりたくなって、鼻白んだ。決まってる。助けに行く。救い出してみせる。
食蜂が引き出した情報によれば『在らざるモノ』だとか何だとか言ってだけど、そんなの関係ないわ。

御坂『人員、見取り図、そう言った情報も引き出せたんでしょ』

食蜂『勿論☆あと何か結界力とか言うのが張ってるらしいけどぉ、それを破る手立てもなくはないしぃ』

そう言いながら食蜂がスマートフォンを出して、画面上に077から始まる携帯番号を表示して笑う。
こいつの下衆な力に頼るしかない自分の汚さ、弱さ、醜さに顔を背ける。あいつに合わせる顔がない。

御坂『了解。けれど今度こそ本当に死ぬかも知れないから、後の事は私に任せてあんたは先に学園都市に』

射し込む朝日が逆光になって食蜂の笑った唇しか見えない。それが何だか怖くて私は目を閉じる事にする。

食蜂『ヤダぁ☆』

代わりに朝日より暖かい感触が唇に伝わって来る。温かい舌が入って来る。熱いくらい顔が火照って来る。

食蜂『……さっきのお返し☆やっぱり女の子の唇は違うわねぇ』

私の顔に、髪に、唇に触れて来る。まただわ。またこいつは私の中に『何か』を、『誰か』を探している。

食蜂『……クスッ』

ゾッとするくらい暗い眼差し、ゾクッとするくらい冷たい笑顔、ゾクゾクするくらいいやらしい手付きで。

食蜂『貴女は死なないわぁ』

私の肌を通して見えない何かを愛撫しているような、私の体を通して見えない誰かを慰撫しているような。

食蜂『――私が殺すから☆』

私にはそれが、インデックスの氷みたいな目よりも怖く感じて、結標淡希の炎みたいな眼より恐く思えた。

63: >>1 2013/01/12(土) 00:18:49.15 ID:DfwHrfDAO
~39~

オルソラ「――失礼するのでございますよ。シェリーさん、お加減の程は如何でございましょうか……」

シェリー「良いように見えるなら、ルチアと右目を取り替えな」

オルソラ「………………」

シェリー「……暫く鑿が持てないくらいよ。大丈夫、戦えるわ」

橋上の戦いから一夜明け、オルソラはランベス女子寮にあるシェリーの部屋を訪れるなり目を見開いた。
ベッドに横たわるシェリーの右腕は焼け爛れ、火膨れも破れ尽くして、思わず目を背けるほど痛々しい。
そのシェリーが右腕を押さえながら言う。神浄討魔(あいつ)と比べれば腕がついてる分まだマシだと。

オルソラ「腕をお出し下さいな。私にも、せめて痛みを和らげるくらいの事は出来るのでございますよ」

シェリー「好きにして。勝手にしろ。テメエの気が済むまでね」

そう言って焼け爛れた右腕を取り、自分以上に痛々しそうな横顔で回復法術を施すオルソラを見やった。

シェリー「……お前もうあいつの世話係止めろ。誰かと代われ」

オルソラ「……出来ません」

シェリー「お前までぶっ倒れたら誰がお前の面倒を見るんだ。私は嫌よ。お前、自分で気付いてないだろ」

オルソラ「………………」

シェリー「お前、笑わなくなったわ。いつも疲れた顔してる。今も泣きそうな顔してる。もう限界だろう」

窶れた横顔、色濃い隈、二人で一つの机に向かい、ペンを走らせていた面影が日に日に薄くなっていく。
シェリーは聖職者である前に、魔術師である前に芸術家だ。モデルの外見のみならず内面まで見通せる。
その言葉にオルソラは悲しげに微笑み、そして泣き崩れた。動かない右腕が、この時ばかりは恨めしい。

シェリー「(……“在らざるモノ”や、学園都市の超能力者共と切った張ったしてる方が余程楽だわ)」

共倒れに終わった科学サイドと魔術サイドの最終戦争。しかし今輪の際、アレイスターが残した爪痕……
それはロシア成教の殲滅白書が主に狩っていた『在らざるモノ』。それらがこの世界に溢れ出したのだ。
『地獄の門』。神の子が生まれたとされる日に、時限爆弾のように発動した術式。アレイスターの呪い。

シェリー「(土御門の立場が、この時ばかりは羨ましいわね)」

旧電波塔帝都タワー倒壊事件の際、土御門が電気通信ケーブル保守地下道にいたのはその為だったのだ。

64: >>1 2013/01/12(土) 00:21:20.36 ID:DfwHrfDAO
~38~

ステイル「五和は?」

神裂「復帰しました。アニェーゼやルチアの分まで戦いたいと」

ステイル「……アニェーゼは未だ廃人同然、ルチアはほぼ失明状態。確かに彼女達よりは余程マシだが」

昼頃、神裂はステイルと共に大聖堂にてロンドン市内の様々な場所を投影するステンドグラス前にいた。
大聖堂内のパイプオルガンを魔術的要素を組み込んだ音階で奏でる事で次々と風景が切り替わって行く。
だが御坂の姿も、食蜂の影も見受けられない。霊装の類を持たぬ超能力者のため、逆探知さえ叶わない。

ステイル「シェリーもやられた。取り逃がした君の失態だ神裂」

神裂「……はい」

ステイル「――奴の知り合いという事で、君が一縷の望みを見出し、生まれた迷いが招いた結果がこれだ」

神裂「……はい」

ステイル「殺せ」

神裂「………………」

ステイル「君がやらないと言うなら僕がやる。学園都市もアレイスター亡き後、協定違反を盾にするなら」

神裂「………………」

ステイル「むしろ喜んで彼女達を見捨てるだろう。ここは紳士の国だが、こうまでメンツを潰されて――」

神裂「………………」

ステイル「王室派、騎士派が黙っていない。向こうのトップが問題解決に直々に出張ってこない限りはね」

――そして、御坂達を生かして帰してやる事も最早叶わなくなった事を神裂はうなだれながら聞いていた。
上条の元恋人という事もあり、神裂も手心を加えてやらないでもなかったが、事態は既に『チェック』だ。
アニェーゼ部隊は隊長が廃人同然にされ、副隊長も取り返しのつかない痛手を負った。もう止められない。

神裂「(五和もアニェーゼもルチアも、あの、金髪の少女に)」

御坂の状況を確実に進展させながら御坂の状況を着実に悪化させる。まるでチェスの最終局面のように。

シェリー『気をつけろ。茶髪より、金髪の方が遥かにヤバいと私の霊感が囁いてる。あれは“悪魔”だ』

応援にかけつけた自分に、担架で運ばれながらそう語ったのはシェリーだったかと想起しつつも、神裂は

神裂「――戻ります」

ステイル「わかった」

神裂「……ステイル」

ステイル「なんだい」

神裂「……貴方は優しいですね」

ステイル「早く行け」

踵を返して説教壇を後にし、大聖堂の警護に回る事にした。ステイルもまた、見送る事はしなかった。

65: >>1 2013/01/12(土) 00:21:48.51 ID:DfwHrfDAO
~37~

神裂「(私より誰より、“上条当麻”から御坂美琴を託された貴方が一番苦しい立場でしょうに……)」

聖ジョージ大聖堂正門前に佇み、七天七刀を地面に立て、昨夜の雨が嘘のように美しい夕空を見上げる。
そして思う。ステイルにばかりに嫌な役回りをさせている自分の情けなさと、変わり果てた上条の姿を。
……もう一ヶ月もこんな空など見ていないだろう彼を。それを思うとオルソラではないが泣きたくなる。

神裂「(私はどこかで期待していたのかも知れません。御坂美琴、彼の元恋人だと言う、彼女ならば)」

そんな変わり果てた上条の姿を、知らぬ事とは言え英国まで追い掛けて来た御坂の心根が羨ましかった。
自分では無理なのだと。神に見捨てられた人々まで救うと誓った自分ですら“神浄討魔”は救えないと。

神裂「(……自分に出来もしない事を見ず知らずも同然の人間に望むなどという弱い心根だから……)」

アレイスターが自らの死と引き換えに世界中に撒き散らした呪詛、『地獄の門』が開かれたあの日――
神裂は、あの地下墓地に築かれた何千という髑髏の山の元となった『在らざるモノ』達と戦っていた。
必要悪の教会、騎士派、総力戦での封印。その中には学園都市から呼び戻されたインデックスも居た。
上条が追い掛けて来たのは、奇しくもその時であった。アレイスターを倒した『幻想殺し』の少年……
喉から手が出るほど彼の力が必要だった。十万三千冊の魔導書の知識を総動員しても焼石に水だった。
藁にも縋る思いだった。そしてステイルは言った。『インデックスの為に生きて死ねるか』と聞いた。

神裂「(――私は彼を、私達はあの子を、守れなかった……)」

全ての事情を聞かされ、アレイスターの残した負の遺産と、インデックスの命が懸かっていると聞き……
上条が黙って見ていられるはずがなかった。そして、結果として『地獄の門』の封印には成功したが――
聖ジョージ大聖堂は半壊。そのため、結界も外敵より内部の『地獄の門』に傾注せねばならなくなった。

神裂「(それどころか彼等を人柱のようにしてしまった私に)」

必要悪の教会、騎士派、共に多くの犠牲者を出し、その最たる存在こそがインデックスと上条であった。

神裂「……日が落ちるのが早くなりましたよ“上条当麻”――」

そして――

66: >>1 2013/01/12(土) 00:22:15.42 ID:DfwHrfDAO
~36~

食蜂「準備力は大丈夫ぅ?」

御坂『――いつでもOKよ』

夜半、食蜂は『干上がった』テムズ川の畔に佇み今にも雪が降り出して来そうな空を見上げながら話す。
右手にスマートフォン、左手にリモコン、全ての準備は整い、時は満ちた。後はGOサインを出すのみ。

食蜂「アハハハぁ、出来るだけ派手に大暴れしてねぇ?あとぉ」

御坂『――私は死ぬ気で行くけども、一人も殺す気はないから』

食蜂「………………」

御坂『そこだけは譲れない。これだけは譲らない。例え、私が』

食蜂「私」

御坂『………………』

食蜂「私を見殺しにしてでもそうしたいならそうしなさいよぉ」

相手の顔が見えない事もあってか、食蜂の顔に笑みはない。食蜂が笑う事を止めたのはこれで二回目だ。
それを受話器越しに御坂も感じ取ったのか、御坂も黙り込む。そこで食蜂が沈黙を破るように敢えて――

食蜂「――冗談よぉ☆危なくなりそうだったら逃げ出すからぁ」

御坂『そうして。初めに言った通り命の保証なんて出来ないわ』

御坂を奮い立たせるよう明るく振る舞う。ここまで来て余計なトラブルは御免だと自分に言い聞かせて。
そう、全てはこの日の為、この時の為、この瞬間の為に、逸る胸の奥に息づく、氷中花の記憶を宥める。

食蜂「(やっと)」

『えと……』

あの日の出会いを食蜂は永遠に忘れない。

食蜂「(貴方に)」

『こちらのお嬢さんは?』

二度目の出逢いを食蜂は永久に忘れない。

食蜂「(会える)」

例え、『彼』が全てを忘れてしまっても。

『“しょくほう”、って何か読み難いし、呼び難い名前だよな』

――誰にも語られる事のない幻想(ストーリー)、紐解かれる事のない御伽噺(フェアリーテイル)――

『だけど“みさき”って良い名前だよな。だってさ、字の中に』

偽者(ふたりめ)など御坂にくれてやる、贋者(さんにんめ)などインデックスにくれてやる。しかし

『“いのり”って入ってるだろ?幸せを祈る、神様に祈るって』

本物(ひとりめ)だけは譲れない。

食蜂「――行くわよぉ☆」

本当(ひとりめ)だけは譲らない。

御坂『――行くわよ!!』

叩け、天国の扉。

67: >>1 2013/01/12(土) 00:25:38.65 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
神舞: 「今にも落ちてきそうな空の下で~Gods message~」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
68: >>1 2013/01/12(土) 00:26:52.15 ID:DfwHrfDAO
~35~

その異変に真っ先に気付いたのは、天草式十字凄教率いる神裂。

神裂「――あれは!?」

建宮「どうしました?」

浦上「何か見えますか」

対馬「私には何も……」

大聖堂前に陣取りビッグベンの彼方に瞬く月を見上げながら顔を強張らせる神裂、訝しむ建宮と天草式。
同様に浦上と対馬も夜空を見上げるも何も見えない。だが8.0もの視力を誇る『聖人』には『視える』

アンジェレネ「……キャドバリーの、飛行船型アドバルーン?」

そこへ倒れたアニェーゼ、動けぬルチアに代わってアニェーゼ部隊の指揮を取るアンジェレネが加わる。
その手には二人が用いていた蓮の杖と車輪、そして血讐を誓う武装した修道女達が一様に夜空を仰いだ。

シェリー「魔術防護を最優先に!結界を最大限に!来るわよ!」

同じく自動制御に切り替えたエリスの肩へと、吊した右腕を庇いながら佇むシェリーの声音が響き渡り――

神裂「総員配置について下さい!対象は“空”から来ます!!」

テムズ川が干上がる程の大質量の水翼を先頭に、『飛行船』達が渡り鳥が如く群を成し空の軍勢となって!

~34.5~

御坂「――降下角度!座標高度!相対速度!問題無し!到達点まで30秒!カウントダウン、スタート!」

轟ッッッッッ!と学芸都市で手にした水分子の翼で、ロンドン上空を戦闘機のように御坂は突っ切る。
上条を救う為ベツレヘムの星に突入して来た時と同じ、目が飛び出したまま凍てつきそうな風の中を。
英国で最もポピュラーなチョコレート会社の宣伝用飛行船団(ひつじ)を率いる『羊飼い』となって。

食蜂『OK☆“快適な空の旅をお楽しみ下さい”なんてねぇ!』

食蜂がアニェーゼから引き出した情報は聖ジョージ大聖堂、上条関連のみならず魔術にまで行き渡った。
そこで打った策とは、宣伝用アドバルーン飛行船団による降下作戦。だがこれはあくまで『目眩まし』。
出来る限り大仰に、わざと衆目に姿を晒す事により『本命』に意識を向けさせない為のスケープゴート。

御坂「30!29!28!27!26!25!24!23――」

食蜂『22!21!20!19!18!17!16!15――』

そして遂に、飛行船団が聖ジョージ大聖堂上空に差し掛かり――

69: >>1 2013/01/12(土) 00:30:09.69 ID:DfwHrfDAO
~34~

アンジェレネ「Viene una persona dodici apostli Lo schiavo che rovina un mago mentre e quelli che raccolagono(来たれ!一二使徒の一つ!微税吏にして魔術師を打ち滅ぼす卑賤なる僕よ!)」

アンジェレネ率いるアニェーゼ部隊が地上から『飛翔』し、水翼を羽撃かせる御坂目掛けて襲い掛かる。
その手には三つの硬貨袋が、重力の虹に逆らって大気を切り裂いて御坂へと放たれ、修道女達が続いた。

修道女A「アニェーゼ様の!」

修道女E「シスター・ルチアの!」

修道女I「仇ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

御坂「(14!)」

硬貨袋の内一つ目を旋回運動でかいくぐり、魔力で操られる二つ目を磁力で干渉し、三つ目とぶつける!
それがメイスを振りかぶる修道女に激突し、御坂は水翼を鞭のようにしならせて飛行船へと叩き落とす。
その背後から西洋剣で切りかかる修道女を、吹き付けて来る乱気流に乗って宙返りし、距離を開けて――
犇めく飛行船団の中へ誘い込み、追いすがって来る修道女の持つ刺叉をバレルロールの動きで回避する!
逆に制動をかけられずに刺叉を持った修道女が飛行船の軽金属装甲に激突し、甲板に落とされ気絶して。

アンジェレネ「吻っ!」

御坂「(13!)」

粗方無力化した矢先に、流星のようにルチアから受け継いだ車輪を振り回して来るアンジェレネが迫る。
御坂はそれを水翼で受け止め、車輪が爆発し、飛び散る破片が降り注ぎ、右腕に食い込み血が吹き出す。

御坂「(12!)」

アンジェレネ「把っ!」

鬼気迫るアンジェレネの追撃に、御坂は飛行船団を飛び石伝いに、ジェット噴射のようにその場を離脱。
されどアンジェレネはアニェーゼから受け継いだ蓮の杖を構え、車輪の破片でガリガリとこすりつけて!

アンジェレネ「Tutto il pasagone Il puinto dei chnque elementi ordina la canma che mostra pece ed oreine prima segua la di Dio ed una croce Dut cose diverse sono connesse」

御坂「(11!)」

――距離を取った御坂を、見えざる衝撃と鈍い音が打ち据えた。

御坂「……10!」

70: >>1 2013/01/12(土) 00:30:47.27 ID:DfwHrfDAO
~33~

神裂「アンジェレネが押さえている今の内です!撃墜術式、詠唱!一つも撃ち漏らしてはなりませんよ!」

建宮「はっ!」

牛深「はっ!」

野母崎「はっ!」

香焼「はっ!」

諌早「はっ!」

対馬「はっ!」

浦上「はっ!」

五和「ハッ!」

――――“9”――――

アニェーゼの弔い合戦、ルチアの仇討ちに燃えるアンジェレネの、誰もが予想しなかった奮戦により……
神裂が天草式に命じ、次々に飛行船に対する撃墜術式へと取り掛かって行く。同時に神裂も抜刀して――

神裂「御坂美琴は私が取り押さえます!手出しは無用ですよ!」

――――“8”――――

そして神裂も飛翔し、アンジェレネの加勢に回らんとする。それを見上げていたシェリーが舌打ちした。

シェリー「(理にも合わないし、利にも叶っていない。何故)」

――――“7”――――

尚も上空で切り結ぶ御坂達を見やる。あの金髪の少女がいない。シェリーが悪魔と称したあの少女が……

シェリー「(闇に乗じる利を捨ててまで正面突破に拘る!?)」

――――“6”――――

これすらもあの悪魔的な少女の策の内なのかと疑うシェリーが、大聖堂の守りを固めんとしたその時――

シェリー「(五和?)」

――――“5”――――

ただ一人、その場から何時の間にか姿を消した五和に気付いた。

~32.5~

御坂「(4!)」

アンジェレネ「わっ、私は貴女を許しません!絶対に許しません!かっ、神が許しても私が許しません!」

蓮の杖による座標攻撃を受け、額から流す血に片目を塞がれた御坂へ、尚も不可視の空間攻撃が襲った。
上下、前後、左右と360°襲い掛かるそれは戦闘機のように飛び回る御坂への見越し射撃のように――
前髪を掠り、裾を破り、肌を切る。強烈なGを歯を食いしばって耐え、水翼を逆噴射させて回避して行く。

アンジェレネ「私の大切な人達を……」

御坂「(3!)」

アンジェレネ「返して下さいよ!!!」

御坂「(2!)」

その間に天草式が飛行船に撃墜し、一機、二機と聖ジョージ大聖堂へと墜落して行き、残す所はあと一機。
蓮の杖を振り回すアンジェレネが足場にする飛行船上をつかず離れず、血を流して時間を稼ぎ、そして――

アンジェレネ「ああああああああああああああああああああ!」

神裂「アンジェレネ!」

御坂「1!」

――――“0”――――

71: >>1 2013/01/12(土) 00:31:34.19 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
食蜂「―――――“時よ止まれ。お前は美しい”―――――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
72: >>1 2013/01/12(土) 00:34:36.17 ID:DfwHrfDAO
~32~

その瞬間、聖ジョージ大聖堂を覆う魔術防護の結界が砕け散り。

神裂「!?」

御坂「はああああああああああああああああああああー!!!」

アンジェレネ「えっ」

防戦一方だった御坂の水翼が、アンジェレネを一撃で薙ぎ払い。

修道女A「承リマシタ」

修道女E「――食蜂様」

御坂と切り結んでいた修道女達がピッと言う音と共に、撃墜された飛行船団から幽鬼が如く立ち上がり。

修道女A「女王ガ敵ヲ」

修道女E「排除セヨ!」

建宮「どう言うつもりなのよな!?お前達はアニェーゼ部隊の」

更には天草式へと襲い掛かる。ラ・メリディアン・ピカデリーへ突入したアニェーゼ部隊『だけ』がだ。

神裂「アンジェレネ!」

御坂「(今しかない)」

まさに一瞬の出来事だった。城壁が破られ兵士が寝返り追い詰めていた者達が追い詰められるという――
起こり得べからざる出来事に、飛翔する神裂の集中が逸れた間隙を縫って、御坂が入れ違いに降下する!

御坂「(やるしかない)」

第二次世界大戦、イギリス本土上陸作戦、通称『バトル・オブ・ブリテン』にてその悪名を轟かせた……
悪魔の雄叫びを思わせるサイレン、地獄へ向かうかのような急降下、Ju78『ヘルダイバー』が如く。

御坂「当たれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇー!」

聖ジョージ大聖堂目掛けてレールガンを放たんとし、急降下爆撃で上条の居る『地獄の門』を目指して!

~31.5~

食蜂「さてとぉ」

五和「オ待チシテオリマシタ、食蜂様。道案内ハ私ニオ任セヲ」

食蜂「お疲れ様ぁ☆それじゃあお願いするわねぇ“誰かさん”」

ル・メリディアン・ピカデリーで手駒にした何十人かのアニェーゼ部隊と、天草式が戦うのを尻目に――
食蜂は五和が破った結界の裂け目から内部へ侵入する。まるで以前からの知り合いのように肩を叩いて。

食蜂「(何かの時に使えると思ってかけておいた改竄力がこんな形で役立つなんて思わなかったわぁ)」

M4でのカーチェイスの際にかけた、特定の言葉を機に作動する後催眠とも言うべき洗脳が功を奏した。
先兵となった五和の洗脳が完璧な物であると確認すると、食蜂はスマートフォンを切って聖堂内を行く。

――――だがしかし――――

シェリー「――“悪魔”が神の家の敷居を跨いでんじゃねえよ」

食蜂「!」

73: >>1 2013/01/12(土) 00:35:23.55 ID:DfwHrfDAO
~31~

神裂「させませんよ!」

御坂「(ワイヤー!)」

高度300メートルより錐揉み飛行、レールガンの最大射程距離50メートルまで急降下で迫るも――
それより早く神裂が聖ジョージ大聖堂の十字架へ鋼糸を投擲し、空中で急加速して追いすがって来る。
片手にアンジェレネを抱えたまま、鳩を追い抜く鷹のように、弓から放たれた矢のように襲い掛かる!

神裂「――“唯閃”!」

御坂「(早過ぎる!)」

『唯閃』を唱え『聖人』の持ちうるポテンシャル全てを引き出して、御坂を追い抜きざまに鋼糸を操り!

神裂「――“七閃”!」

御坂「(ヤバい!!)」

四方八方から抜刀と同時に鋼糸が乱舞し、御坂を捕らえんとし、御坂は水翼を逆噴射させても遅きに――

御坂「だああああああああああああああああああああー!!!」

逸すると判断し、水翼をしなる鞭のように振り回しウォーターカッターの原理で鋼糸を切り裂いて行く!
されど攻撃に転じた一瞬を見逃さず、神裂が舞い散る鋼糸と飛び散る飛沫ごと、七天七刀を振り下ろす。
先程に倍する刀鳴が響き渡り、鍔迫り合う暇さえ与えず二人は垂直落下しながら翼と剣で火花を散らす!

~30.5~

シェリー「成る程、私とやり合う前から、高速道路だのホテルだのからそいつらを持ち駒にしてたのか?」

食蜂「……へぇ」

シェリー「まるでチェスのクイーンズギャンビットね。突出し、争わせ、引きずり込み、混乱させた上で」

ただ一人、食蜂の狙いを看破したシェリーがエリスに大聖堂の外壁を破らせ、立ち塞がり、睥睨して来る。
M4では五和を、ホテルではアニェーゼ部隊をそれぞれ洗脳し、自覚症状のないまま伏兵に仕立て上げる。
その際、有事の際に寝返るキーワードを設定しておき、予め入手していた五和の携帯番号を通じて告げる。
『時よ止まれ、お前は美しい』という、ファウストがその魂をメフィストフェレスに捧げる契約の言葉を。

シェリー「自分は高みの見物からいいとこ取りか。反吐が出る」

食蜂「粗野な外見力に騙されたわぁ。貴女中々イイ女じゃない」

シェリー「そうか」

無論それだけでは伏兵は直ぐ取り押さえられてしまう。だからこそ闇夜に乗じるという定石を捨て――
御坂を陽動に使い、意識を向けさせ、注意を削がせ、結界を破らせ、同士討ちを誘わせ、そして遂に。

シェリー「じゃあ死ね」

遂に――……
74: >>1 2013/01/12(土) 00:36:15.79 ID:DfwHrfDAO
~30~

御坂「あいつを返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

もつれ合いながら御坂が雷撃の槍を放ち、神裂がそれすら上回る速度で七天七刀を抜き打ち、断ち切る。
三対六枚の翼を叩き付け、ジェット噴射し推進力を増し、落下速度を加速させても神裂は振り切れない。
至近距離から電撃を浴びせても小揺るぎもしない。間もなく激突する地面とこの天よりもある開きは――

御坂「うわああああああああああああああああああああ!!!」

ラジオゾンデ要塞にて空中戦を、そして御坂以上の雷を司る敵と見えた経験値だけでは決して括れない。
風切りに頬が切れ、重力に骨が軋み、内臓の位置すら定まらぬ御坂を凌駕して余りある『聖人』の肉体。
片腕にアンジェレネを抱えたまま、魔術すら使わず御坂を完全に押さえ込んで、遂に地上まで残す所――

御坂「(このままじゃ)」

神裂「――終わりです!」

残り20メートルを切ったところで、思わぬ叫びが響き渡った。

食蜂「御坂さん!!」

御坂「!?」

食蜂「レールガン!」

シェリー「!?」

五和「承リマシタ」

~29.5~

シェリー「じゃあ死ね」

そうシェリーがエリスに命じ、五和もろとも食蜂を叩き潰さんと剛腕を振り上げた時、食蜂が叫んだ。

食蜂「御坂さん!!」

御坂「!?」

食蜂「レールガン!」

その瞬間、大聖堂の天井部を突き破り、夜空をも白く塗り潰すような閃光と共に放たれたレールガンが

シェリー「!?」

ドオオオオン!と全てのステンドグラスを粉々に破壊し、エリスに風穴を空け、シェリーが投げ出され

五和「承リマシタ」

神裂「五――……」

御坂が聖堂内に落下し、食蜂のリモコンにより操られた五和が、追いすがって来た神裂に飛びかかって

神裂「――ぐああああああああああああああああああああ!?」

『聖人』唯一の弱点、『処刑・刺突』に通ずる五和の先槍が、図らずも神裂を真っ向から貫いたのだ。
左腕にアンジェレネさえ抱えていなければ、寸前で防げたであろう一撃を『神の子』同様に腹部へと。

食蜂「………………」

食蜂を狙っていたシェリーが御坂に撃たれ、御坂を狙っていた神裂が食蜂に討たれると言うスイッチ。

食蜂「……ふーっ」

張り詰めた弦を僅かに撓み、痺れるような疲労に食蜂は溜め息を吐いた。これだけは計算外だったのだ。

75: >>1 2013/01/12(土) 00:39:13.62 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
神裂「――うっせえんだよド素人がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
76: >>1 2013/01/12(土) 00:39:51.51 ID:DfwHrfDAO
~29~

御坂「?!」

五和「!?」

神裂が腹部を貫く先槍ごと五和を持ち上げ、長椅子目掛けて吹き飛ばすほどの余力を残していた事に――

五和「キャアッ!」

ドン!と砲弾が炸裂したかのような轟音と衝撃と土煙を立て、五和が砕け散った長椅子と共に地に沈む。
それを御坂は信じられない思いで見つめる。有り得ない。下手すれば即死、良くて戦闘不能の重傷を――
神裂は血塗られた先槍を引き抜いて投げ捨て、代わってエリスの下敷きになったシェリーを引き上げる。

神裂「……行かせる訳には、……通す訳には、……参りません」

シェリーとアンジェレネを脇に置き、出血を腹筋で止め、七天七刀を腰溜めに構えて神裂が立ちはだかる。
それを受けて御坂も水分子の翼を解除し、代わって砂鉄の剣を生み出す。御坂も既に電池切れ寸前である。
食蜂は気絶した五和に一瞥もくれずに二人を見やる。しかし疲労困憊の御坂と満身創痍の神裂との間には。

御坂「……どうしても私をあいつに会わせるつもりはないの?」

神裂「ありません」

御坂「何でよ!?」

それでも230万人中7人しかいないレベル5と70億人中20人しかいない聖人との実力差が横たわる。
それがわかっているからこそ御坂も迂闊には切り込めない。食蜂も最早打つ手が見当たらないほどである。
半壊した聖堂内に射し込む月明かりを受け、照らし出された神裂の七天七刀が底冷えするような光を放つ。

神裂「そう言う貴女こそ何故ここに来たのですか。彼を愛するが故ですか?それともあの子が憎くくて?」

御坂「……両方よ。だけどそれだけじゃない。そうなる前から」

神裂「………………」

御坂「――あいつは私の妹達を、9982人もの妹達の命を助けてくれた!私の魂ごと救ってくれた!」

全壊したステンドグラスを輝かせる星灯りを受け御坂が叫ぶ。砂鉄の剣を握る手に力がこもり、そして。

神裂「……私にも、彼には返しきれないほどの借りがあります」

御坂が一歩前に踏み出して、神裂が一足先に踏み込み、そして。

神裂「――そして私もかつては彼に惹かれた一人です。あの子のように、貴女のように。そして今も……」

パキッと食蜂がステンドグラスの欠片を踏み締めた音を合図に。

神裂「貴女と同じ気持ちです」

神裂の刀が幕を、御坂の剣が火蓋を、それぞれ切って落とした。

77: >>1 2013/01/12(土) 00:40:45.31 ID:DfwHrfDAO
~28~

食蜂「――――――」

疾風が如き縮地からの居合いが長椅子ごと切り捨てるのを、御坂が迅雷が如き瞬歩から飛び上がり躱す!
そして重力の虹ごと叩き切る兜割りを、神裂が横転しつつ前髪数本切らせて回避し、『七閃』を放った。
されど御坂はそれらを磁力を最大反発させてそらし、手が切れるのを承知で掴み、電撃を迸らせて行く!
神裂もまたそれを手放し、後方転回で距離を引き離しながら、鞘当てで長机を御坂目掛けて弾き飛ばす。
御坂もまた生体電流を操作し筋電微流を強化、飛来する一つ目の机を蹴り、空中にて二つ目の机で飛び!

御坂「――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

神裂「――ああああああああああああああああああああ!!!」

三つ目の机ごと神裂を切り裂かんと振り下ろし、神裂が刀で受け止め、鞘で殴り飛ばし、蹴り剥がし――
御坂が吹き飛ばされながらもフレスコ壁画に蜘蛛のように張り付き、神裂が追撃、御坂が天井画へ跳躍。
描かれた『受胎告知』を灰燼に帰す、神の裁きを思わせる落雷を神裂目掛けて放つも、雷ごと切られる!

御坂「――だったらあいつを返してよ!学園都市に帰してよ!」

その剣戟から放たれた衝撃波が聖母像を薙ぎ倒し、余りの切れ味の鋭さに燭台の断面が赤く焼き切れた。
食蜂は切り落とされた聖水口から吹き出す飛沫が、月明かりを受けて描かれた虹の下にて見守っている。
御坂を援護しようにも、切り結びながらも神裂の視線は絶えずこちらを見張っており付け入る隙がない。

神裂「……それが上条当麻(かれ)の願いであったならばそうしましょう。ですが神浄討魔(かれ)が」

食蜂「………………」

神裂「二人目(かれ)に託されたのです。“もし美琴が追い掛けて来た時、俺がこの世にいなかったら”」

御坂「……何よそれ」

神裂「“美琴が地獄(ここ)に来ないよう、学園都市に追い返してくれ”と。そして、三人目(かれ)が」

御坂「……それって」

神裂「神浄討魔(かれ)が、三人目(かれ)が望んだのですよ。“インデックスと共に地獄に落ちる”と」

そして御坂の脳裏に蘇るは、クリスマス前に叩きつけられた――

禁書目録『“一人目”のとうまのこと、何も知らないくせに!』

インデックスの氷より冷たい相貌と刃より鋭い双眸を想起させ。

78: >>1 2013/01/12(土) 00:43:18.54 ID:DfwHrfDAO
~27~

御坂「あいつを死んだみたいに言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

神裂「!」

御坂の中の死火山が赤黒い火口を開けて牙を剥き、横たわるアンジェレネの手から離れた硬貨袋が――
浮かび上がり、弾け飛び、何百枚もの金貨が中空を舞い、御坂の激憤に呼応し、流れる星が如く瞬き。

御坂「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

その一枚一枚に超電磁砲(レールガン)と同等の威力が込められて行き、聖堂内に吹き荒れる地雷震。
散弾超電磁砲(レールショットガン)。番外個体に放たんとしたそれをも上回る、全身全霊全力全開の

神裂「しまっ……」

数百発ものレールガンが一斉掃射されたに等しい大破壊が聖ジョージ大聖堂に吹き荒れ、風穴が開いた。
聖母像が吹き飛び、十字架が熔解し、フラスコ壁画が焼き尽くされ、大理石の床面が崩落を引き起こす。
視界がホワイトアウトし、世界がブラックアウトし、パイプオルガンが終末の音を響かせ、奈落が開く。

神裂「なっ……――」

シェリーとアンジェレネを庇って落ちて行く神裂は見た。『地獄』へ繋がる竪穴に落ち行くその刹那に。

食蜂「――――――」

天地の全てが崩れ落ちる中、未だに無傷の食蜂が嗤ったのを……

~26.5~

御坂「うっ……」

目覚めた時、私が最初に覚えたのは体中に走り抜ける痛みを伴った熱さと、吐く息まで凍るような寒さ。
頭の中が真っ白になるような怒りをぶちまけた後、目の前が真っ暗で何も見えない。ここはどこなのよ?

御坂「……食、蜂?」

わかった事は地面の感触がさっきまでとはまるで違う事と、呼び掛けても誰も応えてくれない事から――
私は一瞬、気を失っている間に捕まって牢獄にでも放り込まれているのかと思ったけど、手足は自由だ。

御坂「痛っ――……」

腕を伸ばす、折れてない。足を曲げる、欠けてない。そこで私は初めて能力を目覚めさせた時みたいに。

御坂「(灯り……)」

小さな電気で手元を、細かい火花で足元を照らす。おかしい、さっきまで眩しいくらいお月様が出て――

御坂「ひっ!?」

そこで気付く。地面が見えないほどの骸骨に埋まった世界とその下に流れる血の河のせせらぎに。まさか

御坂「……地獄!?」

ここが――……

79: >>1 2013/01/12(土) 00:43:45.79 ID:DfwHrfDAO
~26~

御坂「………………」

聖ジョージ大聖堂地下墓地。そこに広がる、文字通り『地獄絵図』に御坂は二の句が告げないどころか。

御坂「(吐きそう)」

偏頭痛がするほどの腐敗臭、嘔吐しそうな死臭、月の物の数万倍も酷い血の臭いに思わず口元を覆った。
歩く度に干からびた髑髏が割れる音が、蠢く蛆虫が潰れる感触が足裏に伝わる。もうこの服は着れない。
罅割れた砂時計、腐り落ちた果実、砕け散った弦楽器に敷き詰められた道の上を御坂は行く。まるで……

御坂「……例えでも何でもなく、本物の地獄そのものじゃない」

ステイル「そうとも」

御坂「!?」

ステイル「――何をそんなに驚く事があるんだ?“超能力者”」

死を司る静物画ヴァニタスのようだと柳眉を顰める御坂の下へ、眉間に皺が寄りそうな煙草の匂いが……
鬼火を思わせる炎と、亡霊を想わせる紫煙に乗って運ばれて来る。暗闇の中にあってさえ目立つ赤い髪。

御坂「――誰よあんたは」

ステイル「ステイル=マグヌス。初めましてだね“御坂美琴”」

――イギリス清教の神父にして必要悪の教会の魔術師ステイルが何百本もの十字架に囲まれ姿を現した。
この無限回廊を思わせる『地獄』で初めて出会った人間(てき)に、御坂の顔に喜色はない。むしろ――

御坂「……皮肉な話よね。もう敵しか私の名前を呼んでくれない。だけど、もうそんな事どうでもいい」

ステイル「………………」

御坂「上条当麻(あいつ)を返して。でなきゃ私、自分で自分が何するかわかんない所まで来てるのよ」

ステイル「――此処に“上条当麻”なんて男はいない。少なくとも君の知る“上条当麻”は“死んだ”」

その顔色が力を使い果たしかけた蒼白をも塗り潰して余りある赫怒に染め替えられる。またかと思った。
何故誰も彼も『上条当麻は死んだ』の一点張りなのかと。死んだなら何故こうまでして自分と上条を――

御坂「――いい加減にしてって言ってんでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

引き離そうとするのかと、御坂は少ない余力と共にこの地獄に流れる血の河から水分子をかき集めて――
紅き翼を背負ってステイルを睨み付け、対するステイルはそれを見るなり指に挟んだ煙草を弾き飛ばし。

ステイル「――なら見せてやる。君が望む絶望(しんじつ)を」

ルーンのカードを取り出し、それが瞬く間に燃え盛ると同時に。
80: >>1 2013/01/12(土) 00:44:45.96 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ステイル「――御指名だよ“神浄討魔”。出て来るが良い――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
81: >>1 2013/01/12(土) 00:46:53.17 ID:DfwHrfDAO
~25~

轟と幾多の火柱が立ち、劫と数多の赫亦が瞬き、業と瞋恚の炎が燃え盛り、后と魔女の釜の底が抜ける。
天草式の手により再配置されたルーンと、ステイルの手により『魔女狩りの王』イノケンティウスが――
一体、二体、三体と、火の巨影と炎の巨神と焔の巨人を生み出され、真っ暗な地獄を真っ赤に染め上げ。

御坂「――――――」

そこで御坂が見た物は髑髏の山と十字架の丘。そこで美琴が見た者は頂に佇む変わり果てた『聖者』。

神浄「………………」

御坂「当麻あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

毎朝、ワックスでセットしていたツンツン頭の黒髪は、見る影もなく白髪となり肩口まで垂れ下がって。
頬は痩け、代わって髭が伸び、涙すら枯れ果てた眼差しには、もはや絶望の闇さえ宿ってはいなかった。
それは神父服の右腕同様に空っぽで、骨の白、血の赤、闇の黒さえ映し出さないガラス玉のような目だ。

神浄「……何だステイル。帰ってもらえって言ったじゃねえか」

ステイル「文句なら神裂達に言ってくれ。まあ、彼女がここまで辿り着いたのは完全に予想外だったが」

御坂「当麻ぁぁぁ!当麻あああ!!当麻あ゛あ゛あ゛!!!」

ステイル「彼女の反応は完璧に想定内だったよ。皮肉な話だね」

神浄「笑い事じゃねえだろ、ないだろ、ねえんだって三段活用」

そのくせ、歩き方も話し方も笑い方だけが一ヶ月前と変わらない。そう、たった一ヶ月でこんなにも……
一人の人間を変えてしまうほどの地獄が、今御坂が立っている地獄そのものだと言うお誂え向きの舞台。
上条がダンテならば、ステイルはウェルギリウス。ならば御坂はベアトリーチェか?否、そうではない。

神浄「それで?御坂美琴(こいつ)はインデックスを助ける役に立つのか立たねえのか、どっちなんだよ」

ステイル「立たないだろう。土御門から送られて来たデータを見る限り、そう言う能力者じゃなさそうだ」

神浄「そうかあ」

御坂「えっ……」

ダンテ(上条)が愛してやまないベアトリーチェ(禁書目録)は

82: >>1 2013/01/12(土) 00:47:22.51 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
神浄「じゃあ上条さんにも用はございませんの事ですよ。死ね」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
83: >>1 2013/01/12(土) 00:47:54.01 ID:DfwHrfDAO
~24~

次の瞬間、上条当麻、否、神浄討魔が御坂目掛けて神裂すら舌を巻く程の勢いで突っ込んで来て――

御坂「当」

ゴキャアアアアア!という音を立てて御坂の頬骨に罅を入れ鼻骨を拉げ奥歯どころか首ごと折るような

御坂「ま゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああぁぁぁぁぁ!!?」

左拳を叩き込み、御坂は十字架を何十本も薙ぎ倒しながら殴り飛ばされた。上条の名を言い終わる前に。

神浄「おーい、ところでこいつの能力ってなんて言ったっけ?」

ステイル「電気を司るらしい。それだけじゃあないだろうがね」

神浄「ははあ。こいつの能力でビリビリやってインデックスが起きりゃあ良いんだけど、そう言う訳にも」

行かねえよなあと左手についた御坂の鼻血を神父服にゴシゴシこすりつけながら神浄が歩み寄って来る。

御坂「(なによこれは)」

御坂の視点が暈ける。視線が定まらない。視界が歪む。今何が起きたのかさえ、理解が追い付かない……
何故助けに来たはずの自分が、救いに来た上条に、毎日のように喧嘩していた時でさえ上げられなかった

御坂「(なんなのこれ)」

手で顔を殴られた。女の命である顔を男の力である拳で。雑草でも毟り取るように、蠅でも叩くように。

~24.5~

なんなのよこれはなぢだなんなのよこれいたいなんなのよこのじょうきょうなんなのよあんたはだれなの

神浄「おいおい、そんな目で見ないでくれって。上条さんだって女の子殴って喜ぶような趣味ねえから」

おもいだせわたしはあいつとつきあってたおもいあってたすきあってたあいしあってたわなのにどうして

神浄「悪いけど、ここはインデックスの眠ってる場所なんだ。帰ってくれりゃあ殺さねえからさ。な?」

がくえんとしをとびだしていぎりすまでのりこんでいっぱいたたかってこわいおもいしていたいめに――

ステイル「何を言ってるんだ神浄討魔。ここまで見られて、こうまでされて、生かして帰す理由はない」

だれこのきりすとみたいなしらがあたまだれこのかたうでだれこいつだれだあんたあんたなんかしらない

神浄「じゃあお前が代わりにやってくれよステイル。人の形してるとやりにくいんだって。いやマジで」

オマエナンカトウマジャナイアンタナンカアイツジャナイカミジョウトウマジャナイワタシハミトメナイ

――神浄討魔(あんた)なんか上条当麻(あいつ)じゃない――

84: >>1 2013/01/12(土) 00:50:44.86 ID:DfwHrfDAO
~23~

御坂「神浄討魔あ゛あぁあ゛あぁあ゛あぁあ゛あぁあ゛あぁ!」

この瞬間を以て御坂の精神力は破綻し、精神的な崩壊を迎えた。血管が引き千切れるほどに決された眦。
そこから流れる血涙を、折れた奥歯ごと噛み砕いて右手を振り上げ、放たれる雷撃の槍が神浄へ放たれ!

ステイル「ふん」

御坂「なっ!?」

しかし、雷撃の槍が神浄を貫くより早く三体ものイノケンティウスが間に入ってそれを受け流したのだ。
それどころか一体が十字架を横薙ぎに払い、一体が大爆発を引き起こし、一体が地面から火柱を起こす!
御坂は一撃目を水翼で飛び上がって躱し、二撃目を水翼を盾にするが蒸発させられ、三撃目が迫って――
噴き出す熔岩のようなそれを駆け出して避け、隕石のように降り注ぐ火山弾を前方宙返りで逃げる先には

神浄「悪い悪い」

御坂「ぐあ゛っ!?」

待ち受けていた神浄が御坂の顔面を鷲掴み、地面に叩き込み、そのまま地滑りを引き起こす勢いで――
引きずり倒し、御坂の頭蓋骨が割れようが穴が空こうがお構い無しに引きずり回し、更に跳躍した上で

御坂「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!」

折り曲げた膝頭を御坂の腹部に叩き込んだまま全体重を急降下の勢いに乗せ、肋を開くようにへし折る。
髑髏の山から骨粉が舞い上がり、御坂が断末魔を上げる口元へ、血染めの髪と頭皮を握り締めたまま――
馬乗りになって左拳で殴り、掌底で下顎を砕き、左肘で胸骨に罅を入れ、返り血を浴びながらも淡々と。

神浄「もうすぐ楽になるからな?もうちょっと辛抱してくれよ」

ゴキャ!と抵抗する御坂の鎖骨が開放骨折し、飛び出た骨が肉を裂き、噴き出す血を前に瞬きさえせず。
左手で胸倉を掴み、シャツが破れるまで勢い良く頭突きを叩き込み、気がつけば御坂の顔はもはや美鈴が

神浄「よっこらせっと」

見てすら愛娘とわからぬまでに変形し、手足が痙攣するまでのダメージを負い、更には神浄が首に手を。

御坂「殺ひへ」

神浄「ん?」

御坂「殺る!」

かけて首の骨を折ろうとした所で御坂が最後の一枚のコインを構え、零距離からレールガンを放たんと。

神浄「いいぜ……」

最後の力を振り絞って、神浄を道連れに死のうと迸った紫電を。

神浄「――何もかもテメエの思い通りになるとか思ってんなら」

――神浄は

85: >>1 2013/01/12(土) 00:51:13.62 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
神浄「――まずは、そのふざけた幻想をぶち殺す!!!!!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
86: >>1 2013/01/12(土) 00:51:49.65 ID:DfwHrfDAO
~22~

御坂「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

零距離から放たれた、全身全霊全力全開の超電磁砲(レールガン)が神浄を吹き飛ばさんと放たれ――

ズズズズズズズズズズゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾザザザザザザザザザザと神浄の失われた右腕から半透明の

神浄「――――神上(La Persona superiore a Dio)――――」

幻想殺し(イマジンブレイカー)から竜王の顎(ドラゴンストライク)が目覚め、更には竜すら消え……
無色透明な力場が光を放った瞬間、神浄の眼前でレールガンがガリガリガリ!と虚空を削りながらも――
当たらない。届かない。触れられない。見えざる神の手に阻まれているかのようにコインが燃え尽きる。

神浄「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

レールガンの雷光すら塗り潰すかのような白き閃光と、地獄の闇すら塗り替えるかのような黒き影――

~21.5~

地下墓地より聖ジョージ大聖堂を貫き、地底から天上を覆う光が、全ての異能の力をも掻き消して行く。

五和「!」

崩落した御堂にて気絶していた五和へ施されていた洗脳力から。

アニェーゼ「うっ……」

アニェーゼを精神崩壊させ、その部隊を操っていた改竄力まで。

シェリー「……火傷が」

シェリーの右腕を焼いた、御坂の能力の後遺症までも癒やして。

ステイル「またやり直しだ。どうしてくれるんだい?神浄討魔」

挙げ句、折角呼び出したイノケンティウスまでも打ち消されステイルは憮然とした表情で神浄を見やる。
幻想殺し。竜王の顎。フィアンマが目指し、アレイスターが似通った部分はあると言った『神上』まで。
それすら『神浄』へ辿り着いた『三人目の上条当麻』からすればたかたが力の欠片、切れ端に過ぎない。

神浄「悪い、またやっちまった。今終わらせるから待ってくれ」

御坂「――――――」

この瞬間を以て御坂は完全に幻想(きぼう)を打ち砕かれ、完璧な現実(ぜつぼう)に打ちのめされた。


上条当麻(ひと)を越えた、神浄討魔(かみ)の手によって――

87: >>1 2013/01/12(土) 00:54:07.89 ID:DfwHrfDAO
~21~

食蜂「アハハハぁ、見た目も、中身も、“昔”と大違いねぇ☆」

そこへ現れるは無限回廊(あんこく)の地獄(せかい)にあってさえ目映い細金細工の髪を靡かせて……

ステイル「どういう事なんだこれは。何故君がここにいるんだ」

神裂「………………」

ステイル「どういうつもりだ神裂!まさか君まで操られて――」

神裂「違いますステイル。神浄討魔、矛をおさめて下さい……」

神裂に付き添われながら、優雅な足取りで歩み寄る食蜂に対しステイルが声を張り上げ、神浄が訝しむ。
良い意味でも、悪い意味でも、神浄の意識は既に御坂にはない。路傍の石ですらまだしもという具合だ。

神浄「まあ落ち着こうぜ二人共。えと、こちらのお嬢さんは?」

食蜂「……はじめまして神浄さん。わたしぃー御坂さんのお友達の食蜂操祈っていいますぅヨロシクね☆」

そんな神浄に対し、食蜂は神裂の腕を取りながら三度目の『はじめまして』を告げた。だが、神浄は――

神浄「それで?こいつの敵討ちに来たんならテメエも殺すけど」

食蜂「やぁ~んこわぁ~い☆ふふふ、そんなつもりじゃないの」

事も無げに殺すと告げた神浄に対し、凍りついた神裂を余所に食蜂が近寄り、その変わり果てた顔を――
御坂にしたように両手で頬に触れ、指先で唇をなぞる。愛おしむように、懐かしむように、切なげに……

食蜂「貴方の大切な彼女、大事なインデックスさん、ずっと長い眠りに就いて目覚めないんですって?」

神浄「………………」

食蜂「――私なら貴方の力になれると思うわぁ。“上条さん”」

神裂「……もし出来なければその場で自分達の首を刎ねても構わないと、そう言ったものですから……」

御坂「(なによ、それ)」

食蜂の言葉に意識朦朧としていた御坂が反応した。インデックスが眠りに就いた?それを目覚めさせる?

ステイル「悪魔の囁きに耳を貸すな神浄討魔。そんな事が――」

食蜂「学園都市最高の精神系能力者の私に出来なければ、この世の誰にも出来ないって自負力はあるわ」

神浄「――良いだろう」

ステイル「神浄討魔!」

耳を疑う御坂に一瞥もくれず、食蜂が神浄へと撓垂れかかって。

食蜂「エポレットメイト」

そこで御坂は悟る。上条を探し求めて来た自分さえ、神浄を追い求めて来た食蜂の駒に過ぎなかった事を。
88: >>1 2013/01/12(土) 00:54:35.78 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
食蜂「――もう一度貴方に会いたかったの。あの日からずっと」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
89: >>1 2013/01/12(土) 00:55:03.23 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
天女之舞: 「悪魔の証明~Carmina Burana~」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
90: >>1 2013/01/12(土) 00:55:31.30 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
チェスでは神なる王に一番戦いを挑む事の出来るのは女王であり、他の駒は皆女王を助けます。

――アビラの聖テレジア(1515年3月28日-1582年10月4日)――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
91: >>1 2013/01/12(土) 00:59:25.57 ID:DfwHrfDAO
~20~

神浄「インデックスの身体(にくたい)は現世(こちらがわ)にある。ただ、精神(たましい)だけがな」

食蜂「うんうん」

神裂「我々はこれを“地獄降下術式”、ないし“ハリストスの地獄降り”と定義しています。これは――」

食蜂「ふんふん」

ステイル「十字架にかけられ処刑された神の子の魂が、死後、地獄にてサタンを打ち砕き義人を開放して」

食蜂「はいはい」

神浄「三日後に復活するって言う“地獄の征服”と“復活”両方を併せ持つ教義から生まれた物らしくて」

食蜂「――ようするに、地獄を征服する所までは成功したけど復活する所で失敗した訳ねぇ。わかったわ」

力尽きた御坂を無造作に引きずりながら神浄が説明し、神裂が補足し、ステイルが解説し、一行は進む。
目指す場所はこの地下墓地最深部にある『地獄の門』。そこにインデックスは眠りに就いていると言う。
十万三千冊の魔導書からインデックスが出した答えは『地獄降下』。神の子が磔刑に処されたその後――
霊魂だけの存在となり、魔王を討ち滅ぼし、義人を地獄から解放し、現世に復活した十字教最大の奇跡。
結果、インデックスは『地獄の門』を封印出来たものの、精神を復活させる事までは力が及ばなかった。

ステイル「但し、彼女の意識が戻らなければ君達の命はない。例え、戻ったとしても命の保証は出来ない」

食蜂「アハハハぁ、私は自分が一番可愛いけどぉ、我が身可愛さで言ってるんじゃないわぁ。強いて――」

神浄「?」

食蜂「強いて言うならぁ、私にも取り戻したいものがあるから」

ゴルゴダの丘(髑髏の丘)を登りながら、食蜂はどこか吹っ切れたような晴れ晴れとした表情を向ける。
その眼差しの先には神浄。正確には、神浄(さんにんめ)の中で死んでしまった上条(ひとりめ)へと。

神浄「……一つ聞いてもいいか?このビリビリした女が二人目の上条さんの彼女だったってのはわかった」

食蜂「ええ」

神浄「じゃあその女と友達だって言うお前と、何人目かの上条さんとはどういう関係だったんでせうか?」

気を失っていなければ御坂が噛み付きかねないほど『女』の顔を向けて来る食蜂に、神浄が苦笑いしたが。

食蜂「それはぁ――」

ステイル「着いたぞ」

神裂「ここです……」

――歩みは止まらず、時間は停まらず、一行は遂に辿り着いた。

神浄「“地獄の門”」

約束の地へ。

92: >>1 2013/01/12(土) 00:59:51.20 ID:DfwHrfDAO
~19~

禁書目録「――――――」

神浄「……インデックス」

食蜂「……そう、彼女が」

『地獄の門』。引き千切られた鎖と、打ち砕かれた鍵と、折れ曲がった釘が堆く積み上げられた終の地。
インデックスはそれらに囲まれながら聖骸布に包まれて横たわり、顔にはうっすら赤みさえ差している。
傍目には本当に眠っているようにしか見えない静謐な寝顔を、神浄は涙を溜めた目を細め左手で撫でる。

神浄「俺の、全てだ」

食蜂「……わかるわ」

神浄「……頼めるか」

食蜂「任せなさい☆」

それを見やる神裂も御坂が意識を失って良かったかも知れないと思った。あんな横顔を自分以外の――
女に向けられれば女としてこれ以上の敗北はないだろう。現に神裂もまた打ちのめされた一人なのだ。

ステイル「はっきり言おう能力者。僕はまだ君を信じられない」

神浄「ステイル……」

ステイル「しかしここまで辿り着いた君の力を誰より知るのは、敵対していた僕において他ならない……」

食蜂「………………」

ステイル「下手な小細工をして見ろ。それが風がそよぐ程度の違和感であったとしても僕は君を焼き殺す」

食蜂「わかったわぁ」

ステイル「ちっ……」

食蜂「……貴方ってばぁ、外見力より優しい男の子なのねぇ☆」

今し方まで殺し合いをしていた敵に一縷の希望を託さねばならぬほど、他に縋る藁さえ持たぬほど――
ステイルもありとあらゆる手を打って来た。手を尽くして来た。神浄討魔(かみ)の手にまで頼った。
しかしそれさえ叶わなかった。故にシェリーの言う食蜂操祈(あくま)の手も借りたいほどであった。

食蜂「始めるわよぉ。それでぇ、一つお願いしたいんだけどぉ」

神浄「いいぜ。上条さん達に出来る事なら何でも言ってくれよ」

食蜂「……手ぇ」

神浄「手???」

食蜂「繋いでぇ」

そして右手でリモコンをなぞりながら、食蜂が左手を神浄の左手に差し出した。昔みたいに、と笑って。

神浄「……やっぱり、俺とお前、昔何かあったんじゃねえか?」

食蜂「神浄討魔(あなた)とじゃなくて上条当麻(あなた)と」

その笑みは、言外に『誰にも話すつもりはない』と柔らかく、優しく、だがはっきりと目が拒絶していた。

食蜂「(今、貴方に会いに行くわぁ。一人目の上条さん――)」

そして、終わりが始まった。

93: >>1 2013/01/12(土) 01:00:19.99 ID:DfwHrfDAO
~18~

食蜂「ここが彼女の心象風景、“バベルの図書館”って訳ねぇ」

食蜂が心理掌握(メンタルアウト)を用いて飛び込んだ先、それは休眠状態にあるインデックスの精神。
六角形の閲覧室が連なり、館内中央には巨大な換気口。四つの壁と五つの本棚には三十二冊の本が並ぶ。
いつだったか、御坂とかち合った時も常盤台中学の図書室だったと思い返しつつ食蜂はランプを手に――
螺旋階段を足取りも軽やかに降りて行く。十万三千冊もの魔導書や原典などに興味はない。用があるのは

食蜂「禁帯出って書かれてる本から当たってみましょうかぁ☆」

インデックスに関する『記憶の書』。それは皮肉な事に、主人公が『眠り病』を患った仲間を救う為――
『記憶の宮殿』を目指す内容の小説と同じ題名。そして食蜂は翻訳者を素通りして老司書に話し掛ける。
そこで許可を取り、旧約編二十二巻、新約編は数知れず、都合数十冊からなる書物を紐解く事になった。

食蜂「ふふふ、“とある魔術の禁書目録”って言うのねぇ……」

それは上条とインデックスの物語。第三次世界大戦を丸々読み飛ばしアドリア海の女王を斜め読みする。
次いで大覇星祭に差し掛かった所で頁を手繰る指先が止まる。自分の事が一言も書かれてはいなかった。
次いで今や恋仲となった結標と白井の馴れ初めが僅かに書かれている。天草式、オルソラ、風斬、更に。

食蜂「……相変わらず、宿題とか試験に関してはダメダメねぇ」

夏休みの宿題、読書感想文に桃太郎をチョイスする辺りで食蜂はくすっと微笑んだ。変わってないなと。

食蜂「――お父さんとお母さん。お父さん似だったのかしらぁ」

物語は進む。彼の両親、御坂と上条が深く繋がり始めた絶対能力進化計画、三沢塾を経て遂に辿り着く。

食蜂「……――嗚呼」

夏への扉、汗ばむ陽気、晴れ渡る空、布団を干しにベランダへ出、そこに引っ掛かっていた『修道女』。
上条との出会い、インデックスとの出逢い、ステイルとの戦い、神裂との戦い、そして『自動書記』と。

食蜂「……馬鹿ねぇ」

そこには食蜂の知る一人目がいた。御坂が恋した二人目でも、インデックスを愛した三人目でもない……

食蜂「……逃げれば良かったじゃない、上条さんの馬鹿ぁ……」

在りし日の、有りの儘の、『上条当麻』の姿が記されていた――

94: >>1 2013/01/12(土) 01:02:53.73 ID:DfwHrfDAO
~17~

神浄「……泣いてるのか?」

神裂「そのようですね……」

食蜂がインデックスの深層意識の海にダイブしている間、真っ先に変化を感じ取ったのは神浄であった。
食蜂の光を失った眼差しから、神浄が繋いでいた左手に、ポタポタと涙が溢れ、流れ、零れたのである。
一体何が起きているのかは誰にもわからない。だが神裂は女の勘とも言うべき第六感で何となく察する。

神裂「(まるで、誰かの最期を看取っているかのようですね)」

ステイル「それより、御坂美琴をどうするか先に決めないか?」

その一方で、ステイルが物言わぬ御坂を顎で指し示しながらぼやいた。これの後始末をどうするのかと。

神浄「今殺すのは無しだ。こいつがインデックスを助けるのを止めちまうかも知れねえだろ?なあ二人共」

ステイル「前の君より話がわかるのは僕としては助かるが……」

その物言いは人としてどうなんだとステイルは逆立てていた柳眉を八の字にし、神裂は静かに項垂れた。
話し方も笑い方も歩き方も以前と変わらないのに、考え方がまるで異なっている。ゾッとしないほどに。

神浄「そんな目で見るなよステイル。そんな顔すんなよ神裂。俺だって正直な所結構揺らいでんだぜ?」

神裂「(どこが)」

神浄「インデックスの前にこいつと付き合ってたって言われても、何て言うかリアクションに困るんだ」

食蜂が現れなければ間違い無く撲殺し、神裂が表れなければ躊躇い無く扼殺していたであろう神浄討魔。
だがどうすればインデックスを守れるか、助けられるか、救えるか、そればかり考えている点のみが――
ステイルとも戦った一人目の、神裂が共に闘った二人目の『上条当麻』との唯一にして無二の共通点だ。

神浄「今ここにいる神浄討魔(おれ)はインデックスを愛してる。でも前にいた上条当麻(おれ)が――」

神裂「………………」

神浄「この女のどんな所を好きになったんだろうだとか、その女を好きでやった訳じゃあねえけども……」

ステイル「…………」

神浄「――この女を殺そうとした俺を、どう思うんだろうかとか、考え出したらすげー気持ち悪いんだよ」

偽善使い(フォックスワード)から英雄(ヒーロー)に、そして救世主(メシア)となってからも――

――ズズズズズズズズズゾゾゾゾゾゾゾゾゾザザザザザザザザザ

ステイル「!?」

神裂「まさか!」

その時だった。

95: >>1 2013/01/12(土) 01:03:20.23 ID:DfwHrfDAO
~16~

本物の上条当麻(あいつ)は死んだ。偽者の神浄討魔(あいつ)は生きてる。インデックスは眠ってる。
ざまあみろ。様を見ろ。良い気味だわ。当然の報いだ。今なら許してあげるわ。今なら赦してあげるわ。
私を捨てたあいつ、私から奪ったインデックス、私を裏切ったあいつ、私から寝取ったインデックスを。

だってあいつら、全然幸せそうじゃない。むしろ不幸だ。地獄に堕ちて当然の事をあんた達はしたのよ。
そうよ、満足とまでは行かないけど不足はないわ。見てよ、あのおじいさんみたいになったあいつの姿。
右腕無くしてやんの。髪だって真っ白。罰が当たったんだ。インデックスが目覚めない?まだ生温いわ。

初恋だったのにヤリ捨てされて、処女だったのにヤリ逃げされて、毎日毎朝毎晩黒子に憐れみの目で……
煮え繰り返るはらわたの、腹の足しにもならない励ましの言葉かけられて、女のプライドはズタズタよ。
女の命の髪をここまで持って行かれて、女の命の顔をこうまで叩き潰されて、噛ませ犬どころか負け犬。

ねえ食蜂、今あんたなんて言った?インデックスを目覚めさせる?あの泥棒猫を蘇らせるって言ったの?
巫山戯るな。巫山戯んな。そいつらは犯した罪の分だけ罰を受けてんのよ。それを救ってどうするのよ?
あいつに贖わせろ。インデックスに償わせろ。裁きを、報いを、天罰を、もっと哀しめ。もっと悲しめ。

結標『ここは貴女の思い描く身勝手な世界の終わり』

私が誰の為にイギリスまで来たと思ってんのよ。私が何の為に死に物狂いで戦って来たと思ってんのよ。

結標『正義の名の下に人を傷つける貴女だって、所詮は私と同じ側の人間よ』

違う、私は間違ってない。違う、私は正しい。そう、あいつらが間違ってる。そう、あいつらが悪いわ。

結標『―――貴女なんかに私の世界は“救わせない”――――』

あいつらがハッピーエンドで終わって、私がバッドエンドで終わるだなんて、そんなの耐えられないわ。

あいつらを救われたら、私が救われない。あいつらが報われたら、私が報われない。そんなの絶対に嫌。

『お姉様』

この声は黒子?それとも妹達?もうどっちだっていい。もうどうだっていい。ここは『地獄』なんだから

『止めて』

8月16日に見た悪夢そのままの光景。一万三十一人の屍(し)と骸(いのち)で舗装された絶望の丘。
96: >>1 2013/01/12(土) 01:03:51.19 ID:DfwHrfDAO
~15~

御坂「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

この瞬間をもって御坂の『自分だけの現実』は崩壊を迎え、暴走へ向かい、覚醒へ転じた。それは――

御坂「こわしてやる」

ステイル「なっ!?」

御坂「ころしてやる」

神裂「――逃げて!」

断末魔のような、産声のような、雄叫びのような、嘶きのような、唸りのような、地鳴りのような、咆哮。
それと共にステイルが錐揉みしながら宙を舞う。御坂が顕現化した水でも血でもない『黒き翼』によって。
その数、およそ一万三十一枚にものぼる地獄の砂鉄から成る黒翼が牙城となり、剣戟となり、槍襖となる。
更には御坂の周囲をビアージオでさえ舌を巻くほどの数百本から成る十字架が磁力によって旋回している。
大気中に発生した放電現象により空気がビリビリと響き渡り、弾け飛び、張り詰めて行く。それは正しく。

神裂「神浄討魔、彼女達をよろしくお願いします。御坂美琴は」

神浄「逆だろ神裂。お前が盾になって、俺が矛になる。そっちの方が効率が良いに決まってるじゃねえか」

神裂「“神上”を使えば食蜂操祈の能力が途絶え兼ねません。治療を中断すれば後遺症が残る可能性すら」

黙示録の獣さながらに、御坂の叫びに呼応してドンドンドンドンドン!と落雷が幾つも降り注いで行く。
神浄の言う事も最もだが『神上』は対象を選ばない。全ての異能の力を打ち砕く。だがそれは建て前だ。
神浄は御坂を殺す事に何の躊躇いもない。そうさせない為には、神裂が矢面に立って止める他ないのだ。

神裂「“限定的贖罪”そのものですね御坂美琴。ですが貴女に」

限定的贖罪。『十字教において神の子が齎す救済は全人類にではなく十字教徒に限られる』という思想。
そう、この場にて救われるのはインデックス達だけであり、御坂はその中に含まれていないという符号。

神裂「――彼等は殺させません。貴女も死なせません。誰一人」

神裂は御坂が嫌いではなかった。上条の為にここまで走り続けた御坂をどこか羨ましく思ってさえいた。

神裂「誰一人、見捨てません」

同じ男を愛した一人の女として、神裂は御坂を止めると誓った。

神裂「――Salvere000(救われぬ者に救いの手を)!!!!!」

唯一無二の魔法名に。

97: >>1 2013/01/12(土) 01:06:35.48 ID:DfwHrfDAO
~Spring of Life~

上条『立てるか?』

食蜂『う、うん!』

上条『駄目じゃねえか。ここは木の葉通りって言ってな、別名“喧嘩通り”って呼ばれてんだ。危ないぞ』

あれは私が中学一年生の時、常盤台中学に入学する為余所の学区から第七学区に移って来たばかりの頃。
まだ派閥を作る前で、二つある女子寮の区別もつかないまま彷徨っている内に迷い込んでしまった裏道。
そこで私に乱暴しようとしたスキルアウト二人をやっつけて、彼は私が暴れた拍子に落とした学生証を。

上条『“しょくほう”、って何か読み難いし、呼び難い名前だよな』

拾い上げて読みながら、常盤台のお嬢さんかって驚いてたのを今でも思い出す。これが彼と私の最初の。

上条『だけど“みさき”って良い名前だよな。だってさ、字の中に』

最初の出会いだった。忘れようにも忘れられない、ビル風が運んで来た桜吹雪の下春の光を浴びながら。

上条『“いのり”って入ってるだろ?幸せを祈る、神様に祈るって』

私を安心させるように微笑みながら、手を引いて裏道から連れ出してくれた貴方を、私は一生忘れない。
~14~

御坂「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

神裂「はああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!!!」

飛び上がる神裂を狙って鞭のように撓り、槍のように鋭く。剣のように速く迫り来る一万三十一枚の翼。
神裂はそれを空中で猫捻りして初太刀を躱し、二の太刀を七天七刀で弾き返して錐揉みし、三の太刀――
視界を覆い尽くすような、世界を埋め尽くすような砂鉄の槍襖の中を頬を切らせながら突っ切って行く!

神裂「もう止めて下さい御坂美琴!彼は、神浄討魔はもう――」

御坂「があっ!」

神裂「――あの日の彼は、もう帰っては来ないんですよ!!!」

空中から抜き打つ神裂の突きを、磁力で操られた十字架がガン!と弾き飛ばし、神裂はその十字架を――
蹴りつけ、月面宙返りで飛び越え、更に御坂へ鞘を叩きつけんとして、十字架で横殴りに弾き飛ばされ。

神浄「私達が思いを寄せた彼はもう私達の胸の裏にしか、心の内にしか、記憶の中にしかいないんです!」

御坂「違う!」

御坂の叫びに応じて、髑髏の山を吹き飛ばす程の雷が落ちて――

98: >>1 2013/01/12(土) 01:10:51.49 ID:DfwHrfDAO
~Summer Days~

上条『夏期講習もあんだし、夏休みの宿題無しにならねえかな』

食蜂『大変ねぇ受験を控えてる三年生(せんぱい)としてはぁ』

上条『良いよな一年生は。あーあ、読書感想文何にするか……』

それから時々、私と彼は街中で出会した。その中でわかった事は、彼が私より二つ年上の三年生って事。
それから私の能力が通じない事、なのにレベル0って事、後は頭が悪いって事と、それからそれから――

上条『いいや!今年の読書感想文は桃太郎!これで決まりだ!』

食蜂『えぇ~』

上条『そうと決まれば糖分補給で脳に栄養送んねーと。あのー』

店員『はい』

上条『エクレア下さい。俺とこいつの二人前。で、良いよな?』

食蜂『あれぇ?今月遊びまくって残高力ヤバいって言って……』

あんまりお金がない事とか、男の子なのに甘いものが好きな事。

上条『うん、軍艦島に皆でキャンプしに行ったら空っけつになった。意外と金かかるんだな。ああいうの』

笑った顔が可愛かった。私が今頬杖を付いて眺めてる横顔が――

食蜂『(軍艦島って何の事かしらぁ?)じゃあお言葉に甘えて、二個と言わず二十個くらい頼んじゃお☆』

上条『』

好きだった。

~13~

ステイル「くっ……」

神裂と御坂が死闘を繰り広げる中、ステイルもまた立ち上がる。今ここで立ち上がらなければ全てが――

上条『ステイル、俺にもしもの事があった時はインデックスを頼む。こればかしはお前にしか頼めねえ』

あの世界で最も気にいらない男と交わした最後の、否最期の約束を違えてしまう。それはステイルの……
プライドに関わって来る。同じ女を愛した一人の男として。故にステイルは血塗れの身体を引きずって。

上条『これは心配性過ぎるかも知れねえけど、もし御坂がイギリスまで俺を追い掛け来たその時は――』

ルーンを再配置し、魔力を込め、忌々しい記憶ごと焼き払った。

上条『……あいつを追い返してくれ。それから伝えて欲しい。“俺は最低の彼氏だったけど、お前は”』

ステイル『MTOWOTFFTOIIGOIIOF IIBO LAIIAOE IIM HAIIBOD IINFIIMS ICRMMBGP!」

亡き友との誓いが為に。

99: >>1 2013/01/12(土) 01:11:48.82 ID:DfwHrfDAO
~The Autumn Song~

食蜂『はわわわ?!ちょっと待ってぶつかっちゃうからぁ!?』

上条『お前運転下手だなこの運動音痴ハンドル貸せハンドル!』

“受験勉強の息抜きに遊びに行こう“って誘ったのは、私だったか彼だったかあんまりよく覚えていない。
生まれて初めて行った遊園地があんまり楽しくて、生まれて初めて乗ったゴーカートがあんまり激しくて。

上条『あっ……』

食蜂『あらぁ☆』

肩寄せ合って乗り回していたゴーカートが壁にぶつかって止まった時、ものの弾みで私達の唇が重なった。

上条『わ、悪い』

食蜂『ううん?』

この夕焼け空より顔を赤くして謝って来る彼のリアクションがいじらしくて、何だか許せてしまった。
初めてだったけども、初めてだったからこそ覚えている唇の記憶。忘れられない唇の感触。それは――

係員『大丈夫ですかー!?』

上条『だだだだだ大丈夫!』

チュッ

上条『!?』

食蜂『――大丈夫ですよぉ』

ささやかな仕返し、ささやかな意趣返し、ささやかなお返しで。

食蜂『ねぇ?』

上条『はい!』

ささやかな思い出。

~12~

御坂「どけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

ステイル「Kenaz PuriSazNaPizGebo!」

数百本もの十字架をレールガンに変えてイノケンティウスを破るも、ステイルが炎剣を手に立ち塞がる!
御坂の砂鉄の剣を受け止め、力押しで鍔迫り合い、そこへ砂鉄の翼をかいくぐって来た神裂もが合力し!

ステイル「AshToASh!DustToDust!SqueamishBloodyRood!」

神裂「行かせません!神浄討魔(かれ)の願いの為にも!!!」

一振りの剣と二人の魔術師が三度切り結ぶ。御坂は泣いていた。神裂も涙していた。どうして、何故と。

御坂「何で私ばっかりこんな目に合わなきゃいけないのよ!?」

誰とも無しに気付く。涙を流す御坂、血を流す神裂、汗を流すステイル、眠りについたインデックス……

神浄「………………」

食蜂「――――――」

無傷なのは神浄討魔(かみ)と、無事なのは食蜂操祈(あくま)の二人だけだと言う寒気がする事実に。

食蜂「くすっ……」

人間(こま)では神(しろ)と悪魔(くろ)に別れた運命(チェスボード)を越えられないという事に。

100: >>1 2013/01/12(土) 01:12:18.76 ID:DfwHrfDAO
~Winter Fall~

上条『初雪だー!』

食蜂『くすっ……』

上条『って、何で笑ってるんでせうか?だって初雪だぞ初雪!』

食蜂『(何かに似てると思ったらぁ、犬に似てるんだこの人)』

合格発表も終わった頃、私はまた彼と街中で出会した。雪降る学舎の園までの短い道程を、一緒に帰って。

上条『雪だるま作ろうぜ雪だるま!うひょーっ!冷てぇーっ!』

食蜂『(それから、二つ年上と思えないくらい子供っぽくて)』

だけど私は彼ほど素直に喜べなかった。彼が中学を卒業して高校に入ったら、もう住む世界が違うから。
中学生と高校生の差は大きい。同じ学区でも行動範囲や交友関係がガラッと変わる。それくらいわかる。

食蜂『あーあ……』

上条『?』

食蜂『(同じ高校力に入ったとしても、一年しかいられない)』

事実、彼は新しい男子寮に移って行き、新しい男友達や環境にも恵まれて、次第に私達は疎遠になった。

それでもいつか、やがていつかは、また彼に会えると信じてた。

上条『えと……』

そう

上条『こちらのお嬢さんは?』

あの日までは。

~11~

自動書記「それが、貴女がここまでやって来た理由なのですか」

食蜂「そう」

自動書記「御坂美琴を駒とし、数多の犠牲と幾多の障害を越え」

食蜂「ええ」

自動書記「“一人目の上条当麻”がどういう最期を迎えたかを知る、それだけの為にここまで来たので?」

食蜂「………………」

自動書記「まるで“悪魔”ですね。では、これより貴女を――」

食蜂「好きになさい。貴女が目覚める事でインデックスさんが目覚めるなら、私の目的力はそれでOK☆」

――そして食蜂は遂にインデックスの深層意識の最深部に到達し、館長たる『自動書記』と対峙していた。
『一人目の上条』を知る数少ない人間、御坂は電磁バリアーに阻まれて記憶を引き出す事はほぼ不可能だ。
同じく死に立ち会ったステイルや神裂はイギリスという距離の問題と、余りに強過ぎて手に負えないのだ。
インデックスもまた通常の覚醒状態では魔導書や原典に阻まれ侵入出来ない。故に千載一遇のチャンスを。

食蜂「ほらほらぁ、早くしないとバベルの図書館に“神の怒り”が落ちるわよぉ?とは言ってもぉ……」

翼(かみじょう)をなくした天使(あくま)は、見逃さない――
101: >>1 2013/01/12(土) 01:14:52.18 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
食蜂「私が求めた上条当麻(かれ)は神浄討魔(あれ)じゃない。だから壊すの。この幻想(せかい)ごと全て」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
102: >>1 2013/01/12(土) 01:15:21.48 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
急之舞: 「破滅へのカウントダウン~mind as judgement~」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
103: >>1 2013/01/12(土) 01:15:50.29 ID:DfwHrfDAO
~10~

全員「!?」

そして聖ジョージ大聖堂を根幹から揺るがすかのような地鳴りが渦巻き、地響きが逆巻く。その震源地は

建宮「地下で何が起こってるのよな!?しっかりしろ五和!!」

オルソラ「シェリーさん!私の肩に掴まるのでこざいますよ!」

終結を迎えた地上部隊が集結せし御堂より繋がる地下墓地。そこで建宮が五和を、オルソラがシェリーを

五和「ぷ、女教皇(プリエステス)様がまだ地下で戦って……」

シェリー「あの“悪魔”、最初からこれが狙いだったのか……」

それぞれ背負い、肩を貸し、ガラガラと音を立てて崩れ行く御堂から連れ出さんとする。更にそこへ――

アニェーゼ「シスター・アンジェレネ!寝てたら死にますよ!」

アンジェレネ「し、シスター・アニェーゼ!?何故ここに?!」

昏睡状態から戦線復帰したアニェーゼが蓮の杖と共にアンジェレネを回収し、御堂より脱出に成功する。
だが旗色は良くない。食蜂の謀略により破られた結界の補修と御坂の暴力により破られた人員の救出……
怪我人の手まで借りねばならず、援軍に割ける戦力さえ足りないと建宮が歯噛みした、まさにその時――

建宮「!?」

『地獄』へ通じる竪穴から轟ッッッッッ!と光の柱が突き立ち、倒壊寸前であった大聖堂の天井画が――
吹き飛ばされて炎となり、焼き尽くされて灰となり、舞い散って羽となり、夜明け前の空へと昇り行く。
『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』。十万三千冊の魔導書を束ね上げ折り重ね研ぎ澄ませた必殺の一撃。
その光景に全員が『地獄の門』から雲霞が如く溢れ出した『在らざるモノ』の軍勢を薙ぎ払いし聖女……
『地獄降下』で封印に成功するも、長き眠りに就く事を余儀無くされた『彼女』の目覚めを感じ取った。

建宮「“父よ彼等をお許し下さい。何故なら彼等は何をしているのかわからないのです”」

五和「“アーメン、貴方に言います。貴方は今日、私と共に楽園にいます”」

アニェーゼ「“そこに貴方の母が、貴方の子がいます”」

アンジェレネ「“我が神、我が神、何故私を見捨てられたのですか”」

シェリー「“私は渇いている”」

オルソラ「“終わった”」

全員「“父よ、私の霊を貴方の手に任せます”」

近付く終わりの時。

建宮「今から我等が戴く新たなる“最大主教”救出へ向かう!」

最終決戦が始まる。

104: >>1 2013/01/12(土) 01:16:17.21 ID:DfwHrfDAO
~9~

神浄「!?」

その瞬間、インデックスに側に付いていた食蜂が意識を失ったまま血の河へと弾き飛ばされ、沈み行き。

神裂「インデックス!?」

ステイル「いや、違う!」

御坂と鍔迫り合っていた神裂、鎬を削っていたステイルもまた感じ取る。背中が粟立つ懐かしい戦慄を。

御坂「あんたは……」

自動書記「“警告”」

そこには三振りの『豊穣神の剣』を宙に揺蕩わせ、赤い眼差しと紅い魔法陣と朱い翼を背負った――
自動書記(インデックス)が食蜂の侵入を受けて迎撃せんと覚醒し、『竜王の顎』を天空に放つ姿。
仇敵を前にして唖然とする御坂、愕然とするステイル、茫然とする神裂、意識を失う食蜂、そして。

神浄「成る程、揺り起こすんじゃなくて叩き起こしたって事か」

御坂「!?」

神浄「少なくとも、インデックスを目覚めさせる役に立ったな」

各々の異なる色合いの絶望すら飲み込む、神の力を失われた右腕に宿した神浄が食蜂の頭を軽く撫でる。
それを見た御坂は正気を疑った。自分ではなく、神浄の。役に立つか立たないかで人を判断するなど――
御坂の知る上条では絶対有り得ない変わりように、今更ながら上条は『死んだ』のだと思い知らされる。

神浄「神裂、ステイル、そいつは後回しだ。先ずはインデックスを止めねえ事にはどうしょうもねえし」

神裂「神浄討魔!」

茫然自失の御坂を無視して、意識を失った食蜂を物でも放るように投げ出して神浄は悠然と立ち上がった。

神浄「――今しなくちゃいけない事はなんだ?神裂、ステイル」

そう、この男は何も変わってなどいないのだ。『インデックスを救う』というただ一点に於いては何一つ。

ステイル「彼女を」

神裂「救う事です」

神浄「決まりだ。悪い、出来るだけ傷つけずに保護したいんだ」

――夜が、明ける。

神浄「バックアップ、頼む。俺一人の力じゃあ駄目なんだ……」

最後の審判と共に。

神浄「終わらせようぜ、今度こそ全てを。俺達“三人”の力で」

105: >>1 2013/01/12(土) 01:18:51.46 ID:DfwHrfDAO
~8~

自動書記「侵入者個人ニ対シテ最モ有効ナ魔術ノ組ミ上ゲニ成功シマシタ。コレヨリ特定魔術『聖ジョージの聖域』ヲ発動、侵入者ヲ破壊シマス」

ステイル「イノケンティウス!(魔女狩りの王)ダブル!トリプル!クアドラプル!クインティプル!」

『地獄の門』より浮かび上がる自動書記が叩き付けて来る『竜王の殺息』を、イノケンティウスが――
何万もの『在らざるモノ』達を相手に牙を研いだステイルが一体二体三体四体五体と生み出して防ぐ。
すぐさまそれすら無効化させる『神よ、何故お見捨てになられたのですか』の赤黒い光に包まれても。

ステイル「イノケンティウス(魔女狩りの王)!セクスタプル!セプタプル!オクタプル!ノナプル!ディカプル!」

六体七体八体九体十体と生命力を焼き尽くし、魔力を燃やし尽くそうともステイルは退かない、怯まない。

ステイル「何をしているんだ御坂美琴!さっさと消え失せろ!」

御坂「………………」

それは奇しくも、直前まで鎬を削って切り結び鍔迫り合っていた御坂達を守るようなポジションであった。
御坂はうずくまったまま動かない。あれだけ愛情を抱いた相手に憎悪を向けて尚、相手にすらされずに……
神浄に敵とも見て貰えず数にも入れて貰えず、一瞥さえ送られず一顧だにされず心が折れてしまったのだ。

ステイル「御坂美琴!」

『死んだ』後まで世話を焼かせる友が、かつて愛した女に告ぐ。

ステイル「死ぬならそこで死ね!冥土の土産に聞かせてやる!」

一体二体三体と消失して行く、イノケンティウスを支えながら。

ステイル「“奴”が“死ぬ”前僕に君へ伝えろと言った言葉だ!“俺は最低の彼氏だったけど、お前は”」

御坂「………………」

ステイル「“不幸だらけだった俺の16年の人生の中で、お前と過ごした一ヶ月が一番幸せだった”と!」

御坂「っ」

ステイル「――“不幸まみれだった俺を、こんなにも幸せしてくれてありがとう”と奴は言ったんだぞ!」

四体五体六体七体八体九体と、原始が生み出した炎と始原が生み出した光とかぶつかり合い、そして――

ステイル「――行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぉぇぇぇぇぇぇぇ能力者ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

神浄と神裂が宙を舞った。

106: >>1 2013/01/12(土) 01:19:17.61 ID:DfwHrfDAO
~7~

自動書記「警告、第六章第十三節。新タナ敵兵ヲ確認。戦闘思考変更、戦場ノ索敵ヲ開始……完了。現状最モ何度ノ高イ敵兵“神浄討魔”“神裂火織”ノ破壊ヲ最優先シマス」

神裂「“唯閃”!」

飛翔する自動書記、竪穴を蹴って壁面を駆け上がりながら追い掛ける二人へ襲い掛かる『豊穣神の剣』。
『切る』過程を無視して『斬った』結果のみを生み出すほどの三振りの剣の舞いへ、神裂が飛び出し――
『唯閃』を発動させて切りかかり、向けさせた注意を一手に担い、向けさせた意識を一手で断ち切って!

神裂「御坂美琴!」

一振り目の突きを鞘で受け止めるも砕け散り、二振り目の切り落としへ鋼糸を投擲して雁字搦めにする。
それを断ち切らんと飛来した三振り目の切っ先を蹴って跳び、代わって壁面が岩盤ごと断ち割って行く。
その上で神裂は左で火の魔術を放って三振り目を瓦礫ごと破壊し、爆炎が生み出す上昇気流に乗せて――
神浄を自動書記へ、地下墓地から地上部へ向けて力の限り投げ飛ばしつつ、御坂に向けて怒鳴りつけた。
そう、今の御坂はかつての神裂に似ている。天草式十字凄教を出奔した頃の自分に、そしてそれ以上に。

神裂「……私とステイルは、泣き叫ぶあの子を無理矢理押さえ付けて何度も“記憶”を奪って来ました」

御坂「!」

神裂「――あの子は死んだ!上条当麻も死んだ!それでも、“彼等”は私達の胸に生きてるでしょう!」

轟ッッッッッ!と一振り目の剣が、五和に貫かれた脇腹を抉り、二振り目をやっとの思いで受け止め――

神裂「貴女が死ねば御坂美琴(あなた)しか知らない上条当麻(かれ)まで本当に死んでしまうんです」

文字通り血を吐く思いで神裂は叫ぶ。今の御坂は初めてインデックスの記憶を消した時の自分に似ている。
自分の知っている人間が、自分を知らない人間のような目を向け、敵意を向けて来る事がどれだけ辛いか。

神裂「ステイルも彼女を愛していました!あの子が全てを忘れても!上条当麻のものになったその後も!」

御坂「っ」

神裂「泣いてるだけならド素人にだって出来んだよ!女なら立ち上がれ御坂美琴ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

一振り目の剣を再び火の魔術で自分もろとも爆破し、二振り目の剣を唯閃で叩き割り、力尽きた所で――

御坂「――お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」

御坂が、吼えた。

107: >>1 2013/01/12(土) 01:19:48.97 ID:DfwHrfDAO
~6~

自動書記「索敵――」

建宮「突っ走れ!!」

神浄「建宮斎字!!」

紙から橋はもとより船まで生み出す天草式十字凄教の術式が、壁面ごと吹き飛ばされた神浄の足場へ――
『竜王の殺息』が神浄を焼き尽くさんとした所で地上から顔を出した建宮の手より架けられる螺旋階段。
竪穴を上昇し続ける自動書記へ、神浄は螺旋階段が焼け落ちる側から突っ走り、駆け上り、追いすがる!

五和「掴まって!」

神浄「五和!」

放射線に放たれた『竜王の殺息』が、螺旋階段を上部から切り崩した時、地上から五和が飛び降りて――
すれ違い様に五和が投げた先槍が壁面に突き刺さり、体勢を崩した神浄が先槍に左手でぶら下がり凌ぐ。
更にそこから体操選手のように一回転し、二回転し、三回転目で勢い良く飛び上がり更に上を目指して!

アニェーゼ「もういっちょう!」

アンジェレネ「このこのこの!」

神浄「アニェーゼ!アンジェレネ!」

放射状から垂直に放たれた『竜王の殺息』が大聖堂の瓦礫を切り崩し流星雨のように降り注ぐ中を――
アンジェレネが硬貨袋で視界を埋め尽くす瓦礫を次々に破壊し、迫り出した足場で待ち受けていた……
アニェーゼが高度の限界点に達し自由落下し始めた神浄の靴底へ蓮の杖を振り抜き、更にかっ飛ばす!

シェリー「行け!」

神浄「シェリー!」

ホームランボールのように打ち上げられた神浄が地上部、自動書記が聖ジョージ大聖堂上空へ飛翔し――
待ち構えていたシェリーがエリスの神浄を受け取るなり形状を変化させ、バベルの塔のように天を衝く!
そしてエリスから振り落とされまいとしていたオルソラが、専門外なのを承知で飛翔術式を唱えながら。

オルソラ「飛びます!」

神浄「オルソラ!」

神浄の左手を握り締め、ぐんぐん高度を上げどんどん加速を増し、二人が自動書記へと肉薄して行く。が

自動書記「警告、第二七章第六節。飛翔術式ノ発動ヲ確認。聖ペテロ撃墜術式“術者を担ぐ悪魔達よ速やかにその手を離せ”完全発動まで一秒」

オルソラ「きゃっ!」

シェリー「オルソラ!?」

夜明け前の霞行く空を背にして自動書記が唱えた撃墜術式は難無くオルソラを撃ち落とし、神浄もまた。

神浄「――――――」

高度300メートル上空より投げ落とされ、雲上へ昇り行かんとするインデックスへ手を伸ばす他ないと

神浄「っ」

歯を食い縛り、愈これまでかと腹を括った。その時であった。
108: >>1 2013/01/12(土) 01:21:42.31 ID:DfwHrfDAO
~5~

上条当麻(あいつ)はもういない。神浄討魔(あいつ)しかいない。あいつはもう私なんか見ていない。
今だって私は上条当麻を憎んでる。私は神浄討魔を恨んでる。それ以上に私はインデックスを呪ってる。
どうして私じゃ駄目だったの?どうしてもインデックスじゃなきゃ駄目だったの?ねえ、誰か教えてよ。

食蜂「………………」

そして、こいつとあいつとの間に昔何があったかはわからない。だけどわかる。こいつは、食蜂操祈は。

御坂『……あんた、なにしてんのよ?』

食蜂『ちっちゃい雪だるま作りよぉ☆』

初雪が積もった日12月13日、どうして毎度の大名行列を連れて歩かず一人で雪だるまを作ってたのとか。

食蜂『あはっ☆彼氏いるのにこういうの免疫力ないのねぇ~』

食蜂『恋人繋ぎで精一杯、キスが関の山って感じかしらねぇ』

食蜂『――貴女、生殺しを純愛だなんて勘違いしてなぁい?』

食蜂『ねぇ?女の子がどうして初めての相手を忘れられないかわかるぅ?』

図書室で出会した12月18日、どうしてこいつが執拗に私とあいつとの関係を論って来たのか今わかった。

御坂「……あんたは有り得たかも知れない“もう一人の可能性(わたし)”だったのね。食蜂操祈――」

そして今もインデックスに何か小細工して、自分もろともあいつが守ろうとした世界を壊そうとしてる。

ステイル「“不幸だらけだった俺の16年の人生の中で、お前と過ごした一ヶ月が一番幸せだった”と!」

どいつもこいつも誰も彼も好き勝手言って。そもそも、あいつも

神裂「泣いてるだけならド素人にだって出来んだよ!女なら立ち上がれ御坂美琴ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

人の事を傷物にしといて、何思い残す事なく『死んで』んのよ?

今だって振り返りもしないでインデックスに向かって突っ走って

人を虚仮にすんのも、人を馬鹿にすんのも大概にしなさいよこの

この……

御坂「――お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」

この――

109: >>1 2013/01/12(土) 01:22:33.28 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
無視すんなやゴラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
110: >>1 2013/01/12(土) 01:23:08.95 ID:DfwHrfDAO
~4~

神浄「!?」

御坂「手!」

まさにその時、『地獄の門』より御坂が一万三十一枚もの翼をフルバーストさせて飛翔して来たのだ。
ここに来て初めて驚愕の表情を浮かべる神浄の左手を掴んでインデックスを追い抜き、急上昇して――

自動書記「警告、第六章第十三節。新タナ敵兵ヲ確認。戦闘思考変更、戦場ノ索敵ヲ開始……完了。現状最モ何度ノ高イ敵兵“御坂美琴”ノ破壊ヲ最優先シマス」

御坂「違うでしょうが!散々“短髪”呼ばわりしてたくせに!」

神浄「お前、御坂美琴か!?何でお前がここにいるんだよ?!」

御坂「……五月蝿いわね!さっさとフォローに回りなさいよ!」

自動書記「警告、第二七章第六節。十字教ヲ曲解シタ飛翔ヲ確認。聖ペテロ撃墜術式“術者を担ぐ悪魔達よ速やかにその手を離せ”完全発動まで――」

神浄「幻想殺し(イマジンブレイカー)ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

すれ違い様に自動書記が唱えた『撃墜術式』を失われた右腕から伸びた無色透明の幻想殺しが打ち消す!
御坂もまた左手を離さぬよう、ロンドンが一望出来るほどの高度から急旋回して自動書記へと肉薄する。
神浄もまた右手で御坂に触れまいとする。幾度となく抱き合い、何度となく触れ合った、御坂の身体に。

御坂「――私だって、本当はあんたなんて助けたくないわよ!」

神浄「………………」

御坂「だけど私が好きになった“上条当麻”なら、こんな時どうするかって、嗚呼、もう訳わかんない!」

それが御坂の出した答え。神浄討魔は許せない。インデックスも赦せない。だがそれ以上に御坂の中で。

御坂「――私が恋した男ならこんな時絶対誰かを見捨てない!」

御坂の記憶の中に息衝く上条当麻が、御坂を駆り立てた。目蓋の裏に焼き付いた笑顔を裏切れなかった。

御坂「――あいつが愛してくれた私は、こんな時馬鹿みたいに突っ込んで行く、そんな私だったから!」

ここで御坂が、神浄討魔とインデックスを見捨ててしまったら。

御坂「――あんたの中の“あいつ”を私は絶対に見捨てない!」

もう御坂の記憶の中にしかいない二人目の上条まで死んでしまうと、御坂は涙が吹き飛ぶ程の風の中で。

御坂「――わかったらさっさと決着(ケリ)つけなさいよ!!」

――二人目の『上条当麻』が、笑ってくれたような気がした――

111: >>1 2013/01/12(土) 01:25:44.28 ID:DfwHrfDAO
~3~

自動書記が矢継ぎ早に放って来る魔術の数々を、神浄の幻想殺しが次々と打ち消し御坂が吶喊して行く。
勿論無傷では済まない。弾雨の中を突っ切るに等しい光芒と業火を、御坂は一万三十一枚の翼を盾に――

御坂「一万三十一枚(いもうとたち)の翼(いのち)、破れるもんなら破ってみろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

自動書記「警告、警告、警告、警告、警告、警告、警告、――」

朝焼け空が夕焼け空に見えるほどの業火の中を幾何級数的に翼を打ち減らしながらも御坂は止まらない。
その突出に、自動書記が聖ジョージ大聖堂を数発で叩き潰す翼を繰り出すも、打ち破れた数は五千枚――
片翼をもいだに過ぎず、暴風雨のような猛攻、鉄風雷火のような攻勢が100分の1秒途切れた刹那に。

神浄「――インデックスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅー!」

御坂と繋いだ左手を離し、失われた右手から伸びる幻想殺しが遂に自動書記を捉え、左腕で抱き締めて。

神浄「――帰ろうぜ」

その瞬間、インデックスの両翼が砕け散り、御坂の片翼が舞い散り、青空に吸い込まれて行く。そう……

神浄「みんなの所に」

長い夜が明け、永い悪夢が終わり、翼を失った天使と片翼を喪った天使と、右腕を無くした救世主が――
高度300メートルの世界から真っ逆様に落ち、同時に『地獄の門』が打ち砕かれ、滅びの時を迎える。
髑髏の山々が花畑に、十字架の丘が緑地に、血の河が清流に、闇は光に満ち溢れ、失楽園は復楽園へと。

御坂「……さようなら」

インデックスを抱いて落ちて行く神浄の一つきりの腕に、最早自分の居場所はない事を知りながらも――
御坂は残された片翼で二人を抱きかかえながら落下し、眼下に聳え立つ聖ジョージ大聖堂の突端を見た。
このままでは三人とも先端部分に叩きつけられて命を失うだろう。故に、御坂は残された最後の力を――

御坂「……ありがとう」

右手薬指に嵌められた、上条からもらった最初で最後のプレゼント、シルバーリングをコイン代わりに。
胸の中の上条当麻へ、腕の中の神浄討魔へ、別れを告げるように紫電を迸らせ神の家へと狙いを定めて。

御坂「――私だけの“上条当麻(イマジンブレイカー)”――」

そして放たれた最後のレールガンが教会の先端部を吹き飛ばし、三人は復楽園へと軟着陸して行った――
112: >>1 2013/01/12(土) 01:26:11.80 ID:DfwHrfDAO
~2~

もっと貴方と話したかった。ずっと貴方を探してた。やっと貴方を見つけられた。彼女の記憶の中に……
記されていた貴方の最後を知る事が出来た、描かれていた貴方の最期を看取る事が出来た。だからもう。

上条『……何、死ぬみたいな事言ってんだよ。らしくねえぞ?』

ゲームは終わり。勝っても負けても、私はどっちでも良かった。最後にはひっくり返すつもりでいたから。
学園都市暗部から強奪した1500億円、制圧した大電波塔帝国タワー、『実験』のクローン技術、そして……
一人目の貴方を知る人々の記憶、統括理事長亡き後の虚数学区さえあれば貴方を蘇らせる事が出来たのに。

食蜂『……元々、私は空っぽの人間力しか持ってなかったわぁ』

妹達ないし御坂さんの発電系能力者、結標淡希ないし白井さんの空間系能力者も手にする事が出来たなら。
一人目の貴方の記憶、人格、肉体を持った上条当麻(ほんもの)を復活させられた計画も、これで水の泡。
何度再計算しても、何回再演算しても、一人目の貴方を蘇らせられる可能性はこれで限り無く0になった。

食蜂『そんな私の虚(うろ)を満たしてくれたのは貴方だけぇ』

頭の悪い人がよく使いたがる『心の闇』なんて私にはない。代わりにあるのは虚。ひたすら空っぽの穴。
何を詰め込んでも何を流し込んでも満たされない。飢える。乾く。だって底が抜けてしまっているから。

上条『……お前と良く似た人間を、上条さんも一人知ってるぞ』

食蜂『誰ぇ?』

上条『アレイスター・クロウリー』

食蜂『………………』

上条『けれども似てるだけで同じじゃない。お前はお前だろ?』

あなたの手が私の頬に触れて来る。暖かい。この真っ暗闇の世界の中でも、貴方がいるなら寂しくない。
このままずっと眠っていたい。朝なんて来なければ良い。夢なんて覚めなければ良い。貴方さえいれば。

食蜂『――行かないで』

上条『……駄目だって』

時間よ止まれ、時間よ止まれ、時間よ止まれ。上条当麻不在の世界に、私は未練も執着も価値もないわ。

上条『――だって、お前までいなくなっちまったら、あいつは』

駄目、駄目、駄目。右手で触れないで。幻想(ゆめ)が終わっちゃう。また貴方が消えて行ってしまう。

上条『                         』

何?聞こえない――

113: >>1 2013/01/12(土) 01:26:39.28 ID:DfwHrfDAO
~1~

御坂「……くほう!」

食蜂「………………」

御坂「食蜂操祈!!」

食蜂が再び目を覚ました時、地獄はさながら天国のように花と水と光と風に包まれた世界に様変わりし。

食蜂「……アハハハぁ。日頃の行いが良かったのかしらぁ。まさか天国に行けるだなんてねぇ。ふふふ」

御坂「馬鹿言ってんじゃないわよ。あんたも私も死んでないわ」

食蜂「……もう終わっちゃったのねぇ。楽しい幻想(ゆめ)が」

御坂「夢はいつか覚めるのよ。子供だって知ってるわそんなの」

食蜂は御坂の膝枕の上にいた。自分の死をも織り込んでいた計算が脆くも瓦解した事を、食蜂は悟った。
遠くから凱歌が上がり、歓声が上がり、勝ち鬨が上がる。インデックスが復活し、神浄が生還したのだ。
『ハリストスの地獄降り』が成功し、征服した地獄はインデックスの復活をもって門ごと消滅させられ。

食蜂「私のチェス・プロブレムがこんな手で破られるなんてぇ」

右腕を失い総白髪になるまで戦い続けた神浄もまた緊張が解けたのか、建宮に背負われて運ばれて行く。
神裂は豊穣神の剣で、ステイルは竜王の殺息で半死半生となり、アニェーゼとアンジェレネが治療する。
オルソラは撃墜術式が直撃するも墜落死する前にシェリーが受け止め事なきを得、五和が救護班を呼ぶ。

御坂「馬鹿言わないでよ。あんたがどれだけ頭が良くても、全てが思い通りになってたまるもんですか」

彼等の物語は生というハッピーエンドを迎えたが、御坂達の物語には死というバッドエンドが待っている。
これだけの事をしたのだ。殺されても文句は言えないし死んで当然だ。御坂もまた覚悟を決め座して待つ。

そして――

ルチア「――祈る神はお持ちですか?クソ異教徒のゴミクズ共」

御坂「!?」

ザッと、失われた車輪の代わりに拳銃を手にして現れるは、食蜂に潰された右目に眼帯をつけたルチア。

食蜂「――ほらねぇ?誰一人、私の棋譜力からは逃れられない」

その銃口を前にして食蜂は微笑んだ。時が止まるほどに美しく。

食蜂「それが自殺手という名のイリーガル・ムーブだとしても」

残された左目に瞋恚の炎を宿したルチアが引き金に指をかけて。

食蜂「(――嗚呼、貴方は最後に、こう言っていたのね――)」

響き渡る銃声と共に、青空へ向かってアトリの群が飛び立ち――

114: >>1 2013/01/12(土) 01:29:52.79 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
上条『ビリビリを、孤独(ひとり)にしないでやってくれ――』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
115: >>1 2013/01/12(土) 01:30:21.32 ID:DfwHrfDAO
~0~

御坂「――食蜂ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

食蜂が目の前でルチアに撃たれて吹き飛び、身を乗り出そうとして御坂が修道女達に取り押さえられた。
静電気一つ起こせないまでに精魂尽き果てた御坂には、それらをはねのけるだけの何物も残っていない。
能力も、体力も、気力も。ただ物言わぬ食蜂が花畑に倒れ込むのをガクンと項垂れて見送る他なかった。

ルチア「次は貴女と言いたい所ですが、最大主教の命が下るまでは勝手な事は出来ません。そうですね?」

土御門「そういう事だ。お前達、奴を回収しておけ。撤収する」

御坂「……――嘘だわ」

土御門「………………」

御坂「こんなの嘘よ!」

代わって姿を表すは、現必要悪の教会(ネセサリウス)にして、元学園都市暗部(グループ)の構成員。

土御門「幻想(うそ)じゃあない。これが現実(しんじつ)だ」

『上条当麻』の隣人(しんゆう)土御門がルチアに渡した銃を受け取り、代わって部下に回収を命じる。
その衝撃の事実に、アニェーゼ部隊に両脇を抱えられながら御坂は叫んだ。しかし土御門は取り合わず。

土御門「とんでもない事をしてくれたな。お前達がした事は、科学サイドから魔術サイドに対する――」

御坂「何で舞夏のお兄さんが、何であいつのお隣さんが、何でどうして訳わかんない食蜂を助けてよ!」

土御門「そいつは、処刑塔(ロンドンとう)に放り込んでおけ」

アニェーゼ部隊に御坂を幽閉を命じたのだ。必要悪の教会の処刑場と言うべき処刑塔(ロンドンとう)へ。
覆いをかけられ、運ばれて行く食蜂へと、同じく引き立てられて行く御坂が半狂乱で慟哭する。そして――

土御門「……慰めの報酬代わりに教えてやろう。上やんを焚き付けたのは確かに結標だったかも知れない」

御坂「う゛っ、うっ、ぅっ」

土御門「――だが、上やんをここまで手引きしたのは俺だ。恨むなら俺を恨むんだな、常盤台の超電磁砲」

御坂「――うわああああああああああああああああああああ!」

斯くして御坂美琴の旅路(ものがたり)はここに幕を閉じる。一発の銃弾によって打たれた終止符の下に。

地には咲き誇る百合、空には羽撃くアトリ、流れ行くせせらぎ、吹き抜ける清風、目に痛いほどの朝焼け。

――残酷な神が支配する、アダムとイブの居ない復楽園にて――

116: >>1 2013/01/12(土) 01:31:01.15 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
千秋楽: 「pray~祈り~」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
117: >>1 2013/01/12(土) 01:31:30.00 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
禁書目録『――――私を、孤独(ひとり)にしないで――――』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
118: >>1 2013/01/12(土) 01:32:15.99 ID:DfwHrfDAO
~00~

それが、上条当麻(おれ)が最後に目に焼き付け、神浄(おれ)が最初に目にした女の子の泣き顔だった。
真っ暗闇の中、真っ赤に燃える火の海、真っ白な雪のような羽が舞い散っていたのを朧気ながら覚えてる。

ステイル『――目を覚ませ!本当に死にたいのか!立つんだ!』

神裂『不味い、血を流し過ぎています!右腕の止血を早く!!』

気が付いた時には、俺は屍の山と血の河に沈んでいた所を赤毛の男と黒髪の女に引っ張り上げられていた。
真っ暗な視界を塗り変える炎、真っ黒な世界を塗り潰す光が飛び交う、地獄そのものような戦場の中から。

ウィリアム『ここは我々が任せて先に行くのである!行け!!』

騎士団長『予想以上に最低で、想像以上に最悪だな。行くぞ!』

何人、何十人、何百人もの人間を何千、何万、何億って化け物を食い殺そうと襲い掛かって来る。何だ?
ここはどこだ?おまえらは誰だ?俺は何なんだ?って言う疑問さえ吹き飛ばすような本物の地獄絵図だ。
俺は死んだのか、死に損なったのか、死にかけてるのか。苦しい、痛い、寒い、熱い、恐い、怖いんだ。

禁書目録『すている!かおり!とうまの事お願いするんだよ!』

そんな俺を庇うように強面の男と優男が化け物の群れを食い止める中で、真っ白な服を着た女の子が――
何か言っている。歌うように唄うように謡うように唱うように詠うように謳うように、何か言っている。

禁書目録『“ハリストスの地獄降下術式”発動まで八十秒――』

女の子の身体が光っている、輝いてる、煌めいている。俺を見つめながら、泣きながら、笑いながら――
何だよ。何であいつは、そんな悲しそうな顔してんだ。何でこいつは、そんな哀しそうな目してんだよ。

禁書目録『……ごめんね、とうま。あのね?私ね、本当に――』

それでもわかった事がある。この子は俺を守ろうとしてる。俺達を護ろうとしてるんだって。そして……

禁書目録『――本当に、とうまと出会えて、幸せだったんだよ』

この子は俺が好きで、あの子は俺を愛してたんだって、記憶(のう)じゃなくて魂(こころ)が叫んでる。

禁書目録『私の事をもう一度忘れて欲しいんだよ。とうま――』

それが始まりだった。

119: >>1 2013/01/12(土) 01:34:53.31 ID:DfwHrfDAO
~01~

それが失敗だった。完全に俺の失敗であり、完璧に俺の失策だった。読みが、考えが、見通しが甘かった。
『在らざるモノ』への対抗策として切った二枚のジョーカー、インデックスと上やん。その両方を失った。
数億に迫ろうかと言う軍勢を食い止める為に放った『竜王の殺息』の副産物である羽が上やんの記憶を……
根刮ぎ破壊し尽くし、それを放ったインデックスも、『ハリストスの地獄降下』で人柱になってしまった。
そのおかげで『地獄の門』から新手は現れくなったものの、生き残った化け物共の数は依然億を下らない。

上条『う゛うぅ』

今、上やんは在らざるモノに食い千切られた右腕の施術を終えたばかりでまだベッドから起き上がれない。
そして俺もまたベッドから抜け出せない。死ぬ寸前まで魔術を使ったツケを支払おうにも身体が動かない。
ねーちん達もアックア達も、もう168時間ぶっ続けで戦っている。だがそれすら時間の問題だろうと……

上条『な、なぁ、そこのグラサン。俺はどうすりゃいいんだ?』

土御門『上やん……』

上条『俺には何もわかんねえ。だけど、さっきあの女の子……』

土御門『インデックスの事か』

上条『い、インデックスって言うのかあの子、ははは、“目次”って何だよ。変な名前してんだなぁ……』

土御門『………………』

上条『お、教えてくれ。あの子にとって俺は何だったのか、俺にとってあの子は何だったのかを――……』

そう思っていた自分を情け無く思うほど、隣のベッドに俺以上の深手を負った上やんの声は力強かった。
インデックスはおろか自分の名前さえわからないほどのダメージを受けながら、何一つ変わる事なくだ。

土御門『……インデックスは』

――俺を恨め御坂美琴。俺を怨め超電磁砲(レールガン)――

土御門『上やんがこの世で一番愛した女の子、恋人だったんだ』

上条『……何だって』

今、上やんを脱け殻にする訳には行かない。そしてこう言えば上やんは必ず死の淵から甦るって言う事を。
俺は知っている。デルタフォース(親友)であり、戦友でもある俺は知っている。上やんがどういう男か。

土御門『――あの子は、おまえを守る為に人柱になったんだよ』

――俺は知っている。悪いな上やん。俺は、嘘吐きなんだぜ――

120: >>1 2013/01/12(土) 01:35:21.04 ID:DfwHrfDAO
~02~

貴方はあの時、吐いてはならない嘘をつきましたね。土御門……
記憶喪失に陥り、死の淵を彷徨っていた上条当麻を焚き付けて。
再び戦場へ舞い戻らせた貴方を、責める資格は私にありません。

上条『……俺にも手伝わせてくれよ、ポニーテールのお姉さん』

彼の手を守る事さえ出来なかった弱い私、彼の手を借りる他なかった弱い私にそんな資格はありません。

上条『……俺が大好きだった女の子を、助けたいんだ。頼むよ』

必要悪の教会が全滅すれば、英国そのものが壊滅する。いえ、世界が破滅するほどの危機の中にあって。

上条『俺の中の“誰か”が言ってるんだ。“右腕が吹き飛んだ今しか引きずり出せない力がある”って』

今思えば私とも戦った一人目の上条当麻、私と共に闘った二人目の上条当麻もそんな事に関係なく――
あの子を助けたいという意志、あの子を救いたいという意思が、遺志となって三人目の上条当麻を……

上条『“インデックスを助けろ”“インデックスを救え”って』

駆り立てているなら私にはそれを止める力など無く資格も有りはしませんでした。少なくとも私は……
また彼を振り払えなかった。まだ彼を振り切れなかった。そんな私を通り過ぎて行く彼の背中さえ――

神裂『……上条当麻』

振り返れなかった。たった数週間で総白髪になるほど消耗した肉体、磨耗した精神、そして右腕切断……
加えて記憶を失い、命すら落としかけて尚、内なる魂に従って前に進もうとする彼を止める事なんて――

上条『……さっきの女の子も俺を“とうま”って、さっきのグラサンも俺を“上やん”って、呼んでたな』

神裂『………………』

上条『“かみじょうとうま”か。なあ、それってどんな字だ?』

出来る訳がないと彼の目を見、出来る筈がないと自分の頭で考えて出した結論。私は彼と共に進みたい。
振り切れぬ思いを抱いて、振り返れぬ背を守ろうと決めた時、私は彼と初めて切り結んだ時を思い出す。

神裂『“神浄”の“討魔”。それが貴方の真名です。神浄討魔』

上条『“神を浄めて魔を討つ”か。大袈裟な名前だなぁ、それ』

彼の真名を呼んだ日の事を。ならば私は彼の裂かれた右腕となろう。彼の剣に、彼の刃に、彼の――……

神裂『――私は神裂火織と申します。神裂、と呼んで下さいね』

神に見捨てられたあの子と、神に忘れられた彼の力になろうと。

121: >>1 2013/01/12(土) 01:35:48.34 ID:DfwHrfDAO
~03~

僕は不覚にも、その黄色い肌の男に神の力を見出してしまった。
数億にも及ぶ地獄の軍団、『在らざるモノ』達の侵攻さえも――
奴は切り落とされ失われた右腕から迸らせた力で退けて見せた。
残されたの、は髑髏の山と十字架の丘、血の河と塩の柱だけだ。
全ては一瞬の出来事だった。それは正しく奇跡で等しく奇蹟だ。

アニェーゼ部隊は言葉通り二の句が継げず、天草式十字凄教は文字通り絶句していた。それは他の――
シェリー=クロムウェルも、オルソラ=アクィナスも、ウィリアム=オルウェルも、騎士団長も、僕も

上条『……インデックス、目覚まさねえな。ええと、確か……』

ステイル『……ステイル。ステイル=マグヌスだ上条当麻……』

上条『嗚呼、ステイル。何でこの化け物達は倒したのにインデックスは起きないんだ。教えてくれよ……』

神裂『……神浄討魔』

上条『誰か教えてくれ。俺に何か出来る事はもうないのか……』

誰も答えられなかった。インデックスが行った『ハリストスの地獄降下』術式は、不完全なものだった。
聖十字架、聖骸布、聖槍、聖釘なしで彼女の持つ十万三千冊の知識のみで組み上げたものだったからだ。
『地獄の征服』こそ叶ったものの『復活』までは適わない。少なくとも、今打てる手立ては最早ないと。

ステイル『――今はない。だがそれはこの先もないという意味じゃない。必ず見つけ出す。彼女は目覚める』

上条『ステイル……』

ステイル『目覚めさせる。上条当麻、君はここに残って彼女を守れ。手立ては僕達が神に誓って見つける』

神裂『ステイル!?』

ステイル『術式が不完全ならば封印も不安定かも知れない。門がいつ扉が何時開くかわからない。だから』

上条『――わかった』

――誰が諦めるものか。奴は奇跡を起こしたならば次は僕達が奇蹟を起こす。神ならざる人の手によって。

ステイル『――もう一度聞こう。彼女の為に生きて死ねるか?』

僕は君と分かり合おうとも思わないし、君も僕に歩み寄ろうとも想わないだろう。

上条『何度も言わせんな。何回だって言ってやる。当たり前だ』

僕は君と和解するつもりもないし、君も僕を理解するつもりもない。だがしかし。

ステイル『――それで十分だ』

同じ女を愛したという唯一点において、僕は君を認めているつもりだ。上条当麻。

122: >>1 2013/01/12(土) 01:39:01.26 ID:DfwHrfDAO
~04~

ここまでが、とうまから、もとはるから、かおりから、すているから、私が聞いたお話の全てだったかも。
とうまの記憶喪失、『地獄の門』の封印、短髪の襲撃事件、それに伴う学園都市との水面下での駆け引き。

親船「ではそれらの条件を受け入れれば、彼女、学園都市第三位御坂美琴を解放すると仰有られるので?」

禁書目録「これは最後通牒なんだよ。教会派は束ねられても、王室派や騎士派までは押さえきれないかも」

今もディスプレイ越しに、私はアレイスター・クロウリー亡き後に統括理事長の座に就いたお婆さん……
親船最中と向かい合ってる。イギリス清教の総大主教として、必要悪の教会の首脳として交渉している。
不可侵条約を破った短髪を捕らえた上で、学園都市との戦争も辞さない覚悟でこのテーブルについてる。

禁書目録「一つ目、御坂美琴の永久上陸拒否。二つ目、学園都市第十一学区にイギリス清教支部を置く事」

親船「一つ目は受け入れましょう。ですが如何に第十一学区に神学校を置いているとは言え私の一存では」

禁書目録「三つ目、上条当麻のイギリス清教への改宗。これが、王室派・騎士派との摺り合わせの限界点」

短髪を半永久的に英国の土を踏ませない事。学園都市内にイギリス清教支部という橋頭堡を作り出す事。
そして学園都市最弱の上条当麻(レベル0)を必要悪の教会最強の神浄討魔(エクソシスト)として――
公として必要悪の教会に神浄討魔(戦力)を奪い取り、私として短髪から上条当麻(半身)を奪い取る。
公人としての意志と私人としての意思、二人目のとうまの遺志と女としての意地、全てを引っ括めてね。
短髪に返さない。学園都市に帰さない。きっと先代は私のこういう狡猾な所を見抜いて指名したのかも。

禁書目録「返答は日本時間で三日後に。願わくばこれ以上互いにとって無益な血の流れない賢明な判断を」

でも私が前最大主教に指名されていなければ、短髪は宗教裁判にかけられるまでもなく処刑されてたかも。
けど私が前最大主教に指名されていなければ、こっそり短髪だけでも逃がして上げられたかも。だけどね。
個人の流す涙が組織の流す血に勝るような事があれば、身体を張ってくれた皆に申し訳が立たないんだよ。

それにね、短髪――
123: >>1 2013/01/12(土) 01:39:27.99 ID:DfwHrfDAO
~05~

真っ白い部屋、真っ黒い感情、真っ赤な記憶、真っ青な顔色、真っ黄色のペースト、真っ暗闇の世界――

御坂「(……10+10=20、20+20=40、40+)」

処刑塔(ここ)に閉じ込められてから、寝ても覚めても頭にチラつく、胸に過ぎる、色とりどりの記憶。

御坂「(40+40=80、80+10=90、ええと次は)」

最初は食事の回数で日数を数えてたけどそれもその内わからなくなった。最近、三桁の足し算も危ない。
人と話してないと、独り言でも呟いてないと、言葉が出て来ない。舌が回らない事を私は初めて知った。
意識が朦朧として、皮膚感覚が曖昧で、思考が点で止まって線を結べなくて面が描けないという事もだ。

御坂「(……何も考えられない。何もしたくない。もう何も)」

何日?何週間?何ヶ月?髪の伸び具合からするとかなり経った気がする。ここに放り込まれてからも……
今の所拷問はされてないけど、いつ処刑されるかわからない恐怖も最近では麻痺して来てる自分がいる。
自殺も、逃亡も、反抗も考えた。だけどそうはさせない何かしらの力が働いてるみたいでそれも不可能。

御坂「(もう何一つ、もう誰一人、私には残ってないんだわ)」

そんな中で思い返すのは上条当麻(あいつ)の事。そんな中で思い出すのは食蜂操祈(あいつ)の事……
上条当麻を取り戻す事も、食蜂操祈を守り抜く事も、何一つ出来ないまま、私はただひたすら待ってる。
14年、5110日、私が御坂美琴(わたし)として受けた生の終わりを。奇跡(すくい)なんてない。

御坂「(ごめんねママ。ごめんね黒子。ごめんなさいみんな)」

だって私は神の家(きょうかい)に殴り込んで、そこの聖職者(れんちゅう)に喧嘩を売ったんだから。
私の知る上条当麻は死んで、私を知らない神浄討魔が生きている、という一点を除いて救いなんてない。
私にそんな結末を求める資格なんてない。食蜂を殺したのも、食蜂を死なせたのも全部私の所為だから。
愛しいあいつの生を喜べずに、憎いあいつの死を悲しんでるだなんて、我ながら心境の変化に戸惑うわ。

カラカラ……カラカラ……

御坂「………………」

そして私もまたあいつほどじゃないけど、何十人かを助けて来れた。それを嬉しく思えない唯一の例外が。

禁書目録「やつれたね、短髪」

救った事を後悔する、無二の例外が車椅子に乗って姿を現した。

124: >>1 2013/01/12(土) 01:41:35.73 ID:DfwHrfDAO
~06~

御坂「これから死ぬか殺される人間が元気な訳ないでしょう?」

禁書目録「それじゃあ困るんだよ。学園都市と交渉が終わるまでは、短髪には生きていてもらわないとね」

処刑塔(ロンドンとう)最深部にて、不可視の隔壁を挟んで御坂と車椅子姿のインデックスが相見える。
そこで拘束衣に身を纏う御坂の目に赫亦が散り瞋恚の炎が宿る。それは好悪でもなく嫌悪でもない憎悪。
かつて、友情とまでは行かぬまでも友誼を結んだ相手に向けるものとは思えない、煮え滾る熔岩が如く。
相対するインデックスの眼差しもまた、死火山の火口を思わせる眼差しに車椅子を押すアンジェレネも。

アンジェレネ「(……この二人)」

御坂「交渉?何の事?さっぱり話がわからないわ“シスター”」

禁書目録「今は“アークビショップ”だよ。じゃあ説明するね」

アンジェレネ「(……似てます)」

固唾を飲み手に汗を握る中、インデックスが御坂の置かれた現状と学園都市との状況とを掻い摘んで話す。
英国への永久上陸拒否、学園都市第十一学区にイギリス清教の支部を出す事、そして上条当麻の移籍に――
触れた所で、視線だけで心臓を握り潰すが如く剣呑な眼差しを向けられ思わずアンジェレネが縮こまった。
傍観者に過ぎない自分を心胆寒からしめるほどの絶対零度の視線を、インデックスは涼しげに受け流す。が

御坂「助けてくれてありがとうなんて言葉最初から期待してなかったけど、ごめんなさいも言えないの?」

禁書目録「………………」

御坂「――私から上条当麻(あいつ)を奪っておいて恩着せがましく能書き垂れてんじゃないわよ!!!」

氷土は瞬く間に火柱を上げた。そう、インデックスは御坂に対し感謝もしなければ、謝罪もしなかった。
総大主教として、どうしても身体を張った部下(アンジェレネ)の前で御坂(てき)に腹を割れようか。
御坂にはそれがわからない。それは彼女が未だ『少女』でありインデックスは既に『女』だからである。

禁書目録「……私が今更何を言っても、とうまは二度と短髪の所へ帰って来ないかも。まだわからない?」

それは、『ハリストスの地獄降下』術式を構成する魔術的要素にも関わって来る重大な変化が起きた為だ。

御坂「えっ……」

一つの魂を捧げた『神の子』の十字教の奇跡が二つの命を宿した『聖母』の十字教の奇蹟に変わった為だ。

125: >>1 2013/01/12(土) 01:42:25.64 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
禁書目録「――とうまと私の赤ちゃん。もう三ヶ月になるかも」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
126: >>1 2013/01/12(土) 01:42:54.99 ID:DfwHrfDAO
~07~

海原「統括理事長直々の依頼です。御坂さんを救出せよと――」

一方通行「――断る」

海原「………………」

一方通行「オリジナルの尻拭いに火点いたケツ回してンじゃねェ。ガキのケツ持ちしたきゃオマエがやれ」

結標「(やれやれ)」

一方、学園都市にある個室サロンの一角にて土御門を除く元『グループ』の面々もまた召集を受けていた。
『グループ』より密に繋がっていた親船たっての依頼とあり、彼女の顔を立てて足を運びはしたものの――
肩を痛めてまで御輿を担ぐつもりなどない一方通行の返答は無碍もない。取り付く島さえありはしないと。

結標「(私も御坂美琴を救うだなんて真っ平御免だけど、帝都タワーの件で親船には借りがあるしね)」

机に足を乗せる一方通行、ジュースを手にした海原を横目に、壁際に凭れ掛かる結標はやや考え込んだ。
親船への借りを返す好機でもあるし、何より恋人である白井のここ数ヶ月の憔悴ぶりを鑑みてでもある。
だがまだ命を懸け身体を張るには理由付けとして些か物足りない。少なくとも、海原の放った次の一手。

海原「この件に上条当麻(かれ)が深く関わっていてもですか」

一方通行「………………」

結標「――何ですって?」

海原「上条当麻(かれ)が御坂さんを捕らえたそうですよ。必要悪の教会の神浄討魔(たいまし)として」

パキン!と海原の手の中で砕け散るブラッドオレンジジュース、乗せた足を組む一方通行、そして結標。
奇しくも三者三様、上条に対して浅からぬ縁を持つ彼等を選んだ親船の目論見を、皆一様に感じ取った。
その事に一方通行は圭角を逆立てられ、結標は口角を吊り上げる。それを見やる海原もまた手を拭いて。

海原「では自分はこれで。明朝、第二十三学区にてお待ちしています。強制はしません。皆さん次第です」

御坂に対する私情と上条に対する私怨を抱く海原が退室し、上条に因縁と御坂に遺恨を持つ一方通行も。

一方通行「………………」

物言わぬまま杖をついて出て行き、上条を焚き付けて御坂と殺し合った結標だけがその場に取り残され。

結標「――連絡入れないと。小萌と、それから白井さんに……」

結標が白井とお揃いのスマートフォンを取り出して、そして――

127: >>1 2013/01/12(土) 01:46:35.52 ID:DfwHrfDAO
~08~

白井「はい、もしもし?」

結標『夜遅くに悪いわね』

白井「……ええ、全くですの。それで何か急ぎの用事ですの?」

結標『――またちょっと連絡取れなくなるでしょうから一言ね』

一方、学園都市より遠く離れたドーバー海峡を渡りロンドンを目指すフェリーにて、白井は腕時計に……
その文字盤に目を落としながらおよそ九時間ほどある時差を確認しつつ、朝靄の中結標と通話していた。
その涼やかな声音に、思わず白井も張り詰めた横顔と強張った双肩から力が抜けて行くのを感じていた。
これより向かうロンドンにいるであろう御坂を除くなら、白井にとってこの世で最愛と言って良い存在。
ツインテールを靡かせ、スカートを戦がせ、吹き抜けて行く潮風に吹き荒れる時化の予感を感じながら。

白井「ふふふ、それでわたくしの声を聞きたくなりましたの?」

結標「ちっ、違うわよ!私は貴女が寂しがるだろうと思って!その、御坂美琴の件で随分参ってたし……」

白井「はいはい。わたくしの方ならば大丈夫ですので御心配無く。御電話、ありがとうございますですの」

結標『……ふん。付き合い始めてからまだ三ヶ月そこそこだって言うのに、随分可愛げがなくなって……』

白井「そういう貴女こそこの三ヶ月で随分可愛らしくなりましたわよ淡希さん。それではおやすみなさい」

通話口越しにおやすみなさいのキスを送って切り、白井は手摺りに寄りかかりながらメールを開いて見る。
御坂が消息を絶って三ヶ月目の夜、憔悴しきっていた白井の元に飛び込んで来た見覚えのないメールが……

―――――――――――――――――――――――
4/1 3:11
from:+ 44 The Fables of the Bees@mail.co.uk
sb:
添付:(126KB)20XX0331_0311.01jpg
本文:
She is still alive.
―――――――――――――――――――――――

白井「(お姉様の画像、GPS情報、“彼女は生きている”との一文。初春にもチェックさせましたが)」

白井の行く道を決めさせた。初春に逆探知させた所、発信元は大英帝国、機種はプリペイド携帯であった。
その他にも、直ぐに来い・フランスを経由せよ・フェリーを使え・ロンドン塔へ向かえとの指令が入った。
悪戯などでは到底出来ない真に迫るそれらの情報提供者のメッセージを頼りに、白井はついに上陸する――
128: >>1 2013/01/12(土) 01:47:16.84 ID:DfwHrfDAO
~09~

神浄「――学園都市か」

ステイル「懐かしいか?」

神浄「いや全然。初めて見たからすげー新鮮な気持ちだ。イギリスの街並みとは全然違うんだなって……」

一方、学園都市でも大英帝国でもない宇宙空間に浮かぶ千葉県外房沖より回収されたラジオゾンデ要塞。
その居住区にて神浄は糖蜜のプティングを頬張り、神裂はミルクティーパックに口をつけながら揺蕩う。
ステイルは煙草を吸えない苛立ちをニコレットで押さえつつ宇宙服に身を包んだまま機器を操っていた。
機器の画面上に映るは学園都市製宇宙軌道エレベーター『エンデュミオン』。今回の作戦の目標到達点。
かつてはステイル、神裂、インデックス、上条、そして鳴護アリサが一同に会した忘れえぬ約束の地だ。

ステイル「皆、わかってはいると思うが、彼女、いや総大主教が学園都市を抑えている72時間が勝負だ」

神浄「嗚呼。それまでにアレイスターの残した“負の遺産”を回収し“天国の扉”を破壊する、だろう?」

ステイル「そうだ。最悪、このラジオゾンデ要塞を突っ込ませてでも。犠牲者は“最小”で230万人だ」

神浄「ステイル、正確には230万人と俺達3人の間違いだろ」

無重力状態の中、残された左腕を枕に神浄は事も無げに言い放ち、ステイルでさえ覚えた感傷や感慨……
その百分の一の深みさえ感じさせない声音で画面上の学園都市を見やる。そう、既に神浄にとっては――
学園都市は帰るべき故郷ではなく向かうべき戦場でしかない。そこでステイルもまた表情を切り替える。

ステイル「――こんな事ならあの時完膚無きまでに叩いておくべきだった。君は覚えているかい神浄討魔」

神浄「?」

神裂「……鳴護アリサという少女の事を。あなたが救った学園都市の歌姫とも言うべき少女です神浄討魔」

神浄「いや、覚えがねえな。それより二人とも、時間になるぞ」

『地獄の門』が開いたのが『神の子』の生まれたとされる12月25日、『天国の扉』が開くとされるは――
4月3日。『神の子』が死したとされる日は30年4月3日ないし33年4月7日。何れにせよ、最早猶予はない。

ステイル「……わかっている。これよりオペレーション“ハル・メギド”を開始する。大気圏突入準備を」

――宇宙エレベーター『エンデュミオン』を落とさねば、学園都市は地図上から消えてしまうのだから――
129: >>1 2013/01/12(土) 01:47:48.83 ID:DfwHrfDAO
~10~

鳴護「ありがとうございました」

響き渡る拍手、湧き上がる歓声、犇めき合う人々の黒山が第七学区の野外コンサートホールに谺して行く。
その中心にて喝采を受けるは鳴護アリサ。嘗て『エンデュミオン』に於ける事件に巻き込まれた少女は――
今も尚、歌い続けている。『いつかおっきな場所で私の歌を届けたい』と告げた少年少女(ともだち)……
上条当麻、インデックスが学園都市から姿を消した後も変わる事なく。だが唯一変わった点を挙げるならば

鳴護「(……やっぱり、いるはずないよね。馬鹿だなあ、私)」

歌を聞きに来てくれる人々の中に、人波の中に、人山の中、人混みの中に、上条達を探してしまう事だ。
歌い続けている限り、またいつか彼等に巡り会える。例え離れていても、いつか自分の歌声が届けばと。
そう思いながら鳴護はアンコールに備えて舞台上から一度はけ、一息吐いて春めく青空を見上げた所で。

鳴護「!!!!!!」

天上に坐する太陽が日蝕を迎えたが如く黒く塗り潰されて行く。それは勿論、蝕でも無ければ雲でもない。
鳴護は知らない。それが『ラジオゾンデ要塞』と言われる人工物が学園都市上空に舞い降りて来た事など。
鳴護は知っている。その『ラジオゾンデ要塞』が取り付いた先が宇宙エレベーター『エンデュミオン』と。
吹き下ろす暴風、吹き荒れる颱風、吹き抜ける逆風に抗うようにして我先にと駆け出す人々の中にあって。

「――アハハハぁ、まるで出来の悪いパニック映画みたいねぇ?」

鳴護「!」

「――残念。貴女のアンコール力、楽しみにしてたんだけどねぇ」

蜂の巣をつついたような騒ぎの中、悠然と観客席に腰掛けていた一人の少女が重い腰を上げるように――
鳴護を見据えながら立ち、紺色チェック柄のスカートの裾を払い、風に靡く細金細工の髪を掻き上げる。
その制服に鳴護は見覚えがあった。常盤台中学校。レベル0の自分で門を潜るどころか扉すら叩けない。
そんな少女と鳴護を残して閑散とするコンサートホール内に尚も渦巻き逆巻く風が花嵐に取って代わる。

鳴護「それはどうもありがとう。貴女は逃げなくても良いの?」

「逃げないわぁ。私にはまだやらなくちゃいけない事があるの」

斯くして物語はここに第二幕を迎える。幽閉された御坂美琴、救出へ向かう白井黒子、そして今一度――

130: >>1 2013/01/12(土) 01:50:55.75 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「――私だけの超電磁砲(おひめさま)を助ける為にもねぇ☆」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
131: >>1 2013/01/12(土) 01:51:21.96 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
真之序之舞: 「蜂の寓話~Only my Railgun~」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
132: >>1 2013/01/12(土) 01:51:50.04 ID:DfwHrfDAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
奇跡(かがく)と奇蹟(まじゅつ)が交差する時、物語は始まる
 
 
 
 
 
 
 
 
 
135: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/12(土) 01:57:48.78 ID:JDVZRBte0
おつです
圧倒されて言葉がでない…
136: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/12(土) 04:18:28.68 ID:ZKCu+TUr0
乙、一気に読んだ
何でこんなに切ない気持ちになるんだ…
151: >>1 2013/01/19(土) 22:29:11.53 ID:zEt8orVAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
冒頭6分38秒: 「舞い降りる伝説~Blackend Angel~」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
152: >>1 2013/01/19(土) 22:30:02.38 ID:zEt8orVAO
~00~

ステイル「ラジオゾンデ要塞、宇宙エレベーター“エンデュミオン”軌道上に到達。大気圏再突入まで」

『聖人』神裂火織はラジオゾンデ要塞上より金属製の胸当てに左手を添え、右手に七天七刀を携え佇む。
無限回廊を思わせる宇宙空間にあって、土蛍が如く広がる星海を揺蕩いながら見据える先は地球である。
より正確には数分後に到達する天の御柱、学園都市製宇宙エレベーター『エンデュミオン』に対してだ。

ステイル「300秒。降下角度91修正、バルーン4・9・13、続いて616~666セパレーション」

ステイルの指示に従い、次々とラジオゾンデ要塞に取り付けられたバルーンが分離し虚空に吸い込まれる。
『投擲の鎚』と切り結んだ時とは違って、金属製バルーンを一々破壊したりガス抜きして回る必要はない。
千葉県房総沖より回収したラジオゾンデ要塞はイギリス清教により改修され、思うがまま操れるのである。
全てはアレイスター・クロウリー亡き後の学園都市に残された『天国の扉』を破壊する為の下準備なのだ。

そこへ

ステイル「目標宙域にて放射光確認!スパイ衛星による質量攻撃だ!気象衛星ひこぼしⅡ号だ注意しろ!」

神裂「!」

通信用霊装より飛び込んで来る要塞内の警告音とステイルの檄を受けて天壌無窮の暗黒を神裂は見やった。
塵芥ほどにも感じられず、伝える音も無ければ振動を運ぶ大気さえない宇宙空間にあって『それ』は来た。

神裂「(スペースデブリ!)」

ひこぼしⅡ号より大質量の砲弾が軌道上へバラまかれ、浮遊する無人小型宇宙船の電磁力によって急加速。
地球の自転を無視し、地表ではなく対空爆雷が如く撃ち出されラジオゾンデ要塞へと向けて飛来して来る。
『八段階目の赤』と字されるそれは超高速の運動エネルギーを得れば一撃で地表の数十キロを根刮ぎ奪う。

しかし

神裂「――聖ペテロ撃墜術式」

極小の瞬きが極大の煌めきとなりて『飛来』して来るスペースデブリを前にして神裂は唱える。それ即ち。

神裂「――“術者を担ぐ悪魔達よ速やかにその手を離せ”!!」

重量10kgの砲弾を音速の13倍で射出し上空1500mで吹き飛ばす『より』速く撃墜する、反撃の狼煙である。

153: >>1 2013/01/19(土) 22:30:32.47 ID:zEt8orVAO
~01~

雲川「地球旋回加速式磁気照準砲(マグネティックデブリキャノン)をものともせずか。中々やるけど」

貝積「感心している場合か。まるで効いておらんぞ。どうするつもりだ。このままでは上陸を許す事に」

航空宇宙工学研究所付属、衛星管制センターのコンソールに頬杖を突き足を組みながら雲川が画面を見る。
宇宙空間内での出来事とは言え、そこに生じる閃光や破壊をダイレクトに流し続ければ頭がおかしくなる。
第二波、第三波と硫黄の雨が如く降り注ぐデブリによる流星群を次々と撃ち落とす神裂は如何ばかりかと。

オペレーター「アメリカ大統領ロベルト=カッツェ氏よりホットラインが繋がっています!今回の件で」

貝積「何ともしてでも水際で防いでくれ。首を突っ込んで来たハイエナにはこちらで対処するとしよう」

雲川「そうして欲しいけど。世界の保安官気取りの犬に鼻先突っ込まれたら仕事がしにくくて仕方無い」

今も米国よりマッハ20で成層圏を飛び出し、ラジオゾンデ要塞へと爆撃を開始するは極超音速飛翔体……
通称「ファルコンHTV2」が烏合して、要塞上の神裂目掛けて吶喊して行く様子が画面上に映し出しされる。
更にはファルコンHTV2に搭載された直径30センチ、長さ6.1メートル、重さ100キロのタングステン金属棒。
通称『神の杖』までも爆撃し、本来地表を薙ぎ払う兵器を宇宙空間に揺蕩う要塞を放つという荒業に対し。

ステイル『“硫黄の雨は大地を焼く”!』

轟!とセパレーションした金属製バルーンを要塞内から遠隔操作し、次々と破裂させた可燃性ガスが――
瞬く間に紅炎の槍襖に代わり、50以上もの血の雨となって『神の杖』を一斉に撃墜し、灰燼へと帰した。
本来の運用方法から外れた物量作戦などで、押し切れるような相手ではない事ぐらいわからないのかと。
今も貝積と電話口でやり合っている『ミスタースキャンダル』ことロベルト=カッツェの吠え面が目に。

雲川「――時間稼ぎはもう良いだろう。あっちの準備の方は?」

オペレーター「完了しましたが活動限界は持って120秒です」

浮かぶより早く雲川が席を立ち、オペレーターの肩に手を置いて次なる一手を打つ。というよりも――

雲川「確認不要、カウント省略、MNW全チャンネルオープン」

これまでの流れなど“真打ち”の登場の時間稼ぎに過ぎないと。

雲川「虚数学区“五行機関”展開、ヒューズ=カザキリ、出撃」

154: >>1 2013/01/19(土) 22:32:57.38 ID:zEt8orVAO
~02~

神裂「――援護射撃、感謝しますステイル。腕を上げましたね」

ステイル「ふん」

ひこぼしⅡ号の迎撃、ファルコンHTV2の突撃を退けた神裂が通信用霊装にて要塞内へと呼び掛けて行く。
今や、遠隔操作霊装を用いて右方のフィアンマが操っていた火の魔術をも会得したステイルに向かって。
事実、金属製バルーンの可燃性ガスを1として、それを物理法則を歪めて100にまで引き上げる地力。
それが既にステイルには備わっている。『地獄の門』から溢れ出した『在らざるモノ』達との戦いでだ。

神裂「(このまま降下シークエンスに入れば先ずは第一段階)」

雲霞が如く群がるファルコンHTV2、放たれる航空ミサイルが白線を描き蜘蛛の巣のように放射状に広がる。
第三波のお出ましかと、要塞上にて神裂が腰溜めに七天七刀を構え待ち受けた刹那に『それ』は来襲した。

神裂「!?」

轟!と五月雨撃ちのミサイル、釣瓶撃ちの神の杖をまるで魚群でも追い散らすかのように次々誘爆させ……
星海を切り裂いて昇り行く金糸の髪、天使の輪、百メートルにも及ぶ翼を数十背負った『人工天使』こと。

風斬「――ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

風斬氷華(ヒューズ=カザキリ)が成層圏を越えてやって来た。

~02.5~

神裂「七閃!」

風斬「破っ!」

上空五万二千メートルの世界で相打つファーストストライク、風斬の猪突を迎え撃つは、神裂の猛進。
振り下ろされる雷の剣、切り上げられる鋼の刃、音もなく激突し衝撃波がデブリを吹き散らして行く。
地上であったなら火を噴くほどの火花を散らし、鍔迫り合いながらも力負けし神裂の足跡を逆回しに。
要塞上層部をガリガリ削り取りながら神裂を押し負け、船外に放り出されるも初太刀で放った鋼糸が。

神裂「くっ!」

辛うじて迫り出した外壁に絡み付き、神裂は満身の力を込めてぶら下がりながら急旋回して行き、更に。

神裂「はっ!」

宇宙の果てに飛ばされるより早く鋼糸をアンカーに逆バンジーし飛翔術式を発動。再び要塞上へ返り咲き。

風斬「貴女達がァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

流星を思わせる速度で急降下し、追い縋って来た風斬の剣の薙払いを七天七刀の撃ち落としで叩きつけた。

155: >>1 2013/01/19(土) 22:33:23.83 ID:zEt8orVAO
~03~

ステイル『やったか!?』

貝積「やられたのか?!」

神裂『まだ!』

雲川「まだだ」

要塞上に叩きつけられた風斬が起き上がるより早く、神裂の飛翔からの居合い抜きを後方宙返りでかわす。
そこから雷の翼をジェット噴射させ、身体全体を捻って弾丸のように喉笛を狙い神裂がそれを前髪を数本。
正に間一髪切らせ胴回し回転蹴りを浴びせ、風斬もまた吹き飛ばされるよりも早く独楽の動きで切り返す。
神裂がそれを鞘で受け止め、焼き切れるより早く手放し持ち替えた鋼糸を引き戻し後方へと飛ぶまで一秒。

ステイル『何故魔術を使わない神裂!?』

貝積「成る程虚数学区による術的圧迫か」

神裂『(魔力が循環不全を起こして!)』

雲川「それくらい私だって考えてるけど」

天上と地上に分かれながら同じ場面を異なる画面で見やるステイルと雲川、神裂と貝積の声が交差する。
魔術サイドに対する切り札とも言える『人工天使』、魔術世界の核兵器とまで言われる『聖人』もまた。

風斬『――貴女達が!私の大事な友達を!私の大切な親友を!』

神裂『っ』

風斬の雷の翼による錐揉み飛行からの突きを避け、神裂が急旋回しつつ三段突きを繰り出すも風斬は――
動く事雷震の如し。神裂の目端にすら映らない『光速』移動で兜割りを放ち、神裂が振り向き様に払う。
押し戻しされる風斬、だが押し返す神裂もまた蹈鞴は踏まずに体当たりし両者が宇宙空間で縺れ合った。
だが鋼糸による命綱を許さぬ風斬が切り込み、神裂が後手に回る他ない剣戟を次々浴びせて行き、更に。

風斬『返してぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

第三次世界大戦にて、数多の魔術師を地殻ごと吹き飛ばした風斬の雷光が宇宙開闢を思わせる光を放ち。

神裂『“伴天連奉納兼光透晶”』

モニターがホワイトアウトするほどの万雷が要塞上に降り注がんとし、そこで神裂も二本差しにしていた

神裂『“草紙断ち”!』

天草式十字凄教秘蔵の霊装にして不世出の大業物、一千枚重ねた和紙を撫で切りにする草紙断ちを抜き

神裂『ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』

真っ向から雷光を切り裂き、泣き別れた雷が要塞の三分の一を消滅させ、あまりの破壊力に思わず神裂が

神裂『くっ』

堪らず膝を屈し、頭を垂れ、張り巡らせた鋼糸まで焼き切られ草紙断ちを杖代わりに立ち上がらんとした

風斬『これで!』

その時であった。
156: >>1 2013/01/19(土) 22:34:15.66 ID:zEt8orVAO
~04~

「Hadit000(我は燃える星の中心核にして生命の与え手なり)」

ラジオゾンデ要塞全体が日輪が如く輝き、月暈が如く煌めき、星辰が如く瞬き放たれし『黒白の光』が。
点の星々を線の光芒が面を結び描かれる『クリフォト』、生命の樹が反転した魔法陣のように描かれる。
計算外の出来事にコンソールを蹴って立ち上がり刮目する雲川、予想外の出来事に瞠目する風斬を光が。

風斬『う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!』

セフィロトの樹を反転した光を浴びた途端、風斬の背負う翼が櫛の歯が抜け落ちるように消滅して行く。
幾何級数的にその存在を価値から意義から理由から否定するように樹系図に磔にされたまま滅ぼされる。

雲川「一時撤退!ひこぼしⅡ号レーザー発射!風斬を援護しろ!このままだと“消滅”させられるけど!」

ひこぼしⅡ号から放たれたレーザーがラジオゾンデ要塞の更に三分の一を吹き飛ばし機体を爆散させるも。

オペレーター「……ヒューズ=カザキリ、ロストしました……」

『邪悪の樹』を形取った光が消え、ラジオゾンデ要塞が大気圏再突入した時風斬の姿はそこになかった。
残るは沈黙のみ。それは衛星管制センターも同様であり、火が消えたように誰もが皆一様に口を閉ざす。
だが雲川は一人決然と顔を上げて指示を出す。自分を含め結標達とも卓を囲んだ友人の死を悼むよりも。

雲川「学園都市上層部並び各学区に通達しろ。“エンデュミオン”周辺部の民間人は速やかに避難を開始」

為すべき責務と負うべき責任がある。しかし、事態はより悪く。

禁書目録『イギリス清教総大主教(アークビショップ)』

雲川「!?」

禁書目録「“Index-Librorum-Prohibitorum”と申します」

学園都市へ降下作戦を開始したラジオゾンデ要塞より、魔術により上空をビジョンに映し出される映像。
その演説内容とは、学園都市広告塔たる御坂美琴による不可侵条約を破っての襲撃事件を論ったもので。

禁書目録『学園都市により取られた敵対的な行為は、イギリス清教の信仰と生命に重大な脅威を与え……』

それは

禁書目録『自衛に訴える事を余儀なくされ今やイギリス清教と学園都市との間に戦争状態が存在する事を』

正しく

禁書目録『我等が神の名において、ここに通告するものとする』

宣戦布告であった。

157: >>1 2013/01/19(土) 22:36:23.08 ID:zEt8orVAO
~05~

ステイル「大丈夫か神裂!」

神裂「御陰様で何とか……」

「危なかったな。見てて冷や冷やしたぜしましたしちまった三段活用。あれ、あいつより強そうだったな」

神裂「あいつと言いますと」

「何て言ったっけ?あのビリビリした髪の短い女。名前は確か」

ステイル「……御坂美琴だ」

最終防衛ラインを突破し、学園都市製宇宙エレベーター『エンデュミオン』を目指すラジオゾンデ要塞。
些か痛手を被り、ふらつく神裂を無重力状態を生かし壁を蹴り、残された左腕で抱き止めるは『神父』。
失われた右腕より放たれしクリフォトの樹を模した、『幻想殺し』の力を宿した少年の腕の中にあって。

神裂「学園都市レベル5第三位、貴方の元恋人ですよ(既に月単位での記憶すら危うくなっているとは)」

神裂は一度目を閉じ、頭を降って離れる。染め直したツンツン頭の黒髪の少年、嘗ての思い人の腕から。
必要悪の教会の中にあって唯一魔術が使えず、ラテン語の魔法名を持たぬ異端の祓魔師(エクソシスト)
Hadit(ハディート)という字、神裂と同じ数字、『神浄の討魔』という真名を与えられし『神父』が。

「……嗚呼、思い出したぜ。あれくらいの奴が三番目なら、上条さんの役割分担は案外早く済みそうだな」

無重力状態の艦橋を行き来し、土御門から情報提供されたレベル5のデータベースを改めて閲覧し直す。
第三位御坂美琴。聖ジョージ大聖堂に攻め込んで来たものの少年の手により処刑塔へと幽閉された少女。

「ただあの金髪の女みたいな頭のキレるタイプは上条さんと相性が悪いの事ですよ。俺、“頭が悪い”し」

第五位食蜂操祈。天草式並びにアニェーゼ部隊を手玉にとった策士。ルチアに撃たれて死亡したとある。
更には七人のレベル5、『初めて目にする』第一位一方通行が最も危険であると言う註釈を斜め読みし。

「宣戦布告も始まったみたいだし降下作戦に移ろうぜ。っていうか着地に失敗したら死ぬよな、この高さ」

『二人目の上条当麻』をイギリスへと送り出した第六位結標淡希の欄で少年は画面を切り替え、注視する。
星海を超え、雲海を越え、画面上に映し出された学園都市を。そこでステイルが準備を整えながら言った。

ステイル「どうせ死ぬならこの任務が終わってから死んでくれ」

法の書に於いてフィアンマと同じ右方(南)に位置し、火を意味する『ハディート』を宿す少年へと――

158: >>1 2013/01/19(土) 22:36:56.50 ID:zEt8orVAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
神浄討魔「死なねえよ。インデックスと子供の顔を見るまでは」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
159: >>1 2013/01/19(土) 22:37:22.88 ID:zEt8orVAO
~06~

禁書目録『――とうまと私の赤ちゃん。もう三ヶ月になるかも』

その言葉が、私の中に残っていた最後の幻想をぶち殺した。内なる柱、心の背骨を、真芯からへし折った。
ずっと繋ぎ続けて来た一縷の望み、紡ぎ続けて来た赤い糸は断たれ、もう藁を掴む手にさえ力が入らない。

御坂「……もう何もしたくない」

自分の純潔と引き替えにあいつを引き止めようとした私。自分で自分が大嫌いになりそう、最低の女だわ。
自分の純血と引き換えにあいつを引き留めようとした女。憎んでも憎みきれないくらいの、最悪の女だわ。

御坂「……もう何も信じられない」

それが全てに裏切られて、煮え滾る溶岩(にくしみ)さえも凍てついてしまった私の死火山(こころ)を。

魔術師「侵……だ!直……応……要……ごっ、がああああ!?」

もし食蜂が死ななければ、もし食蜂が生きていれば、こんな私を見て笑うだろうか。呆れるだろうか……
もし撃たれたのが私なら食蜂は少しでも悲しんでくれたかしら?今の私のように哀しんでくれたかしら?

聖職者「落……け敵は……が……だ!ば、化け物ぉぉぉぉぉ!」

こんな真っ暗な牢獄で、独りぼっちで抱えた膝に顔を埋めている私を、未だ誰か覚えていてくれるかな?
黒子、初春さん、佐天さん、婚后さん、湾内さん、泡浮さん、固法さん、妹達、お母さん、誰か、誰か。

一方通行「――こンなところだけは“あのガキ”に似てやがる」

真っ暗闇の牢獄をぶち壊し、真っ赤な炎と共に、射し込んだ真っ白な光に私は自分の目と正気を疑った。

一方通行「オリジナル、聞こえてンのか?聞こえてねェのか?」

あいつに一番近い味方で、私に一番遠い敵のあんたがどうして?

御坂「……あんた!」

真っ黒なチョーカー、真っ赤な眼差し、真っ白な髪、レベル5第一位、学園都市最強、そいつの手が――

一方通行「……あァ?」

あいつみたいに優しく差し伸べられる筈もなく、私の胸倉へ伸びて、乱暴に締め上げられて起こされる。
それに対して私は瞬間的に、反射的に、本能的に電撃を叩きつけようとしてそこで初めて気付かされた。

一方通行「なンの真似だ?オリジナル」

――能力が使えなくなってる。静電気一つ起こせなくなってる。そうだ、ここに放り込まれる時に私は。

160: >>1 2013/01/19(土) 22:37:48.46 ID:zEt8orVAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
禁書目録『――“サンヘドリンによる最終決定”術式。これでもう短髪は能力を使えなくなったんだよ』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
161: >>1 2013/01/19(土) 22:41:01.57 ID:zEt8orVAO
風斬氷華の消失

上条さんの魔法名

御坂の無能力者化です

では、公開後にまたスレを立てます

じゃあの
163: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/20(日) 00:30:42.26 ID:mj4QMX2bo

やっぱりこの上条&インデックスは好きになれないな、そこも含めて面白いけど

 

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