結標「貴女なんて」白井「大嫌いですの」【後編】

前スレ:

結標「貴女なんて」白井「大嫌いですの」【前編】



179: >>1 2012/04/11(水) 20:53:52.46 ID:iu7JAZgAO
~0~

――――時は遡る事12月18日――――

海原「参りましたね、どうにも――……」

海原光貴ことエツァリは来たるクリスマスに向けイルミネーションの施された並木道にて白い溜め息をついていた。
ツリーの頂点にベツレヘムの星とクリスマスエンジェルが輝き、スノーフレークやキャンディケイムが色を添える。
そんな煌びやかな彩りの中爽やかなれど晴れぬ微苦笑を浮かべる理由はただ一つ、ミッションが芳しくないためだ。

海原「(木を隠すには森の中と言ったものですが、自分にとって些か不得手な場所になりますね……)」

そのミッションとは先日結標に話した忌み枝の剪定、平たく言うなら学園都市暗部の残党狩りである。
そこへ加わっている海原に下された新たな指令。それは『地下銀行の金庫番を確保せよ』というもの。
百桁にも及ぶ暗証番号を口伝にのみよって記憶した暗部の金庫番は今現在身を潜めているらしいのだが

海原「(帝都ドームなどと)」

その金庫番が暗部組織と接触すると言う情報が入ったのである。その場所は第七学区にある帝都ドーム。
旧電波塔『帝都タワー』の付近にあり、スポーツやコンサートなどに用いられる一種の複合施設である。
来たる12月24日、fripsideのクリスマスライブで数万人の来場が見込まれる衆人環視の中だと言う。

海原「(全てに目を配るのも難しいですし、人員の配置も厄介極まりますね。困ったものです、本当に)」

そう海原がツリーの電飾を仰ぎ見ながらポリポリと頭を掻くと

御坂「げっ」

海原「おや、御坂さんじゃありませんか」

そこに現れるは上条と別れ帰路へ着いていた御坂である。それにより少年の顔に刻まれた微苦笑がより強くなる。
対する御坂も先程上条に向けていた微笑みとは異なる引きつった苦笑いを浮かべ、両者の間に何とも言えない――

海原「こんばんは、御坂さんも月光浴ですか?」

御坂「あ、ああ!うんうん、そんなところかな」

空気が夜の霧をかけるより早く、海原は常なる爽やかな笑みを浮かべながら何気ない世間話をし始めた。
海原は知っている。御坂と上条が晴れて恋仲となった事を。海原は戦っている。今なお御坂美琴の世界を

海原「ふふふ、奇遇ですね。実は自分も」

御坂「(うわー何か長くなりそう……)」


彼女が笑って過ごせるハッピーエンド(世界)を守るために。



180: >>1 2012/04/11(水) 20:54:23.65 ID:iu7JAZgAO
~1~

そして来たる12月月24日、結標と白井は地下街のカジュアルレストランにて落ち合う事となった。
白井も雪道の中駆けつけるなり結標と同じリモーネ・カプチーノを注文し、暖を取って人心地ついた。
対する結標はテーブルのに肘をつき手指を組ませて顎を乗せ、白井のコーディネートを見やりつつ――

結標「うふふ、そんなに慌てないでいいのよ白井さん。コンサートまであと二時間はあるのだから……」

白井「寒かったんですの!年も越さない内からもう二度も雪が降るなんて今年の冬はどうかしてますの」

結標「あたためあげましょうか?」

白井「冷たくなりたいんですの?」

利かん気の強そうな顔立ち、負けん気の強そうな眼差しを向けて来る白井をからかう。
フーフーとカプチーノの上に乗った生クリームが白井の吐息に合わせて揺蕩い揺れる。
結標は確かな手応えを感じていた。内心はどうあれ白井は自分のもとまでやって来た。

白井「ところで二時間もどうやって過ごすんですの?このレストランで粘り続ける心積もりでしたらばわたくし帰りますのよ」

結標「冷たい子ね。そんな貴女をこれからより冷たいところへ招待してあげるわ。その内身体もあったまって来るでしょうし」

白井「?」

御坂には当然話を通していないだろうし明かす事など有り得ない。これは言わば密通に等しい逢瀬である。
自責、自涜、自虐、自暴に等しい勢いで来たのであろう。その言葉の端々に含まれたトゲが物語っている。
結標の思い通りに懐柔などされまい、取り込まれ服従させられてはならないと気を張り詰めている様子が。

結標「ひとまずそれを飲んでからでましょうか。舌を火傷しないようにゆっくりで」

白井「ズズー!プハー!!」

結標「……どれだけ負けず嫌いなのよ貴女は。そんなに私の風下に立つのがイヤ?」

白井「熱っ……ええ、舌を火傷する方が、舌を噛み切る方がマシなくらいですの!」

湯気も引き切らぬ内に一気飲みしソーサーに戻す様子からも見て取れた。故に結標もカップの取っ手を――
チン!と人差し指で鳴らして微笑み、真紅のファー付きニットコートと伝票を手に取り席を立ち上がった。

結標「……では行きましょうか白井さん。“帝都ドーム”まで」

まるで果たし合いにでも赴くような二人の向かう先には――

181: >>1 2012/04/11(水) 20:56:19.88 ID:iu7JAZgAO
~2~

白井「スケートリンクですの!!?」

結標「あら、こういうのはお嫌い?」

なんとスケートリンクである。帝都ドーム内にはいくつか娯楽施設もあり、結標はその中からここを選んだ。
そして突っ込む白井をよそにシューズを借り、トントンと銀盤にエッジを噛ませて氷の具合を確かめていた。
そんな結標の場慣れした様子に白井はやや気後れする。こんな事ならもっと別のコーデにするべきだったと。

白井「身体を動かすのは嫌いではありませんが、なにぶん入門者ですの。それにこんな格好ですし……」

結標「大丈夫よ。私がリードしてあげるわ。手取り足取りね。転ばせたりしないわ」

白井「(精神面が脆弱なくせにこういう時だけ上から目線なのがムカつきますの)」

ジト目で口を尖らせる白井より一足早く氷上に降り立ち、ターンブレーキ&ドヤ顔で手を差し伸べて来る。
そんな結標の余裕綽々っぷりを腹立たしく思いながらも、手すりに掴まるのがやっとの白井が睨み付ける。

結標「はい、まずは爪先を90度くらいにゆっくり広げて立ってみて」

白井「ぐぬぬぬ……た、たかがこれしきどうと言う事はありませんの」

結標「そう、なら次はペンギン歩きにチャレンジしてみましょうか?」

結標が手を取り、白井は支えられながらカツンカツンと氷上を踏み鳴らしてペンギン歩きをし始めた。
思わぬ形で再び手繋ぎする事となり、白井はややもするとかじかみそうな指先に熱が籠もるを感じる。
間近にある結標の赤い髪とコートとが白銀の世界に映え、ともすれば足元が留守になりそうなほど――

結標「上手上手。確かに身体を動かす事に関しては飲み込みが早いのね?貴女って」

白井「(また人をおちょくって!)今のでコツは掴みましたわ!もう貴女の手など借りずともわわ!?」

結標「白井さん!」

ペンギン歩きから左足で氷を蹴り出し、右足で滑り出す事を覚えた白井がキャンキャンと噛み付いて来る。
そんな小型犬めいた白井が勢いに乗って滑らんとしたまさにその矢先に、コントロールを失ったのである。
結標はそんな真っ正面から白井を抱き止め、T字ブレーキから教えるべきだったかしらと髪を撫でて行き。

結標「ほら、言わんこっちゃないわ。いい?ブレーキは……」

白井「(は、恥ずかしいです、の……)」

白井はそんな結標の赤いコートに顔を埋めたまま上げられなくなってしまった。否、離れ難かったのだ。

182: >>1 2012/04/11(水) 20:56:47.84 ID:iu7JAZgAO
~3~

白井「い、意外と足が疲れましたの……」

結標「慣れていないとそんなものよ。でももう一人で滑れるようになったじゃない。貴女は教え甲斐のある良い生徒だったわ」

白井「……悔しいですが教え方がわかりやすかったんですの」

結標「素直でよろしい。じゃあそんな貴女に何か飲み物を買って来てあげましょう」

それより十数分後、白井はぎこちなくも何とか手を引かれずとも滑れるようになり、結標は結標で――
スイスイと手を後ろ手に組んだままバックでフィギュアスケーターのように滑りつつ白井の先を行く。
その事に対し、白井は上達した事を手放しで喜べなかった。結標の手が離れていってしまった事にだ。

白井「(わたくしは何を考えているんですの。よりによって)」

手摺りに掴まり一息入れた白井は、回遊魚のようにスケートを楽しむ人々の中売店へ向かう結標を……
サンタクロースのような赤いコートを目で追っていた。嘗て切り結んだあの細く小さな背中をである。

白井「(――ロミオとジュリエットでもありませんのに……)」

自分を一回殺しかけ、自身を一度救い出した敵の後ろ姿を――

~3.5~

結標「(あんなにムキになって。でも初めて見たかも知れないわ。貴女の中学生らしい表情だなんてね)」

白井の視線を受けながらリンク内にある売店にて色ばかり濃いホットティーを二つ注文しながら結標は思う。
白井が浮かべた年相応の表情、自分の手のひらで転がる姿に果たして自分が中学生だった頃どうだったかと。

結標「(……昔の私を見ているみたい)」

フッと鼻から抜けるような笑みと共に結標はその詮無い感傷から目を切り白井の元へ戻ろうとした。だが

???「――結標さんですか」

結標「……その声、まさか?」

海原「――はい、自分ですよ」

両手に紙コップを抱えた結標が外周部より迂回しようとした矢先に声掛けして来たのは、一見軽そうな金髪の優男。
だが結標にはその声音の主とその能力を知っている。このナンパを装って話し掛けて来た少年は海原に違いないと。

結標「何で貴方がこんなところにいるのよ?クリスマスのお相手ならよそ当たって」

海原「貴女こそ“枝打ち”に加わったのではないのですか?このドームにいるなら」

結標「……どういう事か詳しく聞かせて」

そしてパッと見遊び人な男と女が向かい合って話す様子を――

183: >>1 2012/04/11(水) 20:58:47.36 ID:iu7JAZgAO
~4~

白井「(な、何をわたくしを放っておいてあんなチャラい男のナンパに付き合ってるんですのー!!?)」

白井は数分間に渡ってジト目もとい放送コードに引っ掛かりそうな眼差しで二人のやり取りを睨み付ける。
パッと見如何にもな男が携帯を取り出し、結標と何やらアドレス交換らしきものをしている様子が窺える。
それが何とも無しに白井には気に入らないのだ。嫌がっているならばまだ助け舟の出しようもあるのだが。

結標「……も……わ。自分の……で拭く」

???「では……したなら……引き渡し」

白井「(リンクの向こう側で全然聞こえやしませんの!!!)」

そこで白井は覚えたての滑り出しで氷上をカツカツと移動し対岸の結標へと詰め寄るように肩を怒らせる。
自分を放り出しているのが気に入らない。それ以上にあんなチャラい男と話しむ姿が気に食わないのだと。
そんな訳もわからぬ感情とも衝動ともつかぬ何かに突き動かされる自分に腹を立てながら白井は結標の――

白井「結標さん!そろそろ会場入りの時間になりますの!」

腕を強引に絡め取るようにしてチャラいナンパから引き離す。

~4.5~

白井「結標さん!そろそろ会場入りの時間になりますの!!」

結標「わわっ!?(ごめん海原!後で必ず合流するから!)」

海原「おお!そっちの彼女も可愛うぃ~ねー!(了解です)」

だなんて話し込んでたら白井さんに引っ張られてしまったわ。ああもう最悪!よりにもよってこんな時に

新入生C『ひっ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?』

あの時私が見逃してしまった男が暗部組織の金庫番で、その取引場所がこのドーム内だなんて最悪だわ。
枝打ちなんて興味はないけど、居合わせてしまった上に海原から顔写真まで見せられてしまってわね……
『自分の尻は自分で拭く』。これは私達(グループ)の戒律でもあり、私自身が定めた流儀でもあるわ。

白井「大きなお世話ですの!結標さんもそんな短いスカート履いて誘うみたいに尻を振って歩くから安く見られるんですの!」

結標「わ、わかったわよ……」

……でもこの子何でこんなにムキになって怒ってるのかしら?もしかして私の事を心配してくれてるの?

184: >>1 2012/04/11(水) 20:59:16.08 ID:iu7JAZgAO
~5~

係員「列を乱さぬようお願いいたします」

結標「し、白井さん?あんまりくっつかれると歩きにくいわ(中抜けし辛いわね)」

白井「勘違いなさらないで下さいまし。混み合っているのではぐれないためですの」

嗚呼、やっとチケットのもぎりにまで辿り着けましたの。それにしても佐天さんの言う通り満員御礼ですの。
このドーム内から溢れ出しそうなくらいですわ。今は亡きキング・オブ・ポップの講演並みの出入りですの。

結標「えーと私達はAブロックの12、13ね……あっ、白井さんごめんなさい!私ちょっとお手洗い!」

白井「むっ、仕方ありませんわね……早めに戻って来て下さいまし。開演まで時間が押しておりますのよ」

そんな大群衆の中ただ一人逆走して行く彼女。白い袋を持たないミニスカサンタ。実に不埒ですの。よ?

新入生C「………………」

今通り過ぎて行ったあの男、わたくしが取り逃がしたあのパームピストル男ですの!何故こんな所に!?

白井「……最早、是非もありませんわね」

結標さん誠に申し訳ございませんの。わたくし、やられっ放しは性に合いませんの!

~5.5~

結標「で、その金庫番とやらは確実にこのドーム内にいるの?」

海原「ええ、それは間違いないんですが問題が一つありまして」

結標「何?」

海原「外部のアーティストを招いての衆人環視(こうえん)の最中に、大捕り物や流血沙汰は少しばかり」

結標「上手くない手ね。だからこそゲートで止めずに泳がせているんでしょう?接触して来る下部組織も」

海原「ええ、一網打尽にします。ただし金庫番には傷を付けないで下さい。資金が回収出来なくなります」

結標「クリスマスデートだって言うのにとんだサービス残業ね。まあ私の撒いた種だから仕方無いけれど」

そして白井が泳がされている金庫番を尾行する中、結標と警備員に成りすました海原がセットの裏側へと移動する。
スタッフ以外通れない運搬用の地下通路。その上にて煌びやかなライブが行われるドームとは対照的にどこまでも

海原「……デート?」

結標「そう、デート」

どこまでもどこまでも、深く暗く冷たく閉ざされた闇の奥底。

結標「楽しい愉しいクリスマスデートよ」

かつて二人が駆け抜けて来た、懐かしい腐臭の漂う闇の中――

185: >>1 2012/04/11(水) 21:01:15.09 ID:iu7JAZgAO
~6~

新入生C「お、おい!約束通り俺の身の安全は保証してくれるんだろうな!?」

暗部A「そういう手筈になっている。そのためにはお前が記憶している百桁の」

新入生C「地下銀行の暗証番号だろう?わ、わかっているさ命は惜しいからな」

ごった返すコンサートの観客に紛れて帝都ドームへ姿を現した新入生(あんぶ)の顔色はひどく悪かった。
それもそうであろう。彼は去る12月13日の取引を白井らに妨害されて失敗し下部組織を追われている。
その顔色は十日あまりの潜伏期間により、この薄暗い地下道にあってさえもこの真冬の寒空よりも青白い。
だがその顔色よりも更に白いのが掛け合いに立ち会う暗部の男である。それは蒼白という意味合いではなく

暗部A「それはこちらもだよ。正確にはお前の生命ではなく記憶なのだが、いずれにせよ入れ物は同じだ」

男が身に着けた無機質ながらも艶めかしい『仮面』が燐光のように放つ白さだ。どうやらこの男は――
出迎え役と百桁にも及ぶ地下銀行の暗証番号を記憶した自分への護衛なのだろうと新入生は思い当たる


――だがしかし――


???「――風紀委員(ジャッジメント)ですの!!!!!!」

新入生C「お前、あの時のガキか!!?」

暗部A「………………」

~6.5~

白井「――風紀委員(ジャッジメント)ですの!!!!!!」

白井はコンサート会場の群集に上手く気配を潜り込ませ、あの雪の日の夜に取り逃がした犯罪者を……
パームピストルで白井を始末せんとした男をステージの骨組みセットを運び込む地下道まで尾行した。
その結果、白井は物陰に身を隠しながら怪しげな取引現場を押さえんとしたのである。だがしかし――

暗部A「なるほど、風紀委員だったのか」

白井「今すぐ手を頭の上で組んで床に這いつくばって下さいな。さもなくば乗せる頭が吹き飛びましてよ」

暗部A「――良かったよ、風紀委員でね」

白井「!?」

明滅する照明にぶち当たり転げ落ちる蛾、仄暗い地下道にて白井は暗部の男の背中を取り金属矢を構える。
その肩越しに酷く狼狽した様子の新入生の顔色が見て取れるが、それは白井の登場に対してなどではなく。

暗部A「――ドッグ・イート・ドッグ(同業者同士の共食い)は旨味が減るからな」

白井「……!!?」

振り返った暗部の男が纏う仮面に浮かぶ『Equ.DarkMatter』の文字が、死を宿した燐光を発したからだ。

186: >>1 2012/04/11(水) 21:01:59.98 ID:iu7JAZgAO
 
 
     
 
     
 
     
A C T . 7 「 白 い 仮 面 、 赤 い 横 顔 」
 
     
 
     
 
     
 
187: >>1 2012/04/11(水) 21:02:30.93 ID:iu7JAZgAO
~7~

次の瞬間、『Equ.DarkMatter』と刻印された仮面より牙を剥く三対六枚の穢翼が白井目掛けて肉薄する!
それはまさに瞬く間に空気を切り裂き裂帛の勢いで殺到し、白井の眼球に映り込むほど早く速く逸く――

白井「ッ」

演算より早く判断する本能と、演算より速く反射する神経が白井を屈み込ませて初太刀をかいくぐらせた。
それによって白井が買ったばかりのボーラーハットが地下道に舞い、それが落ちるより早く天井を貫いた。
白井はそこで引く事をせず空間移動し、続く死の連弾をかわしながら地下道の天井を蹴るより飛び出し――

白井「(――致し方ありませんの!!)」

暗部A「!」

天井が崩れ落ち瓦礫が降り注ぐより早く、ワンピースの裾を捲り上げて十指に挟んだ金属矢を投擲し貫く。
金属矢が次々と仮面の男の肘関節及び膝関節を穿ち抜き、文字通り四肢を足止めする白井。だがしかし――

暗部A「片腹痛いぞ風紀委員!その程度で“歯車”は止められはせんのだよ!!!」

白井「(効いておりませんの!!?)」

仮面の男は金属矢を突き刺されたまま、数メートルもの距離を一瞬で詰める超加速にて白井に迫り来る。
それにさしものの白井も驚愕させられる。何故ならば金属矢が引き裂いたスーツから覗けたその四肢――
それは白井が好む近未来的でありながら歪な形で完成された、『サイボーグ』の手足そのものだったのだ

白井「――!!!」

仮面の男と激突する刹那に空間移動にてすれ違い、向けた背中へ更に迫る穢翼をバック転でかいくぐる!
だが尚も迫る穢翼の穂先が鼻先を掠め、それによってちょこんと乗せたリムレスの眼鏡が床面に落ち――
白井は横転して回避し、よけた先で地下通路の壁面に大穴が空き、白井はそこへ飛び込んで続く破壊音は

司会「カウント10秒前ー!!!!!!」

観客「うおおおおおおおー!!!!!!」

上層部のライブ会場のアナウンスと歓声に掻き消され、白井と仮面の男は地下道より運搬口へ縺れ込む。
ステージの足場作りと骨組みに使われ余った鉄骨が束ねて纏められた、機材置き場とも言うべき場所にて

白井「――!!!」

暗部A「死ね!!」

仮初めの淑女と、仮面の紳士のラストワルツがここに始まる。

188: >>1 2012/04/11(水) 21:04:57.01 ID:iu7JAZgAO
~8~

――――――“10”――――――

白井「ならば教えて差し上げますわ!その痛みを感じぬ身体(サイボーグ)に――」

白井が駆け出し、仮面の男が飛び出し、穢翼が羽撃き三度切り裂かんとするのを白井が空間移動しつつ

――――――“9”――――――

暗部A「チッ!」

轟ッッ!と唐竹割りに振り下ろす穢翼を白井が月面宙返りから回避し、背後の鉄骨が袈裟懸け斬りに!

――――――“8”――――――

白井「“敗北”の二文字を、ヘシ折る心の芯にまで刻んで差し上げますわー!!!」

中空でバラけた鋭利な鉄骨に次々触れながら空間移動させて白井は仮面の男の四肢を再び狙い撃って行く。
サイボーグの手足ならば簡単な事である。例え『生身の身体』なら命に関わるような攻撃であろうとも――

暗部A「!?」

――――――“7”――――――

袈裟懸け斬りにされ鋭く尖った鉄骨が、仮面の男の両手を肘から貫きコンクリートに磔にして身動きを奪う。
それに加えて白井は中空より着地し、ガランガランと跳ね回る鉄パイプを更に空間移動させ、その狙いを――

――――――“6”――――――

残る機械化された両足にまで、蝶の翅に留め針を刺し標本にするようにコンクリートに縫い付けて行く!
だが仮面の男は仮面から伸びる穢翼を鞭のように振るい、四肢の自由を奪う鉄パイプを切り裂かんと――

バチ、バチバチ!

――――――“5”――――――

暗部A「なっ!?」

白井「ご安心をば」

した矢先に気づく。仮面の男が文字通り足掻いている間に、白井が機材から引っ張り出して来たもの……
それはステージに電力を送る巨大かつ高出力のドラムロール。その紫電の火花迸る電気コードの先端部を

――――――“4”――――――

白井「――死にはしませんので、安心して失神して下さいまし」

暗部A「や、やめ」

――――――“3”――――――

パワーの落ちた原子崩しさえ防ぐ『Equ.DarkMatter』の仮面でさえ、機械化された剥き出しの部分に――

白井「ああ」

――――――“2”――――――

空間移動させられ、赤いドラムロールから放たれる高圧電力を前に防ぎ切れるか否かを判断する早く――

――――――“1”――――――

観客「うおおおおー!!?」

白井「……五月蝿くて聞こえませんの♪」

――――――“0”――――――

仮面の男の意識は閃光と共に闇に沈んだ。
189: >>1 2012/04/11(水) 21:05:26.22 ID:iu7JAZgAO
~9~

新入生C「た、助けて!命だけは!!!」

白井「???」

そして白井が仮面の男を下し、残るもう一人を捕獲せんと地下道へと舞い戻ったその時には既に――……

白井「これは――……」

警備員?「君、怪我はないか!?」

白井「え、ええわたくしは大丈夫ですの」

警備員?「そうか、無事で良かった……」

男は手足に『コルク抜き』を突き刺され、血を流しながらコンクリートに縫い付けられ咽び泣いている。
先程白井が狙い撃ったように血の流れぬサイボーグの身体でない男は、涙を溢れさせて命乞いしていた。
そしてそれを取り巻くような形でうつ伏せ寝の男に向かって銃口を突きつけるは『警備員』達であった。

白井「……わたくし風紀委員一七七支部の白井黒子と申しますの。これは一体全体どういう事ですの?」

警備員?「この男はテロリストだ。この帝都ドームに爆破予告を送った男でね。そこで我々が張り込ん」

暗部A「違う!お前らはあん、ぶっ!?」

警備員?「動くなと言っただろうこの馬鹿者めが!協力に感謝する。ここは我々に任せてくれないか?」

白井「ええ、それではお願いいたしますわ。ああ、それから向こうにももう一人転がっておりますので」

白井はその警備員達の徽章が『本物』である事を確認すると、銃底で殴りつけられ気を失った男から目を切る。
代わって風穴の空いた壁面の彼方にて、スポンジを頭に乗せ忘れたまま電気椅子に座らされた死刑囚が如く――
こんがりと焼き上がっているものの、一命は取り留められた『仮面を引き剥がされた男』をピシッと指差して。

警備員?「……了解した。今も目下極秘捜査中なのだ。この件については他言無用を願いたいのだが――」

白井「……外部からのアーティストを招いての中での爆弾騒ぎなど、あまり大っぴらには出来ませんわね」

警備員?「そういう事だ。警備員(こちら)で内々の内に処理させてもらたいのだ。理解が早くて助かる」

そして『警備員』らが風穴に突入して行く傍ら、白井はハットと伊達眼鏡を拾い上げつつ擦れ違って行く。


そこで――


チャラ男『おお!そっちの彼女も可愛うぃ~ねー!』

白井「……まさか」

地下道を後にしようとした白井が先程の妙に爽やかな声の『警備員』を探そうとした時には、既にその姿は見当たらなかった。
190: >>1 2012/04/11(水) 21:07:24.66 ID:iu7JAZgAO
~10~

結標「遅かったじゃない白井さん。もうオープニングナンバー終わっちゃったわよ」

白井「トイレが混み合っていてなかなか進めませんでしたの。口惜しい限りですが」

結標「そう」

白井が地下道から抜け出し、後事を警備員に託してライブ会場に舞い戻るなり結標は呆れ顔で出迎えた。
真紅のコートの腰元に手を当て、やや斜に構えたように小首を傾げて白井に向けて来るその眼差しは――

白井「………………」

結標「……何かしら?私の顔に見蕩れられても困るのだけれど」

露悪的に細められ、挑発的な光を宿した涼しげな双眸。それは白井が知るいつも通りの『結標淡希』だ。
その佇まいに、白井は秘かに回収し小型化された『Equ.DarkMatter』の仮面を隠す胸を締め付けられる。
薄暗い会場の目映いばかりの照明と、地鳴りのような歓声のただ中にあって、白井はステージではなく。

白井「……ありがとう、ございましたの」

結標「何の事かしら?それよりもほら!Red-reduction division-始まるわよ!嗚呼、まさかこれが生で聞けるだなんて!!」

白井「え、えと、これすごいんですの?」

結標「だから貴女は不出来だと言うのよ!いい!?これは初代ボーカルnaoの持ち歌で、今歌ってるのは二代目なのよ!!!」

白井「えっ、あっ、いやわたくしは……」

結標「脱退した1期ボーカルの持ち歌を、2期ボーカルが歌うのよ!?こんな素晴らしい掟破り(サプライズ)を貴女は(ry」

白井「(だってわたくしfripsideに一期や二期があった事さえ初耳なんですもの)」

歌い上げるアーティストでもなく、ただ結標だけを見つめていたのだ。
たった今も、いつの間にか手にしていた団扇を振ってはしゃぐ結標を。
本当にファンなのだろう。その横顔から『いつもの』表情は窺えない。

白井「(本当に貴女というお方は……)」

結標「キャー!このイントロmemory of snowじゃない!私この曲が一番好きなの!」

白井「……つかぬ事をお聞きしますが、一番嫌いなナンバーは」

結標「only my railgunよ。何て言うかもう曲名からして訳もなくイラッとするの」

白井「(……どんだけレールガンが嫌いなんですの。貴女は)」

御坂との決闘騒ぎ以来、白井に向けられる仮面のように計算され尽くし完成され切った笑顔ではない――

191: >>1 2012/04/11(水) 21:08:06.52 ID:iu7JAZgAO
~11~

『果てしなく、雪は降り続けてた』

あの雪の日に貴女と再び巡り合って僅か十日余りで、今こうして共にライブを観て聖夜を過ごすなど……
わたくしは予想だにも想像だにも夢想だにもしませんでしたの。あまりに現実感が希薄過ぎて、まるで。

『君と僕を、離す壁のように』

まるで幻想(ゆめ)の中を一人歩きしているように、わたくしは浮き足立っているんですのよ結標さん。
あの日踏み締めた雪のように覚束ず、今日滑り出した氷のように頼り無い、ペンギンの雛の歩みが如く。

白井「……――結標さんは」

結標「何かしら?白井さん」

白井「この歌のどんなところが好きなんですの?」

結標「……一人きりの足跡を雪道に刻むところよ」

意地の悪い自己分析をするならば、今のわたくしは失恋(おねえさま)に腰を据えて向き合う事もせず……
ただただこの方と遊び(にげ)回っているだけですの。いいえ、お姉様に限らず初春からも佐天さんからも

結標「雪って可哀想だと思わない?足蹴にされる度に汚されて、お日様にドロドロに溶かされていって……」

白井「………………」

結標「草木も動物も人間も皆が歓迎する春のただ中、雪だけがその輪に加われずに消え去ってしまうのよ?」

自分からさえ、わたくしは逃げ回っておりますの。中途半端にありもしない希望にすがるようにしてまで。
一体いつからですの?初春の気遣いに、佐天さんの言葉に、お姉様の笑顔に、胸が痛むようになったのは。

白井「誰かが笑えば誰かが泣く。雪に限らず誰しもそうですわ」

結標「………………」

白井「……それでもわたくしは、それを見守る人間になり――」

結標「嘘、ね」

白井「!!!」

暖かい言葉に、温かい空気に、触れる度に心の雪が溶けて泥濘のように赤茶けた泥土を晒して行くんですの。
咲きもしない種を蒔いて、芽吹きもしない春を待って、結ぶ事もしない実(おもい)を埋葬しようとしても。
雪化粧で取り繕おうと、永久凍土を装おうとも、身近にある太陽のようなあの方々がそれを許しませんのよ。

結標「人間はそんなに強くもないし、貴女という人間がそんなに強いだなんて私にはとても思えないのよ」

わたくし(白井黒子)が白井黒子(わたくし)である事から。

結標「貴女、あの日泣いてたでしょう?」



――――この方を、除いては――――



192: >>1 2012/04/11(水) 21:10:51.35 ID:iu7JAZgAO
~12~

結標「貴女、あの日泣いてたでしょう?」

『――涙零れだすその瞬間に君の腕に抱かれた気がした――』

蛍火のように揺蕩うペンライト。静かに歌い上げられる別れの曲。その全てが白井の中で色を失って行く。
結標は紡ぐ言葉の糸を手繰り損ねた白井を一度だけ見やると、勝ち誇るでも憐れみ蔑むでもなく向き直る。
白井はそんな結標という鏡を通して十日余り前の出来事を想起する。あの灰雪舞い散る路地裏での再会を。

白井「………………」

白井はその後に続く二の句を継げなかった。返答に窮してしまったのである。あまりに的を射過ぎていて。
結標だけが知っている。初春も佐天も、そして御坂でさえ知らない白井のもう一つの側面を、結標だけが。

結標「――貴女、知り合いに対してほど大事な事を言わなかったり涙を見せたがらないタイプでしょう?」

皆が客席より立ち上がって次曲のイントロに歓声を上げる中、結標の手がひっそりと白井の手を握った。
女同士で手を繋ぐという、少しばかり耳目を引く違和感と行為を喧騒の中に紛れ込ませるようにしてだ。
白井は結標の手を振り解く事が、払いのける事が、跳ねつける事が出来ない。それが間違っていると――

白井「……ですわね。だからこそこうして貴女と顔を合わせていられるんですの。何故ならわたくし達は」

結標「“お友達”でも何でもない敵同士なんですもの。相手に対して気遣う意味も責任も負う必要がない」

違うと言いたいのに言葉に表せない。態度に現せない。白井が結標から逃げられないのは負い目からだ。
あの日自分を救い出した手、自分のせいで御坂と切り結んだ手、先程も自分に助け船を出してくれた手。

結標「……気楽な間柄で、気軽な関係でしょう?いざとなれば相手が悪いの一言で責任転嫁出来る身軽さ」

まるで砂糖で作られた蟻地獄のようだと白井は思わざるを得ない。もがくほど足掻くほど嵌り込んで行く。
御坂が上条が結ばれた事による傷心、らしくもないミスで負った傷身、塞がりかける度に剥がされる瘡蓋。
結標は誘う。弱くてもいい、強がらなくてもいい、醜くてもいい、綺麗じゃなくてもいいのだと繰り返す。

結標「――貴女が望んだ事よ。白井さん」

逆説的な意味で、ありのままの貴女で良いのだと囁きかける。

結標「――私達、共犯者(おともだち)でしょう?」

ラストナンバーは、耳に入って来なかった

193: >>1 2012/04/11(水) 21:11:31.99 ID:iu7JAZgAO
~13~

結標「――嗚呼、やっぱりライブは良いわね!この空気だけはDVDやブルーレイでも味わえないものね」

ライブは盛況の内に幕を下ろし、その熱狂の余熱とも言うべき残滓に酔い痴れた人波がごった返す中……
グッズを買い漁った結標と白井もまた帝都ドームから出、深々と降り注ぐ粉雪舞い散る夜空を仰ぎ見る。
その彼方には近々取り壊されるという旧電波塔、帝都タワーが赤いキャンドルのように皓々と輝いて――

白井「……まあ、わたくしもライブなるものは初めての経験でしたが」

結標「?」

白井「――中々良いものですわね。こういうクリスマスの過ごし方も」

結標「でしょう?」

桜の花片のようにチラチラと、鳥の羽毛のようにハラハラと夜の帳に舞い散る灰雪。彼方に輝くネオン達。
寒い寒いと身震いする結標を余所に白井は感じる。今日ここに来て良かったと思っている自分がいる事に。

これがもし常盤台女子寮にて過ごしたならば一晩中でも御坂から惚気話を聞かされ神経を磨耗させたろう。
さりとて初春や佐天と過ごしたとしても、やはり話題は御坂と上条のデートについて花咲かせたであろう。

聖なる夜にあって、御坂の前で笑顔を取り繕う事に耐えられる気がしなかった。
クリスマスにあって、初春達の前で強気を装う事に堪えられる気がしなかった。
そして何よりも、未だ立ち直らず立ち戻れず立ち枯れた心根に向き合う事が……

結標「ううっ、寒い寒い!白井さんマフラー半分ちょうだい?」

白井「ちょっと、何するんですの!!?」

結標「少しくらい良いじゃない女同士減るもんじゃあるまいし」

と、帝都ドームから繁華街へと下る人波を泳ぐ中で結標が白井のロングマフラーを勝手に解いたのである。
あまつさえ分け前を寄越せとばかりに自分の首元に巻いてしまったのだ。世に言うふたりマフラー状態で。

白井「くっ、ならばこちらからもお裾分けして差し上げますわ」

結標「ひゃあっ!?」

白井「あら、手はあったかいクセして寒がりなんですのねー?」

そこで白井がお返しとばかりに結標の赤コートのポケットに冷え切った手を突っ込んで悲鳴を上げさせる。
未だ煌びやかな繁華街のイルミネーションの中を、二人は雪ごと互いの臑を蹴飛ばし合いながら進み行く。

194: >>1 2012/04/11(水) 21:13:56.01 ID:iu7JAZgAO
~14~

結標「ううっ、何だかお腹も空いて来たし寒いし、どっか寄って食べていかない?」

白井「それは構いませんがどこに入るつもりですの?どこも満杯のようでしてよ?」

結標「去年までなら帝都タワーにある天空レストランが美味しくて穴場だったんだけど、今年はもう……」

白井「取り壊しが決定してからテナントが撤退してしまいましたの。あの帝国タワーが出来上がってから」

最終下校時間が過ぎた後も繁華街の人波は引きも切らず溢れ出し、二人はその中を一葉の小舟のように漂流していた。
辺りも大人向けのお店やらビジネスホテルがチラホラと見えるエリアに差し掛かりどうしたものかと考えあぐねて――

結標「……そうね。仕方無い、ちょっと待って。こんな時こそスマホの出番だわ!」

結標が凍てつき動きの鈍くなった風車の支柱に寄りかかりながら白井とお揃いのスマートフォンを手繰る。
どこか良い店はないかと検索している画面が、ふたりマフラーの関係上白井の目にも見て取る事が出来た。
ああでもないこうでもないとブツブツと文句を言う白井より一段高い目線にある結標の横顔が窺える。だが

白井「(あの夜と同じ、雪の日ですの)」

白井の眼差しはスマートフォンの画面ではなく結標の相貌に。思考は行く先ではなく十日前の記憶へと。
同じ場所に寄り添う二人、同じ一つのマフラーを分け合う互い、何れも見据える先は決して重ならない。
だが白井は問い掛けずにはいられなかった。それはあの日と同じような、雪降る夜がそうさせたのか――

白井「結標さん」

結標「何?最悪居酒屋でも我慢してよね。こんな寒空の下女二人でうろつくみっともなさよりまだマシよ」

白井「違いますの……」

二人の間に垂れ下がるマフラーをいじりながら白井が言い淀み、結標はスマートフォンを弄る手を止める。
その声音から何かしら察したのだろう、結標は白井と向かい合うようにして立ち怪訝そうな表情を浮かべて

白井「一つだけ、教えて下さいまし……」

結標「………………」

白井「貴女は何故

そこで白井の双眸は凍てついてしまった。

白井「

そこで白井の相貌は凍りついてしまった。

結標「!?」

そこで結標もまた弾かれたように振り返り、白井が肩越しに見据えたものに自分も背中越しに見開いた。



――――――そこには――――――



195: >>1 2012/04/11(水) 21:14:44.31 ID:iu7JAZgAO
 
 
     
 
     
 
     
上条「――は、入るぞ?“美琴”――」
 
     
 
     
 
     
 
196: >>1 2012/04/11(水) 21:15:49.46 ID:iu7JAZgAO
~15~

それは、二人が立ち尽くしていた繁華街のファッションホテルに入って行く上条と御坂の横顔であった。
結標は風車の支柱越しに、白井は更にその背中越しから全てを見てしまった。それは、白井がかつて見た

白井『だってお姉様が、今まで見た事のない表情(かお)をなさってたから……』

鉄橋の上にて、上条に手作りクッキーを手渡して別れた後に浮かべていたのとそっくりそのままの横顔。

白井「――――――………………」

そんな御坂を見た瞬間、白井は膝から雪面へと崩れ落ち、結標と繋がっていたロングマフラーが汚れて行く。
ドサッと雪だるまの首が落ちるような音、その傍らに佇むは赤いコートの結標、御坂と食蜂の再現のように。

御坂「?」

白井「………………」

上条「ど、どうした美琴?やっぱり今日は止めとくか……??」

白井「………………」

御坂「――ううん♪別に何でもないわよ」

白井「!!!!!!」

御坂「……入ろう?」

上条「お、おうよ!」

その白井が崩れ落ちた物音に御坂が一瞥をくれるも、その眼差しはすぐさま『人違い』だと打ち切られた。
それもそのはずである。ボーラーハットと伊達眼鏡と漆黒のワンピースに身を包んで『変装』していた……
知り合いに見咎められても遠目ならまず看破されぬほど『別人』になりすました白井だとわかる訳がない。


―――全ては、白井が望んだ結末(けっか)通りなのだ―――


白井「……――お、姉、さ、ま……――」

上条の右手を握り締めながらファッションホテルに入って行く御坂の横顔は正しく『女』の顔をしていた。
それに白井は打ちのめされた。崩れ落ちる雪に汚れるワンピースも、雪に濡れるロングマフラーも最早……

結標「……白井さん」

白井をあたためてなどくれない。代わって、結標の冷たい両腕だけが白井を優しく抱き締めたのである。
白井はもう一人の力で立ち上がる事が出来なかった。それどころか折れた心が二度と立ち直る事さえ……

結標「――私だけは、貴女の味方よ……」

そんな白井を胸に抱き寄せ、腕で抱き締める結標の表情は、口元は、正視に耐えないほど歪み切っていた。

結標「――私だけは貴女を裏切らないわ」

うなだれた白井には決して見えない角度で


結標「――貴女は何も悪くないのよ――」


雪が、全てを白く塗り潰して行く――

205: >>1 2012/04/14(土) 22:01:29.83 ID:TVBMuDGAO
~0~

上条「さ、先にシャワー浴びて来いよ」

御坂「う、うん。じゃあ、お先に……」

思ったよりこざっぱりした部屋、って言うのが私の第一印象だった。何だか普通のホテルみたいで――

御坂「(ちょ、ガラス透け透けじゃないのよこれー!!?)」

そんな私の認識はお風呂場を前にしてすぐさま改められた。ドアガラスが透けてて何か鏡張りになってる。
それに何か絵だけやたら可愛いくていやらしいピンク色のマットも置いてるし。って問題はそこじゃない。

御坂「(わ、私本当に今日ここで……)」

そう思うとこの寒空の下歩いて来たって言うのに汗びっしょりになってしまった。本当にどうしよう……
覚悟はしてた、準備もしてた。なのに今更震えが来る、怯えが来る、恐れが来る。そしてこのドキドキ。

御坂「(……あいつと、結ばれて……)」

洗面台の前で衣服を脱ぎながら思う。あいつから見てもこんな風に見えるのか。どっか変じゃないかな?
あいつと出会って早半年近く、付き合ってからひと月足らず、あいつは高一私は中二、これって早いの?
誰にも聞けなかったし誰にも言えなかった。佐天さんは面白がるし初春さんは恥ずかしがるし婚后さんは

婚后『こ、婚前交渉などふしだらですわよ御坂さん!!!』

貞操観念強いだろうし。かと言って流石に黒子には聞けないしなー、何て思いながら替えの下着チェック!
うう、長風呂したら待たせちゃうしのぼせちゃうし早上がりしたらそれはそれで何か女の子として嫌だし。
部屋入るなりさっきまで話してた内容飛んじゃって会話が続かないし、テレビつけたら雰囲気壊れそう……

食蜂『――貴女、生殺しを純愛だなんて勘違いしてなぁい?』

意を決してお風呂場に入ってシャワーを出しながら思う。あの女の言葉が引き金だったかも知れないと。

インデックス『短髪にだけ教えてあげるんだよ。私ね、イギリスに帰る事にしたんだよ』

御坂「……一番悪いのは、私の方ね――」

インデックス『短髪ととうまがデートするクリスマスイブの夜に。この意味わかるよね』

――あいつを、あのシスターのいなくなった部屋に帰さないためにはもうこうする以外に方法がなかった。

食蜂『Nevermore(二度とない)、Nevermore(二度とない)、Nevermore(二度とない)……』

二度とないあいつとの今を失いたくないがために、身体で繋ぎ止めようだなんて考える私が一番悪い子だ。
206: >>1 2012/04/14(土) 22:01:55.75 ID:TVBMuDGAO
~1~

結標「上がって。散らかってるけれど」

白井「……お邪魔、いたしますの――」

御坂達の逢瀬を目の当たりにし、立ち上がる事も出来ないほど崩れ落ちた白井を結標が連れ帰った場所。
それは小萌のボロアパートである。当初はホテルも考えたのだが、白井の焦燥ぶりから鑑みて却下した。
さりとて仲間を捕まえた白井を隠れ家に連れ込む訳にも暗部の仮眠室に雪崩れ込む訳にも行かなかった。

白井「……本当に、よろしいんですの?」

結標「こっちこそ本当にこんなところでいいの?って聞きたいくらいよ。でもまあ」

白井「………………」

結標「風紀委員なら警備員を通じて知っているでしょう?クリスマスは自殺率がとても高くなるくらい」

結標が部屋の電気をあちこち点けて尚暗い白井の表情。暖房器具を点けて尚白井の唇は酷く血色が悪い。
御坂と上条が結ばれた事により、長らく霜枯れ寸前であった白井という百合の花はつい先程蹂躙された。
流石に自殺するようなタイプには程遠いものの、御坂のいないであろう女子寮の部屋で過ごすには余りに

白井「死にたいなどとは申しませんが死に体ですの。ぶっちゃけて言うなれば死にそうなくらいですわよ」

結標「……とりあえず、落ち着くまでは貴女ここにいなさいな」

白井「そうさせて下さいまし。門限はとっくに過ぎてますし、今から寮監に折檻されたらばもうわたくし」

結標「余計な事言わなくていいし考えなくていいから。貴女はただ黙って私の側にいればそれでいいのよ」

余りに忍びなかったため、結標は白井を連れ帰ったのである。そして結標は帰り掛けに立ち寄った――
白井がコインロッカーに預けて来た制服の入ったバックを受け取りずぶ濡れのマフラーを鴨居に干す。
校則を遵守するため学舎の園を出るまでは制服姿で、トイレかどこかで私服に着替えたのであろうと。

白井「貴女の側に?」

結標「……貴女そんな酷い顔も見せられない友達“しか”いないんでしょう?だから私の側にいなさい」

白井「――男前ですわね。貴女がもし異性でしたらば今のは少しドキッとさせられてしまいそうですの」

結標「……馬鹿な事言ってないでこれでも着て待ってなさいな」

そう言って結標が白井に投げ渡したのは、洗濯し終えた小萌の着ぐるみパジャマ、うさぎタイプだった。

207: >>1 2012/04/14(土) 22:03:58.76 ID:TVBMuDGAO
~2~

白井「(……ここが結標さんのお部屋ですのね。アクア・アレゴリアの甘い香水の匂いがいたしますの)」

結標「嗚呼、ドミノピザさん?すいませんクリスマスディナーセットのL一つお願いします。場所は……」

もう立ち上がる気力さえ失い、足が言う事を聞かなくなるほど打ちのめされたわたくしを引きずり上げてくれた結標さん。
そんな彼女がスマートフォン片手にピザをデリバリーしている横顔を見つめながらわたくしは思いますの。どうして?と。

白井「(何故こんなボロアパートに住んでますの?そして何故わたくしを連れ帰ってくれたんですの?)」

目に焼き付き、心に刻み込まれ、脳に刷り込まれたお姉様の横顔から目を逸らすようにわたくしは――
結標さんの横顔ばかり眺めておりますの。もう何も考えずとも良いと、もう何も感じずとも良いと……

結標「白井さん、貴女ティラミスロールケーキとか食べれる?」

白井「わ、わたくしですの?え、ええ大丈夫ですのお構いなく」

結標「じゃあお構いなく注文するわね?あとティラミスロールケーキ1つとオリジナルアイスティー1つ」

白井「(……何だか不思議なお方……)」

――今もわたくしの肩を抱き締めながら、冷え切った身体をさするようにしてくれる残酷で優しい貴女。
止めて下さいまし。こんな時にそんなに優しくされたらわたくし泣いてしまいそうじゃありませんの……
わたくしからすれば羨ましい限りのサラサラストレートの赤髪が変にくすぐったくて、でも嫌じゃなくて

結標「じゃあお願いします……ふう、雪道で混み合ってて40分後になるって。参っちゃうわね本当に」

白井「………………」

結標「何かしら?宅配ピザでも我慢してね。ここは常盤台(おじょうさまがっこう)じゃないんだから」

白井「いえ、ありがとうございますの。わたくしのためにピザまで取っていただいて。あの、結標さん」

わたくしはその手にほんの少し指先を置いてみますの。拒まれたり驚かれたりされたら離れるつもりで。
ですが結標さんはキョトンとしたお顔で小首を傾げられましたが、気持ち悪がったりしませんでしたの。

白井「……貴女って、横顔が男らしい方でしたのね……」

結標「それ、私が女らしくないって言いたいのかしら?」

馬鹿ですわね貴女は。それはがさつだとか粗野だとかそういう話ではありませんの。


カッコいい、という意味合いでしてよ――


208: >>1 2012/04/14(土) 22:04:54.02 ID:TVBMuDGAO
~3~

「シズクー!」

「セイジー!」

白井「」

結標「(空気読みなさいよ金曜ロードショー!クリスマスにこんなもの流してるんじゃないわよ!!)」

40分後、届けられたクリスマス限定ピザを受け取りいざ晩餐と相成った段にて悲劇は起きてしまった。
何と、回したチャンネルが『耳を澄ませば』にぶち当たってしまったのである。これには結標も苦笑い。
だがクワトロプレステージのシーフードピザをモグモグと咥えながら白井は虚ろで渇いた笑みを零した。

白井「……ふふふ別に良いんですの。わたくしもかつてお姉様の借りた本をストーキングした事が(ry」

結標「突っ込まないわよ白井さん。それにしてもこれイケメンでかつ好きな相手だから許せるレベルね」

対する結標もやたらと長大なコタツ布団付き卓袱台に肘をつきソルト&ペッパーチキンサラダをつつく。
こんな時間に家にいてこんなアニメを見ているような人種にこんな甘酸っぱい恋愛が出来るだろうかと。
それもよりによってクリスマスイブに流すなど先程語った自殺率の底上げにしかなるまいと結標は思う。

白井「……ですが、今はこの聖司さんなるイケメンまで憎くくてたまりませんの。いえ殿方そのものが」

結標「(あんなシーンを見せつけられたら男嫌いにもなるでしょうね。私だったら泣き崩れてるかも)」

クリスマス・ローストチキンをまるで山賊の首領か海賊の船長のようにムシャムシャと食い千切る白井。
それを見ながら結標は思う。もし自分が失恋したら食事が喉を通らなくなるかも知れないが白井は違う。
どうやらやけ食いに走るだろうという結標の見立ては結果として間違っていなかった。だがもっとも――

結標「白井さん、ほっぺにタレついてる」スッ

白井「んっ!?」

結標「(やけ食い出来る内が華ね……)」ペロ

白井「………………」

結標「どうして睨むの?チキンなら二つとも貴女にあげるわよ」

白井「……女誑し」ボソッ

結標「?」

「セイジー!」

「シズクー!」

白井「嗚呼もう五月蝿えーですの!!!」

頬についたチキンのタレを結標が小指でヒョイとすくってペロリと舐め、それに対して白井がボヤいた。
しかしそんな白井の胸中まで推し量れるはずもないままに、結標はスマイルポテトをパクッと頬張った。


209: >>1 2012/04/14(土) 22:07:05.51 ID:TVBMuDGAO
~4~

結標「さて、アイスティーあっためて来ましょうか。白井さんはティラミスロールケーキ切り分けといて」

女二人では手に余るかと思われた四種類のピザとサイドメニューまで平らげた後、結標がキッチンに立つ。
オリジナルアイスティー1Lをカップに注ぎ、電子レンジにかけて暖め直す。それはこのやや心寂しい――

結標「ねえ、白井さん」

白井「はい何ですの?」

結標「貴女、今日はもうここに泊まっていったらどうかしら?」

白井「えっ……」

結標「――部屋にかえってメソメソ泣きたいなら別に良いけど」

クリスマスケーキも買えなかった二人のささやかで慎ましい晩餐の終わりを意味していた。
それは同時に白井の帰宅を意味する。そう、帰らねばならいのだ。御坂のいない部屋に……

白井「――――――んじゃありませんの」

結標「?」

白井「――結標さんが自分の側にいなさいとわたくしに仰有ったじゃありませんの」

だがコタツに入ったままティラミスロールケーキを切り分けていた白井は、背を向けたままそう答えた。
対する結標もまた、キッチンに立ち白井に背を向けたまま白井の言葉を受け止める。振り返りもせずに。

結標「……そうだったかも知れないわね」

白井「それに今から帰って寮監の仕置きを受けるなど泣きっ面に蜂、今夜くらい悪い子になりますのよ」

結標「悪い子にはサンタが来ないわよ?」

白井「――サンタならもうおりますわよ」

それは二人の心の距離そのものだったのかも知れない。同じ場に背中合わせに居ながら見据える先は逆。
テレビから流れる、結局通しで観てしまった『耳を澄ませば』のカントリーロードをバックにしながら。

白井「――ドSがミニスカを履いているようなサンタガールが」

結標「不出来なトナカイを寒空に放り出すほどドSじゃないわ」

カタン、とナイフが置かれる音とチン!とレンジがなる音が重なる。
ミシッと古めかしい床板が軋む音と、ギュッと鳴る衣擦れの音が――

結標「――メリークリスマス、白井さん」

――そうして結標はもう一度暖め直すまで好きなようにさせていた。振り払うでも抱き締めるでもなく。

白井「メリークリスマス、結標さん……」

窓辺の雪だけが、二人を見下ろしていた。

210: >>1 2012/04/14(土) 22:07:56.81 ID:TVBMuDGAO
 
 
     
 
     
 
     
A C T . 8 「 白 い シ ー ツ 、 赤 い 血 痕 」
 
     
 
     
 
     
 
211: >>1 2012/04/14(土) 22:09:33.46 ID:TVBMuDGAO
~5~

白井「銭湯なんて生まれて初めてですの」

結標「私も小萌の家に来るまでそうだったわよ。今時風呂無しアパートだなんて信じられなかったもの」

ささやかな晩餐と慎ましい祝杯を上げた後、二人が向かった先はアパートからやや離れた銭湯であった。
白井は風紀委員の泊まり込み道具一式を取り揃えていたため衣類に不自由はないが、驚かされたのは――

結標「よっこらしょ、っと」ヌギヌギ

白井「た、タオルくらい巻いてから脱いで下さいまし!人に見られたらどうするつもりなんですの!?」

脱衣場にて白井がキョロキョロと周囲を見渡す傍らでサクサクと衣服を脱ぎ捨てて行く結標に対してだ。
如何に白井が女子校慣れしているとは言え、全くのアウェーで流石に気が引けるものがある。だがしかし

結標「嗚呼、慣れっこだったからついいつもの調子でやってしまったわ。でも私は不出来な貴女と違って」

白井「………………」

結標「――人に見られて恥ずかしいスタイルではないし、そもそも人に見られる事に慣れっこだから、よ」

白井「(よくも言ってくれやがりますの。コンチクショウが)」

はいはいと言うながらカバーに入る白井を余所にタオルを巻き下ろしていた髪をまとめながら結標が嗤う。
確かに白井(どうせい)の目から見てすら、結標のプロポーションはなかなかのものであった。それは――

白井「(色、艶、形、どれをとってもわたくしとの戦力差はレベル0とレベル4ほど開きがありますの)」

結標「白井さん?」

白井「(さっき見た限りでも、屈んでも座っても出なさそうなお腹とくびれたウエスト!そしてお尻!)」

結標「白井さんってば」

白井「(髪はサラサラストレート、手足は伸びやかながら引き締まり、そして高過ぎず低過ぎない身長)」

結標「ねえってばー」

白井「(クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!)はい、何ですの結標さん??」

白井が結標の年齢に達せども高く聳える胸囲(やま)があり、自分の前には胸囲(かべ)が立ちはだかる。

結標「……最近の中学生ってみんなそんなエグい下着なの?」

白井「貴女こそなんなんですのあのビッチ丸出しの下着姿は」

結標「誰がビッチよ。レズの貴女に言われたくないっての!」

そんな中指を立てた白井と親指を下向けた結標の二人は――

212: >>1 2012/04/14(土) 22:11:50.06 ID:TVBMuDGAO
~6~

カポーン

結標「う~~あったまるーー……」

白井「おっさん臭い唸り声と溜め息ですわね」

結標「だってこうして肩までつかってると凝りまでほぐれて行くみたいなんですもの」

白井「はいはい御立派なお胸が元で肩凝りがお辛いんですわね富める者の悩みですの」

結標「何ふてくされてるの。私だって貴女くらいの年の頃は似たようなものだったわ」

白井「本当ですの!?」ザバッ

結標「――って言っても貴女が私くらいの歳の頃にこうなってるとは限らないけれど」

白井「」イラッ

聖夜にも関わらず常とさほど変わらぬ程度に賑わう女湯にて、二人は富士山の書き割りを背に湯に浸かる。
結標も白井も長い髪を湯船につからせぬようにまとめ上げてながら天井を仰ぎ見て詮無い戯れ言を交わす。
だが結標は鼻歌混じりでいつも通りの調子ではあるが白井は違った。どこに視線を向けたて良いのかが――
わからないのだ。それはともすれば結標の後れ毛のほつれさえないうなじや、深い鎖骨に目が向きそうで。

白井「(……わたくしは何を馬鹿な事を考えているんですの)」

並んで湯に浸かる結標の珠のような汗が流れ落ちる白く細い首筋であったり、目尻の下がった横顔であったり。
御坂の事を考えまい考えまいと思考を切り替えようと、別の何かに視線を向けようとする毎に結標にぶつかる。

白井「(あれだけ近かったお姉様が遠く離れ、これだけ遠かった結標さんを近くに感じるだなんて……)」

結標「……最初の頃はね」

白井「な、なんですの?」

結標「あまり銭湯って好きじゃなかった。細かい傷跡まで人目に晒されるみたいで」

そこに感じる御坂への罪悪感と自分への嫌悪感に白井が顔にパシャッと両手で湯を浴びせると――
結標がタイルに後頭部をもたせかけるようにして、チャプッと手のひらから溢れる湯が腕を伝う。

結標「――そこには貴女につけられた傷跡も含まれてるのよ」

白井「……それはお互い様ですわ。わたくしも同じですのよ」

だが二人の間に隔たる遺恨や分かつ因縁はこのお湯のように流す事など出来ないと言外に告げられた気がした。
それはかの地下街にある流水階段の噴水にて結標が濁した答えでもある。だが結標はそこで唇をつり上げて――

結標「そうね――」

言った。

213: >>1 2012/04/14(土) 22:12:39.32 ID:TVBMuDGAO
 
 
     
 
     
 
     
結標「手垢のついた“絆”なんて繋がりより、お揃いの“傷”の結びつきの方がわかりやすくて良いわ」
 
     
 
     
 
     
 
214: >>1 2012/04/14(土) 22:13:07.05 ID:TVBMuDGAO
~7~

結標の言葉に、白井の薄い胸が湯船に細波を立てるのではないかと錯覚してしまうほど大きく高鳴った。
傷、疵、キス、絆、紲、傷名(きずな)。コルク抜きのような言葉が、白井の罅割れた心の臓をえぐる。
お揃いの傷跡。そこに覚える歪な親近感(シンパシー)が、ペアリングより深い結び付きに思えたのだ。
涙を流す心が、血を流す身体が、揺らいで、ブレて、傾いで、震えて、戦慄いて行く。共鳴するように。

結標「――なんてね!お互いに恋人でも出来たなら、その時なんて言い訳するかを考える方がまだしも」

白井「――いりませんわ恋人だなんて!」

結標「……ごっ、ごめんなさい白井さん」

白井「ち、違いますの結標さん!わたくしそんなつもりでは」

白井が立てる内なる細波が、結標が爪立てる事で荒波へと変わる。
ザワザワと騒がしい女湯にあって白井の叫びは短いものだったが。

白井「……ごめんなさい。結標さん……」

常ならば氷山が如く揺るぎない白井の在り方は、今や風に波立つ水面に揺蕩う笹舟へと有り様を変える。
ズルズルと結標に引きずられてしまう。ヌルヌルと泥濘に足を取られてしまう。それを表すかのように。

白井「……お腹いっぱい食べさせてもらって、あったかいお風呂に入れさせてもらって、つい気が緩んでしまいましたの……」

結標「……良いのよ白井さん。言ったでしょう?私と貴女は良く似ているわ。だから私は貴女の痛みも悲しみもよくわかるの」

こてんと合わせる顔もなく顔を上げる事も出来ずに結標の細い肩に顔を埋める白井とてわかってはいる。

結標「裸の付き合いまでならこんな貴女の姿も知らないお友達にあるでしょうけど」

わかっていて抗えない。わかっていて逆らえない。わかっていて足掻けない。まるで『魔性の女』だと。

結標「殺し合いまでした私なら、そんな貴女の素顔だって受け止めてあげられるわ」

耳元で囁く声がティラミスロールケーキより甘く、この乳白色の湯よりもあたたかく白井を蝕んで行く。

結標「綺麗な“白井黒子”でなくたって良いのよ。汚れているのは私も一緒だから」

傷ついた身体を支え、傷んだ心を慰め、温かい食事で飢えを満たし、温かい湯で情けを充たして行くのだ。


人を傷つけて生きて来た人間は、人の痛みをどう利用出来るかを生まれながらにして知っているのだから。

215: >>1 2012/04/14(土) 22:15:33.04 ID:TVBMuDGAO
~8~

小学生「お母さーんフルーツ牛乳買ってー!!」プルプル

保護者「こら!ちゃんと服を着なさいまったく」

結標「(うふふ、可愛らしいぞうさんね坊や)」ニヤニヤ

白井「風紀委員(ジャッジメント)ですの!!」ガッガッ

結標「何よ!ノータッチだからギリギリセーフよ!!」

白井「わたくしのシマ(管轄)ではノーカンですの!」

それから数十分後、湯船より上がり脱衣場にて髪の毛の水気をタオルで切っていた結標のにやけ顔を――
ローキックで蹴りつけるは白井である。それは保護者同伴の男子小学生を視姦する結標への制裁である。
だが白井が突っ込んだ職務質問レベルの結標のゲス顔より放送禁止レベルの瘴気を漂わせた表情の少女は

白井「(……何を考えておりますのわたくしは。あんな小さい男の子にまで憎悪を向けるようにして)」

結標「………………」

白井「(……あの男の子には何の罪もないのに、お姉様を奪った類人猿と同じ殿方かと思うだけでも)」

意味有り気な流し目を送って来る結標に気づかぬまま、白井は着替えながら激しい自責の念に駆られた。
無邪気な男子小学生の股間にあって邪気に飲まれかけている自分にないものを目の当たりにしてである。

結標「……クスッ」

自分が男性だったならば御坂は振り向いてくれただろうかと言う禁治産的な思考が脳裏に渦巻き胸裡に逆巻く。
別段白井は男性になりたい訳でも何でもない。仮に男性に生まれついたとしても御坂は振り向いてはくれない。
だが脳裏に過ぎるは、御坂に『女』の表情をさせ、初夜を迎えているであろう上条と『男』全体の憎悪である。

結標「白井さん?」

白井「……はい」

結標「私があげたチョーカー、今日確かつけて来てたわね?」

白井「ええ、それはそうですがそれがどうかいたしまして?」

結標「――私の手で、貴女に付けさせてくれないかしら……」

白井「………………」

結標「――いいわね」

白井「――はい……」

着替え終わりつつあった白井に『いい?』ではなく結標『いいわね』と言い切る形でチョーカーを巻く。
その気になれば折れそうなほど細い首に、喉元に鋒を突きつけようなシルバーの逆十字架付きのそれを。

白井「んっ……!」

結標「可愛いわよ」


――――神に背きし逆十字架による洗礼を授けるように――――


216: >>1 2012/04/14(土) 22:15:59.80 ID:TVBMuDGAO
~9~

結標「お風呂上がりと言ったらお酒よね」

白井「わたくし達未成年ですのよ!!?」

結標「ちょっとだけちょっとだけ。クリスマスくらい固い事は言いっこなしよ風紀委員(しらい)さん」

銭湯から引き上げ小萌のボロアパートに戻るなり、結標は明石家サンタにチャンネルを回しつつ――
家主秘蔵の白かびチーズ『ブリー』と、赤ワイン『バローロ』を引っ張り出しコタツの上に置いた。
それに白井が待ったをかけるも、結標も初犯ではないらしく慣れた手つきでグラスに注いで行った。

白井「本当に貴女という方は。まさかロハでわたくしの口を塞げるとでもお思いですの?」

結標「……話がわかるじゃない白井さん。じゃあこれは賄賂ではなく友情の証としてね?」

白井「……メリー!」

結標「クリスマス!」

そして二つのグラスが一つの音を立てて鳴り響くと、二人のささやかな酒宴が行われる事となった。
カマンベールより濃厚な味わいのチーズと、渋みさえ感じるほど力強い赤ワイン片手に二人は笑う。
これでまた共犯者ねと結標がせせら笑い、先に誘ったのは貴女ですのと白井が責任逃れしまた笑う。

白井「嗚呼、これはかなり回って来ますわねー……流石は赤ワインの王様ですの!うへへへへへ!!!」

結標とてわかっている。常なる白井ならばこんな悪乗りなどまかり間違ってもしないであろうとも思う。
だが飲まずにはいられないのだろう。酔わずにはいられないのだろう。乱れずにはいられないのだろう。
継粉結びの思考から逃避し、雁字搦めの感情を鈍麻させ、自縄自縛の軛(くびき)から開放されたいと。

白井「嗚呼、おこたが暑いんですの。身体が熱いんですのよ~」

結標「あーあ、こんなに空けてこんなに酔っ払っちゃってもう」

白井「今夜は無礼講ですの~ほら結標さんも飲んで飲んで~!」

いつの間にか対面から真横に寄り添って来た白井を見つめながら結標は思う。やはり自分達は似ていると。
法の番人(ふうきいいん)、闇の住人(あんぶ)という隔たりこそあるものの、本質的には相似形を描く。

それは何かを傷つける力が『自分』に向かう白井か、『他人』に向かう結標かの違いしかありはしない。

だからこそ

白井「嗚呼……」

その一言を

白井「もう……」

結標は待っていた。
217: >>1 2012/04/14(土) 22:16:57.19 ID:TVBMuDGAO
 
 
     
 
     
 
     
白井「――もう、なにもかもめちゃくちゃにこわれてしまえばいいんですの――」
 
     
 
     
 
     
 
218: >>1 2012/04/14(土) 22:20:09.27 ID:TVBMuDGAO
~10~

次の瞬間、ブリーチーズの油分を受けて艶めかしく輝く白井の唇にバローロの赤ワインに濡れた結標の唇が重なった。

白井「!!?」

結標「――だから貴女は不出来だと言うのよ」

それにより酩酊の最中にあって泣き濡れた白井の双眸がカッと見開かれ、酒精に溺れた相貌がカッと火照る。
されどそれを見下ろす結標の表情はさながら丸く削り出されたロックアイスのように冷ややかなそれだった。

白井「いっ、いやっ……」

結標「貴女がいけないのよ!!そんな誘うみたいな無防備な表情(かお)で私を見て来る貴女が!!!」

そこで白井の潤んだ眼差しが閉ざされ顔を背けようとしたところを、結標がコタツ布団を下敷きに覆い被さって来る。
対する白井は矢で射抜かれたウサギのように身を震わせるばかりで後ずさる事さえ出来ない。足が言う事を聞かない。
アルコールに弱い質である事さえ今し方知ったような白井の酔いは全身に行き渡り、麻酔のように四肢を痺れさせる。

白井「やめて!やめてください結標さん!わたくしこんなのいやですの!」

結標「誰がやめるものですか!傷ついて弱ったウサギを見逃すカラスなんてどこにもいやしないわ!!」

白井「い、や!怖いですの!怖いですの!!怖いんですの!!!」

だが結標は両手首を掴んで白井の頭の上で繋ぎ止めると、再び唇を奪うようにして重ね、貪るように舌を絡める。
歯列をなぞり、おとがいを開かせ、逃げようとする舌先に歯を立て、これ以上拒むなら絡めた舌ごと噛み切ると。
白井は苦痛と紙一重の快感を感じつつ、舌腹に絡みつき吸い立てて来る柔らかな感触を怯えながらも受け入れる。

白井「んむっ……んんっ、ん、はあ……」

結標「は、んっ、んっ、んん、ううん!」

結標の手が胸元に伸び、白井の腕が結標の背に回る。だがそれは受け入れたという意味ではなく――
ただ結標の身体にしがみついて耐え忍び、縋りついているだけだ。白井はもう逃げる事が出来ない。

白井「痛くしないで!痛くしないで!!」

結標「………………」

白井「お願い、ですの……」

結標「っ」

白井「いやあ!!」

引き裂かれたブラウスから、ボタンが弾け飛んで音高く落ちて墜ちて堕ちて行く。

219: >>1 2012/04/14(土) 22:20:53.81 ID:TVBMuDGAO
~11~

結標「……お風呂場でも見たけど、ぺったんこで貧相な胸だこと。あんなブラジャーつけてるクセして随分可愛らしいわね?」

白井「うっ、うっ……いやあ……いやあ」

結標「――嫌だったら抵抗しなさいよ!」

白井「あうっ!」

肌蹴られ、力任せに引き上げられたブラジャーが擦れて赤くなった部分に舌を這わせられ、爪を立てるように鷲掴みにされる。
乳首に触れた事ではなく、無理矢理手指の形に合わせて歪ませられる事に対して精神的に跳ね上がる感度が苦痛を塗り潰した。
立てるだけでばたつかせる事すら出来ない両足の間に割り入れられた結標の膝頭が、捲れ上がったスカートに押し入って来る。

結標「ねえ、女の子ってレイプされる時自衛本能で濡れるなんて言う眉唾話があるけど本当かしらねえ?」

白井「ひぐっ、ひっく、いやですの……」

結標「ほら、貴女の身体で実験させてよ。証明してみせてよ。散々御坂美琴でオナニーしてたんでしょ?」

白井「あっ!あふっ、んっ、ぁぁ、やっぁっぁっあっああん!」

形良い耳殻に甘く噛むように立てた歯から、熱っぽく、赤く、長く、そして卑しく伸ばされた舌が白井に這い回る。
浅い耳の溝をなぞり、小さな耳の穴を滑り、チョーカーの巻かれた首筋に透けて見える青く細い血管まで舐るよう。
その間にも手のひらは白井の脹ら脛の側面より太股の内側を逆撫でするように這い上り、ショーツへと行き当たる。
そこから黒鍵を押すような手つきで布地の上からさすり、白鍵を撫でるようにゆっくりと細かな動きで苛んで行く。
白井は自分の上げる声など聞きたくなかった。結標の呪詛に耳朶を犯される方がまだしもマシであった。しかし――

結標「ほら、御坂美琴だけだなんて言いながらこんなに濡らして。貴女、本当は誰だっていいんでしょ!?」

白井「んはっ、ああっ!ぉ、ねぇ!さ、ま、ぁぁぁぁぁあん!」

結標「優しくしてくれるなら誰だって良いんでしょう!?私でも、私じゃなくたっていいんでしょう?!」

白井「ちが、ぅ、ぁっん!あああっ、あっあっ、はぁん……!」

結標「何なら今から御坂美琴に電話して貴女のあられもない声を聞かせてあげましょうか?あはははは!」

白井「ぃやっ!いやぁっ!そ、れぇっだ、け、ああぁぁぁ!!」

哀願の声音は、懇願の言葉は、冷たい指先を飲み込む熱い泥濘から奏でられる内なる音と高い嬌声に――

220: >>1 2012/04/14(土) 22:23:28.99 ID:TVBMuDGAO
~12~

結標「犯罪者(わたし)の指でも濡らすクセして何が風紀委員(ジャッジメント)よ?笑わせてくれるわ」

白井「ああっ……はぁぁ……結標……さんっ……もう、やめて」

結標「ほら、そのお高く止まった澄まし顔上げなさいよ!写メに撮ってあげるわ!!笑いなさいよ!!!」

居間からベッドへと投げ出され、組み敷かれ後ろ手に回されサラシで縛り上げられ手首が痺れるほどに。
感覚がなくなるまでそうされた。もう何枚も写メールで撮影され、その度突きつけられ見せつけられる。
乳首に立てられた歯形とそこから湧き出して来る疼き、泣き声に枯れ鳴き声に涸れ啼き声に嗄れた喉首。

白井「……どうして、こんなひどいこと……するんですの……」

結標「………………」

白井「どうして!?」

その中で白井が涎の乾いた口元と涎の渇いた口唇を開いて泣き叫んだ。何故こんな無体を働くのかと。
だが結標はそんな白井があられもなくへたり込む足の間に膝をつき、ソッと白井の頬に這わせた手で。

パシッ

白井「っ」

結標「恨むなら御坂美琴を怨みなさいよ!私に石を投げつけて、今も男とお楽しみ中お姉様をねえ!!」

白井「――――――………………」

結標「どうして?ねえどうしてなの……」

白井を打ち据えながら結標は涙を零し、溢れさせ、流しながら血を吐くような声を絞り出してうなだれた。
その姿に白井は一瞬怒りも憎しみも見失ってしまった。細い肩を震わせ狭い背中を戦慄かせる泣き顔にだ。

結標「私はただ貴女を助けただけなのに、どうしてあんな風に石をぶつけられなくてはいけなかったの」

白井「………………」

結標「――最初に貴女を助けたのは私なのに!どうして!!どうしてあの女がさも当然みたいに!!!」

白井「結標、さん」

結標「保護者面して貴女の側にいるの!正義面して私を裁くの!!ねえ私何か間違ったことした!!?」

その悲痛な涙に、悲壮な表情に、悲嘆な思いに、白井は言葉を失った。言ってやれば良かったのである。
『最初に残骸を持ち出したのは貴女だ』と。『疑われるような立場に身を置いたのは貴女だ』と言えば。

結標「……だから貴女を壊してあげるのよ白井さん!私は悪くない!!私は何も悪くなんてない!!!」



――言えば、もう二度と結標を救えない――



結標「……傷物にしてあげるわ!!!」

221: >>1 2012/04/14(土) 22:24:08.65 ID:TVBMuDGAO
~13~

そこから先は、舐め合う事さえ出来ない傷のつけ合いであった。

結標「ほら!貴女みたいなレズってこうされるのが良いんでしょ!?何とか言いなさいよ懐中電灯突っ込むわよ?!」

白井「ああっ、んっ、んぅん!あふっ、ああっ、あっ、ひっ、いやぁぁ、む、す、じめ、さぁ、ぁぁん!い、っ!!」

結標「こんな乱暴されて濡らすようなレズでマゾな変態(あなた)を見たら御坂美琴は何て思うかしらね?“黒子”」

黒子「あふんっ、あぁん!な……まぇ、な、名前……ぁ!ぅぅうっ、呼ばないでっ、呼ばない下さいの、ぁあっ!!」

サラシはほどかれ、ブラウスは引き裂かれたまま投げ出され、グラスに残ったバローロがひっくり返る。
白い布地に血が染み込むように染まり、グチャグチャと粘着質な水音が雫を推して部屋に響き渡って――
窓辺に降り積もる雪華のような白井の肌に刻まれる徒花のようなキスマークが、鎖骨に花片のようにして

結標「名前呼ばれただけで締め付けて来るくせに良く言うわね!指が折れそうなくらいよ?“黒子”!!」

白井「あは、ぁぁあっ!ん、んあぅっ!ひっ、ひぐっ、おねえ……さ、ま、あ、ぁあぁ、ふあ、いぃの!」

結標「――“お姉様”だなんて呼ばないで!御坂美琴はもういないの!!私の事をちゃんと見てよ!!!」

長めの爪に、ふやけそうな中指に、指の股に、掌紋に伝う生温さに、結標が再び白井の胸に噛み付いた。
凝る先端を責め立ててなどやらず、固く尖らせた舌先で唾液をまぶして濡らし、吐息を吹いた唇で吸う。
それによって走る冷たさとすぐさまかぶさる熱さに白井が結標の頭を抱き、結標が歯を立て食んで行く。

白井「「あ、はぁぁぁっ、むす……!じ、め、さ、ぁぁあ!!あ、あっ、ぁぁぁ……あわ、き、淡希さぁん!」

結標「……――イッちゃいなさいよ!何本目の指で貴女が恥をさらすか見ものだわ!壊れちゃいなさいよ!!」

甘ったるい吐息が、鼻にかかった甘え声が、中指で慰撫し人差し指で愛撫する結標の内股を摺り合わせる。
下着が冷たいくらいビショビショに濡れているのに、その深奥に息づく本能が熱を感じるほど求めていた。

結標「――私と、私と一緒に壊れてしまえばいいのよ“黒子”!」

白井「あぁぁぁぁぁっ!あわ、あああああああぁぁぁぁぁっ!!」

たった今、自分の腕の中で手折られ踏みにじられた雪の華を。

222: >>1 2012/04/14(土) 22:26:14.74 ID:TVBMuDGAO
~14~

結標「ふっ、ふふっ……」

白井「ひっ、ひっく……」

結標「――ブザマね……」

全てが終わった後、結標は汗だくの額に張り付く前髪をかきあげ、虚無的な響きを漂わせた笑いを浮かべていた。
その対象は罠とも知らずに狩り場に飛び込み餌食となったウサギか、カラスどころかハゲタカ以下の自分自身か。

結標「――イブにお姉様を男に寝取られた上に、女にレイプされて傷物にされるだなんて一生ものの記念日(トラウマ)よね」

自分の腕の中で泣きじゃくる白井の背中を左手で慈しむように撫でながら、髪を右手で優しく梳いて行く。
だが白井はその手を払い除けられない。直ぐさま殺してやりたいほど手酷い裏切りを働いた結標に対して。

結標「――まさか私が貴女を好きだからレイプしたなんて、そんな少女漫画みたいなくだらないオチなんてないわよ白井さん」

白井「………………」

結標「……そのケがある貴女を身も心もズタズタに引き裂いてやるにはこうするのが一番だからよ。どう?私が憎いでしょう」

白井「………………」

結標「――何とか言いなさいよ!!!」

結標に対して、白井は反抗も反攻も反撃も反論も反駁もなさなかった。それが殊更に結標を苛立たせる。
引き裂かれたブラウスを引っ掛けただけの肩を白井を揺さぶり、頤に手指をかけて泣き顔を上向かせる。
冷めて行く狂気の火照りが、醒めて行くアルコールの後押しが、褪めて行くドス黒い情念が、全てが――

結標「私が憎いでしょう?殺してやりたいでしょう!?私が貴女なら貴女は私を殺したいはずよ!!?」

結標の手が、白井の掌にかかり自らの首筋に押し当てられる。白井に負けず劣らぬ細くて白い首筋へと。
締める事も落とす事も折る事縊る事も思いのままだ。体力を使い果たした今の結標ならばそれは容易い。
否、そんな事をせずとも空間移動で体内に金属矢の一つでもねじ込めばそれで決着(カタ)はつくのだ。

白井「うっ……」

そこで白井の恐怖に惑い苦痛に怯えて震える手指と戦慄く両腕が結標の首筋へとゆっくりと伸びて行く。
白井は泣いていた。結標も泣いていた。加害者と被害者の境目までも涙に暈けて滲む視界の中にあって。

結標『……私も、貴女なんて嫌いよ……』



――白井の双眸に、あの雪の日の結標の相貌が重なった――



223: >>1 2012/04/14(土) 22:27:11.25 ID:TVBMuDGAO
 
 
     
 
     
 
     
――――私(わたくし)を、孤独(ひとり)にしないで――――
 
     
 
     
 
     
 
224: >>1 2012/04/14(土) 22:28:19.88 ID:TVBMuDGAO
~15~

結標の首を縊り殺さんと伸びた白井の腕が、嬰児が縋るようにして回され弱々しく巻き付けられて行く。
結標の唇がみるみるうちに歪んで行く。御坂の横顔に打ちのめされた白井を抱き寄せた時のように歪む。

結標「うっ、ぅぅぅく、くふ、うっ……」

それは『笑み』の形につり上がる上弦の月ではなく、『泣き』を食いしばる下弦の月の形を為していた。
そう、結標が正視に耐えないほど表情を歪ませていたのは白井を抱いた事ではなく、御坂への嫉妬心だ。
白井を助けたのにも関わらず自分に石をぶつけ、横顔一つで白井の心を折る御坂という存在に対しての。

結標「――私は、私はこういうやり方しか知らないのよ!!!」

白井「……いいん、ですのよ、淡希さん」

いつしか目に耳にも入らなかったテレビから流れて来る『戦場のメリークリスマス』に混じる結標の嗚咽。
腕を回してしがみついて来る白井を檻に囲おうとするように結標が抱き返す。白井が鼻先をこすりつける。
結標への憎悪と嫌悪と好悪に震える指先を恐る恐る伸ばす。触れれば血を流す荊荊の薔薇に触れるように。

白井「もう、いいんですのよ、結標さん……うぅっ、あんん!」

一羽の白いウサギが、一羽の黒いカラスに寄り添うように、白井は乾く事無く泣き濡れる結標に頬寄せる。
だが結標はそんな白い背中に赤い爪痕を刻みつけて行く。白井もまた声と涙と痛みを押し殺して耐え忍ぶ。
素手で砕け散った硝子の破片を一つずつ拾い上げるように苦痛と流血を伴う行為に、白井は下唇を噛んで。

白井「……泣きたいくらい、痛いですの」

結標「………………」

白井「でも、貴女にならば全てを預けられる気がしますの……」

微笑みかけたのだ。必死に歯を食いしばり、真一文字に結ばれていた口元を震わせながら口づけて行って。

白井「……もう一つくらい貴女からつけられた傷が増えたって」

結標「……――っっ!!」

再び押し倒され、手折られ、散らされ、踏みにじられ、白井は赤いシミのついた白いシーツを握り締めて耐える。
許しを乞う声音も、赦しを請う言葉もなく、揺るしを恋うように、白井は何度となく結標の手で凌辱され続けた。
白い首元に巻かれた逆十字架の黒いチョーカーが、赤く擦れた細い手首が、まるで奴隷のようだと白井は思った。



いつしか雪が雨へと変わった、夜更け過ぎの空を結標の腕の中から見上げながら――



233: >>1 2012/04/18(水) 21:00:01.05 ID:YAhfA5YAO
~0~

上条「本当に送って行かなくて良いのか?」

御坂「平気平気!って言うか朝帰りすんのに男の子と一緒じゃ色々マズいでしょ?」

薄墨を流したかのような朝曇りの空の下、少年少女はファッションホテルをチェックアウトし外に出る。
未だ目覚めきらぬ繁華街の歩行者天国、白墨を削り落としたかのような名残雪、まばらに降り注ぐ氷雨。
その中にあって二人は手を繋ぎながら、横断歩道よりそれぞれの家路へと向かう分かれ道に差し掛かる。
上条はインデックスの『いなくなった』男子寮、御坂は白井の『いない』女子寮へと歩みを進めて行く。

上条「それもそうだよな。無断外泊ってだけでもマズいってのに、こんなところ入ったのがバレたら……」

御坂「まあお嬢様学校に限らずどこもそんなもんだって。あーあ、こういう時本当に常盤台って面倒臭い」

コンクリートジャングルに横たわるゼブラを踏み締め、けぶる水煙と白い吐息が混ざり合う前に溶け行く。
時折横切って行く車が跳ね上げる水飛沫を、御坂を内側に置いて歩道の外側を歩み行く上条がカバーする。
二人で入るには些かこぢんまりとした折り畳み傘にあって、御坂はそんな些細な事にさえ口元を綻ばせる。
だがそれも三叉路に差し掛かったところまでだ。ここから先は各々が所属する学生寮へ戻らねばならない。

上条「じゃあここでお別れだな。美琴、お前もゆっくり休めよ」

御坂「へ、変な事言わないでよね!ね、ねえ、あ、あんた、さ」

上条「?」

御坂「……――これからも、私の事ずっと好きでいてくれる?」

三叉路の道路標識を前に、御坂は折り畳み傘を持つ左手とは逆の右手で上条の袖口を引っ張りながら言う。
それに対し上条は肩を竦めて呆れたように笑い当たり前だろと左手で御坂の頭を撫でながら鷹揚に頷いた。
それは端から見ればこの雨晒しの雪のように名残を惜しむ少女のいじらしさに見えただろう。しかし御坂は

御坂「約束だからね?どんな事があっても一緒だって、どんなに離れてても二人だって、約束してよね!」

上条「お、おい美琴?」

御坂「――……じゃあ私もう行くから!その傘貸して上げるからちゃんと次のデートで返してよねー!!」

いつも通りの笑顔で、いつも通りの手振りで、上条に折り畳み傘を預け雨空の下、雪上を駆け抜けて行く。


―――涙雨を振り切るように、上条へ振り返らぬよう―――


234: >>1 2012/04/18(水) 21:00:30.74 ID:YAhfA5YAO
~1~

――――時は遡る――――

白井「……ごほっ、ごほっ」

一日の中で最も暗いとされる夜明け前、白井は剥き出しの背中に覚えた肌寒さに咳込みつつ身体を起こす。

白井「………………」

最初に覚えたのは見知らぬ天井と見慣れぬ木目と、裸同然の姿で眠り込んでしまった事による悪寒と微熱。
更には痛む下腹部と傷む下半身、乳房に刻まれたキスマーク、脇腹に刻まれた歯形、背中に刻まれた爪痕。
縛り上げられ痣のようになった手首、ひっぱたかれて腫れた頬、擦り切れたように赤くなった首筋。そして

白井「……結標さん?」

泣き過ぎて充血した目で探し、啼き過ぎて嗄れた声で呼ぶは、蛻の殻となった布団に残された人肌の主。
結標淡希。白井を夜更けから夜明けに至るまで慰み者にし、傷物にした憎むべき相手が傍らになかった。
白井が何回抵抗してもその都度犯し、何度哀願してもその都度辱め続けた結標の姿がそこにない事を――

白井「……何だか、焦げ臭いがしますの」

安堵するより先に不安に思った後、白井の鼻腔をくすぐるというより突き刺すような焦臭い匂いがした。


――――――それもそのはず――――――


結標「熱っ熱っ!熱ちゃ熱ちゃ熱ちゃ!」

白井「!?」

結標「ごほごほ、げほげほ、嗚呼、どうしようどうしよう!?」

白井が傷だらけの身体を筋肉痛に耐えながら寝床より起こすと、そこには台所に立って悪戦苦闘している――
結標の姿があった。引き過ぎた油と強すぎる火でフレンチトーストが炎上し黒い煙に咳き込んでオロオロと。
どうしようどうしようと狼狽え、ガスにさえ近づけず涙目になっている結標の横顔に、白井は立ち上がり――

白井「何をやってるんですの貴女は!?ごほっ、ごほっ(咳の原因はこれ!!?)」

結標「し、白井さん!?」

白井「何をテンパってるんですの!早く火の元を止めて窓を開けて下さいまし!!」

結標「だ、だって火がボーボー燃えてて油がバチバチしてて怖くて近づけないのよ」

白井「嗚呼もう、この家事無能力者!!」

その弱りきった姿に、白井は昨夜の出来事も忘れて結標を庇うように左腕でガードしながら元栓を閉める。
それによって気が抜けたのか、結標はへなへなと女の子座りでへたり込んでしまい、白井は窓を開けながら

白井「(――怒鳴るタイミングを逃してしまいましたの!!)」

降りしきる雨に、一日の始まりを予感した

235: >>1 2012/04/18(水) 21:03:02.85 ID:YAhfA5YAO
~2~

白井「……つまり、貴女は野菜炒めも満足に作れないお百姓さん泣かせの家事無能力者の分際で無謀にも」

結標「………………」

白井「“今日は何となく上手く出来そう”などと非科学的な霊感のみでフレンチトーストを作ろうとして」

結標「………………」

白井「あわやこのボロアパートに小火を出しかけ、今わたくし手ずからの朝食を振る舞われているという」

結標「悪かったわね料理下手で。ええそうよ美味しいわよ貴女のこんがりキツネ色のフレンチトースト!」

小火騒ぎを消し止めた後、結標は白井に台所から追い出され卓袱台にてフレンチトーストを頬張っていた。
不満たらたらのジト目で不貞腐れながらも、眼差しの向かう先は台所に立つ白井の後ろ姿。それは世に言う

結標「……何よ、その裸エプロン姿は?」

白井「“誰かさん”がわたくしのブラウスをダメにしやがりやがったせいでこうするより他ありませんの」

剥き出しの肩と背中に幾筋もの爪痕も痛々しい。スカートとブラジャーのみの背中にエプロン姿だった。
それに対して結標は何も言い返せない。だが白井はぶっきらぼうに帰る時はブレザーを羽織れば良いと。

白井「……とってもとっても痛かったんですのよこのクズ野郎。こうして貴女の顔を見ているだけで――」

結標「………………」

白井「わたくし、生まれて初めて殺人者の気持ちがわかりましたの。貴女ならば喜んで殺せそうなくらい」

ぷいと顔を背け、二枚目のフレンチトーストを乗せた皿をダン!と叩きつけるようにして白井が席に着く。
だが結標も頭を下げる事なく声を発する事なく黙々と雨音をBGMにトーストにかじりついて行く。しかし

結標「――そう言う強がりは手の震えを隠しながら言いなさい」

白井「っ」

結標は見逃さない。白井の怯え惑う手指の震えと揺れ動く眼差しを。涙ぐましいまでに張り続ける虚勢を。
白井は思わずフレンチトーストごと受け皿を投げつけ、なりふり構わず面罵してやりたい衝動に駆られた。

結標「……美味しいわ。貴女の焼いてくれたフレンチトースト」

だが出来なかった。結標を殺してやりたいほど憎んでいるというのに、理性を上回る感情が本能に屈する。

白井「ごほっ……」

痛めつけられる度に声を上げ、首を反らし、達して果て、あられもない姿をさらけ出してしまった相手に。

236: >>1 2012/04/18(水) 21:03:38.45 ID:YAhfA5YAO
~3~

白井「……では、お邪魔いたしましたの」

結標「ええ、また遊びにいらっしゃいな」

白井「――巫山戯んじゃありませんの!」

朝食後、いそいそと荷物を取り纏めて部屋を出ようとする背後よりかけられた声音に対し白井は激昂した。
朝曇りの空より凍えそうな氷雨降りしきる玄関先にて、白井は見送りに来た結標へ振り返って睨みつける。
今も肌寒さ以外の要素に四肢震わせる白井に対し、何一つ悪びれた風もない結標が腹立たしく感じられて。

白井「自分が何をしたかわかってるんですの!?わたくしに何をしたか本当にわかってるんですの!!?」

結標「ええ。貴女がどんな声を上げてイッただとか、どんな顔して私にキスをねだって来たかまで全てね」

白井「――!!!」

思わずカッとなって振り上げた手を、結標はかわそうとも防ごうともせずにただ静かに見やっていた。
それによって白井の手は空を切る前に彷徨い、ついぞ振り下ろす事がどうしても出来ぬまま終わった。
結標が憎い。しかしそれと同じだけ自分が恨めしい。最悪の相手の手でもたらされた最低の初体験に。

結標「……あんなにトロトロにしといてよく言うわね?随分と気持ち良そうな顔してたように見えたけど」

白井「――貴女なんて死んでしまえば良いんですの!!貴女の顔なんて二度と見たくありませんの!!!」

白井が覚えたのは結標に対してではなく自分に対する畏怖、苦痛に対してではなく快楽に対する恐怖だ。
今もこうして上がり框で結標と向かい合っていると恐ろしくてたまらない。怖くてたまらないのである。

結標「――いいえ、貴女は必ず私の許へ帰って来るわ。自分の足で、自分の意思で、必ず戻って来るわよ」

白井「――貴女なんて大嫌いですの!!」

そう吐き捨てるなり踵を返し、白井はボロアパートから雨降りの中常盤台中学女子寮を目指して直走る。
白井は怯えていた。あんな強姦まがいの遣り口でも、どこかでそれが行き過ぎた愛情の発露であると……
刻まれたキスマーク、歯形、爪痕を優しく撫で口づけて来た結標の恐ろしさに惹かれ始めている自分に。

白井「ごほっ……」

空間移動に必要な十一次元の演算式さえ組み立てられぬまま、混乱しきったかぶりを振って白井は走る。

汚されたとは思わなかった。

裏切られたとは想えなかった。

そんな自分が、白井は怖かった。

237: >>1 2012/04/18(水) 21:04:18.67 ID:YAhfA5YAO
~4~

白井「はあっ、はあっ」

駆け込むようにして女子寮の部屋に辿り着いた白井は、汗か涙か雨かさえもわからぬまま鍵を締める。
黒のワンピースと白の仮面が入ったバックを投げ出し、携帯電話とスマートフォンを放り出して行く。
幸か不幸か、御坂はまだ帰って来ておらず寮監に見咎められる事もなかった。その理由を考えるよりも

白井「うっ……」

先に漏れ出して来たのは嗚咽だった。込み上げて来たのは震撼だった。今更のように現実が追い付いて来る。
理性を犯された。精神を壊された。本能を狂わされた。至る所ににつけられた痕跡がそれを如実に指し示す。
それは御坂のいない空っぽの部屋ではなく、結標から離れた事によって齎された遅効性の毒が回ったように。

白井「……お風呂に、入らなければ――」

痛む爪痕が熱を持ち、思考のまとまらぬ頭が茹だる感覚を洗い流すべく、白井はブレザーを脱ぎ捨てて行く。
今必要な事は可能な限り痕跡を洗い流す事、今大切な事は可能な限り自分を立て直す事にあると知るが故に。

白井「ごほっ……」

引き裂かれたブラウスを脱ぐ寸暇さえ惜しむように白井は浴室へ入り、温まり切らぬままシャワーを捻る。
温水に変わる前の冷水であろうとこの際構わなかった。茹だる頭と火照る身体を鎮める事が出来たならば。

白井「うう、ううう、ああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

そこで白井の理性を引き止めていた千丈の堤に蟻穴が空いた。胸に押し止めていた感情に風穴が空いた。
水滴に濡れた浴室の姿見に映り込む自分さえ許せなかった。白井は這い蹲りながらタイルを叩き続ける。
こんなはずではなかった、こんなつもりではなかったと堰を切る濁流のような悪感情に押し流されて――

白井「何で!どうしてなんですの!!わたくし、わたくしは、わたくしはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

『白井黒子』という何度となく組み上げて来たカラーのジグソーパズルが無地のミルクパズルに取って代わる。
どこにどのパズルを合わせて良いかさえわからない。白井の『自分だけの現実』を組み直す事が出来ない。更に

御坂「……黒子!?」

白井「!!!!!!」



――――――時は巻き戻る――――――



238: >>1 2012/04/18(水) 21:06:29.37 ID:YAhfA5YAO
~5~

御坂「――あんた、その格好は何よ!?」

白井「――――――………………」

御坂「黒子!!!!!!」

あいつと別れた後、私は雨の中で散々泣いて帰って来てずぶ濡れになった身体を温めようと女子寮に戻った。
すると鍵を開けるなり浴室から黒子の泣き叫ぶ声が部屋中に響き渡ったのが耳に入って私は血の気が引いた。
最初は発狂したような絶叫に、次にボロボロに引き裂かれたブラウスのままシャワーを浴びる黒子の――……
水に濡れてお湯に透けた身体のあちこちに見てわかるくらい、数え切れないほどのキスマーク、歯形、爪痕。
何よこれ、何よこれ。何よこれ何よこれ何よこれ何よこれ何よこれ何よこれ何よこれ何よこれ何よこれ!!?

御坂「どうしたのその格好は!?誰かに、何かされたの!!?」

白井「………………」

御坂「黒子!!!!!!」

有り得ない。考えたくない。風紀委員の黒子がまさかこんなって、出したくない結論が頭から離れない。
この子に恋人なんていなかったはず。ましてや、こんな乱暴なセックスを許すような子じゃ決してない。
黒子は確かに私の下着に悪戯したり盗撮しようとしたりするけど、最低限の貞操観念は持ち合わせてる。
こんなの絶対合意の上での事や相手じゃ決してない。言いたくないけど、考えたくないけど、黒子は――

白井「……さいの」

御坂「……黒子?」

きっと強姦されたんだ。乱暴されたんだ。レイプされたんだ。だからこんな格好であんな声で叫んだんだ。
私は聞きつけるなり押し入って開けっ放しにした浴室の扉の外にまで飛び散るシャワーの飛沫にも――……
構う事なく黒子の両肩に手を置いて目線を合わせる。すると首元に私の知らない真っ黒なチョーカーが見え

白井「……触らないで下さいの」

御坂「違う、違うよ!黒子!!」

私はそこから目を切って黒子を見つめ直しながら言う。でも黒子の目は前髪が水に濡れて被さって見えない。
でも違うよ黒子。あんたは汚れてなんてない。穢されてなんてない。怪我はあるけどそれだって癒えるはず。
だから黒子落ち着いて。泣いても良いから私の目を見て話して。大丈夫、大丈夫だから。私があんたを必ず。

白井「触らないで下さいの、“お姉様”」

あんたを必ず――……

239: >>1 2012/04/18(水) 21:07:22.03 ID:YAhfA5YAO
 
 
     
 
     
 
     
白井「――あの類人猿(サル)に抱かれた腕でわたくしに触んじゃねえですのォォォォォー!!!!!!」
 
     
 
     
 
     
 
240: >>1 2012/04/18(水) 21:07:50.59 ID:YAhfA5YAO
~6~

御坂「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

白井「――ごめんあそばせ、“お姉様”」

悪魔憑きが如く狂気に煮え滾る双眸が、浴室に飛び込んで来た御坂の心臓をぶち抜くように突き刺さった。
一瞬、白井が何を言ったか理解出来なかった。刹那、それを言ったのが白井だと認識出来ないほどの衝撃。
思わず御坂が後ずさるほどの鬼気を湛えた底知れぬ暗黒面が、その暗い縁と昏い奈落を伺わせるに足りた。

白井「あらあら、愛しく恋しい殿方との逢瀬の朝帰りに、わたくしのような傷物に勿体無きお言葉の数々」

御坂「黒、子」

白井「わたくしを“黒子”と呼ぶんじゃねえですのォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォー!!!」

御坂の膝が折れ、腰が抜け、歯が鳴る。目の前のこの少女は白井黒子ではないのかと目と耳と正気を疑う。
聞くだけで呪われそうな雄叫び。白井は今明らかに精神に変調を来していると断じるに足る変わりようだ。
だが白井は濡れた前髪をかきあげると、そんな御坂の狼狽えぶりを冷ややかに、嘲るようにせせら笑った。

白井「わたくし見ましたのよ?昨夜、あの殿方とラブホテルに入って行くお姉様を。目が合いましたのに」

御坂「――――――」

白井「お姉様ったらちっとも気づいて下さらないんですもの。わたくし悲しくて哀しくてかなしくて――」

パシッ

白井「っ」

御坂「――あんた私を尾行してたの!?」

そこで御坂も聞き捨てならじと雨の音とシャワーの音の中にも乾いた音を立てて白井の頬を平手打ちした。
それは口にしてはならない言葉だった。白井は知らない。御坂が上条を伴ってホテルに入ったのは――……
愛情の発露以上に、上条に去り行くインデックスの影を追わせぬため、純潔を代償に捧げた時間稼ぎだと。
だが白井は今更傷が一つ増えようが、痛みが増そうがお構い無しだった。白井は完全に自暴自棄に陥って。

白井「たまたまですわ。今となってはそれさえも疑わしく思えますがもうそんな事どーだっていいですの」

愛しかったはずの御坂が一瞬なりとも憎くくなり、憎かったはずの結標が一夜とは言え愛しく思えた自分。

白井「……ただ一つだけ確かな事は――」


この瞬間、白井は結標(やみ)に堕ちた。

241: >>1 2012/04/18(水) 21:08:27.63 ID:YAhfA5YAO
 
 
     
 
     
 
     
白井「お姉様があの殿方と愛を交わされている間中、わたくしは一晩中レイプされ続けただけの事ですわ」
 
     
 
     
 
     
 
242: >>1 2012/04/18(水) 21:13:27.82 ID:YAhfA5YAO
~7~

御坂「――――――」

白井「お姉様があの殿方の×××を突っ込まれて喘いでいる間中、わたくしは何度も名前を呼びましたのよ、“お姉様”って」

御坂「……やめなさい」

白井「お姉様がいない時はこのお部屋で、いる時は学校のトイレでいっぱいいっぱい名前を呼びながらオナニーしましたのに」

御坂「やめなさい!!」

白井「わたくしってば背中が感じる質らしいのも今朝知りましたのよ?自分で慰めるだけでは手の届かない世界もある事など」

御坂「やめろって言ってんのがわかんないの黒子ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォー!!!」

掴みかかる御坂を、白井が突き飛ばした。白井とてわかっている。御坂は御坂の幸福を追い求めただけだ。
ただその幸福(はる)の中に、白井黒子という自分(ゆき)は入れなかった。たったそれだけの事だった。
だのに自分を犯した結標より、助けられるはずもないとわかっているのに助けてくれなかった御坂が憎い。
あんなに泣き叫んだのに、御坂を呼ぶ涙声が結標を求める嬌声に変わる前に助けて欲しかっただけなのに。



ただ、孤独になりたくなかっただけなのに



白井「……出て行きますわ。今はお姉様の顔も見たくありませんし、もう合わせる顔もございませんのよ」

御坂「待ちなさい黒子!!!今のあんたは自分を見失ってるだけなの!!目を覚ましてお願い黒子!!!」

白井「――昨夜の事が全部幻想(あくむ)だったなら目なんてとっくに覚めてますのよォォォォォ!!!」

そして白井は御坂の制止を振り切るようにして、見るも無残な着の身着のまま空間移動で姿を消し去った。

御坂「黒子!!!!!!」

御坂もすぐさま追い掛けんとする。あれが白井であるはずがないと、そう御坂が浴室から飛び出した所で。

ハナテ!ココロニキザンダユメヲ

御坂「……!!!」

鳴り響く、ある少年にのみ個別設定している携帯電話の着信音が鳴り響き、反射的に通話ボタンを押す。

上条『――美琴か!?』

御坂「ちょ、待っ……」

上条『――インデックスがいなくなった』

雨靄に曇る窓辺を叩く雨垂れの音と、受話器越しにも切羽詰まった上条の声が、御坂の足を止めさせた。

243: >>1 2012/04/18(水) 21:13:55.70 ID:YAhfA5YAO
~8~

白井「ごほっ……」

ボロボロの精神、クタクタの身体、ズブズブのブラウス。学舎の園を抜ける頃には白井の身心は限界に達していた。
今朝方、結標が出した小火騒ぎによって痛めたと思った喉から発する熱の正体を今更ながら白井は思い知らされる。
超過勤務、入院生活、例年にない厳冬、結標による凌辱、御坂への爆発、身心を摩耗させる要因全てが溢れ出して。

白井「もういやですの……」

雨降りの繁華街を横切り、濡れそぼるセブンスミストを尻目にバッファローの群れのような車道を突っ切る。
嘶きのように鳴らされるクラクションも耳に入らない、スクランブル交差点の信号機の指示も目に入らない。
茹だる頭、纏まらぬ思考、組み上がらぬ演算、火照る身体、震える四肢を引きずって白井はよすがを求める。

白井「ごほっ……」

いつまで経っても追って来ない御坂への大いなる安堵と微かなる落胆を覚えつつ、白井は身の振り方を考える。
常盤台中学には戻れない。風紀委員一七七支部にも行けない。初春や佐天達の下へ身を寄せる事さえ出来ない。
固法や婚后を頼る事など考えられない。何故ならば全員御坂と繋がっているからだ。まるで蜘蛛の糸のように。

白井「………………」

誰とでも繋がる蜘蛛の糸にも似た網目のような『絆』、地獄に垂らされた蜘蛛の糸にも似た救いたる『紲』。
だがそれは裏返せば粘着質を帯びて絡め取る蜘蛛の糸にも成り得る事を白井は氷雨にうたれながら思い知る。
誰の目にも明らかな、この無惨な体たらくをどうして同じ『風紀委員』たる初春や固法達に見せられようか。
『犯罪者』たる結標に身を委ね、身も心も凌辱されたなどと口が裂けても言えはしない。それは他の二人……

白井「嗚呼……」

貞操観念の固い婚后や仲間意識の強い佐天も同じだ。前者は白井を詰り、結標の下へ殴り込みに行くだろう。
後者は白井を裏切り者として責め、御坂を嗾けて結標の許へ乗り込むだろう。結果は火を見るより明らかだ。

白井「………………」

一時間ほど彷徨い続けた後、歩き疲れた白井は公園のブランコに腰を下ろした。
それは白井が初めて御坂と立ち話する上条を目の当たりした件の公園でもある。



そこで――



「ニャー」

白井「………………」

――1匹の三毛猫が、白井の足元に喉を鳴らして擦り寄って――

244: >>1 2012/04/18(水) 21:14:46.77 ID:YAhfA5YAO
 
 
     
 
     
 
     
上条「――白井!お前何やってんだ!?」
 
     
 
     
 
     
 
245: >>1 2012/04/18(水) 21:17:03.45 ID:YAhfA5YAO
~9~

白井「――貴方は」

上条「何なんだよそのボロボロの格好……つーか風邪引くぞ!?」

ブランコに腰掛けながら雨に打たれていた白井のもとへ姿を現すは、インデックスを探しに来た上条当麻。
ザクザクとスープを吸いすぎてふやけたリゾットのような地面を水溜まりごと踏み締めて白井に歩み寄る。
その声音には紛う事無き真摯な響きが伴われ、その立ち振る舞いはまず紳士と呼んで良いものではあった。

白井「何故、貴方がこんなところに――」

上条「インデックスを探しに……って今はんな事どうだっていいだろ!ちょっと待ってろ今美琴に電話し」

――――“この時”でさえなければ――――

バキッ!

上条「!!?」

畜生さっきの今で気まずいな、と上条が携帯電話を取り出し御坂に連絡を取ろうとしたその矢先に――
突き刺さったのだ。白井が空間移動で投擲した金属矢が、耳に当てようとした携帯電話を真っ二つに。

白井「………………」

上条「し、白井!?」

スフィンクス「ニャー!?」

打ち砕かれた携帯電話が泥土に落ち、罅割れたディスプレイにノイズが走り、その機能を停止させる。
突然の事に一種の思考停止状態に陥った上条と、一瞬のうちに毛を逆立てて逃げ出したスフィンクス。
一人と一匹の視線の先、雨降りの視界の中、定まらぬ視点を漂わせる白井がブランコから立ち上がる。

白井「――わたくしは何を何処から間違ってしまったんですの?」

何処からともなく氷雨を横薙がせる寒風が吹き荒んで行く中、白井が幽鬼が如く表情で虚ろに自問した。
物事を正数の1+1で積み重ねて来た白井にとって、負数の-×-で+に向かわせる受け入れ難い等式。

上条「しっかりしやがれ白井!お前どうしちまったんだよ!?」

そこでようやく危機感を覚え駆け出す上条にはわからない。白井に決定打を与えたのは他ならぬ自分だと。
御坂が上条との事を笑って話す度に、不満げに話す度に、誇らしげに話す度に、愛おしそうに話す度に――
擦り傷が増え、掠り傷が深まり、幾多の罅割れが走り、数多の亀裂が広がり、今この瞬間、致命傷を負った

白井「嗚呼、悪かったのは――」

本来テレポーターとは柏手一つで飛べなくなる、硝子細工のように繊細な存在である。それは白井もまた

白井「一番、悪かったのは――」

例外では、ない。
246: >>1 2012/04/18(水) 21:18:03.39 ID:YAhfA5YAO
 
 
     
 
     
 
     
白井「―――一番悪かったのは、わたくしでしたのね――――」
 
     
 
     
 
     
 
247: >>1 2012/04/18(水) 21:18:32.33 ID:YAhfA5YAO
~10~

白井「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

次の瞬間、白井の周囲に降り注いでいた雨粒が転移するほどの暴走が引き起こされ渦巻き逆巻く嵐となる。
ブランコが、ゴミ箱が、自販機が、ベンチが、最大重量も射程距離も無視して白井を中心にして荒れ狂う。
ハインリッヒ・ハイネの『ローレライ』が如く、心の叫びを上げる人魚の魔歌(まがうた)に合わせて――

上条「白井ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!」

上条が『幻想殺し』の右手を伸ばして引きずり上げようとして、飛来して来たベンチに吹き飛ばされる。
白井の周囲だけ切り取られたように雨霰が消失し、齎される破壊の全てが自分に向かうように集束する。
『人を傷つける能力(チカラ)』が他者に向かうのが結標淡希なら、自身に向かうのが白井黒子だった。

白井「――もうイヤですの!もうイヤですのォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」

幾何級数的に壊れて行く『自分だけの現実』にあって白井は思った。自分は何処で何を間違えてたのか。
結標に助け出された時、片意地を張らずに素直に、肩肘を張らずに率直に『ありがとう』と言えたなら。
結標はあんな風に壊れなかったかも知れない。泣きながら自分を抱くまでに狂わなかったかも知れない。
そうすればあの時、御坂と結標が白井を仲立ちにして言葉や視線や笑顔や友誼を結び得たかも知れない。
風紀委員でありながら犯罪者である結標と誼を結んだ事を初春に偽り、佐天を騙し、御坂に黙す罪悪感。
それ以前から先輩(みさか)の恋路を応援する後輩(しらい)と言うポジションを失いたくないが為――
白井は取り繕った笑顔(かめん)を被り、その下にある醜い嫉妬(すがお)から目を逸らし続けて来た。
自己欺瞞、自己嫌悪、自己暗示という幻想全てが、姫(みさか)を奪った王子(かみじょう)を前にして

???「――だから貴女は不出来だと言うのよ白井さん」

上条「!?」

???「ごめんなさいね上条君。ちょっと代わって頂戴」

嵐を呼ぶローレライの魔歌を歌い唄い唱い謡い詠い謳い上げる人魚(しらい)を前に現れるは――……

???「引き取りに来たわ」

もう一人の灰音(ハイネ)――

248: >>1 2012/04/18(水) 21:18:59.93 ID:YAhfA5YAO
 
 
     
 
     
 
     
結標「――黒子(こわれもの)をね――」
 
     
 
     
 
     
 
249: >>1 2012/04/18(水) 21:19:30.89 ID:YAhfA5YAO
 
 
     
 
     
 
     
A C T . 9 「 白 い 雨 靄 、 赤 い 電 波 塔 」
 
     
 
     
 
     
 
250: >>1 2012/04/18(水) 21:21:35.29 ID:YAhfA5YAO
~11~

上条「結標さん!?」

結標「……――黒子」

暴走した空間移動の狂風の坩堝の中、姿を現した結標に上条は眦を決した。何故彼女がここにいるのかと。
しかし結標はもはや上条に目をくれるでなく、何かを静かに受け入れるような眼差しで白井へと歩み寄る。

結標「――本当に、貴女は私の望むがままに、汚れて堕ちてくれたわね?“黒子”」

上条「結標さん!近づいたらヤベえ!!」

ベンチの下敷きにされた上条が制止するより早く、飛来した硝子の破片が結標の胸元のサラシを――……
ザクッ!と首の薄皮一枚を巻き込んで切り裂き、更に赤いニットコートのファーが散らされ雨空に舞う。
されど結標は歩みを止めない。その左足に再び飛来した金属矢がズガッ!と突き刺さり顔を歪めれども。

結標「っ」

同じテレポーターであるが故に壁に埋め込まれる事こそないものの、現出した掃除ロボットに横殴りにされる。
側頭部から鮮血が流れ出し、頬を垂れて首筋まで伝うも結標に揺らぎはない。痛みも、傷も、まだ足りない。

結標「……私、あの女に嫉妬してた。最初に助けたのは私なのに、手柄を横取りされたみたいな気がして」

上条「結標さん!!」

砲弾のように放たれたコンクリートが鎖骨に罅が入りそうな勢いで激突し、思わず結標は膝をつかされる。
台風の目である白井まで残り数メートル。だが二人の一度は重なり、再び開いた心の距離を埋めるには――

結標「私と似ているのに美しくて、私と同じなのに汚れていない、もう一人の私とも言うべき貴女の事が」

足を伸ばす。まだ足りない。

結標「……――ねえ、知らなかったでしょう?私は初めから貴女をこんな風に壊すために近づいたのよ?」

腕を伸ばす。まだ足りない。

結標「貴女の無邪気な笑顔を!無防備な横顔を!!こんな風に残骸(がらくた)にするためだけに!!!」

抱き寄せる。まだ足りない。

結標「貴女が見ていた“結標淡希”なんて、最初から全部幻想(うそ)だったのよ“黒子”!!!!!!」

――――罪(きず)も、罰(いたみ)も、まだ足りない――――

251: >>1 2012/04/18(水) 21:22:27.37 ID:YAhfA5YAO
 
 
     
 
     
 
     
白井「――そんな事、最初から全部知っておりましたのよ――」
 
     
 
     
 
     
 
252: >>1 2012/04/18(水) 21:23:30.68 ID:YAhfA5YAO
~12~

結標「――――――………………」

轟ッッと運命の輪のように回り、時計の針のように廻り、ひしと抱き合う二人を舞わる空間移動の大嵐。
耳朶を震わせる風切りの音が吹き荒れる中、白井は両目一杯の涙を流し、泡となる人魚のように笑んだ。
そう、結標が白井に素顔で接したのは雪の日の別れ際、クリスマスライブ、そして白井を押し倒した時。

白井「わたくしと貴女は、鏡に映ったもう一人の自分のように良く似てますのよ…」

白井は最初から知っていた。あの『結標淡希』はこんなにも優しく笑う人間などではないと、本人以上に。
そして、結標が白井と御坂の中を引き裂かんとしていた事を知った昨夜のやり取りにて確信へと変わった。



――何故ならば、上条と御坂の仲が壊れてしまえば良いのにと、白井もまた同じ事を思ったからである。



白井「わたくしは貴女が思うより未熟(バカ)なんですのよ?」

それが同一でありながら白井と結標が全一ではない決定的な証左。白井は考えるに留め、結標は実行した。
白井と結標の唯一の差違、結標と白井の無二の差異は『人を傷つける能力』が自分に向くか他人に向くか。

白井「車椅子を押してくれた事、チョーカーを下さった事、一緒にクリスマスを過ごした事もみんな――」

まやかしの温もりだとしても、嘘の笑顔だとしても、偽りの優しさだとしても、白井は結標に身を委ねた。
生まれた心の隙間に入り込もうとする結標を、心の隙間を埋める『何か』にしたかったのだ。だからこそ。

白井「……幻想(うそ)だとわかっていても、わたくし都合の良い記憶(こと)しか覚えてられませんの」

――だからこそ白井は結標を受け入れた。アルコールに弱い質とは言え、演算が乱されるほど弱くはない。
その気になれば風紀委員で培った体力で、能力以外に寄る辺を持たない結標をはねのける事だって出来た。
白井が崩壊を迎えたのは、結標が白井を飲み込もうとしてその実、自分が結標を呑み込もうとした醜さ故。

白井「――嗚呼、でも、もうわたくし達」

自らの業の深さと、結標との劫の果てに、嵐が轟と吹き荒れた。

白井「おしまい、ですのね――……」

次の瞬間

結標「っ」

結標が

結標「……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

吠えた。

253: >>1 2012/04/18(水) 21:26:00.19 ID:YAhfA5YAO
~13~

上条「……何だ、これ」

雨水を、雨滴を、雨靄を、雨霰を、雨雲を、雨風を、雨空をも分かつように白井が巻き起こす大嵐に――
『座標移動』の制御を意図的に放棄し、恣意的に暴走させた結標が巻き上げる大嵐が加わり荒れ狂った。
思わず上条が息を止め足を止め手を止めるほどに、嵐の中互いを抱き合う二人は双子のように似ていた。
姉妹が嵐の中引き離されまいとするように、『自分だけの現実』が『二人だけの世界』にとってかわる。

白井「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

結標「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

白井が飛ばす清掃ロボットを、結標が飛ばす自販機が潰す。白井が飛ばす金属矢を、結標のコルク抜きが砕く。
自壊の坩堝を生み出すのが白井ならば破壊の螺旋を描き出すは白井。相反しながら相剋する二人が重なり合う。
暴走を止める暴走、暴威を鎮める暴威、暴発を防ぐ暴発、心の臓を射抜く弓矢境には息の根を止める返し矢を。

上条「……!!!」

上条や御坂のように互いを包み込み慈しむような愛情には有り得ない、互いを傷つけ合い愛しむような恋情。
触れようとして傷つける、抱こうとして壊す、口づけようとして噛みつく、身を寄せ合うほど血を流す山嵐。
白井という光が近づくほど影を濃くする結標、結標というコインの裏側を分かてぬ白井というコインの表側。

白井「………………」

結標「――――――」

そして、ついに白井が先に力尽き結標の腕の中で崩れ落ちた。同時に精魂使い果たした結標の膝が折れた。
支えるでもなく、受け止めるでもなく、互いの肩にもたれるようにして少女は身を預け、委ね、横たえる。
過ぎ去りし大嵐、巻き上げた雨粒、思い出したように降り注ぎ、雪を溶かし、花を散らし、頬を濡らした。
春の陽射しではなく、冬の涙雨が二人の凍てついた雪を溶かして行く。歩み寄れてもわかり合えぬ二人を。
倫理に抗おうとも、遺伝子に逆らおうとも、実を結ぶ事もなく散り行く六花に降り注ぐ三冬月の雨の下で。

結標「……なんて」

『一つ』になどなれないと知りながらも結標が手指を伸ばし。

白井「……いですの」

『独り』になどなりたくないと白井がその手指を握り返して。

上条「――――――」



――『二人』になろうと、結び合った――



254: >>1 2012/04/18(水) 21:26:49.15 ID:YAhfA5YAO
 
 
     
 
     
 
     
結標「貴女なんて」白井「大嫌いですの」
 
     
 
     
 
     
 
255: >>1 2012/04/18(水) 21:27:17.79 ID:YAhfA5YAO
~14~

上条「――だ、大丈夫か!!?二人とも」

白井「来ないで下さいまし!!!!!!」

上条「?!」

枝葉を絡め合うようにして手繋ぎし、土砂降りの雨の下共倒れになったまま白井が上条に寸鉄を刺した。
己の恥部も暗部も全部さらけ出した事を悔いているのか嘆いているのか、結標の胸に顔を埋めて叫んだ。
結局白井は、上条も傷つけられず結標も壊せなかった。荒れ狂う奔流の中にあってさえ一線を越えじと。

白井「……お見苦しいところを晒してしまい申し訳ございませんの。お姉様には言わないで欲しいですの」

上条「白井……」

白井「……行って下さいな。あの修道女さんをお探しなのでしょう?わたくしもお姉様には言いませんわ」

雨以外の滴に濡れた頬を隠すように、寒さ以上に震える声を絞り出し、白井は上条を後押しする。しかし

結標「――本当に行ってしまったのね。インデックスさん……」

上条「インデックスを知ってるのか!?」

結標「……ええ。貴女とあの晩出会う前、私と彼女は小萌の家で軍鶏鍋をつついていたの。聞いてない?」

上条「………………」

結標「その道すがら、彼女から色々と打ち明けられたわ。貴女と御坂美琴の馴れ初めから何から何までね」

そこで結標が剥き出しの胸に感じる白井の発熱と荒い吐息に察する。同時に、血の気が引いたように――
顔面蒼白で立ち尽くす姿に結標も思い出す。一週間前インデックスを送り届ける道程が交わした言葉を。

結標「……貴方と会ったあの晩に言ったわね?“女の子は誰だって自分一人にだけ優しくされたい”って」

上条「……ああ、そうだったな」

インデックス『とうまが二度と私を“忘れない”ように、私の事を思い出す時少しでも胸が痛むように』

結標「――私は知ってるわよ上条君。彼女がどこへ行ったかを」

上条「……何だって!!?」

インデックス『私はとうまを想っていっぱい胸が痛くなった。だからもしとうまが少しでも私と同じに』

結標「……あの日貴方に助けてもらった借り、ここで返させてもらうわね。一日遅れのプレゼントとして」

インデックス『感じてくれたらって……私は、私はね……!!』

涙ながらにインデックスが語った、最初で最後の女の意地を――

結標「彼女(インデックス)は――……」

256: >>1 2012/04/18(水) 21:28:49.51 ID:YAhfA5YAO
~15~

かくして聖餐の夜が明け、凄惨な朝を迎え、清算の雨が降る。

雲川「ほう?枝打ちに興味はないとか良いながら結構やるけど」

第八学区のマンションより、窓のブラインドを上げるは雲川。

婚后「御坂さんと白井さんが破局したという噂は本当ですの?」

学舎の園のカフェより、磨り硝子越しに彼方を見やるは婚后。

初春「こんな雨だと遊びに出るのはよした方がいいんじゃ……」

佐天「うわーん!せっかくのホワイトクリスマスだったのに!」

棚柵中学女子寮より、パソコンの画面を見やるは初春と佐天。

姫神「ここから見える夜景。とても綺麗なのに。もう見れない」

吹寄「今年中に取り壊しですものね。でも私新しいヤツの方が」

巡回バスに乗り込み、大桟橋より上を見上げるは姫神と吹寄。

風斬「ふわー……やっぱりここまで昇ると高いんですねえ……」

雲川が、婚后が、初春が、佐天が、姫神が吹寄が見上げた先。

御坂「電話に出て当麻!こんな時にどこで何やってんのよ!?」

御坂が手にしたケータイのアンテナサービスと共に役目を終え

上条「………………」

二十三学区へ向かうモノレールの中、上条の視界から遠ざかり

運転手「お客さん、どちらまで?」

白む雨靄の中にも皓々と赤く輝く『タワー』を見やりながら――

結標『去年までなら帝都タワーにある天空レストランが美味しくて穴場だったんだけど、今年はもう……』

白井『取り壊しが決定してからテナントが撤退してしまいましたの。あの帝国タワーが出来上がってから』

白井を膝枕しながら結標がタクシー運転手に告げた行き先は

結標「……“帝都タワー”までお願いするわ、運転手さん――」



――――旧電波塔、『帝都タワー』――――



259: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) 2012/04/19(木) 09:19:48.33 ID:Nr3bG2rw0
乙。何がすごいってこれだけ百合でやっちゃいけないこと(暴力、足の引っ張り合い、レイープ、激欝)をやってて王道から外れてないのがすごい。
271: >>1 2012/04/22(日) 22:22:34.42 ID:LKh6w/XAO
~0~

海原「――この国は決して嫌いではありませんが、冬と雨の肌寒さばかりはどうにも馴染めませんね……」

水煙が立ちのぼるほどいや増す雨脚に辟易しながら、海原は冥土帰しの病院を目指し遊歩道を闊歩する。
右手にビニール傘、左手に以前結標がショチトルらを見舞ってくれた時のあまおうのフレジェを携えて。
海原も含めてショチトルにもトチトリにも十字教の聖誕祭を祝う概念はないが、それはそれこれはこれ。
長らく娯楽に乏しく甘味に飢えている彼女達にとって海原の差し入れは一服の清涼剤となっているのだ。
クリスマスケーキ代わりにはなるだろうかなど思いつつ、海原は遊歩道の水溜まりの一つを踏み締め――

ドンッ

海原「わっ?!」

御坂「きゃっ!?」

めんとしたその曲がり角にて駆け込んで来た御坂と正面衝突し、フレジェこそ庇えたが傘を取り落とした。
対して、ぶつかった拍子水溜まりに尻餅をついた御坂がふるふるかぶりを振る。その手には傘がなかった。

海原「大丈夫ですか御坂さん?手を……」

御坂「う、うん。ありがとうね海原さん」

海原は嫌みさえ感じさせないほどごく自然に手を差し伸べ、御坂を起き上がらせる。か細く小さな手だと。
そんな感慨を覚える海原をよそに、御坂は立ち上がるなり問うた。上条ないし白井を見かけなかったかと。

海原「いえ、自分は見かけませんでしたね。彼も、白井さんも」

御坂「……そっか」

海原「……ええ、お役に立てなくて申し訳ありません御坂さん」

車道の飛沫を巻き上げて直走るトラックのテールランプに照らされる御坂の顔色と声音から海原は察する。
傘も持たずこの雨の中を駆けずり回るなどただ事ではないだろうと。だが海原は、いや『エツァリ』は――

海原「――こんな安物でよろしければ、お使い下さい御坂さん」

御坂「ええっ!?でも傘なくなっちゃったら海原さん濡れちゃ」

海原「いえ自分はそこの病院の見舞いですから。では御坂さん」

御坂「あ!」

決して主人公(かみじょうとうま)になれない海原は御坂にビニール傘を手渡し、颯爽と病院へと入った。

海原「……おや?」

だが受付を通り抜け、乗り込んだエレベーターにて携帯電話の電源を落とそうとした時、海原は気づいた。

海原「――やれやれ、こんな時に……」


『着信:結標淡希』という表示に――

272: >>1 2012/04/22(日) 22:23:57.46 ID:LKh6w/XAO
~1~

白井「うっ……」

夕間暮れ、白井は帝都タワーに程近い帝都ホテルのプレステージルームのベッドにて寝汗と共に目覚めた。
最初に覚えたのは寝汗の不快さ、剥き出しの双肩を震わせる肌寒さ、そして身体と頭の芯を茹だらせる熱。
白む雨と黒い雲、明るい電波塔と暗い室内、時を刻む針と雨垂れの音が耳につき神経をささくれ立たせて。

結標「お目覚めかしら?白井さん」

白井「………………」

爪を立てるように冷ややかな声音と涼しげな眼差しが窓際に置かれたチェアーより投げ掛けられて来る。
それは発熱と疲労で倒れ込んだ白井をここまで運び込み、ずっと付き添っていた結標淡希その人である。
彼女もまた白井を看病する傍ら、首筋や左足、右鎖骨に負わされた傷をアルコールで消毒していたのだ。

白井「……わたくしの服をどこにやったんですの?」

結標「捨てたわ。とても着れたものではなかったし」

白井「嘘を仰有いな。わたくしを裸にして外に出られなくなさったんじゃありませんの?何せ貴女は――」

結標「“筋金入りのサディスト”とでも言いたげね」

他にも血染めのサラシがゴミ箱からはみ出しており、消毒に用いたウォッカのフレーバーが鼻についた。
そして自分が今、生まれたままの姿で毛布にくるまれている事について白井は今更ながら気づかされる。
白井は自分の身体を抱き締めるように胸元まで毛布を引き上げ、手指の震えを隠しながら結標を睨んだ。

結標「安心なさいな。服なら帝都ホテルアーケードでもプラザでも買えるから。それまでバスローブでも」

白井「冗談じゃありませんわ!わたくしは貴女(ネコ)に嬲られる獲物(ネズミ)になったつもりなどは」

結標「――いいえ、貴女はウサギよ。私がつけてあげた首輪をご覧なさい。それだけは外させなかったの」

白井「っ」

毛を逆立てて威嚇する白井を指差す結標は笑っていた。生まれたままの姿にチョーカーだけ巻いた首元を。
それに白井が発熱以外にカッと赤みの差した顔を歪め、結標はホテルアーケードで購入した風邪薬を手に。

結標「さあ、お薬の時間よ?」

白井「……来な、いで!!!」

結標「……私を拒絶するの?」

ベッドへと片膝を乗せ、後ずさる白井を追い詰め、垂らした舌の上にカプセルを乗せるとにじり寄って――

白井「んっ……」

無理矢理に唇を重ねた。否、奪ったのだ。

273: >>1 2012/04/22(日) 22:24:24.68 ID:LKh6w/XAO
~2~

結標「――舌を出しなさい“黒子”。噛んだら目を潰すわよ?」

白井「っ」

触れ合わせる唇の感触を楽しむように数秒、白井の頬に添えた手から伸びる中指の爪が目元に当てられる。
白井が薄目で盗み見る眼差しと、結標の細められた目が合う。キスをする時目を閉じない女は性格が悪い。
などとキスなどした事もない佐天らとの眉唾話が真実である事を証明するように結標の舌が唇を割り開く。

白井「んっ、んっ、んんっ、はっ、あん」

結標「は、あっ……黒子、“私の黒子”」

白井「!?」

歯列をなぞるというより、上顎まで舐め回すように柔らかく長くいやらしく伸びる舌が舐め回して来る。
ピチャピチャとミルクを舐める猫のように、治療に使ったアルコールの味と甘ったるい唾液を流し込む。
苦いはずのカプセルがトロトロと甘い唾液と共に口内に糸を引いて流し込まれ、白井は驚きながらも――
コクン、コクンと喉を鳴らして嚥下して行き、唇の端から零れた唾液が逆十字架のシルバーを濡らした。

白井「んっ、ふっ!?(今、私のって)」

結標「んっ、んふっ、ふん、う、うんっ」

トロンと蕩けた白井の眼差しとは対照的な、ドロリと濁った結標の眼差しがその様子を満足げに見やる。
風邪により高まった白井の体温に、木天蓼を与えられた猫のように甘ったるく鼻を鳴らして覆い被さる。
脱力させ柔らかくした舌腹を、白井が驚いて逃げる度追い掛けては絡め、舌先を舌裏にそよがせて啜る。
ジュルッ、チュルッ、ズルッと、耳から犯すような音を立てて白井を貪る舌使いはいっそ暴力的だった。

白井「(頭が、ボーっとしますの……)」

相手を思いやる気持ちも何もなく、生肉を放られた獣のように貪られる感覚。誰かに求められるという事。
長時間雨に当たり続けて青白くなった肌にはほんのり赤みが差し、濡れたように潤んでは揺れる白井の瞳。
微かに荒げていた熱っぽい息遣いが次第に大きくなるにつれ結標の目が細く、垂れ、笑みの形に変わり――

結標「っ」

我に返ったように眦を決した後、結標が白井との唇の間にかかった銀の橋を舌舐めずりするようにして

結標「……ペッ!」

白井「っ」

汚らわしいものを吐き捨てるようにするのを見て、白井はひどく傷つけられた。この上なく胸が痛んだ。

結標「……馬鹿じゃないの?」

そんな白井の頬を、結標が添えた手指を離しながら鼻で笑った。

274: >>1 2012/04/22(日) 22:26:41.56 ID:LKh6w/XAO
~3~

結標「嫌がらせでやっているのに気分出してるんじゃないわよ」

白井「………………」

結標「大嫌いなはずの私にこんな事されて感じるだなんて、貴女って根っからのマゾか、ただのビッチね」

今にも泣き出しそうなのをこらえる白井を組み敷きながら、結標が真一文字に結ばれた唇を指先でなぞる。
そして人差し指を白井の唇にこじ入れるようにし、イヤイヤと背けようとする口元へと強引に咥えさせた。
白井がキッと指先を齧る。甘噛みなどというレベルではない力強さで。だが結標もその痛みに耐えつつ――

結標「……女同士なんて気持ち悪くて反吐どころか戻しそうなくらいだわ。吐き気を堪えるのが精一杯よ」

白井「うっ、うっ……」

結標「手を繋いだくらいでドキッとする?キスしたくらいで永遠が手に入る?馬鹿馬鹿しいったらないわ」

白井「うう、うっう」

結標「たかが一、二度不完全なセックスの真似事をしたくらいで思い違いをしているなら正してあげるわ」

白井「ひっく、ひっ」

結標「私は貴女なんて好きでもなんでもない。だからこんな真似が出来るの。誰も貴女なんて愛してない」

泣きじゃくる白井を見下ろしていた。白井は勝ち誇る結標を見上げていた。どうしようもなく苦しかった。
激しく爪を立てられ、流れた血を優しく舐められ、貼られたかさぶたを笑いながら引き剥がすような結標。
『私の黒子』と言ったのと同じ口で『誰も貴女なんて愛してない』と拒絶し、指一本触れさせてくれない。

結標「本当に貴女を愛してくれてる人がいるならば、近いうちに囚われた貴女を迎えに来てくれるはずよ」

白井「………………」

結標「――それまでは私の側にいなさい」

白井「……では」

チュッ、チュッ、と白井が泣き濡れた眼差しで結標の手を握り締め、舌を這わせる音が雨垂れに混じる。
白井は知らない。ピチャクチャと自分が舌を這わせる毎に結標のショーツがじっとりと濡れている事に。

白井「――もし誰も迎えに来てくれなかったらわたくしは一体どうなるんですの?」

結標「………………」

白井「淡希さん……」

結標「……シャワー浴びるわよ。寝汗でぶり返されて、貴女に風邪を移されるだなんて真っ平御免なの」

『出て行く』という選択肢が頭を過ぎりもしない自分の変化に。

275: >>1 2012/04/22(日) 22:27:07.95 ID:LKh6w/XAO
~4~

初春「白井さんがいなくなった!!?」

佐天「そ、それってどういう事なの?」

御坂「私にもわからない。でも、ただの喧嘩とか家出とかそういうんじゃない……」

婚后「……俄かに信じがたい思いですわ」

固法「――ここ最近様子がおかしいとは思っていたけれど、まさこんな思い切った」

上条探索を一時切り上げ、白井捜索に一度切り替えた御坂は主だった面々をファミレスに召集していた。
御坂から見て白井が強姦された事実のみ伏せ、早急に保護が必要な状況下に置かれている事を説明して。
ガヤガヤと冬休みに入り常より賑わう店内にあって、御坂が喪主、皆が弔問客のように沈み込んでいる。

御坂「……とりあえず、黒子を見かけたり訪ねて来られたりしたらすぐ私に連絡して。このままじゃ……」

初春「――でも参りましたね。ケータイもスマホも置いて飛び出したとなるとGPSによる追跡も不可能」

固法「でも財布もカード類もみんな残ってたんでしょう?それならば、そう遠くまではいけないはずよね」

佐天「……御坂さん顔真っ青ですよ?大丈夫ですって。白井さんは絶対に帰って来ますから。私達の下へ」

皆が意見を出し合う最中にあって、佐天が憔悴しきった御坂を気遣って肩を叩いた。だが当の本人は――

御坂「……うん」

連絡のつかなくなった上条が事の真相に気づきイギリスに渡ったのではないかと気が気でなかった。
それに加えての白井の豹変、そして失踪である。だが御坂と恋人とパートナーを天秤にかけた上で。

御坂「……ただの杞憂なら良いんだけど」

婚后「誰か身近な人間を頼っているかも知れませんわ。でもわたくし達でないとするならば一体他に誰が」

佐天「……あっ!!」

御坂「佐天さん??」

佐天「もしかして白井さん、灰音お姉さんのところにいるのかも」

初春「……ハイネ?」

御坂「……詩人の?」

その時である。佐天が左手を右手の握り拳でポンと叩き、頭に豆電球を浮かび上がらせ思い当たったのは。

佐天「あれ、やっぱりみんな知らなかったんだ?白井さんに血の繋がった生き別れのお姉さんがいるって話」

初春が固法を見、固法が首を傾げ、婚后が振り返り、御坂が目を見開き、佐天へ向き直って問い掛けた。

御坂「……どんな人?」

パンドラの匣を開く、最後の鍵(マスターピース)の在処を――

276: >>1 2012/04/22(日) 22:27:58.13 ID:LKh6w/XAO
 
 
     
 
     
 
     
佐天「真っ赤なサラサラストレートロングの美人さんでしたよ?それもスッゴいスタイル良いクール系の」
 
     
 
     
 
     
 
277: >>1 2012/04/22(日) 22:30:40.20 ID:LKh6w/XAO
~5~

結標「すー……すー……」

白井「(お疲れと言ったご様子ですの)」

同時刻、白井はうたた寝する結標の腕に抱かれながら、広々としたローズバスに身を揺蕩たわせていた。
湯船を埋め尽くす赤い薔薇に取り囲まれ、窓から彼方に光り輝く旧電波塔、帝都タワーを一望しながら。
されど白井の眼差しは自分を背中から抱き足の間に挟むようにして船を漕ぐ結標の寝顔に注がれていた。
眠りを妨げぬよう首だけ振り向く。目を凝らせば色濃く浮かぶ隈と心無しかやつれて見えるその寝顔を。

白井「………………」

その寝顔に白井は思う。何故自分は愛する御坂に背いて憎い結標に身を委ねているのか。そして何故――
結標は壊したいほど憎み、狂うほど犯した自分を腕に抱いて眠っているのだろうと考えずにいられない。
寝首を掻かれるとは思わないのか、掻かれても良いと思っているのか、白井にはそれさえもわからない。

白井「(……薔薇が敷き詰められ過ぎていて、まるで血の海に浮かんでいるような気さえいたしますの)」

一面に揺蕩いむせかえるような馥郁たる薔薇の湯殿にのぼせたように、白井は回された手を握り返した。
この手指が自分を散々に犯したかと思うと、あたたかな湯の中にあって寒さとは異なる震えがぶり返す。
結標が怖くないと言えば嘘になる。本心を明かすならば間違いなく恐い。喰い殺されるかと思うほどだ。

白井「(……貴女の髪の色も、血のように見えますのよ……)」

だが白井は結標の寝顔を見つめながら考える。それほどまでに自分が憎いのならば、何故彼女はこうも……
自分が眠りこけている間に出来もしないフレンチトーストを焼き、自滅しかかっていた白井を救ったのか。
今だってそうだ。わざわざこんな高い部屋を取り、看病までし、自分を抱きながら眠り込んでいるのかが。


何故、白井を辱める時には決まってアルコールを煽るのかが――


結標「う、ん……」

白井「!」

結標「……寝てた?」

白井「え、ええ……」

結標「……そう……」

そう白井が思い煩っている間に、浅い眠りから目を覚ましたような表情で結標が白井を見下ろして来た。

278: >>1 2012/04/22(日) 22:31:11.16 ID:LKh6w/XAO
~6~

結標「……体調はどう?」

白井「それなり、ですわ」

カンニングを見咎められた生徒のように白井は顔を背け、結標はうなだれるように肩に顔を埋めて来た。
白井はそれに対しどうすれば良いのかがわからない。身を強張らせるべきか委ねるべきかの二択さえも。
気分的にはヒョウの檻に放り込まれたウサギの心持ちであった。だがそんな白井の懊悩をよそに結標は。

結標「……あそこの展望台から見える夜景結構好きだったのに」

白井「帝都タワー、ですの?」

結標「ええ。高さやデザインだけなら新しく出来た方の……」

白井「帝国タワー、ですわね」

バスルームの窓より一望出来る帝都タワーをぼんやりと見つめながら、訥々と寝ぼけ眼のまま語り始めた。

結標「新しい方はあんまり好きになれないわ。何だか地面に大きなガラスペンが突き刺さってるみたいで」

白井「帝都タワー、お好きなんですの?」

結標「――子供の頃ね、読んでた少女漫画のオープニングが決まって外部の東京タワーだったの。それで」

白井「……想像出来ませんわ。貴女が幼かった頃の話など……」

薔薇が離れ、鏡のような水面(みなも)を取り戻した湯船に映る結標の表情を白井は身動ぎせずに盗み見る。
僅かにでも身を強張らせ微かにでも身を揺るがせたなら、この凪のような一時はたちまち波立ち歪むだろう。
故に白井はゆっくりと凭れていた背を離し、胸を預けるようにした。すると結標も髪を優しく撫でてくれた。

白井「(あっ……)」

結標「どこにでもいる少し勝ち気な女の子だったと思うわ。中学生くらいの時なら貴女に似てたかもね」

その事に対して白井は大きな戸惑いと小さな安らぎを覚えた。同時に結標という人間の本質の一端を捉えた。
石を投げれば波紋を生み、風が吹けば揺らぎ、水温が下がれば凍てつき、雨が降れば泥が舞い上り石が覗く。

白井「(もしかしてこの方って物凄く)」

結標「……こんな自分語りはつまらないかしら」

白井「――いいえ、もっと聞かせて下さいまし」

その代わり魚(みうち)と認めれば自分という水中を好きなように泳ぎ回らせる。それは白井が知らぬ――
小萌・姫神・吹寄・風斬・雲川・そして結標が暗部(やみ)に身を落としてまで救い出そうとした仲間達。

白井「(……もしかして、この方はわたくしが思っている以上にか弱くか細い方ではございませんの?)」

279: >>1 2012/04/22(日) 22:31:43.78 ID:LKh6w/XAO
~7~

それから結標はゆっくりと幼かった時分の自分の事を語り始めた。
小学生の頃は男子と取っ組み合いも辞さないほど勝ち気だった事。
中学生の頃は負けず嫌いが過ぎ後輩には好かれ先輩に嫌われた事。
少人数で固まるのは好きだが大人数に縛られるのは嫌だと言う事。
まるで自分の幼年期の生き写しのようにさえ思えてならなかった。

白井「………………」

結標が話し終えるまで白井は目を閉じて心臓に耳を当てていた。ゆっくりとしゆったりとした鼓動だった。
結標もまた時折揺蕩う薔薇を手ですくいあげたり、どこかしら茫洋とした眼差しでタワーを見つめていた。
そこで白井は傷つけぬように手指を伸ばし、結標に絡めるようにして呟いた。もし風邪が直ったならばと。

白井「……お嫌でなければ、明日にでもあのタワーに昇って学園都市(まち)の夜景でも見ませんこと?」

結標「テナントも殆ど撤退してて廃墟と変わらないわよ?(それに、帝都タワーは今夜にだって――)」

白井「お店なんてどうでもいいですの。お土産なんていりませんの。ただわたくしは見たいんですのよ」

結標「………………」

白井「――わたくしと良く似ているという貴女から見た世界(やけい)を、二人占めさせて下さいませ」

一生ものの初体験(トラウマ)を植え付けた責任を、一生を共にして償えなどとは白井は言わなかった。
一夜を共に出来るだけで良かった。一人になりたくなかった。二人はただ互いの体温に逃げ込んでいた。
これからの事も、この先の事も、この後の事も、何も考えられなかった。もうどうなっても構わないと。

結標「……それなら湯当たりして体調を崩す前に上がりましょうか。後は何か軽い物でも食べて寝ましょう」

白井「……三ツ星ホテルですのにルームサービスのみとは実に口惜しい限りですわね。まあ、もっとも――」

結標「?」

白井「――発ガン性物質で構成されている貴女のフレンチトーストに比べれば、食べられるだけマシですの」

結標「うるさいわね。そんなにえらそうに人を小馬鹿にするなら貴女が教えてよ」

白井「えっ……」

結標「野菜炒めでもフレンチトーストでも良いから、何か私でも作れそうな料理」

血の海のようなローズバスから身体を起こし、白井から身体を離した結標が手を差し伸べながら言った。

結標「……スケート、教えてあげたでしょ?」

もう、手は震えなかった。

280: >>1 2012/04/22(日) 22:34:30.21 ID:LKh6w/XAO
~8~

初春「佐天さん、この高校生で間違いはありませんか?」

佐天「う、うん(とんでもない事になっちゃった……)」

御坂「……これ、結標淡希(あのおんな)じゃない!!」

同時刻、御坂達はファミレスから佐天の証言の裏を取るべく風紀委員一七七支部へと場を移していた。
たった今も初春が立ち上げ書庫(バンク)から引っ張り出して来たデータを皆で囲んで閲覧している。
だが佐天は後悔していた。白井の身を案じるあまり口をついて出た言葉に、怒り心頭に発した――……

御坂「なんでこの女と黒子が一緒に居たってのよ!!!」

佐天「わ、私にもわかりませんって(どうしよう!?)」

婚后「こちらの女性が“結標淡希”さんで宜しいので?」

固法「私も残念だけれど、限りなく黒に近い灰色ね……」

初春「ちょっと“目を瞑ってて”下さいね……当たりですね。白井さんとペアプラン契約も結んでますよ」

御坂「……初春さん。結標淡希の携帯電話のGPS機能から逆探知出来ない?違法捜査なら私がやるから」

御坂の逆立てた柳眉に佐天は自分の発言が如何に重い意味を持つかを今更ながら思い知らされていた。
まさかあの日車椅子を押していた優しげな女性が『結標淡希』だったなどと、想像さえ出来なかった。
だが得心も行った。御坂らのリアクションを見れば白井が結標との関係を黙っていた事も理解出来る。

婚后「何故そんな相手と白井さんが繋がっていらっしゃるのでしょうか?わたくし理解に苦しみますわ」

固法「プライベートにまで立ち入るような真似はしたくないけれど、笑って見過ごせる話ではないわね」

佐天「(みんなおかしくない?って言うかおかしいって思ってる私の方がおかしいの?わかんないよ)」

しかし理解は出来ても共感出来ないのは、自分を除く皆の反応である。
初春や固法は風紀委員であるし、御坂や婚后はもともと正義感が強い。
だが佐天はあくまで普通の感性と普遍の観念を持ち合わせた普通人だ。
これでは非科学(オカルト)で伝え聞く魔女狩りと同じではないかと。


――――さらに――――

学生「あのー落とし物なんですけど……」

御坂「!?」

学生「そこの公園に落ちてて……」

そこに白井の金属矢が突き刺さった上条の携帯電話が届けられ。

佐天「嗚呼……」

状況は最悪だった。

281: >>1 2012/04/22(日) 22:38:09.54 ID:LKh6w/XAO
~9~

白井「とっても美味しいですの……」

結標「良かったわね」

湯浴みを終えた後、二人はルームサービスにてロイヤルフルーツサンドとマスクメロンサンドを注文した。
外は何時の間にか雨雲が晴れ上がり、皓々と夜空に三日月が架かっていた。そんな中にあって白井と結標は

結標「……良くなれば、下のレストランで食べられるようになるから。それまではこれで我慢して頂戴ね」

白井「他にも氷の彫刻展など見に行きたいんですの。それからホテルウェディングの写真館にも是非……」

結標「貴女結婚でもするの?やっぱりお嬢様とかって小さい頃から婚約者とかいたりするものなのかしら」

白井「いえ、別段そういう訳ではございませんが学生結婚のウェディングドレスの試着サービスがあって」

結標「男の子を連れて来れば良いじゃないの。女の私と行っても二人してウェディングドレスでしょう?」

白井「(女誑しのくせに乙女心のわからないお方ですの……)」

広々とした室内、長大なソファーにあって肩寄せ合うようにしてクリームサンドを摘むなどしていた。
口にこそ出さないものの、二人は肌身に感じていた。その約束が果たされる事は恐らくないだろうと。
これなら作れるかも知れないと言ったフルーツサンドも、着てみたいと言ったウェディングドレスも。

結標「――綺麗にして」

白井「……はいですの」

クリームのついた手指を差し出し、白井が恭しく両手で捧げ持ち、聖餅に口づけるように舌を這わせる。
どちらともなく理解していた。煌びやかなだけで中身の伴わない約束などツリーの飾り付けと同じだと。
一夜明け、クリスマスが終われば片付けられてしまう約束。吊り橋効果の延長上にある崖っぷちの関係。
白井はありもしない明日の約束(きぼう)に縋り、結標は明日どころか朝日が昇る事さえ望まなかった。

白井「……で、デザートは如何ですの?」

結標「……悪くないわね?」

白井「(また、お酒の力を借りても構いませんから)」

結標「――いいわ」

結標の手指から銀の架け橋を途切れさせると、白井が両腕を伸ばして笑む。風邪など治らなくても良いと。
自分達は救いようがないほど病んでしまった。最早一緒に逃げようと言う考えさえも浮かんで来なかった。

結標「私の腕の中で、優しく殺してあげる」



一緒に堕ちようと白井が祈りを捧げるように首を差し出し、結標が逆十字架のシルバーに口づけて――



282: >>1 2012/04/22(日) 22:38:55.36 ID:LKh6w/XAO
~10~

白井「ん……あっ、あはっ……あああ……あああああ!あっ、ダメ!ダメ!そんなところいけませんの!」

結標「ぴちゃ……ちゅ……いやらしい味、ぴちゃ……ちゅる……こく……はあっ、ドロドロじゃないのよ」

バスローブを解かれ、ソファーの下に跪いて両足の付け根に顔を埋める結標の赤髪に指先を埋めて白井は泣いた。
もう帰る場所も行く宛もなかった。天上に浮かぶ三日月が奈落の底から見上げたように目映く、そして遠かった。
そして結標が手にした軍用懐中電灯に舌をそよがせて行くのを目にし、白井は首に抱き付くようにして耐え忍び。

白井「ううっ、あくっ!あああ!痛い!痛いですの!うわあああああああん!痛いっ!痛ひいいいい!」

結標「黒子、頑張って」

白井「ぬ、抜い……抜いて!あわっ、、淡希さん!壊れちゃいますの!黒子壊れちゃいますのおおお!」

結標「私の肩を噛んでも良いから。もう少しよ?もう少しで、黒子のこと壊してあげられるからね……」

白井「あううっ、んああっ、ひいっ、怖いですの、ゴリゴリ動いて……んはあああああ!淡希さん!!」

結標「黒子!」

白井「動いてますの……わたくしの中で、こすれて動いてますの、うあああっ!キスして淡希さん!!」

結標「っ」

白井「止めないで!キスして殺して!わたくしを一人にしないで!もうどうなってもいいんですの!!」

台尻の先端しか埋まり切らぬ中にあって苛まれる激痛に、白井は結標の右肩から血が流れるほど強く噛んで堪える。
いつ止むかわからない痛みの終わりが二人の終わり。涙を流してしがみつく白井と血を流して歯を食いしばる結標。
傷つける事しか出来ない結標が、壊れて行く白井の口を吸い舌を絡め、白井が左胸に結標の手を導いて泣き叫んだ。

白井「握り潰して!心臓を止めて!!グチャグチャにして欲しいんですの!二度と立ち上がれなくなっても良いんですの!!」

結標「泣きながら腰使ってんじゃないわよ!御坂美琴もこうやって抱かれたんじゃない?“お揃い”になれて良かったわね!」

白井「あくっ、はあああ!イっちゃう!イキますのおっ!あううっ!お姉様!、お姉様!ごめんなざい!黒子イキますのお!」

首を絞める力も残らないまでに抱き合い、手を繋ぎ指を重ねて白井は狂ったように結標の下で泣き続けた。



逃げるように眠りに堕ちるまで



283: >>1 2012/04/22(日) 22:41:15.26 ID:LKh6w/XAO
~11~

結標「………………」

白井「スー……スー……」

散々イキ疲れて眠っちゃったみたい。風邪薬のせいもあるんでしょうけど、もうボロボロなのよねこの娘。
でも私は謝らない。どれだけ選択肢(みち)を誤ろうとも謝らない。これは私の居直りで開き直りだから。

結標「……寝てる?」

白井「スー……スー……」

小学校で、種を蒔いて水を撒いて育て上げた花壇を踏み荒らした時芽生えた最初の罪悪感(かいかん)。
飼育係になって、初めてウサギを抱き上げた時もこんな気持ちだった。貴女の寝顔を見てるとそう思う。
ずっと眺めていたいような、つついて起こしたくなるような。他人に話した事はないけれどそう感じる。

結標「……私ね」

白井「スー……スー……」

中指が折れそう。首も疲れた。そして何より私も脳が焼けるようにイって下着がもうビショビショなの。
貴女が部屋を出て行った後、シーツを抱き締いて泣きながら一人遊びする程度に私は貴女に執着してる。
私は本当に嫌いな人間は鼻にも引っ掛けないし目もくれない。優し過ぎる貴女とは違って性格悪いのよ。

結標「本当は……」

ヴヴヴヴヴ!ヴヴヴヴヴ!

そう思っていたら、充電器に差しっぱなしにしてた携帯電話とスマートフォンの内どちらかが震えてる。
新しく買ったスマートフォンの方だった。見知らぬ番号、見慣れぬ相手、こういう時は決まって――……

結標「……もしもし?」

???「………………」

悪い報せ、招かれざる客。電話越しの沈黙でさえ隠しようもない敵意に当てられて私の殺意が高ぶった。
話し声で黒子を起こしたくないからベッドから下りて私は窓辺に歩み寄る。するとどうだろうか――……

結標「……嗚呼」

今年中に取り壊される帝都タワーを除く周囲一帯のビル群の電灯が一斉に消失し、少しずつ明滅して行く。
小萌が見てた再放送のトレンディードラマみたいに、照明が次々と幾何学模様から文字へと連なって行く。

結標「――最高のクリスマスプレゼントをありがとう――」

受けてあげるわ。夢見がちな貴女からの気障ったらしいプロポーズを。
こういうのは嫌いじゃないわ。むしろ唯一貴女に好感を持てたかもね。

結標「――帝都タワーまでいらっしゃい」

ビル群の電灯と明滅を利用したそのメッセージは、生温くて甘ったるい貴女にしては良い出来映えよ――

284: >>1 2012/04/22(日) 22:42:06.67 ID:LKh6w/XAO
 
 
     
 
     
 
     
デ■■■テ■■■コ■■■イ■■■ム■■■ス■■■ジ■■■メ■■■ア■■■ワ■■■キ■■■
 
     
 
     
 
     
 
285: >>1 2012/04/22(日) 22:43:21.62 ID:LKh6w/XAO
~12~

御坂「――――――………………」

佐天「(こんなに怒ってる御坂さんなんて初めて見たよ……)」

同時刻、御坂らは雨上がりの夜空に浮かぶ三日月を背に帝都タワー正門前にて結標の来訪を待ち受けた。
傍らでは、ノートパソコンにて結標の携帯電話及びスマートフォンのGPS機能を逆探知し続ける初春。
既に二人の潜伏先を帝都ホテルだと割り出した後、婚后や固法も一戦交える事も辞さない構えであった。
そんな中にあって御坂は腕組みしながら時折紫電の火花を散らし闇夜の彼方を見据えていた。そして――

結標「……お揃いね」

婚后「来ましたわ!」

固法「(白井さんの姿は見えない……)」

御坂「……結標、淡希」

佐天「……本当に……」

結標「お久しぶりね、佐天涙子さん……」

ビル風吹き荒ぶ帝都タワー正門前に座標移動にて姿を表すなり、結標は待ち受けていた面々を見渡し苦笑した。
皆一様に敵意を剥き出しにした眼差しの一つ一つ値踏みするように見定めるように。そしてその中から――……

結標「はい」

佐天「!?」

結標「プレステージルームのカードキーよ。係員に言えば専用エレベーターを開けてくれるはずだから」

御坂「………………」

佐天「……は、灰音お姉さん。い、いえ、結標、淡希、さん」

結標「……あの娘の事、よろしくお願いするわね。佐天さん」

初春「!?」

結標「風邪を引いてるから、連れ出す時は暖かくしてあげて」

婚后「(……罠ではございませんの?)」

佐天「――わかりました!」

結標「ありがとう」

固法「み、御坂さん」

御坂「……行って下さい。巻き込まない自信、ありませんから」

そして結標は佐天に座標移動でカードキーを投げ渡し、皆の毒気が抜かれ見間違いかと思うほどに――
月光を宿したかのような微笑を湛えて白井を頼むと告げたのだ。勇み足を二の足に変えさせるように。
だが少女達が白井救出に向かうべく帝都ホテルへ駆け出す足音が遠ざかり、御坂と二人きりになると。

結標「――ひどい顔してるわね御坂美琴」

御坂「あんた……!!!」

夜空に浮かび上がり二人を見下ろす三日月のように唇を吊り上げ顔を歪め、嘲るようにして嗤ったのだ。




結標「――まるでヤリ捨てされた女みたい――」





286: >>1 2012/04/22(日) 22:46:17.93 ID:LKh6w/XAO
~13~

御坂「……あんた」

結標「そう。貴女の愛しの上条君(かれ)は今頃イギリス行きの飛行機の中よ。残念だったわね御坂美琴」

その時、三日月に雲がかかり御坂が握り締めていた上条の携帯電話が軋みを上げ、結標が喉を鳴らして嗤う。
御坂は思う。何故上条の事を知っているのか、何故インデックスのイギリス行きの事まで知っているのかと。
しかしそこで結標も御坂が上条の携帯電話を、白井の金属矢に貫かれたそれを持っている事に気づき嘲笑う。

結標「これは“黒子”も知っている事なのよ?その携帯電話がどう壊されたか少し考えればわかるわよね」

御坂「……嘘よ」

結標「嘘じゃないわ。あの娘はもう私無しでは生きられない身体なの。こういうの何て言うか知ってる?」

顔面蒼白の怒りに満ち充ちて行く御坂の絶望に染まった表情を舌舐めずりして見やりながら結標は突きつける。
それは白井とお揃いで買った赤いスマートフォン。その中からフォルダーを開き、見せ付けたファイルには――

白井『お姉様!お姉様助けて下さい!!』

御坂「!!!!!!」

白井『いやあ!撮らないで!!結標さんこんなの嫌ですの!!!』

結標「“共依存”って言うの」

白井『ああ、ぁぁ、結標さん、結標さん、気持ち良いですの……』

御坂「やめて……」

白井『もっと、もっとして!もっとキスして下さい淡希さん!!』

御坂「やめて!」

白井『淡希さんのエッチな味がいたしますのよ……こうですの?』

御坂「やめてよ!!」

白井『お姉様!お姉様!ごめんなざい!黒子イキますのお!!!』

御坂「もうやめてよお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!」

そこには目を背けたくなるほど淫靡な表情で結標に犯され、抱かれ、狂わされ、壊されて行く白井の媚態。
処女を散らされ咽び泣く表情、次第に飼い慣らされ赤く染まる白い肢体、結標に奉仕する媚びた上目使い。
口に丸めたショーツを噛まされ、軍用懐中電灯をねじ込まれ、涎と涙を垂れ流しながら腰を使う動画まで。

結標「同じ日に、“お揃い”で処女喪失出来て良かったじゃない」

その後に続く結標の言葉が

結標「初めてだったけれど、私に自信を持たせてくれるぐらい感度のいい身体をしてたわよ?なにせ――」

御坂の心を完全に殺した。

287: >>1 2012/04/22(日) 22:47:10.78 ID:LKh6w/XAO
 
 
     
 
     
 
     
結標「――貴女を壊すためだけに、黒子を犯したのだから――」
 
     
 
     
 
     
 
288: >>1 2012/04/22(日) 22:51:04.41 ID:LKh6w/XAO
~14~

結標「私も途中から興奮し過ぎて何度か脳が焼けてしまったわ。もう二枚ほど下着が駄目になっちゃった」

赤々と灯る帝都タワーの下、御坂を絶望させるは結標の闇より深く黒より暗い月の魔魅を思わせる微笑み。

結標「どれだけ痛めつけても、少し優しくキスするだけで何でも許してくれる、寂しがり屋のマゾヒスト」

これまで御坂の十四年の人生の中にあって、食蜂の妄執よりインデックスの情念より根深い根刮ぎの絶望。

結標「壊れて味がなくなったら吐き捨てるわ。あの子は安っぽいチューインガム、貴女はそれを包む銀紙」

結標が言外に告げた行間を読むならばそれは『白井を助けた善意を踏みにじられた』の一語に集約される。

結標「ああ、けれどそれまでおままごと遊びするのも悪くないわね。セックスフレンドの延長だけれども」

結標を『悪』と断じた御坂の『正義』が白井を殺したのだと結標は嗤った。貴女のせいよと嘲笑ったのだ。

結標「昨日の“戦場のメリークリスマス”は観た?私達はお互いに夢中で殆ど入って来なかったのだけど」

上条にインデックスの事を告げたのは借りを返したいという善性からであるが、それすらも御坂にとっては

結標「ラストシーンとBGMだけは印象的だったから覚えてるわ。お正月休みにでも黒子と見るつもりよ」

罪悪にして最悪にして災厄。帝都タワーのライトアップに照らし出された結標の横顔は妖艶そのものだった。

結標「年越しして、セックスして、お参り行って、セックスして、少し眠って、起きて、あの娘に舐めさせながら鑑賞するわ」

御坂は無意識下にてポケットの中のコインを握り締めていた。御坂には最早結標が人間にさえ見えなかった。

結標「知ってた?あの娘背中舐められながらクリトリスを軽く指で押し潰されるのが好きとか、もう良いって言うまで一時間でも二時間でも舌を使う従順なところとか」

魔物にしか考えられない。魔女にしか思えない。魔魅にしか感じられない。同じ女とさえ思えない『魔性』。

結標「別に構わないでしょう?御坂美琴」

最早この学園都市(せかい)に幻想殺し(ヒーロー)は存在しない。いるのは一羽の大鴉(ばけもの)のみ。

結標「貴女を“お姉様”と呼ぶ人間が一人くらい減ったとして」

結標は白井のトレードマークのリボンをゴミでも放るように投げ捨て、御坂の前で笑いながら踏みにじる。

289: >>1 2012/04/22(日) 22:51:53.80 ID:LKh6w/XAO
 
 
     
 
     
 
     
結標「――嗚呼、ごめんなさい。もう一万人“しか”残ってなかったわね。御坂美琴(おねえさま)――」
 
     
 
     
 
     
 
290: >>1 2012/04/22(日) 22:53:59.40 ID:LKh6w/XAO
~15~

ズドオオオオオン!という大地を揺るがすような轟音と、ドアが開くのと、白井が目覚めるのが同時だった。

白井「!?」

佐天「白井さん!!!!!!」

婚后「大丈夫ですか!?」

固法「怪我はない!!?」

初春「……白井さん!!」

白井「な、何ですの!?」

毛布にくるまり胸の辺りを隠しながら白井が目を瞬かせると、そこには二日ぶりに顔を合わせる仲間がいた。
中でも初春は泣きながら抱きつき頬寄せて来る。白井も思わず慌てふためき皆を見渡す。その時気づかされた

白井「……淡希さんは?」

固法「もういいのよ。あの人はいないの。貴女は自由なのよ?」

白井「……違いますの!」

断続的に彼方より響き渡る爆音。あれは聞き慣れた御坂のレールガンの音ではないかと。そして――……
眠るまでずっと添い寝し、手を繋いでいてくれた結標(ぬくもり)が消えている事に今更ながら気づく。
ハッと振り返った先には帝都タワー、そこで散発的に火花を散らす紫電に白井は全てを悟ってしまった。

白井「あの方は、淡希さんは悪くないんですの!あの方はあんなにいっぱい傷ついてそれでもわたくしを」

婚后「白井さん!そんな身体でどこに行くおつもりでして!?」

白井「離して!行かせて下さいまし!わたくしが守って差し上げないとあの方は壊れてしまうんですの!」

初春「白井さん目を覚まして!白井さんは騙されてるんです!」

いやいやと身を捩らせるも、固法に押さえつけられ初春にしがみつかれ、白井は身動きが取れなかった。


――――しかしそこへ――――


ピッ

佐天「!?」

白井「?!」

次の瞬間、佐天と白井を除く全員が気絶し

???「あれ?やっぱり電波塔付近は改竄力乱れてるのかしらぁ。まあ一人くらい別に良いかしらねえ☆」

白井「――貴女は!?」

崩れ落ちた皆の上に放り投げられるは、白井が常盤台女子寮に置いて来た泊まり込み用のボストンバッグ。
はみ出す喪服のようなコルセット付きの漆黒のワンピースに、白銀の『Equ.DarkMatter』の仮面が覗いた。

???「うふふ、早くお着替えしないと間に合わなくなってぇ」

佐天「――嘘」

暗がりから姿を現す純白のグローブを纏った少女の姿が、二発目のレールガンの雷光に照らし出された。

291: >>1 2012/04/22(日) 22:54:56.49 ID:LKh6w/XAO
 
 
     
 
     
 
     
食蜂「――――この中の誰かが死んじゃうかも、ね?――――」
 
     
 
     
 
     
 
292: >>1 2012/04/22(日) 22:55:31.51 ID:LKh6w/XAO
 
 
     
 
     
 
     
A C T . 1 0 「 白 い グ ロ ー ブ 、 赤 い リ ボ ン 」
 
     
 
     
 
     
 
293: >>1 2012/04/22(日) 22:56:08.66 ID:LKh6w/XAO
 
 
     
 
     
 
     
御坂「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛ううううううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」

雷鳥が哭き、大鴉が羽撃き、軍鶏(シャモ)の如く喰らい合う。

結標「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!」
 
     
 
     
 
     
 
306: >>1 2012/04/26(木) 20:02:14.73 ID:ex8EjrVAO
~00~

淡希『黒子』

黒子『んっ……』

目蓋の裏まで照らすような夏の陽射しと、頬にかかる真紅の髪。
そして後頭部に感じる柔らかな膝に、わたくしは目覚めますの。
前髪をさらって行く心地良い涼風を受けてプロペラが回って――
翻るカーテン、真っ白なベッド、窓辺からは青空が見えますの。
お城みたいな入道雲に空を渡る飛行船も。嗚呼そうでしたわね。

黒子『申し訳ございませんの。淡希さんのお膝があまりにも気持ち良くって、つい』

淡希『黒子の甘えん坊は今に始まった事じゃないものね。ただ、足が痺れちゃって』

黒子『………………』

淡希『ふふふ、そんな顔しないの。こっちいらっしゃい黒子?ギュッてしてあげる』

もう夏休みに入って、昨日から淡希さんの部屋にお邪魔してますの。
そんな当たり前を今更思い出すだなんてかなり寝ぼけてますわね……
なんて事を考えながら、わたくしは淡希さんの胸元に抱かれますの。
買う時に少し恥ずかしかった、お揃いの真っ白なワンピースですの。
今更双子も流行りませんが部屋着にするとまるで姉妹みたいですの。

淡希『それにしても、ちょっと“遊んで”あげただけで疲れて寝ちゃうだなんてね』

黒子『“遊んで”の上に“もて”が抜けてますわよ?それにわたくしは嫌だと――』

淡希『黒子が可愛過ぎるのがいけないのよ。そんな口答えする悪い子のお口は……』

黒子『きゃっ』

淡希『どうやって塞いでしまおうかしら』

隣の部屋からの風鈴、木々に止まる蝉の声、通り抜ける車の音、笑いながらわたくしを抱き締める淡希さん。
嗚呼、また昼下がりですのになし崩しに弄ばれてしまいそうですの。いつもこうして流されてしまいますの。
そんな疚しい事を考えていると、淡希さんがわたくしの頬を撫でながら吸い込まれそうな眼差しを向けて――

淡希『黒子……』

黒子『何ですの?淡希さん』

淡希『さっきまでどんな夢を見てたの?』

こんな時無意識に口を半開きにしてしまったり、くったり力を抜いたり、少し腰を浮かすわたくしは……
淫らですの。乱れてますの。爛れてますの。貴女がわたくしをこんな風に染めてしまったんですのよ――

黒子『覚えてませんの。魘されてまして?』

淡希『……知ってるわよ』

嗚呼、淡希さんの双眸(ひとみ)にわたくしの相貌(かお)が。

淡希さんが撫でてくれた頬に、涙が伝い落ちた跡が見えますの。

307: >>1 2012/04/26(木) 20:03:05.83 ID:ex8EjrVAO
 
 
     
 
     
 
     
結標「――――不出来な貴女の素顔(なみだ)くらい――――」
 
     
 
     
 
     
 
308: >>1 2012/04/26(木) 20:03:33.56 ID:ex8EjrVAO
~0~

御坂「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛ううううううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」

結標「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!」

御坂の放った全身全霊全力全開のレールガンが帝都タワーチケット売り場を直撃し、入場券が宙を舞う。
一歩先んじて座標移動にて水族館口へとテレポートした結標が哄笑を上げ、御坂がそれに追いすがった。
乱舞する入場券は御坂に触れるより早く迸る紫電を受けて焼け落ち、火の手が上がって二人を照らした。
殺意に染まり切った学園都市広告塔(みさか)と、憎悪に歪み切った学園都市元暗部(むすじめ)らを。

御坂「あんただけは――」

結標「ふっ……」

御坂「――あんただけは絶対に許さない!!!!!!」

ドン!と再び放たれたレールガンを、結標は怒り狂い我を忘れた御坂の思考さえ読み取って座標移動する。
それによってサンプルケースの陳列棚のように並ぶ生け簀が残らず木っ端微塵となり海水が噴き出して――
御坂は一階全てを浸水させる海水に右手をついて電撃を浴びせ、水槽の魚全てを焼き殺し結標を狙い撃つ!
しかし結標は電撃使い相手に水場に立つ愚行を犯す事をよしとせず、帝都タワー二階部分へ座標移動し……

結標「いらっしゃい御坂美琴!最初で最後の殺し合い(デート)よ!たっぷり殺(あい)し合いましょ?」

御坂「……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!!」

御坂は三発目のレールガンを放って帝都タワー全体を揺るがせ、ぶち抜いた風穴から二階へと躍り出る。
これほどまでの殺意を抱いたのは一方通行をおいて他ないまでだった。そんな御坂が二階へ飛び出すと。

ザクッ

御坂「!?」

心臓スレスレの左肩を、帝都タワーのミニチュア模型が貫いた。

309: >>1 2012/04/26(木) 20:06:06.09 ID:ex8EjrVAO
~1~

結標「正直者は馬鹿を見るわよ?」

御坂「!?」

結標「――貴女に石を投げられた私のようにねええええええええええええええええええええ!!!!!!」

御坂が見開いた目に飛び込んで来るは、マクドナルド帝都タワー支店に置かれた椅子、机、ドナルド。
風穴から飛び出して来るのを先読みされ殺到するそれらを、御坂は筋電微流と電気信号を操作して――
机を潜り抜け、椅子を蹴って加速し、ドナルドを踏み台に、カウンターに腰掛けた結標へと加速する!

結標「!?」

御坂「だったら……」

結標「しまっ……」

御坂「――何で黒子に手を出したあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

そこから繰り出される紫電を纏った右ストレートが弾丸のように結標へと突き刺さり、ガラスが割れる。
文字通り鼻っ柱を折られ吹き飛ばされた結標は似顔絵コーナーまでノーバウンドで叩きつけられて行く。
バラバラと展示されていたイラストや色紙が雪崩のように落ち、仰向け寝に横倒された結標に被さった。

結標「がはっ……」

御坂「私もこの学園都市(まち)で、この世界で、色んなやつを見て来たわ……」

結標「……よくも」

御坂「……けどね、あんたよりクズな女なんてお目にかかった事ないわよお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」

結標「よくも私の顔を殴ったわねええええええええええええええええええええ!!」

結標が軍用懐中電灯を振るい、御坂が超加速で駆け抜けた同時に頬がざっくりと座標移動された色紙で裂ける。
されど御坂は苦痛すら意に介さず結標へと飛びかかり、馬乗りになると裂けた頬から流れ出す血を右手で拭って

御坂「そんなに顔を殴られたくなきゃ!」

結標「がっ!?」

御坂「――しばらく表に顔も出せなくしてやるわ!!」

流血ごと握り締めた右拳で、鼻血を垂れ流す結標の鼻っ柱を殴る!殴る!!殴る殴る殴る殴る殴る!!!

結標「……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

御坂「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ー!!?」

対する結標も破れかぶれで下から振り上げた軍用懐中電灯で御坂の左目を潰さんばかりに突き上げて行く。
眼球破裂や失明こそ免れたものの、片目の視界が完全に塞がれ血涙を流して絶叫する御坂の下から――……

結標「くっ」

結標が座標移動で三階へ逃げ出したのだ。
310: >>1 2012/04/26(木) 20:06:33.29 ID:ex8EjrVAO
~2~

結標「(来なさい、御坂美琴)」

御坂が身悶えしている間に、結標は三階にある蝋人形館より座標移動にてドールを至る所に配置し備える。
片目を潰し損ねたのは口惜しかったが、視界の片側を塞いだアドバンテージは大きい。故に結標は構える。
この3Dアトラクション『スペースワックス』の暗がりに身を潜め、止まらない鼻血を押さえて息を殺す。
口呼吸しか出来ずとも、御坂の身体にコルク抜きを突き立てる様を思えば息巻く猛々しさとて抑えられる。

結標「(私は貴女を許さない)」

もしあの病院にて行き違いがなければ、二人は白井が間に立って手を取り持つ未来があったかも知れない。
もし三人にすれ違いがなくば、誰の血や涙も流れない、最高のハッピーエンドを迎えられたかも知れない。
だがそうはならなかった。過去にIF(もし)はなく、もし(IF)は未来にしかない。そして現在も――

コツッ、コツッ、バリッ!

結標「(馬鹿ね!!)」

暗闇の中にあって爛々と赫亦を宿した結標が眦を決した先には御坂美琴。
それもダミーの蝋人形に向かって電撃を放った直後の、がら空きの背中!
迸る紫電に浮かび上がった後ろ姿へ向かい、結標がコルク抜きを放ち――

カランッ

結標「!?」

そのコルク抜きは御坂の体内に深々と突き刺さったにも関わらず、乾いた音を立てて床面に落下して行く。
すると御坂の後ろ姿がこの暗闇にあって幽霊のようにすうっと掻き消え、結標が決した眦を見開いた直後に

御坂「――あんたに出来る事なんて――」

結標「?!」

御坂「闇討ち紛いの騙し討ちでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

結標「がああああああああああ!!!!!!」

暗闇を塗り潰すような閃光と共に、結標は背後から軍用懐中電灯を振るった右腕に電流を流され絶叫する。
そう、御坂は潰された片側の視界を捨て、電磁波で空間把握してスペースワックスへと潜入していたのだ。
それもスペースワックスのアトラクションを利用した立体映像で結標をおびき寄せ、生じた間隙を縫って。

結標「御坂美琴ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

御坂「結標淡希ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

右腕が使い物にならないほどの電撃を浴びせられて尚、結標は死力を尽くして座標移動にて再び遁走する。

四階のゲームコーナーを横切り

五階のラジオ発信所を突っ切り

屋上遊園地へ直走って行き――

311: >>1 2012/04/26(木) 20:07:03.28 ID:ex8EjrVAO
~3~

結標「貴女がいるから!!!!!」

御坂「あんたさえいなければ!!」

結標・御坂「「黒子は私(あんた)のものにならない(させない)!!!!!!」」

ゴーカートを座標移動させてぶつけんとする結標、ジェットコースターを無理矢理電撃で起動させる御坂。
レールごと吹き飛ばすように転移させる物体を、疾走するジェットコースターに立ちながらかわす御坂。
砕け散る機関車とゾウのゴーカートの部品が舞い、御坂がジェットコースターの頂点から飛び降りて――

御坂「あんたなんて死ねばいい!!!!」

結標「貴女だけは殺す!!!!!!!!」

御坂・御坂「「黒子は私が取り返す(奪い取る)!!!!!!」」

御坂が空中から飛び蹴りを喰らわせ、結標が吹き飛ばされながらシマウマのオブジェを横殴りにぶつける。
結標が血と共に砕けた奥歯を吐き出し、御坂が横合いからの衝撃でファーストフードのテントに突っ込む。
だが結標は座標移動が転移出来る最大重量の物質を呼び出し、御坂も最大火力のレールガンを呼び起こす!

結標・御坂「「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」」

屋上遊園地の地面がレールガンで吹き飛ばされ、ガラスの広場の硝子が座標移動で砕け散り、衝撃が吹き荒れる。
帝都タワー全域が怖憚り戦慄くように身震いし、白煙が立ち上り、月光が射し込む中にあって勝敗が分かたれる。

結標「ぐっ……」

結標が限界に達し膝から崩れ落ちて前のめりに倒れ込んだのである。如何にして搦め手を用いようと――

御坂「――――――」

レベル4とレベル5の自力の差は天地より厚く高い紙一重であった。しかし御坂の怒りはおさまらない。

御坂「まだ殺されないとかタカくくってる?」

愛する後輩(しらい)を破壊され、恋する英雄(かみじょう)を喪失させられ、それを行った結標を……
その罪を許せるはずもなく、その罰を赦せようはずがない。結標が現れてから御坂の世界は狂わされた。
大事な白井が、大切な上条が、結標の魔性に引きずり込まれたかのようにしか思えないのだ。そしてまた

結標「――いいえ、腹をくくったわ」

御坂「!?」

結標も――
312: >>1 2012/04/26(木) 20:09:14.63 ID:ex8EjrVAO
~4~

その一瞬の間隙を、刹那の座標移動(はり)が縫って御坂の左足首から下が屋上遊園地の地面に埋没した。

御坂「なっ!?」

結標「殺し合いの最中にズレた能書き垂れてんじゃないわよ!」

ひび割れた地面から足を抜かんとし、ベリベリゾルゾルブチブチと皮膚が根刮ぎ引き千切れる音と共に

結標「――晩ご飯、何食べた?」

へたり込んで身を捩る御坂の腹腔に、結標の爪先が突き刺さる。

御坂「がはっ!!?」

結標「私“達”はね……マスクメロンサンドよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

二度、三度、四度五度六度七度七度七度七度七度、結標の蹴り上げが腹腔を穿って御坂が激しく嘔吐する。
ファミレスで頼んだBLTサンドのパンの残骸ごと結標が踏みつけ、吐瀉物に血が混じるまで踏み潰し――
吐く胃液がなくなるまで、上げる悲鳴すら枯れるまで、サディスティックな哄笑と共に御坂を踏み殺さんと

御坂「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

結標「ぐぼっ!?」

振り上げた足を引きずり込むようにして電撃を流し、結標が昏倒し御坂が血塗れの足を引きずって――

御坂「――これ、効くわよ」

結標の上に馬乗りになり、喉を潰すように首を折るように絞めながらバリバリバリ!と電撃を流して行く。

結標「うぐ、あっ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

内臓に傷がつくまでの蹴撃を浴び続け威力こそ下がったものの、人体を破壊するには十分過ぎる電撃が――
結標の全身を走り四肢を蝕み、痙攣のようにびくつき、口から血の混じった泡を吹き、白眼を剥いて叫ぶ。
バチバチと弾ける火花に合わせて白く剥かれた左目が内出血し、ジョロジョロとミニスカートが濡れ出す。
失禁し、尿にまみれバタつかせる足が伸び、震え、五指が内側に巻くようになり失神しつつある意識が――

御坂「……黒子を壊したのはこの指かあああああああああああああああああああああああああー!!!」

結標「ぎいやあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

ブラックアウトしホワイトアウトする中、立ち上がった御坂が結標の右手人差し指と中指をヘシ折った。
ベキバキビキと尺骨まで踏み抜く勢いで靴底を食らわせ、泣き叫ぶ結標が自分の漏らした尿の中崩れ落ち

御坂「!?」

たその瞬間

313: >>1 2012/04/26(木) 20:10:57.99 ID:ex8EjrVAO
 
 
     
 
     
 
     
 御 坂 の 頭 上 に タ ン ク ロ ー リ ー が 降 っ て 来 た 
 
     
 
     
 
     
 
314: >>1 2012/04/26(木) 20:11:23.86 ID:ex8EjrVAO
~5~

御坂「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

御坂はほとんど条件反射でコインを握り、脊髄反射でレールガンを放ってタンクローリーを撃ち抜いた。
同時に内部の石油に引火し、空中で爆発し、四散したパーツと飛散した火の玉が屋上遊園地に降り注ぐ。

御坂「なっ……」

???「ファインプレーねぇ?みぃーさぁーかぁーさぁーん」

そこへ轟ッッ!と帝都タワー下方より船影を描き低空飛行から炎の上昇気流を受けて浮上する『飛行船』。
火の海と化した屋上遊園地にて立ち尽くす御坂を見下ろし、飛行船のブリッジから嘲笑うその声の主は――

御坂「食蜂操祈!?それに……」

佐天「御坂さん!逃げて!!」

御坂「佐天さん!!!!!!!」

レベル5第五位にして常盤台の女王、心理掌握(メンタルアウト)と後ろ手に縛られ甲板に跪かされた佐天。
如何なる演算より複雑なと事態の混迷さに御坂の思考が追いつかない。しかし食蜂はお構い無しにリモコンの

食蜂「もう良いわよぉ?上がって来てぇ」

婚后「承リマシタ」

固法「承リマシタ」

御坂「!?」

ボタンを押すと、飛行船から固法が飛び降り、地上からは『空力使い』でタンクローリーを飛ばした婚后が。
それぞれ着地し飛翔し、燃え上がる帝都タワーと火の海と化した屋上遊園地にて御坂へ遠巻きににじり寄る。
この時、御坂の思考は混乱を極め理性は混沌の直中に叩き込まれた。何故二人が大覇星祭の時をなぞるように

食蜂「嗚呼、あのフラワーロック頭の娘は管制室よぉ。ウィザード級ハッカーにしか出来ない事あるしぃ」

御坂「どう……いう」

食蜂「――いらっしゃぁい」

それに加え、食蜂が指をパチンと鳴らすと

白井「承リマシタ」

御坂「――黒子」

食蜂「――うん、やっぱりねぇ♪ずっと前から思ってたんだぁ」

御坂が見た事のない喪服のように黒いコルセット付きワンピースを身に纏い、髪を下ろした白井が――

食蜂「んっ……」

御坂「ああ……」

食蜂にせがまれるままキスし、それを御坂に見せつけるように

食蜂「――貴女には“黒”が似合うって」

食蜂が向き直り、混乱と絶望の最中にいる御坂へと微笑んで

食蜂「……メリークリスマス」

白井が『Equ.DarkMatter』の仮面を被った

315: >>1 2012/04/26(木) 20:11:52.93 ID:ex8EjrVAO
 
 
     
 
     
 
     
食蜂「メリークリスマス、ミスターローレンス」
 
     
 
     
 
     
 
316: >>1 2012/04/26(木) 20:12:28.62 ID:ex8EjrVAO
 
 
     
 
     
 
     
A C T . 1 1 「 白 き 聖 痕 、 赤 き 血 痕 」
 
     
 
     
 
     
 
317: >>1 2012/04/26(木) 20:14:51.58 ID:ex8EjrVAO
~6~

御坂目掛けて『Equ.DarkMatter』の仮面を被った白井が飛び出し、固法が駆け出し、婚后が撃ち出し――
食蜂が高笑いを、佐天が悲鳴を上げるのが同時だった。この瞬間をもって、帝都タワーは戦場と化した。
燃え盛る遊園地、燃え上がる旧電波塔、夜の帳を焼き尽くす火蓋が切って落とされ、食蜂が手を翳した。
歌劇を歌い上げるように、楽団を指揮するように、女王が命を下すように采配(リモコン)を振るった。

佐天「やめて!どうして、どうしてこんな事が出来るの!!?」

食蜂「――“クリスマスプレゼント”を横取りされたからよぉ」

佐天「!?」

後ろ手に手錠をかけられ甲板に転げる佐天に小首を傾げ、食蜂はキョトンと目を丸くする。まるで――……

食蜂「昨夜ねぇ?あの案内人と風紀委員がサンタとトナカイからプレゼントを奪ったのぉ。だ・か・らぁ」

佐天「――――――」

食蜂「それを取り戻すには御坂さんかあの花飾りの子みたいな“ウィザード級ハッカー”の力が必要なの」

佐天「………………」

食蜂「地下銀行に眠る“負の遺産”を手に入れるための、百桁以上のパスワード力を解読するのにねぇ?」

自室に一人でいる時の人間と、何一つ変わらない表情(かお)で食蜂は語る。この場に姿を現した理由を。
それは海原が追い続け、結標も協力し、白井が昨夜帝都ドームで取り押さえた金庫番のみが知る暗証番号。
昨日の今日の出来事の上、白井の件に絡んで初春は御坂の側からつかず離れず、タイムリミットも迫り――
業を煮やした食蜂自ら戦場に赴いたのだ。この帝都タワーで起こり得る全てを『掌握』した上で奪うために

食蜂「私の縄張り(テリトリー)を土足で踏み荒らしたあの二人と御坂さんが潰し合う事で生まれた隙に」

クリスマスキャンドルみたいと、燃え盛る帝都タワーを舌舐めずりしながら食蜂は自らの右胸を慰める。

食蜂「金庫破りのハッカーも手に入って、クリスマスプレゼントも取り返せてぇ、鬱憤晴らしも出来てぇ」

結標の愛憎、御坂の絶望、リモコン一つで狂わされる仲間との絆、壊れていく御坂の思い描く世界を――

食蜂「嗚呼☆さっきのキスで子宮がズキズキ疼いて、もう下着ビショビショ乳首コリコリして来ちゃう♪」

食蜂はアリを踏み潰す時の子供と同じ眼差しで見下ろしていた。

318: >>1 2012/04/26(木) 20:15:39.98 ID:ex8EjrVAO
 
 
     
 
     
 
     

食蜂「――本当は御坂さんが良かったんだけど、たまには他の女の匂いがする娘ってのも悪くないわねぇ」
 
     
 
     
 
     
 
319: >>1 2012/04/26(木) 20:16:06.19 ID:ex8EjrVAO
~7~

初春『大展望フットタウン、ルート66通過シマシタ』

婚后「了解」

固法「了解」

白井「了解」

御坂「(振り切れない!監視システムまで乗っ取られてる!)」

屋上遊園地より大展望フットタウンへ駆け上がる御坂を、洗脳された初春のナビを受けて三人が追跡する。
御坂は生き残った左目で監視カメラを確認するが、それを壊して回る暇さえ与えられない。何故ならば――

婚后「捕捉シマシタ」

御坂「っ」

轟ッッ!とフットタウンカフェに置かれた椅子、テーブル、棚の全てが『空力使い』で飛来して来るのだ。
誘導ミサイルのように放たれたそれを御坂は電撃によって振り向きざまに撃墜し、爆ぜて焼け落ちる中――

固法「捕捉」

白井「捕捉」

巻き起こる白煙を突っ切り、白井の空間移動を受けてテレポートした固法が御坂の前へ躍り出て――
途中の土産物屋で手にした木刀を、最も回避し辛い横薙ぎに振るい、振り向き晒した横腹目掛けて。

ゴキャッ!

御坂「……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

防ごうとした右腕をヘシ折り、肋骨に罅が入り、木刀が木っ端微塵に砕け散り御坂が末魔を断たれた。
ウィザード級ハッカーたる初春、近接戦闘のみなら御坂すら上回る固法、そして白井の風紀委員三人。
加えて雷神と呼ばれる自分に対し風神と謳われる婚后の四人を相手取るにはあまりに余りに分が悪く。

御坂「(みんなを傷つける事なんて)」

婚后「捕捉」

御坂「(出来ないわよ!!!!!!)」

よろめく御坂が苦痛以外に流す涙さえ忖度する事なく、婚后は特設ステージに並べられた椅子全てを――
轟ッッと『空力使い』で更に矢継ぎ早に放ち釣瓶撃ちで御坂を狙い、残った左腕から電撃を放たんと……

御坂「うああああああああああああああああああああ!!!」

白井「!」

下界を見下ろせる足元のルックダウンウィンドウへ雷撃の槍を放ち、強化硝子の床面を砕いて落下し――
すぐさま磁力の吸着力と反発力を利用し御坂は帝都タワー鉄骨部を蜘蛛のように飛び跳ねて更に上階へ。

固法「――初春サン」

初春「承リマシタ」

そして四人もまた御坂への追跡を続行する

320: >>1 2012/04/26(木) 20:18:46.96 ID:ex8EjrVAO
~8~

御坂「ここも塞がれてる……」

一階分の電磁力しか維持出来ないほどのダメージを負わされた御坂は、逃げ込もうとした帝都タワー神宮前にて……
管制室の初春が封鎖したであろう防火扉とシャッターに立ち往生させられ愕然とした。しかしそれはとりもなおさず

御坂「(……どうしてこんな事に……)」

鉄扉を打ち破るべくレールガンを放たんとする御坂を打ちのめすは、志を同じくした仲間に追われるという絶望。
御坂以上に仲間のスペックと帝都タワーのシステムを把握し、悪魔的な戦術眼で追い詰めて来る食蜂の妄執にだ。
第四位でも第五位でも、御坂の『敵』では勝てぬならば『味方』に殺させようと言う発想そのものが狂っている。


だが


固法「発見」

白井「捕捉」

御坂「――!!?」

御坂のレールガンが神宮の社ごと鉄扉をぶち抜いた矢先、空間移動で追って来た固法と白井が襲い掛かる。
右から固法の裏拳が、左から白井の肘鉄が御坂の顔面を挟撃し血飛沫が舞う。脱出口を手にした矢先にだ。

固法「捕獲」

御坂「ぐっ」

白井「捕獲」

御坂「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」

神宮を抜けさせまじと固法が御坂の首を裸締めにし、白井が折れた右腕を更に逆方向に捻り捕縛する。
気が狂いそうな御坂の首をヘシ折らんとする固法、取り押さえんとする白井、洗脳されて尚あまりにも

御坂「……ごめん!!!!!!」

固法「!?」

風紀委員の組み手に則った動きに御坂は塞がった視界から血涙を流し、二人に電撃を放って吹き飛ばす!
されど気絶したのは固法のみであり、『Equ.DarkMatter』の仮面で電撃を防ぎ切った白井が再び構えた。
傷心の中、元気一杯という笑顔の『仮面』を被り続け健気に振る舞って来た白井が今、御坂に向かって。

御坂「やめてよ……」

白井「オネエサマ」

御坂「……もうやめてよォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

デスマスクのような仮面を被り、葬列を率いる寡婦の喪服を思わせるワンピースに身を包んで襲い掛かる。
御坂という『光』を求めるように、結標の搦め手で繭にくるまれ、食蜂の魔手で羽化を迎えた白井は今――
『Equ.DarkMatter』の穢翼を広げ禍々しくも不吉な髑髏の紋様を背負う骸骨蛾(メンガタスズメ)となる。

婚后「ミサカサン」

御坂「――――――」

婚后「オトモダチニナリマショウ」

更に――
321: >>1 2012/04/26(木) 20:19:13.64 ID:ex8EjrVAO
~9~

白井「オネエサマ」

婚后「オトモダチニナリマショウ」

ゴバァッ!と特別展望台への階段を駆け上がる御坂を、婚后は整備用のクレーンを『空力使い』で狙う。
御坂の後塵に拝する階段が次々崩れ落ち、御坂は涙を振り切るように折られた右腕を庇いながら考える。
もうこれ以上身体が持たない、精神が保たないと帝都タワーに上がる火の手から皆を救い出すにはと――

佐天「御坂さん!!」

御坂「佐天さん!!」

御坂が目をつけた先、それは皆を操っている食蜂、人質に取られている佐天がいる眼下の飛行船である。
そこで御坂は粉微塵になった鉄製の階段から舞い上がる破片と砂鉄を電磁力で操作し、下階から狙い撃つ

御坂「……ごめん婚后さん!!!」

婚后「!」

婚后の頭部を除いた全身を石膏のように固めて封殺する。固法を気絶させるに留めた電撃すら使いたくなかった。
そして御坂は特別展望台の頂上より崩れ落ちるクレーンの先端から飛び降り、飛行船の屋根へと転げながら着地し

白井「オネエサマ」

御坂「……黒、子」

白井「オネエサマ。オネエサマ。ワタクシヲヒトリニシナイデ」

白井もまた炎上する帝都タワーから空間移動で旋回する飛行船に飛び移り、二人は三日月の下再会した。
御坂はもはや滂沱の涙を留める事が出来ない。数日で狂わされた白井との絆、数分で壊された皆との紲。
結標に石を投げた事により生まれた愛憎か、食蜂を打った事により強まった妄執か、あるいは御坂自身の

御坂「ごめんね……」

白井「オネエサマ」

御坂「今、助けてあげるからね……」

誰かを守りたいという願い、救いたいという祈り、仲間との絆、揺るがぬ正義こそが御坂を殺すのだと。
食蜂の嘲笑う声が遠くに聞こえるようだった。リモコン一つで、ボタン一つで歪む陳腐でチープな絆と。
結標の愛憎も、御坂の正義も、白井の思慕も、皆の絆も、食蜂の妄執が全てを呑み込み喰らい尽くし――

白井「――オネエサマア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ー!!!!!!」

御坂「……黒子オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!」

白井が飛びかかり、御坂が生き残った左手に紫電を纏わせ貫手を放つのと同時に――

初春「承リマシタ」

食蜂に操られるまま、初春が管制室にて帝都タワー放送電波を介して飛行船を操作する周波数を変えた。

322: >>1 2012/04/26(木) 20:20:16.14 ID:ex8EjrVAO
~10~

白井「!」

御坂「(仮面が邪魔して電撃が通らない!?)」

気絶させる程度の出力では『Equ.DarkMatter』の防壁を破る事は出来ぬまでも、御坂の貫手を受けて白井が吹き飛ばされたが

シュンッ

御坂「!!?」

白井「ワタクシヲアイシテ」

ドゴォォォォォ!と空間移動で懐までテレポートした白井の靴底が御坂の顎先を砕く勢いで放たれた。
たまらず蹈鞴を踏みよろめくも、飛行船上に吹く気流が追い風となり御坂は辛うじて落下を免れるも。

白井「ワタクシヲヒトリニシナイデ」

御坂「黒」

ザクッ!と空中からの金属矢が御坂の左鎖骨を穿ち抜き、更に踵落としでねじ込まれて開放骨折し――
舞い散る血飛沫が落ちるより早く、白井が御坂の顔面を掴んで屋根に穴を空ける勢いで叩きつけて行き

御坂「うわああああああああああああああああああああ!!」

佐天「御坂さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

風穴の空いた飛行船の屋根から突き落とされ、御坂は拘束された佐天の直ぐ側へと叩き付けられて行った。
食蜂の姿は既に消え、御坂は激痛に金切り声を上げてのたうち回り、佐天が泣き喚き、白井が着地して――

白井「タスケテ」

バサッと『Equ.DarkMatter』の穢翼を広げ、血を流す御坂と涙を流す佐天へとにじりよって行く。
佐天は知っている。既に食蜂はパラシュートで脱出している事を。御坂は知らない。この飛行船が

白井「タスケテ」

御坂「黒……子」

帝都タワーに激突するよう、管制室にて初春が周波数を変えて自動操縦のコースを変更している事が。
白井にはわからない。目の前の御坂が大切なお姉様だと。目の前の佐天が大事な仲間だとわからない。

白井「――ワタクシヲヒトリニシナイデ」

振り上げる『Equ.DarkMatter』の穢翼が断頭台の刃が如く迫り

佐天「――!!!」

佐天が身をよじって御坂を庇おうと飛び出したその先にて――

ザクッ

御坂「――――――」

上がる血飛沫が禍々しいまでに無垢な穢翼を血に染めた先……

「……がはっ」

御坂を庇うのではなく『白井に御坂を』殺させないために両腕を広げて胴を刺し貫かれた『少女』が

「――そんな仮面を被らなくったって」

血塗れの左手を伸ばし『座標移動』で『Equ.DarkMatter』を引き剥がすのと同時に

「……知ってるわよ」

飛行船が帝都タワーに激突した
323: >>1 2012/04/26(木) 20:22:53.98 ID:ex8EjrVAO
 
 
     
 
     
 
    結標「――――不出来な貴女の素顔(なみだ)くらい――――」
 
     
 
     
 
     
324: >>1 2012/04/26(木) 20:23:54.38 ID:ex8EjrVAO
~11~

夜の帳が爆発炎上する飛行船によって火蓋を切って落とされ、天地を揺り動かす激震が帝都タワーに走る。
同時に閃光が迸り、甲板から投げ出された佐天の左鼓膜が爆音により破裂し、御坂が背中から落下して――
結標が衝撃により気絶した白井を左腕で抱きかかえながら飛び出した鉄骨に御坂に焼かれた右腕で掴まる。
帝都タワー半ばまで突き刺さった飛行船によって、内部が崩落を始め、外部から炎上し、倒壊寸前に陥る。

御坂「ううっ……」

結標「がはっ……」

御坂「黒子……佐天、さん……」

佐天「え……?え……?」

阿鼻叫喚の地獄絵図と化した帝都タワーの赤と白に塗装された外壁部へと御坂が左腕一本で這いずって行く。
腕に硝子や破片を食い込ませ、腕一本で鉄骨に掴まり、腹部から夥しい出血を流しながらも白井を抱える――
結標の元へと。そして結標もまた、同じテレポーター同士転移さえ出来ない白井を死に物狂いで押し上げる。

御坂「黒、子……」

結標「っ」

佐天「ああ、ああ」

踏み潰された芋虫のように這う御坂が腕を伸ばし、佐天も手を伸ばして結標が押し上げる白井を引き上げる。
結標は口から吐き出し損ねた血を垂れ流しながら白井を引き渡すと、そこで御坂に焼かれた右腕の限界が――

御坂「あんたも……」

結標「ご、ぼっ……」

御坂「掴まって!!」

佐天「結標さん!!」

訪れる刹那、御坂の左腕が結標の右胸を掴む。しかし開放骨折した左鎖骨から激痛が走り力が入らない。
固法の木刀で折られた右腕では使い物にならない。そして白井を抱えた佐天が叫ぶのと同時に結標は――

ザクッ

御坂「!?」

結標「――貴女の助けを借りるくらいなら、死んだ方がマシよ」

最後の力を振り絞った座標移動で御坂の左手に聖痕を刻むようにコルク抜きを突き立てた。それと同時に――
御坂と結標の引き離された手と手の間に燃え盛る鉄骨が降り注ぎ、結標が掴まっていた鉄骨がバランスを崩し

御坂「待っ……」

結標「ここは貴女の思い描く身勝手な世界の終わり」

佐天「あっ――」

結標「ここが私の生きてきた血深泥の世界の果てよ」

白井「――――――」

結標「正義の名の下に人を傷つける貴女だって、所詮は私と同じ側の人間よ」

翼をもがれた大鴉のように

結標「―――貴女なんかに私の世界は“救わせない”――――」

結標が煉獄へと堕ちて行く

325: >>1 2012/04/26(木) 20:24:20.43 ID:ex8EjrVAO
~12~

彼方に見えるクリスマスツリーのネオンが窺え、学園都市の夜景が一望出来る帝都タワーから――
結標は重力の虹に引きずり込まれるように火の海と夜の闇の中へと勝ち誇ったように堕ちて行く。
見る見るうちに泣き叫ぶ御坂の表情も悲鳴も遠ざかる中、結標は最後の最期までただ一人の少女を

結標「――解き放ってあげるわ“黒子”」
御坂へ歩み寄る事も、話し合う事も、分かり合う事も、結標は何一つ望まない。代わりに想う事は――
逃れようもない終わりと避けようのない死の中、結標は自分の腹部を抉った白井を思い浮かべていた。
佐天、初春、固法、婚后とたくさんの人々が迎えに来るほど皆に愛される白井(もうひとりのじぶん)。
自分という檻に囲おうとしてもただ白井を傷つけ壊すだけだと。そして何より結標にとって白井は余りに

白井『もうこれ以上この方を傷つけないで下さいましお姉様!!悪いのはわたくしなんですのよ!!!』

眩しかった

白井『……ただ、さようならだなんて仰有らないで下さいませ。“またね”、と仰有って下さいまし』

優しかった

白井『あら、手はあったかいクセして寒がりなんですのねー?』

あたたかかった

白井『……もう一つくらい貴女からつけられた傷が増えたって』

美しかった

結標「……ねえ」

そう、白井が結標に依存していたのではない。結標こそが白井に依存していたのだ。離れがたいまでに。
そう、結標が白井を捕らえていたのではない。結標こそが白井に囚われていたのだ。分かち難いまでに。

白井『――そんな事、最初から全部知っておりましたのよ――』

結標「……そんな貴女でも、これだけは知らなかったでしょ?」

帝都タワー上空から滑降して来るヘリを見上げ、数秒後に恋獄に灼かれた結標を焼く煉獄を見下ろした。
血の赤、炎の紅、髪の朱を広げながら、結標は愛おしそうに夜空に浮かぶ三日月へと両腕を伸ばして――

結標「――……って」

涙に彩られた笑みを浮かべながら、三日月に住まうと言われるウサギを抱くように結標は堕ちて行く。

結ばれぬと相手だとわかっていて

標に導かれるようにして再会した

淡い恋心を抱いた少女の微笑みを

希わずにいられないほど、結標は

326: >>1 2012/04/26(木) 20:24:48.06 ID:ex8EjrVAO
 
 
     
 
     
 
    結標「私が、貴女のこと好きだったって」
 
     
 
     
 
     
327: >>1 2012/04/26(木) 20:27:13.01 ID:ex8EjrVAO
~13~

御坂「………………」

佐天「御坂、ひゃん……」

御坂「――――――」

佐天「御坂さん、ひっかりしてえ!!!」

結標の最後の言葉に完全に、最期の微笑に完璧に、御坂の心は芯からヘシ折られた。その傍らで――
左鼓膜が破れ、声量と呂律の利かない佐天が白井を負ぶりながら、へたり込む御坂の手を引いても。

佐天「まだ固法さんが!初はふが!!婚后ざんが!!!」

御坂「……私のせいだ」

佐天「みらかさん!!」

御坂は立ち上がれない。自分の世界が、自身の正義が、この惨状を引き起こしたのだと笑う結標に。
御坂は立ち直れない。上条を失い、仲間に殺されかけ仲間が死にそうな地獄を作り出し嗤う食蜂に。



――――だがしかし――――



ショチトル「もっとだ!もっと寄せるんだ!!エツァリ!!!」

佐天「あらたは!?」

ショチトル「!!?」

海原「御坂さん!!皆さん、早く!!!」

御坂「……――海原光貴!!?」

トチトリ「とんだリハビリだ。フレジェ一つが実に高くついた」

火の手に囲まれ特別展望台に取り残された三人の頭上に、海原の操縦するヘリが突如として舞い降りた。
その中には意識を失った婚后、固法、そしてノートパソコンを失った初春が放り込まれて転がっている。
それにより佐天の目に見る見るうちに涙が溢れ出し、下ろされた縄梯子からショチトルが手を伸ばした。

御坂「どう、して……」

海原「詳しい話は後回しです!ショチトル!!トチトリ!!!」

ショチトル「私に命令するな!!」

トチトリ「(御坂美琴がいるからってあまりピリピリするな)」

ショチトルがまず白井を受け取ってトチトリに渡し、次いで佐天を抱き上げてヘリへと乗せて行く。
そして何故か御坂だけ乱暴にヘリに投げ込み、操縦桿を握る海原が焼け落ちる帝都タワーから離れんと

御坂「待って!結標淡希が!あの女がタワーから落ちたのよ!」

海原「……離陸、します!」

御坂「海原さん!!!!!!」

したところを御坂が食い下がるが、海原は苦渋に満ちた表情で歯を食いしばって離陸を強行する。そして

海原「彼女の意思を、意志を、遺志を汲んであげて下さい……」

御坂「えっ……」

海原「――御坂さん達を救うように自分に頼んだのは彼女です」

御坂「――――――」

帝都タワーが倒壊した。

328: >>1 2012/04/26(木) 20:27:45.71 ID:ex8EjrVAO
~14~

白井「んっ……」

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!とヘリが離陸した直後に帝都タワーが倒壊し――
白井はその轟音の中で意識を取り戻した。ヘリの振動とタワーの激震に、たった今の今まで見ていた

白井「……あれ?」

佐天「気がつひましらは?」

白井「佐天さん!?それに……」

御坂「……黒子!?」

白井「お姉様!?皆様も何故ここに?!」

佐天「ごめんなはい、聞こえません……」

誰かに優しく抱かれて眠る幸せな夢から覚めた白井は御坂の膝から頭を起こすなりヘリ内を見渡し戦慄する。
自分達はホテルにいたのではなかったのか。何故ヘリで学園都市上空を飛んでいるのか理解が追いつかない。
ただわかる事は左耳から血を流し白井の言葉も上手く聞き取れない佐天、気絶している固法と婚后と初春……
加えて左目、左鎖骨から血を流し、右腕が不自然にぶら下がり、まとめて折られた肋骨を庇う御坂の惨状だ。

白井「一体何が……」

御坂「黒子」

白井「一体何が起こってるんですの!?」

御坂「落ち着いて黒子!もう、もう……」

白井「お姉様……」

ショチトル「――寝ていろ。お前も頭を強く打っているようだ」

トチトリ「(エツァリ、そっちは……)」

海原「――このまま冥土返しの病院に飛びます。白井さん……」

白井「!?」

海原「――お返しします」

その程度で済んだのは……と続く言葉をショチトルは寸でのところで飲み込んだ。何の慰めにもならないと。
だがそこで白井は気づく。海原がコード五十二に向けてかけていた白い携帯電話。その自分とお揃いの機種は

海原「……帝都タワーが引き起こした電波障害で自分の携帯が使えなくなりまして」

白井の心音が耳鳴りを引き起こすほど高鳴って行く。それは予兆であり予感であり、絶望への警鐘だった。

海原「彼女からお借りしました。ハンディアンテナサービスという物らしいですね」

そう、白井は気づいてしまったのだ。この場にいない携帯電話の持ち主に。そして見てしまったのである。

海原「……失礼ですが、待ち受け画面に彼女と、貴女が映っていたものでして……」

ペア契約の際、親友のように、姉妹のように、恋人のようにツーショットで結標と写った待ち受け画面に。

御坂「………………――――――」

御坂は結標の無言の愛情を感じ取った。

329: >>1 2012/04/26(木) 20:28:19.62 ID:ex8EjrVAO
~15~

ガチャン!

月詠「あっ、結標ちゃんの香水の瓶が!」

同時刻、月詠家に遊びに来ていた姫神は帝都タワー炎上のニュース速報から小萌の悲鳴へと振り返った。
そこには結標が纏うGUERLAINのアクア・アレゴリアの香水瓶が、倒壊の余波で棚から落ちて割れたのだ。
帝都タワーのある第七学区では衝撃が地震と誤認されるほど激しく、それは姫神達もまた同じであった。

月詠「あうー……何だかとっても不吉なのですよー。夜中にお茶碗が割れたり鏡が割れたりするの……」

姫神「非科学的。と言い切れないのが怖いところ。それより甘い匂いがすごい。窓開けないと。あれ?」

割れた香水瓶を片付ける小萌の傍ら、姫神が透明感が高くも甘ったるい香りを追い出すべく窓を開けた。
表の風車が何かを巻き込んで動作不良を起こしていた。それがパラシュートである事を姫神は知らない。

姫神「(風車までおかしくなってる)寒いけど。玄関を開ける。ちょっと空気を入れ換えないと酔いそう」

玄関を開け、姫神は外へ出る。帝都タワー方面の夜空は赤々と染まり、夕焼け空と見紛うほどであった。
姫神はその色合いに自分の事を『前世では恋人だったかも』とまで言ってくれた結標の髪色を思い出す。

姫神「雪?ううん。これは」

月詠「灰なのですよ。多分帝都タワーから飛んで来たのですー」

そして外に出た姫神が上向けた手のひらに、別れを告げに来たかのような雪を思わせる灰が一片落ちて来た。
同じく破片を拾い集めていた小萌も、一緒に落ちて来た香水の空箱を手にしていた。その表面に描かれた――
アクア・アレゴリア(水の寓話)シリーズのシンボルとも言うべき『蜂』の描かれた箱を。それはまるで……

姫神「何でだろう。もう。先輩に。会えないような予感がする」

最初からこの筋書きを暗示していたかのように、タロットカードの塔(タワー)が司る運命そのままに。
塔(タワー)、それは『アクシデント』『誤解』『緊迫』『災厄』『崩壊』『悲劇』を意味するカード。

『アクシデント』から始まった結標と白井の再会に

『誤解』した結標と御坂が啀み合い

『緊迫』する三者三様の祈念の果てに

『災厄』のように食蜂が全てを簒奪し

『崩壊』を迎えた帝都タワーにて

『悲劇』の聖夜が幕を下ろす――
330: >>1 2012/04/26(木) 20:30:01.34 ID:ex8EjrVAO
 
 
     
 
     
 
     
食蜂「また遊びましょうねぇ?みぃーさぁーかぁーさぁーん☆」
 
     
 
     
 
     
 
331: >>1 2012/04/26(木) 20:30:31.87 ID:ex8EjrVAO
 
 
     
 
     
 
     
同日、超音速旅客機により英国に発ったのを最後に上条当麻の足取りは完全に途絶える事となる――
 
     
 
     
 
     
 
333: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/26(木) 21:46:41.20 ID:GJfvN0bDO
幸福への道筋を見いだすことの出来る登場人物がひとりもいないっていう
334: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/04/26(木) 22:08:57.15 ID:GikmLi1Uo

みさきちマジ小悪魔…っていうか超ヤンデレww
348: >>1 2012/04/30(月) 18:46:26.63 ID:pHlzW6yAO
>>1です。今夜に最終回投下しますー
350: >>1 2012/04/30(月) 22:07:44.88 ID:pHlzW6yAO
~1~

結標『上条君、イギリスに行くそうよ?』

海原『………………』

結標『込み入った事情はわからないけど、随分と張り詰めてたわよ。御坂美琴と一緒にいる時よりずっと』

海原『何を仰有りたいんですか結標さん』

12月25日、帝都タワーへと向かう車中にて結標はウィンドウを滴り落ちる雨粒をなぞりながら――
ダウンした白井を膝枕しながら電話をかけていた。結標が上条と別れ、海原が御坂と出会した直後に。
しかし海原は電話越しに見て取れるほど、憮然とした表情を浮かべているのが見て取れた。それは……

海原『生憎ですが自分は彼に取って代わるつもりもありませんし、むしろ今彼に怒りさえ覚えていますよ』

結標『……わからないわね男の子って。まあ女の子みたいに面倒臭くない分まだマシかしらね。そうそう』

どういう事情があれ自分との約定を反故にした上条への、同じ女を愛した男としての失望と怒りであった。
結標もそれを感じ取り、前置きを打ち切るとすぐさまビジネスライクな口調に戻って帝都ドームの件を――

結標『貴方ももう知っているでしょうけど、今回の件の黒幕は心理掌握よ。金庫番が命欲しさに吐いたわ』

海原『存じていますが、生憎と金庫番は既に自分の手から離れていますよ。上層部のブレーンが預かると』

結標『雲川さんね。さっきもお褒めの言葉と報酬が振り込まれて来たわ。いらないって言ってるのに……』

白井が交戦している間に全てを吐かせた結標は考える。食蜂が何故数百億もの資金をかき集めているかと。
海原は答える。恐らくはアレイスター亡き後の上層部の暗闘に加わるためであろうと。その最終目的は――

海原『ふふ、何なら自分にも何かお礼をさせて下さい。これからの事もありますし、長いお付き合いをと』

結標『私は私の尻を拭っただけ。だいたい土御門といい貴方といい、腹を割っても真っ黒じゃないの……』

御坂を手に入れるためだと海原は睨んでいた。それも大覇星祭の時のような『ごっこ遊び』ではなく……
謀略渦巻き暴力逆巻く血深泥の世界へ引きずり込むためだろうと。それが何に起因するかはわからないが

結標『まあ良いわ。私が何か困った時にでも手を組んでくれたら。もちろん、利害関係が一致した時ね?』

その底知れぬ妄執と計り知れぬ奈落を、二人同時に振り仰いだ帝都タワーにて数時間後に思い知らされた。

351: >>1 2012/04/30(月) 22:08:39.45 ID:pHlzW6yAO
~2~

御坂「………………」

白井「………………」

海原「(約束は果たしましたよ。最低最悪のタイミングで)」

12月25日深夜、帝都タワーからの脱出行により生還を果たした面々は当然ながら入院を余儀無くされた。
特に左目、左鎖骨、左足、右腕、右肋骨に多大なダメージを受けた御坂は絶対安静状態であった。それに加え

初春「シュー……シュー……」

佐天「初春……」

ショチトル「私が見ていてやるから少し休め。お前まで倒れる」

中でも初春は洗脳されていたため逃げ遅れ、一酸化炭素中毒に陥り、一度は目覚めたが再び昏睡に陥った。
ハッカーとしての手腕を悪用され、数百億円にも上る『負の遺産』を食蜂に手に渡してしまった事から……
風紀委員として治安を守るために手にした力でタワーを、飛行船を破壊させられ心が完璧に折られたのだ。

固法・婚后「「………………」」

固法もまた洗脳されていた時の記憶があるのか、その自責の念たるや今にも死を選びかねないほど深かった。
御坂の右腕と右肋骨を風紀委員の捕縛術で粉砕した事、皆を守れなかった事、その全てが重くのしかかった。
婚后もまた御坂を傷つけた時の記憶が蘇り、常盤台で初めて誼を結んだ御坂への慚愧の念に満ち充ちていた。

白井「……佐天さん、婚后さん。ここはわたくしが看ておきますので一度お帰りになって休んで下さいな」

佐天「え?」

婚后「白井さんこそ横になられた方がよろしいですわ。ここはわたくし婚后光子に……お、任、せを……」

佐天もまた左鼓膜が破裂し耳が遠くなり、固法は電撃により一時的な四肢麻痺。無事なのは婚后のみだ。
白井とて未だ熱が引かず、加えて御坂の重体と結標の死を受け精神は既にズタズタに引き裂かれていた。
声を震わせて涙を流し白井の手を握ったまま膝から崩れ落ちる婚后を背に、海原は先に病室を後にした。

海原「……頼みますよ、本当に……」

全ての隠蔽工作は雲川がやり終えてくれており、海原は皆が詰めている病室から遠く離れた棟にて――
壁を殴る。思いっきり殴る。血が出るまで殴る。拳が壊れようとも構わないと殴って殴って殴り続け。

海原「何をやってるんですか、上条当麻」

ただ一度だけ、海原光貴ではなくただ一人のエツァリとして。

海原「――今ここにいて良いのは“俺”じゃねえだろうが!!」

素顔(ほんね)をさらけ出した。

352: >>1 2012/04/30(月) 22:09:08.83 ID:pHlzW6yAO
~3~

土御門「そうか、やはりそうなるか……」

ステイル『“一人目”の、僕や神裂を向こうに回した“上条当麻”は彼女を見捨てられなかったようだね』

土御門「……インデックスは何だって?」

ステイル『“私を孤独(ひとり)にしないで”、だそうだ。彼が学園都市に戻る事は二度とないだろうさ』

土御門「………………」

ステイル『上条当麻なら今口がきけないよ。あの神裂が珍しく激怒してる。理由は言わなくてもわかるね』

一方通行「………………」

同時刻、土御門と一方通行は倒壊した帝都タワーと程近くにある帝都ドームとを結ぶ地下道を歩いていた。
そこは白井が暗部と会敵した場所から一本外れた地点にある、帝都タワーの電気通信ケーブル保守地下道。
有事の際は学園都市上層部が避難経路としても使う広大な通路の中、土御門が携帯電話の通話を打ち切る。

一方通行「……聞くつもりはなかったが」

土御門「………………」

一方通行「オマエがここンとこ雲隠れしてた理由はそれか?」

土御門「そう言う事だ。学校には特別公欠で通しているがな」

一方通行「………………」

土御門「何か伝えたい事でもあったか?一言くらいなら――」

一方通行「ねェよ」

土御門「………………」

一方通行「大の男が全部投げ捨てて出てったンだ。それを外野が今更どうこう言うのは筋違いだろうが」

一方通行の杖が鳴らす音と土御門の靴音のみが響き渡る暗く冷たい地下道。白井が影だけ踏んだ闇の深奥。
一方通行とて知っている。上条と御坂が付き合っていた事を。だがそれがどうしたとばかりに切り捨てた。
例え土御門がイギリス清教側の利のためにインデックスを利用し上条を囲い込んだとしても驚きはしない。


だが、そこで


土御門「!?」

薄暗い地下道にあって更に暗色を極めたサングラス越しでも目の色を変えて見開く土御門が身構え――

一方通行「?!」

学園都市の、世界の闇さえ見飽き果てた一方通行が即座に電極スイッチを押して臨戦態勢に入るほどの

一方通行「……なンで“アイツ”がここにいる?」

土御門「――お前にも見えたか一方通行。今のは」

一方通行「あァ」

『最高の科学者』の、『最悪の魔術師』の、『最低の人間』の白影が二人を導くように姿を現して――

353: >>1 2012/04/30(月) 22:11:54.13 ID:pHlzW6yAO
~4~

白井「……お姉様」

御坂「………………」

それより数時間後、白井は個室に移され眠りに就いた御坂のベッド側に椅子を置いてその寝顔を見つめる。
その膝の上には電源の落とされた結標の携帯電話(かたみ)。二人一緒に映った写メールの待ち受け画面。
たった五日前の出来事だと言うのに随分と昔のように感じられた。この一日二日がまるで十年のようだと。

白井「……淡希さん」

白井が食蜂の働き蜂として御坂に刃を向けた記憶が、結標を貫いた感触がまざまざと蘇り、白井は――
苦悶し、煩悶し、苦悩し、懊悩とさせられた。最早涙も枯れ果てた。喪失感さえ湧いて来ない絶望感。
人は余りにも深い奈落と暗い虚を胸に穿たれた時、こんな気持ちになるのかと白井は打ちのめされた。

佐天『むふ標さんは、白井はんを、みらかさんを守ったんれす』

佐天の口から聞かされた事実。御坂と結標が帝都タワーで白井を巡って骨肉相食んだという事。そして――
御坂を殺そうとした自分を、結標が身を挺して阻止し、白井を佐天と御坂にタワーから落ちたという事や。

佐天『落ひてきた鉄骨から、御しゃかさんを突き飛ばして……』

あわや道連れになりかけた御坂の手を払いのけてまで、死に様を通して生き様を貫いた結標が残したもの。
それは今白井の目の前に横たわる御坂。白井が最も愛し、結標が最も憎んだ『お姉様』という残酷な結末に

佐天『……すごく優ひい笑らおで言ってくれたんれす。“白ひさんをお願い”って、すごく綺麗な笑顔れ』

白井「……貴女は馬鹿ですの。本当は誰より心の弱いお方ですのに、最後の最期まで片意地と肩肘張って」

白井の枯れたはずの涙がボロボロと、御坂の掛け布団にポロポロと雪解け水のように零れ落ちて染み込む。
誰よりも残酷で優しく、自分よりも綺麗で醜かった結標。入り混じった愛と綯い交ぜとなった憎悪の果て。
白井が身に纏う漆黒のコルセット付きワンピースも、まるで結標という半身を失った黒衣の寡婦を思わせ。

白井「……どうして、どうして憎いはずのわたくしに優しくしたんですの。どうしてわたくしを一緒に」

連れて逝ってくれなかったのかと、思っても口に出していけない言葉を嗚咽と共に吐き出そうとした時。

御坂「馬鹿言ってんじゃないわよ……」

白井「……お姉様」

御坂「――あんたを本当に愛してたからに決まってるでしょう」

御坂が目を覚ました。

354: >>1 2012/04/30(月) 22:12:24.68 ID:pHlzW6yAO
~5~

白井「お姉様……」

御坂「死んだ人間を悪く言うのは何だけど、あの女は正真正銘のクズだった。私は今でも心底そう思うわ」

白井「………………」

御坂「――あんたを命懸けで、死を賭して救いさえしなければ、不謹慎だけど笑ってやりたいくらいにね」

生き残った左手で、白井が眠るまでずっとに結標が握っていた右手に触れる。白井の右手は震えていた。
反対に半死半生ながらも御坂の声音に惑いはなく目に迷いはなかった。冥土帰しの麻酔は特別製なのだ。
されど白井の右手が震えていた理由は御坂が目覚めた事による歓喜以上に、御坂に対する罪悪感だった。

白井「……お姉様、わたくしお姉様に謝らなくてはいけない事がたくさんあるんですの」

御坂「……言ってごらん?」

白井「……まず、あの殿方がイギリスに渡る事を知っていながら、お止めするどころか」

御坂「……うん、知ってる」

そんな白井の手を御坂は優しく指先で撫でながら告げる。
金属矢に刺し貫かれた携帯電話が一七七支部に届いたと。
それにまつわるやり取りの全てを結標から明かされたと。

御坂「……それは謝らなくていい。仮にあんたがあいつを止めようとしても、多分無駄足だったろうから」

白井「お姉様……」

御坂「それに私も悪かったんだ。間違ったやり方であいつを縛り付けようとしたの。馬鹿よね、本当にさ」

白井が罪を一つ打ち明けた事により、御坂もまた一つ打ち明けた。インデックスがイギリスに帰る事も。
それを上条が知れば放っておけるはずもない事。故に御坂は上条を身体で繋ぎ止めようとした事も全て。

御坂「……幻滅したでしょ?ぶっちゃけ女子寮で黒子に怒鳴られた時、その事を責められるみたいだった」

白井「……それだけではありませんの。わたくしは、あの殿方が憎く、そんな自分まで憎かったんですの」

御坂「……何で?」

白井「――わたくしも、お姉様をお慕いしていたんですの。だからあの殿方に嫉妬させられたんですのよ」

御坂が打ち明け、白井も打ち明ける。上条への憎悪、御坂への好悪、自身への嫌悪、その全てを吐露する。
御坂が上条の話をする度、街で連れ立って歩く姿を目にする度に、胸が締め付けられ息も出来なかったと。

御坂「――ありがとう、でもごめんね?」

白井「………………」

御坂「私は、結標淡希みたいにはあんたを愛せそうにない……」

そして
355: >>1 2012/04/30(月) 22:12:55.08 ID:pHlzW6yAO
~6~

白井「良いんですの……お姉様が生きていて下さっただけで、お姉様が皆を守ってくれたおかげで……!」

御坂「私もよ黒子。あんたともあの女ともあいつとも本当に色々あったけど、それでもやっぱり私は――」

白井「………………」

御坂「――それでも私は、きっとあんたに生きて欲しいんだと思う」

白井は知らない。その言葉はかつて御坂が最愛の存在(かみじょう)に向かって告げられた言葉であると。
御坂は知っている。今際の際、結標が自らの命と引き換えにしてまで白井を救いたいと願った思いもまた。

御坂「だからあんたは、食蜂操祈に手を出さないで。あんたの目を見ればわかる。あんたこのままじゃあ」

白井「……お察しの通りですわ。わたくし、今きっと彼女を目の当たりにしたならば生まれて初めて――」

御坂「………………」

白井「喜んで、人を殺せるとさえ思えるわたくしもおりますの」

結標もまた復讐など望まないであろうことは、決して穏やかならざる関係ながらも刃を交えたからこそわかる。
あのツーショット写メールを見て初めて理解し得た結標の無言の愛情。恐らくは白井は結標にとっての――……
御坂における上条のような存在だったのだと。そして再び刃を交えたからこそわかる。食蜂の悪魔的な妄執も。

御坂「……それだけはさせないわ。結標淡希の死が無駄になる」

白井「……はい」

御坂「――あの女は私が止める。きっと私にしか止められない」

白井が再び寡婦の黒衣に身を包み、髑髏の仮面を被った骸骨蛾(メンガタスズメ)となれば恐らく食蜂は――
蜜蝋を食い破る骸骨蛾の習性そのままに復讐は果たされるだろう。だが御坂は白井の手を汚させたくないと。
それは死に際に御坂を偽善と嘲り独善と罵った決して相容れない結標との、唯一にして無二の合意点だろう。

白井「でも……」

御坂「?」

白井「あの殿方、上条さんの事は、どう」

御坂「――今回の件で、もう色々と思い知らされちゃったのよ」

白井「………………」

御坂「能力者としてじゃなくて、女として私はあの三人に負けたんだって。こうでなきゃ泣きたいくらい」

インデックスの情念に、結標の愛憎に、食蜂の妄執に。しかし

白井「――お姉様……いいえ、“美琴”」

御坂「!?」

白井は

356: >>1 2012/04/30(月) 22:15:27.24 ID:pHlzW6yAO
 
 
     
 
     
 
     
白井「――お行きなさいイギリスへと。そして美琴を捨てた類人猿をぶっ飛ばして差し上げなさい!!」
 
     
 
     
 
     
 
357: >>1 2012/04/30(月) 22:16:02.37 ID:pHlzW6yAO
~7~

御坂「」

白井「巫山戯んじゃありませんの!それでは美琴はヤリ逃げされたばかりか泣き寝入りで終わりますの!」

御坂「」

白井「むしろ美琴が行かないのならわたくしがあの女をボコボコにして淡希さんのお墓の前で土下座させ」

御坂「く、黒子?いえ、し、白井さん?」

白井「ブタ箱にぶち込んだ後その足でイギリスに乗り込みあの類人猿をロンドン橋からフルチンで吊(ry」

御坂「く、黒子ってば」

白井「――わたくしは!もう一番ぶっ飛ばしてやりたい格好つけのサディスト女を今夜失いましたの!!」

御坂「!!!!!!」

白井「……あの殿方はまだ生きていらっしゃいますの。美琴、いえお姉様も生きていらっしゃいますの」

御坂「………………」

白井「あの殿方の事を引きずったままあの“女王”に本当に勝てるとお思いでして?違いますわね……」

御坂「わ」

白井「わたくしが惚れ込んだ“わたくしだけの超電磁砲”は、そんなに弱い女じゃありませんの!!!」

世界で最も美しいと言われる『稲妻』の字を冠するアグリアスのもげた片翼を、メンガタスズメが補う。
否、自ら作り上げた虫籠に閉じ込もろうとする蝶を解き放つように、白井は喝を入れ檄を飛ばしたのだ。
そう、上条は結標と違って生きている。御坂は白井と違って最愛の存在の死を迎えていない。そう、まだ

白井「泣いて縋るも良し、縒りを戻すも良し、落とし前をつけるなりヤキを入れるなりなんなりと――」

御坂「(……嗚呼、そうだったんだね)」

白井「煮るなり焼くなりすれば良いんですの。食蜂操祈の事はわたくし“共”にお任せ下さいませお姉様」

御坂「(なんで結標淡希が、この子に命懸けで恋したのかが)」

白井「あんなクソ野郎にブッ壊されなきゃいけないほど、わたくし達の絆(せかい)は弱くありませんわ」

御坂「(今、やっとわかった気がする)」

やり直せるのだと、取り戻せるのだと、白井は御坂の背中を押すどころか力いっぱい蹴り飛ばしたのである。
自分の方こそ背中で泣いているにも関わらずにだ。この時御坂は、結標が何故白井に魅せられたかを理解し。

海原「……おほん」

御坂「海原さん!」

海原「お話は聞かせていただきましたよ」

そして海原もまた。

358: >>1 2012/04/30(月) 22:17:33.18 ID:pHlzW6yAO
~8~

海原「結論から申し上げます。“蜂の巣駆除”は“専門家”にお任せ下さい。むしろ、貴女にいられると」

御坂「……それって、あんなヘリやこんな病室がすぐ用意出来るような世界に、私みたいな素人がいたら」

海原「………………」

白井「昨夜の帝都ドームの時のように?」

御坂「?」

海原「お気づきでしたか」

白井「今、声を聞いて」

スライドドアに凭れながら語る海原の声音に、やはり聞き間違えではなかったかと白井は確信を深めた。
海原もやれやれと肩を竦めて見返す。一方は怪訝そうな眼差しの御坂、一方は得心のいった様子の白井。
白井も昨日今日の事件がなければ、海原に向けられる目は穏やかならざるものであったろう。だがしかし

白井「声を聞いて、顔を見て、話をして、自分の目で確かめて」

海原「………………」

白井「わたくし、貴方を信頼しますわよ」

御坂「黒子!?」

海原「“信用”ではなく“信頼”ですか」

その言葉に御坂が見開き、海原が見張り、白井が見返す。それは以前までの白井ならば考えられない――
変化ないし成長だった。法の番人として闇の住人と手を組むなど、白井は最も程遠い存在だったはずだ。
それは傍らで見つめ続けて来た御坂と、遠くから見守り続けて来た海原の、数少ない共通する価値観だ。

海原「……自分の知る貴女なら、自分のような人種は蛇蝎の如く忌み嫌われるものと思っていましたよ」

白井「――わたくしもそう思っておりましたのよ。ですが背景はどうあれ貴方はわたくし達を救い出し」

海原「………………」

白井「“彼女”が今際に助け舟を求め、後事を託すに値する人間というだけでわたくしには十分ですの」

御坂「(“結標淡希”)」

同時に白井は海原の中に結標を見出し、海原もまた白井の中に結標を見出している事が御坂にも伺えた。
海原もまた結標の死を境に一皮剥けんと、清濁併せ呑まんとする白井の胸に、まだ結標が生きている事を

海原「……では、今しばらく身体を癒やす事に専念して下さい。後の事は自分に預けて下さい。お二方」

白井「こちらこそ、お願いいたしますの」

何故あの結標が我が身と引き換えにしてまで白井を救おうとしたのか、海原にもわかったような気がした。

海原「(――少しばかり落とした肩に力が戻って来ましたよ)」

そこで病室から廊下に出る海原には、結標と白井の横顔とどこか重なって見えて――

359: >>1 2012/04/30(月) 22:20:35.87 ID:pHlzW6yAO
~9~

佐天「白井さん、立ひ直ったのから……」

ショチトル「(持ち直しただけだろう)」

一方、初春に付き添っていた佐天と、それを見守るショチトルの二人の耳にも隣室の会話が入って来た。
取り付けられた酸素マスクに白露が浮かんで消え、心電図が規則正しく波形を描く様子を時折確認して。
ショチトルはそんな初春の寝顔を見守る佐天の横顔、再生治療を終えた形良い左耳へと視線を走らせる。

ショチトル「本当に休まなくて良いのか」

佐天「うん。初春が起ひるまで寝らいよ」

ショチトル「………………」

佐天「わたひもね、幻想御手のとひ、こんな風に寝ててれ……」

ショチトル「(レベルアッパー???)」

佐天「……うひ春もほんな風に、こんな気持ひで、るっと私の事見てたのかなって思ったら眠れなひんだ」

破裂した鼓膜は冥土帰しの手により残り少ない年内には再生出来ると言う。しかしショチトルが真に案ずるは――
テロや戦争に巻き込まれたに等しい佐天の精神面にである。彼女は風紀委員でも暗部でもない一般人に過ぎない。
ショチトルとて暗部に身を置いていた人間であるが故に綺麗事は言わない。だが、その病み上がりの身体に沸々と

佐天「今まれ、初春はずっと街のみんらのほとも、私の事も、ずっとずっと守って来てくれひゃんだよね」

ショチトル「………………」

佐天「今日も、御坂さんがひんなの事助けてくれた。あのむふじめさんって人が、白井さん助けてくれた」

ショチトル「………………」

佐天「だはら、これからは私が初春の事、守るからね?初はふの事、ずっとるっと、守ってあげるから!」

初春の手を握り締めながら背中と声音を震わせて祈るように語り掛け続ける佐天の肩にショチトルが手を置く。
言葉はいらない。言葉にならない。病み上がりの身体に灯り、熾き、燃え上がる炎に、名前などつけられない。

ショチトル「(――潰す)」

その足で廊下に出てショチトルは決めた。卒業生は個々の裁量で新入生を剪定しており海原もそうである。
結標は行き掛かり上であったし、一方通行や土御門と連絡を取ったり情報を共有している様子もなかったと

白井「これ、お返しいたしますわ」

海原「本当によろしいんですか?」

紡いでいた思考の糸を、廊下の海原と白井の話し声が断ち切った。

360: >>1 2012/04/30(月) 22:21:04.41 ID:pHlzW6yAO
~10~

白井「結構ですの。貴方が受け取って下さらないのならば、わたくし自ら彼女の保護者の方の下へ届けに」

海原「いえ、それには及びません。ですが彼女の最後の形見になるかも知れないんですよ?良いんですか」

御坂の病室から出た海原を白井が後追いし、初春の病室から出たショチトルが物陰から成り行きを見守る。
リノリウムの床面に差し向かいで立つ二人の内、白井が海原に結標の携帯電話を手渡しているのが窺えた。
緑色の非常灯に照らされたその横顔が、白井の黒衣と相俟って未亡人のようにショチトルには感じられて。

白井「もうあの方からは、とても大切な物を頂いておりますの」

白井が指先で示す、首に巻かれている逆十字架のシルバーがついたチョーカーが如実にそれを表していた。
それに対し、ショチトルは女の勘とも言うべき直感で本質を捉えた。あれは所有の証(プレゼント)だと。
海原もまた、結標が白井を命懸けで救い出した事や、今指し示されたチョーカーを見るなり大凡を察して。

海原「……自分は、仕事上での付き合いしか彼女を知りません」

白井「………………」

海原「ですから、こういう聞き方はどうかと思うんですが……」

ショチトル「………………」

海原「……彼女はどうでしたか?貴女と一緒にいる時の彼女は」

白井「こういう言い方はどうかと思いますが、どうしようもないクズで、最低最悪のサディストでしたわ」

海原「………………」

白井「ですが、わたくしにとって最高の好敵手であり最愛の友人でしたの。なので海原さん。いつか……」

海原「はい」

白井「――お話出来る範囲で構いませんの。わたくしの知らない彼女のお話を、いつか聞かせて下さいな」

海原「……お約束します。今回の件が全てが終わった後、必ず」

深々と一礼し、白井もまた微笑み返し、今度は陰にこもっている固法と婚后を見舞う為に別室へと向かう。
その足取りに海原は力強さを感じ、ショチトルは危うさを覚え、二人は互いに異なる角度から見送って――

海原「ショチトル」

ショチトル「(ギクッ)」

海原「覗き見は感心しませんよ?」

ショチトル「………………」ムスッ

海原「(何故むくれてるんでしょうか。あれ?トチトリは?)」

示し合わせるようにして、同時に顔を見合わせる事と相成った。
361: >>1 2012/04/30(月) 22:21:32.53 ID:pHlzW6yAO
~11~

ショチトル「お前にはデリカシーが欠けている。もっと気遣え」

海原「すいません。他に良い言い方が思い浮かびませんで……」

ショチトル「だからお前はダメと言うんだ。ほら、手を出せ!」

海原「!」

ショチトル「お前の如才無さは上っ面だけだ。自分でどう思ってるか知らんが、本当のお前はもっと……」

海原「………………」

ショチトル「馬鹿だ」

薄暗い廊下の中にあってさえ、ショチトルは目敏く海原の傷ついた右手を取りハンカチを巻いていった。
ここは病院何ですから医者に看てもらえばと海原は言い、つねられながら固く巻かれ短く悲鳴を上げた。
だからお前はデリカシーがないんだとショチトルが愚痴り、こんなになるまで壁を殴るなと小言を言い。

ショチトル「――今回のミッションには私も加わらせてもらう」

海原「……暗部にいた頃に比べれば、実入りは少ないですよ?」

ショチトル「……あまおうのフレジュ」

海原「?」

ショチトル「あの二つ結びの女が見舞いに持って来たヤツでいい。それもこんな陰気臭い病院じゃなくて」

海原「………………」

ショチトル「地下街のお店まで食べに行こう?“お兄ちゃん”」

海原「――お安いご用ですとも」

――この後、数日間の入院生活を経て初春もまた健康を取り戻して御坂と共に無事退院する事と相成った。

佐天の左鼓膜の再生治療も終わり、白井の叱咤激励を受けて固法も初春も再び風紀委員活動へと復帰した。

婚后もまた御坂のリハビリを通して蟠りを解消し、御坂が渡英する折は婚后航空をとおどけてみせてみた。

そして件の食蜂操祈に関しては、数日後海原からのメールで、『全て終わりました』とだけ書かれていた。

白井『――これにてお姉様も晴れてイギリス行きですの!!!』

そう白井が後押しする頃には御坂の身体も全快を迎えていたが、当の本人はそれ以上に気掛かりな事が……

御坂『(黒子やみんなはああ言ってくれてるけど、私、本当にこのまま行っちゃって良いのかしら……)』

結標を失った後も、それをおくびにも感じさせない白井の闊達さが御坂にとって懸念材料あり、そして――

御坂『黒子』

御坂が上条への思いと白井への想いの狭間で揺れる中、出発を明日に控えた朝に御坂が切り出したのは……

御坂『お墓参りしに行こうか』

結標と白井の最初で最後のデート、その足跡を辿る事である。

362: >>1 2012/04/30(月) 22:24:03.17 ID:pHlzW6yAO
 
 
     
 
     
 
     
A C T .1 2 「 白 い 弔 花 、 赤 い チ ョ ー カ ー 」
 
     
 
     
 
     
 
363: >>1 2012/04/30(月) 22:24:36.50 ID:pHlzW6yAO
~12~

アナウンサー『三日前第七学区で起きた“帝都ゲートブリッジ”封鎖事件についての続報が入りました』

御坂「結局、第十学区に問い合わせても」

白井「――そういう事ですの。あの帝都タワー事件で、公式には死傷者0という事になっておりますの」

そして二人は灰雪降りしきる帝都タワー跡地へと赴き、白井は墓標のような瓦礫の山々に向かって――
カサブランカの花束を手向けていた。同時に、背後から御坂が傘をさし白井が雪で濡れぬようにする。
そんな二人の頭上を今日のニュースを伝える飛行船が横切り、白い期待より黒い巨影を落として行く。

白井「事実、結標さんを除いて死傷者0というのはある種の奇跡ですの。わたくしはそれで良しと……」

御坂「………………」

白井「――そう思いたいところですのよ」

深々と降り注ぐ灰雪、白墨のような冬空を仰ぎ見ながら、白井は微かに笑んで静かに手を合わせている。
帝都タワーに関しては元々取り壊し予定の無人の場所という事もあり、公式には人的被害は0とされた。
海原もまた明言こそしないものの、二人とて理解出来得る。隠蔽工作及び情報操作によるものだろうと。

白井「あの時もこんな雪の日でしたの。ここから見える帝都ドームへライブを観にいった時もそう……」

御坂「fripsideのクリスマスコンサートだったんだよね?確か」

白井「ですの。結局なんやかんやありましてオープニングは見逃してしまいましたが、わたくしは……」

煤汚れ歪んだ鉄骨、薄汚れ割れた瓦礫をも白く染め行き覆い隠して行く雪化粧の中、振り返るは帝都ドーム。
皮肉にも結標が好きだと言っていた『memory of snow』の歌詞そのままになってしまったと皮肉っぽく笑う。

白井「今思えば、歌や場所なんてどうでも良かったんですわね。あの方を肌身に感じられさえしたならば」

御坂「そういう気持ち、わかるわよ黒子」

白井「ありがとうございますの。お姉様」

吹き抜けて行く雪風がカサブランカを揺らし、白井の胸に空いた風穴を物悲しく響かせて行き、そして。

風斬「あれ?」

――それを遠巻きに見やるは電影少女――

364: >>1 2012/04/30(月) 22:25:04.20 ID:pHlzW6yAO
~13~

白井「それではお茶でも飲んであたたまって行きませんこと?」

御坂「うん。特にお腹は空いてないからロビーでもいいわよね」

帝都タワー跡地へ弔花を手向けた後、二人が足を運ぶは程近くにあり、白井も結標と逗留した帝都ホテル。
それなりに格式あるホテルではあるが、場慣れしている二人は気後れする事もなく、ロビーに腰を下ろす。
御坂が白井の分のお茶を頼む傍ら、当の白井が見やる先。そこはロビーに展示された氷の女神像であった。

白井「――レノーアの氷像ですわね……」

御坂「レノーアって、“大鴉”のあれ?」

白井「ですの。恋人と永遠の別れを迎えた名無しの学生と、女神像にとまった大鴉のお話ですわね……」

カップを手に暖を取る二人の視線の行く先には、女神像にとまり翼を休める大鴉の氷で出来た彫刻である。
氷の彫刻展。それは白井が結標といつか見に来ようと約束した場所。大鴉。それは食蜂が駆り出した詩文。
大鴉のラストは、名無しの学生が死に別れた恋人と生きてもう一度会いたいと人語を解する大鴉に呟き――
件の大鴉が『Nevermore(二度とない)』と返す寓意に満ちた結びである事を二人は教養から知っていた。
まるで今現在の白井の置かれた境遇を、そうとは知らぬ早い段階から暗示していたかのようですらあった。

白井「……あの方と、ここのホテルウェディングを覗いてみたりしたいなどと話し合った事もありますの」

御坂「(あの女と黒子がそんな事まで)」

白井「今になって振り返れば、女二人揃ってウェディングドレスの試着など冷やかし以外のなにものでも」

御坂「――ううん。私は黒子の花嫁衣装、見てみたいかな……」

白井「ありがとうございますの。ですが、わたくしよりお姉様の方がまだ望みは厚いですわよ?もっとも」

あの類人猿(ryとこの場にいない上条の悪口を御坂の前で言う程度に白井はつとめて明るく振る舞った。
それはかつて御坂に対して被った笑顔の仮面とは似て非なる、自分自身に対して纏う仮面でもあるのだ。

御坂「……そうよねー!でもそれに袖を通す前にふん捕まえてボッコボコにしてやるわあんなヤツ!!!」

カラカラと快活に、されど空々とどこか中身の伴わない笑い声を上げて御坂も応じる。そのすぐ側で――

雲川「しばらく泳がせておけばいいけど、くれぐれも注意しろ」

椅子に腰掛けつつ電話をかけるは天才少女

365: >>1 2012/04/30(月) 22:27:39.71 ID:pHlzW6yAO
~14~

御坂「何かこの地下街に来るのも久しぶりかも知れないわねー」

白井「わたくしもですわ。実際は一月も経ってませんのに……」

帝都ホテルを出た後、二人は常盤台に戻る道すがら地下街に立ち寄りブラブラと手足を投げ出して歩く。
たった今も御坂は上条と、白井は結標と訪れたケータイショップを横切り、流水階段の噴水を抜けて――
白井が結標と食事を共にし待ち合わせに使ったリリー・オブ・ザ・バレー(谷間の百合)を過ぎて行く。
御坂は思う。見慣れるどころか見飽きた感さえあるこの地下街でさえ懐かしく思える今の自分の心境は。

白井「ここのお店であの方にこのチョーカーをプレゼントしていただきましたの。ですが今思えば……」

御坂「?」

白井「わたくしとあの方は、傷とケータイ以外何一つお揃いのものがありませんでしたの。それが少し」

御坂「……心残りよね、そう言うのって」

白井「その無念さも含めてわたくしも今更のようにあの方が愛おしく感じられますわ。出来る事ならば」

結標と訪れたショップに入り、冷やかし気味に自分と色違いの赤いチョーカーを手にとって白井は眺める。
逆十字架のついた黒色のチョーカー。まるで喉元に突きつけられた剣のようだと贈られた時は感じたが――
今ではその鋒が、叶うなら一緒に逝ってしまいたかったと思う白井に『生きろ』と突きつけて来るようで。

御坂「……ねえ、それ買っちゃおうよ!」

白井「!」

御坂「今はまだお墓はないみたいだけど、いつか供えに行こう」

白井「お姉様……」

御坂「こういうのって、きっと大切にしなきゃいけないと思う」

手中にて自分とは色違いの赤いチョーカーを転がす白井に、御坂が手を重ねて力強く首肯して来たのだ。
論理的に考えるならばそれ自体に何の意味があるのかと首を傾げるであろう。だが時には理屈ではなく。

白井「……かないませんわねお姉様には」

御坂「それじゃあ即断即決!すいません」

演算以外の頭の巡りに身を任せるのも良いであろうと御坂は店員を呼び止めて赤いチョーカーを買い上げ

姫神「ふふふ。女の子同士の買い物は。時間や気を使わなくて良いから好き。男の子と。来た事ないけど」

吹寄「(上条当麻め。新学期も始まってるって言うのにどこをほっつき歩いてるの。)私だって同じよ?」

その隣で服を買い漁るは、制服と巫女服に身を包んだ少女達。

366: >>1 2012/04/30(月) 22:28:19.71 ID:pHlzW6yAO
~15~

白井「わたくし、二度ともここで彼女と会いましたの。一度目は夏の終わりに、二度目は冬の始まりに」

御坂「この路地裏ね」

白井「そうですのよ」

地下街より上がり、行き着いた先は二人の始まりの場所。かの時をなぞるように舞い散る灰雪の路地裏。
誰一人訪れる者のいない雪面を、御坂の差す傘から抜け出て白井は一人きりの足跡を刻みながら見渡す。
感傷に耽るように、感慨に浸るように、どこか寂しげな横顔から紛れもない涙を一筋を零しながら歩む。

白井「わたくしとあの方の始まりの場所」

御坂「……黒子」

白井「……本当に馬鹿ですのねわたくし」

茜色の空から降り注ぐ灰雪を両手に掴もうとするようにする白井の背中に、御坂は改めて思いを強くする。
やはり行けない。どれだけ気丈に振る舞おうとも、今にもこの雪にさらわれてしまいそうなほど儚い白井を

御坂「黒子……」

白井「――――――………………」

置き去りにして、自分の幸福だけを追求するなど御坂には考えられなかった。どれだけ白井の後押しが

御坂「私……」

白井「お姉様」

御坂「やっぱり私」

あろうとも行けない。そう御坂が白井に駆け寄ろうとした――



まさにその時であった。



「いくら人目につかないからって、私の前でイチャつかないで」

御坂「!?」

白井「?!」

「――ムカムカするのよ。私の所有物(もの)に触らないでよ」

御坂「――嘘」

白井「……嘘」

「手垢がつくから早く離れて。病み上がりで気が立ってるのよ」

雪に足跡を残す事なく舞い降りた、大鴉を思わせる濡れ羽色のブレザーに袖を通した少女が呼び掛ける。
まだ白井に負わされたが傷口が癒えきっていないのか、初めて見る霧ヶ丘女学院の冬服で露出を抑えて。
されどトレードマークである金属ベルトと軍用懐中電灯はそのままに、特徴的な二つ結びをかきあげた。

白井「貴女は――」

「残念だったわね白井さん。ご覧の通り足も二本ついてるわよ」

御坂「なんで……」

「言ったでしょう御坂美琴。貴女に私に世界は救わせないって」

御坂「――――――」

「あら?」

茫然自失とする二人の呻きを断ち切るようにして鳴り響く着信音。
それは白井がライブで聞き逃したfripsideのオープニングナンバー

「ちょっと待って」

その曲名は――

367: >>1 2012/04/30(月) 22:28:45.89 ID:pHlzW6yAO
 
 
     
 
     
 
     

結標「――電話よ。ちょっと静かにして」
 
     
 
     
 
     
 
368: >>1 2012/04/30(月) 22:29:14.45 ID:pHlzW6yAO
 
 
     
 
     
 
     

A C T . 0 「 L E V E L 5 ― j u d g e l i g h t ― 」
 
     
 
     
 
     
 
369: >>1 2012/04/30(月) 22:31:17.45 ID:pHlzW6yAO
~01~

結標『取り込み中よ。後でかけ直すから』ブチッ

海原「………………」ツー、ツー

土御門「結標は何だって?」

海原「手が離せないようで」

一方通行「豚骨ラーメン。全部乗せだァ」

店主「あいよ」

同時刻、ゲートブリッジを封鎖しての大規模なミッションを終えた元『グループ』の面々はと言うと――

土御門「病み上がりの身体で忙しい奴だ。おっちゃん、俺は羽根付き餃子定食ニンニク抜きで頼むにゃー」

仕事上がりに第七学区にある定食屋にて卓を囲みながら早めの夕食を取っていた。その話題の中心は――
用事があるからと解散するなり飛び出して行った結標についてであり、一方的に電話を切られた海原も。

海原「全くです。ついこの間まで死にかけていたとは思えませんよ。それもあの高さから、あの致命傷で」

当初土御門から知らせを受けた時は驚かされたのである。帝都タワー電気通信ケーブル保守地下道より――
半死半生で生き長らえた結標が発見された時は。それも薄暗い共同溝にて一方通行が目にしたもの。それは

土御門「俺だって自分の目で見なけりゃとても信じられなかったさ。まさか死んだはずのアレイスターが」

一方通行「……化けて結標ンとこまでオレらを導いたなンて眉唾話、他人に話せば笑われンのがオチだろ」

一ヶ月前に死んだはずのアレイスターの白影が、血溜まりに沈んだ結標の下まで二人を導いたと言うのだ。
当の結標自体は帝都ドームの一件にて地下道がある事を知っていたため、一か八かで座標移動したらしい。
当の結標は殆ど覚えていないが、時折一人になりたい時は『窓のないビル』跡地に足を運んでいたと言う。
御坂に病院屋上での戦いに敗れた時もそうであり、もしかするとそれが関係しているかも知れないのだと。

海原「本当の所は誰にもわかりませんよ。死中に活を見出したのは、あくまで彼女自身の生きる意思です」

そこで話を締めくくり、海原はメニューを広げて店主に注文する。
電話の内容そのものは結標のギャラの配分についてだったのだが。

海原「ああ、今日は自分のおごりです。たまに良いでしょう」

土御門「やったんだぜいー!」

一方通行「半ライス追加だァ」

それどころではない理由を察し、海原は何となく気分が良かった。

370: >>1 2012/04/30(月) 22:31:49.04 ID:pHlzW6yAO
~02~

御坂「あんた生きてたの!!?」

結標「死んでいて欲しかった?」

白井「………………」

結標「――残念だったわね。墜落死する前に、座標移動で電気通信ケーブル保守地下道に逃げ込んだのよ」

御坂「だって!あれから海原さん一言も」

結標「海原が知ったのは三日前だし私が口止めしたわ。生きてるとわかって下手に動かれると厄介なの」

そう、幻想(ゆめ)でも何でもなく、憮然とした表情を湛えたまま結標が生きて再び姿を現したのである。
同時に御坂にも結標の心根が少しわかるような気がした。恐らくは白井を巻き込まないためであろうとも。
どういった経緯で生還を果たしたかはわからないが、当人の様子を見る限りある程度は察する事が出来た。

結標「――わかったらさっさと消えて。貴女の顔見てるだけで折られた指が疼いて殺意が湧いて来るのよ」

御坂「初めて気が合ったわね。私もあんたの顔見てたら根刮ぎ持って行かれた左足首が痛んで苛々するの」

加えて、沸々と湧き上がるはいずれも水入りないし横槍が入って着かなかった二人の決着についてである。
御坂が歩み寄ろうと結標は分かり合おうとはしないし、御坂が和解しようとも結標が理解を示す筈がない。



だがしかし――



御坂「黒子の顔を立てて」

結標「白井さんに免じて」

御坂「一度しか言えない」

結標「一回しか言わない」

御坂「――ごめんなさい」

結標「……ありがとうね」

白井「!」

御坂「黒子、私先帰ってるからね!あと」

結標「何?」

御坂「黒子の事大事にしなかったら私今度こそあんたを許さないから。絶対に泣かせるんじゃないわよ!」

結標「貴女にとやかく言われる筋合いはないわ。そういう訳知り顔で仕切って来る所が気に入らないのよ」

すれ違い様に肩をぶつけるに留めて御坂は二人を残し路地裏を後にする。ここから先は当人達の問題だ。
互いにとってこの雪化粧以上に積もる話があるであろうと身を引いたのである。それからほどなくして。

結標「――白井さん」

白井「結標さん!!」

白井が雪を蹴り上げながら結標へと駆けて行く。それはさながら美しい映画のラストシーンのように――

371: >>1 2012/04/30(月) 22:32:41.56 ID:pHlzW6yAO
 
 
     
 
     
 
     
白井は、思い切り結標の顔面にドロップキックをお見舞いした。
 
     
 
     
 
     
 
372: >>1 2012/04/30(月) 22:35:10.52 ID:pHlzW6yAO
~03~

結標「ぶふぇ!!?」

白井「生きてるなら生きてると電話の一つも寄越しやがれってんですのコンチクショウがぁぁぁぁぁ!!」

微笑を湛えた結標を綺麗に両足を揃えたドロップキックで宙に舞わせ、雪面に叩きつけて白井は激怒した。
それに文字通り面食らったのは不細工に鼻血を流して狼狽える結標である。何故こうなってしまったのか?
更に仰向け寝に倒れ込んだ結標に跨り、ポカポカと胸元を叩きつつ白井は涙を零していた。激怒しながら。

結標「ちょ、ちょっと待って白井さん!」

白井「文字通り死ぬほど待つつもりでしたわよ!最低でも五十年ほど!!あの世で貴女に会うまで!!!」

結標「――――――」

白井「どうせ影から貴女の死に思い煩うわたくしを肴にお酒でも飲んでらしたんでしょうこの性悪女!!」

結標「ち、違う……」

白井「――お酒の力を借りなきゃわたくしを襲う事も出来ないヘタレの分際で!どうしてあんな、あんな」

結標「………………」

白井「あんな死ぬような真似までしてわたくしを助けたんですの!本当はわたくしよりも弱いクセに!!」

結標「白、井、さん」

白井の零す涙が雪に混じって結標の頬に落ちて濡らして行く。その涙が結標にはあたたかく感じられた。
12月13日から12月25日までの12日間の間に、白井は何度このサディストに泣かされたろうと。

白井「……どうして、こんな最低最悪のサディスト女なんかに」

結標「………………」

白井「――どうしてわたくしはこんなクズを愛してしまったんですの!どうして、どうしてこんなに!!」

結標「……ごめんなさい」

白井「……どうしてこんなに、生きて再び、貴女にもう一度会えた事がこんなに嬉しくてたまりませんの」

この先、どれだけ泣かされようとも、白井はたった今背中に回された腕から逃れられる気がしなかった。
チョーカー(首輪)などなくとも、見えざる檻に囲われて触れざる鎖に繋がれているようでさえあった。
運命の赤い糸より太く、強く、輝く銀の鎖。空間移動という最も自由な能力を持つ白井を縛り付ける鎖。

結標「……私も、本当に死にかけたの。死ぬつもりだった。死んでも仕方無いと思った。けれど私も――」

降りしきる雪が檻のように、伸びる腕が鎖のように白井へと――

373: >>1 2012/04/30(月) 22:36:00.80 ID:pHlzW6yAO
 
 
     
 
     
 
     
結標「生きて、もう一度貴女をこの腕に抱き締めたかったのよ」
 
     
 
     
 
     
 
374: >>1 2012/04/30(月) 22:36:31.25 ID:pHlzW6yAO
~04~

真っ黒なカラスさえも真っ白に染め上げて行くような雪の下、二人は初めて口づけらしい口づけを交わした。
一度目の出会いも、二度目の出逢いもこの路地裏からであった、ならば三度目となるこの時はどうだろうか?
そう、二人は始まりの場所から足跡を付けて行くのだ。この白雪(しろ)舞い散る茜空(あか)より今一度。

白井「わたくしも同じ気持ちですのよ結標さん。もう離しませんの。もう二度と離れたくありませんのよ」

結標「……どうかしら?不出来な貴女に、私を縛り付けておく事が出来るだなんて本当に思っているの?」

白井「――では、今この時より貴女の風切り羽を奪わせていただきますの。この夕焼け空に帰らぬように」

そこで白井が取り出したのは、先程買い上げた、自分の逆十字架とは色違いの赤いチョーカー(首輪)
敵としては傷跡が、友人としては携帯電話がお揃いであった。ならばこれからお揃いとなるものは――

白井「その健やかなる時も」

結標「病める時も」

十字架。それは仰げば神の祝福、立てれば道標、裏返せば剣、翼を広げた鳥が地に落とす影の形に似て。

白井「喜びの時も」

結標「悲しみの時も」

磔、墓標、処刑、罪罰を司るそれは十字教にあって『死を討ち滅ぼしし矛』と『復活』を意味するもの。

白井「富める時も」

結標「貧しい時も」

結標の首に逆十字架が巻かれ、白井の左手が取られ、結標がその薬指を導き歯を立てて刻まれる赤い指輪。

白井「これを愛し」

結標「これを敬い」

鋭く走る痛みと、鈍く滴る血に誓う永遠。時計の長針と短針が交わるようにしてぶつかり合って来た二人。

白井「これを慰め」

結標「これを助け」

1から12までの文字盤を巡り巡って0に戻るように、長すぎたプロローグの果てに物語は始まって行く。

白井「その命ある限り」

結標「真心を尽くすことを誓いますか?」

この白無垢にも似た雪化粧が、さながら二人を包むウェディングドレスのように、全てを白く染めて行く。

白井「永久(とわ)に」

結標「共に」

白井・結標「「死が二人を分かつまで」」

白紙のような雪に、二人の足跡(ストーリー)を描きながら――

375: >>1 2012/04/30(月) 22:39:58.47 ID:pHlzW6yAO
~05~

御坂「さて、とりあえずもう心配事の種はなくなった訳だし、私もそろそろ自分の事に手つけなくちゃ」

深々と降り注ぎ、降りしきり、降り積もる雪の下歩き出す者。

佐天「初春!寒いからお茶して帰ろう?」

初春「仕方無いですねー佐天さんは……」

白い吐息を漏らしながら、肩寄せ合い手を携えて走り出す者。

婚后「オ父様?実ハワタクシノ友人ガイギリス二行キタイト」

固法「(眼鏡が曇って前が見えない。買い替えようかしら)」

携帯電話片手に雪空を仰ぐ者、眼鏡を外して雪道を見やる者。

海原「あ、あのーそろそろ出ませんか?」

土御門「おっちゃん、ビール追加ー!!」

一方通行「払いはオマエ持ちなンだろ?」

空になった器とジョッキ、空になって行く財布に頭痛める者。

ショチトル「うう、この国の冬は堪える」

トチトリ「エツァリにあたためてもらえ」

毛布にくるまりながら帰りを待つ者、ストーブに手を翳す者。

風斬「て、帝都タワーがなくなってます」

雲川「ゲートブリッジも落ちたんだけど」

下着姿でこたつに寝そべる者、窓に張り付いて外を眺める者。

姫神「小萌先生からメール。結標さん帰って来たから。焼き肉」

吹寄「帰って来たんだ?じゃあ私もちょっとだけ顔出そうかな」

家路につく道すがらにて、思わぬサプライズに胸踊らせる者。

小萌「いらっしゃいなのですよー!んまー!結標ちゃんの新しいお友達ですかー?」

――――春の訪れを望まぬ花などないのだから――――

376: >>1 2012/04/30(月) 22:42:18.03 ID:pHlzW6yAO
~THE LAST WALTZ~

結標「ちょっと!それは私のお肉よ!?」

白井「これは失礼いたしましたの。ですがそんなに大切なお肉でしたらば名前でもお書きになられては?」

結標「(イラッ)」ヒュンッ

白井「嗚呼!わたくしのタン塩カルビ!」

結標「あらごめんなさい座標移動の演算を間違えてしまったわ。不出来な貴女と違って触れなくても(ry」

白井「(ムカッ)」ガッガッ

結標「スタイルや能力で私に勝てないからって足蹴らないでよ!嗚呼ごめんなさい、ついでに口もね!!」

白井「どちらもそのうち勝ってやりますの!大人気ないのはそれに中身の伴わない貴女の方ですのよ!!」

月詠「お、お肉はまだたくさんあるので二人とも喧嘩しちゃダメなのですよー!?」

吹寄「(と、友達じゃないのこの二人?嗚呼、お箸でチャンバラ始めたわよ!?)」

姫神「(何でだろう。私には。この二人がいちゃついているようにしか見えない)」

路地裏から出た二人が向かった先。それは久方振りとなる小萌と結標が住まうオンボロアパートだった。
結標としては夕食でも一緒にどうか?序でに小萌にも紹介しようと思ったのだが、ご覧の有り様である。
最初にどちらかがどちらかの肉に誤って箸をつけてしまい、どちらも謝る事なくこじれてしまったのだ。
結標が肉を座標移動させて食べる陰険な手口を、白井がこたつの中で蹴りを食らわす陰湿なやり口で――
負けず嫌いな結標と勝ち気な白井による一枚の特上カルビを間に挟んで箸と箸による一騎打ちとなって。

結標「たかだか肉一切れにみっともないわよお嬢様!」

白井「たかが肉一枚にムキになる高校生もでしてよ!」

吹寄「……結標さんって普段もっとクールな人だったわよね?」

姫神「喧嘩するほど仲が良いって事で。ワカメスープおかわり」

後に、御坂は白井を除く面々に対し二人を指してこう評する。

御坂『嗚呼、あの二人ね?能力以外でもレベルが同じだからよ』

私もあれくらいインデックスと喧嘩してればこんなややこしい事にならずに済んだわ、と述懐しながら。

白井・結標「「あっ」」

両者の箸で摘まれたカルビがブチっと切れたのと同時に、白井は堪忍袋が、結標は青筋が一緒に切れた。

結標「~~やっぱり!」

白井「~~やはり!!」

されど断ち切れないのは

結標「貴女なんて!!」

白井「大嫌いですの!」

この先も続く二人の――

377: >>1 2012/04/30(月) 22:42:47.74 ID:pHlzW6yAO
~ONE MORE FINAL~

御坂「はあー……」

翌日、御坂は皆に見送られ第二十三学区よりイギリスへと飛び立った超音速旅客機のシートに凭れていた。
帝都タワー事件のささやかなお詫びという事で、婚后が婚后航空のファーストクラスを取ってくれたのだ。
御坂はいいと言ったのだが、義理堅い婚后が首を縦に振ってくれなかったのである。だがそこで気付いた。

御坂「(いくらファーストクラスだって、私一人しかいないっておかしくない?もしかして貸し切り?)」

見る見るうちに小さくなって行く雪化粧を施された学園都市を見下ろしながら御坂は小首を傾げて自問する。
さっきからキャビンアテンダントの一人すら見かけないのだ。これは一体どういう事かと思いあぐねると――

「サロンは如何ですかぁ?」

御坂「あ、私未成年なんで」

「そう、じゃあ私が貰っちゃおうかなぁ」

御坂「!?」

いつの間にやら御坂の傍らにシャンパンを携えてたCAが控えており、ややほっとしたのも束の間……
御坂はすぐさま気付いた。そのCAの声音、顔立ち、そして『蜘蛛の巣』を意匠にした白いグローブ。

御坂「食蜂操祈!?何で、何であんたがここにいるのよ!!?」

食蜂「んー?相乗りぃ☆ちょっとはしゃぎ過ぎちゃってぇ。まあ、早い話が長めの冬休みってカンジぃ?」

そこには御坂の隣のシートに身を横たえ、グラスに注がれたシャンパンに優雅に口をつける食蜂の姿。
何でも帝都ゲートブリッジで一悶着あり、その熱りを冷ますために学園都市を離れるのだと言う。だが

御坂「あんた!自分が何したかわかって」

食蜂「暴れないの。貴女の電磁力で運航に支障が出たり、窓一つ割れただけで二人とも天国行きよぉ?」

御坂「あんたなんて地獄に堕ちろ!!!」

食蜂「これからイギリス清教に殴り込みに行くんでしょ?それなら貴女の方が地獄に近いと思うけどぉ」

御坂「(何でそんな事まで知ってんの)」

そんな切迫感など微塵も感じさせずに食蜂は御坂にグラスを手渡す。この旅路の果てに待ち受けるものに

食蜂「まぁ、旅は道連れ世は情けって☆」

御坂「……勘違いしないでよ。イギリスにつくまでだからね!」

食蜂「それはこっちのセリフよぉ。だって私ぃ、御坂さんの事」

乾杯とでも言いたげにグラスを鳴らし、ムキになった御坂が飲み干し、食蜂がクスクスと軽やかに笑った

378: >>1 2012/04/30(月) 22:43:14.09 ID:pHlzW6yAO
 
 
     
 
     
 
     
―――――御坂「あんたなんて」食蜂「大嫌いよぉ」―――――
 
     
 
     
 
     
 
―――――――――――THE・END―――――――――――

 
     
 
     
 
     
 
379: >>1 2012/04/30(月) 22:44:32.32 ID:pHlzW6yAO
終わりだよん

やり残した事はいっぱいあるけど

思い残す事はないから

じゃあの
380: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) 2012/04/30(月) 22:45:08.82 ID:lMizKC0j0
ハッピーエンドをありがとう
382: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/04/30(月) 22:58:02.87 ID:st9ZTFD0o
あわきんを助けてくれてありがとう
乙でした
383: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2012/04/30(月) 22:59:40.74 ID:KonHbEil0
乙 素晴らしかった

是非ともまた書いて貰いたいです

387: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/05/01(火) 00:10:27.35 ID:rRTYr45IO
御坂「あんたなんて」食蜂「大嫌いよぉ」
ってスレが立つことを期待してる

乙!

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